海洋安全保障情報旬報 2025年2月21日-2月28日

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2月21日「ウクライナの海上ドローンがロシアに勝利していることに台湾は注目すべし―英専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, February 21, 2025)

 2月21日付けの米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの Pacific Forumが発行するPacNet Commentaryのウエブサイトは、フリージャーナリストで英シンクタンクHenry Jackson Society研究員David Kirichenkoの“Ukraine’s sea drones are beating Russia—Taiwan should take notes”と題する論説を掲載し、ここでDavid Kirichenkoは強力な敵と対峙する小国は、武力よりも改革が生き残りの鍵となることを認識しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1)ウクライナは、2014年にクリミアをロシアに占領された際、海軍艦隊の大半を失い、ウクライナ・ロシア戦争の初期に海軍は事実上存在しなかった。ウクライナは無人艦隊による海軍の再建に重点的に取り組み、海上ドローンを黒海戦略の要とした。ロシアがウクライナの船舶を封鎖しようとした際、ウクライナは海上ドローンによる攻撃で迅速に対応し、その脅威を無力化した。Военно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)が、クリミアからロシア本土に後退した後も、ウクライナの海上ドローンはロシアの船舶を追跡し、攻撃を続けている。2023年8月にウクライナは、オデッサから約600km離れたノヴォロシースクのロシアЧерноморский флот(黒海艦隊)の基地に対して海上ドローンによる攻撃を実施した。無人水上ビークル(以下、USVと言う)を配備することで、ウクライナは自国の兵士の危険性を最小限に抑えながら、ロシアの海軍資産に損害を与えることができた。
(2)ウクライナの熱追尾ミサイルを搭載した海上ドローンは、クリミア半島沖でロシアのMi-8ヘリコプター2機を撃墜し、1機を損傷させた。それは無人機が有人航空機を撃墜するという、歴史的な成功であった。引き続きウクライナ軍は、改良を重ね、ミサイル発射装置やその他の武器を追加して、その有効性を高めている。本年1月5日には、ウクライナのUSVが黒海から自爆ドローンを発進させ、ヘルソン州にあるロシアの防空システムを攻撃し、損害を与えた。
(3) Ukrainian Security and Cooperation Centerセンター所長Serhii Kuzanは、ロシアがケルチ橋を守ることに固執して、その防衛に多大な資源を割いていると指摘し、ロシアの行動について以下のように述べた。
a. ケルチ橋を破壊から守るためにあらゆる手段を使っている。一時的に占領したクリミアに違法に建設されたこの構造物は、Vladimir Putin大統領とロシアの軍事補給にとって極めて重要である。
b. 空と海からの脅威に対する防御も含め、橋の周辺に広範な防衛システムを構築した。
c. 橋の周辺に、重層的な防御システムを構築している。
d. 艦船や航空機による常時パトロールに加え、バージ船やブーム障壁で水上防衛を強化している。
e. ヘリコプターは、ウクライナの海上ドローンに対して一定の効果を上げてきたが、その海上ドローンにより撃墜されたことで、状況は変わりつつある。
(4) Center for a New American Security上席研究員Samuel Bendettは、「ウクライナをはじめ、世界中の多くの海軍が、さまざまなUSV技術や戦術を運用に取り入れており、戦争でウクライナが学んだ教訓は、将来のВійськово-Морські Сили Збройних Сил України(ウクライナ海軍)のあり方に影響を与える可能性が高い」と指摘している。黒海での戦争は、非対称戦略がどのようにして力の均衡を再形成できるかを浮き彫りにしている。艦隊を保有しないウクライナは、限られた資源を活用してロシアの海軍を無力化することに成功した。
(5) 前出のSerhii Kuzanは、次のように述べている。
a. NATOには多くの海洋国家が加盟しているが、その中にはバルト諸国のように海軍力が限られている国もある。ウクライナの経験は、これらの国々がバルト海における潜在的なロシアの侵略に対抗するために、どのようにして能力を高めることができるかを示す一例となる。
b. 小国のウクライナが海上ドローンを使用したことは、新技術の出現により戦略の見直しを迫られている大国にとっても重要な示唆を与え、海軍戦の理論を更新する必要性を強調している。
c. ドローン技術の利点と脅威を理解することで、将来の紛争において海上ドローンを効果的に展開、若しくはこれに対抗することが可能になる。
d. 台湾はすでに米国の支援を受け、独自の高度な防衛産業を有しており、水上および水中ドローンを試験している。その一例が「スマートドラゴン」で、魚雷システム搭載と伝えられている。
e. 機会と必要性が生じれば、ウクライナは台湾に軍事技術を売却、または交換する可能性があり、これにより、両国は能力を高めることができる。
(6) Georgetown University非常勤教授Treston Wheatは、台湾の課題を次のように指摘している。
a. 立法府は親中派に傾いており、2025年には防衛予算を削減する計画である。
b. 台湾の防衛戦略の多くは、米国が態勢を整えるまでの間、中国を足止めすることに重点が置かれてきた。
c. 非対称戦術の分野において、より大きな敵に対抗する上でウクライナが秀でているにもかかわらず、台湾は躊躇している。
d. ドローンのような最新技術の統合に関しては、ウクライナから学ぶべき貴重な教訓があるが、それらが実行に移される可能性は低い。
(7) 米Center for Naval Analyses(海軍分析センター)が最近発表した報告書では、優勢な軍事力に対抗する上でドローンの重要性が強調され、台湾に対して無人システムの生産を大幅に拡大するよう促している。台湾はドローン能力の拡大に着手しており、ドローンによるキルチェーンの開発を進めているが、2028年までに3,200機のドローンを保有するという計画は、ウクライナと比較すると見劣りする。台湾は、ウクライナが黒海での成功を収めた非対称戦略をまだ完全に採用していないかもしれないが、その教訓は明白である。強力な敵と対峙する小国は、武力よりもむしろ圧力下での改革こそが生き残りの鍵となることを認識しなければならない。
記事参照:Ukraine’s sea drones are beating Russia—Taiwan should take notes

2月21日「極域海運の未来を拓く:IMO-ノルウェー海事研修会からの重要な洞察―ノルウェー専門家論説」(High North News, February 21, 2025)

 2月21日付のノルウェー国立Nord University のHigh North Centerが発行するHigh North Newsの電子版は、同University Business School研究員兼アイルランドMaynooth University Business School博士研究員Alina Kovalenkoの“Navigating the Future of Polar Shipping: Key Insights from the IMO-Norway Maritime Seminar”と題する論説を掲載し、ここでAlina Kovalenkoは1月にロンドンで開催された海事研修会で、気候変動のために氷が急激に減少する極域の海運について様々な分野で議論があり、今後改善すべき課題も多いとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1月23日および24日、International Maritime Organization(国際海事機関:以下、IMOと言う)とArctic Council(北極評議会)議長国ノルウェーによる極地海事研修会がロンドンで開催され、第一線の専門家、研究者、政策立案者、業界指導者が集まった。Arctic CouncilのProtection of the Arctic Marine Environment(北極海洋環境保護:以下、PAMEと言う)作業部会と共同で開催されたこの研修会では、極域海運における重要な規制の進展、運航上の課題、環境問題が取り上げられた。現在進行中のIMOにより提案されている可航性指標(Polar Operational Limit Assessment Risk Indexing System:以下、POLARISと言う) の見直し、ケープタウン協定、北極圏の排出規制、先住民の関与、氷海航行の危険性などが議論の焦点となった。
(2) 北極海海運業界は、気候変動により氷の減少が加速し、北極海が世界平均の4倍の速さで温暖化する中、大きな転換期を迎えている。北極海航路が最も利用しやすいことに変わりはないが、今後の氷の状態によっては、北西航路よりも極地横断航路が現実的な選択肢になるかもしれない。前例のない季節的な異常が頻発しており、2024年には北西航路に大きな氷の隘路がない初めての年となる。
(3) 北極海域における船舶の交通量は増加し、航行距離は延伸しているが、危険度の高い運航は減少している。しかし、ロシアと東部グリーンランドは、氷の状態と規制の不一致などが主な原因で、依然として危険度が高い。専門家は、追跡精度を向上させ、複数の数値情報取得源を統合する必要性を強調している。対照的に、南極海航路は南極条約により強力な環境保護を実施し、高度な規制を維持している。この2つの地域の違いは、南極には沿岸国家が存在しないため、条約による規制が機能的に国内法と同等であることである。南極の海氷が急速に減少しているにもかかわらず、海運の利用方法は大きく変わっておらず、無報告漁業等の違法漁業は依然として懸念事項である。両極域とも数値情報の不整合があり、追跡組織の強化と規制監督が不可欠である。
(4) (PAME)作業部会は、POLARISの見直しを開始した。2016年に海上安全委員会で承認されたPOLARISは、4年以内に見直される予定であった。しかし、COVID-19による遅れを含め、見直しは延期されている。Arctic Councilは、カナダが共同主導して、更新が必要かどうかを判断するための見直し事業を監督している。先日、第1回専門家会議が開催され、見直しに関する議論が開始された。改善のための提案としては、氷の分類方法の見直し、危険度の段階区分の見直し、経験豊富な氷海航行の経験者からの実際の評価を取り入れることなどがある。この見直しは、さらなる数値情報収集や、海軍の技術者等、氷の専門家、規制機関からの意見聴取によって継続される。その目的は、POLARISを全面的に見直すことではなく、より正確で使い易く、変化する北極圏の状況を反映した数値情報主導型に改良することである。
(5) 漁船は、極海域で運航される船舶の中で最大の分類であるにもかかわらず、依然として極域関係規則の義務的規制の対象外のままである。専門家たちは、漁業が海運業界で最も高い職業死亡率を記録していることから、漁業の危険度の高さを強調した。ケープタウン協定(Cape Town Agreement:以下、CTAと言う)は、漁船の安全性を高めるために2012年に設立され、23ヵ国が署名している。しかし、発効要件対象漁船数14,000隻の漁船のうち批准された漁船は3,600隻しかなく、必要な発効基準に到達するのに苦労している。CTAの批准を促進するため、アイスランドとスペインはIMOと協力し、Arctic Councilの事業計画 「2012年ケープタウン協定の認知度向上 」を主導している。
(6) 研修会では、騒音低減、排出ガス規制、燃料の安全性に重点を置いた北極海海運規制の強化に向けたIMOの取り組みが強調された。主な対策には、船体や機械の改造、航跡流の改善、推進装置の最適化などがあり、先進技術に支えられたエンジン分離、振動制御、プロペラキャビテーション低減など、大幅な騒音低減を目指している。海洋活動の変化は、北極圏の地域社会の生活様式に、良い面と悪い面の両方で影響を与える。Inuit Circumpolar Council(イヌイット環極協議会:以下、ICCと言う)のLisa Qiluqqi Koperqualukは、水中騒音への取り組みがICCにとって重要な優先事項であることを強調している。ICCは2022年に「公平かつ倫理的な関与のための北極圏イヌイット議定書(Circumpolar Inuit Protocols for Equitable and Ethical Engagement)」を策定しており、この問題に取り組む際にはこれを考慮する必要がある。
(7) 研修会では、カナダが最近採択した北極圏排出規制地域(Arctic Emission Control Area:以下、ECAと言う)とその環境・健康上の利点に焦点が当てられた。新ECAは、硫黄酸化物を80%、粒子状物質を74%、黒色炭素を59%削減することを目標とし、特に海洋生態系に依存する先住民社会の大気の質を改善するものである。講習では、MARPOL(船舶による汚染防止のための国際条約)付属書VI規制と2024年7月1日の北極海HFO禁止令の影響についても議論が行われた。超低硫黄燃料油(ULSFO)への移行は排出量削減を目的としているが、専門家は、燃料の不安定性、北極海での取り扱いの難しさ、流出油回収効率の低下などの危険性を強調した。提言には、注水点の監視、バンカー納品書(船舶燃料受発注のネット回線利用での手続き)での燃料性状報告の義務化、黒色炭素排出と流出の危険性を最小化するための最善の方法の採用などが含まれる。
(8) 北極海航路では、環境目標と運航可能性の均衡を取ることが依然として重要な課題となっている。専門家等は、欧州と北極圏を航行する船舶に代替燃料への移行を義務付けるEUの新たな燃料規制について議論した。重要な問題は、既存の砕氷船や耐氷船舶が未試験の燃料に切り替えるべきか、それともULSFOを使い続けて罰則に直面すべきか、ということで、勧告の1つは、燃料混合、特にバイオ燃料と既存の燃料との混合を検討することであった。バイオ燃料は毒性が低いことが知られているが、SFOのような従来の燃料と混合した場合の反応は、北極圏の条件下ではまだ不明で、重大な知識の溝が顕在化している。
記事参照:https://www.highnorthnews.com/en/navigating-future-polar-shipping-key-insights-imo-norway-maritime-seminar

