海洋安全保障情報旬報 2025年1月21日-1月31日
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1月21日「フィリピン・ミサイル危機と台湾有事―フィリピン専門家論説」(China US Focus, January 21, 2025)
1月21日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンのAssociation for Chinese Studies会長でAsia-Pacific Pathways to Progress Foundation研究員Lucio Blanco Pitlo IIIの“Philippine Missile Crisis and Taiwan Contingency”と題する論説を掲載し、ここでLucio Blanco Pitlo IIIは台湾有事が唱えられる中、ASEANの創設国であるフィリピンは、シンガポールやインドネシアといったASEAN加盟国が緊張緩和により積極的な役割を果たすよう支援することはできるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の強力な兵器システムがフィリピン北部に配備され、これに対して中国が強い反応を示していることは、新たなミサイル危機につながる可能性がある。フィリピン政府は、このタイフォン中距離地対空ミサイル・システム(以下、Typhon MRCと言う)の獲得を望んでいるが、これに対して中国は、危険な軍拡競争の引き金になるとして警告を発している。フィリピン政府は、自国の安全保障上の計算に基づいて調達を決定したと主張しているが、この能力の価格、複雑さ、性質、そして時機が疑念を煽り、中比両国間の緊張をさらに高めている。
(2) Typhon MRCは、2024年4月のフィリピンと米国の合同演習中にルソン島北部のラオアグに配備された。ラオアグは、Ferdinand Marcos Jr.大統領、そしてその亡父Ferdinand Marcos Sr.も政治的経歴を積み重ねた場所であり、Typhon MRCをこの都市に配備することは、同国の最高権力者の承認を得ていることを示唆している。
(3) ラオアグに配備されたTyphon MRCから発射されたミサイルは、南シナ海をはるかに越え、中国本土、台湾、西太平洋の一部を含む目標を攻撃可能である。この前例のない武器配備に対して、中国政府は44年ぶりに大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験を実施した。中国は、この動きは不安定化をもたらすと主張したが、フィリピン政府はすぐにこれを否定し、自国の防衛体制を強化するためにTyphon MRCを導入したいと述べている。
(4) 台湾は地理的にフィリピンに近く、15万人以上のフィリピン人が居住しているため、台湾海峡で緊急事態が発生した場合、フィリピンはジレンマに陥る。フィリピン政府はすでに南シナ海で中国と対峙することに苦慮しており、北部に新たな戦線を持ちたくはないが、自国統治下の島が強引に占領される可能性を憂慮している。フィリピン政府は「一つの中国政策」に従っているが、重要な貿易相手で、投資の対象でもある台湾とは非公式な関係を維持している。
(5) ルソン島北部とバタン諸島での同盟軍との演習、拡大するU.S. Armed Forcesの存在感、そしてTyphon MRC配備の不確実さは、台湾危機という観点から見ることができる。U.S. Armed Forcesの新たな駐留地として合意された4ヵ所のうち3ヵ所は、ルソン島北部にある。米比間の防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)において初めて、U.S. Armed Forcesが利用できる海軍基地が開設された。カガヤン州サンタ・アナのカミロ・オシアス基地はルソン海峡を挟んで台湾を睨んでいる。Typhon MRCは、ラオアグ国際空港に配備された。EDCAに基づくもう1ヵ所は、カガヤン州のラルロ空港であった。ラオアグもラルロも民間空港であることから、戦略上重要な軍事施設以外の不動産も、有事の際には利用可能であることを示唆している。
(6) これらの動きはすべて台湾有事に備え、フィリピン政府が態勢を整えつつあるという印象を与える。2024年10月には、フィリピンと米国の海兵隊が、離散したフィリピン人移民労働者の避難訓練を実施した。中国がフィリピンに対して圧力を強めているのは、米比両政府が中国の武力行使を抑止するための広範な構想に沿った措置を採っていることへの反発である可能性が高い。Marcos Jr.大統領は、EDCAに基づく基地は他国を標的とするための前進基地として使用されることはないと述べている。EDCAの施設は、人道支援や災害救援(HADR)活動にも役立つと言われている。フィリピン北部ルソン島やバタンガス州は大型台風に見舞われる危険性があるため、それらを口実とするのは理にかなっている。しかし、中国はフィリピンの主張を信じておらず、この問題におけるフィリピンと米国の行動を警戒して注視している。
(7) 台湾有事へのフィリピンの参加は微妙である。台湾在住の自国民の送還はフィリピン政府にとって最優先事項である。また、インドネシア、ベトナム、タイといったASEAN諸国の国民を含む、その他の外国人の避難にも役立つ可能性がある。フィリピン政府はフィリピン最北のバタネス州への医療避難も許可する可能性がある。食糧、医薬品、その他の基本的な人道支援物資の提供も検討される可能性もある。さらなる対応は、深刻な危険が伴うことを踏まえ、同国の安心度によって決まるだろう。ASEANの創設国の一員であるフィリピンは、少なくとも、ASEANまたはシンガポールやインドネシアといったASEAN加盟国が緊張緩和により積極的な役割を果たすよう支援することはできる。
記事参照:Philippine Missile Crisis and Taiwan Contingency
(1) 米国の強力な兵器システムがフィリピン北部に配備され、これに対して中国が強い反応を示していることは、新たなミサイル危機につながる可能性がある。フィリピン政府は、このタイフォン中距離地対空ミサイル・システム(以下、Typhon MRCと言う)の獲得を望んでいるが、これに対して中国は、危険な軍拡競争の引き金になるとして警告を発している。フィリピン政府は、自国の安全保障上の計算に基づいて調達を決定したと主張しているが、この能力の価格、複雑さ、性質、そして時機が疑念を煽り、中比両国間の緊張をさらに高めている。
(2) Typhon MRCは、2024年4月のフィリピンと米国の合同演習中にルソン島北部のラオアグに配備された。ラオアグは、Ferdinand Marcos Jr.大統領、そしてその亡父Ferdinand Marcos Sr.も政治的経歴を積み重ねた場所であり、Typhon MRCをこの都市に配備することは、同国の最高権力者の承認を得ていることを示唆している。
(3) ラオアグに配備されたTyphon MRCから発射されたミサイルは、南シナ海をはるかに越え、中国本土、台湾、西太平洋の一部を含む目標を攻撃可能である。この前例のない武器配備に対して、中国政府は44年ぶりに大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験を実施した。中国は、この動きは不安定化をもたらすと主張したが、フィリピン政府はすぐにこれを否定し、自国の防衛体制を強化するためにTyphon MRCを導入したいと述べている。
(4) 台湾は地理的にフィリピンに近く、15万人以上のフィリピン人が居住しているため、台湾海峡で緊急事態が発生した場合、フィリピンはジレンマに陥る。フィリピン政府はすでに南シナ海で中国と対峙することに苦慮しており、北部に新たな戦線を持ちたくはないが、自国統治下の島が強引に占領される可能性を憂慮している。フィリピン政府は「一つの中国政策」に従っているが、重要な貿易相手で、投資の対象でもある台湾とは非公式な関係を維持している。
(5) ルソン島北部とバタン諸島での同盟軍との演習、拡大するU.S. Armed Forcesの存在感、そしてTyphon MRC配備の不確実さは、台湾危機という観点から見ることができる。U.S. Armed Forcesの新たな駐留地として合意された4ヵ所のうち3ヵ所は、ルソン島北部にある。米比間の防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)において初めて、U.S. Armed Forcesが利用できる海軍基地が開設された。カガヤン州サンタ・アナのカミロ・オシアス基地はルソン海峡を挟んで台湾を睨んでいる。Typhon MRCは、ラオアグ国際空港に配備された。EDCAに基づくもう1ヵ所は、カガヤン州のラルロ空港であった。ラオアグもラルロも民間空港であることから、戦略上重要な軍事施設以外の不動産も、有事の際には利用可能であることを示唆している。
(6) これらの動きはすべて台湾有事に備え、フィリピン政府が態勢を整えつつあるという印象を与える。2024年10月には、フィリピンと米国の海兵隊が、離散したフィリピン人移民労働者の避難訓練を実施した。中国がフィリピンに対して圧力を強めているのは、米比両政府が中国の武力行使を抑止するための広範な構想に沿った措置を採っていることへの反発である可能性が高い。Marcos Jr.大統領は、EDCAに基づく基地は他国を標的とするための前進基地として使用されることはないと述べている。EDCAの施設は、人道支援や災害救援(HADR)活動にも役立つと言われている。フィリピン北部ルソン島やバタンガス州は大型台風に見舞われる危険性があるため、それらを口実とするのは理にかなっている。しかし、中国はフィリピンの主張を信じておらず、この問題におけるフィリピンと米国の行動を警戒して注視している。
(7) 台湾有事へのフィリピンの参加は微妙である。台湾在住の自国民の送還はフィリピン政府にとって最優先事項である。また、インドネシア、ベトナム、タイといったASEAN諸国の国民を含む、その他の外国人の避難にも役立つ可能性がある。フィリピン政府はフィリピン最北のバタネス州への医療避難も許可する可能性がある。食糧、医薬品、その他の基本的な人道支援物資の提供も検討される可能性もある。さらなる対応は、深刻な危険が伴うことを踏まえ、同国の安心度によって決まるだろう。ASEANの創設国の一員であるフィリピンは、少なくとも、ASEANまたはシンガポールやインドネシアといったASEAN加盟国が緊張緩和により積極的な役割を果たすよう支援することはできる。
記事参照:Philippine Missile Crisis and Taiwan Contingency
1月21日「公式の英国・モーリシャス間条約が中国の野心を抑止する―米政治地理学教授論説」(Commentary, RAND, January 21, 2025)
1月21日付の米シンクタンクRAND CorporationのウエブサイトCommentaryは、同Corporation政策研究員Benjamin J. Sacksの“The Devil Will Be in the Details: A Formal UK-Mauritius Sovereignty Treaty Could Counter Chinese Ambitions”と題する論説を掲載し、そこでBenjamin J. Sacksは英国がチャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還したことについて言及し、それに対するさまざまな意見があるが、注目すべきは今後両国の間で結ばれる公式の条約の詳細であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年10月3日、英国は英米にとって戦略的に重要なディエゴガルシア島を含むチャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還することで合意した。中国が、米国主導のルールに基づく国際秩序(U.S.-led rules-based international order:以下、RBIOと言う)を変容させようとしている中、その協定を「危険な降伏」として非難する者もいる。
(2) しかし、そうした批判は時期尚早である。多くは、英国とモーリシャスの共同声明(United Kingdom–Mauritius Joint Statement:以下、UKMJSと言う)を、既存のRBIOの勝利だと主張している。UKMJSは公式の条約ではなく、最終的な条約の交渉はこれからであり、英米はまだ、弾力性のある条約、すなわちディエゴガルシア島を租借しつつ、中国への抑止に利用するような条約の締結の機会がある。悪魔は細部に宿るのである。
(3) 1965年にモーリシャスが独立目前である時、英国はモーリシャスからチャゴス諸島を切り離し、住民を追放し、ディエゴガルシア島に軍事基地を設置した。UKMJSはそれ以来の論争を解決する。モーリシャスは新たに英国によるディエゴガルシア島の99年間の租借に合意し、それに対し英国は、チャゴス人およびモーリシャス人のための包括的開発一括供与の提供に関する交渉、および海洋安全保障などへの支援をモーリシャスに約束した。しかし、主権や外国直接投資(以下、FDIと言う)、RBIOにおける条約の優先順位、中国とインドの対立、モーリシャス人の不満や願望などの問題での均衡を取りながら、こうした約束を保証する弾力性ある条約について、詳細を検討する必要がある。
(4) UKMJSに対する批判には一定の合理性がある。1970年代以降中国は多くのFDIを提供してきたし、現在のモーリシャス首相Pravid Jugnauthは親中国派と見られている。しかし実際は、そのPravid Jugnauthが99年間の貸与を提案したし、独立以降の「モーリシャスの奇跡」は、RBIOの制度や西側諸国とインドからのFDIによるところが大きいのである。しかし、モーリシャスに対するFDIの大部分が基幹施設やサービスなど「伝統的な」ものではなく、グローバル企業が支払う法人税でしかない点には留意する必要がある。「伝統的な」FDIの大部分も不動産部門である。
(5) 租借は不確実性をもたらす。主権さえあればどうにでもなると主張する国際法学者もいるが、その主権でさえ、RBIOの内部であっても、論争含みの概念である。キューバのグアンタナモ湾に対する米国の事実上の主権、キプロス島の一部に対する英国の主権の維持という前例が示唆するのは、持続的な抑止力の存在と戦略的FDIに後押しされた弾力性ある条約は、租借国の事実上の主権を持続させることに貢献するというものである。望ましくない状況が維持されるかもしれないという将来の危険性を回避することは難しい。ただし、これら前例が公式の交渉によるものだということ、モーリシャスに関してもそうなるだろうということは好材料ではある。
(6) 中国とインドの対立を戦略的に利用することによる利益も期待できる。モーリシャスとインドの関係は深く、インドは非同盟主義で名を馳せるが、次第にその地理戦略的利益を西側に傾かせている。西側諸国もインドの関与を好ましく思っており、UKMJSの推進のために米国に加えてインドが招待されたのも偶然ではない。こうしてインドは、中国に対して、RBIOを提唱する主要大国の1つとして認識されるに至ったのである。そして、インドは実際にモーリシャスの安全保障に寄与すると見られており、そのことが条約の弾力性を強化するかもしれない。なお英国とフランスは、インドが国連安保理の常任理事国になることを支持している。
(7) 最終的に運命を決めるのはモーリシャスである。RBIOを維持し、中国の野心を抑止するために、英国はチャゴス人への補償やモーリシャス人の生活に配慮した開発一括供与に関与しなければならない。それはさまざまな内容を含むだろうが、それによって初めて英国とモーリシャスとの条約は時の試練に耐えることができる。悪魔は細部に宿るのである。
記事参照:The Devil Will Be in the Details: A Formal UK-Mauritius Sovereignty Treaty Could Counter Chinese Ambitions
(1) 2024年10月3日、英国は英米にとって戦略的に重要なディエゴガルシア島を含むチャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還することで合意した。中国が、米国主導のルールに基づく国際秩序(U.S.-led rules-based international order:以下、RBIOと言う)を変容させようとしている中、その協定を「危険な降伏」として非難する者もいる。
(2) しかし、そうした批判は時期尚早である。多くは、英国とモーリシャスの共同声明(United Kingdom–Mauritius Joint Statement:以下、UKMJSと言う)を、既存のRBIOの勝利だと主張している。UKMJSは公式の条約ではなく、最終的な条約の交渉はこれからであり、英米はまだ、弾力性のある条約、すなわちディエゴガルシア島を租借しつつ、中国への抑止に利用するような条約の締結の機会がある。悪魔は細部に宿るのである。
(3) 1965年にモーリシャスが独立目前である時、英国はモーリシャスからチャゴス諸島を切り離し、住民を追放し、ディエゴガルシア島に軍事基地を設置した。UKMJSはそれ以来の論争を解決する。モーリシャスは新たに英国によるディエゴガルシア島の99年間の租借に合意し、それに対し英国は、チャゴス人およびモーリシャス人のための包括的開発一括供与の提供に関する交渉、および海洋安全保障などへの支援をモーリシャスに約束した。しかし、主権や外国直接投資(以下、FDIと言う)、RBIOにおける条約の優先順位、中国とインドの対立、モーリシャス人の不満や願望などの問題での均衡を取りながら、こうした約束を保証する弾力性ある条約について、詳細を検討する必要がある。
(4) UKMJSに対する批判には一定の合理性がある。1970年代以降中国は多くのFDIを提供してきたし、現在のモーリシャス首相Pravid Jugnauthは親中国派と見られている。しかし実際は、そのPravid Jugnauthが99年間の貸与を提案したし、独立以降の「モーリシャスの奇跡」は、RBIOの制度や西側諸国とインドからのFDIによるところが大きいのである。しかし、モーリシャスに対するFDIの大部分が基幹施設やサービスなど「伝統的な」ものではなく、グローバル企業が支払う法人税でしかない点には留意する必要がある。「伝統的な」FDIの大部分も不動産部門である。
(5) 租借は不確実性をもたらす。主権さえあればどうにでもなると主張する国際法学者もいるが、その主権でさえ、RBIOの内部であっても、論争含みの概念である。キューバのグアンタナモ湾に対する米国の事実上の主権、キプロス島の一部に対する英国の主権の維持という前例が示唆するのは、持続的な抑止力の存在と戦略的FDIに後押しされた弾力性ある条約は、租借国の事実上の主権を持続させることに貢献するというものである。望ましくない状況が維持されるかもしれないという将来の危険性を回避することは難しい。ただし、これら前例が公式の交渉によるものだということ、モーリシャスに関してもそうなるだろうということは好材料ではある。
(6) 中国とインドの対立を戦略的に利用することによる利益も期待できる。モーリシャスとインドの関係は深く、インドは非同盟主義で名を馳せるが、次第にその地理戦略的利益を西側に傾かせている。西側諸国もインドの関与を好ましく思っており、UKMJSの推進のために米国に加えてインドが招待されたのも偶然ではない。こうしてインドは、中国に対して、RBIOを提唱する主要大国の1つとして認識されるに至ったのである。そして、インドは実際にモーリシャスの安全保障に寄与すると見られており、そのことが条約の弾力性を強化するかもしれない。なお英国とフランスは、インドが国連安保理の常任理事国になることを支持している。
(7) 最終的に運命を決めるのはモーリシャスである。RBIOを維持し、中国の野心を抑止するために、英国はチャゴス人への補償やモーリシャス人の生活に配慮した開発一括供与に関与しなければならない。それはさまざまな内容を含むだろうが、それによって初めて英国とモーリシャスとの条約は時の試練に耐えることができる。悪魔は細部に宿るのである。
記事参照:The Devil Will Be in the Details: A Formal UK-Mauritius Sovereignty Treaty Could Counter Chinese Ambitions
1月21日「台湾をめぐる広範な地域的海洋問題の影―シンガポール専門家論説」(The Prospect Foundation(遠景基金會)、January 21, 2025)
1月21日付、台湾シンクタンクProspect Foundation(遠景基金會)のウエブサイトは、シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies のInstitute of Defence and Strategic Studie上席研究員Collin Kohの“The Specter of a Broader Regional Maritime Conundrum Over Taiwan”と題する論説を掲載し、ここでCollin Kohは中国が着実に軍事力を強化し、軍種・戦域を越えた統合運用能力を伸ばしており、台湾侵攻に向けて、米国を第1列島線の東側に留め、米国の同盟国および友好国による軍事的支援を抑止するため、より広域の地域紛争につながる危険をちらつかせているとして、要旨次のように述べている。
(1) 2024年末の中国人民解放軍の大規模な演習は、予想された「聯合利剣2024C」とは中国政府が呼ばなかったが、伝えられる意図は不吉なものである。中国は、事前通告なしで自ら選んだ日時に、台湾周辺だけでなく、第1列島線に囲まれた海域で、航空・海上兵力を大規模に動員できることを示した。2022年8月に中国が台湾周辺で初めて大規模な軍事演習を開始して以来、こうした演習は緊密に調整・連携されているだけでなく、中国の軍事力強化の大きな変化を反映している。
