海洋安全保障情報旬報 2025年2月11日-2月20日
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2月11日「北極圏を守るためにトランプはデンマークとグリーンランドと協力すべきである―デンマーク元外務大臣論説」(Atlantic Council, February 11, 2025)
2月11日付のAtlantic Councilは、デンマークの元外務大臣でAtlantic Council Global Energy Center非常勤研究員Jeppe Kofodの“To safeguard the Arctic, Trump should work with Denmark and Greenland”と題する論説を掲載し、ここでJeppe Kofodは北極圏の安全保障に関しては過激な政治姿勢を越えた協調的な取り組みが必要な時期が来ており、米国、デンマーク、グリーンランド、その他の北極圏のNATO加盟国は、戦略目標が一致した提携国として協力しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Donald Trump米大統領のグリーンランドへの関心は新しいものではない。ここ数週間で、Trump大統領の第1期目に提案した考えを復活させた。その時、筆者はデンマーク外務大臣であった。しかし、グリーンランドについて何が問題になっているのか、次に何が起こるべきなのかを完全に理解するためには、時間を遡って考える必要がある。現代社会では、1,000年以上にわたる国際関係はほとんどないが、グリーンランドとデンマークは例外である。10世紀の北欧人の入植から、1721年のデンマーク人宣教師Hans Egedeの植民地化まで、グリーンランドとデンマークは、文化的、政治的、歴史的に深い結びつきがある。現在、グリーンランドはデンマーク内の自治組織として運営されており、共有された遺産と変化する地政学的力学の両方を反映した複雑な関係にある。デンマークには約1万7千人のグリーンランド生まれの人々が住んでおり、グリーンランドには数千人のデンマーク生まれの人々が住んでいる。この広範なつながりが、グリーンランド社会を形作っている。
(2) 近年、グリーンランドの戦略的重要性は劇的に高まっている。北米、欧州、北極圏の架け橋となる地理的な位置にあるため、デンマーク、NATO、米国の防衛戦略の中心にある。特に、グリーンランドは北極圏で出現する脅威に対する米国の防衛努力において重要な役割を果たしている。ロシアによる北極圏での軍事化が進み、中国が自らを「近北極国家」と呼び地域的な野心を高めている中、安全保障上の懸念が高まっている。ロシアの軍事活動には、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の行動、北極圏の滑走路の再開、航空能力の強化などがある。中国は北極圏の交易路、資源探査、科学調査の機会を狙っている。また、今後数十年の間に、人類史上前例のない現象が展開される。氷の融解が加速することで、北極海が開かれるということである。この変化により、新しい航路が開かれ、未開発の天然資源が利用できるようになる。その結果、北極圏の支配権と影響力をめぐる紛争は、国家的および経済的安全保障上の利益の中心となるであろう。米国、カナダ、デンマーク(グリーンランドを通じて)、ノルウェー、ロシアの北極圏5ヵ国にとって、北極圏に関し、支配権と影響力を主張することは緊急の優先事項である。
(3) 脅威が高まっているにもかかわらず、デンマークと米国を含むその同盟国は、十分な緊急性を持って対応していない。米国は、ピツフィク宇宙基地の維持整備やデンマークおよびグリーンランド当局との軍事的調整の強化など、いくつかの重要な措置を講じてきた。しかし、これらの対策は変化する環境に対処するために必要な程度には達していない。北極圏の防衛に対するより強力な関与を示すために、NATOは監視能力の拡大、砕氷船隊の整備、対潜水艦対策、共同軍事演習の実施にさらに多くの投資をしなければならない。そのような構想は、北極圏の利益を保護し、外部の脅威に対抗する大西洋横断同盟の能力を強化するであろう。
(4) 2019年、Trump大統領はこれらの安全保障上の課題に対処するためにグリーンランドを購入するという考えを提案した。しかし、この提案は見当違いであったし、今も間違っている。米国は、デンマークとの防衛協定やデンマークとグリーンランドの両当局との強固な提携を通じて、すでにグリーンランドでの様々な利用を享受している。Trump大統領は、対立的な言説を再燃させるのではなく、軍事的・経済的協力の深化に力を注ぐべきである。グリーンランドに米国の軍隊を追加配備することは、デンマークとグリーンランドの指導部に歓迎される可能性が高く、この地域におけるNATOの目的の統一を強化することになる。逆説的であるが、物議を醸したTrump大統領の提案は、意図しない利益をもたらした。それはグリーンランドの戦略的重要性を浮き彫りにし、新たな3国間協力につながったことである。グリーンランドのKim Kielsen首相(当時)は、この提案に対して「グリーンランドは売り物ではない、ビジネスには開かれている」と反論し、グリーンランドが国際的な投資と協力に対して開かれていることを示した。第1次Trump政権下で、米国は2020年にヌークの領事館を再開し、グリーンランドへの投資を増やした。当時、デンマークの外務大臣だった筆者は、米国、デンマーク、グリーンランドの協力を強化する上で重要な役割を果たした。2019年、筆者は初めてグリーンランドの外務大臣をワシントンでのMike Pompeo米国務長官(当時)との2国間会議に招いた。
(5) グリーンランドとフェロー諸島はどちらもデンマーク内の自治国家であり、自国の安全保障は孤立によっては達成できないことを理解している。今日の相互接続された世界では、真の主権には信頼できる同盟への統合が必要である。デンマークにとって「王国の統一」を近代化することは、グリーンランド、フェロー諸島、デンマークが、自治と共通の戦略的利益を尊重しながら対等に運営されることを保証するために不可欠である。しかし、防衛協力を深化させる努力は課題に直面している。特にTrump政権の政治的な予測不可能性は、米国とデンマークの関係の回復力を試すことになるであろう。Trump大統領の発言はしばしば過激であるが、彼の中心的な主張、つまりグリーンランドは米国と大西洋の安全保障にとって重要であるという主張は、依然として有効である。その現実を認識することは、将来の混乱を防ぎ、安定した統一された北極防衛戦略を維持するために重要である。
(6) 北極圏の安全保障について過激な政治的な姿勢を越えた協調的な取り組みが必要な時期が来た。米国、デンマーク、グリーンランド、その他の北極圏のNATO加盟国は、戦略目標が一致した提携国として協力しなければならない。北極圏沿岸の5ヵ国のうち4ヵ国は、長い協力の歴史を持つNATOの同盟国である。この同盟を強化することにより、これらの提携は北極圏だけでなく、より広範な大西洋を跨ぐ地域を新たな脅威から守ることができる。米国、デンマーク、グリーンランドは、継続的な提携を通じて、北極圏の未来を確保し、平和、安定、繁栄の地域として北極圏を保護することができる。
記事参照:To safeguard the Arctic, Trump should work with Denmark and Greenland
(1) Donald Trump米大統領のグリーンランドへの関心は新しいものではない。ここ数週間で、Trump大統領の第1期目に提案した考えを復活させた。その時、筆者はデンマーク外務大臣であった。しかし、グリーンランドについて何が問題になっているのか、次に何が起こるべきなのかを完全に理解するためには、時間を遡って考える必要がある。現代社会では、1,000年以上にわたる国際関係はほとんどないが、グリーンランドとデンマークは例外である。10世紀の北欧人の入植から、1721年のデンマーク人宣教師Hans Egedeの植民地化まで、グリーンランドとデンマークは、文化的、政治的、歴史的に深い結びつきがある。現在、グリーンランドはデンマーク内の自治組織として運営されており、共有された遺産と変化する地政学的力学の両方を反映した複雑な関係にある。デンマークには約1万7千人のグリーンランド生まれの人々が住んでおり、グリーンランドには数千人のデンマーク生まれの人々が住んでいる。この広範なつながりが、グリーンランド社会を形作っている。
(2) 近年、グリーンランドの戦略的重要性は劇的に高まっている。北米、欧州、北極圏の架け橋となる地理的な位置にあるため、デンマーク、NATO、米国の防衛戦略の中心にある。特に、グリーンランドは北極圏で出現する脅威に対する米国の防衛努力において重要な役割を果たしている。ロシアによる北極圏での軍事化が進み、中国が自らを「近北極国家」と呼び地域的な野心を高めている中、安全保障上の懸念が高まっている。ロシアの軍事活動には、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の行動、北極圏の滑走路の再開、航空能力の強化などがある。中国は北極圏の交易路、資源探査、科学調査の機会を狙っている。また、今後数十年の間に、人類史上前例のない現象が展開される。氷の融解が加速することで、北極海が開かれるということである。この変化により、新しい航路が開かれ、未開発の天然資源が利用できるようになる。その結果、北極圏の支配権と影響力をめぐる紛争は、国家的および経済的安全保障上の利益の中心となるであろう。米国、カナダ、デンマーク(グリーンランドを通じて)、ノルウェー、ロシアの北極圏5ヵ国にとって、北極圏に関し、支配権と影響力を主張することは緊急の優先事項である。
(3) 脅威が高まっているにもかかわらず、デンマークと米国を含むその同盟国は、十分な緊急性を持って対応していない。米国は、ピツフィク宇宙基地の維持整備やデンマークおよびグリーンランド当局との軍事的調整の強化など、いくつかの重要な措置を講じてきた。しかし、これらの対策は変化する環境に対処するために必要な程度には達していない。北極圏の防衛に対するより強力な関与を示すために、NATOは監視能力の拡大、砕氷船隊の整備、対潜水艦対策、共同軍事演習の実施にさらに多くの投資をしなければならない。そのような構想は、北極圏の利益を保護し、外部の脅威に対抗する大西洋横断同盟の能力を強化するであろう。
(4) 2019年、Trump大統領はこれらの安全保障上の課題に対処するためにグリーンランドを購入するという考えを提案した。しかし、この提案は見当違いであったし、今も間違っている。米国は、デンマークとの防衛協定やデンマークとグリーンランドの両当局との強固な提携を通じて、すでにグリーンランドでの様々な利用を享受している。Trump大統領は、対立的な言説を再燃させるのではなく、軍事的・経済的協力の深化に力を注ぐべきである。グリーンランドに米国の軍隊を追加配備することは、デンマークとグリーンランドの指導部に歓迎される可能性が高く、この地域におけるNATOの目的の統一を強化することになる。逆説的であるが、物議を醸したTrump大統領の提案は、意図しない利益をもたらした。それはグリーンランドの戦略的重要性を浮き彫りにし、新たな3国間協力につながったことである。グリーンランドのKim Kielsen首相(当時)は、この提案に対して「グリーンランドは売り物ではない、ビジネスには開かれている」と反論し、グリーンランドが国際的な投資と協力に対して開かれていることを示した。第1次Trump政権下で、米国は2020年にヌークの領事館を再開し、グリーンランドへの投資を増やした。当時、デンマークの外務大臣だった筆者は、米国、デンマーク、グリーンランドの協力を強化する上で重要な役割を果たした。2019年、筆者は初めてグリーンランドの外務大臣をワシントンでのMike Pompeo米国務長官(当時)との2国間会議に招いた。
(5) グリーンランドとフェロー諸島はどちらもデンマーク内の自治国家であり、自国の安全保障は孤立によっては達成できないことを理解している。今日の相互接続された世界では、真の主権には信頼できる同盟への統合が必要である。デンマークにとって「王国の統一」を近代化することは、グリーンランド、フェロー諸島、デンマークが、自治と共通の戦略的利益を尊重しながら対等に運営されることを保証するために不可欠である。しかし、防衛協力を深化させる努力は課題に直面している。特にTrump政権の政治的な予測不可能性は、米国とデンマークの関係の回復力を試すことになるであろう。Trump大統領の発言はしばしば過激であるが、彼の中心的な主張、つまりグリーンランドは米国と大西洋の安全保障にとって重要であるという主張は、依然として有効である。その現実を認識することは、将来の混乱を防ぎ、安定した統一された北極防衛戦略を維持するために重要である。
(6) 北極圏の安全保障について過激な政治的な姿勢を越えた協調的な取り組みが必要な時期が来た。米国、デンマーク、グリーンランド、その他の北極圏のNATO加盟国は、戦略目標が一致した提携国として協力しなければならない。北極圏沿岸の5ヵ国のうち4ヵ国は、長い協力の歴史を持つNATOの同盟国である。この同盟を強化することにより、これらの提携は北極圏だけでなく、より広範な大西洋を跨ぐ地域を新たな脅威から守ることができる。米国、デンマーク、グリーンランドは、継続的な提携を通じて、北極圏の未来を確保し、平和、安定、繁栄の地域として北極圏を保護することができる。
記事参照:To safeguard the Arctic, Trump should work with Denmark and Greenland
2月13日「グローバリゼーションに未来はあるか―米国際関係論教授論説」(Project-Syndicate, February 13, 2025)
2月13日付の国際NPO、Project Syndicateのウエブサイトは、Harvard University教授のJoseph S. Nyeの“Does Globalization Have a Future?”と題する論説を掲載し、そこでJoseph S. Nye は近年の民主主義国においてグローバリゼーションに対する批判が高まっているが、世界大戦などが起きない限り、保護主義的な政策でグローバリゼーションの進展を止めることはできないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2025年1月に猛威を振るったロサンゼルスの山火事について、それが米国を弱体化させようとするグローバリストの陰謀の1つだとする言説がある。愚かな主張であるが、しかし、グローバリゼーションと火事が関係しているという点では正しい。2024年は、記録されるようになってから地球が最も暑かった1年で、パリ協定の1.5℃目標を越えてしまった年であった。
(2) グローバリゼーションとは単に、大陸間を越えた相互依存を意味し、たとえばヨーロッパと米国、ヨーロッパと中国の貿易はグローバリゼーションを反映している。そして、グローバリゼーションが国内の産業と職を奪っているという批判があり、Trump大統領などはそうした考えに基づいて関税を利用している。この点、経済学者の見解はさまざまであるが、より重要な要因が自動化であることについては一致している。しかしポピュリストの指導者にとっては、外国人を批判するほうが簡単なのだ。
(3) ポピュリストの指導者らは移民も非難する。移民は短期的には劇的な変化の原因と見なされがちである。米国、その他多くの国は、ヒトの移動によってできた国である。しかし、最初期に定住した人々は、新参者による経済的負担について不満を言うものである。移民(ないしそれに関する報道)が急増すると、政治的反応が生まれる。近年のほぼすべての民主主義国において、ポピュリスト集団は移民批判を現政権に対抗するための武器として利用する。2016年選挙や24年選挙でTrump大統領が勝利したのがその典型である。
(4) ほとんどすべての民主主義国においては、グローバリゼーションの規模と速度の増大について、ポピュリストによる反動を批判する人々がいる。他方でポピュリストは、自国の問題に関して、貿易や移民を非難する。貿易や移民が増えたのは、冷戦後の事実であり、
近年、ポピュリストの影響力が増大しているため、こうした動きが制約されるかもしれない。しかし、経済的なグローバリゼーションを逆転させることはできるのだろうか? 確かに、19世紀半ば以降のグローバリゼーションは2度の戦争によって破綻した前例がある。最近では中国との完全な切り離し(decoupling)を訴える米国の政治家もいる。現在の相互依存の規模を考えれば、それは実現しそうにはないが、切り離しが不可能であることを意味するものではない。
(5) グローバリゼーションの将来を理解しようとするならば、経済的側面以外にも目を向ける必要があるだろう。軍事、環境、健康などさまざまな相互依存関係がある。戦争はグローバリゼーションを破綻させた歴史を持ち、COVID-19は米国に戦争以上の犠牲者をもたらしたのである。他方、科学者は気候変動の対価の大きさを憂慮している。皮肉なのは、われわれが今、対価だけをもたらすグローバリゼーションへの対処に失敗しつつある一方で、利益をもたらすグローバリゼーションを抑制しようとしていることである。
(6) 人類が移動し、通信や運輸の技術を備えている限り、グローバリゼーションは事実であり続けるだろう。経済的な相互依存は古代のシルクロードなどに見られ、航海技術の革新が15世紀に大「発見」の時代をもたらし、蒸気船と電信の発明が19~20世紀のグローバリゼーションを加速させた。現在はインターネットの利用やコンピュータおよびAIの進歩がそれを急加速している。世界大戦がグローバリゼーションを停止させ、保護主義がグローバリゼーションの速度を遅らせるかもしれない。しかし、技術がある限りグローバリゼーションは続く。それが有益なものとは限らないが。
記事参照:Does Globalization Have a Future?
