海洋安全保障情報旬報 2023年9月01日-9月10日

Contents

9月1日「新冷戦は旧冷戦とは違うもの―ドイツ国際問題専門家論説」(Project Syndicate, September 1, 2023)

 9月1日付の国際NPO、Project Syndicateのウエブサイトは、ドイツを本拠とする汎欧州シンクタンクEuropean Council on Foreign Relations 会長Mark Leonardの“This Cold War Is Different”と題する論説を掲載し、そこでMark Leonardは現在展開している「新冷戦」は、旧来の二極化の論理では捉えきれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Biden米大統領は先日、日韓両首脳とキャンプデーヴィッドで会談し、中国をいかに封じこめるか、あるいはたとえばアフリカのサハラ地域などでロシアの影響力が拡大するのをいかに封じ込めるかについて議論した。他方、BRICS諸国の首脳はヨハネスブルクに集結し、第2次世界大戦後の国際機関に対する西側の支配を非難した。米ソ冷戦が再現しているように思われた。
(2) 多くの専門家が現在を理解するために米ソ冷戦時代を参照している。冷戦期、イデオロギー的衝突と独立運動という2つの要因が国際秩序を定義していた。それらは相互に作用し合った一方で、支配的であったのはイデオロギー的衝突であり、独立運動はしばしば米ソの代理戦争となった。諸国はどちらかの陣営に参入するか、「非同盟」を自認するかしかなかった。
(3) 米国はいま、同様の力学が働いていると考えているようだ。米国は「デカップリング」や「デリスキング」などの戦略を展開しているが、これは冷戦期の封じ込め戦略の経済版である。このように米国は新たな冷戦を想定しているようだが、中国は世界が断片化・多極化していると考えているようだ。中国は米国との対立や戦いに勝つことはできないが、多極化した世界において大国の地位を維持することはできる。
(4) 米国の最も親密な同盟国さえ、多極化の動向と無縁ではいられない。キャンプデーヴィッド会談では、日米韓の関心がそれぞれ多岐にわたっていたことが明らかになった。たとえば、韓国の最優先課題は北朝鮮への対処であり、日本は経済的に多くを依存している中国を念頭に、台湾での状況が拡大しないことを強く望んでいる。日韓ともに、米国がデリスキングを強く推進することをあまり好ましく思っていない。
(5) サハラの状況は、冷戦期の代理戦争が行き詰まったときの特徴すべてを示している。ブルキナファソ、ギニア、マリでは軍事クーデタが成功し、それ以降米国は地域における西側の提携国としてニジェールを頼りにしている。マリや中央アフリカでは、ロシアの傭兵集団ワグネルが絶大な影響力を行使しており、それがさらに拡大することを米仏は強く懸念している。頼りにしていたニジェール政府も軍部によって追放され、暫定政権が成立した。そして暫定政権はワグネルの支援により西側政府の介入を回避しようとすらしている。
(6) 8月24日、BRICSにアルゼンチンやエジプトなど計6ヵ国が正式加盟することが発表され、世界を驚かせた。中国はそれによって、サウジアラビアやアラブ首長国連邦が反米陣営に加わることをそこまで期待しているわけではない。しかしこうした動きによって、諸国はその行動の自由度が増し、西側への依存度が減る。そこから中国は利益を得ることができると考えている。もはや超大国は冷戦期のような影響力を行使できず、中流国家は自国の目標と利益を推進する余裕が大きくなっている。現在展開している「新冷戦」は、旧来の二極化の論理では捉えきれない展開をしている。そして、BRICSなどはその展開を魅力的だと感じる国々が増えているのである。
記事参照:This Cold War Is Different

9月2日「英国は中国に対抗するためにQUADに参加し、さらにAUKUSを拡大して日本と韓国を加入させるべし―防衛・外交問題ジャーナリスト論説」(EurAsian Times, September 2, 2023)

 9月2日付のインドのニュースサイトEurAsian Timesは、防衛、外交、核技術に関するジャーナリストRitu Sharmaの“UK Should Join QUAD, Expand AUKUS To Include South Korea & Japan To Counter China: British Report”と題する論説を掲載し、Ritu Sharmaはそこで中国がインド太平洋の貿易相手国と英国を結ぶ重要な海路を混乱させることを阻止するためにQUADに参加し、サイバー、人工知能などの高度な技術面で協力しているAUKUSを拡大して日本と韓国を加入させ、さらには中国が支配的な行為者となっている重要鉱物の分野についても戦略に基づいた具体策を着実に実施するべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英House of Commons Foreign Affairs Committeeは、英国のインド太平洋に対する外交政策を非難し、英国がインド太平洋における防衛・戦略的同盟へと急速に発展しているQUADに参加するように勧告した。英House of Commons Foreign Affairs Committee は「志向の範囲を突き破る:統合戦略見直しとインド太平洋(Tilting Horizons: The Integrated Review and the Indo-Pacific)」と題する最新の報告書で、AUKUSはオーストラリアが原子力潜水艦の艦隊を取得することだけが重要なのではないと主張した。下院委員会は、インド太平洋全体に目を配るために日本と韓国をAUKUSへの加入を歓迎することを提唱した。
(2) 報告書は「QUAD構成国との2国間防衛関係の強さと、英国とQUADの目的との相互関係を考えると、英国はQUADへの参加を目指すべきである」と述べている。QUADは年を追うごとに力を増している。オーストラリアも、米国、日本、インドが参加するマラバール演習に参加した。マラバール演習は、インドと米国の間の2国間海軍訓練として始まった。それ以来、インド太平洋の提携国4ヵ国の同盟へと発展してきた。マラバール演習は、中国の侵略が拡大する中、インド太平洋における航行の自由と安全を確保するためのQUADの集団的反応と見られている。中国は、マラバール演習2023から重要な情報を収集するために複数の衛星を使用した。
(3) 英House of Commons Foreign Affairs Committeeは、中国が「地域の主要な貿易相手国と英国を結ぶ重要な海路を混乱させ、半導体などの主要技術の利用を凍結する」ため、英国に対し軍事的な挑戦をする可能性があると認識している。報告書は「これによる経済的影響は世界的には大きいが、この敵対的な行動に対応して中国に対して設定する必要がある制裁の結果の対価ほど重要ではない」と付け加えている。英House of Commons Foreign Affairs Committeeは、中国に対抗するために、英国は日本、韓国、インドなど、中国の攻撃的な政策の受ける側である民主的な同盟国と協力する必要があることを示唆している。民主的な提携国と強く提携するために、英House of Commons Foreign Affairs Committeeは、英国が米国とオーストラリアに日本と韓国をAUKUSに含めるよう提案すべきであるとしている。AUKUSは、オーストラリアの原子力潜水艦の艦隊の取得を支援するだけでなく、サイバー、人工知能、量子科学、潜水艦探知を含む海洋技術を含む一連の高度な技術面で協力している。
(4) 報告書は「AUKUS潜水艦建造計画は、英国の経済的、安全保障的、技術的利益をもたらすであろう。Strand B、いわゆる『第2の柱』に関する協力が日本や韓国などの提携国に拡大されれば、これらは強化されるだろう」と示唆している。報告書は、この多面的な協力は中国がインド洋の港と海軍基地を取得しているため、英国政府にとって不可欠であると述べている。たとえば、ジブチの基地は当初、海賊と戦う中国艦艇や水中鉱物を調査する海洋調査船の支援に使用されるものであったかもしれない。報告書は「海洋調査船は、潜水艦や水中ドローンの配備の準備など軍事目的にも使用される可能性がある。このような港と基地は、世界最大の艦艇保有数を誇る人民解放軍海軍が世界の海で展開を拡大するために使用される可能性がある。代替の海上ルートを開発し、英国海軍の能力を強化することが不可欠である。
(5) 中国が英国の安全保障にもたらす明らかな脅威とは別に、英国政府は重要鉱物クリティカルミネラル(蓄電池に必要なリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、風力発電やEVモーターに必要なネオジムなどのレアアース、燃料電池に使うパラジウム、送電線に使う銅などを指す:訳者注)にも注意を払う必要がある。英国政府は2023年に重要鉱物発表したが、報告書は政府が作業を強化することを望んでいる。
(6) 米国は、今後数十年で重要鉱物に関する中国の過度の集中を減らすために主導権を握ってきた。米国政府は、オーストラリア、カナダ、英国、フランス、ドイツ、日本、韓国、その他の提携国との重要鉱物のサプライチェーンの安全保障を強化するように設計された鉱物安全保障パートナーシップ(Mineral Security Partnership :MSP)を通じて、同盟国との連携に焦点を合わせている。そのサプライチェーンを確保することは、各国が化石燃料からクリーンエネルギーに向かうにつれて重要である。重要鉱物の需要は、2040年までに4倍に増加すると予想されている。しかし、そのサプライチェーンは複雑で不透明であり、市場は不安定で歪んでおり、中国が支配的な行為者となっている。英国政府は、重要鉱物戦略を実施し、国内外の半導体サプライチェーンの抗堪性を向上させる半導体戦略を策定する必要がある。
(7) 英House of Commons Foreign Affairs Committeeは中国の情報戦にも触れている。報告書は「英国政府は、Hikvision監視カメラのような表面的には無害であるが衛星データ収集に使用できる技術の使用を中国に思いとどまらせるべきだ」と述べている。報告書は、英国国民が衛星データについて責任ある決定を下すためのより良い準備をするために、衛星データの公開と流出に関する全国的な議論を開始するよう政府に求めている。
記事参照:UK Should Join QUAD, Expand AUKUS To Include South Korea & Japan To Counter China: British Report