(2) 第1の要因は、人民解放軍(以下、PLAと言う)が、台湾周辺に数日間、継続的に展開できる海空戦力を備えていることである。これは、PLAの戦力、特に長距離攻撃能力が劣っていた過去とは大きな違いである。重要なことは個々の兵力だけでなく、持続的な軍事作戦を遂行するに十分な数の兵力を持つことである。1990年代の台湾海峡危機の際、PLAは陸上発射台から台湾近海にミサイルを打ち込むことで満足せざるを得なかった。当時のPLAは、優勢なU.S. Navyや台湾の優れた航空・海軍力に対抗できる有効な手段を持っていなかったが、今日では、新たな方程式が生まれた。実際の有効性には議論の余地があるものの、中国政府に、数十年にわたる軍事力近代化の努力が、報われたかもしれないとの思わせるものである。2022年8月、米空母「ロナルド・レーガン」は行動海域をフィリピン海に限定した。中国本土側が新たな対艦兵器を投入した際に、狭い水域での活動は危険が大きいためで、中国政府は、これを米国の弱さの明確な兆候と受け取ったであろう。
(3) 第2の要因は、台湾周辺でのPLAの演習がより複雑化し、各軍種や部門の間に高度な連携が求められるようになったことである。空軍と海軍の統合運用だけでなく、陸上戦略ミサイル部隊や情報・電子戦部隊とも連携し、台湾に対して認知戦を展開している。12月の演習で示されたように、この統合段階は中国の準軍事部隊、特に海警総隊にまで広がっている。また、関係部隊は単一の戦域に留まらず、東部戦域司令部に北部と南部の姉妹戦域司令部が加わり、戦域を越えた訓練や演習が行われている。中国政府は、筋書によっては、隣接する戦域の戦力を横断的に活用し、将来の台湾有事を支援できるようになった。こうした統合がどの程度効果的かは不明であるが、PLAは将来の台湾有事における複雑な軍事作戦に備えて、連携を強化しているのが明らかである。中国軍と中国海警総隊の演習は、もはや台湾周辺だけに留まらない。台湾への本格的侵攻を想定するにせよ、台湾の空・海域封鎖を想定するにせよ、中国の戦争計画者は台湾海峡に限定された紛争ではなく、より広範な地域紛争が不可避であると認識するようになったのかもしれない。そうなれば、米国の軍事介入やこの地域における米国の同盟国、特に日本とフィリピンの軍事介入も考慮しなければならなくなるであろう。
(4) この地域のすべての米国の同盟国や友好国が、必ずしも台湾やその周辺での戦闘に参加するわけではないが、宮古海峡やバシー海峡などの重要な戦略的水路を忘れてはいけない。これらの水路は、たとえばグアムから進発する米軍の通路として機能するだけでなく、PLAの海空軍部隊がこれらの海峡を利用して第1列島線を越え、開豁な海域に進出し、進攻してくるU.S. Armed Forceに対して戦いを挑むこともできる。中国共産党の文書によれば、U.S. Armed Forceの介入に対抗するための作戦海域は、フィリピン海と想定されている。PLAは、U.S. Armed Forceが台湾上空での戦闘に参加する前に、第1列島線の東側でU.S. Armed Forceを撃滅するか、少なくともこの海域でのU.S. Armed Forceの活動を制限するのに十分なほど無力化することができる。このような戦略的防衛力を維持することは、中国本土に対するU.S. Armed Forceの長射程ミサイルの脅威をある程度まで軽減することでもある。もちろん、これら重要な水路を強行通過するのは、PLAが台湾や前線に展開するU.S. Armed Force、日本、フィリピン軍からの攻撃にさらされるということでもある。言い換えれば、台湾紛争は台湾とその周辺に限定されるものではなく、隣接する東シナ海と南シナ海は、全面的侵攻であれ、台湾の海空封鎖であれ、必然的に戦闘地域の一部となる。
(5) さらに論じる価値があるのは、中国による台湾の海上封鎖である。封鎖が、台湾に近い海空域にのみに課されるにせよ、東シナ海や南シナ海に波及するにせよ、近海全域に及ぶ海空封鎖は、世界の海上貿易に影響を及ぼすと思われる。これには、おそらく米国が主導し、地域の同盟国や友好国も加わったシーレーン防衛のための海軍の集団的対応を生み、中国に直接挑戦することになる。封鎖が成功するかどうかは、不確実なものの、中国政府は台湾政府を支持することの危険性を、特に米国の同盟国や友好国に印象づけようとしたのであろう。軍事演習を東シナ海と南シナ海に拡大することで、中国は台湾を支援する他の国やU.S. Armed Forcesの動きを抑止するために、事態拡大は中国を優位にするということを示したかったものと思われる。もちろん、これは危険な策略である。しかし、中国の指導者達は、地域紛争が拡大する可能性、とりわけ海洋利用の問題が地域の国々を戦略的窮地に陥れる可能性があるとの見通しに賭けているのであろう。
記事参照:The Specter of a Broader Regional Maritime Conundrum Over Taiwan
(1) 2024年末の中国人民解放軍の大規模な演習は、予想された「聯合利剣2024C」とは中国政府が呼ばなかったが、伝えられる意図は不吉なものである。中国は、事前通告なしで自ら選んだ日時に、台湾周辺だけでなく、第1列島線に囲まれた海域で、航空・海上兵力を大規模に動員できることを示した。2022年8月に中国が台湾周辺で初めて大規模な軍事演習を開始して以来、こうした演習は緊密に調整・連携されているだけでなく、中国の軍事力強化の大きな変化を反映している。
(2) 第1の要因は、人民解放軍(以下、PLAと言う)が、台湾周辺に数日間、継続的に展開できる海空戦力を備えていることである。これは、PLAの戦力、特に長距離攻撃能力が劣っていた過去とは大きな違いである。重要なことは個々の兵力だけでなく、持続的な軍事作戦を遂行するに十分な数の兵力を持つことである。1990年代の台湾海峡危機の際、PLAは陸上発射台から台湾近海にミサイルを打ち込むことで満足せざるを得なかった。当時のPLAは、優勢なU.S. Navyや台湾の優れた航空・海軍力に対抗できる有効な手段を持っていなかったが、今日では、新たな方程式が生まれた。実際の有効性には議論の余地があるものの、中国政府に、数十年にわたる軍事力近代化の努力が、報われたかもしれないとの思わせるものである。2022年8月、米空母「ロナルド・レーガン」は行動海域をフィリピン海に限定した。中国本土側が新たな対艦兵器を投入した際に、狭い水域での活動は危険が大きいためで、中国政府は、これを米国の弱さの明確な兆候と受け取ったであろう。
(3) 第2の要因は、台湾周辺でのPLAの演習がより複雑化し、各軍種や部門の間に高度な連携が求められるようになったことである。空軍と海軍の統合運用だけでなく、陸上戦略ミサイル部隊や情報・電子戦部隊とも連携し、台湾に対して認知戦を展開している。12月の演習で示されたように、この統合段階は中国の準軍事部隊、特に海警総隊にまで広がっている。また、関係部隊は単一の戦域に留まらず、東部戦域司令部に北部と南部の姉妹戦域司令部が加わり、戦域を越えた訓練や演習が行われている。中国政府は、筋書によっては、隣接する戦域の戦力を横断的に活用し、将来の台湾有事を支援できるようになった。こうした統合がどの程度効果的かは不明であるが、PLAは将来の台湾有事における複雑な軍事作戦に備えて、連携を強化しているのが明らかである。中国軍と中国海警総隊の演習は、もはや台湾周辺だけに留まらない。台湾への本格的侵攻を想定するにせよ、台湾の空・海域封鎖を想定するにせよ、中国の戦争計画者は台湾海峡に限定された紛争ではなく、より広範な地域紛争が不可避であると認識するようになったのかもしれない。そうなれば、米国の軍事介入やこの地域における米国の同盟国、特に日本とフィリピンの軍事介入も考慮しなければならなくなるであろう。
(4) この地域のすべての米国の同盟国や友好国が、必ずしも台湾やその周辺での戦闘に参加するわけではないが、宮古海峡やバシー海峡などの重要な戦略的水路を忘れてはいけない。これらの水路は、たとえばグアムから進発する米軍の通路として機能するだけでなく、PLAの海空軍部隊がこれらの海峡を利用して第1列島線を越え、開豁な海域に進出し、進攻してくるU.S. Armed Forceに対して戦いを挑むこともできる。中国共産党の文書によれば、U.S. Armed Forceの介入に対抗するための作戦海域は、フィリピン海と想定されている。PLAは、U.S. Armed Forceが台湾上空での戦闘に参加する前に、第1列島線の東側でU.S. Armed Forceを撃滅するか、少なくともこの海域でのU.S. Armed Forceの活動を制限するのに十分なほど無力化することができる。このような戦略的防衛力を維持することは、中国本土に対するU.S. Armed Forceの長射程ミサイルの脅威をある程度まで軽減することでもある。もちろん、これら重要な水路を強行通過するのは、PLAが台湾や前線に展開するU.S. Armed Force、日本、フィリピン軍からの攻撃にさらされるということでもある。言い換えれば、台湾紛争は台湾とその周辺に限定されるものではなく、隣接する東シナ海と南シナ海は、全面的侵攻であれ、台湾の海空封鎖であれ、必然的に戦闘地域の一部となる。
(5) さらに論じる価値があるのは、中国による台湾の海上封鎖である。封鎖が、台湾に近い海空域にのみに課されるにせよ、東シナ海や南シナ海に波及するにせよ、近海全域に及ぶ海空封鎖は、世界の海上貿易に影響を及ぼすと思われる。これには、おそらく米国が主導し、地域の同盟国や友好国も加わったシーレーン防衛のための海軍の集団的対応を生み、中国に直接挑戦することになる。封鎖が成功するかどうかは、不確実なものの、中国政府は台湾政府を支持することの危険性を、特に米国の同盟国や友好国に印象づけようとしたのであろう。軍事演習を東シナ海と南シナ海に拡大することで、中国は台湾を支援する他の国やU.S. Armed Forcesの動きを抑止するために、事態拡大は中国を優位にするということを示したかったものと思われる。もちろん、これは危険な策略である。しかし、中国の指導者達は、地域紛争が拡大する可能性、とりわけ海洋利用の問題が地域の国々を戦略的窮地に陥れる可能性があるとの見通しに賭けているのであろう。
記事参照:The Specter of a Broader Regional Maritime Conundrum Over Taiwan
1月21日「東南アジアにおけるブラモス・ミサイル―インド専門家論説」(Observer research Foundation, January 21, 2025)
1月21日付のインドシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同FoundationのStrategic Studies Programme研究員Atul Kumarの“Shaping China’s periphery: BrahMos missiles in Southeast Asia”と題する論説を掲載し、ここでAtul Kumarはブラモス・ミサイルシステムの東南アジアへの輸出により、インドは主要な武器輸出国としての地位の確立と海洋における提携を強化し、地域における存在感と影響力をさらに高めることになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2025年1月にインドの共和国記念日を祝う来賓としてニューデリーを訪問したインドネシアのPrabowo Subianto大統領の重要な目的の1つは、ブラモス・超音速ミサイルシステム(以下、ブラモスと言う)の取得を検討することであった。フィリピンとベトナムに続き、インドネシアは東南アジアでブラモスを導入する3番目の国となる見込みである。これらの国々は、陸上および艦船搭載型の対艦ミサイルであるブラモスに特に興味を示しており、その主な用途は南シナ海における海軍活動に対する中国の干渉に対抗することである。ブラモスの優れた性能はすでにフィリピンによる取得につながっており、ベトナムとインドネシアへの取引も進行中である。一方、マレーシアとタイは将来の調達に向けて検討を行っている。しかし、ブラモスが中国のすぐ近く、特に係争中の海域に配備されることに対しては、中国指導部内でも懸念が高まっている。
(2) ブラモスの速度はマッハ2.8、最大射程は800kmである。ただし、輸出型はMissile Technology Control Regime(MTCR)の制限により、射程距離290kmに制限されている。Bhāratīya Saśastra Sēnāēṃ(インド軍)は2007年以降、このミサイルの複数の型式を自国の在庫として導入している。
(3) インドと中国の関係が悪化し、中国政府が攻撃的な行動を強めたため、インドは防衛輸出に関する自主規制を撤廃した。その結果、ブラモスは2020年代におけるインドの防衛外交の主要手段として浮上した。この恩恵を最初に受けたのがフィリピンで、2022年1月には海兵隊に3個のミサイル部隊を新編することになった。この契約には訓練と保守支援も含まれており、初号機は2024年4月に納入され、追加購入について交渉中である。
(4) ベトナムは現在、5基を導入するための7億米ドルの契約を最終調整中で、インドネシアも交渉中である。これらがまとまれば、インドの東方政策が東南アジアの防衛部門においてさらに強化されることになる。ベトナムとインドネシアは、以前にロシアのヤホントを購入しているが、更新にあたって、後方支援体制の利便性を整えるため、ロシア製に置き換えるのではなく、両国はインド製を選択した。これは、世界的な不確実性の高まりの中、防衛装備品輸入の多様化とロシアへの依存度低減を目指す両国の戦略を反映したものである。
(5) 中国にとって、特に係争中の海域を含む近隣地域でのブラモスの拡散は、大きな課題である。中国の専門家は、その性能と射程距離から、ブラモスは「国際安全保障の厄介者」となる可能性があると評している。注目すべきは、2021年にガルワンの事件を受けて、インドの実効支配線(LAC)付近にブラモスが配備されたことに対し、中国から激しい反発があったことである。中国は、この動きが2国間協議の障害になると捉えていた。このブラモスに対する中国の懸念は3つある。
a. ロシアが、ブラモスのフィリピンおよびその他の東南アジア諸国への輸出を許可したことは、中国の国家安全保障上の懸念を無視している。
b. ブラモスが東南アジアに配備されると南シナ海の安定が損なわれ、地域的な軍拡競争が引き起こされ、既存の紛争地域における緊張と対立が拡大する可能性がある。
c. ベトナム沿岸防衛および対艦作戦のためにブラモスが配備されることは、南シナ海の西側を締め付ける効果をもたらすため、中国にとって特に厄介な問題である。
(6) ブラモスが24~36発のミサイルを発射すれば、中国の空母打撃群に重大な損害を与えることができることから、Armed Forces of the Philippinesは海洋において大きな影響力を得ることになる。フィリピンはブラモスをサンバレス州とルソン島に配備しており、将来的にはカラヤン島、ルバング島、パラワン島への配備も検討されている。これらの位置からはスカボロー礁、セカンド・トーマス礁、台湾海峡から南沙諸島など広い海域における事態に対応できる。
(7) フィリピンは、周辺海域にレーダー覆域を確保するため、日本やイスラエルなどからレーダー・システムを調達している。ブラモスは、十分な防空能力を持たない揚陸艦や沿岸警備艇といった中国の艦船にとって脅威となる。中国は、海上戦力・ミサイル・航空戦力を使用して、これらの地上ミサイルを無力化することを検討しているかもしれない。しかし、そのような行動は、フィリピンと米国間の相互防衛条約の発動につながる危険性がある。そのため、中国は2024年7月以降、フィリピンが主要な戦略的脅威とならないよう、より陰険なグレーゾーン戦術を採用し始めた。
(8) 中国は、東南アジア諸国とのブラモス契約をインドが戦略的関係を強化する一歩であると認識している。これらの契約は、訓練、予備部品、保守整備支援を通じて、長期的な軍事関係を促進し、これらの国の安全保障上の利益をインドと一致させるものとなる。東方政策における既存の政治的・外交的構想と組み合わせることで、このような防衛上の提携は、インドの地域における存在感と影響力をさらに高めることになるであろう。
記事参照:Shaping China’s periphery: BrahMos missiles in Southeast Asia
(1) 2025年1月にインドの共和国記念日を祝う来賓としてニューデリーを訪問したインドネシアのPrabowo Subianto大統領の重要な目的の1つは、ブラモス・超音速ミサイルシステム(以下、ブラモスと言う)の取得を検討することであった。フィリピンとベトナムに続き、インドネシアは東南アジアでブラモスを導入する3番目の国となる見込みである。これらの国々は、陸上および艦船搭載型の対艦ミサイルであるブラモスに特に興味を示しており、その主な用途は南シナ海における海軍活動に対する中国の干渉に対抗することである。ブラモスの優れた性能はすでにフィリピンによる取得につながっており、ベトナムとインドネシアへの取引も進行中である。一方、マレーシアとタイは将来の調達に向けて検討を行っている。しかし、ブラモスが中国のすぐ近く、特に係争中の海域に配備されることに対しては、中国指導部内でも懸念が高まっている。
(2) ブラモスの速度はマッハ2.8、最大射程は800kmである。ただし、輸出型はMissile Technology Control Regime(MTCR)の制限により、射程距離290kmに制限されている。Bhāratīya Saśastra Sēnāēṃ(インド軍)は2007年以降、このミサイルの複数の型式を自国の在庫として導入している。
(3) インドと中国の関係が悪化し、中国政府が攻撃的な行動を強めたため、インドは防衛輸出に関する自主規制を撤廃した。その結果、ブラモスは2020年代におけるインドの防衛外交の主要手段として浮上した。この恩恵を最初に受けたのがフィリピンで、2022年1月には海兵隊に3個のミサイル部隊を新編することになった。この契約には訓練と保守支援も含まれており、初号機は2024年4月に納入され、追加購入について交渉中である。
(4) ベトナムは現在、5基を導入するための7億米ドルの契約を最終調整中で、インドネシアも交渉中である。これらがまとまれば、インドの東方政策が東南アジアの防衛部門においてさらに強化されることになる。ベトナムとインドネシアは、以前にロシアのヤホントを購入しているが、更新にあたって、後方支援体制の利便性を整えるため、ロシア製に置き換えるのではなく、両国はインド製を選択した。これは、世界的な不確実性の高まりの中、防衛装備品輸入の多様化とロシアへの依存度低減を目指す両国の戦略を反映したものである。
(5) 中国にとって、特に係争中の海域を含む近隣地域でのブラモスの拡散は、大きな課題である。中国の専門家は、その性能と射程距離から、ブラモスは「国際安全保障の厄介者」となる可能性があると評している。注目すべきは、2021年にガルワンの事件を受けて、インドの実効支配線(LAC)付近にブラモスが配備されたことに対し、中国から激しい反発があったことである。中国は、この動きが2国間協議の障害になると捉えていた。このブラモスに対する中国の懸念は3つある。
a. ロシアが、ブラモスのフィリピンおよびその他の東南アジア諸国への輸出を許可したことは、中国の国家安全保障上の懸念を無視している。
b. ブラモスが東南アジアに配備されると南シナ海の安定が損なわれ、地域的な軍拡競争が引き起こされ、既存の紛争地域における緊張と対立が拡大する可能性がある。
c. ベトナム沿岸防衛および対艦作戦のためにブラモスが配備されることは、南シナ海の西側を締め付ける効果をもたらすため、中国にとって特に厄介な問題である。
(6) ブラモスが24~36発のミサイルを発射すれば、中国の空母打撃群に重大な損害を与えることができることから、Armed Forces of the Philippinesは海洋において大きな影響力を得ることになる。フィリピンはブラモスをサンバレス州とルソン島に配備しており、将来的にはカラヤン島、ルバング島、パラワン島への配備も検討されている。これらの位置からはスカボロー礁、セカンド・トーマス礁、台湾海峡から南沙諸島など広い海域における事態に対応できる。
(7) フィリピンは、周辺海域にレーダー覆域を確保するため、日本やイスラエルなどからレーダー・システムを調達している。ブラモスは、十分な防空能力を持たない揚陸艦や沿岸警備艇といった中国の艦船にとって脅威となる。中国は、海上戦力・ミサイル・航空戦力を使用して、これらの地上ミサイルを無力化することを検討しているかもしれない。しかし、そのような行動は、フィリピンと米国間の相互防衛条約の発動につながる危険性がある。そのため、中国は2024年7月以降、フィリピンが主要な戦略的脅威とならないよう、より陰険なグレーゾーン戦術を採用し始めた。
(8) 中国は、東南アジア諸国とのブラモス契約をインドが戦略的関係を強化する一歩であると認識している。これらの契約は、訓練、予備部品、保守整備支援を通じて、長期的な軍事関係を促進し、これらの国の安全保障上の利益をインドと一致させるものとなる。東方政策における既存の政治的・外交的構想と組み合わせることで、このような防衛上の提携は、インドの地域における存在感と影響力をさらに高めることになるであろう。
記事参照:Shaping China’s periphery: BrahMos missiles in Southeast Asia
1月22日「なぜ英国はチャゴス諸島交渉を止めるべきか?―英専門家論説」(War on the Rocks, January 22, 2025)
