海洋安全保障情報旬報 2023年11月21日-11月30日
Contents
11月21日「『平和地帯』構想の提案が意味するもの―パプアニューギニア政治学者・大学生論説」(The Interpreter, November 21, 2023)
11月21日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、University of Papua New Guineaの教育助手Patrick Kaikuと同大学学部生Faith Hope Boieの“A Pacific “zone of peace” –what will it entail?”と題する論説を掲載し、そこで両名はフィジーのSitiveni Rabuka首相が太平洋の「平和地帯」構想を打ち出したことについて、太平洋島嶼諸国は自分たちの立場や主張を継続的に提起し続ける必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 今年8月、フィジーのポートビラで開催されたメラネシア・スピアヘッド・グループ(MSG)指導者会議の間、フィジーのSitiveni Rabuka首相は太平洋の「平和地帯」の概念を提唱した。Sitiveni Rabuka首相は9月の国連総会でもそれを訴え、「平和地帯」が気候変動やそれに関連する安全保障上の課題に向き合い、「世界秩序に貢献する」ものだと主張した。
(2) Sitiveni Rabuka首相の意図は、地域における米中対立の影響を弱めることにある。他方で、この概念は反核運動が最高潮に達した1980年代に提起されるなど、地域にとって新しいものではない。後にSitiveni Rabuka首相は訪豪の際に、「平和地帯」の概念は精神的なものであり、太平洋島嶼諸国のソフトパワーの強さはこの概念を自らの地域に埋め込めるかにかかっているだろうと述べている。ただし実際にこの概念を適用する場合、概ね非公式で自発的なものになるとも述べている。
(3) こうした考え方は、不安定な時期を乗り越えるために地域が構想してきたもの、たとえば2018年のボー宣言や「ブルーパシフィック」といった概念などと重なる。実際、ボー宣言や「ブルーパシフィック」はSitiveni Rabuka首相が構想したものである。彼は太平洋島嶼諸国の仲介者として、また地域的重要性のある問題に関する経験を重ねた者としての立場から話をしている。Sitiveni Rabuka首相は1998年にソロモン諸島の紛争における平和的解決を仲裁する特別大使を務め、最近のAPECサミットでは、パプアニューギニアのJames Marape首相とインドネシアのJoko Widodo首相とともに西パプアに関する対話も実施している。
(4) しかし、平和地帯構想の売り込みには多くの課題がある。太平洋の国々は外部勢力の安全保障をめぐる対立に巻き込まれており、そうした緊張が緩和される能性は極めて小さい。たとえば、フィジーのMahendra Chaudhry元首相は地域の国々はオーストラリアからの財政支援の受け入れには慎重になるべきで、そうでなければオーストラリアの化石燃料政策に対して妥協を迫られることになるだろうと警告している。パプアニューギニアは中立政策を打ち出しつつも、米国との防衛協力に合意し、ソロモン諸島は中国と安全保障協定を結んでいる。
(5) Sitiveni Rabuka首相は太平洋島嶼国の認識が世界の人々に聞き届けられたいと願っているが、実際にはなかなかうまくいかない。しかし、非対称的な力関係の中で、小さな国々の声は、明確に述べられ、繰り返される必要がある。そうでなければ、賛同はされるが、安全保障であれ、気候変動であれ、行動に中身が伴わないのである。Sitiveni Rabuka首相の「平和地帯」構想は新しいものではないが、繰り返されることに意味がある。
(6) オーストラリア、日本、ニュージーランド、英国、米国で構成される「パートナーズ・イン・ザ・ブルーパシフィック・イニシアティブ(PBP)」でも、Sitiveni Rabuka首相が提唱してきたような概念が用いられている。ブルーパシフィックの当初の構想は、「すべての主要な利害関係者の包摂」であった。しかしそれは欧米の国々によるものであり、したがって中国の排除を伴っている。太平洋における諸問題に中国が果たす役割はきわめて大きいというのに。
(7) Rabukaは「平和地帯」構想を提唱することで、ブルーパシフィックの当初の理想を再主張しているのである。太平洋島嶼諸国の認識を伝達するには、その姿勢と戦略を一致させて示さなければならない。太平洋島嶼諸国の人びとが懸念している問題は、地域の軍事化や核汚染問題など、提携国が強調されたくないと思っている問題である。太平洋島嶼諸国の人びとは継続的に、自分たちの意図と優先順位を明確にし、自分たちの声が届かない状況を許してはならない。
記事参照:A Pacific “zone of peace” –what will it entail?
(1) 今年8月、フィジーのポートビラで開催されたメラネシア・スピアヘッド・グループ(MSG)指導者会議の間、フィジーのSitiveni Rabuka首相は太平洋の「平和地帯」の概念を提唱した。Sitiveni Rabuka首相は9月の国連総会でもそれを訴え、「平和地帯」が気候変動やそれに関連する安全保障上の課題に向き合い、「世界秩序に貢献する」ものだと主張した。
(2) Sitiveni Rabuka首相の意図は、地域における米中対立の影響を弱めることにある。他方で、この概念は反核運動が最高潮に達した1980年代に提起されるなど、地域にとって新しいものではない。後にSitiveni Rabuka首相は訪豪の際に、「平和地帯」の概念は精神的なものであり、太平洋島嶼諸国のソフトパワーの強さはこの概念を自らの地域に埋め込めるかにかかっているだろうと述べている。ただし実際にこの概念を適用する場合、概ね非公式で自発的なものになるとも述べている。
(3) こうした考え方は、不安定な時期を乗り越えるために地域が構想してきたもの、たとえば2018年のボー宣言や「ブルーパシフィック」といった概念などと重なる。実際、ボー宣言や「ブルーパシフィック」はSitiveni Rabuka首相が構想したものである。彼は太平洋島嶼諸国の仲介者として、また地域的重要性のある問題に関する経験を重ねた者としての立場から話をしている。Sitiveni Rabuka首相は1998年にソロモン諸島の紛争における平和的解決を仲裁する特別大使を務め、最近のAPECサミットでは、パプアニューギニアのJames Marape首相とインドネシアのJoko Widodo首相とともに西パプアに関する対話も実施している。
(4) しかし、平和地帯構想の売り込みには多くの課題がある。太平洋の国々は外部勢力の安全保障をめぐる対立に巻き込まれており、そうした緊張が緩和される能性は極めて小さい。たとえば、フィジーのMahendra Chaudhry元首相は地域の国々はオーストラリアからの財政支援の受け入れには慎重になるべきで、そうでなければオーストラリアの化石燃料政策に対して妥協を迫られることになるだろうと警告している。パプアニューギニアは中立政策を打ち出しつつも、米国との防衛協力に合意し、ソロモン諸島は中国と安全保障協定を結んでいる。
(5) Sitiveni Rabuka首相は太平洋島嶼国の認識が世界の人々に聞き届けられたいと願っているが、実際にはなかなかうまくいかない。しかし、非対称的な力関係の中で、小さな国々の声は、明確に述べられ、繰り返される必要がある。そうでなければ、賛同はされるが、安全保障であれ、気候変動であれ、行動に中身が伴わないのである。Sitiveni Rabuka首相の「平和地帯」構想は新しいものではないが、繰り返されることに意味がある。
(6) オーストラリア、日本、ニュージーランド、英国、米国で構成される「パートナーズ・イン・ザ・ブルーパシフィック・イニシアティブ(PBP)」でも、Sitiveni Rabuka首相が提唱してきたような概念が用いられている。ブルーパシフィックの当初の構想は、「すべての主要な利害関係者の包摂」であった。しかしそれは欧米の国々によるものであり、したがって中国の排除を伴っている。太平洋における諸問題に中国が果たす役割はきわめて大きいというのに。
(7) Rabukaは「平和地帯」構想を提唱することで、ブルーパシフィックの当初の理想を再主張しているのである。太平洋島嶼諸国の認識を伝達するには、その姿勢と戦略を一致させて示さなければならない。太平洋島嶼諸国の人びとが懸念している問題は、地域の軍事化や核汚染問題など、提携国が強調されたくないと思っている問題である。太平洋島嶼諸国の人びとは継続的に、自分たちの意図と優先順位を明確にし、自分たちの声が届かない状況を許してはならない。
記事参照:A Pacific “zone of peace” –what will it entail?
11月21日「フランスのインド太平洋戦略におけるフランス領南方・南極地域の重要性―シンガポール専門家論説」(Commentary, RSIS, November 21, 2023)
11月21日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentaryは、RSIS客員研究員Paco Milhietの“The Southern and Antarctic Lands in France’s Indo-Pacific Strategy”と題する論説を掲載し、そこでPaco Milhietはフランスのインド太平洋戦略にとって、フランス領南方・南極地域がますます重要性を増しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年11月8日から10日にかけて、国際会議ワン・プラネットがパリで開催され、世界の科学者と政治指導者が集まった。それは、海氷や氷河など極地の環境について議論する世界的な最初の首脳会議である。こうした科学外交はフランスのソフトパワー戦略の中心であり、これに加えて森林や海洋、生物多様性に関する首脳会議を、Macronフランス大統領は招集している。
(2) フランスは極地国家ではないが、極地に対して歴史的な野心をもっており、実際にインド洋にあるフランス領南方・南極地域(以下、TAAFと言う)は、その野心にとって重要な領土である。TAAFは1955年に創設され、5つの行政区から成り立っている。それぞれがフランス領になった時機は異なるが、そこには定住者がいないことでは共通している。そのうちの1つ、スカッタード諸島はマダガスカル島のそばに位置する熱帯気候の島々であり、他方でアデリー島は南極大陸の一部で、スカッタード諸島から9,000km離れている。
(3) かつては作り話のような領土だと言われたTAAFであるが、現在そこは、現実的な戦略的利害が交わる場所で、国際的な注目を集めている。
(4) TAAFは地政学的に大きく3つに分類できる。1つ目がスカッタード諸島で、上述したようにマダガスカル近くに位置し、大部分が環礁によって構成されている。マダガスカルやモーリシャスらとの間に主権をめぐる論争があるが、周辺のガス資源の存在がインド洋の国々との緊張を高めている。第2に南緯40~60度に位置する準南極圏であり、その大部分がフランスの船乗りによって発見され、その名前がついている。その島々には、衛星制御施設や核実験を追跡するための監視基地などが存在し、戦略的重要性がある。第3が南極大陸のアデリー島であり、フランスの南極基地がある。
(5) この20年間、フランスはTAAF保護のための積極的方針を進めてきた。2006年には準南極圏にTAAF自然保護区域を設立した。そこは世界最大の海洋保護区域の1つで、2019年には世界遺産に登録された。南極大陸での調査活動も1956年から行われ、イタリアと共同運営のコンコルディア基地は、環境調査や氷河学などの分野においてフランスが指導的立場にいることに貢献している。
(6) 2018年から、Macron大統領はフランスのインド太平洋戦略を立案してきた。その中でインド太平洋における海外領土の主権行使は重要であり、したがってさまざまな声明や戦略でTAAFは言及されている。また南極大陸は平和や環境保護に専念する国際的統治の特殊な事例であり、フランスはそこで指導力を発揮することを望んでいる。そのため、TAAFは小さな遠隔の領土ではあるが、少なくとも象徴的にはフランスのインド太平洋戦略における中心地なのである。
記事参照:The Southern and Antarctic Lands in France’s Indo-Pacific Strategy
(1) 2023年11月8日から10日にかけて、国際会議ワン・プラネットがパリで開催され、世界の科学者と政治指導者が集まった。それは、海氷や氷河など極地の環境について議論する世界的な最初の首脳会議である。こうした科学外交はフランスのソフトパワー戦略の中心であり、これに加えて森林や海洋、生物多様性に関する首脳会議を、Macronフランス大統領は招集している。
(2) フランスは極地国家ではないが、極地に対して歴史的な野心をもっており、実際にインド洋にあるフランス領南方・南極地域(以下、TAAFと言う)は、その野心にとって重要な領土である。TAAFは1955年に創設され、5つの行政区から成り立っている。それぞれがフランス領になった時機は異なるが、そこには定住者がいないことでは共通している。そのうちの1つ、スカッタード諸島はマダガスカル島のそばに位置する熱帯気候の島々であり、他方でアデリー島は南極大陸の一部で、スカッタード諸島から9,000km離れている。
(3) かつては作り話のような領土だと言われたTAAFであるが、現在そこは、現実的な戦略的利害が交わる場所で、国際的な注目を集めている。
(4) TAAFは地政学的に大きく3つに分類できる。1つ目がスカッタード諸島で、上述したようにマダガスカル近くに位置し、大部分が環礁によって構成されている。マダガスカルやモーリシャスらとの間に主権をめぐる論争があるが、周辺のガス資源の存在がインド洋の国々との緊張を高めている。第2に南緯40~60度に位置する準南極圏であり、その大部分がフランスの船乗りによって発見され、その名前がついている。その島々には、衛星制御施設や核実験を追跡するための監視基地などが存在し、戦略的重要性がある。第3が南極大陸のアデリー島であり、フランスの南極基地がある。
(5) この20年間、フランスはTAAF保護のための積極的方針を進めてきた。2006年には準南極圏にTAAF自然保護区域を設立した。そこは世界最大の海洋保護区域の1つで、2019年には世界遺産に登録された。南極大陸での調査活動も1956年から行われ、イタリアと共同運営のコンコルディア基地は、環境調査や氷河学などの分野においてフランスが指導的立場にいることに貢献している。
(6) 2018年から、Macron大統領はフランスのインド太平洋戦略を立案してきた。その中でインド太平洋における海外領土の主権行使は重要であり、したがってさまざまな声明や戦略でTAAFは言及されている。また南極大陸は平和や環境保護に専念する国際的統治の特殊な事例であり、フランスはそこで指導力を発揮することを望んでいる。そのため、TAAFは小さな遠隔の領土ではあるが、少なくとも象徴的にはフランスのインド太平洋戦略における中心地なのである。
記事参照:The Southern and Antarctic Lands in France’s Indo-Pacific Strategy
11月21日「東南アジアにおける海洋統治政策と優先課題―シンガポール専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 21, 2023)
