海洋安全保障情報旬報 2024年3月11日-3月20日

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3月11日「中国は自国の兵器技術への依存を高めて武器輸入を削減したが、ロシアが依然として中国の最大の武器供給国である―香港紙報道」(South China Morning Post, March 11, 2024)

 3月11日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は、“China cuts arms imports to rely more on its own weapons tech but Russia still biggest overseas supplier: SIPRI”と題する記事を掲載し、ここで過去5年間、中国は外国の武器を自国の技術による武器に置き換えたため武器輸入をほぼ半減させた一方で、米国の世界の武器輸出は17%増加し、他のどの武器輸出国よりもはるかに多くなっており、それは米国の経済的、地政学的優位が中国などの新興勢力による挑戦を受けているからであるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国は過去5年間で外国の武器を自国の技術による武器に置き換えたため、武器輸入をほぼ半減させたものの、中国が海外から輸入する武器の大部分は依然としてロシア製が占めている。Stockholm International Peace Research Institute(ストックホルム国際平和研究所:以下、SIPRIと言う)が発表した報告書では、2019-23年の中国の武器輸入は過去5年間で44%減少し、世界最大の外国製武器購入国順位表の10位になったと述べている。航空機エンジンやヘリコプターシステムなど中国が購入する製品の77%をロシアが供給し、フランスが13%で続いた。ロシアとの戦争にもかかわらず、ウクライナは中国が輸入する兵器の8.2%を占め、第3位であり続け、駆逐艦用のガスタービンと中国のL-15練習機・戦闘機用のエンジンを中国に輸出している。
(2) SIPRIは、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後、中国のロシアとウクライナからの輸入がどのように変化したかについては言及しなかった。しかし、SIPRIの以前の報告では、2017年から21年にかけての中国の武器輸入総額の5.9%をウクライナが占めていた。SIPRI武器移転プログラムのSiemon Wezeman上席研究員は、「ロシアは中国の一部の装備品の供給国としてウクライナに取って代わることはできない。中国において、艦艇や航空機が設計され、生産が開始されたとき、ロシアはそれらのタイプのガスタービンやジェットエンジンを生産していなかった。ロシアは実際に自国の艦船や練習機・戦闘機用のエンジンをウクライナにも依存していた」と述べている。
(3) 同報告書は、中国の輸入が全体的に急激に減少しているのは、中国政府が「独自の主要兵器を設計・生産する能力が高めている」ためであり、「この能力を発展させるにつれてさらに減少するだろう」としている。Siemon Wezemanによると、中国は過去数年間に、ロシアから輸入した戦闘機や輸送機のエンジン、ウクライナ、フランス、ドイツからの船舶用エンジンなど、いくつかのシステムを自国生産としてきた。しかし、中国とウクライナの間に政治的な変化はなかった。Siemon Wezemanは「2022年の侵攻は、ウクライナ企業が中国に供給する上でより多くの問題を引き起こした可能性があり、中国の自国生産の取り組みにさらなる弾みを与える可能性がある。しかし、ウクライナと中国の間に政治的な亀裂が入り、軍備関係に影響を及ぼすようなことは見られない」と述べている。
(4) Siemon Wezemanによると、2023年末までに、中国製エンジンを搭載した航空機や船舶の新型が生産され、外国からの輸入は不要になったという。Siemon Wezeman は「ヘリコプターを自国で製造するのは非常に困難である。中国は、この点について長期的な問題を抱えている。だからこそ、中国はフランス製ヘリコプターのライセンス生産を続け、ロシアのヘリコプターを輸入し続けた。しかし、中国はヘリコプターのエンジン、ローター、トランスミッション・システムを自国で生産できるようになってきた。ロシアのヘリコプターはまだ輸入されているが、その数は非常に限られている。新しい中国が設計したヘリコプターが登場し、おそらく今後数年間でそれに取って代わるだろう」と述べた。
(5) 全体として、2019年から23年にかけて、世界の武器輸入大国10ヵ国のうち、インド、パキスタン、日本、オーストラリア、韓国、中国のアジア・オセアニアの6ヵ国が占めている。インドは世界の武器輸入の9.8%を占め、2014-18年の9.1%から上昇した。また、日本と韓国は武器輸入の割合が高く、東京は155%、ソウルは6.5%増加した。米国は日韓両国にとって最大の供給源であった。Siemon Wezeman は、「日本とアジア・オセアニアの米国の同盟国や提携国が高い水準の武器輸入を続けている背景には中国の野心に対する懸念という大きな要因がある」と指摘する。中国の脅威に対する認識を共有している米国はこの地域への供給国として成長している。
(6) 中国はサハラ以南のアフリカ諸国における武器輸入の19%を占め、17%のロシアを僅差で抜いて、2019年から23年にかけて同地域への最大の武器供給国となった。2014-18年と2019-23年を比較するとサハラ以南のアフリカ諸国の欧州諸国からの輸入はほぼ倍増しており、その半分以上を米国が供給している。ウクライナは、2022年2月にロシアの侵攻に対抗するために少なくとも30ヵ国が軍事支援を行った後、欧州最大の武器輸入国となり、世界第4位の武器輸入国として浮上した。
(7) ガザと紅海で戦争が続いているにもかかわらず、中東では2019年から23年にかけて、過去5年間と比較して武器輸入が12%減少し、サウジアラビア、カタール、エジプトの3ヵ国が輸入国の上位10ヵ国に入っている。武器輸出では、中国は40ヵ国に武器を販売し、輸出量は5.3%減少したものの、世界シェアの5.8%を占め、第4位となっている。パキスタンは中国の武器輸出先の61%を占め、バングラデシュが11%、タイが6%と続いた。
(8) 米国の世界の武器輸出は17%増加し、過去5年間で107ヵ国に武器が引き渡され、過去5年間のどの期間よりも多く、他のどの武器輸出国よりもはるかに多い。全体のシェアは34%から42%に上昇した。SIPRIのArms Transfers Programme長Mathew Georgeは「(米国は)外交政策の重要な側面である武器供給国としての世界的な役割を強めており、これまでよりも多くの国に武器を輸出している。このようなことは、(米国の)経済的、地政学的優位が新興勢力によって挑戦されている時に起きている」と述べている。
記事参照:China cuts arms imports to rely more on its own weapons tech but Russia still biggest overseas supplier: SIPRI

3月12日「フィリピン、海洋紛争の最前線国家だが、対中戦争の可能性は低い―香港紙報道」(South China Morning Post.com, March 12, 2024)

