海洋安全保障情報旬報 2024年10月11日-10月20日
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10 月15日「米比両国は南シナ海における中国の威嚇的行為に如何に対応すべきか―米、フィリピン専門家論説」(Atlantic Council, October 15, 2024)
10月15日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、Atlantic Council 非常勤上席研究員Elizabeth Freund Larusと在フィリピン研究者James Riceの“How the US and the Philippines should counter Beijing’s aggression in the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここで両名は中国がフィリピン船舶に対する威圧的戦術を拡大させていることを受けて、米国はフィリピンとインド太平洋地域の他の提携諸国と協力して、南シナ海における中国の海洋における威嚇的行為を公表し、中国に対抗して、抑止しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国海軍、海警総隊そして海上民兵に所属する艦船約40隻が8月25日、フィリピンのEEZ内に所在するサビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙濱礁)周辺海域で、フィリピン漁民への物資補給任務に就いていたフィリピンのBureau of Fisheries and Aquatic Resources(以下、漁業水産資源局と言う)所属船舶の通航を阻止し、その後、海警船が該船に体当たりし、放水銃を発射した。中国海軍がフィリピン公船に対する武力行使に関与したのはこの事案が初めてであった。中国海軍、海警総隊そして海上民兵が関与する同種事案は8月だけで5件も発生している。そして9月27日には、中国のミサイル艇2隻が、ファースト・トーマス礁(フィリピン名:ブリグ(Bulig)礁、中国名:信義礁)周辺海域でフィリピン民間船を追跡した。この種の事案も初めてであった。翌9月28日には、ハーフ・ムーン礁(フィリピン名:ハサ・ハサ(Hasa-Hasa)礁、中国名:半月礁)周辺海域への補給任務に向かっていた漁業水産資源局所属船が中国軍のヘリコプターに追跡、接近された。こうした最近の事案は、中国による危険な事態拡大を表徴するものであった。
(2) Sealight*のRay Powellによれば、中国は、南シナ海に4種の異なった武力を配備しており、それぞれが中国の「10段線」と称する南シナ海のほぼ全域に及ぶ海洋領域の漸進的な占有という中国の目標に一役買っている。
a.第1の武力は「南沙骨干艦隊(Spratly Backbone Fleet)」として知られ、これには中国南部から出港し、「愛国的な」漁民が乗り組む多くの大型漁船が含まれている。これら漁民は法令執行者として行動し、それに対する報酬はしばしば漁業収入を補っている。これら船舶の乗組員は、中国の「グレーゾーン」戦術の先陣で、たとえばフィリピンEEZ内の海洋自然地形周辺で投錨した数隻の船を繋いで「ラフティング(“rafting”)」と呼ばれる半永久的な隊列を形成することがある。
b.第2の武力は海上民兵で、一部の構成員には漁民もいるが、その主たる役割は中国人民解放軍の権限下で任務を遂行することである。海上民兵は現在、約4,500隻の船舶で構成され、中国軍はこれを南シナ海における占拠と領域拒否という威嚇戦術に活用している。
c.第3の武力は海警総隊で、現在、推定250隻の船艇を有し、「第2の海軍」と言われている。6月のセカンド・トーマス礁での補給任務中にPhilippine Navyの小型艇が攻撃された事案など、ここ数カ月、中国がフィリピンEEZ内で行動するフィリピン船舶に対して行った行為のほとんどに海警総隊が関与している。
d.第4の武力は中国海軍で、海軍艦艇は、前出8月25日のサビナ礁での事案のように、フィリピンの漁船と海軍艦艇を威嚇し、抑圧してきた。中国海軍は、3隻の空母、58隻の駆逐艦および54隻のフリゲートを含む約680隻の艦艇を有する世界最大の海軍で、いわゆる沿海域海軍から第1列島線を超えて活動する外洋海軍に移行しつつある。
(3) こうした「グレーゾーン」活動における中国の目標は何か。最大の目標は「10段線」内全域における支配の実現で、そのためには、中国の軍事組織と準軍事組織が全域を完全に運用管理する必要がある。そして、中国は長期的には、現在フィリピンやその他の沿岸諸国の管轄下にある一部海域に対する実効支配とそれへの国際的容認を実現したいと考えているようである。あらゆる兆候から見て、中国は領有権主張において絶対主義者であり、中国は、その主張する領域の「隅々まで」を交渉の余地なき自国領と見なしている。
(4) こうした中国の野望は、米政府とフィリピン政府とって、戦略的な観点からのみならず、既存の法に基づく国際秩序の侵犯という理由からも、受け入れられるものではない。中国の野望に対抗し、さらなる侵略を抑止するために、米比両国は、日本とオーストラリアなどの米国の同盟国とともに、以下の5つの措置を講じなければならない。
a.第1に、U.S. Coast GuardとU.S. Navyはフィリピンの艦船とともに、フィリピンEEZ海域の定期的な共同哨戒行動を開始すべきである。米比両国は、最近の侵略行為は許さないという明確な意思を中国政府に送るべき時に来ている。
b.第2に、米国と同盟国の戦力は、これまで中国の威嚇的行為の目標であった特定場所への今後の補給活動を支援するために配備されるべきである。
c.第3に、米国と同盟国は、主として緊張緩和の手段として、さらにはより広範な抑止政策の一環として、そのための海上行動について中国当局に事前通知すべきである。
d.第4に、フィリピンは、中国の違法行為を世間に喧伝する「積極的透明化」政策を継続すべきである。米国、日本そしてオーストラリアは、この政策を支援すべきである。
e.第5に、米国とその同盟国は集団的に、そして相互に協議して行動すべきであり、そうしているように見られなければならない。日米豪比の各政府の協議は、これらの民主主義諸国が南シナ海におけるフィリピンの主権防衛に関与していることを示威することになり、中国に対してフィリピンへの威嚇行為を許さないとの意図を送ることにもなろう。
記事参照:How the US and the Philippines should counter Beijing’s aggression in the South China Sea
*:Sealightは米スタンフォード大学The Gordian Knot Center for National Securityが運営するサイトで、中国の海上威圧戦略のグレーゾーン分野に光を当てるためのより効果的なツールの開発を目指している。(URL:https://gordianknot.stanford.edu/sealight参照)
(1) 中国海軍、海警総隊そして海上民兵に所属する艦船約40隻が8月25日、フィリピンのEEZ内に所在するサビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙濱礁)周辺海域で、フィリピン漁民への物資補給任務に就いていたフィリピンのBureau of Fisheries and Aquatic Resources(以下、漁業水産資源局と言う)所属船舶の通航を阻止し、その後、海警船が該船に体当たりし、放水銃を発射した。中国海軍がフィリピン公船に対する武力行使に関与したのはこの事案が初めてであった。中国海軍、海警総隊そして海上民兵が関与する同種事案は8月だけで5件も発生している。そして9月27日には、中国のミサイル艇2隻が、ファースト・トーマス礁(フィリピン名:ブリグ(Bulig)礁、中国名:信義礁)周辺海域でフィリピン民間船を追跡した。この種の事案も初めてであった。翌9月28日には、ハーフ・ムーン礁(フィリピン名:ハサ・ハサ(Hasa-Hasa)礁、中国名:半月礁)周辺海域への補給任務に向かっていた漁業水産資源局所属船が中国軍のヘリコプターに追跡、接近された。こうした最近の事案は、中国による危険な事態拡大を表徴するものであった。
(2) Sealight*のRay Powellによれば、中国は、南シナ海に4種の異なった武力を配備しており、それぞれが中国の「10段線」と称する南シナ海のほぼ全域に及ぶ海洋領域の漸進的な占有という中国の目標に一役買っている。
a.第1の武力は「南沙骨干艦隊(Spratly Backbone Fleet)」として知られ、これには中国南部から出港し、「愛国的な」漁民が乗り組む多くの大型漁船が含まれている。これら漁民は法令執行者として行動し、それに対する報酬はしばしば漁業収入を補っている。これら船舶の乗組員は、中国の「グレーゾーン」戦術の先陣で、たとえばフィリピンEEZ内の海洋自然地形周辺で投錨した数隻の船を繋いで「ラフティング(“rafting”)」と呼ばれる半永久的な隊列を形成することがある。
b.第2の武力は海上民兵で、一部の構成員には漁民もいるが、その主たる役割は中国人民解放軍の権限下で任務を遂行することである。海上民兵は現在、約4,500隻の船舶で構成され、中国軍はこれを南シナ海における占拠と領域拒否という威嚇戦術に活用している。
c.第3の武力は海警総隊で、現在、推定250隻の船艇を有し、「第2の海軍」と言われている。6月のセカンド・トーマス礁での補給任務中にPhilippine Navyの小型艇が攻撃された事案など、ここ数カ月、中国がフィリピンEEZ内で行動するフィリピン船舶に対して行った行為のほとんどに海警総隊が関与している。
d.第4の武力は中国海軍で、海軍艦艇は、前出8月25日のサビナ礁での事案のように、フィリピンの漁船と海軍艦艇を威嚇し、抑圧してきた。中国海軍は、3隻の空母、58隻の駆逐艦および54隻のフリゲートを含む約680隻の艦艇を有する世界最大の海軍で、いわゆる沿海域海軍から第1列島線を超えて活動する外洋海軍に移行しつつある。
(3) こうした「グレーゾーン」活動における中国の目標は何か。最大の目標は「10段線」内全域における支配の実現で、そのためには、中国の軍事組織と準軍事組織が全域を完全に運用管理する必要がある。そして、中国は長期的には、現在フィリピンやその他の沿岸諸国の管轄下にある一部海域に対する実効支配とそれへの国際的容認を実現したいと考えているようである。あらゆる兆候から見て、中国は領有権主張において絶対主義者であり、中国は、その主張する領域の「隅々まで」を交渉の余地なき自国領と見なしている。
(4) こうした中国の野望は、米政府とフィリピン政府とって、戦略的な観点からのみならず、既存の法に基づく国際秩序の侵犯という理由からも、受け入れられるものではない。中国の野望に対抗し、さらなる侵略を抑止するために、米比両国は、日本とオーストラリアなどの米国の同盟国とともに、以下の5つの措置を講じなければならない。
a.第1に、U.S. Coast GuardとU.S. Navyはフィリピンの艦船とともに、フィリピンEEZ海域の定期的な共同哨戒行動を開始すべきである。米比両国は、最近の侵略行為は許さないという明確な意思を中国政府に送るべき時に来ている。
b.第2に、米国と同盟国の戦力は、これまで中国の威嚇的行為の目標であった特定場所への今後の補給活動を支援するために配備されるべきである。
c.第3に、米国と同盟国は、主として緊張緩和の手段として、さらにはより広範な抑止政策の一環として、そのための海上行動について中国当局に事前通知すべきである。
d.第4に、フィリピンは、中国の違法行為を世間に喧伝する「積極的透明化」政策を継続すべきである。米国、日本そしてオーストラリアは、この政策を支援すべきである。
e.第5に、米国とその同盟国は集団的に、そして相互に協議して行動すべきであり、そうしているように見られなければならない。日米豪比の各政府の協議は、これらの民主主義諸国が南シナ海におけるフィリピンの主権防衛に関与していることを示威することになり、中国に対してフィリピンへの威嚇行為を許さないとの意図を送ることにもなろう。
記事参照:How the US and the Philippines should counter Beijing’s aggression in the South China Sea
*:Sealightは米スタンフォード大学The Gordian Knot Center for National Securityが運営するサイトで、中国の海上威圧戦略のグレーゾーン分野に光を当てるためのより効果的なツールの開発を目指している。(URL:https://gordianknot.stanford.edu/sealight参照)
10月12日「QUADは徐々に安全保障協力に適応している―インド専門家論説」(The Diplomat, October 12, 2024)
10月12日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのManohar Parrikar Institute for Defence Studies and Analyses研究員Shruti Pandalaiの“The Quad Is Quietly Adapting Methods of Security Cooperation”と題する論説を掲載し、ここでShruti PandalaiはQUADからの静かな安心感は、複雑で混乱を招く今日の地政学的環境において、より大きな影響力を発揮すると考えられ、今後はこの勢いを維持することに焦点を当てるべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド主催のマラバール演習が、現在ベンガル湾で実施されている。インド太平洋地域における共通の海洋上の課題に対処するための相互運用性と準備態勢の強化を目的としたこの多国間演習に、QUADを構成する4ヵ国の海軍が集結することは、それ自体が重要な戦略的合図である。この演習には、停泊期間を利用する訓練段階および洋上における段階があり、対潜水艦戦、水上戦、対空戦などの各種戦訓練が含まれ、海洋状況把握の向上に重点が置かれている。
(2) マラバール演習はQUADの目指す協力関係の一部となっている。それは、提携国間の信頼を徐々に構築し、演習の複雑性を高めることで、相互運用性を向上させていることである。中国の冒険主義を阻止し、対抗勢力を制限し、自由で開かれた海洋に有利な環境を作り出すことが目的であるならば、この地域における集団的な海洋能力の構築こそが4ヵ国の目指すものであり、マラバール演習は、その目標に向けた一歩である。
(3) QUADが共同訓練や能力構築構想を重視しているのは、相互運用性と即応性の向上に焦点を当てた個別の2国間提携の議題を反映している。それは、信頼醸成、相互の懸念事項に関する共通理解の形成、共同演習、人員交流、訓練、情報共有を通じた能力強化といった重要な取り組みがすでに実施されているからである。
(4) マラバール演習は、QUADにおける海洋安全保障協力が確保を目指す根幹となる分野における能力を構築している。これには、相互運用性の強化、高度な戦術訓練、海洋状況把握の強化、各国の海軍ドクトリンと作戦手順に対する理解を深めるための共同作戦計画、技術の習熟と統合による能力構築、そして、人道支援・災害救援(HA/DR)活動におけるより緊密な連携などが含まれる。
(5) 2024年7月の東京でのQUAD外相会合と9月のウィルミントンでの首脳会談では、脅威の評価と集団的抑止力の構築に向けた取り組みが透明性の高い形で共有された。たとえば、QUAD首脳の協同声明では、「力や威嚇によって現状を変更しようとする、いかなる不安定化や一方的な行動にも強く反対する」とされている。
(6) 南シナ海における中国の好戦性が高まり、インド洋地域に恒久的な展開を確立しようとする動きが活発化する中、インド太平洋海洋状況把握への取り組み拡大は歓迎すべきである。より高度な衛星システムと海洋監視技術を統合し、脅威の時宜に即した監視と違法漁業やグレーゾーン活動への対応における連携を改善することは、実質的な協力関係を伴う具体的な成果である。公海の抗堪性を強化するための次の段階として、QUADの沿岸警備隊構想は、既存の連携を拡大し、発展させる可能性を秘めている。
(7) インド太平洋における法に基づく海洋秩序を維持するための取り組みを支援することを目的とした、海洋法に関する専門知識を共有する今後の海洋法対話の発表は、脆弱な提携国の要求に耳を傾けるという重要な姿勢を示すものである。中国が現状変更を試み、係争海域に新たな「通常」を作り出そうとしているにもかかわらず、南シナ海における行動規範の交渉の早期妥結を迫っている今、UNCLOSの下での各国の立場に対する認識を深めることは重要である。さらに、この取り組みは、海軍部隊が共通の法的枠組みの下で行動することを確保することで、運用上の統合も強化する。
(8) QUADは、機密データの潜在的な管理や操作、商業封鎖への懸念に対処するため、海底ケーブルの抗堪性を強化する資源の共有や、サイバーセキュリティにおける相互運用性の向上にも取り組んでいる。全体として、抑止力による抗堪性強化に向けたQUADの包括的な取り組みは明らかである。
(9) QUADの意義と集団安全保障の構築に向けた漸進的選択を示す大きな指標は、おそらくインド政府の投資以外にはない。インドは、QUDの中で、最も脆弱な錨銲と呼ばれていた時代から、QUADを主流化し、米国などの提携国から先導者と評されるまでに発展した。インドはもはや会議に参加するだけでなく、積極的に議題を提供している。インド太平洋地域における協力、特に海洋安全保障と海という公共財の維持を実現するための最も重要な国家として、インドがこのQUADを主導していることは、インドの未来像を明確に表現する際の共通の参照事項となっている。QUADからの静かな安心感は、複雑で混乱を招く今日の地政学的環境において、より大きな影響力を発揮するだろう。焦点を当てるべきは、この勢いを維持することである。
記事参照:The Quad Is Quietly Adapting Methods of Security Cooperation
(1) インド主催のマラバール演習が、現在ベンガル湾で実施されている。インド太平洋地域における共通の海洋上の課題に対処するための相互運用性と準備態勢の強化を目的としたこの多国間演習に、QUADを構成する4ヵ国の海軍が集結することは、それ自体が重要な戦略的合図である。この演習には、停泊期間を利用する訓練段階および洋上における段階があり、対潜水艦戦、水上戦、対空戦などの各種戦訓練が含まれ、海洋状況把握の向上に重点が置かれている。
