海洋安全保障情報旬報 2023年11月11日-11月20日

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11月11日「米中軍隊間の意思疎通メカニズムの確立が必要―中国専門家論説」(The Diplomat, November 11, 2023)

 11月11日付きのデジタル誌The Diplomatは、北京大学海洋戦略研究中心執行主任の胡波の“China-US Maritime Crisis Management: Geographical Location Matters ”と題する論説を掲載し、胡波はU.S. Armed Forcesと中国軍の間で起きる可能性がある不測の事態を回避するために、両軍間の意思疎通メカニズムを確立する必要性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海や東シナ海を含む中国周辺海域では、中国軍は年間何千回も他国の軍隊と空や海で遭遇しており、偶発的な事態の拡大の可能性を高めている。幸いなことに、米国と中国は戦争を回避する必要性を明確に強調しているが、戦争や紛争はしばしば予期せずに起こるものである。南シナ海や東シナ海を含む中国周辺海域では、両軍は1日に10回以上、毎年何千回も空と海で遭遇している。遭遇の回数とその激しさが増すにつれて、事態が拡大する危険性が急激に高まっていることは否定できない。
(2) 加えて、サイバー兵器、対衛星兵器、極超音速ミサイル、長距離対艦ミサイル、量子コンピューティング、人工知能といった最新の技術革新が不確実性を大いに高めている。海洋軍事システムは非常に複雑化し、陸、海、空、宇宙、サイバー空間の境界が曖昧になっている。無人システムや自律型兵器の応用は、軍事力行使に対する政治的・道徳的制約も損なうため、軍事衝突の敷居が低くなる可能性がある。そして、米中軍事競争の管理は、戦略的問題と作戦的問題の両方を包含しているため、調整が必要である。
(3) 空と海の遭遇戦のほとんどが、米国ではなく中国に最も近い海域で発生することを考えれば、米政府は中国が危機管理メカニズムを受け入れていないことを非難するよりもむしろ、主権と国家安全保障に関する中国政府の懸念を適切に受け入れる必要がある。中国から見れば、軍事衝突に関する米中の行動規範を策定することは、スピード違反者にシートベルトを与えるようなもので、中国周辺地域での軍事作戦がもたらす危険性を米政府が効果的に管理できるようになる。
(4) この行き詰まりを打開するために、この両軍の間で効果的な危機管理を構築することは、主権や国家安全保障の問題による干渉を最小限に抑えるために、争いのない公海から始めることができるだろう。これは、ここ数年のいくつかの米中専門家会議の結論である。 
(5) UNCLOSを含む既存の国際法は曖昧で、海や空での平時の軍事行動についての関連する規定がほとんどない。両軍間のやり取りを保護するための国際的規範や2国間協定はすでに数多く存在する。故意ではない事態が発生した場合、両者が緊急通信を行うことは容易である。両国首脳の間にはホットラインがあり、それぞれの軍隊の最高司令官をつないでいる。しかし、司令部の中堅層では、たとえば艦隊、戦域司令部、統合参謀本部の間に制度化された意思疎通の窓口はない。危機が発生すれば、すべての段階の指揮官が直ぐに巻き込まれることになる。したがって、双方は、関連する司令部単位のさまざまな層にまたがる効果的な意思疎通メカニズムを確立しなければならない。
記事参照:China-US Maritime Crisis Management: Geographical Location Matters

11月12日「中国の小国軽視の姿勢が対外政策を阻害する―米東南アジア専門家・中国専門家論説」(East Asia Forum, November 12, 2023)

 11月12日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies上席研究員Greg Polingと同Center教授Jude Blanchetteの“China’s disregard for small state agency hampers its foreign policy”と題する論説を掲載し、そこで両名は南シナ海論争をめぐって中国が隣国の不満を正当なものと認めない姿勢が事態拡大につながる危険性を高めているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月22日、2件の異なる衝突事故が南シナ海のセカンド・トーマス礁で起きた。1件は、中国海警船がフィリピンの小型民間船に衝突したものである。後者はPhilippine Navy の艦艇に曳航され、セカンド・トーマス礁に座礁したままになっている「シエラ・マドレ」への補給活動をしていた。もう1件の衝突は、中国国営の漁業関連企業が操業する海洋民兵船がPhilippine Coast Guardの巡視船に横付けした時の事故である。大きな被害はなかったが、これら2件の事故は、この1ヵ月で繰り返されたセカンド・トーマス礁での事故の中では最も危険なものであった。
(2) セカンド・トーマス礁をめぐる状況は、中国の対外政策の特徴を示している。それは、フィリピンのような小国が中国との論争において主体性を持つことを認めないというものである。たとえば中国共産党の環球時報は、フィリピンの狙いは緊張を高めて米国の支援を引き出すことだと主張している。このように中国の指導部は、小国が自分たちに立ち向かうのは、米国と連携していたり、米国の反中国戦略に利用されたりしているためだと理解している。
(3) こうした姿勢は、中国は、2013年から16年のフィリピンによる国際仲裁裁判所への提訴とその裁定を無視することにつながっている。それはまた、セカンド・トーマス礁での衝突などに対するフィリピンの不満を中国が無視する要因でもある。9月の事件では、フィリピンのMarcos大統領はフィリピンが米国の手先になっているという中国の言説を否定したが、中国側は取り合わない。環球時報は、別の事件が起きたあとのフィリピンの抗議について、米国が南シナ海をかきまぜる棒切れとしてフィリピンを描く風刺漫画を掲載したのだった。
(4) 中国は東南アジア諸国が抱える不満を正当なものとして、したがって平和的に解決すべきものとして認めていない。こうした態度は事態拡大の危険性を高めるだろう。というのも、中国は東南アジア諸国が米国の言いなりになっているだけなので、持続的な圧力の前に屈するだろうと考えている節があるからである。しかしフィリピンがそれで方針を転換することはないと考えられることから、さらなる衝突、事件に拡大可能性がある。
(5) こうした中国の地域における対外政策の背景には2つの要因がある。1つには歴史的に中国が地域の国々を下に見てきたことである。2つ目は、米国による封じ込め政策への恐怖である。中国は米国の封じ込め政策が、中国の地域的影響力を弱め、共産党支配を崩壊させるものだと考えている。
(6) 中国のこうした姿勢は、対外関係の調整にとって最も大きな障害となっている。Biden政権が地域の国々と関係を強化しているのも、米国の外交政策が鋭敏であるというよりは、中国の好戦的態度の反映なのである。逆にもし中国が方針を変え、地域の国々を提携国として扱えば、それは米国のインド太平洋戦略にとって最大の障壁となるだろう。
記事参照:China’s disregard for small state agency hampers its foreign policy

11月14日「オーストラリアは商船団を創設すべし―豪専門家論説」(The Interpreter, November 14, 2023)

