海洋安全保障情報旬報 2025年1月11日-1月20日
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1月13日「中国による台湾への『隔離』戦術―台湾ジャーナリスト論説」(The Strategist, January 13, 2025)
1月13日付けのAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、台湾を拠点とするジャーナリストJane Rickardsの“Limited quarantine is China’s likely first move in subduing Taiwan”と題する論説を寄稿し、Jane Rickardsは中国が台湾に対して実行する可能性がある「隔離(quarantine)」戦術について、要旨以下のように述べている。
(1) 西側諸国は、中国が台湾に対して名目的には内政上の「隔離」を課す場合にどう対処するかを慎重に考えるべきである。「隔離」は、台湾島への接近を制限的に管理する措置であり、軍事力を用いて台湾島を包囲して孤立させ、全ての接近を遮断する封鎖は戦争行為であると10月に台湾が宣言する以前から、台湾島への接近を限定的に制限する「隔離」は中国にとって大きな利点を提供している。
(2) 「隔離」という言葉の用法は、2024年に発表された米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの重要な報告書で生まれたものである。この報告書の著者たちは、中国政府が特定の種類に該当する物資の台湾への輸入を禁止する、または船舶が特定の港を使用することを禁じる可能性を予測していた。これらの措置は、中国海警のような名目上非軍事的な組織によって執行されると想定されている。
(3) 考えられるのは、中国が一度隔離行動を試み、権威の確立に成功したと言及した場合、同様の行動を繰り返し、徐々に制限を強化して最終的には封鎖へと移行する可能性である。これは、中国が国際問題の多くの分野で行っている「サラミ・スライシング」戦術と同様の手法である。
(4) 「隔離」が中国政府にもたらす本質的な利点の1つは、征服か敗北かのいずれかを強いられることがない点にある。これにより、極端に民族主義的な中国の人々に台湾の即時征服という大きな期待を抱かせることもない。そのため、この措置が強い抵抗に遭った場合、中国共産党は内政上の目的が達成されたと宣言し、撤退できる。
(5) 台湾やその友好国が中国を撤退させるのは困難である。たとえば、台湾や西側諸国は、貨物船を妨害する中国海警の船を阻止するために軍事力を用いて事態を拡大する必要がある。この場合、台湾や西側諸国は軍事衝突を引き起こした側と見なされる不利な立場に追い込まれる。一方、台湾や西側諸国が何もしなければ、そして隔離に従うよう圧力を受けた船舶会社のほとんどが従った場合、中国が台湾を支配しているという中国政府の言説が強化されることになる。
(6) 台湾国防部長である顧立雄は10月に、台湾は封鎖を戦争行為と見なし、戦争として対応すると述べた。この発言は、中国が台湾島周辺で大規模な軍事訓練を行った後になされたものである。
(7) 「隔離」は、おそらく中国自身の貿易を混乱させるような影響を、ほとんど、またはまったく与えない。一方で、封鎖による軍事的対立の危険性は、船主たちを台湾海峡やその近傍の中国の港を避ける行動に駆り立てる可能性がある。これは、中国経済に深刻な影響を及ぼすだろう。
(8) 「隔離」は、おそらく中国政府から大々的な発表が行われることなく進行するだろう。代わりに、中国は、管轄権を有すると考える台湾海峡およびその周辺海域において、単に税関手続きを拡大する必要があると主張する可能性がある。この行動には、中国海警が船舶を検査したり、中国以外の船舶に乗り込んで書類を確認したりすることが含まれるだろう。これに応じない船舶は、退去を強いられるか、場合によっては放水銃で攻撃される可能性がある。これにより、台湾経済が損なわれ、台湾の人々の士気や中国に対する抵抗意欲が打ち砕かれる可能性がある。
(9) 2024年を通じて、中国海警は台湾の金門諸島周辺海域で侵入を伴う哨戒を強化した。金門諸島は中国本土に近接している。「隔離」戦術の初期兆候として考えられるのは、2024年2月、中国海警が金門本島周辺を航行していた台湾の観光フェリーを妨害した事件である。
(10) 台湾や西側諸国が採り得る困難な対応策の1つとして、台湾自身による海巡署の強化が挙げられる。また、米国は中国が「隔離」を実行した場合、金融制裁を課すとともに、他の民主主義国家にも制裁への参加を促すことができる。どのような対応を採るにせよ、計画が必要である。
記事参照:Limited quarantine is China’s likely first move in subduing Taiwan
(1) 西側諸国は、中国が台湾に対して名目的には内政上の「隔離」を課す場合にどう対処するかを慎重に考えるべきである。「隔離」は、台湾島への接近を制限的に管理する措置であり、軍事力を用いて台湾島を包囲して孤立させ、全ての接近を遮断する封鎖は戦争行為であると10月に台湾が宣言する以前から、台湾島への接近を限定的に制限する「隔離」は中国にとって大きな利点を提供している。
(2) 「隔離」という言葉の用法は、2024年に発表された米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの重要な報告書で生まれたものである。この報告書の著者たちは、中国政府が特定の種類に該当する物資の台湾への輸入を禁止する、または船舶が特定の港を使用することを禁じる可能性を予測していた。これらの措置は、中国海警のような名目上非軍事的な組織によって執行されると想定されている。
(3) 考えられるのは、中国が一度隔離行動を試み、権威の確立に成功したと言及した場合、同様の行動を繰り返し、徐々に制限を強化して最終的には封鎖へと移行する可能性である。これは、中国が国際問題の多くの分野で行っている「サラミ・スライシング」戦術と同様の手法である。
(4) 「隔離」が中国政府にもたらす本質的な利点の1つは、征服か敗北かのいずれかを強いられることがない点にある。これにより、極端に民族主義的な中国の人々に台湾の即時征服という大きな期待を抱かせることもない。そのため、この措置が強い抵抗に遭った場合、中国共産党は内政上の目的が達成されたと宣言し、撤退できる。
(5) 台湾やその友好国が中国を撤退させるのは困難である。たとえば、台湾や西側諸国は、貨物船を妨害する中国海警の船を阻止するために軍事力を用いて事態を拡大する必要がある。この場合、台湾や西側諸国は軍事衝突を引き起こした側と見なされる不利な立場に追い込まれる。一方、台湾や西側諸国が何もしなければ、そして隔離に従うよう圧力を受けた船舶会社のほとんどが従った場合、中国が台湾を支配しているという中国政府の言説が強化されることになる。
(6) 台湾国防部長である顧立雄は10月に、台湾は封鎖を戦争行為と見なし、戦争として対応すると述べた。この発言は、中国が台湾島周辺で大規模な軍事訓練を行った後になされたものである。
(7) 「隔離」は、おそらく中国自身の貿易を混乱させるような影響を、ほとんど、またはまったく与えない。一方で、封鎖による軍事的対立の危険性は、船主たちを台湾海峡やその近傍の中国の港を避ける行動に駆り立てる可能性がある。これは、中国経済に深刻な影響を及ぼすだろう。
(8) 「隔離」は、おそらく中国政府から大々的な発表が行われることなく進行するだろう。代わりに、中国は、管轄権を有すると考える台湾海峡およびその周辺海域において、単に税関手続きを拡大する必要があると主張する可能性がある。この行動には、中国海警が船舶を検査したり、中国以外の船舶に乗り込んで書類を確認したりすることが含まれるだろう。これに応じない船舶は、退去を強いられるか、場合によっては放水銃で攻撃される可能性がある。これにより、台湾経済が損なわれ、台湾の人々の士気や中国に対する抵抗意欲が打ち砕かれる可能性がある。
(9) 2024年を通じて、中国海警は台湾の金門諸島周辺海域で侵入を伴う哨戒を強化した。金門諸島は中国本土に近接している。「隔離」戦術の初期兆候として考えられるのは、2024年2月、中国海警が金門本島周辺を航行していた台湾の観光フェリーを妨害した事件である。
(10) 台湾や西側諸国が採り得る困難な対応策の1つとして、台湾自身による海巡署の強化が挙げられる。また、米国は中国が「隔離」を実行した場合、金融制裁を課すとともに、他の民主主義国家にも制裁への参加を促すことができる。どのような対応を採るにせよ、計画が必要である。
記事参照:Limited quarantine is China’s likely first move in subduing Taiwan
1月13日「日本の政府安全保障能力強化支援が持つ本当の意義―シンガポール海洋安全保障専門家・デンマーク日本政治専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, January 13, 2025)
1月13日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、RSISのMaritime Security Programme非常勤上席研究員John BradfordとデンマークのAarhus University准教授Raymond Yamamotoによる“Japan’s Official Security Assistance to Southeast Asia: Limited Scope, but Real Impact”と題する論説を掲載し、そこで両名は日本が2022年12月の国家安全保障戦略で実施することを公表した政府安全保障能力強化支援について言及し、それが地域の安全保障能力向上に果たしている役割は重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年12月、日本政府は最新の国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)を発表した。NSSによれば、「自由で開かれた、安定した秩序」を守るために、東南アジアをはじめとした地域の国々との軍事協力を深めることが重要であると述べ、それに向けた取り組みの1つとして、政府安全保障能力強化支援(以下、OSAと言う)を発表した。
(2) 2022年版NSSは、ロシアによるウクライナ侵攻や、中国による東シナ海、南シナ海での一方的な現状変更の試みを、日本、ひいては国際社会に向けた重大な脅威と見なしている。2022年版NSSは、日本が現実的政治を志向するようになったことの表れである。それから2年、新兵器の調達や地域の提携国との軍事協力の推進など、日本は抑止力強化のための取り組みを次々と進めてきた。
(3) そうした動きに比べると、OSAはやや穏健で慎重なものに見える。それは抑止力強化を目的に掲げているが、これまでのところ殺傷能力の無い装備品の提供のためにしか使用されていない。フィリピンやマレーシアが主な受領国であり、インドネシアやベトナムも将来的に受領国となると見られている。こうした動き自体は注目に値するものの、提供されてきた装備品は必ずしも国家による侵略の抑止に必要なものではない。むしろOSAが反映しているのは、長きにわたり日本が保持してきた「人間の安全保障」への関与の継続である。この方針の下、日本は東南アジア諸国の非国家主体による脅威に対抗する安全保障強化を支援してきたのである。
(4) 将来的に、OSAによって兵器が提供される可能性はあるが、予算規模は小さい。初年度は20億円、2年目は50億円程度である。これに対し、インドネシアに売却しようとしているもがみ型フリゲートは500億円である。しかし、こうした制限があるものの、OSAの重要性は大きなものがある。日本はこうした穏健な取り組みゆえに、自国が地域の安全保障上の提携国として望ましいと思われていることを理解している。その観点から、OSAには2つの重要な目的がある。第1に、日本は地域の抑止力に向けた、安全な道程を計画している。直接的な軍事支援は、中国との緊張を高めるという懸念から警戒されてきた。OSAによる殺傷能力の無い装備品の提供は、国防能力の構築に資する一方で、こうした懸念を和らげる。第2に、比較的安価な装備品の提供は、今後のより大規模な軍事的な取引の踏み台として機能しうる。日本は大規模な軍事的取引に大きな経済的誘因を有しており、経済的な意味も大きい。
(5) 日本は、フィリピンが通ってきた道を、東南アジア諸国全体がその後に続くことを望んでいる。これまで日本は政府開発援助(ODA)を通じて能力向上の試みを進めてきたが、それは日本の立場に大きな影響を与え、またフィリピンの対外政策、つまり海における中国の主張に対抗しようという方針の確立にも影響を与えた。いまやフィリピンは、同盟国米国と密接に協力し中国の野心を抑止するための海の防壁になりつつある。OSAが地域の抑止力をどの程度高めるか、現状変更の野望をどの程度防げるかは依然として不明瞭である。日本の意欲だけでなく、東南アジアがそれを受け入れる気があるかどうかにもよる。その点において、OSAによる穏当な取り組みは、日本が望む結果への道筋を示すことができるだろう。
記事参照:Japan’s Official Security Assistance to Southeast Asia: Limited Scope, but Real Impact
(1) 2022年12月、日本政府は最新の国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)を発表した。NSSによれば、「自由で開かれた、安定した秩序」を守るために、東南アジアをはじめとした地域の国々との軍事協力を深めることが重要であると述べ、それに向けた取り組みの1つとして、政府安全保障能力強化支援(以下、OSAと言う)を発表した。
(2) 2022年版NSSは、ロシアによるウクライナ侵攻や、中国による東シナ海、南シナ海での一方的な現状変更の試みを、日本、ひいては国際社会に向けた重大な脅威と見なしている。2022年版NSSは、日本が現実的政治を志向するようになったことの表れである。それから2年、新兵器の調達や地域の提携国との軍事協力の推進など、日本は抑止力強化のための取り組みを次々と進めてきた。
(3) そうした動きに比べると、OSAはやや穏健で慎重なものに見える。それは抑止力強化を目的に掲げているが、これまでのところ殺傷能力の無い装備品の提供のためにしか使用されていない。フィリピンやマレーシアが主な受領国であり、インドネシアやベトナムも将来的に受領国となると見られている。こうした動き自体は注目に値するものの、提供されてきた装備品は必ずしも国家による侵略の抑止に必要なものではない。むしろOSAが反映しているのは、長きにわたり日本が保持してきた「人間の安全保障」への関与の継続である。この方針の下、日本は東南アジア諸国の非国家主体による脅威に対抗する安全保障強化を支援してきたのである。
(4) 将来的に、OSAによって兵器が提供される可能性はあるが、予算規模は小さい。初年度は20億円、2年目は50億円程度である。これに対し、インドネシアに売却しようとしているもがみ型フリゲートは500億円である。しかし、こうした制限があるものの、OSAの重要性は大きなものがある。日本はこうした穏健な取り組みゆえに、自国が地域の安全保障上の提携国として望ましいと思われていることを理解している。その観点から、OSAには2つの重要な目的がある。第1に、日本は地域の抑止力に向けた、安全な道程を計画している。直接的な軍事支援は、中国との緊張を高めるという懸念から警戒されてきた。OSAによる殺傷能力の無い装備品の提供は、国防能力の構築に資する一方で、こうした懸念を和らげる。第2に、比較的安価な装備品の提供は、今後のより大規模な軍事的な取引の踏み台として機能しうる。日本は大規模な軍事的取引に大きな経済的誘因を有しており、経済的な意味も大きい。
(5) 日本は、フィリピンが通ってきた道を、東南アジア諸国全体がその後に続くことを望んでいる。これまで日本は政府開発援助(ODA)を通じて能力向上の試みを進めてきたが、それは日本の立場に大きな影響を与え、またフィリピンの対外政策、つまり海における中国の主張に対抗しようという方針の確立にも影響を与えた。いまやフィリピンは、同盟国米国と密接に協力し中国の野心を抑止するための海の防壁になりつつある。OSAが地域の抑止力をどの程度高めるか、現状変更の野望をどの程度防げるかは依然として不明瞭である。日本の意欲だけでなく、東南アジアがそれを受け入れる気があるかどうかにもよる。その点において、OSAによる穏当な取り組みは、日本が望む結果への道筋を示すことができるだろう。
記事参照:Japan’s Official Security Assistance to Southeast Asia: Limited Scope, but Real Impact
1月13日「米国は北極圏をロシアに奪われつつある―米専門家論説」(The National Interest. January 13, 2025)
1月13日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、元米議会スタッフで地政学の評論家Brandon J. Weichertの“America Is Losing the Arctic to Russia”と題する論説を掲載し、ここでBrandon J. Weichertはロシアが2022年にロシア企業と6隻目と7隻目の原子力砕氷船を購入する契約を結び、着々と砕氷船の整備を進めているが、米国の砕氷船建造は遅々として進んでおらず、計画中の砕氷船は原子力推進ではないため、このままではロシア、そしてやがて中国に確実に北極圏を支配されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 次期大統領Donald J. Trumpの最近の発言で、グリーンランドとカナダを「購入」したいという明らかな願望が、世界中で炎上を引き起こしている。これらの発言は、より良い貿易協定を確保するための単純な交渉戦術かもしれない。しかし、Trump次期大統領は、実際、北極圏という米国の裏庭で、米国が直面している本当の地政学的危機を強調している。米国は、現実に冷戦終結以降、長年にわたり北極圏を無視し、戦略的な対立国がゆっくりと、しかし確実にこの地域を飲み込むのを許してきた。
(2) 問題の始まりはBarack Obamaがホワイトハウスに入った2008年に遡る。当時、ロシアは、米国、EU、NATOに接近しようとしていた隣国グルジア(当時の国名、現ジョージア)を侵略し、地政学的に極めて問題のある国であった。この危機は米国が他の問題に振り向けるべき余力を消費すべきではない地域の大国間の典型的なユーラシア内における領土紛争に米国が固執していた間に、ロシアは新たな戦略文書を発表した。その戦略文書は、2020年までに北極圏を支配するというロシアの意図を説明していた。ロシアは、北極圏支配のための戦略計画の一環として砕氷船の建造に多額の投資を行った。その後、ロシアは、ほぼ放棄されたソビエト時代の軍事施設を修復するために莫大な富を投資し、スエズ運河に代わるロシア主導の北極海航路を建設する壮大な計画の一環として、広大な北極圏の海岸線に沿って主要な基幹施設の建設を開始した。米国は中東での戦争や欧州でのロシアの動きやインド太平洋における中国の活動活発化に集中したため、米国政府はロシアの北極圏に関する動きを基本的に気付いていなかった。米国政府は、北極圏がロシアによってゆっくりと飲み込まれているという事実を無視した。ロシアは。中国との「際限のない友情(friendship without limits)」と称するものにより、今や中国の北極圏進出を支援している。また、中国は自らを「近北極国家」と宣言している。