(1) 2025年1月に猛威を振るったロサンゼルスの山火事について、それが米国を弱体化させようとするグローバリストの陰謀の1つだとする言説がある。愚かな主張であるが、しかし、グローバリゼーションと火事が関係しているという点では正しい。2024年は、記録されるようになってから地球が最も暑かった1年で、パリ協定の1.5℃目標を越えてしまった年であった。
(2) グローバリゼーションとは単に、大陸間を越えた相互依存を意味し、たとえばヨーロッパと米国、ヨーロッパと中国の貿易はグローバリゼーションを反映している。そして、グローバリゼーションが国内の産業と職を奪っているという批判があり、Trump大統領などはそうした考えに基づいて関税を利用している。この点、経済学者の見解はさまざまであるが、より重要な要因が自動化であることについては一致している。しかしポピュリストの指導者にとっては、外国人を批判するほうが簡単なのだ。
(3) ポピュリストの指導者らは移民も非難する。移民は短期的には劇的な変化の原因と見なされがちである。米国、その他多くの国は、ヒトの移動によってできた国である。しかし、最初期に定住した人々は、新参者による経済的負担について不満を言うものである。移民(ないしそれに関する報道)が急増すると、政治的反応が生まれる。近年のほぼすべての民主主義国において、ポピュリスト集団は移民批判を現政権に対抗するための武器として利用する。2016年選挙や24年選挙でTrump大統領が勝利したのがその典型である。
(4) ほとんどすべての民主主義国においては、グローバリゼーションの規模と速度の増大について、ポピュリストによる反動を批判する人々がいる。他方でポピュリストは、自国の問題に関して、貿易や移民を非難する。貿易や移民が増えたのは、冷戦後の事実であり、
近年、ポピュリストの影響力が増大しているため、こうした動きが制約されるかもしれない。しかし、経済的なグローバリゼーションを逆転させることはできるのだろうか? 確かに、19世紀半ば以降のグローバリゼーションは2度の戦争によって破綻した前例がある。最近では中国との完全な切り離し(decoupling)を訴える米国の政治家もいる。現在の相互依存の規模を考えれば、それは実現しそうにはないが、切り離しが不可能であることを意味するものではない。
(5) グローバリゼーションの将来を理解しようとするならば、経済的側面以外にも目を向ける必要があるだろう。軍事、環境、健康などさまざまな相互依存関係がある。戦争はグローバリゼーションを破綻させた歴史を持ち、COVID-19は米国に戦争以上の犠牲者をもたらしたのである。他方、科学者は気候変動の対価の大きさを憂慮している。皮肉なのは、われわれが今、対価だけをもたらすグローバリゼーションへの対処に失敗しつつある一方で、利益をもたらすグローバリゼーションを抑制しようとしていることである。
(6) 人類が移動し、通信や運輸の技術を備えている限り、グローバリゼーションは事実であり続けるだろう。経済的な相互依存は古代のシルクロードなどに見られ、航海技術の革新が15世紀に大「発見」の時代をもたらし、蒸気船と電信の発明が19~20世紀のグローバリゼーションを加速させた。現在はインターネットの利用やコンピュータおよびAIの進歩がそれを急加速している。世界大戦がグローバリゼーションを停止させ、保護主義がグローバリゼーションの速度を遅らせるかもしれない。しかし、技術がある限りグローバリゼーションは続く。それが有益なものとは限らないが。
記事参照:Does Globalization Have a Future?
2月13日「台湾の安全を確保するため、米国はウクライナを確保するべき―米専門家論説」(Atlantic Council, February 13, 2025)
2月13日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、Atlantic CouncilのScowcroft Center for Strategy and Securityインド太平洋安全保障構想非常勤研究員でU.S. Marine Corpsの現役中佐Brian Kergの“To secure Taiwan, the United States must first secure Ukraine”と題する論説を掲載し、ここでBrian Kergは台湾防衛がウクライナ防衛と密接に結びついており、米国が台湾の安全を確保したいのであれば、ロシアの侵攻に対してウクライナの主権維持を確実にする必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナはロシアと存亡をかけた戦いを繰り広げ、ウクライナ国民の決意、勇気、忍耐によって殺戮的な侵略に抵抗している。ロシアが資源と人員において圧倒的な優位性を有している格差を考慮すると、ウクライナの抵抗を維持するには、武器、弾薬、物資など提携国の連合による外部支援が必要である。米国は現在も、ウクライナに支援を行う連合の主要メンバーの1国である。
(2) 中国は台湾に対する圧力を継続しながら、海峡侵攻に備えた軍事的準備を強化している。中国の狙いは、自由で民主的な台湾の主権を破壊し、台湾を共産主義の中国に従属させることである。中国は米国の国家安全保障上の利益に対する最大の脅威と認識されており、米国は台湾防衛に全力を傾けることを約束している。そのため、米国、同盟国、提携国はこの不測の事態に備え、十分な資源を確保しなければならない。十分な資源の確保は抑止に不可欠であり、抑止が失敗した場合には、戦闘と勝利に不可欠となる。
(3) 中国との将来の戦争に備えることが優先事項であるならば、米国はロシアとの代理戦争とされるウクライナ支援の優先順位を下げるべきという主張がある。これに対して、前台湾外交部長で現国家安全会議秘書長呉釗燮は、米国によるウクライナへの支援は中国への抑止力として不可欠であり、ロシアが勝利すれば中国が台湾に対して軍事行動に出る可能性が高まると述べている。確かに資源は限られているが、ウクライナへの支援と台湾への支援を二者択一の問題として捉えるのは戦略的に不適切であり、ヨーロッパにおけるロシアの侵略と太平洋における中国の侵略の関連性に対する理解が欠如している。
(4) ウクライナは、将来起こり得るロシアとの戦争に備えているわけではなく、今まさにロシアと国家の生存をかけた戦いをしている。ロシアは米国にとって最大の脅威ではないが、米国の利益に対する深刻な脅威であり、その1つが自由なウクライナである。米国の支援により、ウクライナはロシアを経済的に疲弊させている。米国にとっては、財政的な取引であり、米国人の命を犠牲にすることなく、現地での軍事力の投入に伴う政治的危険性を負うこともない。ロシアは、欧米諸国の支援を戦争行為と解釈するとの脅しをかけ、米国はロシアの越えてはならない一線を次々と越えてきたが、目立った結果は出ていない。
(5) 戦争を終結させる能力を持たないロシアは、軍事資源を大幅に消耗し、大国としての地位を望みながらも、その作戦を継続するために外部からの支援を受け入れざるを得ない状況に追い込まれている。さらに、長期化する戦争はロシアの国力に有害な影響を与え続けている。ウクライナを完全に征服したとしても経済的な利益を得ることはできず、中国との潜在的な戦いにおける米国の作戦に影響を与えるという点でも大きな支障をきたすことになるだろう。NATOに対する米国の義務を果たすために欧州に配備されるかもしれない米部隊は、台湾防衛のために太平洋地域に振り向けられる可能性がある。ウクライナを支援するという米国の決意が継続されることで、中国は侵略を思い止まるだろう。米国がウクライナを支援し続けることは、中国が台湾を脅かした場合に、米国が台湾を支援する堅固な姿勢の例証と見なされる。
(6) もしウクライナへの米国の支援が弱まり、ロシアが勝利を収めるようなことがあれば、ロシアは征服したウクライナから資源を奪い、経済力を吸い上げ、軍事力を再編成し、ヨーロッパ全域に対するより積極的な侵略に大胆になるだろう。将来台湾で有事となれば、ロシアは中国が必要な時に支援し、物資面でも支援する構えを見せ、同時に他のヨーロッパ諸国にも大きな脅威をもたらす。そうなれば、米国の重要な部隊や物資はヨーロッパ大陸に固定され、台湾防衛のための戦いには転用できない。ロシアとの戦争に負けることは、中国と戦う最初の段階となる。
(7) ウクライナの防衛に最適な兵器システムの多くは、台湾防衛には不適で、その逆も然りである。ロシアの侵攻以来、米国がウクライナに提供している支援は、大量かつ消耗戦を特徴とする大陸での地上戦に適し、最新技術を取り入れている。具体的には、これまでは主に砲弾や迫撃砲、戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車、対装甲システム、短距離無人航空機システムで構成されてきた。これらの兵器は、台湾を想定した状況で主流となる空中、海上、沿岸での戦闘には不向きである。これらの兵器と台湾防衛と対中国戦に最適化された兵器との間に直接的な競合はほとんどない。
(8) ウクライナへの米国製武器の供給は、米国の軍事産業基盤にとって試験的な役割を果たし、時宜に即した生産目標を達成するための課題、縦割り行政、その他の障害を明らかにした。これにより米国は軌道修正を行い、台湾への支援を加速させるための議会による行動につながった。これには、台湾への対外有償軍事援助(Foreign Military Sales)を初めて承認し、U.S. Department of Defenseの在庫や役務を台湾に直接提供するために、大統領の削減権限を修正した「台湾強靱化促進法案(Taiwan Enhanced Resilience Act)」も含まれる。ウクライナの防衛に対する米国の支援が引き続き、その耐久力を試される中で、米国の産業基盤はさらに強力で回復力のあるものとなり、台湾防衛のための生産を加速させるための準備も整う。
(9) 現在の状況下では、米国は間接的に、ロシアに対する単一戦線の戦争を支援している。ロシアが戦時目標を達成できなければ、米国は後に圧倒的な戦力を中国に集中させ、台湾に対する侵略を抑止し、必要であれば勝利を収める態勢を整えることができる。しかし、ウクライナを優先順位の低いものとしてしまうと、ウクライナの敗北につながり、米国が将来、強気になった中国と再編されたロシアとの二正面戦争に直面する状況を作り出すことになる。米国が将来の中国による侵略から台湾を守ることに取り組むのであれば、今日ウクライナでロシアを打ち負かすことに焦点を当てるべきである。
記事参照:To secure Taiwan, the United States must first secure Ukraine
(1) ウクライナはロシアと存亡をかけた戦いを繰り広げ、ウクライナ国民の決意、勇気、忍耐によって殺戮的な侵略に抵抗している。ロシアが資源と人員において圧倒的な優位性を有している格差を考慮すると、ウクライナの抵抗を維持するには、武器、弾薬、物資など提携国の連合による外部支援が必要である。米国は現在も、ウクライナに支援を行う連合の主要メンバーの1国である。
(2) 中国は台湾に対する圧力を継続しながら、海峡侵攻に備えた軍事的準備を強化している。中国の狙いは、自由で民主的な台湾の主権を破壊し、台湾を共産主義の中国に従属させることである。中国は米国の国家安全保障上の利益に対する最大の脅威と認識されており、米国は台湾防衛に全力を傾けることを約束している。そのため、米国、同盟国、提携国はこの不測の事態に備え、十分な資源を確保しなければならない。十分な資源の確保は抑止に不可欠であり、抑止が失敗した場合には、戦闘と勝利に不可欠となる。
(3) 中国との将来の戦争に備えることが優先事項であるならば、米国はロシアとの代理戦争とされるウクライナ支援の優先順位を下げるべきという主張がある。これに対して、前台湾外交部長で現国家安全会議秘書長呉釗燮は、米国によるウクライナへの支援は中国への抑止力として不可欠であり、ロシアが勝利すれば中国が台湾に対して軍事行動に出る可能性が高まると述べている。確かに資源は限られているが、ウクライナへの支援と台湾への支援を二者択一の問題として捉えるのは戦略的に不適切であり、ヨーロッパにおけるロシアの侵略と太平洋における中国の侵略の関連性に対する理解が欠如している。
(4) ウクライナは、将来起こり得るロシアとの戦争に備えているわけではなく、今まさにロシアと国家の生存をかけた戦いをしている。ロシアは米国にとって最大の脅威ではないが、米国の利益に対する深刻な脅威であり、その1つが自由なウクライナである。米国の支援により、ウクライナはロシアを経済的に疲弊させている。米国にとっては、財政的な取引であり、米国人の命を犠牲にすることなく、現地での軍事力の投入に伴う政治的危険性を負うこともない。ロシアは、欧米諸国の支援を戦争行為と解釈するとの脅しをかけ、米国はロシアの越えてはならない一線を次々と越えてきたが、目立った結果は出ていない。
(5) 戦争を終結させる能力を持たないロシアは、軍事資源を大幅に消耗し、大国としての地位を望みながらも、その作戦を継続するために外部からの支援を受け入れざるを得ない状況に追い込まれている。さらに、長期化する戦争はロシアの国力に有害な影響を与え続けている。ウクライナを完全に征服したとしても経済的な利益を得ることはできず、中国との潜在的な戦いにおける米国の作戦に影響を与えるという点でも大きな支障をきたすことになるだろう。NATOに対する米国の義務を果たすために欧州に配備されるかもしれない米部隊は、台湾防衛のために太平洋地域に振り向けられる可能性がある。ウクライナを支援するという米国の決意が継続されることで、中国は侵略を思い止まるだろう。米国がウクライナを支援し続けることは、中国が台湾を脅かした場合に、米国が台湾を支援する堅固な姿勢の例証と見なされる。
(6) もしウクライナへの米国の支援が弱まり、ロシアが勝利を収めるようなことがあれば、ロシアは征服したウクライナから資源を奪い、経済力を吸い上げ、軍事力を再編成し、ヨーロッパ全域に対するより積極的な侵略に大胆になるだろう。将来台湾で有事となれば、ロシアは中国が必要な時に支援し、物資面でも支援する構えを見せ、同時に他のヨーロッパ諸国にも大きな脅威をもたらす。そうなれば、米国の重要な部隊や物資はヨーロッパ大陸に固定され、台湾防衛のための戦いには転用できない。ロシアとの戦争に負けることは、中国と戦う最初の段階となる。
(7) ウクライナの防衛に最適な兵器システムの多くは、台湾防衛には不適で、その逆も然りである。ロシアの侵攻以来、米国がウクライナに提供している支援は、大量かつ消耗戦を特徴とする大陸での地上戦に適し、最新技術を取り入れている。具体的には、これまでは主に砲弾や迫撃砲、戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車、対装甲システム、短距離無人航空機システムで構成されてきた。これらの兵器は、台湾を想定した状況で主流となる空中、海上、沿岸での戦闘には不向きである。これらの兵器と台湾防衛と対中国戦に最適化された兵器との間に直接的な競合はほとんどない。
(8) ウクライナへの米国製武器の供給は、米国の軍事産業基盤にとって試験的な役割を果たし、時宜に即した生産目標を達成するための課題、縦割り行政、その他の障害を明らかにした。これにより米国は軌道修正を行い、台湾への支援を加速させるための議会による行動につながった。これには、台湾への対外有償軍事援助(Foreign Military Sales)を初めて承認し、U.S. Department of Defenseの在庫や役務を台湾に直接提供するために、大統領の削減権限を修正した「台湾強靱化促進法案(Taiwan Enhanced Resilience Act)」も含まれる。ウクライナの防衛に対する米国の支援が引き続き、その耐久力を試される中で、米国の産業基盤はさらに強力で回復力のあるものとなり、台湾防衛のための生産を加速させるための準備も整う。
(9) 現在の状況下では、米国は間接的に、ロシアに対する単一戦線の戦争を支援している。ロシアが戦時目標を達成できなければ、米国は後に圧倒的な戦力を中国に集中させ、台湾に対する侵略を抑止し、必要であれば勝利を収める態勢を整えることができる。しかし、ウクライナを優先順位の低いものとしてしまうと、ウクライナの敗北につながり、米国が将来、強気になった中国と再編されたロシアとの二正面戦争に直面する状況を作り出すことになる。米国が将来の中国による侵略から台湾を守ることに取り組むのであれば、今日ウクライナでロシアを打ち負かすことに焦点を当てるべきである。
記事参照:To secure Taiwan, the United States must first secure Ukraine
2月13日「中国の侵略を阻止するには即時の情報処理・配布が必要―米軍事専門家論説」(Atlantic Council, February 13, 2025)
2月13日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、同councilのScowcroft Center for Strategy and Securityの非常勤上席研究員Scott D. Berrier 米退役陸軍中将の“Deterring Chinese aggression takes real-time intelligence”と題する論説を掲載し、ここでScott D. Berrierは中国を抑止するには、米国の情報機関が収集する情報を即時に全領域状況把握として統合し、適切な対処を迅速に行うことが不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾をめぐる米国と中国の衝突は、差し迫ったものでも避けられないものでもないが、中国には、侵略を伴わずに台湾を併合する戦略が有り、それが現在実践されている。この戦略は、火力よりもサイバー能力と関係が深い。米統合軍と情報機関(Intelligence Communities:以下、ICと言う)は、中国による台湾侵略という安全保障上の危険を含め、将来のあらゆる事態に備えなければならない。不幸にも中国との間で危機や紛争が発生した場合、ICはすべての戦闘領域において、即時の意思決定に資する情報を提供する必要がある。U.S. Department of Defenseの統合戦闘構想(Joint Warfighting Concept:以下、JWCと言う)は、あらゆる捜索機器をすべての射手に連接し、敵がミサイル攻撃等を仕掛ける前に、全領域でサイバー作戦、電子戦等により敵の活動を妨害し、先制するキルウェブ構想に基づいて統合軍を配備する新しい方法を理論化している。これを可能にする統合全領域指揮統制体系(Joint All-Domain Command and Control System:以下、JADC2と言う)の構想は、捜索機器と関連情報を統合全領域情報網のキルウェブに連接するための基礎となるものである。米国、友好国、同盟国が効果的に活動するためには、JWCとJADC2に従い、これらの軍隊に情報を即時に処理し、保有させる必要がある。