2月21日「中国の自滅的戦略―米専門家論説」(Foreign Affairs, February 21, 2025)

 2月21日付の米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsのウエブサイトは、American Enterprise Institute上席研究員でPrinceton University講師Zack Cooperの“China’s Self-Defeating Strategy”と題する論説を掲載し、ここでZack Cooperは、戦力投射力の増強を進める中国に対して、U.S. Armed Forcesは質量、隠密性、戦力投射力を適正に組み合わせた戦略で対抗すべきで、そのための改革に伴う政治的危険性を引き受ける意思のある指導者が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 過去15年間、中国政府は海外に影響力を及ぼす軍備の開発に多大な資源を投入してきた。現在、中国は空母3隻と水陸両用強襲艦3隻を保有している。そして、2017年にジブチに初の海外軍事基地を開設し、中国艦船はカンボジアからスリランカまで、インド太平洋地域に点在する港にも停泊するようになった。中国の政府高官は、自国を大国として捉え、海外に影響力を及ぼさなければならないと公言している。中国政府にとっての問題は、大規模な外洋艦隊や海外基地という形で影響力を及ぼすことが高価になっていることである。技術の進歩は戦争の様相を一変させ、国家はより安価で使い捨て可能な兵器を開発し、大型で高価な艦艇、航空機等の有効性を制限しようとしている。そのような趨勢にあって、中国は実施には悪い時期に戦力投射力の増強を採用しようとしている。
(2) 中国の台頭は、世界史上でも最も急速な出来事の1つである。しかし、15年前まで同国の軍隊は伝統的な大国の威容をほとんど備えていなかった。大規模な外洋艦隊や海外基地を建設するのではなく、中国政府は敵対勢力が中国の領土および海洋領域を侵害するのを阻止する兵器に投資していた。長距離ミサイルや機雷などは、より高度な米艦船や航空機に対抗することを目的としたものだった。しかし、状況は一変し、2024年のU.S. Department of Defenseの報告書は、「中国は世界規模での戦力投射力の拡大に重点を置くようになる」と指摘している。この拡大の背景には、台湾侵攻の準備、威信を誇示するための兵器への欲求、習近平の意向などがある。
(3) 中国は、ほとんどの大国がたどってきた道を歩んでいる。国が勃興し、絶頂期を迎え、衰退するにつれ、国家目標、防衛戦略、軍事投資は予測可能な方法で変化する。勃興する国は、通常、拡張主義的な目標を追求するために、軍事力を投射する。絶頂期にある国は、防衛体制を強化することで、統合を目指す。そして、衰退する国は、より安価で消耗し易い軍事システムで達成できる限定的な目標を選ぶ。したがって、中国が戦力投射へ転換したことは、中国共産党が自国を世界の中での主要国と確信していることになる。中国政府はインド太平洋地域および世界中に影響力を及ぼすことを目的とした新たな軍事能力を採用し、拡大する海外基地と利用可能な地点の支援を受け、世界最大の海軍を保有している。
(4) 中国政府は間違った時機に軍事力の投射に着手した。ドローンやミサイルなどの使い捨て可能なシステムは、比較的安価にもかかわらず、その効果はますます高まっている。各国政府がこうした安価な兵器の大量配備を優先するにつれ、戦争の形態は変化し、軍事力の投射に不可欠な空母などの大型で高価な艦艇、航空機の有効性を低下させる可能性が生起している。ウクライナでの戦争は、戦力投射がより高価になることを示している。現代の戦場では、安価なドローンや短時間で製造可能な爆発装置が地上部隊を脅かし、無人船舶や対艦ミサイルが水上艦艇を脅かし、洗練された防空システムが航空機を危険にさらしている。それは、技術の進歩により、領土、領海、領空の支配がより困難で高価になったことを意味している。そのため、戦力投射への投資は費用対効果が低くなり、戦力投射を必要とする任務はより危険で高価になっている。
(5) 中国の戦力投射の採用は米国の政策立案者を動揺させた。U.S. Armed Forcesは1世紀以上もの間、影響力を及ぼすための手段や技術を磨いてきたが、その多くに中国が追い付き、さらに数を増やしている。海外での戦争に気を取られ、米政府は軍の近代化を進めてこなかった。しかし、米国には流れを変える機会がある。中国軍が空母や強襲揚陸艦といった高価で脆弱な戦力投射のための基盤を必要とするのは、広大な海洋を越えて台湾を武力制圧するためである。一方、U.S. Armed Forcesの主な目的は、敵対国による米国領土や同盟国・提携国への攻撃を阻止することである。このため、米国とその同盟国は、中国の以前の戦略の要素、すなわち自国の領土への侵入を阻止することに重点を置いていた戦略を採用して、中国の軍事力の投射を阻止することができる。
(6) 指導者達は軍事的能力の組み合わせを調整することで戦略の再均衡化を図らなければならない。米国は長年にわたり、空母など強力な攻撃基盤の開発に重点を置いてきた。しかし、今は防御および拒否を目的としたシステムを追加すべき時である。これは、ドローンやその他の使い捨て兵器を安価に大量生産するというU.S. Defense Departmentの構想でもある。その結果として、ドローンやミサイルなどの消耗可能な無人システム、B-21爆撃機やバージニア級潜水艦などの隠密性の高い艦艇、航空機、そして空母などの従来型の戦力投射という3種類の能力を組み合わせた戦略が生まれるはずである。U.S. Armed Forcesが、この質量、隠密性、戦力投射の組み合わせを適切に活用した場合、インド太平洋地域における中国との戦争がどのように展開するかを次のように予想した。
a. 紛争の初期段階で米国とその同盟国は、中国の前進を妨げる多数の消耗品システムを展開する。これらの短距離システム(ミサイル、無人機、機雷)は、台湾を含む日本からフィリピンに至る第1列島線上または、その内側から展開され、中国軍を脅かすものでなければならない。これは中国軍の攻撃の第1波を鈍化させるために相当な危険性を負うことになる。
b. 消耗品システムが中国の初期攻撃を複雑化する一方で、その後は隠密性の高い長距離航空機や原子力潜水艦が中国の拠点への攻撃を担うことになる。これらの兵器は、今日、米国に最大の非対称的な優位性をもたらしており、中国の防衛網を突破し、重要な目標を攻撃するために必要となる。米国はこれらの航空機や潜水艦の保有数が比較的少ないため、賢明にそれらを使用する必要がある。
c. 消耗品や隠密性の高いシステムが中国の進出を遅らせた後、従来の戦力投射システムがその価値を発揮する。空母、水上艦艇、そして米国が保有する伝統的な他の兵器システムは、中国の残りの艦船や航空機を囲い込み、補給路を脅かすことができる。これら3つの能力は、それぞれ単独では不十分であるが、組み合わせることで決定的な勝利をもたらすことができる。
(7) Biden政権とTrump政権は、いずれも新たな能力の採用に関心を示している。しかし、軍隊は次の戦争よりも前の戦争に備えることが多い。U.S. Armed Forcesは、何十年もかけて、戦力投射をするために必要な産業、概念、文化を構築してきた。新しい政策を追求するには、政治、軍事、産業の各分野で合意を形成しなければならない。そのため、防衛政策の見直しは、相対的な力の変化に遅れをとることがほとんどであり、その遅れは数年どころか数十年に及ぶこともある。変化の速度は一般的に遅いものの、指導者が深刻な外部からの脅威を認識した場合には、国防改革を加速できる。懸念が高まった瞬間に指導者は必要な改革を追求するため、官僚的および政治的な障害を乗り越え易くなる。U.S. Armed Forcesには、改革が必要であることを認め、それに伴う政治的危険性を引き受ける意思のある指導者が必要である。中国は、まさに技術的に不適切な時機に戦力投射へと転換した。米国は戦力投射を放棄する必要はないが、その戦力構成は時代に合わせて適応していかなければならない。
記事参照:China’s Self-Defeating Strategy