 3月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post(電子版)は 、フリーの海外特派員Alan Robles の“Philippines is on the front line of South China Sea tensions, but ‘WWII-style war’ with China unlikely”と題する記事を掲載し、フィリピンは緊張高まる南シナ海の最前線国家だが、専門家は中国との第2次世界大戦型の戦争生起の可能性は低いと見ているとして、要旨以下のように報じている。
(1) Marcos Jr.フィリピン大統領は3月4日、キャンベラで開催されたASEAN・オーストラリア首脳会議に出席した際、オーストラリア議会で演説し、「フィリピンは今、(日本の侵攻に直面した)1942年当時と同じように、地域の平和と安定を損ない、地域の成功を脅かす行動に対抗する最前線に立っている」と述べた。現在、台湾から200kmも離れていないフィリピン北部の島々にArmed Forces of the Philippinesの予備役が配備され、U.S Armed Forcesが同地域の港湾開発に関与している状況を考えれば、大統領の発言は不気味な歴史的隠喩を示唆している。フィリピン政府は現在、中国との海洋紛争に巻き込まれており、徐々に激しさを増している。この紛争対処に当たって、フィリピンは多くの国に接近し、英国、カナダ、インドおよび日本などと協力協定を締結している。
(2) 中でも、支援の大半は条約上の同盟国である米国に頼っている。実際、Marcos Jr.が2022年6月に大統領に就任して以来、米比両軍は数多くの共同演習や訓練、共同哨戒などを実施してきた。米国はまた、U.S Armed Forcesが一時的に駐留できるフィリピン国内基地を開発するための装備と資金を供与している。Philippine Navyは3月9日、台湾南方約190kmに位置するフィリピン最北端のバタネス州に属するバタン諸島に100名以上の予備役を派遣すると発表した。その2日後、バタネス州知事は、U.S Armed Forcesの関係者が4月にバタン島での港湾建設を協議するため同州を訪問すると述べたと報じられた。
(3) しかしながら、こうした不気味な歴史的隠喩にも関わらず、専門家は戦争が起きる可能性は極めて低いと見ている。たとえば、戦略情報の分析に当たっているJustin Baquisalは、「フィリピンはその地理的近さから南シナ海や台湾海峡の緊張など、海洋紛争の最前線にあることは明確だが、第2次世界大戦時の日本からの類推による説明は正しくない」とし、「当時、日本は新興の帝国主義勢力で、米植民地フィリピンだけでなく、シンガポールやマレーシアなど東南アジア大陸の多くの国にも侵略した」と指摘している。University of the Philippines 教授Ricardo Joseは、「少なくともフィリピンが侵略されたり、あるいは占領されたりするといった意味では、今、同じことが起きるとは思わない」とし、「西フィリピン海(南シナ海のフィリピン管轄海域のフィリピン側呼称:訳者注)での緊張激化による危険は極めて現実的だが、それは第2次世界大戦のような戦争にはならないであろう。今日の軍事技術の進歩状況を考えれば、フィリピンへの全面侵攻は逆効果となろう。潜在的な紛争は海洋領域に留まるであろう」と見ている。更に、De La Salle University国際関係学部講師 Don McLain Gilは、比中間の緊張が緩和される可能性は低いと予測した上で、「自らの影響圏とより狭義には南シナ海における野心を強固なものにしたいという中国の願望から見て、伝統的および非伝統的な提携国諸国との安全保障関係の深化と拡大を通じて、国際法に基づく主権と主権的権利をより積極的に防衛するというフィリピン政府の願望は、厄介な問題を引き起こしている」と述べている。しかしながら、Don McLain Gilは「中国が自国の軍事的限界と直接な戦争が引き起こす危険性を認識していることを考えれば、これが直接干戈を交える戦争につながると言うには、その可能性は低いように思われる」と指摘し、さらに、Don McLain Gilによれば、中国の意図は「あからさまに軍事力を行使することなく、現状をさらに自国有利に変える」ことだが、「誤算の可能性を考えれば、前途は不明確である。」
記事参照:Philippines is on the front line of South China Sea tensions, but ‘WWII-style war’ with China unlikely

3月12日「太平洋島嶼諸国における中国の警察活動の何が問題か―オーストラリア太平洋諸国問題専門家論説」(Strategist, March 12, 2024)

 3月12日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同Institute上席分析員Blake Johnsonの“Why Chinese policing in Pacific island countries is a problem”と題する論説を掲載し、そこでBlake Johnsonはキリバスにおける中国の警察活動の活発化に言及し、海外での警察活動を強化する中国の動向とその問題点について、要旨以下のように述べている。
(1) 今、キリバスで中国の警察が活動しているが、以下、中国の警察活動の何が問題かを明らかにしていく。ある国で中国の警察が活動していれば、中国から逃げ出したような人々は管理され、他方で中国が好ましいと思う集団の活動が自由になる。地元住民も監視され、警察活動の焦点は住民の安全ではなく、指導者層の保護になっていく。こうした特徴は、オーストラリアなどが提供している警察支援とは対照的なものである。
(2) キリバス政府によれば、現在人口約13万人のキリバス国内で、中国警察は中国人共同体に対する警察活動や犯罪者データーベース作成をしているという。なお、国内での警察活動についてキリバス-中国の協定は結ばれていない。オーストラリア政府は、キリバスにおいて中国が警察活動を行う余地は無いという立場を採っており、米国も警告をしている。種々の報告においても、拠点こそないもののキリバスでの中国の警察活動は、同国の統治を損ねる可能性が指摘されている。
(3) 中国はこれまで海外での非公式拠点設立のために、犯罪者集団とも協働していたことがわかっている。国際NGO団体Safeguard Defenderが最初にそのことを報告したのが2022年のことで、現在53ヵ国にそうした拠点が100ヵ所以上あるという。非公式拠点には制服警官は常駐していないが、中国の反体制派を逮捕し、本国へ送還する手助けをしている。Safeguard Defenderはこうした海外非公式拠点や、これらの活動基盤である中国共産党中央統一戦線工作部の連絡網を調査するよう勧告している。
(4) それ以外にも、中国が太平洋諸国に提供する安全保障支援は、共産党に多くの人々の生活、仕事、業績に関する詳細なデータを提供するものであり、太平洋の人びとの私的生活や国家の主権を損ねる可能性がある。オーストラリアだけがこの動向を警戒しているのではない。2022年にソロモン諸島が中国と安全保障協定を結んだとき、当時のミクネシア連邦大統領は、それが地域の安全保障に対して持つ影響を考えるべきだと警告した。
(5) 警察活動により中国が目指すことと、太平洋島嶼国が求めることの相違に対する懸念もある。中国にとっての優先事項は国家と指導者を守ることで、太平洋諸国は国民の安全を求める。2021年にソロモン諸島のホニアラで暴動が起きた時、中国大使館は実際には使わなかったが機関銃などを使用しようとしたことで批判された。
(6) オーストラリアはこれまで、キリバスやその他太平洋島嶼諸国の警察能力の空隙を埋める支援を行ってきた。キリバスにオーストリア警察の展開はないが、警察無線網構築のための資金援助などを約束しているし、巡視艇の提供も行っている。米国もキリバスに警察の訓練を提供しており、2024年2月には、U.S. Coast Guardの巡視船にキリバスの海上警察の人員を乗船させ、違法漁業を見張る哨戒を行った。
(7) オーストラリアはキリバスに対して直接の警察支援を提案すべきである。具体的には、オーストラリアが後押しする「太平洋警察構想( Pacific Policing Initiative:以下、PPIと言う)」を拡大すべきである。PPIの焦点は、大規模な行事を警備するための多国間の対応能力を発展させることにある。また今後、地域の訓練センターも設立されていくであろう。
(8) いずれにしてもキリバスがそう望めば中国の警察を国内に招き入れることができる。オーストラリアは、対抗したいのであれば包括的な代案を提示すべきである。
記事参照:Why Chinese policing in Pacific island countries is a problem

3月12日「米2024年版年次脅威評価の概要―The Diplomat編集長論説」(The Diplomat, March 12, 2024)

