海洋安全保障情報旬報 2025年1月1日-1月10日
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1月2日「なぜ中国は日本の島嶼部封鎖を望むのか―香港紙報道」(South China Morning Post, January 2, 2025)
1月2日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Why would China want a blockade on Japanese islands? Recent drill raises Taiwan spectre”と題する記事を掲載し、中国海軍と海警総隊の艦船が宮古海峡を通航した「演習」について言及し、その背景とそれが持つ意味について、専門家の意見を引用しつつ、要旨以下のように報じている。
(1) 中国海軍の艦隊がある演習を実施した。それは沖縄本島と先島諸島の間のいわゆる宮古海峡を通航するもので、台湾を支配する計画の一部として、先島諸島を孤立させるためのものである。読売新聞によると、海軍艦艇と海警船の計6隻が、台湾南部を航行した後、太平洋から宮古海峡を通峡し、東シナ海へ向かった。海軍艦艇と海警船との協同作戦においてその海域を通航するのはこれが初めてのことである。それに加えて、中国海警船は、日本が行政権をもつ尖閣諸島周辺にも展開を継続し続けている。
(2) 国際基督教大学の国際関係学教授Stephen Nagyは、これは「戦闘を行うことなく、台湾を占領する」中国の戦略の一部であり、日本がそれに対抗できるかどうかは大きな問題であると指摘した。中国は台湾を自国領土の一部とみなし、場合によっては武力による再統一を目指している。米国など多くの国は台湾を独立国と認めていないが、米国は台湾防衛に関与している。Stephen Nagyによれば、日本政府は中国抑止のために海上保安庁や海上自衛隊の部隊を利用することを制限されているという。海上保安庁や海上自衛隊の部隊を利用すれば中国に海軍部隊の配備に口実を与えることになるからだという。「宮古海峡の封鎖は、日本の対応を著しく複雑にする」とStephen Nagyは述べている。
(3)(中国による)沖縄の最西端部の封鎖に関して、3つの可能性がある。第1に、封鎖により日本や台湾の同盟国が「緊急事態」において台湾を支援することが困難になる。第2に、先島諸島の孤立によりその住民が人質となり、日本の行動が抑制される。第3に、中国がそれらの島々を占領する可能性がある。ただし、Stephen Nagyによれば、第3の可能性は日米安全保障条約を発動させるものであり、可能性はきわめて低い。そして第2の可能性が日本政府にとってはきわめて厄介であり、そうなった場合に日本にできることはほとんどない。
(4) 米Temple University Asian StudiesのJeff Kingstonによれば、中国艦艇が宮古海峡を通航する事案は以前もあり、その危険性を日本政府もわかっていたため、宮古島に自衛隊基地を建設し、ミサイル発射台を設置したのだとする。Jeff Kingstonによれば、中国の目的は「宮古海峡の通航を通常化し、今後も抑止されることはないということを日本に示唆すること」であり、日本と米国の戦略は中国海軍を第1列島線の内側に封じ込め、遠方への戦力投射能力の獲得を阻止することだったが、中国はそれに対抗しようとしているという。
(5) 2024年末、波照間島南西約140km、日本の排他的経済水域の内側約14kmの所に、中国が設置した大型のブイが発見され、日本は警戒を強めた。気象観測装置を備えているようだが、それが設置された場所は国連海洋法条約違反である。中国は南シナ海で進めてきた「サラミ・スライス戦術」をここでも繰り返していると指摘されている。こうしたこともすべて、台湾を封鎖しようという大きな構想の一部だとStephen Nagyは述べている。
記事参照:Why would China want a blockade on Japanese islands? Recent drill raises Taiwan spectre
(1) 中国海軍の艦隊がある演習を実施した。それは沖縄本島と先島諸島の間のいわゆる宮古海峡を通航するもので、台湾を支配する計画の一部として、先島諸島を孤立させるためのものである。読売新聞によると、海軍艦艇と海警船の計6隻が、台湾南部を航行した後、太平洋から宮古海峡を通峡し、東シナ海へ向かった。海軍艦艇と海警船との協同作戦においてその海域を通航するのはこれが初めてのことである。それに加えて、中国海警船は、日本が行政権をもつ尖閣諸島周辺にも展開を継続し続けている。
(2) 国際基督教大学の国際関係学教授Stephen Nagyは、これは「戦闘を行うことなく、台湾を占領する」中国の戦略の一部であり、日本がそれに対抗できるかどうかは大きな問題であると指摘した。中国は台湾を自国領土の一部とみなし、場合によっては武力による再統一を目指している。米国など多くの国は台湾を独立国と認めていないが、米国は台湾防衛に関与している。Stephen Nagyによれば、日本政府は中国抑止のために海上保安庁や海上自衛隊の部隊を利用することを制限されているという。海上保安庁や海上自衛隊の部隊を利用すれば中国に海軍部隊の配備に口実を与えることになるからだという。「宮古海峡の封鎖は、日本の対応を著しく複雑にする」とStephen Nagyは述べている。
(3)(中国による)沖縄の最西端部の封鎖に関して、3つの可能性がある。第1に、封鎖により日本や台湾の同盟国が「緊急事態」において台湾を支援することが困難になる。第2に、先島諸島の孤立によりその住民が人質となり、日本の行動が抑制される。第3に、中国がそれらの島々を占領する可能性がある。ただし、Stephen Nagyによれば、第3の可能性は日米安全保障条約を発動させるものであり、可能性はきわめて低い。そして第2の可能性が日本政府にとってはきわめて厄介であり、そうなった場合に日本にできることはほとんどない。
(4) 米Temple University Asian StudiesのJeff Kingstonによれば、中国艦艇が宮古海峡を通航する事案は以前もあり、その危険性を日本政府もわかっていたため、宮古島に自衛隊基地を建設し、ミサイル発射台を設置したのだとする。Jeff Kingstonによれば、中国の目的は「宮古海峡の通航を通常化し、今後も抑止されることはないということを日本に示唆すること」であり、日本と米国の戦略は中国海軍を第1列島線の内側に封じ込め、遠方への戦力投射能力の獲得を阻止することだったが、中国はそれに対抗しようとしているという。
(5) 2024年末、波照間島南西約140km、日本の排他的経済水域の内側約14kmの所に、中国が設置した大型のブイが発見され、日本は警戒を強めた。気象観測装置を備えているようだが、それが設置された場所は国連海洋法条約違反である。中国は南シナ海で進めてきた「サラミ・スライス戦術」をここでも繰り返していると指摘されている。こうしたこともすべて、台湾を封鎖しようという大きな構想の一部だとStephen Nagyは述べている。
記事参照:Why would China want a blockade on Japanese islands? Recent drill raises Taiwan spectre
1月3日「カナダ海軍はゆっくりと朽ち果てつつある―米国専門家論説」(19FortyFive, January 3, 2024)
1月3日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米Macalester College国際関係・政治理論教授Andrew Lathamの“Canada’s Navy Is Slowly Rotting Away”と題する論説を掲載し、ここでAndrew LathamはRoyal Canadian Navyについて、艦船等装備はもとより支援施設も老朽化し、また人員募集にも苦しむ状況で、NATOの一員としてのみならずカナダの国益を守るだけの能力も失いつつあり、深刻な危機に立たされていると指摘、これを改善するには予算の投入を含め大胆な改革が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Royal Canadian Navyは、慢性的な人員不足、老朽化した装備、調達管理の不備、基幹施設の崩壊により、21世紀の海洋安全保障の要求を満たせていない。これらの問題はカナダの領海や北極圏における主権を守り、NATOに貢献する能力を損なうもので、大胆な改革と継続的な投資なくしては、対立が激化する海洋領域において海軍が形だけの戦力になってしまう危険がある。
(2) Royal Canadian Navyは、慢性的人員不足のため、一部艦船は展開できず、他は人員不足のまま運航せざるを得ない状況にある。海軍の任務には犠牲がつきものであるが、艦船の老朽化、長期間の派遣、家族支援も不足する現状では、人員補充を上回る速さで水兵は退職している。多くの乗組員は、燃え尽き症候群、基地近傍の住宅不足、有意義な経歴獲得機会の欠如を退職理由として挙げている。採用も同様に芳しくなく、若いカナダ人は軍隊を時代遅れで自分に無関係なものと考えている。一方、海軍は労働者の要望に沿えず、時代に合った売り込みが出来ていない。兵役を先端技術職への道として再定義した米国やオーストラリアとは異なり、カナダの採用活動は一貫性と共感に欠けている。カナダの国益を守る海軍の重要な役割について、説得力のある国家的物語があれば、この溝を埋めることができるはずであるが、そうした展望には全く欠けている。
(3) 装備の欠陥は、Royal Canadian Navyの人材難をさらに深刻にしている。ハリファックス級フリゲート艦は、改修されたとはいえ、数十年も前のもので、運用寿命も終わりに近づいている。カナダ水上戦闘艦(Canadian Surface Combatant:以下、CSCと言う)計画は、遅延と経費超過に陥っており、当初見積もりで260億ドルとされていたが、現在の予測では800億ドルを超え、実現可能性に疑問が投げかけられている。一方、北極圏の主権維持と北大西洋の安全保障に不可欠なビクトリア級潜水艦4隻は、老朽化が進んでいる。こうした欠陥のため、カナダはNATOの公約を果たすのに苦労している。カナダのフリゲートは、共同演習でイージス艦等の最先端技術を備えた同盟国に遅れをとり、対空戦・対潜水艦戦能力の低さや北極圏哨戒艦の欠如は目に余る。英国やポーランドなどNATOの同盟国は艦隊の近代化に多額の投資を行っているが、カナダは現状に目をつぶっているとしか思えない。北極圏はとりわけ脆弱な地域であるが、地政学的対立が激化する中、カナダは国益を守るための備えを怠っている。Royal Canadian Navyの砕氷警備艦(Arctic and Offshore Patrol Ships)は一歩前進したとはいえ、ロシアや中国のような競争相手の野心に対処するには数が少なく、武装も不十分である。ロシアは強力な砕氷船団を構築し、軍事力強化と相俟って北極圏での存在感を増している。また、中国は自国を「近北極国家」と宣言し、この地域の資源を開発する意向を示している。しかし、カナダの北極圏における能力は小さく、主権維持には、ますます脆弱になっている。
(4) こうした課題の根底にあるのは、機能不全に陥った調達制度である。数十年にわたる官僚的な遅れと膨れ上がる経費により、Royal Canadian Navyは現代の脅威にそぐわない艦隊を抱えることになった。ハリファックス級フリゲートの代替を意図したCSC計画は、こうした失敗の典型である。同盟国が装備の取得手順を合理化し、既製品導入という方式を採用したのに対し、カナダの取組みは優柔不断と非効率に悩まされてきた。その結果、代替艦が就役する前に旧式化する危険がある。基幹施設の不足は海軍の即応性をさらに損なっている。2大基地であるハリファックスとエスカイモルトは、もはや近代的な艦隊の要求を満たすことができない時代遅れの施設となった。乾ドックの規模は限られており、整備や修理に時間がかかる一方、基地の住宅は水兵とその家族を支えるには極めて不十分である。このような欠陥は、部隊運用の即応性に影響を与えるだけでなく、士気も低下させ、採用や人員定着の課題を悪化させている。
(5) 海軍の訓練計画にも緊急の対応が必要である。現代の海戦は、サイバー能力、無人装備、電子戦など先端技術への依存度を高めている。しかし、Royal Canadia Navyの訓練は依然として従来の枠組みに根ざしており、水兵は現代の複雑な海上作戦に対応できていない。共同演習では、カナダの乗組員が先進的な装置を運用する同盟国との統合に苦労するため、こうした溝が頻繁に露呈している。戦略的にも、海軍は焦点が定まっていない。北大西洋でのNATO派遣からアフリカ沖での海賊対策哨戒まで、複数の任務に分散しているため、海軍は、優先順位をつけるのに苦労している。北極圏と北大西洋に焦点を絞った、集中的な取り組みが、カナダの安全保障上の核心的利益により合致するであろう。特に北極圏は、気候変動が加速し、対抗する大国が存在感を拡大する中、早急な対応が求められている。
(6) Royal Canadian Navyを修復するには、競争力のある給与、住宅の改善、家族支援計画などを早急に実現し、採用と人材定着を最優先事項にしなければならない。採用活動を改め、カナダ防衛における海軍の重要な役割と海軍勤務が先端技術職の経験を積む機会となることを強調しなければならない。調達改革も同様に急務で、調達手順を合理化し、適合すれば既製品導入を行い、遅延と経費超過を防ぐための監視を改善しなければならない。共同調達の枠組みで同盟国と提携すれば、高度な能力をより効率的に提供することができる。北極圏対応の艦艇等装備、潜水艦、ドローンやサイバー関連装置などの先端技術への投資が不可欠である。
(7) 何よりも、海軍の課題に対処するには、持続的な政治的意志が必要であるが、現Trudeau政権は、やっている素振りだけで、本格的な改革にはほとんど意欲を示していない。Pierre Poilievreが率いる将来の政権は、海軍の活性化に取り組む可能性があるが、成功するかどうかは、国防を中核的な政策分野として優先させるかどうかにかかっている。
(8) 海軍の衰退は、カナダの主権を危うくするだけでなく、同盟国からの信頼も損なう。NATOは集団安全保障に貢献するカナダを頼りにしているが、現状では能力不足である。北極圏と北大西洋で対立が激化する中、カナダはこれ以上遅れを取るわけにはいかない。Royal Canadian Navyの誇り高き歴史は守る価値があり、大西洋の戦いでの重要な役割から世界各地での平和維持活動まで、海軍は長い間、カナダの安全保障の要となってきた。その強さと信頼を回復することは容易ではないが、必ずやらなければならない。カナダは、海軍が多くの課題を克服し、海洋における国家の未来を守ることができるよう、今行動しなければならない。
記事参照:https://www.19fortyfive.com/2025/01/canadas-navy-is-slowly-rotting-away/
(1) Royal Canadian Navyは、慢性的な人員不足、老朽化した装備、調達管理の不備、基幹施設の崩壊により、21世紀の海洋安全保障の要求を満たせていない。これらの問題はカナダの領海や北極圏における主権を守り、NATOに貢献する能力を損なうもので、大胆な改革と継続的な投資なくしては、対立が激化する海洋領域において海軍が形だけの戦力になってしまう危険がある。
(2) Royal Canadian Navyは、慢性的人員不足のため、一部艦船は展開できず、他は人員不足のまま運航せざるを得ない状況にある。海軍の任務には犠牲がつきものであるが、艦船の老朽化、長期間の派遣、家族支援も不足する現状では、人員補充を上回る速さで水兵は退職している。多くの乗組員は、燃え尽き症候群、基地近傍の住宅不足、有意義な経歴獲得機会の欠如を退職理由として挙げている。採用も同様に芳しくなく、若いカナダ人は軍隊を時代遅れで自分に無関係なものと考えている。一方、海軍は労働者の要望に沿えず、時代に合った売り込みが出来ていない。兵役を先端技術職への道として再定義した米国やオーストラリアとは異なり、カナダの採用活動は一貫性と共感に欠けている。カナダの国益を守る海軍の重要な役割について、説得力のある国家的物語があれば、この溝を埋めることができるはずであるが、そうした展望には全く欠けている。
(3) 装備の欠陥は、Royal Canadian Navyの人材難をさらに深刻にしている。ハリファックス級フリゲート艦は、改修されたとはいえ、数十年も前のもので、運用寿命も終わりに近づいている。カナダ水上戦闘艦(Canadian Surface Combatant:以下、CSCと言う)計画は、遅延と経費超過に陥っており、当初見積もりで260億ドルとされていたが、現在の予測では800億ドルを超え、実現可能性に疑問が投げかけられている。一方、北極圏の主権維持と北大西洋の安全保障に不可欠なビクトリア級潜水艦4隻は、老朽化が進んでいる。こうした欠陥のため、カナダはNATOの公約を果たすのに苦労している。カナダのフリゲートは、共同演習でイージス艦等の最先端技術を備えた同盟国に遅れをとり、対空戦・対潜水艦戦能力の低さや北極圏哨戒艦の欠如は目に余る。英国やポーランドなどNATOの同盟国は艦隊の近代化に多額の投資を行っているが、カナダは現状に目をつぶっているとしか思えない。北極圏はとりわけ脆弱な地域であるが、地政学的対立が激化する中、カナダは国益を守るための備えを怠っている。Royal Canadian Navyの砕氷警備艦(Arctic and Offshore Patrol Ships)は一歩前進したとはいえ、ロシアや中国のような競争相手の野心に対処するには数が少なく、武装も不十分である。ロシアは強力な砕氷船団を構築し、軍事力強化と相俟って北極圏での存在感を増している。また、中国は自国を「近北極国家」と宣言し、この地域の資源を開発する意向を示している。しかし、カナダの北極圏における能力は小さく、主権維持には、ますます脆弱になっている。
