海洋安全保障情報旬報 2025年2月1日-2月10日

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2月1日「中国による台湾封鎖の可能性―米誌編集者論説」(The National Interest, February 1, 2025)

 2月1日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、同誌の安全保障担当編集主任Brandon J. Weichertの“China Has Proved It Can Blockade Taiwan”と題する記事を掲載し、そこでBrandon J. Weichertは、2027年に中国による台湾への侵攻作戦が開始されるという観測もあるが、侵攻作戦ではなく台湾に対する封鎖がより早い時機に実施される可能性もあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国中西部に非公開の空軍基地がある。そこで任務につく兵士たちの制服には、2027という数字で飾られた記章が付けられている。2027というのは、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)が台湾の侵攻準備を整えていると上述の空軍基地所属の米兵員が信じる年であり、自分たちの準備を整えることを思い起こさせる数字である。しかし実際のところ2027年ではないかもしれない。ここ最近、中国は繰り返し、決断さえすれば台湾への軍事作戦を実施できることを示してきている。
(2) 2024年12月6日から12日にかけて中国が実施した軍事演習は、まさに決断さえすれば台湾への軍事作戦を実施できることを示すものであった。この演習は、これまでで最大規模の演習と見積もられ、台湾を中心とした広大な演習海域において敵艦船への攻撃、海上交通路の封鎖が演練されるとともに、台湾の南東部に対して接近阻止・領域拒否(以下、A2/ADと言う)戦略を適用し、中国海軍によるシー・コントロールの確立および米国の台湾への接近を拒否することを狙ったものであった。同時に、中国があらゆる準備をしていることを示唆するものでもある。たとえば、空軍は東部戦区における滑走路修復の訓練も実施している。東部戦区は、もし台湾と戦争になれば中核となる戦区である。台湾側は、中国との戦争に備えて、中国の主な軍事施設に報復攻撃を行なう訓練を進めてきた。中国はその脅威を軽減する活動をしている。
(3) 中国による台湾侵攻作戦の実施はあり得る状況ではあるが、大きな危険性を伴う。台湾の人口は2,300万人であり、そのほとんどが中国に忠誠心など持っていない。そのうち100万人が武器を持って抵抗すれば、中国側の犠牲は甚大になり、戦争に負ける可能性すらある。しかし、封鎖となると情勢判断は異なったものとなる。中国の台湾に対する支配力は強まり、米国が介入しようとする意志を複雑にするかもしれない。
(4) 中国軍の教範は、敵に対する「戦略的封鎖」により「3つの領域の支配」を達成せよと教えている。すなわち、情報、海洋、空域である。これこそが12月の演習でPLAが実施していたことである。台湾封鎖が数年、いや数ヵ月続けば、台湾経済が麻痺し、親中国派が権力を握れるようになるかもしれない。また南シナ海の航路の封鎖や台湾周辺でのA2/ADの実施により、中国が勝利を実現できるほど、U.S. Armed Forcesを遠ざけておくことを狙っている。こうした演習がこれまで繰り返され、そのたびに規模を拡大しているという事実は、中国による台湾封鎖が成功する可能性が高いことを示しているのだ。
記事参照:China Has Proved It Can Blockade Taiwan

2月3日「中国の戦闘力を疑問視―ベルギー専門家論説」(Asia Times, February 3, 2025)

 2月3日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、ベルギーに本部を置くCentre for Youth and International StudiesのInternational Security Programme調査研究員Gabriel Honradaの“Questioning China’s ability to actually fight”と題する記事を掲載し、ここでGabriel Honradaは中国軍は急速に近代化しているが、根深い構造的欠陥、政治的統制、戦闘経験の不足により、実戦においては戦場での有効性が制限される可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1月、米シンクタンクRAND Corporationは報告書を発表し、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)の戦闘準備態勢に以下のような疑問を呈した。
a. PLAは高度な兵器と世界最大の海軍を誇っているが、戦争への実際の準備よりも中国共産党支配の維持を優先している。
b. 能力よりも忠誠心に基づく昇進、戦闘の現実性よりもイデオロギー教育、戦場の適応性を妨げる中央集権的な意思決定など、組織的な問題がある。
c. 中国の軍事改革は遅々として進まず、不完全であり、抑止力と政治的統制が作戦上の有効性を上回っている。
(2) RAND Corporationの別の報告書では、PLAが直面する人口減少と近代化という2つの課題について検証している。
a. 中国の人口減少が長期的な懸念事項である一方で、PLAには依然として米国よりもはるかに多くの若年層がいる。しかし、不十分な採用への誘因、魅力のない勤務条件、民間部門との競争が、優秀な人材の確保を妨げている。
b. 兵役の社会的地位の低さや徴兵制に基づくひな型といった文化的な障壁が、中国の軍近代化をさらに複雑にしている。大規模な投資にもかかわらず、PLAは習近平国家主席が目指す世界一流の軍隊構想を実現するのに苦戦している。
(3) 2023年11月のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistの記事で、Payton Rawsonは、次のように指摘している。
a. PLAでは二重の指揮系統により、軍と政治の指導が統合され、中国共産党の支配が確保されている。
b. この構造は党委員会、政治委員、政治機関から成り、党の指導を維持し、腐敗を防止し、足並みを揃えることを目的としている。
c. 政治的な忠誠心が高まり、軍事クーデターの危険性が低減し、軍事行動が党の目標に沿うよう統一された指揮が取られるという利点がある。
d. このシステムは意思決定の速度と革新性を妨げる可能性がある。
(4) PLAにおける二重の指揮命令系統の欠点、戦闘経験の不足、および兵士の募集に関する問題を強調することは、中国の軍近代化を過小評価する危険性をはらんでいる。PLAは、高度な模擬訓練装置を使用して補い、訓練想定で現実的な敵対勢力を提供し、軍の意思決定過程にAIを統合している。しかし、模擬訓練装置が戦闘地域を完全に再現できないという限界がある。AIは自己認識や説明責任能力に欠けるため、人間の判断の代わりにはなり得ない。PLAが戦闘経験を積むには、戦闘経験を運用面や戦略面の優位性へと転換する制度や過程が必要である。こうした課題は、欧米の軍隊では経験豊富で自立した下級指導層を提供している職業下士官(NCO)の育成を妨げる可能性がある。
(5) これに対して中国は、人民解放軍に不可欠な技術領域の技能に重点を置いて専門技能に特化した教育訓練を受けた下士官部隊を育成している。適切な資格を持つ若者をこの計画に採用し、安定した経歴管理を約束している。また、元NATOの戦闘機パイロットといった外部の人材を雇用し、空軍の訓練を行っている。これらの元NATO軍人は、最新の西洋の戦闘機を操縦した経験はないかもしれないが、それでも機微な戦術、技術、手順(TTP)を中国の兵士に伝えることができる。
(6) 2023年1月の中国航空宇宙研究機関(CASI)の記事で、Josh Baughmanは、中国の認知戦戦略について次のように指摘している。
a. 直接的な軍事衝突を回避しながら、認識と意思決定を支配することで敵対者を弱体化させることに焦点を当てる。
b. 平時と戦時を問わず実施され、恐怖や誤報といった心理的な脆弱性を活用して、相手の決意を弱体化させる。
c. 軍事、政治、経済、技術の手法を統合し、AIやソーシャルメディアを活用して物語や世論を形成する。
d. 情報統制や事象の定義を通じて、軍事力のみならず心理的な影響力によって紛争に勝利することを目指す。
(7) 高木耕一郎は2022年7月の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockの記事で、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争では、認知戦がいずれの側にも戦略的優位をもたらさなかったこと、および航空戦力、歩兵、砲兵、装甲部隊が発射するミサイル、砲弾や銃弾によって敵を撃破する方式が最も適していると述べている。さらに、戦争は決定的な物理的戦闘によって決着がつくのであって、認知形成や単なる戦力の配置によって決着がつくわけではないと強調している。
(8) 2023年10月のThe Washington Quarterly誌の記事で、M Taylor Fravel はロシア・ウクライナ戦争に対する中国の評価は、台湾紛争の可能性に対する重要な軍事的教訓を提供しているとし、次のように述べている。
a. ロシアが迅速な勝利を収めることができなかったことは、大規模作戦、特に台湾への水陸両用作戦のような複雑な合同軍事作戦の難しさを浮き彫りにしている。
b. ロシアの戦場での失敗は、中央集権的な指揮系統と硬直的な指導層の構造の危険性を明らかにしており、中国に意思決定の柔軟性を磨くよう迫っている。
c. ウクライナの回復力は、台湾が容易に降伏しない可能性を示唆しており、中国に長期にわたる紛争への備えを迫っている。
d. 米国がロシアに対して情報共有や連合構築で果たす役割は、中国の侵略に対する同様の対応を懸念させるものであり、中国の戦略的奇襲の要素を否定する可能性がある。
e. 欧米諸国による対ロ制裁は中国の経済的脆弱性を明らかにし、自国の経済を保護する努力を促す。
記事参照:Questioning China’s ability to actually fight

