海洋安全保障情報旬報 2024年2月1日-2月10日
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2月1日「米国はインド太平洋における海洋統治のための中核拠点を設立すべき―米専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, February 1, 2024)
2月1日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、退役米海軍中佐で米シンクタンクCouncil on Foreign Relationsの初代在インドネシア国際問題研究員John F. Bradfordの” THE UNITED STATES SHOULD ESTABLISH AN INDO-PACIFIC MARITIME GOVERNANCE CENTER OF EXCELLENCE”と題する論説を掲載し、ここでJohn F. Bradfordは海洋統治のために実践情報を収集・交換、独自調査と分析を行うインド太平洋の中核拠点(COE)を設立することで、米国はこの地域の海洋安全の向上に貢献できるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋は海洋安全保障の欠如に苦しんでいる。自然災害、犯罪行為、国家間の緊張は、船員を危険にさらし、沿岸部の共同体の福祉を損ない、地域に災いをもたらしている。シンガポールのInformation Fusion Centre(情報融合センター)は、2023年上半期にこの海域で1,882人の死亡または行方不明が発生していると発表した。こうした悲劇がほとんど議論されないのは、この海域が危険であることが当然とされているからである。しかし、海洋統治のためのインド太平洋中核拠点(Center of Excellence:以下、COEと言う)を設立することで、米国はこの地域の海洋安全の向上に貢献ができる。
(2) 海洋安全保障の欠如は、海洋統治の不備に直結している。国際法は、海洋統治の責任の大部分を国家に負わせており、この地域の海洋安全保障問題のほとんどは、多くの地域国家が必要な水準の統治を提供できないという事実に直結している。海洋統治には、安全規制の施行、天然資源の管理、環境の保護、法執行活動の実施などが含まれる。その欠如は、商業主体が危険な手抜きをする一方で、犯罪者や過激派が自分たちの目的のためにあらゆる隙を突くことを可能にする。同じ隙間は、国家が互いに優位に立とうとする努力において、危険なグレーゾーン戦術を用いることを可能にする。したがって、良好な統治は国際紛争を抑止するための必要条件となる。
(3) この問題の本質を認識した能力の高い国、国際機関、非政府組織はいずれも、地域の海洋統治能力を構築するための活動に積極的に取り組んでいる。しかし、その活動はまちまちで、連携がなく、また、受け入れ国の所要との整合性が取れていないことが多い。したがって、米国は海洋統治COEの設立を主導すべきである。COEは、各国の手本となる実践情報を収集・交換し、独自の調査と分析によってそれらを補強するという知識と行動のハブである。このCOEが提供できる具体的なサービスには、地域の海洋統治の専門家に対する技能研修の提供、研究の支援、能力開発活動の国際的な調整と調整解除の支援、手本となる実践とドクトリンの開発、学んだ教訓の文書化と普及、会議、ワークショップ、机上演習の開催、実地訓練の支援、利害関係者間の実質的な交流の促進などがある。
(4) 2023年7月にシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)と米国のNear East South Asia Center for Security Studies(近東・南アジア安全保障研究センター、NESA)が共催した学術会議で、筆者(John F. Bradford)はQUADが後援する海洋統治COEの具体案を発表した。この案は、集まった有識者から一定の評価を受け、反対意見もなかったため、その内容は会議報告書にまとめられ、米国政府に提出され、その後米下院の国防授権法で、インド太平洋海洋統治COEの実現可能性調査をU.S. Department of Defenseに課すことになっていたが、QUADが後援する海洋統治COEの具体案は削除され、最終的にDaniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies(ダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究センター:以下、DKI APCSSと言う)の活用を含め、地域の海洋安全保障を推進するようU.S. Indo-Pacific Command司令官に指示がなされた。
(5) COEは、資金調達の責任を共有し、志を同じくする国家間の協調的な取り組みであれば、最も効果的である。これは、QUAD、あるいはこの地域における他の4ヵ国間、3ヵ国間あるいは2ヵ国間の提携のいずれでもよい。日本、オーストラリア、インド、英国はすでに、このような提携に関心を示している。米国が指導力を発揮するためには、大規模な資源拠出が必要となるが、その一方で、提携国の政策目標を尊重しつつ、自国の国家目標を達成するために組織を形成することもできる。
(6) DKI APCSSは、U.S. Indo-Pacific Command、Pacific Forum、East-West Center、University of Hawaiiなどとの共同研究の実績がある。DKPI ACPSSがCOEを立ち上げるための資金を提供すれば、研究・教育能力を拡大し、こうした連携の制度化を改善することができるだろう。 しかし、DKI APCSSはU.S. Department of Defenseの組織であるため、インド太平洋地域の軍事・学術に関わる集団以外への訴求力には限界がある。
(7) 全領域的な利害関係者の協力の機会を作るという点では、東京の方が良いだろう。東京は、主に海運、金融、法律における世界的な重要性から、世界で5番目に重要な海事都市に位置付づけられている。また、アジアで最も活発な地域的役割を担う海上保安庁の本部があり、隔年で開催されるGlobal Coast Guard Summit(世界海上保安機関長官級会合)の開催地でもある。強力な海上自衛隊とU.S. 7th Fleetの司令部と主要港も東京湾に位置している。政策研究大学院大学は、国際的な統治能力強化のための研究・研修支援で確かな実績を上げている。特に、海上保安庁と共同で運営されているこの大学の海上安全保障政策プログラムは、教育面で高い評価を得ている。
(8) COEの受け入れ先として、より能力の低い提携国を選ぶことも賢明かもしれない。そうすることで、経費を削減し、グローバル・サウスからの賛同を高め、援助を受ける国がセンター運営に強い発言力を持つことができる。COEをASEAN中心の組織とするのであれば、マニラやジャカルタが適切である。フィリピンとインドネシアは、国内的な海洋統治能力の不足にもかかわらず、多国間の海洋問題の牽引国としての地位を確立しつつある。この2ヵ国は最大の群島国家であり、その中心的な位置は、内水面が世界的に重要であることを意味する。また、世界第1位と第3位の船員供給国でもある。
(9) 中国の強力な海軍力、大規模な商船隊、世界第2位の船員供給力、複数の巨大港湾は、中国を世界的に重要な海洋国家として位置づけているが、中国をCOEに参加させることはないだろう。なぜなら、中国の国家行動、特に海警総隊や海上民兵の行動は、日常的に国際法を無視し、特に近隣諸国の海洋統治義務を弱体化させることを意図した行動を採り、さらに、世界最悪の違法・無規制・無報告の漁業国として、海洋における秩序を損なっているからである。
記事参照:THE UNITED STATES SHOULD ESTABLISH AN INDO-PACIFIC MARITIME GOVERNANCE CENTER OF EXCELLENCE
(1) インド太平洋は海洋安全保障の欠如に苦しんでいる。自然災害、犯罪行為、国家間の緊張は、船員を危険にさらし、沿岸部の共同体の福祉を損ない、地域に災いをもたらしている。シンガポールのInformation Fusion Centre(情報融合センター)は、2023年上半期にこの海域で1,882人の死亡または行方不明が発生していると発表した。こうした悲劇がほとんど議論されないのは、この海域が危険であることが当然とされているからである。しかし、海洋統治のためのインド太平洋中核拠点(Center of Excellence:以下、COEと言う)を設立することで、米国はこの地域の海洋安全の向上に貢献ができる。
(2) 海洋安全保障の欠如は、海洋統治の不備に直結している。国際法は、海洋統治の責任の大部分を国家に負わせており、この地域の海洋安全保障問題のほとんどは、多くの地域国家が必要な水準の統治を提供できないという事実に直結している。海洋統治には、安全規制の施行、天然資源の管理、環境の保護、法執行活動の実施などが含まれる。その欠如は、商業主体が危険な手抜きをする一方で、犯罪者や過激派が自分たちの目的のためにあらゆる隙を突くことを可能にする。同じ隙間は、国家が互いに優位に立とうとする努力において、危険なグレーゾーン戦術を用いることを可能にする。したがって、良好な統治は国際紛争を抑止するための必要条件となる。
(3) この問題の本質を認識した能力の高い国、国際機関、非政府組織はいずれも、地域の海洋統治能力を構築するための活動に積極的に取り組んでいる。しかし、その活動はまちまちで、連携がなく、また、受け入れ国の所要との整合性が取れていないことが多い。したがって、米国は海洋統治COEの設立を主導すべきである。COEは、各国の手本となる実践情報を収集・交換し、独自の調査と分析によってそれらを補強するという知識と行動のハブである。このCOEが提供できる具体的なサービスには、地域の海洋統治の専門家に対する技能研修の提供、研究の支援、能力開発活動の国際的な調整と調整解除の支援、手本となる実践とドクトリンの開発、学んだ教訓の文書化と普及、会議、ワークショップ、机上演習の開催、実地訓練の支援、利害関係者間の実質的な交流の促進などがある。
(4) 2023年7月にシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)と米国のNear East South Asia Center for Security Studies(近東・南アジア安全保障研究センター、NESA)が共催した学術会議で、筆者(John F. Bradford)はQUADが後援する海洋統治COEの具体案を発表した。この案は、集まった有識者から一定の評価を受け、反対意見もなかったため、その内容は会議報告書にまとめられ、米国政府に提出され、その後米下院の国防授権法で、インド太平洋海洋統治COEの実現可能性調査をU.S. Department of Defenseに課すことになっていたが、QUADが後援する海洋統治COEの具体案は削除され、最終的にDaniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies(ダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究センター:以下、DKI APCSSと言う)の活用を含め、地域の海洋安全保障を推進するようU.S. Indo-Pacific Command司令官に指示がなされた。
(5) COEは、資金調達の責任を共有し、志を同じくする国家間の協調的な取り組みであれば、最も効果的である。これは、QUAD、あるいはこの地域における他の4ヵ国間、3ヵ国間あるいは2ヵ国間の提携のいずれでもよい。日本、オーストラリア、インド、英国はすでに、このような提携に関心を示している。米国が指導力を発揮するためには、大規模な資源拠出が必要となるが、その一方で、提携国の政策目標を尊重しつつ、自国の国家目標を達成するために組織を形成することもできる。
(6) DKI APCSSは、U.S. Indo-Pacific Command、Pacific Forum、East-West Center、University of Hawaiiなどとの共同研究の実績がある。DKPI ACPSSがCOEを立ち上げるための資金を提供すれば、研究・教育能力を拡大し、こうした連携の制度化を改善することができるだろう。 しかし、DKI APCSSはU.S. Department of Defenseの組織であるため、インド太平洋地域の軍事・学術に関わる集団以外への訴求力には限界がある。
(7) 全領域的な利害関係者の協力の機会を作るという点では、東京の方が良いだろう。東京は、主に海運、金融、法律における世界的な重要性から、世界で5番目に重要な海事都市に位置付づけられている。また、アジアで最も活発な地域的役割を担う海上保安庁の本部があり、隔年で開催されるGlobal Coast Guard Summit(世界海上保安機関長官級会合)の開催地でもある。強力な海上自衛隊とU.S. 7th Fleetの司令部と主要港も東京湾に位置している。政策研究大学院大学は、国際的な統治能力強化のための研究・研修支援で確かな実績を上げている。特に、海上保安庁と共同で運営されているこの大学の海上安全保障政策プログラムは、教育面で高い評価を得ている。
(8) COEの受け入れ先として、より能力の低い提携国を選ぶことも賢明かもしれない。そうすることで、経費を削減し、グローバル・サウスからの賛同を高め、援助を受ける国がセンター運営に強い発言力を持つことができる。COEをASEAN中心の組織とするのであれば、マニラやジャカルタが適切である。フィリピンとインドネシアは、国内的な海洋統治能力の不足にもかかわらず、多国間の海洋問題の牽引国としての地位を確立しつつある。この2ヵ国は最大の群島国家であり、その中心的な位置は、内水面が世界的に重要であることを意味する。また、世界第1位と第3位の船員供給国でもある。
(9) 中国の強力な海軍力、大規模な商船隊、世界第2位の船員供給力、複数の巨大港湾は、中国を世界的に重要な海洋国家として位置づけているが、中国をCOEに参加させることはないだろう。なぜなら、中国の国家行動、特に海警総隊や海上民兵の行動は、日常的に国際法を無視し、特に近隣諸国の海洋統治義務を弱体化させることを意図した行動を採り、さらに、世界最悪の違法・無規制・無報告の漁業国として、海洋における秩序を損なっているからである。