(2) 抑止が失敗した場合、中国との衝突は歴史上類を見ないものとなるであろう。ドローンの大群を運用する戦術や極超音速兵器の時代では、これまでの事例に比べ、戦闘の進展ははるかに速く、被害は致命的であり、兵器の動きは自律的なものになり、核兵器の使用という想像を絶する事態さえ起こりうる。従来の空、陸、海の領域での戦闘に加え、宇宙やサイバー空間での作戦が大きな役割を果たす。JWC/JADC2を新たな方法で実現するためには、米国のICが、全領域における情報収集の方法や人工知能(AI)・高度な技術を駆使して情報を分析し、即時に提供する方法を再構築しなければならない。速度、時機、事態拡大は、米国と同盟国等の反応、準備段階、関与する部隊の状況と配置によって決まる。封鎖や侵攻を伴う情勢は、現在の指示・警告の方法や状況想定に課題を生じるであろう。
(3) 即時に全領域において状況把握機能を実現するには、収集、分析、報告の権限を持つ18の独立機関からなるIC全体で統一された取り組みを行う必要がある。いくつかの役割や任務は重複しているが、いずれも法律や政策文書に基づく独自の機能と特定の情報任務を持っている。どの機関も、さまざまな情報源、方法、独自技術を駆使して、国家安全保障上の脅威や課題に関する情報を作成している。各機関は、資源を奪い合い、IC内の協力と統合を制限する競争的な雰囲気を作り出している。確かに、ロシアがウクライナに侵攻するまで、ICは非常に効果的であった。国家段階では、機敏な情報開示政策が友好国や同盟国と時宜を得た正確な情報共有を可能にし、ウクライナへの迅速な軍事的・政治的支援を可能にする連合体構築に役立った。しかし、中国との危機や紛争が同じような形で展開するとは考え難い。中国はウクライナにおけるロシアの失敗を注意深く研究しており、台湾有事でそれを繰り返す可能性は低い。さらに、台湾は中国本土に近いため、時間、距離、兵力態勢などの制約と相まって、ICにより大きな葛藤を生む可能性がある。
(4) 中国が関与する危機や紛争の予測に対するICの備えには、改善すべき大きな余地がある。ICは驚異的な能力を持つようになったが、同時に真の統合を阻害する厄介な官僚組織も成長させた。情報源、収集技術、分析手段、AIの進歩等が爆発的に増加した結果、情報機関全体の統一性が欠けている。そのためICの即時状況把握を阻害し、機能不全を連鎖的に拡大する可能性がある。JWCとJADC2は、迅速な状況把握と意思決定の優位性を確保するために、分析・加工され意思決定に資する情報要素とそうではないものの両方を迅速に共有する必要があるが、即時の信頼できる情報、つまり、先に見て、判断し、行動する基盤はまだできていない。現在、ICは資料と手段であふれているが、大規模に統合する方法がない。今こそ体系を大きく変える時である。軍、情報機関、米国の友好国等は、脅威を特定するための収集手段と能力を持っている。しかし、もし中国との間で危機や紛争が起きたとしたら、どれだけの人民解放軍や目標が関係することになるか想像してみてほしい。紛争の事態予想では、統合軍は危険にさらされているすべての外国の軍事施設や目標物を保持するために必要な情報の流れ、または多様な情報分析を明確に統合し、必要な時にこれらの目標追跡を支援する必要がある。こうした能力は脅威を抑止し、打ち負かすために極めて重要である。
(5) 抜本的改革は多くの命が失われ、国家の恥辱を伴う大きな危機の最中かその後にしか行われない。たとえば、1941年の真珠湾攻撃、1980年の駐イラン米大使館からの人質救出の失敗、9.11同時多発テロへの対応を思い起こしてほしい。これらの事例によってもたらされた変化は、大統領の指導力と超党派の議会の合意があって初めて実現した。強力な国家権限がなければ、ICは現在の軌道を維持するであろうが、その軌道は平時にも、紛争につながる危機にも不十分である。
(6) 力で平和を推進するには、今こそ指導力が必要である。Trump政権には、中国、ロシア、イラン、北朝鮮がもたらすさまざまな脅威について国民の認識を高め、特に即時全領域状況把握を構築することで、これらの脅威に対処するための国家安全保障を加速させる機会がある。この認識によって、統合軍は信頼できる抑止のために目標識別から破壊に至る一連の攻撃の構造であるキル・チェーンを確立し、演習を重ね、標準化することができる。さらに、米国がグレーゾーンで増大する脅威を特定し、それに対処できるようにすることも可能である。最近の前向きな動きとしては、情報・安全保障担当国防次官が、Defense Intelligence Agency(国防情報局)を共通状況図(common intelligence picture、以下「CIP」と言う)の 主導役(enterprise lead)に指定する指令にTrump大統領は署名した。これは良い出発であるが、この課題の大きさ、時間制限、官僚的な障害を考えると、U.S. Department of Defenseはさらに先へ進む必要があり、大統領令、超党派の議会の支持、U.S. Department of Defense、IC、産業界にまたがる包括的な方策なしには実現しない。 あらゆる分野の情報を統合して即時全領域状況把握を達成し、維持する計画を現実のものにすることが、米国とその同盟国等が積極的に主導権を握り、抑止力を再構築し、紛争に勝利する唯一の方法である。米国の国家的決意を示し、戦略的抑止力を高めるためには、情報統合とJADC2に対する高度な取組みを中国とロシアに明確に示さなければならない。
(7) 中国の脅威に対処するためのJWC/JADC2機能の実現に焦点を当てた大統領令は、U.S. Department of Defenseと情報機関全体の取り組みを強化し、推進する。これにより、国家の競争力が強化され、軍と情報機関は力によって平和を実現することができる。U.S. Department of Defenseの傘下には、全米の10の情報機関があり、国防長官は国家情報長官と協力してこの取り組みを主導すべきである。これには、国防次官などU.S. Department of Defenseの上級指導者に変革のための実質的な権限を与えることも必要である。今後は、作業部会の迅速な立ち上げが重要で、少なくとも技術、技能、AI、統合、実験および業界の作業部会が設置され、U.S. Department of Defenseの各情報機関および各軍から部門責任者の次席を配置すべきである。国防副長官と国防次官による計画と成果の厳重な管理が、この取り組みを効果的に進める唯一の方法である。一刻の猶予もない。即時全領域状況把握を達成することが、国家安全保障と防衛に不可欠である。新政権の指導力と産業界の最先端技術により、早期警戒機能を即時全領域状況把握に変革することが、戦略上・予算上の優先事項であると同時に運用上の現実にもなり得る。
記事参照:Deterring Chinese aggression takes real-time intelligence
(1) 台湾をめぐる米国と中国の衝突は、差し迫ったものでも避けられないものでもないが、中国には、侵略を伴わずに台湾を併合する戦略が有り、それが現在実践されている。この戦略は、火力よりもサイバー能力と関係が深い。米統合軍と情報機関(Intelligence Communities:以下、ICと言う)は、中国による台湾侵略という安全保障上の危険を含め、将来のあらゆる事態に備えなければならない。不幸にも中国との間で危機や紛争が発生した場合、ICはすべての戦闘領域において、即時の意思決定に資する情報を提供する必要がある。U.S. Department of Defenseの統合戦闘構想(Joint Warfighting Concept:以下、JWCと言う)は、あらゆる捜索機器をすべての射手に連接し、敵がミサイル攻撃等を仕掛ける前に、全領域でサイバー作戦、電子戦等により敵の活動を妨害し、先制するキルウェブ構想に基づいて統合軍を配備する新しい方法を理論化している。これを可能にする統合全領域指揮統制体系(Joint All-Domain Command and Control System:以下、JADC2と言う)の構想は、捜索機器と関連情報を統合全領域情報網のキルウェブに連接するための基礎となるものである。米国、友好国、同盟国が効果的に活動するためには、JWCとJADC2に従い、これらの軍隊に情報を即時に処理し、保有させる必要がある。
(2) 抑止が失敗した場合、中国との衝突は歴史上類を見ないものとなるであろう。ドローンの大群を運用する戦術や極超音速兵器の時代では、これまでの事例に比べ、戦闘の進展ははるかに速く、被害は致命的であり、兵器の動きは自律的なものになり、核兵器の使用という想像を絶する事態さえ起こりうる。従来の空、陸、海の領域での戦闘に加え、宇宙やサイバー空間での作戦が大きな役割を果たす。JWC/JADC2を新たな方法で実現するためには、米国のICが、全領域における情報収集の方法や人工知能(AI)・高度な技術を駆使して情報を分析し、即時に提供する方法を再構築しなければならない。速度、時機、事態拡大は、米国と同盟国等の反応、準備段階、関与する部隊の状況と配置によって決まる。封鎖や侵攻を伴う情勢は、現在の指示・警告の方法や状況想定に課題を生じるであろう。
(3) 即時に全領域において状況把握機能を実現するには、収集、分析、報告の権限を持つ18の独立機関からなるIC全体で統一された取り組みを行う必要がある。いくつかの役割や任務は重複しているが、いずれも法律や政策文書に基づく独自の機能と特定の情報任務を持っている。どの機関も、さまざまな情報源、方法、独自技術を駆使して、国家安全保障上の脅威や課題に関する情報を作成している。各機関は、資源を奪い合い、IC内の協力と統合を制限する競争的な雰囲気を作り出している。確かに、ロシアがウクライナに侵攻するまで、ICは非常に効果的であった。国家段階では、機敏な情報開示政策が友好国や同盟国と時宜を得た正確な情報共有を可能にし、ウクライナへの迅速な軍事的・政治的支援を可能にする連合体構築に役立った。しかし、中国との危機や紛争が同じような形で展開するとは考え難い。中国はウクライナにおけるロシアの失敗を注意深く研究しており、台湾有事でそれを繰り返す可能性は低い。さらに、台湾は中国本土に近いため、時間、距離、兵力態勢などの制約と相まって、ICにより大きな葛藤を生む可能性がある。
(4) 中国が関与する危機や紛争の予測に対するICの備えには、改善すべき大きな余地がある。ICは驚異的な能力を持つようになったが、同時に真の統合を阻害する厄介な官僚組織も成長させた。情報源、収集技術、分析手段、AIの進歩等が爆発的に増加した結果、情報機関全体の統一性が欠けている。そのためICの即時状況把握を阻害し、機能不全を連鎖的に拡大する可能性がある。JWCとJADC2は、迅速な状況把握と意思決定の優位性を確保するために、分析・加工され意思決定に資する情報要素とそうではないものの両方を迅速に共有する必要があるが、即時の信頼できる情報、つまり、先に見て、判断し、行動する基盤はまだできていない。現在、ICは資料と手段であふれているが、大規模に統合する方法がない。今こそ体系を大きく変える時である。軍、情報機関、米国の友好国等は、脅威を特定するための収集手段と能力を持っている。しかし、もし中国との間で危機や紛争が起きたとしたら、どれだけの人民解放軍や目標が関係することになるか想像してみてほしい。紛争の事態予想では、統合軍は危険にさらされているすべての外国の軍事施設や目標物を保持するために必要な情報の流れ、または多様な情報分析を明確に統合し、必要な時にこれらの目標追跡を支援する必要がある。こうした能力は脅威を抑止し、打ち負かすために極めて重要である。
(5) 抜本的改革は多くの命が失われ、国家の恥辱を伴う大きな危機の最中かその後にしか行われない。たとえば、1941年の真珠湾攻撃、1980年の駐イラン米大使館からの人質救出の失敗、9.11同時多発テロへの対応を思い起こしてほしい。これらの事例によってもたらされた変化は、大統領の指導力と超党派の議会の合意があって初めて実現した。強力な国家権限がなければ、ICは現在の軌道を維持するであろうが、その軌道は平時にも、紛争につながる危機にも不十分である。
(6) 力で平和を推進するには、今こそ指導力が必要である。Trump政権には、中国、ロシア、イラン、北朝鮮がもたらすさまざまな脅威について国民の認識を高め、特に即時全領域状況把握を構築することで、これらの脅威に対処するための国家安全保障を加速させる機会がある。この認識によって、統合軍は信頼できる抑止のために目標識別から破壊に至る一連の攻撃の構造であるキル・チェーンを確立し、演習を重ね、標準化することができる。さらに、米国がグレーゾーンで増大する脅威を特定し、それに対処できるようにすることも可能である。最近の前向きな動きとしては、情報・安全保障担当国防次官が、Defense Intelligence Agency(国防情報局)を共通状況図(common intelligence picture、以下「CIP」と言う)の 主導役(enterprise lead)に指定する指令にTrump大統領は署名した。これは良い出発であるが、この課題の大きさ、時間制限、官僚的な障害を考えると、U.S. Department of Defenseはさらに先へ進む必要があり、大統領令、超党派の議会の支持、U.S. Department of Defense、IC、産業界にまたがる包括的な方策なしには実現しない。 あらゆる分野の情報を統合して即時全領域状況把握を達成し、維持する計画を現実のものにすることが、米国とその同盟国等が積極的に主導権を握り、抑止力を再構築し、紛争に勝利する唯一の方法である。米国の国家的決意を示し、戦略的抑止力を高めるためには、情報統合とJADC2に対する高度な取組みを中国とロシアに明確に示さなければならない。
(7) 中国の脅威に対処するためのJWC/JADC2機能の実現に焦点を当てた大統領令は、U.S. Department of Defenseと情報機関全体の取り組みを強化し、推進する。これにより、国家の競争力が強化され、軍と情報機関は力によって平和を実現することができる。U.S. Department of Defenseの傘下には、全米の10の情報機関があり、国防長官は国家情報長官と協力してこの取り組みを主導すべきである。これには、国防次官などU.S. Department of Defenseの上級指導者に変革のための実質的な権限を与えることも必要である。今後は、作業部会の迅速な立ち上げが重要で、少なくとも技術、技能、AI、統合、実験および業界の作業部会が設置され、U.S. Department of Defenseの各情報機関および各軍から部門責任者の次席を配置すべきである。国防副長官と国防次官による計画と成果の厳重な管理が、この取り組みを効果的に進める唯一の方法である。一刻の猶予もない。即時全領域状況把握を達成することが、国家安全保障と防衛に不可欠である。新政権の指導力と産業界の最先端技術により、早期警戒機能を即時全領域状況把握に変革することが、戦略上・予算上の優先事項であると同時に運用上の現実にもなり得る。
記事参照:Deterring Chinese aggression takes real-time intelligence
2月13日「米国には海洋国家安全保障戦略が必要である―米専門家論説」(Real Clear Defense, February 13, 2025)
2月13日付の米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseは、Navy League of the United Stateの Center for Maritime Strategyで海軍の重要性を主張するSteven Wills博士 の“The Nation Needs a Maritime National Security Strategy”と題する論説を掲載し、ここでSteven Willsは米国が中国の海軍力の大幅な増強を傍観者として見ている余裕はなく、自国の海洋能力の再建に資源を集中させる必要があり、第2次Trump政権は国家安全保障戦略においてその取り組みを明確に示すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Trump大統領の国家安全保障チームがまもなく召集されるであろう。その最初の任務の1つは、新政権が国家安全保障上の課題をどのように見ているかを反映した国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)を策定することである。その新しいNSSには、国境警備やパナマ運河やグリーンランドに触れるであろうが、冷戦以来失われた海洋の要素を記す重要な機会にもなる。1987年のReagan政権のNSSは、ソ連崩壊後のNSSには見られなかった重要な海洋戦略理論と行動を含んでおり、1980年代における米国の海軍力の成長を検証し、海上輸送力の拡大による軍事力の向上を指摘したが、米国の商船隊の衰退が将来の海上輸送に影響を与える可能性があるとも警告していた。冷戦の終結とU.S. Navyの縮小は、海洋国家安全保障戦略の終焉を意味したが、中国の台頭と復讐主義のロシアの復活により、次期国家安全保障戦略では新たな海洋への焦点が求められている。
