海洋安全保障情報旬報 2025年3月21日-3月31日

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3月21日「企業に愛国心を要求する中国政府―カナダ国際問題解説者論説」(The Diplomat, March 21, 2025)

 3月21日付のデジタル誌The Diplomatは、カナダ議会での勤務経験もある政策解説者Chauncey Jungの“Amid Panama Port Sale, China Demands Patriotism From Its Private Sector”と題する論説を掲載し、そこでChauncey Jungは香港企業がパナマ運河に関する資産を米国に売却したことに対して中国メディアや政府が批判を強めていることについて言及し、企業に対して、愛国心あるいはナショナリズムを求める政府の取り組みは損失をもたらすとして、要旨以下のように述べている。
(1) Trump大統領がパナマ運河を中国から取り戻すと主張した後、香港の李嘉誠は自身のパナマ運河に関する資産を190億ドルで売却した。李嘉誠はこれまでどおり、地政学的対立における危険性回避の行動を採ったのだが、これは香港と北京の多くの者を苛立たせた。
(2) 中国の香港マカオ事務弁公室は、李嘉誠と李嘉誠が創設した企業CK Hutchisonが米国に屈し、中国の国益を無視したと批判する香港メディアの2つの論説を再投稿し、その後も、「偉大な企業家たちは……情熱と誇りのある愛国者達だった」とし、李嘉誠がそうではないと主張する香港メディアの論説を再投稿している。メディアだけでなく政府関係者からの批判も寄せられている。香港行政長官の李家超は、パナマ運河をめぐる李嘉誠の取引の見直しを約束し、メディアや政府関係者は李嘉誠を売国奴と描いている。
(3) 近年の中国では、ビジネスが何かを決定する際に愛国心を要求されることが多い。中国政府当局はTrump政権との交渉という外交努力ではなく、地政学的課題に直面するビジネス業界という、立場の弱い標的に狙いを定めている。つまり、中国のビジネスは中国の国益のために犠牲を払わなければならないのだと政府は主張するのである。
(4) こうした事例は初めてではない。2010年から、華為はカナダの5G普及に投資し、市場を拡げようとした。2016年にはオンタリオ州政府から資金援助を受け、2017年には通信企業Telusと提携契約を結んだ。しかしこうした努力は、華為の最高財務責任者である孟晩舟が2018年に逮捕された後に水泡と帰した。その後カナダから華為は完全に締め出され、華為は自社が多大な損失を出すのを黙ってみているしかなかった。TikTokも同様の事例にあたる。同サービスは米国で2度も禁止措置を受けたが、同事業を米国に売却するという選択も提示されていた。しかし中国政府はそれを許さなかった。あくまでTikTokは中国の資産であり、米国の利益になるくらいなら無くなった方が良いと考えられたのである。以上のように、米中対立に巻き込まれた中国企業は、危険性回避をしようとしてもそれを許されないという状況に置かれている。
(5) 民間部門に対する中国政府の取り組みは矛盾している。雇用率や経済成長率は民間部門に依存しているが、政府はその政治的忠誠心を疑い、ビジネスに対し障害を課しがちである。経済的利益よりも政治的安定を重視しているのである。こうした取り組みは、中国の地政学的利益を増大させる機会の喪失につながっている。これはTrump政権が関税を利用して同盟国との関係を悪化させていることと同じような結果をもたらしている。
(6) それでも、中国の闘争的な取り組みゆえに、西側諸国が権威主義的傾向を強める中国との関係を改善する可能性は低い。共産党は中国人のあらゆる面を支配しようとしているため、党に支配されないような中国との交流も困難になっている。中国の民間企業にさえ影響力を強める中国は、第2次Trump政権時代の最新の地政学的変化の中で、自らの立場を損なっている。
記事参照:Amid Panama Port Sale, China Demands Patriotism From Its Private Sector

3月21日「極北における海上交通路*の安全保障―米専門家論説」(High North News, March 21, 2025)

 3月21日付けのノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North Newsの電子版は、U.S. Army退役軍人で歴史家Mike Thorntonの“Security for Our Sea Lanes of Communication in the High North”と題する論説を掲載し、Mike Thorntonは我々が常に警戒を怠らない軍隊と情報組織によって守られており、ハイブリッド戦の脅威が現実であり、今後も続くとした上で、我々が極北と呼ぶこの平和で美しい国でさえ、自由の代償は永遠の警戒であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) スヴァールバル諸島にある受信局は極軌道上の衛星との最適な接続を可能にしており、膨大な量のデータが海底ケーブルを通じてノルウェー本土との間で送受信されている。2022年1月7日、スヴァールバル諸島とノルウェー本土間のケーブルが破損し、海水がデータ転送ケーブル内に染み込み、機能しなくなった。調査の結果、全長1,300kmのケーブルは自然原因ではなく人為的に損傷したことが判明した。
(2) ハイブリッド戦の広範な定義には、政治干渉、妨害行為、破壊活動が含まれる。国家または非国家主体は、特定の破壊行為は自分たちによって引き起こされたものではないと主張するでしょう。ハイブリッド戦は公然とした敵対行為の最中に実行が可能であり、実際に実行されているが、通常はグレーゾーンでの作戦のために留保されている。
潜在的な敵対国は、サイバー攻撃、代理攻撃、偽情報などを通じて北極圏諸国に挑戦し、優位に立とうとしている。ある国が他の国に対してハイブリッド戦を積極的に行っている一方で、被害者はそれが単なる偶然の不幸な行為であると騙されて信じ込んでいる可能性があることを理解することが重要である。グレーゾーンでのハイブリッド戦の全体的な目的は、侵略者が無実であるように見せることである。
(3) ソーシャルメディアは、偽情報とプロパガンダのまったく新しい道を開いた。ソーシャルメディアは、偽情報を広めたい国々に利用されることもある。その目的は、我が国の軍隊を支持する政治的意思を弱め、我が国の政府に対する不信感を植え付けることにあるのかもしれない。
(4) ハイブリッド戦が激化し、地域の共同体に不和が広がる可能性が高くなる。北極圏全域の作戦に影響を及ぼそうとする試み、おそらくは電力供給の中断を引き起こすサイバー攻撃などが考えられる。
(5) 海底ケーブルが敷設されている北極海域を航行する船舶は、海底の底に沿って錨を曳くだけで済む。この単純な作業で海底のケーブルが押しつぶされたり、裂けたりして、電力やインターネットが途絶える可能性がある。まともな船員は海底ケーブルが敷設されている場所を知っており、海底ケーブルの近くに意図的に錨を下ろすことはない。我々は、重要なインターネットを接続している海底ケーブルの重要性を理解していないことがある。我々が世界中で享受している瞬時につながるインターネット通信は、これらの海底経路に大きく依存している。さらに、海底ケーブルは沖合のガスおよび石油探査施設の制御も提供している。
(6) ほとんどの国は、商業活動のための海洋の自由を守ることに既得権益を持っている。この原則が最も重要視されるのは北極圏である。地形と地域の港湾施設の発展により、我々の海上航路は北極圏の経済の健全性と安全にとって不可欠なものとなっている。毎年、夏の氷が解けるにつれて、北極海を航行する能力が向上している。これにより、北極の商船や艦艇の有用性が劇的に高まっている。北西航路と北極海航路は、従来の航路に比べて航行距離が大幅に短縮される。北極諸国の経済は、我々の集団的および経済的安全保障と同様、海の自由にかかっている。
(7) 我々は、常に警戒を怠らない軍隊と情報組織によって守られている。ここでの筆者の意図は、この一連の出来事に焦点を当て、ハイブリッド戦の脅威が現実であり、今後も続くことを我々が認識できるようにすることである。我々が極北と呼ぶこの平和で美しい国でさえ、自由の代償は永遠の警戒である。
記事参照:Security for Our Sea Lanes of Communication in the High North
*:表題には、Sea Lanes of Communicationとあるが、あまり使用されない用語である。一般的にはSea LaneまたはSea Lines of Communicationである。Sea Laneは海運、海上交易に関わる用語として多用されるのに対し、Sea Lines of Communicationは軍事用語である。本記事の内容がSea Lines of Communicationではなく、Sea Laneに関わる記述であることから、Sea Lanes of Communicationを海上交通路と訳出した。

3月25日「ウクライナの安全の保証は点と点をつなぐようなもの―米専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, March 25, 2025)