9月4日「U.S. Coast Guard砕氷船、北極海航路付近を航行―ノルウェー紙報道」(High North News, September 4, 2023)

 9月4日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、ノルウェーのジャーナリストMalte Humpertの“US Coast Guard Icebreaker Sails in Proximity to Russia’s Northern Sea Route”と題する記事を掲載し、U.S. Coast Guardの砕氷船「ヒーリー」が数十年ぶりに東アベリア海の北極海航路付近を行動しており、ロシアの許可を得ていない場合、ロシアの規制に対する異議申し立てを行っていると解される可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Coast Guardの砕氷船「ヒーリー」は、数十年ぶりに東シベリア海のロシア北極海航路付近で行動する初の米公船である。同船が北極海航路に入った可能性もあるが、専門家は正確な位置を特定することは難しい可能性があると警告している。
(2) 「ヒーリー」はナンセン・アムンセン盆地観測システム (NABOS) の探査機の整備に従事しており、東シベリア海とユーラシア盆地を横断して、9つの長期海底係止型探査機を回収、整備、再配置することになっている。
(3) ロシアは、北極海航路に対する規制管理を確立し、この航路の使用を計画している船舶に対し、ロシア領海への進入許可を申請し、受け取ることを義務付けている。 また、海氷の状況や航行季節に応じた耐氷船階級の要件も指定されている。中国やドイツなど他国から科学任務を遂行する砕氷船は、定期的にロシアの定められた手順に従い、北極海航路の許可を申請している。この航路の管理者であるロシア原子力企業Rosatomによると、「ヒーリー」は北極海航路の許可を申請しておらず、認可も受けていないという。
(4) 米シンクタンクWilson CenterのPolar Institute所長のRebecca Pincusは、公船である「ヒーリー」は、ロシアが内海と主張する海域の外に留まる限り、許可が免除される可能性があると説明する。「ヒーリー」が許可なく内水に沿った航路を航行した場合、その航行はロシアの規制体制に異議申し立てを行っていると捉えられるだろう。
このような事態は、特定の状況下では、国際海洋法に基づく航行の自由作戦(FONOP)に該当する可能性があり、「ロシアは最近、北極海航路の4つの海峡を含む内水を航行する軍艦に対する制限を強化したため、『ヒーリー』がこれらの海域の1つに進入した場合、FONOPが検討される可能性がある」とRebecca Pincusは言う。少なくとも1980年代以降、米国船による北極海航路横断は行われていない。航路によっては、通航が FONOP を構成する可能性がある。たとえば、米国船舶が北極海航路沿いの国際海峡を航過する場合である。
(5) 2022年の米国国防権限法は、U.S. Coast Guardに対し、北極海航路航過の「実現可能性と予定」について2023年中に報告書を提出するよう求めている。
(6) 「ヒーリー」は現時点では北極海航路におけるロシアの主張に異議を唱えてはいないが、北極科学任務の過程で北極東部を長距離航行しているようで、2023年後半にトロムソに到着する予定である。「『ヒーリー』の作業の進展はロシア側によって注意深く監視されると想像される」とRebecca Pincusは結論付けている。
記事参照:US Coast Guard Icebreaker Sails in Proximity to Russia’s Northern Sea Route
関連記事:9月6日「ロシア公船、北極海航路付近のU.S. Coast Guard砕氷船の触接を継続―ノルウェー紙報道」(High North News, September 6, 2023)
Russian Government Vessel Continues to Follow US Coast Guard Icebreaker on Northern Sea Route

9月5日「インドネシアによる瀬取タンカーの拿捕、その法的諸問題―シンガポール専門家論説」(The Interpreter, September 5, 2023)

