海洋安全保障情報旬報 2024年7月11日-7月20日
Contents
7月11日「インド太平洋におけるNATO―米専門家論説」(Japan Forward, Hudson Institute, July 11, 2024)
7月11日付のHudson InstituteのウエブサイトJapan Forwardは、同Institute Japan Chair上席研究員James Przystupの“ NATO in the Indo-Pacific, Where ‘East is East…’”と題する論説を掲載し、ここでJames Przystupは「東洋は東洋、西洋は西洋であり、決して両者が出会うことはない」という説があったが、今はそうではなくなっているとして、要旨以下のように述べている。
(1)「東洋は東洋であり、西洋は西洋であり、決して両者が出会うことはない」とRudyard Kiplingは1892年に書いている。当時は確かにそうだったが、現在では、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドがNATO首脳会議に3度も参加をしている。それは、Vladimir Putin、習近平、金正恩、そしてイランの指導者による行動の影響である。
(2) QUAD首脳は、2022年3月3日のテレビ会議で、ロシアのウクライナ侵攻がもたらした国際危機について話し合った。また、欧州危機がインド太平洋地域の安定と安全保障に波及する可能性についても議論している。そして、共同声明は「すべての国の主権と領土保全が尊重され、各国が軍事的、経済的、政治的強制から解放される、自由で開かれたインド太平洋」への関与を再確認した。
(3) 日本の関与を強調するため、岸田文雄首相は2023年3月21日、ウクライナのブチャを訪れ、Volodymyr Zelenskyy大統領と会談し、広島で開催されるG7サミットに同大統領を招待している。ロシアの侵攻以来、日本のウクライナへの財政支援は総額120億米ドル以上にのぼり、防弾チョッキ、ヘルメット、地雷探知機、技術訓練などの殺傷を伴わない防衛装備品を提供してきた。また、人道復興支援も行っている。
(4) Yoon Suk-yeol(尹錫悦)韓国大統領は、2023年7月にウクライナを訪問した。韓国は、積極的に敵対行為を行っている国には武器を提供しないという方針を維持しながらも、10万発以上の砲弾を米国に譲渡しており、これにより、米国は在庫の弾薬をウクライナに供給することができた。韓国はウクライナに防護服、ヘルメット、地雷除去装置なども供与し、さらに人道支援は、2022年の1億ドルから翌2023年には1億5,000万ドルに増加している
(5) インド太平洋地域では他に、オーストラリアのRichard Marles副首相が2024年4月、ウクライナを訪問し、短距離防空システムに5,000万ドル、無人偵察機に3,000万ドル、ヘルメットなどの防衛装備品に1,500万ドルを供与した。これにより、オーストラリアのウクライナへの軍事支援は8億8,000万ドルに達し、支援総額は10億ドルを超えている。ニュージーランドも同様に、ロシアの侵攻以来、ウクライナ支援に1億ドル以上を約束している。その中には軍事訓練と装備品への7,700万ドルも含まれており、ウクライナ軍の訓練を支援するため、97人の防衛要員を欧州に派遣している。さらに人道支援として2,193万ドル、人権監視と法的手続きの支援に520万ドルを拠出した。
(6) インド太平洋地域諸国が欧州への関与を深める一方で、欧州・大西洋共同体もインド太平洋地域への関わりを深める動きを見せている。過去半世紀にわたり、欧州の安全保障に関する文書は、いずれも欧州の安全と繁栄にとってインド太平洋地域の安定が重要であることに焦点を当てている。これらの文書は、インド太平洋の地域秩序と広範な法に基づく国際システムに対して中国が突きつけている課題を強調している。
(7) 英国は2021年、インド太平洋への関与を深める方向への傾斜と、同地域における永続的な配備の確立への関与を発表した。2023年に発表された「戦略見直し・リフレッシュ(Strategic Review Refresh)」では、インド太平洋における緊張は高まっており、インド太平洋における紛争はウクライナ紛争を上回る世界的な影響をもたらす可能性があると指摘している。ロシアのウクライナへの侵攻は、南シナ海や台湾海峡における中国の攻撃的な姿勢と相まって、危険、無秩序、分裂によって規定される世界、および権威主義により有利な国際秩序を生み出す恐れがある。また英国と日本は、2023年1月に部隊間協力円滑化協定に署名している。
(8) フランスのインド太平洋防衛戦略は、「中国の行動と野心の規模は、インド太平洋における均衡と軍事関係のすべてを再定義するもの」と評価している。同戦略は欧州の提携国に対し、利害関係のあるこの地域により深く関与することを奨励し、さらに、インド太平洋における戦略的対立の激化は、欧州の安全保障に直接的な影響を及ぼす可能性があると警告している。その後、オーストラリアと防衛協力強化に関する協定の下で、フランスとオーストラリアは配備の相互支援、作戦への関与、情報の共有などを行うことになると述べており、フランスは日本とともに、南シナ海での課題に対応するための新たな一連の共同演習にも合意している。
(9) 2024年、NATO首脳会議はNATOと個々の欧州同盟国の安全保障上の焦点を明確にしている。NATOの関心は当面、Putin大統領とウクライナ紛争に向けられるだろう。しかし、インド太平洋地域との外交・安全保障上の関与の拡大は、重要な規範的価値を持ち、外交的抑止力を高めることができる。特に、現状を変えるために武力や強制力を行使することにNATOは反対を表明している。岸田首相は2023年のMacronフランス大統領との首脳会談で「今後、欧州の安全保障とインド太平洋の安全保障は不可分」と述べ、Antony Blinken米国務長官も「欧州の提携国が、地球の裏側にある課題を自分たちに関係する課題だと考えることが増えているのと同様に、アジアの提携国も、地球の裏側にある欧州の課題を自分たちに関係する課題だと考えることが増えている」と指摘している。すなわち、西洋と東洋は出会ったのである。
記事参照:NATO in the Indo-Pacific, Where 'East is East…'
(1)「東洋は東洋であり、西洋は西洋であり、決して両者が出会うことはない」とRudyard Kiplingは1892年に書いている。当時は確かにそうだったが、現在では、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドがNATO首脳会議に3度も参加をしている。それは、Vladimir Putin、習近平、金正恩、そしてイランの指導者による行動の影響である。
(2) QUAD首脳は、2022年3月3日のテレビ会議で、ロシアのウクライナ侵攻がもたらした国際危機について話し合った。また、欧州危機がインド太平洋地域の安定と安全保障に波及する可能性についても議論している。そして、共同声明は「すべての国の主権と領土保全が尊重され、各国が軍事的、経済的、政治的強制から解放される、自由で開かれたインド太平洋」への関与を再確認した。
(3) 日本の関与を強調するため、岸田文雄首相は2023年3月21日、ウクライナのブチャを訪れ、Volodymyr Zelenskyy大統領と会談し、広島で開催されるG7サミットに同大統領を招待している。ロシアの侵攻以来、日本のウクライナへの財政支援は総額120億米ドル以上にのぼり、防弾チョッキ、ヘルメット、地雷探知機、技術訓練などの殺傷を伴わない防衛装備品を提供してきた。また、人道復興支援も行っている。
(4) Yoon Suk-yeol(尹錫悦)韓国大統領は、2023年7月にウクライナを訪問した。韓国は、積極的に敵対行為を行っている国には武器を提供しないという方針を維持しながらも、10万発以上の砲弾を米国に譲渡しており、これにより、米国は在庫の弾薬をウクライナに供給することができた。韓国はウクライナに防護服、ヘルメット、地雷除去装置なども供与し、さらに人道支援は、2022年の1億ドルから翌2023年には1億5,000万ドルに増加している
(5) インド太平洋地域では他に、オーストラリアのRichard Marles副首相が2024年4月、ウクライナを訪問し、短距離防空システムに5,000万ドル、無人偵察機に3,000万ドル、ヘルメットなどの防衛装備品に1,500万ドルを供与した。これにより、オーストラリアのウクライナへの軍事支援は8億8,000万ドルに達し、支援総額は10億ドルを超えている。ニュージーランドも同様に、ロシアの侵攻以来、ウクライナ支援に1億ドル以上を約束している。その中には軍事訓練と装備品への7,700万ドルも含まれており、ウクライナ軍の訓練を支援するため、97人の防衛要員を欧州に派遣している。さらに人道支援として2,193万ドル、人権監視と法的手続きの支援に520万ドルを拠出した。
(6) インド太平洋地域諸国が欧州への関与を深める一方で、欧州・大西洋共同体もインド太平洋地域への関わりを深める動きを見せている。過去半世紀にわたり、欧州の安全保障に関する文書は、いずれも欧州の安全と繁栄にとってインド太平洋地域の安定が重要であることに焦点を当てている。これらの文書は、インド太平洋の地域秩序と広範な法に基づく国際システムに対して中国が突きつけている課題を強調している。
(7) 英国は2021年、インド太平洋への関与を深める方向への傾斜と、同地域における永続的な配備の確立への関与を発表した。2023年に発表された「戦略見直し・リフレッシュ(Strategic Review Refresh)」では、インド太平洋における緊張は高まっており、インド太平洋における紛争はウクライナ紛争を上回る世界的な影響をもたらす可能性があると指摘している。ロシアのウクライナへの侵攻は、南シナ海や台湾海峡における中国の攻撃的な姿勢と相まって、危険、無秩序、分裂によって規定される世界、および権威主義により有利な国際秩序を生み出す恐れがある。また英国と日本は、2023年1月に部隊間協力円滑化協定に署名している。
(8) フランスのインド太平洋防衛戦略は、「中国の行動と野心の規模は、インド太平洋における均衡と軍事関係のすべてを再定義するもの」と評価している。同戦略は欧州の提携国に対し、利害関係のあるこの地域により深く関与することを奨励し、さらに、インド太平洋における戦略的対立の激化は、欧州の安全保障に直接的な影響を及ぼす可能性があると警告している。その後、オーストラリアと防衛協力強化に関する協定の下で、フランスとオーストラリアは配備の相互支援、作戦への関与、情報の共有などを行うことになると述べており、フランスは日本とともに、南シナ海での課題に対応するための新たな一連の共同演習にも合意している。
(9) 2024年、NATO首脳会議はNATOと個々の欧州同盟国の安全保障上の焦点を明確にしている。NATOの関心は当面、Putin大統領とウクライナ紛争に向けられるだろう。しかし、インド太平洋地域との外交・安全保障上の関与の拡大は、重要な規範的価値を持ち、外交的抑止力を高めることができる。特に、現状を変えるために武力や強制力を行使することにNATOは反対を表明している。岸田首相は2023年のMacronフランス大統領との首脳会談で「今後、欧州の安全保障とインド太平洋の安全保障は不可分」と述べ、Antony Blinken米国務長官も「欧州の提携国が、地球の裏側にある課題を自分たちに関係する課題だと考えることが増えているのと同様に、アジアの提携国も、地球の裏側にある欧州の課題を自分たちに関係する課題だと考えることが増えている」と指摘している。すなわち、西洋と東洋は出会ったのである。
記事参照:NATO in the Indo-Pacific, Where 'East is East…'
7月11日「南シナ海仲裁裁定は『誤謬かつ有害』、中国シンクタンク報告書―環球時報報道」(Global Times, July 11, 2024)
7月11日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は、“Report outlines fallacies, damaging effect of S. China Sea Arbitration Award”と題する記事を掲載し、2016年7月12日に公表された南シナ海仲裁判所仲裁裁定8周年に際し、中国のシンクタンクが合同で発表した報告書の概要を紹介し、報告書は仲裁裁定の「誤謬と有害な影響」を概説しているとして、要旨以下のように報じている。
(1)“Critique of the South China Sea Arbitration Award”(南海仲裁案裁決再批駁)と題する報告書*は7月11日、華陽海洋研究中心、中国南海研究院および中国国際法学会によって作成され、発表された。報告書は、政治的動機による判決は紛争解決のための「万能薬」ではないとして、ハーグでの仲裁裁判の不公正さと南シナ海におけるフィリピンの主張の非合法性を批判している。さらに、報告書は仲裁裁定が実行可能な解決策を提示しておらず、既に複雑な問題を一層複雑にしただけであるとして、中国の「不受諾、不参加、非承認」の立場を再確認した上で、仲裁裁定に基づく如何なる主張や行動も否定すると述べている。(報告書の作成に参加した)専門家らは、仲裁裁定は南シナ海の平和と安定にとって「問題を引き起こす要因」となっているばかりか、中国と関係当事国との2国間関係を「台無しにするもの」にもなっていると指摘している。また、中国南海研究院の呉士存創始院長は7月11日の報告書発表記者会見で、中比間で進行中の法的紛争が拡大していると述べている。
(2) 報告書は、南沙諸島は中国固有の領土であると強調した上で、南シナ海における中国人の活動は2,000年以上前に遡るなどと、それを裏付ける中国の主張を展開している。そして、南沙諸島の一部に対するフィリピンの領有権主張は歴史的にも、また国際法上からも根拠がないとして詳細に反論している。英語版、中国語版共に2023年に発刊されたThe History and Sovereignty of the South China Sea Islands(中国語題:『南海的歴史与主権』)の著者で英国際法学者Anthony Cartyは環球時報との最近のインタビューで、フィリピンには南シナ海で領有権を主張する如何なる権利もなく、記録文書類は南シナ海に対する中国の主張を裏付けているとした上で、「いったい何故、フィリピンが南シナ海の島嶼に対する主権を主張できるのか、私には分からない。フランス、イギリス、中国、アメリカおよび日本の公文書類は、フィリピンは如何なる領有権も保持していないという点で一致している」と述べており、Anthony Cartyは、2016年のいわゆる南シナ海仲裁裁判所裁定を、「国際法の混沌とした操作的な適用」「二重基準の裁定」そして「法的ごまかし」と決め付けている。
(3) 中国が仲裁裁定を受け入れられない理由について、報告書はまず、フィリピンの提訴が領土主権と海洋境界画定問題に関わるものであり、したがって、仲裁裁判所にはフィリピンの提訴に対する管轄権がないことを強調している。領土主権は仲裁裁定が主たる論拠としているUNCLOSの適用外であり、海洋境界画定は中国によって仲裁手続きから除外されてきた。報告書は、「9段線」をUNCLOS違反とした仲裁裁定に対して、「南シナ海における中国の歴史的権原と歴史的権利(the "historic title and historic rights)は、国際慣習法の規範の下で長い間確立されてきた」と主張している。さらに、報告書は2016年の仲裁裁判所の仲裁人の政治的背景にも疑義を呈している。仲裁人はドイツ、ポーランド、フランス、オランダおよびガーナ出身の5人で、アジア出身者はいない。この結果、仲裁裁定の意思決定に提供されるべき、アジアの文化、外交的および法的伝統、そしてその他の地域的要因がほとんど考慮されない仲裁法廷となった。報告書は「仲裁裁定は紛争解決のための万能薬ではない。国際司法機関と仲裁機関の目的は紛争を効果的に解決することだが、この目的は、政治的に動機付けられ、操作され、しかも健全かつ十分な法的根拠に基づいた一方の当事者によって拒絶されるような、法的正当性を欠く仲裁裁判によって出された根拠のない仲裁裁定によっては実現できない」と強調している。
(4) フィリピンのメディアは、フィリピンが環境問題で中国に対して2度目の国際仲裁裁判の開始を検討していると報じている。香港亞洲研究中心の彭念主任は環球時報に対して、「環境問題で中国に対する新たな仲裁裁判を開始することは、中国に対するフィリピンの認知戦の新たな方向性であり、新たな戦場である。フィリピンが主権主張や中国海警船との最近の諍いであまり優位に立っていないことを考えれば、このフィリピンの新たな試みは、中国に環境破壊者としてのレッテルを貼り付けることに狙いがある。しかしながら、フィリピンの試みは失敗する運命にある」と語っている。
(5) 呉士存は2016年の仲裁裁定に反証するとともに、域内外の各国の誤った声明に反論することは、新たな法律論争を誘発することを意図したものではなく、南シナ海の平和と安定を乱し、中比関係を妨害し、そして仲裁裁定から利益を得ようとする、諸活動や諸勢力に対する正当な対応を意図したものであると強調している。さらに呉士存は、仲裁裁定は南シナ海の平和と安定にとって「厄介を引き起こすもの」であり、中国と関係当事国間の2国間関係を「阻害する」ものであり、、さらに南シナ海行動宣言(DOC)の効果的な履行にとっての「障害」であると主張した。その上で、呉士存は、関係当事国に対して、「交渉による紛争解決、協力による溝の架け橋、そして規範構築による危機管理」という正しい道に戻るよう呼びかけている。
記事参照:Report outlines fallacies, damaging effect of S.China Sea Arbitration Award