2月3日「中国の謎の新型潜水艦―フランスメディア報道」(Naval News, February 3, 2025)

 2月3日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、“New Unreported Submarine In China Leaves West Guessing”と題する記事を掲載し、他国では類を見ない、中国海軍の謎の新型潜水艦について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の驚異的な海軍拡張および近代化は続いている。中国南部の広州造船所において侵攻用舟艇の急速な建造と並行して、謎の潜水艦が出現した。同造船所は潜水艦の建造で知られていないが、衛星画像によってその潜水艦の存在が明らかになった。通常、米政府が発表する公式の潜水艦戦力推定にこれらの潜水艦は含まれていない。
(2) 謎の潜水艦は、最近明らかになった武昌造船所で進水したType041原子力電池搭載潜水艦とは異なる。この新型艦の設計はより小型であり、原子力補助装置は使用しておらず、推進方式も異なり、任務も異なる可能性が高い。
(3) 初期の推定では、この新型潜水艦の全長は約45m、全幅は約5mである。最も顕著な特徴は、艦尾にある大型X型の舵、そしてセイルが明らかに存在しない点である。現時点で、セイルのない潜水艦を建造したのは中国のみであり、2019年に上海の江南造船所で1隻が進水している。
(4) 一見すると、新型のセイルなし潜水艦が、最初の実験艦を改修したものであると考えられる。しかし、両者のサイズや形状は類似しているものの、最初の潜水艦の存在は確認されている。そのため、今回の新型艦は新造であると考えられる。X型の舵もまた、中国の潜水艦としては斬新である。しかし、これは一般的になりつつあり、潜水艦設計の世界的な傾向を反映している。
(5) この新型艦は、外見上、無人艦の特徴を有している。この種の無人潜水艦(艇)ではセイルを省略する設計が採用されていると考えられる。実際に中国や他の主要な海軍は、超大型無人潜水艦の開発を積極的に進めている。特に中国の計画は最大規模であり、すでに少なくとも5種類を進水させている。仮にこれが超大型無人水中機XLUUV(extra-large uncrewed underwater vehicle:以下、XLUUVと言う)であれば、世界最大となる。それも圧倒的な差があり、U.S. Navyのオルカ型XLUUVの6~8倍の大きさと推定される。
(6) もし、XLUUVであれば、なぜこれほど大きいのかという疑問が生じる。乗組員の居住空間が不要であるため、通常、最も大型のXLUUVでさえ従来の有人潜水艦と同程度の大きさにはならない。そのため、この艦は有人潜水艦である可能性が高い。
(7) この新型潜水艦の役割は不明である。通常のディーゼル電気潜水艦よりも小型だが、特に浅海域での作戦には適している可能性がある。同時に、魚雷発射管や、もしかすると曳航式ソナーを備えていると考えられ、艦艇や潜水艦への攻撃任務に用いられる可能性もある。他には、特殊部隊の任務や海底戦を目的としている可能性がある。
記事参照:New Unreported Submarine In China Leaves West Guessing

2月3日「中国軍の概要―米専門家論説」(Geopolitical Futures, February 3, 2025)

 2月3日付の米国際情勢予測オンライン情報誌Geopolitical Futuresは、Geopolitical Futuresの分析担当Viktória HerczeghとAndrew Davidsonの“A General Overview of the Chinese Military”と題する論説を掲載し、ここで両名は中国軍が最も差し迫った問題を根絶し、望ましい段階の近代化を達成するには15年を要する可能性があり、その間、米国との武力衝突に事態が拡大する危険性は低いとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、200万人以上の現役と50万人の予備役を擁する世界最大の常備軍を誇っている。また、南シナ海など海上交易路の安全確保を目的に、海軍の急速な拡大を図っており、4隻目となる空母の建造と5隻目の空母建造計画は、その存在感を強化している。しかし、現在の軍事力では、この地域はおろか世界においても、攻撃的な脅威となることはほとんどない。中国は現在、国内問題と国防に大きな関心を抱いている。
(2) 中国は、地上軍を地域別戦区に分割し、指揮系統を分散化し、特定の任務を遂行できるよう各戦域指揮部にはそれぞれ異なる地域を担当させている。すなわち、東部戦区は東シナ海、日本、台湾を担任し、南部戦区は中国中央南部、ベトナムを、北部戦区はモンゴル、ロシア、朝鮮半島を、中部戦区は北京防衛を担任するとともに予備軍の役割を担っている。西部戦区はインド、中央アジア、チベット西部、新疆ウイグル自治区担任である。特に注目すべきは、最大となる西部戦区におけるチベット西部および新疆ウイグル自治区の2地域である。中央アジア諸国や中国・パキスタン経済回廊の貿易路にとって、この地域の安全は不可欠である。一方で海上交通路は、中国経済の輸出の60%を占めているが、一連の米国の同盟国、提携国によって構成される、いわゆる第1列島線に中国は囲まれている。もし米国がこれらの輸送路を封鎖すれば、中国経済は壊滅的な打撃を受ける。そのため、中国政府は最悪の事態に備えて、西側の陸路を強化し、代替路を確保するつもりである。
(3) 軍隊は中国国境に戦力を集中させる能力を持つが、国境を越えて遠征できるとは考え難い。それは、長大な後方支援線が実際に試されたことは一度もなく、持続可能とは見なされていないからである。また、軍は以下に示すような問題を抱えており、近々に欧米諸国に挑戦できるような状態にはない。
a. 実戦経験が不足している。新しい艦艇、航空機、戦闘車両等は数多くあるが、それらを使用した経験が不足しており、長期間にわたる戦闘状況でそれらを運用した経験はない。
b. 兵士の募集に問題を抱えている。人民解放軍(以下、PLAと言う)は徴兵制と志願兵制を併用しており、毎年約40万人の若者が志願して、兵員を補充している。PLAの約35%は、兵役期間2年間の貧しい農村地域から徴兵された兵員で占められており、彼らは家でじっとしているよりも軍で働く方が金銭的に有利だと考えている。ここ数年は、学歴に見合った仕事に就けなかった大学卒業生を対象に、追加徴兵も行われている。こうした取り組みには、高い若年層失業率の低下という目的がある。しかし、新兵の給与は依然として低いため、有能な志願者を十分に集めるのは難しい。PLAは、早期に人材を育成するための高校特別課程を立ち上げ、指揮経験や技術的専門知識を持つ退役軍人の復帰も支援しているが、士気と指導力の低さが兵員の入隊には不利となっている。
c. 高級将校が欠陥品や品質に疑問のある兵器を調達予算よりも低い価格で購入し、残りを着服する行為によって有罪判決を受ける事案が増えている。この問題は組織的であるため、指導部は軍に対するある程度の統制力を失っている。このため、2024年に実施された軍指導部における粛清と再編は今後も継続される可能性が高い。
(4) 低迷する経済を活性化させるための大規模な景気刺激策と軍の完全な統制を取り戻し、近代化を図るための取り組みという2つの施策は、相互に強化し合うものである。経済が持ち直せば、軍改革の施策も実施し易くなる。新兵にはより高い給与を支給でき、高校の軍事訓練計画や課程にはより大きな予算を充てることができ、さらに質の高い訓練を実施できるようにもなる。また、技術的能力にも安定した資金流入が見込めるようになる。このような状況下になれば、中国は最も差し迫った問題を根絶し、望ましい近代化を達成できるだろう。しかし、それには15年もの歳月がかかる可能性があり、その間、米国との武力衝突に事態が拡大する危険性は依然として低い。
記事参照:A General Overview of the Chinese Military

2月4日「ASEAN沿岸警備隊フォーラムを制度化させる意義―シンガポール海洋法専門家・フィリピン国際関係専門家論説」(The Interpreter, February 4, 2025)