1月22日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、英シンクタンクPolicy Exchangeの国家安全保障部長Marcus Solarz Hendriks の“Why Britain Should Scupper the Chagos Islands Deal”と題する論説を掲載し、ここでMarcus Solarz Hendriksは2024年10月に英国政府はディエゴガルシア軍事基地を含むチャゴス諸島の領有権をモーリシャスに移譲すると発表し、その交渉が続いているが、この領有権移譲はインド洋における中国の活動拡大とモーリシャスと中国の関係緊密化という観点から、英国にとって長期にわたる大きな戦略的危険性となるので、交渉自体を止めるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英国政府とモーリシャスとのチャゴス諸島割譲に関する交渉は混乱している。本稿執筆時点では差し迫った合意への期待は、英国が Trump次期政権に最終決定権を与えるのを待つかもしれないという報道に変わった。最近の英シンクタンクPolicy Exchangeの報告書が論じているように、交渉の最初の発表から3ヵ月半で、この問題に対する英国政府の処理の悪さが明らかとなった。モーリシャスと米国が選挙前に取引を急ごうとすることで、英国は自国とこの交渉を2つの未知の政府の決断に委ねてしまった。この賭けは裏目に出た。チャゴス諸島を構成する60余りの島々の1つに、英米合同のディエゴガルシア軍事基地がある。核兵器搭載の原子力潜水艦と爆撃機が使用可能なこの海空軍施設は、インド洋の重要な情報前哨基地としても機能している。基地の長期的な存続可能性に疑問の影を落とす状況の変化、そして周辺の安全保障を維持する英米の能力さえも損なうような状況の変化が起きることは重大な戦略的危険性である。そのような理由から英国と米国にとって最良の結果は、この交渉自体を止めることである。
(2) そもそもモーリシャスとの間で、チャゴス諸島の領有権を移譲するという合意に達することは、法的に必要でもなく、戦略的にも賢明でもなかった。それどころか、そのような合意に達することは、中国の展開が急速に拡大しているこの重要な地域で行われた戦略的な自傷行為であった。英国当局者によれば、英国はモーリシャスの「島々に対する英国の主権は植民地主義の違法な名残である」という主張に合意を強いられたのである。2019年、国際司法裁判所が拘束力のない勧告的意見を発表し、英国は「その統治をできるだけ早く終わらせる義務がある」と勧告された。その直後、国連総会は圧倒的多数でその意見を支持している。しかし、その勧告的意見には拘束力がなく、英国は従う義務がないというのが真実である。英国は、モーリシャスを含む英連邦の構成国との間の紛争を国際司法裁判所の管轄権の範囲から除外している。したがって、モーリシャスの最初の訴訟は事実上、勧告的意見の手続きを強奪したようなものである。国際司法裁判所のJoan E. Donoghue判事とPeter Tomka判事は、意見書の中で裁判所の行き過ぎに関する懸念を述べていた。当時、ドイツ、オーストラリア、フランス、米国はいずれも、国際司法裁判所が確立された慣行から逸脱していることについて同様の懸念を表明した。実際、勧告的意見を受け入れなかった国が外交的または戦略的な深刻な結果に苦しむことはなかったという歴史的前例は、たくさんある。いわゆる圧力に屈するかどうかは、法的遵守の行為ではなく、戦略的危険性の計算に基づく政治的決定によるのである。戦略的資産の将来が外交的圧力によってより危険にさらされるのか、領土の主権を他国に移譲するという新しい協定によって危険にさらされるのかということが問題となる。
(3) 将来、法的な問題が克服できなくなるという英国政府の懸念は誇張されている。同様に、英国政府がチャゴス諸島の領有権移譲から生じる長期的な戦略的危険性を過小評価している。その危険性の中心は、インド洋における中国の活動拡大とモーリシャスと中国の関係緊密化である。ディエゴガルシア基地の安全は、現在、他の国々がその近くに軍事施設を設立したり、監視を行ったりすることを防ぐ一連の強固な機構によって確保されている。英国は、チャゴス諸島周辺海域で厳格な海洋保護区を施行しており、商船の入港は禁止されている。さらに、英国の海外領土として、英国以外の国はどの島でもインフラを開発することはできない。基地の核兵器運用を可能にする特別な措置も実施されている。この地域は、ペリンダバ条約の支援下にあるアフリカ非核兵器地帯に含まれている。しかし、英国はその条約の中で、この軍事基地の存在と核兵器搭載原子力潜水艦・爆撃機の使用許可という例外を認めさせている。モーリシャスは条約の署名国であるため、その例外を今後引き続き認めるかどうかはまだわかっていない。現時点では、これらの重要な安全保障対策が現在の形で存続することを示す情報はない。英国は、提案された交渉の一部として、「モーリシャス海洋保護区の創設」でモーリシャスと協力すると発表したが、これが何を構成するかについての詳細は明らかにしていない。新しい海洋保護区の規制が緩いのではないかという懸念は、モーリシャス自身の海洋保護区が政府による外国漁船への免許証の発行を許可しているという事実によって裏付けられる。中国には表向きは商船や海洋調査船を利用して2024年の1年間で米軍施設の情報を収集しようと100回も試みたという実績がある。その中国が、海洋保護区での活動の機会を与えられることは、英国と米国の軍事・情報活動にとって極めて重大な危険性をもたらすであろう。そのような懸念は、モーリシャスと中国の関係の着実な良化によってさらに大きくなっている。モーリシャスは、2019年に中国政府と自由貿易協定を締結した最初のアフリカの国である。英国は、ディエゴガルシアの99年にわたる租借契約の過程で、中国がモーリシャスに対して十分な影響力を築くことがないという確信が持てるのであろうか?法的または安全保障関連の規定はまだ開示されていない。この地域の小国は、中国とインドの対立の逆風にますます苦しめられている。モーリシャスのような小国の長期的な忠誠心や政策の自律性を保持する能力に賭けることは不可能である。
(4) チャゴス諸島の事例は、現代の自由民主主義国において政策立案者が直面する難問でどのように行動するべきかという問題、自由民主主義国が維持しようとしている規範や価値観についての問題は一筋縄ではいかないことを表している。英国政府にとってモーリシャスとの間で行われた交渉は、単に戦略的資産の将来を確保するためではなく、David Lammy英外相の言葉を借りれば「我々が意味していることは、国際法とグローバル・サウスとの提携への願望について我々が言っていることを示す」ものである。英外相は、モーリシャスとの論争を終わらせることで、「ウクライナや南シナ海のような問題に関して我々の議論を強化する」と考えている。問題は、英外相のこの誤った同じ価値があるとの認識(false equivalence)が英国の利益に役立たず、さらに望ましい規範も持っていないことである。英国が1960年代にモーリシャスから購入したチャゴス諸島の領有権問題とVladimir Putinのウクライナ戦争、そして習近平の地域侵略との類似性を引き出すことは道徳的なあいまいさを生み出し、非同盟諸国に英国側の譲歩を求める口実を与える。英国のチャゴス諸島に関する交渉の誤った方針は、不安定と弱さを生んでいる。それは、英国が戦略的危険性を思慮深く管理できないで疑わしい道徳的訴えに取り込まれる可能性のある国家であるという印象を生み出している。世界的規範の誤用を認めることは、英国を強化するのではなく、むしろ英国の法的および道徳的な足場を弱める。英国政府は、土壇場でモーリシャスとの交渉を止める道筋をうまく作ることができた。英国、米国、その提携国の戦略的利益は、交渉を止めるという道筋に進んだ場合、最も大きくなるであろう。
記事参照:Why Britain Should Scupper the Chagos Islands Deal
(1) 英国政府とモーリシャスとのチャゴス諸島割譲に関する交渉は混乱している。本稿執筆時点では差し迫った合意への期待は、英国が Trump次期政権に最終決定権を与えるのを待つかもしれないという報道に変わった。最近の英シンクタンクPolicy Exchangeの報告書が論じているように、交渉の最初の発表から3ヵ月半で、この問題に対する英国政府の処理の悪さが明らかとなった。モーリシャスと米国が選挙前に取引を急ごうとすることで、英国は自国とこの交渉を2つの未知の政府の決断に委ねてしまった。この賭けは裏目に出た。チャゴス諸島を構成する60余りの島々の1つに、英米合同のディエゴガルシア軍事基地がある。核兵器搭載の原子力潜水艦と爆撃機が使用可能なこの海空軍施設は、インド洋の重要な情報前哨基地としても機能している。基地の長期的な存続可能性に疑問の影を落とす状況の変化、そして周辺の安全保障を維持する英米の能力さえも損なうような状況の変化が起きることは重大な戦略的危険性である。そのような理由から英国と米国にとって最良の結果は、この交渉自体を止めることである。
(2) そもそもモーリシャスとの間で、チャゴス諸島の領有権を移譲するという合意に達することは、法的に必要でもなく、戦略的にも賢明でもなかった。それどころか、そのような合意に達することは、中国の展開が急速に拡大しているこの重要な地域で行われた戦略的な自傷行為であった。英国当局者によれば、英国はモーリシャスの「島々に対する英国の主権は植民地主義の違法な名残である」という主張に合意を強いられたのである。2019年、国際司法裁判所が拘束力のない勧告的意見を発表し、英国は「その統治をできるだけ早く終わらせる義務がある」と勧告された。その直後、国連総会は圧倒的多数でその意見を支持している。しかし、その勧告的意見には拘束力がなく、英国は従う義務がないというのが真実である。英国は、モーリシャスを含む英連邦の構成国との間の紛争を国際司法裁判所の管轄権の範囲から除外している。したがって、モーリシャスの最初の訴訟は事実上、勧告的意見の手続きを強奪したようなものである。国際司法裁判所のJoan E. Donoghue判事とPeter Tomka判事は、意見書の中で裁判所の行き過ぎに関する懸念を述べていた。当時、ドイツ、オーストラリア、フランス、米国はいずれも、国際司法裁判所が確立された慣行から逸脱していることについて同様の懸念を表明した。実際、勧告的意見を受け入れなかった国が外交的または戦略的な深刻な結果に苦しむことはなかったという歴史的前例は、たくさんある。いわゆる圧力に屈するかどうかは、法的遵守の行為ではなく、戦略的危険性の計算に基づく政治的決定によるのである。戦略的資産の将来が外交的圧力によってより危険にさらされるのか、領土の主権を他国に移譲するという新しい協定によって危険にさらされるのかということが問題となる。
(3) 将来、法的な問題が克服できなくなるという英国政府の懸念は誇張されている。同様に、英国政府がチャゴス諸島の領有権移譲から生じる長期的な戦略的危険性を過小評価している。その危険性の中心は、インド洋における中国の活動拡大とモーリシャスと中国の関係緊密化である。ディエゴガルシア基地の安全は、現在、他の国々がその近くに軍事施設を設立したり、監視を行ったりすることを防ぐ一連の強固な機構によって確保されている。英国は、チャゴス諸島周辺海域で厳格な海洋保護区を施行しており、商船の入港は禁止されている。さらに、英国の海外領土として、英国以外の国はどの島でもインフラを開発することはできない。基地の核兵器運用を可能にする特別な措置も実施されている。この地域は、ペリンダバ条約の支援下にあるアフリカ非核兵器地帯に含まれている。しかし、英国はその条約の中で、この軍事基地の存在と核兵器搭載原子力潜水艦・爆撃機の使用許可という例外を認めさせている。モーリシャスは条約の署名国であるため、その例外を今後引き続き認めるかどうかはまだわかっていない。現時点では、これらの重要な安全保障対策が現在の形で存続することを示す情報はない。英国は、提案された交渉の一部として、「モーリシャス海洋保護区の創設」でモーリシャスと協力すると発表したが、これが何を構成するかについての詳細は明らかにしていない。新しい海洋保護区の規制が緩いのではないかという懸念は、モーリシャス自身の海洋保護区が政府による外国漁船への免許証の発行を許可しているという事実によって裏付けられる。中国には表向きは商船や海洋調査船を利用して2024年の1年間で米軍施設の情報を収集しようと100回も試みたという実績がある。その中国が、海洋保護区での活動の機会を与えられることは、英国と米国の軍事・情報活動にとって極めて重大な危険性をもたらすであろう。そのような懸念は、モーリシャスと中国の関係の着実な良化によってさらに大きくなっている。モーリシャスは、2019年に中国政府と自由貿易協定を締結した最初のアフリカの国である。英国は、ディエゴガルシアの99年にわたる租借契約の過程で、中国がモーリシャスに対して十分な影響力を築くことがないという確信が持てるのであろうか?法的または安全保障関連の規定はまだ開示されていない。この地域の小国は、中国とインドの対立の逆風にますます苦しめられている。モーリシャスのような小国の長期的な忠誠心や政策の自律性を保持する能力に賭けることは不可能である。
(4) チャゴス諸島の事例は、現代の自由民主主義国において政策立案者が直面する難問でどのように行動するべきかという問題、自由民主主義国が維持しようとしている規範や価値観についての問題は一筋縄ではいかないことを表している。英国政府にとってモーリシャスとの間で行われた交渉は、単に戦略的資産の将来を確保するためではなく、David Lammy英外相の言葉を借りれば「我々が意味していることは、国際法とグローバル・サウスとの提携への願望について我々が言っていることを示す」ものである。英外相は、モーリシャスとの論争を終わらせることで、「ウクライナや南シナ海のような問題に関して我々の議論を強化する」と考えている。問題は、英外相のこの誤った同じ価値があるとの認識(false equivalence)が英国の利益に役立たず、さらに望ましい規範も持っていないことである。英国が1960年代にモーリシャスから購入したチャゴス諸島の領有権問題とVladimir Putinのウクライナ戦争、そして習近平の地域侵略との類似性を引き出すことは道徳的なあいまいさを生み出し、非同盟諸国に英国側の譲歩を求める口実を与える。英国のチャゴス諸島に関する交渉の誤った方針は、不安定と弱さを生んでいる。それは、英国が戦略的危険性を思慮深く管理できないで疑わしい道徳的訴えに取り込まれる可能性のある国家であるという印象を生み出している。世界的規範の誤用を認めることは、英国を強化するのではなく、むしろ英国の法的および道徳的な足場を弱める。英国政府は、土壇場でモーリシャスとの交渉を止める道筋をうまく作ることができた。英国、米国、その提携国の戦略的利益は、交渉を止めるという道筋に進んだ場合、最も大きくなるであろう。
記事参照:Why Britain Should Scupper the Chagos Islands Deal
1月23日「QUADの20年:分析的視点―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, January 23, 2025)
1月23日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのPacific Forumが発行するPacNet Commentaryのウエブサイトは、元在日スロバキア共和国代表部副首席Erik Lenhartと米Stephen F. Austin State University政治学教授Michael Tkacik の“20 years of the Quad: An analytical perspective”と題する論説を掲載し、ここで両名はQUADが過去20年間、気候変動からサイバーセキュリティまで地域の多様な課題に取り組んできており、QUADが進化し、変化する地政学的力学に適応し強力な指導力を維持することが、この地域への長期的な影響を決定するとして要旨以下のように述べている。
(1) QUADは、その発足以来、大きな進化を遂げた。QUADは、2004年の壊滅的なインド洋地震と津波への対応として最初に形成された。この自然災害に日米豪印4ヵ国は協力して人道支援と災害救援を行った。災害の緊急対応として始まったQUADは、自由で開かれた繁栄したインド太平洋地域の確保を目指す強固な提携に成長した。QUADの制度化と戦略的方向性決定に関する中心的な人物の1人は日本の元首相安倍晋三であった。2012年、安倍首相は「アジアの民主的安全保障のダイヤモンド」という概念を提唱し、インド洋から西太平洋に広がる海洋公共材(maritime commons)を守るために、4ヵ国が戦略的に同盟を結ぶことを構想した。安倍元首相の構想は、QUADの戦略的枠組みの形成に役立ち、インド太平洋地域における民主的価値と海洋安全保障の重要性を強調した。2016年、安倍元首相は自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)戦略により、その構想をさらに改良した。FOIP戦略の目的は、法に基づく国際秩序を確立し、インド太平洋地域の安定と繁栄に不可欠な自由貿易、航行の自由、法の支配などの原則を強化することである。2017年、日本はインド太平洋地域の地理的境界の定義を拡大した。河野太郎外務大臣は、2017年9月の米Columbia Universityでの講演で「インド太平洋は、急速に成長するアフリカ、中東、アジア、北米をつないでいる」と述べている。QUADは、中国との関与を優先し、封じ込めと受け取られる可能性のある行動を避けるよう努めたBarack Obama元米大統領とKevin Rudd元オーストラリア首相の政権下で休眠期間を経験した。この期間のQUADの中断は、インド太平洋地域における戦略的利益と外交関係の均衡を取ることの難しさを浮き彫りにしている。QUADは、安倍元首相の2期目に復活し、Trump政権下でさらに強化された。安倍元首相のQUADに対する粘り強い主張と彼の戦略的構想は、QUAD復活の基礎を築いた。2017年、QUADは再編され、地域の安全保障と協力への新たな関与を示した。Trump第1期政権は、QUADの制度化に重要な役割を果たし、外務大臣や首脳段階での定期的な会合を開催した。当時のTrump大統領の政権下でのQUADの復活は、この地域における中国の主張に対抗する強いコミットメントを示した。Biden前大統領と岸田前首相の下、QUADはその取り組みをさらに制度化し、日米両国のインド太平洋戦略の主要な構成要素としてのQUADの重要性を強調した。QUAD首脳会議は恒例の行事となり、2024年の首脳会議は4回目となった。QUADの制度化には、海洋安全保障、サイバーセキュリティ、インフラ開発、健康安全保障など多様な領域にわたる専門の作業部会やイニシアチブの設立が含まれている。
(2) 過去20年間、QUADはこの地域の差し迫った課題に対処するために、数多くの構想を立ち上げてきた。その取り組みは、海洋安全保障、サイバーセキュリティ、基幹施設開発、健康安全保障などさまざまな領域にまたがっている。QUADの注目すべき成果の1つは、加盟国間の教育交流や研究協力を促進するQUAD・フェローシップ・プログラムの設立である。近年、QUADは、「インド太平洋地域における訓練のための海洋イニシアチブ」や「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ」などを通じて、地域の海洋安全保障の強化にも注力している。これらの構想は海の脅威を監視し、対応する地域の能力を向上させ、インド太平洋海域の安全と安全保障を確保することを目的としている。さらに、QUADは、世界的な健康課題への対応において大きな前進を遂げた。2023年に開始された「QUAD・ヘルス・セキュリティ・パートナーシップ」は、インド太平洋地域におけるヘルス・セキュリティ・コーディネーションの強化を目指している。また、QUADがんムーンショットは、注目すべき構想であり、この地域の子宮頸がんとの闘いに焦点を当てている。これらの取り組みは、インド太平洋地域の人々の福祉を向上させることに対するQUADの関与を強調するものである。QUADは、基幹施設構築における公共財の提供にも焦点を当ててきた。「QUAD・インフラ投資・開発パートナーシップ」は、インド太平洋地域全体で質の高い基幹施設計画を支援するために、資源と専門知識を動員することを目的としている。
(3) QUADは、未來について、効果的な地域制度と民主的価値への関与に支えられた平和で安定し繁栄した地域を思い描いている。しかし、今後の道のりには、QUADの有効性と結束に影響を与える可能性のある課題がはらんでいる。大きな課題の1つは、Donald Trumpが米国大統領に復帰することである。Donald Trumpの1期目の政権は、QUADの復活と初期の勢いに貢献したが、Donald Trump の2期目の政権は、QUADにとって課題となる可能性がある。Donald Trumpの外交政策は予測不可能であり、インド太平洋地域における統一戦線と一貫した戦略の維持を目指すQUADの努力を台無しにしかねない。Donald Trumpが多国間協力よりも2国間関与に焦点を当てていることや、負担分担の増加要求による緊張した同盟関係と相まって、QUADの集団的な取り組みを弱める可能性がある。Donald Trump が多国間協定から離脱してきた歴史や、国際的な関与よりも国内問題に焦点を当てる可能性があることが、QUADの持つ地域の課題に長期的かつ効果的に対処する能力を阻害する可能性がある。もう1つの課題は、日本の新首相である石破茂の指導力と国際経験である。石破首相は日本の政治に関して豊富な経験を持っているが、自民党内での強力な派閥支持の欠如と国際的な露出の少なさが、彼の指導力に課題をもたらす可能性がある。安倍元首相と岸田前首相は、強固な国際的知名度を持ち、複雑な外交環境を効果的に舵取りすることができた。石破首相が少数派政権を率いるという事実は、彼に主に国内問題に焦点を当てることを強いており、そのため彼が国際政治で活躍することは少なくするであろう。さらに、インドとロシアとの関係は、QUADの力学に複雑さを加えている。インドは歴史的にロシアと強い関係を維持しており、そのことが特定の安全保障問題で他のQUAD構成国との整合性に影響を与えている。QUADの構成国である米国、インド、日本、オーストラリアは、いずれも中国との関係に不安を抱えている。中国はこれらの国々にとって重要な貿易相手国であるが、安全保障上の危険性も認識されている。日中間の尖閣諸島紛争、南シナ海における中国の強引な行動、ヒマラヤ国境地域でのインドとの衝突は、主要な争点である。これらの緊張関係は、QUADが経済的利益と安全保障上の懸念との間で微妙な均衡を維持しなければならないことを浮き彫りにしている。これらの課題にもかかわらず、QUADはFOIPという構想に引き続き関与している。気候変動からサイバーセキュリティまで、複雑な地域の課題に取り組むことに注力しているこの枠組みは、地域の将来において重要な行為者として位置付けられている。QUADが進化を続ける中、変化する地政学的力学に適応し、強力な指導力を維持する能力が、インド太平洋地域への長期的な影響を決定することになる。