*:報告書全文は以下を参照されたい
Report: Critique of the South China Sea Arbitration Award - Chinadaily.com.cn
(1)“Critique of the South China Sea Arbitration Award”(南海仲裁案裁決再批駁)と題する報告書*は7月11日、華陽海洋研究中心、中国南海研究院および中国国際法学会によって作成され、発表された。報告書は、政治的動機による判決は紛争解決のための「万能薬」ではないとして、ハーグでの仲裁裁判の不公正さと南シナ海におけるフィリピンの主張の非合法性を批判している。さらに、報告書は仲裁裁定が実行可能な解決策を提示しておらず、既に複雑な問題を一層複雑にしただけであるとして、中国の「不受諾、不参加、非承認」の立場を再確認した上で、仲裁裁定に基づく如何なる主張や行動も否定すると述べている。(報告書の作成に参加した)専門家らは、仲裁裁定は南シナ海の平和と安定にとって「問題を引き起こす要因」となっているばかりか、中国と関係当事国との2国間関係を「台無しにするもの」にもなっていると指摘している。また、中国南海研究院の呉士存創始院長は7月11日の報告書発表記者会見で、中比間で進行中の法的紛争が拡大していると述べている。
(2) 報告書は、南沙諸島は中国固有の領土であると強調した上で、南シナ海における中国人の活動は2,000年以上前に遡るなどと、それを裏付ける中国の主張を展開している。そして、南沙諸島の一部に対するフィリピンの領有権主張は歴史的にも、また国際法上からも根拠がないとして詳細に反論している。英語版、中国語版共に2023年に発刊されたThe History and Sovereignty of the South China Sea Islands(中国語題:『南海的歴史与主権』)の著者で英国際法学者Anthony Cartyは環球時報との最近のインタビューで、フィリピンには南シナ海で領有権を主張する如何なる権利もなく、記録文書類は南シナ海に対する中国の主張を裏付けているとした上で、「いったい何故、フィリピンが南シナ海の島嶼に対する主権を主張できるのか、私には分からない。フランス、イギリス、中国、アメリカおよび日本の公文書類は、フィリピンは如何なる領有権も保持していないという点で一致している」と述べており、Anthony Cartyは、2016年のいわゆる南シナ海仲裁裁判所裁定を、「国際法の混沌とした操作的な適用」「二重基準の裁定」そして「法的ごまかし」と決め付けている。
(3) 中国が仲裁裁定を受け入れられない理由について、報告書はまず、フィリピンの提訴が領土主権と海洋境界画定問題に関わるものであり、したがって、仲裁裁判所にはフィリピンの提訴に対する管轄権がないことを強調している。領土主権は仲裁裁定が主たる論拠としているUNCLOSの適用外であり、海洋境界画定は中国によって仲裁手続きから除外されてきた。報告書は、「9段線」をUNCLOS違反とした仲裁裁定に対して、「南シナ海における中国の歴史的権原と歴史的権利(the "historic title and historic rights)は、国際慣習法の規範の下で長い間確立されてきた」と主張している。さらに、報告書は2016年の仲裁裁判所の仲裁人の政治的背景にも疑義を呈している。仲裁人はドイツ、ポーランド、フランス、オランダおよびガーナ出身の5人で、アジア出身者はいない。この結果、仲裁裁定の意思決定に提供されるべき、アジアの文化、外交的および法的伝統、そしてその他の地域的要因がほとんど考慮されない仲裁法廷となった。報告書は「仲裁裁定は紛争解決のための万能薬ではない。国際司法機関と仲裁機関の目的は紛争を効果的に解決することだが、この目的は、政治的に動機付けられ、操作され、しかも健全かつ十分な法的根拠に基づいた一方の当事者によって拒絶されるような、法的正当性を欠く仲裁裁判によって出された根拠のない仲裁裁定によっては実現できない」と強調している。
(4) フィリピンのメディアは、フィリピンが環境問題で中国に対して2度目の国際仲裁裁判の開始を検討していると報じている。香港亞洲研究中心の彭念主任は環球時報に対して、「環境問題で中国に対する新たな仲裁裁判を開始することは、中国に対するフィリピンの認知戦の新たな方向性であり、新たな戦場である。フィリピンが主権主張や中国海警船との最近の諍いであまり優位に立っていないことを考えれば、このフィリピンの新たな試みは、中国に環境破壊者としてのレッテルを貼り付けることに狙いがある。しかしながら、フィリピンの試みは失敗する運命にある」と語っている。
(5) 呉士存は2016年の仲裁裁定に反証するとともに、域内外の各国の誤った声明に反論することは、新たな法律論争を誘発することを意図したものではなく、南シナ海の平和と安定を乱し、中比関係を妨害し、そして仲裁裁定から利益を得ようとする、諸活動や諸勢力に対する正当な対応を意図したものであると強調している。さらに呉士存は、仲裁裁定は南シナ海の平和と安定にとって「厄介を引き起こすもの」であり、中国と関係当事国間の2国間関係を「阻害する」ものであり、、さらに南シナ海行動宣言(DOC)の効果的な履行にとっての「障害」であると主張した。その上で、呉士存は、関係当事国に対して、「交渉による紛争解決、協力による溝の架け橋、そして規範構築による危機管理」という正しい道に戻るよう呼びかけている。
記事参照:Report outlines fallacies, damaging effect of S.China Sea Arbitration Award
*:報告書全文は以下を参照されたい
Report: Critique of the South China Sea Arbitration Award - Chinadaily.com.cn
7月12日「U.S. Coast Guardがアリューシャン沖で中国軍と遭遇―米アラスカ紙報道」(Northern Journal, July 12, 2024)
7月12日付の米 アンカレッジ地方紙ノーザン・ジャーナルは、中国やロシアの艦船がアリューシャン列島やベーリング海をますます航行するようになったことへの懸念について、要旨以下のように報じている。
(1) 米漁船団は、7月6日と7日にアリューシャン列島で異変が起きていることを察知した。漁船の乗組員は、21ノットで航行するU.S. Coast Guardの巡視船「キンボール」を発見した。「キンボール」は駆逐艦とミサイル巡洋艦を含む4隻の中国艦船を追尾していた。U.S. Coast Guardの巡視船が中国艦船を追跡しているとき、中国側は国際周波数チャンネル16で、「衝突を避けるため、安全な距離を保ってください」と呼びかけた。U.S. Coast Guardによると、「キンボール」とHC-130は、アリューシャン列島を通過する中国艦船を12時間以上追尾し、「船乗りらしくない」行動を警告したという。
(2) U.S. Coast Guardが公表したこの事象は、ここ数年、アリューシャン列島とベーリング海でロシアと中国の艦船と遭遇している一連の米国における最新の出来事である。専門家によれば、氷がますます少なくなる北極圏で各国が優位に立とうとの思惑から、中国とロシアが台湾や太平洋の他の地域をめぐる紛争に影響する可能性のある米国の軍事基幹施設を調査するにつれ、このような事件はさらに増えるという。
(3) U.S. Coast Guardは当初、ノーザン・ジャーナル紙に短い声明を発表し、中国の艦船を把握しており、国際的な規則と規範に従って行動したと述べ、その後の記者会見では以下のように主張している。a . 中国艦船は米国の排他的経済水域内の国際水域を移動していた。
b. この艦船の目的は航行の自由作戦であり、米国は中国に近い係争海域でも航行の権利と自由を主張している。
c. アラスカ周辺の海洋環境における米国の利益に混乱が生じないよう、臨場感をもって対応した。
(4) U.S. Coast Guardはこの事件を軽視しているように見えたが、地元アリューシャンの関係者、漁業関係者からは不安の声があった。
a. 中国艦船が目撃された場所から200海里東に位置するアリューシャン列島の漁業の中心地ウナラスカの市長Vince Tutiakoff Sr.は、「このような事態はますます増えるだろう。我々の漁船団の安全を確保するために、いつになったらここウナラスカや西部に海軍を派遣してくれるのか」と述べている。
b. 中国艦船を視認した漁船を所有する漁業会社の関係者たちは、中国船との遭遇の詳細を語ったが、この出来事が政治的に微妙であることを理由に、身元を明かすことは避けた。
c. United Catcher Boatsと呼ばれる業界団体を率いるBrent Paineは、外国艦艇に遭遇した漁船員たちの「気まずさ」について述べている。さらに、潜水艦を含む数十隻の艦艇や軍用機による大規模な訓練を実施していたロシア艦隊が、その海域にあった米国漁船に退去を命じた2020年ベーリング海で起きた事件について語っている。
(5) 共和党のDan Sullivan上院議員は電話インタビューで、次のように述べている。
a.中国船の活動は、北極圏の資源、漁業、エネルギーの輸送路としてアラスカ沖の重要性が高まっていることによるものである。
b. 2023年の夏、ベーリング海峡を経由して中国に向かうロシアの石油タンカーが増加している。
c. アラスカ沖に外国の艦船が現れた場合、より迅速に情報を公開し、中国やロシアの艦船が東海岸沖に現れた場合と同じように、より迅速かつ毅然とした態度で自国の艦船・航空機で対応するよう軍に働きかけている。
d. 7月6日と7日に「キンボール」とHC-130を派遣したことは、通常の対応であった。
e. 北極圏は戦略的な領域で、ボストンやニューヨークの沖合であった場合と同じように、われわれには軍備と対応が必要である。
記事参照:Inside the U.S. Coast Guard’s Aleutian encounter with China’s military — and what it means
(1) 米漁船団は、7月6日と7日にアリューシャン列島で異変が起きていることを察知した。漁船の乗組員は、21ノットで航行するU.S. Coast Guardの巡視船「キンボール」を発見した。「キンボール」は駆逐艦とミサイル巡洋艦を含む4隻の中国艦船を追尾していた。U.S. Coast Guardの巡視船が中国艦船を追跡しているとき、中国側は国際周波数チャンネル16で、「衝突を避けるため、安全な距離を保ってください」と呼びかけた。U.S. Coast Guardによると、「キンボール」とHC-130は、アリューシャン列島を通過する中国艦船を12時間以上追尾し、「船乗りらしくない」行動を警告したという。
(2) U.S. Coast Guardが公表したこの事象は、ここ数年、アリューシャン列島とベーリング海でロシアと中国の艦船と遭遇している一連の米国における最新の出来事である。専門家によれば、氷がますます少なくなる北極圏で各国が優位に立とうとの思惑から、中国とロシアが台湾や太平洋の他の地域をめぐる紛争に影響する可能性のある米国の軍事基幹施設を調査するにつれ、このような事件はさらに増えるという。
(3) U.S. Coast Guardは当初、ノーザン・ジャーナル紙に短い声明を発表し、中国の艦船を把握しており、国際的な規則と規範に従って行動したと述べ、その後の記者会見では以下のように主張している。a . 中国艦船は米国の排他的経済水域内の国際水域を移動していた。
b. この艦船の目的は航行の自由作戦であり、米国は中国に近い係争海域でも航行の権利と自由を主張している。
c. アラスカ周辺の海洋環境における米国の利益に混乱が生じないよう、臨場感をもって対応した。
(4) U.S. Coast Guardはこの事件を軽視しているように見えたが、地元アリューシャンの関係者、漁業関係者からは不安の声があった。
a. 中国艦船が目撃された場所から200海里東に位置するアリューシャン列島の漁業の中心地ウナラスカの市長Vince Tutiakoff Sr.は、「このような事態はますます増えるだろう。我々の漁船団の安全を確保するために、いつになったらここウナラスカや西部に海軍を派遣してくれるのか」と述べている。
b. 中国艦船を視認した漁船を所有する漁業会社の関係者たちは、中国船との遭遇の詳細を語ったが、この出来事が政治的に微妙であることを理由に、身元を明かすことは避けた。
c. United Catcher Boatsと呼ばれる業界団体を率いるBrent Paineは、外国艦艇に遭遇した漁船員たちの「気まずさ」について述べている。さらに、潜水艦を含む数十隻の艦艇や軍用機による大規模な訓練を実施していたロシア艦隊が、その海域にあった米国漁船に退去を命じた2020年ベーリング海で起きた事件について語っている。
(5) 共和党のDan Sullivan上院議員は電話インタビューで、次のように述べている。
a.中国船の活動は、北極圏の資源、漁業、エネルギーの輸送路としてアラスカ沖の重要性が高まっていることによるものである。
b. 2023年の夏、ベーリング海峡を経由して中国に向かうロシアの石油タンカーが増加している。
c. アラスカ沖に外国の艦船が現れた場合、より迅速に情報を公開し、中国やロシアの艦船が東海岸沖に現れた場合と同じように、より迅速かつ毅然とした態度で自国の艦船・航空機で対応するよう軍に働きかけている。
d. 7月6日と7日に「キンボール」とHC-130を派遣したことは、通常の対応であった。
e. 北極圏は戦略的な領域で、ボストンやニューヨークの沖合であった場合と同じように、われわれには軍備と対応が必要である。
記事参照:Inside the U.S. Coast Guard’s Aleutian encounter with China’s military — and what it means
7月14日「アジアにおける連合構築の決定的な要因は地理である―米国専門家論説」(Lawfare, July 14, 2024)
7月14日付、米シンクタンクThe Lawfare Instituteのオンライン出版物Lawfareは、米シンクタンクthe Stimson Centerの上席研究員兼Georgetown University非常勤教授Kelly A. Griecoと米シンクタンクDefense Priorities上席研究員兼Georgetown University非常勤教授Jennifer Kavanaghの“Geography Is a Dealbreaker for Coalition Building in Asia”と題する論説を掲載し、ここで両名はインド太平洋における中国の膨張政策、行動に対抗するため、米国は様々な同盟や協力体制の構築に努めているが、何もかもをやろうとしても失敗するだけであり、この地域の安全保障戦略を左右する地理的特性を十分に踏まえ、小さな枠組み作りを積み重ねることが望ましいとして、要旨次のとおり述べている。
(1) アジアで米国が結集しようとしている国々は、安全保障上の懸念を共有するには分散し過ぎている。シンガポールで開催された2024年アジア安全保障会議で、Lloyd Austin 米国防長官は、太平洋地域の同盟国や提携国との「新たな結束」が「インド太平洋における安全保障の新時代を作る」と述べている。Lloyd Austin長官は、オーストラリアとフィリピンの基地の米軍による利用拡大、日米韓3ヵ国協力の「新時代」、インドとの共同制作契約などの一覧表を携えて登場した。しかし、この「新たな結束」は幻想に近い。米国はいまだにアジアの重要地域の軍事基地利用、強固な地域安全保障網、自衛力を整備した同盟国や提携国を欠いている。さらに、距離的な広がりと海洋環境というこの地域の地理的条件が連合構築の妨げとなって、努力してもこれらの問題を解決することはできない。米国政府は、中国に対抗したり、勝とうとしたりするのではなく、地理的な現実を認識し、中国の力と均衡を取り、中国の地域覇権を阻止するために、限定的でも持続可能な連合を構築するべきである。
(2) Biden 政権は、自慢話とは裏腹に、アジアにおける「結束」に向けて限られた進展しか遂げていない。第1に、米国は中国のミサイルの脅威に対して、より分散された残存性の高い戦力の配備を確立するために必要な軍事基地等の利用が不十分である。フィリピンとパプアニューギニアは、台湾有事の際に、自国の基地から米国が攻撃作戦を実施することはできないと述べており。新たな基地等利用許可は状況改善にはほとんど役立っていない。
(3) 第2に、台湾を含むほとんどの同盟国や協力国は、自国の防衛に十分な投資をしておらず、対艦・対空ミサイル、無人機、機雷など、自国を征服困難なヤマアラシに変えるために必要な装備よりも、戦闘機や軍艦のような高額装備品にあまりにも多くの予算を費やしている。
(4) 最後に、米政権の看板とする、この地域における安全保障上の協力国の「格子構造」構築も、限られた成功しか収めていない。米国か中国かの二者択一を迫られた時、米国の安全保障網に全面的に委ねようとする国はほとんどない。米政権の当局者は、この地域で中国の軍事的強硬姿勢が強まるにつれて、米国主導の連合が、より強力になり、提携国の数と軍事装備が向上し、広範囲な基地等の利用許可を得て、より強固になると自信を示しているが、この期待はインド太平洋の地理的現実を軽視している。
