海洋安全保障情報旬報 2024年11月11日-11月20日

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11月11日「中国のアフリカ進出におけるモンバサ港の重要性―インド専門家論説」(Observer Research Foundation (ORF), November 11, 2024)

 11月11日付インドのシンクタンクObserver Research Foundation (ORF)のウエブサイトは、同Foundation 研究員Shreyansh KrishnaおよびSayantan Haldarの“Significance of Mombasa Port for Chinese outreach in Africa”と題する論説を掲載し、ここで両名は中国が海上シルクロード構想の下、ケニアのモンバサ港開発を足掛かりにアフリカ大陸に勢力を広げようとしているが、スリランカのハンバントタ国際港開発の例では、港の99年間リース、人民解放軍海軍の基地化が行われており、中国資本による開発事業には慎重であるべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) アフリカは、中国の一帯一路構想の海洋版である海上シルクロード構想において極めて重要な協力相手として浮上しており、その足がかりの1つが、ケニア南東部沿岸に位置するモンバサ港である。モンバサ港は東アフリカで最も交通量の多い港であり、アフリカの内陸国への玄関口として、地域貿易の中心的役割を果たしている。この港が中国の対アフリカ関与の重要な拠点としてどのように機能しているかを検証し、西インド洋における中国の地政学的野心を考察することが不可欠である。
(2) 海上シルクロード構想におけるアフリカの戦略的価値は、重要な航路沿いに位置することと豊富な資源に由来する。モンバサやジブチのようなインド洋と東アフリカ沿岸の港は、中国に重要な海上交通路を提供し、アジア、アフリカ、ヨーロッパ間の物資輸送を促進する。アフリカの膨大な天然資源は、中国の資源安全保障にとって極めて重要で、中国の産業に原材料の安定供給を保証する。さらに、成長するアフリカの消費者市場は、中国の投資にとって価値の高いものとなっており、推計によれば、2023年にアフリカ市場は中国の総輸出額の5.1%を占めている。
(3) 地政学的にも、中国はアフリカ全域で社会基盤整備のための官民協力体制を確保することで、西側の影響力に対抗しようとしている。こうした関係は、世界貿易における中国の足場を強化すると同時に、より広範な地政学的野心を支える経済的依存関係を育む。これにより、中国はアフリカ大陸の主要なサプライチェーンと新興市場における優位性を維持することができる。タン・ザム鉄道のような歴史的事業に象徴されるように、当初は、中国によるアフリカへの関与が歓迎された。しかし、中国企業の進出が拡大するにつれ、杜撰な事業計画や地元経済への恩恵の欠如、新植民地主義への懸念などから摩擦が大きくなり、その結果、特にケニアや南アフリカ等の民主主義国では中国の労働慣行や資本投資に対する不満を訴える抗議行動が起こり、反中感情が高まっている。
(4) アフリカ大陸最大の経済大国の 1つであるケニアと中国の関わりは、特に一帯一路構想を通じて、アフリカ大陸における中国政府の経済外交の取組みを象徴している。2005年以降、ケニアの外交政策は「ルック・イースト」の枠組みに移行し、欧米の投資に代わるものとして、中国の融資や中国が運営する社会基盤整備事業を拡大している。中国はケニアにとって最大の貿易相手国となり、ケニアの輸出品である紅茶、コーヒー、ハーブ、アボカドは中国の消費者の支持を集めているが、2023年の貿易赤字は93億9,000万米ドルで、その半分以上は中国からの多額の投資、貿易取引、開発援助によるものである。
(5) ケニアにおける中国の影響力を示す例としては、モンバサとナイロビを結ぶ標準軌鉄道(以下、SGRと言う)があり、一帯一路構想の旗艦事業に位置付けられる。中国輸出入銀行(EXIM)が事業費の90%を融資し、ケニア政府が残りの10%を拠出して、中国道路橋梁公司が建設を主導した。SGRは地元住民3万人の雇用を創出し、初年度に540万人の旅客と130万TEU(twenty-foot equivalent unit:20ft換算コンテナ個数)の貨物を輸送した。しかし、こうした成果にもかかわらず、この事業は課題に直面しており、多くの若いケニア人が低賃金で未熟練の仕事に不満を表明している。さらに、SGRは開通以来赤字経営で、2020年5月以降2億米ドル以上の損失を計上している。
(6) モンバサ港は、東アフリカおよび世界の貿易にとって重要な玄関口で、この地域の内陸国と国際市場をつないで、経済成長および収益・雇用創出の原動力となっている。また、地域統合や近隣諸国間の協力を促進し、地域の安定に貢献している。モンバサの戦略的立地は、中国が海上航路を確保し、海軍力を拡大することを可能にし、この地域における中国の経済的、軍事的影響力を強化している。中国は、標準軌鉄道(SGR)などの社会基盤整備事業とともに、港湾に多額の投資を行うことで、この地域における長期的な存在感を確保している。
(7) 海上シルクロードは、アフリカ市場を世界のサプライチェーンに連接し、効率的な貿易経路を構築するため、海上、鉄道、道路網を結び、アフリカ全域にわたる複合一貫輸送の開発を推進している。その例が、モンバサへの過度の依存を減らすことを目的としたラム港-南スーダン-エチオピア輸送(以下、LAPSSETと言う)回廊事業である。この事業計画では、ラム港などの新しい社会基盤が開発され、東アフリカの主要国と結ばれている。これらの開発は、アフリカの港から内陸部の市場への円滑な物資輸送のため、海上シルクロードの下で効率的な輸送網を確立するという中国の目標に沿ったものである。
(8) ジブチ、モンバサ、タンザニアのダルエスサラームなどの港は、世界貿易とエネルギー安全保障に不可欠なインド洋と紅海の主要航路への接続を提供している。中国によるアフリカの港湾への投資は、商業関連事業とされているが、多くは経済活動だけでなく、人民解放軍海軍を支援し、海洋権益を確保するための軍事力投射を可能にする側面がある。これは特に、中国初の海外軍事基地が設置されたジブチにおいて明らかで、主要航路に近い戦略的立地となっている。さらに、中国はしばしば港湾開発のために多額の融資を行う社会基盤整備の債務方式を採用している。この方式は、スリランカのハンバントタ港で見られたような、アフリカにおける「債務の罠外交」の危険を懸念させる。LAPSSETのような事業は、アフリカ全域に効率的な貿易経路を確立するという中国の目標に合致している。しかし、経済成長と自国の金融主権保護の均衡を図るには、どの国もスリランカの経験から教訓を得ながら、慎重になるべきである。
記事参照:Significance of Mombasa Port for Chinese outreach in Africa

11月12日「中国、スカボロー礁周辺の領海基線を発表―The Diplomat編集者論説」(The Diplomat, November 12)

 11月12日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌東南アジア担当編集者Sebastian Strangioの“China Declares Baselines Around Disputed South China Sea Shoal”と題する論説を掲載し、そこでSebastian Strangioは中国政府がこのほど南シナ海における領海基線や種々の地形の正式名称などを公表したことに言及し、その背景と今後の展開について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国政府は南シナ海にあるスカボロー礁周辺における領海基線を公表した。領海基線の公表はスカボロー礁周辺海域の領有権の主張を強化するためである。中国政府によればこれは「法的に海洋の管理を強化するための当然の方策」であり、そして「黄岩島(スカボロー礁)は中国の領土である」と主張している。
(2) UNCLOSによれば、領海基線とは国や島の沿岸に沿う線であり、そこから領海やEEZなど、それぞれの国の主権や司法権にかかわる海域が設定される。EEZは領海基線から200海里以内の海域を指す。
(3)上記声明と同じ日、中国自然資源部と民政部が、南シナ海の64の島や環礁の、中国にとっての正式名称を簡体文字とピンイン表記によって発表した。大部分が南沙諸島に位置し、その中には、最近中国海警総隊とPhilippine Coast Guardとの間で緊張が高まったセカンド・トーマス礁やサビナ礁も含まれている。
(4) この数年、スカボロー礁で緊張が高まっている。フィリピンのEEZの内側にあるが、2012年以降中国が実効支配をしている。最近では、フィリピン漁船がその環礁付近に接近するのを中国が妨害している。2016年、国際仲裁裁判所は、南シナ海に関する中国の領有権の主張は、UNCLOSの下では合法的ではなく、したがって、中国のスカボロー礁の領有権も否定した。また、その裁定はスカボロー礁を島ではなく岩とした。したがって、岩から12海里の領海は決定されるが、接続水域、200海里のEEZおよび大陸棚は構成しない。スカボロー礁はフィリピンのEEZや大陸棚の一部とみなされた。中国はその裁定を拒絶した。
(5) 中国による今回の声明は明らかに、11月8日にフィリピンのMarcos Jr.大統領が署名した2つの立法への反応である。その2つの法律とは、フィリピン群島航路法(The Philippine Archipelagic Sea Lanes Act)とフィリピン海域法(The Philippine Maritime Zones Act)である。前者は外国船や航空機がフィリピンの群島水域を通過する権利行使に関するシステムを確立するもので、後者はフィリピンの海洋の主張に関する明確な定義づけをしたものである。それに対し、中国外交部はフィリピン大使を召喚し、「厳重な抗議」を行った。中国国営テレビが運営するソーシャルメディアによると、スカボロー礁の基線設定は、フィリピンの動きに対する「直接的な」対応であった。外交部は、フィリピンの立法がスカボロー礁や南沙諸島を「違法に」自国海域に包摂することを狙っているものであり、それに対して中国は「法に従いあらゆる措置を採る」と発表した。
(6) 今回の声明は、スカボロー礁周辺における中国の力の展開の増加につながるであろう。同じ日、中国海警もスカボロー礁周辺の哨戒を増やすことを表明している。
記事参照:China Declares Baselines Around Disputed South China Sea Shoal