記事参照:THE UNITED STATES SHOULD ESTABLISH AN INDO-PACIFIC MARITIME GOVERNANCE CENTER OF EXCELLENCE
2月2日「インドは中国による海洋調査活動を警戒せよ―インド・中国専門家論説」(The Diplomat, February 2, 2024)
2月2日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのシンクタンクTakshashila Institution 研究員Anushka Saxenaの“India Has Good Reason to Be Concerned About China’s Maritime Research Vessels”と題する論説を掲載し、そこでAnushka Saxenaはインド洋における中国の海洋科学調査活動はインドの海洋安全保障にとって重大な警戒すべき事象であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2019年9月にIndian Navy は中国の海洋調査船を1隻追い払った。インドのEEZ内で活動していたためである。インドの動きはUNCLOS第246条に従ったものであった。それは、沿岸国の同意なしにそのEEZ内での海洋科学調査の実施を禁じており、そうした同意が「通常の状況」において与えられることが望ましいと規定する。しかし、科学調査と軍事関連活動の境界があいまいなため、「通常の状況」などほとんどありえない。
(2) もっと最近では、海洋調査船「向陽紅03」がモルディブのマレに停泊する可能性について警戒が強まっている。そうした海洋調査船はインド洋において海底地図などを作成する能力を持っているとされ、得られたデータはすべて軍事利用される可能性があり、潜水艦の理想的な配備、敵のジェット戦闘機の離着陸要件など、さまざまなことが明らかになる。それが警戒の元となっている。
(3) また中国の船舶は、自動船舶識別システムを「切」にして「位置を追跡されない」ようにしてきた歴史がある。たとえば2021年11月にインドネシアのEEZ内で「向陽紅03号」が位置を追跡されないように行動したことがある。「向陽紅03」のこの事案は、中国の水中無人機(以下、UUVと言う)がスンダ海峡およびロムボク海峡近傍海域で発見された1ヵ月後のことであった。UUVが発見されたために調査船を派遣したものと考えられる。UUVも「向陽紅03」も海底地形を調査することができ、調査結果は潜水艦の隠密性に大きく関わる情報である。
(4) 過去には「向陽紅03」が、ベンガル湾でSea WingというUUVと共同作業を展開したこともあり、2017年と2019年にもSea Wingは「指定された海域における共同観測」実施のために展開されたことがある。
(5) こうした船舶の建造、運用、監督を行っている機関に注目する必要もある。2017年に発表されたUUVは、中国科学院瀋陽自動化研究所によって開発された。それは民生用ハイテク機器の製造を専門としているが、実際は軍事関連装備の製造にも関わっている。2022年、同研究所について米国は「軍事利用のために米国製物品の調達を試みている」としている。
(6) 2019年以降、中国海洋調査船の活動は、インド洋における他国の海洋調査に影響を及ぼしてきた。軍事戦略的観点から、中国による調査の潜在的な軍民両用について理解することは、インドの海洋安全保障にとって決定的に重要である。また周辺海域でそうした船が停泊する機会を減らすことも重要である。その意味でスリランカが1月5日にEEZ内での調査活動を認めず、かつ船の停泊も認めなかったことは朗報である。他方、モルディブの新大統領の親中姿勢と、インド・モルディブ関係の不安定化はインドの安全保障の懸念材料である。
記事参照:India Has Good Reason to Be Concerned About China’s Maritime Research Vessels
(1) 2019年9月にIndian Navy は中国の海洋調査船を1隻追い払った。インドのEEZ内で活動していたためである。インドの動きはUNCLOS第246条に従ったものであった。それは、沿岸国の同意なしにそのEEZ内での海洋科学調査の実施を禁じており、そうした同意が「通常の状況」において与えられることが望ましいと規定する。しかし、科学調査と軍事関連活動の境界があいまいなため、「通常の状況」などほとんどありえない。
(2) もっと最近では、海洋調査船「向陽紅03」がモルディブのマレに停泊する可能性について警戒が強まっている。そうした海洋調査船はインド洋において海底地図などを作成する能力を持っているとされ、得られたデータはすべて軍事利用される可能性があり、潜水艦の理想的な配備、敵のジェット戦闘機の離着陸要件など、さまざまなことが明らかになる。それが警戒の元となっている。
(3) また中国の船舶は、自動船舶識別システムを「切」にして「位置を追跡されない」ようにしてきた歴史がある。たとえば2021年11月にインドネシアのEEZ内で「向陽紅03号」が位置を追跡されないように行動したことがある。「向陽紅03」のこの事案は、中国の水中無人機(以下、UUVと言う)がスンダ海峡およびロムボク海峡近傍海域で発見された1ヵ月後のことであった。UUVが発見されたために調査船を派遣したものと考えられる。UUVも「向陽紅03」も海底地形を調査することができ、調査結果は潜水艦の隠密性に大きく関わる情報である。
(4) 過去には「向陽紅03」が、ベンガル湾でSea WingというUUVと共同作業を展開したこともあり、2017年と2019年にもSea Wingは「指定された海域における共同観測」実施のために展開されたことがある。
(5) こうした船舶の建造、運用、監督を行っている機関に注目する必要もある。2017年に発表されたUUVは、中国科学院瀋陽自動化研究所によって開発された。それは民生用ハイテク機器の製造を専門としているが、実際は軍事関連装備の製造にも関わっている。2022年、同研究所について米国は「軍事利用のために米国製物品の調達を試みている」としている。
(6) 2019年以降、中国海洋調査船の活動は、インド洋における他国の海洋調査に影響を及ぼしてきた。軍事戦略的観点から、中国による調査の潜在的な軍民両用について理解することは、インドの海洋安全保障にとって決定的に重要である。また周辺海域でそうした船が停泊する機会を減らすことも重要である。その意味でスリランカが1月5日にEEZ内での調査活動を認めず、かつ船の停泊も認めなかったことは朗報である。他方、モルディブの新大統領の親中姿勢と、インド・モルディブ関係の不安定化はインドの安全保障の懸念材料である。
記事参照:India Has Good Reason to Be Concerned About China’s Maritime Research Vessels
2月6日「フィリピン・ベトナム間の沿岸警備隊協力合意の意義―香港アジア問題専門家論説」(Think China, February 6, 2024)
2月6日付のシンガポールの英字eマガジンThink China は、香港亜州研究中心所長の彭念による“Philippine President Marcos Jr's visit to Vietnam: Creating a 'united front' over South China Sea issue?”と題する論説を掲載し、そこで彭念はフィリピンのMarcos Jr.大統領がベトナムを訪問し、両国沿岸警備隊間の協力に関する合意を結んだことに言及し、その意義について、一定の成功とは言えるが、南シナ海論争におけるASEANの対中国「統一戦線」の結成とは言い難いとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1月29日、フィリピンのMarcos Jr.大統領が初めての公式訪問としてベトナムを訪れた。そこで両国は、南シナ海における予期せぬ事件を回避し、沿岸警備隊の協力を拡大する合意に署名したと報じられている。フィリピンは南シナ海における中国の主張に対抗するためにASEANの領有権主張国との「統一戦線」の構築を模索しているため、これは幸先の良い出発とみなされている。
(2) ASEAN諸国の間では、さらに海洋協力を拡大させる動きが見られる。Marcos Jr.大統領のベトナム訪問前には、インドネシアのJoko Widodo大統領が南シナ海論争の領有権主張国フィリピン、ベトナム、ブルネイを訪れている。2023年9月にはインドネシアはASEANの国々と初めての共同軍事演習を実施した。南シナ海での緊張が高まるなか、行動能力を強化し、ASEANの中心性を確固たるものにしようとしているのは明らかである。
(3) しかし、Marcos Jr.大統領のベトナム訪問とフィリピン・ベトナム間の合意の重要性は過大評価されるべきではない。南シナ海の領有権主張国の間での海洋協力の促進は珍しいことではなく、たとえば中国とベトナムも沿岸警備隊に関する合意を結んでおり、トンキン湾での共同哨戒を実施している。
(4) もっと重要な点として、ベトナムはこれまでフィリピンとの海洋協力に関して慎重な姿勢を採ってきたことを指摘しておきたい。たとえば2023年11月にMarcos Jr.大統領が、南シナ海における行動規範(COC)に関して個別の議論を呼びかけたが、ベトナムはそれに反応していない。したがって今回の沿岸警備隊の協力に関する合意が、南シナ海論争におけるベトナムによるフィリピンへの支持を意味するわけではない。ベトナムの目的は、中国を怒らせることなく、海洋での行動能力を高めるために、あらゆる提携国との協力を拡大することにある。
(5) フィリピン、ベトナムの協議にはCOCに関するものも含まれたと見られたが、それについての合意が発表されることはなかった。この両国は、COCの意義について必ずしも同じ意見というわけではない。フィリピンは南沙諸島、ベトナムは西沙諸島に焦点を当てているためである。またフィリピンは米国など域外勢力の介入を歓迎するが、ベトナムはそれによって緊張が高まることを警戒している。
(6) Marcos Jr.大統領はほかに、Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に、沿岸諸国の大陸棚の限界に関する意見書の共同提出を提案した。これについてもベトナムは正式に返事をしていない。2009年にベトナムはマレーシアとそうした共同提出をしたが、中国の反対を受け承認されなかった。それ以来ベトナムは意見書の共同提出をしていない。今回のフィリピンによる提案をベトナムが受け入れる可能性は低い。
(7) Marcos Jr.大統領のベトナム訪問と海洋協力に関する合意は一定の成功と見られるだろうが、「統一戦線」の形成にはほど遠いものである。
記事参照:Philippine President Marcos Jr's visit to Vietnam: Creating a 'united front' over South China Sea issue?
(1) 1月29日、フィリピンのMarcos Jr.大統領が初めての公式訪問としてベトナムを訪れた。そこで両国は、南シナ海における予期せぬ事件を回避し、沿岸警備隊の協力を拡大する合意に署名したと報じられている。フィリピンは南シナ海における中国の主張に対抗するためにASEANの領有権主張国との「統一戦線」の構築を模索しているため、これは幸先の良い出発とみなされている。
(2) ASEAN諸国の間では、さらに海洋協力を拡大させる動きが見られる。Marcos Jr.大統領のベトナム訪問前には、インドネシアのJoko Widodo大統領が南シナ海論争の領有権主張国フィリピン、ベトナム、ブルネイを訪れている。2023年9月にはインドネシアはASEANの国々と初めての共同軍事演習を実施した。南シナ海での緊張が高まるなか、行動能力を強化し、ASEANの中心性を確固たるものにしようとしているのは明らかである。
(3) しかし、Marcos Jr.大統領のベトナム訪問とフィリピン・ベトナム間の合意の重要性は過大評価されるべきではない。南シナ海の領有権主張国の間での海洋協力の促進は珍しいことではなく、たとえば中国とベトナムも沿岸警備隊に関する合意を結んでおり、トンキン湾での共同哨戒を実施している。
(4) もっと重要な点として、ベトナムはこれまでフィリピンとの海洋協力に関して慎重な姿勢を採ってきたことを指摘しておきたい。たとえば2023年11月にMarcos Jr.大統領が、南シナ海における行動規範(COC)に関して個別の議論を呼びかけたが、ベトナムはそれに反応していない。したがって今回の沿岸警備隊の協力に関する合意が、南シナ海論争におけるベトナムによるフィリピンへの支持を意味するわけではない。ベトナムの目的は、中国を怒らせることなく、海洋での行動能力を高めるために、あらゆる提携国との協力を拡大することにある。
(5) フィリピン、ベトナムの協議にはCOCに関するものも含まれたと見られたが、それについての合意が発表されることはなかった。この両国は、COCの意義について必ずしも同じ意見というわけではない。フィリピンは南沙諸島、ベトナムは西沙諸島に焦点を当てているためである。またフィリピンは米国など域外勢力の介入を歓迎するが、ベトナムはそれによって緊張が高まることを警戒している。
(6) Marcos Jr.大統領はほかに、Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に、沿岸諸国の大陸棚の限界に関する意見書の共同提出を提案した。これについてもベトナムは正式に返事をしていない。2009年にベトナムはマレーシアとそうした共同提出をしたが、中国の反対を受け承認されなかった。それ以来ベトナムは意見書の共同提出をしていない。今回のフィリピンによる提案をベトナムが受け入れる可能性は低い。
(7) Marcos Jr.大統領のベトナム訪問と海洋協力に関する合意は一定の成功と見られるだろうが、「統一戦線」の形成にはほど遠いものである。
記事参照:Philippine President Marcos Jr's visit to Vietnam: Creating a 'united front' over South China Sea issue?