(5) この地域の広大な海域やインド太平洋諸国独自の海洋特性は、米政府が期待するアジア地域全体の連合を構築する上で、解決困難な障壁となっている。第1に、この地域の広大な距離が、多くの国の中国に対する脅威認識を弱めている。米国の提携国の多くは、台湾海峡やセカンド・トーマス礁のような紛争地域を遠い問題と見なしている。地球表面の50%を占めるインド太平洋地域の大きさが、地域連合の基盤となる安全保障上の利害の共有を妨げている。マレーシアやインドネシア等は、約1,800海里離れた台湾の運命に直接関心を持つことはほとんどない。同時に、この地域の広大さは、米国の戦力投射の壁になり、米国主導の連合に参加する利点を損ねている。第2に、この地域の海洋地理は、政治学者John Mearsheimerが「水の阻止力」と呼ぶ強力な防壁を提供しており、この防衛上の利点は、国家が防衛のために大規模な投資をしたり、力の均衡を図る連合に頼ることを躊躇させたりしている。中国の近隣諸国は、中国の勢力拡大を警戒しているが、自国の存続を脅かす存在だと考える国はほとんどない。海洋環境も、米国の関与の信頼性を疑問視する理由にもなる。米国がこの地域で頼りにしている海・空戦力は機動性が高く、展開も撤収も容易であるため、米国の支援者になることの危険性を認識させるからである。
(6) 最後に、アジアの海洋国家はその特異な地理的特性から、地域の安全保障問題に関心が集中し、より遠くの地域の安全保障上の脅威から目をそらす傾向がある。たとえば、日本、フィリピン、インドネシアのような群島国家は、分散した主権、特に多くの島々の間にある内水面を守ることを優先する。このような内政上の懸念は、日本のように列島が台湾の方まで伸びているような場合、米国の優先事項と重なることもあるが、ほとんどの場合、地域内での同盟による均衡の必要性を認識しない。同様に、ベトナムや韓国等の沿岸国家は、自国の陸地境界線に対する脅威に最も重点を置く傾向があり、海岸線に沿って海の防壁が第一線の防護を提供することに満足し、地域連合から距離を置いている。地理は変化しないため、米政府が望む連合は実現不可能で、時間をかけても努力してもこの現実は変わらない。
(7) 米政府は、アジアにおける米国の軍事的優位を維持するという目標に固執しているが、米国の負担軽減のために同盟国や提携国との大規模な連合を構築するという戦略は実行不可能である。さらに悪いことに、この戦略は米国を危険なほど過度に拡張させることになる。米政府は、米国の勢力維持のための努力より中国の覇権を阻止できる、より小規模な同盟国や提携国のまとまりを構築することに注力すべきである。均衡のとれた連合を構築するために、米国は、インド、日本、韓国など、この地域の主要な産業大国の安全保障を優先し、武器売却、情報共有、防衛産業基盤充実等の協力によって、各国の自衛のための支援を行うべきである。同時に米政府は、東南アジア大陸部や太平洋諸島など、力の均衡を変化させる可能性の低い地域の優先順位を下げるべきである。
(8) 第2に、地域の抗堪性を高めるため、米国は航空機用掩体壕や潜水艦基地を強化し、事前配置の装備品備蓄により多くの資源を移し、防空・ミサイル防衛能力を高めるなどインド太平洋全域の既存の防衛基盤設備を改善するため、より多額の投資を行うべきである。こうした投資は、アジアに対する米国の長期的な関与への信頼性を高める意図を示すことになる。また、これらの投資は、紛争が発生した際に迅速に戦力をアジア地域に投入する能力を創出し、関係悪化の危険を増幅させかねない米地上部隊の追加展開をすることなく、アジアにおける米国の態勢を強化することになる。
(9) 最後に、米政府は、地域的結束を迫るのではなく、東南アジアの現状を把握する必要がある。米国は、ASEANの枠組みの中で、また、重複する多くの補完組織を通じて、これらの国々の地域安全保障上の懸念を理解し、支援する立場で、より効果的に活動することを学ぶべきである。結局のところ、米国の政策立案者は正しく、米国は中国に対抗するために同盟国や提携国を必要としている。しかし、達成不可能な連合を目指すことは、米国に過度の危険を負わせることになる。アジアにおける米国の長期的な成功は、米国がこの地域の地政学的教訓を自分のものにできるかどうかにかかっている。
記事参照:https://www.lawfaremedia.org/article/geography-is-a-dealbreaker-for-coalition-building-in-asia
(1) アジアで米国が結集しようとしている国々は、安全保障上の懸念を共有するには分散し過ぎている。シンガポールで開催された2024年アジア安全保障会議で、Lloyd Austin 米国防長官は、太平洋地域の同盟国や提携国との「新たな結束」が「インド太平洋における安全保障の新時代を作る」と述べている。Lloyd Austin長官は、オーストラリアとフィリピンの基地の米軍による利用拡大、日米韓3ヵ国協力の「新時代」、インドとの共同制作契約などの一覧表を携えて登場した。しかし、この「新たな結束」は幻想に近い。米国はいまだにアジアの重要地域の軍事基地利用、強固な地域安全保障網、自衛力を整備した同盟国や提携国を欠いている。さらに、距離的な広がりと海洋環境というこの地域の地理的条件が連合構築の妨げとなって、努力してもこれらの問題を解決することはできない。米国政府は、中国に対抗したり、勝とうとしたりするのではなく、地理的な現実を認識し、中国の力と均衡を取り、中国の地域覇権を阻止するために、限定的でも持続可能な連合を構築するべきである。
(2) Biden 政権は、自慢話とは裏腹に、アジアにおける「結束」に向けて限られた進展しか遂げていない。第1に、米国は中国のミサイルの脅威に対して、より分散された残存性の高い戦力の配備を確立するために必要な軍事基地等の利用が不十分である。フィリピンとパプアニューギニアは、台湾有事の際に、自国の基地から米国が攻撃作戦を実施することはできないと述べており。新たな基地等利用許可は状況改善にはほとんど役立っていない。
(3) 第2に、台湾を含むほとんどの同盟国や協力国は、自国の防衛に十分な投資をしておらず、対艦・対空ミサイル、無人機、機雷など、自国を征服困難なヤマアラシに変えるために必要な装備よりも、戦闘機や軍艦のような高額装備品にあまりにも多くの予算を費やしている。
(4) 最後に、米政権の看板とする、この地域における安全保障上の協力国の「格子構造」構築も、限られた成功しか収めていない。米国か中国かの二者択一を迫られた時、米国の安全保障網に全面的に委ねようとする国はほとんどない。米政権の当局者は、この地域で中国の軍事的強硬姿勢が強まるにつれて、米国主導の連合が、より強力になり、提携国の数と軍事装備が向上し、広範囲な基地等の利用許可を得て、より強固になると自信を示しているが、この期待はインド太平洋の地理的現実を軽視している。
(5) この地域の広大な海域やインド太平洋諸国独自の海洋特性は、米政府が期待するアジア地域全体の連合を構築する上で、解決困難な障壁となっている。第1に、この地域の広大な距離が、多くの国の中国に対する脅威認識を弱めている。米国の提携国の多くは、台湾海峡やセカンド・トーマス礁のような紛争地域を遠い問題と見なしている。地球表面の50%を占めるインド太平洋地域の大きさが、地域連合の基盤となる安全保障上の利害の共有を妨げている。マレーシアやインドネシア等は、約1,800海里離れた台湾の運命に直接関心を持つことはほとんどない。同時に、この地域の広大さは、米国の戦力投射の壁になり、米国主導の連合に参加する利点を損ねている。第2に、この地域の海洋地理は、政治学者John Mearsheimerが「水の阻止力」と呼ぶ強力な防壁を提供しており、この防衛上の利点は、国家が防衛のために大規模な投資をしたり、力の均衡を図る連合に頼ることを躊躇させたりしている。中国の近隣諸国は、中国の勢力拡大を警戒しているが、自国の存続を脅かす存在だと考える国はほとんどない。海洋環境も、米国の関与の信頼性を疑問視する理由にもなる。米国がこの地域で頼りにしている海・空戦力は機動性が高く、展開も撤収も容易であるため、米国の支援者になることの危険性を認識させるからである。
(6) 最後に、アジアの海洋国家はその特異な地理的特性から、地域の安全保障問題に関心が集中し、より遠くの地域の安全保障上の脅威から目をそらす傾向がある。たとえば、日本、フィリピン、インドネシアのような群島国家は、分散した主権、特に多くの島々の間にある内水面を守ることを優先する。このような内政上の懸念は、日本のように列島が台湾の方まで伸びているような場合、米国の優先事項と重なることもあるが、ほとんどの場合、地域内での同盟による均衡の必要性を認識しない。同様に、ベトナムや韓国等の沿岸国家は、自国の陸地境界線に対する脅威に最も重点を置く傾向があり、海岸線に沿って海の防壁が第一線の防護を提供することに満足し、地域連合から距離を置いている。地理は変化しないため、米政府が望む連合は実現不可能で、時間をかけても努力してもこの現実は変わらない。
(7) 米政府は、アジアにおける米国の軍事的優位を維持するという目標に固執しているが、米国の負担軽減のために同盟国や提携国との大規模な連合を構築するという戦略は実行不可能である。さらに悪いことに、この戦略は米国を危険なほど過度に拡張させることになる。米政府は、米国の勢力維持のための努力より中国の覇権を阻止できる、より小規模な同盟国や提携国のまとまりを構築することに注力すべきである。均衡のとれた連合を構築するために、米国は、インド、日本、韓国など、この地域の主要な産業大国の安全保障を優先し、武器売却、情報共有、防衛産業基盤充実等の協力によって、各国の自衛のための支援を行うべきである。同時に米政府は、東南アジア大陸部や太平洋諸島など、力の均衡を変化させる可能性の低い地域の優先順位を下げるべきである。
(8) 第2に、地域の抗堪性を高めるため、米国は航空機用掩体壕や潜水艦基地を強化し、事前配置の装備品備蓄により多くの資源を移し、防空・ミサイル防衛能力を高めるなどインド太平洋全域の既存の防衛基盤設備を改善するため、より多額の投資を行うべきである。こうした投資は、アジアに対する米国の長期的な関与への信頼性を高める意図を示すことになる。また、これらの投資は、紛争が発生した際に迅速に戦力をアジア地域に投入する能力を創出し、関係悪化の危険を増幅させかねない米地上部隊の追加展開をすることなく、アジアにおける米国の態勢を強化することになる。
(9) 最後に、米政府は、地域的結束を迫るのではなく、東南アジアの現状を把握する必要がある。米国は、ASEANの枠組みの中で、また、重複する多くの補完組織を通じて、これらの国々の地域安全保障上の懸念を理解し、支援する立場で、より効果的に活動することを学ぶべきである。結局のところ、米国の政策立案者は正しく、米国は中国に対抗するために同盟国や提携国を必要としている。しかし、達成不可能な連合を目指すことは、米国に過度の危険を負わせることになる。アジアにおける米国の長期的な成功は、米国がこの地域の地政学的教訓を自分のものにできるかどうかにかかっている。
記事参照:https://www.lawfaremedia.org/article/geography-is-a-dealbreaker-for-coalition-building-in-asia
7月15日「中ロ海軍の日本周辺での活動―U.S. Naval Institute報道」(USNI News, July 15, 2024)
7月15日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、“Joint Chinese, Russian Naval Drills Start in South China Sea”と題する記事を掲載し、中国とロシアの海軍艦艇の日本周辺での行動について、要旨以下のように報じている。
(1) 中ロ両海軍は7月14日、南シナ海において共同演習を開始した。また同日には、共同哨戒のため別の艦艇部隊も南シナ海に入っている。
(2) Министерство обороны Российской Федерации(以下、ロシア国防省と言う)の発表によると、中ロ両海軍の共同演習「海上聯合」は2012年以来継続的に行われている。「海上聯合2024」は中国海軍南海艦隊の司令部所在地湛江から開始され、7月15日に南シナ海における洋上実動演習のために中ロの艦艇が出港した。ロシア国防省は「洋上演習では、Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)と中国海軍の乗組員は、共同防空演習、中国海軍の対潜航空隊が参加する対潜演習、洋上補給訓練を行う。両国の乗組員は洋上での救助訓練にも参加する」と発表した。
(3) 日本は、この共同演習に参加したВоенно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)のコルベット2隻が日本近海を通過する際、その動きを追跡していた。7月10日の統合幕僚監部の発表によれば、9日の午後10時、この2隻のコルベットが西表島の北60kmの海域を南西に航行するのが確認されたという。その後、9日から10日にかけて、2隻のロシア海軍コルベットは西表島と与那国島の間を南西に航行し、フィリピン海に入った。
(4) 7月14日、中国国防部は中ロの艦艇が最近、太平洋西部と北部で4回目の共同哨戒を行ったと発表した。中国国営メディア新華社は、これらの哨戒を実施した艦艇は14日に南シナ海に入ったと報じている。哨戒部隊は、ロシア海軍のコルベット1隻、中国海軍の駆逐艦1隻、フリゲート1隻、補給艦1隻で構成されている。ロシア国防省の発表によると、これらの哨戒艦はフィリピン海において、模擬ミサイル発射訓練、実弾射撃訓練、搭載ヘリコプターによる他艦への離発着訓練、そして臨検および捜索演習を実施した。
(5) 一方、統合幕僚監部の発表によれば、ロシアと中国の情報収集を主任務とする艦艇、航空機が7月の第2週、日本近海で行動した。7月11日の発表によれば、10日の正午、ロシア海軍の情報収集艦「カレリア」が対馬の南西100kmの海域を北東に航行しているのが確認され、10日から11日にかけて対馬海峡を北東に航行し、日本海に入ったという。7月6日、「カレリア」は沖縄と宮古島の間を北に航行していたことが確認されている。7月12日、統合幕僚監部の発表によると、その日の午前から午後にかけて、中国のTB-001偵察・攻撃ドローンが東シナ海から飛来し、沖縄と宮古島の間を通過してフィリピン海に入り、フィリピンと台湾の間にあるバシー海峡まで飛行した。これに対し、航空自衛隊南西航空方面隊の戦闘機が緊急発進し、対応している。
記事参照:Joint Chinese, Russian Naval Drills Start in South China Sea
(1) 中ロ両海軍は7月14日、南シナ海において共同演習を開始した。また同日には、共同哨戒のため別の艦艇部隊も南シナ海に入っている。
(2) Министерство обороны Российской Федерации(以下、ロシア国防省と言う)の発表によると、中ロ両海軍の共同演習「海上聯合」は2012年以来継続的に行われている。「海上聯合2024」は中国海軍南海艦隊の司令部所在地湛江から開始され、7月15日に南シナ海における洋上実動演習のために中ロの艦艇が出港した。ロシア国防省は「洋上演習では、Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)と中国海軍の乗組員は、共同防空演習、中国海軍の対潜航空隊が参加する対潜演習、洋上補給訓練を行う。両国の乗組員は洋上での救助訓練にも参加する」と発表した。
(3) 日本は、この共同演習に参加したВоенно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)のコルベット2隻が日本近海を通過する際、その動きを追跡していた。7月10日の統合幕僚監部の発表によれば、9日の午後10時、この2隻のコルベットが西表島の北60kmの海域を南西に航行するのが確認されたという。その後、9日から10日にかけて、2隻のロシア海軍コルベットは西表島と与那国島の間を南西に航行し、フィリピン海に入った。
(4) 7月14日、中国国防部は中ロの艦艇が最近、太平洋西部と北部で4回目の共同哨戒を行ったと発表した。中国国営メディア新華社は、これらの哨戒を実施した艦艇は14日に南シナ海に入ったと報じている。哨戒部隊は、ロシア海軍のコルベット1隻、中国海軍の駆逐艦1隻、フリゲート1隻、補給艦1隻で構成されている。ロシア国防省の発表によると、これらの哨戒艦はフィリピン海において、模擬ミサイル発射訓練、実弾射撃訓練、搭載ヘリコプターによる他艦への離発着訓練、そして臨検および捜索演習を実施した。
(5) 一方、統合幕僚監部の発表によれば、ロシアと中国の情報収集を主任務とする艦艇、航空機が7月の第2週、日本近海で行動した。7月11日の発表によれば、10日の正午、ロシア海軍の情報収集艦「カレリア」が対馬の南西100kmの海域を北東に航行しているのが確認され、10日から11日にかけて対馬海峡を北東に航行し、日本海に入ったという。7月6日、「カレリア」は沖縄と宮古島の間を北に航行していたことが確認されている。7月12日、統合幕僚監部の発表によると、その日の午前から午後にかけて、中国のTB-001偵察・攻撃ドローンが東シナ海から飛来し、沖縄と宮古島の間を通過してフィリピン海に入り、フィリピンと台湾の間にあるバシー海峡まで飛行した。これに対し、航空自衛隊南西航空方面隊の戦闘機が緊急発進し、対応している。
記事参照:Joint Chinese, Russian Naval Drills Start in South China Sea
7月16日「新しい中比間ホットラインの確立―AP通信報道」(AP, July 16, 2024)
7月16日付の米通信社APのウエブサイトは、“New Deal Establishes a Hotline Chinese and Philippine Presidents Can Use to Stop Clashes at Sea”と題する記事を掲載し、南シナ海における対立をめぐり、中国とフィリピンが新しいホットラインを確立したことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 係争中の南シナ海での新たな対立が制御不能に陥るのを防ぐため、中国とフィリピンの政府首脳執務室の間に直接的な通信回線を開設する協定が最近調印された。中国とフィリピンは過去にも、紛争をより適切に管理するために、より階層の低い実務者段階でこのような緊急ホットラインを設けてきた。特に、中国とフィリピンが激しく争っている2つの珊瑚礁においてである。