11月13日「2027年の海上輸送船団による台湾支援―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, November 13, 2024)

 11月13日付けの米シンクタンクThe Center for International Maritime Securityのウエブサイトは、U.S, Navyにおいて水上戦を専門職域としCryptologic Warfare Activity 66に勤務するNathan Sicheri大尉の“The Maritime Convoys of 2027: Supporting Taiwan in Contested Seas”と題する論説を掲載し、ここでNathan Sicheri大尉は中国人民解放軍に「2027年までに武力による台湾征服の準備を整える」ことを習近平国家主席が指示したという前提に基づく米国の対抗策は、主要任務と技能に焦点を当てるべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Navyにとって2027年の情勢見積もりは、習近平国家主席が人民解放軍(以下、PLAという)に対して、2027年までに武力による台湾征服の準備を整えるよう指示したという考えに基づいている。今後3年間の集中的な演習と戦闘能力開発は、単一の能力よりも紛争への備えを形作るのに役立つだろう。これらの取り組みは、戦時における成功に多大な影響を与える主要任務と技能に焦点が当てられるべきである。
(2) 台湾を維持するための作戦は、戦略的成功のための重要な手段となる。しかし、中国軍が台湾を孤立させ、侵略することに成功した場合、U.S. Armed Forcesおよび同盟軍は台湾防衛軍に補給を行うことは数ヵ月しかできないだろう。米国民の支持、台湾の政治的意思、台湾の抵抗を維持する能力といった未知の要因により、決定的な制海権の確保が間に合わない可能性がある。米国は、敵の武器の射程圏内で制海権を確保できない包囲された島への後方支援をどのように行うかについて、慎重に検討しなければならない。
(3) 台湾がPLAの抑止または撃破に備えるべきかという議論には、多数の低価格の能力を活用する非対称的な概念や、より大規模な通常戦力を使用する概念が含まれている。いずれの考え方を採用するにせよ、PLAが台湾を封鎖した場合に台湾の防衛と社会をどのように維持するかが、作戦上の中心的な問題となる。台湾は、物資的、政治的、軍事的崩壊のいずれの理由によるにせよ、PLAの封鎖または侵攻に数ヵ月以上耐えることはできない。台湾が生き残るためには、米国の相当な支援が必要となる。
(4) PLAは封鎖において、外交的に優位に立つために、先制攻撃を控えて、あえて米国またはその同盟国に先制攻撃を仕掛けさせ、平和を公然と破らせるように挑発する可能性が高い。そして、武力による封鎖解除は、全面的な紛争の危険性を伴い、台湾へのPLAの侵攻や同地域におけるU.S. Armed Forcesおよび同盟軍への攻撃につながる可能性がある。封鎖解除を行わない場合は、最終的には台湾が降伏することになる。
(5) 現在、国際的な係争海域を通過する際、U.S. Navyおよび同盟軍は船舶の護衛を行っている。それは、「プロスペリティ・ガーディアン作戦」で強調され、この作戦は紅海におけるフーシ派の攻撃から船舶を守ることを目的としている。ここでの貴重な経験から得られた教訓を艦隊全体に周知し、西太平洋における護衛任務に適応させることが極めて重要である。
(6) 台湾への補給は、PLAの広範な能力により、はるかに複雑で困難なものとなるだろう。多数の補給艦を統合空母打撃群に組み込むことで、それなりの防御は可能になるが、同時に、航空機やミサイル攻撃を誘い易くなり、極めて集中した標的を提供してしまうことになる。分散作戦を採った場合は、限られた数の護衛艦のミサイル備蓄に頼らざるを得なくなり、航空機やミサイルによる攻撃をかわすことが難しくなる。
(7) 米国の最も重要な優位性は、国際的な提携と連合を結成する能力である。米国はインド太平洋地域において、日本、オーストラリア、韓国、フィリピンの4ヵ国と重要な条約に基づく同盟関係にある。日本は地理的に最も有利な位置にあり、近代的な軍事能力を維持している。フィリピンも有力な提携国であるが、護衛作戦や制海権確保に貢献できる海軍力は持たず、主にU.S. Armed Forcesが利用できる拠点や基地を提供している。オーストラリアは、直接的な紛争地域から最も離れた場所に基地を提供し、有能な海軍工廠も有している。韓国は日本と同様に、米軍の作戦を支援できる位置にある。同盟国の基地および領土は、補給を容易にするための潜在的な出撃拠点および複数の作戦軸を提供し、中国軍の状況を複雑化させる。国際的な演習は、輸送船団の作戦のために、インド太平洋地域の同盟国を統合し、その領土および補給の要所間の演習が行われるべきである。
(8) 陸路の利用や対立が存在しない海域があるため、最近の紛争では海上護衛は後景に回っている。台湾は、紛争時はもちろん、平時においても輸入に頼らざるを得ない島国であるという問題を抱えており、必要な物資を長期間にわたって大量に輸送するには、海上輸送が唯一の手段となる。米国は、台湾の主権を維持するために、時間と距離の制約を克服しなければならない。US, Navyには、制海権を確立する時間も能力もない。第2次世界大戦以来見られなかったような海上での護衛任務の訓練を行い、激しい戦闘が予想される海域での海上補給を可能にする革新的な作戦を開発しなければならない。海上護衛は単に制海権の副産物ではなく、同盟国を戦いに留まらせるために必要で重要な任務である。これは、これまでU.S. Navyが見過ごしてきたが、迅速に再学習しなければならない作戦である。
記事参照:The Maritime Convoys of 2027: Supporting Taiwan in Contested Seas.

11月13日「オーストラリアの次期フリゲートSEA 3000の最終候補は日本とドイツ―オーストラリア執筆家論説」(Naval News, November 13, 2024)