 3月12日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集長のCatherine Putzによる“What’s in the US Intelligence Community’s 2024 Annual Threat Assessment?”と題する論説を掲載し、そこでCatherine Putzは米情報コミュニティが公開した2024年年次脅威評価の内容をまとめつつ、米国国内の社会的分断が中ロに悪用され得る大きな危険性であることを理解すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米情報コミュニティが、2024年版年次脅威評価(以下、年次評価という)を公表した。それによれば米国は、世界的な秩序の脆弱化、予測困難な国境を越えた課題、そして多様な地域紛争の脅威に直面しているという。年次脅威評価は2006年以降、2020年を除いて毎年公開されており、その1年間における米国にとっての「最も直接的かつ深刻な脅威」に焦点を当てる。
(2) 年次評価は全体的な脅威を、概ね2つの種類に分類している。国家主体によるものと、脱国家主体によるものである。脅威として名指しされた国家主体は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮など、従来と変わらない。なかでも中国に関する記述に最も紙幅が割かれ、内容の幅も広い。年次評価は、中国が2024年の大統領選挙に影響を及ぼし、米国の社会的分断を促進することを狙っている可能性があると指摘している。ロシアに関しても同様の懸念が並べられているが、ロシア国防産業が高烈度の戦争を長期間継続できることへの警戒が示された。
(3) 年次評価は、国家主体に関する項で、ガザ戦争からその他様々な国家間および国内の紛争による脅威にも触れている。そうした地域紛争は、近隣の地域だけでなく、「米国の安全保障に挑戦を突きつけて」おり、世界全体への波及効果を持ち得るという。名指しされた地域紛争として、南シナ海や東シナ海、印中国境紛争、印パ関係などがあり、特に印パ関係に対して注意を向けている。また潜在的な内戦の可能性がある場所として、バルカン半島やハイチ、スーダン、エチオピアなどが挙げられ、なかでもアフガニスタンに関する懸念が強く示されており、「タリバンはアフガニスタンの継続的な人道危機と、構造的な経済的脆弱性に対処できないだろう」が、しばらくの間は、「体制を脅かすような抵抗」に遭うこともないであろうと書かれている。
(4) 脱国家的な脅威は、国家主体による脅威と相互に作用し合い、それが米国の国家安全保障へと波及する危険性があるという。脱国家的な脅威は以下の3つに分類される。先端技術や大量破壊兵器などの競合中の領域、環境問題など共有された領域、そして国家を超えた組織犯罪や人身売買など非国家主体に関わる領域である。
(5) 年次評価の全体的な主題は、さまざまな脅威がどのように関連しているのかである。特に、ある問題が別の問題にどのような影響を与えるかに関心が向けられているようである。さらに中国やロシアなどが世界的に影響を及ぼそうとしていることも懸念の対象である。
(6) 米国の社会的分断と中ロがそれを煽っていることについても年次評価は議論し、「米国の社会的分断だと想定されるものを、中国は積極的に悪用しようと試みている」と記述している。しかし、米国の分断は「想定されるもの」ではなく現実の現象であり、実際に敵に利用される可能性がある。国内に混乱を抱えている国の一覧表に米国は入っていないが、入れるべきであろう。
記事参照:What’s in the US Intelligence Community’s 2024 Annual Threat Assessment?

3月13日「国際プラスチック条約を通じて『廃棄の植民地主義』を終わらせる時―マレーシア専門家論説」(The Diplomat, March 13, 2024)

 3月13日付のデジタル誌The Diplomatは、マレーシアのConsumers’ Association of Penang上席研究員であり、Global Alliance for Incinerator Alternatives  のRegional Advisory Committee 委員Mageswari Sangaralingamの“Time to End ‘Waste Colonialism’ Through a Global Plastics Treaty”と題する論説を掲載し、Mageswari Sangaralingamはプラスチック廃棄物は、主にプラスチックの「リサイクル」という名目で取引され、高所得国から廃棄物を処理する設備が整っていない低所得国に廃棄物を輸出されており、あらゆる形態のプラスチック廃棄物の処理は環境と人間の健康に悪影響を及ぼし、人権を侵害と指摘した上で、真に安全なプラスチック廃棄物管理のための拘束力のある基準を確立しながら上流の措置を拘束することに重点を置いたプラスチック条約と、より強力な統治と実施権限を備え、すべての抜け穴が塞がれたバーゼル条約が、プラスチックの害とプラスチック汚染への対処をプラスチックのライフサイクル全体にわたって行う最良の組み合わせであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) プラスチック廃棄物の世界的な発生と取引は、ここ数十年で大幅に増加した。 プラスチック廃棄物は、主にプラスチックの「リサイクル」という名目で取引されている。 高所得国から廃棄物を処理する設備が整っていない低所得国に廃棄物を輸出するこの行為は、環境人種差別の一形態であり、権利者らの言うところの廃棄物植民地主義である。豊かな先進国は、自国の廃棄物を管理する能力を備えているべきである。 しかし、プラスチック廃棄物は依然としてリサイクル処理される運命にある。
(2) 汚染または価値が低いためにリサイクルできない廃棄物は残留廃棄物とみなされ、ほとんどの場合、受領国で公に投棄されるか焼却されるが、最も脆弱な共同体の周囲で行われるため、 共同体住民は呼吸困難、喘息、皮膚疾患、さまざまな種類の癌、その他の慢性疾患に最も苦しんでいる。公衆衛生と環境に対する経費と負担は、不適切なリサイクル行為や廃棄物取引から得られるとされる収入をはるかに上回っている。
(3) 中国が国剣行動(Operation National Sword)に基づいて廃棄物の輸入を閉鎖した後の2018年初頭から、私たちは主に中国からの投資家によってマレーシアに違法リサイクル工場が出現しているのを目の当たりにしてきた。 違法リサイクル工場は、程度の低い技術と環境に有害な廃棄方法を使用して、許可なく運営されていた。
(4) これに加えて、私たちが対処しなければならない別の問題がある。それは、他の素材に含まれる隠れたプラスチックである。 これらは、輸入した圧縮された紙に含まれるプラスチック、電子・電気製品に含まれるプラスチック、繊維廃棄物、ゴム、タイヤ廃棄物の形で発生している。これらの課題に加えて、プラスチック廃棄物が 30 ~ 50% 含まれる廃棄物由来燃料の取引もある。 さらに、私たちはリサイクルプロセスで生成され、最終的には海洋、湖沼、河川等に浸透するマイクロプラスチックの影響にも取り組まなければならない。 マイクロプラスチックは蔓延しており、既存の廃棄物中に含まれており、野生動物、山、あるいは私たちの体内など、事実上世界のあらゆる場所に存在している。
(5) アジア諸国が廃棄物投棄に反対し、反対運動を始めたとき、プラスチック廃棄物は単に目的地を変えただけであることが判明した。 現在、ミャンマーやラオスなどの国で廃棄物が投棄されている。プラスチック廃棄物とその取引および管理は、特にグローバル・サウス諸国において、労働者、地域社会、生態系、地球の境界を脅かしている。
(6) 有害廃棄物の国境を越えた移動とその処分の規制に関するバーゼル条約は、これらの脅威の一部に対処しているが、多くの隔たりも残している。バーゼル条約には廃棄物の発生と最小化に関する規定があるが、プラスチック汚染危機を抑制することはできていない。重点は、発生源での廃棄物防止を伴う上流での取り組みではなく、リサイクルや多くの場合ダウンサイクルに置かれ続けている。
(7) プラスチックには予防が義務付けられ、拘束力がなければならない。これは、現在交渉中の世界プラスチック条約としても知られるプラスチック汚染に関する将来の国際文書の主要な課題でなければならない。しかし、世界プラスチック条約の交渉では、一部の団体、特にプラスチック業界は、この条約が生産管理ではなく廃棄物管理に限定されるようロビー活動を行っている。一部の国は、この条約を「プラスチック供給の循環」と呼び、プラスチックのリサイクルと再利用に焦点を当てることを望んでいる。
(8) プラスチックは化石燃料と何千もの化学物質から作られており、その多くは非常に有毒であることが知られており、これまで研究されておらず、同様に有害である可能性がある他の何千もの物質も含まれている。あらゆる形態のプラスチック廃棄物の処理は、環境と人間の健康に悪影響を及ぼし、人権を侵害している。
(9) プラスチックの燃焼は、重大な有毒物質や二酸化炭素の排出と、マイクロプラスチックを含んだ危険な灰を生成する。廃棄されるプラスチックの量に対して、リサイクル施設あるいは廃棄物処理施設は対処することができない。 さらに、プラスチックのリサイクルは、プラスチックに含まれる化学物質による健康への脅威には対処していない。 リサイクルすると、これらの有毒化学物質がさらに拡散する可能性がある。
(10) 世界は、プラスチックポリマーを含む不必要で有害な化学物質の生産を停止し、全体として生産量を削減すると同時に、ゴミを拾う人、廃棄物労働者、リサイクルバリューチェーンで働く人々など、最も弱い立場にある人々のために適切な切り替えを確保する必要がある。
(11) 廃棄物植民地主義は、プラスチック廃棄物やその他の隠れたプラスチックの取引の形であろうと社会的および環境的不正義を永続させる。しかし、プラスチックの生産量を減らさずにプラスチック廃棄物取引を終了すると、さらなるダンピングを引き起こし、有毒汚染を引き起こし、気候危機の一因となる可能性がある。最終的には、真に安全なプラスチック廃棄物管理のための拘束力のある基準を確立しながら上流の措置を拘束することに重点を置いたプラスチック条約とより強力な統治と実施権限を備え、すべての抜け穴が塞がれたバーゼル条約が、プラスチックの害とプラスチック汚染への対処をプラスチックのライフサイクル全体にわたって行う最良の組み合わせとなるだろう。
(12) 長年にわたり、 Global Alliance for Incinerator Alternatives(焼却炉代替物のための世界同盟:以下、GAIAと言う)は、政策変更、運動の構築、現場での解決策を通じて、プラスチック危機を終わらせるための運動の最前線に立ってきた。 私たちの解決策には、プラスチック汚染に対する削減第一の取り組みの提唱が含まれている。GAIA は、都市を時代遅れの廃棄物処理施設から再利用システムや再充填システムなどの人々や共同体中心の解決策に移行する新しいシステムの構築において会員を支援している。廃棄物ゼロの政策とシステムは、プラスチック危機を終わらせるための前進である。
記事参照:Time to End ‘Waste Colonialism’ Through a Global Plastics Treaty

