海洋安全保障情報旬報 2025年3月11日-3月20日

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3月11日「『米国後回し』主義がいかに米国の利益となってきたか―米政治学教授論説」(Think China, March 11, 2025)

 3月11日付のシンガポールの中国問題英字オンライン誌Think Chinaは、米Wesleyan University教授Giulio M. Gallarottiの“How ‘America Last’ built power — and ‘America First’ could destroy it”と題する論説を掲載し、そこでGiulio M. Gallarottiは第2次世界大戦以後の「米国後回し」主義と呼ばれる米国の姿勢が、いかに米国の発展を支えてきたか、それに対してTrump大統領の「米国第一」主義がいかにそれを破壊し、米国の利益を損なう可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 3月4日の議会演説で、Trump大統領は米国を世界の諸問題における新たな方向に導く決意を表明した。それは、第2次世界大戦以降の米国の対外政策を方向づけてきた、筆者が「米国を後回しに(America Last)」と呼ぶ、主導的な指導者としての米国の地位を破壊するものである。
(2) Trump大統領はBush時代の新保守主義的考え方を強固に抱いている。Trump大統領は帝国主義的戦略を設定し、パナマ運河の「奪還」、グリーランドの獲得、カナダの併合、ウクライナからの資源獲得を訴えてきた。そして重商主義的な政策のもと、敵にも味方にも経済戦争を仕掛けている。移民を排除し、海外援助を停止している。さまざまな協定を破棄し、米国の国家を越えた存在感を消そうとしている。
(3) 「米国第一」は自らを国際社会において労せず利益を得る地位に位置づけるもので、これまでの戦後秩序からの急展開である。米国は第2次世界大戦以後、自由主義的で民主的な安定した世界秩序を構築するため、自らを「後回し」してきた。つまり、自らにただ乗りすることを許してきたのである。米国は戦争で荒廃した先進国を再建し、第三世界の民主的発展を促進してきた。諸外国の高い関税障壁を認め、外国の産業発展を促した。強力な同盟網を構築し、核の傘の下で安全保障共同体を形成した。
(4) Trump旋風は、ハードパワーでもソフトパワーでも、米国に重大な損失を与え、米国の影響力を失わせる恐れがある。ソフトパワーの面では、同盟国や友好国から得てきた好意が失われるであろう。諸外国の協力なしに自国の利益を守れるほど、米国は強力ではない。米国のソフトパワーに基づく諸外国の協力により、米国はさまざまな利益を得てきたのである。国家を越えた立場を放棄した米国は、今後国際システムの発展に対する影響力の輪の外に置かれることになるだろう。
(5) Trump大統領は脅しによって目標を達成できると考えているが、歴史を見れば、そうした抑圧が持続することはないことがわかる。「米国第一」は米国の利益を損ない、米国を大いに弱体化させるであろう。「米国後回し」主義は、逆に、自由資本主義のシステムを世界に広め、その世界において米国は多くの恩恵を受けてきたのである。Trump大統領の米国第一主義はその土台を破壊する可能性がある。
記事参照:How ‘America Last’ built power — and ‘America First’ could destroy it

3月11日「中国海軍の行動に対応する抗堪性のあるオーストラリア社会の構築―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, March 11, 2025)

 3月11日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Australian National Universityの National Security College上席政策顧問David Andrewsの“Societal resilience is the best answer to Chinese warships”と題する論説を掲載し、David Andrewsはオーストラリアの国民や社会がその近海で行動する中国海軍の艦艇に過剰な反応を示すべきではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリア政府は、自然災害、経済的強制または敵対的な軍事力に対抗するために、長年にわたり国家の抗堪性の強化を優先課題としてきた。しかし、過去2週間にわたってタスマン海に中国海軍の艦艇が出現したことに対する世論とメディアの反応は、オーストラリア社会の抗堪性をさらに強化しなければならないことを示している。政治指導者や政府高官は繰り返し「オーストラリアは第2次世界大戦以来最も複雑かつ困難な戦略環境に直面している」と強調してきた。しかし最近の論評は、オーストラリア社会がこうした状況に対する精神的な適応がまだ不十分であることを示している。国民は、中国の軍事的な示威行動や挑発あるいは威嚇の試みに注意を払うべきであるが、過剰に反応するべきではない。
(2) 挑発に乗って反応することは、中国以外の艦艇が中国近海で合法的に活動した際に、中国政府が過剰反応する常套手段に正当性を与えるだけである。さらに、オーストラリア社会、特に有権者が中国艦艇のオーストラリアのEEZ内において航行する行為自体を脅威とみなすならば、政府の対応の選択肢の範囲は制約されることになる。閣僚は、本来あるべき以上に厳しい姿勢とオーストラリアの長期的な国益に資さない対応を迫られる恐れがある。無論、中国による露骨に攻撃的な行為は正当化されるものではない。
(3) 冷戦時代の経験に照らせば、NATOの海軍艦艇は、北大西洋、地中海、インド洋においてソ連艦艇の行動を監視し、情報収集のために日常的に追尾していた。同様に、2023年に実際に生起した事象であるが、米豪主催のタリスマン・セイバー演習のような大規模演習の近傍において中国の情報収集艦が行動することを当然のこととして受け入れるべきである。今日の広範な戦略的対立の時代において、こうした行動が日常的なものになると予期し、国民への適切な周知と教育に努めるべきである。
(4) これらの出来事が偶然か、それとも分断を煽る試みかは不明であるが、もたらす政治的効果は、5月に予定されている連邦選挙を前にすれば、間違いなく刺激的だろう。しかし、今後数十年にわたって頻繁に繰り返される状況から政争上の利得を追求するのは、近視眼的な姿勢である。そのような態度は、政権交代時に反対勢力が同様の行動を採ることを単に助長するに過ぎない。むしろ優先すべきは、複雑かつ対峙を伴う状況に対応できる、より抗堪性のある社会を築くことである。その一環として、社会がより正確な情報に基づいて行動し、プロパガンダや誤情報、偽情報に幻惑され難くすることが重要であり、それは専門的な規範に欠けている場合であっても、日常的な海軍の行動に過剰反応することによっては何も成されない。
(5) 言説を超えて、抗堪性構築の重要な側面は、Ausralian Defence Forceがそのような状況に対応できる能力を適切に備えるようにすることである。これにより、国民は自国の軍隊が必要に応じて監視・対応できるという安心感を得ることができる。他の論者が指摘するように、Royal Australian Navyの能力不足は解消されなければならない。中国は、海洋での手段を用いて東南アジアの隣国を威嚇し、不安定化させ、強制する術に長けている。
(6) 抗堪性のある社会と政治機構とは、いつ厳しい対応を取り、いつ慎重に備えるかを理解しているものである。
記事参照:Societal resilience is the best answer to Chinese warships

3月12日「クラ運河は東南アジア海運の実現不可能な夢か―ポルトガル専門家論説」(Geopolitical Monitor, March 12, 2025)

