海洋安全保障情報旬報 2024年6月21日-6月30日
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6月21日「インドはQUADの牙を抜いたのか―英国専門家論説」(The Interpreter, June 21, 2024)
6月21日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、英シンクタンクChatham HouseのAsia-Pacific Programme南アジア担任上席研究員Chietigj Bajpaee博士の“Has India defanged the QUAD?”と題する論説を掲載し、ここでChietigj Bajpaeeは日米豪印4ヵ国によるQUADに続き、安全保障により焦点を当てた日米豪比のSQUADが新設された結果、QUADの存在感が薄れつつあることについて、インドは歴史的に集団安全保障体制とは距離を置き、独自の戦略を重視していることから、アジア太平洋の安全保障に関し、インドが孤立する可能性が高いとして、要旨以のように述べている。
(1) インドが長年にわたり同盟関係に懸念を抱いていることを考えると、新設された日米豪比のSQUADは、QUADから焦点を移すものになるかもしれない。冷戦終結後、インドがAPEC、ASEAN+3、チェンマイ通貨スワップ協定から除外され、またRCEPから脱退するなど、アジア地域経済統合から疎外されたように、最近の動向はインドが進化する地域安全保障体制の二番手になることを示唆している。SQUADの設立は、インドが加盟するQUADの将来に疑問を投げかけている。
(2) いわゆるSQUADは、南シナ海での中国の好戦的な行動に対峙するフィリピンを支援することに焦点を当てた限定的な目的の、まだ初期段階の取り組みであるが、伝統的な安全保障の分野でQUADはSQUADに取って代わられつつあるのではないかとの疑問が高まっている。SQUADが設立される以前から、QUADが海洋安全保障という本来の任務から離れつつあることは明らかであった。インドは、2004年のインド洋大津波の対策として人道支援・災害救援(HA/DR)活動を実施したオーストラリア、インド、日本、米国から成る津波コア・グループ(Tsunami Core Group)への関与を、2020年の中印国境衝突後に活性化させ、2021年には初の首脳会談が開催された。しかし、伝統的な安全保障の分野ではQUADの役割が徐々に縮小し、その一方で保健、気候、技術、宇宙、サイバー等に関する6つの作業部会が設置される等、対象分野は拡大している。同時に、インドを除外した他の地域安全保障構想も出現し、2021年にはオーストラリア、米国、英国の3ヵ国による安全保障協力枠組みであるAUKUSが発足した。
(3) 5月にハワイで開催されたSQUAD加盟4ヵ国の国防長官/国防相/防衛相会議に続き、ワシントンで開催された日米比3ヵ国首脳会議の後に、この「SQUAD」が誕生した。SQUADは海洋安全保障問題に取り組むという本来の任務においてQUADに挑戦している。現段階では、SQUADは南シナ海に限定されているが、海洋領域で自己主張を強める中国に挑戦するという、暗黙の目的を考慮すれば、最終的には他の地域にも拡大することが想定される。また、SQUADの参加国全てが米国の同盟国であることも、協力を促進し易くしている。インドは、長年、外交政策における戦略的自主性を重視し、同盟の臭いがする構想に加わることを避けてきた。インドが浮いた存在であることは、QUADのうちインド以外のすべての構成国がSQUADの一員であることでも再確認された。追い打ちをかけるように、1月にインドで開催される予定であった会議が中止され、最後のQUAD首脳会議が開催されてから1年以上が経過している。
(4) 皮肉なことに、インドが南シナ海で積極的姿勢を打ち出している時に、SQUADが出現した。南シナ海の領有権主張に関するインドの公式見解は中立であるが、インド政府が「西フィリピン海」への言及を増やしているのは、この紛争に関するフィリピンの立場を暗に認めていることを示唆している。インドは、2013年にフィリピン政府が中国との紛争を国連海洋法条約の仲裁裁判所に付託した決定を支持し、2016年に同裁判所がフィリピンを支持する裁定を下したことも認めている。インド政府は、ベンガル湾の海洋境界紛争でバングラデシュに有利な裁定を受け入れた自国の決定と中国の行動を対比さえしている。発言だけでなく、インドが最近フィリピンに超音速巡航ミサイル「ブラモス」を売却したことは、この地域への武器売却という分野で、インド政府の役割が大きくなりつつあることを浮き彫りにしている。Bhāratiya Nau Sena(インド海軍)は、定期的にこの海域に派遣されており、5月には3隻の艦艇がこの地域を訪問した。インドは米国と正式な同盟関係にはないが、両国間の防衛技術協力や軍事的相互運用性の向上を目的とした一連の合意が最近相次いで結ばれている。
(5) アジアの地域安全保障におけるインドの役割に関し、Jake Sullivan米国家安全保障担当補佐官が最近インドを訪問したことは、戦略的協力が今後も深化していくことを示している。QUADとSQUADは、前者がインド洋に、後者が南シナ海に重点を置いており、運用上の任務が異なる互いに排他的な構想に留まるかもしれない。あるいは、QUADとSQUADが合併して最終的に「QUADプラス」という新たな枠組みになることも考えられる。しかし、QUADが軸足を徐々に移していることから判断すると、安全保障問題に重点を置いた当初の役割を他の枠組みに譲る可能性が高い。その核心にあるのは、インドが外交政策において戦略的自主性を重視し、多国間の安全保障枠組みに参加するのを嫌っていることである。QUADの安全保障上の位置付けが徐々に低下し、インドが除外される新たな地域安全保障構想が台頭している。このため、インド太平洋の安全保障体制が進化する中で、インドが、ますます孤立する恐れがある。
記事参照:Has India defanged the Quad?
(1) インドが長年にわたり同盟関係に懸念を抱いていることを考えると、新設された日米豪比のSQUADは、QUADから焦点を移すものになるかもしれない。冷戦終結後、インドがAPEC、ASEAN+3、チェンマイ通貨スワップ協定から除外され、またRCEPから脱退するなど、アジア地域経済統合から疎外されたように、最近の動向はインドが進化する地域安全保障体制の二番手になることを示唆している。SQUADの設立は、インドが加盟するQUADの将来に疑問を投げかけている。
(2) いわゆるSQUADは、南シナ海での中国の好戦的な行動に対峙するフィリピンを支援することに焦点を当てた限定的な目的の、まだ初期段階の取り組みであるが、伝統的な安全保障の分野でQUADはSQUADに取って代わられつつあるのではないかとの疑問が高まっている。SQUADが設立される以前から、QUADが海洋安全保障という本来の任務から離れつつあることは明らかであった。インドは、2004年のインド洋大津波の対策として人道支援・災害救援(HA/DR)活動を実施したオーストラリア、インド、日本、米国から成る津波コア・グループ(Tsunami Core Group)への関与を、2020年の中印国境衝突後に活性化させ、2021年には初の首脳会談が開催された。しかし、伝統的な安全保障の分野ではQUADの役割が徐々に縮小し、その一方で保健、気候、技術、宇宙、サイバー等に関する6つの作業部会が設置される等、対象分野は拡大している。同時に、インドを除外した他の地域安全保障構想も出現し、2021年にはオーストラリア、米国、英国の3ヵ国による安全保障協力枠組みであるAUKUSが発足した。
(3) 5月にハワイで開催されたSQUAD加盟4ヵ国の国防長官/国防相/防衛相会議に続き、ワシントンで開催された日米比3ヵ国首脳会議の後に、この「SQUAD」が誕生した。SQUADは海洋安全保障問題に取り組むという本来の任務においてQUADに挑戦している。現段階では、SQUADは南シナ海に限定されているが、海洋領域で自己主張を強める中国に挑戦するという、暗黙の目的を考慮すれば、最終的には他の地域にも拡大することが想定される。また、SQUADの参加国全てが米国の同盟国であることも、協力を促進し易くしている。インドは、長年、外交政策における戦略的自主性を重視し、同盟の臭いがする構想に加わることを避けてきた。インドが浮いた存在であることは、QUADのうちインド以外のすべての構成国がSQUADの一員であることでも再確認された。追い打ちをかけるように、1月にインドで開催される予定であった会議が中止され、最後のQUAD首脳会議が開催されてから1年以上が経過している。
(4) 皮肉なことに、インドが南シナ海で積極的姿勢を打ち出している時に、SQUADが出現した。南シナ海の領有権主張に関するインドの公式見解は中立であるが、インド政府が「西フィリピン海」への言及を増やしているのは、この紛争に関するフィリピンの立場を暗に認めていることを示唆している。インドは、2013年にフィリピン政府が中国との紛争を国連海洋法条約の仲裁裁判所に付託した決定を支持し、2016年に同裁判所がフィリピンを支持する裁定を下したことも認めている。インド政府は、ベンガル湾の海洋境界紛争でバングラデシュに有利な裁定を受け入れた自国の決定と中国の行動を対比さえしている。発言だけでなく、インドが最近フィリピンに超音速巡航ミサイル「ブラモス」を売却したことは、この地域への武器売却という分野で、インド政府の役割が大きくなりつつあることを浮き彫りにしている。Bhāratiya Nau Sena(インド海軍)は、定期的にこの海域に派遣されており、5月には3隻の艦艇がこの地域を訪問した。インドは米国と正式な同盟関係にはないが、両国間の防衛技術協力や軍事的相互運用性の向上を目的とした一連の合意が最近相次いで結ばれている。
(5) アジアの地域安全保障におけるインドの役割に関し、Jake Sullivan米国家安全保障担当補佐官が最近インドを訪問したことは、戦略的協力が今後も深化していくことを示している。QUADとSQUADは、前者がインド洋に、後者が南シナ海に重点を置いており、運用上の任務が異なる互いに排他的な構想に留まるかもしれない。あるいは、QUADとSQUADが合併して最終的に「QUADプラス」という新たな枠組みになることも考えられる。しかし、QUADが軸足を徐々に移していることから判断すると、安全保障問題に重点を置いた当初の役割を他の枠組みに譲る可能性が高い。その核心にあるのは、インドが外交政策において戦略的自主性を重視し、多国間の安全保障枠組みに参加するのを嫌っていることである。QUADの安全保障上の位置付けが徐々に低下し、インドが除外される新たな地域安全保障構想が台頭している。このため、インド太平洋の安全保障体制が進化する中で、インドが、ますます孤立する恐れがある。
記事参照:Has India defanged the Quad?
6月22日「欧州はインド太平洋地域に現実的な関与をしなければならない―オランダ専門家論説」(The Diplomat, June 22, 2024)
6月22日付のデジタル誌The Diplomatは、オランダのジャーナリストで現代中国の研究者Fred Sengersの “Europe Must Make a Realistic Commitment to the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでFred Sengersは欧州がインド太平洋の平和に背を向けるべきではないが、そのために軍事的ではなく、非軍事的な政策を策定する方が現実的であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年6月6日、Ministerie van Defensie(以下、オランダ国防省と言う)は、東シナ海でKoninklijke Marine(オランダ海軍)のミサイル・フリゲート「トロンプ」が中国の戦闘機とヘリコプターから妨害を受けたとの声明を発表した。国際空域での事件は「潜在的に危険な状況を作り出した」とオランダ国防省は述べている。同省によると、「トロンプ」は、北朝鮮に対する国連制裁の執行の監視を支援するために、その海域に所在していたものであり、「トロンプ」は以前にも南シナ海と台湾海峡を通航している。オランダのKajsa Ollongren国防相は、2024年6月3日に韓国の釜山で行われた「トロンプ」の寄港に際し、「・・・インド太平洋地域の安全と自由な通航は世界的に重要である。『トロンプ』がここにいることは、インド太平洋の安定と安全に対するオランダの関与を象徴している」と述べており、Kajsa Ollongren国防相の発言と「トロンプ」の行動から、この任務が中国に意図を伝えていることに疑いの余地はない。
(2) 「トロンプ」の展開が中国に気付かれなかったわけではない。オランダ側の記者発表後、中国国防部も意見を求められていると感じていた。予想されたとおりの反応は、オランダ海軍艦艇の存在は地域の緊張を低下させるのではなく、むしろ高めるものであり、中国の領空と海域が侵犯されれば、友好的な2国間関係が損なわれるであろうと述べている。中国外交部は、上海の東方海域での「トロンプ」による「侵害と挑発行為」についても言及したが、詳細は述べなかった。何が起こったのか正確にはわからないが、問題の核心は、地球の反対側の国々には何の用もないはずであると中国が信じている海域にオランダ海軍艦艇が進入したことである。中国はUNCLOSに違反して、外国海軍艦艇が許可なく排他的経済水域に進入しないよう要求し、人工島周辺の領海と台湾海峡を内水と宣言することで、海洋の管轄権を拡大しようとしている。
(3) 2024年にヨーロッパからインド太平洋に進出したの「トロンプ」だけではない。ドイツのフリゲート「バーデン・ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」は現在、インド太平洋に向かっている。イタリアの空母「カヴール」を中核とする空母打撃群も、フランスとスペインの艦艇を伴って、この海域に向けて出航している。NATO加盟国トルコのフリゲートも現在この海域にいる。これらの国々は、国際水域を航行する限り、インド太平洋に艦艇を派遣するあらゆる権利を有する。問題は、中国が反対するかもしれないからではなく、そうすることが賢明であるかどうかである。
(4) インド太平洋の主要な海上交通路に欧州の海軍艦艇の配備が必要であるという議論に疑問を呈する人もいるかもしれない。紅海など、現在本当に危険に直面する、より身近でより重要な海上交通路がある。その一方、中国は、領有権を主張する海域であっても、商船の通航を制限していない。実際、中国は西側諸国と同様に、船舶の往来に関心を持っている。
(5) 欧州の海軍は、ベルリンの壁崩壊後、その規模を縮小してきた。同時に、身近な課題も増えている。風力発電所、エネルギー輸送パイプライン、データケーブルなど、海上の重要な基幹施設は脆弱であり、平時でも保護が必要であることが明らかになっている。ロシアからの脅威により、NATOの演習はより頻繁に、より大規模に実施されている。オランダのような国は、2年ごとに6ヶ月間、地球の裏側に船を送る余力はほとんどない。インド太平洋への展開は、現在欠けている中国とヨーロッパの関係に新たな側面を追加する。中国はEUに軍事的脅威を与えることはなく、その逆も同様である。
(6) 欧州諸国が定期的にアジアに海軍艦艇を派遣している場合、特にこれが米国と協力して行われる場合、欧州と中国との前述の関係は変化する。それは、欧州諸国が米国の地政学的課題を支援し、独立して決定を下さないという中国の見解を裏付けるものである。中国は、欧州諸国が米国と中国の間で高まりつつある対立において、事態を緩和する役割を望んでいないと確信している。また、欧州諸国はインド太平洋の提携国に一体何を約束しているのだろうか。米国の能力とこれまで恒久的にインド太平洋に展開してきたにもかかわらず、いざという時に米国が安全保障上の約束を守るかどうか、インド太平洋の国々は、すでに疑っているかもしれない。事態が緊迫したときに欧州が救いの手を差し伸べてくれることに希望を託している国はほとんどない。
(7) 欧州諸国は、軍事的優先事項を自国の領土と近隣地域に集中させ、米国の安全保障の傘への依存度を下げるのが賢明かもしれない。しかし、欧州がインド太平洋に背を向けるべきではない。結局のところ、平和と安全は欧州の利益にもなる。しかし、そのために軍事的ではなく、非軍事的で市民的な政策を策定する方が現実的であろう。貿易・投資協定が拡大すれば、地域諸国は経済を多様化し、中国との貿易や中国資本への依存度を下げることができる。また、欧州各国政府は、外交官の訓練、沿岸警備隊の装備と訓練の提供、科学分野での協力と学生交流の強化を通じて、インド太平洋地域の提携国を支援することもできる。これらは、2年に一度挨拶に来る艦艇よりも、インド太平洋諸国に利益をもたらす具体的な措置である。
記事参照:Europe Must Make a Realistic Commitment to the Indo-Pacific
(1) 2024年6月6日、Ministerie van Defensie(以下、オランダ国防省と言う)は、東シナ海でKoninklijke Marine(オランダ海軍)のミサイル・フリゲート「トロンプ」が中国の戦闘機とヘリコプターから妨害を受けたとの声明を発表した。国際空域での事件は「潜在的に危険な状況を作り出した」とオランダ国防省は述べている。同省によると、「トロンプ」は、北朝鮮に対する国連制裁の執行の監視を支援するために、その海域に所在していたものであり、「トロンプ」は以前にも南シナ海と台湾海峡を通航している。オランダのKajsa Ollongren国防相は、2024年6月3日に韓国の釜山で行われた「トロンプ」の寄港に際し、「・・・インド太平洋地域の安全と自由な通航は世界的に重要である。『トロンプ』がここにいることは、インド太平洋の安定と安全に対するオランダの関与を象徴している」と述べており、Kajsa Ollongren国防相の発言と「トロンプ」の行動から、この任務が中国に意図を伝えていることに疑いの余地はない。