(4) 2025年、QUADは、航行の自由を確保し、インド太平洋における違法行為に対抗するために共同海軍演習と海上哨戒の強化に注力する。さらに、QUADが半導体や希土類元素など特に重要な分野においてサプライチェーンの抗堪性を強化するための戦略を策定することで、混乱を緩和し、単一の供給源への依存を減らすことができる。QUADが反中国同盟ではないことを明確に表明することは、地域の他の国々からより広範な受け入れと協力を得るのにも役立つであろう。QUADは、これらの分野にも努力を集中することで戦略的パートナーシップを強化し、安定し、繁栄する包括的なインド太平洋地域に貢献できるであろう。
記事参照:20 years of the Quad: An analytical perspective
(1) QUADは、その発足以来、大きな進化を遂げた。QUADは、2004年の壊滅的なインド洋地震と津波への対応として最初に形成された。この自然災害に日米豪印4ヵ国は協力して人道支援と災害救援を行った。災害の緊急対応として始まったQUADは、自由で開かれた繁栄したインド太平洋地域の確保を目指す強固な提携に成長した。QUADの制度化と戦略的方向性決定に関する中心的な人物の1人は日本の元首相安倍晋三であった。2012年、安倍首相は「アジアの民主的安全保障のダイヤモンド」という概念を提唱し、インド洋から西太平洋に広がる海洋公共材(maritime commons)を守るために、4ヵ国が戦略的に同盟を結ぶことを構想した。安倍元首相の構想は、QUADの戦略的枠組みの形成に役立ち、インド太平洋地域における民主的価値と海洋安全保障の重要性を強調した。2016年、安倍元首相は自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)戦略により、その構想をさらに改良した。FOIP戦略の目的は、法に基づく国際秩序を確立し、インド太平洋地域の安定と繁栄に不可欠な自由貿易、航行の自由、法の支配などの原則を強化することである。2017年、日本はインド太平洋地域の地理的境界の定義を拡大した。河野太郎外務大臣は、2017年9月の米Columbia Universityでの講演で「インド太平洋は、急速に成長するアフリカ、中東、アジア、北米をつないでいる」と述べている。QUADは、中国との関与を優先し、封じ込めと受け取られる可能性のある行動を避けるよう努めたBarack Obama元米大統領とKevin Rudd元オーストラリア首相の政権下で休眠期間を経験した。この期間のQUADの中断は、インド太平洋地域における戦略的利益と外交関係の均衡を取ることの難しさを浮き彫りにしている。QUADは、安倍元首相の2期目に復活し、Trump政権下でさらに強化された。安倍元首相のQUADに対する粘り強い主張と彼の戦略的構想は、QUAD復活の基礎を築いた。2017年、QUADは再編され、地域の安全保障と協力への新たな関与を示した。Trump第1期政権は、QUADの制度化に重要な役割を果たし、外務大臣や首脳段階での定期的な会合を開催した。当時のTrump大統領の政権下でのQUADの復活は、この地域における中国の主張に対抗する強いコミットメントを示した。Biden前大統領と岸田前首相の下、QUADはその取り組みをさらに制度化し、日米両国のインド太平洋戦略の主要な構成要素としてのQUADの重要性を強調した。QUAD首脳会議は恒例の行事となり、2024年の首脳会議は4回目となった。QUADの制度化には、海洋安全保障、サイバーセキュリティ、インフラ開発、健康安全保障など多様な領域にわたる専門の作業部会やイニシアチブの設立が含まれている。
(2) 過去20年間、QUADはこの地域の差し迫った課題に対処するために、数多くの構想を立ち上げてきた。その取り組みは、海洋安全保障、サイバーセキュリティ、基幹施設開発、健康安全保障などさまざまな領域にまたがっている。QUADの注目すべき成果の1つは、加盟国間の教育交流や研究協力を促進するQUAD・フェローシップ・プログラムの設立である。近年、QUADは、「インド太平洋地域における訓練のための海洋イニシアチブ」や「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ」などを通じて、地域の海洋安全保障の強化にも注力している。これらの構想は海の脅威を監視し、対応する地域の能力を向上させ、インド太平洋海域の安全と安全保障を確保することを目的としている。さらに、QUADは、世界的な健康課題への対応において大きな前進を遂げた。2023年に開始された「QUAD・ヘルス・セキュリティ・パートナーシップ」は、インド太平洋地域におけるヘルス・セキュリティ・コーディネーションの強化を目指している。また、QUADがんムーンショットは、注目すべき構想であり、この地域の子宮頸がんとの闘いに焦点を当てている。これらの取り組みは、インド太平洋地域の人々の福祉を向上させることに対するQUADの関与を強調するものである。QUADは、基幹施設構築における公共財の提供にも焦点を当ててきた。「QUAD・インフラ投資・開発パートナーシップ」は、インド太平洋地域全体で質の高い基幹施設計画を支援するために、資源と専門知識を動員することを目的としている。
(3) QUADは、未來について、効果的な地域制度と民主的価値への関与に支えられた平和で安定し繁栄した地域を思い描いている。しかし、今後の道のりには、QUADの有効性と結束に影響を与える可能性のある課題がはらんでいる。大きな課題の1つは、Donald Trumpが米国大統領に復帰することである。Donald Trumpの1期目の政権は、QUADの復活と初期の勢いに貢献したが、Donald Trump の2期目の政権は、QUADにとって課題となる可能性がある。Donald Trumpの外交政策は予測不可能であり、インド太平洋地域における統一戦線と一貫した戦略の維持を目指すQUADの努力を台無しにしかねない。Donald Trumpが多国間協力よりも2国間関与に焦点を当てていることや、負担分担の増加要求による緊張した同盟関係と相まって、QUADの集団的な取り組みを弱める可能性がある。Donald Trump が多国間協定から離脱してきた歴史や、国際的な関与よりも国内問題に焦点を当てる可能性があることが、QUADの持つ地域の課題に長期的かつ効果的に対処する能力を阻害する可能性がある。もう1つの課題は、日本の新首相である石破茂の指導力と国際経験である。石破首相は日本の政治に関して豊富な経験を持っているが、自民党内での強力な派閥支持の欠如と国際的な露出の少なさが、彼の指導力に課題をもたらす可能性がある。安倍元首相と岸田前首相は、強固な国際的知名度を持ち、複雑な外交環境を効果的に舵取りすることができた。石破首相が少数派政権を率いるという事実は、彼に主に国内問題に焦点を当てることを強いており、そのため彼が国際政治で活躍することは少なくするであろう。さらに、インドとロシアとの関係は、QUADの力学に複雑さを加えている。インドは歴史的にロシアと強い関係を維持しており、そのことが特定の安全保障問題で他のQUAD構成国との整合性に影響を与えている。QUADの構成国である米国、インド、日本、オーストラリアは、いずれも中国との関係に不安を抱えている。中国はこれらの国々にとって重要な貿易相手国であるが、安全保障上の危険性も認識されている。日中間の尖閣諸島紛争、南シナ海における中国の強引な行動、ヒマラヤ国境地域でのインドとの衝突は、主要な争点である。これらの緊張関係は、QUADが経済的利益と安全保障上の懸念との間で微妙な均衡を維持しなければならないことを浮き彫りにしている。これらの課題にもかかわらず、QUADはFOIPという構想に引き続き関与している。気候変動からサイバーセキュリティまで、複雑な地域の課題に取り組むことに注力しているこの枠組みは、地域の将来において重要な行為者として位置付けられている。QUADが進化を続ける中、変化する地政学的力学に適応し、強力な指導力を維持する能力が、インド太平洋地域への長期的な影響を決定することになる。
(4) 2025年、QUADは、航行の自由を確保し、インド太平洋における違法行為に対抗するために共同海軍演習と海上哨戒の強化に注力する。さらに、QUADが半導体や希土類元素など特に重要な分野においてサプライチェーンの抗堪性を強化するための戦略を策定することで、混乱を緩和し、単一の供給源への依存を減らすことができる。QUADが反中国同盟ではないことを明確に表明することは、地域の他の国々からより広範な受け入れと協力を得るのにも役立つであろう。QUADは、これらの分野にも努力を集中することで戦略的パートナーシップを強化し、安定し、繁栄する包括的なインド太平洋地域に貢献できるであろう。
記事参照:20 years of the Quad: An analytical perspective
1月23日「英艦艇、CUIへの脅威抑止ため、ロシア船を追跡―フランスメディア報道」(Naval News, January 23, 2025)
1月23日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、海軍・海洋問題の英フリー解説者Lee Willettの“UK Shadows Russian Ship Yantar in Demonstration of Surveillance Role in Deterring CUI threats”と題する記事を掲載し、海底基幹施設への工作が疑われているロシア船をRoyal Navyの艦艇が追跡している状況について、要旨以下のように報じている。
(1) Royal Navyのフリゲート「サマセット」は、1月第4週の初めにロシアの海洋調査船「ヤンターリ」を追跡した。1月22日の報道発表で、英Ministry of Defenceは、「サマセット」の追跡行動が、「ヤンターリ」が英国の海域で重要な海底基幹施設(Critical Undersea Infrastructure:以下、CUIと言う)上を徘徊しているのが発見されてから数週間後に行われたものであると述べており、Royal Navyの潜水艦が「ヤンターリ」の近くに浮上し、ロシア船が密かに追跡されていたことを示す示威行動を行ったとも付け加えている。NATOの同盟国が追跡していた同船を引き継ぎ、「サマセット」はマーリン・ヘリコプターを使用して南西の接近海域で「ヤンターリ」を捕捉し、その後、イギリス海峡を通り北海に入るまで同船を追尾し、Royal Navyの哨戒艦「タイン」も監視に貢献した。
(2) 「ヤンターリ」は地中海での任務から帰投中であったが、11月の進出時には、「ヤンターリ」は「サマセット」の姉妹艦「アイアン・デューク」によって追跡されており、英Ministry of Defenceの報道発表によれば、英海底作業艦「プロテウス」もこの追跡に関与していた。
(3) 英本国海域および周辺海域におけるロシア船の追跡は、Royal Navyや他のNATO海軍にとって日常的な任務である。しかし、ウクライナでの陸上作戦において重要な基幹施設を標的とするロシアの戦略が示されていることや、バルト海における海底ケーブルやパイプラインの損傷事件を考慮すると、CUI作戦を実行できる船舶を追跡することは、ますます重要になっている。後者の状況では、そのような事件の責任が正式に問われたり、主張されたりしていないが、NATO諸国の政治的および公共の議論は、不正行為者である「影の船隊(shadow fleet)」の一部とされる船舶が海底に錨を引きずって損傷を引き起こしたかどうかに焦点を当てている。バルト海のような同盟国の担当海域における現在のCUIへの脅威に対してNATOが実施する海洋監視行動「バルティック・セントリー(Baltic Sentry)」を支援するために、英Ministry of Defenceはまた、Royal Air ForceのP-8A哨戒機およびRC135W「リベット・ジョイント」電子戦機を配備すると報道機関向けの公式発表で述べている。
(4) 1月13日に開始された「バルティック・セントリー」は、12月25日にエストニアとフィンランドを結ぶケーブルが損傷した最新のバルト海での事件を受けて、国家または非国家主体がCUIへ損傷を及ぼすことを抑止するために、バルト海海域で集中的な海洋監視の部隊配備を構築することを目的として計画されたものである。
記事参照:UK Shadows Russian Ship Yantar in Demonstration of Surveillance Role in Deterring CUI threats
(1) Royal Navyのフリゲート「サマセット」は、1月第4週の初めにロシアの海洋調査船「ヤンターリ」を追跡した。1月22日の報道発表で、英Ministry of Defenceは、「サマセット」の追跡行動が、「ヤンターリ」が英国の海域で重要な海底基幹施設(Critical Undersea Infrastructure:以下、CUIと言う)上を徘徊しているのが発見されてから数週間後に行われたものであると述べており、Royal Navyの潜水艦が「ヤンターリ」の近くに浮上し、ロシア船が密かに追跡されていたことを示す示威行動を行ったとも付け加えている。NATOの同盟国が追跡していた同船を引き継ぎ、「サマセット」はマーリン・ヘリコプターを使用して南西の接近海域で「ヤンターリ」を捕捉し、その後、イギリス海峡を通り北海に入るまで同船を追尾し、Royal Navyの哨戒艦「タイン」も監視に貢献した。
(2) 「ヤンターリ」は地中海での任務から帰投中であったが、11月の進出時には、「ヤンターリ」は「サマセット」の姉妹艦「アイアン・デューク」によって追跡されており、英Ministry of Defenceの報道発表によれば、英海底作業艦「プロテウス」もこの追跡に関与していた。
(3) 英本国海域および周辺海域におけるロシア船の追跡は、Royal Navyや他のNATO海軍にとって日常的な任務である。しかし、ウクライナでの陸上作戦において重要な基幹施設を標的とするロシアの戦略が示されていることや、バルト海における海底ケーブルやパイプラインの損傷事件を考慮すると、CUI作戦を実行できる船舶を追跡することは、ますます重要になっている。後者の状況では、そのような事件の責任が正式に問われたり、主張されたりしていないが、NATO諸国の政治的および公共の議論は、不正行為者である「影の船隊(shadow fleet)」の一部とされる船舶が海底に錨を引きずって損傷を引き起こしたかどうかに焦点を当てている。バルト海のような同盟国の担当海域における現在のCUIへの脅威に対してNATOが実施する海洋監視行動「バルティック・セントリー(Baltic Sentry)」を支援するために、英Ministry of Defenceはまた、Royal Air ForceのP-8A哨戒機およびRC135W「リベット・ジョイント」電子戦機を配備すると報道機関向けの公式発表で述べている。
(4) 1月13日に開始された「バルティック・セントリー」は、12月25日にエストニアとフィンランドを結ぶケーブルが損傷した最新のバルト海での事件を受けて、国家または非国家主体がCUIへ損傷を及ぼすことを抑止するために、バルト海海域で集中的な海洋監視の部隊配備を構築することを目的として計画されたものである。
記事参照:UK Shadows Russian Ship Yantar in Demonstration of Surveillance Role in Deterring CUI threats
1月24日「Trump大統領による核兵器削減案への中国の反応―香港紙報道」(South China Morning Post, January 24, 2025)
1月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Trump wants China to join nuclear arms talks with US and Russia. Will Beijing listen?”と題する記事を掲載し、Trump大統領が中国とロシアに核兵器の削減を提案したことへの中国の反応について、要旨以下のように報じている。
(1) Donald Trump大統領が最近、中国を対象とした新たな呼びかけを行った。今回は核兵器の削減を求めるものである。しかし、一部の専門家によれば、この呼びかけは中国政府によって無視される可能性がある。一部の専門家は、中国が自国の核兵器備蓄を米国やロシアと同等とは見なしていないためだと指摘している。Trump大統領の呼びかけは、ダボスで開催された世界経済フォーラムでの演説の一部であり、ロシアや中国と核兵器の備蓄数の削減について協議する考えを示したものである。
(2) 中国人民大学の国際関係学教授時殷弘は、中国のこのような呼びかけに対する反応は常に「米国とロシアが核弾頭を中国の水準まで削減した後に参加する」というものであったと述べている。中国の核弾頭保有数は米国やロシアよりもはるかに少ない。これはTrump大統領も演説で言及した事実である。しかし、Trump大統領は、中国が数年以内に追いつくかもしれないと示唆している。Stockholm International Peace Research Institute(ストックホルム国際平和研究所)の最新の年鑑によれば、中国は2024年1月時点で核弾頭を90発追加し、核兵器の備蓄数は合計で500発となった。これに対し、米国は5,044発、ロシアは5,580発を保有していると、2024年6月に発表された報告書は述べている。
(3) 精華大学戦略与安全研究中心の上席研究員周波も、中国が核交渉に参加することはないと述べている。「削減が行われるとすれば、より核大国がその備蓄数を縮小するか、中国の備蓄数がそれらに匹敵するまで増加する必要がある。そのような状況のいずれも可能性は低い」とも述べている。
(4) Trump大統領の呼びかけは、彼が2期目を開始してから数日後に行われたものであり、この任期中、米国と中国の対立状態は技術、貿易、軍事など多方面で続くと予想されている。
(5) 2020年、習近平国家主席は、中国は「強力な戦略的抑止システムを確立する」と述べ、これは同国が核兵器の備蓄と核抑止能力を強化することを示唆するものと見なされている。
(6) しかし、南京大学国際関係研究院院長である朱鋒は、中国がTrump大統領の軍縮協議の提案に応じる意思があるかもしれないと述べている。朱峰は、中国が他の当事国と核の原則に関する対話に効果的に関与できない場合、核紛争の危険性が高まる可能性があると話した。
(7) Trump大統領が米国とロシアとの協議に中国が参加するよう促したことは初めてではない。しかし、第1次Trump政権は、2020年に中国政府を説得することに失敗した。当時、中国外交部の軍備管理部門の責任者であった傅聡は、2020年7月に中国は核兵器の備蓄数が依然として比較的小さいため、協議に参加する意図はないと述べている。
記事参照:Trump wants China to join nuclear arms talks with US and Russia. Will Beijing listen?
(1) Donald Trump大統領が最近、中国を対象とした新たな呼びかけを行った。今回は核兵器の削減を求めるものである。しかし、一部の専門家によれば、この呼びかけは中国政府によって無視される可能性がある。一部の専門家は、中国が自国の核兵器備蓄を米国やロシアと同等とは見なしていないためだと指摘している。Trump大統領の呼びかけは、ダボスで開催された世界経済フォーラムでの演説の一部であり、ロシアや中国と核兵器の備蓄数の削減について協議する考えを示したものである。
(2) 中国人民大学の国際関係学教授時殷弘は、中国のこのような呼びかけに対する反応は常に「米国とロシアが核弾頭を中国の水準まで削減した後に参加する」というものであったと述べている。中国の核弾頭保有数は米国やロシアよりもはるかに少ない。これはTrump大統領も演説で言及した事実である。しかし、Trump大統領は、中国が数年以内に追いつくかもしれないと示唆している。Stockholm International Peace Research Institute(ストックホルム国際平和研究所)の最新の年鑑によれば、中国は2024年1月時点で核弾頭を90発追加し、核兵器の備蓄数は合計で500発となった。これに対し、米国は5,044発、ロシアは5,580発を保有していると、2024年6月に発表された報告書は述べている。
(3) 精華大学戦略与安全研究中心の上席研究員周波も、中国が核交渉に参加することはないと述べている。「削減が行われるとすれば、より核大国がその備蓄数を縮小するか、中国の備蓄数がそれらに匹敵するまで増加する必要がある。そのような状況のいずれも可能性は低い」とも述べている。
(4) Trump大統領の呼びかけは、彼が2期目を開始してから数日後に行われたものであり、この任期中、米国と中国の対立状態は技術、貿易、軍事など多方面で続くと予想されている。
(5) 2020年、習近平国家主席は、中国は「強力な戦略的抑止システムを確立する」と述べ、これは同国が核兵器の備蓄と核抑止能力を強化することを示唆するものと見なされている。
(6) しかし、南京大学国際関係研究院院長である朱鋒は、中国がTrump大統領の軍縮協議の提案に応じる意思があるかもしれないと述べている。朱峰は、中国が他の当事国と核の原則に関する対話に効果的に関与できない場合、核紛争の危険性が高まる可能性があると話した。
(7) Trump大統領が米国とロシアとの協議に中国が参加するよう促したことは初めてではない。しかし、第1次Trump政権は、2020年に中国政府を説得することに失敗した。当時、中国外交部の軍備管理部門の責任者であった傅聡は、2020年7月に中国は核兵器の備蓄数が依然として比較的小さいため、協議に参加する意図はないと述べている。
記事参照:Trump wants China to join nuclear arms talks with US and Russia. Will Beijing listen?