(2) 1986年のゴールドウォーター・ニコルズ法は、大統領が「米国の極めて重要な世界的な利益、目標、目的」を詳述するNSSを毎年作成することを要求している。NSSは、新しい大統領が就任してから150日以内に議会に送られることになっており、新政権が安全保障上の優先事項をどこに集中させるかについて議会に考えを与えることになっている。1987年にReagan政権が発表した最初のNSSは、海洋に重点を置いていた。しかし、その後のNSSは具体性を失い、せいぜい4年1回の国防見直し(Quadrennial Defense Review:以下、QDRと言う)の要旨となってしまった。QDRは1996年から2016年まで4年ごとに実施されていたが、2017年の国防権限法(National Defense Authorization Act、NDAA)で、はるかに簡素で大局的視点に立っていない国防戦略(National Defense Strategy、NDS)に置き換えられてしまった。それらの文書の長さは時代とともに変化してきたが、近年ではその内容はあいまいになってきており、大統領が政策を変更するための自由度は高まるかもしれないが、具体的な軍事情報は含まなくなった。
(3) 1987年のNSSは、海洋能力の3つの中核分野に焦点を当てた優れた出発点となりうる鋳型を提供している。1987年のNSSは、600隻の艦艇と15の空母戦闘群からなる海軍の10年間にわたる建設が、「今世紀の残りの期間、我々の本質的な海上優位性を確保する」ために不可欠であると評価している。また、このNSSは米国の世界的な軍事作戦に必要な海上移動能力を生み出すための海上輸送についての絶対的な要件にも言及している。そこでは「海上部隊の機動性により、海上戦術航空戦力の適用を通じて陸上作戦に直接影響を与えることができる。そして、水陸両用部隊を使用して戦略的に重要な領土を占領し、海から進出可能な同盟国を強化し、または敵の地上部隊の海側の側面を脅かすことによって。海上輸送と事前配置部隊という形での米国の海上部隊は、この取り組みに不可欠である」と述べられている。さらに、1987年版NSSでは、「海上輸送は、過去の危機と同様に、必然的に我々の増援と補給物資の大部分を運ぶことになる。対応時間を短縮するために、米国は事前集積と空輸および海上輸送を統合的に組み合わせている」と述べ、最後に「米国商船と米国の海運関係の資産の継続的な減少は懸念事項である」と警告し、「この問題は、米国籍の商船隊の衰退によって悪化し、その結果、すべての米国船籍の船舶を運用する海上労働者の減少をもたらしている」と述べている。これらの否定的な傾向が「戦略的な海上輸送によって戦力を適切に投射し、維持する我々の能力を阻害する」可能性があると結論付けている。残念ながら、これらの予測はすべて現実のものとなった。米海軍は 1987年の594隻から、現在の海軍および軍事海上輸送司令部の艦艇は296隻未満に減少した。米国の商船隊は、同期間に444隻から178隻に減少した。明らかに、米国の海軍と造船業界は、これらの減少傾向を直ちに逆転させる必要がある。
(4) 第2次Trump政権は、おそらく、内容が詳細ではない最近の傾向を逆転させ、国家安全保障目標を達成するために、米国の海洋優位性の要件を強調するNSSを発表するであろう。より大きな商船隊を建設し、維持するための資金を確保することは、その方向への力強い出発点になる。新しいTrump政権のNSSは、海洋優位の絶対的な要件を強調することにより、米国の海洋力全般を強化することもできる。海軍やその他の海上部隊の規模と構成を述べて、米国の国家安全保障要件を最適に支援することができる。また、米国の世界規模の軍事作戦に必要な海上作戦輸送部隊および海上事前集積部隊の要件を再び検証することができる。最後に、米国商船隊の大幅な衰退と米国の海上優位性の重要な柱としてその戦力を再構築する必要性を強調することができる。米国はもはや、中国の海軍力と海洋力の大幅な成長を無関心な傍観者として見ている余裕はない。米国は、自国の海洋能力の再建にもっと国家資源を集中させる必要がある。新しいTrump政権の国家安全保障戦略は、その取り組みを直接的に促進することができる。
記事参照:The Nation Needs a Maritime National Security Strategy
(1) Trump大統領の国家安全保障チームがまもなく召集されるであろう。その最初の任務の1つは、新政権が国家安全保障上の課題をどのように見ているかを反映した国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)を策定することである。その新しいNSSには、国境警備やパナマ運河やグリーンランドに触れるであろうが、冷戦以来失われた海洋の要素を記す重要な機会にもなる。1987年のReagan政権のNSSは、ソ連崩壊後のNSSには見られなかった重要な海洋戦略理論と行動を含んでおり、1980年代における米国の海軍力の成長を検証し、海上輸送力の拡大による軍事力の向上を指摘したが、米国の商船隊の衰退が将来の海上輸送に影響を与える可能性があるとも警告していた。冷戦の終結とU.S. Navyの縮小は、海洋国家安全保障戦略の終焉を意味したが、中国の台頭と復讐主義のロシアの復活により、次期国家安全保障戦略では新たな海洋への焦点が求められている。
(2) 1986年のゴールドウォーター・ニコルズ法は、大統領が「米国の極めて重要な世界的な利益、目標、目的」を詳述するNSSを毎年作成することを要求している。NSSは、新しい大統領が就任してから150日以内に議会に送られることになっており、新政権が安全保障上の優先事項をどこに集中させるかについて議会に考えを与えることになっている。1987年にReagan政権が発表した最初のNSSは、海洋に重点を置いていた。しかし、その後のNSSは具体性を失い、せいぜい4年1回の国防見直し(Quadrennial Defense Review:以下、QDRと言う)の要旨となってしまった。QDRは1996年から2016年まで4年ごとに実施されていたが、2017年の国防権限法(National Defense Authorization Act、NDAA)で、はるかに簡素で大局的視点に立っていない国防戦略(National Defense Strategy、NDS)に置き換えられてしまった。それらの文書の長さは時代とともに変化してきたが、近年ではその内容はあいまいになってきており、大統領が政策を変更するための自由度は高まるかもしれないが、具体的な軍事情報は含まなくなった。
(3) 1987年のNSSは、海洋能力の3つの中核分野に焦点を当てた優れた出発点となりうる鋳型を提供している。1987年のNSSは、600隻の艦艇と15の空母戦闘群からなる海軍の10年間にわたる建設が、「今世紀の残りの期間、我々の本質的な海上優位性を確保する」ために不可欠であると評価している。また、このNSSは米国の世界的な軍事作戦に必要な海上移動能力を生み出すための海上輸送についての絶対的な要件にも言及している。そこでは「海上部隊の機動性により、海上戦術航空戦力の適用を通じて陸上作戦に直接影響を与えることができる。そして、水陸両用部隊を使用して戦略的に重要な領土を占領し、海から進出可能な同盟国を強化し、または敵の地上部隊の海側の側面を脅かすことによって。海上輸送と事前配置部隊という形での米国の海上部隊は、この取り組みに不可欠である」と述べられている。さらに、1987年版NSSでは、「海上輸送は、過去の危機と同様に、必然的に我々の増援と補給物資の大部分を運ぶことになる。対応時間を短縮するために、米国は事前集積と空輸および海上輸送を統合的に組み合わせている」と述べ、最後に「米国商船と米国の海運関係の資産の継続的な減少は懸念事項である」と警告し、「この問題は、米国籍の商船隊の衰退によって悪化し、その結果、すべての米国船籍の船舶を運用する海上労働者の減少をもたらしている」と述べている。これらの否定的な傾向が「戦略的な海上輸送によって戦力を適切に投射し、維持する我々の能力を阻害する」可能性があると結論付けている。残念ながら、これらの予測はすべて現実のものとなった。米海軍は 1987年の594隻から、現在の海軍および軍事海上輸送司令部の艦艇は296隻未満に減少した。米国の商船隊は、同期間に444隻から178隻に減少した。明らかに、米国の海軍と造船業界は、これらの減少傾向を直ちに逆転させる必要がある。
(4) 第2次Trump政権は、おそらく、内容が詳細ではない最近の傾向を逆転させ、国家安全保障目標を達成するために、米国の海洋優位性の要件を強調するNSSを発表するであろう。より大きな商船隊を建設し、維持するための資金を確保することは、その方向への力強い出発点になる。新しいTrump政権のNSSは、海洋優位の絶対的な要件を強調することにより、米国の海洋力全般を強化することもできる。海軍やその他の海上部隊の規模と構成を述べて、米国の国家安全保障要件を最適に支援することができる。また、米国の世界規模の軍事作戦に必要な海上作戦輸送部隊および海上事前集積部隊の要件を再び検証することができる。最後に、米国商船隊の大幅な衰退と米国の海上優位性の重要な柱としてその戦力を再構築する必要性を強調することができる。米国はもはや、中国の海軍力と海洋力の大幅な成長を無関心な傍観者として見ている余裕はない。米国は、自国の海洋能力の再建にもっと国家資源を集中させる必要がある。新しいTrump政権の国家安全保障戦略は、その取り組みを直接的に促進することができる。
記事参照:The Nation Needs a Maritime National Security Strategy
2月14日「EUは今後もロシア『影の船団』拿捕活動を続けるか―ロシア政治分析者論説」(Andrew Korybko’s Newsletter, February 14, 2025)
2月14日付のロシアの政治分析者でジャーナリストAndrew Korybkoの Newsletterは、自身の“Will The EU Seize Russia’s “Shadow Fleet” In The Baltic?”と題する論説を掲載し、そこでAndrew Korybko はロシアの「影の船団」がバルト海で拿捕されるという事件が起きていることに言及し、それによるウクライナ戦争への影響や、米ロ相互の事態拡大の可能性から、今後組織的に拿捕活動が継続するとは考えられないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月3日の週、ロシアの「影の船団」所属の商船がバルト海において一部のEU加盟国によって拿捕されたという報道があった。2024年12月にはフィンランドも同様の行動を採った。フィンランドによって拿捕された商船が海底ケーブル切断と疑われる行動をしているという口実によってである。実際の目的は、石油売却などによるロシアの対外収入を減らすことであろう。ロシアの影の船団の総事業額は、年間国防予算の約3分の1に相当し、その停止はロシアの経済にとって大打撃である。しかし、ロシアの影の船団の活動を妨害することにはさまざまな課題がある。
(2) 第1に、国際法の問題と、第三国も影の船団をいくらか保有していることである。それゆえ、影の船団の1隻でも拿捕することによる政治的、法的対価はかなり重くなるであろう。したがって、今後、拿捕活動を続けようとは思われなくなるだろう。特に、NATOの指導国である米国はおろか、EU全体の後押しが期待できないのであれば、なおさらである。
(3)第(3) 第2にロシアによる影の船団護衛のための海軍派遣という事態拡大の可能性がある。自国の輸送船に対する攻撃を自国領とみなすという、議会の防衛委員会での警告もあった。Trump大統領は、少なくとも現在はロシアに対する事態拡大を望んでおらず、影の船団を拿捕しようとする同盟国に対してNATO第5条を発動させないだろう。
(4) 最後に、こうした活動すべてがその効果は小さいし、遅すぎたのかもしれない。ロシアと米国はウクライナ戦争について協議を始めている。EUの意思決定は遅く、彼らが影の船団の拿捕活動を支持するかを決定するまでに、戦争は終わるかもしれない。それに、上記の2つの理由からこれまで真剣に検討されてこなかったのであり、そうした方針をEUが転換することも考え難い。ではなぜこのことが今、検討されているのかといえば、バルト三国などEUの一部が、ロシアに対する政策の選択肢を使い果たしていないのだと思わせたいからではないだろうか。もしロシアを封じ込めるために何もできないのだとしたら、深い戦意喪失につながるであろう。
(5) このことを検討するだけで、ロシアのバルト海での活動が抑制されたり、Trump大統領の行動がウクライナで事態を拡大したりするかもしれないという期待があるのかもしれない。どちらもありえそうにないが、EUの一部諸国はその可能性を信じているのかもしれない。しかし、その政治的空想を関係各国のどちらかが一方的に実現しようとすれば、きわめて危険な状況となるであろう。
(6) 米ロの交渉中に、海上で重大な事件が起き、新冷戦の危機に至ったとしても、それは明らかに和平を妨害しようとする「陰の政府(deep state)」の挑発であるため、米国がロシアに対抗する行動を支持することはないだろう。ただし、交渉が決裂すれば、Trump大統領は米国にとって有利な条件を引き出すために「事態を拡大することで緩和することを決断」に方針を転換するかもしれない。
(7) しかし、Trump大統領の方針転換に対しロシアが事態を拡大することになれば、米国の行動は裏目に出るかもしれない。Putin大統領はかつて第3次世界大戦回避のために自制心を働かせていたが、それはさらなるロシアへの侵略を招いただけだった。そのため、Putin大統領はバルト海において影の船団を拿捕しようとするEU諸国の活動に対し、強硬に対抗するものと思われる。Trump大統領は第3次世界大戦の危険性を負ってまで、ロシアへの資金の流れを途絶えさせようとは考えていない。したがって、米国はそうした一部EU諸国の行動を承認しないだろう。以上のことから今後、EU諸国がロシアの影の船団を組織的に拿捕するという可能性は小さい。
記事参照:Will The EU Seize Russia’s “Shadow Fleet” In The Baltic?
(1) 2月3日の週、ロシアの「影の船団」所属の商船がバルト海において一部のEU加盟国によって拿捕されたという報道があった。2024年12月にはフィンランドも同様の行動を採った。フィンランドによって拿捕された商船が海底ケーブル切断と疑われる行動をしているという口実によってである。実際の目的は、石油売却などによるロシアの対外収入を減らすことであろう。ロシアの影の船団の総事業額は、年間国防予算の約3分の1に相当し、その停止はロシアの経済にとって大打撃である。しかし、ロシアの影の船団の活動を妨害することにはさまざまな課題がある。
(2) 第1に、国際法の問題と、第三国も影の船団をいくらか保有していることである。それゆえ、影の船団の1隻でも拿捕することによる政治的、法的対価はかなり重くなるであろう。したがって、今後、拿捕活動を続けようとは思われなくなるだろう。特に、NATOの指導国である米国はおろか、EU全体の後押しが期待できないのであれば、なおさらである。
(3)第(3) 第2にロシアによる影の船団護衛のための海軍派遣という事態拡大の可能性がある。自国の輸送船に対する攻撃を自国領とみなすという、議会の防衛委員会での警告もあった。Trump大統領は、少なくとも現在はロシアに対する事態拡大を望んでおらず、影の船団を拿捕しようとする同盟国に対してNATO第5条を発動させないだろう。
(4) 最後に、こうした活動すべてがその効果は小さいし、遅すぎたのかもしれない。ロシアと米国はウクライナ戦争について協議を始めている。EUの意思決定は遅く、彼らが影の船団の拿捕活動を支持するかを決定するまでに、戦争は終わるかもしれない。それに、上記の2つの理由からこれまで真剣に検討されてこなかったのであり、そうした方針をEUが転換することも考え難い。ではなぜこのことが今、検討されているのかといえば、バルト三国などEUの一部が、ロシアに対する政策の選択肢を使い果たしていないのだと思わせたいからではないだろうか。もしロシアを封じ込めるために何もできないのだとしたら、深い戦意喪失につながるであろう。
(5) このことを検討するだけで、ロシアのバルト海での活動が抑制されたり、Trump大統領の行動がウクライナで事態を拡大したりするかもしれないという期待があるのかもしれない。どちらもありえそうにないが、EUの一部諸国はその可能性を信じているのかもしれない。しかし、その政治的空想を関係各国のどちらかが一方的に実現しようとすれば、きわめて危険な状況となるであろう。
(6) 米ロの交渉中に、海上で重大な事件が起き、新冷戦の危機に至ったとしても、それは明らかに和平を妨害しようとする「陰の政府(deep state)」の挑発であるため、米国がロシアに対抗する行動を支持することはないだろう。ただし、交渉が決裂すれば、Trump大統領は米国にとって有利な条件を引き出すために「事態を拡大することで緩和することを決断」に方針を転換するかもしれない。
(7) しかし、Trump大統領の方針転換に対しロシアが事態を拡大することになれば、米国の行動は裏目に出るかもしれない。Putin大統領はかつて第3次世界大戦回避のために自制心を働かせていたが、それはさらなるロシアへの侵略を招いただけだった。そのため、Putin大統領はバルト海において影の船団を拿捕しようとするEU諸国の活動に対し、強硬に対抗するものと思われる。Trump大統領は第3次世界大戦の危険性を負ってまで、ロシアへの資金の流れを途絶えさせようとは考えていない。したがって、米国はそうした一部EU諸国の行動を承認しないだろう。以上のことから今後、EU諸国がロシアの影の船団を組織的に拿捕するという可能性は小さい。
記事参照:Will The EU Seize Russia’s “Shadow Fleet” In The Baltic?
