海洋安全保障情報旬報 2024年3月1日-3月10日
Contents
3月1日「Royal Australian Navyが日本のフリゲートを選択する可能性―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, March 1, 2024)
3月1日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、University of Sydney教授Peter J. Deanの“Australia’s new navy: The Japanese option”と題する論説を掲載し、Peter J. DeanはRoyal Australian Navyが日本の新しいフリゲートを採用する可能性について、要旨以下のように述べている。
(1) この10年間の終わりまでに、Royal Australian Navy は日本のフリゲートを運用する可能性がある。しかし、新に整備する11隻の汎用フリゲートに日本製艦艇を選定するという決定は、これまで見過ごされてきた。
(2) 戦略的な観点からは、日本製フリゲートの選定は日豪間の緊密な連携を強化することになる。2022年12月に発表され日本の国家安全保障戦略と国家防衛戦略とオーストラリアの2023年のDefence Strategic Reviewを比較してみると、別々に作成されたにもかかわらず、これらの文書は驚くほどよく似ていることがわかる。どちらもインド太平洋に出現しつつある多極的秩序を強調し、拒否による抑止、長距離攻撃、統合防空・ミサイル防衛、海洋作戦、国家の抗堪性、準備態勢の加速に重点を置いている。
(3) 最も重要な点は、両国とも米国の同盟国や提携国を中心とした地域均衡戦略をその中心に据えていることである。日本の戦略文書は、日本にとってオーストラリアは米国に次ぐ重要な提携国であるとまで述べている。
(4) 不都合な点としては、日本は防衛関連の輸出においてあまり実績がない。しかし、日本には米国と協力してきた長い歴史があり、オーストラリアと同様、装備品の大半は米国製である。日本はまた、グローバル戦闘航空プログラムで英国やイタリアと提携し、主要な国際的能力開発計画の土俵に上がっている。インド太平洋における均衡連合を拡大するための次の段階は、もがみ型護衛艦を中心とした豪日フリゲート計画かもしれない。
(5) 導入の検討対象として選定されている艦艇は、日本のもがみ型護衛艦を含めスペイン、ドイツ、韓国が設計の艦艇の4艦種であるが、もがみ型護衛艦はその中で最有力候補の1つとなるはずである。2月20日に発表された“Independent Analysis of Navy’s Surface Combatant Fleet”では、すでに「水上」にあり、洋上と陸上のハイブリッド建造で迅速に建造可能で、一連の要件を満たす艦艇を求めている。新造艦は要件として、ヘリコプターの運用が可能、曳航式アレイソナーと短魚雷を装備し、対潜戦の実施が可能、防空の提供、対艦・対地攻撃能力の提供、より大規模な海軍任務部隊に対する防護の提供を満たさなければならない。もがみ型護衛艦は、これらの要件を全て満たしているが、さらにいくつかの重要な特性を備えている。もがみ型護衛艦は、オーストラリアの同志である米国の同盟国によって運用され、運用する海域をオーストラリアと同じ海域に重点を置いており、成熟した設計である。
(6) 日本のフリゲートが持つ主な特徴の1つは、MH-60シーホーク・ヘリコプターを運用するように設計されていることである。Royal Australian Navy はMH-60シーホーク・ヘリコプター部隊に注力しており、これを運用する能力は新フリゲートにとって重要な要件となる。また、もがみ型護衛艦は、選定された4隻の中で最も高速で操縦性の高い艦の1つであり、必要乗組員数も最も少ない。これはRoyal Australian Navy が労働力の危機に直面しているため、重要な要素である。
(7) 最後に、もがみ型護衛艦は無人水中器・無人水上艇の「母船」として運用できるように設計されており、これは海戦の性質の変化を考慮すると非常に重要な要素である。
記事参照:Australia’s new navy: The Japanese option
(1) この10年間の終わりまでに、Royal Australian Navy は日本のフリゲートを運用する可能性がある。しかし、新に整備する11隻の汎用フリゲートに日本製艦艇を選定するという決定は、これまで見過ごされてきた。
(2) 戦略的な観点からは、日本製フリゲートの選定は日豪間の緊密な連携を強化することになる。2022年12月に発表され日本の国家安全保障戦略と国家防衛戦略とオーストラリアの2023年のDefence Strategic Reviewを比較してみると、別々に作成されたにもかかわらず、これらの文書は驚くほどよく似ていることがわかる。どちらもインド太平洋に出現しつつある多極的秩序を強調し、拒否による抑止、長距離攻撃、統合防空・ミサイル防衛、海洋作戦、国家の抗堪性、準備態勢の加速に重点を置いている。
(3) 最も重要な点は、両国とも米国の同盟国や提携国を中心とした地域均衡戦略をその中心に据えていることである。日本の戦略文書は、日本にとってオーストラリアは米国に次ぐ重要な提携国であるとまで述べている。
(4) 不都合な点としては、日本は防衛関連の輸出においてあまり実績がない。しかし、日本には米国と協力してきた長い歴史があり、オーストラリアと同様、装備品の大半は米国製である。日本はまた、グローバル戦闘航空プログラムで英国やイタリアと提携し、主要な国際的能力開発計画の土俵に上がっている。インド太平洋における均衡連合を拡大するための次の段階は、もがみ型護衛艦を中心とした豪日フリゲート計画かもしれない。
(5) 導入の検討対象として選定されている艦艇は、日本のもがみ型護衛艦を含めスペイン、ドイツ、韓国が設計の艦艇の4艦種であるが、もがみ型護衛艦はその中で最有力候補の1つとなるはずである。2月20日に発表された“Independent Analysis of Navy’s Surface Combatant Fleet”では、すでに「水上」にあり、洋上と陸上のハイブリッド建造で迅速に建造可能で、一連の要件を満たす艦艇を求めている。新造艦は要件として、ヘリコプターの運用が可能、曳航式アレイソナーと短魚雷を装備し、対潜戦の実施が可能、防空の提供、対艦・対地攻撃能力の提供、より大規模な海軍任務部隊に対する防護の提供を満たさなければならない。もがみ型護衛艦は、これらの要件を全て満たしているが、さらにいくつかの重要な特性を備えている。もがみ型護衛艦は、オーストラリアの同志である米国の同盟国によって運用され、運用する海域をオーストラリアと同じ海域に重点を置いており、成熟した設計である。
(6) 日本のフリゲートが持つ主な特徴の1つは、MH-60シーホーク・ヘリコプターを運用するように設計されていることである。Royal Australian Navy はMH-60シーホーク・ヘリコプター部隊に注力しており、これを運用する能力は新フリゲートにとって重要な要件となる。また、もがみ型護衛艦は、選定された4隻の中で最も高速で操縦性の高い艦の1つであり、必要乗組員数も最も少ない。これはRoyal Australian Navy が労働力の危機に直面しているため、重要な要素である。
(7) 最後に、もがみ型護衛艦は無人水中器・無人水上艇の「母船」として運用できるように設計されており、これは海戦の性質の変化を考慮すると非常に重要な要素である。
記事参照:Australia’s new navy: The Japanese option
3月1日「パキスタン・グワダル港の現況―米オンライン誌報道」(China File, March 1, 2024)
3月1日付の米オンライン誌China Fileは、パキスタンのジャーナリストAkbar Notezaiの “There Is No CPEC in Gwadar, Except Security Check Posts”と題する掲載し、中国の「一帯一路構想」の旗艦構想とされる、中国-パキスタン経済回廊(CPEC)のパキスタン側の終点であるグワダル港は端的に言えば保安検査施設が機能しているだけとして、同港の現況について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国-パキスタン経済回廊(China-Pakistan Economic Corridor:以下、CPECと言う)」の終点は、イランとの国境に近いパキスタンのバロチスターン州にある港湾都市グワダルである。CPECは、高速道路、鉄道、パイプラインの輸送網を通じて、グワダルと中国の新疆ウイグル自治区を結ぶ計画である。CPECは、パキスタンと中国間の貿易を促進するとともに、中国にとって、中東から石油を輸入際の経路をより短いものとし、また輸出のためにインド洋への進出を可能にするものである。
(2) パキスタンと中国の当局者はグワダルの発展可能性について期待しているが、地元では中国の権益を狙った暴動が多発している。中国が2002年に2億4,800万ドルの初期投資を行い、グワダル村に隣接して港湾複合施設の開発を始めたが、20年以上経過しても、グワダルの開発には時間がかかるであろう。過去2年間、グワダルでは、地元の所要や権利が無視されていると感じている地元住民による抗議行動が頻発している。地元民が特に憤慨している問題の1つは、港湾開発とともに建設された保安施設で、地元民がグワダル港とその周辺地区を移動する場合、通過しなければならない検問所が数多くあることである。
(3) これらの検問所は、何よりも地元民の日常生活に大きな影響を与えてきた。抗議運動の指導者は、「グワダルにはCPECなどない。CPECの名の下に検問所があるだけだ。私に言わせれば、グワダルのCPEC構想は検問所の名前でしかない」と語っている。また、別の指導者によれば、中国の要人がグワダルを訪問する時には、パキスタン軍当局者が地元民の出漁を阻止し、既に出漁している漁民はVIPの移動が終了するまで帰港できず、時には12時間も待たされることもある。沖合で船が待機させられている間、漁民は漁獲物を市場に届けることができない。この指導者は、「このような状況下で、子どもたちの生計をどうやって立てればいいのか」と抗議している。University of BalochistanのAbdul Zahir Mengal准教授は、グワダルでの抗議行動に加えて、「パキスタンの政情不安が、中国をしてCPECの下での投資拡大を躊躇させている」と指摘している。
(4) ここ数年、パキスタンでは、政情不安が頻発する度に経済発展よりも政治問題が優先されてきた。政治的不確実性の高まりとともに、政治的暴力も増加している。イスラマバードを拠点とするある研究者は、「アフガニスタンで中国を標的にしているバローチ分離主義者に加えて、パキスタン・タリバンとその同調者も、カイバル・パクトゥンクワ州(旧北西辺境州)と国境を接するアフガニスタン地域で再編成を開始した。そのため、CPECに対する脅威の程度が上昇している」と言う。恐らくCPECにとってより懸念される事象は、パキスタン、特にバロチスターン州における中国人とCPECプロジェクト自体がますます過激派の標的になっていることである。
(5) こうした政治的混乱はCPEC構想に影響を及ぼしており、中国の誓約に対する疑念が高まっている。最近のパキスタンにおけるマスコミ報道によれば、CPECに対する中国の投資は実際には約250億ドルでしかない。CPECは、習近平国家主席が2015年に初めて発表した時、総額460億ドルであった。2017年には、南部シンド州の当時の州知事は計画された投資額が620億ドルに増加されたと述べ、この数字が過去数年間、CPECに関する英語報道で頻繁に引用されてきた。しかしながら、中国当局はこの数字を確認したことはない。公式の投資額や実際の投資額がどうであれ、地元の実業家は失望している。グワダル商工会議所会頭は、グワダル港がCPECの主要拠点とされていたので、グワダルがパキスタンにおける中国企業活動の中心地になるであろうと期待していたが、「グワダルには未だ企業が来ておらず、CPEC構想は地元企業に利益をもたらしていない。CPECは2013年に立ち上げられたにも関わらず、今日グワダルではほとんどビジネスが行われていない」と語っている。CPECが期待に応えられなかったといって、誰も中国を批難しているわけではない。イスラマバード在住のエコノミストは、「問題は我々パキスタン側にある。我々は、政治、経済および安全保障上の諸問題を抱えている。同時に、中国側の産業とその優先事項もベトナムに移行しつつあり、パキスタンと中国の両国間の緊密な関係にも関わらず、中国への貿易を増やすことができなかった」と指摘している。
(6) 一方、中国でもCPECの再評価が行われていることはほぼ確実である。パキスタンのLahore University of Management SciencesのHasan H. Karrar准教授は、中国は20年に及ぶ発展途上諸国への投資経験から、その戦略を再評価し始めているとして、「中国では、こうした投資の成否を基準として再評価されており、したがって、私の判断では、中国の投資は過去10年から20年と比べて、今後は全く異なったものになるであろう」と見ている。中国当局者でさえ、CPECの成り行きに不満を表明し始めているようである。ある中国外交官は匿名を条件に、「中国では中央政府が明快に決定を下すが、パキスタンではそうではない。CPEC構想関連の諸問題に関して、連邦政府と州政府の見解に相違が生じることもある」と述べている。その上、見返りがなければ、中国の投資額に限界があるのは当然である。パキスタン駐在中国大使は、中国はパキスタンが経済的困難に直面していることを知っており、「中国は兄弟国パキスタンを可能な限り支援するためにここにいる」としながらも、毛沢東の言葉を引用し、「成功には自分の足で立つことが必要だ」と指摘している。
記事参照:There Is No CPEC in Gwadar, Except Security Check Posts
(1) 中国-パキスタン経済回廊(China-Pakistan Economic Corridor:以下、CPECと言う)」の終点は、イランとの国境に近いパキスタンのバロチスターン州にある港湾都市グワダルである。CPECは、高速道路、鉄道、パイプラインの輸送網を通じて、グワダルと中国の新疆ウイグル自治区を結ぶ計画である。CPECは、パキスタンと中国間の貿易を促進するとともに、中国にとって、中東から石油を輸入際の経路をより短いものとし、また輸出のためにインド洋への進出を可能にするものである。
(2) パキスタンと中国の当局者はグワダルの発展可能性について期待しているが、地元では中国の権益を狙った暴動が多発している。中国が2002年に2億4,800万ドルの初期投資を行い、グワダル村に隣接して港湾複合施設の開発を始めたが、20年以上経過しても、グワダルの開発には時間がかかるであろう。過去2年間、グワダルでは、地元の所要や権利が無視されていると感じている地元住民による抗議行動が頻発している。地元民が特に憤慨している問題の1つは、港湾開発とともに建設された保安施設で、地元民がグワダル港とその周辺地区を移動する場合、通過しなければならない検問所が数多くあることである。
