海洋安全保障情報旬報 2024年4月1日-4月10日
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4月2日「英国の核抑止力強化は、広範な意味を持つ―英専門家論説」(Military Balance Blog, IISS, April 2, 2024)
4月2日付の英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studiesの年報Military BalanceのウエブサイトMilitary Balance Blogは、同Instituteの海軍・海上安全保障担当上席研究員Nick Childsと国防・軍事問題分析研究員Timothy Wrightの” UK’s pledge to raise its nuclear-deterrent game comes with wider implications”と題する論説を掲載し、ここで両名は、英国は軍事力の基盤である核抑止力と原子力潜水艦能力を倍増させ、新世代の能力を実現するための国家的努力を呼びかけているが、他の軍種に多大な財政的影響をかけるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英政府は3月25日付の白書で、原子力潜水艦および抑止力の産業基盤を再活性化することを約束したが、これは原子力潜水艦および抑止力の産業基盤の維持に対してこれまでの長期にわたって投資が過小であったこと、および経費と計画線表の点で模範的ではなかったことを認めるものである。抑止力に関する公約の中心となるのは、建造中の新世代の弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)のドレッドノート級SSBNで、2030年代初頭に就役予定である。現在のヴァンガード級SSBNと同様に、トライデントII D5弾道ミサイルを搭載するが、新しい核弾頭の開発が計画されている。さらに2030年代後半から、AUKUS協定に基づき、英国はオーストラリアおよび米国と共同で設計・建造される新世代の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)を保有することになる。これはSSN-AUKUSと呼ばれている。英国における現用のアスチュート級に代わるSSNの建造と運用は、英国の防衛原子力事業の主要な柱であり、抑止力の提供を支えるものである。
(2) これを実現するために英国は、バロー・イン・ファーネスにあるBAE Systems 社の潜水艦建造施設、Rolls-Royce社のレインズウェイ原子炉製造施設、オルダーマストンにある弾頭工場、サプライチェーンの他の複数の関係施設、スコットランドのファスレーンとイングランド南東部のデヴォンポートにある潜水艦基地と整備用施設に多額の投資を行う必要があり、英政府はすでに数十億ポンドを計上している。しかし、最も困難な側面の1つは、熟練労働者の増強である。英政府は2023年、原子力技能作業部会を発表してこの課題に対処しようとしており、数年前からも、新たな指導体制、説明責任の強化、事業要素の連携の取り組みなど、防衛原子力事業の改革を試みてきた。
(3) こうした努力を経て、英国の抑止戦略はほぼ歴代政府の路線を維持し、最小限の信頼できる抑止力を維持すること、および最悪の状況下でのみ核兵器を使用するという政策に変わりはない。しかし、危険性と変動が高まっている現在の状況は2030年代以降も続くと予想され、将来的に抑止力の調整が必要になる可能性があると同白書は指摘している。
(4) 原子力事業への投資と改革は、AUKUSの提携相手であるオーストラリアと米国に対し、オーストラリアのSSN能力の実現に貢献することを保証している。こうしたさまざまな要素がすべて揃えば、英国が原子力潜水艦の建造事業を長期にわたって継続する能力を強化し、戦略核戦力を維持することができる。投資の拡大により、英国はSSN-AUKUSを通じて、Royal NavyのSSN戦力を現在就役中のアスチュート級SSN7隻を超える規模に再成長させることができる。
(5) 国家的努力に対する新たな誓約は、英国の潜水艦戦力のより明るい未来を示唆しているが、短期的な見通しは依然として暗く、投資の多くが実現するのは10年後である。その間、少なくとも1隻のSSBNを常時哨戒させるという継続的な海上抑止を英国が維持できるかどうかは懸念が残る。老朽化したヴァンガード級SSBNの維持はますます困難になり、英国はアスチュート級SSNの稼働率の低さにも悩まされている。このような課題の多くは基幹施設不足と関連しているため、当面の優先課題は、現在の運用を支援するための多くの基幹施設を迅速に改善することである。
(6) 同白書に書かれていない最大の問題は、抑止力への誓約が他の軍種に及ぼす財政的影響であろう。事実、British Army・Royal Air Force・Royal Navyは、他の重要な人員、調達、即応態勢の所要を満たすのに苦労している。防衛原子力事業は、英国の国防装備計画の中で圧倒的に大きな割合を占めている。今後10年間におけるMinistry of Defenceの通常装備の総支出が1,790億ポンド(2,330億米ドル)弱であるのに対し、核兵器への支出計画は1,100億ポンド(1,430億米ドル)弱に達する。英国の議会選挙は数ヵ月後に迫っており、英国に何が可能で、何が不可能なのか、次期政権が答えを出すことになる。
記事参照:UK’s pledge to raise its nuclear-deterrent game comes with wider implications
(1) 英政府は3月25日付の白書で、原子力潜水艦および抑止力の産業基盤を再活性化することを約束したが、これは原子力潜水艦および抑止力の産業基盤の維持に対してこれまでの長期にわたって投資が過小であったこと、および経費と計画線表の点で模範的ではなかったことを認めるものである。抑止力に関する公約の中心となるのは、建造中の新世代の弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)のドレッドノート級SSBNで、2030年代初頭に就役予定である。現在のヴァンガード級SSBNと同様に、トライデントII D5弾道ミサイルを搭載するが、新しい核弾頭の開発が計画されている。さらに2030年代後半から、AUKUS協定に基づき、英国はオーストラリアおよび米国と共同で設計・建造される新世代の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)を保有することになる。これはSSN-AUKUSと呼ばれている。英国における現用のアスチュート級に代わるSSNの建造と運用は、英国の防衛原子力事業の主要な柱であり、抑止力の提供を支えるものである。
(2) これを実現するために英国は、バロー・イン・ファーネスにあるBAE Systems 社の潜水艦建造施設、Rolls-Royce社のレインズウェイ原子炉製造施設、オルダーマストンにある弾頭工場、サプライチェーンの他の複数の関係施設、スコットランドのファスレーンとイングランド南東部のデヴォンポートにある潜水艦基地と整備用施設に多額の投資を行う必要があり、英政府はすでに数十億ポンドを計上している。しかし、最も困難な側面の1つは、熟練労働者の増強である。英政府は2023年、原子力技能作業部会を発表してこの課題に対処しようとしており、数年前からも、新たな指導体制、説明責任の強化、事業要素の連携の取り組みなど、防衛原子力事業の改革を試みてきた。
(3) こうした努力を経て、英国の抑止戦略はほぼ歴代政府の路線を維持し、最小限の信頼できる抑止力を維持すること、および最悪の状況下でのみ核兵器を使用するという政策に変わりはない。しかし、危険性と変動が高まっている現在の状況は2030年代以降も続くと予想され、将来的に抑止力の調整が必要になる可能性があると同白書は指摘している。
(4) 原子力事業への投資と改革は、AUKUSの提携相手であるオーストラリアと米国に対し、オーストラリアのSSN能力の実現に貢献することを保証している。こうしたさまざまな要素がすべて揃えば、英国が原子力潜水艦の建造事業を長期にわたって継続する能力を強化し、戦略核戦力を維持することができる。投資の拡大により、英国はSSN-AUKUSを通じて、Royal NavyのSSN戦力を現在就役中のアスチュート級SSN7隻を超える規模に再成長させることができる。
(5) 国家的努力に対する新たな誓約は、英国の潜水艦戦力のより明るい未来を示唆しているが、短期的な見通しは依然として暗く、投資の多くが実現するのは10年後である。その間、少なくとも1隻のSSBNを常時哨戒させるという継続的な海上抑止を英国が維持できるかどうかは懸念が残る。老朽化したヴァンガード級SSBNの維持はますます困難になり、英国はアスチュート級SSNの稼働率の低さにも悩まされている。このような課題の多くは基幹施設不足と関連しているため、当面の優先課題は、現在の運用を支援するための多くの基幹施設を迅速に改善することである。
(6) 同白書に書かれていない最大の問題は、抑止力への誓約が他の軍種に及ぼす財政的影響であろう。事実、British Army・Royal Air Force・Royal Navyは、他の重要な人員、調達、即応態勢の所要を満たすのに苦労している。防衛原子力事業は、英国の国防装備計画の中で圧倒的に大きな割合を占めている。今後10年間におけるMinistry of Defenceの通常装備の総支出が1,790億ポンド(2,330億米ドル)弱であるのに対し、核兵器への支出計画は1,100億ポンド(1,430億米ドル)弱に達する。英国の議会選挙は数ヵ月後に迫っており、英国に何が可能で、何が不可能なのか、次期政権が答えを出すことになる。
記事参照:UK’s pledge to raise its nuclear-deterrent game comes with wider implications
4月3日「東南アジアにおける中国の影響力の増大と警戒感―シンガポール専門家論説」(FULCRUM, April 3, 2024)
4月3日付けのシンガポールのシンクタンクISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUMは、ISEAS -Yusof Ishak InstituteのASEAN Studies Centre共同調整者Joanne Linの“Navigating China’s Influence: Insights from the State of Southeast Asia 2024 Survey ”と題する論説を掲載し、ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発表した調査報告書The State of Southeast Asia 2024 について、解説を加えつつ、東南アジアの人々はこの地域における中国の影響力の進展を認識しているが、地政学的視点には微妙な違いがあり、東南アジアは台頭する世界的大国との関係を管理する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) The State of Southeast Asia 2024*は、東南アジアにおける中国の影響力の急増を浮き彫りにしており、この地域における中国の役割の増大を認識する調査回答者が増えている。東南アジアでは、域内での中国の野心的な行動に対する懸念が高まっているにも関わらず、この地域に対する中国の不動、かつ積極的な関与に対する肯定的な認識が高まっている。米中間の抗争が強まりつつある状況下にあって、東南アジアでは意識の変化が顕著になっている。2024年1月から2月にかけて実施された今回の調査では、連携先の選択肢として中国が初めて米国を上回った。即ち、米中いずれかの選択を迫られた場合、回答者の50.5%が中国を選択しており、米国を選択した者は49.5%であった。2023年の調査では中国が38.9%、米国が61.1%であった。フィリピン、シンガポールおよびベトナムを除けば、東南アジアの他の全ての国、特にマレーシア、インドネシア、ラオス、ブルネイおよびタイなど、中国の一帯一路構想(BRI)の恩恵を受けている諸国が中国寄りであった。
(2) この意識は、ASEANの対話相手国による戦略的適切性を評価する新たな質問にも反映されている。中国は、11点満点中8.98点で、米国の8.79点をわずかに上回り、戦略的に最も重要な提携国として認識されている。日本は7.48点で第3位であった。ミャンマー、フィリピンおよびベトナムを除く、東南アジアのほとんどの国が中国をトップに選んでいる。さらに、中国がこの地域で卓越した経済的大国として、そして政治的・戦略的大国としての地位を保持していることは明らかで、調査回答者の59.9%と43.9%がそれぞれの分野での影響力を肯定している。中国経済の見通しが悪化する可能性への懸念はあるものの、この地域は中国の東南アジアへの経済的関与については依然楽観的である。この意識はラオス、タイ、マレーシアおよびブルネイで特に顕著で、これら諸国は中国が最大または第2位の外国投資国であり、それぞれの国内における中国の経済分野における存在感の大きさを裏付けている。
(3) この調査結果は、経済関係、外交および人的交流などの分野における中国の顕著な影響力を明らかにした、オーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのAsia Power Index**の調査結果とほぼ一致している。またこの指数は、特にマレーシア、ブルネイおよびインドネシアなどで、米国の全般的な影響力が著しく低下していることを示しており、それがこの地域における中国の優位性を一層強固なものにしている。東南アジアにおける中国の影響力の増大は、ASEANにおける中国の立場にも反映されている。中国は、2021年にASEANとの包括的パートナーシップの地位を与えられた最初の対話相手国の1つであり、ASEANと中国の貿易額は2022年に過去最高の7,220億米ドルに達し、中国のASEANへの外国直接投資では米国、日本およびEUの後塵を拝しているが、中国は14年連続でASEANの最大の貿易相手国となっている。
(4) 東南アジアとの絆を強化するための中国の現実的な取り組みは、ASEAN-中国自由貿易地域(ASEAN-China Free Trade Area:ACFTA)の格上げ、ASEAN主導の地域包括的経済連携協定(Regional Comprehensive Economic Partnership:RCEP)への加盟、さらには環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership:CPTPP)加盟への関心表明など、地域的な統合の取り組みに積極的に参加していることにも明らかである。また中国は、目に見える経済的利益だけでなく、東南アジア近隣諸国との地理的、文化的そして血縁的つながりを共有することで、これら諸国との深いつながりを強調する文化的物語を積極的に展開している。
(5) 調査結果は明らかに、フィリピン国民を除く東南アジアの人々の間では、中国との将来的な関係について楽観的な見方があることを示している。関係改善を予想する調査回答者の割合は2023年の38.7%から2024年には51.4%に急増しており、特にインドネシア、ラオスおよびマレーシアの調査回答者は中国との関係強化を期待している。しかしながら、調査回答者は同時に、中国の一定の行動が彼ら自身の意識に悪影響を及ぼしかねないことも認識している。調査回答者の国で中国が経済的、政治的影響力を強めていることを懸念する者は38.5%を占めており、南シナ海での領有権主張するベトナム、フィリピンおよびマレーシアの調査回答者の37.2%で南シナ海とメコン川流域における中国の高圧的な戦術が強い反響を呼んでいること、さらには中国が外交政策の選択肢として調査回答者の国を懲らしめるために経済手段や観光業を悪用していると考えている者が35%などが懸念事項として挙げられる。こうした懸念事項は、域内での中国に対する信頼感の低下をもたらしており、調査回答者の過半数(50.1%)が世界の平和、安全、繁栄そして統治に貢献する中国の能力をほとんど、あるいは全く信頼していないと回答し、信頼感を表明したのはわずか24.8%に過ぎなかった。中国に不信感を抱く調査回答者の最大のグループは、中国の経済力と軍事力が回答者の国の利益と主権を脅かすために利用される可能性があると感じている。
(6) 東南アジア諸国は、中国が自国の経済資源を利用して、外交政策の選択を巡って近隣諸国を威嚇する可能性を特に警戒している。中国の影響力増大を懸念する調査結果に見られるように、中国は東南アジアの人々の心を掴んでいるとは言い難く、むしろその高まる優越性は好意を育むよりも恐怖感を植え付けている。域内の中国の行動は威嚇的であるだけでなく、UNCLOSを含む国際法の尊重というこの地域の基本的原則にも反するものである。こうした状況下、ASEAN諸国は中国が領土・海洋紛争を国際法に従って平和的に解決することを強く望んでいる。これは調査回答者の最大の期待であり、2023年の59.8%から2024年には67%に大きく増加しており、国際法遵守の重要性に関する地域の合意が高まっていることを示している。そして調査回答者の約60%が、中国がそれぞれの自国の主権を尊重し、外交政策の選択を制約しないことの重要性を強調している。
(7) The State of Southeast Asia 2024は、中国の世界的な大国としての台頭を認識し、その影響力の増大に対する警戒感を浮き彫りにしている。ASEAN諸国は、中国の行動に対応して保険(hedging)、均衡維持(balancing)、あるいは勝ち馬に乗る(bandwagoning)ことを通じてそれぞれの取り組みを再調整する、警戒心と適応力を維持する態勢を整えている。したがって、中国にとって、複雑な域内の地政学的力学を見極めながら、建設的な関与を促進するとともに、法に基づく秩序を遵守することによって、域内の懸念に注意を払っていくことが極めて重要である。
記事参照:Navigating China’s Influence: Insights from the State of Southeast Asia 2024 Survey
*:Full Report(76頁)
https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2024/03/The-State-of-SEA-2024.pdf
**:The Lowy Institute’s Asia Power Index
https://power.lowyinstitute.org/
(1) The State of Southeast Asia 2024*は、東南アジアにおける中国の影響力の急増を浮き彫りにしており、この地域における中国の役割の増大を認識する調査回答者が増えている。東南アジアでは、域内での中国の野心的な行動に対する懸念が高まっているにも関わらず、この地域に対する中国の不動、かつ積極的な関与に対する肯定的な認識が高まっている。米中間の抗争が強まりつつある状況下にあって、東南アジアでは意識の変化が顕著になっている。2024年1月から2月にかけて実施された今回の調査では、連携先の選択肢として中国が初めて米国を上回った。即ち、米中いずれかの選択を迫られた場合、回答者の50.5%が中国を選択しており、米国を選択した者は49.5%であった。2023年の調査では中国が38.9%、米国が61.1%であった。フィリピン、シンガポールおよびベトナムを除けば、東南アジアの他の全ての国、特にマレーシア、インドネシア、ラオス、ブルネイおよびタイなど、中国の一帯一路構想(BRI)の恩恵を受けている諸国が中国寄りであった。
