海洋安全保障情報旬報 2024年5月21日-5月31日
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5月22日「インドの連合海上部隊参加、海洋における米印関係の将来を描く―インド研究生論説」(Blog, Center for Strategic and International Studies, May 22, 2024)
5月22日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのBlogは、同CenterのChair in U.S.-India Policy Studiesの研究生Shreyas Shendeの“India’s Membership of the CMF: Mapping the Future of India-US Maritime Ties”と題する論説を掲載し、Shreyas Shendeは米国が主導する連合海上部隊にインドが正式加入したことは、米印関係において大きな意味を持ち、米国との相互運用性を強化するために必要な基盤を構築することができるが、Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)は相互運用性を強化するための道筋をさらに明確にすべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年11月に発表された、米国主導が主導する多国間枠組みの連合海上部隊(Combined Maritime Forces:以下、CMFと言う)へのインドの正式参加は、インドと米国の関係における大きな変化を意味するインドはCMF加盟により、他の加盟国、特に米国との相互運用性を強化するために必要な基盤を構築することができる。インドと米国は、相互運用性を高めるための道筋を描き、インド、米国、その他の志を同じくする国々が衝突を回避できる分野を優先するという2つの方法で、この発展を基盤にすることができる。
(2) インド洋地域(IOR)はBhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)の優先地域であり、インドの安全保障目標を推進する上で海上における提携が極めて重要である。インド海軍は独自に任務を遂行してきた歴史がある。しかし、非国家主体を抑止するためにインド海軍が最近アデン湾に展開したことは、インド海軍が他の海洋大国と緊密に連携することの重要性に対する認識が高まっていることを示している。インドはCMFに加盟することで、演習以外にも他の海洋大国とさらに協力することが可能になる。インドと米国は、具体的には以下の2つの点で協力できる。
(3) 第1に、インドと米国の関係は過去20年間で変化してきた。米印関係の進展は、相互運用性の向上が欠如していることによって制限されているが、近年、両国は他の提携国との共同哨戒を実施している。インドはCMFに加盟しているため、10年前でさえ困難だった方法で相互運用性を強化することができる。両国は「相互運用性の向上」への取り組みを掲げており、CMF参加国としてインドは軍の運用問題に発言権を持っている。U.S. Armed Forcesによれば、相互運用性の段階は、衝突回避から互換性、そして統合へと進む。インドと米国が衝突回避状態からより互換性のある状態に移行するには、両国は相互運用性を高めるための方策を検討する必要がある。インドの感受性を考慮すると、両国が非国家主体に対する作戦に重点を置くことが政治的に最も実現可能であろう。相互運用性を拡大するには、人道支援・災害救援(HADR)、違法・無報告・無規制(IUU)漁業、海賊対策活動など、5つのCTFの範囲内にある、または範囲内に位置付けられる活動に重点を置く必要がある。CMFの運用問題に発言権を持つインド海軍は、CTFの任務に関する議論を推進し、海洋領域の拡大、主要な海上チョークポイントの重視、気候変動や自然災害などの非伝統的な脅威への重点など、インド海軍の2015年海洋安全保障戦略で特定された目的とCTFの任務を一致させることができる。
(4) 第2に、衝突回避は相互運用性の構築における最初の、しかし重要な段階である。インド海軍が主導できる分野を特定することで、インドと海上における提携国はインド洋地域における資源を賢明に再配分することができる。具体的な方法の1つは、能力構築である。能力構築におけるインドの経験を踏まえると、インドは、アフリカの海洋国家に重点を置くことで、能力構築を支援する国の数を増やし、現在そのような演習を行っている他のCMF提携国との衝突を回避することができる。能力開発は、地域の指導力の構築、信頼の構築に役立ち、そして何よりも、インドが表明している「ネット セキュリティ プロバイダー」となるという目標と一致する。
(5) Ashley Tellisは、米国にとって防衛協力は基本的に「軍事的相互運用性」に関するものであると指摘する。わずか10年前には「相互運用性」という言葉は「インド当局者にとって忌み嫌われるもの」だったことを考えると、インドのCMF参加は、進化するインドと米国の関係とインド洋地域におけるインド海軍の存在感と指導力の高まりを背景にして考えるべきである。インドが海洋分野で野心を高めている中、米国や志を同じくする海洋大国との相互運用性を強化し、前述のように可能な範囲で衝突を回避することが極めて重要である。地域の海洋安全保障を単独で提供できる国はなく、インド海軍は相互運用性を強化するための道筋をさらに明確にすべきである。
記事参照:India’s Membership of the CMF: Mapping the Future of India-US Maritime Ties
(1) 2023年11月に発表された、米国主導が主導する多国間枠組みの連合海上部隊(Combined Maritime Forces:以下、CMFと言う)へのインドの正式参加は、インドと米国の関係における大きな変化を意味するインドはCMF加盟により、他の加盟国、特に米国との相互運用性を強化するために必要な基盤を構築することができる。インドと米国は、相互運用性を高めるための道筋を描き、インド、米国、その他の志を同じくする国々が衝突を回避できる分野を優先するという2つの方法で、この発展を基盤にすることができる。
(2) インド洋地域(IOR)はBhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)の優先地域であり、インドの安全保障目標を推進する上で海上における提携が極めて重要である。インド海軍は独自に任務を遂行してきた歴史がある。しかし、非国家主体を抑止するためにインド海軍が最近アデン湾に展開したことは、インド海軍が他の海洋大国と緊密に連携することの重要性に対する認識が高まっていることを示している。インドはCMFに加盟することで、演習以外にも他の海洋大国とさらに協力することが可能になる。インドと米国は、具体的には以下の2つの点で協力できる。
(3) 第1に、インドと米国の関係は過去20年間で変化してきた。米印関係の進展は、相互運用性の向上が欠如していることによって制限されているが、近年、両国は他の提携国との共同哨戒を実施している。インドはCMFに加盟しているため、10年前でさえ困難だった方法で相互運用性を強化することができる。両国は「相互運用性の向上」への取り組みを掲げており、CMF参加国としてインドは軍の運用問題に発言権を持っている。U.S. Armed Forcesによれば、相互運用性の段階は、衝突回避から互換性、そして統合へと進む。インドと米国が衝突回避状態からより互換性のある状態に移行するには、両国は相互運用性を高めるための方策を検討する必要がある。インドの感受性を考慮すると、両国が非国家主体に対する作戦に重点を置くことが政治的に最も実現可能であろう。相互運用性を拡大するには、人道支援・災害救援(HADR)、違法・無報告・無規制(IUU)漁業、海賊対策活動など、5つのCTFの範囲内にある、または範囲内に位置付けられる活動に重点を置く必要がある。CMFの運用問題に発言権を持つインド海軍は、CTFの任務に関する議論を推進し、海洋領域の拡大、主要な海上チョークポイントの重視、気候変動や自然災害などの非伝統的な脅威への重点など、インド海軍の2015年海洋安全保障戦略で特定された目的とCTFの任務を一致させることができる。
(4) 第2に、衝突回避は相互運用性の構築における最初の、しかし重要な段階である。インド海軍が主導できる分野を特定することで、インドと海上における提携国はインド洋地域における資源を賢明に再配分することができる。具体的な方法の1つは、能力構築である。能力構築におけるインドの経験を踏まえると、インドは、アフリカの海洋国家に重点を置くことで、能力構築を支援する国の数を増やし、現在そのような演習を行っている他のCMF提携国との衝突を回避することができる。能力開発は、地域の指導力の構築、信頼の構築に役立ち、そして何よりも、インドが表明している「ネット セキュリティ プロバイダー」となるという目標と一致する。
(5) Ashley Tellisは、米国にとって防衛協力は基本的に「軍事的相互運用性」に関するものであると指摘する。わずか10年前には「相互運用性」という言葉は「インド当局者にとって忌み嫌われるもの」だったことを考えると、インドのCMF参加は、進化するインドと米国の関係とインド洋地域におけるインド海軍の存在感と指導力の高まりを背景にして考えるべきである。インドが海洋分野で野心を高めている中、米国や志を同じくする海洋大国との相互運用性を強化し、前述のように可能な範囲で衝突を回避することが極めて重要である。地域の海洋安全保障を単独で提供できる国はなく、インド海軍は相互運用性を強化するための道筋をさらに明確にすべきである。
記事参照:India’s Membership of the CMF: Mapping the Future of India-US Maritime Ties
5月23日「中国とロシアに対抗するため、太平洋北極圏に新たなQUADを作る時―韓中専門家論説」(Breaking Defense, May 23, 2024)
5月23日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、the Republic of Korea – United States Combined Forces Commandに勤務していた元士官Chan Mo Ku と精華大学Schwarzman Scholarの新入生Jinwan Parkの“Time to create a new quad for the Arctic Pacific to counter China and Russia”と題する論説を掲載し、両名は北極圏での勢力拡大を図るロシアと北極圏への野望を露わに進出を促進する中国に対抗するため、大西洋側北極圏にはNATOと北極圏7ヵ国の協力が確立されているが、太平洋側にはそのような枠組みはなく、米加にとって脆弱なままであり、日韓を加えた新たな4ヵ国枠組みが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北大西洋北極圏を中国とロシアの軍事活動から守るためにNATO諸国と北極圏7ヵ国間の協力が確立されている一方、北太平洋には地域的な安全保障体制が欠如しており、米国とカナダにとって依然として脆弱なままとなっている。
(2) 幸運なことに、北太平洋には米国とカナダとは緊密な関係にある2ヵ国が存在する。北極圏が大国間の対立の新たな前線として浮上する中、米国、カナダ、日本、韓国は、法に基づく秩序を維持し、北極圏におけるロシアと中国の影響力拡大を阻止するために団結すべきである。
(3) ウクライナ侵攻後、ロシアは北極圏にまで及ぶ制裁による圧力を緩和するため、新たな経済連携を求めて中国に軸足を移しており、2022年1月から2023年6月にかけて、ロシアが管理する北極圏に登録されている中国所有の企業の数は、その前の2年間と比較して87%増加している。中国の北極圏への投資はすでに他の地域諸国から、戦略的影響力を獲得するための手段としての「債務の罠外交」との認識から、警戒感を持たれている。
(4) 2023年8月、中国とロシアの艦艇11隻が共同海軍演習の一環として、アラスカ沖の米領アリューシャン列島に危険なほどに接近した。これは米国の優位性に対する意図的な挑戦であった。カナダ政府は北極海で中国の情報収集のためのブイを発見した。専門家らは、これらのブイは海底の地図作成、氷の厚さの監視、潜水艦の活動の監視に利用できた可能性があると主張している。これに加えて、ロシアと中国の沿岸警備隊が2023年に締結した協定により、Берегова́я охра́на Пограни́чной слу́жбы Федера́льной слу́жбы безопа́сности Росси́йской Федера́ции (ロシア連邦保安庁国境局沿岸警備隊)と中国海警総隊は商業活動を装って北太平洋で徐々に軍事化が進むのではないかという懸念が高まっている。
(5) こうした高まる危険に対抗するため、米国とカナダは日本と韓国に頼るべきである。この極めて重要な条約同盟国2ヵ国は、戦略的利益と独自の能力を有しており、北極の安全保障を強化できる。まず、両国の関与により同盟の防衛能力が大幅に強化される。
(6) 中国に勝る造船大国である韓国は、北極圏に係わる同盟を結ぼうとする国々の老朽化する水上艦船部隊の近代化を加速させる鍵を握っているかもしれない。高度な兵器製造力を持つ韓国は北極でも貢献できるだろう。
(7) こうした防衛産業の連携強化は、北極圏の安全保障体制を強化すると同時に、軍事的相互運用性を深めることになる。さらに、多国間統治機関内での努力を結集すれば、米国主導の民主連合が北太平洋を共同で形作ることができるようになる。
(8) 韓国はウクライナ戦争以前、北極圏開発計画の実施においてロシアに大きく依存していたが、現在は他の選択肢を見つける必要がある。国際的に孤立する中でロシアが北朝鮮に依存していることで、韓国にとってロシア政府との協力を継続することは不可能になっている。日本政府の観点から見ると、ロシア北極圏への中国の経済的侵略は、将来的に日本の地域安全保障を致命的に損なう可能性のある、より広範な拡張主義課題の先端をなすものである。
(9) これらの要因を考慮すると、4ヵ国は、志を同じくする国家間の正式かつ強力な調整が必要であることを認識するはずである。直接的な軍事支援が実現不可能な場合でも、韓国と日本は海洋安全保障や寒冷地作戦などの分野に重点を置いた防衛協力を通じて貢献できる。これは、北極の脆弱な生態系を侵害することなく、一方的な侵略を抑止するという決意を示すものである。
(10) 気候変動により北極圏の資源の利用が容易になったことで、法に基づく地域秩序を固める機会は急速に狭まりつつある。自由主義的な国際秩序を支持する国々にとって、民主的な北極圏に係わる同盟を築くことは、存在そのものに必要不可欠なことであり、その成否は、修正主義的な独裁政権を抑制できるかどうかの例として、世界中に影響を及ぼすだろう。
記事参照:Time to create a new quad for the Arctic Pacific to counter China and Russia
(1) 北大西洋北極圏を中国とロシアの軍事活動から守るためにNATO諸国と北極圏7ヵ国間の協力が確立されている一方、北太平洋には地域的な安全保障体制が欠如しており、米国とカナダにとって依然として脆弱なままとなっている。
(2) 幸運なことに、北太平洋には米国とカナダとは緊密な関係にある2ヵ国が存在する。北極圏が大国間の対立の新たな前線として浮上する中、米国、カナダ、日本、韓国は、法に基づく秩序を維持し、北極圏におけるロシアと中国の影響力拡大を阻止するために団結すべきである。
(3) ウクライナ侵攻後、ロシアは北極圏にまで及ぶ制裁による圧力を緩和するため、新たな経済連携を求めて中国に軸足を移しており、2022年1月から2023年6月にかけて、ロシアが管理する北極圏に登録されている中国所有の企業の数は、その前の2年間と比較して87%増加している。中国の北極圏への投資はすでに他の地域諸国から、戦略的影響力を獲得するための手段としての「債務の罠外交」との認識から、警戒感を持たれている。
(4) 2023年8月、中国とロシアの艦艇11隻が共同海軍演習の一環として、アラスカ沖の米領アリューシャン列島に危険なほどに接近した。これは米国の優位性に対する意図的な挑戦であった。カナダ政府は北極海で中国の情報収集のためのブイを発見した。専門家らは、これらのブイは海底の地図作成、氷の厚さの監視、潜水艦の活動の監視に利用できた可能性があると主張している。これに加えて、ロシアと中国の沿岸警備隊が2023年に締結した協定により、Берегова́я охра́на Пограни́чной слу́жбы Федера́льной слу́жбы безопа́сности Росси́йской Федера́ции (ロシア連邦保安庁国境局沿岸警備隊)と中国海警総隊は商業活動を装って北太平洋で徐々に軍事化が進むのではないかという懸念が高まっている。
(5) こうした高まる危険に対抗するため、米国とカナダは日本と韓国に頼るべきである。この極めて重要な条約同盟国2ヵ国は、戦略的利益と独自の能力を有しており、北極の安全保障を強化できる。まず、両国の関与により同盟の防衛能力が大幅に強化される。
(6) 中国に勝る造船大国である韓国は、北極圏に係わる同盟を結ぼうとする国々の老朽化する水上艦船部隊の近代化を加速させる鍵を握っているかもしれない。高度な兵器製造力を持つ韓国は北極でも貢献できるだろう。
(7) こうした防衛産業の連携強化は、北極圏の安全保障体制を強化すると同時に、軍事的相互運用性を深めることになる。さらに、多国間統治機関内での努力を結集すれば、米国主導の民主連合が北太平洋を共同で形作ることができるようになる。
(8) 韓国はウクライナ戦争以前、北極圏開発計画の実施においてロシアに大きく依存していたが、現在は他の選択肢を見つける必要がある。国際的に孤立する中でロシアが北朝鮮に依存していることで、韓国にとってロシア政府との協力を継続することは不可能になっている。日本政府の観点から見ると、ロシア北極圏への中国の経済的侵略は、将来的に日本の地域安全保障を致命的に損なう可能性のある、より広範な拡張主義課題の先端をなすものである。
(9) これらの要因を考慮すると、4ヵ国は、志を同じくする国家間の正式かつ強力な調整が必要であることを認識するはずである。直接的な軍事支援が実現不可能な場合でも、韓国と日本は海洋安全保障や寒冷地作戦などの分野に重点を置いた防衛協力を通じて貢献できる。これは、北極の脆弱な生態系を侵害することなく、一方的な侵略を抑止するという決意を示すものである。
(10) 気候変動により北極圏の資源の利用が容易になったことで、法に基づく地域秩序を固める機会は急速に狭まりつつある。自由主義的な国際秩序を支持する国々にとって、民主的な北極圏に係わる同盟を築くことは、存在そのものに必要不可欠なことであり、その成否は、修正主義的な独裁政権を抑制できるかどうかの例として、世界中に影響を及ぼすだろう。
