海洋安全保障情報旬報 2024年2月21日-2月29日
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2月21日「紅海の危機はIMECの重要性を再認識させた―イタリア専門家論説」(Vivekananda International Foundation, February 21, 2024)
2月21日付のインドのシンクタンクVivekananda International Foundation (VIF)のウエブサイトは、イタリアCeSI-Centro Studi Internazionaliのアジア太平洋分析班の責任者Tiziano Marinoの“The Red Sea Crisis Revives the Importance of IMEC”と題する論説を掲載し、ここでTiziano Marinoは中東危機と並行してインド・中東・欧州経済回廊(IMEC)を発展させることが、将来起こりうる危機の影響を緩和する唯一の方法であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中東での紛争が長期化すれば、インド・中東・欧州経済回廊(India-Middle East-Europe Economic Corridor:以下IMECと言う)の進捗が滞るかもしれないというのが当初の認識だったが、最近の動向はまったく逆のことを証明している。イスラエルとガザ地区の紛争が波及し、外的衝撃の影響を抑えるための代替接続構想の重要性が浮き彫りになった。特に、イエメンのフーシ派によるバブ・エル・マンデブ海峡での商船に対する攻撃は、貿易途絶の危険性にさらされるスエズ運河を補完する交易路としてIMECの可能性を裏付けている。
(2) 紅海で商船に対する無人機や対艦ミサイルによる攻撃が相次ぎ、大手海運業者は運航する船舶を喜望峰へ迂回させることを余儀なくされている。その結果、運賃の上昇が新たなインフレを生み出し、世界の成長見通しに悪影響を及ぼす可能性が高くなっている。こうした中、2023年9月にニューデリーで開催されたG20サミットで発表されたIMECの原則に関する覚書に参加した欧州の企業にあっては、特に危険にさらされている。輸出主導の成長様式で有名なドイツは、国際貿易の減速に特に敏感で、ドイツの強力な化学部門は、紅海経由の出荷の遅れによってすでに影響を受けている。フランスの大手エネルギー企業TotalEnergies社は、保険料の値上げを回避するため、航路を喜望峰回りに変更した。イタリアに関しては、職人や中小企業を代表する主要団体Confartigianatoが、2023年11月から2024年1月にかけての紅海危機による同国の対外貿易への損害を、約88億ユーロと見積もっている。
(3) この危機に対応するためEUは、EUNAVFOR Aspides(European Union´s Naval Force Operation Aspedes) と名付けられた紅海における海洋安全保障任務の発動を承認した。この作戦の司令部はギリシャのラリッサに置かれており、ギリシャはIMECの発展に直接関心を寄せる今1つの行為者である。Indian Navyはこの地域、特にインド洋北西部で大きな存在感を示しており、少なくとも10隻の艦艇が海賊対策やドローン対策に従事している。1月末にMacronフランス大統領がインドを訪問した際に、間接的ではあるが、欧州とインドの海軍が連携する可能性が浮上していた。そして、EUが海洋安全保障任務の発動を承認した数時間後にギリシャ首相がニューデリーに到着したことで、Indian Navyの新たな展開の地が見つかった。したがって、現在の危機は、EUをインドに近づけるものになっている。
(4) IMECの実現には中東危機の永続的な政治的解決が必要だが、この構想が現在の混乱を乗り切れる可能性が高いのは、それが中長期的に避けられない次に示す正確な戦略的要請と結びついているからである。
a. IMECは安定的で多様性のある、強靭な連鎖を構築する必要性に応えるもので、Covid-19やウクライナ紛争が示すように、先送りできない要素である。
b.複合一貫輸送路は、EUが中国に対抗して採用し、インドが重要な役割を果たす、より広範な「脱リスク」戦略に完全に合致している。これには、EU加盟国の中で北京の主要な経済・貿易提携国であるドイツに加えてフランスとイタリアも関係している。
c. IMECは、インド-EU自由貿易協定の最終的な承認を阻む重大な問題が解決されれば、その発展のための完璧な枠組みを提供するだろう。この点で、G7議長国であるイタリアがインドも参加する首脳会談の優先事項の1つにインド太平洋を選んだことは、構想実施のための次の段階を議論するための枠組みを提供する。現在の紅海危機は、IMECに代表されるような代替接続構想の創設に対する経済界の関心を高めている。
(5) 中東の紛争がもたらす困難にもかかわらず、IMECはEUのインド太平洋戦略によって設定された目標を具体化する最良の機会である。中東危機と並行してIMECを発展させることが、現在の国際システムの二極化が進む中で、将来起こりうる危機の影響を緩和する唯一の方法である。
記事参照:The Red Sea Crisis Revives the Importance of IMEC
(1) 中東での紛争が長期化すれば、インド・中東・欧州経済回廊(India-Middle East-Europe Economic Corridor:以下IMECと言う)の進捗が滞るかもしれないというのが当初の認識だったが、最近の動向はまったく逆のことを証明している。イスラエルとガザ地区の紛争が波及し、外的衝撃の影響を抑えるための代替接続構想の重要性が浮き彫りになった。特に、イエメンのフーシ派によるバブ・エル・マンデブ海峡での商船に対する攻撃は、貿易途絶の危険性にさらされるスエズ運河を補完する交易路としてIMECの可能性を裏付けている。
(2) 紅海で商船に対する無人機や対艦ミサイルによる攻撃が相次ぎ、大手海運業者は運航する船舶を喜望峰へ迂回させることを余儀なくされている。その結果、運賃の上昇が新たなインフレを生み出し、世界の成長見通しに悪影響を及ぼす可能性が高くなっている。こうした中、2023年9月にニューデリーで開催されたG20サミットで発表されたIMECの原則に関する覚書に参加した欧州の企業にあっては、特に危険にさらされている。輸出主導の成長様式で有名なドイツは、国際貿易の減速に特に敏感で、ドイツの強力な化学部門は、紅海経由の出荷の遅れによってすでに影響を受けている。フランスの大手エネルギー企業TotalEnergies社は、保険料の値上げを回避するため、航路を喜望峰回りに変更した。イタリアに関しては、職人や中小企業を代表する主要団体Confartigianatoが、2023年11月から2024年1月にかけての紅海危機による同国の対外貿易への損害を、約88億ユーロと見積もっている。
(3) この危機に対応するためEUは、EUNAVFOR Aspides(European Union´s Naval Force Operation Aspedes) と名付けられた紅海における海洋安全保障任務の発動を承認した。この作戦の司令部はギリシャのラリッサに置かれており、ギリシャはIMECの発展に直接関心を寄せる今1つの行為者である。Indian Navyはこの地域、特にインド洋北西部で大きな存在感を示しており、少なくとも10隻の艦艇が海賊対策やドローン対策に従事している。1月末にMacronフランス大統領がインドを訪問した際に、間接的ではあるが、欧州とインドの海軍が連携する可能性が浮上していた。そして、EUが海洋安全保障任務の発動を承認した数時間後にギリシャ首相がニューデリーに到着したことで、Indian Navyの新たな展開の地が見つかった。したがって、現在の危機は、EUをインドに近づけるものになっている。
(4) IMECの実現には中東危機の永続的な政治的解決が必要だが、この構想が現在の混乱を乗り切れる可能性が高いのは、それが中長期的に避けられない次に示す正確な戦略的要請と結びついているからである。
a. IMECは安定的で多様性のある、強靭な連鎖を構築する必要性に応えるもので、Covid-19やウクライナ紛争が示すように、先送りできない要素である。
b.複合一貫輸送路は、EUが中国に対抗して採用し、インドが重要な役割を果たす、より広範な「脱リスク」戦略に完全に合致している。これには、EU加盟国の中で北京の主要な経済・貿易提携国であるドイツに加えてフランスとイタリアも関係している。
c. IMECは、インド-EU自由貿易協定の最終的な承認を阻む重大な問題が解決されれば、その発展のための完璧な枠組みを提供するだろう。この点で、G7議長国であるイタリアがインドも参加する首脳会談の優先事項の1つにインド太平洋を選んだことは、構想実施のための次の段階を議論するための枠組みを提供する。現在の紅海危機は、IMECに代表されるような代替接続構想の創設に対する経済界の関心を高めている。
(5) 中東の紛争がもたらす困難にもかかわらず、IMECはEUのインド太平洋戦略によって設定された目標を具体化する最良の機会である。中東危機と並行してIMECを発展させることが、現在の国際システムの二極化が進む中で、将来起こりうる危機の影響を緩和する唯一の方法である。
記事参照:The Red Sea Crisis Revives the Importance of IMEC
2月22日「U.S. Navy、インド太平洋における兵站枠組み強化へ―U.S. Naval Institute報道」(USNI News, February 22, 2024)
2月22付のU.S. Naval Instituteのウエブサイトは、マレーシアのフリー防衛ジャーナリストDzirhan Mahadzirによる“U.S. Navy Building Robust Logistics Framework in Indo-Pacific”と題する記事を掲載し、U.S. Navyのインド太平洋地域における兵站の枠組みを構築する取り組みについて、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. 7th Fleet隷下のCommander, Logistics Group Western Pacific/Commander Task Force 73(以下、CTF 73/CLWPと言う)司令官Mark Melson少将は、2月20日にシンガポール航空ショーで行われた記者懇談会で戦域での作戦を支援するため、より強固で即応性のある兵站維持の枠組みを構築しているとして、「それは現在進行形であり、我々が目指す到達地点ではない。しかし、我々は日々学び、良くなっている」と語っている。Mark Melson司令官は、ここ2、3年で水上と空域の持続性と機動性においてかなりの進展があったが、状況はさらに改善できると付け加えている。
(2) 遠征作戦を支援するために戦域で利用可能な艦艇、航空機等の基盤の数を増やすことは、CTF 73/CLWPが目指している主要な要素の1つである。分散型兵站作戦のための新たに出現した技術や能力開発、特に作戦環境の厳しい地域でも運用可能で、近い将来に利用できるシステムには関心があるが、Mark Melson司令官は「今日における部隊を維持するための現在の作戦における」熟練度と能力を高めることに重点を置いていると述べている。
(3) U.S. NavyのCMV-22Bオスプレイは、戦域兵站枠組みの重要な要素の1つである。2023年にU.S. Air ForceのCV-22オスプレイが日本で墜落し、現在飛行禁止中であるにもかかわらず、Mark Melson司令官はCMV-22Bの将来について楽観的である。「U.S. NavyはCMV-22Bに全幅の信頼を寄せている。疑いなく、我々は根本的な原因分析が何であったかを理解することに興味があり、我々は可能な限り早くCMV-22Bを飛行甲板に戻したい」とMark Melson司令官は語っている。
(4) 施設や物資の共有・共同利用、海上補給などの相互運用性を含む提携国との協力が、戦域兵站枠組みの構築の一部を形成している。Mark Melson司令官は「必要であれば作戦を拡大するのに役立ち、それらの定常化を進め、可能な限り堅固にするのに役立つ」と述べ、また、米国と提携諸国は給油艦による支援を調整する連絡将校を相互に派遣しており、このような作戦を定常状態にしていると述べている。
(5) スピアヘッド級遠征高速輸送艦(以下、EPFと言う)は、戦域内の水上兵站分散に不可欠であり、EPFによる通常作戦の実施とともに、これらの艦の能力をどのように向上・拡大させるかを確認するさらなる検証作業が進行中であるとMark Melson司令官は述べている。
(6) インド太平洋における沿海域戦闘艦の運用が、以前はシンガポールを主要な作戦拠点としていたのとは対照的に、より分散配置されたものとなっていることに関して、Mark Melson司令官は全体として「素晴らしい状況にある」と述べている。
記事参照:U.S. Navy Building Robust Logistics Framework in Indo-Pacific
(1) U.S. 7th Fleet隷下のCommander, Logistics Group Western Pacific/Commander Task Force 73(以下、CTF 73/CLWPと言う)司令官Mark Melson少将は、2月20日にシンガポール航空ショーで行われた記者懇談会で戦域での作戦を支援するため、より強固で即応性のある兵站維持の枠組みを構築しているとして、「それは現在進行形であり、我々が目指す到達地点ではない。しかし、我々は日々学び、良くなっている」と語っている。Mark Melson司令官は、ここ2、3年で水上と空域の持続性と機動性においてかなりの進展があったが、状況はさらに改善できると付け加えている。
