海洋安全保障情報旬報 2024年7月1日-7月10日
Contents
7月1日「なぜU.S. Navyとその同盟国はフーシ派を止められないのか―米専門家論説」(Foreign Policy, July 1, 2024)
7月1日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは、同誌経済担当記者Keith JohnsonおよびU.S. Department of Defense・国家安全保障問題担当記者Jack Detschの“Why Can’t the U.S. Navy and Its Allies Stop the Houthis?”と題する論説を掲載し、ここで両名は海上での安全保障を取り戻すには、海軍能力への持続的な投資が必要であり、そのためには国防予算の増加という明確な対価がかかることを我々は自問しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) イエメンの反政府武装勢力フーシ派が紅海の海上交通に深刻な支障をきたし始めてから半年以上が経過し、世界の海運は、遅延、混乱、価格上昇と悪化の一途をたどっている。米英欧の海軍は、フーシ派の脅威を排除し、商船の安全を回復するために展開してきたが、成果を上げていない。このことは、シーパワーの有用性と、中国のような主要な対抗者との将来の対決で負担を担うことになっている西側の海軍の熟練度の両方について、疑問を投げかけている。U.S. Navyは、第2次世界大戦以来、最も厳しい戦いに直面している。ドイツのKiel Universityの海軍専門家Sebastian Brunsは、フーシ派は非常に強大な勢力で、大きな武器庫を持つ非国家主体として、西側連合を悩ませる存在であると述べている。
(2) スエズ運河への玄関口バブ・エル・マンデブ海峡の海運の要衝を拠点として、イランに支援された反政府勢力フーシ派は2023年末から、民間船舶や海軍艦艇を攻撃している。これにより多くの商船がアフリカ回りの安全であるが、長い航路の選択を余儀なくされている。こうした混乱は長くは続かないと予想され、特に、治安回復のために西側諸国の海軍が現場に到着した2024年春頃には海運の価格は一旦落ち着いた。しかし、8ヵ月が経過して、海運の混乱は突然悪化した。6月下旬にフーシの攻撃によって船舶1隻が沈没した。U.S. Central Commandは、米艦艇が無人偵察機やミサイル、無人水上艇を撃退したという公表をほぼ毎日繰り返している。対艦ミサイルを効果的に使用してきたフーシ派は現在、水上ドローンに頼ることが多くなっている。
(3) エジプトにとって重要な収益源であるスエズ運河の通航量は半減した。遠回りをする船は時間と費用がかかり、輸送コンテナのコストは平均1,600ドル前後から5,000ドルをはるかに超える水準にまで高騰している。運賃は、2024年初めの紅海パニックのピーク時よりも高くなっている。数ヵ月前には、船数の過剰が収益を圧迫すると警告していた大手海運会社も、今では大儲けしている。S&P Global Market Intelligence社のChris Rogersは、次のように語っている。
a. コンテナ船がアフリカを迂回する場合、航行日数が10日増え、航続距離と燃料も増えるため、直接的な輸送価格が増加する。
b. システム全体で利用可能な容量が事実上6%減少することは大きな問題である。
(4)貧困にあえぐ小国イエメンの海上テロリストの一団が、なぜ世界経済を脅かし、世界最大級の海軍を混乱させることができたのか。米国、英国、そして欧州の艦艇の交代制で構成される海軍部隊は、フーシ派の作戦が始まって以来、正常な海運を回復させようとしてきたが、ほとんど成功していない。それは船舶の戦争保険料率が、紛争前の水準から1,000%近くも上昇している事実が証明している。ある保険会社はこの春、他の保険に加入できない荷主のために、世界初の特別な戦争保険を発売したが、これは西側の海軍の展開が市場に平穏をもたらしていないことを示すものである。Norges Rederiforbund(ノルウェー船主協会)の安全保障・不測事態計画責任者で、ノルウェーの元外務副大臣Audun Halvorsenによれば、こうした高い保険料は、巨大な貨物船の価格の約1%に上るという。しかし、本当に狙われているのは、イスラエルやアメリカ、あるいはイスラエルを支援しているとみなされる国々とつながりのある船であって、中国、イラン、ロシア、インドに関連する船舶がターゲットにされることは、多くはないと述べている。
(5) 問題の1つは、米英の海軍部隊とEUの海軍部隊の任務が異なることである。英米の部隊は、脅威を迎撃し、その発生源を陸上で攻撃することを目的としているが、欧州の部隊は、フーシ派に戦いを挑むことなく、商船を保護するための護衛任務に固執している。しかし、どちらも機能していない。フーシ派は、ミサイルやロケット弾、対艦ミサイルなど、実に驚くほど豊富な弾薬を持っている。イスラエルとハマスの戦争が続く限り、この状態は変わらない。
(6) 配備と絶え間ない迎撃は、U.S. Navyの弾薬を消耗させている。紅海の米艦がフーシ派の無人機やミサイルを撃ち落とすために使用する対空ミサイルを、米国は十分に生産できていない。さらに無人偵察機相手に、100万ドル以上する米国の弾薬を無駄にはしたくないはずである。事実、紅海で欧州の一部の艦船は、高価な対空ミサイルではなく、安価な搭載砲を使い、フーシ派の無人機やミサイルを打ち落としている。
(7) 船舶の迂回は続き、保険料は高止まりしている。この結果から判断すると、米国のやり方は成果を上げていない。フーシ派が行動を変えず、備蓄があり、移動が可能で、イランからの支援を受けているのであれば、本当にこんなことをしていていいのかを問うべき時とKing’s College Londonの海軍専門家Alessio Patalanoは言う。それは、紅海とその周辺の航行の自由を守ろうとするヨーロッパの海軍が特に感じている。彼らは、自分たちがやろうとした任務を遂行するのに十分な艦船を保有していない。ドイツのフリゲートは紅海で数ヵ月を過ごし、その間に米軍の無人偵察機を撃墜しようとして、失敗して紅海から去っている。他のヨーロッパの艦艇は活躍しているが、インド洋からスエズ運河に至る海域で、船舶護衛を実現するには数が足りない。
(8) 紅海の安全確保という米欧の任務が失敗したからといって、今日の世界的な政策立案者を悩ませている大国間戦争のような任務における海軍力の有用性が疑問視されるわけではない。容赦ない作戦頻度にもかかわらず、米英欧の艦艇は膨大な数のフーシ派の無人機などを迎撃・破壊しており、自らも被弾していない。ただ、危険な海域に商船を呼び戻せなかっただけである。Alessio Patalanoは次のように述べている。
a. これは海洋安全保障やシーパワー、海軍力の失敗ではない。「アイゼンハワー」空母打撃群は素晴らしい実績を見せている。これは、政策と海軍力の使い方との間に断絶があるということである。
b. 航行の自由を確保しようとしているのに、それが達成できていない。
(9) ヨーロッパ諸国が認識したように、海上での安全保障を取り戻すには、海軍力への持続的な投資が必要である。安全保障の引き受けには、国防予算の増加という明確な対価がかかる。紅海での数ヵ月に及ぶ混乱のような事態が新たな常態となるのであれば、代替案もまた然りであり、その対価を誰が負担すべきなのかを私たちは自問しなければならない。
記事参照:Why Can’t the U.S. Navy and Its Allies Stop the Houthis?
(1) イエメンの反政府武装勢力フーシ派が紅海の海上交通に深刻な支障をきたし始めてから半年以上が経過し、世界の海運は、遅延、混乱、価格上昇と悪化の一途をたどっている。米英欧の海軍は、フーシ派の脅威を排除し、商船の安全を回復するために展開してきたが、成果を上げていない。このことは、シーパワーの有用性と、中国のような主要な対抗者との将来の対決で負担を担うことになっている西側の海軍の熟練度の両方について、疑問を投げかけている。U.S. Navyは、第2次世界大戦以来、最も厳しい戦いに直面している。ドイツのKiel Universityの海軍専門家Sebastian Brunsは、フーシ派は非常に強大な勢力で、大きな武器庫を持つ非国家主体として、西側連合を悩ませる存在であると述べている。
(2) スエズ運河への玄関口バブ・エル・マンデブ海峡の海運の要衝を拠点として、イランに支援された反政府勢力フーシ派は2023年末から、民間船舶や海軍艦艇を攻撃している。これにより多くの商船がアフリカ回りの安全であるが、長い航路の選択を余儀なくされている。こうした混乱は長くは続かないと予想され、特に、治安回復のために西側諸国の海軍が現場に到着した2024年春頃には海運の価格は一旦落ち着いた。しかし、8ヵ月が経過して、海運の混乱は突然悪化した。6月下旬にフーシの攻撃によって船舶1隻が沈没した。U.S. Central Commandは、米艦艇が無人偵察機やミサイル、無人水上艇を撃退したという公表をほぼ毎日繰り返している。対艦ミサイルを効果的に使用してきたフーシ派は現在、水上ドローンに頼ることが多くなっている。
(3) エジプトにとって重要な収益源であるスエズ運河の通航量は半減した。遠回りをする船は時間と費用がかかり、輸送コンテナのコストは平均1,600ドル前後から5,000ドルをはるかに超える水準にまで高騰している。運賃は、2024年初めの紅海パニックのピーク時よりも高くなっている。数ヵ月前には、船数の過剰が収益を圧迫すると警告していた大手海運会社も、今では大儲けしている。S&P Global Market Intelligence社のChris Rogersは、次のように語っている。
a. コンテナ船がアフリカを迂回する場合、航行日数が10日増え、航続距離と燃料も増えるため、直接的な輸送価格が増加する。
b. システム全体で利用可能な容量が事実上6%減少することは大きな問題である。
(4)貧困にあえぐ小国イエメンの海上テロリストの一団が、なぜ世界経済を脅かし、世界最大級の海軍を混乱させることができたのか。米国、英国、そして欧州の艦艇の交代制で構成される海軍部隊は、フーシ派の作戦が始まって以来、正常な海運を回復させようとしてきたが、ほとんど成功していない。それは船舶の戦争保険料率が、紛争前の水準から1,000%近くも上昇している事実が証明している。ある保険会社はこの春、他の保険に加入できない荷主のために、世界初の特別な戦争保険を発売したが、これは西側の海軍の展開が市場に平穏をもたらしていないことを示すものである。Norges Rederiforbund(ノルウェー船主協会)の安全保障・不測事態計画責任者で、ノルウェーの元外務副大臣Audun Halvorsenによれば、こうした高い保険料は、巨大な貨物船の価格の約1%に上るという。しかし、本当に狙われているのは、イスラエルやアメリカ、あるいはイスラエルを支援しているとみなされる国々とつながりのある船であって、中国、イラン、ロシア、インドに関連する船舶がターゲットにされることは、多くはないと述べている。
(5) 問題の1つは、米英の海軍部隊とEUの海軍部隊の任務が異なることである。英米の部隊は、脅威を迎撃し、その発生源を陸上で攻撃することを目的としているが、欧州の部隊は、フーシ派に戦いを挑むことなく、商船を保護するための護衛任務に固執している。しかし、どちらも機能していない。フーシ派は、ミサイルやロケット弾、対艦ミサイルなど、実に驚くほど豊富な弾薬を持っている。イスラエルとハマスの戦争が続く限り、この状態は変わらない。
(6) 配備と絶え間ない迎撃は、U.S. Navyの弾薬を消耗させている。紅海の米艦がフーシ派の無人機やミサイルを撃ち落とすために使用する対空ミサイルを、米国は十分に生産できていない。さらに無人偵察機相手に、100万ドル以上する米国の弾薬を無駄にはしたくないはずである。事実、紅海で欧州の一部の艦船は、高価な対空ミサイルではなく、安価な搭載砲を使い、フーシ派の無人機やミサイルを打ち落としている。
(7) 船舶の迂回は続き、保険料は高止まりしている。この結果から判断すると、米国のやり方は成果を上げていない。フーシ派が行動を変えず、備蓄があり、移動が可能で、イランからの支援を受けているのであれば、本当にこんなことをしていていいのかを問うべき時とKing’s College Londonの海軍専門家Alessio Patalanoは言う。それは、紅海とその周辺の航行の自由を守ろうとするヨーロッパの海軍が特に感じている。彼らは、自分たちがやろうとした任務を遂行するのに十分な艦船を保有していない。ドイツのフリゲートは紅海で数ヵ月を過ごし、その間に米軍の無人偵察機を撃墜しようとして、失敗して紅海から去っている。他のヨーロッパの艦艇は活躍しているが、インド洋からスエズ運河に至る海域で、船舶護衛を実現するには数が足りない。
(8) 紅海の安全確保という米欧の任務が失敗したからといって、今日の世界的な政策立案者を悩ませている大国間戦争のような任務における海軍力の有用性が疑問視されるわけではない。容赦ない作戦頻度にもかかわらず、米英欧の艦艇は膨大な数のフーシ派の無人機などを迎撃・破壊しており、自らも被弾していない。ただ、危険な海域に商船を呼び戻せなかっただけである。Alessio Patalanoは次のように述べている。
a. これは海洋安全保障やシーパワー、海軍力の失敗ではない。「アイゼンハワー」空母打撃群は素晴らしい実績を見せている。これは、政策と海軍力の使い方との間に断絶があるということである。
b. 航行の自由を確保しようとしているのに、それが達成できていない。
(9) ヨーロッパ諸国が認識したように、海上での安全保障を取り戻すには、海軍力への持続的な投資が必要である。安全保障の引き受けには、国防予算の増加という明確な対価がかかる。紅海での数ヵ月に及ぶ混乱のような事態が新たな常態となるのであれば、代替案もまた然りであり、その対価を誰が負担すべきなのかを私たちは自問しなければならない。
記事参照:Why Can’t the U.S. Navy and Its Allies Stop the Houthis?