(2) 「トロンプ」の展開が中国に気付かれなかったわけではない。オランダ側の記者発表後、中国国防部も意見を求められていると感じていた。予想されたとおりの反応は、オランダ海軍艦艇の存在は地域の緊張を低下させるのではなく、むしろ高めるものであり、中国の領空と海域が侵犯されれば、友好的な2国間関係が損なわれるであろうと述べている。中国外交部は、上海の東方海域での「トロンプ」による「侵害と挑発行為」についても言及したが、詳細は述べなかった。何が起こったのか正確にはわからないが、問題の核心は、地球の反対側の国々には何の用もないはずであると中国が信じている海域にオランダ海軍艦艇が進入したことである。中国はUNCLOSに違反して、外国海軍艦艇が許可なく排他的経済水域に進入しないよう要求し、人工島周辺の領海と台湾海峡を内水と宣言することで、海洋の管轄権を拡大しようとしている。
(3) 2024年にヨーロッパからインド太平洋に進出したの「トロンプ」だけではない。ドイツのフリゲート「バーデン・ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」は現在、インド太平洋に向かっている。イタリアの空母「カヴール」を中核とする空母打撃群も、フランスとスペインの艦艇を伴って、この海域に向けて出航している。NATO加盟国トルコのフリゲートも現在この海域にいる。これらの国々は、国際水域を航行する限り、インド太平洋に艦艇を派遣するあらゆる権利を有する。問題は、中国が反対するかもしれないからではなく、そうすることが賢明であるかどうかである。
(4) インド太平洋の主要な海上交通路に欧州の海軍艦艇の配備が必要であるという議論に疑問を呈する人もいるかもしれない。紅海など、現在本当に危険に直面する、より身近でより重要な海上交通路がある。その一方、中国は、領有権を主張する海域であっても、商船の通航を制限していない。実際、中国は西側諸国と同様に、船舶の往来に関心を持っている。
(5) 欧州の海軍は、ベルリンの壁崩壊後、その規模を縮小してきた。同時に、身近な課題も増えている。風力発電所、エネルギー輸送パイプライン、データケーブルなど、海上の重要な基幹施設は脆弱であり、平時でも保護が必要であることが明らかになっている。ロシアからの脅威により、NATOの演習はより頻繁に、より大規模に実施されている。オランダのような国は、2年ごとに6ヶ月間、地球の裏側に船を送る余力はほとんどない。インド太平洋への展開は、現在欠けている中国とヨーロッパの関係に新たな側面を追加する。中国はEUに軍事的脅威を与えることはなく、その逆も同様である。
(6) 欧州諸国が定期的にアジアに海軍艦艇を派遣している場合、特にこれが米国と協力して行われる場合、欧州と中国との前述の関係は変化する。それは、欧州諸国が米国の地政学的課題を支援し、独立して決定を下さないという中国の見解を裏付けるものである。中国は、欧州諸国が米国と中国の間で高まりつつある対立において、事態を緩和する役割を望んでいないと確信している。また、欧州諸国はインド太平洋の提携国に一体何を約束しているのだろうか。米国の能力とこれまで恒久的にインド太平洋に展開してきたにもかかわらず、いざという時に米国が安全保障上の約束を守るかどうか、インド太平洋の国々は、すでに疑っているかもしれない。事態が緊迫したときに欧州が救いの手を差し伸べてくれることに希望を託している国はほとんどない。
(7) 欧州諸国は、軍事的優先事項を自国の領土と近隣地域に集中させ、米国の安全保障の傘への依存度を下げるのが賢明かもしれない。しかし、欧州がインド太平洋に背を向けるべきではない。結局のところ、平和と安全は欧州の利益にもなる。しかし、そのために軍事的ではなく、非軍事的で市民的な政策を策定する方が現実的であろう。貿易・投資協定が拡大すれば、地域諸国は経済を多様化し、中国との貿易や中国資本への依存度を下げることができる。また、欧州各国政府は、外交官の訓練、沿岸警備隊の装備と訓練の提供、科学分野での協力と学生交流の強化を通じて、インド太平洋地域の提携国を支援することもできる。これらは、2年に一度挨拶に来る艦艇よりも、インド太平洋諸国に利益をもたらす具体的な措置である。
記事参照:Europe Must Make a Realistic Commitment to the Indo-Pacific
6月22日「台湾侵攻を巡る中国の欺瞞戦術、如何に対応すべきか―米専門家論説」(Asia Times, June 22, 2024)
6月22日付けの香港のデジタル紙Asia Timesは、U.S, Marine Corpsの現役士官で、米シンクタンク非常勤研究員のBrian Kerg中佐の“Think China can take Taiwan easily? Think again”と題する論説を掲載し、ここでBrian Kergは台湾侵攻を巡る、特に中国の欺瞞戦術に如何に対応すべきかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の戦略は欺瞞に重きを置いているとされるが、他方で、多くの権威主義体制と同様に、中国共産党はしばしば、自分たちが何をしているのか、何故それをしているかを明確に表明する。したがって、中国専門家は台湾周辺での最近の人民解放軍の演習、「聯合利剣-2024A」の分析に当たっては、このプロパガンダと政治戦のレンズを通して見なければならない。この演習では、中国の空海軍部隊は、中国政府による台湾の孤立、あるいは封鎖を可能にするように台湾を囲む海空域に展開した。この演習と同時に、東部戦区司令部が制作したプロパガンダ・ビデオが公開され、ロケット弾の圧倒的な一斉射撃が台湾の標的に命中する様子が映し出された。ビデオは攻撃の意図について「台湾独立の柱を破壊する、台湾独立の基盤を砕く、台湾独立への血流を断ち切る」と断言した。これを、台湾に対する中国の持続的な威圧作戦、西側諸国の海軍艦艇建造能力をますます凌駕しつつある中国の建艦能力の加速、そして脅威を及ぼしうる範囲の拡大に対応した中国のミサイル保有数の増加と併せて考えれば、中国無敵という冷え冷えとした光景が容易に想像できる。その発信される意図は明快で、「中国による台湾の軍事占領に抵抗しても無駄だ」ということである。
(2) そうであれば、台湾防衛を考えている米国の同盟国や提携国は、中国のような強力な敵に対する介入の実現可能性や介入の価値に疑問を抱くことになりかねない。その上、台湾の政策決定者や有権者は、その軍事力を島全体に投影する巨人に脅かされることになりかねない。抵抗が無益であるとすれば、将来的な統一の痛みを軽減することは台湾と世界にとってより賢明な選択になりかねない。こうした印象操作こそが、中国が狙う効果、即ち認知的既成事実である。要するに、中国としては、既に決定的な勝利を収めており、最早誰もそれに対して何もできない、と世界に思い込ませたいのである。
(3) しかしながら、中国の本当の軍事力は、危険ではあるが、中国政府が世界に信じ込ませようとしている程には印象的ではなく、脆弱である。中国の巧妙な欺瞞を暴き、中国が隠蔽しようとしているその脆弱性を白日の下に曝け出すには、多面的な取り組みが必要となる。第1に、政策決定者と彼らに情報を提供する専門家は、中国政府の影響力工作の特質とその浸透度を理解しなければならない。第2に、侵攻の筋書きにおいて中国の相対的な弱さと台湾の強みを評価しなければならない。最後に、中国の圧倒的な強さを誇る言説に全面的に対抗するとともに、悪意ある中国の影響力工作から自国民を守る予防措置を講じなければならない。
(4) 中国無敵の認知的既成事実を刷り込む中国の影響力工作は、中国の強さを伝搬するだけでなく、台湾の軍事的奪取という現実の試みに当たっての中国の弱点を隠蔽することを意図している。奪取作戦には、台湾の孤立と封鎖、そして台湾海峡を超える両用戦能力が共に必要である。しかしながら、中国は台湾封鎖に必要な空海軍力を保有しているのは確かだが、封鎖が中国経済、特に国際貿易を混乱させれば、中国政府にとっても戦略的に無傷ではあり得ない。さらに、米国とその同盟国が軍事介入すれば、「聯合利剣-2024A」演習の演習区域図に示された「哨戒区域」は、台湾軍と米軍が中国艦船、特に台湾東岸沖の艦船を標的にした「キル区域」になる可能性もある。中国は台湾海峡では軍事的優位を維持できそうだが、台湾の東側で軍事的優位を維持しようとするのは愚かな行為である。また、政策決定者は、海峡を越える攻撃の難しさも強調すべきである。中国本土から台湾への両用戦は、第2次世界大戦での連合軍のノルマンディー侵攻よりも大規模で複雑であり、中国軍に欠けている統合計画立案とその調整が不可欠である。しかも、権威主義的な共産主義体制に内在する弱点は、こうした運用能力を悪化させるだけである。
(5) 中国の悪意ある言説に対抗するには、予防的かつ先制的な行動が必要である。
a. 第1に、政策決定者は侵攻の筋書きにおける中国の弱点と台湾の強みを、秘匿区分と公表結果を天秤にかけ、可能な限り国民に喧伝し、知らしめなければならない。
b. 政策決定者は、フォームの終わり
自治のために戦うという多くの台湾人の決意と、その戦いにおいて台湾を支援する米国とその同盟国や提携国の強さと意志を、可能な限り頻繁に確認すべきである。換言すれば、政策決定者は、中国の侵略を撃退し続ける盾として構築されつつある、同盟関係と提携の強化による台湾防衛全般にとっての真の効果を誇示していかなければならない。
c. 政策決定者は、自信過剰のロシアの例*を喧伝し、モスクワと北京が同じ轍を踏んでいることに留意すべきである。
d. 最後に、台湾やその他の地域において、偽情報から社会を防護することを目的とした、他の様々な取り組みが追求されるべきである。即ち、①小学校から大学まで、メディア・リテラシーの開発と育成に一層の努力が払われれば、偽情報全般、特に中国の偽情報に簡単に騙されない、より批判的な目を持った情報の受け手を育成するのに役立つであろう。②中国の偽情報を特定し対抗する任務を有する十分に人材を配置された部局が、今後親台湾諸国内の省庁の広報・情報部局と連携し、強化されていくであろう。③台湾の同盟国や提携国は、中国の脆弱性と台湾の強みの実態を複数の経路で発信することによって、中国のプロパガンダ効果を鈍らせるとともに、台湾の安全保障とインド太平洋全域の安定を支援するための、より情報に通じた強靭な取り組みを可能にすることができる。
記事参照:Think China can take Taiwan easily? Think again
*:Brian Kergは、ロシアのウクライナ侵攻を「ダビデとゴリアテの戦い」と見ており、最終的に少年ダビデが勝利したとの隠喩を引き、中ロともこれを忘れているとしている。
(1) 中国の戦略は欺瞞に重きを置いているとされるが、他方で、多くの権威主義体制と同様に、中国共産党はしばしば、自分たちが何をしているのか、何故それをしているかを明確に表明する。したがって、中国専門家は台湾周辺での最近の人民解放軍の演習、「聯合利剣-2024A」の分析に当たっては、このプロパガンダと政治戦のレンズを通して見なければならない。この演習では、中国の空海軍部隊は、中国政府による台湾の孤立、あるいは封鎖を可能にするように台湾を囲む海空域に展開した。この演習と同時に、東部戦区司令部が制作したプロパガンダ・ビデオが公開され、ロケット弾の圧倒的な一斉射撃が台湾の標的に命中する様子が映し出された。ビデオは攻撃の意図について「台湾独立の柱を破壊する、台湾独立の基盤を砕く、台湾独立への血流を断ち切る」と断言した。これを、台湾に対する中国の持続的な威圧作戦、西側諸国の海軍艦艇建造能力をますます凌駕しつつある中国の建艦能力の加速、そして脅威を及ぼしうる範囲の拡大に対応した中国のミサイル保有数の増加と併せて考えれば、中国無敵という冷え冷えとした光景が容易に想像できる。その発信される意図は明快で、「中国による台湾の軍事占領に抵抗しても無駄だ」ということである。
(2) そうであれば、台湾防衛を考えている米国の同盟国や提携国は、中国のような強力な敵に対する介入の実現可能性や介入の価値に疑問を抱くことになりかねない。その上、台湾の政策決定者や有権者は、その軍事力を島全体に投影する巨人に脅かされることになりかねない。抵抗が無益であるとすれば、将来的な統一の痛みを軽減することは台湾と世界にとってより賢明な選択になりかねない。こうした印象操作こそが、中国が狙う効果、即ち認知的既成事実である。要するに、中国としては、既に決定的な勝利を収めており、最早誰もそれに対して何もできない、と世界に思い込ませたいのである。
(3) しかしながら、中国の本当の軍事力は、危険ではあるが、中国政府が世界に信じ込ませようとしている程には印象的ではなく、脆弱である。中国の巧妙な欺瞞を暴き、中国が隠蔽しようとしているその脆弱性を白日の下に曝け出すには、多面的な取り組みが必要となる。第1に、政策決定者と彼らに情報を提供する専門家は、中国政府の影響力工作の特質とその浸透度を理解しなければならない。第2に、侵攻の筋書きにおいて中国の相対的な弱さと台湾の強みを評価しなければならない。最後に、中国の圧倒的な強さを誇る言説に全面的に対抗するとともに、悪意ある中国の影響力工作から自国民を守る予防措置を講じなければならない。
(4) 中国無敵の認知的既成事実を刷り込む中国の影響力工作は、中国の強さを伝搬するだけでなく、台湾の軍事的奪取という現実の試みに当たっての中国の弱点を隠蔽することを意図している。奪取作戦には、台湾の孤立と封鎖、そして台湾海峡を超える両用戦能力が共に必要である。しかしながら、中国は台湾封鎖に必要な空海軍力を保有しているのは確かだが、封鎖が中国経済、特に国際貿易を混乱させれば、中国政府にとっても戦略的に無傷ではあり得ない。さらに、米国とその同盟国が軍事介入すれば、「聯合利剣-2024A」演習の演習区域図に示された「哨戒区域」は、台湾軍と米軍が中国艦船、特に台湾東岸沖の艦船を標的にした「キル区域」になる可能性もある。中国は台湾海峡では軍事的優位を維持できそうだが、台湾の東側で軍事的優位を維持しようとするのは愚かな行為である。また、政策決定者は、海峡を越える攻撃の難しさも強調すべきである。中国本土から台湾への両用戦は、第2次世界大戦での連合軍のノルマンディー侵攻よりも大規模で複雑であり、中国軍に欠けている統合計画立案とその調整が不可欠である。しかも、権威主義的な共産主義体制に内在する弱点は、こうした運用能力を悪化させるだけである。
(5) 中国の悪意ある言説に対抗するには、予防的かつ先制的な行動が必要である。
a. 第1に、政策決定者は侵攻の筋書きにおける中国の弱点と台湾の強みを、秘匿区分と公表結果を天秤にかけ、可能な限り国民に喧伝し、知らしめなければならない。
b. 政策決定者は、フォームの終わり
自治のために戦うという多くの台湾人の決意と、その戦いにおいて台湾を支援する米国とその同盟国や提携国の強さと意志を、可能な限り頻繁に確認すべきである。換言すれば、政策決定者は、中国の侵略を撃退し続ける盾として構築されつつある、同盟関係と提携の強化による台湾防衛全般にとっての真の効果を誇示していかなければならない。
c. 政策決定者は、自信過剰のロシアの例*を喧伝し、モスクワと北京が同じ轍を踏んでいることに留意すべきである。
d. 最後に、台湾やその他の地域において、偽情報から社会を防護することを目的とした、他の様々な取り組みが追求されるべきである。即ち、①小学校から大学まで、メディア・リテラシーの開発と育成に一層の努力が払われれば、偽情報全般、特に中国の偽情報に簡単に騙されない、より批判的な目を持った情報の受け手を育成するのに役立つであろう。②中国の偽情報を特定し対抗する任務を有する十分に人材を配置された部局が、今後親台湾諸国内の省庁の広報・情報部局と連携し、強化されていくであろう。③台湾の同盟国や提携国は、中国の脆弱性と台湾の強みの実態を複数の経路で発信することによって、中国のプロパガンダ効果を鈍らせるとともに、台湾の安全保障とインド太平洋全域の安定を支援するための、より情報に通じた強靭な取り組みを可能にすることができる。
記事参照:Think China can take Taiwan easily? Think again
*:Brian Kergは、ロシアのウクライナ侵攻を「ダビデとゴリアテの戦い」と見ており、最終的に少年ダビデが勝利したとの隠喩を引き、中ロともこれを忘れているとしている。
6月23日「フィリピンのブラモス巡航ミサイルの有効性―香港紙報道」(South China Morning Post, June 23, 2024)
6月23日付けの香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Philippines’ anti-ship missile base puts Scarborough Shoal in cross hairs”と題する記事を掲載し、フィリピンが南シナ海に面する沿岸に設営したブラモス巡航ミサイル基地は、中国を抑止するための「飛躍的進歩」だとして、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンが南シナ海に面する沿岸地帯に対艦ミサイル基地を設置したことは、フィリピンの防衛における「飛躍的な進歩」を意味し、フィリピンが中国の優れた軍事力に劣勢を強いられているにもかかわらず、中国政府を躊躇させるだろうと専門家達は述べている。衛星画像は、東南アジア諸国初のブラモス巡航ミサイル基地が、ルソン島西海岸のサンバレス州に建設されていることを示している。インドは、2022年にフィリピンと締結した3億7,500万米ドルの契約に基づき、4月にブラモス巡航ミサイルの最初の一群をフィリピンに引き渡した。
(2) シンクタンクAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)の上席防衛問題分析者Malcolm Davisは、陸上からの対艦ミサイルによる攻撃能力を確立することは、フィリピンにとって中国に対する抑止力を顕著に高めることになると述べている。これは、フィリピンのEEZ内にある中国海軍の艦船に対して、「フィリピンの『危機を抑える』能力を大きく飛躍させることを意味」し、「中国からのさらなる侵略に対する抑止力として機能する」とMalcolm Davisは語っている。もしフィリピンがブラモス巡航ミサイルと米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)をより多く取得すれば、Armed Forces of the Philippinesは「将来の危機において中国が南シナ海を支配しようとするいかなる試みにも挑戦する」という取り組みをより効果的に支援できるとMalcolm Davisは述べている。Malcolm Davisによると、ブラモス巡航ミサイルを入手することで、フィリピンは日本、オーストラリア、米国のような提携国との協力関係を強化し、中国の地域的な戦力投射を制限できる。