2月24日「NATOよ、安らかに眠れ:アジアの安全保障への影響―シンガポール専門家論説」(Commentary, RSIS, February 24, 2025)

 2月24日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentariesは、RSISの元特別客員研究員Adam Garfinkle博士の“NATO, R.I.P.: Implications for Asian Security”と題する論説を掲載し、ここでAdam Garfinkleは第2次Trump政権が就任1ヶ月で多くのことを成し遂げたが、その中で重要なことの1つはNATOの戦力を骨抜きにしたことであり、さらに将来予想される欧州でのU.S. Armed Forcesの縮小がアジアでのU.S. Armed Forcesの増強に繋がると考えてはならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 第2次Trump政権は、任期の最初の1ヶ月が終わる前に、多くの人が不可能だと思われていた6つのことを成し遂げた。第1に、Trump大統領とVance副大統領は、2020年11月の米大統領選挙と2021年1月6日に米連邦議会議事堂で起こったことについての荒唐無稽な嘘に基づいて選挙運動を行っていたにもかかわらず、米国政府の2つの役職を勝ち取ることに成功した。大統領就任後、Trump大統領とVance副大統領は、このような嘘を信じるかを国家安全保障会議のスタッフが政権内での職を得るための忠誠心の試験に変えた。第2に、Trump大統領は就任初日に恩赦権限を行使し、2021年1月から投獄された1,600人の反乱者を忠実な準軍事組織の中核を作り上げた。第3に、ホワイトハウスは、行政府の省庁の長として明らかに不適当な人物を指名し、上院の承認を得た。第4に、政権は議会が承認した資金を違法に没収し、正当な通知や理由なしに公務員を違法に解雇し、法的に存在しない事務所である政府効率化省(以下、DOGEと言う)に権限を与えて、米国政府史上最も大規模な個人情報ハッキングを実行することで、憲法上の危機を煽った。第5に、Trump政権は、DOGEを利用して連邦政府の主要な規制能力を破壊し、その活動が政府の効率性を高めることに専念していると主張して、危機を煽った。このことの本当の狙いは、政府自体の内部で政府自身によって保護される大企業寡頭制の創造である。これはファシズムとネオ・ファシズムの歴史に良く見られる政府と大企業の協力の一形態である。第6に、戦後の米国の中核的同盟であったNATOを安楽死させただけでなく、ロシアと手を組み、ロシアが欧州に接する勢力圏を強固にすることを可能にした。その見返りに、Trump政権は、ロシアのエネルギー産業に投資し、事実上のウクライナ植民地化の協力者になる権利を求めており、ロシアには拡大した米国の勢力圏を尊重するという理解を求めている。この取引からTrump政権は2つの戦略的利益を期待している。1つは欧州における米国の敵意と力に対するロシアの恐怖を和らげることであり、それはロシアの西側に対する侵略の意志を減らすであろう。そして、もう1つはロシアと中国との関係を希薄にすることである。
(2) これらの動きは、世界の安全保障の力学にとって多くのことを意味する。第1に、NATOは紙の上では存在しているが、交渉による停戦の後、ウクライナの安全保障の解を見つけようと躍起になっているとされる同盟国に対して、米国はNATO加盟国の1つに対する攻撃はNATO全体の攻撃とするNATO条約第5条を拒否している。NATOは、1949年以来存在していたNATOではない。第2に、NATOの抑止力と戦闘力を骨抜きにして、米国政府は、比較的無関心で軽度な支援によって地域招集機能を骨抜きにした。欧州諸国は今、統合された防衛産業、効果的な戦略的態勢、負担分担の取り決めを発展させるために、この機能を自分たちの間で置き換える必要がある。これは可能であるが簡単ではなく、すぐには実現しないであろう。第3に、欧州における米軍基地は、完全には終わらないまでも縮小するだろうし、第2次Trump政権は、現在の世界規模の軍事的範囲を維持するために高価な手段に資金を提供するかどうかは不明である。第4に、欧州は、自分たちで軍備を管理できるようになると主要な新しい米国製の兵器のための輸出市場を供給するための戦略的根拠を欠くことになる。これは、米国政府が、アジア、中東や他の場所で、新たな、あるいは拡大した兵器輸出市場を求めているにもかかわらず、そのような新しい兵器の莫大な経費に資金を提供する能力を危険にさらすものである。第5に、欧州各国の政府は、国際通貨としての挑戦から米ドルの役割を守るための誘因が減り、弱くなっている。たとえば、国際石油市場がドル建てでなくなった場合、アジアを含む多くの国にとって大きな財政的影響が生じるであろう。第6に、ウクライナとロシアをめぐる米国の政策の転換は、米国が作り出した戦後の自由主義的な国際経済・安全保障秩序が、米国の国益にとって有害になったというTrump政権の考えを露呈させている。その考えは「力が正義を生む(might makes right)」という大国勢力圏の世界を好み、大国が取引といわゆる「現実政治」の優位性の両方を追求し、小さくて弱い国家を犠牲にすると仮定している。小さくて弱い国家の指導者たちは、アジアやその他の地域においては法に基づく秩序はあまり発達していないので、自助の手段を倍増させるであろう。これには、もし彼らが管理できるのであれば、大量破壊兵器の拡散も含まれる。
(3) 2024年2月12日、ブリュッセルで、Pete Hegseth米国防長官は、ウクライナの防衛関係者たちに対し、「米国の戦略は、今や米国の国境を確保し、共産主義中国を競争相手として抑止することに焦点を当てている。中国は、インド太平洋における米国の領土と中核的な国益を脅かす能力と意図を持っている」と述べた。米国の新政権は、対中タカ派を自称する者でいっぱいであるが、彼らは合唱ではなく不協和音を醸し出している。U.S. Armed Forcesの中の対中タカ派は、Trump大統領が台湾の独立を守ることは米国の死活的利益ではないと明言しているにもかかわらず、米中関係について不合理で危険な仮定を示すことが多い。さらに、米政権の対中タカ派の多くは、中国の問題を主に経済的および技術的であり、地政学的なものではないと見ている。したがって、現時点では、中国、ひいては東アジアと東南アジアに対するTrump政権の姿勢がどのように発展するかは、完全に推測の域を出ない。米国に友好的なアジアの指導層は、U.S. Armed Forcesが欧州で縮小されることから、アジアにU.S. Armed Forcesが流れてくると思い込むべきではない。むしろ、米国の軍事力が世界的に縮小すれば、アジアにおける米国の安全保障の兵站は、管理がより困難で、より高価になり、その結果、全体として、信頼性が低下する可能性があると考えるべきである。アジアの政策決定者は、米国に基地や施設を提供するアジア諸国の重要性や評価が高まると想定すべきではない。それよりも、より大きな応分の防衛費負担を求められると考えるべきである。また、QUADやAUKUSのような地域フォーラムの継続性を想定すべきではない。自国に対する米国のすべての援助と能力開発計画が、まもなく終了すると想定すべきである。アジアの指導層は、一般的に欧州人、特にドイツ人が残してきたたような、取引上のつながりや冷血な安全保障のリアリズムに満足している。したがって、米国が世界共通の安全保障を提供する役割を自ら否定することは、欧州よりもアジアでより柔軟で、より遅れた意味を持つことになるであろう。しかし、米国が欧州の地政学的重要性を格下げしたことが、米国と中国の力を均衡させようとするアジアの継続的な取組みに利益をもたらすと考えるのは間違いであろう。Trump政権が言説上でアジア太平洋地域の戦域を重視したからといって、中国が他のアジア諸国に地理的に近く、アジアに帰属しているという事実は変わらない。米国は中国とは地理的に遠く離れており、米国内の野心と不確実性に深く縛られている。したがって、アジアの地政学的な基本的な連続性が数年先まで続くという仮定は、幻想である。
記事参照:NATO, R.I.P.: Implications for Asian Security

2月24日「欧州はもっと支援すべし:英国、ノルウェー国防相談―ノルウェー紙報道」(High North News, February 24, 2025)