 11月13日付のフランスの海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、フリーランスの執筆家兼分析家でドイツ軍の近代化、中国海軍の建艦計画などに詳しいAlex Luckの“Germany, Japan Left Standing in Australian SEA 3000 Down-Select – Naval News-Analysis”と題する論説を掲載し、ここでAlex Luck はRoyal Australian Navyの次期フリゲートSEA 3000候補の選定は日本の三菱重工とドイツのTKMSの2社に絞られたが、最終決定は次のオーストラリアの連邦選挙後になる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年11月、オーストラリアのメディアは、Royal Australian Navyの次期フリゲートSEA 3000の選定を5社の入札から2社に絞り込んだというオーストラリア政府の決定について報じている。SEA 3000は、最大11隻を調達することを目指しており、少なくとも海外で建造される初めの3隻については全く改修や変更をしなくて良い「ゼロチェンジ」に重点を置いている。2024年2月のオーストラリア政府の決定でSEA 3000の応札を示唆した最初の5社は、スペインのNavantia社、日本の三菱重工業、ドイツのTKMS社、韓国のHyundai Heavy Industries社とHanwha Ocean社であった。Naval Newsは以前、計画の要件と基本的な課題に関して報告したが、この記事では、2024年11月に絞り込まれた2社とその提案に関するさまざまな側面と問題に焦点を当てることとする。この次の段階となる正式な発表と政府による要件の詳細はまだ発表されていない。報道によると「今後数週間以内」の発表が予定されている。
(2) オーストラリアのDepartment of Defenceの当局者は、この取り組みの「ゼロチェンジ」または「変更なし」の側面を繰り返し強調し、Royal Australian Navyが既存の外国の基準に完全に適合した設計を受け取ることを示唆した。オーストラリアは2026年までに海外で建造を開始し、最初のフリゲートを2029年末までに就役させたいと考えている。就役までの時間が最優先事項であり、オーストラリアで確立される効果的な保守整備システムがそれに続く。3番目の優先事項は、さまざまな法的規制を完全に通過していることである。この側面は、日本にとって特に重要かもしれない。三菱重工は、これまで海上自衛隊用の艦艇を海外に輸出しておらず、関連する外国の基準の認証も行っていない。最後の最も低い優先順位は、オーストラリアおよび同盟国のシステムとの相互運用性である。オーストラリアが課した厳しいメディア制限のため、入札者は誰もSEA 3000について意見を出さないとされている。Department of Defenceもこれ以上の発表をしないと述べている。
(3) MEKO A-200は、ドイツのTKMS社の排水量3,700トンの多目的フリゲートの輸出版であり、南アフリカ、アルジェリア、エジプトが購入している。オーストラリアのメディアは、アンザック級フリゲート艦と現在議論されているA-200とを結びつけることがよくあるが、これらは別々の設計である。既存の3種類のA-200設計は、さまざまなサブシステムと武器を提供する。日本の艦艇と同様に、これらはいずれも現在オーストラリア海軍では就役していない。1つの例外はGE LM2500ガスタービンであるが、A-200はウォータージェット推進を含む独自のCODAG-WARPに統合されている。南アフリカ、アルジェリア、エジプトが導入したフリゲートはいずれもオーストラリアが望んでいるMk41 垂直発射システムを装備していない。南アフリカとエジプトはフランスのエグゾセMM40を対艦ミサイルとして装備し、アルジェリアの艦艇はスウェーデンのサーブRBS15Mk3を搭載している。説明されている仕様では、「箱から出してすぐに使える」MEKO A-200が存在しないことを示している。
(4) これに関連して、ドイツのTKMS社は2023年にシドニーの展示会でMEKO A-210の構想を展示した。それは、オーストラリアのCEAFARレーダーと現在のオーストラリアの在庫に一致するMk41 VLSを含む完全な兵器の統合を特徴とする元のA-200設計からの大幅な進化を示している。その設計は、TKMS社が契約を受け取った場合に、オーストラリアの造船業者が国内で生産できることを示している。選考は日本の候補と同様に複雑である。独立した審査(Independent Review)後のオーストラリア政府の宣言では、もがみ型フリゲートが関連する「模範」として特定されていた。もがみ型は現在、海上自衛隊向けに生産されている。日本は、もがみ型FFGについて当初の最大22隻の建造要求を12隻に減らし、その後、当初「新FFM」と呼ばれる設計に大幅に進化させた。現在、海上自衛隊に就役しているもがみ型は排水量5,250トンの護衛艦である。当初の30FFMは、対潜水艦戦、機雷戦、哨戒に焦点を当てたフリゲートとして、堅牢な自衛能力を備えるように設計されていた。もがみ型は、ステルス化を推進するとともに、乗組員数の削減を可能にする自動化を行っており、それは注目に値する。この設計は、主砲は米国製のMk 45 127 mm砲であり、SeaRAMを介した短射程対空ミサイルを装備している。ただし、主要な武器システムは完全に日本製である。もがみ型には、17式対艦ミサイルと3連装発射装置に装填された97式短魚雷が搭載されている。センサーの取り付けと戦闘指揮システムも日本独自の開発である。推進力はCODAGであり、オーストラリアがハンター級フリゲートで使用しているロールスロイス社のMT30ガスタービンを採用している。もがみ型のMk41 VLSには議論が集中している。もがみ型は16セルのVLSを装備するように設計されている。そのVLS用の武器としてはもともと、日本の07式垂直発射対潜ロケットと中距離防空用の23式SAMが考えられていた。現在海上自衛隊に就役しているもがみ型にはMk41 VLSは搭載されていない。現在7番艦と8番艦にMk41 VLSを装備するための資金調達計画が進行中である。日本は2021年度からこの取り組みを開始し、2024年4月からMk41 VLSをもがみ型に装備し始めている。残りのもがみ型には後日装備する予定である。Naval Newsは、23式SAMはもがみ型の搭載武器から削除されたと考えている。もがみ型には07式垂直発射対潜ロケットのみを装備し、23式SAMは「新FFM」に装備されると思われる。
(5) シドニーとパースで開催されたオーストラリアの防衛展示会では、三菱重工はすでに述べた「新FFM」に重点を置いていた。三菱重工では、海上自衛隊の調達におけるもがみ型を引き継いだこの新設計の「新FFM」を「もがみ型改」と呼んでいる。それが元のもがみ型が考慮されなくなったことを意味するのか、それともまだ全体的な提案の一部になるのかは、まだ確認されていない。オーストラリア国営放送の選定に関する報道では、もがみ型の「最新型」について言及されている。Naval Newsが以前に報告したように、「もがみ型改」は全面的に機能が拡張されたことを示している。さらに大型化し、排水量が6,200トンになったのは、これらの変化を反映している。目標とする乗組員の人数は、もがみ型と同じである。特に、三菱重工は、外国のレーダー構成にも対応できるさまざまなセンサーマストを備えた「もがみ型改」を展示した。ドイツのTKMS社のMEKO A-210と同様、このような選択肢は、SEA 3000に向けてオーストラリア製の武器を促進する企業の努力を表している。
(6) ここまで説明したように、ドイツ案も日本案も、就役までの時間が唯一の基準ではあるが、SEA 3000の要件を満たす「箱から出してすぐ使える」という要求とは一致していない。修理、維持管理、規制の枠組みへの準拠が考慮されると、「最小限の変更」はかなり流動的な解釈を前提としているように思われる。就役までの時間が唯一の焦点であったとしても、さらなる課題が迫っている。最近の報道によると、SEA3000の勝者に関する最終決定、つまりドイツか日本かの最終決定は、次のオーストラリアの連邦選挙後まで行われない可能性があることが示唆されている。選定は2025年前半に行う必要がある。結果が出るまでの間、通常の議会での過程と上記のような技術的な課題が相まって、2026年までの建造開始と2030年以前の運用開始は危なくなってきていると考えられる。
記事参照:Germany, Japan Left Standing in Australian SEA 3000 Down-Select – Naval News-Analysis

11月13日「砕氷船が米国の北極戦略の試金石となる理由―米紙報道」(Arctic Today, November 13, 2024)

 11月13日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウエブサイトは、“How icebreakers are becoming the litmus test for the U.S. Arctic strategy”と題する記事を掲載し、ここで米国が北極海に影響力を持つためには砕氷船の必要性が大きいとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Coast Guardは米国を北極圏の国とし、自らは北極圏の国家安全保障と経済繁栄に対する永続的な責任を維持すると主張している。しかし、米国が北極圏の国として真剣に受け止められたいのであれば、同地域への注力と投資を強化する必要があると専門家は指摘している。現在、注目されている大型投資の1つが砕氷船への投資である。砕氷船は、防衛や軍事演習、救難活動、暖房用燃料の輸送やその他の商業活動に不可欠である。北極は、砕氷船がなければ通年での活動は不可能である。米国には2隻の砕氷船があるが、いずれも老朽化しており、1隻は2020年の火災で使用不能となっている。米国は5年前に3隻の新型砕氷船を発注し、北極の氷を切り開くことができる小型砕氷船隊を補強した。
(2) 第三者や北極の専門家は、米国がこの地域で真剣に受け止められるためには、砕氷船隊の更新が必要と述べている。北極に隣接する他の国々は、多くの砕氷船を運用している。ロシアは40隻以上の砕氷船を保有し、そのうち7隻は原子力推進と推定される。「近北極国家」を自称する中国は、砕氷船3隻を保有し、2025年にはさらに1隻が納入される予定である。世界の砕氷船の60%を建造しているフィンランドは12隻を保有している。そして、スウェーデンは5隻、ノルウェーは2隻保有しているという推定がある。
(3) 米国がこの地域で影響力のある役割を果たそうとするのであれば、新しい砕氷船をできるだけ早く手に入れたいと考えるだろうが、建造を請け負う国内の造船所はまだ工事を開始していない。「米国が最強の国でありたいと望み、他国と肩を並べたいのであれば、砕氷船が必要である。ロシアや中国には新しく、実用的な砕氷船がある。米国も同じものを望むべき」と、Arctic Economic Council(北極経済協議会)のMads Qvist Frederiksenは述べている。さらにThe Arctic Instituteの創設者で上席研究員Malte Humpertは、「米国は40年以上もこのような船を建造していない。それが現在直面している主な障害の1つ」と指摘している。
(4) 2024年7月、Biden政権はカナダおよびフィンランドとの砕氷船協力協定(以下、ICE Pactという)を発表した。それは、3ヵ国で砕氷船の建造やその他の能力について協力するというもので、その協力関係は各国の造船産業と産業能力を、砕氷船の建造やその他の北極および極地能力に焦点を当てた情報交換や相互の人材育成を通じて強化し、さらに各国間の安全保障と経済的な結びつきも強化することを目的としている。この協力関係は、実際に前進している。そして、この動きは米国に対する同盟国による砕氷船建造支援となり、米国の砕氷船に関する専門知識を蓄積させて、砕氷船建造の主導者となるために、ロシアと中国の取り組みに対して先手を打つことを目的としていると言われる。
(5) The Arctic InstituteのMalte Humpertは、「北極は米国経済にわずかな割合しか貢献しておらず、大きな貢献要因であったアラスカの石油収入も減少している。一方、ロシアでは、北極は同国の経済に約20%貢献しており、ロシア経済の未来は北極圏にある」と述べている。また、2014年に中国の習近平国家主席は、中国は「極地の大国」の1つになりたいと述べている。
(6) ICE Pactについて、専門家等は次のように発言している。
a. 米国の国家安全保障顧問Jake Sullivan:砕氷船を建造または世界に提供している権威主義国家は、砕氷船市場を独占しようとしている。我々は、砕氷能力の生産において民主主義国が主導権を握ることを決意している。
b. U.S. Coast Guard:U.S. Coast GuardはICE Pactの展開を今後も注視していくが、現在進行中のU.S. Coast Guardの調達計画に即座に影響が及ぶことは想定していない。極海域警備用巡視船(Polar Security Cutter 、PSC)はU.S. Coast Guardにとって引き続き最優先の取得対象であり、高緯度地域における米国の主権を主張し、経済、環境、国家安全保障上の利益を保護するために不可欠である。
c. Tufts UniversityのFletcher School海洋問題研究責任者Rockford Weitz:カナダとフィンランドは商業市場向けに砕氷船を成功裏に建造しており、米国は両国から専門的知識を得るなどの恩恵を受ける。
d. Arctic Economic CouncilのMads Qvist Frederiksen:過去において、米国は自国の経済を支えるために砕氷船は必要ないと考えていた。もし米国が北極を真剣に考えているのであれば、科学目的だけでなく安全保障や北部での経済成長のためにも砕氷船に投資する必要がある。
 e. フィンランドの砕氷船設計会社Aker Arctic社CEOのMika Hovilainen:米国の新型砕氷船の価格は高すぎると考えられているが、砕氷船は迅速に、1隻10億ドル未満で建造でき、また、この米国の砕氷船発注は米国が北極に目を向け始めた兆しである。
e. Woodrow Wilson Center Polar Institute上席顧問Tero Vaurastenyo:米国が砕氷船に真剣に取り組む時代が、これまでになく近づいている。ロシアと中国が北極圏に対して多方面から関心を強めているため、安全保障のために砕氷船の必要性は差し迫っている。設計、建造、運用における国際協力は、米国に運用上の近道と経費削減の手段をもたらし、迅速に氷を砕くことができる。
 f. Arctic Economic CouncilのMads Qvist Frederiksen:米国が北極圏国家としての立場を真剣に考え、現在開発中の砕氷船の建造が完了した際には、明らかな勝者と敗者が生まれるだろう。勝者は、長年この問題に取り組んできた米国の政治家、U.S. Coast Guard、そしてアラスカの地元共同体であるが、新しい砕氷船が運用可能になるまでには、まだ数年待たなければならない。フィンランドもまた、砕氷船建造の先進国であるため、この協定によりその優位性はさらに明確になった。
(7) 全体として、米国政府は北極圏に関する発言を大幅に増やしている。2024年、Michael Sfragaを北極圏担当大使に任命し、U.S. Department of Defenseは2019年以来初めて北極圏戦略を更新した。その声明の中で、「米国本土を守り、米国の重要な国益を保護する安全で安定した地域として北極圏を維持することを目的とした」と述べている。Biden現政権は、2022年に北極圏地域に関する国家戦略を更新しており、そこでは「特にロシアによる北極圏での侵略」の阻止を強調している。
記事参照:How icebreakers are becoming the litmus test for the U.S. Arctic strategy.