(3) 超音速巡航ミサイルはまた、フィリピンの防衛能力における「飛躍的な進歩」を意味すると、安全保障問題分析者でシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies上席研究員Collin Kohは話している。「パラワン島沿岸に設置されれば、ブラモス巡航ミサイルはパグアサ島やセカンド・トーマス礁の近くに所在する中国軍まで射程内に入れることができる」とCollin Kohは述べる一方、フィリピンは依然として、量的にも質的にも中国の軍事的優位に大きく劣っていることを認めている。地域の緊張が高まる中、中国は依然として優位に立っているが、ブラモス巡航ミサイルが射程内に収める地域では、その作戦・戦術的な機動性は制約を受けるだろうとCollin Kohは指摘している。ミサイルの射程は約300kmで、スカボロー礁はルソン島西部の新しい基地レオビジルド・ガンティオキ海軍基地に設置されたブラモス巡航ミサイルの射程内にある。ブラモスシステムは可動式であるため、砲台の移設も可能だと報道されている。Collin Kohによると、フィリピンがブラモス巡航ミサイルの能力を最大限に発揮するために必要な高度な通信、情報、照準システムを欠いていたとしても、これらの分野で米国の支援を活用することは可能である。
(4) フィリピンのシンクタンクInternational Development and Security Cooperationの代表で、安全保障戦略家のChester Cabalzaによれば、フィリピンにとってブラモス巡航ミサイルは「状況を一変させる兵器体系」である。このシステムへの支出は、Armed Forces of the Philippinesによるこれまでの支出を上回るものであり、将来の潜水艦取得のような、他の野心的な海軍計画の前例となるとChester Cabalzaは述べている。フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は2月、南シナ海での領有権を守るため、フィリピン初の潜水艦購入を含むフィリピンの軍事近代化の次の段階を承認した。Chester Cabalzaは、ブラモス巡航ミサイルは、フィリピンが「本格的な地域海洋国家」として登場することを示すものでもあり、先進的な兵器の米国への依存を減らし、その依存先を多様化させるものだと述べている。
(5) しかし、フィリピンのDe La Salle Universityの国際学講師Don McLain Gillは、ブラモス巡航ミサイルの購入だけで中国に対する強固な抑止力が得られるかどうかを疑問視した。「ブラモス巡航ミサイルは、効率的な情報、監視、目標捕捉、偵察によって支援されることが重要であり、それは目標を追跡し、司令部がそれらを使用できることを確実にするために不可欠である」とChester Cabalzaは述べ、マニラはミサイルの抑止力の有用性を最大化するためにさらなる投資を行わなくてはならないと警告した。
(6) Armed Forces of the Philippinesは敵対勢力に対抗するために、当初の対反乱戦から海洋防衛能力の構築に重点を移しているが、中国のはるかに大規模な海軍艦隊には依然として大きく劣っていると、米シンクタンクRand Corporationの上席国際防衛問題研究員Timothy Heathは指摘している。
記事参照:South China Sea: Philippines’ anti-ship missile base puts Scarborough Shoal in cross hairs
(1) フィリピンが南シナ海に面する沿岸地帯に対艦ミサイル基地を設置したことは、フィリピンの防衛における「飛躍的な進歩」を意味し、フィリピンが中国の優れた軍事力に劣勢を強いられているにもかかわらず、中国政府を躊躇させるだろうと専門家達は述べている。衛星画像は、東南アジア諸国初のブラモス巡航ミサイル基地が、ルソン島西海岸のサンバレス州に建設されていることを示している。インドは、2022年にフィリピンと締結した3億7,500万米ドルの契約に基づき、4月にブラモス巡航ミサイルの最初の一群をフィリピンに引き渡した。
(2) シンクタンクAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)の上席防衛問題分析者Malcolm Davisは、陸上からの対艦ミサイルによる攻撃能力を確立することは、フィリピンにとって中国に対する抑止力を顕著に高めることになると述べている。これは、フィリピンのEEZ内にある中国海軍の艦船に対して、「フィリピンの『危機を抑える』能力を大きく飛躍させることを意味」し、「中国からのさらなる侵略に対する抑止力として機能する」とMalcolm Davisは語っている。もしフィリピンがブラモス巡航ミサイルと米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)をより多く取得すれば、Armed Forces of the Philippinesは「将来の危機において中国が南シナ海を支配しようとするいかなる試みにも挑戦する」という取り組みをより効果的に支援できるとMalcolm Davisは述べている。Malcolm Davisによると、ブラモス巡航ミサイルを入手することで、フィリピンは日本、オーストラリア、米国のような提携国との協力関係を強化し、中国の地域的な戦力投射を制限できる。
(3) 超音速巡航ミサイルはまた、フィリピンの防衛能力における「飛躍的な進歩」を意味すると、安全保障問題分析者でシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies上席研究員Collin Kohは話している。「パラワン島沿岸に設置されれば、ブラモス巡航ミサイルはパグアサ島やセカンド・トーマス礁の近くに所在する中国軍まで射程内に入れることができる」とCollin Kohは述べる一方、フィリピンは依然として、量的にも質的にも中国の軍事的優位に大きく劣っていることを認めている。地域の緊張が高まる中、中国は依然として優位に立っているが、ブラモス巡航ミサイルが射程内に収める地域では、その作戦・戦術的な機動性は制約を受けるだろうとCollin Kohは指摘している。ミサイルの射程は約300kmで、スカボロー礁はルソン島西部の新しい基地レオビジルド・ガンティオキ海軍基地に設置されたブラモス巡航ミサイルの射程内にある。ブラモスシステムは可動式であるため、砲台の移設も可能だと報道されている。Collin Kohによると、フィリピンがブラモス巡航ミサイルの能力を最大限に発揮するために必要な高度な通信、情報、照準システムを欠いていたとしても、これらの分野で米国の支援を活用することは可能である。
(4) フィリピンのシンクタンクInternational Development and Security Cooperationの代表で、安全保障戦略家のChester Cabalzaによれば、フィリピンにとってブラモス巡航ミサイルは「状況を一変させる兵器体系」である。このシステムへの支出は、Armed Forces of the Philippinesによるこれまでの支出を上回るものであり、将来の潜水艦取得のような、他の野心的な海軍計画の前例となるとChester Cabalzaは述べている。フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は2月、南シナ海での領有権を守るため、フィリピン初の潜水艦購入を含むフィリピンの軍事近代化の次の段階を承認した。Chester Cabalzaは、ブラモス巡航ミサイルは、フィリピンが「本格的な地域海洋国家」として登場することを示すものでもあり、先進的な兵器の米国への依存を減らし、その依存先を多様化させるものだと述べている。
(5) しかし、フィリピンのDe La Salle Universityの国際学講師Don McLain Gillは、ブラモス巡航ミサイルの購入だけで中国に対する強固な抑止力が得られるかどうかを疑問視した。「ブラモス巡航ミサイルは、効率的な情報、監視、目標捕捉、偵察によって支援されることが重要であり、それは目標を追跡し、司令部がそれらを使用できることを確実にするために不可欠である」とChester Cabalzaは述べ、マニラはミサイルの抑止力の有用性を最大化するためにさらなる投資を行わなくてはならないと警告した。
(6) Armed Forces of the Philippinesは敵対勢力に対抗するために、当初の対反乱戦から海洋防衛能力の構築に重点を移しているが、中国のはるかに大規模な海軍艦隊には依然として大きく劣っていると、米シンクタンクRand Corporationの上席国際防衛問題研究員Timothy Heathは指摘している。
記事参照:South China Sea: Philippines’ anti-ship missile base puts Scarborough Shoal in cross hairs
6月24日「北極圏におけるNATOの拡大を利用する方法―欧州安全保障専門家論説」(RAND, June 24, 2024)
6月24日付の米シンクタンクRAND Corporationのウエブサイトは、RAND Europeの国防・安全保障問題上席分析担当Nicolas Jouanの“How to Take Advantage of NATO Enlargement in the Arctic”と題する論説を掲載し、ここでNicolas JouanはNATOが北極海域に海軍力を継続的に展開し、同海域を監視するための調整力として機能するべきであり、英国は北欧統合遠征軍の牽引者として行動すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのウクライナ侵攻により、NATOが戦略を再構築している中で、近隣の北極圏でも緊張が高まっている。かつては平和だったこの地域が地政学的な引火点になった過程は3幕から成っている。しかしNATOは状況を打開する手助けをすることができる。第1幕は、過去10年間の地球温暖化であり、この地域に甚大な影響を及ぼし、世界で最も速い速度で気温を上昇させ、氷が溶けるにつれて北極海を航行し易くした。第2幕は、北極海が航行し易くなったことにより、特に夏季には、北極海が漁業、貿易、観光、軍事作戦などの海洋活動にますます開放されている。北極圏の膨大な石油とガスの埋蔵量を搾取する可能性はまだ遠い見通しであるが、ロシアと中国の関心をかき立てるには十分である。第3幕は、2022年のロシアのウクライナへの侵攻は、北極圏の7ヵ国を含む西側とロシアの関係を大幅に悪化させ、非政治的な意図で設立されたArctic Council(北極評議会)を通じてさえ、この地域での協力が困難になった。緊張の高まりを受けて、フィンランドとスウェーデンは2023年と2024年に相次いでNATOに加盟し、ロシアを除くすべての北極圏諸国がNATOの一員となっている。
(2) NATOが北極圏に目を向けるようになったのは、2014年のウクライナのマイダン革命とロシアのクリミア併合にまで遡る。ロシアの侵略とヨーロッパの地図を描き直そうとする意欲は、ウクライナと東ヨーロッパの大部分を取り返しのつかないほど敵対させただけでなく、ロシアと北極圏の国々との関係を悪化させ、冷戦を彷彿とさせる敵対的な状態に戻った。以前はこの地域におけるNATOのより大きな役割に抵抗していた北極圏諸国、特にカナダは、その立場を再考した。これに関連して、NATOの国防相らは2015年に声明を発表し、「360度アプローチ」を掲げて領土防衛を再び中心的な位置に戻すことを目指した。これは、NATOの領土は周囲を北極海という「翼側」で囲まれた地理的に1つのまとまった圏と想定し、潜在的な侵略から防衛する戦略的枠組みである。ロシアが北大西洋へ進出するために必ず通らなければならないアクセスを与えるグリーンランド・アイスランド・英国(以下、GIUKと言う)に扼されたGIUKギャップと呼ばれるチョークポイントの空隙を埋める方法についての議論が復活した。
(3) フィンランドとスウェーデンの正式加盟は、北極圏におけるNATOの「360度アプローチ」の勝利と解釈できる。両国はすでにNATOの「高次機会パートナー(Enhanced Opportunity Partners)」であり、NATO加盟国と高次の戦力の相互運用性を有しているが、NATOは現在、より正式に統一された戦線を北翼側に展開している。実際には、これによりNATO内で北極圏国の意見がより重視され、専用の北極司令部が存在しない中でNATOの重心が北極圏へと再調整されることになる。しかし、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、北極圏における対ロシア包囲網構築というロシアの言説を助長するという意図しない結果をもたらした。北極圏におけるロシアの利害は否定し難い。ロシアのСеверный флот(北方艦隊)と海洋に配備される核抑止力は、ムルマンスクの深水港に依存している。ムルマンスクとコラ半島の麓に1,340キロのNATO国境が追加されたことは、ロシアによって、NATOによる危険な事態拡大であると激しく非難された。このような言説に対抗するために、NATOは北極圏における戦略的なあいまいさを回避し、この地域に対する明確で透明性のある抑止態勢を開発すべきである。
(4) 北極圏におけるNATOの新しい地位は、残念ながら、現状では間違いなく最悪である。NATOは、適切な戦略的および運用上の調整を欠いている。冷戦終結以来、米国とカナダは、ロシアの持続的なミサイルの脅威のために、北極圏を主にNorth American Aerospace Defense Command(北米航空宇宙防衛司令部)の管轄範囲と見なしてきた。また、U.S. Navyは対潜戦能力を低下させ、GIUKギャップから注意をそらしている。GIUKギャップにおける対ロシア対応の中核となる英国は、攻撃型原子力潜水艦をわずか6隻しか保有しておらず、最新鋭のP-8哨戒機が加入したにもかかわらず、GIUKギャップ防衛の矢面に立つ余裕はない。他の国も困難な立場にある。たとえば、デンマークは耐氷性のあるフリゲート4隻で、グリーンランドとフェロー諸島周辺の広大な排他的経済水域を哨戒しなければならないが、これらフリゲートは1980年代に設計されており、NATOの即応性基準を満たしていない。その結果、北極圏の状況把握は、能力も異なり、運用要件を持つさまざまな各国の軍隊の間でバラバラである。2023年のビリニュスでの首脳会議で、NATO首脳はこれらの問題を認識し、合同演習と北極圏監視の調整を継続することを約束した。これらの約束は、ノルウェー海での最近の対潜水艦戦演習ですでに部分的に形を成してきているが、NATOの北翼側を適切に確保するには不十分である。NATOの北極戦略は、フィンランドとスウェーデンの加盟による地域の空間的再定義を完全に認識すべきである。ノルウェー海とGIUKギャップの安全確保、重要基幹施設の保護、沿岸防衛、ノルウェーのスヴァールバル諸島の利用は、NATOの全北極圏加盟国と英国にとって、戦略的最優先事項とされるべきである。
(5) NATOは、海軍力の継続的な展開を確保し、広大で条件の厳しい北極海域を監視するための調整力として機能するべきである。英国は、北極圏において利用できる最も有能な軍事大国であり、北欧統合遠征軍の牽引者として、対潜戦用の兵力をGIUKギャップに集中させる原動力となるべきである。また、北極圏の北側での展開と状況把握をより効率的または安価に強化できる砕氷艦船や大型無人潜水機などに北極圏諸国と共同で投資すべきである。そのような断固たる行動によってのみ、NATOは北極圏における拡大を利用し、北翼側を真に確保することができるであろう。
記事参照:How to Take Advantage of NATO Enlargement in the Arctic
(1) ロシアのウクライナ侵攻により、NATOが戦略を再構築している中で、近隣の北極圏でも緊張が高まっている。かつては平和だったこの地域が地政学的な引火点になった過程は3幕から成っている。しかしNATOは状況を打開する手助けをすることができる。第1幕は、過去10年間の地球温暖化であり、この地域に甚大な影響を及ぼし、世界で最も速い速度で気温を上昇させ、氷が溶けるにつれて北極海を航行し易くした。第2幕は、北極海が航行し易くなったことにより、特に夏季には、北極海が漁業、貿易、観光、軍事作戦などの海洋活動にますます開放されている。北極圏の膨大な石油とガスの埋蔵量を搾取する可能性はまだ遠い見通しであるが、ロシアと中国の関心をかき立てるには十分である。第3幕は、2022年のロシアのウクライナへの侵攻は、北極圏の7ヵ国を含む西側とロシアの関係を大幅に悪化させ、非政治的な意図で設立されたArctic Council(北極評議会)を通じてさえ、この地域での協力が困難になった。緊張の高まりを受けて、フィンランドとスウェーデンは2023年と2024年に相次いでNATOに加盟し、ロシアを除くすべての北極圏諸国がNATOの一員となっている。
(2) NATOが北極圏に目を向けるようになったのは、2014年のウクライナのマイダン革命とロシアのクリミア併合にまで遡る。ロシアの侵略とヨーロッパの地図を描き直そうとする意欲は、ウクライナと東ヨーロッパの大部分を取り返しのつかないほど敵対させただけでなく、ロシアと北極圏の国々との関係を悪化させ、冷戦を彷彿とさせる敵対的な状態に戻った。以前はこの地域におけるNATOのより大きな役割に抵抗していた北極圏諸国、特にカナダは、その立場を再考した。これに関連して、NATOの国防相らは2015年に声明を発表し、「360度アプローチ」を掲げて領土防衛を再び中心的な位置に戻すことを目指した。これは、NATOの領土は周囲を北極海という「翼側」で囲まれた地理的に1つのまとまった圏と想定し、潜在的な侵略から防衛する戦略的枠組みである。ロシアが北大西洋へ進出するために必ず通らなければならないアクセスを与えるグリーンランド・アイスランド・英国(以下、GIUKと言う)に扼されたGIUKギャップと呼ばれるチョークポイントの空隙を埋める方法についての議論が復活した。