(2) しかし、この領土紛争は2023年から続いており、Armed Forces of the Philippinesが紛争海域で攻撃を受けた場合、アジアの重要な条約同盟国であるフィリピンを防衛する義務があると繰り返し警告している米国を巻き込む可能性があり、より大規模な武力衝突に発展するのではないかという懸念が高まっている。Armed Forces of the Philippinesによれば、米統合参謀本部議長Charles Brown Jr.空軍大将は7月16日、マニラでArmed Forces of the Philippines総参謀長Romeo Brawnerと会談し、防衛関係をさらに強化し、両軍の共同作戦能力を高め、地域の能力を確保する方法について協議したという。
(3) 2023年8月、フィリピンが占拠しているセカンド・トーマス礁で中国軍とArmed Forces of the Philippinesが対立した際、フィリピン政府は確立されていた「海洋連絡メカニズム」を通じて中国当局者と数時間連絡を取ることができなかったと述べている。中国海警隊員がナイフ、斧、即席の槍を振り回し、Philippine Navyの人員が負傷したと伝えられるセカンド・トーマス礁での激しい対立を受け、領有権問題を扱う中国とフィリピンの当局者は7月2日にマニラで会談を行った。
(4) Republic of the Philippines Department of Foreign Affairsは、マニラでの会談後の声明で、双方は「南シナ海に関する2国間の海洋連絡メカニズムを強化する必要性を認識」し、「フィリピンと中国の海洋連絡メカニズムの改善に関する」取り決めに署名したと述べている。合意の要点の写しによれば、「特に海洋問題に関して、両国の指導者が指名する代表者を通じて、比中間の意思疎通にいくつかの筋道を設ける」という。ホットラインでの協議は、「外務省、大臣や副大臣級を含む外務省のカウンターパートまたはそれらに指名された代表者を通じて」行うこともできるとし、フィリピン政府当局者が「この取り決めの実施を管理する指針について中国側と協議中である」と、付け加えている。この協定によれば、彼らの間で「対応する覚書が締結されれば」、中国とフィリピンの沿岸警備隊の間で新たな連絡経路を設ける計画もあるという。
記事参照:New Deal Establishes a Hotline Chinese and Philippine Presidents Can Use to Stop Clashes at Sea
(1) 係争中の南シナ海での新たな対立が制御不能に陥るのを防ぐため、中国とフィリピンの政府首脳執務室の間に直接的な通信回線を開設する協定が最近調印された。中国とフィリピンは過去にも、紛争をより適切に管理するために、より階層の低い実務者段階でこのような緊急ホットラインを設けてきた。特に、中国とフィリピンが激しく争っている2つの珊瑚礁においてである。
(2) しかし、この領土紛争は2023年から続いており、Armed Forces of the Philippinesが紛争海域で攻撃を受けた場合、アジアの重要な条約同盟国であるフィリピンを防衛する義務があると繰り返し警告している米国を巻き込む可能性があり、より大規模な武力衝突に発展するのではないかという懸念が高まっている。Armed Forces of the Philippinesによれば、米統合参謀本部議長Charles Brown Jr.空軍大将は7月16日、マニラでArmed Forces of the Philippines総参謀長Romeo Brawnerと会談し、防衛関係をさらに強化し、両軍の共同作戦能力を高め、地域の能力を確保する方法について協議したという。
(3) 2023年8月、フィリピンが占拠しているセカンド・トーマス礁で中国軍とArmed Forces of the Philippinesが対立した際、フィリピン政府は確立されていた「海洋連絡メカニズム」を通じて中国当局者と数時間連絡を取ることができなかったと述べている。中国海警隊員がナイフ、斧、即席の槍を振り回し、Philippine Navyの人員が負傷したと伝えられるセカンド・トーマス礁での激しい対立を受け、領有権問題を扱う中国とフィリピンの当局者は7月2日にマニラで会談を行った。
(4) Republic of the Philippines Department of Foreign Affairsは、マニラでの会談後の声明で、双方は「南シナ海に関する2国間の海洋連絡メカニズムを強化する必要性を認識」し、「フィリピンと中国の海洋連絡メカニズムの改善に関する」取り決めに署名したと述べている。合意の要点の写しによれば、「特に海洋問題に関して、両国の指導者が指名する代表者を通じて、比中間の意思疎通にいくつかの筋道を設ける」という。ホットラインでの協議は、「外務省、大臣や副大臣級を含む外務省のカウンターパートまたはそれらに指名された代表者を通じて」行うこともできるとし、フィリピン政府当局者が「この取り決めの実施を管理する指針について中国側と協議中である」と、付け加えている。この協定によれば、彼らの間で「対応する覚書が締結されれば」、中国とフィリピンの沿岸警備隊の間で新たな連絡経路を設ける計画もあるという。
記事参照:New Deal Establishes a Hotline Chinese and Philippine Presidents Can Use to Stop Clashes at Sea
7月16日「太平洋諸国への安全保障支援において日豪は分業すべきか―オーストラリア安全保障問題専門家論説」(The Strategist, July 16, 2024)
7月16日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同Institute上席分析担当者Alex Bristowの“Australia and Japan should consider a security division-of-labour in the Pacific”と題する論説を掲載し、そこでAlex Bristowは太平洋諸国への安全保障支援において日本が存在感を増していることを指摘し、オーストラリアと日本はこの分野における役割分担について議論すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 7月16日から18日にかけて東京で開催される第10回太平洋・島サミット(PALM10)に、オーストラリア外相Penny Wongが出席する。Wongはこれを期に、太平洋の平和と安定に対する日本の貢献を公的に認め、また、太平洋地域の国々が、地域の安全保障支援の提供において、日豪その他の明確な役割分担を望んでいることを理解すべきである。
(2) 太平洋・島サミット(以下、PALMと言う)は日本が太平洋に粘り強く関与してきたことの証明である。PALMは1997年から3年に1度、日本が開催する太平洋諸島フォーラム(以下、PIFと言う)の指導者たちの集まりである。オーストラリアもPIFの構成国として招待され、閣僚を派遣してきた。今回のPALMでは、現在のPIF議長国であるクック諸島のMark Brown首相と岸田文雄首相が共同議長を務める。
(3) PALM10の議題は主に、PIFによる「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略」に関連するもので、多岐にわたる。それでも、その中核となるのは法に基づく秩序である。PALMという方式が発展してきたことは、日本が防衛や安全保障分野で太平洋諸国と協働することに自信を深めたことを意味している。
(4) 日本はこの数十年間、海洋安全保障に関しては日本財団や笹川平和財団などの民間団体に依存してきた。そうした組織はなお重要であり、著者自身、Australian Strategic Policy Institute の代表として、笹川平和財団が開催したトラック1.5対話に参加した。しかし近年の日本政府は、より直接的な安全保障支援を拡大している。たとえば、政府安全保障能力強化支援(OSA)は、2022年の国家安全保障戦略に導入されたもので、外務省が監督するものだが、軍事物資の移転などの業務に防衛省職員が関わっている。すでにフィジーに対して巡視艇が提供され、今後も支援を受ける国は広がっていくだろう。
(5) 政府による対外援助に加えて、自衛隊の存在感が高まっている。寄港の回数を増やし、人道支援・災害救援の派遣も行っている。オーストラリアに続いて、太平洋諸国に防衛駐在官を派遣する可能性もある。また日本の技術や産業が、埠頭など軍や法執行機関も使用する基幹施設建設に貢献する余地も大きい。電気通信や海底ケーブルなどの分野では、日本はすでにオーストラリアや米国と協力し、中国を排除し続けている。
(6) 日本による太平洋への関与の深まりは歓迎すべきだが、オーストラリア政府内では摩擦の回避や支援受け入れ国の吸収能力など、よくある問題が持ち上がっている。そうした問題の調整に最もふさわしいのは、2022年に発足した「ブルーパシフィックにおける提携(Partners in the Blue Pacific)」という非公式フォーラムであろう。より実践的な段階では、日本とオーストラリアの双方が巡視艇などを提供し、人員の配備や維持などをそれぞれ行うのか、それとも分業が望ましいかなどの議論が必要だろう。その議論には支援提供国だけでなく、受け入れ国も巻き込む必要がある。地理的かつ歴史的には、ミクロネシアと日本が、オーストラリアとメラネシアが近接している。平時における安全保障支援の効率改善は、実際に戦争が起きてしまった場合の軍の分業の土台にもなるだろう。
(7) 中国の宣伝担当者はすでに、日本の太平洋での役割増大を重要視し、福島第一原発からの処理水放出に関する誤情報を拡散したりしている。日本とオーストラリアは、太平洋の平和と安定にとっての真の脅威が中国にあることを、協力して太平洋諸国に認識させるべきである。
記事参照:Australia and Japan should consider a security division-of-labour in the Pacific
(1) 7月16日から18日にかけて東京で開催される第10回太平洋・島サミット(PALM10)に、オーストラリア外相Penny Wongが出席する。Wongはこれを期に、太平洋の平和と安定に対する日本の貢献を公的に認め、また、太平洋地域の国々が、地域の安全保障支援の提供において、日豪その他の明確な役割分担を望んでいることを理解すべきである。
(2) 太平洋・島サミット(以下、PALMと言う)は日本が太平洋に粘り強く関与してきたことの証明である。PALMは1997年から3年に1度、日本が開催する太平洋諸島フォーラム(以下、PIFと言う)の指導者たちの集まりである。オーストラリアもPIFの構成国として招待され、閣僚を派遣してきた。今回のPALMでは、現在のPIF議長国であるクック諸島のMark Brown首相と岸田文雄首相が共同議長を務める。
(3) PALM10の議題は主に、PIFによる「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略」に関連するもので、多岐にわたる。それでも、その中核となるのは法に基づく秩序である。PALMという方式が発展してきたことは、日本が防衛や安全保障分野で太平洋諸国と協働することに自信を深めたことを意味している。
(4) 日本はこの数十年間、海洋安全保障に関しては日本財団や笹川平和財団などの民間団体に依存してきた。そうした組織はなお重要であり、著者自身、Australian Strategic Policy Institute の代表として、笹川平和財団が開催したトラック1.5対話に参加した。しかし近年の日本政府は、より直接的な安全保障支援を拡大している。たとえば、政府安全保障能力強化支援(OSA)は、2022年の国家安全保障戦略に導入されたもので、外務省が監督するものだが、軍事物資の移転などの業務に防衛省職員が関わっている。すでにフィジーに対して巡視艇が提供され、今後も支援を受ける国は広がっていくだろう。
(5) 政府による対外援助に加えて、自衛隊の存在感が高まっている。寄港の回数を増やし、人道支援・災害救援の派遣も行っている。オーストラリアに続いて、太平洋諸国に防衛駐在官を派遣する可能性もある。また日本の技術や産業が、埠頭など軍や法執行機関も使用する基幹施設建設に貢献する余地も大きい。電気通信や海底ケーブルなどの分野では、日本はすでにオーストラリアや米国と協力し、中国を排除し続けている。
(6) 日本による太平洋への関与の深まりは歓迎すべきだが、オーストラリア政府内では摩擦の回避や支援受け入れ国の吸収能力など、よくある問題が持ち上がっている。そうした問題の調整に最もふさわしいのは、2022年に発足した「ブルーパシフィックにおける提携(Partners in the Blue Pacific)」という非公式フォーラムであろう。より実践的な段階では、日本とオーストラリアの双方が巡視艇などを提供し、人員の配備や維持などをそれぞれ行うのか、それとも分業が望ましいかなどの議論が必要だろう。その議論には支援提供国だけでなく、受け入れ国も巻き込む必要がある。地理的かつ歴史的には、ミクロネシアと日本が、オーストラリアとメラネシアが近接している。平時における安全保障支援の効率改善は、実際に戦争が起きてしまった場合の軍の分業の土台にもなるだろう。
(7) 中国の宣伝担当者はすでに、日本の太平洋での役割増大を重要視し、福島第一原発からの処理水放出に関する誤情報を拡散したりしている。日本とオーストラリアは、太平洋の平和と安定にとっての真の脅威が中国にあることを、協力して太平洋諸国に認識させるべきである。
記事参照:Australia and Japan should consider a security division-of-labour in the Pacific
7月16日「台湾への米国からの兵器納入の遅延がもたらすこと―台湾国際関係・経済専門家論説」(The Diplomat, July 16, 2024)
7月16日付のデジタル誌The Diplomatは、台湾の国防安全研究院の助理研究員である章榮明と汪哲仁による“Delayed US Arms Transfers to Taiwan: Déjà Vu?”と題する論説を掲載し、そこで両名は米国による台湾への軍事支援が増加するなか、最も重要なのは予定線表どおりに米から兵器が台湾に納入されることであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国が台湾への軍事的圧力を強めるなか、米国は台湾支援の政策を進めてきた。6月28日に米下院は、2025年度予算として台湾向け対外軍事資金供与5億ドルを承認している。4月にはウクライナやイスラエル、台湾その他の提携国への950億ドルの資金援助法案にBiden大統領が署名した。そのうち80億ドルが、台湾を含むインド太平洋諸国向けである。また7月13日に米上院軍事委員会が発表した2025年度国防権限法は、台湾有事に備え、台湾向けの「地域有事備蓄」の制度を整えるようU.S. Department of Defenseに求めている。
(2) このように米国による台湾支援の方向性は明確であるが、鍵となるのは兵器の納入である。たとえば2023年10月に台湾国防部長の邱国正(当時)は、台湾が購入した兵器の納入を米国側が先送りにしたことを明らかにした。また、7月に台湾に納入された対戦車ミサイルは、本来であれば2022年に引き渡しがされるはずであった。
(3) 現在の状況は1950年代初頭に似ている。冷戦が激化したばかりの中で米国政府の焦点はヨーロッパに当てられていた。そして、ウクライナ戦争のため、現在の米国の関心もヨーロッパに向けられている。その結果、どちらの場合でも兵器輸出の遅延が起きたのである。1951年と52年に納入されるはずだった物資のうち、1952年第4四半期までに納入されたのはわずか3割だけであった。
(4) 現在の状況が70年前と似ているとはいえ、大きな違いが2つある。1つは、現在、U.S. 7th Fleetが台湾海峡を哨戒していないことである。朝鮮戦争勃発の2日後の1950年6月27日、Truman大統領はU.S. 7th Fleetの台湾海峡への派遣を命じている。その目的は中国による台湾への攻撃、台湾から中国への攻撃という台湾海峡における紛争の可能性をなくすことであった。台湾への兵器納入は遅れに遅れたが、U.S. 7th Fleetの存在が台湾海峡の安全保障に貢献したのである。
(5) 2つ目の違いは、中国が台湾にかけている圧力がかつてないほど強まっていることである。朝鮮戦争時とは違い、中国の関心は台湾にのみ注がれており、頼清徳総統が就任した3日後に、中国は台湾周辺での大規模軍事演習を実施している。2022年8月にNancy Pelosi米下院議長(当時)が台湾訪問した後も同じように台湾周辺での軍事演習をしている。この2つの演習では台湾東部沖が舞台となったが、それは東側から物資が運ばれるのを妨害するという目的もあった。
(6) 台湾海峡で戦争が起きれば、台湾への軍事支援は難しくなり、備蓄された物資で戦わざるをえない。この点が、台湾とウクライナの状況の違いである。ウクライナへは地上経由で支援物資が送られているが、台湾には難しいだろう。したがって、米国の兵器が早く、時間どおりに届けられることにより、戦争準備を万全にすることが最も望ましいのである。米からの兵器の納入の遅れは、台湾の安全保障を脅かし、中国の野心を増強させるであろう。
記事参照:Delayed US Arms Transfers to Taiwan: Déjà Vu?