(3) 米国は、ロシアによる北極圏の無言の征服をほぼ10年間無視してきたが、ついに目を覚まし、北極圏における米国の優位性を回復するための重要な第一歩を踏み出すと発表した。その最初の段階は新しい砕氷船を購入することであった。米国は25年以上も新しい砕氷船を建造していない。これをロシアの国営原子力企業の子会社Rosatomflotが運航するロシアの砕氷船の増加と比較するがよい。2022年、ロシア政府はロシア企業と6隻目と7隻目の原子力砕氷船を購入する契約を結んだ。この原子力砕氷船は、2028年12月と2030年12月にロシアへの引き渡しを予定している。ロシアは現在、4隻の原子力砕氷船を保有しており、5隻目は2026年12月に北極圏に現れる予定である。米国の砕氷船はロシアのものと比較して古いだけでない。米国の砕氷船は、どれも原子力推進ではないのである。
(4) ノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News は、2023年に米国のボリンジャー・ミシシッピ造船所が建造中だった新しい北極圏用の巡視船の完成が2027年まで延期されたと報じている。新しい米国の砕氷船は、2021年に最初の建造すること、2024年前半に最終的な配備が予定されていた。2023年にHigh North Newsがこの件に関する報道を行った時点では、北極圏用の米巡視船の建造はまだ始まっておらず、完成日が不透明なままであり、U.S. Coast Guard、ひいては米国は窮地に立たされている。全体として、米国議会は 6隻の新たな原子力推進ではない砕氷船の建造を承認した。そのうち3隻は開発中である。承認された砕氷船の完成はすべて予定より遅れており、米国はロシアと比較して北極圏で重大な能力差を抱えている。この差を埋めるために、U.S. Coast Guardは最近、最初の民間から砕氷船を購入した。しかし、これらの民間の砕氷船では、ロシアが北極圏を支配するために投資した資源と能力の程度に比べて、全く不十分である。そして、北極圏でのロシアの台頭の影響を受けているも1つの国であるカナダは、さらに悪い状態にある。米国は、数十年もの間、北極圏のカナダとアラスカの海岸線を横断する海路において、ロシアの北極海航路に対抗できる航路として北西航路の支配権を確保しようと努力してきた。しかし、カナダは、その地域を支配しようとする米国の試みに抵抗し、さらに自力でそれを守るためには何もしていない。
(5) 砕氷船は、北極圏での活動を目指す国にとって重要な要素である。大型砕氷船は、艦艇や商船などの船が使用できる開かれた航路を氷の海において作ることができる。砕氷船がなければ、北極圏での人間の活動は不可能である。米国は北極圏をロシアに奪われつつある。だからこそ、次期大統領Trumpは、カナダを吸収し、グリーンランドを購入することについて話している。それが実現すれば、北極圏に対する米国の支配力を強める方向への一歩となり、北極圏におけるロシアの存在に対抗する機会となる。
記事参照:America Is Losing the Arctic to Russia
(1) 次期大統領Donald J. Trumpの最近の発言で、グリーンランドとカナダを「購入」したいという明らかな願望が、世界中で炎上を引き起こしている。これらの発言は、より良い貿易協定を確保するための単純な交渉戦術かもしれない。しかし、Trump次期大統領は、実際、北極圏という米国の裏庭で、米国が直面している本当の地政学的危機を強調している。米国は、現実に冷戦終結以降、長年にわたり北極圏を無視し、戦略的な対立国がゆっくりと、しかし確実にこの地域を飲み込むのを許してきた。
(2) 問題の始まりはBarack Obamaがホワイトハウスに入った2008年に遡る。当時、ロシアは、米国、EU、NATOに接近しようとしていた隣国グルジア(当時の国名、現ジョージア)を侵略し、地政学的に極めて問題のある国であった。この危機は米国が他の問題に振り向けるべき余力を消費すべきではない地域の大国間の典型的なユーラシア内における領土紛争に米国が固執していた間に、ロシアは新たな戦略文書を発表した。その戦略文書は、2020年までに北極圏を支配するというロシアの意図を説明していた。ロシアは、北極圏支配のための戦略計画の一環として砕氷船の建造に多額の投資を行った。その後、ロシアは、ほぼ放棄されたソビエト時代の軍事施設を修復するために莫大な富を投資し、スエズ運河に代わるロシア主導の北極海航路を建設する壮大な計画の一環として、広大な北極圏の海岸線に沿って主要な基幹施設の建設を開始した。米国は中東での戦争や欧州でのロシアの動きやインド太平洋における中国の活動活発化に集中したため、米国政府はロシアの北極圏に関する動きを基本的に気付いていなかった。米国政府は、北極圏がロシアによってゆっくりと飲み込まれているという事実を無視した。ロシアは。中国との「際限のない友情(friendship without limits)」と称するものにより、今や中国の北極圏進出を支援している。また、中国は自らを「近北極国家」と宣言している。
(3) 米国は、ロシアによる北極圏の無言の征服をほぼ10年間無視してきたが、ついに目を覚まし、北極圏における米国の優位性を回復するための重要な第一歩を踏み出すと発表した。その最初の段階は新しい砕氷船を購入することであった。米国は25年以上も新しい砕氷船を建造していない。これをロシアの国営原子力企業の子会社Rosatomflotが運航するロシアの砕氷船の増加と比較するがよい。2022年、ロシア政府はロシア企業と6隻目と7隻目の原子力砕氷船を購入する契約を結んだ。この原子力砕氷船は、2028年12月と2030年12月にロシアへの引き渡しを予定している。ロシアは現在、4隻の原子力砕氷船を保有しており、5隻目は2026年12月に北極圏に現れる予定である。米国の砕氷船はロシアのものと比較して古いだけでない。米国の砕氷船は、どれも原子力推進ではないのである。
(4) ノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News は、2023年に米国のボリンジャー・ミシシッピ造船所が建造中だった新しい北極圏用の巡視船の完成が2027年まで延期されたと報じている。新しい米国の砕氷船は、2021年に最初の建造すること、2024年前半に最終的な配備が予定されていた。2023年にHigh North Newsがこの件に関する報道を行った時点では、北極圏用の米巡視船の建造はまだ始まっておらず、完成日が不透明なままであり、U.S. Coast Guard、ひいては米国は窮地に立たされている。全体として、米国議会は 6隻の新たな原子力推進ではない砕氷船の建造を承認した。そのうち3隻は開発中である。承認された砕氷船の完成はすべて予定より遅れており、米国はロシアと比較して北極圏で重大な能力差を抱えている。この差を埋めるために、U.S. Coast Guardは最近、最初の民間から砕氷船を購入した。しかし、これらの民間の砕氷船では、ロシアが北極圏を支配するために投資した資源と能力の程度に比べて、全く不十分である。そして、北極圏でのロシアの台頭の影響を受けているも1つの国であるカナダは、さらに悪い状態にある。米国は、数十年もの間、北極圏のカナダとアラスカの海岸線を横断する海路において、ロシアの北極海航路に対抗できる航路として北西航路の支配権を確保しようと努力してきた。しかし、カナダは、その地域を支配しようとする米国の試みに抵抗し、さらに自力でそれを守るためには何もしていない。
(5) 砕氷船は、北極圏での活動を目指す国にとって重要な要素である。大型砕氷船は、艦艇や商船などの船が使用できる開かれた航路を氷の海において作ることができる。砕氷船がなければ、北極圏での人間の活動は不可能である。米国は北極圏をロシアに奪われつつある。だからこそ、次期大統領Trumpは、カナダを吸収し、グリーンランドを購入することについて話している。それが実現すれば、北極圏に対する米国の支配力を強める方向への一歩となり、北極圏におけるロシアの存在に対抗する機会となる。
記事参照:America Is Losing the Arctic to Russia
1月14日「Trump次期大統領がグリーンランドを獲得するための法的選択肢―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, January 14, 2025)
1月14日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、Australian National University国際法教授Donald R Rothwellの“The legal options for Trump to acquire Greenland”と題する論説を掲載し、ここでDonald R Rothwellはグリーンランドが独立し、ワシントンとの交渉により自由連合盟約という選択肢が生起した際は、グリーンランド人の自由な選択が重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) グリーンランドの獲得は、今や次期Trump政権にとって外交政策上の優先事項である。Trump次期大統領は1月7日、2019年の提案を復活させ、グリーンランドに対する野望を明白にした。グリーンランドはデンマークの一部であり、U.S. Armed Forcesのピトゥフィク宇宙基地が置かれている。この基地は、1951年の冷戦時代に建設され、その役割と任務は時代とともに変化してきたが、最近では基地の拡張や、グリーンランドにおける米軍施設の追加建設に関する議論は行われていない。
(2) Trump次期大統領がこの島に関心を抱くのは、国家安全保障が理由として挙げられている。Trump次期大統領はグリーンランド近海における中国とロシアの船舶に言及している。ロシアは北極圏の国であり、中国は「近北極国家」としての地位向上を目指しており、この地域での活動が活発化している。しかし、中国とロシアの船舶は、国際法に則った航行の自由を享受しており、米国は特に南シナ海において、この権利を定期的に主張している。したがって、グリーンランド近海の航行の自由を米国が管理しようとする試みは、他の地域における戦略目標にとっては逆効果となる。
(3) グリーンランドには、レアアースの埋蔵があることも知られている。気候変動の影響が続き、グリーンランドの氷床が徐々に溶けるにつれ、これらの鉱物への接近が容易になりつつある。米国は、これらの鉱物の利用権を獲得することに間違いなく関心を持っているであろうが、グリーンランドではすでに採掘が一部許可されている既存の法的枠組みや政策が存在している。そして、Trump次期大統領は北極圏の一部では環境保護意識が強く、大規模な採掘活動に抵抗する可能性があることを念頭に置いているはずで、それはTrump次期大統領がアラスカや米国の領海で推進しようとしてきた「掘って、掘って、掘りまくれ」というスローガンとは相反する。
(4) 米国が、国際法に則りグリーンランドでより恒久的かつ実質的な利益を獲得するために可能性としてあるのは、グリーンランドの米国への割譲である。この選択肢についてはグリーンランドの人々の意見を聞く必要があるが、彼らが自国の国家としての大望を棚上げにして、大国間の競争の戦略的駒になることに同意する可能性は低い。
(5) グリーンランドは独立に向けて着実に歩みを進めている。この勢いは尊重されるべきである。グリーンランドは第2次世界大戦後の国連非自治領で、1953年に正式にデンマークの一部となり、1978年から自治領に移行した。この体制の下、グリーンランドは独立した共同体として認められ、2009年のグリーンランド自治政府法により、自治がさらに拡大され、グリーンランドの外交関係に関連する特定の事項が自治の対象となった。しかし、デンマーク政府は防衛や安全保障を含め、同島に対する最終的な責任を保持している。
(6) グリーンランドが独立すれば、Trump次期大統領が望む目標のいくつかを達成する機会を米国に提供する。これまで米国が他の島々に対して行ってきた慣行は参考になる。たとえば、米国はミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国と、個別の自由連合盟約を締結している。これら太平洋諸国はすべて独立国として認められており、国連加盟国でもあるが、その防衛および安全保障、そして国際関係の特定の側面については米国に委ねている。これは、独立したグリーンランドにも適用できる。最終的には、グリーンランドが決定を下す問題であり、米国との自由連合盟約がグリーンランド人の自由な選択による行為であるかどうかである。
記事参照:The legal options for Trump to acquire Greenland
(1) グリーンランドの獲得は、今や次期Trump政権にとって外交政策上の優先事項である。Trump次期大統領は1月7日、2019年の提案を復活させ、グリーンランドに対する野望を明白にした。グリーンランドはデンマークの一部であり、U.S. Armed Forcesのピトゥフィク宇宙基地が置かれている。この基地は、1951年の冷戦時代に建設され、その役割と任務は時代とともに変化してきたが、最近では基地の拡張や、グリーンランドにおける米軍施設の追加建設に関する議論は行われていない。
(2) Trump次期大統領がこの島に関心を抱くのは、国家安全保障が理由として挙げられている。Trump次期大統領はグリーンランド近海における中国とロシアの船舶に言及している。ロシアは北極圏の国であり、中国は「近北極国家」としての地位向上を目指しており、この地域での活動が活発化している。しかし、中国とロシアの船舶は、国際法に則った航行の自由を享受しており、米国は特に南シナ海において、この権利を定期的に主張している。したがって、グリーンランド近海の航行の自由を米国が管理しようとする試みは、他の地域における戦略目標にとっては逆効果となる。
(3) グリーンランドには、レアアースの埋蔵があることも知られている。気候変動の影響が続き、グリーンランドの氷床が徐々に溶けるにつれ、これらの鉱物への接近が容易になりつつある。米国は、これらの鉱物の利用権を獲得することに間違いなく関心を持っているであろうが、グリーンランドではすでに採掘が一部許可されている既存の法的枠組みや政策が存在している。そして、Trump次期大統領は北極圏の一部では環境保護意識が強く、大規模な採掘活動に抵抗する可能性があることを念頭に置いているはずで、それはTrump次期大統領がアラスカや米国の領海で推進しようとしてきた「掘って、掘って、掘りまくれ」というスローガンとは相反する。
(4) 米国が、国際法に則りグリーンランドでより恒久的かつ実質的な利益を獲得するために可能性としてあるのは、グリーンランドの米国への割譲である。この選択肢についてはグリーンランドの人々の意見を聞く必要があるが、彼らが自国の国家としての大望を棚上げにして、大国間の競争の戦略的駒になることに同意する可能性は低い。
(5) グリーンランドは独立に向けて着実に歩みを進めている。この勢いは尊重されるべきである。グリーンランドは第2次世界大戦後の国連非自治領で、1953年に正式にデンマークの一部となり、1978年から自治領に移行した。この体制の下、グリーンランドは独立した共同体として認められ、2009年のグリーンランド自治政府法により、自治がさらに拡大され、グリーンランドの外交関係に関連する特定の事項が自治の対象となった。しかし、デンマーク政府は防衛や安全保障を含め、同島に対する最終的な責任を保持している。
(6) グリーンランドが独立すれば、Trump次期大統領が望む目標のいくつかを達成する機会を米国に提供する。これまで米国が他の島々に対して行ってきた慣行は参考になる。たとえば、米国はミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国と、個別の自由連合盟約を締結している。これら太平洋諸国はすべて独立国として認められており、国連加盟国でもあるが、その防衛および安全保障、そして国際関係の特定の側面については米国に委ねている。これは、独立したグリーンランドにも適用できる。最終的には、グリーンランドが決定を下す問題であり、米国との自由連合盟約がグリーンランド人の自由な選択による行為であるかどうかである。
記事参照:The legal options for Trump to acquire Greenland
1月14日「核の境界を曖昧にする北欧の武器開発―スウェーデン・フィンランド専門家論説」(Stockholm International Peace Research Institute, January 14, 2025)
1月14日付のスウェーデンのStockholm International Peace Research Institute(以下、SIPRIと言う)は、SIPRI Weapons of Mass Destruction Programme責任者Wilfred WanおよびAcademy of Finland研究員としてOulu Universityで国際政治と生態学の交差点で研究を行っているGitte du Plessisの“Blurring conventional–nuclear boundaries: Nordic developments, global implications”と題する論説を掲載し、ここで両名は抑止がいつ、どのように機能するのかを正確に特定することで、効果的に国家安全保障を追求することができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年7月、ノルウェーのKongsberg Defence & Aerospace社は、Forsvarsmateriell(ノルウェー防衛装備庁)と次世代超音速ミサイルの開発契約を締結した。これは、2023年11月に発表されたノルウェーとドイツの共同計画の一環である。ティルフィングと名付けられたこの新型対艦ミサイルは、2035年に実用化される予定である。これは侵略を抑止し、戦略的安定性を維持するため、欧州の通常戦力強化を目的とした北欧諸国の取り組みの1つに過ぎない。その他にも、フィンランドが2024年5月に敵の対空ミサイルの射程外から発射できる空対地ミサイルの射程延伸型(Joint Air-to-Surface Standoff Missile-Extended Range 、JASSM-ER)を米国から調達すると発表し、ほぼ同時期にスウェーデンは、早期警戒管制機をウクライナに提供すると発表している。北欧地域におけるこれらの動きは、先進的な通常兵器による精密攻撃能力の開発と配備における欧州の傾向を反映している。射程距離が長く、操作性に優れたミサイルや発射システムへの投資は、ヨーロッパにおける新たなミサイル危機の恐怖を煽るものである。
(2) 通常兵器による精密攻撃システムは、1990~1991年の湾岸戦争で初めて米国が大量に使用した。それ以来、誘導装置の改良、弾頭技術の進歩、そして大幅に改善された情報、監視、偵察能力の組み合わせにより、システムは大幅に成熟した。冷戦終結時には米国がこれらの兵器の大半を保有していたのに対し、現在では多くの国家が大量に保有、あるいは大量に保有する計画を立てている。精密攻撃システムは通常戦において数多くの機能を持つが、戦略的安定性や核抑止力にも影響を与える可能性がある。なぜなら、弾道ミサイルを格納するミサイルサイロや指揮統制システムの結節点などの核関連の施設を従来よりもはるかに高い確率で脅かすからである。