記事参照:Time to create a new quad for the Arctic Pacific to counter China and Russia
5月23日「中国によるグレーゾーン戦術が行き着く先―ポーランド東南アジア専門家論説」(East Asia Forum, May 23, 2024)
5月23日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forum は、ポーランドのUniversity of Lodz研究助手Mateusz Chatysの“Grey horizons for Beijing’s South China Sea strategy”と題する論説を掲載し、そこでMateusz Chatysは中国が南シナ海で展開してきたグレーゾーン戦術は、近年、特にその効果を失い、中国の国際的影響力を損ない、フィリピンの影響力を増加させているとして、要旨以下のように述べている。
(1) セカンド・トーマス礁とスカボロー礁は、南シナ海をめぐる中国とフィリピンの論争における主要な争点である。この2つの戦略的地形は、中国のグレーゾーン戦術の中心に位置付けられてきた。これは中国海警総隊や海上民兵などの集団による威圧的手段によって行われる。2013年以降、中国はこの戦術を通じて南シナ海での戦略的立場を強化してきた。
(2) しかし、セカンド・トーマス礁周辺での活動の強化にもかかわらず、その成果は芳しくない。2013年、中国は南シナ海での大規模な埋め立てを進めた。他方、海警総隊がセカンド・トーマス礁周辺の定期的哨戒を開始し、フィリピンがそこに意図的に座礁させ、前線基地として活用している揚陸艦「シエラ・マドレ」に対する補給活動を妨害してきた。事件が散発的に生じたが、状況は安定していた。しかし2022年以降、中国のグレーゾーン戦術の攻撃性が増した。
(3) フィリピンと中国のあいだの最も深刻な対立が2023年に起きた。2月に海警船が、セカンド・トーマス礁での補給活動を実施していたフィリピン船に軍で使用する強度のレーザーを照射した。8月、11月、12月には海警船が放水銃を使用し、10月と12月には船舶同士の衝突事故も起きている。こうした中、南シナ海の緊張が拡大を続け、2024年に入っても、海警線が放水銃を使用し、フィリピンの補給船の乗組員7名が軽傷を負うなど、緊張は高まり続けている。
(4) 中国による妨害の強化にもかかわらず、フィリピンの作戦は成功を収めており、中国は目的を達成できていない。つまり、中国は武力行使をすることなく、フィリピンを抑止することができなくなったのである。
(5) 国民に対する作戦の公開が重要な意味を持っている。2021年には43%しか公開されていなかったのが、2023年には80%が公開されるに至った。それによりMarcos Jr.政権に対する世論の支持率は上昇を続けている。また、フィリピンによる情報公開は中国に対する国際的反発の強化にも寄与し、中国に対する圧力となっている。2023年3月の放水銃の使用はEUその他さまざまな国からの批判を引き出し、フィリピンの国際的影響力を高めることとなった。
(6) セカンド・トーマス礁周辺での中国の行動は、南シナ海の支配強化に寄与していない。むしろフィリピン国民は中国への反発を強め、米国への信頼を強めている。実際、この2年間で、フィリピンはASEANのなかで最も強力な米国の提携国として台頭した。他方、中国はフィリピンにおける対中国感情の悪化を無視している。
(7) フィリピンにおける対中国感情の悪化は、中国のグレーゾーン戦術がうまくいっていないことの証明だと見なされるべきである。フィリピンは国内から国外に焦点を変え、日豪などとの関係を強化している。もし中国が直接攻撃に訴えるのであれば、中国は米比相互援助条約の発動だけでなく、日豪など、地域の国々の関与を考慮しなければならない。
記事参照:Grey horizons for Beijing’s South China Sea strategy
(1) セカンド・トーマス礁とスカボロー礁は、南シナ海をめぐる中国とフィリピンの論争における主要な争点である。この2つの戦略的地形は、中国のグレーゾーン戦術の中心に位置付けられてきた。これは中国海警総隊や海上民兵などの集団による威圧的手段によって行われる。2013年以降、中国はこの戦術を通じて南シナ海での戦略的立場を強化してきた。
(2) しかし、セカンド・トーマス礁周辺での活動の強化にもかかわらず、その成果は芳しくない。2013年、中国は南シナ海での大規模な埋め立てを進めた。他方、海警総隊がセカンド・トーマス礁周辺の定期的哨戒を開始し、フィリピンがそこに意図的に座礁させ、前線基地として活用している揚陸艦「シエラ・マドレ」に対する補給活動を妨害してきた。事件が散発的に生じたが、状況は安定していた。しかし2022年以降、中国のグレーゾーン戦術の攻撃性が増した。
(3) フィリピンと中国のあいだの最も深刻な対立が2023年に起きた。2月に海警船が、セカンド・トーマス礁での補給活動を実施していたフィリピン船に軍で使用する強度のレーザーを照射した。8月、11月、12月には海警船が放水銃を使用し、10月と12月には船舶同士の衝突事故も起きている。こうした中、南シナ海の緊張が拡大を続け、2024年に入っても、海警線が放水銃を使用し、フィリピンの補給船の乗組員7名が軽傷を負うなど、緊張は高まり続けている。
(4) 中国による妨害の強化にもかかわらず、フィリピンの作戦は成功を収めており、中国は目的を達成できていない。つまり、中国は武力行使をすることなく、フィリピンを抑止することができなくなったのである。
(5) 国民に対する作戦の公開が重要な意味を持っている。2021年には43%しか公開されていなかったのが、2023年には80%が公開されるに至った。それによりMarcos Jr.政権に対する世論の支持率は上昇を続けている。また、フィリピンによる情報公開は中国に対する国際的反発の強化にも寄与し、中国に対する圧力となっている。2023年3月の放水銃の使用はEUその他さまざまな国からの批判を引き出し、フィリピンの国際的影響力を高めることとなった。
(6) セカンド・トーマス礁周辺での中国の行動は、南シナ海の支配強化に寄与していない。むしろフィリピン国民は中国への反発を強め、米国への信頼を強めている。実際、この2年間で、フィリピンはASEANのなかで最も強力な米国の提携国として台頭した。他方、中国はフィリピンにおける対中国感情の悪化を無視している。
(7) フィリピンにおける対中国感情の悪化は、中国のグレーゾーン戦術がうまくいっていないことの証明だと見なされるべきである。フィリピンは国内から国外に焦点を変え、日豪などとの関係を強化している。もし中国が直接攻撃に訴えるのであれば、中国は米比相互援助条約の発動だけでなく、日豪など、地域の国々の関与を考慮しなければならない。
記事参照:Grey horizons for Beijing’s South China Sea strategy
5月24日「SQUADの台頭を前になおその意義を失わないQUAD―インド専門家論説」(The Interpreter, May 24, 2024)
5月24日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、インドのJawaharlal Nehru University准教授Rahul Mishraの“The “Squad” is a welcome spin-off, but the Quad is the main game”と題する論説を掲載し、そこでRahul Mishraは近年注目を集める日米豪比のSQUADの台頭により、QUADの意義が小さくなっているという観測に対し、インドの存在感の大きさゆえにその重要性はなお衰えていないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 史上初の日米比首脳会談の成功、および4月の日米豪比による南シナ海共同哨戒の成功は、SQUADと呼ばれる新たな少数国間協調枠組みの概念を浮上させた。他方、ニューデリーで実施予定のQUAD首脳会談の延期、およびロシアからの兵器調達を継続するインドの姿勢は、QUADの一体性に影を投げかけている。こうしたことを背景に、SQUADはQUADよりも効果的な協力枠組みになる可能性があると考える専門家もいる。
(2) SQUAD概念の浮上が、フィリピンの政策立案者の間の自信を深めるものであることは間違いない。フィリピンは一貫して、中国の違法な海洋に関する主張に対抗し、できる限りの政治的、軍事的措置をとってきた。Biden政権も当初Marcos Jr.新政権には懐疑的な姿勢を見せていたが、いまやフィリピンは米国にとって重要な民主的提携国である。
(3) しかしSQUADに関して、考えるべきことが2点ある。1つは、フィリピンが中国を封じ込めるために必要となる軍事的かつ経済的な力、ないし意図を欠いていることである。したがって、SQUADが地域の責任を負えると考えるのは非現実的である。第2に、QUADの意義が小さくなっていると判断するのが時期尚早である。近々実施されるインドの選挙とQUAD首脳会談の議題が、QUADの今後を左右するだろう。選挙においてModiが勝利すれば、QUADは勢いを増すであろう。
(4) インドの存在感は大きく、最近のインドの対外政策が、米国や日本などにとってあまりよく映っていないとしても、彼らがQUADを別のなにかに置き換えようとはしていない。QUADの団結に対する疑念は、インドの態度に端を発するものである。たとえば、インドの外務大臣Subrahmanyam Jaishankarは2022年、QUADをアジアのNATOに例えようとする言説に異議を唱え、インドが日米豪と条約上の同盟国ではないことを強調している。
(5) Subrahmanyam Jaishankar外相の言葉は事実で、インドは日本やフィリピン、オーストラリアと違い、米国からの軍事支援を受けていない。このことは、QUADの枠組みの中でインドから何を期待するか、その違いを浮き彫りにする。インドがロシアに依存し続ける限り、またQUADの別の構成国と政治的、戦略的に軌を一にしない限り、インドに多くを期待することはできない。
(6) QUADの一員であることはインドにも利点をもたらすが、インドはその地理的位置や軍事力などにより、他国にとって重要な提携国となっている。ただしインドはQUADの焦点を安全保障などに絞るべきである。SQUADの結成は、QUADなどを補完するものかもしれないが、インドの重要性の大きさゆえに、QUADの役割がSQUADに取って代わられることはない。今後、QUADにフィリピンや韓国を加えることのほうが、よりその枠組みを効果的にする取り組みである。
記事参照:The “Squad” is a welcome spin-off, but the Quad is the main game
(1) 史上初の日米比首脳会談の成功、および4月の日米豪比による南シナ海共同哨戒の成功は、SQUADと呼ばれる新たな少数国間協調枠組みの概念を浮上させた。他方、ニューデリーで実施予定のQUAD首脳会談の延期、およびロシアからの兵器調達を継続するインドの姿勢は、QUADの一体性に影を投げかけている。こうしたことを背景に、SQUADはQUADよりも効果的な協力枠組みになる可能性があると考える専門家もいる。
(2) SQUAD概念の浮上が、フィリピンの政策立案者の間の自信を深めるものであることは間違いない。フィリピンは一貫して、中国の違法な海洋に関する主張に対抗し、できる限りの政治的、軍事的措置をとってきた。Biden政権も当初Marcos Jr.新政権には懐疑的な姿勢を見せていたが、いまやフィリピンは米国にとって重要な民主的提携国である。
(3) しかしSQUADに関して、考えるべきことが2点ある。1つは、フィリピンが中国を封じ込めるために必要となる軍事的かつ経済的な力、ないし意図を欠いていることである。したがって、SQUADが地域の責任を負えると考えるのは非現実的である。第2に、QUADの意義が小さくなっていると判断するのが時期尚早である。近々実施されるインドの選挙とQUAD首脳会談の議題が、QUADの今後を左右するだろう。選挙においてModiが勝利すれば、QUADは勢いを増すであろう。
(4) インドの存在感は大きく、最近のインドの対外政策が、米国や日本などにとってあまりよく映っていないとしても、彼らがQUADを別のなにかに置き換えようとはしていない。QUADの団結に対する疑念は、インドの態度に端を発するものである。たとえば、インドの外務大臣Subrahmanyam Jaishankarは2022年、QUADをアジアのNATOに例えようとする言説に異議を唱え、インドが日米豪と条約上の同盟国ではないことを強調している。
(5) Subrahmanyam Jaishankar外相の言葉は事実で、インドは日本やフィリピン、オーストラリアと違い、米国からの軍事支援を受けていない。このことは、QUADの枠組みの中でインドから何を期待するか、その違いを浮き彫りにする。インドがロシアに依存し続ける限り、またQUADの別の構成国と政治的、戦略的に軌を一にしない限り、インドに多くを期待することはできない。
(6) QUADの一員であることはインドにも利点をもたらすが、インドはその地理的位置や軍事力などにより、他国にとって重要な提携国となっている。ただしインドはQUADの焦点を安全保障などに絞るべきである。SQUADの結成は、QUADなどを補完するものかもしれないが、インドの重要性の大きさゆえに、QUADの役割がSQUADに取って代わられることはない。今後、QUADにフィリピンや韓国を加えることのほうが、よりその枠組みを効果的にする取り組みである。
記事参照:The “Squad” is a welcome spin-off, but the Quad is the main game
5月24日「SQUADの目的は、安全保障協力か中国封じ込めか―フィリピン専門家論説」(China US Focus, May 24, 2024)
5月24日付の香港のシンクタンクChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンPolytechnic UniversityのRichard Javad Heydarianの“The New “Squad”: Security Cooperation or Containment of China?”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarian は、SQUADは新たな均衡を生み出すのか、それともフィリピンにとって主要な隣国である中国との緊張を悪化させるのかは、まだわからないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Ferdinand Marcos Jr.大統領の下、フィリピンの外交政策が劇的に変化する中、東南アジア諸国は戦略的岐路に立たされている。過去6ヶ月の間、南シナ海での紛争は危険な局面を迎えており、多くのフィリピン軍人が負傷し、セカンド・トーマス礁をはじめとする係争地付近では、フィリピンの海上部隊の艦船が被害を受けた。最新の事件は、スカボロー礁で起こっている。このスカボロー礁は、中国の事実上の施政権下にあり、フィリピン当局は中国が放水銃を使ってフィリピンの哨戒や補給活動を妨害していると非難している。
(2) 中国は、フィリピンがRodrigo Duterte前政権下で結ばれた非公式の合意に違反して、最近の緊張を引き起こしたと主張している。しかし、フィリピンはそのような合意の存在を否定している。最近の事件に憤慨したフィリピン国民は、軍事的対応や欧米の同盟国との協力強化など、断固とした措置を求めている。そして、フィリピンは、米国、オーストラリア、日本とともに新たに結成された新しい4ヵ国戦略対話、すなわちSQUADと呼ばれる少国間枠組みに参加した。このSQUADは、米国主導の封じ込め戦略に対する中国の懸念を際立たせ、緊張をさらに拡大させる危険性もはらんでいるが、その将来は不透明である。
(3) フィリピンと中国の2国間の外交窓口では両者の見解が正反対である。在マニラ中国大使館によると、南シナ海での衝突を避けるため、2016年の時点で中国は、Duterte政権と一時的な特別協定を結んでいたという。フィリピン前政権は、スカボロー諸島の12海里内に軍艦や航空機などの軍事資産を配備しないと約束し、フィリピン漁民をこの地域の漁場から遠ざけることに同意していたとされる。そして、中国はセカンド・トーマス礁の事実上の軍事基地を強化しない紳士協定に同意したと主張している。フィリピンの前大統領が中国からどのような約束を取り付けたのかは定かではないが、Rodrigo Duterteは中国からの数十億ドルの潜在的な投資や係争地域での潜在的な資源共有の取り極めについて繰り返し自慢していた。しかし、フィリピンの国防長官Gilbert Teodoro Jr.は、中国が架空の協定をでっち上げたと非難している。
(4) フィリピンと米国の防衛協力が急速に拡大する中、最初のSQAUD会合がU.S. Indo-Pacific Command司令部があるハワイで開催された。会議の中で、Lloyd Austin米国防長官は、SQUAD4ヵ国は「インド太平洋における平和、安定、抑止の展望を共有し、推進するために野心的に進む」ことを誓い、さらに抑止力の必要性を強調した。この発言は、南シナ海における国際法の無視という無責任な中国に対して、痛烈なものであった。しかし、中国はこの新しい少国間枠組みを、米国主導のアジア封じ込め戦略の一環と見ているようである。
(5) ある中国の専門家は、「米国は、日本とオーストラリアをフィリピン支援のために結集させ、フィリピンが南シナ海でさらなる軍事的挑発行為を行うよう促し、地域情勢の複雑さを悪化させ、そして南シナ海における米国、日本、オーストラリアの軍事的展開を強化する口実を見つけようとしている」と語り、紛争につながる可能性もあるという危険性を指摘している。
(6) Marcos Jr.大統領は、中国との関係を平穏に保つ必要性を認識している。結局のところ、SQUADの将来が保証されているとは言い難い。さらに第2次Trump政権が誕生すれば、国内だけでなく世界中の同盟国が混乱に陥る可能性がある。Marcos Jr.大統領は、海上の緊張が高まる中、自国が中国に対して積極的な対抗措置を採るかどうかという質問に対し、採らないと答えた。フィリピンは単純に、SQUADを中国との関係に均衡を持たせるための方法だと考えている。しかし、フィリピンの防衛的な動きが新たな均衡を生み出すのか、それとも重要な貿易相手国であり主要な隣国である中国との緊張を意図せず悪化させることになるのかは、現時点ではわからない。
記事参照:The New “Squad”: Security Cooperation or Containment of China?