(4) こうした課題の根底にあるのは、機能不全に陥った調達制度である。数十年にわたる官僚的な遅れと膨れ上がる経費により、Royal Canadian Navyは現代の脅威にそぐわない艦隊を抱えることになった。ハリファックス級フリゲートの代替を意図したCSC計画は、こうした失敗の典型である。同盟国が装備の取得手順を合理化し、既製品導入という方式を採用したのに対し、カナダの取組みは優柔不断と非効率に悩まされてきた。その結果、代替艦が就役する前に旧式化する危険がある。基幹施設の不足は海軍の即応性をさらに損なっている。2大基地であるハリファックスとエスカイモルトは、もはや近代的な艦隊の要求を満たすことができない時代遅れの施設となった。乾ドックの規模は限られており、整備や修理に時間がかかる一方、基地の住宅は水兵とその家族を支えるには極めて不十分である。このような欠陥は、部隊運用の即応性に影響を与えるだけでなく、士気も低下させ、採用や人員定着の課題を悪化させている。
(5) 海軍の訓練計画にも緊急の対応が必要である。現代の海戦は、サイバー能力、無人装備、電子戦など先端技術への依存度を高めている。しかし、Royal Canadia Navyの訓練は依然として従来の枠組みに根ざしており、水兵は現代の複雑な海上作戦に対応できていない。共同演習では、カナダの乗組員が先進的な装置を運用する同盟国との統合に苦労するため、こうした溝が頻繁に露呈している。戦略的にも、海軍は焦点が定まっていない。北大西洋でのNATO派遣からアフリカ沖での海賊対策哨戒まで、複数の任務に分散しているため、海軍は、優先順位をつけるのに苦労している。北極圏と北大西洋に焦点を絞った、集中的な取り組みが、カナダの安全保障上の核心的利益により合致するであろう。特に北極圏は、気候変動が加速し、対抗する大国が存在感を拡大する中、早急な対応が求められている。
(6) Royal Canadian Navyを修復するには、競争力のある給与、住宅の改善、家族支援計画などを早急に実現し、採用と人材定着を最優先事項にしなければならない。採用活動を改め、カナダ防衛における海軍の重要な役割と海軍勤務が先端技術職の経験を積む機会となることを強調しなければならない。調達改革も同様に急務で、調達手順を合理化し、適合すれば既製品導入を行い、遅延と経費超過を防ぐための監視を改善しなければならない。共同調達の枠組みで同盟国と提携すれば、高度な能力をより効率的に提供することができる。北極圏対応の艦艇等装備、潜水艦、ドローンやサイバー関連装置などの先端技術への投資が不可欠である。
(7) 何よりも、海軍の課題に対処するには、持続的な政治的意志が必要であるが、現Trudeau政権は、やっている素振りだけで、本格的な改革にはほとんど意欲を示していない。Pierre Poilievreが率いる将来の政権は、海軍の活性化に取り組む可能性があるが、成功するかどうかは、国防を中核的な政策分野として優先させるかどうかにかかっている。
(8) 海軍の衰退は、カナダの主権を危うくするだけでなく、同盟国からの信頼も損なう。NATOは集団安全保障に貢献するカナダを頼りにしているが、現状では能力不足である。北極圏と北大西洋で対立が激化する中、カナダはこれ以上遅れを取るわけにはいかない。Royal Canadian Navyの誇り高き歴史は守る価値があり、大西洋の戦いでの重要な役割から世界各地での平和維持活動まで、海軍は長い間、カナダの安全保障の要となってきた。その強さと信頼を回復することは容易ではないが、必ずやらなければならない。カナダは、海軍が多くの課題を克服し、海洋における国家の未来を守ることができるよう、今行動しなければならない。
記事参照:https://www.19fortyfive.com/2025/01/canadas-navy-is-slowly-rotting-away/
1月5日「2025年に米国は中国軍から何を受け取るのか?―米専門家論説」(The Daily Signal, January 5, 2025)
1月5日付の米シンクタンク Heritage FoundationのニュースサイトDaily Signalは、同Foundationの海軍および先端技術分野の上席研究員Brent Sadlerと同Foundationのヤング・リーダーズ・プログラムの元メンバーKatherine Musgrove の“What’s in Store in 2025 for US From China’s Military?”と題する論説を掲載し、ここで両名は2024年は中国軍の挑発的な活動が続いたが、Trump次期政権はそのような中国の活動に対し強さによって平和を取り戻そうとしているように見えるが、2025年はそれよりも米国は経済力と軍事力を力強く復活させる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国共産党の習近平総書記は、Donald Trump次期大統領の就任式への出席の招待を断った。そして、中国共産党は2024年12月9日から11日にかけて中国人民解放軍(以下、中国軍と言う)の大兵力を台湾周辺とフィリピン海に派遣した。2025年1月20日の米大統領就任式が近づくにつれ、最近の軍事動向によって習近平は台湾海峡の緊張緩和に関心がないことを明らかにしている。2022年以降、中国は台湾周辺での軍事行動を着実に増加させている。最も挑発的な事象は、中国軍の戦闘機が台湾海峡の中間線を越えた時である。この9ヵ月間だけでも、台湾近海では中国軍の活動がさまざまな波となって出現している。
(2) 2024年に目立った中国軍の行動はこれだけではない。通常、4月中旬は台湾海峡両岸での軍事作戦には理想的な天候であり、中国軍が毎年の訓練周期を開始する時期でもある。しかし、2024年4月3日の行動の急増は、18人が死亡し1,100人が負傷した台湾のマグニチュード7.4の地震の後に起こったこといる。中国政府は自然災害時の台湾の軍事的回復力を試したかったのかもしれない。
(3) 2024年5月は中国にとって政治的な引き金となった月であった。中国軍の最大の軍事的示威行動は、2024年5月20日の台湾の新総統頼清徳の就任式の後に行われた。頼清徳総統の中国との関係は現状維持とするとした就任演説は「台湾独立主義」と中国に解釈され、中国を激怒させた。中国軍の対応は、頼清徳総統の演説の3日後に行われた2日間の軍事演習「聯合利剣2024A」であった。演習の最盛時には19隻の艦艇、16隻の海警船、62機の戦闘機が参加し82回の中間線越えを実施した。2024年夏に中国の軍事活動は着実に増加した。その増加傾向は、2024年6月16日に中国が第16回海峡フォーラムを厦門で主催した後から始まっている。この傾向は2024年7月まで続き、NATOが中国をロシアのウクライナ戦争の決定的な支援者と表現した7月上旬まで急増した。7月末のAntony Blinken米国務長官と中国の王毅外相との会談の前には台湾周辺での中国軍の行動はゼロにまで減少した。
(4) 中国軍の穏健な行動は長くは続かなかった。Blinken国務長官が帰国すると、中国軍の行動レベルは再び過去最高の水準に戻った。2024年8月23日の頼清徳総統の演説では、中国共産党による台湾支配を否定している。中国軍の迅速な反応は、2024年8月1日の中国軍健軍記念日に見られた歴史的に高い行動規模と内容よりもさらに大きな反響を呼んだ。2024年9月には散発的な中国軍の行動が見られた。ニューヨークで開催された国連総会の傍らで行われたBlinkenと王毅の会談後、3日間の中国軍の行動は驚くほど長期間にわたった。その会談の数日前は、2024年7月と同様、中国軍の行動はゼロであった。しかし、 米シンクタンクInstitute for the Study of Warによると、その会談後、中国は1980年以来初めての大陸間弾道ミサイルの発射実験を行うことで米国の台湾への武器売却に対する報復の意志を表している。
(5) 2024年は中国軍の挑発的な行動が高水準で続いていたが、10月になって1日で過去最大の軍事的な示威行動が行われた。2024年10月10日に開催された双十節祝賀式典での頼清徳総統の台湾海峡の平和と安定の現状維持を強調した演説は、中国政府から即座に非難を浴びた。その5日後、中国政府は153機という記録的な数の戦闘機と14隻の海軍艦艇を台湾周辺に派遣した。そのうちの111機が中間線を越えた。中国はこれを「聯合利剣2024B」演習と名付けた。次の週には実弾射撃訓練が行われた。米大統領選挙を背景に、2024年11月の中国軍の行動は、投票が行われたことで頂点に達し、その後、通常の水準に戻った。頼清徳総統がハワイとグアムを訪れた後、2024年12月6日に台北に戻った時、事態は非常に興味深いものになった。前例とは異なり、90隻以上の艦艇を含む中国軍の大規模な対応について、発表も根拠も示されなかった。中国軍が通常あまり行動しない天候に問題のある12月という時期のこの活発な行動は注目に値する。2024年12月11日の演習初日だけでも、台湾は53機の戦闘機と19隻の海軍艦艇を確認している。この演習は、中国海軍の北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊それぞれから艦艇が参加した過去数十年で最大の軍事演習であった。中国海軍がこれほど多くの艦艇を出撃させたのは、1995年から1996年にかけての第3次台湾危機以来である。さらに中国は、艦艇を台湾東方海域に2列縦隊で停泊させ、明らかに台湾に向かう船舶を阻止する訓練を行い、海域封鎖の訓練していた。このとき、Lloyd Austin国防長官は日本を訪れていた。これについて尋ねられたとき、U.S. Department of Defenseは進展を「注意深く見守る」と述べている。
(6) 2025年は、将来の中国軍の挑発に対する抑止力を強化しようとしている台湾新政権にとって、どのような年になるのだろうか。現状維持の安全な状態に戻るためには、アジアの軍事均衡を変える必要がある。結論として、米国が中国を抑止する力を取り戻すまで中国の挑発的行動は続くであろう。米国の成功の指標の1つは、台湾周辺、南シナ海、東シナ海における同盟国の日本とフィリピンに対する中国軍の挑発的な行動の程度が減ることである。しかし残念ながら、米国は過去10年間、中国がもたらす包括的な脅威を認識せず、賢明な対抗措置を講じてこなかった。Trump次期政権は、強さ(strength)によって平和を取り戻そうとしているように見えるが、中国に対しては、これまではっきりと目に見えなかった米国の経済力と軍事力を力強く復活させる必要がある。
記事参照:What’s in Store in 2025 for US From China’s Military?
(1) 中国共産党の習近平総書記は、Donald Trump次期大統領の就任式への出席の招待を断った。そして、中国共産党は2024年12月9日から11日にかけて中国人民解放軍(以下、中国軍と言う)の大兵力を台湾周辺とフィリピン海に派遣した。2025年1月20日の米大統領就任式が近づくにつれ、最近の軍事動向によって習近平は台湾海峡の緊張緩和に関心がないことを明らかにしている。2022年以降、中国は台湾周辺での軍事行動を着実に増加させている。最も挑発的な事象は、中国軍の戦闘機が台湾海峡の中間線を越えた時である。この9ヵ月間だけでも、台湾近海では中国軍の活動がさまざまな波となって出現している。
(2) 2024年に目立った中国軍の行動はこれだけではない。通常、4月中旬は台湾海峡両岸での軍事作戦には理想的な天候であり、中国軍が毎年の訓練周期を開始する時期でもある。しかし、2024年4月3日の行動の急増は、18人が死亡し1,100人が負傷した台湾のマグニチュード7.4の地震の後に起こったこといる。中国政府は自然災害時の台湾の軍事的回復力を試したかったのかもしれない。
(3) 2024年5月は中国にとって政治的な引き金となった月であった。中国軍の最大の軍事的示威行動は、2024年5月20日の台湾の新総統頼清徳の就任式の後に行われた。頼清徳総統の中国との関係は現状維持とするとした就任演説は「台湾独立主義」と中国に解釈され、中国を激怒させた。中国軍の対応は、頼清徳総統の演説の3日後に行われた2日間の軍事演習「聯合利剣2024A」であった。演習の最盛時には19隻の艦艇、16隻の海警船、62機の戦闘機が参加し82回の中間線越えを実施した。2024年夏に中国の軍事活動は着実に増加した。その増加傾向は、2024年6月16日に中国が第16回海峡フォーラムを厦門で主催した後から始まっている。この傾向は2024年7月まで続き、NATOが中国をロシアのウクライナ戦争の決定的な支援者と表現した7月上旬まで急増した。7月末のAntony Blinken米国務長官と中国の王毅外相との会談の前には台湾周辺での中国軍の行動はゼロにまで減少した。
(4) 中国軍の穏健な行動は長くは続かなかった。Blinken国務長官が帰国すると、中国軍の行動レベルは再び過去最高の水準に戻った。2024年8月23日の頼清徳総統の演説では、中国共産党による台湾支配を否定している。中国軍の迅速な反応は、2024年8月1日の中国軍健軍記念日に見られた歴史的に高い行動規模と内容よりもさらに大きな反響を呼んだ。2024年9月には散発的な中国軍の行動が見られた。ニューヨークで開催された国連総会の傍らで行われたBlinkenと王毅の会談後、3日間の中国軍の行動は驚くほど長期間にわたった。その会談の数日前は、2024年7月と同様、中国軍の行動はゼロであった。しかし、 米シンクタンクInstitute for the Study of Warによると、その会談後、中国は1980年以来初めての大陸間弾道ミサイルの発射実験を行うことで米国の台湾への武器売却に対する報復の意志を表している。
(5) 2024年は中国軍の挑発的な行動が高水準で続いていたが、10月になって1日で過去最大の軍事的な示威行動が行われた。2024年10月10日に開催された双十節祝賀式典での頼清徳総統の台湾海峡の平和と安定の現状維持を強調した演説は、中国政府から即座に非難を浴びた。その5日後、中国政府は153機という記録的な数の戦闘機と14隻の海軍艦艇を台湾周辺に派遣した。そのうちの111機が中間線を越えた。中国はこれを「聯合利剣2024B」演習と名付けた。次の週には実弾射撃訓練が行われた。米大統領選挙を背景に、2024年11月の中国軍の行動は、投票が行われたことで頂点に達し、その後、通常の水準に戻った。頼清徳総統がハワイとグアムを訪れた後、2024年12月6日に台北に戻った時、事態は非常に興味深いものになった。前例とは異なり、90隻以上の艦艇を含む中国軍の大規模な対応について、発表も根拠も示されなかった。中国軍が通常あまり行動しない天候に問題のある12月という時期のこの活発な行動は注目に値する。2024年12月11日の演習初日だけでも、台湾は53機の戦闘機と19隻の海軍艦艇を確認している。この演習は、中国海軍の北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊それぞれから艦艇が参加した過去数十年で最大の軍事演習であった。中国海軍がこれほど多くの艦艇を出撃させたのは、1995年から1996年にかけての第3次台湾危機以来である。さらに中国は、艦艇を台湾東方海域に2列縦隊で停泊させ、明らかに台湾に向かう船舶を阻止する訓練を行い、海域封鎖の訓練していた。このとき、Lloyd Austin国防長官は日本を訪れていた。これについて尋ねられたとき、U.S. Department of Defenseは進展を「注意深く見守る」と述べている。
(6) 2025年は、将来の中国軍の挑発に対する抑止力を強化しようとしている台湾新政権にとって、どのような年になるのだろうか。現状維持の安全な状態に戻るためには、アジアの軍事均衡を変える必要がある。結論として、米国が中国を抑止する力を取り戻すまで中国の挑発的行動は続くであろう。米国の成功の指標の1つは、台湾周辺、南シナ海、東シナ海における同盟国の日本とフィリピンに対する中国軍の挑発的な行動の程度が減ることである。しかし残念ながら、米国は過去10年間、中国がもたらす包括的な脅威を認識せず、賢明な対抗措置を講じてこなかった。Trump次期政権は、強さ(strength)によって平和を取り戻そうとしているように見えるが、中国に対しては、これまではっきりと目に見えなかった米国の経済力と軍事力を力強く復活させる必要がある。
記事参照:What’s in Store in 2025 for US From China’s Military?