 9月5日付のオーストラリアのシンクタンクThe Lowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、National University of SingaporeのCentre for International Law のThe Ocean Law and Policy Programme研究員Dita Liliansaの “The sticky case of Indonesia, a seized Iranian oil tanker, and legal jurisdiction”と題する論説を掲載し、ここでDita Liliansaはインドネシアが拿捕した瀬取タンカーについて、瀬取が提起する相互に関連する制裁、海洋汚染および国際法上の管轄権といった厄介な問題について、要旨以下のように述べている。
(1) インドネシア当局は2023年7月、インドネシアEEZ内で行われていた2隻の巨大タンカーによる外洋での原油移送、「瀬取」に介入した。2隻のタンカーはいずれも、船籍を示す国旗を掲揚しておらず、また船舶自動識別システム(以下、AISと言う)も電源が切られていた。1隻はイラン船籍を名乗るタンカー「アルマン114」で、マレーシアの支援を受けたインドネシアによって拿捕された。もう1隻は船名が「リル」あるいは「Sティノス」 として知られるタンカーで、カメルーン籍船であることが判明しだが、拿捕を逃れた。2隻とも、インドネシア国内法と「船舶による汚染の防止のための国際条約(以下、MARPOLと言う)」で義務付けられた、瀬取原油移送計画をインドネシア当局に提出していなかった。この事案は、規則や制裁を回避するための手段として使用される、いわゆるダーク・シップの典型的な事例である。AISの電源を切り、「所在不明」にする行為は、「海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)」に直接違反するが、該船の旗国が船舶の安全機能に対する排他的な管轄権と管理権を維持しているために、必ずしも沿岸国に法執行権限を付与することになるわけではない。
(2) したがって、この事案の場合、沿岸国としてのインドネシアが、当該タンカーを拿捕する管轄権を有しているかどうかという、興味深い問題を提起する。EEZ内での瀬取は、UNCLOS第59条に規定する、沿岸国またはその他の国に権利あるいは管轄権を明示的に割り当てていない活動に関わる行動であると言える。2隻のタンカーが船籍を示す国旗を掲揚していた場合、問題は、EEZ内の瀬取原油輸送に対する管轄権を、旗国と沿岸国のいずれが持つかということに集約される。しかし、今回の事例はこれに当て嵌まらず、双方とも船籍国旗を掲揚していないために、船籍を持たない無国籍船(stateless vessels)と見なされる。UNCLOSの規定では、船舶に関する国際基準と規制の履行における主たる責任は旗国にある。船舶は、船籍登録国の国旗を掲揚する資格があり、旗国の管轄下に置かれる。船舶が国籍を持たない場合、あるいは無国籍船と見なされる場合、UNCLOS第92条2項に規定されるように船舶はいかなる国の保護も主張する権利を失う。
(3) 加えて、この事案のもう1つの重要な側面は、2隻のタンカーがマレーシア海域に逃亡を図ったとき、双方を繋いでいたホースが外れ、原油が流出したと報じられたことである。正確な流出海域は不明だが、インドネシアEEZ内の可能性が高い。正式に登録された外国船舶が関与する標準的な状況では、UNCLOS第228条1項が旗国による執行管轄権の優位性を認めており、沿岸国によるEEZ内の船舶に起因する汚染に対する法執行管轄権は制約されている。UNCLOSは、沿岸国のEEZ内における船舶起因汚染に付随する沿岸国の法執行管轄権から外国船舶を保護するために、幾つかの高い閾値を設定している。即ち、UNCLOS第220条6項およびMARPOL第2条に規定されるとおり沿岸国の利益または漁業資源に対する「重大な損害」あるいは「重大な損害の脅威」を示す「明確な客観的証拠」が存在しない限り、UNCLOS第228条およびMARPOL第4条1項、2項、同第6条4項に基づき、沿岸国は旗国が指定された期間内に手続を開始した場合、自国の手続を停止し、事案を当該旗国に移管しなければならない。ただし、今回の事案では、2隻のタンカーを無国籍船と見なし得ることから、そのような船舶に対する沿岸国の法執行管轄権の制限は適用されない可能性がある。したがって、沿岸国としてのインドネシアは当該船舶を拿捕し、法的手続きを開始し得るが、UNCLOS第230条1項にあるように罰則は金銭罰に限定される。
(4) 最後の問題は、イランの石油省が「アルマン114」とその積載原油との関係を否定していることである。イランは、原油の所有権を主張していないが、「アルマン114」のイラン船籍登録を明確に否定していないことも事実である。イランが「アルマン114」のイラン船籍に異議を唱えない場合には、イランとインドネシアが共にMARPOL附属書Iの締約国であるという事実が極めて重要になる。同附属書は、洋上における原油瀬取中に生起したものを含め、船舶の運航と船舶からの偶発的な排出の両方による油汚染の防止に関する規定である。MARPOL第4条2項では、締約国は自国の管轄海域内で発生したMARPOL違反に対して、違反を禁止し、適切な罰則を設ける義務を負っている。インドネシアの法律は、MARPOLに従って、自国EEZ内で瀬取を実施するタンカーに2014年インドネシア運輸大臣規則第6条8項をもって事前通知を義務付けている。MARPOL附属書I規則42項は48時間前の通知を義務付けているが、インドネシアは24時間以内の通知を義務付けている。インドネシアは、瀬取による原油流出がインドネシアの利益と漁業資源に「重大な損害の脅威」になっていると主張することで、UNCLOS第220条6項およびMARPOL第2条に基づき当該タンカーに対する法的手続を開始する選択肢を保持し得る。この主張が不十分な場合には、法執行権限は旗国に留まる。したがってこの場合には、UNCLOS第4条に基づきイランは当該タンカーの違反に対処するために6カ月以内に手続きを開始することができ、一方、インドネシアは当該タンカーのMARPOL第4条2項の違反に関する関連情報と証拠の提出をイランに要求することができる。イランが法執行管轄権の行使を控えた場合には、沿岸国であるインドネシアは、当該タンカーに対して法的措置を取ることができる。この法的措置の実行に当たっては、当該タンカーのMARPOL違反に対応して取られた如何なる措置または手続きについても、イランと国際海事機関(IMO)の双方に通知する義務が伴う。
記事参照:The sticky case of Indonesia, a seized Iranian oil tanker, and legal jurisdiction

9月5日「現在の対中抑止は効果的ではない―米防衛戦略・技術専門家論説」(Foreign Policy, September 5, 2023)