(1) Ferdinand Marcos Jr.大統領の下、フィリピンの外交政策が劇的に変化する中、東南アジア諸国は戦略的岐路に立たされている。過去6ヶ月の間、南シナ海での紛争は危険な局面を迎えており、多くのフィリピン軍人が負傷し、セカンド・トーマス礁をはじめとする係争地付近では、フィリピンの海上部隊の艦船が被害を受けた。最新の事件は、スカボロー礁で起こっている。このスカボロー礁は、中国の事実上の施政権下にあり、フィリピン当局は中国が放水銃を使ってフィリピンの哨戒や補給活動を妨害していると非難している。
(2) 中国は、フィリピンがRodrigo Duterte前政権下で結ばれた非公式の合意に違反して、最近の緊張を引き起こしたと主張している。しかし、フィリピンはそのような合意の存在を否定している。最近の事件に憤慨したフィリピン国民は、軍事的対応や欧米の同盟国との協力強化など、断固とした措置を求めている。そして、フィリピンは、米国、オーストラリア、日本とともに新たに結成された新しい4ヵ国戦略対話、すなわちSQUADと呼ばれる少国間枠組みに参加した。このSQUADは、米国主導の封じ込め戦略に対する中国の懸念を際立たせ、緊張をさらに拡大させる危険性もはらんでいるが、その将来は不透明である。
(3) フィリピンと中国の2国間の外交窓口では両者の見解が正反対である。在マニラ中国大使館によると、南シナ海での衝突を避けるため、2016年の時点で中国は、Duterte政権と一時的な特別協定を結んでいたという。フィリピン前政権は、スカボロー諸島の12海里内に軍艦や航空機などの軍事資産を配備しないと約束し、フィリピン漁民をこの地域の漁場から遠ざけることに同意していたとされる。そして、中国はセカンド・トーマス礁の事実上の軍事基地を強化しない紳士協定に同意したと主張している。フィリピンの前大統領が中国からどのような約束を取り付けたのかは定かではないが、Rodrigo Duterteは中国からの数十億ドルの潜在的な投資や係争地域での潜在的な資源共有の取り極めについて繰り返し自慢していた。しかし、フィリピンの国防長官Gilbert Teodoro Jr.は、中国が架空の協定をでっち上げたと非難している。
(4) フィリピンと米国の防衛協力が急速に拡大する中、最初のSQAUD会合がU.S. Indo-Pacific Command司令部があるハワイで開催された。会議の中で、Lloyd Austin米国防長官は、SQUAD4ヵ国は「インド太平洋における平和、安定、抑止の展望を共有し、推進するために野心的に進む」ことを誓い、さらに抑止力の必要性を強調した。この発言は、南シナ海における国際法の無視という無責任な中国に対して、痛烈なものであった。しかし、中国はこの新しい少国間枠組みを、米国主導のアジア封じ込め戦略の一環と見ているようである。
(5) ある中国の専門家は、「米国は、日本とオーストラリアをフィリピン支援のために結集させ、フィリピンが南シナ海でさらなる軍事的挑発行為を行うよう促し、地域情勢の複雑さを悪化させ、そして南シナ海における米国、日本、オーストラリアの軍事的展開を強化する口実を見つけようとしている」と語り、紛争につながる可能性もあるという危険性を指摘している。
(6) Marcos Jr.大統領は、中国との関係を平穏に保つ必要性を認識している。結局のところ、SQUADの将来が保証されているとは言い難い。さらに第2次Trump政権が誕生すれば、国内だけでなく世界中の同盟国が混乱に陥る可能性がある。Marcos Jr.大統領は、海上の緊張が高まる中、自国が中国に対して積極的な対抗措置を採るかどうかという質問に対し、採らないと答えた。フィリピンは単純に、SQUADを中国との関係に均衡を持たせるための方法だと考えている。しかし、フィリピンの防衛的な動きが新たな均衡を生み出すのか、それとも重要な貿易相手国であり主要な隣国である中国との緊張を意図せず悪化させることになるのかは、現時点ではわからない。
記事参照:The New “Squad”: Security Cooperation or Containment of China?
5月24日「インド太平洋における少国間枠組みの台頭、何故か―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, May 24, 2024)
5月24日付けのインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation の研究助手Sayantan HaldarとSayantan Haldarの“SQUAD and the rise of minilateralism in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここで両名はインド太平洋において、何故、日米豪比のSQUADのような少国間枠組みが出現してきたかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 最近数ヵ月の南シナ海で増大する中国の侵略的行動は、主として米国の条約同盟国であるフィリピンを標的にしてきた。そこで、フィリピンの海洋安全保障を一層強化するため、日米豪比4ヵ国の国防相等が5月初めにハワイで会談し、海洋協力の進展と継続について協議した。U.S. Department of Defense当局者はこの4ヵ国グループをSQUADと称している。2022年に就任したMarcos Jr.フィリピン大統領は、前大統領の対中戦略を転換し、中国に対抗するために米国との連携を強化してきた。フィリピン政府は、SQUADに加えて、日米比3国連携や、日豪両国との2国間防衛関係の強化も進めている。
(2) これらの少国間および2国間の連携は、フィリピンの海洋安全保障の考え方の特徴を示している。したがって、SQUADの出現は2つの文脈で見るべきである。第1に、この地域におけるASEANなどの多国間機構の機能不全とASEAN加盟国の多くが中国の威圧的行動に対する公然たる非難を差し控えていることである。第2に、2国間および3国間連携はいずれも、実行可能な安全保障網を通じて、西フィリピン海(フィリピン管轄海域のフィリピン側呼称:訳者注)における海洋安全保障強化のための新たな補完的枠組みの構築となっていることである。したがって、こうした文脈から見れば、SQUADの役割は、既存の他の枠組みと比較して、その狙いと範囲が限定されている。
(3) この新しい少国間枠組みの出現は、幾つかの重要な疑問を提起した。何故、インド太平洋でこのような枠組みが出現しているのか。何がこの地域における少国間枠組みの台頭を促しているのか。さらに、新たな連携がSQUADと称されることから、当然ながら、既存のQUADが引き合いに出されることになる。
a. 第1に、SQUADの出現を、既存のQUADを犠牲にした結果と見なすのは不正確であろう。QUAD参加国間の相乗効果は、安全で安定したインド太平洋の促進を指向している。他方、SQUADは南シナ海、特に西フィリピン海を対象とした特定の文脈で見る必要がある。南シナ海におけるインドそして全体としてのQUADの役割は関連性があるものの、この特定の海域では限定的でしかない。あらゆる少国間枠組みの運用上の焦点は、それらの集団的利益が及ぶ地理的位置にある。QUADは、インド太平洋の重要な海域で参加国によって定期的に実施されているマラバール演習に見られるように、海洋安全保障における協力分野の拡大では大きな進展を遂げた。
b. 第2に、少国間枠組みの台頭は極めて注目すべき問題である。インド太平洋は広大な海洋地勢であり、したがって、一部の国が幾つかの要因によって左右される特定の小地域をそれぞれ重視し勝ちなのは当然のことである。第1に、地理的位置は当該各国の戦略的焦点を形作る主たる変数である。第2に、各国が求める戦略的提携の地理的位置は重要な変数である。第3に、世界貿易、エネルギー安全保障そして海洋資源への関心も、当該国が選択する特定の活動領域を左右する傾向がある。このことは、インド太平洋においても明らかである。たとえば、米国はインド太平洋の小地域、太平洋を重視している。他方、インドにとって西インド洋を含むインド洋が安全保障上の主要な戦域であり、そしてオーストラリアはインド太平洋の名の下にインド洋への関心を強めているようである。同様に、フィリピンにとって、南シナ海は隣接国としてインド太平洋における海洋安全保障思考の核心となっている。さらに、SQUADの場合、AUKUSと同様に、全参加国は米国との安全保障条約の締結国である。したがって、特に小地域に焦点を当てた安全保障指向の枠組みが出現する蓋然性がある。
c. 加えて、少国間枠組みは、対象とする地理的活動範囲が限られているために、少数の参加国で特定の活動領域に焦点を当てる必要がある。少国間枠組みでは、脅威認識が似通っているために、参加国は同等の協力、協調が可能である。これらは、少国間枠組みにおいて、目標の共有を通じた協力強化の重要な基盤となる。多くの点で、このことは、戦略的および安全保障上の利害関係が異なる様々な地域から参加するより広範な多国間枠組みに代わって、インド太平洋において少国間枠組みが台頭してきた理由を説明している。その上、少国間主義は、大国間競争のいずれにも与したくない小国や発展途上国にとって、協力を強化する重要な手段としても浮上している。このように、少国間枠組みは、その地域に関与する関係国の海洋安全保障上の利益に直結する特定の小地域における安全保障機構の構築にも有用である。
(4) 中でもSQUADの台頭は、インド太平洋における少国間主義の台頭について、切望されていた議論を促した。このような集団の増加はこの地域で続く、より広範な地政学的状況に関与する幾つかの関係国に恩恵をもたらした。少国間枠組みは、この地域に関与する関係国にとって、海洋における複雑な課題に対処する上でより多くの選択肢と手段を提供するために、戦略的および安全保障上の切迫感に基づく海洋安全保障機構を構築する上で有用と見なされている。このことは、多様な戦略的環境を持つ海洋空間と幅広い利害関係を持つ国々が関与するインド太平洋の地政学が進化してきた当然の結果である。
記事参照:SQUAD and the rise of minilateralism in the Indo-Pacific
(1) 最近数ヵ月の南シナ海で増大する中国の侵略的行動は、主として米国の条約同盟国であるフィリピンを標的にしてきた。そこで、フィリピンの海洋安全保障を一層強化するため、日米豪比4ヵ国の国防相等が5月初めにハワイで会談し、海洋協力の進展と継続について協議した。U.S. Department of Defense当局者はこの4ヵ国グループをSQUADと称している。2022年に就任したMarcos Jr.フィリピン大統領は、前大統領の対中戦略を転換し、中国に対抗するために米国との連携を強化してきた。フィリピン政府は、SQUADに加えて、日米比3国連携や、日豪両国との2国間防衛関係の強化も進めている。
(2) これらの少国間および2国間の連携は、フィリピンの海洋安全保障の考え方の特徴を示している。したがって、SQUADの出現は2つの文脈で見るべきである。第1に、この地域におけるASEANなどの多国間機構の機能不全とASEAN加盟国の多くが中国の威圧的行動に対する公然たる非難を差し控えていることである。第2に、2国間および3国間連携はいずれも、実行可能な安全保障網を通じて、西フィリピン海(フィリピン管轄海域のフィリピン側呼称:訳者注)における海洋安全保障強化のための新たな補完的枠組みの構築となっていることである。したがって、こうした文脈から見れば、SQUADの役割は、既存の他の枠組みと比較して、その狙いと範囲が限定されている。
(3) この新しい少国間枠組みの出現は、幾つかの重要な疑問を提起した。何故、インド太平洋でこのような枠組みが出現しているのか。何がこの地域における少国間枠組みの台頭を促しているのか。さらに、新たな連携がSQUADと称されることから、当然ながら、既存のQUADが引き合いに出されることになる。
a. 第1に、SQUADの出現を、既存のQUADを犠牲にした結果と見なすのは不正確であろう。QUAD参加国間の相乗効果は、安全で安定したインド太平洋の促進を指向している。他方、SQUADは南シナ海、特に西フィリピン海を対象とした特定の文脈で見る必要がある。南シナ海におけるインドそして全体としてのQUADの役割は関連性があるものの、この特定の海域では限定的でしかない。あらゆる少国間枠組みの運用上の焦点は、それらの集団的利益が及ぶ地理的位置にある。QUADは、インド太平洋の重要な海域で参加国によって定期的に実施されているマラバール演習に見られるように、海洋安全保障における協力分野の拡大では大きな進展を遂げた。
b. 第2に、少国間枠組みの台頭は極めて注目すべき問題である。インド太平洋は広大な海洋地勢であり、したがって、一部の国が幾つかの要因によって左右される特定の小地域をそれぞれ重視し勝ちなのは当然のことである。第1に、地理的位置は当該各国の戦略的焦点を形作る主たる変数である。第2に、各国が求める戦略的提携の地理的位置は重要な変数である。第3に、世界貿易、エネルギー安全保障そして海洋資源への関心も、当該国が選択する特定の活動領域を左右する傾向がある。このことは、インド太平洋においても明らかである。たとえば、米国はインド太平洋の小地域、太平洋を重視している。他方、インドにとって西インド洋を含むインド洋が安全保障上の主要な戦域であり、そしてオーストラリアはインド太平洋の名の下にインド洋への関心を強めているようである。同様に、フィリピンにとって、南シナ海は隣接国としてインド太平洋における海洋安全保障思考の核心となっている。さらに、SQUADの場合、AUKUSと同様に、全参加国は米国との安全保障条約の締結国である。したがって、特に小地域に焦点を当てた安全保障指向の枠組みが出現する蓋然性がある。
c. 加えて、少国間枠組みは、対象とする地理的活動範囲が限られているために、少数の参加国で特定の活動領域に焦点を当てる必要がある。少国間枠組みでは、脅威認識が似通っているために、参加国は同等の協力、協調が可能である。これらは、少国間枠組みにおいて、目標の共有を通じた協力強化の重要な基盤となる。多くの点で、このことは、戦略的および安全保障上の利害関係が異なる様々な地域から参加するより広範な多国間枠組みに代わって、インド太平洋において少国間枠組みが台頭してきた理由を説明している。その上、少国間主義は、大国間競争のいずれにも与したくない小国や発展途上国にとって、協力を強化する重要な手段としても浮上している。このように、少国間枠組みは、その地域に関与する関係国の海洋安全保障上の利益に直結する特定の小地域における安全保障機構の構築にも有用である。
(4) 中でもSQUADの台頭は、インド太平洋における少国間主義の台頭について、切望されていた議論を促した。このような集団の増加はこの地域で続く、より広範な地政学的状況に関与する幾つかの関係国に恩恵をもたらした。少国間枠組みは、この地域に関与する関係国にとって、海洋における複雑な課題に対処する上でより多くの選択肢と手段を提供するために、戦略的および安全保障上の切迫感に基づく海洋安全保障機構を構築する上で有用と見なされている。このことは、多様な戦略的環境を持つ海洋空間と幅広い利害関係を持つ国々が関与するインド太平洋の地政学が進化してきた当然の結果である。
記事参照:SQUAD and the rise of minilateralism in the Indo-Pacific
5月24日「バルト海の島に関するプーチンの計画はスウェーデンに戦争の準備をさせる―英教授論説」(The Conversation, May 24, 2024)
5月24日付のオーストラリアのニュースサイトThe Conversationは、英国University of Essex教授Natasha Lindstaedtの“Putin’s designs on a Baltic island are leading Sweden to prepare for war”と題する論説を掲載し、ここでNatasha Lindstaedtはバルト海地域が西側諸国の制裁を回避するためにロシアが使用している影の船団による「影の戦争」の戦場となっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) バルト海の中央に位置するゴットランド島は何十年にもわたってスウェーデンでは人気の休暇先であった。しかし、最近、Försvarsmakten(Swedish Armed Forces:以下、スウェーデン国防軍と言う)最高司令官Mikael Bydénは、ロシアのVladmir Putin大統領が島に「目を付けている」と主張している。ここ数日、ロシアがフィンランド湾の海上国境を再考する必要があることを示唆する文書を発表し、ゴットランド島がバルト諸国におけるロシアの野望の一部であることを示したため、懸念はさらに高まった。ゴットランド島は、ロシアБалтийский флот(Baltic Fleet:バルチック艦隊)の拠点からわずか300kmという戦略的に重要な場所にある。スウェーデンがNATOに加盟し、ゴットランド島をNATOが利用することを認めたことで、バルト海地域に軍隊を配備し、維持する同盟の能力が大幅に向上した。その戦略的重要性のため、冷戦のほとんどの期間、スウェーデンはこの島に大規模な軍事力の展開を維持してきたが、バルト海地域の平和と協力を促進するために、ゴットランド島は2005年に非武装化された。しかし、2013年3月29日、Tu-22M3爆撃機2機がゴットランド島から24海里以内に接近したことから、スウェーデン国防軍の弱点とゴットランド島のロシア軍からの攻撃に対する脆弱性が明らかとなった。
(2) 2014年にロシアがクリミアに侵攻した後、スウェーデンは自国を守るために重要な措置を講じ、2016年に150名から成る部隊をゴットランド島に派遣し、2018年までに派遣部隊は増強され、防空システムも2021年までに再開した。2022年のロシアによるウクライナへの全面侵攻の後で、ゴットランド島の防衛への追加増援、演習、投資が行われ、その費用は総額1億6,000万米ドルに上った。2023年4月には、スウェーデンはSiły Zbrojne Rzeczypospolitej Polskiej(ポーランド共和国軍)とArmed Forces of the Crownとともに、25年間で最大の軍事演習を島で実施している。ゴットランド島は主要な戦略的資産であると同時に潜在的な弱点でもあるため、ロシアからNATO諸国への海からのより大きな脅威を防ぐために保護されなければならない。ゴットランド島はバルト三国に地理的に近く、ロシアがゴットランド島を奪取すれば、バルト海地域を支配する可能性がある。そうなれば、西側諸国が海路や空路でバルト三国に援軍を提供することを非常に困難になるであろう。懸念されているのはスウェーデンだけではない。リトアニアは、ロシアの飛び地カリーニングラードと国境を接している。モスクワのいつものやり方で、ロシアの海上国境の変更に関するオンライン文書が西側で発見された際、クレムリンは、そうする計画はないと否定した。しかし、なぜその提案が政府のポータルから削除されたのかについて、ロシア当局者からの説明はなかった。リトアニアは、これは少なくともロシアの脅迫戦術だと警告した。エストニアのKaja Kallas首相はさらに踏み込んで、ロシアは西側と「影の戦争」をしていると主張している。
(3) バルト海では2024年、すでに緊張が高まっている。ロシアの船舶は、ますます厚かましい行動を採ったり、海上規則に違反したり、古くて、保険に加入していない環境破壊を引き起こす可能性もある石油タンカーを航行させたりして、敵対行為を煽っている。西側諸国の制裁を回避するためにロシアが使用している影の船団は、ゴットランド島の東海岸沖のスウェーデンのEEZに所在し、徘徊している。ロシアの影の船団は、Вооруженные силы Российской Федерации( Armed Forces of the Russian Federation:ロシア連邦軍)には属さない約1,400隻の艦船で構成されている。これらの挑発行為は全て、12海里の領海境界線のすぐ外側で行われており、スウェーデンがそれらについて何らかの行為を行うことは不可能である。Svenska marinen(Swedish Navy、スウェーデン海軍)は、ロシアがこれらのタンカーを破壊工作、偵察、スパイ活動に使用している可能性が高いと警告している。こうした状況を受けて、スウェーデン首相は2024年3月、国民に戦争に備える必要があると訴えた。