 3月25日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、RSISのMilitary Studies Programme およびUnited States Programme准教授Jun Yan Changの“Joining the Dots: Security Guarantees for Ukraine”と題する論説を掲載し、ここでJun Yan Changはウクライナの停戦に関し、ウクライナの「安全の保証」という考え方が注目されているが、安全に対する別の取り組みとして、関係国すべてが「欧州の共通の安全」に向かって最善を尽くすことが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナの停戦に関して、米国、ウクライナ、ロシア、欧州との間の複雑な議論で浮かび上がった1つの難点は、交渉そのものとは別に、ウクライナの「安全の保証(security guarantees)」という考え方である。Zelenskyy大統領によると、ウクライナの「安全の保証」は包括的でなければならず、武器だけでなく、経済的および政治的支援も含まれなければならず、その内容はNATOが関与する「信頼できる選択肢」であり、「例えて言えば、ウクライナに中にNATOが構築されなければならず」、「NATOからの派遣軍がある場合、その派遣軍の規模、配備、どの国から、どのように、何で武装されているかをすべて明確に定義されなければならない」ものである。さらに「米国を何らかの形で失わないことが肝要」である。
(2) Pete Hegseth国防長官はU.S. Armed Forcesのウクライナへの配備を否定している。Donald Trump大統領は、米国とウクライナ間で交渉中の鉱物取引に言及して、米国はウクライナの「労働者」や「掘削」を通じて「異なる形で安全保障を持つことになる」と強調している。逆に、英国のKeir Starmer首相は、英国は「ロシアがウクライナを攻撃するのを防ぐために、『強固で信頼できる』安全を提供する意向である」ことを強調し、「ウクライナ自身の防衛と軍隊を強化し、ウクライナの安全を確保するための和平協定が結ばれた場合に『有志連合』として展開する準備を整える」と述べている。この問題をめぐるすべての議論にもかかわらず、これらの「安全の保証」は本質的に集団防衛を前提としている。これは、「みんなは一人のために、一人はみんなのために」という考えに基づく筆者が「三銃士の原則」と呼んでいるものであり、基本的に、集団防衛の考え方の下では、ある者に対する軍事攻撃は、全員に対する攻撃と見なされ、その結果、全員がその者の助けに来ることになる。NATOのような同盟で運用される集団防衛は、潜在的な侵略者を抑止するために国家のグループが団結することである。抑止力は、ウクライナが求めている「安全の保証」の鍵である。
(3) 抑止力は武力行使の特定の機能であり、武力は古くから一方が他方に実行させたいことを実施させる能力を持っている。抑止力という点では、武力は特に、一方が他方からやられたくないことを相手が行うのを防ぐことに現れる。したがって、抑止力は強制の一形態であり、威嚇や武力行使を平和的に行うことである。したがって、抑止力は主に軍隊の能力と脅威の信頼性に関するものであり、単なる軍隊の信頼性と混同してはいけない。従来、軍事的な抑止には、懲罰的抑止と拒否的抑止という2つの形態があり、この2つはそれぞれ異なる働きをする。懲罰的抑止は、潜在的な敵の費用対効果の考え方を根本的に変える。懲罰により敵の対価が増加し、敵にとって達成される潜在的な効果が相殺される。逆に、拒否的抑止とは、敵による勝利を回避し、それに敵の成功確率の計算を減らすことである。
(4) 抑止力に関して2つの概念が最近人気を集めている。その2つとは、抗堪性による抑止力と統合された抑止力である。ここでの抗堪性とは、「学習と適応によって潜在的な脅威を予測し、積極的に対応する活力に満ちた能力」と見なすことができる。しかし、抗堪性は全く新しい概念ではなく、拒否による抑止と関連している。抗堪性が向上することで、敵が目標を達成する確率は低くなる。抗堪性にも信頼性がある必要があるが、それは単に能力を追加する抑止力の脅威の信頼性とは異なる。米国の統合された抑止力については、Biden政権の間は、具体性はほとんどなかった。それは、一般的な方法で指示された抑止力の混ぜ合わせであるように見えるが、当然のことながら、中国とロシアが思い浮かぶ。
(5) 3年間の戦争を通じて、ウウライナは抗堪性があることを証明した。ロシアは 2022年に明らかにウクライナを過小評価していたが、それ以降のウクライナの軍事力に対する評価は、米国と欧州の援助によって後押しされたとはいえ、根本的に変化した。したがって、この点に関するウクライナの抑止力は、国内的に2022年の状況とは比較にならない。それにもかかわらず、ウクライナはロシアに対する将来の抑止力の信頼性を高めるために、国外からの安全の保障を求めている。NATOに加盟すれば、そのような信頼性は大幅に拡大する。NATO加盟は、ウクライナの理想的な目標である。しかし、ロシアがウクライナのNATO加盟を越えてはならない一線と強く示唆している場合、NATO加盟は潜在的な事態拡大の観点から大きな賭けとなり、危険である。したがって、Biden政権が「NATOのウクライナへの拡大に無言で反対した」一方で、Trump政権が「ウクライナのNATO加盟に公式に反対を表明した」ことは驚くべきことではない。
(6) 欧州が米国抜きでウクライナと別の集団防衛条約を締結する用意があると仮定しても、それで、懲罰や拒否を通じてロシアを抑止するのに十分であろうか?ウクライナ自身は十分とは考えていない。このような状況での抑止力の問題を考えると、「安全の保証」にこだわるのではなく、安全に対する別の取り組みを見つけなければならない。おそらく、1つの方法は、ロシアのPutin大統領に、「欧州の共通の安全(the common security of Europe)」を説得する、つまり「戦争、特に核戦争の回避は共通の責任である」ことを説得することであろう。これは決して簡単なことではないが、「共通の安全」という概念が冷戦時代の東西対立が激しかった欧州で生まれたことは、間違いなく適切である。結局のところ、安全に「確保」はない。関係国すべてが最善を尽くさなければならない。
記事参照:Joining the Dots: Security Guarantees for Ukraine

3月25日「深海採掘の潜在的課題―英専門家論説」(Online-Analysis, IISS, March 25, 2025)

 3月25日付の英シンクタンクInternational Institute for Strategic Studies(IISS)のウエブサイトOnline-AnalysisはIISSインド太平洋防衛・戦略担当Shangri-La Dialogue上席研究員Darshana M. Baruah の“Uncharted territory: deep-sea mining and the underwater domain”と題する論説を掲載し、ここでDarshana M. Baruahは未知の領域である深海について、各国は深海採掘への関心が高まっており、この活動の潜在的な戦略的、軍事的および環境的影響などについて、喫緊に論議する必要性について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国とクック諸島は2025年2月15日、了解覚書(以下、MOUと言う)に署名し、両国は、クック諸島の海底の重要鉱物を調査し、可能なら採掘するために協力することに合意した。このMOUは、中国政府が南太平洋に対する関心、さらには太平洋島嶼国との国際的提携の拡大に関心を高めていることの証左であることに加えて、深海採掘や水中領域の商業利用の可能性に対する各国の関心の高まりという、より大きな趨勢を示す最新の例でもある。規範と法的枠組みの観点に立てば、深海採掘の発展はより広範な海底の商業的利用活動の先例を確立する役割を果たすことになり得るため重要である。さらに、深海採掘の発展は、特に海底探査に関連する一部の活動が軍民両用の性質を持つことになり得るという点で、軍事的意味を持つ。その上、各国はこれを外交政策課題として扱い、国家安全保障にとっての重要性を認識することに利点を見出すこともできよう。
(2) 中国・クック諸島間のMOUは、オーストラリア、フランス、日本およびニュージーランドなど、南太平洋と歴史的あるいは重要な関係を持つ諸国間において、この地域における中国の存在感の拡大の影響に加えて、外交的、戦略的状況がどのように変化するかについて、深刻な懸念を引き起こしている。特に、クック諸島と自由連合を形成し、その外交および国防に最終責任を持つニュージーランドは、クック諸島の決定に失望の意を表明している。ここでは、深海採掘に関して、クック諸島の利益と伝統的な安全保障上の提携の利益がどのように食い違っているかを考慮することが重要である。クック諸島にとって、海底鉱物資源の採掘は、科学的、経済的、そして国家の発展への道である。他方、ニュージーランドは、環境への影響に対する懸念を反映して、深海採掘の一時中止を支持してきた。クック諸島もこうした懸念を共有しているが、多くの国は深海採掘について持続可能な取り組みがあり得ると考えている。したがって、クック諸島にとって中国との協力は、海底資源の恩恵を享受する機会を提供している。
(3) 現在、海底からの重要鉱物の商業的採掘を規制する合意された枠組みはないが、UNCLOSに基づいて設立されたInternational Seabed Authority(国際海底機構:以下、ISAと言う)によって監督されている。加えて、国家のEEZ内の海底鉱物の探査と採掘にも制約がない。水中領域での商業的活動の増加による潜在的影響は、未知の領域である。水深が深く、海洋空間が広大で、しかもこれまでに蓄積された領域知識が限られているために、深海における運用、監視そして管理は困難である。たとえば、潜水艦の運用に不可欠な海底地図を作成している軍隊はほとんどない。深海採掘は、依然商業的に実行可能ではないが、水中領域を開放し、利用可能性を向上させ、海底に関するより多くの知識を生み出し、そして当初は商業目的であっても、最終的には外交、政治、経済、気候および戦略的利益に影響を与える深海能力を持つ国の数を増やすことになろう。また、深海での商業的な関与は、水中環境での活動のみならず、それを管理する規制の枠組みを形成する国家の能力も強化することになろう。
(4) 現在、25ヵ国が未知の影響、進行中の議論そして共通の法的枠組みの欠如を考慮して、深海採掘の予防的一時中止を採択し、フランスは禁止措置を採択している。他方、中国、インド、日本、ロシアおよび韓国などは一時中止を支持せず、深海採掘を進める意向を示している。これまでに、ISAは中国企業3社、ロシア企業2社、日本企業2社を含む、22の業者と探査契約を締結している。中国・クック諸島間のMOUに見るように、深海採掘に戦略的利益を持つ国は可能な同志国との協力を進めており、小国も大国も同様に、一時中止を支持する代わりに、先発者優位を得ることに利益を見出すかもしれない。民間部門も、海底から鉱物を商業的に採掘するために必要な技術と能力の開発に関心を示している。この面では、中国の企業とともに、カナダとノルウェーの企業が他を牽引している。
(5) クック諸島とのMOU締結と、太平洋島嶼国との関係の深化により、中国は将来、この地域における軍事的展開を拡大する可能性がある。中国政府は時折、その国際的活動の背後にある軍事的関心をあいまいにする。このため、域内の一部の国は、深海採掘に関連する南太平洋における中国の経済活動が、特に水中領域における中国の戦略的、軍事的野望を促進するために利用される可能性があることを懸念している。たとえば、中国は、クック諸島周辺の海底への接近を利用して、対潜水艦作戦などの海中における作戦にとって重要な水路測量任務を遂行することができる。この地域における中国の軍民両用の経済的関与の可能性は、中国に新たな軍事的、戦略的優位性を与えることになろう。
(6) 水中領域の商業化は間近に迫っている。深海採掘権益を追求しているのはクック諸島だけではない。中国、インド、キリバス、ノルウェー、ロシアおよび韓国なども探鉱許可証を保有している。民間企業も、重要鉱物の需要が高まるにつれて深海の開放を潜在的に有利な機会と見なしている。海洋環境への影響に対する懸念が一時中止推進の主たる要因であるが、海底探査に関連する一部の活動が潜在的に軍民両用の性質を有し、加えて水中領域に関する知識がほとんどないことを考えれば、深海採掘が外交政策に与える影響を議論することは喫緊の課題といえる。
記事参照:Uncharted territory: deep-sea mining and the underwater domain

3月25日「台湾の新しい四年期国防総検討の行間を読む―米専門家論説」(Atlantic Council, March 25, 2025)