(2) この意識は、ASEANの対話相手国による戦略的適切性を評価する新たな質問にも反映されている。中国は、11点満点中8.98点で、米国の8.79点をわずかに上回り、戦略的に最も重要な提携国として認識されている。日本は7.48点で第3位であった。ミャンマー、フィリピンおよびベトナムを除く、東南アジアのほとんどの国が中国をトップに選んでいる。さらに、中国がこの地域で卓越した経済的大国として、そして政治的・戦略的大国としての地位を保持していることは明らかで、調査回答者の59.9%と43.9%がそれぞれの分野での影響力を肯定している。中国経済の見通しが悪化する可能性への懸念はあるものの、この地域は中国の東南アジアへの経済的関与については依然楽観的である。この意識はラオス、タイ、マレーシアおよびブルネイで特に顕著で、これら諸国は中国が最大または第2位の外国投資国であり、それぞれの国内における中国の経済分野における存在感の大きさを裏付けている。
(3) この調査結果は、経済関係、外交および人的交流などの分野における中国の顕著な影響力を明らかにした、オーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのAsia Power Index**の調査結果とほぼ一致している。またこの指数は、特にマレーシア、ブルネイおよびインドネシアなどで、米国の全般的な影響力が著しく低下していることを示しており、それがこの地域における中国の優位性を一層強固なものにしている。東南アジアにおける中国の影響力の増大は、ASEANにおける中国の立場にも反映されている。中国は、2021年にASEANとの包括的パートナーシップの地位を与えられた最初の対話相手国の1つであり、ASEANと中国の貿易額は2022年に過去最高の7,220億米ドルに達し、中国のASEANへの外国直接投資では米国、日本およびEUの後塵を拝しているが、中国は14年連続でASEANの最大の貿易相手国となっている。
(4) 東南アジアとの絆を強化するための中国の現実的な取り組みは、ASEAN-中国自由貿易地域(ASEAN-China Free Trade Area:ACFTA)の格上げ、ASEAN主導の地域包括的経済連携協定(Regional Comprehensive Economic Partnership:RCEP)への加盟、さらには環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership:CPTPP)加盟への関心表明など、地域的な統合の取り組みに積極的に参加していることにも明らかである。また中国は、目に見える経済的利益だけでなく、東南アジア近隣諸国との地理的、文化的そして血縁的つながりを共有することで、これら諸国との深いつながりを強調する文化的物語を積極的に展開している。
(5) 調査結果は明らかに、フィリピン国民を除く東南アジアの人々の間では、中国との将来的な関係について楽観的な見方があることを示している。関係改善を予想する調査回答者の割合は2023年の38.7%から2024年には51.4%に急増しており、特にインドネシア、ラオスおよびマレーシアの調査回答者は中国との関係強化を期待している。しかしながら、調査回答者は同時に、中国の一定の行動が彼ら自身の意識に悪影響を及ぼしかねないことも認識している。調査回答者の国で中国が経済的、政治的影響力を強めていることを懸念する者は38.5%を占めており、南シナ海での領有権主張するベトナム、フィリピンおよびマレーシアの調査回答者の37.2%で南シナ海とメコン川流域における中国の高圧的な戦術が強い反響を呼んでいること、さらには中国が外交政策の選択肢として調査回答者の国を懲らしめるために経済手段や観光業を悪用していると考えている者が35%などが懸念事項として挙げられる。こうした懸念事項は、域内での中国に対する信頼感の低下をもたらしており、調査回答者の過半数(50.1%)が世界の平和、安全、繁栄そして統治に貢献する中国の能力をほとんど、あるいは全く信頼していないと回答し、信頼感を表明したのはわずか24.8%に過ぎなかった。中国に不信感を抱く調査回答者の最大のグループは、中国の経済力と軍事力が回答者の国の利益と主権を脅かすために利用される可能性があると感じている。
(6) 東南アジア諸国は、中国が自国の経済資源を利用して、外交政策の選択を巡って近隣諸国を威嚇する可能性を特に警戒している。中国の影響力増大を懸念する調査結果に見られるように、中国は東南アジアの人々の心を掴んでいるとは言い難く、むしろその高まる優越性は好意を育むよりも恐怖感を植え付けている。域内の中国の行動は威嚇的であるだけでなく、UNCLOSを含む国際法の尊重というこの地域の基本的原則にも反するものである。こうした状況下、ASEAN諸国は中国が領土・海洋紛争を国際法に従って平和的に解決することを強く望んでいる。これは調査回答者の最大の期待であり、2023年の59.8%から2024年には67%に大きく増加しており、国際法遵守の重要性に関する地域の合意が高まっていることを示している。そして調査回答者の約60%が、中国がそれぞれの自国の主権を尊重し、外交政策の選択を制約しないことの重要性を強調している。
(7) The State of Southeast Asia 2024は、中国の世界的な大国としての台頭を認識し、その影響力の増大に対する警戒感を浮き彫りにしている。ASEAN諸国は、中国の行動に対応して保険(hedging)、均衡維持(balancing)、あるいは勝ち馬に乗る(bandwagoning)ことを通じてそれぞれの取り組みを再調整する、警戒心と適応力を維持する態勢を整えている。したがって、中国にとって、複雑な域内の地政学的力学を見極めながら、建設的な関与を促進するとともに、法に基づく秩序を遵守することによって、域内の懸念に注意を払っていくことが極めて重要である。
記事参照:Navigating China’s Influence: Insights from the State of Southeast Asia 2024 Survey
*:Full Report(76頁)
https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2024/03/The-State-of-SEA-2024.pdf
**:The Lowy Institute’s Asia Power Index
https://power.lowyinstitute.org/
4月5日「真の日米防衛協力の時が来ている―米専門家論説」(Asia Times, April 5, 2024)
4月5日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、元U.S. Marine Corps将校で元外交官のGrant Newshamの “High time for real US-Japan defense cooperation”と題する論説を掲載し、ここでGrant Newshamは日米の軍事関係を実際に戦争ができるように改善しなければならず、そのためには「南西諸島日米共同/統合任務部隊」を編成し、沖縄に日米共同/統合司令部を置くべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英経済紙フィナンシャル・タイムズは2024年3月に「Biden米大統領と岸田首相が2024年4月に会談する際に、U.S. Forces Japanの関係を再構築する計画を発表する」と報じた。その目的は、中国の脅威により適切に対処するために、より効果的な作戦計画と演習を行うことである。この記事は、希望とは言えないまでも興奮を生み出した。60年にわたる日米の防衛関係にもかかわらず、両軍は、海軍とミサイル防衛の分野を除き、依然としてうまく連携できておらず、台湾が中国に攻撃された場合を含めて共同作戦を円滑に行うことは難しい。日本に日米共同の司令部を設置するという話は、日米両国の将校が日本防衛の任務に就くという姿を思い起こさせる。このような司令部によって平時および戦時の作戦に必要なことを計画し、実行する。そのような司令部はないのか?今のところ、ない。そのような司令部の設置は日米間の真の防衛戦略の前提条件である。それがなければ、すべてが場当たり的で、その場しのぎで行われてしまう。
(2) 再構築の計画とは、現在の中将に代えて、大将を指揮官に据え、いくつかの演習を計画させ、2025年に編成される予定の新しい自衛隊統合作戦司令部とより多くの情報を共有させることにより、U.S. Forces Japanを再編成するという考えのようである。しかし、当面の間は、U.S. Forces Japanの上級司令部はハワイのU.S. Indo-Pacific Commandである。それについては2つの問題がある。第1に、U.S. Forces Japan司令官に大将を割り当てても、特に役には立たない。第2に、U.S. Forces Japan司令官は、U.S. Forces Japanが作戦とは別に日本で何かしでかしたとき「指定された弁明者」としての主要な役割を継続する可能性が高い。大将という階級にある司令官の謝罪はより大きな影響力があるかもしれないが、U.S. Forces Japanが実際の作戦や戦闘を行うこととは無関係なのである。
(3) 自衛隊は現在ハワイのU.S. Indo-Pacific Commandと連携しているが、これは非効率である。2国間関係を処理するために日本に司令部(またはその機能を果たすもの)を設置し、戦争を遂行できるように、実際の作戦に関する権限を持つ司令官を配置した方が良い。そのためには、現状とは全く異なる考え方や仕組みが必要である。そしてもちろん、日本も十分な投資を行い、必要な関心と資源を投入しなければならない。何年にもわたってこれらの欠点を指摘する人もおり、いくつかの良い着想があった。しかし、民間人であれ軍人であれ、重要な段階で関心が寄せられたことは一度もない。日本の自衛隊幹部は何十年にもわたって「関係はかつてないほど強固になった」と語り、日米共同演習はすべて「大成功」で、「相互運用性を強化した」と述べてきた。
(4) フィナンシャル・タイムズの記事は、2018年から2021年までU.S. Indo-Pacific Commandの司令官であったPhilip Davidson海軍大将の「日本の新たな安全保障政策は、今世紀における東アジアにおける最も前向きな安全保障の発展である。日米両国の防衛戦略が収れんしたという認識は、日常の指揮統制の改善を論理的な次の段階に進める」という発言を引用した。数年前まで、Davidsonの在任期間中ずっと、それは「論理的な次の段階」であったと言っても過言ではない。少なくとも2012年に着任したSamuel Locklear海軍大将以降、司令部のすべての最高指導者は、これを最優先事項とすべきであった。米軍と強固に連携し、共同で活動できる有能な自衛隊がなければ、米国はインド太平洋地域における地位を維持し、潜在的な紛争で勝利を収めることは難しい。そして、それは当時から明らかであった。ワシントンやハワイで高い地位と肩書き(そしておそらく責任)を持つ人々によってあまりにも多くの時間が浪費されたため、中国は強力な軍事力と深刻な脅威に成長してしまった。
(5) 今になっても、日米の軍事関係をきちんと戦争ができるように改善しなければならないという切迫感があるとは思われないのである。表面的な修正を加え、U.S. Forces Japanに大将を置き、中国に「意図を送る」という役割を少し拡大しても、緊急性を示すものではない。しかし、Biden米大統領と岸田首相により何が発表されるか見なければならない。その発表に驚くかもしれないし、驚かないかもしれない。それにもかかわらず、60年以上たっても米国人と日本人がこれほどよそよそしく、軍と軍の関係が多くの点で表面的なものになっていることは驚くべきことである。繰り返しになるが、両海軍とミサイル防衛の以外はうまく連係が取れていない。
(6) 日米共同/統合司令部を日本に設置するための私の忠告は、「南西諸島日米共同/統合任務部隊」を編成することである。この部隊は、日本の南西諸島とその周辺地域を守るという現実の使命を持つ。そのためには、すでに中国の圧力下にある地域を防衛するために必要な日米共同の哨戒、演習、計画を実施するために、具体的な部隊への任務割り当てや指揮統制など、実際の日常的な調整が必要となる。そして、その日米共同/統合司令部は沖縄に置く。必要であれば、九州から部隊を増援する。この取り組みは、日本、米国、韓国や台湾などの提携国に、そして中国にもかなりの政治的・心理的影響をもたらすだろう。かなり難しいことではあるが、これらのことを適切に実施し、日米軍事関係全体にさらに拡大していくべきである。
記事参照:High time for real US-Japan defense cooperation
(1) 英経済紙フィナンシャル・タイムズは2024年3月に「Biden米大統領と岸田首相が2024年4月に会談する際に、U.S. Forces Japanの関係を再構築する計画を発表する」と報じた。その目的は、中国の脅威により適切に対処するために、より効果的な作戦計画と演習を行うことである。この記事は、希望とは言えないまでも興奮を生み出した。60年にわたる日米の防衛関係にもかかわらず、両軍は、海軍とミサイル防衛の分野を除き、依然としてうまく連携できておらず、台湾が中国に攻撃された場合を含めて共同作戦を円滑に行うことは難しい。日本に日米共同の司令部を設置するという話は、日米両国の将校が日本防衛の任務に就くという姿を思い起こさせる。このような司令部によって平時および戦時の作戦に必要なことを計画し、実行する。そのような司令部はないのか?今のところ、ない。そのような司令部の設置は日米間の真の防衛戦略の前提条件である。それがなければ、すべてが場当たり的で、その場しのぎで行われてしまう。
(2) 再構築の計画とは、現在の中将に代えて、大将を指揮官に据え、いくつかの演習を計画させ、2025年に編成される予定の新しい自衛隊統合作戦司令部とより多くの情報を共有させることにより、U.S. Forces Japanを再編成するという考えのようである。しかし、当面の間は、U.S. Forces Japanの上級司令部はハワイのU.S. Indo-Pacific Commandである。それについては2つの問題がある。第1に、U.S. Forces Japan司令官に大将を割り当てても、特に役には立たない。第2に、U.S. Forces Japan司令官は、U.S. Forces Japanが作戦とは別に日本で何かしでかしたとき「指定された弁明者」としての主要な役割を継続する可能性が高い。大将という階級にある司令官の謝罪はより大きな影響力があるかもしれないが、U.S. Forces Japanが実際の作戦や戦闘を行うこととは無関係なのである。
(3) 自衛隊は現在ハワイのU.S. Indo-Pacific Commandと連携しているが、これは非効率である。2国間関係を処理するために日本に司令部(またはその機能を果たすもの)を設置し、戦争を遂行できるように、実際の作戦に関する権限を持つ司令官を配置した方が良い。そのためには、現状とは全く異なる考え方や仕組みが必要である。そしてもちろん、日本も十分な投資を行い、必要な関心と資源を投入しなければならない。何年にもわたってこれらの欠点を指摘する人もおり、いくつかの良い着想があった。しかし、民間人であれ軍人であれ、重要な段階で関心が寄せられたことは一度もない。日本の自衛隊幹部は何十年にもわたって「関係はかつてないほど強固になった」と語り、日米共同演習はすべて「大成功」で、「相互運用性を強化した」と述べてきた。
(4) フィナンシャル・タイムズの記事は、2018年から2021年までU.S. Indo-Pacific Commandの司令官であったPhilip Davidson海軍大将の「日本の新たな安全保障政策は、今世紀における東アジアにおける最も前向きな安全保障の発展である。日米両国の防衛戦略が収れんしたという認識は、日常の指揮統制の改善を論理的な次の段階に進める」という発言を引用した。数年前まで、Davidsonの在任期間中ずっと、それは「論理的な次の段階」であったと言っても過言ではない。少なくとも2012年に着任したSamuel Locklear海軍大将以降、司令部のすべての最高指導者は、これを最優先事項とすべきであった。米軍と強固に連携し、共同で活動できる有能な自衛隊がなければ、米国はインド太平洋地域における地位を維持し、潜在的な紛争で勝利を収めることは難しい。そして、それは当時から明らかであった。ワシントンやハワイで高い地位と肩書き(そしておそらく責任)を持つ人々によってあまりにも多くの時間が浪費されたため、中国は強力な軍事力と深刻な脅威に成長してしまった。
(5) 今になっても、日米の軍事関係をきちんと戦争ができるように改善しなければならないという切迫感があるとは思われないのである。表面的な修正を加え、U.S. Forces Japanに大将を置き、中国に「意図を送る」という役割を少し拡大しても、緊急性を示すものではない。しかし、Biden米大統領と岸田首相により何が発表されるか見なければならない。その発表に驚くかもしれないし、驚かないかもしれない。それにもかかわらず、60年以上たっても米国人と日本人がこれほどよそよそしく、軍と軍の関係が多くの点で表面的なものになっていることは驚くべきことである。繰り返しになるが、両海軍とミサイル防衛の以外はうまく連係が取れていない。
(6) 日米共同/統合司令部を日本に設置するための私の忠告は、「南西諸島日米共同/統合任務部隊」を編成することである。この部隊は、日本の南西諸島とその周辺地域を守るという現実の使命を持つ。そのためには、すでに中国の圧力下にある地域を防衛するために必要な日米共同の哨戒、演習、計画を実施するために、具体的な部隊への任務割り当てや指揮統制など、実際の日常的な調整が必要となる。そして、その日米共同/統合司令部は沖縄に置く。必要であれば、九州から部隊を増援する。この取り組みは、日本、米国、韓国や台湾などの提携国に、そして中国にもかなりの政治的・心理的影響をもたらすだろう。かなり難しいことではあるが、これらのことを適切に実施し、日米軍事関係全体にさらに拡大していくべきである。
記事参照:High time for real US-Japan defense cooperation
4月7日「AUKUS第2の柱のメンバー拡大―香港紙報道」(South China Morning Post, April 7, 2024)