(4) かつて、ゴットランド島はソ連の拡張に対する抑止力であった。しかし、Putin政権下の現在のロシアを抑止することは容易ではない。はっきりしないのは、これらの挑発が欧米を心理的に分裂させ、恐怖に陥れるためのロシアの影の戦争の一環なのか、それとも、ロシアがゴットランド島を攻撃すれば確実に始まるであろう実際の戦争の序曲なのかということである。スウェーデンは現在NATOに加盟しているため、スウェーデンが攻撃を受けた場合、すべての加盟国がスウェーデンの防衛に当たらなければならない。スウェーデンは、世界に通用する近代的な潜水艦部隊と空軍、そして技術的に進んだ防衛産業基盤を有している。スウェーデンの軍事力を考えると、これらがロシアとの紛争を抑止するのに十分かどうかを予測するのは難しい。今のところ、ロシアはNATO屈指の兵力と脆弱性の両方を抱えるバルト諸国での意図をめぐって、緊張感を作り出すことを決意しているようである。その結果、バルト海地域はロシアの影の戦争の戦場となっている。
記事参照:Putin’s designs on a Baltic island are leading Sweden to prepare for war
(1) バルト海の中央に位置するゴットランド島は何十年にもわたってスウェーデンでは人気の休暇先であった。しかし、最近、Försvarsmakten(Swedish Armed Forces:以下、スウェーデン国防軍と言う)最高司令官Mikael Bydénは、ロシアのVladmir Putin大統領が島に「目を付けている」と主張している。ここ数日、ロシアがフィンランド湾の海上国境を再考する必要があることを示唆する文書を発表し、ゴットランド島がバルト諸国におけるロシアの野望の一部であることを示したため、懸念はさらに高まった。ゴットランド島は、ロシアБалтийский флот(Baltic Fleet:バルチック艦隊)の拠点からわずか300kmという戦略的に重要な場所にある。スウェーデンがNATOに加盟し、ゴットランド島をNATOが利用することを認めたことで、バルト海地域に軍隊を配備し、維持する同盟の能力が大幅に向上した。その戦略的重要性のため、冷戦のほとんどの期間、スウェーデンはこの島に大規模な軍事力の展開を維持してきたが、バルト海地域の平和と協力を促進するために、ゴットランド島は2005年に非武装化された。しかし、2013年3月29日、Tu-22M3爆撃機2機がゴットランド島から24海里以内に接近したことから、スウェーデン国防軍の弱点とゴットランド島のロシア軍からの攻撃に対する脆弱性が明らかとなった。
(2) 2014年にロシアがクリミアに侵攻した後、スウェーデンは自国を守るために重要な措置を講じ、2016年に150名から成る部隊をゴットランド島に派遣し、2018年までに派遣部隊は増強され、防空システムも2021年までに再開した。2022年のロシアによるウクライナへの全面侵攻の後で、ゴットランド島の防衛への追加増援、演習、投資が行われ、その費用は総額1億6,000万米ドルに上った。2023年4月には、スウェーデンはSiły Zbrojne Rzeczypospolitej Polskiej(ポーランド共和国軍)とArmed Forces of the Crownとともに、25年間で最大の軍事演習を島で実施している。ゴットランド島は主要な戦略的資産であると同時に潜在的な弱点でもあるため、ロシアからNATO諸国への海からのより大きな脅威を防ぐために保護されなければならない。ゴットランド島はバルト三国に地理的に近く、ロシアがゴットランド島を奪取すれば、バルト海地域を支配する可能性がある。そうなれば、西側諸国が海路や空路でバルト三国に援軍を提供することを非常に困難になるであろう。懸念されているのはスウェーデンだけではない。リトアニアは、ロシアの飛び地カリーニングラードと国境を接している。モスクワのいつものやり方で、ロシアの海上国境の変更に関するオンライン文書が西側で発見された際、クレムリンは、そうする計画はないと否定した。しかし、なぜその提案が政府のポータルから削除されたのかについて、ロシア当局者からの説明はなかった。リトアニアは、これは少なくともロシアの脅迫戦術だと警告した。エストニアのKaja Kallas首相はさらに踏み込んで、ロシアは西側と「影の戦争」をしていると主張している。
(3) バルト海では2024年、すでに緊張が高まっている。ロシアの船舶は、ますます厚かましい行動を採ったり、海上規則に違反したり、古くて、保険に加入していない環境破壊を引き起こす可能性もある石油タンカーを航行させたりして、敵対行為を煽っている。西側諸国の制裁を回避するためにロシアが使用している影の船団は、ゴットランド島の東海岸沖のスウェーデンのEEZに所在し、徘徊している。ロシアの影の船団は、Вооруженные силы Российской Федерации( Armed Forces of the Russian Federation:ロシア連邦軍)には属さない約1,400隻の艦船で構成されている。これらの挑発行為は全て、12海里の領海境界線のすぐ外側で行われており、スウェーデンがそれらについて何らかの行為を行うことは不可能である。Svenska marinen(Swedish Navy、スウェーデン海軍)は、ロシアがこれらのタンカーを破壊工作、偵察、スパイ活動に使用している可能性が高いと警告している。こうした状況を受けて、スウェーデン首相は2024年3月、国民に戦争に備える必要があると訴えた。
(4) かつて、ゴットランド島はソ連の拡張に対する抑止力であった。しかし、Putin政権下の現在のロシアを抑止することは容易ではない。はっきりしないのは、これらの挑発が欧米を心理的に分裂させ、恐怖に陥れるためのロシアの影の戦争の一環なのか、それとも、ロシアがゴットランド島を攻撃すれば確実に始まるであろう実際の戦争の序曲なのかということである。スウェーデンは現在NATOに加盟しているため、スウェーデンが攻撃を受けた場合、すべての加盟国がスウェーデンの防衛に当たらなければならない。スウェーデンは、世界に通用する近代的な潜水艦部隊と空軍、そして技術的に進んだ防衛産業基盤を有している。スウェーデンの軍事力を考えると、これらがロシアとの紛争を抑止するのに十分かどうかを予測するのは難しい。今のところ、ロシアはNATO屈指の兵力と脆弱性の両方を抱えるバルト諸国での意図をめぐって、緊張感を作り出すことを決意しているようである。その結果、バルト海地域はロシアの影の戦争の戦場となっている。
記事参照:Putin’s designs on a Baltic island are leading Sweden to prepare for war
5月24日「米国、潜水艦による抑止力強化をめぐる議論―米専門家論説」(USNI News, May 24, 2024)
5月24日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、Navy Timesの元編集長John Gradyの“Senators Quiz Navy Leaders on Proposed Sea-Launched Nuclear Cruise Missile”と題する論説を掲載し、John Gradyは抑止力強化のための米バージニア級攻撃型原子力潜水艦の改造に関する議論について、要旨以下のように述べている。
(1) バージニア級攻撃型原子力潜水艦を改造して核弾頭装着の海上発射型巡航ミサイルを搭載する方法とその変更にどれだけの費用がかかるかという質問には、簡単には答えられないとU.S. NavyのStrategic Systems Programs司令官Johnny Wolfe米海軍中将は5月22日に、上院の重要な委員会で証言し、「我々はそれを検討し始め」ており、「我々は柔軟性を求めている」と述べた上で、「改造の経費見積もりを出すのは時期尚早だろう」と付け加えている。Mark Kelly上院議員は、この改造が抑止のための兵器として、より大きな海軍に対する魚雷、つまり「我々が本当に必要なものを断念する」ことを意味するのかどうか疑問を呈した上で、この構想が前進した場合、他の戦略兵器計画にかかる経費にも疑問を投げかけた。
(2) 有力委員の1人であるDeb Fischer上院議員は、潜在的に核武装した2つの敵対者に直面した場合、「我々はさまざまな選択肢を持たなければならない」と述べている。Johnny Wolfe中将は公聴会で、抑止力には「唯一の解決策などない」と指摘した上で、作戦の観点からは、核兵器の使用と通常兵器との「区別に注意しなければならない」と彼は付け加えている。この回答は、地域紛争における戦術核兵器の使用を容認するロシアの軍事ドクトリンである「事態拡大から緊張緩和へ(escalate to de-escalate)」に対するものであった。「核の近代化には時間がかかるだろう」とJohnny Wolfe中将は付け加え、兵器システム、搭載艦艇・航空機および基幹施設について言及した。National Nuclear Security AdministrationのMarvin Adams防衛プログラム担当副長官は、それを達成するための「余裕はあまりない」と述べている。多くの生産ラインが何年も停止した後、再開されたばかりであるため、産業基盤が能率促進するまでは、認証取得後の部品を再利用することが答えとなっている。Johnny Wolfe中将は、オハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦からコロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦へ移行する場合、「これらの資産(ミサイル)をコロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦に移す決断を下した」と述べている。また、コロンビア計画に遅れが生じた場合、海軍は兵器システムとオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦自体の耐用年数を延長する用意があると付け加えている。また、コロンビア計画の進捗の遅れは、英国の弾道ミサイル潜水艦近代化を支援する取り組みにも影響を与える。
(3) 5月初め、別の上院委員会は、コロンビア建造計画の現在の遅れと、AUKUSで約束されたバージニア級攻撃型原子力潜水艦のオーストラリアへの引き渡しについて懸念を表明した。委員長による予算案では、2025会計年度予算でのバージニア級攻撃型原子力潜水艦1隻だけの建造許可を求めた海軍の要請を破棄し、2隻とするよう求め、予算要求に10億ドルを追加している。Marvin Adams副長官は事前に用意された証言で、コロンビア級およびバージニア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の原子炉は予定どおりに進んでいると述べており、「現在までのところ、(コロンビア級の)1番艦の原子炉プラント部品は予定どおりに納入されて、原子炉中核部分に関する1番艦の納入は順調である」と、Naval Reactors長官のWilliam Houston米海軍大将は用意された証言で述べている。
記事参照:Senators Quiz Navy Leaders on Proposed Sea-Launched Nuclear Cruise Missile
(1) バージニア級攻撃型原子力潜水艦を改造して核弾頭装着の海上発射型巡航ミサイルを搭載する方法とその変更にどれだけの費用がかかるかという質問には、簡単には答えられないとU.S. NavyのStrategic Systems Programs司令官Johnny Wolfe米海軍中将は5月22日に、上院の重要な委員会で証言し、「我々はそれを検討し始め」ており、「我々は柔軟性を求めている」と述べた上で、「改造の経費見積もりを出すのは時期尚早だろう」と付け加えている。Mark Kelly上院議員は、この改造が抑止のための兵器として、より大きな海軍に対する魚雷、つまり「我々が本当に必要なものを断念する」ことを意味するのかどうか疑問を呈した上で、この構想が前進した場合、他の戦略兵器計画にかかる経費にも疑問を投げかけた。
(2) 有力委員の1人であるDeb Fischer上院議員は、潜在的に核武装した2つの敵対者に直面した場合、「我々はさまざまな選択肢を持たなければならない」と述べている。Johnny Wolfe中将は公聴会で、抑止力には「唯一の解決策などない」と指摘した上で、作戦の観点からは、核兵器の使用と通常兵器との「区別に注意しなければならない」と彼は付け加えている。この回答は、地域紛争における戦術核兵器の使用を容認するロシアの軍事ドクトリンである「事態拡大から緊張緩和へ(escalate to de-escalate)」に対するものであった。「核の近代化には時間がかかるだろう」とJohnny Wolfe中将は付け加え、兵器システム、搭載艦艇・航空機および基幹施設について言及した。National Nuclear Security AdministrationのMarvin Adams防衛プログラム担当副長官は、それを達成するための「余裕はあまりない」と述べている。多くの生産ラインが何年も停止した後、再開されたばかりであるため、産業基盤が能率促進するまでは、認証取得後の部品を再利用することが答えとなっている。Johnny Wolfe中将は、オハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦からコロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦へ移行する場合、「これらの資産(ミサイル)をコロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦に移す決断を下した」と述べている。また、コロンビア計画に遅れが生じた場合、海軍は兵器システムとオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦自体の耐用年数を延長する用意があると付け加えている。また、コロンビア計画の進捗の遅れは、英国の弾道ミサイル潜水艦近代化を支援する取り組みにも影響を与える。
(3) 5月初め、別の上院委員会は、コロンビア建造計画の現在の遅れと、AUKUSで約束されたバージニア級攻撃型原子力潜水艦のオーストラリアへの引き渡しについて懸念を表明した。委員長による予算案では、2025会計年度予算でのバージニア級攻撃型原子力潜水艦1隻だけの建造許可を求めた海軍の要請を破棄し、2隻とするよう求め、予算要求に10億ドルを追加している。Marvin Adams副長官は事前に用意された証言で、コロンビア級およびバージニア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の原子炉は予定どおりに進んでいると述べており、「現在までのところ、(コロンビア級の)1番艦の原子炉プラント部品は予定どおりに納入されて、原子炉中核部分に関する1番艦の納入は順調である」と、Naval Reactors長官のWilliam Houston米海軍大将は用意された証言で述べている。
記事参照:Senators Quiz Navy Leaders on Proposed Sea-Launched Nuclear Cruise Missile
5月27日「愚かにも英国はインド洋に回帰した―英専門家論説」(Opinion, Geopolitical Monitor, May 27, 2024)
5月27日付のカナダ情報誌Geopolitical MonitorのウエブサイトOpinionは、英Middlesex University名誉教授でインド太平洋とその周辺地域の地政学を専門とするDennis Hardyの“East of Suez: The Folly of Britain’s Return to the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでDennis Hardy は、英国はインド太平洋ではなく、NATOの中で重要な役割を果たし、Вооруженные силы Российской Федерации( Armed Forces of the Russian Federation:ロシア連邦軍)を撃退する手段をウクライナに供給すること優先すべきで、スエズの東に傾斜することは最善の利益にはならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 半世紀以上前、英国政府はスエズ以東の安全保障活動の終了を約束した。それは経済が行き詰まり、予算節約の必要性からであるが、政策変更の本当の理由は、帝国の時代が終わり、インド、シンガポール、マレーシアのような新しく独立した国家が独自の未来を切り開く準備が整ったからである。この歴史的な決定が覆されるとは誰も予想していなかったが、一歩一歩、まさにそのとおりになっている。その決定的なUターンの例は以下の4つである。
a. 英国がEUを離脱する6年前の2014年、当時のDavid Cameron首相はペルシャ湾に戦略的な位置にあるバーレーンに新たな海軍常設基地を建設すると発表した。David Cameronは、より強力な軍事力の配備は、この地域からの石油供給の混乱を防ぐだけでなく、対テロ作戦やその先の外洋での海賊対策にも利用できると主張した。ジュフェア基地と名付けられたこの基地は、マナマにあり、イランに近いことがこの基地を開発する重要な要因であった。
B. Boris Johnson首相が英国の世界的な役割を強化しようと躍起になっていた頃、スエズ以東への2度目の介入が英国のEU離脱をきっかけに行われた。インド太平洋における中国の海軍力増強への挑戦として英国は、米国、オーストラリアとともに、オーストラリアが原子力潜水艦8隻からなる艦隊を建造する構想AUKUSに招かれた。核のノウハウを共有するという米国との長年の協定に後押しされ、英国は世界の裏側の安全保障問題で再び重要な役割を果たすことになった。
c. インド洋中部のチャゴス諸島を中心とする植民地は、1960年代に英領インド洋地域となった。1966年に英国は最大の島であるディエゴ・ガルシアを主要基地として開発するために米国に貸与した。米側の要請で、島の住民は強制的に排除され、大半はモーリシャスへ、少数がセーシェルへと移住した。基地はその後、最新鋭の海軍と空挺部隊のために極秘裏に開発された。長年にわたり、チャゴス諸島は人権問題の国際的な象徴となり、絶え間ない圧力にさらされながら、2022年、英国からモーリシャスに領土を譲渡する交渉が開始されるも英国の首相が交代したため打ち切られた。
d. 紅海の船舶に対するイエメンからのロケット攻撃に対抗するため、米国とともに英国は軍事介入している。Grant Shapps 英国防長官は、フーシ派による商船への危険な攻撃に対し、英国は国際的な対応の最前線に立ち続けていると主張した。2024年初頭、英国と米国は共同でイエメンのフーシ派が支配する無人機基地を攻撃した。
(2) 英国のスエズ以東からの撤退は、1つの時代の終わりを意味し、20世紀の残りの期間、このポスト植民地政策はほぼ維持された。しかし近年、当初の決定の背景が変わってきた。インド洋における中国の存在は新たな課題を生み出し、インドは独自の世界大国として台頭しつつある。パキスタンは核保有能力を持ち、イランも核保有に近づいている。米国はインド太平洋で最も支配的な国であることに変わりはないが、その世界的覇権に対する手ごわい挑戦に直面している。
(3) Parliament of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(英国議会)の委員会は、「インド太平洋における英国の利益に関する重要な見直し」の中で、英国政府は中国共産党政権下の中国による脅威の増大に対する包括的な防衛・外交対応を含むインド太平洋戦略を策定すべきと結論づけた。この戦略はまた、傾斜の具体的な狙いを明らかにし、達成可能なことについて現実的である一方で、政府がどのようにこれらを達成するつもりなのかを明確にすべきとしている。特筆すべきは英国が世界の遠い地域で国際的な役割を果たすことは、もはや現実的なのかということである。持続的な軍事行動に関与する能力に疑問が持たれる中、防衛予算にはすでに深刻な不足が起きている。