 3月25日付の米シンクタンクAtlantic Council(大西洋評議会)のウエブサイトは、同Council中国部門副部門長Kitsch Liao の“Reading between the lines of Taiwan’s new Quadrennial Defense Review”と題する論説を掲載し、ここでKitsch Liaoは台湾が最近公表した四年期国防総検討(Quadrennial Defense Review)について、台湾が中国による侵攻に対して自国を防衛する上で様々な問題を抱えているが、軍事に関する透明性を高めて国民の理解と協力を得、対中国の抑止力強化を図ることが肝要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾は、四年期国防総検討(Quadrennial Defense Review、以下、QDRと言う)2025年版を発表した。四年期国防総検討は4年ごと、または新たに選出された総統の就任後10ヵ月以内に作成することが法律で義務付けられている。軍事に関して台湾からの公式発表が少ないため、四年期国防総検討は台湾軍が何を考えているかを知るための重要な窓である。しかし、台湾政府はこれらの見直しを政府間の優先事項を策定し、政府機関や一般市民に伝える手段としては使用しておらず、単に台湾の文官や軍の官僚、あるいは米国との間で対立する意見を反映した、広範でややまとまりのない一般的意見の寄せ集めとなっている。QDRと国防報告書(NDR)は、国防部のウエブサイトに公開されている。
(2) 2025年版QDRには、12年ぶりの文官国防相である顧立雄の前向きな取り組みが反映されている。それは、「断固とした防衛と多領域抑止」という既存の防衛態勢を再確認し、「社会全体の抗堪性」を強調する頼清徳政権独自の工夫を加えたものである。これは、台湾社会のあらゆる側面が、偽情報を含め、中国による攻撃を受ける可能性が高いとする頼清徳政権の認識を反映したものである。台湾の軍事に関する透明性はまだ改善の余地があるが、これらの文書では、台湾政府や国民だけでなく、台湾の対中国抑止力強化に緊密に協力している同盟国や友好国も含め、集団的な対応を必要とする深刻な問題を認めている。2025年版QDRでは、優先順位付け、作戦即応性、人材定着に関する問題を指摘している。
a. 2025年版QDRは、米国の3層構造の国防計画を手本に、国防戦略(National Defense Strategy:以下、NDSと言う)と軍事戦略(Military Strategy:以下、MSと言う)の2つに区分されているが、米国の手本とは異なり、台湾では陳水扁政権下の2007年を最後に、20年近く国家安全保障戦略(NSS)を発表していない。戦略の本質は何に優先順位を置くかであり、国民に優先順位を宣言していないのは、台湾の国防努力と軍の文民統制に必要な透明性を妨げるものである。NDSに「災害救援」、「地域の安定」、「経済の繁栄 」が 「軍事力の強化 」や 「軍事革命 」と並んで記載されており、これらの目標が対等で、時には競合することを示唆している。QDRで目標に優先順位をつけないため、政策立案者に、どれが最も重要かを示すことができず、目標に取り組む努力が官僚主義や党派的利害に左右され易くなる。MSでは、社会全体の抗堪性が優先事項に挙げられているが、これは国防部の管轄外である。また、国防部が官僚の垣根を越えてこの問題にどう取り組むべきかも不明で、QDRが対応できていない問題である。
b. QDRが強調している問題の1つは、軍の即応態勢である。QDRは、台湾の作戦準備態勢を改善するために採るべき行動について、非常に詳細に述べている。その中には、「軍人が自分の責任範囲をよく知ることができるよう、現実的な演習と訓練を実施する」、「兵站と備蓄を戦術的な位置により近いところに配備する」、「作戦上の要求に基づいて人材を分類する動員のための電子情報の整備を確立する」などが含まれる。これらは、軍隊の日常的説明であるが、それが強調されるということは、長い間、軍人たちの間でささやかれてきた問題が、漸く指導者達によって直視されるようになったことを示している。しかし、国防問題の核心部分に関しては、透明性の欠如が続いている。特定の国家安全保障情報を秘匿する必要性と国民の知る権利との間には、二律背反の関係があるが、情報公開を通じて国民の支持が得られれば、軍隊内に前向きな変化が期待できる。
c. QDRはまた、台湾軍の士気の低さと人材定着の困難さについても指摘している。特に「実地研修と報酬に重点を置き、人材の定着を図る」ことや「兵士の信念を強化し、士気を高める」との提言が盛り込まれている。台湾では職業軍人が驚くべき速さで失われており、早期離職のために罰金を払う者さえいる。QDRの勧告は、人材定着と士気の問題を認めてはいるものの、状況を好転させるための対策にはほど遠く、単に「人道的な」管理、現役隊員の高度な学位取得の「奨励」、そして軍人のための「教育ビデオ」の制作を推奨しているだけである。
(3) 台湾は周辺海域で不利な状況に直面し、国際的孤立を深め、中国政府から執拗な心理作戦や情報工作を受けているにもかかわらず、国民は粘り強く、中国政府の「海峡両岸の中国人」という概念に代わる独自の帰属意識をますます強固なものにしている。台湾国民は、自国の安全保障に関わる重要な問題について、軍からもっと情報を得られるべきである。台湾の人口の半数近くが、台湾軍が中国の侵略から自国を十分に守れるとは考えていないにもかかわらず、人口の70%以上が台湾のために戦う意思を示している。国民は、明らかに台湾の軍隊に重大な問題があることを知っている。より透明性の高い公的姿勢、つまり軍が直面している課題とそれに対する取り組みを明らかにすることで、台湾国民の戦意を高めることができる。こうした努力により、台湾の対中抑止力強化するための政府と軍の取組みに対し、国民の信頼がさらに高まるはずである。
記事参照:Reading between the lines of Taiwan’s new Quadrennial Defense Review

3月26日「18年を経たQUADの成果―米専門家論説」(Commentary, RAND, March 26, 2025)

 3月26日付の米シンクタンクRAND Corporationのウエブサイトは、同Corporation上席エコノミストでPardee RAND Graduate School教授Rafiq Dossaniの“After 18 Years, Has the Quad Failed?”と題する論説を掲載し、ここでRafiq DossaniはQUADがその宣伝効果だけで成功を収めたと考えられるが、東南アジアにとっては十分ではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2007年5月のASEAN地域フォーラム(ASEAN Regional Forum、ARF)首脳会議の個別会談で、日本の安倍晋三首相(当時)がオーストラリア、インド、米国の各国首脳に四者安全保障対話(以下、QSDと言う)の構想を提示した。これはインド太平洋地域における中国に対抗する民主主義国家連合の形成を目指したものであった。この提案の目的は、国家安全保障と外交を包摂し、民主主義の推進、国家安全保障協力、災害対応活動の共同実施や軍事面での相互運用性の向上など多岐にわたっていた。当初は、核燃料協定を通じて関係を強化していたインドと米国がこれを支持し、インドは米国の同盟国と緊密な関係を築くための手段としてQSDを捉えていた。
(2) 2007年9月に安倍首相が辞任した。それまでに、中国と一部のASEAN加盟国がQSDに対して、その地域における排他的な安全保障体制の確立を狙っているのではないかとの懸念を表明していた。オーストラリアは、Kevin Rudd新首相の下、中国との貿易関係の深化を優先していた。米国は大不況に突入し、中国との経済協力関係を模索していた。インドは、中国との対立やASEANとの競争を警戒し、慎重な姿勢を崩さなかった。2008年2月のQSD会合をオーストラリアが欠席したことで、この構想は頓挫したかに見え、日本が唯一の推進国となった。
(3) 2017年11月、米国によって復活したQSDには、それまでに多くの国が名乗りを上げていた。インドは2017年夏にドクラムで中国と軍事的対峙を経験し、オーストラリアは中国の影響工作に苦慮していた。しかし、中国を敵対させることへのインドの懸念を考慮し、この枠組みは名称をQUADに変更した。表立った安全保障の目標から距離を置き、代わりに法に基づく秩序と人道支援への支持を強調した。この法に基づく秩序への支持が軍事行動を伴うものではないことを明確にするため、QUADはそのすべての活動をASEANの3つの目標を念頭に置いて計画されると宣言した。ASEANの3つの目標とは、ASEANの中心性への支持、ASEAN主導の地域体制およびASEANによるインド太平洋構想の採用であり、競争よりも対話と協力を求めるものであった。
(4) QUADの重要な側面として提案された活動への姿勢は公共的であった。中国脅威論を議論するのが目的であれば、このようなことは必要なかった。QUADは、約束された公共財の提供において、対象国の国民に対して説明責任を果たすことを約束したのである。QUADが公共財の提供者として果たした役割は、人道的な災害支援から始まり、2020年にCOVID-19の世界的感染拡大が始まった際、2つ目の分野として感染拡大への対応支援が追加された。それ以降も拡大され、教育奨学金、がん研究、港湾開発、沿岸警備隊の訓練、南シナ海における海洋活動の追跡、太陽電池の生産、地域的接続基幹設備、農業におけるAI、重要技術および新興技術の研究開発、サイバーセキュリティ、気候管理、半導体サプライチェーンの信頼性など、すべてがインド太平洋の支援を目的とした資源の提供に関与している。
(5) 一方で、QUADの財政的な関与は控えめなものに留まっている。COVID-19ワクチン支援を除き、総資金提供額は5,000万ドルにも満たない。QUADは有意義な公共財の提供に苦戦しており、その大きな障害は次のとおりである。
a. この地域における公共財提供の性質が、QUADのような外部勢力が効果的に提供できるものを制限している。公共財は地理的な影響範囲が異なり、それぞれに適した解決策が必要である。世界的感染拡大への対応、科学・技術・工学・数学教育、海洋安全保障、災害救援、地域的つながりなど、ASEANが十分な能力を備えていない分野においては、QUADが地域公共財の分野で付加価値を提供できる可能性がある。しかし、海上安全保障への取り組みは、ASEAN諸国が中国監視であると懸念し、それを避けたいという思いから、停滞している。
b. 資源の適切かつ効率的な利用が懸念されている。QUADの最も顕著な公約の1つであるCOVID-19ワクチン分配は、その欠点を浮き彫りにした。QUADは2022年末までに12億回分のワクチンを供給すると約束したが、実際に供給されたのは2億9,000万回分で、これに対し、中国は同期間に16億5,000万回分を供給し、国連が支援するCOVAX計画は20億回分近くを供給した。この期待外れの結果は、QUADの資金不足と非効率性に対する認識を強めることとなった。
c. 米国での理系大学院課程学生1人あたり2万ドルの奨学金を支給するQUAD奨学金の2024年の実績は、50人の学生にしか提供されず、その80%はQUAD諸国の学生で、ASEANの学生は20%だった。これに対し、中国は毎年3万人の東南アジアの学生が中国で学べるよう、数十億ドル規模のより広範な教育課程を提供し、国内キャンパス、研究スポンサーシップ、教員交流も行っている。
(6) QUADの限られた財政的な関与は、国内政治の制約に起因する可能性があり、加盟国は地域的なQUAD支援よりも2国間支援を優先している。東南アジアの各国にとっては、この投資不足は関心の欠如を意味し、QUADの真の目的は地域開発よりも封じ込めであるという中国の主張を裏付けることになっている。その結果、ASEAN諸国はQUADに対して、その発足当初と同様に、現在も懐疑的である。
(7) これらの事実は、注目度の高い会合に対するQUADの持続的な熱意と、公共財の提供実績の乏しさという乖離があることを示唆している。おそらくQUADは、その宣伝効果だけで成功を収めたと考えるだろうが、東南アジアにとっては、それだけではまったく十分ではないかもしれない。
記事参照:After 18 Years, Has the Quad Failed?

