海洋安全保障情報旬報 2024年4月11日-4月20日
Contents
4月12日「QUADは中国のインド洋進出にどう対応すべきか―日安全保障専門家論説」(The Diplomat, April 12, 2024)
4月12日付のデジタル誌The Diplomatは、米Hudson Institute客員研究員の長尾賢による“The Quad: Responding to China’s Moves Into the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、そこで長尾賢は中国がインド洋への進出を強めていることに対し、QUADがどのように対応すべきかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年11月、Mohamed Muizzuがモルディブ大統領になった。彼は親中国、反インドの姿勢を打ち出し、モルディブに駐留するBhāratīya Saśastra Sēnāēṃ(Indian Armed Forces:インド軍)の撤退を要求している。彼はまた2024年2月に中国船の寄港を認め、3月、中国軍代表団との間に合意覚書を交わしている。
(2) 中国のインド洋における活動が活発化している。調査船を派遣し、海図を作成しているようである。それによって潜水艦の運用が可能になるし、またインドのミサイル実験に関する情報も収集しようとしている。前述の中国軍代表団はスリランカとネパールも訪問し、軍事協力の合意を締結している。
(3) この動きは2000年代以降に勢いを増してきた流れの先に位置付けられる。中国の基幹施設への投資は、World BankやAsia Development Bankの投資額よりもずっと高い傾向がある。債務不履行になると基幹施設管理権が中国に譲渡される事例が多発している。中国はまたインド隣国への武器輸出を拡大している。バングラデシュやパキスタンには潜水艦が提供され、修理や部品供給は建造元である中国に依存することになる。さらにインド洋への艦艇配備も進めている。2008年にソマリア沖海賊の対策のために艦艇を派遣して以来、その傾向を強めている。ジブチに建設した基地を中心に配備拡大を計画している。
(4) 中国の基幹施設建設の場所を見ると、インド洋への関心の高さがわかる。つまり、上海や香港などに資源を供給する海上交通路に沿って基幹施設を建設しているのだが、それらは、マラッカ海峡を回避する代替航路である。そしてその代替航路の大半はインド洋を通航するので、その安全保障が必要だと考えているのである。
(5) しかしこれだけが理由ではない。過去の行動様式を見ると、中国は力の真空を利用する傾向がある。南シナ海が好例であり、1950年代にフランス、70年代に米国、80年代にソ連が東南アジアへの力の展開を縮小させると、中国は反対に拡大させてきた。インド洋は冷戦以降にこうした力の真空が生じている。ソ連は解体し、米国は地域における重要性を縮小し、インドは発展途上であった。その真空を中国は埋めようとしているのである。
(6) QUADは、この動きにどう対処すべきか。まず、力の真空をつくらないことが大事だが、日米に多くの艦艇をインド洋に派出する余裕はない。中国の新造艦建造速度はかなりのもので、中国人民解放軍海軍が保有する艦船の数は米海軍の艦艇保有数を上回る。したがって、最近急速に増強を進めているBhāratiya Nau Sena(Indian Navy:インド海軍)がインド洋において役割を果たすべきであろう。現在の保有艦船は140隻だが、2035年までに170隻前後まで増加が見込まれている。ただし対潜戦能力が脆弱であるので、日米豪はそれを強化するために協働し、かつ対潜戦情報共有システムを構築すべきであろう。
記事参照:The Quad: Responding to China’s Moves Into the Indian Ocean
(1) 2023年11月、Mohamed Muizzuがモルディブ大統領になった。彼は親中国、反インドの姿勢を打ち出し、モルディブに駐留するBhāratīya Saśastra Sēnāēṃ(Indian Armed Forces:インド軍)の撤退を要求している。彼はまた2024年2月に中国船の寄港を認め、3月、中国軍代表団との間に合意覚書を交わしている。
(2) 中国のインド洋における活動が活発化している。調査船を派遣し、海図を作成しているようである。それによって潜水艦の運用が可能になるし、またインドのミサイル実験に関する情報も収集しようとしている。前述の中国軍代表団はスリランカとネパールも訪問し、軍事協力の合意を締結している。
(3) この動きは2000年代以降に勢いを増してきた流れの先に位置付けられる。中国の基幹施設への投資は、World BankやAsia Development Bankの投資額よりもずっと高い傾向がある。債務不履行になると基幹施設管理権が中国に譲渡される事例が多発している。中国はまたインド隣国への武器輸出を拡大している。バングラデシュやパキスタンには潜水艦が提供され、修理や部品供給は建造元である中国に依存することになる。さらにインド洋への艦艇配備も進めている。2008年にソマリア沖海賊の対策のために艦艇を派遣して以来、その傾向を強めている。ジブチに建設した基地を中心に配備拡大を計画している。
(4) 中国の基幹施設建設の場所を見ると、インド洋への関心の高さがわかる。つまり、上海や香港などに資源を供給する海上交通路に沿って基幹施設を建設しているのだが、それらは、マラッカ海峡を回避する代替航路である。そしてその代替航路の大半はインド洋を通航するので、その安全保障が必要だと考えているのである。
(5) しかしこれだけが理由ではない。過去の行動様式を見ると、中国は力の真空を利用する傾向がある。南シナ海が好例であり、1950年代にフランス、70年代に米国、80年代にソ連が東南アジアへの力の展開を縮小させると、中国は反対に拡大させてきた。インド洋は冷戦以降にこうした力の真空が生じている。ソ連は解体し、米国は地域における重要性を縮小し、インドは発展途上であった。その真空を中国は埋めようとしているのである。
(6) QUADは、この動きにどう対処すべきか。まず、力の真空をつくらないことが大事だが、日米に多くの艦艇をインド洋に派出する余裕はない。中国の新造艦建造速度はかなりのもので、中国人民解放軍海軍が保有する艦船の数は米海軍の艦艇保有数を上回る。したがって、最近急速に増強を進めているBhāratiya Nau Sena(Indian Navy:インド海軍)がインド洋において役割を果たすべきであろう。現在の保有艦船は140隻だが、2035年までに170隻前後まで増加が見込まれている。ただし対潜戦能力が脆弱であるので、日米豪はそれを強化するために協働し、かつ対潜戦情報共有システムを構築すべきであろう。
記事参照:The Quad: Responding to China’s Moves Into the Indian Ocean
4月12日「米国の海上における競争力と海軍力を取り戻すための課題―アジア太平洋安全保障専門家論説」(The Diplomat, April 19, 2024)
4月12日付の米シンクタンクThe Heritage FoundationのウエブサイトはThe Heritage FoundationのAllison Center for National Security上席研究員Brent Sadlerの “An Agenda for Regaining American Maritime Competitiveness and Naval Power”と題する論説を掲載し、ここでBrent SadlerはU.S. Navyが増大する中国の脅威に追いついていないので、新しい冷戦に勝つためには、連邦議会と各州が協力し、国家の海洋部門全体を活性化させる広範な取り組みが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Navyは、極めて長い間、増大する中国の脅威に追いついていなかった。最近の事件や数多くの演習は、U.S. Navyが平和を維持し、戦争に勝つことできるかどうかについて疑問を投げかけている。さらに悪いことに、U.S. Navyを支えるべき民間の海運業と造船業が悲しいまでに衰退してしまった。彼らは、長期の戦争において軍隊を支援することはおろか、戦時中の産業を機能させ続けることもできない。米国は、革新的な能力、世界中の国の提携国、繁栄した民主主義のひな型などの点で中国よりも優位に立っている。これらの利点に基づいて行動するためには、新しい冷戦に勝つための広範な海洋に対する取り組みが必要である。U.S. Navyの衰退を逆転させるため、連邦議会と各州は、造船造修部門における競争力の回復に積極的な役割を果たさなければならない。国家的な海事に関する課題に解決するために連邦議会と各州が取るべき5つの行動は次のとおりである。
a.連邦議会は、日本や韓国などの防衛条約同盟国に米国の造船所への投資を奨励するなど、海事産業や造船所共同体への投資を奨励し、各州を支援する。
b.連邦議会は、各州と協力して、小型モジュール式原子炉、ロボット船、ドローン、海上での貨物輸送に役立つ飛行船など海運に適用可能な海洋技術の発展と、これらの新しいシステムを運用・維持するための次世代の造船技術者や造船所労働者の訓練に重点を置く。
c.連邦議会は、各州と協力して米国商船学校などの既存の商船学校を拡張し、新しく各州の商船学校を設立し、より多くの商船員を教育する。連邦議会と各州は、造船技師や溶接工など、造船に不可欠な特別な技能に対する既存の教育および技術訓練助成金を優先的に予算配分する。
d.連邦議会と各州は、有利な税制上の優遇措置と個人への助成金により米国の商船要員を誘致し、U.S. Coast Guardの船員資格を維持しながら海事部門に留まらせる。
e.連邦議会は、州兵主体で実施する安全保障協力プログラムに参加する海軍部隊により州兵を拡充する州を支援する。この連邦プログラムを通じて、各州は、沿岸警備と自然災害対応における海軍の州兵の習熟度を維持させるとともに、海洋に係わる主要な提携国に対してU.S. Department of Defenseが行う海上安全保障能力構築に貢献する。
(2) 現在の米国の海事部門は戦略的に危機的状況にある。中国は、中国に関する年次国防報告書で報告された2022年の2,290億ドルを大幅に上回る防衛費を費やしている。現実は7,000億ドルを超える可能性が高い。この支出は数十年にわたる中国の大規模な軍事力増強と近代化運動に資金を提供し、世界最大の近代的な海軍を生み出した。中国政府が主導し、支援する海運・造船会社も世界の海事部門を支配するまでに成長した。
a.現在、米国の原子力潜水艦の3分の1以上は、任務に復帰するための修理を待たされている。原子力潜水艦は、中国の攻撃を抑止するために現在の艦隊の重要な構成要素であり、これは受け入れられないことである。この状況を打開するには、米国が現在維持している4ヵ所の海軍の造船所を近代化するだけでは不十分である。さらに2ヵ所の造船所が必要である。
b.国際貿易のために米国の港に到着する80,000隻以上の船舶のうち、米国籍あるいは米国所有のものは200隻未満である。U.S. Transportation Commandは、規制に対応するための経費、義務、人件費により、米国製の船舶の価格は海外で調達するよりも26倍も高額であり、年間98億ドルと推定されるより高い海運料金で回収する必要があると推定している。
c.民間企業の造船所と海軍の造船所は、ともに同じような労働力不足に直面している。この労働力不足は、競争力のない賃金、造船所の時代遅れとも言うべき厳しい条件で働いてくれる若い労働者が少ないこと、造船技術、溶接工を含む必要な技能を持つ米国人が少な過ぎることなど、いくつかの要因によって引き起こされている。
d. 米国は、勤務できる米国の商船員が少なすぎるため、戦争が発生した場合、戦時経済を維持しながら作戦所要を満たすには、外国の海上輸送に過度に頼ることになる。U.S. Maritime Administration(米国海事局)が発表した2017年の調査では、戦争が起きた場合、1,839人の資格を持つ船員と適齢期の船員が不足していると推定されている。既存の商船の要員が引退したときには、中国との未来の戦争において海上輸送の必要性が高まるにつれて、問題はさらに悪化するであろう。
e.ほぼ10年間、海軍、連邦議会、そして3つの異なる政権は、U.S. Navyの艦艇保有隻数355隻という目標を支持してきた。しかし、2016年にU.S. Navyが保有する艦艇数が275隻になって以来、U.S. Navy艦隊の隻数は、脅威に立ち向かうどころか後退している。最新の大統領の長期計画によれば中国からの脅威が大きくなっているのに目標は285隻となっている。
(3) 米国が海軍力を回復するためには、国の海洋部門全体を活性化しなければならない。それには、新しい海事技術の創造を奨励し、拡張された近代的な造船所のために高度な技能を持つ労働力を生み出すための議会および各州段階での取り組みが不可欠である。新しい冷戦に勝つための広範な海洋に関わる取り組みが必要である。
記事参照:An Agenda for Regaining American Maritime Competitiveness and Naval Power
(1) U.S. Navyは、極めて長い間、増大する中国の脅威に追いついていなかった。最近の事件や数多くの演習は、U.S. Navyが平和を維持し、戦争に勝つことできるかどうかについて疑問を投げかけている。さらに悪いことに、U.S. Navyを支えるべき民間の海運業と造船業が悲しいまでに衰退してしまった。彼らは、長期の戦争において軍隊を支援することはおろか、戦時中の産業を機能させ続けることもできない。米国は、革新的な能力、世界中の国の提携国、繁栄した民主主義のひな型などの点で中国よりも優位に立っている。これらの利点に基づいて行動するためには、新しい冷戦に勝つための広範な海洋に対する取り組みが必要である。U.S. Navyの衰退を逆転させるため、連邦議会と各州は、造船造修部門における競争力の回復に積極的な役割を果たさなければならない。国家的な海事に関する課題に解決するために連邦議会と各州が取るべき5つの行動は次のとおりである。
a.連邦議会は、日本や韓国などの防衛条約同盟国に米国の造船所への投資を奨励するなど、海事産業や造船所共同体への投資を奨励し、各州を支援する。
b.連邦議会は、各州と協力して、小型モジュール式原子炉、ロボット船、ドローン、海上での貨物輸送に役立つ飛行船など海運に適用可能な海洋技術の発展と、これらの新しいシステムを運用・維持するための次世代の造船技術者や造船所労働者の訓練に重点を置く。
c.連邦議会は、各州と協力して米国商船学校などの既存の商船学校を拡張し、新しく各州の商船学校を設立し、より多くの商船員を教育する。連邦議会と各州は、造船技師や溶接工など、造船に不可欠な特別な技能に対する既存の教育および技術訓練助成金を優先的に予算配分する。
d.連邦議会と各州は、有利な税制上の優遇措置と個人への助成金により米国の商船要員を誘致し、U.S. Coast Guardの船員資格を維持しながら海事部門に留まらせる。
e.連邦議会は、州兵主体で実施する安全保障協力プログラムに参加する海軍部隊により州兵を拡充する州を支援する。この連邦プログラムを通じて、各州は、沿岸警備と自然災害対応における海軍の州兵の習熟度を維持させるとともに、海洋に係わる主要な提携国に対してU.S. Department of Defenseが行う海上安全保障能力構築に貢献する。
(2) 現在の米国の海事部門は戦略的に危機的状況にある。中国は、中国に関する年次国防報告書で報告された2022年の2,290億ドルを大幅に上回る防衛費を費やしている。現実は7,000億ドルを超える可能性が高い。この支出は数十年にわたる中国の大規模な軍事力増強と近代化運動に資金を提供し、世界最大の近代的な海軍を生み出した。中国政府が主導し、支援する海運・造船会社も世界の海事部門を支配するまでに成長した。
a.現在、米国の原子力潜水艦の3分の1以上は、任務に復帰するための修理を待たされている。原子力潜水艦は、中国の攻撃を抑止するために現在の艦隊の重要な構成要素であり、これは受け入れられないことである。この状況を打開するには、米国が現在維持している4ヵ所の海軍の造船所を近代化するだけでは不十分である。さらに2ヵ所の造船所が必要である。
b.国際貿易のために米国の港に到着する80,000隻以上の船舶のうち、米国籍あるいは米国所有のものは200隻未満である。U.S. Transportation Commandは、規制に対応するための経費、義務、人件費により、米国製の船舶の価格は海外で調達するよりも26倍も高額であり、年間98億ドルと推定されるより高い海運料金で回収する必要があると推定している。
c.民間企業の造船所と海軍の造船所は、ともに同じような労働力不足に直面している。この労働力不足は、競争力のない賃金、造船所の時代遅れとも言うべき厳しい条件で働いてくれる若い労働者が少ないこと、造船技術、溶接工を含む必要な技能を持つ米国人が少な過ぎることなど、いくつかの要因によって引き起こされている。
d. 米国は、勤務できる米国の商船員が少なすぎるため、戦争が発生した場合、戦時経済を維持しながら作戦所要を満たすには、外国の海上輸送に過度に頼ることになる。U.S. Maritime Administration(米国海事局)が発表した2017年の調査では、戦争が起きた場合、1,839人の資格を持つ船員と適齢期の船員が不足していると推定されている。既存の商船の要員が引退したときには、中国との未来の戦争において海上輸送の必要性が高まるにつれて、問題はさらに悪化するであろう。