(3) フィンランドとスウェーデンの正式加盟は、北極圏におけるNATOの「360度アプローチ」の勝利と解釈できる。両国はすでにNATOの「高次機会パートナー(Enhanced Opportunity Partners)」であり、NATO加盟国と高次の戦力の相互運用性を有しているが、NATOは現在、より正式に統一された戦線を北翼側に展開している。実際には、これによりNATO内で北極圏国の意見がより重視され、専用の北極司令部が存在しない中でNATOの重心が北極圏へと再調整されることになる。しかし、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、北極圏における対ロシア包囲網構築というロシアの言説を助長するという意図しない結果をもたらした。北極圏におけるロシアの利害は否定し難い。ロシアのСеверный флот(北方艦隊)と海洋に配備される核抑止力は、ムルマンスクの深水港に依存している。ムルマンスクとコラ半島の麓に1,340キロのNATO国境が追加されたことは、ロシアによって、NATOによる危険な事態拡大であると激しく非難された。このような言説に対抗するために、NATOは北極圏における戦略的なあいまいさを回避し、この地域に対する明確で透明性のある抑止態勢を開発すべきである。
(4) 北極圏におけるNATOの新しい地位は、残念ながら、現状では間違いなく最悪である。NATOは、適切な戦略的および運用上の調整を欠いている。冷戦終結以来、米国とカナダは、ロシアの持続的なミサイルの脅威のために、北極圏を主にNorth American Aerospace Defense Command(北米航空宇宙防衛司令部)の管轄範囲と見なしてきた。また、U.S. Navyは対潜戦能力を低下させ、GIUKギャップから注意をそらしている。GIUKギャップにおける対ロシア対応の中核となる英国は、攻撃型原子力潜水艦をわずか6隻しか保有しておらず、最新鋭のP-8哨戒機が加入したにもかかわらず、GIUKギャップ防衛の矢面に立つ余裕はない。他の国も困難な立場にある。たとえば、デンマークは耐氷性のあるフリゲート4隻で、グリーンランドとフェロー諸島周辺の広大な排他的経済水域を哨戒しなければならないが、これらフリゲートは1980年代に設計されており、NATOの即応性基準を満たしていない。その結果、北極圏の状況把握は、能力も異なり、運用要件を持つさまざまな各国の軍隊の間でバラバラである。2023年のビリニュスでの首脳会議で、NATO首脳はこれらの問題を認識し、合同演習と北極圏監視の調整を継続することを約束した。これらの約束は、ノルウェー海での最近の対潜水艦戦演習ですでに部分的に形を成してきているが、NATOの北翼側を適切に確保するには不十分である。NATOの北極戦略は、フィンランドとスウェーデンの加盟による地域の空間的再定義を完全に認識すべきである。ノルウェー海とGIUKギャップの安全確保、重要基幹施設の保護、沿岸防衛、ノルウェーのスヴァールバル諸島の利用は、NATOの全北極圏加盟国と英国にとって、戦略的最優先事項とされるべきである。
(5) NATOは、海軍力の継続的な展開を確保し、広大で条件の厳しい北極海域を監視するための調整力として機能するべきである。英国は、北極圏において利用できる最も有能な軍事大国であり、北欧統合遠征軍の牽引者として、対潜戦用の兵力をGIUKギャップに集中させる原動力となるべきである。また、北極圏の北側での展開と状況把握をより効率的または安価に強化できる砕氷艦船や大型無人潜水機などに北極圏諸国と共同で投資すべきである。そのような断固たる行動によってのみ、NATOは北極圏における拡大を利用し、北翼側を真に確保することができるであろう。
記事参照:How to Take Advantage of NATO Enlargement in the Arctic
6月25日「南シナ海で悪化するカナダと中国の関係―インド専門家論説」(EurAsian Times, June 25, 2024)
6月25日付のインドニュースサイトEurAsian Timesは、インドの防衛と地政学に関する問題の専門家Ashish Dangwalの“U.S. & Canadian Naval Forces “Flex Muscles” In South China Sea Amid Growing Threats To The Philippines”と題する論説を掲載し、Ashish Dangwalは南シナ海での行動をめぐりカナダと中国の関係が悪化していることについて、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. NavyとRoyal Canadian Navyは、6月18日から20日にかけて南シナ海で2国間枠組みによる共同行動を実施し、中国とフィリピンの緊張が続くなか、地域の安全保障と協力への強い関与を示した。この2国間行動には、U.S. Navyのアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とRoyal Canadian Navyのハリファックス級フリゲートが参加し、ルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦の支援を得て、洋上での人員移動、飛行作業、洋上補給などが行われたとU.S. Navyが明らかにした。
(2) U.S. Navyによれば、このような2国間の行為は、同盟国海軍全体の訓練、演習、戦術的相互運用性の発展にとって極めて重要であり、あらゆる地域的な不測の事態に対処するための集団的な即応態勢を強化するものだという。この行動は、航行および上空飛行の自由を守るための多国間海上協力行動(multilateral maritime cooperation activity 、MMCA)の一環として、カナダが日本および米国とともにフィリピンと南シナ海で歴史的な初の共同哨戒を行った最近の進展に続くものである。南シナ海で係争中のセカンド・トーマス礁でフィリピン政府が座礁させた艦艇への定期的な補給任務を妨害することを目的とした、衝突や曳航を含む中国船による攻撃的な術策の増加が報告される中、カナダはこの地域への関与を強めている。
(3) Royal Canadian Navyが最近行ったU.S. Navyとの共同訓練は、カナダの脆弱な対中関係をさらに緊張させる可能性がある。ここ数年、カナダと中国の関係を大きく悪化させる事件が相次いでいる中で今回の展開があった。2018年以降、カナダは断続的に艦艇、航空機、人員を派遣し、海洋制裁違反の疑い、特に国連安保理決議で禁止されている燃料やその他の商品の船舶間輸送、いわゆる瀬取りを特定するための監視活動を行ってきた。カナダは、2021年12月以降、Royal Canadian Air ForceのCP-140哨戒機に対して中国の戦闘機パイロットが危険な妨害を行っていると非難した。
(4) 中国は、カナダが米国と共に上空飛行と航行の自由作戦に参加していることを一貫して批判し、カナダ軍機が国連安全保障理事会決議の履行を口実に、ますます挑発的な偵察活動を行っていると非難してきた。中国は、こうした行動は国連安保理が認めていないものであり、スパイ行為や監視行為に等しいと主張してきた。中国は、このような挑発行為は不運な出来事、さらには紛争の危険性を高めると警告している。2023年カナダが、自国の選挙に中国が介入していると非難したことで、関係の悪化は拡大し、5月には両国間の外交官の相互追放につながった。
(5) 2023年、Canadian Armed Forcesは中国とロシアがカナダの主要な敵国であるとする文書を発表した。中国に関する警告は、2022年10月にHouse of Commons Standing Committee on National Security(下院国家安全保障常任委員会)やその他の場における発言に酷似したものだった。この文書では、カナダと敵対国との間に直接的な軍事衝突がないため、敵対行為への強固な対応が時々遅れることがあり、これは特にCanadian Armed Forcesに関連する懸念であるとCanadian Armed Forcesが発表した文書は強調している。
記事参照:U.S. & Canadian Naval Forces “Flex Muscles” In South China Sea Amid Growing Threats To The Philippines
(1) U.S. NavyとRoyal Canadian Navyは、6月18日から20日にかけて南シナ海で2国間枠組みによる共同行動を実施し、中国とフィリピンの緊張が続くなか、地域の安全保障と協力への強い関与を示した。この2国間行動には、U.S. Navyのアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とRoyal Canadian Navyのハリファックス級フリゲートが参加し、ルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦の支援を得て、洋上での人員移動、飛行作業、洋上補給などが行われたとU.S. Navyが明らかにした。
(2) U.S. Navyによれば、このような2国間の行為は、同盟国海軍全体の訓練、演習、戦術的相互運用性の発展にとって極めて重要であり、あらゆる地域的な不測の事態に対処するための集団的な即応態勢を強化するものだという。この行動は、航行および上空飛行の自由を守るための多国間海上協力行動(multilateral maritime cooperation activity 、MMCA)の一環として、カナダが日本および米国とともにフィリピンと南シナ海で歴史的な初の共同哨戒を行った最近の進展に続くものである。南シナ海で係争中のセカンド・トーマス礁でフィリピン政府が座礁させた艦艇への定期的な補給任務を妨害することを目的とした、衝突や曳航を含む中国船による攻撃的な術策の増加が報告される中、カナダはこの地域への関与を強めている。
(3) Royal Canadian Navyが最近行ったU.S. Navyとの共同訓練は、カナダの脆弱な対中関係をさらに緊張させる可能性がある。ここ数年、カナダと中国の関係を大きく悪化させる事件が相次いでいる中で今回の展開があった。2018年以降、カナダは断続的に艦艇、航空機、人員を派遣し、海洋制裁違反の疑い、特に国連安保理決議で禁止されている燃料やその他の商品の船舶間輸送、いわゆる瀬取りを特定するための監視活動を行ってきた。カナダは、2021年12月以降、Royal Canadian Air ForceのCP-140哨戒機に対して中国の戦闘機パイロットが危険な妨害を行っていると非難した。
(4) 中国は、カナダが米国と共に上空飛行と航行の自由作戦に参加していることを一貫して批判し、カナダ軍機が国連安全保障理事会決議の履行を口実に、ますます挑発的な偵察活動を行っていると非難してきた。中国は、こうした行動は国連安保理が認めていないものであり、スパイ行為や監視行為に等しいと主張してきた。中国は、このような挑発行為は不運な出来事、さらには紛争の危険性を高めると警告している。2023年カナダが、自国の選挙に中国が介入していると非難したことで、関係の悪化は拡大し、5月には両国間の外交官の相互追放につながった。
(5) 2023年、Canadian Armed Forcesは中国とロシアがカナダの主要な敵国であるとする文書を発表した。中国に関する警告は、2022年10月にHouse of Commons Standing Committee on National Security(下院国家安全保障常任委員会)やその他の場における発言に酷似したものだった。この文書では、カナダと敵対国との間に直接的な軍事衝突がないため、敵対行為への強固な対応が時々遅れることがあり、これは特にCanadian Armed Forcesに関連する懸念であるとCanadian Armed Forcesが発表した文書は強調している。
記事参照:U.S. & Canadian Naval Forces “Flex Muscles” In South China Sea Amid Growing Threats To The Philippines
6月25日「南シナ海をめぐる国際法廷闘争が持つ意義―米国際法専門家論説」(South China Morning Post, June 25, 2024)
6月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、米シンクタンクInstitute for China-America Studiesの執行主任である洪農の“Legal moves turn South China Sea into a public image battleground”と題する論説を掲載し、そこで洪農はフィリピンが南シナ海論争において最近国際法を利用した戦術を進めているとして、その背景と意義について、要旨以下のように述べている。
(1) セカンド・トーマス礁における直近の中国とフィリピンの間で起きた衝突は、南シナ海の緊張を高めた。フィリピンはセカンド・トーマス礁に旧揚陸艦「シエラ・マドレ」を座礁させ、そこに部隊を駐留させている。他方中国は、その軍事化を防ぐため「シエラ・マドレ」への補給活動を妨害してきた。それに対しフィリピンは外交的抗議をおこない、国際社会の支援を求めた。中国は、フィリピンが国際的な同情を集めるために、事件の舞台を整えていると非難する。
(2) フィリピンは新たな行動に打って出ようとしている。中国に対する、新たな仲裁裁判の申立に関する議論を行っているというのである。さらに6月14日には、Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に大陸棚延長の申請を行った。こうした法的活動を通じて、フィリピンは、国際法機関を利用して自国の主張を訴え、中国の南シナ海における主張に異議を唱えるという戦略を進めている。こうした議論や申請の適時の選択と効果は、国際法が諸国家にとって広報によって印象を形成するための道具であり、戦略的目的に資するものであるということを示唆している。このことは特に、中国とフィリピンの間の南シナ海論争に顕著である。
(3) こうした取り組みにはいくつかの利点があると思われる。第1に、国際法に訴えることで、自分たちが法に基づく国際秩序を遵守する姿勢を示すことができ、国際社会からの共感を集めることができる。フィリピンは、自国が国際法を遵守する責任ある行為者として描き、その交渉の立場を強めている。それに対し中国側が悪意ある行動を採っているという印象が強まり、中国に対する国際的評価は低下している。フィリピン側はUNCLOSに基づいた主張を行い、他方中国は、国際慣習法としての歴史的権利にその主張の基礎を置く。
(4) 第2に、国際法は強大な敵対相手に異議申し立てをする土台を、弱小国に提供するという考え方がある。フィリピンは国際的な原則や規範への誓約を強調することで、中国の経済的・軍事的強大さに立ち向かっている。他方、中国は国際共同体における自国の立場の弱体化を実感している。2016年の仲裁裁判所裁定を無視したことは、中国による海洋の主張に関する法的正当性を弱めた。また、国際法の戦略的利用は、国際世論を形成して、ほかの国々の対外政策決定にも影響を与え得る。フィリピンはそうして、中国に対抗するための支援を諸外国から獲得している。
(5) しかし、フィリピンが本当に法的な結論を追求しているのかという疑問が残る。また、国際法を利用して印象操作の運動を打ち出すことには限界もある。ただ、自分たちにとって有益であるからそれを利用するというのであれば、その偽善性を非難される可能性がある。国際法は複雑で、解釈に依存するものであり、どの国も自分たちの主張に都合の良いように法的な議論を操作できるのである。さらに国際法には、安定的な執行機関がない。つまり国際法に基づく裁判の勝利は、必ずしも現実における変化につながらないことがある。2016年の仲裁裁判所裁定は、緊張を拡大させただけであった。
(6) 中国は今後、これまで好んできた2国間交渉や協議ではなく、自国の主張を展開するために国際法に訴えることがあるだろうか。あるいは、第3者による紛争解決が重要な役割を果たすことを受け入れるようになるどうか。フィリピンが現在進める法廷闘争戦術は、南シナ海論争解決のためのこれまでの取り組みを再評価するよう、中国に促す可能性がある。
記事参照:Legal moves turn South China Sea into a public image battleground
(1) セカンド・トーマス礁における直近の中国とフィリピンの間で起きた衝突は、南シナ海の緊張を高めた。フィリピンはセカンド・トーマス礁に旧揚陸艦「シエラ・マドレ」を座礁させ、そこに部隊を駐留させている。他方中国は、その軍事化を防ぐため「シエラ・マドレ」への補給活動を妨害してきた。それに対しフィリピンは外交的抗議をおこない、国際社会の支援を求めた。中国は、フィリピンが国際的な同情を集めるために、事件の舞台を整えていると非難する。
(2) フィリピンは新たな行動に打って出ようとしている。中国に対する、新たな仲裁裁判の申立に関する議論を行っているというのである。さらに6月14日には、Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に大陸棚延長の申請を行った。こうした法的活動を通じて、フィリピンは、国際法機関を利用して自国の主張を訴え、中国の南シナ海における主張に異議を唱えるという戦略を進めている。こうした議論や申請の適時の選択と効果は、国際法が諸国家にとって広報によって印象を形成するための道具であり、戦略的目的に資するものであるということを示唆している。このことは特に、中国とフィリピンの間の南シナ海論争に顕著である。