3月26日「Military Sealift Commandの致命的な能力不足―米専門家論説」(The Strategist, March 26, 2025)

 3月26日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、U.S. Department of Defenseを支援している評論家Andrew Rolanderの“The dangerous collapse of US strategic sealift capacity”と題する論説を掲載し、米国のMilitary Sealift Commandの有事における能力不足について、要旨以下のように述べている。
(1) 戦略的海上輸送を担当するU. S. Transportation Command隷下のMilitary Sealift Command(以下、MSCと言う)は、台湾を巡る戦争における高烈度の戦闘に対応する準備ができていない。このような戦争が発生した場合、U.S. ArmyおよびU.S. Marine Corpsの戦闘部隊の指揮官達は、装備品の約90%を西太平洋へ輸送する任務をMSCが保有する約125隻の船舶に託すことになる。MSCの即応態勢は59%まで低下しており、その主な原因は船舶の部材が破壊に至りかねない応力あるいは疲労の蓄積状態と老朽化にある。
(2) 最近の艦隊演習でも、MSCの大半の船舶が長距離航海を完遂できない、または全く任務を遂行する能力を有していないことが示されている。直ちに資金が投入されない限り、海上輸送能力は、大規模かつ持続的な戦闘を支援することがほぼ不可能なままである。
(3) 米国の戦略立案は、米本土の母港から西太平洋の戦域まで、SLOCが常に闘争の対照であることを前提としている。闘争の対象となる兵站は戦争計画にさらなる複雑性を加える。なぜなら、既に余力が少なく、弱体化しているMSCの戦略的海上輸送部隊が攻撃の目標となるためである。
(4) U. S. Transportation Commandは、自主型海陸輸送協定(Voluntary Intermodal Sealift Agreement:以下、VISAと言う)を発動し、軍事輸送能力を補完するために民間商船の利用を進める可能性が高い。
(5) 2017年、U.S. Maritime Administration(米連邦海事局)は、米国の民間商船に資格のある乗組員が1,800人不足していると推定した。それ以来、この数はほぼ確実に増加している。大規模動員が発生した場合、米国は商船乗組員を必要とすることは明らかである。MSCの戦略的海上輸送部隊は、まったく不十分である。VISAによって不足の一部が緩和される可能性はあるが、戦時における民間船舶の有効性は不透明である。さらに、たとえU. S. Transportation CommandがVISAを発動したとしても、民間商船隊は、共通経験の欠如による乗組員間の相互運用性の致命的な不足に陥る恐れがある。加えて、訓練を受けた人員の深刻な不足にも直面している。
(6) U. S. Transportation Commandは、米国の海上輸送能力と輸送規模の溝を緩和するため、即時に措置を講じなければならない。これができなければ、米国自身だけでなく、米国の海上輸送力に依存する地域の同盟国および提携国も敗北に直面するであろう。
(7) 海上輸送部隊の再構築は、MSCの主要な焦点でなければならない。米国は、国内の産業基盤に新たな息吹を吹き込み、迅速に船舶を建造する能力を再活性化させる必要がある。艦隊の近代化には当然、造船が必要であるが、生産能力が向上するまでの間、商船隊を強化するための外国製船舶の購入も検討すべきである。米国の商船隊は、船員の採用および定着を改善しなければならない。どれほど新しい船舶や工業能力を整備しても、資格を持つ船員がいなければ意味がない。
(8) 米国の造船業界を再活性化し、資格のある船員を引き込み、定着させることは極めて重要であるが、それだけでは不十分である。MSCは、VISA発動時を想定し、海上輸送部隊を訓練し、相互運用性を高めるために、定期的に戦域規模の演習を実施しなければならない。戦時において、長引く損耗が一定以上生じれば、十分な海上輸送力がないと直ちに壊滅的状況に陥る。
(9) これら全ての根幹には、包括的な国家海洋戦略の策定が必要である。このような戦略は、米国の政策目標と太平洋地域における資源と現実を整合させなければならない。米国の海上兵站問題を解決しなければならない時が来たのである。
記事参照:The dangerous collapse of US strategic sealift capacity

3月26日「フィリピンは脱米国依存のために中堅国家外交を進めよ―フィリピン東南アジア専門家論説」(The Interpreter, March 26, 2025)

 3月26日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、フィリピンPolytechnic Universityの教授職にあるRichard Javad Heydarianの“From ICC to Indo-Pacific: The Philippines’ strategic bargaining against superpower rivalries”と題する論説を掲載し、そこでRichard Javad Heydarian はフィリピン政府がDuterte前大統領をInternational Criminal Court (以下、ICCと言う)に移送する決定を下したことに言及し、Duterte前大統領をICCに移送する決定はフィリピンが法に基づく国際秩序を支持する姿勢の現れであり、そうした立場に沿って脱米国依存を進めるために日本などの中堅国家との連携を強化すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1)フィリピンは3月、前大統領のRodrigo DeutrteをInternational Criminal Court(国際刑事裁判所:以下、ICCと言う)に移送した。人道に対する罪のためである。Marcos Jr.政権の下でそうした決定が下されたのは皮肉にも見える。Marcos Jr.大統領の父は、その長い治世において数多くの非人道的行為を遂行した人物だからである。
(2) 2018年にフィリピンはICCを脱退していたが、政府は今回の決定を国際法遵守の義務の遂行であると説明している。結果、Duterte前大統領はICCの裁判にかけられる、初めてのアジアの元国家元首となる。今回の決定は、フィリピン国内政治においてMarcos Jr.政権がDuterte一家との対立において有利に立つためだというだけでなく、地域において、法に基づく秩序を支える国家としてフィリピンが台頭していることを示すためのものである。フィリピンはウクライナ戦争においてウクライナを一貫して支持してきたASEANで唯一の国であり、南シナ海において中国の攻撃的行動に公然と抵抗してきた地域で唯一の国である。
(3) 法に基づく国際秩序への米国の関与が疑われ、中国やロシアの修正主義的な勢いが強まるなか、フィリピンは、戦略的自律を守るために志向を同じくする国々との協力を模索している。すなわち、日本やオーストラリア、インド、欧州諸国などとの「中堅国家」連合の形成である。フィリピンはかつてないほど「多方面連携」戦略に関与しているが、これは米国依存を軽減し、インド太平洋における法に基づく秩序を固めるためである。
(4) 政権発足からわずか数ヵ月でTrump政権は同盟国や法に基づく国際秩序への軽蔑を明らかにしてきた。ウクライナに対する安全の保証を拒否していることは、ヨーロッパだけでなくアジアの同盟国も不安にさせている。フィリピンなどアジアの前線の同盟国は、相対的には特権的地位にある。米国による数十億ドルの防衛一括供与が今後数年で実現すると見られているからである。しかしそれでも、フィリピンは米国に依存し過ぎない態勢を整える必要があると、駐米国フィリピン大使までもが主張しているのである。
(5) フィリピンは地域で最も急速に経済成長し、軍隊の全部門における近代化に投資をしている。そして、米国のタイフォン中距離ミサイルシステムなど、先端的なミサイルシステムの獲得を模索している。しかし中国の軍事力に、フィリピンが単独で抵抗するのは不可能である。したがって、フィリピンは米国の関心を引いたり、日本など中堅国家との防衛連携の強化を模索しているのである。日本とは2024年、部隊間協力円滑化協定を締結している。
(6) シンガポールで開催される2025年のアジア安全保障会議では、Macronフランス大統領が基調演説を行なうが、Macronフランス大統領はフィリピンを含む地域の提携国との防衛関係を強化すると期待されている。Macronフランス大統領のアジア安全保障会議出席の数週間前にフィリピン政府は12ヵ国以上の中堅国家を招待する特別会議を主催する予定である。それは中ロに対抗するためだけでなく、Trump政権に圧力をかけ、米国との対等な関係を取り結ぶ機会をつくるためである。アジアおよびヨーロッパにおける米国の同盟国は、交渉材料にされないように、自らが交渉の席につかなければならない。
記事参照:From ICC to Indo-Pacific: The Philippines’ strategic bargaining against superpower rivalries

3月27日「インドは今後SQUADに加わるだろうか―インド対外問題専門家論説」(The Diplomat, March 27, 2025)