(3) 一部の国家はすでにこの事実を活用している。たとえば、韓国は2012年以降、航空機、陸上・海上の精密誘導通常兵器と大規模な兵器庫を駆使して北朝鮮の核戦力を標的とする抑止戦略を採用している。これに対し、北朝鮮は、核搭載可能な短距離ミサイルやその他の運搬手段を多数開発することで、韓国の抑止戦略を回避しようとしている。このような状況における潜在的な危険性は主に次の2つの区分に分類される。
a. 先進的な通常兵器による精密攻撃能力の開発と配備は、軍拡競争を加速させる可能性がある。すべての核保有国は、軍事態勢を整備する際に、敵対国の通常兵器能力を考慮に入れることになる。たとえロシアの核施設を標的にする意図がないとしても、北欧諸国は自国が開発している通常兵器や通常戦力が、ロシアとその同盟国の戦略的計算に与える影響を考慮する必要がある。
b. 精密攻撃能力の向上は危機の安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。たとえば、危機的状況下において、核保有国が精密攻撃兵器による攻撃を自国の核戦力に対するものと誤認し、核を使用する圧力が生じる可能性がある。さらに、通常兵器による脅威の高まりに対処するために、警戒段階を引き上げるなど、自国の核戦力の残存性を強化するために各国が講じる措置は、事態を拡大させる可能性を高める。
(4) ソ連 /ロシアと米国の間で過去に締結された2国間核軍備管理協定の体系は、戦略的安定性という概念に基づいていた。これは、核による報復の確実性を維持するという考えに基づく、脆弱な均衡である。先進的な通常兵器システムは、こうした報復能力をますます脅かすようになり、それに応じて、戦略的関係が安定しているという敵対国の自信を揺るがせている。先進的な通常戦力の開発と配備は、核軍備管理の枠組みを複雑化させる可能性がある。今後のいかなる軍備管理の枠組みも、どのような戦力が戦略的なものなのかを再考する必要があり、非核保有国の通常戦力を取り入れる可能性もある。
(5) 2021年、ロシアによるウクライナ侵攻の数ヶ月前、ロシアと米国は現在中断されている戦略的安定性に関する対話の一環として、「戦略的影響力を持つ能力と行動」に関する作業部会を設置した。これは、特定の通常兵器システムの戦略的重要性を相互に認識していることを示唆している。核保有国が関与または支援する非核保有国からの侵略行為に対して核兵器の使用も選択肢として含めるというロシアの核戦略の最近の更新は、通常戦力と核戦力の境界をあいまいにするものである。根本的な問題は、冷戦時代ですら掴みどころのなかった戦略的安定性が、多極化した世界ではさらに達成が困難になっていることで、特に紛争や危機的状況において、核兵器の先制使用の誘因が高まっている可能性がある。
(6) こうした状況は、北欧諸国の意思決定の前提となっている仮定に疑問を投げかけるものである。たとえ政治的な結束とともに先進的な通常戦力能力が形成され、NATOの抑止力の重要な淵源となったとしても、そうした能力の成熟と拡散が継続すれば、核戦略、核戦力構造、さらには核使用にまで影響を及ぼすような結果を招くことになる。最悪の状況を回避するためには、相互に関連する次の3つを考慮する必要がある。
a. 先進的な通常戦力の開発と配備がもたらす潜在的な影響を継続的に評価すべきである。この過程は、通常戦力が戦力の均衡にどのような影響を与えるかという系統的な検討から始めるべきであるが、同時に、これらの行動がロシアおよびその同盟国を含む潜在的脅威の認識とどのように一致するのか、また核抑止力の力学にどのような影響を与える可能性があるのかについても検討すべきである。
b. 通常戦力と核戦力の境界があいまいになっている性質と影響を、安全保障戦略の中で考慮すべきである。そのためには、他国が戦略的効果をどのように認識しているかについて、技術的、物質的、軍事的、そして政治的な観点から慎重に分析する必要がある。それは軍備管理を含む革新的で危険性の少ない政策的解決を促進することにもなる。
c. 北欧諸国およびその他の欧州諸国は、核抑止力に関する基本的な前提を再考すべきである。これは、ウクライナでの戦争に関連して、欧州における抑止力に関する議論が行われていることを踏まえると、特に重要である。
(7) 北欧諸国がNATOの核抑止力を強化する措置を講じる場合、より開かれた形でその複雑性を認め、抑止のパラダイムに関連する危険性を検討する場での議論に参加するべきである。抑止がいつ、どのように機能するのかを正確に特定することで、さらなる不安定化や潜在的な事態拡大の危険性を最小限に抑えつつ、非軍事的解決策を含む、より効果的な国家の安全保障目標を追求する手段への道筋を切り開くことができる。
記事参照:Blurring conventional–nuclear boundaries: Nordic developments, global implications
(1) 2024年7月、ノルウェーのKongsberg Defence & Aerospace社は、Forsvarsmateriell(ノルウェー防衛装備庁)と次世代超音速ミサイルの開発契約を締結した。これは、2023年11月に発表されたノルウェーとドイツの共同計画の一環である。ティルフィングと名付けられたこの新型対艦ミサイルは、2035年に実用化される予定である。これは侵略を抑止し、戦略的安定性を維持するため、欧州の通常戦力強化を目的とした北欧諸国の取り組みの1つに過ぎない。その他にも、フィンランドが2024年5月に敵の対空ミサイルの射程外から発射できる空対地ミサイルの射程延伸型(Joint Air-to-Surface Standoff Missile-Extended Range 、JASSM-ER)を米国から調達すると発表し、ほぼ同時期にスウェーデンは、早期警戒管制機をウクライナに提供すると発表している。北欧地域におけるこれらの動きは、先進的な通常兵器による精密攻撃能力の開発と配備における欧州の傾向を反映している。射程距離が長く、操作性に優れたミサイルや発射システムへの投資は、ヨーロッパにおける新たなミサイル危機の恐怖を煽るものである。
(2) 通常兵器による精密攻撃システムは、1990~1991年の湾岸戦争で初めて米国が大量に使用した。それ以来、誘導装置の改良、弾頭技術の進歩、そして大幅に改善された情報、監視、偵察能力の組み合わせにより、システムは大幅に成熟した。冷戦終結時には米国がこれらの兵器の大半を保有していたのに対し、現在では多くの国家が大量に保有、あるいは大量に保有する計画を立てている。精密攻撃システムは通常戦において数多くの機能を持つが、戦略的安定性や核抑止力にも影響を与える可能性がある。なぜなら、弾道ミサイルを格納するミサイルサイロや指揮統制システムの結節点などの核関連の施設を従来よりもはるかに高い確率で脅かすからである。
(3) 一部の国家はすでにこの事実を活用している。たとえば、韓国は2012年以降、航空機、陸上・海上の精密誘導通常兵器と大規模な兵器庫を駆使して北朝鮮の核戦力を標的とする抑止戦略を採用している。これに対し、北朝鮮は、核搭載可能な短距離ミサイルやその他の運搬手段を多数開発することで、韓国の抑止戦略を回避しようとしている。このような状況における潜在的な危険性は主に次の2つの区分に分類される。
a. 先進的な通常兵器による精密攻撃能力の開発と配備は、軍拡競争を加速させる可能性がある。すべての核保有国は、軍事態勢を整備する際に、敵対国の通常兵器能力を考慮に入れることになる。たとえロシアの核施設を標的にする意図がないとしても、北欧諸国は自国が開発している通常兵器や通常戦力が、ロシアとその同盟国の戦略的計算に与える影響を考慮する必要がある。
b. 精密攻撃能力の向上は危機の安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。たとえば、危機的状況下において、核保有国が精密攻撃兵器による攻撃を自国の核戦力に対するものと誤認し、核を使用する圧力が生じる可能性がある。さらに、通常兵器による脅威の高まりに対処するために、警戒段階を引き上げるなど、自国の核戦力の残存性を強化するために各国が講じる措置は、事態を拡大させる可能性を高める。
(4) ソ連 /ロシアと米国の間で過去に締結された2国間核軍備管理協定の体系は、戦略的安定性という概念に基づいていた。これは、核による報復の確実性を維持するという考えに基づく、脆弱な均衡である。先進的な通常兵器システムは、こうした報復能力をますます脅かすようになり、それに応じて、戦略的関係が安定しているという敵対国の自信を揺るがせている。先進的な通常戦力の開発と配備は、核軍備管理の枠組みを複雑化させる可能性がある。今後のいかなる軍備管理の枠組みも、どのような戦力が戦略的なものなのかを再考する必要があり、非核保有国の通常戦力を取り入れる可能性もある。
(5) 2021年、ロシアによるウクライナ侵攻の数ヶ月前、ロシアと米国は現在中断されている戦略的安定性に関する対話の一環として、「戦略的影響力を持つ能力と行動」に関する作業部会を設置した。これは、特定の通常兵器システムの戦略的重要性を相互に認識していることを示唆している。核保有国が関与または支援する非核保有国からの侵略行為に対して核兵器の使用も選択肢として含めるというロシアの核戦略の最近の更新は、通常戦力と核戦力の境界をあいまいにするものである。根本的な問題は、冷戦時代ですら掴みどころのなかった戦略的安定性が、多極化した世界ではさらに達成が困難になっていることで、特に紛争や危機的状況において、核兵器の先制使用の誘因が高まっている可能性がある。
(6) こうした状況は、北欧諸国の意思決定の前提となっている仮定に疑問を投げかけるものである。たとえ政治的な結束とともに先進的な通常戦力能力が形成され、NATOの抑止力の重要な淵源となったとしても、そうした能力の成熟と拡散が継続すれば、核戦略、核戦力構造、さらには核使用にまで影響を及ぼすような結果を招くことになる。最悪の状況を回避するためには、相互に関連する次の3つを考慮する必要がある。
a. 先進的な通常戦力の開発と配備がもたらす潜在的な影響を継続的に評価すべきである。この過程は、通常戦力が戦力の均衡にどのような影響を与えるかという系統的な検討から始めるべきであるが、同時に、これらの行動がロシアおよびその同盟国を含む潜在的脅威の認識とどのように一致するのか、また核抑止力の力学にどのような影響を与える可能性があるのかについても検討すべきである。
b. 通常戦力と核戦力の境界があいまいになっている性質と影響を、安全保障戦略の中で考慮すべきである。そのためには、他国が戦略的効果をどのように認識しているかについて、技術的、物質的、軍事的、そして政治的な観点から慎重に分析する必要がある。それは軍備管理を含む革新的で危険性の少ない政策的解決を促進することにもなる。
c. 北欧諸国およびその他の欧州諸国は、核抑止力に関する基本的な前提を再考すべきである。これは、ウクライナでの戦争に関連して、欧州における抑止力に関する議論が行われていることを踏まえると、特に重要である。
(7) 北欧諸国がNATOの核抑止力を強化する措置を講じる場合、より開かれた形でその複雑性を認め、抑止のパラダイムに関連する危険性を検討する場での議論に参加するべきである。抑止がいつ、どのように機能するのかを正確に特定することで、さらなる不安定化や潜在的な事態拡大の危険性を最小限に抑えつつ、非軍事的解決策を含む、より効果的な国家の安全保障目標を追求する手段への道筋を切り開くことができる。
記事参照:Blurring conventional–nuclear boundaries: Nordic developments, global implications
1月16日「FOIP構想の課題と対応策―米シンクタンク報告」(Hudson Institute, January 16, 2025)
1月16日付の米保守系シンクタンクHudson Instituteのウエブサイトは、同Institute日本部長Dr. Kenneth R. Weinsteinと日本部副部長William Chouの“Past Lessons and Future Action: Policies for a Successful Free and Open Indo-Pacific”と題する2部構成の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想に関する報告書の第2部についての概要を掲載し、FOIP構想の特性と課題、そしてFOIP構想を支持する国の対応すべき点について、要旨以下のように述べている。
(1) 自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)構想は、インド太平洋地域における連結性、繁栄、平和、安全保障に大きく貢献してきた。しかしながら、FOIP構想には戦略的教義として明確な限界がある。この構想自体では、台湾が直面する可能性のある地域で最も重要な戦略的課題、すなわち中国による侵攻や封鎖の際に友好的またはそれほど友好的でないASEAN加盟国を支援に引き込むことはできない。
(2) それでもなお、FOIP構想はインド太平洋地域における繁栄と連結性を促進するために極めて重要である。ここにFOIP構想の安全保障に関する逆説が存在する。FOIP構想は、インド太平洋の安全保障に専念する提携国や同盟国の連接網を拡大する能力を持つ。一方で、自国と同盟国を守る意思のある他国にその負担を分担させることにより、米国の安全保障負担を減らすことができる。しかし、当分の間はFOIP構想が台湾有事を防ぐ能力を持たないため、FOIP構想の拡張と米国の同盟網の拡大は、米国の抑止力を基盤としている。
(3) この状況に対応するために、政策立案者はFOIP構想を促進するための機関を構築することと東南アジアおよびオセアニアの国々を米国、日本、ヨーロッパの経済圏に組み込むことという2つの道を同時に進む必要がある。そのため、この報告書では、エネルギー、半導体、海外経済開発および投資といった重要な戦略分野に焦点を当てて政策提言を行っている。
(4) FOIP構想への支援を進めるために、本報告書はいくつかの提言を行っている。
a. 第1に、FOIP構想を効果的にするためには、適応性が必要である。この地域の高い成長率と社会政治的変化を考慮すると、構造、所要、提携国が時間とともに変化するのは避けられない。しかし、FOIP構想を支持する国々が特定の機能分野で協調と協力を続ける限り、東南アジアや他の地域における変化にもかかわらず、その取り組みを持続できる。また、このような構造を非政府的なものとして設計することは有益である。
b. 第1に関連して、第2にFOIP構想は、変化する状況に迅速に対応する必要がある。東南アジア諸国がFOIP構想を支持することに消極的な理由の1つは、彼らが超大国間の対立と見なす状況を避けたいと考えているためである。南シナ海での中国の侵略行為を受け、フィリピンが米国、日本、その他の提携国と積極的に協力している例が示すように、FOIP構想を支持する提携国は、新たな提携国と協力する機会が生じた際に迅速に対応できる型板を作成すべきである。日米政府が、レーダー設置や円滑化協定を通じてフィリピン政府の安全保障の所要に対応し、ルソン回廊や半導体分野での協力を通じて経済的所要にも対応した迅速さは、今後このような変化を進める上での模範となる。
c. 第3に、FOIP構想を真に成功させるためには、インド太平洋地域における多様な利害関係者を活用し、政府、民間部門、学術界、市民社会の潜在力を引き出す必要がある。たとえば、LNGターミナルの資金調達の問題に対処する際には、FOIP構想支持国が自国の産業および技術資産を活用することが重要である。こうすることで、最終的には地域内の経済協力が強化され、外交的な信頼が構築され、FOIP構想を支持するよう、インド太平洋における法に基づく秩序に最も影響を受ける国々を納得させる。
(5) インド太平洋全域でFOIP構想に対する幅広い合意を形成するのは、容易でも直接的でもない可能性が高く、それは今後、政治的、経済的、安全保障上の課題に直面するだろう。しかし、FOIP構想を支える原則である法の支配、そして資本、物資、人々の自由な流れは、何世代にもわたり、この地域の急速な経済成長と成功を支えてきた。米国とその同盟国は、この勝利に導く着想を支えるために協力し、引き続き最大限の努力を払うべきである。
記事参照:Past Lessons and Future Action: Policies for a Successful Free and Open Indo-Pacific
全文は以下を参照されたい。
Past Lessons and Future Action: Policies for a Successful Free and Open Indo-Pacific
https://s3.us-east-1.amazonaws.com/media.hudson.org/Past+Lessons+and+Future+Action+-+Policies+for+a+Successful+Free+and+Open+Indo-Pacific+-+Kenneth+Weinstein+-+William+Chou+(1).pdf
(1) 自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)構想は、インド太平洋地域における連結性、繁栄、平和、安全保障に大きく貢献してきた。しかしながら、FOIP構想には戦略的教義として明確な限界がある。この構想自体では、台湾が直面する可能性のある地域で最も重要な戦略的課題、すなわち中国による侵攻や封鎖の際に友好的またはそれほど友好的でないASEAN加盟国を支援に引き込むことはできない。
(2) それでもなお、FOIP構想はインド太平洋地域における繁栄と連結性を促進するために極めて重要である。ここにFOIP構想の安全保障に関する逆説が存在する。FOIP構想は、インド太平洋の安全保障に専念する提携国や同盟国の連接網を拡大する能力を持つ。一方で、自国と同盟国を守る意思のある他国にその負担を分担させることにより、米国の安全保障負担を減らすことができる。しかし、当分の間はFOIP構想が台湾有事を防ぐ能力を持たないため、FOIP構想の拡張と米国の同盟網の拡大は、米国の抑止力を基盤としている。
(3) この状況に対応するために、政策立案者はFOIP構想を促進するための機関を構築することと東南アジアおよびオセアニアの国々を米国、日本、ヨーロッパの経済圏に組み込むことという2つの道を同時に進む必要がある。そのため、この報告書では、エネルギー、半導体、海外経済開発および投資といった重要な戦略分野に焦点を当てて政策提言を行っている。
(4) FOIP構想への支援を進めるために、本報告書はいくつかの提言を行っている。
a. 第1に、FOIP構想を効果的にするためには、適応性が必要である。この地域の高い成長率と社会政治的変化を考慮すると、構造、所要、提携国が時間とともに変化するのは避けられない。しかし、FOIP構想を支持する国々が特定の機能分野で協調と協力を続ける限り、東南アジアや他の地域における変化にもかかわらず、その取り組みを持続できる。また、このような構造を非政府的なものとして設計することは有益である。
b. 第1に関連して、第2にFOIP構想は、変化する状況に迅速に対応する必要がある。東南アジア諸国がFOIP構想を支持することに消極的な理由の1つは、彼らが超大国間の対立と見なす状況を避けたいと考えているためである。南シナ海での中国の侵略行為を受け、フィリピンが米国、日本、その他の提携国と積極的に協力している例が示すように、FOIP構想を支持する提携国は、新たな提携国と協力する機会が生じた際に迅速に対応できる型板を作成すべきである。日米政府が、レーダー設置や円滑化協定を通じてフィリピン政府の安全保障の所要に対応し、ルソン回廊や半導体分野での協力を通じて経済的所要にも対応した迅速さは、今後このような変化を進める上での模範となる。