11月21日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、Nanyang Technological University のS. Rajaratnam School of International Studies (RSIS) Maritime Security Programme上席研究員John Bradford及び、La Trobe University政治・国際関係学准教授Bec Stratingの” MARITIME GOVERNANCE POLICY AND PRIORITIES IN SOUTHEAST ASIA”と題する論説を掲載し、ここで両名は海洋安全保障は不定形な用語であるので安全で安心な海を提供するために、国家は何をすればよいのかという分析は、海洋統治能力を見直すことによって、よりよく検討することができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋統治は、海洋安全保障と同様、特にインド太平洋地域において、重要な言葉となりつつある。一般的な定義として、海洋統治は海洋における良好な秩序を確立しようとする国家と国際社会の法的管轄権の中で生まれた法律、規制、政策、制度の枠組みを執行する能力を指す。海洋地理が複雑で、脅威があふれ、政治的対立が協力を弱体化させ、多くの国家が統治責任を果たすために必要な資源を欠いている東南アジアでこれを確立するのは容易なことではない。
(2) 国家指導者、軍の将校、専門家は、自然災害、船舶の衝突や航行の危険、船員の安全、違法サルベージ、不法漁業、強制労働、海洋生態系に対する犯罪、麻薬密売、不法移民、海賊、海上テロ、国家間の紛争など、多様な課題を海洋安全保障という用語で一括りにし、それを海軍や沿岸警備隊が対応するとしている。広義には、海洋安全保障とは、すべての人々が安全に海から恩恵を受けることができる状態を指すこともある。このことは、海洋領域の安全確保という考え方には、さまざまな側面と関連する責任があることを意味する。海洋安全保障がこのように不定形な用語であるので、安全で安心な海を提供するために国家のすべきことは、海洋統治能力を見直すことで検討ができる。
(3) 統治の空間として、海と陸は異なる。1982年のUNCLOSに基づき、国家は海洋を統治する第一義的な責任を負っている。UNCLOSは目覚ましい成果ではあったが、海を人類のための自由な共同資産として確立する概念と国家に法律を課し、その隣接水域から排他的な経済的利益を得るより大きな権利を与える概念との間で、かなりの妥協が必要であった。その結果、国家の権利は制限されることになった。
(4) UNCLOSでは、海岸線から12海里までの領海、海岸線から24海里までの接続水域、200海里までのEEZ、海底地形に基づき350海里まで認められる大陸棚が定められ、これらを超えると公海となり、世界の海洋の約3分の2を占める。これらの海域の意味は条約に定められているが、その具体的な権利と責任については各国で見解が異なる。領有権をめぐる紛争もあり、問題は複雑を極めている。さらに状況を混乱させているのは、船舶と乗組員の責任は船籍国に課せられており、ほとんどの船主は、それらの責任を行使する可能性が最も低い国、便宜置籍国に登録するのが経済的に有利だと考えていることである。
(5) UNCLOSは、さまざまな海域にわたって国家に課される許容可能な法律制定上の制限を定めているが、国家は無害通航に対する航行国の権利を含むいくつかの重要な例外を除いて、領海では完全な主権的権利を保有する。EEZは、UNCLOSの制約を受けるが、生物・非生物資源に関する独自の法律や決定を下す権利がある。これとは対照的に、公海は依然として海洋統治、すなわち国際社会の集団的責任のための空間である。多くの場合、海洋安全保障上の課題は、このような異なる海域を行き来するという点で国境を越え、海洋統治と侵略や犯罪の防止・抑止をさらに複雑なものにしている。
(6) 海洋統治は、強制する法と法に違反者を抑止するシステムを持つことが前提でなければならない。東南アジアの沿岸国は、カンボジアを除いてUNCLOSを批准しているが、その解釈は異なっており、多くの国は責任を履行するために必要な国内法的枠組みを欠いている。とくに南シナ海の紛争地域では、各国の管轄権の主張が重なり、海洋境界紛争が東南アジア諸国の海洋法執行と統治能力を複雑にしている。国家間の対立が紛争に発展しないようにしながら、互いに有害な行動を採る、いわゆるグレーゾーン戦術は東南アジア諸国が海洋安全保障や犯罪活動に対する脅威を特定し、それに対応することを一層困難にしている。
(7) 仮に東南アジア諸国とこの地域の海で活動する域外諸国の双方が、完全に共通の規則に合意し、その規則を実施するための国内法制度が整備されたならば、地域諸国は、規則違反者を捕らえ、罰し、抑止するために必要な法執行活動を実施するための資源を動員する必要がある。しかし、この地域の海洋空間の広さと、その海域における人間の営みの密度を考えれば、その投資範囲は莫大なものになる。
(8) 地域の抗堪性と世界貿易にとって東南アジアの海洋秩序が重要であることを考えれば、地域諸国の海洋統治能力を理解することが不可欠である。しかし各国は、それぞれ異なる海洋上の課題に直面し、異なるひな型によってその課題に対応するための能力を組織している。海洋統治の機能、目的、地域はさまざまであるため、国家が海洋統治に割り当てている船舶、船員、予算を単純に合計しても、海洋統治能力を測ることはできない。さらに、海洋統治は海上で構築されるものではなく、陸上での外交行動や効果的な司法制度に裏打ちされたものでなければならない。
記事参照:MARITIME GOVERNANCE POLICY AND PRIORITIES IN SOUTHEAST ASIA
(1) 海洋統治は、海洋安全保障と同様、特にインド太平洋地域において、重要な言葉となりつつある。一般的な定義として、海洋統治は海洋における良好な秩序を確立しようとする国家と国際社会の法的管轄権の中で生まれた法律、規制、政策、制度の枠組みを執行する能力を指す。海洋地理が複雑で、脅威があふれ、政治的対立が協力を弱体化させ、多くの国家が統治責任を果たすために必要な資源を欠いている東南アジアでこれを確立するのは容易なことではない。
(2) 国家指導者、軍の将校、専門家は、自然災害、船舶の衝突や航行の危険、船員の安全、違法サルベージ、不法漁業、強制労働、海洋生態系に対する犯罪、麻薬密売、不法移民、海賊、海上テロ、国家間の紛争など、多様な課題を海洋安全保障という用語で一括りにし、それを海軍や沿岸警備隊が対応するとしている。広義には、海洋安全保障とは、すべての人々が安全に海から恩恵を受けることができる状態を指すこともある。このことは、海洋領域の安全確保という考え方には、さまざまな側面と関連する責任があることを意味する。海洋安全保障がこのように不定形な用語であるので、安全で安心な海を提供するために国家のすべきことは、海洋統治能力を見直すことで検討ができる。
(3) 統治の空間として、海と陸は異なる。1982年のUNCLOSに基づき、国家は海洋を統治する第一義的な責任を負っている。UNCLOSは目覚ましい成果ではあったが、海を人類のための自由な共同資産として確立する概念と国家に法律を課し、その隣接水域から排他的な経済的利益を得るより大きな権利を与える概念との間で、かなりの妥協が必要であった。その結果、国家の権利は制限されることになった。
(4) UNCLOSでは、海岸線から12海里までの領海、海岸線から24海里までの接続水域、200海里までのEEZ、海底地形に基づき350海里まで認められる大陸棚が定められ、これらを超えると公海となり、世界の海洋の約3分の2を占める。これらの海域の意味は条約に定められているが、その具体的な権利と責任については各国で見解が異なる。領有権をめぐる紛争もあり、問題は複雑を極めている。さらに状況を混乱させているのは、船舶と乗組員の責任は船籍国に課せられており、ほとんどの船主は、それらの責任を行使する可能性が最も低い国、便宜置籍国に登録するのが経済的に有利だと考えていることである。
(5) UNCLOSは、さまざまな海域にわたって国家に課される許容可能な法律制定上の制限を定めているが、国家は無害通航に対する航行国の権利を含むいくつかの重要な例外を除いて、領海では完全な主権的権利を保有する。EEZは、UNCLOSの制約を受けるが、生物・非生物資源に関する独自の法律や決定を下す権利がある。これとは対照的に、公海は依然として海洋統治、すなわち国際社会の集団的責任のための空間である。多くの場合、海洋安全保障上の課題は、このような異なる海域を行き来するという点で国境を越え、海洋統治と侵略や犯罪の防止・抑止をさらに複雑なものにしている。
(6) 海洋統治は、強制する法と法に違反者を抑止するシステムを持つことが前提でなければならない。東南アジアの沿岸国は、カンボジアを除いてUNCLOSを批准しているが、その解釈は異なっており、多くの国は責任を履行するために必要な国内法的枠組みを欠いている。とくに南シナ海の紛争地域では、各国の管轄権の主張が重なり、海洋境界紛争が東南アジア諸国の海洋法執行と統治能力を複雑にしている。国家間の対立が紛争に発展しないようにしながら、互いに有害な行動を採る、いわゆるグレーゾーン戦術は東南アジア諸国が海洋安全保障や犯罪活動に対する脅威を特定し、それに対応することを一層困難にしている。
(7) 仮に東南アジア諸国とこの地域の海で活動する域外諸国の双方が、完全に共通の規則に合意し、その規則を実施するための国内法制度が整備されたならば、地域諸国は、規則違反者を捕らえ、罰し、抑止するために必要な法執行活動を実施するための資源を動員する必要がある。しかし、この地域の海洋空間の広さと、その海域における人間の営みの密度を考えれば、その投資範囲は莫大なものになる。
(8) 地域の抗堪性と世界貿易にとって東南アジアの海洋秩序が重要であることを考えれば、地域諸国の海洋統治能力を理解することが不可欠である。しかし各国は、それぞれ異なる海洋上の課題に直面し、異なるひな型によってその課題に対応するための能力を組織している。海洋統治の機能、目的、地域はさまざまであるため、国家が海洋統治に割り当てている船舶、船員、予算を単純に合計しても、海洋統治能力を測ることはできない。さらに、海洋統治は海上で構築されるものではなく、陸上での外交行動や効果的な司法制度に裏打ちされたものでなければならない。
記事参照:MARITIME GOVERNANCE POLICY AND PRIORITIES IN SOUTHEAST ASIA
11月22日「ミャンマーの大深水港に注目が集まる理由―オーストラリア大学院生論説」(The Interpreter, November 22, 2023)
11月22日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、オーストラリアのCurtin University 大学院生Shaun Cameronの“Why is Myanmar’s new deep-sea port such hot property?”と題する論説を掲載し、そこでShaun Cameronは中国がミャンマーでの大深水港建設に投資していることはオーストラリアの安全保障上の懸念事項であり、オーストラリアも東南アジアでの基幹施設への投資を進めるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) いま、ミャンマー西部ラカイン州のチャウピューという小さな漁村が注目を集めている。中国国営企業が73億ドル投資してそこに大深水港を建設し、さらに27億ドル投じて経済特区を創ろうとしている。それはマラッカ海峡を回避する貿易ルートを中国に提供するだろう。懸念されているのは、それによって中国がミャンマーに対して大きな影響力を行使できるようになること、そして軍民両用の港の所有権を中国が保有することである。
(2) チャウピューに中国が公式の軍事基地を建設することはないだろう。問題は、こうした基幹施設を自力で建設できなくなっている国に、中国が非対象的な影響力を行使する可能性である。中国企業は同港の株式の7割を保有し、50年の賃借権を有する。ミャンマーが保有する株式は3割だが、それは2023年のGDPの4%にもなる。今後ミャンマーが資金提供できなくなれば、中国にそれを願い出るしかなく、その結果、中国が当該港の軍事利用のために圧力をかける可能性がある。
(3) カンボジアのココン周辺の港湾やリゾート開発が先行する事例である。ココン港には中国人民解放軍海軍の駆逐艦が停泊可能である。また、ダラサコール空港近くに中国出資によって建設された2,650mの滑走路も、軍民両用問題の事例である。その滑走路の長さは、南シナ海の人工島に設置された中国の滑走路と同様、民間輸送機用のものよりも長い。どちらの開発もカンボジアにとっては大きな利益になり得るが、中国による影響力強化という危険性があるのも、チャウピューと同じである。ココン港については中国企業が株式の7割を保有し、99年間の賃借権契約を結んでいる。
(4) 「安全保障の出入り口」として、オーストラリアは安全な海洋交易路のためにこの地域に依存しており、上述の展開は同国にとって懸念材料である。中国による軍事利用について議論するのは時期尚早だが、その経済的影響力拡大の可能性はある。そのためオーストラリアは東南アジアに投資機会を模索する必要がある。
(5) たとえばタイのクラ地峡に運河建設をして、マラッカ海峡を迂回しようという構想がかねてから存在したが、それはチュムポーン・ラノーン陸橋構想となり、タイ湾とアンダマン海にあるタイの深水港を陸路で繋ぐことになる。タイのCommittee on Economic Steering(経済運営委員会)の試算では、その陸橋建設は運河建設よりも安価であるという。オーストラリアはこの建設に投資することで、タイとの関係を深め、新たな交易路を創設することができるだろう。また、QUADの提携国もこの投資に巻き込めば、中国によるタイへの経済的圧力を軽減できるだろう。
記事参照:Why is Myanmar’s new deep-sea port such hot property?
(1) いま、ミャンマー西部ラカイン州のチャウピューという小さな漁村が注目を集めている。中国国営企業が73億ドル投資してそこに大深水港を建設し、さらに27億ドル投じて経済特区を創ろうとしている。それはマラッカ海峡を回避する貿易ルートを中国に提供するだろう。懸念されているのは、それによって中国がミャンマーに対して大きな影響力を行使できるようになること、そして軍民両用の港の所有権を中国が保有することである。
(2) チャウピューに中国が公式の軍事基地を建設することはないだろう。問題は、こうした基幹施設を自力で建設できなくなっている国に、中国が非対象的な影響力を行使する可能性である。中国企業は同港の株式の7割を保有し、50年の賃借権を有する。ミャンマーが保有する株式は3割だが、それは2023年のGDPの4%にもなる。今後ミャンマーが資金提供できなくなれば、中国にそれを願い出るしかなく、その結果、中国が当該港の軍事利用のために圧力をかける可能性がある。
(3) カンボジアのココン周辺の港湾やリゾート開発が先行する事例である。ココン港には中国人民解放軍海軍の駆逐艦が停泊可能である。また、ダラサコール空港近くに中国出資によって建設された2,650mの滑走路も、軍民両用問題の事例である。その滑走路の長さは、南シナ海の人工島に設置された中国の滑走路と同様、民間輸送機用のものよりも長い。どちらの開発もカンボジアにとっては大きな利益になり得るが、中国による影響力強化という危険性があるのも、チャウピューと同じである。ココン港については中国企業が株式の7割を保有し、99年間の賃借権契約を結んでいる。
(4) 「安全保障の出入り口」として、オーストラリアは安全な海洋交易路のためにこの地域に依存しており、上述の展開は同国にとって懸念材料である。中国による軍事利用について議論するのは時期尚早だが、その経済的影響力拡大の可能性はある。そのためオーストラリアは東南アジアに投資機会を模索する必要がある。
(5) たとえばタイのクラ地峡に運河建設をして、マラッカ海峡を迂回しようという構想がかねてから存在したが、それはチュムポーン・ラノーン陸橋構想となり、タイ湾とアンダマン海にあるタイの深水港を陸路で繋ぐことになる。タイのCommittee on Economic Steering(経済運営委員会)の試算では、その陸橋建設は運河建設よりも安価であるという。オーストラリアはこの建設に投資することで、タイとの関係を深め、新たな交易路を創設することができるだろう。また、QUADの提携国もこの投資に巻き込めば、中国によるタイへの経済的圧力を軽減できるだろう。
記事参照:Why is Myanmar’s new deep-sea port such hot property?