11月13日「米国はアジアの悪童に立ち向かわねばならない―インド戦略研究家論説」(Project-Syndicate, November 13, 2024)

 11月13日付の国際NPO、Project Syndicateのウエブサイトは、インドのシンクタンクCenter for Policy Research戦略研究名誉教授Brahma Chellaneyの“America Must Stand Up to Asia's Bully”と題する論説を掲載し、そこでBrahma Chellaneyは南シナ海で攻撃的姿勢を強める中国に対し、米国はフィリピンの同盟国として敢然と立ち向かい、具体的な行動を起こすべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) この10年以上、中国はハイブリッド戦によって南シナ海における影響力を拡大させてきた。これに対抗することは、次期Trump大統領にとって重大な課題となる。中国は世界的な優越を達成するため、南シナ海の支配を確保し、インド太平洋における米国の優越的状況を終わらせようとしている。
(2) 近年、中国はフィリピンやベトナムなどの船に対する衝突や放水銃発射などの攻撃を繰り返し、資源開発活動や漁業活動を妨害している。そうした暴力は地域の緊張を高め、この決定的に重要な海域の安定を損ねている。米国はフィリピンと相互防衛条約を結んでいるのであるから、こうした中国の行動を抑制するために米国が行動を起こすことを期待する者もいよう。しかし、Obama、1期目のTrump、Bidenの各政権は、支援の声明や象徴的な行動しか採ってこなかった。2012年の中国によるスカボロー礁の奪取に対して、米国は何の罰も与えていない。
(3) 米国がフィリピン防衛に力を入れなかったのは今回が初めてではない。1995年に中国がミスチーフ礁を占領しようとした時、フィリピンは米国に支援を求めたが、Clinton大統領はそれを拒否した。その3年前に、フィリピンにおける米軍基地が撤去されたことに苛立っていたためである。何の手も打たれなかったため、中国はますます大胆になっていき、南シナ海の埋め立てと軍事基地化を進めた。それにより、中国はこの海域で唯一戦力投射を行える立場を維持している。
(4) 中国がフィリピンの安全保障を侵食する中、米国はフィリピン防衛に対する「強い決意」を表明してきた。2023年末にBiden大統領は、米比相互防衛条約が発動する条件を明示した。しかし、中国は罰せられておらず、ゆえに抑止もされていない。
(5) 米国の言説と実際の行動の間の溝はどう説明されるのか。最も重要なこととして、米国は事態の拡大を恐れている。特にその軍事的資源がウクライナや中東に振り向けられているためである。米国は、日中間の尖閣諸島問題にすら深入りを避けている。とはいえ、日本に関しては、日米安全保障条約が尖閣諸島を包摂していることを明確にしてはいる。同様のことをフィリピンにも適用すべきであり、セカンド・トーマス礁を含めた現在フィリピンの行政権下にある地域の現状の変更を強要するあらゆる試みに対して警告すべきである。このとき米国は、2016年の仲裁裁判所の裁定を引き合いに出せるだろう。それにより、南シナ海の将来が国際法によって定められるべきことを後押ししなければならない。
(6) 米国は、フィリピンの海軍・空軍基地9ヵ所を利用してフィリピンを支援できる。これらの基地の利用権はこの10年間で確保されたものである。そうでなければ中国は南シナ海の資源を独占し、サプライチェーンを混乱させ続けるだろう。中国が南シナ海で止まることはない。その影響力拡大を止めるために、米国はフィリピン防衛から始めるべきである。
記事参照:America Must Stand Up to Asia's Bully

11月14「米空母『トルーマン』は北極海でノルウェー軍と演習―ノルウェー紙報道」(High North News, November 14, 2024)

 11月14日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHigh North News電子版は、“US Aircraft Carrier Truman Trains With Norwegian Forces in the High North?”と題する記事を掲載し、ここでノルウェーの海空軍が北極海で今秋も米「ハリー・S・トルーマン」空母打撃群や米攻撃型原子力潜水艦「バージニア」などと非常に高度な共同演習を行っており、その目的は北極圏でのNATOの存在感と作戦準備が整っていることを示すためであるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米空母「ハリー・S・トルーマン」は、Sjøforsvaret(以下、ノルウェー海軍と言う)のフリゲート「ロアルド・アムンセン」とMarina Militare Italiana(イタリア海軍)のフリゲート「カラビニエール」を伴って、現在北極海を航行している。2024年11月半ば、米空母とその航空団は、ノルウェー北部と中部の空域でLuftforsvaret(ノルウェー空軍)と共同訓練を行っている。第132航空団司令Ole Marius Tørrisplass空軍大佐は「我々は今、非常に高度な演習を行っている。これはノルウェーの関心地域を防衛する同盟国の能力と意欲を示している」と述べている。米空母「ハリー・S・トルーマン」のノルウェー沿岸の北極海への航海はこれが2回目である。この空母はノルウェーが主催したNATOの「トライデント・ジャンクチャー2018」演習の期間中もヴェストフィヨルドで行動している。近年、NATO加盟国の空母がノルウェー北部を行動したのは、2024年3月の英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」、2023年5月の米空母「ジェラルド・R・フォード」など合計5隻である。
(2) Forsvaret(ノルウェー軍)は、2024年11月13日午後にこの秋の海軍演習も実施中であると発表した。今後数週間のうちに、ノルウェー海軍、Søværnet(デンマーク海軍)、Royal Navyが、北はフィンマルク西部のロッパから南のベルゲンまでの海岸沿いで演習を行う予定である。演習の大部分はノルウェー北部で行われる。米空母「ハリー・S・トルーマン」は、参加するかどうかを知らされていない。ノルウェー艦隊の司令官Kyrre Haugen准将は「毎年恒例のこの海軍演習は、作戦能力と指揮官の能力を向上させる貴重な一年の締めくくりとなる。この演習は、北極圏での海軍力の展開の重要性と作戦準備が整っていることに重点を置くことを強調するために、『北極圏の前進(Arctic Advance)』と名付けられた」と述べている。
(3) 米攻撃型原子力潜水艦「バージニア」(SSN-774)も現在北極海で行動している。「バージニア」は、2024年11月11日トロムス郡のクヴァロヤ島とセンジャ島の間のフィヨルド・マランゲンに入り、その後、海岸から北に向かった。ノルウェー公共放送(NRK)の報道によると、「バージニア」はマランゲンで地元の漁師の漁網に潜り込み、2海里北に移動した。U.S. Navyは、事故はトロムソのグロツンド港での寄港後に発生したとNRKに伝えている。「バージニア」は、Kystvakten(ノルウェー沿岸警備隊)の巡視船「ハイムダル」に魚網の除去について支援を得ている。
(4) Bооруженные силы Российской Федерации(ロシア国防軍)は、ノルウェー北部でも行動している。2024年11月13日、Северный флот(北方艦隊)の戦闘機がバレンツ海のティムール訓練場でミサイルによる実弾射撃演習を実施したとロシア国営通信社タス通信が報じている。タス通信によると、2024年11月8日にMiG-31戦闘機を伴った2機のTu-95戦略爆撃機がバレンツ海の中立海域を飛行しており、11月12日にはノルウェーのF-35戦闘機2機がTu-95戦略爆撃機2機を確認し、Su-33戦闘機2機がバレンツ海西部の国際空域で確認されたとノルウェー統合司令部はNRKに伝えている。前述の爆撃機は、戦略核戦力の一部であるロシアの長距離飛行司令部の下で運用されている。Министерство обороны Российской Федерации(ロシア国防省)によると、このような航空機は、北極圏や北大西洋などの中立水域を定期的に飛行している。
(5) バレンツ海にある「ハリー・S・トルーマン」空母打撃群の誘導ミサイル駆逐艦「ジェイソン・ダナム」と駆逐艦「スタウト」は、2024年10月21日にバレンツ海の国際水域で定期的な作戦行動を遂行し、その間、米空母は北海で行動していた。「ハリー・S・トルーマン」空母打撃群司令官Sean Bailey少将は「この駆逐艦2隻は、厳しい北極圏の環境におけるU.S. Navyの状況認識を構築し、自由で開かれた北極圏を維持するという我々の誓約を強調するためにバレンツ海に入った」と述べている。この作戦は、敵を抑止し、北極圏での作戦を実践し、U.S. European Commandに情報を提供し、U.S. Department of Defenseの新たな北極戦略を示すためにも行われた。また、2020年5月に米国の駆逐艦3隻と英国のフリゲート1隻がバレンツ海で共同作戦を実施したことも言及されている。その時まで、U.S. Navyの水上艦艇は1980年代半ば以来、この海域で運用されていなかった。2023年、「ジェラルド・R・フォード」空母打撃群の一部である駆逐艦「トーマス・ハドナー」はバレンツ海で同様の哨戒を実施した可能性が高い。「トーマス・ハドナー」は、AISの地図上でその位置が消える前にフィンマルク沖で活動していた。
記事参照:US Aircraft Carrier Truman Trains With Norwegian Forces in the High North