c. 第3に、FOIP構想を真に成功させるためには、インド太平洋地域における多様な利害関係者を活用し、政府、民間部門、学術界、市民社会の潜在力を引き出す必要がある。たとえば、LNGターミナルの資金調達の問題に対処する際には、FOIP構想支持国が自国の産業および技術資産を活用することが重要である。こうすることで、最終的には地域内の経済協力が強化され、外交的な信頼が構築され、FOIP構想を支持するよう、インド太平洋における法に基づく秩序に最も影響を受ける国々を納得させる。
(5) インド太平洋全域でFOIP構想に対する幅広い合意を形成するのは、容易でも直接的でもない可能性が高く、それは今後、政治的、経済的、安全保障上の課題に直面するだろう。しかし、FOIP構想を支える原則である法の支配、そして資本、物資、人々の自由な流れは、何世代にもわたり、この地域の急速な経済成長と成功を支えてきた。米国とその同盟国は、この勝利に導く着想を支えるために協力し、引き続き最大限の努力を払うべきである。
記事参照:Past Lessons and Future Action: Policies for a Successful Free and Open Indo-Pacific
全文は以下を参照されたい。
Past Lessons and Future Action: Policies for a Successful Free and Open Indo-Pacific
https://s3.us-east-1.amazonaws.com/media.hudson.org/Past+Lessons+and+Future+Action+-+Policies+for+a+Successful+Free+and+Open+Indo-Pacific+-+Kenneth+Weinstein+-+William+Chou+(1).pdf
1月16日「中国とフィリピンは対立よりも協調を選択できる―フィリピン中国問題専門家論説」(South China Morning Post, January 16, 2025)
1月16日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、Philippine Association for Chinese Studies会長Lucio Blanco Pitlo IIIの“Manila and Beijing can still choose cooperation over conflict”と題する論説を掲載し、そこでLucio Blanco Pitlo IIIは南シナ海の海洋をめぐる争いが中国とフィリピンの緊張を高める中で、経済的なつながりを維持してフィリピンの発展に寄与させるため、海洋をめぐる争いに焦点を当て過ぎるべきではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2025年5月、フィリピンで中間選挙が実施される。米国でTrump政権が始まったこと、そして2024年に海上で暴力的衝突が起きたことにより、中比関係の危うさがこのまま維持されるかもしれない。幸運なことに、2国間には経済的紐帯がある。外交努力の改善によって敵意が和らぐ可能性がある。
(2) 2024年は、南シナ海における2国間関係は「最も危険な時期」であった。6月にはフィリピン人船員が親指を切断するという重大な事件が起きた。そうした事件を受け、フィリピンは南シナ海問題に関して、対話や信頼構築から攻撃的な透明性を求める方針に転換した。他方、中国はフィリピン船に放水銃を使用し、中国海警船は南シナ海に常駐し、フィリピンの沿岸に近づくことさえあった。そして、中比の海洋をめぐる争いに関するメディア報道の過熱が、国民の見方を硬化させてきた。中間選挙では機会主義的な政治家が、ナショナリズムに訴えて票を集めようとするかもしれない。
(3) 両国の関係の悪化がこのままの勢いを保たないようにするための措置が必要である。2024年7月、フィリピンによるセカンド・トーマス礁に座礁した軍艦に駐留する部隊への補給活動を許容する暫定的な取決が結ばれた。このような取決を別の海域にも拡大させることができるはずである。
(4) Trump次期大統領の復帰は不確実要素ではあるが、重要な要素でもある。中国は、フィリピンが米国から中距離ミサイルを調達、配備したことなどについて、同盟国とともに中国を抑止しようとする試みと見なしている。Trump次期大統領の言動は世界的な影響を及ぼし得る。米国が安全保障を理由に領土拡大主義を正当化するのであれば、中国がそうするのを誰が止めることができるのだろうか。
(5) 様々な逆風があるが、フィリピンと中国は、利害を共有する分野で協力する余地がある。かつて、フィリピンにおいて中国を顧客ないし標的としたオンラインカジノや詐欺集団の拠点が増えたことで、2国間関係は緊張した。しかしフィリピンは、オフショア・ゲーミング関係者の査証要件を厳格化し、オフショア・ゲーミングを全面禁止することで、そうした状況に歯止めをかけた。経済的には大きな影響があったが、中国人観光客をより多く受け入れることで、経済的悪影響は軽減できる可能性がある。
(6) 中国との提携を深めることで、フィリピンが目指している再生可能エネルギーへの移行は加速するだろう。中国はこの分野の支配的行為者であり、太陽光、風力、水力発電装置を多くの発展途上国に提供してきた。2024年11月、フィリピンのMarcos Jr.大統領は、世界最大規模の太陽光発電およびエネルギー貯蔵施設の起工式を行なっている。それは2,000億ペソ(34億米ドル)の資金が投じられ、3,500ヘクタールの敷地面積を持ち、200万世帯に電力を供給できると考えられている。その事業の契約者に中国コングロマリットEnergy Chinaが選定されている。この計画には、National Grid Corporation of the Philippinesが関わるが、National Grid Corporation of the Philippinesの株式の40%を中国国家送電網公社が取得すると報じられている。Marcos Jr.大統領はNational Grid Corporation of the Philippinesによる統一送電網の構築を称賛したが、中国による出資は、安全保障上の危険性があるという証拠がないにもかかわらず、批判の的となってきた。
(7) 中国は持続可能な運輸への移行を推進しており、したがって中国との提携は、フィリピンの公共交通機関や電気自動車の充電基盤施設の整備に貢献するであろう。実際、東南アジアは中国からの投資を求めており、フィリピンも傍観する理由がない。中国の資本はフィリピンの世界的地位を高めるはずである。しかし、海洋をめぐる争いに焦点を当て過ぎると、両国の関係は阻害されることになるであろう。
記事参照:Manila and Beijing can still choose cooperation over conflict
(1) 2025年5月、フィリピンで中間選挙が実施される。米国でTrump政権が始まったこと、そして2024年に海上で暴力的衝突が起きたことにより、中比関係の危うさがこのまま維持されるかもしれない。幸運なことに、2国間には経済的紐帯がある。外交努力の改善によって敵意が和らぐ可能性がある。
(2) 2024年は、南シナ海における2国間関係は「最も危険な時期」であった。6月にはフィリピン人船員が親指を切断するという重大な事件が起きた。そうした事件を受け、フィリピンは南シナ海問題に関して、対話や信頼構築から攻撃的な透明性を求める方針に転換した。他方、中国はフィリピン船に放水銃を使用し、中国海警船は南シナ海に常駐し、フィリピンの沿岸に近づくことさえあった。そして、中比の海洋をめぐる争いに関するメディア報道の過熱が、国民の見方を硬化させてきた。中間選挙では機会主義的な政治家が、ナショナリズムに訴えて票を集めようとするかもしれない。
(3) 両国の関係の悪化がこのままの勢いを保たないようにするための措置が必要である。2024年7月、フィリピンによるセカンド・トーマス礁に座礁した軍艦に駐留する部隊への補給活動を許容する暫定的な取決が結ばれた。このような取決を別の海域にも拡大させることができるはずである。
(4) Trump次期大統領の復帰は不確実要素ではあるが、重要な要素でもある。中国は、フィリピンが米国から中距離ミサイルを調達、配備したことなどについて、同盟国とともに中国を抑止しようとする試みと見なしている。Trump次期大統領の言動は世界的な影響を及ぼし得る。米国が安全保障を理由に領土拡大主義を正当化するのであれば、中国がそうするのを誰が止めることができるのだろうか。
(5) 様々な逆風があるが、フィリピンと中国は、利害を共有する分野で協力する余地がある。かつて、フィリピンにおいて中国を顧客ないし標的としたオンラインカジノや詐欺集団の拠点が増えたことで、2国間関係は緊張した。しかしフィリピンは、オフショア・ゲーミング関係者の査証要件を厳格化し、オフショア・ゲーミングを全面禁止することで、そうした状況に歯止めをかけた。経済的には大きな影響があったが、中国人観光客をより多く受け入れることで、経済的悪影響は軽減できる可能性がある。
(6) 中国との提携を深めることで、フィリピンが目指している再生可能エネルギーへの移行は加速するだろう。中国はこの分野の支配的行為者であり、太陽光、風力、水力発電装置を多くの発展途上国に提供してきた。2024年11月、フィリピンのMarcos Jr.大統領は、世界最大規模の太陽光発電およびエネルギー貯蔵施設の起工式を行なっている。それは2,000億ペソ(34億米ドル)の資金が投じられ、3,500ヘクタールの敷地面積を持ち、200万世帯に電力を供給できると考えられている。その事業の契約者に中国コングロマリットEnergy Chinaが選定されている。この計画には、National Grid Corporation of the Philippinesが関わるが、National Grid Corporation of the Philippinesの株式の40%を中国国家送電網公社が取得すると報じられている。Marcos Jr.大統領はNational Grid Corporation of the Philippinesによる統一送電網の構築を称賛したが、中国による出資は、安全保障上の危険性があるという証拠がないにもかかわらず、批判の的となってきた。
(7) 中国は持続可能な運輸への移行を推進しており、したがって中国との提携は、フィリピンの公共交通機関や電気自動車の充電基盤施設の整備に貢献するであろう。実際、東南アジアは中国からの投資を求めており、フィリピンも傍観する理由がない。中国の資本はフィリピンの世界的地位を高めるはずである。しかし、海洋をめぐる争いに焦点を当て過ぎると、両国の関係は阻害されることになるであろう。
記事参照:Manila and Beijing can still choose cooperation over conflict
1月16日「北極のホットスポット研究により、アラスカ北部とシベリアの気候ストレス地域が明らかに―米気候問題研究機関報告」(Phys.org, January 16, 2025)
1月16日付けの科学・研究・技術関連ニュースサイトPhys.orgは、米気候問題研究機関Woodwell Climate Research Centerの調査結果を受け、過去40年間に北極圏全域が複雑かつ憂慮すべき状況にあり、生態系の警告灯が点灯して、最も急速に変化している地域の多くはシベリア、カナダのノースウェスト準州、アラスカに集中しており、我々は、化石燃料の排出を抑えながら、これらの重要かつ脆弱な北方生態系を保護するために、国際社会として取り組む必要があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 新たな研究によると、過去40年間に北極圏全域で生態系の警告灯が点灯しており、最も急速に変化している地域の多くはシベリア、カナダのノースウェスト準州、アラスカに集中している。気候ストレスが最も大きい地域の多くは永久凍土であり、ここ数十年で深刻な温暖化と乾燥化を経験している。
(2) 生態系破壊の危機に瀕している場所(以下、ホットスポットと言う)を特定するために、Woodwell Climate Research Center、ノルウェーのUniversity of Oslo、米University of Montana、米Environmental Systems Research Institute(以下、Esriと言う)、スペインのUniversity of Lleidaの研究者チームは、30 年以上の地理空間データと長期気温記録を使用して、気温、湿度、植生の 3つの分野で生態系の脆弱性の指標を評価した。研究チームは、変化の個別の指標を評価するだけでなく、複数の変数を同時に調べて、この地域の気候と生態系の変化に関するより完全で統合された画像を作成し、空間統計を使用して、「近隣地域」、つまり過去10年間で特に大きな変化があった地域を検出した。
(3) Woodwell Climate Research Centerの北極研究の責任者でこの研究の主執筆者Jennifer Wattsは「気候温暖化は高緯度地域の生態系に多大なストレスを与えているが、そのストレスは場所によって大きく異なるため、我々はその違いを定量化したかった・・・現地や地域レベルでホットスポットを検出することは、北極の温暖化が生態系にどのような影響を与えているかをより正確に把握するだけでなく、今後の監視活動や管理資源を集中させる必要がある場所を特定するのに役立つ」と述べている。Esri の主任科学者Dawn Wrightは「これは基本的に、私たちが『場所の科学(Science of Where)』と呼んでいるものである」と述べている
(4) 調査結果は複雑かつ憂慮すべき状況を浮き彫りにしている。
1997年から2020年の間に最も顕著な陸地温暖化が起こったのは、シベリア極東ツンドラと中央シベリア全域である。ユーラシアのツンドラ地域ではおよそ99%が著しい温暖化を経験したが、ユーラシアの北方林では72%であった。シベリアやカナダのノースウェスト準州の一部のホットスポットが乾燥する一方で、研究者らは北米の一部で地表水の増加と洪水の発生を確認した。時間の経過とともに地表の水がこのように増加しているのは、永久凍土が解けつつある兆候である可能性が高い。研究者らが特定した最も脆弱な20ヵ所には、すべて永久凍土が含まれていた。「北極圏と亜寒帯地域は多様な生態系で構成されており、この研究での共通点は永久凍土であり、気候ストレスが最も大きい地域はすべて永久凍土を含んでおり、気温が上昇すると融解し易い。これは本当に憂慮すべき兆候である。これらの地域が気候温暖化に反応している複雑な方法の一部を明らかにしている」と、Woodwell Climate Research Centerの永久凍土経路研究責任者で、この研究の共著者Sue Nataliは述べている。
(5) 土地管理者やその他の意思決定者にとって、このような現地および地域のホットスポット を地図化することは、地域全体の平均よりも便利な監視手段として役立つ。現地特有のデータと傾向の検出は、現地の独特で変化する状況を考慮した管理および適応への取り組みを支援することができる。
(6) Jennifer Wattsは、研究チームがシベリアの北方林地域で発見した重大な変化は警鐘となるはずだとして、次のように語っている。「二酸化炭素の吸収と貯蔵に役立ってきたこれらの森林地帯は、現在、大きな気候ストレスにさらされ、火災のリスクが高まっている。我々は、化石燃料の排出を抑えながら、これらの重要かつ脆弱な北方生態系を保護するために、国際社会として取り組む必要がある。」
記事参照:Arctic hotspots study reveals areas of climate stress in Northern Alaska and Siberia
(1) 新たな研究によると、過去40年間に北極圏全域で生態系の警告灯が点灯しており、最も急速に変化している地域の多くはシベリア、カナダのノースウェスト準州、アラスカに集中している。気候ストレスが最も大きい地域の多くは永久凍土であり、ここ数十年で深刻な温暖化と乾燥化を経験している。
(2) 生態系破壊の危機に瀕している場所(以下、ホットスポットと言う)を特定するために、Woodwell Climate Research Center、ノルウェーのUniversity of Oslo、米University of Montana、米Environmental Systems Research Institute(以下、Esriと言う)、スペインのUniversity of Lleidaの研究者チームは、30 年以上の地理空間データと長期気温記録を使用して、気温、湿度、植生の 3つの分野で生態系の脆弱性の指標を評価した。研究チームは、変化の個別の指標を評価するだけでなく、複数の変数を同時に調べて、この地域の気候と生態系の変化に関するより完全で統合された画像を作成し、空間統計を使用して、「近隣地域」、つまり過去10年間で特に大きな変化があった地域を検出した。
(3) Woodwell Climate Research Centerの北極研究の責任者でこの研究の主執筆者Jennifer Wattsは「気候温暖化は高緯度地域の生態系に多大なストレスを与えているが、そのストレスは場所によって大きく異なるため、我々はその違いを定量化したかった・・・現地や地域レベルでホットスポットを検出することは、北極の温暖化が生態系にどのような影響を与えているかをより正確に把握するだけでなく、今後の監視活動や管理資源を集中させる必要がある場所を特定するのに役立つ」と述べている。Esri の主任科学者Dawn Wrightは「これは基本的に、私たちが『場所の科学(Science of Where)』と呼んでいるものである」と述べている
(4) 調査結果は複雑かつ憂慮すべき状況を浮き彫りにしている。
1997年から2020年の間に最も顕著な陸地温暖化が起こったのは、シベリア極東ツンドラと中央シベリア全域である。ユーラシアのツンドラ地域ではおよそ99%が著しい温暖化を経験したが、ユーラシアの北方林では72%であった。シベリアやカナダのノースウェスト準州の一部のホットスポットが乾燥する一方で、研究者らは北米の一部で地表水の増加と洪水の発生を確認した。時間の経過とともに地表の水がこのように増加しているのは、永久凍土が解けつつある兆候である可能性が高い。研究者らが特定した最も脆弱な20ヵ所には、すべて永久凍土が含まれていた。「北極圏と亜寒帯地域は多様な生態系で構成されており、この研究での共通点は永久凍土であり、気候ストレスが最も大きい地域はすべて永久凍土を含んでおり、気温が上昇すると融解し易い。これは本当に憂慮すべき兆候である。これらの地域が気候温暖化に反応している複雑な方法の一部を明らかにしている」と、Woodwell Climate Research Centerの永久凍土経路研究責任者で、この研究の共著者Sue Nataliは述べている。
(5) 土地管理者やその他の意思決定者にとって、このような現地および地域のホットスポット を地図化することは、地域全体の平均よりも便利な監視手段として役立つ。現地特有のデータと傾向の検出は、現地の独特で変化する状況を考慮した管理および適応への取り組みを支援することができる。
(6) Jennifer Wattsは、研究チームがシベリアの北方林地域で発見した重大な変化は警鐘となるはずだとして、次のように語っている。「二酸化炭素の吸収と貯蔵に役立ってきたこれらの森林地帯は、現在、大きな気候ストレスにさらされ、火災のリスクが高まっている。我々は、化石燃料の排出を抑えながら、これらの重要かつ脆弱な北方生態系を保護するために、国際社会として取り組む必要がある。」