3月14日「ウクライナにおけるドローン戦の歴史的背景と将来―米専門家論説」(Hoover Institution, March 14, 2024)

 3月14日付の米シンクタンクHoover Institutionのウエブサイトは、米シンクタンクYorktown Institute代表Seth Cropseyの” Drone Warfare in Ukraine: Historical Context and Implications for the Future”と題する論説を掲載し、ここでSeth Cropseyは現代の戦場にとって効果的なデータ処理システムと分散型射撃網に連接されたドローンは必要不可欠であり、U.S. Armed Forcesと同盟国の軍隊は、あらゆる種類の無人機をもっと調達すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナの戦場の現実を明晰な目で評価すれば、無人機は19世紀後半から一貫して理解されてきた軍事能力の発展とほぼ連続していることがわかる。ウクライナでの使用が注目に値するのは、長期的な歴史的発展のもとで成熟してきた概念を継承しているからである。広範な偵察と攻撃の複合体を生み出すことで、ウクライナにおけるドローンは、ウクライナとロシアの双方が真に体系的な戦法で戦うことを可能にし、現代の戦場の論理を結実させている。
(2) ウクライナがロシアの猛攻を食い止めたのは、戦術的な巧みさと作戦遂行能力の組み合わせによるものである。2022年2月の本格的な侵攻当初、ロシアは軍事的にあらゆる面で優位に立っていた。ロシアは、大規模な砲撃をウクライナ全土で実施し、その後、数日以内に都市を占領・維持するという迅速な地上侵攻を企図した。空挺部隊の任務は、最初の攻撃から24時間以内にキーウに入り、2022年2月26日までにベラルーシからのロシア機甲部隊がキーウに入城できるようにすることだった。ウクライナの特殊作戦部隊が2月24日の重要な数時間、ホストメル空港を押さえていなければ、ロシアは首都に殴りこみをかけていただろう。その後、ロシアの計画を台無しにするには、キーウ近郊で粘り強く実行された防衛とキーウ東部の主要都市での抵抗が必要だった。
(3) 第1次世界大戦の戦場の論理は、間接砲火と作戦上重要な突破口を開くための備蓄の必要性によって定義され、今日でもなおそれは真実である。作戦に勝利するには、空間と時間を超えて交戦を調整し、防御線を突破する物理的な面と敵の処理能力を圧倒する知的な面で、敵をシステム的に崩壊させる必要がある。宇宙配備の装備、長距離精密誘導ミサイル、ステルス航空機は、単に手段の変化に過ぎない。
(4) このことは、ウクライナで見られるものをよりよく理解するのに役立つ。ウクライナもロシアも、第1次世界大戦のような軍事的適応の過程を経ている。効果的なデータ処理システムと分散型射撃網に連接されたドローンが大量に使用され、ますます成熟した偵察・攻撃複合体を作り出している。この2つのシステムは互いに混ざり合っている。それは、現代の戦場では、センサーや撹乱メカニズムが充実し、大規模な作戦により敵の深部を攻撃するには、戦術的な火器と作戦的な火器を調和させる必要性からである。簡単に言えば、接近戦と深部戦には相乗効果が必要ということである。この現実は、米国の作戦立案者たちが空陸戦と随伴部隊への攻撃を開発したときに理解され、ソ連の優秀な理論家たちが1920年代初頭に把握し始めたものである。
(5) ドローンはロシアとウクライナの偵察・攻撃複合体にとって不可欠な要素である。なぜなら、ドローンは膨大な量のデータを提供し、それによって指揮官が標的をより効率的に特定し、優先順位をつけることを可能にするからである。今日の戦場で見られる膠着状態は、無人機と大砲の使用および地雷原から生じている。ウクライナとロシアはともに、大規模な突破口を開くための人員と資材を欠いている。ウクライナは西側諸国が資材を小出しにしているためであり、ロシアは真の予備兵力を蓄積するのではなく、非道な損害を被る部隊を補充するという政治的選択のためである。接近戦と縦深部での戦いを適切に調和させ、最終的に突破口を開き、攻略を促進するために能力を活用する側が勝利者となるだろう。
(6) 海上での航空機による戦闘もまた、20世紀初頭以来、偵察と攻撃の複合体の論理をまぎれもなく示してきた。違いは、海洋の広大さが偵察を複雑にしていることである。海戦の歴史には、遭遇戦と呼ばれる例が数多く存在し、偵察の限界によって双方ともに遭遇する場合でも、偵察と攻撃の複合体がより広範な作戦を決定する。また、1942年の日米によるミッドウェー海戦は、一方が戦うことを選択した場合でも、問題の半分以上は敵を発見することであった。
(7) ウクライナは、黒海におけるロシアの支配を断ち切り、クリミアの支配を弱体化させるため、独創的な海上での航空作戦を展開した。ウクライナが黒海上空でドローンを華々しく使用したことは、他の海軍にとっても意味がある。しかし、このドローンは、より広範なシステムの最終的な要素に過ぎない。このシステムには、人的情報源で補われた空中、そしておそらく宇宙配備の偵察網、標準的な長距離ミサイルと攻撃機によって実行される協調的な攻撃作戦、特殊作戦部隊による妨害行動、そして最も重要なものとして、ロシアの防空網をバラバラにした首尾一貫した作戦設計が含まれる。
(8) 戦闘の教訓は常に、より広い文脈で捉えられなければならない。米軍と同盟国の軍隊は、あらゆる種類のドローンをもっと調達すべきである。しかし、戦闘の基本な論理は比較的固定されたままであり、この1世紀あまりそうであったことを忘れてはならない。
記事参照:Drone Warfare in Ukraine: Historical Context and Implications for the Future