e.ほぼ10年間、海軍、連邦議会、そして3つの異なる政権は、U.S. Navyの艦艇保有隻数355隻という目標を支持してきた。しかし、2016年にU.S. Navyが保有する艦艇数が275隻になって以来、U.S. Navy艦隊の隻数は、脅威に立ち向かうどころか後退している。最新の大統領の長期計画によれば中国からの脅威が大きくなっているのに目標は285隻となっている。
(3) 米国が海軍力を回復するためには、国の海洋部門全体を活性化しなければならない。それには、新しい海事技術の創造を奨励し、拡張された近代的な造船所のために高度な技能を持つ労働力を生み出すための議会および各州段階での取り組みが不可欠である。新しい冷戦に勝つための広範な海洋に関わる取り組みが必要である。
記事参照:An Agenda for Regaining American Maritime Competitiveness and Naval Power
4月13日「『シャルル・ド・ゴール』空母打撃群、初めてNATOの指揮下に―ベルギー専門家論説」(Naval News, April 13, 2024)
4月13日付けのフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、ベルギーを拠点とする防衛問題専門家Nathan Gainの“French CSG To Sail Under NATO Command For The First Time”と題する論説を掲載し、Nathan Gainはフランスの空母打撃群が初めてNATOの直接の指揮下に置かれ、地中海の任務に派遣されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 4月22日から、フランス、米国、スペイン、ギリシャ、イタリア、ポルトガルから陸海空軍将兵約3,000名がNATOの地中海における「アキラ」特別任務のために派遣される。空母「シャルル・ド・ゴール」を中核とするフランス空母打撃群司令官Jacques Mallard海軍少将は4月の第2週、初めて「この空母打撃群はNATOの指揮下に直接置かれる」と発表した。作戦はポルトガルのオエイラスにあるNaval Striking and Support Forces NATO (NATO海上打撃支援部隊)の司令部から指揮される。
(2) 2022年に開始された欺瞞実験(deception experimentation)の一環として、フランス艦艇は艦名と艦番号は秘匿したままである。「部隊のアイデンティティの希薄化…それは我々の対立する相手に一定の混乱をもたらす」ということを目的としたこの構想は、「かなり効果的」であるとJacques Mallard少将は述べ、この戦略が「我々の艦艇の呼び方を知らない他の艦艇と我々が遭遇した際に、何度か疑念の種を植え付けた」と指摘している。同盟国は、フランスのものと同様の艦艇、潜水艦、航空機で参加する見込みだが、正確な数や種類について、詳しくは語られなかった。
(3) Jacques Mallard少将は、空母打撃群は「NATOの防衛・抑止態勢の強化、集団安全保障への貢献、地域の安定を促進するNATO活動の支援」という多くの戦略目標を中心に、「あらゆる分野、あらゆる環境」での訓練を受けることになると述べた。Jacques Mallard少将はさらに、空母打撃群は「Standing NATO Maritime Group 2(第2常設NATO海洋グループ:以下、SNMG2と言う)と交流する可能性がある」と付け加えた。SNMG2は、地中海地域でNATOに即時作戦対応能力を提供する小規模多国籍艦隊である。
(4) 「アキラ」特別任務におけるフランス側にとってのもう1つの大きな目的は、よりよく「NATOの指揮系統を理解し、知る」ことである。
(5) 「アキラ」特別任務の一環として、「シャルル・ド・ゴール」空母打撃群はその最終段階において、2021年に初めて開催され、フランスが今回主催した大規模な共同演習「ポラリス」の取り組みを含む、フランスとイタリアによる1週間にわたる演習「マーレ・アペルト 24」に参加する。
(6) 「我々は、フランスの政策と地域の安定に有益な効果をもたらすあらゆる領域を検討している。インド太平洋は、空母打撃群が効果を発揮できる多くの戦域の1つである。遠方への展開も含め、さまざまな可能性を模索しているが、今のところ具体的なことは何も決まっていない」とJacques Mallard少将は述べている。
(7) 空母打撃群の任務をホルムズ海峡にまで拡大し、フーシ派の無人機や弾道ミサイルから商船を守るための支援を行う可能性について質問されたJacques Mallard少将は、「紅海への空母打撃群派遣は現段階では計画されていないが、このことは明らかに我々が調査している選択肢の1つだ」と認めている。
記事参照:French CSG To Sail Under NATO Command For The First Time
(1) 4月22日から、フランス、米国、スペイン、ギリシャ、イタリア、ポルトガルから陸海空軍将兵約3,000名がNATOの地中海における「アキラ」特別任務のために派遣される。空母「シャルル・ド・ゴール」を中核とするフランス空母打撃群司令官Jacques Mallard海軍少将は4月の第2週、初めて「この空母打撃群はNATOの指揮下に直接置かれる」と発表した。作戦はポルトガルのオエイラスにあるNaval Striking and Support Forces NATO (NATO海上打撃支援部隊)の司令部から指揮される。
(2) 2022年に開始された欺瞞実験(deception experimentation)の一環として、フランス艦艇は艦名と艦番号は秘匿したままである。「部隊のアイデンティティの希薄化…それは我々の対立する相手に一定の混乱をもたらす」ということを目的としたこの構想は、「かなり効果的」であるとJacques Mallard少将は述べ、この戦略が「我々の艦艇の呼び方を知らない他の艦艇と我々が遭遇した際に、何度か疑念の種を植え付けた」と指摘している。同盟国は、フランスのものと同様の艦艇、潜水艦、航空機で参加する見込みだが、正確な数や種類について、詳しくは語られなかった。
(3) Jacques Mallard少将は、空母打撃群は「NATOの防衛・抑止態勢の強化、集団安全保障への貢献、地域の安定を促進するNATO活動の支援」という多くの戦略目標を中心に、「あらゆる分野、あらゆる環境」での訓練を受けることになると述べた。Jacques Mallard少将はさらに、空母打撃群は「Standing NATO Maritime Group 2(第2常設NATO海洋グループ:以下、SNMG2と言う)と交流する可能性がある」と付け加えた。SNMG2は、地中海地域でNATOに即時作戦対応能力を提供する小規模多国籍艦隊である。
(4) 「アキラ」特別任務におけるフランス側にとってのもう1つの大きな目的は、よりよく「NATOの指揮系統を理解し、知る」ことである。
(5) 「アキラ」特別任務の一環として、「シャルル・ド・ゴール」空母打撃群はその最終段階において、2021年に初めて開催され、フランスが今回主催した大規模な共同演習「ポラリス」の取り組みを含む、フランスとイタリアによる1週間にわたる演習「マーレ・アペルト 24」に参加する。
(6) 「我々は、フランスの政策と地域の安定に有益な効果をもたらすあらゆる領域を検討している。インド太平洋は、空母打撃群が効果を発揮できる多くの戦域の1つである。遠方への展開も含め、さまざまな可能性を模索しているが、今のところ具体的なことは何も決まっていない」とJacques Mallard少将は述べている。
(7) 空母打撃群の任務をホルムズ海峡にまで拡大し、フーシ派の無人機や弾道ミサイルから商船を守るための支援を行う可能性について質問されたJacques Mallard少将は、「紅海への空母打撃群派遣は現段階では計画されていないが、このことは明らかに我々が調査している選択肢の1つだ」と認めている。
記事参照:French CSG To Sail Under NATO Command For The First Time
4月13日「台湾に対する偽情報という中国の武器―米専門家論説」(The Diplomat, April 13, 2024)
4月13日付けのデジタル誌The Diplomatは、米シンクタンクRAND Corporation非常勤上席政治学者Scott W. Haroldの” How Would China Weaponize Disinformation Against Taiwan in a Cross-Strait Conflict?”と題する論説を掲載し、ここでScott W. Haroldは台湾をめぐる中国との潜在的な衝突に備えることは、限りなく不安な事業であるが、早期に開始し、できるだけ多くの志を同じくする同盟国や提携国と連携することが最善であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 3月、米Office of the Director of National Intelligence(米国国家情報長官室)はその年次脅威評価で、中国が「米国の言論を形成する努力」を強めており、「軍事的・経済的圧力をかけるだけでなく、公的な声明の発信や影響力を行使し、台湾が統一に向かうよう誘導する」可能性が高いと警告している。中国政府はすでに何年も台湾に対して偽情報を発信しており、ある最近の報告書では、台湾は世界で最も偽情報の影響を受けている国とされている。
(2) 中国は少なくとも次の5つの情報操作を想定していることが考えられる。
a.国内の情報環境を支配することで、台湾への侵攻は支持されているだけでなく、国民の行動要求に応えるものという印象を与えようとする。同時に台湾が中国に行動を強いるように仕向けたという筋書きを作り上げようとする。さらに、外の世界は武力行使の決定を支持し、介入してくる第三者は中国を封じ込め、中国の復興を阻止しようとしていると自国民を納得させるよう努める。
b.中国政府は台湾指導部への疑念を誘導することを狙う。中国の工作員は偽情報を使い、紛争の責任を台湾の指導者に押し付けるか、紛争が勃発したら台湾の指導者には台湾を脱出する秘密の計画があると示唆する。また、台湾の軍隊の能力に対する国民の信頼を低下させ、台湾を防衛する能力がないかのように見せかけることも考えられる。そして、外の世界は台湾を助けに来ないと台湾国民に信じ込ませようとする。
c.台湾指導部に対して、台湾の軍隊や野党の忠誠心や能力について疑念を抱かせようとする。
d.米国、日本、オーストラリアおよびその他の国々に対しては、台湾社会が力なく戦っている、あるいは中途半端な抵抗しかしていないという印象を植え付ける。さらに、中国人民解放軍の介入規模について外国の意思決定者を混乱させ、台湾に対する第三者の支援を遅らせる。そして、中国が「決して妥協しない」こと、中国の台湾征服の努力に抵抗して資源を浪費するのは愚かであることを示す。
e.北京の情報工作の最終的な標的は、その他の国々の民衆である。中国が過去に行った例として、武漢で発生したCOVID-19の世界的感染拡大についての米軍非難、およびAUKUSが核不拡散条約に違反しているという誤った印象を与えたことがある。
(3) 北京の主な目標は、台湾の抵抗を委縮させ、外国の介入を支持する広範な連合を結集する努力に外交的対価を課す一方で、軍事的侵略を正当化する法的および道徳的な物語を構築することである。米国が台湾について「中国の手を押させた」と主張することで、グローバル・サウスにおいてより大きな成功を収めることができると考えている。
(4) この状況で関係者が検討すべき政策の選択肢は次の3つである。
a.台湾海峡の平和維持を目指す国々は、中国の偽情報の戦術、技術、手順、および過去の偽情報作戦に関する権威ある評価を作成するために協力する。攻撃の回数、脅威を及ぼす行為を行っていると思われる人物、偽情報の挿入手段と方向、主題別の内容に関する基準値を設定する。台湾の抵抗力を弱体化させるために偽情報を活用することについて、台湾の国防・安全保障研究所の研究者と提携することは、賢明な行動となる。
b.米国、日本、オーストラリア、台湾は、世界協力の枠組みを通じて、メディアの活用能力に関する作業部会の開催回数を増やす。これらの作業部会は、中国の偽情報の絶え間ない標的としての台湾政府の経験を強調するだけでなく、偽情報作戦を打ち負かすために市民社会と提携する際に何が有効かを強調する役割を果たす。
c.志を同じくする同盟国や提携国は、問題や対応策について共通の理解を深める。たとえば、George C. Marshall European Center for Security Studiesが主催した作業部会では、2023年に米国、インド太平洋地域、欧州の国防指導者が一堂に会して社会全体の抗堪性について議論した。次の段階として、偽情報を打ち負かすための集団的な取り組みに焦点を当てる。
(5) 台湾をめぐる中国との潜在的な衝突に備えることは、限りなく不安な事業であるが、中国政府の野望を否定することで抑止力を達成する見込みを高めるため、早期に開始し、できるだけ多くの志を同じくする同盟国や提携国と連携することが最善である。
記事参照:How Would China Weaponize Disinformation Against Taiwan in a Cross-Strait Conflict?
(1) 3月、米Office of the Director of National Intelligence(米国国家情報長官室)はその年次脅威評価で、中国が「米国の言論を形成する努力」を強めており、「軍事的・経済的圧力をかけるだけでなく、公的な声明の発信や影響力を行使し、台湾が統一に向かうよう誘導する」可能性が高いと警告している。中国政府はすでに何年も台湾に対して偽情報を発信しており、ある最近の報告書では、台湾は世界で最も偽情報の影響を受けている国とされている。
(2) 中国は少なくとも次の5つの情報操作を想定していることが考えられる。
a.国内の情報環境を支配することで、台湾への侵攻は支持されているだけでなく、国民の行動要求に応えるものという印象を与えようとする。同時に台湾が中国に行動を強いるように仕向けたという筋書きを作り上げようとする。さらに、外の世界は武力行使の決定を支持し、介入してくる第三者は中国を封じ込め、中国の復興を阻止しようとしていると自国民を納得させるよう努める。
b.中国政府は台湾指導部への疑念を誘導することを狙う。中国の工作員は偽情報を使い、紛争の責任を台湾の指導者に押し付けるか、紛争が勃発したら台湾の指導者には台湾を脱出する秘密の計画があると示唆する。また、台湾の軍隊の能力に対する国民の信頼を低下させ、台湾を防衛する能力がないかのように見せかけることも考えられる。そして、外の世界は台湾を助けに来ないと台湾国民に信じ込ませようとする。
c.台湾指導部に対して、台湾の軍隊や野党の忠誠心や能力について疑念を抱かせようとする。
d.米国、日本、オーストラリアおよびその他の国々に対しては、台湾社会が力なく戦っている、あるいは中途半端な抵抗しかしていないという印象を植え付ける。さらに、中国人民解放軍の介入規模について外国の意思決定者を混乱させ、台湾に対する第三者の支援を遅らせる。そして、中国が「決して妥協しない」こと、中国の台湾征服の努力に抵抗して資源を浪費するのは愚かであることを示す。
e.北京の情報工作の最終的な標的は、その他の国々の民衆である。中国が過去に行った例として、武漢で発生したCOVID-19の世界的感染拡大についての米軍非難、およびAUKUSが核不拡散条約に違反しているという誤った印象を与えたことがある。
(3) 北京の主な目標は、台湾の抵抗を委縮させ、外国の介入を支持する広範な連合を結集する努力に外交的対価を課す一方で、軍事的侵略を正当化する法的および道徳的な物語を構築することである。米国が台湾について「中国の手を押させた」と主張することで、グローバル・サウスにおいてより大きな成功を収めることができると考えている。
(4) この状況で関係者が検討すべき政策の選択肢は次の3つである。
a.台湾海峡の平和維持を目指す国々は、中国の偽情報の戦術、技術、手順、および過去の偽情報作戦に関する権威ある評価を作成するために協力する。攻撃の回数、脅威を及ぼす行為を行っていると思われる人物、偽情報の挿入手段と方向、主題別の内容に関する基準値を設定する。台湾の抵抗力を弱体化させるために偽情報を活用することについて、台湾の国防・安全保障研究所の研究者と提携することは、賢明な行動となる。
b.米国、日本、オーストラリア、台湾は、世界協力の枠組みを通じて、メディアの活用能力に関する作業部会の開催回数を増やす。これらの作業部会は、中国の偽情報の絶え間ない標的としての台湾政府の経験を強調するだけでなく、偽情報作戦を打ち負かすために市民社会と提携する際に何が有効かを強調する役割を果たす。
c.志を同じくする同盟国や提携国は、問題や対応策について共通の理解を深める。たとえば、George C. Marshall European Center for Security Studiesが主催した作業部会では、2023年に米国、インド太平洋地域、欧州の国防指導者が一堂に会して社会全体の抗堪性について議論した。次の段階として、偽情報を打ち負かすための集団的な取り組みに焦点を当てる。
(5) 台湾をめぐる中国との潜在的な衝突に備えることは、限りなく不安な事業であるが、中国政府の野望を否定することで抑止力を達成する見込みを高めるため、早期に開始し、できるだけ多くの志を同じくする同盟国や提携国と連携することが最善である。
記事参照:How Would China Weaponize Disinformation Against Taiwan in a Cross-Strait Conflict?