4月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US, UK, Australia ‘set for talks on expanding Aukus security pact’ to deter China, with Japan a likely candidate”と題する記事を掲載し、米国が中国に対する抑止力として日本をAUKUSに引き込もうとしていることについて、要旨以下のように報じている。
(1) フィナンシャル・タイムズ紙によると、米国、英国、オーストラリアは、米政府が中国に対する抑止力として日本の参加を求める中、AUKUSの安全保障協定に新たな参加国を加えるための協議を4月8日に発表する予定だという。同紙が4月6日に報じたところによると、AUKUS参加国の国防長官・国防相による発表は、この協定の「第2の柱」に関連するもので、量子コンピューター、海中、極超音速、人工知能、サイバー技術の共同開発を約束するものだという。オーストラリアに原子力攻撃型潜水艦を提供することを目的とした第1の柱を拡大することは検討していないとフィナンシャル・タイムズ紙は伝えている。
(2) Joe Biden米大統領と岸田文雄首相は、大統領が4月10日にワシントンで首相を迎える際に、AUKUSを日本に拡大することについて話し合う可能性が高い。しかし、オーストリアへの原子力潜水艦の供給がもっと進展するまでは、新たな構想の開始をオーストラリアは警戒している。米国は日本が第2の柱に参加することを熱望しているが、政府関係者や専門家は、日本がより良いサイバー防衛やより厳格な機密保護規則を導入する必要があるため、障害が残っていると述べている。米国の国務副長官でインド太平洋政策の計画立案者であるKurt Campbellは4月3日、米国は日本に対し、知的財産を保護し、秘密に対して責任を負うようもっと努力するよう促しているとしつつも、「日本はそのような段階をいくつか踏んできたと言えるが、全てではない」と彼は述べている。米国は何年も前から、ヨーロッパやアジアの他の国々がAUKUSの第2の柱に加わることを期待していると言ってきた。
(3) 米国高官は、誰が第2の柱に参加するかは、3ヵ国のAUKUS参加国が決定することになるだろうと述べており、3ヵ国の国防長官・国防相は、各国がこの構想に何をもたらせるかに基づいて、何ヵ月もこの問題を検討してきた。
記事参照:US, UK, Australia ‘set for talks on expanding Aukus security pact’ to deter China, with Japan a likely candidate
(1) フィナンシャル・タイムズ紙によると、米国、英国、オーストラリアは、米政府が中国に対する抑止力として日本の参加を求める中、AUKUSの安全保障協定に新たな参加国を加えるための協議を4月8日に発表する予定だという。同紙が4月6日に報じたところによると、AUKUS参加国の国防長官・国防相による発表は、この協定の「第2の柱」に関連するもので、量子コンピューター、海中、極超音速、人工知能、サイバー技術の共同開発を約束するものだという。オーストラリアに原子力攻撃型潜水艦を提供することを目的とした第1の柱を拡大することは検討していないとフィナンシャル・タイムズ紙は伝えている。
(2) Joe Biden米大統領と岸田文雄首相は、大統領が4月10日にワシントンで首相を迎える際に、AUKUSを日本に拡大することについて話し合う可能性が高い。しかし、オーストリアへの原子力潜水艦の供給がもっと進展するまでは、新たな構想の開始をオーストラリアは警戒している。米国は日本が第2の柱に参加することを熱望しているが、政府関係者や専門家は、日本がより良いサイバー防衛やより厳格な機密保護規則を導入する必要があるため、障害が残っていると述べている。米国の国務副長官でインド太平洋政策の計画立案者であるKurt Campbellは4月3日、米国は日本に対し、知的財産を保護し、秘密に対して責任を負うようもっと努力するよう促しているとしつつも、「日本はそのような段階をいくつか踏んできたと言えるが、全てではない」と彼は述べている。米国は何年も前から、ヨーロッパやアジアの他の国々がAUKUSの第2の柱に加わることを期待していると言ってきた。
(3) 米国高官は、誰が第2の柱に参加するかは、3ヵ国のAUKUS参加国が決定することになるだろうと述べており、3ヵ国の国防長官・国防相は、各国がこの構想に何をもたらせるかに基づいて、何ヵ月もこの問題を検討してきた。
記事参照:US, UK, Australia ‘set for talks on expanding Aukus security pact’ to deter China, with Japan a likely candidate
4月8日「U.S. Navyの現状2024―米誌報道」(Defense One, April 8, 2024)
4月8日付の米国防関連ウエブサイトDefense Oneは、” The State of the Navy 2024”と題する記事を掲載し、ここでU.S. Navyの2024年の見通しについて、2025年予算案の特徴とLisa Franchetti作戦部長(CNO)の見解を中心に、要旨以下のように報じている。
(1) Carlos Del Toro海軍長官は、2024年2月に海軍の全造船事業の見直しを命じた。その調査結果は4月初旬に明らかにされ、すべての主要計画が予定より1年半から3年遅れていることが判明した。海軍の調達部門の責任者Nickolas Guertinは、「我々は、詳細な行動計画や里程標、計画を持っていない。解決しなければならない問題があることはわかったが、まだそれらを完全に把握しているわけではない」と述べている。
(2) この問題は、予算の上限、現在の即応態勢および核の近代化を優先するという名目で、乗組員や大型の無人システム開発計画の多くを先送りするという海軍自身の計画によるものである。海軍の2025年度予算案は、海軍と海兵隊に2,576億ドルを要求しており、これは2024年度要求からわずか0.7%の増額である。Erik Raven海軍次官は、予算発表に先立ち記者団に対し、次のように語った。
a.我々の指針では、厳しい選択を迫られる場合には、将来の近代化において生じる危険性を取るよう指示している。
b.それは、現在の作戦や、すぐに準備が整う可能性のある小規模な開発システムを優先し、そうでない可能性の高い大規模なものは先送りすることを意味する。
(3) このため2025年度の予算案では、当初計画の7隻の艦艇の代わりとなる6隻の艦艇を要求し、バージニア級潜水艦を1隻削減し、いくつかの開発計画を延期している。たとえば、最初の9隻の大型無人水上艦の購入は、2年遅れて2027年に開始される。原子力空母CVN-82の調達は、2029年度で終了する新5ヵ年計画以降にずれ込む。これは、造船業者や関係企業から悲痛な警告を受けている。2024年度の要求と比較すると、次世代駆逐艦DDG(X)のための予算は2025年度にほぼ半分に、F/A-XX戦闘機の予算は、およそ3分の2に減少するだろう。一方で、SSN(X)次世代攻撃型原子力潜水艦は、2024年度より10%ほど増える。また、軍の建物などは計画額の4分の1以上が削減される。さらにコロンビア級弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦、トライデントICBM、TACAMO指揮統制システムなどの研究開発全般は、3%弱の削減が予定されている。一方で、海上で運用されるロボットの開発、検証、運用方針の策定といった海軍独自の取り組みを支援する多くの小規模な無人システムの構想などは削減されていない。
(4) 即応性も重要であり、Lisa Franchetti海軍大将は、11月に第33代作戦部長に就任した直後、優先事項を「戦闘、戦闘員、そしてそれらを支える基盤」と宣言した。それは、より多くの兵士が現場に立つことを意味する。購入する艦船よりも多くの高価で、古く、使い勝手の悪い艦船を退役させ、2025年には現在の293隻から287隻に縮小する許可を求めようとする海軍が、最終的に、現在の国家防衛戦略の下で任務を果たすために必要だとする381隻の艦船と最大150隻の無人艦船を建造できるかどうかは、不明である。
(5) 修理施設で過ごす時間が1日減れば、海上で過ごす時間が1日増えることになる。そこで2025年度の要求には、4つの公立造船所の修理と改良に28億ドル、そこには海軍航空機を整備する艦隊即応センターへの4億700万ドルが含まれている。この提案は、Lisa Franchetti作戦部長の前任者Mike Gilday大将の下で大部分が計画され、海軍艦艇、航空機の定常的なより規模の大きな保守整備を迅速かつ合理化するもので、Lisa Franchetti作戦部長はここにも重きを置いている。Lisa Franchetti作戦部長は、このことに関して最近のインタビューで次のように語っている。
a.より多くの戦闘員を現場に投入するもう1つの方法は、その戦闘員の一部をロボットにすることである。
b.研究開発部門は、それらを開発して早期に艦船に搭載するために全力を尽くしている。
(6) 艦船に動きを追尾する弾道ミサイルは、紅海でのほぼ毎日の攻撃の一部となった。2023年10月以来、イエメンのフーシ派勢力は近海の船舶にミサイルやUAVの雨を降らせており、その目標の中には商船やそれらを守るために活動している米軍や連合軍の艦艇も含まれている。Erik Raven海軍次官によれば、海軍は追加作戦経費のために補正予算を要求するだろうとのことである。しかし、海軍は紛争からの教訓を収集し、適用するのを待っているわけではない。この取り組みは、教訓を収集、分析、適用するために2015年に設立されたNaval Surface and Mine Warfighting Development Center(海軍水上戦・機雷戦開発センター) が主導している。現在、同Centerのスタッフは、紅海の司令官や乗組員、海軍の幅広い組織と毎週話し合い、何が起きたのか、そこから何が学べるのかを把握し、処理している。これについて、Lisa Franchetti作戦部長はさらに次のように語っている。
a.戦術的な知識と経験を現場に持ち込む方法について、我々は航空関係者から学び、その結果、戦術指導員を設置した。
b.我々が行った投資は本当に報われている。同じ戦場にいながら、どのように革新していくかという素晴らしい教訓を学んでいる。
c.当初は、必要な後方支援のために、紅海から何隻かの艦船を出航させなければならなかったが、今では、同盟国や提携国と協力し、現場で補給活動が可能になった。
d.果物や野菜、物資など、我々が必要とするすべてのものを手に入れ、戦場にとどまることができる。
e.海軍作戦部長としての今後3年間、このような学習を奨励し、広めることで、艦隊が必要とするものを把握できるようにしたい。
f.目標の1つは、U.S. Naval War College(米海軍大学校)を活用し、すべての実験を活用し、そして構想をまとめることである。
記事参照:The State of the Navy 2024
(1) Carlos Del Toro海軍長官は、2024年2月に海軍の全造船事業の見直しを命じた。その調査結果は4月初旬に明らかにされ、すべての主要計画が予定より1年半から3年遅れていることが判明した。海軍の調達部門の責任者Nickolas Guertinは、「我々は、詳細な行動計画や里程標、計画を持っていない。解決しなければならない問題があることはわかったが、まだそれらを完全に把握しているわけではない」と述べている。
(2) この問題は、予算の上限、現在の即応態勢および核の近代化を優先するという名目で、乗組員や大型の無人システム開発計画の多くを先送りするという海軍自身の計画によるものである。海軍の2025年度予算案は、海軍と海兵隊に2,576億ドルを要求しており、これは2024年度要求からわずか0.7%の増額である。Erik Raven海軍次官は、予算発表に先立ち記者団に対し、次のように語った。
a.我々の指針では、厳しい選択を迫られる場合には、将来の近代化において生じる危険性を取るよう指示している。
b.それは、現在の作戦や、すぐに準備が整う可能性のある小規模な開発システムを優先し、そうでない可能性の高い大規模なものは先送りすることを意味する。
(3) このため2025年度の予算案では、当初計画の7隻の艦艇の代わりとなる6隻の艦艇を要求し、バージニア級潜水艦を1隻削減し、いくつかの開発計画を延期している。たとえば、最初の9隻の大型無人水上艦の購入は、2年遅れて2027年に開始される。原子力空母CVN-82の調達は、2029年度で終了する新5ヵ年計画以降にずれ込む。これは、造船業者や関係企業から悲痛な警告を受けている。2024年度の要求と比較すると、次世代駆逐艦DDG(X)のための予算は2025年度にほぼ半分に、F/A-XX戦闘機の予算は、およそ3分の2に減少するだろう。一方で、SSN(X)次世代攻撃型原子力潜水艦は、2024年度より10%ほど増える。また、軍の建物などは計画額の4分の1以上が削減される。さらにコロンビア級弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦、トライデントICBM、TACAMO指揮統制システムなどの研究開発全般は、3%弱の削減が予定されている。一方で、海上で運用されるロボットの開発、検証、運用方針の策定といった海軍独自の取り組みを支援する多くの小規模な無人システムの構想などは削減されていない。
(4) 即応性も重要であり、Lisa Franchetti海軍大将は、11月に第33代作戦部長に就任した直後、優先事項を「戦闘、戦闘員、そしてそれらを支える基盤」と宣言した。それは、より多くの兵士が現場に立つことを意味する。購入する艦船よりも多くの高価で、古く、使い勝手の悪い艦船を退役させ、2025年には現在の293隻から287隻に縮小する許可を求めようとする海軍が、最終的に、現在の国家防衛戦略の下で任務を果たすために必要だとする381隻の艦船と最大150隻の無人艦船を建造できるかどうかは、不明である。
(5) 修理施設で過ごす時間が1日減れば、海上で過ごす時間が1日増えることになる。そこで2025年度の要求には、4つの公立造船所の修理と改良に28億ドル、そこには海軍航空機を整備する艦隊即応センターへの4億700万ドルが含まれている。この提案は、Lisa Franchetti作戦部長の前任者Mike Gilday大将の下で大部分が計画され、海軍艦艇、航空機の定常的なより規模の大きな保守整備を迅速かつ合理化するもので、Lisa Franchetti作戦部長はここにも重きを置いている。Lisa Franchetti作戦部長は、このことに関して最近のインタビューで次のように語っている。
a.より多くの戦闘員を現場に投入するもう1つの方法は、その戦闘員の一部をロボットにすることである。
b.研究開発部門は、それらを開発して早期に艦船に搭載するために全力を尽くしている。
(6) 艦船に動きを追尾する弾道ミサイルは、紅海でのほぼ毎日の攻撃の一部となった。2023年10月以来、イエメンのフーシ派勢力は近海の船舶にミサイルやUAVの雨を降らせており、その目標の中には商船やそれらを守るために活動している米軍や連合軍の艦艇も含まれている。Erik Raven海軍次官によれば、海軍は追加作戦経費のために補正予算を要求するだろうとのことである。しかし、海軍は紛争からの教訓を収集し、適用するのを待っているわけではない。この取り組みは、教訓を収集、分析、適用するために2015年に設立されたNaval Surface and Mine Warfighting Development Center(海軍水上戦・機雷戦開発センター) が主導している。現在、同Centerのスタッフは、紅海の司令官や乗組員、海軍の幅広い組織と毎週話し合い、何が起きたのか、そこから何が学べるのかを把握し、処理している。これについて、Lisa Franchetti作戦部長はさらに次のように語っている。
a.戦術的な知識と経験を現場に持ち込む方法について、我々は航空関係者から学び、その結果、戦術指導員を設置した。
b.我々が行った投資は本当に報われている。同じ戦場にいながら、どのように革新していくかという素晴らしい教訓を学んでいる。
c.当初は、必要な後方支援のために、紅海から何隻かの艦船を出航させなければならなかったが、今では、同盟国や提携国と協力し、現場で補給活動が可能になった。
d.果物や野菜、物資など、我々が必要とするすべてのものを手に入れ、戦場にとどまることができる。
e.海軍作戦部長としての今後3年間、このような学習を奨励し、広めることで、艦隊が必要とするものを把握できるようにしたい。
f.目標の1つは、U.S. Naval War College(米海軍大学校)を活用し、すべての実験を活用し、そして構想をまとめることである。
記事参照:The State of the Navy 2024
4月8日「オーストラリアと英国の国防省は気候変動に対する共同行動を約束―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, April 8, 2024)
4月8日付 のAustralian Strategic Policy Institute (ASPI)のウエブサイトThe Strategistは、同Institute研究員Afeeya Akhandの‶Australian and UK defence commit to joint action on climate ″と題する論説を掲載し、ここでAfeeya Akhandは英国とオーストラリアは気候変動を安全保障上の重大な脅威と捉え、共同して行動することとしたが、さらにインド太平洋地域の各国との協力拡大等を通じ、なお一層、気候変動対応に努めるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアと英国の閣僚協議AUKMINは、国防・安全保障の柱として、気候変動に対する共同の行動計画を策定し、両国の国防大臣および国防機関が気候変動対応に重要な役割を果たすことを前面に打ち出した。これは、太平洋における英国の存在価値を高め、インド太平洋重視をさらに強化するものとなる。オーストラリアと英国の気候変動に対する国防面からの効果的な関与は、太平洋地域で歓迎されるだけでなく、他の国々が目指すべき基準を示すことにもつながる。
(2) 歴史的には、非伝統的な安全保障上の課題と概念化されてきた気候変動であるが、各国が安全保障上の中核的課題と認識し、行動するようになってきている。英政府は、2021年の統合レビューの中で、「気候変動と生物多様性の損失は、他の世界的な脅威の重要な乗数であり、今後10年間でさらに悪化することが確実」と指摘している。たとえば、現在進行中のウクライナ紛争を背景に、ロシアがエネルギー・サプライ・チェーンを兵器化していることは、化石燃料への依存を減らしたい英国の願望の背後にある、地政学上および環境上の二重の理由を浮き彫りにしている。化石燃料の排出量を削減することや、その他の気候変動に関連する目標は、英Ministry of Defenceの2021年気候変動戦略に述べられている。さらに同Ministryが2023年に発表した出版物には、Armed Forces of the Crownの訓練、配備、運用、維持における代替エネルギー源利用について言及されている。中央政府排出量の50%を占める英Ministry of Defenceが、気候変動緩和を重視していることは、歓迎すべきである。