(2) マラバール演習はQUADの目指す協力関係の一部となっている。それは、提携国間の信頼を徐々に構築し、演習の複雑性を高めることで、相互運用性を向上させていることである。中国の冒険主義を阻止し、対抗勢力を制限し、自由で開かれた海洋に有利な環境を作り出すことが目的であるならば、この地域における集団的な海洋能力の構築こそが4ヵ国の目指すものであり、マラバール演習は、その目標に向けた一歩である。
(3) QUADが共同訓練や能力構築構想を重視しているのは、相互運用性と即応性の向上に焦点を当てた個別の2国間提携の議題を反映している。それは、信頼醸成、相互の懸念事項に関する共通理解の形成、共同演習、人員交流、訓練、情報共有を通じた能力強化といった重要な取り組みがすでに実施されているからである。
(4) マラバール演習は、QUADにおける海洋安全保障協力が確保を目指す根幹となる分野における能力を構築している。これには、相互運用性の強化、高度な戦術訓練、海洋状況把握の強化、各国の海軍ドクトリンと作戦手順に対する理解を深めるための共同作戦計画、技術の習熟と統合による能力構築、そして、人道支援・災害救援(HA/DR)活動におけるより緊密な連携などが含まれる。
(5) 2024年7月の東京でのQUAD外相会合と9月のウィルミントンでの首脳会談では、脅威の評価と集団的抑止力の構築に向けた取り組みが透明性の高い形で共有された。たとえば、QUAD首脳の協同声明では、「力や威嚇によって現状を変更しようとする、いかなる不安定化や一方的な行動にも強く反対する」とされている。
(6) 南シナ海における中国の好戦性が高まり、インド洋地域に恒久的な展開を確立しようとする動きが活発化する中、インド太平洋海洋状況把握への取り組み拡大は歓迎すべきである。より高度な衛星システムと海洋監視技術を統合し、脅威の時宜に即した監視と違法漁業やグレーゾーン活動への対応における連携を改善することは、実質的な協力関係を伴う具体的な成果である。公海の抗堪性を強化するための次の段階として、QUADの沿岸警備隊構想は、既存の連携を拡大し、発展させる可能性を秘めている。
(7) インド太平洋における法に基づく海洋秩序を維持するための取り組みを支援することを目的とした、海洋法に関する専門知識を共有する今後の海洋法対話の発表は、脆弱な提携国の要求に耳を傾けるという重要な姿勢を示すものである。中国が現状変更を試み、係争海域に新たな「通常」を作り出そうとしているにもかかわらず、南シナ海における行動規範の交渉の早期妥結を迫っている今、UNCLOSの下での各国の立場に対する認識を深めることは重要である。さらに、この取り組みは、海軍部隊が共通の法的枠組みの下で行動することを確保することで、運用上の統合も強化する。
(8) QUADは、機密データの潜在的な管理や操作、商業封鎖への懸念に対処するため、海底ケーブルの抗堪性を強化する資源の共有や、サイバーセキュリティにおける相互運用性の向上にも取り組んでいる。全体として、抑止力による抗堪性強化に向けたQUADの包括的な取り組みは明らかである。
(9) QUADの意義と集団安全保障の構築に向けた漸進的選択を示す大きな指標は、おそらくインド政府の投資以外にはない。インドは、QUDの中で、最も脆弱な錨銲と呼ばれていた時代から、QUADを主流化し、米国などの提携国から先導者と評されるまでに発展した。インドはもはや会議に参加するだけでなく、積極的に議題を提供している。インド太平洋地域における協力、特に海洋安全保障と海という公共財の維持を実現するための最も重要な国家として、インドがこのQUADを主導していることは、インドの未来像を明確に表現する際の共通の参照事項となっている。QUADからの静かな安心感は、複雑で混乱を招く今日の地政学的環境において、より大きな影響力を発揮するだろう。焦点を当てるべきは、この勢いを維持することである。
記事参照:The Quad Is Quietly Adapting Methods of Security Cooperation
10月14日「中国とロシアの北極政策は収れんしていくのか?北極圏の地政学の変化―米専門家論説」(Situation Report, Geopolitical Monitor, October 14, 2024)
10月14日付のカナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトは、米国のエコノミストで安全保障の研究者でもあるAntonio Graceffoの“China and Russia Arctic Policy Convergence? Shifting Geopolitics in the North”と題する論説を掲載し、ここでAntonio Graceffoは気候変動によって北極圏の海域が移動し易くなるにつれて北極圏の地政学は明らかに変化しており、米国の北極政策は北極圏に大きな戦略的重要性を認めている中国やロシアに遅れをとっているので、同盟国や提携国との関係を深め、長期投資を計画し、北極圏の課題に対する政府全体の取り組みを確立するべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年10月初め、中国海警総隊はロシアとの共同哨戒の一環として初めて北極海に入ったことを公表した。2024年9月中旬、ロシアと中国は太平洋と北極海にまたがる大規模な海空の演習「オケアン24」を開始した。この演習には、400隻以上の水上艦艇、潜水艦、支援艦船、120機以上の航空機、9万人以上の兵士が参加した。同じ頃、North American Aerospace Defense Command(北米航空宇宙防衛司令部、NORAD)は、4機のロシア軍機がアラスカの防空識別圏(以下、ADIZと言う)に侵入したことを探知した。この侵入は、2024年夏の初めの同様の事案に続くものである。これらの中ロの艦艇、軍用機の行動は、世界第2位と第3位の軍隊間の協力関係が深まっているだけでなく、北極圏、ベーリング海峡、アラスカ近海域への侵入様式が拡大していることを示している。この北極圏への進出は、この地域の支配を主張するための中国の広範な戦略の一部である。中国は、戦略の一環として自らを「近北極国家」と宣言しているが、それは北極圏諸国や国際機関によって公式に認められていない名称である。Arctic Council(北極評議会)は、北極圏の政府と先住民が直面する問題に取り組む政府間フォーラムである。北極圏内の土地に対して主権を行使する評議会加盟8ヵ国は、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデンおよび米国であり、中国はオブザーバーとして認められているに過ぎない。ロシアのウクライナ侵攻後、Arctic Councilの活動は複雑になった。侵攻当時、ロシアはArctic Councilの議長国であったが、侵攻の直後、Arctic Councilはロシアの行動を非難する書簡を出し、ロシアが関与するすべての活動を停止させた。2023年に議長国はノルウェーとなり、2024年にはロシアはArctic Councilの加盟国としての権利を停止させられたが、正式に脱退されられることにはならなかった。ウクライナ戦争以前から、ロシアの北極圏での大幅な軍事力増強により、Arctic Councilの活動は妨げられていた。現在、ロシアが北極圏で中国との軍事協力を拡大していることは、地域の安全保障、航行の自由、環境保護を維持するArctic Councilの能力をさらに困難にしている。
(2) 2023年に改定されたロシアの外交政策構想では北極圏に重点が置かれ、「近隣諸国」である独立国家共同体(CIS)に次いで2番目に重要な地域に引き上げられた。この引き上げは、ロシアが国際協力よりも国内の目標に焦点を当てるという傾向を反映している。「ロシア北極政策2035」は、3つの主要な目標を概説しており、それぞれがロシアを他の北極圏諸国との紛争に巻き込む可能性がある。第1の目標は、ロシアの主権と領土保全を守ることである。その任務はВооруженные силы Российской Федерации(ロシア連邦軍)に与えられた。北極圏には現在、ロシアのСеверный флот(北方艦隊)とコラ半島の核兵器を搭載した潜水艦部隊がある。クレムリンは、いかなる軍事力も北極圏の権益を脅かすのを防ぐため、この地域での戦闘能力を強化することを目指している。第2の目標は、北極圏を戦略的な資源基地として開発することである。北極圏がすでにロシアのGDPの10%、輸出の20%を占めていることを考えると、その経済的重要性は明らかである。第3の目標は、北極海航路をヨーロッパとアジアを結ぶ主要な世界輸送動脈として確立することである。北極海航路の支配と北極圏の主権と領土保全に関するロシアの主張との間には明確な関連性がある。それは外国船舶の通航に対する厳しい規制を考えていることに現れている。これらの政策は、Arctic Councilのような西側主導のフォーラムの影響を最小限に抑えることを目的としている。ロシアは協力に前向きなままであるが、それはロシアの主権的利益を尊重する国々とのみである。中国のような非北極圏諸国との2国間関係も、ロシアの北極圏への野望を強化する方法としている。
(3) 2018年、中国は独自の北極戦略文書を発表し、北極圏の支配に参加し、科学的研究を促進し、アジアとヨーロッパ間の航路を改善するための「氷上シルクロード」を開発することを目指した。中国がロシアとの提携を通じて北極圏問題に関与することは、この地域の資源と貿易路の利用を確保するという中国の野心を反映している。過去10年間で中国はこの地域に900億ドル以上を投資してきた。ロシアとの提携は、特にUNCLOSで定められたように、ロシアの海岸線から200海里に及ぶロシアのEEZを通じた北極圏の利用に関して、中国に大きな法的優位性をもたらす。ロシアとアラスカを隔てるベーリング海では、海峡の最も狭い地点の幅は約53海里(約85km)である。ベーリング海の領土協定については、米国と旧ソビエト連邦の境界を画定した1990年のベーカー・シェワルナゼ協定によってあいまいさが生じている。米国はロシアをソ連の後継者と認め、その国境を維持することに合意したが、ロシア下院はまだ批准していない。米国の上院は1991年に批准し、現在もその協定を尊重し続けているが、ロシア側が批准していないことが不確実性を生み出している。米ロ両国は概ね協定の条項を順守しているが、Putin政権下でロシア国内において拡大している勢力が現状を拒否し、再交渉を強く求めている。
(4) 北極圏は歴史的に米国の防衛であまり注目されていなかった。それはおそらく、ロシアを除いて、北極圏の領土を主張するすべての国が米国の同盟国であったからであろう。現在、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーがNATOに加盟したことで、北極圏全体がNATO加盟国で構成され、脅威の認識レベルはさらに低下している。さらに、中国は最近まで重要な軍事大国とは見なされておらず、6年前に北極圏戦略を策定したばかりである。しかし、気候変動によって北極圏の海域が移動し易くなるにつれ、北極圏の地政学は明らかに変化しており、米国の北極政策は、この地域に戦略的重要性を認めている中国やロシアにますます遅れをとっている。2022年から2032年までの北極圏に関する米国の国家戦略は、防衛能力の強化による安全保障、アラスカの社会と協力して回復力を構築することによる気候変動への対処、アラスカおよび北極圏全体の持続可能な経済開発の促進、特にArctic Councilを通じた国際協力と支配の支持という4つの柱に焦点を当てている。この戦略では、北極圏の同盟国や提携国との関係を深め、長期投資を計画し、分野横断的な連携を促進し、北極圏の課題に対する政府全体の取り組みを確立することも強調している。2019年、Donald Trump大統領は国家安全保障を強化するためにグリーンランドを購入するという考えを提案したが、メディアによって広く嘲笑された。しかし、グリーンランドは、特に北極圏の防衛に関して、地政学的および戦略的に多大な価値を持っている。グリーンランドを買収すれば、米国は、ビザや許可を必要としなくなる。また、現在、グリーンランド西海岸のピタフィク(旧トゥーレ)空軍基地に米軍が駐留している場合のように、外国政府への賃貸料を支払うことなく、島を軍事化することができるはずであった。さらに、グリーンランドを支配すれば、米国のEEZを210万平方km拡大し、かなりの部分の北極海と北大西洋の海域を米国の管轄権に追加するはずであった。漁場、石油、天然ガス、航路などの貴重な資源に対する米国の支配が拡大したはずであった。
(5) 米国は北極圏の安全保障を強化するこの機会を逃したが、肯定的に捉えることができる点は、グリーンランドがデンマークの一部としてNATOに含まれていることである。ウクライナ戦争が始まって以来、NATOは結束力と軍事支出を増やし、2024年には過去数十年で最も包括的な防衛計画を発表した。2023年10月に開催されたArctic Circle Assembly(北極圏会議)で、NATO軍事委員会のRob Bauer軍事委員長は、氷が溶けることにより新たな航路が開かれようとしているときの北極圏における対立の激化と軍事化、特にロシアと中国による軍事化に対する懸念を強調した。Rob Bauerは、ノーフォークの合同司令部を通じて調整された大西洋とヨーロッパの北極圏を対象としたNATOの北極圏防衛計画の概要を説明し、北極圏防衛の一貫性と航行の自由の重要性を強調した。Rob BauerはまたArctic Councilとは別の枠組みであるArctic Circle Assemblyを地域の安全保障、天然資源、気候変動を議論する場として称賛した。NATOが地域防衛計画を強化するにつれて、中ロからの脅威が高まる中、北極圏防衛におけるNATOの役割がさらに重要となっている。
記事参照:China and Russia Arctic Policy Convergence? Shifting Geopolitics in the North
(1) 2024年10月初め、中国海警総隊はロシアとの共同哨戒の一環として初めて北極海に入ったことを公表した。2024年9月中旬、ロシアと中国は太平洋と北極海にまたがる大規模な海空の演習「オケアン24」を開始した。この演習には、400隻以上の水上艦艇、潜水艦、支援艦船、120機以上の航空機、9万人以上の兵士が参加した。同じ頃、North American Aerospace Defense Command(北米航空宇宙防衛司令部、NORAD)は、4機のロシア軍機がアラスカの防空識別圏(以下、ADIZと言う)に侵入したことを探知した。この侵入は、2024年夏の初めの同様の事案に続くものである。これらの中ロの艦艇、軍用機の行動は、世界第2位と第3位の軍隊間の協力関係が深まっているだけでなく、北極圏、ベーリング海峡、アラスカ近海域への侵入様式が拡大していることを示している。この北極圏への進出は、この地域の支配を主張するための中国の広範な戦略の一部である。中国は、戦略の一環として自らを「近北極国家」と宣言しているが、それは北極圏諸国や国際機関によって公式に認められていない名称である。Arctic Council(北極評議会)は、北極圏の政府と先住民が直面する問題に取り組む政府間フォーラムである。北極圏内の土地に対して主権を行使する評議会加盟8ヵ国は、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデンおよび米国であり、中国はオブザーバーとして認められているに過ぎない。ロシアのウクライナ侵攻後、Arctic Councilの活動は複雑になった。侵攻当時、ロシアはArctic Councilの議長国であったが、侵攻の直後、Arctic Councilはロシアの行動を非難する書簡を出し、ロシアが関与するすべての活動を停止させた。2023年に議長国はノルウェーとなり、2024年にはロシアはArctic Councilの加盟国としての権利を停止させられたが、正式に脱退されられることにはならなかった。ウクライナ戦争以前から、ロシアの北極圏での大幅な軍事力増強により、Arctic Councilの活動は妨げられていた。現在、ロシアが北極圏で中国との軍事協力を拡大していることは、地域の安全保障、航行の自由、環境保護を維持するArctic Councilの能力をさらに困難にしている。
(2) 2023年に改定されたロシアの外交政策構想では北極圏に重点が置かれ、「近隣諸国」である独立国家共同体(CIS)に次いで2番目に重要な地域に引き上げられた。この引き上げは、ロシアが国際協力よりも国内の目標に焦点を当てるという傾向を反映している。「ロシア北極政策2035」は、3つの主要な目標を概説しており、それぞれがロシアを他の北極圏諸国との紛争に巻き込む可能性がある。第1の目標は、ロシアの主権と領土保全を守ることである。その任務はВооруженные силы Российской Федерации(ロシア連邦軍)に与えられた。北極圏には現在、ロシアのСеверный флот(北方艦隊)とコラ半島の核兵器を搭載した潜水艦部隊がある。クレムリンは、いかなる軍事力も北極圏の権益を脅かすのを防ぐため、この地域での戦闘能力を強化することを目指している。第2の目標は、北極圏を戦略的な資源基地として開発することである。北極圏がすでにロシアのGDPの10%、輸出の20%を占めていることを考えると、その経済的重要性は明らかである。第3の目標は、北極海航路をヨーロッパとアジアを結ぶ主要な世界輸送動脈として確立することである。北極海航路の支配と北極圏の主権と領土保全に関するロシアの主張との間には明確な関連性がある。それは外国船舶の通航に対する厳しい規制を考えていることに現れている。これらの政策は、Arctic Councilのような西側主導のフォーラムの影響を最小限に抑えることを目的としている。ロシアは協力に前向きなままであるが、それはロシアの主権的利益を尊重する国々とのみである。中国のような非北極圏諸国との2国間関係も、ロシアの北極圏への野望を強化する方法としている。
(3) 2018年、中国は独自の北極戦略文書を発表し、北極圏の支配に参加し、科学的研究を促進し、アジアとヨーロッパ間の航路を改善するための「氷上シルクロード」を開発することを目指した。中国がロシアとの提携を通じて北極圏問題に関与することは、この地域の資源と貿易路の利用を確保するという中国の野心を反映している。過去10年間で中国はこの地域に900億ドル以上を投資してきた。ロシアとの提携は、特にUNCLOSで定められたように、ロシアの海岸線から200海里に及ぶロシアのEEZを通じた北極圏の利用に関して、中国に大きな法的優位性をもたらす。ロシアとアラスカを隔てるベーリング海では、海峡の最も狭い地点の幅は約53海里(約85km)である。ベーリング海の領土協定については、米国と旧ソビエト連邦の境界を画定した1990年のベーカー・シェワルナゼ協定によってあいまいさが生じている。米国はロシアをソ連の後継者と認め、その国境を維持することに合意したが、ロシア下院はまだ批准していない。米国の上院は1991年に批准し、現在もその協定を尊重し続けているが、ロシア側が批准していないことが不確実性を生み出している。米ロ両国は概ね協定の条項を順守しているが、Putin政権下でロシア国内において拡大している勢力が現状を拒否し、再交渉を強く求めている。