(2) 遠征作戦を支援するために戦域で利用可能な艦艇、航空機等の基盤の数を増やすことは、CTF 73/CLWPが目指している主要な要素の1つである。分散型兵站作戦のための新たに出現した技術や能力開発、特に作戦環境の厳しい地域でも運用可能で、近い将来に利用できるシステムには関心があるが、Mark Melson司令官は「今日における部隊を維持するための現在の作戦における」熟練度と能力を高めることに重点を置いていると述べている。
(3) U.S. NavyのCMV-22Bオスプレイは、戦域兵站枠組みの重要な要素の1つである。2023年にU.S. Air ForceのCV-22オスプレイが日本で墜落し、現在飛行禁止中であるにもかかわらず、Mark Melson司令官はCMV-22Bの将来について楽観的である。「U.S. NavyはCMV-22Bに全幅の信頼を寄せている。疑いなく、我々は根本的な原因分析が何であったかを理解することに興味があり、我々は可能な限り早くCMV-22Bを飛行甲板に戻したい」とMark Melson司令官は語っている。
(4) 施設や物資の共有・共同利用、海上補給などの相互運用性を含む提携国との協力が、戦域兵站枠組みの構築の一部を形成している。Mark Melson司令官は「必要であれば作戦を拡大するのに役立ち、それらの定常化を進め、可能な限り堅固にするのに役立つ」と述べ、また、米国と提携諸国は給油艦による支援を調整する連絡将校を相互に派遣しており、このような作戦を定常状態にしていると述べている。
(5) スピアヘッド級遠征高速輸送艦(以下、EPFと言う)は、戦域内の水上兵站分散に不可欠であり、EPFによる通常作戦の実施とともに、これらの艦の能力をどのように向上・拡大させるかを確認するさらなる検証作業が進行中であるとMark Melson司令官は述べている。
(6) インド太平洋における沿海域戦闘艦の運用が、以前はシンガポールを主要な作戦拠点としていたのとは対照的に、より分散配置されたものとなっていることに関して、Mark Melson司令官は全体として「素晴らしい状況にある」と述べている。
記事参照:U.S. Navy Building Robust Logistics Framework in Indo-Pacific
2月22日「インド太平洋におけるQUADの未来―オーストラリア専門家論説」(Observer Research Foundation, February 22, 2024)
2月22日付、インドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、オーストラリアのAsia-Pacific Development, Diplomacy & Defence Dialogue(アジア太平洋開発・外交・防衛対話、AP4D)の事務局長Melissa Conley Tylerの‶The future of the QUAD in the Indo-Pacific″と題する論説を掲載し、ここでMelissa Conley TylerはQUADによる国際協力や連携はアジア太平洋地域の安定と発展に不可欠なものであるが、米国が大統領選挙に加え、ウクライナおよび中東情勢に目を向けていることから、QUAD成功の鍵を握るのはインドであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2017年にQUADが復活したとき、中国の王毅外相は「海の泡のように消滅するだろう」と述べた。それは希望的観測で、構成国はQUADに十分な資本を投じており、特に2021年に首脳会談が開催された後は、QUADの失敗を望んでいない。しかし、「海の泡」論はQUADが 「インド太平洋地域全体の安定と繁栄に大きく貢献する」と大げさに主張する楽観主義者よりは現実に近いかもしれない。首脳会議が2回続けて予定変更となるのは、印象が悪い。オーストラリアでの会談は、Biden大統領が国内政治危機のため渡航できず、1週間前にキャンセルされた。また、1月にインドで首脳会議を開催するというModi首相の招待をBiden大統領が受けず、2024年後半に延期されることになった。これには 「海の泡」を主張する集団が勢いづいている。
(2) QUADはどうなるか、4ヵ国の関与に変化はあるのかについて、1つの徴候はBiden大統領がオーストラリアでの会議をキャンセルした後、G7会議の前後に4ヵ国による会議を広島で開催する努力がなされたことである。この2023年のQUAD首脳会議では、共同声明と4ヵ国首脳による「確固たる関与」を再確認する「4ヵ国首脳ビジョン声明」が発表され、主な発表内容は以下のとおりである:
a. インド太平洋におけるクリーンエネルギー・サプライ・チェーンに関する原則の声明と、それに付随するクリーンエネルギー・サプライチェーン構想。
b. 電子医療情報システムの支援や感染爆発対応の調整含むQUAD健康安全保障パートナーシップの確立。
c.「QUADインフラストラクチャー・フェローシップ・プログラム」と「ケーブル接続と抗堪性のためのQUADパートナーシップ」。
d. パラオとの協力により、各国が自国の電気通信網を拡大・近代化できるようにするオープン無線アクセスネットワーク(Open RAN)の展開の確立。
(3) これらは、QUAD4ヵ国の取り組みが、首脳の言う「前向きで実践的な課題」に沿って継続されていることを示唆しており、QUAD構成国間の連携強化と連係を利用した公共財の提供という2つの目的を達成することにつながる。この第1の目的について、QUADは当局者、軍事、作業部会を超えた協力をこれまで以上に強めてきた。 QUAD構成国の海軍参謀長を交えた首脳級の会合も定期的に開催されている。オーストラリアは、2020年にマラバール年次演習に招待されており、また、一連の作業部会が設置された。QUADの作業部会は、保健、教育、インフラ、宇宙、通信、サイバーに至るまで、世界的な公共利益に関わる重要課題に取り組んでおり、公共財の提供に貢献している。また、QUADは相互の人的交流にも力を入れ、2021年に設立されたQUADフェローシップでは、加盟国から毎年100名の博士課程および修士課程の学生が米国のScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の理工系を総合的に学ぶ主要なSTEM大学での学位取得を目指している。
(4) これらはすべて前向きな動きであるが、QUADを戦略的環境の大転換と見た人々は、おそらく失望するであろう。このような措置は、広大なインド太平洋地域全体の安定と繁栄にとって即座に変革をもたらすものではない。しかし、QUAD構成国間の統合の網を構築するという目的を果たすと同時に、小規模ではあるが、この地域の他の国々に実際的な貢献を果たしている。さらにQUADが標準や原則に関して行っている作業、例えば「重要技術および新興技術標準に関するQUAD原則」、「安全なソフトウェアに関するQUAD共同原則」、「重要インフラのサイバーセキュリティに関するQUAD共同原則」等は、中国の標準を規定値とすることに代わる選択肢を提供するものである。
(5) QUAD設立後、さまざまな作業部会や連絡網、当局者レベルの接触等により、徐々に協力の習慣が築かれ、QUAD支持層は、各国の安全保障圏を超えて着実に広がっている。これらの要因から、QUADを生む原動力となった地政学的環境が続く限りQUADが消滅する可能性は、極めて低い。問題は、QUADがどれほどの影響力を持つかである。最悪の場合、国際問題におけるゾンビ機関の1つになりかねないが、それでも4ヵ国間の連携が徐々に構築され、他のインド太平洋諸国にプラスの波及効果をもたらすであろう。その答えは、構成国の意欲、国内の支援の程度、官僚の能力など、4ヵ国の関与によって決まる。
(6) QUADとオーストラリアの広範な外交政策目標が完全に一致していることを考えれば、オーストラリアのQUADに対する前向きな姿勢は変わらないであろう。QUADはオーストラリアの外交政策において、他の協力を補完する重要な柱と見なされており、オーストラリアが熱意を持ち続け、資源を投入する可能性が高い。日本も同様で、取り組みに明らかな変化はない。米国は、QUADをインド太平洋戦略の中心としているにもかかわらず、現時点では注意散漫であり、今後もそうである可能性が高い。米国では、選挙の年には国内問題が優先される。国際政策においても、ヨーロッパと中東での戦争によって、米国のアジアへの関心はより限定的なものになるであろう。これはインドの役割が極めて重要になることを意味し、QUAD成功の鍵を握るのは、インドによる関与の度合いである。現在のところ、4ヵ国ともに、QUADに対する支持基盤は揺るぎないように思われる。次の段階は、現在行っていることを継続し、約束の履行に焦点を当て、成功分野を積み重ねていくことで、それこそが、QUADに実質的な価値を与える。QUADの成功は、開かれた安全なインド太平洋にとって不可欠である。
記事参照:The future of the Quad in the Indo-Pacific
(1) 2017年にQUADが復活したとき、中国の王毅外相は「海の泡のように消滅するだろう」と述べた。それは希望的観測で、構成国はQUADに十分な資本を投じており、特に2021年に首脳会談が開催された後は、QUADの失敗を望んでいない。しかし、「海の泡」論はQUADが 「インド太平洋地域全体の安定と繁栄に大きく貢献する」と大げさに主張する楽観主義者よりは現実に近いかもしれない。首脳会議が2回続けて予定変更となるのは、印象が悪い。オーストラリアでの会談は、Biden大統領が国内政治危機のため渡航できず、1週間前にキャンセルされた。また、1月にインドで首脳会議を開催するというModi首相の招待をBiden大統領が受けず、2024年後半に延期されることになった。これには 「海の泡」を主張する集団が勢いづいている。
(2) QUADはどうなるか、4ヵ国の関与に変化はあるのかについて、1つの徴候はBiden大統領がオーストラリアでの会議をキャンセルした後、G7会議の前後に4ヵ国による会議を広島で開催する努力がなされたことである。この2023年のQUAD首脳会議では、共同声明と4ヵ国首脳による「確固たる関与」を再確認する「4ヵ国首脳ビジョン声明」が発表され、主な発表内容は以下のとおりである:
a. インド太平洋におけるクリーンエネルギー・サプライ・チェーンに関する原則の声明と、それに付随するクリーンエネルギー・サプライチェーン構想。
b. 電子医療情報システムの支援や感染爆発対応の調整含むQUAD健康安全保障パートナーシップの確立。
c.「QUADインフラストラクチャー・フェローシップ・プログラム」と「ケーブル接続と抗堪性のためのQUADパートナーシップ」。
d. パラオとの協力により、各国が自国の電気通信網を拡大・近代化できるようにするオープン無線アクセスネットワーク(Open RAN)の展開の確立。
(3) これらは、QUAD4ヵ国の取り組みが、首脳の言う「前向きで実践的な課題」に沿って継続されていることを示唆しており、QUAD構成国間の連携強化と連係を利用した公共財の提供という2つの目的を達成することにつながる。この第1の目的について、QUADは当局者、軍事、作業部会を超えた協力をこれまで以上に強めてきた。 QUAD構成国の海軍参謀長を交えた首脳級の会合も定期的に開催されている。オーストラリアは、2020年にマラバール年次演習に招待されており、また、一連の作業部会が設置された。QUADの作業部会は、保健、教育、インフラ、宇宙、通信、サイバーに至るまで、世界的な公共利益に関わる重要課題に取り組んでおり、公共財の提供に貢献している。また、QUADは相互の人的交流にも力を入れ、2021年に設立されたQUADフェローシップでは、加盟国から毎年100名の博士課程および修士課程の学生が米国のScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の理工系を総合的に学ぶ主要なSTEM大学での学位取得を目指している。
(4) これらはすべて前向きな動きであるが、QUADを戦略的環境の大転換と見た人々は、おそらく失望するであろう。このような措置は、広大なインド太平洋地域全体の安定と繁栄にとって即座に変革をもたらすものではない。しかし、QUAD構成国間の統合の網を構築するという目的を果たすと同時に、小規模ではあるが、この地域の他の国々に実際的な貢献を果たしている。さらにQUADが標準や原則に関して行っている作業、例えば「重要技術および新興技術標準に関するQUAD原則」、「安全なソフトウェアに関するQUAD共同原則」、「重要インフラのサイバーセキュリティに関するQUAD共同原則」等は、中国の標準を規定値とすることに代わる選択肢を提供するものである。
(5) QUAD設立後、さまざまな作業部会や連絡網、当局者レベルの接触等により、徐々に協力の習慣が築かれ、QUAD支持層は、各国の安全保障圏を超えて着実に広がっている。これらの要因から、QUADを生む原動力となった地政学的環境が続く限りQUADが消滅する可能性は、極めて低い。問題は、QUADがどれほどの影響力を持つかである。最悪の場合、国際問題におけるゾンビ機関の1つになりかねないが、それでも4ヵ国間の連携が徐々に構築され、他のインド太平洋諸国にプラスの波及効果をもたらすであろう。その答えは、構成国の意欲、国内の支援の程度、官僚の能力など、4ヵ国の関与によって決まる。