(3) 太平洋地域におけるオーストラリアと英国の防衛協力に重要なことは、気候変動によって起こる紛争等の脅威への対応において、英国が世界的な先導者として行動し、未来像を定めていることである。環境だけでなく、「移民の大幅な増加、テロリズムの台頭、資源をめぐる紛争」は、気候変動が安全保障に与える影響の一部に過ぎない。これは、太平洋におけるオーストラリアの取り組みと一致しており、ツバルとオーストラリアが締結したFalepili(ツバル語で「近所、隣家」の意:訳者注)同盟条約に見られるように、安全保障、移住、その他の気候変動適応の側面との関連を認識している。
(4) 英国の安全保障の焦点は依然として欧州にあるが、2024年のAUKMIN声明は、「気候変動は太平洋の人々の生活、安全保障、福祉に対する唯一最大の脅威」と指摘するPacific Islands Forum(太平洋島嶼フォーラム)の2018年BOE宣言を反映している。気候変動に対するこの地域の脆弱性について、Pacific Islands Forumおよび英国の見解は、国連の状況評価とも合致している。
(5) さらに英国は近年、人道支援と災害救援(以下、HADRと言う)を通じて、気候変動による影響に対処してきた。たとえば、2022年のトンガの火山噴火と津波、2023年のバヌアツの双子のサイクロンに対応して、Royal Navyの哨戒艦を派遣しており、英国によるHADRの提供は、太平洋地域への気候変動対策の資金供与を含め、より広範な取り組みを補完するものである。オーストラリアと英国による太平洋地域での気候変動に関する協力には、国防分野も含め、いくつかの方法がある。首脳段階では、2024年10月にサモアで英連邦首脳会議(Commonwealth Heads of Government Meeting:以下、CHOGMと言う)が開催され、太平洋およびカリブ海の小島嶼開発途上国(Small Island Developing States:以下、SIDSと言う)などが参集することから、気候変動が焦点となることは確実である。オーストラリアと英国は、CHOGMや国連において、安全保障分野を含むSIDS主導の気候変動への取り組み支援を検討することができる。首脳段階以下では、英国はオーストラリアや太平洋島嶼国と協力し、地域の機構を通じてどのように役割を拡大できるかを検討すべきである。英国は気候変動への適応と非伝統的安全保障に関する太平洋島嶼国フォーラムの計画を支持している。具体的には、日本や米国とともにオブザーバー資格を有する南太平洋国防相会議(South Pacific Defence Ministers’ Meeting)にもっと関与するべきで、全加盟国の支持があれば、抗堪性道程表(resilience road map)やその他の気候安全保障の取り組みに貢献することもできる。
(6) オーストラリア政府は、この地域におけるフランスの役割が、英国の関与拡大を妨げると考えるべきではない。AUKUSをめぐる感情的対立はともかく、英国とフランスの国防省は、インド太平洋における協力関係を発展させる方法を再検討しており、両国とも気候変動を優先課題と考え、HADRに関して太平洋諸国と協力するための機構の確立を模索している。英国は、ブリスベンにあるオーストラリアの人道的支援施設を通じて太平洋地域に援助を届けることができ、最近締結したオーストラリアとの地位協定により、この地域でのHADR活動をさらに円滑に進めることができる。
(7) オーストラリアの観点からは、英国との防衛協力は理にかなっている。オーストラリアは、英国が太平洋地域において植民地支配の過去や冷戦時代の核実験など、歴史的な問題を抱えていることを知っている。しかし、英国は全体的に高い評価を得ており、太平洋島嶼国は気候変動緩和等の活動を含め、英国の復帰を歓迎している。この地域にRoyal Navyの哨戒艦2隻が常駐しているのは、海水温の上昇による魚種移動が、新たな違法漁業につながる可能性があり、これを撲滅するための手段を追加するものである。Australian Hydrographic Services(オーストラリア水路局:海軍の一部局)とUnited Kingdom Hydrographic Office(英国水路部:国防省の執行機関)は、太平洋島嶼国の主要な海図作成機関で、両者はロンドンに本部を置くInternational Maritime Organisation(国際海事機関)のSIDSと協力することができる。
(8) 気候変動と安全保障の強い関係は、英Ministry of Defenceの業務で気候変動対策を優先することの重要性を浮き彫りにしている。太平洋における気候危機は、主に先進国の二酸化炭素排出によって引き起こされており、英国やオーストラリアを含む各国の前向きな取り組みが必要である。英国・オーストラリアの共同気候行動計画の詳細は、AUKMIN 2025まで待たなければならないが、それまでの間にも、この存亡にかかわる安全保障上の脅威に対応するため、英国が太平洋地域でできることはたくさんある。
記事参照:https://www.aspistrategist.org.au/australian-and-uk-defence-commit-to-joint-action-on-climate/
(1) オーストラリアと英国の閣僚協議AUKMINは、国防・安全保障の柱として、気候変動に対する共同の行動計画を策定し、両国の国防大臣および国防機関が気候変動対応に重要な役割を果たすことを前面に打ち出した。これは、太平洋における英国の存在価値を高め、インド太平洋重視をさらに強化するものとなる。オーストラリアと英国の気候変動に対する国防面からの効果的な関与は、太平洋地域で歓迎されるだけでなく、他の国々が目指すべき基準を示すことにもつながる。
(2) 歴史的には、非伝統的な安全保障上の課題と概念化されてきた気候変動であるが、各国が安全保障上の中核的課題と認識し、行動するようになってきている。英政府は、2021年の統合レビューの中で、「気候変動と生物多様性の損失は、他の世界的な脅威の重要な乗数であり、今後10年間でさらに悪化することが確実」と指摘している。たとえば、現在進行中のウクライナ紛争を背景に、ロシアがエネルギー・サプライ・チェーンを兵器化していることは、化石燃料への依存を減らしたい英国の願望の背後にある、地政学上および環境上の二重の理由を浮き彫りにしている。化石燃料の排出量を削減することや、その他の気候変動に関連する目標は、英Ministry of Defenceの2021年気候変動戦略に述べられている。さらに同Ministryが2023年に発表した出版物には、Armed Forces of the Crownの訓練、配備、運用、維持における代替エネルギー源利用について言及されている。中央政府排出量の50%を占める英Ministry of Defenceが、気候変動緩和を重視していることは、歓迎すべきである。
(3) 太平洋地域におけるオーストラリアと英国の防衛協力に重要なことは、気候変動によって起こる紛争等の脅威への対応において、英国が世界的な先導者として行動し、未来像を定めていることである。環境だけでなく、「移民の大幅な増加、テロリズムの台頭、資源をめぐる紛争」は、気候変動が安全保障に与える影響の一部に過ぎない。これは、太平洋におけるオーストラリアの取り組みと一致しており、ツバルとオーストラリアが締結したFalepili(ツバル語で「近所、隣家」の意:訳者注)同盟条約に見られるように、安全保障、移住、その他の気候変動適応の側面との関連を認識している。
(4) 英国の安全保障の焦点は依然として欧州にあるが、2024年のAUKMIN声明は、「気候変動は太平洋の人々の生活、安全保障、福祉に対する唯一最大の脅威」と指摘するPacific Islands Forum(太平洋島嶼フォーラム)の2018年BOE宣言を反映している。気候変動に対するこの地域の脆弱性について、Pacific Islands Forumおよび英国の見解は、国連の状況評価とも合致している。
(5) さらに英国は近年、人道支援と災害救援(以下、HADRと言う)を通じて、気候変動による影響に対処してきた。たとえば、2022年のトンガの火山噴火と津波、2023年のバヌアツの双子のサイクロンに対応して、Royal Navyの哨戒艦を派遣しており、英国によるHADRの提供は、太平洋地域への気候変動対策の資金供与を含め、より広範な取り組みを補完するものである。オーストラリアと英国による太平洋地域での気候変動に関する協力には、国防分野も含め、いくつかの方法がある。首脳段階では、2024年10月にサモアで英連邦首脳会議(Commonwealth Heads of Government Meeting:以下、CHOGMと言う)が開催され、太平洋およびカリブ海の小島嶼開発途上国(Small Island Developing States:以下、SIDSと言う)などが参集することから、気候変動が焦点となることは確実である。オーストラリアと英国は、CHOGMや国連において、安全保障分野を含むSIDS主導の気候変動への取り組み支援を検討することができる。首脳段階以下では、英国はオーストラリアや太平洋島嶼国と協力し、地域の機構を通じてどのように役割を拡大できるかを検討すべきである。英国は気候変動への適応と非伝統的安全保障に関する太平洋島嶼国フォーラムの計画を支持している。具体的には、日本や米国とともにオブザーバー資格を有する南太平洋国防相会議(South Pacific Defence Ministers’ Meeting)にもっと関与するべきで、全加盟国の支持があれば、抗堪性道程表(resilience road map)やその他の気候安全保障の取り組みに貢献することもできる。
(6) オーストラリア政府は、この地域におけるフランスの役割が、英国の関与拡大を妨げると考えるべきではない。AUKUSをめぐる感情的対立はともかく、英国とフランスの国防省は、インド太平洋における協力関係を発展させる方法を再検討しており、両国とも気候変動を優先課題と考え、HADRに関して太平洋諸国と協力するための機構の確立を模索している。英国は、ブリスベンにあるオーストラリアの人道的支援施設を通じて太平洋地域に援助を届けることができ、最近締結したオーストラリアとの地位協定により、この地域でのHADR活動をさらに円滑に進めることができる。
(7) オーストラリアの観点からは、英国との防衛協力は理にかなっている。オーストラリアは、英国が太平洋地域において植民地支配の過去や冷戦時代の核実験など、歴史的な問題を抱えていることを知っている。しかし、英国は全体的に高い評価を得ており、太平洋島嶼国は気候変動緩和等の活動を含め、英国の復帰を歓迎している。この地域にRoyal Navyの哨戒艦2隻が常駐しているのは、海水温の上昇による魚種移動が、新たな違法漁業につながる可能性があり、これを撲滅するための手段を追加するものである。Australian Hydrographic Services(オーストラリア水路局:海軍の一部局)とUnited Kingdom Hydrographic Office(英国水路部:国防省の執行機関)は、太平洋島嶼国の主要な海図作成機関で、両者はロンドンに本部を置くInternational Maritime Organisation(国際海事機関)のSIDSと協力することができる。
(8) 気候変動と安全保障の強い関係は、英Ministry of Defenceの業務で気候変動対策を優先することの重要性を浮き彫りにしている。太平洋における気候危機は、主に先進国の二酸化炭素排出によって引き起こされており、英国やオーストラリアを含む各国の前向きな取り組みが必要である。英国・オーストラリアの共同気候行動計画の詳細は、AUKMIN 2025まで待たなければならないが、それまでの間にも、この存亡にかかわる安全保障上の脅威に対応するため、英国が太平洋地域でできることはたくさんある。
記事参照:https://www.aspistrategist.org.au/australian-and-uk-defence-commit-to-joint-action-on-climate/
4月8日「無人水上艇がアフリカにおける海洋安全保障の脅威に―南アフリカ専門家論説」(Institute for Security Studies (Africa), April 8, 2024)
4月8日付の南アフリカに本拠を置く人間安全保障関連シンクタンクInstitute for Scuritu Studies (Africa)のウエブサイトは、Institute for Security Studies研究員Denys Revaと南アフリカUniversity of Pretoria研究助手Tshegofatso Johanna Ramachelaの“Abandon Ship: Uncrewed Vessels Threaten Africa’s Maritime Security – Analysis”と題する論説を掲載し、両名はUSVがアフリカにも浸透してきており、アフリカ諸国はUSVと既存の法の抜け穴によってもたらされる潜在的な脅威を理解し、海事法執行機関が USVの不正使用を発見し、対応する能力を向上させること、および将来の事案を訴追するための適切な法律を制定することが含む措置を採るべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 黒海と紅海での攻撃作戦における海上無人機の配備は、海戦の未来を垣間見ることができる。2月18日、U.S. Central Commandは紅海でフーシ派反政府勢力が無人水上艇(以下、USVと言う)を使用した最初の事例を報告した。攻撃は失敗に終わり、USVは迎撃され破壊された。USVの最近の配備は、海軍の運用を強化するために技術が進歩したことを示している。無人技術の普及は、アフリカ諸国の立法措置や防衛措置を上回っており、既存の海洋安全保障上の課題と不十分な国境警備を考慮すると、アフリカ諸国は無人技術が自国の海岸に上陸する準備はできているのだろうか?
(2) 最も世間の注目を集めており、無人システムの配備が最も急速に進むであろう分野は、船舶や海洋基幹施設に対する直接攻撃である。
(3) この関心を促進する4つの要因がある。第1に、従来の海軍資産と比較して、調達、保守、運用経費が低く抑えられ、手頃な価格であることである。第2に、USVの製造は比較的簡単で、機能する無人船は市場で容易に入手できる軍民両用の部品から構築できる。
第3に、USVはその設計と製造に使用される材料のため、それらを探知識別することは困難である。また、その小ささ、速さ、機動性の高さにより、破壊することも難しい。第4に、一部のUSVの航続距離が800kmを超えるため、柔軟な運用が可能である。イギリス、フランス、トルコ、中国は高度な海軍ドローン技術を開発しており、南アフリカを含む他の国々もこの技術の開発を急いでいる。米国は特に、海洋攻撃任務用の大型USVと、監視と情報収集、偵察、補給、電子戦用の中型USVの取得を熱望している。しかし、USVを従来の海軍にとって魅力的かつ革新的なものにする特徴は、非国家主体にとっても魅力的なものにする。
(4) 失敗に終わった2月18日の攻撃は、紅海で活動していたU.S. Coast Guardがさまざまな武器やUSVの部品を積んだイエメン行きの船舶を拿捕した数日後に起きた。伝えられるところによると、この輸送はイランからのものであり、同国はUSVを含む型破りな海軍能力の開発に長年投資してきた。フーシ派自身も軍事作戦でUSVを使用した実績がある。
(5) USVの普及は、今のところ主に、国家が既存の機能を非国家主体に提供していることによると思われる。これらの能力が他の非国家主体に拡大すると、危険が増大する。密輸や人身売買を阻止し、急速に展開する海上治安事件に対応するなど自国の海域を効果的に監視するための手段が不足しているアフリカ諸国にとって特に重要である。フーシ派はアフリカで活動する武装勢力と必ずしも連携しているわけではないが、イエメンとソマリアの間では十分に文書化された武器密輸ルートが存在する。潜在的な海上不安の原因として無人艇が導入されると、これまでのアフリカにおける不安がさらに悪化する可能性がある。証拠によれば、麻薬密売人も大陸を目標にした作戦で無人システムの使用を検討していたことが示唆されている。アフリカで犯罪者がUSVを使用する可能性は、主に危険性と利益の間の釣り合いの認識に左右される。Institute for Security StudiesのEnhancing Africa’s response to transnational organised crime (ENACT)計画の上席研究員Carina Bruwerは、「麻薬などの多くの違法商品は、依然としてダウ船やコンテナ船など、かなり単純な方法で輸送されている」と述べている。これは、これらの方法が依然として簡単に逃げられるものとして認識されていることを示している。現時点では、人身売買の場合には無人システムは従来の方法に比べて比較的経費が高くつくため、犯罪網の障壁として機能すると考えられる。しかし、非国家軍事組織がより安価な装備を入手できるようになるにつれて、この均衡は変化する可能性がある。アフリカ諸国は、犯罪者による遠隔操作船舶の使用の増加を予測する必要がある。
(6) USVの新たな問題に対処するには、無人技術の活用が必要になる場合がある。1月3日、U.S. Navyは、U.S. 5th Fleetの海上作戦に無人システムと人工知能を組み込むための新たな任務部隊を編成している。U.S. 5th Fleetは西インド洋や紅海を含む広大な海域における作戦を担任しており、この取り組みはこの地域の海上安全保障と安全性を向上させることを目的としている。アフリカ大陸付近で活動する混成艦隊の一部としてUSVを配備することは、アフリカの海軍に貴重な教訓を提供する可能性がある。同様の水上艦艇を採用すれば、海上犯罪に対処する能力が強化され、この地域における小型船舶を含む船舶の探知と識別が向上する可能性がある。
(7) 非国家武装集団や犯罪組織が無人技術の有効性と有用性を検証しているように、アフリカ諸国も同様に検証すべきである。この技術の不可避の拡散による影響を軽減するには、USVと既存の法の抜け穴によってもたらされる潜在的な脅威を理解する必要がある。主要な措置には、海事法執行機関がUSVの不正使用を発見し、対応する能力を向上させることおよび将来の事案を訴追するための適切な法律を制定することが含まれるべきである。
記事参照:Abandon Ship: Uncrewed Vessels Threaten Africa’s Maritime Security – Analysis
(1) 黒海と紅海での攻撃作戦における海上無人機の配備は、海戦の未来を垣間見ることができる。2月18日、U.S. Central Commandは紅海でフーシ派反政府勢力が無人水上艇(以下、USVと言う)を使用した最初の事例を報告した。攻撃は失敗に終わり、USVは迎撃され破壊された。USVの最近の配備は、海軍の運用を強化するために技術が進歩したことを示している。無人技術の普及は、アフリカ諸国の立法措置や防衛措置を上回っており、既存の海洋安全保障上の課題と不十分な国境警備を考慮すると、アフリカ諸国は無人技術が自国の海岸に上陸する準備はできているのだろうか?