1月5日「パナマ運河問題に関してTrumpは正しい―米安全保障専門家論説」(The National Interest, January 5, 2025)
1月5日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、Trump第1期政権期後半の大統領次席補佐官Alexander Grayの“Donald Trump Is Right: The Panama Canal Should Be American”と題する論説を掲載し、そこでAlexander Grayはパナマ運河の再取得の可能性を言及したTrump次期大統領の発言に批判が集まるなか、彼の見解はReagan元大統領に近く、戦略的観点からはきわめて正しいことだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 最近、Trump次期大統領は米国がCarter政権の時にパナマ運河の管理権をパナマに返還したことを嘆いた。これは戦略的に正しい感覚であり、多くの点において、Ronald Reagan元大統領と同じ考えを共有している。1978年にRonald Reaganは、トリホス・カーター条約の批准を痛烈に批判した。Ronald Reaganは、1980年の大統領選挙でCarterに挑むつもりだった。
(2) 当時のRonald Reagan による運河返還への反対は、対外政策専門家に嘲笑された。現在の保守派にとって伝説的な人物であるWilliam Buckley, Jr.ですらRonald Reagan を批判して返還を支持したのである。しかしRonald Reagan は、Trump次期大統領同様、運河における米国の利益は、その返還によってパナマとの関係を改善したり、第三世界から「好意」を得たりする以上に大きな意味を持つと理解していたのである。
(3) 第1に、パナマ運河はReagan政権期同様、本質的に米国の軍事目的に貢献しており、それだけでもその管理権の維持を正当化する。危機において、太平洋に海軍戦力を集中させることが重要であり、パナマ運河の利用権を維持することが重要となるだろう。20世紀初頭のTheodore Rooseveltが同運河を建設したときの論理も同じであった。また、U.S. Navyの艦艇はパナマ運河を通航できるように設計されている。
(4) 第2に、冷戦期と同様に運河は大国間対立の前線に位置している。21世紀に入り、香港に拠点を置く企業がパナマの5つの主要な港のうち2つを買収し、大深水港などを建設してきた。中国は、アフリカから南太平洋まで、このような基幹施設建設し、利用することで地域に経済的、政治的影響力を及ぼしている。パナマと運河に対する中国の関心がアメリカの国防や戦略と無関係と考えるのは無邪気に過ぎる。
(5) 第3に、Ronald Reagan は米国による運河の管理が、世界全体に対する米国の影響力に直接関係していると見ていた。Trump次期大統領も、運河に影響力を及ぼそうとする敵対勢力に対抗できる力が、米国が世界的な支配力を維持するために必要だと考えているようである。米国の偉大な工学的ノウハウが無思慮に譲渡されてしまうのであれば、それはイランやロシア、北朝鮮などの敵対国に対してどのような合図になるだろうか。
(6) Trump次期大統領が運河の再取得を口にしたことで、予想どおり、ワシントンのシンクタンクや中国のプロパガンダ紙が口々に非難した。しかしTrump次期大統領は米国の国益に対して、ワシントンの良き人びとにはない、本能的な嗅覚を持っている。世界は、論争を起こすような大義の追求を厭わない米国大統領を必要としていることに気づくだろう。
記事参照:Donald Trump Is Right: The Panama Canal Should Be American
(1) 最近、Trump次期大統領は米国がCarter政権の時にパナマ運河の管理権をパナマに返還したことを嘆いた。これは戦略的に正しい感覚であり、多くの点において、Ronald Reagan元大統領と同じ考えを共有している。1978年にRonald Reaganは、トリホス・カーター条約の批准を痛烈に批判した。Ronald Reaganは、1980年の大統領選挙でCarterに挑むつもりだった。
(2) 当時のRonald Reagan による運河返還への反対は、対外政策専門家に嘲笑された。現在の保守派にとって伝説的な人物であるWilliam Buckley, Jr.ですらRonald Reagan を批判して返還を支持したのである。しかしRonald Reagan は、Trump次期大統領同様、運河における米国の利益は、その返還によってパナマとの関係を改善したり、第三世界から「好意」を得たりする以上に大きな意味を持つと理解していたのである。
(3) 第1に、パナマ運河はReagan政権期同様、本質的に米国の軍事目的に貢献しており、それだけでもその管理権の維持を正当化する。危機において、太平洋に海軍戦力を集中させることが重要であり、パナマ運河の利用権を維持することが重要となるだろう。20世紀初頭のTheodore Rooseveltが同運河を建設したときの論理も同じであった。また、U.S. Navyの艦艇はパナマ運河を通航できるように設計されている。
(4) 第2に、冷戦期と同様に運河は大国間対立の前線に位置している。21世紀に入り、香港に拠点を置く企業がパナマの5つの主要な港のうち2つを買収し、大深水港などを建設してきた。中国は、アフリカから南太平洋まで、このような基幹施設建設し、利用することで地域に経済的、政治的影響力を及ぼしている。パナマと運河に対する中国の関心がアメリカの国防や戦略と無関係と考えるのは無邪気に過ぎる。
(5) 第3に、Ronald Reagan は米国による運河の管理が、世界全体に対する米国の影響力に直接関係していると見ていた。Trump次期大統領も、運河に影響力を及ぼそうとする敵対勢力に対抗できる力が、米国が世界的な支配力を維持するために必要だと考えているようである。米国の偉大な工学的ノウハウが無思慮に譲渡されてしまうのであれば、それはイランやロシア、北朝鮮などの敵対国に対してどのような合図になるだろうか。
(6) Trump次期大統領が運河の再取得を口にしたことで、予想どおり、ワシントンのシンクタンクや中国のプロパガンダ紙が口々に非難した。しかしTrump次期大統領は米国の国益に対して、ワシントンの良き人びとにはない、本能的な嗅覚を持っている。世界は、論争を起こすような大義の追求を厭わない米国大統領を必要としていることに気づくだろう。
記事参照:Donald Trump Is Right: The Panama Canal Should Be American
1月6日「中国船が台湾近海で海底通信ケーブル切断の疑い―インド紙報道」(EurAsia Times, January 6, 2025)
1月6日付のインドのニュースサイトEurAsian Timesは、“After Baltic Sea “Sabotage”, Chinese Ship Suspected Of Severing A Critical Undersea Telecom Cable Near Taiwan”と題する記事を掲載し、ここで中国船が台湾近海で海底通信ケーブルを切断した疑いがあることについて、ロシア・中国による同種の行動を含め、要旨以下のように報じている
(1) 1月3日午後12時40分頃、台湾の中華電信股份有限公司(以下、中華電信と言う)は、基隆付近の海底通信ケーブルが切断されたことを海巡署(以下、CGAという)に通知した。CGAは巡視船を派遣して、当時、付近にいた香港企業所有の貨物船「Shunxin-39」を捕捉し、船長と無線で連絡を取り、船体の外観検査を行ったが、荒天のため立ち入り検査はできず、国際法の規定により、事件発生から長時間が経過していたため、さらなる調査のためにこの船を差し押さえることはできなかった。船舶自動識別装置(AIS)と衛星からの追跡データによると、「Shunxin-39」はケーブルが損傷した場所で錨を引きずっていた。また、海事分析サービスを提供するMarineTraffic社の解析員は、この貨物船が12月1日以降、台湾北部沿岸の海域を何度も行き来していたことを明らかにしている。解析から「Shunxin-39」は不規則な行動をしており、台湾当局はケーブルの損傷が単なる偶発的な事故ではないとの疑いを抱くようになった。
(2) U.S. Air Forceの退役大佐Ray Powellは、台湾の海底ケーブルに損傷を与えた船は、少なくとも「Shunxing39」と「Xingshun39」という2つの船名で運航され、カメルーンとタンザニアの2つの旗を掲げ、過去6ヵ月間、台湾の基隆と韓国の釜山の間を移動する際に6つの異なる海上移動識別番号(MMSI)を使用していたと主張している。船舶の所有記録によると、この船はカメルーンで登録されているものの、実際には香港の傑陽貿易有限公司が所有している。1月3日以降、「Shunxing39」の位置は不明であり、韓国の釜山に向かっていると伝えられていたことから、台湾は韓国当局に支援を要請した。
(3) 台湾で発生したこの出来事は、世界中で発生している海底基幹施設に対する同様の障害、特にバルト海で重要なケーブルやパイプラインが被害を受けている状況を反映している。2023年10月に中国が初めて海底ケーブルの妨害に関与したとされる事件が発生した。中国船「ニューニュー・ポーラ・ベア」が、フィンランドにとって重要なエネルギー源である全長77kmのバルトコネクター・パイプラインを損傷させており、さらにエストニアとスウェーデンを結ぶ海底データケーブルにも被害が及んでいる。この事件の後、当該中国船はサンクトペテルブルクに向かい、その後ロシアのアルハンゲリスク地方で目撃され、最終的に中国の天津に入港した。当初、中国は否定していたが、2024年8月になって香港籍船の「ニューニュー・ポーラ・ベア」が被害を引き起こしたことを認め、その原因は深刻な嵐によるものと主張した。
(4) 2024年11月にはバルト海の2本の光ファイバーケーブルが切断され、調査の焦点は中国の貨物船「伊鵬 3」に絞られた。その1ヵ月後の2024年12月、フィンランドでは電力ケーブルと4つの通信回線が損傷した。フィンランド当局は、ロシアのタンカーが海底に錨をひきずって損傷を引き起こしたのではないかと疑っている。
(5) 台湾はここ数年、海底通信ケーブルに対する多数の攻撃に見舞われており、その多くで犯人を特定できていない。毎年、海底ケーブルは世界中で数十回にわたって意図せずに切断されている。しかし、最近の事件に関する調査から得られた証拠によると、これらの事故の一部は無作為ではないとされている。
(6) ロシアは、海底ケーブルに対する脅威の実行犯として長い間疑われてきた。近年、特に北極海やバルト海において、モスクワがケーブルの監視や改ざんに関与している可能性が指摘されている。European Values Centre for Security Policyセンター長Jakub JandaとAustralian Strategic Policy InstituteのCyber, Technology and Security Program責任者James Coreraは分析の中で、次のように述べている。
a. 最近の事件における中国の関与は直接的ではなく、後方支援、技術、または情報提供を通じての関与の可能性もある。
b. ロシアによるバルト海の海底基幹施設を標的にした行動は、ヨーロッパ内、特にNATOとEUの結束に分裂と不確実性を生み出すことを目的としている可能性が高い。
c. この戦略は中国にも利益をもたらす。
d. ロシアと中国は、これらの攻撃を調整しながら、もっともらしく否定できる立場を維持することで、それぞれの地政学的戦略を強化することができる。
e. 中ロ両国の行動は、非正統的な戦術を用いて西側諸国に挑戦する傾向が強まっていることを浮き彫りにしている。
(8) 海底ケーブルやエネルギー基幹施設に対する危険性の高まりを受け、NATOは2024年5月に、これらの重要な資産の保護を強化するための専門センターを立ち上げた。しかし、センター設立にもかかわらず、NATOの取り組みはこれまで効果を上げていない。最近の事件では、センターがこうした攻撃を阻止したり、断固とした対応ができないことが明らかになった。
記事参照:After Baltic Sea “Sabotage”, Chinese Ship Suspected Of Severing A Critical Undersea Telecom Cable Near Taiwan
(1) 1月3日午後12時40分頃、台湾の中華電信股份有限公司(以下、中華電信と言う)は、基隆付近の海底通信ケーブルが切断されたことを海巡署(以下、CGAという)に通知した。CGAは巡視船を派遣して、当時、付近にいた香港企業所有の貨物船「Shunxin-39」を捕捉し、船長と無線で連絡を取り、船体の外観検査を行ったが、荒天のため立ち入り検査はできず、国際法の規定により、事件発生から長時間が経過していたため、さらなる調査のためにこの船を差し押さえることはできなかった。船舶自動識別装置(AIS)と衛星からの追跡データによると、「Shunxin-39」はケーブルが損傷した場所で錨を引きずっていた。また、海事分析サービスを提供するMarineTraffic社の解析員は、この貨物船が12月1日以降、台湾北部沿岸の海域を何度も行き来していたことを明らかにしている。解析から「Shunxin-39」は不規則な行動をしており、台湾当局はケーブルの損傷が単なる偶発的な事故ではないとの疑いを抱くようになった。
(2) U.S. Air Forceの退役大佐Ray Powellは、台湾の海底ケーブルに損傷を与えた船は、少なくとも「Shunxing39」と「Xingshun39」という2つの船名で運航され、カメルーンとタンザニアの2つの旗を掲げ、過去6ヵ月間、台湾の基隆と韓国の釜山の間を移動する際に6つの異なる海上移動識別番号(MMSI)を使用していたと主張している。船舶の所有記録によると、この船はカメルーンで登録されているものの、実際には香港の傑陽貿易有限公司が所有している。1月3日以降、「Shunxing39」の位置は不明であり、韓国の釜山に向かっていると伝えられていたことから、台湾は韓国当局に支援を要請した。
(3) 台湾で発生したこの出来事は、世界中で発生している海底基幹施設に対する同様の障害、特にバルト海で重要なケーブルやパイプラインが被害を受けている状況を反映している。2023年10月に中国が初めて海底ケーブルの妨害に関与したとされる事件が発生した。中国船「ニューニュー・ポーラ・ベア」が、フィンランドにとって重要なエネルギー源である全長77kmのバルトコネクター・パイプラインを損傷させており、さらにエストニアとスウェーデンを結ぶ海底データケーブルにも被害が及んでいる。この事件の後、当該中国船はサンクトペテルブルクに向かい、その後ロシアのアルハンゲリスク地方で目撃され、最終的に中国の天津に入港した。当初、中国は否定していたが、2024年8月になって香港籍船の「ニューニュー・ポーラ・ベア」が被害を引き起こしたことを認め、その原因は深刻な嵐によるものと主張した。
(4) 2024年11月にはバルト海の2本の光ファイバーケーブルが切断され、調査の焦点は中国の貨物船「伊鵬 3」に絞られた。その1ヵ月後の2024年12月、フィンランドでは電力ケーブルと4つの通信回線が損傷した。フィンランド当局は、ロシアのタンカーが海底に錨をひきずって損傷を引き起こしたのではないかと疑っている。
(5) 台湾はここ数年、海底通信ケーブルに対する多数の攻撃に見舞われており、その多くで犯人を特定できていない。毎年、海底ケーブルは世界中で数十回にわたって意図せずに切断されている。しかし、最近の事件に関する調査から得られた証拠によると、これらの事故の一部は無作為ではないとされている。
(6) ロシアは、海底ケーブルに対する脅威の実行犯として長い間疑われてきた。近年、特に北極海やバルト海において、モスクワがケーブルの監視や改ざんに関与している可能性が指摘されている。European Values Centre for Security Policyセンター長Jakub JandaとAustralian Strategic Policy InstituteのCyber, Technology and Security Program責任者James Coreraは分析の中で、次のように述べている。
a. 最近の事件における中国の関与は直接的ではなく、後方支援、技術、または情報提供を通じての関与の可能性もある。
b. ロシアによるバルト海の海底基幹施設を標的にした行動は、ヨーロッパ内、特にNATOとEUの結束に分裂と不確実性を生み出すことを目的としている可能性が高い。
c. この戦略は中国にも利益をもたらす。
d. ロシアと中国は、これらの攻撃を調整しながら、もっともらしく否定できる立場を維持することで、それぞれの地政学的戦略を強化することができる。
e. 中ロ両国の行動は、非正統的な戦術を用いて西側諸国に挑戦する傾向が強まっていることを浮き彫りにしている。
(8) 海底ケーブルやエネルギー基幹施設に対する危険性の高まりを受け、NATOは2024年5月に、これらの重要な資産の保護を強化するための専門センターを立ち上げた。しかし、センター設立にもかかわらず、NATOの取り組みはこれまで効果を上げていない。最近の事件では、センターがこうした攻撃を阻止したり、断固とした対応ができないことが明らかになった。
記事参照:After Baltic Sea “Sabotage”, Chinese Ship Suspected Of Severing A Critical Undersea Telecom Cable Near Taiwan
1月7日「自衛隊の水陸両用作戦の拠点となる佐世保―デジタル紙報道」(The Diplomat, January 7, 2025)
1月7日付のデジタル誌The Diplomatは、“Japan Aims to Make Sasebo a Strong Foothold for Amphibious Operations for the Self-Defense Forces”と題する記事を掲載し、自衛隊が佐世保を水陸両用作戦のための拠点として強化していることについて、要旨以下のように報じている。
(1) 日本は長崎県佐世保市において、自衛隊の水陸両用作戦の強固な拠点を確立するための取り組みを強化している。これは、中国のますます積極的な海洋進出を念頭に置いたものである。具体的には、防衛省は佐世保を拠点とする陸上自衛隊の「水陸機動団」と2026年3月までに同市に新設予定の「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」との共同運用体制を構築する計画である。この動きは、特に鹿児島から沖縄にかけて台湾へ南西に1,200km延びる南西諸島を防衛し、それらの離島を奪還する能力を強化することを目的としている。この諸島には、東シナ海に位置する尖閣諸島も含まれている。
(2) この計画は、海上自衛隊史上最大の組織改編の一環として登場した。この改編では、既存の護衛艦隊と掃海隊群を廃止し、2025年度末までに、それらを新たに「水上艦隊(仮称)」に統合することで、海上自衛隊の水上艦艇の運用を一本化させる予定である。現在、海上自衛隊には4つの護衛隊群があり、それぞれ神奈川県横須賀市、長崎県佐世保市、京都府舞鶴市、広島県呉市に司令部を置いている。この新たな改編計画では、これら4個の護衛隊群が「水上艦隊(仮称)」の隷下で「水上戦群(仮称)」3個群に統合される。防衛省が12月下旬に発表した2025年度防衛予算案の記者会見によると、佐世保にある現在の司令部は改編により廃止されるが、佐世保は別の重要な役割を担うことになるという。
(3) 防衛当局によれば、「水上艦隊(仮称)」の司令部は横須賀に設置され、その下に「第1水上戦群(仮称)」の司令部は横須賀、「第2水上戦群(仮称)」の司令部は呉、「第3水上戦群(仮称)」の司令部は舞鶴に設置される予定である。一方、佐世保には新たな「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」の司令部が設置されることになる。この新しい「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」は、機雷戦および水陸両用作戦を支援するために既存の機雷戦部隊と輸送艦を統合する。
(4) 現在、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦「いせ」は、佐世保基地を定係港としており、改編後は新設される「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」に配属される予定である。「確かに輸送艦において機雷戦部隊を指揮統制することは可能であるが、輸送艦には通信能力や艦内余積に限りがある。そのため、4隻保有するヘリコプター搭載護衛艦のうち1隻を掃海隊群に配属し、作戦、訓練、演習を実施してきた」と斎藤聡海上幕僚長は2024年9月3日の記者会見で述べている。