2月6日「中国は剣を抜く勇気を持つべきである―中国南シナ海問題専門家論説」(Global Times, February 6, 2024)
2月6日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は、中国南海研究院院長呉士存の“China should have the courage to unsheathe the sword when necessary in South China Sea”と題する論説を掲載し、そこで呉士存は米国という域外勢力の介入の強化やフィリピンなどによる中国の権利侵害行為が強まっていることを受け、2024年は南シナ海情勢が悪化の一途をたどるだろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年は、南シナ海の状況が解決困難な様相を呈するかもしれない。その原因の1つは、米国が南シナ海問題を中国封じ込めに利用していることである。もう1つは、フィリピンなどが南シナ海問題に対して新たな取り組みを採り、一方的に侵害行為を続けていることである。また、以下に示すように、南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)に関する交渉を頓挫させる要因がいくつもあることも、南シナ海の状況悪化の要因である。
(2) 第1に、米国の南シナ海政策、南シナ海の軍事化の推奨である。2020年7月、当時の米国務長官Michael Pompeoは南シナ海政策に関する声明を発し、南シナ海論争についていかなる立場も採らないという従来の姿勢からの転換を表明した。現在、米国は中国に対する他国の権利侵害行為を支持し、中国によるあらゆる行動に反対している。また米国はフィリピンとの軍事協力を進めるなど、新たに戦略的環境を形成するための取り組みを採用し始めている。
(3) 第2に、領有権主張国の侵害行為の多様化、日常化、そして長期化が中国に難題を突き付けている。フィリピンはセカンド・トーマス礁で挑発的な事案を繰り返し、南シナ海の状況を拡大させている。第3に、米国の関与の深まりが中比関係を悪化させている。前例のない段階での米比間の軍事協力の強化により、安定的な中比関係の持続と協議を通じた南シナ海の論争の解決を困難にしている。
(4) 第4に、領有権主張国の利害が様々に異なることで共通の土台が構築されず、歩み寄りが困難になっている。2023年7月にASEAN・中国外相会談は、COCの早期締結に向けた指針を採択したが、それはむしろ、適用範囲や第三国の関与などについての意見の違いを浮き彫りにした。第5に、南シナ海論争における認知戦がこの先の焦点になっていくであろう。
(5) こうした状況において中国がすべきことは忍従だけでなく、自国の権利を守るために、場合によっては剣を抜く勇気、そして、あらゆる挑発行為に対抗できるだけの力を持つことである。
記事参照:China should have the courage to unsheathe the sword when necessary in South China Sea
(1) 2024年は、南シナ海の状況が解決困難な様相を呈するかもしれない。その原因の1つは、米国が南シナ海問題を中国封じ込めに利用していることである。もう1つは、フィリピンなどが南シナ海問題に対して新たな取り組みを採り、一方的に侵害行為を続けていることである。また、以下に示すように、南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)に関する交渉を頓挫させる要因がいくつもあることも、南シナ海の状況悪化の要因である。
(2) 第1に、米国の南シナ海政策、南シナ海の軍事化の推奨である。2020年7月、当時の米国務長官Michael Pompeoは南シナ海政策に関する声明を発し、南シナ海論争についていかなる立場も採らないという従来の姿勢からの転換を表明した。現在、米国は中国に対する他国の権利侵害行為を支持し、中国によるあらゆる行動に反対している。また米国はフィリピンとの軍事協力を進めるなど、新たに戦略的環境を形成するための取り組みを採用し始めている。
(3) 第2に、領有権主張国の侵害行為の多様化、日常化、そして長期化が中国に難題を突き付けている。フィリピンはセカンド・トーマス礁で挑発的な事案を繰り返し、南シナ海の状況を拡大させている。第3に、米国の関与の深まりが中比関係を悪化させている。前例のない段階での米比間の軍事協力の強化により、安定的な中比関係の持続と協議を通じた南シナ海の論争の解決を困難にしている。
(4) 第4に、領有権主張国の利害が様々に異なることで共通の土台が構築されず、歩み寄りが困難になっている。2023年7月にASEAN・中国外相会談は、COCの早期締結に向けた指針を採択したが、それはむしろ、適用範囲や第三国の関与などについての意見の違いを浮き彫りにした。第5に、南シナ海論争における認知戦がこの先の焦点になっていくであろう。
(5) こうした状況において中国がすべきことは忍従だけでなく、自国の権利を守るために、場合によっては剣を抜く勇気、そして、あらゆる挑発行為に対抗できるだけの力を持つことである。
記事参照:China should have the courage to unsheathe the sword when necessary in South China Sea
2月7日「フーシ派の次の標的は海底かもしれない―米オンライン誌報道」(Foreign Policy, February 7, 2024)
2月7日付の米政策・外交関連オンライン誌Foreign Policyは、“The Houthis’ Next Target May Be Underwater”と題する記事を掲載し、ここでフーシ派がヨーロッパとアジアを結ぶデータ通信と金融通信を担う海底ケーブルを標的にするかもしれないとして、要旨以下のように報じている。
(1) イランに支援されたイエメンのフーシ派武装勢力が紅海の重要な海運回廊を寸断する作戦を12週間も続けている最中、新たにヨーロッパとアジアを結ぶデータ通信と金融通信を担う海底ケーブルを標的にするかもしれないという懸念が現れた。それは海底基幹施設とその潜在的な脆弱性が、世界の安全保障において重要になりつつあることを示している。
(2) 12月下旬、フーシ派武装勢力とつながりのあるアカウントが、イエメン西部のバブ・エル・マンデブ海峡に張り巡らされた数十本の光ファイバー・ケーブルに対する脅迫をSNSに投稿した。近年、海底の重要な基幹施設はグレーゾーンの戦場の一部となっており、ロシアがバルト海や北海で近隣諸国を脅かし、2022年9月にロシアとドイツを結ぶガスパイプラインが謎の爆破を受け、2023年秋にはバルト海東部のエネルギー・データリンクが被害を受けた。
(3) 紅海の海底ケーブルに対する脅威は、今のところ事件につながっていないが、その標的の中心性は明らかである。通信市場調査会社TeleGeographyの副社長Timothy Strongeは次のように述べている。「インターネットだけでなく、金融取引や銀行間送金など国際通信のために想像できることは、ほとんどすべて海底ケーブルに触れている。紅海の海底ケーブルは、ヨーロッパとアジアを結ぶ上で非常に重要である。」
(4) フーシ派が実際に海底ケーブルに損害を与える能力を持っているかについて、Brookings InstituteのBruce Jonesが「フーシ派はイランによる支援を受けており、イラン政府は西側諸国や湾岸諸国の利益を攻撃するための地域的な代理人として利用している。たとえフーシ派自体に能力がなかったとしても、イランは違うかもしれない」と述べている。
(5) イランにその能力があるのか、そしてイラン側がそのような行動に出るのかが問題となるが、海底ケーブルが浅瀬に敷設されている場所では、海底ケーブルを損傷させるために最新技術を必要としない単純な方法も考えられる。Timothy Strongeによれば、「海底ケーブルに関わる事故の約3分の2は人為的なもので、その多くは漁船や商船が錨を海底で引きずることによる」ものだという。このような手法によって、フーシ派は一部の海底ケーブルを部分的に損傷させることができるかもしれない。
(6) 通常であれば、それは大きな問題にはならない。米国をはじめとするほとんどの国は、重要な海底データリンクに障害が発生した場合に対処できるよう、ケーブル修理船を常備している。しかし、紅海ではフーシ派による嫌がらせが続いているため、修理船が数日間も停泊して損傷したケーブルを修理することは不可能となる。一方で、ノルド・ストリーム・パイプラインやバルト海コネクターのような海底のエネルギー基幹施設との大きな違いは、海底データリンクは石油やガスよりも仮想トラフィックを移動させる選択肢が多いということである。これについてTimothy Strongeは、「ケーブルは個々には極めて脆弱だが、全体としてはシステムに多くの回復力が組み込まれている。十分に接続された国を完全に切断するのは極めて難しい。一度にすべてを破壊するには、非常に高度で組織的な攻撃が必要」と述べている。
(7) 防衛計画者や安全保障問題専門家の間で、世界中の巨大な海底基幹施設システムの重要性と脆弱性が認識されつつある。石油やガスのパイプラインは急増し、海底データリンクは近年飛躍的に成長し、デジタル伝送の急激な需要に対応するため、今年と来年はさらに目を見張る成長を遂げようとしている。海底を兵器化することは、まったく目新しいことではない。世界経済における海底インフラの重要性の高まりは、海上連絡線を守るという従来の海軍の任務の再考を迫っている。
(8) ドイツのKiel UniversityのCenter for Maritime Strategy and SecurityおよびInstitute for Security Policyの海軍専門家Sebastian Brunsは、古典的な海底を利用した通信手段は今でも重要だが、それは多次元的な問題に変わってきている。このため昔ながらの貨物船を軍艦で護衛するようなシステムは、十分な効果を発揮しないと述べている。
(9) NATOは昨年、ノルド・ストリーム攻撃を受け、重要な海底基幹施設の保護を調整するための新しいセルを設置した。海軍のアナリストたちは、こうした資産を保護することは、特にヨーロッパのインフラが密集する海域では、海軍にとってますます重要な任務となると見ている。Hague Center for Strategic Studiesは新たな報告書を発表し、海底基幹施設監視に特化した無人水中船の開発が欧州海軍にとって重要性を増していることを強調するとともに、欧州の海軍が紅海を含む欧州への重要な「接近路」海域の保護を優先する必要性を強調した。この報告書は「保護任務は著しく進化した。重要基幹施設の仕事がゲームに加わった」とも述べている。
(10) Bruce Jonesは、「これまでのところ、この新たな任務の焦点の多くは、特にノルド・ストリームやその他の事件を受けて、非常に脆弱なエネルギー・パイプラインに当てられているが、海底世界の本当に潜在的な弱点はデータリンクだ。はっきりしていることは、海底金融ケーブルはグローバリゼーションの最も重要な通信網であり、最も脆弱な通信網でもある」と述べている。
記事参照:The Houthis’ Next Target May Be Underwater
(1) イランに支援されたイエメンのフーシ派武装勢力が紅海の重要な海運回廊を寸断する作戦を12週間も続けている最中、新たにヨーロッパとアジアを結ぶデータ通信と金融通信を担う海底ケーブルを標的にするかもしれないという懸念が現れた。それは海底基幹施設とその潜在的な脆弱性が、世界の安全保障において重要になりつつあることを示している。
(2) 12月下旬、フーシ派武装勢力とつながりのあるアカウントが、イエメン西部のバブ・エル・マンデブ海峡に張り巡らされた数十本の光ファイバー・ケーブルに対する脅迫をSNSに投稿した。近年、海底の重要な基幹施設はグレーゾーンの戦場の一部となっており、ロシアがバルト海や北海で近隣諸国を脅かし、2022年9月にロシアとドイツを結ぶガスパイプラインが謎の爆破を受け、2023年秋にはバルト海東部のエネルギー・データリンクが被害を受けた。
(3) 紅海の海底ケーブルに対する脅威は、今のところ事件につながっていないが、その標的の中心性は明らかである。通信市場調査会社TeleGeographyの副社長Timothy Strongeは次のように述べている。「インターネットだけでなく、金融取引や銀行間送金など国際通信のために想像できることは、ほとんどすべて海底ケーブルに触れている。紅海の海底ケーブルは、ヨーロッパとアジアを結ぶ上で非常に重要である。」
(4) フーシ派が実際に海底ケーブルに損害を与える能力を持っているかについて、Brookings InstituteのBruce Jonesが「フーシ派はイランによる支援を受けており、イラン政府は西側諸国や湾岸諸国の利益を攻撃するための地域的な代理人として利用している。たとえフーシ派自体に能力がなかったとしても、イランは違うかもしれない」と述べている。