 3月27日付のデジタル誌The Diplomatは、インドの在野研究者Rushali Sahaの“Will India Join the Squad?”と題する論説を掲載し、そこでRushali Sahaはインドが東南アジアの安全保障にもっと関与すべきであるが、日米豪比安全保障枠組であるSQUADは軍事色が強く、インドが参加し難いため、SQUADはもっと扱う問題の範囲を広げるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 先日インドで開催されたライシナ対話で、Armed Forces of the Philippines参謀総長Romeo S. Brawner陸軍大将が、日米豪比安全保障枠組(以下、SQUADと言う)への参加国拡大の議論に言及した。すなわち、SQUADにインドと韓国を加えようというのである。SQUADの結成は2024年5月のことで、中国の海軍力の増加およびアジアでの攻撃的姿勢の強まりに対抗するための枠組みであるが、SQUADにインドの加入を提唱したのは、それは日米豪比が「インドと共通の敵を持つ」からである。
(2) フィリピンがインドをSQUADに加えようと考えるのは驚くことではない。東南アジア諸国にとってインドの戦略的重要性は増しているし、南シナ海におけるインドの関与も深まっているからである。基本的に南シナ海論争においてインドは慎重な姿勢を維持してきたが、近年は中国と対立する国々との関係強化の姿勢を示すようになってきた。それは言説を超えたもので、2023年と2024年には艦艇を南シナ海に派遣している。またインドは東南アジア諸国、特にフィリピンとインドネシアへの兵器輸出を増やしてきた。
(3) たしかにインドは、中国にとっての「越えてはならない一線」を越えないようにはしてきた。航行の自由や国際法の尊重に関与しつつも、南シナ海での直接的関与は避けてきた。それは、南シナ海におけるBhāratīyan Thalasēnā(インド海軍)の戦力投射能力に限界があり、中国海軍が圧倒的に優越しているためである。カシミール紛争に外部勢力の介入を認めないという自国の姿勢も関係がある。
(4) その一方で、南シナ海においてインドがより大きな役割を引き受けることを正当化するいくつかの理由がある。第1に、インドにとって南シナ海は経済的かつ外交的に重要である。貿易の55%が南シナ海とマラッカ海峡を通り、またインドは地域のエネルギー資源開発に参加している。第2に、中国の攻撃的姿勢の強まりゆえに、集団的な対応が必要とされていることである。中国が支配する東アジアの安全保障秩序の形成を予防するため、東南アジア諸国は外部勢力の方を向いている。責任ある大国として、インドはこの状況に座したままでいるわけにはいかない。世界的な指導国としてのインドの能力と意志が疑われている状況では、特にそうである。「東南アジア状況2024」によれば、東南アジアの人びとの1割のみが、インドが世界の安定に貢献すると信じていると回答しただけであった。インドはもっとASEANの期待に答える必要があると主張されるゆえんである。
(5) インドはSQUADへの参加を検討するだろうか。最初にSQUADが構想された時、SQUADがQUADに取って代わるものだとして、インドの戦略家達はSQUADを受け入れなかった。しかし、もはやそうした理解はされていない。インドがSQUADへの参加を渋ったのは、それが軍事的な性格を有していたためである。逆にインドがQUADを重視するようになったのは、協議事項が拡大したためである。軍事協力や情報共有、共同演習を重視するSQUADはインドにとって魅力的ではない。したがって、SQUADの協議事項が再編され、海洋の安全といったソフトなものにも焦点が当たるようになれば、インドにとってSQUADは受け入れ易くなるだろう。
記事参照:Will India Join the Squad?

3月27日「インド太平洋における米国の姿勢の進化―英専門家論説」(Military Balance Blog, IISS, March 27, 2025)

 3月27日付の英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studiesの年報Military  BalanceのウエブサイトMilitary Balance Blogは、同誌編集助手Rupert Schulenburgの“Reinforcement and redistribution: evolving US posture in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでRupert Schulenburgは中国の軍事力の増大に対応して米国はインド太平洋地域における軍の増強、改革、再配置に取り組み、進展は見られるものの、依然として課題に直面しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Trump政権は、太平洋における中国との戦争を抑止することを優先している。この取り組みの要因の1つは、米国のインド太平洋に対する軍事態勢である。Trump政権は前政権が強化、改革、再配置することによって、敵を撃破する能力と残存性を高めた軍事力を引き継いだ。Biden政権はさまざまな構想を推進しており、当時インド太平洋安全保障問題担当国防次官補であったEly Ratnerは、2023年は米国の軍事態勢にとって「この世代で最も変革的な年」と述べている。米国の軍事力の展開強化に向けた進展はあったが、この地域の軍は依然として脆弱性を抱えている。Trump政権が前任者の軍備態勢決定を維持または踏襲するのかどうかは、まだわからない。
(2) 中国人民解放軍(以下、PLAと言う)のあらゆる領域にわたる近代化の継続は、このインド太平洋における軍事的均衡と優先事項を変化させている。PLAは、この地域のU.S. Armed Forcesの戦力投射能力やそのための基盤、たとえば航空基地、港湾、空母打撃群、さらには早期警戒機や空中給油機などの重要な支援手段を脅かす能力を備えている。中国軍は長距離攻撃能力を強化しており、具体的にはグアムを射程内に収める中距離弾道ミサイルDF-26の在庫の増加、およびPL-17空対空ミサイルによる中国空軍J-16戦闘機の交戦範囲拡大が挙げられる。このような中国軍の能力向上により、米国は過去数年にわたり、インド太平洋地域における軍事態勢を、「機動的、分散的、強靭かつ高い破壊力」にする取り組みを推進してきた。米国は、自国の基地や同盟国・提携国の基地に追加または新たな戦力を展開し、輪番制を敷くという域外展開の範囲を超えた行動に出ている。
(3) 攻撃能力を強化するために、米国はインド太平洋地域にさらなる先進的な能力を配備し、または配備を計画している。たとえば、グアム海軍基地に前方展開するロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦を2021年半ばの3隻から、2022年初頭には5隻に増強している。また、2026年春からは、三沢基地配備の36機のF-16の代替として、48機のF-35Aの配備が開始される。さらに、同盟国の領土における輪番制の駐留体制の強化にも取り組み、U.S. Air Forceは爆撃機を含む各種航空機のオーストラリアへの配備を増やし、U.S. Armyは2024年4月に地上配備型のタイフォン中射程ミサイルシステムをフィリピンに一時的ではあるが、初めて配備した。
(4) U.S. Marine Corps司令官Eric Smith大将は、一部のU.S. Armed Forcesは「誤った方向に向かっている」と述べている。2012年の日米合意に基づき、米国は9,000名の海兵隊員を沖縄からオーストラリアに交代配備、そしてグアムまたはハワイに前方配備する計画を開始した。2024年12月には、最初の移転が開始され、約100名の兵站支援要員がグアムに移動した。これをEric Smith大将は、「危機的状況から遠く離れた場所に置く」と懸念している。
(5) 米国は機動性を高めるため、地域部隊の改革も行っている。たとえば、U.S. Marine Corpsはインド太平洋地域での作戦に最適な部隊編成への移行の一環として、2022年と2023年にそれぞれMarine Littoral Regiment(海兵沿岸連隊:以下、MLRと言う)1個連隊を発足させた。グアムには2027年までにさらにMLR1個連隊が配備される予定である。MLRは機動性があり、自己展開可能な部隊として、簡素な場所からシー・コントロール確保のような任務を遂行可能である。この新たな役割を支援するため、2024年後半、ハワイを拠点とするMLRは、185km以上の射程を持つ対艦ミサイルを発射可能で、かつ機動性のある無人地対艦ミサイル搭載車両(Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction System:以下、NMESISと言う)を装備した。しかし、NMESISの有効性は限定的で、射程は不十分であることが演習で判明した。これについてEric Smith司令官は、弾薬の備蓄について、「それを使用できるようにするには、弾薬の備蓄数、弾薬を備蓄する施設、弾薬そして製造数まで増やして軍備を整えなければならない」と懸念を示している。
(6) インド太平洋地域におけるU.S. Armed Forcesの生存能力を向上させるため、米国は自国の基地の能動的および受動的な防衛能力の改善にも取り組んでいる。U.S. Armed Forcesの航空基地は、中国軍の長距離ミサイルによる危険性にさらされている。重要な軍事拠点であるグアム島をより確実に防衛するため、米国は多層防空システムを整備する取り組みを進めている。その進展として、2024年12月にグアム島で初めて弾道ミサイル防衛試験が実施され、AN/TPY-6レーダーと垂直発射システムが統合された新しい地上配備型イージスシステムが、SM-3ブロックIIAを使用して中距離弾道ミサイルを模した標的を迎撃した。それでも、中国軍の膨大なミサイル在庫を考慮すると、防衛システムの更新を施したとしても、地域の米国ミサイル防衛システムは圧倒される危険性がある。また、グアムを含むいくつかの重要な地域拠点には、強化された航空機用シェルターが全くない。
(7) 空軍基地への攻撃に対する耐性を維持するために、U.S. Air Forceは機敏な戦闘運用(Agile Combat Employment 、ACE)構想に従って、より小規模で分散した場所からの作戦・訓練を実施している。分散化を促進するために、米国は地域内の飛行場の利用を拡大している。たとえば、2024年には、米国はペリリュー飛行場の再認証を行い、北飛行場を囲むジャングルの伐採を開始した。
(8) 米国は同盟国や提携国の領土から戦う能力が不確実という脆弱性に直面している。フィリピンは、米国の利用を攻撃行動目的ではないとしているが、戦時は米国にそれらの基地を使用させる可能性があることも示唆している。日本は、台湾有事の際には米国に自国の基地の利用を許可する可能性が最も高い同盟国と一般的に見られているが、日本も攻撃を受けていない場合には、法的障害に直面する可能性がある。一方、韓国は、そのような状況下で米軍が自国から作戦行動を行うことに対して反対の意見を表明している。米国に利用権を与える上で最も大きな障害となるのは、中国軍が同盟国を標的にする動機を大幅に増幅させる可能性である。同盟国の許可なしでは、米国が紛争に軍事力を発揮する能力は著しく損なわれることになる。軍事演習では、米国が日本の基地を利用できることが台湾を効果的に防衛する鍵であることを示している。
(9) 米国は、中国との地域紛争に関連する新たな能力を開発し、特にその地域で試験を行っている。たとえば、航空機から発射されるAIM-174B対空ミサイルは、航空機がより遠距離から攻撃することを可能にする。この地域の米国の同盟国も、自国の能力を大幅に強化している。日本はスタンドオフミサイルの一連のシステムを開発中であり、韓国は数トンの弾頭を持つ弾道ミサイルを配備中である。
(10) NATO同盟国に対する取り組みとは対照的に、Trump政権はこれまで概ね、インド太平洋地域の同盟国に対する安全保障を受け入れている。しかし、より大きな負担分担を重視していることを踏まえると、同盟国に対して、軍事面での大幅な投資と米軍駐留に対するより多くの財政支援を、第1期と同様に要求する可能性が高い。
記事参照:Reinforcement and redistribution: evolving US posture in the Indo-Pacific