4月13日「南シナ海においてASEANが抱える難題―インド専門家論説」(The Observer Research Foundation, April 13, 2024)
4月13日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation研究員Premesha Sahaの“The ASEAN’s South China Sea conundrum”と題する論説を掲載し、Premesha Sahaは南シナ海の係争海域における事件の増加は、ASEANが行動規範を確立するために中国と交渉することが緊急に必要であることを浮き彫りにしているとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンと中国が海洋権益を争っている南沙諸島のセカンド・トーマス礁周辺海域で続いている争いによって、ASEANは再び厳しい立場に立たされている。ASEANは2002年以来、中国と行動規範(以下、COCと言う)の交渉に奔走しており、フィリピンと中国の間の係争海域での最近の事件はASEANにとってより大きな課題となっている。
(2) 中比両国間の度重なる衝突を目の当たりにして、ASEAN加盟国の外相達は2023年12月30日、「東南アジアの海洋圏における安定の維持と促進」に関する声明を発表し、「南シナ海における最近の動向が、この地域の平和、安全、安定を損なう可能性がある」と述べている。さらに、「紛争を複雑化または激化させ、平和と安定に影響を与える活動の実施を自制し、状況をさらに複雑にする可能性のある行動を回避し、国際法、UNCLOSの原則に従って紛争の平和的解決を追求する」必要性を繰り返し述べている。
(3) ASEANがこのような声明を発表するのは初めてであり、南シナ海問題に関するASEAN加盟国の意見の相違を考慮すると前向きな一歩と見ることができる。ASEAN議長国在任中の2023年7月、インドネシア外務省も、ASEANと中国が南シナ海におけるCOC交渉を加速するための指針に合意したと発表した。指針は、交渉過程を迅速化することを目的としているが、指針の詳細は公表されていなかった。こうした声明や展開にもかかわらず、フィリピンと中国の間の衝突は激化するばかりである。
(4) Philippine Coast Guardの報道官は、中国側が「危険な演習を実施し、セカンド・トーマス礁への補給任務を護衛していたPhilippine Coast Guardの巡視船を妨害した」と非難した。したがって、生じる問題はこれらの措置とASEANの手法が地域においてが現在進行中の危機に対処するのに何らかの形で役立つかどうかということである。ASEAN外相の声明は、ASEANが国際法の原則を守るという問題に関して最終的に集団的な立場を採ったことを反映している。
(5) 確かに、この声明は特定の国の行動を非難するものではないが、係争海域でのフィリピンと中国の衝突激化後にそのような声明が発表されたという事実は、中国の南シナ海における攻撃的な策動を反映している。しかし、ASEANがさらに多くのことを行う必要があると同時に、ASEANの過程と機構には一定の限界があることも認識する必要がある。
(6) 中国の積極的な侵害の標的となっている領有権主張国に対し、自国の利益を守るための新たな手段や代替戦略を模索する余地を与える必要があり、これらの「新たな手段と代替戦略」は必ずしもASEANの道を妨げるもの、あるいはASEANの中心性を損なうとみなされるべきではない。南シナ海問題で団結した立場を採る際のASEANにとっての障害の1つは、中国と良好な関係にある領有権を主張していない国が、中国に対して批判的な立場を採ることを望んでいないことである。インドネシアは、ASEAN議長国時代には海洋安全保障問題に多大な注意を払っておりASEAN海軍演習、安定した海洋秩序を確保するためのASEAN外相声明などの取り組みはすべてこれを反映している。
(7) 現在、領有権を主張していないラオスがASEAN議長国であることを考慮すると、長期的にはCOCの早期締結、中国との勢力の均衡の維持に役立つ可能性のある代替戦略を追求するために、領有権を主張している国々に行動の自由を与えることがASEANにとってより理にかなっているだろう。
(8) 南シナ海問題は、権利主張国だけでなく、開かれた安定したインド太平洋を確実なものとしようと動いている米国、日本、オーストラリア、インド、そして自由な海域の確保に努めている他のすべての国のような他の利害関係者にも影響を与えるということをまず認める必要がある。したがって、米国、オーストラリア、日本、オーストラリアなどのASEANの対話相手国が、より強力な防衛上の提携に向けてフィリピンやベトナムなどの国々と協力し、米国、オーストラリア、そして現在は日本とも共同哨戒を行っているのであれば、巡視船の供給を通じてこれらの権利主張国の能力向上に貢献し、また南シナ海での違法かつ攻撃的な行為について中国を非難していることは、単にこれらの国々が自国の利益を守るために選択した代替戦略として見るべきである。これらは、ASEANのやり方やその仕組みを妨げ、中国の言い分を助長する手段とみなされるべきではない。
(9) ASEANの対話相手国でもあり、ASEAN主導の別の機構であるEast Asia Summit(東アジア首脳会談:以下、EASと言う)の参加国でもあるインド、米国、日本、オーストラリアなどの他の利害関係国は、より多くの役割を果たすよう奨励されるべきである。一部の領有権主張国との2国間協力に加えて、これらの基盤でも重要な役割を果たしている。
(10) 1つの方法は、EASで南シナ海問題に関する海洋対話を開始することかもしれない。南シナ海ではまだ全面的な紛争は発生していないが、そのような状況が生じた場合には、海事法の執行についてEAS段階で議論することも検討する価値がある。ASEAN諸国と対話相手国は中国に対し、EASやASEAN Defence Ministers Meeting Plus(拡大ASEAN国防相会議)などの議論の場における多国間形式でのこのような対話を主催するよう奨励すべきである。
(11) COC交渉は何十年も続いており、進捗は非常に遅いため、一部の領有権主張国が米国、日本、オーストラリア、インドなどの域外国と2国間で取り組む代替の機構や戦略、あるいは補完に役立つ場合には多国間フォーラムでの代替策も検討されるべきである。それらがCOCの審議過程を補完し、迅速化するのに役に立つのであれば、取り込まれるべきであり、ASEANの手法とASEANの中心性を弱めたり、損なったりする方法と見なされるべきではない。
記事参照:The ASEAN’s South China Sea conundrum
(1) フィリピンと中国が海洋権益を争っている南沙諸島のセカンド・トーマス礁周辺海域で続いている争いによって、ASEANは再び厳しい立場に立たされている。ASEANは2002年以来、中国と行動規範(以下、COCと言う)の交渉に奔走しており、フィリピンと中国の間の係争海域での最近の事件はASEANにとってより大きな課題となっている。
(2) 中比両国間の度重なる衝突を目の当たりにして、ASEAN加盟国の外相達は2023年12月30日、「東南アジアの海洋圏における安定の維持と促進」に関する声明を発表し、「南シナ海における最近の動向が、この地域の平和、安全、安定を損なう可能性がある」と述べている。さらに、「紛争を複雑化または激化させ、平和と安定に影響を与える活動の実施を自制し、状況をさらに複雑にする可能性のある行動を回避し、国際法、UNCLOSの原則に従って紛争の平和的解決を追求する」必要性を繰り返し述べている。
(3) ASEANがこのような声明を発表するのは初めてであり、南シナ海問題に関するASEAN加盟国の意見の相違を考慮すると前向きな一歩と見ることができる。ASEAN議長国在任中の2023年7月、インドネシア外務省も、ASEANと中国が南シナ海におけるCOC交渉を加速するための指針に合意したと発表した。指針は、交渉過程を迅速化することを目的としているが、指針の詳細は公表されていなかった。こうした声明や展開にもかかわらず、フィリピンと中国の間の衝突は激化するばかりである。
(4) Philippine Coast Guardの報道官は、中国側が「危険な演習を実施し、セカンド・トーマス礁への補給任務を護衛していたPhilippine Coast Guardの巡視船を妨害した」と非難した。したがって、生じる問題はこれらの措置とASEANの手法が地域においてが現在進行中の危機に対処するのに何らかの形で役立つかどうかということである。ASEAN外相の声明は、ASEANが国際法の原則を守るという問題に関して最終的に集団的な立場を採ったことを反映している。
(5) 確かに、この声明は特定の国の行動を非難するものではないが、係争海域でのフィリピンと中国の衝突激化後にそのような声明が発表されたという事実は、中国の南シナ海における攻撃的な策動を反映している。しかし、ASEANがさらに多くのことを行う必要があると同時に、ASEANの過程と機構には一定の限界があることも認識する必要がある。
(6) 中国の積極的な侵害の標的となっている領有権主張国に対し、自国の利益を守るための新たな手段や代替戦略を模索する余地を与える必要があり、これらの「新たな手段と代替戦略」は必ずしもASEANの道を妨げるもの、あるいはASEANの中心性を損なうとみなされるべきではない。南シナ海問題で団結した立場を採る際のASEANにとっての障害の1つは、中国と良好な関係にある領有権を主張していない国が、中国に対して批判的な立場を採ることを望んでいないことである。インドネシアは、ASEAN議長国時代には海洋安全保障問題に多大な注意を払っておりASEAN海軍演習、安定した海洋秩序を確保するためのASEAN外相声明などの取り組みはすべてこれを反映している。
(7) 現在、領有権を主張していないラオスがASEAN議長国であることを考慮すると、長期的にはCOCの早期締結、中国との勢力の均衡の維持に役立つ可能性のある代替戦略を追求するために、領有権を主張している国々に行動の自由を与えることがASEANにとってより理にかなっているだろう。
(8) 南シナ海問題は、権利主張国だけでなく、開かれた安定したインド太平洋を確実なものとしようと動いている米国、日本、オーストラリア、インド、そして自由な海域の確保に努めている他のすべての国のような他の利害関係者にも影響を与えるということをまず認める必要がある。したがって、米国、オーストラリア、日本、オーストラリアなどのASEANの対話相手国が、より強力な防衛上の提携に向けてフィリピンやベトナムなどの国々と協力し、米国、オーストラリア、そして現在は日本とも共同哨戒を行っているのであれば、巡視船の供給を通じてこれらの権利主張国の能力向上に貢献し、また南シナ海での違法かつ攻撃的な行為について中国を非難していることは、単にこれらの国々が自国の利益を守るために選択した代替戦略として見るべきである。これらは、ASEANのやり方やその仕組みを妨げ、中国の言い分を助長する手段とみなされるべきではない。
(9) ASEANの対話相手国でもあり、ASEAN主導の別の機構であるEast Asia Summit(東アジア首脳会談:以下、EASと言う)の参加国でもあるインド、米国、日本、オーストラリアなどの他の利害関係国は、より多くの役割を果たすよう奨励されるべきである。一部の領有権主張国との2国間協力に加えて、これらの基盤でも重要な役割を果たしている。
(10) 1つの方法は、EASで南シナ海問題に関する海洋対話を開始することかもしれない。南シナ海ではまだ全面的な紛争は発生していないが、そのような状況が生じた場合には、海事法の執行についてEAS段階で議論することも検討する価値がある。ASEAN諸国と対話相手国は中国に対し、EASやASEAN Defence Ministers Meeting Plus(拡大ASEAN国防相会議)などの議論の場における多国間形式でのこのような対話を主催するよう奨励すべきである。
(11) COC交渉は何十年も続いており、進捗は非常に遅いため、一部の領有権主張国が米国、日本、オーストラリア、インドなどの域外国と2国間で取り組む代替の機構や戦略、あるいは補完に役立つ場合には多国間フォーラムでの代替策も検討されるべきである。それらがCOCの審議過程を補完し、迅速化するのに役に立つのであれば、取り込まれるべきであり、ASEANの手法とASEANの中心性を弱めたり、損なったりする方法と見なされるべきではない。
記事参照:The ASEAN’s South China Sea conundrum
4月15日「日米同盟の格上げ、スポークからハブへ―シンガポール専門家論説」(The Straits Times.com, April 15, 2024)
4月15日付のシンガポール日刊紙The Straits Times電子版は、シンガポールのシンクタンクThe ISEAS-Yusof Ishak Institute上席研究員William Choongの “Japan-US alliance upgrade: When a spoke becomes a hub”と題する論説を掲載し、ここでWilliam Choongは日本が中国の脅威に対抗してQUADと東南アジアを結ぶ架け橋としての地位を確立しつつあるが、限界があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 4月初めの岸田首相訪米に際して発表された日米同盟の格上げと米国、日本およびフィリピンの新たな3国間提携の形成は、戦後この地域を特徴づけてきた防衛連結網に重要な要素を付加するものであるとともに、既存の同盟網であった米国とオーストラリア、日本、フィリピン、韓国およびタイとの個別の正式な同盟による「ハブ・アンド・スポークス」体制からの変化の兆しでもある。岸田首相が4月11日の米議会演説で表明した「多層的な防衛連結網」の一環として、米国の同盟国である日本がフィリピンを始めとする東南アジア諸国と連携することになる。このことは、日本がこの地域でより大きな指導的役割を担い、「自由で開かれたインド太平洋」を構築するという、故安倍首相が提唱したより広範な戦略目標に向けた大きな前進である。
(2) 日米同盟の格上げは、1951年の日米同盟成立以来、最大の出来事であることは間違いない。U.S. Armed Forcesと自衛隊はU.S. Armed Forces の大将が指揮する統合作戦司令部の下に置かれ、これによって「相互運用性と計画性を高めるための作戦と能力の切れ目のない統合」が可能になる。また、日本はAUKUSの第2の柱であるサイバー資産、人工知能および量子機能などの高度な能力開発に参画することになる。さらに日米同盟の裾野を広げるために、日本は2025年から始まる日米英3国間演習にも参加するとともに、米韓年次多領域演習にも参加する。岸田首相は米議会での演説で、「多くの国の発展と繁栄を可能にしてきた法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を支持することを誓った。その上で、首相の演説は日米同盟の格上げの重要性を強調する2つの事柄、即ち、異例にも中国を名指しし、日米同盟は「中国の挑戦に対応する」と述べるとともに、日米同盟の世界的な役割についても言及したのである。
(3) フィリピンが日米との3国間連携に含まれることになったが、日比両国が正式な同盟国ではないことから、これは、3国同盟への前兆とは言えないが、制度的な繋がりが強化され、特に南シナ海における中国の高圧的な行動に対する抑止力となるであろう。さらに重要なことは、この3国間連携がASEANの主要加盟国であるフィリピンをQUADの活動に深く結び付けることである。このことは、ASEANが長年、QUADがASEANの中心性を損ない、中国に対抗する多国間連合と見なす中国政府を挑発するとして、QUADを不安視してきたことを考えれば、重要な意味を持つ。しかも、日米比3国は、共同海軍演習の実施やオーストラリアと韓国などの「新たな提携国」を加えて、3国間の防衛関係を強化するとしている。日比間では、Armed Forces of the Philippinesと自衛隊の共同演習の実施を促進するための円滑化協定の締結交渉の最終段階にあると報じられている。既に、米比間では訪問外国軍地位協定が締結されている。
(4) 日米同盟の格上げと日米比3国間連携という2つの出来事を合わせ考えれば、日本は、QUADとASEANを結ぶ戦略的な立場に立つことになる。東南アジア諸国にとって、QUAD加盟は論外だが、地域の安定強化のためのQUAD加盟国との協力には、ますます前向きになってきている。実際、2023年8月の南シナ海での多国間演習やタリスマン・セイバー演習、翌9月のスーパー・ガルーダ・シールド演習など、QUAD加盟国と東南アジア諸国との多国間演習が実施されてきた。これらの演習の共通点は日本の参加であった。さらに日本が、フィリピンへの多用途巡視船やベトナムへの漁業監視船の供与、そしてインドネシアへのもがみ型護衛艦売却合意などを通じて、東南アジア諸国の安全保障に長年貢献してきたという事実は、東南アジア諸国にQUAD加盟国との安全保障協力を促す好ましい要因となろう。しかも重要なことは、日本が、多くの東南アジア諸国と同様に、中国に対して微妙な取り組みを行っているという事実で、このことが日本のこの地域での牽引力を高めている。時に中国を罵倒するメガホン外交の米国とは対照的に、日本は、中国の高圧的な自己主張に対して法の支配の擁護を訴える、より控えめな対応を採る傾向がある。日本は、中国とは対峙するが関与する必要性も認識している。
(5) QUADやASEANにおける日本の安全保障上の役割が高まってきたとは言え、紛争が生起した場合、日本が中国に対する東南アジア諸国の強力な対応を調整できるわけではない。シンガポールのThe ISEAS-Yusof Ishak Instituteによる2024年の東南アジア諸国の意識調査では、中国が東南アジア全域で影響力を急激に高めている。この現実は、南シナ海、尖閣諸島、朝鮮半島および台湾海峡の4つの潜在的紛争発火点で実際に紛争が生起した場合、日本、そして米国がASEAN加盟国から支持を集めることを難しくしている。中国政府もまた、日米同盟の格上げと3国間連携の進展を傍観するつもりはない。中国は、既に世界最大の海軍を保有しており、さらに海軍力の近代化を急速に進めている。たとえば、台湾を巡る危機において、米国とその同盟国、提携国が中国を抑止できるかどうか疑問が残る。さらに重要なのは、11月の米大統領選挙で、同盟強化に余り力を入れそうにないDonald Trumpが再登場した場合の影響である。要するに、最近の展開は、中国の強引な地域的野心を抑制しようとする米国と日本の取り組みに勢いを与えてはいるが、諺にあるように、「勝負は下駄を履くまで分からない。」
記事参照:Japan-US alliance upgrade: When a spoke becomes a hub
(1) 4月初めの岸田首相訪米に際して発表された日米同盟の格上げと米国、日本およびフィリピンの新たな3国間提携の形成は、戦後この地域を特徴づけてきた防衛連結網に重要な要素を付加するものであるとともに、既存の同盟網であった米国とオーストラリア、日本、フィリピン、韓国およびタイとの個別の正式な同盟による「ハブ・アンド・スポークス」体制からの変化の兆しでもある。岸田首相が4月11日の米議会演説で表明した「多層的な防衛連結網」の一環として、米国の同盟国である日本がフィリピンを始めとする東南アジア諸国と連携することになる。このことは、日本がこの地域でより大きな指導的役割を担い、「自由で開かれたインド太平洋」を構築するという、故安倍首相が提唱したより広範な戦略目標に向けた大きな前進である。