1月24日「共同統治が我々の海を救う―インドネシア生物学専門家論説」(The Interpreter, January 24, 2025)
1月24日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、インドネシア出身の在野研究者Mohd Yunusの“Why shared governance could save our oceans”と題する論説を掲載し、そこでMohd Yunusは海洋保全のあり方について、従来のトップダウン方式から「共有ガバナンス」への転換が決定的に重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1968年の夏、米生態学者Garrett Hardinが論文「共有地の悲劇(The Tragedy of the Commons)」を上梓した。それは、共有地において個人が自己利益のためだけに行動したら、最終的に資源が使い尽くされると主張するものである。50年経てもなお、Garrett Hardinの洞察は妥当であり、むしろ今日の環境的危機のなかで受け入れられている。しかし、共有資源を脆弱にする諸要因が、革新的な統治様式にとっての機会をも提供するのである。
(2) 世界中の海洋でGarrett Hardinの理論が展開され、管理されていない資源利用により、海洋資源が消滅に追いやられつつある。魚類資源が乱獲され、年間で800万トンのプラスチックが海洋に流れ込んでいると推定されている。これに、海面温度の上昇や海の酸性化、酸素の減少などの圧力が加わる。これらにより、海の生態系だけでなく、国際的な安全保障が悪化する可能性もある。そのため、海洋保全におけるパラダイムシフトが必要である。
(3) 歴史的に海洋保護の統治はトップダウンで、諸国の政府が国家機関を通じて海洋保護区などを設定してきたのである。公共機関が共有資源の管理に責任を持ち、政府が資金を提供し、権限を行使してきた。しかしこうした伝統的なパラダイムには限界があり、それゆえ批判に直面している。そこで注目されているのが共有ガバナンス(shared governance1)である。ここにおいて政府は、非政府組織、地元共同体、そして先住民の集団などと協力をするのである。
(4) カナダのDalhousie Universityが行った最近の研究によれば、トップダウン式の統治が最良ではないことが示唆されている。世界全体の217の海洋保護区(以下、MPAsと言う)の調査により、共有ガバナンスによって管理されたMPAsのほうで資源量が多く保存されたことが判明した。最も重要であったのは、漁獲禁止区域に設定されたところが、最も高い生物量を示したことである。すなわち、意味のある資源保全のためには象徴的なものではなく純粋な制限が必要だということである。
(5) 共有ガバナンスの考え方は新しいものではない。たとえば先住民は独自な方法により海の資源を管理してきた。そしてカナダでは、先住民と政府の提携を形成する手段として共有ガバナンスに着目されてきた。Gwaii Haanas協定はその典型である。またインドネシアのラジャ・アンパットでは、共有ガバナンスのまた別の事例を見ることができる。そこではFish Foreverという構想が実施されているが、それは地元の共同体に対し、設定された区域における漁業権を与えつつ、その近くの区域を漁業禁止区域に設定するというものである。それにより生態系の回復力を強化しつつ、地元の共同体にその資源を持続的に管理するよう権限を与えるものである。
(6) 共有ガバナンスには利点も多いが、万能薬というわけではない。真の前進のためには権限の共有と協働的な意思決定が必要である。2023年の「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定」は、こうした方向に向けた重大な一歩であった。そして2025年6月、フランスのニースで第3回国連海洋会議が開催されるが、共有ガバナンスにとってニースでの海洋会議は最良の機会である。
(7) 我々は海洋保全にとって岐路に立っているが、「コモンズの悲劇」が将来を決定付けると決まったわけではなく、共有ガバナンスが説得力ある代案を提供する。それによりわれわれは、気候変動に強い生態系を育み、食料安全保障を確保し、沿岸地域社会の生計を維持することができる。
記事参照:Why shared governance could save our oceans
(1) 1968年の夏、米生態学者Garrett Hardinが論文「共有地の悲劇(The Tragedy of the Commons)」を上梓した。それは、共有地において個人が自己利益のためだけに行動したら、最終的に資源が使い尽くされると主張するものである。50年経てもなお、Garrett Hardinの洞察は妥当であり、むしろ今日の環境的危機のなかで受け入れられている。しかし、共有資源を脆弱にする諸要因が、革新的な統治様式にとっての機会をも提供するのである。
(2) 世界中の海洋でGarrett Hardinの理論が展開され、管理されていない資源利用により、海洋資源が消滅に追いやられつつある。魚類資源が乱獲され、年間で800万トンのプラスチックが海洋に流れ込んでいると推定されている。これに、海面温度の上昇や海の酸性化、酸素の減少などの圧力が加わる。これらにより、海の生態系だけでなく、国際的な安全保障が悪化する可能性もある。そのため、海洋保全におけるパラダイムシフトが必要である。
(3) 歴史的に海洋保護の統治はトップダウンで、諸国の政府が国家機関を通じて海洋保護区などを設定してきたのである。公共機関が共有資源の管理に責任を持ち、政府が資金を提供し、権限を行使してきた。しかしこうした伝統的なパラダイムには限界があり、それゆえ批判に直面している。そこで注目されているのが共有ガバナンス(shared governance1)である。ここにおいて政府は、非政府組織、地元共同体、そして先住民の集団などと協力をするのである。
(4) カナダのDalhousie Universityが行った最近の研究によれば、トップダウン式の統治が最良ではないことが示唆されている。世界全体の217の海洋保護区(以下、MPAsと言う)の調査により、共有ガバナンスによって管理されたMPAsのほうで資源量が多く保存されたことが判明した。最も重要であったのは、漁獲禁止区域に設定されたところが、最も高い生物量を示したことである。すなわち、意味のある資源保全のためには象徴的なものではなく純粋な制限が必要だということである。
(5) 共有ガバナンスの考え方は新しいものではない。たとえば先住民は独自な方法により海の資源を管理してきた。そしてカナダでは、先住民と政府の提携を形成する手段として共有ガバナンスに着目されてきた。Gwaii Haanas協定はその典型である。またインドネシアのラジャ・アンパットでは、共有ガバナンスのまた別の事例を見ることができる。そこではFish Foreverという構想が実施されているが、それは地元の共同体に対し、設定された区域における漁業権を与えつつ、その近くの区域を漁業禁止区域に設定するというものである。それにより生態系の回復力を強化しつつ、地元の共同体にその資源を持続的に管理するよう権限を与えるものである。
(6) 共有ガバナンスには利点も多いが、万能薬というわけではない。真の前進のためには権限の共有と協働的な意思決定が必要である。2023年の「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定」は、こうした方向に向けた重大な一歩であった。そして2025年6月、フランスのニースで第3回国連海洋会議が開催されるが、共有ガバナンスにとってニースでの海洋会議は最良の機会である。
(7) 我々は海洋保全にとって岐路に立っているが、「コモンズの悲劇」が将来を決定付けると決まったわけではなく、共有ガバナンスが説得力ある代案を提供する。それによりわれわれは、気候変動に強い生態系を育み、食料安全保障を確保し、沿岸地域社会の生計を維持することができる。
記事参照:Why shared governance could save our oceans
1月26日「潜水艦は隠密性を失うのか―米専門家論説」(19FortyFive, January 26, 2025)
1月26日付けの米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、 19FortyFiveの軍事技術担当編集者Kris Osbornの“No Place to Hide: The End of Submarine Stealth?“と題する論説を掲載し、Kris Osbornは潜水艦探知の手段はこれまで音に頼ってきたが、磁場の乱れ、青緑レーザー光の利用など非音響システムの発達により、潜水艦探知の可能性が高まりつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 音響システムは、海中戦闘における探知、革新、新世代の雑音提言技術を推進してきた。この分野における革新は、多くの人が計算できないほど大きな戦術的、戦略的優位性を維持しながらU.S. Navyが活動を続けてきた重要な理由の 1 つである。ソナー・システムと音響による潜水艦探知は今後数十年にわたって存在し続けると思われるが、一連の非音響探知技術がこの状況を変える可能性がある。
(2) Navy Submarine Leagueの「非音響による潜水艦探知手段」という重要な論文(以下、League論文と言う)では、潜在的な敵国によって導入される可能性が高いいくつかの重要な非音響探知手段について分析している。
(3) 非音響探知手段の中心となる分野の1つは、地球の磁場の乱れを検出することで、潜水艦を探知するものである。「潜水艦は大きな鉄の塊であるため、地球の磁場に局所的な乱れを引き起こす・・・潜水艦は、(建造中、および)通常の運用中に磁化され、積極的な消磁措置が講じられるまで潜水艦の永久磁場は、積極的な消磁措置が講じられるまでそのまま残る」とLeague論文は説明している。重要なのは、このLeague論文では、潜水艦が「非磁性」材料で建造された場合、その磁場の乱れを示す信号は減少するが完全には除去されないと説明していることである。米国は現在、対潜水艦戦に当たる航空機に2種類のMAD装置を配備している。League論文によると、MADの探知距離はせいぜい数千ft以内である。
(4) 潜水艦にとって他の脅威も考えられる。海中には、潜水艦の探知を可能にする「発光」生物が存在する。この検出可能性は、移動する潜水艦の周囲の水の流れを指す「境界層」現象によって生じる。「これらの生物は、潜水艦の境界層や航跡で物理的に刺激されると発光する。この現象は、空中や宇宙から潜水艦を検知する方法として研究されてきた」とLeague論文は説明している。
(5) 非音響検出のもう 1つの方法は、「潜水艦が発生する海面の波」である。潜水艦が浅い深度を移動したり、高速で航行したりすると、検出可能な表面波が発生する。レーダー システムは、海中の振動や潜水艦による水の動きによって生成される表面水の動きの変化を検出することができる。しかし、表面の風と同様に、水が表面下で移動する理由は多数あるため、この種の検出方法にもいくつかの制限がある。
(6) 温度検出技術は潜水艦の存在を示す可能性のある違いを素早く識別することができる。「移動する潜水艦は、下層の冷たい水と上層の水を混ぜて海面温度を変え、赤外線(熱)センサーで検知できる冷たい表面水の跡を残す可能性がある」とLeague論文には記されている。
(7) League論文ではさらに、「レーザー探知」が非音響潜水艦探知の最も有望な分野として浮上する可能性があると説明されている。「青緑色の光は海水を比較的透過し易く、単発的に送信された青緑レーザー光は海を透過し、物体に反射してセンサーに戻ってくる可能性がある。青緑レーザー光の往復時間は物体までの距離を示すが、たとえば大きなクジラと潜水艦を区別することはできない」とLeague論文には書かれている。正確な光速と往復のがわかれば、アルゴリズムで距離を素早く計算できる。このような場合、青緑色のレーザー光で特定の深さの潜水艦を「見る」または「見つける」ことができるかもしれない。
記事参照:No Place to Hide: The End of Submarine Stealth?
(1) 音響システムは、海中戦闘における探知、革新、新世代の雑音提言技術を推進してきた。この分野における革新は、多くの人が計算できないほど大きな戦術的、戦略的優位性を維持しながらU.S. Navyが活動を続けてきた重要な理由の 1 つである。ソナー・システムと音響による潜水艦探知は今後数十年にわたって存在し続けると思われるが、一連の非音響探知技術がこの状況を変える可能性がある。
(2) Navy Submarine Leagueの「非音響による潜水艦探知手段」という重要な論文(以下、League論文と言う)では、潜在的な敵国によって導入される可能性が高いいくつかの重要な非音響探知手段について分析している。
(3) 非音響探知手段の中心となる分野の1つは、地球の磁場の乱れを検出することで、潜水艦を探知するものである。「潜水艦は大きな鉄の塊であるため、地球の磁場に局所的な乱れを引き起こす・・・潜水艦は、(建造中、および)通常の運用中に磁化され、積極的な消磁措置が講じられるまで潜水艦の永久磁場は、積極的な消磁措置が講じられるまでそのまま残る」とLeague論文は説明している。重要なのは、このLeague論文では、潜水艦が「非磁性」材料で建造された場合、その磁場の乱れを示す信号は減少するが完全には除去されないと説明していることである。米国は現在、対潜水艦戦に当たる航空機に2種類のMAD装置を配備している。League論文によると、MADの探知距離はせいぜい数千ft以内である。
(4) 潜水艦にとって他の脅威も考えられる。海中には、潜水艦の探知を可能にする「発光」生物が存在する。この検出可能性は、移動する潜水艦の周囲の水の流れを指す「境界層」現象によって生じる。「これらの生物は、潜水艦の境界層や航跡で物理的に刺激されると発光する。この現象は、空中や宇宙から潜水艦を検知する方法として研究されてきた」とLeague論文は説明している。
(5) 非音響検出のもう 1つの方法は、「潜水艦が発生する海面の波」である。潜水艦が浅い深度を移動したり、高速で航行したりすると、検出可能な表面波が発生する。レーダー システムは、海中の振動や潜水艦による水の動きによって生成される表面水の動きの変化を検出することができる。しかし、表面の風と同様に、水が表面下で移動する理由は多数あるため、この種の検出方法にもいくつかの制限がある。
(6) 温度検出技術は潜水艦の存在を示す可能性のある違いを素早く識別することができる。「移動する潜水艦は、下層の冷たい水と上層の水を混ぜて海面温度を変え、赤外線(熱)センサーで検知できる冷たい表面水の跡を残す可能性がある」とLeague論文には記されている。
(7) League論文ではさらに、「レーザー探知」が非音響潜水艦探知の最も有望な分野として浮上する可能性があると説明されている。「青緑色の光は海水を比較的透過し易く、単発的に送信された青緑レーザー光は海を透過し、物体に反射してセンサーに戻ってくる可能性がある。青緑レーザー光の往復時間は物体までの距離を示すが、たとえば大きなクジラと潜水艦を区別することはできない」とLeague論文には書かれている。正確な光速と往復のがわかれば、アルゴリズムで距離を素早く計算できる。このような場合、青緑色のレーザー光で特定の深さの潜水艦を「見る」または「見つける」ことができるかもしれない。
記事参照:No Place to Hide: The End of Submarine Stealth?