 9月5日付の米ニュース紙Foreign Policyのウエブサイトは、米シンクタンクHudson Institute上席研究員Bryan ClarkとDan Pattの“U.S. Deterrence Against China Is Not Working”と題する論説を掲載し、そこで両名は現行の対中抑止戦略は効果的に機能しておらず、米国が為すべきは、中国の意思決定に影響を及ぼすような包括的な「運動(campaign)」を展開することだとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) この30年間、米国は自軍の優越的立場を土台として戦略や安全保障政策を立案してきた。しかし技術の拡散などさまざまな要因が米国の中国に対する軍事的優越を脅かしている。もし今、中国が台湾を侵攻すれば勝利を収めることができるだろう。米国が現在為すべきことは、通常抑止以外の戦略を立案することである。
(2) 米政府の論理とは逆に、中国にとって台湾への侵攻は多くの危険性をもたらす選択であり、したがって米中戦争はそこまで差し迫っていない。米国は、台湾侵攻がそのような多大な危険性をもたらすものであるという認識を中国に抱かせるような長期的運動(campaign)を展開する必要があり、おそらく起こらないであろう侵攻に備えて米軍戦力を最適化することはあまり必要ではない。
(3) 従来の抑止戦略においては、この地域に戦力を集中させ、台湾侵攻が失敗に終わると習近平に認識させることに力点が置かれてきた。しかし現在、中国は世界最大の軍事力と産業基盤を有しており、台湾侵攻を失敗させることは困難である。こうした状況下で米国がやるべきことは、中国の指導者の頭に、中国が侵攻に着手することで、ウクライナ戦争のロシアのように経済が落ち込んでしまうなどの認識を強めさせることである。
(4) そのためにU.S. Department of Defenseは、自身の指令から始めることが大切である。2022年の国家防衛戦略の主要な内容の1つは、運動(campaigning)の概念であった。それは、特定の目的を達成するために、一連の軍事的、非軍事的活動を調和してまとめあげることを意味する。しかし実際には、U.S. Department of Defense による運動は、軍事的な準備に関連するさまざまな項目に関する予算のためのバケツのようなものに成り下がっている。より効果的な戦略は、米国は、習近平が侵攻以外の方法を魅力的に思うようにすることで、その優先順位を下げさせるものであろう。
(5) 中国はすでに自国の運動を開始している。それは度重なる台湾の領海・領空侵犯や、WeChatにおける台湾侵攻の予行などに現れている。そうした行動が目指しているのは、侵攻作戦において中国か台湾のどちらが勝つかを確認することではなく、国内外の認識を形成することにある。
(6) 米国も全く手をこまねいていたわけではなく、AUKUSの締結のように、中国の意思決定に影響を与えようという試みに着手している。しかしこうした大きな動きを繰り返すことや、効果的な時機を狙うことは難しいので、それよりも新たな部隊の編成や同盟国との共同作戦の展開といった小規模な軍事行動によって、さまざまな中国の反応を引き出し、中国が何を懸念し、何に自信を持っているかなどを確認することはできるはずである。冷戦期、米国の軍事指導者も同様の取り組みによって、ソ連の弱点を暴こうとしてきたのである。今日、公開情報である衛星写真やアルゴリズム分析などによって、そうした取り組みは実行しやすくなっている。こうした技術を伝統的な軍事活動に用いるのではなく、「運動」に効果的に活用すべきである。
記事参照:U.S. Deterrence Against China Is Not Working

9月6日「フィリピン最新の国家安全保障方針―フィリピン国際関係専門家論説」(The Diplomat, September 6, 2023)

 9月6日付のデジタル誌The Diplomatは、フィリピンのシンクタンクInternational Development and Security Cooperation研究員Joshua Bernard Espeñaの“The Philippines’ Latest National Security Policy: Cautious Yet Clear-Cut”と題する論説を掲載し、そこでJoshua Bernard Espeñaは近年フィリピンが国際的注目を集めていることに言及し、フィリピンが今後安全保障利益を追求するために何が必要であるかについて、要旨以下のように述べている。
(1) この1年、フィリピンは国際的な注目を集めてきた。その原因は、南シナ海での中国との対立が激化してきたことである。結果として、フィリピンは米国との関係を再構築することになったが、それは2014年に締結された防衛協力強化協定を2023年になって拡大したことに表れている。それに対して、中国は地域の安定を乱すものだと批判したが、フィリピン国防相Gilberto Teodoroはフィリピンが他国と条約等を結ぶのは国家としての権利だと反論している。
(2) 他方で、フィリピンのMarcos Jr.大統領は安全保障政策などに関して多様な取り組みを採る必要性を感じている。最近はASEANに対し南シナ海に関する行動規範(COC)の締結を求めつつ、海軍トップの会談を含むASEANの海洋構想に支持を表明した。
(3) 直面する多様な課題に対応するために必要なものは、国家の行動の指針である。それを提供したのが、8月に公表された国家安全保障方針(以下、NSPと言う)2023-2028である。同文書は、「自由で抗堪性のある、平和的で繁栄した海洋・群島国家」を構想し、それは、「信頼できる防衛・公共安全システム」によって可能になると述べる。そして、フィリピンは自国の安全保障をとりまく「要因や環境の認識と理解」が必要だとされる。NSPは米中対立やロシアのウクライナ「侵略」が国際関係に及ぼす影響を指摘し、南シナ海や中台関係がフィリピンの経済に影響を与え、難民を生む可能性などについて述べている。
(4) NSP 2023-2028は、フィリピンの国家安全保障利害について優先順位を付して列挙したものとして称賛に値しよう。最優先事項は国家主権と領土保全であり、その次に「防衛・軍事安全保障」を重要なものと位置づけた。ここから、Marcos jr.政権が信頼できる防衛態勢を重視していることがわかる。それがあってこそ、人間の安全保障など別の安全保障の利益を確保できるのである。そして、フィリピン政府はこうした目的達成のための方法を提示してきた。たとえば多領域戦争の概念や、軍事、政治、外交等々の手段を融合させたり、Armed Forces of the Philippinesを外部からの軍事的脅威に対する防衛などに当て、自立した防衛態勢を構築したりすることなどだ。
(5)フィリピン最大の安全保障利益を確保するという点において、中国が南シナ海で攻勢に出たということはむしろ好都合である。それによってフィリピンが防衛を外交の一部とせざるをえないからである。Macros Jr.大統領はそのことを強く訴えてはいるが、本当の戦いは、Armed Forces of the PhilippinesやPhilippine Coast Guardの強化に必要な予算獲得である。
(6) ほかにも問題がある。8月、BRICSに6ヵ国がさらに加盟した。フィリピンはこれに続くことで経済的機会を得ようと思うかもしれないが、そうなれば安全保障問題はより複雑になるだろう。むしろフィリピンが為すべきことは、米国に対し、「繁栄のためのインド太平洋枠組み」にもっと多くの労力を払うよう強く訴えることである。それは、米国が東南アジアから足場を失わないようにするためである。ある外交専門家は、Marcos Jr.政権が前政権の負の遺産を清算したと分析したが、今後、Marcos jr.政権は自分たちが何を為したかで評価されるようになるだろう。その評価はまだ下すことができない。
記事参照:The Philippines’ Latest National Security Policy: Cautious Yet Clear-Cut

9月6日「ロシア公船、北極海航路付近のU.S. Coast Guard砕氷船の触接を継続―ノルウェー紙報道」(High North News, September 6, 2023)

