海洋安全保障情報旬報 2024年10月21日-10月31日
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10月21日「南シナ海における中国への対抗措置の拡大―オーストラリア東アジア専門家論説」(The Strategist,October22, 2024)
10月21日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同Institute上席研究員Joe Kearyの“Military challenges to Beijing’s South China Sea claims are increasing”と題する論説を掲載し、そこでJoe Kearyは南シナ海における安全保障環境の悪化を背景に、地域諸国および欧米諸国の軍事行動が活発化していることについて触れ、その動向について、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海に関して、さまざまな国が権利を主張するが、中国の主張は最も広い範囲を包摂しており、論争の的になっている。2016年に中国の主張には根拠がないという裁定が下されたにもかかわらず、中国は主張し続けている。それに対抗するために、ヨーロッパおよびアジア太平洋諸国による艦船と航空機の展開が増えている。
(2) 2024年、ヨーロッパ諸国は南シナ海において、ここ数年のあいだで最も多くの軍事行動を実施した。日本やカナダ、オーストラリアなどもその関与を段階的に強めている。その取り組みは様々である。ただし、西沙諸島の近くで行動する国はほとんどない。そこでの活動は危険性が高いのである。2022年には、中国機がオーストラリアの偵察機にチャフ弾を発射するという事案が起きている。
(3) 米国は、中国が領有権を主張する地形の12海里以内に艦船を派遣するなど、南シナ海に直接接しない国の中で最も積極的に行動してきた。2023年には10回の作戦行動を実施している。こうした行動に際し、米国は常に強硬な声明を発してきている。フランスやカナダも、南沙諸島内部を含め、南シナ海で活発に行動し、さらにそれを広報している。カナダは南シナ海を航行する艦艇にジャーナリストを乗せたこともある。どちらも、西沙諸島の近くを航行する作戦も実施したことがある。
(4) オーストラリアも活発に行動している証拠があるが、それを公に広報していないので、その頻度や詳細をはっきりさせることは難しい。ニュージーランドも南シナ海に、軍隊の規模に見合った準恒常的な展開を維持している。日本も、米国やオーストラリア、フィリピンなどとの共同での行動を増やしている。南沙諸島近くで行動した可能性もあるが、それは公にされていない。
(5) 英国は2021年に空母打撃群を南シナ海に派遣している。2025年にも空母打撃群を南シナ海に派遣する予定である。英国は南沙諸島や西沙諸島近辺での行動を公にしている。ドイツ、オランダ、イタリアも2024年、南シナ海に艦艇を配備したが、それはヨーロッパの南シナ海に対する関心の高まりを反映している。しかし、中国の主張に公然と対抗しようという訳ではなさそうだ。
(6) 地域の国の中で、南シナ海での行動がほとんど見られないのが韓国である。2018年に駆逐艦が台風のため西沙諸島に避難した時、韓国政府は速やかに、中国の主張に異議を唱えるための行動ではないと声明を出している。東南アジア諸国も、南シナ海での行動に際し、中国の主張を否定するわけでない。
(7) 世界中の国々が南シナ海での軍事的展開を高めていることは、中国の攻撃的姿勢を押し返し、地域の規範を強化するのに貢献しているという意味で、歓迎すべきことである。
記事参照:Military challenges to Beijing’s South China Sea claims are increasing
(1) 南シナ海に関して、さまざまな国が権利を主張するが、中国の主張は最も広い範囲を包摂しており、論争の的になっている。2016年に中国の主張には根拠がないという裁定が下されたにもかかわらず、中国は主張し続けている。それに対抗するために、ヨーロッパおよびアジア太平洋諸国による艦船と航空機の展開が増えている。
(2) 2024年、ヨーロッパ諸国は南シナ海において、ここ数年のあいだで最も多くの軍事行動を実施した。日本やカナダ、オーストラリアなどもその関与を段階的に強めている。その取り組みは様々である。ただし、西沙諸島の近くで行動する国はほとんどない。そこでの活動は危険性が高いのである。2022年には、中国機がオーストラリアの偵察機にチャフ弾を発射するという事案が起きている。
(3) 米国は、中国が領有権を主張する地形の12海里以内に艦船を派遣するなど、南シナ海に直接接しない国の中で最も積極的に行動してきた。2023年には10回の作戦行動を実施している。こうした行動に際し、米国は常に強硬な声明を発してきている。フランスやカナダも、南沙諸島内部を含め、南シナ海で活発に行動し、さらにそれを広報している。カナダは南シナ海を航行する艦艇にジャーナリストを乗せたこともある。どちらも、西沙諸島の近くを航行する作戦も実施したことがある。
(4) オーストラリアも活発に行動している証拠があるが、それを公に広報していないので、その頻度や詳細をはっきりさせることは難しい。ニュージーランドも南シナ海に、軍隊の規模に見合った準恒常的な展開を維持している。日本も、米国やオーストラリア、フィリピンなどとの共同での行動を増やしている。南沙諸島近くで行動した可能性もあるが、それは公にされていない。
(5) 英国は2021年に空母打撃群を南シナ海に派遣している。2025年にも空母打撃群を南シナ海に派遣する予定である。英国は南沙諸島や西沙諸島近辺での行動を公にしている。ドイツ、オランダ、イタリアも2024年、南シナ海に艦艇を配備したが、それはヨーロッパの南シナ海に対する関心の高まりを反映している。しかし、中国の主張に公然と対抗しようという訳ではなさそうだ。
(6) 地域の国の中で、南シナ海での行動がほとんど見られないのが韓国である。2018年に駆逐艦が台風のため西沙諸島に避難した時、韓国政府は速やかに、中国の主張に異議を唱えるための行動ではないと声明を出している。東南アジア諸国も、南シナ海での行動に際し、中国の主張を否定するわけでない。
(7) 世界中の国々が南シナ海での軍事的展開を高めていることは、中国の攻撃的姿勢を押し返し、地域の規範を強化するのに貢献しているという意味で、歓迎すべきことである。
記事参照:Military challenges to Beijing’s South China Sea claims are increasing
10月23日「日米関係の刷新はインド太平洋にどのような影響をもたらすか―日本国際関係論専門家論説」(East Asia Forum, October 23, 2024)
10月23日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は、東京大学社会科学研究所准教授Sebastian Maslowの“What the upgraded US–Japan alliance means for Indo-Pacific security”と題する論説を掲載し、2024年7月末に開催された日米2+2で合意に至った、在日米軍再編がインド太平洋の安全保障環境にとって持つ意義について、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年7月28日、日米外務・防衛閣僚級会合、いわゆる2+2が実施され、新たな防衛協力構想と日本における軍事的展開の更新が発表された。最も重要なのは、U.S. Forces Japan(以下、在日米軍と言う)を統合司令部(joint force headquarters:以下、JFHQと言う)へと格上げする構想である。これは、インド太平洋における安全保障環境の大幅な変容に対応するものである。また、日米同盟は、米国のインド太平洋安全保障網の中心として機能してきたが、今般の決定は国際安全保障において日本がさらに積極的な役割を果たすのを後押しするものであろう。
(2) この再編成により、約5.5万人の在日米軍の指揮権は、U.S. Indo-Pacific Commandから日本に新編されるJFHQに移転される。JFHQは、日米安全保障条約に基づく安全保障活動の調整について主要な責任を負うことになる。JFHQの司令官は中将であろうが、大将を派遣する可能性があることをU.S. Department of Defenseは示唆している。また、新JFHQは、2025年3月に新編予定の自衛隊の統合作戦司令部と協調することになるだろう。
(3) こうした構想は、日米関係が「世界規模の安全保障パートナーシップ」と定義された4月の日米首脳会談で示唆されていた。米国政府は最近、日本が安全保障に対して積極的なことを評価している。岸田政権はNATOとの密接な紐帯の構築を誓約し、防衛費をGDP比2%にまで増額させ、反撃能力の配備を決定した。また最近、ライセンス生産された兵器の輸出制限を緩和し、三菱重工が製造したパトリオットPAC-3ミサイルシステムを米国に輸出した。7月の会合では米国によるさらなる輸入が決定している。2024年初めには日米防衛産業の協力・取得・維持整備定期協議の開始が打ち出され、先端対空ミサイルの共同生産が進められることになっている。
(4) 日米は拡大抑止のさらなる強化を進めている。核の傘に関する議論の継続は、北朝鮮、中国、ロシアによる脅威への対抗措置である。また、第2次安倍内閣の下で日本はアジアに軸足を独自に移転し、東南アジア諸国との防衛協力を進めている。日米同盟の刷新により、日本はいまやQUADや日米韓協力など少数国間の協力枠組みの中心に位置付けられるようになっている。
(5) こうした動きの結果、日本は北朝鮮や台湾に関する有事の最前線に立たされる。それゆえ、巻き込まれることへのおそれや米国からの自立を求める要求も強まることになる。新JFHQと日本の統合作戦司令部が、U.S. Forces Koreaのような、完全に統合された軍司令部に移行する可能性は低い。
(6) 米国の大統領が代わり、日本も石破新首相が日米関係を対等にすることを求めている。同盟の指揮統制機能のさらなる統合は、日米の将来の指導者が、防衛協力のために必要な資源を配分する気がどれほどあるかにかかっている。Trumpが2度目の大統領に就任した場合、インド太平洋における米国の伝統的な同盟関係は解体されるかもしれない。
記事参照:What the upgraded US–Japan alliance means for Indo-Pacific security
(1) 2024年7月28日、日米外務・防衛閣僚級会合、いわゆる2+2が実施され、新たな防衛協力構想と日本における軍事的展開の更新が発表された。最も重要なのは、U.S. Forces Japan(以下、在日米軍と言う)を統合司令部(joint force headquarters:以下、JFHQと言う)へと格上げする構想である。これは、インド太平洋における安全保障環境の大幅な変容に対応するものである。また、日米同盟は、米国のインド太平洋安全保障網の中心として機能してきたが、今般の決定は国際安全保障において日本がさらに積極的な役割を果たすのを後押しするものであろう。
(2) この再編成により、約5.5万人の在日米軍の指揮権は、U.S. Indo-Pacific Commandから日本に新編されるJFHQに移転される。JFHQは、日米安全保障条約に基づく安全保障活動の調整について主要な責任を負うことになる。JFHQの司令官は中将であろうが、大将を派遣する可能性があることをU.S. Department of Defenseは示唆している。また、新JFHQは、2025年3月に新編予定の自衛隊の統合作戦司令部と協調することになるだろう。
(3) こうした構想は、日米関係が「世界規模の安全保障パートナーシップ」と定義された4月の日米首脳会談で示唆されていた。米国政府は最近、日本が安全保障に対して積極的なことを評価している。岸田政権はNATOとの密接な紐帯の構築を誓約し、防衛費をGDP比2%にまで増額させ、反撃能力の配備を決定した。また最近、ライセンス生産された兵器の輸出制限を緩和し、三菱重工が製造したパトリオットPAC-3ミサイルシステムを米国に輸出した。7月の会合では米国によるさらなる輸入が決定している。2024年初めには日米防衛産業の協力・取得・維持整備定期協議の開始が打ち出され、先端対空ミサイルの共同生産が進められることになっている。
(4) 日米は拡大抑止のさらなる強化を進めている。核の傘に関する議論の継続は、北朝鮮、中国、ロシアによる脅威への対抗措置である。また、第2次安倍内閣の下で日本はアジアに軸足を独自に移転し、東南アジア諸国との防衛協力を進めている。日米同盟の刷新により、日本はいまやQUADや日米韓協力など少数国間の協力枠組みの中心に位置付けられるようになっている。
(5) こうした動きの結果、日本は北朝鮮や台湾に関する有事の最前線に立たされる。それゆえ、巻き込まれることへのおそれや米国からの自立を求める要求も強まることになる。新JFHQと日本の統合作戦司令部が、U.S. Forces Koreaのような、完全に統合された軍司令部に移行する可能性は低い。
(6) 米国の大統領が代わり、日本も石破新首相が日米関係を対等にすることを求めている。同盟の指揮統制機能のさらなる統合は、日米の将来の指導者が、防衛協力のために必要な資源を配分する気がどれほどあるかにかかっている。Trumpが2度目の大統領に就任した場合、インド太平洋における米国の伝統的な同盟関係は解体されるかもしれない。
記事参照:What the upgraded US–Japan alliance means for Indo-Pacific security
10月25日「インド太平洋地域における戦略的拒否を現代中国との対立に関連して再考する―オーストラリア研修員論説」(The Diplomat, October 25, 2024)
10月25日付のデジタル誌The Diplomatは、Australian Strategic Policy Institute研修員Jonah Bockの“Reimagining Strategic Denial in the Indo-Pacific for Contemporary Competition With China”と題する論説を掲載し、ここでJonah Bockは戦略的拒否が米国の政策立案者の中で現代中国との対立に関連して頻繁に検討されるようになっているが、戦略的拒否を単なる自由連合国の軍事利用の防止からこの地域における中国の悪意ある影響力を防ぐ責任というような包括的概念に進化させなければならないとして要旨以下のように述べている。
(1) パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦(FSM)の自由連合国(以下、FASと言う)は、インド太平洋地域における米国の国家安全保障にとって極めて重要である。寛大な財政援助と引き換えに、米国はFASに対する広範で排他的な防衛の権利と責任を与えられている。それについて戦略的拒否(strategic denial)が米国の政策立案者の頭の中で最も頻繁に検討されているが、その用語の変化する解釈により中国との戦略的対立に対処するには不十分な状態となっている。中国が提起する多面的な課題に照らして自由連合協約加盟国への軍事的進出の防止として想定される伝統的な戦略的拒否の概念はもはや十分ではない。米国は、太平洋諸島における戦略的拒否の起源を再検討し、現代の地政学的競争のためにそれを再構築する必要がある。戦略的拒否は、単なるFASの軍事利用の防止からミクロネシアにおける悪意ある影響力の存在構築を防ぐ責任という包括的概念に進化しなければならない。
(2) 太平洋戦争初頭、日本は「突然、故意に」太平洋を渡って米国を攻撃した。真珠湾攻撃が空母の航空戦力で行われたのに対し、日本のウェーク島攻略部隊はマーシャル諸島から進発しており、フィリピン攻略部隊の一部はパラオから出撃している*。日本本土に到達するため、また太平洋の島々が米本土の攻撃に利用されないため、米軍は野心的で困難な「飛び石作戦」を行った。日本が敗北したことで、米国は2度とこのような犠牲を払う必要がないようにする方法を模索した。太平洋を通じてその安全保障と回廊の利用を保護することは、費用のかかる事業である。攻撃的な境界線を構築するための高い経費を考慮して、米国は異なる取り組み、つまり戦略的拒否のドクトリンを開発した。米国は、他の国がこの地域に軍事基地を設立する能力を否定し、最小限の経費で太平洋の支配を維持することを可能にした。しかし、時が経つにつれて、FASにおける戦略的拒否の解釈は変化してきた。今日の多くの報道では、戦略的拒否とは、他国の軍隊がFAS、特にFASの海空域へ進出することを拒否する権利であると説明されている。その空域は米国本土とほぼ同じ大きさであると認識されることが多い。海域については、UNCLOSの下では米国が他国のFAS領海の通過を阻止できる大きさはかなり小さい。
(3) 戦略的拒否は単なる概念ではなく、FASを第三国の軍隊に対し閉鎖する自由連合盟約(以下、COFAと言う)に列挙されている権利の1つである。戦略的拒否の概念を再活性化することは、権利の行き過ぎではない。自由で開かれたインド太平洋を維持しFASに対する安全保障上の責任を果たすために、米国は戦略的拒否の起源を再検討し、大国間対立の現代に再び適合させる必要がある。真珠湾攻撃以前のミクロネシアにおける日本の存在は、太平洋における現代の中国の影響とは根本的に異なっている。中国は、政治的影響力を構築している。合法的な戦術と違法な戦術を組み合わせた取り組みを用いて、FAS各国を自国の勢力圏に引き込んでいる。当面の間、米国は中国がFASに軍用飛行場を建設することを心配する必要はないが、警戒を緩めてはいけない。中国の影響力は、特にFASにおいて米国の安全保障を損なう可能性があり、実際にすでに損なっている。この地域における中国の存在は、U.S. Armed Forcesの拠点を潜在的なスパイ活動にさらしている。中国による監視や秘密活動は、米国の安全保障に等しく損害を与える可能性がある。FASにおける戦略的拒否の復活は、提携を通じてCOFA諸国にも利益をもたらすことを意味する。FASにおける中国の影響力と存在感は主に悪意あるものであった。当時のミクロネシア連邦大統領David Panueloは大統領任期の終わり頃に下院議長に宛てた書簡の中で、ミクロネシアにおける中国の影響力について警告している。David Panuelo大統領は、中国がミクロネシア連邦で影響力を築き、米国を阻止するために議員への賄賂、非代表代理人による協定への署名、David Panuelo大統領の安全を直接脅かす行為といった違法行為について強調している。戦略的拒否の責任を拡大することは、FASのEEZにも影響を及ぼすので、米国とFASにとって相互に有益である。FASのEEZにおける中国の違法・無規制・無報告漁業(以下、IUU漁業と言う)は、経済、安全保障、環境上の問題を提起している。中国漁船による乱獲は、地域住民の生活基盤を提供する海洋資源の持続可能性を脅かしている。また、積極的な海上法執行活動は、中国の調査船がFASのEEZ内で悪質な活動を行うのを阻止することにもなる。