 11月14日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、University of New South Wales Canberra上席講師Richard Dunleyの” Australia needs to resource a merchant fleet”と題する論説を掲載し、ここでRichard Dunleyはオーストラリアは海上戦力の増強が必要であるが、それは海軍戦力だけではないことを政府は認識し、資金を提供して商船団を保有しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 11月6日の週、政府は「戦略的艦隊のあり方研究作業部会」(Strategic Fleet taskforce:以下、「タスクフォース」と言う)による最終報告書を発表した。この「タスクフォース」は、労働党の選挙公約の一環として設立されたもので、オーストラリア人が乗組員として乗り組む最大12隻のオーストラリア船籍の商船から成る商船団を設立するための最善の方法を提言することを任務としていた。オーストラリアの安全保障にとって重要となるこの報告書は6月に政府に提出され、現在は政府の回答とともに公開版がオンラインで閲覧できる。
(2) オーストラリアの貿易の99%は海上で行われており、国民所得の45%を支えているが、事実上すべてが外国船籍および外国船主の船舶によるものである。2021年には、6,170隻の外国船籍の船舶がオーストラリアの港に寄港した。対照的に、オーストラリア船籍の国際貿易船はわずか4隻のLNG運搬船で、北東アジアに炭化水素を輸出している。この状況がもたらす潜在的な危険性は、Covid-19の世界的感染拡大がサプライチェーンに及ぼした影響によって明らかになり、「国防戦略見直し」(Defence Strategic Review)においても地政学的危険性の大きさが強調されている。
(3) 「タスクフォース」の報告書は、こうした問題に目を向け、戦争以外の状況下でオーストラリア船籍の船舶を徴用する仕組みがないことを明らかにしている。この報告書が解決しようとしている根本的な問題は、税制と規制の枠組みからは、オーストラリアで船舶を登録することが不経済という問題である。それは、オーストラリア人を海事中心の職業に就かせるという、困難な課題にさらなる負担を強いている。「タスクフォース」の見積りによれば、オーストラリア船籍・オーストラリア人乗組員の船舶を運航するための経費は、年間500万〜800万ドルに上る。
(4) 最終報告書は16項目の提言を行っている。その大半は比較的小さなもので、規制や法律の見直し、幹部候補生制度の設立、既存機関間の連携改善に重点を置いているが、戦略的商船団に関しては、オーストラリア船籍を奨励するための税制改革、船舶の建造費用を賄うための入港船への課税、移民を奨励するためのビザの変更など、実質的な提言を行っている。これに対して政府は12の提言には同意したが、それらは主に重要度が比較的低い提案だった。実質的な勧告はおおむね「留意する」とされ、政府が問題の重要性を真に理解している様子はない。特に、入港する船舶に対する課税の提案については、「海運はオーストラリア経済にとって極めて重要である」と回答し、政府が商船団の経費を誰かに負担させることに躊躇していることは明らかである。
(5) 業界の反応は否定的で、オーストラリア海運業界を代表するShipping Australia(以下、SALと言う)は「タスクフォース」の提案を「悪政」と表現した。SALは、「危機に次ぐ危機の中で、海運は何度も問題を乗り越え、商品を運び続けた。国際海運が止まったことはない」と主張し、問題の規模に対する海運業界の認識がいかに低いかを浮き彫りにしている。一方で、ステルス潜水艦や高価な水上戦闘艦は、オーストラリアの安全保障に不可欠ではあるが、それは促進剤であって、守るべき商船と抗堪性があり、信頼できる海上の基幹施設の存在が必須である。オーストラリアが危機の際に徴用し、頼ることのできる国内船籍の商船が確保されなければ、海軍艦艇の能力にかかわらず、オーストラリアは孤立してしまう危険性がある。
(6)オーストラリアは、第1に島であり、第2に大陸である。したがって、海上戦力はいかなる戦略的取り組みにおいても最前線に位置づけられなければならない。しかし、それは海上戦力であって、単なる海軍戦力ではない。オーストラリア政府がこのことを認識し、適切な資金を提供しない限り、軍艦に何十億ドルを費やしたところで、ほとんど意味をなさないだろう。
記事参照:Australia needs to resource a merchant fleet

11月14日「太平洋西部で展開される人道支援作戦の意義―米防衛ジャーナリスト論説」(USNI News, November 14, 2023)

 11月14日付のThe U.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI News は、防衛ジャーナリストGordon Arthurの“Pacific Partnership 2023 Humanitarian Mission Expanding in the Western Pacific”と題する論説を掲載し、そこでGordon Arthur は現在、U.S. Navyが実施している人道支援作戦「太平洋パートナーシップ2023」に言及し、その重要性が高まっている背景について、要旨以下のように述べている。
(1) 現在、U.S. Navyが「太平洋パートナーシップ2023」という人道支援作戦を展開しているが、その背景には南シナ海での緊張の高まりと西太平洋での米中の戦略的対立がある。太平洋パートナーシップ作戦自体は今年で18度目であり、第1回は2004年の東南アジアの津波のあとに実施された。「太平洋パートナーシップ2023」は、8月にベトナムで開始され、フィリピン、マレーシア、サモア、パラオ、パプアニューギニア、フィジーに寄港し、2023年末に終了予定である。
(2) この作戦は、多国間でかつ1年に1度実施される人道支援・災害救援関連の作戦としては最大である。指揮官のClaudine Caluori海軍大佐は、この作戦は地域の国々との相互運用性と災害対応能力を強化し、継続的な友好関係を促進するものだとしている。
(3) 中国が太平洋島嶼部への足がかりを得ようとしている昨今、この作戦の重要性は大きい。中国もまた太平洋で定期的に医療作戦を実施しているが、中国人民解放軍海軍の病院船「和平方舟」が、2023年7月に「ハ-モニアス・ミッション2023」を実施した。キリバスとトンガ、バヌアツ、ソロモン諸島、東ティモールを訪問したが、キリバスとソロモン諸島が停泊地に選ばれたのは初めてである。
(4) USNI Newsが、Claudine Caluori海軍大佐に米海軍の作戦と中国海軍の作戦の接触があるのかと尋ねたところ、U.S. Navy、同盟国や提携国と受け入れ国との意思の疎通と理解の強化を楽しみにしており、「太平洋パートナーシップ2023」は受け入れ国の要求や承認に基づいていると述べ、中国海軍との接触については現時点では何の予定もないと述べている。さらに、この作戦は毎年実施されるので、他の国や現在の状況への対応として実施されるものではないと付け加えられた。
(5) 南シナ海でのフィリピンとの協力についてClaudine Caluori海軍大佐に尋ねると、「米比の強力な同盟が、自由で開かれたインド太平洋にとって不可欠である」ことを強調し、フィリピンに対する中国の行動は、「不安定を加速させ、地域の安全と繁栄を脅かしている」とし、米国の焦点が同盟や提携のつながりの強化により「抑止力を強化することにある」と述べている。また、米国は自由で開かれたインド太平洋に関与し続けるとも強調した。
記事参照:Pacific Partnership 2023 Humanitarian Mission Expanding in the Western Pacific

11月15日「ASEAN海洋安全保障協力のため少数国間枠組みへの道を開く―ベトナム大学院生論説」(The Diplomat, November 15, 2023)