 2月4日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteウエブサイトThe Interpreterは、National University of Singapore 研究員Su Wai Monと同University 大学院生Thư Nguyễn Hoàng Anh、フィリピンのDe La Salle University教授Jonathan Gabriel Mendozaによる “Securing Southeast Asian waters: Formalising the role of the ASEAN Coast Guard Forum”と題する論説を掲載し、そこで3名はASEAN諸国の海洋法執行機関の協力機構であるASEAN沿岸警備隊フォーラムを制度化する機が熟しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) テロ、人身・薬物売買、サイバーセキュリティの危険性などはすべて海に関わる。南シナ海における地政学的緊張が続いていることも考慮すると、いま、東南アジアには統合され、より専門的な沿岸警備隊が必要である。東南アジア諸国の沿岸警備隊の性格はさまざまで、それぞれ異なる省庁の下部組織として位置づけられ、役割も幅広く、それぞれの優先順位も異なる。
(2) ASEAN Coast Guard Forum(ASEAN沿岸警備隊フォーラム:以下、ACFと言う)の目的は、「地域における海洋安全保障に向けたASEANの中心性を促進するための専門的な対話機構を構築する」ことであった。そして加盟国は海洋での脅威に対抗するための協調と意思疎通を強化しようと奮闘している。ACFはそれぞれの意見の違いに対処し、地域の協力強化のための基盤として大きな可能性を有し、米国など域外の提携国もそれを支持し、関与したがっている。
(3) ACFの第1回会合は2022年11月にインドネシアで開催され、8ヵ国が参加した。第2回もインドネシアで2023年に開催され、机上訓練の実施、ロヒンギャ支援などでの国家間協力が合意された。2024年6月にフィリピンで実施された第3回会合では能力構築・情報共有などに関する作業部会の付託条項の草案について議論され、また、各国の沿岸警備隊および海洋法執行機関の海上での約束に関する東南アジア議定書(Southeast Asia-Protocol of Engagement at Sea for Coast Guard and Maritime Law Enforcement)草案が提案された。
(4) 全体としてこの3度の会合は、共通かつ構造化された取り組みに向けた一歩としては良好な滑り出しであった。しかし、3度の会合を経て、ACFはそろそろもっと公式的で制度化された存在へと発展してもよい時機である。そうした要請はすでにASEAN諸国から挙がっている。
(5) ACFの公式化のためには次の述べる行動が必要となる。第1に、ASEAN加盟国の海洋法執行機関が参加する定例会合と定例演習の実施である。これまでの会合は、さまざまな理由で全ての国が出席したわけではなかった。全加盟国が参加しないことにより、ACF構想の効果や包摂性は弱体化する。第2に、効果的な活動のために、指針などを完成させることである。たとえばACFの義務や意義、活動範囲や活動形態を定義する概念文書が必要である。さらに、加盟国の責任や意思決定過程、活動計画などの概要を示すために、付帯条項が公開されるべきであろう。これらの点については、 European Coast Guard Functions Forum(ヨーロッパ沿岸警備隊機能フォーラム)が参考になる。
(6) ACFの機構は、透明性や意思疎通の公開性が保証されたものでなければならない。即時の情報共有により、加盟国は共通の脅威に関するデータを交換できる。現在ASEANの諸海軍が情報共有システムを構築しているが、ACFは海洋法執行機関に特化した同様の基盤を構築できるであろう。また、ACFの協力の焦点は能力構築であるべきである。共同の訓練が実施されるであろうが、それは捜索・救援やサイバーセキュリティ、航行技術に関するものなど多岐にわたるだろう。最近フィリピンとベトナムが史上初の共同沿岸警備隊訓練を実施したが、ACFという枠組みでより多くの参加が期待できる。
(7) こうした提案を現実化するのは簡単ではない。東南アジア諸国の海洋法執行機関は資源や人員などさまざまな制約を抱えている。それでも、ACFの公式化は国家間協力を必要とする海洋犯罪などに効果的に対処するのに必要不可欠なものである。これにより、包括的かつ統合的な海洋安全保障戦略に対するASEANの関与も強化されるのである。
記事参照:Securing Southeast Asian waters: Formalising the role of the ASEAN Coast Guard Forum

2月5日「ロシア北方艦隊、目標と装備の間に大きな溝:ノルウェー情報局報告―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer)

 2月5日のノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、ノルウェーのジャーナリストThomas Nilsenの“Northern Fleet faces wide gap between ambitions and resources, intel report”と題する記事を掲載し、ウクライナにおける戦争によってВоенно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)は資源不足に直面しており、空母「アドミラル・クズネツォフ」と重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」をはじめ主要水上戦闘艦艇の修理、保守整備に支障をきたし、多くの水上艦艇が修理待ちのため滞留している。一方、潜水艦部隊は着々と建造が進み、北方艦隊にはボレイA級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦、巡航ミサイル搭載のヤーセン/ヤーセンM級原子力潜水艦が増強されつつあるとして、要旨以下のように報じている。
(1) ウクライナとの戦争により、ロシアの資源の大半は陸軍に投入される中、海軍はますます資源不足に陥っていると、Etterretningstjenesten(ノルウェー情報局:以下、NISと言う)は最新の脅威評価報告書「FOCUS」で述べている。ノルウェーはロシア北部で何が起きているかを常に特別に注視してきた。ロシアの核抑止力の重要な柱である弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が国境からそう遠くない場所に配備されていることも不思議ではない。「Военно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)がその目的とするところと資源の溝が拡大している」と報告書は伝えている。
(2) NISは、ロシア海軍がジレンマに陥っており、「これによりСеверный флот(以下、北方艦隊と言う)は任務の遂行と必要な整備のどちらかを選ばざるを得なくなっている。造船所の操業が困難のために保守整備に遅れが生じ、老朽化し​​た艦艇の能力が損なわれている」と述べている。2月5日にオスロで発表された報告書「FOCUS」は、北方艦隊の戦闘力が圧迫されており、戦力増強の可能性に影響を及ぼしていると結論付けている。
(3) 北方艦隊はロシアが保有する4個艦隊の中で最大規模である。ムルマンスク北部のセヴェロモルスクに司令部を置き、ノルウェーとの国境に向かう海岸線のほとんどを実質的に占有している。
(4) コラ半島と白海沿岸のセベロドビンスクの造船所の衛星画像を調べても、同じことが分かる。多くの艦艇が滞留し、ドックに長く入渠したままであり、クレーンなどの重要な設備が機能していないことが多い。一般的に、北方艦隊はコラ半島のルマンスクの第35造船所などすべての造船所でドックが不足している。ロシア政府とМинистерство обороны Российской Федерации(ロシア国防省)が掲げた野望を遂行する能力の欠如は、最大の水上艦艇2隻、航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」と重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」の状況からも見て取れる。The Barents Observerは長年にわたり、この2隻の巨大艦艇が「間もなく海上試験の準備が整う」と何度も報じてきた。事実は異なっていることが判明した。両艦とも完工が予定より何年も遅れている。「アドミラル・クズネツォフ」は今もムルマンスクに停泊している。
(5) ロシア海軍が直面している問題の例外は潜水艦であるとNISの報告書は強調している。
第4世代の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)と巡航ミサイル搭載攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)の建造は、1980年代の冷戦末期以来見られなかった速度と数で行われている。北方艦隊の最新鋭のヤーセン級SSN3番艦「アルハンゲリスク」は1月下旬、ノルウェー国境からほど近いザパドナヤ・リッツァの基地に配備された。ヤーセン級SSNは今後数年間でさらに増える予定である。ヤーセン級SSNは新型ツィルコン・ミサイルを搭載しており、ノルウェーはこれに懸念を抱いている。「ミサイルの速度が非常に速いため、防空システムで対処するのは非常に困難だ」とNISの報告書は述べている。潜水艦はノルウェー国境付近に展開し、抑止力を発揮することになる。ノルウェーの情報機関は、北方艦隊が「大西洋への定期的な展開と、おそらくは大規模な戦略的な海軍演習を優先するだろう」とも伝えている。
(6) ブラヴァ・ミサイルを搭載したボレイA級SSBN3隻、おそらく4隻が、今後数年のうちに北方艦隊に配備される予定である。
(7) 2025年に向けた大きな疑問は、ハバロフスク級と呼ばれている新型潜水艦の1番艦がСеверное Машиностроительное Предприятие(北部機械建造会社:略称セブマシュ)の造船所の建造建屋から進水するかどうかである。2012年から建造中とされるこの謎の潜水艦は、Putin大統領の新たな核抑止力を構成すると期待されている原子力推進超大型無人潜水機ポセイドンを搭載すると言われている。しかし、諜報報告書によれば、このポセイドンはまだ試験と開発の段階にあり、ロシアがこの終末兵器ポセイドンを配備できるようになるまでには、まだ数年かかるという。一方、ロシアとバレンツ海の重要な漁場を共有するノルウェーは、進行中のポセイドンの試験を懸念している。試験はロシアの西北極海で行われている。
記事参照:Northern Fleet faces wide gap between ambitions and resources, intel report
:ソ連の原子力潜水艦の艦種は、SSBNを除くと、魚雷を主兵装とする攻撃型原子力潜水艦(SSN)と巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)とに区分されていた。第4世代の攻撃型原子力潜水艦の計画に当たって多用途・対潜水艦・対空母の機能を併せ持つ潜水艦が求められ、建造されたのがヤーセン級原子力潜水艦であり、ロシアでは多用途魚雷・巡航ミサイル原子力潜水艦と呼ばれている。ロシアでの艦種記号はMPLATRKとされている。西側の原子力潜水艦の艦種記号は弾道ミサイル搭載原子力潜水艦のSSBN、巡航ミサイル搭載原子力潜水艦のSSGN、攻撃型原子力潜水艦のSSNであるが、SSGNは米国の元SSBNの22基の弾道ミサイル格納筒に1基当たり7発のトマホーク巡航ミサイルを搭載したオハイオ級SSGNのみであり、一方、SSNとされているバージニア級でも魚雷、対艦ミサイルの他に12発(最新型では40発)のトマホーク巡航ミサイルを搭載している。これらのことから、本抄訳ではヤーセン級についてもSSNとして取り扱うこととした。