(4) 戦略的拒否の新たな概念は、あらゆる形態の中国の悪意ある影響を阻止することを検討する必要がある。戦略的拒否には、汚職との闘いも含まれるべきである。犯罪行為の阻止し、ビザなし旅行の抜け穴を塞ぐべきである。軍民両用の組織への投資を防止するべきである。IUU漁業に対抗するべきである。質の良い統治を促進し、法執行機関に援助を提供し、メディアの自由を確保するべきである。戦略的拒否は、敵がFASを使用し、米国に軍事的脅威をもたらすことを防ぐことであったが、今日では、敵が米国の利益にもたらす脅威は、はるかに多面的になっている。自由で開かれたインド太平洋を守るために、戦略的拒否はより包括的な概念にならなければならない。
記事参照:Reimagining Strategic Denial in the Indo-Pacific for Contemporary Competition With China
*:Jonah Bock は大東亜戦争初頭の日本の攻撃について“Japan’s attacks on Wake Island and the Philippines were launched from the Marshall Islands and Palau, respectively.”と述べているが、不正確な記述であり、誤解を招きかねない。比島攻略を担任した第14軍の主隊は台湾に進出し、台湾から進発しており、ダバオ攻略を担任する三浦支隊およびレガズビー攻略を担任する木村支隊はパラオに進出し、両支隊はそれぞれの攻略目標に向けパラオを進発している。これに伴い、両支隊を輸送する船団を護衛する海軍部隊もパラオから出港しており、主力部隊は台湾を出港している。また、開戦劈頭に航空撃滅戦を実施した陸軍第5飛行集団、海軍第11航空艦隊の各部隊は台湾の飛行場から出撃している。このため、当該部分は「日本のウェーク島攻略部隊はマーシャル諸島から進発しており、フィリピン攻略部隊の一部はパラオから出撃している」とした。
(1) パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦(FSM)の自由連合国(以下、FASと言う)は、インド太平洋地域における米国の国家安全保障にとって極めて重要である。寛大な財政援助と引き換えに、米国はFASに対する広範で排他的な防衛の権利と責任を与えられている。それについて戦略的拒否(strategic denial)が米国の政策立案者の頭の中で最も頻繁に検討されているが、その用語の変化する解釈により中国との戦略的対立に対処するには不十分な状態となっている。中国が提起する多面的な課題に照らして自由連合協約加盟国への軍事的進出の防止として想定される伝統的な戦略的拒否の概念はもはや十分ではない。米国は、太平洋諸島における戦略的拒否の起源を再検討し、現代の地政学的競争のためにそれを再構築する必要がある。戦略的拒否は、単なるFASの軍事利用の防止からミクロネシアにおける悪意ある影響力の存在構築を防ぐ責任という包括的概念に進化しなければならない。
(2) 太平洋戦争初頭、日本は「突然、故意に」太平洋を渡って米国を攻撃した。真珠湾攻撃が空母の航空戦力で行われたのに対し、日本のウェーク島攻略部隊はマーシャル諸島から進発しており、フィリピン攻略部隊の一部はパラオから出撃している*。日本本土に到達するため、また太平洋の島々が米本土の攻撃に利用されないため、米軍は野心的で困難な「飛び石作戦」を行った。日本が敗北したことで、米国は2度とこのような犠牲を払う必要がないようにする方法を模索した。太平洋を通じてその安全保障と回廊の利用を保護することは、費用のかかる事業である。攻撃的な境界線を構築するための高い経費を考慮して、米国は異なる取り組み、つまり戦略的拒否のドクトリンを開発した。米国は、他の国がこの地域に軍事基地を設立する能力を否定し、最小限の経費で太平洋の支配を維持することを可能にした。しかし、時が経つにつれて、FASにおける戦略的拒否の解釈は変化してきた。今日の多くの報道では、戦略的拒否とは、他国の軍隊がFAS、特にFASの海空域へ進出することを拒否する権利であると説明されている。その空域は米国本土とほぼ同じ大きさであると認識されることが多い。海域については、UNCLOSの下では米国が他国のFAS領海の通過を阻止できる大きさはかなり小さい。
(3) 戦略的拒否は単なる概念ではなく、FASを第三国の軍隊に対し閉鎖する自由連合盟約(以下、COFAと言う)に列挙されている権利の1つである。戦略的拒否の概念を再活性化することは、権利の行き過ぎではない。自由で開かれたインド太平洋を維持しFASに対する安全保障上の責任を果たすために、米国は戦略的拒否の起源を再検討し、大国間対立の現代に再び適合させる必要がある。真珠湾攻撃以前のミクロネシアにおける日本の存在は、太平洋における現代の中国の影響とは根本的に異なっている。中国は、政治的影響力を構築している。合法的な戦術と違法な戦術を組み合わせた取り組みを用いて、FAS各国を自国の勢力圏に引き込んでいる。当面の間、米国は中国がFASに軍用飛行場を建設することを心配する必要はないが、警戒を緩めてはいけない。中国の影響力は、特にFASにおいて米国の安全保障を損なう可能性があり、実際にすでに損なっている。この地域における中国の存在は、U.S. Armed Forcesの拠点を潜在的なスパイ活動にさらしている。中国による監視や秘密活動は、米国の安全保障に等しく損害を与える可能性がある。FASにおける戦略的拒否の復活は、提携を通じてCOFA諸国にも利益をもたらすことを意味する。FASにおける中国の影響力と存在感は主に悪意あるものであった。当時のミクロネシア連邦大統領David Panueloは大統領任期の終わり頃に下院議長に宛てた書簡の中で、ミクロネシアにおける中国の影響力について警告している。David Panuelo大統領は、中国がミクロネシア連邦で影響力を築き、米国を阻止するために議員への賄賂、非代表代理人による協定への署名、David Panuelo大統領の安全を直接脅かす行為といった違法行為について強調している。戦略的拒否の責任を拡大することは、FASのEEZにも影響を及ぼすので、米国とFASにとって相互に有益である。FASのEEZにおける中国の違法・無規制・無報告漁業(以下、IUU漁業と言う)は、経済、安全保障、環境上の問題を提起している。中国漁船による乱獲は、地域住民の生活基盤を提供する海洋資源の持続可能性を脅かしている。また、積極的な海上法執行活動は、中国の調査船がFASのEEZ内で悪質な活動を行うのを阻止することにもなる。
(4) 戦略的拒否の新たな概念は、あらゆる形態の中国の悪意ある影響を阻止することを検討する必要がある。戦略的拒否には、汚職との闘いも含まれるべきである。犯罪行為の阻止し、ビザなし旅行の抜け穴を塞ぐべきである。軍民両用の組織への投資を防止するべきである。IUU漁業に対抗するべきである。質の良い統治を促進し、法執行機関に援助を提供し、メディアの自由を確保するべきである。戦略的拒否は、敵がFASを使用し、米国に軍事的脅威をもたらすことを防ぐことであったが、今日では、敵が米国の利益にもたらす脅威は、はるかに多面的になっている。自由で開かれたインド太平洋を守るために、戦略的拒否はより包括的な概念にならなければならない。
記事参照:Reimagining Strategic Denial in the Indo-Pacific for Contemporary Competition With China
*:Jonah Bock は大東亜戦争初頭の日本の攻撃について“Japan’s attacks on Wake Island and the Philippines were launched from the Marshall Islands and Palau, respectively.”と述べているが、不正確な記述であり、誤解を招きかねない。比島攻略を担任した第14軍の主隊は台湾に進出し、台湾から進発しており、ダバオ攻略を担任する三浦支隊およびレガズビー攻略を担任する木村支隊はパラオに進出し、両支隊はそれぞれの攻略目標に向けパラオを進発している。これに伴い、両支隊を輸送する船団を護衛する海軍部隊もパラオから出港しており、主力部隊は台湾を出港している。また、開戦劈頭に航空撃滅戦を実施した陸軍第5飛行集団、海軍第11航空艦隊の各部隊は台湾の飛行場から出撃している。このため、当該部分は「日本のウェーク島攻略部隊はマーシャル諸島から進発しており、フィリピン攻略部隊の一部はパラオから出撃している」とした。
10月26日「インド海軍がインド太平洋での海軍外交を活発化―インド専門家論説」(The Diplomat, October 26, 2024)
10月26日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのSt. Thomas College助教Biyon Sony Josephの“How the Indian Navy Is Expanding Its Presence in the Indo-Pacific Through ‘Goodwill Visits’ ”と題する論説を掲載し、Biyon Sony Josephは近年、Bhāratiya Nau Sena(インド海軍)が行っているインド太平洋地域での活発な海軍外交について、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年5月、Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)東方艦隊はシンガポール、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイへの一連の「親善訪問」を完了した。これは、“Operational Deployment to the South China Sea”の一環として行われたものであり、インド海軍はこれらの東南アジア諸国を訪問することで、拡大しつつある海洋における提携網を深化させる意図と取り組みを示している。このような訪問は、ここ数年継続的に行われている。
(2) インド海軍によれば、「海軍外交とは、一方では『友好の架け橋』を築き、国際協力を強化するため、他方では潜在的な敵対者を抑止するための能力と意思を示すという外交目的を支援するための海軍力の使用を意味する」。軍事的、警察的、友好的な役割以外にも、インド政府は海軍を、海洋空間の内外において、国家利益を推進し、外交政策の目標を達成するための重要な外交手段として活用している。特に「政治的関係と親善を強化すること」が、この外交的役割における主要な目的となっている。この観点から、海外展開や寄港はインド海軍が実施する主要な任務である。
(3) これらの訪問は主に儀礼的であり、平時の活動の一環であるが、海洋協力を強化し、同盟国や潜在的な敵対国に戦略的な意図を伝える上で重要な役割を果たしている。学者であるBarry Blechmanは、「地域にただ海軍が存在することが、その構成、任務、活動にかかわらず、また同様の目的に向けた外交活動がない場合でも、政治的機能を果たす。そのため、特定の地域に平時から海軍力の存在を確立している国家は、その地域の問題に影響力を持つようになる」と述べている。
(4) インド政府は独立以来、海軍艦艇を世界各国に親善訪問させてきたが、近年は主にインド太平洋地域の港に重点を移している。特にそれらの展開の時機は重要である。中国とフィリピンの間で緊張が高まる中での南シナ海におけるインド海軍の長期的な作戦展開や、中国との海洋紛争を抱える国々への寄港は決して偶然ではない。
(5) 2020年の国境での衝突以降、印中関係が悪化する中、インドはインド太平洋における中国の攻勢に対抗する勢力としての立場を強化している。インド政府は南シナ海への海軍展開をためらうことなく実施し、政策の転換を示した。2021年には、インド海軍がオーストラリア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムとこの地域での演習を実施しており、2023年までに南シナ海でASEAN加盟国の7つの海軍との共同演習に参加し、その後フィリピンとともに、中国に対し領有権主張に関する国際法の尊重を求める共同声明を発表している。最近の展開は、この戦略的転換が継続していることを反映している。
(6) 同様に、南太平洋もインド政府と中国政府の間にある新たな戦略的対立の舞台となっている。中国は太平洋島嶼国への影響力を大幅に拡大し、この地域で重要な安全保障および経済的行為者として台頭している。一方、インドはこれまでこれらの国々に対して主に開発における提携者としての役割を果たしてきたが、現在では関与を強化することを目指している。
記事参照:How the Indian Navy Is Expanding Its Presence in the Indo-Pacific Through ‘Goodwill Visits’
(1) 2024年5月、Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)東方艦隊はシンガポール、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイへの一連の「親善訪問」を完了した。これは、“Operational Deployment to the South China Sea”の一環として行われたものであり、インド海軍はこれらの東南アジア諸国を訪問することで、拡大しつつある海洋における提携網を深化させる意図と取り組みを示している。このような訪問は、ここ数年継続的に行われている。
(2) インド海軍によれば、「海軍外交とは、一方では『友好の架け橋』を築き、国際協力を強化するため、他方では潜在的な敵対者を抑止するための能力と意思を示すという外交目的を支援するための海軍力の使用を意味する」。軍事的、警察的、友好的な役割以外にも、インド政府は海軍を、海洋空間の内外において、国家利益を推進し、外交政策の目標を達成するための重要な外交手段として活用している。特に「政治的関係と親善を強化すること」が、この外交的役割における主要な目的となっている。この観点から、海外展開や寄港はインド海軍が実施する主要な任務である。
(3) これらの訪問は主に儀礼的であり、平時の活動の一環であるが、海洋協力を強化し、同盟国や潜在的な敵対国に戦略的な意図を伝える上で重要な役割を果たしている。学者であるBarry Blechmanは、「地域にただ海軍が存在することが、その構成、任務、活動にかかわらず、また同様の目的に向けた外交活動がない場合でも、政治的機能を果たす。そのため、特定の地域に平時から海軍力の存在を確立している国家は、その地域の問題に影響力を持つようになる」と述べている。
(4) インド政府は独立以来、海軍艦艇を世界各国に親善訪問させてきたが、近年は主にインド太平洋地域の港に重点を移している。特にそれらの展開の時機は重要である。中国とフィリピンの間で緊張が高まる中での南シナ海におけるインド海軍の長期的な作戦展開や、中国との海洋紛争を抱える国々への寄港は決して偶然ではない。
(5) 2020年の国境での衝突以降、印中関係が悪化する中、インドはインド太平洋における中国の攻勢に対抗する勢力としての立場を強化している。インド政府は南シナ海への海軍展開をためらうことなく実施し、政策の転換を示した。2021年には、インド海軍がオーストラリア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムとこの地域での演習を実施しており、2023年までに南シナ海でASEAN加盟国の7つの海軍との共同演習に参加し、その後フィリピンとともに、中国に対し領有権主張に関する国際法の尊重を求める共同声明を発表している。最近の展開は、この戦略的転換が継続していることを反映している。
(6) 同様に、南太平洋もインド政府と中国政府の間にある新たな戦略的対立の舞台となっている。中国は太平洋島嶼国への影響力を大幅に拡大し、この地域で重要な安全保障および経済的行為者として台頭している。一方、インドはこれまでこれらの国々に対して主に開発における提携者としての役割を果たしてきたが、現在では関与を強化することを目指している。
記事参照:How the Indian Navy Is Expanding Its Presence in the Indo-Pacific Through ‘Goodwill Visits’
10月28日「ウクライナの無人機による黒海戦略―米専門家論説」(Situation Report, Geopolitical Monitor, October 28, 2024)
10月28日付のカナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトは、米国の経済学者で中国アナリストAntonio Graceffoの“Twilight of Naval Power? Ukraine’s Drone-Powered Black Sea Strategy”と題する論説を掲載し、ここでAntonio Graceffo は米国やその他の先進国にとっては、大規模で高価な従来の艦隊で砲火を交えることが海軍戦の標準ではなくなる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年のロシアによる侵攻以来、ウクライナは2014年にロシアに併合されたクリミア周辺のロシア資産を標的にしてきた。クリミアはウクライナが奪還を誓った地域である。ウクライナに大規模な海軍はないが、長距離ミサイル、空中ドローン、水上ドローンを効果的に配備し、戦略的に重要なロシアの施設、たとえば空軍基地、物流拠点、石油ターミナル、Черноморский флот(以下、黒海艦隊と言う)施設、そして特にセワストーポリの軍事基地を攻撃している。これらの攻撃により、モスクワは一部の資産をさらに東のノヴォロシースクに移転せざるを得なかった。その結果、黒海艦隊は無防備な状態となり、ウクライナによる攻撃機会はさらに増えている。多数の報道が、紛争開始以来、人口3,500万人に減少したウクライナが、世界第2位の軍事大国を相手に3年近く持ちこたえていることを強調している。この戦争は、大国にとって貴重な教訓となっており、圧倒的な戦力差にもかかわらず、小国がどのようにして耐え抜くことができるかを示している。
(2) この戦争でしばしば見落とされるのは、黒海の海軍戦力である。外国からの支援に軍艦が含まれていないことを考えると、この分野におけるウクライナの回復力は注目に値する。最新鋭の戦闘艦に投資する代わりに、ウクライナはВоенно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)の活動を妨害する費用対効果の高い方法を見出した。それはドローンやミサイル、小型の哨戒艇の活用で、効果的・効率的な代替策であることが証明され、革新的戦略が伝統的な海軍力の不足を相殺できることを示した。