(6) QUADとオーストラリアの広範な外交政策目標が完全に一致していることを考えれば、オーストラリアのQUADに対する前向きな姿勢は変わらないであろう。QUADはオーストラリアの外交政策において、他の協力を補完する重要な柱と見なされており、オーストラリアが熱意を持ち続け、資源を投入する可能性が高い。日本も同様で、取り組みに明らかな変化はない。米国は、QUADをインド太平洋戦略の中心としているにもかかわらず、現時点では注意散漫であり、今後もそうである可能性が高い。米国では、選挙の年には国内問題が優先される。国際政策においても、ヨーロッパと中東での戦争によって、米国のアジアへの関心はより限定的なものになるであろう。これはインドの役割が極めて重要になることを意味し、QUAD成功の鍵を握るのは、インドによる関与の度合いである。現在のところ、4ヵ国ともに、QUADに対する支持基盤は揺るぎないように思われる。次の段階は、現在行っていることを継続し、約束の履行に焦点を当て、成功分野を積み重ねていくことで、それこそが、QUADに実質的な価値を与える。QUADの成功は、開かれた安全なインド太平洋にとって不可欠である。
記事参照:The future of the Quad in the Indo-Pacific
2月23日「ロシア海軍が最も求めているものは原子力空母である―米専門家論説」(The National Interest, February 23, 2024)
2月23日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、米安全保障関連研究機関Center for Security PolicyのMaya Carlinの“What the Russian Navy Wants Most: Nuclear-Powered Aircraft Carriers”と題する論説を掲載し、ここでMaya Carlinはロシアは歴史的、財政的、技術的な課題から念願の原子力空母を保有することができておらず、ウクライナ戦争によりその取得はさらに遅れるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在U.S. Navyが配備中のニミッツ級およびフォード級原子力空母は、間違いなく、これまでに進水した軍艦の中で最も強力なものの1つである。艦載航空機を最大限に活用し、比較的短期間で世界中のほぼどこにでも大規模な攻撃を仕掛けることができる。空母は新しい技術ではない。それでは、20世紀と21世紀の大国であるソ連とその後のロシアは、なぜ原子力空母を配備できなかったのだろうか。通常型の空母である「アドミラル・クズネツォフ」は確かに強力な艦艇ではあるが、原子力空母の持つ利点を欠いている。艦内の原子炉から得られる出力は、航空機を発進させるための蒸気カタパルトを作動させるために使用でき、より重い戦闘機が空母から発艦できるようにしている。さらに、その出力は、巨大な船体を高速で海上を航行させることにつながっている。また、燃料を補給する必要がないという運用上の利点がある。これらすべての利点により、原子力空母は外洋航空作戦を実行し、戦力を投射するための優れた兵器となっている。
(2) 1960年代から1970年代にかけて、ソ連は外洋艦隊の中核となる空母を建造するために、原子力空母のためのプロジェクト1153などいくつかの建造計画を並行して開始したが、いずれも設計図の段階から前に進むことはできずに、代わりにプロジェクト1143キエフ級航空巡洋艦が建造された。ソ連が空母の配備に最も近づいたのは、原子力推進のプロジェクト1143.7「ウリヤノフスク」重航空巡洋艦であった。1980年代、 Военно-морской флот СССР(ソ連海軍)は老朽化したキエフ級の改修を模索し、「アドミラル・クズネツォフ」と「ヴァリャーグ」を建造した。これらの艦艇は以前のものよりも優れていたが、それでも米空母に対抗することはできなかった。「ウリヤノフスク」は1986年に設計され、排水量75,000トンで、蒸気カタパルト2基、着艦拘束装置を装備し、スキージャンプ式発艦甲板を備え、同時代の艦艇よりもはるかに重い航空機を発着させることができた。この巨大な船を建造するために、ソ連の技術者は黒海造船所の大規模な改修を行った。これは、近代化計画が終了したため、計画の中で唯一の成功した部分であった。「ウリヤノフスク」は1988年に工事が始まったが、1992年までに、資金が枯渇し、ソ連が崩壊したため、建造は中止された。その時「ウリヤノフスク」は全体の40%しか完成していなかった。
(3) ソ連から原子力空母を継承できなかったことで、ロシア連邦が原子力空母を獲得する能力が制限されたのは間違いない。ゼロから構築するために必要な時間、経費、ノウハウは、巨額の投資を必要とした。ロシア政府は、事実上、唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」に頼らざるをえなかった。空母「アドミラル・クズネツォフ」は事故や性能の悪さに悩まされてきた。この空母の粗悪な構造は、ボイラーの能力を制限し、ボイラーを十全の状態で稼働することができない。過去10年間、火災や着艦拘束装置の故障など一連の事故により、「アドミラル・クズネツォフ」はほとんどの時間を乾ドックで過ごすことを余儀なくされてきた。ロシアの唯一の空母はうまく機能していないが、過去5年間はロシアの原子力空母開発計画の再興がみられた。国営タス通信は2019年、原子力空母の開発に着手したと報じており、最初の原子力空母の就役は2023年となる予定であった。しかし、ウクライナ戦争により、その計画は頓挫した可能性が高い。今のところ、ロシアは新技術開発よりもウクライナ戦争に資源を投入している。結論として、ロシアの原子力空母が近いうちに就役する可能性は小さいと考えられる。
記事参照:What the Russian Navy Wants Most: Nuclear-Powered Aircraft Carriers
(1) 現在U.S. Navyが配備中のニミッツ級およびフォード級原子力空母は、間違いなく、これまでに進水した軍艦の中で最も強力なものの1つである。艦載航空機を最大限に活用し、比較的短期間で世界中のほぼどこにでも大規模な攻撃を仕掛けることができる。空母は新しい技術ではない。それでは、20世紀と21世紀の大国であるソ連とその後のロシアは、なぜ原子力空母を配備できなかったのだろうか。通常型の空母である「アドミラル・クズネツォフ」は確かに強力な艦艇ではあるが、原子力空母の持つ利点を欠いている。艦内の原子炉から得られる出力は、航空機を発進させるための蒸気カタパルトを作動させるために使用でき、より重い戦闘機が空母から発艦できるようにしている。さらに、その出力は、巨大な船体を高速で海上を航行させることにつながっている。また、燃料を補給する必要がないという運用上の利点がある。これらすべての利点により、原子力空母は外洋航空作戦を実行し、戦力を投射するための優れた兵器となっている。
(2) 1960年代から1970年代にかけて、ソ連は外洋艦隊の中核となる空母を建造するために、原子力空母のためのプロジェクト1153などいくつかの建造計画を並行して開始したが、いずれも設計図の段階から前に進むことはできずに、代わりにプロジェクト1143キエフ級航空巡洋艦が建造された。ソ連が空母の配備に最も近づいたのは、原子力推進のプロジェクト1143.7「ウリヤノフスク」重航空巡洋艦であった。1980年代、 Военно-морской флот СССР(ソ連海軍)は老朽化したキエフ級の改修を模索し、「アドミラル・クズネツォフ」と「ヴァリャーグ」を建造した。これらの艦艇は以前のものよりも優れていたが、それでも米空母に対抗することはできなかった。「ウリヤノフスク」は1986年に設計され、排水量75,000トンで、蒸気カタパルト2基、着艦拘束装置を装備し、スキージャンプ式発艦甲板を備え、同時代の艦艇よりもはるかに重い航空機を発着させることができた。この巨大な船を建造するために、ソ連の技術者は黒海造船所の大規模な改修を行った。これは、近代化計画が終了したため、計画の中で唯一の成功した部分であった。「ウリヤノフスク」は1988年に工事が始まったが、1992年までに、資金が枯渇し、ソ連が崩壊したため、建造は中止された。その時「ウリヤノフスク」は全体の40%しか完成していなかった。
(3) ソ連から原子力空母を継承できなかったことで、ロシア連邦が原子力空母を獲得する能力が制限されたのは間違いない。ゼロから構築するために必要な時間、経費、ノウハウは、巨額の投資を必要とした。ロシア政府は、事実上、唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」に頼らざるをえなかった。空母「アドミラル・クズネツォフ」は事故や性能の悪さに悩まされてきた。この空母の粗悪な構造は、ボイラーの能力を制限し、ボイラーを十全の状態で稼働することができない。過去10年間、火災や着艦拘束装置の故障など一連の事故により、「アドミラル・クズネツォフ」はほとんどの時間を乾ドックで過ごすことを余儀なくされてきた。ロシアの唯一の空母はうまく機能していないが、過去5年間はロシアの原子力空母開発計画の再興がみられた。国営タス通信は2019年、原子力空母の開発に着手したと報じており、最初の原子力空母の就役は2023年となる予定であった。しかし、ウクライナ戦争により、その計画は頓挫した可能性が高い。今のところ、ロシアは新技術開発よりもウクライナ戦争に資源を投入している。結論として、ロシアの原子力空母が近いうちに就役する可能性は小さいと考えられる。
記事参照:What the Russian Navy Wants Most: Nuclear-Powered Aircraft Carriers
2月24日「中国による台湾侵攻に関する専門家の合意―スウェーデン中国問題専門家論説」(The Diplomat, February 23, 2024)
2月24日付のデジタル誌The Diplomatは、スウェーデンのシンクタンクSwedish National China Centreの中国問題研究者Alexis von Sydowの“Most Experts Agree: China Isn’t About to Invade Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでAlexis von Sydowは2025年や2027年に中国による台湾侵攻が起きるとしばしば言われるが、そうした予測は専門家による予測と大きく異なったものであり、中国による台湾侵攻の可能性はかなり低いとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ戦争を受けて、同じように現状修正勢力が脆弱な隣国、すなわち中国が台湾に侵攻するという予測がある。そうした筋書きにおいて台湾侵攻は既定の路線であり、問題はそれがいつ起きるのかということである。軍関係者の間では、2025年か2027年にそれが起きるということがしばしば言われている。
(2) そうした主張の妥当性を調べるため、我々は専門家によるさまざまな予測を集め、それを分析し、報告書にまとめた。結論から言えば、侵略戦争を確実視する警戒主義者の主張は、多くの予測と矛盾するということである。専門家の多くは台湾海峡をめぐる武力衝突の危険性を低く見積もっている。
(3) 警戒主義者は3つの点においてその危険性を過大評価している。第1に、中国が軍備増強をしているのは台湾侵攻のためだとしばしば言われる。中国軍の近代化による危険性の高まりは専門家によっても指摘されているが、しかしそれはあくまで米中間の軍事的均衡の問題である。中国が台湾をめぐって米国と戦争をしたら、それに勝つ自信を持っていないことは依然として事実である。
(4) 第2に、中国は台湾の民主制度を受け入れておらず、中国による台湾侵攻は米国と同盟国が台湾独立を強く支持することで抑止できると言われる。しかし専門家は、米中対立の悪化が危険性を高める根本要因だと指摘する。つまり米中対立が強まることで、台湾をめぐる緊張が高まるということである。中国は、台湾が米国の勢力圏であることを理解している。米中対立がある程度限定的である状態を維持するならば、中国は台湾をあえて侵攻するという危険を冒すことはないだろう。
(5) 第3に、警戒主義者は中国が習近平の下でイデオロギー的に転換し、攻撃的姿勢を強めていることを強調する。それに対して専門家は、台湾は中国の主権下にあるという習近平の主張は、それまでの共産党の路線に忠実であり、また彼の国際的野心も前任者から引き継いだものだと論じる。イデオロギー的な変化が起きたというよりは、行動能力が拡大したことが問題だというのである。
(6) 専門家の予想と警戒主義者の予想は著しい対照をなしている。警戒主義者は、台湾侵攻が起こる可能性がそもそもかなり低いことをほとんど考慮に入れてない。むしろ、専門家が低く見積もっている台湾侵攻の可能性すら、過大評価なのかもしれない。というのも、こうした予測は、軍事的、政治的考慮にのみ基づいているものが大半で、経済的なことは考慮されていない。台湾が半導体産業において決定的役割を担っていることは周知のことであり、台湾侵攻による経済的影響は計り知れない。また中国が台湾を侵攻すれば間違いなく経済戦争が起き、それによる影響は中国にとって途方もないものになると考えられている。中国がそれを考慮していないとは考え難い。
(7) まとめると、軍事的抑止力と経済的抑止力の双方を用いて、米中関係を制御することで、将来の紛争は効果的に予防できるはずである。なによりも、中国による台湾侵攻の可能性が、そもそもほとんどありえなさそうだという前提を忘れてはならない。
記事参照:Most Experts Agree: China Isn’t About to Invade Taiwan