(2) 日米同盟の格上げは、1951年の日米同盟成立以来、最大の出来事であることは間違いない。U.S. Armed Forcesと自衛隊はU.S. Armed Forces の大将が指揮する統合作戦司令部の下に置かれ、これによって「相互運用性と計画性を高めるための作戦と能力の切れ目のない統合」が可能になる。また、日本はAUKUSの第2の柱であるサイバー資産、人工知能および量子機能などの高度な能力開発に参画することになる。さらに日米同盟の裾野を広げるために、日本は2025年から始まる日米英3国間演習にも参加するとともに、米韓年次多領域演習にも参加する。岸田首相は米議会での演説で、「多くの国の発展と繁栄を可能にしてきた法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を支持することを誓った。その上で、首相の演説は日米同盟の格上げの重要性を強調する2つの事柄、即ち、異例にも中国を名指しし、日米同盟は「中国の挑戦に対応する」と述べるとともに、日米同盟の世界的な役割についても言及したのである。
(3) フィリピンが日米との3国間連携に含まれることになったが、日比両国が正式な同盟国ではないことから、これは、3国同盟への前兆とは言えないが、制度的な繋がりが強化され、特に南シナ海における中国の高圧的な行動に対する抑止力となるであろう。さらに重要なことは、この3国間連携がASEANの主要加盟国であるフィリピンをQUADの活動に深く結び付けることである。このことは、ASEANが長年、QUADがASEANの中心性を損ない、中国に対抗する多国間連合と見なす中国政府を挑発するとして、QUADを不安視してきたことを考えれば、重要な意味を持つ。しかも、日米比3国は、共同海軍演習の実施やオーストラリアと韓国などの「新たな提携国」を加えて、3国間の防衛関係を強化するとしている。日比間では、Armed Forces of the Philippinesと自衛隊の共同演習の実施を促進するための円滑化協定の締結交渉の最終段階にあると報じられている。既に、米比間では訪問外国軍地位協定が締結されている。
(4) 日米同盟の格上げと日米比3国間連携という2つの出来事を合わせ考えれば、日本は、QUADとASEANを結ぶ戦略的な立場に立つことになる。東南アジア諸国にとって、QUAD加盟は論外だが、地域の安定強化のためのQUAD加盟国との協力には、ますます前向きになってきている。実際、2023年8月の南シナ海での多国間演習やタリスマン・セイバー演習、翌9月のスーパー・ガルーダ・シールド演習など、QUAD加盟国と東南アジア諸国との多国間演習が実施されてきた。これらの演習の共通点は日本の参加であった。さらに日本が、フィリピンへの多用途巡視船やベトナムへの漁業監視船の供与、そしてインドネシアへのもがみ型護衛艦売却合意などを通じて、東南アジア諸国の安全保障に長年貢献してきたという事実は、東南アジア諸国にQUAD加盟国との安全保障協力を促す好ましい要因となろう。しかも重要なことは、日本が、多くの東南アジア諸国と同様に、中国に対して微妙な取り組みを行っているという事実で、このことが日本のこの地域での牽引力を高めている。時に中国を罵倒するメガホン外交の米国とは対照的に、日本は、中国の高圧的な自己主張に対して法の支配の擁護を訴える、より控えめな対応を採る傾向がある。日本は、中国とは対峙するが関与する必要性も認識している。
(5) QUADやASEANにおける日本の安全保障上の役割が高まってきたとは言え、紛争が生起した場合、日本が中国に対する東南アジア諸国の強力な対応を調整できるわけではない。シンガポールのThe ISEAS-Yusof Ishak Instituteによる2024年の東南アジア諸国の意識調査では、中国が東南アジア全域で影響力を急激に高めている。この現実は、南シナ海、尖閣諸島、朝鮮半島および台湾海峡の4つの潜在的紛争発火点で実際に紛争が生起した場合、日本、そして米国がASEAN加盟国から支持を集めることを難しくしている。中国政府もまた、日米同盟の格上げと3国間連携の進展を傍観するつもりはない。中国は、既に世界最大の海軍を保有しており、さらに海軍力の近代化を急速に進めている。たとえば、台湾を巡る危機において、米国とその同盟国、提携国が中国を抑止できるかどうか疑問が残る。さらに重要なのは、11月の米大統領選挙で、同盟強化に余り力を入れそうにないDonald Trumpが再登場した場合の影響である。要するに、最近の展開は、中国の強引な地域的野心を抑制しようとする米国と日本の取り組みに勢いを与えてはいるが、諺にあるように、「勝負は下駄を履くまで分からない。」
記事参照:Japan-US alliance upgrade: When a spoke becomes a hub
4月16日「沿岸警備隊、海洋法執行機関を結集して、中国のグレーゾーン侵略に海上法執行で対抗する―米専門家論説」(War on the Rocks, April 16, 2024)
4月16日付けのUniversity of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、米シンクタンクRAND Corporation上席政策研究員でU.S. Coast Guardの退役高級士官Eric “Coop” Cooperの“ CALL IN THE COAST GUARD: HOW MARITIME LAW ENFORCEMENT CAN COMBAT CHINA’S GRAY-ZONE AGGRESSION”と題する論説を掲載し、ここでEric Cooperは米国がU.S. Coast Guardと海上法執行機関の合同部隊を設立し、国際規範の強化に焦点を当てた取り組みを開発すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年初め、中国海警総隊はフィリピン漁船の船長と乗組員を常設仲裁裁判所がフィリピンの領土と定めたスカボロー諸島から強制的に連れ去り、漁獲物を投棄するよう要求した。実際、中国海警総隊は他国を威圧し、威嚇するために、たとえ他国の領海内であっても、侵略と武力を行使し続けている。また、日常的にフィリピンの漁船や補給船に衝突を強要し、南シナ海で他の船舶に妨害行為を行っている。中国は、こうしたグレーゾーンでの戦術を国力の自然な延長とみなしており、インド太平洋の利害関係者がこうした行為に結果を課すようにならない限り、この明白な国際法違反は続くだろう。
(2) 自由で開かれたインド太平洋に対する米国の誓約は、東アジア海域でのグレーゾーン作戦や中国の「一帯一路」構想など、より広範な中国の圧力を受けて苦戦している。さらに、キリバス、ソロモン諸島、ナウルといった国々が最近、外交承認を米国の友好国である台湾から中国に切り替えた事実が示すように、インド太平洋における米国の影響力は弱まっている。それでも、インド太平洋における米国のすべてが失われたわけではない。パラオとミクロネシア連邦は最近、U.S. Coast Guardがこれらの国に代わって、これらの国の代表を米艦船に乗せることなく海上法を執行できるようにする協定に調印した。米国はこの勢いに乗り、U.S. Coast Guardと海上法執行機関の合同部隊を設立し、国際規範の強化に焦点を当てた、この地域に対する協調的な国際的取り組みを開発すべきである。
(3) 各国の連合による海上部隊は新しい概念ではない。今日、U.S. Coast GuardとU.S. Navyは、重要な問題に関して国際的な海上連合に日常的に参加している。米国はバーレーンを拠点とする連合海上部隊を率いているが、この連合海上部隊は、多国間の海洋における提携であり、公海上の不法な非国家主体に対抗し、安全、安定、繁栄を促進することによって、法に基づく国際秩序を維持するために存在するとされている。連合海上部隊の構想の大きな利点は、関与の程度が各国の自主的なものであり、拡張可能ということである。連絡士官1人だけの参加という国もあれば、訓練を実施し、作戦を支援する艦船や航空機を提供する国もある。貢献の程度はさまざまだが、こうした提携を構築することは、法に基づく秩序を確立する上で重要な実績となる。
(4) 現在のところ、インド太平洋においては、連合海上部隊に相当するものは設立されていないが、ホノルルのU.S. Pacific FleetにあるU.S. Naval War CollegeのCollege of Maritime Operational Warfareが長期にわたる統合軍海上部隊指揮官課程を開設している。さらに、この地域には、オセアニア海洋安全保障構想( Ocean Maritime Security Initiative)、東南アジア海洋法執行構想(Southeast Asia Maritime Law Enforcement Initiative)、東南アジア協力訓練演習( Southeast Asia Cooperation and Training exercise)など、現在進行中の法執行構想がいくつかある。しかし、これらはすべて個別に実施されており、共通の構造や統一された中央集権的な組織は存在しない。このような軍事教育、独立した構想、単独での努力は、貴重ではあるが、連合海上部隊組織の傘下で協調的に運用されることで、改善される可能性がある。そうすることで、現在バラバラである組織が、包括的な目標に向かって活動するように連携し、より多くの提携諸国を取り込むことができる。
(5) インド太平洋の海洋領域は十分に統治されず、時には意図的に誤った統治さえ行われている。このインド太平洋に連合海上部隊を創設することは、この地域の軍事化が進むという認識から、中国から否定的な反応を受ける可能性が高い。したがって、連合海上部隊は海軍ではなく、海上法執行に特化して構成されるべきである。この地域のほとんどの海事機関は、U.S. Coast Guardと同様の活動を行っており、世界規模の戦力投射よりも主権と沿岸の保護に重点を置いている。したがって、軍事競争ではなく、海上法執行に集中することは理にかなっている。
(6) 連合海上部隊の発展は、次のような効果も指摘されている。すなわち、違法・無規制・無報告の漁業への対処は、人権、食糧安全保障、海洋安全保障などに関わる多面的な問題であり、この地域に調整された海上部隊があれば、捜索救難活動や環境汚染への対応、自然災害にも迅速に移行できる。さらに、このような部隊は、UNCLOS違反に対応し、国際規範を執行するための強力な法執行機関の存在を確立するための基盤ともなる。
(7) 米国は、優先課題に対して主導的役割を発揮せず、中国に覇権を主張させることで、インド太平洋における戦略的影響力を失いつつある。米国は、インド太平洋に関する既存の戦略を踏襲し、さらに一歩進んで、連合海上部隊を導入すべきである。これにより結束力のある体制、提携の向上、中国のグレーゾーン戦術やあからさまな侵略を押し返す明確な方法を提供することができる。連合海上部隊は、海洋状況認識、能力開発、違法・無規制・無報告の漁業への対処など、この地域の優先課題に取り組むことができる。米議会はすでに、「連合海上部隊の任務の一環として」この分野での取り組みの拡大を承認している。議会は、新たな連合海上部隊の設立とそのための資金の計上を承認するべきである。
記事参照:CALL IN THE COAST GUARD: HOW MARITIME LAW ENFORCEMENT CAN COMBAT CHINA’S GRAY-ZONE AGGRESSION
(1) 2024年初め、中国海警総隊はフィリピン漁船の船長と乗組員を常設仲裁裁判所がフィリピンの領土と定めたスカボロー諸島から強制的に連れ去り、漁獲物を投棄するよう要求した。実際、中国海警総隊は他国を威圧し、威嚇するために、たとえ他国の領海内であっても、侵略と武力を行使し続けている。また、日常的にフィリピンの漁船や補給船に衝突を強要し、南シナ海で他の船舶に妨害行為を行っている。中国は、こうしたグレーゾーンでの戦術を国力の自然な延長とみなしており、インド太平洋の利害関係者がこうした行為に結果を課すようにならない限り、この明白な国際法違反は続くだろう。
(2) 自由で開かれたインド太平洋に対する米国の誓約は、東アジア海域でのグレーゾーン作戦や中国の「一帯一路」構想など、より広範な中国の圧力を受けて苦戦している。さらに、キリバス、ソロモン諸島、ナウルといった国々が最近、外交承認を米国の友好国である台湾から中国に切り替えた事実が示すように、インド太平洋における米国の影響力は弱まっている。それでも、インド太平洋における米国のすべてが失われたわけではない。パラオとミクロネシア連邦は最近、U.S. Coast Guardがこれらの国に代わって、これらの国の代表を米艦船に乗せることなく海上法を執行できるようにする協定に調印した。米国はこの勢いに乗り、U.S. Coast Guardと海上法執行機関の合同部隊を設立し、国際規範の強化に焦点を当てた、この地域に対する協調的な国際的取り組みを開発すべきである。
(3) 各国の連合による海上部隊は新しい概念ではない。今日、U.S. Coast GuardとU.S. Navyは、重要な問題に関して国際的な海上連合に日常的に参加している。米国はバーレーンを拠点とする連合海上部隊を率いているが、この連合海上部隊は、多国間の海洋における提携であり、公海上の不法な非国家主体に対抗し、安全、安定、繁栄を促進することによって、法に基づく国際秩序を維持するために存在するとされている。連合海上部隊の構想の大きな利点は、関与の程度が各国の自主的なものであり、拡張可能ということである。連絡士官1人だけの参加という国もあれば、訓練を実施し、作戦を支援する艦船や航空機を提供する国もある。貢献の程度はさまざまだが、こうした提携を構築することは、法に基づく秩序を確立する上で重要な実績となる。
(4) 現在のところ、インド太平洋においては、連合海上部隊に相当するものは設立されていないが、ホノルルのU.S. Pacific FleetにあるU.S. Naval War CollegeのCollege of Maritime Operational Warfareが長期にわたる統合軍海上部隊指揮官課程を開設している。さらに、この地域には、オセアニア海洋安全保障構想( Ocean Maritime Security Initiative)、東南アジア海洋法執行構想(Southeast Asia Maritime Law Enforcement Initiative)、東南アジア協力訓練演習( Southeast Asia Cooperation and Training exercise)など、現在進行中の法執行構想がいくつかある。しかし、これらはすべて個別に実施されており、共通の構造や統一された中央集権的な組織は存在しない。このような軍事教育、独立した構想、単独での努力は、貴重ではあるが、連合海上部隊組織の傘下で協調的に運用されることで、改善される可能性がある。そうすることで、現在バラバラである組織が、包括的な目標に向かって活動するように連携し、より多くの提携諸国を取り込むことができる。
(5) インド太平洋の海洋領域は十分に統治されず、時には意図的に誤った統治さえ行われている。このインド太平洋に連合海上部隊を創設することは、この地域の軍事化が進むという認識から、中国から否定的な反応を受ける可能性が高い。したがって、連合海上部隊は海軍ではなく、海上法執行に特化して構成されるべきである。この地域のほとんどの海事機関は、U.S. Coast Guardと同様の活動を行っており、世界規模の戦力投射よりも主権と沿岸の保護に重点を置いている。したがって、軍事競争ではなく、海上法執行に集中することは理にかなっている。
(6) 連合海上部隊の発展は、次のような効果も指摘されている。すなわち、違法・無規制・無報告の漁業への対処は、人権、食糧安全保障、海洋安全保障などに関わる多面的な問題であり、この地域に調整された海上部隊があれば、捜索救難活動や環境汚染への対応、自然災害にも迅速に移行できる。さらに、このような部隊は、UNCLOS違反に対応し、国際規範を執行するための強力な法執行機関の存在を確立するための基盤ともなる。
(7) 米国は、優先課題に対して主導的役割を発揮せず、中国に覇権を主張させることで、インド太平洋における戦略的影響力を失いつつある。米国は、インド太平洋に関する既存の戦略を踏襲し、さらに一歩進んで、連合海上部隊を導入すべきである。これにより結束力のある体制、提携の向上、中国のグレーゾーン戦術やあからさまな侵略を押し返す明確な方法を提供することができる。連合海上部隊は、海洋状況認識、能力開発、違法・無規制・無報告の漁業への対処など、この地域の優先課題に取り組むことができる。米議会はすでに、「連合海上部隊の任務の一環として」この分野での取り組みの拡大を承認している。議会は、新たな連合海上部隊の設立とそのための資金の計上を承認するべきである。
記事参照:CALL IN THE COAST GUARD: HOW MARITIME LAW ENFORCEMENT CAN COMBAT CHINA’S GRAY-ZONE AGGRESSION
4月16日「米比間のEDCAの現状と今後―フィリピン日刊紙報道」(The Manila Times, April 16, 2024)
4月16日付のフィリピン国営日刊紙The Manila Times電子版は、“Marcos rules out new bases for US”と題する記事を掲載し、米比間で近年活発にやり取りされている防衛協力強化協定(EDCA)に関する議論について、要旨以下のように報じている。
(1)Ferdinand Marcos Jr.フィリピン大統領は4月15日、フィリピン政府は防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の下で、米国にフィリピンのより多くの軍事基地の利用権を与える気はないとフィリピン外国人記者協会で述べた。
(2) 2014年に署名されたEDCAは、U.S. Armed ForcesがArmed Forces of the Philippinesの指定軍事施設を使用して施設を建設し、装備品、航空機、艦艇を配置することを許可している。当初の5ヵ所のEDCA指定地は、パラワン州のアントニオ・バウティスタ空軍基地、パンパンガ州のバサ空軍基地、ヌエバ・エシハ州のフォート・マグサイサイ基地、セブ州のマクタン・ベニト・エブエン空軍基地、カガヤン・デ・オロ市のルンビア空軍基地だった。2023年2月、Marcos Jr.大統領はさらに、カガヤン州スタ・アナのカミロ・オシアス海軍基地、カガヤン州ラルロのラルロ空港、イサベラ州ガムのキャンプ・メルチョール・デラクルス、パラワン州のバラバック島の4ヵ所のU.S. Armed Forcesの利用を許可した。2ヵ所の軍事施設は台湾に近い北部にあり、もう1ヵ所は南シナ海に近い南部にあるため、中国からの批判を招き、この地域の緊張を高めることになると中国は主張している。しかし、Marcos Jr.大統領は、追加の軍事施設は「フィリピンに対する攻撃がない限り」、いかなる攻撃行動にも使用されることはなく、緊急時や自然災害時の人道的・救援活動にも使用されるため、主にフィリピンの災害対応を強化するために使用されると主張している。
(3) Joe Biden米大統領は4月第2週の首脳会談で、条約上の同盟国であるフィリピンを守るという米政府の誓約は「鉄壁」だと繰り返した。両国は複雑な歴史を持ち、近年は関係が揺れ動いているが、1951年の相互防衛条約によって結ばれている。Biden政権の高官たちは、南シナ海のどこかでフィリピンの公船、航空機、軍隊または沿岸警備隊に対する「武力攻撃」があれば、条約が発動されると繰り返し述べている。Marcos Jr.大統領は4月15日、Lloyd Austin米国防長官から、他の「外国勢力」がフィリピン兵を殺害した場合には条約が発動されるとの確約を得たと語っている。2023年のEDCA拡大は、両国が近年緊張していた関係の修復を求めていた時に実現した。