3月27日「ウクライナ戦争を終わらせるために、Trump大統領はEisenhower元大統領を見習うべき―米専門家論説」(The National Interest, March 27, 2025)

 3月27日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、米Harvard University教授Graham Allisonの“To End the Ukraine War, Trump Should Think Like Ike”と題する論説を掲載し、ここでGraham AllisonはTrump大統領がウクライナ問題についてEisenhower元大統領のやり方を参考にするならば、世紀の和平合意を達成できるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Trump大統領が選挙公約であるウクライナ戦争の即時終結を実現しようとするならば、70年前に同様の課題に直面したEisenhower元大統領の実績を振り返るべきである。1952年の大統領選挙キャンペーン中、Eisenhower元大統領は朝鮮半島で300万人以上の命を奪った戦争を終結させることを誓った。
(2) 1953年1月にEisenhower元大統領が就任した時、朝鮮戦争は1年半にわたる膠着状態に陥っていた。2022年2月の戦争開始から8ヵ月が経過し、ロシア軍とウクライナ軍はほとんど動いていない。ウクライナのVolodymyr Zelenskyy大統領は、ウクライナ領土の総てを回復するまで戦い続けると主張し、米国のJoe Biden大統領をはじめとする欧州の多くの国々は、ウクライナを必要な限り支援すると約束した。
(3) 朝鮮戦争を終わらせるというEisenhower元大統領の選挙公約は、「引き分けのために死ぬ」ことに米国民を送り続けることに意味がないと国民の共感を呼んだ。Trump大統領が現在、持続可能な平和の構築を目指しており、それは膠着状態から平和へと導いたEisenhower元大統領の指導力から手掛かりを得ることができる。
a. 戦争終結に向け、国連旗のもとで行動する米国と北朝鮮および中国間の交渉は、戦争開始から1年後の1951年7月に開始され、基本的に現状維持とし、38度線付近で朝鮮半島を分断することで合意した。しかし、ソ連の指導者Joseph Stalinは、犠牲者に対する米国内の不満が高まっていることを察知し、毛沢東に交渉では強硬路線を採るよう助言した。
b. 米国は17万人の北朝鮮および中国の戦闘員を捕虜として捕らえており、中国と北朝鮮には約7万人の韓国人と米国人捕虜がいた。毛沢東は全員交換を主張したが、Truman大統領は、捕虜を共産中国や北朝鮮に、彼らの意に反して強制的に帰還させるべきではないと考えていた。そのため、交渉が長引く一方で、激しい戦闘がさらに1年続き、米国では大統領選挙の時期になった。民主党候補のAdlai Stevensonは、朝鮮半島問題に関してはTrumanの立場を基本的に支持したが、Eisenhower元大統領は戦争を迅速に終結させることを公約した。
c. 選挙が終わるとすぐに、Eisenhower元大統領は朝鮮半島へ向かい、李承晩および軍司令官達と直接話し合った。李承晩が北朝鮮を占領し、国を再統一するための新たな攻勢計画を提示した際、Eisenhower元大統領は「ノー」とだけ答えた。1953年3月、Stalinが死去したことにより、Eisenhower元大統領はソ連が戦争を支援しなくなることを認識した。李承晩は好まないかもしれないが、それはEisenhower元大統領が考えた休戦の好機となった。戦い続けることを李承晩が主張した際、韓国軍への燃料供給を停止するという脅しも含め、Eisenhower元大統領は交渉を試みた。
d. 交渉の最終段階で、李承晩は国連軍が拘束している2万5,000人以上の捕虜の脱走を指揮し、交渉を覆そうと試みた。これに対し、Eisenhower元大統領は「あなたの現在の行動方針では、国連軍があなたと共同で活動し続けることは不可能になる」と警告した。
e. Eisenhower元大統領は北朝鮮と中国から譲歩を引き出すために圧力をかけた。米国は台湾に駐留し、中国本土を攻撃していた中国国民党に対する制約を撤廃し、さらにインドを仲介して中国と北朝鮮に「満足のいく進展が見られない場合、我々はためらいなく断固として武器を使用し、もはや朝鮮半島での戦闘の封じ込めには責任を持たない」という意図を送った。これは、戦争を迅速に終結させなければ、核兵器を使用するという脅しであった。最終的に、単に戦争を終わらせるだけでなく、持続可能な平和を実現するため、Eisenhower元大統領は、U.S. Armed Forcesの継続的な駐留を含む、米国と韓国間の相互防衛条約を策定した。それから約80年が経った今でも、2万8,000名のU.S. Armed Forcesが駐留している。
(4) ウクライナは韓国ではない。類似点を分析する際には、類似点と相違点の両方を考慮することが不可欠である。相違点は次のとおりである。
a. 朝鮮戦争の解決の鍵となったのは、北朝鮮と中国に戦争継続を迫り続けていたソ連指導者Stalinの死であった。
b.米国は韓国に対する影響力と比べるとウクライナ政府への影響力は限定的である。
c.朝鮮半島は戦争前に分断されていたが、ウクライナは分断されていない。
d. Eisenhower元大統領が就任した時点で、朝鮮戦争を終結させるための交渉は何年も継続されていたのに対し、ウクライナにおける停戦または休戦の交渉は始まったばかりである。
(5) 類似点は次のとおりである。
a. 平和の実現を強く望むTrump大統領は、戦争の遺産に縛られることなく就任したので、大胆な方向転換ができる。
b. Trump大統領は右派からの批判に晒されることが少ないため、共産主義に甘い。勝利を収めることができないなどと非難されることなく、譲歩を行う柔軟性がある。
(6) Eisenhower元大統領が公約を果たすことに成功した鍵は、Trump大統領にとっても不可欠である。Trump大統領がEisenhower元大統領のやり方を踏襲し、自らの権限を行使して、Zelenskyyウクライナ大統領、そしてPutinロシア大統領が好まなくとも、殺戮を終わらせ、そして新たな戦争の勃発を防ぎ、ウクライナ人が自国の再建を始めることを可能にする合意をまとめれば、彼は「世紀の和平合意」を達成したと主張できる。
記事参照:To End the Ukraine War, Trump Should Think Like Ike

3月27日「台湾は3つの安全保障上の脅威にさらされている―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, March 27, 2025)

 3月27日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの Pacific Forumが発行するPacNetは、East-West Center上席研究員Denny Royの“Taiwan is under a triple security threat”と題する論説を掲載し、ここでDenny Royは台湾の国家安全保障が中国と米国という2つの異なる方向からの脅威と国民党と民進党の対立による国防政策の不統一という国内からの脅威とにさらされているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾の国家安全保障は、国外の2つの異なる方向から、そして国内からという3つの方向からの脅威にさらされている。最大の脅威は、もちろん中華人民共和国(以下、中国と言う)からのものである。中国政府の長年の立場は、台湾は正式に中国から分離してはならないというものである。中国が軍事行動を採る閾値となる一線は、かつてないほど明確になっている。陳水扁元総統から頼清徳現総統まで、台湾の総統は「台湾は独立した主権国家である」と公言している。最近まで、中国は台湾が自国の憲法改正など、中国からの法的分離を成文化するような動きを試みない限り、中国は手を出さないと考えるのが妥当だった。しかし、それは習近平の下で疑わしいものになっている。習近平は、統一に向けた進展がないことに苛立ちを表明し、台湾の事実上の独立を「世代から世代へと受け継ぐべきではない」と述べている。中国政府は2024年5月の頼清徳総統の就任演説の後、中国人民解放軍(以下、中国軍と言う)が年内に大規模な軍事演習を行うと発表した。頼清徳総統の演説に対する批判は比較的穏やかなものであったが、中国軍は軍事演習を実施した。中国軍は急速な増強と近代化だけでなく、台湾に対する軍事行動の具体的な準備も続けている。U.S. Indo-Pacific Command司令官Samuel Paparo大将は、台湾近郊での中国軍の演習は「演習ではなく戦争の予行」であったと述べている。中国は、艦船から台湾の沿岸道路に直接、軍用車両を陸揚げするための橋を組み立てることができるはしけを建造したと報じられており、上陸侵攻の実現可能性が高まっている。最近、ある中国企業が中国政府向けに100万機のドローンを製造しており、2026年に納入を予定していることを明らかにした。その上、中国はグレーゾーンでの破壊活動を行い、台湾が中国に立ち向かう能力を弱める法的な行動をとっている。
(2) 台湾の2大政党は、中国への対応について根本的に異なる見解を持っている。国民党にとって、たとえ現在、かつての対立勢力であった中国共産党が本土を支配しているとしても、永遠に中国は台湾の母国である。台湾が中国から分離するつもりがないのであれば、中国が台湾に対して軍事力を行使する理由はないはずであると考えている。そのため、国民党の政治家の多くは、国防予算の増額や米国との安全保障協力の深化に消極的である。一方、民主進歩党(以下、民進党と言う)は台湾のナショナリズムを代表している。民進党は、国民党政府の独裁的な政権への反対から生まれた。民進党にとって、中国は敵であり、台湾は自国の民主的な生活様式を壊滅から守る準備をしなければならず、米国は中国の侵略に対する重要な防波堤である。国民党と民進党との間の政治的分裂は、台湾が一貫した防衛政策を実施する上での大きな障害となっている。国民党の政治家やその他の保守派の評論家は、中国共産党の論点を繰り返すことが増えている。台湾の保守派の共通の論点の1つは、米国に対する懐疑主義である。米政府の基本的な考えは、台湾と中国の間で戦争を引き起こし、その後、台湾を見捨てるという考えである。台湾の2024年総統選挙運動期間中、鴻海科技集団(Foxconn)創業者郭台銘は、「ナイフや銃を持っていなければ、(中国は台湾を)攻撃しないかもしれない」ため、「米国から武器を買う」ことに反対したと述べている。国民党の候補である侯友宜と国民党系の台湾人民党の候補である柯文哲は、米国が台湾を「チェスの駒」として利用していることに不満を述べている。
(3) 2020年、台湾の反浸透法が物議を醸した。民進党は台湾の選挙に対する中国の影響力を防ぐために法律が必要であると主張したが、中国政府と国民党の両方が反対した。頼清徳政権は国防費を増やそうとしているが、分裂した立法府が抵抗している。民進党が台湾の行政府を支配しているが、国民党が率いる民主連合が立法府で過半数を占めている。2025年1月、立法府は、台湾の潜水艦建造計画に割り当てられた予算の半分を保留し、ドローンを含む他の軍事装備への予算を削減する予算を可決した。また、新兵募集運動の費用を賄う軍の広報の予算の60%を削減した。国民党の議員たちは、それらは無駄な支出であると主張した。多くの専門家は、中国が台湾を征服しようとするのを思いとどまらせるのには強力な民間防衛計画が役立つと主張してきた。しかし、国民党は中国と一緒になって、民間防衛技術を教える民間企業を攻撃している。
(4) 台湾の安全保障に対する第3の脅威は、長年の安全保障上の提携国である米国から来ている。Trump政権は、台湾が自国の軍隊増強にもっと多くの支出をすることを望んでいる。それは台湾にとっては、米国からより多くの武器を購入することを意味する。Trump大統領とElbridge Colby国防次官は、台湾はGDPの10%を防衛に費やすべきだと主張している。台湾政府は、その目標を達成することは不可能であると述べている。先進国は通常、GDPの40〜50%に相当する政府予算を持っている。しかし、台湾の国家予算は  GDPの14%と比較的少ない。国防予算をGDPの5%に増やしただけでも、教育やインフラなど他の不可欠な種類の予算がなくなってしまう。米国は、中国との戦争で米国が勝てるかどうか不確実なところまで、自国の防衛産業基盤を縮小させてきた。米国の兵器システムが質的に優れていたとしても、中国は米国を凌駕する武器の生産能力によって米国に量的に勝利するかもしれない。そのことは、台湾が米国の軍事介入を受けても中国軍の攻撃を食い止めることができない可能性があることを意味する。
(5) 米国の中台紛争への介入の意思も疑問視されている。Trump大統領は、Biden前大統領に比べて台湾防衛に熱心ではない。Trump大統領は、米国の半導体ビジネスを「盗んだ」とされる台湾に対して恨みを持っている。Trump大統領は、日本や韓国に対する批判と同様に、台湾が米国の保護にただ乗りしていると非難している。Trump大統領は、台湾を守るのが難しいと強調する。Trump大統領は、中国の軍事攻撃に対して経済制裁で対応すると公式に述べている。そして、中国政府は台湾に解決策を提示している。その解決策とは、中国への併合を自発的に受け入れるという形での穏健な降伏である。これにより、中国からの攻撃の脅威が取り除かれ、米国の保護の必要性がなくなり、台湾の人々の間での中国と台湾のナショナリズムの対立が止まるというものである。しかし、実際には、これは人間の安全保障を犠牲にして国家の安全保障を獲得するものである。2019年以降、中国が香港において、市民の自由を迅速かつ執拗に弾圧したという実例がある。中国政府が2022年に発表した台湾に関する白書では、台湾が統一後に中国政府が台湾をどのように扱うかについて、台湾が独自の軍事、政府、経済問題の支配権を保持していること、中国が台湾に軍隊や行政要員を駐留させないことなど以前の保証が削除されている。1945年に日本から解放された後の中国本土政府官僚による台湾人に対する乱暴な扱いが、1947年2月28日の台湾での大規模な内乱(二・二八事件)につながった。この乱暴な扱いの残響と言うべき「島(台湾)は守れ、しかし人々(台湾人)は守るな」という文言が、今日の中国のソーシャルメディアでもよく見かけられる。
記事参照:Taiwan is under a triple security threat