 9月6日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、ノルウェーのジャーナリストMalte Humpertの“Russian Government Vessel Continues to Follow US Coast Guard Icebreaker on Northern Sea Route”と題する記事を掲載し、ロシア政府の調査船がU.S. Coast Guardの砕氷船「ヒーリー」を監視するために触接した可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Coast Guard巡視船「ヒーリー」が、海洋観測機器の整備のための1ヵ月にわたる科学遠征の一環として東シベリア海に入り、北極海航路付近を航行してから数日後、ロシア政府所有の測量船が追跡を続けている。調査・測量船は、2023年9月1日に東シベリア海に面するペヴェク港を出港し、「ヒーリー」の所在海域に向かって航行した。
(2) ロシア公船の行動が「ヒーリー」の科学遠征の一部であるのかを問い合わせたが、U.S. Coast Guardからは返答が無かった。しかし、「ヒーリー」の遠征に関する詳細な報道は、他の船との科学協力を示唆していなかい。 専門家らは、ロシア調査船が「ヒーリー」の進路を監視するために進入しているのではないかと推測している。「科学的な任務を付与されていたことは疑いの余地はない。・・・ロシアの調査船が『ヒーリー』と遭遇したのは極めて意図的である。ロシア調査船はおそらく『ヒーリー』を追尾するためにペヴェクから出航しました」とÉcole nationale supérieure maritime(French Maritime Academy:ENSM)教授Hervé Bauduは説明する。米シンクタンクWilson CenterのPolar Institute所長で北極研究者Rebecca PincusもHigh North Newsへのコメントの中で同様の状況分析を表明している。
(3) 公船である「ヒーリー」は北極海航路の通航に許可を求める対象にはならず、商船が同航路を航行するための許可を取得するためのロシアの要件すら国際法に基づいておらず、北極海航路の規制は国際規制から派生したものではなく、 それは単なる習慣であるとHervé Bauduは強調する。UNCLOSに基づき、他の公船が過去に行ったように、「ヒーリー」はロシアからの事前許可なしに北極海航路を通航することが認められる。 
(4) 外国船舶がロシアのEEZ内で海洋調査を行う場合は事情が異なる。その場合には沿岸国の許可が必要となる。
(5) 別の問題としては、東シベリア海の国際海峡を利用した輸送が挙げられる。ロシアはこれらの海域を内水域と規定しており、最近、外国軍艦による東シベリア海の国際海峡の使用を禁止する法律を可決した。米国の公船が東シベリア海の国際海峡を航過する場合には、米国が台湾海峡で定期的に実施している航行の自由作戦(FONOP)を行うことを意味することになるとHervé Bauduは説明している。
記事参照:Russian Government Vessel Continues to Follow US Coast Guard Icebreaker on Northern Sea Route
関連記事:9月4日「U.S. Coast Guard砕氷船、北極海航路付近を航行―ノルウェー紙報道」(High North News, September 4, 2023)
US Coast Guard Icebreaker Sails in Proximity to Russia’s Northern Sea Route

9月7日「初の海上試運転が近づく中国の新型空母『福建』―香港紙報道」(South China Morning Post, September 7, 2023)

 9月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China’s most advanced Fujian aircraft carrier on track for 2025 PLA handover, latest Weibo photos suggest”と題する記事を掲載し、中国海軍の新型空母「福建」の初の海上試運転が近づいていることが予想されており、問題がなければ、予定通り2025年に中国海軍に引き渡されるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国で3隻目となる最新鋭の空母が、初の海上試運転に近づいていることが、軍事マニアによってネット上に投稿された最新の写真からわかる。巨大な軍艦が、実際の戦闘能力を有する艦艇に一歩近づいた。工事進捗の度合いは、全長316mの超大型空母「福建」が航空機発進システムを試験する準備ができており、予定どおり2025年に中国海軍に加わることを示していると軍事専門家たちは述べている。
(2) 9月第2週の初め、中国のマイクロブログサイト『微博』に軍事愛好家が投稿した画像では、「福建」の甲板にある3基の先進的な電磁カタパルトの覆いが外されており、外部の人間が初めて航空機射出システム全体を垣間見ることができた。覆いの1つは2ヶ月ほど前にも取り外されており、発艦試験が間近に迫っていることを示唆していた。「全ての防護覆いが外されたということは、電磁カタパルトのデバッグ作業が完了したということであり、海上試験中に航空機射出システムを作動させることができる」と、中国軍の元教官である宋忠平は述べている。
(3) 9月第1週の週末に中国のソーシャルメディアに出回った写真には、「福建」の煙突から煙が出ている様子も写っており、メインの推進システムやその他の装備の集中的な試験が進行中であることを示していた。宋忠平は、最初の海上試験は沿岸海域のみで行われ、その一連の作業は少なくとも1年間は続く可能性があると述べた。半年間の海上試験が行われ、その後さらに1年間、特定の装備や兵器システムの試験が行われる可能性があるという。「海上試験では、主に空母の推進、航行および通信システムの試験が行われ、その後、第2段階として他の艦載装備の試験が行われる」と宋忠平は語っている。
(4) 元台湾海軍軍官学校の元教官である呂禮詩は、「覆いが外されたということは、電磁カタパルトがJ-15T(空母艦載機)を射出する準備が整ったということである。なぜなら、発射システムは中国軍にとって新しいものではないからである」と述べている。遼寧省北東部の興城近郊にある海軍の訓練基地からの衛星写真によると、中国軍の部隊は2016年以来、陸上のカタパルト・システムからJ-15Tを離陸させる模擬訓練を受けていたという。
(5) 中国には米国の空母のような艦載原子炉はないが、「福建」は当初、3基の従来型蒸気式カタパルトを搭載していた。しかし、全権を握る中央軍事委員会委員長習近平国家主席の決定により、2017年にその設計が変更された。蒸気式カタパルトの代わりに、先進的な電磁発射システムに電力を供給できるよう新しい統合推進システムが搭載された。
(6) 2022年6月に進水した「福建」は、建造された上海の造船所で3月から停泊試験と推進試験が行われている。7月にソーシャルメディアに投稿された、3基のカタパルトのうち覆いが取り外された1基が露出している写真が、「福建」の艦橋に設置されたレーダーシステムの配列も明らかにした。
(7) 北京軍事科学シンクタンク遠望智庫研究員周晨明は、「福建」は最初の海上試運転の後、特定の運用装備の別の評価を受ける必要があるとしつつも、「問題がなければ、この空母は予定どおり2025年に中国海軍に引き渡される」と述べている。
記事参照:China’s most advanced Fujian aircraft carrier on track for 2025 PLA handover, latest Weibo photos suggest

9月7日「米国は掃海艇により黒海での同盟国の存在感を高めるべき―米専門家論説」(War on the Rocks, September 7, 2023)