 3月12日付のカナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトは、古典的地政学、戦略等を専門するポルトガルのPaulo Aguiarの“Kra Canal: The Impossible Dream of Southeast Asia Shipping”と題する論説を掲載し、ここでPaulo Aguiarはマレー半島の最狭部に運河を建設するという発想がまだ実現していないが、中国が一帯一路構想の一環としてこの構想を復活させることに関心を寄せており、運河の実現可能性と地政学的な影響をめぐる議論は依然として続いているとして、要旨以下のように述べている。
(1) マレー半島の最狭部にクラ運河を建設するという発想は、アンダマン海とタイ湾の間の代替ルートとして海運に革命をもたらし、地域の地政学を再形成する可能性があるため、数世紀にわたって議論に上っていた。この発想は実現していないが、特に東南アジアでの中国の影響力の拡大と一帯一路構想を考慮すると、その影響は戦略的である。今のところ、タイは別の道を選んだが、クラ運河の実現可能性と地政学的な影響をめぐる議論は依然として続いている。
(2) クラ運河の概念は、1677年にタイのNarai王がフランス人技師のDe Lamarにクラ地峡の運河の調査を依頼したことに遡る。シンガポールとマラッカ海峡を通る主要な海上貿易路を支配していた英国は、この運河がシンガポールの戦略的重要性を弱め、地域貿易における英国の支配を脅かすことを恐れていた。一方、フランスはインドシナでの存在感を強化することを熱望しており、この地域でより強力な足場を確立し、英国の影響力に対抗する方法とクラ運河を見なしていた。しかし、シャム政府は外国の介入と領土紛争を警戒し、英国とフランスの両方の関与に抵抗した。シャムは、主権を維持しながら欧州列強との外交関係を慎重に均衡させることで、この期間、運河の建設を防ぐことができた。
(3) クラ運河は、1972年に米企業Tippetts-Abbett-McCarthy-Strattonがサトゥーンとソンクラーを結ぶ長さ102kmの運河を提案した時に、新たな関心を集めた。この提案は、マラッカ海峡の混雑を緩和し、インド洋と南シナ海の間のより直接的な航路を提供するための代替航路の必要性によって推進された。この計画には、当時の高度な工学技術が含まれ、大型の貨物船や石油タンカーが航行できる喫水の深い運河を構想していた。しかし、56億ドルの費用と10年から12年の建設期間が予測されたため、タイ政府は最終的にこの計画を拒否した。懸念として、巨額の財政負担、環境への影響、特に外国の影響と国内の安全保障上の課題に起因する地域の不安定化の危険性があった。最近、中国は一帯一路構想の主要要素である「海のシルクロード」構想の一環として、このプロジェクトを復活させることに関心を寄せている。2015年、中国とタイの民間企業の間で覚書が締結され、運河の実現可能性を探り、貿易路を再形成し、マラッカ海峡への依存を減らす可能性が強調された。しかし、両国政府はおそらく政治的な敏感さと、シンガポールやインドなどの地域の行為者からの反対により、合意から距離を置くようになった。運河は予備的な議論を超えて進むことはなかった。2025年現在、タイは代わりに、タイ湾とアンダマン海の間の貨物移動を容易にするために設計された陸上輸送回廊である280億ドルのランドブリッジ計画を優先することを選択した。
(4) 建設されれば、クラ運河はマラッカ海峡の戦略的な代替手段となり、輸送距離を約1,200海里短縮することになる。この近道は、燃料費を節約し、輸送時間を短縮し、現在、年間約94,000隻の船舶が航行しているマラッカ海峡の混雑を緩和できる。世界貿易が拡大し続ける中、特にエネルギーやコンテナ輸送の分野では、効率的で安全な海上輸送路に対する需要が高まっている。運河は、ボトルネックを減らし、単一の貿易路に過度に依存する懸念を軽減できる。世界最大の貿易国である中国は、エネルギーの輸入と貿易におけるマラッカ海峡への依存を減らすことで、大きな利益を得る立場にある。現在、中国の石油輸入の約80%がマラッカ海峡を通過しており、地政学的な緊張の時代には重大な脆弱性となっている。
(5) 中国は、クラ運河によって「マラッカのジレンマ」と呼ばれる中国の海上輸送の脆弱性に対処できることになる。中国が支配するクラ運河は、中国のサプライチェーンと海洋安全保障に対する支配を強化する一方で、この地域における地政学的な影響力を高める。特に、クラ運河により、中国はインド洋でより強力な海軍力の展開を確立することができ、中国海軍は作戦の柔軟性を高め、重要な海上交通路を保護する能力を向上させることができる。米国とその同盟国、特にシンガポールとインドはこれらの地政学的な考慮のために運河の建設に反対している。中国が支配するクラ運河は、海運のハブとしてのシンガポールの重要性を低下させる可能性がある。インドは、インド洋における中国の影響力の増大に対する懸念を高めており、クラ運河を中国の勢力圏を強化する戦略的資産と見なしている。米国は、対抗措置として中国に戦略的権益に直接利益をもたらすことのない、タイのランドブリッジ計画を支援している。高速道路、鉄道網、喫水の深い港で構成されるランドブリッジ計画は、地域の勢力の均衡を維持しながら、海運によらない貿易代替手段を提供する。
(6) タイにとって、クラ運河は機会と課題の両方を提供する。経済的には、国を主要な物流ハブに変えることができ、通過料、港湾サービス、関連産業からかなりの収入を生み出すことができる。長期的な経済的利益は、タイが海運業における地域の大国としての地位を強化するのに役立つ可能性がある。しかし、安定性の観点から見ると、クラ運河はタイを地理的に分断する恐れがある。タイは、南部の州での分離主義者の緊張に長い間苦しんでおり、国を物理的に分断する運河は、これらの内部分裂を悪化させる可能性がある。また、運河構想に対する外国の支配や多額の外国投資についても懸念があり、特に中国がその資金調達と建設において支配的な役割を果たす場合にはなおさらである。このような関与は主権をめぐる懸念を引き起こし、クラ運河はこの地域における中国の影響力の延長線上に入る可能性がある。さらに、このクラ運河構想は、特に経済的損失の恐れから一貫して開発に反対してきたシンガポールとマレーシアの既存の海洋経済を混乱させるであろう。このような経済的・政治的な複雑さを考えると、タイは選択肢を慎重に検討しなければならない。
(7) クラ運河には多くの経済的、環境的、安全保障上の懸念が伴う。最新の推定建設費は 300億ドルに膨れ上がり、財政的な実現可能性が大きな障壁となっている。初期投資だけでなく、維持経費や土砂の堆積による継続的な浚渫が必要なことが、長期的な支出に加わる。さらに、国際的な資金調達を確保することは、特に運河の地政学的な影響と地域大国からの潜在的な反対を考慮すると、困難になる可能性がある。環境への影響も大きな懸念事項である。この規模の運河を建設するには大規模な掘削が必要であり、海洋生物や陸生生物の生息地が破壊される。原油流出、船舶交通量の増加、地元漁業の混乱などは、生態系に永続的な影響を与える可能性がある。さらに、アンダマン海とタイ湾の間の水の流れが変化すると、海流、塩分濃度、さらには地域の気象の基本的な形に影響を与える可能性がある。これらの課題のため、タイ政府は依然として慎重であり、代わりに港湾拡張と代替基幹施設計画を優先することを選択している。レムチャバン港とマプタプット港の近代化は、クラ運河に関連する危険性を伴うことなくタイの海上物流を改善することを目的としている。さらに、ランドブリッジ構想は、タイ湾とアンダマン海の間の貨物移動を促進しつつ、国家の統一を維持し、地政学的な緊張を最小限に抑えるための実行可能な代替手段となるであろう。
記事参照:Kra Canal: The Impossible Dream of Southeast Asia Shipping

3月14日「Trump第2期政権、同盟諸国を犠牲にした世界的な戦略的再秩序化を目指すのか―フィリピン専門家論説」(China US Focus, February 14, 2025)

 3月14日付の香港のChina -United States Exchange Foundation のウエブサイトChina US Focusは、University of the Philippinesの地政学専門家Richard J. Heydarianの“Brave New World Disorder: Asian Allies Fear Trump Abandonment”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは2月28日のホワイトハウスにおけるウクライナのZelensky大統領との首脳会談で、Trump大統領がメディアの前でZelensky大統領を公然と非難した光景は、欧州とアジアの同盟諸国間に米国の戦略的信頼性に対する疑念とTrump第2期政権下での世界秩序の変化の可能性についての懸念を引き起こしているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月28日のホワイトハウスでの衝撃的な光景は、欧州のみならず、アジアの最前線の同盟諸国も動揺させた。フィリピンのRomualdez駐米大使は、米国の対ウクライナ支援の突然の終了に言及し、フィリピンも「そうした事態に備えておかなければならない」と警告し、「将来的には(米国の)大統領は交代することになるが、結局のところ、今現在、各国は自国の防衛と経済安全保障を強化する準備ができていなければならない」と強調している。韓国からポーランドに至るまで、米国の主要な同盟諸国は、抑止力と自衛のための核兵器取得の可能性について公然と論議している。米国の全ての同盟諸国間では、Trump第2期政権が、Trump大統領の戦術的、気質的な予測不可能性を別にしても、実際に国際秩序にさらなる劇的な変化をもたらす可能性があるという認識が広がっている。
(2) 楽観的なTrump支持者は、Trump大統領が新たに世界的な戦略的再編成を目指してロシアを中国から引き離すという、「逆ニクソン戦略(a ‘Reverse Nixon’ strategy)」*を追求していないとは言い切れないが、欧州の同盟諸国とのより効果的な負担分担を通じて合理的な戦略的縮小に着手していると強調することが多い。ロシアの大統領がワシントン・テヘラン間の新たな核合意の破棄と複数の修正主義勢力との和解を提示するかもしれない状況下で、一部の観測筋は、中国を完全に孤立させ得るとのTrump流の大戦略さえ思い描いている。しかしながら、多くの専門家はロシア、イランそして中国のユーラシア3ヵ国間の戦略的結びつきが相対的に強固であることに加えて、これら3ヵ国の米国に対する根深い不信感を考えれば、こうした状況には依然懐疑的である。しかも、Trump政権には、こうした繊細かつ複雑な戦略政策を遂行し得るHenry Kissingerに相当する人物もいない。
(3) より可能性が高い構図は、世界の主要国が相互に他の勢力圏を尊重し合う新しい戦略的共同統治方式の設立といった、世界的な戦略的再秩序化であろう。この状況は、一方では「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」を信奉する共和党員と他方では中国やロシアなどの反リベラルな民族主義的指導者との間における、イデオロギー的な親和感が強まりつつあることを考えれば、もっともらしく思われる。Fareed Zakaria などの批評家は、Trump大統領の潜在的な世界再秩序化の構想を、19世紀初頭のプロイセン、ロシアおよびオーストリア・ハンガリーの保守的な3君主間の「神聖同盟」の形成に擬えている。さらに、鉄面皮な拡張主義者であった19世紀初頭のJackson元大統領から20世紀初頭のMcKinley元大統領に対するTrump大統領の深い賞賛は、西半球における米国覇権の再構築に対するTrump大統領の公然たる執着を表徴しているのかもしれない。
(4) 最終的には、取引重視のTrump大統領は、ロシアのみならず、世界第2位の経済大国中国)との一括交渉を目指しているのかもしれない。忘れてはならないのは、中国との紛争生起時における台湾防衛については、Trump大統領が繰り返し、あいまいな表現に留めていながら、一方では、南アジア・東南アジア担当Byers国防次官補代理などのU.S. Department of Defense高官が、南シナ海での緊張緩和と引き換えに、フィリピンからのU.S. Armed Forcesと兵器の撤退を公然と提唱していることである。したがって、中国との「マール・ア・ラーゴ合意」**の可能性についての憶測が高まっており、この合意において、中国の裏庭される地域からの米国の部分的な戦略的撤退と引き換えに、中国は大幅な経済的譲歩を申し出るという強い立場にある。したがって、恐らく「第一線」の同盟国でさえ、Trump第2期政権の下で、米国に対する全面的な信頼感を思い抱くのは無謀というものであろう。
(5) それ以上に明確なのは、米国内におけるTrump政権を巡る2極化した政治の方向性である。政府高官は、Trump第2期政権の政策議題に抵抗する民主党員や進歩派勢力を指すと見られる「内なる敵(the “enemy within”)」について、何度も警告してきた。海外では同盟諸国と対立し、国内では様々な勢力や組織と抗争するなかで、台頭する大国も米国の同盟諸国も同様により大きな影響力と戦略的自律性が求められ、ますます多極化する世界において、Trump大統領は米国の世界的な指導力を弱体化させることになるかもしれない。
記事参照:Brave New World Disorder: Asian Allies Fear Trump Abandonment
注*:1972年のNixon大統領の中国訪問が長年の中国の同盟国であるソ連に対抗するものであったとすれば、「逆Nixon」は、北京を孤立させるためにモスクワとの関係修復を図る試みである。以下を参照
The View from Here: Is Donald Trump doing a “Reverse-Nixon”? (It’s even worse than it sounds)
Air Mail News, March 8, 2025
注**:「マール・ア・ラーゴ」はTrump大統領のフロリダの私邸。ここでは「米中合意」の意。

3月16日「チョークポイントは新冷戦の焦点である―米専門家論説」(gCaptain, March 16, 2025)