(3) こうした取り組みにはいくつかの利点があると思われる。第1に、国際法に訴えることで、自分たちが法に基づく国際秩序を遵守する姿勢を示すことができ、国際社会からの共感を集めることができる。フィリピンは、自国が国際法を遵守する責任ある行為者として描き、その交渉の立場を強めている。それに対し中国側が悪意ある行動を採っているという印象が強まり、中国に対する国際的評価は低下している。フィリピン側はUNCLOSに基づいた主張を行い、他方中国は、国際慣習法としての歴史的権利にその主張の基礎を置く。
(4) 第2に、国際法は強大な敵対相手に異議申し立てをする土台を、弱小国に提供するという考え方がある。フィリピンは国際的な原則や規範への誓約を強調することで、中国の経済的・軍事的強大さに立ち向かっている。他方、中国は国際共同体における自国の立場の弱体化を実感している。2016年の仲裁裁判所裁定を無視したことは、中国による海洋の主張に関する法的正当性を弱めた。また、国際法の戦略的利用は、国際世論を形成して、ほかの国々の対外政策決定にも影響を与え得る。フィリピンはそうして、中国に対抗するための支援を諸外国から獲得している。
(5) しかし、フィリピンが本当に法的な結論を追求しているのかという疑問が残る。また、国際法を利用して印象操作の運動を打ち出すことには限界もある。ただ、自分たちにとって有益であるからそれを利用するというのであれば、その偽善性を非難される可能性がある。国際法は複雑で、解釈に依存するものであり、どの国も自分たちの主張に都合の良いように法的な議論を操作できるのである。さらに国際法には、安定的な執行機関がない。つまり国際法に基づく裁判の勝利は、必ずしも現実における変化につながらないことがある。2016年の仲裁裁判所裁定は、緊張を拡大させただけであった。
(6) 中国は今後、これまで好んできた2国間交渉や協議ではなく、自国の主張を展開するために国際法に訴えることがあるだろうか。あるいは、第3者による紛争解決が重要な役割を果たすことを受け入れるようになるどうか。フィリピンが現在進める法廷闘争戦術は、南シナ海論争解決のためのこれまでの取り組みを再評価するよう、中国に促す可能性がある。
記事参照:Legal moves turn South China Sea into a public image battleground
6月26日「空母打撃群による複合戦から分散海上戦への移行―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, June 26, 2024)
6月26日付の米シンクタンクThe Center for International Maritime Securityのウエブサイトは、U.S. Naval War Collegeで国家安全保障と戦略研究の修士号を取得し、駆逐艦「バルクリー」副長である海軍中佐Anthony LaVopaの“TRANSITIONING AWAY FROM THE CARRIER STRIKE GROUP AND TOWARD DISTRIBUTED MARITIME OPERATIONS”と題する論説を掲載し、ここでAnthony LaVopaはU.S. Navyが空母打撃群による航空兵力に依存した複合戦から、連携しつつ、分散した多数の水上部隊を使って攻撃するという作戦構想へ移行することは、現代の艦隊戦に勝利するために不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Navyとその同盟国は、30年以上にわたって世界の海を支配してきた。しかし、中国は海洋領域において、米国に対抗するために野心的な軍事開発を進め、大規模な海軍、長距離対艦兵器を保有する陸上機動ロケット部隊、そして空軍の近代化に投資してきた。軍備増強と近代化へのこうした投資は、早急に紛争に備えるという中国の緊急性を示している。習近平国家主席は人民解放軍(PLA)に対し、2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示している。一方でU.S. Navyは、非政府組織軍との戦いに費やされた数十年間で、関心は本来の目的である艦隊戦による制海権の確立と維持から逸れてしまっている。第2次世界大戦以来、U.S. Navyの制海権掌握の主要手段は空母打撃群(以下、CSGと言う)であった。しかし、分散海上作戦(Distributed Maritime Operations:以下、DMOと言う)という海軍の戦闘構想は、基本的に異なる能力と戦力を前提としている。
(2) DMOとは「分散、統合、機動の原則を活用し、時間と場所を選ばずに圧倒的な戦闘力と効果を発揮する作戦構想」と定義されている。効果的なDMOを実施するためには、戦闘力の分散化が必要である。DMOはまず効果的な火力を発揮することで作戦上の優位性を確保することを目指している。しかし、何世代ものU.S. Navyの士官達は、その経歴を通じて空母中心の複合戦指揮官(CWC)という構想の下で育ってきた。この構想は、DMOの広範な艦隊段階の原則と相反するところがある。
(3) 湾岸戦争以降、CSGは空母航空団の能力を維持するための空母防護へと発展してきた。今日の水上艦艇とその兵器は、CSGの一部としてCWC構想を支援するために最適化されたものである。これらの兵器は、比較的短距離であり、それらを大量に搭載する艦艇に依存している。航空団は別であるが、CSGの空母以外の艦艇は、その武装、配置、役割のほとんどが防衛上の必要性によっている。
(4) DMOの本質は、水上艦艇が携行する長距離射撃能力に基づいて、戦闘力を分散配備することである。海軍の巡航ミサイルと垂直発射装置の大部分は、水上艦艇に配備されている。しかし、水上部隊は現在、DMOが想定しているような協調的な攻撃で対艦火力を集中させるのに必要な長距離兵器を欠いている。CSGに配属されている艦艇の分散配置は、完全な意味でのDMOではなく、CWCという形で指揮統制の中央集権的な様式を使用しながら、CSGがより広範囲に分散しているだけである。
(5) DMOの可能性を最大限に発揮するためには、海軍は、艦艇、航空機から焦点をそらし、重要な能力を実現する根本的な兵器とその効果に焦点を当てなければならない。それぞれの艦艇が発揮できる統合的な火力は、兵器自体の特性に大きく依存する。これらの特性は、個々の兵器の集約の可能性と広範な部隊の対艦攻撃能力を定義するための貴重な枠組みを提供する。
(6) 敵の海軍に決定的な攻撃の機会を与えないためには、艦隊が優れた先制攻撃能力を持つことが必要である。しかし、U.S. Navyは主に空母航空団の集中火力に頼ってきたため、分散して使用できる有効な長距離対艦兵器がない。空母航空団に短距離対艦攻撃を依存することは、海軍がDMOを効果的に実行する度合いを著しく制限している。
(7) 分散型部隊の唯一の障害は、他部隊への攻撃を調整する能力である。この調整は、自軍が分散すればするほど複雑になり、敵軍が分散していればなおさらである。分散した部隊が火力を調整できなければ、あらゆる状況下で敗北する。このことは、海軍が海上攻撃のための多様で弾力的な選択肢を持つために、必要な長距離対艦兵器とそれを誘導するネットワークを確保しなければならないことを示めしている。適切な長距離兵器がなければ、効果的に分散して火力を集中する能力を維持するのに苦労し、DMOの実行可能性は著しく低下する。これが、空母防護に集中した少量の対艦火力のみを特徴とするCSG中心のU.S. Navyが今日置かれている状況である。
(8) U.S. Navyは、特に艦対空ミサイルSM-6に対地モードが付加されたことで、水上艦艇の打撃力を高め、それなりの進歩を遂げた。しかし、SM-6の射程は約150海里で、中国水上艦隊が保有するYJ-18の射程は330海里である。SM-6と新型トマホークは、より長距離の対艦能力を提供することが期待されているが、艦艇が十分な弾数を搭載できるかどうかは疑問である。長距離攻撃兵器を搭載した水上艦への移行は、個々の戦闘艦の全体的な重要性を大きく変える。もはや水上艦艇は、単に空母とその航空団の防御的な補助的存在ではなくなる。水上艦艇は、制海権を握るための火力を保有するようになり、より攻撃的なものになる可能性がある。多数の分散型水上艦を中心とした艦隊が、主力艦からかなり離れた場所で作戦を行いながら、中核的な攻撃任務を遂行するようになることが、DMOの真髄である。
(9) DMOの意図は、CSGを無用の存在にすることではなく、むしろ、紛争の初期段階においては、制海権の唯一の前衛としてのCSGに頼らないということである。DMOは、敵の意思決定を遅らせ、低下させる一方で、敵が最初に交戦する機会を奪う必要がある。それは、作戦上の必要性のために一時的な制海権を確立・維持することで、そのために航空団を使わないということがDMOの真の姿である、しかし、兵器の開発と調達の状況を考えると、U.S. NavyのDMO構想の実行は進んでいない。この構想への移行は、現代の艦隊戦に勝利するために不可欠である。
記事参照:TRANSITIONING AWAY FROM THE CARRIER STRIKE GROUP AND TOWARD DISTRIBUTED MARITIME OPERATIONS
(1) U.S. Navyとその同盟国は、30年以上にわたって世界の海を支配してきた。しかし、中国は海洋領域において、米国に対抗するために野心的な軍事開発を進め、大規模な海軍、長距離対艦兵器を保有する陸上機動ロケット部隊、そして空軍の近代化に投資してきた。軍備増強と近代化へのこうした投資は、早急に紛争に備えるという中国の緊急性を示している。習近平国家主席は人民解放軍(PLA)に対し、2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示している。一方でU.S. Navyは、非政府組織軍との戦いに費やされた数十年間で、関心は本来の目的である艦隊戦による制海権の確立と維持から逸れてしまっている。第2次世界大戦以来、U.S. Navyの制海権掌握の主要手段は空母打撃群(以下、CSGと言う)であった。しかし、分散海上作戦(Distributed Maritime Operations:以下、DMOと言う)という海軍の戦闘構想は、基本的に異なる能力と戦力を前提としている。
(2) DMOとは「分散、統合、機動の原則を活用し、時間と場所を選ばずに圧倒的な戦闘力と効果を発揮する作戦構想」と定義されている。効果的なDMOを実施するためには、戦闘力の分散化が必要である。DMOはまず効果的な火力を発揮することで作戦上の優位性を確保することを目指している。しかし、何世代ものU.S. Navyの士官達は、その経歴を通じて空母中心の複合戦指揮官(CWC)という構想の下で育ってきた。この構想は、DMOの広範な艦隊段階の原則と相反するところがある。
(3) 湾岸戦争以降、CSGは空母航空団の能力を維持するための空母防護へと発展してきた。今日の水上艦艇とその兵器は、CSGの一部としてCWC構想を支援するために最適化されたものである。これらの兵器は、比較的短距離であり、それらを大量に搭載する艦艇に依存している。航空団は別であるが、CSGの空母以外の艦艇は、その武装、配置、役割のほとんどが防衛上の必要性によっている。
(4) DMOの本質は、水上艦艇が携行する長距離射撃能力に基づいて、戦闘力を分散配備することである。海軍の巡航ミサイルと垂直発射装置の大部分は、水上艦艇に配備されている。しかし、水上部隊は現在、DMOが想定しているような協調的な攻撃で対艦火力を集中させるのに必要な長距離兵器を欠いている。CSGに配属されている艦艇の分散配置は、完全な意味でのDMOではなく、CWCという形で指揮統制の中央集権的な様式を使用しながら、CSGがより広範囲に分散しているだけである。
(5) DMOの可能性を最大限に発揮するためには、海軍は、艦艇、航空機から焦点をそらし、重要な能力を実現する根本的な兵器とその効果に焦点を当てなければならない。それぞれの艦艇が発揮できる統合的な火力は、兵器自体の特性に大きく依存する。これらの特性は、個々の兵器の集約の可能性と広範な部隊の対艦攻撃能力を定義するための貴重な枠組みを提供する。
(6) 敵の海軍に決定的な攻撃の機会を与えないためには、艦隊が優れた先制攻撃能力を持つことが必要である。しかし、U.S. Navyは主に空母航空団の集中火力に頼ってきたため、分散して使用できる有効な長距離対艦兵器がない。空母航空団に短距離対艦攻撃を依存することは、海軍がDMOを効果的に実行する度合いを著しく制限している。
(7) 分散型部隊の唯一の障害は、他部隊への攻撃を調整する能力である。この調整は、自軍が分散すればするほど複雑になり、敵軍が分散していればなおさらである。分散した部隊が火力を調整できなければ、あらゆる状況下で敗北する。このことは、海軍が海上攻撃のための多様で弾力的な選択肢を持つために、必要な長距離対艦兵器とそれを誘導するネットワークを確保しなければならないことを示めしている。適切な長距離兵器がなければ、効果的に分散して火力を集中する能力を維持するのに苦労し、DMOの実行可能性は著しく低下する。これが、空母防護に集中した少量の対艦火力のみを特徴とするCSG中心のU.S. Navyが今日置かれている状況である。
(8) U.S. Navyは、特に艦対空ミサイルSM-6に対地モードが付加されたことで、水上艦艇の打撃力を高め、それなりの進歩を遂げた。しかし、SM-6の射程は約150海里で、中国水上艦隊が保有するYJ-18の射程は330海里である。SM-6と新型トマホークは、より長距離の対艦能力を提供することが期待されているが、艦艇が十分な弾数を搭載できるかどうかは疑問である。長距離攻撃兵器を搭載した水上艦への移行は、個々の戦闘艦の全体的な重要性を大きく変える。もはや水上艦艇は、単に空母とその航空団の防御的な補助的存在ではなくなる。水上艦艇は、制海権を握るための火力を保有するようになり、より攻撃的なものになる可能性がある。多数の分散型水上艦を中心とした艦隊が、主力艦からかなり離れた場所で作戦を行いながら、中核的な攻撃任務を遂行するようになることが、DMOの真髄である。
(9) DMOの意図は、CSGを無用の存在にすることではなく、むしろ、紛争の初期段階においては、制海権の唯一の前衛としてのCSGに頼らないということである。DMOは、敵の意思決定を遅らせ、低下させる一方で、敵が最初に交戦する機会を奪う必要がある。それは、作戦上の必要性のために一時的な制海権を確立・維持することで、そのために航空団を使わないということがDMOの真の姿である、しかし、兵器の開発と調達の状況を考えると、U.S. NavyのDMO構想の実行は進んでいない。この構想への移行は、現代の艦隊戦に勝利するために不可欠である。
記事参照:TRANSITIONING AWAY FROM THE CARRIER STRIKE GROUP AND TOWARD DISTRIBUTED MARITIME OPERATIONS
6月26日「東南アジア諸国はなぜ中国との共同軍事演習を続けるのか―英中国・東南アジア専門家論説」(Commentary, RSIS, June 26, 2024)
6月26日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentaryは、University of Oxfordの大学院生Ian Seow Cheng Weiによる“Strategic Workouts: The Rationale for Southeast Asian States’ Military Exercises with China”と題する論説を掲載し、そこでIan Seow Cheng Weiは米中対立が緊迫化する東南アジアにおいて、なぜ東南アジア諸国が中国との共同軍事演習を続けるのかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年のアジア安全保障会議で、中国国防部長董軍は、地域の安全協力への貢献において、共同軍事演習(joint military exercises:以下、JMEsと言う)が重要であると述べた。実際に中国は、地域諸国との緊密な関係促進を目的として、東南アジア各国とJMEsを実施してきた。2005年にタイとの間で実施したのを皮切りに、2023年には最初の9ヵ月で11回のJMEsを実施している。これは世界のそれ以外の地域の国との間で行われたJMEsよりも多い数字である。
(2) 中国側の動機についての分析は多かったが、東南アジア諸国側についてはそうではなかった。抑止や勢力均衡だけでは不十分である。大きく2つことを指摘できる。第1に米中対立における中立性を訴える意図としてJMEsが利用されていること、第2に東南アジア諸国の統治や人権問題に対する米国の批判をかわすことである。
(3) JMEsはしばしば、その国の対外・防衛政策の方向性や、どの勢力に与するのかを示す合図になる。東南アジア諸国は近年、米中対立という国際環境において、どちらの側に付くのかという圧力にさらされている。そのなかで彼らはどちらともJMEsを実施することで、その中立性を訴えてきた。たとえばベトナムは2006年から、中国との間で34回ものJMEsを行ってきた。これは、ベトナムが非同盟主義であることやどちらの勢力にも肩入れしないという米国に対する合図となっている。シンガポールも2009年以降、中国との間で定期的にJMEsを実施し、2019年には安全保障協力を拡大させることで合意した。そして2019年、シンガポールは米国との間でも、シンガポールにおける米国による施設利用に関する合意覚書を締結している。
(4) 米国は中国への対抗のため、東南アジア諸国の支援を欲している。そうした状況を利用し、東南アジア諸国は、JMEsを利用して米国からの自国への批判を抑制しようとしている。たとえば、米国は2014年のタイのクーデタに際し、タイとの軍事的交流を縮小させた。その後、タイは中国との協力を深めることになり、JMEsの規模を倍増させたのである。それを受けて米国は、タイとの共同演習の規模を元に戻し、軍事支援物資などの提供を再開したのである。同じように、2016年、米国はカンボジア政府による反体制派の弾圧を批判したことで、両国のJMEが延期された。その後、中国との間で初めてのJMEを実施し、2国間関係の緊密さを主張した。米国は現在、カンボジアとの軍事協力再開の意図を表明している。
(5) 東南アジア諸国には、中国とのJMEsを何に利用するかを決定する主体性がある。一般的な抑止効果や勢力均衡とは、必ずしも関係なく活用されることも多い。今後も中国とのJMEsは継続されるであろう。