(1) 中国が台湾への軍事的圧力を強めるなか、米国は台湾支援の政策を進めてきた。6月28日に米下院は、2025年度予算として台湾向け対外軍事資金供与5億ドルを承認している。4月にはウクライナやイスラエル、台湾その他の提携国への950億ドルの資金援助法案にBiden大統領が署名した。そのうち80億ドルが、台湾を含むインド太平洋諸国向けである。また7月13日に米上院軍事委員会が発表した2025年度国防権限法は、台湾有事に備え、台湾向けの「地域有事備蓄」の制度を整えるようU.S. Department of Defenseに求めている。
(2) このように米国による台湾支援の方向性は明確であるが、鍵となるのは兵器の納入である。たとえば2023年10月に台湾国防部長の邱国正(当時)は、台湾が購入した兵器の納入を米国側が先送りにしたことを明らかにした。また、7月に台湾に納入された対戦車ミサイルは、本来であれば2022年に引き渡しがされるはずであった。
(3) 現在の状況は1950年代初頭に似ている。冷戦が激化したばかりの中で米国政府の焦点はヨーロッパに当てられていた。そして、ウクライナ戦争のため、現在の米国の関心もヨーロッパに向けられている。その結果、どちらの場合でも兵器輸出の遅延が起きたのである。1951年と52年に納入されるはずだった物資のうち、1952年第4四半期までに納入されたのはわずか3割だけであった。
(4) 現在の状況が70年前と似ているとはいえ、大きな違いが2つある。1つは、現在、U.S. 7th Fleetが台湾海峡を哨戒していないことである。朝鮮戦争勃発の2日後の1950年6月27日、Truman大統領はU.S. 7th Fleetの台湾海峡への派遣を命じている。その目的は中国による台湾への攻撃、台湾から中国への攻撃という台湾海峡における紛争の可能性をなくすことであった。台湾への兵器納入は遅れに遅れたが、U.S. 7th Fleetの存在が台湾海峡の安全保障に貢献したのである。
(5) 2つ目の違いは、中国が台湾にかけている圧力がかつてないほど強まっていることである。朝鮮戦争時とは違い、中国の関心は台湾にのみ注がれており、頼清徳総統が就任した3日後に、中国は台湾周辺での大規模軍事演習を実施している。2022年8月にNancy Pelosi米下院議長(当時)が台湾訪問した後も同じように台湾周辺での軍事演習をしている。この2つの演習では台湾東部沖が舞台となったが、それは東側から物資が運ばれるのを妨害するという目的もあった。
(6) 台湾海峡で戦争が起きれば、台湾への軍事支援は難しくなり、備蓄された物資で戦わざるをえない。この点が、台湾とウクライナの状況の違いである。ウクライナへは地上経由で支援物資が送られているが、台湾には難しいだろう。したがって、米国の兵器が早く、時間どおりに届けられることにより、戦争準備を万全にすることが最も望ましいのである。米からの兵器の納入の遅れは、台湾の安全保障を脅かし、中国の野心を増強させるであろう。
記事参照:Delayed US Arms Transfers to Taiwan: Déjà Vu?
7月17日「英国はスエズ以東に留まるべき―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, July 17, 2024)
7月17日付のオーストラリアのシンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Institute上席研究員Euan Grahamの“ Keep Britain east of Suez, Mr Healey”と題する論説を掲載し、ここでEuan Grahamは、労働党の新国防長官はめまぐるしく変化する世界と歩調を合わせ、機動的に行動するためには、英国がインド太平洋から軍事的に離れている余裕はないことを認識すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英国労働党政権の国防長官John Healeyは、野党時代、保守党政権のインド太平洋地域への傾斜の一環として、Armed Forces of the Crown(以下、英軍という)をインド太平洋地域に派遣することに疑問を呈していた。しかし、労働党が最近復活した英軍のスエズ以東への駐留を後退させることは国益に反する。
(2) 戦略的な傾向として、欧州とアジアの安全保障上の雲行きが怪しくなってきていることは否定できない。中国と北朝鮮はともに、欧州の安全保障秩序を揺るがすロシアの革命主義を支持している。このことは、インド太平洋における自らの修正主義的野望の潜在的な前例となり、そこから目をそらさせるのに有効である。今のところ、モスクワの戦争努力に対する中国政府の支援は、北朝鮮ほどあからさまではない。しかし、中国はロシアへの物的・外交的支援を着実に強化する一方で、欧州の団結を妨害するハンガリーやセルビアと共通の大義を培っている。中国軍は最近、ポーランド国境近くでベラルーシと共同演習を行っており、中国とロシアは欧州とアジアに勢力圏を築き、両地域に防衛的で固定した戦略的考え方を押し付けようとしている。
(3) ロシアのウクライナ侵攻が続いていることを考えれば、英国の労働党政権には、前政権と同様にNATOと欧州・大西洋の安全保障を優先させる以外に選択肢はない。しかし、戦略的視野を狭め過ぎたり、政治的な理由で欧州を防衛努力の中心に据えたりしないよう注意しなければならない。英国は国連安全保障理事会の常任理事国として、真の国際的利益と責任を有しており、経済的・軍事的勢力の中心が大西洋からインド太平洋へと恒久的に移行した世界に対して、戦略的展望と姿勢を調整し続けるべきである。
(4) 労働党は、外交や商業だけでなく、軍事的な性格も併せ持つインド太平洋全域における英国の関与を維持することを約束すべきである。インド太平洋への防衛上の関与は、脅威に対抗するためだけではない。英国はこの地域がもたらす報酬の分け前を追求し、何かをお返しすることでもある。
(5) 同盟国、貿易相手国、潜在的な敵対国のいずれからも信頼されるために、インド太平洋における英国は、外交を強化し、経済的野心との均衡を取るために、軍事的な側面を取り入れるべきである。産業・技術協力の倍増だけでは、世界で最も重要な地域における自由で開かれた国際秩序を支える英国の貢献としては不十分である。優先事項として、労働党はAUKUSの下で、この10年の後半にオーストラリアに英国の潜水艦を定期的に展開するという約束を守るべきである。米英の潜水艦のオーストラリアへの前方配備は、インド太平洋における集団的抑止力を直接支援する。
(6) インド太平洋における英国の安全保障上の関与持することは、中国に対抗するため、あるいは米国を喜ばせるためだけではない。フィジーなど太平洋の島嶼国や、ブルネイやシンガポールなど東南アジアの伝統的な防衛上の提携国を含め、オーストラリアや日本など、この地域全体で英国の防衛関与の強化の求めが増している。また、カンボジアやフィリピンなどとの新たな関係も生まれている。英国の地域防衛関係は、すでに成果を上げている。このような関係を縮小すれば、信頼できる提携国としての英国の評判を落とすことになる。
(7) 英国が、2021年以降、2隻の哨戒艦をインド太平洋に前方展開させているのは、わずかな予算で海軍外交を行うという斬新な改革である。同地域への前方展開と、小部隊の駐留は提携国の能力を引き上げるのに役立つだけでなく、インド太平洋の多様な防衛環境に関するきめ細かな知識の再構築を可能にする。労働党は、哨戒艦をフリゲートに更新すると約束することで、この勢いを拡大することができる。NATOの枠にとらわれず、欧州の提携国と協力する機会も生まれるため、インド太平洋における欧州の防衛上の関与は多国籍化され、よりよく調整されることになる。
(8) 英国の脆弱な軍隊は、不足している能力を同盟国や提携国から補う以外にはない。それは、欧州諸国とインド太平洋諸国が協力し、必要な支援を提供する善意にかかっている。John Healeyは、60年前にHarold Wilson政権の国防長官Denis Healeyが直面したジレンマの再現に直面している。Denis Healeyは、縮小する経済基盤、そしてソ連の圧力に対応するためにスエズ以東の英国の戦略的布陣を縮小することを選択した。それは時代に合った正しい選択だった。労働党の新国防長官は、めまぐるしく変化する世界と歩調を合わせ、機動的に行動するためには、英国がインド太平洋から軍事的に離れている余裕はないことを認識すべきである。
記事参照:Keep Britain east of Suez, Mr Healey
(1) 英国労働党政権の国防長官John Healeyは、野党時代、保守党政権のインド太平洋地域への傾斜の一環として、Armed Forces of the Crown(以下、英軍という)をインド太平洋地域に派遣することに疑問を呈していた。しかし、労働党が最近復活した英軍のスエズ以東への駐留を後退させることは国益に反する。
(2) 戦略的な傾向として、欧州とアジアの安全保障上の雲行きが怪しくなってきていることは否定できない。中国と北朝鮮はともに、欧州の安全保障秩序を揺るがすロシアの革命主義を支持している。このことは、インド太平洋における自らの修正主義的野望の潜在的な前例となり、そこから目をそらさせるのに有効である。今のところ、モスクワの戦争努力に対する中国政府の支援は、北朝鮮ほどあからさまではない。しかし、中国はロシアへの物的・外交的支援を着実に強化する一方で、欧州の団結を妨害するハンガリーやセルビアと共通の大義を培っている。中国軍は最近、ポーランド国境近くでベラルーシと共同演習を行っており、中国とロシアは欧州とアジアに勢力圏を築き、両地域に防衛的で固定した戦略的考え方を押し付けようとしている。
(3) ロシアのウクライナ侵攻が続いていることを考えれば、英国の労働党政権には、前政権と同様にNATOと欧州・大西洋の安全保障を優先させる以外に選択肢はない。しかし、戦略的視野を狭め過ぎたり、政治的な理由で欧州を防衛努力の中心に据えたりしないよう注意しなければならない。英国は国連安全保障理事会の常任理事国として、真の国際的利益と責任を有しており、経済的・軍事的勢力の中心が大西洋からインド太平洋へと恒久的に移行した世界に対して、戦略的展望と姿勢を調整し続けるべきである。
(4) 労働党は、外交や商業だけでなく、軍事的な性格も併せ持つインド太平洋全域における英国の関与を維持することを約束すべきである。インド太平洋への防衛上の関与は、脅威に対抗するためだけではない。英国はこの地域がもたらす報酬の分け前を追求し、何かをお返しすることでもある。
(5) 同盟国、貿易相手国、潜在的な敵対国のいずれからも信頼されるために、インド太平洋における英国は、外交を強化し、経済的野心との均衡を取るために、軍事的な側面を取り入れるべきである。産業・技術協力の倍増だけでは、世界で最も重要な地域における自由で開かれた国際秩序を支える英国の貢献としては不十分である。優先事項として、労働党はAUKUSの下で、この10年の後半にオーストラリアに英国の潜水艦を定期的に展開するという約束を守るべきである。米英の潜水艦のオーストラリアへの前方配備は、インド太平洋における集団的抑止力を直接支援する。
(6) インド太平洋における英国の安全保障上の関与持することは、中国に対抗するため、あるいは米国を喜ばせるためだけではない。フィジーなど太平洋の島嶼国や、ブルネイやシンガポールなど東南アジアの伝統的な防衛上の提携国を含め、オーストラリアや日本など、この地域全体で英国の防衛関与の強化の求めが増している。また、カンボジアやフィリピンなどとの新たな関係も生まれている。英国の地域防衛関係は、すでに成果を上げている。このような関係を縮小すれば、信頼できる提携国としての英国の評判を落とすことになる。
(7) 英国が、2021年以降、2隻の哨戒艦をインド太平洋に前方展開させているのは、わずかな予算で海軍外交を行うという斬新な改革である。同地域への前方展開と、小部隊の駐留は提携国の能力を引き上げるのに役立つだけでなく、インド太平洋の多様な防衛環境に関するきめ細かな知識の再構築を可能にする。労働党は、哨戒艦をフリゲートに更新すると約束することで、この勢いを拡大することができる。NATOの枠にとらわれず、欧州の提携国と協力する機会も生まれるため、インド太平洋における欧州の防衛上の関与は多国籍化され、よりよく調整されることになる。
(8) 英国の脆弱な軍隊は、不足している能力を同盟国や提携国から補う以外にはない。それは、欧州諸国とインド太平洋諸国が協力し、必要な支援を提供する善意にかかっている。John Healeyは、60年前にHarold Wilson政権の国防長官Denis Healeyが直面したジレンマの再現に直面している。Denis Healeyは、縮小する経済基盤、そしてソ連の圧力に対応するためにスエズ以東の英国の戦略的布陣を縮小することを選択した。それは時代に合った正しい選択だった。労働党の新国防長官は、めまぐるしく変化する世界と歩調を合わせ、機動的に行動するためには、英国がインド太平洋から軍事的に離れている余裕はないことを認識すべきである。
記事参照:Keep Britain east of Suez, Mr Healey
7月17日「米印協力において極めて重要な地理的な意味を持つ西インド洋―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, July 17, 2024)
7月17日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation 研究助手Sayantan Haldarと同FoundationのStrategic Studies Programme研究員Vivek Mishraの“Western Indian Ocean: Key Geography for US-India Cooperation”と題する論説を掲載し、ここで両名はインドと米国の戦略的溝を埋めるために、両国がインド洋での結びつきを強化し、特に西インド洋戦域に焦点を当てることが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 西インド洋は、その位置と世界秩序の変化する動態により、インド洋と中東およびアフリカをつなぐ極めて重要な地理的な意味を持っている。地政学的な状況が変化する中、米国はインドにとって最も重要な提携国の1つとして浮上している。いくつかの戦略的変数が、この関係を強固にするのに役立っている。インドと米国の連係は、貿易、技術、防衛、そして最も重要なこととして、インド太平洋地域における法に基づく秩序への関与という問題で強化されている。インドと米国の関係を歴史的に概観すると、特に冷戦時代の大半で、インドと米国は疎遠であった。両国の関係は、1998年のインドの核実験を契機に急速に悪化し、米国の対印制裁にも繋がり、急激に疎遠になった。しかし、それから10年も経たないうちに、2005年に両国間で民生用原子力協定が締結され、関係正常化が図られ、それ以降、両国関係は改善の方向に向かっている。
(2) インドと米国が共通の連係の基盤を拡大し、深化させている一方で、インド太平洋地域は2国間関係を大幅に強化する極めて重要な問題となっている。インドと米国の連係は多面的である。第1に、インドと米国の両国は、自由で開放的で包括的なインド太平洋に対する規範的な関与を示している。第2に、両国はインド太平洋地域における中国の足跡の拡大と好戦性の高まりに警戒感を抱いている。第3に、両国は、安全保障の重要性を越えて、急成長する貿易、サプライチェーン、基幹施設主導の接続性、技術を基盤とする提携のためにインド太平洋に重点を置いている。インド太平洋地域におけるインドと米国の提携の基盤は固まったものの、いくつかの重要な相違点が残っている。重要なのは、それらの相違点は、地政学的な現実、利益、さらには世界観の違いから生じていることである。インド太平洋地域に目を向ける前に、現代の極めて重要な地球規模の問題について、両国間のこのような微妙な違いを把握しておくと良い。おそらく、ヨーロッパでのロシアとウクライナの戦争と、中東でのイスラエルとパレスチナの戦争の2つの戦争が、ここ数年、世界的な地政学的な議論の最前線になってきた。この2つの問題については、世界が分かれている。米国は、広範な国内の反発を犠牲にしてでも、様々な手段でウクライナとイスラエルを支援することで、これら2つの戦争に対して明確な立場を採ることを選んだ。一方、インドの対応は微妙で、インドの外交政策の暗黙の原則である戦略的自律性によって対応している。インドは、長引く戦争を非難し、戦争が無辜の人々に引き起こし続けている苦しみを強調することを控えない一方で、西側からの批判を犠牲にしながらも、双方との継続的な関与を通じて戦略的な均衡を維持している。
(3) インド太平洋地域では、中国が依然として共通の懸念事項である一方で、インドと米国は中国との関与の度合いが違っている。両国の取り組みは、主に両国の戦略目標と強制力によって導かれてきた。しかし、より重要で根本的な相違点は、インドと米国がインド太平洋に対する見通しの地図の輪郭に関係している。インドにとって、インド太平洋の地理は、アメリカの西海岸とアフリカの東海岸の間の海洋の広がりを伴う。一方、米国にとって、インド太平洋の広がりは、U.S. Indo-Pacific Commandの地理的な責任区域によって明確に示されているように、米国の西海岸からインドの西海岸までを含んでいる。これは、西インド洋がインドと米国の間のインド太平洋というジグソー・パズルで欠けている一片であることを示している。米国はこれまで、インド太平洋の見通しにおいて西インド洋に引き続き重要性を持たせようとしてきたが、この地域では積極的な行為者ではないようである。西インド洋戦域の戦略的重要性は、この地域での海賊の復活によりさらに悪化している。重要なことは、変化する世界的な地政学的マトリックスの中で、アフリカが重要な変数として進化し続けていることである。これは、中国がアフリカ大陸に重要な進出を遂げていることから、さらに勢いを増している。西インド洋はアフリカ大陸とインド太平洋をつなぐ重要な海洋空間であり続けている。
(4) 現存する戦略的溝を埋めるためには、インドと米国がインド洋での結びつきを強化し、特に西インド洋戦域に焦点を当てることが重要である。インドにとっての西インド洋の重要性は、その主要な海上安全保障上の利益がこの地域にあることを考えると、いくら強調してもし過ぎることはない。特に海上安全保障、海洋統治、重要なサプライチェーン、地域の安定の問題において、米印協力の大きな範囲を持つ重要な地理であり続けている。海賊行為の台頭、この地域のSLOCの重要性の高まり、アフリカにおける中国の政治的影響力の増大は、インドと米国にとって重大な懸念事項である。西インド洋は、インド太平洋戦略の焦点を地域の西方に移動する可能性があるため、インド太平洋地域における共通の戦略的未来にとって重要である。西インド洋指向の強力な取り組みがなければ、インド太平洋の東側からの影響が強まる可能性が高く、アジア基軸、リバランス、現在のインド太平洋戦略など、インド太平洋戦略に求めていた成果が無効になる可能性がある。共通の地域目標と目的により、インドと米国は西インド洋への出資を拡大する態勢を整えている。両国間の4つの基本合意、Information Fusion Centre-Indian Ocean Region(インド洋地域情報融合センター)を通じた即時の情報交換、QUADのような多国間枠組み、フランスのような志を同じくする域外提携国の存在により、西インド洋は可能性がまだ完全に実現されていない重要な地域となっている。
(5) 西インド洋はその位置と世界秩序の変化する動態のおかげで、インド洋と中東およびアフリカをつなぐ極めて重要な存在になる可能性がある。インド、イスラエル、アラブ首長国連邦、米国から成るI2U2グループやインド・中東・欧州経済回廊(India-Middle East-Europe Economic Corridor)などの構想を通じてインド太平洋と中東をつなぐことを模索してきたインドと米国にとって、西インド洋はインド太平洋地域での協力を加速するためのジグソー・パズルの欠けている部分になる可能性がある。