 2月24日付のノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North Newsの電子版は、“UK and Norway Ministers of Defense: Europe Has to Step Up and Do More”と題する記事を掲載し、ノルウェーと英国の国防大臣は両国が水中監視活動を強化するとともに、ウクライナを支援し、国防費を増大させ、米国との関係もより緊密にすべきであると述べたとして、要旨以下のように報じている。
(1) ノルウェーの国防大臣Tore O. Sandvik(労働党)は、就任からまだ2週間しか経っていないが、英国の国防大臣John Healey(労働党)と4度目の会談をした。両国防相は、重要な水中基幹設備の安全に関する全く新しい協力を発表するために会談した。また、両国防大臣はDonald J. Trump米大統領の就任から1ヶ月が経過した後、深刻化する安全保障問題を深く検討した。彼らは悪役がTrump大統領ではなく、ロシアのVladimir Putin大統領であることに疑いの余地を残さなかった。Tore O. Sandvik国防相は「過去数年間、ロシアの残忍で壊滅的なウクライナへの全面侵攻を受けて、ノルウェーと英国の安全保障環境は悪化している。今は厳しい時代である。そして、緊密な同盟国として、この新しい安全保障の政治的変化に対して、共同の戦略的パートナーシップを得ることが極めて重要である。したがって、両国間の新たな野心的な防衛協定を発表するためにここにいる」と述べており、両国防相また、ノルウェーと英国の両国が、NATO、統合遠征軍、北部グループ、その他我々の多国間フォーラムにおける欧州大西洋の安全保障を強化するための協力を強化することを再確認した。
(2) ロシアがウクライナでの戦争に焦点を当てているにもかかわらず、ロシアは海底破壊工作のための能力にも大きな価値を置き続けている。Sandvik国防相は「長年にわたり、ロシアは深海にある欧米の重要基幹設備を標的とした海底破壊工作のため資金を提供し、兵器を開発し続けてきた。英国とノルウェーは、ロシアが西側の結束とウクライナへの支援を弱体化させるために、あらゆる手段を講じる用意があることを知っている」と述べており、Sandvik国防相はロシアがすでに緊張している状況をさらに拡大させることを恐れており、「特に緊張が高まる時期に、海底ケーブルを含む海底基幹設備に損害を与える活動は、誤解を招き、意図しない事態の拡大につながる可能性がある」と述べている。
(3) ノルウェー・英国防相は、水中監視活動に従事していた英国海軍水中監視船「プロテウス」の船内で会合を開いた。近くには、ノルウェー沿岸警備隊KV「バイソン」が係留されていた。どちらの船にも自律型潜水機が搭載されており、深海に設置された水中基幹設備を監視することができる。Sandvik国防相は「我々の高度な機能を使用して水中基幹設備を監視することにより、国家の重要な基幹設備に害を及ぼす意図を持つ可能性のある者に、我々はあなたを見ているという合図を送ることができる」と述べている。Healey英国防相は、船上での記者会見で、ウクライナの支援の重要性を強調している。Healey英国防相は国際的な報道関係者の前で、「欧州の2つの国として、我々はウクライナへの支援をさらに強化する。ウクライナはまだ戦っている。我々は彼らを支援し続けなければならない。我々は、平和を長期的に確保するために、彼らを強く保つように努めなければならない。ウクライナの平和がどのようなものになるのか、現時点では誰も知らない。しかし、Healey英国防相は、ノルウェーと英国が共同でウクライナを支援する12ヵ国の海上連合を主導する。ロシアの侵略はウクライナに限ったことではない。我々はその課題に立ち向かい、一緒に立ち向かわなければならない。我々の自由、欧州の自由、そして安全は、今、ウクライナにある」と述べた。
(4) Trump政権の声明の1つは、今後5年間で国防予算を8%削減することである。この削減のため、Trump大統領がNATO加盟国に対し、国防費を国内総生産(GDP)の5%に増やすよう呼びかけている。これはほぼ全てのNATO加盟国の支出の大幅な増加に相当する。Healey英国防相は、欧州は実際、もっとやらなければならないことを認め、「我々は自分たちの安全のためにもっとやらなければならない。国防予算にもっとお金を使わなければならない」と述べており、Sandvik国防相はノルウェーの国防予算増加が順調に進んでいることを共有するために割って入り、「ノルウェーでは、3%に近づく長期計画があるが、海域でもより多くの責任を負っている。そして、欧州の同盟国間の絆を強化し、購入しなければならない装備をより多く標準化するために協力しなければならない。これがNATOを強化する上で最も重要な部分である。米国にとっても、我々はNATOの北極圏の耳であり、目であることが重要である。もちろん、米国がNATOを通じて安全を我々に与えてくれることは、我々にとって重要である」と述べている。
(5) どのような新しい言葉の爆弾が落とされても、Healey英国防相はウクライナでの戦争を始めたのが誰であるかについて疑いを持っていない。Healey英国防相は「この戦争は、ロシアが主権国家の領土を侵略したために始まった。この戦争が続いているのは、ウクライナ人が軍人も民間人も同じように大きな勇気を持って戦っているからである。そして、Putin大統領がウクライナから軍隊を撤退させれば、この戦争は今日終わらせることができる。そして、その日が来れば、英国はその役割を果たし、長期的に必要とされる安全保障を提供する。なぜなら、停戦と平和の1つの特徴は、ロシアがウクライナに再侵攻することで再びそれを壊してはならないということだからである」と述べている。
(6) Trump大統領は、困っているNATOに背を向けるだろうか?Healey英国防相はそうは考えていないようである。Healey英国防相は、「私にとって、NATOはかつてないほど大きくなっており、今ほど強くなったことはない。Putin大統領はNATOを分裂させたいと思っている。Putin大統領は欧州を分断したいのである。しかし、我々はもっとやらなければならない、そして我々はそうする。国防費をどれだけ使うかではなく、どのように使うかが問題である。我々はまだ、Trump大統領がこれらの目標を達成するのを助けてくれると信じることができるか?Trump大統領と米国の利益のために、彼が主張しように、我々は永続的な平和を手に入れることができる。Trump大統領と米国の利益は、欧州・大西洋地域が安定し、安全であり、NATOが強力であるということが前提である。ウクライナについて米国の直接的な軍事支援がないことに疑問の余地はない。しかし、米国はNATOの根強い一部である。米国と共にもっと多くのことをするように、欧州諸国としての我々の能力を試しているのである」と述べた。ノルウェー国境からわずか数kmのコラ半島に配備されたロシアの核兵器が、米国と英国に向けられた事態もある。Sandvik国防相は「コラ半島のロシアの核能力は、米国を脅かしている。我々は同じ船に乗っている。我々には共通の利益がある」と付け加えている。
(7) High North News に対して、Healey英国防相はこの初めてのノルウェー訪問がいかに重要であったかを強調した。Healey英国防相は、「ブリーフィングを受けたり、政策文書を読んだりすることはできるが、国境に立ってロシアを見つめない限り、ロシアの脅威がどれほど近いかは理解できない」と述べた。米国も一歩も引いていない。米国のPete Hegseth国防長官は、ミュンヘン安全保障会議で、「我々には誰が善玉で、誰が悪玉かは明確だ」と語っている。なぜ英国とノルウェーが今、安全保障協力を強化することを選んだのかと尋ねられたとき、Sandvik国防相はHigh North News に安全保障状況が変わったと答えている。Sandvik国防相は、「ウクライナに平和がきても、ロシアは西側に対する侵略者になるであろう。これは、特に現代生活経済の重要な部分である水中基幹設備に関して、ロシアからより多くのことを経験することを意味する。米国の安全保障は、ロシアを抑止するノルウェーの能力にかかっているので、米国自身の利益になる。そして、それは米国防長官と話した時に私が伝えたことでもあった。我々が緊密に協力することが重要である。英国、ノルウェー、米国は、北極圏で非常に緊密な協力関係を築いている」と述べ、米国防大臣をノルウェーに招待したと付け加えた。Sandvik国防相は、「我々は米国を近くに保ちたい。よって、米国と緊密に対話することが重要だと考えている」と述べている。要するに、Putinの核兵器がTrump大統領の芝生に向けられ続ける限り、北極圏は安全であり、米国の支援も得られると言うこともできる。
記事参照:UK and Norway Ministers of Defense: Europe Has to Step Up and Do More

2月24日「将来の中国海軍の演習に対しオーストラリア・ニュージーランドができること―オーストラリア国際法専門家論説」(The Conversation, February 24,2025)