7月1日「南シナ海の緊張緩和のために中国は自制せよ―シンガポール防衛問題専門家論説」(Channel News Asia, July 1, 2024)
7月1日付のシンガポールのニュース専門テレビ放送局Channel News Asiaのウエブサイトは、シンガポールのNanyang Technological UniversityのS Rajaratnam School of International Studies RSIS上席研究員Collin Kohの“Commentary: The world came dangerously close to full-scale conflict in the South China Sea”と題する論説を掲載し、そこでColin Kohはセカンド・トーマス礁をめぐる中比間の緊張が高まっていることを指摘し、その事態拡大を予防するには、中比、特に中国側の自制が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 直近のセカンド・トーマス礁での中比間の事案は、フィリピン側の船員の親指切断という事態にまで発展した。今後、双方の自制や幸運がなければ、さらに事態は拡大する可能性がある。
(2) 1年以上も中比間の緊張は高まり続けている。フィリピンがセカンド・トーマス礁に座礁させ、Armed Forces of the Philippinesの部隊が駐留する「シエラ・マドレ」への補給活動と、中国によるそれへの妨害行動が続いていた。今回、海警船は前例のない行動に出た。補給船に衝突し、ナイフや斧を振り回し、フィリピン側のゴムボートと銃火器を奪ったのである。この事件が全面的な武力衝突に至らなかったのは、自制と幸運という2つの要素による。
(3) 南シナ海における事態の拡大予防において、自制は重要な要素である。中国は海警が自制していると主張してきたが、今回の行動は戦争行為と解釈され得るもので、米比相互防衛条約が発動してもおかしくなかった。そうならなかったのは、フィリピンが自制したからである。今回の補給作戦に参加したPhilippine Navyの一部は、特殊戦司令部に属する精鋭部隊である。彼らは、自分たちが最初の引き金を引き、自衛の名の下で報復されることを警戒し、おそらく警告射撃もしなかったはずである。だからこそ中国海警船は「シエラ・マドレ」に接近できたのである。
(4) この事件の結果が負傷者1名だけに終わったのは幸運なことであった。しかし、今後も幸運に頼り続けられるだろうか。相互防衛条約が発動されなかった主な理由は、6月のアジア安全保障会議でMarcos Jr.大統領が高いハードルを設定したからである。すなわち、超えてはならない一線はフィリピン側の「関係者や市民などが殺害されたとき」としたのである。米国の観点からは、中国の行動は違法部隊の活用という正規部隊による砲撃、ミサイル発射による破壊行為ではないと定義される。しかし、相互防衛条約におけ「武力攻撃」が何を指すかについても、明確には定義されていない。今回、フィリピン政府は明らかに事態の拡大を回避しようとした。事件の強烈さゆえに諸国を巻き込む紛争になることを恐れたためであろう。
(5) 今後、中国はさらに米比の超えてはならない一線を見極めようとするだろう。今回の事件が示したのは、フィリピンの慎重姿勢、米国の態度のあいまいさであった。また中国は、フィリピンの活動を妨害するための行動能力を見せたことで、中比間の行動能力の非対称性を明示した。1万トンの排水量を誇る中国最大の海警船が、事件の1週間後に「シエラ・マドレ」の近くに派遣されている。その結果、中国は長期戦を戦い、最終的にフィリピン側に中国の条件を飲ませることができると考えるであろう。
(6) 南シナ海での武力衝突、とりわけセカンド・トーマス礁をめぐって武力衝突が計画的に起きる可能性は、依然として低い。それよりも懸念すべきは、お互いが夢遊病者のように戦闘に突入することである。超えてはならない一線を模索しようとする中国の動きは、誤算に繋がりかねない。中国は思い切って一歩下がり、超えてはならない一線を超えてしまわないようにするべきだ。
記事参照:Commentary: The world came dangerously close to full-scale conflict in the South China Sea
(1) 直近のセカンド・トーマス礁での中比間の事案は、フィリピン側の船員の親指切断という事態にまで発展した。今後、双方の自制や幸運がなければ、さらに事態は拡大する可能性がある。
(2) 1年以上も中比間の緊張は高まり続けている。フィリピンがセカンド・トーマス礁に座礁させ、Armed Forces of the Philippinesの部隊が駐留する「シエラ・マドレ」への補給活動と、中国によるそれへの妨害行動が続いていた。今回、海警船は前例のない行動に出た。補給船に衝突し、ナイフや斧を振り回し、フィリピン側のゴムボートと銃火器を奪ったのである。この事件が全面的な武力衝突に至らなかったのは、自制と幸運という2つの要素による。
(3) 南シナ海における事態の拡大予防において、自制は重要な要素である。中国は海警が自制していると主張してきたが、今回の行動は戦争行為と解釈され得るもので、米比相互防衛条約が発動してもおかしくなかった。そうならなかったのは、フィリピンが自制したからである。今回の補給作戦に参加したPhilippine Navyの一部は、特殊戦司令部に属する精鋭部隊である。彼らは、自分たちが最初の引き金を引き、自衛の名の下で報復されることを警戒し、おそらく警告射撃もしなかったはずである。だからこそ中国海警船は「シエラ・マドレ」に接近できたのである。
(4) この事件の結果が負傷者1名だけに終わったのは幸運なことであった。しかし、今後も幸運に頼り続けられるだろうか。相互防衛条約が発動されなかった主な理由は、6月のアジア安全保障会議でMarcos Jr.大統領が高いハードルを設定したからである。すなわち、超えてはならない一線はフィリピン側の「関係者や市民などが殺害されたとき」としたのである。米国の観点からは、中国の行動は違法部隊の活用という正規部隊による砲撃、ミサイル発射による破壊行為ではないと定義される。しかし、相互防衛条約におけ「武力攻撃」が何を指すかについても、明確には定義されていない。今回、フィリピン政府は明らかに事態の拡大を回避しようとした。事件の強烈さゆえに諸国を巻き込む紛争になることを恐れたためであろう。
(5) 今後、中国はさらに米比の超えてはならない一線を見極めようとするだろう。今回の事件が示したのは、フィリピンの慎重姿勢、米国の態度のあいまいさであった。また中国は、フィリピンの活動を妨害するための行動能力を見せたことで、中比間の行動能力の非対称性を明示した。1万トンの排水量を誇る中国最大の海警船が、事件の1週間後に「シエラ・マドレ」の近くに派遣されている。その結果、中国は長期戦を戦い、最終的にフィリピン側に中国の条件を飲ませることができると考えるであろう。
(6) 南シナ海での武力衝突、とりわけセカンド・トーマス礁をめぐって武力衝突が計画的に起きる可能性は、依然として低い。それよりも懸念すべきは、お互いが夢遊病者のように戦闘に突入することである。超えてはならない一線を模索しようとする中国の動きは、誤算に繋がりかねない。中国は思い切って一歩下がり、超えてはならない一線を超えてしまわないようにするべきだ。
記事参照:Commentary: The world came dangerously close to full-scale conflict in the South China Sea
7月2日「フィリピンおよび日本周辺における中国空母等の動態―U.S. Naval Institute報道」(USNI News, July 2, 2024)
7月2日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、マレーシアを拠点とするフリーランスの防衛問題ジャーナリストDzirhan Mahadzirの“Chinese Aircraft Carrier Sails Near the Philippines, Chinese Warships Continue Operations Near Japan”と題する記事を掲載し、フィリピンと日本の近くで活動する中国の空母をはじめとする艦艇の動向について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の空母「山東」は6月26日にルソン島から230海里にまで接近し、南シナ海を行動した。
a. Philippine Navyの報道官Roy Vincent Trinidad少将が7月2日の記者会見で、Philippine Navyはフィリピンの排他的経済水域内にいる中国海軍の空母および中国海警の1万2,000トンの海警船の存在を認識していると述べ、「両艦船はUNCLOS上、航行の自由または無害通航権のどちらも認められている。Philippine NavyおよびArmed Forces of the Philippinesは、我々の広大な海洋領域を監視し続けるのでご安心ください」と語っている。
b. フィリピン付近を通過して以降、「山東」は6月30日に、母港のある海南島付近を航行している。中国やその他の国のメディアは、空母がフィリピンに接近したのは、中国とフィリピンがセカンド・トーマス礁沖で衝突した後の武力と抑止力の誇示だと推測しているが、USNI Newsはその行動が後の展開に先立つ資格認定のための演習だった可能性があると推測している。
c. 「山東」は2023年11月初旬に西太平洋への運用展開を終えたが、その後、台湾海峡を北上し、中国北部沖で訓練を行っていた。そして、「山東」は12月に台湾海峡を南下して母港に帰港した。それ以来、同空母は西太平洋への展開を行っていないが、母港周辺の海域での訓練のためには何度か出港している。
(2) 一方、7月1日の統合幕僚監部の発表によると、中国の艦艇はここ数日、日本周辺を行動している。
a. 6月28日の午後6時、中国海軍のType052D駆逐艦「開封」とType054Aフリゲート「煙台」は、対馬から南50海里の海域を北東に航行しているのが確認され、28日から29日にかけて、対馬海峡を北東に通過し、日本海に入った。その後、29日の午後7時、両艦は北海道本島の南東端沖から西に31海里にある大島から南19海里の海域を南東に航行しているのが確認された。6月30日から7月1日にかけて、両艦は本州と北海道を隔てる津軽海峡を東へ通過し、太平洋に入り、6月27日には大隅海峡を東へ通過し、28日に同じ道程を戻ってきていた。
b. 6月30日午後4時、久米島から南西37マイルの海域を南東に航行する中国海軍のType815電子偵察船「天枢星」が確認されたが、その後、宮古島と沖縄の間を航行し、フィリピン海に入った。
c. 7月1日の午前3時、Type055駆逐艦「拉薩」とType903A補給艦「可可西里湖」が、礼文島の西25海里の海域を北東に航行しているのが確認された。両艦はその後、宗谷海峡を東に航行し、オホーツク海に入り、6月27日に対馬海峡を通過していた。
記事参照:Chinese Aircraft Carrier Sails Near the Philippines, Chinese Warships Continue Operations Near Japan
(1) 中国の空母「山東」は6月26日にルソン島から230海里にまで接近し、南シナ海を行動した。
a. Philippine Navyの報道官Roy Vincent Trinidad少将が7月2日の記者会見で、Philippine Navyはフィリピンの排他的経済水域内にいる中国海軍の空母および中国海警の1万2,000トンの海警船の存在を認識していると述べ、「両艦船はUNCLOS上、航行の自由または無害通航権のどちらも認められている。Philippine NavyおよびArmed Forces of the Philippinesは、我々の広大な海洋領域を監視し続けるのでご安心ください」と語っている。
b. フィリピン付近を通過して以降、「山東」は6月30日に、母港のある海南島付近を航行している。中国やその他の国のメディアは、空母がフィリピンに接近したのは、中国とフィリピンがセカンド・トーマス礁沖で衝突した後の武力と抑止力の誇示だと推測しているが、USNI Newsはその行動が後の展開に先立つ資格認定のための演習だった可能性があると推測している。
c. 「山東」は2023年11月初旬に西太平洋への運用展開を終えたが、その後、台湾海峡を北上し、中国北部沖で訓練を行っていた。そして、「山東」は12月に台湾海峡を南下して母港に帰港した。それ以来、同空母は西太平洋への展開を行っていないが、母港周辺の海域での訓練のためには何度か出港している。
(2) 一方、7月1日の統合幕僚監部の発表によると、中国の艦艇はここ数日、日本周辺を行動している。
a. 6月28日の午後6時、中国海軍のType052D駆逐艦「開封」とType054Aフリゲート「煙台」は、対馬から南50海里の海域を北東に航行しているのが確認され、28日から29日にかけて、対馬海峡を北東に通過し、日本海に入った。その後、29日の午後7時、両艦は北海道本島の南東端沖から西に31海里にある大島から南19海里の海域を南東に航行しているのが確認された。6月30日から7月1日にかけて、両艦は本州と北海道を隔てる津軽海峡を東へ通過し、太平洋に入り、6月27日には大隅海峡を東へ通過し、28日に同じ道程を戻ってきていた。
b. 6月30日午後4時、久米島から南西37マイルの海域を南東に航行する中国海軍のType815電子偵察船「天枢星」が確認されたが、その後、宮古島と沖縄の間を航行し、フィリピン海に入った。
c. 7月1日の午前3時、Type055駆逐艦「拉薩」とType903A補給艦「可可西里湖」が、礼文島の西25海里の海域を北東に航行しているのが確認された。両艦はその後、宗谷海峡を東に航行し、オホーツク海に入り、6月27日に対馬海峡を通過していた。
記事参照:Chinese Aircraft Carrier Sails Near the Philippines, Chinese Warships Continue Operations Near Japan
7月2日「新時代の幕開け:労働党のインド太平洋についての提案―英専門家論説」(9Dashline, July 2, 2024)
7月2日付のインド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineは、進化する英中関係に関する研究ノートを毎週提供しているBeijing to Britain の創刊者Sam Hoggの “A NEW ERA DAWNS: LABOUR’S INDO-PACIFIC OFFER”と題する論説を掲載し、ここでSam Hoggはインド太平洋地域で英国の新しい労働党政権が成功するためには、巧妙な外交政策と地域の関係各国が何を望んでいるかについての理解が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英国では2024年7月4日の総選挙の結果、おそらく10年以上ぶりの労働党政権が誕生するであろう。そして、労働党の外交政策、特にインド太平洋政策については注目が集まるであろう。2010年に労働党が政権を去って以来、この地域は劇的に変化しており、前回労働党が政権にあった時にはなかった「インド太平洋」という概念が生まれるようになった。2010年以降、インド太平洋地域では民主的な信頼性が異なる選挙が113回も行われて、中国の習近平国家主席、インドのNarendra Modi首相、台湾の蔡英文大統領、フィリピンのFerdinand ‘Bongbong’ Marcos Jr.大統領、韓国のYoon Suk Yeol(尹錫悦)大統領など、さまざまな指導者が誕生している。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国家安全保障上の懸念の高まり、そして忍び寄る保護主義が相まって、サプライチェーンは変化している。地域のGDPの上昇、新技術の出現、そして数十万人もの住民がすでに気候変動の最先端で生活しているという現実も生まれている。しかし、最も根本的な変化は、インド太平洋地域が2010年に離脱した労働党政権が想像もできなかったような形で、米中間の大国間対立の舞台となっていることである。これにより、AUKUSから環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership CPTPP)に至るまでの新たな同盟や提携が生まれ、上海協力機構やQUADなどの古い集団に対する監視が強化され、英国が韓国と日本と結んだような革新的な2国間協定が結ばれている。インド太平洋地域は、世界で最も困難な課題のいくつかが出現する地点であり、この地域が次の世紀における世界貿易の原動力となることを正しく認識した英国は、Bois Johnson元首相の下でこの地域への「注力」を開始した。保守党の下で、英国はCPTPPに参加し、艦艇を哨戒任務で派遣するなど地域に関与し続けている。
(2) 筆者が、過去2年間に会話したさまざまな外交官や政府高官と労働党のインド太平洋への注力についての懸念を共有してきた。彼らの懸念は2つある。第1に、労働党は保守党が始めた構想を続けたいのだろうか?第2に、彼らはそれを行う時間的、経済的余裕があるのだろうか?どちらの点でも、労働党はその意欲を測るのを難しくしている。影の外相David Lammyと影の国防相John Healeyは、ロシアのウクライナへの違法な侵攻に言及して、保守党の動きを「英国の隣国の重要性を無視する意図を示す薄っぺらな印」と批判していた。しかし、そのようなコメントは、何か深い意味があるものとしてではなく、政府に対する野党の攻撃として読むべきである。最近の言説は、労働党が労働党の政治公約に含まれるCPTPPだけでなく、予定されている今後の戦略防衛見直しにも目を向けて、インド太平洋に関心を持っていることを示している。オーストラリア、韓国、日本などの友好的な政権は、労働党がこの地域において全力で活動し続けるよう圧力をかけるべきである。広い視野に立って、労働党は2つのことを理解する必要がある。第1に、この地域からの撤退は、南シナ海における中国の行動を考えると、旧来の同盟国と新たな提携国の両方と対立することになる。第2に、この地域の国々は、自国の利益を促進したり、保護したりするために努力する自律的な行為者であり、「どちらかの側につく」ことを強いられることを望んでいない可能性が高い。どのような取り組みも巧妙に、しかも予測ではなく現実に基づいて構築する必要がある。
(3) 労働党は、インド太平洋地域における英国の外交・産業政策の一部を維持し、改革する可能性が高いと考えられる。問題は、それをどのように実現するのかということである。労働党はこの地域に何を提供できるのか、そして何を得たいのか。残念ながら、英国の Lammy外相は、就任1年目のオーストラリアのPenny Wong外相のように、この地域のほとんどの国を訪問する時間はないだろう。労働党は、他の場所に費やす余剰資本を生み出す繁栄した経済的余裕を持っていないであろう。つまり、労働党は当初、インド太平洋諸国が何を求めているのかを理解し、英国が提供できるものやその見返りに期待するものについて、力強い革新的な対応をするために、英国と同盟国の提携国に頼らざるを得なくなる。しかし、労働党が学べるいくつかの分野があり、何らかの動きが見られる可能性が高い。安全保障面では、中国がこの地域に大きく立ちはだかっていることは明らかである。東シナ海と南シナ海における中国の好戦的な行動は、G7などから激しい批判を浴び、韓国と日本の関係を近づけた。労働党政権は、これらの集団内で活動し、この行動が発生した時にそれを指摘するという現在の英国政府の取り組みを引き継ぐ可能性が高い。台湾に関しては、労働党は保守党政権よりもさらに踏み込んで、英国の大学が台湾の大学との提携を築くよう強く働きかけるべきである。労働党政権は、洋上風力発電から半導体までの問題で台湾との民間部門の関与を奨励する前任者の仕事を足掛かりに、おそらく発展するであろう。中国政府のグレーゾーン活動に対抗するために、英国のGovernment Communications Headquarters(政府通信本部、GCHQ)は、サイバーセキュリティに関して台湾の同様の活動を実施する部門と協力することを検討するか、国際シンクタンクChina Strategic Risk Instituteが提案したように、2023年の英国・シンガポールサイバー対話をひな型にした台湾とのサイバーセキュリティ対話を開始して協力を深めることを検討するべきである。
(4) 労働党は、警察活動から違法漁業まで、他の安全保障問題にインド太平洋諸国を関与させることも検討できる。 実際、Royal Navy哨戒艦「スペイ」、「テイマー」のこの地域への派遣は、部分的にこれに取り組むための努力である。労働党の政治公約は、気候変動は「我々が直面する最大の長期的地球規模の課題である」と述べている。労働党は、インド太平洋地域政策として、エネルギー自立法が最も必要としている人々にどのような技術や専門知識を輸出できるかを検討したいのかもしれない。世界貿易について、労働党は米国のインフレ削減法に倣った保護主義的な含みがある国内、外交、産業の政策を結びつける概念「経済的安全保障(Securonomics)」に尽力すると述べている。2050年までに世界の5大経済大国のうち3ヵ国がインド太平洋に所在することを考えれば、労働党は同地域で自由貿易を促進し、この課題を追求する方法を具体化する必要がある。労働党政権下では、英国政府は重要鉱物や人工知能など、特定の所要に合わせた貿易協定に対して、焦点を絞った取り組みを行う可能性がある。選挙前のほぼすべての外交政策案と同様に、労働党はインド太平洋問題については秘密にしておくことを選択した。この地域で英国政府が成功するためには、巧妙な外交政策と地域の関係各国が何を望んでいるかについてのしっかりとした理解が必要である。