3月15日「台湾の防衛力を強化する日本の役割―日専門家論説」(NIKKEI Asia, March 15, 2024)

 3月15日付の日英字経済紙NIKKEI Asia電子版は、米シンクタンクPacific Forumの日米次世代ヤング・リーダーズ・プログラム研究員である佐々木れなの“Japan has role to play in bolstering Taiwan’s defenses”と題する論説を掲載し、佐々木れなは日本政府が台湾の防衛能力を高めることにできることは多くあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾海峡の緊張が高まる中、日本は安全保障問題で台湾との距離を縮め、情報共有や意思疎通を強化している。日本の外交・防衛に携わる与党自民党のベテラン議員は2023年、台湾の民進党の議員を東京の党本部に迎え、中国の軍事的圧力の高まりやインド太平洋地域の安全保障情勢について意見交換を行った。一方、防衛省は、台北にある非公式の連絡事務所に初めて現役の高級幹部自衛官を事実上の防衛駐在官として派遣し、退役自衛官とともに勤務させている。
(2) 12月まで、「防衛装備移転三原則」として知られる日本の武器輸出に関する公式方針は、殺傷力のある兵器を海外に輸出することを原則的に禁じていた。ウクライナとイスラエルそれぞれが紛争にある最中、彼らに武器を十分に保有させ続けようと奮闘している米国の動きに鑑み、東京は12月に政策指針を改定し、外国企業のライセンスに基づいて生産された防衛装備品を、ライセンス供与国へ輸出のために、「ライセンス供与国からの要請があれば供与する」ことを許可した。日本の許可があれば、その装備品は再輸出できるが、現在戦争中の国には輸出できない。その代わり、この政策により、日本が「パトリオット」防空ミサイル・システムをはじめとして米国が紛争地域に送る装備を補うために、米国の在庫を補充できることを意味している。台湾が必要とする場合、日本は同様に「パトリオット」ミサイル、MIM-23「ホーク」地対空ミサイル、M270多連装ロケットシステム、その他の装備を米国に補充できる。日本は、弾薬のような消耗性の高い品目を埋め合わせるために、ライセンス生産プログラムをさらに拡大することを検討することができる。台湾への支援をさらに促進するために、米政府は日本から補給できる在日米軍施設での消耗品兵器の備蓄を増やすべきである。日本の作戦指針には、「日本の安全保障上の必要性を考慮した特別な状況」という不明確な例外はあるものの、日本政府が戦争状態にある国に死傷を伴わない装備品の援助を超えるものを提供することを依然として制限している。
(3) それでも、軍事援助という広い視野に立てば、台湾防衛をよりよく支援するために日本ができることはいくつもあるが、その1つは、防衛装備品の保守整備、修理、分解検査・修理(maintenance、repair、overhaul:以下、MROと言う)である。日本におけるMROは、紛争時だけでなく、平時の抑止力維持にも不可欠であり、日本自身だけでなく、米国や台湾の防衛準備態勢を支えるために、さらに拡大する可能性がある。長期的には、日本は台湾の防衛産業能力の向上に貢献すべきである。日本の三原則は主に西側諸国との防衛生産協力に関するものであるが、台湾の軍民両用能力と抑止力を強化するために日本ができることは多い。台湾のシンクタンクの台湾民意基金会が2022年8月に実施した調査では、成人の60%が、紛争が発生した場合、日本が防衛兵器を含む全ての必要な支援を基本的に提供することを期待すると回答している。
(4) 日本が現実的にできることはまだ限られており、不透明である。しかし、三原則の改定は、日台間の防衛装備協力を効果的に拡大する可能性を秘めており、日本が平時から台湾の抑止力を支援するために講じることができる措置は他にもある。
記事参照:Japan has role to play in bolstering Taiwan’s defenses

3月15日「南シナ海で戦略的足場を失いつつある中国―米東南アジア問題専門家論説」(East Asia Forum, March 15, 2024)

 3月15日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy が発行するデジタル出版物East Asia Forum は、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies上席研究員Gregory B. Polingの“China loses strategic waters in the South China Sea”と題する論説を掲載し、そこでGregory B. Polingは2022年ごろから南シナ海における状況が東南アジア諸国にとって有利な流れになってきたとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2012年から21年にかけて、中国は威圧的行動や軍事力行使の威嚇を通じて、南シナ海における「歴史的権利」を主張し続けてきた。しかし2022年ごろから流れは変わりつつある。東南アジア諸国の抵抗が強まったのである。
(2) 2023年に最も報道を賑わせたのが、セカンド・トーマス礁周辺での出来事である。フィリピンはそこに旧揚陸艦「シエラ・マドレ」を座礁させ、兵員を常駐させて、毎月補給活動を行っている。そして、フィリピンの補給活動を中国海警総隊と民兵の船が妨害しているが、あまり成功していない。中国海警船は2023年2月にフィリピン船に対し軍用レーザーを照射したことで非難され、またセカンド・トーマス礁やスカボロー礁周辺でフィリピン船に放水銃を向けることもあった。
(3) 2023年10月にはセカンド・トーマス礁周辺で中国船とフィリピン船の衝突が2度起き、2ヵ月後にも同様の事故が発生した。さらに2024年3月にも衝突事故が起き、中国海警船がフィリピン船に放水し、4人が負傷するという事件も生起している。負傷者の中にはPhilippine NavyのWestern Command司令官も含まれている。こうした事件や事故において、フィリピンは政府や民間のカメラがそれらを確実に記録できるようにしていた。
(4) 南シナ海の権利主張に関して、中国がこれまでの強硬な方針を変えることはないだろう。一方で、軍事力を行使してまでセカンド・トーマス礁を奪い取るつもりもないだろう。その選択は大きな危険を伴うものである。
(5) 広報活動が活発なためフィリピンが目立つが、中国の圧力に抵抗している国は他にもある。ベトナムは南沙諸島の施設の規模を3倍に拡大し、以前は中国の独占的特権であった同諸島に巡視船を配備するための新しい港と付随する基幹施設を建設した。中国海警船の哨戒があるにもかかわらず、ベトナムはヴァンガード堆での石油ガス開発を継続している。インドネシアやマレーシアも同様に、中国海警総隊の嫌がらせを受けながらも、石油ガス田の開発を継続している。
(6) 時期を同じくして、中国に対抗する安全保障提携なども拡大している。米比関係は1970年代以降で最も密接になり、またフィリピンは日豪との提携も深めている。2016年の南シナ海に関する国際仲裁裁判所の裁定について、Duterte政権はそれを無視してきたが、Marcos Jr.政権はそれを改めて遵守する姿勢を見せ、国際的な支持を確保しようとしている。実際、2022年にインドと韓国およびEUが、中国に対しこの裁定を遵守するよう、初めて公式に要請した。Marcos Jr.政権は、中国による環境破壊に焦点を当てた提訴を検討している。
(7) フィリピンだけではない。ベトナムも2023年9月に米国と包括的戦略パートナーシップ協定を締結し、日豪とも同様の協定を結んでいる。インドネシアはJoko Widodo政権下ではやや穏健であったが、2024年に現国防大臣(本記事執筆時)のPrabowo Subiantoの大統領就任が決まっており、それにより流れが変わる可能性はある。マレーシアのAnwar Ibrahim首相は、南シナ海についてほとんど何も言ってこなかったという点で、異質な存在である。
(8) 2024年、南シナ海の状況は依然不透明である。しかし流れは東南アジア諸国に有利に転じているように思える。中国はグレーゾーン戦術を修正し、さらに強力な軍事行為によってのみこの流れを変えることができるだろうが、それにより失うものの方が多いだろう。前進のための唯一の方法は領有権主張諸国との現実的な協力の模索であるが、中国がそうした方針を採ることも考えにくい。
記事参照:China loses strategic waters in the South China Sea