(5) イランにその能力があるのか、そしてイラン側がそのような行動に出るのかが問題となるが、海底ケーブルが浅瀬に敷設されている場所では、海底ケーブルを損傷させるために最新技術を必要としない単純な方法も考えられる。Timothy Strongeによれば、「海底ケーブルに関わる事故の約3分の2は人為的なもので、その多くは漁船や商船が錨を海底で引きずることによる」ものだという。このような手法によって、フーシ派は一部の海底ケーブルを部分的に損傷させることができるかもしれない。
(6) 通常であれば、それは大きな問題にはならない。米国をはじめとするほとんどの国は、重要な海底データリンクに障害が発生した場合に対処できるよう、ケーブル修理船を常備している。しかし、紅海ではフーシ派による嫌がらせが続いているため、修理船が数日間も停泊して損傷したケーブルを修理することは不可能となる。一方で、ノルド・ストリーム・パイプラインやバルト海コネクターのような海底のエネルギー基幹施設との大きな違いは、海底データリンクは石油やガスよりも仮想トラフィックを移動させる選択肢が多いということである。これについてTimothy Strongeは、「ケーブルは個々には極めて脆弱だが、全体としてはシステムに多くの回復力が組み込まれている。十分に接続された国を完全に切断するのは極めて難しい。一度にすべてを破壊するには、非常に高度で組織的な攻撃が必要」と述べている。
(7) 防衛計画者や安全保障問題専門家の間で、世界中の巨大な海底基幹施設システムの重要性と脆弱性が認識されつつある。石油やガスのパイプラインは急増し、海底データリンクは近年飛躍的に成長し、デジタル伝送の急激な需要に対応するため、今年と来年はさらに目を見張る成長を遂げようとしている。海底を兵器化することは、まったく目新しいことではない。世界経済における海底インフラの重要性の高まりは、海上連絡線を守るという従来の海軍の任務の再考を迫っている。
(8) ドイツのKiel UniversityのCenter for Maritime Strategy and SecurityおよびInstitute for Security Policyの海軍専門家Sebastian Brunsは、古典的な海底を利用した通信手段は今でも重要だが、それは多次元的な問題に変わってきている。このため昔ながらの貨物船を軍艦で護衛するようなシステムは、十分な効果を発揮しないと述べている。
(9) NATOは昨年、ノルド・ストリーム攻撃を受け、重要な海底基幹施設の保護を調整するための新しいセルを設置した。海軍のアナリストたちは、こうした資産を保護することは、特にヨーロッパのインフラが密集する海域では、海軍にとってますます重要な任務となると見ている。Hague Center for Strategic Studiesは新たな報告書を発表し、海底基幹施設監視に特化した無人水中船の開発が欧州海軍にとって重要性を増していることを強調するとともに、欧州の海軍が紅海を含む欧州への重要な「接近路」海域の保護を優先する必要性を強調した。この報告書は「保護任務は著しく進化した。重要基幹施設の仕事がゲームに加わった」とも述べている。
(10) Bruce Jonesは、「これまでのところ、この新たな任務の焦点の多くは、特にノルド・ストリームやその他の事件を受けて、非常に脆弱なエネルギー・パイプラインに当てられているが、海底世界の本当に潜在的な弱点はデータリンクだ。はっきりしていることは、海底金融ケーブルはグローバリゼーションの最も重要な通信網であり、最も脆弱な通信網でもある」と述べている。
記事参照:The Houthis’ Next Target May Be Underwater
2月8日「インド太平洋における海底ケーブル保護に関するQUAD協力のための政策提言―UAE・インド専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, February 8, 2024)
2月8日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのPacific Forumが発行するPacNet Commentary は、アラブ首長国連邦Khalifa University国際安全保障の助教授 Brendon J. Cannon博士とインドのRastriya Raksha University の国防・戦略研究部助教授Pooja Bhatt博士の〝Policy recommendations for QUAD cooperation on submarine cable protection in the Indo-Pacific″と題する論説を掲載し、両名は、QUADが海底ケーブル保護のために、ケーブル修理船の共同賃貸をはじめとする産業界との連携、国際機関加盟や国際法の遵守、その他の対策を採ることについて、要旨以下のように提言している。
(1) 海底ケーブルは200年以上前から海中に存在し、これを用いた電気通信とインターネット接続は、国の安定と発展に極めて重要であり、遅延が少なく帯域幅が広いことからケーブルが最適と言える。しかし、国家安全保障の観点からのケーブル保護をめぐる議論は比較的新しく、インド太平洋における大国間の対立の激化や、2023年11月にバルト海でケーブルを損傷させた中国の「新新北極熊(Newnew Polar Bear)」のような事故が重なったことで注目されている。世界的な緊張の高まりを背景に、海底ケーブルに対する脅威が増していると考えたQUAD参加の日米豪印4ヵ国は、2023年5月にインド太平洋におけるケーブルの保護に関する協力の枠組みを確立した。本稿では、QUADの取り組みに関連する課題等への対処を目的とした政策提言を提供する。これらは単なる願望ではなく、実用的で、QUADとして総合的に達成可能なものを示している。
(2) ケーブルの敷設や修理を行うケーブル修理船は現在約60隻しかない。英国企業と約4年間の光海底ケーブル敷設船の傭船契約を結んだNEC Japan のような提携企業と協力して、QUADがケーブル修理船を賃貸借すれば、資源を共同で利用することができる。この提言は政治的に安全で、業界の利益にも合致している。
(3) QUAD構想は、既存の海底ケーブルの手配を優先するが、可能であれば地元の業界と協力して地元の所要に応えるべきである。画一的な取り組みは機能せず、地元や地域の取り決めと整合の取れた支援をするべきである。小規模な事業者等とも協力することで、たとえば小島嶼国の地域住民の利益に、より適切に対応することができる。
(4) 海底ケーブルの敷設や修理は、ほとんどが民間事業者によって行われているため、QUAD各国の省庁や業界の提携企業がInternational Cable Protection Committee(国際ケーブル保護委員会:以下、ICPCと言う)に加入するよう奨励すべきである。海底ケーブルの損傷を防ぎ、信頼性を向上させるというICPCの使命は、会員数の増加によってさらに強化される。
(5) UNCLOS第113条は条約締約国に対し、故意または過失による海底ケーブルの「破損または損傷」を処罰の対象とする国内法の制定を求めている。領海外で国際ケーブルを運用、維持、修理する自由に関するUNCLOSの規定は、すべての国が遵守しなければならない。QUAD各国は、国家の法的体制と義務を明確にするため、UNCLOSを維持・更新する取り組みを始めるべきであり、米国は(最終的に)UNCLOSを批准すべきである。
(6) 海底ケーブルを世界共通にすれば、グローバル・サウスへの働きかけに重点を置くことができる。「Protect Our Cables」運動を展開することで、ケーブル保護に関する規範を発展させ、妨害行為やその他の悪質な行為が禁忌事項になる可能性がある。このような観点から、日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と「自由で開かれた国際秩序(FOIO)」を反映した基本的な規則を策定することができる。そのために、「悪意のあるケーブル攻撃は、私たち全員に害を及ぼす」という趣旨を送ることが重要で、これは、歴史と資格を考慮すると、QUAD参加のインドと日本がより効果的に行うことができる。
(7) 海底ケーブルに対する諜報の脅威は、大国間の対立と連動して増大している。諜報活動がQUAD参加国の国家安全保障に明らかな危険をもたらすという点では、合意が得られている。諜報活動の脅威を考えると、日本とインドはこの脅威を軽減するために、通信を暗号化するべきである。米国とオーストラリアを含む情報共有枠組みであるファイブ・アイズは既に実施している。国家安全保障上の機密性や慣行を考慮すれば、この分野での共同は、QUADでは非現実的かもしれないが、サイバーセキュリティ政策と運用における基本的な「最良の実践」を共有することは、QUADの集団安全保障に向けた重要な第一歩となるかもしれない。
(8) ある報告書が強く主張しているように、集団的安全保障を追求するために、対潜水艦戦や防衛産業・技術協力のような分野で資源や技術を共有することは、現在のQUADには不可能である。QUADは非公式な政府間組織であるが、インドとアメリカが協力するには、現在のところ、これが唯一の実行可能な形式である。情報共有や限定的な防衛産業・技術協力は可能になりつつあるが、これらは2国間レベルでしか追求できない。冷戦時代に米国の水中監視システムが日本に提供されたように、このような技術がもたらす最終的な「安全保障の傘」を共有することは可能かもしれないが、技術のすべてが共有されることはないであろう。したがって、QUADが理論上の軍事同盟に進化する前に、機密性の高い分野での技術共有や研究開発を実施しようとするのではなく、QUADがケーブル保護に関して達成可能で、現在最も影響力のあるものに焦点を当てることを政策的に推奨する。これは、各参加国が中国からの脅威をどの程度認識しているかにかかっている。
(9) ケーブルの供給と敷設におけるアメリカ、フランス、日本の優位性は、中国が「中国の通信網」を確立することを困難にしている。2021年以降のアメリカの取り組みは、中国がケーブル網の首位に立つ可能性を低下させており、QUADはこれを支援できる。しかし、慎重な状況判断が求められるであろう。QUADは実現可能性調査を優先し、地元企業や政府と関わり、Googleのような大規模多国籍企業等に、地元企業に下請け業務を委託するよう圧力をかけることを提言する。
(10) 国家主体等による悪質なケーブル攻撃が若干増加しているが、最近、世界中でケーブルへの関心が高まったため、このような事件が必要以上に誇張される恐れがある。QUADによる海底ケーブルの安全保障を必要とする者として枠に嵌める安全保障化は、誤った思い込みを現実のものとすることかもしれない。とはいえ、中国以外では民間の手に委ねられてきた堅調な産業を安全保障化した結果は、利得より失うものの方が大きいかもしれない。
(11) オーストラリアは、確固とした法律、規制、政策措置によって海底ケーブルの保護を牽引しており、いわゆる「優秀な模範(golden standard)」となっている。しかし、オーストラリアの地理的条件ではこれが可能であるが、たとえば、日本やインドには当てはまらない。QUAD参加国は、オーストラリアのケーブル規格を参考にしつつも、それぞれの地理的条件、官民の枠組み、法制度に適合した個別のケーブル保護体制を構築するよう推奨する。
(12) QUAD参加国は、海底ケーブル保護に関する協力のための連絡窓口を指定すべきである。インドまたはオーストラリアの単一窓口を通じた省庁間協力は、たとえばケーブル妨害行為の迅速な解決を促進するだけでなく、提携国間で従うべき標準運用手順を策定することで、強固で効率的なインド太平洋の枠組みの構築につながる。
(13) 地政学的な緊張が高まる中、世界的接続のために重要な役割を果たす海底ケーブルの保護という新たな取り組みが必要となっている。現実的政策提言としては、産業界との協力、国際協定の遵守、達成可能な目標への集中を強調している。本稿では、QUADについて、非公式な位置付けのため、海底ケーブルの保護に関しても達成できることには制約があるとしつつも、安全保障グループとしての有効性、結束力、抑止力としての価値や地域におけるQUADの将来について、既存の文献を補足・精緻化しており、有用な分析である。
記事参照:Policy recommendations for Quad cooperation on submarine cable protection in the Indo-Pacific
(1) 海底ケーブルは200年以上前から海中に存在し、これを用いた電気通信とインターネット接続は、国の安定と発展に極めて重要であり、遅延が少なく帯域幅が広いことからケーブルが最適と言える。しかし、国家安全保障の観点からのケーブル保護をめぐる議論は比較的新しく、インド太平洋における大国間の対立の激化や、2023年11月にバルト海でケーブルを損傷させた中国の「新新北極熊(Newnew Polar Bear)」のような事故が重なったことで注目されている。世界的な緊張の高まりを背景に、海底ケーブルに対する脅威が増していると考えたQUAD参加の日米豪印4ヵ国は、2023年5月にインド太平洋におけるケーブルの保護に関する協力の枠組みを確立した。本稿では、QUADの取り組みに関連する課題等への対処を目的とした政策提言を提供する。これらは単なる願望ではなく、実用的で、QUADとして総合的に達成可能なものを示している。