(3) Військово-Морські Сили Збройних Сил України(ウクライナ海軍)の成功の顕著な例として、2022年4月にネプチューン対艦ミサイル2発によってロシア巡洋艦「モスクワ」を撃沈したことが挙げられる。「モスクワ」は対空戦用に設計され、そのような攻撃に対抗できると期待されていたが、乗組員の経験不足と防御システムの保守整備の問題により迎撃に失敗し、被弾した。この事件は、現代の海軍戦において、艦の準備態勢と乗組員の訓練が、高度な技術と同様に重要であることを浮き彫りにしている。
(4) 官民提携により、人的資源を活用し、研究費を節約しながら、Збройні сили України(ウクライナ軍)の防衛能力は強化された。たとえば、わずか10万ドルで海上無人機を設計・製造している。そして、最も劇的で成功した作戦の1つは、2023年7月17日にウクライナの複数の無人機がロシアとクリミアを結ぶ橋に深刻なダメージを与え、ロシアの補給路を遮断したことである。ウクライナはその後、従来のものよりもはるかに大きな爆発物を搭載できる新型の無人機を投入し、ロシアの主要な軍艦が配備され、重要な石油輸出拠点であるノヴォロシースク港を標的とした。そして、ロシアの大型揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャーク」を大破した。
(5) 攻撃任務において、無人機は集団で飛行し、さまざまな構成単位が専門の役割を担う。敵の無人機を妨害する電波妨害装置を備えた無人機もあれば、ロケットを発射したり、機雷を敷設したりできる無人機もある。これら強力な無人機は、空母の側面に穴を開けることも可能である。沈没させるには5、6発命中させる必要があるが、これも十分に実現可能な範囲内にある。
(6) ウクライナが黒海におけるロシア海軍を効果的に制御したことは、潜在的な台湾紛争における中国封じ込めをめざす米国とその同盟国にとって貴重な教訓となる。米国やその他の先進国にとっては、大規模で高価な通常艦隊が砲火を交えることが、もはや今後の海軍戦の標準ではなくなる可能性があることが示唆されており、黒海での紛争は従来の戦略を再考する必要性を強調している。
記事参照:Twilight of Naval Power? Ukraine’s Drone-Powered Black Sea Strategy
(1) 2022年のロシアによる侵攻以来、ウクライナは2014年にロシアに併合されたクリミア周辺のロシア資産を標的にしてきた。クリミアはウクライナが奪還を誓った地域である。ウクライナに大規模な海軍はないが、長距離ミサイル、空中ドローン、水上ドローンを効果的に配備し、戦略的に重要なロシアの施設、たとえば空軍基地、物流拠点、石油ターミナル、Черноморский флот(以下、黒海艦隊と言う)施設、そして特にセワストーポリの軍事基地を攻撃している。これらの攻撃により、モスクワは一部の資産をさらに東のノヴォロシースクに移転せざるを得なかった。その結果、黒海艦隊は無防備な状態となり、ウクライナによる攻撃機会はさらに増えている。多数の報道が、紛争開始以来、人口3,500万人に減少したウクライナが、世界第2位の軍事大国を相手に3年近く持ちこたえていることを強調している。この戦争は、大国にとって貴重な教訓となっており、圧倒的な戦力差にもかかわらず、小国がどのようにして耐え抜くことができるかを示している。
(2) この戦争でしばしば見落とされるのは、黒海の海軍戦力である。外国からの支援に軍艦が含まれていないことを考えると、この分野におけるウクライナの回復力は注目に値する。最新鋭の戦闘艦に投資する代わりに、ウクライナはВоенно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)の活動を妨害する費用対効果の高い方法を見出した。それはドローンやミサイル、小型の哨戒艇の活用で、効果的・効率的な代替策であることが証明され、革新的戦略が伝統的な海軍力の不足を相殺できることを示した。
(3) Військово-Морські Сили Збройних Сил України(ウクライナ海軍)の成功の顕著な例として、2022年4月にネプチューン対艦ミサイル2発によってロシア巡洋艦「モスクワ」を撃沈したことが挙げられる。「モスクワ」は対空戦用に設計され、そのような攻撃に対抗できると期待されていたが、乗組員の経験不足と防御システムの保守整備の問題により迎撃に失敗し、被弾した。この事件は、現代の海軍戦において、艦の準備態勢と乗組員の訓練が、高度な技術と同様に重要であることを浮き彫りにしている。
(4) 官民提携により、人的資源を活用し、研究費を節約しながら、Збройні сили України(ウクライナ軍)の防衛能力は強化された。たとえば、わずか10万ドルで海上無人機を設計・製造している。そして、最も劇的で成功した作戦の1つは、2023年7月17日にウクライナの複数の無人機がロシアとクリミアを結ぶ橋に深刻なダメージを与え、ロシアの補給路を遮断したことである。ウクライナはその後、従来のものよりもはるかに大きな爆発物を搭載できる新型の無人機を投入し、ロシアの主要な軍艦が配備され、重要な石油輸出拠点であるノヴォロシースク港を標的とした。そして、ロシアの大型揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャーク」を大破した。
(5) 攻撃任務において、無人機は集団で飛行し、さまざまな構成単位が専門の役割を担う。敵の無人機を妨害する電波妨害装置を備えた無人機もあれば、ロケットを発射したり、機雷を敷設したりできる無人機もある。これら強力な無人機は、空母の側面に穴を開けることも可能である。沈没させるには5、6発命中させる必要があるが、これも十分に実現可能な範囲内にある。
(6) ウクライナが黒海におけるロシア海軍を効果的に制御したことは、潜在的な台湾紛争における中国封じ込めをめざす米国とその同盟国にとって貴重な教訓となる。米国やその他の先進国にとっては、大規模で高価な通常艦隊が砲火を交えることが、もはや今後の海軍戦の標準ではなくなる可能性があることが示唆されており、黒海での紛争は従来の戦略を再考する必要性を強調している。
記事参照:Twilight of Naval Power? Ukraine’s Drone-Powered Black Sea Strategy
10月28日「東アジア海域、大国抗争の焦点に―フィリピン専門家論説」(Asia Times, October 28, 2024)
10月28日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、Polytechnic University of the PhilippinesのRichard Javad Heydarian の“Forget Gaza and Ukraine, East Asia’s brewing war will matter more”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarianはガザやウクライナではなく、東アジアの海域こそ米中ロの大国抗争の焦点になっており、この海域をもっと注視すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 世界の耳目が中東紛争に集まっている状況下で、米国、中国、さらにはロシアも10月に西太平洋と東南アジア海域で大規模な演習を実施し、東アジアの海域では3つの大国が力を誇示した。米駆逐艦「デューイ」とオーストラリアのフリゲート「スチュアート」 は10月20日から23日まで、マラッカ海峡で2国間演習を実施した。これに対して、中国海軍は、東調級情報収集艦を東シナ海と南シナ海に派遣している。こうした演習に加えて、米中両国は、この地域における軍事的展開を強化している。米国は、2024年初めのフィリピンとの年次演習であるバリカタン演習に先立って配備した中距離移動式タイフォン・ミサイルシステムを残置しておく可能性が高い。タイフォン・ミサイルシステムについて、ハワイに司令部を置く米第25歩兵師団の師団長は中国との直接的な紛争の可能性を見越して西太平洋全域に軍事同盟とミサイル防衛システムの弧を確立するというBiden政権の目標にとって「非常に重要」であると言明している。
(2) 中国にとって、こうした演習は、挑発的であると同時に、紛争地域における自国の軍事的展開を一層強化するための動機付けにもなっている。中国は、紛争生起の場合に米国の航空優勢に対抗するために、周辺海域に独自のステルス透過レーダー網を構築している。英シンクタンクThe Royal Institute of International Affairs(Chatham House)の報告書によれば*、このレーダーシステムが完成すれば、「係争中の西沙諸島における中国の信号傍受能力と電子戦能力が大幅に向上し、南シナ海の大部分に広がる広範な監視網が拡大することになる」と見ている。中国は、F-22ステルス戦闘機、B-2ステルス爆撃機およびF-35ステルス戦闘機など、域内全域における米軍のステルス作戦機の配備増強に対応しているように思われる。U.S. Pacific Air Forces司令官Kevin Schneider空軍大将は、南シナ海での戦闘機の展開強化について、「中国政府による違法で、威嚇的かつ攻撃的な、そして欺瞞的な行動によってもたらされる脅威に対する理解と認識の高まり」の反映であると指摘している。
(3) ウクライナに集中しているロシアも海軍力を誇示し、軍事外交を強化している。「アルダー・ツィデンジャポフ」、「レズキー」、「グルームキイ」 で編成された水上行動群(Surface Action Group)がインド洋でミャンマーと海軍演習を実施し、さらに、フォームの終わり
水上行動群はジャワ島スラバヤでTentara Nasional Indonesia Angkatan Laut(以下、インドネシア海軍と言う)の部隊と合流し、インドネシア海軍との初めての共同演習オルダ2024を11月4日から11月8日にかけて実施する。
(4) インドネシアでは、Prabowo新大統領がより積極的かつ多面的外交政策を採用すると予想されている。インドネシアは10月26日、北ナツナ海域のインドネシアのEEZ内に侵入した中国海警船を排除したと発表している。Badan Keamanan Laut Republik Indonesia(Bakamla:以下、インドネシア海事保安局と言う)は声明で、「中国海警船5402は25日にインドネシア管轄海域に再侵入した。インドネシアは、この海域における天然資源を探査する主権的権利を有しており、この権利は如何なる国によっても妨害されることはない」とインドネシア海事保安局は声明で述べている。
(5) ベトナムも、中国との数年間の比較的平穏な関係を経て、紛争海域での軍事的展開を増強している。9月30日には、係争中の西沙諸島で、少なくとの10人のベトナム人漁民が中国当局に拘束され、負傷する事案があった。ベトナムは中国を非難し、中国政府に対し、西沙諸島におけるベトナムの主権を尊重し、事案について調査し、情報を提供するよう要求した。ベトナムは、外交的な抗議行動に加えて、隣接海域で起こり得る中国との紛争に備えるため、南シナ海において実効支配する最大27の海洋自然地形における軍事施設網に、新たに1,500mの滑走路を建設している。また、ベトナムは2021年以降、バルクエ・カナダ礁(中国名:柏礁)での軍事的展開を大幅に強化しており、今後数年間で3,000m級の近代的な滑走路が建設される可能性がある。米シンクタンクCenter for Strategic and InternationalのAsia Maritime Transparency InitiativeのGregory Poling はメディアに対し、「南沙諸島の既存の滑走路は大型機には短すぎるため、新しい滑走路はベトナムの海洋哨戒能力を大幅に強化するであろう」と見ている。
(6) 中国は、1990年代以降の30年間で、域内全域に及ぶ影響力と貿易の広大な連絡網構築に成功するとともに、米国に加えて、日本、オーストラリアおよび韓国というアジアの主要米同盟国とも経済的相互依存を劇的に強化してきた。今日、東南アジアは中国製品の最大の輸出先であり、中国は域内の多くの地域で主要な投資国であり、技術の供給源ともなっている。中国と西側主要国間と2国間貿易も年間数兆ドルに上り、インド太平洋地域の主要国間の経済的結び付きの強さを浮き彫りにしている。過去30年間、域内のほとんど全ての国は、その政治体制に関係なく、政権の正当性を経済実績に依拠してきた。しかしながら、中国の急速な台頭、米国の内外政策上の問題そして西太平洋全域での紛争の激化は、複数の大国と世界最大で最も活力にあふれたな経済を巻き込む前例のない規模の地政学的な火薬庫を生み出した。
記事参照:Forget Gaza and Ukraine, East Asia’s brewing war will matter more
備考*:How Beijing is closing surveillance gaps in the South China Sea
Chatham House, October 17, 2024
(1) 世界の耳目が中東紛争に集まっている状況下で、米国、中国、さらにはロシアも10月に西太平洋と東南アジア海域で大規模な演習を実施し、東アジアの海域では3つの大国が力を誇示した。米駆逐艦「デューイ」とオーストラリアのフリゲート「スチュアート」 は10月20日から23日まで、マラッカ海峡で2国間演習を実施した。これに対して、中国海軍は、東調級情報収集艦を東シナ海と南シナ海に派遣している。こうした演習に加えて、米中両国は、この地域における軍事的展開を強化している。米国は、2024年初めのフィリピンとの年次演習であるバリカタン演習に先立って配備した中距離移動式タイフォン・ミサイルシステムを残置しておく可能性が高い。タイフォン・ミサイルシステムについて、ハワイに司令部を置く米第25歩兵師団の師団長は中国との直接的な紛争の可能性を見越して西太平洋全域に軍事同盟とミサイル防衛システムの弧を確立するというBiden政権の目標にとって「非常に重要」であると言明している。
(2) 中国にとって、こうした演習は、挑発的であると同時に、紛争地域における自国の軍事的展開を一層強化するための動機付けにもなっている。中国は、紛争生起の場合に米国の航空優勢に対抗するために、周辺海域に独自のステルス透過レーダー網を構築している。英シンクタンクThe Royal Institute of International Affairs(Chatham House)の報告書によれば*、このレーダーシステムが完成すれば、「係争中の西沙諸島における中国の信号傍受能力と電子戦能力が大幅に向上し、南シナ海の大部分に広がる広範な監視網が拡大することになる」と見ている。中国は、F-22ステルス戦闘機、B-2ステルス爆撃機およびF-35ステルス戦闘機など、域内全域における米軍のステルス作戦機の配備増強に対応しているように思われる。U.S. Pacific Air Forces司令官Kevin Schneider空軍大将は、南シナ海での戦闘機の展開強化について、「中国政府による違法で、威嚇的かつ攻撃的な、そして欺瞞的な行動によってもたらされる脅威に対する理解と認識の高まり」の反映であると指摘している。
(3) ウクライナに集中しているロシアも海軍力を誇示し、軍事外交を強化している。「アルダー・ツィデンジャポフ」、「レズキー」、「グルームキイ」 で編成された水上行動群(Surface Action Group)がインド洋でミャンマーと海軍演習を実施し、さらに、フォームの終わり
水上行動群はジャワ島スラバヤでTentara Nasional Indonesia Angkatan Laut(以下、インドネシア海軍と言う)の部隊と合流し、インドネシア海軍との初めての共同演習オルダ2024を11月4日から11月8日にかけて実施する。
(4) インドネシアでは、Prabowo新大統領がより積極的かつ多面的外交政策を採用すると予想されている。インドネシアは10月26日、北ナツナ海域のインドネシアのEEZ内に侵入した中国海警船を排除したと発表している。Badan Keamanan Laut Republik Indonesia(Bakamla:以下、インドネシア海事保安局と言う)は声明で、「中国海警船5402は25日にインドネシア管轄海域に再侵入した。インドネシアは、この海域における天然資源を探査する主権的権利を有しており、この権利は如何なる国によっても妨害されることはない」とインドネシア海事保安局は声明で述べている。
(5) ベトナムも、中国との数年間の比較的平穏な関係を経て、紛争海域での軍事的展開を増強している。9月30日には、係争中の西沙諸島で、少なくとの10人のベトナム人漁民が中国当局に拘束され、負傷する事案があった。ベトナムは中国を非難し、中国政府に対し、西沙諸島におけるベトナムの主権を尊重し、事案について調査し、情報を提供するよう要求した。ベトナムは、外交的な抗議行動に加えて、隣接海域で起こり得る中国との紛争に備えるため、南シナ海において実効支配する最大27の海洋自然地形における軍事施設網に、新たに1,500mの滑走路を建設している。また、ベトナムは2021年以降、バルクエ・カナダ礁(中国名:柏礁)での軍事的展開を大幅に強化しており、今後数年間で3,000m級の近代的な滑走路が建設される可能性がある。米シンクタンクCenter for Strategic and InternationalのAsia Maritime Transparency InitiativeのGregory Poling はメディアに対し、「南沙諸島の既存の滑走路は大型機には短すぎるため、新しい滑走路はベトナムの海洋哨戒能力を大幅に強化するであろう」と見ている。
(6) 中国は、1990年代以降の30年間で、域内全域に及ぶ影響力と貿易の広大な連絡網構築に成功するとともに、米国に加えて、日本、オーストラリアおよび韓国というアジアの主要米同盟国とも経済的相互依存を劇的に強化してきた。今日、東南アジアは中国製品の最大の輸出先であり、中国は域内の多くの地域で主要な投資国であり、技術の供給源ともなっている。中国と西側主要国間と2国間貿易も年間数兆ドルに上り、インド太平洋地域の主要国間の経済的結び付きの強さを浮き彫りにしている。過去30年間、域内のほとんど全ての国は、その政治体制に関係なく、政権の正当性を経済実績に依拠してきた。しかしながら、中国の急速な台頭、米国の内外政策上の問題そして西太平洋全域での紛争の激化は、複数の大国と世界最大で最も活力にあふれたな経済を巻き込む前例のない規模の地政学的な火薬庫を生み出した。
記事参照:Forget Gaza and Ukraine, East Asia’s brewing war will matter more
備考*:How Beijing is closing surveillance gaps in the South China Sea
Chatham House, October 17, 2024
10月29日「ASEAN首脳会議、ASEANが直面する継続的課題を浮き彫りに―米専門家論説」(9Dashline, October 29, 2024)