3月18日「トランプ大統領が誕生した場合、AUKUSの合意は存続するか?すべての兆候は存続することを示している―オーストラリア専門家論説」(The Conversation, March 18, 2024)

 3月18日付けのオーストラリアのニュースサイトThe Conversationは、Australian National Universityの国際安全保障・情報学担任教授John Blaxlandの“Will the AUKUS deal survive in the event of a Trump presidency? All signs point to yes”と題する論説を掲載し、ここでJohn Blaxland教授は2023年合意したAUKUSは、2024年の米国大統領選挙で、もしDonald Trumpが当選した場合でも継続されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1年前、オーストラリアのAnthony Albanese首相、英国の Rishi Sunak首相およびJoe Biden米大統領の間で、AUKUS協定が正式に発表された。この合意は、オーストラリアが今後20年間で6隻から8隻の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)を取得するための道筋を示したものである。しかし、オーストラリアがSSNを取得する必要性に関する理解が限られているため、SSNの取得・建造計画について、現在も議論が続いている。また、米国が自国の所要を満たすだけの潜水艦建造能力を有するかどうかが疑問視されていることから、米国がこの取引にどれだけ本腰を入れているのかとの懸念も浮上し、この構想の実行可能性に対する憶測を呼んでいる。
(2) AUKUSの下で、米国はオーストラリアへのSSN提供にどのような義務があるのか。また、オーストラリアがSSNを取得するのはいつになるか。さらに、Donald Trumpが大統領に選出された場合、AUKUS合意にどの程度影響するであろうか。オーストラリアは現在、AUKUS成功に多額の投資を行っており、政策のやり直しを避けようとしている。米議会は、オーストラリアの巧みな外交にも助けられ、2023年12月、2030年代にヴァージニア級SSN3隻をオーストラリアへ譲渡することを認める国防権限法を可決した。米国の政治体制の行き詰まりからすると、考えられないことである。同法はまた、米英の造船所でオーストラリア人を訓練し、オーストラリアが自国でSSNを整備する取り決めも確認した。とはいえ、これですべてが自動的に進むわけではなく、米国は自国海軍の需要を優先する権利を留保している。計画が頓挫するのではないかとの懸念は当たらず、オーストラリアが方針を転換するとは考えられない。ヴァージニア級SSNの建造速度が年間1.3隻に落ち込むという報道は、警戒心を引き起こしているが、ヴァージニア級SSNを建造する米国の造船会社Electric Boatと Huntington Ingalls Industriesの2社は、建造速度を年産2.3隻に加速させる措置を講じている。これには、オーストラリアの資金援助と人的貢献が役立っている。オーストラリアが中古改修済みのヴァージニア級潜水艦を初めて購入するのは、2030年代半ばの予定である。
(3) それはまだ先のことに思えるので、オーストラリアの潜水艦戦力に生じると考えられている空隙を埋めるため、オーストラリアの既存のコリンズ級通常型潜水艦が維持され、フリーマントルの南、コックバーン湾にあるガーデンアイランド海軍施設に輪番制で展開する英米のSSNによって補完される。コックバーン湾は、パール・ハーバーほどの知名度はないが、同じくらい重要な場所である。すでにU.S. Navyのヴァージニア級SSNが定期的に寄港を始めており、抑止効果も現れている。AUKUSへの声高な批判は、一部の者による過剰な抗議だと思われる。
(4) Donald Trumpの政権復帰が、これらの計画に及ぼす影響を懸念する声もある。米国の政治指導者たちは民主・共和両党を問わず、AUKUSが状況を一変させるものであることを理解している。AUKUSは単なる感傷的愛着でなく、オーストラリアと米国の永続的な利害の重なりを反映している。オーストラリアは自国の軍事力と諜報能力を強化する上で米国の技術の恩恵を受け、「見捨てられる恐怖」を軽減している。一方、米国は自国の経済および安全保障上の利益に適う形で、安全保障動向を監視し、抑止力を強化するために、東アジアへの展開を維持している。これはアジアにおける米国の安全保障上の提携国から高く評価されている。Donald TrumpはNATOや他の同盟国に対して批判的であるが、オーストラリアに対しては批判を避けている。12月の議会で超党派の圧倒的多数による採決は、AUKUS協定が米国内で支持を失うとの懸念が見当違いであることを示している。Donald Trumpには、この姿勢を変える気配はなく、次期米政権がこの路線を維持することについて、説得力のある理由が幾つもある。
(5) そもそもなぜ新しい潜水艦が必要なのか、オーストラリア政府の意図は曖昧である。コリンズ級潜水艦がいかによく整備されていても、オーストラリアの潜水艦作戦に必要な長距離航行には耐えられないという現在の潜水艦部隊の限界に過度な注目が集まるのを避けるため、政府は新型潜水艦がいかに強力で有用なものかに触れるのを避けてきた。これは、オーストラリアの潜水艦に欠陥があるのではなく、上空から探知されるためである。ドローンや人工知能と相まって、ほぼ飽和状態にある衛星の持続的な監視網によって、通常型潜水艦が搭載電池充電のためにシュノーケル・マストを上げると、その航跡を探知できるようになった。こうした監視は、南極、アフリカ南部、南米にある中国の施設から行われていると考えられている。潜水艦にとって隠密性は、水上艦に対する唯一の利点であるが、現在のオーストラリアの潜水艦部隊による長期航行では、その有用性はすぐに失われる。自国の海域を守るために広大な海域を航行することが必要な国にとっては、原子力推進が唯一の現実的方策となる。
(6) オーストラリアにとって、首都からフリーマントルまで船が探知されずに航行することはできないし、戦時下では、海中に潜り続けることでしか乗り越えられない危険性がある。隠密性を取り戻す以外にも、新型原子力潜水艦の利点はかなり大きい。オーストラリアの潜水艦には、重要航路の支配を支援するという目的があり、新しいSSNは現在の通常型潜水艦の進出速力6.5ノットに対し、20ノットと高速で航行でき、また長期行動が可能で、抑止効果が高まる。主な制約は乗組員の食料である。最大8隻の原子力潜水艦からなる艦隊は、行動中に電池の充電をする必要がなく、より速く展開し、より長期の作戦行動が可能で、かつ探知され難いため、有効な展開可能時間は現在のオーストラリア潜水艦部隊の3倍になると思われる。
記事参照:https://theconversation.com/will-the-aukus-deal-survive-in-the-event-of-a-trump-presidency-all-signs-point-to-yes-225661