 11月15日付のデジタル誌The Diplomaは、Vietnam National University院生Nguyen Thanh Longの‶Unlocking the Minilateral Paradigm for ASEAN Maritime Security Cooperation″と題する論説を掲載し、ここでNguyen Thanh Long氏は、ASEANの意思決定システムは、10ヵ国の全会一致とされているが、国際関係が複雑で流動的なことから、状況に応じてASEANの数ヵ国またはASEANの一部にASEAN域外の数ヵ国を加えた枠組みによって対処することが有効であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ASEANは現在、多くの困難な課題に直面しており、組織として決意と団結を示し、より効果的な対応策を講じる必要がある。中でも「海洋安全保障」は特に重要な課題である。用語の定義には異論もあるが、海洋安全保障とは、「海で活動する主体、海で行われる活動、海そのものの健全性に対するさまざまな脅威がないこと」と理解できる。現在の東南アジアの海洋安全保障環境は、係争海域で一方的主張を強める中国を含め多様な脅威があり、地域内外の安定、平和、繁栄を脅かすものとなっている。
(2) ASEAN加盟国は、海洋安全保障上の脅威に対処するための協力が不可欠と認識しており、2019年の「インド太平洋に関するASEAN展望」と2023年の「ASEAN海洋展望」に反映されている。しかし実際には、ASEAN加盟国間の国益の乖離や戦略的計算が協力の障壁となっている。さらに、加盟10ヵ国すべての支持を必要とするASEANの合意に基づく意思決定手法は、行き詰まりを生み、「ASEANの中心性」という概念と差し迫った地域問題に対処する陣営の能力の双方に疑念を投げかけている。ASEANがこうした限界を克服するための有効な選択肢として、特定の問題を解決するために、少数の国々からなる特別なグループが協力する少国間枠組みの機構が提案されている。少国間主義は、志を同じくする国々が集まり、「共通の脅威に対して、より迅速で強固な対応を採る」のに役立つとの考え方であるが、これまでのところ関係者の期待に応えていないようである。
(3) ASEAN諸国の中で最も積極的に少国間主義を受け入れているのはフィリピンであり、地域の主要な行為者と協力して南シナ海の情勢悪化に対する断固とした対応を推し進めることが期待されている。マレーシアも、中国が係争海域を軍事化する中、ASEANの領有権を主張する国々との少国間主義による協調を模索している。同様にインドネシアも、南シナ海で事態を拡大させる中国の行動に対応して、結束と協力を促進するために、これらの国々との少国間主義に基づく協力に取り組んでいる。たとえば、2021年10月に行われたベトナム、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、シンガポールとの沿岸警備隊司令官級の会議に続き、2022年2月にもこれら5ヵ国の高官を招待し、南シナ海における中国の一方的主張への共同対処を協議した。さらに、インドネシアはASEAN議長国在任中、ASEANを大国間競争から遠ざけ、その中心性を維持することの重要性を強調してきた。しかし、ASEANは、最近のセカンド・トーマス礁でのフィリピン船と中国船の衝突に対し声明を出さず沈黙している。ASEAN加盟国の間で、長年にわたり少国間主義に基づく海洋協力が行われてきたにもかかわらず、中国による海上での強引な行動に対し、団結して集団的対応を採ることができるほどの真に効果的な機構はできていない。
(4) ASEAN諸国間の少国間主義に基づく海洋協力機構の有効性を高めるために、私は以下の提案をしたい。第1に、ASEANは海洋安全保障上の脅威、特に南シナ海に関する脅威により効果的に対処するために、意思決定過程を調整しなければならない。ASEAN加盟10ヵ国全てが南シナ海問題を同じ程度に重視しているわけではないことが、この問題で地域的合を得ることを困難にしている。一方、領有権を主張する国々は、係争海域における中国の行動に対し「一部の国々だけによる」声明により不満を表明したくともASEANとしての足並みがそろわず、困惑している。
(5) こうした課題にはいくつかの要因が考えられる。中国が少国間主義に基づく機構を支持しないことで、領有権主張国への圧力が高まり、中国との2国間交渉に追い込まれる危険性がある。さらに、少国間枠組みには拘束力がなく、各国が自国の利益を犠牲にしてまで、大国と非対称な利害や力の争いをすることはできないと考えるかもしれない。とはいえ、ASEAN加盟国が少国間枠組みに信頼を置けば、前進の可能性はある。そのためには、ASEANの合意に基づく意思決定手法の調整について共通の視点を持つ国々で、新たな少数の国々から成る枠組みを設立することが必要であろう。あるいは、既存の少国間枠組みに、こうした意思決定過程を修正するというアイデアを組み込むこともできる。その後、枠組み内の志を同じくする国々は、ASEANの高官級会合でこの問題を提起し、実現可能で満足のいく結果が得られるまで粘り強く取り組むことが必要である。
(6) ASEAN憲章の「ASEANマイナスX」方式は、経済的な関与を履行するためだけに採用されているが、より複雑な安全保障問題に対処するために拡張することもできる。この取り組みでは、加盟国の小さな集団が重要な問題について合意を得ることが必要になる。合意を得ることは、ASEANが加盟国にとって自らの立場を明確にするための共通の基盤として機能することを可能にし、大国からの報復や攻撃的行動に対する権利主張国の脆弱性を減じることができ、最も重要である。ASEANを通じて、これらの国々は中国の海洋行動に反対する声明を多国間共同で発表することができる。意思決定過程が見直されることで、ASEANは自らの立場を主張し、集団的な声を増幅させることができる。こうした表明は、ASEANが共有する価値観、とりわけ国際法の遵守と平和的紛争解決に合致する限り、ASEANの中心性を強化し、その中核的価値観と原則を維持することにつながる。
(7) 最初の取り組みが失敗した場合でも、特定分野における発展を促進する上で、少国間主義に基づく機構がASEAN諸国にとって重要な役割を果たすと考えられる。東南アジアにおける現在の少国間主義に基づく機構は、主に共同哨戒、海賊対処、即時の情報共有といった非伝統的な側面に集中しており、地域の海洋安全保障にとって極めて有益であることが証明されている。また、少国間主義に基づく協力は、(ASEAN-X)+Y の公式に従って拡大することができる。この場合、Yは域外大国の関与を表し、ASEAN加盟国の内の1ヵ国と域外大国2ないし3ヵ国の組み合わせもあり得る。重要なことは、ASEAN加盟国が、少国間主義に基づく海洋協力は、主として非伝統的安全保障の側面に焦点を当てるべきとの明確な理解を持つ必要がある。この焦点をおろそかにすると、ASEAN諸国が大国の利害に振り回されることにもなりかねず、ASEANの中心性がさらに損なわれることになる。
(8) 各国は、海軍の能力構築、海洋状況認識、海洋科学研究、海洋関連技術の移転、海洋の安定を維持するための協調などにおいて、少国間枠組みを利用して協力を強化すべきである。この戦略的取り組みは、ASEAN参加国の包括的な能力の向上に貢献するであろう。各国がより強固になってこそ、多国間会議でより影響力のある発言力を持ち、自国の課題に対処できるようになる。その一例として、日本は最近、フィリピンに対し、沿岸レーダー監視システムやPhilippine Coast Guardへの多用途船舶供与を含む新たな安全保障支援一括供与を提供する計画を明らかにした。しかし、南シナ海で軍事的存在感を高める中国に対抗することに特に重点を置いた日米比3ヵ国協力の呼びかけは、フィリピンに戦略的な決断を迫るもので、フィリピンは適切な対応を策定するために、次の段階を慎重に検討し、計算する必要がある。さらに、フィリピン等の国は自国に対する理解と他国からの支持を得るための基盤として、少国間主義に基づく協力網を活用することができる。このような基盤の上にフィリピンと同様の利益を望む国々は、信頼を培い、海洋領域における攻撃的行動に対抗する集団的行動への支援を強化することで結集することができる。これは、長期的には軍事、海軍、その他関連分野での協力の強化につながるであろう。
(9) ASEAN諸国間の異質性を考えると、域内の合意形成が困難な課題で、提案された措置は必然的に利点と欠点の両面を伴うことになる。各国が自国の立場を認識し、それぞれ次の段階に関する「対価」を徹底的に評価することが肝要である。
記事参照: Unlocking the Minilateral Paradigm for ASEAN Maritime Security Cooperation