(2) ケーブルの敷設や修理を行うケーブル修理船は現在約60隻しかない。英国企業と約4年間の光海底ケーブル敷設船の傭船契約を結んだNEC Japan のような提携企業と協力して、QUADがケーブル修理船を賃貸借すれば、資源を共同で利用することができる。この提言は政治的に安全で、業界の利益にも合致している。
(3) QUAD構想は、既存の海底ケーブルの手配を優先するが、可能であれば地元の業界と協力して地元の所要に応えるべきである。画一的な取り組みは機能せず、地元や地域の取り決めと整合の取れた支援をするべきである。小規模な事業者等とも協力することで、たとえば小島嶼国の地域住民の利益に、より適切に対応することができる。
(4) 海底ケーブルの敷設や修理は、ほとんどが民間事業者によって行われているため、QUAD各国の省庁や業界の提携企業がInternational Cable Protection Committee(国際ケーブル保護委員会:以下、ICPCと言う)に加入するよう奨励すべきである。海底ケーブルの損傷を防ぎ、信頼性を向上させるというICPCの使命は、会員数の増加によってさらに強化される。
(5) UNCLOS第113条は条約締約国に対し、故意または過失による海底ケーブルの「破損または損傷」を処罰の対象とする国内法の制定を求めている。領海外で国際ケーブルを運用、維持、修理する自由に関するUNCLOSの規定は、すべての国が遵守しなければならない。QUAD各国は、国家の法的体制と義務を明確にするため、UNCLOSを維持・更新する取り組みを始めるべきであり、米国は(最終的に)UNCLOSを批准すべきである。
(6) 海底ケーブルを世界共通にすれば、グローバル・サウスへの働きかけに重点を置くことができる。「Protect Our Cables」運動を展開することで、ケーブル保護に関する規範を発展させ、妨害行為やその他の悪質な行為が禁忌事項になる可能性がある。このような観点から、日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と「自由で開かれた国際秩序(FOIO)」を反映した基本的な規則を策定することができる。そのために、「悪意のあるケーブル攻撃は、私たち全員に害を及ぼす」という趣旨を送ることが重要で、これは、歴史と資格を考慮すると、QUAD参加のインドと日本がより効果的に行うことができる。
(7) 海底ケーブルに対する諜報の脅威は、大国間の対立と連動して増大している。諜報活動がQUAD参加国の国家安全保障に明らかな危険をもたらすという点では、合意が得られている。諜報活動の脅威を考えると、日本とインドはこの脅威を軽減するために、通信を暗号化するべきである。米国とオーストラリアを含む情報共有枠組みであるファイブ・アイズは既に実施している。国家安全保障上の機密性や慣行を考慮すれば、この分野での共同は、QUADでは非現実的かもしれないが、サイバーセキュリティ政策と運用における基本的な「最良の実践」を共有することは、QUADの集団安全保障に向けた重要な第一歩となるかもしれない。
(8) ある報告書が強く主張しているように、集団的安全保障を追求するために、対潜水艦戦や防衛産業・技術協力のような分野で資源や技術を共有することは、現在のQUADには不可能である。QUADは非公式な政府間組織であるが、インドとアメリカが協力するには、現在のところ、これが唯一の実行可能な形式である。情報共有や限定的な防衛産業・技術協力は可能になりつつあるが、これらは2国間レベルでしか追求できない。冷戦時代に米国の水中監視システムが日本に提供されたように、このような技術がもたらす最終的な「安全保障の傘」を共有することは可能かもしれないが、技術のすべてが共有されることはないであろう。したがって、QUADが理論上の軍事同盟に進化する前に、機密性の高い分野での技術共有や研究開発を実施しようとするのではなく、QUADがケーブル保護に関して達成可能で、現在最も影響力のあるものに焦点を当てることを政策的に推奨する。これは、各参加国が中国からの脅威をどの程度認識しているかにかかっている。
(9) ケーブルの供給と敷設におけるアメリカ、フランス、日本の優位性は、中国が「中国の通信網」を確立することを困難にしている。2021年以降のアメリカの取り組みは、中国がケーブル網の首位に立つ可能性を低下させており、QUADはこれを支援できる。しかし、慎重な状況判断が求められるであろう。QUADは実現可能性調査を優先し、地元企業や政府と関わり、Googleのような大規模多国籍企業等に、地元企業に下請け業務を委託するよう圧力をかけることを提言する。
(10) 国家主体等による悪質なケーブル攻撃が若干増加しているが、最近、世界中でケーブルへの関心が高まったため、このような事件が必要以上に誇張される恐れがある。QUADによる海底ケーブルの安全保障を必要とする者として枠に嵌める安全保障化は、誤った思い込みを現実のものとすることかもしれない。とはいえ、中国以外では民間の手に委ねられてきた堅調な産業を安全保障化した結果は、利得より失うものの方が大きいかもしれない。
(11) オーストラリアは、確固とした法律、規制、政策措置によって海底ケーブルの保護を牽引しており、いわゆる「優秀な模範(golden standard)」となっている。しかし、オーストラリアの地理的条件ではこれが可能であるが、たとえば、日本やインドには当てはまらない。QUAD参加国は、オーストラリアのケーブル規格を参考にしつつも、それぞれの地理的条件、官民の枠組み、法制度に適合した個別のケーブル保護体制を構築するよう推奨する。
(12) QUAD参加国は、海底ケーブル保護に関する協力のための連絡窓口を指定すべきである。インドまたはオーストラリアの単一窓口を通じた省庁間協力は、たとえばケーブル妨害行為の迅速な解決を促進するだけでなく、提携国間で従うべき標準運用手順を策定することで、強固で効率的なインド太平洋の枠組みの構築につながる。
(13) 地政学的な緊張が高まる中、世界的接続のために重要な役割を果たす海底ケーブルの保護という新たな取り組みが必要となっている。現実的政策提言としては、産業界との協力、国際協定の遵守、達成可能な目標への集中を強調している。本稿では、QUADについて、非公式な位置付けのため、海底ケーブルの保護に関しても達成できることには制約があるとしつつも、安全保障グループとしての有効性、結束力、抑止力としての価値や地域におけるQUADの将来について、既存の文献を補足・精緻化しており、有用な分析である。
記事参照:Policy recommendations for Quad cooperation on submarine cable protection in the Indo-Pacific
2月8日「海洋国家が世界の秩序を構築し、海を変えつつある―英専門家論説」(The Conversation, February 8, 2024)
2月8日付のオーストラリアのニュースサイトThe Conversationは、英Lancaster University教授Basil Germondの“Maritime power shapes the world order – and is undergoing a sea change”と題する論説を掲載し、Basil Germondは西側諸国が海洋を支配することによって、世界を支配してきたが、海洋進出著しい中国やフーシ派のような非国家主体の活動、さらには科学技術の発展による海上戦闘の様相の変化などの挑戦を受けており、特に中国は貿易立国であり、海の安全を損なうのを望んでいるのではなく、海の支配を目指しているとした上で、西側諸国が21世紀に海洋支配を失う危険性が高まっており、海洋とシーパワーは将来の世界秩序を形成する上で重要な役割を果たすとして、要旨以下のように述べている。
(1) 西側諸国の世界的な支配的地位は、何世紀にもわたる海洋支配の結果である。世界の海洋を支配することで、海上での自由な物資の流れを確保するだけでなく、世界中に軍事力を投射することが可能になる。貿易国の繁栄と安全は、世界の海洋を利用するサプライチェーンの安定性、ひいては航行の自由に大きく依存している。しかし現在、西側の海洋における優位性は他の台頭する大国や反政府勢力からの挑戦を受けている。
(2) 米国と英国がフーシ派の拠点への空爆にまで踏み切ったという事実は、航行の自由を侵害する者を両国がいかに真剣に見ているかを示している。フーシ派反政府勢力とその支援者であるイランは、この影響力をよく知っている。もし、紅海を通る航路とは異なり迂回することができないホルムズ海峡で同様の戦術が採用されたら、世界の石油市場はどうなるだろうか?
(3) ロシアはウクライナ侵攻の初期に、黒海の北西部の支配権を利用して隣国を封鎖しようと試み、当初は穀物と小麦の価格が上昇した。しかしトルコはすぐにモントルー条約を発動し、ウクライナ政府がミサイルと無人機を効果的に使用したことと合わせて、ウクライナの海上貿易を妨害するロシアの能力は制限され、穀物および小麦価格は戦前の水準に戻っており、モスクワの封鎖は失敗した。ロシアはまた、バルト海や北海の西側の通信ケーブルやエネルギーコネクターといった海底基幹施設や石油掘削装置や風力発電所などの海洋基幹施設にも脅威を与えている。攻撃が成功すれば、エネルギーと国家安全保障に直接影響を与えることになる。
(4) 西側諸国の優位性は常に、海を介して世界中に軍事力を投射する能力に依存してきた。ウクライナ戦争は、水上艦艇が地上配備のミサイルや無人機に対してますます脆弱になっていることを実証した。これは、西側諸国が中国本土からの攻撃に対して脆弱であるため、台湾海峡のような係争地域に軍事力を投射し、部隊を展開する能力について疑問を生じさせる。一方、黒海では、これがウクライナに有利に展開した。
(5) インド太平洋では、中国は展開してくる米部隊に対抗する能力を開発している。中国が台湾に侵攻した場合、西側の艦艇は中国の地上配備型ミサイルや無人機のなすがままになるだろう。しかし、逆に、上陸を試みる中国軍も台湾独自の陸上の非対称防衛手段によって脅かされる可能性がある。
(7) ロシアやイランとは異なり、中国政権の権力基盤は世界のサプライチェーンとバリューチェーンに大きく依存している。したがって、海洋秩序の不安定化に寄与することは中国政府の利益にならない。これは紅海危機に対する中国の均衡の取れた姿勢を説明している。中国は世界の海洋秩序を混乱させることを望んでいるのではなく、世界の海洋秩序を主導したいと考えている。この目的のために、海軍力を発展させ、商業資産と金融資産を利用して、平和的に、しかし積極的に海洋権力を拡大している。中国は民間企業を通じてベルギー等ヨーロッパの港湾施設に投資してきた。しかし、中国の民間企業は国家と密接な関係にあり、スパイ活動などの危険性を抱えている。
(8) 南シナ海のいたる所で、中国政府は「グレーゾーン」戦術を使いこなしており、海上では、経済的および地政学的に重要な海域での海警総隊や海軍の展開や法的権原を正当化するために水産企業などの利害関係者を利用している。
(9) Walter Raleigh卿の「海を制する者は貿易を制する。世界の貿易を支配する者は誰でも世界の富を支配し、その結果、世界自体も支配する」という格言が、最近まで西側の自由主義的世界秩序を特徴づけてきた。シーパワーは海軍と貿易の組み合わせから生まれており、その範囲は西側に限定されない。シーパワーは中国など他国において成長し、行使される可能性があり、また現在も成長し、行使されている。
(10) そのため、西側諸国が21世紀に海洋支配を失う危険性が高まっている。これは、おそらく中国が支配する新たな非自由主義的な世界秩序への扉を開くかもしれない。しかし、他の貿易大国と同様に、中国は航行の自由に依存しているため、中国政府は海の安全を損なうのではなく、海の支配を望むだろう。海洋とシーパワーは、将来の世界秩序を形成する上で重要な役割を果たすだろう。
記事参照:Maritime power shapes the world order – and is undergoing a sea change
(1) 西側諸国の世界的な支配的地位は、何世紀にもわたる海洋支配の結果である。世界の海洋を支配することで、海上での自由な物資の流れを確保するだけでなく、世界中に軍事力を投射することが可能になる。貿易国の繁栄と安全は、世界の海洋を利用するサプライチェーンの安定性、ひいては航行の自由に大きく依存している。しかし現在、西側の海洋における優位性は他の台頭する大国や反政府勢力からの挑戦を受けている。
(2) 米国と英国がフーシ派の拠点への空爆にまで踏み切ったという事実は、航行の自由を侵害する者を両国がいかに真剣に見ているかを示している。フーシ派反政府勢力とその支援者であるイランは、この影響力をよく知っている。もし、紅海を通る航路とは異なり迂回することができないホルムズ海峡で同様の戦術が採用されたら、世界の石油市場はどうなるだろうか?