(3) これらの検問所は、何よりも地元民の日常生活に大きな影響を与えてきた。抗議運動の指導者は、「グワダルにはCPECなどない。CPECの名の下に検問所があるだけだ。私に言わせれば、グワダルのCPEC構想は検問所の名前でしかない」と語っている。また、別の指導者によれば、中国の要人がグワダルを訪問する時には、パキスタン軍当局者が地元民の出漁を阻止し、既に出漁している漁民はVIPの移動が終了するまで帰港できず、時には12時間も待たされることもある。沖合で船が待機させられている間、漁民は漁獲物を市場に届けることができない。この指導者は、「このような状況下で、子どもたちの生計をどうやって立てればいいのか」と抗議している。University of BalochistanのAbdul Zahir Mengal准教授は、グワダルでの抗議行動に加えて、「パキスタンの政情不安が、中国をしてCPECの下での投資拡大を躊躇させている」と指摘している。
(4) ここ数年、パキスタンでは、政情不安が頻発する度に経済発展よりも政治問題が優先されてきた。政治的不確実性の高まりとともに、政治的暴力も増加している。イスラマバードを拠点とするある研究者は、「アフガニスタンで中国を標的にしているバローチ分離主義者に加えて、パキスタン・タリバンとその同調者も、カイバル・パクトゥンクワ州(旧北西辺境州)と国境を接するアフガニスタン地域で再編成を開始した。そのため、CPECに対する脅威の程度が上昇している」と言う。恐らくCPECにとってより懸念される事象は、パキスタン、特にバロチスターン州における中国人とCPECプロジェクト自体がますます過激派の標的になっていることである。
(5) こうした政治的混乱はCPEC構想に影響を及ぼしており、中国の誓約に対する疑念が高まっている。最近のパキスタンにおけるマスコミ報道によれば、CPECに対する中国の投資は実際には約250億ドルでしかない。CPECは、習近平国家主席が2015年に初めて発表した時、総額460億ドルであった。2017年には、南部シンド州の当時の州知事は計画された投資額が620億ドルに増加されたと述べ、この数字が過去数年間、CPECに関する英語報道で頻繁に引用されてきた。しかしながら、中国当局はこの数字を確認したことはない。公式の投資額や実際の投資額がどうであれ、地元の実業家は失望している。グワダル商工会議所会頭は、グワダル港がCPECの主要拠点とされていたので、グワダルがパキスタンにおける中国企業活動の中心地になるであろうと期待していたが、「グワダルには未だ企業が来ておらず、CPEC構想は地元企業に利益をもたらしていない。CPECは2013年に立ち上げられたにも関わらず、今日グワダルではほとんどビジネスが行われていない」と語っている。CPECが期待に応えられなかったといって、誰も中国を批難しているわけではない。イスラマバード在住のエコノミストは、「問題は我々パキスタン側にある。我々は、政治、経済および安全保障上の諸問題を抱えている。同時に、中国側の産業とその優先事項もベトナムに移行しつつあり、パキスタンと中国の両国間の緊密な関係にも関わらず、中国への貿易を増やすことができなかった」と指摘している。
(6) 一方、中国でもCPECの再評価が行われていることはほぼ確実である。パキスタンのLahore University of Management SciencesのHasan H. Karrar准教授は、中国は20年に及ぶ発展途上諸国への投資経験から、その戦略を再評価し始めているとして、「中国では、こうした投資の成否を基準として再評価されており、したがって、私の判断では、中国の投資は過去10年から20年と比べて、今後は全く異なったものになるであろう」と見ている。中国当局者でさえ、CPECの成り行きに不満を表明し始めているようである。ある中国外交官は匿名を条件に、「中国では中央政府が明快に決定を下すが、パキスタンではそうではない。CPEC構想関連の諸問題に関して、連邦政府と州政府の見解に相違が生じることもある」と述べている。その上、見返りがなければ、中国の投資額に限界があるのは当然である。パキスタン駐在中国大使は、中国はパキスタンが経済的困難に直面していることを知っており、「中国は兄弟国パキスタンを可能な限り支援するためにここにいる」としながらも、毛沢東の言葉を引用し、「成功には自分の足で立つことが必要だ」と指摘している。
記事参照:There Is No CPEC in Gwadar, Except Security Check Posts
3月1日「米国にとっての台湾防衛問題―米議会調査報告」(Congressional Research Service, March 1, 2024)
3月1日付の米Congressional Research Serviceのウエブサイトは、アジア担当Caitlin Campbellの“Taiwan: Defense and Military Issues”と題する報告書を掲載し、台湾の国防と米国の対台湾政策について、要旨以下のように報じている。
(1) 米国の対台湾政策は、台湾海峡の平和と安定の維持を優先してきた。米国は、中国が自国の領土と主張して台湾を武力で支配しようとするのを抑止する台湾の努力を支持している。米政府は、アジアにおける中国の軍事的侵略を抑止するための能力を強化しようとしている。米議会は米台防衛関係の強化を目的とした法律をいくつか可決しているが、米国の政策立案者にとって重要な課題は、紛争を引き起こさずに、台湾の防衛を支援することである。
(2) 台湾は、地理的、気候的など戦略的優位性がある。台湾海峡の幅は70海里から220海里で、気象条件と時期によっては、海峡の航行は危険を伴う。山が多い地形と人口密度の高い海岸は、水陸両用上陸作戦や侵攻作戦には適していない。2017年以降、台湾の指導者たちは国防予算を拡大してきた。2019年から2023年まで、支出は年平均5%近く増加し、GDPに占める割合は2%から2.5%に上昇した。国防費は2024年に再び増加する予定だが、その進度は緩やかである。準備態勢を強化するため、台湾の指導者は義務兵役を4ヵ月から1年に延長し、民間防衛能力を拡大する計画を発表している。
(3) 台湾は海峡を挟んで非対称な力の釣り合いに直面している。人民解放軍(以下、PLAと言う)は、台湾併合に必要な能力を開発することに主眼を置いた近代化計画を数十年にわたって進めてきた。PLAはミサイル攻撃、小さな離島の占領、封鎖、そして最も危険性が高く、最も困難な作戦である台湾本島への水陸両用上陸・占領作戦の訓練を行っている。
(4) 台湾国内は防衛上の課題に直面している。歴史的、政治的、官僚的な理由から、民軍関係は緊張状態にあり、エネルギー、食糧、水、インターネット、その他の重要な基幹設備は、外部からの妨害に対して脆弱である。また、台湾の民間防衛態勢は不十分であり、軍隊は人員の確保、維持、訓練に苦慮している。社会という段階では、経済的安全保障、物理的な安全保障、人命といった面で、台湾の人々が中国の武力侵略の可能性に直面した場合に、どの程度の対価を負担することを厭わないのか、あるいは負担できるのかは明らかではない。
(5) 米政府高官は、中国による台湾侵攻は差し迫ったものでも必然的なものでもないと述べている。中国共産党は持続的な戦闘を伴わない作戦を展開しており、これが台湾の軍事的優位性と即応性を低下させていると指摘する専門家もいる。こうしたグレーゾーン活動には以下が含まれ、中国政府はしばしば、米国の政府要人と台湾の指導者が注目された後に、このような活動を活発化させている。
a.台湾近海での大規模かつ複雑化する演習
b.台湾付近でのほぼ毎日の航空作戦と台中の中央線を越えての頻繁な出撃
c.台湾本島から24海里までへの接近
d.台湾近海および台湾を包囲する無人機の飛行、および中国沿岸に近い台湾が支配する金門島の空域での無人機の飛行
(6) PLAの平時における台湾島嶼部への接近行動が常態化すれば、PLAが攻撃の準備を隠蔽しているかどうかを見極める台湾政府の能力が損なわれ、台湾が対応する余裕が大幅に減少する可能性がある。グレーゾーン活動は、PLAに訓練と情報収集の機会を提供し、台湾軍に負担をかける。台湾軍はPLAの活動への対応に伴う運用・維持経費の増大に直面している。中国政府はまた、台湾の軍事力に対する疑念を台湾の人々に植え付け、統一を主張する中国政府に台湾政府が応じるよう政治的圧力をかけるために、強制的で非暴力的な作戦を使用している可能性もある。
(7) 1980年以来、米国は台湾と非公式な防衛関係を維持してきた。専門家によれば、米台防衛関係は台湾が中国の軍事的侵略を抑止する能力に大きく貢献していると評価されている。1979年の台湾関係法(以下、TRAと言う)は、国交断絶後の台湾防衛に対する米国の支援に法的根拠を与えた最初の法律で次のような特徴がある。
a.台湾が十分な自衛能力を維持できるようにするために必要な量の防衛装備や防衛上の役務を台湾に提供する。
b.台湾の人々の安全や社会・経済体制を危険にさらすような武力やその他の強制手段に対抗する米国の能力を維持する。
c.米国が台湾を防衛することを義務付けてはいないが、その能力を維持することを米国の政策とすることで、中国が攻撃してきた場合の米国の行動について「戦略的曖昧性」を作り出している。
(8) 歴代の米政権は、台湾が非対称戦略を採ることを奨励し、中国が武力で台湾を併合することに法外な対価がかかるようにしてきた。この取り組みは、台湾が対艦ミサイル、機雷、その他の小型で展開可能な比較的安価な兵器システムを組み合わせることによって、水陸両用侵攻を不可能にすることを目的とした能力に投資することを想定している。台湾政府はこの取り組みをある程度採用している。
(9) 過去70年間、台湾は対外有償軍事援助(以下、FMSと言う)を通じて米国の防衛装備品を多く購入してきた。米議会は最近、台湾への武器供与を拡大・迅速化するための措置を講じ、台湾復興強化法(TERA)は台湾への対外軍事資金の提供を初めて許可した。U.S. Department of Stateは2023年、台湾向けFMS計画に1億3,500万ドルを他の予算から充当する意向を議会に通知した。さらに、国防装備品、役務、教育、およびU.S. Department of Defenseの在庫から年間10億ドルまで防衛装備品を台湾に提供することを認め、2023年7月、Biden政権はこの権限を行使し、3億4,500万ドルの防衛装備品を台湾に移転する意向を議会に通知した。
記事参照:Taiwan: Defense and Military Issues
(1) 米国の対台湾政策は、台湾海峡の平和と安定の維持を優先してきた。米国は、中国が自国の領土と主張して台湾を武力で支配しようとするのを抑止する台湾の努力を支持している。米政府は、アジアにおける中国の軍事的侵略を抑止するための能力を強化しようとしている。米議会は米台防衛関係の強化を目的とした法律をいくつか可決しているが、米国の政策立案者にとって重要な課題は、紛争を引き起こさずに、台湾の防衛を支援することである。
(2) 台湾は、地理的、気候的など戦略的優位性がある。台湾海峡の幅は70海里から220海里で、気象条件と時期によっては、海峡の航行は危険を伴う。山が多い地形と人口密度の高い海岸は、水陸両用上陸作戦や侵攻作戦には適していない。2017年以降、台湾の指導者たちは国防予算を拡大してきた。2019年から2023年まで、支出は年平均5%近く増加し、GDPに占める割合は2%から2.5%に上昇した。国防費は2024年に再び増加する予定だが、その進度は緩やかである。準備態勢を強化するため、台湾の指導者は義務兵役を4ヵ月から1年に延長し、民間防衛能力を拡大する計画を発表している。
(3) 台湾は海峡を挟んで非対称な力の釣り合いに直面している。人民解放軍(以下、PLAと言う)は、台湾併合に必要な能力を開発することに主眼を置いた近代化計画を数十年にわたって進めてきた。PLAはミサイル攻撃、小さな離島の占領、封鎖、そして最も危険性が高く、最も困難な作戦である台湾本島への水陸両用上陸・占領作戦の訓練を行っている。
(4) 台湾国内は防衛上の課題に直面している。歴史的、政治的、官僚的な理由から、民軍関係は緊張状態にあり、エネルギー、食糧、水、インターネット、その他の重要な基幹設備は、外部からの妨害に対して脆弱である。また、台湾の民間防衛態勢は不十分であり、軍隊は人員の確保、維持、訓練に苦慮している。社会という段階では、経済的安全保障、物理的な安全保障、人命といった面で、台湾の人々が中国の武力侵略の可能性に直面した場合に、どの程度の対価を負担することを厭わないのか、あるいは負担できるのかは明らかではない。
(5) 米政府高官は、中国による台湾侵攻は差し迫ったものでも必然的なものでもないと述べている。中国共産党は持続的な戦闘を伴わない作戦を展開しており、これが台湾の軍事的優位性と即応性を低下させていると指摘する専門家もいる。こうしたグレーゾーン活動には以下が含まれ、中国政府はしばしば、米国の政府要人と台湾の指導者が注目された後に、このような活動を活発化させている。
a.台湾近海での大規模かつ複雑化する演習
b.台湾付近でのほぼ毎日の航空作戦と台中の中央線を越えての頻繁な出撃
c.台湾本島から24海里までへの接近
d.台湾近海および台湾を包囲する無人機の飛行、および中国沿岸に近い台湾が支配する金門島の空域での無人機の飛行
(6) PLAの平時における台湾島嶼部への接近行動が常態化すれば、PLAが攻撃の準備を隠蔽しているかどうかを見極める台湾政府の能力が損なわれ、台湾が対応する余裕が大幅に減少する可能性がある。グレーゾーン活動は、PLAに訓練と情報収集の機会を提供し、台湾軍に負担をかける。台湾軍はPLAの活動への対応に伴う運用・維持経費の増大に直面している。中国政府はまた、台湾の軍事力に対する疑念を台湾の人々に植え付け、統一を主張する中国政府に台湾政府が応じるよう政治的圧力をかけるために、強制的で非暴力的な作戦を使用している可能性もある。
(7) 1980年以来、米国は台湾と非公式な防衛関係を維持してきた。専門家によれば、米台防衛関係は台湾が中国の軍事的侵略を抑止する能力に大きく貢献していると評価されている。1979年の台湾関係法(以下、TRAと言う)は、国交断絶後の台湾防衛に対する米国の支援に法的根拠を与えた最初の法律で次のような特徴がある。
a.台湾が十分な自衛能力を維持できるようにするために必要な量の防衛装備や防衛上の役務を台湾に提供する。
b.台湾の人々の安全や社会・経済体制を危険にさらすような武力やその他の強制手段に対抗する米国の能力を維持する。
c.米国が台湾を防衛することを義務付けてはいないが、その能力を維持することを米国の政策とすることで、中国が攻撃してきた場合の米国の行動について「戦略的曖昧性」を作り出している。
(8) 歴代の米政権は、台湾が非対称戦略を採ることを奨励し、中国が武力で台湾を併合することに法外な対価がかかるようにしてきた。この取り組みは、台湾が対艦ミサイル、機雷、その他の小型で展開可能な比較的安価な兵器システムを組み合わせることによって、水陸両用侵攻を不可能にすることを目的とした能力に投資することを想定している。台湾政府はこの取り組みをある程度採用している。
(9) 過去70年間、台湾は対外有償軍事援助(以下、FMSと言う)を通じて米国の防衛装備品を多く購入してきた。米議会は最近、台湾への武器供与を拡大・迅速化するための措置を講じ、台湾復興強化法(TERA)は台湾への対外軍事資金の提供を初めて許可した。U.S. Department of Stateは2023年、台湾向けFMS計画に1億3,500万ドルを他の予算から充当する意向を議会に通知した。さらに、国防装備品、役務、教育、およびU.S. Department of Defenseの在庫から年間10億ドルまで防衛装備品を台湾に提供することを認め、2023年7月、Biden政権はこの権限を行使し、3億4,500万ドルの防衛装備品を台湾に移転する意向を議会に通知した。