11月22日「米国とフィリピンが南シナ海で共同哨戒を開始―Diplomat誌報道」(The Diplomat, November 22, 2023)
11月22日付のデジタル誌The Diplomatは、“Philippines, US Launch Joint Maritime And Air Patrols”と題する記事を掲載し、米国とフィリピンが南シナ海で共同哨戒を開始したとして、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンと米国は、南シナ海で海上および航空の共同哨戒を開始した。これは、係争海域で自己主張を強める中国に対する、両同盟国の最新の対応策である。The Northern Luzon CommandのEugene Cabusao報道官は、3日間の訓練が11月21日、台湾から約100km離れたフィリピン最北端のマヴディス島近海で始まったと報道陣に語った。その後、フィリピンが南シナ海の自分たちの領海の一部と言及する西フィリピン海で終了する予定である。フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は声明の中で、3日間にわたる海上・航空共同演習は、両国軍の相互運用性をさらに高める「重要な構想」であると述べた。
(2) Armed Forces of the Philippines は、3隻のPhilippine Navyの艦艇、2機のFA-50軽戦闘機、1機のA-29B軽攻撃機が共同哨戒に参加すると発表した。米国は沿海域戦闘艦1隻とP8-A海上哨戒機を派遣している。
(3) 2022年7月にMarcos Jr.が大統領に就任して以来、特に2023年に入ってから、中国はフィリピンのEEZの大部分を分割する「九段線」の主張を言い張り、擁護する取り組みを強めている。特に、フィリピンが座礁させた軍艦「シエラ・マドレ」に少人数の部隊を駐留させているセカンド・トーマス礁が火種となっている。ここ数ヵ月、中国はPhilippine Navyによるこの前哨基地への補給を阻止しようとして、セカンド・トーマス礁の非公式封鎖を開始した。その結果、10月には中国船がフィリピンの補給船と海軍の艦艇に衝突するなど、多数の対立が起きている。
(4) 政策が不安定なRodrigo Duterteの下で、フィリピンと米国は長年の同盟関係を大きく後退させた。Marcos Jr.の下でフィリピンは米国によるその軍事施設の利用を拡大し、米政府は中国と対立するフィリピンを声高に支持してきた。米政府はその後、南シナ海でフィリピンの軍隊が武力攻撃を受けた場合、条約によりフィリピンを防衛する義務があることを再確認している。
(5) Marcos Jr.は、フィリピンと中国の海洋紛争を米中対立のレンズを通して見るべきではないと述べている。彼はまた、習近平とこれまで2回会談を行い、緊張緩和のための行動を採ることを公約している。同時に、Marcos Jr.政権は中国の公約を当てにせず、抑止力を強化するために自国の力が及ぶ範囲内で行動を起こしている。
記事参照:Philippines, US Launch Joint Maritime And Air Patrols
(1) フィリピンと米国は、南シナ海で海上および航空の共同哨戒を開始した。これは、係争海域で自己主張を強める中国に対する、両同盟国の最新の対応策である。The Northern Luzon CommandのEugene Cabusao報道官は、3日間の訓練が11月21日、台湾から約100km離れたフィリピン最北端のマヴディス島近海で始まったと報道陣に語った。その後、フィリピンが南シナ海の自分たちの領海の一部と言及する西フィリピン海で終了する予定である。フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は声明の中で、3日間にわたる海上・航空共同演習は、両国軍の相互運用性をさらに高める「重要な構想」であると述べた。
(2) Armed Forces of the Philippines は、3隻のPhilippine Navyの艦艇、2機のFA-50軽戦闘機、1機のA-29B軽攻撃機が共同哨戒に参加すると発表した。米国は沿海域戦闘艦1隻とP8-A海上哨戒機を派遣している。
(3) 2022年7月にMarcos Jr.が大統領に就任して以来、特に2023年に入ってから、中国はフィリピンのEEZの大部分を分割する「九段線」の主張を言い張り、擁護する取り組みを強めている。特に、フィリピンが座礁させた軍艦「シエラ・マドレ」に少人数の部隊を駐留させているセカンド・トーマス礁が火種となっている。ここ数ヵ月、中国はPhilippine Navyによるこの前哨基地への補給を阻止しようとして、セカンド・トーマス礁の非公式封鎖を開始した。その結果、10月には中国船がフィリピンの補給船と海軍の艦艇に衝突するなど、多数の対立が起きている。
(4) 政策が不安定なRodrigo Duterteの下で、フィリピンと米国は長年の同盟関係を大きく後退させた。Marcos Jr.の下でフィリピンは米国によるその軍事施設の利用を拡大し、米政府は中国と対立するフィリピンを声高に支持してきた。米政府はその後、南シナ海でフィリピンの軍隊が武力攻撃を受けた場合、条約によりフィリピンを防衛する義務があることを再確認している。
(5) Marcos Jr.は、フィリピンと中国の海洋紛争を米中対立のレンズを通して見るべきではないと述べている。彼はまた、習近平とこれまで2回会談を行い、緊張緩和のための行動を採ることを公約している。同時に、Marcos Jr.政権は中国の公約を当てにせず、抑止力を強化するために自国の力が及ぶ範囲内で行動を起こしている。
記事参照:Philippines, US Launch Joint Maritime And Air Patrols
11月24日「NSRへの関与は中国の北極圏への野望を示している―ポルトガル専門家論説」(The Diplomat, November 24, 2023)
11月24日付のデジタル誌The DiplomatはISCTE–Instituto Universitário de Lisboa修士課程修了者Tiago Tecelão Martinsの“Arctic Ambitions: China’s Engagement With the Northern Sea Route”と題する論説を掲載し、Tiago Tecelão Martinsはここで北極圏航路の発展における中国の役割は、海上航路を多様化させるという野心、西側諸国と競合しながら新しいエネルギー資源を確保する必要性、より速く安全な航行を追求することに関係しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 気候変動により北極圏の航路が実現可能になるにつれて、中国はそれに傾斜している。気候変動の悪影響にもかかわらず、そのような変化が北極圏における中国などの国々の関心の高まりに大きく貢献していることは否定できない。「2050年までに氷がなくなる」と予測する専門家もいる。北極海航路(以下、NSRと言う)については、近年、中国とロシアは特に注目している。ウラジオストクとカリーニングラード間の航海を終えた帆船の二等航海士Ivan Fedyushinは、ベーリング海、チュクチ海、東シベリア海に広がっていた氷原が消えていたという驚くべき報告を行っている。この氷の消失は、北極圏のあらゆるタイプの船舶による北極圏の利用に大きな変化が起きていることを示している。北極の氷が溶けることは、航行の向上をもたらす。それにより北極圏の海上航路を使用して資源を輸送できる期間が延長されるだけでなく、輸送される貨物の量も増加する。衛星データと気候モデルを用いたロシアの研究によると、NSRの通航可能な期間は21世紀末までに約4ヵ月から6.5ヵ月に拡大すると予測されている。
(2) NSRは、ロシアの広大な北極圏を通ってバルト海とベーリング海をつなぐものであり、不凍期には航海日数が短縮されることで知られている。中国の大連からオランダのロッテルダムまで、スエズ運河を経由すると航海日数は48日であるのに対し、NSRでは約33日である。時間と費用の両方を節約できる可能性があるため、中国や他の国々が北極圏と世界の海運の可能性を注意深く観察している。NSRの利用拡大を理解することは、ロシアと中国がこの地域の政策立案者として果たす重要な役割を認識することを意味する。 2015年にロシアが2030年までの開発を承認した後、NSRは海上輸送量が著しく増加し、2017年から2018年の間に約900万トン増加している。
(3) NSRへの中国の関与の高まりは、2018年の北極白書と第14次5ヵ年計画で証明されており、北極圏での協力事業への中国の献身を強調している。中国の関心は、北極圏における一帯一路構想の構成要素である「氷上のシルクロード」と呼ばれている。ロシアはこの中国の関心を歓迎しており、Putin大統領は2017年に「シルクロードは北極圏に到達した」と述べ、ロシアはNSRを中国の構想と組み合わせると付け加えている。2019年、中国科学院と福州大学の中国人研究者班は、中国がNSR利用に際し、利用できる可能性が最も高いロシアの港について調査を実施した。したがって、この中ロの提携が何らかの実を結ぶことは驚くべきことではない。2019年以降、NSRの通航回数は増加し、2018年の27回から2019年には37回、2020年には62回と急増している。これに関連して、Northern Sea Route Information Office (NSR情報局)は、過去6年間で交通量が8倍に急増し、2018年の約1,800万トンから2021年には3,000万トン以上に増加したと報告している。
(4) 中国製品輸出の約90%は海上輸送であることが重要である。中国国家海洋局は、21世紀は「海洋の世紀」であると宣言している。中国と欧州の海上貿易は航空貿易の3倍である。NSRは、スエズ運河、南シナ海、マラッカ海峡などの伝統的な海上航路から生じるいくつかの問題に対する実行可能な代替案と見なされている。「マラッカのジレンマ」として知られる戦略的脆弱性を緩和することを目的として、石油と天然ガスの供給ルートを多様化する中国の戦略により、中国は北極圏の輸送を不可欠と見なすようになった。マラッカ海峡への過度の依存は、海峡の狭さと同海峡における海賊による危険性の高まりと相まって、中国の重要な貿易経路を制限し、中国の貿易網にとって大きな障害となっている。それにもかかわらず、中国はこの海峡に大きく依存しており、毎年約650万バレルの原油が中国に送られている。しかし、中国にとっての課題はマラッカ海峡だけにとどまらない。スエズ運河でも南シナ海でも、中国は迫り来る問題を十分に認識している。スエズ運河は年々渋滞が深刻化しており、南シナ海は海賊の攻撃を受け易くなり、航行の安定性や物資の輸出入に不確実性が生じている。
(5) したがって、中国のNSR問題への関与は、新しいエネルギー源と、それらの資源を輸送するためのより安定的で高速な海上交通路の追求に動機付けられている。北極圏における中国とロシアの協力的な取り組みにより、中国遠洋海運集団有限公司(以下、COSCOと言う)は、NSRの航行の約30%に関与している。2021年には、NSRを経由した中国向け船舶の合計26隻の航行が記録され、そのうち14隻をCOSCOが運航した。COSCOは、この航路での14回の航行により、従来の航路と比較して、輸送時間が合計220日短縮され、燃料が6,948トン節約され、合計936万ドルの経費削減ができた。NSRは、スエズ運河の障害を迂回するだけでなく、南シナ海の問題も効果的に回避し、より安全な航路を提供する。また、中国にヨーロッパとの間で商品を輸送するためのより速い航路を提供する。NSRは、中国とロシア間の商品の輸送にとって特に魅力的である。ロシアと中国の年間貿易額は、2012年以降、900億ドル未満から2022年には1,900億ドル以上に増加した。この貿易の多くは、ロシアから中国へのエネルギー供給に関係している。2023年10月、ロシア沿岸の中国への石油出荷量は前年比23%増となり、2023年は日量40万バレルに達した。
(6) NSRをさらに発展させるための取り組みが進行中である。中国交通建設股份有限公司と中国鉄建股份有限公司は、ロシアのコミ共和国での原材料の採掘、新しい鉄道やNSRの輸送用船舶を積み込むための深水港の建設の可能性などについて議論している。中国と他の提携国は「北極圏約1万500km」の光ファイバーケーブルの建設も目指している。この構想は接続性を向上させるだけでなく、データ伝送を増やすことで、この地域の航行の安全性も向上させる。Huaweiは、船舶間、船舶と沿岸間の通信をより速く、より効率的にするための基幹施設の一部の構築を支援している。2023年10月に北京で開催された第3回「一帯一路フォーラム」で、Putin大統領は他国に対し、NSRの開発とNSR東部の起点となる深水港の開発に参加するよう呼びかけている。しかし、Putin大統領の演説で最も注目すべきことは、「2024年から、NSRの耐氷船に認定された貨物船の航行は通年になる」という彼の信念だった。もしこれが本当ならば、この海上交通路に対する中国の関心が高まり、砕氷船や原子力砕氷船の建造にさらに多くの援助がもたらされる可能性が高い。
(7) NSRは、気候変動や砕氷船建造によりますます魅力的になり、地球規模で重要性を増している。NSRの発展における中国の役割は、海上航路を多様化させるという野心、西側諸国と競合しながら新しいエネルギー資源を確保する必要性、より速く安全な航行を追求することに結びついている。
記事参照:Arctic Ambitions: China’s Engagement With the Northern Sea Route
(1) 気候変動により北極圏の航路が実現可能になるにつれて、中国はそれに傾斜している。気候変動の悪影響にもかかわらず、そのような変化が北極圏における中国などの国々の関心の高まりに大きく貢献していることは否定できない。「2050年までに氷がなくなる」と予測する専門家もいる。北極海航路(以下、NSRと言う)については、近年、中国とロシアは特に注目している。ウラジオストクとカリーニングラード間の航海を終えた帆船の二等航海士Ivan Fedyushinは、ベーリング海、チュクチ海、東シベリア海に広がっていた氷原が消えていたという驚くべき報告を行っている。この氷の消失は、北極圏のあらゆるタイプの船舶による北極圏の利用に大きな変化が起きていることを示している。北極の氷が溶けることは、航行の向上をもたらす。それにより北極圏の海上航路を使用して資源を輸送できる期間が延長されるだけでなく、輸送される貨物の量も増加する。衛星データと気候モデルを用いたロシアの研究によると、NSRの通航可能な期間は21世紀末までに約4ヵ月から6.5ヵ月に拡大すると予測されている。