 9月7日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、War on the RockのAaron Steinの” SIDE-STEPPING TURKEY: USING MINESWEEPERS TO INCREASE ALLIED PRESENCE IN THE BLACK SEA”と題する論説を掲載し、ここでAaron Steinは、米国はルーマニアに掃海艇を譲渡または売却し、これを使ってNATOの黒海での存在感を高め、ウクライナの穀物を再び流通させるべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年夏まで、ウクライナの穀物取引はロシアのVladimir Putin大統領を除けば、うまくいっていた。ロシア政府は7月、商品輸出の継続的な課題を理由に協定を中断した。それ以来、ロシア軍はウクライナの穀物輸出の基幹施設を攻撃している。米国とトルコは現在、ウクライナの穀物を再び世界に流通させることに関心を持っているが、その過程でロシアが報われるべきかどうかについては意見が分かれている。とりわけPutinは、ロシアの銀行を国際決済システム(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication:SWIFT)に戻すことを要求している。トルコのRecep Tayyip Erdogan大統領は、それに同意する意向のようである。
(2) 米国にとっては、ウクライナから穀物を輸出する他の方法を模索することが利益となる。ロシアを除外した新たな代替ルートは、世界の食料価格に対するロシアの影響力を最小化できる。この第2の穀物回廊を通る船舶の安全な航行を確保する必要性は、トルコの中立性に抵触することなく、黒海における米国とその同盟国のプレゼンスを強化する機会にもなる。米国は欧州の同盟国と協力し、NATO加盟国で、トルコと密接な関係にある黒海の国ルーマニアに掃海艇を移籍させ、この新ルートを確立すべきである。掃海艇は純粋な防衛手段であり、ロシア海軍に脅威を与えるものではない。掃海艇は、黒海に設置された、もしくは浮遊する機雷を除去できる。掃海艇は、トルコが支配するボスポラス海峡とダーダネルス海峡をモントルー条約に違反せずに通過することができ、黒海の西海岸を囲むルートを通じて穀物の輸出を促進することができる。その後、黒海で活動する米国やヨーロッパの艦船等と演習を行うこともできる。将来的には黒海沿岸のNATO加盟国と演習を実施することで穀物を世界に輸出するための土台とすることができる。
(3) 歴史的に、米国は黒海周辺に関するトルコの見解に従順であった。トルコ政府は、モントルー条約を厳格に履行している。ロシアとウクライナの戦争が始まると、トルコ政府はロシア艦艇の海峡通過を禁止し、交戦国でないNATO加盟国艦船を含むすべての外国軍艦に対しても海峡を閉鎖した。その結果、ロシアはウクライナのミサイルによって艦船を失ったにもかかわらず、黒海における海軍の兵力の均衡はロシアに有利なままである。NATO加盟国であるトルコがロシアと西側諸国との関係の均衡を取ることに関与し続ける限り、これはNATOの助けにはならい。
(4)トルコ政府関係者はロシアとの意図しない事態の拡大を懸念しており、黒海での無制限な戦争がNATOとの直接対決につながることを恐れている。トルコ政府は、ロシアがシリアで自軍への補給を続けるために民間船を使用することや、略奪したウクライナの商品を違法に世界に輸出するために欺瞞的な手法を用いる民間商船隊を黙認している。ウクライナ紛争が始まって以来、トルコはロシアの怒りから逃れようと、自国の国内利益を高めるために日和見的に両陣営と関わりを持ってきた。この取り組みによって、トルコ政府は一方でウクライナに武器を売り、他方では間接的にロシアが西側の制裁から逃れるのを助け、それによってロシアの戦争努力を支援してきた。トルコはエネルギー輸入国であり、ロシアは輸出国である。また、トルコは観光地でもあり、今や旅行の選択肢がほとんどないロシア人観光客に好まれている。こうした経済とエネルギーの相乗効果は、黒海に対するトルコの外交政策を補完し、トルコとロシアは、緊張が拡大しないようになっている。
(5) トルコ政府が望むのは、ロシアが国連主催の穀物取引に復帰することだろう。そうすれば、トルコ政府は国際海運に対するロシアの安全保障という安心感を得ることができ、トルコの中立性も証明される。穀物取引の一員として、トルコはSWIFT決済システムに関するロシアの立場を擁護することができ、同時に密輸品疑惑の船舶検査に関して誠実な立場をとることができる。トルコはまた、天然ガスの輸出と支払いに関してロシアに譲歩を要求することができ、その一方で Erdogan大統領は世界的な危機を解決し、ウクライナを助けたと主張することもできる。
(6) トルコは、ウクライナとロシアの両方の弱点を利用できるほど、政策に柔軟性を持たせている。しかし、二次的な穀物輸送路は、ロシアやNATO加盟国に対するトルコの影響力を削ぐことになる。このため、米国と欧州の同盟国は、穀物危機を管理し、黒海におけるNATOの存在感を高める機会を得ると同時に、トルコの二枚舌がもたらすより危険な影響を緩和することができる。ウクライナ政府は、オデッサを起点とし、モルドバ、ルーマニア、ブルガリア、トルコの黒海沿岸4ヵ国の西海岸に沿う第2の輸送路を支持している。ウクライナ政府は、この輸送路を通過する船舶の保険料を負担することを申し出ている。それは、ロシア政府が選別的な脅しを使って海運価格を法外な水準に引き上げるのを防ぐことにもなる。
(7) トルコ政府はこの二次的な輸送路に不快感を示しており、ロシア政府と直接交渉し、当初の協定に戻すか、ロシアがトルコに穀物を輸出する代替輸送路を模索している。この代替輸送路案では、穀物はカタールから補助金を受け、トルコで小麦粉に加工され、アフリカに送られるが、ロシア軍が占領しているウクライナ領土からの穀物輸出が疑われていることを理由に物議を醸している。9月4日にソチでPutinと会談した後、Erdogan大統領はこの取り決めに関する交渉が進行中であることを強く示唆した。
(8) 黒海に面し、ウクライナとも国境を接するルーマニアは、ロシア・ウクライナ戦争の影響を受け、防衛力の強化を図ってきた。ルーマニア政府は、4隻の新型コルベットを建造し、英国の中古掃海艇の購入にも関心を示している。このような努力は、ルーマニア政府の空軍強化の努力と並行して進められてきた。ルーマニアが望む掃海艇および装備の拡充を支援するための協調的な努力は、黒海におけるNATOの存在感を高め、同海域の機雷掃海哨戒を支援し、それによって穀物の流入を緩和する直接的な方法である。
(9) 黒海の機雷は、ロシアがウクライナの港を封鎖するのに役立ち、さらに国際海運を脅かしてきた。ロシアは黒海に機雷を敷設し続けており、黒海での紛争が始まって1年半が経過した今、機雷が海上戦力の致命的な要であることを再び証明したとも言われている。米国と欧州が協力して、掃海艇をルーマニアに譲渡または売却できれば、これらの船は合法的に海峡を通過でき、機雷の除去ができる。掃海艇は穀物を積んだ船舶の前方を航行し、機雷探知ソナーを使って船舶の針路の安全を確認することもできる。掃海艇は純粋な防衛目的なので、黒海の列強に軍艦を提供し、この海域の民間船舶を武装護衛させる場合ほどの危険は生じない。これはトルコ政府を安心させ、トルコとNATO加盟国との間に新たな摩擦を生むのではなく、協力の可能性をもたらすものである。
(10) トルコ政府は、ロシア、黒海そしてロシア・ウクライナ戦争に対して明確で分かり易い政策を採っている。トルコ政府は、自国の経済的利益を高めるために国際的制裁を利用し、地域の事態拡大を管理するために停戦を仲介し、両方の立場を演じることに熱心である。その結果、トルコはNATOを黒海から締め出す一方で、ロシアの利害を調整し、ロシア政府に譲歩を求めることで利益を得ている。しかし、これは米国やヨーロッパの利益にはならない。黒海に対するトルコの政策に対する米国の寛大な取り組みは理解できる。しかし、米国がトルコ政府に全面的に恭順することはほとんど意味がない。米国が今後進むべき道は、モントルー条約の条件に細心の注意を払いながら、ルーマニアの掃海艇を使ってNATOの黒海での存在感を高め、ウクライナの穀物を再び流通させることである。
記事参照:SIDE-STEPPING TURKEY: USING MINESWEEPERS TO INCREASE ALLIED PRESENCE IN THE BLACK SEA