11月14日「フィリピン群島航路法による航行権への影響―中国専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 14, 2024)

 11月14日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、中国シンクタンク国観智庫の海洋研究中心主任劉曉博退役海軍大校の“The Influence of the Philippine Archipelagic Sea Lanes Act on Navigation Rights”と題する論説を掲載し、劉曉博はフィリピンが制定した群島航路法の詳細とそれが与える影響について、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年11月9日、フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、フィリピン海域法(Philippine Maritime Zones Act)とフィリピン群島航路法(Philippine Archipelagic Sea Lanes:以下、ASL法と言う)に署名し、法律として成立させた。評論家は特に「フィリピン海域法」が中国とフィリピン間の紛争を激化させるとして注目しているが、ASL法は広範な影響を西太平洋諸国の航行権に与える。
(2) UNCLOSによれば、群島水域とは、群島国家が設定する群島基線の内側に位置する区域を指す。このような国家は、外国船舶や航空機が「群島航路帯通航権」を行使できるように、これらの水域内に航路や航空路を指定できる。この通航権は、外国船舶や航空機が通常の運航形態で、継続的かつ妨げられることなく、航行や上空飛行を行うことを可能にする。
(3) フィリピンは、インドネシアに次ぐ世界第2位の群島国家であり、1961年に群島基線を正式に設定している。しかし、今回のASL法が導入されるまで、群島航路を指定していなかった。この法案により、フィリピン群島水域を横断する以下の3つの指定航路による通航システムが設けられた。
1. フィリピン海―バリンタン海峡―西フィリピン海(南シナ海)
2. セレベス海―シブツ航路―スールー海―クヨ東水路―ミンドロ海峡―西フィリピン海(南シナ海)
3. セレベス海―バシラン海峡―スールー海―ナスバタ海峡―バラバク海峡―西フィリピン海(南シナ海)
(4) これらの指定された群島航路以外では、ASL法により外国船舶がフィリピン群島水域で無害通航のみを行使できると規定されている。ただし、無害通航は群島航路帯通航と比較して、より制限的な航行権である。群島航路帯通航権の下では、外国の船舶や航空機は妨げられることなく継続的に通過することが認められ、不必要な中断なしに通常の運航形態で航行または上空飛行を行うことができる。一方で、無害通航は航空機を除く船舶に限定されており、UNCLOSの下でより厳格な規定が適用される。
(5) ASL法が外国船舶および航空機に与える最も重要な影響は、群島航路帯として指定される海峡の数を減少させた点である。フィリピンの群島水域には、複数の航行可能な海峡が含まれる。これらの海峡を通過する権利は、UNCLOSによって正当な航行権として最初に確立され、これまで世界中の国家が行使してきた。しかし、ASL法はこれらの海峡の大半を群島航路帯システムから除外し、代わりに無害通航権のみを適用することで、他国の正当な航行権を制限している。
(6) 歴史的および現在の視点から見て、以下のフィリピン群島水域内の海峡は、追加の群島航路帯として指定されるべきである。
北部:バブヤン海峡
西部:ベルデ島水路、パラワン水路、北バラバク海峡
東部:サンベルナルジノ海峡、スリガオ海峡
南部:サグバイ水路、タパアン水路
(7) つまり、これまで、指定された航路帯や航空路が存在しない場合、UNCLOSの規定に基づき、外国船舶や航空機は国際航行に使用される慣習的な航路あるいは航空路で群島航路帯通航権を行使することができた。しかし、ASL法の制定により、外国船舶は現在、規定された3つの海峡のみに通航が制限され、それ以外のフィリピン海域内の海峡では無害通航権しか行使できなくなった。
記事参照:The Influence of the Philippine Archipelagic Sea Lanes Act on Navigation Rights

11月15日「海上ドローンの国際法上の地位は未解決―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, November 15, 2024)

 11月15日付けのシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、同School軍事変革研究の研究員Mei Ching Liuの“The Unresolved Legal Status of Maritime Drones: (War)ships or Weapons?”と題する論説を掲載し、ここでMei Ching Liuは、海上ドローンは船舶/軍艦または兵器として分類されるための現在の国際法上の要件を満たしていないが、案件ごとに慎重に分類することが現時点での解決策であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海軍を持たないウクライナが、武装した海上ドローンを使用してロシアの黒海艦隊の少なくとも3分の1を無力化することに成功した。これを教訓として海上ドローンがより広く採用された場合、その法的地位が未解決であることは、あまり考慮されていない。現在の国際法では、海上ドローンを船舶/あるいは軍艦として分類すべきか、それとも兵器として分類すべきかが明確ではない。このあいまいさは、悪用される余地を生み出し、違法行為に対する説明責任を複雑にし、特に係争中の海域では予期せぬ紛争の危険性を高める。
(2) 海上ドローンは、その多様な運用能力、技術仕様、サイズ、用途を考慮すると、すべての種類の海上ドローンに同じ法的地位を与えることは非現実的である。さらに、その運用は国際的な海洋安全保障、法的責任および主権にとって重要な意味を持ち、法的地位のあいまいさは、国家および非国家主体の両者にとって利用可能な隙間を生み出す。たとえば、国家Aは海上ドローンを配備して航路を妨害し商業船舶を悩ませたりすることで、直接的な軍事行動を起こさずに国家Bに経済的圧力をかけることができる。海上ドローンの法的地位のあいまいさにより、国家Aはドローンを軍事的と分類しないことを正当化できる可能性がある。その場合に、国家Bはドローンに対する防衛行動を正当化することが困難になる。
(3) 海上ドローンの法的地位のあいまいさは、責任の所在を不明確にする。たとえば、海上ドローンがUNCLOSで船舶として分類され、違法行為を行った場合、その責任は登録された国家にある。しかし、これらのドローンが兵器として分類され、不法に使用された場合には、その展開を監督する軍司令官が責任を問われる。海上ドローンが船舶または兵器のいずれかに分類される可能性は、国際法の施行を複雑にするだけでなく、ドローンによる不法な作戦活動後の法的措置の追求を妨げる恐れがある。
(4) 海上での国際武力紛争中、交戦国の権利を行使できる船舶は軍艦のみである。海上ドローンが軍艦として分類されるためには、まず船舶とみなされなければならない。その要件は、1907年のハーグ条約第7条で確立され、UNCLOSや海上における武力紛争時に適用される国際法に関するサンレモマニュアルにも反映されている。しかし、海上ドローンを船舶として分類することにはいくつかの課題がある。
a. UNCLOS第94条では、船舶には乗組員が必要とされている。軍規に従う乗組員が乗船していることが軍艦の定義として求められるため、海上ドローンは軍艦として法的に定義される要件を満たすことはできない。
b. 海上ドローンのサイズと能力は多岐にわたり、多様な運用能力と技術仕様があるため、すべての海上ドローンに同じ法的地位を与えることは現実的ではない。
c. 海上ドローンは、海上における戦闘に関わる規定を定めた「海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第二条約)」の法的義務を満たしていない。たとえば、第18条では、交戦当事国には、交戦後に負傷者、病人、遭難者を捜索し、それらの者を乗船させて必要な治療を行う責任があると規定されているが、海上ドローンは救助を必要とする人員を乗船させる能力が制限されるので、海上での捜索救難活動を自律的に行うことはできない。
(5) 海上ドローンを兵器として分類する場合には、ジュネーヴ諸条約の第1追加議定書の第36条に基づく法的審査の対象となる。また、人間の操作者が最終的に無人機の行動に責任を負うことも明確になる。この考え方は、海上ドローンと類似した特性を持つ機雷や魚雷など他の兵器と一致する。この場合に重要なのは、この分類が将来を見据えたものであるという点である。
a. ドローンを支えるセンサー、ナビゲーション、ロボット工学などの基盤技術は、自律型兵器システム(以下、AWSと言う)の開発に不可欠であるため、ドローン技術は一般的にAWSの先駆けとみなされている。現在の軍事利用においては、操作者による遠隔操作であるため、AWSとは区別されるが、AIなどの技術により、人間が介在することなく、自律的に標的を選択し、攻撃する機能が追加されれば、AWSに変貌する。将来的に海上ドローンにこの機能が組み込まれた場合、致死性自律兵器システム(以下、LAWSと言う)を規制する国際的な合意が締結される可能性がある。
b. ロシアなど一部の国は、国連におけるLAWSの規制に関する議論にドローンを含めることに反対している。一方、中国は、LAWSの定義や特徴付けに民生用ドローンを含めるべきではないと主張している。ロシアとウクライナの紛争で示された民生用ドローンの軍事目的への適用の増加やAWSとドローンの明確な重複を考慮するとこのような除外はLAWSの禁止と規制の目的を損なうことになる。
(6) 軍事目的で使用される海上ドローンは、軍艦としてみなされる道を開く可能性がある。あるいは、海上ドローンが近い将来、人間の介入なしに自律的に標的を選択し、攻撃する能力を組み込むという見通しは、海上ドローンを兵器として分類する根拠をさらに強めることになる。海上ドローンは大きさ、能力、運用目的が様々であるため、一律の分類は存在しない。海上ドローンを分類するのは最終的には各国であり、関連する法的義務や要件、無人機の仕様や目的、国際的な海洋安定性への潜在的な影響を考慮し、各国が適切と考える法的枠組みの中で分類することになる。
(7) 現時点で最も現実的な考え方は、海上ドローンを案件ごとに慎重に分類することである。そして法的枠組みの下で分類され、国際法に準拠した方法で使用されなければならない。船舶として、海上ドローンは海上における他の船舶の航行権を尊重し、軍艦として遠隔操作であれ、その他の手段であれ、軍規に従う乗組員によって指揮されなければならない。そして、兵器として、その使用は国際人道法に準拠していなければならない。
記事参照:The Unresolved Legal Status of Maritime Drones: (War)ships or Weapons?