(4) 北極圏は歴史的に米国の防衛であまり注目されていなかった。それはおそらく、ロシアを除いて、北極圏の領土を主張するすべての国が米国の同盟国であったからであろう。現在、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーがNATOに加盟したことで、北極圏全体がNATO加盟国で構成され、脅威の認識レベルはさらに低下している。さらに、中国は最近まで重要な軍事大国とは見なされておらず、6年前に北極圏戦略を策定したばかりである。しかし、気候変動によって北極圏の海域が移動し易くなるにつれ、北極圏の地政学は明らかに変化しており、米国の北極政策は、この地域に戦略的重要性を認めている中国やロシアにますます遅れをとっている。2022年から2032年までの北極圏に関する米国の国家戦略は、防衛能力の強化による安全保障、アラスカの社会と協力して回復力を構築することによる気候変動への対処、アラスカおよび北極圏全体の持続可能な経済開発の促進、特にArctic Councilを通じた国際協力と支配の支持という4つの柱に焦点を当てている。この戦略では、北極圏の同盟国や提携国との関係を深め、長期投資を計画し、分野横断的な連携を促進し、北極圏の課題に対する政府全体の取り組みを確立することも強調している。2019年、Donald Trump大統領は国家安全保障を強化するためにグリーンランドを購入するという考えを提案したが、メディアによって広く嘲笑された。しかし、グリーンランドは、特に北極圏の防衛に関して、地政学的および戦略的に多大な価値を持っている。グリーンランドを買収すれば、米国は、ビザや許可を必要としなくなる。また、現在、グリーンランド西海岸のピタフィク(旧トゥーレ)空軍基地に米軍が駐留している場合のように、外国政府への賃貸料を支払うことなく、島を軍事化することができるはずであった。さらに、グリーンランドを支配すれば、米国のEEZを210万平方km拡大し、かなりの部分の北極海と北大西洋の海域を米国の管轄権に追加するはずであった。漁場、石油、天然ガス、航路などの貴重な資源に対する米国の支配が拡大したはずであった。
(5) 米国は北極圏の安全保障を強化するこの機会を逃したが、肯定的に捉えることができる点は、グリーンランドがデンマークの一部としてNATOに含まれていることである。ウクライナ戦争が始まって以来、NATOは結束力と軍事支出を増やし、2024年には過去数十年で最も包括的な防衛計画を発表した。2023年10月に開催されたArctic Circle Assembly(北極圏会議)で、NATO軍事委員会のRob Bauer軍事委員長は、氷が溶けることにより新たな航路が開かれようとしているときの北極圏における対立の激化と軍事化、特にロシアと中国による軍事化に対する懸念を強調した。Rob Bauerは、ノーフォークの合同司令部を通じて調整された大西洋とヨーロッパの北極圏を対象としたNATOの北極圏防衛計画の概要を説明し、北極圏防衛の一貫性と航行の自由の重要性を強調した。Rob BauerはまたArctic Councilとは別の枠組みであるArctic Circle Assemblyを地域の安全保障、天然資源、気候変動を議論する場として称賛した。NATOが地域防衛計画を強化するにつれて、中ロからの脅威が高まる中、北極圏防衛におけるNATOの役割がさらに重要となっている。
記事参照:China and Russia Arctic Policy Convergence? Shifting Geopolitics in the North
10月15日「台湾海峡に潜む中国の静かな罠―台湾専門家論説」(The Strategist, October 15, 2024)
10月15日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、台湾国防大学教授の馬振坤と台湾研究者グループResearch Project on China’s Defense Affairsの研究員K Tristan Tangの“China’s jurisdictional traps: the risks of silent transits in the Taiwan Strait”と題する論説を掲載し、両名は中国海軍の艦艇以外が台湾海峡を航行する際、中国が静かな対応を見せるのは、中国の主権を印象付けるためであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国海軍によって派遣される以外の艦艇が、台湾海峡を中国政府に通告することなく通峡する際、当該艦艇の望む結果とは正反対のことを達成しているかもしれない。中国が台湾海峡を自国の領有下に置いていないことを主張するどころか、中国政府がその管轄権の主張を正当化し、常態化させる試みに台湾海峡の無通告で通峡した艦艇は無意識のうちに協力している可能性が高い。中国は外国艦艇が台湾海峡を通航する際、静かに外国艦艇を追尾するが、これは台湾海峡に係争事案はないという印象を与えるためと思われる。中国は台湾海峡だけでなく、台湾周辺の海域全体で艦艇を展開する際にも主権を主張しているように見せようとしている。特にこの活動は、2022年8月に当時の米下院議長Nancy Pelosiが台湾を訪問して以来、活発化している。
(2) 台湾海峡では、2022年8月以降、中国海軍の艦艇以外の艦艇による少なくとも18回の通航が行われており、その一部は公表されていない。南シナ海のセカンド・トーマス礁で見られるような中国の激しい嫌がらせが台湾海峡においても行われていると予想するかもしれないが、実際には重大な対立が発生することは稀である。さらに、外国艦艇が出現しても中国が追加で艦艇を派遣することはほとんどなく、通常は通航に異議を唱えるための記者会見を行うに留まる。代わりに、中国の標準的な対応は、すでに海峡内またはその周辺にいる艦艇を派遣して追尾することである。同様の対応は台湾の反対側でも行われている。
(3) 台湾の同盟国や提携国は、意図せずに中国の主権の印象を助長している。彼らが台湾海峡を静かに航行する際、中国の主張が争われていないというさらなる証拠を提供してしまう。一方で、航行の自由を示す演習であることを明言することで、中国の主張とは異なる立場を明確に示すことができる。
(4) 中国の台湾海峡に対する主張は、台湾を自国の領土とするという主張に基づいているように見える。他国は台湾が中国の一部であることを明確には議論せず、この問題をあいまいなままにしておくことを好んでいるため、中国政府はこの状況を利用してこの海域の管轄を常態化させることを狙っていると考えられる。
(5) 海峡で発生する偶発的な事案は、中国が海峡を争いのない海域として体裁を整えることと一致している。2月には中国の漁船が金門島近海で転覆した。7月には台湾の漁船が中国海警に拘束された。これらの事案では、中国海警の船艇は単に「現場に居合わせ」て「独自の任務」を遂行していただけであり、台湾海巡署と激しい衝突を引き起こしてはいない。また、中国は現在のところ、台湾と金門島間の海上・航空交通を妨害したこともない。
(6) 中国政府が世界に示したい印象は、台湾海峡が中国の平穏な管轄下にあるというものである。他国はその主張に対抗し、海軍を用いて「そうではない」と声高に表明すべきである。
記事参照:China’s jurisdictional traps: the risks of silent transits in the Taiwan Strait
(1) 中国海軍によって派遣される以外の艦艇が、台湾海峡を中国政府に通告することなく通峡する際、当該艦艇の望む結果とは正反対のことを達成しているかもしれない。中国が台湾海峡を自国の領有下に置いていないことを主張するどころか、中国政府がその管轄権の主張を正当化し、常態化させる試みに台湾海峡の無通告で通峡した艦艇は無意識のうちに協力している可能性が高い。中国は外国艦艇が台湾海峡を通航する際、静かに外国艦艇を追尾するが、これは台湾海峡に係争事案はないという印象を与えるためと思われる。中国は台湾海峡だけでなく、台湾周辺の海域全体で艦艇を展開する際にも主権を主張しているように見せようとしている。特にこの活動は、2022年8月に当時の米下院議長Nancy Pelosiが台湾を訪問して以来、活発化している。
(2) 台湾海峡では、2022年8月以降、中国海軍の艦艇以外の艦艇による少なくとも18回の通航が行われており、その一部は公表されていない。南シナ海のセカンド・トーマス礁で見られるような中国の激しい嫌がらせが台湾海峡においても行われていると予想するかもしれないが、実際には重大な対立が発生することは稀である。さらに、外国艦艇が出現しても中国が追加で艦艇を派遣することはほとんどなく、通常は通航に異議を唱えるための記者会見を行うに留まる。代わりに、中国の標準的な対応は、すでに海峡内またはその周辺にいる艦艇を派遣して追尾することである。同様の対応は台湾の反対側でも行われている。
(3) 台湾の同盟国や提携国は、意図せずに中国の主権の印象を助長している。彼らが台湾海峡を静かに航行する際、中国の主張が争われていないというさらなる証拠を提供してしまう。一方で、航行の自由を示す演習であることを明言することで、中国の主張とは異なる立場を明確に示すことができる。
(4) 中国の台湾海峡に対する主張は、台湾を自国の領土とするという主張に基づいているように見える。他国は台湾が中国の一部であることを明確には議論せず、この問題をあいまいなままにしておくことを好んでいるため、中国政府はこの状況を利用してこの海域の管轄を常態化させることを狙っていると考えられる。
(5) 海峡で発生する偶発的な事案は、中国が海峡を争いのない海域として体裁を整えることと一致している。2月には中国の漁船が金門島近海で転覆した。7月には台湾の漁船が中国海警に拘束された。これらの事案では、中国海警の船艇は単に「現場に居合わせ」て「独自の任務」を遂行していただけであり、台湾海巡署と激しい衝突を引き起こしてはいない。また、中国は現在のところ、台湾と金門島間の海上・航空交通を妨害したこともない。
(6) 中国政府が世界に示したい印象は、台湾海峡が中国の平穏な管轄下にあるというものである。他国はその主張に対抗し、海軍を用いて「そうではない」と声高に表明すべきである。
記事参照:China’s jurisdictional traps: the risks of silent transits in the Taiwan Strait
10月16日「最低限の海軍能力維持という取り組みがもたらす危険性―オーストラリア安全保障専門家論説」(The Strategist, October 16, 2024)
10月16日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Australian National UniversityのNational Security College専門研究員Jennifer Parkerの“When naval capability is minimal, it’s also brittle”と題する論説を掲載し、そこでJennifer ParkerはRoyal New Zealand Navyの「マナワヌイ」が沈没した事故に言及し、中小国家の海軍の準備態勢が十分に整っていないこと、それがオーストラリアにも当てはまると指摘し、きたるべきインド太平洋での紛争に備え、オーストラリアは海軍の幅広い行動能力確保のために十分な投資を行うべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月、Royal New Zealand Navyの「マナワヌイ」が、サモアの環礁で座礁し、沈没した。ニュージーランドにとって第2次世界大戦以来の艦艇の喪失である。乗組委員75名は全員救助されて無事だったが、この事故は、ニュージーランドおよびその提携国の海軍の準備状況に関する重大な疑問を提起した。すなわち、海軍力の不十分さ、人員不足の課題、予算の制約、効果的な投資の欠如などである。e
(2) 他の小国同様、ニュージーランドの海軍は最低限の行動能力しかもたなかった。「マナワヌイ」の喪失は、こうした取り組みが持つ大きな危険性を浮き彫りにした。中核となる艦艇、航空機の喪失により、作戦全体が麻痺するのである。こうした状況はオーストラリアにとっても警鐘となる。オーストラリアは最近、機雷戦艦艇計画を破棄し、また海上補給能力の拡大計画も破棄したのである。機雷戦艦艇計画の破棄の理由は、自動システムがそれに置き換わるからだということだが、それを配備する艦船がなければ、オーストラリアの航路を機雷から守ることはできないだろう。
(3) 海底の水路測量のための能力についても、オーストラリアは不安定な状況にある。保有いていた6隻のうち5隻がこの3年間で退役し、残る1隻の退役も間近だと考えられている。そうした調査を外部委託しようという決定が2020年になされたので、こうした状況に陥っている。洋上補給用艦船の状況も危うい。現存の2隻はどちらも2025年まで運用可能にならない。そもそも、なぜオーストラリアはこの種の艦船を2隻しか保有していないのかという疑問が生まれるが、その増強計画は、最新の投資計画からは除外された。こうした事例はほかにもある。もし海上の危機が起きれば、オーストラリアの安全保障は危険にさらされるだろう。
(4) 5月、オーストラリア政府は防衛予算をGDPの2.1%にまで引き上げる決定を下したが、それだけでは、大規模な国防力の増強、特に海軍力の再編成のためには不十分であろう。冷戦期にオーストラリアは平均でGDPの2.7%を防衛費に充ててきた。2024年の国防戦略によればオーストラリアは現在、第2次世界大戦以降で最も戦略的に困難な状況に直面しているというが、それにもかかわらず、投じられる防衛予算はGDP比で冷戦期よりもずっと低いのである。新型の水上戦闘艦や潜水艦には資金が割り当てられる予定であるが、それ以外の海軍能力に関しては放置されており、海軍の準備体制を損なうものである。オーストラリアの現在の戦略的認識と現実の投資のあいだには大きな溝がある。
(5) 「マナワヌイ」の沈没はオーストラリアにも警鐘を鳴らす事象である。インド太平洋における紛争は現実に起こり得るものであり、その戦争で勝てるかどうかは、水上戦闘艦艇や潜水艦だけでなく、補給や水路測量のための能力などが十分であることにもかかっている。
記事参照:When naval capability is minimal, it’s also brittle
(1) 10月、Royal New Zealand Navyの「マナワヌイ」が、サモアの環礁で座礁し、沈没した。ニュージーランドにとって第2次世界大戦以来の艦艇の喪失である。乗組委員75名は全員救助されて無事だったが、この事故は、ニュージーランドおよびその提携国の海軍の準備状況に関する重大な疑問を提起した。すなわち、海軍力の不十分さ、人員不足の課題、予算の制約、効果的な投資の欠如などである。e
(2) 他の小国同様、ニュージーランドの海軍は最低限の行動能力しかもたなかった。「マナワヌイ」の喪失は、こうした取り組みが持つ大きな危険性を浮き彫りにした。中核となる艦艇、航空機の喪失により、作戦全体が麻痺するのである。こうした状況はオーストラリアにとっても警鐘となる。オーストラリアは最近、機雷戦艦艇計画を破棄し、また海上補給能力の拡大計画も破棄したのである。機雷戦艦艇計画の破棄の理由は、自動システムがそれに置き換わるからだということだが、それを配備する艦船がなければ、オーストラリアの航路を機雷から守ることはできないだろう。
(3) 海底の水路測量のための能力についても、オーストラリアは不安定な状況にある。保有いていた6隻のうち5隻がこの3年間で退役し、残る1隻の退役も間近だと考えられている。そうした調査を外部委託しようという決定が2020年になされたので、こうした状況に陥っている。洋上補給用艦船の状況も危うい。現存の2隻はどちらも2025年まで運用可能にならない。そもそも、なぜオーストラリアはこの種の艦船を2隻しか保有していないのかという疑問が生まれるが、その増強計画は、最新の投資計画からは除外された。こうした事例はほかにもある。もし海上の危機が起きれば、オーストラリアの安全保障は危険にさらされるだろう。
(4) 5月、オーストラリア政府は防衛予算をGDPの2.1%にまで引き上げる決定を下したが、それだけでは、大規模な国防力の増強、特に海軍力の再編成のためには不十分であろう。冷戦期にオーストラリアは平均でGDPの2.7%を防衛費に充ててきた。2024年の国防戦略によればオーストラリアは現在、第2次世界大戦以降で最も戦略的に困難な状況に直面しているというが、それにもかかわらず、投じられる防衛予算はGDP比で冷戦期よりもずっと低いのである。新型の水上戦闘艦や潜水艦には資金が割り当てられる予定であるが、それ以外の海軍能力に関しては放置されており、海軍の準備体制を損なうものである。オーストラリアの現在の戦略的認識と現実の投資のあいだには大きな溝がある。
(5) 「マナワヌイ」の沈没はオーストラリアにも警鐘を鳴らす事象である。インド太平洋における紛争は現実に起こり得るものであり、その戦争で勝てるかどうかは、水上戦闘艦艇や潜水艦だけでなく、補給や水路測量のための能力などが十分であることにもかかっている。
記事参照:When naval capability is minimal, it’s also brittle
10月16日「中ロ沿岸警備隊協力は、中ロ関係の新局面か―英専門家論説」(China Power, CSIS, October 16, 2024)
10月16日付け米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトChina Powerは、英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studiesの中国の安全保障および防衛政策担当上席研究員Meia Nouwens、同Centerアジア責任者Veerle Nouwensの“China-Russia Coast Guard Cooperation: A New Dimension of China-Russia Relations?”