記事参照:Arctic hotspots study reveals areas of climate stress in Northern Alaska and Siberia
1月17日「インド洋地域における戦略的対立―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, January 17, 2025)
1月17日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのPacific Frum が発行するPacNet Commentary のウエブサイトは、中東とインド洋地域を専門とするJason Olson博士の“Strategic Competition in the Indian Ocean Region”と題する論説を掲載し、ここでJason Olsonはインド太平洋地域への中国の進出に対して、米国は特にI2U2と呼ばれるインド、イスラエル、アラブ首長国連邦および米国間の協力関係を一層強化して対応する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 戦略的対立とは構想の対立である。米国とその同盟国や友好国は、法に基づく国際秩序が国家の主権を尊重し、強い友好関係によって共通の利益が促進されるという構想を推進している。これに対し、中国、ロシア、イランも友好関係と協力を深めている。イランは「善隣政策」を通じてインド洋地域(以下、IORと言う)における地位強化を図り、ロシアはウクライナでイランの軍事支援を活用し、中国はこの地域の緊張を利用して米国の利益を低下させながら、自国が優位に立つことを目指している。報道によれば、イランの最高指導者Ali Khamenei師は2023年11月、「アメリカに死を」は単なる標語ではなく、政策であると述べている。中国とロシアは、イランへの直接的支援に加え、その悪意ある行動を止めないことでイランの目標達成に貢献している。
(2) インド、イスラエル、アラブ首長国連邦、米国の4ヵ国(以下、I2U2と言う)は関係強化によってIORにおける中国、ロシア、イランの悪意ある影響力に対抗している。現在、IORには紛争と戦略的対立の両方が存在するが、「インド太平洋」戦略においては「インド」を正しく理解する必要がある。米大統領が1946年にインドを承認して以来80年近く、米国はIOR全域において、安全保障上の友好国関係網を築いており、友好国は単に守るべき対象というだけではなく、継続して関係強化に努めなければならない。米国との友好関係は戦略的に優位で、大きな強みになる。これは、紅海でフーシ派の攻撃によって引き起こされた最近の貿易障害に対するU.S. Central Command(米中央軍)の迅速な対応が証明している。フーシ派の無差別攻撃に対応するため、米国は20ヵ国以上を結集させた。これほど迅速に国際的対応を採ることができたのは米国だけで、米国が同盟国や友好国の間で育んだ信頼と相互運用性なくしては不可能だったであろう。各国は、エネルギー、物資その他の自由な流れを守ることによってIOR全域と太平洋東部の安定を維持している。
(3) IORにおける米国の友好関係は、近代化と繁栄に向けた変革が進むにつれて、その価値をさらに高めるであろう。米国はこの変革の一翼を担うことを望んでおり、対立相手もそれを承知している。インドは14ヵ国からなるInformation Fusion Center—Indian Ocean Region(インド洋地域情報融合センター、IFC-IOR)を通じて、ソマリアの海賊に乗っ取られたマルタ船籍の「MV ルエン」の監視と追跡に成功し、ソマリア海賊を投降させた。アラブ首長国連邦(UAE)は、国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を6カ月間送り込み、また火星周回軌道への初挑戦に成功し、宇宙で世界的な脚光を浴びている。イスラエルは2024年、米英仏の支援を得て、イランによる2度のミサイル攻撃から自国およびサウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、アラブ首長国連邦の領土防衛に成功した。これらはすべて、I2U2とアブラハム合意が実際に機能している例である。米国の関与がこの変革に貢献しており、将来のIORは、それを支援する人々に開かれたものであり続けるであろう。
(4) 中国は、電気通信や物理的社会基盤整備、外交、安全保障の協力によって、IORに急速に浸透し、米国の離反という誤情報を広めて、米国に取って代わろうとしている。2008年以来アデン湾の海賊対策を表向きの任務とする中国の海軍護衛任務部隊は、2023年10月下旬、クウェート、カタール、UAE、パキスタンを訪問しており、この前例のない一連の寄港は、中国が安全保障上の影響力と港湾利用権を獲得するための、画期的な出来事であった。中国にとっての安全保障上の友好国という言葉の意味は、米国とは全く異なるもので、インド、イスラエル、UAEも警戒している。この地域の各国は、中国の装備品売却の裏に隠れた代償があることを学んでいる。中国は、自国の軍事力で地域の安全保障や安定を支えようとは考えてはおらず、中国の資産と権益の保護にのみ焦点を当てている。中国の失敗を考慮すれば、インドはIORの安全保障提供者として台頭することができる。
(5) 中国は、2023年3月にイランとサウジアラビアとの和解を仲介して以降、イランの不安定化行動をほとんど抑制していない。この和解が上辺だけである証拠に、イランはフーシ派への武装支援などを継続し、中国はイランの輸出石油の90%を購入しているだけでなく、イラン政府の制裁逃れを助け、地域の不安定化を加速させている。中国がその影響力を活用しない、あるいは活用できないことがイランによる国際交易妨害の一因となっている。I2U2諸国は、IORのすべての国々のため、国際交易の自由確保に協力しなければならない。
(6) 中国が、世界を主導する大国になるという目標を達成するには、IORの利用が不可欠である。中国とインド洋地域の協力強化は、一帯一路構想を前進させ、2国間関係を強化し、地域諸国の経済多様化に貢献する。一帯一路の重要な要素は、中央アジアと南アジアを経由して中国とヨーロッパを結ぶ陸上輸送路を構築することであり、これは地域経済を強化する可能性があるが、リスクも伴う。米国が2024年に発表したインド・中東・欧州経済回廊(以下、IMECと言う)は、中国の「一帯一路」に対する有望な対抗策となる。IMECは、自由貿易、強制のない経済発展、各国の主権支持を強化する自由で開かれたインド洋地域という構想を支持している。
(7) 米国は、過去10年間にこの地域への武器売却を増加させた中国のような対立相手に対抗するために、中国を上回るべく各分野で改善を図らなければならない。米国はまた、ジブチの海軍基地やスリランカ、パキスタン、ミャンマーの港湾などIORにおける人民解放軍の基地拡張の可能性を監視している。中国が海軍基地を設置するつもりのない港湾であっても、港湾施設を所有または運営する中国国有企業は、I2U2に大きな政治的影響力を与える可能性があり、将来の紛争において、I2U2 諸国に後方支援上の支障を生じる。中国がIOR経由のエネルギー輸入に大きく依存しているのに対し、I2U2の海軍がスエズ運河、バブ・エル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡、マラッカ海峡等の重要な海上交通路や要衝を支配していることを考慮すると、地域のさらなる不安定化の抑止が可能と思われる。I2U2はIOR全域で中国等に対抗し、それぞれの国のインド太平洋戦略上の利益のために協力するべきである。
記事参照:Strategic Competition in the Indian Ocean Region
(1) 戦略的対立とは構想の対立である。米国とその同盟国や友好国は、法に基づく国際秩序が国家の主権を尊重し、強い友好関係によって共通の利益が促進されるという構想を推進している。これに対し、中国、ロシア、イランも友好関係と協力を深めている。イランは「善隣政策」を通じてインド洋地域(以下、IORと言う)における地位強化を図り、ロシアはウクライナでイランの軍事支援を活用し、中国はこの地域の緊張を利用して米国の利益を低下させながら、自国が優位に立つことを目指している。報道によれば、イランの最高指導者Ali Khamenei師は2023年11月、「アメリカに死を」は単なる標語ではなく、政策であると述べている。中国とロシアは、イランへの直接的支援に加え、その悪意ある行動を止めないことでイランの目標達成に貢献している。
(2) インド、イスラエル、アラブ首長国連邦、米国の4ヵ国(以下、I2U2と言う)は関係強化によってIORにおける中国、ロシア、イランの悪意ある影響力に対抗している。現在、IORには紛争と戦略的対立の両方が存在するが、「インド太平洋」戦略においては「インド」を正しく理解する必要がある。米大統領が1946年にインドを承認して以来80年近く、米国はIOR全域において、安全保障上の友好国関係網を築いており、友好国は単に守るべき対象というだけではなく、継続して関係強化に努めなければならない。米国との友好関係は戦略的に優位で、大きな強みになる。これは、紅海でフーシ派の攻撃によって引き起こされた最近の貿易障害に対するU.S. Central Command(米中央軍)の迅速な対応が証明している。フーシ派の無差別攻撃に対応するため、米国は20ヵ国以上を結集させた。これほど迅速に国際的対応を採ることができたのは米国だけで、米国が同盟国や友好国の間で育んだ信頼と相互運用性なくしては不可能だったであろう。各国は、エネルギー、物資その他の自由な流れを守ることによってIOR全域と太平洋東部の安定を維持している。
(3) IORにおける米国の友好関係は、近代化と繁栄に向けた変革が進むにつれて、その価値をさらに高めるであろう。米国はこの変革の一翼を担うことを望んでおり、対立相手もそれを承知している。インドは14ヵ国からなるInformation Fusion Center—Indian Ocean Region(インド洋地域情報融合センター、IFC-IOR)を通じて、ソマリアの海賊に乗っ取られたマルタ船籍の「MV ルエン」の監視と追跡に成功し、ソマリア海賊を投降させた。アラブ首長国連邦(UAE)は、国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を6カ月間送り込み、また火星周回軌道への初挑戦に成功し、宇宙で世界的な脚光を浴びている。イスラエルは2024年、米英仏の支援を得て、イランによる2度のミサイル攻撃から自国およびサウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、アラブ首長国連邦の領土防衛に成功した。これらはすべて、I2U2とアブラハム合意が実際に機能している例である。米国の関与がこの変革に貢献しており、将来のIORは、それを支援する人々に開かれたものであり続けるであろう。
(4) 中国は、電気通信や物理的社会基盤整備、外交、安全保障の協力によって、IORに急速に浸透し、米国の離反という誤情報を広めて、米国に取って代わろうとしている。2008年以来アデン湾の海賊対策を表向きの任務とする中国の海軍護衛任務部隊は、2023年10月下旬、クウェート、カタール、UAE、パキスタンを訪問しており、この前例のない一連の寄港は、中国が安全保障上の影響力と港湾利用権を獲得するための、画期的な出来事であった。中国にとっての安全保障上の友好国という言葉の意味は、米国とは全く異なるもので、インド、イスラエル、UAEも警戒している。この地域の各国は、中国の装備品売却の裏に隠れた代償があることを学んでいる。中国は、自国の軍事力で地域の安全保障や安定を支えようとは考えてはおらず、中国の資産と権益の保護にのみ焦点を当てている。中国の失敗を考慮すれば、インドはIORの安全保障提供者として台頭することができる。
(5) 中国は、2023年3月にイランとサウジアラビアとの和解を仲介して以降、イランの不安定化行動をほとんど抑制していない。この和解が上辺だけである証拠に、イランはフーシ派への武装支援などを継続し、中国はイランの輸出石油の90%を購入しているだけでなく、イラン政府の制裁逃れを助け、地域の不安定化を加速させている。中国がその影響力を活用しない、あるいは活用できないことがイランによる国際交易妨害の一因となっている。I2U2諸国は、IORのすべての国々のため、国際交易の自由確保に協力しなければならない。
(6) 中国が、世界を主導する大国になるという目標を達成するには、IORの利用が不可欠である。中国とインド洋地域の協力強化は、一帯一路構想を前進させ、2国間関係を強化し、地域諸国の経済多様化に貢献する。一帯一路の重要な要素は、中央アジアと南アジアを経由して中国とヨーロッパを結ぶ陸上輸送路を構築することであり、これは地域経済を強化する可能性があるが、リスクも伴う。米国が2024年に発表したインド・中東・欧州経済回廊(以下、IMECと言う)は、中国の「一帯一路」に対する有望な対抗策となる。IMECは、自由貿易、強制のない経済発展、各国の主権支持を強化する自由で開かれたインド洋地域という構想を支持している。
(7) 米国は、過去10年間にこの地域への武器売却を増加させた中国のような対立相手に対抗するために、中国を上回るべく各分野で改善を図らなければならない。米国はまた、ジブチの海軍基地やスリランカ、パキスタン、ミャンマーの港湾などIORにおける人民解放軍の基地拡張の可能性を監視している。中国が海軍基地を設置するつもりのない港湾であっても、港湾施設を所有または運営する中国国有企業は、I2U2に大きな政治的影響力を与える可能性があり、将来の紛争において、I2U2 諸国に後方支援上の支障を生じる。中国がIOR経由のエネルギー輸入に大きく依存しているのに対し、I2U2の海軍がスエズ運河、バブ・エル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡、マラッカ海峡等の重要な海上交通路や要衝を支配していることを考慮すると、地域のさらなる不安定化の抑止が可能と思われる。I2U2はIOR全域で中国等に対抗し、それぞれの国のインド太平洋戦略上の利益のために協力するべきである。
記事参照:Strategic Competition in the Indian Ocean Region
1月18日「Trump次期大統領、中国のパワーを封じ込められるか―米専門家論説」(19FortyFive, January 18, 2025)
1月18日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveは、米シンクタンクThe East-West Center上席研究員Denny Royの“Can Donald Trump Really Contain China’s Rise to Power?”と題する論説を掲載し、ここでDenny RoyはTrump次期大統領が中国のパワーが台頭してくるのを封じ込めることができるかと問い、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、新興の大国として近隣諸国により大きな戦略的影響力を及ぼそうとしている。中国政府には2つの明確な目標がある。第1に、中国が領有権を主張する全ての係争地域に関して、国際社会からその領有権の承認を勝ち取ることである。係争地域には、黄海から東シナ海、台湾を経て南シナ海の大部分を包摂する広大な地域が含まれる。第2に、中国政府は米国との安全保障協力や中国共産党指導体制に不利となる行為など、中国政府が反対する如何なる重要な政策も履行しないよう近隣諸国政府に釘を刺す影響力の確保を目指している。こうした中国政府の野望の一部は西太平洋における米国の戦略的優越に挑戦するものであり、したがって、中国がそれらを追求するにつれて、米国新政権からどのような抵抗を受けることになるのか。
(2) いくつかの要因により、Trump第2期政権はアジア太平洋地域に対する戦略的影響力における米国の位置付けを大幅に低下させることになろう。これらの要因の中には、Trump政権にとって手に負えないものもある。まず、Trump次期大統領が再就任する以前に、既に米中2国間競争を取り巻く状況は、経済面や世界の多くの国が中国に忖度するという政治的影響力の面などで、米国に不利な状況になっていた。より的確に表現すれば、中国が潜在的にこれまで以上に侮り難い敵対勢力になったことである。パワーとは、国家がその意志を軍事的に他に押し付ける能力から生まれる。中国は、技術面で米国と同等に近い存在であるだけでなく、たとえば、造船など多くの重要な軍装備の製造能力においては米国を凌駕している。
(3) こうした対中国における構造的に不利な側面に加えて、中国を「封じ込める(“containing”)」というTrump次期大統領の誓約には疑問が残る。恐らく、大国がその優越を長く維持する最善の方法は、他の諸国に対して、覇権国が主導し、執行する規範に従うことで利益が得られることを納得させることによって、これら諸国の支持を勝ち取ることである。このためには、覇権国は、国際公共財を提供したり、国際法に制約される意思を示したりすることで、随時損失を被る覚悟が必要になる。とは言え、長期的には、威信と影響力という無形の利益は間違いなく損失を上回る。しかしながら、Trump次期大統領は、アメリカ単独主義を好み、国際機関には懐疑的である。Trump次期大統領は、米国による国際的な関与は米国に直接的かつ目に見える形で利益をもたらすべきものであると主張する。したがって、Trump次期大統領から見て、アジア太平洋地域における米国の同盟諸国は、中国の侵略的行動に対抗することを狙いとする連合における「戦力増幅装置(“force multipliers”)」としての価値を持っておらず、むしろ、日本や韓国のなどの同盟国が裕福な防衛ただ乗り国に見えているのである。
(4) Trump次期大統領は、第1期就任早々、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から脱退したように、多国間貿易協定にも反対している。国際貿易の条件を設定する機関への参画は米国にとって国際的主導権を維持する上で益するものだが、Trump次期大統領はマイナス面の方が大きいと考えているようである。Trump次期大統領は、これまでの公式声明から判断すれば、対米貿易黒字を平準化するために中国に圧力をかけることには非常に関心があるように見えるが、地域覇権を目指す中国の鉾先を鈍らせる戦略地政学的構想にはあまり関心がないようである。実際、米中間の覇権抗争における最も可能性の高い発火点は、南シナ海と台湾である。ところが、8万件に及ぶ検索可能なTrump次期大統領のツイッターの履歴によれば、南シナ海に言及しているのは1回だけで、しかも大統領就任前の発言である。台湾については、もっと多く言及しているが、Trump次期大統領の発言は、中国との強制的な統一から台湾を守れなければ、アジア太平洋における米国の戦略的指導的地位を如何に破滅させることになるかについて言及したものではない。
(5) Trump第2期政権の指名高官には、国務長官候補のMarco Rubioや国家安全保障担当大統領補佐官候補Mike Waltzなど、中国が近隣諸国を靡かせるのを阻止することに強い関心を持つ人物が何人か含まれている。しかしながら、第1期政権でも見られたように、Trump次期大統領が、米国民に対して勝利であると吹聴できる、習近平主席との貿易協定の締結を期待して、中国強硬派を排するという危険性は常に存在するであろう。
記事参照:Can Donald Trump Really Contain China’s Rise to Power?