記事参照:A NEW ERA DAWNS: LABOUR’S INDO-PACIFIC OFFER
(1) 英国では2024年7月4日の総選挙の結果、おそらく10年以上ぶりの労働党政権が誕生するであろう。そして、労働党の外交政策、特にインド太平洋政策については注目が集まるであろう。2010年に労働党が政権を去って以来、この地域は劇的に変化しており、前回労働党が政権にあった時にはなかった「インド太平洋」という概念が生まれるようになった。2010年以降、インド太平洋地域では民主的な信頼性が異なる選挙が113回も行われて、中国の習近平国家主席、インドのNarendra Modi首相、台湾の蔡英文大統領、フィリピンのFerdinand ‘Bongbong’ Marcos Jr.大統領、韓国のYoon Suk Yeol(尹錫悦)大統領など、さまざまな指導者が誕生している。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国家安全保障上の懸念の高まり、そして忍び寄る保護主義が相まって、サプライチェーンは変化している。地域のGDPの上昇、新技術の出現、そして数十万人もの住民がすでに気候変動の最先端で生活しているという現実も生まれている。しかし、最も根本的な変化は、インド太平洋地域が2010年に離脱した労働党政権が想像もできなかったような形で、米中間の大国間対立の舞台となっていることである。これにより、AUKUSから環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership CPTPP)に至るまでの新たな同盟や提携が生まれ、上海協力機構やQUADなどの古い集団に対する監視が強化され、英国が韓国と日本と結んだような革新的な2国間協定が結ばれている。インド太平洋地域は、世界で最も困難な課題のいくつかが出現する地点であり、この地域が次の世紀における世界貿易の原動力となることを正しく認識した英国は、Bois Johnson元首相の下でこの地域への「注力」を開始した。保守党の下で、英国はCPTPPに参加し、艦艇を哨戒任務で派遣するなど地域に関与し続けている。
(2) 筆者が、過去2年間に会話したさまざまな外交官や政府高官と労働党のインド太平洋への注力についての懸念を共有してきた。彼らの懸念は2つある。第1に、労働党は保守党が始めた構想を続けたいのだろうか?第2に、彼らはそれを行う時間的、経済的余裕があるのだろうか?どちらの点でも、労働党はその意欲を測るのを難しくしている。影の外相David Lammyと影の国防相John Healeyは、ロシアのウクライナへの違法な侵攻に言及して、保守党の動きを「英国の隣国の重要性を無視する意図を示す薄っぺらな印」と批判していた。しかし、そのようなコメントは、何か深い意味があるものとしてではなく、政府に対する野党の攻撃として読むべきである。最近の言説は、労働党が労働党の政治公約に含まれるCPTPPだけでなく、予定されている今後の戦略防衛見直しにも目を向けて、インド太平洋に関心を持っていることを示している。オーストラリア、韓国、日本などの友好的な政権は、労働党がこの地域において全力で活動し続けるよう圧力をかけるべきである。広い視野に立って、労働党は2つのことを理解する必要がある。第1に、この地域からの撤退は、南シナ海における中国の行動を考えると、旧来の同盟国と新たな提携国の両方と対立することになる。第2に、この地域の国々は、自国の利益を促進したり、保護したりするために努力する自律的な行為者であり、「どちらかの側につく」ことを強いられることを望んでいない可能性が高い。どのような取り組みも巧妙に、しかも予測ではなく現実に基づいて構築する必要がある。
(3) 労働党は、インド太平洋地域における英国の外交・産業政策の一部を維持し、改革する可能性が高いと考えられる。問題は、それをどのように実現するのかということである。労働党はこの地域に何を提供できるのか、そして何を得たいのか。残念ながら、英国の Lammy外相は、就任1年目のオーストラリアのPenny Wong外相のように、この地域のほとんどの国を訪問する時間はないだろう。労働党は、他の場所に費やす余剰資本を生み出す繁栄した経済的余裕を持っていないであろう。つまり、労働党は当初、インド太平洋諸国が何を求めているのかを理解し、英国が提供できるものやその見返りに期待するものについて、力強い革新的な対応をするために、英国と同盟国の提携国に頼らざるを得なくなる。しかし、労働党が学べるいくつかの分野があり、何らかの動きが見られる可能性が高い。安全保障面では、中国がこの地域に大きく立ちはだかっていることは明らかである。東シナ海と南シナ海における中国の好戦的な行動は、G7などから激しい批判を浴び、韓国と日本の関係を近づけた。労働党政権は、これらの集団内で活動し、この行動が発生した時にそれを指摘するという現在の英国政府の取り組みを引き継ぐ可能性が高い。台湾に関しては、労働党は保守党政権よりもさらに踏み込んで、英国の大学が台湾の大学との提携を築くよう強く働きかけるべきである。労働党政権は、洋上風力発電から半導体までの問題で台湾との民間部門の関与を奨励する前任者の仕事を足掛かりに、おそらく発展するであろう。中国政府のグレーゾーン活動に対抗するために、英国のGovernment Communications Headquarters(政府通信本部、GCHQ)は、サイバーセキュリティに関して台湾の同様の活動を実施する部門と協力することを検討するか、国際シンクタンクChina Strategic Risk Instituteが提案したように、2023年の英国・シンガポールサイバー対話をひな型にした台湾とのサイバーセキュリティ対話を開始して協力を深めることを検討するべきである。
(4) 労働党は、警察活動から違法漁業まで、他の安全保障問題にインド太平洋諸国を関与させることも検討できる。 実際、Royal Navy哨戒艦「スペイ」、「テイマー」のこの地域への派遣は、部分的にこれに取り組むための努力である。労働党の政治公約は、気候変動は「我々が直面する最大の長期的地球規模の課題である」と述べている。労働党は、インド太平洋地域政策として、エネルギー自立法が最も必要としている人々にどのような技術や専門知識を輸出できるかを検討したいのかもしれない。世界貿易について、労働党は米国のインフレ削減法に倣った保護主義的な含みがある国内、外交、産業の政策を結びつける概念「経済的安全保障(Securonomics)」に尽力すると述べている。2050年までに世界の5大経済大国のうち3ヵ国がインド太平洋に所在することを考えれば、労働党は同地域で自由貿易を促進し、この課題を追求する方法を具体化する必要がある。労働党政権下では、英国政府は重要鉱物や人工知能など、特定の所要に合わせた貿易協定に対して、焦点を絞った取り組みを行う可能性がある。選挙前のほぼすべての外交政策案と同様に、労働党はインド太平洋問題については秘密にしておくことを選択した。この地域で英国政府が成功するためには、巧妙な外交政策と地域の関係各国が何を望んでいるかについてのしっかりとした理解が必要である。
記事参照:A NEW ERA DAWNS: LABOUR’S INDO-PACIFIC OFFER
7月3日「SQUADを超えて:フィリピンは北東アジアに少数国間協調枠組みを確立せよ―フィリピン元海軍士官論説」(FULCRUM, July 3, 2024)
7月3日付のシンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUM は、フィリピンAteneo School of Government 教授のRommel Jude G. Ong退役海軍少将による“Beyond the SQUAD: Ideas for the Philippines to Work with a Northeast Asian Minilateral Arrangement”と題する論説を掲載し、Rommel Jude G. Ongはフィリピンが中国に対抗するために、既存の少数国間協調枠組みをさらに拡大すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンは、西フィリピン海において中国のハードパワーの矛先となり、また国内においては同国の「シャープパワー」の対象国である。前者は南シナ海を中国が支配するためのものであり、後者はフィリピンの地方指導層に対し影響力を行使するための方策である。フィリピンには自分たちだけでこうした中国の覇権的野心に対抗する能力を持たない。2016年7月に判決が下された南シナ海に関する仲裁裁判で、フィリピンは法的に勝利を収めたが、それが中国による海上での緊張の拡大を止めることはなかった。
(2) 6月のアジア安全保障会議における演説において、フィリピンのMarcos Jr.大統領は、中国によるハードパワーとシャープパワーの行使に対抗する必要性を強調した。彼はまたASEANの中心性、そしてインド太平洋の秩序維持と安定のためにおけるASEANの重要性に敬意を払った。
(3) しかしISEAS-Yusof Ishak Instituteが東南アジア全域で実施した調査に基づくと、Marcos Jr.大統領によるASEANへの視線は無視される可能性がある。というのも、その調査によれば、ASEAN諸国の大部分は、中国による軍事力と経済力の乱用を恐れつつも、米国よりも中国のほうを望ましいと考えているためである。中国はうまく、地域における中国の立場を確立している一方で、フィリピンは、南シナ海への取り組みに関してASEANから明確な支持を得ていないのである。
(4) そこでフィリピンが視線を向けるべき方向は、北東にある。フィリピンは、米国その他志向を同じくする戦略的提携国との間で、少数国間枠組みを構築してきた。それを土台にし、かつASEANにおける伝統的紐帯を維持しつつ、安全保障と経済的状況の改善を模索すべきであろう。その方向に向けて、2つの重要な出来事があった。1つが、2024年4月の日米比首脳会談の実施、もう1つが、その数週間後にハワイで開催された、日米豪比国防長官/防衛相会談である。こうして、日米豪比4ヵ国の枠組みであるSQUADが始動した。
(5) フィリピンは、SQUADに韓国やカナダを加えることで、その協力枠組みを拡大できる。フィリピンは既に、それぞれと2国間関係を強化してきた。たとえばカナダはフィリピンにほぼ即時の衛星データの提供を決定したが、それは海洋状況把握の強化につながるだろう。また韓国はフィリピンに航空機や海軍艦船などを提供してきた。さらに、2023年には日米韓の間で協定が結ばれている。
(6) したがって、北東アジアにおいて、日米韓加比の5ヵ国の協力枠組みが創設されるべきである。それは地域における海洋安全保障のための機構を構築し、地域の経済的抗堪性を強化することを目的とするものである。具体的には以下の構想が考えられる。
a. 海洋協力活動の持続と拡大。定期的な巡視ではなく、毎日24時間行うものにする。
b. 合同の海軍兵站施設の開設。フィリピンのスービックに構築できれば、南シナ海を巡視する艦船の整備や補修ができる。
c. ハワイで実施されるRIMPAC演習の北東アジア版の実施。
d. 海洋状況把握の強化。
e. 既存のアギラ・スービック造船所の最適化などを含む防衛産業の拡大。
f. 防空・海上拒否システムの統合。
(7) Marcos Jr.大統領は、フィリピンの対外政策と国家安全保障政策を再設定している。中国の海での主張、経済的威圧などに対抗するためである。そのためにフィリピンは、中国への脅威だけでなく、価値観を共有する国々との連携が必要である。
記事参照:Beyond the SQUAD: Ideas for the Philippines to Work with a Northeast Asian Minilateral Arrangement
(1) フィリピンは、西フィリピン海において中国のハードパワーの矛先となり、また国内においては同国の「シャープパワー」の対象国である。前者は南シナ海を中国が支配するためのものであり、後者はフィリピンの地方指導層に対し影響力を行使するための方策である。フィリピンには自分たちだけでこうした中国の覇権的野心に対抗する能力を持たない。2016年7月に判決が下された南シナ海に関する仲裁裁判で、フィリピンは法的に勝利を収めたが、それが中国による海上での緊張の拡大を止めることはなかった。
(2) 6月のアジア安全保障会議における演説において、フィリピンのMarcos Jr.大統領は、中国によるハードパワーとシャープパワーの行使に対抗する必要性を強調した。彼はまたASEANの中心性、そしてインド太平洋の秩序維持と安定のためにおけるASEANの重要性に敬意を払った。
(3) しかしISEAS-Yusof Ishak Instituteが東南アジア全域で実施した調査に基づくと、Marcos Jr.大統領によるASEANへの視線は無視される可能性がある。というのも、その調査によれば、ASEAN諸国の大部分は、中国による軍事力と経済力の乱用を恐れつつも、米国よりも中国のほうを望ましいと考えているためである。中国はうまく、地域における中国の立場を確立している一方で、フィリピンは、南シナ海への取り組みに関してASEANから明確な支持を得ていないのである。
(4) そこでフィリピンが視線を向けるべき方向は、北東にある。フィリピンは、米国その他志向を同じくする戦略的提携国との間で、少数国間枠組みを構築してきた。それを土台にし、かつASEANにおける伝統的紐帯を維持しつつ、安全保障と経済的状況の改善を模索すべきであろう。その方向に向けて、2つの重要な出来事があった。1つが、2024年4月の日米比首脳会談の実施、もう1つが、その数週間後にハワイで開催された、日米豪比国防長官/防衛相会談である。こうして、日米豪比4ヵ国の枠組みであるSQUADが始動した。
(5) フィリピンは、SQUADに韓国やカナダを加えることで、その協力枠組みを拡大できる。フィリピンは既に、それぞれと2国間関係を強化してきた。たとえばカナダはフィリピンにほぼ即時の衛星データの提供を決定したが、それは海洋状況把握の強化につながるだろう。また韓国はフィリピンに航空機や海軍艦船などを提供してきた。さらに、2023年には日米韓の間で協定が結ばれている。
(6) したがって、北東アジアにおいて、日米韓加比の5ヵ国の協力枠組みが創設されるべきである。それは地域における海洋安全保障のための機構を構築し、地域の経済的抗堪性を強化することを目的とするものである。具体的には以下の構想が考えられる。
a. 海洋協力活動の持続と拡大。定期的な巡視ではなく、毎日24時間行うものにする。
b. 合同の海軍兵站施設の開設。フィリピンのスービックに構築できれば、南シナ海を巡視する艦船の整備や補修ができる。
c. ハワイで実施されるRIMPAC演習の北東アジア版の実施。
d. 海洋状況把握の強化。
e. 既存のアギラ・スービック造船所の最適化などを含む防衛産業の拡大。
f. 防空・海上拒否システムの統合。
(7) Marcos Jr.大統領は、フィリピンの対外政策と国家安全保障政策を再設定している。中国の海での主張、経済的威圧などに対抗するためである。そのためにフィリピンは、中国への脅威だけでなく、価値観を共有する国々との連携が必要である。
記事参照:Beyond the SQUAD: Ideas for the Philippines to Work with a Northeast Asian Minilateral Arrangement
7月3日「インドネシアは新潜水艦取得後を見据える必要がある―インドネシア専門家論説」(East Asia Forum, July 3, 2024)
7月3日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、インドネシアParamadina Graduate School of DiplomacyのCenter for Intermestic and Diplomatic Engagement研究員Yokie Rahmad Isjchwansyahの“Indonesia needs to look ahead after securing new submarines”と題する論説を掲載し、Yokie Rahmad Isjchwansyahはインドネシアがフランスから新たな潜水艦を導入するが、それには時間がかかるため、つなぎとなる潜水艦を検討する一方、潜水艦救難艦についても優先して計画を推進すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドネシアは、2024年4月にフランスのNaval Groupからリチウムイオン電池を搭載した潜水艦2隻を購入し、インドネシア海軍の潜水艦部隊を強化することを最終的に決定した。スコルペヌ級潜水艦は、Naval Groupと協力してスラバヤのPT PALインドネシアの造船所で建造され、契約発効後、完成までに5〜7年かかると予想されている。
(2) Tentara Nasional Indonesia Angkatan Laut(以下、インドネシア海軍と言う)参謀総長Muhammad Ali大将は、潜水艦はインドネシアの防衛体制において戦略的な役割を担っていると説明している。しかし、インドネシアは新しい潜水艦の準備のために多くの実施すべきことがある。
(3) 潜水艦の建造に長期間かかるため、インドネシアは暫定的な潜水艦を保有する必要があり、Muhammad Ali参謀総長は最近、さらなる調達の可能性を探るためイタリア、ドイツ、アラブ首長国連邦、中国を訪問した。
(4) 暫定的な潜水艦に加え、潜水艦基地などの支援施設も同様に重要である。インドネシアが将来取得を予定している潜水艦の到着に備えるには、南シナ海のナツナとカッサル海峡に位置するパルの潜水艦基地の能力増強が不可欠である
(5) インドネシア海軍が潜水艦作戦を支援するためのもう1つの重要な焦点は、潜水艦救難艦である。インドネシアはまだこの能力を保有していないが、現在、Kementerian Keuangan(財務省)からの融資契約に基づいて潜水艦救難艦の調達が進められている。潜水艦の運用国であるインドネシアは、緊急事態や事故の際に潜水艦の乗組員を効果的に救難することができる艦船を保有する必要がある。2021年に潜水艦「ナンガラ」が沈没し、乗員53名全員が死亡したことはインドネシア海軍にとって大きな打撃となり、インドネシアが潜水艦救難艦を優先することがさらに緊急の課題となった。潜水艦救助能力があれば、インドネシアは緊急事態の際に即座に対応でき、他国の援助に頼る必要がなくなる。インドネシアは、自国の潜水艦救難能力を持つことが急務となっている。理想的には、インドネシアの基地に少なくとも3隻の潜水艦救難艦を配備する必要がある。インドネシアの海域は640万km2に及ぶため、潜水艦救難能力はインドネシアにとってなおさら重要である。
(6) 地域的緊張が高まる中、インドネシアは戦闘態勢の整った軍隊を保有することでこの問題に対応する必要性を感じている。主要兵器システムの能力増強は避けられないだろう。しかし、インドネシア政府はGDPの0.7~0.8%というわずかな国防予算に阻まれている。政府はインドネシアの防衛態勢を強化するために予算を慎重に活用する必要がある。インドネシアの限られた防衛予算を考慮すると、政府は外国からの融資制度を利用して暫定潜水艦や潜水艦救難艦を調達することを検討できる。しかし、他の政策上の優先事項を犠牲にしないよう、慎重な財政計算を行う必要がある。政府は難しい立場にある。戦闘態勢を整えるために主要兵器システムを改善するほか、潜水艦乗組員の安全を確保することが最優先課題である。インドネシア政府が12隻の潜水艦保有を目指すなら、潜水艦救難の能力も構築する必要がある。
記事参照:Indonesia needs to look ahead after securing new submarines
(1) インドネシアは、2024年4月にフランスのNaval Groupからリチウムイオン電池を搭載した潜水艦2隻を購入し、インドネシア海軍の潜水艦部隊を強化することを最終的に決定した。スコルペヌ級潜水艦は、Naval Groupと協力してスラバヤのPT PALインドネシアの造船所で建造され、契約発効後、完成までに5〜7年かかると予想されている。
(2) Tentara Nasional Indonesia Angkatan Laut(以下、インドネシア海軍と言う)参謀総長Muhammad Ali大将は、潜水艦はインドネシアの防衛体制において戦略的な役割を担っていると説明している。しかし、インドネシアは新しい潜水艦の準備のために多くの実施すべきことがある。
(3) 潜水艦の建造に長期間かかるため、インドネシアは暫定的な潜水艦を保有する必要があり、Muhammad Ali参謀総長は最近、さらなる調達の可能性を探るためイタリア、ドイツ、アラブ首長国連邦、中国を訪問した。
(4) 暫定的な潜水艦に加え、潜水艦基地などの支援施設も同様に重要である。インドネシアが将来取得を予定している潜水艦の到着に備えるには、南シナ海のナツナとカッサル海峡に位置するパルの潜水艦基地の能力増強が不可欠である
(5) インドネシア海軍が潜水艦作戦を支援するためのもう1つの重要な焦点は、潜水艦救難艦である。インドネシアはまだこの能力を保有していないが、現在、Kementerian Keuangan(財務省)からの融資契約に基づいて潜水艦救難艦の調達が進められている。潜水艦の運用国であるインドネシアは、緊急事態や事故の際に潜水艦の乗組員を効果的に救難することができる艦船を保有する必要がある。2021年に潜水艦「ナンガラ」が沈没し、乗員53名全員が死亡したことはインドネシア海軍にとって大きな打撃となり、インドネシアが潜水艦救難艦を優先することがさらに緊急の課題となった。潜水艦救助能力があれば、インドネシアは緊急事態の際に即座に対応でき、他国の援助に頼る必要がなくなる。インドネシアは、自国の潜水艦救難能力を持つことが急務となっている。理想的には、インドネシアの基地に少なくとも3隻の潜水艦救難艦を配備する必要がある。インドネシアの海域は640万km2に及ぶため、潜水艦救難能力はインドネシアにとってなおさら重要である。