記事参照:Taiwan: Defense and Military Issues
3月4日「ASEANの海洋安全保障を強固にせよ―シンガポール海洋安全保障問題専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, March 4, 2024)
3月4日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paper は、同Institute研究員Giliang KEMBARAの“Ensuring ASEAN Maritime Security Resilience”と題する論説を掲載し、そこでGiliang KEMBARAは2023年末のASEAN外相声明に言及し、ASEANが地域および地域外の海洋安全保障に対して強く関心を示しており、今後その問題に積極的に取り組むべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年末にASEAN加盟国の外相達が、「東南アジアにおける海洋領域の安定を維持・促進する」ことに関する共同声明を発した。それは特に南シナ海論争など、東南アジア周辺で生起している地政学的緊張について言及し、主要大国が包括的な海洋安全保障に貢献することを求めている。この声明には、海洋における安全の欠如が、地域の平和と安定を損ねているというASEANによる理解が示されている。他方、この声明が中国による攻撃的姿勢を強調していないことを嘆く声もあるが、それは合意を重んじるASEANの意思決定過程を考慮すれば不思議なことではない。
(2) 最新の共同外相声明は、これまでのASEANによる声明の主張に沿ったものである。それでも、これは2つの点で意義がある。第1に、共同外相声明が南シナ海に関する最初のASEAN独自の声明だということである。第2に、安定的で平和的な海が地域の平和と安全、安定のために必要だということをASEANが示したことである。
(3) COVID-19の世界的感染拡大から回復した世界には、地政学的に重大な出来事に事欠かない。2022年にはウクライナ戦争、2023年にはイスラエルとハマスの紛争が起き、2024年に入ってもそれらは終わっていない。今後、どのような事件が起きるだろうか。3つの問題がある。
(4) 第1に、中国と台湾の間の緊張の高まりである。新年の演説で中国の習近平国家主席は、強制的な台湾の再統一の可能性を示唆した。特に、台湾総統選で民進党候補者が勝利した後だけに、これは台湾独立論に対する強い牽制と思われる。ただし、これまでの中国政府の反応は現在のところ自制的である。米中関係を優先する意図があるのかもしれない。
(5) 第2に、北朝鮮のミサイル開発への懸念が高まっている。2023年12月に北朝鮮はICBMの発射実験を行ったが、2023年で5度目であり、それは1年で最大の数字であった。金正恩は韓国を最大の敵と名指しし、南北統一はあり得ないという決意を示している。第3の問題は南シナ海論争である。2023年2月に中国海警船がPhilippine Coast Guardの船に軍用レーザーを照射した後、状況は急速に悪化した。米国はその海域に軍事的展開を継続し、軍事演習などを通じて関与する意志を示し続けている。こうしたことが、南シナ海に関する行動規範(COC)をめぐる交渉にさらに複雑にしている。
(6) ASEAN諸国はこれまで、現行の、ないし潜在的な地政学的緊張が自国の経済的利益を阻害しないようにすることに焦点を当ててきた。たとえばウクライナからの穀物輸送がロシアに妨害され、インドネシアに影響を及ぼしたとき、Jokowi大統領は両国を訪問しており、それと同時に小麦などの別の供給源を模索するなどした。シンガポールは、航行の自由や海上交通路の安全が重要な意味を持つことを理解しており、フーシ派の船舶攻撃によって緊張が高まる紅海で、米国主導の作戦で自国の役割を果たす意図を示している。
(7) 2023年は、ASEANが特に海洋における地域の安全と平和を強調してきた1年であった。たとえば、ASEAN間の共同軍事演習が2度、フィリピンとインドネシアで実施された。インドネシアで実施されたASEAN Solidarity Exercise 2023は、ASEAN諸国間の初めての共同軍事演習であった。また8月にはASEAN Maritime Outlook(AMO)が採択された。それは3年毎に更新することが決められており、したがってASEANの指導者は海洋問題に関する合意を目指した対話を継続することになる。
(8) 今後、世界的な海洋の諸問題に対して、ASEANは真剣に検討をしていなければならないが、ASEAN外相声明が示したのは、海洋領域を取り巻く安定にASEANが強い関心を持っているということである。ASEANにとって、将来の海洋安全保障の抗堪性を得るためには、地域周辺を超えて検討を開始する、今が良い時機である。
記事参照:Ensuring ASEAN Maritime Security Resilience
(1) 2023年末にASEAN加盟国の外相達が、「東南アジアにおける海洋領域の安定を維持・促進する」ことに関する共同声明を発した。それは特に南シナ海論争など、東南アジア周辺で生起している地政学的緊張について言及し、主要大国が包括的な海洋安全保障に貢献することを求めている。この声明には、海洋における安全の欠如が、地域の平和と安定を損ねているというASEANによる理解が示されている。他方、この声明が中国による攻撃的姿勢を強調していないことを嘆く声もあるが、それは合意を重んじるASEANの意思決定過程を考慮すれば不思議なことではない。
(2) 最新の共同外相声明は、これまでのASEANによる声明の主張に沿ったものである。それでも、これは2つの点で意義がある。第1に、共同外相声明が南シナ海に関する最初のASEAN独自の声明だということである。第2に、安定的で平和的な海が地域の平和と安全、安定のために必要だということをASEANが示したことである。
(3) COVID-19の世界的感染拡大から回復した世界には、地政学的に重大な出来事に事欠かない。2022年にはウクライナ戦争、2023年にはイスラエルとハマスの紛争が起き、2024年に入ってもそれらは終わっていない。今後、どのような事件が起きるだろうか。3つの問題がある。
(4) 第1に、中国と台湾の間の緊張の高まりである。新年の演説で中国の習近平国家主席は、強制的な台湾の再統一の可能性を示唆した。特に、台湾総統選で民進党候補者が勝利した後だけに、これは台湾独立論に対する強い牽制と思われる。ただし、これまでの中国政府の反応は現在のところ自制的である。米中関係を優先する意図があるのかもしれない。
(5) 第2に、北朝鮮のミサイル開発への懸念が高まっている。2023年12月に北朝鮮はICBMの発射実験を行ったが、2023年で5度目であり、それは1年で最大の数字であった。金正恩は韓国を最大の敵と名指しし、南北統一はあり得ないという決意を示している。第3の問題は南シナ海論争である。2023年2月に中国海警船がPhilippine Coast Guardの船に軍用レーザーを照射した後、状況は急速に悪化した。米国はその海域に軍事的展開を継続し、軍事演習などを通じて関与する意志を示し続けている。こうしたことが、南シナ海に関する行動規範(COC)をめぐる交渉にさらに複雑にしている。
(6) ASEAN諸国はこれまで、現行の、ないし潜在的な地政学的緊張が自国の経済的利益を阻害しないようにすることに焦点を当ててきた。たとえばウクライナからの穀物輸送がロシアに妨害され、インドネシアに影響を及ぼしたとき、Jokowi大統領は両国を訪問しており、それと同時に小麦などの別の供給源を模索するなどした。シンガポールは、航行の自由や海上交通路の安全が重要な意味を持つことを理解しており、フーシ派の船舶攻撃によって緊張が高まる紅海で、米国主導の作戦で自国の役割を果たす意図を示している。
(7) 2023年は、ASEANが特に海洋における地域の安全と平和を強調してきた1年であった。たとえば、ASEAN間の共同軍事演習が2度、フィリピンとインドネシアで実施された。インドネシアで実施されたASEAN Solidarity Exercise 2023は、ASEAN諸国間の初めての共同軍事演習であった。また8月にはASEAN Maritime Outlook(AMO)が採択された。それは3年毎に更新することが決められており、したがってASEANの指導者は海洋問題に関する合意を目指した対話を継続することになる。
(8) 今後、世界的な海洋の諸問題に対して、ASEANは真剣に検討をしていなければならないが、ASEAN外相声明が示したのは、海洋領域を取り巻く安定にASEANが強い関心を持っているということである。ASEANにとって、将来の海洋安全保障の抗堪性を得るためには、地域周辺を超えて検討を開始する、今が良い時機である。
記事参照:Ensuring ASEAN Maritime Security Resilience
3月4日「事態拡大の回避はフーシ派問題の解決策にはならない―米国防問題専門家論説」(Hudson Institute, March 4, 2024)
3月4日付の米保守系シンクタンクHudson Instituteのウエブサイトは、同Institute上席研究員Rebeccah L. Heinrichsの“De-escalation Will Not Solve the Houthi Problem”と題する論説を掲載し、そこでRebeccah L. Heinrichsは紅海周辺で活発化しているフーシ派の活動に対する米国の対応が事態拡大の回避と安定の回復を目的としたものであるが、それだけでは不十分であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) イラン政府が支援する武装集団フーシ派が、英国船籍のバラ積み船を撃沈した。ミサイルを発射したのが2月18日で、同タンカーは3月2日に沈没した。オイルの流出による環境被害もさることながら、それは米国にとって屈辱的な出来事である。
(2) なぜそれが米国にとって屈辱なのかと言えば、第2次世界大戦以降の国際秩序の原則の1つが、自由で開かれた海上貿易だからである。問題なのは船舶の撃沈それ自体というよりも、フーシ派が攻撃を繰り返していること、米国と同盟国が攻撃を止めるようフーシ派およびイラン政府を説得できていないことである。フーシ派の活動は、2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃以降活発化した。彼らの目的は米国をこの地域から追い出し、イスラエル支援を止めさせることである。それに対するBiden政権の対応は驚くほどに控えめである。
(3) 2月初め、米国は、間もなく攻撃が行われることを敵に警告し、差し迫った攻撃の大まかな場所をメディアを通じて漏らした後、英国とともにイエメンのフーシ派に対する攻撃を開始した。米国の声明によれば、米国の目的は「緊張の緩和と紅海の安定回復」にあるとのことである。これは、米国がウクライナを支援したときと同じような目的である。そのため、米国のウクライナ支援は2年もの間、限定的なものに留まっているのである。それによって事態が安定しているようには思えず、敵対者に利をもたらしているだけである。
(4) 2005年にU.S. Department of Defenseは、stability operationsという作戦を米軍の基幹戦略として確立させた。その目的は行政サービスや基幹施設再構築を通じて、安全で安定的な環境を維持および再確立することである。安定こそが平和だというわけである。
(5) もう一度、自由で開かれた海上貿易という、第2次世界大戦後の原則を振り返るべきである。これはいかなる国も諸国の貿易を妨害できない、してはならないという原則である。しかし現在、侵略者を罰するという米軍の強さの保証がない中で、その原則が目の前で弱まっているのである。
(6) 米国にはフーシ派を粉砕できる力がある。同盟国とともにイラン政府を罰する政治的影響力もある。事態拡大の回避や安定の回復などではなく、文字通りの平和の回復を目指すべきである。そのために必要なのは、米国の能力と意志を増大させることである。
記事参照:De-escalation Will Not Solve the Houthi Problem
(1) イラン政府が支援する武装集団フーシ派が、英国船籍のバラ積み船を撃沈した。ミサイルを発射したのが2月18日で、同タンカーは3月2日に沈没した。オイルの流出による環境被害もさることながら、それは米国にとって屈辱的な出来事である。
(2) なぜそれが米国にとって屈辱なのかと言えば、第2次世界大戦以降の国際秩序の原則の1つが、自由で開かれた海上貿易だからである。問題なのは船舶の撃沈それ自体というよりも、フーシ派が攻撃を繰り返していること、米国と同盟国が攻撃を止めるようフーシ派およびイラン政府を説得できていないことである。フーシ派の活動は、2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃以降活発化した。彼らの目的は米国をこの地域から追い出し、イスラエル支援を止めさせることである。それに対するBiden政権の対応は驚くほどに控えめである。
(3) 2月初め、米国は、間もなく攻撃が行われることを敵に警告し、差し迫った攻撃の大まかな場所をメディアを通じて漏らした後、英国とともにイエメンのフーシ派に対する攻撃を開始した。米国の声明によれば、米国の目的は「緊張の緩和と紅海の安定回復」にあるとのことである。これは、米国がウクライナを支援したときと同じような目的である。そのため、米国のウクライナ支援は2年もの間、限定的なものに留まっているのである。それによって事態が安定しているようには思えず、敵対者に利をもたらしているだけである。
(4) 2005年にU.S. Department of Defenseは、stability operationsという作戦を米軍の基幹戦略として確立させた。その目的は行政サービスや基幹施設再構築を通じて、安全で安定的な環境を維持および再確立することである。安定こそが平和だというわけである。
(5) もう一度、自由で開かれた海上貿易という、第2次世界大戦後の原則を振り返るべきである。これはいかなる国も諸国の貿易を妨害できない、してはならないという原則である。しかし現在、侵略者を罰するという米軍の強さの保証がない中で、その原則が目の前で弱まっているのである。
(6) 米国にはフーシ派を粉砕できる力がある。同盟国とともにイラン政府を罰する政治的影響力もある。事態拡大の回避や安定の回復などではなく、文字通りの平和の回復を目指すべきである。そのために必要なのは、米国の能力と意志を増大させることである。
記事参照:De-escalation Will Not Solve the Houthi Problem
3月4日「米国は、廃止された造船所を再稼働させるために日本と韓国の支援を懸命に求めている―インド専門家論説」(The EurAsian Times, March 4, 2024)
3月4日付のインド英字ニュースサイトThe EurAsian Timesは、インドの防衛関連ジャーナリストSakshi Tiwariの“‘Desperate’ US Seeks Japan’s & South Korea’s Help To Restart Its Defunct Shipyards; Keep Pace With China”と題する論説を掲載し、ここでSakshi Tiwariは中国の巨大な造船能力に対抗するため、米国はアジアの同盟国である日本と韓国に、閉鎖された米国の海軍造船所の再開を支援するように働きかけているとして要旨以下のように述べている。