(4) Donald Trump率いる共和党政権が、米国のフィリピンに対する「鉄壁の」誓約にどのような影響を与える可能性があるかと尋ねられたMarcos Jr.大統領は、フィリピン政府と米政府の間の合意は「政治を超えた」ものであり、誰が政権を取ろうとも守られなければならない、ほとんど「条約上の合意」であると述べている。
記事参照:Marcos rules out new bases for US
(1)Ferdinand Marcos Jr.フィリピン大統領は4月15日、フィリピン政府は防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の下で、米国にフィリピンのより多くの軍事基地の利用権を与える気はないとフィリピン外国人記者協会で述べた。
(2) 2014年に署名されたEDCAは、U.S. Armed ForcesがArmed Forces of the Philippinesの指定軍事施設を使用して施設を建設し、装備品、航空機、艦艇を配置することを許可している。当初の5ヵ所のEDCA指定地は、パラワン州のアントニオ・バウティスタ空軍基地、パンパンガ州のバサ空軍基地、ヌエバ・エシハ州のフォート・マグサイサイ基地、セブ州のマクタン・ベニト・エブエン空軍基地、カガヤン・デ・オロ市のルンビア空軍基地だった。2023年2月、Marcos Jr.大統領はさらに、カガヤン州スタ・アナのカミロ・オシアス海軍基地、カガヤン州ラルロのラルロ空港、イサベラ州ガムのキャンプ・メルチョール・デラクルス、パラワン州のバラバック島の4ヵ所のU.S. Armed Forcesの利用を許可した。2ヵ所の軍事施設は台湾に近い北部にあり、もう1ヵ所は南シナ海に近い南部にあるため、中国からの批判を招き、この地域の緊張を高めることになると中国は主張している。しかし、Marcos Jr.大統領は、追加の軍事施設は「フィリピンに対する攻撃がない限り」、いかなる攻撃行動にも使用されることはなく、緊急時や自然災害時の人道的・救援活動にも使用されるため、主にフィリピンの災害対応を強化するために使用されると主張している。
(3) Joe Biden米大統領は4月第2週の首脳会談で、条約上の同盟国であるフィリピンを守るという米政府の誓約は「鉄壁」だと繰り返した。両国は複雑な歴史を持ち、近年は関係が揺れ動いているが、1951年の相互防衛条約によって結ばれている。Biden政権の高官たちは、南シナ海のどこかでフィリピンの公船、航空機、軍隊または沿岸警備隊に対する「武力攻撃」があれば、条約が発動されると繰り返し述べている。Marcos Jr.大統領は4月15日、Lloyd Austin米国防長官から、他の「外国勢力」がフィリピン兵を殺害した場合には条約が発動されるとの確約を得たと語っている。2023年のEDCA拡大は、両国が近年緊張していた関係の修復を求めていた時に実現した。
(4) Donald Trump率いる共和党政権が、米国のフィリピンに対する「鉄壁の」誓約にどのような影響を与える可能性があるかと尋ねられたMarcos Jr.大統領は、フィリピン政府と米政府の間の合意は「政治を超えた」ものであり、誰が政権を取ろうとも守られなければならない、ほとんど「条約上の合意」であると述べている。
記事参照:Marcos rules out new bases for US
4月17日「中国による台湾侵攻の可能性は低い―米アジア太平洋専門家論説」(The Interpreter, April 17, 2024)
4月17日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、米シンクタンクEast-West Center上席研究員Denny Royの“Why China remains unlikely to invade Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでDenny Royは中国による台湾侵攻と米中戦争の可能性が高いという推測が広がっているが、その可能性は低いと主張し、その理由などについて、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は早晩中国と戦争をする、そのような予測が米国では広がっている。中国が台湾を武力で併合することで、その戦争が起こるという考え方である。米国人の多くは、習近平にとって台湾統一のための最良の選択肢が戦争であると考えている。習近平は平和的な統一を待つことに飽き、軍事行動を起こす機会を見定めている。さらに最近の中国の経済的問題が、台湾の軍事統一を後押しするだろうというのである。
(2) 筆者はそのように考えない。中国軍の圧倒的物量があっても、日米の抵抗の可能性を考慮すれば、圧倒的に優越している分野はない。戦争になれば中国は日米の艦艇やミサイルなどなどをくぐり抜けて兵士と物資を台湾に送り込まねばならない。海峡横断戦争は地域の経済活動を破壊し、中国の社会を混乱に陥らせる。台湾の港湾封鎖にも欠点がある。台湾政府が抵抗し、世界全体が反中国で連帯するかもしれない。中国は長期間の制裁を受ける可能性もある。米国に台湾支援をやめさせようとする試みも失敗している。台湾の防衛支援は米国の超党派的政策で、Biden大統領も4度も台湾防衛を宣言している。
(3) 習近平は台湾統一によって歴史に名を刻みたがっているというが、手段はそれだけではない。彼には3つの大規模な国内での計画がある。1つは共産党の復権である。第2に、西洋思想を国内から一掃するなどの「イデオロギー的浄化」である。第3に中国経済を新たなモデルに移行することである。つまり、輸出やインフラ投資への依存からの脱却による安定した成長国家への移行である。これらを成功させれば彼の栄光は確実であろう。
(4) 経済的な苦境は、むしろ台湾侵攻の可能性を低下させる。それは対外政策の慎重さを求める声を強めることで、台湾侵攻への熱を冷ますだろう。2023年に習近平がカリフォルニアを訪問してBidenと会談するなど、米国との緊張緩和を模索したことがその象徴である。この首脳会談で習近平がBidenに「警告」したことを強調する評論家もいる。武力による台湾占領を計画しているという「警告」である。しかし習近平の発言は、統一がいつかは起こるという、これまで言い尽くされてきたことを繰り返しただけだった。これまでの指導者同様、習近平も、最終的には台湾が統一されるという立場を揺るがすことはできない。
(5) 習近平にとって回避すべきは台湾の独立宣言であり、それがなされれば彼も台湾に軍事侵攻を実施するだろう。しかし、民進党政権でさえ、その一線を超える意図を示していない。習近平はこれまで、博打によってその地位を確立したのではない。彼はグレーゾーン戦術を好み、慎重なやり方と冷静さによって党の頂点に立ったのだ。彼が台湾統一を急ぐ理由は、今のところない。
記事参照:Why China remains unlikely to invade Taiwan
(1) 米国は早晩中国と戦争をする、そのような予測が米国では広がっている。中国が台湾を武力で併合することで、その戦争が起こるという考え方である。米国人の多くは、習近平にとって台湾統一のための最良の選択肢が戦争であると考えている。習近平は平和的な統一を待つことに飽き、軍事行動を起こす機会を見定めている。さらに最近の中国の経済的問題が、台湾の軍事統一を後押しするだろうというのである。
(2) 筆者はそのように考えない。中国軍の圧倒的物量があっても、日米の抵抗の可能性を考慮すれば、圧倒的に優越している分野はない。戦争になれば中国は日米の艦艇やミサイルなどなどをくぐり抜けて兵士と物資を台湾に送り込まねばならない。海峡横断戦争は地域の経済活動を破壊し、中国の社会を混乱に陥らせる。台湾の港湾封鎖にも欠点がある。台湾政府が抵抗し、世界全体が反中国で連帯するかもしれない。中国は長期間の制裁を受ける可能性もある。米国に台湾支援をやめさせようとする試みも失敗している。台湾の防衛支援は米国の超党派的政策で、Biden大統領も4度も台湾防衛を宣言している。
(3) 習近平は台湾統一によって歴史に名を刻みたがっているというが、手段はそれだけではない。彼には3つの大規模な国内での計画がある。1つは共産党の復権である。第2に、西洋思想を国内から一掃するなどの「イデオロギー的浄化」である。第3に中国経済を新たなモデルに移行することである。つまり、輸出やインフラ投資への依存からの脱却による安定した成長国家への移行である。これらを成功させれば彼の栄光は確実であろう。
(4) 経済的な苦境は、むしろ台湾侵攻の可能性を低下させる。それは対外政策の慎重さを求める声を強めることで、台湾侵攻への熱を冷ますだろう。2023年に習近平がカリフォルニアを訪問してBidenと会談するなど、米国との緊張緩和を模索したことがその象徴である。この首脳会談で習近平がBidenに「警告」したことを強調する評論家もいる。武力による台湾占領を計画しているという「警告」である。しかし習近平の発言は、統一がいつかは起こるという、これまで言い尽くされてきたことを繰り返しただけだった。これまでの指導者同様、習近平も、最終的には台湾が統一されるという立場を揺るがすことはできない。
(5) 習近平にとって回避すべきは台湾の独立宣言であり、それがなされれば彼も台湾に軍事侵攻を実施するだろう。しかし、民進党政権でさえ、その一線を超える意図を示していない。習近平はこれまで、博打によってその地位を確立したのではない。彼はグレーゾーン戦術を好み、慎重なやり方と冷静さによって党の頂点に立ったのだ。彼が台湾統一を急ぐ理由は、今のところない。
記事参照:Why China remains unlikely to invade Taiwan
4月18日「南シナ海で中国のグレーゾーンは縮小しつつある―カナダ執筆家論説」(Situation Report, Geopolitical Monitor, April 18, 2024)
4月18日付けのカナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトは、カナダの執筆家Zachary Fillinghamの“South China Sea Dispute: China’s ‘Gray Zone’ Is Shrinking”と題する論説を掲載し、Zachary Fillinghamは南シナ海における中国のグレーゾーン戦術に対抗する米国、フィリピンの他国を巻き込んだ取り組みについて、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海は中国政府にとって重要な舞台であり、海底鉱物資源という物質的な富と中国本土から防衛境界線を押し出すことによる軍事的安全性の向上の可能性を秘めている。しかし、この海域に対する中国政府の広範な主張は、他の沿岸国、すなわちベトナム、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、台湾と競合している。1974年に中国が西沙諸島を占拠した後のように、突然、地図が塗り替えられることもあれば、直接的な軍事的反応を起こさないように設計されたグレーゾーン戦術によって、以前の現状が徐々に新しい現状へと移行する、より緩やかな「サラミ・スライス戦術」につながることもある。
(2) フィリピンはこのような紛争において、特に南沙諸島とスカボロー諸島をめぐる競合する領有権主張において重要な役割を果たしてきた。スカボロー諸島はフィリピン本島ルソン島の西約200kmに位置し、豊富な魚類資源を持つことから長い間関心が持たれており、2012年にはフィリピンから中国に事実上の支配権が移る外交危機の対象となった。それ以来、スカボロー諸島周辺では定期的に衝突が起きており、しばしば民間、民兵、沿岸警備隊の船が入り乱れている。セカンド・トーマス礁は、南沙諸島で最も注目すべき係争地である。フィリピンは、周辺海域の領有権を積極的に主張するため、老朽化した座礁船「シエラ・マドレ」に海兵隊を常駐させている。この「シエラ・マドレ」への補給任務は、しばしばこの海域で行動する中国艦船に狙われている。
(3) フィリピン政府の対応は長年にわたり、対立と宥和の間で揺れ動いてきた。2013年、Aquino III大統領の下、フィリピンはこの問題を常設仲裁裁判所に提訴した。2016年にはマニラ側に有利な裁定が下され、中国の9段線領有権の大半の合法性が疑問視されるまでになった。しかし、その頃には大統領はRodrigo Duterteに代わっており、彼は中国との対立ではなく、協力を通じて南シナ海におけるフィリピンの権益を確保することを掲げた。少なくとも、中国とフィリピンの関係における権力格差を考慮すれば、この判決が実行に移されることはなかった。そして今、Ferdinand Marcos Jr.大統領の誕生により、政策の振り子は再び揺れ動き、米比関係の最新の展開の舞台となっている。
(4) 1991年に初められたバリカタン演習が2024年も開催された特筆すべき理由はいくつかある。1つは、参加人員約1万7,000名という規模の大きさで、Marine nationale(フランス海軍)とRoyal Australian Navyも参加する。演習は初めてフィリピンの領海外で行われる。また、「敵に占領された島々の奪還」という戦術的な焦点は、連合国海軍が南シナ海、あるいは台湾をめぐる紛争という不測の事態に備えている。Philippine Coast Guardも演習に参加する見込みで、南シナ海での衝突に対応して米比同盟が発動される可能性をさらに示唆している。
(5) Marcos Jr.大統領は、Duterte政権の2国間取り組みから大きく転換し、フィリピンの南シナ海問題を本質的に国際化している。2023年後半には、U.S. Navyとともに海・空の共同哨戒が開始され、その後2024年4月には、オーストラリアも参加する米国の海上協同活動(Maritime Cooperative Activity)の後押しを受けて、日本もこの計画に組み込まれた。米政府にとっては、負担の分担を促進し、南シナ海での中国政府による新たな領土侵犯に越えてはならない一線を引くことが目的であり、これまでの反応は、抑止力として米国の軍事力を活用しようという地域大国の意欲を示唆している。
(6) その中で、重要な展開があり、Biden米大統領が日本、フィリピンとの3ヵ国首脳会談で、米国の相互防衛の誓約は南シナ海にも及ぶと宣言した。具体的には、「フィリピンの航空機、船舶、軍隊に対するいかなる攻撃」も相互防衛条約を発動させるというものである。この声明は、2023年の同様の宣言を反映したもので、スカボロー諸島が封鎖され、事実上の主権がフィリピンから中国に移った2012年の出来事とは対照的で、当時、米国政府が拒否したことの1つは、米比相互防衛条約が南シナ海に適用されるかどうかを明示することだった。
(7) こうしたあいまいさは米政府によって取り除かれつつあり、2012年のスカボロー礁や類似の事件をめぐる複雑な要因の1つは、侵略の発端が国軍ではなく、民間船舶、沿岸警備隊、海上民兵であるということであった。これが、現状を変えようとする中国政府の新たな試みを抑止するのに十分かどうかは、時間が経たなければわからない。
記事参照:South China Sea Dispute: China’s ‘Gray Zone’ Is Shrinking
(1) 南シナ海は中国政府にとって重要な舞台であり、海底鉱物資源という物質的な富と中国本土から防衛境界線を押し出すことによる軍事的安全性の向上の可能性を秘めている。しかし、この海域に対する中国政府の広範な主張は、他の沿岸国、すなわちベトナム、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、台湾と競合している。1974年に中国が西沙諸島を占拠した後のように、突然、地図が塗り替えられることもあれば、直接的な軍事的反応を起こさないように設計されたグレーゾーン戦術によって、以前の現状が徐々に新しい現状へと移行する、より緩やかな「サラミ・スライス戦術」につながることもある。
(2) フィリピンはこのような紛争において、特に南沙諸島とスカボロー諸島をめぐる競合する領有権主張において重要な役割を果たしてきた。スカボロー諸島はフィリピン本島ルソン島の西約200kmに位置し、豊富な魚類資源を持つことから長い間関心が持たれており、2012年にはフィリピンから中国に事実上の支配権が移る外交危機の対象となった。それ以来、スカボロー諸島周辺では定期的に衝突が起きており、しばしば民間、民兵、沿岸警備隊の船が入り乱れている。セカンド・トーマス礁は、南沙諸島で最も注目すべき係争地である。フィリピンは、周辺海域の領有権を積極的に主張するため、老朽化した座礁船「シエラ・マドレ」に海兵隊を常駐させている。この「シエラ・マドレ」への補給任務は、しばしばこの海域で行動する中国艦船に狙われている。
(3) フィリピン政府の対応は長年にわたり、対立と宥和の間で揺れ動いてきた。2013年、Aquino III大統領の下、フィリピンはこの問題を常設仲裁裁判所に提訴した。2016年にはマニラ側に有利な裁定が下され、中国の9段線領有権の大半の合法性が疑問視されるまでになった。しかし、その頃には大統領はRodrigo Duterteに代わっており、彼は中国との対立ではなく、協力を通じて南シナ海におけるフィリピンの権益を確保することを掲げた。少なくとも、中国とフィリピンの関係における権力格差を考慮すれば、この判決が実行に移されることはなかった。そして今、Ferdinand Marcos Jr.大統領の誕生により、政策の振り子は再び揺れ動き、米比関係の最新の展開の舞台となっている。
(4) 1991年に初められたバリカタン演習が2024年も開催された特筆すべき理由はいくつかある。1つは、参加人員約1万7,000名という規模の大きさで、Marine nationale(フランス海軍)とRoyal Australian Navyも参加する。演習は初めてフィリピンの領海外で行われる。また、「敵に占領された島々の奪還」という戦術的な焦点は、連合国海軍が南シナ海、あるいは台湾をめぐる紛争という不測の事態に備えている。Philippine Coast Guardも演習に参加する見込みで、南シナ海での衝突に対応して米比同盟が発動される可能性をさらに示唆している。
(5) Marcos Jr.大統領は、Duterte政権の2国間取り組みから大きく転換し、フィリピンの南シナ海問題を本質的に国際化している。2023年後半には、U.S. Navyとともに海・空の共同哨戒が開始され、その後2024年4月には、オーストラリアも参加する米国の海上協同活動(Maritime Cooperative Activity)の後押しを受けて、日本もこの計画に組み込まれた。米政府にとっては、負担の分担を促進し、南シナ海での中国政府による新たな領土侵犯に越えてはならない一線を引くことが目的であり、これまでの反応は、抑止力として米国の軍事力を活用しようという地域大国の意欲を示唆している。
(6) その中で、重要な展開があり、Biden米大統領が日本、フィリピンとの3ヵ国首脳会談で、米国の相互防衛の誓約は南シナ海にも及ぶと宣言した。具体的には、「フィリピンの航空機、船舶、軍隊に対するいかなる攻撃」も相互防衛条約を発動させるというものである。この声明は、2023年の同様の宣言を反映したもので、スカボロー諸島が封鎖され、事実上の主権がフィリピンから中国に移った2012年の出来事とは対照的で、当時、米国政府が拒否したことの1つは、米比相互防衛条約が南シナ海に適用されるかどうかを明示することだった。