(3) ロシアはウクライナ侵攻の初期に、黒海の北西部の支配権を利用して隣国を封鎖しようと試み、当初は穀物と小麦の価格が上昇した。しかしトルコはすぐにモントルー条約を発動し、ウクライナ政府がミサイルと無人機を効果的に使用したことと合わせて、ウクライナの海上貿易を妨害するロシアの能力は制限され、穀物および小麦価格は戦前の水準に戻っており、モスクワの封鎖は失敗した。ロシアはまた、バルト海や北海の西側の通信ケーブルやエネルギーコネクターといった海底基幹施設や石油掘削装置や風力発電所などの海洋基幹施設にも脅威を与えている。攻撃が成功すれば、エネルギーと国家安全保障に直接影響を与えることになる。
(4) 西側諸国の優位性は常に、海を介して世界中に軍事力を投射する能力に依存してきた。ウクライナ戦争は、水上艦艇が地上配備のミサイルや無人機に対してますます脆弱になっていることを実証した。これは、西側諸国が中国本土からの攻撃に対して脆弱であるため、台湾海峡のような係争地域に軍事力を投射し、部隊を展開する能力について疑問を生じさせる。一方、黒海では、これがウクライナに有利に展開した。
(5) インド太平洋では、中国は展開してくる米部隊に対抗する能力を開発している。中国が台湾に侵攻した場合、西側の艦艇は中国の地上配備型ミサイルや無人機のなすがままになるだろう。しかし、逆に、上陸を試みる中国軍も台湾独自の陸上の非対称防衛手段によって脅かされる可能性がある。
(7) ロシアやイランとは異なり、中国政権の権力基盤は世界のサプライチェーンとバリューチェーンに大きく依存している。したがって、海洋秩序の不安定化に寄与することは中国政府の利益にならない。これは紅海危機に対する中国の均衡の取れた姿勢を説明している。中国は世界の海洋秩序を混乱させることを望んでいるのではなく、世界の海洋秩序を主導したいと考えている。この目的のために、海軍力を発展させ、商業資産と金融資産を利用して、平和的に、しかし積極的に海洋権力を拡大している。中国は民間企業を通じてベルギー等ヨーロッパの港湾施設に投資してきた。しかし、中国の民間企業は国家と密接な関係にあり、スパイ活動などの危険性を抱えている。
(8) 南シナ海のいたる所で、中国政府は「グレーゾーン」戦術を使いこなしており、海上では、経済的および地政学的に重要な海域での海警総隊や海軍の展開や法的権原を正当化するために水産企業などの利害関係者を利用している。
(9) Walter Raleigh卿の「海を制する者は貿易を制する。世界の貿易を支配する者は誰でも世界の富を支配し、その結果、世界自体も支配する」という格言が、最近まで西側の自由主義的世界秩序を特徴づけてきた。シーパワーは海軍と貿易の組み合わせから生まれており、その範囲は西側に限定されない。シーパワーは中国など他国において成長し、行使される可能性があり、また現在も成長し、行使されている。
(10) そのため、西側諸国が21世紀に海洋支配を失う危険性が高まっている。これは、おそらく中国が支配する新たな非自由主義的な世界秩序への扉を開くかもしれない。しかし、他の貿易大国と同様に、中国は航行の自由に依存しているため、中国政府は海の安全を損なうのではなく、海の支配を望むだろう。海洋とシーパワーは、将来の世界秩序を形成する上で重要な役割を果たすだろう。
記事参照:Maritime power shapes the world order – and is undergoing a sea change
2月8日「中国政府の東シナ海政策、効果なきも変えられず―米専門家論説」(The Diplomat, February 8, 2024)
2月8日付のデジタル誌The Diplomatは、米研究機関East-West Center上席研究員Denny Royの“China’s Zombie East China Sea Policy”と題する論説を掲載し、ここでDenny Royは中国の10年来の東シナ海に対する取り組みは実質的な成果を得られず、一方で中国政府が望まない偶発的戦争の可能性を大きくしているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 東シナ海における係争中の海洋領土に対する12年にも及ぶ中国の政策は、日本との間で無駄に緊張状態を維持し続けている。焦点となっているのは、尖閣諸島として知られる小さな島嶼群である。2023年には、中国は尖閣諸島近海に海警船を過去最多の352日間も派遣した。習近平国家主席は2023年11月に、東シナ海を担当する中国海警総隊の現地司令部を視察し、中国の領有権を守る能力を「不断に強化する」必要性を強調した。
(2) 尖閣諸島の領有権を巡る日中間の紛争は、特に1971年に国連機関が東シナ海における炭化水素鉱床の存在の可能性を公表してから、激しさを増してきた。2012年9月の日本政府による尖閣国有化宣言で、紛争は再び拡大した。中国は、日本の主権主張に異議を唱えるために、尖閣諸島周辺の海域を哨戒する船舶を恒常的に展開させるようになった。中国公船による日本の領海侵入件数は、2009年から2011年の期間にはわずか1件だったが、2012年だけで23件に急増し、その後も年間20〜30件程度で推移している。さらに、中国は2013年に東シナ海で防空識別圏(以下、ADIZと言う)を宣言したが、これは日本や韓国のADIZと一部重複している。
(3) (尖閣諸島に対する)中国政府の明白な勝利の論理は、強力で持続的な圧力、特に軍事衝突に発展しかねない危険な海上での事案の頻発によって、日本を怯えさせ、屈従を強いるというものであった。中国政府の当初の要求は、尖閣諸島を係争地域として日本に認めさせることであった。それまで日本政府は、日本の領有権は疑う余地がなく、したがって中国の領海侵入は単なる不法侵入に過ぎないと主張していた。中国政府の勝利の論理は逆効果をもたらした。日本政府は依然として、「尖閣諸島は紛れもなく日本の領土の一部であり、・・・尖閣諸島に関して解決すべき領土主権の問題は存在しない」との主張を堅持してきている。皮肉にも、日本の主張は、中国政府が南シナ海について主張していることと同じであり、中国人には馴染みがあるように聞こえるかもしれない。
(4) 東シナ海の領有権問題に対する中国政府の取り組みは、中国の大戦略をほぼ体現している。習近平主席は、国益追求に当たって、魅力政策よりも力に大きく依存している。中国政府は、たとえ結果が逆効果であっても、威嚇的行為を強化していく可能性が高い。たとえば、中国の脅威は台湾による国防費の増額と頼清徳次期総統の選出をもたらしたが、中国政府は政策を調整しなかった。中国軍の艦艇や航空機は、依然として台湾周辺を航行し、あるいは飛行することで敵意を誇示し続けている。同様に、中国が東シナ海で行っていることはゾンビの如き政策で、要するに、成功はしていないが、止められないよう見える。
(5) このような政策の継続には、2つの要因がある。
a.第1に、習近平主席は中国が今や大国であり、したがって、外交政策において、先送りではなく、即時の勝利という期待感を人民に抱かせた。最も重要な勝利は、人民が最も強く感情的に高揚する、領土問題である。習近平主席が目に見える勝利を収める前に対立する外国勢力に譲歩していると愛国的市民感情が認識すれば、国内における習近平主席の声価は傷つくであろう。ほとんどの中国人が中国に対する過去の罪に対する復讐に値すると信じている、日本に対する勝利がなければ、特に失望するであろう。
b.第2に、習近平主席は世界経済の中心性と相対的な軍事的優位によって、中国が敵対国に対して圧倒的な優位を構築し、維持することが可能になり、したがって敵対国が最終的には東シナ海やその他の地域における中国政府の要求を受け入れることになるであろうと期待している。しかしながら、米国が衰退を否定し、この地域における戦略的な指導者の地位に固執していることに加えて、中国を懸念する他の諸国が協力関係を強めていること、そして中国の経済的優位性が不透明になっていることを考えれば、習近平主席のこうした期待は疑問視される。
(6) 要するに、日本政府が中国の拡張主義とみなしているものに反対するという日本の決意を硬化させるだけの東シナ海政策を中国自らの利益さえもが静かに緩和するよう努めるべきだと示唆している。しかしながら、中国の東シナ海政策は、中国政府が失敗に直面しても修正できないように見える、幾つかの事例の1つに過ぎない。
記事参照:China’s Zombie East China Sea Policy
(1) 東シナ海における係争中の海洋領土に対する12年にも及ぶ中国の政策は、日本との間で無駄に緊張状態を維持し続けている。焦点となっているのは、尖閣諸島として知られる小さな島嶼群である。2023年には、中国は尖閣諸島近海に海警船を過去最多の352日間も派遣した。習近平国家主席は2023年11月に、東シナ海を担当する中国海警総隊の現地司令部を視察し、中国の領有権を守る能力を「不断に強化する」必要性を強調した。
(2) 尖閣諸島の領有権を巡る日中間の紛争は、特に1971年に国連機関が東シナ海における炭化水素鉱床の存在の可能性を公表してから、激しさを増してきた。2012年9月の日本政府による尖閣国有化宣言で、紛争は再び拡大した。中国は、日本の主権主張に異議を唱えるために、尖閣諸島周辺の海域を哨戒する船舶を恒常的に展開させるようになった。中国公船による日本の領海侵入件数は、2009年から2011年の期間にはわずか1件だったが、2012年だけで23件に急増し、その後も年間20〜30件程度で推移している。さらに、中国は2013年に東シナ海で防空識別圏(以下、ADIZと言う)を宣言したが、これは日本や韓国のADIZと一部重複している。
(3) (尖閣諸島に対する)中国政府の明白な勝利の論理は、強力で持続的な圧力、特に軍事衝突に発展しかねない危険な海上での事案の頻発によって、日本を怯えさせ、屈従を強いるというものであった。中国政府の当初の要求は、尖閣諸島を係争地域として日本に認めさせることであった。それまで日本政府は、日本の領有権は疑う余地がなく、したがって中国の領海侵入は単なる不法侵入に過ぎないと主張していた。中国政府の勝利の論理は逆効果をもたらした。日本政府は依然として、「尖閣諸島は紛れもなく日本の領土の一部であり、・・・尖閣諸島に関して解決すべき領土主権の問題は存在しない」との主張を堅持してきている。皮肉にも、日本の主張は、中国政府が南シナ海について主張していることと同じであり、中国人には馴染みがあるように聞こえるかもしれない。
(4) 東シナ海の領有権問題に対する中国政府の取り組みは、中国の大戦略をほぼ体現している。習近平主席は、国益追求に当たって、魅力政策よりも力に大きく依存している。中国政府は、たとえ結果が逆効果であっても、威嚇的行為を強化していく可能性が高い。たとえば、中国の脅威は台湾による国防費の増額と頼清徳次期総統の選出をもたらしたが、中国政府は政策を調整しなかった。中国軍の艦艇や航空機は、依然として台湾周辺を航行し、あるいは飛行することで敵意を誇示し続けている。同様に、中国が東シナ海で行っていることはゾンビの如き政策で、要するに、成功はしていないが、止められないよう見える。
(5) このような政策の継続には、2つの要因がある。
a.第1に、習近平主席は中国が今や大国であり、したがって、外交政策において、先送りではなく、即時の勝利という期待感を人民に抱かせた。最も重要な勝利は、人民が最も強く感情的に高揚する、領土問題である。習近平主席が目に見える勝利を収める前に対立する外国勢力に譲歩していると愛国的市民感情が認識すれば、国内における習近平主席の声価は傷つくであろう。ほとんどの中国人が中国に対する過去の罪に対する復讐に値すると信じている、日本に対する勝利がなければ、特に失望するであろう。
b.第2に、習近平主席は世界経済の中心性と相対的な軍事的優位によって、中国が敵対国に対して圧倒的な優位を構築し、維持することが可能になり、したがって敵対国が最終的には東シナ海やその他の地域における中国政府の要求を受け入れることになるであろうと期待している。しかしながら、米国が衰退を否定し、この地域における戦略的な指導者の地位に固執していることに加えて、中国を懸念する他の諸国が協力関係を強めていること、そして中国の経済的優位性が不透明になっていることを考えれば、習近平主席のこうした期待は疑問視される。
(6) 要するに、日本政府が中国の拡張主義とみなしているものに反対するという日本の決意を硬化させるだけの東シナ海政策を中国自らの利益さえもが静かに緩和するよう努めるべきだと示唆している。しかしながら、中国の東シナ海政策は、中国政府が失敗に直面しても修正できないように見える、幾つかの事例の1つに過ぎない。
記事参照:China’s Zombie East China Sea Policy
2月9日「ドイツが防空フリゲートを紅海に派遣―オーストラリア専門家論説」(Naval News, February 9, 2024)
2月9日付けのフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、オーストラリアを拠点とするフリーの軍事専門家Alex Luckの“German Air Warfare Frigate Heading For Red Sea In Anticipation Of EU Operation ASPIDES”と題する論説を掲載し、Alex LuckはDeutsche Marine(ドイツ海軍)のフリゲートが紅海の任務のために派遣されたことについて、要旨以下のように述べている。
(1) ドイツのフリゲート「ヘッセン」*が2月8日、ヴィルヘルムスハーフェンを出港した。「ヘッセン」は初め地中海に向かい、「アスピデス作戦」が発動されれば、スエズを通過して紅海に入る予定である。その目的は、イエメンを拠点とするフーシ派民兵によるミサイル攻撃やドローン攻撃から海運を守る軍事的な取り組みを支援することである。European Council(欧州理事会)がアスピデスを承認すれば、Deutscher Bundestag(ドイツ連邦議会)による任務の指令書はその後に発出される。
(2) アスピデス作戦を開始する政治的過程に先駆けて「ヘッセン」を送り出すというドイツ政府の決定は、ヨーロッパの提携国と足並みを合わせたものである。 Marina Militare Italiana(イタリア海軍)は1月28日、アンドレア・ドーリア級防空駆逐艦「カイオ・ドゥイリオ」を内密に派遣した。「カイオ・ドゥイリオ」は、アスピデスが発効するまで、既存のEUの任務「アタランタ」の範囲内で活動する。
(3) ドイツは現在、3艦種のフリゲートを運用しているが、2000年代初頭に建造された3隻のKlasse124フリゲートは、Deutsche Marine(以下、ドイツ海軍と言う)の能力の「高さ」を代表するものである。Klasse124フリゲートは、APARおよびSmart Lレーダー・システムを活用した艦隊防空用に設計されている。ドイツ海軍総監Jan Christian Kaack海軍中将と「ヘッセン」艦長Volker Kuebsch 海軍中佐は、この艦がこの任務に最も適していることに共感しており、「我々は高烈度の環境下で対応に当たっているため、十分な兵装を備えている適切な艦艇は1隻しかない」とJan Christian Kaack海軍中将は述べている。米英仏の駆逐艦やフリゲートは、すでにフーシ派の海運に対する攻撃を迎撃している。
(4) 「ヘッセン」の乗組員は標準的な240名に加えて、2機のヘリコプターの支援要員、医療チーム、人員数は明らかにされていない「海兵大隊(Seebataillon)」海軍歩兵部隊で構成されている。この海兵大隊は、ヘリコプターによる作戦に特化した「搭乗作戦中隊(Bordeinsatzkompanien)」を派遣する可能性が高い。