(6) 地域的緊張が高まる中、インドネシアは戦闘態勢の整った軍隊を保有することでこの問題に対応する必要性を感じている。主要兵器システムの能力増強は避けられないだろう。しかし、インドネシア政府はGDPの0.7~0.8%というわずかな国防予算に阻まれている。政府はインドネシアの防衛態勢を強化するために予算を慎重に活用する必要がある。インドネシアの限られた防衛予算を考慮すると、政府は外国からの融資制度を利用して暫定潜水艦や潜水艦救難艦を調達することを検討できる。しかし、他の政策上の優先事項を犠牲にしないよう、慎重な財政計算を行う必要がある。政府は難しい立場にある。戦闘態勢を整えるために主要兵器システムを改善するほか、潜水艦乗組員の安全を確保することが最優先課題である。インドネシア政府が12隻の潜水艦保有を目指すなら、潜水艦救難の能力も構築する必要がある。
記事参照:Indonesia needs to look ahead after securing new submarines
7月3日「中国の哨戒部隊が南シナ海の西フィリピン海で10段線を示した―フィリピンニュースウェブサイト報道」(Inquirer.net, July 3, 2024)
7月3日付のフィリピンのニュースウェブサイトINQUIRER.NETは、“China patrols show 10-dash line push in West Philippine Sea, SCS”と題する記事を掲載し、ここで中国最大の海警船が2023年6月に中国の10段線の主張を確認するように南シナ海を航海していたとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国は、南シナ海のEEZの領有権を主張しており、主張するEEZ内の哨戒が一般的になっている。そして最近では、中国最大の海警船の航跡が専門家の関心を引いている。中国海警総隊のいわゆる「怪物船(monster ship)」は、中国の10段線に似た海上航路をたどり、南シナ海のほぼ全域に対する以前の9段線の主張を再確認した。中国は、2023年に台湾の東部を包摂する10番目の破線を追加した後、南シナ海での根拠のない主張を倍増させている。ブルネイ、マレーシア、台湾、ベトナム、さらには台湾のEEZを侵食する当時の9段線は、2016年の国際裁判所の裁定によってすでに事実上無効になっている。2013年、フィリピンのEEZ内にあるが現在は中国が実効支配しているスカボロー礁をめぐる中国との緊張した対立の1年後、この主張に異議を唱えたのはフィリピンであった。その結果、専門家が中国の「拡張主義的野望」と見なすものの矢面にフィリピンは立たされている。
(2) 2023年6月17日、Philippine Coast Guard(以下、PCGと言う)は、世界最大級の沿岸警備隊の船舶であることから「怪物船」と呼ばれている中国海警船が、西フィリピン海のフィリピンの海洋地勢近くを通過したと発表した。フィリピン当局者は後に、「怪物船」の航行は「無害通航」であったと述べている。この海警船は、その大きさから「怪物船」と呼ばれており、全長165m、全幅22mで、排水量は12,000トンである。この「怪物船」は、沿岸警備隊の武装巡視船としては世界最大と考えられている。PCGの西フィリピン海担当報道官Jay Tarriela准将は、この「怪物船」は、2023年6月17日から27日にかけて西フィリピン海を横断し、フィリピンの隣国であるマレーシアとブルネイのEEZにも侵入したと述べている。2023年6月17日、この「怪物船」は初めてフィリピンの2つの島、パロラ島とパガサ島の12海里の領海を侵犯した。パガサ島は現在、フィリピンの自治体が管理している。その後、サモラ礁に入り、そこで一晩停泊した後、フィリピンのEEZ内にあるバヤニ礁とユニオン礁を通過して航海を続けた。船はカギティンガン礁に入り、「おそらく兵站のために補給した」後、マレーシアのルコニア礁に向かい、ブルネイのEEZにも一時的に侵入した。2023年6月23日、再び北上し、リサール礁を通過してフィリピンのEEZに入り、パンガニバン礁で補給のために停泊した。フィリピンのEEZ内では無害通航を続け、ラワクとパタグを通過し、南東に向きを変えてエスコダ礁に向かった。それらのすべての海域はフィリピンの領海内にある。最後から2番目の目撃情報は、パラワン州のエルニド町で、海南島に戻る前の最後の停泊場所であるスカボロー礁に向かって変針していたところであった。
(3) Stanford Universityの Gordian Knot Center for National Security Innovationのボランティア・チームの責任者であり、西フィリピン海を監視しているRay Powellは、「怪物船」の哨戒がフィリピンを標的にしていることに気づいたと述べている。Ray Powell は「その船舶は確かに、(9段線の)南側と東側で中国が主張する範囲の限界を示す破線に従っていたが、西側ではそれほどではなかった」と言う。U.S. Air Forceの退役大佐であるRay Powellは「ベトナムは、この特定の侵入をほとんど免れている。海警総隊の最大の海警船がフィリピン海域内のアユンギン礁やパナタグ礁などの敏感な場所を通過するために特別な注意を払っていた」と INQUIRER.net に語っている。アユンギン礁に前哨基地として置かれたPhilippine Navyの「シエラ・マドレ」の補給活動とスカボロー礁のPCGの動きは、中国によって中断され、フィリピンと中国の間の緊張の引火点として浮上している。両国間の最大の対立は、2023年6月17日、「シエラ・マドレ」に物資を運ぶフィリピン船と中国海警船が衝突し、中国はフィリピンの武器等を押収し、フィリピン側に負傷者が発生した時である。Ray Powellは「この哨戒は、マレーシアのような他の国よりもフィリピンに重点を置いていた」と述べている。
(4) 別の大型の海警船が2023年6月30日から西フィリピン海のパトロールを実施している。Ray Powellは、8,000トンの「三沙2号」*は、その日の朝に、別の海警船「三沙執法301」**を伴って、最初にパガサ島を通過し、パタグ島、ラワク島、エスコダ礁、アユンギン礁の近くの海域も横断したとRay Powellは述べている。Ray Powellによると、2023年7月1日の時点で、この2隻はマレーシアの海岸線から60海里以内におり、「中国の海洋主張の南の範囲を主張している」という。Ray Powellは「この任務には2つの目的がある。それは中国の南沙諸島基地に物資を届けることと、その海洋権益の範囲を示すことである。そして、意図的に10段線の主張内のできるだけ多くの重要な場所を示している」と2023年7月1日のインタビューで INQUIRER.net に語っている。
(5) 地政学の専門家は、中国によるこのような行動は、中国が「拡張主義的な主張」を固めようとしており、現在「あらゆる事態に備えている」ことを示していると述べている。De La Salle UniversityのDepartment of International Studies 講師Don McClain Gillは「この配備は、西フィリピン海における拡張主義的な主張を主張し続けるためのものだ」と述べており、Don McClain Gillは INQUIRER.net に対し、「重要なことは、西フィリピン海における中国の目標が混乱を引き起こすものであり、国際法に反しているということである」と述べている。安全保障専門家のChester Cabalzaも INQUIRER.net に対し、「南シナ海の現在の架空の線のように見える中国のこの怪物船の航路は、国家の拡大と国境の保護を正当化するために優位に立つという伝統的な戦術に似ている。このような行動は中国が現在守勢に立っていることを示している。中国は、あらゆる事態に備えるために破線を包囲している可能性が高い。しかし、現代中国の戦術において、紛争海域を横断的に航海することは、南シナ海の強風、波乱万丈の海、危険な嵐にも耐える準備ができていることである」と述べている。
記事参照:China patrols show 10-dash line push in West Philippine Sea, SCS
注*:Ray Powellは「三沙2号」を海警船としているが、中国側の資料によれば、同船は三沙市の交通補給船としており、南シナ海の各島礁間の交通と運輸支援、人道支援と災害救難、医療支援に従事するとされている。
注**:Ray Powellは、「三沙執法301」を「もう1隻の海警船」と記載しているが、中国側資料によれば、農業部(現在の農業農村部)が海警局の支援を得て建造し、三沙市が運用するとされている。
(1) 中国は、南シナ海のEEZの領有権を主張しており、主張するEEZ内の哨戒が一般的になっている。そして最近では、中国最大の海警船の航跡が専門家の関心を引いている。中国海警総隊のいわゆる「怪物船(monster ship)」は、中国の10段線に似た海上航路をたどり、南シナ海のほぼ全域に対する以前の9段線の主張を再確認した。中国は、2023年に台湾の東部を包摂する10番目の破線を追加した後、南シナ海での根拠のない主張を倍増させている。ブルネイ、マレーシア、台湾、ベトナム、さらには台湾のEEZを侵食する当時の9段線は、2016年の国際裁判所の裁定によってすでに事実上無効になっている。2013年、フィリピンのEEZ内にあるが現在は中国が実効支配しているスカボロー礁をめぐる中国との緊張した対立の1年後、この主張に異議を唱えたのはフィリピンであった。その結果、専門家が中国の「拡張主義的野望」と見なすものの矢面にフィリピンは立たされている。
(2) 2023年6月17日、Philippine Coast Guard(以下、PCGと言う)は、世界最大級の沿岸警備隊の船舶であることから「怪物船」と呼ばれている中国海警船が、西フィリピン海のフィリピンの海洋地勢近くを通過したと発表した。フィリピン当局者は後に、「怪物船」の航行は「無害通航」であったと述べている。この海警船は、その大きさから「怪物船」と呼ばれており、全長165m、全幅22mで、排水量は12,000トンである。この「怪物船」は、沿岸警備隊の武装巡視船としては世界最大と考えられている。PCGの西フィリピン海担当報道官Jay Tarriela准将は、この「怪物船」は、2023年6月17日から27日にかけて西フィリピン海を横断し、フィリピンの隣国であるマレーシアとブルネイのEEZにも侵入したと述べている。2023年6月17日、この「怪物船」は初めてフィリピンの2つの島、パロラ島とパガサ島の12海里の領海を侵犯した。パガサ島は現在、フィリピンの自治体が管理している。その後、サモラ礁に入り、そこで一晩停泊した後、フィリピンのEEZ内にあるバヤニ礁とユニオン礁を通過して航海を続けた。船はカギティンガン礁に入り、「おそらく兵站のために補給した」後、マレーシアのルコニア礁に向かい、ブルネイのEEZにも一時的に侵入した。2023年6月23日、再び北上し、リサール礁を通過してフィリピンのEEZに入り、パンガニバン礁で補給のために停泊した。フィリピンのEEZ内では無害通航を続け、ラワクとパタグを通過し、南東に向きを変えてエスコダ礁に向かった。それらのすべての海域はフィリピンの領海内にある。最後から2番目の目撃情報は、パラワン州のエルニド町で、海南島に戻る前の最後の停泊場所であるスカボロー礁に向かって変針していたところであった。
(3) Stanford Universityの Gordian Knot Center for National Security Innovationのボランティア・チームの責任者であり、西フィリピン海を監視しているRay Powellは、「怪物船」の哨戒がフィリピンを標的にしていることに気づいたと述べている。Ray Powell は「その船舶は確かに、(9段線の)南側と東側で中国が主張する範囲の限界を示す破線に従っていたが、西側ではそれほどではなかった」と言う。U.S. Air Forceの退役大佐であるRay Powellは「ベトナムは、この特定の侵入をほとんど免れている。海警総隊の最大の海警船がフィリピン海域内のアユンギン礁やパナタグ礁などの敏感な場所を通過するために特別な注意を払っていた」と INQUIRER.net に語っている。アユンギン礁に前哨基地として置かれたPhilippine Navyの「シエラ・マドレ」の補給活動とスカボロー礁のPCGの動きは、中国によって中断され、フィリピンと中国の間の緊張の引火点として浮上している。両国間の最大の対立は、2023年6月17日、「シエラ・マドレ」に物資を運ぶフィリピン船と中国海警船が衝突し、中国はフィリピンの武器等を押収し、フィリピン側に負傷者が発生した時である。Ray Powellは「この哨戒は、マレーシアのような他の国よりもフィリピンに重点を置いていた」と述べている。
(4) 別の大型の海警船が2023年6月30日から西フィリピン海のパトロールを実施している。Ray Powellは、8,000トンの「三沙2号」*は、その日の朝に、別の海警船「三沙執法301」**を伴って、最初にパガサ島を通過し、パタグ島、ラワク島、エスコダ礁、アユンギン礁の近くの海域も横断したとRay Powellは述べている。Ray Powellによると、2023年7月1日の時点で、この2隻はマレーシアの海岸線から60海里以内におり、「中国の海洋主張の南の範囲を主張している」という。Ray Powellは「この任務には2つの目的がある。それは中国の南沙諸島基地に物資を届けることと、その海洋権益の範囲を示すことである。そして、意図的に10段線の主張内のできるだけ多くの重要な場所を示している」と2023年7月1日のインタビューで INQUIRER.net に語っている。
(5) 地政学の専門家は、中国によるこのような行動は、中国が「拡張主義的な主張」を固めようとしており、現在「あらゆる事態に備えている」ことを示していると述べている。De La Salle UniversityのDepartment of International Studies 講師Don McClain Gillは「この配備は、西フィリピン海における拡張主義的な主張を主張し続けるためのものだ」と述べており、Don McClain Gillは INQUIRER.net に対し、「重要なことは、西フィリピン海における中国の目標が混乱を引き起こすものであり、国際法に反しているということである」と述べている。安全保障専門家のChester Cabalzaも INQUIRER.net に対し、「南シナ海の現在の架空の線のように見える中国のこの怪物船の航路は、国家の拡大と国境の保護を正当化するために優位に立つという伝統的な戦術に似ている。このような行動は中国が現在守勢に立っていることを示している。中国は、あらゆる事態に備えるために破線を包囲している可能性が高い。しかし、現代中国の戦術において、紛争海域を横断的に航海することは、南シナ海の強風、波乱万丈の海、危険な嵐にも耐える準備ができていることである」と述べている。
記事参照:China patrols show 10-dash line push in West Philippine Sea, SCS
注*:Ray Powellは「三沙2号」を海警船としているが、中国側の資料によれば、同船は三沙市の交通補給船としており、南シナ海の各島礁間の交通と運輸支援、人道支援と災害救難、医療支援に従事するとされている。
注**:Ray Powellは、「三沙執法301」を「もう1隻の海警船」と記載しているが、中国側資料によれば、農業部(現在の農業農村部)が海警局の支援を得て建造し、三沙市が運用するとされている。
7月3日「法の支配に基づく国際秩序は実効となるのか―日専門家論説」(Australian Institute of International Affairs, July 3, 2024)
7月3日付のオーストラリアのシンクタンクAustralian Institute of International Affairsのウエブサイトは、国際基督教大学博士課程のWilliam Winbergおよび同大学政治・国際学部教授Stephen Nagyの“Can a Rule of Law-Based International Order be More than Just Rhetoric?”と題する論説を掲載し、ここで両名は法の支配に基づく国際秩序の長所は、米国だけではなく中堅国にも果たすべき役割があり、集団的圧力をかけることで大国に影響を与えることができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 東欧が第2次世界大戦以来、大陸で最大の軍事衝突を経験している今、法の支配に基づく国際秩序を推進し強化する論理は、はっきりとしたものとなっている。「法に基づく国際秩序」という表現は、繁栄、平和、安定をもたらした現在の秩序が、西側の思想、価値観、優先順位を反映した秩序であることを示唆するために、修正主義国家によって政治利用されてきた。これは現実を反映しておらず、中国、ロシア、インドといった国々が現在の国際秩序に貢献している。対照的に、「法の支配に基づく国際秩序」は、国際秩序は交渉可能であるが、その基盤は法的に固定されていなければならないことを強調している。また、現在の国際秩序を欧米中心主義的なものと見なそうとする動きに対抗するために、日本のような多くの国家が採用している。
(2) 2022年のアジア安全保障会議で、岸田文雄首相は「今日のウクライナは明日の東アジアになりうる」と強調した。2年後のアジア安全保障会議では、フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、この岸田氏の懸念に共鳴し、「(中国による)違法、強圧的、攻撃的、欺瞞的な行動は、わが国の主権、主権的権利、管轄権を侵害し続けている。自国の領土や管轄権を超えて国内法や規制を適用しようとする試みは、国際法に違反し、緊張を悪化させ、地域の平和と安全を損なう」と強調した
(3) 中国による政治的現状への一方的な挑戦は、インド太平洋地域における法の支配に対する重大な脅威として際立っており、実際に地域紛争を含み得るものである。これには、東シナ海での日本への嫌がらせや南シナ海の島々の軍事化といった近隣諸国との領土問題、台湾の一方的な再統合の脅威、1984年の中英共同宣言に違反した香港の政治的自由の解体などが含まれる。中国は、国連システムの民主化を提唱している。それは現在の国際秩序は中国や他の発展途上国の価値観を反映したものではないという主張である。
(4) 法の支配に基づく現在の国際秩序について、米シンクタンクCenter for New American Security上席研究員Andrea Kendall-Taylorと同Center最高経営責任者Richard Fontaineは、以下のように述べている
a. 中国、ロシア、北朝鮮、イランといった集団的敵意に基づく秩序へと移行することは、中・小国家がますます直面する課題を示している。過去の国際政治に対する力こそ正義という取り組みへの回帰は、直接的な経済的・政治的影響をもたらす。
b. これらの修正主義国家は、互いの軍事力を強化し、制裁を含む米国の外交手段の効力を薄め、米政府とその提携国政府が世界的な法を実施する能力を妨げるために協力している。
c. 彼らの集団的な目的は、米国が支配していると考える現在の秩序に代わるものを作り出すことである
(5) 中国はこの代替秩序を、主権と領土保全の相互尊重、相互不侵略、相互内政不干渉、平等と互恵、平和共存という中国の平和共存五原則と結びついた国連中心の秩序としている。中国政府の提携国も同様に、現在の法に基づく秩序を否定している。それは、自分たちの非自由主義体制にとって安全な形で国際秩序を形成するために、自分たちの規模と増大する力を利用する能力を制限しているからである。
(6) 法の支配に基づく国際秩序は、いわゆるルールに基づく秩序とは必ずしも一致しない。国際政治を導くルールが石で固められていて動かしようがないように見える代わりに、意見の相違は、交渉や対話、新しい法律の制定や改正を通じて対処されるべきである。言い換えれば、国際システムを変える最善の方法は、単にそれを放棄することではなく、それを通過することである。ほとんどの国にとって、法の支配に基づく国際秩序を強化することが最善の利益である。そうすることで、米国のような影響力のある国が、グローバル・ルールを破ることを控えるようになる。
(7) 経済的、政治的、規範的に大きな力を持ちながら、米国や中国のような大国の影に隠れているドイツ、日本、カナダのような中堅国にとって、法の支配に基づく国際秩序を維持することの利点は、経済的繁栄だけでなく、政治的安定を確保する鍵でもある。米国が自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて中堅国に対する取り組み(middle power approach)を採用しているのは、その一例である。外交問題には、ワシントンD.C.で決定されること以上のものがある。法の支配に基づく秩序と同じように、外交問題には多くの人々の関与が必要であり、最終的にはその部分の総和以上のものとなる。
(8) このような中堅国は数が多く、力を合わせれば、違反国に圧力をかけて行動を調整させることができる。オーストラリアから韓国に至るまで、中堅・小国の国々にとって、現在の国際秩序は重要である。法の支配に基づく国際秩序が、国家や、はるかに大きな国家の指導者たちによる中小国家への強要を抑制するのである
記事参照:Can a Rule of Law-Based International Order be More than Just Rhetoric?