(7) こうしたあいまいさは米政府によって取り除かれつつあり、2012年のスカボロー礁や類似の事件をめぐる複雑な要因の1つは、侵略の発端が国軍ではなく、民間船舶、沿岸警備隊、海上民兵であるということであった。これが、現状を変えようとする中国政府の新たな試みを抑止するのに十分かどうかは、時間が経たなければわからない。
記事参照:South China Sea Dispute: China’s ‘Gray Zone’ Is Shrinking
4月19日「イランのイスラエルへの大量攻撃は、台湾の防空が中国の攻撃に持ちこたえられない理由を明確にする―英アジア太平洋安全保障問題専門家論説」(The Diplomat, April 19, 2024)
4月19日付のデジタル誌The Diplomatは、英国のアジア太平洋地域の安全保障問題専門家A. B. Abramsの “Iran’s Mass Strike on Israel Highlights Why Taiwan’s Air Defenses Can’t Hold up”と題する論説を掲載し、ここでA. B. Abramsはイランのイスラエルへの攻撃は大量の低価格の無人機やミサイルに対抗するときに高価な西側兵器に頼る場合の困難さを明確にするとともに、中国軍は紛争時に台湾海峡周辺の空と海を支配し、大量の巡航ミサイルやその他の発射体を複数の方向から同時に発射するという台湾にとっての大きな不利を明らかにしたとして、要旨以下のように述べている。
(1) Islamic Revolutionary Guard Corpsは、2024年4月1日にシリアのイラン公館が攻撃されたことへの報復として、2024年4月13日から14日にかけて、イスラエルの軍事施設に対して無人機とミサイルによる大規模な攻撃を行った。イランのこの集中攻撃は、歴史上最も濃密な対空ミサイル発射の1つとなった。イランとイスラエルおよび米国の異なる説明にも共通するいくつかの情報は、空中戦と防空の取り組みが地域を超えてどのように発展したかについての貴重な洞察を与えてくれる。特に台湾海峡では、台湾軍はIsrael Defense Forces との防衛態勢に関して多くの重要な共通点を持っている。特に、敵の大量の無人機やミサイルに対抗するために、狭い領土に密集した大量の地上防空システムを持ち、それに大きく依存していることが共通している。台湾海峡は主要な紛争の発火点と見なされており、イランとイスラエルの最近の衝突からの教訓は重要である。
(2) イランの大量攻撃によって引き起こされた実際の被害については議論の余地がある。しかし、最も重要な側面の1つは、攻撃の対価とそれに対する防衛の対価の大きな不一致である。イランの攻撃費用の最大の見積もりでさえ1億ドル以下に留まっている。一方、それに対する米国とイスラエルの迎撃には、米国には10億ドル、イスラエルには10億8,000万ドルから13億5,000万ドル近い費用がかかっている。イランの防衛部門がドローンやミサイルを非常に安価に生産できるためだけでなく、それらの兵器は、それを迎撃するために必要なミサイルよりもはるかに安価なためそのような不一致が生じている。高速で移動する数mのミサイルやドローンを空中で攻撃するには、地上防空システムには非常に高い精度が要求され、対価が大幅に高くなる。
(3) U.S. Armed Forcesの指導者たちは、中国がわずかな経費で兵器を生産し、開発計画を完成させることができることについて、長年にわたり大きな懸念を抱いてきた。台湾はイスラエルと同様、防空システムを米国からの輸入に大きく依存しており、また米国と共同で開発したシステムを展開し、主に天弓防空システムを中心とする国産技術をも取り入れている。一方、イランは、無人機やミサイルを大規模に配備できるだけでなく、ステルス能力や再突入機能を備えたはるかに高度な兵器も配備できるため、U.S. NavyとU.S. Air Forceの積極的な参加をもってしても、大規模なイランの攻撃に打ち勝つためのイスラエルの能力は疑問視されている。台湾の立場はさらに弱い。イスラエルの防衛を飽和させるイランの能力に対する主な障害は、2つの国家間の距離であり、ドローンとミサイルは1,000km以上を飛行する必要がある。したがって、最も安価で最短の射程の兵器が運用から排除されている。しかし、台湾海峡の幅は130kmで、中国軍は無人機やミサイル、さらには誘導ロケット弾を発射し、台湾の防衛を飽和させることができる。イランとイスラエルの国防費の水準はほぼ同等であるが、中国軍は2020年以降、世界のどの軍隊よりも多くの予算を持っており、台湾軍の支出はその10分の1を下回っている。さらに、イスラエルは、中東全域に広がる米国や他の西側諸国の軍事基地と艦船によって守られているが、米国の台湾における軍事力の配備は小さく、防空作戦のための装備は整っておらず、仮に米国が介入したとしても、紛争の初期段階では米国の戦闘機や艦艇が台湾海峡付近で活動できるとは限らない。
(4) 台湾軍が直面するさらに大きな不利な点は、紛争時には、中国軍が台湾海峡周辺の空と海を支配し、巡航ミサイルやその他の発射体を複数の方向から同時に、ほとんど予告なしに発射できることである。対照的に、イスラエルは、攻撃軸についてかなりの注意を払っており、イランが自国の領土外から攻撃するために艦艇や有人航空機を運用する能力は、ごくわずかに留まっている。しかし、台湾のF-16戦闘機は航続距離が短く空中給油能力も限られているため、中国は台湾の領土から遠く離れた場所から安全にミサイル攻撃を行うことができる。第5世代戦闘機を含む中国空軍の大規模で最新鋭の戦闘機の編隊は、台湾の戦闘機の運用能力を著しく制限するだろう。中国軍は、台湾周辺の空域を制圧することで、J-16Dなどの特殊な兵器を使用した作戦で巡航ミサイルや無人機攻撃を実施することも可能になる。結局のところ、米軍からの多大な支援があっても、台湾にとって、状況は遥かに不利である。台湾の防空網は、同盟国軍からの支援を欠き、ミサイルや無人機による攻撃能力が圧倒的に高いだけでなく、周辺の空と海を制圧できる戦闘機部隊や海軍を擁する敵と対峙した場合、すぐに武器庫を使い果たすか、地上で戦闘機が破壊されることが予想される。
(5) イランの作戦は、特に大量の低価格の無人機やミサイルに対抗する際に価格の高い西側兵器に頼る場合、防空の努力が直面する困難を明確にした。この問題は数年前から明らかとなっており、迎撃のための対価が大幅に低いミサイル迎撃・対ドローンレーザーへの米国とイスラエルの投資に拍車がかかっている。しかし、これらの技術はまだ完成していないため、電子戦の混乱の影響を受けない標的に対するミサイル防衛の唯一の実際的で費用対効果の高い手段は、敵の発射場や基地を攻撃して敵の無人機が空中で運用開始となることを防ぐことである。イランに対しては、米国はそのようなことができるかもしれないが、台湾海峡では、それはまだ実現には程遠い。
記事参照:Iran’s Mass Strike on Israel Highlights Why Taiwan’s Air Defenses Can’t Hold up
(1) Islamic Revolutionary Guard Corpsは、2024年4月1日にシリアのイラン公館が攻撃されたことへの報復として、2024年4月13日から14日にかけて、イスラエルの軍事施設に対して無人機とミサイルによる大規模な攻撃を行った。イランのこの集中攻撃は、歴史上最も濃密な対空ミサイル発射の1つとなった。イランとイスラエルおよび米国の異なる説明にも共通するいくつかの情報は、空中戦と防空の取り組みが地域を超えてどのように発展したかについての貴重な洞察を与えてくれる。特に台湾海峡では、台湾軍はIsrael Defense Forces との防衛態勢に関して多くの重要な共通点を持っている。特に、敵の大量の無人機やミサイルに対抗するために、狭い領土に密集した大量の地上防空システムを持ち、それに大きく依存していることが共通している。台湾海峡は主要な紛争の発火点と見なされており、イランとイスラエルの最近の衝突からの教訓は重要である。
(2) イランの大量攻撃によって引き起こされた実際の被害については議論の余地がある。しかし、最も重要な側面の1つは、攻撃の対価とそれに対する防衛の対価の大きな不一致である。イランの攻撃費用の最大の見積もりでさえ1億ドル以下に留まっている。一方、それに対する米国とイスラエルの迎撃には、米国には10億ドル、イスラエルには10億8,000万ドルから13億5,000万ドル近い費用がかかっている。イランの防衛部門がドローンやミサイルを非常に安価に生産できるためだけでなく、それらの兵器は、それを迎撃するために必要なミサイルよりもはるかに安価なためそのような不一致が生じている。高速で移動する数mのミサイルやドローンを空中で攻撃するには、地上防空システムには非常に高い精度が要求され、対価が大幅に高くなる。
(3) U.S. Armed Forcesの指導者たちは、中国がわずかな経費で兵器を生産し、開発計画を完成させることができることについて、長年にわたり大きな懸念を抱いてきた。台湾はイスラエルと同様、防空システムを米国からの輸入に大きく依存しており、また米国と共同で開発したシステムを展開し、主に天弓防空システムを中心とする国産技術をも取り入れている。一方、イランは、無人機やミサイルを大規模に配備できるだけでなく、ステルス能力や再突入機能を備えたはるかに高度な兵器も配備できるため、U.S. NavyとU.S. Air Forceの積極的な参加をもってしても、大規模なイランの攻撃に打ち勝つためのイスラエルの能力は疑問視されている。台湾の立場はさらに弱い。イスラエルの防衛を飽和させるイランの能力に対する主な障害は、2つの国家間の距離であり、ドローンとミサイルは1,000km以上を飛行する必要がある。したがって、最も安価で最短の射程の兵器が運用から排除されている。しかし、台湾海峡の幅は130kmで、中国軍は無人機やミサイル、さらには誘導ロケット弾を発射し、台湾の防衛を飽和させることができる。イランとイスラエルの国防費の水準はほぼ同等であるが、中国軍は2020年以降、世界のどの軍隊よりも多くの予算を持っており、台湾軍の支出はその10分の1を下回っている。さらに、イスラエルは、中東全域に広がる米国や他の西側諸国の軍事基地と艦船によって守られているが、米国の台湾における軍事力の配備は小さく、防空作戦のための装備は整っておらず、仮に米国が介入したとしても、紛争の初期段階では米国の戦闘機や艦艇が台湾海峡付近で活動できるとは限らない。
(4) 台湾軍が直面するさらに大きな不利な点は、紛争時には、中国軍が台湾海峡周辺の空と海を支配し、巡航ミサイルやその他の発射体を複数の方向から同時に、ほとんど予告なしに発射できることである。対照的に、イスラエルは、攻撃軸についてかなりの注意を払っており、イランが自国の領土外から攻撃するために艦艇や有人航空機を運用する能力は、ごくわずかに留まっている。しかし、台湾のF-16戦闘機は航続距離が短く空中給油能力も限られているため、中国は台湾の領土から遠く離れた場所から安全にミサイル攻撃を行うことができる。第5世代戦闘機を含む中国空軍の大規模で最新鋭の戦闘機の編隊は、台湾の戦闘機の運用能力を著しく制限するだろう。中国軍は、台湾周辺の空域を制圧することで、J-16Dなどの特殊な兵器を使用した作戦で巡航ミサイルや無人機攻撃を実施することも可能になる。結局のところ、米軍からの多大な支援があっても、台湾にとって、状況は遥かに不利である。台湾の防空網は、同盟国軍からの支援を欠き、ミサイルや無人機による攻撃能力が圧倒的に高いだけでなく、周辺の空と海を制圧できる戦闘機部隊や海軍を擁する敵と対峙した場合、すぐに武器庫を使い果たすか、地上で戦闘機が破壊されることが予想される。
(5) イランの作戦は、特に大量の低価格の無人機やミサイルに対抗する際に価格の高い西側兵器に頼る場合、防空の努力が直面する困難を明確にした。この問題は数年前から明らかとなっており、迎撃のための対価が大幅に低いミサイル迎撃・対ドローンレーザーへの米国とイスラエルの投資に拍車がかかっている。しかし、これらの技術はまだ完成していないため、電子戦の混乱の影響を受けない標的に対するミサイル防衛の唯一の実際的で費用対効果の高い手段は、敵の発射場や基地を攻撃して敵の無人機が空中で運用開始となることを防ぐことである。イランに対しては、米国はそのようなことができるかもしれないが、台湾海峡では、それはまだ実現には程遠い。
記事参照:Iran’s Mass Strike on Israel Highlights Why Taiwan’s Air Defenses Can’t Hold up
4月19日「海上能力がオーストラリアの将来の国防投資の大半を占める―フランス海軍関連ウエブサイト報道」(Naval News, April 19, 2024)
4月19日付のフランスの海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、ニュージーランドのフリージャーナリストGordon Arthur の‶Maritime Capabilities Take Lion’s Share Of Australia’s Future Defence Investment″と題する記事を掲載し、今後10年間のオーストラリアの国防費は、海洋領域が大半を占め、陸軍も水陸両用戦機能の充実が図られるとして、要旨以下のように報じている。
(1) National Press Club of Australiaで、Richard Marles国防相は初の「国家防衛戦略2024」(National Defence Strategy 2024:以下、NDSと言う)と「統合投資プログラム2024」(Integrated Investment Program 2024:以下、IIPと言う)を同時に発表した。NDSは2023年の国防戦略見直し(Defence Strategic Review)を引き継ぎ、オーストラリアが防衛力を大幅に増強する意義を示すものである。一方、IIPには今後10年間に調達される装備品が、おおよその金額とともに列挙されている。
(2) 両文書は、オーストラリアの国防費が今後10年間で7,650億オーストラリアドル(以下、「豪ドル」と言う)に達すると予測する。2033年~2034年には、オーストラリアの国防予算は年額1,000億豪ドルを超えるはずで、これによって軍事費をGDP比2.4%にするという政府の公約を達成することになる。IIPに示された内訳は、オーストラリアにとって海洋領域がいかに重要な位置を占めているかを示している。今後10年間で、政府は資金の38%を海洋能力に、22%を企業および基幹施設などに、16%を陸上領域に、14%を航空に、7%をサイバーに、3%を宇宙に投資する。
(3) NDSは「敵の近接を拒否する戦略を実行するため、Australian Defence Forceには敵対者の予測を困難にさせる能力が必要である。政府は、軍の射程距離と殺傷力を向上させ、オーストラリアの国土強靭性を強化し、Department of Defenceの国際的関与の取り組みを相互運用性と集団的抑止力の強化に集中することで、これを達成する」と述べている。Australian Strategic Policy Institute(ASPI)のBec Shrimpton国防戦略・国家安全保障部長は、97ページのIIPについて、「将来の軍隊がどのような姿になり、何をするのか、真の姿を描き始めた」と語っている。
(4) 海軍の能力に関して、IIPは2034年までの支出先を列挙している。水中戦では、攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)と関連する基幹施設に530億〜630億豪ドルを含む最大760億豪ドルの支出が予測されている。SSNの重要性が再確認され、バージニア級SSN3隻を米国から取得し、さらに2隻の選択肢も用意されている。最初のSSNは2030年代初頭に引き渡され、その後、南オーストラリア州で建造される米英豪3国間開発のSSN-AUKUSが2040年代初頭に引き渡される。
(5) SSN取得は少し先であり、Royal Australian Navyのコリンズ級潜水艦6隻は、40億〜50億豪ドルを投入して性能向上が図られることになる。また、米国と英国がオーストラリアに配備するSSNには、適切な基幹施設が必要である。IIP発表の翌日、Pat Conroy国防産業相は、Royal Australian Navy に諜報、監視、偵察、攻撃任務を含む長距離自律型水中能力を提供するために、Anduril Australia 社の自律型潜水艇「ゴースト・シャーク」が選定されたと発表した。官民提携の下、Anduril Australia 社とDepartment of Defenceはこの「ゴースト・シャーク」計画で協力してきたが、今回はAdvanced Strategic Capabilities Acceleratorが果たすべき役割の基点となっている。
(6) IIPはまた、今後10年間で510億~690億豪ドルを水上艦艇に投じ、最終的に海軍に26隻の水上艦艇を配備し、オーストラリア北方海域におけるシー・ディナイアルを確実なものにするとしている。しかし、水上艦艇の数は間もなく9隻に減少し、中国人民解放軍の脅威が最も大きいと認識される時期に、大きな能力差を露呈することを忘れてはならない。実際、IIPに記載された水上艦艇の大半はすぐに取得できるものではなく、オーストラリアと中国の軍事能力の大きな溝が迫っていることは深刻な問題である。オーストラリアの対応が遅すぎたためで、この危機はDepartment of Defence側の無能、歴代政府の怠慢の集大成である。
(7) Bec Shrimpton部長は、能力の溝を緩和する1つの方法は、既製品や商業的な解決策に目を向けることだとして、「それは必ずしも悪いことではなく陸・空・海における、無人で小型の、高性能で攻撃可能なシステムにおける新しい技術は、我々が追求するもので、迅速に開発・取得が可能である」と指摘している。「強化された破壊力のある水上戦闘艦隊」見直しでの推奨事項から変更はなく、ホバート級駆逐艦3隻、ハンター級フリゲート6隻、汎用フリゲート11隻、アラフラ級巡視船6隻等が一覧表に上がっている。
(8) 2025年半ばまでに、Royal Australian Navyは36機のMH-60Rヘリコプターを保有する予定である。しかし、より優先順位の高い計画に資金を提供するために、どのような計画が削減、あるいは縮小されるか、その一覧表を明らかにしていないことが問題である。IIPでは、2隻の16,500トン級統合支援艦の取得が取り消されたことを確認している。これによって、26隻の軍艦の運用に必要な燃料、水、弾薬、貯蔵品等、艦隊を支援する補給艦が2隻残るが、統合支援船は陸軍の海外派遣に有用で、陸軍の上陸用舟艇だけでは、不足を完全に補うことはできない。もう1つの犠牲は、対機雷戦と軍事調査である。この計画は、新型対機雷戦艦艇を削除するので、再検討される予定であるが、ヒュオン級掃海艇の代替艦艇はなく、空輸可能な自立型無人潜水艇が港湾啓開を行うことになる。航路啓開作戦やトレス海峡のような戦略的航路の啓開を担うのは困難かもしれない。
(9) IIPは兵装に関しても、トマホーク・ミサイルシステム、ノルウェーの新型対艦ミサイル、SM-2とSM-6ミサイル発射可能なイージス・システム、既存の近接防空システム、次世代のヌルカデコイ等について言及している。水上艦艇搭載のミサイル・システムには総額120億豪ドルから150億豪ドルが見積もられている。オーストラリアはまた、自国への接近航路を保護するため、潜水艦、水上艦艇、および航空機から敷設可能なマルチセンサー機雷に最大6億7000万豪ドルを投じる予定である。建艦の詳細は、2024年後半に発表される2024年海軍建艦・保守整備計画で明らかになる。