11月15日「西側の制裁が大型巡洋艦『ナヒモフ』の近代化を阻害―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer, November 15, 2024)

 11月15日付けのノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、西側の制裁にため、ロシアの重原子力ミサイル巡洋艦の近代化は停滞に直面しており、その余波を受けて姉妹艦の行動が不可能な状態にあるなど、Военно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)に重大な影響が出ているとして、要旨以下のように報じている
(1) 重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」の近代化は、ロシア自身が補助システムを製造する必要があるため、予定より大幅に遅れている。この巨艦の再就役に向けた作業は2015年から行われている。当初の計画では、2018年にСеверный флот(以下、北方艦隊と言う)での航海に備えることになっていた。しかし、進捗は遅く、白海での海上試験の計画は次々と延期されている。2022年には再就役は2023年になると言われ、その後、2024年秋とい​​う発表が続いた。
(2) 国有企業Объединённая судостроительная корпорацияUnited(統一造船会社)傘下のСеверное Машиностроительное Предприятие(北部機械建造会社:以下、セヴマシュと言う)は、主に第4世代の新型原子力潜水艦を建造している。しかし、重原子力ミサイル巡洋艦の修理は海軍によって優先事項として繰り返し強調されてきた。8月、北方艦隊司令長官Aleksandr Moiseev大将は、「アドミラル・ナヒモフ」の試験が11月に開始されることを確認した。イズベスチャ紙に対し、状況に詳しい情報筋は「完工は無期限に延期された」と語っている。2024年7月20日の最新衛星画像は「アドミラル・ナヒモフ」は離岸できる状態ではないことを示している。
(3) 軍事専門家Dmitry Boltenkovは、セヴマシュは船体以外すべてを換装しなければならなかったとし、「おそらくセヴマシュは西側諸国で補助システムを購入する計画だったのだろうが、今では自ら製造する必要がある」と語っている。このニュースは、ロシアの軍事力は西側諸国の制裁によって損なわれていないとするVladimir Putin大統領の主張と矛盾している。
(4) 一方、「アドミラル・ナヒモフ」の姉妹艦「ピョートル・ヴェリーキー」は、乗組員が「アドミラル・ナヒモフ」へ配置換えになったため長い間セヴェロモルスクの埠頭に係留されたままである。
(5) 北方艦隊にとって、運用可能な重原子力ミサイル巡洋艦の不足は唯一の問題ではない。航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」は、以前約束されていたように、今秋には海上試験航海に出航しない。ソ連時代に建造されたこの空母は2017年から改修工事が行われており、依然として「非常に劣悪な状態」にあり、「多くの作業が残っている」。
記事参照:Western sanctions hinder modernisation of Russia’s largest warship

11月18日「ハタンガに北極緊急用拠点を建設したいロシア―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer, November 18, 2024)

 11月18日付けのノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、“Moscow wants Arctic emergency hub in Khatanga”と題する記事を掲載し、ロシアが北極海に面する港湾都市等に緊急事態に対応するための拠点を構築しつつあるとして、要旨以下のように報じている。
(1) ロシアは、北極海航路沿いに救助・緊急活動のための拠点を建設中であり、ハタンガ川がラプテフ海に流れ込む地点からそう遠くない、タイミル半島最北端に位置するハタンガという町が現在、優先一覧表に入っているようである。ハタンガには空港もある。ロシアの非常事態省 Министерство по делам гражданской обороны, чрезвычайным ситуациям и ликвидации последствий стихийных бедствий(ロシア民間防衛問題・非常事態・自然災害復旧省:以下、非常事態省と言う)は、北極海沿岸の物流の安全確保に北の町が役立つだろうと述べている。
(2) もともと北極戦略には、チャウン湾の東岸に位置する港湾都市ペヴェックなどが救助・緊急拠点を整備場所として含まれていた。拠点は、北極海航路の氷に覆われた遠隔海域における荷送人の安全向上に貢献することが目的である。非常事態省によれば、ペヴェクの新しいセンターには約50人の職員と、厳しい北極の環境での活動のための特殊車両とボート25台が配備されている。
(3) 地元当局によれば、ハタンガの拠点予定地は敷地面積3,500m2で、ハタンガ空港の近くに位置している。ハタンガは、ロシアの北極圏の最も遠い場所での数々の探検や作戦に使用されてきた歴史があり、過去数年間、ハタンガはRosneftの石油掘削探査の場でもあった。
記事参照:Moscow wants Arctic emergency hub in Khatanga

11月19日「なぜフィリピンは海洋法における群島問題に関する姿勢を転換したのか―オランダ国際法専門家論説」(The Interpreter, November 19, 2024)

 11月19日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、オランダTilburg Law School 博士研究員Alex P Dela Cruzの“Why the Philippines made a dramatic turnaround on the question of archipelagos in the law of the sea”と題する論説を掲載し、そこでAlex P Dela Cruzは11月に成立したフィリピンの2つの法律について言及し、それがフィリピンの海洋政策における劇的な転換を示しているとして、その背景と意義について、要旨以下のように述べている。
(1) 最近、中国とフィリピンの立場が入れ替わったように見える。2022年3月、フィリピン政府は駐比中国大使を召喚し、中国人民解放軍海軍の艦艇が、フィリピン南部スールー海に留まっていることに抗議した。中国側はそれに対し、同艦艇はUNCLOSに基づく「無害通航」をしているだけであると主張した。
(2) フィリピンはUNCLOSにおいて群島国と定義されている。そしてすべての国は、群島国の水域は、無害通航だけでなく、群島航路帯通航を規定する規則に従わねばならない。公海または排他的経済水域の一部と、公海または排他的経済水域の他の部分との間の、「継続的、迅速、かつ妨げられることのない通過の目的のみ」のためであれば、他国は群島航路帯を通航および上空飛行できる。そして、群島国(つまりフィリピン)は、国際海事機関の航路帯設定手続きをすることができる。
(3) しかし2022年の事故の時、フィリピンは群島航路帯を設定していなかった。したがって、軍艦を含むすべての外国船と航空機が、フィリピン周辺の水域を事前通告なく通航および上空飛行できたのである。そのため、Duterte政権期に衰えていった航路帯設定の手続きに対する関心が、新たに高まった。
(4) これを繰り返さないために、フィリピンは11月、フィリピン海域法(The Philippine Maritime Zones Act)とフィリピン群島航路法(The Philippine Archipelagic Sea Lanes Act:以下ASLAと言う)の2つの法律を制定した。Marcos Jr.大統領は、これによってフィリピンの国内法とUNCLOSに代表される国際法を一致させ、フィリピンの海洋政策を強化すると述べている。ASLAの特徴は、フィリピンの群島水域のなかで、通航ができる航路帯を、中心線によって示される3つの航路に限定したことである。1つが北部のバリンタン海峡を通る航路、もう2つが南部スールー海を通る航路である。より具体的な群島航路の設定は、これから1年間かけてInternational Maritime Organizationなどを協議する予定である。
(5) 中国はすぐさまフィリピン大使を召喚して、これを批判した。その翌日、中国政府は、スカボロー礁周辺で、自国の領海基線を公開した。
(6) ASLAの制定は、1984年のフィリピンの立場からの劇的な転換を示す。その時、フィリピンはUNCLOSを批准したのだが、群島航路帯通航に関する規則をフィリピンに適用することに関して留保したのである。フィリピンとしては、すべての群島水域は内海であるとの立場であった。UNCLOSは、群島国やその境界、権限や義務に関して議論の余地のないものと捉えられてきたが、フィリピンは数十年かけて、フィリピン群島を構成するものが何かなど、そうした諸問題について議論を続けてきた。
(7) そうした議論は立法や最高裁判決に帰結したが、それらはフィリピン群島の境界線を調和させようという試みの一部であった。また、2016年の南シナ海裁定は、「フィリピンは南沙諸島周辺に群島基線を設定できない」としたが、それもあって、南シナ海におけるフィリピンの海洋権益を主張するための法的な手段として、UNCLOSの群島概念が果たす役割は大幅に縮小した。
(8) しかし、今回のフィリピンの立法措置により、南沙諸島を中国の沖合群島などというような、UNCLOSに一致しない中国の主張に対し、フィリピンは「正当性の罰」を与えようとしている。フィリピンの立法によって中国とフィリピンの立場が入れ替わったようである。いまや、中国が群島の概念を用いて国際法に反した権利の主張を続けている。これはUNCLOS成立前のフィリピンの立場と似ている。
記事参照:Why the Philippines made a dramatic turnaround on the question of archipelagos in the law of the sea