9月8日「セカンド・トーマス礁をめぐる中比の対立―香港紙報道」(South China Morning Post, September 8, 2023)

 9月8日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Chinese, Philippine ships in another confrontation near grounded warship”と題する記事を掲載し、南シナ海のセカンド・トーマス礁をめぐって、中国とフィリピンの船艇同士が対立し、お互いを非難していることについて、要旨以下のように報じている。
(1) 係争中のセカンド・トーマス礁に座礁させてある軍艦の近くで、中国とフィリピンの船艇同士が対立し、両国はまたも非難の応酬となった。フィリピンの船艇は、環礁近くに座礁させである軍艦への補給任務に就いていた。ここでは1ヶ月前、中国の海警船艇がPhilippine Coast Guardの船艇に対して放水銃を使用し、対立状態に陥ったことがあった。9月8日、中国海警総隊は、中国が「紛れもない主権」を持つ環礁にフィリピンの補給船2隻とPhilippine Coast Guardの船艇2隻が「承認されていない進入」を行ったとして警告を発したと発表した。
(2) 南沙諸島のセカンド・トーマス礁はフィリピンが支配しているが、中国、台湾、ベトナムも領有権を主張している。「中国海警は厳重な警告を発し、全過程を追跡調査し、法律に従ってフィリピン船艇を効果的に規制し・・・(中国側は)フィリピンが違法な建築資材を、違法に浜辺に座礁させている軍艦に運搬することに断固として反対する」と報道官は声明で述べている。フィリピンは、セカンド・トーマス礁付近の海域でフィリピンの船艇を封鎖しようとした中国船艇の「違法」な行動を非難した。フィリピンのNational Task Force for the West Philippine Sea(西フィリピン海国家対策本部:以下、NTF-WPSと言う)は、Philippine Coast Guardが9月8日の朝、セカンド・トーマス礁まで補給任務のための船舶を護衛したと述べている。しかし、それらのフィリピン船艇は、「妨害、危険な行動、攻撃的な行為」などによる中国船艇からの圧力を受けながらも、補給任務は完了したという。NTF-WPSは、この補給活動を妨害する中国海警や「海上民兵」船による「継続した、違法で攻撃的で不安定化させる行為に対して強く遺憾の意を表し、非難する」と述べている。
(3) この対立は、 Marcos Jr.フィリピン大統領がジャカルタで開催された18ヵ国による東アジア首脳会議で、南シナ海におけるこうした船舶の「危険な使用」を非難した翌日に起こっている。「我々は、国際法上の義務に違反する一貫した行動を懸念している・・・我々は、南シナ海における沿岸警備隊や海上民兵の危険な使用に反対しなければならない」とMarcos Jr.は首脳会議で語っていている。
(4) フィリピンは、セカンド・トーマス礁を含む南沙諸島の9つの岩礁と島々に前哨基地を置いている。マニラは1999年、中国が近くのミスチーフ礁を占領した後、この海域での中国の進出を封じ込めるため、フィリピンの旧戦車揚陸艦「シエラ・マドレ」を意図的にこの浅瀬に座礁させた。
記事参照:South China Sea: Chinese, Philippine ships in another confrontation near grounded warship

9月8日「フィリピンが太平洋島嶼国との協力を必要とする理由―フィリピン専門家論説」(The Diplomat, September 8, 2023)

 9月8日付デジタル誌The Diplomat は、National Defense College of the Philippines准教授Rej Cortez TorrecampoとフィリピンのAteneo Policy CenterのAteneo School of Government主任研究員で米Center for Strategic and International StudiesのAbshire-Inamori Leadership Academy International Fellowship 海外研究員Karla S. Cruzの‶Why the Philippines Needs to Work With the Pacific Island Nations″と題する論説を掲載し、ここで両名は現在の地政学的環境は、フィリピンが太平洋の島嶼国と人間中心の安全保障分野で関係を強化し、中流国家としての潜在力を発揮する好機であるとして、要旨次のように述べている。
(1) 地政学的環境が複雑化する中、フィリピンにとっては、南側や東側の群島国家との関係を発展させることが重要になっている。現在のフィリピンの外交・国防政策に関する議論は、南シナ海と中国・台湾の両岸関係をめぐる問題に焦点が当てられ、フィリピンの国家安全保障関係者の目と耳は、専らフィリピンの北部と西部の方向に向けられている。南シナ海における中国の強引な行動に影響を受ける沿岸警備隊、海軍への資金提供や支援に関する議会等の議論も、北と西側の脅威が大きな比重を占める。中国が武力によって台湾統一を行う可能性に関し、フィリピンは台湾に地理的に近い国としてだけでなく、米国の同盟国としての役割も期待されている。2022年の米国との防衛協力強化協定は、特にそれが台湾に近いルソン島北部の基地の米国による利用を可能にすることから、台湾海峡の最近の動向と密接に結びついている。こうした脅威が差し迫る一方で、フィリピンは太平洋に面する東部と南部にも注意を払わなければならないが、フィリピンの外交政策の議論や防衛計画においては、忘れられがちである。
(2) 内向きの志向から外向きの安全保障政策に転換するには、地域の安全保障の展望から始め、国の政策や構想に反映させるべきである。フィリピンの国家安全保障は、国内情勢ばかりではなく、インド太平洋地域の安定を支える世界的、地域的な現実の視点から形作られるものである。フィリピンは、ほとんどすべての政策文書において、世界が直面する課題を解決できる国はなく、戦略的環境がフィリピンの目的達成と課題解決方法に大きな影響を与えると認識している。隣国インドネシアに次いで世界で2番目に大きな群島国家であるフィリピンの地域安全保障の展望は、必然的に責任ある海洋の利用がインド太平洋地域の安全保障の中心であると強調することになる。大国間の対立の復活が、この地域の多くの国が直面する安全保障上の課題の背景にあるが、そのような対立は海洋領域において最も顕著である。フィリピンは海を通じて外部と結びついていることから、この地域の海洋問題の主要な行為者となることが重要である。
(3) このような物理的な空間とは別に、フィリピンは世界とデジタルでつながっている。この意味で、サイバーセキュリティとサイバー防衛を地域安全保障構想の一部に含めるのは当然の論理である。世界は現在、物理的領域とサイバースペースという並列的な空間に存在している。そのために国家は、サイバースペース利用のための基準、プロトコル、規範を守る必要性を強調する必要がある。
(4) フィリピンの地域安全保障構想は、第3の種類のつながり、すなわち「人と人とのつながり」に基づいている。フィリピンは東南アジアで最多、世界で9番目に移民の多い国である。米国、カナダ、日本、オーストラリア等のインド太平洋諸国は、フィリピン人の主要な移民先である。このためフィリピンは、海外にいる外国人労働者や世界中の移民を保護することに強い関心を持っている。したがって、移民の権利と安全を含む人間の安全保障という構想が、フィリピンの地域安全保障の議題の中心でなければならない。
(5) フィリピンがインド太平洋の他の地域と物理的、デジタル的、そして人と人とのつながりに裏打ちされた地域安全保障構想を持つことは、他の群島国家との関係を優先させることを示唆している。インド太平洋には多くの島嶼国が含まれ、1982年の国連海洋法条約に群島の原則を盛り込むための交渉では、フィリピンとインドネシアが肩を並べて協力した。このように、群島国家が国際的に承認されるために奮闘してきた歴史を共有することは、フィリピンの南や東側の国々との協力を強化する説得力のある理由となる。実際、インドネシアは、太平洋島嶼国との緊密な協力関係を築く努力を強めている。これは、対立が激化する世界において、自国の戦略に役立つと認識しているからである。
(6) 太平洋島嶼国固有の安全保障上の懸念や、それと密接に関連するフィリピンの懸念を考慮することは、米国か中国か、またはASEANかASEAN以外の多国間枠組みかと言った、一般的な二者択一的思考を打破する機会でもある。フィリピンと同様、太平洋島嶼国も気候変動や自然災害の頻度増加、違法行為・乱獲、国際犯罪、人身売買等の問題に直面している。この地域には、中国と米国の地政学的対立もあるが、前述の気候変動や自然災害等への懸念は、島嶼国にとって国家存亡の脅威となっており、政府は最大限の注意を払い、世界的な協力の機構に積極的に参加する必要がある。現在の地政学的状況は、フィリピンと太平洋島嶼国の協力範囲を広げる機会でもある。これらの国々と、軍事一辺倒ではなく人間中心の安全保障上の提携を結ぶことは、フィリピンにとって、より外向きの安全保障志向、つまり中流国家の潜在力を発揮できる方向への転換の好機である。
記事参照:https://thediplomat.com/2023/09/why-the-philippines-needs-to-work-with-the-pacific-island-nations/