(1) 中国は、新興の大国として近隣諸国により大きな戦略的影響力を及ぼそうとしている。中国政府には2つの明確な目標がある。第1に、中国が領有権を主張する全ての係争地域に関して、国際社会からその領有権の承認を勝ち取ることである。係争地域には、黄海から東シナ海、台湾を経て南シナ海の大部分を包摂する広大な地域が含まれる。第2に、中国政府は米国との安全保障協力や中国共産党指導体制に不利となる行為など、中国政府が反対する如何なる重要な政策も履行しないよう近隣諸国政府に釘を刺す影響力の確保を目指している。こうした中国政府の野望の一部は西太平洋における米国の戦略的優越に挑戦するものであり、したがって、中国がそれらを追求するにつれて、米国新政権からどのような抵抗を受けることになるのか。
(2) いくつかの要因により、Trump第2期政権はアジア太平洋地域に対する戦略的影響力における米国の位置付けを大幅に低下させることになろう。これらの要因の中には、Trump政権にとって手に負えないものもある。まず、Trump次期大統領が再就任する以前に、既に米中2国間競争を取り巻く状況は、経済面や世界の多くの国が中国に忖度するという政治的影響力の面などで、米国に不利な状況になっていた。より的確に表現すれば、中国が潜在的にこれまで以上に侮り難い敵対勢力になったことである。パワーとは、国家がその意志を軍事的に他に押し付ける能力から生まれる。中国は、技術面で米国と同等に近い存在であるだけでなく、たとえば、造船など多くの重要な軍装備の製造能力においては米国を凌駕している。
(3) こうした対中国における構造的に不利な側面に加えて、中国を「封じ込める(“containing”)」というTrump次期大統領の誓約には疑問が残る。恐らく、大国がその優越を長く維持する最善の方法は、他の諸国に対して、覇権国が主導し、執行する規範に従うことで利益が得られることを納得させることによって、これら諸国の支持を勝ち取ることである。このためには、覇権国は、国際公共財を提供したり、国際法に制約される意思を示したりすることで、随時損失を被る覚悟が必要になる。とは言え、長期的には、威信と影響力という無形の利益は間違いなく損失を上回る。しかしながら、Trump次期大統領は、アメリカ単独主義を好み、国際機関には懐疑的である。Trump次期大統領は、米国による国際的な関与は米国に直接的かつ目に見える形で利益をもたらすべきものであると主張する。したがって、Trump次期大統領から見て、アジア太平洋地域における米国の同盟諸国は、中国の侵略的行動に対抗することを狙いとする連合における「戦力増幅装置(“force multipliers”)」としての価値を持っておらず、むしろ、日本や韓国のなどの同盟国が裕福な防衛ただ乗り国に見えているのである。
(4) Trump次期大統領は、第1期就任早々、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から脱退したように、多国間貿易協定にも反対している。国際貿易の条件を設定する機関への参画は米国にとって国際的主導権を維持する上で益するものだが、Trump次期大統領はマイナス面の方が大きいと考えているようである。Trump次期大統領は、これまでの公式声明から判断すれば、対米貿易黒字を平準化するために中国に圧力をかけることには非常に関心があるように見えるが、地域覇権を目指す中国の鉾先を鈍らせる戦略地政学的構想にはあまり関心がないようである。実際、米中間の覇権抗争における最も可能性の高い発火点は、南シナ海と台湾である。ところが、8万件に及ぶ検索可能なTrump次期大統領のツイッターの履歴によれば、南シナ海に言及しているのは1回だけで、しかも大統領就任前の発言である。台湾については、もっと多く言及しているが、Trump次期大統領の発言は、中国との強制的な統一から台湾を守れなければ、アジア太平洋における米国の戦略的指導的地位を如何に破滅させることになるかについて言及したものではない。
(5) Trump第2期政権の指名高官には、国務長官候補のMarco Rubioや国家安全保障担当大統領補佐官候補Mike Waltzなど、中国が近隣諸国を靡かせるのを阻止することに強い関心を持つ人物が何人か含まれている。しかしながら、第1期政権でも見られたように、Trump次期大統領が、米国民に対して勝利であると吹聴できる、習近平主席との貿易協定の締結を期待して、中国強硬派を排するという危険性は常に存在するであろう。
記事参照:Can Donald Trump Really Contain China’s Rise to Power?
1月20日「ハイ・ローミックスによりU.S. Armed Forcesの戦闘能力を強化し、中国を牽制する―米専門家論説」(The Center for a New American Security (CNAS), January 20, 2025)
1月20日付の米シンクタンクCenter for a New American Securityのウエブサイトは、同CenterのStacie Pettyjohn、同Center国防問題研究班研究員Carlton Haelig、同Center上席研究員兼国防問題研究班副責任者Becca Wasser、同Center国防問題研究班研究員Josh Wallinによる“Build a High-Low Mix to Enhance America’s Warfighting Edge and Deter China”と題する論説を掲載し、ここで4名は、トランプ政権は最初の100日間にインド太平洋地域におけるU.S. Armed Forcesの戦闘能力を強化するための行動を採ることで、抑止力を大幅に強化する機会を得られるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋における軍事的均衡は変化している。中国は軍近代化により、艦船、航空機、ミサイル、無人機などの保有数を大幅に増大させ、現状を変更しようとする中国政府の能力が拡大している。中国人民解放軍(以下、PLAという)は、南シナ海および東シナ海における領有権の主張や台湾周辺での威嚇的な軍事演習の増加など、この地域における強圧的な軍事的戦術の範囲と規模を大幅に拡大している。PLAの好戦的な行動は、米国の軍事力の相対的な衰退によって生じた中国の危険性評価の変化を反映している。U.S. Armed Forcesには、PLAを打倒する能力も戦闘概念もない。米国がこれらの欠陥を是正する行動を起こさなければ、中国は侵略戦争に勝利できると判断し、実際に戦争を開始する可能性が高まる。
(2) Trump政権は、政権発足当初からこうした傾向を覆し、中国に対する抑止力を強化するための措置を講じることができる。推奨される行動は、次の3つである。
a. 低価格の自律型兵器の迅速な配備
b. 高性能兵器と低価格の装備を効果的に組み合わせた戦闘概念の開発
c. 適切なシステムの生産と配備を迅速化するための調達過程と防衛産業基盤の改善
(3) U.S. Armed Forcesは、中国との戦争に勝利するために、より多くの戦力を必要としている。中国との大規模な戦争の初期の数週間は、兵器備蓄に多大な負担を強いることになり、大型艦艇、航空機、戦闘車両等の消耗も相当なものになる。戦闘が長期化すれば、それはさらに大きくなる。ステルス機、攻撃型潜水艦、長距離ミサイルといった能力は、中国の侵略を打ち負かすために不可欠であるが、米国にはそのような高性能兵器を十分に用意することも、迅速に製造することもできない。そのため、その差を埋めるために低価格の自律型システムが必要とされている。しかし、あらゆる領域と戦闘任務にわたる自律型システムの開発と統合は進んでいない。U.S. Department of Defenseは、低価格の自律型システムの試験、評価、実用化を迅速化し、U.S. Armed Forcesの操作員にこれらの能力をより早く提供し、統合軍にそれらのシステムを大規模に組み込むべきである。
(4) 現在、低価格の自律型システムと高性能兵器を統合し、戦場での成果を向上させるための明確な計画はない。これらのシステムは互いに代替できるものではないので、統合軍は、重要な戦闘任務を達成するために、異なる能力を時系列でどのように組み合わせ、いつ使用するかの構想を開発する必要がある。U.S. Department of Defenseは、既存の有人兵器システムに、自爆型ドローンのような単純な自律型兵器をどのように組み込むかについて、より詳細な計画を立てる必要がある。当面は、安価な消耗品システムを大量に導入することで、高価で在庫数の少ない艦艇等の消耗を減らすことができる。両方の能力を統合した戦闘構想を策定することで、新政権は、インド太平洋地域における中国の軍事行動をより効果的に抑止し、米国に挑戦することについて中国に再考を促すことができる。
(5) U.S. Department of Defenseは、新たな能力を迅速かつ大規模に獲得することができない。この状況を改善するためには、米国が高性能兵器および簡素な低価格の装備の両方を生産、取得する方法を即座に改善することである。U.S. Department of Defenseは、簡潔な問題定義を作成し、運用者と協議し、創造的な取得技術を奨励することで、取得経路の速度、規模、効率を改善するための措置を採ることができる。艦船等の開発開始から運用環境への導入までの時間を短縮することで、艦船等の供給力が向上し、戦闘概念への統合が迅速化され、紛争が始まる前に、運用者がこれらのシステムに対する信頼性を向上させることができる。また、米国は、必要とする艦船等、兵器、および部品を高性能兵器と低価格装備の絶妙な釣り合いで生産できる防衛産業基盤の能力を向上させる必要がある。今の米国の防衛産業基盤で、将来の軍の姿を構築、維持、支援することはできない。新政権は直ちに、米軍が中国との紛争で予想される兵器の使用に追いつくことができるよう、高額な兵器を大量に調達し始めるべきである。
(6) Trump政権は最初の100日間に、インド太平洋地域におけるU.S. Armed Forcesの戦闘能力を強化するため、以下の提言に沿った行動を採ることで、抑止力を大幅に強化できる。
a. 多領域にわたる自律システムの試験と評価に対する危険性回避的な取り組みを止め、統合戦力に組み入れて検証と統合を行う。
b. 高価格で精巧な艦艇等と低価格で消耗可能なシステムを統合し、主要な任務を達成するための最も効果的な方法を決定する、
c. インド太平洋地域向けの戦闘構想を策定する。
d. U.S. Department of Defenseがより多様な艦船等を迅速かつ大規模に運用者の手に届けることができるよう、問題解決型で迅速かつ機敏な取得過程を奨励する。
e. 戦時に精巧な兵器の生産量をただちに増やせるよう、重要な艦艇、航空機、戦闘車両等の大型兵器の予備生産能力に投資する。
記事参照:Build a High-Low Mix to Enhance America’s Warfighting Edge and Deter China
(1) インド太平洋における軍事的均衡は変化している。中国は軍近代化により、艦船、航空機、ミサイル、無人機などの保有数を大幅に増大させ、現状を変更しようとする中国政府の能力が拡大している。中国人民解放軍(以下、PLAという)は、南シナ海および東シナ海における領有権の主張や台湾周辺での威嚇的な軍事演習の増加など、この地域における強圧的な軍事的戦術の範囲と規模を大幅に拡大している。PLAの好戦的な行動は、米国の軍事力の相対的な衰退によって生じた中国の危険性評価の変化を反映している。U.S. Armed Forcesには、PLAを打倒する能力も戦闘概念もない。米国がこれらの欠陥を是正する行動を起こさなければ、中国は侵略戦争に勝利できると判断し、実際に戦争を開始する可能性が高まる。
(2) Trump政権は、政権発足当初からこうした傾向を覆し、中国に対する抑止力を強化するための措置を講じることができる。推奨される行動は、次の3つである。
a. 低価格の自律型兵器の迅速な配備
b. 高性能兵器と低価格の装備を効果的に組み合わせた戦闘概念の開発
c. 適切なシステムの生産と配備を迅速化するための調達過程と防衛産業基盤の改善
(3) U.S. Armed Forcesは、中国との戦争に勝利するために、より多くの戦力を必要としている。中国との大規模な戦争の初期の数週間は、兵器備蓄に多大な負担を強いることになり、大型艦艇、航空機、戦闘車両等の消耗も相当なものになる。戦闘が長期化すれば、それはさらに大きくなる。ステルス機、攻撃型潜水艦、長距離ミサイルといった能力は、中国の侵略を打ち負かすために不可欠であるが、米国にはそのような高性能兵器を十分に用意することも、迅速に製造することもできない。そのため、その差を埋めるために低価格の自律型システムが必要とされている。しかし、あらゆる領域と戦闘任務にわたる自律型システムの開発と統合は進んでいない。U.S. Department of Defenseは、低価格の自律型システムの試験、評価、実用化を迅速化し、U.S. Armed Forcesの操作員にこれらの能力をより早く提供し、統合軍にそれらのシステムを大規模に組み込むべきである。
(4) 現在、低価格の自律型システムと高性能兵器を統合し、戦場での成果を向上させるための明確な計画はない。これらのシステムは互いに代替できるものではないので、統合軍は、重要な戦闘任務を達成するために、異なる能力を時系列でどのように組み合わせ、いつ使用するかの構想を開発する必要がある。U.S. Department of Defenseは、既存の有人兵器システムに、自爆型ドローンのような単純な自律型兵器をどのように組み込むかについて、より詳細な計画を立てる必要がある。当面は、安価な消耗品システムを大量に導入することで、高価で在庫数の少ない艦艇等の消耗を減らすことができる。両方の能力を統合した戦闘構想を策定することで、新政権は、インド太平洋地域における中国の軍事行動をより効果的に抑止し、米国に挑戦することについて中国に再考を促すことができる。
(5) U.S. Department of Defenseは、新たな能力を迅速かつ大規模に獲得することができない。この状況を改善するためには、米国が高性能兵器および簡素な低価格の装備の両方を生産、取得する方法を即座に改善することである。U.S. Department of Defenseは、簡潔な問題定義を作成し、運用者と協議し、創造的な取得技術を奨励することで、取得経路の速度、規模、効率を改善するための措置を採ることができる。艦船等の開発開始から運用環境への導入までの時間を短縮することで、艦船等の供給力が向上し、戦闘概念への統合が迅速化され、紛争が始まる前に、運用者がこれらのシステムに対する信頼性を向上させることができる。また、米国は、必要とする艦船等、兵器、および部品を高性能兵器と低価格装備の絶妙な釣り合いで生産できる防衛産業基盤の能力を向上させる必要がある。今の米国の防衛産業基盤で、将来の軍の姿を構築、維持、支援することはできない。新政権は直ちに、米軍が中国との紛争で予想される兵器の使用に追いつくことができるよう、高額な兵器を大量に調達し始めるべきである。
(6) Trump政権は最初の100日間に、インド太平洋地域におけるU.S. Armed Forcesの戦闘能力を強化するため、以下の提言に沿った行動を採ることで、抑止力を大幅に強化できる。
a. 多領域にわたる自律システムの試験と評価に対する危険性回避的な取り組みを止め、統合戦力に組み入れて検証と統合を行う。
b. 高価格で精巧な艦艇等と低価格で消耗可能なシステムを統合し、主要な任務を達成するための最も効果的な方法を決定する、
c. インド太平洋地域向けの戦闘構想を策定する。
d. U.S. Department of Defenseがより多様な艦船等を迅速かつ大規模に運用者の手に届けることができるよう、問題解決型で迅速かつ機敏な取得過程を奨励する。
e. 戦時に精巧な兵器の生産量をただちに増やせるよう、重要な艦艇、航空機、戦闘車両等の大型兵器の予備生産能力に投資する。
記事参照:Build a High-Low Mix to Enhance America’s Warfighting Edge and Deter China
2月14日「バルト海における海底基幹施設防衛の努力を強めるNATO―英軍事安全保障問題専門家論説」(Naval News, January 14, 2025)
2月14日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval News は、ロンドンで活動するフリー評論家Lee Willettの“NATO moves to enhance CUI surveillance activity in Baltic Sea”と題する記事を掲載し、そこでLee Willett はNATOが展開している「バルト海監視」活動の背景とその重要性、具体的な内容について、要旨以下のように述べている。
(1) NATOのAllied Command Operation(以下、ACOと言う)は、バルト海の重要海底基幹施設(critical undersea infrastructure:以下、CUIと言う)に損害を与えようとする国家ないし非国家主体による活動の抑止のため、「バルト海監視(Baltic Sentry)」活動を新たに開始した。
(2) これは2022年以降に連続して起こったバルト海におけるCUIに対する事件を受けてのものである。2022年9月、デンマークのボルンホルム島沖合で、ノルドストリームのガスパイプライン2本が各所で破断した。また2023年10月にはガスパイプライン、24年11月にはインターネットケーブルと電信ケーブルが切断された。最近では、エストニアとフィンランドをつなぐEstLink2電力ケーブルなどが、2024年12月25日に損傷する事件があった。これらの海底ケーブル損傷の原因は、船舶によって引きずられた錨ということがわかった。
(3) EstLink2の事件の後、NATO事務総長が、NATOはバルト海の軍事力の配備を強化するとSNSで述べている。バルト海の軍事力の配備を強化は、ヨーロッパ連合軍最高司令官によれば、バルト海全域に集中的な抑止力を展開し、NATOの結束の強さを示すものだと訴えている。「バルト海監視」には、NATOのStanding NATO Maritime Group 1(SNMG1)とStanding NATO Mine Counter Measures Group 1(SNMCMG1)に所属する艦艇が参加する予定である。
(4) NATOは最近、新たに加盟したフィンランドやスウェーデンの支援およびそれらとの統合など、バルト海における配備を着実に築いてきた。Merivoimat(フィンランド海軍)のFreezing Winds 2024への参加など、CUIへの脅威に対抗する活動も展開してきた。
(5) CUI網には、通信・データ・電力伝達ケーブル、石油およびガスパイプライン、環境などの監視センサー、風力・波力発電装置などがある。バルト海にはさまざまなCUIが張り巡らされ、地域諸国にとって経済的に必要不可欠なものである。したがって、NATOのAllied Maritime Command(以下、MARCOMと言う)が述べるように、CUIへの依存度が高まるなかで、CUI防護はNATOにとって重大な優先事項である。
(6) ACOの下で、Joint Force Command Brunssumが、多領域の活動を調整しつつ、バルト海監視を主導する。MARCOMがバルト海海域での配備を調整し、さらにその下で、Deutsche Marine(ドイツ海軍)に新たに創設されたCommander Task Force (CTF) Balticが、艦船の戦術的な指揮を実施する。また、MARCOMを拠点として、NATO Centre for Security of CUI(以下、NMCSCUIと言う)が2023年6月に創設された。作戦段階の情報中枢であるNMCSCUIが、バルト海監視に支援を提供する。
(7) 「バルト海監視」には、艦船、潜水艦、海洋哨戒機、衛星とレーダー、無人システムなどさまざまな軍事力が投入される。そしてそのためにNATOは、無人水中機(UUVs)を含む幅広い軍事技術に投資をしている。MARCOMの広報担当者は、「CUIの安全確保は同盟国それぞれの責務であることに変わりはないが、NATOはCUIの安全保障を強化するために同盟国をよりよく支援するための積極的措置を採ってきている」と述べている。
記事参照:NATO moves to enhance CUI surveillance activity in Baltic Sea
(1) NATOのAllied Command Operation(以下、ACOと言う)は、バルト海の重要海底基幹施設(critical undersea infrastructure:以下、CUIと言う)に損害を与えようとする国家ないし非国家主体による活動の抑止のため、「バルト海監視(Baltic Sentry)」活動を新たに開始した。
(2) これは2022年以降に連続して起こったバルト海におけるCUIに対する事件を受けてのものである。2022年9月、デンマークのボルンホルム島沖合で、ノルドストリームのガスパイプライン2本が各所で破断した。また2023年10月にはガスパイプライン、24年11月にはインターネットケーブルと電信ケーブルが切断された。最近では、エストニアとフィンランドをつなぐEstLink2電力ケーブルなどが、2024年12月25日に損傷する事件があった。これらの海底ケーブル損傷の原因は、船舶によって引きずられた錨ということがわかった。
(3) EstLink2の事件の後、NATO事務総長が、NATOはバルト海の軍事力の配備を強化するとSNSで述べている。バルト海の軍事力の配備を強化は、ヨーロッパ連合軍最高司令官によれば、バルト海全域に集中的な抑止力を展開し、NATOの結束の強さを示すものだと訴えている。「バルト海監視」には、NATOのStanding NATO Maritime Group 1(SNMG1)とStanding NATO Mine Counter Measures Group 1(SNMCMG1)に所属する艦艇が参加する予定である。
(4) NATOは最近、新たに加盟したフィンランドやスウェーデンの支援およびそれらとの統合など、バルト海における配備を着実に築いてきた。Merivoimat(フィンランド海軍)のFreezing Winds 2024への参加など、CUIへの脅威に対抗する活動も展開してきた。
(5) CUI網には、通信・データ・電力伝達ケーブル、石油およびガスパイプライン、環境などの監視センサー、風力・波力発電装置などがある。バルト海にはさまざまなCUIが張り巡らされ、地域諸国にとって経済的に必要不可欠なものである。したがって、NATOのAllied Maritime Command(以下、MARCOMと言う)が述べるように、CUIへの依存度が高まるなかで、CUI防護はNATOにとって重大な優先事項である。
(6) ACOの下で、Joint Force Command Brunssumが、多領域の活動を調整しつつ、バルト海監視を主導する。MARCOMがバルト海海域での配備を調整し、さらにその下で、Deutsche Marine(ドイツ海軍)に新たに創設されたCommander Task Force (CTF) Balticが、艦船の戦術的な指揮を実施する。また、MARCOMを拠点として、NATO Centre for Security of CUI(以下、NMCSCUIと言う)が2023年6月に創設された。作戦段階の情報中枢であるNMCSCUIが、バルト海監視に支援を提供する。
(7) 「バルト海監視」には、艦船、潜水艦、海洋哨戒機、衛星とレーダー、無人システムなどさまざまな軍事力が投入される。そしてそのためにNATOは、無人水中機(UUVs)を含む幅広い軍事技術に投資をしている。MARCOMの広報担当者は、「CUIの安全確保は同盟国それぞれの責務であることに変わりはないが、NATOはCUIの安全保障を強化するために同盟国をよりよく支援するための積極的措置を採ってきている」と述べている。
記事参照:NATO moves to enhance CUI surveillance activity in Baltic Sea
2025年1月「プロジェクト33はインド太平洋地域における全領域の統合作戦を可能にする―U.S. Indo-Pacific Command司令官論説」(Proceedings, U.S. Naval Institute, January 2025)