(4) 中国は確かに、インド太平洋の安全保障にとっての主な脅威である。しかし、国連安全保障理事会や総会での英国の投票以外は、米国がこの地域の国々と連携して対処すべきである。英国は、自国が限られた能力しか持たない中堅国家になったのではなく、依然として効果的な世界的な行為者のように振る舞っている。現実主義に立てば、英国はインド太平洋ではなく、自国に近い安全保障問題に焦点を当てたほうが良い。NATOの中で重要な役割を果たし、Вооруженные силы Российской Федерации(Armed Forces of the Russian Federation:ロシア連邦軍)を撃退する手段をウクライナに供給することは、より明白な優先事項である。スエズの東に傾斜することは最善の利益にはならない。
記事参照:East of Suez: The Folly of Britain’s Return to the Indian Ocean
(1) 半世紀以上前、英国政府はスエズ以東の安全保障活動の終了を約束した。それは経済が行き詰まり、予算節約の必要性からであるが、政策変更の本当の理由は、帝国の時代が終わり、インド、シンガポール、マレーシアのような新しく独立した国家が独自の未来を切り開く準備が整ったからである。この歴史的な決定が覆されるとは誰も予想していなかったが、一歩一歩、まさにそのとおりになっている。その決定的なUターンの例は以下の4つである。
a. 英国がEUを離脱する6年前の2014年、当時のDavid Cameron首相はペルシャ湾に戦略的な位置にあるバーレーンに新たな海軍常設基地を建設すると発表した。David Cameronは、より強力な軍事力の配備は、この地域からの石油供給の混乱を防ぐだけでなく、対テロ作戦やその先の外洋での海賊対策にも利用できると主張した。ジュフェア基地と名付けられたこの基地は、マナマにあり、イランに近いことがこの基地を開発する重要な要因であった。
B. Boris Johnson首相が英国の世界的な役割を強化しようと躍起になっていた頃、スエズ以東への2度目の介入が英国のEU離脱をきっかけに行われた。インド太平洋における中国の海軍力増強への挑戦として英国は、米国、オーストラリアとともに、オーストラリアが原子力潜水艦8隻からなる艦隊を建造する構想AUKUSに招かれた。核のノウハウを共有するという米国との長年の協定に後押しされ、英国は世界の裏側の安全保障問題で再び重要な役割を果たすことになった。
c. インド洋中部のチャゴス諸島を中心とする植民地は、1960年代に英領インド洋地域となった。1966年に英国は最大の島であるディエゴ・ガルシアを主要基地として開発するために米国に貸与した。米側の要請で、島の住民は強制的に排除され、大半はモーリシャスへ、少数がセーシェルへと移住した。基地はその後、最新鋭の海軍と空挺部隊のために極秘裏に開発された。長年にわたり、チャゴス諸島は人権問題の国際的な象徴となり、絶え間ない圧力にさらされながら、2022年、英国からモーリシャスに領土を譲渡する交渉が開始されるも英国の首相が交代したため打ち切られた。
d. 紅海の船舶に対するイエメンからのロケット攻撃に対抗するため、米国とともに英国は軍事介入している。Grant Shapps 英国防長官は、フーシ派による商船への危険な攻撃に対し、英国は国際的な対応の最前線に立ち続けていると主張した。2024年初頭、英国と米国は共同でイエメンのフーシ派が支配する無人機基地を攻撃した。
(2) 英国のスエズ以東からの撤退は、1つの時代の終わりを意味し、20世紀の残りの期間、このポスト植民地政策はほぼ維持された。しかし近年、当初の決定の背景が変わってきた。インド洋における中国の存在は新たな課題を生み出し、インドは独自の世界大国として台頭しつつある。パキスタンは核保有能力を持ち、イランも核保有に近づいている。米国はインド太平洋で最も支配的な国であることに変わりはないが、その世界的覇権に対する手ごわい挑戦に直面している。
(3) Parliament of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(英国議会)の委員会は、「インド太平洋における英国の利益に関する重要な見直し」の中で、英国政府は中国共産党政権下の中国による脅威の増大に対する包括的な防衛・外交対応を含むインド太平洋戦略を策定すべきと結論づけた。この戦略はまた、傾斜の具体的な狙いを明らかにし、達成可能なことについて現実的である一方で、政府がどのようにこれらを達成するつもりなのかを明確にすべきとしている。特筆すべきは英国が世界の遠い地域で国際的な役割を果たすことは、もはや現実的なのかということである。持続的な軍事行動に関与する能力に疑問が持たれる中、防衛予算にはすでに深刻な不足が起きている。
(4) 中国は確かに、インド太平洋の安全保障にとっての主な脅威である。しかし、国連安全保障理事会や総会での英国の投票以外は、米国がこの地域の国々と連携して対処すべきである。英国は、自国が限られた能力しか持たない中堅国家になったのではなく、依然として効果的な世界的な行為者のように振る舞っている。現実主義に立てば、英国はインド太平洋ではなく、自国に近い安全保障問題に焦点を当てたほうが良い。NATOの中で重要な役割を果たし、Вооруженные силы Российской Федерации(Armed Forces of the Russian Federation:ロシア連邦軍)を撃退する手段をウクライナに供給することは、より明白な優先事項である。スエズの東に傾斜することは最善の利益にはならない。
記事参照:East of Suez: The Folly of Britain’s Return to the Indian Ocean
5月28日「日本はいかにして戦闘艦艇の主要輸出国になるか―米専門家論説」(Hudson Institute, May 28, 2024)
5月28日付の米シンクタンクHudson Instituteのウエブサイトは、同Institute上席研究員William Schneider Jr.の“How Japan Can Become a Major Exporter of Naval Combatant Vessels”と題する記事を掲載し、ここでWilliam Schneider Jr.はインド太平洋地域で重要な海軍を支える造船能力について、米国は自国の海軍艦艇の維持にも十分とは言えず、日本の造船能力、先端技術力が注目されていることに触れた一方で、日本が戦闘艦艇の輸出を行うには、防衛省を中心とする輸出担当組織や防衛技術に関する情報機関の設立、造船業界の国際的な防衛取引への習熟等が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリア、英国、米国のヵ国によるAUKUS協定は、冷戦後の歴史において最も重要な防衛産業構想の1つであろう。協定の第1の柱は、オーストラリアが原子力推進で通常兵器を搭載したバージニア級攻撃型潜水艦を取得する道筋を作ったことである。協定の第2の柱は、米国政府に防衛貿易規制を自由化させ、AUKUS加盟国の主要企業が同様の規制体制の下で活動できるようにしたことである。また、2024年4月の日米首脳会談は、日本による先端技術利用を大幅に増加させており、インド太平洋地域における米国の同盟国間の規制緩和の流れは、事実上の防衛産業共通市場を形成しつつある。
(2) ヨーロッパでは、戦術航空機と地上戦力が重視され、米国が兵器システムの主要な供給国である。しかし、インド太平洋地域は広大で、海軍力がこの地域の抑止力として最も重要な役割を担っている。U.S. Navyは依然として、この地域で最も強力な戦力であるが、防衛産業の観点から見ると、米国は戦闘艦艇の主要輸出国ではない。Biden政権は、1兆6,000億ドルの基盤整備法案に米国の海軍造船所の艦艇建造基盤を改善する資金を盛り込まないことを決定した。現在、U.S. Navyは縮小の一途をたどっており、2025会計年度には13隻が退役し、現役艦艇は287隻となる。現状では、米国には同盟国に相当数の艦艇を輸出する建造能力がない。
(3) こうした状況は、日本の造船業界にインド太平洋地域における戦闘艦艇の主要輸出国になる絶好の機会を提供している。以下は、日本がこの役割を果たすための主要な要素を既に備えていると思われる4つの理由である。
a. 日本には充実した造船設備があり、中国を除けば、日本が主要な民間造船国である。
b. 日本の造船業界は技術投資によって生産性を大幅に向上させており、艦艇用の船体、機械設備に関し経験豊富で有能な生産国と言える。
c. 日本は、先端材料の開発と生産に貢献し、伝統的な戦闘艦艇の生産を助長するとともに、無人の水上および水中の海軍装備品の主要供給国となる可能性もある。
d. 現在11隻の水上戦闘艦艇を運用しているRoyal Australian Navyは、数隻の旧型艦艇を退役させる一方で、戦闘艦艇を26隻に増やす計画である。日本の「もがみ」級ステルス護衛艦は、欧州や韓国と競合する候補の1つである。
e. 日本の防衛産業は米国と密接に連携しており、日本と米国は、レーダー、ミサイルその他の兵器や通信システムなど、艦艇の先端技術においてかなりの重複がある。その結果、日本は、米軍と容易に統合可能な最新鋭の戦闘艦艇を建造できる。
(4) 2016年、日本は過去最大の防衛輸出構想として非大気依存推進システムを搭載した「そうりゅう」型通常型進潜水艦のオーストラリアへの売却を試みた。日豪両政府の緊密な関係から、日本政府はこの売却が承認されると確信していたが、オーストラリアはフランスの潜水艦を選んだ。
(5) 日本の造船業界は、オーストラリア市場で2度目の好機を得た。AUKUS協定により、オーストラリアはフランス製潜水艦の購入を取り止めた。これは、オーストラリア政府が水上艦部隊の近代化および拡張の計画と同時に起こっている。しかし、日本は防衛装備品の輸出で依然として困難に直面するかもしれない。
a. 日本には、防衛装備品や装備品納入後の保守整備等の支援の政府間売買や移転を管理する防衛省を拠点とする米国の対外有償軍事援助制度に類似した組織が必要である。これが、日本の防衛装備品および納入後の支援の輸出能力を高めるための重要な一歩である。
(a) 日本の技術的優位性は、サプライチェーンにおける多数の中小企業に基盤を置く場合が多い。海軍戦闘艦艇のような長期的資産の買い手は、交換部品や補助装置の改修について、個々の小規模な供給業者に頼ることはできないので、装備品の使用全期間の支援を保証する政府機関が不可欠である。
(b) 政府の防衛輸出機関によって、防衛省は相手国に日本の外交官として駐在する駐在員 を置くことができるようになる。この代表は、「販売」の過程での支援を提供し、装備品が使用開始された後は、知識豊富な連絡役として機能する。
(c) 政府の防衛輸出機関は、装備品の輸出を促進するための資金調達を調整する上で有用である。複雑な最新防衛装備品は、使用全期間を通じて持続的な訓練支援も必要とする。日本の防衛省の存在が、提携諸国との国際協力や調整に役立つと思われる。
b. 主要艦艇・航空機の近代化には、敵の能力の変化を予測する機能が必要で、それによって対抗手段や優位な能力の開発を製造、実戦配備、支援することができる。米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを加盟国とするFive Eyesは、諜報機関の基礎となる国境を越えた同盟である。Five Eyesの役割は情報共有を行う一方、主は情報作成機関である。Five Eyesは、Five Eyesを拡大したNine Eyes、Fourteen Eyes、Fourteen Eyesの日本を含む提携国という3つの協力関係を構築している。日本は、有人、無人を問わず、最新の水上・水中の艦艇の開発を効果的に支援できるよう、より強固な情報収集・処理・発信能力を必要としている。日本が主要な戦闘艦艇の輸出国になるための技術力・産業力を有することは明らかで、日本政府がこうした制度上の障害を克服すれば、日本はインド太平洋での安全保障上の米国の重要な提携国として貢献できるであろう。
記事参照:How Japan Can Become a Major Exporter of Naval Combatant Vessels
(1) オーストラリア、英国、米国のヵ国によるAUKUS協定は、冷戦後の歴史において最も重要な防衛産業構想の1つであろう。協定の第1の柱は、オーストラリアが原子力推進で通常兵器を搭載したバージニア級攻撃型潜水艦を取得する道筋を作ったことである。協定の第2の柱は、米国政府に防衛貿易規制を自由化させ、AUKUS加盟国の主要企業が同様の規制体制の下で活動できるようにしたことである。また、2024年4月の日米首脳会談は、日本による先端技術利用を大幅に増加させており、インド太平洋地域における米国の同盟国間の規制緩和の流れは、事実上の防衛産業共通市場を形成しつつある。
(2) ヨーロッパでは、戦術航空機と地上戦力が重視され、米国が兵器システムの主要な供給国である。しかし、インド太平洋地域は広大で、海軍力がこの地域の抑止力として最も重要な役割を担っている。U.S. Navyは依然として、この地域で最も強力な戦力であるが、防衛産業の観点から見ると、米国は戦闘艦艇の主要輸出国ではない。Biden政権は、1兆6,000億ドルの基盤整備法案に米国の海軍造船所の艦艇建造基盤を改善する資金を盛り込まないことを決定した。現在、U.S. Navyは縮小の一途をたどっており、2025会計年度には13隻が退役し、現役艦艇は287隻となる。現状では、米国には同盟国に相当数の艦艇を輸出する建造能力がない。
(3) こうした状況は、日本の造船業界にインド太平洋地域における戦闘艦艇の主要輸出国になる絶好の機会を提供している。以下は、日本がこの役割を果たすための主要な要素を既に備えていると思われる4つの理由である。
a. 日本には充実した造船設備があり、中国を除けば、日本が主要な民間造船国である。
b. 日本の造船業界は技術投資によって生産性を大幅に向上させており、艦艇用の船体、機械設備に関し経験豊富で有能な生産国と言える。
c. 日本は、先端材料の開発と生産に貢献し、伝統的な戦闘艦艇の生産を助長するとともに、無人の水上および水中の海軍装備品の主要供給国となる可能性もある。
d. 現在11隻の水上戦闘艦艇を運用しているRoyal Australian Navyは、数隻の旧型艦艇を退役させる一方で、戦闘艦艇を26隻に増やす計画である。日本の「もがみ」級ステルス護衛艦は、欧州や韓国と競合する候補の1つである。
e. 日本の防衛産業は米国と密接に連携しており、日本と米国は、レーダー、ミサイルその他の兵器や通信システムなど、艦艇の先端技術においてかなりの重複がある。その結果、日本は、米軍と容易に統合可能な最新鋭の戦闘艦艇を建造できる。
(4) 2016年、日本は過去最大の防衛輸出構想として非大気依存推進システムを搭載した「そうりゅう」型通常型進潜水艦のオーストラリアへの売却を試みた。日豪両政府の緊密な関係から、日本政府はこの売却が承認されると確信していたが、オーストラリアはフランスの潜水艦を選んだ。
(5) 日本の造船業界は、オーストラリア市場で2度目の好機を得た。AUKUS協定により、オーストラリアはフランス製潜水艦の購入を取り止めた。これは、オーストラリア政府が水上艦部隊の近代化および拡張の計画と同時に起こっている。しかし、日本は防衛装備品の輸出で依然として困難に直面するかもしれない。
a. 日本には、防衛装備品や装備品納入後の保守整備等の支援の政府間売買や移転を管理する防衛省を拠点とする米国の対外有償軍事援助制度に類似した組織が必要である。これが、日本の防衛装備品および納入後の支援の輸出能力を高めるための重要な一歩である。
(a) 日本の技術的優位性は、サプライチェーンにおける多数の中小企業に基盤を置く場合が多い。海軍戦闘艦艇のような長期的資産の買い手は、交換部品や補助装置の改修について、個々の小規模な供給業者に頼ることはできないので、装備品の使用全期間の支援を保証する政府機関が不可欠である。
(b) 政府の防衛輸出機関によって、防衛省は相手国に日本の外交官として駐在する駐在員 を置くことができるようになる。この代表は、「販売」の過程での支援を提供し、装備品が使用開始された後は、知識豊富な連絡役として機能する。
(c) 政府の防衛輸出機関は、装備品の輸出を促進するための資金調達を調整する上で有用である。複雑な最新防衛装備品は、使用全期間を通じて持続的な訓練支援も必要とする。日本の防衛省の存在が、提携諸国との国際協力や調整に役立つと思われる。
b. 主要艦艇・航空機の近代化には、敵の能力の変化を予測する機能が必要で、それによって対抗手段や優位な能力の開発を製造、実戦配備、支援することができる。米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを加盟国とするFive Eyesは、諜報機関の基礎となる国境を越えた同盟である。Five Eyesの役割は情報共有を行う一方、主は情報作成機関である。Five Eyesは、Five Eyesを拡大したNine Eyes、Fourteen Eyes、Fourteen Eyesの日本を含む提携国という3つの協力関係を構築している。日本は、有人、無人を問わず、最新の水上・水中の艦艇の開発を効果的に支援できるよう、より強固な情報収集・処理・発信能力を必要としている。日本が主要な戦闘艦艇の輸出国になるための技術力・産業力を有することは明らかで、日本政府がこうした制度上の障害を克服すれば、日本はインド太平洋での安全保障上の米国の重要な提携国として貢献できるであろう。
記事参照:How Japan Can Become a Major Exporter of Naval Combatant Vessels
5月30日「U.S. Navyは非稼働の遠征移送ドック船(ESD)を現役復帰させるべきである―米専門家論説」(The Heritage Foundation, May 30, 2024)
5月30日付の米シンクタンクThe Heritage Foundationのウエブサイトは、同FoundationのDouglas and Sarah Allison Center for National Securityの海戦および先端技術担当上席研究員Brent D. Sadlerの“Navy Inactive Fleet Has Life Still: Expeditionary Transfer Docks Should Be Returned to Service”と題する論説を掲載し、ここでBrent D. Sadlerは太平洋の前線で艦隊を戦わせ続け、かつ麻薬カルテルによって引き起こされた国家的危機に対処するために、U.S. Navyは非稼働にある遠征移送ドック船を現役復帰させるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Navyは中国との太平洋での戦争の可能性に直面しているが、その準備はできていない。同時に、米国は麻薬カルテルの襲撃を受けており、U.S. NavyとU.S. Coast Guard(以下、USCGと言う)はその流れを食い止めることができていない。しかし、U.S. Navyの非稼働中の艦隊には、この問題を解決できる可能性がある。それは2隻の遠征移送ドック船(以下、ESDと言う)を現役復帰させ、これを運用することである。すなわち、USNS「モントフォード・ポイント」(ESD-1)をU.S. Southern Command担任地域における海上麻薬対策活動を支援する母艦として運用するとともにUSCGとU.S. Navyの中部太平洋地域での活動の支援にあたらせ、USNS「ジョン・グレン」(ESD-2)を大規模な太平洋での戦争で重要となるさまざまな派遣軍艦の修理艦として運用することである。
(2) 非稼働状態の「モントフォード・ポイント」と「ジョン・グレン」は、5日以内に現役復帰できることになっているが、現実的には45日を要する。両艦は現在、Military Sealift Commandによって管理され、「モントフォード・ポイント」はバージニア州ノーフォーク海軍基地に、「ジョン・グレン」はカリフォルニア州オークランドに係留されている。両艦は、アラスカ級原油運搬船をベースにして2011年に建造され、海上から陸上への大規模な後方支援を実施し、海上に前方展開した海軍部隊を維持するために設計された。