1月27日「4つの側面から見る南シナ海の2025年―オーストラリア専門家論説」(The Diplomat, January 27, 2025)
1月27日付のデジタル誌The Diplomatは、オーストラリアのThe University of New South Wales 名誉教授Carl Thayer の“The State of the South China Sea: Coercion at Sea, Slow Progress on a Code of Conduct”と題する論説を掲載し、ここでCarl Thayerは2024年の南シナ海における、①フィリピン艦艇、航空機に対する中国の威嚇行動の増加、②フィリピンによる新たな海上防衛戦略の採用、③南沙諸島におけるベトナムの建設活動の強化、④行動規範(COC)に関する交渉の遅延の4つの主要事象から見て、2025年の南シナ海情勢も好ましいものではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の威嚇行動:
a. 中国は2024年、フィリピンのEEZ内で合法的に活動する、同国海軍、沿岸警備隊及び民間船舶や航空機に対して、脅迫、嫌がらせ、更には威嚇行為を著しく強化した。目立った事案としては、2月から6月にかけて、中国海警局と海上民兵の艦船が合同で、セカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギ礁、中国名:仁愛礁)に座礁させた「シエラ・マドレ」に対するフィリピンの補給活動を執拗に妨害した。6月17日には、中国艦艇によるフィリピンの補給船に対する暴行事案が発生し、Philippine Marine Corpsの隊員が負傷した。6月17日の事案が転換点となり、7月2日には、マニラでの第9回南シナ海に関する比中2国間協議機構で、ホットライン設置が合意され、その後の協議で、7月21日には同種事案の再発防止のための暫定合意(非公開)が実現した。8月19日までの時点で、フィリピンは中国の主権の侵害に対して40回の外交抗議を提出したと報じられている。
b. また、中国は、多数の海軍、海警総隊および海上民兵の艦船を、西フィリピン海に集結させる戦術を確立し、9月10日のサビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙濱礁)で、合わせて207隻の中国艦船が集結した最大の集結事案であった。
c. 中国は、「中国管轄水域(“waters under Chinese jurisdiction”)」における外国船舶を拘留するに当たって合法的体裁を装うために、「沿岸警備諸機関の行政執行手続きに関する規定」(5月15日施行)などの法的措置に訴えた。中国は11月に、黄岩島(スカボロー礁の中国名)周辺に基線を設定し、その写しを国連に寄託した。
(2) フィリピンの包括的群島防衛構想:
a. フィリピンは2024年1月、2023年に中国の威圧的行動が増加したことに対応して、政府全体で取り組む「包括的群島防衛構想(Comprehensive Archipelagic Defense Concept:以下、CADCと言う)」を発表した。Brawner軍最高司令官によれば、フィリピンは効果的な部隊配備の確立、軍事装備の近代化による効果的な抑止力の確保、そして同盟関係と同志国との提携の活用を含む、3本柱の海洋防衛戦略を追求してきた。CADCには、資源の再配分、中国の侵入行為を監視する軍民合同の空海哨戒活動、フィリピン漁民への補給、事案を公表する積極的透明化およびパラワン島と西フィリピン海の海洋自然地形の基幹施設の強化が含まれている。さらに、フィリピンは6月にUnited Nations Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に大陸棚延伸の申請を提出した。11月には、Marcos Jr.大統領は、中国による法律戦に対抗して、 「フィリピン海域法(The Philippines Maritime Zone Act )」と「フィリピン群島シーレーン法(The Philippine Archipelagic Sea Lanes Act)」に署名した。
b. フィリピンはまた、米国、オーストラリアおよび日本との各種の2国間、多国間の陸海空軍事演習にも参加した。セカンド・トーマス礁での中国の補給妨害行為を受けて、米国は何度か補給支援を申し出たが、フィリピンは「外国の介入を求める前にあらゆる手段を尽くす」として、この申し出を拒否した。しかしながら、フィリピン当局は前述の6月17日の事案を踏まえて、「武力攻撃」の内容をより明確に定義するために、相互防衛条約第4条の改正を検討するために米国と協議すべきかどうかの可能性を提起した。
c. 注目すべき出来事として、フィリピンは4月のサラクニブ演習で米国のタイフォン・ミサイルシステムの配備を認めた。タイフォン・システムは、状況に応じて、最大射程500kmのSM-6ミサイルあるいは射程1,300~2,500kmのトマホーク巡航ミサイルの発射が可能である。SM-6は、フィリピンのEEZとファイアリー・クロス礁、ミスチーフ礁およびスビ礁のいわゆる中国の「ビッグスリー」軍事基地を攻撃可能である。フィリピン国防当局はタイフォン・ミサイルシステムの調達を希望しており、中国の猛烈な抗議にも関わらず、タイフォン・ミサイルシステムは依然、フィリピンに展開したままで、撤去の予定はない。
(3) 南沙諸島におけるベトナムの建設工事:米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのAsia Maritime Transparency Initiativeは6月に、ベトナムが埋め立て、港湾の浚渫およびバーク・カナダ礁における全長1,050mの飛行場を含む基幹施設建設を通じて、南沙諸島の占拠海洋自然地形27ヵ所で建設工事を強化したことを明らかにした。中国は、フィリピンに対するプロパガンダの集中砲火とは異なり、ベトナムの活動については沈黙を守っている。しかしながら、 2024年8月の北京での習近平総書記とTo Lam党書記長による中越共産党党首会談では、南シナ海の問題が提起された。
(4) 南シナ海行動規範(以下、COCと言う):ASEAN加盟国と中国は2023年7月、COCの早期締結を加速するための指針に合意した。7月25日にビエンチャンで開催されたASEAN年次閣僚会議では、前述の6月17日事案への言及を含めるというフィリピンの提案を、カンボジアとラオスが阻止したと報じられた。2024年末までに、多くのASEAN外交官が、ASEAN内の分裂でCOCの第3読会ではほとんど進展がなかったと非公式に報告している。
(5) 2025年における南シナ海の展望:
a. 2024年における以上のような南シナ海での主要事象は、2025年に向けて好ましい兆候ではない。中国は、フィリピンのEEZ内に所在する海洋自然地形と隣接水域に対する主権主張を続けるであろうし、しかも海軍と海警総隊はその艦船数を増強している。フィリピンは単独では中国に太刀打ちできないため、中国はフィリピンに圧力をかけ続けるであろう。したがって、フィリピンとしてはTrump大統領が就任したことで、相互防衛条約に対する米国の関与の不確実性を払拭しなければならないであろう。
b. ベトナムは、南沙諸島の占拠海洋自然地形における基幹施設建設を続けであろう。しかしながら、ベトナムがより多くの滑走路を建設し、これらを軍事化するかどうかは不明であるが、その進展状況によっては、中国は静観姿勢を変える可能性がある。
c. 2025年のASEAN議長国がマレーシアになったことで、2025年にはCOC交渉が進展するという楽観的な見方が強まっている。中国は、海洋問題における米国の安全保障上の役割を弱体化させる手段の1つとして、ASEAN加盟国とのCOC交渉の早期妥結を急ぐことも予想され得る。
記事参照:The State of the South China Sea: Coercion at Sea, Slow Progress on a Code of Conduct
(1) 中国の威嚇行動:
a. 中国は2024年、フィリピンのEEZ内で合法的に活動する、同国海軍、沿岸警備隊及び民間船舶や航空機に対して、脅迫、嫌がらせ、更には威嚇行為を著しく強化した。目立った事案としては、2月から6月にかけて、中国海警局と海上民兵の艦船が合同で、セカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギ礁、中国名:仁愛礁)に座礁させた「シエラ・マドレ」に対するフィリピンの補給活動を執拗に妨害した。6月17日には、中国艦艇によるフィリピンの補給船に対する暴行事案が発生し、Philippine Marine Corpsの隊員が負傷した。6月17日の事案が転換点となり、7月2日には、マニラでの第9回南シナ海に関する比中2国間協議機構で、ホットライン設置が合意され、その後の協議で、7月21日には同種事案の再発防止のための暫定合意(非公開)が実現した。8月19日までの時点で、フィリピンは中国の主権の侵害に対して40回の外交抗議を提出したと報じられている。
b. また、中国は、多数の海軍、海警総隊および海上民兵の艦船を、西フィリピン海に集結させる戦術を確立し、9月10日のサビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙濱礁)で、合わせて207隻の中国艦船が集結した最大の集結事案であった。
c. 中国は、「中国管轄水域(“waters under Chinese jurisdiction”)」における外国船舶を拘留するに当たって合法的体裁を装うために、「沿岸警備諸機関の行政執行手続きに関する規定」(5月15日施行)などの法的措置に訴えた。中国は11月に、黄岩島(スカボロー礁の中国名)周辺に基線を設定し、その写しを国連に寄託した。
(2) フィリピンの包括的群島防衛構想:
a. フィリピンは2024年1月、2023年に中国の威圧的行動が増加したことに対応して、政府全体で取り組む「包括的群島防衛構想(Comprehensive Archipelagic Defense Concept:以下、CADCと言う)」を発表した。Brawner軍最高司令官によれば、フィリピンは効果的な部隊配備の確立、軍事装備の近代化による効果的な抑止力の確保、そして同盟関係と同志国との提携の活用を含む、3本柱の海洋防衛戦略を追求してきた。CADCには、資源の再配分、中国の侵入行為を監視する軍民合同の空海哨戒活動、フィリピン漁民への補給、事案を公表する積極的透明化およびパラワン島と西フィリピン海の海洋自然地形の基幹施設の強化が含まれている。さらに、フィリピンは6月にUnited Nations Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に大陸棚延伸の申請を提出した。11月には、Marcos Jr.大統領は、中国による法律戦に対抗して、 「フィリピン海域法(The Philippines Maritime Zone Act )」と「フィリピン群島シーレーン法(The Philippine Archipelagic Sea Lanes Act)」に署名した。
b. フィリピンはまた、米国、オーストラリアおよび日本との各種の2国間、多国間の陸海空軍事演習にも参加した。セカンド・トーマス礁での中国の補給妨害行為を受けて、米国は何度か補給支援を申し出たが、フィリピンは「外国の介入を求める前にあらゆる手段を尽くす」として、この申し出を拒否した。しかしながら、フィリピン当局は前述の6月17日の事案を踏まえて、「武力攻撃」の内容をより明確に定義するために、相互防衛条約第4条の改正を検討するために米国と協議すべきかどうかの可能性を提起した。
c. 注目すべき出来事として、フィリピンは4月のサラクニブ演習で米国のタイフォン・ミサイルシステムの配備を認めた。タイフォン・システムは、状況に応じて、最大射程500kmのSM-6ミサイルあるいは射程1,300~2,500kmのトマホーク巡航ミサイルの発射が可能である。SM-6は、フィリピンのEEZとファイアリー・クロス礁、ミスチーフ礁およびスビ礁のいわゆる中国の「ビッグスリー」軍事基地を攻撃可能である。フィリピン国防当局はタイフォン・ミサイルシステムの調達を希望しており、中国の猛烈な抗議にも関わらず、タイフォン・ミサイルシステムは依然、フィリピンに展開したままで、撤去の予定はない。
(3) 南沙諸島におけるベトナムの建設工事:米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのAsia Maritime Transparency Initiativeは6月に、ベトナムが埋め立て、港湾の浚渫およびバーク・カナダ礁における全長1,050mの飛行場を含む基幹施設建設を通じて、南沙諸島の占拠海洋自然地形27ヵ所で建設工事を強化したことを明らかにした。中国は、フィリピンに対するプロパガンダの集中砲火とは異なり、ベトナムの活動については沈黙を守っている。しかしながら、 2024年8月の北京での習近平総書記とTo Lam党書記長による中越共産党党首会談では、南シナ海の問題が提起された。
(4) 南シナ海行動規範(以下、COCと言う):ASEAN加盟国と中国は2023年7月、COCの早期締結を加速するための指針に合意した。7月25日にビエンチャンで開催されたASEAN年次閣僚会議では、前述の6月17日事案への言及を含めるというフィリピンの提案を、カンボジアとラオスが阻止したと報じられた。2024年末までに、多くのASEAN外交官が、ASEAN内の分裂でCOCの第3読会ではほとんど進展がなかったと非公式に報告している。
(5) 2025年における南シナ海の展望:
a. 2024年における以上のような南シナ海での主要事象は、2025年に向けて好ましい兆候ではない。中国は、フィリピンのEEZ内に所在する海洋自然地形と隣接水域に対する主権主張を続けるであろうし、しかも海軍と海警総隊はその艦船数を増強している。フィリピンは単独では中国に太刀打ちできないため、中国はフィリピンに圧力をかけ続けるであろう。したがって、フィリピンとしてはTrump大統領が就任したことで、相互防衛条約に対する米国の関与の不確実性を払拭しなければならないであろう。
b. ベトナムは、南沙諸島の占拠海洋自然地形における基幹施設建設を続けであろう。しかしながら、ベトナムがより多くの滑走路を建設し、これらを軍事化するかどうかは不明であるが、その進展状況によっては、中国は静観姿勢を変える可能性がある。
c. 2025年のASEAN議長国がマレーシアになったことで、2025年にはCOC交渉が進展するという楽観的な見方が強まっている。中国は、海洋問題における米国の安全保障上の役割を弱体化させる手段の1つとして、ASEAN加盟国とのCOC交渉の早期妥結を急ぐことも予想され得る。
記事参照:The State of the South China Sea: Coercion at Sea, Slow Progress on a Code of Conduct
1月28日「デンマーク、北極防衛を強化ため海軍艦艇とドローンに投資―米誌報道」(Breaking Defense, January 28, 2025)
1月28日付けの米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、“Denmark strengthens Arctic defense with $2B package for naval vessels, drones”と題する記事を掲載し、デンマークは新しい北極・北大西洋安全保障協定(agreement on the Arctic and North Atlantic)に基づき、北極圏の防衛力を強化すると発表した。これはTrump米大統領のグリーンランドに関する発言を受けたものであるとして、要旨以下のように報じている。
(1) デンマークは、北極圏と北大西洋の新たな安全保障協定に基づき、同地域の防衛を強化するため、新たな海軍艦艇、長距離ドローン、宇宙能力の向上の取得に向け146億クローネ(20億4000万ドル)を支出すると発表している。「我々は北極圏と北大西洋での存在感を強化しなければならない。これがこの協定の目的であり、2025年、すでにさらなる取り組みへの道が開かれている」とTroels Lund Poulsen国防相は声明で述べている。デンマーク政府は、支出公約にはヘリコプターやドローンを搭載できる北極海艦艇3隻および長距離から広範囲の監視が可能な2機の長距離ドローンの購入、衛星「能力」の追加による状況把握の向上が含まれると述べている。
(2) NATOによると、デンマークの哨戒艦4隻の部隊は現在、ヌークに拠点を置くJoint Arctic Command(北極圏統合軍)の下で活動し、年間を通じてグリーンランドの海域を守っている。
(3) 新北極・北大西洋安全保障協定も、2025年の「前半」に締結される予定であり、関連する装備の詳細は明らかにされていないが、「同地域の抑止力と防衛力の強化」に重点を置くとデンマーク政府は述べている。
(4) 北極圏の能力強化に向けた新たな取り組みは、Donald Trump米大統領がグリーンランドの購入やデンマーク製品への関税引き上げをちらつかせた一連の発言を受けてのものである。1月初め、デンマークのMette Frederiksen首相は、軍事力による乗っ取りの考えに反対し、地元放送局のTV2に対し「米国が成功するとは想像できない」と語っている。
Frederiksen首相は1月28日、NATOのMark Rutte事務総長と会談し、さらに同日、ベルリンでドイツのOlaf Scholz首相、パリでフランスのEmmanuel Macron大統領とも会談した。
こうした取り組みは、Troels Lund Poulsen国防相が2024年12月に、視察船2隻、長距離ドローン2機、犬ぞりチーム2組を含む15億ドルのグリーンランド防衛予算を別途発表したことに続くものである。
(5) 大西洋と北極海の間に位置するグリーンランドは、米国にとって戦略的な関心の対象となっている。気温上昇でグリーンランドの氷河が消えると、新たな航路が開かれ、軍事対立が激化する可能性がある。北極圏におけるロシアの既存の能力は、すでに米国とNATO同盟国の航行の自由を脅かしている。
(6) 米国はグリーンランドのピトゥフィク宇宙基地も運営している。米宇宙軍のファクトシートによると、この基地はU.S. Department of Defenseの「最北の施設」であり、ミサイル警報、ミサイル防衛、宇宙監視の任務を担っており、これらの作戦はグリーンランドに配備されたフェーズドアレイレーダーとピトゥフィク追跡ステーションを通じた衛星指揮統制に依存している。
記事参照:Denmark strengthens Arctic defense with $2B package for naval vessels, drones
(1) デンマークは、北極圏と北大西洋の新たな安全保障協定に基づき、同地域の防衛を強化するため、新たな海軍艦艇、長距離ドローン、宇宙能力の向上の取得に向け146億クローネ(20億4000万ドル)を支出すると発表している。「我々は北極圏と北大西洋での存在感を強化しなければならない。これがこの協定の目的であり、2025年、すでにさらなる取り組みへの道が開かれている」とTroels Lund Poulsen国防相は声明で述べている。デンマーク政府は、支出公約にはヘリコプターやドローンを搭載できる北極海艦艇3隻および長距離から広範囲の監視が可能な2機の長距離ドローンの購入、衛星「能力」の追加による状況把握の向上が含まれると述べている。
(2) NATOによると、デンマークの哨戒艦4隻の部隊は現在、ヌークに拠点を置くJoint Arctic Command(北極圏統合軍)の下で活動し、年間を通じてグリーンランドの海域を守っている。
(3) 新北極・北大西洋安全保障協定も、2025年の「前半」に締結される予定であり、関連する装備の詳細は明らかにされていないが、「同地域の抑止力と防衛力の強化」に重点を置くとデンマーク政府は述べている。
(4) 北極圏の能力強化に向けた新たな取り組みは、Donald Trump米大統領がグリーンランドの購入やデンマーク製品への関税引き上げをちらつかせた一連の発言を受けてのものである。1月初め、デンマークのMette Frederiksen首相は、軍事力による乗っ取りの考えに反対し、地元放送局のTV2に対し「米国が成功するとは想像できない」と語っている。
Frederiksen首相は1月28日、NATOのMark Rutte事務総長と会談し、さらに同日、ベルリンでドイツのOlaf Scholz首相、パリでフランスのEmmanuel Macron大統領とも会談した。
こうした取り組みは、Troels Lund Poulsen国防相が2024年12月に、視察船2隻、長距離ドローン2機、犬ぞりチーム2組を含む15億ドルのグリーンランド防衛予算を別途発表したことに続くものである。
(5) 大西洋と北極海の間に位置するグリーンランドは、米国にとって戦略的な関心の対象となっている。気温上昇でグリーンランドの氷河が消えると、新たな航路が開かれ、軍事対立が激化する可能性がある。北極圏におけるロシアの既存の能力は、すでに米国とNATO同盟国の航行の自由を脅かしている。
(6) 米国はグリーンランドのピトゥフィク宇宙基地も運営している。米宇宙軍のファクトシートによると、この基地はU.S. Department of Defenseの「最北の施設」であり、ミサイル警報、ミサイル防衛、宇宙監視の任務を担っており、これらの作戦はグリーンランドに配備されたフェーズドアレイレーダーとピトゥフィク追跡ステーションを通じた衛星指揮統制に依存している。
記事参照:Denmark strengthens Arctic defense with $2B package for naval vessels, drones
1月28日「黄海に継続的な海軍力の展開を―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, January 28, 2025)
1月28日付けの米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、William Martin というペンメームのU.S. Department of Defense高官の“Fill the Vacuum: Establish a Sustained Naval Presence in the Yellow Sea”と題する論説を掲載し、William Martinは黄海が北東アジアの貿易と安全保障にとって極めて重要な海上交通路であるにもかかわらず、米国はこれまで等閑視してきており、米国の利益、同盟国の安全、そして自由で開かれたインド太平洋の維持に損害を与えていると指摘した上で、米国は黄海に持続的に海軍力を展開し、中国人民解放軍、特に北部戦区の自由な海洋利用を阻止しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 黄海は北東アジアの貿易と安全保障にとって極めて重要な海上交通路であり、人民解放軍北部戦区の本拠地でもある。黄海の戦略的重要性にもかかわらず、米国はあまりにも長い間、黄海を人民解放軍海軍に譲り渡してきた。近年、中国はこの極めて重要な海域で攻撃的な活動を活発化させており、米国の利益、同盟国の安全、そして自由で開かれたインド太平洋の維持に損害を与えている。
(2) 米国とその同盟国は、黄海での軍事的展開を強化し、人民解放軍が米国の利益に反する作戦を実行する際に黄海を自由に利用できるという自信を崩さなければならない。
(3) 中国は、韓国と重複する主張を示す物理的構造物を国際水域に設置し始めている。これは、南シナ海における中国の行動を彷彿とさせる。中国と韓国の間の緊張は長年高まっており、数十年にわたり両国間の海上境界線となっている東経124度線を越えた中国の侵入もその1つである。
(4) 人民解放軍北部戦区は黄海で定期的に空母が参加する訓練を行っており、日本海ではロシアとの共同訓練も実施して、地域の緊張がさらに高まっている。人民解放軍北部戦区は、朝鮮半島のいかなる有事においても重大かつ予測不能な脅威となるだけでなく、対馬海峡の確保など中国人民解放軍の台湾計画にとっても不可欠である。北部戦区海軍の空母を含む艦艇はすべて、台湾侵攻の援軍として容易に展開することができ、それらが通航するSLOCはほぼ阻害されないままである。これらの国際水域における米国と同盟国の展開が増大すれば、台湾に対する攻撃作戦に関する中国の意思決定に大きな影響を及ぼすだろう
(5) U.S. Navyは最近この地域でいくつかの演習を実施したが、朝鮮半島沿岸に限定され、北朝鮮に向けられたものであった。 U.S. Navyは長い間、人民解放軍北部戦区が拠点を置く広大な海域には展開してこなかった。中国人民解放軍がこれらの重要な海域でほぼ絶対的な機動の自由を確信していることを崩すために、米国が黄海での海軍の展開を強化することは極めて重要であり、北東アジアで「力による平和」を維持するために不可欠である。
記事参照:Fill the Vacuum: Establish a Sustained Naval Presence in the Yellow Sea
(1) 黄海は北東アジアの貿易と安全保障にとって極めて重要な海上交通路であり、人民解放軍北部戦区の本拠地でもある。黄海の戦略的重要性にもかかわらず、米国はあまりにも長い間、黄海を人民解放軍海軍に譲り渡してきた。近年、中国はこの極めて重要な海域で攻撃的な活動を活発化させており、米国の利益、同盟国の安全、そして自由で開かれたインド太平洋の維持に損害を与えている。
(2) 米国とその同盟国は、黄海での軍事的展開を強化し、人民解放軍が米国の利益に反する作戦を実行する際に黄海を自由に利用できるという自信を崩さなければならない。
(3) 中国は、韓国と重複する主張を示す物理的構造物を国際水域に設置し始めている。これは、南シナ海における中国の行動を彷彿とさせる。中国と韓国の間の緊張は長年高まっており、数十年にわたり両国間の海上境界線となっている東経124度線を越えた中国の侵入もその1つである。
(4) 人民解放軍北部戦区は黄海で定期的に空母が参加する訓練を行っており、日本海ではロシアとの共同訓練も実施して、地域の緊張がさらに高まっている。人民解放軍北部戦区は、朝鮮半島のいかなる有事においても重大かつ予測不能な脅威となるだけでなく、対馬海峡の確保など中国人民解放軍の台湾計画にとっても不可欠である。北部戦区海軍の空母を含む艦艇はすべて、台湾侵攻の援軍として容易に展開することができ、それらが通航するSLOCはほぼ阻害されないままである。これらの国際水域における米国と同盟国の展開が増大すれば、台湾に対する攻撃作戦に関する中国の意思決定に大きな影響を及ぼすだろう
(5) U.S. Navyは最近この地域でいくつかの演習を実施したが、朝鮮半島沿岸に限定され、北朝鮮に向けられたものであった。 U.S. Navyは長い間、人民解放軍北部戦区が拠点を置く広大な海域には展開してこなかった。中国人民解放軍がこれらの重要な海域でほぼ絶対的な機動の自由を確信していることを崩すために、米国が黄海での海軍の展開を強化することは極めて重要であり、北東アジアで「力による平和」を維持するために不可欠である。
記事参照:Fill the Vacuum: Establish a Sustained Naval Presence in the Yellow Sea
1月28日「日本は東南アジアに安定を提供できるのか―シンガポール専門家論説」(FULCRUM, January 28, 2025)
1月28日付のシンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUMは、同Institute上席研究員Joanne Linと同じくWillliam Choongのよる“Can Japan Provide Stability to Southeast Asia Amid US Uncertainty?”と題する論説を掲載し、そこで両名は石破茂首相の東南アジア歴訪が東南アジアを重視していることの表れであり、地域の安全保障上の提携を拡大させようとしているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1月9日から12日にかけて、石破茂首相はマレーシアとインドネシアを歴訪した。これは、国際会議への参加などを除けば最初の外遊となる。この事実が意味するのは、日本がASEAN諸国との関係を強化し、Trump大統領の復帰により不確実性が増す中、日本の対外政策を多様化させようという願望の現れである。
(2) この2ヵ国の訪問は驚くことではない。マレーシアは2025年のASEAN議長国であり、インドネシアはASEANで最大の経済大国である。この外遊の間、石破首相は大規模な投資の約束を表明した。港湾拡張からグリーンエネルギーの推進、半導体を含む貿易の推進やエネルギー安全保障まで多岐にわたるものである。また石破首相は、両国を含めた東南アジア諸国に高速巡視艇を提供するなど、東南アジアにおける日本の安全保障上の提携を推進した。強調されたのはTentara Nasional Indonesia Angkatan Laut(インドネシア海軍)のための艦艇共同開発の計画である。
(3) 東南アジア諸国に対する日本の提案は、日米が主導する連合に東南アジアを加えようとする日本の努力と役割の大きさを反映している。2023年8月、日米韓の提携が成立した。さらに2024年3月には日米とフィリピンの間で、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の強化を目指す協定が成立した。フィリピンは米国の同盟国として、そして南シナ海論争の最前線にいる国として、日本の地域安全保障戦略において重要な役割を担っており、日本はその海洋行動能力の強化を進めてきた。
(4) 石破首相は「アジア版NATO」構想を披露したが、実現しないだろう。これは地域の公式の同盟により中国に対抗しようというものだが、東南アジア諸国の多くが持つ対中国認識はもっと微妙なものだからである。とはいえ、「法に基づく秩序」を維持するために、安全保障上の提携を拡大させていくことにはなるであろう。その好例がインドネシアと米国の共同演習スーパー・ガルーダ・シールド2024である。スーパー・ガルーダ・シールド2024には日本やその他東南アジア諸国も参加したのである。日本自身もインド太平洋における軍事演習の数と規模を増やしている。また、QUADや、それに類する少数国間協調枠組みへの参加を拡大させている。
(5) しかし、東南アジアに日本の安全保障の足場を確保しようという試みは重大な課題に直面している。国内では防衛費の少なさや日本の平和主義などが制約要因となっている。またTrump大統領による、同盟国の防衛貢献増大の圧力が日本の負担を重くするし、日本近海における中ロの協力の深化、ロシアと北朝鮮の安全保障上のつながりが深まっていることも懸念材料である。
(6) こうした諸々の課題はあるが、石破首相の東南アジア訪問は、東南アジアが日本のインド太平洋戦略の急所であることを反映している。他方、日本は米国とのつながりを一貫して強化してきた。東南アジア情勢調査にも示されているが、日本は東南アジアで最も信頼されている提携国の1つとして、ASEANと米国の重要な架け橋になることができるだろう。
記事参照:Can Japan Provide Stability to Southeast Asia Amid US Uncertainty?