(10) 今後10年間で、Australian Armyは水陸両用遠征軍へと変貌を遂げるであろう。陸軍は海兵隊になるのかという疑問に対し、Bec Shrimpton部長は「能力的には間違いなくそうなっている。」と答えている。沿海域部隊とするべきか、伝統的な地上戦部隊とするべきかについては、議論の余地がある。水陸両用戦力の一部として、Australian Armyは中型上陸用舟艇18隻と大型上陸用舟艇8隻を装備する沿海域機動群を保有する。これら水陸両用戦艦艇は、2026年~37年に納入される予定で、70億豪ドルから100億豪ドルの経費が見込まれている。これらは、クイーンズランド州南東部と北部、ダーウィンに配備される。IIPはまた、老朽化した水陸両用貨物車両LARC-Vを置き換えるため、オーストラリア国内で製造される最大15両の水陸両用支援車両も取り上げている。IIPは今後2年ごとに更新される。
記事参照:Maritime Capabilities Take Lion’s Share Of Australia’s Future Defence Investment
(1) National Press Club of Australiaで、Richard Marles国防相は初の「国家防衛戦略2024」(National Defence Strategy 2024:以下、NDSと言う)と「統合投資プログラム2024」(Integrated Investment Program 2024:以下、IIPと言う)を同時に発表した。NDSは2023年の国防戦略見直し(Defence Strategic Review)を引き継ぎ、オーストラリアが防衛力を大幅に増強する意義を示すものである。一方、IIPには今後10年間に調達される装備品が、おおよその金額とともに列挙されている。
(2) 両文書は、オーストラリアの国防費が今後10年間で7,650億オーストラリアドル(以下、「豪ドル」と言う)に達すると予測する。2033年~2034年には、オーストラリアの国防予算は年額1,000億豪ドルを超えるはずで、これによって軍事費をGDP比2.4%にするという政府の公約を達成することになる。IIPに示された内訳は、オーストラリアにとって海洋領域がいかに重要な位置を占めているかを示している。今後10年間で、政府は資金の38%を海洋能力に、22%を企業および基幹施設などに、16%を陸上領域に、14%を航空に、7%をサイバーに、3%を宇宙に投資する。
(3) NDSは「敵の近接を拒否する戦略を実行するため、Australian Defence Forceには敵対者の予測を困難にさせる能力が必要である。政府は、軍の射程距離と殺傷力を向上させ、オーストラリアの国土強靭性を強化し、Department of Defenceの国際的関与の取り組みを相互運用性と集団的抑止力の強化に集中することで、これを達成する」と述べている。Australian Strategic Policy Institute(ASPI)のBec Shrimpton国防戦略・国家安全保障部長は、97ページのIIPについて、「将来の軍隊がどのような姿になり、何をするのか、真の姿を描き始めた」と語っている。
(4) 海軍の能力に関して、IIPは2034年までの支出先を列挙している。水中戦では、攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)と関連する基幹施設に530億〜630億豪ドルを含む最大760億豪ドルの支出が予測されている。SSNの重要性が再確認され、バージニア級SSN3隻を米国から取得し、さらに2隻の選択肢も用意されている。最初のSSNは2030年代初頭に引き渡され、その後、南オーストラリア州で建造される米英豪3国間開発のSSN-AUKUSが2040年代初頭に引き渡される。
(5) SSN取得は少し先であり、Royal Australian Navyのコリンズ級潜水艦6隻は、40億〜50億豪ドルを投入して性能向上が図られることになる。また、米国と英国がオーストラリアに配備するSSNには、適切な基幹施設が必要である。IIP発表の翌日、Pat Conroy国防産業相は、Royal Australian Navy に諜報、監視、偵察、攻撃任務を含む長距離自律型水中能力を提供するために、Anduril Australia 社の自律型潜水艇「ゴースト・シャーク」が選定されたと発表した。官民提携の下、Anduril Australia 社とDepartment of Defenceはこの「ゴースト・シャーク」計画で協力してきたが、今回はAdvanced Strategic Capabilities Acceleratorが果たすべき役割の基点となっている。
(6) IIPはまた、今後10年間で510億~690億豪ドルを水上艦艇に投じ、最終的に海軍に26隻の水上艦艇を配備し、オーストラリア北方海域におけるシー・ディナイアルを確実なものにするとしている。しかし、水上艦艇の数は間もなく9隻に減少し、中国人民解放軍の脅威が最も大きいと認識される時期に、大きな能力差を露呈することを忘れてはならない。実際、IIPに記載された水上艦艇の大半はすぐに取得できるものではなく、オーストラリアと中国の軍事能力の大きな溝が迫っていることは深刻な問題である。オーストラリアの対応が遅すぎたためで、この危機はDepartment of Defence側の無能、歴代政府の怠慢の集大成である。
(7) Bec Shrimpton部長は、能力の溝を緩和する1つの方法は、既製品や商業的な解決策に目を向けることだとして、「それは必ずしも悪いことではなく陸・空・海における、無人で小型の、高性能で攻撃可能なシステムにおける新しい技術は、我々が追求するもので、迅速に開発・取得が可能である」と指摘している。「強化された破壊力のある水上戦闘艦隊」見直しでの推奨事項から変更はなく、ホバート級駆逐艦3隻、ハンター級フリゲート6隻、汎用フリゲート11隻、アラフラ級巡視船6隻等が一覧表に上がっている。
(8) 2025年半ばまでに、Royal Australian Navyは36機のMH-60Rヘリコプターを保有する予定である。しかし、より優先順位の高い計画に資金を提供するために、どのような計画が削減、あるいは縮小されるか、その一覧表を明らかにしていないことが問題である。IIPでは、2隻の16,500トン級統合支援艦の取得が取り消されたことを確認している。これによって、26隻の軍艦の運用に必要な燃料、水、弾薬、貯蔵品等、艦隊を支援する補給艦が2隻残るが、統合支援船は陸軍の海外派遣に有用で、陸軍の上陸用舟艇だけでは、不足を完全に補うことはできない。もう1つの犠牲は、対機雷戦と軍事調査である。この計画は、新型対機雷戦艦艇を削除するので、再検討される予定であるが、ヒュオン級掃海艇の代替艦艇はなく、空輸可能な自立型無人潜水艇が港湾啓開を行うことになる。航路啓開作戦やトレス海峡のような戦略的航路の啓開を担うのは困難かもしれない。
(9) IIPは兵装に関しても、トマホーク・ミサイルシステム、ノルウェーの新型対艦ミサイル、SM-2とSM-6ミサイル発射可能なイージス・システム、既存の近接防空システム、次世代のヌルカデコイ等について言及している。水上艦艇搭載のミサイル・システムには総額120億豪ドルから150億豪ドルが見積もられている。オーストラリアはまた、自国への接近航路を保護するため、潜水艦、水上艦艇、および航空機から敷設可能なマルチセンサー機雷に最大6億7000万豪ドルを投じる予定である。建艦の詳細は、2024年後半に発表される2024年海軍建艦・保守整備計画で明らかになる。
(10) 今後10年間で、Australian Armyは水陸両用遠征軍へと変貌を遂げるであろう。陸軍は海兵隊になるのかという疑問に対し、Bec Shrimpton部長は「能力的には間違いなくそうなっている。」と答えている。沿海域部隊とするべきか、伝統的な地上戦部隊とするべきかについては、議論の余地がある。水陸両用戦力の一部として、Australian Armyは中型上陸用舟艇18隻と大型上陸用舟艇8隻を装備する沿海域機動群を保有する。これら水陸両用戦艦艇は、2026年~37年に納入される予定で、70億豪ドルから100億豪ドルの経費が見込まれている。これらは、クイーンズランド州南東部と北部、ダーウィンに配備される。IIPはまた、老朽化した水陸両用貨物車両LARC-Vを置き換えるため、オーストラリア国内で製造される最大15両の水陸両用支援車両も取り上げている。IIPは今後2年ごとに更新される。
記事参照:Maritime Capabilities Take Lion’s Share Of Australia’s Future Defence Investment
4月19日「中国海軍によるカンボジア海軍基地運用の疑惑―米ラジオ報道」(Radio Free Asia, April 19, 2024)
4月19日付の米議会出資の短波ラジオ放送Radio Free Asiaのウエブサイトは、“Chinese navy is operating out of Cambodia's Ream base: US think tank”と題する記事を掲載し、カンボジアのリアム海軍基地に数ヵ月前から中国艦艇が停泊しているという米シンクタンクの報告に言及し、その背景と意義について要旨以下のように報じている。
(1) 米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)によると、カンボジアアは同国のリアム海軍基地への排他的利用権を中国に与えたようである。ただしカンボジア政府はそれを否定している。
(2) 我々は2023年12月、シアヌークビルのリアムに中国が新たに建造した埠頭に、中国のコルベット2隻が停泊していることを報じた。その埠頭に外国船の停泊が許可された最初の事例であった。商業用衛星写真を分析したAMTIによると、中国艦艇はその埠頭に「4ヵ月間以上、継続的に停泊している」。2019年に流出した中国・カンボジア間の合意覚書は、中国にリアム海軍基地の一部の利用権を認めるものだったが、それが実現したようである。AMTIは、この展開は単なる訪問や演習ではないと述べている。
(3) リアム海軍基地の新たな埠頭は2023年完成しており、大型艦船が停泊可能である。その埠頭に停泊している艦船は、カンボジアのものを含めて1隻もない。これは中国軍がその埠頭に排他的利用権を得ていることを示唆する。カンボジアは現在、中国と年に一度行う共同演習「ゴールデン・ドラゴン」の準備中である。リアム海軍基地に停泊中の中国艦艇が同演習に参加するかは不明である。同基地司令官に連絡を取ったが、返事はない。
(4) 2023年12月、カンボジア国防相Tea Seihaは、リアムへの中国艦停泊について、「Kâng Toăp Cheung Tœ̆k( Royal Cambodian Navy:カンボジア海軍)の兵員の訓練のため」とフェイスブックで表明し、実際にそうした訓練が行われたようであった。しかし両国のメディアから続報はない。あるカンボジアの専門家は匿名で、「中国がリアムで何をしているかはわからない、中国がそれを建設、運営しているためだ」と述べている。タイの政治学者は、それが中国に東南アジアや南アジアに進出する軍事的足がかりになっていることは明らかだと指摘する。
(5) 在カンボジア米大使館は、カンボジア政府にリアム海軍基地と中国の関係が米国と地域の国々の強い懸念を提起している、基地における中国の行動に関する透明性が、地域の国々に利益を与えると伝えた。カンボジア政府は、中国が同基地の一部を排他的に支配しているという疑惑を否定し、カンボジアに外国軍部隊の駐留を許可することは憲法に違反すると主張してきた。
(6) カンボジアの専門家Chhan Paulは、リアム海軍基地と中国の関係に関するいかなる訴えも、「カンボジアを貶めようとする意図的な試み」だと主張する。そもそもカンボジアはリアム海軍基地に中国艦船が停泊するのを認めないと言ったことがない。そのため、中国艦艇がそこで目撃されたという事実は、通常と異なる状態であることを意味しないと主張する。
(7) 4月21日から23日、王毅外交部長はカンボジアを訪問し、国王、首相らと会談する予定である。
記事参照:Chinese navy is operating out of Cambodia's Ream base: US think tank
(1) 米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)によると、カンボジアアは同国のリアム海軍基地への排他的利用権を中国に与えたようである。ただしカンボジア政府はそれを否定している。
(2) 我々は2023年12月、シアヌークビルのリアムに中国が新たに建造した埠頭に、中国のコルベット2隻が停泊していることを報じた。その埠頭に外国船の停泊が許可された最初の事例であった。商業用衛星写真を分析したAMTIによると、中国艦艇はその埠頭に「4ヵ月間以上、継続的に停泊している」。2019年に流出した中国・カンボジア間の合意覚書は、中国にリアム海軍基地の一部の利用権を認めるものだったが、それが実現したようである。AMTIは、この展開は単なる訪問や演習ではないと述べている。
(3) リアム海軍基地の新たな埠頭は2023年完成しており、大型艦船が停泊可能である。その埠頭に停泊している艦船は、カンボジアのものを含めて1隻もない。これは中国軍がその埠頭に排他的利用権を得ていることを示唆する。カンボジアは現在、中国と年に一度行う共同演習「ゴールデン・ドラゴン」の準備中である。リアム海軍基地に停泊中の中国艦艇が同演習に参加するかは不明である。同基地司令官に連絡を取ったが、返事はない。
(4) 2023年12月、カンボジア国防相Tea Seihaは、リアムへの中国艦停泊について、「Kâng Toăp Cheung Tœ̆k( Royal Cambodian Navy:カンボジア海軍)の兵員の訓練のため」とフェイスブックで表明し、実際にそうした訓練が行われたようであった。しかし両国のメディアから続報はない。あるカンボジアの専門家は匿名で、「中国がリアムで何をしているかはわからない、中国がそれを建設、運営しているためだ」と述べている。タイの政治学者は、それが中国に東南アジアや南アジアに進出する軍事的足がかりになっていることは明らかだと指摘する。
(5) 在カンボジア米大使館は、カンボジア政府にリアム海軍基地と中国の関係が米国と地域の国々の強い懸念を提起している、基地における中国の行動に関する透明性が、地域の国々に利益を与えると伝えた。カンボジア政府は、中国が同基地の一部を排他的に支配しているという疑惑を否定し、カンボジアに外国軍部隊の駐留を許可することは憲法に違反すると主張してきた。
(6) カンボジアの専門家Chhan Paulは、リアム海軍基地と中国の関係に関するいかなる訴えも、「カンボジアを貶めようとする意図的な試み」だと主張する。そもそもカンボジアはリアム海軍基地に中国艦船が停泊するのを認めないと言ったことがない。そのため、中国艦艇がそこで目撃されたという事実は、通常と異なる状態であることを意味しないと主張する。
(7) 4月21日から23日、王毅外交部長はカンボジアを訪問し、国王、首相らと会談する予定である。
記事参照:Chinese navy is operating out of Cambodia's Ream base: US think tank
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) In the Arctic, American commandos game out a great-power war
https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/04/11/navy-seals-green-berets-arctic-russia-china/
The Washington Post, April 11, 2024
2024年4月11日、米日刊紙ワシントン・ポストは、ウエブサイト上に" In the Arctic, American commandos game out a great-power war "と題する記事を掲載した。その中では、U.S. Armed Forceの特殊戦部隊、特にNavy SEALsやGreen Beretsは、ロシアや中国との潜在的な大国間戦争に備え、北極圏での作戦能力を強化していると指摘し、2024年4月の訓練では、アラスカの厳しい環境下でのパラシュート降下や水中作戦が行われたと紹介している。そして、気候変動により北極圏の商業・軍事活動が活発化し、特にロシアがソビエト時代の基地を再稼働させ、中国が「近北極国家」として影響力を強めていることから、米軍はこの地域での戦闘準備を進める必要性が高まっており、これに対し、米国は北極圏での軍事訓練を強化し、技術的・戦術的な対応力を向上させていると報じている。
(2) US, PH step up strategic partnership
https://www.manilatimes.net/2024/04/14/news/us-ph-step-up-strategic-partnership/1941323?utm
The Manila times, April 14, 2024
2024年4月14日付けのフィリピン国営日刊紙The Manila Times電子版は、“US, PH step up strategic partnership”と題する記事を掲載した。その中では、①米比間の3+3閣僚会合初会合で、米国Biden政権のBlinken国務長官、Austin国防長官、Sullivan国家安全保障問題担当大統領補佐官の3氏は、1951年の米比相互防衛条約が、南シナ海のいかなる場所においても、フィリピンの軍隊、公船、航空機(沿岸警備隊を含む)に対する武力攻撃にも適用されることを確認した。②Austin国防長官は別の声明で、Biden大統領の2025会計年度予算要求では、フィリピンの防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)用地の36のインフラ・プロジェクトに1億2800万ドルの資金が求められていると指摘した。③2016年3月、フィリピンと米国はEDCA用地として5ヵ所に合意したが、その後6年間、これらの基地での共同施設の建設や米資産の事前配置によるEDCA履行の進展はごくわずかであった。④EDCAが軌道に乗り始めたのは、Ferdinand Marcos Jr.比大統領が就任した2022年になってからである。⑤4月3日、フィリピンと米国の国防当局は、EDCAに基づいて米軍が新たに利用することが認められる4ヵ所を特定した。⑥これまでのところ、新しいEDCAの4ヵ所で米国が建設し、資金を提供する14の計画がすでに確認されている。⑦Biden米大統領が、米比日3ヵ国の経済・安全保障協力を強化するため、自身、日本の岸田首相、Marcos Jr.大統領との3ヵ国首脳会議を招集した翌日に3+3閣僚会議が開催された。⑧Martin Romualdezフィリピン下院議長は、中国が南シナ海の一部であるという領有権を主張している西フィリピン海において、フィリピンの主権と領土保全を維持するという日米の確固とした関与を確約したことで、フィリピンは「戦略的勝利を収めた」と述べいるといったことが報じられている。
(3) Should the United States change its policies toward Taiwan?