(3) 2023年海軍会議WESTで、U.S. Pacific Fleet司令官Samuel Paparo大将(当時、現U.S. Indo-Pacific Command司令官)は、戦場で損傷した軍艦を戦線の近くで修理する能力を求めた。Samuel Paparo大将の構想には、損傷を受けた艦船に対して迅速な修理を行うことのできる技術者チームとその装備が含まれている。しかし、クレーン、鉄板、浮体式乾ドックなどの施設がなければ、戦闘による大規模な損傷を修復することは難しい。これらのニーズを満たすには、新しい浮体式乾ドックか、近代的な重量物運搬船が必要である。
(4) 2000年10月30日、駆逐艦「コール」がイエメンのアデン港で攻撃を受けたとき、乗員の努力のみで、応急的な修理に必要な時間、船を浮かせておいた。そして、米国の造船所での大規模な修理のために、オランダの大型輸送船を契約して、何千マイルも輸送されなければならなかった。しかし、重量物運搬船は、損傷した軍艦を海中から吊り上げる能力に加えて、修理のために安全な海域に移動させる機動性も備えている。中国人民解放軍海軍はすでに、前方に配備された修理ドックとして機能する「飲馬湖」のような重量物修理船を保有している。
(5) 米国にとってのもう1つの危険は、国内に押し寄せる違法薬物の氾濫である。麻薬フェンタニルは、2022年だけで73,000人の米人を死に至らしめた。この取引を断ち切るにはこの違法取引の背後にいるカルテルを廃業させなければならない。フロリダ州キーウェストを拠点とするJoint Interagency Task Force South(以下、JIATF-Sと言う)は、数十年にわたり、カルテルによるコカイン輸送を断ち切るための地域連合を成功させてきた。全取り締まりの80%に直接貢献し、提携諸国の努力を活用することで前進はしているが、資源が限られているため、推定コカイン輸送量の10%程度しか取り締まりはできていない。
(6) 効果的な対麻薬海上作戦を可能にするには、海上に部隊を維持し、広域を認識できるようにする必要がある。JIATF-Sはこの点で、海洋調査船「ケリー・シュエスト」と契約することで、ささやかな改善を達成することができた。この船からの限定的な補給と監視は、多国間の対麻薬活動の維持に役立っている。近年、U.S. NavyとUSCGは、広域の海域を常時監視する無人艦船、航空機を開発した。それは、セイルドローン(Saildrone)、スキャンイーグル(ScanEagle)、またはU.S. navyの無人水上艦艇などであり、これらがESDから運用されれば、洋上での持続的なセンサーにより、その覆域が大幅に強化される。さらに、ESDの修理、再補給、給油能力を活用することで、多くの提携国の哨戒艦艇の海上で阻止活動やコカインなどの禁制品を破壊する能力を向上させ、陸上へ輸送を防止できる。つまり、ESDが無人哨戒船の母船として機能することで、違法漁業や麻薬取引などの活動に対する海上取り締まりの効果を大幅に高めることが可能になるのである。
(7) 海軍長官は、「モントフォード・ポイント」と「ジョン・グレン」を現役復帰させるために必要な費用の見積もりを提出するよう、Military Sealift Commandに指示すべきである。この見積もりには、ESDを運用・維持するために民間乗組員と契約する費用も含まれる。また、ESDによる麻薬対策活動を支援するため、議会への資金拠出要求や、USCGの母体であるU.S. Department of Homeland Securityからの運営資金にも反映させるべきである。そして、海軍作戦部長は、「モントフォード・ポイント」と「ジョン・グレン」の両方を復帰させる準備を行うよう指示すべきである。1隻は、JIATF-Sを支援するU.S. 4th Fleetの作戦と無人艦船・航空機の海上試験運用母船として、もう1隻は、カリフォルニア州サンディエゴを拠点とするSurface Development Squadron Oneに所属し、技術評価と改造を行い、最終的には重量物修理船として運用させるべきである。さらに、沿岸警備隊司令官は、海軍作戦部長と協議の上、JIATF-S のパートナー国の巡視船と沿岸警備隊高速巡視艇の洋上での維持管理を最も効果的に行えるよう、ESDの改造を提案すべきである。
(8) 中国が近代的な太平洋戦争を戦い抜く自信を深めている今、U.S. Navyにはそのような戦争を抑止するための選択肢がほとんど残されていない。したがって、既存の艦隊を前方で戦わせ続けることは、戦闘で損傷した軍艦を紛争の近くで修理できるようにすることを意味する。同時に、米国は麻薬カルテルによって引き起こされた国家的危機に直面しており、彼らと戦うために使用される方法は、太平洋における戦時作戦を支援することにもなる。具体的には、ドローン母船を偵察や護衛の役割に使うということである。U.S. Navy 、USCG、そして国家は、一刻も早くESDを現役復帰させることで、十分な恩恵を受けることができる。
記事参照:Navy Inactive Fleet Has Life Still: Expeditionary Transfer Docks Should Be Returned to Service
(1) U.S. Navyは中国との太平洋での戦争の可能性に直面しているが、その準備はできていない。同時に、米国は麻薬カルテルの襲撃を受けており、U.S. NavyとU.S. Coast Guard(以下、USCGと言う)はその流れを食い止めることができていない。しかし、U.S. Navyの非稼働中の艦隊には、この問題を解決できる可能性がある。それは2隻の遠征移送ドック船(以下、ESDと言う)を現役復帰させ、これを運用することである。すなわち、USNS「モントフォード・ポイント」(ESD-1)をU.S. Southern Command担任地域における海上麻薬対策活動を支援する母艦として運用するとともにUSCGとU.S. Navyの中部太平洋地域での活動の支援にあたらせ、USNS「ジョン・グレン」(ESD-2)を大規模な太平洋での戦争で重要となるさまざまな派遣軍艦の修理艦として運用することである。
(2) 非稼働状態の「モントフォード・ポイント」と「ジョン・グレン」は、5日以内に現役復帰できることになっているが、現実的には45日を要する。両艦は現在、Military Sealift Commandによって管理され、「モントフォード・ポイント」はバージニア州ノーフォーク海軍基地に、「ジョン・グレン」はカリフォルニア州オークランドに係留されている。両艦は、アラスカ級原油運搬船をベースにして2011年に建造され、海上から陸上への大規模な後方支援を実施し、海上に前方展開した海軍部隊を維持するために設計された。
(3) 2023年海軍会議WESTで、U.S. Pacific Fleet司令官Samuel Paparo大将(当時、現U.S. Indo-Pacific Command司令官)は、戦場で損傷した軍艦を戦線の近くで修理する能力を求めた。Samuel Paparo大将の構想には、損傷を受けた艦船に対して迅速な修理を行うことのできる技術者チームとその装備が含まれている。しかし、クレーン、鉄板、浮体式乾ドックなどの施設がなければ、戦闘による大規模な損傷を修復することは難しい。これらのニーズを満たすには、新しい浮体式乾ドックか、近代的な重量物運搬船が必要である。
(4) 2000年10月30日、駆逐艦「コール」がイエメンのアデン港で攻撃を受けたとき、乗員の努力のみで、応急的な修理に必要な時間、船を浮かせておいた。そして、米国の造船所での大規模な修理のために、オランダの大型輸送船を契約して、何千マイルも輸送されなければならなかった。しかし、重量物運搬船は、損傷した軍艦を海中から吊り上げる能力に加えて、修理のために安全な海域に移動させる機動性も備えている。中国人民解放軍海軍はすでに、前方に配備された修理ドックとして機能する「飲馬湖」のような重量物修理船を保有している。
(5) 米国にとってのもう1つの危険は、国内に押し寄せる違法薬物の氾濫である。麻薬フェンタニルは、2022年だけで73,000人の米人を死に至らしめた。この取引を断ち切るにはこの違法取引の背後にいるカルテルを廃業させなければならない。フロリダ州キーウェストを拠点とするJoint Interagency Task Force South(以下、JIATF-Sと言う)は、数十年にわたり、カルテルによるコカイン輸送を断ち切るための地域連合を成功させてきた。全取り締まりの80%に直接貢献し、提携諸国の努力を活用することで前進はしているが、資源が限られているため、推定コカイン輸送量の10%程度しか取り締まりはできていない。
(6) 効果的な対麻薬海上作戦を可能にするには、海上に部隊を維持し、広域を認識できるようにする必要がある。JIATF-Sはこの点で、海洋調査船「ケリー・シュエスト」と契約することで、ささやかな改善を達成することができた。この船からの限定的な補給と監視は、多国間の対麻薬活動の維持に役立っている。近年、U.S. NavyとUSCGは、広域の海域を常時監視する無人艦船、航空機を開発した。それは、セイルドローン(Saildrone)、スキャンイーグル(ScanEagle)、またはU.S. navyの無人水上艦艇などであり、これらがESDから運用されれば、洋上での持続的なセンサーにより、その覆域が大幅に強化される。さらに、ESDの修理、再補給、給油能力を活用することで、多くの提携国の哨戒艦艇の海上で阻止活動やコカインなどの禁制品を破壊する能力を向上させ、陸上へ輸送を防止できる。つまり、ESDが無人哨戒船の母船として機能することで、違法漁業や麻薬取引などの活動に対する海上取り締まりの効果を大幅に高めることが可能になるのである。
(7) 海軍長官は、「モントフォード・ポイント」と「ジョン・グレン」を現役復帰させるために必要な費用の見積もりを提出するよう、Military Sealift Commandに指示すべきである。この見積もりには、ESDを運用・維持するために民間乗組員と契約する費用も含まれる。また、ESDによる麻薬対策活動を支援するため、議会への資金拠出要求や、USCGの母体であるU.S. Department of Homeland Securityからの運営資金にも反映させるべきである。そして、海軍作戦部長は、「モントフォード・ポイント」と「ジョン・グレン」の両方を復帰させる準備を行うよう指示すべきである。1隻は、JIATF-Sを支援するU.S. 4th Fleetの作戦と無人艦船・航空機の海上試験運用母船として、もう1隻は、カリフォルニア州サンディエゴを拠点とするSurface Development Squadron Oneに所属し、技術評価と改造を行い、最終的には重量物修理船として運用させるべきである。さらに、沿岸警備隊司令官は、海軍作戦部長と協議の上、JIATF-S のパートナー国の巡視船と沿岸警備隊高速巡視艇の洋上での維持管理を最も効果的に行えるよう、ESDの改造を提案すべきである。
(8) 中国が近代的な太平洋戦争を戦い抜く自信を深めている今、U.S. Navyにはそのような戦争を抑止するための選択肢がほとんど残されていない。したがって、既存の艦隊を前方で戦わせ続けることは、戦闘で損傷した軍艦を紛争の近くで修理できるようにすることを意味する。同時に、米国は麻薬カルテルによって引き起こされた国家的危機に直面しており、彼らと戦うために使用される方法は、太平洋における戦時作戦を支援することにもなる。具体的には、ドローン母船を偵察や護衛の役割に使うということである。U.S. Navy 、USCG、そして国家は、一刻も早くESDを現役復帰させることで、十分な恩恵を受けることができる。
記事参照:Navy Inactive Fleet Has Life Still: Expeditionary Transfer Docks Should Be Returned to Service
5月30日「過去10年間のインド海洋外交の変遷―インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, May 30, 2024)
5月30日付のインドのシンクタンクVivekananda International Foundation (VIF)のウエブサイトのウエブサイトは、インド退役海軍少将Satish Soniの “Evolution of India’s Maritime Diplomacy Over the Last Ten Years”と題する論説を掲載し、ここでSatish Soniは過去10年間、Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)が近隣国との海上での協力、各国の海軍との協力を強化することによって、不安定な地政学的環境の中でインドの軍事外交は重要な貢献を始めているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2015年3月12日、Narendra Modi首相は、Mauritius Police Force-National Coast Guard(モーリシャス国家沿岸警備隊)のためにインドのコルカタ造船所で建造した哨戒艦「バラクーダ」の就役に際し、インド洋沿岸地域への寄港を約束し、「われわれは、SAGAR(Security and Growth for All in the Region、地域のすべての人のための安全保障と成長)の名に恥じないインド洋の未来を模索している」と述べている。彼の構想は「インド海洋戦略-2015」と一致している。Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)は近年、「近隣優先」、「ルックウェスト」、「アクトイースト」政策と並行して、「海洋外交」に弾みをつけており、海軍が脅威に対抗し、協力的な海上関与によって課題に対処するためのより広範な海洋環境を構築するための主要な役割を模索している。過去10年間、インド海軍は、海上での協力を強化するだけでなく、インドをこの地域の「優先的な安全保障上の提携国(Preferred Security Partner)」および「第1対応者(First Responder)」として位置付けるための多くの取り組みを開始することにより、この地域への関与を飛躍的に拡大させた。
(2) 2016年2月にインド東岸の港湾都市ヴィシャカパトナムで開催された国際観艦式は、インド海軍の力を披露すると同時に、世界中の海軍をインドに集めた。国際観艦式16には48ヵ国の海軍が参加し、23人の海軍参謀総長、24隻の外国艦艇、25人の代表団長が参加した。「海を通じた団結」をテーマにした国際観艦式に外国がこれほど多数参加したことは、インドが周辺海域で平和と静けさを育む上で主導的な役割を果たすことを他の国々が受け入れることを示している。2024年2月21日には、インドは第12回多国間演習「MILAN」を主催し、47ヵ国の代表者が参加した。「友情(Camaraderie)-結束(Cohesion)-協力(Collaboration)」をモットーとするこの演習は、国際海事協力の不朽の精神を象徴していた。この演習は、首相のSAGAR構想に明記された平和と繁栄という共通の目標を達成するために、地域の相乗効果を確立するために海洋国家を結集させた。2018年12月22日、インドはグルグラムにInformation Fusion Centre - Indian Ocean Region(インド太平洋地域情報融合センター)を創設した。このセンターは、50の海事機関および25ヵ国と協力し、重要な情報を照合して広めることにより、海上の安全と安全の保障を向上させることを使命としている。13名の国際的な連絡士官が勤務しており、この取り組みを真に国際的なものにしている。同センターは2023年だけでも、密輸、人身売買、違法漁業、海賊・武装強盗に関連する3,955件の事件を調査している。このような高い水準の戦略的相互作用は、海洋環境を我々に有利にすることに役立っている。
(3) インド海軍は最先端の訓練基幹施設を有しており、これらの施設を小規模な海軍に提供して、能力開発を支援している。これらの相互作用は、海洋問題に関する共通の理解を促進し、関係を強化し、相互運用性を高め、より広範な協力を可能にする。過去10年間、毎年平均1,000人の海軍の要員がインドの海軍施設で訓練を受けてきた。インドはまた、艦艇、航空機、その他の装備品を供与することにより、小規模な海軍の能力構築に貢献している。また、インドの造船所は、受取国の海軍の所要に応じて新しい艦艇を建造している。これらの艦艇には、技術的な助言、修理、改修、専従者の専門知識の開発などの保守整備の支援
を行っている。
(4) インドはインド洋を主要な関心地域と見なしており、海軍はインド洋地域の重要なチョークポイントと海上交通路周辺に展開し、監視任務のために船舶、航空機、無人航空機(UAV)を配備している。2017年8月以降、インド海軍の展開は任務を基礎とした展開方針の下でより適切に組織化されている。インド海軍の艦艇は、海上の状況の変化に対応するために、インド洋の7つの個別の海域に常に配備されている。海賊によるハイジャック、密輸、麻薬、人身売買、捜索救難(SAR)、人道支援・災害救援(HA/DR)の試みなどは、海上での法執行のための海軍能力が限られている国にとって歓迎すべき援助となっている。2023年10月にイスラエル・ハマス紛争が勃発し、インド洋西部で海賊行為が復活して以来、インド海軍は海洋安全保障のために積極的に展開し、貨物を安全に護衛してきた。インド海軍は1,000回以上の立ち入り検査を行い、62人の海賊を逮捕した。アデン湾地域におけるインド海軍の継続的な作戦努力により、80人以上のインド人と200人以上の外国人を含む288人以上の命が救われた。沿岸国は、水路測量、捜索救難(SAR)、重要物資の海上輸送、EEZの監視などの特定の要件に対応するために、インドに海洋における支援を要請することが多く、インド海軍は常に積極的に支援を提供している。このような交流は、隣人からの信頼と常に救いの手を差し伸べるという我々の誓約を示している。
(5) 不安定な地政学的環境の中で、インド海軍を原動力とするインドの軍事外交が重要な貢献をし始めている。積極的で安心感のあるインド海軍の存在は、インドとその海洋近隣諸国が「ブルーエコノミー」の配当を活用し、経済を発展させることに役立っている。この10年間は、我々が身の回りの海域にどのように対応するかの選択が変化しているのを目の当たりにしている。インドは抑制を脱ぎ捨て、持続的な努力により、この地域における責任ある有能な海洋大国としての地位を確立することができた。
記事参照:Evolution of India’s Maritime Diplomacy Over the Last Ten Years
(1) 2015年3月12日、Narendra Modi首相は、Mauritius Police Force-National Coast Guard(モーリシャス国家沿岸警備隊)のためにインドのコルカタ造船所で建造した哨戒艦「バラクーダ」の就役に際し、インド洋沿岸地域への寄港を約束し、「われわれは、SAGAR(Security and Growth for All in the Region、地域のすべての人のための安全保障と成長)の名に恥じないインド洋の未来を模索している」と述べている。彼の構想は「インド海洋戦略-2015」と一致している。Bhāratiya Nau Sena(以下、インド海軍と言う)は近年、「近隣優先」、「ルックウェスト」、「アクトイースト」政策と並行して、「海洋外交」に弾みをつけており、海軍が脅威に対抗し、協力的な海上関与によって課題に対処するためのより広範な海洋環境を構築するための主要な役割を模索している。過去10年間、インド海軍は、海上での協力を強化するだけでなく、インドをこの地域の「優先的な安全保障上の提携国(Preferred Security Partner)」および「第1対応者(First Responder)」として位置付けるための多くの取り組みを開始することにより、この地域への関与を飛躍的に拡大させた。