(1) NIKKEI Asiaが報じたところでは、米国の努力はアジアの資金、造船のノウハウと経験を活用して造船能力を拡大することに重点を置いている。米国海軍長官Carlos Del Toroは、2024年2月下旬、韓国の造船所2ヵ所と日本の造船所1ヵ所を訪問した際、米国の閉鎖された造船所を復活させる計画に参加するよう売りこんだ。米海軍長官に同行して三菱重工の横浜造船所を訪問したRahm Emanuel駐日米国大使は、この訪問には2つの目的があり、米給油艦「ビッグホーン」の修理状況を視察することと日本企業が閉鎖された米国の造船所への投資に関心があるかどうかを知ることである。Rahm Emanuel大使は「我々は、三菱重工や他の日本企業が、閉鎖されている米造船所の1つに投資して再開し、海軍艦艇、商船、沿岸警備隊船艇の建造に参加することに関心を持っているかどうかを確認したかった。」と述べている。Rahm Emanuel大使は2024年1月、米艦艇がアジア海域に留まり、将来のいかなる対立にも備えて、日本の造船所が米艦艇の定期的な保守整備、大規模検査・修理を行えるようにすることで日米両国が合意に達しようとしていることをほのめかしていた。
(2) 米海軍長官は、「米国は1980年代ごろから、市場原理に委ねていたための造船能力を失ってしまった」と警告した。その警告は、主要な軍事計画の一部の遅延と経費超過によって引き起こされた造船能力の低下について、米国で懸念が広がっている時期に行われている。2023年5月の報道によると、U.S. Navyは日本の民間造船所を利用して艦艇の保守整備、修理、改修を行い、現地での整備の滞りを削減する可能性を模索していた。当初は日本に前方展開する艦艇に適用し、将来的には米本土を母港とする艦艇にも適応されるようになる。海軍長官は「米艦艇を戦域に留めておくことで、修理作業のために米国と間を往復する無駄がなくなる。日本で行われている修理作業は、米国の造船所の作業を軽くするので、米造船所は今新しい船を建造している」と述べている。
(3) 米国は、もう1つの主要な同盟国である韓国とも同様の協力関係を模索している。米海軍長官は朝鮮半島の南端にある巨済島の旧大宇造船海洋社のHanwha Ocean、世界最大の造船所である蔚山の現代重工業を視察した。海軍長官は韓国の業界の指導者達に「米国にはほとんど無傷で休眠状態にある造船所が数多くある。それらでは、イージス駆逐艦などの艦艇と、アンモニアガス運搬船などの高価値の商船の軍民両用建設施設として再開発の機が熟しており、・・・米国における軍民両用の造船所への投資は、高い給与を生み出し、高度な艦船を建造するブルーカラーおよびニューカラーの米国での雇用を創出し、明日の経済を保護し、活力を与えることができる」と述べている。閉鎖された海軍造船所を復活させる緊急性は、中国の巨大な造船産業がもたらす脅威に起因している。
(4) 世界最大の海軍である中国人民解放軍海軍は、造船能力で米国を凌駕するなど、急速に拡大している。2023年、米Office of Naval Intelligenceによると、中国の造船所は米国の232倍という驚異的な速さで船を建造できることを明らかにしている。中国の造船所は2,320万トン以上を建造できるのに対し、米国の造船所は10万トン未満しか建造できない。中国艦隊は現在、2015年から2020年にかけて米国よりも多くの戦闘艦艇を保有しており、両国海軍の数の差は急速に拡大している。U.S. Department of Defenseが議会に提出した中国の軍事・安全保障動向に関する最新の年次報告書によると、中国海軍は推定350隻の戦闘艦艇を保有し、U.S. Navyの戦闘部隊は293隻の艦艇を保有している。2035年まで、両海軍の戦闘艦艇の数の隔たりは5年ごとに拡大すると予想されており、2035年には、米国の艦艇が305〜317隻であるのに対し、中国は推定475隻の艦艇を保有することになる。特筆すべきは、中国が 過去10年間で150隻もの戦闘艦艇を就役させたことである。中国海軍は、戦闘艦艇だけでなく中国海警や海上民兵の兵力も保有している。慎重な見積もりでもこれらすべての船隊の船の合計数は700隻を超え、世界最大の船隊を保有することになるであろう。
(5) U.S. Congressional Budget Officeは2022年11月の報告書で、古い艦艇が退役するにつれて米国の艦隊は縮小すると予想されると述べている。U.S. Navyの指導層は、将来的に約380隻の艦艇を保有することを提唱している。しかし、建設の速度は期待できそうにない。処理しなければならない最大の仕事は原子力潜水艦の建造と修理であるが、原子力潜水艦は、米国が中国人民解放軍海軍に対して明らかに優位に立っていると認識されている数少ない分野の1つと見なされている。米国は、アジアからより多くの資金と人材を呼び込むことにより、中国の造船能力との隔たりをある程度埋め、戦力投射に必要な艦船の建造に拍車をかけることができると考えられている。
記事参照:‘Desperate’ US Seeks Japan’s & South Korea’s Help To Restart Its Defunct Shipyards; Keep Pace With China
(1) NIKKEI Asiaが報じたところでは、米国の努力はアジアの資金、造船のノウハウと経験を活用して造船能力を拡大することに重点を置いている。米国海軍長官Carlos Del Toroは、2024年2月下旬、韓国の造船所2ヵ所と日本の造船所1ヵ所を訪問した際、米国の閉鎖された造船所を復活させる計画に参加するよう売りこんだ。米海軍長官に同行して三菱重工の横浜造船所を訪問したRahm Emanuel駐日米国大使は、この訪問には2つの目的があり、米給油艦「ビッグホーン」の修理状況を視察することと日本企業が閉鎖された米国の造船所への投資に関心があるかどうかを知ることである。Rahm Emanuel大使は「我々は、三菱重工や他の日本企業が、閉鎖されている米造船所の1つに投資して再開し、海軍艦艇、商船、沿岸警備隊船艇の建造に参加することに関心を持っているかどうかを確認したかった。」と述べている。Rahm Emanuel大使は2024年1月、米艦艇がアジア海域に留まり、将来のいかなる対立にも備えて、日本の造船所が米艦艇の定期的な保守整備、大規模検査・修理を行えるようにすることで日米両国が合意に達しようとしていることをほのめかしていた。
(2) 米海軍長官は、「米国は1980年代ごろから、市場原理に委ねていたための造船能力を失ってしまった」と警告した。その警告は、主要な軍事計画の一部の遅延と経費超過によって引き起こされた造船能力の低下について、米国で懸念が広がっている時期に行われている。2023年5月の報道によると、U.S. Navyは日本の民間造船所を利用して艦艇の保守整備、修理、改修を行い、現地での整備の滞りを削減する可能性を模索していた。当初は日本に前方展開する艦艇に適用し、将来的には米本土を母港とする艦艇にも適応されるようになる。海軍長官は「米艦艇を戦域に留めておくことで、修理作業のために米国と間を往復する無駄がなくなる。日本で行われている修理作業は、米国の造船所の作業を軽くするので、米造船所は今新しい船を建造している」と述べている。
(3) 米国は、もう1つの主要な同盟国である韓国とも同様の協力関係を模索している。米海軍長官は朝鮮半島の南端にある巨済島の旧大宇造船海洋社のHanwha Ocean、世界最大の造船所である蔚山の現代重工業を視察した。海軍長官は韓国の業界の指導者達に「米国にはほとんど無傷で休眠状態にある造船所が数多くある。それらでは、イージス駆逐艦などの艦艇と、アンモニアガス運搬船などの高価値の商船の軍民両用建設施設として再開発の機が熟しており、・・・米国における軍民両用の造船所への投資は、高い給与を生み出し、高度な艦船を建造するブルーカラーおよびニューカラーの米国での雇用を創出し、明日の経済を保護し、活力を与えることができる」と述べている。閉鎖された海軍造船所を復活させる緊急性は、中国の巨大な造船産業がもたらす脅威に起因している。
(4) 世界最大の海軍である中国人民解放軍海軍は、造船能力で米国を凌駕するなど、急速に拡大している。2023年、米Office of Naval Intelligenceによると、中国の造船所は米国の232倍という驚異的な速さで船を建造できることを明らかにしている。中国の造船所は2,320万トン以上を建造できるのに対し、米国の造船所は10万トン未満しか建造できない。中国艦隊は現在、2015年から2020年にかけて米国よりも多くの戦闘艦艇を保有しており、両国海軍の数の差は急速に拡大している。U.S. Department of Defenseが議会に提出した中国の軍事・安全保障動向に関する最新の年次報告書によると、中国海軍は推定350隻の戦闘艦艇を保有し、U.S. Navyの戦闘部隊は293隻の艦艇を保有している。2035年まで、両海軍の戦闘艦艇の数の隔たりは5年ごとに拡大すると予想されており、2035年には、米国の艦艇が305〜317隻であるのに対し、中国は推定475隻の艦艇を保有することになる。特筆すべきは、中国が 過去10年間で150隻もの戦闘艦艇を就役させたことである。中国海軍は、戦闘艦艇だけでなく中国海警や海上民兵の兵力も保有している。慎重な見積もりでもこれらすべての船隊の船の合計数は700隻を超え、世界最大の船隊を保有することになるであろう。
(5) U.S. Congressional Budget Officeは2022年11月の報告書で、古い艦艇が退役するにつれて米国の艦隊は縮小すると予想されると述べている。U.S. Navyの指導層は、将来的に約380隻の艦艇を保有することを提唱している。しかし、建設の速度は期待できそうにない。処理しなければならない最大の仕事は原子力潜水艦の建造と修理であるが、原子力潜水艦は、米国が中国人民解放軍海軍に対して明らかに優位に立っていると認識されている数少ない分野の1つと見なされている。米国は、アジアからより多くの資金と人材を呼び込むことにより、中国の造船能力との隔たりをある程度埋め、戦力投射に必要な艦船の建造に拍車をかけることができると考えられている。
記事参照:‘Desperate’ US Seeks Japan’s & South Korea’s Help To Restart Its Defunct Shipyards; Keep Pace With China
3月5日「Indian Navyは真の相互運用性に到達できるか―インド専門家論説」(The Diplomat, March 5, 2024)
3月5日付のデジタル誌The Diplomatは、インド・ニューデリー在住の政治評論家Anuttama Banerjiの” Can the Indian Navy Achieve True Interoperability?”と題する論説を掲載し、ここでAnuttama BanerjiはIndian Armed Forcesが将来、作戦の相互運用性と統合を推し進めるには、インドの兵器システムや艦艇、航空機のロシアへの依存度を下げる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年2月下旬、Indian Navyは50ヵ国以上が参加する演習MILAN 2024を主催した。この演習では、大規模な部隊演習、高度な防空作戦、対潜水艦戦の訓練が実施された。MILAN2024は、Indian Navyがアデン湾とアラビア海西部での海賊対処作戦を主導するため、過去最大の艦隊を派遣した直後に開催された。Indian Navyは、西アジアのフーシ派反政府勢力による海運への攻撃に対抗するために重要な役割を果たし、積極的な行動を採っている。ある事件では、Indian NavyはSeychelles Defence Forces(セーシェル国防軍)とSri Lanka Navika Hamudawa(Sri Lanka Navy、スリランカ海軍)と協力してスリランカ漁船のハイジャックに対応した。
(2) Indian Navyは、インド洋地域(以下、IORと言う)の各国海軍の優先的な安全保障上の提携国として、また危機発生時の「第一行動者」としての地位を強化しただけでなく、海軍外交の面でも強力な組織として台頭している。Indian Navyのこうした活動は、任務を基本とした展開、すなわち、港に留まるのではなく、ホルムズ海峡、紅海、マラッカ海峡など、事態が起きている場所に展開するという概念に直結している。この考え方により、Indian Navyは「IORにおける存在感と可視性の向上」という目標を達成することができた。Indian Navyが他国海軍と協力して海上安全保障を向上させたことで、任務に基づく派遣は相互運用性も高めることができた。
(3) 自由で開かれた抗堪性のあるインド太平洋を構想するインドは、相互運用性を高めるために、すでに17回の多国間演習と20回の2国間演習を実施してきた。そして、海外派遣任務を通じて相互運用性を進めている。ある報告書によれば、インドの艦船と潜水艦は、過去1年間に9,400シップ・デイ、1,150サブマリン・デイ近くを記録し、航空部隊は15,000時間近い飛行時間を費やしている。こうした派遣は、有事と平時の両方の作戦で重要な役割を果たしている。海軍の相互運用性を最も推し進めたのは、現在進行中の紅海危機である。Indian Navyは、海賊とフーシ派反政府勢力に対して警察活動に従事している。Indian Navyは、ソマリア沖で海賊対処作戦を忠実に遂行し、他国の海軍がフーシ派への対応に追われているときに、海軍の強さを見せつけた。
(4) フーシ派と戦うための米国主導のプロスペリティ・ガーディアン作戦に直接参加していないにもかかわらず、Indian Navyは紅海で優れた状況把握能力を発揮し、商船へのドローン攻撃と戦ってきた。これは、Indian Navyがニューデリーで主催する地域海事機関Information Fusion Center in the Indian Ocean Region(インド洋地域情報融合センター、IFC-IOR)の効率的な利用によって可能となっている。Indian Navyの哨戒艦「スメダ」は、専門家同士の交流、相互訪問、EEZの共同哨戒などを通じて、Marinha de Guerra de Moçambique(Mozambique Navy、モザンビーク海軍)との相互運用性を拡大してきた。同時に、インドが災害リスク軽減や危機管理に従事する中で、これらの派遣は、インドが海洋状況把握(MDA)や人道支援・災害救援(HADR)の領域で主要な組織としての台頭を確実にした。
(5) 既存の任務を基本とした配備が相互運用性を確実に後押ししている一方で、インドは外国海軍との海洋における関係のあり方や相互運用性の段階について、依然として両義的な態度をとり続けている。現在の政治体制はこうした配備を後押ししているが、将来の政府がこうした配備を重視しない可能性もある。さらに、インドは実際の戦争のような状況で、このような配備を長期間維持する体制を構築しなければならない。そして、海洋におけるインドの展開を永続的かつ強固なものにするために、即時の作戦を伴う長期的な展開に従事しなければならない。
(6) インドが将来、作戦の相互運用性と統合を推し進めるにつれて、自国の艦艇・航空機を提携国のものと一致させなければならなくなる。そのためには、ロシアへの依存度が高いIndian Navyの兵器システムや艦艇、航空機のロシアへの依存を下げる必要がある。
記事参照:Can the Indian Navy Achieve True Interoperability?