2月14日「Trump政権の対ウクライナ戦争政策が台湾問題に及ぼす影響―シンガポール国際関係論専門家論説」(The Diplomat, February 14, 2025)
2月14日付のデジタル誌The Diplomatは、シンガポールのNanyang Technological University 研究助手Zi Yangの“Trump’s Ukraine Peace Gambit: Consequences for Taiwan’s Security”と題する論説を掲載し、そこでZi YangはTrump政権の対ウクライナ戦争政策が中国による台湾侵攻を刺激する可能性を指摘しつつ、それでもなお中国が台湾侵攻を思い止まる要因もあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月12日に米Trump政権がウクライナ戦争終結計画を発表した。米国は、2014年以前の国境回復ないしNATOへの加盟というウクライナの目標を支持しないだろう。また、戦後に行われるであろう平和維持活動などに、米国が参加しないことも強調されている。要するに、米国はウクライナによるロシアへの抵抗活動を見捨てたということである。また米国は、交渉が始まる前からウクライナの要求が認められないことをはっきりさせたことで、親ウクライナ連合の立場を著しく弱めたのである。
(2) ウクライナ戦争は世界的な安全保障に影響を及ぼした。Trump政権は、Biden政権のウクライナ支持の方針を維持するつもりがないし、孤立主義的な方針を打ち出している。そのことは専制主義と戦う別の国々にも影響を及ぼす。ミュンヘン会談に似たウクライナ戦争の解決により、多くの国が武力による紛争の解決に魅力を感じることになるだろう。中国はこの機会に乗じて台湾を侵略しようとするかもしれない。
(3) EUからの支援を得ているウクライナと違い、台湾は同じような支援の約束をアジア諸国から得ているわけではない。そのため、中国の抑止は米国に大部分依存している。台湾に対する関税の脅しを含めた最近の米国の動きを、中国は米国による台湾支援の信頼性が低下していることの表れと受け止めるだろう。中国にしてみれば、内向きになっている米国が、これから4年間、台湾支援に乗り出してくる可能性は低いので、絶好の機会となる。
(4) そうした状況にもかかわらず、中国による台湾への武力行使の可能性を抑制する要因が3つある。第1に、中国はTrump政権が中国よりもロシアに対して友好的だと認識している。Trump大統領は2016年選挙の時から一貫して米ロ関係の改善を模索してきた。他方、米中関係は第1期Trump政権において最低の状態に陥った。その方針が変わることはないだろう。もし軍事行動を起こせば、米国の対応はロシアに対するものとは違うものになるかもしれないと中国は考えている。
(5) 第2に、中国はTrump政権の予測不可能性を懸念している。この予測不可能性の度合いは、第1期よりも高い。予測が不可能であるがゆえに、中国による台湾侵攻に対する米国の反応は、無反応であるか、台湾に対する徹底的な軍事支援のどちらかになるかもしれない。第3に、中国の指導者は人民解放軍(以下、PLAと言う)の行動能力を懸念している。PLAの高級将校の多くが、収賄などが原因で習近平によって追放された。収賄は、機微のある防衛計画や軍事的サプライチェーンにも及び、防衛産業関係者にも追放された者が出ている。こうした状況で、本当にPLAが台湾海峡を跨いで戦争をできるのかが疑問視されている。
(6) 米国によるウクライナ支援の放棄は、中国に武力による台湾再統一の機会を提供するかもしれない。ウクライナ戦争は、早期に決着をつけるためには最大戦力を投入する必要があるという教訓を提供した。したがって、台湾侵攻はきわめて破壊的なものとなるだろう。それでもなお、中国による台湾侵攻の可能性を抑制するいくつかの要因がある。中国は今後数年間、台湾軍の準備態勢とTrump政権の決意を試すために、台湾海峡で瀬踏みのための行動を増やすであろう。こうした動きに注意することが重要となる。
記事参照:Trump’s Ukraine Peace Gambit: Consequences for Taiwan’s Security
(1) 2月12日に米Trump政権がウクライナ戦争終結計画を発表した。米国は、2014年以前の国境回復ないしNATOへの加盟というウクライナの目標を支持しないだろう。また、戦後に行われるであろう平和維持活動などに、米国が参加しないことも強調されている。要するに、米国はウクライナによるロシアへの抵抗活動を見捨てたということである。また米国は、交渉が始まる前からウクライナの要求が認められないことをはっきりさせたことで、親ウクライナ連合の立場を著しく弱めたのである。
(2) ウクライナ戦争は世界的な安全保障に影響を及ぼした。Trump政権は、Biden政権のウクライナ支持の方針を維持するつもりがないし、孤立主義的な方針を打ち出している。そのことは専制主義と戦う別の国々にも影響を及ぼす。ミュンヘン会談に似たウクライナ戦争の解決により、多くの国が武力による紛争の解決に魅力を感じることになるだろう。中国はこの機会に乗じて台湾を侵略しようとするかもしれない。
(3) EUからの支援を得ているウクライナと違い、台湾は同じような支援の約束をアジア諸国から得ているわけではない。そのため、中国の抑止は米国に大部分依存している。台湾に対する関税の脅しを含めた最近の米国の動きを、中国は米国による台湾支援の信頼性が低下していることの表れと受け止めるだろう。中国にしてみれば、内向きになっている米国が、これから4年間、台湾支援に乗り出してくる可能性は低いので、絶好の機会となる。
(4) そうした状況にもかかわらず、中国による台湾への武力行使の可能性を抑制する要因が3つある。第1に、中国はTrump政権が中国よりもロシアに対して友好的だと認識している。Trump大統領は2016年選挙の時から一貫して米ロ関係の改善を模索してきた。他方、米中関係は第1期Trump政権において最低の状態に陥った。その方針が変わることはないだろう。もし軍事行動を起こせば、米国の対応はロシアに対するものとは違うものになるかもしれないと中国は考えている。
(5) 第2に、中国はTrump政権の予測不可能性を懸念している。この予測不可能性の度合いは、第1期よりも高い。予測が不可能であるがゆえに、中国による台湾侵攻に対する米国の反応は、無反応であるか、台湾に対する徹底的な軍事支援のどちらかになるかもしれない。第3に、中国の指導者は人民解放軍(以下、PLAと言う)の行動能力を懸念している。PLAの高級将校の多くが、収賄などが原因で習近平によって追放された。収賄は、機微のある防衛計画や軍事的サプライチェーンにも及び、防衛産業関係者にも追放された者が出ている。こうした状況で、本当にPLAが台湾海峡を跨いで戦争をできるのかが疑問視されている。
(6) 米国によるウクライナ支援の放棄は、中国に武力による台湾再統一の機会を提供するかもしれない。ウクライナ戦争は、早期に決着をつけるためには最大戦力を投入する必要があるという教訓を提供した。したがって、台湾侵攻はきわめて破壊的なものとなるだろう。それでもなお、中国による台湾侵攻の可能性を抑制するいくつかの要因がある。中国は今後数年間、台湾軍の準備態勢とTrump政権の決意を試すために、台湾海峡で瀬踏みのための行動を増やすであろう。こうした動きに注意することが重要となる。
記事参照:Trump’s Ukraine Peace Gambit: Consequences for Taiwan’s Security
2月14日「Trump米政権、中国との取引でアジアの同盟国を見捨てるか―フィリピン専門家論説」(China US Focus, February 14, 2025)
2月14日付の香港のシンクタンク China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、Polytechnic University of the Philippinesの教授職にあるRichard J. Heydarianの“‘A Grand Bargain’ : Will U.S. Abandon Asian Allies for China?”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは政権高官人事からTrump米政権は中国との取引でアジアの同盟国を見捨てるかと問い、要旨以下のように述べている。
(1) Trump米大統領の人事で注目すべきは、いわゆる「(対外関与)抑制主義者(restrainers) 」を重要な配置に任命したことである。たとえば、U.S. Department of Defenseでは、新孤立主義者(neo-isolationist)と見られる人物を中東や東南アジアなどの重要地域の担当責任者に任命し、主要な敵対勢力との重要な取引交渉に対する米国の前向きな姿勢を示している。Trump大統領はまた、億万長者Elon Musk に対しても、少なくとも緊張を緩和するために敵対勢力との意思疎通の筋道を強化する権限を付与したと見られる。
(2) フィリピンなどのアジアの同盟国が懸念するU.S. Department of Defense高官人事の中でも、特に注目すべきは、南アジア・東南アジア担当国防次官補代理Andrew Byersである。Andrew Byersは、Texas A&M大学非常勤研究員当時の2024年9月に、米誌に共同執筆論文を寄稿し、そこで、中国との対立を意識的に回避する洞察力のある外交政策を明快に主張した*。Andrew Byersらは「中国との協力スパイラル」を提唱し、それによってU.S. Department of Defenseは「(中国海警総隊)が(南シナ海の紛争海域において)で実施する哨戒活動を減らす代わりに、フィリピンからU.S. Armed Forcesまたは兵器システムを撤去する」ことになろう。また、Andrew Byersは、2024年7月1日付の外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsへの共同執筆論文で、Trump第2期政権は第1期と根本的に異なり、その大戦略においてより実用的になると主張した**。ここでAndrew Byers らは、2期目のTrump大統領は「恐らくその関心をほとんど中国に振り向け、軍事紛争と新冷戦を回避しながら中国との競争に打ち勝つ方策に注力するであろう」と主張している。同じような考えを持つMichael Diminoも中東担当国防次官補代理に任命されており、Michael Diminoも戦略的抑制を名目に米国の敵対勢力との緊張緩和を主張している。
(3) Elon Muskもまた、戦略的抑制と米国の敵対勢力との直接的な関与を重視した、自らの外交を並行して追求している。この世界一の大富豪は「影の大統領」と評されるほどの影響力を持つ存在になっており、誇張された評価か一時的な現象かもしれないが、現実にはElon Musk は既に外交政策で重要な役割を果たしており、緊張緩和を目指してイランとロシアの両国と接触していると言われる。さらに重要なことは、Elon Muskが中国に巨額の投資を行い、中国指導部との温かい関係を築いている一方で、台湾などの枢要な問題に対する中国政府の見解にも広く共感しているように思われることである。そのため、Rommel Ong退役海軍大将などフィリピンの主立った戦略家は、Elon Musk が予想される中国政府との重要な取引の一環として、フィリピンなど(中国との)最前線同盟国に対する支援を格下げするようTrump大統領を説得することになりかねないと公然と警告している。フィリピンは既に中国との海洋紛争のただ中にあるため、アジアの他の重要で有力な米国の同盟国である日本やオーストラリアよりもはるかに脆弱な立場にある。
(4) Marcos Jr. 政権は中国との直接対話の窓口を開くことで、保険をかけている。さらに最近、Marcos Jr.大統領は、中国との緊張緩和の方策の一環として、米国の兵器システム、特にフィリピン北部に配置された タイフォン・ミサイルシステムの撤去を申し出た。Marcos Jr.大統領は会見で、緊張緩和を目指した比中間の重要な取引の可能性を問われ、「中国と取引をしよう。我々の領土に対する領有権主張、漁民に対する嫌がらせ、船舶への体当たりや放水砲の発射、そしてレーザー照射など、あなた方の侵略的で威圧的な行動を全て止めれば、我々はタイフォン・ ミサイルシステムを返還する」と語っている。過去に中国は、フィリピンに対し「地政学的な対立と軍拡競争を扇動する」として、中国南部諸省を攻撃可能な最新鋭のミサイルシステムの撤去を要求している。この間、フィリピンは福建省南部の厦門市で、中国との第10回南シナ海2国間協議機構(BCM)を実施した。比中両国はこの会議で、長期的な紛争管理方策を探求する方法、そして可能であれば近年の拗れた比中関係を回復する方法について話し合っている。Trump第2期政権下での米国の関与に確信が持てない主要な同盟国は戦略的自律性を維持し、中核的な主権利益を守る決意を固めているとしても、中国と直接接触することで独自外交に力を入れつつある。
記事参照:“A Grand Bargain”: Will U.S. Abandon Asian Allies for China?
注*:Andrew Byers, Randall L. Schweller, “A Cold Peace With China,”The American Conservative, September 14, 2024
https://www.theamericanconservative.com/a-cold-peace-with-china/
注**:Andrew Byers and Randall L. Schweller, “Trump the Realist,”Foreign Affairs, July 1, 2024
https://www.foreignaffairs.com/donald-trump-realist-former-president-american-power-byers-schweller?check_logged_in=1
(1) Trump米大統領の人事で注目すべきは、いわゆる「(対外関与)抑制主義者(restrainers) 」を重要な配置に任命したことである。たとえば、U.S. Department of Defenseでは、新孤立主義者(neo-isolationist)と見られる人物を中東や東南アジアなどの重要地域の担当責任者に任命し、主要な敵対勢力との重要な取引交渉に対する米国の前向きな姿勢を示している。Trump大統領はまた、億万長者Elon Musk に対しても、少なくとも緊張を緩和するために敵対勢力との意思疎通の筋道を強化する権限を付与したと見られる。
(2) フィリピンなどのアジアの同盟国が懸念するU.S. Department of Defense高官人事の中でも、特に注目すべきは、南アジア・東南アジア担当国防次官補代理Andrew Byersである。Andrew Byersは、Texas A&M大学非常勤研究員当時の2024年9月に、米誌に共同執筆論文を寄稿し、そこで、中国との対立を意識的に回避する洞察力のある外交政策を明快に主張した*。Andrew Byersらは「中国との協力スパイラル」を提唱し、それによってU.S. Department of Defenseは「(中国海警総隊)が(南シナ海の紛争海域において)で実施する哨戒活動を減らす代わりに、フィリピンからU.S. Armed Forcesまたは兵器システムを撤去する」ことになろう。また、Andrew Byersは、2024年7月1日付の外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsへの共同執筆論文で、Trump第2期政権は第1期と根本的に異なり、その大戦略においてより実用的になると主張した**。ここでAndrew Byers らは、2期目のTrump大統領は「恐らくその関心をほとんど中国に振り向け、軍事紛争と新冷戦を回避しながら中国との競争に打ち勝つ方策に注力するであろう」と主張している。同じような考えを持つMichael Diminoも中東担当国防次官補代理に任命されており、Michael Diminoも戦略的抑制を名目に米国の敵対勢力との緊張緩和を主張している。
(3) Elon Muskもまた、戦略的抑制と米国の敵対勢力との直接的な関与を重視した、自らの外交を並行して追求している。この世界一の大富豪は「影の大統領」と評されるほどの影響力を持つ存在になっており、誇張された評価か一時的な現象かもしれないが、現実にはElon Musk は既に外交政策で重要な役割を果たしており、緊張緩和を目指してイランとロシアの両国と接触していると言われる。さらに重要なことは、Elon Muskが中国に巨額の投資を行い、中国指導部との温かい関係を築いている一方で、台湾などの枢要な問題に対する中国政府の見解にも広く共感しているように思われることである。そのため、Rommel Ong退役海軍大将などフィリピンの主立った戦略家は、Elon Musk が予想される中国政府との重要な取引の一環として、フィリピンなど(中国との)最前線同盟国に対する支援を格下げするようTrump大統領を説得することになりかねないと公然と警告している。フィリピンは既に中国との海洋紛争のただ中にあるため、アジアの他の重要で有力な米国の同盟国である日本やオーストラリアよりもはるかに脆弱な立場にある。
(4) Marcos Jr. 政権は中国との直接対話の窓口を開くことで、保険をかけている。さらに最近、Marcos Jr.大統領は、中国との緊張緩和の方策の一環として、米国の兵器システム、特にフィリピン北部に配置された タイフォン・ミサイルシステムの撤去を申し出た。Marcos Jr.大統領は会見で、緊張緩和を目指した比中間の重要な取引の可能性を問われ、「中国と取引をしよう。我々の領土に対する領有権主張、漁民に対する嫌がらせ、船舶への体当たりや放水砲の発射、そしてレーザー照射など、あなた方の侵略的で威圧的な行動を全て止めれば、我々はタイフォン・ ミサイルシステムを返還する」と語っている。過去に中国は、フィリピンに対し「地政学的な対立と軍拡競争を扇動する」として、中国南部諸省を攻撃可能な最新鋭のミサイルシステムの撤去を要求している。この間、フィリピンは福建省南部の厦門市で、中国との第10回南シナ海2国間協議機構(BCM)を実施した。比中両国はこの会議で、長期的な紛争管理方策を探求する方法、そして可能であれば近年の拗れた比中関係を回復する方法について話し合っている。Trump第2期政権下での米国の関与に確信が持てない主要な同盟国は戦略的自律性を維持し、中核的な主権利益を守る決意を固めているとしても、中国と直接接触することで独自外交に力を入れつつある。
記事参照:“A Grand Bargain”: Will U.S. Abandon Asian Allies for China?