(1) ウクライナ戦争を受けて、同じように現状修正勢力が脆弱な隣国、すなわち中国が台湾に侵攻するという予測がある。そうした筋書きにおいて台湾侵攻は既定の路線であり、問題はそれがいつ起きるのかということである。軍関係者の間では、2025年か2027年にそれが起きるということがしばしば言われている。
(2) そうした主張の妥当性を調べるため、我々は専門家によるさまざまな予測を集め、それを分析し、報告書にまとめた。結論から言えば、侵略戦争を確実視する警戒主義者の主張は、多くの予測と矛盾するということである。専門家の多くは台湾海峡をめぐる武力衝突の危険性を低く見積もっている。
(3) 警戒主義者は3つの点においてその危険性を過大評価している。第1に、中国が軍備増強をしているのは台湾侵攻のためだとしばしば言われる。中国軍の近代化による危険性の高まりは専門家によっても指摘されているが、しかしそれはあくまで米中間の軍事的均衡の問題である。中国が台湾をめぐって米国と戦争をしたら、それに勝つ自信を持っていないことは依然として事実である。
(4) 第2に、中国は台湾の民主制度を受け入れておらず、中国による台湾侵攻は米国と同盟国が台湾独立を強く支持することで抑止できると言われる。しかし専門家は、米中対立の悪化が危険性を高める根本要因だと指摘する。つまり米中対立が強まることで、台湾をめぐる緊張が高まるということである。中国は、台湾が米国の勢力圏であることを理解している。米中対立がある程度限定的である状態を維持するならば、中国は台湾をあえて侵攻するという危険を冒すことはないだろう。
(5) 第3に、警戒主義者は中国が習近平の下でイデオロギー的に転換し、攻撃的姿勢を強めていることを強調する。それに対して専門家は、台湾は中国の主権下にあるという習近平の主張は、それまでの共産党の路線に忠実であり、また彼の国際的野心も前任者から引き継いだものだと論じる。イデオロギー的な変化が起きたというよりは、行動能力が拡大したことが問題だというのである。
(6) 専門家の予想と警戒主義者の予想は著しい対照をなしている。警戒主義者は、台湾侵攻が起こる可能性がそもそもかなり低いことをほとんど考慮に入れてない。むしろ、専門家が低く見積もっている台湾侵攻の可能性すら、過大評価なのかもしれない。というのも、こうした予測は、軍事的、政治的考慮にのみ基づいているものが大半で、経済的なことは考慮されていない。台湾が半導体産業において決定的役割を担っていることは周知のことであり、台湾侵攻による経済的影響は計り知れない。また中国が台湾を侵攻すれば間違いなく経済戦争が起き、それによる影響は中国にとって途方もないものになると考えられている。中国がそれを考慮していないとは考え難い。
(7) まとめると、軍事的抑止力と経済的抑止力の双方を用いて、米中関係を制御することで、将来の紛争は効果的に予防できるはずである。なによりも、中国による台湾侵攻の可能性が、そもそもほとんどありえなさそうだという前提を忘れてはならない。
記事参照:Most Experts Agree: China Isn’t About to Invade Taiwan
2月26日「今日の西ベルリン、金門島:台湾に新たな関与を築く好機―米専門家論説」(American Greatness, February 26, 2024)
2月26日付の米保守系情報ウエブサイトAmerican Greatnessは、元U.S. Navy大佐で現在、ジュネーブのGeneva Centre for Security Policyへの政府派遣研究員James E. FanellとCenter for Security Policy上席研究員Bradley A. Thayerの“Kinmen as West Berlin: The Opportunity to Forge a New U.S. Commitment to Taiwan”と題する論説を掲載し、両名は金門島は今日の西ベルリンであり、金門・馬祖を中国の手に渡さないために大統領以下が中国に明確な意図を伝え、さらに空母打撃群を近傍に展開して、金門・馬祖さらには台湾防衛に対する米国の強固は意志を示さなければならないとして、要旨以下のように述べている
(1) 70年前、米国は軍事力を駆使して台湾の防衛を支援した。今、より軍事的に強大になった中国に対して、緊急に再び台湾の防衛を支援しなければならない。
(2) 信頼できる拡大抑止力を維持するために、米国は時として、そうでなければ価値がほとんど、あるいはまったくないであろう土地の防衛に尽力しなければならないことがある。アジア冷戦中、米国と台湾は、中国本土のすぐ沖にある金門島と馬祖島(媽祖島)を断固として支援してきた。米国はU.S. 7Th Fleetの艦艇を含む軍事力を駆使して、守備隊が戦闘能力を維持できるようにし、台湾支援への米国の関心を示した。台湾人は島に留まって防衛し、領土を一切明け渡さないという決意を示した。今日、金門島は再び中国侵略の脅威にさらされている。金門島を新しい西ベルリンと考えるのはまったく正しいことである。冷戦時代に米国がこの島を陥落させなかったのと同じように、中国との新冷戦の今も陥落させてはならない。
(3) 中国は台湾に島から撤退するよう圧力をかけている。台湾当局との衝突で漁師2人が誤って死亡したことを受けての措置である。これに応じて、中国海警福建総隊が金門とアモイの間で定期的な巡回を実施すると発表した。これは、金門周辺の台湾海域の管理を目的とした明確な強化である。これらは、台湾守備隊を締め付ける侵略または封鎖への一歩である。これは孤立したものではない。中国海軍は日常的に台湾の領海を侵犯している。中国航空機は台湾海峡での優位性を主張している。
(4) 中国の侵略の増大を阻止するために採るべき5つの具体的な行動として、第1に、国務長官は中国の王毅外交部長に架電し、王毅外交部長が応じなければ第2として、Biden大統領が習近平に直接接触し、中国共産党の行為から台湾を守るという真剣さと米国の決意を伝えなければならない。第3に、習近平とその指導部が応じないのであれば、米国はただちにこの問題を国際社会に訴え、圧力をさらに一段と高める必要がある。これは2週間を超えず、数日で完了する必要がある。
(5) 第4に、上記の措置と同時に、U.S. Indo-Pacific Commandは、沖縄とグアムの間に5個空母打撃群すべてを集結させ、できれば同盟国とともに航行する画像が国際メディアを通じて確実に送信されるように命令されるべきである。情報戦画像が完成し送信されたら、1個空母打撃群を黄海、東シナ海、南シナ海、台湾東海岸に移動させ、他の1群をして台湾海峡を通過させる必要がある。
(6) 第5に、米国の声明では、米国は金門島と馬祖島を冷戦時代と同じように見ていると声明しなければならない。金門・馬祖は台湾の主権と安全を守るための防御の第一線である。主権要素は強調される必要がある。台湾は、今や主権国家となり、米国が守ることになる。
(7) 70年前、米国は軍事力を駆使して台湾の防衛を支援した。今、より軍事的に効果的で強力な中国に対して、緊急に再びそれを行わなければならない。金門島をめぐる危機は、米国と同盟国にとって、インド太平洋地域の平和と安定を維持するという戦略的目標を達成する機会である。この現実を実現するために、米国は米軍の死と破壊を含む中華人民共和国の金門島侵攻を阻止または敗北させる機会を得るために、台湾の正式承認を含む台湾とのより緊密な関係に移行しなければならない。
記事参照:Kinmen as West Berlin: The Opportunity to Forge a New U.S. Commitment to Taiwan
(1) 70年前、米国は軍事力を駆使して台湾の防衛を支援した。今、より軍事的に強大になった中国に対して、緊急に再び台湾の防衛を支援しなければならない。
(2) 信頼できる拡大抑止力を維持するために、米国は時として、そうでなければ価値がほとんど、あるいはまったくないであろう土地の防衛に尽力しなければならないことがある。アジア冷戦中、米国と台湾は、中国本土のすぐ沖にある金門島と馬祖島(媽祖島)を断固として支援してきた。米国はU.S. 7Th Fleetの艦艇を含む軍事力を駆使して、守備隊が戦闘能力を維持できるようにし、台湾支援への米国の関心を示した。台湾人は島に留まって防衛し、領土を一切明け渡さないという決意を示した。今日、金門島は再び中国侵略の脅威にさらされている。金門島を新しい西ベルリンと考えるのはまったく正しいことである。冷戦時代に米国がこの島を陥落させなかったのと同じように、中国との新冷戦の今も陥落させてはならない。
(3) 中国は台湾に島から撤退するよう圧力をかけている。台湾当局との衝突で漁師2人が誤って死亡したことを受けての措置である。これに応じて、中国海警福建総隊が金門とアモイの間で定期的な巡回を実施すると発表した。これは、金門周辺の台湾海域の管理を目的とした明確な強化である。これらは、台湾守備隊を締め付ける侵略または封鎖への一歩である。これは孤立したものではない。中国海軍は日常的に台湾の領海を侵犯している。中国航空機は台湾海峡での優位性を主張している。
(4) 中国の侵略の増大を阻止するために採るべき5つの具体的な行動として、第1に、国務長官は中国の王毅外交部長に架電し、王毅外交部長が応じなければ第2として、Biden大統領が習近平に直接接触し、中国共産党の行為から台湾を守るという真剣さと米国の決意を伝えなければならない。第3に、習近平とその指導部が応じないのであれば、米国はただちにこの問題を国際社会に訴え、圧力をさらに一段と高める必要がある。これは2週間を超えず、数日で完了する必要がある。
(5) 第4に、上記の措置と同時に、U.S. Indo-Pacific Commandは、沖縄とグアムの間に5個空母打撃群すべてを集結させ、できれば同盟国とともに航行する画像が国際メディアを通じて確実に送信されるように命令されるべきである。情報戦画像が完成し送信されたら、1個空母打撃群を黄海、東シナ海、南シナ海、台湾東海岸に移動させ、他の1群をして台湾海峡を通過させる必要がある。
(6) 第5に、米国の声明では、米国は金門島と馬祖島を冷戦時代と同じように見ていると声明しなければならない。金門・馬祖は台湾の主権と安全を守るための防御の第一線である。主権要素は強調される必要がある。台湾は、今や主権国家となり、米国が守ることになる。
(7) 70年前、米国は軍事力を駆使して台湾の防衛を支援した。今、より軍事的に効果的で強力な中国に対して、緊急に再びそれを行わなければならない。金門島をめぐる危機は、米国と同盟国にとって、インド太平洋地域の平和と安定を維持するという戦略的目標を達成する機会である。この現実を実現するために、米国は米軍の死と破壊を含む中華人民共和国の金門島侵攻を阻止または敗北させる機会を得るために、台湾の正式承認を含む台湾とのより緊密な関係に移行しなければならない。
記事参照:Kinmen as West Berlin: The Opportunity to Forge a New U.S. Commitment to Taiwan
2月26日「中国海軍司令員、国防部長人事に見る習近平主席の思惑―米専門家論説」(Fairbank Center for Chinese Studies, February 26, 2024)
2月26日付の米Harvard UniversityのFairbank Center for Chinese Studiesのウエブサイトは、U.S. Naval War CollegeのChina Maritime Studies Institute教授Andrew S. Ericksonの “China’s New Military Commanders Reflect Xi Jinping’s Naval Ambitions”と題する論説を掲載し、ここでAndrew S. Ericksonは海軍司令員に胡中明上将、国防部長に董軍上将を任命した習近平主席の軍首脳人事に対する思惑について、要旨以下のように述べている。
(1) 国家指導者は一般的に有能な軍隊を望むが、中国の習近平主席ほど軍事力の拡充に邁進している指導者は他にいない。このほど任命された2人の新しい軍首脳は、習近平主席のそうした真剣な狙いを反映した人事となっている。1人は2023年12月25日に人民解放軍海軍司令員に任命された胡中明で、中将から海軍上将に昇進した上で、海軍司令員に任命された。もう1人は、その4日後に海軍司令員から中華人民共和国国防部長に任命された董軍海軍上将である。2人は、中国軍が信頼できる戦闘遂行能力を準備するという習近平主席の要請を体現するとともに、海軍指揮官が作戦上の専門技能をますます要求されるようになった時代の先駆けでもある。
(2) 10代目の海軍司令員となった胡中明上将は、組織と運用、特に潜水艦に関する豊富な技能と運用経験を有している。胡中明上将は、初任が潜水艦部隊で、潜水艦艦長と中国に2ヵ所ある原子力潜水艦基地の1つで指揮官を務め、2009年には潜水艦艦長として、海上公試中の災害回避や公試手順の改善、リアルタイムの緊急通信手段の改良などで称賛された。潜水艦乗りを海軍司令員に任命する上で最も重要な検討事項は、長年難航してきた原子力潜水艦拡張計画を安全かつ効果的に推進することであったと思われる。水上艦部隊や対水上任務とミサイル分野は驚異的な成長を遂げたが、潜水艦部隊の指揮統率と訓練は全般的に明らかに遅れていたからである。胡中明上将はこの分野で手腕を発揮してきた。潜水艦の技能と上層部での官僚経験に加えて、胡中明上将の経歴は2016年以降に習近平主席が実施した陸軍主体の軍区に替わる統合戦区の設置という抜本的な軍再編を反映しており、2019年12月から2021年12月まで、北部戦区海軍司令員と北部戦区副司令員を兼務してきた。