(2) 最も世間の注目を集めており、無人システムの配備が最も急速に進むであろう分野は、船舶や海洋基幹施設に対する直接攻撃である。
(3) この関心を促進する4つの要因がある。第1に、従来の海軍資産と比較して、調達、保守、運用経費が低く抑えられ、手頃な価格であることである。第2に、USVの製造は比較的簡単で、機能する無人船は市場で容易に入手できる軍民両用の部品から構築できる。
第3に、USVはその設計と製造に使用される材料のため、それらを探知識別することは困難である。また、その小ささ、速さ、機動性の高さにより、破壊することも難しい。第4に、一部のUSVの航続距離が800kmを超えるため、柔軟な運用が可能である。イギリス、フランス、トルコ、中国は高度な海軍ドローン技術を開発しており、南アフリカを含む他の国々もこの技術の開発を急いでいる。米国は特に、海洋攻撃任務用の大型USVと、監視と情報収集、偵察、補給、電子戦用の中型USVの取得を熱望している。しかし、USVを従来の海軍にとって魅力的かつ革新的なものにする特徴は、非国家主体にとっても魅力的なものにする。
(4) 失敗に終わった2月18日の攻撃は、紅海で活動していたU.S. Coast Guardがさまざまな武器やUSVの部品を積んだイエメン行きの船舶を拿捕した数日後に起きた。伝えられるところによると、この輸送はイランからのものであり、同国はUSVを含む型破りな海軍能力の開発に長年投資してきた。フーシ派自身も軍事作戦でUSVを使用した実績がある。
(5) USVの普及は、今のところ主に、国家が既存の機能を非国家主体に提供していることによると思われる。これらの能力が他の非国家主体に拡大すると、危険が増大する。密輸や人身売買を阻止し、急速に展開する海上治安事件に対応するなど自国の海域を効果的に監視するための手段が不足しているアフリカ諸国にとって特に重要である。フーシ派はアフリカで活動する武装勢力と必ずしも連携しているわけではないが、イエメンとソマリアの間では十分に文書化された武器密輸ルートが存在する。潜在的な海上不安の原因として無人艇が導入されると、これまでのアフリカにおける不安がさらに悪化する可能性がある。証拠によれば、麻薬密売人も大陸を目標にした作戦で無人システムの使用を検討していたことが示唆されている。アフリカで犯罪者がUSVを使用する可能性は、主に危険性と利益の間の釣り合いの認識に左右される。Institute for Security StudiesのEnhancing Africa’s response to transnational organised crime (ENACT)計画の上席研究員Carina Bruwerは、「麻薬などの多くの違法商品は、依然としてダウ船やコンテナ船など、かなり単純な方法で輸送されている」と述べている。これは、これらの方法が依然として簡単に逃げられるものとして認識されていることを示している。現時点では、人身売買の場合には無人システムは従来の方法に比べて比較的経費が高くつくため、犯罪網の障壁として機能すると考えられる。しかし、非国家軍事組織がより安価な装備を入手できるようになるにつれて、この均衡は変化する可能性がある。アフリカ諸国は、犯罪者による遠隔操作船舶の使用の増加を予測する必要がある。
(6) USVの新たな問題に対処するには、無人技術の活用が必要になる場合がある。1月3日、U.S. Navyは、U.S. 5th Fleetの海上作戦に無人システムと人工知能を組み込むための新たな任務部隊を編成している。U.S. 5th Fleetは西インド洋や紅海を含む広大な海域における作戦を担任しており、この取り組みはこの地域の海上安全保障と安全性を向上させることを目的としている。アフリカ大陸付近で活動する混成艦隊の一部としてUSVを配備することは、アフリカの海軍に貴重な教訓を提供する可能性がある。同様の水上艦艇を採用すれば、海上犯罪に対処する能力が強化され、この地域における小型船舶を含む船舶の探知と識別が向上する可能性がある。
(7) 非国家武装集団や犯罪組織が無人技術の有効性と有用性を検証しているように、アフリカ諸国も同様に検証すべきである。この技術の不可避の拡散による影響を軽減するには、USVと既存の法の抜け穴によってもたらされる潜在的な脅威を理解する必要がある。主要な措置には、海事法執行機関がUSVの不正使用を発見し、対応する能力を向上させることおよび将来の事案を訴追するための適切な法律を制定することが含まれるべきである。
記事参照:Abandon Ship: Uncrewed Vessels Threaten Africa’s Maritime Security – Analysis
4月9日「AUKUSへの加入を模索するカナダ―インドジャーナリスト論説」(The EurAsian Times, April 9, 2024)
4月9日付のインドニュースサイトEurAsian Timesは、ジャーナリストのSakshi Tiwariによる“Canada Wants ‘Nuclear Submarines’ To Patrol Its Arctic Waters; Mulls Joining AUKUS Along With Japan”と題する論説を掲載し、そこでTiwariは、カナダが英米豪安全保障協定への加入を検討していることに言及し、それが地域の戦略的状況にどのような影響を与える可能性があるかについて、要旨以下のように述べている。
(1) カナダのTrudeau首相は4月8日、AUKUSへの加入による攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)の調達を検討していると発表した。すでに英米豪関係者と「素晴らしい対話」を行っているとのことである。Trudeauの声明は、カナダ北部の主権強化に焦点を当てた、新たな防衛戦略の公開に合わせて発表された。
(2) 2021年9月に結ばれたAUKUSは、SSN技術の共有により、オーストラリア初のSSN建造を支援することを目的とした防衛同盟である。カナダは追加加盟国候補にしばしば挙げられていた。Trudeauは声明で、「世界最長の沿岸、特に世界最長の北極圏の沿岸を防衛するカナダの責任にとってふさわしい潜水艦を必要とする」と述べている。すでに2023年、上院の委員会が、老朽化した潜水艦を、北極圏や海氷の下でも活動できるものに刷新すべきだと指摘していた。カナダは現在4隻の潜水艦を保有している。SSNではなく、1980年代に英国が建造したものを改造したもので、海氷の下で運用することが想定されていない。
(3) Trudeau首相の声明が発表された背景には、AUKUSが日本の加入を検討しているという推測がなされていることがある。新技術に関する協力に関するAUKUSの第2の柱に日本を迎え入れようというわけである。日米首脳会談においてこのことが議論されるという観測もある。他方、オーストラリアはAUKUSのさらなる拡大に消極的である。
(4) AUKUSの拡大については内部で意見の違いがあるものの、その動向に対する中国の懸念の高まりは明らかである。中国外交部の毛寧報道官は、英米豪による同盟拡大の試みは、アジア太平洋の軍拡を拡大させ、地域の平和と安定を損ねていると警告を発し、中でも日本については過去から真摯に学ぶ必要があると述べている。中国国際問題研究院の項昊宇も、米国がAUKUS第2の柱により多くの国を招待し、その影響力を強化し、インド太平洋での覇権維持を狙っていると指摘し、また、フィリピンや韓国も加えて中国包囲網を強化しているとも述べている。
(5) インド太平洋地域の国々は、特に核兵器拡散の観点からAUKUS拡大を懸念しているという指摘も中国の専門家によってなされる。彼らによれば、その軍事同盟は冷戦的思考に根ざすものだという。いずれにしてもAUKUSは、米国主導のそれ以外の少数国間協調枠組みと合わせて、地域の軍拡と紛争の可能性を高めるかもしれない。
記事参照:Canada Wants ‘Nuclear Submarines’ To Patrol Its Arctic Waters; Mulls Joining AUKUS Along With Japan
(1) カナダのTrudeau首相は4月8日、AUKUSへの加入による攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)の調達を検討していると発表した。すでに英米豪関係者と「素晴らしい対話」を行っているとのことである。Trudeauの声明は、カナダ北部の主権強化に焦点を当てた、新たな防衛戦略の公開に合わせて発表された。
(2) 2021年9月に結ばれたAUKUSは、SSN技術の共有により、オーストラリア初のSSN建造を支援することを目的とした防衛同盟である。カナダは追加加盟国候補にしばしば挙げられていた。Trudeauは声明で、「世界最長の沿岸、特に世界最長の北極圏の沿岸を防衛するカナダの責任にとってふさわしい潜水艦を必要とする」と述べている。すでに2023年、上院の委員会が、老朽化した潜水艦を、北極圏や海氷の下でも活動できるものに刷新すべきだと指摘していた。カナダは現在4隻の潜水艦を保有している。SSNではなく、1980年代に英国が建造したものを改造したもので、海氷の下で運用することが想定されていない。
(3) Trudeau首相の声明が発表された背景には、AUKUSが日本の加入を検討しているという推測がなされていることがある。新技術に関する協力に関するAUKUSの第2の柱に日本を迎え入れようというわけである。日米首脳会談においてこのことが議論されるという観測もある。他方、オーストラリアはAUKUSのさらなる拡大に消極的である。
(4) AUKUSの拡大については内部で意見の違いがあるものの、その動向に対する中国の懸念の高まりは明らかである。中国外交部の毛寧報道官は、英米豪による同盟拡大の試みは、アジア太平洋の軍拡を拡大させ、地域の平和と安定を損ねていると警告を発し、中でも日本については過去から真摯に学ぶ必要があると述べている。中国国際問題研究院の項昊宇も、米国がAUKUS第2の柱により多くの国を招待し、その影響力を強化し、インド太平洋での覇権維持を狙っていると指摘し、また、フィリピンや韓国も加えて中国包囲網を強化しているとも述べている。
(5) インド太平洋地域の国々は、特に核兵器拡散の観点からAUKUS拡大を懸念しているという指摘も中国の専門家によってなされる。彼らによれば、その軍事同盟は冷戦的思考に根ざすものだという。いずれにしてもAUKUSは、米国主導のそれ以外の少数国間協調枠組みと合わせて、地域の軍拡と紛争の可能性を高めるかもしれない。
記事参照:Canada Wants ‘Nuclear Submarines’ To Patrol Its Arctic Waters; Mulls Joining AUKUS Along With Japan
4月9日「広がる意志力の差―米専門家論説」(The National Interest, April 9, 2024)
4月9日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、Foreign Policy Research Instituteアジア・プログラム副部長Connor Fiddlerの” The Widening Willpower Gap”と題する論説を掲載し、ここでConnor Fiddlerは、政策立案者は修正主義国家の意志力を戦略的資源として認識すべきであり、これに対抗する新たな構想を実行することを怠れば、高い代償を払うことになると、要旨以下のように述べている。
(1) 1937年、米国ジャーナリストのWalter Lippmanは、「ファシスト勢力は、潜在的には我々より弱いが、実際には強い。連合国がファシスト諸国に対して早期に、統一された断固とした関与を行わなかったことが、ファシスト諸国の侵略を助長し、世界大戦を招いた」と述べている。米国とその同盟国は現在、1937年のように敵対国に匹敵するだけの意志力(willpower)を発揮できずにいる。意志力とは、戦略とその実行における持続的な決意の組み合わせと定義できる。最も高い意志力を持つ国は、国際システムを修正し、支配しようとする。現代では、米国の優位を終わらせたいと願う権威主義的な大国がその代表である。彼らは権威主義にとって安全な世界を目指している。そのような世界を築くには、戦略的構想、断固とした行動、攻撃的な戦術が必要である。
(2) ナチス・ドイツ、ファシスト・イタリア、大日本帝国が台頭してから100年近くが経過し、新たな修正主義国家の集団が、ますます危険な結果をもたらす意志力を明らかにした。中国、ロシア、イランの意志力は、物質的な力の衰退あるいは頂点に達することで増大している。経済が減速すれば、修正主義的な目的を実現する機会も減少する。その結果、彼らは行動せざるを得なくなる。経済力と軍事力が低下し続ければ、権威主義的な意志の力が強まる可能性が高い。米国は、権威主義的な経済力の衰退がより安全な世界につながることを望むことはできない。むしろ逆の可能性の方が高い。
(3) 第2次世界大戦の惨禍は、米政府を世界情勢にもっと積極的に関与するよう活性化させた。何十年もの間、米国はソ連を封じ込め、共産主義者の海外進出に対抗するのに十分な意志力を維持した。ソ連の崩壊から比較的最近まで、圧倒的に優位な権威主義的大国がなかったため、米国は自己満足に陥っていた。ロシアによる2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア侵攻は、西側諸国からほとんど反発を受けなかった。核兵器開発をめぐるイランとの合意を追求した米政府は、イラン政府の政策に報いただけだった。数十年にわたる米国の対中関与は、中国の略奪的行為を強化した。経済的、軍事的、政治的指標において米国が優越していることもあり、政策立案者たちは長年にわたり、これらの国々からの脅威の高まりを把握することができなかった。意志力の差は拡大している。
(4) ロシアは野心的な修正主義国家の典型例である。ロシアは長年にわたり、ヨーロッパにおける米国の支配に挑戦するため、攻撃的な戦術をとってきた。ウクライナを吸収したいというPutin大統領の願望は、長い間、彼とロシアの大戦略の一部であり、今、彼はそれを実行しようとしている。ロシアはウクライナよりも強大な国だが、ロシアの力は米国とその同盟国の総力に比べれば矮小である。2024年、NATO加盟国の国防費を合計すると約1兆1,000億ドルになるが、ロシアは、連邦支出の約40%が軍事費で、総額1,150億ドルと予想されている。圧倒的な意志力によって、ロシア政府は帝国の野望を追求するために信じられないほど効果的に資源を集めてきた。長年にわたり、米国とヨーロッパはロシアに挑戦することをためらってきた。このままでは、ロシアの侵略がさらに強まるだろう。
(5) イランは数十年にわたる制裁のもとで停滞してきたが、制裁はテヘランが不安定を永続させ、地域の覇権という野望を追求するのを妨げることはできなかった。イランの経済規模はサウジアラビアの半分以下で、軍事費はわずか70億ドルである。しかし、イランはロシアと同様、目的を達成するために必要な決断力と戦略的計画を有している。イランはイラクのシーア派民兵に資金を提供し、パレスチナのハマスに資金を供給し、イエメンのフーシ派を武装させることで戦略的利益を得てきた。その結果、米軍基地への攻撃が恒常化し、3人の米兵が死亡、10月7日にはハマスによるイスラエルでの壊滅的な攻撃、紅海でのフーシ派の攻撃による世界的なサプライチェーンの混乱が起きている。中東情勢を安定させるために、イランの弱腰に頼ることはできない。米国とその提携国の対応が遅く不十分であることは、イスラム共和国を増長させるだけである。
(6) 最も重要なのは中国である。ロシアやイランとは異なり、中国は実際に米国のほぼ同列の競争相手となっている。中国を世界の超大国にしようという習近平の熱意は、ますます危険な環境を生み出している。台湾の統一、ヒマラヤでのインドに対する過激な活動、南シナ海での拡張主義的な活動などは、中国が大改革を実現しようとしていることを示している。さらに懸念されるのは、中国の経済状況である。人口動態の変化と自由市場改革の逆行により、中国経済は頂点を迎えて衰退すると予測されている。これにより中国政府の意志力は強まり、中国はより危険になる。米国は中国の行動に備えるべきである。
(7) 西側諸国の多くは、敵対国の総力が低下していることを認めている。現在の経済的、人口統計的、地政学的な情勢が維持されるならば、修正主義的な国々は今後数十年の間にその力を著しく低下させるだろう。このような傾向により、敵対国が行動を起こす可能性は高まっている。米国とその提携国は、最悪の事態になる前に対抗する必要がある。
(8) 議会では、多くの議員が中国、ロシア、イランに対して厳しいことを口にしながらも、「厳しい」政策を実施することはできない。米政府はこの難題に立ち向かう決意を欠いている。政策決定者たちは、大胆で断固とした行動を採ることをためらい、その結果、何ヵ月も決断が遅れることになる。米国とその提携は、危険な時代に生きていることをほぼ認識しているが、予算の優先順位は脅威を十分に深刻に受け止めていないことを示している。概して、修正主義勢力は比較的弱いものであり、経済力、軍事力、政治力において、米国やその提携国には及ばない。その弱さゆえに、1937年と同じように、彼らは豊富な意志力を共有している。政策立案者は、意志力を戦略的資源として認識し、伝統的なネット評価だけに頼らないようにしなければならない。新たな構想を実行することを怠れば、受け入れがたいほどの高い代償を払うことになり、その結果は悲劇的なものとなりかねない。
記事参照:The Widening Willpower Gap