(2) NSRは、ロシアの広大な北極圏を通ってバルト海とベーリング海をつなぐものであり、不凍期には航海日数が短縮されることで知られている。中国の大連からオランダのロッテルダムまで、スエズ運河を経由すると航海日数は48日であるのに対し、NSRでは約33日である。時間と費用の両方を節約できる可能性があるため、中国や他の国々が北極圏と世界の海運の可能性を注意深く観察している。NSRの利用拡大を理解することは、ロシアと中国がこの地域の政策立案者として果たす重要な役割を認識することを意味する。 2015年にロシアが2030年までの開発を承認した後、NSRは海上輸送量が著しく増加し、2017年から2018年の間に約900万トン増加している。
(3) NSRへの中国の関与の高まりは、2018年の北極白書と第14次5ヵ年計画で証明されており、北極圏での協力事業への中国の献身を強調している。中国の関心は、北極圏における一帯一路構想の構成要素である「氷上のシルクロード」と呼ばれている。ロシアはこの中国の関心を歓迎しており、Putin大統領は2017年に「シルクロードは北極圏に到達した」と述べ、ロシアはNSRを中国の構想と組み合わせると付け加えている。2019年、中国科学院と福州大学の中国人研究者班は、中国がNSR利用に際し、利用できる可能性が最も高いロシアの港について調査を実施した。したがって、この中ロの提携が何らかの実を結ぶことは驚くべきことではない。2019年以降、NSRの通航回数は増加し、2018年の27回から2019年には37回、2020年には62回と急増している。これに関連して、Northern Sea Route Information Office (NSR情報局)は、過去6年間で交通量が8倍に急増し、2018年の約1,800万トンから2021年には3,000万トン以上に増加したと報告している。
(4) 中国製品輸出の約90%は海上輸送であることが重要である。中国国家海洋局は、21世紀は「海洋の世紀」であると宣言している。中国と欧州の海上貿易は航空貿易の3倍である。NSRは、スエズ運河、南シナ海、マラッカ海峡などの伝統的な海上航路から生じるいくつかの問題に対する実行可能な代替案と見なされている。「マラッカのジレンマ」として知られる戦略的脆弱性を緩和することを目的として、石油と天然ガスの供給ルートを多様化する中国の戦略により、中国は北極圏の輸送を不可欠と見なすようになった。マラッカ海峡への過度の依存は、海峡の狭さと同海峡における海賊による危険性の高まりと相まって、中国の重要な貿易経路を制限し、中国の貿易網にとって大きな障害となっている。それにもかかわらず、中国はこの海峡に大きく依存しており、毎年約650万バレルの原油が中国に送られている。しかし、中国にとっての課題はマラッカ海峡だけにとどまらない。スエズ運河でも南シナ海でも、中国は迫り来る問題を十分に認識している。スエズ運河は年々渋滞が深刻化しており、南シナ海は海賊の攻撃を受け易くなり、航行の安定性や物資の輸出入に不確実性が生じている。
(5) したがって、中国のNSR問題への関与は、新しいエネルギー源と、それらの資源を輸送するためのより安定的で高速な海上交通路の追求に動機付けられている。北極圏における中国とロシアの協力的な取り組みにより、中国遠洋海運集団有限公司(以下、COSCOと言う)は、NSRの航行の約30%に関与している。2021年には、NSRを経由した中国向け船舶の合計26隻の航行が記録され、そのうち14隻をCOSCOが運航した。COSCOは、この航路での14回の航行により、従来の航路と比較して、輸送時間が合計220日短縮され、燃料が6,948トン節約され、合計936万ドルの経費削減ができた。NSRは、スエズ運河の障害を迂回するだけでなく、南シナ海の問題も効果的に回避し、より安全な航路を提供する。また、中国にヨーロッパとの間で商品を輸送するためのより速い航路を提供する。NSRは、中国とロシア間の商品の輸送にとって特に魅力的である。ロシアと中国の年間貿易額は、2012年以降、900億ドル未満から2022年には1,900億ドル以上に増加した。この貿易の多くは、ロシアから中国へのエネルギー供給に関係している。2023年10月、ロシア沿岸の中国への石油出荷量は前年比23%増となり、2023年は日量40万バレルに達した。
(6) NSRをさらに発展させるための取り組みが進行中である。中国交通建設股份有限公司と中国鉄建股份有限公司は、ロシアのコミ共和国での原材料の採掘、新しい鉄道やNSRの輸送用船舶を積み込むための深水港の建設の可能性などについて議論している。中国と他の提携国は「北極圏約1万500km」の光ファイバーケーブルの建設も目指している。この構想は接続性を向上させるだけでなく、データ伝送を増やすことで、この地域の航行の安全性も向上させる。Huaweiは、船舶間、船舶と沿岸間の通信をより速く、より効率的にするための基幹施設の一部の構築を支援している。2023年10月に北京で開催された第3回「一帯一路フォーラム」で、Putin大統領は他国に対し、NSRの開発とNSR東部の起点となる深水港の開発に参加するよう呼びかけている。しかし、Putin大統領の演説で最も注目すべきことは、「2024年から、NSRの耐氷船に認定された貨物船の航行は通年になる」という彼の信念だった。もしこれが本当ならば、この海上交通路に対する中国の関心が高まり、砕氷船や原子力砕氷船の建造にさらに多くの援助がもたらされる可能性が高い。
(7) NSRは、気候変動や砕氷船建造によりますます魅力的になり、地球規模で重要性を増している。NSRの発展における中国の役割は、海上航路を多様化させるという野心、西側諸国と競合しながら新しいエネルギー資源を確保する必要性、より速く安全な航行を追求することに結びついている。
記事参照:Arctic Ambitions: China’s Engagement With the Northern Sea Route
11月25日「U.S. Navyは早急に行動すべき―米専門家論説」(The National Interest, November 25, 2023)
11月25日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、The Heritage FoundationのCenter for National Defense海軍戦・先端技術担当上席研究員Brent Sadlerの” Is the U.S. Navy Fit for Purpose?”と題する論説を掲載し、ここでBrent Sadlerは習近平はこの10年間で米国との紛争に勝利する能力を構築する努力をしており、これに対応するため米海軍作戦部長は緊急に行動しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在、U.S. Navyは291隻の艦艇を運用している。これは2016年に設定された355隻という艦隊組成の目標をはるかに下回っており、既存の脅威の高さを考えると、実際に必要な数はもっと多い。The Heritage Foundationが毎年発表している軍事力指標では、2015年から一貫して、U.S. Navyが戦闘で成功を収めるには戦力不足と評価している。さらに現在の国際情勢と政治の配慮は、U.S. Navyに迅速に行動することを強いている。
(2) 10月7日、イスラエル南部でハマスがイスラエル人と米国民を襲撃した際、展開中の米空母「フォード」は、同じく「アイゼンハワー」と東地中海で合流したことで、展開の終わりが近づいていた。しかし、「アイゼンハワー」がアラビア海に移動したため、「フォード」の展開が長期化する可能性が高くなっている。
(3) これらの艦艇は、航空団や護衛艦とともに、急速に進展する世界情勢に迅速に対応するためのさまざまな選択肢を米大統領に提供する。しかし、その能力には代償が伴う。イスラエルがハマスに対抗する一方で、イランは中東全域で他の代理勢力に米軍への攻撃を指示している。この脅威に対処するため、米国は2つの空母打撃群に加え、紅海に配備された「バターン」水陸両用戦即応群(Amphibious Ready Group:以下、ARGと言う)を保有している。ここには海兵隊が配備されており、米大統領は脅威を排除し、人質を救出し、現地の米国民を避難させるために部隊を上陸させることができる。しかし、その海兵隊は6ヵ月の展開期間のうち、すでに4ヵ月目に突入している。現在の情勢を考えると、「バターン」ARGも「フォード」と同様、通常の展開期間を超えて待機する可能性が高い。低水準にある艦隊で中東での展開を維持することは、他の重要な地域で必要な抑止力を奪うことになりかねない。
(4) 最も懸念されるのは、中国がますます好戦的で、その自信を深めているアジアでの大規模な紛争である。ここ数ヵ月、中国海軍と空軍が挑発的で危険な行動を繰り返している。2021年以降、中国の無謀な軍事的挑発は180回を数え、その前の10年間の合計を上回っている。先月、中国海警総隊の海警船がPhilippine Coast Guardの巡視船と政府支援船に衝突したが、これは米国の相互防衛義務を発動させる可能性があった。この挑発は、中国が躊躇していないことを明らかにしている。
(5) 課題は、中国への抑止力を高めつつ、中東で攻撃を受けている米国民をいかに守るかである。短期的な最優先課題は、現在海軍が保有している艦艇を迅速に整備し、運用に復帰させることである。この夏には、米国の原子力潜水艦のほぼ半分が港で整備を待っているという状態にあった。これは非常に危険なことである。これらの艦艇は中国との戦争に勝利するためには不可欠な存在である。長期的には、重要な脅威に対応するために艦隊を増強すべきだが、必要な艦隊を確保するまでは、中国に最大の戦略的影響を与えることができる場所、とくに南シナ海で海軍力を運用することを優先しなければならない。
(6) 艦隊を建造するには、造船所と造船能力、そして卓越した技能と経験を持つ労働者と技術者が必要である。現在の艦隊司令官は、原子力艦船を整備できる造船所を2つ追加するよう求めている。現在、造船所は4つしかなく、脅威に見合った艦隊、造船所、労働力を成長させる計画は具体化していない。しかも議会は、そのような計画を策定するための「海軍の将来に関する国家委員会」を設置できずにいる。議会は昨年の国防権限法でこの任務を自らに課しているが、手をこまねいている間に脅威は増大し、無数の危険に対処するためにこれまで以上に思い切った行動と費用が必要となっている。
(7) U.S. Navyは、適切な規模の艦隊、適切な艦艇の構成、そしてそれを実現するための予算を確保する必要がある。しかし、それはすでに時機を逸している。米海軍作戦部長のFranchetti大将は、世界情勢を背景に、緊急性をもって積極的に行動する必要がある。
記事参照:Is the U.S. Navy Fit for Purpose?
(1) 現在、U.S. Navyは291隻の艦艇を運用している。これは2016年に設定された355隻という艦隊組成の目標をはるかに下回っており、既存の脅威の高さを考えると、実際に必要な数はもっと多い。The Heritage Foundationが毎年発表している軍事力指標では、2015年から一貫して、U.S. Navyが戦闘で成功を収めるには戦力不足と評価している。さらに現在の国際情勢と政治の配慮は、U.S. Navyに迅速に行動することを強いている。
(2) 10月7日、イスラエル南部でハマスがイスラエル人と米国民を襲撃した際、展開中の米空母「フォード」は、同じく「アイゼンハワー」と東地中海で合流したことで、展開の終わりが近づいていた。しかし、「アイゼンハワー」がアラビア海に移動したため、「フォード」の展開が長期化する可能性が高くなっている。
(3) これらの艦艇は、航空団や護衛艦とともに、急速に進展する世界情勢に迅速に対応するためのさまざまな選択肢を米大統領に提供する。しかし、その能力には代償が伴う。イスラエルがハマスに対抗する一方で、イランは中東全域で他の代理勢力に米軍への攻撃を指示している。この脅威に対処するため、米国は2つの空母打撃群に加え、紅海に配備された「バターン」水陸両用戦即応群(Amphibious Ready Group:以下、ARGと言う)を保有している。ここには海兵隊が配備されており、米大統領は脅威を排除し、人質を救出し、現地の米国民を避難させるために部隊を上陸させることができる。しかし、その海兵隊は6ヵ月の展開期間のうち、すでに4ヵ月目に突入している。現在の情勢を考えると、「バターン」ARGも「フォード」と同様、通常の展開期間を超えて待機する可能性が高い。低水準にある艦隊で中東での展開を維持することは、他の重要な地域で必要な抑止力を奪うことになりかねない。
(4) 最も懸念されるのは、中国がますます好戦的で、その自信を深めているアジアでの大規模な紛争である。ここ数ヵ月、中国海軍と空軍が挑発的で危険な行動を繰り返している。2021年以降、中国の無謀な軍事的挑発は180回を数え、その前の10年間の合計を上回っている。先月、中国海警総隊の海警船がPhilippine Coast Guardの巡視船と政府支援船に衝突したが、これは米国の相互防衛義務を発動させる可能性があった。この挑発は、中国が躊躇していないことを明らかにしている。
(5) 課題は、中国への抑止力を高めつつ、中東で攻撃を受けている米国民をいかに守るかである。短期的な最優先課題は、現在海軍が保有している艦艇を迅速に整備し、運用に復帰させることである。この夏には、米国の原子力潜水艦のほぼ半分が港で整備を待っているという状態にあった。これは非常に危険なことである。これらの艦艇は中国との戦争に勝利するためには不可欠な存在である。長期的には、重要な脅威に対応するために艦隊を増強すべきだが、必要な艦隊を確保するまでは、中国に最大の戦略的影響を与えることができる場所、とくに南シナ海で海軍力を運用することを優先しなければならない。
(6) 艦隊を建造するには、造船所と造船能力、そして卓越した技能と経験を持つ労働者と技術者が必要である。現在の艦隊司令官は、原子力艦船を整備できる造船所を2つ追加するよう求めている。現在、造船所は4つしかなく、脅威に見合った艦隊、造船所、労働力を成長させる計画は具体化していない。しかも議会は、そのような計画を策定するための「海軍の将来に関する国家委員会」を設置できずにいる。議会は昨年の国防権限法でこの任務を自らに課しているが、手をこまねいている間に脅威は増大し、無数の危険に対処するためにこれまで以上に思い切った行動と費用が必要となっている。
(7) U.S. Navyは、適切な規模の艦隊、適切な艦艇の構成、そしてそれを実現するための予算を確保する必要がある。しかし、それはすでに時機を逸している。米海軍作戦部長のFranchetti大将は、世界情勢を背景に、緊急性をもって積極的に行動する必要がある。
記事参照:Is the U.S. Navy Fit for Purpose?