(5) ドイツの防空を主任務とするフリゲートが配備されたことで、ドイツ海軍は戦力態勢要件のさらなる再検討を迫られるかもしれない。ドイツ海軍は、NATO域内を含む「ショー・ザ・フラッグ」を任務の主眼に置いた装備の艦隊から、より広範な物理的脅威と交戦するための装備を持つ屈強な部隊への移行を目指している。2030年頃から就役する4隻の新型Krasse126は、戦闘能力をいくらか向上させるだろう。とはいえ、紅海での配備は、脅威環境の急速な変化を物語っている。アスピデスを含む新しい任務は、海外での多国籍の義務に対する初期対応者しての役割を期待されることの多いドイツ海軍の能力の適切な仕様に疑問符を投げかけるかもしれない。
記事参照:German Air Warfare Frigate Heading For Red Sea In Anticipation Of EU Operation ASPIDES
*「ヘッセン」はミニ・イージス艦とも呼ばれる防空を主任務とするドイツKlasse124ザクセン級フリゲートの1艦である。
(1) ドイツのフリゲート「ヘッセン」*が2月8日、ヴィルヘルムスハーフェンを出港した。「ヘッセン」は初め地中海に向かい、「アスピデス作戦」が発動されれば、スエズを通過して紅海に入る予定である。その目的は、イエメンを拠点とするフーシ派民兵によるミサイル攻撃やドローン攻撃から海運を守る軍事的な取り組みを支援することである。European Council(欧州理事会)がアスピデスを承認すれば、Deutscher Bundestag(ドイツ連邦議会)による任務の指令書はその後に発出される。
(2) アスピデス作戦を開始する政治的過程に先駆けて「ヘッセン」を送り出すというドイツ政府の決定は、ヨーロッパの提携国と足並みを合わせたものである。 Marina Militare Italiana(イタリア海軍)は1月28日、アンドレア・ドーリア級防空駆逐艦「カイオ・ドゥイリオ」を内密に派遣した。「カイオ・ドゥイリオ」は、アスピデスが発効するまで、既存のEUの任務「アタランタ」の範囲内で活動する。
(3) ドイツは現在、3艦種のフリゲートを運用しているが、2000年代初頭に建造された3隻のKlasse124フリゲートは、Deutsche Marine(以下、ドイツ海軍と言う)の能力の「高さ」を代表するものである。Klasse124フリゲートは、APARおよびSmart Lレーダー・システムを活用した艦隊防空用に設計されている。ドイツ海軍総監Jan Christian Kaack海軍中将と「ヘッセン」艦長Volker Kuebsch 海軍中佐は、この艦がこの任務に最も適していることに共感しており、「我々は高烈度の環境下で対応に当たっているため、十分な兵装を備えている適切な艦艇は1隻しかない」とJan Christian Kaack海軍中将は述べている。米英仏の駆逐艦やフリゲートは、すでにフーシ派の海運に対する攻撃を迎撃している。
(4) 「ヘッセン」の乗組員は標準的な240名に加えて、2機のヘリコプターの支援要員、医療チーム、人員数は明らかにされていない「海兵大隊(Seebataillon)」海軍歩兵部隊で構成されている。この海兵大隊は、ヘリコプターによる作戦に特化した「搭乗作戦中隊(Bordeinsatzkompanien)」を派遣する可能性が高い。
(5) ドイツの防空を主任務とするフリゲートが配備されたことで、ドイツ海軍は戦力態勢要件のさらなる再検討を迫られるかもしれない。ドイツ海軍は、NATO域内を含む「ショー・ザ・フラッグ」を任務の主眼に置いた装備の艦隊から、より広範な物理的脅威と交戦するための装備を持つ屈強な部隊への移行を目指している。2030年頃から就役する4隻の新型Krasse126は、戦闘能力をいくらか向上させるだろう。とはいえ、紅海での配備は、脅威環境の急速な変化を物語っている。アスピデスを含む新しい任務は、海外での多国籍の義務に対する初期対応者しての役割を期待されることの多いドイツ海軍の能力の適切な仕様に疑問符を投げかけるかもしれない。
記事参照:German Air Warfare Frigate Heading For Red Sea In Anticipation Of EU Operation ASPIDES
*「ヘッセン」はミニ・イージス艦とも呼ばれる防空を主任務とするドイツKlasse124ザクセン級フリゲートの1艦である。
2月10日「北極圏という準国際公共財について―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, February 10, 2024)
2月10日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation のStrategic Studies Program調整担当Udayvir Ahuja の“Arctic: The quasi-global common”と題する論説を掲載し、ここでUdayvir AhujaはArctic Council(北極評議会)が設立された30年前よりも北極圏と世界の他の地域との経済的、地政学的な結びつきが強化されているなかで、Arctic Councilの役割は先住民族の共同体の意思も尊重しつつ、北極圏と非北極圏の国々を多面的な課題に導く上でかつてないほど重要になっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 国際社会は、過去20年間にわたり、地球上で最も離れた困難な環境の1つである北極圏に関心を持ってきた。その理由は、主に気候変動の結果として、この地域に起こっている生態学的変化に起因している。最近の研究によると、北極圏では早ければ2030年代に初めて氷のない夏を迎える可能性があると推定されている。このような変化により、石油やガス、希土類金属、経済性海洋動物、銅、亜鉛、石炭などの北極圏の鉱物など、この地域の豊富な天然資源の利用が容易になる可能性がある。同時に、この地域に新たな海上交通路が開かれる可能性もある。こうした動きの中で、北極圏を統治するのは誰なのか、あるいは何なのかという重大な疑問が浮かび上がってくる。北極圏は、南極大陸と同様に、国際公共財であり、特定の国の管轄内に属さず、すべての国が利用できる資源領域であるというのが一般的な説明である。もしそれが本当ならば、数十年後に宇宙で目撃しているような、この地域の支配権を確立するための国家間の前例のない競争を目撃したかもしれない。しかし、そうはならなかった。その理由を知るには北極圏について理解する必要がある。
(2) 北極圏は主に、北極海、北極圏諸国の陸地、北極圏の海域という3つの主要な要素で構成されている。世界最小の水深の浅い海といわれる北極海は、カナダ、デンマーク(グリーンランド)、アメリカ、ロシア、ノルウェーの5ヵ国に囲まれている。これらの国々は北極沿岸国と呼ばれている。北極圏各国は、EEZを持っている。UNCLOSによると、EEZとは沿岸国が特定の権利、義務、管轄権を有する海域を構成しており、天然資源の探査と開発、風力と水力による発電、漁業などの活動が含まれる。UNCLOS第57条では、EEZは領海基線から最大200海里まで広がっている。これらの国の海岸から200海里を超えると、中央北極海(CAO)または単に北極公海と呼ばれる三角形の領域が残っている。UNCLOSの下では、これらの公海はまさに地球規模の共同体であり、人類共通の遺産である。したがって、すべての国は、資源の探査と開発、漁業、科学的調査、航行権などを含む、これらの公海における特定の固有の権利を持っている。北極沿岸諸国は、自国の国益を考慮し、2008年に共同で、UNCLOSが北極地域を統治するための適切な枠組みとなることを宣言した。北極域は、北極圏諸国の陸域、北極沿岸国の海域、公海から構成されており、「準国際公共財」と呼ぶにふさわしい地域である。
(3) 北極圏は、その独特な条件、人を寄せ付けない自然、そしてこの地域の国家資産と能力の全般的な欠如により、Arctic Council(北極評議会:以下、評議会と言う)という新しい統治構造を必要とした。評議会は規則制定機関ではなく、持続可能な開発、科学研究、環境、先住民の権利などの分野で、北極圏諸国間の協力と調整のためのフォーラムとして機能している。その任務は、軍事的安全保障に関する事項を明確に除外している。評議会は、以下の4つの要因によりその使命を果たすことに多かれ少なかれ成功している。
a.環境問題に対する研究に基づく取り組みを重視する評議会は、重要な役割を果たしてきた。
b.ノルウェーのような小国の積極的な役割は、大国間の対立を緩和する上で極めて重要である。
c.評議会は合意を基本として運営されており、共同で意思決定が行われる。
d.すべての加盟国やオブザーバー国が条約を批准していなくても、すべての締約国がUNCLOSを遵守することは、安定に資する。米国や中国などの主要国が規約の承認を留保しているにもかかわらず、UNCLOSを遵守することを約束していることは、北極圏を統治する上での評議会の実効性を高めている。
(4) 約30年前に評議会が設立されて以来、その構想は大きく変化した。かつては遠隔地と考えられていたこの地域は、気候変動の中での経済的機会と戦略的重要性によって焦点となっている。これにより、北極圏と世界の他の地域との経済的、地政学的な結びつきが強化され、北極圏をはるかに超えた地域に影響を与えている。再評価の必要性は、評議会の議長国の地位にある極めて重要な加盟国であるロシアとの協力を評議会が一方的に拒否した2022年の事例など、最近の出来事によって強調されている。この決定は、ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦によって推進され、評議会の統治構造の潜在的な脆弱性を浮き彫りにした。このような背景から、評議会の役割は、先住民族の共同体の意思も尊重しつつ、北極圏と非北極圏の国々を北極圏における継続的な変革に伴う多面的な課題に導く上で、かつてないほど重要になっている。
記事参照:Arctic: The quasi-global common
(1) 国際社会は、過去20年間にわたり、地球上で最も離れた困難な環境の1つである北極圏に関心を持ってきた。その理由は、主に気候変動の結果として、この地域に起こっている生態学的変化に起因している。最近の研究によると、北極圏では早ければ2030年代に初めて氷のない夏を迎える可能性があると推定されている。このような変化により、石油やガス、希土類金属、経済性海洋動物、銅、亜鉛、石炭などの北極圏の鉱物など、この地域の豊富な天然資源の利用が容易になる可能性がある。同時に、この地域に新たな海上交通路が開かれる可能性もある。こうした動きの中で、北極圏を統治するのは誰なのか、あるいは何なのかという重大な疑問が浮かび上がってくる。北極圏は、南極大陸と同様に、国際公共財であり、特定の国の管轄内に属さず、すべての国が利用できる資源領域であるというのが一般的な説明である。もしそれが本当ならば、数十年後に宇宙で目撃しているような、この地域の支配権を確立するための国家間の前例のない競争を目撃したかもしれない。しかし、そうはならなかった。その理由を知るには北極圏について理解する必要がある。
(2) 北極圏は主に、北極海、北極圏諸国の陸地、北極圏の海域という3つの主要な要素で構成されている。世界最小の水深の浅い海といわれる北極海は、カナダ、デンマーク(グリーンランド)、アメリカ、ロシア、ノルウェーの5ヵ国に囲まれている。これらの国々は北極沿岸国と呼ばれている。北極圏各国は、EEZを持っている。UNCLOSによると、EEZとは沿岸国が特定の権利、義務、管轄権を有する海域を構成しており、天然資源の探査と開発、風力と水力による発電、漁業などの活動が含まれる。UNCLOS第57条では、EEZは領海基線から最大200海里まで広がっている。これらの国の海岸から200海里を超えると、中央北極海(CAO)または単に北極公海と呼ばれる三角形の領域が残っている。UNCLOSの下では、これらの公海はまさに地球規模の共同体であり、人類共通の遺産である。したがって、すべての国は、資源の探査と開発、漁業、科学的調査、航行権などを含む、これらの公海における特定の固有の権利を持っている。北極沿岸諸国は、自国の国益を考慮し、2008年に共同で、UNCLOSが北極地域を統治するための適切な枠組みとなることを宣言した。北極域は、北極圏諸国の陸域、北極沿岸国の海域、公海から構成されており、「準国際公共財」と呼ぶにふさわしい地域である。
(3) 北極圏は、その独特な条件、人を寄せ付けない自然、そしてこの地域の国家資産と能力の全般的な欠如により、Arctic Council(北極評議会:以下、評議会と言う)という新しい統治構造を必要とした。評議会は規則制定機関ではなく、持続可能な開発、科学研究、環境、先住民の権利などの分野で、北極圏諸国間の協力と調整のためのフォーラムとして機能している。その任務は、軍事的安全保障に関する事項を明確に除外している。評議会は、以下の4つの要因によりその使命を果たすことに多かれ少なかれ成功している。
a.環境問題に対する研究に基づく取り組みを重視する評議会は、重要な役割を果たしてきた。
b.ノルウェーのような小国の積極的な役割は、大国間の対立を緩和する上で極めて重要である。
c.評議会は合意を基本として運営されており、共同で意思決定が行われる。
d.すべての加盟国やオブザーバー国が条約を批准していなくても、すべての締約国がUNCLOSを遵守することは、安定に資する。米国や中国などの主要国が規約の承認を留保しているにもかかわらず、UNCLOSを遵守することを約束していることは、北極圏を統治する上での評議会の実効性を高めている。
(4) 約30年前に評議会が設立されて以来、その構想は大きく変化した。かつては遠隔地と考えられていたこの地域は、気候変動の中での経済的機会と戦略的重要性によって焦点となっている。これにより、北極圏と世界の他の地域との経済的、地政学的な結びつきが強化され、北極圏をはるかに超えた地域に影響を与えている。再評価の必要性は、評議会の議長国の地位にある極めて重要な加盟国であるロシアとの協力を評議会が一方的に拒否した2022年の事例など、最近の出来事によって強調されている。この決定は、ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦によって推進され、評議会の統治構造の潜在的な脆弱性を浮き彫りにした。このような背景から、評議会の役割は、先住民族の共同体の意思も尊重しつつ、北極圏と非北極圏の国々を北極圏における継続的な変革に伴う多面的な課題に導く上で、かつてないほど重要になっている。
記事参照:Arctic: The quasi-global common
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) China’s ‘Three Warfares’ Strategy in Action: Implications for the Sino-India Boundary, the Arctic, and Antarctica
https://www.orfonline.org/research/china-s-three-warfares-strategy-in-action-implications-for-the-sino-india-boundary-the-arctic-and-antarctica
Observer Research Foundation, February 7, 2024
By Kartik Bommakanti is a Senior Fellow with the Strategic Studies Programme.