記事参照:Western Indian Ocean: Key Geography for US-India Cooperation
(1) 西インド洋は、その位置と世界秩序の変化する動態により、インド洋と中東およびアフリカをつなぐ極めて重要な地理的な意味を持っている。地政学的な状況が変化する中、米国はインドにとって最も重要な提携国の1つとして浮上している。いくつかの戦略的変数が、この関係を強固にするのに役立っている。インドと米国の連係は、貿易、技術、防衛、そして最も重要なこととして、インド太平洋地域における法に基づく秩序への関与という問題で強化されている。インドと米国の関係を歴史的に概観すると、特に冷戦時代の大半で、インドと米国は疎遠であった。両国の関係は、1998年のインドの核実験を契機に急速に悪化し、米国の対印制裁にも繋がり、急激に疎遠になった。しかし、それから10年も経たないうちに、2005年に両国間で民生用原子力協定が締結され、関係正常化が図られ、それ以降、両国関係は改善の方向に向かっている。
(2) インドと米国が共通の連係の基盤を拡大し、深化させている一方で、インド太平洋地域は2国間関係を大幅に強化する極めて重要な問題となっている。インドと米国の連係は多面的である。第1に、インドと米国の両国は、自由で開放的で包括的なインド太平洋に対する規範的な関与を示している。第2に、両国はインド太平洋地域における中国の足跡の拡大と好戦性の高まりに警戒感を抱いている。第3に、両国は、安全保障の重要性を越えて、急成長する貿易、サプライチェーン、基幹施設主導の接続性、技術を基盤とする提携のためにインド太平洋に重点を置いている。インド太平洋地域におけるインドと米国の提携の基盤は固まったものの、いくつかの重要な相違点が残っている。重要なのは、それらの相違点は、地政学的な現実、利益、さらには世界観の違いから生じていることである。インド太平洋地域に目を向ける前に、現代の極めて重要な地球規模の問題について、両国間のこのような微妙な違いを把握しておくと良い。おそらく、ヨーロッパでのロシアとウクライナの戦争と、中東でのイスラエルとパレスチナの戦争の2つの戦争が、ここ数年、世界的な地政学的な議論の最前線になってきた。この2つの問題については、世界が分かれている。米国は、広範な国内の反発を犠牲にしてでも、様々な手段でウクライナとイスラエルを支援することで、これら2つの戦争に対して明確な立場を採ることを選んだ。一方、インドの対応は微妙で、インドの外交政策の暗黙の原則である戦略的自律性によって対応している。インドは、長引く戦争を非難し、戦争が無辜の人々に引き起こし続けている苦しみを強調することを控えない一方で、西側からの批判を犠牲にしながらも、双方との継続的な関与を通じて戦略的な均衡を維持している。
(3) インド太平洋地域では、中国が依然として共通の懸念事項である一方で、インドと米国は中国との関与の度合いが違っている。両国の取り組みは、主に両国の戦略目標と強制力によって導かれてきた。しかし、より重要で根本的な相違点は、インドと米国がインド太平洋に対する見通しの地図の輪郭に関係している。インドにとって、インド太平洋の地理は、アメリカの西海岸とアフリカの東海岸の間の海洋の広がりを伴う。一方、米国にとって、インド太平洋の広がりは、U.S. Indo-Pacific Commandの地理的な責任区域によって明確に示されているように、米国の西海岸からインドの西海岸までを含んでいる。これは、西インド洋がインドと米国の間のインド太平洋というジグソー・パズルで欠けている一片であることを示している。米国はこれまで、インド太平洋の見通しにおいて西インド洋に引き続き重要性を持たせようとしてきたが、この地域では積極的な行為者ではないようである。西インド洋戦域の戦略的重要性は、この地域での海賊の復活によりさらに悪化している。重要なことは、変化する世界的な地政学的マトリックスの中で、アフリカが重要な変数として進化し続けていることである。これは、中国がアフリカ大陸に重要な進出を遂げていることから、さらに勢いを増している。西インド洋はアフリカ大陸とインド太平洋をつなぐ重要な海洋空間であり続けている。
(4) 現存する戦略的溝を埋めるためには、インドと米国がインド洋での結びつきを強化し、特に西インド洋戦域に焦点を当てることが重要である。インドにとっての西インド洋の重要性は、その主要な海上安全保障上の利益がこの地域にあることを考えると、いくら強調してもし過ぎることはない。特に海上安全保障、海洋統治、重要なサプライチェーン、地域の安定の問題において、米印協力の大きな範囲を持つ重要な地理であり続けている。海賊行為の台頭、この地域のSLOCの重要性の高まり、アフリカにおける中国の政治的影響力の増大は、インドと米国にとって重大な懸念事項である。西インド洋は、インド太平洋戦略の焦点を地域の西方に移動する可能性があるため、インド太平洋地域における共通の戦略的未来にとって重要である。西インド洋指向の強力な取り組みがなければ、インド太平洋の東側からの影響が強まる可能性が高く、アジア基軸、リバランス、現在のインド太平洋戦略など、インド太平洋戦略に求めていた成果が無効になる可能性がある。共通の地域目標と目的により、インドと米国は西インド洋への出資を拡大する態勢を整えている。両国間の4つの基本合意、Information Fusion Centre-Indian Ocean Region(インド洋地域情報融合センター)を通じた即時の情報交換、QUADのような多国間枠組み、フランスのような志を同じくする域外提携国の存在により、西インド洋は可能性がまだ完全に実現されていない重要な地域となっている。
(5) 西インド洋はその位置と世界秩序の変化する動態のおかげで、インド洋と中東およびアフリカをつなぐ極めて重要な存在になる可能性がある。インド、イスラエル、アラブ首長国連邦、米国から成るI2U2グループやインド・中東・欧州経済回廊(India-Middle East-Europe Economic Corridor)などの構想を通じてインド太平洋と中東をつなぐことを模索してきたインドと米国にとって、西インド洋はインド太平洋地域での協力を加速するためのジグソー・パズルの欠けている部分になる可能性がある。
記事参照:Western Indian Ocean: Key Geography for US-India Cooperation
7月18日「アラスカ沖での中国艦艇の存在が中国海軍の戦力投射の拡大を示しており、NATOへの意図の発信にもなっている―香港紙報道」(South China Morning Post, July 18, 2024)
7月18日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は、“Why Chinese warships near Alaska signal growing naval projection – and a message to Nato”と題する記事を掲載し、2024年7月初め、U.S. Coast Guardがアラスカ沖の海域で中国軍艦艇を視認したことは、北極圏における中国とロシアの間の軍事協力拡大の最新の兆候であり、専門家らは中国がこの北極圏で米国とNATOが主導する戦略的意図に対抗しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国軍艦艇3隻がアリューシャン列島の南西端にあるアムチトカ峠の北約200kmで、4隻目の艦艇は、同じくアリューシャン列島のアムクタ峠の北約135kmで視認された。U.S. Coast Guardは声明で、中国艦艇4隻全てが「国際法と規範に従って」国際海域を航行しているが、米国のEEZ内に所在すると述べている。中国の乗組員は、無線通信で「航行の自由作戦」を目的としていると主張している。U.S. Coast Guardによると、これらの艦艇はアリューシャン列島の南から北太平洋に向かって航行するまで監視され、「アラスカ周辺の海洋環境における米国の利益に支障がない」ことを確認されている。この海域で中国艦艇が視認されたのは4年連続である。2023年7月、中国海軍とВоенно-морской флот Российской Федерации(Military Maritime Fleet of the Russian Federation、以下、ロシア海軍と言う)がアリューシャン列島付近で共同哨戒を行った後、米国はアラスカ沖に駆逐艦を配備した。
(2) University of Alaska FairbanksのCentre for Arctic Security and Resilience所長Troy Bouffardは、「中国艦艇がアラスカ沖海域に侵入することは稀であり、最近まで中国は主に沿岸作戦に限定されていた。しかし、中国海軍は、特に海軍の戦力投射に重点を置いており、外洋作戦能力を迅速に開発するための野心的な行動に乗り出している。この戦略的な転換は、他国のEEZ内で作戦を行う際に明らかである。この取り組みは、中国の進化する海洋ドクトリンを示すだけでなく、国際舞台での海軍の存在感を高めるためにも機能している」と述べている。2024年7月6日と7月7日に視認された中国艦艇は、中国海軍が2021年に開始した一連の年次哨戒の一部を構成するもので、2024年に実施予定であったロシア海軍との共同哨戒を開始した1週間後のことであった。中国国防部は、「中国とロシアの海軍艦艇が西太平洋と北太平洋を航行し、その後共同演習が行われていた南シナ海に入った。この行動はいかなる第三者も対象としておらず、現在の国際的及び地域的な状況とは何の関係もない」と述べている。
(3) 中国のシンクタンク南海戦略態勢感知計画の胡波は「アラスカ近海での中国艦艇の航行が定期的になりつつあるが、これはまだ中国海軍の通常の慣行にはなっていない」と述べ、最近の航海はロシアとの共同哨戒とは「別物」であると付け加えている。北極圏は、米国とロシアの間の引火点としてだけでなく、気候変動が北極の氷を溶かす中、アジア太平洋とヨーロッパの海洋結節点としても、その戦略的重要性で注目を集めている。その結果、北太平洋のアラスカとベーリング海は、北極海への重要な玄関口となっている。
(4) Arctic University of Norway政治学准教授Marc Lanteigneは、「北太平洋はより大きな中ロ海洋協力の舞台になっており、中国はロシアとのより緊密な戦略的連携を利用して軍事的展開を強化しようとしている。中国政府は北極政策をハードパワーの観点から捉えることに慎重だったが、現在は北極海の近くで活動する自国軍の能力を示すことに前向きになっている。中国が北極圏で一方的な軍事的駐留を求める可能性は非常に低いが、中国は北極圏において米国とNATO主導の下で西側の戦略的意図を拡大しようとする試みと見なすものに対抗するためにロシアと提携することに関心を持っている」と述べている。アラスカ沖での中国艦艇の視認情報があった時期に、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドのアジア太平洋地域の4ヵ国は、ワシントンで開催されたNATO首脳会議に参加していた。この首脳会議後に発表された声明においては、中国の「野心と威圧的な政策」がNATOの「利益、安全保障、価値」に挑戦し続けていること、そして「法に基づく国際秩序を弱体化させ、再構築する」試みでロシアとの戦略的パートナーシップを深めていることは、深刻な懸念の原因であると述べられている。
(5) 米シンクタンクHudson Institute上席研究員Liselotte Odgaardは、「中国のロシアとの軍事協力は、ロシアが北極圏のNATO加盟国に対してハードパワーの脅威を提供し続けるための主要な要因である。北極圏における中国とロシアの緊密な軍事協力に対する懸念は、彼らの経済的および技術的協力によって強化されるであろう。中国は、空輸、陸上および海上輸送を組み合わせるための世界で最も先進的な物流システムをいくつか備えている。彼らは宇宙監視、極地衛星、そしてロシアとデータを共有できるため、海氷の動きや敵の状況認識が生まれる。これらすべてのことは、軍事用途にも使用できる。中国は、ロシアがNATOに対して強大な脅威を与え続けるのを助けたいと考えている。なぜなら、そうすれば、他の紛争で忙しくなり。アジアで中国が自由に行動できるからである。中国は北極圏で軍事大国になることを望んでいないが、西側がますます挑発的で非協力的になっていると感じているため、ロシアへの支持を示すであろう」と述べている。
(6) University of Alaska FairbanksのCameron Carlsonは、「中国が自らを『近北極国家』と位置付けているのは、経済的機会を活用したいという野心を反映している。それには、石油、ガス、鉱物の採掘、アジアとヨーロッパ間の短い海上交通路が含まれている。ロシアとの協力関係により、中国は、北極圏における軍事的展開と監視能力をさらに強化し続け、この地域における米国の影響力と能力に挑戦していくであろう。米国は中国の北極圏への野望、特に軍事拡大の可能性と北極圏の主権への挑戦に関して認識し、疑念を持っている。米国は、軍事的展開を強化し、できれば北極圏の基幹施設と能力に投資することで北極圏戦略を強化することができる。同時に、影響力を拡大しようとする中国の取り組みに対抗するために、他の北極圏諸国との同盟を強化する可能性が高い」と述べている。
記事参照:Why Chinese warships near Alaska signal growing naval projection – and a message to Nato
(1) 中国軍艦艇3隻がアリューシャン列島の南西端にあるアムチトカ峠の北約200kmで、4隻目の艦艇は、同じくアリューシャン列島のアムクタ峠の北約135kmで視認された。U.S. Coast Guardは声明で、中国艦艇4隻全てが「国際法と規範に従って」国際海域を航行しているが、米国のEEZ内に所在すると述べている。中国の乗組員は、無線通信で「航行の自由作戦」を目的としていると主張している。U.S. Coast Guardによると、これらの艦艇はアリューシャン列島の南から北太平洋に向かって航行するまで監視され、「アラスカ周辺の海洋環境における米国の利益に支障がない」ことを確認されている。この海域で中国艦艇が視認されたのは4年連続である。2023年7月、中国海軍とВоенно-морской флот Российской Федерации(Military Maritime Fleet of the Russian Federation、以下、ロシア海軍と言う)がアリューシャン列島付近で共同哨戒を行った後、米国はアラスカ沖に駆逐艦を配備した。
(2) University of Alaska FairbanksのCentre for Arctic Security and Resilience所長Troy Bouffardは、「中国艦艇がアラスカ沖海域に侵入することは稀であり、最近まで中国は主に沿岸作戦に限定されていた。しかし、中国海軍は、特に海軍の戦力投射に重点を置いており、外洋作戦能力を迅速に開発するための野心的な行動に乗り出している。この戦略的な転換は、他国のEEZ内で作戦を行う際に明らかである。この取り組みは、中国の進化する海洋ドクトリンを示すだけでなく、国際舞台での海軍の存在感を高めるためにも機能している」と述べている。2024年7月6日と7月7日に視認された中国艦艇は、中国海軍が2021年に開始した一連の年次哨戒の一部を構成するもので、2024年に実施予定であったロシア海軍との共同哨戒を開始した1週間後のことであった。中国国防部は、「中国とロシアの海軍艦艇が西太平洋と北太平洋を航行し、その後共同演習が行われていた南シナ海に入った。この行動はいかなる第三者も対象としておらず、現在の国際的及び地域的な状況とは何の関係もない」と述べている。
(3) 中国のシンクタンク南海戦略態勢感知計画の胡波は「アラスカ近海での中国艦艇の航行が定期的になりつつあるが、これはまだ中国海軍の通常の慣行にはなっていない」と述べ、最近の航海はロシアとの共同哨戒とは「別物」であると付け加えている。北極圏は、米国とロシアの間の引火点としてだけでなく、気候変動が北極の氷を溶かす中、アジア太平洋とヨーロッパの海洋結節点としても、その戦略的重要性で注目を集めている。その結果、北太平洋のアラスカとベーリング海は、北極海への重要な玄関口となっている。
(4) Arctic University of Norway政治学准教授Marc Lanteigneは、「北太平洋はより大きな中ロ海洋協力の舞台になっており、中国はロシアとのより緊密な戦略的連携を利用して軍事的展開を強化しようとしている。中国政府は北極政策をハードパワーの観点から捉えることに慎重だったが、現在は北極海の近くで活動する自国軍の能力を示すことに前向きになっている。中国が北極圏で一方的な軍事的駐留を求める可能性は非常に低いが、中国は北極圏において米国とNATO主導の下で西側の戦略的意図を拡大しようとする試みと見なすものに対抗するためにロシアと提携することに関心を持っている」と述べている。アラスカ沖での中国艦艇の視認情報があった時期に、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドのアジア太平洋地域の4ヵ国は、ワシントンで開催されたNATO首脳会議に参加していた。この首脳会議後に発表された声明においては、中国の「野心と威圧的な政策」がNATOの「利益、安全保障、価値」に挑戦し続けていること、そして「法に基づく国際秩序を弱体化させ、再構築する」試みでロシアとの戦略的パートナーシップを深めていることは、深刻な懸念の原因であると述べられている。
(5) 米シンクタンクHudson Institute上席研究員Liselotte Odgaardは、「中国のロシアとの軍事協力は、ロシアが北極圏のNATO加盟国に対してハードパワーの脅威を提供し続けるための主要な要因である。北極圏における中国とロシアの緊密な軍事協力に対する懸念は、彼らの経済的および技術的協力によって強化されるであろう。中国は、空輸、陸上および海上輸送を組み合わせるための世界で最も先進的な物流システムをいくつか備えている。彼らは宇宙監視、極地衛星、そしてロシアとデータを共有できるため、海氷の動きや敵の状況認識が生まれる。これらすべてのことは、軍事用途にも使用できる。中国は、ロシアがNATOに対して強大な脅威を与え続けるのを助けたいと考えている。なぜなら、そうすれば、他の紛争で忙しくなり。アジアで中国が自由に行動できるからである。中国は北極圏で軍事大国になることを望んでいないが、西側がますます挑発的で非協力的になっていると感じているため、ロシアへの支持を示すであろう」と述べている。
(6) University of Alaska FairbanksのCameron Carlsonは、「中国が自らを『近北極国家』と位置付けているのは、経済的機会を活用したいという野心を反映している。それには、石油、ガス、鉱物の採掘、アジアとヨーロッパ間の短い海上交通路が含まれている。ロシアとの協力関係により、中国は、北極圏における軍事的展開と監視能力をさらに強化し続け、この地域における米国の影響力と能力に挑戦していくであろう。米国は中国の北極圏への野望、特に軍事拡大の可能性と北極圏の主権への挑戦に関して認識し、疑念を持っている。米国は、軍事的展開を強化し、できれば北極圏の基幹施設と能力に投資することで北極圏戦略を強化することができる。同時に、影響力を拡大しようとする中国の取り組みに対抗するために、他の北極圏諸国との同盟を強化する可能性が高い」と述べている。