 3月16日付のMaritime and Offshore Industryの ブログgCaptainは、gCaptainの創設者でCEOのJohn Konradによる“Chokepoints Are The Focus Of A New Cold War”と題する論説を掲載し、ここでJohn Konrad はTrump政権が世界貿易の流れを左右するチョークポイントをめぐる争いを経済戦争と考えて、Federal Maritime Commission(米連邦海事委員会)がその調査を実施し、調査結果が意図的に米国の貿易を制限していると判断した場合は報復規制を実施するとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1883年、Alfred Thayer Mahanは、「海を支配する者は世界を支配する」という冷徹な真実を説いた。Alfred Thayer Mahanの主眼はチョークポイント、つまり世界の貿易において船舶の大部分が通過しなければならない狭隘な航路のことである。チョークポイントを支配すれば、侵略を開始する必要はない。経済を飢えさせ、一発も弾丸を撃たずに海上輸送を制限することができる。過去100年間の大半で、米国はこのことを理解していた。今日では、まるで忘れてしまったかのように行動している。米国の敵はそのことを忘れていない。中国、ロシア、イランは、過去20年間、戦略的な水路を影の戦争の支配点に変え、自分たちに利益をもたらし、米国を弱体化させるような方法で、世界貿易を静かに作り変えてきた。Trump政権はこのことを緊急事態と認識している。そして今、世界の航路をめぐる戦いが本格化している。
(2) 2025年3月15日、Trump大統領はチョークポイントの1つ、紅海とアデン湾を分けるバブ・エル・マンデブ海峡を米艦船と国際貿易に再開するためにフーシ派に対する大規模攻撃を開始した。歴史が転換点を迎えるとすれば、転換点はミサイル発射でも軍事的対立でもなかった。それは、2024年7月にテキサスからイスラエルへの大西洋横断の後、燃料が不足して英領ジブラルタルに入港した米国籍の石油タンカー「オーバーシーズ・サントリーニ」の船長による燃料補給の要求とそれが拒否されたことから始まった。表向きは米国の最も緊密な同盟国英国は、この事件を取るに足らない問題として軽視した。しかし、一部の海軍関係者、特に大国間対立を警戒する関係者の間では警鐘が鳴り響いた。これは、海上における新冷戦の様相である。米国の海洋権益に対する一見些細な違反は、単なる商業的な問題として片づけられた。しかし、U.S. Department of Defenseの奥深くでは、考えは異なっていた。無視された小さな変化の蓄積は、ゆっくりとした海上支配の交代につながっている。後の調査が示したように、この決定は、親パレスチナ主義の英国議会議員の小さな派閥から出されたものであった。「オーバーシーズ・サントリーニ」号は、単なる商業タンカーではなく、U.S. Maritime Administration(連邦海事局)のタンカー・セキュリティ・プログラムの下でU.S. Navy が指定した戦略的な船舶であった。Biden政権は、この問題を放置した。7ヵ月後、歴史は繰り返されたが、今回は反応が違った。ノルウェーの港湾関連会社が、Trump大統領とZelensky大統領の会談に抗議して、米国関連艦船への燃料供給を拒否すると発表した時、米政府はすぐに反発した。数時間以内に、ノルウェー大使館は、米国の船舶が港湾サービスを無制限に受けることができることを保証する声明を発表した。この対比は驚異的であった。
(3) チョークポイントは、軍事計画立案者にとって戦略的な懸念事項だけではない。それらは経済力の断層であり、石油、食料、原材料の動きを誰が支配するかを決定する圧力点である。中国はそのことを理解している。数十年にもわたって、港湾の株式を体系的に取得し、長期的な戦略的取引を削減し、その経済的支配を強化できる海軍を構築してきた。イランとロシアもそれを理解している。一方、米国は、海軍の優越性だけで十分と確信し、商船隊を衰退させてしまった。商業的な海運は常に中立的な市場主導の力として機能するという仮定は、現実政治の重みの下で崩壊しつつある。次の世界的な危機は、ミサイル攻撃や海戦から始まるのではない。海上交易路が機能的に使えなくなった時に始まるであろう。世界の海洋の影響の新しい地図は、次のことを物語っている。Trump大統領が就任してみると、中国はパナマ運河の両端の港湾を支配し、スエズ運河、ボスポラス海峡、イギリス海峡のターミナルの大株主になっていた。紅海の入り口に海軍基地を設置し、重要な回廊を争いの海域に変えた。太平洋では、世界で最も重要な航路の1つであるルソン海峡は、中国海軍、海警総隊、海上民兵によってほぼ常に監視されている。世界の石油の20%が通過するホルムズ海峡は、イランの一挙動で閉鎖されることになる。東シナ海、黄海、日本海を結ぶ重要な中継点である朝鮮海峡は、北朝鮮の常軌を逸した指導部のミサイル射程内に十分収まっている。同時に、パナマの影響を強く受けているInternational Maritime Organization(国際海事機関)は、中国に不釣り合いなほど有利な形で世界の海運規制を再構築し始めている。Biden政権はこの問題をほとんど無視したが、Trumpの顧問たちはこれを偽装した経済戦争と見ている。
(4) 米国政府内では駆け引きは急速に進んでいる。Biden政権は、世界の海運業を後景の懸念事項として扱い、自由市場物流のもつれを自主規制に任せた。Trump政権は戦場を見ている。チョークポイントをめぐる争いは、もはや理論的なものではない。それは今、港湾の買収、規制の締め付け、環境政策を装った経済戦争で展開されている。そして今回、米政府は手をこまねいていない。Trump政権の国家安全保障会議には、Jerry Hendrixという新しい人材がいる。Jerry Hendrixは、米国の過去の海洋支配を形作ったAlfred Thayer Mahanの戦略を深く理解する海軍史家である。Jerry Hendrixは、Mike Waltz国家安全保障担当補佐官とPete Hegseth国防長官に選択肢を提供し、Trump大統領が「造船を再び偉大にするための大統領令」を起草するのを助けており、この大統領令は、署名されれば、米国の海事政策における数十年で最大の転換となる可能性がある。gCaptainが入手した草案の公表により、この大統領令は世界の海上交通路に対する中国の経済的支配を打破することを目的とした攻撃的な戦略が明らかになった。これは、米国の造船所を再建するだけではない。これは、世界で最も重要な航路に対する中国の支配を侵食するために設計された国際的な反撃である。Trump大統領の大統領令の核となる任務は単純で、同盟国にどちらかの側につくよう強制することである。新しい大統領令の下で、U.S. Department of Stateは英国、シンガポール、台湾、エジプトなどの条約締結国に強く頼り、中国の船舶や貨物取扱設備に関税と制限を課すことを強く迫ることになる。その考えは、港湾の所有権と物流の締め付けを通じて世界貿易を支配しようとする中国の能力を麻痺させることである。
(5) 政策がハンマーだとすれば、規制はメスである。2025年3月14日、Federal Maritime Commission(米連邦海事委員会:以下、FMCと言う)は世界の海運の地図を塗り替える可能性のある調査を開始した。何十年もの間、FMCは海運会社間の特定分野の紛争に焦点を当てた動きの遅い規制当局であった。しかし、Biden政権下でその規模は大幅に拡大され、Trump政権下では、米国の港湾だけでなく、世界貿易のシステム全体を調査監督する権限が与えられている。その新たな標的は、チョークポイントを武器としようとする外国政府や企業である。FMCの調査は、英仏海峡、マラッカ海峡、北極海航路、シンガポール海峡、パナマ運河、ジブラルタル海峡、スエズ運河という世界で最も重要な7つのチョークポイントに焦点を当てている。これらのチョークポイントは地政学と経済の影響力が絡み合い、一夜にして世界の商業を麻痺させる可能性のある潜在的な引火点である。Trump政権下でのFMCは、海運会社の幹部、ばら積み貨物事業者、港湾当局、国家安全保障当局者から証言を集めており、戦略的な減速、隠れた手数料、中国とロシアの利益に重要な海上交易路の優先的な利用を認める裏取引など、意図的な貿易混乱の様相を調査している。
(6) 今のところ、FMCの調査は事実調査の段階にある。外国政府または企業が意図的に米国の貿易を制限しているとFMCが判断した場合、次の3つの報復規制を実施する権限を持っている。第1は、 経済戦争に従事している国に登録されている船舶の米国港湾への入港を禁止すること、第2は制限的なチョークポイント慣行を行う海運会社に対して罰則を課すこと、第3は特定の外国が管理する港を通過する貨物に直接関税を課すことである。このような事態の拡大は、現代の海運史では見られなかった。米国は、数十年もの間、世界貿易は大き過ぎて、また分散化され過ぎ、重要過ぎて操作できないと考えていた。その仮定は破綻している。世界の海洋交易路をめぐる戦いは、フーシ派過激派に対する艦艇の派遣やミサイルの発射だけでなく、経済的圧力、港湾買収、規制の締め付けを通じて、すでに起きている。そして、数十年ぶりに、米国は攻撃を仕掛けている。Trump大統領は、礼儀正しくはないが戦略的である。世界の船主達や貿易の分析に当たる専門家達は、Trump大統領の関税に関するニュースに忙殺され、FMCが米国の海岸から遠く離れた場所で範囲を拡大していることを忘れている。世界の専門家達は、米政権の新しい海洋部門が、National Economic Council(全米経済会議)の貿易学や経済学の教授によって運営されていないことを見落としている。FMCは、U.S. Navyと米国の国家安全保障担当者たちが主導権を握っている。問題は、FMCの規模がまだ小さ過ぎ、その行動が遅すぎないかということである。
記事参照:Chokepoints Are The Focus Of A New Cold War

3月17日「スエズ運河における紛争と米政策がもたらす海運の混乱―ニュージーランド専門家論説」(The Interpreter, March 17, 2025)