と題する論説を掲載し、ここで両名は中国海警局とПограничная служба Федеральной службы безопасности Российской Федерации(ロシア連邦保安庁国境警備局)が協力を強化していることで、いわゆるグレーゾーンでの活動が活発化し、特に中国の海洋進出を助長すると考えられ、米国とその友好国は新たな対策が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋領域は大国間対立の重要な舞台であり、インド太平洋諸国はグレーゾーンにおける中国の強硬姿勢など共通の課題に対抗するための協力方法を模索している。中国は、ロシアを協力者として、独自の海洋協力を拡大してきた。中国とロシアの2023年の海洋法執行協力に関する合意は、深化する海洋協力の新たな次元を提示するものであり、米国と同志国が対処するべき新たな課題でもある。
(2) 中国の造船能力の拡充速度は、インド太平洋全域で懸念を増大させ、米国や欧州でも警戒されている。実際、中国の防衛産業基盤は、水上艦艇、潜水艦、無人艦艇に関し、他国の追随を許さない圧倒的な生産能力を示している。人民解放軍海軍が艦艇数で世界最大の海軍になったことに加え、中国海警局(以下、CCGと言う)は世界最大の沿岸警備隊であり、中国指導部に強力な戦力投射手段を提供している。Center for Strategic and International Studies 上席研究員のBonny Linらが論じているように、CCGはすでに南シナ海や東シナ海でのグレーゾーンでの威圧行動に重要な役割を果たしており、経済封鎖等、台湾有事の筋書きの重要な要素となる可能性が高い。
(3) 地域の海軍や沿岸警備隊は、事態拡大を引き起こすことなく、グレーゾーン活動にどう対応すべきか、頭を悩ませている。2023年、U.S. Coast Guardはインド太平洋における海上哨戒と訓練活動を強化する計画を発表し、2024年10月1日、米国、フィリピン、日本の沿岸警備隊/海上保安庁は、協力強化に合意した。また、ASEANの沿岸警備隊会合を通じ、東南アジア諸国も、人身売買や違法・無報告・無規制(IUU)漁業など共通の課題や脅威と闘うため、協力と意思疎通の強化を目指している。
(4) 中国は独自の海上法執行協力を拡大し、深化するロシアと中国の安全保障・防衛関係の中で新たな動きを見せている。2023年4月、海警局の代表団はロシアのムルマンスクで、Федеральная служба безопасности Российской Федерации(ロシア連邦保安庁)と海上法執行協力の強化に関する高官会議を開いた。双方は海上法執行協力に関する覚書(以下、MOUと言う)に署名し、「善隣、友好、相互満足な協力、未来を共有する海洋共同体の共同構築」の原則に基づき、協力を推進することに合意した。公式発表にもかかわらず、詳細はほとんど明らかにされなかった。2024年4月、MOU調印1周年に、Пограничная служба Федеральной службы безопасности Российской Федерации(ロシア連邦保安庁国境警備局)はCCGの作業部会をウラジオストクに招き、中国とロシアの沿岸警備隊実務者協議に参加させた。双方は「今年計画されている交流・協力活動について調査・協議を行い、実務研修、机上演習、海上調査などを実施した」というが、ここでもまた、詳細は提供されなかった。しかし、この実践的協力の最初の例として9月16日から20日にかけて、CCGの3,000トン級海警船「梅山」と「秀山」が日本海のピョートル大帝湾で、ロシアのбереговая охрана(以下、沿岸警備隊と言う)の巡視船と訓練を行っている。両国沿岸警備隊は、太平洋北部で「海上安全保障上の脅威の取り締まり」、「海難救助」、「共同哨戒」などの訓練を行ったほか、「犯罪容疑船の阻止と消火活動」が試されたという。10月2日、「梅山」はロシア沿岸警備隊との共同哨戒の一環として北極海に入っている。
(5) 中国とロシアの沿岸警備隊協力に関する詳細が公表されないことから、その目的について疑問が投げかけられている。中国外交部は、訓練や哨戒は「第三者を対象としたものではなく、現在の国際情勢や地域情勢とは無関係」との常套句を繰り返しているが、実際には米国とその同盟国に対する政治的な意思表示である可能性が高い。沿岸警備隊の共同演習と哨戒は、ロシアと中国の爆撃機がアラスカ近海の国際空域で一緒に飛行し、オケアン2024訓練の一環として日本近海で海軍演習を行ったわずか2ヵ月後の時機であった。これは、2010年代初頭に始まって以来、海洋と航空領域における中ロの協力が増大しつつある傾向を示している。
(6) ロシアと中国の沿岸警備協力には、現実的な目的もあり、2013年に中国はArctic Council(北極評議会)の常任オブザーバーの地位を獲得し、2014年には習近平が「極地の大国」になることを宣言した。2015年、中国は北極圏を新たな戦略的未開拓地の1つと位置づけ、北極圏に対する戦略的計算を変えつつあることを示した。2018年、中国は「北極政策白書」と「氷上シルクロード計画」を発表し、気候変動により将来的に実現可能性が高まる北極圏の資源と海運の機会を探るよう呼びかけた。最近では、2024年8月に中国の李強首相とロシアのMikhail Mishutin首相が北極海航路の開発に関する共同声明に署名した。極地航路の船舶技術や砕氷船配備に関する2国間協力に加え、この分野における実践的な沿岸警備隊の協力は、両国の北極海航路保護に役立つであろう。米国政府とその同盟国は、最近、米国、フィンランド、カナダの3ヵ国による砕氷船協力協定(ICE Pact)を発表した。中国のロシアとの協力は、これに対抗するとともに、北極圏にも適用可能な沿岸警備隊の協力を推進することで、中国はこの地域での存在感と活動強化の下地を作ろうとしているのかもしれない。
(7) 公式文書に記載はないが、中国とロシアの沿岸警備隊協力は、東アジアにおける中国の領有権主張を支援する役割を果たす。他の中ロ間の共同声明や首脳声明と同様に、2024年8月の共同声明では、ロシアは台湾のいかなる形の独立にも反対し、また中国政府は、ロシアの領土保全を支持するとし、互いを支持する誓約に言及した。CCGは、中国が台湾の出入国を管理する法的・行政的権限を主張する台湾包囲作戦において、主導的な役割を果たし、ロシア沿岸警備隊は中国政府の目的を支援する役割を果たす可能性がある。たとえば、ロシア沿岸警備隊は、日本海やその他の場所でグレーゾーン活動を行い、米国が他の地域友好国の航空・海上法執行資産に支援を要請した場合、支援を妨害、または阻止することができる。中国とロシアの協力は、CCGが台湾周辺の包囲に重点を置いている間に、中国に追加的な資産と前方展開の支援線を提供することになる。ロシアはこの地域にかなりの資産を保有しているが、CCGは世界最大の沿岸警備隊であり、台湾包囲を行うためにロシアの資産を必要としない。中国は、142隻以上の外洋および沖合海警船、400隻以上の小型海警船を保有している。とはいえ、中国とロシアの協力は、中国が単独で行動していないことを他の地域大国に示すことになる。
(8) インド太平洋における中ロの協力関係強化につれて、地域諸国と米国は、こうした関係の深化がもたらす広範な影響に新たな形で対処する必要が出てくる。日本海や北太平洋における中ロ2国間の海軍演習や航空哨戒が注目されてきたが、両国は沿岸警備隊協力を通じてグレーゾーンでの協力を強化すると思われる。少なくとも、ロシアと中国の海洋法執行協力に関する合意は、北極海域のような紛争地域における中ロ関係の緊張を未然に防ぎ、また、和解の糸口を与えるであろう。両国がこの協力を、危機発生時の台湾周辺での協調的活動にまで拡大することになれば、米国とこの地域の友好国や同盟国は、地域の安定を維持する上で新たな課題に直面することになる。
記事参照:China-Russia Coast Guard Cooperation: A New Dimension of China-Russia Relations?
と題する論説を掲載し、ここで両名は中国海警局とПограничная служба Федеральной службы безопасности Российской Федерации(ロシア連邦保安庁国境警備局)が協力を強化していることで、いわゆるグレーゾーンでの活動が活発化し、特に中国の海洋進出を助長すると考えられ、米国とその友好国は新たな対策が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋領域は大国間対立の重要な舞台であり、インド太平洋諸国はグレーゾーンにおける中国の強硬姿勢など共通の課題に対抗するための協力方法を模索している。中国は、ロシアを協力者として、独自の海洋協力を拡大してきた。中国とロシアの2023年の海洋法執行協力に関する合意は、深化する海洋協力の新たな次元を提示するものであり、米国と同志国が対処するべき新たな課題でもある。
(2) 中国の造船能力の拡充速度は、インド太平洋全域で懸念を増大させ、米国や欧州でも警戒されている。実際、中国の防衛産業基盤は、水上艦艇、潜水艦、無人艦艇に関し、他国の追随を許さない圧倒的な生産能力を示している。人民解放軍海軍が艦艇数で世界最大の海軍になったことに加え、中国海警局(以下、CCGと言う)は世界最大の沿岸警備隊であり、中国指導部に強力な戦力投射手段を提供している。Center for Strategic and International Studies 上席研究員のBonny Linらが論じているように、CCGはすでに南シナ海や東シナ海でのグレーゾーンでの威圧行動に重要な役割を果たしており、経済封鎖等、台湾有事の筋書きの重要な要素となる可能性が高い。
(3) 地域の海軍や沿岸警備隊は、事態拡大を引き起こすことなく、グレーゾーン活動にどう対応すべきか、頭を悩ませている。2023年、U.S. Coast Guardはインド太平洋における海上哨戒と訓練活動を強化する計画を発表し、2024年10月1日、米国、フィリピン、日本の沿岸警備隊/海上保安庁は、協力強化に合意した。また、ASEANの沿岸警備隊会合を通じ、東南アジア諸国も、人身売買や違法・無報告・無規制(IUU)漁業など共通の課題や脅威と闘うため、協力と意思疎通の強化を目指している。
(4) 中国は独自の海上法執行協力を拡大し、深化するロシアと中国の安全保障・防衛関係の中で新たな動きを見せている。2023年4月、海警局の代表団はロシアのムルマンスクで、Федеральная служба безопасности Российской Федерации(ロシア連邦保安庁)と海上法執行協力の強化に関する高官会議を開いた。双方は海上法執行協力に関する覚書(以下、MOUと言う)に署名し、「善隣、友好、相互満足な協力、未来を共有する海洋共同体の共同構築」の原則に基づき、協力を推進することに合意した。公式発表にもかかわらず、詳細はほとんど明らかにされなかった。2024年4月、MOU調印1周年に、Пограничная служба Федеральной службы безопасности Российской Федерации(ロシア連邦保安庁国境警備局)はCCGの作業部会をウラジオストクに招き、中国とロシアの沿岸警備隊実務者協議に参加させた。双方は「今年計画されている交流・協力活動について調査・協議を行い、実務研修、机上演習、海上調査などを実施した」というが、ここでもまた、詳細は提供されなかった。しかし、この実践的協力の最初の例として9月16日から20日にかけて、CCGの3,000トン級海警船「梅山」と「秀山」が日本海のピョートル大帝湾で、ロシアのбереговая охрана(以下、沿岸警備隊と言う)の巡視船と訓練を行っている。両国沿岸警備隊は、太平洋北部で「海上安全保障上の脅威の取り締まり」、「海難救助」、「共同哨戒」などの訓練を行ったほか、「犯罪容疑船の阻止と消火活動」が試されたという。10月2日、「梅山」はロシア沿岸警備隊との共同哨戒の一環として北極海に入っている。
(5) 中国とロシアの沿岸警備隊協力に関する詳細が公表されないことから、その目的について疑問が投げかけられている。中国外交部は、訓練や哨戒は「第三者を対象としたものではなく、現在の国際情勢や地域情勢とは無関係」との常套句を繰り返しているが、実際には米国とその同盟国に対する政治的な意思表示である可能性が高い。沿岸警備隊の共同演習と哨戒は、ロシアと中国の爆撃機がアラスカ近海の国際空域で一緒に飛行し、オケアン2024訓練の一環として日本近海で海軍演習を行ったわずか2ヵ月後の時機であった。これは、2010年代初頭に始まって以来、海洋と航空領域における中ロの協力が増大しつつある傾向を示している。
(6) ロシアと中国の沿岸警備協力には、現実的な目的もあり、2013年に中国はArctic Council(北極評議会)の常任オブザーバーの地位を獲得し、2014年には習近平が「極地の大国」になることを宣言した。2015年、中国は北極圏を新たな戦略的未開拓地の1つと位置づけ、北極圏に対する戦略的計算を変えつつあることを示した。2018年、中国は「北極政策白書」と「氷上シルクロード計画」を発表し、気候変動により将来的に実現可能性が高まる北極圏の資源と海運の機会を探るよう呼びかけた。最近では、2024年8月に中国の李強首相とロシアのMikhail Mishutin首相が北極海航路の開発に関する共同声明に署名した。極地航路の船舶技術や砕氷船配備に関する2国間協力に加え、この分野における実践的な沿岸警備隊の協力は、両国の北極海航路保護に役立つであろう。米国政府とその同盟国は、最近、米国、フィンランド、カナダの3ヵ国による砕氷船協力協定(ICE Pact)を発表した。中国のロシアとの協力は、これに対抗するとともに、北極圏にも適用可能な沿岸警備隊の協力を推進することで、中国はこの地域での存在感と活動強化の下地を作ろうとしているのかもしれない。
(7) 公式文書に記載はないが、中国とロシアの沿岸警備隊協力は、東アジアにおける中国の領有権主張を支援する役割を果たす。他の中ロ間の共同声明や首脳声明と同様に、2024年8月の共同声明では、ロシアは台湾のいかなる形の独立にも反対し、また中国政府は、ロシアの領土保全を支持するとし、互いを支持する誓約に言及した。CCGは、中国が台湾の出入国を管理する法的・行政的権限を主張する台湾包囲作戦において、主導的な役割を果たし、ロシア沿岸警備隊は中国政府の目的を支援する役割を果たす可能性がある。たとえば、ロシア沿岸警備隊は、日本海やその他の場所でグレーゾーン活動を行い、米国が他の地域友好国の航空・海上法執行資産に支援を要請した場合、支援を妨害、または阻止することができる。中国とロシアの協力は、CCGが台湾周辺の包囲に重点を置いている間に、中国に追加的な資産と前方展開の支援線を提供することになる。ロシアはこの地域にかなりの資産を保有しているが、CCGは世界最大の沿岸警備隊であり、台湾包囲を行うためにロシアの資産を必要としない。中国は、142隻以上の外洋および沖合海警船、400隻以上の小型海警船を保有している。とはいえ、中国とロシアの協力は、中国が単独で行動していないことを他の地域大国に示すことになる。
(8) インド太平洋における中ロの協力関係強化につれて、地域諸国と米国は、こうした関係の深化がもたらす広範な影響に新たな形で対処する必要が出てくる。日本海や北太平洋における中ロ2国間の海軍演習や航空哨戒が注目されてきたが、両国は沿岸警備隊協力を通じてグレーゾーンでの協力を強化すると思われる。少なくとも、ロシアと中国の海洋法執行協力に関する合意は、北極海域のような紛争地域における中ロ関係の緊張を未然に防ぎ、また、和解の糸口を与えるであろう。両国がこの協力を、危機発生時の台湾周辺での協調的活動にまで拡大することになれば、米国とこの地域の友好国や同盟国は、地域の安定を維持する上で新たな課題に直面することになる。
記事参照:China-Russia Coast Guard Cooperation: A New Dimension of China-Russia Relations?
10月17日「QUAD構成国間の沿岸警備隊協力という新しい試み―インド専門家論説」(The Diplomat, October 17, 2024)
10月17日付のデジタル誌The Diplomatは、Japan Foundation Indo-Pacific Partnership Program(JFIPP)研究員Prakash Panneerselvamの“The Quad’s Coast Guard Cooperation: New Dynamics in Power Politics”と題する論説を掲載し、Prakash PanneerselvamはQUAD構成国間の沿岸警備隊の協力の有効性について、要旨以下のように述べている。
(1) QUAD首脳会議は、2025年にインド太平洋地域で開始予定のQuad-at-Sea Ship Observer Missionの初回実施を発表した。これは、地域の安全保障を強化し、インド太平洋における中国の強まる海洋進出に対抗するための重要な一歩を示している。QUADによる沿岸警備隊の協力は、他国を取り込む可能性を持ち、海洋機関間の相互運用性を向上させるだけでなく、地域の海洋安全保障の様相を大きく変える可能性を秘めている。
(2) このような動きの背景には、特に南シナ海や東シナ海における中国の海洋進出の活発化がある。この沿岸警備隊同士の協力は、戦略的・防衛的な連携を強化し、中国の広範な海洋活動に対抗するとともに、国際法、海洋の自由、地域の安全保障への共通の関与を強化するためのものである。米国、オーストラリア、インド、日本は、この地域内で独自の安全保障上の課題に直面している。これらの国々は、この地域での中国の攻撃的な姿勢を抑制するという共通の関心を持っているが、高まる中国の脅威に対抗するための彼らの立場を強化する一貫した政策を策定することに苦労してきた。沿岸警備隊の協力は、こうした連携を強化する有望な手段をもたらす。
(3) さらに、この協力はQUAD構成国間で切望されている結束を促進する可能性がある。これらの国々の軍事的な提携は、2020年以降、全てのQUAD構成国が定期的に参加しているマラバール演習を通じて主に強化されている。この新たな取り組みは、非軍事的な海洋協力を強化するものである。沿岸警備隊の協力は、ASEAN諸国やインド洋および太平洋の沿岸国との対話を促進する役割も果たす。沿岸警備隊の船艇は押し付けがましいものではなく、QUAD構成国に柔軟性を提供する。
(4) 沿岸警備隊は、海上での法と秩序の維持、海洋状況把握(MDA)の確保、漁業の保護、海賊行為への対抗措置、違法取引や密漁の防止といった重要な役割を果たしている。このような文脈において、沿岸警備隊の協力を強化することは、軍事衝突の閾値を下回るものの、国内法および国際法を遵守する上で重要な「グレーゾーン」の海洋活動において、QUAD構成国が影響力を発揮することを可能にする。
(5) QUADの支援を活用することで、東南アジア諸国は優先すべき分野を特定し、テロや犯罪から海上国境を効果的に監視できるようになる。「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness:IPMDA)」や「インド太平洋海洋トレーニング・イニシアティブ(Maritime Initiative for Training in the Indo-Pacific:MAITRI))といった取り組みは、これらの脅威に対処するための手段を提携国に提供する。この包括的な取り組みは、QUADと東南アジア諸国の間の意義深い交流を促進し、地域の提携国を支援するというQUADの誓約を示すものである。
(6) QUADによる沿岸警備隊への協力は、「QUADプラス」の枠組みも強化し、ベトナム、フィリピン、インドネシアといった海洋領域において中国からの大きな挑戦に直面している志を同じくする国々との協力の道を開く。これらの国々がQUAD構成国の支援を期待する動きが強まる中、この取り組みは信頼醸成措置として機能し、地域における中国の軍事行動に対抗する広範な連合の概念を強化できる。この協力は、QUAD構成国が集団的な警戒と抑止を通じて、中国の徐々に進行する領土的な拡大を監視し、抑制する能力を向上させる助けにもなる。
(7) 結論として、米国、オーストラリア、インド、日本による新たな沿岸警備隊間の協力は、インド太平洋における強靭で統一された戦線の構築に向けた極めて重要な一歩である。
記事参照:The Quad’s Coast Guard Cooperation: New Dynamics in Power Politics
(1) QUAD首脳会議は、2025年にインド太平洋地域で開始予定のQuad-at-Sea Ship Observer Missionの初回実施を発表した。これは、地域の安全保障を強化し、インド太平洋における中国の強まる海洋進出に対抗するための重要な一歩を示している。QUADによる沿岸警備隊の協力は、他国を取り込む可能性を持ち、海洋機関間の相互運用性を向上させるだけでなく、地域の海洋安全保障の様相を大きく変える可能性を秘めている。
(2) このような動きの背景には、特に南シナ海や東シナ海における中国の海洋進出の活発化がある。この沿岸警備隊同士の協力は、戦略的・防衛的な連携を強化し、中国の広範な海洋活動に対抗するとともに、国際法、海洋の自由、地域の安全保障への共通の関与を強化するためのものである。米国、オーストラリア、インド、日本は、この地域内で独自の安全保障上の課題に直面している。これらの国々は、この地域での中国の攻撃的な姿勢を抑制するという共通の関心を持っているが、高まる中国の脅威に対抗するための彼らの立場を強化する一貫した政策を策定することに苦労してきた。沿岸警備隊の協力は、こうした連携を強化する有望な手段をもたらす。
(3) さらに、この協力はQUAD構成国間で切望されている結束を促進する可能性がある。これらの国々の軍事的な提携は、2020年以降、全てのQUAD構成国が定期的に参加しているマラバール演習を通じて主に強化されている。この新たな取り組みは、非軍事的な海洋協力を強化するものである。沿岸警備隊の協力は、ASEAN諸国やインド洋および太平洋の沿岸国との対話を促進する役割も果たす。沿岸警備隊の船艇は押し付けがましいものではなく、QUAD構成国に柔軟性を提供する。
(4) 沿岸警備隊は、海上での法と秩序の維持、海洋状況把握(MDA)の確保、漁業の保護、海賊行為への対抗措置、違法取引や密漁の防止といった重要な役割を果たしている。このような文脈において、沿岸警備隊の協力を強化することは、軍事衝突の閾値を下回るものの、国内法および国際法を遵守する上で重要な「グレーゾーン」の海洋活動において、QUAD構成国が影響力を発揮することを可能にする。