2月6日「Trump大統領の再登場、インド太平洋の安全保障構造は変わるか―インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, February 6, 2025)

 2月6日付のインドのシンクタンクVivekananda International Foundation (VIF)のウエブサイトは、 VIF研究員Dr Chayanika Saxena の“Trump and the Indo-Pacific Security Structure - More of the Same?”と題する論説を掲載し、ここでChayanika Saxenaは特にインド太平洋のあいまいな安全保障構造においては、不可欠のインド太平洋国家であり続けることへの米国の潜在的な躊躇という現実の課題に直面する一方で、再考と再編の機会を提供しているという意味でTrump大統領の予測不可能性は両刃の剣となるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 緩やかだが、イデオロギー的には繋がったインド太平洋では、この地域における同志国間の同盟、条約および同じ様な機構が出現する上で極めて重要であるとされてきた。したがって、インド太平洋の安全保障構造は、QUADなど複数の小国間主義に基づく枠組みと2国間の戦略的、軍事的枠組みを含む「提携の格子構造(a “latticework of partnerships”)」の形状となっている。
(2) 要となる制度を欠くにも関わらず、象徴的だが安全保障上の重要な枠組みとしてインド太平洋を結び付けているのは、そこに機会と危険性が併存しているからである。
a. インド太平洋は、世界人口の半分と世界経済の3分の2を占め、そして複数の軍事大国が存在する。米国の歴代政権は、この地域を国家と国境を越えた成長をもたらす広大な熱点として、世界(そして米国)の安全保障と繁栄にとって重要であると認識してきた。
b. しかしながら、大きな機会には大きな危険性が伴う。今日、地政学的戦域としてのインド太平洋は、拡大する航行と通商の自由に対する挑戦と規制、大国間の対立、そして資源、領土および国際水域を巡ってますます不安定になる抗争に直面している。インド太平洋は比較的最近になって注目すべき戦域となってきたが、この地域は長年、戦略的、経済的そして地政学的脆弱性に直面してきており、特に同じ理想や価値観を共有できないと見られる行為者に対して、その特徴的な自由と開放性を維持するための戦略的な取り組みが必要とされてきた。
c. インド太平洋に出現してきた様々な提携の戦略的思惑の背景には、ますます高圧的なインド太平洋における中国の言動があることは、因果関係論を持ち出すまでもなく、自明である。その結果、2018年の米国の「インド太平洋戦略枠組み」などに見られるように、インド太平洋を重点とする戦略と軍事構想の多くは、この地域において高まる中国の脅威が重要な動機付けになっていることを示唆している。2018年の米国の戦略は、台頭する強引な中国を、戦略的競争相手であるだけでなく、「優位を得るためには国際規範を出し抜く」ことも厭わない規範破りと認識している。
(3) では、こうした米国の中国観は、Trump政権ではどうなるのか。Trump大統領の予測不可能性は、1つには、Trump大統領が外交政策問題に対する気まぐれな決定と予測不可能性を特に好むことで知られている結果であり、もう1つは、時宜にかなった一致した外交姿勢を阻害しかねない大統領指名の政府高官の間で予想される対立にある。加えて、米国内の分断も潜在的に機能不全の政権の手足を縛り、国境を越えた米国の関与に影響を与える可能性がある。インド太平洋で「次に何が起こるか」を確実に知るには時期尚早だが、Trump大統領が「アメリカ・ファースト」を繰り返し強調していることと重要な高官配置への指名人事から見て、緊張した米中関係の雪解けの兆しとは考えられず、それどころか、反対に米中関係の緊張は高まると推測されている。
(4) Trump大統領とその政権が戦略的にタカ派で、中国に対して、そして世界の他の地域に対しても商業上の取引関係のような見解を持っていることから、インド太平洋にとって、2つの異なった展開が予想される。
a. 一方では、インド太平洋に対する米国の取り組みに中国が加わったことで、日本やオーストラリアなどの諸国は、防衛費の増額を求められる可能性がある。言い換えれば、これら諸国は、米国の財源に対する圧力を軽減することを約束することで、商人的なTrump大統領の歓心を買い、米国がこの地域に関心を持ち続けるようにしなければならないであろう。そうすることで、対価と負担の分担のための既存の提携を一層進化させることになるかもしれない。
b. 他方で、米国とは異なり、中国との関係が地理的に近く、原則よりも中国の力による地域内における威圧に直面している多くの東南アジア諸国にとって、同じ中国への固執が既存の、あるいは新規の同盟関係を阻害する可能性がある。Trump大統領が軍事よりむしろ経済を重視する形で米国の取り組みを切り替えれば、この地域での大国間対立を激化させるだけでなく、インド太平洋地域にとって不可欠な安全保障の防波堤として機能するアメリカの利益の後退を見ることになりかねない。
(5) いずれにせよ、少数国間枠組みと2国間関係は、特に経済に過度に敏感な米国が互恵主義を強要するにつれて、より目立ったものになる可能性が高い。利害の一致と負担分担は1対1の戦略的関与や取決の拡散を助長し、Trump政権下では多国間枠組みがさらなる打撃を受ける可能性がある。インド太平洋は地政学的実態と戦略的概念としての定まった性格を持っておらず、したがって、Trump大統領の予測不可能性には特に脆弱である。しかし、他の利害関係国が取り組みと関与において抗堪性と適応性を示すことは賢明であり、そうすることで、インド太平洋は戦域としても概念としても、予測不可能なTrump大統領の2期目の任期を乗り越えることができるであろう。
記事参照:Trump and the Indo-Pacific Security Structure - More of the Same?

2月6日「イスラム革命防衛隊の新型空母の実態―トルコ専門家論説」(Naval News, February 6, 2025)

 2月6日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、元Türk Deniz Kuvvetleri(トルコ海軍)士官Tayfun Ozberkの“Iran accepts delivery of homegrown drone carrier ‘Shahid Bahman Bagheri’”と題する論説を掲載し、イランのSepah-e Pasdaran-e Enghelab-e Islami(イスラム革命防衛隊)が、商船を改造した新型空母の引き渡しを受けたとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2025年2月6日、イランのNiru-ye Daryâyi-e Sepâh-e Pâsdârân-e Enghelâb-e Eslâmi(イスラム革命防衛隊海軍:以下、IRGC海軍と言う)に、新たに国産開発された無人航空機およびヘリコプター用の空母「シャヒード・バフマン・バゲリ」が、南部のバンダレ・アッバース港おいて引き渡された。引き渡し式において、IRGC海軍司令官Alireza Tangsiri少将は空母「シャヒード・バフマン・バゲリ」に関する情報を一部明らかにした。「この空母の航続距離は2万2,000海里に及び、1年間にわたり遠方の海域で燃料補給なしで任務を遂行できる」と述べている。
(2) 限定的な公開情報によると、この空母はさまざまな型式の小型無人航空機および防空ミサイルの運用が可能である。短距離および中距離防空システム、情報収集機器、飛行管制塔を備えていると報じられている。加えて、電子戦支援システム(ESM)および信号情報収集(SIGINT)能力を持つほか、同艦は「誘導型(無人)水中艇」の展開・運用が可能であるとAlireza Tangsiri少将は式典で述べている。
(3) 「シャヒード・バフマン・バゲリ」は、コンテナ船「ペラリン」を2022年から2024年にかけて改造したもので、全長は約240m、排水量は4万トンを超える。「シャヒード・バフマン・バゲリ」は、無人航空機システムの離着陸を可能にする約180mのスキージャンプ式の飛行甲板を有し、2機のヘリコプターと機数は不明であるが無人航空機を甲板上に展開可能である。
(4) イランのメディアが公開した映像には、ガーヘル313型無人航空機が発着艦する様子が示されていた。注目すべき点として、甲板上に着艦拘束装置は確認されなかった。また、外観が類似するが、より大型の無人航空機も飛行甲板上に配備されていることが映像から判明した。
記事参照:Iran accepts delivery of homegrown drone carrier ‘Shahid Bahman Bagheri’

2月6日「中国海警の巡視活動は奏功しているのか:2024年中国海警船哨戒行動分析―米シンクタンク報告」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, February 6, 2025)