(1) 2024年2月下旬、Indian Navyは50ヵ国以上が参加する演習MILAN 2024を主催した。この演習では、大規模な部隊演習、高度な防空作戦、対潜水艦戦の訓練が実施された。MILAN2024は、Indian Navyがアデン湾とアラビア海西部での海賊対処作戦を主導するため、過去最大の艦隊を派遣した直後に開催された。Indian Navyは、西アジアのフーシ派反政府勢力による海運への攻撃に対抗するために重要な役割を果たし、積極的な行動を採っている。ある事件では、Indian NavyはSeychelles Defence Forces(セーシェル国防軍)とSri Lanka Navika Hamudawa(Sri Lanka Navy、スリランカ海軍)と協力してスリランカ漁船のハイジャックに対応した。
(2) Indian Navyは、インド洋地域(以下、IORと言う)の各国海軍の優先的な安全保障上の提携国として、また危機発生時の「第一行動者」としての地位を強化しただけでなく、海軍外交の面でも強力な組織として台頭している。Indian Navyのこうした活動は、任務を基本とした展開、すなわち、港に留まるのではなく、ホルムズ海峡、紅海、マラッカ海峡など、事態が起きている場所に展開するという概念に直結している。この考え方により、Indian Navyは「IORにおける存在感と可視性の向上」という目標を達成することができた。Indian Navyが他国海軍と協力して海上安全保障を向上させたことで、任務に基づく派遣は相互運用性も高めることができた。
(3) 自由で開かれた抗堪性のあるインド太平洋を構想するインドは、相互運用性を高めるために、すでに17回の多国間演習と20回の2国間演習を実施してきた。そして、海外派遣任務を通じて相互運用性を進めている。ある報告書によれば、インドの艦船と潜水艦は、過去1年間に9,400シップ・デイ、1,150サブマリン・デイ近くを記録し、航空部隊は15,000時間近い飛行時間を費やしている。こうした派遣は、有事と平時の両方の作戦で重要な役割を果たしている。海軍の相互運用性を最も推し進めたのは、現在進行中の紅海危機である。Indian Navyは、海賊とフーシ派反政府勢力に対して警察活動に従事している。Indian Navyは、ソマリア沖で海賊対処作戦を忠実に遂行し、他国の海軍がフーシ派への対応に追われているときに、海軍の強さを見せつけた。
(4) フーシ派と戦うための米国主導のプロスペリティ・ガーディアン作戦に直接参加していないにもかかわらず、Indian Navyは紅海で優れた状況把握能力を発揮し、商船へのドローン攻撃と戦ってきた。これは、Indian Navyがニューデリーで主催する地域海事機関Information Fusion Center in the Indian Ocean Region(インド洋地域情報融合センター、IFC-IOR)の効率的な利用によって可能となっている。Indian Navyの哨戒艦「スメダ」は、専門家同士の交流、相互訪問、EEZの共同哨戒などを通じて、Marinha de Guerra de Moçambique(Mozambique Navy、モザンビーク海軍)との相互運用性を拡大してきた。同時に、インドが災害リスク軽減や危機管理に従事する中で、これらの派遣は、インドが海洋状況把握(MDA)や人道支援・災害救援(HADR)の領域で主要な組織としての台頭を確実にした。
(5) 既存の任務を基本とした配備が相互運用性を確実に後押ししている一方で、インドは外国海軍との海洋における関係のあり方や相互運用性の段階について、依然として両義的な態度をとり続けている。現在の政治体制はこうした配備を後押ししているが、将来の政府がこうした配備を重視しない可能性もある。さらに、インドは実際の戦争のような状況で、このような配備を長期間維持する体制を構築しなければならない。そして、海洋におけるインドの展開を永続的かつ強固なものにするために、即時の作戦を伴う長期的な展開に従事しなければならない。
(6) インドが将来、作戦の相互運用性と統合を推し進めるにつれて、自国の艦艇・航空機を提携国のものと一致させなければならなくなる。そのためには、ロシアへの依存度が高いIndian Navyの兵器システムや艦艇、航空機のロシアへの依存を下げる必要がある。
記事参照:Can the Indian Navy Achieve True Interoperability?
3月5日「東南アジア非核兵器地帯条約の有用性を再検証―シンガポール専門家論説」(Commentary, RSIS, March 5, 2024)
3月5日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies (RSIS)のウエブサイトRSIS Commentaryは、RSIS上席研究員Alvin Chewは東南アジア非核兵器地帯において核兵器が禁止されれば、東南アジアは安全になるのかと疑問を提起した上で、ASEANは核兵器拡散防止条約としての東南アジア非核兵器地帯条約の有用性について再検証する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1997年に発効した東南アジア非核兵器地帯(Southeast Asia Nuclear Weapon-Free Zone:以下、SEANWFZと言う)条約は、バンコク条約としても知られ、ASEAN加盟国に対し、この地域を核兵器やその他の大量破壊兵器のない状態に保つことを義務付けている。この条約には、不拡散条約(以下、NPTと言う)で承認された核兵器保有国(nuclear weapon state:以下、NWSと言う)5ヵ国が署名できる議定書も含まれている。 SEANWFZ条約の発効以来、ASEANはNWSに議定書を批准させようとしてきたが、無駄であった。
(2) 他の非核兵器地帯(以下、NWFZと言う) 条約と比較すると、SEANWFZ 条約には 3つの特異な点がある。 第1に、WFZ内で核兵器を使用することを制限する禁止による安全の保障(negative security assurance :以下、NSAと言う)であり、以下はSEANWFZ 条約だけのことではないが、第2にNWSの艦艇がSEANWFZ署名国への寄港禁止であり、第3にSEANWFZ署名国の領海の通航の禁止である。
(3) SEANWFZ条約は主にNPT第7条の履行であり、NPT で概説されている不拡散原則に対する地域の取り組みを強化している。この地域では民生用原子力発電所が稼働しておらず、核物質が存在しないということは、核兵器開発への道が1つ減るということを意味する。しかし、SEANWFZ条約、またはNWFZ条約のいずれかは、不拡散を約束するだけでなく、この地域に核兵器がないことを宣言するという点でNPTとは異なり、NWFZにおいて核による介入を本質的に禁止している。
(4) SEANWFZ構想の源流は、ASEANの原加盟国が構想した東南アジア平和・自由・中立地帯(以下、ZOPFANと言う)であり、当時の地域的および世界的な安全保障情勢のため、SEANWFZの設立は冷戦の終結まで延期された。SEANWFZ設立の動機は、東南アジアを外部勢力の干渉から守ることであり、これがASEAN共同体がNWSにSEANWFZ議定書への署名を望んでいる理由の説明になっている。
(5) 当初、SEANWFZ議定書のNSAはNWSに対し、NWFZ内での核兵器の使用、あるいはNWFZ内あるいはNWFZ外にあるいかなるNWSに対して核兵器を使用しないよう義務付けており、NWFZ内で攻撃された場合にNWSが自らを防御する能力が制限される。SEANWFZ条約は、核兵器を搭載した艦艇や核紛争を東南アジアから遠ざけることを目的としているが、これは公海における船舶の通航権を規定するUNCLOSと矛盾する。したがって、SEANWFZ条約議定書は改訂され、NWSが条約の署名国に対して核兵器を使用しないという保証を与えるという形で他のNWFZ条約との整合が図られた。
(6) 戦略地政学的な状況がどのように発展したかを考慮すると、SEANWFZが提供するNSAは現在、核紛争が発生した場合にASEAN諸国を守るには不十分であり、ASEAN諸国が作戦上の誤算から無縁ではいられない。この地域の軍事力が比較的小規模であることを考えると、ASEAN は核攻撃の防御と抑止に役立つ超大国の存在から恩恵を受けることになるだろう。
(7) ASEAN加盟国が通常兵器であれ、核兵器であれ、NWS によって攻撃される可能性は、同盟関係にある NWS がこの地域に関与するための説得力のある議論を提示する。 しかし、SEANWFZ議定書への署名は、同盟国のNWSが提供できる核抑止力や第2攻撃能力の選択肢を妨げることになる。ASEAN加盟国が攻撃されている場合、SEANWFZ議定書の取り消しが急務となる可能性があるが、確かに、危機時に地域内に核戦力を駐留させることの正統性についてASEANが悩む必要はない。
(8) 抑止力として核兵器は依然として必要であるため、核軍縮の希望はない。SEANWFZ条約は、核軍縮への道を開く仕組みと見なされるべきではない。 NWSによる議定書への署名は核不拡散を強化することになるが、これらの国の軍縮はNPTの軍縮の柱に基づいて対処されるべきである。NWSは信頼できる抑止力と核兵器の削減との間で微妙な釣り合いを取る必要があるため、軍縮は依然として夢となるだろう。
(9) SEANWFZの設立は、平和で安定した中立の東南アジアの確立を目指すZOPFAN構想に根ざしているが、「中立」が達成できるかどうかは、外部紛争から自国を守る地域の能力に大きく依存する。そうでないとしても、地域の平和と安定を確保するためには依然として外部勢力の安全保障に依存する必要がある。 さらに、ASEAN が NWS 5ヵ国に SEANWFZ 議定書への署名を促すことを決定するならば、この条約に拘束されていない核保有国は他にも存在することになる。
記事参照:Rethinking the Efficacy of the SEANWFZ Treaty
(1) 1997年に発効した東南アジア非核兵器地帯(Southeast Asia Nuclear Weapon-Free Zone:以下、SEANWFZと言う)条約は、バンコク条約としても知られ、ASEAN加盟国に対し、この地域を核兵器やその他の大量破壊兵器のない状態に保つことを義務付けている。この条約には、不拡散条約(以下、NPTと言う)で承認された核兵器保有国(nuclear weapon state:以下、NWSと言う)5ヵ国が署名できる議定書も含まれている。 SEANWFZ条約の発効以来、ASEANはNWSに議定書を批准させようとしてきたが、無駄であった。
(2) 他の非核兵器地帯(以下、NWFZと言う) 条約と比較すると、SEANWFZ 条約には 3つの特異な点がある。 第1に、WFZ内で核兵器を使用することを制限する禁止による安全の保障(negative security assurance :以下、NSAと言う)であり、以下はSEANWFZ 条約だけのことではないが、第2にNWSの艦艇がSEANWFZ署名国への寄港禁止であり、第3にSEANWFZ署名国の領海の通航の禁止である。
(3) SEANWFZ条約は主にNPT第7条の履行であり、NPT で概説されている不拡散原則に対する地域の取り組みを強化している。この地域では民生用原子力発電所が稼働しておらず、核物質が存在しないということは、核兵器開発への道が1つ減るということを意味する。しかし、SEANWFZ条約、またはNWFZ条約のいずれかは、不拡散を約束するだけでなく、この地域に核兵器がないことを宣言するという点でNPTとは異なり、NWFZにおいて核による介入を本質的に禁止している。
(4) SEANWFZ構想の源流は、ASEANの原加盟国が構想した東南アジア平和・自由・中立地帯(以下、ZOPFANと言う)であり、当時の地域的および世界的な安全保障情勢のため、SEANWFZの設立は冷戦の終結まで延期された。SEANWFZ設立の動機は、東南アジアを外部勢力の干渉から守ることであり、これがASEAN共同体がNWSにSEANWFZ議定書への署名を望んでいる理由の説明になっている。
(5) 当初、SEANWFZ議定書のNSAはNWSに対し、NWFZ内での核兵器の使用、あるいはNWFZ内あるいはNWFZ外にあるいかなるNWSに対して核兵器を使用しないよう義務付けており、NWFZ内で攻撃された場合にNWSが自らを防御する能力が制限される。SEANWFZ条約は、核兵器を搭載した艦艇や核紛争を東南アジアから遠ざけることを目的としているが、これは公海における船舶の通航権を規定するUNCLOSと矛盾する。したがって、SEANWFZ条約議定書は改訂され、NWSが条約の署名国に対して核兵器を使用しないという保証を与えるという形で他のNWFZ条約との整合が図られた。
(6) 戦略地政学的な状況がどのように発展したかを考慮すると、SEANWFZが提供するNSAは現在、核紛争が発生した場合にASEAN諸国を守るには不十分であり、ASEAN諸国が作戦上の誤算から無縁ではいられない。この地域の軍事力が比較的小規模であることを考えると、ASEAN は核攻撃の防御と抑止に役立つ超大国の存在から恩恵を受けることになるだろう。
(7) ASEAN加盟国が通常兵器であれ、核兵器であれ、NWS によって攻撃される可能性は、同盟関係にある NWS がこの地域に関与するための説得力のある議論を提示する。 しかし、SEANWFZ議定書への署名は、同盟国のNWSが提供できる核抑止力や第2攻撃能力の選択肢を妨げることになる。ASEAN加盟国が攻撃されている場合、SEANWFZ議定書の取り消しが急務となる可能性があるが、確かに、危機時に地域内に核戦力を駐留させることの正統性についてASEANが悩む必要はない。
(8) 抑止力として核兵器は依然として必要であるため、核軍縮の希望はない。SEANWFZ条約は、核軍縮への道を開く仕組みと見なされるべきではない。 NWSによる議定書への署名は核不拡散を強化することになるが、これらの国の軍縮はNPTの軍縮の柱に基づいて対処されるべきである。NWSは信頼できる抑止力と核兵器の削減との間で微妙な釣り合いを取る必要があるため、軍縮は依然として夢となるだろう。
(9) SEANWFZの設立は、平和で安定した中立の東南アジアの確立を目指すZOPFAN構想に根ざしているが、「中立」が達成できるかどうかは、外部紛争から自国を守る地域の能力に大きく依存する。そうでないとしても、地域の平和と安定を確保するためには依然として外部勢力の安全保障に依存する必要がある。 さらに、ASEAN が NWS 5ヵ国に SEANWFZ 議定書への署名を促すことを決定するならば、この条約に拘束されていない核保有国は他にも存在することになる。
記事参照:Rethinking the Efficacy of the SEANWFZ Treaty
3月6日「U.S. Navyの病院船をガザに派遣するのは非常に困難だが『不可能ではない』のはなぜか―米デジタル誌報道」(Breaking Defense, March 6, 2024)