(5) 一方、陸上自衛隊の水陸機動団は2018年3月に新編され、佐世保市の相浦駐屯地を拠点としている。同駐屯地には、600名規模で編成される水陸機動連隊2個連隊が配置されている。また、2024年3月には、長崎県大村市にある竹松駐屯地において、第3水陸機動連隊が新編された。防衛上の事態発生時における水陸機動団の主な任務は、占領された島嶼を奪還することである。この部隊は主に水陸両用車両や小舟艇を使用して海上から上陸し、戦闘を開始する。
(6) さらに、Expeditionary Strike Group SEVEN(第7遠征打撃群)の一部が佐世保に所在していることも忘れてはならない。Expeditionary Strike Group SEVENは、U.S. Navyで唯一の前方展開水陸両用戦部隊であり、その司令部は沖縄のホワイトビーチに置かれており、佐世保には作戦分遣隊が配置されている。
(7) 水陸両用戦の本質は統合作戦であり、佐世保における陸上自衛隊と海上自衛隊、さらには共同作戦を念頭にU.S. Navy との緊密な連携がこれまで以上に求められるだろう。
記事参照:Japan Aims to Make Sasebo a Strong Foothold for Amphibious Operations for the Self-Defense Forces
(1) 日本は長崎県佐世保市において、自衛隊の水陸両用作戦の強固な拠点を確立するための取り組みを強化している。これは、中国のますます積極的な海洋進出を念頭に置いたものである。具体的には、防衛省は佐世保を拠点とする陸上自衛隊の「水陸機動団」と2026年3月までに同市に新設予定の「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」との共同運用体制を構築する計画である。この動きは、特に鹿児島から沖縄にかけて台湾へ南西に1,200km延びる南西諸島を防衛し、それらの離島を奪還する能力を強化することを目的としている。この諸島には、東シナ海に位置する尖閣諸島も含まれている。
(2) この計画は、海上自衛隊史上最大の組織改編の一環として登場した。この改編では、既存の護衛艦隊と掃海隊群を廃止し、2025年度末までに、それらを新たに「水上艦隊(仮称)」に統合することで、海上自衛隊の水上艦艇の運用を一本化させる予定である。現在、海上自衛隊には4つの護衛隊群があり、それぞれ神奈川県横須賀市、長崎県佐世保市、京都府舞鶴市、広島県呉市に司令部を置いている。この新たな改編計画では、これら4個の護衛隊群が「水上艦隊(仮称)」の隷下で「水上戦群(仮称)」3個群に統合される。防衛省が12月下旬に発表した2025年度防衛予算案の記者会見によると、佐世保にある現在の司令部は改編により廃止されるが、佐世保は別の重要な役割を担うことになるという。
(3) 防衛当局によれば、「水上艦隊(仮称)」の司令部は横須賀に設置され、その下に「第1水上戦群(仮称)」の司令部は横須賀、「第2水上戦群(仮称)」の司令部は呉、「第3水上戦群(仮称)」の司令部は舞鶴に設置される予定である。一方、佐世保には新たな「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」の司令部が設置されることになる。この新しい「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」は、機雷戦および水陸両用作戦を支援するために既存の機雷戦部隊と輸送艦を統合する。
(4) 現在、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦「いせ」は、佐世保基地を定係港としており、改編後は新設される「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」に配属される予定である。「確かに輸送艦において機雷戦部隊を指揮統制することは可能であるが、輸送艦には通信能力や艦内余積に限りがある。そのため、4隻保有するヘリコプター搭載護衛艦のうち1隻を掃海隊群に配属し、作戦、訓練、演習を実施してきた」と斎藤聡海上幕僚長は2024年9月3日の記者会見で述べている。
(5) 一方、陸上自衛隊の水陸機動団は2018年3月に新編され、佐世保市の相浦駐屯地を拠点としている。同駐屯地には、600名規模で編成される水陸機動連隊2個連隊が配置されている。また、2024年3月には、長崎県大村市にある竹松駐屯地において、第3水陸機動連隊が新編された。防衛上の事態発生時における水陸機動団の主な任務は、占領された島嶼を奪還することである。この部隊は主に水陸両用車両や小舟艇を使用して海上から上陸し、戦闘を開始する。
(6) さらに、Expeditionary Strike Group SEVEN(第7遠征打撃群)の一部が佐世保に所在していることも忘れてはならない。Expeditionary Strike Group SEVENは、U.S. Navyで唯一の前方展開水陸両用戦部隊であり、その司令部は沖縄のホワイトビーチに置かれており、佐世保には作戦分遣隊が配置されている。
(7) 水陸両用戦の本質は統合作戦であり、佐世保における陸上自衛隊と海上自衛隊、さらには共同作戦を念頭にU.S. Navy との緊密な連携がこれまで以上に求められるだろう。
記事参照:Japan Aims to Make Sasebo a Strong Foothold for Amphibious Operations for the Self-Defense Forces
1月7日「米国第一主義とグリーンランド、台湾、パナマ運河―米専門家論説」(Responsible Statecraft, January 7, 2025)
1月7日付の米シンクタンクQuincy Instituteが発行するデジタル誌Responsible Statecraftは、米国のシンクタンクCenter for International Policy非常勤上席研究員Joanna Rozpedowskiの“‘America First’meets Greenland, Taiwan, and the Panama Canal”と題する論説を掲載し、ここでJoanna Rozpedowskiは慎重な外交、経済投資、軍事的抑止力により、Trump次期政権は過剰な軍事支出や道徳的に犠牲の大きい紛争を回避しながら、米国の指導的地位を強化できる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の拡大する影響力を視野に入れ、Trump次期大統領は3つの世界的な隘路において米国の戦略を再調整することを目指している。それは台湾、グリーンランド、パナマ運河であり、この3ヵ所は中国という共通項を持っている。中国は米国の世界覇権を崩し、その経済的影響力を奪い、軍事的優位性を脅かすことを最も強く望んでいると考えられている。台湾、グリーンランド、パナマ運河に対する対応は、主要な戦略的地域における中国の侵食を否定しながら、Trump次期大統領が追求しようとする外交政策の試金石となる。
(2) 台湾に関して、米国は1979年以来、台湾関係法に基づき関与を維持し、台湾に自衛手段を提供することを義務付けてきた。米政府は「一つの中国政策」を公式に支持しながら、中国による攻撃が発生した場合の台湾防衛に関しては戦略的曖昧政策を採り、意図的に不確実性と二重の抑止力を生み出している。台湾をめぐる中国政府との緊張の高まりを考慮し、米国の分析家や政府関係者の間では、米国が戦略的曖昧性を再考し、明確な台湾支持を求める声が高まっている。台湾の防衛において、米国の軍事介入を求めるのではなく、台湾が軍備を整えるのを重視することは、Trump次期政権の課題の1つである。
a. 台湾は、世界貿易と国際安全保障を定義するインド太平洋地域の中心に位置している。その戦略的重要性は、中国の膨張主義に対する牽制としての役割だけでなく、米国および同盟国の先進的な軍事システムに搭載されるマイクロチップの製造に使用されるグローバルな半導体サプライチェーンにおける重要な結節点としての役割にもある。
b. 米国は、中国への脅威や興味本位の記事を不必要に誇張して緊張を高めたり、台湾海峡関係について、特に欧米的な視点や先入観を押し付けることに警戒すべきである。
c. Trump次期政権にとって、武器売却の強化ではなく、外交的関与に基づく台湾政策の再活性化は、中国の侵略に対する抑止力となり、平和で自由かつ開かれたインド太平洋へ関与を示すものとなる。
(3) グリーンランドは、米国と世界の安全保障の課題を定義し、技術と軍事の用途に不可欠な、未開発の膨大な希土類鉱物と炭化水素の埋蔵量へ制限されることなく近づくことを米国に保証する複雑なパズルのほんの一片に過ぎない。その戦略的な地理的位置は、第2次世界大戦以来、大国の注目を集め、軍事および監視活動に比類のない有利な地点を提供し、米国の北極圏戦略の要となっている。1941年にグリーンランドは米国の保護領となり、冷戦時代には、その戦略的価値はさらに高まり、米国はソ連に到達可能な核兵器を配備した秘密基地キャンプ・センチュリーを建設した。冷戦後にこの島の軍事的価値は低下したが、気候変動により再び関心が高まっている。
a. グリーンランドの戦略的価値と地政学的重要性に目を付けたTrump次期大統領は、2019年と2024年に同島を購入する意向を示した。
b. 歴史的には、この考えは目新しいものではなく、正統的に欠けるものでもない。1867年以来、米国はデンマークからグリーンランドを購入する複数の試みを模索し、追求してきた。同島は現在もデンマークの自治領であるが、1951年の条約により、米国には同島の防衛に関する大きな権限が与えられている。
c. 米政府は、中国が北極圏にますます重点を置いていること、およびロシアが軍事化を再活性化し、北極圏での優位性を強化していることへの懸念を表明しており、北極圏における米国の影響力を再確立するための政策に苦慮している。基幹施設、科学研究、経済開発への投資は、北極圏における足がかりを拡大しようとする中国とロシアの取り組みに対抗しながら、この地域における米国の影響力を強化する可能性がある。
d. 米国の強固な北極圏戦略は、Trump次期大統領の掲げる経済ナショナリズムや資源安全保障といった広範な主張と共鳴するもので、デンマークの強い抵抗があるものの、グリーンランド購入の提案自体は、嘲笑の対象となるものではない。
(4) パナマ運河は、長きにわたり世界貿易と米国の海洋戦略にとって重要な動脈で、地域の経済安定に欠かせない資産である。2017年以降、パナマ運河に対する中国の影響力と西半球における基幹施設計画への大規模な投資が着実に増加している。中国はパナマでの足場を固め、この地域の戦略的経済提携国としての地位を確立している。
a. 1977年9月7日に締結されたパナマと米国間の中立条約は、パナマ運河の永世中立性、および国際通航水路としての公平な利用をすべての国に保証し、パナマ領内への外国軍の駐留を禁止している。それは、パナマが運河の運営と管理を単独で継続する限りにおいてであり、米国は、運河の中立性を守るために軍事力を行使する権利を留保している。したがって、中国の現実の脅威、または脅威と受け止められるものは、米国の対応を引き起こす可能性がある。
b. Trump次期政権がパナマ運河に対する戦略的影響力を回復するために、軍事的あるいは攻撃的な姿勢を採る必要はない。パナマ政府との関係を強化し、経済投資を増やし、運河に関わる基幹施設の近代化や航路の安全強化を目的とした誘因、機会、提携の創出を通じて中国の影響力に対抗することが、米国の役割を再確認することにつながる。
(5) 台湾、グリーンランド、パナマ運河は、それぞれ政治体制が異なるが、米国の強固で弾力性のある外交政策および戦略において重要な要素となる特徴を共有している。慎重な外交、経済投資、軍事的抑止力により、Trump次期政権は過剰な軍事支出や道徳的に犠牲の大きい紛争を回避しながら、米国の指導的地位を強化できる可能性がある。
記事参照:‘America First’meets Greenland, Taiwan, and the Panama Canal
(1) 中国の拡大する影響力を視野に入れ、Trump次期大統領は3つの世界的な隘路において米国の戦略を再調整することを目指している。それは台湾、グリーンランド、パナマ運河であり、この3ヵ所は中国という共通項を持っている。中国は米国の世界覇権を崩し、その経済的影響力を奪い、軍事的優位性を脅かすことを最も強く望んでいると考えられている。台湾、グリーンランド、パナマ運河に対する対応は、主要な戦略的地域における中国の侵食を否定しながら、Trump次期大統領が追求しようとする外交政策の試金石となる。
(2) 台湾に関して、米国は1979年以来、台湾関係法に基づき関与を維持し、台湾に自衛手段を提供することを義務付けてきた。米政府は「一つの中国政策」を公式に支持しながら、中国による攻撃が発生した場合の台湾防衛に関しては戦略的曖昧政策を採り、意図的に不確実性と二重の抑止力を生み出している。台湾をめぐる中国政府との緊張の高まりを考慮し、米国の分析家や政府関係者の間では、米国が戦略的曖昧性を再考し、明確な台湾支持を求める声が高まっている。台湾の防衛において、米国の軍事介入を求めるのではなく、台湾が軍備を整えるのを重視することは、Trump次期政権の課題の1つである。
a. 台湾は、世界貿易と国際安全保障を定義するインド太平洋地域の中心に位置している。その戦略的重要性は、中国の膨張主義に対する牽制としての役割だけでなく、米国および同盟国の先進的な軍事システムに搭載されるマイクロチップの製造に使用されるグローバルな半導体サプライチェーンにおける重要な結節点としての役割にもある。
b. 米国は、中国への脅威や興味本位の記事を不必要に誇張して緊張を高めたり、台湾海峡関係について、特に欧米的な視点や先入観を押し付けることに警戒すべきである。
c. Trump次期政権にとって、武器売却の強化ではなく、外交的関与に基づく台湾政策の再活性化は、中国の侵略に対する抑止力となり、平和で自由かつ開かれたインド太平洋へ関与を示すものとなる。
(3) グリーンランドは、米国と世界の安全保障の課題を定義し、技術と軍事の用途に不可欠な、未開発の膨大な希土類鉱物と炭化水素の埋蔵量へ制限されることなく近づくことを米国に保証する複雑なパズルのほんの一片に過ぎない。その戦略的な地理的位置は、第2次世界大戦以来、大国の注目を集め、軍事および監視活動に比類のない有利な地点を提供し、米国の北極圏戦略の要となっている。1941年にグリーンランドは米国の保護領となり、冷戦時代には、その戦略的価値はさらに高まり、米国はソ連に到達可能な核兵器を配備した秘密基地キャンプ・センチュリーを建設した。冷戦後にこの島の軍事的価値は低下したが、気候変動により再び関心が高まっている。
a. グリーンランドの戦略的価値と地政学的重要性に目を付けたTrump次期大統領は、2019年と2024年に同島を購入する意向を示した。
b. 歴史的には、この考えは目新しいものではなく、正統的に欠けるものでもない。1867年以来、米国はデンマークからグリーンランドを購入する複数の試みを模索し、追求してきた。同島は現在もデンマークの自治領であるが、1951年の条約により、米国には同島の防衛に関する大きな権限が与えられている。
c. 米政府は、中国が北極圏にますます重点を置いていること、およびロシアが軍事化を再活性化し、北極圏での優位性を強化していることへの懸念を表明しており、北極圏における米国の影響力を再確立するための政策に苦慮している。基幹施設、科学研究、経済開発への投資は、北極圏における足がかりを拡大しようとする中国とロシアの取り組みに対抗しながら、この地域における米国の影響力を強化する可能性がある。
d. 米国の強固な北極圏戦略は、Trump次期大統領の掲げる経済ナショナリズムや資源安全保障といった広範な主張と共鳴するもので、デンマークの強い抵抗があるものの、グリーンランド購入の提案自体は、嘲笑の対象となるものではない。
(4) パナマ運河は、長きにわたり世界貿易と米国の海洋戦略にとって重要な動脈で、地域の経済安定に欠かせない資産である。2017年以降、パナマ運河に対する中国の影響力と西半球における基幹施設計画への大規模な投資が着実に増加している。中国はパナマでの足場を固め、この地域の戦略的経済提携国としての地位を確立している。
a. 1977年9月7日に締結されたパナマと米国間の中立条約は、パナマ運河の永世中立性、および国際通航水路としての公平な利用をすべての国に保証し、パナマ領内への外国軍の駐留を禁止している。それは、パナマが運河の運営と管理を単独で継続する限りにおいてであり、米国は、運河の中立性を守るために軍事力を行使する権利を留保している。したがって、中国の現実の脅威、または脅威と受け止められるものは、米国の対応を引き起こす可能性がある。
b. Trump次期政権がパナマ運河に対する戦略的影響力を回復するために、軍事的あるいは攻撃的な姿勢を採る必要はない。パナマ政府との関係を強化し、経済投資を増やし、運河に関わる基幹施設の近代化や航路の安全強化を目的とした誘因、機会、提携の創出を通じて中国の影響力に対抗することが、米国の役割を再確認することにつながる。
(5) 台湾、グリーンランド、パナマ運河は、それぞれ政治体制が異なるが、米国の強固で弾力性のある外交政策および戦略において重要な要素となる特徴を共有している。慎重な外交、経済投資、軍事的抑止力により、Trump次期政権は過剰な軍事支出や道徳的に犠牲の大きい紛争を回避しながら、米国の指導的地位を強化できる可能性がある。
記事参照:‘America First’meets Greenland, Taiwan, and the Panama Canal
1月8日「ロシアが北極海における弾道ミサイル原子力潜水艦の戦力を増強―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer, January 8, 2025)
1月8日付けのノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、ノルウェーのジャーナリストThomas Nilsenの“Upgraded nuclear missile sub conducts tests in icy waters”と題する記事を掲載し、現在ロシアが北極海で増強している新型と旧型の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦について、要旨以下のように報じている。
(1) ロシアは、第4世代の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)ボレイ級SSBNを導入する原子力潜水艦近代化計画を進める一方で、Северный флот(以下、北方艦隊と言う)に配備されているソ連時代に建造されたデルタIV級SSBNを維持することにも力を入れている。Vladimir Putin大統領は、2026年2月に新START条約が失効した場合に、海洋でより多くの核兵器を展開する選択肢に備えているようである。新型潜水艦の導入と同時に旧型艦の運用を継続することで、ロシアが海洋に配備できる戦略核兵器の最大数は、米ロが合意した新戦略兵器削減条約に定められた上限を大幅に超える可能性がある。
(2) デルタⅣ級SSBN「ブリャンスク」は16基の「シネワ」弾道ミサイルを搭載可能であり、各ミサイルは個別に目標を設定できる4発の再突入型核弾頭を備えている。核燃料の交換を含む現在進行中の包括的な近代化が完了すれば、「ブリャンスク」はさらに8から10年間運用可能と見られている。6年以上の改修作業後、2024年12月、「ブリャンスク」は初めてセヴェロドヴィンスクの外に姿を現し、ソナー調整のための装置を搭載して白海の氷海をゆっくりと航行した。1980年代後半に建造された「ブリャンスク」は、Военно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)で運用されている最も古いSSBNの1隻であり、母港はノルウェー国境から約100km東のコラ半島ガジエヴォに位置する。