(3) 董軍上将は、第9代海軍司令員から、海軍出身者としては初めてとなる、第14代国防部長に就任した。董軍上将は、戦域統合作戦を重視する水上戦将校で、東部戦区で作戦任務に就き、台湾を含む東シナ海方面の人民解放軍の行動を担当し、さらに南シナ海方面の人民解放軍の行動を担当する南部戦区司令部でも勤務した。黄海を例外として、これら2つの係争海域には、中国が抱える領有権未解決の島嶼、そして海洋権益主張の全てが含まれている。董軍国防部長は、前述のような経歴を有する海軍上将であり、領土紛争への対処に精通していると見られ、また、人民解放軍合同参謀部に対して、海軍を統合運用により組み込んで行くための統合作戦に関する有益な経験を提供すると見られる。
(4) 董軍上将は国防部長として、人民解放軍そして最終的には習近平主席の中央軍事委員会を代表して、外国軍との交流を担う外交渉外担当官でもある。人民解放軍が頼清徳次期総統下の台湾に対して訓練演習やその他の威圧行動を仕掛けて行く場合、董軍国防部長は、外国の海軍および軍高官との長年の交流経験を活用して、中国の行動、意図、状況および期待について対外的に説明することになろう。董軍上将は国防部長として、人民解放軍に対する作戦指揮権を持たないが、前任者と同様に、中国の最高軍事意思決定機関である中央軍事委員会の兼任委員になる可能性が高い。習近平主席直属の2人の副主席を含む中央軍事委員会委員は、戦時には全人民解放軍の作戦指揮権を持つことになろう。
(5) 人民解放軍海軍の指導者たちは、新時代に適合した新たな段階に海軍を引き上げている。習近平主席の国防改革における最も根本的な機構改編がほぼ完了したことから、海軍指導者は、戦闘態勢の整備に集中できるようになった。これら指導者は、その作戦運用経験から、中国の軍事力が台湾などの重要な不測の事態に備え、より能力を発揮できるように尽力することができよう。海軍出身の董軍国防部長と海軍司令員の胡中明上将は互いを熟知しており、良好な関係を築いていくことになろう。こうした両者の関係から、海軍は中央軍事委員会の意思決定に関する背景事情を知ることができよう。人民解放軍海軍は、全面的ではないが、急速かつ包括的に改善されつつあることは明らかである。原子力潜水艦やその他の幾つかの先端技術は別として、装備品の開発は、人材や組織面の強化を上回っているようである。この間隙を埋めることは海軍司令員としての胡中明上将の優先課題であり、したがって、海軍の要員、訓練及び装備の強化が胡中明上将の中核的責任となろう。
(6) しかしながら、外部の専門家とって、人民解放軍海軍の指導力、人員、組織、訓練、教育の多くの側面は、依然として不明瞭なままである。一部の分野では、最も重要な場所と時宜でその能力と有効性を発揮できるかどうか、人民解放軍海軍自身にとっても不明確な可能性さえある。たとえば、人民解放軍の二重指揮系統の下では、艦艇を含む全ての海軍組織に軍司令員と政治委員が同居しており、軍事任務と政治目標の遂行に協力する。このシステムは党組織の浮かぶ縮図のようなもので、党組織が中国全土や世界に対処しているのと同じように、同居した党常務委員会のほぼ連日の会議が必要となる。あるいはまた、事前に承認された命令は、「戦争の霧」の中は言うまでもなく、複雑な危機的状況下では、期待どおりに、あるいは予測どおりには遂行できない可能性もある。 中国の政治委員制度は、文民が軍とその運用を統制する米国や他の西側諸国で採用されている文民統制よりも、はるかに押し付けがましく、潜在的に煩雑でさえある。中国の取り組みは、戦略から戦術まで、作戦のあらゆる段階での委員会の意思決定を必要とする。これらの重要な分野を理解するには、さらに多くの研究が必要だが、学者や専門家は急がねばならない。何故なら、中国の海軍力は大きな波を起こしており、その波動は今や世界のあらゆる海岸に届いているからである。しかも、台湾海峡を襲う大波の危険性は年を追うごとに高まっているのである。
記事参照:China’s New Military Commanders Reflect Xi Jinping’s Naval Ambitions
(1) 国家指導者は一般的に有能な軍隊を望むが、中国の習近平主席ほど軍事力の拡充に邁進している指導者は他にいない。このほど任命された2人の新しい軍首脳は、習近平主席のそうした真剣な狙いを反映した人事となっている。1人は2023年12月25日に人民解放軍海軍司令員に任命された胡中明で、中将から海軍上将に昇進した上で、海軍司令員に任命された。もう1人は、その4日後に海軍司令員から中華人民共和国国防部長に任命された董軍海軍上将である。2人は、中国軍が信頼できる戦闘遂行能力を準備するという習近平主席の要請を体現するとともに、海軍指揮官が作戦上の専門技能をますます要求されるようになった時代の先駆けでもある。
(2) 10代目の海軍司令員となった胡中明上将は、組織と運用、特に潜水艦に関する豊富な技能と運用経験を有している。胡中明上将は、初任が潜水艦部隊で、潜水艦艦長と中国に2ヵ所ある原子力潜水艦基地の1つで指揮官を務め、2009年には潜水艦艦長として、海上公試中の災害回避や公試手順の改善、リアルタイムの緊急通信手段の改良などで称賛された。潜水艦乗りを海軍司令員に任命する上で最も重要な検討事項は、長年難航してきた原子力潜水艦拡張計画を安全かつ効果的に推進することであったと思われる。水上艦部隊や対水上任務とミサイル分野は驚異的な成長を遂げたが、潜水艦部隊の指揮統率と訓練は全般的に明らかに遅れていたからである。胡中明上将はこの分野で手腕を発揮してきた。潜水艦の技能と上層部での官僚経験に加えて、胡中明上将の経歴は2016年以降に習近平主席が実施した陸軍主体の軍区に替わる統合戦区の設置という抜本的な軍再編を反映しており、2019年12月から2021年12月まで、北部戦区海軍司令員と北部戦区副司令員を兼務してきた。
(3) 董軍上将は、第9代海軍司令員から、海軍出身者としては初めてとなる、第14代国防部長に就任した。董軍上将は、戦域統合作戦を重視する水上戦将校で、東部戦区で作戦任務に就き、台湾を含む東シナ海方面の人民解放軍の行動を担当し、さらに南シナ海方面の人民解放軍の行動を担当する南部戦区司令部でも勤務した。黄海を例外として、これら2つの係争海域には、中国が抱える領有権未解決の島嶼、そして海洋権益主張の全てが含まれている。董軍国防部長は、前述のような経歴を有する海軍上将であり、領土紛争への対処に精通していると見られ、また、人民解放軍合同参謀部に対して、海軍を統合運用により組み込んで行くための統合作戦に関する有益な経験を提供すると見られる。
(4) 董軍上将は国防部長として、人民解放軍そして最終的には習近平主席の中央軍事委員会を代表して、外国軍との交流を担う外交渉外担当官でもある。人民解放軍が頼清徳次期総統下の台湾に対して訓練演習やその他の威圧行動を仕掛けて行く場合、董軍国防部長は、外国の海軍および軍高官との長年の交流経験を活用して、中国の行動、意図、状況および期待について対外的に説明することになろう。董軍上将は国防部長として、人民解放軍に対する作戦指揮権を持たないが、前任者と同様に、中国の最高軍事意思決定機関である中央軍事委員会の兼任委員になる可能性が高い。習近平主席直属の2人の副主席を含む中央軍事委員会委員は、戦時には全人民解放軍の作戦指揮権を持つことになろう。
(5) 人民解放軍海軍の指導者たちは、新時代に適合した新たな段階に海軍を引き上げている。習近平主席の国防改革における最も根本的な機構改編がほぼ完了したことから、海軍指導者は、戦闘態勢の整備に集中できるようになった。これら指導者は、その作戦運用経験から、中国の軍事力が台湾などの重要な不測の事態に備え、より能力を発揮できるように尽力することができよう。海軍出身の董軍国防部長と海軍司令員の胡中明上将は互いを熟知しており、良好な関係を築いていくことになろう。こうした両者の関係から、海軍は中央軍事委員会の意思決定に関する背景事情を知ることができよう。人民解放軍海軍は、全面的ではないが、急速かつ包括的に改善されつつあることは明らかである。原子力潜水艦やその他の幾つかの先端技術は別として、装備品の開発は、人材や組織面の強化を上回っているようである。この間隙を埋めることは海軍司令員としての胡中明上将の優先課題であり、したがって、海軍の要員、訓練及び装備の強化が胡中明上将の中核的責任となろう。
(6) しかしながら、外部の専門家とって、人民解放軍海軍の指導力、人員、組織、訓練、教育の多くの側面は、依然として不明瞭なままである。一部の分野では、最も重要な場所と時宜でその能力と有効性を発揮できるかどうか、人民解放軍海軍自身にとっても不明確な可能性さえある。たとえば、人民解放軍の二重指揮系統の下では、艦艇を含む全ての海軍組織に軍司令員と政治委員が同居しており、軍事任務と政治目標の遂行に協力する。このシステムは党組織の浮かぶ縮図のようなもので、党組織が中国全土や世界に対処しているのと同じように、同居した党常務委員会のほぼ連日の会議が必要となる。あるいはまた、事前に承認された命令は、「戦争の霧」の中は言うまでもなく、複雑な危機的状況下では、期待どおりに、あるいは予測どおりには遂行できない可能性もある。 中国の政治委員制度は、文民が軍とその運用を統制する米国や他の西側諸国で採用されている文民統制よりも、はるかに押し付けがましく、潜在的に煩雑でさえある。中国の取り組みは、戦略から戦術まで、作戦のあらゆる段階での委員会の意思決定を必要とする。これらの重要な分野を理解するには、さらに多くの研究が必要だが、学者や専門家は急がねばならない。何故なら、中国の海軍力は大きな波を起こしており、その波動は今や世界のあらゆる海岸に届いているからである。しかも、台湾海峡を襲う大波の危険性は年を追うごとに高まっているのである。
記事参照:China’s New Military Commanders Reflect Xi Jinping’s Naval Ambitions
2月26日「中東とインド太平洋における米中の緊張緩和―フィリピン専門家論説」(China US Focus, February 26, 2024)
2月26日付の香港のシンクタンク China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、Polytechnic University of the PhilippinesのRichard Javad Heydarianによる“ Middle East Crisis: Prospects for a U.S.-China Détente in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarianは中東地域における紛争の現実的な脅威は、2つの超大国間の戦略的節度と戦術的協力の要素を鼓舞するはずで、本格的な冷戦は、米国にとっても中国にとっても得策ではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中東における米国の戦略的ジレンマの深さは計り知れない。Biden政権は、現在進行中のガザ紛争の影響を食い止め、イスラエルの右派政権に2国家解決を支持するよう説得し、アラブの提携国にイスラエル政府との関係を正常化するよう働きかけ、イランの同盟国との軍事的対立を回避しようと努力しているが、効果はない。事態をさらに複雑にしているのは、イスラエルへの数十億ドル規模の新たな軍事支援策を打ち出したBiden米大統領が、イスラエルとハマスの無条件停戦を要求している民主党議員やイスラム系米人の共同体だけでなく、政権内の不和にも直面していることである。
(2) 中国は、サウジアラビアやイランを筆頭に、中東地域の主要国すべてと最適な関係を築いている唯一の超大国であり、パレスチナの大義を一貫して支持している。その動きが米国に与える影響は極めて大きい。中東紛争が激化し、ウクライナでの戦争もすぐには終わりが見えない中、Biden政権は中国との冷戦を優先できる環境にはない。幸いなことに、中国の習近平主席も2023年11月の訪米時に、2つの超大国間の協力関係はないにせよ、対立の少ない関係を目指す姿勢を示している。むしろ、世界の複数の地域で壊滅的な紛争をより効果的に防ぐために、米中協力の必要性が高まっている。
(3) 中東で紛争が勃発する1週間前、Jake Sullivan米国家安全保障担当補佐官顧問は「中東地域はこの20年間で最も静かだ」と述べている。2021年以降、Biden政権はイランとの「冷戦和平」を実現し、サウジアラビアとの軋轢を解消させ、イスラエル政府とアラブ首長国連邦政府などアラブの主要国との外交正常化を促進し、米国の数十年にわたるアフガニスタン占領を終結させた。これは、21世紀のより差し迫った課題、すなわちアジアで勃発しつつある新冷戦を優先し、中東から舵を切ることでもあった。しかし、Biden政権は2つの大きな問題を見落としていた。1つは、パレスチナ問題を事実上無視したため、この地域の強硬派が危険な方向に突き進むのを不注意にも後押ししてしまった。もう1つは、この地域の敵対勢力、とりわけイランに対する効果的な抑止力を徐々に失い、イランはロシアとの関係を増加させ、アラブ世界内外に独自の外交的攻勢をかけたことである。
(4) 米国はイスラエルやアラブの同盟国にパレスチナの将来について理解を求めることも、イランを効果的に抑止したり、外交的に関与させたりすることもできない。このことは、この地域で紛争が長期化する可能性を高め、米国の資源と戦略的な幅を消耗させる。さらに、中東における中立の仲介役を自任してきた中国のような競合国の立場を高めることにもなる。中東やヨーロッパといった伝統的な舞台における地政学的な泥沼は、米国がインド太平洋地域にその限りある戦略的資源を集中できない原因にもなっている。