(1) 1月9日から12日にかけて、石破茂首相はマレーシアとインドネシアを歴訪した。これは、国際会議への参加などを除けば最初の外遊となる。この事実が意味するのは、日本がASEAN諸国との関係を強化し、Trump大統領の復帰により不確実性が増す中、日本の対外政策を多様化させようという願望の現れである。
(2) この2ヵ国の訪問は驚くことではない。マレーシアは2025年のASEAN議長国であり、インドネシアはASEANで最大の経済大国である。この外遊の間、石破首相は大規模な投資の約束を表明した。港湾拡張からグリーンエネルギーの推進、半導体を含む貿易の推進やエネルギー安全保障まで多岐にわたるものである。また石破首相は、両国を含めた東南アジア諸国に高速巡視艇を提供するなど、東南アジアにおける日本の安全保障上の提携を推進した。強調されたのはTentara Nasional Indonesia Angkatan Laut(インドネシア海軍)のための艦艇共同開発の計画である。
(3) 東南アジア諸国に対する日本の提案は、日米が主導する連合に東南アジアを加えようとする日本の努力と役割の大きさを反映している。2023年8月、日米韓の提携が成立した。さらに2024年3月には日米とフィリピンの間で、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の強化を目指す協定が成立した。フィリピンは米国の同盟国として、そして南シナ海論争の最前線にいる国として、日本の地域安全保障戦略において重要な役割を担っており、日本はその海洋行動能力の強化を進めてきた。
(4) 石破首相は「アジア版NATO」構想を披露したが、実現しないだろう。これは地域の公式の同盟により中国に対抗しようというものだが、東南アジア諸国の多くが持つ対中国認識はもっと微妙なものだからである。とはいえ、「法に基づく秩序」を維持するために、安全保障上の提携を拡大させていくことにはなるであろう。その好例がインドネシアと米国の共同演習スーパー・ガルーダ・シールド2024である。スーパー・ガルーダ・シールド2024には日本やその他東南アジア諸国も参加したのである。日本自身もインド太平洋における軍事演習の数と規模を増やしている。また、QUADや、それに類する少数国間協調枠組みへの参加を拡大させている。
(5) しかし、東南アジアに日本の安全保障の足場を確保しようという試みは重大な課題に直面している。国内では防衛費の少なさや日本の平和主義などが制約要因となっている。またTrump大統領による、同盟国の防衛貢献増大の圧力が日本の負担を重くするし、日本近海における中ロの協力の深化、ロシアと北朝鮮の安全保障上のつながりが深まっていることも懸念材料である。
(6) こうした諸々の課題はあるが、石破首相の東南アジア訪問は、東南アジアが日本のインド太平洋戦略の急所であることを反映している。他方、日本は米国とのつながりを一貫して強化してきた。東南アジア情勢調査にも示されているが、日本は東南アジアで最も信頼されている提携国の1つとして、ASEANと米国の重要な架け橋になることができるだろう。
記事参照:Can Japan Provide Stability to Southeast Asia Amid US Uncertainty?
1月29日「米海軍への投資は繁栄への投資―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, January 29, 2025)
1月29日付けの米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、U.S. Naval War College教授Dr. Sam J. Tangrediの“An Investment in the U.S. Navy is an Investment in Prosperity”と題する論説を掲載し、Sam J. TangrediはU.S. Navyには戦闘を超えた目的が有り、世界規模の海軍の優位性を通じて、世界の準備通貨としての米ドルを維持するのに役立つ、重要な地政学的手段であると指摘した上で、海軍の優位性への投資は、継続的な繁栄への投資であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 他の基準はさておき、新政権の主要人物は金儲けの方法を心得ている。彼らは今、U.S. Navyには戦闘を超えた目的があることを認識する必要がある。U.S. Navyは、世界規模の海軍の優位性を通じて、世界の準備通貨としての米ドルを維持するのに役立つ重要な地政学的手段である。海軍の優位性への投資は、継続的な繁栄への投資である。世界の準備通貨を保有することは、国家の繁栄に大きな経済的利益をもたらす。
(2) 歴史的に、世界の準備通貨は、世界を支配する海軍力の進路をたどってきた。経済学者は、世界の準備通貨としての地位が、ヴェネツィアからスペイン、オランダ、イギリス、そしてアメリカへと歴史的に移行したと認識している。いずれも(その時代の他の国々と比べて)経済が活発で、世界貿易の恩恵を受け、大規模な商船隊を保有していた。しかし、他の国もこれらの特性を持っていたが、上述のヴェネツィア等の国は、自国の通貨が世界共通の貿易手段として受け入れられた当時、海軍力でも優勢であった。これは必ずしも、世界的な海軍の優位性が世界の準備通貨を保持する直接的な原因であることを意味するわけではないが、相関する持続要因ではある。
(3) 海軍の優位性とは一体何か?海軍の優位性は、金融市場に安全と安定の認識を保証する。海軍の優位性は、ある国の貿易が他国によって遮断されないことを保証できるだけでなく、その国が望めば他国の貿易を遮断することもできる。金融市場が最大の安定性を求めるなら、この利点の可能性を考慮するのは当然である。
(4) U.S. Department of Defenseは、中華人民共和国に焦点を当てているにもかかわらず、U.S. Navyの独自の役割をほとんど忘れている。しかし、U.S. Department of Defenseは国家安全保障と繁栄の両面で、米国民の防衛に責任を負っている。
(5) 中国人民元が次なる世界の準備通貨となることを望まないのであれば、世界の準備通貨となる一因である人民解放軍海軍へのこれまでと同等の資金を投入することはできない。海軍が縮小し、世界的な海軍優位性を失うと、最終的にはドルの縮小につながり、アメリカの繁栄に重大な影響を及ぼすことになる。
記事参照:An Investment in the U.S. Navy is an Investment in Prosperity
(1) 他の基準はさておき、新政権の主要人物は金儲けの方法を心得ている。彼らは今、U.S. Navyには戦闘を超えた目的があることを認識する必要がある。U.S. Navyは、世界規模の海軍の優位性を通じて、世界の準備通貨としての米ドルを維持するのに役立つ重要な地政学的手段である。海軍の優位性への投資は、継続的な繁栄への投資である。世界の準備通貨を保有することは、国家の繁栄に大きな経済的利益をもたらす。
(2) 歴史的に、世界の準備通貨は、世界を支配する海軍力の進路をたどってきた。経済学者は、世界の準備通貨としての地位が、ヴェネツィアからスペイン、オランダ、イギリス、そしてアメリカへと歴史的に移行したと認識している。いずれも(その時代の他の国々と比べて)経済が活発で、世界貿易の恩恵を受け、大規模な商船隊を保有していた。しかし、他の国もこれらの特性を持っていたが、上述のヴェネツィア等の国は、自国の通貨が世界共通の貿易手段として受け入れられた当時、海軍力でも優勢であった。これは必ずしも、世界的な海軍の優位性が世界の準備通貨を保持する直接的な原因であることを意味するわけではないが、相関する持続要因ではある。
(3) 海軍の優位性とは一体何か?海軍の優位性は、金融市場に安全と安定の認識を保証する。海軍の優位性は、ある国の貿易が他国によって遮断されないことを保証できるだけでなく、その国が望めば他国の貿易を遮断することもできる。金融市場が最大の安定性を求めるなら、この利点の可能性を考慮するのは当然である。
(4) U.S. Department of Defenseは、中華人民共和国に焦点を当てているにもかかわらず、U.S. Navyの独自の役割をほとんど忘れている。しかし、U.S. Department of Defenseは国家安全保障と繁栄の両面で、米国民の防衛に責任を負っている。
(5) 中国人民元が次なる世界の準備通貨となることを望まないのであれば、世界の準備通貨となる一因である人民解放軍海軍へのこれまでと同等の資金を投入することはできない。海軍が縮小し、世界的な海軍優位性を失うと、最終的にはドルの縮小につながり、アメリカの繁栄に重大な影響を及ぼすことになる。
記事参照:An Investment in the U.S. Navy is an Investment in Prosperity
1月30日「共同の防衛調達が日米同盟を強化―米専門家論説」(CSIS, January 30, 2025)
1月30日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesのウエブサイトは、同CenterのJapan Chair非常勤研究員Gregg Rubinsteinの“Cooperative Defense Acquisitions Strengthen U.S.-Japan Alliance” と題する論説を掲載し、ここでGregg Rubinsteinは日米同盟をさらに強化する見通しは依然として明るく、今後は、日米間の交流を縦割り行政の枠組みを通じて管理する段階から、同盟の枠組みに完全に統合し、両国に運用面および物質面での利益をもたらす段階へと発展させる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現行の国家安全保障戦略および防衛戦略が発表され、日本は防衛能力の向上と米国およびその他の同盟国・提携諸国との緊密な協力関係の構築に向けて大きな一歩を踏み出した。2024年4月のBiden・岸田会談では、共同作戦、地域防衛網、科学技術協力、情報およびサイバーセキュリティ対策、防衛産業協力などの分野における同盟関係のさらなる強化が図られた。最近始まった兵器関連の対話のための新たな窓口は、調達に関する2国間の関与を拡大する可能性がある。無人航空機や極超音速迎撃ミサイルのような能力に対する共通の要件は、共同調達の新たな機会を提供する一方、サプライチェーンの取り決めを強化することで、米国、日本、およびその他の同盟国の産業基盤間のより緊密な協力関係につながる。
(2) 冷戦時代の日米の防衛構想における関与のあり方は固定的であった。米国の装備品の移転や小規模な研究構想は、米国の技術公開に関する制限や日本の防衛輸出の全面禁止によって規定された狭い道筋を通じて行われていた。業界における業務分担の管理や条件が非効率であるという問題が繰り返し発生していたにもかかわらず、相互交流の形式を変えることはなかった。そして、日米両国における政策や制度上の制約、防衛要件に対する持続的な関心の欠如、米国から日本への技術移転をめぐる摩擦の増大などが、共同調達構想に移行する機会を損なっていた。これは、日本の次世代戦闘機(F-X)の支援に関する対話で明らかとなり、日本は英国とイタリアとともにグローバル・コンバット・エアクラフト・プログラム(以下、GCAPと言う)に参加することになった。
(3) 長年にわたり、安全保障協議委員会(2+2)の枠組みの下での日米間の対話では、取得および産業協力は周辺的な位置に留まっていた。最近の世界および地域的な安全保障上の懸念が、日米両国に同盟軍の運用に対する取り組みを再考するよう促し、産業および技術資源共有の拡大が、共同能力の所要を満たすための重要な手段として認識された。これらの進展は、2024年4月の日米首脳会談で発表された防衛構想への道筋をつけることとなった。これらの措置の1つが、共同調達に関する対話のための新たな枠組みである防衛産業協力・調達・維持フォーラム(以下、DICASと言う)である。
(4) DICASの初期の活動は、地域の安全保障活動に影響を与える調達および支援事項、すなわち、船舶修理、航空機修理、サプライチェーン支援、および先進ミサイルの共同生産に取り組む作業に集中していた。これらの分野における作業部会での対話とそれに続く生産および支援の取り決めは、2025年まで継続される。
(5) DICASと並行して、防衛調達構想における2国間および多国間での関与の範囲を拡大する取り組みが注目されている。
a. 2024年5月に締結された、滑空段階迎撃用誘導弾防衛システム(Glide Phase Interceptor:以下、GPIと言う)の共同開発に関する合意は、SM-3ブロックIIA弾道ミサイル迎撃用ミサイルの共同開発の実績を踏まえたものであるが、双方の業界関係者間のより緊密な連携を特徴とするものへと発展している。
b. 2023年10月、米国とオーストラリアは、無人航空機開発における日本との協力の可能性を探る計画を発表した。2024年12月には、日米両国は、新たな研究開発・試験・演習(RDT&E)取り決めに基づく初の案件として、有人戦闘機に随番する無人戦闘機Collaborative Combat Aircraft共同戦闘機(以下、CCAと言う)関連のAI技術の研究に関する計画に合意した。U.A. Air Forceが主催した最近の国際的なCCAシンポジウムに日本が参加したことは、多国間でのCCA構想への日本の関与にとって有望な展開である。
c. 日米とも、時代遅れの訓練機の更新が必要である。代替案としては、日本が米国の新型練習機T-7Aを使用し、その後、その機体を基に戦術訓練機を共同開発することが、共通の要件を満たすための1つの方法である。パイロット訓練要件に関する日米間の協議は2024年7月に開始され、2025年まで継続される。
d. GCAPの政府監督や業界共同事業に関する条件は、将来の日本と米国およびその他の海外の提携国との協力関係にとって重要な先例となる。GCAPを通じて、日本政府の政策や産業界の国際的関与に対する姿勢は、大きく進化している。
(6)これらに向けての課題は次のとおりである。
a. 活力のある日米の運用面での提携を支援する軍備協力関係を発展させるには、双方において政策、制度、文化面での大幅な調整が必要となる。日米両国は、防衛対話における政策、要件、調達を隔てる制度上の溝を埋めなければならない。役割、任務、能力に関する政策主導の2国間政府対話をDICASの活動と統合することにより、軍種間の協力体制を整え、調達における協力の機会を特定し、共同技術研究の成果を具体的な成果に結びつけることが可能になる。
b. 日米間の防衛装備品調達協力において、最も大きな課題となる可能性があるのは、これまでに根付いた行動様式である。米国の一部の政府関係者は、日本の防衛能力の移転を依然として安全保障上の支援業務と見なしている。一方、日本の防衛産業関係者は、日本国内の防衛市場における優位な立場を当然の権利として扱っている。日本製の防衛装備品やU.S. Armed Forcesの海外展開部隊への支援のための整備施設の利用に対する関心は、米国の国内生産拠点を守ろうとする圧力と必然的に競合することになる。一方、日本の防衛関係者の一部は、ライセンス生産や補助金による国産計画ではもはや産業基盤や技術基盤を維持できないという現実を受け入れようとしていない。国際的な関与を深めることは、相互運用性のない能力につながる独自の要件を満たすよりも、装備計画を国際標準に合わせることに重点を置くよう、日本の防衛計画立案者を促すはずである。
c. 国際的な防衛調達構想の成功は、戦略の立案、機会の模索、合意の交渉、事後支援の確保、産業基盤の資源への相互投資の促進など、政府と産業界のチームに依存している。これまでの日米間のやりとりでは、こうした特徴はほとんど見られなかった。DICASの計画は、業界との関わりに大きな役割を担うことを示しており、適切な業界グループとの特定の要件に関する議論だけでなく、一般的な政策懸念にも及ぶ可能性がある。これは、日米防衛構想における政府と業界の関わりにおいて、まったく新しい領域である。
(7) 今後は、日米間の交流を縦割り行政の枠組みを通じて管理する段階から、同盟の枠組みに完全に統合し、両国に運用面および物質面での利益をもたらす段階へと発展させる必要がある。また一方で、以下に示すような、今すぐに着手できる課題もある。
a. 2025会計年度国防権限法(NDAA)の規定に従い、国際的な防衛計画に対する米国の支援を強化する。
b. 同盟構築に向けた働きかけを米国およびその他の海外の提携国に拡大するために、日本政府および産業界が継続的に取り組む。
c. 米国の技術開示に対するより均衡の取れた取り組みを採用すること。これは保護に関する硬直的な慣行よりも同盟国の所要を優先するもので、日本における情報セキュリティ強化策の実施により促進される。
(8) こうした制度面の進展を踏まえ、新政権はDICAS筋道を発展させ、以下を実施することが必要である。
a. 日米両国政府の政策担当者、調達担当者、軍事担当者の間で定期的に協議を行い、運用要件と調達計画を連接させる。
b. DICASの議題に産業界との定期的な会合を含めることで、政府と産業界のより実質的な関与を促す。
c. 海外政府代表、国際会議、民間部門の情報源を通じて、協調的な調達機会を特定し、追求する。
記事参照:Cooperative Defense Acquisitions Strengthen U.S.-Japan Alliance
(1) 現行の国家安全保障戦略および防衛戦略が発表され、日本は防衛能力の向上と米国およびその他の同盟国・提携諸国との緊密な協力関係の構築に向けて大きな一歩を踏み出した。2024年4月のBiden・岸田会談では、共同作戦、地域防衛網、科学技術協力、情報およびサイバーセキュリティ対策、防衛産業協力などの分野における同盟関係のさらなる強化が図られた。最近始まった兵器関連の対話のための新たな窓口は、調達に関する2国間の関与を拡大する可能性がある。無人航空機や極超音速迎撃ミサイルのような能力に対する共通の要件は、共同調達の新たな機会を提供する一方、サプライチェーンの取り決めを強化することで、米国、日本、およびその他の同盟国の産業基盤間のより緊密な協力関係につながる。
(2) 冷戦時代の日米の防衛構想における関与のあり方は固定的であった。米国の装備品の移転や小規模な研究構想は、米国の技術公開に関する制限や日本の防衛輸出の全面禁止によって規定された狭い道筋を通じて行われていた。業界における業務分担の管理や条件が非効率であるという問題が繰り返し発生していたにもかかわらず、相互交流の形式を変えることはなかった。そして、日米両国における政策や制度上の制約、防衛要件に対する持続的な関心の欠如、米国から日本への技術移転をめぐる摩擦の増大などが、共同調達構想に移行する機会を損なっていた。これは、日本の次世代戦闘機(F-X)の支援に関する対話で明らかとなり、日本は英国とイタリアとともにグローバル・コンバット・エアクラフト・プログラム(以下、GCAPと言う)に参加することになった。
(3) 長年にわたり、安全保障協議委員会(2+2)の枠組みの下での日米間の対話では、取得および産業協力は周辺的な位置に留まっていた。最近の世界および地域的な安全保障上の懸念が、日米両国に同盟軍の運用に対する取り組みを再考するよう促し、産業および技術資源共有の拡大が、共同能力の所要を満たすための重要な手段として認識された。これらの進展は、2024年4月の日米首脳会談で発表された防衛構想への道筋をつけることとなった。これらの措置の1つが、共同調達に関する対話のための新たな枠組みである防衛産業協力・調達・維持フォーラム(以下、DICASと言う)である。
(4) DICASの初期の活動は、地域の安全保障活動に影響を与える調達および支援事項、すなわち、船舶修理、航空機修理、サプライチェーン支援、および先進ミサイルの共同生産に取り組む作業に集中していた。これらの分野における作業部会での対話とそれに続く生産および支援の取り決めは、2025年まで継続される。
(5) DICASと並行して、防衛調達構想における2国間および多国間での関与の範囲を拡大する取り組みが注目されている。
a. 2024年5月に締結された、滑空段階迎撃用誘導弾防衛システム(Glide Phase Interceptor:以下、GPIと言う)の共同開発に関する合意は、SM-3ブロックIIA弾道ミサイル迎撃用ミサイルの共同開発の実績を踏まえたものであるが、双方の業界関係者間のより緊密な連携を特徴とするものへと発展している。
b. 2023年10月、米国とオーストラリアは、無人航空機開発における日本との協力の可能性を探る計画を発表した。2024年12月には、日米両国は、新たな研究開発・試験・演習(RDT&E)取り決めに基づく初の案件として、有人戦闘機に随番する無人戦闘機Collaborative Combat Aircraft共同戦闘機(以下、CCAと言う)関連のAI技術の研究に関する計画に合意した。U.A. Air Forceが主催した最近の国際的なCCAシンポジウムに日本が参加したことは、多国間でのCCA構想への日本の関与にとって有望な展開である。
c. 日米とも、時代遅れの訓練機の更新が必要である。代替案としては、日本が米国の新型練習機T-7Aを使用し、その後、その機体を基に戦術訓練機を共同開発することが、共通の要件を満たすための1つの方法である。パイロット訓練要件に関する日米間の協議は2024年7月に開始され、2025年まで継続される。
d. GCAPの政府監督や業界共同事業に関する条件は、将来の日本と米国およびその他の海外の提携国との協力関係にとって重要な先例となる。GCAPを通じて、日本政府の政策や産業界の国際的関与に対する姿勢は、大きく進化している。
(6)これらに向けての課題は次のとおりである。
a. 活力のある日米の運用面での提携を支援する軍備協力関係を発展させるには、双方において政策、制度、文化面での大幅な調整が必要となる。日米両国は、防衛対話における政策、要件、調達を隔てる制度上の溝を埋めなければならない。役割、任務、能力に関する政策主導の2国間政府対話をDICASの活動と統合することにより、軍種間の協力体制を整え、調達における協力の機会を特定し、共同技術研究の成果を具体的な成果に結びつけることが可能になる。
b. 日米間の防衛装備品調達協力において、最も大きな課題となる可能性があるのは、これまでに根付いた行動様式である。米国の一部の政府関係者は、日本の防衛能力の移転を依然として安全保障上の支援業務と見なしている。一方、日本の防衛産業関係者は、日本国内の防衛市場における優位な立場を当然の権利として扱っている。日本製の防衛装備品やU.S. Armed Forcesの海外展開部隊への支援のための整備施設の利用に対する関心は、米国の国内生産拠点を守ろうとする圧力と必然的に競合することになる。一方、日本の防衛関係者の一部は、ライセンス生産や補助金による国産計画ではもはや産業基盤や技術基盤を維持できないという現実を受け入れようとしていない。国際的な関与を深めることは、相互運用性のない能力につながる独自の要件を満たすよりも、装備計画を国際標準に合わせることに重点を置くよう、日本の防衛計画立案者を促すはずである。
c. 国際的な防衛調達構想の成功は、戦略の立案、機会の模索、合意の交渉、事後支援の確保、産業基盤の資源への相互投資の促進など、政府と産業界のチームに依存している。これまでの日米間のやりとりでは、こうした特徴はほとんど見られなかった。DICASの計画は、業界との関わりに大きな役割を担うことを示しており、適切な業界グループとの特定の要件に関する議論だけでなく、一般的な政策懸念にも及ぶ可能性がある。これは、日米防衛構想における政府と業界の関わりにおいて、まったく新しい領域である。
(7) 今後は、日米間の交流を縦割り行政の枠組みを通じて管理する段階から、同盟の枠組みに完全に統合し、両国に運用面および物質面での利益をもたらす段階へと発展させる必要がある。また一方で、以下に示すような、今すぐに着手できる課題もある。
a. 2025会計年度国防権限法(NDAA)の規定に従い、国際的な防衛計画に対する米国の支援を強化する。
b. 同盟構築に向けた働きかけを米国およびその他の海外の提携国に拡大するために、日本政府および産業界が継続的に取り組む。
c. 米国の技術開示に対するより均衡の取れた取り組みを採用すること。これは保護に関する硬直的な慣行よりも同盟国の所要を優先するもので、日本における情報セキュリティ強化策の実施により促進される。
(8) こうした制度面の進展を踏まえ、新政権はDICAS筋道を発展させ、以下を実施することが必要である。
a. 日米両国政府の政策担当者、調達担当者、軍事担当者の間で定期的に協議を行い、運用要件と調達計画を連接させる。
b. DICASの議題に産業界との定期的な会合を含めることで、政府と産業界のより実質的な関与を促す。
c. 海外政府代表、国際会議、民間部門の情報源を通じて、協調的な調達機会を特定し、追求する。
記事参照:Cooperative Defense Acquisitions Strengthen U.S.-Japan Alliance
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Greenland During Trump 2.0: Is America Poised for an Historic Arctic Territorial Expansion?