(3) 「ブリャンスク」の復帰により、北方艦隊には4隻の運用可能なデルタIV級SSBNが配備される。さらにもう1隻、「カレリア」がズヴョーズドチカ造船所での改修の順番を待っている。2025年初頭、「ブリャンスク」が再就役すれば、北方艦隊は弾道ミサイル搭載潜水艦を5隻保有し、それら全てがガジエヴォを拠点としている。その内訳は、デルタIV級SSBNの4隻とボレイA級SSBN「クニャージ・ウラジーミル」である。ボレイA級SSBNのもう1隻「クニャージ・ポジャルスキー」は1年前に進水しており、2025年中に北方艦隊へ配備される予定である。北方艦隊で最初のボレイ級SSBN「ユーリ・ドルゴルーキー」は、セヴェロドヴィンスクのズヴョーズドチカ造船所で原子炉用核燃料を交換する初の中期改修を受ける予定であり、この作業は数年かかる可能性がある。
(4) デルタIV級SSBNと同様に、ボレイ級およびボレイA級SSBNは16基のミサイルを搭載可能であり、各ミサイルには最大6発の弾頭を搭載できる。これにより、2025年には北方艦隊が384発から448発の核弾頭を搭載した最大96基の弾道ミサイルを配備する能力を持つことになる。さらに4隻のボレイA級SSBNが追加され、古いデルタIV級SSBNが退役しない場合、潜水艦発射弾道ミサイル数および核弾頭数は今後数年で大幅に増加する可能性がある。しかし、2026年初頭に失効予定の新START条約の行方が、バレンツ海域での核兵器数の主要な指針となるだろう。
記事参照:Upgraded nuclear missile sub conducts tests in icy waters
(1) ロシアは、第4世代の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)ボレイ級SSBNを導入する原子力潜水艦近代化計画を進める一方で、Северный флот(以下、北方艦隊と言う)に配備されているソ連時代に建造されたデルタIV級SSBNを維持することにも力を入れている。Vladimir Putin大統領は、2026年2月に新START条約が失効した場合に、海洋でより多くの核兵器を展開する選択肢に備えているようである。新型潜水艦の導入と同時に旧型艦の運用を継続することで、ロシアが海洋に配備できる戦略核兵器の最大数は、米ロが合意した新戦略兵器削減条約に定められた上限を大幅に超える可能性がある。
(2) デルタⅣ級SSBN「ブリャンスク」は16基の「シネワ」弾道ミサイルを搭載可能であり、各ミサイルは個別に目標を設定できる4発の再突入型核弾頭を備えている。核燃料の交換を含む現在進行中の包括的な近代化が完了すれば、「ブリャンスク」はさらに8から10年間運用可能と見られている。6年以上の改修作業後、2024年12月、「ブリャンスク」は初めてセヴェロドヴィンスクの外に姿を現し、ソナー調整のための装置を搭載して白海の氷海をゆっくりと航行した。1980年代後半に建造された「ブリャンスク」は、Военно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)で運用されている最も古いSSBNの1隻であり、母港はノルウェー国境から約100km東のコラ半島ガジエヴォに位置する。
(3) 「ブリャンスク」の復帰により、北方艦隊には4隻の運用可能なデルタIV級SSBNが配備される。さらにもう1隻、「カレリア」がズヴョーズドチカ造船所での改修の順番を待っている。2025年初頭、「ブリャンスク」が再就役すれば、北方艦隊は弾道ミサイル搭載潜水艦を5隻保有し、それら全てがガジエヴォを拠点としている。その内訳は、デルタIV級SSBNの4隻とボレイA級SSBN「クニャージ・ウラジーミル」である。ボレイA級SSBNのもう1隻「クニャージ・ポジャルスキー」は1年前に進水しており、2025年中に北方艦隊へ配備される予定である。北方艦隊で最初のボレイ級SSBN「ユーリ・ドルゴルーキー」は、セヴェロドヴィンスクのズヴョーズドチカ造船所で原子炉用核燃料を交換する初の中期改修を受ける予定であり、この作業は数年かかる可能性がある。
(4) デルタIV級SSBNと同様に、ボレイ級およびボレイA級SSBNは16基のミサイルを搭載可能であり、各ミサイルには最大6発の弾頭を搭載できる。これにより、2025年には北方艦隊が384発から448発の核弾頭を搭載した最大96基の弾道ミサイルを配備する能力を持つことになる。さらに4隻のボレイA級SSBNが追加され、古いデルタIV級SSBNが退役しない場合、潜水艦発射弾道ミサイル数および核弾頭数は今後数年で大幅に増加する可能性がある。しかし、2026年初頭に失効予定の新START条約の行方が、バレンツ海域での核兵器数の主要な指針となるだろう。
記事参照:Upgraded nuclear missile sub conducts tests in icy waters
1月9日「QUAD+フィリピンが南シナ海の平和に貢献する―米安全保障専門家論説」(The Center for a New American Century, January 9, 2025)
1月9日付の米シンクタンクCenter for a New American Securityのウエブサイトは、同CenterのIndo-Pacific Security Program責任者Lisa Curtis、同Program元研究助手Evan Wright、同Program元運営者Nathaniel Schochetの“The Quad Plus the Philippines: A Strategic Partnership for a Peaceful South China Sea”と題する論説を掲載した。以下はその序文および結論の要約をまとめたである。そこで3名は、QUADとフィリピンの協力を進めることで、南シナ海における中国の侵略に対する抑止力が強化され、地域の国々の中国に対する経済的な依存度が小さくなることで、中国の影響力が弱まるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国がインド太平洋の課題に対処するために多国間提携を求めているが、そのなかでQUADが注目されてきた。これまで、QUADは安全保障や防衛問題からは距離をとってきたが、昨今インド太平洋における安全保障上の脅威が強まるなかで、4ヵ国の防衛活動などを調整する必要が高まっている。
(2) インド太平洋の国際公共財に対する脅威は、特に南シナ海で高まっている。南シナ海では、中国がセカンド・トーマス礁をめぐりフィリピンに対して攻撃的活動を押し進めている。セカンド・トーマス礁にはフィリピンが海軍艦船を座礁させ、部隊を駐留させていることから、駐留部隊に補給活動を行なっているが、中国がそれを妨害している。2024年に中国の行動は拡大し、ナイフや斧を振り回したことでフィリピン人船員が大怪我を負うという事件も起っている。南シナ海における潜在的危機が、大規模な紛争につながる危険性が高まっており、しかもそれには中国による大量破壊兵器の使用の可能性が伴う。
(3) 本稿の目的は、QUADの正式な拡大を提案するわけではないが、QUAD+としてフィリピンとの非公式の関与と協調がもたらす可能性を検証するものである。まず、5ヵ国が海洋安全保障などに関する協力をどれほど深めれば、南シナ海での紛争回避に役立つかを検証する。次に、QUAD+の経済、技術協力により中国への依存度を小さくする可能性を検証する。最後に本稿は、QUAD+の議題を履行するために米国が採るべき政策を勧告する。
(4) 以下、本稿で明らかになった結果をまとめる。まず、QUADにおける海軍や海洋での協力にフィリピンが関わることで南シナ海における中国の侵略抑止に貢献できる。QUAD+の協力の深化が、中国による南シナ海侵略の対価を高めるからである。南シナ海における共同哨戒の頻度を増やすことや、中国による誤情報作戦に団結して対抗することなどがその手段として考えられる。上級実務段階での対話を進めることで、中国に明確な意図を送ることも有効かもしれない。平時に、有事の際の計画と調整をしておくことが重要である。
(5) QUAD+の経済分野での協力により、中国は安全保障目的のために行使している経済的威圧の効果を低め、代替的で抗堪性のあるサプライチェーンの構築に貢献するだろう。フィリピンは銅やニッケルなど重要な金属に関して豊富な埋蔵量を有している。これら産業に対する国内および対外投資が増えれば、中国に対する依存度は小さくなる。同じようにフィリピンの半導体の成長率は目を見張るものがあり、2021年9月に発表されたQUAD半導体サプライチェーン構想において、フィリピンも大きな役割を果たせるはずである。先端兵器システムの開発における半導体の役割を考えれば、提携国や同盟国との協力を通じた抗堪性のある半導体サプライチェーンの確保は、アメリカの国益や統合抑止にも貢献するだろう。
記事参照:The Quad Plus the Philippines: A Strategic Partnership for a Peaceful South China Sea
(1) 米国がインド太平洋の課題に対処するために多国間提携を求めているが、そのなかでQUADが注目されてきた。これまで、QUADは安全保障や防衛問題からは距離をとってきたが、昨今インド太平洋における安全保障上の脅威が強まるなかで、4ヵ国の防衛活動などを調整する必要が高まっている。
(2) インド太平洋の国際公共財に対する脅威は、特に南シナ海で高まっている。南シナ海では、中国がセカンド・トーマス礁をめぐりフィリピンに対して攻撃的活動を押し進めている。セカンド・トーマス礁にはフィリピンが海軍艦船を座礁させ、部隊を駐留させていることから、駐留部隊に補給活動を行なっているが、中国がそれを妨害している。2024年に中国の行動は拡大し、ナイフや斧を振り回したことでフィリピン人船員が大怪我を負うという事件も起っている。南シナ海における潜在的危機が、大規模な紛争につながる危険性が高まっており、しかもそれには中国による大量破壊兵器の使用の可能性が伴う。
(3) 本稿の目的は、QUADの正式な拡大を提案するわけではないが、QUAD+としてフィリピンとの非公式の関与と協調がもたらす可能性を検証するものである。まず、5ヵ国が海洋安全保障などに関する協力をどれほど深めれば、南シナ海での紛争回避に役立つかを検証する。次に、QUAD+の経済、技術協力により中国への依存度を小さくする可能性を検証する。最後に本稿は、QUAD+の議題を履行するために米国が採るべき政策を勧告する。
(4) 以下、本稿で明らかになった結果をまとめる。まず、QUADにおける海軍や海洋での協力にフィリピンが関わることで南シナ海における中国の侵略抑止に貢献できる。QUAD+の協力の深化が、中国による南シナ海侵略の対価を高めるからである。南シナ海における共同哨戒の頻度を増やすことや、中国による誤情報作戦に団結して対抗することなどがその手段として考えられる。上級実務段階での対話を進めることで、中国に明確な意図を送ることも有効かもしれない。平時に、有事の際の計画と調整をしておくことが重要である。
(5) QUAD+の経済分野での協力により、中国は安全保障目的のために行使している経済的威圧の効果を低め、代替的で抗堪性のあるサプライチェーンの構築に貢献するだろう。フィリピンは銅やニッケルなど重要な金属に関して豊富な埋蔵量を有している。これら産業に対する国内および対外投資が増えれば、中国に対する依存度は小さくなる。同じようにフィリピンの半導体の成長率は目を見張るものがあり、2021年9月に発表されたQUAD半導体サプライチェーン構想において、フィリピンも大きな役割を果たせるはずである。先端兵器システムの開発における半導体の役割を考えれば、提携国や同盟国との協力を通じた抗堪性のある半導体サプライチェーンの確保は、アメリカの国益や統合抑止にも貢献するだろう。
記事参照:The Quad Plus the Philippines: A Strategic Partnership for a Peaceful South China Sea
1月9日「インドの原子力潜水艦建造において、なぜ、フランスは最良の選択なのか―インド専門家論説」(The Diplomat, January 9, 2025)
1月9日付けのデジタル誌The Diplomatは、インドJawaharlal Nehru UniversityのCentre for Indo-Pacific Studies准教授Dr. Rahul Mishraと同Centre博士課程院生Harshit Prajapatiの“Why France Is India’s Best Bet for Building Nuclear-Powered Submarines”と題する論説を掲載し、両名はインドの潜水艦勢力は核抑止力を構成する弾道ミサイル搭載原子力潜水艦と通常型潜水艦で、潜水艦戦能力に欠落部分があり、さらに近隣諸国が潜水艦戦力を増強する潮流の中、インドは攻撃型原子力潜水艦戦力構築が必要であり、このため、数十年にわたる協力によって強化された政治的信頼関係にあり、先進的な潜水艦技術における実績と有意義な技術移転に取り組む意欲を併せ持つフランスはインドの攻撃型原子力潜水艦計画にとって欠かせない提携国であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド洋地域(以下、IORと言う)における中国の存在感の拡大は、潜水艦の配備の増加と中国の情報収集船・調査船の頻繁な寄港によって特徴付けられている。表面上は科学的探査に従事しているこれらの船舶は、中国の潜水艦作戦を容易にするために重要な海中のデータを収集することが多く、インドにとって戦略的な問題となっている。IORでは、インドが地理的に有利であることから、中国に対して優位に立っており、インド洋において拡大する中国の行動に対抗するため、攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)はIORにおけるインドの海洋能力強化に極めて重要である。
(2) 米国と中国の対立激化に起因する地政学的緊張により、この地域の軍事近代化の速度が加速している。パキスタンのハンゴール級潜水艦の中国からの取得とバングラデシュのミン級潜水艦の中国から譲渡が、地域の軍備増強を浮き彫りにしており、さらに、インドネシアやマレーシアなど他のインド太平洋諸国も潜水艦部隊の増強を目指している。地域諸国の間で高度な潜水艦技術が普及していることは、ますます複雑化する戦略環境においてインドが自国の利益を守るためにSSNを開発する必要があることを示している。
(3) インドの現在の潜水艦隊は、航続距離と滞洋期間が限られている通常型潜水艦が主流である。現有の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は、主に核抑止力として確保されている。この溝を埋めるためSSNの追加は不可欠である。2024年10月、インドはSSN2隻を建造し、最終的にはSSN部隊の規模を4隻に拡大する計画を承認するという決定的な動きを見せた。SSNの取得は、インドの影響力が重要かつ争われている地域におけるインドの抑止力と作戦範囲を強化する上で重要な一歩となる。
(4) Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)は、Ship Building Center in VisakhapatnamでSSNを建造する予定であるが、SSN技術の複雑さは、インドの新興防衛産業基盤にとって大きな課題となっている。歴史的に、インドはこうした計画を外国の援助に頼ってきた。ロシア・ウクライナ戦争による地政学的影響とそれに伴うロシア企業への制裁により、防衛協力が中断し、進行中のインドの計画に遅れが生じている。これらの課題は、インドの防衛上の提携を多様化することが緊急に必要であることを浮き彫りにしている。
(5) フランスは、インドの防衛分野において極めて重要な提携国として浮上している。Stockholm International Peace Research Institute(ストックホルム国際平和研究所、SIPRI)によると、フランスは2024年に世界第2位の武器輸出国となり、インドが主な顧客である。これは、ロシアへの過度な依存を減らすことを目的としたインドの防衛調達戦略の転換を反映している。この戦略的転換は、防衛輸入の多様化というインドのより広範な目標と一致しており、フランスはSSN計画にとって理想的な協力者となっている。1998 年に確立されたフランスとインドの戦略的提携は、過去 10 年間で大幅に深化し、政治的信頼性と相互信頼の歴史は、SSN のような機密性の高い防衛技術に関わるあらゆる協力の基盤となる。
(6) フランスは、潜水艦の隠密性と効率性を高めるポンプジェット推進などの先進技術の共有を提案している。この提案は、自国の防衛能力の開発を目指すインドにとって重要な要素である、有意義な技術移転に取り組むフランスの意欲を反映している。インドが計画している6隻のSSNのうち1番艦はフランスのポンプジェット技術を採用する可能性があるが、2番艦以降については、インドで開発される推進システムの試験と検証が終了すれば、この推進システムが搭載される可能性がある。フランスのシュフラン級SSNは、低雑音と先進的な原子炉で知られ、インドの既存の潜水艦能力を大幅に上回る利点がある。原子炉出力の大幅な向上は、インド洋地域におけるインドの戦略目標にとって不可欠な、作戦範囲と耐久性の拡大につながる
(7) インドの防衛産業の収益構造は、シュフラン級潜水艦の製造元であるフランスNaval Group社との長年の協力関係から恩恵を受ける立場にある。Naval Group社は以前、インド企業と提携して、インド製の部品を複数組み込んだスコルペヌ級潜水艦を共同生産したことがある。これまでの経験は、SSN の共同生産の強力な基盤となり、防衛製造への国内参加拡大というインド政府の構想と一致している。
(8) フランスは一貫してインドのSSN計画を支援する意向を表明している。2023年7月のナレンドラ・モディ首相のフランス訪問時には、印仏両国は「ホライズン2047」文書を発表し、インドの潜水艦部隊の構築を含む野心的な防衛協力計画を概説した。インドとフランスの政治的信頼は、数十年にわたる信頼できる協力関係によって強化されており、フランスはSSNの建造に最も適した提携国となっている。他の西側諸国とは異なり、フランスは重要な技術を共有し、インドの特定の防衛所要に適応する意欲を一貫して示してきた。Naval Group社の高度な潜水艦技術に関する専門知識と、成長するインドの産業能力を組み合わせることで、世界クラスのSSNの提供を約束する相乗効果のある提携が生まれる。
(9) 地政学的状況が変化し、大国間の競争が激化する時代に、インドとフランスの提携は、信用、信頼性、相互利益のひな型として際立っている。SSN の建造は、インドの防衛能力にとって重要な里程標であり、差し迫った戦略的課題と長期的な安全保障上の所要の両方に対応している。フランスは、先進的な潜水艦技術における実績と有意義な技術移転に取り組む意欲を併せ持つことから、インドのSSN計画にとって欠かせない提携国となっている。両国が協力して21世紀の課題を乗り越えていく中で、SSNに関する両国の協力は両国の戦略的提携の強さと抗堪性を証明するものとなるだろう。
記事参照:Why France Is India’s Best Bet for Building Nuclear-Powered Submarines
(1) インド洋地域(以下、IORと言う)における中国の存在感の拡大は、潜水艦の配備の増加と中国の情報収集船・調査船の頻繁な寄港によって特徴付けられている。表面上は科学的探査に従事しているこれらの船舶は、中国の潜水艦作戦を容易にするために重要な海中のデータを収集することが多く、インドにとって戦略的な問題となっている。IORでは、インドが地理的に有利であることから、中国に対して優位に立っており、インド洋において拡大する中国の行動に対抗するため、攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)はIORにおけるインドの海洋能力強化に極めて重要である。
(2) 米国と中国の対立激化に起因する地政学的緊張により、この地域の軍事近代化の速度が加速している。パキスタンのハンゴール級潜水艦の中国からの取得とバングラデシュのミン級潜水艦の中国から譲渡が、地域の軍備増強を浮き彫りにしており、さらに、インドネシアやマレーシアなど他のインド太平洋諸国も潜水艦部隊の増強を目指している。地域諸国の間で高度な潜水艦技術が普及していることは、ますます複雑化する戦略環境においてインドが自国の利益を守るためにSSNを開発する必要があることを示している。
(3) インドの現在の潜水艦隊は、航続距離と滞洋期間が限られている通常型潜水艦が主流である。現有の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は、主に核抑止力として確保されている。この溝を埋めるためSSNの追加は不可欠である。2024年10月、インドはSSN2隻を建造し、最終的にはSSN部隊の規模を4隻に拡大する計画を承認するという決定的な動きを見せた。SSNの取得は、インドの影響力が重要かつ争われている地域におけるインドの抑止力と作戦範囲を強化する上で重要な一歩となる。