(5) 米政府と中国政府の間には、両者の競争要素を再考するのに十分な政策担当者の知見と戦略的判断力がある。これは、2023年にカリフォルニアで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも示され、Bidenは「(中国と)双方向で、高官級の外交を維持・追求し続け、意思疎通の糸口を開いておく」ことを誓った。現実的には、米国は軍事的に手薄になる可能性があり、アジアにおける中国の巨大な構想に具体的な経済的対抗策を提示するのにも苦労している。一方で習近平は、経済が急減速し、国内が人口減少に突入するなか、より現実的な見通しを持ち、米政府との「安定的で健全かつ持続可能な」関係への関与を改めて表明した。
(6) 米中両国は中東において共通の関心を持っている。中国は主要貿易国として、紅海などにおける航行の自由への脅威に対する西側の懸念を共有し、イランや中東全域から石油を輸入する主要国として、自国のエネルギー供給路を混乱させかねない大規模な紛争を防ぐことに関心を持っている。さらに中国は、核拡散やこの地域の宗教的過激派の勢力拡大を防ぐという点でも米国と利害を共有している。全体として、中国と米国はそれぞれの超大国が独自の重要な提携国網を持つ中東を含む重要な地域で、健全な競争を行うことができる。本格的な冷戦は、米国にとっても中国にとっても得策ではない。
記事参照:Middle East Crisis: Prospects for a U.S.-China Détente in the Indo-Pacific
(1) 中東における米国の戦略的ジレンマの深さは計り知れない。Biden政権は、現在進行中のガザ紛争の影響を食い止め、イスラエルの右派政権に2国家解決を支持するよう説得し、アラブの提携国にイスラエル政府との関係を正常化するよう働きかけ、イランの同盟国との軍事的対立を回避しようと努力しているが、効果はない。事態をさらに複雑にしているのは、イスラエルへの数十億ドル規模の新たな軍事支援策を打ち出したBiden米大統領が、イスラエルとハマスの無条件停戦を要求している民主党議員やイスラム系米人の共同体だけでなく、政権内の不和にも直面していることである。
(2) 中国は、サウジアラビアやイランを筆頭に、中東地域の主要国すべてと最適な関係を築いている唯一の超大国であり、パレスチナの大義を一貫して支持している。その動きが米国に与える影響は極めて大きい。中東紛争が激化し、ウクライナでの戦争もすぐには終わりが見えない中、Biden政権は中国との冷戦を優先できる環境にはない。幸いなことに、中国の習近平主席も2023年11月の訪米時に、2つの超大国間の協力関係はないにせよ、対立の少ない関係を目指す姿勢を示している。むしろ、世界の複数の地域で壊滅的な紛争をより効果的に防ぐために、米中協力の必要性が高まっている。
(3) 中東で紛争が勃発する1週間前、Jake Sullivan米国家安全保障担当補佐官顧問は「中東地域はこの20年間で最も静かだ」と述べている。2021年以降、Biden政権はイランとの「冷戦和平」を実現し、サウジアラビアとの軋轢を解消させ、イスラエル政府とアラブ首長国連邦政府などアラブの主要国との外交正常化を促進し、米国の数十年にわたるアフガニスタン占領を終結させた。これは、21世紀のより差し迫った課題、すなわちアジアで勃発しつつある新冷戦を優先し、中東から舵を切ることでもあった。しかし、Biden政権は2つの大きな問題を見落としていた。1つは、パレスチナ問題を事実上無視したため、この地域の強硬派が危険な方向に突き進むのを不注意にも後押ししてしまった。もう1つは、この地域の敵対勢力、とりわけイランに対する効果的な抑止力を徐々に失い、イランはロシアとの関係を増加させ、アラブ世界内外に独自の外交的攻勢をかけたことである。
(4) 米国はイスラエルやアラブの同盟国にパレスチナの将来について理解を求めることも、イランを効果的に抑止したり、外交的に関与させたりすることもできない。このことは、この地域で紛争が長期化する可能性を高め、米国の資源と戦略的な幅を消耗させる。さらに、中東における中立の仲介役を自任してきた中国のような競合国の立場を高めることにもなる。中東やヨーロッパといった伝統的な舞台における地政学的な泥沼は、米国がインド太平洋地域にその限りある戦略的資源を集中できない原因にもなっている。
(5) 米政府と中国政府の間には、両者の競争要素を再考するのに十分な政策担当者の知見と戦略的判断力がある。これは、2023年にカリフォルニアで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも示され、Bidenは「(中国と)双方向で、高官級の外交を維持・追求し続け、意思疎通の糸口を開いておく」ことを誓った。現実的には、米国は軍事的に手薄になる可能性があり、アジアにおける中国の巨大な構想に具体的な経済的対抗策を提示するのにも苦労している。一方で習近平は、経済が急減速し、国内が人口減少に突入するなか、より現実的な見通しを持ち、米政府との「安定的で健全かつ持続可能な」関係への関与を改めて表明した。
(6) 米中両国は中東において共通の関心を持っている。中国は主要貿易国として、紅海などにおける航行の自由への脅威に対する西側の懸念を共有し、イランや中東全域から石油を輸入する主要国として、自国のエネルギー供給路を混乱させかねない大規模な紛争を防ぐことに関心を持っている。さらに中国は、核拡散やこの地域の宗教的過激派の勢力拡大を防ぐという点でも米国と利害を共有している。全体として、中国と米国はそれぞれの超大国が独自の重要な提携国網を持つ中東を含む重要な地域で、健全な競争を行うことができる。本格的な冷戦は、米国にとっても中国にとっても得策ではない。
記事参照:Middle East Crisis: Prospects for a U.S.-China Détente in the Indo-Pacific
2月26日「忍耐を強いられる日本の対カンボジア外交―日本専門家論説」(Situation Report, Geopolitical Monitor, February 26, 2024)
2月26日付のカナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトは、関西外語大学准教授Mark S. Coganの“Japan’s Indo-Pacific Security Waiting Game in Cambodia”と題する論説を掲載し、Mark S. Coganは「自由で開かれた」インド太平洋という概念を考慮した日本政府の対カンボジア外交について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国がカンボジアに多額の投資を行っている中、護衛艦「すずなみ」と練習艦「しまかぜ」の2隻がシアヌークビル港に寄港した。現在、近隣のリアム海軍基地の大規模改修が進められており、ここでも中国からの多大な支援がある。
(2) 日本が「自由で開かれた」インド太平洋への同意を強化しようとする中で、日本の寄港の目的は、日本が東南アジアでの存在感を誇示することである。近年、カンボジアにおける日本の安全保障外交や外交政策を駆り立てているのは、日本の安全保障上の脆弱性である。2022年、岸田文雄首相は、当時のカンボジア首相Hun Senの確実な後継者だったHun Manetと会談し、2国間の安全保障協力を強化することを目指した。中国がカンボジアに強固に根を下ろしている状況で、どれほどの安全保障協力ができるだろうか。
(3) 2023年11月の中国人民解放軍陸軍司令員李橋銘上将とHun Manet首相の会談は、中国軍の上将によるカンボジア初訪問を意味する注目度の高いもので、李橋銘上将は両国の「2000年の歴史的関係」を強調し、Hun Manetに大きな正統性を与えた。そして、2022年に岸田首相が次期政権を率いるHun Manetとの安全保障協力の強化を推し進めたように、中国の軍事外交はASEANの提携国の一部が米国に接近する中で、東南アジアの地政学的な変化に適応しながら、カンボジアとの関係を緊密に保つ必要があることを再確認するものであった。また、実施されていれば中国を激怒させたかもしれなかった2023年の南シナ海におけるASEANの共同軍事演習の可能性を排除し、ASEANの地政学的変化という考えを一段落させたのもカンボジアだったことを忘れてはならない。
(4) 日本にとってさらに悪いことに、カンボジアの憲法による外国軍基地禁止とHun Senが1993年に制定された憲法修正の必要性について「(私は)昔のようにカンボジアの領土で外国人に戦ってもらう必要はないし、カンボジアがイデオロギーや武器の試験場になることも認めない」と西側を非難したことは別にして、Hun Manet、そして彼の父親Hun Senも岸田に現在建設中の海軍基地に関して、リアム海軍基地で中国海軍の艦艇を受け入れることはないという実質的な保証を何も与えていない。Hun Manetが欧米からの注目と中国政府からの新たな関与を同様に求めているこの新時代において、Hunの支配するCambodian People’s Party(カンボジア人民党)が120議席全てを掌握しているカンボジア国民議会において、必要であれば、政治的危険を犯すことなく修正案が作成されることは、想像に難くない。
(5) 日本はどうなるのだろうか?2023年12月の外相会談で、相互に有益な安全保障協力の道筋について話し合ったが、中国が享受している強固な軍事協力や影響力には遠く及ばない。将来的に海上自衛隊の艦艇をリアム海軍基地に派遣するという公約は、協力関係の地政学的な変化というよりはむしろ、印象的なものである。その結果、日本の外交的関与の長期戦と、果てしなく続くと思われる忍耐は、その機会が訪れるまで続けられなければならない。
記事参照:Japan’s Indo-Pacific Security Waiting Game in Cambodia
(1) 中国がカンボジアに多額の投資を行っている中、護衛艦「すずなみ」と練習艦「しまかぜ」の2隻がシアヌークビル港に寄港した。現在、近隣のリアム海軍基地の大規模改修が進められており、ここでも中国からの多大な支援がある。
(2) 日本が「自由で開かれた」インド太平洋への同意を強化しようとする中で、日本の寄港の目的は、日本が東南アジアでの存在感を誇示することである。近年、カンボジアにおける日本の安全保障外交や外交政策を駆り立てているのは、日本の安全保障上の脆弱性である。2022年、岸田文雄首相は、当時のカンボジア首相Hun Senの確実な後継者だったHun Manetと会談し、2国間の安全保障協力を強化することを目指した。中国がカンボジアに強固に根を下ろしている状況で、どれほどの安全保障協力ができるだろうか。
(3) 2023年11月の中国人民解放軍陸軍司令員李橋銘上将とHun Manet首相の会談は、中国軍の上将によるカンボジア初訪問を意味する注目度の高いもので、李橋銘上将は両国の「2000年の歴史的関係」を強調し、Hun Manetに大きな正統性を与えた。そして、2022年に岸田首相が次期政権を率いるHun Manetとの安全保障協力の強化を推し進めたように、中国の軍事外交はASEANの提携国の一部が米国に接近する中で、東南アジアの地政学的な変化に適応しながら、カンボジアとの関係を緊密に保つ必要があることを再確認するものであった。また、実施されていれば中国を激怒させたかもしれなかった2023年の南シナ海におけるASEANの共同軍事演習の可能性を排除し、ASEANの地政学的変化という考えを一段落させたのもカンボジアだったことを忘れてはならない。
(4) 日本にとってさらに悪いことに、カンボジアの憲法による外国軍基地禁止とHun Senが1993年に制定された憲法修正の必要性について「(私は)昔のようにカンボジアの領土で外国人に戦ってもらう必要はないし、カンボジアがイデオロギーや武器の試験場になることも認めない」と西側を非難したことは別にして、Hun Manet、そして彼の父親Hun Senも岸田に現在建設中の海軍基地に関して、リアム海軍基地で中国海軍の艦艇を受け入れることはないという実質的な保証を何も与えていない。Hun Manetが欧米からの注目と中国政府からの新たな関与を同様に求めているこの新時代において、Hunの支配するCambodian People’s Party(カンボジア人民党)が120議席全てを掌握しているカンボジア国民議会において、必要であれば、政治的危険を犯すことなく修正案が作成されることは、想像に難くない。
(5) 日本はどうなるのだろうか?2023年12月の外相会談で、相互に有益な安全保障協力の道筋について話し合ったが、中国が享受している強固な軍事協力や影響力には遠く及ばない。将来的に海上自衛隊の艦艇をリアム海軍基地に派遣するという公約は、協力関係の地政学的な変化というよりはむしろ、印象的なものである。その結果、日本の外交的関与の長期戦と、果てしなく続くと思われる忍耐は、その機会が訪れるまで続けられなければならない。
記事参照:Japan’s Indo-Pacific Security Waiting Game in Cambodia
2月28日「海洋安全保障に焦点を当てるQUAD―日豪国際関係論専門家論説」(East Asia Forum, February 28, 2024)