https://www.thearcticinstitute.org/greenland-during-trump-2-0-america-poised-historic-arctic-territorial-expansion/
The Arctic Institute, January 21, 2025
By Barry Scott Zellen, PhD is a Research Scholar in the Department of Geography at UConn and Senior Fellow (Arctic Security) at the Institute of the North.
2025年1月21日、米University of ConnecticutのDepartment of Geography研究生であり、Institute of the Northの上席研究員Barry Scott Zellenは、米NPO The Arctic Instituteのウエブサイトに“Greenland During Trump 2.0: Is America Poised for an Historic Arctic Territorial Expansion?”と題する論説を寄稿した。その中でBarry Scott Zellenは、Trump大統領の復帰に伴い、米国の北極戦略におけるグリーンランドの重要性が再び浮上しているが、米国の関心はロシアや中国の北極での影響力拡大を抑えることにあり、2020年にはグリーンランドへの12億ドルの投資を決定し、ヌークの米国領事館を再開するなど、関与を強めていると指摘した上で、気候変動により、グリーンランドの資源開発が加速しており、これはTrump大統領の「エネルギー独立」の方針とも一致すると述べている。そしてBarry Scott Zellenは、グリーンランドの経済的発展と主権確立の過程において、米国の関与が新たな機会を提供する可能性があるが、デンマークとの交渉や現地住民の意向を尊重する必要があるとした上で、今後4年間、Trump大統領の外交戦略の一環として、グリーンランドを巡る議論が本格化する可能性が高いと主張している。
(2) The Trump Corollary to the Monroe Doctrine
https://nationalinterest.org/feature/trump-corollary-monroe-doctrine-214473/
The National Interest, January 21, 2025
By James Holmes, J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College
1月21日、U.S. Naval War College教授James Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“The Trump Corollary to the Monroe Doctrine”と題する論説を掲載した。その中で、①Trump米大統領が主張するグリーンランドとパナマ運河の支配は、アメリカ大陸の戦略的防衛を強化するだろう。②一部の評論家は、Trump大統領の言葉にTheodore Roosevelt的な話しぶりを見出し、Trump大統領の発言をモンロー主義と結びつけている。③モンロー主義は、1890年頃まで続いた「ただ乗り(free rider)」の段階、1890年代の「力で支配する政治指導者(strongman)」の段階、1904年にTheodore Roosevelt大統領(当時)によって導入された「治安維持」の段階を経ている。④Theodore Roosevelt大統領(当時)は、1904年にこの主義に「付随条項」を追加し、米国がラテンアメリカの問題に介入する権利を主張した。⑤Theodore Rooseveltの精神に則り、Trump大統領はグリーンランド、パナマまたはアメリカ大陸の他の場所に域外の敵対勢力が居座るのを阻止するため、外交的または軍事的に介入する権利を主張するかもしれない。⑥近年、中国は世界各地の沿岸部で商業港の利用権を追求しており、たとえば、習近平は少し前に南米を訪れ、中国が支援したペルーのチャンカイにあるコンテナ港の開港式典に出席している。⑦中国政府は将来的に商業的な利用を軍事的利用に転換しようとするかもしれない。⑧現在の戦略的対立の性質は、Trump大統領がTheodore Rooseveltのものとは根本的に異なるモンロー主義の付随条項を作成する必要があることを示唆している。⑨米政府は、アメリカ大陸全域の政府に対し、中国との親密さの危険性が利益を上回ることを納得させなければならない。⑩Trump大統領の付随条項は、威圧的でも強制的でもなく、敵対的な外部者のアメリカ大陸への進出を管理しつつ、共通の利益を促進する西半球防衛の取り組みを生み出す可能性があるといった主張を行っている。
(3) From Russia’s shadow fleet to China’s maritime claims: The freedom of the seas is under threat
https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/report/from-russias-shadow-fleet-to-chinas-maritime-claims-the-freedom-of-the-seas-is-under-threat/
Atlantic Council, January 23, 2025
By Elisabeth Braw is a senior fellow at the Atlantic Council’s Transatlantic Security Initiative.
2025年1月23日、米シンクタンクAtlantic CouncilのTransatlantic Security Initiative上席研究員Elisabeth Brawは、同Councilのウエブサイトに“From Russia’s shadow fleet to China’s maritime claims: The freedom of the seas is under threat”と題する論説を寄稿した。その中でElisabeth Brawは、海洋秩序は中ロを中心とする国家による違反行為により深刻な脅威にさらされているとした上で、最近の中ロ両国の海洋活動を具体的に挙げながら批判し、これらの違反行為が増加する中、NATOや西側諸国は海上哨戒の強化や「航行の自由作戦(FONOPs)」を拡大し、対抗措置を強化しているが、現在の海洋秩序は国家の自主的な遵守に依存しており、違反行為などが蔓延する状況では抜本的な改革が必要であり、特に、国際海洋安全保障のための協調体制の強化や、新たな規範整備が必要だと主張している。そしてElisabeth Brawは、結論として、中ロの戦略は単なる経済的利益の追求に留まらず、既存の西側主導の国際秩序への挑戦として位置付けられるが、このまま違反行為が続けば、航行の自由が制限され、一部の海域が事実上の「閉鎖空間」となるリスクが高まると指摘し、西側諸国はより積極的な海洋安全保障戦略を採用し、法に基づく秩序を維持するための新たな枠組みを構築する必要があると述べている。
(4) Don’t Protect the U.S. Merchant Marine — Promote It
https://warontherocks.com/2025/01/dont-protect-the-u-s-merchant-marine-promote-it/
War on the Rocks, January 27, 2025
By Emma Salisbury, Ph.D., is a research fellow in the Sea Power Laboratory at the Council on Geostrategy and an associate fellow at the Royal Navy Strategic Studies Centre.
2025年1月27日、英Royal Navy Strategic Studies Centre のthe Sea Power Laboratory調査研究員Emma Salisburyは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Don’t Protect the U.S. Merchant Marine — Promote It”と題する論説を寄稿した。その中でEmma Salisburyは、米国の商船産業は戦略的海上交通路確保の観点から再建が急務とされているが、現行の政策は過剰な保護主義に依存しており、競争力の向上には逆効果となっているとした上で、現在の米国の商船団は小規模かつ老朽化しており、戦時の後方支援能力が低下している一方、中国は軍民両用の商船団を拡大し、世界最大の造船能力を活かして海上優位を強化していると指摘している。そしてEmma Salisbury は、これに対処するため、米議会では超党派の「SHIPS for America Act(繁栄と安全のための造船と港湾インフラ法案)」が提案され、造船基幹施設への投資、技術革新促進、商船員の育成支援を通じて、米国商船隊の規模を250隻に拡大することが計画されているが、この法案は「ジョーンズ法(Merchant Marine Act of 1920)」をはじめとする過剰な保護主義を維持し、さらなる制限を加えることで、逆に産業の競争力を低下させる恐れがあるし、政府の貨物輸送の100%を米国旗の船舶に義務付けるだけでなく、対中国輸入の10%を米国船籍にすることを求めているものの、過去の事例からも明らかなように、このような貨物優先権規定は国内の商船建造を促進せず、むしろ市場の歪みを生じさせる可能性が高いため、米国の商船産業再建には単なる保護ではなく、競争力のある環境の整備が必要だと主張している。
(1) Greenland During Trump 2.0: Is America Poised for an Historic Arctic Territorial Expansion?
https://www.thearcticinstitute.org/greenland-during-trump-2-0-america-poised-historic-arctic-territorial-expansion/
The Arctic Institute, January 21, 2025
By Barry Scott Zellen, PhD is a Research Scholar in the Department of Geography at UConn and Senior Fellow (Arctic Security) at the Institute of the North.
2025年1月21日、米University of ConnecticutのDepartment of Geography研究生であり、Institute of the Northの上席研究員Barry Scott Zellenは、米NPO The Arctic Instituteのウエブサイトに“Greenland During Trump 2.0: Is America Poised for an Historic Arctic Territorial Expansion?”と題する論説を寄稿した。その中でBarry Scott Zellenは、Trump大統領の復帰に伴い、米国の北極戦略におけるグリーンランドの重要性が再び浮上しているが、米国の関心はロシアや中国の北極での影響力拡大を抑えることにあり、2020年にはグリーンランドへの12億ドルの投資を決定し、ヌークの米国領事館を再開するなど、関与を強めていると指摘した上で、気候変動により、グリーンランドの資源開発が加速しており、これはTrump大統領の「エネルギー独立」の方針とも一致すると述べている。そしてBarry Scott Zellenは、グリーンランドの経済的発展と主権確立の過程において、米国の関与が新たな機会を提供する可能性があるが、デンマークとの交渉や現地住民の意向を尊重する必要があるとした上で、今後4年間、Trump大統領の外交戦略の一環として、グリーンランドを巡る議論が本格化する可能性が高いと主張している。
(2) The Trump Corollary to the Monroe Doctrine
https://nationalinterest.org/feature/trump-corollary-monroe-doctrine-214473/
The National Interest, January 21, 2025
By James Holmes, J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College
1月21日、U.S. Naval War College教授James Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“The Trump Corollary to the Monroe Doctrine”と題する論説を掲載した。その中で、①Trump米大統領が主張するグリーンランドとパナマ運河の支配は、アメリカ大陸の戦略的防衛を強化するだろう。②一部の評論家は、Trump大統領の言葉にTheodore Roosevelt的な話しぶりを見出し、Trump大統領の発言をモンロー主義と結びつけている。③モンロー主義は、1890年頃まで続いた「ただ乗り(free rider)」の段階、1890年代の「力で支配する政治指導者(strongman)」の段階、1904年にTheodore Roosevelt大統領(当時)によって導入された「治安維持」の段階を経ている。④Theodore Roosevelt大統領(当時)は、1904年にこの主義に「付随条項」を追加し、米国がラテンアメリカの問題に介入する権利を主張した。⑤Theodore Rooseveltの精神に則り、Trump大統領はグリーンランド、パナマまたはアメリカ大陸の他の場所に域外の敵対勢力が居座るのを阻止するため、外交的または軍事的に介入する権利を主張するかもしれない。⑥近年、中国は世界各地の沿岸部で商業港の利用権を追求しており、たとえば、習近平は少し前に南米を訪れ、中国が支援したペルーのチャンカイにあるコンテナ港の開港式典に出席している。⑦中国政府は将来的に商業的な利用を軍事的利用に転換しようとするかもしれない。⑧現在の戦略的対立の性質は、Trump大統領がTheodore Rooseveltのものとは根本的に異なるモンロー主義の付随条項を作成する必要があることを示唆している。⑨米政府は、アメリカ大陸全域の政府に対し、中国との親密さの危険性が利益を上回ることを納得させなければならない。⑩Trump大統領の付随条項は、威圧的でも強制的でもなく、敵対的な外部者のアメリカ大陸への進出を管理しつつ、共通の利益を促進する西半球防衛の取り組みを生み出す可能性があるといった主張を行っている。
(3) From Russia’s shadow fleet to China’s maritime claims: The freedom of the seas is under threat
https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/report/from-russias-shadow-fleet-to-chinas-maritime-claims-the-freedom-of-the-seas-is-under-threat/
Atlantic Council, January 23, 2025
By Elisabeth Braw is a senior fellow at the Atlantic Council’s Transatlantic Security Initiative.
2025年1月23日、米シンクタンクAtlantic CouncilのTransatlantic Security Initiative上席研究員Elisabeth Brawは、同Councilのウエブサイトに“From Russia’s shadow fleet to China’s maritime claims: The freedom of the seas is under threat”と題する論説を寄稿した。その中でElisabeth Brawは、海洋秩序は中ロを中心とする国家による違反行為により深刻な脅威にさらされているとした上で、最近の中ロ両国の海洋活動を具体的に挙げながら批判し、これらの違反行為が増加する中、NATOや西側諸国は海上哨戒の強化や「航行の自由作戦(FONOPs)」を拡大し、対抗措置を強化しているが、現在の海洋秩序は国家の自主的な遵守に依存しており、違反行為などが蔓延する状況では抜本的な改革が必要であり、特に、国際海洋安全保障のための協調体制の強化や、新たな規範整備が必要だと主張している。そしてElisabeth Brawは、結論として、中ロの戦略は単なる経済的利益の追求に留まらず、既存の西側主導の国際秩序への挑戦として位置付けられるが、このまま違反行為が続けば、航行の自由が制限され、一部の海域が事実上の「閉鎖空間」となるリスクが高まると指摘し、西側諸国はより積極的な海洋安全保障戦略を採用し、法に基づく秩序を維持するための新たな枠組みを構築する必要があると述べている。
(4) Don’t Protect the U.S. Merchant Marine — Promote It
https://warontherocks.com/2025/01/dont-protect-the-u-s-merchant-marine-promote-it/
War on the Rocks, January 27, 2025
By Emma Salisbury, Ph.D., is a research fellow in the Sea Power Laboratory at the Council on Geostrategy and an associate fellow at the Royal Navy Strategic Studies Centre.
2025年1月27日、英Royal Navy Strategic Studies Centre のthe Sea Power Laboratory調査研究員Emma Salisburyは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Don’t Protect the U.S. Merchant Marine — Promote It”と題する論説を寄稿した。その中でEmma Salisburyは、米国の商船産業は戦略的海上交通路確保の観点から再建が急務とされているが、現行の政策は過剰な保護主義に依存しており、競争力の向上には逆効果となっているとした上で、現在の米国の商船団は小規模かつ老朽化しており、戦時の後方支援能力が低下している一方、中国は軍民両用の商船団を拡大し、世界最大の造船能力を活かして海上優位を強化していると指摘している。そしてEmma Salisbury は、これに対処するため、米議会では超党派の「SHIPS for America Act(繁栄と安全のための造船と港湾インフラ法案)」が提案され、造船基幹施設への投資、技術革新促進、商船員の育成支援を通じて、米国商船隊の規模を250隻に拡大することが計画されているが、この法案は「ジョーンズ法(Merchant Marine Act of 1920)」をはじめとする過剰な保護主義を維持し、さらなる制限を加えることで、逆に産業の競争力を低下させる恐れがあるし、政府の貨物輸送の100%を米国旗の船舶に義務付けるだけでなく、対中国輸入の10%を米国船籍にすることを求めているものの、過去の事例からも明らかなように、このような貨物優先権規定は国内の商船建造を促進せず、むしろ市場の歪みを生じさせる可能性が高いため、米国の商船産業再建には単なる保護ではなく、競争力のある環境の整備が必要だと主張している。
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