11月26日「中国の最新空母がカタパルトの試験を開始―米専門家論説」(Naval News, November 26, 2023)
11月26日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、米国のフリーランスのアナリストAlex Luck の“Chinese Aircraft Carrier Fujian Commences Catapult Testing”と題する論説を掲載し、Alex Luckは中国海軍が最新空母「福建」のカタパルトシステムの「静的荷重(dead load)」発射試験を開始したとして 要旨以下のように述べている。
(1) 中国の最新型空母が、電磁カタパルトシステムの「静的荷重」発射試験を開始したことが、中国と西側のソーシャルメディアに出回った映像で確認された。11月26日、中国の軍事マニアたちは、中国のソーシャルメディア・プラットフォームで、Type003空母として知られる「福建」が現在停泊している広大な造船所施設を飛行機で上空から撮影した映像を共有した。ビデオ映像は、新型空母の前方にある2基のタパルトのうちの1つから、福建の前方の係留地の水域に試験車両を発射し、落下させる様子を映し出している。
(2) 11月19日から数日ソーシャルメディア上で共有された上空飛行と衛星からの画像には、「福建」が停泊地から離れる様子が写っていた。この様子から、海上公試への期待が高まったが、それ以前の数週間、「福建」艦上では、海上公試へ向けた乗組員や装備の準備がまったく見られなかったことから、当時はその可能性は低いと思われていた。事実、少なくとも建造と完工に向けた作業は、島の周辺を中心に依然として明らかに継続されているようである。今回の新しい画像を見る限り、この事は中国空母がカタパルトテストを開始したことに関連している可能性が高い。この考え方は、静的荷重試験車両と思われるオレンジ色の大きな物体がいくつか目撃されていることからも裏付けられる。その後数日で、この空母は通常の停泊場所に戻った。「福建」が少し離れてから係留位置に戻ったのは、アングルド・デッキ上にある右舷第3カタパルトの発射位置をテストするためだったのかもしれないが、これは依然として推測である。
(3) 熱狂的なマニアの間では、最初の海上試運転は近い将来、おそらく数カ月以内と予想されているが、「福建」は建造者である江南造船所と運用者である中国海軍にとって、多くの初めての経験を伴う画期的な取り組みであることを考慮することが肝要である。
(4) 米国の最新空母「ジェラルド・フォード」は、「福建」搭載のものと類似している電磁カタパルト発進・回収システムを搭載しているが、2015年6月にジェームズ川で建造会社のNewport News Shipbuildingと最初の静的荷重試験を行った。これは、最初の海上での静的荷重試験から数カ月後、そして最初の自力での海上試運転を開始する約2年前のことである。米国のシステムは電磁式航空機発艦システム(electromagnetic aircraft launch system)を意味するEMALSと呼ばれており、この用語は中国のカタパルトを説明する際にも時々使われる。しかし、両者は異なる開発過程を経ており、中国版にはいくつかの顕著な技術的相違点があると伝えられている。そのため、新しい設計で直面した多様な問題を考慮すると、「ジェラルド・フォード」の試験体制は時間枠に関して非常に大まかな参考に過ぎないかもしれない。中国海軍が「福建」で同様の試験方法を採用する可能性は低い。
記事参照:Chinese Aircraft Carrier Fujian Commences Catapult Testing
(1) 中国の最新型空母が、電磁カタパルトシステムの「静的荷重」発射試験を開始したことが、中国と西側のソーシャルメディアに出回った映像で確認された。11月26日、中国の軍事マニアたちは、中国のソーシャルメディア・プラットフォームで、Type003空母として知られる「福建」が現在停泊している広大な造船所施設を飛行機で上空から撮影した映像を共有した。ビデオ映像は、新型空母の前方にある2基のタパルトのうちの1つから、福建の前方の係留地の水域に試験車両を発射し、落下させる様子を映し出している。
(2) 11月19日から数日ソーシャルメディア上で共有された上空飛行と衛星からの画像には、「福建」が停泊地から離れる様子が写っていた。この様子から、海上公試への期待が高まったが、それ以前の数週間、「福建」艦上では、海上公試へ向けた乗組員や装備の準備がまったく見られなかったことから、当時はその可能性は低いと思われていた。事実、少なくとも建造と完工に向けた作業は、島の周辺を中心に依然として明らかに継続されているようである。今回の新しい画像を見る限り、この事は中国空母がカタパルトテストを開始したことに関連している可能性が高い。この考え方は、静的荷重試験車両と思われるオレンジ色の大きな物体がいくつか目撃されていることからも裏付けられる。その後数日で、この空母は通常の停泊場所に戻った。「福建」が少し離れてから係留位置に戻ったのは、アングルド・デッキ上にある右舷第3カタパルトの発射位置をテストするためだったのかもしれないが、これは依然として推測である。
(3) 熱狂的なマニアの間では、最初の海上試運転は近い将来、おそらく数カ月以内と予想されているが、「福建」は建造者である江南造船所と運用者である中国海軍にとって、多くの初めての経験を伴う画期的な取り組みであることを考慮することが肝要である。
(4) 米国の最新空母「ジェラルド・フォード」は、「福建」搭載のものと類似している電磁カタパルト発進・回収システムを搭載しているが、2015年6月にジェームズ川で建造会社のNewport News Shipbuildingと最初の静的荷重試験を行った。これは、最初の海上での静的荷重試験から数カ月後、そして最初の自力での海上試運転を開始する約2年前のことである。米国のシステムは電磁式航空機発艦システム(electromagnetic aircraft launch system)を意味するEMALSと呼ばれており、この用語は中国のカタパルトを説明する際にも時々使われる。しかし、両者は異なる開発過程を経ており、中国版にはいくつかの顕著な技術的相違点があると伝えられている。そのため、新しい設計で直面した多様な問題を考慮すると、「ジェラルド・フォード」の試験体制は時間枠に関して非常に大まかな参考に過ぎないかもしれない。中国海軍が「福建」で同様の試験方法を採用する可能性は低い。
記事参照:Chinese Aircraft Carrier Fujian Commences Catapult Testing
11月27日「太平洋島嶼国、中国、米国をめぐる最近の地政学的動向―シンガポール専門家論説」(Commentary, RSIS, November 27, 2023)
11月27日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International StudiesのウエブサイトCommentaryは、同School上席非常勤研究員Dr Anne-Marie Schleichの“Pacific Island Countries, China and the US: Recent Geopolitical Trends”と題する論説を掲載し、Dr Anne-Marie Schleichは太平洋島嶼国の間で中国が存在感を増す中、米国、オーストラリア、ニュージーランドも太平洋島嶼国への関与を拡大してきており、太平洋島嶼国にとっては選択肢が増えてきているとして、要旨以下のように述べている
(1) 太平洋島嶼国はいずれも、気候変動の影響、経済的脆弱性、資源不足、技能訓練の欠如、インフラの未整備など同じ様の課題を抱えている。地域の運営機関であるPacific Islands Forum(太平洋諸島フォーラム:以下、PIFと言う)は、PIF加盟国であるオーストラリアの抵抗に対抗して、気候変動対策の強力な提唱者となっている。
(2) 2023年3月にバヌアツが気候変動関連の義務に関する国際司法裁判所からの勧告的意見を求めて提出した国連総会の画期的な決議案には、120ヵ国が共同提案国となっている。小島嶼国連合(Alliance of Small Island States :以下、AOSISと言う)と小島嶼開発途上国(Alliance of Small Island States :SIDS)の2つの国連グループは、気候変動に備えるロビー活動の擁護者となっている。PIF諸国はまた、気候資金の利用の簡素化、災害の危険性の軽減と早期警戒システムへの投資拡大を要求し、不十分な補助金、適応するためには不十分な資金、地域主導の気候変動対策構想の欠如に対する懸念を表明している。太平洋島嶼国は、気候変動との世界的な闘いの牽引者である。彼らは、海洋と気候変動の関係、そして気候正義に関する世界的な行動計画を推進してきた。
(3) Lowy Aid Mapによると、COVID-19危機の間、太平洋地域への援助は47%増加した。しかし、今日では、援助のほぼ半分は借款であり、補助金ではない。基幹施設整備への融資は、最近まで中国と日本にとって隙間的な分野であったが、今や主流となっている。2021年、Asian Development Bank(アジア開発銀行:以下、ADBと言う)は基幹設備整備への融資全体の34%、オーストラリアは18%、中国は15%、日本は12%、世界銀行は6%、EUは4%を提供した。太平洋島嶼国は今や、切実に必要とされている基幹施設投資の提携国を選べる立場にある。
(4) 残念なことに、これはすでに不安定な債務水準を上昇させることにもなる。2021年のInternational Monetary Fund(IMF)の報告書によると、COVID-19の世界的感染拡大時の景気後退後、太平洋地域の6ヵ国は債務危機に陥る危険性が高かった。3つの主要な債権者は、ADB、中国、世界銀行である。
(5) 太平洋島嶼地域は、中国の地政学的利益にとって長い間重要であった。中国は、太平洋への海軍の進出、台湾に対する外交的勝利の達成、太平洋諸国の広大な経済水域における漁業権と海底採掘権の確保、中国系移住者の保護など、さまざまな目標を追求してきた。中国は太平洋島嶼国の大半にとって最大の貿易相手国となっている。「一帯一路」構想の枠組みの中で太平洋の10ヵ国に投資し、多数の大規模基幹施設計画を建設し、融資で賄った。これらは、他の国や資金提供機関が資金提供できない、または資金提供する意思のない計画であった。中国の習近平国家主席の2回の訪問を含む多数の高官級の外交訪問は、早くも2012年にこの地域に対する中国の関心を浮き彫りにしてきた。
(6) 開発金融と安全保障協定は、中国にとって重要な外交手段であり続けている。2022年のLowy Instituteの太平洋援助分析によると、中国の太平洋地域への開発援助は2016年にピークに達し、2億8,700万米ドルであった。2020年は1億8,700米ドルで、2008年以来の低水準となり、この減少傾向は2021年も続いている。その原因の一つは、中国経済の減速にある。現在、中国のインフラ融資は、主にキリバスとソロモン諸島の2ヵ国に集中している。2019年、これらの国々は外交承認を台湾から中国に切り替えている。
(7) 2022年、米国のBiden政権は40年ぶりにAntony Blinken国務長官など多くの高官の政治的・軍事的訪問を行い、太平洋島嶼国とのやや休眠状態にあった関与を開始した。Biden大統領は、2022年11月と2023年9月の2回、ホワイトハウスで開催された米太平洋首脳会議でPIFの首脳をもてなし、米国は、太平洋地域との協力を強化するための道程表である「米太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。
(8) 2022年、Biden大統領は10年間で8億1,000万米ドルの一括援助を発表し、そのうち1億3,000万米ドルを気候変動プロジェクトに充当している。米国政府はまた、違法漁業の取り締まりへの支援を約束し、U.S. Coast Guardは、特にパプアニューギニア(以下、PNGと言う)における現地の能力強化を支援している。
(9) 米国は、戦略的に重要な自由連合盟約、マーシャル諸島、パラオ、ミクロネシア連邦と長年の関係を築いてきた。最近では、20年間で70億米ドルという前例のない一括援助を3ヵ国と締結したが、これは以前の盟約における援助のほぼ2倍の額である。米国は、中国が自らの陣営に3ヵ国を引き込もうとしているにもかかわらず、米国は3ヵ国が米国の提携国であり続けることを望んでいる。
(10) 米国はまた、ソロモン諸島の大使館を30年ぶりに再開し、クック諸島とニウエとの外交関係を樹立し、フィジーにU.S. Agency for International Development(米国際開発庁)事務所を開設し、トンガ、キリバス、バヌアツに大使館を開設することで、太平洋諸国での外交的存在感を高めている。フィジーは米国の太平洋島嶼国戦略の焦点となっている。米国とフィジーは2022年、画期的な防衛・安全保障協定を締結し、安全保障関係を強化した。米国はまた、違法漁業の取り締まりへの支援を約束している。これに続いて、米国とフィジーの貿易投資条約(TIFA)が締結され、フィジーは太平洋島嶼国として唯一、14ヵ国が参加する米国の経済イニシアチブ「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」にも加盟している。
(11) 米国と並行して、オーストラリアとニュージーランドは太平洋地域、特にフィジー、バヌアツ、パプアニューギニアとの長年にわたる関係を強化している。オーストラリアは太平洋への援助を増額し、これまで野心的ではなかった気候政策を若干改善し、太平洋島嶼国とより対等な立場で協力することを約束した。しかし、オーストラリアが最近、大々的に宣伝したツバルとの安全保障協定は、ツバルの外交・安全保障問題においてオーストラリアに拒否権を与えており、太平洋地域との対等なパートナーシップ協力の不吉な兆候のように思われる。
(12) 米国の再関与には潜在的な落とし穴があるかもしれない。自由連合盟約加盟3ヵ国の除く太平洋島嶼国と米国との貿易は最小限に留まっている。貿易協定の欠如と米国市場への参入は、ほとんどの太平洋島嶼国にとって主要な貿易相手国となっている中国と比較して不利な状況である。米国だけでなく中国も、オーストラリア、ニュージーランド、アジア開発銀行、日本、EUなど、古くから活躍している多くの行為者と競合しており、太平洋島嶼国は開発のための提携国の選択肢が増えている。
(13) 太平洋島嶼国は、米中間の地域紛争に巻き込まれることを恐れている。太平洋でのアメリカとフランスの核実験の記憶と、核被害に対する不十分な補償は、AUKUSに対するいくつかの否定的な反応を説明している。南太平洋における原子力潜水艦への懸念がある。慎重な協議がなければ、この複雑な問題は、太平洋島嶼国とAUKUS加盟国の間に分裂を生む可能性がある。