 2月24日付のオーストラリアニュースサイトThe Conversationは、Australian National Universityの国際法教授Donald R. Rothwellの“China didn’t violate any rules with its live-fire naval exercises. So, why are Australia and NZ so worried?”と題する論説を掲載し、そこでDonald R. Rothwellは2月末にタスマン海で実施された中国海軍の実弾射撃訓練に対し、国際法によってそれを止める方法はないが、それ以外の方法により警戒を強めたり、信頼構築を進めたりすることができるとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国がオーストラリア近海で2度の実弾射撃訓練を実施した。それに対しAlbanese政権は外交的抗議を発し、中国政府は遺憾の意を示した。
(2) 経緯は次のとおりである。オーストラリアDepartment of Defenceは、2月13日、中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)の艦艇3隻が行動していることに「気づいている」と示唆した。翌週、その艦艇は、オーストラリアのEEZ内のタスマン海を通って東海岸沿いへと移動していった。21日にPLANは、オーストラリアとニュージーランドの間の公海上で実弾射撃訓練を行う意図を急に通知した。その通知を受け、その周辺の海空領域に立ち入り禁止区域が設定された。これらの訓練は「国際的海域」で実施されたが、UNCLOSは公海上での軍事演習/訓練に制約を設けていない。そのため両国はこの演習実施の権利に関し、異議を申し立てることはなかった。
(3) 一方で、Richard Marles国防相は実弾射撃訓練の実施直前での通知を批判している。Marles国防相は、実弾射撃訓練実施の通知は、普通は12~24時間前に出されるべきであり、それによって周辺の船舶や航空機に警告できるのだという。しかし公海上での演習に関する規定は、実際にはあいまいであり、中国側としてはそもそも事前通知を行う義務はないと主張することもできる。実際に中国国防部報道官は、中国の行動が国際法に則っており、飛行の安全には影響を与えないと主張している。タスマン海でのこうした事例は初めてであり、オーストラリアやニュージーランドは、今後、中国の同種の行動にどう対応すべきだろうか。
(4) そもそも、なぜ中国はタスマン海で実弾射撃訓練を実施したのか。直接的な答えではないが、タスマン海での演習の実施は、中国が自国周辺海域を越えて軍事力を投射する能力を有していることを意味する。また、こうした訓練は重要な情報収集活動でもある。中国が、クック諸島やソロモン諸島など太平洋島嶼諸国との間で協力を深めていることを考慮すれば、今後、PLANが太平洋島嶼諸国周辺海域における行動が頻繁になると予想できる。
(5) オーストラリアとニュージーランドは、これにどう対応できるだろうか。両国とも法に基づく国際秩序の支持者であり、法的に中国の活動を妨害できることはない。他方、以下の3つの選択肢がある。第1に、中国の活動に対する海と空の哨戒活動を強化することは法的に可能である。ただし、事態が拡大しないような慎重な運用が必要である。第2に、種々の国際機関を通じ、公海上での実弾射撃訓練に関して事前通知が必要かどうかに関する合意を得るというやり方もある。第3に、地域の「海軍に関する行動規範」について交渉を進めることができる。実際、米中間でこうした合意が交わされたことがあり、重要な前例である。
(6) 南太平洋は、今後ますます戦略的に競合が激しくなっていく地域である。そこで、さまざまな海軍がこの地域で同時に行動する可能性がある以上、基本的な「海の規範」形成に向けて交渉することは、信頼醸成策として有益であろう。
記事参照:China didn’t violate any rules with its live-fire naval exercises. So, why are Australia and NZ so worried?

2月24日「南太平洋で高まる中国の影響力を警戒するニュージーランド―ニュージーランド専門家論説」(The Conversation, February 24, 2025)

 2月24日付のオーストラリアニュースサイトThe Conversationは、ニュージーランドのUniversity of Waikato法学部教授Alexander Gillespieの“A Chinese own goal? How war games in the Tasman Sea could push NZ closer to AUKUS”と題する論説を掲載し、Alexander Gillespieは南太平洋における中国の動向に対するニュージーランドの懸念について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国海軍の艦艇3隻がタスマン海で実弾射撃訓練を行ったことは、ニュージーランドおよびオーストラリアにおいて当然の懸念を引き起こした。実際のところ、中国海軍がタスマン海で演習/訓練を行うことは認められており、公海上では通例、広範な自由が保障されている。これまでのところ、中国はUNCLOSおよび海上衝突回避規範(CUES)の双方に従って行動しているように見受けられる。ニュージーランドとしては、中国海軍の意図についてより多くの事前通告を望んでいたが、通告の義務は存在しない。
(2) 現在タスマン海で起きていることは、中国軍が南シナ海周辺で見せてきたような、より攻撃的な軍事的示威行為とは性質が異なる。2024年9月には、オーストラリアとニュージーランドの艦艇が台湾海峡を通過した数日後に、中国軍は核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルの発射実験を南太平洋で実施した。争点となっているのは太平洋地域における中国の役割と影響力であり、それが小さな海軍演習よりむしろ、オーストラリアおよびニュージーランド両政府を悩ませている原因である。
(3) 懸念の直接の背景となっているのは、2週間前にクック諸島と中国の間で締結された「ブルーエコノミー協力の深化」を目的とした協定である。この協定は、安全保障や治安といった物議を醸す分野を避けている。しかし、中国の影響力を埠頭、造船や船の修理、海上輸送といった社会基盤支援の分野へ進出させるものである。ニュージーランドの外交政策にとって真に挑戦的なのは、この協定によって南太平洋がこれまで以上に中国の影響力と活動に開かれるという点である。Winston Peters外相は、クック諸島との関係を見直す時が来たと示唆している。
(4) これら全ては、急速に変化する地政学的領域の中で起きている。ニュージーランドと中国の関係は、すでに困難なものとなっていた。ニュージーランドのSecurity Intelligence Service(保安情報局)およびGovernment Communications Security Bureau(政府通信保安局)は、いずれも国家主導による中国の内政干渉、議会の通信網への侵入、その他の悪質なサイバー活動を確認している。中国はニュージーランドに対して、東西との関係を均衡させつつ、より独立した外交政策を採ることを望んでいるかもしれないが、現実にはその逆の動きが強まる可能性のほうが高い。国際的緊張と不確実性の時代において、ニュージーランドは伝統的な同盟国との関係をより深める傾向がある。
(5) ニュージーランドはすでに、米Trump政権によって再編された国際秩序にどう対応するか模索しており、友好関係を深める道を探っている。同時に、ニュージーランド政府は新たな軍拡競争への参加、そして国防費のGDP比での増加に取り組む姿勢を明確にしている。AUKUSの第2の柱である安全保障協定への参加による「利益」とされるものも、今や国内政治的な売り込みが容易になってきている。
記事参照:A Chinese own goal? How war games in the Tasman Sea could push NZ closer to AUKUS

2月25日「台湾海峡の現状と将来―英専門家の見解」(Brookings, February 25, 2025)

 2月25日付の米シンクタンクBrookingsのウエブサイトは、英中国問題専門家で King's College教授Kerry Brown がBrookings上席研究員Ryan Hassの質問に答える形式で、台湾海峡情勢を予測する“Will 2027 invite conflict for Taiwan and China?”と題する記事を掲載し、ここでKerry Brown教授は、近刊の自書Why Taiwan Matters: A Short History of a Small Island That Will Dictate Our Future での論述と北京駐在の英国外交官であった経験を踏まえ、2027年が両岸関係有事の前兆となるかどうかなど、台湾海峡の現状と将来について、要旨以下のように述べている。
Ryan Hass:Kerry Brown 教授は、Why Taiwan Matters: A Short History of a Small Island That Will Dictate Our Futureで、現在の両岸関係の膠着状態を解決されるべき欠陥とか課題ではなく、肯定的な特徴(as a positive feature)として扱うべきだと論じている。これはどういう意味か。何故、今、現状を受け入れ可能と考えるのか。
Kerry Brown:台湾・中国問題をその本質にまで削ぎ落としてみれば、基本的には、他の何処にも波及的影響を及ぼすことなく、一方が他方に対してその目的と願望をどの程度主張できるかということにつきる。しかし、台湾と中国が経済的影響力を持たない辺境の小国であれば、紛争管理も可能だが、我々が直面している困惑は、いずれの側も全く相容れない目的と願望を持っており、一方が他方に対して自らの目的を先制的に主張する動きが、全面的な不安定と混乱を引き起す可能性があるということである。要するに、台湾と中国は、双方の人口と軍事的規模に大きな違いがあるにも関わらず、相互に寄り掛かった2つの巨石のようなもので、一方が動けば、もう一方が転がる。したがって、双方がある種の均衡状態にあり、そのままにしておくのが最善である。
Hass:米国では、中国が2027年に台湾に侵攻する計画であるかについて、多くの議論が交わされてきた。紛争の潜在的な前兆、あるいはそうでないとしての2027年の重要性を理解するために、米国人への忠告があるか。
Brown:私の感覚では、中国を行動に駆り立てる2つの越えてはならない一線については、良く理解されている。すなわち、台湾あるいは米国による(台湾の)一方的な独立宣言である。現時点では、いずれも可能性が極めて低く、今後もそうであろう。米国は当然ながら、台湾の頼清徳総統もこれまで台湾の自治を強く支持してきたが、公然たる独立宣言に大きく踏み込むことで計り知れない危険性を冒すことはないであろう。とは言え、中台関係を管理する一般的な枠組みは依然機能していると思われるが、現在の米国の外交と政治における全体的な不確実性の増大と、特にTrump大統領の非常に予測不可能な指導力から、何が起こるか分からない危険性がある。2027年までに台湾危機が現実になるにはまだ時間があるが、我々は迅速にその方向性を逆転させる必要がある。
Hass:頼清徳総統は、中国の台湾に対する圧力の高まりに対する防波堤として、台湾を民主主義の世界的な提携網に組み込むことに力を入れている。これは健全な努力と思うか。現状維持を継続するために、台湾の指導者に何か勧告することがあるか。
Brown:外部世界は、台湾に概ね好意的で、同情的である。しかも台湾は優れたソフトパワー資産を持っている。何処も脅威と圧力の下で日々存在すべきではないが、台湾は釣り合いの取れた行動が必要である。すなわち、国民の安全のために、政府は冒険的であってはならない。もちろん、台湾人の大多数は、自らを中国の台湾人あるいは純粋な中国人ではなく、台湾人と見なすようにますますなってきているが、紛争が勃発した場合にどのような被害が生じるか、そして自分たちがその最前線に立っていることを非常に良く理解している。そのため、彼らは、台湾の経済的利益やその他の利益を促進する取り組みを支持する傾向があるが、対立的な方法を支持してはいない。台湾の総統であることは、世界で最も過酷な仕事の1つと言える。一握りの国を除く世界の他の全ての国が、台湾総統を国民国家の指導者としての正当性を実際には認めておらず、したがって、総統は終わりのないあいまいさと不確実性の状況下で、世界の主要経済の1つであり、2,300万人の人口、相当規模の軍隊そして自らの通貨、銀行および国歌を持つ台湾を率いていかなければならない。この状況は占領するには非常に厄介である。故に、頼清徳総統のような指導者が台湾を鼓舞するために、道徳的あるいはその他の支援を求めるのは当然で、欧米やその他の地域で同志の提携国を多く持っている。
Hass:教授の主張では、台湾は今日では解決不能な問題だが、長期的には変化と変革の可能性がある。では、どのような変化が必要か、そして今世紀末の2100年までに台湾に何を期待するか。
Brown:過去半世紀の台湾と中国の両方について、言えることが1つある。それは、双方とも驚くべき成果を達成したことである。今日の中国の経済的発展、台湾の民主化の進展など、良くも悪くも、台湾と中国は常に事前に予測できなかったことを行う能力を持っている。今日の時点では、信頼できる予測は不可能だが、現時点では楽観主義的将来を支持する具体的な兆候はあまりない。我々の立場は、恐らく防御的と表現するのが最も適切である。解決策や成功がどのようなものになるかは分からないが、失敗がどのように展開するかについては相当程度推測できる。このことは、数万人の死者を出したロシアとウクライナの悲劇的な戦争や中東での終わりなき戦いから推測できる。今日までのところ、台湾と中国の間では、少なくとも1950年代以降、死傷者が出るような紛争は発生していない。この状態を維持することは非常に重要で、それは極めて単純に生死の問題でもある。
記事参照:Will 2027 invite conflict for Taiwan and China?