11月15日「中国の武器輸出という難問を再考する―英国博士課程院生論説」(IDSS Paper, RSIS, November 15, 2023)

 11月15日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、RSIS 研究員でLondon School of Economics and Political Science (LSE)の国際関係学博士課程院生Lukas Fialaの“China’s Arms Exports Conundrum Revisited”と題する論説を掲載し、ここでLukas Fialaは中国は主要な通常兵器の海外輸出に関し、主に製品の質が悪いため、米国やロシアに追いつくことに苦労しているが、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、中国の防衛輸出に新たな機会が生まれる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 世界第2位の経済大国であるにもかかわらず、中国の兵器産業は主要な通常兵器の海外輸出に関して、米国やロシアにまだ追いついていないのはなぜか。Richard Bitzingerの最近の論説によると、世界の武器市場における中国の足跡が比較的小さいのは、主に中国のシステムの品質と、それに伴う再購入者の不足によるものだという。しかし、技術の洗練度は確かに重要であるが、中国の防衛部門の構造と中国の外交上の提携の特異性も説明要因と見なされるべきである。
(2) 中国の防衛部門の構造においては、海外への武器輸出による利益は特に大きな優先事項とはなっていない。軍事技術を民生目的に利用するスピンオフ・イノベーションは、防衛部門の国有企業(SOE)が民間産業に進出するインセンティブを与えた。それ以来、過去20年間にわたる中国人民解放軍(以下、PLAと言う)からの受注の増加と防衛部門の構造改革により、バランスシートは潤沢な現金であふれかえっている。防衛産業の年間収益の約3分の2は、自動車や洗濯機や冷蔵庫などの家庭用品を含む民間の商業活動による。このことは、中国の防衛部門の構造が中国の防衛産業基盤の国際化つまり武器売却の理論的根拠を、西側諸国とは異なる形で形作ってきたことを物語っている。
(3) その一例が、海外の民間基幹施設建設計画への防衛国有企業の関与である。たとえば、中国兵器工業集団有限公司(以下、NORINCOと言う)はイランの地下鉄システムを建設し、中国航空工業集団有限公司は軍用機の移転をザンビアでの利益の上がる建設契約に結びつけた。これらの取り組みは、武器販売と軍対軍の関係を収益性の高い商業基幹施設建設計画に結びつけるという、中国の防衛外交における軍事的および経済的安全保障目標の統合を示している。正式に軍事同盟を結ぶという西側諸国の安全保障とは対照的に、中国の防衛外交は、戦略的パートナーシップの構築を支援する経済安全保障の論理で補完されている。このような慣行は、中国の発展課題の中核をなし、業界を変革する中国の防衛産業基盤の性質を反映している。
(4) こうした国内的な力学は別として、中国は現在まで長期的な安全保障課題の一環として防衛産業協力を前進させるための外交的枠組みを明確にすることを避けてきた。米国の同盟国網とは対照的に、中国は一般的に提携国との正式な安全保障上の誓約や防衛関係を避けてきた。中国の防衛産業は長年にわたり、グローバル・サウスのさまざまな政府に低価格の艦艇・航空機や小型武器を提供してきたが、中国政府は防衛産業協力を世界経済・外交上の大きな存在感に結びつけることに慎重だった。西側諸国が築き上げた防衛の結びつきを特徴づける成文化された条約上の義務とは対照的に、中国の世界的な外交姿勢は提携の枠組みを中心に構築されている。中国は、この提携を中国の利益のために2国間関係を秩序づけるための状況に応じた偶発的な枠組みと見なしており、恒久的な同盟にはならないと考えている。
(5) しかし、このような長期的な保証がないため、特に輸出について、防衛産業のオフセット取引による技術移転や特定の技術基準を受領国に結びつけるなど、一般的に信頼と相互理解を必要とする武器貿易関係を発展させ、維持することが困難になっている。習近平が、中国の戦略的パートナーシップや、中国・アフリカ協力行動計画フォーラムなどのいくつかの地域協力文書において、安全保障と防衛の構成要素を幅広く制度化してきたことは確かである。しかし、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーの中国の武器輸入上位3ヵ国を除けば、武器移転が中国の提携の枠組みと明確に結びついていることはほとんどない。習近平の「一帯一路」構想(以下、BRIと言う)はその好例である。中国の防衛関連企業は、武器輸出を含む国際活動をBRIの一環として考え始めているが、BRIの政策枠組みは輸出や購入の決定における因果要因となるには緩やかであり、特定の国や地域における1つの政党が政治権力を握り続ける国家の利益に沿った商業活動の枠組みに過ぎない。
(6) より制度化された提携がなければ、集団的行動の問題は海外での協調的な武器輸出戦略を実施する習近平の能力をさらに妨げる可能性が高い。習近平のトップダウンの改革に対する防衛産業の官僚的な抵抗とPLAの砦としての軍産システムの相対的な自給自足が、習近平が防衛産業基盤の国際化を長期戦略にどの程度具現化できるかに影響を与え続ける可能性が高い。閣僚に就任する前はPLAの調達を担当していた中国の李尚福国防相が最近失踪したことは、習近平の軍に対する権限の限界と軍のなかで最も腐敗しやすい部門の1つである調達関係の官僚の役割を示していると解釈されている。
(7) 上記の課題にもかかわらず、中国は世界の武器市場における地位を強化する予期せぬ機会に直面する可能性がある。ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う軍事システムに対する国内需要の増大のため、ロシアの防衛産業基盤は世界の顧客からの需要を満たすことはできないであろう。これは、中国企業にとって最後の供給者として新たな機会を生み出す可能性がある。NORINCOが最近、西アフリカの潜在的な顧客にサービスを提供するためにセネガルに新しい営業所を開設するという決定を下したことは、おそらくそのような戦略を反映していると思われる。しかし、この機会を利用しようとするのは中国企業だけではないため、中国は世界の武器市場でトルコやインドなどとの競争に直面する可能性がある。
記事参照:China’s Arms Exports Conundrum Revisited

11月15日「南シナ海で海洋共同体を構築しようとする中国―ベトナム専門家論説」(The Diplomat, November 15, 2023)