注*:Andrew Byers, Randall L. Schweller, “A Cold Peace With China,”The American Conservative, September 14, 2024
https://www.theamericanconservative.com/a-cold-peace-with-china/
注**:Andrew Byers and Randall L. Schweller, “Trump the Realist,”Foreign Affairs, July 1, 2024
https://www.foreignaffairs.com/donald-trump-realist-former-president-american-power-byers-schweller?check_logged_in=1
2月17日「EU、紅海におけるアスピデス航行の自由任務を2026年まで延長―米誌報道」(The Maritime Executive, February 17, 2025)
2月17日付けの米海洋産業専門誌The Maritime Executiveのウエブサイトは、“EU Extends Aspides Freedom of Navigation Mission in the Red Sea to 2026”と題する記事を掲載し、The Council of the European Union が紅海およびその周辺海域におけるフーシ派の攻撃から商船を保護するEuropean Union Naval Forceが展開するアスピデス作戦を2026年2月28日まで延長する決定を行ったとして、要旨以下のように報じている。
(1) The Council of the European Union は2月14日、紅海および周辺地域においてEuropean Union Naval Forceが展開する航行の自由を防護し、海洋安全保障を防衛する ためのEU軍事作戦アルピデスを2026年2月28日まで延長する決定を確認した。EUは船舶の保護のためにアスピデス作戦を立ち上げており、米国の作戦に比べ、敵対的勢力からの攻撃に応じる権限を部隊に与えている。
(2) 2024年2月には巡視と護衛任務が開始され、捜索救助やその他の活動も支援されている。アスピデス司令部は、初年度に640隻以上の商船が支援され、370隻以上が近接護衛を受けたと報告している。船舶は部隊に支援を要請する必要がある。アスピデス作戦では、商船防衛の一環として、弾道ミサイル4発、無人機18機、USVドローン20機を撃破したと報じられている。また、フーシ派の攻撃によって損傷を受けた船舶やその海域における他の海難事故から、合計50人の船員が救助されており、また、アスピデス作戦は2024年に火災に見舞われた「スニオン」の引き揚げ作業と曳航作業を支援した。
(3) フーシ派は1ヵ月前にガザ停戦に参加し、今後は国際船舶を攻撃しないと約束していたが、この作戦を延長する決定は下された。1月中旬以降、戦闘行為は報告されていない。フーシ派はイスラエル関連の船舶を引き続き攻撃すると述べ、停戦が崩壊した場合は攻撃を再開すると脅している。
(4) The Council of the European Union はまた、アスピデス作戦の任務を拡大し、海上状況把握をさらに確実にすると述べている。これにより、アスピデス作戦は武器密売や影の艦隊に関する情報収集が可能になるはずであり、協調的な法執行活動を強化するため、この情報をさまざまな国際組織と共有する予定である。
(5) U.S. Central Command(米中央軍:以下、CENTCOMと言う)は先週、イエメンの合法政府とYemen Coast Guard(イエメン沿岸警備隊)がイランからフーシ派への物資輸送を阻止できたと報告している。Yemen Coast Guardは紅海南部でダウ船を阻止したが、CENTCOMによるとこの船はホデイダ港行きで、イランから出荷されたと伝えられている。ダウ船には、巡航ミサイルの構造、巡航ミサイルや自爆ドローンに使われるジェットエンジン、偵察ドローン、さらに海洋レーダー、最新の妨害システム、高度な無線通信システムなど、質の高い軍事装備が入った40ftのコンテナが積まれていた。これはYemen Coast Guardが報告した初の迎撃だが、CENTCOMはフーシ派の倉庫にある武器の備蓄を破壊する取り組みに加え、複数の押収を報告している。
記事参照:EU Extends Aspides Freedom of Navigation Mission in the Red Sea to 2026
(1) The Council of the European Union は2月14日、紅海および周辺地域においてEuropean Union Naval Forceが展開する航行の自由を防護し、海洋安全保障を防衛する ためのEU軍事作戦アルピデスを2026年2月28日まで延長する決定を確認した。EUは船舶の保護のためにアスピデス作戦を立ち上げており、米国の作戦に比べ、敵対的勢力からの攻撃に応じる権限を部隊に与えている。
(2) 2024年2月には巡視と護衛任務が開始され、捜索救助やその他の活動も支援されている。アスピデス司令部は、初年度に640隻以上の商船が支援され、370隻以上が近接護衛を受けたと報告している。船舶は部隊に支援を要請する必要がある。アスピデス作戦では、商船防衛の一環として、弾道ミサイル4発、無人機18機、USVドローン20機を撃破したと報じられている。また、フーシ派の攻撃によって損傷を受けた船舶やその海域における他の海難事故から、合計50人の船員が救助されており、また、アスピデス作戦は2024年に火災に見舞われた「スニオン」の引き揚げ作業と曳航作業を支援した。
(3) フーシ派は1ヵ月前にガザ停戦に参加し、今後は国際船舶を攻撃しないと約束していたが、この作戦を延長する決定は下された。1月中旬以降、戦闘行為は報告されていない。フーシ派はイスラエル関連の船舶を引き続き攻撃すると述べ、停戦が崩壊した場合は攻撃を再開すると脅している。
(4) The Council of the European Union はまた、アスピデス作戦の任務を拡大し、海上状況把握をさらに確実にすると述べている。これにより、アスピデス作戦は武器密売や影の艦隊に関する情報収集が可能になるはずであり、協調的な法執行活動を強化するため、この情報をさまざまな国際組織と共有する予定である。
(5) U.S. Central Command(米中央軍:以下、CENTCOMと言う)は先週、イエメンの合法政府とYemen Coast Guard(イエメン沿岸警備隊)がイランからフーシ派への物資輸送を阻止できたと報告している。Yemen Coast Guardは紅海南部でダウ船を阻止したが、CENTCOMによるとこの船はホデイダ港行きで、イランから出荷されたと伝えられている。ダウ船には、巡航ミサイルの構造、巡航ミサイルや自爆ドローンに使われるジェットエンジン、偵察ドローン、さらに海洋レーダー、最新の妨害システム、高度な無線通信システムなど、質の高い軍事装備が入った40ftのコンテナが積まれていた。これはYemen Coast Guardが報告した初の迎撃だが、CENTCOMはフーシ派の倉庫にある武器の備蓄を破壊する取り組みに加え、複数の押収を報告している。
記事参照:EU Extends Aspides Freedom of Navigation Mission in the Red Sea to 2026
2月17日「中国軍の構築は戦争のためか?米シンクタンク、中国の軍備増強に疑問―CNN報道」(CNN, February 17, 2025)
12月7日付けの米ニュースチャンネルCNNのウエブサイトは、“Is China’s military really built for war? New report questions Beijing’s arms buildup”と題する記事を掲載し、米シンクタンクRAND Corporationが発表した『中国軍の疑わしい戦闘準備(The Chinese military’s doubtful combat readiness)』で人民解放軍の近代化は中国共産党の統治の正統性を維持・強化が目的であり、現代の戦争に耐えうるかと疑問を提起しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国政府は習近平国家主席の指揮下で驚くべき軍備増強を進めており、専門家らの評価では、これまでアジア最強の部類にも入らなかった人民解放軍がU.S. Armed Forcesに匹敵、あるいはいくつかの分野ではU.S. Armed Forcesを上回り始めている。米国の防衛専門家による図上演習では、米国が中国沿岸近くでの戦闘、特に台湾をめぐる戦闘で人民解放軍に対抗するのは困難であることが繰り返し示されている。
(2) 米シンクタンクRAND Corporationが1月発表した『中国軍の疑わしい戦闘準備(The Chinese military’s doubtful combat readiness)』と題する報告書(以下、RAND報告書と言う)は、中国は戦争の準備ができておらず、中国共産党が軍備近代化を徹底的に推進する主な動機は海外の敵と戦うことではなく、権力の掌握を維持することだと主張している。中国の軍備増強にもかかわらず、中国共産党が軍人と中国社会の両方を支配したいという政治的配慮が、特に米国のような同等の敵国との戦闘において人民解放軍の足かせとなる可能性があると指摘している。RAND Corporationの中国専門家Timothy Heathは「人民解放軍は基本的に戦争準備よりも中国共産党の統治を維持することに重点を置いている・・・中国の軍事力近代化の成果は、何よりもまず中国共産党統治の正統性を国民に訴え、信頼性を強化することを目的としている」ため、戦争が起こる可能性は低い」とRAND報告書で述べている。
(3) Timothy Heathが挙げた政治的配慮が軍事目標と衝突する一例は、人民解放軍が訓練時間の最大40%を政治的な話題に費やしていることであり、「人民解放軍が現代の戦争にどれほど十分に備えられるのか」と疑問をさらに提起したうえで、米国と中国の間で通常戦争が起こる可能性は「ほとんどない」として、U.S. Department of Defenseの計画担当者はミサイルや爆弾よりも幅広い中国の脅威に焦点を当てるべきであると付け加えている。
(4) 他の専門家は、習近平主席は必要なら武力でも台湾を北京の支配下に置くという最大の軍事目標を明確にしていたと述べ、Timothy Heathの結論を一蹴している。「習近平が一致団結して追求している戦闘能力よりも、党の安全を最大化するには、はるかに簡単で、安価で、危険性の少ない方法がある」とU.S. Naval War Collegeの戦略教授Andrew Ericksonは語っている。元米国東アジア情報局員のJohn Culverもこの報告書に疑問を呈している。
(5) 中国は、習近平主席が10年前に大規模な改革を導入して以来、急速かつ明白な軍事的進歩を達成した。しかしTimothy Heathは、中国の新たな兵器が戦争で効果的かどうか疑問視して、「歴史は、軍隊が戦闘で先進兵器を効果的に使用できないことがあることを繰り返し示してきた」と述べている。Timothy Heathを批判する人々は、人民解放軍に同じ弱点を見るのは愚かだと主張する。
(6) 人民解放軍が配備可能な兵器の数と質の両面で大きな進歩を遂げたことに疑問を抱く人はほとんどいない。シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies 研究員Collin Kohは、ハイテク軍艦の建造は乗組員を雇うよりも簡単かもしれないとして、「陸軍は、十分な教育を受けていないかもしれない地方出身者を同化させ、歩兵として訓練することはできるだろう。しかし、軍艦の戦闘情報中枢で操作盤を操作し、ミサイルを発射し、ミサイルを整備できる人物を訓練したいのであれば、もう少しの努力が必要である」と語っている。
(7) 人民解放軍は、もう1つの人事上の問題である汚職に苦しみ続けている。12月のU.S. Department of Defenseの報告書によると、中国軍と政府の上層部で広まっている反汚職運動が習近平主席の防衛力増強を妨げているという。「中国政府は、汚職が人民解放軍の政治的信頼性、そして最終的には作戦能力に大きな危険性をもたらすものだと認識していると思う」とU.S. Department of Defenseの高官は12月に述べている。
(8) 専門家が中国の軍事的準備について語る時、焦点はすぐに台湾に向けられる。米国の諜報機関の推定によると、習近平主席は人民解放軍に対し、必要なら2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう命じたという。しかしTimothy Heathは、中国の指導者がその目標を定めた一方で、習近平主席と他の党幹部は中国国民を戦闘に備えさせる協調的な取り組みを行っていないと主張し、「中国の指導者らは、戦争を賛美したり、戦争を主張したり、あるいは戦争は避けられない、あるいは望ましいと特徴づけるような演説」はしておらず、「中国軍は台湾を占領し、支配する方法についての研究さえ発表していない」と指摘している。
(9) 西側諸国の考え方に基づいて中国政府の意図を判断することには注意が必要であると警告する者もいる。習近平主席が台湾で何を勝利とみなすのかは不明であり、人民解放軍、そして中国社会全体が台湾を奪取するためにどれほどの苦痛に耐え得るかは中国の指導層内部でしか分からないと彼らは言う。「中国政府の武力行使は、政治的所用に合わせて調整される可能性がある地位に立って検討する必要がある」とCollin Kohは述べている。
(10) 行使される軍事力は、砲弾を発射することなく島を封鎖する可能性がある。台湾海峡両岸の紛争では中国が優位に立っていることを台湾政府とその支持者に示すのに十分な見せかけの攻撃となり、全面的な侵攻と占領になる可能性がある。あるいは、数十機の戦闘機や艦艇を含む人民解放軍が台湾周辺にほぼ常時展開し、中国が容赦なく政治的圧力をかけ続けていく可能性もある。これはこれまで共産党に有利に働いてきた政策だと一部の専門家は指摘する。
(11) なぜ、新しい武器にそれだけのお金をかけるのか?「中国の軍近代化の成果は、攻撃によって台湾を征服することを目的としているわけではない。むしろ、人民解放軍が中国共産党の統治を維持するという長年の使命をより効果的に遂行するのを支援するために設計されている」とTimothy Heathは主張し、本質的に、新型の艦艇やステルス戦闘機は国民に印象を与え、それによって社会を統制することが容易になると述べている。シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies 上席研究員Drew Thompsonもその点に同意している。しかし、Collin Kohは、習近平主席の下で人民解放軍が得た成果を、国内向けの意図の伝達と軽視することはできないとして、「中国と人民解放軍内部にこうした既知の問題があるにもかかわらず、この地域の軍事計画立案者が人民解放軍を単なる張り子の虎として無視するとは思えない」と述べている
(12) Drew Thompsonは、「中国は戦争を始め、戦う可能性がある。彼らは勝てるだろうか?勝利をどう定義するか?」と疑問を提起している。
記事参照:Is China’s military really built for war? New report questions Beijing’s arms buildup
(1) 中国政府は習近平国家主席の指揮下で驚くべき軍備増強を進めており、専門家らの評価では、これまでアジア最強の部類にも入らなかった人民解放軍がU.S. Armed Forcesに匹敵、あるいはいくつかの分野ではU.S. Armed Forcesを上回り始めている。米国の防衛専門家による図上演習では、米国が中国沿岸近くでの戦闘、特に台湾をめぐる戦闘で人民解放軍に対抗するのは困難であることが繰り返し示されている。
(2) 米シンクタンクRAND Corporationが1月発表した『中国軍の疑わしい戦闘準備(The Chinese military’s doubtful combat readiness)』と題する報告書(以下、RAND報告書と言う)は、中国は戦争の準備ができておらず、中国共産党が軍備近代化を徹底的に推進する主な動機は海外の敵と戦うことではなく、権力の掌握を維持することだと主張している。中国の軍備増強にもかかわらず、中国共産党が軍人と中国社会の両方を支配したいという政治的配慮が、特に米国のような同等の敵国との戦闘において人民解放軍の足かせとなる可能性があると指摘している。RAND Corporationの中国専門家Timothy Heathは「人民解放軍は基本的に戦争準備よりも中国共産党の統治を維持することに重点を置いている・・・中国の軍事力近代化の成果は、何よりもまず中国共産党統治の正統性を国民に訴え、信頼性を強化することを目的としている」ため、戦争が起こる可能性は低い」とRAND報告書で述べている。
(3) Timothy Heathが挙げた政治的配慮が軍事目標と衝突する一例は、人民解放軍が訓練時間の最大40%を政治的な話題に費やしていることであり、「人民解放軍が現代の戦争にどれほど十分に備えられるのか」と疑問をさらに提起したうえで、米国と中国の間で通常戦争が起こる可能性は「ほとんどない」として、U.S. Department of Defenseの計画担当者はミサイルや爆弾よりも幅広い中国の脅威に焦点を当てるべきであると付け加えている。
(4) 他の専門家は、習近平主席は必要なら武力でも台湾を北京の支配下に置くという最大の軍事目標を明確にしていたと述べ、Timothy Heathの結論を一蹴している。「習近平が一致団結して追求している戦闘能力よりも、党の安全を最大化するには、はるかに簡単で、安価で、危険性の少ない方法がある」とU.S. Naval War Collegeの戦略教授Andrew Ericksonは語っている。元米国東アジア情報局員のJohn Culverもこの報告書に疑問を呈している。
(5) 中国は、習近平主席が10年前に大規模な改革を導入して以来、急速かつ明白な軍事的進歩を達成した。しかしTimothy Heathは、中国の新たな兵器が戦争で効果的かどうか疑問視して、「歴史は、軍隊が戦闘で先進兵器を効果的に使用できないことがあることを繰り返し示してきた」と述べている。Timothy Heathを批判する人々は、人民解放軍に同じ弱点を見るのは愚かだと主張する。
(6) 人民解放軍が配備可能な兵器の数と質の両面で大きな進歩を遂げたことに疑問を抱く人はほとんどいない。シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies 研究員Collin Kohは、ハイテク軍艦の建造は乗組員を雇うよりも簡単かもしれないとして、「陸軍は、十分な教育を受けていないかもしれない地方出身者を同化させ、歩兵として訓練することはできるだろう。しかし、軍艦の戦闘情報中枢で操作盤を操作し、ミサイルを発射し、ミサイルを整備できる人物を訓練したいのであれば、もう少しの努力が必要である」と語っている。
(7) 人民解放軍は、もう1つの人事上の問題である汚職に苦しみ続けている。12月のU.S. Department of Defenseの報告書によると、中国軍と政府の上層部で広まっている反汚職運動が習近平主席の防衛力増強を妨げているという。「中国政府は、汚職が人民解放軍の政治的信頼性、そして最終的には作戦能力に大きな危険性をもたらすものだと認識していると思う」とU.S. Department of Defenseの高官は12月に述べている。
(8) 専門家が中国の軍事的準備について語る時、焦点はすぐに台湾に向けられる。米国の諜報機関の推定によると、習近平主席は人民解放軍に対し、必要なら2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう命じたという。しかしTimothy Heathは、中国の指導者がその目標を定めた一方で、習近平主席と他の党幹部は中国国民を戦闘に備えさせる協調的な取り組みを行っていないと主張し、「中国の指導者らは、戦争を賛美したり、戦争を主張したり、あるいは戦争は避けられない、あるいは望ましいと特徴づけるような演説」はしておらず、「中国軍は台湾を占領し、支配する方法についての研究さえ発表していない」と指摘している。