(14) 米国とオーストラリアは、国内外の気候政策をチェックする必要がある。米国のガス・石油探査の掘削権の付与や、オーストラリアの新規石炭火力発電事業の承認、国連決議の不支持は、太平洋島嶼国には受け入れられない。
(15) 太平洋島嶼国への米国の再関与は、高官の訪問や大使館の新設によって判断されるのではなく、太平洋島嶼国の主要な懸念事項である気候危機に対処し、持続可能な開発に貢献し、地域との貿易を増大させる意欲によって判断される。中国は、選ばれた少数の国に外交を集中させ、地域全体との貿易をさらに拡大し、ソフトパワーをいくらか活用するだろう。中庭での地政学的な綱引きは、太平洋島嶼国にとって好機である。太平洋島嶼国は現実的な判断をもって最良の開発の提案を選択する。オセアニアにおける影響力をめぐる競争は激化する。
記事参照:Pacific Island Countries, China and the US: Recent Geopolitical Trends
(1) 太平洋島嶼国はいずれも、気候変動の影響、経済的脆弱性、資源不足、技能訓練の欠如、インフラの未整備など同じ様の課題を抱えている。地域の運営機関であるPacific Islands Forum(太平洋諸島フォーラム:以下、PIFと言う)は、PIF加盟国であるオーストラリアの抵抗に対抗して、気候変動対策の強力な提唱者となっている。
(2) 2023年3月にバヌアツが気候変動関連の義務に関する国際司法裁判所からの勧告的意見を求めて提出した国連総会の画期的な決議案には、120ヵ国が共同提案国となっている。小島嶼国連合(Alliance of Small Island States :以下、AOSISと言う)と小島嶼開発途上国(Alliance of Small Island States :SIDS)の2つの国連グループは、気候変動に備えるロビー活動の擁護者となっている。PIF諸国はまた、気候資金の利用の簡素化、災害の危険性の軽減と早期警戒システムへの投資拡大を要求し、不十分な補助金、適応するためには不十分な資金、地域主導の気候変動対策構想の欠如に対する懸念を表明している。太平洋島嶼国は、気候変動との世界的な闘いの牽引者である。彼らは、海洋と気候変動の関係、そして気候正義に関する世界的な行動計画を推進してきた。
(3) Lowy Aid Mapによると、COVID-19危機の間、太平洋地域への援助は47%増加した。しかし、今日では、援助のほぼ半分は借款であり、補助金ではない。基幹施設整備への融資は、最近まで中国と日本にとって隙間的な分野であったが、今や主流となっている。2021年、Asian Development Bank(アジア開発銀行:以下、ADBと言う)は基幹設備整備への融資全体の34%、オーストラリアは18%、中国は15%、日本は12%、世界銀行は6%、EUは4%を提供した。太平洋島嶼国は今や、切実に必要とされている基幹施設投資の提携国を選べる立場にある。
(4) 残念なことに、これはすでに不安定な債務水準を上昇させることにもなる。2021年のInternational Monetary Fund(IMF)の報告書によると、COVID-19の世界的感染拡大時の景気後退後、太平洋地域の6ヵ国は債務危機に陥る危険性が高かった。3つの主要な債権者は、ADB、中国、世界銀行である。
(5) 太平洋島嶼地域は、中国の地政学的利益にとって長い間重要であった。中国は、太平洋への海軍の進出、台湾に対する外交的勝利の達成、太平洋諸国の広大な経済水域における漁業権と海底採掘権の確保、中国系移住者の保護など、さまざまな目標を追求してきた。中国は太平洋島嶼国の大半にとって最大の貿易相手国となっている。「一帯一路」構想の枠組みの中で太平洋の10ヵ国に投資し、多数の大規模基幹施設計画を建設し、融資で賄った。これらは、他の国や資金提供機関が資金提供できない、または資金提供する意思のない計画であった。中国の習近平国家主席の2回の訪問を含む多数の高官級の外交訪問は、早くも2012年にこの地域に対する中国の関心を浮き彫りにしてきた。
(6) 開発金融と安全保障協定は、中国にとって重要な外交手段であり続けている。2022年のLowy Instituteの太平洋援助分析によると、中国の太平洋地域への開発援助は2016年にピークに達し、2億8,700万米ドルであった。2020年は1億8,700米ドルで、2008年以来の低水準となり、この減少傾向は2021年も続いている。その原因の一つは、中国経済の減速にある。現在、中国のインフラ融資は、主にキリバスとソロモン諸島の2ヵ国に集中している。2019年、これらの国々は外交承認を台湾から中国に切り替えている。
(7) 2022年、米国のBiden政権は40年ぶりにAntony Blinken国務長官など多くの高官の政治的・軍事的訪問を行い、太平洋島嶼国とのやや休眠状態にあった関与を開始した。Biden大統領は、2022年11月と2023年9月の2回、ホワイトハウスで開催された米太平洋首脳会議でPIFの首脳をもてなし、米国は、太平洋地域との協力を強化するための道程表である「米太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。
(8) 2022年、Biden大統領は10年間で8億1,000万米ドルの一括援助を発表し、そのうち1億3,000万米ドルを気候変動プロジェクトに充当している。米国政府はまた、違法漁業の取り締まりへの支援を約束し、U.S. Coast Guardは、特にパプアニューギニア(以下、PNGと言う)における現地の能力強化を支援している。
(9) 米国は、戦略的に重要な自由連合盟約、マーシャル諸島、パラオ、ミクロネシア連邦と長年の関係を築いてきた。最近では、20年間で70億米ドルという前例のない一括援助を3ヵ国と締結したが、これは以前の盟約における援助のほぼ2倍の額である。米国は、中国が自らの陣営に3ヵ国を引き込もうとしているにもかかわらず、米国は3ヵ国が米国の提携国であり続けることを望んでいる。
(10) 米国はまた、ソロモン諸島の大使館を30年ぶりに再開し、クック諸島とニウエとの外交関係を樹立し、フィジーにU.S. Agency for International Development(米国際開発庁)事務所を開設し、トンガ、キリバス、バヌアツに大使館を開設することで、太平洋諸国での外交的存在感を高めている。フィジーは米国の太平洋島嶼国戦略の焦点となっている。米国とフィジーは2022年、画期的な防衛・安全保障協定を締結し、安全保障関係を強化した。米国はまた、違法漁業の取り締まりへの支援を約束している。これに続いて、米国とフィジーの貿易投資条約(TIFA)が締結され、フィジーは太平洋島嶼国として唯一、14ヵ国が参加する米国の経済イニシアチブ「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」にも加盟している。
(11) 米国と並行して、オーストラリアとニュージーランドは太平洋地域、特にフィジー、バヌアツ、パプアニューギニアとの長年にわたる関係を強化している。オーストラリアは太平洋への援助を増額し、これまで野心的ではなかった気候政策を若干改善し、太平洋島嶼国とより対等な立場で協力することを約束した。しかし、オーストラリアが最近、大々的に宣伝したツバルとの安全保障協定は、ツバルの外交・安全保障問題においてオーストラリアに拒否権を与えており、太平洋地域との対等なパートナーシップ協力の不吉な兆候のように思われる。
(12) 米国の再関与には潜在的な落とし穴があるかもしれない。自由連合盟約加盟3ヵ国の除く太平洋島嶼国と米国との貿易は最小限に留まっている。貿易協定の欠如と米国市場への参入は、ほとんどの太平洋島嶼国にとって主要な貿易相手国となっている中国と比較して不利な状況である。米国だけでなく中国も、オーストラリア、ニュージーランド、アジア開発銀行、日本、EUなど、古くから活躍している多くの行為者と競合しており、太平洋島嶼国は開発のための提携国の選択肢が増えている。
(13) 太平洋島嶼国は、米中間の地域紛争に巻き込まれることを恐れている。太平洋でのアメリカとフランスの核実験の記憶と、核被害に対する不十分な補償は、AUKUSに対するいくつかの否定的な反応を説明している。南太平洋における原子力潜水艦への懸念がある。慎重な協議がなければ、この複雑な問題は、太平洋島嶼国とAUKUS加盟国の間に分裂を生む可能性がある。
(14) 米国とオーストラリアは、国内外の気候政策をチェックする必要がある。米国のガス・石油探査の掘削権の付与や、オーストラリアの新規石炭火力発電事業の承認、国連決議の不支持は、太平洋島嶼国には受け入れられない。
(15) 太平洋島嶼国への米国の再関与は、高官の訪問や大使館の新設によって判断されるのではなく、太平洋島嶼国の主要な懸念事項である気候危機に対処し、持続可能な開発に貢献し、地域との貿易を増大させる意欲によって判断される。中国は、選ばれた少数の国に外交を集中させ、地域全体との貿易をさらに拡大し、ソフトパワーをいくらか活用するだろう。中庭での地政学的な綱引きは、太平洋島嶼国にとって好機である。太平洋島嶼国は現実的な判断をもって最良の開発の提案を選択する。オセアニアにおける影響力をめぐる競争は激化する。
記事参照:Pacific Island Countries, China and the US: Recent Geopolitical Trends
11月30日「パキスタンのグワダル港、中国のマラッカ・ジレンマ解決の代替案となるか―パキスタン・コラムニスト論説」(Think China, November 30, 2023)
11月30日付のシンガポールの英字eマガジンThink Chinaは、パキスタンのフリーのコラムニストSyed Fazl-e-Haiderの “Will Pakistan's Gwadar port resolve China's Malacca dilemma?”と題する論説を掲載し、ここでSyed Fazl-e-Haiderはパキスタンのグワダル港が中央アジアとペルシャ湾岸からパキスタン経由で中国西部に至るエネルギー回廊の起点となることが想定されているが、マラッカ海峡経由の代替路としてのグワダル港開発を含む、中国の壮大なエネルギー安全保障計画にとって、その実現の鍵となるのが治安問題であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は現在、世界最大の石油輸入国であり、中東からの石油輸入は全体の60%を占め、中国の全石油輸入の80%がマラッカ海峡を通峡している。したがって、マラッカ海峡の封鎖は、中国のエネルギー生命線が断たれることを意味する。中国は何十年も、2003年に当時の胡錦濤国家主席が初めて言及した「マラッカ・ジレンマ」に直面してきた。さらに、国境を巡って対峙する中印関係の現状から、中国は依然として、シーレーンに対するより強い支配力を持つU.S. Navy に支援されたIndian Navyによってインド洋経由のエネルギー輸送が遮断される脅威を認識している。こうした環境を考慮して、中国は、U.S. Navyの優位に左右されない陸上経由の石油供給路の確保を切望してきた。投資額620億ドルの「中国・パキスタン経済回廊(以下、CPECと言う)」は、グワダル港から高速道路、鉄道及びパイプラインで中国西部と連結することになっており、中国の「一帯一路構想(BRI)」の旗艦計画である。グワダル港はホルムズ海峡の東方624海里にあり、中国が建設し、運用している。
(2) グワダル港は開発の第2段階にあるが、大幅に遅れている。最終的には、同港の水深を大型船が入港可能な16mとし、さらに将来的には水深を20mとし、域内で最深水港とする計画である。現在、グワダル港の航行水路の補修浚渫工事は、2023年2月のGwadar Port Authority(グワダル港湾局:以下、GPAと言う)との協定に基づき、中国港湾工程公司が5,700万ドルの費用で実施している。GPA長官によれば、浚渫作業は2024年3月~4月までに完了予定で、14.5mの操業水深に回復する。しかしながら現在のところ、グワダル港には大型原油タンカーを受け入れる能力がなく、バースはわずか4本で、1本はRo-Ro船専用バースで、他の3本は従来型のバースである。同港の地元、バルチスターン州の政治専門家は「パキスタンの政治的不確実性や治安問題が解決されない限り、直ちにバースが増設されるとは思われない。近い将来、中国やパキスタンにとってそれは不可能に思える」と指摘している。国際的な石油輸送の主力である、少なくとも25万トン級の超大型原油タンカーの入港には少なくとも18mの水深が必要とされるが、GPAは過去20年間、水深14.5mの操業深度さえ維持することができなかった。したがって、グワダルを石油化学のハブとし、中東からの石油輸入に利用するという中国の夢は、今後10年間で実現する可能性は低いように思われる。
(3) ある試算によれば、中国への燃料輸送は、既存のマラッカ海峡経由の航路では40日近くを要するのに比して、CPEC経由ではわずか7日で済むという。CPEC構想の下で、グワダルからカラコルム・ハイウェイとクンジェラブ峠(紅其拉甫達坂)経由で新疆ウイグル自治区に至る石油パイプラインが建設中であった。このパイプラインは、南シナ海、東シナ海そして黄海までの危険な海上交通路に替わって、中国にとって中東からの最短路になるはずであった。中国の技術者は約10年前に、新疆ウイグル自治区のカーシ(喀什)とグワダルを結ぶ鉄道と石油パイプライン建設の実現可能性調査を完了していたが、パイプライン建設は全く進展していない。その主たる理由は、このヒマラヤ山脈横断の石油パイプライン建設に伴う資材補給上の困難と所要経費増に加えて、パキスタン国内の輸送路の安全確保にあった。
(4) 理論的にはグワダル港は、その地政学的な位置から、ホルムズ海峡とマラッカ海峡という2つのチョークポイントのどちらか、あるいはその両方が同時に封鎖される事態になっても、同港経由による中国への石油輸入には影響しない。しかしながら、同港にはこの切実に必要とされる石油処理バースがない。しかも、マラッカ・ジレンマを解決するための中国の壮大なエネルギー安全保障計画の成否は、パキスタンの政治的安定性とCPEC計画の安全確保に大きく依存しているのである。地元の日刊英字紙、『バロチスタン・エクスプレス』編集長は「治安が最大の問題」と指摘し、「武装過激派集団の攻撃を受けているパキスタン全体の治安問題が解決されなければ、グワダル港から中国西部への陸路での石油輸送はほぼ不可能である」と語っている。最近のパキスタンの治安部隊と中国の権益に対するテロ攻撃の急増は、CPEC計画を保護するための効果的な安全保障計画を必要としている。同時に、パキスタン政府は、反乱勢力のバローチ・グループとの政治的和解過程を開始する必要がある。
記事参照:Will Pakistan's Gwadar port resolve China's Malacca dilemma?