(4) Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)は、Ship Building Center in VisakhapatnamでSSNを建造する予定であるが、SSN技術の複雑さは、インドの新興防衛産業基盤にとって大きな課題となっている。歴史的に、インドはこうした計画を外国の援助に頼ってきた。ロシア・ウクライナ戦争による地政学的影響とそれに伴うロシア企業への制裁により、防衛協力が中断し、進行中のインドの計画に遅れが生じている。これらの課題は、インドの防衛上の提携を多様化することが緊急に必要であることを浮き彫りにしている。
(5) フランスは、インドの防衛分野において極めて重要な提携国として浮上している。Stockholm International Peace Research Institute(ストックホルム国際平和研究所、SIPRI)によると、フランスは2024年に世界第2位の武器輸出国となり、インドが主な顧客である。これは、ロシアへの過度な依存を減らすことを目的としたインドの防衛調達戦略の転換を反映している。この戦略的転換は、防衛輸入の多様化というインドのより広範な目標と一致しており、フランスはSSN計画にとって理想的な協力者となっている。1998 年に確立されたフランスとインドの戦略的提携は、過去 10 年間で大幅に深化し、政治的信頼性と相互信頼の歴史は、SSN のような機密性の高い防衛技術に関わるあらゆる協力の基盤となる。
(6) フランスは、潜水艦の隠密性と効率性を高めるポンプジェット推進などの先進技術の共有を提案している。この提案は、自国の防衛能力の開発を目指すインドにとって重要な要素である、有意義な技術移転に取り組むフランスの意欲を反映している。インドが計画している6隻のSSNのうち1番艦はフランスのポンプジェット技術を採用する可能性があるが、2番艦以降については、インドで開発される推進システムの試験と検証が終了すれば、この推進システムが搭載される可能性がある。フランスのシュフラン級SSNは、低雑音と先進的な原子炉で知られ、インドの既存の潜水艦能力を大幅に上回る利点がある。原子炉出力の大幅な向上は、インド洋地域におけるインドの戦略目標にとって不可欠な、作戦範囲と耐久性の拡大につながる
(7) インドの防衛産業の収益構造は、シュフラン級潜水艦の製造元であるフランスNaval Group社との長年の協力関係から恩恵を受ける立場にある。Naval Group社は以前、インド企業と提携して、インド製の部品を複数組み込んだスコルペヌ級潜水艦を共同生産したことがある。これまでの経験は、SSN の共同生産の強力な基盤となり、防衛製造への国内参加拡大というインド政府の構想と一致している。
(8) フランスは一貫してインドのSSN計画を支援する意向を表明している。2023年7月のナレンドラ・モディ首相のフランス訪問時には、印仏両国は「ホライズン2047」文書を発表し、インドの潜水艦部隊の構築を含む野心的な防衛協力計画を概説した。インドとフランスの政治的信頼は、数十年にわたる信頼できる協力関係によって強化されており、フランスはSSNの建造に最も適した提携国となっている。他の西側諸国とは異なり、フランスは重要な技術を共有し、インドの特定の防衛所要に適応する意欲を一貫して示してきた。Naval Group社の高度な潜水艦技術に関する専門知識と、成長するインドの産業能力を組み合わせることで、世界クラスのSSNの提供を約束する相乗効果のある提携が生まれる。
(9) 地政学的状況が変化し、大国間の競争が激化する時代に、インドとフランスの提携は、信用、信頼性、相互利益のひな型として際立っている。SSN の建造は、インドの防衛能力にとって重要な里程標であり、差し迫った戦略的課題と長期的な安全保障上の所要の両方に対応している。フランスは、先進的な潜水艦技術における実績と有意義な技術移転に取り組む意欲を併せ持つことから、インドのSSN計画にとって欠かせない提携国となっている。両国が協力して21世紀の課題を乗り越えていく中で、SSNに関する両国の協力は両国の戦略的提携の強さと抗堪性を証明するものとなるだろう。
記事参照:Why France Is India’s Best Bet for Building Nuclear-Powered Submarines
1月9日「米国がパナマ運河に対する中国の影響力を懸念するのは正しい―米海兵隊中佐論説」(Atlantic Council, January 9, 2025)
1月9日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、同CouncilのScowcroft Center for Strategy and Security戦略に派遣された2024-2025年研究員Gregg F. Curley米海兵隊中佐の“The US is right to be concerned about China’s influence over the Panama Canal”と題する論説を掲載し、ここでGregg F. Curleyは米国が米中対立時代におけるパナマ運河の戦略的重要性を考えるならば中国の影響力の増大を見逃すわけにはいかず、この地域を不安定化させることなく自国の利益を守るためには、米国は戦略的な先見性と外交的正確さをもって状況に取り組まなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Donald Trump次期大統領のパナマ運河の返還要求、グリーンランドの購入、カナダの併合などの西半球における領土的野望に関する最近の発言は大きな注目と憶測を生み出している。これらの帝国主義的な野望の中で、パナマ運河の返還要求は、直接的で関連性のある戦略的重要性の焦点として際立っている。なぜ今、Trump次期大統領はこの問題に焦点を当てるのか?Trump次期大統領の発言は、2つの段階の駆け引き戦略を表している可能性が高い。Trump次期大統領は、国際的には西半球における中国の影響力拡大に対抗しながら、運河の通航料値上げに対処しようとしている。国内的には、この発言は彼の政治的基盤に訴えかけている。運河に対する中国の影響力の増大に対する米国の懸念は当然であり、米国は注意深く慎重で外交的な取り組みを採らなければならない。
(2) パナマ運河の起源と米国の介入は密接に絡み合っている。1903年に米国はパナマの独立を支持する方向に軸足を移し、軍事支援とパナマに対する米国の承認に対する報酬は、ヘイ・ブナウ・ヴァリラ条約である。この条約は、米国が幅10マイルの運河地帯を1,000万ドルの頭金と年間25万ドルで永久に支配することを認めたものである。しかし、1903年の政治的取り決めは、パナマの主権に対する侵害と認識され、根深い憤りを生んだ。1977年にJimmy Carter大統領は、米国とパナマの関係を強化することを目的としてトリホス・カーター条約を結ぼうとした。米上院の批准を確保するために、2つの条約の交渉が行われた。1つは2000年までに運河をパナマに譲渡すること、もう1つは永久的な中立を確保することであった。米上院は、僅差でこれらの条約を批准し、1999 年 12 月 31 日にパナマは運河の管轄権を米国から引き継いだ。パナマ運河は、アジアと南北アメリカの港との間の貿易に比類のない効率性を提供し、世界の海運に不可欠である。
(3) パナマ運河の通航料の値上りと運河に対する中国の影響増大に関するTrump次期大統領の最近の発言は、パナマ運河を米国の戦略的な議題の最前線に押し上げた。Landbridge Groupや香港に本拠を置くCK Hutchison Holdingsなどの中国企業は、現在、運河の両端で港を運営している。この企業の存在は、特に中国とラテン・アメリカとの関係が深まっていることを考えると、中国の軍民両用目的の基幹施設と戦略的支配についての懸念を引き起こしている。米国はパナマに対して大きな経済的影響力を持っている。米国は運河の主要な利用者であり、年間38億ドルのパナマ最大の外国直接投資の供給国として、パナマの意思決定に影響を与えることができる。逆に、米国とその提携国は、この地域への中国の投資に対する実行可能な代替案をほとんど提示しておらず、現実は短期的に変わる可能性は低い。パナマは、米国の利益との整合性を優先するか?それとも中国を優遇し、この重要な貿易路に対する中国の支配を活用することで経済的影響の危険性を冒すのか?米国の経済的報復、パナマの反応、中国の競争が緊張を高める可能性はあるのか?数式を使用して計算される通航料金は近年急騰している。通航料値上げは、2023 年と 2024 年初めの干ばつにより、運河を通航できる船舶数が制限されたことへの対応でもある。パナマ当局は、交通機関の制限による収益の損失を埋め合わせるために通航料を引き上げた。通航料が上昇し続け、中国が運河周辺でその存在感を拡大し続けるならば、ラテン・アメリカに対する米国の介入を正当化したTheodore Rooseveltの外交政策を復活させようという声が大きくなるかもしれない。
(4) 運河に関する条約はCarter政権の遺産の「悪い部分(bad part)」だったというTrump次期大統領の主張は、運河を取り巻く地政学的な複雑さを単純化している。永世中立条約は、両当事者に義務を課している。パナマが条約上の義務の一部に違反している、または違反しそうであるという議論は確かである。パナマは、通航料が「公正、合理的、公平、かつ国際法に合致する」ことを保証することを約束した。この条約に対する米上院の批准は、通航料設定には、米国の利益を考慮するという理解に基づいていた。Trump次期大統領は米国企業が現在支払っている手数料を「法外な」と見なしている。
(5) 永世中立については、両当事者は、特に軍艦の通航を確保することに重点を置き、パナマ運河の永世中立を維持することに合意した。運河の両端における中国の経済支配は、運河の急速な軍事化の可能性と運河の通航を支配する能力についての懸念を引き起こしている。パナマが戦略的に重要な地域や基幹施設に対する重要な経済的な支配を放棄する意思があることは、中国の一帯一路構想戦略の一部であり、条約で合意された運河の永久中立を守るパナマの決意と能力に疑問を投げかけられている。永久中立への侵害の対価は、米国が先制的な行動を採ることが正当化されるほど重大である。
(6) これらのTrump次期大統領の発言は、ナショナリストの感情に訴える一方で、何十年にもわたる外交、確立された国際法、米国とパナマの関係を損なう危険性がある。しかし、米国は、特に米中対立時代におけるパナマ運河の戦略的重要性を考えると、中国の影響力の増大を見逃すわけにはいかない。Trump次期大統領の発言は、パナマに通航料について圧力をかけ、パナマに対して中国への依存と協力の強化を警告し、米国の決意を示すことを目的としている可能性が高い。この地域を不安定化させることなく自国の利益を守るために、米国は戦略的な先見性と外交的正確さをもってこの状況に取り組まなければならない。
記事参照:The US is right to be concerned about China’s influence over the Panama Canal
(1) Donald Trump次期大統領のパナマ運河の返還要求、グリーンランドの購入、カナダの併合などの西半球における領土的野望に関する最近の発言は大きな注目と憶測を生み出している。これらの帝国主義的な野望の中で、パナマ運河の返還要求は、直接的で関連性のある戦略的重要性の焦点として際立っている。なぜ今、Trump次期大統領はこの問題に焦点を当てるのか?Trump次期大統領の発言は、2つの段階の駆け引き戦略を表している可能性が高い。Trump次期大統領は、国際的には西半球における中国の影響力拡大に対抗しながら、運河の通航料値上げに対処しようとしている。国内的には、この発言は彼の政治的基盤に訴えかけている。運河に対する中国の影響力の増大に対する米国の懸念は当然であり、米国は注意深く慎重で外交的な取り組みを採らなければならない。
(2) パナマ運河の起源と米国の介入は密接に絡み合っている。1903年に米国はパナマの独立を支持する方向に軸足を移し、軍事支援とパナマに対する米国の承認に対する報酬は、ヘイ・ブナウ・ヴァリラ条約である。この条約は、米国が幅10マイルの運河地帯を1,000万ドルの頭金と年間25万ドルで永久に支配することを認めたものである。しかし、1903年の政治的取り決めは、パナマの主権に対する侵害と認識され、根深い憤りを生んだ。1977年にJimmy Carter大統領は、米国とパナマの関係を強化することを目的としてトリホス・カーター条約を結ぼうとした。米上院の批准を確保するために、2つの条約の交渉が行われた。1つは2000年までに運河をパナマに譲渡すること、もう1つは永久的な中立を確保することであった。米上院は、僅差でこれらの条約を批准し、1999 年 12 月 31 日にパナマは運河の管轄権を米国から引き継いだ。パナマ運河は、アジアと南北アメリカの港との間の貿易に比類のない効率性を提供し、世界の海運に不可欠である。
(3) パナマ運河の通航料の値上りと運河に対する中国の影響増大に関するTrump次期大統領の最近の発言は、パナマ運河を米国の戦略的な議題の最前線に押し上げた。Landbridge Groupや香港に本拠を置くCK Hutchison Holdingsなどの中国企業は、現在、運河の両端で港を運営している。この企業の存在は、特に中国とラテン・アメリカとの関係が深まっていることを考えると、中国の軍民両用目的の基幹施設と戦略的支配についての懸念を引き起こしている。米国はパナマに対して大きな経済的影響力を持っている。米国は運河の主要な利用者であり、年間38億ドルのパナマ最大の外国直接投資の供給国として、パナマの意思決定に影響を与えることができる。逆に、米国とその提携国は、この地域への中国の投資に対する実行可能な代替案をほとんど提示しておらず、現実は短期的に変わる可能性は低い。パナマは、米国の利益との整合性を優先するか?それとも中国を優遇し、この重要な貿易路に対する中国の支配を活用することで経済的影響の危険性を冒すのか?米国の経済的報復、パナマの反応、中国の競争が緊張を高める可能性はあるのか?数式を使用して計算される通航料金は近年急騰している。通航料値上げは、2023 年と 2024 年初めの干ばつにより、運河を通航できる船舶数が制限されたことへの対応でもある。パナマ当局は、交通機関の制限による収益の損失を埋め合わせるために通航料を引き上げた。通航料が上昇し続け、中国が運河周辺でその存在感を拡大し続けるならば、ラテン・アメリカに対する米国の介入を正当化したTheodore Rooseveltの外交政策を復活させようという声が大きくなるかもしれない。
(4) 運河に関する条約はCarter政権の遺産の「悪い部分(bad part)」だったというTrump次期大統領の主張は、運河を取り巻く地政学的な複雑さを単純化している。永世中立条約は、両当事者に義務を課している。パナマが条約上の義務の一部に違反している、または違反しそうであるという議論は確かである。パナマは、通航料が「公正、合理的、公平、かつ国際法に合致する」ことを保証することを約束した。この条約に対する米上院の批准は、通航料設定には、米国の利益を考慮するという理解に基づいていた。Trump次期大統領は米国企業が現在支払っている手数料を「法外な」と見なしている。
(5) 永世中立については、両当事者は、特に軍艦の通航を確保することに重点を置き、パナマ運河の永世中立を維持することに合意した。運河の両端における中国の経済支配は、運河の急速な軍事化の可能性と運河の通航を支配する能力についての懸念を引き起こしている。パナマが戦略的に重要な地域や基幹施設に対する重要な経済的な支配を放棄する意思があることは、中国の一帯一路構想戦略の一部であり、条約で合意された運河の永久中立を守るパナマの決意と能力に疑問を投げかけられている。永久中立への侵害の対価は、米国が先制的な行動を採ることが正当化されるほど重大である。
(6) これらのTrump次期大統領の発言は、ナショナリストの感情に訴える一方で、何十年にもわたる外交、確立された国際法、米国とパナマの関係を損なう危険性がある。しかし、米国は、特に米中対立時代におけるパナマ運河の戦略的重要性を考えると、中国の影響力の増大を見逃すわけにはいかない。Trump次期大統領の発言は、パナマに通航料について圧力をかけ、パナマに対して中国への依存と協力の強化を警告し、米国の決意を示すことを目的としている可能性が高い。この地域を不安定化させることなく自国の利益を守るために、米国は戦略的な先見性と外交的正確さをもってこの状況に取り組まなければならない。
記事参照:The US is right to be concerned about China’s influence over the Panama Canal
1月9日「米国とグリーンランドの自由連合は悪い取引となる―デンマーク専門家論説」(War on the Rocks, January 9, 2025)
1月9日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rocksは、Royal Danish Defence College准教授で同CollegeのCenter for Arctic Security Studies研究主任Jon Rahbek-Clemmensenの“U.S. Free Association with Greenland: A Bad Deal”と題する論説を掲載し、ここでJon Rahbek-Clemmensenは米国が自らを不利な立場に追い込む自由連合のような複雑な構想を追求するのではなく、現在の取り組みを維持し、グリーンランドとの関係をさらに強化する安価な方法を見つけるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1月7日の記者会見で、Donald Trump次期大統領はグリーンランドの獲得に軍事力を行使することを否定しなかった。それ以前にもTrump次期大統領は、デンマークの一部で準自治のこの島を米国が所有し、管理することは絶対必要であると宣言し、2019年に同島を購入しようとしていた。Trump第1期の高官Kaush Arha, Alexander B. Gray, Tom Dansの3名は、米国はパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島と締結している自由連合協定を独立したグリーンランドと結ぶべきと提案している。
(2) グリーンランドとの自由連合を追求することは、大きな損失を伴う。米国はすでにグリーンランドにおいて地政学上の目的を達成しており、その一方でグリーンランドの運営にかかる巨額の経費をデンマークに請求している。自由連合の推進派は、グリーンランドにおける米国の3つの重要な目標を正確に特定している。すなわち、グリーンランドの軍事的利用を維持すること、レアアースなどの重要な鉱物の利用権を得ること、そして同島に対する中国の影響を回避することである。しかし、自由連合では、米国がこれらの目標を達成することはできない。
(3) 現在の米国の関与戦略は、既存の合意を基盤とし、グリーンランドの首都ヌークにある米国領事館を拠点とする効果的な広報外交努力と、米国の地政学的野望に対する現地の受容の見返りとしてグリーンランドとデンマークに提供される経済的・政治的な報償を組み合わせたものである。その見返りには、米国のピトゥフィク宇宙基地における設置支援業務が地元企業によって有利な価格で提供されること、および鉱物、観光、教育分野に対する小規模な一括支援が含まれている。この戦略は、グリーンランドの独立問題に対する米国の調査を含むデンマークの内政問題への干渉がデンマークと米国の関係における第3の垣根であることを暗に認めるものである。米国はグリーンランドの将来の地位に関する議論に関わることなく、デンマーク・グリーンランド関係を規定する既存の法律や規範の下で容認される戦略で関与しようとしてきた。
(4) これに対し、自由連合はグリーンランドの独立を積極的に支持し、現在デンマークからグリーンランドが受けているよりも有利な条件をグリーンランドに提供するという、第3の垣根に触れることを意味する。それは、NATOとの間に不必要な緊張をもたらし、さらに、デンマーク政府に動揺をもたらし、相当な経済的負担を伴う。世論調査では、米国がデンマークに代わってグリーンランドの行政支援の主要な供給源となり、年間少なくとも7億ドル相当の直接経済移転を行うことを提案した場合にのみ、米国と自由連合を受け入れに同意するという結果が出ている。米国にとって、この経費は現在の10倍以上となる。
(5) 自由連合は米国の3つの地政学的目標の達成に役立つものではない。