 3月17日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、ニュージーランドのジャーナリストSelwyn Parkerの“The Suez battles forces beyond its control”と題する論説を掲載し、スエズ運河における紛争や米国の政策による海運業界の混乱について、要旨以下のように述べている。
(1) 15ヵ月にわたる紛争の後、スエズ運河の通航が正常化するという可能性をエジプト政府が期待していた矢先に、この航路は再び危機にさらされている。イエメンのフーシ派が、イスラエル行きの船舶へのミサイル攻撃を再開すると脅してから数日後、週末に米国はイエメンにあるフーシ派の拠点に対する爆撃を実施し、数週間にわたり攻撃を継続する用意があると発表した。
(2) 2月には状況は好転する兆しを見せていた。苦境に立たされている運河の管理者Osama Rabie海軍中将は、紅海のバブ・アル・マンデブ海峡を通過する護衛船団を、長らく待ち望まれていた回復の兆しとみなして歓迎していた。
(3) 海運コンサルタント会社Banchero Costaの最新調査によれば、紅海を週に約200隻の船舶が通航していた。これは攻撃前の週平均500隻以上から大幅に減少しており、スエズ運河の収入は最大で70%も減少した。この運河の取引減少が原因の1つとなり、エジプト政府はInternational Monetary Fund(国際通貨基金)から570億ドルの金融支援を交渉せざるを得ず、戦争によって傷ついた財政の立て直しを迫られた。それでも、エジプト政府は少なくとも、この運河からの収益回復を見込むことができた。しかし、関税戦争が海洋サプライチェーンに混乱をもたらした。
(4) 貨物の動きを追跡するウエブサイトContainer xChangeによる分析は、突然変化する貿易環境を指摘し、業界に対して高まる不安定性に警戒を呼びかけている。
(5) 香港のHysun Containers社の最高経営責任者Amanda Marrは「我々は、中東、インド亜大陸、東南アジアのような代替市場を経由する貨物の迂回のための取り組みをすでに強化しつつある」と述べている。
(6) さらに混乱を深める出来事として、3月中旬にはU.S. Maritime Administration(米連邦海事委員会:以下、FMCと言う)が、スエズ運河を含む世界の海上チョークポイントの状況や慣行が輸送時間にどのような影響を与えているかを調査すると発表し、特に外国籍船に注目するとしている。調査結果次第では、外国籍船が米国の港から締め出される可能性がある。不吉なことに、FMCの正確な表現では、「米国の対外貿易における海運にとって不利な状況に取り組むため、規制の是正措置を講じる意図があり、それには不利な状況を生み出した国に登録された船舶の米国の港への入港を拒否することが含まれる」と述べられている。
(7) 米政府が検討中の、中国建造の船舶が米国の港に入港する際に最大150万ドルの罰金を科す案は、サプライチェーンをさらに不安定化させた。コンテナ大手企業は代替ルートの検討を余儀なくされている。
(8) 15ヵ月にわたる紛争によってスエズ運河の通航隻数が減少した期間中、スエズ運河当局はその時間を利用して水路を拡張・延長した。これにより、一日に追加で6隻から8隻の通航が可能になる予定であった。しかし、フーシ派が船舶に対する脅迫を実行し、U.S. Armed Forcesの戦闘機がイエメンへの攻撃を続ければ、これらの拡張は時間と金の無駄に終わるかもしれない。
記事参照:The Suez battles forces beyond its control

3月17日「北欧の防衛におけるフィンランドの役割は技術の向上にかかっている―スウェーデン専門家論説」(Arctic Today, March 17, 2025)

 3月17日付の環北極メディア協力組織Arctic Todayのウエブサイトは、スウェーデンのRevalence Ventures創設者兼代表Jonas Drombergの“Finland’s role in Nordic defense hinges on ability of tech to step up: Commentary”と題する論説を掲載し、ここでJonas Drombergはフィンランドでのグレーゾーンは色合いが濃くなる可能性があり、これに対してフィンランドの技術開発者達は、防衛優先の起業を生み出す必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年10月に中国のコンテナ船がフィンランド湾のパイプラインを損傷する事件が発生した。それ以来、いくつかの海底ケーブルが切断され、この地域はハイブリッド作戦の温床となった。フィンランドは2023年にNATO加盟国となったが、同国の諜報機関は欧米の水準には達しておらず、フィンランド北部の防衛はスウェーデンに委ねられている。フィンランドは、苦戦を強いられている経済が外国の諜報活動に好都合であるため、米国の完全な信頼を獲得するには至っていない。第2次世界大戦後40年間、事実上ソビエトの従属国であったフィンランドは、満足のいく軍事情報や近代的な軍隊の運営を妨げられていた。この外交政策は「フィンランド化」と呼ばれ、その結果、フィンランドは大西洋を挟んだ関係においても臆病な姿勢を見せている。起業した主要な企業の売却がこのことを反映しており、フィンランドの技術および投機企業関係者は、あいまいさの渦に巻き込まれないように、北欧の同業者と協力し始める必要がある。
(2) 2025年のミュンヘン安全保障会議におけるJ.D. Vance米副大統領の演説に欧州が衝撃を受けた後、旧大陸は再編成に奔走している。その2週間後、ウクライナを支援する有志連合はキーウで会合を開き、ウクライナのロシアによるテロに対する抵抗3周年を祝った。米国は欠席し、Zelensky大統領を独裁者と呼び、後に大統領執務室での災難と米国のウクライナ撤退へと事態は拡大した。その結果、ヨーロッパは新しい世界秩序の準備を始めている。その秩序は法に基づく制度システムではなく、強者と取引によって主導される。
(3) この記事では、以下の前提に基づいて見通しを立てる。
a. 米国は、中国からPutin大統領を引き離すために、ますますロシアに接近している。
b. 米国は、中国を唯一の対抗者と見なしている。
c. 米国は、EUが中国やイスラム過激派に対する信頼できる同盟国としては寛大過ぎるとしての圧力を強めている。
d. 米国は、中国に次ぐ脅威であるイスラム過激派に対するイスラエルの戦争を支援することで、欧州から中東へと関心を移しつつある。
(4) これらの要因が複雑に絡み合い、さまざまな結果をもたらしながら、新たな欧州の防衛体制を形作り、EU全体の結束に圧力をかけることになる。米国は現在、歴史的な同盟国が、ロシアとの関係改善にどう反応するかを試している。ロシアによるウクライナ侵攻以来、北欧地域が防衛に関してこれほど緊密に連携したことはなかった。この地域は非常に緊密で均質なように見えるが、その構造は複雑である。EUおよびユーロ圏に属するフィンランドは、長年にわたる経済停滞に苦しんでいる。EUにもユーロにも属さないノルウェーは、膨大な石油埋蔵量から世界最大の1兆7,500億ユーロという巨額の政府系ファンドを構築した。デンマークとスウェーデンはどちらもEUに属するがユーロ圏ではないという点で中間的な立場にある。
(5) フィンランドは、NATO加盟国の中でロシアとの国境が最も長い国であるが、米国に精通したAlexander Stubb大統領が首尾一貫して、フィンランドがあいまいさのどの位置に分類されるか、そして北欧地域において重要な役割を果たす準備ができていることを発信している。ほんの数ヵ月前までは、北欧地域が他のNATO諸国と共同で、明白なロシアの侵略から守るための共同軍を結成することは確実と思われた。しかし、Trump政権の2期目となり、すべてがひっくり返ってしまった。これは、Alexander Stubb大統領にとって圧力となる。Alexander Stubb大統領は、フィンランドのロシア軽視の姿勢と米国の不安定な新外交政策との釣り合いを取らなければならない。さらに、北欧とEUの関係におけるフィンランドの孤立した立場という要素も加わる。フィンランドは北欧諸国の中で唯一のEU加盟国であるが、フィンランドはEUを NATOを代理として捉え、NATOへの正式加盟によってロシアを刺激しない配慮を行っている。一方、EUへの全面加盟によってフィンランドの対米外交の機敏さに歯止めがかかっている。
(6) フィンランドのあいまいな中間的立ち位置は、よりはっきりとした立ち位置になるかもしれないが、技術の先導者たちは注意を払い、立ち上がる必要がある。AMD Silo AIやIQMなどの革新的で専門性の高い技術や軍民両用技術の起業は世界でも一流の可能性を示しているが、フィンランドの技術の草分け達は、同等の質を持つ防衛優先の起業を生み出す必要がある。
記事参照:Finland’s role in Nordic defense hinges on ability of tech to step up: Commentary

3月18日「台湾有事におけるマヴディス島の価値―米専門家論説」(Modern War Institute, March 18, 2025)