(2) 2016年2月にインド東岸の港湾都市ヴィシャカパトナムで開催された国際観艦式は、インド海軍の力を披露すると同時に、世界中の海軍をインドに集めた。国際観艦式16には48ヵ国の海軍が参加し、23人の海軍参謀総長、24隻の外国艦艇、25人の代表団長が参加した。「海を通じた団結」をテーマにした国際観艦式に外国がこれほど多数参加したことは、インドが周辺海域で平和と静けさを育む上で主導的な役割を果たすことを他の国々が受け入れることを示している。2024年2月21日には、インドは第12回多国間演習「MILAN」を主催し、47ヵ国の代表者が参加した。「友情(Camaraderie)-結束(Cohesion)-協力(Collaboration)」をモットーとするこの演習は、国際海事協力の不朽の精神を象徴していた。この演習は、首相のSAGAR構想に明記された平和と繁栄という共通の目標を達成するために、地域の相乗効果を確立するために海洋国家を結集させた。2018年12月22日、インドはグルグラムにInformation Fusion Centre - Indian Ocean Region(インド太平洋地域情報融合センター)を創設した。このセンターは、50の海事機関および25ヵ国と協力し、重要な情報を照合して広めることにより、海上の安全と安全の保障を向上させることを使命としている。13名の国際的な連絡士官が勤務しており、この取り組みを真に国際的なものにしている。同センターは2023年だけでも、密輸、人身売買、違法漁業、海賊・武装強盗に関連する3,955件の事件を調査している。このような高い水準の戦略的相互作用は、海洋環境を我々に有利にすることに役立っている。
(3) インド海軍は最先端の訓練基幹施設を有しており、これらの施設を小規模な海軍に提供して、能力開発を支援している。これらの相互作用は、海洋問題に関する共通の理解を促進し、関係を強化し、相互運用性を高め、より広範な協力を可能にする。過去10年間、毎年平均1,000人の海軍の要員がインドの海軍施設で訓練を受けてきた。インドはまた、艦艇、航空機、その他の装備品を供与することにより、小規模な海軍の能力構築に貢献している。また、インドの造船所は、受取国の海軍の所要に応じて新しい艦艇を建造している。これらの艦艇には、技術的な助言、修理、改修、専従者の専門知識の開発などの保守整備の支援
を行っている。
(4) インドはインド洋を主要な関心地域と見なしており、海軍はインド洋地域の重要なチョークポイントと海上交通路周辺に展開し、監視任務のために船舶、航空機、無人航空機(UAV)を配備している。2017年8月以降、インド海軍の展開は任務を基礎とした展開方針の下でより適切に組織化されている。インド海軍の艦艇は、海上の状況の変化に対応するために、インド洋の7つの個別の海域に常に配備されている。海賊によるハイジャック、密輸、麻薬、人身売買、捜索救難(SAR)、人道支援・災害救援(HA/DR)の試みなどは、海上での法執行のための海軍能力が限られている国にとって歓迎すべき援助となっている。2023年10月にイスラエル・ハマス紛争が勃発し、インド洋西部で海賊行為が復活して以来、インド海軍は海洋安全保障のために積極的に展開し、貨物を安全に護衛してきた。インド海軍は1,000回以上の立ち入り検査を行い、62人の海賊を逮捕した。アデン湾地域におけるインド海軍の継続的な作戦努力により、80人以上のインド人と200人以上の外国人を含む288人以上の命が救われた。沿岸国は、水路測量、捜索救難(SAR)、重要物資の海上輸送、EEZの監視などの特定の要件に対応するために、インドに海洋における支援を要請することが多く、インド海軍は常に積極的に支援を提供している。このような交流は、隣人からの信頼と常に救いの手を差し伸べるという我々の誓約を示している。
(5) 不安定な地政学的環境の中で、インド海軍を原動力とするインドの軍事外交が重要な貢献をし始めている。積極的で安心感のあるインド海軍の存在は、インドとその海洋近隣諸国が「ブルーエコノミー」の配当を活用し、経済を発展させることに役立っている。この10年間は、我々が身の回りの海域にどのように対応するかの選択が変化しているのを目の当たりにしている。インドは抑制を脱ぎ捨て、持続的な努力により、この地域における責任ある有能な海洋大国としての地位を確立することができた。
記事参照:Evolution of India’s Maritime Diplomacy Over the Last Ten Years
5月30日「中国の姿勢がフィリピンを米国寄りにしている―日本安全保障専門家論説」(Think China, May 30, 2024)
5月30日付のシンガポールの英字eマガジンThink China は、防衛省防衛研究所理論研究部長の飯田将史の“Japanese academic: China has pushed the Philippines to the US’s side”と題する論説を掲載し、そこで飯田将史は最近フィリピンが日米などアジア・太平洋の国々との連携を強化している背景に、中国が南シナ海などでフィリピンへの圧力を強めていることがあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年4月に岸田首相が国賓として米国を訪問し、Biden大統領と会談した。議論の焦点は、「自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)」構想の推進である。その中で、両者はこの試みに他の提携国を加えることで合意した。同時期に日米比首脳会談が実施されたのは、この文脈においてである。3者は共同声明を発し、FOIPの推進と、国際法に基づく国際秩序の維持という構想を共有した。
(2) 日米がFOIPを推進するのはこれまでどおりだが、そのための多国間枠組みにフィリピンが参加したのは重大な出来事である。これまで日米は、QUADや日米間枠組みなどを創設し、中国の攻勢に対抗してきた。しかし東南アジア諸国はこれまで、FOIP構想実現のための枠組みに参加したことはなかったのである。
(3) 日米比首脳共同声明は、中国が南シナ海においてフィリピンに対する圧力を強めていることに深刻な懸念を表明し、また、中国が東シナ海において、尖閣諸島などをめぐり、武力や威圧を通じて一方的な現状変更を試みていることについても批判を表明した。南シナ海は戦略的に重要な海域であり、中国が現状変更の試みを進めている場所でもある。日米がフィリピンとの間で安全保障協力を深めることができれば、中国の行動に対する抑止力強化につながるだろう。
(4) そこで日米比首脳共同声明は、3ヵ国間の海洋安全保障協力の推進を強調した。沿岸警備隊の船舶をはじめとする重要な資産の供給や、共同演習の実施を通じたPhilippine Coast Guardの行動能力強化を目指すものである。さらにフィリピンの防衛力を近代化するための指針も発表された。
(5) 2024年5月には、日米豪比の防衛大臣級会談がハワイで実施され、南シナ海における中国の海警総隊や海上民兵の危険な利用に異議を唱えた。そして、持続的な海洋協力の重要性と情報共有を促進する手段の強化を目指すことが確認された。
(6) 米国とフィリピンを含めた同盟国の協力の深まりにより、東アジアにおけるU.S. Armed Forcesの展開は向上する。フィリピンのMarcos Jr.政権は、米国との防衛協力強化協定により、米軍が利用可能なフィリピンの基地を5基地から9基地に増やした。またフィリピンは日本と円滑化協定の交渉を加速させている。それにより自衛隊とArmed Forces of the Philippinesとの間の協力が深まるだろう。
(7) Duterte前政権は中国に対する宥和的姿勢を維持し、U.S. Armed Forcesとの安全保障協力を渋ってきた。Duterte政権からMarcos Jr.政権に代わり、フィリピンは国家主権と国際規範の遵守を強調するようになった。そして、FOIP実現のための多国間枠組みに、東南アジアの国として初めて加わることになったのである。フィリピンの方針転換をもたらしたのは、南シナ海における中国の攻撃的行動の激化である。この意味で中国は重大な戦略的過ちを犯している。
記事参照:Japanese academic: China has pushed the Philippines to the US’s side
(1) 2024年4月に岸田首相が国賓として米国を訪問し、Biden大統領と会談した。議論の焦点は、「自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)」構想の推進である。その中で、両者はこの試みに他の提携国を加えることで合意した。同時期に日米比首脳会談が実施されたのは、この文脈においてである。3者は共同声明を発し、FOIPの推進と、国際法に基づく国際秩序の維持という構想を共有した。
(2) 日米がFOIPを推進するのはこれまでどおりだが、そのための多国間枠組みにフィリピンが参加したのは重大な出来事である。これまで日米は、QUADや日米間枠組みなどを創設し、中国の攻勢に対抗してきた。しかし東南アジア諸国はこれまで、FOIP構想実現のための枠組みに参加したことはなかったのである。
(3) 日米比首脳共同声明は、中国が南シナ海においてフィリピンに対する圧力を強めていることに深刻な懸念を表明し、また、中国が東シナ海において、尖閣諸島などをめぐり、武力や威圧を通じて一方的な現状変更を試みていることについても批判を表明した。南シナ海は戦略的に重要な海域であり、中国が現状変更の試みを進めている場所でもある。日米がフィリピンとの間で安全保障協力を深めることができれば、中国の行動に対する抑止力強化につながるだろう。
(4) そこで日米比首脳共同声明は、3ヵ国間の海洋安全保障協力の推進を強調した。沿岸警備隊の船舶をはじめとする重要な資産の供給や、共同演習の実施を通じたPhilippine Coast Guardの行動能力強化を目指すものである。さらにフィリピンの防衛力を近代化するための指針も発表された。
(5) 2024年5月には、日米豪比の防衛大臣級会談がハワイで実施され、南シナ海における中国の海警総隊や海上民兵の危険な利用に異議を唱えた。そして、持続的な海洋協力の重要性と情報共有を促進する手段の強化を目指すことが確認された。
(6) 米国とフィリピンを含めた同盟国の協力の深まりにより、東アジアにおけるU.S. Armed Forcesの展開は向上する。フィリピンのMarcos Jr.政権は、米国との防衛協力強化協定により、米軍が利用可能なフィリピンの基地を5基地から9基地に増やした。またフィリピンは日本と円滑化協定の交渉を加速させている。それにより自衛隊とArmed Forces of the Philippinesとの間の協力が深まるだろう。
(7) Duterte前政権は中国に対する宥和的姿勢を維持し、U.S. Armed Forcesとの安全保障協力を渋ってきた。Duterte政権からMarcos Jr.政権に代わり、フィリピンは国家主権と国際規範の遵守を強調するようになった。そして、FOIP実現のための多国間枠組みに、東南アジアの国として初めて加わることになったのである。フィリピンの方針転換をもたらしたのは、南シナ海における中国の攻撃的行動の激化である。この意味で中国は重大な戦略的過ちを犯している。
記事参照:Japanese academic: China has pushed the Philippines to the US’s side
5月31日「中国のシンクタンクがベトナムとインドネシアを批判した理由―香港紙報道」(South China Morning Post, May 31, 2024)
5月31日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Why Chinese think tanks’ South China Sea reports targeting Vietnam, Indonesia will only escalate tensions”と題する記事を掲載し、中国のシンクタンクがベトナムとインドネシアをわざわざ批判したのは、南シナ海における対立の責任を押し付けるためだとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国のシンクタンクが最近発表した2つの報告書は、南シナ海をめぐりベトナムとインドネシアを標的にしており、中国とフィリピンの海洋における衝突に続き、この海域での紛争が拡大する可能性を反映している。
(2) 中国シンクタンク国観智庫は5月14日付の報告書で、南シナ海におけるベトナムの埋め立ては、この地域の紛争を「複雑化・拡大」させる可能性があると警告した。この報告書は、ベトナムがこの地域においてそれ以前の40年間で行った埋め立てより多くの土地を過去3年間に埋め立てたと指摘している。近年、ベトナムは大規模な浚渫と埋め立て作業に着手し、元々0.7km2であった島礁を3 km2の土地へとのと数倍に拡大していると報告書の筆者である劉暁博は述べている。
(3) 中国現代国際関係研究院が5月23日に発表した2つ目の報告書は、南シナ海での潜在的な衝突はインドネシアと中国の関係を試す可能性があると述べた。中国現代国際関係研究院東南亜和大洋洲研究所副所長の駱永昆は、「劇的な地政学的変化」の最中で、インドネシア政府が北京との友好関係を維持するには「卓越した政治的知恵」が必要だと警告した。
(4) この2つの報告書は、中国とフィリピンの数か月にわたる小競り合いに続くもので、フィリピン政府は5月の第5週、中国政府による南シナ海での一方的な漁業禁止措置に抗議している。最初の報告書にあるベトナムの埋め立ての規模は、日本の防衛省による3月の報告書で強調された、ほぼ10年前に紛争海域で少なくとも12.9km2に及んだ中国の埋め立てと比較すると、見劣りする。インドネシアの場合、南シナ海で紛争が発生したとしても、インドネシア政府がこの海域における海洋の領有権を主張していないため、特別視される理由はないはずである。インドネシアは、東南アジア最大の経済と人口を有するにもかかわらず、中国とASEANの関係悪化や地域秩序の崩壊の矢面に立つべきではない。
(5) 中国のシンクタンクは、伝統的に北京の路線に従い、政府の立場を反映してきた。これらの報告書は、時機が悪いだけでなく、不必要にベトナムとインドネシアを標的にし、南シナ海の緊張の高まりの責任をベトナム政府とインドネシア政府に押し付けているようにさえ見える。
(6) 現在、係争中の海域で中国とフィリピンの間で小競り合いが起きていることを考えれば、緊張を緩和する最善の方法は、海洋で注意を払い、局外の国々が中国とフィリピンに外交的に関与することだろう。ベトナムやインドネシアといった他の当事国を特別視するのは、南シナ海で繰り広げられている海洋での対立、さらには騒動から注意をそらすための試みに過ぎず、中国が果たしている実質的な役割を見過ごすべきではない。
記事参照:Why Chinese think tanks’ South China Sea reports targeting Vietnam, Indonesia will only escalate tensions
(1) 中国のシンクタンクが最近発表した2つの報告書は、南シナ海をめぐりベトナムとインドネシアを標的にしており、中国とフィリピンの海洋における衝突に続き、この海域での紛争が拡大する可能性を反映している。
(2) 中国シンクタンク国観智庫は5月14日付の報告書で、南シナ海におけるベトナムの埋め立ては、この地域の紛争を「複雑化・拡大」させる可能性があると警告した。この報告書は、ベトナムがこの地域においてそれ以前の40年間で行った埋め立てより多くの土地を過去3年間に埋め立てたと指摘している。近年、ベトナムは大規模な浚渫と埋め立て作業に着手し、元々0.7km2であった島礁を3 km2の土地へとのと数倍に拡大していると報告書の筆者である劉暁博は述べている。
(3) 中国現代国際関係研究院が5月23日に発表した2つ目の報告書は、南シナ海での潜在的な衝突はインドネシアと中国の関係を試す可能性があると述べた。中国現代国際関係研究院東南亜和大洋洲研究所副所長の駱永昆は、「劇的な地政学的変化」の最中で、インドネシア政府が北京との友好関係を維持するには「卓越した政治的知恵」が必要だと警告した。
(4) この2つの報告書は、中国とフィリピンの数か月にわたる小競り合いに続くもので、フィリピン政府は5月の第5週、中国政府による南シナ海での一方的な漁業禁止措置に抗議している。最初の報告書にあるベトナムの埋め立ての規模は、日本の防衛省による3月の報告書で強調された、ほぼ10年前に紛争海域で少なくとも12.9km2に及んだ中国の埋め立てと比較すると、見劣りする。インドネシアの場合、南シナ海で紛争が発生したとしても、インドネシア政府がこの海域における海洋の領有権を主張していないため、特別視される理由はないはずである。インドネシアは、東南アジア最大の経済と人口を有するにもかかわらず、中国とASEANの関係悪化や地域秩序の崩壊の矢面に立つべきではない。
(5) 中国のシンクタンクは、伝統的に北京の路線に従い、政府の立場を反映してきた。これらの報告書は、時機が悪いだけでなく、不必要にベトナムとインドネシアを標的にし、南シナ海の緊張の高まりの責任をベトナム政府とインドネシア政府に押し付けているようにさえ見える。
(6) 現在、係争中の海域で中国とフィリピンの間で小競り合いが起きていることを考えれば、緊張を緩和する最善の方法は、海洋で注意を払い、局外の国々が中国とフィリピンに外交的に関与することだろう。ベトナムやインドネシアといった他の当事国を特別視するのは、南シナ海で繰り広げられている海洋での対立、さらには騒動から注意をそらすための試みに過ぎず、中国が果たしている実質的な役割を見過ごすべきではない。
記事参照:Why Chinese think tanks’ South China Sea reports targeting Vietnam, Indonesia will only escalate tensions
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) GRAND STRATEGY: GEOGRAPHY
https://www.defensepriorities.org/explainers/grand-strategy-geography/
Defense Priorities, May 23, 2024
By Christopher McCallion, a fellow at Defense Priorities
2024年5月23日、米対外政策関連シンクタンクDefense Priorities研究員Christopher McCallionは、同シンクタンクのウエブサイトに" GRAND STRATEGY: GEOGRAPHY "と題する論説を寄稿した。その中でChristopher McCallionは、「地理的制約」という考え方を提示し、距離は防御を有利にし、攻撃の対価を増加させるが、米国はその地理によって他国の攻撃から守られているのと同時に、この地理的距離と軍事技術の発展により、米国が遠隔地で力を投射することが難しくなっていると指摘している。そしてChristopher McCallionは、しかし、これらの条件は、競争相手が地域覇権を追求し攻撃的になることも難しくし、米国の安全保障上の脅威を減少させているのだから、米国は遠隔地での軍事的関与を減らし、ユーラシア大陸の均衡を維持するためその沖合で均衡を取る行動を行う戦略を採用すべきであると主張している。
(2) COAST ARTILLERY REIMAGINED: THE MID-RANGE CAPABILITY’S FIRST DEPLOYMENT TO THE INDO-PACIFIC
https://mwi.westpoint.edu/coast-artillery-reimagined-the-mid-range-capabilitys-first-deployment-to-the-indo-pacific/
Modern War Institute, U.S. Military Academy, May 24, 2024
By Lieutenant Colonel Ben Blane is a field artillery officer and commands the Army’s first long-range fires battalion as part of the 1st Multi-Domain Task Force at Joint Base Lewis-McChord, Washington.