10月29日付、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineは、米非営利組織Asia Society Policy Instituteの広報・企画担当Bryanna Entwistleと同Institute研究員Meghan Murphyの“ASEAN Summit Highlights Persisting Challenges Facing the Bloc”と題する論説を掲載し、ここで両名は10月にラオスで開催されたASEAN首脳会議では、全会一致の原則の下で、何も解決できないASEANへの疑念が拡大しており、次回マレーシアでの会議においてIbrahim首相が、多数の首脳の参加を得てASEAN強化を図ることができるか否かが注目されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月、ラオスではASEAN関連の首脳会議が重なり、外交的な動きが活発化している。ASEAN首脳会議、対話の相手国である米国や中国との会合、そして18ヵ国が参加する東アジア首脳会議(以下、EASと言う)である。2024年の議長国であるラオスが発表した重要政策に関するASEANとEASの合意声明は、ミャンマーでの戦闘の即時停止を要求し、南シナ海の緊張やガザでの紛争に懸念を表明した。
(2) ASEANは、全会一致を原則としているが、加盟国の利害が多様でしばしば対立し、地域問題解決を困難にしている。このため、年次会合の有用性に対する懐疑的見方が広がり、合意声明の影響力は限定的なものとなっている。その結果、首脳会議の重要性は、どの大国が東南アジアを優先するか、出席首脳の序列判断の材料となっている。2024年はBiden米大統領が2年連続で首脳会議を欠席し、代わりにBlinken国務長官が出席した。Biden大統領の欠席は、イスラエルとガザの紛争に巻き込まれたためであり、米国による中東関与を減らしアジアに「軸足を移す」としたオバマ政権時代の目標が、依然達成されていないことを示している。しかし、世界各地で首脳会議が目白押しの米国大統領が、すべての会議に出席できないのも現実である。中国は、ASEANとEAS首脳会議に習近平国家主席ではなく、李強首相が出席するよう責任を分担している。
(3) 注目すべき出席者の一人はインドのNardendra Modi首相で、ASEAN市場への参入は地域の安全保障でインドがより大きな役割を果たし、中国の影響力に対抗するというインドの東方政策の中核をなすと断言した。韓国のYoon Suk Yeol(尹錫悦)大統領もビエンチャンで、ASEANと韓国の包括的戦略協定締結に向けた共同声明の採択を監督した。東南アジアでは、インドネシアのJokowi Widodo大統領と、フランスを訪問中のベトナムのTô Lâm書記長が欠席した。ジャカルタ・ポストの社説は、Jokowi Widodo大統領の欠席を非難し、「ASEANが外交政策の要であるというインドネシアの主張を損なう」と警告している。ミャンマーは、2021年のクーデターで軍が政権を掌握して以来、初めて軍事政権が首脳会議への代表派遣に同意し、外務事務次官が出席した。Biden大統領の欠席が最も注目されているが、Tô Lâm書記長とJokowi Widodo大統領の不参加は、ASEANで最も重要な会議への首脳の欠席が許される前例を作り、首脳会議の重要性を低下させる危険性がある。一方、韓国、日本、インドは首脳を派遣することで、ASEANへの関与に強い意思表示を行った。
(4) 今回のASEAN首脳会議では、ミャンマー内戦や南シナ海情勢など、例年と同様の議題が多く取り上げられており、ASEANが解決困難な難問で前進できないことを示している。2024年の首脳会議でガザ紛争が議題に追加されたが、ウクライナ紛争と並んで、国際社会を窮地に陥れる厄介な問題となっている。2021年4月以来、ASEANはミャンマー情勢に対処するための5項目の合意(5 Point Consensus:以下、5PCと言う)を繰り返してきた。2024年の合意声明は、5PCを再確認し、ミャンマーにおける民間人に対する「暴力行為の継続を糾弾」し、軍事政権と反政府勢力の双方に対し、「無差別暴力を直ちに停止するための具体的行動を採る」よう促した。しかし、ミャンマーの指導者たちが暴力の停止や5PCの実施に関心を示さない以上、不介入の原則の上に築かれた地域機構では、加盟国国内の内戦を終わらせることができないのが現実である。ASEAN首脳会議がビエンチャンで開催されている間に、ミャンマー政府は空爆作戦を開始し、ラカイン州で15人の市民を殺害した。
(5) ASEAN・中国首脳会議では、フィリピンのMarcos Jr.大統領が東南アジアの指導者と中国に対し、南シナ海の行動規範に関する交渉を加速させるよう求めた。南シナ海でフィリピンと中国の衝突が増加しているにもかかわらず、2024年の会議では行動規範に関して、ほとんど進展がなかった。Marcos Jr.大統領は「南シナ海の情勢は依然として緊迫しており、変化はない」と嘆き、フィリピンが「嫌がらせや脅迫」を受け続けていると指摘した。しかし、中国を動揺させないというASEANの慎重な姿勢を反映し、会議後に発表された議長声明では、中国によるフィリピン領海侵入については言及されなかった。一方、中国の李強首相は、領有権を争う国々の緊張を煽り、地域の平和を脅かしているのは「外部勢力」だとして米国に向けた非難を行った。米国政府関係者は、東南アジア諸国が起草した声明案が、UNCLOSに言及していることを理由にロシアと中国に阻止されたと主張している。中国はUNCLOS加盟国であるが、同条約の運用要領について異議を唱えており、南シナ海での行動規範が早期に署名される可能性は低い。
(6) イスラム教徒が多数を占めるASEAN加盟国のインドネシアとマレーシアにとって大きな懸念事項の中東紛争も、EASで中心的な議題となった。これまで、一部のASEAN首脳が米国によるイスラエルのガザ侵攻支援を批判していたが、今回、各国首脳は米国批判に慎重で、合意声明のいずれにも米国のイスラエル支援に言及することはなかった。その代わりに、加盟国はガザの人道的状況に「重大な懸念」を表明し、国連安保理決議2735号の停戦案を受け入れるようすべての関係者に求めた。ガザでは23人のASEAN国民が人質となっており、EAS決議は彼らの即時無条件解放を求めた。南シナ海と中東紛争に関する控えめな表現は、ASEANが米国と中国の間で慎重に釣り合いを取っていることの証である。一方、不介入と合意に基づく意思決定の原則は、依然としてミャンマーの内戦や他の加盟国の国内問題解決に向けた進展を妨げている。
(7) 首脳会議のたびにASEANの意義が問われており、加盟国内での致命的な内戦を止めることも、国際犯罪を食い止めることも、海洋権益に関する解決策を提供することも、超大国間の緊張を緩和することもできないASEANは、外交上で無意味な機構になりつつあると多くの人が感じている。ミャンマーの危機は、ASEANが「地域の平和と安定の促進」という指針を果たせていないことを示しているが、毎年開催される首脳会談が、ASEAN諸国とその友好国に協力の道を提供し、「地域の経済成長、社会的進歩、文化的発展」を支えているのも事実である。また、ミャンマー国内の混乱にもかかわらず、依然としてASEANは、国家間の紛争を防ぐために国家同士を外交的に結び付けるという創設の趣旨を堅持している。
(8) 次回、マレーシアで開催される第46回ASEAN首脳会議への各国首脳の出席状況が、加盟国にとってのASEANの価値を示す指標となるであろう。マレーシアのAnwar Ibrahim 首相も、ASEANの重要性や世界の指導者を引きつける能力が問われるはずで、ラオスよりも政治的、経済的に大きな力を持つマレーシアは、この地域に大きな影響を与える。物議を醸している国際問題に対して率直なAnwar Ibrahim首相は、やや中国寄りのラオスに比べて強硬な姿勢をとる可能性が高い。2025年、マレーシアはASEANを強化し、東南アジアの戦略的重要性を強調する機会を得る。
記事参照:ASEAN Summit Highlights Persisting Challenges Facing the Bloc
(1) 10月、ラオスではASEAN関連の首脳会議が重なり、外交的な動きが活発化している。ASEAN首脳会議、対話の相手国である米国や中国との会合、そして18ヵ国が参加する東アジア首脳会議(以下、EASと言う)である。2024年の議長国であるラオスが発表した重要政策に関するASEANとEASの合意声明は、ミャンマーでの戦闘の即時停止を要求し、南シナ海の緊張やガザでの紛争に懸念を表明した。
(2) ASEANは、全会一致を原則としているが、加盟国の利害が多様でしばしば対立し、地域問題解決を困難にしている。このため、年次会合の有用性に対する懐疑的見方が広がり、合意声明の影響力は限定的なものとなっている。その結果、首脳会議の重要性は、どの大国が東南アジアを優先するか、出席首脳の序列判断の材料となっている。2024年はBiden米大統領が2年連続で首脳会議を欠席し、代わりにBlinken国務長官が出席した。Biden大統領の欠席は、イスラエルとガザの紛争に巻き込まれたためであり、米国による中東関与を減らしアジアに「軸足を移す」としたオバマ政権時代の目標が、依然達成されていないことを示している。しかし、世界各地で首脳会議が目白押しの米国大統領が、すべての会議に出席できないのも現実である。中国は、ASEANとEAS首脳会議に習近平国家主席ではなく、李強首相が出席するよう責任を分担している。
(3) 注目すべき出席者の一人はインドのNardendra Modi首相で、ASEAN市場への参入は地域の安全保障でインドがより大きな役割を果たし、中国の影響力に対抗するというインドの東方政策の中核をなすと断言した。韓国のYoon Suk Yeol(尹錫悦)大統領もビエンチャンで、ASEANと韓国の包括的戦略協定締結に向けた共同声明の採択を監督した。東南アジアでは、インドネシアのJokowi Widodo大統領と、フランスを訪問中のベトナムのTô Lâm書記長が欠席した。ジャカルタ・ポストの社説は、Jokowi Widodo大統領の欠席を非難し、「ASEANが外交政策の要であるというインドネシアの主張を損なう」と警告している。ミャンマーは、2021年のクーデターで軍が政権を掌握して以来、初めて軍事政権が首脳会議への代表派遣に同意し、外務事務次官が出席した。Biden大統領の欠席が最も注目されているが、Tô Lâm書記長とJokowi Widodo大統領の不参加は、ASEANで最も重要な会議への首脳の欠席が許される前例を作り、首脳会議の重要性を低下させる危険性がある。一方、韓国、日本、インドは首脳を派遣することで、ASEANへの関与に強い意思表示を行った。
(4) 今回のASEAN首脳会議では、ミャンマー内戦や南シナ海情勢など、例年と同様の議題が多く取り上げられており、ASEANが解決困難な難問で前進できないことを示している。2024年の首脳会議でガザ紛争が議題に追加されたが、ウクライナ紛争と並んで、国際社会を窮地に陥れる厄介な問題となっている。2021年4月以来、ASEANはミャンマー情勢に対処するための5項目の合意(5 Point Consensus:以下、5PCと言う)を繰り返してきた。2024年の合意声明は、5PCを再確認し、ミャンマーにおける民間人に対する「暴力行為の継続を糾弾」し、軍事政権と反政府勢力の双方に対し、「無差別暴力を直ちに停止するための具体的行動を採る」よう促した。しかし、ミャンマーの指導者たちが暴力の停止や5PCの実施に関心を示さない以上、不介入の原則の上に築かれた地域機構では、加盟国国内の内戦を終わらせることができないのが現実である。ASEAN首脳会議がビエンチャンで開催されている間に、ミャンマー政府は空爆作戦を開始し、ラカイン州で15人の市民を殺害した。
(5) ASEAN・中国首脳会議では、フィリピンのMarcos Jr.大統領が東南アジアの指導者と中国に対し、南シナ海の行動規範に関する交渉を加速させるよう求めた。南シナ海でフィリピンと中国の衝突が増加しているにもかかわらず、2024年の会議では行動規範に関して、ほとんど進展がなかった。Marcos Jr.大統領は「南シナ海の情勢は依然として緊迫しており、変化はない」と嘆き、フィリピンが「嫌がらせや脅迫」を受け続けていると指摘した。しかし、中国を動揺させないというASEANの慎重な姿勢を反映し、会議後に発表された議長声明では、中国によるフィリピン領海侵入については言及されなかった。一方、中国の李強首相は、領有権を争う国々の緊張を煽り、地域の平和を脅かしているのは「外部勢力」だとして米国に向けた非難を行った。米国政府関係者は、東南アジア諸国が起草した声明案が、UNCLOSに言及していることを理由にロシアと中国に阻止されたと主張している。中国はUNCLOS加盟国であるが、同条約の運用要領について異議を唱えており、南シナ海での行動規範が早期に署名される可能性は低い。
(6) イスラム教徒が多数を占めるASEAN加盟国のインドネシアとマレーシアにとって大きな懸念事項の中東紛争も、EASで中心的な議題となった。これまで、一部のASEAN首脳が米国によるイスラエルのガザ侵攻支援を批判していたが、今回、各国首脳は米国批判に慎重で、合意声明のいずれにも米国のイスラエル支援に言及することはなかった。その代わりに、加盟国はガザの人道的状況に「重大な懸念」を表明し、国連安保理決議2735号の停戦案を受け入れるようすべての関係者に求めた。ガザでは23人のASEAN国民が人質となっており、EAS決議は彼らの即時無条件解放を求めた。南シナ海と中東紛争に関する控えめな表現は、ASEANが米国と中国の間で慎重に釣り合いを取っていることの証である。一方、不介入と合意に基づく意思決定の原則は、依然としてミャンマーの内戦や他の加盟国の国内問題解決に向けた進展を妨げている。
(7) 首脳会議のたびにASEANの意義が問われており、加盟国内での致命的な内戦を止めることも、国際犯罪を食い止めることも、海洋権益に関する解決策を提供することも、超大国間の緊張を緩和することもできないASEANは、外交上で無意味な機構になりつつあると多くの人が感じている。ミャンマーの危機は、ASEANが「地域の平和と安定の促進」という指針を果たせていないことを示しているが、毎年開催される首脳会談が、ASEAN諸国とその友好国に協力の道を提供し、「地域の経済成長、社会的進歩、文化的発展」を支えているのも事実である。また、ミャンマー国内の混乱にもかかわらず、依然としてASEANは、国家間の紛争を防ぐために国家同士を外交的に結び付けるという創設の趣旨を堅持している。
(8) 次回、マレーシアで開催される第46回ASEAN首脳会議への各国首脳の出席状況が、加盟国にとってのASEANの価値を示す指標となるであろう。マレーシアのAnwar Ibrahim 首相も、ASEANの重要性や世界の指導者を引きつける能力が問われるはずで、ラオスよりも政治的、経済的に大きな力を持つマレーシアは、この地域に大きな影響を与える。物議を醸している国際問題に対して率直なAnwar Ibrahim首相は、やや中国寄りのラオスに比べて強硬な姿勢をとる可能性が高い。2025年、マレーシアはASEANを強化し、東南アジアの戦略的重要性を強調する機会を得る。
記事参照:ASEAN Summit Highlights Persisting Challenges Facing the Bloc
10月29日「インド洋へのU.S. Armed Forcesの展開に対するインドの態度の変化―インド国際関係論専門家論説」(The Interpreter, October 29, 2024」」
10月29日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、インドのシンクタンクAsia Society Policy Institute の分析研究員Rahul Jaybhayの“India’s historic shift in attitude about a US base at Diego Garcia”と題する論説を掲載し、そこでRahul Jaybhayは英国がチャゴス諸島をモーリシャスに返還しつつも、ディエゴ・ガルシアの米軍基地が維持されることについて言及し、インドは現在それを望ましいものとしているが、冷戦期のインドはインド洋におけるU.S. Armed Forcesの配備に対し批判的であったとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドはチャゴス諸島に対するモーリシャスの主権を支持しているが、ディエゴ・ガルシアを英国が支配し続けることについて、安堵しているだろう。ディエゴ・ガルシアは、インド洋における中国の展開に対抗するためにU.S. Armed Forcesが配備される主要基地となっている。
(2) 過去の公文書を見てみると、インド政府が異なる考えをもっていたことがわかる。すなわち、過去においては、インドはインド洋におけるU.S. Armed Forcesの存在に対してあまり良く思っていなかった。
(3) 1966年、英米は英国領インド洋地域のチャゴス諸島などに、「防衛施設」などを準備することで合意した。そしてディエゴ・ガルシアに「通信センター」が設置された時に論争が起きた。滑走路の設置や浚渫作業などが進められることで、「通信センター」が「基地」になる可能性が浮上してきた。インドは、「基地」がインドの戦略的利益にとって「敵対的」であり、「平和地帯」の創設というインドの構想を妨害するものとして、英米の動きに反対した。1974年12月のインド Ministry of External Affairsの機密文書が明らかにするのは、インドに近い所になんらかの敵対的な軍事的存在があれば、それは深刻な安全保障上の脅威になりかねないという認識である。
(4) 軍拡競争を抑制するため、当時のオーストラリア首相は、インドと共同で地域の軍事化を「相互に自制」するよう米ソに促すことを提案したが、オーストラリア政府は、それを公然と行うことにはためらいがあった。そしてインドはオーストラリアの提案を拒絶し、米国にはさらなる基地を求めないよう、ソ連には海軍力の展開の削減を要求したのだった。インド洋の軍事化に抵抗するインドの方針は、1971年のバングラデシュ危機においてU.S. Navy がU.S. 7th Fleetを派遣した後、より切迫したものとなった。インドにとって、地域における海洋での対立は、インドおよびその他沿岸諸国によって構想された「平和地帯」の創設を困難にするものであった
(5) 1975年6月、U.S. Senate Armed Service Committee(米上院軍事委員会)は、ディエゴ・ガルシアの施設拡張について検討した。ディエゴ・ガルシアの施設拡張は、中東湾岸からヨーロッパおよび日本への石油供給をソ連が妨害する可能性が懸念されたためであった。インドその他沿岸諸国はそれに断固として反対した。インドの批判の矛先は米国だけでなく英国にも向けられた。1960年代末から70年代にかけて、英国は、南アフリカの軍事化を進め、Военно-морской флот СССР(ソヴィエト社会主義共和国連邦海軍)の侵入を阻止しようとしていた。当時のインドの駐英高等弁務官は、それがインドの「平和地帯」構想に逆行するとして非難した。