11月19日「水陸機動団のオーストラリアでの訓練は貴重な機会―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, November 19, 2024)

 11月19日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、防衛研究所を卒業した初のオーストラリア民間人であり、軍民両用技術の軍事応用に注力する企業Armatusのオーストラリア部門長Guy Boekensteinの“Training in Australia is a big chance for Japan. Let’s make it permanent”と題する論説を掲載し、Guy Boekensteinは水陸機動団がオーストラリアで訓練を行う意義について、要旨以下のように述べている。
(1) 2025年から日本の重要な水陸両用戦部隊が北部準州で貴重な訓練を行う予定だが、これは自衛隊がオーストラリアの演習場をより広範に利用するための第一歩であるべきである。オーストラリア政府は、Singapore Armed Forcesがクイーンズランド州で訓練を行っている取り組みに類似した形で、日本の自衛隊が北部準州で訓練を行うための恒久的な取り決めを東京に今提案すべきである。
(2) 水陸機動団が北部準州で訓練を開始する計画は、11月17日にダーウィンで行われた日米豪3ヵ国の国防相会議で発表された。自衛隊の海兵隊ともいうべき水陸機動団は、2025年からU.S. Marine Rotational Force–Darwin(米海兵隊ダーウィンへの輪番展開部隊)およびAusralian Defence Forceが行う訓練および演習に参加する予定である。
(3) 水陸機動団は、上陸作戦の全範囲を実施し、外国勢力によって占領された日本領土を奪還するための技術やドクトリンを強化するために、U.S. Marine Corpsと限定的な訓練を行っている。
(4) 北部準州は、自衛隊が兵士と装備を戦場での実戦に備えてより良く準備するために必要な空間と空、陸、海、宇宙、サイバースペースを跨ぐ多領域訓練を提供する。この地域は、自衛隊が求める制約の少ない統合火力戦の訓練を実施するには、世界でも有数の場所と言える。
(5) さらに、自衛隊による北部準州での展開は、軍民両用技術の1国、2国間、そして多国間での試験と評価を加速させることにも有用である。北部準州ですでに試験や評価が行われているそれらの技術に日本のシステムを加えることで、より大規模で強固な民間支援産業を発展させることが可能になる。
(6) 11月に統合幕僚監部の連絡官がオーストラリアのHeadquarters Joint Operations Commandに初めて配置されることは朗報である。また、2025年に設立される予定の自衛隊統合作戦司令部(JJOC)に、Ausralian Defence Forceの連絡官を派遣することが確約されたことも歓迎される。
(7) オーストラリア政府は、北部準州での恒久的なJapan-Australia Training Initiativeを日本政府に提案すべきである。この取り組みは、クイーンズランド州中央部および北部で長年続いているAustralia-Singapore Military Training Initiative(以下、ASMTIと言う)と似た路線にすることが考えられる。ASMTIの下で、シンガポールはオーストラリア政府が所有・管理するクイーンズランド州の2つの訓練場の開発と強化に投資してきた。
(8) 自衛隊との関与を深化させるに当たり、政治的な障害や世間一般の認識による課題が生じるだろうが、今こそ大胆に考え、迅速に行動すべき時である。
記事参照:Training in Australia is a big chance for Japan. Let’s make it permanent

11月19日「米国、カナダ、フィンランドが極地砕氷船に関する協力を正式化―ノルウェー紙報道」(High North News, November 19, 2024)

 11月19日付けのノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWS電子版は、“US, Canada, and Finland Formalize Cooperation on Polar Icebreakers”と題する記事を掲載し、ICE Pactを正式化することの意味を要旨以下のように報じている
(1) 11月13日、米国、カナダ、フィンランドは、北極と南極での活動のための砕氷船を共同で建造する覚書(MOU)に署名した。この合意は、7月に立ち上げられた砕氷船協力協定(Icebreaker Collaboration Effort Pact:以下、ICE Pactと言う)を正式なものにするものである。
(2)「ICE Pact覚書に署名することで、我々は北極・南極地域の安全を維持する能力を強化する革新的な提携に乗り出した…世界に通じる北極および極地用砕氷船を共同で開発、製造することで、我々は強靭で競争力のある造船業界の基盤を築いている…戦略的課題への取り組みにおける同盟国の協力の強さを証明するものである」と3ヵ国は共同声明で述べている。
記事参照:US, Canada, and Finland Formalize Cooperation on Polar Icebreakers

11 月19日「東南アジア諸国、米中いずれかが唯一の選択肢ではない―米専門家論説」(World Political Review, November 19, 2024)

 11月19日付の米国際問題研究組織World Political Reviewのウエブサイトは、米シンクタンクThe Council on Foreign Relations 上席研究員Joshua Kurlantzick と調査員Abigail McGowanの“The U.S. and China Aren’t Southeast Asia’s Only Options”と題する論説を掲載し、ここで両名は東南アジア諸国にとって、米中いずれに与するかが唯一の選択肢ではなく、日本やオーストラリアといったアジアの中堅国家やロシアやEUなどの外部勢力との強固な関係構築を目指しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Trump第2期政権が2025年1月に発足し、米中関係のさらなる悪化が予想される状況下で、東南アジア諸国では、米中いずれかの選択を迫られることに対する懸念が高まっている。とは言え、(米国の条約同盟国である)フィリピンを例外として、ASEAN諸国のいずれも、米国との明確な連携を望んではいない。実際、ほぼ全てのASEAN諸国は、歴史的に大国間対立から距離を置いてきた。そして、ASEAN諸国は、米中対立に全面的に巻き込まれることを回避する選択肢を模索するに当たって、日本、オーストラリア、韓国、さらにはインドなどのアジアの中堅国家、あるいはロシアやEUなどの外部勢力との強固な関係構築に力を入れている。
(2) 東南アジア諸国の経済、安全保障提携の拡大は、Trump第2期政権では一層高まると見られる米国からの反中国連合への参加圧力に単に抵抗するためだけではない。それはまた、習近平体制の中国に対する抑制と均衡を作為するためでもある。南シナ海などの係争海域における習近平のますます高圧的な言動は、既に域内の懸念を高めてきた。中国経済が低迷している状況下で、その高圧的な行動が一層強まることが懸念される。さらに、Trump第2期政権の出方に対する懸念もある。
(3) 中堅国家との安全保障関係の構築は、より小さな域内諸国にとっていくつかの目的に役立つ。まずそれは、米中からの武器購入と安全保障協力への依存度を減らすとともに、両国からの圧力を軽減することになる。米中危機が生起した場合、そして特に最終的な紛争に至る状況になった場合、中堅国家との安全保障関係は、米国と中国とのゼロサム的選択を回避する別の選択肢を提供する。そして、特に域内の民主主義諸国にとって重要なことは、日本やEUなどの中堅国家は米国や中国よりもはるかに国民的人気があり、それが域内諸国政府にとってこれら中堅国家との協力を容易にしている。
(4) 現在、東南アジア諸国との関係を育みつつある中堅国家にとっても、こうした関係は自国の対外投資の推進や防衛産業の発展に資する。過去10年間、特に日本は東南アジアにおいて極めて積極的な行為者となり、この地域への武器輸出を次第に増加させるととともに、域内諸国に対する代替的な経済支援国となってきた。実際、シンガポールのThe ISEAS-Yusof Ishak Institute が公表したThe 2024 State of Southeast Asia survey *によれば、日本は「ASEANにとって最も信頼され、戦略的価値のある中堅国家」とされている。加えて、日本は、2015年から2022年にかけて、東南アジア地域における最大の開発援助国であり、公共財の提供における信頼できる提携国としての地位を確立している。
(5) 日本に加えて、オーストラリアは安全保障協力の代替選択肢となる地域大国としての役割を強めてきた。10月20日に就任したインドネシアのPrabowo Subianto大統領は、インドネシアとオーストラリア間の歴史的に厄介な関係にも関わらず、大統領就任前の8月にキャンベラでオーストラリアの高官と会談し、防衛協力を強化した。オーストラリアは11月にインドネシアと過去最大規模の軍事演習を行う予定で、また、最近ではフィリピンと協力して南シナ海の海上哨戒活動も実施すると発表している。
(6) インドの中堅国家としての台頭は、東南アジア諸国にとって新たな均衡の取れた外交の選択肢となってきた。米RAND Corporationの防衛問題上席研究員Derek Grossmanは、インドがこの地域における「戦略的行為者」になりつつあるとさえ主張している。インドはベトナムに対する防衛兵器供給国となっており、またマレーシアのAnwar Ibrahim首相は8月にニューデリーを訪問し、経済、安全保障関係を強化した。インドが米国、日本およびオーストラリアとともにQUADの参加国であることで、新たな協力の道が開かれ、東南アジア諸国の指導者はQUADを通じてインドと協力する可能性について、以前よりも前向きになっていると見られる。
(7) ロシアは、2022年のウクライナ侵攻以前には、東南アジアにおける最大の兵器供給国であったが、ここ数年でかなり減少してきた。しかしながら、域内の権威主義的国家の中には、中国の影響力に対抗するためにロシアを利用し続けている国もある。特にベトナムは長年、兵器供給先としてロシアに依存してきた。当時のTo Lamベトナム国家主席、現共産党書記長は、 6月にモスクワを公式訪問し、石油と天然ガスの輸出および武器移転などに関する協定に署名している。また、ミャンマーの軍事政権はロシアから特殊な監視ドローンを取得しているが、中国は軍事政権が引き起こした混乱に対してますます不快感を募らせているようである。
(8) 10月のASEAN首脳会議には、オーストラリア、日本および韓国とともに、ロシア、インドおよびEUの代表が出席し、有力な中堅国家が東南アジア諸国との関係を重視していることが示された。逆に、域内の小国は自らの国益を追求し、地政学的な駆け引きの余地を最大化するために、中堅国家との関係を発展させていくであろう。米中両国が東南アジア諸国にいずれに与するかの選択を迫ろうとするにつれ、域内の多くの国が第3の選択肢を求める傾向がますます強くなってきている。
記事参照:The U.S. and China Aren’t Southeast Asia’s Only Options
*:日本の信頼度(不信度);2023年54.5%(25.5%)、2024年58.9%(19.8%)、米国;;2023年54.2%(26.1%)、2024年42.4%(37.6%)、中国;2023年29.5%(49.8%)、2024年24.8%(50.1%)
State of Southeast Asia 2024 Survey