記事参照:Strategic Workouts: The Rationale for Southeast Asian States’ Military Exercises with China
(1) 2024年のアジア安全保障会議で、中国国防部長董軍は、地域の安全協力への貢献において、共同軍事演習(joint military exercises:以下、JMEsと言う)が重要であると述べた。実際に中国は、地域諸国との緊密な関係促進を目的として、東南アジア各国とJMEsを実施してきた。2005年にタイとの間で実施したのを皮切りに、2023年には最初の9ヵ月で11回のJMEsを実施している。これは世界のそれ以外の地域の国との間で行われたJMEsよりも多い数字である。
(2) 中国側の動機についての分析は多かったが、東南アジア諸国側についてはそうではなかった。抑止や勢力均衡だけでは不十分である。大きく2つことを指摘できる。第1に米中対立における中立性を訴える意図としてJMEsが利用されていること、第2に東南アジア諸国の統治や人権問題に対する米国の批判をかわすことである。
(3) JMEsはしばしば、その国の対外・防衛政策の方向性や、どの勢力に与するのかを示す合図になる。東南アジア諸国は近年、米中対立という国際環境において、どちらの側に付くのかという圧力にさらされている。そのなかで彼らはどちらともJMEsを実施することで、その中立性を訴えてきた。たとえばベトナムは2006年から、中国との間で34回ものJMEsを行ってきた。これは、ベトナムが非同盟主義であることやどちらの勢力にも肩入れしないという米国に対する合図となっている。シンガポールも2009年以降、中国との間で定期的にJMEsを実施し、2019年には安全保障協力を拡大させることで合意した。そして2019年、シンガポールは米国との間でも、シンガポールにおける米国による施設利用に関する合意覚書を締結している。
(4) 米国は中国への対抗のため、東南アジア諸国の支援を欲している。そうした状況を利用し、東南アジア諸国は、JMEsを利用して米国からの自国への批判を抑制しようとしている。たとえば、米国は2014年のタイのクーデタに際し、タイとの軍事的交流を縮小させた。その後、タイは中国との協力を深めることになり、JMEsの規模を倍増させたのである。それを受けて米国は、タイとの共同演習の規模を元に戻し、軍事支援物資などの提供を再開したのである。同じように、2016年、米国はカンボジア政府による反体制派の弾圧を批判したことで、両国のJMEが延期された。その後、中国との間で初めてのJMEを実施し、2国間関係の緊密さを主張した。米国は現在、カンボジアとの軍事協力再開の意図を表明している。
(5) 東南アジア諸国には、中国とのJMEsを何に利用するかを決定する主体性がある。一般的な抑止効果や勢力均衡とは、必ずしも関係なく活用されることも多い。今後も中国とのJMEsは継続されるであろう。
記事参照:Strategic Workouts: The Rationale for Southeast Asian States’ Military Exercises with China
6月27日「真綿で台湾の首を絞めてくる中国に対抗する―米専門家論説」(Atlantic Council, June 27, 2024)
6月27日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、同CouncilのCEOであるFrederick Kempeの“Dispatch from Taiwan: Countering the Beijing strangler”と題する論説を掲載し、ここでFrederick Kempeは中国の台湾に対する行動は、軍事的な課題と同様に非軍事的な課題が多い長期戦であり、米国とその同盟国は自国の対応を調整しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年のロシアによるウクライナへの本格的な侵攻は、台湾人を揺さぶり、自分たちの脆弱性を大きく、緊急に認識させた。台湾人は、小さな国と軍隊でも、十分な勇気と準備と意志があれば、強制的な併合に抵抗することができるという教訓を学んだ。さらに、ウクライナは、国際的な提携国からの多大な費用のかかる、持続的な支援なしには生き延びることはできなかったという教訓も与えた。台湾の政治的地位が争われ、中国が台湾に対して執拗な国際的な運動を展開していることを考えれば、台湾がこの水準の支援を獲得することは、ウクライナよりも困難である。
(2) 中国は統一を実現するための武力行使を排除していないが、台湾は宣言されていないとはいえ事実上の独立である現状維持を主張している。中国からの圧力があり、国連加盟193ヵ国のうち、台湾を正式に外交承認しているのはローマ教皇庁を加えた11ヵ国だけで、ウクライナを承認しているのは182ヵ国である。台湾は、欧州、アジア、北米の国々と安全保障問題について以前よりも緊密に協議しているが、台湾政府関係者は、それで十分なのかどうか疑問に思っている。
(3) 台湾政府関係者は、中国による台湾併合への努力の激しさは増す一方で、その多くはグレーゾーンでの強制で、軍事的脅威、偽情報、経済的強制、台湾の国際機関やフォーラムへの参加妨害など、両岸の現状を変えるためのさまざまな方法が含まれると述べている。さらに20年にわたり中国が台湾の社会、メディア、政党に浸透させようと努力してきたこと、さらには組織犯罪との協力も含まれていると語っている。
(4) 狡猾なのは、中国共産党が、「1971年に国連への加盟を認めた国連総会決議2758号によって、国際社会は、台湾が中国の一部であり、国際機関に参加する権利がないことを認めた」と虚偽の主張をしていることである。台湾当局はこの解釈だけでなく、同年に香港で開かれた半官半民の会議で「1992年合意」が形成された際、台湾政府が「一つの中国」という見解に同意したという中国政府の主張も否定している。合意という言葉は、会議から10年近く経ってから人為的に作られたもので、1992年当時、中国に対する台湾の地位について、中国政府と台湾政府の間に実際の合意なかったのである。
(5) 5月20日の力強い就任演説で、頼総統は「今日、ロシアのウクライナ侵攻とイスラエルとハマスの紛争は全世界を揺るがし続けている。そして、中国の軍事行動とグレーゾーンでの威圧は、世界の平和と安定に対する最大の戦略的挑戦とみなされている。」と、台湾を世界的な文脈の中に位置づけた。
(6) 台湾の政府指導者、軍事計画立案者、経済政策立案者、企業経営者による1週間の会合から得られた1つの重要な収穫は、彼らが懸命に抑止している中国の軍事侵攻よりも、国際的な支援や独自の答えを欠いている緩慢な絞め殺しを心配していることである。国家安全保障会議の吳釗燮事務局長は、中国が台湾人とその国際的支持者に示そうとしている軍事的な締め付けを説明するために、視覚教材として地図を掲げた。地図は、台湾を包囲している中国の船と飛行機が、毎日絶え間なく活動していることを示していた。さらに吳釗燮は「目的は台湾への軍事攻撃をすぐに開始することではない。戦争の可能性を排除することはできないが、彼らは戦わずに敵を粉砕し、我々の首を絞めることを望んでいる」と付け加えている。
(7) 『Foreign Affairs』誌でIsaac KardonとJennifer Kavanaghは、次のように述べている。
a. 台湾の近年における戦闘機、戦車、国産潜水艦などの大規模な軍事投資は、グレーゾーンの脅威にうまく合致していない。
b. 通信基幹施設をより強固にする努力と、強い経済的つながりを構築するための海外投資の促進が必要である。
c. 米国とその同盟国が、中国政府のグレーゾーン行動に対抗するためのより良い方法を決定しなければ、戦争がなくても、台湾の自治と米国の信頼性が、ともに大きく低下することになりかねない。
d. 米国は、侵攻の見通しへの執着を断ち切り、台湾をゆっくりと絞め殺すことによってもたらされる危険にもっと注意深くならなければならない。
e. 米政府がその見通しを変えることができなければ、台湾が忍び寄る中国の支配下に入ることになりかねない。
(8) ロシアがウクライナで勝利するための方法が、中国が台湾に対して採用している方法と異なるように、米国とその同盟国は、軍事的な課題と同様に非軍事的な課題が多い長期戦に対して、自国の対応を調整しなければならない。これは台湾だけの問題ではなく、全世界の問題である。
記事参照:Dispatch from Taiwan: Countering the Beijing strangler
(1) 2022年のロシアによるウクライナへの本格的な侵攻は、台湾人を揺さぶり、自分たちの脆弱性を大きく、緊急に認識させた。台湾人は、小さな国と軍隊でも、十分な勇気と準備と意志があれば、強制的な併合に抵抗することができるという教訓を学んだ。さらに、ウクライナは、国際的な提携国からの多大な費用のかかる、持続的な支援なしには生き延びることはできなかったという教訓も与えた。台湾の政治的地位が争われ、中国が台湾に対して執拗な国際的な運動を展開していることを考えれば、台湾がこの水準の支援を獲得することは、ウクライナよりも困難である。
(2) 中国は統一を実現するための武力行使を排除していないが、台湾は宣言されていないとはいえ事実上の独立である現状維持を主張している。中国からの圧力があり、国連加盟193ヵ国のうち、台湾を正式に外交承認しているのはローマ教皇庁を加えた11ヵ国だけで、ウクライナを承認しているのは182ヵ国である。台湾は、欧州、アジア、北米の国々と安全保障問題について以前よりも緊密に協議しているが、台湾政府関係者は、それで十分なのかどうか疑問に思っている。
(3) 台湾政府関係者は、中国による台湾併合への努力の激しさは増す一方で、その多くはグレーゾーンでの強制で、軍事的脅威、偽情報、経済的強制、台湾の国際機関やフォーラムへの参加妨害など、両岸の現状を変えるためのさまざまな方法が含まれると述べている。さらに20年にわたり中国が台湾の社会、メディア、政党に浸透させようと努力してきたこと、さらには組織犯罪との協力も含まれていると語っている。
(4) 狡猾なのは、中国共産党が、「1971年に国連への加盟を認めた国連総会決議2758号によって、国際社会は、台湾が中国の一部であり、国際機関に参加する権利がないことを認めた」と虚偽の主張をしていることである。台湾当局はこの解釈だけでなく、同年に香港で開かれた半官半民の会議で「1992年合意」が形成された際、台湾政府が「一つの中国」という見解に同意したという中国政府の主張も否定している。合意という言葉は、会議から10年近く経ってから人為的に作られたもので、1992年当時、中国に対する台湾の地位について、中国政府と台湾政府の間に実際の合意なかったのである。
(5) 5月20日の力強い就任演説で、頼総統は「今日、ロシアのウクライナ侵攻とイスラエルとハマスの紛争は全世界を揺るがし続けている。そして、中国の軍事行動とグレーゾーンでの威圧は、世界の平和と安定に対する最大の戦略的挑戦とみなされている。」と、台湾を世界的な文脈の中に位置づけた。
(6) 台湾の政府指導者、軍事計画立案者、経済政策立案者、企業経営者による1週間の会合から得られた1つの重要な収穫は、彼らが懸命に抑止している中国の軍事侵攻よりも、国際的な支援や独自の答えを欠いている緩慢な絞め殺しを心配していることである。国家安全保障会議の吳釗燮事務局長は、中国が台湾人とその国際的支持者に示そうとしている軍事的な締め付けを説明するために、視覚教材として地図を掲げた。地図は、台湾を包囲している中国の船と飛行機が、毎日絶え間なく活動していることを示していた。さらに吳釗燮は「目的は台湾への軍事攻撃をすぐに開始することではない。戦争の可能性を排除することはできないが、彼らは戦わずに敵を粉砕し、我々の首を絞めることを望んでいる」と付け加えている。
(7) 『Foreign Affairs』誌でIsaac KardonとJennifer Kavanaghは、次のように述べている。
a. 台湾の近年における戦闘機、戦車、国産潜水艦などの大規模な軍事投資は、グレーゾーンの脅威にうまく合致していない。
b. 通信基幹施設をより強固にする努力と、強い経済的つながりを構築するための海外投資の促進が必要である。
c. 米国とその同盟国が、中国政府のグレーゾーン行動に対抗するためのより良い方法を決定しなければ、戦争がなくても、台湾の自治と米国の信頼性が、ともに大きく低下することになりかねない。
d. 米国は、侵攻の見通しへの執着を断ち切り、台湾をゆっくりと絞め殺すことによってもたらされる危険にもっと注意深くならなければならない。
e. 米政府がその見通しを変えることができなければ、台湾が忍び寄る中国の支配下に入ることになりかねない。
(8) ロシアがウクライナで勝利するための方法が、中国が台湾に対して採用している方法と異なるように、米国とその同盟国は、軍事的な課題と同様に非軍事的な課題が多い長期戦に対して、自国の対応を調整しなければならない。これは台湾だけの問題ではなく、全世界の問題である。
記事参照:Dispatch from Taiwan: Countering the Beijing strangler
6月28日「戦争に向かう夢遊病から目覚める時―フリー著述家論説」(China US Focus, June 28, 2024)
6月28日付の香港のシンクタンクChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、独立系の研究者で著述家Philip Cunninghamの“Time to wake up!”と題する論説を掲載し、Philip Cunninghamは米中が夢遊病者のように台湾海峡での衝突に向けて進んでいるが、現在の米中関係は第1次世界大戦に至るドイツとイギリスの失策との間に憂慮すべき類似点があり、日本の中国侵攻においても日米双方に誤算があり、平和への努力が中途半端であったと指摘した上で、中国を封じ込めようとするのではなく、抑制しようとすることは封じ込めようとするよりも賢明な方策であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Yale University教授Odd Arne Westadは、「中国と米国はともに、今後10年以内は台湾海峡の対立に向けて夢遊病のように進んでいるようだ」と指摘した上で、現在の米中関係は第1次世界大戦に至るドイツとイギリスの失策と憂慮すべき類似点があると主張している。
今、中国はロシアに対する扱いでその過ちを繰り返している」と指摘する。
(2)「夢遊病」は、史上最も無益で、おそらくは避けられた戦争の1つである第1次世界大戦の悲惨な例から生まれたため、強力な模倣によって人から人へと伝えらえる情報である。
Harvard University教授Stephen Waltもこの夢遊病という情報を引用しているが、その代わりにアメリカがウクライナ支援に突進していることを批判している。Harvard University教授Joseph Nyeも「最も適切な歴史的類似点は、1945年以降の冷戦下のヨーロッパではなく、1914年の戦前のヨーロッパである」と指摘する。歴史家Christopher Clarkの著作も現在の議論の用語を定めるのに明らかに役立っている。Odd Arne Westadは、Christopher Clarkの用語を使用しているが、Paul Kennedyの著作を参照している。
(3) 夢遊病で戦争に突入するという鮮明な比喩は力強いものだが、歴史は解釈の余地が広いということを忘れてはならない。歴史の本質的な読み物は、過去の出来事に基づいて、将来どのように展開するかについて大まかな指針を与えてくれる多くの基本的な事実については合意できるものの、物事が現在の常識と全く同じに起こったと誰が言えるだろうか。歴史は繰り返されると誰が言えるだろうか。「歴史は繰り返すというよりは韻を踏む」のである。
(4) なぜ米中対立を英国とドイツと比較するのだろうか。少なくとも、これはヨーロッパ中心主義的な類推である。第1次世界大戦への夢遊病が一種の決まり文句になっているとしたら、もう1つの素晴らしい比喩である「真珠湾への道」はどうであろうか。中国が初めて日本に侵略されたとき、米国は懸念しながら見守っていたが、それに対してあまり何もしなかった。これは、ロシアのウクライナ侵攻に対する中国のこれまでの弱気な姿勢と似ている。西側諸国が日本に制裁と禁輸措置を課し始めたため、当時の日本は現在のロシアと同様に物資不足に直面した。しかし、北京近郊の盧溝橋事件後、日本の軍事侵攻が中国本土にまで及んだにもかかわらず、和平交渉の試みは中途半端なものに留まった。国際社会の対応の優柔不断さは、ロシアが参加せず、中国が不参加を選択した最近のウクライナ和平会議を思い起こさせる。この会議では、ブラジル、インド、タイを含む多くの国が和平過程について曖昧な態度を示している。U.S. Department of Stateの「真珠湾攻撃への道」の概要によれば、日米双方とも誤算を犯している。
(5) Joseph Nyeは「夢遊病」論文の中で、米国は中国を封じ込めることはできないし、そうすべきでもないが、世界秩序において影響力を行使することで中国を「抑制」することは規範設定国としての権利と自国の利益の範囲内であるとして、「習近平の強硬な政策を考えると、短期的には米国はおそらく対立関係にもっと時間を費やさなければならないだろう。しかし、米国がイデオロギー的な悪者扱いや誤解を招く冷戦の類推を避ければ、そのような戦略は成功する可能性がある」と主張している。抑制しようとすることは、封じ込めようとするよりも賢明で、より微妙なことである。若干、言葉の遊び的ではあるが、それは平和を保つのに役立つような、記憶に残る微妙な差異であろう。
(6) 一方、同盟国と協力して米国に他国を拘束する力を与える、いわゆる世界秩序自体が激しく争われている。Odd Arne Westadが「夢遊病」論の別の議論で指摘したように、中国外交部が2022年6月に発表した白書は、「米国が一貫して守ると誓ってきたのは、米国自身の利益に役立ち、その覇権を永続させるために設計された、いわゆる国際秩序である」と述べている。
(7) 現在の議論において、すべての側が確実に同意する数少ない事柄の1つは、目覚める時が来たということである。
記事参照:Time to wake up!