(5) QUADの支援を活用することで、東南アジア諸国は優先すべき分野を特定し、テロや犯罪から海上国境を効果的に監視できるようになる。「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness:IPMDA)」や「インド太平洋海洋トレーニング・イニシアティブ(Maritime Initiative for Training in the Indo-Pacific:MAITRI))といった取り組みは、これらの脅威に対処するための手段を提携国に提供する。この包括的な取り組みは、QUADと東南アジア諸国の間の意義深い交流を促進し、地域の提携国を支援するというQUADの誓約を示すものである。
(6) QUADによる沿岸警備隊への協力は、「QUADプラス」の枠組みも強化し、ベトナム、フィリピン、インドネシアといった海洋領域において中国からの大きな挑戦に直面している志を同じくする国々との協力の道を開く。これらの国々がQUAD構成国の支援を期待する動きが強まる中、この取り組みは信頼醸成措置として機能し、地域における中国の軍事行動に対抗する広範な連合の概念を強化できる。この協力は、QUAD構成国が集団的な警戒と抑止を通じて、中国の徐々に進行する領土的な拡大を監視し、抑制する能力を向上させる助けにもなる。
(7) 結論として、米国、オーストラリア、インド、日本による新たな沿岸警備隊間の協力は、インド太平洋における強靭で統一された戦線の構築に向けた極めて重要な一歩である。
記事参照:The Quad’s Coast Guard Cooperation: New Dynamics in Power Politics
10月17日「サモア:太平洋のスイスとして―オーストラリア太平洋地域専門家論説」(The Interpreter, October 17, 2024)
10月17日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、シドニーを拠点に非軍事国家について研究するSheridan Wardの“Samoa: The Switzerland of the Pacific”と題する論説を掲載し、そこでSheridan Ward は軍隊を持たない太平洋のサモア独立国が、太平洋におけるスイスとしていかに平和に貢献しているかを訴求していくべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 地球上には平和のための牽引車として傑出した国がいくつかあり、最も有名なのは永世中立国のスイスである。2番目に有名なのはおそらくコスタリカで、1948年に軍隊を放棄し、経済的繁栄も謳歌している。観光業も盛んで、国連平和大学も設置されている。アジアにおけるスイスはおそらくブータンであろう。2011年からずっと南アジアにおける最も平和的な国家と位置づけられている。
(2) 太平洋はどうだろうか。国家間の対立はほとんどないが、太平洋の島嶼諸国が平和の提唱について称賛されることもほとんどない。むしろ、地域内部における大国間の対立に焦点が当てられる時が多い。そうした話題から目を転じ、太平洋島嶼諸国自身の成果、文化、価値を祝うときではないだろうか。世界には軍隊を持たない国が26ヵ国あり、そのうち11ヵ国が太平洋の国である。そのなかでも、異なる民族集団間の平和と寛容に対する決意で傑出しているのが、サモア独立国である。
(3) 10月25日および26日、サモアは自国の価値を示す機会を得る。2024 Commonwealth Heads of Government Meeting(第27回英連邦首脳会談)の会場国となるのである。54年間の歴史において太平洋の島国がその舞台となるのは、これが初めてのことである。
(4) サモアは1962年1月1日、太平洋で最初の独立国となった。独立の過程において特徴的なのは、軍の部隊を編成する議論や元宗主国ニュージーランドとの間で2国間防衛協定に関する議論が全く出なかったことである。1960年2月から9月にかけて憲法の草案に関する議論がなされたが、その議事録からは軍関連機関の創設に関する言及が一切削除された。サモアは平和国家であり、合意形成を通じて紛争を解決するのだから、軍隊の居場所などないと考えられている。
(5) サモアの平和主義の歴史は植民地時代以前に遡るが、最近の起源は、1927年から始まったマウ運動として知られる、非暴力・反植民地主義的運動にある。それはサモア人や混血の人々、欧米の植民者を団結させ、島の独立を求めるものであった。請願、学校のボイコット、納税拒否など、非協力の活動を奨励した。そうしたマウ運動はニュージーランドの信託統治を終わらせたのだった。
(6) 最近も、平和的な紛争解決の事例がある。2021年の憲法危機の時、武力や暴力ではなく、意思の疎通や司法を通して問題が解決されたのである。軍組織がなければ、危機に際してクーデタなどが起こることがないのである。
(7) サモアは既に、太平洋の軍事化に対する懸念を訴えるなど、中立における指導的地位を確立してきた。本質的にサモアは謙虚で平和的な国であるが、いまや、その国の平和への貢献を誇るべき時ではないだろうか。そうしたことへの関心が増していることは、人々の太平洋への見方を再形成し、より多様な形の投資や持続的なツーリズムを惹きつけるだろう。サモアは太平洋のスイスとして、強力な指導力を発揮する時である。
記事参照:Samoa: The Switzerland of the Pacific
(1) 地球上には平和のための牽引車として傑出した国がいくつかあり、最も有名なのは永世中立国のスイスである。2番目に有名なのはおそらくコスタリカで、1948年に軍隊を放棄し、経済的繁栄も謳歌している。観光業も盛んで、国連平和大学も設置されている。アジアにおけるスイスはおそらくブータンであろう。2011年からずっと南アジアにおける最も平和的な国家と位置づけられている。
(2) 太平洋はどうだろうか。国家間の対立はほとんどないが、太平洋の島嶼諸国が平和の提唱について称賛されることもほとんどない。むしろ、地域内部における大国間の対立に焦点が当てられる時が多い。そうした話題から目を転じ、太平洋島嶼諸国自身の成果、文化、価値を祝うときではないだろうか。世界には軍隊を持たない国が26ヵ国あり、そのうち11ヵ国が太平洋の国である。そのなかでも、異なる民族集団間の平和と寛容に対する決意で傑出しているのが、サモア独立国である。
(3) 10月25日および26日、サモアは自国の価値を示す機会を得る。2024 Commonwealth Heads of Government Meeting(第27回英連邦首脳会談)の会場国となるのである。54年間の歴史において太平洋の島国がその舞台となるのは、これが初めてのことである。
(4) サモアは1962年1月1日、太平洋で最初の独立国となった。独立の過程において特徴的なのは、軍の部隊を編成する議論や元宗主国ニュージーランドとの間で2国間防衛協定に関する議論が全く出なかったことである。1960年2月から9月にかけて憲法の草案に関する議論がなされたが、その議事録からは軍関連機関の創設に関する言及が一切削除された。サモアは平和国家であり、合意形成を通じて紛争を解決するのだから、軍隊の居場所などないと考えられている。
(5) サモアの平和主義の歴史は植民地時代以前に遡るが、最近の起源は、1927年から始まったマウ運動として知られる、非暴力・反植民地主義的運動にある。それはサモア人や混血の人々、欧米の植民者を団結させ、島の独立を求めるものであった。請願、学校のボイコット、納税拒否など、非協力の活動を奨励した。そうしたマウ運動はニュージーランドの信託統治を終わらせたのだった。
(6) 最近も、平和的な紛争解決の事例がある。2021年の憲法危機の時、武力や暴力ではなく、意思の疎通や司法を通して問題が解決されたのである。軍組織がなければ、危機に際してクーデタなどが起こることがないのである。
(7) サモアは既に、太平洋の軍事化に対する懸念を訴えるなど、中立における指導的地位を確立してきた。本質的にサモアは謙虚で平和的な国であるが、いまや、その国の平和への貢献を誇るべき時ではないだろうか。そうしたことへの関心が増していることは、人々の太平洋への見方を再形成し、より多様な形の投資や持続的なツーリズムを惹きつけるだろう。サモアは太平洋のスイスとして、強力な指導力を発揮する時である。
記事参照:Samoa: The Switzerland of the Pacific
10月17日「トラック2協議がQUAD・ASEAN間協力の扉を開く―豪米国専門家、マレーシア東アジア専門家論説」(East Asia Forum, October 17, 2024)
10月17日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、University of Sydney研究員Ava KalinauskasとマレーシアのInstitute for Strategic and International Studies分析員Angeline Tanの“Track two dialogue is key to unlocking Quad–ASEAN cooperation”と題する論説を掲載し、そこで両名はQUADに対する反中国的だという懸念を払拭し、ASEANと協力して地域で存在感を出すために、両者のトラック2協議を促進することが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2017年以降、QUADはそれが「反中国」連合に過ぎないという中国の偽情報作戦によって煽られた批判にさらされ続けてきた。米中間でのヘッジを模索している東南アジア以上に、そうした批判の影響が大きいところはない。QUADの成功と、ASEANとの協調を醸成できるかは、それが大国間対立の枠組みを越えたアイデンティティを確立できるかどうかにかかっている、
(2) QUADが最初に生まれた2004年、それは公共善を提供するプラットフォームというイメージであったが、最近のワクチン外交があまりうまくいかなかったことは、そうしたイメージを弱めている。しかし、QUADに対する東南アジアの認識については楽観的な兆候も見られる。2024年の東南アジア状況調査では、回答者の約4割が、QUADは地域にとって有益だと答え、他方でQUADが中国に対して挑発的などのマイナスイメージは、ごくわずかな人びとの認識にすぎない。
(3) しかし、現実ははるかに複雑で、そもそもASEANを一体のものと見るべきではない。中国と距離的にも近いカンボジアやミャンマーはQUADに対して慎重な態度だし、他方フィリピンは、新たに生まれたSQUADという枠組みに加わっている。
(4) QUADとASEANのどちらも、気候変動や人道支援・災害救援など、非伝統的な安全保障上の課題に対処することで、地域の平和に貢献するものである。そうした目的や具体的な試みにおいて、QUADはASEANと競合するのではなく協調していけることを示さねばならない。その範囲を拡大し、議論に加わる主体を増やすことが、そのためには有用である。具体的には、QUADは民間有識者レベルの協議である、トラック2レベルの協議を検討すると良いだろう。ASEAN+3のトラック2協議に位置づけられる、東アジア・シンクタンク・ネットワークが良い前例であろう。
(5) こうした非政府レベルの協議は、QUADの地域外交において中心的な位置を占めている。たとえば米国は各国とハイレベルの2国間対話(日米であれば富士山会合)を進めている。さまざまな部門をまたぐ連結性を強化し、主要なステークホルダーによる「知的共同体」を生み出すのに、こうした類の協議は有効である。QUADとASEAN諸国のあいだのトラック2協議は、QUADの誤解を取り除くのに寄与するであろう。そして、QUADが地域社会のニーズに応じる協力的な取り組みであることを保証するだろう。
(6) 2020年以降、そのすべての共同声明において、QUADはASEANの中心性へのコミットメントを繰り返してきた。そうした明快さにもかかわらず、QUADが反中国的集団であるという懐疑的な視線が、QUADが地域での牽引力を得ることを妨げている。トラック2協議はこうした懸念を和らげるであろう。QUADの存在は大国間対立を激化させるのではなく、実行可能な選択肢と健全な競争を提供することで、地域に活気を与えるものとみなされるべきである。特に東南アジアとの関係を深める土台を築きたいのであれば、政府関係者以外のあいだでのより強い結びつきを形成する必要がある。
記事参照:Track two dialogue is key to unlocking Quad–ASEAN cooperation
(1) 2017年以降、QUADはそれが「反中国」連合に過ぎないという中国の偽情報作戦によって煽られた批判にさらされ続けてきた。米中間でのヘッジを模索している東南アジア以上に、そうした批判の影響が大きいところはない。QUADの成功と、ASEANとの協調を醸成できるかは、それが大国間対立の枠組みを越えたアイデンティティを確立できるかどうかにかかっている、
(2) QUADが最初に生まれた2004年、それは公共善を提供するプラットフォームというイメージであったが、最近のワクチン外交があまりうまくいかなかったことは、そうしたイメージを弱めている。しかし、QUADに対する東南アジアの認識については楽観的な兆候も見られる。2024年の東南アジア状況調査では、回答者の約4割が、QUADは地域にとって有益だと答え、他方でQUADが中国に対して挑発的などのマイナスイメージは、ごくわずかな人びとの認識にすぎない。
(3) しかし、現実ははるかに複雑で、そもそもASEANを一体のものと見るべきではない。中国と距離的にも近いカンボジアやミャンマーはQUADに対して慎重な態度だし、他方フィリピンは、新たに生まれたSQUADという枠組みに加わっている。
(4) QUADとASEANのどちらも、気候変動や人道支援・災害救援など、非伝統的な安全保障上の課題に対処することで、地域の平和に貢献するものである。そうした目的や具体的な試みにおいて、QUADはASEANと競合するのではなく協調していけることを示さねばならない。その範囲を拡大し、議論に加わる主体を増やすことが、そのためには有用である。具体的には、QUADは民間有識者レベルの協議である、トラック2レベルの協議を検討すると良いだろう。ASEAN+3のトラック2協議に位置づけられる、東アジア・シンクタンク・ネットワークが良い前例であろう。
(5) こうした非政府レベルの協議は、QUADの地域外交において中心的な位置を占めている。たとえば米国は各国とハイレベルの2国間対話(日米であれば富士山会合)を進めている。さまざまな部門をまたぐ連結性を強化し、主要なステークホルダーによる「知的共同体」を生み出すのに、こうした類の協議は有効である。QUADとASEAN諸国のあいだのトラック2協議は、QUADの誤解を取り除くのに寄与するであろう。そして、QUADが地域社会のニーズに応じる協力的な取り組みであることを保証するだろう。
(6) 2020年以降、そのすべての共同声明において、QUADはASEANの中心性へのコミットメントを繰り返してきた。そうした明快さにもかかわらず、QUADが反中国的集団であるという懐疑的な視線が、QUADが地域での牽引力を得ることを妨げている。トラック2協議はこうした懸念を和らげるであろう。QUADの存在は大国間対立を激化させるのではなく、実行可能な選択肢と健全な競争を提供することで、地域に活気を与えるものとみなされるべきである。特に東南アジアとの関係を深める土台を築きたいのであれば、政府関係者以外のあいだでのより強い結びつきを形成する必要がある。
記事参照:Track two dialogue is key to unlocking Quad–ASEAN cooperation
10月17日「中国との戦争で米国の兵器は枯渇する―米専門家論説」(Atlantic Council, October 17, 2024)
10月17日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、同Institute のScowcroft Center for Strategy and Securityインド太平洋安全保障構想検討班の非常勤上席研究員Adam Kozloskiの“In a war against China, the US could quickly exhaust its weapons. A new Indo-Pacific defense initiative might be the answer.”と題する論説を掲載し、ここでAdam Kozloskiは米国が「インド太平洋産業の抗堪性のためのパートナーシップ(PIPIR)」の求める裁量権をうまく活用することができれば、最終的には米国民の命と財産を守ることにつながるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国がインド太平洋地域におけるU.S. Armed Forcesに対して弾道ミサイルの集中攻撃を仕掛けた場合、何が起こるだろうか。中国人民解放軍(PLA)は、スタンドオフ能力に大規模に投資しており、高烈度の紛争においてはU.S. Armed Forcesおよび同盟国軍に深刻な被害を与える能力を有している。このため、米国がそのような戦争に勝利したとしても、U.S. Armed Forcesが将来の紛争に対処できなくなる危険性がある。この危険性の最も大きな要因は維持管理であり、具体的には米国の能力が使用後にどれだけ迅速に補充されるかという問題である。この脆弱性はあらゆる紛争地域で明らかなことであるが、とくに太平洋では迅速な補給が困難となっている。
(2) これまで米国は、戦争遂行システムにおける質的優位性に頼ってきた。しかし、中国の盗用が続いていることで、この優位性が損なわれつつある。その結果、ほぼ同等の能力を持つ中国のシステムが米国のシステムを大幅に上回る数となり、信頼に足る抑止力を維持するための戦略的再均衡化を迫られる事態となっている。米国は、最も重要な戦略的資産である同盟国および提携の強みを活用することで、こうした短期的および中期的な課題を軽減することができる。
(3) 2024年6月に発足した「インド太平洋産業抗堪性のためのパートナーシップ(Partnership for Indo-Pacific Industrial Resilience:以下、PIPIRと言う)」は、この地域における安全保障、経済安全保障、繁栄を促進するための防衛産業の抗堪性の強化を目的とした多国間の取り組みである。PIPIRがその潜在能力を発揮すれば、米国とその提携国は、勝利に伴う代償の危険性を軽減できる可能性がある。まだ初期段階ではあるが、PIPIRはすでに、ウクライナへの重要な兵器システムの多国間提供のための資源を調整するUkraine Defense Contact Groupと比較されている。PIPIRは、中国が軍事力を近代化し、2049年までに世界で最上位の軍事力を目指すという影響下で、米軍の抑止力を回復させるのに役立つ。また、米国にとって、PIPIRはインド太平洋地域の多くの提携国が米国の軍事ハードウェアおよびソフトウェアの顧客であり、米軍と定期的に訓練を行い、米国の各種システムの操作に精通するという利益をもたらす。
(4) 10月7日、PIPIRは次の段階に進み、欧州の提携国を含む13ヵ国が署名した「インド太平洋防衛産業基盤協力」の原則声明に基づく初会合が開催された。この会合では、維持、生産、サプライチェーンの回復力、政策および最適化という4つの制度化された作業の流れが創出された。これらの国々がこれらの重要な問題の追求を決めた今、PIPIRは既存の2国間、あるいは多国間の取り組みと統合するよう努めるべきである。効果的に統合できれば、米国とその提携国の維持能力と生産能力を飛躍的に高めることができる。
(5) PIPIRは、米国とその提携国に維持のための選択肢をより多く提供することに加え、分散型兵站と基地配置様式を通じて、戦時の危険性を軽減するという米政府の戦略目標を支援することができる。前もって配置された備蓄品は敵対勢力から攻撃の対象となり、紛争が継続する期間に十分な規模を維持することは不可能である。さらに、備蓄品の規模が大きく、また戦力がそれらに依存しているほど、破壊されることが即応性に与える損害も大きくなる。この場合、共同生産と調整におけるPIPIRの潜在的な価値は、既存の地域備蓄を超えて、使用できる可能性のある物資を米軍に提供することで真価を発揮する。さらに、地域における共同生産は、生産から配達までの時間を数週間から数日に短縮できる可能性がある。
(6) PIPIRが効果を発揮するには、次に挙げる3つの重要な目標に焦点を当てるべきである。
a. 資源と能力の認識:PIPIRは各参加国に自国の防衛生産能力、そして輸出可能な能力について詳しく検討してもらうべきである。
b. 標準化を推進:PIPIRは、主要な参加者およびシステム間の標準化に向けたNATOの産業能力拡大の誓約を模範とすべきである。米国の長期的な展開とこの地域への多くの諸外国からの軍事力の提供は、インド太平洋地域におけるNATOの標準化協定の使用を確立し、拡大する機会を提供する。
c. 供給への確約を確保:危機的状況下では、維持が課題となり、残存性と支出率が後方の問題に追加されるため、PIPIRの価値が最大限に高まる。PIPIRの有効性を確保するため、米国は共同生産や標準化に前向きな提携諸国とPIPIR専用の供給保証協定を締結するよう努めるべきである。
(7) PIPIRがUkraine Defense Contact Groupの取り組みに匹敵する、あるいはそれを上回る可能性があるかどうかを判断するには時期尚早である。適切な外交と一貫した米国の指導力が成功の鍵となる。同時に、PIPIRに参加している国々の不透明性は、この地域における中国の影が長いことを示している。地域の提携国は、防衛産業基盤の協力拡大に取り組む際に、経済的利益と国家安全保障の均衡を慎重に取らなければならない。米国が前述の提言を優先し、PIPIRが求める裁量権をうまく活用することができれば、この新しい取り組みが同盟国の抑止力と持続性を向上させる戦略的影響力を発揮できるようになり、最終的には米国民の命と財産を守ることにつながる。
記事参照:In a war against China, the US could quickly exhaust its weapons. A new Indo-Pacific defense initiative might be the answer.