(1) 1937年、米国ジャーナリストのWalter Lippmanは、「ファシスト勢力は、潜在的には我々より弱いが、実際には強い。連合国がファシスト諸国に対して早期に、統一された断固とした関与を行わなかったことが、ファシスト諸国の侵略を助長し、世界大戦を招いた」と述べている。米国とその同盟国は現在、1937年のように敵対国に匹敵するだけの意志力(willpower)を発揮できずにいる。意志力とは、戦略とその実行における持続的な決意の組み合わせと定義できる。最も高い意志力を持つ国は、国際システムを修正し、支配しようとする。現代では、米国の優位を終わらせたいと願う権威主義的な大国がその代表である。彼らは権威主義にとって安全な世界を目指している。そのような世界を築くには、戦略的構想、断固とした行動、攻撃的な戦術が必要である。
(2) ナチス・ドイツ、ファシスト・イタリア、大日本帝国が台頭してから100年近くが経過し、新たな修正主義国家の集団が、ますます危険な結果をもたらす意志力を明らかにした。中国、ロシア、イランの意志力は、物質的な力の衰退あるいは頂点に達することで増大している。経済が減速すれば、修正主義的な目的を実現する機会も減少する。その結果、彼らは行動せざるを得なくなる。経済力と軍事力が低下し続ければ、権威主義的な意志の力が強まる可能性が高い。米国は、権威主義的な経済力の衰退がより安全な世界につながることを望むことはできない。むしろ逆の可能性の方が高い。
(3) 第2次世界大戦の惨禍は、米政府を世界情勢にもっと積極的に関与するよう活性化させた。何十年もの間、米国はソ連を封じ込め、共産主義者の海外進出に対抗するのに十分な意志力を維持した。ソ連の崩壊から比較的最近まで、圧倒的に優位な権威主義的大国がなかったため、米国は自己満足に陥っていた。ロシアによる2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア侵攻は、西側諸国からほとんど反発を受けなかった。核兵器開発をめぐるイランとの合意を追求した米政府は、イラン政府の政策に報いただけだった。数十年にわたる米国の対中関与は、中国の略奪的行為を強化した。経済的、軍事的、政治的指標において米国が優越していることもあり、政策立案者たちは長年にわたり、これらの国々からの脅威の高まりを把握することができなかった。意志力の差は拡大している。
(4) ロシアは野心的な修正主義国家の典型例である。ロシアは長年にわたり、ヨーロッパにおける米国の支配に挑戦するため、攻撃的な戦術をとってきた。ウクライナを吸収したいというPutin大統領の願望は、長い間、彼とロシアの大戦略の一部であり、今、彼はそれを実行しようとしている。ロシアはウクライナよりも強大な国だが、ロシアの力は米国とその同盟国の総力に比べれば矮小である。2024年、NATO加盟国の国防費を合計すると約1兆1,000億ドルになるが、ロシアは、連邦支出の約40%が軍事費で、総額1,150億ドルと予想されている。圧倒的な意志力によって、ロシア政府は帝国の野望を追求するために信じられないほど効果的に資源を集めてきた。長年にわたり、米国とヨーロッパはロシアに挑戦することをためらってきた。このままでは、ロシアの侵略がさらに強まるだろう。
(5) イランは数十年にわたる制裁のもとで停滞してきたが、制裁はテヘランが不安定を永続させ、地域の覇権という野望を追求するのを妨げることはできなかった。イランの経済規模はサウジアラビアの半分以下で、軍事費はわずか70億ドルである。しかし、イランはロシアと同様、目的を達成するために必要な決断力と戦略的計画を有している。イランはイラクのシーア派民兵に資金を提供し、パレスチナのハマスに資金を供給し、イエメンのフーシ派を武装させることで戦略的利益を得てきた。その結果、米軍基地への攻撃が恒常化し、3人の米兵が死亡、10月7日にはハマスによるイスラエルでの壊滅的な攻撃、紅海でのフーシ派の攻撃による世界的なサプライチェーンの混乱が起きている。中東情勢を安定させるために、イランの弱腰に頼ることはできない。米国とその提携国の対応が遅く不十分であることは、イスラム共和国を増長させるだけである。
(6) 最も重要なのは中国である。ロシアやイランとは異なり、中国は実際に米国のほぼ同列の競争相手となっている。中国を世界の超大国にしようという習近平の熱意は、ますます危険な環境を生み出している。台湾の統一、ヒマラヤでのインドに対する過激な活動、南シナ海での拡張主義的な活動などは、中国が大改革を実現しようとしていることを示している。さらに懸念されるのは、中国の経済状況である。人口動態の変化と自由市場改革の逆行により、中国経済は頂点を迎えて衰退すると予測されている。これにより中国政府の意志力は強まり、中国はより危険になる。米国は中国の行動に備えるべきである。
(7) 西側諸国の多くは、敵対国の総力が低下していることを認めている。現在の経済的、人口統計的、地政学的な情勢が維持されるならば、修正主義的な国々は今後数十年の間にその力を著しく低下させるだろう。このような傾向により、敵対国が行動を起こす可能性は高まっている。米国とその提携国は、最悪の事態になる前に対抗する必要がある。
(8) 議会では、多くの議員が中国、ロシア、イランに対して厳しいことを口にしながらも、「厳しい」政策を実施することはできない。米政府はこの難題に立ち向かう決意を欠いている。政策決定者たちは、大胆で断固とした行動を採ることをためらい、その結果、何ヵ月も決断が遅れることになる。米国とその提携は、危険な時代に生きていることをほぼ認識しているが、予算の優先順位は脅威を十分に深刻に受け止めていないことを示している。概して、修正主義勢力は比較的弱いものであり、経済力、軍事力、政治力において、米国やその提携国には及ばない。その弱さゆえに、1937年と同じように、彼らは豊富な意志力を共有している。政策立案者は、意志力を戦略的資源として認識し、伝統的なネット評価だけに頼らないようにしなければならない。新たな構想を実行することを怠れば、受け入れがたいほどの高い代償を払うことになり、その結果は悲劇的なものとなりかねない。
記事参照:The Widening Willpower Gap
4月9日「台湾関係法を見直すべき―米専門家論説」(The Washington Times, April 9, 2024)
4月9日付の米日刊紙The Washington Times電子版は、米シンクタンクHudson Institute研究員で元米国務長官Mike PompeoとHudson Institute 研究員Miles Yu による、“After 45 years, the Taiwan Relations Act is no longer enough”と題する論説を掲載し、両名は制定されて45年が経つ台湾関係法を見直すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 45年前に制定された台湾関係法は、複雑に絡み合った国際関係、特に米国、台湾、中国の関係において極めて重要な出来事である。この法律は、Jimmy Carter米大統領が中国を好んで承認するために台湾との公式な関係を断ち切ろうとした急速な動きに対する超党派の反発から生まれた。
(2) 台湾関係法は、行政府の外交政策の権限に対する非常に重要な立法上の確認・抑制機能を果たし、対台湾政策のいかなる変更も議会の意見を必要とすることを保証した。台湾関係法は、台湾に米国内の管轄権内で保護された法的地位を与え、台湾の自衛のための軍事的支援を保証し、台湾の地位を変更するいかなる非平和的手段にも反対している。基本的には、これは、正式な外交的承認がない中で、台湾の安全保障と米国内での法的保護に対する米国の関与を成文化したものである。
(3) 台湾関係法の制定とそれに至る経緯は、米国の外交政策と対中関与に関するいくつかの重要な教訓を明らかにしている。
a.第1に、中国共産党の戦略的な長期にわたる駆け引きを十分に理解せずに「中国と言う切り札」ことの愚かさが浮き彫りとなった。米国は当初、中国共産党の野心や米国を永続的な敵国とみなす見方を十分に考慮することなく、ソ連を出し抜きたいという願望から中国に関与した。結局、中国は巨大な戦略的駆け引きにおいて米国を出し抜き、共産党の指導者たちは米国という切り札を使うことに関して、遥かに巧みで効果的な実践者であることが分かった。
b.第2に、米国は中国政府の内部力学と戦略的意図に関して驚くべき甘さを示した。鄧小平が内部の政治的対抗者に対して仕組んだ熾烈な権力闘争の最中に、米国は中国指導者の意図を読み違え、共産党の運営論理を理解していなかったことは、しばしば戦術的な作戦を重大な政策転換や戦略的な策略と取り違えた米国の外交戦略の重大な欠陥を浮き彫りにした。
c.第3に、この時期は米国の政治的・制度的偉大さに対する信頼の危機を意味し、内部の醜聞と政策の失敗によって悪化していた。この危機は、米国の国際関係への取り組みに影響を及ぼし、世界的な指導的役割の縮小、台湾の戦略的重要性への誤った判断、米国にとって中国が戦略的・経済的に不可欠であることの大幅な過大評価につながった。
d.第4に、米国は自由と民主主義の導き手として自国が保持する影響力と道徳的権威を過小評価していた。この誤解は、中国との交渉において、自由を愛し、抑圧された中国の人々に対する米国の影響力と心を動かす力を活用する機会を逃すことにつながった。
e.最後に、米国は中国の交渉戦略を認識できず、中国の戦略的立場と意図に対する誤解のために、しばしば中国の与党からの怒りを装った理不尽な要求を黙って受け入れてしまった。
(4) 現代の地政学において、台湾関係法を再評価することは急務となっている。米国は、1979年の教訓を踏まえ、台湾と中国に対する戦略を見直さなければならない。そして最も重要なことは、45年前の台湾関係法制定以来、台湾を統治権と国家の新たな誕生を遂げた誇り高き人々による自由な独立国として外交的に承認するという、米国の真っ当な道義的義務を守ることである。
記事参照:After 45 years, the Taiwan Relations Act is no longer enough
(1) 45年前に制定された台湾関係法は、複雑に絡み合った国際関係、特に米国、台湾、中国の関係において極めて重要な出来事である。この法律は、Jimmy Carter米大統領が中国を好んで承認するために台湾との公式な関係を断ち切ろうとした急速な動きに対する超党派の反発から生まれた。
(2) 台湾関係法は、行政府の外交政策の権限に対する非常に重要な立法上の確認・抑制機能を果たし、対台湾政策のいかなる変更も議会の意見を必要とすることを保証した。台湾関係法は、台湾に米国内の管轄権内で保護された法的地位を与え、台湾の自衛のための軍事的支援を保証し、台湾の地位を変更するいかなる非平和的手段にも反対している。基本的には、これは、正式な外交的承認がない中で、台湾の安全保障と米国内での法的保護に対する米国の関与を成文化したものである。
(3) 台湾関係法の制定とそれに至る経緯は、米国の外交政策と対中関与に関するいくつかの重要な教訓を明らかにしている。
a.第1に、中国共産党の戦略的な長期にわたる駆け引きを十分に理解せずに「中国と言う切り札」ことの愚かさが浮き彫りとなった。米国は当初、中国共産党の野心や米国を永続的な敵国とみなす見方を十分に考慮することなく、ソ連を出し抜きたいという願望から中国に関与した。結局、中国は巨大な戦略的駆け引きにおいて米国を出し抜き、共産党の指導者たちは米国という切り札を使うことに関して、遥かに巧みで効果的な実践者であることが分かった。
b.第2に、米国は中国政府の内部力学と戦略的意図に関して驚くべき甘さを示した。鄧小平が内部の政治的対抗者に対して仕組んだ熾烈な権力闘争の最中に、米国は中国指導者の意図を読み違え、共産党の運営論理を理解していなかったことは、しばしば戦術的な作戦を重大な政策転換や戦略的な策略と取り違えた米国の外交戦略の重大な欠陥を浮き彫りにした。
c.第3に、この時期は米国の政治的・制度的偉大さに対する信頼の危機を意味し、内部の醜聞と政策の失敗によって悪化していた。この危機は、米国の国際関係への取り組みに影響を及ぼし、世界的な指導的役割の縮小、台湾の戦略的重要性への誤った判断、米国にとって中国が戦略的・経済的に不可欠であることの大幅な過大評価につながった。
d.第4に、米国は自由と民主主義の導き手として自国が保持する影響力と道徳的権威を過小評価していた。この誤解は、中国との交渉において、自由を愛し、抑圧された中国の人々に対する米国の影響力と心を動かす力を活用する機会を逃すことにつながった。
e.最後に、米国は中国の交渉戦略を認識できず、中国の戦略的立場と意図に対する誤解のために、しばしば中国の与党からの怒りを装った理不尽な要求を黙って受け入れてしまった。
(4) 現代の地政学において、台湾関係法を再評価することは急務となっている。米国は、1979年の教訓を踏まえ、台湾と中国に対する戦略を見直さなければならない。そして最も重要なことは、45年前の台湾関係法制定以来、台湾を統治権と国家の新たな誕生を遂げた誇り高き人々による自由な独立国として外交的に承認するという、米国の真っ当な道義的義務を守ることである。
記事参照:After 45 years, the Taiwan Relations Act is no longer enough
4月9日「南シナ海における海軍協力を深化させる海上協同活動―カナダ専門家論説」(Geopolitical Monitor, April 9, 2024)
4月9日付のカナダ情報誌Geopolitical MonitorのウエブサイトはコメンテーターのMark Sooの“Maritime Cooperative Activity Deepens Naval Cooperation in South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでSooは、オーストラリア、日本、フィリピン、米国の海軍部隊が参加した南シナ海での海上協同活動(MCA)演習は、フィリピンにとって中国の脅威に対抗する意味があるとともに、参加を希望するインド太平洋地域のすべての国にとって一つのフォーラムとして機能することができるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2024年4月7日、南シナ海で最新の海上協同活動(Maritime Cooperative Activity:以下、MCAと言う)演習が開始され、オーストラリア、日本、フィリピン、米国の海軍部隊が参加した。フィリピンDepartment of National Defenseは、2024年4月6日に発表した共同声明において、そのMCA演習は「国際法、各国の国内法、規則に則り、航行の安全と他国の権利と利益に十分配慮して」実施されると述べている。この共同声明には、4ヵ国の国防長官・国防大臣・防衛大臣が署名した。これは4回目のMCA演習である。2023年にはU.S. NavyとPhilippine Navyが、続いてRoyal Australian Navy とPhilippine Navyが共同訓練を実施した。
(2) 在フィリピン日本国大使館は、対潜戦訓練等演習内容をより詳細に説明する声明を別途発表している。中国人民解放軍南部戦区(STC)はMCA演習の開始と時を同じくして、2024年4月7日、南シナ海で海空軍の協同哨戒を実施していると発表し、「南シナ海の情勢を混乱させホットスポットを作り出す軍事活動は監視されている」と述べている。MCA演習は、中国とフィリピンの間で相次ぐ海上衝突の後に行われた。Philippine Coast Guard(以下、PCGと言う)は2024年4月6日、南シナ海の排他的経済水域で中国海警船がフィリピン船舶に対して妨害を行ったと報告した。PCGの報道官Jay Tarriela准将がXに投稿した声明によると、海警船は2024年4月4日、パラワン島から128海里に位置するロズル礁においてPCGとフィリピンBureau of Fisheries and Aquatic Resources(水産資源局(BFAR))が支援するフィリピン漁船に妨害を行った。その写真は、Tarriela准将の声明とともにXにも掲載されている。
(3) 今回のMCA演習は、フィリピンと日本の防衛協力を深めることを目的とした新たな協議を背景に実施されている。Jose Manuel Romualdez駐米フィリピン大使は、2024年4月11日に予定されている日米比首脳会談のあとに、協議が予定されていると述べており、その協議では、日比円滑化協定(RAA)に基づき、自衛隊のフィリピン領土への配備の法的道筋の確立が議題となることが期待されている。この協定が調印されれば、フィリピンが提携国との間で、外国軍の駐留を認める安全保障指針を制定することとなり、対米と対オーストラリアに次いで3番目の協定となる。また、毎年恒例の米比の共同訓練であるバリカタン演習への自衛隊の参加の可能性や、南シナ海での共同海上哨戒なども検討されている。Romualdez駐米フィリピン大使は、ワシントンでの首脳会談の後に共同声明が正式に発表されると述べている。2024年現在、日本は陸上自衛隊の水陸機動団を米比海兵隊が行うカラマンダグ演習に参加させている。
(4) 日本にとって今回のMCA演習と首脳会談は、東アジアにおける情勢の全般的な変化、ロシアの強引な外交姿勢、中国航空機の領空への接近、日本の領空や領海付近での北朝鮮のミサイル実験などの脅威による安全保障環境の変化の真っただ中で行われる。日本は、MCA演習への参加はインド太平洋諸国およびそれ以外の国々における信頼できる安全保障上の提携国としての評判を高めるための手段であると考えている。フィリピンに関しては、最近の関係国との協力関係は、フィリピン海域への中国の侵入に対抗するための同盟関係を構築したいというフィリピンの願望を示している。米国、後にオーストラリア、日本とMCA演習に参加することで、フィリピンは東南アジア海域、特に南シナ海における法の支配を強化することができる。中国の侵略はフィリピンの国家安全保障に深刻な影響を及ぼしており、同志国と提携することは、それに対抗する方法と見なされている。