記事参照:Why Chinese warships near Alaska signal growing naval projection – and a message to Nato
7月18日「イラン革命防衛隊海軍、外洋からの打撃力獲得を誇示―英専門家論説」(The Interpreter, July 18, 2024)
7月18日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、British Armyの情報部に長年勤務したJonathan Campbell-Jamesの“IRGC Navy flexes its long-range threat capability”と題する論説を掲載し、Jonathan Campbell-Jamesはイスラム革命防衛隊海軍が拿捕したパナマックス商船を改造し、外洋からの長射程攻撃力を獲得したと誇示しており、改革派大統領が出現した政治情勢の中でイランの対外行動に影響を及ぼすかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) niru-ye daryâyi-e sepâh-e pâsdârân-e enghelâb-e eslâmi(イスラム革命防衛隊海軍、以下NEDSAと言う)の外洋からの打撃力の展開は、韓国で建造されたパナマックスコンテナ船だった3万6,000トンの「シャヒド・マフダビ」が牽引している。「シャヒド・マフダビ」の改装は2023年初めに完了しており、速力18ノット、航続距離3万3,000kmである。
(2) 海上公試中、「シャヒド・マフダビ」は上甲板からMi-17ヘリコプターを運用しているのが確認されており、イラン設計の3次元フェーズドアレイレーダーを搭載し、自船防御用に4基の垂直発射型ナワブ短距離多目標防空ミサイルと対空砲システムを装備している。
また、攻撃用の兵装として射程2,000kmのカドル474巡航ミサイル、航続距離2,500kmのシャヒド136無人機の発射にも「シャヒド・マフダビ」の平坦な上甲板は容易に利用できる。
(3) 従来の作戦形態では、「シャヒド・マフダビ」は非常に脆弱である。しかし、Sepah-e Pasdaran-e Enghelab-e Islami(イスラム革命防衛隊:以下、IRGCと言う)が専門とする非公然の戦いでは、慣性航法システムと衛星信号の受信のみを利用して諜報情報や標的情報を受け取ることができる。探知されないままでいるのは NEDSA が想像するよりも難しいかもしれないが、「シャヒド・マフダビ」が運用できる攻撃システムの射程の長さを考慮すると、隠密裡に発射源が特定されない攻撃を仕掛ける目的であれば、「シャヒド・マフダビ」が隠れられる海域は広いだろう。
(4) 2月には、オマーン湾の海上で「シャヒド・マフダビ」の甲板からコンテナに入ったミサイル2発が発射される映像が公開されており、射程1,000kmの高性能ゾルファガル・バシル対艦弾道ミサイルである可能性が高い。「シャヒド・マフダビ」の甲板は、NEDSA 高速攻撃艇の配備にも使用できる。NEDSA 高速攻撃艇の派生型には、対空ミサイルとナシル CM-90 自律型対艦ミサイルが装備されている。
(5)「シャヒド・マフダビ」は、インド洋中部を通る39日間の航海に出港し、5月18日にバンダレ・アッバースに帰還した。NEDSA司令官のAlireza Tangsiri少将は、「シャヒド・マフダビ」がディエゴガルシア島の領域を通過し、南回帰線を横断し、マラッカ海峡を通過して、U.S. 5th FleetとU.S. 7th Fleetの担任海域の両方を通過したと主張している。Alireza Tangsiri少将は「我が国の外洋艦艇は世界中のあらゆる場所に展開でき、そこからミサイルを発射できる以上、我が国に不安をもたらそうとする者にとって安全な場所はどこにもない」と警告している。
(6) Alireza Tangsiri少将の宣言は額面通りに受け止めるべきだろうし、NEDSAの艦艇が警告なしに「戦線の後方」に現れる可能性も十分にある。この文脈で、IRGCは、即時対応を必要とする閾値をわずかに下回る程度に調整された武力挑発を開始した実績があるが、時間の経過とともに事態は拡大し、段階的に激化している。
(7) イランでは、改革派のMasoud Pezeshkian新大統領が就任したが、最高指導者Ali Khameneiに従うIRGCの拡張主義的野心をMasoud Pezeshkian新大統領が抑制する可能性は低い。この見解は、U.S. National Security Council報道官John Kirbyも最近支持している。改革派大統領の過去の実績を見ると、強硬派とIRGCは妥協のないやり方で地域拡張政策を継続する一方で、制裁体制の自由化などの目標を達成するために、対応しそうな国々に対しては融和的な姿勢を示すことが示唆されている。この政策の象徴として、「シャヒド・マフダビ」や「シャヒド・バゲリ」のような艦船が近いうちに現れると予想される。
記事参照:IRGC Navy flexes its long-range threat capability
(1) niru-ye daryâyi-e sepâh-e pâsdârân-e enghelâb-e eslâmi(イスラム革命防衛隊海軍、以下NEDSAと言う)の外洋からの打撃力の展開は、韓国で建造されたパナマックスコンテナ船だった3万6,000トンの「シャヒド・マフダビ」が牽引している。「シャヒド・マフダビ」の改装は2023年初めに完了しており、速力18ノット、航続距離3万3,000kmである。
(2) 海上公試中、「シャヒド・マフダビ」は上甲板からMi-17ヘリコプターを運用しているのが確認されており、イラン設計の3次元フェーズドアレイレーダーを搭載し、自船防御用に4基の垂直発射型ナワブ短距離多目標防空ミサイルと対空砲システムを装備している。
また、攻撃用の兵装として射程2,000kmのカドル474巡航ミサイル、航続距離2,500kmのシャヒド136無人機の発射にも「シャヒド・マフダビ」の平坦な上甲板は容易に利用できる。
(3) 従来の作戦形態では、「シャヒド・マフダビ」は非常に脆弱である。しかし、Sepah-e Pasdaran-e Enghelab-e Islami(イスラム革命防衛隊:以下、IRGCと言う)が専門とする非公然の戦いでは、慣性航法システムと衛星信号の受信のみを利用して諜報情報や標的情報を受け取ることができる。探知されないままでいるのは NEDSA が想像するよりも難しいかもしれないが、「シャヒド・マフダビ」が運用できる攻撃システムの射程の長さを考慮すると、隠密裡に発射源が特定されない攻撃を仕掛ける目的であれば、「シャヒド・マフダビ」が隠れられる海域は広いだろう。
(4) 2月には、オマーン湾の海上で「シャヒド・マフダビ」の甲板からコンテナに入ったミサイル2発が発射される映像が公開されており、射程1,000kmの高性能ゾルファガル・バシル対艦弾道ミサイルである可能性が高い。「シャヒド・マフダビ」の甲板は、NEDSA 高速攻撃艇の配備にも使用できる。NEDSA 高速攻撃艇の派生型には、対空ミサイルとナシル CM-90 自律型対艦ミサイルが装備されている。
(5)「シャヒド・マフダビ」は、インド洋中部を通る39日間の航海に出港し、5月18日にバンダレ・アッバースに帰還した。NEDSA司令官のAlireza Tangsiri少将は、「シャヒド・マフダビ」がディエゴガルシア島の領域を通過し、南回帰線を横断し、マラッカ海峡を通過して、U.S. 5th FleetとU.S. 7th Fleetの担任海域の両方を通過したと主張している。Alireza Tangsiri少将は「我が国の外洋艦艇は世界中のあらゆる場所に展開でき、そこからミサイルを発射できる以上、我が国に不安をもたらそうとする者にとって安全な場所はどこにもない」と警告している。
(6) Alireza Tangsiri少将の宣言は額面通りに受け止めるべきだろうし、NEDSAの艦艇が警告なしに「戦線の後方」に現れる可能性も十分にある。この文脈で、IRGCは、即時対応を必要とする閾値をわずかに下回る程度に調整された武力挑発を開始した実績があるが、時間の経過とともに事態は拡大し、段階的に激化している。
(7) イランでは、改革派のMasoud Pezeshkian新大統領が就任したが、最高指導者Ali Khameneiに従うIRGCの拡張主義的野心をMasoud Pezeshkian新大統領が抑制する可能性は低い。この見解は、U.S. National Security Council報道官John Kirbyも最近支持している。改革派大統領の過去の実績を見ると、強硬派とIRGCは妥協のないやり方で地域拡張政策を継続する一方で、制裁体制の自由化などの目標を達成するために、対応しそうな国々に対しては融和的な姿勢を示すことが示唆されている。この政策の象徴として、「シャヒド・マフダビ」や「シャヒド・バゲリ」のような艦船が近いうちに現れると予想される。
記事参照:IRGC Navy flexes its long-range threat capability
7月18日「ウクライナによる海での成功が意味すること―英国際安全保障問題専門家論説」(The Conversation, July 18, 2024)
7月18日付のオーストラリアニュースサイトThe Conversation は、英Lancaster University教授Basil Germondの“Ukraine war: Russia has the upper hand in the ground war – but at sea it’s a different story”と題する論説を掲載し、そこでBasil Germondはウクライナ戦争において地上で苦戦するウクライナが、海ではロシアを苦しめていることを指摘し、その長期的な意義の大きさについて、要旨以下のように述べている。
(1) 7月15日、Військово-Морські Сили Збройних Сил України(ウクライナ海軍)報道官が、ロシアЧерноморский флот(以下、黒海艦隊と言う)の巡視艇がクリミアから退却したことを伝えた。この象徴的な出来事は、ウクライナ戦争において、ウクライナが海で一貫した成功を収めてきたことを思い起こさせる。ウクライナは地上、特に東部で苦戦しているが、海では違う事態が展開している。逆にロシアの黒海艦隊はこの戦争で重要な貢献ができておらず、黒海の支配を喪失している。
(2) ウクライナには海軍がないが、ミサイルや海上ドローンを用いてロシアの艦艇を遠距離から攻撃する能力を開発してきた。艦艇を破壊できる安価な兵器、つまり非対称的兵器の重要性が高まっていることを示している。艦艇は高価な軍事資産であり、数十年周期で調達されるものであるため、こうした状況はロシアにとっては大問題である。黒海艦隊への艦艇の補充はできない。1936年にトルコとの間で調印されたモントルー条約により、交戦中の国の艦艇はボスポラス、ダーダネルス海峡を通航できないためである。ロシアは残された艦艇で黒海を防衛するほかに方策はない。
(3) ロシアは艦艇を安全に運用できないため、オデーサへの上陸作戦など、いくつかの戦術は実行不可能となっている。地上部隊への物資供給も難しくなっている。一方、ウクライナはロシアによる封鎖を切り抜け、穀物輸出などによって経済を維持している。ロシアは潜水艦であれば比較的安全に使用できるが、潜水艦がウクライナのエネルギー用の基幹施設などへの攻撃の主力となる可能性は低い。
(4) 象徴的な観点では、海洋でのウクライナの成功はPutin大統領に対する政治的一撃となる。特にクリミアは、偉大な国家の再生というPutin大統領の物語の中核を占めているためである。そして、地上部隊の士気を高めるのが困難であるウクライナにとって、海での成功は大きな意味がある。海洋におけるウクライナの成果は、長期的な消耗戦の文脈においては、軽視されてはならない。
(5) ウクライナ戦争の焦点は主に地上であった。しかしウクライナの海洋での継続的成功には大きな意味がある。単にВоенно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)に対する勝利というだけではない。そして、クリミアへの圧力は戦略的に重要である。Збройні сили України(ウクライナ軍)はロシアの海軍資産や航空基地、防空システム、ケルチ橋などの交通基幹施設を狙ってきた。そしてその攻撃は西側供給の長距離ミサイルによって行われてきた。
(6) こうした展開により、ロシアは2方面での作戦展開を余儀なくされている。クリミア失陥は軍事的かつ政治的にも破滅的なことであるからである。ウクライナ東部でのロシアの優位は圧倒的であるが、ウクライナがクリミアへの圧力を強めれば、ロシアはそちらにも資源を振り向けなければならない。ウクライナの海洋での勝利は、地上軍を直接支援するものではないかもしれないが、もしケルチ橋の破壊に成功するなど、なんらかの重大な軍事作戦が成功すれば、戦争の道筋は大きく変わるかもしれない。
記事参照:Ukraine war: Russia has the upper hand in the ground war – but at sea it’s a different story
(1) 7月15日、Військово-Морські Сили Збройних Сил України(ウクライナ海軍)報道官が、ロシアЧерноморский флот(以下、黒海艦隊と言う)の巡視艇がクリミアから退却したことを伝えた。この象徴的な出来事は、ウクライナ戦争において、ウクライナが海で一貫した成功を収めてきたことを思い起こさせる。ウクライナは地上、特に東部で苦戦しているが、海では違う事態が展開している。逆にロシアの黒海艦隊はこの戦争で重要な貢献ができておらず、黒海の支配を喪失している。
(2) ウクライナには海軍がないが、ミサイルや海上ドローンを用いてロシアの艦艇を遠距離から攻撃する能力を開発してきた。艦艇を破壊できる安価な兵器、つまり非対称的兵器の重要性が高まっていることを示している。艦艇は高価な軍事資産であり、数十年周期で調達されるものであるため、こうした状況はロシアにとっては大問題である。黒海艦隊への艦艇の補充はできない。1936年にトルコとの間で調印されたモントルー条約により、交戦中の国の艦艇はボスポラス、ダーダネルス海峡を通航できないためである。ロシアは残された艦艇で黒海を防衛するほかに方策はない。
(3) ロシアは艦艇を安全に運用できないため、オデーサへの上陸作戦など、いくつかの戦術は実行不可能となっている。地上部隊への物資供給も難しくなっている。一方、ウクライナはロシアによる封鎖を切り抜け、穀物輸出などによって経済を維持している。ロシアは潜水艦であれば比較的安全に使用できるが、潜水艦がウクライナのエネルギー用の基幹施設などへの攻撃の主力となる可能性は低い。
(4) 象徴的な観点では、海洋でのウクライナの成功はPutin大統領に対する政治的一撃となる。特にクリミアは、偉大な国家の再生というPutin大統領の物語の中核を占めているためである。そして、地上部隊の士気を高めるのが困難であるウクライナにとって、海での成功は大きな意味がある。海洋におけるウクライナの成果は、長期的な消耗戦の文脈においては、軽視されてはならない。
(5) ウクライナ戦争の焦点は主に地上であった。しかしウクライナの海洋での継続的成功には大きな意味がある。単にВоенно-морской флот Российской Федерации(ロシア海軍)に対する勝利というだけではない。そして、クリミアへの圧力は戦略的に重要である。Збройні сили України(ウクライナ軍)はロシアの海軍資産や航空基地、防空システム、ケルチ橋などの交通基幹施設を狙ってきた。そしてその攻撃は西側供給の長距離ミサイルによって行われてきた。
(6) こうした展開により、ロシアは2方面での作戦展開を余儀なくされている。クリミア失陥は軍事的かつ政治的にも破滅的なことであるからである。ウクライナ東部でのロシアの優位は圧倒的であるが、ウクライナがクリミアへの圧力を強めれば、ロシアはそちらにも資源を振り向けなければならない。ウクライナの海洋での勝利は、地上軍を直接支援するものではないかもしれないが、もしケルチ橋の破壊に成功するなど、なんらかの重大な軍事作戦が成功すれば、戦争の道筋は大きく変わるかもしれない。
記事参照:Ukraine war: Russia has the upper hand in the ground war – but at sea it’s a different story
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Indonesia’s New Military Bases in the South China Sea: Preparing for Friction
https://www.fpri.org/article/2024/07/indonesias-new-military-bases-in-the-south-china-sea-preparing-for-friction/
Foreign Policy Research Institution, July 11, 2024
By Felix K. Chang, a senior fellow at the Foreign Policy Research Institute
2024年7月11日、米シンクタンクForeign Policy Research Instituteの上席研究員Felix K. Changは、同Instituteのウエブサイトに、“Indonesia’s New Military Bases in the South China Sea: Preparing for Friction”と題する論説を寄稿した。その中で、①2024年2月、インドネシアはPrabowo Subiantoを次期大統領に選出したが、インドネシアの外交政策が変わるかどうかについての憶測はすでに渦巻いている。②しかし、Prabowoが南シナ海におけるインドネシアの政策の軌道を変えることはないだろう。③インドネシア政府が中国政府の「九段線」の主張に対して行った抵抗は、過去には抑制的なものであったため、中国によるインドネシアのEEZへの侵入を容易にした。④過去6年間ほど、インドネシアはEEZへの中国の侵入の増加に対応するため、この海域における安全保障体制を徐々に強化してきた。⑤その強化は、紛争海域のすぐ南に位置するナツナ諸島に、ゆっくりとではあるが着実に軍事基地を設置し、拡張してきたことによく現れている。⑥元陸軍中将として、そして、その後国防相として、Prabowoはこうした取り組みに長く携わってきた。⑦最終的には、インドネシアがナツナ諸島とその周辺に基地を建設し、軍を配備することで、独自の勢いが生まれる可能性がある。⑧その結果、インドネシアの哨戒が強化され、中国の海洋戦力と対立する頻度が高まる可能性がある。⑨したがって、Prabowo Subianto はインドネシアの海洋権益と中国との経済関係のどちらかを選ぶことになるが、前者を優先する可能性は高いと思われるといった主張を述べている。
(2) The West Is Misreading China in the South China Sea
https://www.geopoliticalmonitor.com/the-west-is-misreading-china-in-the-south-china-sea/
Geopolitical Monitor, July 11, 2024
By F. Andrew Wolf, Jr. is a retired USAF Lt. Col. and retired university professor of the Humanities, Philosophy of Religion and Philosophy.