(1) 中国がインド太平洋地域におけるU.S. Armed Forcesに対して弾道ミサイルの集中攻撃を仕掛けた場合、何が起こるだろうか。中国人民解放軍(PLA)は、スタンドオフ能力に大規模に投資しており、高烈度の紛争においてはU.S. Armed Forcesおよび同盟国軍に深刻な被害を与える能力を有している。このため、米国がそのような戦争に勝利したとしても、U.S. Armed Forcesが将来の紛争に対処できなくなる危険性がある。この危険性の最も大きな要因は維持管理であり、具体的には米国の能力が使用後にどれだけ迅速に補充されるかという問題である。この脆弱性はあらゆる紛争地域で明らかなことであるが、とくに太平洋では迅速な補給が困難となっている。
(2) これまで米国は、戦争遂行システムにおける質的優位性に頼ってきた。しかし、中国の盗用が続いていることで、この優位性が損なわれつつある。その結果、ほぼ同等の能力を持つ中国のシステムが米国のシステムを大幅に上回る数となり、信頼に足る抑止力を維持するための戦略的再均衡化を迫られる事態となっている。米国は、最も重要な戦略的資産である同盟国および提携の強みを活用することで、こうした短期的および中期的な課題を軽減することができる。
(3) 2024年6月に発足した「インド太平洋産業抗堪性のためのパートナーシップ(Partnership for Indo-Pacific Industrial Resilience:以下、PIPIRと言う)」は、この地域における安全保障、経済安全保障、繁栄を促進するための防衛産業の抗堪性の強化を目的とした多国間の取り組みである。PIPIRがその潜在能力を発揮すれば、米国とその提携国は、勝利に伴う代償の危険性を軽減できる可能性がある。まだ初期段階ではあるが、PIPIRはすでに、ウクライナへの重要な兵器システムの多国間提供のための資源を調整するUkraine Defense Contact Groupと比較されている。PIPIRは、中国が軍事力を近代化し、2049年までに世界で最上位の軍事力を目指すという影響下で、米軍の抑止力を回復させるのに役立つ。また、米国にとって、PIPIRはインド太平洋地域の多くの提携国が米国の軍事ハードウェアおよびソフトウェアの顧客であり、米軍と定期的に訓練を行い、米国の各種システムの操作に精通するという利益をもたらす。
(4) 10月7日、PIPIRは次の段階に進み、欧州の提携国を含む13ヵ国が署名した「インド太平洋防衛産業基盤協力」の原則声明に基づく初会合が開催された。この会合では、維持、生産、サプライチェーンの回復力、政策および最適化という4つの制度化された作業の流れが創出された。これらの国々がこれらの重要な問題の追求を決めた今、PIPIRは既存の2国間、あるいは多国間の取り組みと統合するよう努めるべきである。効果的に統合できれば、米国とその提携国の維持能力と生産能力を飛躍的に高めることができる。
(5) PIPIRは、米国とその提携国に維持のための選択肢をより多く提供することに加え、分散型兵站と基地配置様式を通じて、戦時の危険性を軽減するという米政府の戦略目標を支援することができる。前もって配置された備蓄品は敵対勢力から攻撃の対象となり、紛争が継続する期間に十分な規模を維持することは不可能である。さらに、備蓄品の規模が大きく、また戦力がそれらに依存しているほど、破壊されることが即応性に与える損害も大きくなる。この場合、共同生産と調整におけるPIPIRの潜在的な価値は、既存の地域備蓄を超えて、使用できる可能性のある物資を米軍に提供することで真価を発揮する。さらに、地域における共同生産は、生産から配達までの時間を数週間から数日に短縮できる可能性がある。
(6) PIPIRが効果を発揮するには、次に挙げる3つの重要な目標に焦点を当てるべきである。
a. 資源と能力の認識:PIPIRは各参加国に自国の防衛生産能力、そして輸出可能な能力について詳しく検討してもらうべきである。
b. 標準化を推進:PIPIRは、主要な参加者およびシステム間の標準化に向けたNATOの産業能力拡大の誓約を模範とすべきである。米国の長期的な展開とこの地域への多くの諸外国からの軍事力の提供は、インド太平洋地域におけるNATOの標準化協定の使用を確立し、拡大する機会を提供する。
c. 供給への確約を確保:危機的状況下では、維持が課題となり、残存性と支出率が後方の問題に追加されるため、PIPIRの価値が最大限に高まる。PIPIRの有効性を確保するため、米国は共同生産や標準化に前向きな提携諸国とPIPIR専用の供給保証協定を締結するよう努めるべきである。
(7) PIPIRがUkraine Defense Contact Groupの取り組みに匹敵する、あるいはそれを上回る可能性があるかどうかを判断するには時期尚早である。適切な外交と一貫した米国の指導力が成功の鍵となる。同時に、PIPIRに参加している国々の不透明性は、この地域における中国の影が長いことを示している。地域の提携国は、防衛産業基盤の協力拡大に取り組む際に、経済的利益と国家安全保障の均衡を慎重に取らなければならない。米国が前述の提言を優先し、PIPIRが求める裁量権をうまく活用することができれば、この新しい取り組みが同盟国の抑止力と持続性を向上させる戦略的影響力を発揮できるようになり、最終的には米国民の命と財産を守ることにつながる。
記事参照:In a war against China, the US could quickly exhaust its weapons. A new Indo-Pacific defense initiative might be the answer.
10月17日「米中ロ間の戦略的安定性はどう転ぶかわからない―米国外交軍事専門家論説」(South China Morning Post, October 17, 2024)
10月17日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は、University of London教授Dan Pleschと軍事アナリストManuel Galileoの“Opinion | US-China-Russia strategic stability hangs in the balance”と題する論説を掲載し、ここで両名は米中間で核兵器に関する軍拡競争が進み軍備管理が衰退しつつある現在、米ロ中の三者間の関与と協力を強化するべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 軍備管理が衰退し、各国の協力を強化すべき時に、軍事における静かな革命が起こっている。中国の戦略核ミサイルは、理論上、米国とその同盟国が通常の非核戦力を使用して予防的に破壊できる。米国と中国の戦略能力の差が縮まっているように見える一方で、米国は1つの重要なカテゴリー、すなわち通常ミサイルによる戦略的な対抗力により優位を拡大している。対兵力攻撃力は、核兵器と結びつけられることが多い核戦略ドクトリンの1つである。それは兵器が発射される前に敵の核兵器を無力にするための先制攻撃を含んでいる。我々の研究「大空の達人達:戦略的安定性と通常兵器の攻撃(Masters of the Air: Strategic stability and conventional strikes)」において、我々は中国とロシアに対する米国主導の通常戦力による核抑止の実現可能性を検討した。中央アジアの奥深くに中国は約70基、ロシアは150基の発射装置を持ち、米本土からの攻撃は困難であることがわかった。しかし、これらに対抗するために配備されているのは、約4,400発の米国のトマホーク・ミサイルと3,500発の空対地スタンドオフ・ミサイル(JASSM)である。この数字は米国とその同盟国の方に有利である。そして、この現実は米中ロの間の戦略的安定性を損なうことになる。2022年に中ロは共同声明を発表し、米国の無力化攻撃とその他の戦略目標のための高精度非核兵器の能力向上に対する懸念を表明した。核攻撃能力と通常兵器攻撃能力の相互作用における極めて危険な力学は、政府や防衛専門家の間で問題に対する認識が異常に低いようであるが、悪化している。
(2) 戦略的な懸念は、中国とロシアが新たな軍拡競争を正当化するほど米国の軍事力を恐れているのかどうかということである。米国の国家情報機関は、中国の核兵器増強の動機として、中国が米国の先制攻撃を恐れていることを繰り返し強調してきた。通常兵器における米国の戦略的優位性は、我々が3Dと呼ぶもの、すなわち探知(detection)、撃破(defeat)、防衛(defence)にある。米国は、衛星やグローバルホークや新型ドローンによる優れた探知能力を持っており、運用範囲は22,000kmある。偽装され、分散した移動式核発射システムを発見できる可能性が高い。米国とその同盟国が備蓄する膨大な量のJASSMやトマホークのような長射程ミサイルやステルス爆撃機やジェット機から艦船や陸上基地に至るまでの広範な運搬システムが利用できることが、米国主導の兵力を打ち負かすことを極めて困難にしている。日本、フィンランド、ポーランドなどの国々は、ミサイルの備蓄を増やし続けている。一方、イージスのような米国のミサイル防衛システムは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃する能力を示している。日本が海上ミサイル防衛に何十億ドルも注ぎ込んでいる理由であると説明されている。今後数年間でイージス艦が海上自衛隊に加わることで、中国がICBMで米国本土を攻撃するという脅威を打ち消すことができる可能性がある。また、米国が韓国に配備した終末高高度防衛(THAAD)システムは3Dの好例であり、中国ミサイルに対する3D能力を大幅に増加させており、中国の痛いところに触れるものとなっている。
(3) 中国に対する通常ミサイル攻撃の場合、中国の「地下の万里の長城(underground Great Wall)」と呼ばれる地下深く埋もれた戦略システムだけが生き残れると考えられている。しかし、計画立案者の論理的根拠は、おそらく山の奥深くにあるミサイルに到達することではなく、潜在的な発射口を塞ぎ、それを損なうことだろう。レイセオン社のバンカーバスター・システムで十分かもしれない。プリンストン大学による2018年のある研究は、中国の「地下万里の長城」のような極めて困難な標的を除いてほとんどの戦略核目標に対する現代の米国の通常兵器の能力を分析している。中国の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)は、米国の戦略潜水艦と比較して地理的に不利である。海南島にある中国のSSBNの主要港は、基本的に米国とその同盟国によって監視されている。また中国の通常戦力は米国本土を脅かす能力を欠いている。中国は長年にわたり地上配備型ICBM、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機という核の三本柱を増強し近代化してきた。しかし、米国本土に到達できる戦略爆撃機はまだできていない。しかし、この中国の空中の弱点は、最近Y-20給油機を取得したことで最終的には緩和される可能性がある。また、中国中部の北側にミサイルのサイロが建設され、移動式ICBM戦力が増強されていることから今後10年以内に中国がICBM能力でロシアや米国を追い抜く可能性がある。
(4) 中国のそのような新しい兵器は、新たな米国の兵器の性能要件を生み出す可能性がある。これが軍拡競争の論理である。新たな戦略的状況は、Antonio Guterres国連事務総長が2024年の軍縮会議で呼びかけた軍備管理への新たな焦点を正当化するものである。米ロを含む国々は、対話を促進するための最も可能性の高い機構として国連の重要性を強調している。中国外交部長の王毅は、平和と安全を促進するための協力を繰り返し呼びかけている。米国の軍備管理・抑止・安定局を率いるMallory Stewart国務次官補も、米ロ中の三者間の関与を強めることを要求している。気がかりなことではあるが、軍事における静かな革命とそれに続く戦略的な軍事力の変化は、まさに軍備管理が衰退しつつある時、そして各国が協力を強化すべき時に起こっている。
記事参照:Opinion | US-China-Russia strategic stability hangs in the balance
(1) 軍備管理が衰退し、各国の協力を強化すべき時に、軍事における静かな革命が起こっている。中国の戦略核ミサイルは、理論上、米国とその同盟国が通常の非核戦力を使用して予防的に破壊できる。米国と中国の戦略能力の差が縮まっているように見える一方で、米国は1つの重要なカテゴリー、すなわち通常ミサイルによる戦略的な対抗力により優位を拡大している。対兵力攻撃力は、核兵器と結びつけられることが多い核戦略ドクトリンの1つである。それは兵器が発射される前に敵の核兵器を無力にするための先制攻撃を含んでいる。我々の研究「大空の達人達:戦略的安定性と通常兵器の攻撃(Masters of the Air: Strategic stability and conventional strikes)」において、我々は中国とロシアに対する米国主導の通常戦力による核抑止の実現可能性を検討した。中央アジアの奥深くに中国は約70基、ロシアは150基の発射装置を持ち、米本土からの攻撃は困難であることがわかった。しかし、これらに対抗するために配備されているのは、約4,400発の米国のトマホーク・ミサイルと3,500発の空対地スタンドオフ・ミサイル(JASSM)である。この数字は米国とその同盟国の方に有利である。そして、この現実は米中ロの間の戦略的安定性を損なうことになる。2022年に中ロは共同声明を発表し、米国の無力化攻撃とその他の戦略目標のための高精度非核兵器の能力向上に対する懸念を表明した。核攻撃能力と通常兵器攻撃能力の相互作用における極めて危険な力学は、政府や防衛専門家の間で問題に対する認識が異常に低いようであるが、悪化している。
(2) 戦略的な懸念は、中国とロシアが新たな軍拡競争を正当化するほど米国の軍事力を恐れているのかどうかということである。米国の国家情報機関は、中国の核兵器増強の動機として、中国が米国の先制攻撃を恐れていることを繰り返し強調してきた。通常兵器における米国の戦略的優位性は、我々が3Dと呼ぶもの、すなわち探知(detection)、撃破(defeat)、防衛(defence)にある。米国は、衛星やグローバルホークや新型ドローンによる優れた探知能力を持っており、運用範囲は22,000kmある。偽装され、分散した移動式核発射システムを発見できる可能性が高い。米国とその同盟国が備蓄する膨大な量のJASSMやトマホークのような長射程ミサイルやステルス爆撃機やジェット機から艦船や陸上基地に至るまでの広範な運搬システムが利用できることが、米国主導の兵力を打ち負かすことを極めて困難にしている。日本、フィンランド、ポーランドなどの国々は、ミサイルの備蓄を増やし続けている。一方、イージスのような米国のミサイル防衛システムは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃する能力を示している。日本が海上ミサイル防衛に何十億ドルも注ぎ込んでいる理由であると説明されている。今後数年間でイージス艦が海上自衛隊に加わることで、中国がICBMで米国本土を攻撃するという脅威を打ち消すことができる可能性がある。また、米国が韓国に配備した終末高高度防衛(THAAD)システムは3Dの好例であり、中国ミサイルに対する3D能力を大幅に増加させており、中国の痛いところに触れるものとなっている。
(3) 中国に対する通常ミサイル攻撃の場合、中国の「地下の万里の長城(underground Great Wall)」と呼ばれる地下深く埋もれた戦略システムだけが生き残れると考えられている。しかし、計画立案者の論理的根拠は、おそらく山の奥深くにあるミサイルに到達することではなく、潜在的な発射口を塞ぎ、それを損なうことだろう。レイセオン社のバンカーバスター・システムで十分かもしれない。プリンストン大学による2018年のある研究は、中国の「地下万里の長城」のような極めて困難な標的を除いてほとんどの戦略核目標に対する現代の米国の通常兵器の能力を分析している。中国の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)は、米国の戦略潜水艦と比較して地理的に不利である。海南島にある中国のSSBNの主要港は、基本的に米国とその同盟国によって監視されている。また中国の通常戦力は米国本土を脅かす能力を欠いている。中国は長年にわたり地上配備型ICBM、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機という核の三本柱を増強し近代化してきた。しかし、米国本土に到達できる戦略爆撃機はまだできていない。しかし、この中国の空中の弱点は、最近Y-20給油機を取得したことで最終的には緩和される可能性がある。また、中国中部の北側にミサイルのサイロが建設され、移動式ICBM戦力が増強されていることから今後10年以内に中国がICBM能力でロシアや米国を追い抜く可能性がある。
(4) 中国のそのような新しい兵器は、新たな米国の兵器の性能要件を生み出す可能性がある。これが軍拡競争の論理である。新たな戦略的状況は、Antonio Guterres国連事務総長が2024年の軍縮会議で呼びかけた軍備管理への新たな焦点を正当化するものである。米ロを含む国々は、対話を促進するための最も可能性の高い機構として国連の重要性を強調している。中国外交部長の王毅は、平和と安全を促進するための協力を繰り返し呼びかけている。米国の軍備管理・抑止・安定局を率いるMallory Stewart国務次官補も、米ロ中の三者間の関与を強めることを要求している。気がかりなことではあるが、軍事における静かな革命とそれに続く戦略的な軍事力の変化は、まさに軍備管理が衰退しつつある時、そして各国が協力を強化すべき時に起こっている。
記事参照:Opinion | US-China-Russia strategic stability hangs in the balance
10月18日「タイフォン・ミサイルの配備はフィリピン・中国・米国の戦略情勢を変える―フィリピン専門家論説」(China US Focus, October 18, 2024)
10月18日付の香港のシンクタンクChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンのPolytechnic UniversityのRichard Javad Heydarianによる“Typhon Missile: A Game Changer in Philippine-China-US Strategic Triangle?”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarian はフィリピンが米国の戦略に巻き込まれないよう慎重になりつつも、自国の地理的条件と米国との同盟関係を活用して、自国の防衛能力を高めるあらゆる機会を最大限に活用するべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国が最新鋭のタイフォン・ミサイルシステム(以下、「タイフォン」と言う)をフィリピンに配備したことは、この地域の軍事力の均衡を変化させる可能性がある。南シナ海の緊張が高まる中、Armed Forces of the Philippinesの最高幹部は、タイフォンを購入しないまでも、恒久的に配備を認める可能性を示唆している。タイフォンは現在、イロコス・ノルテ州ラワグのラワグ国際空港に配備されている。この空港は、台湾の最南端の都市から飛行機でわずか30分ほどの距離にある。タイフォンは射程240km~2,500kmのトマホーク対地攻撃ミサイルと弾道ミサイル迎撃能力を持つ長射程対空ミサイルSM-6の両方を発射できる能力を備えている。それは、中国の南部軍事基地、台湾海峡、南シナ海、西太平洋の一部を射程に収めている。フィリピン当局は現在、U.S. Department of Defenseとの間の防衛協力強化協定」(以下、EDCAと言う)に基づき、最北の基地にさらに多くの米国資産を配備することを検討している。