(6) 今日のインドの論理の展開は、国際環境の変化を反映して、当時とはだいぶ異なるものになっている。中国がインドを脅かすにつれ、インドは米国への依存を深める。ディエゴ・ガルシアにおけるU.S. Armed Forcesの存在は、インドにとって望ましい勢力均衡を維持する要素なのである。
記事参照:India’s historic shift in attitude about a US base at Diego Garcia
(1) インドはチャゴス諸島に対するモーリシャスの主権を支持しているが、ディエゴ・ガルシアを英国が支配し続けることについて、安堵しているだろう。ディエゴ・ガルシアは、インド洋における中国の展開に対抗するためにU.S. Armed Forcesが配備される主要基地となっている。
(2) 過去の公文書を見てみると、インド政府が異なる考えをもっていたことがわかる。すなわち、過去においては、インドはインド洋におけるU.S. Armed Forcesの存在に対してあまり良く思っていなかった。
(3) 1966年、英米は英国領インド洋地域のチャゴス諸島などに、「防衛施設」などを準備することで合意した。そしてディエゴ・ガルシアに「通信センター」が設置された時に論争が起きた。滑走路の設置や浚渫作業などが進められることで、「通信センター」が「基地」になる可能性が浮上してきた。インドは、「基地」がインドの戦略的利益にとって「敵対的」であり、「平和地帯」の創設というインドの構想を妨害するものとして、英米の動きに反対した。1974年12月のインド Ministry of External Affairsの機密文書が明らかにするのは、インドに近い所になんらかの敵対的な軍事的存在があれば、それは深刻な安全保障上の脅威になりかねないという認識である。
(4) 軍拡競争を抑制するため、当時のオーストラリア首相は、インドと共同で地域の軍事化を「相互に自制」するよう米ソに促すことを提案したが、オーストラリア政府は、それを公然と行うことにはためらいがあった。そしてインドはオーストラリアの提案を拒絶し、米国にはさらなる基地を求めないよう、ソ連には海軍力の展開の削減を要求したのだった。インド洋の軍事化に抵抗するインドの方針は、1971年のバングラデシュ危機においてU.S. Navy がU.S. 7th Fleetを派遣した後、より切迫したものとなった。インドにとって、地域における海洋での対立は、インドおよびその他沿岸諸国によって構想された「平和地帯」の創設を困難にするものであった
(5) 1975年6月、U.S. Senate Armed Service Committee(米上院軍事委員会)は、ディエゴ・ガルシアの施設拡張について検討した。ディエゴ・ガルシアの施設拡張は、中東湾岸からヨーロッパおよび日本への石油供給をソ連が妨害する可能性が懸念されたためであった。インドその他沿岸諸国はそれに断固として反対した。インドの批判の矛先は米国だけでなく英国にも向けられた。1960年代末から70年代にかけて、英国は、南アフリカの軍事化を進め、Военно-морской флот СССР(ソヴィエト社会主義共和国連邦海軍)の侵入を阻止しようとしていた。当時のインドの駐英高等弁務官は、それがインドの「平和地帯」構想に逆行するとして非難した。
(6) 今日のインドの論理の展開は、国際環境の変化を反映して、当時とはだいぶ異なるものになっている。中国がインドを脅かすにつれ、インドは米国への依存を深める。ディエゴ・ガルシアにおけるU.S. Armed Forcesの存在は、インドにとって望ましい勢力均衡を維持する要素なのである。
記事参照:India’s historic shift in attitude about a US base at Diego Garcia
10月29日「米海軍を軌道に乗せるには、Navigation Plansに対する指導力と資源が必要―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, October29, 2024)
10月29日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、Heritage Foundation上席研究員Brent Sadler退役米海軍大佐の“Navigation Plans Need Leadership and Resources to Get the Navy Truly Underway”と題する論説を掲載し、ここでSadlerは、米海軍作戦部長Lisa Franchetti大将のNavigation Plansは歓迎すべきものであるが、それを実現するには現在の任務の限られた任期を超えて責任を負うことのできる組織全体にわたる強力な指導者達の支援が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月18日、米海軍作戦部長(以下、CNOという)Lisa Franchetti大将は、米海軍の今後の進路を示すNavigation Plans(以下、NAVPLANと言う)2024を発表した。その要点は、米海軍は2027年までに、軍事的自信を強める中国を阻止する態勢を整えることであるが、これを達成するのは容易ではない。NAVPLANは2015年に最初に作成され、近年、急速に拡大する中国艦隊を阻止するための緊急性を帯びてきたが、これまでの10年間の大半において効果的ではなかった。米国の艦艇保有数は、2015年の271隻から295隻に増強されたに過ぎない。海軍、ホワイトハウス、議会がいずれも355隻の艦隊を確立すると約束したにもかかわらず、その目標を達成できる計画を策定するだけで数年を要し、実現は遅れている。当初の予定では現時点で314隻の艦隊が完成しているはずであった。
(2) 中国共産党は2004年から2022年の間に112隻以上の艦艇を増強し、海軍を拡大した。一方、同期間にU.S. Navyは3隻減少している。中国海軍の急速な成長を支えているのは、米国の200倍以上の能力を持つ巨大な造船産業であり、これにより中国は長期戦争において米国を凌駕する艦艇建造能力を確保している。こうした課題を踏まえ、Lisa Franchetti大将は、2027年までに即応態勢を整えることに重点を置いた行動を優先している。この枠組みは、50万人以上の士官、水兵、予備役、民間人からなる大規模な組織が限られた資源で協調し、行動するために必要な緊急性と焦点を提供する。
(3) 限られた数の艦艇と軍需物資で海軍が戦争を遂行するためには、創造的な新しい方法が必要とされる。海軍が約10年前に打ち出した構想「分散型海上作戦」は、艦隊をより広範囲に分散させることである。中国がこれに対抗するには、より多くのセンサー、艦艇・航空機および兵器を展開しなければならなくなる。この構想は、米国の水上艦艇、潜水艦および航空機が高度に接続されることを前提としている。新しいNAVPLANはこの構想を取り入れ、自律システム、ビッグデータ分析、海上作戦センターなど、複数のデータストリームを艦隊司令官が利用可能な情報に融合する重要な能力の成熟に重点を置いている。
(4) Lisa Franchetti大将が、2022年に前任者が発表したNAVPLANを更新した理由は、今日の安全保障環境がより危険になったからであり、2027年までに次の7つの主要目標を達成するとした。
a. 戦闘即応艦隊の割合を80%に引き上げ、維持する。
b. すべての配備空母打撃群および遠征打撃群に成熟した自律プラットフォームを統合する。
c. U.S. 7th Fleetなどすべての番号付き艦隊が、世界中の海軍作戦を調整する機能を完全に備えた海上作戦センター(MOC)を保有する。
d. 現役および予備役人員を100%配置し、承認された配備人員の95%を充足する。
e. 母港に停泊中は不本意な艦内宿泊を廃止する。
f. ライブ・バーチャル・コンストラクティブ訓練(live forces, virtual environments, and constructive scenarios 、LVC)を通じて、ハイエンドの戦争を想定した、より現実的な艦隊の戦闘訓練を実施する。
g. 時代遅れの基幹施設と艦隊を維持する造船所の能力を改善する。
(5) 中国が、米国との戦争に耐え抜くための準備に多大な資源と政治的資本を投じていることを考えると、Lisa Franchetti大将が2027年に重点を置いていることは歓迎すべきであるが、これを実現するには、海軍の予算を増やす必要があり、完全に適応することは大きな課題となる。加えて、その他に次の3つ課題がある。
a. 艦隊への燃料補給の必要性:第2次世界大戦前から、U.S. Armed Forcesはハワイの戦略上重要なRed Hill Bulk Fuel Storage facility(レッドヒルバルク燃料貯蔵施設)で燃料を貯蔵してきた。長年にわたる放置により、この施設は閉鎖されたが、代替施設は発表されていない。十分な燃料備蓄と燃料を艦船や航空機に移送する能力がなければ、海軍は潜在的に不安定な立場に置かれることになる。
b. 戦争に備えるための訓練:真の準備態勢を整え、粘り強く戦い抜くために、艦隊を最も過酷な環境と脅威の状況下で訓練する必要がある。
c. 募集への新しい取り組み:海上での厳しい任務に耐える水兵の募集と準備のための新たな方策が緊急に必要である。2008年に終了したBOOSTのようなプログラムを復活させ、更新する必要がある。BOOSTは、恵まれない教育環境で育った有望な下士官兵に大学進学と士官任官の準備をさせることを目的としていた。今日では、任官だけでなく、原子力技術者など供給不足の高度な専門技術の習得に向けた準備を、有能で意欲的な新兵にさせることが必要である。
(6) 戦略や点検表だけでは成果は得られない。CNOから現場に至るまで、大胆な指導力が求められている。Lisa Franchetti大将のNAVPLANは歓迎すべきもので、必要とされているが、その成功は文書の説得力によって決まるものではない。現在の任務の限られた任期を超えて責任を負うことのできる、組織全体にわたる強力な指導者達の支援が必要である。Lisa Franchetti大将は、後任者に強力な海軍を残すために精力的に行動するつもりであると述べている。海軍の長期にわたる衰退傾向を食い止め、今日の大国の脅威に立ち向かうための軌道に乗せるために必要な支援を受け、そして、このような指導者がさらに増えることを期待したい。
記事参照:Navigation Plans Need Leadership and Resources to Get the Navy Truly Underway
(1) 9月18日、米海軍作戦部長(以下、CNOという)Lisa Franchetti大将は、米海軍の今後の進路を示すNavigation Plans(以下、NAVPLANと言う)2024を発表した。その要点は、米海軍は2027年までに、軍事的自信を強める中国を阻止する態勢を整えることであるが、これを達成するのは容易ではない。NAVPLANは2015年に最初に作成され、近年、急速に拡大する中国艦隊を阻止するための緊急性を帯びてきたが、これまでの10年間の大半において効果的ではなかった。米国の艦艇保有数は、2015年の271隻から295隻に増強されたに過ぎない。海軍、ホワイトハウス、議会がいずれも355隻の艦隊を確立すると約束したにもかかわらず、その目標を達成できる計画を策定するだけで数年を要し、実現は遅れている。当初の予定では現時点で314隻の艦隊が完成しているはずであった。
(2) 中国共産党は2004年から2022年の間に112隻以上の艦艇を増強し、海軍を拡大した。一方、同期間にU.S. Navyは3隻減少している。中国海軍の急速な成長を支えているのは、米国の200倍以上の能力を持つ巨大な造船産業であり、これにより中国は長期戦争において米国を凌駕する艦艇建造能力を確保している。こうした課題を踏まえ、Lisa Franchetti大将は、2027年までに即応態勢を整えることに重点を置いた行動を優先している。この枠組みは、50万人以上の士官、水兵、予備役、民間人からなる大規模な組織が限られた資源で協調し、行動するために必要な緊急性と焦点を提供する。
(3) 限られた数の艦艇と軍需物資で海軍が戦争を遂行するためには、創造的な新しい方法が必要とされる。海軍が約10年前に打ち出した構想「分散型海上作戦」は、艦隊をより広範囲に分散させることである。中国がこれに対抗するには、より多くのセンサー、艦艇・航空機および兵器を展開しなければならなくなる。この構想は、米国の水上艦艇、潜水艦および航空機が高度に接続されることを前提としている。新しいNAVPLANはこの構想を取り入れ、自律システム、ビッグデータ分析、海上作戦センターなど、複数のデータストリームを艦隊司令官が利用可能な情報に融合する重要な能力の成熟に重点を置いている。
(4) Lisa Franchetti大将が、2022年に前任者が発表したNAVPLANを更新した理由は、今日の安全保障環境がより危険になったからであり、2027年までに次の7つの主要目標を達成するとした。
a. 戦闘即応艦隊の割合を80%に引き上げ、維持する。
b. すべての配備空母打撃群および遠征打撃群に成熟した自律プラットフォームを統合する。
c. U.S. 7th Fleetなどすべての番号付き艦隊が、世界中の海軍作戦を調整する機能を完全に備えた海上作戦センター(MOC)を保有する。
d. 現役および予備役人員を100%配置し、承認された配備人員の95%を充足する。
e. 母港に停泊中は不本意な艦内宿泊を廃止する。
f. ライブ・バーチャル・コンストラクティブ訓練(live forces, virtual environments, and constructive scenarios 、LVC)を通じて、ハイエンドの戦争を想定した、より現実的な艦隊の戦闘訓練を実施する。
g. 時代遅れの基幹施設と艦隊を維持する造船所の能力を改善する。
(5) 中国が、米国との戦争に耐え抜くための準備に多大な資源と政治的資本を投じていることを考えると、Lisa Franchetti大将が2027年に重点を置いていることは歓迎すべきであるが、これを実現するには、海軍の予算を増やす必要があり、完全に適応することは大きな課題となる。加えて、その他に次の3つ課題がある。
a. 艦隊への燃料補給の必要性:第2次世界大戦前から、U.S. Armed Forcesはハワイの戦略上重要なRed Hill Bulk Fuel Storage facility(レッドヒルバルク燃料貯蔵施設)で燃料を貯蔵してきた。長年にわたる放置により、この施設は閉鎖されたが、代替施設は発表されていない。十分な燃料備蓄と燃料を艦船や航空機に移送する能力がなければ、海軍は潜在的に不安定な立場に置かれることになる。
b. 戦争に備えるための訓練:真の準備態勢を整え、粘り強く戦い抜くために、艦隊を最も過酷な環境と脅威の状況下で訓練する必要がある。
c. 募集への新しい取り組み:海上での厳しい任務に耐える水兵の募集と準備のための新たな方策が緊急に必要である。2008年に終了したBOOSTのようなプログラムを復活させ、更新する必要がある。BOOSTは、恵まれない教育環境で育った有望な下士官兵に大学進学と士官任官の準備をさせることを目的としていた。今日では、任官だけでなく、原子力技術者など供給不足の高度な専門技術の習得に向けた準備を、有能で意欲的な新兵にさせることが必要である。
(6) 戦略や点検表だけでは成果は得られない。CNOから現場に至るまで、大胆な指導力が求められている。Lisa Franchetti大将のNAVPLANは歓迎すべきもので、必要とされているが、その成功は文書の説得力によって決まるものではない。現在の任務の限られた任期を超えて責任を負うことのできる、組織全体にわたる強力な指導者達の支援が必要である。Lisa Franchetti大将は、後任者に強力な海軍を残すために精力的に行動するつもりであると述べている。海軍の長期にわたる衰退傾向を食い止め、今日の大国の脅威に立ち向かうための軌道に乗せるために必要な支援を受け、そして、このような指導者がさらに増えることを期待したい。
記事参照:Navigation Plans Need Leadership and Resources to Get the Navy Truly Underway
10月29日「米中戦略関係における非軍事的な抑止策―米専門家論説」(The Diplomat, October 29, 2024)
10月29日付のデジタル誌The Diplomatは、韓国Taejae Future Consensus Institute研究員で米Tufts UniversityのFletcher School of Law and DiplomacyにおけるCenter for Strategic Studies副所長Mathew Jie Sheng Yeoの“A Non-Weaponized Deterrence Approach to China-US Strategic Relations”と題する論説を掲載し、ここでMathew Jie Sheng Yeoは非軍事的な抑止策は米中関係の全体的な安定化につながるという希望をもたらし、実質的な議論と生産的な関係の基盤を形成できる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在の世界情勢は、核拡散の傾向が拡大し、核拡散防止条約(以下、NPTと言う)による抑制に苦慮しているだけでなく、軍備管理条約もまた実現が困難となっている。米国とロシア間の最後の軍備管理条約である新戦略兵器削減条約(以下、New STARTと言う)は、2026年に失効する予定であり、延長される見込みはほとんどない。NPTで認められた核保有国5ヵ国は、「核戦争に勝者はないし、決して戦ってはならない」という主張を繰り返しているにもかかわらず、核兵器の近代化に取り組んでいる。
(2) 中国の核近代化は、拡張の速度と規模から、特に懸念されている。U.S. Department of Defenseは、2035年までに中国の核弾頭保有数は約1,500発に達すると推定している。Donald Trump前大統領は、中国が将来的に米国よりも多くの核兵器を保有する可能性があると主張していた。そして、Trump政権は中国をNew STARTの更新に含めることを求め、軍備管理協定に中国を参加させることで将来の米中ロ3ヵ国間の軍拡競争を回避できると主張したが、その提案は中国に拒絶された。中国は、米国およびロシアとの圧倒的な核弾頭数の差を踏まえ、米国とロシアが十分な核削減をするまでは、いかなる軍備管理協議からも除外されるべきとの見解を維持している。Biden政権は、中国の核削減への消極的な姿勢を考慮した上で、代わりに危険性軽減という主題に沿って中国を巻き込もうとした。人工知能に関連する危険性の管理、ミサイル発射通知協定の締結などが重視され、米中間ではいくつかの高官級会合が実現したが、現在協議はほぼ停止状態となっている。