2月28日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、新潟県立大学教授の畠山京子、University of Sydney 准教授のThomas Wilkins、立命館大学教授の廣野美和、Australian National University上級講師のH. D. P. Envallによる“The Quad’s growing focus on maritime security”と題する論説を掲載し、4名は日米豪印戦略対話に関して、それが地域において重要性を増している一方で、戦略的見通しの異なるインドを内に含むことで、安全保障問題での協力の推進はこれからも困難でありつつ、海洋領域における協力は進んでいるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋における少数国間協調体制の構築が注目を集めている。しかし、その内部の利害や戦略的見通しが必ずしも一致しているとは限らない。これは特に、QUADについて当てはまる。
(2) QUADは、同盟国相互の連携強化を目指す日米豪閣僚級戦略対話(US–Japan–Australia Trilateral Strategy Dialogue :以下、TSDと言う)よりも緩やかな、志向を同じくする4ヵ国の連合であり、2004年のインド洋津波のときに初めて構想されたものである。その後2007年、安倍晋三首相(当時)により正式に提案されたが、本格的な会合が行われるまでには時間がかかった。地域における中国の攻撃的姿勢の強まりを受け、安倍が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」概念を提唱し、2017年に米国がQUADを支持することで、本格的な対話が始まり、その後、中国の台頭との釣り合いを取る存在として注目を集めてきた。
(3) この4ヵ国は自由主義的な価値観を共有しているが、明示的な目標を持つわけではない。特に安全保障面においては特にあいまいなままである。米国は、地域における中国の台頭に対抗することを模索し、同盟国である日豪もそれを共有するが、インドの立場は微妙である。特にインドはQUADにおいて安全保障問題を議論することに慎重である。伝統的な非同盟主義的立場を維持していることと米中対立に巻き込まれることを忌避しているためである。たとえば、2022年の最初の共同声明でも、安全保障問題には簡単に触れられただけで、主要なテーマは気候変動やサイバーセキュリティ問題だった。
(4) 一方で、海洋領域においては、QUADは中国が突き付ける問題に直接対処を模索している。たとえばQUADは、4ヵ国による共同海軍演習の基盤となっているし、海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ構想(IPMDA)を歓迎している。2023年の広島での首脳会談でははっきりと、海洋領域における「武力や威嚇による」現状変更の試みに反対する姿勢を明らかにした。
(5) インドがQUADへの取り組みを変えたのかはまだはっきりしない。ウクライナ戦争がありながらもインドがロシアとの関係維持を模索しているように、インドと他3ヵ国に戦略的展望には大きな乖離がある。そうしたインドをQUADに含めることは、その連合の合法性や包摂性を示しているが、他方、QUAD内部での軍事協力に関する合意に至るのは困難であろう。日米豪その他の国々は、地域の抑止力強化のためにはTSDやAUKUSなどほかの少数国間協調枠組みの活用をしていかねばならないだろう。それでもQUADは、海洋領域における協力を深化させていくであろう。
記事参照:The Quad’s growing focus on maritime security
(1) インド太平洋における少数国間協調体制の構築が注目を集めている。しかし、その内部の利害や戦略的見通しが必ずしも一致しているとは限らない。これは特に、QUADについて当てはまる。
(2) QUADは、同盟国相互の連携強化を目指す日米豪閣僚級戦略対話(US–Japan–Australia Trilateral Strategy Dialogue :以下、TSDと言う)よりも緩やかな、志向を同じくする4ヵ国の連合であり、2004年のインド洋津波のときに初めて構想されたものである。その後2007年、安倍晋三首相(当時)により正式に提案されたが、本格的な会合が行われるまでには時間がかかった。地域における中国の攻撃的姿勢の強まりを受け、安倍が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」概念を提唱し、2017年に米国がQUADを支持することで、本格的な対話が始まり、その後、中国の台頭との釣り合いを取る存在として注目を集めてきた。
(3) この4ヵ国は自由主義的な価値観を共有しているが、明示的な目標を持つわけではない。特に安全保障面においては特にあいまいなままである。米国は、地域における中国の台頭に対抗することを模索し、同盟国である日豪もそれを共有するが、インドの立場は微妙である。特にインドはQUADにおいて安全保障問題を議論することに慎重である。伝統的な非同盟主義的立場を維持していることと米中対立に巻き込まれることを忌避しているためである。たとえば、2022年の最初の共同声明でも、安全保障問題には簡単に触れられただけで、主要なテーマは気候変動やサイバーセキュリティ問題だった。
(4) 一方で、海洋領域においては、QUADは中国が突き付ける問題に直接対処を模索している。たとえばQUADは、4ヵ国による共同海軍演習の基盤となっているし、海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ構想(IPMDA)を歓迎している。2023年の広島での首脳会談でははっきりと、海洋領域における「武力や威嚇による」現状変更の試みに反対する姿勢を明らかにした。
(5) インドがQUADへの取り組みを変えたのかはまだはっきりしない。ウクライナ戦争がありながらもインドがロシアとの関係維持を模索しているように、インドと他3ヵ国に戦略的展望には大きな乖離がある。そうしたインドをQUADに含めることは、その連合の合法性や包摂性を示しているが、他方、QUAD内部での軍事協力に関する合意に至るのは困難であろう。日米豪その他の国々は、地域の抑止力強化のためにはTSDやAUKUSなどほかの少数国間協調枠組みの活用をしていかねばならないだろう。それでもQUADは、海洋領域における協力を深化させていくであろう。
記事参照:The Quad’s growing focus on maritime security
2月28日「南シナ海における中国民兵船団の活動傾向、2023年―米シンクタンク報告」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, February 28, 2024)
2月28日付のCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、“Wherever They May Roam: China’s Militia in 2023”と題する記事を掲載し、2023年に南シナ海において中国民兵の船団がどこで、どの程度の規模で活動したかについて衛星写真を用いて計測を行い、民兵の活動傾向について、要旨以下のように報じている。
(1) 南シナ海論争の影の行為者であった中国の海上民兵の活動が可視化されるようになってきた。多くのメディアは、民兵と中国海警の協力について報じてきた。しかし、どれだけ多くの民兵がどこで活動しているかの詳細は、衛星写真データを大量に分析しないとわからない。この記事は衛星写真を精査し、この問題に迫るものでる。
(2) 該当期間は2023年、撮影場所は南シナ海の9つの海域で、中国民兵の船舶がよく活動しているとされている場所である。対象は、海南省を根拠地とする海上民兵として専従する船隊と係争海域での操業のために助成を受けた商業船舶から構成される「南沙骨干船队」である。また計数対象とする船舶の全長は45から65mに設定した。南シナ海で活動する民兵船としては最も一般的であり、他方で中国海警や中国以外の漁船などにはほとんど見られない大きさのためである。各海域について、平均して1ヵ月で4度の撮影・計測がされた。
(3) データによると、中国海上民兵の活動は活発であることがわかる。2023年の間、数えられた1日の平均の船舶数は195隻にのぼり、これは2021年から22年の12ヵ月の間に行った計測の1.35倍であった。また、2023年夏にはミスチーフ礁での活動が活発になったのが顕著な変化で、7月には180隻を超える数が確認された。同環礁での2022年の最大隻数は37隻であった。衛星画像によると、ミスチーフ礁ではセカンド・トーマス礁で封鎖任務を支援する海上民兵を専門とする型の船舶は少数であり、ミスチーフ礁における海上民兵船の数が頂点に達したのは封鎖任務に当たる海上民兵船が増加し始める数ヶ月前に発生したことを示している。
(4) ミスチーフ礁での増加を除くと、民兵の活動の傾向、規模は2023年と同様である。ヒューズ礁やウィットサン礁での民兵船が最大の規模であり、またユニオン堆は前述の「南沙骨干船队」がよく活動する場所である。また中国の前線基地といえるガベン礁での民兵の展開も一貫している。規模は小さいがフィリピンが占領するパグアサ島東部でも民兵の存在が確認された。そして2023年同様、2023年12月から2024年2月にかけて新年を祝うために民兵船団の多くは帰国するため、数が激減する。
(5) データの大部分は係争海域で活動する民兵船団の日常的な行動様式を明らかにするが、他方でいつもと違う様式が、2023年にセカンド・トーマス礁での緊張が高まった時期に見られた。セカンド・トーマス礁では海南島から出港する海上民兵に専従する船舶が海警と協働して、フィリピンの「シエラ・マドレ」に対する再補給活動を妨害している。民間の漁船の行動様式は概ね一定であるが、海上民兵専従の船隊の活動は、緊張が高まる場所で海警を支援している。最近、スカボロー礁で事件があったが、そこは基本的に商業船舶の存在の度合いは低く、それはつまり海上民兵専従の船隊の活動が活発になる可能性を示唆している。
記事参照:Wherever They May Roam: China’s Militia in 2023
(1) 南シナ海論争の影の行為者であった中国の海上民兵の活動が可視化されるようになってきた。多くのメディアは、民兵と中国海警の協力について報じてきた。しかし、どれだけ多くの民兵がどこで活動しているかの詳細は、衛星写真データを大量に分析しないとわからない。この記事は衛星写真を精査し、この問題に迫るものでる。
(2) 該当期間は2023年、撮影場所は南シナ海の9つの海域で、中国民兵の船舶がよく活動しているとされている場所である。対象は、海南省を根拠地とする海上民兵として専従する船隊と係争海域での操業のために助成を受けた商業船舶から構成される「南沙骨干船队」である。また計数対象とする船舶の全長は45から65mに設定した。南シナ海で活動する民兵船としては最も一般的であり、他方で中国海警や中国以外の漁船などにはほとんど見られない大きさのためである。各海域について、平均して1ヵ月で4度の撮影・計測がされた。
(3) データによると、中国海上民兵の活動は活発であることがわかる。2023年の間、数えられた1日の平均の船舶数は195隻にのぼり、これは2021年から22年の12ヵ月の間に行った計測の1.35倍であった。また、2023年夏にはミスチーフ礁での活動が活発になったのが顕著な変化で、7月には180隻を超える数が確認された。同環礁での2022年の最大隻数は37隻であった。衛星画像によると、ミスチーフ礁ではセカンド・トーマス礁で封鎖任務を支援する海上民兵を専門とする型の船舶は少数であり、ミスチーフ礁における海上民兵船の数が頂点に達したのは封鎖任務に当たる海上民兵船が増加し始める数ヶ月前に発生したことを示している。
(4) ミスチーフ礁での増加を除くと、民兵の活動の傾向、規模は2023年と同様である。ヒューズ礁やウィットサン礁での民兵船が最大の規模であり、またユニオン堆は前述の「南沙骨干船队」がよく活動する場所である。また中国の前線基地といえるガベン礁での民兵の展開も一貫している。規模は小さいがフィリピンが占領するパグアサ島東部でも民兵の存在が確認された。そして2023年同様、2023年12月から2024年2月にかけて新年を祝うために民兵船団の多くは帰国するため、数が激減する。
(5) データの大部分は係争海域で活動する民兵船団の日常的な行動様式を明らかにするが、他方でいつもと違う様式が、2023年にセカンド・トーマス礁での緊張が高まった時期に見られた。セカンド・トーマス礁では海南島から出港する海上民兵に専従する船舶が海警と協働して、フィリピンの「シエラ・マドレ」に対する再補給活動を妨害している。民間の漁船の行動様式は概ね一定であるが、海上民兵専従の船隊の活動は、緊張が高まる場所で海警を支援している。最近、スカボロー礁で事件があったが、そこは基本的に商業船舶の存在の度合いは低く、それはつまり海上民兵専従の船隊の活動が活発になる可能性を示唆している。
記事参照:Wherever They May Roam: China’s Militia in 2023
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) TAIWAN MUST BE CAUTIOUS IN DRAWING LESSONS FROM THE ISRAEL-HAMAS WAR
https://www.9dashline.com/article/taiwan-must-be-cautious-in-drawing-lessons-from-the-israel-hamas-war
9Dashline, February 21, 2024
By Dr Mor Sobol is an Assistant Professor in the Department of Diplomacy and International Relations at Tamkang University.