(2) これらの最近の動きは、米国が潜在的に近隣の台湾に対する中国のあらゆる戦術を阻止し、効果的に対応する能力を高める可能性がある。しかし、南シナ海におけるフィリピンと中国の海洋紛争をさらに激化させ、両国関係に悪影響を及ぼす可能性もある。したがって、フィリピンにとっての課題は、米国との同盟関係を強化すると同時に、冷戦時代のキューバ危機のようなミサイル危機に巻き込まれないような対応が必要である。
(3) 南シナ海における海洋紛争は、この1年で複雑な展開を見せ、係争中のセカンド・トーマス礁、スカボロー礁、サビナ礁を巡ってフィリピンと中国の海上部隊が衝突寸前の事態を何度も引き起こしている。しかし、もう1つの大きな懸念材料は台湾海峡の緊張の高まりであり、特にNancy Pelosi前米下院議長の訪台後に中国人民解放軍による大規模な軍事演習が引き起こされたことである。台湾問題は、主に3つの理由からフィリピンの外交政策の中心的な課題となっている。それは、第1に台湾には多数のフィリピン人労働者が存在すること、第2に地理的に近接していること、そして第3に米国が台湾海峡問題に積極的に関与していることである。
(4) フィリピンは、1つの中国政策を厳格に維持しているが、もはやこの問題について純粋に中立の立場を維持することはできない。特に、EDCAに基づく新基地はすべて、フィリピン最北部のカガヤン州とイサベラ州に位置しており、この2州は台湾の南海岸に近接している。さらに、米国防総省はバタンガス諸島での大きな存在感も模索している。この諸島には海軍分遣隊が駐留しており、それは台湾からわずか100km弱の距離にある。しかし、Marcos Jr.大統領は、この新しいEDCA基地の正確な影響範囲について、しばしばあいまいな態度を採っている。それゆえ、中国がフィリピンに「火遊びをするな」と警告したのも当然である。ある中国の専門家は、「米国が港湾や施設を強化する動きは、いずれも中国による台湾への武力行使に対する米国の介入を支援するために利用される可能性があり、中国政府にとっては直接的な脅威となる」と述べている。タイフォンの配備が極めて微妙な問題となっているのはまさにこの点である。
(5) 2024年初め、米国はフィリピンとのバカリタン共同演習に先立ち、タイフォンを初めて配備したが、演習では使用しなかった。フィリピン当局は、タイフォン配備の目的についてあいまいな態度を示しているが、南シナ海におけるフィリピンと中国の対立が深刻化する中、強硬な姿勢が増している。最高司令官が配備を恒久化する提案をし、別の国防省高官は中国に対して心理戦を仕掛けると自慢した。
(6) 2024年初め、中国の王毅外交部長はフィリピンがミサイルシステムを配備することは地域の安定を損なうと批判した。その主張を裏付けるために、中国は9月末に最新の米比軍合同演習が終了した直後に大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射試験を実施した。中国の圧倒的な軍事力から考えると、米国がタイフォンを1個隊配備しただけでは、この地域の軍事的均衡を劇的に変化させることはない。しかし、フィリピンには、より戦略的に重要な基地を開設し、あるいは将来的により洗練された米国の兵器システムを導入するという選択肢がある。これは極めて重要である。なぜなら、西太平洋全域にミサイル防衛システムを配備することは、アジアにおける大国間の紛争の行方を決定する上で極めて重要だからである。結局のところ、「空母キラー」と呼ばれるミサイルシステムを南の諸地域に配備していることを中国が米国の海軍介入に対する切り札としている。
(7) フィリピンは米国の戦略に巻き込まれないよう慎重になる必要がある。台湾海峡問題に対しても同様である。さもなければ、Marcos Jr政権は、望ましくないミサイル危機を招くという危険性を無意識のうちに引き起こすことになるだろう。フィリピンは自国の地理的条件と米国との同盟関係を活用して、自国の国益を守ることができる。たとえば、フィリピン政府は台湾紛争に備えた多数の米国製兵器システムの恒久的な駐留を拒否する代わりに、南シナ海における中国の譲歩を引き出す交渉を行うことができる。フィリピンが直面する究極の課題は、大国間の紛争の渦に巻き込まれることなく、自国の防衛能力を高めるあらゆる機会を最大限に活用することである。
記事参照:Typhon Missile: A Game Changer in Philippine-China-US Strategic Triangle?
(1) 米国が最新鋭のタイフォン・ミサイルシステム(以下、「タイフォン」と言う)をフィリピンに配備したことは、この地域の軍事力の均衡を変化させる可能性がある。南シナ海の緊張が高まる中、Armed Forces of the Philippinesの最高幹部は、タイフォンを購入しないまでも、恒久的に配備を認める可能性を示唆している。タイフォンは現在、イロコス・ノルテ州ラワグのラワグ国際空港に配備されている。この空港は、台湾の最南端の都市から飛行機でわずか30分ほどの距離にある。タイフォンは射程240km~2,500kmのトマホーク対地攻撃ミサイルと弾道ミサイル迎撃能力を持つ長射程対空ミサイルSM-6の両方を発射できる能力を備えている。それは、中国の南部軍事基地、台湾海峡、南シナ海、西太平洋の一部を射程に収めている。フィリピン当局は現在、U.S. Department of Defenseとの間の防衛協力強化協定」(以下、EDCAと言う)に基づき、最北の基地にさらに多くの米国資産を配備することを検討している。
(2) これらの最近の動きは、米国が潜在的に近隣の台湾に対する中国のあらゆる戦術を阻止し、効果的に対応する能力を高める可能性がある。しかし、南シナ海におけるフィリピンと中国の海洋紛争をさらに激化させ、両国関係に悪影響を及ぼす可能性もある。したがって、フィリピンにとっての課題は、米国との同盟関係を強化すると同時に、冷戦時代のキューバ危機のようなミサイル危機に巻き込まれないような対応が必要である。
(3) 南シナ海における海洋紛争は、この1年で複雑な展開を見せ、係争中のセカンド・トーマス礁、スカボロー礁、サビナ礁を巡ってフィリピンと中国の海上部隊が衝突寸前の事態を何度も引き起こしている。しかし、もう1つの大きな懸念材料は台湾海峡の緊張の高まりであり、特にNancy Pelosi前米下院議長の訪台後に中国人民解放軍による大規模な軍事演習が引き起こされたことである。台湾問題は、主に3つの理由からフィリピンの外交政策の中心的な課題となっている。それは、第1に台湾には多数のフィリピン人労働者が存在すること、第2に地理的に近接していること、そして第3に米国が台湾海峡問題に積極的に関与していることである。
(4) フィリピンは、1つの中国政策を厳格に維持しているが、もはやこの問題について純粋に中立の立場を維持することはできない。特に、EDCAに基づく新基地はすべて、フィリピン最北部のカガヤン州とイサベラ州に位置しており、この2州は台湾の南海岸に近接している。さらに、米国防総省はバタンガス諸島での大きな存在感も模索している。この諸島には海軍分遣隊が駐留しており、それは台湾からわずか100km弱の距離にある。しかし、Marcos Jr.大統領は、この新しいEDCA基地の正確な影響範囲について、しばしばあいまいな態度を採っている。それゆえ、中国がフィリピンに「火遊びをするな」と警告したのも当然である。ある中国の専門家は、「米国が港湾や施設を強化する動きは、いずれも中国による台湾への武力行使に対する米国の介入を支援するために利用される可能性があり、中国政府にとっては直接的な脅威となる」と述べている。タイフォンの配備が極めて微妙な問題となっているのはまさにこの点である。
(5) 2024年初め、米国はフィリピンとのバカリタン共同演習に先立ち、タイフォンを初めて配備したが、演習では使用しなかった。フィリピン当局は、タイフォン配備の目的についてあいまいな態度を示しているが、南シナ海におけるフィリピンと中国の対立が深刻化する中、強硬な姿勢が増している。最高司令官が配備を恒久化する提案をし、別の国防省高官は中国に対して心理戦を仕掛けると自慢した。
(6) 2024年初め、中国の王毅外交部長はフィリピンがミサイルシステムを配備することは地域の安定を損なうと批判した。その主張を裏付けるために、中国は9月末に最新の米比軍合同演習が終了した直後に大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射試験を実施した。中国の圧倒的な軍事力から考えると、米国がタイフォンを1個隊配備しただけでは、この地域の軍事的均衡を劇的に変化させることはない。しかし、フィリピンには、より戦略的に重要な基地を開設し、あるいは将来的により洗練された米国の兵器システムを導入するという選択肢がある。これは極めて重要である。なぜなら、西太平洋全域にミサイル防衛システムを配備することは、アジアにおける大国間の紛争の行方を決定する上で極めて重要だからである。結局のところ、「空母キラー」と呼ばれるミサイルシステムを南の諸地域に配備していることを中国が米国の海軍介入に対する切り札としている。
(7) フィリピンは米国の戦略に巻き込まれないよう慎重になる必要がある。台湾海峡問題に対しても同様である。さもなければ、Marcos Jr政権は、望ましくないミサイル危機を招くという危険性を無意識のうちに引き起こすことになるだろう。フィリピンは自国の地理的条件と米国との同盟関係を活用して、自国の国益を守ることができる。たとえば、フィリピン政府は台湾紛争に備えた多数の米国製兵器システムの恒久的な駐留を拒否する代わりに、南シナ海における中国の譲歩を引き出す交渉を行うことができる。フィリピンが直面する究極の課題は、大国間の紛争の渦に巻き込まれることなく、自国の防衛能力を高めるあらゆる機会を最大限に活用することである。
記事参照:Typhon Missile: A Game Changer in Philippine-China-US Strategic Triangle?
10月19日「中国はなぜ、台湾侵攻よりも封鎖を好むのか―米専門家論説」(Asia Times, October 19, 2024)
10月9日付けの香港のデジタル紙Asia Times電子版は、米シンクタンクEast-West Center上席研究員Denny Royの“Why China will blockade, not invade, Taiwan”と題する論説を掲載し、Denny Royは中国が台湾再統一のために封鎖措置を取るのか、侵攻を試みるかについては、専門家の間で長い間意見が分かれているが、最近実施された聯合利剣2024Bは封鎖に関連する作戦を強調していたという事実は、中国が侵攻よりも封鎖を好むと結論付けたことを示している可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国が10月14日に実施した軍事演習「聯合利剣2024B」は、過去2年の間に台湾近海で行われた4回目の大規模演習であり、台湾の人々の意志に反して台湾を中華人民共和国に統一させるため、必要であれば武力を使用するという中国政府の誓約を再確認した。
(2) 中国政府は頼清徳就任後の5月に行われた前回の大規模演習を「聯合利剣2024A」と呼び、年末までにもう1度演習を行う計画があることを示唆している。つまり、人民解放軍の大規模演習は、もはや台湾や米国の法的台湾独立に向けた新たな動きに対する反応ではなく、むしろ中国政府が設定した計画表に従っているようである。
(3) 「聯合利剣2024B」に明るい兆しがあるとすれば、この演習は主に封鎖の事前訓練だったことかもしれない。中国海警総隊の参加が目立っており、中国の報道官やメディアによって大いに宣伝された。封鎖の筋書きでは、海警総隊は人民解放軍海軍と同じくらい重要な役割を担うことになるだろう。
(4) 中国政府系の環球時報は「これは海上法執行機関としての海警が台湾周辺での活動を強化し、頻度を増やすことを示している」と報じており、台湾統一を迫る中国の今後の取り組みにおいて海警がより大きな役割を果たすことを予感させる。
(5) 人民解放軍の報道官の1人は、今回の演習の目的は「台湾が東西両側から押さえ込まれる状況を作り出すこと」だと述べており、別の報道官は演習の筋書きには台湾の輸入を遮断し、東側からの米国の介入を防ぐための警戒線を設置することが含まれていると述べている。人民解放軍が封鎖の設定を実践していたことは重要である。なぜなら、これは地上軍を上陸させて物理的に台湾を征服し、台湾を奪取しようとする方法とは違って、軍事力を使って統一を強制する方法だからである。
(6) 中国が封鎖措置を取るのか、侵攻を試みるかについては、専門家の間で長い間意見が分かれている。中国政府が好む戦略は侵攻だと主張する者も多い。Brandon Weichertは2024年6月のナショナル・インタレスト誌に「西側諸国の観測者の多くは、中国が台湾に対して突然の攻撃を仕掛けてくるとみている。なぜなら、それは世界を驚かせることになるからだ」と述べている。確かに、中国の立場からすれば、侵攻よりも封鎖の方が良い戦略だと主張する人は大勢いる。「聯合利剣2024B」が最新の演習であり、封鎖に関連する作戦を強調していたという事実は、中国が台湾に対して軍事行動を取ると決めた場合、中国の軍事計画担当者は侵攻よりも封鎖を好むと結論付けたことを示している可能性がある。
(7) 中国政府にとって侵攻よりも封鎖の方が魅力的に見える理由はいくつかある。
a. 侵攻は、中国軍司令員による台湾の政府、インフラ、主要産業の支配を確保するという当面の目的が成功するか失敗するか、すべてか無かの賭けとなるだろう。
b. 封鎖は柔軟な戦略である。事前に宣言された制限区域に入ろうとする船舶への発砲から、特定の種類の船舶に対する「臨検」の要求、台湾の主要港湾付近の海域への定期的なミサイル発射まで、さまざまな方法が考えられる。
c. 中国は、台湾政府やその他の政府の反応次第で、いつでも封鎖を強化したり、中止したりすることできる。
d. 封鎖により、大規模な砲撃を伴う上陸作戦で必然的に生じる大量の死傷者や破壊を回避しつつ、台湾が中国政府の意向に従う可能性が生まれるだろう。フォームの終わり
e. 侵攻すれば、中国はおそらく直ちにアメリカの強力な軍隊と戦うことになるだろう。一方、封鎖は、中国の強みであるグレーゾーン戦術とアメリカの弱みである忍耐力とを対決させることになるだろう。
(8) 中国政府の立場からすると、台湾は封鎖に対して脆弱に見える。台湾の経済は国際貿易に大きく依存しており、エネルギーの98%を輸入している。政治的には分裂している。台湾の立法府で最多の議席を持つ中国国民党は、台湾は中国の一部であるという考え方を受け入れており、中国政府とのより良い関係の追求を支持している。中国政府は、偽情報、基幹設備に対するサイバー攻撃、台湾国内での潜伏工作員の活性化など、物理的な戦争以外の作戦を実施することで、封鎖の効果を高めることができるだろう。
(9) 封鎖は恐ろしい見通しである。台湾に悲惨をもたらし、米中戦争につながるかもしれない。しかし、侵攻の試みによって解き放たれる暴力と騒乱の規模は、はるかにひどいものとなるだろう。もし中国政府が静かに侵攻の可能性を排除する方向に動いたのであれば、台湾にとっての真の救済がまだ遠いとしても、これは重要かつ歓迎すべき一歩となるだろう。
記事参照:Why China will blockade, not invade, Taiwan
(1) 中国が10月14日に実施した軍事演習「聯合利剣2024B」は、過去2年の間に台湾近海で行われた4回目の大規模演習であり、台湾の人々の意志に反して台湾を中華人民共和国に統一させるため、必要であれば武力を使用するという中国政府の誓約を再確認した。
(2) 中国政府は頼清徳就任後の5月に行われた前回の大規模演習を「聯合利剣2024A」と呼び、年末までにもう1度演習を行う計画があることを示唆している。つまり、人民解放軍の大規模演習は、もはや台湾や米国の法的台湾独立に向けた新たな動きに対する反応ではなく、むしろ中国政府が設定した計画表に従っているようである。
(3) 「聯合利剣2024B」に明るい兆しがあるとすれば、この演習は主に封鎖の事前訓練だったことかもしれない。中国海警総隊の参加が目立っており、中国の報道官やメディアによって大いに宣伝された。封鎖の筋書きでは、海警総隊は人民解放軍海軍と同じくらい重要な役割を担うことになるだろう。
(4) 中国政府系の環球時報は「これは海上法執行機関としての海警が台湾周辺での活動を強化し、頻度を増やすことを示している」と報じており、台湾統一を迫る中国の今後の取り組みにおいて海警がより大きな役割を果たすことを予感させる。
(5) 人民解放軍の報道官の1人は、今回の演習の目的は「台湾が東西両側から押さえ込まれる状況を作り出すこと」だと述べており、別の報道官は演習の筋書きには台湾の輸入を遮断し、東側からの米国の介入を防ぐための警戒線を設置することが含まれていると述べている。人民解放軍が封鎖の設定を実践していたことは重要である。なぜなら、これは地上軍を上陸させて物理的に台湾を征服し、台湾を奪取しようとする方法とは違って、軍事力を使って統一を強制する方法だからである。
(6) 中国が封鎖措置を取るのか、侵攻を試みるかについては、専門家の間で長い間意見が分かれている。中国政府が好む戦略は侵攻だと主張する者も多い。Brandon Weichertは2024年6月のナショナル・インタレスト誌に「西側諸国の観測者の多くは、中国が台湾に対して突然の攻撃を仕掛けてくるとみている。なぜなら、それは世界を驚かせることになるからだ」と述べている。確かに、中国の立場からすれば、侵攻よりも封鎖の方が良い戦略だと主張する人は大勢いる。「聯合利剣2024B」が最新の演習であり、封鎖に関連する作戦を強調していたという事実は、中国が台湾に対して軍事行動を取ると決めた場合、中国の軍事計画担当者は侵攻よりも封鎖を好むと結論付けたことを示している可能性がある。
(7) 中国政府にとって侵攻よりも封鎖の方が魅力的に見える理由はいくつかある。
a. 侵攻は、中国軍司令員による台湾の政府、インフラ、主要産業の支配を確保するという当面の目的が成功するか失敗するか、すべてか無かの賭けとなるだろう。
b. 封鎖は柔軟な戦略である。事前に宣言された制限区域に入ろうとする船舶への発砲から、特定の種類の船舶に対する「臨検」の要求、台湾の主要港湾付近の海域への定期的なミサイル発射まで、さまざまな方法が考えられる。
c. 中国は、台湾政府やその他の政府の反応次第で、いつでも封鎖を強化したり、中止したりすることできる。
d. 封鎖により、大規模な砲撃を伴う上陸作戦で必然的に生じる大量の死傷者や破壊を回避しつつ、台湾が中国政府の意向に従う可能性が生まれるだろう。フォームの終わり
e. 侵攻すれば、中国はおそらく直ちにアメリカの強力な軍隊と戦うことになるだろう。一方、封鎖は、中国の強みであるグレーゾーン戦術とアメリカの弱みである忍耐力とを対決させることになるだろう。
(8) 中国政府の立場からすると、台湾は封鎖に対して脆弱に見える。台湾の経済は国際貿易に大きく依存しており、エネルギーの98%を輸入している。政治的には分裂している。台湾の立法府で最多の議席を持つ中国国民党は、台湾は中国の一部であるという考え方を受け入れており、中国政府とのより良い関係の追求を支持している。中国政府は、偽情報、基幹設備に対するサイバー攻撃、台湾国内での潜伏工作員の活性化など、物理的な戦争以外の作戦を実施することで、封鎖の効果を高めることができるだろう。
(9) 封鎖は恐ろしい見通しである。台湾に悲惨をもたらし、米中戦争につながるかもしれない。しかし、侵攻の試みによって解き放たれる暴力と騒乱の規模は、はるかにひどいものとなるだろう。もし中国政府が静かに侵攻の可能性を排除する方向に動いたのであれば、台湾にとっての真の救済がまだ遠いとしても、これは重要かつ歓迎すべき一歩となるだろう。
記事参照:Why China will blockade, not invade, Taiwan
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) US Policy Toward the Indo-Pacific through 2030: Continuity, Consequences, and Change
https://www.38north.org/2024/10/us-policy-toward-the-indo-pacific-through-2030-continuity-consequences-and-change/
38North, October 11, 2024