3月6日付けの米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、‶Why sending a US Navy hospital ship to Gaza would be very difficult but ‘not impossible’″と題する記事を掲載し、米国上院議員2名が提案したU.S. Navyの米病院船のガザ派遣について、実現にはいろいろな困難を伴うが、実施できれば米国の意思表示として極めて効果が大きいとして、要旨次のように報じている。
(1) 民主党のJack Reedと無所属のAngus King両上院議員は、2月24日の週にホワイトハウスに書簡を送り、米国はU.S. Navyの病院船「マーシー」または「コンフォート」を中東に派遣し、「イスラエルおよびエジプト両政府と協力して、海上輸送路を確立し、民間人援助への利用を確保すべきである」と主張した。この書簡は、U.S. Central Commandによる支援物資の空中投下作戦の前に公表されている。専門家によると、これには政治的問題のみならず、兵站分野でも多くの課題があるという。
(2) 「マーシー」と「コンフォート」の2隻の病院船(以下2隻を合わせて「米病院船」と言う)は、ひと目でわかる白い船体に赤い十字架という外観と、自然災害後の外国への支援活動によって、世界的注目を集めている。米病院船はそれぞれ患者用ベッド1,000床と医療従事者、陸上基幹施設から独立した物資と発電設備を備えている。上院議員たちは、この作戦の危険性を認めつつも、軍は危険対応の専門知識を持ち、状況が悪くなれば作戦を中止できると主張する。しかし専門家は、テロ組織の脅威にさらされる戦闘地域に病院船を派遣する難しさは、もっと前から始まっていると言う。
(3) Heritage Foundation研究員Brent Sadlerは、病院船に全乗組員を配置するだけでも時間がかかると言う。緊急配備にも対応できるよう乗組員を配属した艦艇とは異なり、病院船は、出動期間以外は「縮小運用状態」(ROS)に置かれ、少数の乗組員で船を維持管理している。患者の治療に必要な数百人の医師、看護師等医療従事者は、非政府組織・軍の予備役や現役の要員から集めなければならず、最終的には他の部署から引き抜かれることになる。また、乗組員が確保できても、船が中東に到着するまでには時間がかかる。Brent Sadlerは、2013年のフィリピンの台風被害の際、米議会がU.S. Navyに病院船を派遣するよう求めたときを思い出しながら、「私たちは災害対応の最中であったが、病院船はサンディエゴから太平洋を横断するのに1ヵ月、乗組員が揃うまでさらに2週間かかるので、現場に着くのは6週間後であった」と言う。彼は、準備期間が短縮される可能性があるのは、どちらかの船がすでに配備されている場合であるが、現在はそうではないと指摘している。3月4日の取材で、U.S, Navyの広報担当者は、米病院船は2艦とも母港に在泊していることを確認し、上院議員の書簡に関する質問については、回答を先送りにした。
(4) 米国がガザに病院船を派遣するとしても、それが初めてではない。少なくともフランスとインドネシアの2ヵ国が、それぞれ病院船をエジプトの港に配備し、援助を提供するために同国と協力していると伝えられ、上院議員の書簡でもその事を指摘している。米病院船は、フランスやインドネシアの船よりもはるかに大きく、報道によれば、フランス船は数十人の患者を収容できる程度で、またインドネシア政府は1月、自国の船は病院としてではなく、物資運搬の任務だけを負っていると発表した。船の大きさの違いは、U.S. Department of Defenseの作戦立案者にとって重要である。米病院船は、思わぬ座礁を避けるため、展開時には外国の海岸線や港から遠く離れた場所に留まる。Center for New American Security研究員Jonathan Lordは、患者が小型船やヘリコプターで運ばれるため、ガザ派遣には安全保障上、多くの問題が生じると指摘する。1つの選択肢は、エジプトと調整の上、国境を越えて人々を避難させ、入院のための検査を行い、陸から船への輸送を手配することであるが、Jonathan Lordは、外交的に簡単ではないと警告する。議会職員、またU.S. Department of Defenseの政策分析官として、中東地域のさまざまな政府と仕事をしてきたJonathan Lordは、エジプト人は「信じられないほど厳格で、エジプト政府がラファ検問所の自国側に課した規制は非常に厳しい」と語る。代替案としては、米国の要員をガザの地上に配置することが考えられるが、その場合、「イスラエルを含むすべての関係者との調整が必要となり、リスクもかなり高い。軍事作戦としては、食料の空中投下の方が容易に思われる」と述べ、地上配置は発動されないであろうと付け加えた。第3の可能性は、米病院船がイスラエルの港に寄港することであるが、Jonathan Lordによれば、Joe Biden米大統領とBenjamin Netanyahuイスラエル首相との政治的・外交的緊張関係を考えると不発に終わるであろう。米病院船が中東に派遣される筋書きのいずれでも、ホワイトハウス側には途方もない政治的意志が必要となるが、イスラエル側がそれに対してどのような立場を取るかは不明である。
(5) 最も懸念されるのは、病院船自体の防御の問題であろう。白い船体と大きな赤十字は、病院船を艦艇と区別し、病院を攻撃することを禁じるジュネーブ条約によって、軍隊がこれを攻撃することを抑止する。しかし、ガザ紛争に関与しているフーシ派、ハマス、ヒズボラ、その他の米国に敵対する勢力は、軍隊ではない。「それは病院船の雇用に伴う安全保障の一部だ・・・テロリストが負傷者として潜入する可能性もある。陸に近すぎれば、ミサイルが飛んでくるかもしれない」」とFoundation for Defense of Democracies研究員Mark Montgomery退役海軍少将は述べ、米国は駆逐艦を病院船の近くに配置して守ることができるとするものの民間人への援助を目的とする船が軍艦に囲まれるのは「最適な姿」ではないと付け加えている。
(6) ガザに病院船を派遣するという構想には、U.S. Navyに精通した著名な推進者が少なくとも1人いる。James Stavridis元海軍大将は、現在上院議員が提案している内容と同様のことを、2023年11月にBloombergに寄稿した。彼は、専門家が指摘する危険性の多くを認めつつ、ホワイトハウスは進めるべきと主張した。
(7) Breaking Defenseがインタビューした専門家は全員、ガザに病院船を派遣することが、戦略的・政治的に米国にとって正しい行動かどうか、懐疑的な見方を示した。しかし、Mark Montgomeryは、米病院船がこの地域に展開することで、負傷した罪のない市民に対して、強い支援の米国の意図を送ることができるので、この作戦は妥当であると主張する。「実行は難しく、病院船の展開・活用も難題ではあるが、不可能とは言えず、それが示す意図には確かに救いがあり、困難な課題でもある。」
記事参照: Why sending a US Navy hospital ship to Gaza would be very difficult but ‘not impossible’
(1) 民主党のJack Reedと無所属のAngus King両上院議員は、2月24日の週にホワイトハウスに書簡を送り、米国はU.S. Navyの病院船「マーシー」または「コンフォート」を中東に派遣し、「イスラエルおよびエジプト両政府と協力して、海上輸送路を確立し、民間人援助への利用を確保すべきである」と主張した。この書簡は、U.S. Central Commandによる支援物資の空中投下作戦の前に公表されている。専門家によると、これには政治的問題のみならず、兵站分野でも多くの課題があるという。
(2) 「マーシー」と「コンフォート」の2隻の病院船(以下2隻を合わせて「米病院船」と言う)は、ひと目でわかる白い船体に赤い十字架という外観と、自然災害後の外国への支援活動によって、世界的注目を集めている。米病院船はそれぞれ患者用ベッド1,000床と医療従事者、陸上基幹施設から独立した物資と発電設備を備えている。上院議員たちは、この作戦の危険性を認めつつも、軍は危険対応の専門知識を持ち、状況が悪くなれば作戦を中止できると主張する。しかし専門家は、テロ組織の脅威にさらされる戦闘地域に病院船を派遣する難しさは、もっと前から始まっていると言う。
(3) Heritage Foundation研究員Brent Sadlerは、病院船に全乗組員を配置するだけでも時間がかかると言う。緊急配備にも対応できるよう乗組員を配属した艦艇とは異なり、病院船は、出動期間以外は「縮小運用状態」(ROS)に置かれ、少数の乗組員で船を維持管理している。患者の治療に必要な数百人の医師、看護師等医療従事者は、非政府組織・軍の予備役や現役の要員から集めなければならず、最終的には他の部署から引き抜かれることになる。また、乗組員が確保できても、船が中東に到着するまでには時間がかかる。Brent Sadlerは、2013年のフィリピンの台風被害の際、米議会がU.S. Navyに病院船を派遣するよう求めたときを思い出しながら、「私たちは災害対応の最中であったが、病院船はサンディエゴから太平洋を横断するのに1ヵ月、乗組員が揃うまでさらに2週間かかるので、現場に着くのは6週間後であった」と言う。彼は、準備期間が短縮される可能性があるのは、どちらかの船がすでに配備されている場合であるが、現在はそうではないと指摘している。3月4日の取材で、U.S, Navyの広報担当者は、米病院船は2艦とも母港に在泊していることを確認し、上院議員の書簡に関する質問については、回答を先送りにした。
(4) 米国がガザに病院船を派遣するとしても、それが初めてではない。少なくともフランスとインドネシアの2ヵ国が、それぞれ病院船をエジプトの港に配備し、援助を提供するために同国と協力していると伝えられ、上院議員の書簡でもその事を指摘している。米病院船は、フランスやインドネシアの船よりもはるかに大きく、報道によれば、フランス船は数十人の患者を収容できる程度で、またインドネシア政府は1月、自国の船は病院としてではなく、物資運搬の任務だけを負っていると発表した。船の大きさの違いは、U.S. Department of Defenseの作戦立案者にとって重要である。米病院船は、思わぬ座礁を避けるため、展開時には外国の海岸線や港から遠く離れた場所に留まる。Center for New American Security研究員Jonathan Lordは、患者が小型船やヘリコプターで運ばれるため、ガザ派遣には安全保障上、多くの問題が生じると指摘する。1つの選択肢は、エジプトと調整の上、国境を越えて人々を避難させ、入院のための検査を行い、陸から船への輸送を手配することであるが、Jonathan Lordは、外交的に簡単ではないと警告する。議会職員、またU.S. Department of Defenseの政策分析官として、中東地域のさまざまな政府と仕事をしてきたJonathan Lordは、エジプト人は「信じられないほど厳格で、エジプト政府がラファ検問所の自国側に課した規制は非常に厳しい」と語る。代替案としては、米国の要員をガザの地上に配置することが考えられるが、その場合、「イスラエルを含むすべての関係者との調整が必要となり、リスクもかなり高い。軍事作戦としては、食料の空中投下の方が容易に思われる」と述べ、地上配置は発動されないであろうと付け加えた。第3の可能性は、米病院船がイスラエルの港に寄港することであるが、Jonathan Lordによれば、Joe Biden米大統領とBenjamin Netanyahuイスラエル首相との政治的・外交的緊張関係を考えると不発に終わるであろう。米病院船が中東に派遣される筋書きのいずれでも、ホワイトハウス側には途方もない政治的意志が必要となるが、イスラエル側がそれに対してどのような立場を取るかは不明である。
(5) 最も懸念されるのは、病院船自体の防御の問題であろう。白い船体と大きな赤十字は、病院船を艦艇と区別し、病院を攻撃することを禁じるジュネーブ条約によって、軍隊がこれを攻撃することを抑止する。しかし、ガザ紛争に関与しているフーシ派、ハマス、ヒズボラ、その他の米国に敵対する勢力は、軍隊ではない。「それは病院船の雇用に伴う安全保障の一部だ・・・テロリストが負傷者として潜入する可能性もある。陸に近すぎれば、ミサイルが飛んでくるかもしれない」」とFoundation for Defense of Democracies研究員Mark Montgomery退役海軍少将は述べ、米国は駆逐艦を病院船の近くに配置して守ることができるとするものの民間人への援助を目的とする船が軍艦に囲まれるのは「最適な姿」ではないと付け加えている。
(6) ガザに病院船を派遣するという構想には、U.S. Navyに精通した著名な推進者が少なくとも1人いる。James Stavridis元海軍大将は、現在上院議員が提案している内容と同様のことを、2023年11月にBloombergに寄稿した。彼は、専門家が指摘する危険性の多くを認めつつ、ホワイトハウスは進めるべきと主張した。
(7) Breaking Defenseがインタビューした専門家は全員、ガザに病院船を派遣することが、戦略的・政治的に米国にとって正しい行動かどうか、懐疑的な見方を示した。しかし、Mark Montgomeryは、米病院船がこの地域に展開することで、負傷した罪のない市民に対して、強い支援の米国の意図を送ることができるので、この作戦は妥当であると主張する。「実行は難しく、病院船の展開・活用も難題ではあるが、不可能とは言えず、それが示す意図には確かに救いがあり、困難な課題でもある。」
記事参照: Why sending a US Navy hospital ship to Gaza would be very difficult but ‘not impossible’
3月6日「北極圏における米海軍の展開を増強する必要性―米専門家論説」(USNI News, March 6, 2024)
3月6日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、Navy Times元編集長John Gradyの“U.S. Fleet Forces Commander Focused on Arctic, Increased Naval Presence in Region”と題する論説を掲載し、U.S. Fleet Forces Command司令官が北極圏においてU.S. Navyの展開をより強化する必要があると主張していることについて、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Fleet Forces Command司令官Daryl Caudle海軍大将は、American Society of Naval Engineers(米国海軍技術者協会)の会合で、ロシアや中国に対して「米国は北極圏で譲歩するつもりはない」と述べ、Daryl Caudle司令官はそれは米海軍の展開を高めること、地域的に持続可能な活動を支える基幹施設を適切に整備すること、北極圏の同盟国との協力と連携を強化することを意味すると述べている。Daryl Caudle司令官は、Arctic Council(北極評議会)加盟8ヵ国のうち6ヵ国がNATOの同盟国であると指摘しており、スウェーデンがNATOへの正式加盟後、Arctic Council 加盟国として7番目のNATO加盟となる。