 3月18日付のUS Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトは、Headquarters, Department of the Armyインド太平洋地域担当の陸軍中佐Christopher Leeの“A War of Chokepoints: Mavulis Island in a Future Taiwan War Scenario”と題する論説を掲載し、ここでChristopher Leeはマヴディス島が要衝の地で、地域の安全保障の力学を形成する上で影響力があり、与那国島と同様に軍事力強化の扱いを受けるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国と中国の間のインド太平洋地域における戦略的対立と緊張が高まる中、日本は最西端の与那国島で軍事力の強化に取り組んでいる。この島は戦略的に重要で、台湾と中国の両方に近いことから、これは理にかなった動きである。自衛隊は2016年に約160名の部隊と軍事基地、レーダー基地を設置し、領空と水路の監視を行っている。また、同島にミサイル部隊を配備する計画も進行中である。
(2) 与那国島の南250海里弱の所にマヴディス島がある。与那国島よりやや小さいこの島は、多くの点で与那国島と類似している。与那国島が日本の領土の最西端であるのと同様に、マヴディス島はフィリピンの最北端で、台湾に近く戦略的に重要な位置にあり、台湾防衛の要となる可能性がある。さらに、マヴディス島と台湾の蘭嶼(Orchid Island)の間に位置するバシー海峡は、中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)が台湾を封鎖し、米国および同盟国軍から孤立させるための主要航路として利用される可能性が高い。しかし、日本の与那国島における行動と比較すると、フィリピンはマヴディス島に同様の対応をしていない。米国は、フィリピン政府がこの島の戦略的重要性を活用するよう促すことが自国の利益につながる。
(3) マヴディス島は、中国の海洋進出を抑制し、潜在的な台湾侵攻を抑止するための米国およびその同盟国の戦略の重要な拠点となり得る。マヴディス島における取り組みを強化すれば、インド太平洋地域におけるPLANの動きを制限するのに役立つだろう。さらにバシー海峡は台湾の防衛および地域の安定にとって不可欠である。中国の軍事戦略では、PLANが台湾を包囲するための航路としてバシー海峡を位置づけており、台湾への侵攻を試みる場合には、バシー海峡が利用される。したがって、台湾支援を目的とした米国の介入を検討するにあたっては、バシー海峡の制海権を確保することが極めて重要となり、有事の際のU.S. Armed Forcesおよび同盟国軍の迅速な展開と維持を可能にする。
(4) 米国の同盟国であるフィリピンは、マヴディス島に先進的な監視システムを配備し、中国の動向を監視しながら海洋状況把握(以下、MDAと言う)を強化することが可能である。MDA網は、海軍の水上艦艇および潜水艦の行動を追跡できるため、この地域における米国とその同盟国に情報優位をもたらす上で極めて重要となる。2023年10月にマヴディス島にフィリピン海軍の分遣隊が配備され、マニラの北部防衛を強化する上で重要な一歩となった。さらに米国とフィリピンは、マヴディス島の周囲で海上要地警備作戦を共同で実施して、前進配備された部隊が中国の行動を抑止する戦略的価値を示すことができる。マヴディス島に軍事資産を戦略的に配置することは、確固とした抑止力につながる。
(5) 中国は、この地域において、海上民兵や海警総隊の船舶を活用し、グレーゾーン戦術をますます用いるようになってきている。このような行動は、係争中の海域において現状を変更し、非軍事的手段で圧力をかけるという中国の戦略を象徴している。これに対処するには、多国間の安全保障協力が必要である。中国のグレーゾーン活動を均衡させ、外部勢力間の安定と協力を維持するには、QUADのような公開の討議の場が鍵となる。QUADは、外交努力の調整、情報共有、軍事演習の協力などを通じて、自由で開かれたインド太平洋の維持と集団安全保障の向上を目指している。また、強圧的な活動を阻止し、バシー海峡のような重要な航路における戦略的均衡を維持することも目的としている。
(6) バシー海峡のような狭隘な海域の重要性を理解し認識することは、インド太平洋の複雑な安全保障情勢を乗り切るための効果的な政策を策定する上で極めて重要である。このためには強固な地域的な提携が必要であり、米国、日本、フィリピンは、合同軍事演習を強化し、相互運用性と集団抑止能力を高めている。一方、オーストラリアは、情報共有構想や調整された海上哨戒により、この地域における役割を拡大している。こうした関係は、自由で開かれたインド太平洋を確保するために不可欠である。
(7) 重要なのは、要衝の地を支配することである。バシー海峡は単なる海上航路ではなく、地政学上の対立が集中する戦略上の火種である。そのため、マヴディス島は要衝の地の一部であり、地域の安全保障の力学を形成する上で影響力があり、米国の同盟国や提携国の安定と防衛に貢献する手段でもある。すなわち、マヴディス島も北にある与那国島と同様の扱いを受けるべきである。
記事参照:A War of Chokepoints: Mavulis Island in a Future Taiwan War Scenario

3月18日「中国は見守り、台湾は学ぶ、ウクライナ戦争とインド太平洋―デジタル誌編集委員論説」(The Diplomat, March 18, 2025)

 3月18日付のデジタル誌The Diplomatは、The Hague Centre for Strategic Studiesの戦略分析担当Benedetta GirardiとDavis Ellisonおよび研究部長 Dr. Tim Sweijsの“China Watches, Taiwan Learns: Ukraine’s War and the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここで3名は台湾が中国との有事に備えてウクライナ戦争から学ぶべき点が多く、軍事的備えはもちろんであるが、それ以上に国際社会を味方につけるために何を行うべきかを研究し、早く実行に移すことが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾に対する中国の強圧的活動が近年激化している。中国政府の台湾対応は、指導者への政治的・経済的圧力から、現在では多くの人が台湾侵攻の予行と考える軍事演習に形を進めている。人民解放軍(以下、PLAと言う)は、経済封鎖によって台湾経済を締め付けるのか、封鎖を断続的に行って、カエルを茹で殺しにするような手段を選ぶのか、それとも水陸両用戦による上陸侵攻を仕掛けてくるのであろうか。1つ確かなことは、中国政府の選択は台湾が自国を守る準備ができているかどうかで決まることである。台湾が防衛に成功するためには、強力な隣国からの攻撃を抑止することには失敗したが、その後、自国を守ることに成功しているウクライナとロシアとの戦争から教訓を学ばなければならない。
(2) 台湾とウクライナは、地理、国土の広さ、軍事指針は異なるが、多くの類似点を共有している。どちらも民主主義国家で、強い国家意識を有し、自国の領土に対し歴史的主権を主張する権威主義的な隣国に脅かされており、それぞれの地域の戦略的要衝である。ウクライナの戦場から学んだ教訓を台湾の戦場にそのまま転用できるとは言えないが、両者の比較を否定することもまた間違いである。PLAの戦略家は、ウクライナの動向を注意深く観察し、必要な対応をしており、台湾も同様であるべきである。我々は1年間にわたり、ウクライナでの作戦を台湾の軍事戦略や国防態勢と比較しながら分析し、台湾に関連した想定に基づく演習も現地調査と合わせて研究した。また、台湾の外交部、国防部の高官とも議論を交わした。台湾政府の意識はかつてないほど高まっているが、まだウクライナから学べることが多くあることが分かった。
(3) 台湾がウクライナの戦いから学ぶべき重要な教訓は、侵略に耐える能力は、拒否戦略の強化にかかっていると認識することである。この紛争は、軍備だけでは決着がつかず、成功は、強固な戦略、強靱な指揮構造、効果的な兵站の組み合わせにかかっている。中国の軍事的圧力に対抗するために、台湾は拒否戦略をさらに強化する必要がある。台湾は何十年もの間、戦闘機や艦艇に多額の投資を行い、軍事行動の代償を引き上げて中国政府の軍事的冒険主義を思いとどまらせる従来の抑止力に頼ってきた。ウクライナの経験は、優勢な敵と対峙する際は、敏捷性と非対称戦能力が必要であることを明確にしている。2022年2月以降、台湾は表向きには拒否を目的とした態勢を再調整し、段階的な航空拒否とサイバー、ドローン技術、抗堪性のある戦場通信といった非対称戦手段の組み合わせを優先している。これらは、ウクライナがロシアの侵攻に対抗した重要な要素である。
(4) 中国による台湾侵攻の代償を高めるために非対称戦能力に投資する考えは、台湾軍にとって目新しいものではない。2018年、元参謀総長李喜明海軍大将(退役)は整體防衛構想(以下、ODCと言う)の中で、伝統的な装備基盤を非対称兵力で補完することで、「戦争に勝つ」定義を「敵軍を完全に撃破する」から「敵の台湾占領任務を失敗させる」ことに変更することを提案した。しかし、この分野の進展は遅く、軍事への慢性的な投資不足、低い兵力水準、非対称戦に対する国防部の曖昧な態度が、ODCに示された構想の実現を遅らせ、台湾防衛に欠陥を生み出している。台湾の国防部内には、拒否戦略を完全に受け入れることへの抵抗が依然として根強く残っている。しかし、台湾にとって「懲罰による抑止」戦略は、特に核保有国に対して事態拡大の危険性から、実行不可能と見積もられる。これとは対照的に、拒否戦略は懲罰戦略を弱めることにあまり繋がらないため、実行の可能性はより高い。台湾は演習や宣伝活動を通じて効果的に拒否能力を伝え、中国による誤解の危険性を減らすことができる。さらに、抑止が失敗した場合、拒否戦略は複数の領域にわたる攻撃に対抗できるので、台湾の防衛を支援することができる。
(5) 台湾は、拒否戦略の採用をさらに優先すべき時期に来ている。無人偵察機や統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense:以下、IAMDと言う)など航空能力の獲得、対艦ミサイルや対地巡航ミサイルの調達や自国開発による海上攻撃能力の強化、機雷や無人水上艇などの海上拒否資産の備蓄強化等が含まれる。IAMDや無人偵察機など、通常型と非対称型の航空戦力の組み合わせへの投資が、ウクライナの成功率を高めた。ウクライナは、無人水中・水上艦船と無人偵察機を活用してロシアの制海権を拒否し、陸上では、無人機による戦場の透明性向上が、ウクライナの作戦維持に不可欠であった。台湾は従来の軍事力では中国と互角に戦えないため、拒否戦略を有効にする戦力組成が、ますます非対称的なものになることを念頭に置きつつ軍備を増強すべきである。
(6) 戦場における状況認識、通信能力、信頼関係等は、拒否戦略を成功させる重要な要素であり、台湾は演習や作戦調整を通じて、軍全体の一貫した指揮体制を確立し、軍種間の対立や非効率を防がなければならない。強固なサイバー防衛や電子戦戦略とともに、地上と宇宙からの支援を含む抗堪性のある通信体系が不可欠である。台湾はサイバー能力、対電子戦兵器およびドローンを含む捜索兵器等に投資し、外国の情報源への依存を最小限に抑えながら、情報収集と目標識別能力を向上させるべきである。
(7) 台湾は、数的劣勢を質で補うことはできても、それを、いつまでも維持できるわけではないことを認識すべきである。PLAが台湾を攻撃する初期段階では、しっかりとした情報、監視、偵察と先端技術兵器を備えた、よく訓練された部隊が、大規模でも準備の整っていない敵に打ち勝つことができる。しかし、時間が経てば経つほど、量が重要になってくる。ウクライナが生産力不足や動員力不足に陥らずに済んでいるのは、国内生産が追いつかない場合でも、海外からの支援が絶え間なく供給され、備蓄が補充されているおかげである。台湾のような島国であればなおさら、長期的に戦闘能力を維持したいのであれば、備蓄を確保し、低予算で交換可能で、自国生産可能な大量かつ使い捨ての資産を優先しなければならない。
(8) ウクライナから得た最も重要な教訓は軍事的なものではなく、地政学的なものである。ウクライナがこれほど長く抵抗できたのは、世界的な支持のおかげである。ロシアへの経済制裁から軍事援助、諜報活動、医療機器に至るまで、ウクライナは国際組織から大きな恩恵を受けてきた。台湾の拒否戦略は、中国の軍事的優位に対抗するために非対称的な能力を活用する抑止の手法であるが、それは外部からの支援、特に米国からの支援に依存している。小さな島国が遥かに優勢な敵対国を長期的に抑止するには、軍事援助、武器移転、情報協力、貿易などのすべてが不可欠な要素である。多くの国にとって、中国との事態拡大の脅威は、強力な抑止力となる。台湾がいわゆる「ハリネズミ拒否戦略」を採用することは、この地域の国際的な力学や連携にとって大きな意味を持つ。抑止態勢を強化することで、台湾はインド太平洋地域の集団安全保障に貢献し、米国、日本、オーストラリア、韓国などの国々の戦略的利益に沿うことになる。しかし、この方法には、中国との緊張を激化させないための慎重な外交的配慮が必要である。
(9) ウクライナの経験は、多様な支持基盤の重要性を示している。台湾は多様な協力関係を築き、QUADや環太平洋パートナーシップ協定(TPP)のような多国間協議を通じて他の地域国等とも関わっていかなければならない。ウクライナは、自らを民主的価値観の擁護者として演出し、国際的な支持を集めることに成功した。台湾も同様に、民主主義国家としての位置付けを活用して国際的な連帯を築き、国際政治や世論に影響を与えるべきである。
(10) 台湾はウクライナとは地理的にも戦略的背景も異なるが、核心部分は共通しており、中国による侵略を抑止するには、非対称能力と強靭な指揮系統によって強化された拒否戦略が不可欠である。ウクライナの経験は、軍事的備えだけでは不十分で、長期的な抵抗力を維持する上で、国際的支援、多様な同盟関係、戦略的情報連絡が不可欠な役割を果たすことを明確にしている。拒否的な防衛態勢を採り、地域的な友好関係を強化し、世界的に台湾への理解を深めることで、抑止力を高めると同時に、より広いインド太平洋地域の安全保障を強化することができる。今、台湾政府にとって重要な課題は、ウクライナから学ぶだけでなく、手遅れになる前に行動を起こすことである。
記事参照:China Watches, Taiwan Learns: Ukraine’s War and the Indo-Pacific