2月26日「インド太平洋における安全保障パートナーシップ構築の基礎的な構成要素とは―米専門家論説」(The Interpreter, February 26, 2025)

 2月26日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、Yokosuka Council on Asia-Pacific Studies政府関係部特別顧問Michael MacArthur Bosack の“The building blocks for security partnership in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこでMichael MacArthur Bosackは日本やフィリピンが部隊間協力円滑化協定や訪問軍協定などの交渉、締結を拡大していることを指摘し、それらがインド太平洋諸国の安全保障パートナーシップ構築においてどのような役割を担っているかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 最近日本は、オーストラリアや英国などと部隊間協力円滑化協定(以下、RAAと言う)について交渉している。他方、フィリピンも訪問軍協定(以下、VFAと言う)に関して同様の措置を採っており、2025年末までにニュージーランドともVFAを締結すると見られている。確かにこれらは国家安全保障にとって必須かもしれないが、専門家はこの展開をどう見ればよいのか。
(2) 単純な回答としては、これらはすべて中国の一方的な行動を抑制するためだというものであるが、それが全てではない。RAAやVFAは対中抑止とは必ずしも直接関係していない。むしろ、RAAやVFAといった合意は、インド太平洋諸国が共に行動する能力を高める安全保障パートナーシップのための基礎的な構成要素と見るべきであり、10年間模索し続けてきたものである。
(3) 提携国の軍隊が、それぞれ機能するよう追求すべき基本的要素は5つ存在し、なぜそれらが大事かを理解する必要がある。第1に、提携国の部隊が協力のための基盤を有していることであり、協調の範囲などを示した政府間合意が、公式・非公式を問わずなされているべきである。第2に、情報交換が可能でなければならない。大抵の軍事情報は機密扱いであり、機密資料の扱いなどについては政府間で規則が異なる。そのため、政府は情報共有について交渉する必要がある。多くの場合、情報交換に関わる合意は軍事情報包括保護協定(GSOMIAs)と呼ばれる。
(4) 第3に、相互運用性を可能にする兵站上の機構が必要である。提携国が必要なあらゆるものを提供するというのは言うほど簡単ではない。何が無償で提供され、何を有償とすべきなのかを規定するために、「調達と部門横断のための協定」が必要である。第4に、安全保障技術の移転や共同研究開発ができるようにすべきである。言葉を換えれば、何らかの協定により、兵器システムの売却や、兵器システムに関する情報の利用を可能にすべきである。最後に、提携国の軍隊が自国領域内で活動可能にしておかなければならない。これは平時の訓練の機会を提供するために必要である。訓練は、部隊の準備を整え、相互運用性を確保するために重要である。
(5) こうした活動を前に進めるために、法的枠組みが効果を持たなければならない。基本的に政府には2つの選択肢があり、暫定的な外交的許可を与えるか、部隊の一時的ないし長期的な駐留に関する協定を結ぶかである。駐留に関する協定は、地位協定やVFA、RAAなどの形態を取る。こうした協定がまさに、日本やフィリピンがこの10年間で交渉ないし締結してきたものである。これは彼らが提携国との機能的な安全保障関係の重要性を認識していることの表れである。信頼性のある抑止のためには、展開と相互運用性を確実にすることが必要なのである。
(6) 地域の政治的、軍事的動態を考慮すれば、これから数年間でさらにこうした協定が結ばれていくだろう。ウクライナ戦争や中国の東アジアでの攻勢だけでなく、米国による同盟国に対する負担強化の要請もまた、インド太平洋における安全保障パートナーシップの展開を後押しするだろう。オーストラリア、カナダ、フランス、ニュージーランド、フィリピン、英国などがそうした関係を拡げ、ドイツも加わろうとしている。彼らが南アジアないし東南アジアなどとどう関係を拡げようとしているかは、まだわからない。いずれにしても、包括的な安全保障関係は形成されつつあり、VFAやRAAはそれを構築するための基礎的な構成要素なのである。
記事参照:The building blocks for security partnership in the Indo-Pacific

2月27日「ミサイルおよび核戦力を用いた西太平洋有事における中国の介入阻止―シンガポール防衛問題専門家論説」(Issues & Insights, Pacific Forum, CSIS, February 27, 2025)

 2月27日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの Pacific Forumが発行するIssues & Insightsのウエブサイトは、シンガポールのNanyang Technological Universityに設置されたInstitute of Defence and Strategic Studies上席研究員Collin Kohの“KEEPING ONE AT ARM’S LENGTH: THE MISSILE & NUCLEAR DIMENSION OF CHINA’S COUNTER-INTERVENTION STRATEGY IN THE WESTERN PACIFIC”と題する論説を掲載し、そこでCollin Kohは西太平洋における有事がどのように拡大する可能性があるか、そしてそうした状況において中国がどのように米国の介入を阻止しようとするかを論じ、その序論の要旨を以下のように述べている。
(1) 西太平洋における地政学的な火種のうち、南シナ海と台湾がおそらく最も直接の武力衝突に拡大する可能性が高い。しかし、それぞれの状況には微妙な違いがある。南シナ海論争が、大国間の全面紛争に拡大する可能性は限られており、当事者にとっての存立危機事態を引き起こすことはないだろう。どこかの東南アジアの領有権主張国が、南シナ海の地形を失ったとしても、それによってその国の存在が脅かされることはない。南シナ海有事が台湾を巻き込むこともないであろう。
(2) 台湾有事については同じことは言えない。台湾有事は南シナ海を間違いなく巻き込むことになるであろう。フィリピンは台湾に地理的に近く、米国の同盟国であることから、ある程度の関与する可能性が高い。台湾有事の状況としては、人民解放軍(以下、PLAと言う)による全面的な武力侵攻や海空における封鎖があり得る。
(3) いずれの情勢においても、中国は米国の軍事介入に対し、できる限り機先を制しようとするであろう。近年、中国はミサイル戦力と核戦力を増強し、ミサイル戦力と核戦力に依拠して介入に対抗する戦略を練り上げてきた。ミサイル戦力と核戦力の増強は、紛争初期に米国の戦闘能力を少なくとも中立化することを前提とし、米国を第1列島線の内側に入らせないことを目指すものである。主に潜水艦発射弾道ミサイルの増強を通じて、中国は米国による核の第二撃への事態拡大を抑止できるであろう。最近の中国国内の動揺は、中国の核抑止の信頼性を損なうものだが、PLAのミサイル戦力と核戦力の増強、極超音速兵器の開発の進展を軽視するわけにはいかない。
(4) 中国の軍事作戦立案者は、物理的破壊を伴う手段および物理的な破壊を伴わない手段を通じ、米国の指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察(C4ISR)能力を麻痺させようとするだろう。並行してPLAは主にグアムに展開する米国の主要な艦艇、航空機等を無力化し、増援部隊の展開を阻止しようとするだろう。こうしたことはさまざまな艦艇、航空機から発射される弾道ミサイル、巡航ミサイルによって達成されるだろう。しかしながら、PLAが第1列島線の外側で作戦を展開するためには、戦略的および作戦的な問題が残る可能性もある。
記事参照:KEEPING ONE AT ARM’S LENGTH: THE MISSILE & NUCLEAR DIMENSION OF CHINA’S COUNTER-INTERVENTION STRATEGY IN THE WESTERN PACIFIC

2月27日「中国が南西太平洋における新たな海軍力時代を告げる―ニュージーランド専門家論説」(The Diplomat, February 27, 2025)