(1) 東欧が第2次世界大戦以来、大陸で最大の軍事衝突を経験している今、法の支配に基づく国際秩序を推進し強化する論理は、はっきりとしたものとなっている。「法に基づく国際秩序」という表現は、繁栄、平和、安定をもたらした現在の秩序が、西側の思想、価値観、優先順位を反映した秩序であることを示唆するために、修正主義国家によって政治利用されてきた。これは現実を反映しておらず、中国、ロシア、インドといった国々が現在の国際秩序に貢献している。対照的に、「法の支配に基づく国際秩序」は、国際秩序は交渉可能であるが、その基盤は法的に固定されていなければならないことを強調している。また、現在の国際秩序を欧米中心主義的なものと見なそうとする動きに対抗するために、日本のような多くの国家が採用している。
(2) 2022年のアジア安全保障会議で、岸田文雄首相は「今日のウクライナは明日の東アジアになりうる」と強調した。2年後のアジア安全保障会議では、フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、この岸田氏の懸念に共鳴し、「(中国による)違法、強圧的、攻撃的、欺瞞的な行動は、わが国の主権、主権的権利、管轄権を侵害し続けている。自国の領土や管轄権を超えて国内法や規制を適用しようとする試みは、国際法に違反し、緊張を悪化させ、地域の平和と安全を損なう」と強調した
(3) 中国による政治的現状への一方的な挑戦は、インド太平洋地域における法の支配に対する重大な脅威として際立っており、実際に地域紛争を含み得るものである。これには、東シナ海での日本への嫌がらせや南シナ海の島々の軍事化といった近隣諸国との領土問題、台湾の一方的な再統合の脅威、1984年の中英共同宣言に違反した香港の政治的自由の解体などが含まれる。中国は、国連システムの民主化を提唱している。それは現在の国際秩序は中国や他の発展途上国の価値観を反映したものではないという主張である。
(4) 法の支配に基づく現在の国際秩序について、米シンクタンクCenter for New American Security上席研究員Andrea Kendall-Taylorと同Center最高経営責任者Richard Fontaineは、以下のように述べている
a. 中国、ロシア、北朝鮮、イランといった集団的敵意に基づく秩序へと移行することは、中・小国家がますます直面する課題を示している。過去の国際政治に対する力こそ正義という取り組みへの回帰は、直接的な経済的・政治的影響をもたらす。
b. これらの修正主義国家は、互いの軍事力を強化し、制裁を含む米国の外交手段の効力を薄め、米政府とその提携国政府が世界的な法を実施する能力を妨げるために協力している。
c. 彼らの集団的な目的は、米国が支配していると考える現在の秩序に代わるものを作り出すことである
(5) 中国はこの代替秩序を、主権と領土保全の相互尊重、相互不侵略、相互内政不干渉、平等と互恵、平和共存という中国の平和共存五原則と結びついた国連中心の秩序としている。中国政府の提携国も同様に、現在の法に基づく秩序を否定している。それは、自分たちの非自由主義体制にとって安全な形で国際秩序を形成するために、自分たちの規模と増大する力を利用する能力を制限しているからである。
(6) 法の支配に基づく国際秩序は、いわゆるルールに基づく秩序とは必ずしも一致しない。国際政治を導くルールが石で固められていて動かしようがないように見える代わりに、意見の相違は、交渉や対話、新しい法律の制定や改正を通じて対処されるべきである。言い換えれば、国際システムを変える最善の方法は、単にそれを放棄することではなく、それを通過することである。ほとんどの国にとって、法の支配に基づく国際秩序を強化することが最善の利益である。そうすることで、米国のような影響力のある国が、グローバル・ルールを破ることを控えるようになる。
(7) 経済的、政治的、規範的に大きな力を持ちながら、米国や中国のような大国の影に隠れているドイツ、日本、カナダのような中堅国にとって、法の支配に基づく国際秩序を維持することの利点は、経済的繁栄だけでなく、政治的安定を確保する鍵でもある。米国が自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて中堅国に対する取り組み(middle power approach)を採用しているのは、その一例である。外交問題には、ワシントンD.C.で決定されること以上のものがある。法の支配に基づく秩序と同じように、外交問題には多くの人々の関与が必要であり、最終的にはその部分の総和以上のものとなる。
(8) このような中堅国は数が多く、力を合わせれば、違反国に圧力をかけて行動を調整させることができる。オーストラリアから韓国に至るまで、中堅・小国の国々にとって、現在の国際秩序は重要である。法の支配に基づく国際秩序が、国家や、はるかに大きな国家の指導者たちによる中小国家への強要を抑制するのである
記事参照:Can a Rule of Law-Based International Order be More than Just Rhetoric?
7月4日「『繁栄の守護者作戦』は自衛と言えるのか―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, July 4, 2024)
7月4日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation戦略研究調整者Udayvir Ahujaの“Operation Prosperity Guardian: Self-defence or overreach?”と題する論説を掲載し、ここでUdayvir Ahujaは確立された法規範にもかかわらず、強国が自らの意思を主張するという課題に対処するため、国際社会は主権と集団安全保障の原則を守りながら、新たな脅威に対処する法的枠組みを適応させなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年6月19日、紅海でギリシャの石炭運搬船がイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃により被害を受け、数日後に沈没した。この攻撃は、武装勢力が紅海で行った数多くの攻撃の1つに過ぎない。これらの攻撃は、イスラエルのガザへの攻撃に対するパレスチナ人との連帯を示すものである。こうした紅海での攻撃を受けて、国連安全保障理事会は2024年1月10日、決議第2722号を採択し、フーシ派による船舶への攻撃を非難し、即時停止を要求するとともに、航行の権利と自由を強調し、加盟国が国際法に従って自国の船舶を攻撃から守る権利を確認した。
(2) その翌日の2024年1月11日、米国と英国が主導し、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダが支援する「繁栄の守護者作戦(Operation Prosperity Guardian:以下、OPGと言う)」と呼ばれる空爆が、イエメンのフーシ派施設に対して実施された。しかし、紅海の海上船舶に対するフーシ派の攻撃を完全に阻止することはできなかった。この限定的な効果は、国際社会で激しい論争を巻き起こしている。この論争の中心には、OPGは国際法の原則を遵守したのかという疑問がある。
(3) 攻撃直後に米英両国は国連安保理にあてた別々の書簡の中で、フーシ派に対する攻撃は国連憲章第51条に定められた自衛権に基づき実施されたと明示した。その米国と英国の書簡はいずれも、フーシ派による商船や艦艇への攻撃を自衛の根拠として軍事行動を正当化している。国際法上、国家の軍隊に対する攻撃は、その国家の領土内であるか否かを問わず、自衛権を発動することができるため、この条件は満たされている。固有の自衛権が発生するためには、加盟国に対する武力攻撃が行われたことが立証される必要がある。今回は、英国の軍艦と米国の軍用機が、無人航空機、対艦ミサイル、さらには戦闘機といった高度な兵器で攻撃された。英国首相は、これは「Royal Navyに対する過去数十年で最大の攻撃」と述べており、武力攻撃の定義にも該当する。
(4) もう1つ重要な問題は、国連加盟国の管轄内にある非国家主体による施設を攻撃した時、両国がその権利の範囲内にあったかどうかである。国際司法裁判所(以下、ICJという)は、両国は権利の範囲内ではないとしている。しかし、第51条の文言は、武力攻撃の加害者が必ずしも国家でなければならないことを示すものではないため、ICJの見解は正しくないという意見もある。米国は以前にも、アフガニスタンやシリアで、他国の非国家主体をその許可を得ずに攻撃する場合、自衛の議論を採用している。そのため、イエメンのフーシ派の施設を攻撃することは法的にはグレーゾーンと見なされるかもしれないが、国際慣習法の一部と見なされる可能性は十分にある。
(5) これらの議論はOPGを支持するものかもしれないが、そうでないものもある。国連決議第2722号は「決定」ではなく、したがって軍事行動に関する権限をいかなる国家にも付与していないため、フーシ派に対する武力行使の法的根拠を確立してはいない。さらにこの決議は、「紅海沿岸国の主権と領土保全の尊重」を強調している。国連安保理のスイス代表は、国家固有の自衛権と自国の船舶を攻撃から守る権利の違いを繰り返し述べ、OPGは決議の対象外であると主張した。国際法における必要性の原則では、武力は進行中の武力攻撃に対抗するためにのみ行使できることを規定している。今回のケースでは、攻撃を受けてから武力行使まで2日間という期間が、自衛行為としての正当性に疑問を投げかけている。両国による「継続的な危険」や「継続的な脅威」の発動は、先制的自衛を正当化するために必要な閾値には達していない。むしろ、両国の行動は抑止や報復という、戦略的には重要だが自衛の法的枠組みには当てはまらないように見える。
(6) このような状況は、国際法と地政学的な要請との間の複雑な相互作用を反映しており、ますます不安定になる世界情勢の中で、正当化される軍事行動の境界線に挑戦している。OPGの合法性をめぐる議論は、いつまでも続く可能性があり、新たな脅威に直面した時の法的枠組みの柔軟性を浮き彫りにしている。それは、確立された法規範にもかかわらず、強国が国際法に関係なく、自らの意思を主張できることを痛感させるものでもある。このような課題に対処するため、国際社会は主権と集団安全保障の原則を守りながら、新たな脅威に対処する法的枠組みを適応させなければならない。
記事参照:Operation Prosperity Guardian: Self-defence or overreach?
(1) 2024年6月19日、紅海でギリシャの石炭運搬船がイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃により被害を受け、数日後に沈没した。この攻撃は、武装勢力が紅海で行った数多くの攻撃の1つに過ぎない。これらの攻撃は、イスラエルのガザへの攻撃に対するパレスチナ人との連帯を示すものである。こうした紅海での攻撃を受けて、国連安全保障理事会は2024年1月10日、決議第2722号を採択し、フーシ派による船舶への攻撃を非難し、即時停止を要求するとともに、航行の権利と自由を強調し、加盟国が国際法に従って自国の船舶を攻撃から守る権利を確認した。
(2) その翌日の2024年1月11日、米国と英国が主導し、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダが支援する「繁栄の守護者作戦(Operation Prosperity Guardian:以下、OPGと言う)」と呼ばれる空爆が、イエメンのフーシ派施設に対して実施された。しかし、紅海の海上船舶に対するフーシ派の攻撃を完全に阻止することはできなかった。この限定的な効果は、国際社会で激しい論争を巻き起こしている。この論争の中心には、OPGは国際法の原則を遵守したのかという疑問がある。
(3) 攻撃直後に米英両国は国連安保理にあてた別々の書簡の中で、フーシ派に対する攻撃は国連憲章第51条に定められた自衛権に基づき実施されたと明示した。その米国と英国の書簡はいずれも、フーシ派による商船や艦艇への攻撃を自衛の根拠として軍事行動を正当化している。国際法上、国家の軍隊に対する攻撃は、その国家の領土内であるか否かを問わず、自衛権を発動することができるため、この条件は満たされている。固有の自衛権が発生するためには、加盟国に対する武力攻撃が行われたことが立証される必要がある。今回は、英国の軍艦と米国の軍用機が、無人航空機、対艦ミサイル、さらには戦闘機といった高度な兵器で攻撃された。英国首相は、これは「Royal Navyに対する過去数十年で最大の攻撃」と述べており、武力攻撃の定義にも該当する。
(4) もう1つ重要な問題は、国連加盟国の管轄内にある非国家主体による施設を攻撃した時、両国がその権利の範囲内にあったかどうかである。国際司法裁判所(以下、ICJという)は、両国は権利の範囲内ではないとしている。しかし、第51条の文言は、武力攻撃の加害者が必ずしも国家でなければならないことを示すものではないため、ICJの見解は正しくないという意見もある。米国は以前にも、アフガニスタンやシリアで、他国の非国家主体をその許可を得ずに攻撃する場合、自衛の議論を採用している。そのため、イエメンのフーシ派の施設を攻撃することは法的にはグレーゾーンと見なされるかもしれないが、国際慣習法の一部と見なされる可能性は十分にある。
(5) これらの議論はOPGを支持するものかもしれないが、そうでないものもある。国連決議第2722号は「決定」ではなく、したがって軍事行動に関する権限をいかなる国家にも付与していないため、フーシ派に対する武力行使の法的根拠を確立してはいない。さらにこの決議は、「紅海沿岸国の主権と領土保全の尊重」を強調している。国連安保理のスイス代表は、国家固有の自衛権と自国の船舶を攻撃から守る権利の違いを繰り返し述べ、OPGは決議の対象外であると主張した。国際法における必要性の原則では、武力は進行中の武力攻撃に対抗するためにのみ行使できることを規定している。今回のケースでは、攻撃を受けてから武力行使まで2日間という期間が、自衛行為としての正当性に疑問を投げかけている。両国による「継続的な危険」や「継続的な脅威」の発動は、先制的自衛を正当化するために必要な閾値には達していない。むしろ、両国の行動は抑止や報復という、戦略的には重要だが自衛の法的枠組みには当てはまらないように見える。
(6) このような状況は、国際法と地政学的な要請との間の複雑な相互作用を反映しており、ますます不安定になる世界情勢の中で、正当化される軍事行動の境界線に挑戦している。OPGの合法性をめぐる議論は、いつまでも続く可能性があり、新たな脅威に直面した時の法的枠組みの柔軟性を浮き彫りにしている。それは、確立された法規範にもかかわらず、強国が国際法に関係なく、自らの意思を主張できることを痛感させるものでもある。このような課題に対処するため、国際社会は主権と集団安全保障の原則を守りながら、新たな脅威に対処する法的枠組みを適応させなければならない。
記事参照:Operation Prosperity Guardian: Self-defence or overreach?