3月19日「米中の戦いは何年も続く―米専門家論説」(Atlantic Council, March 19, 2024)

 3月19日付の米シンクタンクAtlantic Councilのウエブサイトは、Atlantic CouncilのScowcroft Center for Strategy and SecurityにおけるIndo-Pacific Security Initiative非常勤研究員Brian Kerg海兵隊中佐の“There will be no ‘short, sharp’ war. A fight between the US and China would likely go on for years.”と題する論説を掲載し、ここでBrian Kergは世界的な消耗戦の最初の局面に安全保障研究の大半を割くのは、近視眼的であり、米国の政策立案者と軍事指導者は、中国との数年にわたる戦争がもたらす広範な影響を厳密に研究し、計画しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 激しくても短時日で終わる戦争は誰もが好む。戦争は時間どおりに終わり、決定的な勝利を収め、私たちが語りたい物語をきっちりと完結させてくれるという先入観があることは、現代の米国の机上演習でも証明されている。机上演習は想定される戦争が始まる背景や条件から開始されるのが一般的である。演習参加者は、通常、軍将校、高官、政策立案者、シンクタンク関係者などで構成され、紛争の初期段階における状況の進展が早い筋書きで進められる。机上演習は理論的にはもっと長い期間にわたって展開されるかもしれないが、現実の世界では時間の制約があるため、通常、数日から1週間強という短期間で終了させる。そして、この短い演習期間内で得られた要所要所の事象に基づいて結論が出される。その結果は、戦争計画や軍事投資を承認する司令官や政策立案者に知らされる。最近、Center for Strategic and International Studiesが行った秘密保持を必要としない机上演習では、米国が中国と戦い、多大な犠牲を払いながらも勝利するという筋書きが描かれていた。有益な情報ではあったが、この演習は台湾と第1列島周辺での短期決戦に主眼が置かれていた。
(2) フランスと英国にとって、米国の独立戦争は、当時世界中に広がっていた永続的な紛争における、1つの戦争に過ぎなかった。第1次世界大戦の開戦当初、交戦国であった英国の世論は、戦争はクリスマスまでには終わると考えていた。大日本帝国は、太平洋における権益を譲るよう米国を説得するため、真珠湾を奇襲攻撃し、その後、広島と長崎への原爆投下によって日本が無条件降伏を余儀なくされるまで、何年にもわたって戦略的守勢で戦うことになった。数多くの歴史的記録は、この単純だが重要な主題を繰り返している。すなわち、大国同士の軍事衝突が整然とした形で解決することはめったにない。しかし、軍事に関わる計画立案者は短期決戦を求め続けている。
(3) もし米中戦争がもたらす長く広範囲にわたる苦難を描写する小説を書くとしたら、それは次のようなものになる。
a.冒頭のページでは、現代の戦争ゲームや小説のトレンドが紹介され、海軍の戦闘艦艇、第5世代航空機、ミサイル部隊、その他の活動の効果が開戦当初に大混乱を引き起こし、交戦国の空軍力と海軍力を麻痺させる。この最初の段階で、何千、何万という犠牲者が出る。
b.戦争は水平方向に拡大し、中国、ロシア、北朝鮮が同盟を組み、一方で米国は台湾、日本、フィリピン、オーストラリア、韓国と同盟を組む。戦闘は、朝鮮半島での大被害を含め、U.S. Indo-Pacific Commandの担任地域の複数の場所で発生する。
c.やがて、精密兵器の弾薬の消耗が生産能力を急速に上回り、太平洋における米国の燃料備蓄が減少するにつれて、圧力が高まり、選択肢が減る中、戦術核兵器が戦場で使用される。
d.そして戦争は続く。こうして第1章が終わり、読者は「3年後」と書かれたページをめくる。
(4) 著者は、交戦国が長く血なまぐさい戦争に巻き込まれるにつれ、社会全体に起きた大きな変化を巧みに明らかにしていく。
a.各国は、存亡をかけた戦争を支えるために経済を総動員し、複数の野戦軍、水陸両用戦軍、艦隊、空軍の兵員を満たし、それを維持するために、徴兵制が義務づけられる。
b.戦争は第1列島線に限定されず、世界中にまたがる複数の戦域となり、同時多発的な紛争によって交戦国が増え、水平方向に拡大していく。
c.緊急事態の権限は行政府によって普遍的に発動され、歴史的に最も自由な社会でさえ自由を抑制する。
d.核兵器による大虐殺の脅威は常に存在し、戦術核の応酬による継続的な戦闘は、これまでの事態拡大の管理の概念を打ち砕く。
(5) これは米中戦争が起きた場合の論理的結論ではあるが、政策分析、戦略的思考、作戦計画においては後回しにされるのが常であり、台湾周辺での限定的な紛争に何度も焦点が当てられている。世界的な消耗戦の最初の局面に安全保障研究の大半を割くのは、近視眼的であり、序盤だけ研究して中盤や終盤を研究しないようなものである。大規模な戦争は、しばしば予期せぬ形で社会と技術を破壊する。だからこそ米国の政策立案者と軍事指導者は、中国との数年にわたる戦争がもたらす広範な影響を厳密に研究し、備えなければならない。
記事参照:There will be no ‘short, sharp’ war. A fight between the US and China would likely go on for years.

3月20日「台湾侵攻のためにRO-RO船を増強する中国―インド専門家論説」(East Asia Forum, March 20, 2024)