3月28日「技術の進化と海洋安全保障:紅海と黒海から学ぶ主要な教訓―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, March 28, 2025)

 3月28日付けのシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies (RSIS)の Institute of Defence and Strategic Studies が発行するIDSS Paperは、RSISのMaritime Security Programme研究助手Chong De Xianの“Emerging Technologies and Maritime Security: Key Lessons from the Red and Black Seas”と題する論説を掲載し、Chong De Xianは黒海におけるロシアとウクライナの紛争および紅海での危機を振り返り、東南アジアでは、無人システム、AI、その他の新技術が既に定着しつつあることから、東南アジアの海上法執行機関はウクライナとフーシ派の経験から適切な教訓を導きだし、心に留めておくべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 黒海と紅海で最近発生した重大な安全保障上の事件は、新技術が海洋安全保障における行動に本質的な変化をもたらす影響を強調している。ロシアとウクライナの間で進行中の戦争では、ドローン技術が急速に進歩し、ウクライナは黒海で効果的な反撃を仕掛けられるようになった。紅海では、イエメンの反政府勢力フーシ派がドローン技術と容易に入手できる船舶情報を活用し、戦略的に極めて重要なホルムズ海峡の海上交通を大幅に混乱させた。
(2) ウクライナ紛争はドローン技術の進歩を急速に加速させており、2025年1月に初めて、ロシアの地上防空システムに対して空中ドローンを発射するための無人水上艇の展開に成功した。同様に、紅海でのフーシ派の作戦では、精密攻撃には自爆ドローンを、偵察や爆撃には再利用可能なドローンを効果的に活用した。どちらの経験も、無人システムの戦力増強効果を強調している。
(3) 東南アジアの海上法執行機関は、広大な海域における包括的な監視と法執行を妨げる国力の制限という永遠に続く課題に頻繁に取り組んでいるが、無人艦艇・航空機によって提供される戦力増強能力は実用的な解決策を提供する。2025年1月から海上警備無人水上艇(MARSEC USV)による作戦哨戒を開始したRepublic of Singapore Navy (以下、RSNと言う)は、無人技術を活用することで、徴兵対象者の減少を招くことなく作戦能力を拡大し、乗組員の生命に対する危険性を軽減し、世界で最も交通量の多い航路の 1つを哨戒するための作戦対応能力を高めるなど、複数の戦略的目標を達成することができた。
(4) ドローン戦争の成功は人工知能(以下、AIと言う)と切り離して考えることはできない。AIはドローンの視覚システムで標的の識別や地図上に位置を特定するのに利用され、航行の補助となる。海洋安全保障におけるAIの応用は、無人機の操縦や武器の発射だけにとどまらない。電波の傍受および監視活動では、AI をデジタル海洋画像に組み込むことで、日々の海洋の変化の諸相からの異常を迅速に特定し、人間の目では見逃してしまう可能性のある盲点を補うことができる。AI は対応時間を短縮するだけでなく、潜在的な脅威を迅速に特定できるため、人や資産に対する危険性を軽減し、海賊、密猟者、不法移民などの犯罪者が逃走できる時間と空間を遮断し、逮捕の成功率を高める。
(5) この地域では、すでに海洋安全保障の執行に AI が導入され始めている。RSN はAI を活用しており、マレーシア政府は2025年1月にAgensi Penguatkuasaan Maritim Malaysi(マレーシア海上法令執行庁)をその活動に AI を導入する先駆者に選定した。一方、Kementerian Kelautan dan Perikanan(インドネシア海洋水産省)は、UN Office on Drugs and Crime(国連薬物犯罪事務所)および商用衛星プロバイダーのスカイライトと提携し、2024年に執行活動を実施する予定である。
(6) フーシ派は、民間の海洋情報サービス提供者からの自動識別システム(AIS)情報に基づいて、ドローンとミサイル攻撃の標的を特定することができた。この例は、輸送情報の安全保障化に関する疑問を提起するだけでなく、時宜を得た情報と共同デジタル・プラットフォームが業務の成功を促進する上での戦略的価値を浮き彫りにしている。海上安全保障活動における情報共有の重要性を認識し、海上安全保障の所用に対処し、同盟国と提携国間の強力な情報共有を確保する上で、商業上の技術的解決策を活用することには価値がある。Critical Maritime Routes in the Indian Ocean II のインド洋地域情報共有システム (IORIS) や情報融合センター (IFC) のリアルタイム情報共有システム (IRIS)、U.S. Department of Transportation(米運輸省)の SeaVision などの地域情報共有ポータルは、利用可能な膨大な情報源と商用技術を統合する態勢が整っている。
(7) 無人システム、AI等の新技術の発展は、協力の新たな道筋を刺激することにもなるだろう。紅海と黒海における無人技術の応用をより深く理解するには、「費用対効果の高い」ドローンの能力を維持し、強化してきた技術と物流のエコシステムを念頭に置く必要がある。これらの技術開発は単独で起こったのではなく、複雑な技術網の延長線上にあることを認識することが重要である。このエコシステムを活用することで、志を同じくする提携国が技術共有や運用手順や規制枠組みの確立などの分野で協力を拡大する機会が広がる。特に海洋状況把握のための新技術の導入には、持続的な相互運用性を確保するためのさらなる共同訓練や演習も必要となるであろう。地域の法執行機関は、QUADのインド太平洋海洋状況把握パートナーシップ、日本の政府安全保障能力強化支援、U.S. Department of Defenseの海洋安全保障コンソーシアムなどの取り組みを通じて、地域外の提携国からの現在の関心を活用し、海洋安全保障法執行能力を強化すべきである。
(8) 東南アジアでは、無人システム、AI、その他の新興技術がすでに定着しつつある。こうした技術が今後ますます普及するにつれ、海上法執行機関はウクライナとフーシの経験から適切な教訓を導きだし、心に留めておくべきだろう。地域の法執行機関は、これらの技術によって可能になる能力を活用し、これらの技術がもたらす可能性のある追加の協力手段を通じて、志を同じくする提携国と有意義に連携するための実行可能な手段を積極的に模索すべきである。
記事参照:Emerging Technologies and Maritime Security: Key Lessons from the Red and Black Seas

3月30日「中国の脅威に対抗して『太平洋憲章』を発表する必要性―米専門家論説」(19FortyFive, March 30, 2025)