(1) 中国は現在、世界最大の石油輸入国であり、中東からの石油輸入は全体の60%を占め、中国の全石油輸入の80%がマラッカ海峡を通峡している。したがって、マラッカ海峡の封鎖は、中国のエネルギー生命線が断たれることを意味する。中国は何十年も、2003年に当時の胡錦濤国家主席が初めて言及した「マラッカ・ジレンマ」に直面してきた。さらに、国境を巡って対峙する中印関係の現状から、中国は依然として、シーレーンに対するより強い支配力を持つU.S. Navy に支援されたIndian Navyによってインド洋経由のエネルギー輸送が遮断される脅威を認識している。こうした環境を考慮して、中国は、U.S. Navyの優位に左右されない陸上経由の石油供給路の確保を切望してきた。投資額620億ドルの「中国・パキスタン経済回廊(以下、CPECと言う)」は、グワダル港から高速道路、鉄道及びパイプラインで中国西部と連結することになっており、中国の「一帯一路構想(BRI)」の旗艦計画である。グワダル港はホルムズ海峡の東方624海里にあり、中国が建設し、運用している。
(2) グワダル港は開発の第2段階にあるが、大幅に遅れている。最終的には、同港の水深を大型船が入港可能な16mとし、さらに将来的には水深を20mとし、域内で最深水港とする計画である。現在、グワダル港の航行水路の補修浚渫工事は、2023年2月のGwadar Port Authority(グワダル港湾局:以下、GPAと言う)との協定に基づき、中国港湾工程公司が5,700万ドルの費用で実施している。GPA長官によれば、浚渫作業は2024年3月~4月までに完了予定で、14.5mの操業水深に回復する。しかしながら現在のところ、グワダル港には大型原油タンカーを受け入れる能力がなく、バースはわずか4本で、1本はRo-Ro船専用バースで、他の3本は従来型のバースである。同港の地元、バルチスターン州の政治専門家は「パキスタンの政治的不確実性や治安問題が解決されない限り、直ちにバースが増設されるとは思われない。近い将来、中国やパキスタンにとってそれは不可能に思える」と指摘している。国際的な石油輸送の主力である、少なくとも25万トン級の超大型原油タンカーの入港には少なくとも18mの水深が必要とされるが、GPAは過去20年間、水深14.5mの操業深度さえ維持することができなかった。したがって、グワダルを石油化学のハブとし、中東からの石油輸入に利用するという中国の夢は、今後10年間で実現する可能性は低いように思われる。
(3) ある試算によれば、中国への燃料輸送は、既存のマラッカ海峡経由の航路では40日近くを要するのに比して、CPEC経由ではわずか7日で済むという。CPEC構想の下で、グワダルからカラコルム・ハイウェイとクンジェラブ峠(紅其拉甫達坂)経由で新疆ウイグル自治区に至る石油パイプラインが建設中であった。このパイプラインは、南シナ海、東シナ海そして黄海までの危険な海上交通路に替わって、中国にとって中東からの最短路になるはずであった。中国の技術者は約10年前に、新疆ウイグル自治区のカーシ(喀什)とグワダルを結ぶ鉄道と石油パイプライン建設の実現可能性調査を完了していたが、パイプライン建設は全く進展していない。その主たる理由は、このヒマラヤ山脈横断の石油パイプライン建設に伴う資材補給上の困難と所要経費増に加えて、パキスタン国内の輸送路の安全確保にあった。
(4) 理論的にはグワダル港は、その地政学的な位置から、ホルムズ海峡とマラッカ海峡という2つのチョークポイントのどちらか、あるいはその両方が同時に封鎖される事態になっても、同港経由による中国への石油輸入には影響しない。しかしながら、同港にはこの切実に必要とされる石油処理バースがない。しかも、マラッカ・ジレンマを解決するための中国の壮大なエネルギー安全保障計画の成否は、パキスタンの政治的安定性とCPEC計画の安全確保に大きく依存しているのである。地元の日刊英字紙、『バロチスタン・エクスプレス』編集長は「治安が最大の問題」と指摘し、「武装過激派集団の攻撃を受けているパキスタン全体の治安問題が解決されなければ、グワダル港から中国西部への陸路での石油輸送はほぼ不可能である」と語っている。最近のパキスタンの治安部隊と中国の権益に対するテロ攻撃の急増は、CPEC計画を保護するための効果的な安全保障計画を必要としている。同時に、パキスタン政府は、反乱勢力のバローチ・グループとの政治的和解過程を開始する必要がある。
記事参照:Will Pakistan's Gwadar port resolve China's Malacca dilemma?
11月30日「英国はインド太平洋地域の国際秩序をいかにして支えるか―オーストラリア専門家論説」(9Dashline, November 30, 2023)
11月30日付のインド太平洋関連インターネットメディア 9Dashlineは、University of Sydney国際安全保障学部准教授兼政策研究大学院大学客員研究員Thomas Wilkins博士の‶HOW THE UK SUPPORTS REGIONAL ORDER IN THE INDO-PACIFIC ″と題する論説を掲載し、ここでThomas WilkinsはEU離脱後の英国がインド太平洋地域において安全保障と経済の両面で各国との関係を拡充することが、英国の国力回復と国際的な地位向上につながるとして、要旨次のとおり述べている。
(1) フランスを除けば、英国はインド太平洋地域に大きな影響力を持つ唯一のヨーロッパの国である。フランスがインド洋と太平洋の海外領土を活用し、「常駐大国」としての地位を確立しているのに対し、英国はこの地域での一連のゆるぎない提携と少数国間枠組みを強みとしている。フランスが2018年に正式な「インド太平洋戦略」文書を公布したのに対し、英国はそれに追随していないが、非公式な「インド太平洋戦略」の要素は、2021年のIntegrated Review(統合レビュー:以下、IRと言う)と2023年Integrated Review Refresh(統合レビュー更新版:IRR)に含まれている。フランスは、2021年のEUのインド太平洋協力戦略と連動して自国のインド太平洋戦略を活用でき、さらに優位に立って存在感を増し注目を集めている。英国はEUから離脱したが、この地域の安全保障に貢献するための十分な資質と変化をもたらすだけの資源も国際関係も保持している。
(2) 2020年の英国のEU離脱は物議を醸し、険悪な雰囲気になったが、「グローバル・ブリテン」のスローガンの下、政策立案者による英国の役割再定義への取り組みに拍車がかかった。世界的な役割を果たす意欲と能力が残っていることから、英国が(再)登場する舞台としてインド太平洋地域に注目が集まった。IRによってインド太平洋に関する公式な戦略的見通しを発表したことで、この地域における英国の目標が明確にされた。それは3つに集約され、第1はこの地域の経済的潜在力を活用し、自国の経済成長と繁栄を刺激すること。2つ目は、地政学的危険性を抱えるこの地域の安全保障と戦略的安定の維持に貢献すること。第3は、国際法と国際規範を支持し、この地域の民主主義体制を支援することによって、「自由主義に基づく国際秩序」の概念を強化することである。
(3) 英国の戦略目標は、利用可能な資産に見合ったものであるが、英国政府には地域関係国によって決定される勢力の均衡を再構築する意図はない。英国は、「ハード」および「ソフト」パワーの資産を組み合わせて活用することを目指している。GDPが3兆1,300億ドル、国防予算が680億ドルで、強力な科学技術基盤に支えられた英国は、依然として大国である。これらの国力資源はヨーロッパ北部に集中しているため、より遠くでその力を全面的に発揮することは難しいが、Royal Navyは2021年にインド太平洋海域に空母打撃群を展開する能力を実証しており、将来も再展開の可能性がある。常備態勢は、哨戒艦の現地駐留や多国間軍事演習への定期的な参加など控えめである。英国はまた、この地域における重要な経済主体であり、多くのFTA(自由貿易協定)を締結し、かなりのFDI(対外直接投資)を流入させ、金融網を構築している。これらの国家的資源と能力は、米国、中国、日本、インド等には及ばないものの、ある程度の影響力を行使することができ、地域国家にとっては、貴重な「水平線の向こう側」の提携国と考えられている。
(4) 英国政府高官は、インド太平洋において英国が独自の役割を果たすつもりはなく、むしろ地域の同盟国や提携国と関わり、支援することを繰り返し明らかにしてきた。そこで、提携網とそれらを連接し、より高次の機能を発揮させるJames Cleverly英外相が「ネットワークとグリッド(network & grid)」と呼ぶものが、英国政府の地域的展望の支柱の1つとして役立っている。英国は同盟国やパートナーとの関わりを持ち、さらにこの地域の主要な多国間枠組みや少国間枠組みに関与しており、地域全体への影響力という点で、フランスを凌駕する可能性がある。英国は、米国の強固な同盟国として、国際法と国際規範、自由で公正な貿易、経済的関係と繁栄を促進し、現状を損なう強圧的活動に対抗する「自由で開かれたインド太平洋」の秩序を構築するという米国政府の目標とおおむね一致している。多くの緊密な安全保障上の提携国の中でも、オーストラリア、日本、シンガポールとの2国間戦略的提携は際立っている。英国はオーストラリア主催の軍事演習TALISMAN SABREに参加し、オーストラリア政府と幅広い防衛協議や交流を続けている。2020年に締結された日英戦略的パートナーシップは、複数の防衛協定や2国間軍事演習を実施する等、急速に加速している。シンガポールは英国のシンガポール支援部隊を受け入れているほか、英国の開発金融のハブとしても機能している。
(5) こうした2国間のつながりを大いに高めているのは、英国が関連する少国間枠組みに加盟していることである。オーストラリアと米国の場合、オーストラリアと英国に次世代原子力潜水艦を供給することを目的とした3国間のAUKUSとそれに関連する重要技術や新興技術に関する協力がある。これには、Global Combat Aircraft Programme(グローバル戦闘航空プログラム)のもとで日本およびイタリアと次世代戦闘機の開発に取り組む合意も付随している。英国はまた、開発に重点を置いた少国間枠組み「ブルー・パシフィック・パートナーシップ」を通じて、両国や他の国とも協力している。シンガポールやオーストラリアとの防衛上のつながりは、ニュージーランドやマレーシアとともに、長年の5ヵ国防衛協定にも表れている。このような少国間枠組みは、さまざまな2国間関係をまとめ、また拡大するものでもある。英国は、国連常任理事国であるほかファイブ・アイズにも加盟するなど、すべての多国間枠組みの加盟国あるいは参加国であることに加え、太平洋諸島フォーラムのテーブルにも着き、環太平洋パートナーシップに向けた包括的かつ進歩的協定(Comprehensive and Progressive Agreement toward Transpacific Partnership)への加盟を目指している。EU離脱後の英国を排斥しようとするEU内の動きに逆行するように、他の欧州諸国は、インド太平洋における提携国としての英国の価値を認め、この地域での自国の目的達成に向けて協力に熱心である。たとえば、イタリアはグローバル戦闘航空プログラムの参加国で、現在独自の「インド太平洋戦略」を策定中であり、フランスは将来的に空母打撃群を共同配備する選択肢を模索している。
(6) Sunak政権は、不安定な安全保障情勢の中で自国の位置づけを見直そうとしており、さまざまな手段を通じてインド太平洋の地域秩序を支える重要な役割を果たそうとしている。英国単独で地域の均衡を形成することはできないが、「自由で開かれたインド太平洋」の秩序に対する英国の貢献は、中国以外で広く評価されている。 英国の現在の経済的苦境を考慮すると、英国にとっての課題は、インド太平洋への「傾斜」がまさに「恒久的な」政策への転換であるという約束を実現することにある。自国に危機が迫り、財政が逼迫しているにもかかわらず、英国はその新しい戦略的取り組みがまだら模様ながら、この地域に熱心に取り組んでいるように思われる。限られた関心と資源の制約を克服するために、英国は大いに宣伝されている「ネットワークとグリッド」を活用し、欧州や地域の提携国との協力機会を模索しなければならないであろう。
記事参照:HOW THE UK SUPPORTS REGIONAL ORDER IN THE INDO-PACIFIC
(1) フランスを除けば、英国はインド太平洋地域に大きな影響力を持つ唯一のヨーロッパの国である。フランスがインド洋と太平洋の海外領土を活用し、「常駐大国」としての地位を確立しているのに対し、英国はこの地域での一連のゆるぎない提携と少数国間枠組みを強みとしている。フランスが2018年に正式な「インド太平洋戦略」文書を公布したのに対し、英国はそれに追随していないが、非公式な「インド太平洋戦略」の要素は、2021年のIntegrated Review(統合レビュー:以下、IRと言う)と2023年Integrated Review Refresh(統合レビュー更新版:IRR)に含まれている。フランスは、2021年のEUのインド太平洋協力戦略と連動して自国のインド太平洋戦略を活用でき、さらに優位に立って存在感を増し注目を集めている。英国はEUから離脱したが、この地域の安全保障に貢献するための十分な資質と変化をもたらすだけの資源も国際関係も保持している。
(2) 2020年の英国のEU離脱は物議を醸し、険悪な雰囲気になったが、「グローバル・ブリテン」のスローガンの下、政策立案者による英国の役割再定義への取り組みに拍車がかかった。世界的な役割を果たす意欲と能力が残っていることから、英国が(再)登場する舞台としてインド太平洋地域に注目が集まった。IRによってインド太平洋に関する公式な戦略的見通しを発表したことで、この地域における英国の目標が明確にされた。それは3つに集約され、第1はこの地域の経済的潜在力を活用し、自国の経済成長と繁栄を刺激すること。2つ目は、地政学的危険性を抱えるこの地域の安全保障と戦略的安定の維持に貢献すること。第3は、国際法と国際規範を支持し、この地域の民主主義体制を支援することによって、「自由主義に基づく国際秩序」の概念を強化することである。
(3) 英国の戦略目標は、利用可能な資産に見合ったものであるが、英国政府には地域関係国によって決定される勢力の均衡を再構築する意図はない。英国は、「ハード」および「ソフト」パワーの資産を組み合わせて活用することを目指している。GDPが3兆1,300億ドル、国防予算が680億ドルで、強力な科学技術基盤に支えられた英国は、依然として大国である。これらの国力資源はヨーロッパ北部に集中しているため、より遠くでその力を全面的に発揮することは難しいが、Royal Navyは2021年にインド太平洋海域に空母打撃群を展開する能力を実証しており、将来も再展開の可能性がある。常備態勢は、哨戒艦の現地駐留や多国間軍事演習への定期的な参加など控えめである。英国はまた、この地域における重要な経済主体であり、多くのFTA(自由貿易協定)を締結し、かなりのFDI(対外直接投資)を流入させ、金融網を構築している。これらの国家的資源と能力は、米国、中国、日本、インド等には及ばないものの、ある程度の影響力を行使することができ、地域国家にとっては、貴重な「水平線の向こう側」の提携国と考えられている。
(4) 英国政府高官は、インド太平洋において英国が独自の役割を果たすつもりはなく、むしろ地域の同盟国や提携国と関わり、支援することを繰り返し明らかにしてきた。そこで、提携網とそれらを連接し、より高次の機能を発揮させるJames Cleverly英外相が「ネットワークとグリッド(network & grid)」と呼ぶものが、英国政府の地域的展望の支柱の1つとして役立っている。英国は同盟国やパートナーとの関わりを持ち、さらにこの地域の主要な多国間枠組みや少国間枠組みに関与しており、地域全体への影響力という点で、フランスを凌駕する可能性がある。英国は、米国の強固な同盟国として、国際法と国際規範、自由で公正な貿易、経済的関係と繁栄を促進し、現状を損なう強圧的活動に対抗する「自由で開かれたインド太平洋」の秩序を構築するという米国政府の目標とおおむね一致している。多くの緊密な安全保障上の提携国の中でも、オーストラリア、日本、シンガポールとの2国間戦略的提携は際立っている。英国はオーストラリア主催の軍事演習TALISMAN SABREに参加し、オーストラリア政府と幅広い防衛協議や交流を続けている。2020年に締結された日英戦略的パートナーシップは、複数の防衛協定や2国間軍事演習を実施する等、急速に加速している。シンガポールは英国のシンガポール支援部隊を受け入れているほか、英国の開発金融のハブとしても機能している。
(5) こうした2国間のつながりを大いに高めているのは、英国が関連する少国間枠組みに加盟していることである。オーストラリアと米国の場合、オーストラリアと英国に次世代原子力潜水艦を供給することを目的とした3国間のAUKUSとそれに関連する重要技術や新興技術に関する協力がある。これには、Global Combat Aircraft Programme(グローバル戦闘航空プログラム)のもとで日本およびイタリアと次世代戦闘機の開発に取り組む合意も付随している。英国はまた、開発に重点を置いた少国間枠組み「ブルー・パシフィック・パートナーシップ」を通じて、両国や他の国とも協力している。シンガポールやオーストラリアとの防衛上のつながりは、ニュージーランドやマレーシアとともに、長年の5ヵ国防衛協定にも表れている。このような少国間枠組みは、さまざまな2国間関係をまとめ、また拡大するものでもある。英国は、国連常任理事国であるほかファイブ・アイズにも加盟するなど、すべての多国間枠組みの加盟国あるいは参加国であることに加え、太平洋諸島フォーラムのテーブルにも着き、環太平洋パートナーシップに向けた包括的かつ進歩的協定(Comprehensive and Progressive Agreement toward Transpacific Partnership)への加盟を目指している。EU離脱後の英国を排斥しようとするEU内の動きに逆行するように、他の欧州諸国は、インド太平洋における提携国としての英国の価値を認め、この地域での自国の目的達成に向けて協力に熱心である。たとえば、イタリアはグローバル戦闘航空プログラムの参加国で、現在独自の「インド太平洋戦略」を策定中であり、フランスは将来的に空母打撃群を共同配備する選択肢を模索している。