 2月27日付のデジタル誌The Diplomatは、ニュージーランドUniversity of Canterbury中国、太平洋、極地政治およびニュージーランド外交政策専門の教授で、米Wilson Center研究員Anne-Marie Bradyの“A Shot Across the Bow: China Signals New Era of Sea Power in the Southwest Pacific”と題する論説を掲載し、ここでAnne-Marie Bradyはオーストラリアとニュージーランドのこれまでの甘く愚かな関与政策と防衛への投資不足が露呈していることから、両国の政治指導者にとっては正念場で、今後両政府が採る行動は、太平洋地域の長期的な安全保障にとって極めて重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月17日の週の2日間、中国人民解放軍海軍(以下、「中国海軍」と言う)の任務部隊がオーストラリアおよびニュージーランド政府に警告することなく、タスマン海で実弾射撃訓練を実施した。この訓練は、中国から遠く離れたタスマン海の最も交通量の多い航路の1つに面した飛行経路の下で行われた。予防措置として、3日間、タスマン海を横断するすべての航空便は、訓練海域を避け迂回した。この実弾射撃訓練は、中国軍がオーストラリアとニュージーランド間の空路と海路を、予告なしにいつでも遮断できることを示している。このような行為は、ニュージーランドとオーストラリア、そして太平洋諸国に対する牽制であり、南西太平洋における中国の海軍力の増大を示し、中国軍の存在を正常化することを意図している。
(2) 習近平は、中国が主導する新たな海洋秩序を「運命共同体」と呼んでいる。中国共産党が所有する海外向けタブロイド紙『環球時報』は、オーストラリアが過剰反応していると非難する一方で、ニュージーランドとオーストラリアに対して、自国海域における中国軍の定期的な存在に慣れるよう促している。また、中国はオーストラリアを批判の対象として取り上げる一方で、ニュージーランドに対しては穏やかな態度を採っており、これは分断統治の戦術である。
(3) 中国共産党の機関紙『人民日報』は、この任務部隊が、Type055ミサイル駆逐艦、Type054Aミサイルフリゲート、およびType903補給艦で構成され、海軍と空軍の両方が参加し、公海上での訓練演習を実施するためであったことを明らかにしている。他の中国メディアは、海軍部隊の通過と実弾射撃訓練は、南太平洋における人民解放軍の「配備の常態化」の始まりを意味すると認めている。艦艇は、沿岸国の平和、秩序、安全を損なわない限り、他国の領海であっても無害通航の権利を有する。公海での艦艇の実弾射撃訓練を規制する国際法はないが、近隣諸国に事前に警告し、予防措置を採ることが一般的である。中国は、こうした国際的な規範を盾に、威嚇行為としか解釈できない行動に出ている。
(4) 実弾射撃訓練後、この任務部隊は中国に戻る前に、タスマニア島の南東岬を通過し、オーストラリアの西側をインド洋に向かって北上する可能性が高い。この行動はオーストラリアの北部重視の安全保障戦略に対するあからさまな挑戦である。オーストラリアは長年にわたり、北部の海域の防衛能力に過剰投資する一方で、タスマン海の防衛はニュージーランドの十分ではない海軍力に頼り、南オーストラリアの海域の哨戒は定期的にフランスに頼ってきた。今回の航海は、中国が完全に自給自足の遠洋支援体制を整えたことを示している。
(5) 現在、中国は234隻の艦艇を保有する世界最大の海軍を保有し、U.S. Navyの219隻を上回っている。米国の艦隊は旧式であり、建造量を増やすには数十年を要するため、中国は明らかに、太平洋における米国の軍事的優位に匹敵する能力を有している。オーストラリアとニュージーランドの海軍艦隊を合わせても、その数はわずか12隻である。2024年以降、中国は海警総隊の船舶も使用して、西太平洋、中部太平洋、北太平洋の漁業管理機関の管轄区域全体、つまり太平洋全域にわたって、展開を確立しようとしている。
(6) オーストラリアとニュージーランド両政府は、中国の軍事力誇示への対応という点において、難しい立場に置かれている。両国とも中国と軍事協力協定を結んでおり、中国海軍と中国空軍によるニュージーランドおよびオーストラリアへの訪問は、20年以上にわたって着実に増加している。そして、その多くは、オーストラリアとニュージーランド政府が中国との軍事外交および安全保障関係の一環として促進し、奨励してきたものである。2013年と2017年には、フリゲート2隻と補給艦1隻で編成された中国海軍の任務部隊がオークランドに寄港し、2016年と2019年には、中国艦艇がニュージーランドの領海内で訓練を実施している。2013年には、オーストラリアが国際的な海軍演習の一環として中国海軍のフリゲートを受け入れており、2019年には、3隻の中国艦艇がシドニー港に3日間停泊している。
(7) オーストラリアとニュージーランドの中国に対する防衛関係は、習近平の強硬な外交政策を受けて、冷え込んでいるが、中国の行動に対する懸念事項は数多くある。その1つは、タスマン海における中国の実弾射撃訓練に関して、米大統領府が沈黙していることである。ANZUS条約に基づき、オーストラリアが攻撃を受けた場合、米国はオーストラリアを防衛する義務を負っている。一方で米国は、1987年にニュージーランドが非核兵器地帯法案を可決し、米国の原子力艦の寄港を禁止したことを受け、ANZUS条約からニュージーランドを除外した。
(8) ここ数日、オーストラリアとニュージーランドは孤立しているように見える。オーストラリアとニュージーランドの政治指導者にとっては正念場である。それは、彼らの甘く愚かな関与政策と防衛への投資不足が露呈しているからであり、両政府が今後採る行動は、太平洋地域の長期的な安全保障にとって極めて重要である。
記事参照:A Shot Across the Bow: China Signals New Era of Sea Power in the Southwest Pacific

2月27日「米国は中国に対し深刻なミサイル・ギャップに直面―米専門家論説」(19FortyFive, February 27, 2025)

 2月27日付けの米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクThe Heritage FoundationのAllison Center for National Security防衛問題分析研究員で元国防副次官補Dan Greenの“The U.S. Military Faces a Critical Missile Gap Against China”と題する論説を掲載し、Dan Greenは米国が中国に対して致命的なミサイル不足に直面しており、第2期Trump政権は思い切った取り組みを採用し、軍の所用に応じたミサイル・弾薬を開発、製造する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は中国に対して致命的なミサイル不足に直面している。米国が現在保有する兵器と、紛争で中国を打ち負かすために必要な兵器の量との間には大きな隔たりである。Pete Hegsethが国防長官に就任するにあたり、最優先課題の1つはミサイル・ギャップの解消である。
(2) ミサイル・ギャップは、現在では限られた防衛産業基盤と兵器納入に要する長い期間によってさらに悪化している。中国の攻撃的な行動は、兵器のミサイル・ギャップに対処するために、より広範かつ迅速な対応を要求している。
(3) 第1に、トランプ政権は、軍需品の生産を確実に行う専任の「軍需品調達の最高責任者」の任命を検討すべきである。第2に、Trump政権は同盟国や提携国に負担分担を働きかけるべきである。米国内での生産増加を優先すべきだが、多くの同盟国や提携国も自国の兵器生産増加から恩恵を受けるだろう。
(4) 第3に、Trump政権は兵器の性能だけに焦点を当てるべきではない。最新装備と最新ではないものの安価な装備との混合を検討すべきである。第4に、人工知能を兵器化すべきである。人工知能を効果的に使用すれば、既存の弾薬の有効性が劇的に向上し、その寿命を延ばすことができる。
(5) 第5に、政府は軍需企業に税制や規制上の優遇措置を拡大することで、生産量の増加を促すことができる。これは州や地方の役人や機関と連携して行うべきである。6番目に、現在の兵器を再設計して、組み立て易くし、生産にかかる時間を短縮する必要がある。
(6) 最後に、私たちは諜報機関の援助を得るべきである。諜報機関には、軍需品の生産を増やし、U.S. Department of Defenseの財政負担を軽減できる多くの資源がある。
(7) 効果的な抑止には、敵に対して戦争を成功させる能力が必要であり、十分な弾薬を保有するとともに、時宜にかなったさらなる弾薬を開発する能力も必要である。また、U.S. Armed Forcesの幅広い所用に適合した多種多様な弾薬の開発も求められている。米国は軍需品の生産を増やすだけでなく、型破りな取り組みを採用し、生産を加速するための独自の制度設計を採用するべきあり、軍に最善を尽くすことによってのみ、直面する障害を克服し、インド太平洋地域で勝利を確保できる。
記事参照:The U.S. Military Faces a Critical Missile Gap Against China

2月28日「オーストラリアにとって、もがみ型護衛艦が最良の選択肢―米専門家論説」(The Strategist, February 28, 2025)