(9) 西側諸国の考え方に基づいて中国政府の意図を判断することには注意が必要であると警告する者もいる。習近平主席が台湾で何を勝利とみなすのかは不明であり、人民解放軍、そして中国社会全体が台湾を奪取するためにどれほどの苦痛に耐え得るかは中国の指導層内部でしか分からないと彼らは言う。「中国政府の武力行使は、政治的所用に合わせて調整される可能性がある地位に立って検討する必要がある」とCollin Kohは述べている。
(10) 行使される軍事力は、砲弾を発射することなく島を封鎖する可能性がある。台湾海峡両岸の紛争では中国が優位に立っていることを台湾政府とその支持者に示すのに十分な見せかけの攻撃となり、全面的な侵攻と占領になる可能性がある。あるいは、数十機の戦闘機や艦艇を含む人民解放軍が台湾周辺にほぼ常時展開し、中国が容赦なく政治的圧力をかけ続けていく可能性もある。これはこれまで共産党に有利に働いてきた政策だと一部の専門家は指摘する。
(11) なぜ、新しい武器にそれだけのお金をかけるのか?「中国の軍近代化の成果は、攻撃によって台湾を征服することを目的としているわけではない。むしろ、人民解放軍が中国共産党の統治を維持するという長年の使命をより効果的に遂行するのを支援するために設計されている」とTimothy Heathは主張し、本質的に、新型の艦艇やステルス戦闘機は国民に印象を与え、それによって社会を統制することが容易になると述べている。シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies 上席研究員Drew Thompsonもその点に同意している。しかし、Collin Kohは、習近平主席の下で人民解放軍が得た成果を、国内向けの意図の伝達と軽視することはできないとして、「中国と人民解放軍内部にこうした既知の問題があるにもかかわらず、この地域の軍事計画立案者が人民解放軍を単なる張り子の虎として無視するとは思えない」と述べている
(12) Drew Thompsonは、「中国は戦争を始め、戦う可能性がある。彼らは勝てるだろうか?勝利をどう定義するか?」と疑問を提起している。
記事参照:Is China’s military really built for war? New report questions Beijing’s arms buildup
2月18日「インド太平洋におけるインド海軍の存在感の拡大―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, February 18, 2025)
2月18日付け、シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、シンガポールS. Rajaratnam School of International StudiesのSouth Asia Programme上席研究員Nishant Rajeevの“India’s Expanding Naval Presence in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでNishant Rajeevはインドにとって大陸の国境における選択肢は限られているが、海洋領域は中国に圧力をかける機会を提供してくれるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2020年、ラダックにおいてインドと中国が対峙した際、Bhāratīyan Thalasēnā(以下、インド陸軍と言う)とBhāratīya Vāyu Sēnā(以下、インド空軍と言う)は係争中の国境沿いにおける中国の脅威に対処するため、迅速に部隊を再配置した。インド陸軍は、中国人民解放軍(PLA)に対する戦力を強化するため、西部戦域から東部戦域へと複数の部隊を再編成し、インド空軍は東部戦域における存在感を高めるため、複数の前進作戦基地を稼働させた。一方でBhāratiya Nau Sena(インド海軍)は、インド洋地域における中国への挑戦と圧力をかけるために、この対峙の間、活発に行動していた。特に戦略的に重要なマラッカ海峡周辺では、水上艦艇と潜水艦の配備を強化し、2020年6月のガルワーン海峡での衝突の直後には、U.S. Navyと海上自衛隊と演習を実施した。こうした措置は、インドと中国の対立において海上領域の重要性に対するインドの認識が高まっていることを示している。
(2) インド海軍は、インドの経済発展にとって海洋領域が重要であることを以前から認識していたが、南シナ海沿岸諸国への関与やより広域での行動には慎重であった。一方で、南シナ海および北西太平洋に展開しており、少なくとも年に1回は実施されてきた。また、インド海軍はマラッカ海峡およびアンダマン海周辺で、タイ、インドネシア、マレーシア、ミャンマーと共同哨戒を実施し、Republic of Singapore Navyとの間で年次演習を実施している。
(3) インド海軍による南シナ海沿岸諸国との海軍外交の多くは、寄港に限定されていた。2010年代初頭、南シナ海で演習が行われた場合でも、多国間海軍演習という形をとっていた。この立場は、2010年代半ばから後半にかけて徐々に変化し始め、2017年にインド海軍は「任務に基づく展開(Mission Based Deployments)」という作戦態勢を開始し、インド洋地域(以下、IORと言う)全体で「存在感と可視性」を高めることが求められた。それ以来、インド海軍の艦船、航空機、潜水艦はIOR周辺の重要な交通路に展開し、IORの出入り口となるすべての航路で展開を維持している。
(4) インド海軍と南シナ海沿岸諸国との関わりも進化している。2018年にインド海軍は南シナ海でベトナムとの共同演習を開始し、その後2019年、2021年、2023年、2024年と実施してきた。2020年、インド海軍はベトナムが洪水の被害を受けた際に救援物資を提供した。2021年にはインド海軍は西フィリピン海でPhilippine Navy(フィリピン海軍)との演習を開始し、2023年と2024年にも実施された。マレーシアとの共同演習は、2019年、2022年、2024年の3回実施された。また、インドは南シナ海地域およびその周辺地域においてQUADの他の参加国との関与も開始している。QUAD参加国海軍によるマラバール演習は、2016年、2018年、2022年にフィリピン海で行われている。
(5) インド海軍は、自国の台頭と国益の拡大という要因もあるが、中国を睨みながら、この地域においてより積極的な立場を採るようになった。インドが南シナ海に存在感を示すことは、中国がこの地域を支配しようとする試みにさらなる挑戦を突きつけることになる。米国やオーストラリアといった他の地域大国はすでにそのような活動に従事しており、インドが協調して関与することで、この取り組みを強化できる。最終的には、中国がこの地域で自由に活動する能力を複雑化し、インドは中国に圧力をかける手段を手に入れることになる。また、この立場は、中国と対峙する姿勢を強め、地域紛争において潜在的な役割を担う用意があるインドの信頼性を高めることにもなる。
(6) 上述のインド海軍の姿勢の変化は、インド海軍が南シナ海で中国海軍に容易に挑戦できることを示唆するものではない。中国の海軍力発展の速度を考えると、インド海軍がIORで優位性を維持することは困難である。しかし、インド海軍が南シナ海での存在感を増すことは、インドがインド太平洋を挟んで中国と対峙する上で、より大きな影響力をもたらす。
記事参照:India’s Expanding Naval Presence in the Indo-Pacific
(1) 2020年、ラダックにおいてインドと中国が対峙した際、Bhāratīyan Thalasēnā(以下、インド陸軍と言う)とBhāratīya Vāyu Sēnā(以下、インド空軍と言う)は係争中の国境沿いにおける中国の脅威に対処するため、迅速に部隊を再配置した。インド陸軍は、中国人民解放軍(PLA)に対する戦力を強化するため、西部戦域から東部戦域へと複数の部隊を再編成し、インド空軍は東部戦域における存在感を高めるため、複数の前進作戦基地を稼働させた。一方でBhāratiya Nau Sena(インド海軍)は、インド洋地域における中国への挑戦と圧力をかけるために、この対峙の間、活発に行動していた。特に戦略的に重要なマラッカ海峡周辺では、水上艦艇と潜水艦の配備を強化し、2020年6月のガルワーン海峡での衝突の直後には、U.S. Navyと海上自衛隊と演習を実施した。こうした措置は、インドと中国の対立において海上領域の重要性に対するインドの認識が高まっていることを示している。
(2) インド海軍は、インドの経済発展にとって海洋領域が重要であることを以前から認識していたが、南シナ海沿岸諸国への関与やより広域での行動には慎重であった。一方で、南シナ海および北西太平洋に展開しており、少なくとも年に1回は実施されてきた。また、インド海軍はマラッカ海峡およびアンダマン海周辺で、タイ、インドネシア、マレーシア、ミャンマーと共同哨戒を実施し、Republic of Singapore Navyとの間で年次演習を実施している。
(3) インド海軍による南シナ海沿岸諸国との海軍外交の多くは、寄港に限定されていた。2010年代初頭、南シナ海で演習が行われた場合でも、多国間海軍演習という形をとっていた。この立場は、2010年代半ばから後半にかけて徐々に変化し始め、2017年にインド海軍は「任務に基づく展開(Mission Based Deployments)」という作戦態勢を開始し、インド洋地域(以下、IORと言う)全体で「存在感と可視性」を高めることが求められた。それ以来、インド海軍の艦船、航空機、潜水艦はIOR周辺の重要な交通路に展開し、IORの出入り口となるすべての航路で展開を維持している。
(4) インド海軍と南シナ海沿岸諸国との関わりも進化している。2018年にインド海軍は南シナ海でベトナムとの共同演習を開始し、その後2019年、2021年、2023年、2024年と実施してきた。2020年、インド海軍はベトナムが洪水の被害を受けた際に救援物資を提供した。2021年にはインド海軍は西フィリピン海でPhilippine Navy(フィリピン海軍)との演習を開始し、2023年と2024年にも実施された。マレーシアとの共同演習は、2019年、2022年、2024年の3回実施された。また、インドは南シナ海地域およびその周辺地域においてQUADの他の参加国との関与も開始している。QUAD参加国海軍によるマラバール演習は、2016年、2018年、2022年にフィリピン海で行われている。
(5) インド海軍は、自国の台頭と国益の拡大という要因もあるが、中国を睨みながら、この地域においてより積極的な立場を採るようになった。インドが南シナ海に存在感を示すことは、中国がこの地域を支配しようとする試みにさらなる挑戦を突きつけることになる。米国やオーストラリアといった他の地域大国はすでにそのような活動に従事しており、インドが協調して関与することで、この取り組みを強化できる。最終的には、中国がこの地域で自由に活動する能力を複雑化し、インドは中国に圧力をかける手段を手に入れることになる。また、この立場は、中国と対峙する姿勢を強め、地域紛争において潜在的な役割を担う用意があるインドの信頼性を高めることにもなる。
(6) 上述のインド海軍の姿勢の変化は、インド海軍が南シナ海で中国海軍に容易に挑戦できることを示唆するものではない。中国の海軍力発展の速度を考えると、インド海軍がIORで優位性を維持することは困難である。しかし、インド海軍が南シナ海での存在感を増すことは、インドがインド太平洋を挟んで中国と対峙する上で、より大きな影響力をもたらす。
記事参照:India’s Expanding Naval Presence in the Indo-Pacific
2月19日「ドローン、海底ケーブルと海底活動の将来―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, February 19, 2025)
2月19日付けのシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、RSIS Maritime Security 教授Geoffrey Tillの“Drones, Cables, the Seabed, and the Future of Undersea Operations”と題する論説を掲載し、ここでGeoffrey Tillは海底での活動はますます重要性と危険性が増しており、このような状況が生じている理由とそれに対して何をなすべきかを理解する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海底ケーブルの安全性に関して最も関連性の高い国連機関International Telecommunication Unionによれば、ケーブル切断事件の約80%は、商船乗組員や漁師の不注意な行動、あるいは時折発生する悪天候による事故で、残り20%は敵対する可能性のある勢力による意図的な行為の可能性があるとされている。最近起きた台湾沖とバルト海でのケーブル切断事件は、意図的な行為の可能性に該当する。そのため、世界中の海軍や沿岸警備隊は、海底の安全確保と平時、有事、そして戦時下における多くの課題について、より真剣に考えるようになっている。
(2) Marine nationale(フランス海軍)は、2022年に誰でもが利用可能な海底戦戦略を発表した最初の組織の1つである。ロシアは、旧ソ連時代にГлавное управление глубоководных исследований(深海研究総局)を設立している。1980年代にスウェーデンやその他のスカンジナビア諸国の領海に侵入した一連の事件に関連している。これらの事件の結果、海底に奇妙な跡が残され、当時の中立国スウェーデンにとって懸念材料となっていた。それ以来、ロシアは海底計画を大幅に強化している。ここ数年、ロシアは野心的な海中ドローンの破壊的潜在能力を強調してきた。現在、ロシアのСеверный флот(北方艦隊)は、深海での持続的な作戦行動が可能な大型の原子力ドローンの実験を行っている。ノルウェーでは、この事態に警戒感が高まっている。中国も同様に、少なくとも5機の大型海中ドローンを開発中である。
(3) 海底計画が推進される理由として、次のことが挙げられる。
a. 重要な海中基幹設備(critical underwater infrastructure:以下、CUIと言う)をよりよく監視し、保護し、必要であれば修理や開発を行うためである。平和と繁栄に重要な意味を持つことから、この種の保護策に全力で取り組まない国は、自国民に対する義務を怠っていることになる。このような保護活動は容易でも安価でもない。一見単純なケーブルの安全確保でさえ、その国のすべての利害関係者たちを互いに協力させる必要があり、多くの組織による取り組みとなる。国同士の協力となると、さらに困難となるが、NATOはこの分野で主導的な役割を果たしている。CUIの保護活動においては、ドローン技術、AIなどの技術が支援的な役割を果たすことが期待される。
b. 船舶の停止、検査、差し押さえ、さらには必要に応じてEEZにおける悪質な行為の容疑者に対する起訴など、沿岸国の権利、義務、責任については多くの混乱と不確実性があり、法的な取り組みが必要となるからである。スカンジナビア諸国は、法的な選択肢を積極的に模索している。2022年1月にアイルランドのEEZで、Военно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)の実弾演習を追い出した漁師たちの成功に触発されたのか、環境保護のための法律を活用することに関心が寄せられている。同時に、自由航行の権利を維持することも重要である。スカンジナビア諸国は、特に所有者が不明で運用基準が疑わしい「ダークシップ」の臨検や押収には断固とした姿勢で臨んでいる。
c. 海底計画は、戦略的に重要な公海区域の状況を専門的に把握するための監視活動だからである。UNCLOSでは、沿岸国に対する明白な脅威とならない限り、EEZ内でのこのような活動は認められている。したがって、ロシアのスパイ船が水中ドローンを搭載して英国の水域に現れた場合、その活動は厳重に監視されるが、阻止されることはない。
d. 海中での侵入は、威嚇のための警告射撃、あるいは計画された戦闘開始前の緊張緩和過程の一環として、あるいはその両方に関連するからである。デジタル接続を失い、国内および作戦上の混乱に陥っている相手に対する軍事作戦は容易である。これに対しては緊密かつ効果的な監視が必要であり、それを可能にする機器や技術への投資も必要である。
e. 海底での活動は、対価を課す戦略による経済的強要の一形態と見なすことができるからである。防御側がCUIを強化し、修復する経費は、攻撃側がそれを損傷または破壊する経費よりもはるかに高額となる。このため攻撃側に作戦上の主導権と事態拡大の優位性をもたらす。攻撃側は常に攻撃の時間と場所を選択できるため、その選択肢は非常に広範である。一方で防御側は、経費がかかる上に、その都度対応することしかできない。
(4) 反応的な対抗戦略による恒久的かつ重大な不利益を回避する選択肢は次の2つである。
a. そのような攻撃は成功しないことを敵に示し、攻撃を阻止すること。防衛側はCUIを強化し、たとえばバックアップ用のパイプラインやケーブルを敷設するなどして耐性を高めることである。しかし、この選択肢は費用がかかる。
b. 懲罰によって抑止し、違反者に相応の代償を負わせること。たとえば、疑わしい船舶を差し押さえることで、違反者が船舶を使用する権利を一時的または恒久的に奪うという方法であり、スカンジナビア諸国がすでに実施している。この選択肢は、さらに多大な準備投資を必要とし、拒否戦略よりも不用意な事態拡大の危険性が高くなる。
(5) こうした海底での活動にはすべて、ある程度の危険性が伴う。その多くは、海洋世界の秩序を支える信頼と透明性の原則を徐々に損なうものである。重要なのは、こうした潜在的に混乱を招く可能性のある技術から、どちらが最も利益を得るかという点である。これについては、まだ結論が出ていない。いずれにしても、競争の激しい世界では、このような事件が今後も数多く発生すると予想せざるを得ない。特に、深海の資源がより注目されるようになれば、その傾向はさらに強まるだろう。我々は、こうしたあいまいな海底での作業の遂行において何が許され、何が許されないかについて、公式または暗黙の合意を通して新たな運用上の意見の一致が生まれることを期待しなければならない。各国は行動規範の策定に取り組むべきであるが、実現しない場合に備えて、責任ある実質的な予防措置を講じることも必要である。
記事参照:Drones, Cables, the Seabed, and the Future of Undersea Operations
(1) 海底ケーブルの安全性に関して最も関連性の高い国連機関International Telecommunication Unionによれば、ケーブル切断事件の約80%は、商船乗組員や漁師の不注意な行動、あるいは時折発生する悪天候による事故で、残り20%は敵対する可能性のある勢力による意図的な行為の可能性があるとされている。最近起きた台湾沖とバルト海でのケーブル切断事件は、意図的な行為の可能性に該当する。そのため、世界中の海軍や沿岸警備隊は、海底の安全確保と平時、有事、そして戦時下における多くの課題について、より真剣に考えるようになっている。
(2) Marine nationale(フランス海軍)は、2022年に誰でもが利用可能な海底戦戦略を発表した最初の組織の1つである。ロシアは、旧ソ連時代にГлавное управление глубоководных исследований(深海研究総局)を設立している。1980年代にスウェーデンやその他のスカンジナビア諸国の領海に侵入した一連の事件に関連している。これらの事件の結果、海底に奇妙な跡が残され、当時の中立国スウェーデンにとって懸念材料となっていた。それ以来、ロシアは海底計画を大幅に強化している。ここ数年、ロシアは野心的な海中ドローンの破壊的潜在能力を強調してきた。現在、ロシアのСеверный флот(北方艦隊)は、深海での持続的な作戦行動が可能な大型の原子力ドローンの実験を行っている。ノルウェーでは、この事態に警戒感が高まっている。中国も同様に、少なくとも5機の大型海中ドローンを開発中である。
(3) 海底計画が推進される理由として、次のことが挙げられる。