2025年1月付けのU.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsは、U.S. Indo-Pacific Command司令官Sam Paparo海軍大将の“Project 33 Is Enabling Joint All-Domain Operations in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでSam Paparo大将は現在の軍事的指導方針であるプロジェクト33により、U.S. Indo-Pacific Commandは無人のロボットおよび自律システムを実用化し、そのシステムを群れとして運用する戦術を開発することによってU.S. Armed Forcesが勝利を収める能力を向上させるとともに、米国が単独で大規模な紛争を戦うシナリオは存在しないので、他国の軍隊と協力の重要性も指摘しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋地域は21世紀において最も重要な作戦領域である。米国は、この地域の安定を維持し、地域のすべての国の主権を保護するために奮闘している。中国、ロシア、北朝鮮は地域の安定と安全を脅かしている。この3ヵ国は、現在の法に基づく国際システムを自分たちに有利なように変えようとして不安定を生み出している。 U.S. Indo-Pacific Commandは、有能な同盟国や提携国と協力して、彼らが地域秩序を転覆するのを抑止するために絶えず準備をしており、U.S. Army、U.S. Navy、U.S. Marine Corps、U.S. Air Force、 U.S. Space Forceの能力を活用している。 U.S. Indo-Pacific Commandの軍事的指導方針は、海軍作戦部長(以下、CNOと言う)Lisa Franchetti大将の作成した新たなNavigation Plan 2024およびその実施計画プロジェクト33である。その方針により、我々は統合部隊として結集し、紛争を抑止し、危機に対応し、必要に応じて戦い、勝利を収めるため戦場を拡大することで、この抑止力を強化している。統合軍としての能力と同盟国や提携国との相互運用性の中核となるのは、U.S. Armed Forcesの各軍種の即応性と近代化である。プロジェクト33は、U.S. Navyを改善し、統合戦闘エコシステムを強化するための明確な道筋を提供する。プロジェクト33を通じて、U.S. Navyはロボットおよび自律システム(以下、UxSと言う)を実用化し、即応性を高め、適切な人材を維持するため努力する。水兵の戦術的習熟度を向上させるため、訓練を改善し、即応部隊を維持するための重要な基幹施設を復元する。主力艦の建造には何年もかかる。そのため、短期的に戦闘能力を高めるために、CNOはUxSの迅速な開発、配備を進めている。UxSは、通常戦力を増強し、攻撃力、目標の捕捉力、残存性を向上させる。また、プロジェクト33は、U.S. Navyの情報面と意思決定の面での優位性を高めるための中心的な戦闘システムとして、艦隊海洋作戦センター(fleet maritime operations center)を重視している。
(2) 2023年5月に米国防副長官Kathleen Hicksが発表した「再生計画(Replicator Initiative)」に基づくプロジェクト33により、U.S. Navyは、多くの地域で大きな能力で活動できるようになる。無人システムは、火力や効果をいつでも、複数の軸から投射できる機能を提供する。多くの場所で多くの弾薬を提供し、敵のC5ISR に対抗することに重点を置いているプロジェクト33の構想は、U.S. Navyと統合軍をより強力で、より残存性の高いものにする。別の例としては、Naval Information Warfare Center Pacific(米海軍太平洋情報戦センター)の「群集化することによって可能となる攻撃的戦術(Offensive Swarm-Enabled Tactics)」計画は、大量のUxSを群れとして使用する戦術(swarming tactics)の能力を検証している。さらに、U.S. Armyの自律システムへの継続的な運用により、米統合部隊はUxSの能力を継続的に向上させることができる。
(3) プロジェクト33の中核的な目標は、シー・ディナイアルとシー・コントロールである。米統合軍は、インド太平洋の戦域で地理的条件を利用して、敵の動きを方向付け、制限する方法を模索している。伝統的な能力と新しい能力を合わせることによって、主要な地域を悪意ある敵にとって戦闘することのできない地域にするであろう。人工知能(以下、AIと言う)はUxSを実現するための鍵となるであろう。AIは、ISRから火力、指揮統制、維持まで、シー・ディナイアルとシー・コントロールのあらゆる側面で果たすべき役割がある。U.S. Armed Forcesは、UxSを後押しするために、明確な要件、使用条件、運用概念を提供し続ける必要がある。そのためには、U.S. Armed Forcesの指導者は、コンピューターサイエンスからエンジニアリングまでの専門知識を理解できる能力を持つ必要がある。これらの理由から、CNOのNavigation Plan 2024は、コンピューターを使用した戦闘について学ぶことを呼びかけている。しかし同時に、米統合軍は、ウクライナと中東での現在の紛争から得られる教訓を「過剰に学ぶ」べきではない。UxSの使用も重要である。しかし、UxSは、インド太平洋の広大な距離に必要な能力のある大型の個別の搭載量を備えることができ、長期間運用できるシステムではない。 U.S. Indo-Pacific Commandは、UxSの使用について指揮統制の予行、演習、改良、改善を行い、戦域の広大な戦場を横断して管理・運用する能力を拡大している。それには、プロジェクト33が強化している艦隊海上作戦センターのような作戦中枢に至るまでのすべての組織が、危機や紛争に迅速の対処するように、統合任務部隊段階で改善する訓練と演習が必要である。毎年の統合演習やU.S. Air ForceやU.S. Armyの演習において、戦闘指揮官レベルから個々の戦闘部隊に至るまでの司令部の大規模な確認を行い、指揮統制能力を継続的に改善する必要がある。
(4) 通常戦力が提供する全領域の力強い戦闘力は、UxSによって補完され、戦域全体で戦闘力が維持されなければならない。プロジェクト33の主要な要素は、戦闘部隊を生み出し、運用し、維持するための重要な基幹施設の回復である。統合部隊全体が、持続可能な在庫の状況と部隊に関する知識と認識を向上させる手法を創出しつつあり、攻撃と評価の一連の過程の一部として持続性を扱っている。これにより、司令官は、物資が消費されている場所と補給を提供できる後方部隊に基づいて、戦域全体の維持を認識し、任務を遂行できるようにするため、意思決定能力を向上させる。維持決定手段に加えて、統合軍は、分散軍事作戦を支援するために戦域での戦力態勢を改善すると同時に、戦闘部隊を維持するためのすべての活動が行われることを認識する。U.S. Navyがプロジェクト33により世界的に広がる施設やその他の基幹施設網を改善・拡大することは、戦闘部隊を強化するために重要なことである。U.S. Armed Forcesは今やかつてないほど統合されており、各軍種や領域固有の構成要素を合わせたものよりもはるかに大きなものとなっている。U.S. Armed Forcesの各軍種は、戦術レベルと運用レベルで戦闘エコシステムに統合されており、統合を促進する方法を追求している。米国の指揮統制、演習、作戦、安全保障協力活動、危機・紛争計画は、インド太平洋において敵を抑止し、同盟国の安全と能力を確保し、危機に対応できるように逐次改善されている。
(5) CNOのNavigation Plan 2024 は、米国が単独で大規模な紛争を戦う筋書きは存在しないことも指摘している。そのため、U.S. Indo-Pacific Commandは他国の軍隊とその司令部への支援を改善し、協力し続けている。これらの取り組みには、U.S. Forces JapanをU.S. Indo-Pacific Commandに報告を行う統合軍司令部として、また自衛隊の統合作戦司令部の主要な米側対応窓口として再編成することが含まれる。この新たな指揮統制関係および2国間の能力は、日米両政府が2国間の作戦および能力を統合し、平時および有事におけるU.S. Armed Forcesと同盟国軍との間の相互運用性および計画性を向上させるための両国の枠組みを向上させるという合意を支持するものである。2024年の日米韓、あるいは日米豪比の共同道は、米国が強力な連合を持っていることを中国に示している。また、同盟国や提携国に対して、米国が一方的に支援するだけでなく、平時に相互運用性の問題を一緒に解決することもできることを保証している。これらすべての共同演習と活動は、米国の同盟を強化し、敵対者に侵略の無益さを伝えている。
(6) CNO のNavigation Plan 2024とプロジェクト33 は、わずか 2 年後の 2027 年までに戦備を改善し、危機や紛争に備えるという野心的な目標を設定している。敵を抑止し、同盟国を安心させるという点では、はったり(bluff)はあり得ない。統合軍であるU.S. Indo-Pacific Commandは、戦い、勝利するためには、統一された戦闘能力と同盟国や提携国との連合力を持たなければならない。プロジェクト33は、インド太平洋地域におけるこれらの取り組みと能力を強化しており、我々が勝利を収める能力を与えてくれると確信している。
記事参照:Project 33 Is Enabling Joint All-Domain Operations in the Indo-Pacific
(1) インド太平洋地域は21世紀において最も重要な作戦領域である。米国は、この地域の安定を維持し、地域のすべての国の主権を保護するために奮闘している。中国、ロシア、北朝鮮は地域の安定と安全を脅かしている。この3ヵ国は、現在の法に基づく国際システムを自分たちに有利なように変えようとして不安定を生み出している。 U.S. Indo-Pacific Commandは、有能な同盟国や提携国と協力して、彼らが地域秩序を転覆するのを抑止するために絶えず準備をしており、U.S. Army、U.S. Navy、U.S. Marine Corps、U.S. Air Force、 U.S. Space Forceの能力を活用している。 U.S. Indo-Pacific Commandの軍事的指導方針は、海軍作戦部長(以下、CNOと言う)Lisa Franchetti大将の作成した新たなNavigation Plan 2024およびその実施計画プロジェクト33である。その方針により、我々は統合部隊として結集し、紛争を抑止し、危機に対応し、必要に応じて戦い、勝利を収めるため戦場を拡大することで、この抑止力を強化している。統合軍としての能力と同盟国や提携国との相互運用性の中核となるのは、U.S. Armed Forcesの各軍種の即応性と近代化である。プロジェクト33は、U.S. Navyを改善し、統合戦闘エコシステムを強化するための明確な道筋を提供する。プロジェクト33を通じて、U.S. Navyはロボットおよび自律システム(以下、UxSと言う)を実用化し、即応性を高め、適切な人材を維持するため努力する。水兵の戦術的習熟度を向上させるため、訓練を改善し、即応部隊を維持するための重要な基幹施設を復元する。主力艦の建造には何年もかかる。そのため、短期的に戦闘能力を高めるために、CNOはUxSの迅速な開発、配備を進めている。UxSは、通常戦力を増強し、攻撃力、目標の捕捉力、残存性を向上させる。また、プロジェクト33は、U.S. Navyの情報面と意思決定の面での優位性を高めるための中心的な戦闘システムとして、艦隊海洋作戦センター(fleet maritime operations center)を重視している。
(2) 2023年5月に米国防副長官Kathleen Hicksが発表した「再生計画(Replicator Initiative)」に基づくプロジェクト33により、U.S. Navyは、多くの地域で大きな能力で活動できるようになる。無人システムは、火力や効果をいつでも、複数の軸から投射できる機能を提供する。多くの場所で多くの弾薬を提供し、敵のC5ISR に対抗することに重点を置いているプロジェクト33の構想は、U.S. Navyと統合軍をより強力で、より残存性の高いものにする。別の例としては、Naval Information Warfare Center Pacific(米海軍太平洋情報戦センター)の「群集化することによって可能となる攻撃的戦術(Offensive Swarm-Enabled Tactics)」計画は、大量のUxSを群れとして使用する戦術(swarming tactics)の能力を検証している。さらに、U.S. Armyの自律システムへの継続的な運用により、米統合部隊はUxSの能力を継続的に向上させることができる。
(3) プロジェクト33の中核的な目標は、シー・ディナイアルとシー・コントロールである。米統合軍は、インド太平洋の戦域で地理的条件を利用して、敵の動きを方向付け、制限する方法を模索している。伝統的な能力と新しい能力を合わせることによって、主要な地域を悪意ある敵にとって戦闘することのできない地域にするであろう。人工知能(以下、AIと言う)はUxSを実現するための鍵となるであろう。AIは、ISRから火力、指揮統制、維持まで、シー・ディナイアルとシー・コントロールのあらゆる側面で果たすべき役割がある。U.S. Armed Forcesは、UxSを後押しするために、明確な要件、使用条件、運用概念を提供し続ける必要がある。そのためには、U.S. Armed Forcesの指導者は、コンピューターサイエンスからエンジニアリングまでの専門知識を理解できる能力を持つ必要がある。これらの理由から、CNOのNavigation Plan 2024は、コンピューターを使用した戦闘について学ぶことを呼びかけている。しかし同時に、米統合軍は、ウクライナと中東での現在の紛争から得られる教訓を「過剰に学ぶ」べきではない。UxSの使用も重要である。しかし、UxSは、インド太平洋の広大な距離に必要な能力のある大型の個別の搭載量を備えることができ、長期間運用できるシステムではない。 U.S. Indo-Pacific Commandは、UxSの使用について指揮統制の予行、演習、改良、改善を行い、戦域の広大な戦場を横断して管理・運用する能力を拡大している。それには、プロジェクト33が強化している艦隊海上作戦センターのような作戦中枢に至るまでのすべての組織が、危機や紛争に迅速の対処するように、統合任務部隊段階で改善する訓練と演習が必要である。毎年の統合演習やU.S. Air ForceやU.S. Armyの演習において、戦闘指揮官レベルから個々の戦闘部隊に至るまでの司令部の大規模な確認を行い、指揮統制能力を継続的に改善する必要がある。
(4) 通常戦力が提供する全領域の力強い戦闘力は、UxSによって補完され、戦域全体で戦闘力が維持されなければならない。プロジェクト33の主要な要素は、戦闘部隊を生み出し、運用し、維持するための重要な基幹施設の回復である。統合部隊全体が、持続可能な在庫の状況と部隊に関する知識と認識を向上させる手法を創出しつつあり、攻撃と評価の一連の過程の一部として持続性を扱っている。これにより、司令官は、物資が消費されている場所と補給を提供できる後方部隊に基づいて、戦域全体の維持を認識し、任務を遂行できるようにするため、意思決定能力を向上させる。維持決定手段に加えて、統合軍は、分散軍事作戦を支援するために戦域での戦力態勢を改善すると同時に、戦闘部隊を維持するためのすべての活動が行われることを認識する。U.S. Navyがプロジェクト33により世界的に広がる施設やその他の基幹施設網を改善・拡大することは、戦闘部隊を強化するために重要なことである。U.S. Armed Forcesは今やかつてないほど統合されており、各軍種や領域固有の構成要素を合わせたものよりもはるかに大きなものとなっている。U.S. Armed Forcesの各軍種は、戦術レベルと運用レベルで戦闘エコシステムに統合されており、統合を促進する方法を追求している。米国の指揮統制、演習、作戦、安全保障協力活動、危機・紛争計画は、インド太平洋において敵を抑止し、同盟国の安全と能力を確保し、危機に対応できるように逐次改善されている。
(5) CNOのNavigation Plan 2024 は、米国が単独で大規模な紛争を戦う筋書きは存在しないことも指摘している。そのため、U.S. Indo-Pacific Commandは他国の軍隊とその司令部への支援を改善し、協力し続けている。これらの取り組みには、U.S. Forces JapanをU.S. Indo-Pacific Commandに報告を行う統合軍司令部として、また自衛隊の統合作戦司令部の主要な米側対応窓口として再編成することが含まれる。この新たな指揮統制関係および2国間の能力は、日米両政府が2国間の作戦および能力を統合し、平時および有事におけるU.S. Armed Forcesと同盟国軍との間の相互運用性および計画性を向上させるための両国の枠組みを向上させるという合意を支持するものである。2024年の日米韓、あるいは日米豪比の共同道は、米国が強力な連合を持っていることを中国に示している。また、同盟国や提携国に対して、米国が一方的に支援するだけでなく、平時に相互運用性の問題を一緒に解決することもできることを保証している。これらすべての共同演習と活動は、米国の同盟を強化し、敵対者に侵略の無益さを伝えている。
(6) CNO のNavigation Plan 2024とプロジェクト33 は、わずか 2 年後の 2027 年までに戦備を改善し、危機や紛争に備えるという野心的な目標を設定している。敵を抑止し、同盟国を安心させるという点では、はったり(bluff)はあり得ない。統合軍であるU.S. Indo-Pacific Commandは、戦い、勝利するためには、統一された戦闘能力と同盟国や提携国との連合力を持たなければならない。プロジェクト33は、インド太平洋地域におけるこれらの取り組みと能力を強化しており、我々が勝利を収める能力を与えてくれると確信している。
記事参照:Project 33 Is Enabling Joint All-Domain Operations in the Indo-Pacific
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Defending the North Amid Rising Geopolitical Tensions
https://www.csis.org/analysis/defending-north-amid-rising-geopolitical-tensions
Center for Strategic and International Studies, January 14, 2025
By Max Bergmann is the director of the Europe, Russia, and Eurasia Program and the Stuart Center in Euro-Atlantic and Northern European Studies at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
Otto Svendsen is an associate fellow with the Europe, Russia, and Eurasia Program at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
Marc Jacobsen, Associate Professor, Royal Danish Defence College
Rebekka Åsnes Sagild, Senior Researcher, Norwegian Institute for Defence Studies, Norwegian Defence University College
Eskil Jakobsen, Adviser, Research Group for Security and Defence, Norwegian Institute of International Affairs
Øystein Solvang, Research Assistant, Norwegian Institute of International Affairs
2025年1月14日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies (CSIS)のEurope, Russia, and Eurasia Program 責任者兼Stuart Center in Euro-Atlantic and Northern European Studiesセンター長Max Bergmann、同CenterのEurope, Russia, and Eurasia Program 連接研究員Otto Svendsen、 Royal Danish Defence College准教授Marc Jacobsen、Norwegian Defence University CollegeのNorwegian Institute for Defence Studies上席研究員Rebekka Åsnes Sagild、Norwegian Institute of International AffairsのResearch Group for Security and Defence顧問Eskil Jakobsen、Norwegian Institute of International Affairs研究助手Øystein Solvangは、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesのウエブサイトに“Defending the North Amid Rising Geopolitical Tensions”と題する論説を寄稿した。その中でMax Bergmannら6名は、ロシアのウクライナ侵攻が続く中、北極地域の地政学的状況は大きく変化し、新たな安全保障の枠組みが形成されつつあり、特にスウェーデンとフィンランドが2024年にNATOに正式加盟したことで、ロシアを除く北極圏諸国は安全保障上の脅威を共有しつつあるが、北極の安全保障体制は依然として十分に整備されておらず、特に基幹施設やサイバーセキュリティにおける課題が顕著であると指摘している。注目すべき点としては、グリーンランドが、米国の戦略的関心が高まる中で、短期的な経済的利益と長期的な独立への野心を追求しており、特にデンマークとの連携を通じて安全保障能力を向上させ、米国との関係深化を目指す取り組みが進められている点が挙げられている。そしてMax Bergmannら6名は、中国とロシアの北極での協力は限定的であるものの、経済的および軍事的な利益を背景にした新たな動きが注目されているが、北極地域における基幹施設破壊、特に、サイバー攻撃や重要基幹施設への妨害行為が顕著となっており、北欧諸国とNATOの協力が不可欠となっていると指摘した上で、結論として、北極地域の安定を維持するためには、米国およびNATOの指導力が求められるほか、グリーンランドの独立志向と北欧諸国の防衛協力が進む中で、持続可能な安全保障体制の構築が鍵となると主張している。
(2) Beijing’s Targeting of Taiwan’s Undersea Cables Previews Cross-Strait Tensions Under a Trump Presidency
https://thediplomat.com/2025/01/%E2%80%8B%E2%80%8Bbeijings-targeting-of-taiwans-undersea-cables-previews-cross-strait-tensions-under-a-trump-presidency/
The Diplomat, January 17, 2025
By Hans Horan is a senior geopolitical risk analyst at the Netherlands-based Security & Intelligence Firm Proximities.