3月19日「日豪は相互の弱点を補う協力のあり方を模索せよ―日本安全保障問題専門家論説」(The Strategist, March 19, 2025)

 3月19日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、慶應義塾大学博士後期課程および地経学研究所研究員補の井上麟太郎による“Japan and Australia can fill each other’s defence gaps”と題する論説を掲載し、そこで井上麟太郎は日豪間の防衛協力が進んでいるが、その具体的なあり方についての議論が欠如していることを指摘し、相互の補完的な協力を具体的に検討すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 日本とオーストラリア両国は、特別な戦略的パートナーシップを最近強化し、同盟に近い関係にまで発展させた。そのなかで両国は「集団的抑止」について検討したが、相互運用性の強化だけが議論されるだけで、明確な方向性を欠いている。両国はお互いの特性や利点を活かし、相互に補完するやり方を明確にすべきである。
(2) 2024年7月から8月にかけて実施された日豪間の対話・人的交流事業の間、筆者は日豪の専門家と安全保障や台湾有事などの問題について多くの議論を交わした。その中で彼らは両国の防衛上の紐帯を強めることを強調しつつも、具体的にどのような協力や調整が必要かについてははっきりとしなかった。議論が十分でなかった要因として、日本側がオーストラリアの防衛能力についてあまり知識が無く、また既に確立された政策の遂行に焦点を当てていることがある、他方、オーストラリアには日本の安全保障政策の専門家があまりおらず、米国を含めた3ヵ国の枠組みへの関心が強い。11月、日豪の防衛・外務大臣は2国間の防衛関係が強化されていることに言及したが、戦略家たちの間での議論は具体性を欠いている。
(3) 同等の軍事力を持つ国同士の互恵的な防衛協力は、概ね以下の2つの形をとる。1つは戦力の集中、共同作戦による全体的な軍事能力の強化である。もう1つが補完的協力である。日豪はこれまで前者に焦点を当ててきたが、中国との間には依然、圧倒的な戦力差がある。たとえば中国保有の戦闘機は1,100機だが、日本の戦闘機保有機数は300機、オーストラリアは100機に過ぎない。
(4) むしろ補完的な調整が必要である。日豪は中国の挑戦に直面しているが、それぞれの作戦上の優先順位は異なる。また、機能的な面でも、日本は統合防空ミサイル防衛と造船に強みを持ち、オーストラリアはサイバーセキュリティに強点があり、中国と距離が離れているなど地理的な利点もある。お互いの強みを活かし、脆弱性に対処することで、より抗堪性のある防衛態勢を構築できるだろう。こうした協力関係はある程度実現し始めている。2024年の防衛相会談では統合防空ミサイル防衛の協力を議論し、サイバーセキュリティ協力も進んでいる。
(5) 日本の継戦能力も課題を抱えている。造船所や兵器工場が中国のミサイルの射程内にあるためである。両国の堅固な防衛産業協力が地域抑止のために必要である。そのため、造船だけでなく弾薬生産における協調も視野に入れるべきである。退役した航空機などをしばらくオーストラリアで保管することも検討事項であろう。以上のように、日豪の戦略家達は、より明確な協力のあり方について計画を立案すべきである。
記事参照:Japan and Australia can fill each other’s defence gaps

3月20日「Colbyの主眼は中国抑止にある―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, March 20, 2025)

 3月20日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同Institute上席分析員Greg Brownの“Elbridge Colby’s vision: blocking China”と題する論説を掲載し、そこでGreg BrownはElbridge Colbyの国防次官補承認公聴会が実施されたことを受け、Elbridge Colbyの構想を整理し、それがオーストラリアや太平洋諸国にどのような影響を及ぼし得るかについて、要旨以下のように述べている。
(1) Trump大統領によって政策担当国防次官補に任命されたElbridge Colbyを承認するための公聴会が、3月、U. S. Senate Committee on Armed Service(上院軍事委員会)で実施された。それは予想されたよりも、オーストラリアを含めた地域の同盟国やパートナーにとって重大な意味を持つものであった。
(2) Elbridge Colbyは2018年版国防戦略の主要立案者として注目された人物で、2021年の著書The Strategy of Denialは防衛政策立案者の必読書である。そこでElbridge Colbyは、米国の軍事力はアジアにおける中国の覇権拒否のために振り向けられるべきだと主張している。実際、Elbridge Colbyが公聴会で示した構想は、Bush時代の新保守主義的なものでもなければ、進歩主義者や自由至上主義者らによる戦略的抑制を求めるものでもなかった。彼は米国の力の限界を理解しつつ、「優先順位をつけた関与」を提唱したのである。
(3) この優先順位はオーストラリアや太平洋島嶼諸国にとって重要である。第1に、Elbridge Colbyはインド太平洋の戦略的優先化を示唆している。Elbridge Colbyにとっての最優先課題は中国の抑止である。第2にElbridge Colbyの証言は、地域の安全保障を米国が担うと考える者に再考を迫るものである。Elbridge Colbyは現実的な認識に基づき、同盟国への防衛支出の増加を要求する。これは太平洋の小さな国々にとっては特に厳しい要求であろう。第3にElbridge Colbyは、米国からオーストラリアへの原子力潜水艦提供を含むAUKUSへの留保を示した。
(4) Elbridge Colbyのこうした考え方は、同盟に関与することにより米国の対中国抑止力が減じられてならないというTrump政権の考え方と一致する。Elbridge Colbyは一貫して、中国の覇権防止という究極目標を中心に、同盟の再検討と再構成を進めることを強調してきた。こうした米国の姿勢は、オーストラリアにとって、課題と機会の双方を突き付ける。課題は原子力潜水艦導入が遅れる可能性であり、機会は、Elbridge Colbyが米国産業基盤の再活性化によってより多くの潜水艦を建造したいと願っていることである。
(5) 太平洋島嶼諸国に関して言うと、Elbridge Colbyの取り組みはより直接的な米国の関与を示唆する。Elbridge Colbyは、広大な地域を包摂する機構を構築するよりも、2国間関係により、防衛限界点で重要な結節点を構築、支援する戦略を好む。こうした考え方の土台にあるのは、米国の世界的な関与と現在の軍事的能力の間に溝があるという認識である。Elbridge Colbyにとって優先順位化は選択肢ではなく必要なことである。米国の産業基盤が衰える一方、中国の産業基盤が隆盛しているためである。
(6) 承認されれば、Elbridge Colbyは特定の場所での有事に対する抑止的取り組みを採用するだろう。そして米国の資源のよりよい管理、より強力な同盟の行動能力の構築を求めるだろう。Elbridge ColbyがU.S. Department of Defenseの舵取りを担うことになれば、同盟国は米国からのさらなる要求に直面するだろう。
記事参照:Elbridge Colby’s vision: blocking China

3月20日「米国民は中国と戦争を選択するのか―米専門家論説」(Foreign Affairs, March 20, 2025)