a. 米国は数十年にわたり、グリーンランドに軍事基地を置いている。この島は、世界および地域的な脅威に対する米国の抑止力として重要な役割を果たしている。U.S. Department of Defenseの最北の施設であるピトゥフィク宇宙基地に設置されたレーダーは、ミサイル警報、ミサイル防衛、宇宙監視任務を支援している。米国が既存の協定以上にグリーンランドへの進出を望む場合、特に政治的または経済的な見返りが与えられる場合、グリーンランドとデンマークは米政府の意向に柔軟に対応する姿勢を見せている。その経費は、デンマークがグリーンランドに現在提供している支援のほんの一部に過ぎない。したがって、米国が軍事的配備を拡大する必要が生じた場合、大きな反発に直面するとは考え難い。
b. 米企業は現在、グリーンランドに存在するレアアースなどの重要な鉱物の採掘に自由な連接を必要としていない。2019年に米国とグリーンランドは鉱物資源開発における既存の協力関係を強化することに合意している。しかし、現在グリーンランドの鉱業産業は、世界市場価格の低迷、過酷な北極圏の条件下での採掘に伴う高額な経費、煩雑な規制、市民社会からの抵抗など、多くの要因により、ほぼ停滞状態にある。自由連合は、これらの課題の解決にはつながらない。
c. 米国は、中国がこの島に大きな影響力を及ぼすことを防ぎ、グリーンランドが欧州大西洋安全保障体制の一員であり続けることを目指している。これはすでに現在の体制によって達成されており、自由連合によって目に見える利益が追加されることはない。
(6) 米国がグリーンランドとの自由連合を追求しても、追加的な支出と緊密な同盟国の1つとの不必要な緊張関係が生じるだけで、得るものはない。実際、自由連合は米国にとってほぼ完璧な現状を台無しにする。米政府はすでに地政学上の目標を達成しており、グリーンランド社会の運営費用はデンマークに負担させている。安価で効果的な戦略を放棄することは、米国の敵対者にのみ利益をもたらことになる。
(7) 米国は現在の取り組みを維持し、グリーンランドとの関係をさらに強化する安価な方法を見つける努力をすべきである。米国は、北極圏での鉱業に有利な融資制度や特別投資ファンドを創設することで、新規事業を奨励することができる。これにより、重要な鉱物資源の確保が実現するだけでなく、グリーンランドと米国の経済がより緊密に結びつくことになる。グリーンランド、米国、デンマーク間の協力関係を強化し、それによってグリーンランドにおける米国の利益を確保できる。米政府は、米国を不利な立場に追い込むだけであるな自由連合のような複雑な構想を追求するのではなく、費用対効果の高い取り組みに専念すべきである。
記事参照:U.S. Free Association with Greenland: A Bad Deal
(1) 1月7日の記者会見で、Donald Trump次期大統領はグリーンランドの獲得に軍事力を行使することを否定しなかった。それ以前にもTrump次期大統領は、デンマークの一部で準自治のこの島を米国が所有し、管理することは絶対必要であると宣言し、2019年に同島を購入しようとしていた。Trump第1期の高官Kaush Arha, Alexander B. Gray, Tom Dansの3名は、米国はパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島と締結している自由連合協定を独立したグリーンランドと結ぶべきと提案している。
(2) グリーンランドとの自由連合を追求することは、大きな損失を伴う。米国はすでにグリーンランドにおいて地政学上の目的を達成しており、その一方でグリーンランドの運営にかかる巨額の経費をデンマークに請求している。自由連合の推進派は、グリーンランドにおける米国の3つの重要な目標を正確に特定している。すなわち、グリーンランドの軍事的利用を維持すること、レアアースなどの重要な鉱物の利用権を得ること、そして同島に対する中国の影響を回避することである。しかし、自由連合では、米国がこれらの目標を達成することはできない。
(3) 現在の米国の関与戦略は、既存の合意を基盤とし、グリーンランドの首都ヌークにある米国領事館を拠点とする効果的な広報外交努力と、米国の地政学的野望に対する現地の受容の見返りとしてグリーンランドとデンマークに提供される経済的・政治的な報償を組み合わせたものである。その見返りには、米国のピトゥフィク宇宙基地における設置支援業務が地元企業によって有利な価格で提供されること、および鉱物、観光、教育分野に対する小規模な一括支援が含まれている。この戦略は、グリーンランドの独立問題に対する米国の調査を含むデンマークの内政問題への干渉がデンマークと米国の関係における第3の垣根であることを暗に認めるものである。米国はグリーンランドの将来の地位に関する議論に関わることなく、デンマーク・グリーンランド関係を規定する既存の法律や規範の下で容認される戦略で関与しようとしてきた。
(4) これに対し、自由連合はグリーンランドの独立を積極的に支持し、現在デンマークからグリーンランドが受けているよりも有利な条件をグリーンランドに提供するという、第3の垣根に触れることを意味する。それは、NATOとの間に不必要な緊張をもたらし、さらに、デンマーク政府に動揺をもたらし、相当な経済的負担を伴う。世論調査では、米国がデンマークに代わってグリーンランドの行政支援の主要な供給源となり、年間少なくとも7億ドル相当の直接経済移転を行うことを提案した場合にのみ、米国と自由連合を受け入れに同意するという結果が出ている。米国にとって、この経費は現在の10倍以上となる。
(5) 自由連合は米国の3つの地政学的目標の達成に役立つものではない。
a. 米国は数十年にわたり、グリーンランドに軍事基地を置いている。この島は、世界および地域的な脅威に対する米国の抑止力として重要な役割を果たしている。U.S. Department of Defenseの最北の施設であるピトゥフィク宇宙基地に設置されたレーダーは、ミサイル警報、ミサイル防衛、宇宙監視任務を支援している。米国が既存の協定以上にグリーンランドへの進出を望む場合、特に政治的または経済的な見返りが与えられる場合、グリーンランドとデンマークは米政府の意向に柔軟に対応する姿勢を見せている。その経費は、デンマークがグリーンランドに現在提供している支援のほんの一部に過ぎない。したがって、米国が軍事的配備を拡大する必要が生じた場合、大きな反発に直面するとは考え難い。
b. 米企業は現在、グリーンランドに存在するレアアースなどの重要な鉱物の採掘に自由な連接を必要としていない。2019年に米国とグリーンランドは鉱物資源開発における既存の協力関係を強化することに合意している。しかし、現在グリーンランドの鉱業産業は、世界市場価格の低迷、過酷な北極圏の条件下での採掘に伴う高額な経費、煩雑な規制、市民社会からの抵抗など、多くの要因により、ほぼ停滞状態にある。自由連合は、これらの課題の解決にはつながらない。
c. 米国は、中国がこの島に大きな影響力を及ぼすことを防ぎ、グリーンランドが欧州大西洋安全保障体制の一員であり続けることを目指している。これはすでに現在の体制によって達成されており、自由連合によって目に見える利益が追加されることはない。
(6) 米国がグリーンランドとの自由連合を追求しても、追加的な支出と緊密な同盟国の1つとの不必要な緊張関係が生じるだけで、得るものはない。実際、自由連合は米国にとってほぼ完璧な現状を台無しにする。米政府はすでに地政学上の目標を達成しており、グリーンランド社会の運営費用はデンマークに負担させている。安価で効果的な戦略を放棄することは、米国の敵対者にのみ利益をもたらことになる。
(7) 米国は現在の取り組みを維持し、グリーンランドとの関係をさらに強化する安価な方法を見つける努力をすべきである。米国は、北極圏での鉱業に有利な融資制度や特別投資ファンドを創設することで、新規事業を奨励することができる。これにより、重要な鉱物資源の確保が実現するだけでなく、グリーンランドと米国の経済がより緊密に結びつくことになる。グリーンランド、米国、デンマーク間の協力関係を強化し、それによってグリーンランドにおける米国の利益を確保できる。米政府は、米国を不利な立場に追い込むだけであるな自由連合のような複雑な構想を追求するのではなく、費用対効果の高い取り組みに専念すべきである。
記事参照:U.S. Free Association with Greenland: A Bad Deal
1月10日「米『アジアへの軸足移動』戦略、その再生と新たな課題―シンガポール専門家論説」(The Diplomat.com, January 10, 2025)
1月10日付のデジタル誌The Diplomatは、National University of SingaporeのZane Kheirによる“The US Pivot to Asia Reborn: Old Grand Strategies, New Challenges”と題する論説を掲載し、ここでZane Kheirは2011年に当時のObama米大統領が着手した「アジアへの軸足移動(the “Pivot to Asia”)」と称される戦略が再び重要性を増しているが、新たな課題にも直面しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国と太平洋の提携国にとって、中国、ロシアおよび北朝鮮による最近の脅威は、自国の防衛における優先順位を再評価する誘因となっている。2011年に当時のObama米大統領が提唱した、「アジアへの軸足移動(the “Pivot to Asia”)」と称される太平洋志向の新たな大戦略は、歴史家や分析者から中東やヨーロッパで進行中の事態から目をそらすObama政権の最大の戦略的過ちの1つと見なされ、しばしば批判されてきた。しかしながら今日、台湾海峡と南シナ海を巡る最近の中国の挑発的行為は、米国と日本に、新たな対応を強いている。日本は防衛力の強化に着手し、米国はフィリピンに新たに4ヵ所の利用可能な基地施設を確保し、オーストラリアとの技術交流を行うなど、太平洋における影響力を強化している。結局、米国の長期的な戦略的優先順位がインド太平洋にあるとのObama大統領の認識は、時代を先取りしたものであったが、正しかった。
(2) 実際、この間、中国海軍は、2隻の空母を配備し、3隻目も2026年に就役予定で、2012年当時よりもはるかに強力になっている。2024年から2025年にかけての中国の技術および経済の発展も、2010年代初頭とは全く対照的である。中国の国防費も、2011年の約900億ドルから2024年には2,300億ドル以上に劇的に増加している。また、中国は南シナ海に人工島を構築し、それらを軍事化する10年に及ぶ計画を進めてきた。さらには、中国の台湾に対する挑発も増加し、台湾海峡と南シナ海への中国海軍の戦力投射能力は大幅に強化されている。中国海軍は2024年後半現在、370隻の艦艇を保有し、隻数では世界最大の海軍となっている。中国海軍の増強とそれに伴う西太平洋における配備の強化は、減速する兆候が全くない。
(3) これに対し、日米両国は第2次世界大戦と冷戦時代の遺産である枠組みの上に新たな太平洋抑止網を構築しつつあるが、いくつかの課題に直面している。この日米両国の戦略における最前線であり、かつ中核となるのは沖縄における軍事施設の再編成であるが、地元の政治的反対が障害となっている。戦後、沖縄は太平洋における米軍作戦において不可欠の役割を果たしてきたが、多数の米軍部隊の駐留が地元自治体との緊張の原因となってきた。日米両国政府は2012年、9,000名のU.S. Marine Corpsを沖縄からグアムとハワイに移転させることに合意した。このU.S. Marine Corpsの部隊を第2列島線へ移転することは、撤退とか防衛態勢への転換ではない。その証拠に、日本政府が自衛隊と台湾近くの石垣島に新たなミサイル防衛基地を建設することで、その溝を埋めることになっている。しかしながら、移転と補充の過程は切れ目なしとはなりそうにもない。 石垣島民による基地開設時の抗議行動に見るように、沖縄の軍事化は関係する部隊が米軍であろうが自衛隊であろうが、必然的に政治的な反発を伴うことになる。それにもかかわらず、沖縄は台湾と中国に近いことから、日米両国の防衛作戦において不可欠の役割を果たしている。
(4) 他方、米領グアムは、太平洋においてU.S. Armed Forcesが展開する上で要の位置にある。U.S. Marine Corpsは、2024年12月に沖縄からグアムへの移転を開始した。今後数年間でさらに数千名の海兵隊員が移転すると予想されるグアムでは、今後数十年に及ぶ新たな兵站上の課題に直面している。まず、グアムでは住宅事情が逼迫している。グアムでは、2025年に約1万戸の追加住宅の需要が見込まれているが、建設費が非常に高い。基地内の住宅利用が限られているため、移転した海兵隊員の多くが最終的に基地外での生活を余儀なくされ、それがまた地元の住宅事情を一層悪化させることが懸念されている。さらに、電力事情についても、発電量の20%を軍事基地が消費するなど、不安視されている。2024年度国防権限法では、グアムの軍事建設計画に22億3,000万ドルが割り当てられ、アンダーソン空軍基地内に178戸の住宅建築が計画されているが、2028年までに1,750戸が不足するとの見積もりもある。
(5) U.S. Air Forceの工兵部隊は2024年を通じて、マリアナ諸島の米自治領テニアン島の北側にある数千エーカーのジャングルを整地してきた。また、1946年以来放置されてきた第2次世界大戦当時の米軍飛行場の滑走路も整備されている。新たに復活するテニアン島のノースフィールド飛行場は、グアムのアンダーソン空軍基地の能力を補完し、差し迫った中国の侵略から日本と台湾を守るのに役立つ。米政府は、テニアン島をグアムにおける長期的な兵站上の課題に対する、最も確かで、実現可能な解決策と見なしている。グアムのアンダーソン空軍基地に近い基地としてテニアン島が再開発されれば、グアムの能力を拡充するだけでなく、グアムの住宅と電力不足に対する総合的な解決策ともなる。テニアン島の人口は2020年の調査では2,000人強で、島の大部分はほとんど無人である。テニアン島における軍の運用能力の拡充は複雑で費用がかかる事業になるであろうが、それは、グアムや沖縄における市民生活への影響を回避し、日米両国政府の政治的負担を軽減する構想である。
記事参照:The US Pivot to Asia Reborn: Old Grand Strategies, New Challenges
(1) 米国と太平洋の提携国にとって、中国、ロシアおよび北朝鮮による最近の脅威は、自国の防衛における優先順位を再評価する誘因となっている。2011年に当時のObama米大統領が提唱した、「アジアへの軸足移動(the “Pivot to Asia”)」と称される太平洋志向の新たな大戦略は、歴史家や分析者から中東やヨーロッパで進行中の事態から目をそらすObama政権の最大の戦略的過ちの1つと見なされ、しばしば批判されてきた。しかしながら今日、台湾海峡と南シナ海を巡る最近の中国の挑発的行為は、米国と日本に、新たな対応を強いている。日本は防衛力の強化に着手し、米国はフィリピンに新たに4ヵ所の利用可能な基地施設を確保し、オーストラリアとの技術交流を行うなど、太平洋における影響力を強化している。結局、米国の長期的な戦略的優先順位がインド太平洋にあるとのObama大統領の認識は、時代を先取りしたものであったが、正しかった。
(2) 実際、この間、中国海軍は、2隻の空母を配備し、3隻目も2026年に就役予定で、2012年当時よりもはるかに強力になっている。2024年から2025年にかけての中国の技術および経済の発展も、2010年代初頭とは全く対照的である。中国の国防費も、2011年の約900億ドルから2024年には2,300億ドル以上に劇的に増加している。また、中国は南シナ海に人工島を構築し、それらを軍事化する10年に及ぶ計画を進めてきた。さらには、中国の台湾に対する挑発も増加し、台湾海峡と南シナ海への中国海軍の戦力投射能力は大幅に強化されている。中国海軍は2024年後半現在、370隻の艦艇を保有し、隻数では世界最大の海軍となっている。中国海軍の増強とそれに伴う西太平洋における配備の強化は、減速する兆候が全くない。
(3) これに対し、日米両国は第2次世界大戦と冷戦時代の遺産である枠組みの上に新たな太平洋抑止網を構築しつつあるが、いくつかの課題に直面している。この日米両国の戦略における最前線であり、かつ中核となるのは沖縄における軍事施設の再編成であるが、地元の政治的反対が障害となっている。戦後、沖縄は太平洋における米軍作戦において不可欠の役割を果たしてきたが、多数の米軍部隊の駐留が地元自治体との緊張の原因となってきた。日米両国政府は2012年、9,000名のU.S. Marine Corpsを沖縄からグアムとハワイに移転させることに合意した。このU.S. Marine Corpsの部隊を第2列島線へ移転することは、撤退とか防衛態勢への転換ではない。その証拠に、日本政府が自衛隊と台湾近くの石垣島に新たなミサイル防衛基地を建設することで、その溝を埋めることになっている。しかしながら、移転と補充の過程は切れ目なしとはなりそうにもない。 石垣島民による基地開設時の抗議行動に見るように、沖縄の軍事化は関係する部隊が米軍であろうが自衛隊であろうが、必然的に政治的な反発を伴うことになる。それにもかかわらず、沖縄は台湾と中国に近いことから、日米両国の防衛作戦において不可欠の役割を果たしている。
(4) 他方、米領グアムは、太平洋においてU.S. Armed Forcesが展開する上で要の位置にある。U.S. Marine Corpsは、2024年12月に沖縄からグアムへの移転を開始した。今後数年間でさらに数千名の海兵隊員が移転すると予想されるグアムでは、今後数十年に及ぶ新たな兵站上の課題に直面している。まず、グアムでは住宅事情が逼迫している。グアムでは、2025年に約1万戸の追加住宅の需要が見込まれているが、建設費が非常に高い。基地内の住宅利用が限られているため、移転した海兵隊員の多くが最終的に基地外での生活を余儀なくされ、それがまた地元の住宅事情を一層悪化させることが懸念されている。さらに、電力事情についても、発電量の20%を軍事基地が消費するなど、不安視されている。2024年度国防権限法では、グアムの軍事建設計画に22億3,000万ドルが割り当てられ、アンダーソン空軍基地内に178戸の住宅建築が計画されているが、2028年までに1,750戸が不足するとの見積もりもある。
(5) U.S. Air Forceの工兵部隊は2024年を通じて、マリアナ諸島の米自治領テニアン島の北側にある数千エーカーのジャングルを整地してきた。また、1946年以来放置されてきた第2次世界大戦当時の米軍飛行場の滑走路も整備されている。新たに復活するテニアン島のノースフィールド飛行場は、グアムのアンダーソン空軍基地の能力を補完し、差し迫った中国の侵略から日本と台湾を守るのに役立つ。米政府は、テニアン島をグアムにおける長期的な兵站上の課題に対する、最も確かで、実現可能な解決策と見なしている。グアムのアンダーソン空軍基地に近い基地としてテニアン島が再開発されれば、グアムの能力を拡充するだけでなく、グアムの住宅と電力不足に対する総合的な解決策ともなる。テニアン島の人口は2020年の調査では2,000人強で、島の大部分はほとんど無人である。テニアン島における軍の運用能力の拡充は複雑で費用がかかる事業になるであろうが、それは、グアムや沖縄における市民生活への影響を回避し、日米両国政府の政治的負担を軽減する構想である。
記事参照:The US Pivot to Asia Reborn: Old Grand Strategies, New Challenges
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Rising Tensions and Shifting Strategies: The Evolving Dynamics of US Grand Strategy in the Arctic
https://www.thearcticinstitute.org/rising-tensions-shifting-strategies-evolving-dynamics-us-grand-strategy-arctic/
The Arctic Institute, January 7, 2025
By Kiel Pechko is a M.A. graduate from Seton Hall University’s School of Diplomacy & International Relations specializing in International Security and Europe.