(3) 最近の議論では、米中が「先制不使用」(No First Use)の核戦略をめぐる協議を行う可能性が模索されている。先制不使用の用語を明確化するための議論は、米中戦略関係のより深い問題について、より持続的な協議を行うための基盤としても機能し得るという主張もある。Mallory Stewart国務次官補は、そのような議論の可能性を歓迎し、米国は先制不使用に関する中国の提案を検討する用意があることを示唆した。しかし、その展開はまだ実現しておらず、米国の関心も高まっていない。米国は、中国が核不使用宣言の姿勢と核兵器の増強を両立させることはありそうにないという見方をしており、また中国の誠実さに対する疑念もあり、結果として米政府は先制不使用の検討は行わないという選択に至った。
(4) 米国と中国を戦略対話に引き込むためには、新たな方策が不可欠である。それは、非核兵器化抑止の観点から戦略的関係に取り組むべきである。非核兵器化抑止とは、国家が核兵器の集積や配備を行わないことに合意する一方で、必要が生じた場合には核兵器を製造するのに必要な材料や能力を保持しておくことを意味する。この論理を米中戦略関係に当てはめると、両国が核近代化計を継続することを認めるが、その一方で、兵器化はしないということになる。この方策は、次の理由から期待が持てる。
a. 核近代化努力を完全に停止することはあり得ないという現実を反映している。
b. 潜在的な能力と核兵器備蓄とを区別する限界や境界線が導入されるため、軍拡競争の危険性を軽減できる可能性がある。
c. 中国は先制不使用の誓約の信頼性を高めることができ、それによって米国に対する誠意を示すことができる。
(5) 非核兵器化抑止の枠組みを米中戦略関係に統合するためには、公式にさらなる作業が必要である。核心となるのは、次に示す重要な課題が残っていることである。
a. 現存する米中の核兵器備蓄をどうすべきか。
b. 備蓄を協定の一部として含めるべきか、それとも除外すべきか。
c. 協定は互恵的な構造を採用できるか。
d. 協定をどのように検証すべきか。
(6) これらの未解決の課題は、米中対話の潜在的な出発点となる。両国は、共通の基盤を確立するための方策として、これらの詳細を明確にし、探求するための議論に参加することができる。潜在的な能力に焦点を移すことで、非軍事的な方策を採用することは、米国と中国の安全保障上の所要を認め、確認するものである。そのため、これは米中の両政府にとって、事態を拡大するよりも安定を優先させる戦略的機会となり、持続的な対話の基盤を築くことにもなる。こうした観点から、非軍事的な方策を採用することは、米中関係の全体的な安定化につながるという希望をもたらし、より実質的な議論とより生産的な関係の基盤を形成できる可能性がある。
記事参照:A Non-Weaponized Deterrence Approach to China-US Strategic Relations
(1) 現在の世界情勢は、核拡散の傾向が拡大し、核拡散防止条約(以下、NPTと言う)による抑制に苦慮しているだけでなく、軍備管理条約もまた実現が困難となっている。米国とロシア間の最後の軍備管理条約である新戦略兵器削減条約(以下、New STARTと言う)は、2026年に失効する予定であり、延長される見込みはほとんどない。NPTで認められた核保有国5ヵ国は、「核戦争に勝者はないし、決して戦ってはならない」という主張を繰り返しているにもかかわらず、核兵器の近代化に取り組んでいる。
(2) 中国の核近代化は、拡張の速度と規模から、特に懸念されている。U.S. Department of Defenseは、2035年までに中国の核弾頭保有数は約1,500発に達すると推定している。Donald Trump前大統領は、中国が将来的に米国よりも多くの核兵器を保有する可能性があると主張していた。そして、Trump政権は中国をNew STARTの更新に含めることを求め、軍備管理協定に中国を参加させることで将来の米中ロ3ヵ国間の軍拡競争を回避できると主張したが、その提案は中国に拒絶された。中国は、米国およびロシアとの圧倒的な核弾頭数の差を踏まえ、米国とロシアが十分な核削減をするまでは、いかなる軍備管理協議からも除外されるべきとの見解を維持している。Biden政権は、中国の核削減への消極的な姿勢を考慮した上で、代わりに危険性軽減という主題に沿って中国を巻き込もうとした。人工知能に関連する危険性の管理、ミサイル発射通知協定の締結などが重視され、米中間ではいくつかの高官級会合が実現したが、現在協議はほぼ停止状態となっている。
(3) 最近の議論では、米中が「先制不使用」(No First Use)の核戦略をめぐる協議を行う可能性が模索されている。先制不使用の用語を明確化するための議論は、米中戦略関係のより深い問題について、より持続的な協議を行うための基盤としても機能し得るという主張もある。Mallory Stewart国務次官補は、そのような議論の可能性を歓迎し、米国は先制不使用に関する中国の提案を検討する用意があることを示唆した。しかし、その展開はまだ実現しておらず、米国の関心も高まっていない。米国は、中国が核不使用宣言の姿勢と核兵器の増強を両立させることはありそうにないという見方をしており、また中国の誠実さに対する疑念もあり、結果として米政府は先制不使用の検討は行わないという選択に至った。
(4) 米国と中国を戦略対話に引き込むためには、新たな方策が不可欠である。それは、非核兵器化抑止の観点から戦略的関係に取り組むべきである。非核兵器化抑止とは、国家が核兵器の集積や配備を行わないことに合意する一方で、必要が生じた場合には核兵器を製造するのに必要な材料や能力を保持しておくことを意味する。この論理を米中戦略関係に当てはめると、両国が核近代化計を継続することを認めるが、その一方で、兵器化はしないということになる。この方策は、次の理由から期待が持てる。
a. 核近代化努力を完全に停止することはあり得ないという現実を反映している。
b. 潜在的な能力と核兵器備蓄とを区別する限界や境界線が導入されるため、軍拡競争の危険性を軽減できる可能性がある。
c. 中国は先制不使用の誓約の信頼性を高めることができ、それによって米国に対する誠意を示すことができる。
(5) 非核兵器化抑止の枠組みを米中戦略関係に統合するためには、公式にさらなる作業が必要である。核心となるのは、次に示す重要な課題が残っていることである。
a. 現存する米中の核兵器備蓄をどうすべきか。
b. 備蓄を協定の一部として含めるべきか、それとも除外すべきか。
c. 協定は互恵的な構造を採用できるか。
d. 協定をどのように検証すべきか。
(6) これらの未解決の課題は、米中対話の潜在的な出発点となる。両国は、共通の基盤を確立するための方策として、これらの詳細を明確にし、探求するための議論に参加することができる。潜在的な能力に焦点を移すことで、非軍事的な方策を採用することは、米国と中国の安全保障上の所要を認め、確認するものである。そのため、これは米中の両政府にとって、事態を拡大するよりも安定を優先させる戦略的機会となり、持続的な対話の基盤を築くことにもなる。こうした観点から、非軍事的な方策を採用することは、米中関係の全体的な安定化につながるという希望をもたらし、より実質的な議論とより生産的な関係の基盤を形成できる可能性がある。
記事参照:A Non-Weaponized Deterrence Approach to China-US Strategic Relations
10月30日「聯合利剣2024Bは台湾への圧力と人民解放軍に対する将来の大規模軍事行動への準備―台湾専門家論説」(Global Taiwan Brief, Global Taiwan Institute, October 30, 2024)
10月30日付けの米シンクタンクGlobal Taiwan Instituteが発行するGlobal Taiwan Brief電子版は、Global Taiwan Instituteの副理事長John Dotsonの“The PLA’s Joint Sword 2024B Exercise: Continuing Political Warfare and Creeping Territorial Encroachment”と題する論説を掲載し、John Dotsonは聯合利剣2024Bの分析を基に、聯合利剣2024Bは台湾に継続的な圧力をかけ、人民解放軍の人員を将来の封鎖やその他の大規模な軍事状況に備えさせることを目的とした、新たな一連の演習の一部である可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月10日、台湾の頼清徳総統は台北で初の中華民国建国記念日演説を行ったが、中華人民共和国(以下、中国と言う)は演説の「分離主義的」内容を非難し、台湾周辺で新たな軍事演習を開始した。10月14日に実施されたこの演習は聯合利剣2024Bと名付けられ、人民解放軍による台湾周辺の海空域での多軍種協同演習となった。中国のプロパガンダは毎回、この演習は台湾の政治指導部に関連する政治的出来事への反応であると主張している。
(2) 2022年8月に台湾周辺で行われた人民解放軍の軍事演習は、(少なくとも名目上の)封鎖演習の始まりとなった。最初の聯合利剣演習は、2023年4月に実施され、台湾の象徴的な包囲と島の主要な拠点を狙った一連の模擬攻撃が含まれていた。「聯合利剣2024A」演習は、中国の主張によれば、頼清徳の就任演説への反応として、今年5月23日から24日にかけて実施され、島の象徴的な包囲が再度行われたほか、中国海警総隊による哨戒の役割が強化された
(3) 公開されているデータは限られているため、聯合利剣2024B作戦中に人民解放軍が実施した具体的な作戦については不明な点が多い。台湾国防部によれば、中国海軍艦艇14隻、海警船12隻が行動しており、「遼寧」空母戦闘群が含まれる。5月の「統合剣2024A」演習と同様に、今回の演習でも中国海警局の役割が運用面でも宣伝面でも拡大された。中国国営メディアは、演習当日に中国海警総隊の任務部隊が台湾を周回したと報じている。また、航空部隊は153機が出撃している。中国の海上作戦を国内法執行の日常的な演習として提示する取り組みの一環として、台湾の海岸線や離島に近い場所での哨戒に海警総隊をますます活用している。
(4) 全体として、聯合利剣2024Bは、3回実施された聯合利剣演習の一般的な傾向を継続している点で注目に値する。聯合利剣2024Bの特徴の第1は、聯合利剣2024B演習の実施期間が1日であり、従前の演習と比較して、期間、参加部隊数の両面で規模が比較的控えめだったことである。聯合利剣演習の規模が縮小した理由は不明である。第2に、聯合利剣2024Bは、聯合利剣2024Aで確立された包囲と想定上の封鎖の筋書きを継承しており、航空および海軍の作戦は明らかに上陸侵攻よりも封鎖の筋書きに向けられていた。台湾国防安全研究院(Institute for National Defense and Security Researchの蘇紫雲は、「今回は、いわゆる隔離または封鎖というかなり特別な要素があり、その中で彼らは封鎖能力を訓練した」と述べている。第3の、そしておそらく最も顕著な傾向は、中国軍の活動が台湾本島と台湾の小さな離島の両方に徐々に近づいていることである。公布された6つの演習海域は、台湾の接続水域に近接しているか、またはそこを横切っている。これは、台湾の領土主権に対する中国の軍事的圧力が大幅に高まっていることを示しており、12海里の領海線に着実に近づいている動きのさらなる前進である。
(5) 頼清徳総統の10月10日の演説に関する国際報道のほとんどは、台湾が事実上中国の主権から独立しているという頼清徳総統の主張に集中していた。こうした発言は予想どおり中国から非難された。5月の頼清徳の就任演説後の反応と同様に、軍事演習を正当化する頼清徳総統の双十節演説は、中国国営メディアが「独立促進の道を歩む台湾独立軍に対する強力な威嚇は、国家主権を守り国家統一を守るために必要な行動である」と主張した。独立を求めることは国家主権を守り、国家統一を守るために必要な行動である。
(6) 2024年10月14日の聯合利剣2024Bは、台湾に対する中国の徐々に強まる強制的な軍事圧力を継続することを目的とした、人民解放軍の一連の新たな軍事演習の一幕である。中国は、これらを台湾の政治指導者の行動や発言に対する自発的な反応として位置付けようとしているが、これらは、綿密に計画された憤りの爆発と理解する方が適切である。これらの演習は、近年人民解放軍海軍が実施している春と秋の空母戦闘群の訓練展開と一致しており、おそらくこれを包含している。
(7) 政治戦の要素は、これらおよび最近の人民解放軍の軍事演習を理解する鍵となる。人民解放軍の海軍および航空部隊の侵略は、段階的に徐々に忍び寄る「カエルを煮る」過程であり、台湾の住民と政治指導者を威嚇し、台湾政府がその領土に対して行使する実効的な主権を侵食することを意図している。この点で、台湾の接続水域を横切る軍事作戦区域の宣言は重大な挑発行為である。領海および領空に対する明白な侵害ではないが、規範に対する侵害であり、最終的には前者の方向を指し示すものである。政治戦の要素は、中国政府が計画中のこれらの演習を取り巻く言説の枠組みにも明確に表れており、一貫して、台湾の指導者による「台湾独立」の動きに対する憤慨した反応として描写している。この言説の枠組みは、これらの事象に関する国際メディアの報道に色を付けることに驚くほど成功しており、多くの場合、中国の発信を無批判に追随し、それによって中国政府を侵略者と特定するのではなく、台湾を扇動者として描いている。2024年の方式が続くとすれば、人民解放軍が2025年春に(でっち上げた口実で)「聯合利剣2025A」を実施し、2025年秋に(おそらく次の「双十」演説か、同様の口実の後に)「聯合利剣2025B」を実施する可能性が高い。中国の政治姿勢が変わる可能性は非常に低いが、「聯合利剣」の今後の反復は、中国指導部が台湾に対してどのような追加の段階的強制措置を講じることを決定するかを見る価値があるだろう。
(8)「聯合利剣2024B」には重大な政治戦の要素があり、中国のプロパガンダはこれを台湾の頼清徳総統の挑発的発言への反応として描写している。この演習は、台湾に継続的な圧力をかけ、人民解放軍の人員を将来の封鎖やその他の大規模な軍事的状況に備えさせることを目的とした、新たな一連の演習の一部である可能性がある。
記事参照:The PLA’s Joint Sword 2024B Exercise: Continuing Political Warfare and Creeping Territorial Encroachment
(1) 10月10日、台湾の頼清徳総統は台北で初の中華民国建国記念日演説を行ったが、中華人民共和国(以下、中国と言う)は演説の「分離主義的」内容を非難し、台湾周辺で新たな軍事演習を開始した。10月14日に実施されたこの演習は聯合利剣2024Bと名付けられ、人民解放軍による台湾周辺の海空域での多軍種協同演習となった。中国のプロパガンダは毎回、この演習は台湾の政治指導部に関連する政治的出来事への反応であると主張している。
(2) 2022年8月に台湾周辺で行われた人民解放軍の軍事演習は、(少なくとも名目上の)封鎖演習の始まりとなった。最初の聯合利剣演習は、2023年4月に実施され、台湾の象徴的な包囲と島の主要な拠点を狙った一連の模擬攻撃が含まれていた。「聯合利剣2024A」演習は、中国の主張によれば、頼清徳の就任演説への反応として、今年5月23日から24日にかけて実施され、島の象徴的な包囲が再度行われたほか、中国海警総隊による哨戒の役割が強化された
(3) 公開されているデータは限られているため、聯合利剣2024B作戦中に人民解放軍が実施した具体的な作戦については不明な点が多い。台湾国防部によれば、中国海軍艦艇14隻、海警船12隻が行動しており、「遼寧」空母戦闘群が含まれる。5月の「統合剣2024A」演習と同様に、今回の演習でも中国海警局の役割が運用面でも宣伝面でも拡大された。中国国営メディアは、演習当日に中国海警総隊の任務部隊が台湾を周回したと報じている。また、航空部隊は153機が出撃している。中国の海上作戦を国内法執行の日常的な演習として提示する取り組みの一環として、台湾の海岸線や離島に近い場所での哨戒に海警総隊をますます活用している。
(4) 全体として、聯合利剣2024Bは、3回実施された聯合利剣演習の一般的な傾向を継続している点で注目に値する。聯合利剣2024Bの特徴の第1は、聯合利剣2024B演習の実施期間が1日であり、従前の演習と比較して、期間、参加部隊数の両面で規模が比較的控えめだったことである。聯合利剣演習の規模が縮小した理由は不明である。第2に、聯合利剣2024Bは、聯合利剣2024Aで確立された包囲と想定上の封鎖の筋書きを継承しており、航空および海軍の作戦は明らかに上陸侵攻よりも封鎖の筋書きに向けられていた。台湾国防安全研究院(Institute for National Defense and Security Researchの蘇紫雲は、「今回は、いわゆる隔離または封鎖というかなり特別な要素があり、その中で彼らは封鎖能力を訓練した」と述べている。第3の、そしておそらく最も顕著な傾向は、中国軍の活動が台湾本島と台湾の小さな離島の両方に徐々に近づいていることである。公布された6つの演習海域は、台湾の接続水域に近接しているか、またはそこを横切っている。これは、台湾の領土主権に対する中国の軍事的圧力が大幅に高まっていることを示しており、12海里の領海線に着実に近づいている動きのさらなる前進である。
(5) 頼清徳総統の10月10日の演説に関する国際報道のほとんどは、台湾が事実上中国の主権から独立しているという頼清徳総統の主張に集中していた。こうした発言は予想どおり中国から非難された。5月の頼清徳の就任演説後の反応と同様に、軍事演習を正当化する頼清徳総統の双十節演説は、中国国営メディアが「独立促進の道を歩む台湾独立軍に対する強力な威嚇は、国家主権を守り国家統一を守るために必要な行動である」と主張した。独立を求めることは国家主権を守り、国家統一を守るために必要な行動である。
(6) 2024年10月14日の聯合利剣2024Bは、台湾に対する中国の徐々に強まる強制的な軍事圧力を継続することを目的とした、人民解放軍の一連の新たな軍事演習の一幕である。中国は、これらを台湾の政治指導者の行動や発言に対する自発的な反応として位置付けようとしているが、これらは、綿密に計画された憤りの爆発と理解する方が適切である。これらの演習は、近年人民解放軍海軍が実施している春と秋の空母戦闘群の訓練展開と一致しており、おそらくこれを包含している。
(7) 政治戦の要素は、これらおよび最近の人民解放軍の軍事演習を理解する鍵となる。人民解放軍の海軍および航空部隊の侵略は、段階的に徐々に忍び寄る「カエルを煮る」過程であり、台湾の住民と政治指導者を威嚇し、台湾政府がその領土に対して行使する実効的な主権を侵食することを意図している。この点で、台湾の接続水域を横切る軍事作戦区域の宣言は重大な挑発行為である。領海および領空に対する明白な侵害ではないが、規範に対する侵害であり、最終的には前者の方向を指し示すものである。政治戦の要素は、中国政府が計画中のこれらの演習を取り巻く言説の枠組みにも明確に表れており、一貫して、台湾の指導者による「台湾独立」の動きに対する憤慨した反応として描写している。この言説の枠組みは、これらの事象に関する国際メディアの報道に色を付けることに驚くほど成功しており、多くの場合、中国の発信を無批判に追随し、それによって中国政府を侵略者と特定するのではなく、台湾を扇動者として描いている。2024年の方式が続くとすれば、人民解放軍が2025年春に(でっち上げた口実で)「聯合利剣2025A」を実施し、2025年秋に(おそらく次の「双十」演説か、同様の口実の後に)「聯合利剣2025B」を実施する可能性が高い。中国の政治姿勢が変わる可能性は非常に低いが、「聯合利剣」の今後の反復は、中国指導部が台湾に対してどのような追加の段階的強制措置を講じることを決定するかを見る価値があるだろう。