2025年1月17日、オランダを拠点とする安全保障と情報に関する企業Proximitiesの上席分析員Hans Horanは、デジタル誌The Diplomatに“Beijing’s Targeting of Taiwan’s Undersea Cables Previews Cross-Strait Tensions Under a Trump Presidency”と題する論説を寄稿した。その中で、①1月5日、台湾政府は中国所有船「Shunxin-39」が、台湾基隆港近くの海底で光ファイバーケーブルを切断したと主張した。②この事件は、中国による台湾へのハイブリッド戦の一環である。③その目的のために、中国は長年にわたり、多様な戦術を採用してきた。④Biden政権下で得られた好意は、Trump大統領の2期目では大幅に損なわれる可能性が高く、米国の対台湾「戦略的曖昧性」が増す可能性がある。⑤こうした状況は、中国およびその代理勢力が台米関係を不安定化させるためにハイブリッド戦争を拡大させる可能性がある。⑥台湾が米国に半導体施設を設立することで、知的財産が盗まれる危険性が増大する可能性がある。⑦中国がデータを盗み出すことに成功すれば、台湾の半導体能力への依存を減らすことが可能になり、台湾への軍事侵攻の予定を早める可能性がある。⑧台湾政府とTrump次期政権の双方は、独自のグレーゾーン戦術を採用する必要があり、その手段の1つとして、台米物品役務相互提供協定(ACSA)の活用が挙げられる。⑨Trump次期大統領が追加関税や制裁によって中国を脅かすことにより事態が拡大する可能性が高く、中国はグレーゾーン戦術をさらに洗練し、拡大させると予想される。⑩同盟国に対するTrump次期大統領の取引的取り組みは、事態拡大の機会を増大させる危険性があるといった主張を述べている。
(3) South China Sea Situation in 2025: Remain Heated Without Seething
http://www.scspi.org/en/dtfx/south-china-sea-situation-2025-remain-heated-without-seething
South China Sea Probing Initiative (SCSPI), January 18, 2025
By Hu Bo, Research Professor and Director of the Center for Maritime Strategy Studies, Peking University, and Director of SCSPI
2025年1月18日、中国北京大学海洋戦略研究中心執行主任である胡波は、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに“South China Sea Situation in 2025: Remain Heated Without Seething”と題する論説を寄稿した。その中で胡波は、冒頭で2025年の南シナ海情勢は緊張が続くが、全面的な衝突に至る可能性は低いと考えられると自己の考えを表明した上で、その背景として、南シナ海問題は中国、フィリピン、米国を中心に領海紛争、地政学的対立、規範と秩序をめぐる駆け引きが交錯する複雑な状況であるが、中国は安定の維持を目指し、外交手段を通じた紛争管理に注力しており、領有権や海洋権益の防衛に関する能力と意志を強化しているとの認識を示している。そして胡波は、フィリピンは引き続き挑発行為を繰り返しているがその能力には限界があり、米国の直接的な支援がなければ中国との対立において劣勢を余儀なくされるが、米国は戦略的対立の枠組みの中で南シナ海問題を活用し、中国の台頭を牽制する政策を維持しているものの、軍事的対立への準備や覚悟には欠けていると評価している。最後に胡波は、総じて、2025年の南シナ海情勢は安定しつつも緊張が続くと予想されるが、中国は現在の能力と意志によって状況を管理できていると評しつつも、各国の動きには引き続き警戒が必要であり、過度に緊張を高めるのではなく、冷静で理性的な対応が求められると主張している。
(4) Geopolitics of the GIUK Gap: Past, Present, and Future
https://www.geopoliticalmonitor.com/geopolitics-of-the-giuk-gap-past-present-and-future/
Backgrounder, Geopolitical Monitor, January 19, 2025
By Paulo Aguiar earned a master's degree in International Relations from NOVA University Lisbon, specializing in Realism, Classical Geopolitics, and Strategy.
2025年1月19日、ポルトガルのNOVA Universityで修士号を取得した古典地政学や戦略論の専門家Paulo Aguiarは、カナダの情報誌 Geopolitical MonitorのウエブサイトBackgroundersに“Geopolitics of the GIUK Gap: Past, Present, and Future”と題する論説を寄稿した。その中で、GIUK Gapと呼ばれるグリーンランド、アイスランド、英国(UK)の間に存在する海域は冷戦期には、ソビエト潜水艦の動きを封じ込めるNATOの防衛戦略の要であり、第2次世界大戦では連合軍の補給線を守る役割を果たしたが、冷戦後、NATOの焦点は他地域に移り、NATOの対潜水艦戦能力が低下した。しかし、近年のロシアの活動増加に伴い、Paulo AguiarはGIUK Gapが再び注目されていると指摘した上で、近年NATOは、ロシアの動向に対抗するため、対潜水艦戦能力の再構築を進めているが、装備面での監視能力や防衛能力を強化しているだけでなく、様々な軍事演習を通じて、統合作戦能力を向上させており、NATOはロシアの潜水艦の行動を時々刻々と監視し、対応する能力を獲得していると述べている。そしてPaulo Aguiar は、ロシアは従来の海軍作戦に加え、ハイブリッド戦術を駆使し、海底通信ケーブルやエネルギー基幹施設への攻撃を試みており、通信や経済活動が阻害される危険性が生じているため、NATOはこれらの脅威への対応を強化しているなどと説明した上で、GIUK GapはNATOの防衛態勢の中核であり、危機時の大西洋横断補給路の確保において重要な役割を果たすため、今後もその戦略的重要性は変わらないとし、NATOはこの海域での抑止力と海上優勢を維持することで、北大西洋の将来的な勢力均衡を左右することが期待されていると主張している。
(1) Defending the North Amid Rising Geopolitical Tensions
https://www.csis.org/analysis/defending-north-amid-rising-geopolitical-tensions
Center for Strategic and International Studies, January 14, 2025
By Max Bergmann is the director of the Europe, Russia, and Eurasia Program and the Stuart Center in Euro-Atlantic and Northern European Studies at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
Otto Svendsen is an associate fellow with the Europe, Russia, and Eurasia Program at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
Marc Jacobsen, Associate Professor, Royal Danish Defence College
Rebekka Åsnes Sagild, Senior Researcher, Norwegian Institute for Defence Studies, Norwegian Defence University College
Eskil Jakobsen, Adviser, Research Group for Security and Defence, Norwegian Institute of International Affairs
Øystein Solvang, Research Assistant, Norwegian Institute of International Affairs
2025年1月14日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies (CSIS)のEurope, Russia, and Eurasia Program 責任者兼Stuart Center in Euro-Atlantic and Northern European Studiesセンター長Max Bergmann、同CenterのEurope, Russia, and Eurasia Program 連接研究員Otto Svendsen、 Royal Danish Defence College准教授Marc Jacobsen、Norwegian Defence University CollegeのNorwegian Institute for Defence Studies上席研究員Rebekka Åsnes Sagild、Norwegian Institute of International AffairsのResearch Group for Security and Defence顧問Eskil Jakobsen、Norwegian Institute of International Affairs研究助手Øystein Solvangは、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesのウエブサイトに“Defending the North Amid Rising Geopolitical Tensions”と題する論説を寄稿した。その中でMax Bergmannら6名は、ロシアのウクライナ侵攻が続く中、北極地域の地政学的状況は大きく変化し、新たな安全保障の枠組みが形成されつつあり、特にスウェーデンとフィンランドが2024年にNATOに正式加盟したことで、ロシアを除く北極圏諸国は安全保障上の脅威を共有しつつあるが、北極の安全保障体制は依然として十分に整備されておらず、特に基幹施設やサイバーセキュリティにおける課題が顕著であると指摘している。注目すべき点としては、グリーンランドが、米国の戦略的関心が高まる中で、短期的な経済的利益と長期的な独立への野心を追求しており、特にデンマークとの連携を通じて安全保障能力を向上させ、米国との関係深化を目指す取り組みが進められている点が挙げられている。そしてMax Bergmannら6名は、中国とロシアの北極での協力は限定的であるものの、経済的および軍事的な利益を背景にした新たな動きが注目されているが、北極地域における基幹施設破壊、特に、サイバー攻撃や重要基幹施設への妨害行為が顕著となっており、北欧諸国とNATOの協力が不可欠となっていると指摘した上で、結論として、北極地域の安定を維持するためには、米国およびNATOの指導力が求められるほか、グリーンランドの独立志向と北欧諸国の防衛協力が進む中で、持続可能な安全保障体制の構築が鍵となると主張している。
(2) Beijing’s Targeting of Taiwan’s Undersea Cables Previews Cross-Strait Tensions Under a Trump Presidency
https://thediplomat.com/2025/01/%E2%80%8B%E2%80%8Bbeijings-targeting-of-taiwans-undersea-cables-previews-cross-strait-tensions-under-a-trump-presidency/
The Diplomat, January 17, 2025
By Hans Horan is a senior geopolitical risk analyst at the Netherlands-based Security & Intelligence Firm Proximities.
2025年1月17日、オランダを拠点とする安全保障と情報に関する企業Proximitiesの上席分析員Hans Horanは、デジタル誌The Diplomatに“Beijing’s Targeting of Taiwan’s Undersea Cables Previews Cross-Strait Tensions Under a Trump Presidency”と題する論説を寄稿した。その中で、①1月5日、台湾政府は中国所有船「Shunxin-39」が、台湾基隆港近くの海底で光ファイバーケーブルを切断したと主張した。②この事件は、中国による台湾へのハイブリッド戦の一環である。③その目的のために、中国は長年にわたり、多様な戦術を採用してきた。④Biden政権下で得られた好意は、Trump大統領の2期目では大幅に損なわれる可能性が高く、米国の対台湾「戦略的曖昧性」が増す可能性がある。⑤こうした状況は、中国およびその代理勢力が台米関係を不安定化させるためにハイブリッド戦争を拡大させる可能性がある。⑥台湾が米国に半導体施設を設立することで、知的財産が盗まれる危険性が増大する可能性がある。⑦中国がデータを盗み出すことに成功すれば、台湾の半導体能力への依存を減らすことが可能になり、台湾への軍事侵攻の予定を早める可能性がある。⑧台湾政府とTrump次期政権の双方は、独自のグレーゾーン戦術を採用する必要があり、その手段の1つとして、台米物品役務相互提供協定(ACSA)の活用が挙げられる。⑨Trump次期大統領が追加関税や制裁によって中国を脅かすことにより事態が拡大する可能性が高く、中国はグレーゾーン戦術をさらに洗練し、拡大させると予想される。⑩同盟国に対するTrump次期大統領の取引的取り組みは、事態拡大の機会を増大させる危険性があるといった主張を述べている。
(3) South China Sea Situation in 2025: Remain Heated Without Seething
http://www.scspi.org/en/dtfx/south-china-sea-situation-2025-remain-heated-without-seething
South China Sea Probing Initiative (SCSPI), January 18, 2025
By Hu Bo, Research Professor and Director of the Center for Maritime Strategy Studies, Peking University, and Director of SCSPI
2025年1月18日、中国北京大学海洋戦略研究中心執行主任である胡波は、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに“South China Sea Situation in 2025: Remain Heated Without Seething”と題する論説を寄稿した。その中で胡波は、冒頭で2025年の南シナ海情勢は緊張が続くが、全面的な衝突に至る可能性は低いと考えられると自己の考えを表明した上で、その背景として、南シナ海問題は中国、フィリピン、米国を中心に領海紛争、地政学的対立、規範と秩序をめぐる駆け引きが交錯する複雑な状況であるが、中国は安定の維持を目指し、外交手段を通じた紛争管理に注力しており、領有権や海洋権益の防衛に関する能力と意志を強化しているとの認識を示している。そして胡波は、フィリピンは引き続き挑発行為を繰り返しているがその能力には限界があり、米国の直接的な支援がなければ中国との対立において劣勢を余儀なくされるが、米国は戦略的対立の枠組みの中で南シナ海問題を活用し、中国の台頭を牽制する政策を維持しているものの、軍事的対立への準備や覚悟には欠けていると評価している。最後に胡波は、総じて、2025年の南シナ海情勢は安定しつつも緊張が続くと予想されるが、中国は現在の能力と意志によって状況を管理できていると評しつつも、各国の動きには引き続き警戒が必要であり、過度に緊張を高めるのではなく、冷静で理性的な対応が求められると主張している。
(4) Geopolitics of the GIUK Gap: Past, Present, and Future
https://www.geopoliticalmonitor.com/geopolitics-of-the-giuk-gap-past-present-and-future/
Backgrounder, Geopolitical Monitor, January 19, 2025
By Paulo Aguiar earned a master's degree in International Relations from NOVA University Lisbon, specializing in Realism, Classical Geopolitics, and Strategy.
2025年1月19日、ポルトガルのNOVA Universityで修士号を取得した古典地政学や戦略論の専門家Paulo Aguiarは、カナダの情報誌 Geopolitical MonitorのウエブサイトBackgroundersに“Geopolitics of the GIUK Gap: Past, Present, and Future”と題する論説を寄稿した。その中で、GIUK Gapと呼ばれるグリーンランド、アイスランド、英国(UK)の間に存在する海域は冷戦期には、ソビエト潜水艦の動きを封じ込めるNATOの防衛戦略の要であり、第2次世界大戦では連合軍の補給線を守る役割を果たしたが、冷戦後、NATOの焦点は他地域に移り、NATOの対潜水艦戦能力が低下した。しかし、近年のロシアの活動増加に伴い、Paulo AguiarはGIUK Gapが再び注目されていると指摘した上で、近年NATOは、ロシアの動向に対抗するため、対潜水艦戦能力の再構築を進めているが、装備面での監視能力や防衛能力を強化しているだけでなく、様々な軍事演習を通じて、統合作戦能力を向上させており、NATOはロシアの潜水艦の行動を時々刻々と監視し、対応する能力を獲得していると述べている。そしてPaulo Aguiar は、ロシアは従来の海軍作戦に加え、ハイブリッド戦術を駆使し、海底通信ケーブルやエネルギー基幹施設への攻撃を試みており、通信や経済活動が阻害される危険性が生じているため、NATOはこれらの脅威への対応を強化しているなどと説明した上で、GIUK GapはNATOの防衛態勢の中核であり、危機時の大西洋横断補給路の確保において重要な役割を果たすため、今後もその戦略的重要性は変わらないとし、NATOはこの海域での抑止力と海上優勢を維持することで、北大西洋の将来的な勢力均衡を左右することが期待されていると主張している。
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