 3月20日付の米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsのウエブサイトは、米Texas A&M UniversityのBush School of Government and Public Service准教授Alexandra Chinchillaおよび米University of Chicago政治学准教授Paul Poastならびに米Emory University政治学教授Dan Reiterの“Would Americans Go to War Against China?”と題する論説を掲載し、ここで3名はTrump大統領が米国を戦争に巻き込む可能性が人々の懸念以上に高いかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 軍事力に関して、Donald Trump米大統領は極端に分裂した立場を採る一方で、外国の紛争に巻き込まれることへの懐疑論者であると自らを位置づけ、ウクライナでの戦争を終わらせることを期待して、ロシアとの関係を急速に改善している。Trump大統領の「米国第一」の外交政策は、概して海外での軍事介入に批判的であるが、一方で米国は軍事力を誇示し続けている。米国の同盟国フィリピンの領土、船舶、航空機が中国に攻撃された場合には介入するとU.S. Department of Stateは宣言した。また、イランや北朝鮮に対して派手な威嚇を行っている。
(2) 一見すると、孤立主義と好戦性の組み合わせは、Trump大統領の予測不可能性、あるいは一貫性の無さを反映しているように見えるが、彼は自身の基本方針と矛盾する見解を表明することで知られている。米国民もまた、撤退を望む傾向があるにもかかわらず、武力行使に前向きであることが明らかになっている。米国が世界で果たすべき役割について、大半の米国民は小さな役割を望んでいる。しかし、7月に一般の米国民と元米政府高官を対象に実施した調査では、中国人民解放軍が南シナ海で米国の艦船を攻撃した場合、中国を攻撃することを明確に支持する意見が大多数を占めた。これは、米国民が戦争を望んでいることを意味するものではない。米政府は、中国との紛争は避けたいと考えているが、南シナ海や中国、あるいは他の主要な敵対国との間で緊張が高まった場合、U.S. Armed Forcesの地上部隊を動員することへの支持が高くなる可能性がある。この調査結果は、敵対国がU.S. Armed Forcesを攻撃した場合、戦争が勃発する可能性が高いことを示唆している。
(3) 2025年1月の『ニューヨーク・タイムズ』の世論調査では、60%が米国は海外の問題にあまり注意を払わず、国内に集中すべきと答えている。その中には調査対象となった共和党員の75%が含まれており、それに対し民主党員は47%であった。米国が、世界の問題に積極的に関わることを望む回答者は38%であった。同様に、Chicago Council on Global Affairsの世論調査では、米国の富と強さが「世界情勢において主導的役割を担う責任がある」と考える米国民はわずか17%であった。一方で、米国の国際的役割に関する米国民の見方が複雑であることを示す兆候もある。政治学者Jeffrey Friedmanの研究によると、米国の有権者は、より攻撃的な大統領候補をそうでない候補よりも常に好む傾向にある。たとえば、1990年代の世論調査では、バルカン半島へのU.S. Armed Forcesの介入に反対していると回答していたが、Bill Clinton大統領がセルビアへの爆撃を開始すると、Clinton大統領の支持率は上昇した。
(4) はるかに弱い敵を爆撃することと強力な敵と戦争をすることは別問題である。そのような状況で武力行使を行うことについて、米国民がどう感じるかを判断するために、南シナ海での衝突の可能性に関する実験的な調査を2,000人の一般米国民と700人の元政策立案者を対象に実施した。中国が米国の同盟国の沖合で米空母を攻撃したとの前提で、回答者の半数に対しては250人の米海軍兵士が死亡したと伝え、もう半数には、兵士の死者はなかったと伝えた。そして、米政府がこの地域に追加の軍事力を配備することに賛成するか、また、その追加部隊が中国の海軍および航空戦力を攻撃する反撃任務も負うべきかについて尋ねた。その結果は次のとおりである。
a. 兵士の死者が出なかった場合に反撃を支持したのは51%。
b. 海軍兵が死亡した場合は、57%が攻撃を支持。
c. 共和党支持者は、海軍兵が死亡していない場合は60%、死亡している場合は67%が報復を支持。
(5) 注目すべきは、この調査は民主党のJoe Bidenが大統領であった時に実施されたものであり、共和党は少なくとも中国に対しては、誰が大統領であろうとタカ派的な姿勢であることを示唆している。一方で民主党はより慎重な姿勢を示した。
a. 中国からの攻撃で犠牲者が出なかった場合、50%が報復を支持。
b. 米国の兵士が死亡した場合の支持率は57%。
(6) 米国民の主な動機は、死者に対する復讐を求めることではなかった。一般市民から抽出した回答者のうち、この点を非常に重要な要素として挙げたのはわずか36%だった。むしろ、米国民は米国の威信を守ることを重視している。
a. U.S. Armed Forcesの米軍兵士の死を受けて中国への報復を支持した一般国民の回答者のうち、53%が米国の国際的な威信を維持するために武力が必要と回答。
b. 報復を支持しなかった回答者のうち、16%は武力が必要と回答。
c. 共和党支持者では、63%が米国の威信を維持するために武力行使が必要と回答。
(7) 中国との危機における米国の行動が、イランなどの対立国の行動にどれほど影響を与えるかについては、国際関係学者の間でも意見が分かれているが、実際の影響の有無に関わらず、有権者は毅然とした態度を示すことが重要だと考えている。この調査結果は、他の米国の敵対国にも影響を与えるであろう。この調査では、イランやロシアを対象としていないが、それらの国がU.S. Armed Forcesを攻撃した場合も同様に報復を支持する可能性が高いと思われる。
a. 2024年の世論調査では、イランに対して否定的な見方をしている米国民は81%に上り、イランがイスラエルを攻撃した場合、U.S. Armed Forcesの使用を支持する米国民が多数派であることが示された。
b. Pew Researchの世論調査では、86%の米国民がロシアに対して否定的な見方をしている。ここには共和党員および共和党寄りの人々の88%が含まれている。
c. 2024年のYouGovの世論調査では、攻撃されたNATOの同盟国を防衛することに賛成する共和党員は、防衛しないことに賛成する人数の3倍であった。
(8) これまでも、米国民が武力行使に前向きになるかどうかは、その背景によって左右されてきた。米政府が明確な侵略行為に反応している場合、米国の攻撃が成功しそうな場合、そして米国の重要な利益が脅かされている場合、人々は支持に前向きになる。こうした条件が欠如している場合には、一貫して武力行使を支持することを拒んできた。核保有国である中国に対して武力行使に踏み切るという米国の意思は、依然として中国から攻撃を受けた場合、米国が報復する可能性を高めている。核保有国である中国と米国は、直接的な戦争を回避する強い動機を持ち、世界を終焉させるような紛争は望んでいない。
(9) 歴史が示すように抑止は有効である。米国は冷戦中、ソ連と戦うことなく、その敵対関係を乗り切った。一方、中国はU.S. Armed Forcesと対峙することを嫌ってきた。1950年代の台湾海峡危機では、中国の指導者であった毛沢東は、自国の軍隊にU.S. Armed Forcesへの直接攻撃を避けるよう命じた。中国は、1995年に米国が中国の好戦的なミサイル実験に反発した際には譲歩し、1999年に米国がベオグラードの中国大使館を誤って爆撃した際にも冷静さを保った。中国は、米軍機との空中衝突で中国戦闘機のパイロットが死亡した2001年には、外交的解決を迅速に実現した。2000年代に入ってから、両国の対立はかつてないほど深刻化している。しかし、その力が強大化しているにもかかわらず、中国政府は依然として軍事力を誇示することにためらいを見せている。これまでのところ、中国は台湾に対して空爆よりもサイバー攻撃を行っている。また、フィリピンの船に衝突しているが、フィリピンの船を撃退する際には、非殺傷性のレーザーや放水銃を使用している。フィリピンを支援すると表明することで、Trump政権は中国に挑発行為を抑制するよう迫ることができる。
(10) Trump大統領は人々が考えている以上に米国を戦争に巻き込む可能性が高いかもしれない。大統領は、念願のノーベル平和賞を手に入れるために、紛争を終わらせることに最も関心があるように見える。しかし、米国が攻撃された場合、米国民は彼に強硬手段を採らせることを厭わないだろう。
記事参照:Would Americans Go to War Against China?

3月20日「米同盟国は拡大抑止に疑念を持ちつつも、選択肢は少ない―英専門家論説」(Military Balance Blog, IISS, March 20, 2025)

 3月20日付けの英シンクタンクInternational Institute for Strategic StudiesのMilitary Balance Blogは、同InstituteのDefence and Military Analysis分析研究員Zuzanna Gwaderaの“US allies question extended deterrence guarantees, but have few options”と題する論説を掲載し、Zuzanna GwaderaはTrump大統領の防衛・安全保障関係に対する取引的な取り組みが、何十年にもわたる安心感を損ない始めているとした上で、長年の同盟国に対する彼らの自立性を高めることに寄与したかもしれないが、拡大核抑止力に関して、米国の同盟国がどの程度の予測不可能性に満足しているかは、まだ不明であり、その代償は核兵器を保有する国が増える世界、そして米国の関与が減る世界になるかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の核拡大抑止力は、欧州とインド太平洋地域の同盟国にとって長年、安全策として機能してきた。Trump大統領は、就任2期目に入ってわずか数ヵ月で、核兵器使用の意思だけでなく、大陸の安全保障に対する米国の関与の程度についても疑問を呈している。核抑止力の基盤は確実性と同様に信頼性である。米国は75年間にわたり拡大抑止力を通じて同盟国に信頼性を提供してきたが、この保証は今や徐々に不確実性に陥っている。
(2) Trump大統領の2期目が始まってわずか数週間で、防衛・安全保障関係に対する取引的な取り組みが、何十年にもわたる安心感を損ない始めている。
(3) NATOの核共有と前方配備核兵器計画には、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの6基地に保管されている推定100発の米B61核爆弾が含まれる。フランスを除くNATO加盟国は、核政策に関する同盟の最高機関である核計画グループ(Nuclear Planning Group)に参加している。しかし、米国は欧州に前進配備する兵器の完全な管理権を持ち、米国大統領がそれらの使用に関する唯一の権限を保持している。
(4) オーストラリア、日本、韓国も同様の保護を受けているが、米国はこれらの国に核兵器を配備していない。中国と北朝鮮からの脅威が高まっていることを踏まえ、Biden政権は、戦略爆撃機や潜水艦の展開増加、共同軍事演習、そして特に2023年の米国と韓国のワシントン宣言に盛り込まれた核協議グループ(Nuclear Consultative Group)を通じた政府間関与の強化などを通じて、インド太平洋地域の同盟国を安心させようと努めた。
(5) Trump政権は長い間、欧州の同盟国が防衛費を十分に支出していないと批判してきた。Trump大統領は、NATO加盟国に対し、最低限の防衛費をGDP比5%に引き上げるよう求めているが、これは米国ですら達成していない水準である。Trump大統領は、「代償を払わない」同盟国を守ることを拒否する考えを公にしている。安全の保証なしにロシアのウクライナ侵略戦争を迅速に停戦するようTrump大統領が強く求めたこと、そして後に再開されたとはいえ、ウクライナに対する米国の軍事援助と情報共有を一時停止したことと相まって、米国の行動はヨーロッパの一部に、大陸の安全保障に対する米政府の誓約に疑問を抱かせることになった。同盟国は今や、Trump大統領が欧州防衛のために米国の核兵器の使用を検討するかどうか疑問視している。
(6) 対照的に、Trump政権はこれまでインド太平洋地域の同盟国に対する安全の保証を公に受け入れてきた。2025年2月に日本と韓国と行った3国間声明で、米国は核兵器を含む日韓両国の防衛と北朝鮮の「完全な非核化」への取り組みを再確認した。しかし、Trump大統領は選挙運動中も大統領就任後も、韓国が防衛費の負担をもっと増やすべきだと示唆し、日本に対する拡大抑止支援の論理に疑問を呈しており、日韓両政府では好意的に受け止められないだろう。
(7) 米国は数十年にもわたり、核抑止力の拡大は有益だと考えてきた。核抑止力の拡大は米国の防衛力と同盟国との政治的結びつきを強化し、米国にさらなる戦略的深みをもたらし、そしておそらく最も重要なことは、脅威にさらされた場合に同盟国が独自の核兵器を追求するという圧力を軽減したことである。新たな核共有協定の導入は、すでに弱体化した核兵器不拡散条約(以下、NPTと言う)にとって打撃となるだろう。反対派は、NPTの下でのその協定に正統性がないことを指摘する可能性が高いからである。ロシアのPutin大統領は、信憑性の有無にかかわらず、ヨーロッパに対して核兵器の脅威を繰り返し示しており、ロシア政府はベラルーシにも核兵器を配備した可能性が高い。新米政権の動向に対するヨーロッパ大陸の反応は、米国の拡大核抑止力に代わる可能性のある手段を再検討することだった。フランスのMacron 大統領は、自国の核兵器がヨーロッパの安全保障に果たす可能性のある役割について協議する用意があると表明し、この提案は複数の同盟国から好意的に受け止められた。フランスが提供する原子力協定を急速に作り直すことは技術的、政治的な課題に直面するだろうし、その有効性と持続性も疑問視される可能性がある。米国の保証に代わる実行可能な代替策が見つからなければ、NATO加盟国の中には、自国独自の抑止力を求める選択をする国も出てくるかもしれない。
(8) インド太平洋地域は、さらに差し迫った核拡散の懸念を提起している。北朝鮮の核兵器とミサイル兵器が拡大する中、韓国の高官らは繰り返し核武装を呼びかけており、この考えは今や韓国国民の大多数に受け入れられている。
(9) 多くの国にとって、信頼できる最小限の抑止力への道のりは長く、孤独で、危険なものとなる可能性がある。多くの非核兵器国は核分裂性物質を生産する基幹施設を欠いており、NPTや米国との123協定などの核不拡散協定に縛られている。核兵器計画を明示的に支援する協力者を見つけるのはおそらく困難だろうし、そのような支援は発覚する可能性も高い。NPTを離脱すれば、潜在的核拡散国との関係が悪化し、経済、同盟、防衛協力に影響が及ぶ可能性がある。
(10) Trump第2期政権の初期政策は、長年の同盟国に対する彼らの自立性を高めることに寄与したかもしれないが、安全保障の保証人としての米国の予測可能性は、今やますます考慮される必要がある。拡大核抑止力に関して、米国の同盟国がどの程度の予測不可能性に満足しているかは、まだ分からない。その代償は、核兵器を保有する国が増える世界、そして米国の関与が減る世界になるかもしれないが、せいぜい安全が増すというだけの話だ。
記事参照:US allies question extended deterrence guarantees, but have few options