(2) 海上交通路の支配に留まらず、「北極海盆は、さまざまな競争に満ちている」とDaryl Caudle司令官は述べており、2012年のU.S. Geological Survey(米国地質調査所)によれば、北極圏は世界の未発見の石油埋蔵量の内13%、未発見の天然ガスの30%が存在する。北極圏の温暖化は、ハイテク産業で必要とされるパラジウム、コバルト、ニッケルのような鉱物を採掘する機会が増えることを意味する。Daryl Caudle司令官は、この地域には1兆ドル相当の鉱物があると推定しており、そのことが国際的な注目、特に中国政府からの注目を集めていると言う。
(3) 自国を「近北極国家(near-arctic state)」と宣言している中国は、商業航路として北極海航路を利用し易くするために3隻の砕氷船を建造しているが、これは同時にエネルギーや鉱業に関するロシアとの経済的結びつきを広げるためでもあるとDaryl Caudle司令官は述べている。また、米国は1970年代に建造された砕氷船を2隻保有していることを指摘した上で、ロシアは海上交通への開放が進んでいる水路をめぐって拡大する領有権を主張することで、「市場に先んじる」政策をとっているとDaryl Caudle司令官は述べている。これは、実際には、ロシア政府が国際水域とみなされる海域で海運を監視する権利を主張していることを意味する。また、北極圏は近年ますます軍事化している。Daryl Caudle司令官は、ロシアがカナダや米国の標的を攻撃可能な長距離巡航ミサイルを配備し、その爆撃機が北方接近路の防衛を検証し、巡航ミサイルを発射する潜水艦を太平洋岸に配備していることを指摘した。
(4) U.S. Navyは、北極圏を全ての国に開放するために、「より積極的に行動しなければならない」。潜水艦乗りであるDaryl Caudle司令官が、それは耐氷性のある水上艦を展開することを意味すると述べ、「非常に困難な環境」で活動できる艦艇を建造するよう産業界に促した。米国が北極海任務のために艦艇で改善しなければならない重要な能力には、通信と航法が含まれる。
(5) Operation Ice Campや水上艦船を対象としたOperation Nanookのような演習には、「より多くの提携国に参加してもらう必要がある」。これらの演習では、各国は相互運用性を構築し、「全員が同じ認識を保つ」ことができるとDaryl Caudle司令官彼は話している。
(6) 基幹施設への投資は、アラスカの都市であるノームをU.S. NavyやU.S. Coast Guardの艦船、大型商業船に対応できる深水港にするだけではない。この地域には、軍事作戦のためだけでなく、民間利用、特に緊急時のために、より多くの港と飛行場が必要だとDaryl Caudle司令官は主張した。
(7) カナダ、アイスランド、グリーンランドといった同盟国を基地の選択肢として利用することは、U.S. Navyの展開力を高め、抑止力を強化することにもなるとDaryl Caudle司令官は述べている。
記事参照:U.S. Fleet Forces Commander Focused on Arctic, Increased Naval Presence in Region
(1) U.S. Fleet Forces Command司令官Daryl Caudle海軍大将は、American Society of Naval Engineers(米国海軍技術者協会)の会合で、ロシアや中国に対して「米国は北極圏で譲歩するつもりはない」と述べ、Daryl Caudle司令官はそれは米海軍の展開を高めること、地域的に持続可能な活動を支える基幹施設を適切に整備すること、北極圏の同盟国との協力と連携を強化することを意味すると述べている。Daryl Caudle司令官は、Arctic Council(北極評議会)加盟8ヵ国のうち6ヵ国がNATOの同盟国であると指摘しており、スウェーデンがNATOへの正式加盟後、Arctic Council 加盟国として7番目のNATO加盟となる。
(2) 海上交通路の支配に留まらず、「北極海盆は、さまざまな競争に満ちている」とDaryl Caudle司令官は述べており、2012年のU.S. Geological Survey(米国地質調査所)によれば、北極圏は世界の未発見の石油埋蔵量の内13%、未発見の天然ガスの30%が存在する。北極圏の温暖化は、ハイテク産業で必要とされるパラジウム、コバルト、ニッケルのような鉱物を採掘する機会が増えることを意味する。Daryl Caudle司令官は、この地域には1兆ドル相当の鉱物があると推定しており、そのことが国際的な注目、特に中国政府からの注目を集めていると言う。
(3) 自国を「近北極国家(near-arctic state)」と宣言している中国は、商業航路として北極海航路を利用し易くするために3隻の砕氷船を建造しているが、これは同時にエネルギーや鉱業に関するロシアとの経済的結びつきを広げるためでもあるとDaryl Caudle司令官は述べている。また、米国は1970年代に建造された砕氷船を2隻保有していることを指摘した上で、ロシアは海上交通への開放が進んでいる水路をめぐって拡大する領有権を主張することで、「市場に先んじる」政策をとっているとDaryl Caudle司令官は述べている。これは、実際には、ロシア政府が国際水域とみなされる海域で海運を監視する権利を主張していることを意味する。また、北極圏は近年ますます軍事化している。Daryl Caudle司令官は、ロシアがカナダや米国の標的を攻撃可能な長距離巡航ミサイルを配備し、その爆撃機が北方接近路の防衛を検証し、巡航ミサイルを発射する潜水艦を太平洋岸に配備していることを指摘した。
(4) U.S. Navyは、北極圏を全ての国に開放するために、「より積極的に行動しなければならない」。潜水艦乗りであるDaryl Caudle司令官が、それは耐氷性のある水上艦を展開することを意味すると述べ、「非常に困難な環境」で活動できる艦艇を建造するよう産業界に促した。米国が北極海任務のために艦艇で改善しなければならない重要な能力には、通信と航法が含まれる。
(5) Operation Ice Campや水上艦船を対象としたOperation Nanookのような演習には、「より多くの提携国に参加してもらう必要がある」。これらの演習では、各国は相互運用性を構築し、「全員が同じ認識を保つ」ことができるとDaryl Caudle司令官彼は話している。
(6) 基幹施設への投資は、アラスカの都市であるノームをU.S. NavyやU.S. Coast Guardの艦船、大型商業船に対応できる深水港にするだけではない。この地域には、軍事作戦のためだけでなく、民間利用、特に緊急時のために、より多くの港と飛行場が必要だとDaryl Caudle司令官は主張した。
(7) カナダ、アイスランド、グリーンランドといった同盟国を基地の選択肢として利用することは、U.S. Navyの展開力を高め、抑止力を強化することにもなるとDaryl Caudle司令官は述べている。
記事参照:U.S. Fleet Forces Commander Focused on Arctic, Increased Naval Presence in Region
3月8日「インド洋におけるインドの積極姿勢―インド国際関係専門家論説」(RT News, March 8, 2024)
3月8日付のロシアニュースサイトRT Newsは、University of Delhi大学院生で国際関係研究者Aaryaman Nijhawanの“India’s powerplay: The tide is turning in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこでAaryaman NijhawanはIndian Navyが新たに海軍基地を開設したことに言及し、新たな海軍基地が持つ戦略的重要性はかなり大きいとして、要旨以下のように述べている。
(1️) Indian Navyは3月6日、ミニコイ島にジャターユ海軍基地を新たに開設した。新海軍基地開設によりインド洋における作戦行動能力は強化され、西アラビア海にまで行動範囲が拡大する。インドに地政学的に重要な拠点を提供し、実効支配線沿いでの中国による侵攻に対抗できるだろう。ジャターユ海軍基地によって、概してIndian Navyは海洋安全保障を強化し、インド洋での連結性を獲得できる。
(2) それとは別に、マラッカ海峡の入口におけるインドの海軍基地の展開は、中国にとってダモクレスの剣になるであろう。その意味で、大ニコバル島における基地はQUADの枠組みの一部としての情報共有合意と合わせて、インドを海洋情報に関して支配的な地位へと押し上げるものである。またそうした動きは、接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の向上により、Indian Navyの戦闘能力を強化する。潜水艦の近代化計画も合わせると、その地政学的意義は計り知れないものとなる。近い将来、中国はインドを対等の立場と見なさなければならなくなるだろう。このように、新基地の稼働は7,200億ルピー(86.8億ドル)が投じられている大ニコバル島の近代化という戦略的計画を背景としている。
(3) 多極化の構造は、インドに恩恵も害ももたらし得る。インドは多国間での協調を是とする対外政策を推進しており、その意味で多極構造はインドの外交政策を後押しする。他方、インド太平洋における中国の台頭が意味するのは、戦略的に釣り合いを取るべき相手が増えることである。それと同時に、米国主導の国際秩序が瓦解しつつあることが、状況を複雑にしている。
(4) そうした状況において、インド洋における海軍力の配備の拡大は重大な戦略的意味を持つ。中国は急速に海軍の近代化を進めており、いまや外洋での活動が可能になった。米議会によれば艦船の数では中国は世界一である。それに加えて中国の対外政策は、特に南シナ海で攻撃性を増している。米国による南シナ海の展開は中国にとって勢力圏への侵入である。米国の側としては、中国の主張に対抗し、航行の自由を実践しているだけだと主張する。ただし、米国はUNCLOSを批准しておらず、微妙な立場である。
(5) 米国の優位が揺らいでいることにインド太平洋の同盟国は不安を感じている。他方で中国はマラッカのジレンマを解決できないでいる。そのため中国海軍はインド洋への進出を試みているのだが、インドはインド洋を自国の裏庭とみなしている。インドにとって中国のインド洋進出は、自国の包囲と孤立を狙う脅威である。インドは戦力の点では中国海軍に競合できないため、抑止のためには他の方法を模索しなければならない。その点において、ジャターユ海軍基地の開設は重大な意味を持つ。インドは最近インド洋において積極的に動いている。インドは海洋大国になるという戦略的な動きによって、将来の世界大国としての立場を確立できるだろう。
記事参照:India’s powerplay: The tide is turning in the Indo-Pacific
(1️) Indian Navyは3月6日、ミニコイ島にジャターユ海軍基地を新たに開設した。新海軍基地開設によりインド洋における作戦行動能力は強化され、西アラビア海にまで行動範囲が拡大する。インドに地政学的に重要な拠点を提供し、実効支配線沿いでの中国による侵攻に対抗できるだろう。ジャターユ海軍基地によって、概してIndian Navyは海洋安全保障を強化し、インド洋での連結性を獲得できる。
(2) それとは別に、マラッカ海峡の入口におけるインドの海軍基地の展開は、中国にとってダモクレスの剣になるであろう。その意味で、大ニコバル島における基地はQUADの枠組みの一部としての情報共有合意と合わせて、インドを海洋情報に関して支配的な地位へと押し上げるものである。またそうした動きは、接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の向上により、Indian Navyの戦闘能力を強化する。潜水艦の近代化計画も合わせると、その地政学的意義は計り知れないものとなる。近い将来、中国はインドを対等の立場と見なさなければならなくなるだろう。このように、新基地の稼働は7,200億ルピー(86.8億ドル)が投じられている大ニコバル島の近代化という戦略的計画を背景としている。
(3) 多極化の構造は、インドに恩恵も害ももたらし得る。インドは多国間での協調を是とする対外政策を推進しており、その意味で多極構造はインドの外交政策を後押しする。他方、インド太平洋における中国の台頭が意味するのは、戦略的に釣り合いを取るべき相手が増えることである。それと同時に、米国主導の国際秩序が瓦解しつつあることが、状況を複雑にしている。
(4) そうした状況において、インド洋における海軍力の配備の拡大は重大な戦略的意味を持つ。中国は急速に海軍の近代化を進めており、いまや外洋での活動が可能になった。米議会によれば艦船の数では中国は世界一である。それに加えて中国の対外政策は、特に南シナ海で攻撃性を増している。米国による南シナ海の展開は中国にとって勢力圏への侵入である。米国の側としては、中国の主張に対抗し、航行の自由を実践しているだけだと主張する。ただし、米国はUNCLOSを批准しておらず、微妙な立場である。
(5) 米国の優位が揺らいでいることにインド太平洋の同盟国は不安を感じている。他方で中国はマラッカのジレンマを解決できないでいる。そのため中国海軍はインド洋への進出を試みているのだが、インドはインド洋を自国の裏庭とみなしている。インドにとって中国のインド洋進出は、自国の包囲と孤立を狙う脅威である。インドは戦力の点では中国海軍に競合できないため、抑止のためには他の方法を模索しなければならない。その点において、ジャターユ海軍基地の開設は重大な意味を持つ。インドは最近インド洋において積極的に動いている。インドは海洋大国になるという戦略的な動きによって、将来の世界大国としての立場を確立できるだろう。
記事参照:India’s powerplay: The tide is turning in the Indo-Pacific
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) A RUSSIAN LAKE: HAS THE WEST CEDED THE BLACK SEA TO RUSSIA?