2024年2月7日、インドのシンクタンクObserver Research Foundation上席研究員Kartik Bommakantiは、同Foundationのウエブサイトに" China’s ‘Three Warfares’ Strategy in Action: Implications for the Sino-India Boundary, the Arctic, and Antarctica "と題する論説を寄稿した。その中でKartik Bommakantiは、中国の「三戦」(Three Warfares Strategy:以下、TWSと言う)は、対印軍事戦略などにとって極めて重要であるが、このTWSは計算高く、忍耐強く、敵対国からの抵抗と中国側の労力を最小限に抑えつつ利益を確保するという、中国の伝統的な戦略観に則ったものであり、中国の力の拡大は、こうした要素をさらに強化していると指摘した上で、北極圏に領土と軍事的展開を確立しようとするロシアと中国に対抗すべく、米軍は北極圏につながるアラスカに多領域作戦のための部隊を展開しているが、北極圏だけではなく南極大陸もまた、戦略的競争の舞台となる可能性が高いと述べている。そしてKartik Bommakantiは、中印国境における中国の行動は、「サラミスライス」の機が熟した南極大陸での領土奪取の前兆であると危機感を示した上で、QUAD諸国はいずれも南極大陸に研究ステーションを持っているのだから、まずは南極大陸におけるQUADの協力体制として通信情報を傍受する情報収集(SIGINT)を共有することを優先すべきであり、そのためにも、特にインドが南極における活動能力を増強する必要があると主張している。
(2) Evolution Not Revolution: Drone Warfare in Russia’s 2022 Invasion of Ukraine
https://s3.us-east-1.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/CNAS-Report-Defense-Ukraine-Drones-Final.pdf
Center for a News American Security (CNAS), February 8, 2024
By Stacie Pettyjohn, a Senior Fellow and Director of the Defense Program at CNAS
2024年2月8日、米シンクタンクCenter for a New American Security上席研究員Stacie Pettyjohnは、同Centerのウエブサイトに、“Evolution Not Revolution: Drone Warfare in Russia’s 2022 Invasion of Ukraine”と題する報告書の要旨を寄稿した。その中で、①この報告書は、革命的というよりむしろ進化的なものという意味で、ウクライナ戦争においてドローンが戦場を変えたと結論付けている。②ほとんどの場合、ドローンの効果は局地的になりがちである。③ウクライナは商業技術やソフトウェアで一貫してロシアを凌駕しているが、Вооруженные силы Российской Федерации( Armed Forces of the Russian Federation、ロシア連邦軍:以下、ロシア軍と言う)はすぐに適応しウクライナの成功を模倣している。④有志の連絡網は、Збройні сили України(Armed Forces of Ukraine:以下、ウクライナ軍と言う)とロシア軍の両方にとって、商用ドローンやDIYドローンの入手、改造、製造において前例のない役割を果たしている。⑤ロシアは軍事用ドローンで優位に立っており、ロシア軍が前線のはるか後方を確認し、攻撃することを可能にしている。⑥ウクライナ戦争では、ドローンは「群れ」ではなく「積み重ねられた山のように配備」されて運用されている。⑦ロシア軍とウクライナ軍は長距離自爆型ドローンを地上軍の侵攻支援の戦略的打撃力突破戦略打撃(penetrating strategic strikes)として使用している。⑧ウクライナ戦争では、双方が様々な対ドローン能力を試みている。⑨ドローンの入手しやすさと手頃な価格は戦場を変えたが、その3つの主な例は、前線で商業用ドローンが至る所に配備されたこと、視界外からの対人・対車両攻撃を行うFPV自爆ドローン、戦略的打撃のための長距離自爆ドローンである。⑩ドローンの最も重要な任務は、情報収集と照準情報の取得である。⑪ドローンは、前線以外の敵部隊の動きをよりよく可視化することで、兵力の集中、奇襲、攻撃作戦の実施をより困難にしている。⑫自爆型FPVドローンの射程距離は最先端の対戦車兵器の約6倍である。⑬榴弾砲の一斉射撃は、多数の小型ドローンが集団で提供できる火力をはるかに凌駕する。⑭ドローンは従来の空軍に取って代わることも、航空優勢を獲得することもできていない。⑮ドローンは残存性が高いわけではなく、より大きな危険性を受け入れることができる。⑯戦争を通じて、双方が互いから学び、急速な適応の循環がある。⑰ドローンだけで勝敗は決まるわけではないが、この戦争や今後、他の戦場でも、ドローンが重要な役割を果たすことは間違いないといったことが述べられている。
(3) The Looming Crisis in the South China Sea
https://www.foreignaffairs.com/united-states/looming-crisis-south-china-sea
Foreign Affairs, February 9, 2024
By MICHAEL J. MAZARR is Senior Political Scientist at the RAND Corporation.
2024年2月9日、米シンクタンクRAND Corporationの上席政治学者 であるMichael J. Mazarrは米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Looming Crisis in the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中でMichael J. Mazarr は、中国が台湾に対する武力行使の脅威を強める中、米国が台湾をめぐる紛争の危険性に注目するのは当然であるが、しかし、南シナ海という別の海域をめぐっても、危機、対立、さらには戦争が起こる危険性が同様に存在すると指摘した上で、最近の中比両国の行動を鑑みれば、南シナ海での直接的な軍事衝突の危険性はかつてないほど高まっており、米国は1951年に締結された米比相互防衛条約を堅持すると繰り返し述べていることから、もし中国がフィリピンの艦船を直接攻撃すれば、米政府は対応せざるを得ないだろうと述べている。そしてMichael J. Mazarr は、この問題の交渉による解決に代わる選択肢は米国の地域的存在感と提携の強化であり、これにより米政府はどの大国が平和的共存に真に関心を持っているかを明確に示すことができるだけでなく、より多国間的で刷新された国際秩序へと世界を導くという米国の外交政策上最大の課題へ重要な一歩を踏み出すことになると述べ、米国はこれまでも、世界を対立から新たな共存と安定へと導いてきたが、現在の南シナ海の緊張が大規模な対立に拡大すれば、米国は再びその機会に得るだろうと主張している。
(1) China’s ‘Three Warfares’ Strategy in Action: Implications for the Sino-India Boundary, the Arctic, and Antarctica
https://www.orfonline.org/research/china-s-three-warfares-strategy-in-action-implications-for-the-sino-india-boundary-the-arctic-and-antarctica
Observer Research Foundation, February 7, 2024
By Kartik Bommakanti is a Senior Fellow with the Strategic Studies Programme.
2024年2月7日、インドのシンクタンクObserver Research Foundation上席研究員Kartik Bommakantiは、同Foundationのウエブサイトに" China’s ‘Three Warfares’ Strategy in Action: Implications for the Sino-India Boundary, the Arctic, and Antarctica "と題する論説を寄稿した。その中でKartik Bommakantiは、中国の「三戦」(Three Warfares Strategy:以下、TWSと言う)は、対印軍事戦略などにとって極めて重要であるが、このTWSは計算高く、忍耐強く、敵対国からの抵抗と中国側の労力を最小限に抑えつつ利益を確保するという、中国の伝統的な戦略観に則ったものであり、中国の力の拡大は、こうした要素をさらに強化していると指摘した上で、北極圏に領土と軍事的展開を確立しようとするロシアと中国に対抗すべく、米軍は北極圏につながるアラスカに多領域作戦のための部隊を展開しているが、北極圏だけではなく南極大陸もまた、戦略的競争の舞台となる可能性が高いと述べている。そしてKartik Bommakantiは、中印国境における中国の行動は、「サラミスライス」の機が熟した南極大陸での領土奪取の前兆であると危機感を示した上で、QUAD諸国はいずれも南極大陸に研究ステーションを持っているのだから、まずは南極大陸におけるQUADの協力体制として通信情報を傍受する情報収集(SIGINT)を共有することを優先すべきであり、そのためにも、特にインドが南極における活動能力を増強する必要があると主張している。
(2) Evolution Not Revolution: Drone Warfare in Russia’s 2022 Invasion of Ukraine
https://s3.us-east-1.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/CNAS-Report-Defense-Ukraine-Drones-Final.pdf
Center for a News American Security (CNAS), February 8, 2024
By Stacie Pettyjohn, a Senior Fellow and Director of the Defense Program at CNAS
2024年2月8日、米シンクタンクCenter for a New American Security上席研究員Stacie Pettyjohnは、同Centerのウエブサイトに、“Evolution Not Revolution: Drone Warfare in Russia’s 2022 Invasion of Ukraine”と題する報告書の要旨を寄稿した。その中で、①この報告書は、革命的というよりむしろ進化的なものという意味で、ウクライナ戦争においてドローンが戦場を変えたと結論付けている。②ほとんどの場合、ドローンの効果は局地的になりがちである。③ウクライナは商業技術やソフトウェアで一貫してロシアを凌駕しているが、Вооруженные силы Российской Федерации( Armed Forces of the Russian Federation、ロシア連邦軍:以下、ロシア軍と言う)はすぐに適応しウクライナの成功を模倣している。④有志の連絡網は、Збройні сили України(Armed Forces of Ukraine:以下、ウクライナ軍と言う)とロシア軍の両方にとって、商用ドローンやDIYドローンの入手、改造、製造において前例のない役割を果たしている。⑤ロシアは軍事用ドローンで優位に立っており、ロシア軍が前線のはるか後方を確認し、攻撃することを可能にしている。⑥ウクライナ戦争では、ドローンは「群れ」ではなく「積み重ねられた山のように配備」されて運用されている。⑦ロシア軍とウクライナ軍は長距離自爆型ドローンを地上軍の侵攻支援の戦略的打撃力突破戦略打撃(penetrating strategic strikes)として使用している。⑧ウクライナ戦争では、双方が様々な対ドローン能力を試みている。⑨ドローンの入手しやすさと手頃な価格は戦場を変えたが、その3つの主な例は、前線で商業用ドローンが至る所に配備されたこと、視界外からの対人・対車両攻撃を行うFPV自爆ドローン、戦略的打撃のための長距離自爆ドローンである。⑩ドローンの最も重要な任務は、情報収集と照準情報の取得である。⑪ドローンは、前線以外の敵部隊の動きをよりよく可視化することで、兵力の集中、奇襲、攻撃作戦の実施をより困難にしている。⑫自爆型FPVドローンの射程距離は最先端の対戦車兵器の約6倍である。⑬榴弾砲の一斉射撃は、多数の小型ドローンが集団で提供できる火力をはるかに凌駕する。⑭ドローンは従来の空軍に取って代わることも、航空優勢を獲得することもできていない。⑮ドローンは残存性が高いわけではなく、より大きな危険性を受け入れることができる。⑯戦争を通じて、双方が互いから学び、急速な適応の循環がある。⑰ドローンだけで勝敗は決まるわけではないが、この戦争や今後、他の戦場でも、ドローンが重要な役割を果たすことは間違いないといったことが述べられている。
(3) The Looming Crisis in the South China Sea
https://www.foreignaffairs.com/united-states/looming-crisis-south-china-sea
Foreign Affairs, February 9, 2024
By MICHAEL J. MAZARR is Senior Political Scientist at the RAND Corporation.
2024年2月9日、米シンクタンクRAND Corporationの上席政治学者 であるMichael J. Mazarrは米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Looming Crisis in the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中でMichael J. Mazarr は、中国が台湾に対する武力行使の脅威を強める中、米国が台湾をめぐる紛争の危険性に注目するのは当然であるが、しかし、南シナ海という別の海域をめぐっても、危機、対立、さらには戦争が起こる危険性が同様に存在すると指摘した上で、最近の中比両国の行動を鑑みれば、南シナ海での直接的な軍事衝突の危険性はかつてないほど高まっており、米国は1951年に締結された米比相互防衛条約を堅持すると繰り返し述べていることから、もし中国がフィリピンの艦船を直接攻撃すれば、米政府は対応せざるを得ないだろうと述べている。そしてMichael J. Mazarr は、この問題の交渉による解決に代わる選択肢は米国の地域的存在感と提携の強化であり、これにより米政府はどの大国が平和的共存に真に関心を持っているかを明確に示すことができるだけでなく、より多国間的で刷新された国際秩序へと世界を導くという米国の外交政策上最大の課題へ重要な一歩を踏み出すことになると述べ、米国はこれまでも、世界を対立から新たな共存と安定へと導いてきたが、現在の南シナ海の緊張が大規模な対立に拡大すれば、米国は再びその機会に得るだろうと主張している。
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