 11月15日付のデジタル誌The Diplomatは、Vietnam National UniversityのUniversity of Social Sciences and Humanities客員講師Luc Minh Tuanの” China’s Bid to Construct a ‘Maritime Community With a Shared Future’ in the South China Sea”と題する論説を投稿し、ここでLuc Minh TuanはASEAN諸国は中国の目指す地域への安全保障化に対して予防線を張り、文明化には参加していないが、経済化に対しては、中国に地域全体の海洋権益の共通項を決められないよう、協調能力を高めなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年のAPEC首脳会議の傍ら、中国国家主席と米国大統領がサンフランシスコで会談を控えており、これに世界が注目している。米国の同盟国フィリピンは、中国との間で度重なる衝突に遭っており、南シナ海問題は大きく取り上げられることになるだろう。しかし、中国の存在感を安全保障の側面だけに焦点を当てて分析するのは的外れである。習近平国家主席は2019年に「未来を共有する海洋共同体(MCSF)」を創設するという目標を掲げており、南シナ海でこれを実現するために動いている。そのため、中国は東南アジア諸国への働きかけを、経済、安全保障、文化という3つの協力の柱に基づいて行っている。その目的は、中国の制度的能力を活用し、南シナ海における発展、文明、安全保障に関する独自の解釈を普遍化することである。この過程を通じて、中国政府は係争海域における受動的革命の完成を目指している。
(2) 紛争を経済化するという戦略は、1982年10月に中国が公式に「紛争を脇に置き、共同発展を追求する」と表明したときに始まった。その後、中国は1986年以降フィリピンに対し、1995年以降にはベトナムに対して、この構想を支持するよう要請し、2005年までに、中国はベトナムとフィリピンの両政府を動員して、南シナ海での共同探査協定に参加させることに成功している。それ以上の動きはなかったが、この海域での経済計画の前例となった。
(3) 2013年、中国の第18回党大会は中国を海洋大国にするという方針を打ち出し、中国の新たな混合安全保障構想(江沢民時代に提唱された)における海洋経済安全保障の中核的位置を引き続き強調した。これは、紛争の「政治化」と「軍事化」という2つの伝統的な傾向と組み合わせて、「紛争の経済化」の役割を強化することを目的とした理論的発展であった。そして翌2014年、中国は南沙諸島の島礁に人工島を建設し始め、翌2015年4月に、「人工島は、中国、近隣諸国および南シナ海で活動する他の船舶のために、避難所、航行援助、捜索救難、海洋気象予報サービス、漁業サービスおよび必要な行政手続きを提供するために使用されることになる」という計画を発表した。
(4) 2017年、中国は拡大した南シナ海地域における経済協力の取り組みを打ち出した。これは、南シナ海における海洋経済、海洋科学、海上物流協力計画に言及したもので、すべて中国が調整したものである。このような段階を経て、再び中国が主導的な立場となり、南シナ海地域の共通協力機関が徐々に構築されることが期待されている。さらに、中国は2019年これを一帯一路構想(BRI)に付随させる可能性を発表した。
(5) 国家段階での取り組みを強化するため、中国国内の多くの地方政府も南シナ海を通過する海上貿易接続路を展開している。最初は2014年に設立されたブルネイ-広西経済回廊(BGEC)である。次に、重慶からシンガポールまで鉄道を開通させる国際陸海貿易回廊(以下、ILSTCと言う)接続計画で、2017年9月に最初の鉄道・海上の部分が完成し、中国の61都市にまたがる120の駅を経由してシンガポールに繋がっている。また2019年4月、このILSTCルートは重慶からトンキン湾(広西チワン族自治区)の港を経由してインドネシアに至る初の陸海接続ルートを開設した。ILSTCのこれら3つの陸海航路はすべて、南シナ海を通過する海上航路を含んでいる。
(6) 40年以上にわたる南シナ海での経済化の努力の後、ILSTC回廊は現在、2021年から2025年を対象とする中国の第14次5ヵ年計画の重要計画として浮上し、ASEANの多くの加盟国の参加を得ている。中国は、この強固な基盤に基づき、東南アジア、特に南シナ海における影響力を強化するために、安全保障化と文明化という2つの柱を同時に展開している。
a.安全保障化の柱では、2国間から多国間に至るまで、共同哨戒や演習が中核的役割を果たし、最終的に南シナ海における「未来を共有する海洋共同体」において、近隣諸国の共通の安全保障上の利益を統合したいと中国は考えている。
b.文明化の柱については、習近平が2023年3月中旬に提唱した「世界文明構想(以下、GCIと言う)」の文脈で、南シナ海における文化的つながりが現在2つの方向で実施されている。1つは、南シナ海で難破船を探索し、中国の商業・海軍艦隊の歴史的な存在を浮き彫りにしようとする海洋考古学計画の強化である。もう1つは、海上シルクロードに位置する都市や国を動員し、ユネスコへの共通遺産提出に共同で参加するための遺産外交を展開することである。
(7) 中国の取り組みは、直接的な影響を最大化するために地域の国々とのつながりを持つ地域計画を推進するボトムアップと尼山世界文明論壇の隣にGCIの枠組みを設立するトップダウンの取り組みの両方がある。しかし、これらの計画はすべて、南シナ海における海洋調査と文化遺産の保護、特に古代中国とのつながりに重点を置いている点で共通している。
(8) 総じて、三本柱の方向性に従った理路整然とした取り組みにより、中国の南シナ海における「未来を共有する海洋共同体」建設は明確に示されている。ASEAN諸国は安全保障化の柱に対しては予防線を張り、これまで中国の文明化計画には参加していないが、ILSTCの強化に代表される経済化の柱では、中国に対抗する具体的な動きはまだ見られない。ASEAN諸国は、中国に地域全体の海洋権益の共通項を決められないよう、協調能力を高めなければならない。
記事参照:China’s Bid to Construct a ‘Maritime Community With a Shared Future’ in the South China Sea

11月18日「国際法よりも『力こそ正義』という難問―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, November 18, 2023)

 11月18日付けのオーストラリのアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、同InstituteのInternational Security Program責任者Sam Roggeveenの“China’s sonar pulse poses another test of Australia’s will”と題する論説を掲載し、Sam Roggeveenはアジアにおける中国軍によるAustralian Defence Forcesに対する挑発に関しては、法的な正しさより力が強いものが勝つという問題があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 国際法を味方につけても、オーストラリアは依然として「力こそ正義」か否かという難問に取り組んでいる。中国が日本沖でRoyal Australian Navyのフリゲート「トゥーンバ」に対して行った嫌がらせは、このフリゲートから漁網を取り除こうとしたRoyal Australian Navyの潜水員に軽傷を負わせたと報じられている。これは、アジアの空と海で活動しているオーストラリア、米国、カナダの艦艇や航空機に対する中国軍による一連の挑発行為の最新のものである。中国は、空と海での軍事的対応の際に安全を確保するための長年の慣例を繰り返し無視してきた。
(2) オーストラリアのAlbanese政権が誕生して以来、豪中関係は著しく改善している。一方で、2015年から18年まで首相の座にあったMalcolm Turnbullは、南シナ海に中国が人工的に建設した島々やそれらの周辺海域に対する中国の権利を法的に認めていなかったにもかかわらず、それらの12海里以内にRoyal Australian Navyの艦艇を航行させないという決定について「もし我が国の艦艇が12海里以内で中国艦艇に衝突され、航行不能になったとしても、オーストラリアには事態解決のためにさらなる手を打つ力はない。もし米国が我々を支援すれば、中国は手を引くだろう。しかし、もしワシントンが躊躇するならば・・・中国はプロパガンダで大勝利を収めることになる」として決定を正当化している。言い換えれば、オーストラリアは合法性に関して中国と意見を異にすることができる。しかし、法を執行する国際警察がいなければ、法的にはどうであれ、一般的には最も強い側が勝つことになる。
(3) Turnbull政権は、意地の張り合いを強いられて負ける方が、そのような試練を避けるよりも悪いと計算したのである。問題なのは、対立を避けるということは、法的な主張を貫く意思がないということであり、相手側に主導権を渡してしまうということになる。歴代のオーストラリア政府は、国際法と規範に基づく秩序を支持すると誠実に主張してきた。しかし、Turnbullの言葉が示すように、オーストラリアがこのような原則を支持するために払う犠牲や危険性には限界がある。つまり、中国の挑発行為はオーストラリアに自国の限界をはっきりと定義させるという明確化する役割を担っているのである。オーストラリアはどのような行動を許容し、どのような行動を許容しないのか。
(4) もちろん、仮に中国がその一線を越えたとしても、オーストラリアが直接対応すべきということを意味するわけではない。海軍艦艇や軍用機の間で挑発行為があったとしても、オーストラリアが報復のための対応を行う必要があるという意味にはならない。もしオーストラリアが軍事的対立を拡大させるならば、中国政府はそれに応じるだろうし、より多くの準備があるはずだというTurnbullの警告は依然として当てはまる。「軍事的緊張の段階的な拡大」は中国に有利に働く。そのためオーストラリアは、経済的であれ外交的であれ、自国の決意を示す間接的な方法を見つける必要がある。
(5) Turnbullの言葉で、「もし米国が我々を支援すれば、中国は手を引くだろう」という彼の判断に関連して最後に注意がある。Turnbullの自信は見当違いだと私は思う。先に言及した明確化する役割は、キャンベラだけでなくワシントンにも当てはまる。危険な対応が起こったとき、米国は自問するだろう。これは我々にとって本当に重要なことなのか?戦争するほど重要なことなのか?オーストラリアは、その答えがきっぱりとした「ノー」である可能性に備えるべきである。
記事参照:China’s sonar pulse poses another test of Australia’s will