 2月6日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、“China Coast Guard Patrols in 2024: An Exercise in Futility?”と題する記事を掲載し、AISデータ分析の結果、南シナ海における2024年の中国海警の活動規模が例年と大きく変わっていなかったことを指摘しつつ、そうした中国海警の行動が他の領有権主張諸国にさほど影響を及ぼしていないとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、商業用プロバイダStarboard Maritime Analyticsが提供する2024年の船舶自動識別装置(以下、AISと言う)データを分析し、南シナ海のルコニア礁、サビナ礁、スカボロー礁、セカンド・トーマス礁、ティツ島(パグアサ島)、そしてヴァンガー堆近傍の九段線南西端の6海域で、中国海警船が哨戒した日数を計数した。AISのデータは完全なものではないため、以下に示す数字は最小限の推定である。結論から言えば、海警はほぼ毎日のように南シナ海の重要な地形周辺海域を哨戒しているが、それによって、中国の意志を他の領有権主張国に押しつけることができていないようである。
(2) 2023年と比較すると、全体的な哨戒の規模は若干拡大した。5海域での哨戒日数は増加したが、セカンド・トーマス礁では2023年の302日から2024年は263日と減少している。セカンド・トーマス礁をめぐる緊張緩和の合意がなされたため、7月以降に減少が見られた。ただし、その分、サビナ礁での哨戒活動が活発になっている。
(3) 哨戒実施日数が最も増加したのがヴァンガード堆近傍海域であり、2023年は221日であったが、2024年には354日となっている。この海域での哨戒の目的は、これまではベトナムによる石油・ガス開発の監視であったが、2024年の活動海域はさらに南に拡大し、ベトナムだけでなくインドネシアやマレーシアも監視対象に入れたようである。
(4) スカボロー礁での展開も一貫しており、年間で哨戒活動が確認された船舶数は2023年の376隻から2024年の516隻と増加している。ティツ島での哨戒も2023年の206日から2024年は241日と増加している。ルコニア礁周辺の哨戒は359日とほぼ毎日であった。ルコニア礁周辺での活動目的は、マレーシアの石油・ガス開発の監視である。
(5) 中国海警の活動規模は、この数年、年単位で見た場合には大きな変化はなく、活発である。しかしそれでも、他の領有権主張国の行動を変化させることには成功していない。マレーシアとインドネシアはむしろ石油・ガス開発を活発化させてすらいる。中国海警の活動が当たり前のようになっている中、中国が現状に満足するのか、より大きな危険性を払ってでも自らの主張を貫徹しようとするのかは、まだわからない。
記事参照:China Coast Guard Patrols in 2024: An Exercise in Futility?

2月6日「氷上シルクロードは順調なのか、それとも渋滞しているのか?7年経過した中国の北極政策―米専門家論説」(Commentary, RAND, February 6, 2025)

 2月6日付の米シンクタンクRAND CorporationのウエブサイトCommentary, RANDは、RAND Corporationの国防・政治学研究部副部長Stephanie Pezardと同CorporationのAbbie Tingstadの“Is the Polar Silk Road a Highway or Is It at an Impasse? China's Arctic Policy Seven Years On”と題する論説を掲載し、ここで両名は米国が北極圏における中国の活動を主要な懸念事項としているが、中国は北極圏を戦略的な優先事項ではなく、長期的な投資の対象と考えており、北極圏に関する野望の多くは現時点では達成されておらず、米国は北極圏を注意深く監視することによって中国の活動を押し戻すことが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2025年1月26日、中国が自らを「近北極国家(Near-Arctic State)」と表現したことで有名な北極政策を発表してから7年を迎えた。この白書は、発表当時、温暖化の結果として大きな変化が起こっている北極圏に自らを位置付けたいという中国の願望を明確に示していると受け止められていた。7年が経過した今、北極圏に関する中国の評価はさまざまであり、米国の政策立案者は北極圏の政策と計画における中国の行動と利益の重要性を引き続き認識しなければならない一方で、適切な優先順位と焦点を持って中国を認識するべきである。
(2) 中国が初めて北極圏に関心を示したのは、1925年にスヴァールバル条約が発効した時であった。中国は、2004年にノルウェー北部のスヴァールバル諸島に中国北極黄河站を設立するなど、北極圏の科学研究に長年関心を寄せてきた。中国はアラスカにとっての最大の輸出先となり、2018年以前の取引ではロシアの天然ガスにも投資している。中国の2018年の北極政策でそれまでの政策と異なっていたことは、この地域を「氷上シルクロード」の概念に基づき、「一帯一路」構想の一部として正式に位置付ける包括的な計画を示したことである。また、この地域への中国の関与を導くことを目的とした「尊敬、協調、ウィンウィンの結果、持続可能性」を中心とした基本方針も示している。2018年の政策とその後の実施は、この地域と米国最北端の国境、経済、提携の安全保障にどのような影響を与えたのか?中国の最も重要な成果は、おそらく、自らを北極圏の利害関係者と見なす非北極圏諸国が地域統治で果たすことができる役割についての議論を強いたことだったかもしれない。中国はまた、経済、外交、軍事の側面でロシアとの関与において具体的な進展を遂げている。ロシア北部の海岸沿いの北極海航路を活用して、氷上シルクロードの構想は具現化と限られた実用化の両方を獲得した。中国企業は、主に天然ガスを中国市場に輸送するために、北極海航路を最も頻繁に利用しているが、より広範な輸送の機会を広げることも目指している。
(3) ロシアは、歴史的に対立関係にあった中ロ関係の予想外の展開により、北極圏における中国の安全保障と軍事的強化の橋渡し役にもなってきた。中国とロシアは2023年4月、ムルマンスクで中ロ両国の沿岸警備隊間の協力協定を締結しており、2022年と2023年にはアラスカ近郊で中ロ海軍による共同哨戒が行われている。2024年7月には中国とロシアの爆撃機がアラスカ防空識別圏内で共同飛行を実施している。フォームの終わり2024年には、中国海軍艦艇はU.S. Coast Guardに対して航行の自由作戦であると主張した行動をベーリング海で実施した。中国海軍の通信で慎重に選ばれた言葉や艦艇がたどった航路は、東南アジアにおける米国の航行の自由作戦への対応と関係があった可能性を示唆している。
(4) 米国は、ロシアによって促進されたこの新しい中国の活動を主要な懸念事項と見なしている。2024年7月に発表された最新のU.S. Department of Defenseの北極戦略文書では、この地域における米国の戦略的環境について、最初に「北極圏における中国の活動」が、次に「北極圏におけるロシアの活動」、3番として「中国とロシアの協力」が挙げられている。中国は明らかにこの地域における脅威と見なされているが、その野心の実現の速度はかなり遅い。北極圏全体での中国の活動は、2018年以降も、地理的な範囲、期間、強度において依然として限定的である。中国企業は、北極圏の天然資源の開発、基幹施設への投資、土地の購入などさまざまな事業を試みてきたが、その成功は限られている。収益性の欠如が、アイスランド近郊の石油探査やグリーンランドの鉄鉱石採掘のように、取り組みが停止した理由となっている。他の事例では、2018年にデンマークがグリーンランドの3つの空港を中国企業ではなく独自に改修することを決定したことにより、北極圏とノルウェー経由で欧州大陸に接続する北極回廊を建設する構想は中止となった。上述のように、北極圏に投資する中国の取り組みは押し戻されている。しかし、危険性がゼロというわけではない。RAND Corporationの新たな研究によると、北極圏における中国の経済、科学、情報活動は圧倒的な件数ではないものの、北極圏諸国に明確な安全保障上の危険性をもたらし、情報収集の機会を提供する可能性があることが明らかになった。しかし、それらすべてが同じ程度の精査を必要とするわけではない。研究開発の脅威は限定的である。天然資源の採掘は、大規模に行われたり、基幹施設や輸送手段の支配と組み合わされたりした場合に危険性を伴う。通信への中国の関与、基幹施設と輸送は、軍事面および情報面での脅威の可能性が最も高い。
(5) 結論として、中国は北極圏を戦略的な優先事項ではなく、長期的な投資の対象と見なしている。中国の北極圏に関する野望の多くは現時点では達成されていないままであるが、北極圏で活動する能力を徐々に構築し、経済投資から科学外交まで、ソフトパワーのあらゆる手段を使用して、正当な北極圏の利害関係者としての地位を確立している。米国は、北極圏の同盟国が広大な北極圏の環境を注意深く監視することによって、中国の活動を押し戻し、中国が変更したいと願っている現在の北極圏の統治システムを維持し、変更させないことが今まで以上に必要となっている。
記事参照:Is the Polar Silk Road a Highway or Is It at an Impasse? China's Arctic Policy Seven Years On

2月7日「日米が協力すれば自由で開かれたインド太平洋を守ることができる―米専門家論説」(The National Interest, February 7, 2025)