(1) Yale University教授Odd Arne Westadは、「中国と米国はともに、今後10年以内は台湾海峡の対立に向けて夢遊病のように進んでいるようだ」と指摘した上で、現在の米中関係は第1次世界大戦に至るドイツとイギリスの失策と憂慮すべき類似点があると主張している。
今、中国はロシアに対する扱いでその過ちを繰り返している」と指摘する。
(2)「夢遊病」は、史上最も無益で、おそらくは避けられた戦争の1つである第1次世界大戦の悲惨な例から生まれたため、強力な模倣によって人から人へと伝えらえる情報である。
Harvard University教授Stephen Waltもこの夢遊病という情報を引用しているが、その代わりにアメリカがウクライナ支援に突進していることを批判している。Harvard University教授Joseph Nyeも「最も適切な歴史的類似点は、1945年以降の冷戦下のヨーロッパではなく、1914年の戦前のヨーロッパである」と指摘する。歴史家Christopher Clarkの著作も現在の議論の用語を定めるのに明らかに役立っている。Odd Arne Westadは、Christopher Clarkの用語を使用しているが、Paul Kennedyの著作を参照している。
(3) 夢遊病で戦争に突入するという鮮明な比喩は力強いものだが、歴史は解釈の余地が広いということを忘れてはならない。歴史の本質的な読み物は、過去の出来事に基づいて、将来どのように展開するかについて大まかな指針を与えてくれる多くの基本的な事実については合意できるものの、物事が現在の常識と全く同じに起こったと誰が言えるだろうか。歴史は繰り返されると誰が言えるだろうか。「歴史は繰り返すというよりは韻を踏む」のである。
(4) なぜ米中対立を英国とドイツと比較するのだろうか。少なくとも、これはヨーロッパ中心主義的な類推である。第1次世界大戦への夢遊病が一種の決まり文句になっているとしたら、もう1つの素晴らしい比喩である「真珠湾への道」はどうであろうか。中国が初めて日本に侵略されたとき、米国は懸念しながら見守っていたが、それに対してあまり何もしなかった。これは、ロシアのウクライナ侵攻に対する中国のこれまでの弱気な姿勢と似ている。西側諸国が日本に制裁と禁輸措置を課し始めたため、当時の日本は現在のロシアと同様に物資不足に直面した。しかし、北京近郊の盧溝橋事件後、日本の軍事侵攻が中国本土にまで及んだにもかかわらず、和平交渉の試みは中途半端なものに留まった。国際社会の対応の優柔不断さは、ロシアが参加せず、中国が不参加を選択した最近のウクライナ和平会議を思い起こさせる。この会議では、ブラジル、インド、タイを含む多くの国が和平過程について曖昧な態度を示している。U.S. Department of Stateの「真珠湾攻撃への道」の概要によれば、日米双方とも誤算を犯している。
(5) Joseph Nyeは「夢遊病」論文の中で、米国は中国を封じ込めることはできないし、そうすべきでもないが、世界秩序において影響力を行使することで中国を「抑制」することは規範設定国としての権利と自国の利益の範囲内であるとして、「習近平の強硬な政策を考えると、短期的には米国はおそらく対立関係にもっと時間を費やさなければならないだろう。しかし、米国がイデオロギー的な悪者扱いや誤解を招く冷戦の類推を避ければ、そのような戦略は成功する可能性がある」と主張している。抑制しようとすることは、封じ込めようとするよりも賢明で、より微妙なことである。若干、言葉の遊び的ではあるが、それは平和を保つのに役立つような、記憶に残る微妙な差異であろう。
(6) 一方、同盟国と協力して米国に他国を拘束する力を与える、いわゆる世界秩序自体が激しく争われている。Odd Arne Westadが「夢遊病」論の別の議論で指摘したように、中国外交部が2022年6月に発表した白書は、「米国が一貫して守ると誓ってきたのは、米国自身の利益に役立ち、その覇権を永続させるために設計された、いわゆる国際秩序である」と述べている。
(7) 現在の議論において、すべての側が確実に同意する数少ない事柄の1つは、目覚める時が来たということである。
記事参照:Time to wake up!
6月29日「南シナ海に関するフィリピンのあいまいな態度と米国への不信感―フィリピン東南アジア専門家論説」(South China Morning Post, June 29, 2024)」
6月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、フィリピンPolytechnic University研究員Richard Javad Heydarianの“Philippines’ dithering over South China Sea clash fuelled by US doubts”と題する論説を掲載し、そこでRichard Javad Heydarianは南シナ海において中国とフィリピンとの間の緊張が高まる中、米比相互防衛条約の発動が期待される米国の信頼性が低下しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Marcos Jr.フィリピン大統領は、南シナ海で大規模な紛争が起きる危険性を軽視し続けている。直近の事件では中国の海上民兵が斧を振り回し、フィリピン兵士が親指を失う怪我を負った。
(2) こうした事件に対するフィリピン政府の反応は様々である。国防相は中国の行動を「攻撃的、かつ違法な武力行使」としたが、首相秘書官は「誤解か事故であろう」という判断を表明した。Marcos Jr.大統領は、断固たる姿勢を示しつつも、海洋をめぐる論争において「いかなる外国勢力」にもなびかないと述べるなど、中道的な路線を維持している。
(3) こうしたフィリピンの錯綜した反応は、フィリピンが事態の拡大を望んでいないこと、そしてもっと重要なことに、有事の際に米国がフィリピンを本当に支援するかどうかについて疑念を抱いていることを反映しているのである。
(4) Marcos Jr.大統領は、直近の事件の数週間前、南シナ海で外国勢力の「悪意ある行為」によってフィリピン国民が殺されるようなことがあれば、それはほぼ「戦争行為」であり、したがって米比相互防衛条約が発動されると警告した。しかし問題は、米国が長らくフィリピンの防衛義務に関してあいまいな姿勢を示し続けたということである。また、そもそも同条約自体があいまいさを含んでいる。それは、米比「共通の危険に遭遇したときに」、「憲法の手続きに従って支援する」ことを義務付けているに過ぎない。
(5) したがって、米比相互防衛条約は自動的に発動するものではない。そのため1992年と2012年、ミスチーフ礁とスカボロー礁で起きた危機において米国は介入を拒んだのである。こうした米国の信頼感のなさが、フィリピン国民の間に疎外感を生じさせている。2016年の世論調査では、調査対象の大半が、Duterte大統領(当時)による中国およびロシアとの関係強化を支持した。
(6) Trump、Biden政権になって、南シナ海におけるArmed Forces of the Philippinesや民間船、航空機などへの攻撃は、条約の発動条件になることが明確にされた。しかしそれでも、中国によるグレーゾーン戦術が対象になるかははっきりしておらず、米政権による新たな保証には、十分な抑止効果がないことになる。
(7) 大統領選の最中、またウクライナやガザでの紛争に集中しているBiden政権が、相互防衛条約発動条件の見直しなどをする兆しはない。また事実として、米国はこの10年間、フィリピンに最新兵器を提供することはなかった。その一方で中国がより劇的な行動に出る可能性がある。たとえば、フィリピンがセカンド・トーマス礁に座礁させた揚陸艦「シエラ・マドレ」の占領などである。そうした事態が起きないようにするため、米国は相互防衛条約発動条件をより明確にする必要があるかもしれない。さらに米国は、フィリピンの行動能力強化のために上陸艇などの装備を提供する必要があるかもしれない。
(8) いずれにしても、現在明らかなのは、同盟国として、地域の指導者として、米国の信頼性が揺らいでいるということである。
記事参照:Philippines’ dithering over South China Sea clash fuelled by US doubts
(1) Marcos Jr.フィリピン大統領は、南シナ海で大規模な紛争が起きる危険性を軽視し続けている。直近の事件では中国の海上民兵が斧を振り回し、フィリピン兵士が親指を失う怪我を負った。
(2) こうした事件に対するフィリピン政府の反応は様々である。国防相は中国の行動を「攻撃的、かつ違法な武力行使」としたが、首相秘書官は「誤解か事故であろう」という判断を表明した。Marcos Jr.大統領は、断固たる姿勢を示しつつも、海洋をめぐる論争において「いかなる外国勢力」にもなびかないと述べるなど、中道的な路線を維持している。
(3) こうしたフィリピンの錯綜した反応は、フィリピンが事態の拡大を望んでいないこと、そしてもっと重要なことに、有事の際に米国がフィリピンを本当に支援するかどうかについて疑念を抱いていることを反映しているのである。
(4) Marcos Jr.大統領は、直近の事件の数週間前、南シナ海で外国勢力の「悪意ある行為」によってフィリピン国民が殺されるようなことがあれば、それはほぼ「戦争行為」であり、したがって米比相互防衛条約が発動されると警告した。しかし問題は、米国が長らくフィリピンの防衛義務に関してあいまいな姿勢を示し続けたということである。また、そもそも同条約自体があいまいさを含んでいる。それは、米比「共通の危険に遭遇したときに」、「憲法の手続きに従って支援する」ことを義務付けているに過ぎない。
(5) したがって、米比相互防衛条約は自動的に発動するものではない。そのため1992年と2012年、ミスチーフ礁とスカボロー礁で起きた危機において米国は介入を拒んだのである。こうした米国の信頼感のなさが、フィリピン国民の間に疎外感を生じさせている。2016年の世論調査では、調査対象の大半が、Duterte大統領(当時)による中国およびロシアとの関係強化を支持した。
(6) Trump、Biden政権になって、南シナ海におけるArmed Forces of the Philippinesや民間船、航空機などへの攻撃は、条約の発動条件になることが明確にされた。しかしそれでも、中国によるグレーゾーン戦術が対象になるかははっきりしておらず、米政権による新たな保証には、十分な抑止効果がないことになる。
(7) 大統領選の最中、またウクライナやガザでの紛争に集中しているBiden政権が、相互防衛条約発動条件の見直しなどをする兆しはない。また事実として、米国はこの10年間、フィリピンに最新兵器を提供することはなかった。その一方で中国がより劇的な行動に出る可能性がある。たとえば、フィリピンがセカンド・トーマス礁に座礁させた揚陸艦「シエラ・マドレ」の占領などである。そうした事態が起きないようにするため、米国は相互防衛条約発動条件をより明確にする必要があるかもしれない。さらに米国は、フィリピンの行動能力強化のために上陸艇などの装備を提供する必要があるかもしれない。
(8) いずれにしても、現在明らかなのは、同盟国として、地域の指導者として、米国の信頼性が揺らいでいるということである。
記事参照:Philippines’ dithering over South China Sea clash fuelled by US doubts
6月29日「日米は尖閣で共に行動する必要がある―米専門家論説」(Asia Times, June 29, 2024)
6月29日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、退役米海兵隊士官で元米国外交官Grant Newshamの“Japan and US need to up their game in the Senkakus”と題する論説を掲載し、ここでGrant Newshamは中国による尖閣諸島の占領を防ぐには、日米両国が琉球と尖閣の防衛を共同で行う必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 尖閣諸島の領有権を主張する中国は、時が来れば尖閣を奪うつもりでいる。過去15年間、中国はその頻度、場所、艦船数や種類の面で、海軍の展開を徐々に拡大してきた。それは、海警総隊、海上民兵、漁船、政府機関の船、そして海軍艦艇であり、尖閣周辺の日本の領空には中国軍機までもが侵入している。今後は、多くの場所で頻繁に、日本の領海内でも多くのことが起こるだろう。ある時点で日本は、中国の侵攻を食い止めるだけの艦船と資源がないことに気づくだろう。過去10年間に何度か、中国は漁船でこの海域に押し寄せた。尖閣周辺には数百隻以上の漁船があり、中国海警総隊の船が支援している。そしてその後方には中国海軍がいる。
(2) 中国政府は、望めばいつでも尖閣諸島に対する施政権を主張できることを示した。劣勢の日本の海上保安庁にはどうすることもできない。条約、特に米国の日本防衛義務は、日本の施政権下にある地域にのみ適用される。中国が政治的決断を下し、船やボートでこの地域に押し寄せ、尖閣諸島に人を上陸させ、日本に対して戦争だと警告することもできる。
(3) 日本は強力な海上保安庁と海上自衛隊を保有しているが、中国の艦船数は日本より圧倒的に多く、その数の差は拡大しつつある。中国海警総隊の新型海警船は駆逐艦並みの大きさで戦闘用に作られているが、日本の海上保安庁の船はそうではない。しかし、日本は対中投資を武器にすることができる。日本の対中投資、企業活動、技術輸出を断ち切れば、中国に損害を与えることができる。中国としては、日本が中国船に一発でも発砲してくれれば、それ以上の望みはない。そうなれば、自分たちが被害を受けた側だと主張し、存在感を高め、さらに攻撃的に振る舞うことができる。そして、日本に向けて発砲し、「仕方がなかった」と言って島に上陸することもあり得る。
(4) 中国軍が大量に島のすぐ沖合に停泊して待機し、その間、上陸部隊が島々を占領する。そして中国政府は、核兵器を含む全面戦争を予告する。このような事態を防ぐには日米両国は、琉球と尖閣の防衛を共同で行う必要がある。U.S. Navyの艦艇と米軍機が、日本の自衛隊および海上保安庁とともに定期的に行動するべきである。そして、尖閣周辺の領海に入ってきた中国船はすべて退去させる。これは、日米安全保障条約が尖閣諸島にも適用されると米国が定期的に発表するよりもはるかに効果的だろう。
(5) 尖閣戦略の一環として、日米両国は中国に経済的・金融的圧力をかけ、技術輸出を制限することで協調すべきである。こうした方向から圧力をかけることは、中国が尖閣諸島周辺にどのような艦船や舟艇、航空機を投入しようとも、それに正面から対抗するよりも効果的である。さらに、中国共産党の海外資産を暴露するという手段を採るべきである。中国政府は、強固で不屈の日米防衛を示されない限り、譲歩するつもりはない。交渉の余地はないのである。
記事参照:Japan and US need to up their game in the Senkakus
(1) 尖閣諸島の領有権を主張する中国は、時が来れば尖閣を奪うつもりでいる。過去15年間、中国はその頻度、場所、艦船数や種類の面で、海軍の展開を徐々に拡大してきた。それは、海警総隊、海上民兵、漁船、政府機関の船、そして海軍艦艇であり、尖閣周辺の日本の領空には中国軍機までもが侵入している。今後は、多くの場所で頻繁に、日本の領海内でも多くのことが起こるだろう。ある時点で日本は、中国の侵攻を食い止めるだけの艦船と資源がないことに気づくだろう。過去10年間に何度か、中国は漁船でこの海域に押し寄せた。尖閣周辺には数百隻以上の漁船があり、中国海警総隊の船が支援している。そしてその後方には中国海軍がいる。
(2) 中国政府は、望めばいつでも尖閣諸島に対する施政権を主張できることを示した。劣勢の日本の海上保安庁にはどうすることもできない。条約、特に米国の日本防衛義務は、日本の施政権下にある地域にのみ適用される。中国が政治的決断を下し、船やボートでこの地域に押し寄せ、尖閣諸島に人を上陸させ、日本に対して戦争だと警告することもできる。
(3) 日本は強力な海上保安庁と海上自衛隊を保有しているが、中国の艦船数は日本より圧倒的に多く、その数の差は拡大しつつある。中国海警総隊の新型海警船は駆逐艦並みの大きさで戦闘用に作られているが、日本の海上保安庁の船はそうではない。しかし、日本は対中投資を武器にすることができる。日本の対中投資、企業活動、技術輸出を断ち切れば、中国に損害を与えることができる。中国としては、日本が中国船に一発でも発砲してくれれば、それ以上の望みはない。そうなれば、自分たちが被害を受けた側だと主張し、存在感を高め、さらに攻撃的に振る舞うことができる。そして、日本に向けて発砲し、「仕方がなかった」と言って島に上陸することもあり得る。
(4) 中国軍が大量に島のすぐ沖合に停泊して待機し、その間、上陸部隊が島々を占領する。そして中国政府は、核兵器を含む全面戦争を予告する。このような事態を防ぐには日米両国は、琉球と尖閣の防衛を共同で行う必要がある。U.S. Navyの艦艇と米軍機が、日本の自衛隊および海上保安庁とともに定期的に行動するべきである。そして、尖閣周辺の領海に入ってきた中国船はすべて退去させる。これは、日米安全保障条約が尖閣諸島にも適用されると米国が定期的に発表するよりもはるかに効果的だろう。
(5) 尖閣戦略の一環として、日米両国は中国に経済的・金融的圧力をかけ、技術輸出を制限することで協調すべきである。こうした方向から圧力をかけることは、中国が尖閣諸島周辺にどのような艦船や舟艇、航空機を投入しようとも、それに正面から対抗するよりも効果的である。さらに、中国共産党の海外資産を暴露するという手段を採るべきである。中国政府は、強固で不屈の日米防衛を示されない限り、譲歩するつもりはない。交渉の余地はないのである。
記事参照:Japan and US need to up their game in the Senkakus
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) New China Coast Guard Regulation Buttresses PRC Aggression in the South China Sea
https://jamestown.org/program/new-china-coast-guard-regulation-buttresses-prc-aggression-in-the-south-china-sea/
China Brief, The Jamestown Foundation, June 21, 2024
By Arran Hope is the Editor of China Brief at The Jamestown Foundation.