2024年2月21日、台湾の淡江大学の助教Mor Sobolは、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineに、“TAIWAN MUST BE CAUTIOUS IN DRAWING LESSONS FROM THE ISRAEL-HAMAS WAR”と題する論説を寄稿した。その中で、①10月12日、台湾の国防相は、ガザでの戦争を研究する調査専門団の設置を発表した。②イスラエルと台湾は、領土と人口が小さいこと、経済構造、そして安全保障に関して米国に依存していることなどが類似している。③ここ数年、安全保障と防衛に関してイスラエルの経験から学ぼうとする台湾側の関心が高まっている。④重要なトピックは、情報(イスラエルは10月7日のハマスの攻撃で不意を突かれた)、迅速な動員(10月7日の攻撃から72時間以内に約35万人の予備兵力を動員することにイスラエルは成功した)、ハマスの飽和攻撃(中国が軍事侵攻してきた場合の課題を予期させる)である。⑤イスラエルと台湾の立場と状況の違いは、前者がイランのような国家主体やハマス、ヒズボラといった非国家主体からの脅威のため存亡の危機に直面しているのに対して、後者は中国との武力衝突に直面しており、政権交代につながる可能性がある。⑥もう1つの決定的な違いとしては、イスラエルは敵対国に対して軍事的に質的優位を保っているが、中国の軍事力は台湾を凌駕していることである。⑦両国とも徴兵制度はあるが、イスラエルの兵役は台湾よりも期間が長く、イスラエルの兵役は台湾と異なり男女ともに義務づけられており、イスラエル軍が常備軍と予備役の両方に依存しているのに対し、台湾は志願兵が主な戦力であるといった大きな相違点がある。⑧また、台湾の軍隊と国民は紛争にさらされた経験に欠けるが、イスラエルの軍隊と国民は数々の暴力を乗り越えてきた。⑨台湾に関連する可能性がある政策を、全面的に採用するのではなく、具体的に特定し、台湾の状況や能力に合わせてどのように調整できるかを徹底的に検討する必要があるといったことが述べられている。
(2) Ending the War in Ukraine: Harder Than It Seems
https://www.stimson.org/2024/ending-the-war-in-ukraine-harder-than-it-seems/?utm
Stimson, February 22, 2024
By Mathew Burrows serves as Counselor in the Executive Office at the Stimson Center, is the Program Lead of the Strategic Foresight Hub, and a Distinguished Fellow with the Reimagining US Grand Strategy program.
2024年2月22日、米シンクタンクStimson Center の参与であるMathew Burrowsは、同Centerのウエブサイトに" Ending the War in Ukraine: Harder Than It Seems "と題する論説を寄稿した。その中でMathew Burrows は、1950年以降、すべての国家間戦争で講和条約が結ばれることはまれになっていることから、ロシア・ウクライナ戦争の最も可能性の高い結末は、時間をかけて交渉による休戦が実現することであるが、最悪の事態としては、ロシアとウクライナの紛争が、米国と中国を巻き込んだより広範な東西戦争の予行演習になってしまうことだと指摘した上で、このような結果は、現在のところ、紛争の休止や停戦に比べればはるかに可能性は低いが、大国の分裂が進む世界では否定できないと主張している。
(3) US extends losing streak to China in the Pacific
https://asiatimes.com/2024/02/us-extends-losing-streak-to-china-in-the-pacific/
Asia Times, February 27, 2024
By Grant Newsham, a retired US Marine officer and former US diplomat
2024年2月27日、米海兵隊退役将校で元米外交官であるGrant Newshamは、香港のデジタル紙Asia Timesに" US extends losing streak to China in the Pacific "と題する論説を寄稿した。その中でGrant Newshamは、冒頭でソロモン諸島、ナウル、パプアニューギニアが中国の支配下に置かれる一方で、米国は主要な太平洋の提携国への資金配分を怠っていると指摘した上で、太平洋を失えば、台湾にどんな武器を与えようが、日本から台湾、フィリピンを経てボルネオまで続くいわゆる第1列島線をどう強化しようが、それらはほとんど問題ではなくなると主張している。その上でGrant Newshamは、パプアニューギニアやツバルといった太平洋島嶼国における中国の影響力増大などを取り上げ、米Biden政権と議会がパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島との取引に必要なわずかな資金も出そうとしないことを考えると、米政府は実際、中国との競争に負けたがっているように思えるとして、米政権の外交戦略を厳しく批判している。
(1) TAIWAN MUST BE CAUTIOUS IN DRAWING LESSONS FROM THE ISRAEL-HAMAS WAR
https://www.9dashline.com/article/taiwan-must-be-cautious-in-drawing-lessons-from-the-israel-hamas-war
9Dashline, February 21, 2024
By Dr Mor Sobol is an Assistant Professor in the Department of Diplomacy and International Relations at Tamkang University.
2024年2月21日、台湾の淡江大学の助教Mor Sobolは、インド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineに、“TAIWAN MUST BE CAUTIOUS IN DRAWING LESSONS FROM THE ISRAEL-HAMAS WAR”と題する論説を寄稿した。その中で、①10月12日、台湾の国防相は、ガザでの戦争を研究する調査専門団の設置を発表した。②イスラエルと台湾は、領土と人口が小さいこと、経済構造、そして安全保障に関して米国に依存していることなどが類似している。③ここ数年、安全保障と防衛に関してイスラエルの経験から学ぼうとする台湾側の関心が高まっている。④重要なトピックは、情報(イスラエルは10月7日のハマスの攻撃で不意を突かれた)、迅速な動員(10月7日の攻撃から72時間以内に約35万人の予備兵力を動員することにイスラエルは成功した)、ハマスの飽和攻撃(中国が軍事侵攻してきた場合の課題を予期させる)である。⑤イスラエルと台湾の立場と状況の違いは、前者がイランのような国家主体やハマス、ヒズボラといった非国家主体からの脅威のため存亡の危機に直面しているのに対して、後者は中国との武力衝突に直面しており、政権交代につながる可能性がある。⑥もう1つの決定的な違いとしては、イスラエルは敵対国に対して軍事的に質的優位を保っているが、中国の軍事力は台湾を凌駕していることである。⑦両国とも徴兵制度はあるが、イスラエルの兵役は台湾よりも期間が長く、イスラエルの兵役は台湾と異なり男女ともに義務づけられており、イスラエル軍が常備軍と予備役の両方に依存しているのに対し、台湾は志願兵が主な戦力であるといった大きな相違点がある。⑧また、台湾の軍隊と国民は紛争にさらされた経験に欠けるが、イスラエルの軍隊と国民は数々の暴力を乗り越えてきた。⑨台湾に関連する可能性がある政策を、全面的に採用するのではなく、具体的に特定し、台湾の状況や能力に合わせてどのように調整できるかを徹底的に検討する必要があるといったことが述べられている。
(2) Ending the War in Ukraine: Harder Than It Seems
https://www.stimson.org/2024/ending-the-war-in-ukraine-harder-than-it-seems/?utm
Stimson, February 22, 2024
By Mathew Burrows serves as Counselor in the Executive Office at the Stimson Center, is the Program Lead of the Strategic Foresight Hub, and a Distinguished Fellow with the Reimagining US Grand Strategy program.
2024年2月22日、米シンクタンクStimson Center の参与であるMathew Burrowsは、同Centerのウエブサイトに" Ending the War in Ukraine: Harder Than It Seems "と題する論説を寄稿した。その中でMathew Burrows は、1950年以降、すべての国家間戦争で講和条約が結ばれることはまれになっていることから、ロシア・ウクライナ戦争の最も可能性の高い結末は、時間をかけて交渉による休戦が実現することであるが、最悪の事態としては、ロシアとウクライナの紛争が、米国と中国を巻き込んだより広範な東西戦争の予行演習になってしまうことだと指摘した上で、このような結果は、現在のところ、紛争の休止や停戦に比べればはるかに可能性は低いが、大国の分裂が進む世界では否定できないと主張している。
(3) US extends losing streak to China in the Pacific
https://asiatimes.com/2024/02/us-extends-losing-streak-to-china-in-the-pacific/
Asia Times, February 27, 2024
By Grant Newsham, a retired US Marine officer and former US diplomat
2024年2月27日、米海兵隊退役将校で元米外交官であるGrant Newshamは、香港のデジタル紙Asia Timesに" US extends losing streak to China in the Pacific "と題する論説を寄稿した。その中でGrant Newshamは、冒頭でソロモン諸島、ナウル、パプアニューギニアが中国の支配下に置かれる一方で、米国は主要な太平洋の提携国への資金配分を怠っていると指摘した上で、太平洋を失えば、台湾にどんな武器を与えようが、日本から台湾、フィリピンを経てボルネオまで続くいわゆる第1列島線をどう強化しようが、それらはほとんど問題ではなくなると主張している。その上でGrant Newshamは、パプアニューギニアやツバルといった太平洋島嶼国における中国の影響力増大などを取り上げ、米Biden政権と議会がパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島との取引に必要なわずかな資金も出そうとしないことを考えると、米政府は実際、中国との競争に負けたがっているように思えるとして、米政権の外交戦略を厳しく批判している。
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