7月6日「新たに中ロの協力が進展する場所―米国家安全保障問題専門家論説」(EurAsia Review, July 6, 2024)
7月6日付の米国の独立系ジャーナル・シンクタンクEurAsia Reviewのウエブサイトは、米シンクタンクHudson Instituteの上級研究員Luke Coffeyによる“Where The Ice Is Melting Between Beijing And Moscow – Analysis”と題する論説を掲載し、そこでLuke Coffeyはウクライナ戦争を背景に中ロの協力が深まる中、両国が新たに、北極圏のスヴァールバル諸島への関心を強めており、そこでのさらなる両国の協力に警戒すべきだとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) ウクライナ戦争は周辺地域だけでなく、北極圏にまで大きな影響を及ぼした。中国は北極圏国家ではないが、そこでより大きな役割を担おうという野心を持っている。その中国にとってウクライナ戦争は好機を作り出した。西側諸国の対ロシア経済制裁の結果、中国企業がロシアでいくつも立ち上げられ、北極圏における中ロ協力が深まった。また、ロシアは西側諸国にエネルギーを売却できないので、この点についても両国間の協力が進展した。
(2) 北極圏における中国の利害は、少なくとも今のところ、経済的利害と外交的なものである。中国は北極圏を、経済的利害を増進し、自国の外交的影響力を拡大させる場所とみなしている。
(3) 他方ロシアは北極圏国家としての立場を確立している。ロシアの北極圏領土および沿岸部は世界最大である。ピョートル大帝の時代から、北極圏はロシアの人びとのアイデンティティにとって重要な場所であった。ナショナリズムの高まりゆえに、Putin大統領の北極圏政策は国民の支持を得ている。北極圏に焦点を当てることで、ウクライナなど、それ以外のロシアにとっての地政学的課題から目をそらすことができる。
(4) 北極圏における、中ロ両国にとって最近の注目は、ノルウェー沖に位置するスヴァールバル諸島である。人口2,000人ほど、人間が居住する最北端の地である。中ロが関心を寄せる理由は以下のとおりである。この島々は第1次世界大戦以後の種々の協定により非軍事化されていったが、1920年のスヴァールバル条約によってノルウェーに主権が与えられた。しかし同条約は、条約の署名国すべてに、同諸島の様々な天然資源の利用権を与えたのだった。
(5) 条約を利用し、冷戦期にはソ連はスヴァールバル諸島に3つの定住地を維持していた。現在はバレンツバーグという炭鉱村が残るのみである。ロシアがそれを維持する理由は国家的名声のためである。しかしロシアはスヴァールバル諸島への関心を新たにし、たとえばBRICS諸国のための科学研究センターの新設などを提案している。ロシアはまた、バレンツバーグで海軍パレードを組織するなど、スヴァールバル諸島に軍事的象徴を持ち込もうとしている。それは1920年の条約の精神に反し、ノルウェーを挑発するような行為である。
(6) 中国もまたスヴァールバル諸島での活動を広げている。中国は2004年に同諸島に研究基地を設立し、研究活動を続けてきたが、最近同諸島の私有地購入を試みるなど、スヴァールバル諸島への関与をさらに進めようとしている。最終的に、ノルウェー政府が安全保障の観点からその購入計画を阻止した。中国は以前も、同じようにNATOの裏庭と言えるアイスランドやグリーンランドの土地を購入しようとし、阻止されていた。
(7) 現時点で、中ロがスヴァールバル諸島に関して連携している直接的証拠はないが、その可能性は排除できない。今後スヴァールバル諸島で中ロの協力がどう展開していくのか、注意深く監視が続けられるべきであろう。
記事参照:Where The Ice Is Melting Between Beijing And Moscow – Analysis
(1) ウクライナ戦争は周辺地域だけでなく、北極圏にまで大きな影響を及ぼした。中国は北極圏国家ではないが、そこでより大きな役割を担おうという野心を持っている。その中国にとってウクライナ戦争は好機を作り出した。西側諸国の対ロシア経済制裁の結果、中国企業がロシアでいくつも立ち上げられ、北極圏における中ロ協力が深まった。また、ロシアは西側諸国にエネルギーを売却できないので、この点についても両国間の協力が進展した。
(2) 北極圏における中国の利害は、少なくとも今のところ、経済的利害と外交的なものである。中国は北極圏を、経済的利害を増進し、自国の外交的影響力を拡大させる場所とみなしている。
(3) 他方ロシアは北極圏国家としての立場を確立している。ロシアの北極圏領土および沿岸部は世界最大である。ピョートル大帝の時代から、北極圏はロシアの人びとのアイデンティティにとって重要な場所であった。ナショナリズムの高まりゆえに、Putin大統領の北極圏政策は国民の支持を得ている。北極圏に焦点を当てることで、ウクライナなど、それ以外のロシアにとっての地政学的課題から目をそらすことができる。
(4) 北極圏における、中ロ両国にとって最近の注目は、ノルウェー沖に位置するスヴァールバル諸島である。人口2,000人ほど、人間が居住する最北端の地である。中ロが関心を寄せる理由は以下のとおりである。この島々は第1次世界大戦以後の種々の協定により非軍事化されていったが、1920年のスヴァールバル条約によってノルウェーに主権が与えられた。しかし同条約は、条約の署名国すべてに、同諸島の様々な天然資源の利用権を与えたのだった。
(5) 条約を利用し、冷戦期にはソ連はスヴァールバル諸島に3つの定住地を維持していた。現在はバレンツバーグという炭鉱村が残るのみである。ロシアがそれを維持する理由は国家的名声のためである。しかしロシアはスヴァールバル諸島への関心を新たにし、たとえばBRICS諸国のための科学研究センターの新設などを提案している。ロシアはまた、バレンツバーグで海軍パレードを組織するなど、スヴァールバル諸島に軍事的象徴を持ち込もうとしている。それは1920年の条約の精神に反し、ノルウェーを挑発するような行為である。
(6) 中国もまたスヴァールバル諸島での活動を広げている。中国は2004年に同諸島に研究基地を設立し、研究活動を続けてきたが、最近同諸島の私有地購入を試みるなど、スヴァールバル諸島への関与をさらに進めようとしている。最終的に、ノルウェー政府が安全保障の観点からその購入計画を阻止した。中国は以前も、同じようにNATOの裏庭と言えるアイスランドやグリーンランドの土地を購入しようとし、阻止されていた。
(7) 現時点で、中ロがスヴァールバル諸島に関して連携している直接的証拠はないが、その可能性は排除できない。今後スヴァールバル諸島で中ロの協力がどう展開していくのか、注意深く監視が続けられるべきであろう。
記事参照:Where The Ice Is Melting Between Beijing And Moscow – Analysis
7月8日「中国を念頭に日本とフィリピンが『円滑化協定』に調印―AP通信報道」(AP, July 8, 2024)
7月8日付の米通信社APのニュースサイトは、“Japan and the Philippines sign a defense pact in the face of shared alarm over China”と題する記事を掲載し、日本とフィリピンが調印した防衛協定について、要旨以下のように報じている。
(1) 日本とフィリピンは7月8日、この東南アジアの国で、共同訓練のために自衛隊の部隊の展開を認める重要な防衛協定円滑化協定に調印した。円滑化協定は、日比共同訓練のために自衛隊の部隊がフィリピンに展開することを認める一方、Armed Forces of the Philippinesの部隊が日本へ入国することを認めるものである。日本とフィリピンの当局者は、南シナ海で中国軍とArmed Forces of the Philippinesが最近対立したセカンド・トーマス礁での「中国による危険で事態を拡大した行動に深刻な懸念を表明」している。
(2) 中国では、外交部の林剣報道官が「アジア太平洋地域には軍事的陣営は必要ない。ましてや、陣営対立や新たな冷戦を扇動するような小さな集団も必要ない・・・日本は侵略の歴史を真剣に反省し、軍事安全保障の分野では慎重に行動すべきである」と述べている。
(3) 実弾射撃演習を含むフィリピンとの防衛協定は、日本がアジアで結ぶ初めてのものである。日本は2022年にオーストラリアと、2023年に英国と同様の協定を結んでいる。岸田文雄首相の下、日本は安全保障と防御火力(defensive fire power)を強化するための措置を講じており、それには自衛のみに重点を置くという戦後日本の原則を打ち破る反撃能力を含まれている。軍事力を強化するために2027年までの5年間で防衛費を倍増させ、日本は米国、中国に次ぐ世界第3位の軍事費となる。フィリピンを含む日本のアジア近隣諸国の多くは、第2次世界大戦で日本が敗戦するまで日本の侵略下にあったため、軍事的役割と支出を強化する日本政府の取り組みは微妙な問題となり得る。しかし、日本とフィリピンは防衛と安全保障の関係を着実に深めてきた。
(4) 米国はまた、台湾をめぐる将来の対立を含め、中国により良く対抗し、アジアの同盟国を安心させるために、インド太平洋における軍事同盟の弧を強化している。日本とフィリピンは米国の条約上の同盟国であり、両首脳は4月にホワイトハウスで三者会談を行い、Joe Biden米大統領は米国が日本とフィリピンを防衛するという「鉄壁の」確約を新たにした。日本は東シナ海の島々をめぐって中国と長年にわたり領有権問題を抱えている。一方、中国海軍および海警総隊とPhilippine Coast GuardおよびPhilippine Navyの艦船は、2023以降、南シナ海で一連の緊迫した対立に巻き込まれている。
記事参照:Japan and the Philippines sign a defense pact in the face of shared alarm over China
(1) 日本とフィリピンは7月8日、この東南アジアの国で、共同訓練のために自衛隊の部隊の展開を認める重要な防衛協定円滑化協定に調印した。円滑化協定は、日比共同訓練のために自衛隊の部隊がフィリピンに展開することを認める一方、Armed Forces of the Philippinesの部隊が日本へ入国することを認めるものである。日本とフィリピンの当局者は、南シナ海で中国軍とArmed Forces of the Philippinesが最近対立したセカンド・トーマス礁での「中国による危険で事態を拡大した行動に深刻な懸念を表明」している。
(2) 中国では、外交部の林剣報道官が「アジア太平洋地域には軍事的陣営は必要ない。ましてや、陣営対立や新たな冷戦を扇動するような小さな集団も必要ない・・・日本は侵略の歴史を真剣に反省し、軍事安全保障の分野では慎重に行動すべきである」と述べている。
(3) 実弾射撃演習を含むフィリピンとの防衛協定は、日本がアジアで結ぶ初めてのものである。日本は2022年にオーストラリアと、2023年に英国と同様の協定を結んでいる。岸田文雄首相の下、日本は安全保障と防御火力(defensive fire power)を強化するための措置を講じており、それには自衛のみに重点を置くという戦後日本の原則を打ち破る反撃能力を含まれている。軍事力を強化するために2027年までの5年間で防衛費を倍増させ、日本は米国、中国に次ぐ世界第3位の軍事費となる。フィリピンを含む日本のアジア近隣諸国の多くは、第2次世界大戦で日本が敗戦するまで日本の侵略下にあったため、軍事的役割と支出を強化する日本政府の取り組みは微妙な問題となり得る。しかし、日本とフィリピンは防衛と安全保障の関係を着実に深めてきた。
(4) 米国はまた、台湾をめぐる将来の対立を含め、中国により良く対抗し、アジアの同盟国を安心させるために、インド太平洋における軍事同盟の弧を強化している。日本とフィリピンは米国の条約上の同盟国であり、両首脳は4月にホワイトハウスで三者会談を行い、Joe Biden米大統領は米国が日本とフィリピンを防衛するという「鉄壁の」確約を新たにした。日本は東シナ海の島々をめぐって中国と長年にわたり領有権問題を抱えている。一方、中国海軍および海警総隊とPhilippine Coast GuardおよびPhilippine Navyの艦船は、2023以降、南シナ海で一連の緊迫した対立に巻き込まれている。
記事参照:Japan and the Philippines sign a defense pact in the face of shared alarm over China
7月8日「日本とNATOの絆は何のために?―米専門家論説」(COMMENTARY, RAND, July 8, 2024)
7月8日付けの米シンクタンクRAND Corporationのウエブブサイトは、RAND National Security Research Division日本班長でGeorgetown University非常勤教授Jeffrey W. Hornungの“Japan-NATO Ties: For What End?”と題する論説を掲載し、ここでJeffrey W. HornungはNATOに属さない日本がNATOとの関係を深めていることについて、対ロシアを重視するNATOにとっても対中国を重視する日本にとっても安全保障上の対応能力を向上させるとともに国家間の協力を強化する利点があり、紛争抑止効果も期待できるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 7月9日から開催されるNATO首脳会議には、NATO加盟国だけでなく、インド太平洋地域の提携国も参加する。今に始まったことではないが、日本のような国家が含まれることは、なぜNATOが条約に加盟しておらず、NATOの責任範囲から大きく外れた国家と緊密な関係を築こうとするのかという疑問が生じる。一般に、日本とNATOの協力関係が強化されれば、双方に利点があると信じられており、その動機は、ロシアの侵略、常に挑発的な中国、そしてこの2国の結びつきの強さなどであることが、よく知られている。しかし、日本とNATOの関係にとって、現実的な協力分野は何であろうか?
(2) 2020年のRAND Corporationの報告で詳述したように、日本はNATOにとって最も長い歴史を持つ非ヨーロッパの協力国である。両者の交流や対話を超えた実質的協力関係は、9月11日以降では、日本がイラクとアフガニスタンにおける同盟国の活動を非戦闘分野で支援したことに始まる。2010年には、日本とNATOは情報資料保護協定に署名しており、その4年後の2014年に、両者は「日・NATO国別パートナーシップ協力計画(Individual Partnership and Cooperation Programme)」に署名し、サイバー防衛、人道支援・災害救援、テロ対策など9つの特定分野での協力を推進することとした。これに続き、日本の自衛隊はアデン湾におけるNATOの海賊対処任務オーシャン・シールド作戦でNATO加盟国海軍と共同対処を開始した。直近では、2023年に、サイバー防衛、戦略的通信、新興・破壊的技術、宇宙安全保障など16分野での協力強化を目的とした「日・NATO国別適合パートナーシップ計画(Individually Tailored Partnership Programme)」の下で、両者は将来の協力の道筋を固めた。
(3) 協力分野の強化に加えて、日本とNATOはその世界観や安全保障の相互関係において、ますます一致を示すようになっている。2017年、日本の安倍首相(当時)とNATOのJens Stoltenberg 事務総長(当時)は、「アジアと欧州の安全保障環境は密接につながっている」と合意した。2022年のロシアのウクライナ侵攻によって、日本の首相がNATO首脳会議に出席することになっただけでなく、NATOは採択した戦略概念の中で 「インド太平洋地域の動向は欧州・大西洋の安全保障に直接影響を及ぼし得ることから、インド太平洋地域はNATOにとって重要である 」と合意した。重要なのは、NATO加盟国が中国は欧州大西洋の安全保障に対する「体制上の挑戦」をしていると認識したことである。岸田首相は、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と述べている。
(4) しかし、緊密さを増しているにもかかわらず、両者は紛争が発生した場合の具体的な対応策を表明していない。日本はロシアに対してあらゆる抗議をしているが、ウクライナに対する支援は非殺傷的分野に限定し、台湾をめぐる紛争が勃発した場合にNATOが追随し易い前例を作っている。言い換えれば、個々の国は別として、NATOが組織として中国と戦うために軍隊を派遣する可能性は低い。北大西洋条約第6条は、武力攻撃に対する第5条の集団的自衛権発動の地理的境界を、ヨーロッパ、北米、北大西洋に限定し、インド太平洋地域は含まれていない。また、日本がウクライナを前例がないほど支援し続けているにもかかわらず、日本の高官はウクライナにいかなる種類の破壊を伴う領域での支援も提供する意欲を示していない。米政府高官等が、台湾防衛のための戦闘に日本がどの程度関与するのか疑問視している現在、日本が将来ヨーロッパで起こる戦争に戦闘支援を提供することは考えられない。
(5) 日本とNATOはともに、力によって現状を変えようとする修正主義国に反対している。このような関係強化に基づき、台湾をめぐる紛争が勃発した場合、あるいは欧州で再び戦争が勃発した場合、日本と欧州はその経済力を発揮し、特定の団体や貿易活動、投資等に対して制裁を科し、個人や侵略国の銀行に対する信用供与や国際的銀行取引を凍結し、侵略国の企業が自国内でビジネスを行うことを禁止する法案を可決することができる。
(6) 外交的には、国家を名指しして恥をかかせ、侵略国に対する世界世論の形成に努め、世論という法廷で孤立させ、また侵略国家の指導者たちの海外渡航を困難にするため、自国の領空や船舶への出入りを制限することもできる。作戦支援に近いところでは、日本とNATOはサイバー、宇宙、偽情報の分野で協力し、たとえば、日本がNATOのサイバー防衛演習に参加したり、エストニアにあるCooperative Cyber Defense Centre of Excellence(NATOサイバー防衛センター)に参加したりするなど、長年にわたるサイバーセキュリティの協力関係を基盤として、配信通信網、戦術等について情報交換することもできる。
(7) 宇宙においては、通信、航行、指揮統制体系の通信網はすべて宇宙ベースの体系によって接続されている今日、日本とNATOは妨害やなりすましに耐えられるよう自国の衛星の耐障害性の向上に取り組むことができる。偽情報に関しては、双方は自国や他の同志国に対する既知の偽情報活動の情報を交換し、迅速に特定し、それに対応することができる。長期的には、偽情報攻撃をより的確に認識するための技術を共同開発することもできる。
(8) こうした機会は、日本とNATOの数十年にわたる協力強化の努力が、将来の紛争において具体的な効果をもたらすことを示唆している。すなわち、武力によって現状を破壊しようとする侵略者の対価を引き上げるのに役立つ。これは、侵略者が行動を起こさないことを保証するものではないが、即座に負担させられる現実的対価を示すものである。ロシアのウクライナ侵攻への日本の対応のように、NATOは、中国が台湾を侵略した場合、同じ対応ができるであろう。日本とNATOは、関係強化を続けることで、必要なときに現実的効果を生む態勢を整えている。両者が平時に協力すればするほど、紛争が勃発した際の侵略国に与えるNATOと日本の脅威が、より信憑性を持つものとなる。
記事参照:https://www.rand.org/pubs/commentary/2024/07/japan-nato-ties-for-what-end.html
(1) 7月9日から開催されるNATO首脳会議には、NATO加盟国だけでなく、インド太平洋地域の提携国も参加する。今に始まったことではないが、日本のような国家が含まれることは、なぜNATOが条約に加盟しておらず、NATOの責任範囲から大きく外れた国家と緊密な関係を築こうとするのかという疑問が生じる。一般に、日本とNATOの協力関係が強化されれば、双方に利点があると信じられており、その動機は、ロシアの侵略、常に挑発的な中国、そしてこの2国の結びつきの強さなどであることが、よく知られている。しかし、日本とNATOの関係にとって、現実的な協力分野は何であろうか?