2024年6月21日、米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefの編集員Arran Hopeは、China Briefに“New China Coast Guard Regulation Buttresses PRC Aggression in the South China Sea”と題する論説を寄稿した。その中でArran Hopeは中国海警局に関する新しい規制は、南シナ海における中国の攻撃的行動を制度化し、外国船舶や人員を最長60日間拘束できる権限を与え、軍事目的などのために一時的な海上「警戒区域」を設置することを可能にしているが、これにより中国は、フィリピンのEEZでの強制的な行動を強化し、海上での放水銃や船体への衝突に加え、船舶の強制曳航や立ち入る検査などの新しい手段を採用することが可能になったと指摘している。そして、Arran Hopeは中国の領有権主張が国際法と矛盾し、2016年の常設仲裁裁判所による判決に反しているものの、中国はこれを無視し続けていると指摘した上で、米国がフィリピンを支持する姿勢を示しているが、実質的な支援はまだ行われていないため、中国の攻撃的な行動は長期的な政策の一環として継続されるだろうと予想している。
(2) Across the Indo-Pacific, militaries scramble to put more submarines in the water
https://breakingdefense.com/2024/06/across-the-indo-pacific-militaries-scramble-to-put-more-submarines-in-the-water/#:~:text=BANGKOK%20%E2%80%94%20Amid%20the%20focus%20on,tensions%20in%20the%20region%20rise.
Breaking Defense, June 24, 2024
By Christopher Woody is a defense journalist based in Bangkok.
2024年6月24日、バンコクを拠点とする防衛ジャーナリストのChristopher Woodyは、米国防関連デジタル誌Breaking Defenseに、“Across the Indo-Pacific, militaries scramble to put more submarines in the water”と題する論説を寄稿した。その中で、①東アジアでは、潜水艦は海上交通路の支配と防衛に役立つため、特別な関心を集めている。海鯤型潜水艦は、台湾初の国産潜水艦で、2025年に就役する予定であり、台湾は2027年までにもう1隻を建造し、合計で8隻の建造を目指している。③日本は2020年以降、毎年たいげい型潜水艦を進水させている。④日本は、この10年間にさらに数隻のたいげい型潜水艦を建造する予定だが、川崎重工業はすでに後継潜水艦の建造に取り組んでいる。⑤韓国もまた、4月に最新の通常型潜水艦「シン・チェホ」を進水させた。⑥東南アジアの海軍も新型潜水艦を追求し続けているが、2024年1隻を進水させたのはシンガポールだけであり、シンガポールは新型潜水艦4隻を2028年までに就役させる予定である。⑦フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は2月、同国の軍事近代化計画の次の段階として、潜水艦の購入を承認した。⑧インドネシアは3月にフランスのNaval Group1社と次世代通常型のスコルペヌ型潜水艦2隻の契約に調印した。⑨タイ政府は最終的に2015年に中国のType039A潜水艦を選択したが、この契約は軍事政権下で拡大した中タイ関係の深化を反映している。⑩マレーシアは2009年と2010年に2隻のスコルペヌ級潜水艦を、ベトナムは2014年から2017年にかけて6隻のロシアのキロ級潜水艦を受領している。⑪東南アジアの国々のほとんどは、危険回避のための保険および「隣人に負けないように見栄を張る」というのが潜水艦取得の主な動機となっているといったことが述べられている。
(3) CHINA’S NEW INFO WARRIORS: THE INFORMATION SUPPORT FORCE EMERGES
https://warontherocks.com/2024/06/chinas-new-info-warriors-the-information-support-force-emerges/
War on the Rocks, June 24, 2024
By Dr. Joel Wuthnow, a senior research fellow in the Center for the Study of Chinese Military Affairs at the U.S. National Defense University
2024年6月24日、米Center for the Study of Chinese Military Affairs at the U.S. National Defense Universityの上席研究員Joel Wuthnowは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“CHINA’S NEW INFO WARRIORS: THE INFORMATION SUPPORT FORCE EMERGES”と題する論説を寄稿した。その中でJoel Wuthnowは、2024年4月に人民解放軍は戦略支援部隊を廃止し、新たに情報支援部隊を創設するという大規模な再編成を行ったが、これにより、情報システムの保護、サイバーおよび電子戦への対抗、人工知能の活用による指揮統制システムの強化が図られ、多領域での共同作戦の遂行が容易になると考えられるが、この再編は、中国の指導者たちの欲求不満と野心の両方を反映しており、特に台湾への高強度な共同作戦を準備するために行われたものであると指摘している。その上でJoel Wuthnowは、情報支援部隊の設立が2027年までに人民解放軍が地域紛争に備えるための近代化目標を達成するための重要な一歩と見なされており、これにより米国の優位性が弱まる可能性が懸念されるが、しかし情報支援部隊には、軍種間の相互運用性の向上や、最終利用者の支援、世界的な運用支援など、いくつかの重要な課題が残っていると主張している。
(4) Europe’s Military Role in the Indo-Pacific Making It Meaningful
https://www.csis.org/analysis/europes-security-role-indo-pacific-making-it-meaningful
Center for Strategic and International Studies, June 2024
By Max Bergmann is the director of the Europe, Russia, and Eurasia Program and the Stuart Center in Euro-Atlantic and Northern European Studies at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
Christopher B. Johnstone is senior adviser and Japan Chair at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
2024年6月、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesのヨーロッパ/ロシア/ユーラシア研究責任者Max Bergmannと同Center上席顧問Christopher B. Johnstoneは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Europe’s Military Role in the Indo-Pacific Making It Meaningful”と題する論説を寄稿した。その中で両名は欧州のインド太平洋地域における軍事的役割は、現時点では限定的であるが、長期的には強化が期待され、米Biden政権は中国の台頭に対抗するため、欧州に経済的依存度の低減と経済的強制への対抗力を高める努力を促しているとした上で、欧州は経済的関与を深めつつあるが、防衛面での具体的な戦略は依然として不明瞭であると評している。その上で両名は、フランスとイギリスはインド太平洋地域で定期的に軍事活動を行い、また、他の欧州諸国も限られた範囲で関与を拡大しているが、ロシアの脅威が続く中で欧州の優先事項は自国の安全保障の確保であり、これがインド太平洋地域への資源投入を制約していると指摘し、米国は欧州の防衛計画と産業協力を強化し、インド太平洋地域における有意義な貢献を促すべきだと主張している。
(1) New China Coast Guard Regulation Buttresses PRC Aggression in the South China Sea
https://jamestown.org/program/new-china-coast-guard-regulation-buttresses-prc-aggression-in-the-south-china-sea/
China Brief, The Jamestown Foundation, June 21, 2024
By Arran Hope is the Editor of China Brief at The Jamestown Foundation.
2024年6月21日、米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefの編集員Arran Hopeは、China Briefに“New China Coast Guard Regulation Buttresses PRC Aggression in the South China Sea”と題する論説を寄稿した。その中でArran Hopeは中国海警局に関する新しい規制は、南シナ海における中国の攻撃的行動を制度化し、外国船舶や人員を最長60日間拘束できる権限を与え、軍事目的などのために一時的な海上「警戒区域」を設置することを可能にしているが、これにより中国は、フィリピンのEEZでの強制的な行動を強化し、海上での放水銃や船体への衝突に加え、船舶の強制曳航や立ち入る検査などの新しい手段を採用することが可能になったと指摘している。そして、Arran Hopeは中国の領有権主張が国際法と矛盾し、2016年の常設仲裁裁判所による判決に反しているものの、中国はこれを無視し続けていると指摘した上で、米国がフィリピンを支持する姿勢を示しているが、実質的な支援はまだ行われていないため、中国の攻撃的な行動は長期的な政策の一環として継続されるだろうと予想している。
(2) Across the Indo-Pacific, militaries scramble to put more submarines in the water
https://breakingdefense.com/2024/06/across-the-indo-pacific-militaries-scramble-to-put-more-submarines-in-the-water/#:~:text=BANGKOK%20%E2%80%94%20Amid%20the%20focus%20on,tensions%20in%20the%20region%20rise.
Breaking Defense, June 24, 2024
By Christopher Woody is a defense journalist based in Bangkok.
2024年6月24日、バンコクを拠点とする防衛ジャーナリストのChristopher Woodyは、米国防関連デジタル誌Breaking Defenseに、“Across the Indo-Pacific, militaries scramble to put more submarines in the water”と題する論説を寄稿した。その中で、①東アジアでは、潜水艦は海上交通路の支配と防衛に役立つため、特別な関心を集めている。海鯤型潜水艦は、台湾初の国産潜水艦で、2025年に就役する予定であり、台湾は2027年までにもう1隻を建造し、合計で8隻の建造を目指している。③日本は2020年以降、毎年たいげい型潜水艦を進水させている。④日本は、この10年間にさらに数隻のたいげい型潜水艦を建造する予定だが、川崎重工業はすでに後継潜水艦の建造に取り組んでいる。⑤韓国もまた、4月に最新の通常型潜水艦「シン・チェホ」を進水させた。⑥東南アジアの海軍も新型潜水艦を追求し続けているが、2024年1隻を進水させたのはシンガポールだけであり、シンガポールは新型潜水艦4隻を2028年までに就役させる予定である。⑦フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は2月、同国の軍事近代化計画の次の段階として、潜水艦の購入を承認した。⑧インドネシアは3月にフランスのNaval Group1社と次世代通常型のスコルペヌ型潜水艦2隻の契約に調印した。⑨タイ政府は最終的に2015年に中国のType039A潜水艦を選択したが、この契約は軍事政権下で拡大した中タイ関係の深化を反映している。⑩マレーシアは2009年と2010年に2隻のスコルペヌ級潜水艦を、ベトナムは2014年から2017年にかけて6隻のロシアのキロ級潜水艦を受領している。⑪東南アジアの国々のほとんどは、危険回避のための保険および「隣人に負けないように見栄を張る」というのが潜水艦取得の主な動機となっているといったことが述べられている。
(3) CHINA’S NEW INFO WARRIORS: THE INFORMATION SUPPORT FORCE EMERGES
https://warontherocks.com/2024/06/chinas-new-info-warriors-the-information-support-force-emerges/
War on the Rocks, June 24, 2024
By Dr. Joel Wuthnow, a senior research fellow in the Center for the Study of Chinese Military Affairs at the U.S. National Defense University
2024年6月24日、米Center for the Study of Chinese Military Affairs at the U.S. National Defense Universityの上席研究員Joel Wuthnowは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“CHINA’S NEW INFO WARRIORS: THE INFORMATION SUPPORT FORCE EMERGES”と題する論説を寄稿した。その中でJoel Wuthnowは、2024年4月に人民解放軍は戦略支援部隊を廃止し、新たに情報支援部隊を創設するという大規模な再編成を行ったが、これにより、情報システムの保護、サイバーおよび電子戦への対抗、人工知能の活用による指揮統制システムの強化が図られ、多領域での共同作戦の遂行が容易になると考えられるが、この再編は、中国の指導者たちの欲求不満と野心の両方を反映しており、特に台湾への高強度な共同作戦を準備するために行われたものであると指摘している。その上でJoel Wuthnowは、情報支援部隊の設立が2027年までに人民解放軍が地域紛争に備えるための近代化目標を達成するための重要な一歩と見なされており、これにより米国の優位性が弱まる可能性が懸念されるが、しかし情報支援部隊には、軍種間の相互運用性の向上や、最終利用者の支援、世界的な運用支援など、いくつかの重要な課題が残っていると主張している。
(4) Europe’s Military Role in the Indo-Pacific Making It Meaningful
https://www.csis.org/analysis/europes-security-role-indo-pacific-making-it-meaningful
Center for Strategic and International Studies, June 2024
By Max Bergmann is the director of the Europe, Russia, and Eurasia Program and the Stuart Center in Euro-Atlantic and Northern European Studies at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
Christopher B. Johnstone is senior adviser and Japan Chair at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).
2024年6月、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesのヨーロッパ/ロシア/ユーラシア研究責任者Max Bergmannと同Center上席顧問Christopher B. Johnstoneは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Europe’s Military Role in the Indo-Pacific Making It Meaningful”と題する論説を寄稿した。その中で両名は欧州のインド太平洋地域における軍事的役割は、現時点では限定的であるが、長期的には強化が期待され、米Biden政権は中国の台頭に対抗するため、欧州に経済的依存度の低減と経済的強制への対抗力を高める努力を促しているとした上で、欧州は経済的関与を深めつつあるが、防衛面での具体的な戦略は依然として不明瞭であると評している。その上で両名は、フランスとイギリスはインド太平洋地域で定期的に軍事活動を行い、また、他の欧州諸国も限られた範囲で関与を拡大しているが、ロシアの脅威が続く中で欧州の優先事項は自国の安全保障の確保であり、これがインド太平洋地域への資源投入を制約していると指摘し、米国は欧州の防衛計画と産業協力を強化し、インド太平洋地域における有意義な貢献を促すべきだと主張している。
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