By Toby Dalton, senior fellow and co-director of the Nuclear Policy Program at the Carnegie Endowment for International Peace
Anna Bartoux, a research assistant in the Carnegie Nuclear Policy Program
2024年10月11日、米シンクタンクCarnegie Endowment for International Peaceの原子力政策プログラムの上席研究員Toby Daltonと研究助手Anna Bartouxは、米シンクタンクStimson Center の朝鮮半島問題専門ウエブサイト38Northに“US Policy Toward the Indo-Pacific through 2030: Continuity, Consequences, and Change ”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、米国のインド太平洋政策は2030年に向けて一貫した対中対立を続ける見通しだが、戦略的危険性も増大しているとした上で、歴代米政権は中国の軍事的脅威への対応や台湾防衛を重視し、インド太平洋地域での影響力均衡を図る政策を推進し、また、同盟強化や韓国との核不拡散に取り組みつつ、中国との経済的相互依存を縮小する方向に進んできたが、この政策により、台湾防衛を中心とした軍備増強による米中間の緊張増加、北朝鮮の核開発の加速、貿易分離による衝突の危険性の増加といった負の外部効果が生じていると指摘している。そして両名は、米国の次期政権はこれらの政策を維持するか、あるいは危険性軽減策を模索するかが課題となるが、南北間の平和的な核問題解決や中国との軍備競争の抑制などを優先すべきではあるものの、極端な政策変更は同盟国の核武装を誘発し、地域の軍事的危険性を高める可能性があると主張している。
(2) China Isn't Giving Up on the South China Sea
https://nationalinterest.org/blog/buzz/china-isnt-giving-south-china-sea-213228
The National Interest, October 16, 2024
By Dr. James Holmes, J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and a Faculty Fellow at the University of Georgia School of Public and International Affairs
2024年10月16日、U.S. Naval War College教授James Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“China Isn't Giving Up on the South China Sea”と題する論説を寄稿した。その中で、①Philip Tetlockの著書“Expert Political Judgment”を読んでいるが、Philip Tetlockは「正確で定量化可能な予見が可能であること」を否定する「急進的懐疑主義者」に異を唱えている。②人間の営みが織りなす政治の世界は複雑そのものであり、無数のあいまいな変数が予測不能な形で相互作用している。③『戦争論』の著者Carl von Clausewitzは、戦争行為を規則や公式に還元しようとする過去の試みを厳しく批判している。④推測が飛び交うが、それはそれとして、万華鏡のように、世界は時折はっきりとした像を結ぶことがある。⑤中国は本格的な海軍を構築することが可能であり、大陸国家は過去にもそれを成し遂げてきた例がある。⑥台湾問題が満足いく形で解決したとしても、中国の海洋力が世界に跨がるものとなる可能性は高い。⑦中国政府は決して、自らの「争う余地のない主権」を永続的に放棄する行動規範に同意しないだろう。⑧中国はすでにUNCLOSに同意しているが、もし中国が海洋法を無視するのであれば、共産党の指導部が拘束力のない行動規範によって目標が制限されると考えるだろうか。⑨習近平ら指導部は、派手な約束を繰り返し大声で発信することで、海洋権益に関して一歩たりとも妥協できない立場に自らを置いてしまった。⑩米政府では「中国政府が2027年に台湾に対して軍事行動を起こす」という見方が定着しているが、実際には、習近平が中国軍に2027年までに軍事的選択肢を提供するよう指示しただけである。⑪南シナ海での行動規範への同意が戦術的に有利だと判断すれば、彼らはそのような取り決めに同意するかもしれないが、それに安心するべきではない。⑫つまり、中国は便宜上、一時的にその領土的主張を抑えることはあっても、それを完全に放棄することは決してないといった主張を述べている。
(3) The Upside to Uncertainty on Taiwan: How to Avert Catastrophe at the World’s Most Dangerous Flash Point
https://www.foreignaffairs.com/reviews/upside-uncertainty-taiwan?utm
Foreign Affairs, November/December 2024, Published on October 16, 2024
By James B. Steinberg, Dean of Johns Hopkins University’s School of Advanced International Studies
2024年10月16日、米Johns Hopkins Universityの School of Advanced International Studiesの責任者James B. Steinbergは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“The Upside to Uncertainty on Taiwan: How to Avert Catastrophe at the World’s Most Dangerous Flash Point”と題する論説を寄稿した。その中でJames B. Steinbergは、台湾海峡の危機は、米国、中国、台湾間の長年の「曖昧性の戦略」によって緩和されてきたが、そのあいまいさが危険性も伴うことが指摘されており、米国は台湾防衛への明確な関与を避け、状況に応じて対処する方針を維持しているものの、この方針は台湾の民主主義を守りつつ中国との戦争を回避するために最も現実的とされる一方で、中国の軍事力拡大により、台湾問題における武力行使の可能性も高まっており、米中両国が互いの動きを抑止しようとする中で「安全保障のジレンマ」が顕在化していると指摘している。そしてJames B. Steinbergは、過去の米国の政策はあいまいさを維持することで安定を保ってきたが、緊張がさらに高まる中で、そのあいまいさを超えた明確な対応が求められる場合もあると述べ、台湾に対する軍事的保証が米国によって明示されれば、中国の攻撃意欲を抑えられる可能性もあるが、同時に、台湾が独立志向を強めることで中国を挑発する危険性も高まることになり、これにより米中間の衝突が引き起こされる可能性もあるため、米国は引き続きあいまいさを利用した外交的対応を重視しつつ、平和的な現状維持を模索することが重要だと主張している。
(4) The Falklands War of 1982: Lessons for a Potential 21st Century China-US Conflict Over Taiwan
https://thediplomat.com/2024/10/the-falklands-war-of-1982-lessons-for-a-potential-21st-century-china-us-conflict-over-taiwan/
The Diplomat, October 19, 2024
By Martin Mitchell is a professor of geography and a distinguished faculty scholar at Minnesota State University
2024年10月19日、米Minnesota State University のMartin Mitchell教授は、デジタル誌The Diplomat に“The Falklands War of 1982: Lessons for a Potential 21st Century China-US Conflict Over Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中でMartin Mitchellは、1982年のフォークランド戦争が台湾を巡る米中間の紛争の可能性における重要な教訓を提供しているとした上で、フォークランド戦争で英国は国民の自決権を守るため、アルゼンチンに対する武力介入を行い、成功を収めたが、同様に米国が台湾での中国の侵攻を阻止すれば、台湾の将来を自ら決定する権利が守られる可能性があると指摘し、台湾はフォークランドよりも戦略的価値が高く、米国の「第1列島線」の要として中国の太平洋進出を制約しているほか、台湾は世界の先端半導体の90%以上を供給するなど、経済的重要性も非常に高く、そして米国は地理的にも日本とオーストラリアと連携して、中国の攻勢を阻止する準備が可能であると述べている。そしてMartin Mitchell は、中国が台湾周辺の海域に排他的エリアを設定した場合、米国とその同盟国は強力な軍事力で対抗できる可能性があるが、米国の準備が不十分であれば、中国が戦略的優位を握る可能性があり、それが米国の覇権が揺らぐ「転換点」になる恐れもあると主張している。
(1) US Policy Toward the Indo-Pacific through 2030: Continuity, Consequences, and Change
https://www.38north.org/2024/10/us-policy-toward-the-indo-pacific-through-2030-continuity-consequences-and-change/
38North, October 11, 2024
By Toby Dalton, senior fellow and co-director of the Nuclear Policy Program at the Carnegie Endowment for International Peace
Anna Bartoux, a research assistant in the Carnegie Nuclear Policy Program
2024年10月11日、米シンクタンクCarnegie Endowment for International Peaceの原子力政策プログラムの上席研究員Toby Daltonと研究助手Anna Bartouxは、米シンクタンクStimson Center の朝鮮半島問題専門ウエブサイト38Northに“US Policy Toward the Indo-Pacific through 2030: Continuity, Consequences, and Change ”と題する論説を寄稿した。その中で両名は、米国のインド太平洋政策は2030年に向けて一貫した対中対立を続ける見通しだが、戦略的危険性も増大しているとした上で、歴代米政権は中国の軍事的脅威への対応や台湾防衛を重視し、インド太平洋地域での影響力均衡を図る政策を推進し、また、同盟強化や韓国との核不拡散に取り組みつつ、中国との経済的相互依存を縮小する方向に進んできたが、この政策により、台湾防衛を中心とした軍備増強による米中間の緊張増加、北朝鮮の核開発の加速、貿易分離による衝突の危険性の増加といった負の外部効果が生じていると指摘している。そして両名は、米国の次期政権はこれらの政策を維持するか、あるいは危険性軽減策を模索するかが課題となるが、南北間の平和的な核問題解決や中国との軍備競争の抑制などを優先すべきではあるものの、極端な政策変更は同盟国の核武装を誘発し、地域の軍事的危険性を高める可能性があると主張している。
(2) China Isn't Giving Up on the South China Sea
https://nationalinterest.org/blog/buzz/china-isnt-giving-south-china-sea-213228
The National Interest, October 16, 2024
By Dr. James Holmes, J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and a Faculty Fellow at the University of Georgia School of Public and International Affairs
2024年10月16日、U.S. Naval War College教授James Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“China Isn't Giving Up on the South China Sea”と題する論説を寄稿した。その中で、①Philip Tetlockの著書“Expert Political Judgment”を読んでいるが、Philip Tetlockは「正確で定量化可能な予見が可能であること」を否定する「急進的懐疑主義者」に異を唱えている。②人間の営みが織りなす政治の世界は複雑そのものであり、無数のあいまいな変数が予測不能な形で相互作用している。③『戦争論』の著者Carl von Clausewitzは、戦争行為を規則や公式に還元しようとする過去の試みを厳しく批判している。④推測が飛び交うが、それはそれとして、万華鏡のように、世界は時折はっきりとした像を結ぶことがある。⑤中国は本格的な海軍を構築することが可能であり、大陸国家は過去にもそれを成し遂げてきた例がある。⑥台湾問題が満足いく形で解決したとしても、中国の海洋力が世界に跨がるものとなる可能性は高い。⑦中国政府は決して、自らの「争う余地のない主権」を永続的に放棄する行動規範に同意しないだろう。⑧中国はすでにUNCLOSに同意しているが、もし中国が海洋法を無視するのであれば、共産党の指導部が拘束力のない行動規範によって目標が制限されると考えるだろうか。⑨習近平ら指導部は、派手な約束を繰り返し大声で発信することで、海洋権益に関して一歩たりとも妥協できない立場に自らを置いてしまった。⑩米政府では「中国政府が2027年に台湾に対して軍事行動を起こす」という見方が定着しているが、実際には、習近平が中国軍に2027年までに軍事的選択肢を提供するよう指示しただけである。⑪南シナ海での行動規範への同意が戦術的に有利だと判断すれば、彼らはそのような取り決めに同意するかもしれないが、それに安心するべきではない。⑫つまり、中国は便宜上、一時的にその領土的主張を抑えることはあっても、それを完全に放棄することは決してないといった主張を述べている。
(3) The Upside to Uncertainty on Taiwan: How to Avert Catastrophe at the World’s Most Dangerous Flash Point
https://www.foreignaffairs.com/reviews/upside-uncertainty-taiwan?utm
Foreign Affairs, November/December 2024, Published on October 16, 2024
By James B. Steinberg, Dean of Johns Hopkins University’s School of Advanced International Studies
2024年10月16日、米Johns Hopkins Universityの School of Advanced International Studiesの責任者James B. Steinbergは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“The Upside to Uncertainty on Taiwan: How to Avert Catastrophe at the World’s Most Dangerous Flash Point”と題する論説を寄稿した。その中でJames B. Steinbergは、台湾海峡の危機は、米国、中国、台湾間の長年の「曖昧性の戦略」によって緩和されてきたが、そのあいまいさが危険性も伴うことが指摘されており、米国は台湾防衛への明確な関与を避け、状況に応じて対処する方針を維持しているものの、この方針は台湾の民主主義を守りつつ中国との戦争を回避するために最も現実的とされる一方で、中国の軍事力拡大により、台湾問題における武力行使の可能性も高まっており、米中両国が互いの動きを抑止しようとする中で「安全保障のジレンマ」が顕在化していると指摘している。そしてJames B. Steinbergは、過去の米国の政策はあいまいさを維持することで安定を保ってきたが、緊張がさらに高まる中で、そのあいまいさを超えた明確な対応が求められる場合もあると述べ、台湾に対する軍事的保証が米国によって明示されれば、中国の攻撃意欲を抑えられる可能性もあるが、同時に、台湾が独立志向を強めることで中国を挑発する危険性も高まることになり、これにより米中間の衝突が引き起こされる可能性もあるため、米国は引き続きあいまいさを利用した外交的対応を重視しつつ、平和的な現状維持を模索することが重要だと主張している。
(4) The Falklands War of 1982: Lessons for a Potential 21st Century China-US Conflict Over Taiwan
https://thediplomat.com/2024/10/the-falklands-war-of-1982-lessons-for-a-potential-21st-century-china-us-conflict-over-taiwan/
The Diplomat, October 19, 2024
By Martin Mitchell is a professor of geography and a distinguished faculty scholar at Minnesota State University
2024年10月19日、米Minnesota State University のMartin Mitchell教授は、デジタル誌The Diplomat に“The Falklands War of 1982: Lessons for a Potential 21st Century China-US Conflict Over Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中でMartin Mitchellは、1982年のフォークランド戦争が台湾を巡る米中間の紛争の可能性における重要な教訓を提供しているとした上で、フォークランド戦争で英国は国民の自決権を守るため、アルゼンチンに対する武力介入を行い、成功を収めたが、同様に米国が台湾での中国の侵攻を阻止すれば、台湾の将来を自ら決定する権利が守られる可能性があると指摘し、台湾はフォークランドよりも戦略的価値が高く、米国の「第1列島線」の要として中国の太平洋進出を制約しているほか、台湾は世界の先端半導体の90%以上を供給するなど、経済的重要性も非常に高く、そして米国は地理的にも日本とオーストラリアと連携して、中国の攻勢を阻止する準備が可能であると述べている。そしてMartin Mitchell は、中国が台湾周辺の海域に排他的エリアを設定した場合、米国とその同盟国は強力な軍事力で対抗できる可能性があるが、米国の準備が不十分であれば、中国が戦略的優位を握る可能性があり、それが米国の覇権が揺らぐ「転換点」になる恐れもあると主張している。
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