(2) 2020年のRAND Corporationの報告で詳述したように、日本はNATOにとって最も長い歴史を持つ非ヨーロッパの協力国である。両者の交流や対話を超えた実質的協力関係は、9月11日以降では、日本がイラクとアフガニスタンにおける同盟国の活動を非戦闘分野で支援したことに始まる。2010年には、日本とNATOは情報資料保護協定に署名しており、その4年後の2014年に、両者は「日・NATO国別パートナーシップ協力計画(Individual Partnership and Cooperation Programme)」に署名し、サイバー防衛、人道支援・災害救援、テロ対策など9つの特定分野での協力を推進することとした。これに続き、日本の自衛隊はアデン湾におけるNATOの海賊対処任務オーシャン・シールド作戦でNATO加盟国海軍と共同対処を開始した。直近では、2023年に、サイバー防衛、戦略的通信、新興・破壊的技術、宇宙安全保障など16分野での協力強化を目的とした「日・NATO国別適合パートナーシップ計画(Individually Tailored Partnership Programme)」の下で、両者は将来の協力の道筋を固めた。
(3) 協力分野の強化に加えて、日本とNATOはその世界観や安全保障の相互関係において、ますます一致を示すようになっている。2017年、日本の安倍首相(当時)とNATOのJens Stoltenberg 事務総長(当時)は、「アジアと欧州の安全保障環境は密接につながっている」と合意した。2022年のロシアのウクライナ侵攻によって、日本の首相がNATO首脳会議に出席することになっただけでなく、NATOは採択した戦略概念の中で 「インド太平洋地域の動向は欧州・大西洋の安全保障に直接影響を及ぼし得ることから、インド太平洋地域はNATOにとって重要である 」と合意した。重要なのは、NATO加盟国が中国は欧州大西洋の安全保障に対する「体制上の挑戦」をしていると認識したことである。岸田首相は、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と述べている。
(4) しかし、緊密さを増しているにもかかわらず、両者は紛争が発生した場合の具体的な対応策を表明していない。日本はロシアに対してあらゆる抗議をしているが、ウクライナに対する支援は非殺傷的分野に限定し、台湾をめぐる紛争が勃発した場合にNATOが追随し易い前例を作っている。言い換えれば、個々の国は別として、NATOが組織として中国と戦うために軍隊を派遣する可能性は低い。北大西洋条約第6条は、武力攻撃に対する第5条の集団的自衛権発動の地理的境界を、ヨーロッパ、北米、北大西洋に限定し、インド太平洋地域は含まれていない。また、日本がウクライナを前例がないほど支援し続けているにもかかわらず、日本の高官はウクライナにいかなる種類の破壊を伴う領域での支援も提供する意欲を示していない。米政府高官等が、台湾防衛のための戦闘に日本がどの程度関与するのか疑問視している現在、日本が将来ヨーロッパで起こる戦争に戦闘支援を提供することは考えられない。
(5) 日本とNATOはともに、力によって現状を変えようとする修正主義国に反対している。このような関係強化に基づき、台湾をめぐる紛争が勃発した場合、あるいは欧州で再び戦争が勃発した場合、日本と欧州はその経済力を発揮し、特定の団体や貿易活動、投資等に対して制裁を科し、個人や侵略国の銀行に対する信用供与や国際的銀行取引を凍結し、侵略国の企業が自国内でビジネスを行うことを禁止する法案を可決することができる。
(6) 外交的には、国家を名指しして恥をかかせ、侵略国に対する世界世論の形成に努め、世論という法廷で孤立させ、また侵略国家の指導者たちの海外渡航を困難にするため、自国の領空や船舶への出入りを制限することもできる。作戦支援に近いところでは、日本とNATOはサイバー、宇宙、偽情報の分野で協力し、たとえば、日本がNATOのサイバー防衛演習に参加したり、エストニアにあるCooperative Cyber Defense Centre of Excellence(NATOサイバー防衛センター)に参加したりするなど、長年にわたるサイバーセキュリティの協力関係を基盤として、配信通信網、戦術等について情報交換することもできる。
(7) 宇宙においては、通信、航行、指揮統制体系の通信網はすべて宇宙ベースの体系によって接続されている今日、日本とNATOは妨害やなりすましに耐えられるよう自国の衛星の耐障害性の向上に取り組むことができる。偽情報に関しては、双方は自国や他の同志国に対する既知の偽情報活動の情報を交換し、迅速に特定し、それに対応することができる。長期的には、偽情報攻撃をより的確に認識するための技術を共同開発することもできる。
(8) こうした機会は、日本とNATOの数十年にわたる協力強化の努力が、将来の紛争において具体的な効果をもたらすことを示唆している。すなわち、武力によって現状を破壊しようとする侵略者の対価を引き上げるのに役立つ。これは、侵略者が行動を起こさないことを保証するものではないが、即座に負担させられる現実的対価を示すものである。ロシアのウクライナ侵攻への日本の対応のように、NATOは、中国が台湾を侵略した場合、同じ対応ができるであろう。日本とNATOは、関係強化を続けることで、必要なときに現実的効果を生む態勢を整えている。両者が平時に協力すればするほど、紛争が勃発した際の侵略国に与えるNATOと日本の脅威が、より信憑性を持つものとなる。
記事参照:https://www.rand.org/pubs/commentary/2024/07/japan-nato-ties-for-what-end.html
7月10日「U.S. 7th Fleet旗艦、カムラン湾に寄港―デジタル誌報道」(The Diplomat, July 10, 2024)
7月10日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌東南アジア担当編集者Sebastian Strangioの“US Warship Makes Rare Call at Vietnam’s Cam Ranh Bay Port ”と題する記事を掲載し、ベトナム戦争参戦の戦歴を持つU.S. 7th Fleet旗艦「ブルーリッジ」がカムラン湾に寄港したことは米越両国の関係改善の新たな徴候であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. 7th Fleet旗艦「ブルーリッジ」は7月8日にベトナムのカムラン湾に寄港しており、これは両国間の関係改善の最新の兆候である。ベトナムニュースサイトVnExpressは、5日間の訪問中、「米国海軍関係者は、カンホア人民委員会や地元海軍の関係者と面会する予定」と報じている。「ブルーリッジ」乗組員は、Hải quân Nhân dân Việt Nam(海軍人民越南)やCảnh sát biển Việt Nam(ベトナム海上警察)との運動交流を行うほか、Bộ Quốc phòng Việt Nam(ベトナム国防部)傘下の部隊との協議にも参加する予定である。
(2) この訪問は、2023年9月にベトナムと米国の間で包括的戦略パートナーシップが確立されたことを受けてのもので、この提携は20年間の着実な関係改善の頂点を極めたものであり、この関係改善により、過去10年間着実に増加しているU.S. Navyの寄港や訪問がさらに増加すると予想される。
(3) しかし、ハノイはアジアで最も素晴らしい深水港の一つとよく言われるカムラン湾への外国船舶の寄港を許可することについては、より厳格である。カムラン湾には現在、キロ級潜水艦の部隊が所在している。
(4) 2010年、ベトナムはカムラン湾の港を近代化・改修する計画を発表し、外国船に開放した。現在、カムラン国際港(CRIP)として正式に知られているこの基地には、日本、中国、ロシア、オーストラリア、フランスの艦船が寄港しており、ベトナムの全方位外交政策の縮図となっている。
(5) 米越関係の他の多くの側面と同様、カムラン湾への米海軍艦艇の復帰には、歴史の逆転と皮肉が重なり合っている。
記事参照:US Warship Makes Rare Call at Vietnam’s Cam Ranh Bay Port
(1) U.S. 7th Fleet旗艦「ブルーリッジ」は7月8日にベトナムのカムラン湾に寄港しており、これは両国間の関係改善の最新の兆候である。ベトナムニュースサイトVnExpressは、5日間の訪問中、「米国海軍関係者は、カンホア人民委員会や地元海軍の関係者と面会する予定」と報じている。「ブルーリッジ」乗組員は、Hải quân Nhân dân Việt Nam(海軍人民越南)やCảnh sát biển Việt Nam(ベトナム海上警察)との運動交流を行うほか、Bộ Quốc phòng Việt Nam(ベトナム国防部)傘下の部隊との協議にも参加する予定である。
(2) この訪問は、2023年9月にベトナムと米国の間で包括的戦略パートナーシップが確立されたことを受けてのもので、この提携は20年間の着実な関係改善の頂点を極めたものであり、この関係改善により、過去10年間着実に増加しているU.S. Navyの寄港や訪問がさらに増加すると予想される。
(3) しかし、ハノイはアジアで最も素晴らしい深水港の一つとよく言われるカムラン湾への外国船舶の寄港を許可することについては、より厳格である。カムラン湾には現在、キロ級潜水艦の部隊が所在している。
(4) 2010年、ベトナムはカムラン湾の港を近代化・改修する計画を発表し、外国船に開放した。現在、カムラン国際港(CRIP)として正式に知られているこの基地には、日本、中国、ロシア、オーストラリア、フランスの艦船が寄港しており、ベトナムの全方位外交政策の縮図となっている。
(5) 米越関係の他の多くの側面と同様、カムラン湾への米海軍艦艇の復帰には、歴史の逆転と皮肉が重なり合っている。
記事参照:US Warship Makes Rare Call at Vietnam’s Cam Ranh Bay Port
7月10日「中国、新砕氷船就役―ノルウェーオンライン誌報道」(The Barents Observer, July 10, 2024)
7月10日付のノルウェーのオンライン誌The Barents Observerは、“China commissions new icebreaker”と題する記事を掲載し、中国が砕氷能力を有する新極地調査船を就役させたとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国天然資源省が新たな極地調査船「極地」を7月5日に正式に就役させた。中国政府によれば、「極地」は中国企業が設計・建造した新世代の砕氷調査船で、青島を母港とする。
(2) 「極地」は北極海での夏季行動用に設計されており、全長89.95m、満載排水量5,600トン。乗組員は60人で、80日間海上で自給自足できる。厚さ1mの海氷を2ノットの速度で連続砕氷が可能である。中国天然資源部の傘下にある北海局によると、この船はさまざまな海洋調査機器を搭載しており、大気、海氷、立体水体、地球物理学などの海洋環境の総合的な観測、調査、研究の任務を同時に遂行できるという。船内にはドローン、無人船、水中自律ロボットなど、さまざまな先端技術や研究機器が搭載されている。その中には、一度に250kgの貨物を運ぶことができる大型燃料ドローンも含まれている。この船舶技術は、中国独自の衛星ネットワークシステムを応用し、空中、宇宙、海、海氷、水中での調査を実施する。
(3) 中国は、過去10年間で北極圏への関心を大幅に高めてきた。2018年に採択された北極圏政策文書では特に研究と気候変動に重点が置かれている。同時に、中国の北極圏への進出は、北極圏諸国の間で懸念の高まりを招いている。北欧諸国、カナダ、米国はいずれも中国を差し迫った安全保障上の脅威とみなしており、同地域での中国の活動を抑制することにますます熱心になっている。
記事参照:China commissions new icebreaker
(1) 中国天然資源省が新たな極地調査船「極地」を7月5日に正式に就役させた。中国政府によれば、「極地」は中国企業が設計・建造した新世代の砕氷調査船で、青島を母港とする。
(2) 「極地」は北極海での夏季行動用に設計されており、全長89.95m、満載排水量5,600トン。乗組員は60人で、80日間海上で自給自足できる。厚さ1mの海氷を2ノットの速度で連続砕氷が可能である。中国天然資源部の傘下にある北海局によると、この船はさまざまな海洋調査機器を搭載しており、大気、海氷、立体水体、地球物理学などの海洋環境の総合的な観測、調査、研究の任務を同時に遂行できるという。船内にはドローン、無人船、水中自律ロボットなど、さまざまな先端技術や研究機器が搭載されている。その中には、一度に250kgの貨物を運ぶことができる大型燃料ドローンも含まれている。この船舶技術は、中国独自の衛星ネットワークシステムを応用し、空中、宇宙、海、海氷、水中での調査を実施する。
(3) 中国は、過去10年間で北極圏への関心を大幅に高めてきた。2018年に採択された北極圏政策文書では特に研究と気候変動に重点が置かれている。同時に、中国の北極圏への進出は、北極圏諸国の間で懸念の高まりを招いている。北欧諸国、カナダ、米国はいずれも中国を差し迫った安全保障上の脅威とみなしており、同地域での中国の活動を抑制することにますます熱心になっている。
記事参照:China commissions new icebreaker
7月10日「日比、円滑化協定署名、その意義―フィリピン専門家論説」(Asia Times.com, July 10, 2024)
7月10日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、University of PhilippinesのAsia Center上席講師Richard Javad Heydarianの“New Japan-Philippine defense pact pushes back at China”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarianは日比間で署名された、いわゆる円滑化協定について、これによってフィリピン政府と日本政府は本格的な安全保障同盟に一歩近づいたとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンと日本は、数年の交渉の末、合同軍事演習や装備の移転を通じて2国間の防衛協力を大幅に強化する重要な防衛協定、「日本国の自衛隊とフィリピンの軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定(The Agreement between Japan and the Republic of the Philippines Concerning the Facilitation of Reciprocal Access and Cooperation between the Self-Defense Forces of Japan and the Armed Forces of the Philippines)」(以下、円滑化協定と言う)*に署名した。Marcos Jr.フィリピン大統領は「独立(an “independent”)」外交を標榜し、相互防衛条約に基づく同盟国である米国への依存を補完するため、広範かつ多様な安全保障パートナーシップ網を構築している。フィリピンにとって外交政策多角化戦略の中核国としては、近年、地域そして世界の安全保障の重要な行為者としての地位を確立してきた日本を置いて他にない。日比両国は、特に東シナ海から台湾海峡、そして南シナ海に至る、いわゆる第1列島線を超える中国の海洋権益主張に対する懸念を共有している。フィリピンはオーストラリアおよび英国に加えて日本との間にも円滑化協定を締結したが、この防衛協定は、全面的な相互防衛条約とは全く異なる。また、フィリピン政府が最近、米軍によるフィリピン国内の軍事施設の輪番による利用可能な拠点の拡大を認めた、米国との防衛協力強化協定(EDCA)に類似した訪問外国軍の地位に関する協定とも同じではない。
(2) 日本との円滑化協定は、「日比の一方の国の部隊が他方の国を訪問して協力活動を行う際の手続及び同部隊の法的地位等を定める協定」であり、さらに「日比両国による合同演習や災害救助等の協力活動の実施が円滑化され、両国の部隊間の相互運用性が向上する」としている。両国は、今回の協定が「ますます厳しさを増す」地域の安全保障環境によって促されたものであり、「両国間の安全保障、防衛協力を促進し、インド太平洋地域の平和と安定を強固に支える」ためのより広範な共同の取り組みの一環であると述べている。
(3) 円滑化協定署名の大きな原動力は、中国による台湾侵攻の可能性に対する懸念の共有である。日比両国は、台湾近辺に軍事施設を置いている。したがって、今後の日比両国による合同演習は、台湾海峡やバシー海峡における不測の事態に対応するための相互運用性の強化を重点に展開される可能性が高い。日本は、中国への海洋侵出に対抗するため、フィリピンに対する海洋安全保障支援を強化していくと見られる。他方、フィリピンは、オーストラリア、韓国、カナダおよび米国などの同志国が参加する2国間および多国間演習に参加する、これまで以上に多くの自衛隊派遣部隊を受け入れることになる。今のところ、円滑化協定は相互運用性と抑止能力の開発を強化することが主たる目的だが、アジアで大規模な紛争が勃発する可能性が生じた場合には、本格的な同盟関係の出発点としても役立ち得る。
(4) フィリピンでは、日本ほどほぼ「超党派の支持」を享受している外国はない。最近の世論調査によれば、フィリピンのアジアの提携諸国中、日本が最も好意的な評価(81%)を得ており、韓国(68%)やインド(48%)などを大きく上回っている。日本はここ数十年、フィリピンの主要輸出先、開発援助の供給元、そして特に公共基幹施設への投資国としての役割を果たしてきた。とは言え、日比2国間の防衛協力が促進され始めたのは2010年代に入ってからで、その背景には、この地域への米国の関与に対する不確実性の高まり、そして中国の軍事力増強に対する高まる懸念があった。さらに、中国が南シナ海と東シナ海における領有権主張を強めるにつれ、当時の安倍政権とフィリピンのAquino政権、後継のDuterte政権を通じて、東京とマニラの海洋安全保障協力は急速に強化されてきた。岸田総理は2023年11月4日、フィリピン上下両院合同会議で演説し、本格的な防衛同盟の一歩手前となる戦略的協力の新たな「黄金時代」を呼びかけた。日本は岸田総理の下で「現実主義外交」ドクトリンを採用し、その過程で、フィリピンなどの域内の同志国を支援するために、新たな政府安全保障支援(以下、OSAと言う)構想を開始した。OSAを通じて、Philippine Coast Guardは新型の多目的巡視船を取得することになっている。
(5) 今回の円滑化協定は、岸田首相の「新たな協力ビジョン」の成果の核心である。フィリピンにとって「全天候型の同盟国(an “all-weather ally”)」としての日本の地位は、2023年1月の成果なき訪中後、伝統的な提携諸国との防衛関係を急速に強化し始めたMarcos Jr.大統領の下で一層強固なものとなった。注目すべきは、Marcos Jr.大統領が日比米(JAPHUS)の枠組みの下で、より緊密な3国間の安全保障協力を推進してきたことである。円滑化協定の署名は南シナ海での緊張が高まる中で行われたが、中国政府は最近、南シナ海の係争海域に保有する2隻の「モンスター」と呼ばれる1万2,000トンの海警船の1隻 を配備し、現在、同船はその一部がフィリピンEEZ内に所在するサビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙賓礁)に停泊している。Philippine Coast Guard報道官は、この展開を「威嚇」戦術と批難し、「引き下がるつもりも、(中国に)威嚇されるつもりもない」と主張している。また、Armed Forces of the Philippines司令官Brawner大将は、中国海警部隊による絶え間ない嫌がらせや威嚇にもかかわらず、フィリピンは係争海域での補給や哨戒任務に対する米国からの直接支援の申し出を断ったと主張している。今やこれまで以上に強力な日本の暗黙の支持を承知した上で、そう主張する余裕があるとも言える。
記事参照:New Japan-Philippine defense pact pushes back at China
Note*:協定全文(日本語)
https://www.mofa.go.jp/files/100694771.pdf
(1) フィリピンと日本は、数年の交渉の末、合同軍事演習や装備の移転を通じて2国間の防衛協力を大幅に強化する重要な防衛協定、「日本国の自衛隊とフィリピンの軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定(The Agreement between Japan and the Republic of the Philippines Concerning the Facilitation of Reciprocal Access and Cooperation between the Self-Defense Forces of Japan and the Armed Forces of the Philippines)」(以下、円滑化協定と言う)*に署名した。Marcos Jr.フィリピン大統領は「独立(an “independent”)」外交を標榜し、相互防衛条約に基づく同盟国である米国への依存を補完するため、広範かつ多様な安全保障パートナーシップ網を構築している。フィリピンにとって外交政策多角化戦略の中核国としては、近年、地域そして世界の安全保障の重要な行為者としての地位を確立してきた日本を置いて他にない。日比両国は、特に東シナ海から台湾海峡、そして南シナ海に至る、いわゆる第1列島線を超える中国の海洋権益主張に対する懸念を共有している。フィリピンはオーストラリアおよび英国に加えて日本との間にも円滑化協定を締結したが、この防衛協定は、全面的な相互防衛条約とは全く異なる。また、フィリピン政府が最近、米軍によるフィリピン国内の軍事施設の輪番による利用可能な拠点の拡大を認めた、米国との防衛協力強化協定(EDCA)に類似した訪問外国軍の地位に関する協定とも同じではない。
(2) 日本との円滑化協定は、「日比の一方の国の部隊が他方の国を訪問して協力活動を行う際の手続及び同部隊の法的地位等を定める協定」であり、さらに「日比両国による合同演習や災害救助等の協力活動の実施が円滑化され、両国の部隊間の相互運用性が向上する」としている。両国は、今回の協定が「ますます厳しさを増す」地域の安全保障環境によって促されたものであり、「両国間の安全保障、防衛協力を促進し、インド太平洋地域の平和と安定を強固に支える」ためのより広範な共同の取り組みの一環であると述べている。
(3) 円滑化協定署名の大きな原動力は、中国による台湾侵攻の可能性に対する懸念の共有である。日比両国は、台湾近辺に軍事施設を置いている。したがって、今後の日比両国による合同演習は、台湾海峡やバシー海峡における不測の事態に対応するための相互運用性の強化を重点に展開される可能性が高い。日本は、中国への海洋侵出に対抗するため、フィリピンに対する海洋安全保障支援を強化していくと見られる。他方、フィリピンは、オーストラリア、韓国、カナダおよび米国などの同志国が参加する2国間および多国間演習に参加する、これまで以上に多くの自衛隊派遣部隊を受け入れることになる。今のところ、円滑化協定は相互運用性と抑止能力の開発を強化することが主たる目的だが、アジアで大規模な紛争が勃発する可能性が生じた場合には、本格的な同盟関係の出発点としても役立ち得る。
(4) フィリピンでは、日本ほどほぼ「超党派の支持」を享受している外国はない。最近の世論調査によれば、フィリピンのアジアの提携諸国中、日本が最も好意的な評価(81%)を得ており、韓国(68%)やインド(48%)などを大きく上回っている。日本はここ数十年、フィリピンの主要輸出先、開発援助の供給元、そして特に公共基幹施設への投資国としての役割を果たしてきた。とは言え、日比2国間の防衛協力が促進され始めたのは2010年代に入ってからで、その背景には、この地域への米国の関与に対する不確実性の高まり、そして中国の軍事力増強に対する高まる懸念があった。さらに、中国が南シナ海と東シナ海における領有権主張を強めるにつれ、当時の安倍政権とフィリピンのAquino政権、後継のDuterte政権を通じて、東京とマニラの海洋安全保障協力は急速に強化されてきた。岸田総理は2023年11月4日、フィリピン上下両院合同会議で演説し、本格的な防衛同盟の一歩手前となる戦略的協力の新たな「黄金時代」を呼びかけた。日本は岸田総理の下で「現実主義外交」ドクトリンを採用し、その過程で、フィリピンなどの域内の同志国を支援するために、新たな政府安全保障支援(以下、OSAと言う)構想を開始した。OSAを通じて、Philippine Coast Guardは新型の多目的巡視船を取得することになっている。
(5) 今回の円滑化協定は、岸田首相の「新たな協力ビジョン」の成果の核心である。フィリピンにとって「全天候型の同盟国(an “all-weather ally”)」としての日本の地位は、2023年1月の成果なき訪中後、伝統的な提携諸国との防衛関係を急速に強化し始めたMarcos Jr.大統領の下で一層強固なものとなった。注目すべきは、Marcos Jr.大統領が日比米(JAPHUS)の枠組みの下で、より緊密な3国間の安全保障協力を推進してきたことである。円滑化協定の署名は南シナ海での緊張が高まる中で行われたが、中国政府は最近、南シナ海の係争海域に保有する2隻の「モンスター」と呼ばれる1万2,000トンの海警船の1隻 を配備し、現在、同船はその一部がフィリピンEEZ内に所在するサビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙賓礁)に停泊している。Philippine Coast Guard報道官は、この展開を「威嚇」戦術と批難し、「引き下がるつもりも、(中国に)威嚇されるつもりもない」と主張している。また、Armed Forces of the Philippines司令官Brawner大将は、中国海警部隊による絶え間ない嫌がらせや威嚇にもかかわらず、フィリピンは係争海域での補給や哨戒任務に対する米国からの直接支援の申し出を断ったと主張している。今やこれまで以上に強力な日本の暗黙の支持を承知した上で、そう主張する余裕があるとも言える。
記事参照:New Japan-Philippine defense pact pushes back at China
Note*:協定全文(日本語)
https://www.mofa.go.jp/files/100694771.pdf
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Strengthening Taiwan’s resiliency
https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/report/strengthening-taiwans-resiliency/
Atlantic Council, July 2, 2024
By Franklin D. Kramer is a distinguished fellow at the Atlantic Council and a member of its board.