11月18日「南シナ海行動規範交渉、中国無関心で進展せず―米専門家論説」(The Diplomat, November 18, 2023)

 11月18日付のデジタル誌The Diplomatは米Stanford University のThe Gordian Knot Center for National Security Innovation at Stanford Universityのmaritime transparency project構想SeaLightの責任者Raymond Powellの“A South China Sea Code of Conduct Cannot Be Built on a Foundation of Bad Faith”と題する論説を掲載し、ここでRaymond Powellは南シナ海の行動規範(COC)交渉が進展しないのは中国が無関心であるためとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北京で10月に開催されたASEAN諸国高官と中国当局との会議後、中国外交部報道官は、南 シナ海における関係当事国の行動を規制する「行動規範(以下、COCと言う)」の早期締結に向けて交渉を加速させることで合意したと楽観的に発表した。1年前にも、ASEAN 10ヵ国首脳はプノンペンで中国の李克強首相(当時)とともに一堂に会し、「南シナ海における関係当事国行動宣言(以下、DOCと言う)」20周年を祝い、国連憲章やUNCLOSなど、国家間の関係を律する基本的規範として役立つ普遍的に認められた目的と原則を再確認した。しかし、プノンペンに参集した各国首脳はこうした再確認が茶番に満ちたものであることを知っていた。彼らは、南シナ海が現在、絶え間ない脅威と時折の武力行使に晒されており、多くの紛争が平和的に解決される場所ではなく、DOCの最も強力な署名国であり、その他の署名国に対する警察官、裁判官、陪審員そして看守としての地位を確立した中国による暴力の行使と威嚇によって解決される場所であることを熟知していた。
(2) 中国は、国際法を尊重するどころか、UNCLOSの核心的特徴と2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定をともに無視し、放棄してきた。中国は、南シナ海全域に対して「議論の余地のない主権」を一方的に宣言し、海軍、海警総隊および海上民兵の艦船を常駐させることによって法的権限を行使し、国家的権利と管轄権の唯一の裁決者として振る舞っている。かくして中国の近隣諸国は、DOC締結以来20年以上にわたって、漸進的で無慈悲な侵略の犠牲になってきた。しかも近隣諸国は、中国による南シナ海の一方的な現状変更を世界が傍観するのを見せられてきた。たとえば、2015年9月のホワイトハウスでの米中首脳会談後の会見で、当時のObama大統領が(南シナ海で中国が造成中の)人工島の「軍事化を追求するつもりはない」と言明した。今や、中国は軍事化した人工島を自国の意向を強要するために急速に増強されている海警船や海上民兵船を前方展開するために活用している。スビ礁(中国名:渚碧礁)、ミスチーフ礁(同:美済礁)およびファイアリークロス礁(同:永暑島)の最新の港湾施設(これらの人工島はいずれも3,000m級の滑走路を有する:訳者注)から、これらの艦船は近隣諸国の合法的なEEZ奥深くの沿岸域に至るまでの海域で、これら諸国の合法的な漁業や海底資源探査活動に対して日常的に嫌がらせ行為を行っている。
(3) 今日、中国による南シナ海での侵略的行為の矢面に立たされているのはフィリピンである。即ち、ルソン島からわずか120海里に位置する最も重要な伝統的漁場の1つであるスカボロー礁(中国名:黄岩島)が2012年以来、中国に占拠され、以後継続的に実効支配されている。パラワン島からわずか130海里のミスチーフ礁では、中国が大規模な軍事基地を建設し、フィリピンはそこからの自国のEEZ奥深くの海域にまで戦力投射するのを見せられてきた。そして現在、フィリピンのセカンド・トーマス礁にある座礁させた旧揚陸艦に兵員が常駐する海軍拠点に対する補給活動を妨害する中国の違法な封鎖活動に苦しめられている。
(4) ASEAN各国政府は引き続きCOC交渉を支持しているが、その前途に対するこれら諸国の疑念は今や深刻なものであるに違いない。中国は1996年にUNCLOSに加盟したが、その南シナ海への適用とそれを再確認した2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定を拒否している。さらに、中国は2002年にDOCを締結し、2022年にそれを再確認したが、今や日常的に公然とその最も基本的な原則に違反している。こうした状況から見て、中国が公正で強制力のあるCOCに同意するとか、あるいは中国政府の拒否権の対象とはならない機関による権限行使に従うなどと何を以て理性的な人々に信じ込ませることができるのか。実際、中国にとって最良の筋書きは、こうした長引く交渉が政治的な隠れ蓑として機能し、その間、中国が広大な海洋権益に対する事実上の支配権を今以上に拡大することかもしれない。そうなれば、中国はかつてない程強い立場から、全ての「関係」国が黙認しているとの理由で、中国政府がUNCLOSに代えて南シナ海に適用すると主張できる中国に有利な協定を交渉することができる。
(5) 現実には、中国の侵略を抑止する法規や原則は既に整っているのである。ASEAN全10ヵ国と中国を含む167ヵ国が加盟しているUNCLOSは各国の海洋権益を明確に規定しており、さらに南シナ海仲裁裁判所の裁定は中国によるこれまでの一連のUNCLOS違反とともに、UNCLOSの南シナ海への適用を一層明確にした。一方、2002年のDOCも、調印各国間で許容される行動の合理的な基準を改めて確認している。したがって、受け入れ可能な唯一のCOC は、中国が確立された国際法と既存の諸協定の下での義務を遵守することを完全に怠り、そしてASEAN近隣諸国の主権を侵害してきたことを認めるものでなければならない。それ以下の如何なる協定も、強力な侵略国家の要求に対する近隣諸国の主権的権利の降伏を意味することになろう。主権的権利の尊重と侵略の拒絶は、極端な対応ではなく、国際法の基本原則であり、ASEAN憲章の核心的原則であり、そしてDOCの基本でもある。強力で独立した強制力のあるCOCはこうした既存の枠組みに対する素晴らしい補強措置となるであろうが、その見通しは非常に暗い。ある国がこれまで他の全ての国に対して非常に不誠実に行動してきたが故に、我々は唯COCを議論してだけである。
記事参照:A South China Sea Code of Conduct Cannot Be Built on a Foundation of Bad Faith

11月20日「チャゴス諸島をめぐるジレンマ―オーストラリア戦略研究者論説」(The Interpreter, November 20, 2023)