(8)「聯合利剣2024B」には重大な政治戦の要素があり、中国のプロパガンダはこれを台湾の頼清徳総統の挑発的発言への反応として描写している。この演習は、台湾に継続的な圧力をかけ、人民解放軍の人員を将来の封鎖やその他の大規模な軍事的状況に備えさせることを目的とした、新たな一連の演習の一部である可能性がある。
記事参照:The PLA’s Joint Sword 2024B Exercise: Continuing Political Warfare and Creeping Territorial Encroachment
10月31日「中国が南シナ海で空母2隻による初の演習を実施―香港紙報道」(South China Morning Post, October 31, 2024)
10月31日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese navy holds first dual aircraft carrier drills in South China Sea”と題する記事を掲載し、中国海軍の空母2隻が参加する統合演習を初めて南シナ海で行ったことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 中国海軍の現役空母「遼寧」と「山東」が南シナ海において実施された2隻の空母が参加する演習を完了したと中国中央電視台が10月31日に報じた。この報道では演習の詳細には触れられていないが、「遼寧」から複数のJ-15戦闘機が発艦する映像が含まれており、少なくとも12機の戦闘機が実戦訓練に参加している様子が確認され、2隻の空母が並航している場面も映し出されていた。
(2) 元中国軍教官で現軍事評論家の宋忠平によれば、空母の強さは主に搭載する航空機の数に関連しており、「遼寧」と「山東」の航空戦力と攻撃力の総計は、一部の小規模または中規模の軍隊を上回るという。また、両空母は異なる早期警戒システムを有しており、異なる防空、対潜水艦、対艦能力を有する駆逐艦・フリゲートによって護衛されていると宋忠平は指摘している。2隻の空母から成る部隊は「戦力を倍増させる効果」があり、かつ「単純に『1+1が2以上』というだけではなく、それをはるかに上回る効果がある」と宋忠平は述べ、2隻の空母が一緒に運用されることで、より効果的な戦力を発揮できると強調している。 中国中央電視台の報道によれば、「遼寧」空母打撃群は黄海、東シナ海、南シナ海で行動を行った後、青島にある母港に帰投した。
(3) 中国国防部の報道官張暁剛上校によれば、外洋での戦闘訓練は「実戦的状況を想定した訓練」を含み、統合部隊としての「体系的な戦闘能力」の向上を目的としている。
(4) この報道に先立ち、10月8日頃、海南島の三亜海軍基地にある同じ埠頭に2隻の空母が停泊している衛星画像が、ソーシャルメディアの複数の公開情報アカウントで公開されていた。中国軍東部戦区が公開した映像には、「遼寧」が10月14日に台湾付近で行われた軍事演習に参加する様子が含まれており、「台湾独立勢力による分離活動への断固たる抑止」と述べており、10月23日、台湾国防部は「遼寧」空母打撃群が台湾海峡を北上したと発表した。
記事参照:Chinese navy holds first dual aircraft carrier drills in South China Sea
(1) 中国海軍の現役空母「遼寧」と「山東」が南シナ海において実施された2隻の空母が参加する演習を完了したと中国中央電視台が10月31日に報じた。この報道では演習の詳細には触れられていないが、「遼寧」から複数のJ-15戦闘機が発艦する映像が含まれており、少なくとも12機の戦闘機が実戦訓練に参加している様子が確認され、2隻の空母が並航している場面も映し出されていた。
(2) 元中国軍教官で現軍事評論家の宋忠平によれば、空母の強さは主に搭載する航空機の数に関連しており、「遼寧」と「山東」の航空戦力と攻撃力の総計は、一部の小規模または中規模の軍隊を上回るという。また、両空母は異なる早期警戒システムを有しており、異なる防空、対潜水艦、対艦能力を有する駆逐艦・フリゲートによって護衛されていると宋忠平は指摘している。2隻の空母から成る部隊は「戦力を倍増させる効果」があり、かつ「単純に『1+1が2以上』というだけではなく、それをはるかに上回る効果がある」と宋忠平は述べ、2隻の空母が一緒に運用されることで、より効果的な戦力を発揮できると強調している。 中国中央電視台の報道によれば、「遼寧」空母打撃群は黄海、東シナ海、南シナ海で行動を行った後、青島にある母港に帰投した。
(3) 中国国防部の報道官張暁剛上校によれば、外洋での戦闘訓練は「実戦的状況を想定した訓練」を含み、統合部隊としての「体系的な戦闘能力」の向上を目的としている。
(4) この報道に先立ち、10月8日頃、海南島の三亜海軍基地にある同じ埠頭に2隻の空母が停泊している衛星画像が、ソーシャルメディアの複数の公開情報アカウントで公開されていた。中国軍東部戦区が公開した映像には、「遼寧」が10月14日に台湾付近で行われた軍事演習に参加する様子が含まれており、「台湾独立勢力による分離活動への断固たる抑止」と述べており、10月23日、台湾国防部は「遼寧」空母打撃群が台湾海峡を北上したと発表した。
記事参照:Chinese navy holds first dual aircraft carrier drills in South China Sea
10月31日「南シナ海:フィリピン沿岸警備能力の他国との比較―香港紙報道」(South China Morning Post, October 31, 2024)
10月31日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: how does Philippines’ coastguard measure up against others?”と題する記事を掲載し、ここでマレーシアは沿岸警備能力を強化しながらも中国に対し静かな外交を採用し、自制心を働かせて危険性を軽減しており、フィリピンも同様に静かな外交と積極的な措置を組み合わせたハイブリッドな取り組みを採用しなければならないとして、要旨以下のように報じている。
(1) マレーシア、インドネシア、ベトナムは、南シナ海での緊張が続く中、海軍と沿岸警備隊の兵力を増強している。米国がPhilippine Coast Guard(以下、PCGと言う)に800万米ドルを支援したことで、南シナ海で中国との領有権争いが続くフィリピンの海洋戦略に注目が集まっているとともに、この地域の同様の領有権を主張している他の国の兵力も注目されている。専門家によると、係争中の海域における沿岸警備隊の船隊の規模と能力は、各国の歴史と戦略的利益によって異なり、インドネシアやマレーシアなどの国は、外国の侵入を抑止するために自国の海軍に大きく依存している。ある専門家は、この地域の多くの国の沿岸警備隊は十分な規模を持っていないと主張している。他の専門家によれば、フィリピンは「静かな外交」と「積極的な措置」のハイブリッド戦略を実施し、危険性に対する保険をかけておくべきであると述べている。
(2) 2024年10月28日、駐フィリピン米国大使館は800万米ドルの資金がPCGの基幹施設強化、訓練課程開発、資源獲得・管理計画を支援するという声明を出した。オーストラリアのInstitute for Regional Security最高経営責任者Chris Gardinerは、この動きは日本がすでに提供してきた多額の支援を補完するささやかな貢献であると述べている。PCGは現在、62隻の巡視船、4隻の支援船、469隻の補助船舶を運用している。日本政府は以前、国際協力機構(JICA)の政府開発援助(ADA)融資に基づいて、全長97mの巡視船2隻と多目的巡視船10隻をフィリピン政府に供与した。Chris Gardinerは「中国は、国内の法律とグレーゾーンのあいまいさを利用して、領土拡大運動を展開している。中国が海上境界線を争うために海警総隊の船舶を多用することは、中国が中国の領海で国内法を執行しようとして非軍事的な兵力や要員を配備しているだけであることとの意図を示すものである」とする一方、Chris Gardiner は係争海域で中国に対抗するためにフィリピンが海軍力を行使することは注意すべきであると警告して、「中国に対して海軍力を行使することは、紛争を軍事化し、中国の非軍事的な資産や人員を攻撃するために軍事力を使用したという告発に中国に対抗した国がさらされることになるので慎重にするべきである」と述べている。さらに、「民兵が支援する漁船団などを使用する中国の行動や、組織犯罪、人身売買、麻薬など違法な物品の引き渡しや運搬などの他の問題にも対処するためには、フィリピンへのさらなる資金援助が必要である」と述べている。
(3) 中国政府は、南シナ海でフィリピン船舶に対して放水銃の発射や強力なレーザーの使用など攻撃的な手段を用いて領有権を主張している。米国のこの800万ドルの資金援助は、フィリピンが防衛能力を強化するための2024年の2回目の財政支援である。中国は、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、ベトナムが領有権を主張する地域を含む南シナ海のほぼ全域で領有権を主張している。仲裁裁判所は、2016年に中国の領土主張を法的根拠がないと裁定し、これを棄却したが、中国はこの裁定を一貫して否定してきた。中国海警総隊は約500隻の船艇を保有しており、その中には、海軍の砲を含む充実した武装を装備した155隻以上の大型船も含まれている。
(4) フィリピンのシンクタンクInternational Development and Security CooperationのChester Cabalza所長は、各領有権主張国は、各国の利益に合うように沿岸警備隊の戦略と性能を考え、調整していると述べている。インドネシアは国防改革と軍近代化を早くから開始し、60m級の大型1級巡視船7隻、40m級の2級巡視艇15隻、各種の小型巡視船300隻を保有している。インドネシアは南シナ海の領有権を主張する国ではないが、係争海域がナツナ沖のEEZと重なっている。Chester Cabalzaは「インドネシアは沿岸警備隊のために高度な防衛兵器を購入し、UNCLOSを利用して法的な権利を強化させてきた。また、中国との海上における対立の歴史を持つベトナムは係争中の西沙諸島と南沙諸島の資産を強化しているように見える」と述べた。Cảnh sát biển Việt Nam(警察㴜越南、ベトナム海上警察)は、多用途巡視船や大型巡視船など100トンを超える64隻の船艇を運用しており、現地建造の2,200トンのDN-2000級巡視船と4隻のDN-4000級巡視船も取得している。
(5) マレーシアは、バガン・ダトゥク級巡視船6隻とトゥン・ファティマ級巡視船3隻を保有している。Chester Cabalzaは、マレーシアは沿岸警備能力を強化しながらも中国との「静かな外交」を採用し、「自制心を働かせて戦略的目標の危険性を軽減している」と述べている。しかし、オーストラリアのLowy InstituteのSoutheast Asia programme研究員Abdul Rahman Yaacobは、マレーシアとインドネシアの沿岸警備隊は自国の海洋権益を保護するための十分な船舶をまだ保有していないとして、Abdul Rahman Yaacobは「この2つの国はいまだに海軍に頼っている。インドネシアの軍艦が、Kesatuan Penjagaan Laut dan Pantai Republik Indonesia(インドネシア沿岸警備隊)を支援し中国海警総隊の海警船を追跡した。PCGは、南シナ海での哨戒と臨検を強化する際には地域機関の管轄権にも留意すべきである」と述べている。Chester Cabalzaは、フィリピンが中国の海洋活動に対抗するためにはより広範な取り組みを採用すべきであり、「フィリピンは、中国海警総隊の西フィリピン海域でのグレーゾーンと違法な活動を暴露する透明性戦略を最大限に活用してきたが、今や戦略目標を推進するために静かな外交と積極的な措置を組み合わせたハイブリッドな取り組みを採用しなければならない」と述べている。
記事参照:South China Sea: how does Philippines’ coastguard measure up against others?
(1) マレーシア、インドネシア、ベトナムは、南シナ海での緊張が続く中、海軍と沿岸警備隊の兵力を増強している。米国がPhilippine Coast Guard(以下、PCGと言う)に800万米ドルを支援したことで、南シナ海で中国との領有権争いが続くフィリピンの海洋戦略に注目が集まっているとともに、この地域の同様の領有権を主張している他の国の兵力も注目されている。専門家によると、係争中の海域における沿岸警備隊の船隊の規模と能力は、各国の歴史と戦略的利益によって異なり、インドネシアやマレーシアなどの国は、外国の侵入を抑止するために自国の海軍に大きく依存している。ある専門家は、この地域の多くの国の沿岸警備隊は十分な規模を持っていないと主張している。他の専門家によれば、フィリピンは「静かな外交」と「積極的な措置」のハイブリッド戦略を実施し、危険性に対する保険をかけておくべきであると述べている。
(2) 2024年10月28日、駐フィリピン米国大使館は800万米ドルの資金がPCGの基幹施設強化、訓練課程開発、資源獲得・管理計画を支援するという声明を出した。オーストラリアのInstitute for Regional Security最高経営責任者Chris Gardinerは、この動きは日本がすでに提供してきた多額の支援を補完するささやかな貢献であると述べている。PCGは現在、62隻の巡視船、4隻の支援船、469隻の補助船舶を運用している。日本政府は以前、国際協力機構(JICA)の政府開発援助(ADA)融資に基づいて、全長97mの巡視船2隻と多目的巡視船10隻をフィリピン政府に供与した。Chris Gardinerは「中国は、国内の法律とグレーゾーンのあいまいさを利用して、領土拡大運動を展開している。中国が海上境界線を争うために海警総隊の船舶を多用することは、中国が中国の領海で国内法を執行しようとして非軍事的な兵力や要員を配備しているだけであることとの意図を示すものである」とする一方、Chris Gardiner は係争海域で中国に対抗するためにフィリピンが海軍力を行使することは注意すべきであると警告して、「中国に対して海軍力を行使することは、紛争を軍事化し、中国の非軍事的な資産や人員を攻撃するために軍事力を使用したという告発に中国に対抗した国がさらされることになるので慎重にするべきである」と述べている。さらに、「民兵が支援する漁船団などを使用する中国の行動や、組織犯罪、人身売買、麻薬など違法な物品の引き渡しや運搬などの他の問題にも対処するためには、フィリピンへのさらなる資金援助が必要である」と述べている。
(3) 中国政府は、南シナ海でフィリピン船舶に対して放水銃の発射や強力なレーザーの使用など攻撃的な手段を用いて領有権を主張している。米国のこの800万ドルの資金援助は、フィリピンが防衛能力を強化するための2024年の2回目の財政支援である。中国は、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、ベトナムが領有権を主張する地域を含む南シナ海のほぼ全域で領有権を主張している。仲裁裁判所は、2016年に中国の領土主張を法的根拠がないと裁定し、これを棄却したが、中国はこの裁定を一貫して否定してきた。中国海警総隊は約500隻の船艇を保有しており、その中には、海軍の砲を含む充実した武装を装備した155隻以上の大型船も含まれている。
(4) フィリピンのシンクタンクInternational Development and Security CooperationのChester Cabalza所長は、各領有権主張国は、各国の利益に合うように沿岸警備隊の戦略と性能を考え、調整していると述べている。インドネシアは国防改革と軍近代化を早くから開始し、60m級の大型1級巡視船7隻、40m級の2級巡視艇15隻、各種の小型巡視船300隻を保有している。インドネシアは南シナ海の領有権を主張する国ではないが、係争海域がナツナ沖のEEZと重なっている。Chester Cabalzaは「インドネシアは沿岸警備隊のために高度な防衛兵器を購入し、UNCLOSを利用して法的な権利を強化させてきた。また、中国との海上における対立の歴史を持つベトナムは係争中の西沙諸島と南沙諸島の資産を強化しているように見える」と述べた。Cảnh sát biển Việt Nam(警察㴜越南、ベトナム海上警察)は、多用途巡視船や大型巡視船など100トンを超える64隻の船艇を運用しており、現地建造の2,200トンのDN-2000級巡視船と4隻のDN-4000級巡視船も取得している。
(5) マレーシアは、バガン・ダトゥク級巡視船6隻とトゥン・ファティマ級巡視船3隻を保有している。Chester Cabalzaは、マレーシアは沿岸警備能力を強化しながらも中国との「静かな外交」を採用し、「自制心を働かせて戦略的目標の危険性を軽減している」と述べている。しかし、オーストラリアのLowy InstituteのSoutheast Asia programme研究員Abdul Rahman Yaacobは、マレーシアとインドネシアの沿岸警備隊は自国の海洋権益を保護するための十分な船舶をまだ保有していないとして、Abdul Rahman Yaacobは「この2つの国はいまだに海軍に頼っている。インドネシアの軍艦が、Kesatuan Penjagaan Laut dan Pantai Republik Indonesia(インドネシア沿岸警備隊)を支援し中国海警総隊の海警船を追跡した。PCGは、南シナ海での哨戒と臨検を強化する際には地域機関の管轄権にも留意すべきである」と述べている。Chester Cabalzaは、フィリピンが中国の海洋活動に対抗するためにはより広範な取り組みを採用すべきであり、「フィリピンは、中国海警総隊の西フィリピン海域でのグレーゾーンと違法な活動を暴露する透明性戦略を最大限に活用してきたが、今や戦略目標を推進するために静かな外交と積極的な措置を組み合わせたハイブリッドな取り組みを採用しなければならない」と述べている。
記事参照:South China Sea: how does Philippines’ coastguard measure up against others?