Philip Yu is a nonresident senior fellow in the Indo-Pacific Security Initiative at the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security, and a retired US Navy rear admiral.
Joseph Webster is a senior fellow at the Atlantic Council’s Global Energy Center, a nonresident senior fellow in the Indo-Pacific Security Initiative at the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security.
Elizabeth “Beth” Sizeland is a nonresident senior fellow at the Scowcroft Strategy Initiative of the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security.
2024年7月2日、米シンクタンクAtlantic Councilの名誉研究員Franklin D. Kramer、退役米海軍少将で同Council客員上席研究員Philip Yu、同Council上席研究員Joseph Webster、および同Council客員上席研究員Elizabeth “Beth” Sizelandは、Atlantic Councilのウエブサイトに“Strengthening Taiwan’s resiliency”と題する共著論説を寄稿した。その中で4名は、この報告書は、重要基幹施設のサイバーセキュリティ強化、エネルギー安全保障の向上、防衛改革の加速の3つの主要分野に焦点を当てているが、台湾は既存の抗堪性の課題に加え、中国が拡大する「グレーゾーン」活動や実際の紛争に対応するために、包括的なセキュリティ戦略を策定し、政府、民間部門、個人が協力して危険性分析、データ管理、専門知識の開発、全社会的な取り組みを進める必要があると述べている。その上で4名は、特にサイバーセキュリティ専門家の確保と米国サイバー部隊との協力を強化し、エネルギー分野ではエネルギー価格の合理化、原子力エネルギーの推進、エネルギー備蓄の分散と強化、そして包括的なエネルギー配給計画を準備することが求められると指摘した上で、防衛面では、国防費のGDP比3%以上への増加、無人システムや機雷の導入、新技術や非伝統的戦術の訓練強化、東海岸港湾基幹施設の投資、全社会的な防衛動員体制の強化が推奨されると主張している。
(2) ‘A New Type of War of Unification’: Liu Mingfu on the American Civil War’s Relevance to Taiwan
https://jamestown.org/program/a-new-type-of-war-of-unification-liu-mingfu-on-the-american-civil-wars-relevance-to-taiwan/
China Brief, The Jamestown Foundation, July 3, 2024
By Rena Sasaki is a PhD student at Johns Hopkins SAIS and a fellow of the Pacific Forum’s Next Generation Young Leaders Program.
2024年7月3日、米Johns Hopkins SAIS の博士課程院生でPacific Forumの Next Generation Young Leaders Program研究員佐々木れなは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに“‘A New Type of War of Unification’: Liu Mingfu on the American Civil War’s Relevance to Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中で佐々木れなは、劉明福の新著 China’s “Strong Army” Dream in the New Era: Building a World-Class Militaryは、米国の南北戦争を「米国統一戦争」と置き換え、中国と台湾の統一をそのひな型とする視点を提供していると紹介した上で、劉明福は、南北戦争の目的が国家の一体性維持と分裂防止であり、中国が台湾に対して達成しようとしている目標と一致すると指摘し、米国の統一戦争の勝利要因として奴隷制廃止と英国の干渉防止を挙げ、それらが米国の国際的な地位向上に寄与したと主張していると解説している。しかし、劉明福の考究の手法は現実的ではなく、中国と台湾との戦争がもたらすであろう国際的な人道的危機を無視し、国際法と人権の観点を考慮しておらず、国際的な反発や制裁の可能性を軽視しており、劉明福の提案は理論的には興味深いものの、実際の軍事戦略としては実用性に乏しいと否定的に評価している。
(3) When America and China Collided
https://www.foreignaffairs.com/united-states/when-america-and-china-collided
Foreign Affairs, July 5, 2024
By ANE PERLEZ is a Fellow at the Belfer Center for Science and International Affairs.
2024年7月5日、米国Harvard University のBelfer Center for Science and International Affairs研究員Jane Perlezは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsのウエブサイトに、“When America and China Collided”と題する論説を寄稿した。その中で、①2001年4月、国際水域の上空で、U.S. NavyのEP-3E偵察機に、1機の中国軍F-8戦闘機が接近し、衝突した。②EP-3Eのパイロットは損傷した飛行機を海南島にある中国空軍基地まで進めることを選択し、その間に機密資料の破壊を試みた。③不時着したEP-3Eの乗組員は中国当局に拘束されたが、11日後に解放され、米国は飛行機の部品を持ち帰った。④中国軍は今や何倍も強力であるため、今日ではこのような迅速な結果はほとんど不可能である。⑤いつかまた、米中衝突が起こることはほぼ確実だが、危機が全面戦争に発展する必要はない。⑥2014年、米中は双方の艦船や航空機の行動規範を定めた覚書を採択したが、この文書に関わった米国の元高官たちは、今ではこの文書を一蹴している。⑦緊迫した関係と利害関係を考えれば、破損した米軍機、特に機密情報を満載した偵察機が中国領内に着陸する可能性は非常に低い。⑧その代わり、米軍機が水上に不時着する可能性が高いが、中国軍はおそらく最初に衝突現場に到達し、これを主権活動に変えることができる。⑨U.S. Navyが偵察任務を縮小する可能性は低い。⑩現在、かつてないほど米政府は、南シナ海の危機が紛争に発展しないよう、実質的な軍同士の協議を北京に迫る必要があるといった見解が述べられている。
(4) Iran’s New Naval Ambitions
https://www.foreignaffairs.com/iran/irans-new-naval-ambitions
Foreign Affairs, July 10, 2024
By HAMIDREZA AZIZI is a Visiting Fellow at the German Institute for International and Security Affairs and a Nonresident Fellow at the Middle East Council on Global Affairs.
2024年7月10日、ドイツのシンクタンクGerman Institute for International and Security Affairs の客員研究員Hamidreza Aziziは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“Iran’s New Naval Ambitions”と題する論説を寄稿した。その中でHamidreza Azizi は、イランは新たな海洋戦略を採用し、その海軍力を拡大ており、フーシ派への支援を通じて紅海での攻撃を強化し、国際貿易を混乱させているが、この背景には、イランの「前方防衛」ドクトリンがあり、敵対勢力をイラン国境から遠く離れた場所で迎撃することを目的としていると指摘した上で、イランは、最新技術を搭載した新しい潜水艦やミサイル装備の戦艦を取得し、中ロとの海軍協力を強化し、米国やその同盟国に対する威嚇力を高め、海上交通路の支配を試みていると述べている。そしてHamidreza Azizi は、米国はイランの海洋脅威に対応するために、代替となる国際貿易路の開発などを通じてその威嚇行動を抑制する必要があるし、軍事面では、地域の提携国と協力して、イランの海軍力を抑制し、海上での非対称戦に対抗する能力を強化することが重要であるが、特に、米国の同盟国である湾岸諸国やヨーロッパ諸国との協力を深め、イランの戦略に対抗するための前方配備艦艇の増強や後方支援の強化が必要だと主張している。
(1) Strengthening Taiwan’s resiliency
https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/report/strengthening-taiwans-resiliency/
Atlantic Council, July 2, 2024
By Franklin D. Kramer is a distinguished fellow at the Atlantic Council and a member of its board.
Philip Yu is a nonresident senior fellow in the Indo-Pacific Security Initiative at the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security, and a retired US Navy rear admiral.
Joseph Webster is a senior fellow at the Atlantic Council’s Global Energy Center, a nonresident senior fellow in the Indo-Pacific Security Initiative at the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security.
Elizabeth “Beth” Sizeland is a nonresident senior fellow at the Scowcroft Strategy Initiative of the Atlantic Council’s Scowcroft Center for Strategy and Security.
2024年7月2日、米シンクタンクAtlantic Councilの名誉研究員Franklin D. Kramer、退役米海軍少将で同Council客員上席研究員Philip Yu、同Council上席研究員Joseph Webster、および同Council客員上席研究員Elizabeth “Beth” Sizelandは、Atlantic Councilのウエブサイトに“Strengthening Taiwan’s resiliency”と題する共著論説を寄稿した。その中で4名は、この報告書は、重要基幹施設のサイバーセキュリティ強化、エネルギー安全保障の向上、防衛改革の加速の3つの主要分野に焦点を当てているが、台湾は既存の抗堪性の課題に加え、中国が拡大する「グレーゾーン」活動や実際の紛争に対応するために、包括的なセキュリティ戦略を策定し、政府、民間部門、個人が協力して危険性分析、データ管理、専門知識の開発、全社会的な取り組みを進める必要があると述べている。その上で4名は、特にサイバーセキュリティ専門家の確保と米国サイバー部隊との協力を強化し、エネルギー分野ではエネルギー価格の合理化、原子力エネルギーの推進、エネルギー備蓄の分散と強化、そして包括的なエネルギー配給計画を準備することが求められると指摘した上で、防衛面では、国防費のGDP比3%以上への増加、無人システムや機雷の導入、新技術や非伝統的戦術の訓練強化、東海岸港湾基幹施設の投資、全社会的な防衛動員体制の強化が推奨されると主張している。
(2) ‘A New Type of War of Unification’: Liu Mingfu on the American Civil War’s Relevance to Taiwan
https://jamestown.org/program/a-new-type-of-war-of-unification-liu-mingfu-on-the-american-civil-wars-relevance-to-taiwan/
China Brief, The Jamestown Foundation, July 3, 2024
By Rena Sasaki is a PhD student at Johns Hopkins SAIS and a fellow of the Pacific Forum’s Next Generation Young Leaders Program.
2024年7月3日、米Johns Hopkins SAIS の博士課程院生でPacific Forumの Next Generation Young Leaders Program研究員佐々木れなは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに“‘A New Type of War of Unification’: Liu Mingfu on the American Civil War’s Relevance to Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中で佐々木れなは、劉明福の新著 China’s “Strong Army” Dream in the New Era: Building a World-Class Militaryは、米国の南北戦争を「米国統一戦争」と置き換え、中国と台湾の統一をそのひな型とする視点を提供していると紹介した上で、劉明福は、南北戦争の目的が国家の一体性維持と分裂防止であり、中国が台湾に対して達成しようとしている目標と一致すると指摘し、米国の統一戦争の勝利要因として奴隷制廃止と英国の干渉防止を挙げ、それらが米国の国際的な地位向上に寄与したと主張していると解説している。しかし、劉明福の考究の手法は現実的ではなく、中国と台湾との戦争がもたらすであろう国際的な人道的危機を無視し、国際法と人権の観点を考慮しておらず、国際的な反発や制裁の可能性を軽視しており、劉明福の提案は理論的には興味深いものの、実際の軍事戦略としては実用性に乏しいと否定的に評価している。
(3) When America and China Collided
https://www.foreignaffairs.com/united-states/when-america-and-china-collided
Foreign Affairs, July 5, 2024
By ANE PERLEZ is a Fellow at the Belfer Center for Science and International Affairs.
2024年7月5日、米国Harvard University のBelfer Center for Science and International Affairs研究員Jane Perlezは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月誌Foreign Affairsのウエブサイトに、“When America and China Collided”と題する論説を寄稿した。その中で、①2001年4月、国際水域の上空で、U.S. NavyのEP-3E偵察機に、1機の中国軍F-8戦闘機が接近し、衝突した。②EP-3Eのパイロットは損傷した飛行機を海南島にある中国空軍基地まで進めることを選択し、その間に機密資料の破壊を試みた。③不時着したEP-3Eの乗組員は中国当局に拘束されたが、11日後に解放され、米国は飛行機の部品を持ち帰った。④中国軍は今や何倍も強力であるため、今日ではこのような迅速な結果はほとんど不可能である。⑤いつかまた、米中衝突が起こることはほぼ確実だが、危機が全面戦争に発展する必要はない。⑥2014年、米中は双方の艦船や航空機の行動規範を定めた覚書を採択したが、この文書に関わった米国の元高官たちは、今ではこの文書を一蹴している。⑦緊迫した関係と利害関係を考えれば、破損した米軍機、特に機密情報を満載した偵察機が中国領内に着陸する可能性は非常に低い。⑧その代わり、米軍機が水上に不時着する可能性が高いが、中国軍はおそらく最初に衝突現場に到達し、これを主権活動に変えることができる。⑨U.S. Navyが偵察任務を縮小する可能性は低い。⑩現在、かつてないほど米政府は、南シナ海の危機が紛争に発展しないよう、実質的な軍同士の協議を北京に迫る必要があるといった見解が述べられている。
(4) Iran’s New Naval Ambitions
https://www.foreignaffairs.com/iran/irans-new-naval-ambitions
Foreign Affairs, July 10, 2024
By HAMIDREZA AZIZI is a Visiting Fellow at the German Institute for International and Security Affairs and a Nonresident Fellow at the Middle East Council on Global Affairs.
2024年7月10日、ドイツのシンクタンクGerman Institute for International and Security Affairs の客員研究員Hamidreza Aziziは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“Iran’s New Naval Ambitions”と題する論説を寄稿した。その中でHamidreza Azizi は、イランは新たな海洋戦略を採用し、その海軍力を拡大ており、フーシ派への支援を通じて紅海での攻撃を強化し、国際貿易を混乱させているが、この背景には、イランの「前方防衛」ドクトリンがあり、敵対勢力をイラン国境から遠く離れた場所で迎撃することを目的としていると指摘した上で、イランは、最新技術を搭載した新しい潜水艦やミサイル装備の戦艦を取得し、中ロとの海軍協力を強化し、米国やその同盟国に対する威嚇力を高め、海上交通路の支配を試みていると述べている。そしてHamidreza Azizi は、米国はイランの海洋脅威に対応するために、代替となる国際貿易路の開発などを通じてその威嚇行動を抑制する必要があるし、軍事面では、地域の提携国と協力して、イランの海軍力を抑制し、海上での非対称戦に対抗する能力を強化することが重要であるが、特に、米国の同盟国である湾岸諸国やヨーロッパ諸国との協力を深め、イランの戦略に対抗するための前方配備艦艇の増強や後方支援の強化が必要だと主張している。
関連記事