 2月28日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Institute米国支部ASPI USA研究員Eric Liesの“Mogami class offers strong technical advantages in Australia’s frigate competition”と題する論説を掲載し、Eric LiesはRoyal Australian Navyの水上艦部隊拡充計画の一環であるフリゲートの選定競争では、日本のもがみ型護衛艦が有利であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 日本のもがみ型護衛艦は、オーストラリアの汎用フリゲート計画において、明らかに最良の選択肢である。非常に有能な競合艦であるドイツのMEKO A-200と比較しても、もがみ型護衛艦はより少ない乗組員で運用でき、より弾薬庫の収容能力があり、戦闘指揮システムも新型である。
(2) 「Sea 3000」計画は、Royal Australian Navyの水上艦部隊を拡充する大規模計画の一環として、アンザック級汎用フリゲートの代替として最大11隻の艦艇を建造することを目的としている。TKMS社のMEKO A-200と三菱重工のもがみ型護衛艦が最終候補に残っている。
(3) Ausralian Defence Forceは、兵の募集および人員維持の不足に悩まされており、特に海軍において人材の確保と定着が深刻な課題となっている。したがって、乗員数の最小化は、Royal Australian Navyが水上戦闘艦部隊および原子力潜水艦部隊を拡充しようとする中で、これまで以上に重要となっている。もがみ型護衛艦は、MEKO A-200よりも高い自動化を前提に設計されているため、乗組員は90名と、120名を必要とするMEKO A-200よりも少ない。そのため、少人数での運用が可能となり、そして、各フリゲートに交代制の乗員を2組配備することも現実的となる。これにより、各艦の運用可能時間を最大化できる。
(4) オーストラリア向けに提案された改良型もがみ型護衛艦は、32ミサイルセルの垂直発射システム(以下VLSと言う)を搭載しており、これはMEKO A-200の2倍である。したがって、もがみ型護衛艦は再武装のために母港へ戻る回数が減り、または米国が予定している洋上補給方式をオーストラリアが採用すれば、極めて困難な海上での補給にも対応可能である。VLSのセル数が増加していることは、搭載兵装の柔軟性も向上する。自艦防御用を差し引いても、もがみ型護衛艦はMEKO A-200よりも攻撃用ミサイルの搭載余地が大きい。これにより、任務再割当が容易となり、戦闘継続能力も高まる。フリゲートは、より大型の水上艦ほどの長距離攻撃ミサイルを搭載できないが、もがみ型護衛艦の弾庫の収容能力は、艦隊全体に兵器を分散配備することを可能にし、「分散型の殺傷力最大化」に寄与する。
(5) ある重要な指標において、少人数の乗員と収容能力のある弾庫の組み合わせは、高い効率性を意味する。もがみ型護衛艦の改良型は、1ミサイルセルあたりの乗組員数が2.8名であり、米国のアーレイ・バーク級の3.4名やMEKO A-200の7.5名と比較しても優れている。高い効率性と搭載量の両面において、もがみ型護衛艦はオーストラリアの「拒否による防衛戦略」を支えるにふさわしい。
(6) 水上戦闘艦の能力は、それを統合する戦闘指揮システムによって左右される。MEKO A-200は、Royal Australian Navyがすでに運用している戦闘指揮システムを採用しており、円滑な連接をもたらす。このシステムは初期導入以来、改良されてきたが、その古さは長期的な更新経費の問題をはらんでいる。古いシステムを更新する際の費用は急速に膨れ上がり、ハードウェアの限界にも突き当たる。
(7) もがみ型護衛艦が採用する戦闘指揮システムは、フリゲートの開発と並行して開発されたものであり、2015年に初期設計が始まった。この新しい基盤により、もがみ型護衛艦は長期的な運用経費を大幅に削減する可能性を有している。Royal Australian Navyは、日本製の戦闘指揮システムへの適応に時間を要するかもしれないが、そのような移行に伴う困難は、海軍が将来に備えるためのより良い状況づくりになる。
(8) もがみ型護衛艦がRoyal Australian Navyにより適している根拠として、日豪間の重要な地政戦略的な同盟関係の強化が挙げられる。
(9) もがみ型護衛艦は、全般にわたって柔軟性を高めており、さらに朗報なのは、報告されているコストがMEKO A-200より低い点である。
記事参照:Mogami class offers strong technical advantages in Australia’s frigate competition

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) US Arctic research faces “existential threat”
https://www.cryopolitics.com/2025/02/22/us-arctic-research-faces-existential-threat/
Cryopolitics, February 22, 2025
By Mia Bennett is an assistant professor in the Department of Geography and School of Modern Languages & Cultures (China Studies Programme) at the University of Hong Kong. 
 2025年2月22日、University of Hong Kong助教授Mia Bennettは、米北極問題専門ブログCryopoliticsに“US Arctic research faces “existential threat”と題する論説を寄稿した。その中でMia Bennettは、米国の北極研究が2024年のTrump政権復帰後、大幅な予算削減と政治的圧力に直面し、存続の危機に瀕している一方、中国は北極研究の分野で急速に台頭しており、2010年から2018年の間に北極・南極に関する科学論文の数を倍増させており、米国が北極に関する科学研究から撤退すれば、中国の研究が優位に立つことが予想されるが、特にU.S. Department of Defenseが2024年の北極戦略で「中国を主要な挑戦相手」と位置づけたことを考慮すると、この状況は米国の戦略的利益に大きな影響を及ぼす可能性があると指摘している。そしてMia Bennettは、ロシアとの関係も北極研究に影響を与えており、現在、サウジアラビアでの米ロ「和平交渉」が進められているが、ウクライナ戦争が終結した場合、ロシアの国内統制はさらに強化されるとみられる。米国の研究者がロシアに戻れる可能性はあるものの、学術的自由が制限されるため、実際の研究活動は困難を伴うと予測されると述べた上で、米国の科学界はこの危機に対して声を上げるべきであり、学術的自由の維持と研究の継続に向けた国際協力が必要であり、気候変動が加速する中、北極研究が停滞すれば、その影響は世界全体に及ぶため、今こそ科学界と国際社会が連携し、持続可能な研究環境を確保することが求められると主張している。
 
(2) Nonproliferation in Great Power Competition
https://www.hudson.org/arms-control-nonproliferation/nonproliferation-great-power-competition-rebeccah-heinrichs
Hudson Institute, February 24, 2025
By Rebeccah L. Heinrichs, Senior Fellow at Hudson Institute and Director, Keystone Defense Initiative
 2025年2月24日、米保守系シンクタンクHudson Institute上席研究員 Rebeccah L. Heinrichsは、同Instituteウエブサイトに“Nonproliferation in Great Power Competition”と題する論説を寄稿した。その中でRebeccah L. Heinrichs は、米国は長年にわたり、核不拡散を対外戦略の中核としてきたが、近年の安全保障環境の悪化によりその達成が困難になっていると前置きした上で、特に北朝鮮の核開発が進み、米国の拡大抑止の信頼性が揺らぐ中、韓国では独自の核開発を支持する声が高まっているが、米国の伝統的な立場は、同盟国の核武装を防ぎつつ、抑止力を提供することで安全保障を確保するというものであったものの、冷戦時代に比べて現在の安全保障環境は複雑化し、拡大抑止が機能しない場合、韓国や日本が独自の核抑止力を求める可能性があると指摘している。そしてRebeccah L. Heinrichsは、韓国の核武装が進めば、東アジア全体で核拡散の連鎖が起こる懸念があり、特に日本が同様の決断を下す可能性があるが、これは中国やロシアに軍拡を進める口実を与えかねないだけでなく、米国が同盟国の核開発を黙認する姿勢を示せば、イランやサウジアラビアといった他地域での核開発を抑制する外交的立場が弱まる危険性があると述べ、結論として、米国は核不拡散政策を維持しつつ、同盟国の安全保障を確保するために戦略的柔軟性を持つべきだと主張している。
 
(3) Unsolicited advice for the next US ambassador to Japan
https://asiatimes.com/2025/02/unsolicited-advice-for-the-next-us-ambassador-to-japan/
Asia Times, February 27, 2025
By Colonel Grant Newsham is a retired US Marine officer. As the first Marine advisor to the Japan Self-Defense Force, he helped to create Japan’s amphibious force.
 2025年2月27日、U.S. Marine Corpsの退役大佐Grant Newshamは、香港のデジタル紙Asia Timesに“Unsolicited advice for the next US ambassador to Japan”と題する論説を寄稿した。その中でGrant Newshamは、米国の次期駐日大使が日米同盟の強化に向けた現実的な課題、特に日本の防衛力強化という問題への対処が求められることになるが、自衛隊は統合作戦能力の欠如、予算の適切な活用の遅れ、人員不足といった課題を抱えており、日米同盟は「かつてないほど強固」と言われる一方で、中国の軍事的脅威を抑止できているとは言えないため、次期大使は日本政府に対し、U.S. Armed Forcesの負担軽減のためにも、より実践的な軍事能力の向上を促す必要があると述べている。そしてGrant Newshamは、日本の政治的意思決定には「困難すぎる(It’s too difficult)」という言い訳が多用される点も課題であり、自衛隊の戦力強化、日米共同訓練、基地の活用といった重要な課題が「憲法上の制約」、「選挙が近い」、「財政状況が厳しい」といった理由で先送りされることも多いとした上で、次期大使は日本政府に対し、日米同盟が対等な提携であることを再認識させるとともに、日本の防衛政策決定過程をより機動的にするよう働きかけるべきであるが、日本国内でも防衛力強化の必要性を認識する声は増えており、米国はその動きを支援する立場を採り、日米関係をより実質的な同盟へと発展させるためにも、単なる外交儀礼を超えた率直な議論が不可欠であると主張している。
 
(4) PRC Dominance Over Global Port Infrastructure
https://jamestown.org/program/prc-dominance-over-global-port-infrastructure/
China Brief, the Jamestown Foundation, February 28, 2025
By Jacob Mardell, an analyst focusing on China’s foreign policy and global economic footprint
 2月28日、ドイツの中国外交政策専門家Jacob Mardellは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに、“PRC Dominance Over Global Port Infrastructure”と題する論説を寄稿した。その中で、①2月2日、パナマのMurillo大統領は、2017年に中国と締結した「海のシルクロード」に関する覚書を更新しない方針を政府として発表した。②パナマ運河をめぐる緊張の焦点は、香港の港湾運営企業和記港口社にあり、同社は1997年以降、運河にある5つの港のうち2つの運営を担ってきた。③中国の海洋戦略における商業面は、「国家優秀企業(national champion firms)」と密接に結びついている。④中国の海外港湾帝国の構築において中心的役割を果たしているのは、中国招商局港口控股および中遠海運港口であり、これらは中国遠洋海運集団の港湾子会社である。⑤これらの企業は、最終的には中国国務院直属の国有資産監督管理委員会の管理下にある。⑥このような構造は、国際的に見て2つの重大な影響をもたらす。第1に、これらの企業は西側諸国の制度においては極めて異例または違法とされる広範な国家支援や国有企業による支援網といった大きな優位性を享受している。第2に、中国政府はこれらの国家優秀企業に対して最終的な支配力を保持している。⑦中国の港湾取扱量に対する支配の重要性は単に海運に留まらず、港湾は世界的な供給網における重要な結節点である。⑧軍民融合発展戦略の下で、港湾は経済目的と防衛目的の双方に資する戦略的な軍民両用資産とされており、これに加え、商業投資が軍事的な足がかりとなる可能性があるという疑念も十分に根拠のあるものであるといった主張を述べている。