(5) MCA演習の成功は、すべての当事者が、1国に妨げられることなく、公海を安全に航行する権利を有するという考えを補強するものである。中国が法の支配を尊重することを確実にすることに加えて、本演習の実施は関係するすべての同盟国との軍事協力を深めることができる。また、日中韓首脳会談により、米国はインド太平洋地域における直接的な利益を持つ提携国として、この地域への関与を深めることができる。最後に、MCA演習は、2023年にフォーラムが初めて発足した際にオーストラリアと日本が参加を表明したことが示すように、参加を希望するインド太平洋地域のすべての国にとって、1つのフォーラムとして機能することができるものである。
記事参照:Maritime Cooperative Activity Deepens Naval Cooperation in South China Sea
(1) 2024年4月7日、南シナ海で最新の海上協同活動(Maritime Cooperative Activity:以下、MCAと言う)演習が開始され、オーストラリア、日本、フィリピン、米国の海軍部隊が参加した。フィリピンDepartment of National Defenseは、2024年4月6日に発表した共同声明において、そのMCA演習は「国際法、各国の国内法、規則に則り、航行の安全と他国の権利と利益に十分配慮して」実施されると述べている。この共同声明には、4ヵ国の国防長官・国防大臣・防衛大臣が署名した。これは4回目のMCA演習である。2023年にはU.S. NavyとPhilippine Navyが、続いてRoyal Australian Navy とPhilippine Navyが共同訓練を実施した。
(2) 在フィリピン日本国大使館は、対潜戦訓練等演習内容をより詳細に説明する声明を別途発表している。中国人民解放軍南部戦区(STC)はMCA演習の開始と時を同じくして、2024年4月7日、南シナ海で海空軍の協同哨戒を実施していると発表し、「南シナ海の情勢を混乱させホットスポットを作り出す軍事活動は監視されている」と述べている。MCA演習は、中国とフィリピンの間で相次ぐ海上衝突の後に行われた。Philippine Coast Guard(以下、PCGと言う)は2024年4月6日、南シナ海の排他的経済水域で中国海警船がフィリピン船舶に対して妨害を行ったと報告した。PCGの報道官Jay Tarriela准将がXに投稿した声明によると、海警船は2024年4月4日、パラワン島から128海里に位置するロズル礁においてPCGとフィリピンBureau of Fisheries and Aquatic Resources(水産資源局(BFAR))が支援するフィリピン漁船に妨害を行った。その写真は、Tarriela准将の声明とともにXにも掲載されている。
(3) 今回のMCA演習は、フィリピンと日本の防衛協力を深めることを目的とした新たな協議を背景に実施されている。Jose Manuel Romualdez駐米フィリピン大使は、2024年4月11日に予定されている日米比首脳会談のあとに、協議が予定されていると述べており、その協議では、日比円滑化協定(RAA)に基づき、自衛隊のフィリピン領土への配備の法的道筋の確立が議題となることが期待されている。この協定が調印されれば、フィリピンが提携国との間で、外国軍の駐留を認める安全保障指針を制定することとなり、対米と対オーストラリアに次いで3番目の協定となる。また、毎年恒例の米比の共同訓練であるバリカタン演習への自衛隊の参加の可能性や、南シナ海での共同海上哨戒なども検討されている。Romualdez駐米フィリピン大使は、ワシントンでの首脳会談の後に共同声明が正式に発表されると述べている。2024年現在、日本は陸上自衛隊の水陸機動団を米比海兵隊が行うカラマンダグ演習に参加させている。
(4) 日本にとって今回のMCA演習と首脳会談は、東アジアにおける情勢の全般的な変化、ロシアの強引な外交姿勢、中国航空機の領空への接近、日本の領空や領海付近での北朝鮮のミサイル実験などの脅威による安全保障環境の変化の真っただ中で行われる。日本は、MCA演習への参加はインド太平洋諸国およびそれ以外の国々における信頼できる安全保障上の提携国としての評判を高めるための手段であると考えている。フィリピンに関しては、最近の関係国との協力関係は、フィリピン海域への中国の侵入に対抗するための同盟関係を構築したいというフィリピンの願望を示している。米国、後にオーストラリア、日本とMCA演習に参加することで、フィリピンは東南アジア海域、特に南シナ海における法の支配を強化することができる。中国の侵略はフィリピンの国家安全保障に深刻な影響を及ぼしており、同志国と提携することは、それに対抗する方法と見なされている。
(5) MCA演習の成功は、すべての当事者が、1国に妨げられることなく、公海を安全に航行する権利を有するという考えを補強するものである。中国が法の支配を尊重することを確実にすることに加えて、本演習の実施は関係するすべての同盟国との軍事協力を深めることができる。また、日中韓首脳会談により、米国はインド太平洋地域における直接的な利益を持つ提携国として、この地域への関与を深めることができる。最後に、MCA演習は、2023年にフォーラムが初めて発足した際にオーストラリアと日本が参加を表明したことが示すように、参加を希望するインド太平洋地域のすべての国にとって、1つのフォーラムとして機能することができるものである。
記事参照:Maritime Cooperative Activity Deepens Naval Cooperation in South China Sea
4月10日「台湾をめぐる戦争の予防法―米国際関係論教授論説」(The Strategist, April 10, 2024)
4月10日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、Harvard University教授Joseph S. Nyeの“How to prevent a war over Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでJoseph S. Nyeは、米国は台湾防衛の姿勢を明確にすべきという声があるなか、従来の方針を維持しつつ、戦争を抑止するための方法について論じ、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年、当時のU.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidsonは、中国が2027年までに台湾を攻撃すると述べ、最近になって改めてその判断を表明した。実際にそうなるだろうか。危険な状況であるのは事実だが、結末は変えることができる。
(2) 中国は台湾を自国領土の一部とみなし、いつかは復帰するものと考えている。1970年代に米中は国交を正常化させたが、台湾問題は争点の1つだった。その中で、米国は中国と台湾が「一つの中国」であるという政策を受け入れつつ、米国は台湾によるいかなる独立宣言も認めない、そして台湾海峡をまたぐ関係が武力ではなく交渉によって解決されるべきという態度を示すようになった。
(3) 米国の方針は「戦略的曖昧性」として知られるが、「二重抑止」という表現のほうが適切だろう。一方では米国は中国による台湾への武力行使を抑止したいと望み、他方では台湾の独立を抑止するという意味である。1995年に著者は、Clinton政権関係者として訪中したときに、中国は台湾防衛のために戦争を選択するかと聞かれたとき、1950年のことを指摘した。つまり当時のAcheson国務長官は朝鮮半島が米国の防衛ラインの外側に位置すると明言したが、それから1年もしないうちに米中は朝鮮半島をめぐって争うことになった。それを想起するとよいと答えたのである。他方、政権を去った後に超党派の台湾訪問団の1人として台湾を訪れた際、当時の陳水扁総統に、もし台湾が独立宣言しても、米国の支援は期待しないほうがよいと警告をした。二重抑止とはそういうことである。
(4) 半世紀の間、「一つの中国」と「戦略的曖昧性」は平和を維持してきた。しかし現在、台湾に対して米国の戦略的明確さを求める専門家もいる。彼らの指摘によれば、中国は1971年、あるいは1995年よりはるかに強力になっており、2022年のNancy Pelosi下院議長の台湾訪問への反応に見られるように、台湾問題に対してますます攻撃的になっている。またここ最近の台湾総統は、独立を志向する民進党が続いている。台湾市民も、自分たちを中国人だとは考えなくなってきている。
(5) Biden大統領はこれまで、中国が武力行使すれば台湾を防衛すると明言してきたが、その都度ホワイトハウスは、これまでの方針を変えていないことを明確にした。目的は現状維持である。問題はそれがどれだけ続くかである。Henri Kissingerによれば、1970年代に毛沢東はNixon大統領に、台湾復帰を1世紀は待てると述べたという。しかし習近平にその忍耐力はなさそうである。
(6) 政府関係者の言葉は微妙な均衡に影響を及ぼしうるが、外交においては行動こそがより多くを語る。米国が抑止力を強化するためにできることがいくつかある。1つは台湾の防衛力強化である。台湾が中国を打ち負かすことはありえないのだから、台湾にできるのは抵抗を持続させ、習近平にすぐには既成事実をつくることができないと納得させることである。そのためには航空機や潜水艦だけでなく、可動式で洞窟などに隠せる対艦ミサイルなどが必要だろう。
(7) 中国には台湾の海上封鎖という選択肢もある。したがって台湾は食糧や燃料の備蓄を増やすべきである。それに加えて米国とその同盟国は、中国による海上封鎖を認めないという姿勢を明確にする必要がある。そのためには台湾に近い日本やフィリピンに、米国の軍事システムを配備するという行動が必要である。
(8) 上記した行動を採りつつ、米国は本質的には二重抑止の方針を捨てるべきではない。米国と同盟国が台湾を防衛できる能力を持つことを中国に示しつつ、その一方で台湾の独立は受け入れられないことを台湾側に示し続けることで、戦争は予防できるであろう。
記事参照:How to prevent a war over Taiwan
(1) 2021年、当時のU.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidsonは、中国が2027年までに台湾を攻撃すると述べ、最近になって改めてその判断を表明した。実際にそうなるだろうか。危険な状況であるのは事実だが、結末は変えることができる。
(2) 中国は台湾を自国領土の一部とみなし、いつかは復帰するものと考えている。1970年代に米中は国交を正常化させたが、台湾問題は争点の1つだった。その中で、米国は中国と台湾が「一つの中国」であるという政策を受け入れつつ、米国は台湾によるいかなる独立宣言も認めない、そして台湾海峡をまたぐ関係が武力ではなく交渉によって解決されるべきという態度を示すようになった。
(3) 米国の方針は「戦略的曖昧性」として知られるが、「二重抑止」という表現のほうが適切だろう。一方では米国は中国による台湾への武力行使を抑止したいと望み、他方では台湾の独立を抑止するという意味である。1995年に著者は、Clinton政権関係者として訪中したときに、中国は台湾防衛のために戦争を選択するかと聞かれたとき、1950年のことを指摘した。つまり当時のAcheson国務長官は朝鮮半島が米国の防衛ラインの外側に位置すると明言したが、それから1年もしないうちに米中は朝鮮半島をめぐって争うことになった。それを想起するとよいと答えたのである。他方、政権を去った後に超党派の台湾訪問団の1人として台湾を訪れた際、当時の陳水扁総統に、もし台湾が独立宣言しても、米国の支援は期待しないほうがよいと警告をした。二重抑止とはそういうことである。
(4) 半世紀の間、「一つの中国」と「戦略的曖昧性」は平和を維持してきた。しかし現在、台湾に対して米国の戦略的明確さを求める専門家もいる。彼らの指摘によれば、中国は1971年、あるいは1995年よりはるかに強力になっており、2022年のNancy Pelosi下院議長の台湾訪問への反応に見られるように、台湾問題に対してますます攻撃的になっている。またここ最近の台湾総統は、独立を志向する民進党が続いている。台湾市民も、自分たちを中国人だとは考えなくなってきている。
(5) Biden大統領はこれまで、中国が武力行使すれば台湾を防衛すると明言してきたが、その都度ホワイトハウスは、これまでの方針を変えていないことを明確にした。目的は現状維持である。問題はそれがどれだけ続くかである。Henri Kissingerによれば、1970年代に毛沢東はNixon大統領に、台湾復帰を1世紀は待てると述べたという。しかし習近平にその忍耐力はなさそうである。
(6) 政府関係者の言葉は微妙な均衡に影響を及ぼしうるが、外交においては行動こそがより多くを語る。米国が抑止力を強化するためにできることがいくつかある。1つは台湾の防衛力強化である。台湾が中国を打ち負かすことはありえないのだから、台湾にできるのは抵抗を持続させ、習近平にすぐには既成事実をつくることができないと納得させることである。そのためには航空機や潜水艦だけでなく、可動式で洞窟などに隠せる対艦ミサイルなどが必要だろう。
(7) 中国には台湾の海上封鎖という選択肢もある。したがって台湾は食糧や燃料の備蓄を増やすべきである。それに加えて米国とその同盟国は、中国による海上封鎖を認めないという姿勢を明確にする必要がある。そのためには台湾に近い日本やフィリピンに、米国の軍事システムを配備するという行動が必要である。
(8) 上記した行動を採りつつ、米国は本質的には二重抑止の方針を捨てるべきではない。米国と同盟国が台湾を防衛できる能力を持つことを中国に示しつつ、その一方で台湾の独立は受け入れられないことを台湾側に示し続けることで、戦争は予防できるであろう。
記事参照:How to prevent a war over Taiwan
4月10日「日米比連携の強化は地域の安全に資するのか―フィリピン東南アジア問題専門家論説」(South China Morning Post, April 10, 2024)
4月10日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、フィリピンPolytechnic Universityの研究員Richard Javad Heydarianの“Can US-Philippine-Japanese military ties really protect regional security?”と題する論説を掲載し、そこでRichard Javad Heydarianは日米比首脳会談が実施されることに言及し、アジアにおいてこうした少数国間協調枠組みが広がっている背景について論じつつ、日米比連携の強化が地域の不安定さを高める可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1️) 日米比3ヵ国首脳会談が今週行われる(4月11日に実施された:訳者注)。日本と米国は軍事協力を深め、また日本とフィリピンも円滑化協定に調印することになっている。日比円滑化協定により共同演習が拡大し、自衛隊がフィリピンの基地を利用できるようになるかもしれない。また、日米比の情報共有やサイバーセキュリティ協力の推進も期待されている。
(2) 日米比3ヵ国による安全保障協力枠組みは、AUKUSやQUADなどの少数国間協調枠組み網の一部である。日米比の同盟強化は、Biden政権の「統合抑止」戦略の重要な一部である。またこれによって、地域の安全保障提供者としての日本の立場が強化される。加えて、Trumpが大統領に復帰したときに孤立主義に回帰されることが予想されるが、それに対する備えともなるだろう。
(3) この10年間、特にアジアにおいて、多国間協調システムへの期待は薄れた。ASEANは特に期待に添えることができておらず、包摂的な地域統合を果たせていない。他方、アジア諸国の経済的相互依存や投資の連絡網もあり、NATOのような軍事同盟に地域の国々は慎重である。超大国の対決において、どちらかの側につくことを明言しようとはしない。その結果、志向を同じくする少数の国々同士の、柔軟性があって課題ごとの協力を模索する少数国間協力枠組みが増えているのである。
(4) そのなかで、日米比の枠組みは比較的新しい。Marcos Jr.大統領就任以後のフィリピンの外交政策の劇的な転換がその背景にある。2023年フィリピンは、日米との3ヵ国安全保障協力を推し進めた。たとえば沿岸警備隊の共同演習、国家安全保障担当幹部による高官級の会合が実施されてきた。
(5) 日米比首脳会談には重要な3つの目的がある。1つには台湾を念頭に入れ、フィリピンを米国の包括的な地域戦略に結びつけることである。フィリピン北部には、台湾南岸に近い軍事基地が複数ある。2つ目の目的は、地域の安全保障提供者としての日本の役割を強化することである。フィリピンは日本と米国からの防衛支援の拡大を求める可能性があるし、実際に駐米フィリピン大使は、首脳会談後に部隊の輪番制の配備について調整する予定であると述べた。日本側は、フィリピンへの自衛隊配備については否定しているが、先端兵器のフィリピンへの輸出拡大や、フィリピンとの共同演習拡大などを進める可能性がある。
(6) 3つ目の目的は、ポピュリズム的な動向に対する備えである。米国では、Trumpが大統領になれば、米国は再び孤立主義的傾向を強めるかもしれない。フィリピンではDuterte一家が公然と現大統領の外交政策を批判しており、Sara Duterte副大統領は、2028年大統領選挙の有力候補である。日本では岸田政権の地盤は非常に不安定である。それゆえ現在の日米比首脳は、3ヵ国の同盟が将来反転してしまう可能性に備え、安全保障協力を模索しているのである。
(7) しかし、日米比の安全保障協力の強化は、地域における地政学的緊張を高める可能性がある。中国が座して待つのみとは考えられない。その同盟は地域に不安定をもたらすかもしれない。
記事参照:Can US-Philippine-Japanese military ties really protect regional security?