 11月20日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、同Institute研究助手David Valanceの“The Chagos dilemma”と題する論説を掲載し、そこでDavid Valanceはモーリシャスとイギリスが主権を争うチャゴス諸島の論争について触れ、その交渉は強制退去させられた人びとのためのものではない。また、モーリシャスに返還されれば中国に利するという議論は正確ではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 今日、インド洋に浮かぶチャゴス諸島をめぐる論争が続いているが、最近の世界的な動揺によってその議論の影が薄くなっている。公的にはイギリス・インド洋領土(BIOT)であり、1968年のモーリシャスの独立に伴い、そこから分離された。チャゴス諸島にはディエゴ・ガルシア島があり、そこには戦略的に重要な米軍基地があり、そのため現地の住民は強制退去させられた。
(2) チャゴスの人びとは故郷への帰還を訴え、モーリシャスもイギリスと交渉を重ねてきた。2019年に国際司法裁判所は、イギリスのBIOT創設は違法行為だったという勧告的意見を下し、イギリスにはモーリシャスからチャゴスを切り取る権限はないとした。しかしイギリスはその意見を無視してきた。
(3) 鍵となるのはU.S. Armed Forcesが駐留するディエゴ・ガルシア島である。そこに基地があることでU.S. Armed Forcesは中東で作戦を展開できるのである。そこに昨今の米中対立が考慮の対象に加わり、チャゴスが返還されればそこに中国が進出するだろうという意見が見られる。モーリシャスが「中国寄り」だという見方が根強い。
(4) しかし、この懸念にはかなりの論理の飛躍がある。モーリシャスと中国の関係はたしかに近いが、それは世界の他の国々と同様である。もしモーリシャスが関係を縮める国があるとしたらインドである。人口の大半がインド系というのがその理由であるが、イギリスは奴隷解放後に砂糖プランテーション維持のためにインドから契約労働者を移住させていた。インドとの経済関係も強固で、2013年から21年にかけてモーリシャスからインドに2億3,100万ドルの対外直接投資が流入しているが、中国に対しては8,920万ドルに過ぎない。またインドはモーリシャスのアガレガ島に軍事施設を建設している。チャゴスが返還され、新たな基地から利益を得る誰かがいるとすれば、それは中国ではなくインドである。
(5) モーリシャスとイギリスの交渉において、実際に退去させられたチャゴスの人びとの声が反映されていないのも問題である。むしろモーリシャスの国内政治の政争の具に使われてしまっている。独立以後のモーリシャスは、ごく一時期を除き、2つの家系から首相を輩出してきた。独立時にチャゴスの分離に合意したのは初代首相Seewoosagur Ramgoolamであり、彼はそのことを批判され続けている。息子のNavinは2014年に、父親のライバルAnerood Jugnauthに敗北し、息子のPravind Jugnauthが現在の首長である。そしてPravind Jugnauth政権は、ディエゴ・ガルシア島のイギリス支配が終わったとしても、それが米軍の駐留には何の影響も与えないと述べている。おそらくチャゴス人が帰還するとしても、ディエゴ・ガルシア島以外の島になるだろう
(6) 2つの明確な結論がある。チャゴスが返還されたとしても、米軍基地は残り、チャゴス人の帰還は許されないだろう。また、米国の影響を受けない小国は、放っておくと中国の影響下におかれるという想定には、何の意味も正確さもない。
記事参照:The Chagos dilemma

2023年11月「海洋におけるグレーゾーン作戦に対する『妙手』―米空軍将校論説」(Proceeding, U.S. Naval Institute, November 2023)

 2023年11月付のU.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトは、U.S. Air ForceのBenjamin Goirigolzarri大尉の“Lighting Up the Maritime Gray Zone”と題する論説を掲載し、Benjamin Goirigolzarri大尉は中国の海洋におけるグレーゾーン作戦への対応としてU.S. Naval Instituteは中国の海洋におけるグレーゾーン作戦に対応するため海洋暴動対策計画(Maritime Counterinsurgency Program)を立ち上げたが、さらに米国は企業理論を活用してStanford Universityで考案された「妙手」構想(Program Myoushu)を推進し、中国のグレーゾーン活動に関わる画像情報等を時宜を失せず公開していくことで中国がグレーゾーン戦術から得ている非対称的な利点に対抗するのに役立つとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海における中国の海上暴動戦略は、国際的に認められた海洋法に基づく近隣諸国の主権を否定し、他国の海洋資源の「共同開発」という中国の提案を近隣諸国が拒否できないものにしようとしている。 中国の「海警総隊の制服を着た暴力団」が九段線の主張の限界にどんどん近づいているため、このゆすり行為の地政学的対価は着実に増大している。 中国の凶暴な行為を暴露することが、ある程度の立ち直りの手段となることを多くの人が認識しているが、声を上げることに内在する危険性が自らの抑止力となる。 
(2) 囲碁で使われる言葉が元になって名付けられた「妙手」構想は、南シナ海における海洋安全保障のジレンマを解決するまっさらな取り組みを採用するために、2022年にStanford UniversityのGordian Knot Center for National Security Innovation (以下、GKCと言う)で設立された。起業家でStanford University教授のSteve Blankが構築した「リーン・スタートアップ」方法論に従って、全員有志から成るプロジェクト・チームは、米国および外国の軍人、外交官、諜報機関を含む幅広い対象分野の専門家に対して100回以上のインタビューを実施した。研究チームは、中国の相反する談話の中核となる弱点を突く斬新な取り組みに落ち着いた。それは、関連する沿岸国政府に海洋共有地の優位性を既成事実として提示し、同時に国民に一時的な「ウィンウィン」の意図を予告するというものである。
(3) GKC「妙手」構想の責任者Ray Powellは、これまで報道されていなかった2022年12月にスカボロー礁付近で発生したPhilippine Navyの艦艇と中国海警船との衝突事案について明らかにした。Ray Powellによる本事案の暴露は即座にフィリピン国内ニュースの見出しと活発なソーシャルメディアの論評を生み出し、中国のグレーゾーン活動に対するフィリピンの国家としての抗堪性を構築する構想の可能性を実証した。2週間後、マレーシアのEEZ内のルコニア礁におけるガス田活動を中国海警船が妨害している間に、Royal Malaysian Navyの艦艇が他の中国海警船を監視している様子をRay Powellが旧ツイッターに投稿し、この構想は2度目の概念実証に成功した。 この投稿内容は安全保障問題を専門とするマレーシア語のオンラインニュースサイトによって取り上げられ、Malaysian Ministry of Defenceはマレーシアがルコニア礁に対する主な権利を有するという方針を明確に表明した説明文を発表した。 繰り返しになるが、情報を表示するだけで、中国のグレーゾーン活動に対する国家の抗堪性を強化することができた。
(4) フィリピンは、2月13日、フィリピンは中国海警船がPhilippine Coast Guardの巡視船に対し「軍用レベルのレーザー」を照射した証拠写真とビデオを公開したが「妙手」構想による独自の嫌がらせの暴露が、政府が公表することを決定し、最終的にはPhilippine Coast Guard 主導による効果的な新たな海洋透明性構想を開始することを決定する状況を促進するのに役立った。
(5) U.S. Naval Instituteの海上暴動対策計画(Maritime Counterinsurgency Program)は、中国の暴動を「海洋の自由という長年の原則を謳う国際法の支配を覆す」ことと「独自の厳格で利己的で階級制度を課す」ことを目的とした「組織的な海洋における野蛮行為」であり、海洋主権の幻想で、その下で遠方の海域を藍色国土として主張し、弱い沿岸国から当該国のEEZと海洋における基本的権利を奪うものだと説明している。  実際には、中国の海警総隊と海上民兵が中国の隣国のEEZ内で正当に航行している当該国の船舶に対して嫌がらせを行い、当該国国民と政府の選択肢に対する認識を損なうことによって中国の海上における暴動は行われている。 このことはDuterte政権下の西フィリピン海での事例、最近ではルコニア礁に対する中国の主張に正当性を与えているようだと批判されているマレーシア当局者の対応例からも明らかである。
(6) 情報領域における「妙手」構想の影響力は、新しく作成された ウエブサイトのシーライト(SeaLight) を通じて明らかにされている。シーライトはさまざまな利害関係者に力を与える信頼できる第三者の証人として、グレーゾーンの作戦に関する信頼性の高い,時宜にかなった根拠を提供している。 分析された海洋に係わるデータは、地元メディアが独自の基盤を使用して拡大できる内容を提供している。 国民の意識の高まりにより、関係する沿岸国政府が海上の安全を強化し、強制を阻止するための支援が生まれる。
(7) 独立した市民社会主導の取り組みとして、「妙手」構想は、政府主導の取り組みを妨げる可能性がある偏見や官僚的障害に対する潜在的な国民の認識から切り離しながら、中国のグレーゾーン活動を暴露し、阻止するという米国の目標を支援している。 また、政府の公式声明に伴う事態拡大の危険性を回避し、地域的な取り組みを支援する。Ray Powellが「積極的透明性」と呼ぶものの適用を通じて、「妙手」は国内の抗堪性を強化し、中国の標的とされた国への国際的支援を強化し、まさにその戦術に対して中国が支払う風評被害を増大させることにより、中国がグレーゾーン戦術から得ている非対称的な利点に対抗するのに役立つ。 中国がこれらの対価を支払う意欲は無限ではなく、継続的な公の場での暴露がこれらの対価を課す最も直接的な方法となる。
記事参照:Lighting Up the Maritime Gray Zone