2025年1月7日、米Seton Hall Universityの School of Diplomacy & International Relations修士課程を修了したKiel Pechkoは、米NPO The Arctic Instituteのウエブサイトに“Rising Tensions and Shifting Strategies: The Evolving Dynamics of US Grand Strategy in the Arctic”と題する論説を寄稿した。その中でKiel Pechkoは、米国の北極戦略は地政学的対立、気候変動、そしてロシアや中国の活動の影響を受け、包括的な再構築が求められており、冷戦後の協力的な姿勢から一転して現在は、資源開発、航路利用、軍事力投資を巡る競争が激化していると指摘した上で、北極は新たな航路と資源開発の場としての可能性を秘め、経済的な魅力を増しているため、ロシアは北極海航路の支配を強化し、中国は「氷上シルクロード」の開設を推進する中、米国はこれらの活動に対抗するため、同盟国との協力強化が求められると述べている。そしてKiel Pechkoは、米国は同時にエネルギー開発と環境保護の間で政策の不整合に直面しており、政治的変化や国民の意見が北極戦略に大きな影響を与えているなど、安定した政策運用が欠如する中で、気候変動と国家安全保障の均衡を取ることが求められていると述べ、最終的には、米国の北極戦略はロシアと中国の影響力拡大に対抗しつつ、軍事、経済、環境の各目標を統合する指導力を発揮する必要があり、そしてこの戦略の成功は、十分な資源投入と政府全体の協力に依存していると主張している。
(2) Can Europe Fight for Taiwan?
https://warontherocks.com/2025/01/can-europe-fight-for-taiwan/
War on the Rocks, January 8, 2025
By Luis Simón, Ph.D., is director of the Centre for Security, Diplomacy and Strategy at Vrije Universiteit Brussel, and director of the Brussels office of the Elcano Royal Institute.
Toshi Yoshihara, Ph.D., is senior fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments in Washington, D.C.
2025年1月8日、ベルギーのCentre for Security, Diplomacy and Strategy at Vrije Universiteit Brussel所長Luis Simónと米シンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Assessments 上席研究員Toshi Yoshiharaは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Can Europe Fight for Taiwan? ”と題する論説を寄稿した。その中で両名aは中国の台湾侵攻が起これば、米国とアジアの同盟国が関与することになり、戦争は長期化し、影響が拡大する可能性が高いが、このような状況では、ヨーロッパが直接的な軍事的貢献を行う必要性が増すだろうとした上で、ヨーロッパの最も有用な貢献とは攻撃型原子力潜水艦による作戦行動であり、英国とフランスは合わせて13隻の原子力潜水艦を保有し、その高い残存性と航続距離により、第1列島線外での封鎖や攻撃任務が可能であるが、一方で、ヨーロッパが潜水艦をインド太平洋に配備することは、ロシアの脅威が依然として続く中で、ヨーロッパ自身の防衛能力に影響を及ぼす危険性があるため、戦時に備えた事前の作戦計画や、平時からのインド太平洋地域への潜水艦配備が抑止力強化に寄与するだろうと述べている。そして両名は、ヨーロッパの役割は米国が台湾周辺に集中できるよう、他地域での負担を軽減する点にもあると指摘し、ヨーロッパが台湾防衛に実質的な貢献を行うためには、現時点から計画的な準備を進める必要があるが、これは単に軍事力を提供するだけでなく、同盟の結束を強化し、世界的な安定を維持するための戦略的投資だと主張している。
(3) How to Slay a Giant: Reviving the South China Sea Arbitration
https://www.csis.org/analysis/how-slay-giant-reviving-south-china-sea-arbitration
CSIS, January 10, 2025
By Gregory B. Poling, a senior fellow and director for the Southeast Asia Program and the Asia Maritime Transparency Initiative at the Center for Strategic and International Studies in Washington, D.C.
2025年1月10日、米シンクタンクThe Center for Strategic and International Studies(CSIS)の上席研究員Gregory B. Polingは、同シンクタンクのウエブサイトに“How to Slay a Giant: Reviving the South China Sea Arbitration”と題する論説を寄稿した。その中で、①2016年、ハーグの常設仲裁裁判所は中国が主張する紛争海域に関する多くの権利を退けたが、中国はこの裁定に応じず、フィリピンは勝利の見返りをほとんど得られていない。②米国やその提携国がフィリピンを支援すべきであり、フィリピンへの支援は国連を通じて始めるべきである。③Marcos Jr.フィリピン大統領が就任してからは、フィリピンは中国に裁定を遵守するよう公に求める政府の数を8ヵ国から26ヵ国およびEUに増やした。④フィリピン政府は第2の仲裁を模索しており、少なくとも2つの選択肢が検討されている。第1の選択肢は、UNCLOSの附属書VIIに基づく2度目の仲裁であり、これは中国による環境破壊に焦点を当てる可能性が高い。第2の選択肢は、明確に定義されていない仲裁裁判所以外の実施場所を選択する事例である。⑤国連総会は拘束力のない決議を採択でき、さらに重要なのは、この問題を国際司法裁判所に諮問意見として付託できる点である。⑥最も示唆に富み、かつ最近の例として挙げられるのは、モーリシャスと英国間のチャゴス諸島をめぐる事例である。⑦フィリピンは南シナ海関連の国連での採決で、少なくとも62対44の票差で可決され、棄権は最大で87に上ると予測している。異なる国際機関で繰り返し敗北すれば、不遵守の対価が増大する。⑨フィリピンの得票差は投票のたびに拡大すると予想される。⑩仲裁での勝利は、被害国がそれを利用して国際的な支持を集め、不遵守に対する対価を課し、最終的には少なくとも部分的な遵守を強制する場合にのみ役立つといった主張を述べている。
(4) Strategic Diplomacy in the Indo-Pacific: The Case of Japan and the Philippines
https://www.orfonline.org/research/strategic-diplomacy-in-the-indo-pacific-the-case-of-japan-and-the-philippines
Observer Research Foundation, January 10, 2025
By Pratnashree Basu is an Associate Fellow, Indo-Pacific at Observer Research Foundation
Don McLain Gill is a Philippines-based geopolitical analyst author and lecturer at the Department of International Studies De La Salle University
2025年1月10日インドの Observer Research Foundationインド太平洋担当連携研究員Pratnashree BasuとフィリピンDe La Salle University のDepartment of International Studies 講師Don McLain Gillは、インドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトに“Strategic Diplomacy in the Indo-Pacific: The Case of Japan and the Philippines”と題する論説を寄稿した。その中で両名は中国の拡張主義的政策が南シナ海および東シナ海で高まり、特に西フィリピン海におけるフィリピンへの圧力が増している状況下において、日比間の戦略的外交はインド太平洋地域の安定に向けた重要な柱として進展しているが、日本は2015年の戦略的パートナーシップ設立以来、フィリピンとの防衛協力を強化してきており、2024年には、物資や部隊の相互運用性を向上させるための「日比部隊間協力円滑化協定(RAA)」が締結され、共同訓練や災害対応能力の強化が進んでいるほか、フィリピンに沿岸監視レーダーや巡視艇を提供し、海洋安全保障能力の向上を支援していると指摘している。そして両名は、特に台湾海峡問題において、日比間の連携は戦略的重要性を増しており、日比両国は台湾海峡の緊張が地域の安定に与える影響を深刻に受け止め、共同演習や情報共有を強化しているが、日比間の安全保障協力は、価値観を共有する両国が中国の影響力拡大を抑制する重要な手段となっているため、今後は、地域の不確実性や政権交代による影響を乗り越え、協力の制度化を進めることで、持続可能な提携を築くことが期待されると述べている。
(1) Rising Tensions and Shifting Strategies: The Evolving Dynamics of US Grand Strategy in the Arctic
https://www.thearcticinstitute.org/rising-tensions-shifting-strategies-evolving-dynamics-us-grand-strategy-arctic/
The Arctic Institute, January 7, 2025
By Kiel Pechko is a M.A. graduate from Seton Hall University’s School of Diplomacy & International Relations specializing in International Security and Europe.
2025年1月7日、米Seton Hall Universityの School of Diplomacy & International Relations修士課程を修了したKiel Pechkoは、米NPO The Arctic Instituteのウエブサイトに“Rising Tensions and Shifting Strategies: The Evolving Dynamics of US Grand Strategy in the Arctic”と題する論説を寄稿した。その中でKiel Pechkoは、米国の北極戦略は地政学的対立、気候変動、そしてロシアや中国の活動の影響を受け、包括的な再構築が求められており、冷戦後の協力的な姿勢から一転して現在は、資源開発、航路利用、軍事力投資を巡る競争が激化していると指摘した上で、北極は新たな航路と資源開発の場としての可能性を秘め、経済的な魅力を増しているため、ロシアは北極海航路の支配を強化し、中国は「氷上シルクロード」の開設を推進する中、米国はこれらの活動に対抗するため、同盟国との協力強化が求められると述べている。そしてKiel Pechkoは、米国は同時にエネルギー開発と環境保護の間で政策の不整合に直面しており、政治的変化や国民の意見が北極戦略に大きな影響を与えているなど、安定した政策運用が欠如する中で、気候変動と国家安全保障の均衡を取ることが求められていると述べ、最終的には、米国の北極戦略はロシアと中国の影響力拡大に対抗しつつ、軍事、経済、環境の各目標を統合する指導力を発揮する必要があり、そしてこの戦略の成功は、十分な資源投入と政府全体の協力に依存していると主張している。
(2) Can Europe Fight for Taiwan?
https://warontherocks.com/2025/01/can-europe-fight-for-taiwan/
War on the Rocks, January 8, 2025
By Luis Simón, Ph.D., is director of the Centre for Security, Diplomacy and Strategy at Vrije Universiteit Brussel, and director of the Brussels office of the Elcano Royal Institute.
Toshi Yoshihara, Ph.D., is senior fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments in Washington, D.C.
2025年1月8日、ベルギーのCentre for Security, Diplomacy and Strategy at Vrije Universiteit Brussel所長Luis Simónと米シンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Assessments 上席研究員Toshi Yoshiharaは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Can Europe Fight for Taiwan? ”と題する論説を寄稿した。その中で両名aは中国の台湾侵攻が起これば、米国とアジアの同盟国が関与することになり、戦争は長期化し、影響が拡大する可能性が高いが、このような状況では、ヨーロッパが直接的な軍事的貢献を行う必要性が増すだろうとした上で、ヨーロッパの最も有用な貢献とは攻撃型原子力潜水艦による作戦行動であり、英国とフランスは合わせて13隻の原子力潜水艦を保有し、その高い残存性と航続距離により、第1列島線外での封鎖や攻撃任務が可能であるが、一方で、ヨーロッパが潜水艦をインド太平洋に配備することは、ロシアの脅威が依然として続く中で、ヨーロッパ自身の防衛能力に影響を及ぼす危険性があるため、戦時に備えた事前の作戦計画や、平時からのインド太平洋地域への潜水艦配備が抑止力強化に寄与するだろうと述べている。そして両名は、ヨーロッパの役割は米国が台湾周辺に集中できるよう、他地域での負担を軽減する点にもあると指摘し、ヨーロッパが台湾防衛に実質的な貢献を行うためには、現時点から計画的な準備を進める必要があるが、これは単に軍事力を提供するだけでなく、同盟の結束を強化し、世界的な安定を維持するための戦略的投資だと主張している。
(3) How to Slay a Giant: Reviving the South China Sea Arbitration
https://www.csis.org/analysis/how-slay-giant-reviving-south-china-sea-arbitration
CSIS, January 10, 2025
By Gregory B. Poling, a senior fellow and director for the Southeast Asia Program and the Asia Maritime Transparency Initiative at the Center for Strategic and International Studies in Washington, D.C.
2025年1月10日、米シンクタンクThe Center for Strategic and International Studies(CSIS)の上席研究員Gregory B. Polingは、同シンクタンクのウエブサイトに“How to Slay a Giant: Reviving the South China Sea Arbitration”と題する論説を寄稿した。その中で、①2016年、ハーグの常設仲裁裁判所は中国が主張する紛争海域に関する多くの権利を退けたが、中国はこの裁定に応じず、フィリピンは勝利の見返りをほとんど得られていない。②米国やその提携国がフィリピンを支援すべきであり、フィリピンへの支援は国連を通じて始めるべきである。③Marcos Jr.フィリピン大統領が就任してからは、フィリピンは中国に裁定を遵守するよう公に求める政府の数を8ヵ国から26ヵ国およびEUに増やした。④フィリピン政府は第2の仲裁を模索しており、少なくとも2つの選択肢が検討されている。第1の選択肢は、UNCLOSの附属書VIIに基づく2度目の仲裁であり、これは中国による環境破壊に焦点を当てる可能性が高い。第2の選択肢は、明確に定義されていない仲裁裁判所以外の実施場所を選択する事例である。⑤国連総会は拘束力のない決議を採択でき、さらに重要なのは、この問題を国際司法裁判所に諮問意見として付託できる点である。⑥最も示唆に富み、かつ最近の例として挙げられるのは、モーリシャスと英国間のチャゴス諸島をめぐる事例である。⑦フィリピンは南シナ海関連の国連での採決で、少なくとも62対44の票差で可決され、棄権は最大で87に上ると予測している。異なる国際機関で繰り返し敗北すれば、不遵守の対価が増大する。⑨フィリピンの得票差は投票のたびに拡大すると予想される。⑩仲裁での勝利は、被害国がそれを利用して国際的な支持を集め、不遵守に対する対価を課し、最終的には少なくとも部分的な遵守を強制する場合にのみ役立つといった主張を述べている。
(4) Strategic Diplomacy in the Indo-Pacific: The Case of Japan and the Philippines
https://www.orfonline.org/research/strategic-diplomacy-in-the-indo-pacific-the-case-of-japan-and-the-philippines
Observer Research Foundation, January 10, 2025
By Pratnashree Basu is an Associate Fellow, Indo-Pacific at Observer Research Foundation
Don McLain Gill is a Philippines-based geopolitical analyst author and lecturer at the Department of International Studies De La Salle University
2025年1月10日インドの Observer Research Foundationインド太平洋担当連携研究員Pratnashree BasuとフィリピンDe La Salle University のDepartment of International Studies 講師Don McLain Gillは、インドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトに“Strategic Diplomacy in the Indo-Pacific: The Case of Japan and the Philippines”と題する論説を寄稿した。その中で両名は中国の拡張主義的政策が南シナ海および東シナ海で高まり、特に西フィリピン海におけるフィリピンへの圧力が増している状況下において、日比間の戦略的外交はインド太平洋地域の安定に向けた重要な柱として進展しているが、日本は2015年の戦略的パートナーシップ設立以来、フィリピンとの防衛協力を強化してきており、2024年には、物資や部隊の相互運用性を向上させるための「日比部隊間協力円滑化協定(RAA)」が締結され、共同訓練や災害対応能力の強化が進んでいるほか、フィリピンに沿岸監視レーダーや巡視艇を提供し、海洋安全保障能力の向上を支援していると指摘している。そして両名は、特に台湾海峡問題において、日比間の連携は戦略的重要性を増しており、日比両国は台湾海峡の緊張が地域の安定に与える影響を深刻に受け止め、共同演習や情報共有を強化しているが、日比間の安全保障協力は、価値観を共有する両国が中国の影響力拡大を抑制する重要な手段となっているため、今後は、地域の不確実性や政権交代による影響を乗り越え、協力の制度化を進めることで、持続可能な提携を築くことが期待されると述べている。
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