 2月7日付、米隔月刊誌The National Interest電子版は、Free & Open Indo-Pacific Forum代表であり、Atlantic Councilおよび米Purdue UniversityのKrach Institute for Tech Diplomacy非常勤上席研究員Kaush Arhaの“Together, The U.S. And Japan Can Preserve A Free And Open Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここで両名は米国と日本は自由で開かれたインド太平洋を守るために協力してIndo-Pacific Treaty Organization(インド太平洋条約機構)を結成するべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋における中国の覇権主義的な企みを抑止し得る、Indo-Pacific Treaty Organization(インド太平洋条約機構:以下、IPTOと言う)を結成する時が来た。2月上旬の石破茂首相とTrump大統領の会談は、将来のために自由で開かれたインド太平洋を確保し、この地域での戦争抑止の構造を構築するための舞台を整えるものである。インド太平洋は米国にとって最大の関心事で、日本はこの地域の安全確保に欠かせない協力者である。日本の安倍元首相は、Trump大統領の1期目に「自由で開かれたインド太平洋」の構想を表明し、世界の舞台で推進者として活躍した。彼が2022年に早過ぎる死を遂げたことは、世界にとって計り知れない損失であった。
(2)自由で開かれたインド太平洋の安全確保には、2つの戦略的取り組みが必要である。第1に、この地域における米国とその同盟国の軍事・経済安全保障上の利益を守る自己強化型の制度を構築することである。第2に、米国政府は地域安全保障を維持するために、より広く世界の利益と関与を集めなければならない。そのためには、米国の明確な指導力、同盟の構築、負担の分担が必要である。石破首相は、集団安全保障の枠組みを早くから提唱しており、今こそ、IPTOを結成する時である。
(3) IPTOは、トランプ政権2期目の日米にとって最優先事項とするべきで、イランと北朝鮮を含め中国とロシアの「無制限の」民軍連携の拡大に対する相応かつ時宜を得た対応策である。IPTOには、集団安全保障上の義務に裏打ちされた防衛態勢、ハイブリッド攻撃やサイバー攻撃に対抗する抑止手法や重要社会基盤の安全保障に関する規定が含まれると見込まれる。IPTOの運用によって、情報共有、装備の相互運用性、戦略計画、さらには兵器製造を劇的に強化することができる。
(4) Trump政権第1期は、米国、日本、オーストラリア、インドによるQUADを再活性化し、強化した。Biden大統領は、韓国からフィリピン、ベトナム、パプアニューギニアなどとの防衛協定を再確認し、拡大した。また、原子力潜水艦の建造と運用を拡大するAUKUSを発表した。さらに日米比3ヵ国によるJAROPUSおよび日米韓3ヵ国によるJAROKUSを含め3ヵ国安全保障協定を強化した。中国、北朝鮮、ロシアは、こうした動きを「アジア版NATO」と非難している。Trump大統領は、自由で開かれたインド太平洋を推進した安倍首相と同様に、石破首相にIPTOの推進役となることを期待するであろう。両国は、オーストラリア、フィリピン、英国、カナダ、フランスなどともにIPTOを設立し、歴史を作るべきである。また、NATO諸国をIPTO加盟国として迎えるほか、インド、韓国、ベトナム、その他中国に領有権を主張されている同志国などには特別協力者の地位を与えてもよい。中ロ枢軸の両端に2つの強固な集団安全保障同盟、NATOとIPTOが存在することで、米国の軍事力、影響力とその範囲は大幅に強化される。
(5) IPTOの最優先課題は、加盟国の主権と領土を守ることに加え、ハワイからフィリピン、オーストラリアに広がるミクロネシア、メラネシア、ポリネシア群島の島々に安全保障の傘とそれに伴う経済発展を提供することである。これらの島々は、広大な海を越えて米国の経済的・軍事的影響力の維持に貢献しており、日本からフィリピン、パプアニューギニアからオーストラリアまで続く島々を防衛し、必要であれば台湾に軍事援助を提供するために不可欠である。
(6) インド太平洋地域のエネルギーと経済の安全保障のための補完的取り組みも同様に重要である。日米は、2つの取り組みによって、IPTO設立を補完すべきである。第1は、米国の天然ガスや小型原子炉等の民生用原子力技術の供給を通じて、地域のエネルギー需要に対応するためのインド太平洋エネルギー安全保障構想である。この構想は、再生可能エネルギーにおける中国の優位性が高まる中、信頼できるエネルギーへの転換を促進することが期待できる。第2に、半導体、AI、金融技術、クラウドコンピューティングと通信、医薬品、重要鉱物などの経済分野における分野別協定からなるインド太平洋経済安全保障構想である。分野別協定は、中国による強制や支配に対し集団として経済の安全を保障する。QUAD各国はこのような構想の中核を担うことができ、ASEAN、欧州、その他の地域から協力者が分野ごとに参加することもできる。
(7) インド太平洋地域の不安定化は、隣接するインド・地中海地域や北極圏に深刻な直接的影響を及ぼし、世界経済に大きな打撃を与えることから、日米両国はインド太平洋地域、インド地中海地域、そして北極圏とバルト海地域からなる自由北方地域間の経済と安全保障の連携を強化するために、たゆまぬ努力をすることが求められる。これらの自由で開かれた空間相互の連携は、3つの戦域すべてを強靭化すると同時に、共有空間における中国・ロシア・イラン・北朝鮮の悪意ある動きを抑制するものである。
(8) Trump大統領と石破首相は、自由で開かれたインド太平洋を定着させる歴史的な機会を手にしている。安倍元首相は、自由で開かれたインド太平洋の展望を明確にした。Trump大統領は、米国の力と権威を全面的に発揮した。Biden前大統領は、インド太平洋の優位性を維持した。今、Trump大統領は石破首相とともに、米国とこの地域を今後何年にもわたって偉大なものにしていく制度的枠組みを通じて、自由で開かれたインド太平洋を鉄のように強固なものにしなければならない。
記事参照:Together, The U.S. And Japan Can Preserve A Free And Open Indo-Pacific

2月7日「米国とその同盟国には、東アジアにおける二正面戦争と核攻撃を抑止する準備が必要―米専門家論説」(Atlantic Council, February 7, 2025)