a. 重要な海中基幹設備(critical underwater infrastructure:以下、CUIと言う)をよりよく監視し、保護し、必要であれば修理や開発を行うためである。平和と繁栄に重要な意味を持つことから、この種の保護策に全力で取り組まない国は、自国民に対する義務を怠っていることになる。このような保護活動は容易でも安価でもない。一見単純なケーブルの安全確保でさえ、その国のすべての利害関係者たちを互いに協力させる必要があり、多くの組織による取り組みとなる。国同士の協力となると、さらに困難となるが、NATOはこの分野で主導的な役割を果たしている。CUIの保護活動においては、ドローン技術、AIなどの技術が支援的な役割を果たすことが期待される。
b. 船舶の停止、検査、差し押さえ、さらには必要に応じてEEZにおける悪質な行為の容疑者に対する起訴など、沿岸国の権利、義務、責任については多くの混乱と不確実性があり、法的な取り組みが必要となるからである。スカンジナビア諸国は、法的な選択肢を積極的に模索している。2022年1月にアイルランドのEEZで、Военно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)の実弾演習を追い出した漁師たちの成功に触発されたのか、環境保護のための法律を活用することに関心が寄せられている。同時に、自由航行の権利を維持することも重要である。スカンジナビア諸国は、特に所有者が不明で運用基準が疑わしい「ダークシップ」の臨検や押収には断固とした姿勢で臨んでいる。
c. 海底計画は、戦略的に重要な公海区域の状況を専門的に把握するための監視活動だからである。UNCLOSでは、沿岸国に対する明白な脅威とならない限り、EEZ内でのこのような活動は認められている。したがって、ロシアのスパイ船が水中ドローンを搭載して英国の水域に現れた場合、その活動は厳重に監視されるが、阻止されることはない。
d. 海中での侵入は、威嚇のための警告射撃、あるいは計画された戦闘開始前の緊張緩和過程の一環として、あるいはその両方に関連するからである。デジタル接続を失い、国内および作戦上の混乱に陥っている相手に対する軍事作戦は容易である。これに対しては緊密かつ効果的な監視が必要であり、それを可能にする機器や技術への投資も必要である。
e. 海底での活動は、対価を課す戦略による経済的強要の一形態と見なすことができるからである。防御側がCUIを強化し、修復する経費は、攻撃側がそれを損傷または破壊する経費よりもはるかに高額となる。このため攻撃側に作戦上の主導権と事態拡大の優位性をもたらす。攻撃側は常に攻撃の時間と場所を選択できるため、その選択肢は非常に広範である。一方で防御側は、経費がかかる上に、その都度対応することしかできない。
(4) 反応的な対抗戦略による恒久的かつ重大な不利益を回避する選択肢は次の2つである。
a. そのような攻撃は成功しないことを敵に示し、攻撃を阻止すること。防衛側はCUIを強化し、たとえばバックアップ用のパイプラインやケーブルを敷設するなどして耐性を高めることである。しかし、この選択肢は費用がかかる。
b. 懲罰によって抑止し、違反者に相応の代償を負わせること。たとえば、疑わしい船舶を差し押さえることで、違反者が船舶を使用する権利を一時的または恒久的に奪うという方法であり、スカンジナビア諸国がすでに実施している。この選択肢は、さらに多大な準備投資を必要とし、拒否戦略よりも不用意な事態拡大の危険性が高くなる。
(5) こうした海底での活動にはすべて、ある程度の危険性が伴う。その多くは、海洋世界の秩序を支える信頼と透明性の原則を徐々に損なうものである。重要なのは、こうした潜在的に混乱を招く可能性のある技術から、どちらが最も利益を得るかという点である。これについては、まだ結論が出ていない。いずれにしても、競争の激しい世界では、このような事件が今後も数多く発生すると予想せざるを得ない。特に、深海の資源がより注目されるようになれば、その傾向はさらに強まるだろう。我々は、こうしたあいまいな海底での作業の遂行において何が許され、何が許されないかについて、公式または暗黙の合意を通して新たな運用上の意見の一致が生まれることを期待しなければならない。各国は行動規範の策定に取り組むべきであるが、実現しない場合に備えて、責任ある実質的な予防措置を講じることも必要である。
記事参照:Drones, Cables, the Seabed, and the Future of Undersea Operations
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Prevailing in an era of comprehensive conflict
https://www.brookings.edu/articles/prevailing-in-an-era-of-comprehensive-conflict/
Commentary, Brookings, February 12, 2025
By Mara Karlin, Visiting Fellow – Foreign Policy, Strobe Talbott Center for Security, Strategy, and Technology
2025年2月12日、米シンクタンクBrookingsのStrobe Talbott Center for Security, Strategy, and Technology客員研究員Mara Karlinは、Brookingsのウエブサイトに“Prevailing in an era of comprehensive conflict”と題する論説を寄稿した。その中でMara Karlinは、現代の戦争は、従来の限定的な紛争の枠を超え、あらゆる領域が絡み合う「包括的戦争」の時代へと突入しているとした上で、こうした環境の変化の中で、「抑止戦略」が再び重要性を増しているとし、冷戦期に確立された「拒否による抑止」や「懲罰による抑止」は、現在の紛争でも有効であると述べている。そしてMara Karlinは、米国が中国を最優先の脅威としつつも、ロシア、イラン、北朝鮮、テロ組織など他の脅威を無視することはできないと指摘した上で、米国は単独で全ての脅威に対応するのではなく、同盟国と協力しながら包括的な戦略を展開する必要があるが、国際秩序の維持のためには、軍事力のみならず、外交・経済・技術的手段を組み合わせ、柔軟な対応を採ることが求められており、現在の安全保障環境の複雑さを理解し、それに適応するための新たな戦略が必要であると主張している。
(2) Taiwan President Lai’s three big challenges in 2025
https://www.brookings.edu/articles/taiwan-president-lais-three-big-challenges-in-2025/?utm
Brookings, February 12, 2025
By Ryan Hass, Senior Fellow at Brookings
2025年2月12日、米シンクタンクBrookingsの上席研究員Ryan Hassは、Brookingsのウエブサイトに“Taiwan President Lai’s three big challenges in 2025”と題する論説を寄稿した。その中でRyan Hassは、台湾の頼清徳総統は2025年に3つの重大な課題に直面しているとした上で、第1に国内政治の混乱、第2に中国からの圧力の強化、第3に国際環境の不確実性の増大を挙げている。そしてRyan Hassは、Trump政権が復帰すれば、台湾の防衛費増額や半導体政策の見直しを求める可能性が高いため、頼政権は米国との関係を維持しつつ、日本や欧州などの民主国家との連携を深め、国際的な支持を固める必要があると指摘し、これらの課題への対応が、2028年の総統選の行方を左右するだろうと結論付けている。
(3) Quad intelligence cooperation: Prospects in a competitive age
https://www.orfonline.org/expert-speak/quad-intelligence-cooperation-prospects-in-a-competitive-age
Observer Research Foundation, February 15, 2025
By Archishman Ray Goswami is a Non-Resident Junior Fellow with the Observer Research Foundation.
2025年2月15日、インドのシンクタンクObserver Research Foundation非常勤研究員Archishman Ray Goswamiは、同Foundationのウエブサイトに、“Quad intelligence cooperation: Prospects in a competitive age”と題する論説を寄稿した。その中で、①QUAD構成国は、海洋領域、特に海上における独自の情報収集課題に対処する能力を既に発揮している。②国家の段階では、インドの「インド洋地域情報融合センター(IFC-IOR)」が、QUAD構成国間の協力を推進する上で重要な役割を果たす可能性がある。③米国のTrump政権下では、QUAD内部での情報共有の見通しは良好であると考えられる。④米国国内における情報機関の縮小は、QUADにとって重要な影響を及ぼす。⑤しかし、CIAの規模が縮小し、その行動が予測不能になることで、QUAD構成国は米国の情報機関に過度に依存せず、自国の情報機関の能力を強化する必要が高まる。⑥米国と中国の間で激化する新興技術分野における競争、とりわけAI分野での覇権争いは、QUAD内の技術協力機構に悪影響を及ぼす可能性がある。⑦QUAD構成国は、国家情報機関の能力強化に向けた措置を講じており、これは、多国間の情報共有に不可欠な要素である、⑧この分野における協力の管理方法が、今後のQUADの成功と有効性を決定づけることになるといった主張を述べている。
(4) Armed Neutrality for Ukraine Is NATO’s Least Poor Option
https://warontherocks.com/2025/02/armed-neutrality-for-ukraine-is-natos-least-poor-option/
War on the Rocks, February 18, 2025
By Jennifer Kavanagh, director of military analysis and a senior fellow at Defense Priorities, and also an adjunct professor at Georgetown University
Christopher McCallion, a fellow at Defense Priorities
2025年2月18日、米シンクタンクDefense Priorities の上席研究員Jennifer Kavanaghと研究員Christopher McCallionは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Armed Neutrality for Ukraine Is NATO’s Least Poor Option”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、ウクライナ戦争が長期化する中、同国の安全保障の枠組みを巡る議論が続く中で、NATO加盟、米欧によるウクライナの安全の保障、あるいは「武装中立」の選択肢が検討されているが、最も現実的な選択肢として武装中立を取り上げ、これは、ウクライナがNATO加盟やEU加盟を断念しつつも、自国の防衛力を強化し、ロシアの侵攻を抑止する戦略であり、この枠組みでは、西側がウクライナの軍備強化を支援し、防御施設、地雷、対空防衛システム、長射程兵器などを提供することで、ロシアに対する強力な抑止力を構築するものだと解説している。そして両名は、武装中立がNATOの信頼性を維持しつつ、ウクライナの長期的な安全保障を確保する最善策であり、NATO加盟国はウクライナへの支援を継続しながらも、条約上の義務を拡大せずに済むため、同盟の安定性を損なわずに済むと指摘した上で、この枠組みを成功させるためには、欧州がウクライナの防衛力構築を主導し、米国の関与を補完する形で支援を行う必要があるし、また、ウクライナの安全とNATOの団結を両立させるためには、軍事支援と外交的交渉を組み合わせた慎重な戦略が求められると主張している。
(1) Prevailing in an era of comprehensive conflict
https://www.brookings.edu/articles/prevailing-in-an-era-of-comprehensive-conflict/
Commentary, Brookings, February 12, 2025
By Mara Karlin, Visiting Fellow – Foreign Policy, Strobe Talbott Center for Security, Strategy, and Technology
2025年2月12日、米シンクタンクBrookingsのStrobe Talbott Center for Security, Strategy, and Technology客員研究員Mara Karlinは、Brookingsのウエブサイトに“Prevailing in an era of comprehensive conflict”と題する論説を寄稿した。その中でMara Karlinは、現代の戦争は、従来の限定的な紛争の枠を超え、あらゆる領域が絡み合う「包括的戦争」の時代へと突入しているとした上で、こうした環境の変化の中で、「抑止戦略」が再び重要性を増しているとし、冷戦期に確立された「拒否による抑止」や「懲罰による抑止」は、現在の紛争でも有効であると述べている。そしてMara Karlinは、米国が中国を最優先の脅威としつつも、ロシア、イラン、北朝鮮、テロ組織など他の脅威を無視することはできないと指摘した上で、米国は単独で全ての脅威に対応するのではなく、同盟国と協力しながら包括的な戦略を展開する必要があるが、国際秩序の維持のためには、軍事力のみならず、外交・経済・技術的手段を組み合わせ、柔軟な対応を採ることが求められており、現在の安全保障環境の複雑さを理解し、それに適応するための新たな戦略が必要であると主張している。
(2) Taiwan President Lai’s three big challenges in 2025
https://www.brookings.edu/articles/taiwan-president-lais-three-big-challenges-in-2025/?utm
Brookings, February 12, 2025
By Ryan Hass, Senior Fellow at Brookings
2025年2月12日、米シンクタンクBrookingsの上席研究員Ryan Hassは、Brookingsのウエブサイトに“Taiwan President Lai’s three big challenges in 2025”と題する論説を寄稿した。その中でRyan Hassは、台湾の頼清徳総統は2025年に3つの重大な課題に直面しているとした上で、第1に国内政治の混乱、第2に中国からの圧力の強化、第3に国際環境の不確実性の増大を挙げている。そしてRyan Hassは、Trump政権が復帰すれば、台湾の防衛費増額や半導体政策の見直しを求める可能性が高いため、頼政権は米国との関係を維持しつつ、日本や欧州などの民主国家との連携を深め、国際的な支持を固める必要があると指摘し、これらの課題への対応が、2028年の総統選の行方を左右するだろうと結論付けている。
(3) Quad intelligence cooperation: Prospects in a competitive age
https://www.orfonline.org/expert-speak/quad-intelligence-cooperation-prospects-in-a-competitive-age
Observer Research Foundation, February 15, 2025
By Archishman Ray Goswami is a Non-Resident Junior Fellow with the Observer Research Foundation.
2025年2月15日、インドのシンクタンクObserver Research Foundation非常勤研究員Archishman Ray Goswamiは、同Foundationのウエブサイトに、“Quad intelligence cooperation: Prospects in a competitive age”と題する論説を寄稿した。その中で、①QUAD構成国は、海洋領域、特に海上における独自の情報収集課題に対処する能力を既に発揮している。②国家の段階では、インドの「インド洋地域情報融合センター(IFC-IOR)」が、QUAD構成国間の協力を推進する上で重要な役割を果たす可能性がある。③米国のTrump政権下では、QUAD内部での情報共有の見通しは良好であると考えられる。④米国国内における情報機関の縮小は、QUADにとって重要な影響を及ぼす。⑤しかし、CIAの規模が縮小し、その行動が予測不能になることで、QUAD構成国は米国の情報機関に過度に依存せず、自国の情報機関の能力を強化する必要が高まる。⑥米国と中国の間で激化する新興技術分野における競争、とりわけAI分野での覇権争いは、QUAD内の技術協力機構に悪影響を及ぼす可能性がある。⑦QUAD構成国は、国家情報機関の能力強化に向けた措置を講じており、これは、多国間の情報共有に不可欠な要素である、⑧この分野における協力の管理方法が、今後のQUADの成功と有効性を決定づけることになるといった主張を述べている。
(4) Armed Neutrality for Ukraine Is NATO’s Least Poor Option
https://warontherocks.com/2025/02/armed-neutrality-for-ukraine-is-natos-least-poor-option/
War on the Rocks, February 18, 2025
By Jennifer Kavanagh, director of military analysis and a senior fellow at Defense Priorities, and also an adjunct professor at Georgetown University
Christopher McCallion, a fellow at Defense Priorities
2025年2月18日、米シンクタンクDefense Priorities の上席研究員Jennifer Kavanaghと研究員Christopher McCallionは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Armed Neutrality for Ukraine Is NATO’s Least Poor Option”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、ウクライナ戦争が長期化する中、同国の安全保障の枠組みを巡る議論が続く中で、NATO加盟、米欧によるウクライナの安全の保障、あるいは「武装中立」の選択肢が検討されているが、最も現実的な選択肢として武装中立を取り上げ、これは、ウクライナがNATO加盟やEU加盟を断念しつつも、自国の防衛力を強化し、ロシアの侵攻を抑止する戦略であり、この枠組みでは、西側がウクライナの軍備強化を支援し、防御施設、地雷、対空防衛システム、長射程兵器などを提供することで、ロシアに対する強力な抑止力を構築するものだと解説している。そして両名は、武装中立がNATOの信頼性を維持しつつ、ウクライナの長期的な安全保障を確保する最善策であり、NATO加盟国はウクライナへの支援を継続しながらも、条約上の義務を拡大せずに済むため、同盟の安定性を損なわずに済むと指摘した上で、この枠組みを成功させるためには、欧州がウクライナの防衛力構築を主導し、米国の関与を補完する形で支援を行う必要があるし、また、ウクライナの安全とNATOの団結を両立させるためには、軍事支援と外交的交渉を組み合わせた慎重な戦略が求められると主張している。
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