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Energy Security and the U.S.-Philippine Alliance
https://www.csis.org/analysis/energy-security-and-us-philippine-alliance
Center for Strategic and International Studies, October 21, 2024
By Harrison Prétat is deputy director and fellow with the Asia Maritime Transparency Initiative at the Center for Strategic and International Studies
Yasir Atalan is an associate fellow in the International Security Program at the Center for Strategic and International Studies
Benjamin Jensen is a senior fellow for Futures Lab in the International Security Program at the Center for Strategic and International Studies
2024年10月21日、米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのAsia Maritime Transparency InitiativeのHarrison Prétat副所長、同CenterのInternational Security Program のYasir Atalan専門研究員、同CenterのFutures Lab in the International Security Program のBenjamin Jensen上席研究員の3名は、同Centerのウエブサイトに“Energy Security and the U.S.-Philippine Alliance”と題する論説を寄稿した。その中で3名は、米国とフィリピンのエネルギー安全保障の課題は南シナ海における中国の脅威やフィリピンのエネルギー依存構造によって複雑化しているが、フィリピンのエネルギーは石炭と輸入化石燃料に大きく依存しており、特に発電の60%が石炭によって賄われていることが課題であり、さらに、フィリピンの電力網は中国資本が関与しているため、地政学的な危険性が増大していると指摘している。そして3名は、このような状況下で米国は、フィリピンとのエネルギー協力を強化し、液化天然ガス(LNG)供給用の基幹施設や再生可能エネルギー導入のための支援を行っているが、2024年の「Luzon Economic Corridor(ルソン経済回廊)」構想を通じて、フィリピンと日本との連携も推進されており、地域のエネルギー安全保障の強化が図られているほか、米国はフィリピンのエネルギー供給の多様化を支援し、地域のエネルギー基幹施設のデジタル化やサイバーセキュリティ対策の強化を進めているとした上で、米国とフィリピンはエネルギー安全保障対話やエネルギー政策の調整を通じて、同盟の戦略的自律性を高め、地域の安定に貢献することが求められると主張している。
(2) DESPITE DOUBTS, THE QUAD IS HERE TO STAY
https://www.9dashline.com/article/despite-doubts-the-quad-is-here-to-stay
9Dashline, October 22, 2024
By Lucas Myers is a Senior Associate for Southeast Asia with the Indo-Pacific Program at the Wilson Center
2024 年10月22日、米シンクタンクWilson Center上席研究員Lucas Myersは、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineに、“DESPITE DOUBTS, THE QUAD IS HERE TO STAY”と題する論説を寄稿した。その中で、①2024年9月に開催された第4回QUAD首脳会談では、中国を名指しすることを避け、公的利益に焦点を当てた内容が期待されていたような安全保障同盟とは異なるものだった。②しかし、2017年に復活して以来、QUADの軌跡は依然として前向きであり、その進展が緩やかであっても、新たな取り組みや成果を生み出し続けると考えられる。③QUADは現在、「中国をどれだけ意識しているのか?」「その公共財提供の取り組みは効果的か?」という二つの問いに直面している。④QUADを構成する4ヵ国の政府関係者は、この集団は中国に対抗するための連合ではないと断言している。⑤大規模基幹施設構想や顕著な成果はほとんど見られず、QUADの公共財提供では、中国のインド太平洋における経済的優位性に対抗するには不十分である。⑥しかし、QUADは、数年単位ではなく数十年単位で測る競争に備えて基盤を整備している段階である。⑦QUADはインド太平洋地域の法に基づく秩序を維持することを目的としており、それに対する最大の脅威は中国であるため、QUADの公共財提供は地域に対する一種の対案となる。⑧QUADが大国間競争で果たすべき役割は公共財問題に取り組み、インドを法に基づく秩序を支持する連合に組み込むことであり、米国中心の安全保障体制に追加することではない。⑨仮に指導者交代の混乱があったとしても、QUADは現在の前向きな軌跡を維持する可能性が高いといった主張を述べている。
(3) Russian Pacific Fleet Redux: Japan’s North as a New Center of Gravity
https://warontherocks.com/2024/10/russian-pacific-fleet-redux-japans-north-as-a-new-center-of-gravity/
War on the Rocks, October 22, 2024
By Yu Koizumi is an associate professor at the Research Center for Advanced Science and Technology at the University of Tokyo.
2024年10月22日、笹川平和財団上席研究員で東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Russian Pacific Fleet Redux: Japan’s North as a New Center of Gravity”と題する論説を寄稿した。その中で小泉悠は、日本周辺の北方海域におけるロシアの潜水艦活動が活発化しており、特に弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)の配備強化が日米同盟に新たな負担をかけており、冷戦期における対ソ防衛体制を彷彿とさせるが、現在は中国もオホーツク海での軍事活動を行い、日米同盟の抑止力が限られる中、ロシアと中国の協力関係が複雑さを増していると指摘した上で、Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)は新型のボレイA級SSBNの導入で強化され、今後もその活動が続く見込みであり、これに対処するため、日本は防衛費の増額とともに防衛協力を強化していると述べている。そして小泉悠は、具体的には、岸田政権の防衛費GDP2%目標や、日本と韓国、オーストラリア、カナダなどとの多国間の協力枠組みが有効と見込まれているが、特にカナダとの潜水艦協力が検討されるなど、北太平洋の力の均衡を維持するための取り組みが進んでいるとし、将来的には、日本や韓国が共同で津軽海峡や東シナ海の監視任務を分担するなどの、多国間の安全保障網の拡大が期待されると主張している。
(4) The Return of Total War: Understanding—and Preparing for—a New Era of Comprehensive Conflict
https://www.foreignaffairs.com/ukraine/return-total-war-karlin
Foreign Affairs, November/December 2024, Published on October 22, 2024
By Mara Karlin, a Professor at Johns Hopkins University’s School of Advanced International Studies, and a Visiting Fellow at the Brookings Institution (From 2021 to 2023, she served as U.S. Assistant Secretary of Defense for Strategy, Plans, and Capabilities)
2024年10月24日、2021年から2023年までU.S. Assistant Secretary of Defense for Strategy, Plans, and Capabilitiesを務めた米Johns Hopkins Universityの School of Advanced International Studies のMara Karlin教授は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“The Return of Total War: Understanding—and Preparing for—a New Era of Comprehensive Conflict”と題する論説を寄稿した。その中でMara Karlinは、現代の戦争は「総力戦(Total War)」の様相を呈しており、米国は新たな総力戦時代に対応する準備を急ぐ必要があるとした上で、戦後、テロリズムや非国家主体に対する限定的な戦争が中心だったが、ウクライナや中東の紛争により、国家同士の全面戦争が再び注目されるようになり、特に、中国やロシアといった核保有国の脅威は、従来の核抑止戦略を複雑化させていると述べている。そしてMara Karlinは、米国の戦略家は中国の台湾進攻を抑止するためには信頼性のある準備が必要だとして、同盟国や提携国との協力強化の必要性を強調しているが、実際に米国は、インド太平洋地域での基地拡大や部隊の分散化、インドやオーストラリア、そして日本との防衛協力の強化を進めているだけでなく、技術や無人機を駆使した戦闘の多様化が進んだことから、戦場では従来の戦力に加え、非国家主体や商業企業も関与するようになっていると指摘した上で、まとめとして、米国はこのような「総力戦」の時代に備え、迅速な支援と現実的な戦闘の筋書きに基づいた準備が求められており、これにより、戦争の勃発を回避し、インド太平洋地域での平和と安定を維持することが期待されていると主張している。
(1) Energy Security and the U.S.-Philippine Alliance
https://www.csis.org/analysis/energy-security-and-us-philippine-alliance
Center for Strategic and International Studies, October 21, 2024
By Harrison Prétat is deputy director and fellow with the Asia Maritime Transparency Initiative at the Center for Strategic and International Studies
Yasir Atalan is an associate fellow in the International Security Program at the Center for Strategic and International Studies
Benjamin Jensen is a senior fellow for Futures Lab in the International Security Program at the Center for Strategic and International Studies
2024年10月21日、米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのAsia Maritime Transparency InitiativeのHarrison Prétat副所長、同CenterのInternational Security Program のYasir Atalan専門研究員、同CenterのFutures Lab in the International Security Program のBenjamin Jensen上席研究員の3名は、同Centerのウエブサイトに“Energy Security and the U.S.-Philippine Alliance”と題する論説を寄稿した。その中で3名は、米国とフィリピンのエネルギー安全保障の課題は南シナ海における中国の脅威やフィリピンのエネルギー依存構造によって複雑化しているが、フィリピンのエネルギーは石炭と輸入化石燃料に大きく依存しており、特に発電の60%が石炭によって賄われていることが課題であり、さらに、フィリピンの電力網は中国資本が関与しているため、地政学的な危険性が増大していると指摘している。そして3名は、このような状況下で米国は、フィリピンとのエネルギー協力を強化し、液化天然ガス(LNG)供給用の基幹施設や再生可能エネルギー導入のための支援を行っているが、2024年の「Luzon Economic Corridor(ルソン経済回廊)」構想を通じて、フィリピンと日本との連携も推進されており、地域のエネルギー安全保障の強化が図られているほか、米国はフィリピンのエネルギー供給の多様化を支援し、地域のエネルギー基幹施設のデジタル化やサイバーセキュリティ対策の強化を進めているとした上で、米国とフィリピンはエネルギー安全保障対話やエネルギー政策の調整を通じて、同盟の戦略的自律性を高め、地域の安定に貢献することが求められると主張している。
(2) DESPITE DOUBTS, THE QUAD IS HERE TO STAY
https://www.9dashline.com/article/despite-doubts-the-quad-is-here-to-stay
9Dashline, October 22, 2024
By Lucas Myers is a Senior Associate for Southeast Asia with the Indo-Pacific Program at the Wilson Center
2024 年10月22日、米シンクタンクWilson Center上席研究員Lucas Myersは、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineに、“DESPITE DOUBTS, THE QUAD IS HERE TO STAY”と題する論説を寄稿した。その中で、①2024年9月に開催された第4回QUAD首脳会談では、中国を名指しすることを避け、公的利益に焦点を当てた内容が期待されていたような安全保障同盟とは異なるものだった。②しかし、2017年に復活して以来、QUADの軌跡は依然として前向きであり、その進展が緩やかであっても、新たな取り組みや成果を生み出し続けると考えられる。③QUADは現在、「中国をどれだけ意識しているのか?」「その公共財提供の取り組みは効果的か?」という二つの問いに直面している。④QUADを構成する4ヵ国の政府関係者は、この集団は中国に対抗するための連合ではないと断言している。⑤大規模基幹施設構想や顕著な成果はほとんど見られず、QUADの公共財提供では、中国のインド太平洋における経済的優位性に対抗するには不十分である。⑥しかし、QUADは、数年単位ではなく数十年単位で測る競争に備えて基盤を整備している段階である。⑦QUADはインド太平洋地域の法に基づく秩序を維持することを目的としており、それに対する最大の脅威は中国であるため、QUADの公共財提供は地域に対する一種の対案となる。⑧QUADが大国間競争で果たすべき役割は公共財問題に取り組み、インドを法に基づく秩序を支持する連合に組み込むことであり、米国中心の安全保障体制に追加することではない。⑨仮に指導者交代の混乱があったとしても、QUADは現在の前向きな軌跡を維持する可能性が高いといった主張を述べている。
(3) Russian Pacific Fleet Redux: Japan’s North as a New Center of Gravity
https://warontherocks.com/2024/10/russian-pacific-fleet-redux-japans-north-as-a-new-center-of-gravity/
War on the Rocks, October 22, 2024
By Yu Koizumi is an associate professor at the Research Center for Advanced Science and Technology at the University of Tokyo.
2024年10月22日、笹川平和財団上席研究員で東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Russian Pacific Fleet Redux: Japan’s North as a New Center of Gravity”と題する論説を寄稿した。その中で小泉悠は、日本周辺の北方海域におけるロシアの潜水艦活動が活発化しており、特に弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)の配備強化が日米同盟に新たな負担をかけており、冷戦期における対ソ防衛体制を彷彿とさせるが、現在は中国もオホーツク海での軍事活動を行い、日米同盟の抑止力が限られる中、ロシアと中国の協力関係が複雑さを増していると指摘した上で、Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)は新型のボレイA級SSBNの導入で強化され、今後もその活動が続く見込みであり、これに対処するため、日本は防衛費の増額とともに防衛協力を強化していると述べている。そして小泉悠は、具体的には、岸田政権の防衛費GDP2%目標や、日本と韓国、オーストラリア、カナダなどとの多国間の協力枠組みが有効と見込まれているが、特にカナダとの潜水艦協力が検討されるなど、北太平洋の力の均衡を維持するための取り組みが進んでいるとし、将来的には、日本や韓国が共同で津軽海峡や東シナ海の監視任務を分担するなどの、多国間の安全保障網の拡大が期待されると主張している。
(4) The Return of Total War: Understanding—and Preparing for—a New Era of Comprehensive Conflict
https://www.foreignaffairs.com/ukraine/return-total-war-karlin
Foreign Affairs, November/December 2024, Published on October 22, 2024
By Mara Karlin, a Professor at Johns Hopkins University’s School of Advanced International Studies, and a Visiting Fellow at the Brookings Institution (From 2021 to 2023, she served as U.S. Assistant Secretary of Defense for Strategy, Plans, and Capabilities)
2024年10月24日、2021年から2023年までU.S. Assistant Secretary of Defense for Strategy, Plans, and Capabilitiesを務めた米Johns Hopkins Universityの School of Advanced International Studies のMara Karlin教授は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“The Return of Total War: Understanding—and Preparing for—a New Era of Comprehensive Conflict”と題する論説を寄稿した。その中でMara Karlinは、現代の戦争は「総力戦(Total War)」の様相を呈しており、米国は新たな総力戦時代に対応する準備を急ぐ必要があるとした上で、戦後、テロリズムや非国家主体に対する限定的な戦争が中心だったが、ウクライナや中東の紛争により、国家同士の全面戦争が再び注目されるようになり、特に、中国やロシアといった核保有国の脅威は、従来の核抑止戦略を複雑化させていると述べている。そしてMara Karlinは、米国の戦略家は中国の台湾進攻を抑止するためには信頼性のある準備が必要だとして、同盟国や提携国との協力強化の必要性を強調しているが、実際に米国は、インド太平洋地域での基地拡大や部隊の分散化、インドやオーストラリア、そして日本との防衛協力の強化を進めているだけでなく、技術や無人機を駆使した戦闘の多様化が進んだことから、戦場では従来の戦力に加え、非国家主体や商業企業も関与するようになっていると指摘した上で、まとめとして、米国はこのような「総力戦」の時代に備え、迅速な支援と現実的な戦闘の筋書きに基づいた準備が求められており、これにより、戦争の勃発を回避し、インド太平洋地域での平和と安定を維持することが期待されていると主張している。
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