2024年7月11日、U.S. Air Forceの退役中佐F. Andrew Wolf Jr.は、カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトに" The West Is Misreading China in the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中でF. Andrew Wolf Jr.は、西側諸国は南シナ海における中国の行動を誤解していると話題を切り出し、中国は南シナ海全体の約90%を自国の領土と主張し、他の東南アジア諸国との間で島嶼や海域の領有権を巡る緊張が高まっているが、この中国の行動は、国家の統一、領土保全、発展利益を守ることを最優先とするものであり、米国と中国の間での基本的な認識の違いを浮き彫りにするものだと指摘している。そしてF. Andrew Wolf Jr.は、西側諸国は中国の行動を法に基づく秩序の維持、同盟国の安全、航行の自由の観点から理解しているが、中国はこれを自国の領土主権の問題と捉えており、中国の行動は歴史的な「国恥」を乗り越え、失われた領土を取り戻すことを目指しているため、非交渉的なものであり、西側諸国が中国の歴史的視点を理解しない限り、根本的な解決は困難であると主張している。
(3) DEEP STRIKES INTO RUSSIA: A PARTNER’S DECISION FOR UKRAINE’S STRATEGIC SUCCESS
https://warontherocks.com/2024/07/deep-strikes-into-russia-a-partners-decision-for-ukraines-strategic-success/
War on the Rocks, July 16, 2024
By Serhii Kuzan, a military and political expert, chairman of the Ukrainian Security and Cooperation Center
2024年7月16日、2021年4月に設立されたウクライナ独立系シンクタンクUkrainian Security and Cooperation Center代表Serhii Kuzanは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" DEEP STRIKES INTO RUSSIA: A PARTNER’S DECISION FOR UKRAINE’S STRATEGIC SUCCESS"と題する論説を寄稿した。その中でSerhii Kuzanは、ウクライナに対する西側諸国の政策は変化しつつあり、特に長距離攻撃の許可に関して柔軟性が増しているとの現状を示した上で、特に英国はウクライナが英国製の長距離ミサイルを使用することを容認しており、他の西側諸国も同様の動きを見せる可能性があるが、米国も一部地域での限定的な攻撃を許可しているものの、依然として広範な攻撃には制約を課していると指摘している。そしてSerhii Kuzanは、ウクライナはこれまで、西側諸国から提供された兵器を効果的に使用してきたが、より強力で長距離の兵器が使用可能となれば、ロシアの軍事拠点への攻撃が可能となり、戦局を有利に進めることができると述べた上で、現在、ウクライナは自国の領土や一部の国境地域内でのみ攻撃を行うことができる一方で、ロシアは広範な地域からウクライナへの攻撃を続けているが、制限の撤廃が進めば、ロシアの空軍基地や軍事施設への攻撃が可能となり、ロシアの攻撃能力を大幅に削ぐことができると主張している。
(4) The Red Sea Crisis Goes Beyond the Houthis
https://www.foreignaffairs.com/somalia/red-sea-crisis-goes-beyond-houthis
Foreign Affairs. July 19, 2024
By JOHNNIE CARSON is Senior Adviser to the President of the U.S. Institute of Peace. From 2009 to 2013, he served as U.S. Assistant Secretary of State for African Affairs.
ALEX RONDOS is Senior Adviser to the President of the U.S. Institute of Peace. He formerly served as the European Union’s Special Representative for the Horn of Africa.
SUSAN STIGANT is Director of Africa Programs at the U.S. Institute of Peace.
MICHAEL WOLDEMARIAM is an Associate Professor at the University of Maryland’s School of Public Policy.
2024年7月19日、元米国務次官補(アフリカ担当)で現在は米議会の紛争解決の研究機関United States Institute of Peaceの代表であるJohnnie Carson、同Institute上席顧問で元EUにおけるアフリカの角の特別代表ALEX RONDOS、同Instituteアフリカ研究責任者Susan Stigant、および米University of MarylandのSchool of Public PolicyのMichael Woldemariamは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Red Sea Crisis Goes Beyond the Houthis "と題する論説を寄稿した。その中で4名は、イエメンのフーシ派は、ハマスの戦争を支持する形で商船を攻撃し、世界貿易に深刻な影響を与えているが、これに加え、アフリカの角では内戦や国際的な対立が拡大し、地域全体に混乱を引き起こしていると述べた上で、エチオピアやスーダンでは大規模な暴力が続き、特にスーダンは内戦による国家崩壊の危機に直面しているが、スーダンの内戦は、エチオピアやエリトリアとの関係にも影響を及ぼし、地域の不安定さを助長しているだけでなく、さらには、これらの国々の不安定さは、アルシャバーブやアルカイダ、ISISといった過激派組織が勢力を拡大する機会を提供していると指摘している。そして4名は、ロシアやイラン、アラブ首長国連邦などの地域外の国々も、紅海沿岸での勢力拡大を目指し、軍事的・政治的に介入しており、米国は地域の安定を維持するために積極的な外交努力を行う必要があるが、特に、中東諸国による不安定化を防ぐための協力が重要であるとし、米国やEU、そしてAfrican Union(アフリカ連合)が協力して地域の和平構築過程を支援し、紅海の危機を未然に防ぐための取り組みが求められていると主張している。
(1) Indonesia’s New Military Bases in the South China Sea: Preparing for Friction
https://www.fpri.org/article/2024/07/indonesias-new-military-bases-in-the-south-china-sea-preparing-for-friction/
Foreign Policy Research Institution, July 11, 2024
By Felix K. Chang, a senior fellow at the Foreign Policy Research Institute
2024年7月11日、米シンクタンクForeign Policy Research Instituteの上席研究員Felix K. Changは、同Instituteのウエブサイトに、“Indonesia’s New Military Bases in the South China Sea: Preparing for Friction”と題する論説を寄稿した。その中で、①2024年2月、インドネシアはPrabowo Subiantoを次期大統領に選出したが、インドネシアの外交政策が変わるかどうかについての憶測はすでに渦巻いている。②しかし、Prabowoが南シナ海におけるインドネシアの政策の軌道を変えることはないだろう。③インドネシア政府が中国政府の「九段線」の主張に対して行った抵抗は、過去には抑制的なものであったため、中国によるインドネシアのEEZへの侵入を容易にした。④過去6年間ほど、インドネシアはEEZへの中国の侵入の増加に対応するため、この海域における安全保障体制を徐々に強化してきた。⑤その強化は、紛争海域のすぐ南に位置するナツナ諸島に、ゆっくりとではあるが着実に軍事基地を設置し、拡張してきたことによく現れている。⑥元陸軍中将として、そして、その後国防相として、Prabowoはこうした取り組みに長く携わってきた。⑦最終的には、インドネシアがナツナ諸島とその周辺に基地を建設し、軍を配備することで、独自の勢いが生まれる可能性がある。⑧その結果、インドネシアの哨戒が強化され、中国の海洋戦力と対立する頻度が高まる可能性がある。⑨したがって、Prabowo Subianto はインドネシアの海洋権益と中国との経済関係のどちらかを選ぶことになるが、前者を優先する可能性は高いと思われるといった主張を述べている。
(2) The West Is Misreading China in the South China Sea
https://www.geopoliticalmonitor.com/the-west-is-misreading-china-in-the-south-china-sea/
Geopolitical Monitor, July 11, 2024
By F. Andrew Wolf, Jr. is a retired USAF Lt. Col. and retired university professor of the Humanities, Philosophy of Religion and Philosophy.
2024年7月11日、U.S. Air Forceの退役中佐F. Andrew Wolf Jr.は、カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトに" The West Is Misreading China in the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中でF. Andrew Wolf Jr.は、西側諸国は南シナ海における中国の行動を誤解していると話題を切り出し、中国は南シナ海全体の約90%を自国の領土と主張し、他の東南アジア諸国との間で島嶼や海域の領有権を巡る緊張が高まっているが、この中国の行動は、国家の統一、領土保全、発展利益を守ることを最優先とするものであり、米国と中国の間での基本的な認識の違いを浮き彫りにするものだと指摘している。そしてF. Andrew Wolf Jr.は、西側諸国は中国の行動を法に基づく秩序の維持、同盟国の安全、航行の自由の観点から理解しているが、中国はこれを自国の領土主権の問題と捉えており、中国の行動は歴史的な「国恥」を乗り越え、失われた領土を取り戻すことを目指しているため、非交渉的なものであり、西側諸国が中国の歴史的視点を理解しない限り、根本的な解決は困難であると主張している。
(3) DEEP STRIKES INTO RUSSIA: A PARTNER’S DECISION FOR UKRAINE’S STRATEGIC SUCCESS
https://warontherocks.com/2024/07/deep-strikes-into-russia-a-partners-decision-for-ukraines-strategic-success/
War on the Rocks, July 16, 2024
By Serhii Kuzan, a military and political expert, chairman of the Ukrainian Security and Cooperation Center
2024年7月16日、2021年4月に設立されたウクライナ独立系シンクタンクUkrainian Security and Cooperation Center代表Serhii Kuzanは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" DEEP STRIKES INTO RUSSIA: A PARTNER’S DECISION FOR UKRAINE’S STRATEGIC SUCCESS"と題する論説を寄稿した。その中でSerhii Kuzanは、ウクライナに対する西側諸国の政策は変化しつつあり、特に長距離攻撃の許可に関して柔軟性が増しているとの現状を示した上で、特に英国はウクライナが英国製の長距離ミサイルを使用することを容認しており、他の西側諸国も同様の動きを見せる可能性があるが、米国も一部地域での限定的な攻撃を許可しているものの、依然として広範な攻撃には制約を課していると指摘している。そしてSerhii Kuzanは、ウクライナはこれまで、西側諸国から提供された兵器を効果的に使用してきたが、より強力で長距離の兵器が使用可能となれば、ロシアの軍事拠点への攻撃が可能となり、戦局を有利に進めることができると述べた上で、現在、ウクライナは自国の領土や一部の国境地域内でのみ攻撃を行うことができる一方で、ロシアは広範な地域からウクライナへの攻撃を続けているが、制限の撤廃が進めば、ロシアの空軍基地や軍事施設への攻撃が可能となり、ロシアの攻撃能力を大幅に削ぐことができると主張している。
(4) The Red Sea Crisis Goes Beyond the Houthis
https://www.foreignaffairs.com/somalia/red-sea-crisis-goes-beyond-houthis
Foreign Affairs. July 19, 2024
By JOHNNIE CARSON is Senior Adviser to the President of the U.S. Institute of Peace. From 2009 to 2013, he served as U.S. Assistant Secretary of State for African Affairs.
ALEX RONDOS is Senior Adviser to the President of the U.S. Institute of Peace. He formerly served as the European Union’s Special Representative for the Horn of Africa.
SUSAN STIGANT is Director of Africa Programs at the U.S. Institute of Peace.
MICHAEL WOLDEMARIAM is an Associate Professor at the University of Maryland’s School of Public Policy.
2024年7月19日、元米国務次官補(アフリカ担当)で現在は米議会の紛争解決の研究機関United States Institute of Peaceの代表であるJohnnie Carson、同Institute上席顧問で元EUにおけるアフリカの角の特別代表ALEX RONDOS、同Instituteアフリカ研究責任者Susan Stigant、および米University of MarylandのSchool of Public PolicyのMichael Woldemariamは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Red Sea Crisis Goes Beyond the Houthis "と題する論説を寄稿した。その中で4名は、イエメンのフーシ派は、ハマスの戦争を支持する形で商船を攻撃し、世界貿易に深刻な影響を与えているが、これに加え、アフリカの角では内戦や国際的な対立が拡大し、地域全体に混乱を引き起こしていると述べた上で、エチオピアやスーダンでは大規模な暴力が続き、特にスーダンは内戦による国家崩壊の危機に直面しているが、スーダンの内戦は、エチオピアやエリトリアとの関係にも影響を及ぼし、地域の不安定さを助長しているだけでなく、さらには、これらの国々の不安定さは、アルシャバーブやアルカイダ、ISISといった過激派組織が勢力を拡大する機会を提供していると指摘している。そして4名は、ロシアやイラン、アラブ首長国連邦などの地域外の国々も、紅海沿岸での勢力拡大を目指し、軍事的・政治的に介入しており、米国は地域の安定を維持するために積極的な外交努力を行う必要があるが、特に、中東諸国による不安定化を防ぐための協力が重要であるとし、米国やEU、そしてAfrican Union(アフリカ連合)が協力して地域の和平構築過程を支援し、紅海の危機を未然に防ぐための取り組みが求められていると主張している。
関連記事