 3月20日付けのAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、インドのシンクタンクTakshashila Institution准研究員Suyash Desaiの“RO-RO ferries may be China’s route to reunification”と題する論説を掲載し、Suyash Desaiは中国が台湾侵攻のために、ロールオン・ロールオフ船を増強しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 近年、中国軍の航空機や艦艇が定期的に中間線を越えて台湾の防空識別圏に侵入し、中国軍は台湾海峡に新たな常態を作り出している。中国軍はまた、特に2022年8月にNancy Pelosi元米下院議長が台北を訪問して以来、台湾周辺で大規模な軍事演習や実弾射撃訓練を行うようになった。
(2) 元U.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidson海軍大将は、2021年のSenate Armed Services Committee(上院軍事委員会)の公聴会で、中国は今後6年から10年以内に台湾を侵略する可能性があると述べている。中国の統一のための軍事作戦の時期については意見が分かれている。
(3) 2015年から2020年にかけて、中国海軍は340隻以上の艦艇を擁し、数の上では世界最大の海軍となった。しかし、海軍の数的優位にもかかわらず、台湾統一のための軍事作戦における民間海運業の役割は、中国軍のどの部隊の役割とも同じくらい重要である。
(4) 中国の軍事文書によれば、まず台湾の防衛を無力化するために大規模なミサイル攻撃を含むいわゆる統合上陸支援射撃が行われ、その後、陸海空協同による上陸作戦が行われる。しかし、世界最大の海軍力にもかかわらず、中国海軍は敵海岸への上陸作戦を行う準備ができていない。現在、中国海軍が保有しているのは、8隻のType071ドック型揚陸艦、3隻のType075強襲揚陸艦、約50隻の小型揚陸艦、6隻のロシアのProject1232.2ズーブル級エアクッション強襲揚陸艇、15隻のType726エアクッション揚陸艇のみである。一方で台湾には16万9,000名の現役軍人がおり、166万名の予備役によって支援されている。予備役兵士はさておき、兵棋演習で使われる伝統的な攻撃側と防御側の3対1の比率を当てはめると、中国は少なくとも50万7,000名の兵士を必要とすることになる。その延長線上で考えると、上陸作戦を行うために幅106kmの台湾海峡を横断する数千隻の艦艇が必要となるが、現在の中国海軍の能力は程遠い。
(5) 中国は長い間、軍事作戦を民間海運会社で補うことに取り組んできた。この目的のために、中国はロールオン・ロールオフ船(以下、RO-RO船と言う)の建造を重視してきた。RO-RO船はその動力を利用して埠頭や砂浜にタラップを設置し、車両を輸送することができる。RO-RO船1隻あたり、少なくとも300両の車両と約1,500名の乗客を運べると推定されている。2012年、中国軍は中国の主要な造船会社に「戦略投送支援船隊」を設立し、現地の海運会社に積極的に軍と協力させ、海上での「戦略的輸送」能力を向上させてきた。
(6) 中国の造船業界はRO-ROフェリーの生産を優先してきた。これらの船は主に電気自動車を世界各地に届けるために使用されているが、2023年の中国軍による軍事演習での使用は、中国の統一のための軍事作戦の重要な推進力となる可能性を示している。RO-RO船が中国軍の軍事演習に初めて参加したのは2019年で、15,000トンのフェリー「棒棰島」が陸海空の強襲演習に参加した。それ以来、中国軍はこのような軍事演習を定期的に実施している。
(7) 学者達は、これらのRO-ROフェリーは台湾のF-16、艦艇、潜水艦からの攻撃を受けやすいと指摘している。しかし、同じく脆弱な中国軍の揚陸艦のように、これらのフェリーは中国海軍、中国空軍、中国軍ロケット部隊の支援を受ける。しかし、有事の際、これらのフェリーが戦場の損害を抱えて航行できるかどうかは未知数である。また、これらのフェリーが上陸作戦を行えるのかという疑問もある。しかし、中国軍はRO-ROフェリーで定期的にそのような演習を行っており、そして、実際の軍事作戦でしか公正な評価はできない。
記事参照:RO-RO ferries may be China’s route to reunification

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Sweden Joins NATO: Implications for the Indo-Pacific
https://thediplomat.com/2024/03/sweden-joins-nato-implications-for-the-indo-pacific/
The Diplomat, March 12, 2024
By Dr. Jagannath Panda is the head of Stockholm Centre for South Asian and Indo-Pacific Affairs (SCSA-IPA) at the Institute for Security and Development Policy, Sweden; and a senior fellow at The Hague Centre for Strategic Studies, The Netherlands.
3月12日、Stockholm Centre for South Asian and Indo-Pacific Affairs(SCSA-IPA)のセンター長Jagannath Pandaは、デジタル誌The Diplomatに、“Sweden Joins NATO: Implications for the Indo-Pacific”と題する論説を寄稿した。その中で、①3月7日、スウェーデンは正式にNATOの32番目の加盟国となった。②この歴史的な進展は、NATOがバルト海地域だけでなく、北極圏も掌握していることを示している。③スウェーデンの加盟国としての関与は、少なくとも部分的には中国によって影響されるだろう。④NATOは現在、中国との地政学的・イデオロギー的な競争を結びつける重要性を認識している。⑤近年は、中国による人権侵害への懸念や、技術や防衛計画を含むスウェーデンの能力に関する情報収集を中国が試みたことなどが、2国間協力の妨げとなっている。⑥スウェーデンの安全保障戦略は、中国を競争相手ではなく、脅威としてのみ捉えている。⑦スウェーデン政府は韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドとのNATOの目的に合った構想を強化することに目を向け、さらに、スウェーデンはインドとの友好関係を深めている。⑧インド太平洋において、スウェーデンは海上交通路への脅威が経済安全保障に与える影響について差し迫った懸念を抱いている。⑨スウェーデンがNATO加盟国として東アジアに軍備を供給することは、NATOが東アジア諸国への働きかけを強めていることと相俟って、中国や北朝鮮のNATOに対する談話に拍車をかけることになる。⑩ロシアのウクライナ侵攻以来、インドや日本のような中流国家は外交手腕を発揮し、「非対称多極化」の台頭を支持する強い評価を伴ってきたが、権威主義国家間の戦略的協力が高まる中、スウェーデンとフィンランドが米国主導のNATOに加盟することで2極性への回帰が再びレンズの下に映し出されているといった主張を述べている。

(2) Declining American Power and Changes in the International Strategic Environment
https://www.hudson.org/foreign-policy/declining-american-power-changes-international-strategic-environment
Hudson Institute, March 13, 2024
2024年3月13日、米保守系シンクタンクHudson Instituteのウエブサイトは、" Declining American Power and Changes in the International Strategic Environment "と題して同Institute上席研究員Nadia Schadlowに対するインタビュー記事を掲載した。その中でNadia Schadlowは、いくつかの質問に答える形で、①過去数十年にわたり、グローバルな戦略環境は変化してきたが、米国の相対的なパワーは低下し、米国の強さの重要な「基盤」のいくつかが損なわれており、これは米国の衰退とも言え、その軌道修正が必要である。②中国は米国にとって最も差し迫った課題であり、かつ、経済的な相互依存関係を考えればおそらく最も複雑な課題である。③Trump前政権下の2017年の国家安全保障戦略で明らかにされた政策課題と努力目標のほぼすべては現在も変わることはなく、同戦略の、国土を守る、米国経済を成長させる、強さを通じて平和を維持する、米国の影響力を前進させるという4つの柱は依然として健全であり、同戦略の多くは正しかったし、今も正しいなどと主張している。

(3) Great-Power Competition Comes to Antarctica
https://www.foreignaffairs.com/arctic-antarctic/great-power-competition-comes-antarctica
Foreign Affairs, March 18, 2024
By Elizabeth Buchanan is Co-Director of Project 6633 at the Modern War Institute at West Point Military Academy. 
2024年3月18日、U.S. Military AcademyのModern War Institute におけるProject 6633の共同責任者であるElizabeth Buchanan は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" Great-Power Competition Comes to Antarctica "と題する論説を寄稿した。その中でElizabeth Buchananは、数十年にわたる平穏の後、南極大陸の現状は崩壊しつつあるとし、今日、南極大陸は文字通りの意味でも比喩的な意味でも、メルトダウンの危機に瀕しており、気候変動によって南極大陸の物理的環境が不可逆的に変化しているだけでなく、大国間の競争と資源需要の高まりによって、南極大陸の政治的位置付けも急速に変化していると指摘している。その上でElizabeth Buchananは、中国、ロシア、そして米国は、南極条約体制の破綻という共通した脅威があることを認識すべきだとした上で、現在、南極大陸に関する条約は国家が南極大陸で実質的な制約をほとんど受けることなく広範なアジェンダを実行することを可能にして、南極大陸における戦略的競争を助長しているが、中国は今日の現状を利用し、南極条約体制が破綻した場合に一気呵成に自国の主張を成し遂げてくるだろうとし、世界の他の国々は、これ以上後れを取るわけにはいかないと警鐘を鳴らしている。