https://cimsec.org/a-russian-lake-has-the-west-ceded-the-black-sea-to-russia/
Center for International Maritime Security, March 6, 2024
By Chuck Ridgway is a retired US Navy surface warfare and reserve Africa foreign area officer. After leaving active duty, he worked for ten years as a NATO international civilian at the NATO Joint Analysis and Lessons Learned Centre in Portugal.
2024年3月6日、元U.S. Navyの将校で退役後10年間NATO Joint Analysis and Lessons Learned Centreで勤務したChuck Ridgwayは、米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトに" A RUSSIAN LAKE: HAS THE WEST CEDED THE BLACK SEA TO RUSSIA? "と題する論説を寄稿した。その中でChuck Ridgwayは2016年、トルコのErdoğan大統領が黒海を「ロシアの湖」と呼び、黒海を支配しようとするロシアに対抗するため、NATOにさらなる努力を促したことがあるとした上で、2023年8月、Военно-морской флот Российской Федерации(Military Maritime Fleet of the Russian Federation、ロシア海軍)がパラオ船籍の貨物船を黒海南西部のロシア沿岸から遠く離れた場所で停船させ、立入検査を行ったが、この事件は、黒海における航行の自由の息の根が止まりつつあることを示す象徴だと指摘している。そしてRidgwayは、海軍が存在する理由は、自国民の利益のために海を開放しておくことだが、そのためには、海軍は進んで危険な道に進まなければならないとし、ペロポネソス戦争から両世界大戦を経てフォークランド紛争に至るまで、すべての歴史において戦争はシーパワーによって決着しており、それはウクライナ戦争も同様であると主張し、最後にロシアはこのことを認識しているようだが、他の国々は認識できていないのではないかと疑問を呈している。
(2) Shield, sword, or symbol: Analyzing Xi Jinping’s “strategic deterrence”
https://www.brookings.edu/articles/shield-sword-or-symbol-analyzing-xi-jinpings-strategic-deterrence/?utm
Brookings, March 7, 2024
By Dr. Joel Wuthnow, a senior research fellow in the Center for the Study of Chinese Military Affairs within the Institute for National Strategic Studies at NDU
2024年3月7日、米National Defense University のInstitute for National Strategic Studies にあるCenter for the Study of Chinese Military AffairsのJoel Wuthnow上席研究員は、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトに" Shield, sword, or symbol: Analyzing Xi Jinping’s “strategic deterrence” "と題する論説を寄稿した。その中でJoel Wuthnowは、2022年10月、中国共産党の習近平総書記は第20回党大会で「強力な戦略的抑止力システムを構築する(打造强大战略威力慑量体系)」と公約を掲げ、2021年3月に発表された中国共産党の第14次5ヵ年計画でも、人民解放軍に「高水準の戦略的抑止力と共同作戦システムを構築する(打造高水平战略威力慑和联合作战体系)」よう求めているが、習近平も他の中国政府高官も、これらの言葉を詳しく説明することはなかったため、習近平の意図は何なのかなどは不明確であると指摘している。そしてJoel Wuthnowは、第20回党大会前後に人民解放軍の情報源から得られた情報によれば、①習近平は主に、これまで以上に攻撃的な米国の敵対姿勢に対抗するための中国の抑止力を向上させる必要性について言及。②習近平は、地域の安全保障環境を中国に有利に形成するために、さまざまな軍事手段を用いることに焦点を当てた(古典的な意味での「抑止力」ではない)新たな調整された抑止力という広範な考え方を奨励。③「戦略的抑止力」は、習近平が中国の核兵器の拡大における「中核部隊」である人民解放軍ロケット軍の地位向上と予算確保を支持していることに言及しており、習近平の心の中に入ってみなければどの解釈が最も真実に近いかはわからないが、しかし、そのいずれもがより信頼性の高い抑止力の構築と運用を目指す人民解放軍が直面する重要な問題を浮き彫りにしていると主張している。
(3) Is This the End of the COFA Saga?
https://thediplomat.com/2024/03/is-this-the-end-of-the-cofa-saga/
The Diplomat, March 9, 2024
By Dr. Patricia O’Brien is a historian, author, analyst and commentator on Australia and Oceania and a faculty member in Asian Studies at Georgetown University and a visiting fellow at the Australian National University’s Department of Pacific Affairs
2024年3月9日、Georgetown Universityのアジア研究学部員で Australian National Universityの客員研究員Patricia O’Brienは、デジタル誌The Diplomatに“Is This the End of the COFA Saga?”と題する論説を寄稿した。その中で、①長引く自由連合盟約(Compacts of Free Association、COFA)に関する問題は、米上院が3月8日午前0時までに一括法案を通過させれば、間もなく解決するかもしれない。②2023年末に期限切れとなる過去の協定の期限が迫る中、マーシャル諸島は最終的に2023年10月、パラオとミクロネシア連邦は2023年5月に調印した。③その後、これらの協定が承認されないという可能性が、COFA加盟国やその実質的な在米海外移住者共同体に警戒心を引き起こした。④パラオとマーシャル諸島は台湾を承認し続けているが、中国は台湾に忠誠を誓う国々のリストからこれらの国々を引き離そうとしており、また、太平洋諸国と米国との結びつきを弱めるために積極的に動いている。⑤米国は、70年以上にわたり北太平洋諸島に関与してきた後、多くのことを償う必要がある。⑥米国がまずできることは、11月の選挙よりもかなり前に米国と自由連合国(Freely Associated State)の指導者が首脳会談を開き、今後の道筋を示すことである。⑦次のCOFA協定が交渉される2043年までには、さらに多くのCOFA市民が米国への移民となっている可能性が高いため、彼らが幸福な生活を送るために確保できる機会が、次の自由連合協定の継続的な健全さと安全性に直結する。⑧COFA移民の生活を安定させるための唯一の方法は教育への投資であるため、米国はまた、母国の島嶼国の教育機会を強化することが賢明だろうといった主張を述べている。
(1) A RUSSIAN LAKE: HAS THE WEST CEDED THE BLACK SEA TO RUSSIA?
https://cimsec.org/a-russian-lake-has-the-west-ceded-the-black-sea-to-russia/
Center for International Maritime Security, March 6, 2024
By Chuck Ridgway is a retired US Navy surface warfare and reserve Africa foreign area officer. After leaving active duty, he worked for ten years as a NATO international civilian at the NATO Joint Analysis and Lessons Learned Centre in Portugal.
2024年3月6日、元U.S. Navyの将校で退役後10年間NATO Joint Analysis and Lessons Learned Centreで勤務したChuck Ridgwayは、米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトに" A RUSSIAN LAKE: HAS THE WEST CEDED THE BLACK SEA TO RUSSIA? "と題する論説を寄稿した。その中でChuck Ridgwayは2016年、トルコのErdoğan大統領が黒海を「ロシアの湖」と呼び、黒海を支配しようとするロシアに対抗するため、NATOにさらなる努力を促したことがあるとした上で、2023年8月、Военно-морской флот Российской Федерации(Military Maritime Fleet of the Russian Federation、ロシア海軍)がパラオ船籍の貨物船を黒海南西部のロシア沿岸から遠く離れた場所で停船させ、立入検査を行ったが、この事件は、黒海における航行の自由の息の根が止まりつつあることを示す象徴だと指摘している。そしてRidgwayは、海軍が存在する理由は、自国民の利益のために海を開放しておくことだが、そのためには、海軍は進んで危険な道に進まなければならないとし、ペロポネソス戦争から両世界大戦を経てフォークランド紛争に至るまで、すべての歴史において戦争はシーパワーによって決着しており、それはウクライナ戦争も同様であると主張し、最後にロシアはこのことを認識しているようだが、他の国々は認識できていないのではないかと疑問を呈している。
(2) Shield, sword, or symbol: Analyzing Xi Jinping’s “strategic deterrence”
https://www.brookings.edu/articles/shield-sword-or-symbol-analyzing-xi-jinpings-strategic-deterrence/?utm
Brookings, March 7, 2024
By Dr. Joel Wuthnow, a senior research fellow in the Center for the Study of Chinese Military Affairs within the Institute for National Strategic Studies at NDU
2024年3月7日、米National Defense University のInstitute for National Strategic Studies にあるCenter for the Study of Chinese Military AffairsのJoel Wuthnow上席研究員は、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトに" Shield, sword, or symbol: Analyzing Xi Jinping’s “strategic deterrence” "と題する論説を寄稿した。その中でJoel Wuthnowは、2022年10月、中国共産党の習近平総書記は第20回党大会で「強力な戦略的抑止力システムを構築する(打造强大战略威力慑量体系)」と公約を掲げ、2021年3月に発表された中国共産党の第14次5ヵ年計画でも、人民解放軍に「高水準の戦略的抑止力と共同作戦システムを構築する(打造高水平战略威力慑和联合作战体系)」よう求めているが、習近平も他の中国政府高官も、これらの言葉を詳しく説明することはなかったため、習近平の意図は何なのかなどは不明確であると指摘している。そしてJoel Wuthnowは、第20回党大会前後に人民解放軍の情報源から得られた情報によれば、①習近平は主に、これまで以上に攻撃的な米国の敵対姿勢に対抗するための中国の抑止力を向上させる必要性について言及。②習近平は、地域の安全保障環境を中国に有利に形成するために、さまざまな軍事手段を用いることに焦点を当てた(古典的な意味での「抑止力」ではない)新たな調整された抑止力という広範な考え方を奨励。③「戦略的抑止力」は、習近平が中国の核兵器の拡大における「中核部隊」である人民解放軍ロケット軍の地位向上と予算確保を支持していることに言及しており、習近平の心の中に入ってみなければどの解釈が最も真実に近いかはわからないが、しかし、そのいずれもがより信頼性の高い抑止力の構築と運用を目指す人民解放軍が直面する重要な問題を浮き彫りにしていると主張している。
(3) Is This the End of the COFA Saga?
https://thediplomat.com/2024/03/is-this-the-end-of-the-cofa-saga/
The Diplomat, March 9, 2024
By Dr. Patricia O’Brien is a historian, author, analyst and commentator on Australia and Oceania and a faculty member in Asian Studies at Georgetown University and a visiting fellow at the Australian National University’s Department of Pacific Affairs
2024年3月9日、Georgetown Universityのアジア研究学部員で Australian National Universityの客員研究員Patricia O’Brienは、デジタル誌The Diplomatに“Is This the End of the COFA Saga?”と題する論説を寄稿した。その中で、①長引く自由連合盟約(Compacts of Free Association、COFA)に関する問題は、米上院が3月8日午前0時までに一括法案を通過させれば、間もなく解決するかもしれない。②2023年末に期限切れとなる過去の協定の期限が迫る中、マーシャル諸島は最終的に2023年10月、パラオとミクロネシア連邦は2023年5月に調印した。③その後、これらの協定が承認されないという可能性が、COFA加盟国やその実質的な在米海外移住者共同体に警戒心を引き起こした。④パラオとマーシャル諸島は台湾を承認し続けているが、中国は台湾に忠誠を誓う国々のリストからこれらの国々を引き離そうとしており、また、太平洋諸国と米国との結びつきを弱めるために積極的に動いている。⑤米国は、70年以上にわたり北太平洋諸島に関与してきた後、多くのことを償う必要がある。⑥米国がまずできることは、11月の選挙よりもかなり前に米国と自由連合国(Freely Associated State)の指導者が首脳会談を開き、今後の道筋を示すことである。⑦次のCOFA協定が交渉される2043年までには、さらに多くのCOFA市民が米国への移民となっている可能性が高いため、彼らが幸福な生活を送るために確保できる機会が、次の自由連合協定の継続的な健全さと安全性に直結する。⑧COFA移民の生活を安定させるための唯一の方法は教育への投資であるため、米国はまた、母国の島嶼国の教育機会を強化することが賢明だろうといった主張を述べている。
関連記事