https://www.brookings.edu/articles/should-the-united-states-change-its-policies-toward-taiwan/
Brookings, April 16, 2024
By Michael E. O’Hanlon, Director of Research – Foreign Policy,
Ivan Kanapathy, a senior vice president with Beacon Global Strategies.
Rorry Daniels, Managing Director – Asia Society Policy Institute, Senior Fellow, Center for China Analysis – Asia Society Policy Institute
Thomas Hanson, Chair – Minnesota Committee on Foreign Relations, Co-Chair – Minnesota International Business Council
Conveners: Ryan Hass, Director, China Center at Brookings
Patricia M. Kim, Fellow Foreign Policy at Center for Asia Policy Studies at John L. Thornton China Center
Emilie Kimball, Senior Project Manager in Foreign Policy Project at Brookings
2024年4月16日、米ニュース誌Foreign Policyの研究部長Michael E. O’Hanlon、米保守系シンクタンクBeacon Global Strategiesの上席副所長Ivan Kanapathy、そして米think-and-do-tankのAsia Society Policy Instituteの責任者Rorry Danielsをはじめとする安全保障問題の専門家7名は、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトに" Should the United States change its policies toward Taiwan? "と題する論説を寄稿した。その中でO’Hanlonらは、以下のとおり主張している。
Michael E. O'Hanlon
米国は台湾防衛の「戦略的曖昧性」を維持すべきか?中国が台湾を攻撃すれば、米中関係は破壊されるという明確な意図を送るべきである。軍事力ではなく、経済的手段を用いて中国の攻撃を抑止する方が現実的である。経済的制裁や貿易制限が最も有効な手段であり、これにより中国の攻撃を思いとどまらせることができる。米国とその同盟国は経済的な抗堪性を高め、経済戦争に耐えられるように準備する必要がある。
Ivan Kanapathy
米国の「一つの中国」政策は40年間一貫しているが、近年の中国の軍事力増強により均衡が崩れている。米国は強力な抑止力を確立し、台湾独立を支持しないという意図を再考すべきである。過去の政権は台湾との軍事協力を強化し、Trump前政権は台湾への武器売却を加速させた。Biden政権は防衛支出を増加させ、中国の侵略を防ぐために国際的な関心を高める必要がある。また、米国は「一つの中国」政策を「台湾海峡政策」に改称するべきである。
Rorry Daniels
米国の台湾政策は常に変動しており、台湾の自治を支持しつつ、中国の脅威に対抗するための均衡が求められる。過度な支持は紛争の危険性を高め、過少な支持は台湾の自治を弱体化させる。中国共産党は台湾問題の解決を強調し、軍事力を増強している。米国は経済的および社会的連携を強化し、台湾の経済自立を支援することで、戦争の危険性を減らすべきである。また、台湾が国際社会と強固な関係を築くことで、中国の攻撃の対価を高める事が可能となる。
Thomas Hanson
米中関係は相互不信により緊張しており、台湾問題が主要な火種となっている。双方が相手の政策を攻撃的と見なす安全保障ジレンマが存在する。米国は「戦略的曖昧性」に戻り、外交と軍事信頼醸成措置を強化すべきである。軍事的均衡の維持と台湾の安全確保が重要であり、地域の平和を維持するためには外交が欠かせない。台湾の経済力と民主主義を支援し、中国との緊張を管理することが求められる。
(4) Comparing Gray-Zone Tactics in the Red Sea and the South China Sea
https://thediplomat.com/2024/04/comparing-gray-zone-tactics-in-the-red-sea-and-the-south-china-sea/
The Diplomat, April 20, 2024
By Thomas Lim, a senior analyst with the Military Studies Programme of the S. Rajaratnam School of International Studies, a policy-oriented think tank located in Singapore’s Nanyang Technological University
Eric Ang, a research fellow with the Yokosuka Council on Asia-Pacific Studies
2024年4月20日、シンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)の上席研究員Thomas Limと米安全保障関係非営利団体Yokosuka Council on Asia-Pacific Studies の研究員Eric Angは、デジタル誌The Diplomatに" Comparing Gray-Zone Tactics in the Red Sea and the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、紅海におけるフーシ派の活動と南シナ海のセカンド・トーマス礁周辺での中国の行動は、戦術的な手法や敵対的な反応において顕著な類似点を示していると指摘し、グレーゾーン戦術とは、戦争と平和の狭間で行動することで、明確な軍事衝突を避けながら自国の利益を追求する手法であると説明している。その上で両名は、フーシ派は紅海の戦略的な航路で攻撃を行い、中国は法執行の名の下にフィリピンの補給を妨害しているが、これらの戦術は、国際的な航行の自由を脅かし、地域の不安定化を引き起こすものであり、国際社会はこれに対抗するための柔軟で調整された対応を求められていると主張している。
(1) In the Arctic, American commandos game out a great-power war
https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/04/11/navy-seals-green-berets-arctic-russia-china/
The Washington Post, April 11, 2024
2024年4月11日、米日刊紙ワシントン・ポストは、ウエブサイト上に" In the Arctic, American commandos game out a great-power war "と題する記事を掲載した。その中では、U.S. Armed Forceの特殊戦部隊、特にNavy SEALsやGreen Beretsは、ロシアや中国との潜在的な大国間戦争に備え、北極圏での作戦能力を強化していると指摘し、2024年4月の訓練では、アラスカの厳しい環境下でのパラシュート降下や水中作戦が行われたと紹介している。そして、気候変動により北極圏の商業・軍事活動が活発化し、特にロシアがソビエト時代の基地を再稼働させ、中国が「近北極国家」として影響力を強めていることから、米軍はこの地域での戦闘準備を進める必要性が高まっており、これに対し、米国は北極圏での軍事訓練を強化し、技術的・戦術的な対応力を向上させていると報じている。
(2) US, PH step up strategic partnership
https://www.manilatimes.net/2024/04/14/news/us-ph-step-up-strategic-partnership/1941323?utm
The Manila times, April 14, 2024
2024年4月14日付けのフィリピン国営日刊紙The Manila Times電子版は、“US, PH step up strategic partnership”と題する記事を掲載した。その中では、①米比間の3+3閣僚会合初会合で、米国Biden政権のBlinken国務長官、Austin国防長官、Sullivan国家安全保障問題担当大統領補佐官の3氏は、1951年の米比相互防衛条約が、南シナ海のいかなる場所においても、フィリピンの軍隊、公船、航空機(沿岸警備隊を含む)に対する武力攻撃にも適用されることを確認した。②Austin国防長官は別の声明で、Biden大統領の2025会計年度予算要求では、フィリピンの防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)用地の36のインフラ・プロジェクトに1億2800万ドルの資金が求められていると指摘した。③2016年3月、フィリピンと米国はEDCA用地として5ヵ所に合意したが、その後6年間、これらの基地での共同施設の建設や米資産の事前配置によるEDCA履行の進展はごくわずかであった。④EDCAが軌道に乗り始めたのは、Ferdinand Marcos Jr.比大統領が就任した2022年になってからである。⑤4月3日、フィリピンと米国の国防当局は、EDCAに基づいて米軍が新たに利用することが認められる4ヵ所を特定した。⑥これまでのところ、新しいEDCAの4ヵ所で米国が建設し、資金を提供する14の計画がすでに確認されている。⑦Biden米大統領が、米比日3ヵ国の経済・安全保障協力を強化するため、自身、日本の岸田首相、Marcos Jr.大統領との3ヵ国首脳会議を招集した翌日に3+3閣僚会議が開催された。⑧Martin Romualdezフィリピン下院議長は、中国が南シナ海の一部であるという領有権を主張している西フィリピン海において、フィリピンの主権と領土保全を維持するという日米の確固とした関与を確約したことで、フィリピンは「戦略的勝利を収めた」と述べいるといったことが報じられている。
(3) Should the United States change its policies toward Taiwan?
https://www.brookings.edu/articles/should-the-united-states-change-its-policies-toward-taiwan/
Brookings, April 16, 2024
By Michael E. O’Hanlon, Director of Research – Foreign Policy,
Ivan Kanapathy, a senior vice president with Beacon Global Strategies.
Rorry Daniels, Managing Director – Asia Society Policy Institute, Senior Fellow, Center for China Analysis – Asia Society Policy Institute
Thomas Hanson, Chair – Minnesota Committee on Foreign Relations, Co-Chair – Minnesota International Business Council
Conveners: Ryan Hass, Director, China Center at Brookings
Patricia M. Kim, Fellow Foreign Policy at Center for Asia Policy Studies at John L. Thornton China Center
Emilie Kimball, Senior Project Manager in Foreign Policy Project at Brookings
2024年4月16日、米ニュース誌Foreign Policyの研究部長Michael E. O’Hanlon、米保守系シンクタンクBeacon Global Strategiesの上席副所長Ivan Kanapathy、そして米think-and-do-tankのAsia Society Policy Instituteの責任者Rorry Danielsをはじめとする安全保障問題の専門家7名は、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトに" Should the United States change its policies toward Taiwan? "と題する論説を寄稿した。その中でO’Hanlonらは、以下のとおり主張している。
Michael E. O'Hanlon
米国は台湾防衛の「戦略的曖昧性」を維持すべきか?中国が台湾を攻撃すれば、米中関係は破壊されるという明確な意図を送るべきである。軍事力ではなく、経済的手段を用いて中国の攻撃を抑止する方が現実的である。経済的制裁や貿易制限が最も有効な手段であり、これにより中国の攻撃を思いとどまらせることができる。米国とその同盟国は経済的な抗堪性を高め、経済戦争に耐えられるように準備する必要がある。
Ivan Kanapathy
米国の「一つの中国」政策は40年間一貫しているが、近年の中国の軍事力増強により均衡が崩れている。米国は強力な抑止力を確立し、台湾独立を支持しないという意図を再考すべきである。過去の政権は台湾との軍事協力を強化し、Trump前政権は台湾への武器売却を加速させた。Biden政権は防衛支出を増加させ、中国の侵略を防ぐために国際的な関心を高める必要がある。また、米国は「一つの中国」政策を「台湾海峡政策」に改称するべきである。
Rorry Daniels
米国の台湾政策は常に変動しており、台湾の自治を支持しつつ、中国の脅威に対抗するための均衡が求められる。過度な支持は紛争の危険性を高め、過少な支持は台湾の自治を弱体化させる。中国共産党は台湾問題の解決を強調し、軍事力を増強している。米国は経済的および社会的連携を強化し、台湾の経済自立を支援することで、戦争の危険性を減らすべきである。また、台湾が国際社会と強固な関係を築くことで、中国の攻撃の対価を高める事が可能となる。
Thomas Hanson
米中関係は相互不信により緊張しており、台湾問題が主要な火種となっている。双方が相手の政策を攻撃的と見なす安全保障ジレンマが存在する。米国は「戦略的曖昧性」に戻り、外交と軍事信頼醸成措置を強化すべきである。軍事的均衡の維持と台湾の安全確保が重要であり、地域の平和を維持するためには外交が欠かせない。台湾の経済力と民主主義を支援し、中国との緊張を管理することが求められる。
(4) Comparing Gray-Zone Tactics in the Red Sea and the South China Sea
https://thediplomat.com/2024/04/comparing-gray-zone-tactics-in-the-red-sea-and-the-south-china-sea/
The Diplomat, April 20, 2024
By Thomas Lim, a senior analyst with the Military Studies Programme of the S. Rajaratnam School of International Studies, a policy-oriented think tank located in Singapore’s Nanyang Technological University
Eric Ang, a research fellow with the Yokosuka Council on Asia-Pacific Studies
2024年4月20日、シンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)の上席研究員Thomas Limと米安全保障関係非営利団体Yokosuka Council on Asia-Pacific Studies の研究員Eric Angは、デジタル誌The Diplomatに" Comparing Gray-Zone Tactics in the Red Sea and the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、紅海におけるフーシ派の活動と南シナ海のセカンド・トーマス礁周辺での中国の行動は、戦術的な手法や敵対的な反応において顕著な類似点を示していると指摘し、グレーゾーン戦術とは、戦争と平和の狭間で行動することで、明確な軍事衝突を避けながら自国の利益を追求する手法であると説明している。その上で両名は、フーシ派は紅海の戦略的な航路で攻撃を行い、中国は法執行の名の下にフィリピンの補給を妨害しているが、これらの戦術は、国際的な航行の自由を脅かし、地域の不安定化を引き起こすものであり、国際社会はこれに対抗するための柔軟で調整された対応を求められていると主張している。
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