 3月30日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクHeritage FoundationのAllison Center for National Security上席研究員Brent Sadlerの“Time for a New ‘Pacific Charter’ to Counter China’s Rising Threat”と題する論説を掲載し、Brent Sadlerは今日の共産主義中国による脅威に対抗し、自由主義諸国はかつての大西洋憲章にならって「太平洋憲章」を発表すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ヨーロッパが1941年半ばに戦火に包まれる中、大西洋憲章として知られる極めて重要な文書から始まり、連合国の共通の大義が構築された。大西洋憲章は4年間の戦争において、米国と英国を導く指針となり、冷戦に勝利するための条件を整えることとなった。
(2) 大西洋憲章は、インド太平洋がこれから進むべき道を示唆している。米領サモア選出の下院議員Aumua Amata Coleman Radewagenは、2024年12月、米シンクタンクHeritage Foundationでの講演において、中国共産党による太平洋島嶼国への脅威を適切に指摘し、今日の新冷戦においても共通の大義が必要であり、「大西洋憲章にならったインド太平洋における自由のための太平洋憲章」を提唱した。
(3) Aumua Amata Coleman Radewagenの呼びかけは、歴史に根ざしている。1941年、時の米大統領Franklin D. Rooseveltは、「言論と表現の自由に捧げられた世界」を支持し、「Hitlerに支配された世界」に反対する旨の演説を公に行った。その後すぐに、Hitlerはバルバロッサ作戦を発動し、ソ連を攻撃、2ヵ月後の8月に大西洋憲章が署名された。この憲章により、米英は、当事者の自由意思によってのみ領土変更を行うこと、全ての人々に発展をもたらす平等な貿易とその機会を確保すること、恒久的な平和の確立、航行の自由、侵略戦争の放棄を奨励することを誓約した。
(4) 今日、自由世界はヨーロッパおよび中東での大規模な戦争、アジアにおいて報復姿勢を強める共産主義中国によって高まる緊張など、世界各地で脅迫的な課題に直面している。「太平洋憲章」を提案することは、敵対的な中国に対抗して自由国家を共通の原則に基づいて結集させ、自由で繁栄する未来を目指すための意義ある取り組みとなる。
(5) 「太平洋憲章」の提案が歓迎される理由がある。太平洋諸国は、主権と価値を守るためにそれぞれが前進を示してきた。たとえば、2019年に策定された「自由で開かれたインド太平洋」構想、台湾による非対称兵器システムの調達、タリスマン・セイバー多国間軍事演習の実施、フィリピンによる防衛協力強化協定に基づくU.S. Armed Forces受け入れなどがそうである。これらの取り組みに加え、大西洋憲章の遺産をも基盤としながら、共通の存亡に関わる脅威に対する長期の闘いのために、「太平洋憲章」は志を同じくする諸国を結集させる新しく、かつ大胆な集団的行動を推進するものである。
(6) 「太平洋憲章」は、Heritage Foundationの報告書‘Winning the New Cold War: A Plan for Countering China’で詳述された、いくつかの提言ともよく整合するであろう。具体的には、「太平洋憲章」は以下を目指すべきである。
a. 全ての国家に繁栄への道を提供する相互に利益をもたらす貿易関係を支援すること。
b. 国家主権の支持を追求すること。
c. 国家主権を損なう、中国共産党による強大な経済力と拡大する安全保障上の影響力の武器化に対して、抵抗すること。
d. 言論および信教の自由を、自由な市民社会の根幹を成す原則として守ること。
(7) 平和は、十分な防衛力と平和を損なうことを試みる勢力への抵抗によってのみ保証される。世界に拡がる安全保障と民主主義の敵たちは、彼らの時代が到来しつつあると考えている。「太平洋憲章」は、志を同じくする国々を結集し、中国の最悪の行為に対抗し、世界中の何十億もの人々の自由と繁栄の基盤となる価値観を守るための第一歩となるだろう。
記事参照:Time for a New ‘Pacific Charter’ to Counter China’s Rising Threat

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Clarity is power: The Trump administration needs a new US Navy Navigation Plan
https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/issue-brief/clarity-is-power-the-trump-administration-needs-a-new-us-navy-navigation-plan/
Atlantic Council, Marchi 21, 2025
By Bruce Stubbs had assignments on the staff of the secretary of the Navy and the chief of naval operations from 2009 to 2022 
 2025年3月21日、2009年から2022年まで米海軍長官および米海軍作戦部長の幕僚として勤務したBruce Stubbsは、米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトに“Clarity is power: The Trump administration needs a new US Navy Navigation Plan”と題する論説を寄稿した。その中でBruce Stubbs は、2024年9月に発表されたU.S. Navyの「NAVPLAN 2024」が2025年1月のTrump大統領の再登場により無効化され、新たな戦略文書の策定が求められているが、ここではNAVPLANの「戦略的明確性」の欠如を批判し、2025年版への修正を提案するとした上で、現在の文書は対中戦争の準備という目標を掲げるも、必要な艦艇数、作戦手段、危険性の評価の説明に乏しく、またU.S. Navyの「Project 33」との役割重複により、指針の不明確さが増していると指摘している。そしてBruce Stubbsは、特に中国の海洋監視能力拡大が、有人艦艇の運用の前提を揺るがす中、従来どおりの装備投資が妥当か否かの再検討が求められると述べた上で、新たなNAVPLANでは、対中戦争において想定される情勢に基づいた明確な戦力要求と、その実現手段を地図やデータで示すことで議会や国防関係者に説得力を持って伝える必要があるだけでなく、現状の脅威と備えの乖離について率直に語る姿勢も不可欠であると主張している。
 
(2) The Real Meaning Behind China’s Live-Fire Drills Near Australia and New Zealand
https://thediplomat.com/2025/03/the-real-meaning-behind-chinas-live-fire-drills-near-australia-and-new-zealand/
The Diplomat, March 26, 2025
By Dougal Robertson is head of Advanced Research at Felix Advisory, an independent Australian air combat and missile defense consulting firm. 
 3月26日、オーストラリアの空戦およびミサイル防衛のコンサルティング会社Advanced Research at Felix Advisory代表Dougal Robertsonは、デジタル誌The Diplomatに“The Real Meaning Behind China’s Live-Fire Drills Near Australia and New Zealand”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国海軍艦艇による最近のオーストラリア周航は、中国海軍が主要な群島の海上チョークポイントを封鎖し、南太平洋における米国および同盟軍の展開とその維持の継続支援を妨害するという戦域段階の構想を実戦化に近づけていることを示唆している。②これは、将来起こり得る「高烈度の海軍の戦闘」においてU.S. Navyを撃破するという中国海軍の願望の一環である。③南方遠海域への展開および南シナ海・黄海における同時行動は、中国海軍の訓練演習の進化を反映している。④南シナ海における中国海軍の訓練および展開の高烈度化は、第2列島線の外側での行動が「基本的な」訓練からの脱却の主要な指標であることを示唆している。⑤2020年末にも同時進行の海軍演習は観察されたが、Type055駆逐艦を中心とする3個部隊が同時に行動し、かつ遠海域における行動がその一部となったのは2025年が初めてである。⑥今回の南方遠海域への展開は、RANDがシー・コントロールおよび縦深部への打撃に不可欠とした7つの「統合要素」のうち、複数の部隊が異なる海域に展開し、高度に連携する艦隊演習、戦闘被害に対処する高度な応急と対空戦、洋上補給、高度な情報収集の4項目に関する訓練を実施したと推測できる。⑦中国軍の作戦立案者は、オーストラリアがU.S. Armed Forcesに対する安全な後方支援地域であり、海上における第2戦線の形成および台湾海峡有事における南翼側からの打撃戦力展開のための発進拠点となり、そしてチョークポイントを封鎖するという役割を担うことも理解しているなどと主張している。
 
(3) Is South Korea ready to define its role in a Taiwan Strait contingency?
https://www.brookings.edu/articles/is-south-korea-ready-to-define-its-role-in-a-taiwan-strait-contingency/?utm
Brookings, March 28, 2025
ByAndrew Yeo, Senior Fellow at Brookings
Hanna Foreman, Senior Research Assistant at Brookings
 2025年3月28日、米シンクタンクThe Brookings Institute 上席研究員Andrew Yeoと研究助手Hanna Foremanは、同Instituteのウエブサイトに“Is South Korea ready to define its role in a Taiwan Strait contingency?”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、韓国が台湾海峡有事への関与について明確な立場を示していないが、近年その重要性を認識しつつあるとした上で、韓国の尹錫悦政権は台湾を「世界的な問題」と位置づけ、平和と安定の維持がインド太平洋の安全保障に不可欠であると表明しており、中国との経済関係や北朝鮮問題への影響から慎重な姿勢を保っているが、米国の要請や台湾有事による経済的・地政学的影響を考慮すれば、より積極的な対応が求められると指摘している。また、両名は、韓国が今後、特に在韓米軍の戦略的柔軟性、後方支援や物資提供などの役割を明確化する必要があるし、台湾との経済・技術協力を通じた関係強化も進め、将来的には地域安定のための戦略的な関与が不可欠となるだろうと主張している。
 
(4) Europe’s Nuclear Trilemma
https://www.foreignaffairs.com/europe/europes-nuclear-trilemma
Foreign Affairs, March 31, 2025
By MARK S. BELL is Associate Professor of Political Science at the University of Minnesota.
FABIAN R. HOFFMANN is a Doctoral Research Fellow at the Oslo Nuclear Project at the University of Oslo.
 2025年3月31日、米University of Minnesota政治学准教授Mark S. BellとノルウェーのUniversity of Oslo のOslo Nuclear Project博士研究員Fabian R. Hoffmannは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“Europe’s Nuclear Trilemma”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、Trump政権下で米国の対欧州安全保障への信頼が揺らぐ中、欧州は「核問題の3重苦」に直面していると指摘した上で、欧州が追求したいのは、①ロシアへの信頼できる抑止力、②戦略的安定、③核不拡散の3点であるが、同時にこの3点を達成することは不可能だとして、3重苦を説明している。そして両名は、この3重苦の考え方を用いると、たとえば、抑止と不拡散を優先すれば、英仏の核戦力ではロシアの戦術核に対抗できず、戦略的安定を損なう一方で、抑止と安定を優先すれば、東欧諸国が自ら核を保有する必要が生じ、不拡散体制が崩壊するなどと解説した上で、最終的には、英仏による拡大抑止が最も現実的な選択肢となるが、そのためには低出力核の増強と先制使用を含む新たな核戦略の確立が必要であり、政治的困難も伴うと述べ、最後に、いずれにせよ、欧州は痛みを伴う選択を迫られており、対米依存からの脱却に向けた戦略的決断が求められていると結論付けている。