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Assessing China’s Claims in the South China Sea and East China Sea
https://www.geopoliticalmonitor.com/assessing-chinas-claims-in-the-south-china-sea-and-east-china-sea/
SITUATION REPORT, Geopolitical Monitor, November 13, 2023
By Noiranjana Kashyap holds a Master’s in Geopolitics and International Relations from Manipal Academy of Higher Education, Karnataka, India. 
11月13日、インドのManipal Academy of Higher Education で修士号を取得したNoiranjana Kashyapは、カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトに、“Assessing China’s Claims in the South China Sea and East China Sea”と題する論説を寄稿した。その中で、①南シナ海と東シナ海における中国の主張は、主権、植民地時代の被害者意識、ナショナリズム、安全保障といった概念に基づいている。②現在、中国は南シナ海と東シナ海で海洋紛争に従事しているが、両紛争には、以下の共通点がある。第1に、両紛争の起源は主権主張に基づくものである。第2の原因は、両地域の天然資源をめぐる競争に起因している。第3は、歴史的緊張と現代の権力闘争である。第4は、戦略的なものである。第5は、海上境界線に関するものであり、どちらも海上境界線を「どこで、どのように」引くことができるかという問題を提起している。③しかし、両紛争にはかなりの相違点もある。第1に、海上境界線に関する南シナ海紛争の一部は国際仲裁に付託されている。第2に、南シナ海紛争が多国間紛争であるのに対し、東シナ海紛争は2国間紛争であるといった主張を述べている。

(2) THE BAY OF BENGAL GRAY ZONE: U.S. NAVY ROLES IN INTEGRATED CAMPAIGNING
https://cimsec.org/the-bay-of-bengal-gray-zone-u-s-navy-roles-in-integrated-campaigning/#:~:text=The%20gray%20zone%20competition%20entrenched,rules%2Dbased%20order%20through%20campaigning.
Center for International Maritime Security, November 14, 2023
By Mohammad Rubaiyat Rahman is a Teaching Assistant at the University of Texas at El Paso.
2023年11月14日、米University of Texas at El PasoでTAを務めるMohammad Rubaiyat Rahmanは、米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトに" THE BAY OF BENGAL GRAY ZONE: U.S. NAVY ROLES IN INTEGRATED CAMPAIGNING "と題する論説を寄稿した。その中でMohammad Rubaiyat Rahmanは、インド太平洋地域におけるU.S. Navyの関与に対する要求は過去 30 年間のどの時期よりも強くなっているが、U.S. Navyは国家目標を達成するために、対立する相手のグレーゾーン活動に対抗する艦隊の運用に関し新たな動きが求められているとした上で、特にベンガル湾の地政学的重要性は、インド太平洋地域の戦略的考慮においてより大きくなりつつあり、インドと中国の海上部隊間におけるグレーゾーン競争の中心的舞台となっていると指摘している。そしてMohammad Rubaiyat Rahmanは、中国の海軍、海警総隊、海上民兵が急速に成長し、攻撃的になっているのに比べ、U.S. Navyの存在感は薄れつつあるため、効果的な統合海軍作戦は、U.S. Navyや提携国の海軍だけで実施できるものではなくなっており、むしろ、統合作戦には海洋における法に基づく秩序の強化に関心を持つインド太平洋のすべての利害関係者の積極的な参加が必要であると指摘し、U.S. Navyの戦略的構想は、国際的な提携国海軍との協力の拡大を目指しているが、U.S. Navyとベンガル湾の地域海軍との作戦協力は、共有する海洋安全保障上の課題を整理し、法に基づく秩序を競争的に推進できる統合作戦を展開するための協議事項になりうると主張している。

(3) INFORMATION RESILIENCE: COUNTERING DISINFORMATION AND ITS THREAT TO THE U.S. ALLIANCE SYSTEM
https://warontherocks.com/2023/11/information-resilience-countering-disinformation-and-its-threat-to-the-u-s-alliance-system/
War on the Rocks, November 15, 2023
By Dr. Jill Goldenziel, a professor at the College of Information and Cyberspace at the National Defense University, where she teaches classes on lawfare and information operations; law and governance of the information domain; and information warfare
Maj. Daniel Grant, a Marine Corps officer and advanced information operations planner 
2023年11月15日、米College of Information and Cyberspace at the National Defense UniversityのJill Goldenziel教授とU.S. Marine CorpsのDaniel Grant少佐は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" INFORMATION RESILIENCE: COUNTERING DISINFORMATION AND ITS THREAT TO THE U.S. ALLIANCE SYSTEM "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2023年8月、米IT大手メタ社は「敵対的脅威に関する報告書」を公表し、中国に関係した組織が運営する世論操作のためのアカウントを7,700件以上削除したと発表したとおり、中国は伝統的にロシアが採用してきた手法や技術を駆使して、影響力工作に誤報や偽情報を取り入れているが、このような作戦は今やありふれたものとなっており、米国の同盟国や提携国は、敵の偽情報の絶え間ない攻撃を受けていると指摘している。そして両名は、米国は民主主義と法の支配を害する偽情報、敵の影響力工作、法律戦などに対して、同盟国や提携国とともに、自国民を強化し保護すべきであるが、まずは、米国とその同盟国や提携国は、国際法に対する共通の理解を深め、その法とは何か、法を弱体化させようとする敵対勢力からどのように法を守るかについて、自国の軍や公務員が訓練を受けるようにすべきであるとし、また、米国は偽情報攻撃に適切に対応できるよう、省庁間協力に対する国内の法的障害を取り除くべきであると主張している。