(6) Sunak政権は、不安定な安全保障情勢の中で自国の位置づけを見直そうとしており、さまざまな手段を通じてインド太平洋の地域秩序を支える重要な役割を果たそうとしている。英国単独で地域の均衡を形成することはできないが、「自由で開かれたインド太平洋」の秩序に対する英国の貢献は、中国以外で広く評価されている。 英国の現在の経済的苦境を考慮すると、英国にとっての課題は、インド太平洋への「傾斜」がまさに「恒久的な」政策への転換であるという約束を実現することにある。自国に危機が迫り、財政が逼迫しているにもかかわらず、英国はその新しい戦略的取り組みがまだら模様ながら、この地域に熱心に取り組んでいるように思われる。限られた関心と資源の制約を克服するために、英国は大いに宣伝されている「ネットワークとグリッド」を活用し、欧州や地域の提携国との協力機会を模索しなければならないであろう。
記事参照:HOW THE UK SUPPORTS REGIONAL ORDER IN THE INDO-PACIFIC
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) A Paradigm Shift in America’s Asia Policy
https://www.foreignaffairs.com/asia/paradigm-shift-americas-asia-policy
Foreign Affairs, November 21, 2023
By John Lee, a Senior Fellow at the Hudson Institute
2023年11月21日、米保守系シンクタンクHudson InstituteのJohn Lee上席研究員は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" A Paradigm Shift in America’s Asia Policy "と題する論説を寄稿した。1988年のGeorge Shultz米国務長官による3週間のアジア歴訪をNicholas Burnsは、2021年のForeign Affairsで「外交の庭の草取り、水やり、見守り」と表現しているが、これは米国の利益は軽いタッチの外交によって最もよく達成されるという認識が根底にあり、高圧的な圧力よりも、経済的・政治的自由化のほうがこの地域の国々を世界の自由民主主義国家と協調させることができるという考え方だったとJohn Leeは解説している。しかし、John Lee は米政府の冷戦後のアジア戦略はもはや通用しないと喝破した上で、貿易と開発に重点を置くあまり、多くのアジア諸国は自国の軍事力を強化することを怠り、中国の侵略に対して脆弱なままになっている一方、中国は1930年代以降、どの国よりも急速に平時の軍備増強を進めてきたと指摘し、現在中立の立場をとっている国々を米国の積極的な提携国に変えることは、この地域をより安全にし、中国の領土的・地政学的野心に対抗するために必要不可欠であると主張している。
(2) China Takes Advantage of a New Era of World War
https://nationalinterest.org/feature/china-takes-advantage-new-era-world-war-207521
The National Interest, November 27, 2023
By Dan Blumenthal, a senior fellow at the American Enterprise Institute
2023年11月27日、米シンクタンクAmerican Enterprise Instituteの上席研究員Dan Blumenthalは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“China Takes Advantage of a New Era of World War”と題する論説を寄稿した。その中で、①米国は、ウクライナの膠着状態と、ハマスとその関連組織を撲滅するためのイスラエルによる長期戦に悩まされており、またこの中東紛争は、イランが関与することによって事態が拡大する可能性がある。②米政府がウクライナ戦略に苦慮する中、中国とロシアの貿易額は2023年に30%増加し、ロシア政府に重要な軍資金を提供している。③中国はイランの無人機開発とそれをロシアに提供することを支援していると伝えられている。④習近平は最近Putinを称え、中ロ包括的戦略的パートナーシップの発展は長期的な誓約であると述べている。⑤中国政府は、ロシアを米国の同盟体制を崩壊させ、別の世界秩序を構築するための同志と見なしている。⑥中国はイランにとって最大の貿易相手国であると同時に、外交的・軍事的支援を行っており、イランは上海協力機構に正式に加盟した。⑦中国はハマスへの非難を拒否し、代わりにイスラエルを紛争における侵略者として表現し、ユダヤ人国家に対する米国の支援を批判している。⑧一方で、中国はフィリピン、日本、台湾に対し、3つの威圧を同時に展開している。⑨米国は軍事的展開と外交的関与の両方を高め、より強固な対中連合を構築する必要があるが、10年以上にわたって国防資金が不足している。⑩中国の経済的困難を考えれば、さらなる圧力をかける時だったはずだが、Biden政権は中国との緊張緩和を模索している。⑪米国の軍事物資在庫を自国用とウクライナ、台湾、イスラエルへの移転用に増やし、太平洋における抑止力の主力である米原子力潜水艦部隊を強化するための資金を提供するための合意が必要である。⑫国防予算を当面毎年5%ずつ増額し、U.S. Department of Defenseの新しい態勢計画に適切な資源を提供する必要があるといった主張を述べている。
(3) Taiwan and the True Sources of Deterrence
https://www.foreignaffairs.com/taiwan/taiwan-china-true-sources-deterrence?utm
Foreign Affairs.com, November 30, 2023
By Bonnie S. Glaser, Managing Director of the Indo-Pacific Program at the German Marshall Fund of the United States
Jessica Chen Weiss, the Michael J. Zak Professor for China and Asia-Pacific Studies at Cornell University, a Senior Fellow at the Asia Society Policy Institute Center for China Analysis, and a former member of the U.S. State Department’s Policy Planning Staff
Thomas J. Christensen, James T. Shotwell Professor of International Relations at Columbia University’s School of International and Public Affairs and a Senior Adviser at the U.S. State Department’s China Coordination Office
2023年11月21日、米シンクタンクGerman Marshall Fund 執行役員Bonnie S. Glaser、米Cornell University のJessica Chen Weiss教授、米Columbia University のThomas J. Christensen教授は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" Taiwan and the True Sources of Deterrence "と題する論説を寄稿した。その中で3名は、中国の軍事力の強大化と台湾に対する攻撃的な姿勢の強まりにより、台湾海峡における抑止力はかつてないほど厳しいものとなっており、米政府は台湾軍が沿岸防衛や防空兵器の備蓄と訓練を行い、強固な民間防衛部隊を編成し、食料や燃料などの重要物資の戦略的備蓄を行うことで、台湾への侵攻や封鎖を抑止し、必要であれば撃退できるよう支援することができるし、米軍はまた、より強力で機敏、かつ地理的に分散した軍事力の配備をこの地域に構築すべきであると指摘した上で、しかし抑止力とは兵器類や戦略だけの問題ではなく、それは抑止戦略の一部にすぎないとし、ノーベル経済学賞を受賞したThomas Schellingが数年前に書いたように「『あと一歩踏み込んだら撃つぞ』という抑止力の脅しとなり得るのは、『もしあなたがやめたら、私はやらないぞ』という暗黙の保証が伴っている場合だけである」と指摘している。そして3名は、米国が台湾を正式に主権国家として承認したり、台湾防衛のための明確な同盟を約束したりすることを示唆するなどの過去に米国の元高官や現高官が行った不見識な発言は、もし採用されれば、軍事的な準備態勢の欠如と同様に、確実に保証を損ない、抑止力を弱めることになり、米政府がこの地域での軍事力強化に力を注いでも、戦争を防ぐことはできないかもしれないと主張している。
(1) A Paradigm Shift in America’s Asia Policy
https://www.foreignaffairs.com/asia/paradigm-shift-americas-asia-policy
Foreign Affairs, November 21, 2023
By John Lee, a Senior Fellow at the Hudson Institute
2023年11月21日、米保守系シンクタンクHudson InstituteのJohn Lee上席研究員は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" A Paradigm Shift in America’s Asia Policy "と題する論説を寄稿した。1988年のGeorge Shultz米国務長官による3週間のアジア歴訪をNicholas Burnsは、2021年のForeign Affairsで「外交の庭の草取り、水やり、見守り」と表現しているが、これは米国の利益は軽いタッチの外交によって最もよく達成されるという認識が根底にあり、高圧的な圧力よりも、経済的・政治的自由化のほうがこの地域の国々を世界の自由民主主義国家と協調させることができるという考え方だったとJohn Leeは解説している。しかし、John Lee は米政府の冷戦後のアジア戦略はもはや通用しないと喝破した上で、貿易と開発に重点を置くあまり、多くのアジア諸国は自国の軍事力を強化することを怠り、中国の侵略に対して脆弱なままになっている一方、中国は1930年代以降、どの国よりも急速に平時の軍備増強を進めてきたと指摘し、現在中立の立場をとっている国々を米国の積極的な提携国に変えることは、この地域をより安全にし、中国の領土的・地政学的野心に対抗するために必要不可欠であると主張している。
(2) China Takes Advantage of a New Era of World War
https://nationalinterest.org/feature/china-takes-advantage-new-era-world-war-207521
The National Interest, November 27, 2023
By Dan Blumenthal, a senior fellow at the American Enterprise Institute
2023年11月27日、米シンクタンクAmerican Enterprise Instituteの上席研究員Dan Blumenthalは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“China Takes Advantage of a New Era of World War”と題する論説を寄稿した。その中で、①米国は、ウクライナの膠着状態と、ハマスとその関連組織を撲滅するためのイスラエルによる長期戦に悩まされており、またこの中東紛争は、イランが関与することによって事態が拡大する可能性がある。②米政府がウクライナ戦略に苦慮する中、中国とロシアの貿易額は2023年に30%増加し、ロシア政府に重要な軍資金を提供している。③中国はイランの無人機開発とそれをロシアに提供することを支援していると伝えられている。④習近平は最近Putinを称え、中ロ包括的戦略的パートナーシップの発展は長期的な誓約であると述べている。⑤中国政府は、ロシアを米国の同盟体制を崩壊させ、別の世界秩序を構築するための同志と見なしている。⑥中国はイランにとって最大の貿易相手国であると同時に、外交的・軍事的支援を行っており、イランは上海協力機構に正式に加盟した。⑦中国はハマスへの非難を拒否し、代わりにイスラエルを紛争における侵略者として表現し、ユダヤ人国家に対する米国の支援を批判している。⑧一方で、中国はフィリピン、日本、台湾に対し、3つの威圧を同時に展開している。⑨米国は軍事的展開と外交的関与の両方を高め、より強固な対中連合を構築する必要があるが、10年以上にわたって国防資金が不足している。⑩中国の経済的困難を考えれば、さらなる圧力をかける時だったはずだが、Biden政権は中国との緊張緩和を模索している。⑪米国の軍事物資在庫を自国用とウクライナ、台湾、イスラエルへの移転用に増やし、太平洋における抑止力の主力である米原子力潜水艦部隊を強化するための資金を提供するための合意が必要である。⑫国防予算を当面毎年5%ずつ増額し、U.S. Department of Defenseの新しい態勢計画に適切な資源を提供する必要があるといった主張を述べている。
(3) Taiwan and the True Sources of Deterrence
https://www.foreignaffairs.com/taiwan/taiwan-china-true-sources-deterrence?utm
Foreign Affairs.com, November 30, 2023
By Bonnie S. Glaser, Managing Director of the Indo-Pacific Program at the German Marshall Fund of the United States
Jessica Chen Weiss, the Michael J. Zak Professor for China and Asia-Pacific Studies at Cornell University, a Senior Fellow at the Asia Society Policy Institute Center for China Analysis, and a former member of the U.S. State Department’s Policy Planning Staff
Thomas J. Christensen, James T. Shotwell Professor of International Relations at Columbia University’s School of International and Public Affairs and a Senior Adviser at the U.S. State Department’s China Coordination Office
2023年11月21日、米シンクタンクGerman Marshall Fund 執行役員Bonnie S. Glaser、米Cornell University のJessica Chen Weiss教授、米Columbia University のThomas J. Christensen教授は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" Taiwan and the True Sources of Deterrence "と題する論説を寄稿した。その中で3名は、中国の軍事力の強大化と台湾に対する攻撃的な姿勢の強まりにより、台湾海峡における抑止力はかつてないほど厳しいものとなっており、米政府は台湾軍が沿岸防衛や防空兵器の備蓄と訓練を行い、強固な民間防衛部隊を編成し、食料や燃料などの重要物資の戦略的備蓄を行うことで、台湾への侵攻や封鎖を抑止し、必要であれば撃退できるよう支援することができるし、米軍はまた、より強力で機敏、かつ地理的に分散した軍事力の配備をこの地域に構築すべきであると指摘した上で、しかし抑止力とは兵器類や戦略だけの問題ではなく、それは抑止戦略の一部にすぎないとし、ノーベル経済学賞を受賞したThomas Schellingが数年前に書いたように「『あと一歩踏み込んだら撃つぞ』という抑止力の脅しとなり得るのは、『もしあなたがやめたら、私はやらないぞ』という暗黙の保証が伴っている場合だけである」と指摘している。そして3名は、米国が台湾を正式に主権国家として承認したり、台湾防衛のための明確な同盟を約束したりすることを示唆するなどの過去に米国の元高官や現高官が行った不見識な発言は、もし採用されれば、軍事的な準備態勢の欠如と同様に、確実に保証を損ない、抑止力を弱めることになり、米政府がこの地域での軍事力強化に力を注いでも、戦争を防ぐことはできないかもしれないと主張している。
関連記事