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Considering Global War: A Strategy for Countering Revisionist Powers
https://cimsec.org/considering-global-war-a-strategy-for-countering-revisionist-powers/
Center for International Maritime Security, November 12, 2024
By Commander Justin Cobb is an operations staff officer with Carrier Strike Group 11.
 2024年11月12日、U.S. Navy Carrier Strike Group Eleven作戦参謀Justin Cobb中佐は、米シンクタンクCenter for International Maritime Security のウエブサイトに“ Considering Global War: A Strategy for Countering Revisionist Powers ”と題する論説を寄稿した。その中でJustin Cobb中佐は、台湾有事を発端とする米中間の武力衝突は限定的な紛争に留まらず、広範な世界紛争へと発展する可能性が高いと前置きした上で、米国の拒否戦略は、台湾侵攻の阻止を目的としているが、中国共産党は台湾統一を国家の正統性の中核に据えており、戦争が勃発すれば長期化する可能性があり、さらに、ロシア、北朝鮮、イランといった「悪の枢軸」を形成する国家群が中国を支持し、世界中での不安定化を引き起こす危険性があると述べている。そしてJustin Cobb中佐は、このような状況では、米国は単純かつ決定的な勝利を目指す戦略を避け、長期的な抑止と資源の消耗戦を重視する必要があり、具体的には、台湾軍の支援や経済戦争、サイバー攻撃、法的手段を活用し、世界規模の同盟関係を強化することが求められるほか、米国とその同盟国は経済や軍事分野での中国への依存を減らし、現行の国際秩序を維持するための包括的な戦略を構築する必要があると指摘した上で、最終的には、米中間の紛争は国際秩序の正当性や将来の方向性を問うものであり、核戦争の可能性を排除できない状況であるため、米国は多面的な準備を進め、同盟国との緊密な連携を強化する必要があると主張している。
 
(2) Sino-Russian Partnership in the Arctic and the Far East Reflect Joint Security Interests
By Dr. Sergey Sukhankin is a Senior Fellow at The Jamestown Foundation, and an Advisor at Gulf State Analytics (Washington, D.C.). 
(PartOne)https://jamestown.org/program/sino-russian-partnership-in-the-arctic-and-the-far-east-reflect-joint-security-interests-part-one/
Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, November 14, 2024
(PartTwo)https://jamestown.org/program/sino-russian-partnership-in-the-arctic-and-the-far-east-reflect-joint-security-interests-part-two/
Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, November 18, 2024
 11月14日と18日、米シンクタンクThe Jamestown Foundation上席研究員Sergey Sukhankinは、同Foundation のウエブサイトEurasia Daily Monitorに、“Sino-Russian Partnership in the Arctic and the Far East Reflect Joint Security Interests”と題する論説を寄稿した。その中で、①「オーシャン2024」という一連のВоенно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)の演習が9月前半を特徴づけた。②今回の演習で特に注目すべきは、日本海とオホーツク海周辺で実施された中ロ海軍の共同演習「ノースジョイント2024」である。③最新のこの演習での目標は対潜水艦戦および対空戦の訓練であった。④これらの中ロ海軍の共同演習は、ウクライナ戦争における黒海でのロシアの苦い教訓を引き出して行われ、対無人航空機戦および対海洋ドローン戦の訓練にも重点が置かれた。⑤ロシアと中国は本来、自然な戦略的提携国ではないが、米国とその同盟国に対抗するために協力を余儀なくされている。⑥最近、北極海航路の発展および「北極地域の開発と利用における相互利益のある協力」を目的とした中ロ合同委員会が設立された。⑦西側諸国が使用できない独自の軍事装備やハードウェアに加えて、ロシアは北極地域において砕氷船隊による競争力を持っている、⑧ロシアの政治専門家たちは、カナダが主導する「新北極連合」構築の動きを不安視している。⑨中国が当面の間は独自の北極圏政策を追求するのではなく、共同哨戒任務を選択する可能性が高いのは、中国政府が北極に対する野心を放棄したからではなく、「筋力を増強している段階」にあるためである。⑩Putin大統領が2023年に「モンゴルの支配は西側の支配よりも良かった」と述べ、ロシアが急速に中国への依存を深めている現状を踏まえると、ロシアが北極圏および極東における地位を短期から中期的に譲歩する可能性が高くなっているなどの主張を述べている。
 
(3) American Defense Planning in the Shadow of Protracted War
https://warontherocks.com/2024/11/american-defense-planning-in-the-shadow-of-protracted-war/
War on the Rocks, November 18, 2024
By Evan Montgomery is a senior fellow and the director of research and studies at the Center for Strategic and Budgetary Assessments.
Julian Ouellet is a researcher at the Institute for Defense Analyses. 
 2024年11月18日、米Center for Strategic and Budgetary Assessments上席研究員Evan Montgomeryと米Institute for Defense Analyses研究員Julian Ouelletは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“American Defense Planning in the Shadow of Protracted War”と題する論説を寄稿した。その中で両名は米国の対中防衛戦略は、短期的な決定的勝利に焦点を当てる従来の戦略から、長期的な戦争に備える新たな方向性へと変化する必要があるとの考えを示し、その理由として、台湾海峡を巡る紛争において、中国と米国の双方が迅速な勝利を目指しているが、歴史的には大国間の戦争は長期化する傾向があり、短期間での決定的勝利は現実的ではなく、米国が台湾侵攻を阻止できなかった場合、長期的な消耗戦を戦うための準備が求められるからだと述べている。そして両名は、現在の米国の戦略は台湾周辺での中国軍の撃退を目指すものであり、即応性と前線部隊への攻撃力を重視しているが、しかし、これは長期戦に必要な力の保存や中国の経済的・産業的基盤を削ぐ戦略とは矛盾しており、むしろ、長期戦を見据えた戦略では力の分散や地域外での中国の影響力を削ぐ措置が求められるし、また、米国の防衛産業基盤の再活性化が進められているが、それだけでは不十分であり、戦争の目標や軍事作戦の全体像を再評価する必要があると指摘した上で、このような戦略転換には、政治的および戦略的なジレンマが伴うが、米国は長期的な対立に備え、中国に地政学的および経済的な対価を課す能力を強化する必要があると主張している。
 
(4) Past Need Not Be Prologue: Applying the Lessons of History to NATO-Russia Relations in the Arctic
https://www.thearcticinstitute.org/past-need-not-prologue-applying-lessons-history-nato-russia-relations-arctic/
The Arctic Institute, November 19, 2024
By Kari Roberts PhD, is Associate Professor of Political Science at Mount Royal University in Calgary, Canada. 
 2024年11月19日、カナダのMount Royal University のKari Roberts准教授は、米NPO The Arctic Instituteのウエブサイトに“Past Need Not Be Prologue: Applying the Lessons of History to NATO-Russia Relations in the Arctic”と題する論説を寄稿した。その中でKari Robertsは、北極におけるNATOとロシアの関係は冷戦後の失敗を教訓とし、緊張を緩和する新たな枠組みを模索する必要があるとの認識を示した上で、ロシアは北極をエネルギーと主権の重要地域と位置付け、軍事開発を進めている一方で、西側諸国はこれを脅威とみなしているという状況があるため、NATOの拡大がロシアの不安を増幅させ、対立を深めた一因であるとの批判があるが、これはウクライナ侵攻を正当化する理由にはならないと指摘している。そしてKari Robertsは、北極は相互利益の共有が可能な地域であり、ロシアも地域の平和維持を重視しているが、冷戦後の西側諸国の失敗の1つは、ロシアの安全保障上の懸念を軽視したことであり、これがロシアの反発を招いているため、まず西側諸国は、ロシアを「敵」としてではなく「競争相手」として位置付け、対話の枠組みを再構築する必要があり、特に北極では、エネルギー開発や環境保護といった共通の課題が存在しており、これらを通じた協力が現実的な解決策となるだろうと述べた上で、今後、西側諸国はウクライナ問題への断固たる姿勢を維持しつつ、ロシアの北極地域における正当な利益を認める均衡の取れた取り組みが求められるが、このような「敵」ではなく「競争相手」として位置付けることが、北極の安定を維持し、将来的な協力を可能にする基盤を提供するだろうと主張している。