(1️) 日米比3ヵ国首脳会談が今週行われる(4月11日に実施された:訳者注)。日本と米国は軍事協力を深め、また日本とフィリピンも円滑化協定に調印することになっている。日比円滑化協定により共同演習が拡大し、自衛隊がフィリピンの基地を利用できるようになるかもしれない。また、日米比の情報共有やサイバーセキュリティ協力の推進も期待されている。
(2) 日米比3ヵ国による安全保障協力枠組みは、AUKUSやQUADなどの少数国間協調枠組み網の一部である。日米比の同盟強化は、Biden政権の「統合抑止」戦略の重要な一部である。またこれによって、地域の安全保障提供者としての日本の立場が強化される。加えて、Trumpが大統領に復帰したときに孤立主義に回帰されることが予想されるが、それに対する備えともなるだろう。
(3) この10年間、特にアジアにおいて、多国間協調システムへの期待は薄れた。ASEANは特に期待に添えることができておらず、包摂的な地域統合を果たせていない。他方、アジア諸国の経済的相互依存や投資の連絡網もあり、NATOのような軍事同盟に地域の国々は慎重である。超大国の対決において、どちらかの側につくことを明言しようとはしない。その結果、志向を同じくする少数の国々同士の、柔軟性があって課題ごとの協力を模索する少数国間協力枠組みが増えているのである。
(4) そのなかで、日米比の枠組みは比較的新しい。Marcos Jr.大統領就任以後のフィリピンの外交政策の劇的な転換がその背景にある。2023年フィリピンは、日米との3ヵ国安全保障協力を推し進めた。たとえば沿岸警備隊の共同演習、国家安全保障担当幹部による高官級の会合が実施されてきた。
(5) 日米比首脳会談には重要な3つの目的がある。1つには台湾を念頭に入れ、フィリピンを米国の包括的な地域戦略に結びつけることである。フィリピン北部には、台湾南岸に近い軍事基地が複数ある。2つ目の目的は、地域の安全保障提供者としての日本の役割を強化することである。フィリピンは日本と米国からの防衛支援の拡大を求める可能性があるし、実際に駐米フィリピン大使は、首脳会談後に部隊の輪番制の配備について調整する予定であると述べた。日本側は、フィリピンへの自衛隊配備については否定しているが、先端兵器のフィリピンへの輸出拡大や、フィリピンとの共同演習拡大などを進める可能性がある。
(6) 3つ目の目的は、ポピュリズム的な動向に対する備えである。米国では、Trumpが大統領になれば、米国は再び孤立主義的傾向を強めるかもしれない。フィリピンではDuterte一家が公然と現大統領の外交政策を批判しており、Sara Duterte副大統領は、2028年大統領選挙の有力候補である。日本では岸田政権の地盤は非常に不安定である。それゆえ現在の日米比首脳は、3ヵ国の同盟が将来反転してしまう可能性に備え、安全保障協力を模索しているのである。
(7) しかし、日米比の安全保障協力の強化は、地域における地政学的緊張を高める可能性がある。中国が座して待つのみとは考えられない。その同盟は地域に不安定をもたらすかもしれない。
記事参照:Can US-Philippine-Japanese military ties really protect regional security?
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) What’s Missing From Japan’s Defense Buildup?
https://thediplomat.com/2024/04/whats-missing-from-japans-defense-buildup/
The Diplomat, April 4, 2024
By Joseph Ross is an analyst with the Center for Strategic and Budgetary Assessments
2024年4月4日、米シンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Assessments分析員Joseph Rossは、デジタル誌The Diplomat に“What’s Missing From Japan’s Defense Buildup?”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国の通常兵器による打撃や強襲揚陸部隊の増強は、日本に自衛隊の再編成を迫っており、長距離攻撃弾薬および発射機が防衛力増強の目玉となっている。②問題は、より遠距離の標的を攻撃するための情報・監視・偵察(ISR)機構が日本の防衛力増強に欠けていることである。③米軍で使用されている目標の発見から撃破までの一連の流れ(以下、キル・チェーンと言う)は、長距離打撃が弾薬とISR能力を必要とすることを明白にしている。④日本政府の声明と軍需品購入計画に基づけば、日本の優先目標は海洋目標と固定軍事基幹施設である。⑤日本の現在の「目標の特定と追尾」機構は、有人の空中戦闘管理およびISR資産によって支えられており、F-35はキル・チェーンを完成させるために自身のISRを活用できる。⑥これらの資産は、地上配備の固定および移動型レーダーとともに機能する。⑦有人空中ISRと固定地上レーダーは、大量の懲罰的物理攻撃を行う能力に対して脆弱である。⑧日本は、海上ISR機構をより多くの無人航空機システム(UAS)で補い、能力とマンパワーを補うために、大量のUASを配備することは極めて重要である。⑨固定目標のためのISR収集の1つの方式は、宇宙配備のセンシングである。⑩宇宙における脆弱性に対する米国の解決策は、衛星の機能を多数の衛星に分散させ、複数の軌道を利用することである。⑪商業用宇宙資産などの手頃な資産の組み合わせを見つけることが重要である。⑪無人システム、分散型宇宙配備センシング、追加の移動レーダーなどの資産を自衛隊がISRの所要を満たすために追求すべきであるという主張を述べている。
(2) Pacific problems: Why the US disagrees on the cost of deterring China
https://www.defensenews.com/pentagon/2024/04/03/pacific-problems-why-the-us-disagrees-on-the-cost-of-deterring-china/?utm
Defense News, April 4, 2024
By Noah Robertson, the Pentagon reporter at Defense News
2024年4月4日、米国防関連誌Defense NewsのU.S. Department of Defense担当記者Noah Robertsonは、同誌のウエブサイトに" Pacific problems: Why the US disagrees on the cost of deterring China "と題する論説を寄稿した。その中でRobertsonは、米国は中国の軍事的脅威を抑止するために、太平洋抑止構想(Pacific Deterrence Initiative:以下、PDIと言う)を2021年に創設し、この構想を通じて、U.S. Armed Forcesの太平洋地域での防衛支出を透明化し、同地域への支出を促進することを目指していたが、PDIは期待通りに機能しておらず、新たな支出も大幅に増加させることができていないと指摘している。そしてNoah Robertsonは、2021年の議会証言において、U.S. Indo-Pacific Command司令官が、中国が台湾を迅速に侵攻すれば、U.S. Armed Forcesは対応が遅れると警告したのに対し、PDIの設立によっても十分な新規支出にはつながっていないが、これは、現在、PDIではU.S. Department of Defenseが優先順位を決定する仕組みになっており、各地域の統合軍司令部の要求が十分に反映されていないことが原因であると主張して、この改善を訴えている。
(3) THE CRISIS IN EAST ASIA: KOREA OR TAIWAN?
https://warontherocks.com/2024/04/the-crisis-in-east-asia-korea-or-taiwan/
War on the Rocks, April 4, 2024
By Sungmin Cho, PhD, is a professor at the Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies, an academic institute of the U.S. Department of Defense, based in Honolulu, Hawaii.
2024年4月4日、米シンクタンクDaniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies のSungmin Cho教授は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockのウエブサイトに" THE CRISIS IN EAST ASIA: KOREA OR TAIWAN? "と題する論説を寄稿した。その中でSungmin Choは、北朝鮮の金正恩総書記は南北統一を断念し、韓国を「主敵」とする姿勢を強めているが、これに伴い、北朝鮮は核搭載可能なドローンや極超音速滑空兵器の試験を行い、韓国近海に約200発の砲弾を発射するなど、挑発行動を強化していると指摘している。そしてSungmin Choは、一方、中国は台湾に対する軍事的展開を維持しつつも、国内経済問題への対処を優先しており、台湾海峡での大規模な危機の可能性は低いとされるとした上で、地理的条件や軍事戦略を比較すると、朝鮮半島での偶発的な衝突が事態を拡大する可能性の方が高いと主張している。
(4) GREAT POWER COMPETITION WILL DRIVE IRREGULAR CONFLICTS
https://warontherocks.com/2024/04/great-power-competition-will-drive-irregular-conflicts/
War on the Rocks, April 8, 2024
By Jacob N. Shapiro, Professor of Politics and International Affairs at Princeton University
Liam S. Collins, the executive director of the Viola Foundation, the executive director of the Madison Policy Forum, a senior fellow with New America, and a permanent member with the Council on Foreign Relations
2024年4月8日、米Princeton UniversityのJacob N. Shapiro教授と米シンクタンクMadison Policy Forumの専務理事などを務めるLiam S. Collinsは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockのウエブサイトに" GREAT POWER COMPETITION WILL DRIVE IRREGULAR CONFLICTS "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、米国が将来の戦争に巻き込まれる場合、それは従来の大規模戦争ではなく、不規則戦が中心となる可能性が高いが、冷戦時代の例から学べるように、不規則戦は大国間競争で重要な役割を果たすと指摘し、現在の防衛戦略は中国やロシアとの従来型戦争に備えているが、不規則戦への備えを怠ると戦略的競争が暴力的に転じる危険性が高まると指摘している。その上で両名は、米国は冷戦時代の教訓を活かし、不規則戦への資源配分と戦略を見直す必要があると述べ、長期的な視点と柔軟な対応が重要であり、外交および軍事の両面で不規則戦争への準備が不可欠であると主張している。
(1) What’s Missing From Japan’s Defense Buildup?
https://thediplomat.com/2024/04/whats-missing-from-japans-defense-buildup/
The Diplomat, April 4, 2024
By Joseph Ross is an analyst with the Center for Strategic and Budgetary Assessments
2024年4月4日、米シンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Assessments分析員Joseph Rossは、デジタル誌The Diplomat に“What’s Missing From Japan’s Defense Buildup?”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国の通常兵器による打撃や強襲揚陸部隊の増強は、日本に自衛隊の再編成を迫っており、長距離攻撃弾薬および発射機が防衛力増強の目玉となっている。②問題は、より遠距離の標的を攻撃するための情報・監視・偵察(ISR)機構が日本の防衛力増強に欠けていることである。③米軍で使用されている目標の発見から撃破までの一連の流れ(以下、キル・チェーンと言う)は、長距離打撃が弾薬とISR能力を必要とすることを明白にしている。④日本政府の声明と軍需品購入計画に基づけば、日本の優先目標は海洋目標と固定軍事基幹施設である。⑤日本の現在の「目標の特定と追尾」機構は、有人の空中戦闘管理およびISR資産によって支えられており、F-35はキル・チェーンを完成させるために自身のISRを活用できる。⑥これらの資産は、地上配備の固定および移動型レーダーとともに機能する。⑦有人空中ISRと固定地上レーダーは、大量の懲罰的物理攻撃を行う能力に対して脆弱である。⑧日本は、海上ISR機構をより多くの無人航空機システム(UAS)で補い、能力とマンパワーを補うために、大量のUASを配備することは極めて重要である。⑨固定目標のためのISR収集の1つの方式は、宇宙配備のセンシングである。⑩宇宙における脆弱性に対する米国の解決策は、衛星の機能を多数の衛星に分散させ、複数の軌道を利用することである。⑪商業用宇宙資産などの手頃な資産の組み合わせを見つけることが重要である。⑪無人システム、分散型宇宙配備センシング、追加の移動レーダーなどの資産を自衛隊がISRの所要を満たすために追求すべきであるという主張を述べている。
(2) Pacific problems: Why the US disagrees on the cost of deterring China
https://www.defensenews.com/pentagon/2024/04/03/pacific-problems-why-the-us-disagrees-on-the-cost-of-deterring-china/?utm
Defense News, April 4, 2024
By Noah Robertson, the Pentagon reporter at Defense News
2024年4月4日、米国防関連誌Defense NewsのU.S. Department of Defense担当記者Noah Robertsonは、同誌のウエブサイトに" Pacific problems: Why the US disagrees on the cost of deterring China "と題する論説を寄稿した。その中でRobertsonは、米国は中国の軍事的脅威を抑止するために、太平洋抑止構想(Pacific Deterrence Initiative:以下、PDIと言う)を2021年に創設し、この構想を通じて、U.S. Armed Forcesの太平洋地域での防衛支出を透明化し、同地域への支出を促進することを目指していたが、PDIは期待通りに機能しておらず、新たな支出も大幅に増加させることができていないと指摘している。そしてNoah Robertsonは、2021年の議会証言において、U.S. Indo-Pacific Command司令官が、中国が台湾を迅速に侵攻すれば、U.S. Armed Forcesは対応が遅れると警告したのに対し、PDIの設立によっても十分な新規支出にはつながっていないが、これは、現在、PDIではU.S. Department of Defenseが優先順位を決定する仕組みになっており、各地域の統合軍司令部の要求が十分に反映されていないことが原因であると主張して、この改善を訴えている。
(3) THE CRISIS IN EAST ASIA: KOREA OR TAIWAN?
https://warontherocks.com/2024/04/the-crisis-in-east-asia-korea-or-taiwan/
War on the Rocks, April 4, 2024
By Sungmin Cho, PhD, is a professor at the Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies, an academic institute of the U.S. Department of Defense, based in Honolulu, Hawaii.
2024年4月4日、米シンクタンクDaniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies のSungmin Cho教授は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockのウエブサイトに" THE CRISIS IN EAST ASIA: KOREA OR TAIWAN? "と題する論説を寄稿した。その中でSungmin Choは、北朝鮮の金正恩総書記は南北統一を断念し、韓国を「主敵」とする姿勢を強めているが、これに伴い、北朝鮮は核搭載可能なドローンや極超音速滑空兵器の試験を行い、韓国近海に約200発の砲弾を発射するなど、挑発行動を強化していると指摘している。そしてSungmin Choは、一方、中国は台湾に対する軍事的展開を維持しつつも、国内経済問題への対処を優先しており、台湾海峡での大規模な危機の可能性は低いとされるとした上で、地理的条件や軍事戦略を比較すると、朝鮮半島での偶発的な衝突が事態を拡大する可能性の方が高いと主張している。
(4) GREAT POWER COMPETITION WILL DRIVE IRREGULAR CONFLICTS
https://warontherocks.com/2024/04/great-power-competition-will-drive-irregular-conflicts/
War on the Rocks, April 8, 2024
By Jacob N. Shapiro, Professor of Politics and International Affairs at Princeton University
Liam S. Collins, the executive director of the Viola Foundation, the executive director of the Madison Policy Forum, a senior fellow with New America, and a permanent member with the Council on Foreign Relations
2024年4月8日、米Princeton UniversityのJacob N. Shapiro教授と米シンクタンクMadison Policy Forumの専務理事などを務めるLiam S. Collinsは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockのウエブサイトに" GREAT POWER COMPETITION WILL DRIVE IRREGULAR CONFLICTS "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、米国が将来の戦争に巻き込まれる場合、それは従来の大規模戦争ではなく、不規則戦が中心となる可能性が高いが、冷戦時代の例から学べるように、不規則戦は大国間競争で重要な役割を果たすと指摘し、現在の防衛戦略は中国やロシアとの従来型戦争に備えているが、不規則戦への備えを怠ると戦略的競争が暴力的に転じる危険性が高まると指摘している。その上で両名は、米国は冷戦時代の教訓を活かし、不規則戦への資源配分と戦略を見直す必要があると述べ、長期的な視点と柔軟な対応が重要であり、外交および軍事の両面で不規則戦争への準備が不可欠であると主張している。
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