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Applying Black Sea Combat Lessons to DMO in the Western Pacific
https://cimsec.org/applying-black-sea-combat-lessons-to-dmo-in-the-western-pacific/
Center for International Maritime Security, March 11, 2025
By LtCol James Jackson is a career logistician in the U.S. Marines.
 2025年3月11日、U.S. Marine Corpsの後方の専門家James Jackson中佐は、米超党派シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに“Applying Black Sea Combat Lessons to DMO in the Western Pacific”と題する論説を寄稿した。その中でJames Jackson中佐は、U.S. Navyが西太平洋で中国人民解放軍海軍と対峙する際、分散型海上作戦(Distributed Maritime Operations:以下、DMOと言う)が有効な戦術とされるが、その限界も顕在化しているとした上で、中国の高度な監視・ミサイル能力により、分散部隊の隠密性と持続性が脅かされる一方、攻撃には集中が求められ、結果的に敵の攻撃圏内に引き込まれてしまうと、その理由を述べている。そしてJames Jackson中佐は、これを打開するため、ウクライナの黒海における非対称戦術と海上拒否戦の教訓を取り入れるべきと主張したいとし、無人機・無人水中艇による偵察、奇襲的打撃、スマート機雷の活用、センサー網による海域管理などは、西太平洋における局地的な海上拒否(sea-denial)に有効だが、黒海と異なり広大な西太平洋では、補給・前方展開基地の拡充、長距離作戦の継続性確保が不可欠であり、U.S. Armed Forcesは同盟国との連携による分散型兵站体制の構築が求められるため、結果として、DMOは従来の艦隊戦から、機動的・柔軟な統合無人戦への進化を迫られており、海洋の主導権を維持するには、戦術革新と運用概念の統合が急務であると結論付けている。
 
(2) Deciphering French Strategy in the Indo-Pacific
https://warontherocks.com/2025/03/deciphering-french-strategy-in-the-indo-pacific/
War on the Rocks, March 13, 2025
By Léonie Allard is a visiting fellow at the Atlantic Council’s Europe Center.
 2025年3月13日、米シンクタンクAtlantic Councilの Europe Center客員研究員Léonie Allardは、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに“Deciphering French Strategy in the Indo-Pacific”と題する論説を寄稿した。その中でLéonie Allardは、フランスがインド太平洋を自国の主権が及ぶ地域と捉え、海外領土を起点に戦略的関与を深めているが、空母打撃群の派遣や日米豪印との協力拡大はその象徴であり、Forces armées françaises(フランス軍)の存在感は南シナ海や台湾海峡にも及んでいるとした上で、AUKUSにより豪との潜水艦契約が破棄されたものの、フランスは日印など他国との防衛・技術連携を強化し、インド洋や南太平洋の要衝における展開能力の拡充を図っていると指摘している。そしてLéonie Allardは、インド太平洋と欧州の安全保障は中国・ロシア・北朝鮮の連携を背景に連動しつつあり、米国の欧州からの関与後退を前提とした仏米連携の再構築が求められているとした上で、フランスは多国間主義と戦略的自律を軸に、地域安定の担い手として存在感を示そうとしていると述べている。
 
(3) PRC Uses Legal Warfare to Support Maritime Blockade Against Taiwan
https://jamestown.org/program/prc-uses-legal-warfare-to-support-maritime-blockade-against-taiwan/
China Brief, The Jamestown Foundation, March 15, 2025
By Masayoshi Dobashi is a graduate student at Hitotsubashi University in Tokyo
Rena Sasaki is a PhD student at Johns Hopkins SAIS and a fellow of the Pacific Forum’s Next Generation Young Leaders Program. 
 2025年3月15日、一橋大学大学院生Masayoshi Dobashiと米Johns Hopkins SAIS大学院生Rena Sasakiは、米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに“PRC Uses Legal Warfare to Support Maritime Blockade Against Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、中国が台湾封鎖を正当化するために「法律戦(legal warfare)」を活用しており、国際法と国内法の両面から包囲網を構築しているが、特に国際法の解釈を通じて、平時においても外国船舶への臨検・拿捕を正当化しようとしており、これにより国際社会の反発を回避しつつ、台湾の通商を徐々に圧迫する構えを見せているほか、海警法や海上交通安全法などの国内法制度は、中国海警総隊や人民解放軍海軍による外国船への強制力行使を合法化する枠組みを提供していると述べている。そして両名は、それらに加えて中国は、海上排除区域や演習名目の危険区域の設定により、公式な「封鎖」宣言なしに台湾海域への接近を制限する戦術を進めていると指摘した上で、これらの措置は、台湾を軍事的に封じ込めつつ、経済的威圧の形を取ることで、国際的非難を回避し、統一に向けた既成事実を積み重ねる中国の戦略を反映していると主張している。
 
(4) Does America Face a “Ship Gap” With China?: The Real Threat Posed by Beijing’s Fast-Growing Navy
https://www.foreignaffairs.com/united-states/does-america-face-ship-gap-china?s=EDZZZ005ZX&utm_medium=newsletters&utm
Foreign Affairs.com, March 19, 2025
Stephen Biddle, Professor of International and Public Affairs at Columbia University and Adjunct Senior Fellow for Defense Policy at the Council on Foreign Relations
Eric Labs, Senior Analyst for Naval Forces and Weapons at the Congressional Budget Office
 3月19日、米Columbia University教授Stephen BiddleとCongressional Budget Office(米国議会予算局)上席分析員Eric Labsは、米シンクタンクCouncil on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsのウエブサイトに、“Does America Face a “Ship Gap” With China?: The Real Threat Posed by Beijing’s Fast-Growing Navy”と題する論説を寄稿した。その中で、両名は①20年前、U.S. Navyの戦闘艦艇数は282隻で、中国海軍の220隻を大きく上回っていたが、現在では、中国海軍の戦闘艦艇数は400隻に達し、U.S. Navyの295隻を上回っている。②中国は世界最大の造船国であり、その年間建造トン数は他国全ての合計を上回り、この分野における中国の能力は米国の200倍以上にのぼるという。③中国は艦隊の損失を迅速に補充し、そこからさらに規模を拡大する能力を持つが、それは米国には到底実現できないことである。④このような構図は、第2次世界大戦における米国と大日本帝国の関係にも見られ、戦争初期においては、U.S. Navyの技能と経験は日本海軍に劣っていたが、米国は長期戦で相手を上回る艦船能力を発揮して敵を圧倒した。⑤戦時において米国は、中国の巨大な造船産業を破壊するだけの火力を投射する必要があるが、そうした攻撃は報復を招き、核兵器による事態の拡大の可能性がある。⑥米国の同盟国である韓国と日本は造船大国であり、その国内生産能力が米国の不足を補うかもしれないが、様々な危険性がある。⑦他の選択肢としては:平時から重要部品を備蓄する;平時に必要以上の産業能力をあえて保持する;比較的安価な無人艦艇を導入する;現在ミサイルを搭載していない揚陸艦や支援艦に兵装を追加する;商船をミサイル搭載艦に改造するという手段もある、⑧中国海軍と米海軍のバランスをめぐる議論は、長期戦における生産競争という力学を含めて、より広範に捉え直されねばならないといった主張を述べている。