Captain Ryan DeBooy is the public affairs officer for the 1st Multi-Domain Task Force at Joint Base Lewis-McChord, Washington.
2024年5月24日、Ben Blane米陸軍中佐とRyan DeBooy米陸軍大尉は、US Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに、“COAST ARTILLERY REIMAGINED: THE MID-RANGE CAPABILITY’S FIRST DEPLOYMENT TO THE INDO-PACIFIC”と題する論説を寄稿した。その中で、①2016年、Harry Harris米海軍大将は、Association of the United States Armyの年次会議において、将来の太平洋での戦いで適切な役割を果たすためには、陸軍に4つのことができるようになる必要があると述べた。②つまり、陸軍は「艦艇を沈め、衛星を無力化し、ミサイルを撃ち落とし、敵の指揮統制能力を自由にさせない」ことができなければならない。③当時、U.S. Armyは艦艇撃沈以外の3つの任務を遂行する能力を持っていた。④2024年4月、米C砲兵部隊とフィリピン政府、Armed Forces of the Philippines、統合軍、陸軍近代化事業の支援機関の総力を結集し、Mid-Range Capability(以下、MRCと言う)ミサイル・システムがルソン島北部に引き渡された。⑤陸軍は射程距離を伸ばすにつれて、より広範囲で、より持続的に探知する能力も高めなければならない。⑥「バリカタン24」の期間中、演習想定全体を通じて通信、探知、照準システムを結合し、統合能力を高めた。⑦高機動ロケット砲システム(以下、HIMARSと言う)の海洋照準能力を備えた将来の精密打撃ミサイルの導入に先立ち、こうした事前訓練は、実弾発射訓練を成功させるために不可欠な人的、技術的、手続き的相互運用性の進展に役立っている。⑧現在のMRCの海洋目標攻撃能力と将来のHIMARS海洋打撃技術は、Extended Range Sensing and Effects中隊の有機的なディープ・センシングと組み合わされることで、艦艇撃沈を可能にする補完的な能力となる。⑨これらの新システムと編隊は、後にJoint Pacific Multinational Readiness Centerの訓練に参加することになるが、これもU.S. Army Pacificのもう1つの特徴的な取り組みであり、自由な発想を持つ敵対者と包括的なシナリオによる訓練を強化するものであるといった主張を述べている。
(3) BRITAIN’S STRANGE DEFEAT: THE 1941 FALL OF CRETE AND ITS LESSONS FOR TAIWAN
https://warontherocks.com/2024/05/britains-strange-defeat-the-1941-fall-of-crete-and-its-lessons-for-taiwan/
War on the Rocks, May 28, 2024
By Iskander Rehman is the Senior Fellow for Strategic Studies at the American Foreign Policy Council, and an Axson Johnson Fellow at the Kissinger Center.
2024年5月28日、米シンクタンクAmerican Foreign Policy Councilの上席研究員Iskander Rehmanは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" BRITAIN’S STRANGE DEFEAT: THE 1941 FALL OF CRETE AND ITS LESSONS FOR TAIWAN "と題する論説を寄稿した。その中でIskander Rehmanは、1941年5月20日、ドイツ軍はクレタ島に空挺攻撃を開始したが、同島の防衛を指揮していた英国軍のFreyberg将軍が海からの侵攻を重視し、空襲の脅威を軽視していたため、ドイツ軍は戦略的な飛行場を確保し、空中補給を受けつつ島を完全に制圧することが出来たなどと過去の戦争における失敗を紹介している。その上でIskander Rehmanは、この敗北は英国の士気に大きな打撃を与えたが、その教訓は現代の台湾防衛戦略において重要であり、中国の空軍力の役割、迅速な対応と通信網の重要性、地理的優位性の挑戦が強調されると同時に、台湾防衛のための多層的で機動性の高い防空網構築が必要であることを示していると指摘している。
(4) DEPARTING FROM ISOLATIONISM: JAPAN’S EMERGENCE AS A REGIONAL SECURITY ACTOR
https://www.9dashline.com/article/departing-from-isolationism-japans-emergence-as-a-regional-security-actor
9Dashline, May 30, 2024
By Dr Lionel Fatton, an Assistant Professor of International Relations and Program Head of the BA in IR at Webster Geneva Campus and a Research Collaborator at the Research Institute for the History of Global Arms Transfer, Meiji University
2024年5月30日、米Webster University准教授で明治大学国際武器移転史研究所海外研究協力者であるLionel Fattonは、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineに“DEPARTING FROM ISOLATIONISM: JAPAN’S EMERGENCE AS A REGIONAL SECURITY ACTOR”と題する論説を寄稿した。その中でLionel Fattonは、日本は2022年に新たな安全保障文書を発表し、防衛予算を増額し、反撃能力を強化するなどの重要な決定を下したが、これにより、日本は地域安全保障上の行為者としての役割を強化し、1945年以来の相対的な孤立主義から脱却しつつあると指摘している。その上でLionel Fattonは、中国の経済成長と軍事的近代化に対抗するため、米国との安全保障協力を深め、台湾海峡における紛争の可能性を低減しようとしているが、日本は地域の安全保障の力学に積極的に関与し、中国の戦略的計算を混乱させることで、軍事的、外交的な危機の発生を防ごうとしており、その意味でも、日本は地域の安全保障において重要な役割を果たしていると評している。
(1) GRAND STRATEGY: GEOGRAPHY
https://www.defensepriorities.org/explainers/grand-strategy-geography/
Defense Priorities, May 23, 2024
By Christopher McCallion, a fellow at Defense Priorities
2024年5月23日、米対外政策関連シンクタンクDefense Priorities研究員Christopher McCallionは、同シンクタンクのウエブサイトに" GRAND STRATEGY: GEOGRAPHY "と題する論説を寄稿した。その中でChristopher McCallionは、「地理的制約」という考え方を提示し、距離は防御を有利にし、攻撃の対価を増加させるが、米国はその地理によって他国の攻撃から守られているのと同時に、この地理的距離と軍事技術の発展により、米国が遠隔地で力を投射することが難しくなっていると指摘している。そしてChristopher McCallionは、しかし、これらの条件は、競争相手が地域覇権を追求し攻撃的になることも難しくし、米国の安全保障上の脅威を減少させているのだから、米国は遠隔地での軍事的関与を減らし、ユーラシア大陸の均衡を維持するためその沖合で均衡を取る行動を行う戦略を採用すべきであると主張している。
(2) COAST ARTILLERY REIMAGINED: THE MID-RANGE CAPABILITY’S FIRST DEPLOYMENT TO THE INDO-PACIFIC
https://mwi.westpoint.edu/coast-artillery-reimagined-the-mid-range-capabilitys-first-deployment-to-the-indo-pacific/
Modern War Institute, U.S. Military Academy, May 24, 2024
By Lieutenant Colonel Ben Blane is a field artillery officer and commands the Army’s first long-range fires battalion as part of the 1st Multi-Domain Task Force at Joint Base Lewis-McChord, Washington.
Captain Ryan DeBooy is the public affairs officer for the 1st Multi-Domain Task Force at Joint Base Lewis-McChord, Washington.
2024年5月24日、Ben Blane米陸軍中佐とRyan DeBooy米陸軍大尉は、US Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに、“COAST ARTILLERY REIMAGINED: THE MID-RANGE CAPABILITY’S FIRST DEPLOYMENT TO THE INDO-PACIFIC”と題する論説を寄稿した。その中で、①2016年、Harry Harris米海軍大将は、Association of the United States Armyの年次会議において、将来の太平洋での戦いで適切な役割を果たすためには、陸軍に4つのことができるようになる必要があると述べた。②つまり、陸軍は「艦艇を沈め、衛星を無力化し、ミサイルを撃ち落とし、敵の指揮統制能力を自由にさせない」ことができなければならない。③当時、U.S. Armyは艦艇撃沈以外の3つの任務を遂行する能力を持っていた。④2024年4月、米C砲兵部隊とフィリピン政府、Armed Forces of the Philippines、統合軍、陸軍近代化事業の支援機関の総力を結集し、Mid-Range Capability(以下、MRCと言う)ミサイル・システムがルソン島北部に引き渡された。⑤陸軍は射程距離を伸ばすにつれて、より広範囲で、より持続的に探知する能力も高めなければならない。⑥「バリカタン24」の期間中、演習想定全体を通じて通信、探知、照準システムを結合し、統合能力を高めた。⑦高機動ロケット砲システム(以下、HIMARSと言う)の海洋照準能力を備えた将来の精密打撃ミサイルの導入に先立ち、こうした事前訓練は、実弾発射訓練を成功させるために不可欠な人的、技術的、手続き的相互運用性の進展に役立っている。⑧現在のMRCの海洋目標攻撃能力と将来のHIMARS海洋打撃技術は、Extended Range Sensing and Effects中隊の有機的なディープ・センシングと組み合わされることで、艦艇撃沈を可能にする補完的な能力となる。⑨これらの新システムと編隊は、後にJoint Pacific Multinational Readiness Centerの訓練に参加することになるが、これもU.S. Army Pacificのもう1つの特徴的な取り組みであり、自由な発想を持つ敵対者と包括的なシナリオによる訓練を強化するものであるといった主張を述べている。
(3) BRITAIN’S STRANGE DEFEAT: THE 1941 FALL OF CRETE AND ITS LESSONS FOR TAIWAN
https://warontherocks.com/2024/05/britains-strange-defeat-the-1941-fall-of-crete-and-its-lessons-for-taiwan/
War on the Rocks, May 28, 2024
By Iskander Rehman is the Senior Fellow for Strategic Studies at the American Foreign Policy Council, and an Axson Johnson Fellow at the Kissinger Center.
2024年5月28日、米シンクタンクAmerican Foreign Policy Councilの上席研究員Iskander Rehmanは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" BRITAIN’S STRANGE DEFEAT: THE 1941 FALL OF CRETE AND ITS LESSONS FOR TAIWAN "と題する論説を寄稿した。その中でIskander Rehmanは、1941年5月20日、ドイツ軍はクレタ島に空挺攻撃を開始したが、同島の防衛を指揮していた英国軍のFreyberg将軍が海からの侵攻を重視し、空襲の脅威を軽視していたため、ドイツ軍は戦略的な飛行場を確保し、空中補給を受けつつ島を完全に制圧することが出来たなどと過去の戦争における失敗を紹介している。その上でIskander Rehmanは、この敗北は英国の士気に大きな打撃を与えたが、その教訓は現代の台湾防衛戦略において重要であり、中国の空軍力の役割、迅速な対応と通信網の重要性、地理的優位性の挑戦が強調されると同時に、台湾防衛のための多層的で機動性の高い防空網構築が必要であることを示していると指摘している。
(4) DEPARTING FROM ISOLATIONISM: JAPAN’S EMERGENCE AS A REGIONAL SECURITY ACTOR
https://www.9dashline.com/article/departing-from-isolationism-japans-emergence-as-a-regional-security-actor
9Dashline, May 30, 2024
By Dr Lionel Fatton, an Assistant Professor of International Relations and Program Head of the BA in IR at Webster Geneva Campus and a Research Collaborator at the Research Institute for the History of Global Arms Transfer, Meiji University
2024年5月30日、米Webster University准教授で明治大学国際武器移転史研究所海外研究協力者であるLionel Fattonは、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineに“DEPARTING FROM ISOLATIONISM: JAPAN’S EMERGENCE AS A REGIONAL SECURITY ACTOR”と題する論説を寄稿した。その中でLionel Fattonは、日本は2022年に新たな安全保障文書を発表し、防衛予算を増額し、反撃能力を強化するなどの重要な決定を下したが、これにより、日本は地域安全保障上の行為者としての役割を強化し、1945年以来の相対的な孤立主義から脱却しつつあると指摘している。その上でLionel Fattonは、中国の経済成長と軍事的近代化に対抗するため、米国との安全保障協力を深め、台湾海峡における紛争の可能性を低減しようとしているが、日本は地域の安全保障の力学に積極的に関与し、中国の戦略的計算を混乱させることで、軍事的、外交的な危機の発生を防ごうとしており、その意味でも、日本は地域の安全保障において重要な役割を果たしていると評している。
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