 2月7日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、Atlantic CouncilのScowcroft Center for Strategy and Securityインド太平洋安全保障戦略部門責任者Markus Garlauskasの“Toplines: The United States and its allies must be ready to deter a two-front war and nuclear attacks in East Asia”と題する論説を掲載し、ここでMarkus Garlauskasは米国が同盟国および提携国と協調し、東アジアにおける潜在的な紛争に備え、戦い、勝利するための努力を拡大すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 東アジアの地理は、米国が中国または北朝鮮と衝突する可能性とその影響を高める潜在的な変数として重要である。特に、近代的なセンサーの探知可能距離や兵器システムの射程が延伸していることを考えると、その傾向は顕著である。
(2) 中国、または北朝鮮との紛争の危険性、特に両国が同時に事態を拡大させる可能性は、米国にとって深刻な脅威である。この脅威は、いずれかの敵対国が限定的な核攻撃に訴える可能性によってさらに高まる。事実、中国と北朝鮮の両国が限定的な核攻撃に対する動機と能力を増大させているため、東アジアにおける核戦争の危険性は高まっている。米国および同盟国の能力、指揮統制(以下、C2と言う)の関係、軍事態勢は、現在、このような情勢を防ぐには適していない。また、東アジアで2つの敵対勢力との戦争や限定的な核戦争が起こった場合に、強固な軍事的対応を行うのにも適していない。両方の敵対勢力との同時対立は、米国および同盟国に作戦上および戦略上の深刻な課題を突きつけ、核兵器の使用を余儀なくさせることになるだろう。
(3) 東アジアにおける米国と敵対する勢力との紛争が早期に終結しない場合、その紛争は拡大する可能性が高い。これに備えて、米国およびその同盟国は以下の方策を採るべきである。
a. 米国およびその同盟国は、中国または北朝鮮による侵略計画を、インド太平洋地域における作戦行動の開始と位置付けるべきである。
b. 米国と韓国は、北朝鮮の侵略に対して、中国の侵略の抑止も含め、韓国を守るという優先事項に焦点を移すべきである。
c. 米国政府および非政府機関は、台湾を巡る米中間の紛争が朝鮮半島にまで拡大する可能性のある状況や要因に関する研究、軍事演習を支援すべきである。
d. 米国の防衛に関わる各組織は、北朝鮮の限定的な核兵器の使用能力と潜在的可能性の兆候、および中国が同様の道を歩み始める可能性の兆候を追跡し、特定することを目的として、米国情報組織および外部の分析機関による分析と研究を指導し、支援すべきである。
e. 米国は同盟国と協力し、米国とその同盟国は限定的核攻撃によって同盟が分断されることはないことを強調し、強化すべきである。
f. U.S. Armed Forcesの計画立案者は、米国の同盟国および提携国と協調し、限定的な核攻撃を受けた場合でも戦い、勝利する準備を確実に整えるための取り組みを拡大し、この準備態勢を敵対国および同盟国に明確に伝えるべきである。
g. 米国は、中国または北朝鮮による限定的な核攻撃への対応、危険性の軽減、および抑止のための選択肢を模索し、準備するための国際的な省庁間協力を主導すべきである。
h. 米国およびインド太平洋地域の同盟国は、東アジアにおける二正面作戦または限定的核戦争を戦う態勢にはない。中国のそうした能力と戦力は増大しており、近隣地域において米国および同盟国と複数の戦線で同時に戦う態勢を整えるべきである。
i. 米国は、北朝鮮、中国、核の脅威の進化という状況を踏まえ、東アジアにおけるC2関係と態勢について包括的な再評価を行い、北朝鮮と中国との同時紛争が発生した場合に適切なC2関係を特定するとともに、必要に応じて地域レベルでの戦術核による対応に最適なC2および戦力態勢を特定すべきである。
j. 米国の防衛および軍事計画立案者は、核兵器を使用しない選択肢に加えて、限定的な核攻撃に対する自国の限定的な核攻撃のための効果的、迅速、かつ信頼性の高い選択肢を確保すべきである。
k. 米国の防衛に関わる各組織は、米国の主要な同盟国および提携国、特に韓国、日本、台湾が、中国および北朝鮮との紛争に備えるのを運用面・知的面で支援するために、関連する専門家の前方展開を増やすべきである。
l. 関連するU.S. Armed Forcesの司令部は、一般的な紛争抑止だけでなく、紛争内での抑止にさらなる重点的を置くべきである。
m. 米国およびその同盟国は、オーストラリア、カナダ、英国などによる航空機や海上哨戒機の多国間での輪番制による貢献、および国際的な取り組みを強化し、北朝鮮と中国の侵略抑止に貢献するための演習への関与を求めるべきである。
n. 米国政府は、米国の抑止戦略の一環として、特に限定的核攻撃といった事態拡大行動の実行を遅らせたり、阻止したりするために、中国および北朝鮮国内における抑止策の研究、開発、実施を追求すべきである。
o. 米国および同盟国の分析官は、中国および北朝鮮との同時紛争の可能性と潜在的な兆候、および中国または北朝鮮による限定的核攻撃についての新たな評価を策定すべきである。
p. 米国および同盟国の指導者は、中国および北朝鮮との同時紛争、およびいずれかによる限定的な核攻撃の危険性が、軍事計画および演習において、考慮および対処すべき重要な意味を持つという指針を確立すべきである。
q. 米国および同盟国の軍は、さまざまな軍司令部を横断する作業部会を設置し、同時多発紛争および限定的核攻撃への備えに取り組むべきである。
r.米国の政策立案者および分析者は、同盟国が同時多発紛争および敵対国の限定的核攻撃の可能性を考慮するよう、演習の想定や対話の議題にこれらを含めることで主導していくべきである。
記事参照:Toplines: The United States and its allies must be ready to deter a two-front war and nuclear attacks in East Asia

2月10日「インド太平洋の最前線:ロシアの脅威に日本と韓国が対応―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, February 10, 2025)

 2月10日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、Observer Research FoundationのStrategic Studies Programme and the Centre for New Economic Diplomacyインド太平洋地域担当研究員Pratnashree Basuと同FoundationのStrategic Studies Programme研究助手Abhishek Sharma の“The Indo-Pacific frontline: Japan and South Korea respond to Russian threats”と題する論説を掲載し、ここで両名は今後4年間のTrump第2期政権の期間中、ロシアは軍事、経済、外交の組み合わせを通じて北東アジアで日米韓に挑戦してくる可能性が高く、Trump大統領は日韓に防衛費の増額を迫る一方で、U.S. Navyのさらなる配備や共同演習の強化などによってこの地域のU.S. Armed Forcesの展開を強化する可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアが日本と韓国を仮想敵としているという報道は、この地域での軍事態勢と軍事支出を強化する可能性が高い。2024年12月31日付の英フィナンシャルタイムズ紙の記事によると、Вооруженные силы Российской Федерации(以下、ロシア軍と言う)は2008年から2014年の間の機密文書において想定される紛争における日本と韓国に対する攻撃目標として160ヵ所の一覧表を作成していた。この計画は、NATOとの戦争が東アジアに拡大するというロシアの想定とその対応計画として作成されたものである。標的の一覧表には、司令部、空軍基地、海軍施設、レーダー施設など82の軍事施設が含まれている。机上演習が世界中の軍隊によって行われる日常的な演習となっているが、このロシアの標的一覧表は、想定される作戦の広範な規模と範囲、日本と韓国の実際の標的の正確な詳細と場所という重要な2要素によって際立ったものになっている。
(2) 日本については、北海道の奥尻島にある航空自衛隊レーダー基地が攻撃対象となり、建物や基幹施設の詳細な測定が行われていた。民間の標的では、関門トンネルや茨城県東海村の原子力発電所などがある。この漏洩したロシア軍の文書は古いものではあるが、ロシアの現在の戦略にも関連していると考えられている。この文書には、原子力発電所を含む日本の重要基幹施設を標的とする計画が詳細に記されており、日本がインド太平洋で直面している不安定な安全保障環境が浮き彫りになっている。漏洩した攻撃目標一覧表が軍事施設だけでなく民間基幹施設も対象としているため、日本がロシアを安全保障上の脅威として認識する度合いを強める可能性が高い。日本は国家安全保障戦略の下で大幅な防衛改革を進めており、近年では過去最高の防衛予算が配分されている。原子力発電所とエネルギー関連基幹施設がロシアの標的一覧表に含まれていることは、これらの施設を防護するための措置に改めて焦点を当てる必要がある。日本が長距離巡航ミサイルを含む反撃能力を獲得したことは、日本の戦略的な転換を反映しており、潜在的な侵略に対応する準備ができつつあることを示している。さらに、ロシアがKh-101巡航ミサイルを使用する計画があることを考えると、イージス・アショアのような先進的なミサイル防衛システムへの注目が再び集まる可能性もある。
(3) ロシアが日本の民間の基幹施設を標的にしていることは、日米安全保障同盟における日本の役割を強化することにもなる。この地域における米軍の前方展開は、日米間の防衛協力の深化を示している。さらに、特にこの文書が日韓に対するロシアの戦略が重複していることを示しているため、日本は、長い道のりではあるが、日米韓の3ヵ国協力の強化を推し進める可能性がある。日本と韓国は最近、ロシアと中国がもたらす共通の脅威を認識し、関係の修復を始めている。千島列島をめぐる未解決の領土紛争は、ロシアが領土主権の防衛として攻勢を組み立てる潜在的な理由である。日本の重要基幹施設と高度な軍事能力は、ロシアにとって米国の同盟と地域の安定を崩壊させる戦略的標的となっている。また、この標的一覧表は、西側諸国との孤立が深まる中、ロシアがインド太平洋地域に戦略的焦点を移していることにも注目を呼び起こしている。一覧表は陳腐化しているが、世界的に不安定な地政学的状況を考えると、日本政府はこの複合的な脅威環境への備えを強化する必要がある。
(4) 韓国については、標的一覧表は戦略的に重要な軍民の施設を網羅しており、橋梁、指揮統制所、軍の司令部と基地、釜山に拠点を置く浦項製鉄所などの重要な工業用地が含まれている。しかし、この漏洩文書は、国内で進行中の政治的混乱のために日本のような政治的反応は引き起こさなかった。ロシアと北朝鮮との軍事的・経済的関係が特に2024年6月に包括的パートナーシップ条約が調印されてから拡大していることが、ロシアとの2国間関係において韓国を苛立たせている。韓国のロシアに対する主要な懸念は、実際的な脅威という感覚ではなく、北朝鮮とロシアとの軍事的関係の深化にある。そのため、韓国は同盟国である米国や日本とより緊密な関係を築くことになった。近年、日米両国とのパートナーシップは、2国間、3国間機構を通じて体系的に進展している。さらに、韓国はロシアの脅威を考慮して、NATOやポーランドあるいはウクライナなどの東欧諸国との協力関係も強めている。しかし、日本とは異なり、ロシアの脅威について韓国の政界では大きな反響はない。それは、ロシアと中国が脅威であるという認識に関して、韓国の与野党間で統一した認識がないためである。ロシアが韓国の深刻な国家安全保障上の脅威であるという認識が異なるため、同盟国間の協力の範囲は伝統的に限られてきた。このような情報は、韓国国内の多くの人々を動揺させているにもかかわらず、差し迫った脅威の一覧表の中では優先度が低い。
(5) 結論として、今後4年間、Trump大統領の2期目の政権の期間中、北東アジアにおけるロシアの挑戦は、軍事的姿勢、経済的影響力、外交的圧力の組み合わせを通じて行われる可能性が高い。Trump大統領は負担分担を強調して、日本と韓国に防衛費の増額や独立した軍事能力の開発を迫る一方で、U.S. Navyの配備や共同演習の強化などこの地域におけるU.S. Armed Forcesの展開を強化する可能性がある。Trump大統領は歴史的にロシアとの関係改善を求めてきたが、Trump大統領はどのような交渉であっても米国の利益に有益な譲歩を引き出すことに焦点を当てる可能性が高い。しかし、米国、韓国、日本のロシアに対する脅威認識の違いは、論争の種や協力関係の妨げになる可能性もある。
記事参照:The Indo-Pacific frontline: Japan and South Korea respond to Russian threats

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Beyond the Nuclear Balance: A Strategic Forces Net Assessment
https://www.hudson.org/defense-strategy/beyond-nuclear-balance-strategic-forces-net-assessment-andrew-krepinevich
Hudson Institute, February 5, 2025
By Dr. Andrew F. Krepinevich Jr. is a senior fellow at Hudson Institute, an adjunct senior fellow at the Center for a New American Securit.
 2025年2月5日、米保守系シンクタンクHudson Instituteの上席研究員などを務めるAndrew F. Krepinevich Jr.は、同Instituteのウエブサイトに“Beyond the Nuclear Balance: A Strategic Forces Net Assessment”と題する論説を寄稿した。その中でAndrew F. Krepinevich Jr.は、米ロ2ヵ国は依然として世界の核兵器の大半を保有しているが、中国が急速に戦略兵器を拡充しており、2030年代には米ロと同等の核戦力を持つ可能性が高いとの見通しを示した上で、米国の戦略兵器の目的は、核戦争の抑止だけでなく、有事の際の優位性確保、同盟国への拡大抑止の提供、核拡散の防止にあるが、現在の抑止態勢では米中ロの3極構造への対応が十分ではなく、特に、中国は大陸間弾道ミサイル(ICBM)を増強し、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)の配備を進めるなど、第一列島線を超えた影響力を確立しようとしており、ロシアとの協力関係を強化する動きを見せていると述べている。そしてAndrew F. Krepinevich Jr.は、このような状況の中で、米国の戦略的抑止力が低下し、同盟国の信頼が損なわれる危険性が指摘されているが、台湾有事やNATO防衛をめぐる危機において中ロが核を背景とした強圧外交を展開する可能性が高まっているため、戦略戦力の再構築が必要とされると述べた上で、中ロも米国のサイバー優位を脅威と見なし、対抗措置として独自の戦略を確立しつつあるため、米国は核戦力の近代化、戦略的柔軟性の向上、産業基盤の強化、同盟国との連携強化を図る必要があるが、特に中国の軍備拡張を見据えた長期的な対応が求められると結論づけている。
 
(2) Why Did the PRC Restrict 1000 Kilometers of Airspace in the Pacific?
https://globaltaiwan.org/2025/02/why-did-the-prc-restrict-1000-kilometers-of-airspace-in-the-pacific/
Global Taiwan Institute, February 5, 2025
By Ben Sando is a research fellow at the Global Taiwan Institute. 
 2025年2月5日、米シンクタンクGlobal Taiwan Instituteの調査研究員Ben Sandoは、同Instituteのウエブサイトに“Why Did the PRC Restrict 1000 Kilometers of Airspace in the Pacific?”と題する論説を寄稿した。その中でBen Sandoは、中国は2024年12月の軍事演習に先立ち、上海から広東省にかけて約1,000kmに及ぶ空域の制限を発表したが、この措置は、台湾防衛の提携国である米国や日本の軍事活動を妨げる「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略の一環と見なされているとした上で、今回の空域制限は、人民解放軍ではなく、上海の航空管制当局が発行したNOTAM(航空航行情報)によって実施されているが、本来FIR(飛行情報区)は領空とは異なり、航空交通の管理を目的とするが、中国はこれを領空のように扱おうとする試みを続けているとして過去の事例を示すなどしている。そしてBen Sandoは、このような措置は中国の「サラミスライス戦略」の一環であり、国際的な航空規範の既成事実化を狙うものであると指摘し、FIRは本来、主権空域とは異なるが、中国はこれを自国の支配下にあるかのように振る舞い、外国軍用機の飛行を制限する意図を示しているが、これに対し米国は、中国の空域制限を認めることなく、将来の制限区域内を軍用機で飛行し、その正当性を否定すべきであると主張している。
 
(3) In the Shadow of the Minsk Agreements: Lessons for a Potential Ukraine-Russia Armistice
https://carnegieendowment.org/research/2025/02/ukraine-russia-ceasefire-security-agreement?lang=en
Carnegie Endowment for International Peace, February 10, 2025
By Mykhailo Soldatenko, an attorney in Ukraine and New York
 2025年2月5日、ウクライナとニューヨークの弁護士資格を持つMykhailo Soldatenkoは、米超党派シンクタンクCarnegie Endowment for International Peaceのウエブサイトに“In the Shadow of the Minsk Agreements: Lessons for a Potential Ukraine-Russia Armistice”と題する論説を寄稿した。その中でMykhailo Soldatenkoは、ロシアによる全面侵攻から3年が経過し、決定的な軍事的勝利を得られないまま膠着状態が続く中、米国のTrump大統領は戦争終結に向けた交渉を推進する意向を示し、ウクライナ側も交渉の可能性を探る姿勢を見せているが、ミンスク合意は、欧州安全保障機構(OSCE)による停戦監視や重火器の撤収、外国軍の撤退を規定していたが、遵守を強制する仕組みが欠如していたため不十分であったとした上で、停戦が持続可能なものとなるにはウクライナが確固たる安全保障を確保する必要があり、NATO加盟国やG7との集団防衛協定、米英仏による2国間防衛協定といった選択肢が考えられるが、停戦が持続するためには、朝鮮戦争の休戦協定に類似した非武装地帯(DMZ)の設定や、国連あるいは欧州主導の平和維持部隊の導入が必要だと述べられている。そしてMykhailo Soldatenkoは、ミンスク合意の教訓から、ウクライナと西側諸国は、拙速な停戦合意ではなく、持続可能で戦略的利益を確保できる枠組みを構築すべきであり、交渉が進められる中で、ウクライナが軍事的な交渉力を維持し、ロシアにさらなる圧力をかけることが不可欠となると述べ、停戦合意が単なる一時的な休戦に留まらず、恒久的な安全保障をもたらすものとなるかどうかは、今後の交渉と西側諸国の関与にかかっていると結論づけている。

(4) Warship Weapons for Merchant Ship Platforms
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2025/february/warship-weapons-merchant-ship-platforms
Proceedings, USNI, February, 2025
By Colonel T. X. Hammes, U.S. Marine Corps (Retired)
Captain R. Robinson Harris, U.S. Navy (Retired)
 2025年2月、U.S. Marine CorpsのT. X. Hammes退役大佐とU.S. NavyのR. Robinson Harris退役大佐は、The U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトに、“Warship Weapons for Merchant Ship Platforms”と題する論説を寄稿した。その中で、①過去5年間で、革新者たちは海軍の艦艇数を増やす呼びかけに応え、商船にコンテナ化されたミサイルを搭載する取り組みを進めてきた。②一方で、米国の政治家、軍指導者、専門家は、海軍に必要な駆逐艦、巡洋艦、フリゲートなどの数を過度に重視し続けているが、海軍自身は380隻以上の艦隊目標を短期間で達成できないことを認めている。③仮に海軍が望む380隻の艦隊を確保できたとしても、中国軍の対艦ミサイルの射程内でミサイル戦に勝つために前方展開する艦艇は十分でない。④それどころか、中国のミサイルの射程外に留まれば、米水上部隊はほぼ無力となり、同盟国はU.S. Navyの支援なしで戦わざるを得なくなる。⑤艦艇の数は誤った指標であり、大国間の対立においては、海軍がどれほどの兵器を戦場に投入できるかが重要である。⑥中国の大規模な商船隊と漁船は、中国海軍に事実上無制限の発射母体を提供する可能性があるため、米国と地域の提携国が協力することが重要となる。⑦U.S. Navyは空母とその航空団の総コストの約4分の1で、約40隻のミサイル商船を取得できる。⑧人員面での大幅な節約も可能であり、ミサイル商船1隻あたりの必要な乗組員は約45名で済む。⑨ミサイル商船の取得には、若手士官に指揮の機会を与えるという利点がある。⑩持続的な通信が確保されれば、兵器の長射程を活かし、海軍の分散海上作戦(Distributed Maritime Operations、DMO)構想を支援することになる。⑪適切な試験と開発を事前に実施していれば、紛争中、稼働していないコンテナ船を即座に動員できる。⑫改造された商船は、安価で耐久性が高く、相互運用性が高いため、戦闘において最も容易に補充・更新できるシステムとなる可能性があるといった主張を述べている。