9月8日「ロシア・ウクライナ戦争から中国は台湾作戦への重大な教訓を得た―インドニュースサイト報道」(EurAsian Times, September 8, 2023)

 9月8日のインドニュースサイトEurAsian Timesは、” Think Tank Slams Russia For Poor Logistics In Ukraine War; China Draws ‘Critical Lessons’ For Taiwan Ops”と題する記事を掲載し、ロシアとウクライナの戦争から中国が得た最大の教訓は、兵站を維持し、部隊に武器弾薬を供給し、作戦が数ヵ月を超える場合に備えて防衛産業能力を維持する能力の必要性であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米シンクタンクRAND Corporationの専門家は、ロシアの軍事的、戦略的、経済的側面を研究し、中華人民共和国の軍事的発展から推測して、「ロシア・ウクライナ戦争から中国が得た最大の教訓は、兵站を維持し、部隊に武器弾薬を供給し、作戦が数ヵ月を超える場合に備えて防衛産業能力を維持する能力である。この教訓は、国内で軍備を増強し、米国から安定した軍事物資の供給を受けている台湾での軍事作戦の際にも不可欠となるだろう。」という結論を導き出した。戦闘経験が乏しいとされる人民解放軍(以下、PLAと言う)は、他の戦争や紛争を厳密に研究することによってそれを補っていると専門家も評価している。
(2) 理論的には、このような取り組みは、戦略的・政治的な段階では考えうるすべての事態に対応し、戦術的・作戦的な次元では自動的に調整の余地が生まれるはずである。特に台湾事態は、台湾海峡を越えて何千もの軍隊と戦争物資を輸送するという大規模な後方支援事業である。これまでのEurAsian Timesの分析では、2022年8月のNancy Pelosi前米下院議長の就任後、台湾周辺での訓練がいかに具体的、統合的、包括的になったかを指摘してきた。それらは、大規模な軍事占領のあらゆる側面を網羅しており、艦艇や航空機による包囲、封鎖、必要であれば水陸両用上陸作戦や流血の市街戦もありうる。中国国営メディアの広報資料には、台湾に対する軍事的選択肢がより綿密に準備されていることが示されており、現在のウクライナ戦争の教訓に影響を受けないはずがないことを示唆している。
(3) RAND Corporationの記事では、ロシアの特殊戦(SMO)を研究する中国の防衛雑誌のコラムを紹介し、そこではロシア軍指導部はウクライナ軍を過小評価し、迅速な勝利を想定し、十分な後方支援を計画せず、装備品と弾薬の供給が不十分だったと批判している。この記事は、戦争で双方があらゆる種類の弾薬をいかに早く使い果たしたかに焦点を当てている。さらに、「当初、ロシア軍は精密誘導弾を使って大規模な攻撃を行った。第2段階までに、ロシア軍の精密誘導弾は不足した。そのため、地上軍からは非誘導の砲弾、ロケット弾、戦術ミサイルが使われるようになった。ロシア軍の長距離攻撃能力は著しく制約された。」とも述べている。したがって、PLAの計画立案者は、「軍事衝突はしばしば当初の予想よりも長引くことを理解している」という。中国人民武装警察(PAP)宣伝局のZhao DaShuaiも、この評価に同意し、EurAsian Timesの取材に対して、「PLAの主要な教訓は、慎重に準備し、弾薬や資源を備蓄することなしに始めてはならないということである」と述べている。
(4) NATO同盟国は、特に155mm砲弾をウクライナに譲渡したため、自国の兵器備蓄にあっては致命的な弾薬不足に苦しんでいる。過去20年間、防衛産業基盤への投資が不足していたため、生産量を増やすには、新しい工場を設立し、民間および政府所有の軍事工場の生産能力を引き上げる必要があるが、それには時間がかかる。
(5) ロシアの軍事・戦略指導部の開戦以来の発言は、彼らがこうした問題を予測し、時間のかかる準備を待つのではなく、その都度修正することを選んだことを示している。彼らは、2022年2月に特別軍事作戦を開始して以来、一貫して、戦争には「時間軸がなく」、作戦は「段階的に」実施されると述べてきた。これは、ロシアの作戦計画者が、産業、経済、物流の要素が相乗効果を発揮し、合理化されるには時間がかかると予測していたことを意味し、長期戦ドクトリンに反映されている。言い換えれば、中国とロシアの原動力となる哲学は、「長期にわたる戦闘能力は、国家が短期間の戦争を戦うことを可能にするが、その逆はありえない」ということである。
(6) 中国にとっての後方支援問題は、海上・海軍中心の問題であり、Type075強襲揚陸艦の運用開始、民間用Ro/Ro船の大船隊による海上輸送能力の増強、台湾の東部沿岸でも演習ができるようになることなどで対処しているようである。
記事参照:Think Tank Slams Russia For Poor Logistics In Ukraine War; China Draws ‘Critical Lessons’ For Taiwan Ops

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) The Roots of Taiwanese Skepticism of American Commitment
https://nationalinterest.org/feature/roots-taiwanese-skepticism-american-commitment-206760
The National Interest, September 1, 2023
By Yang Kuang-shun, the Co-founder of US Taiwan Watch
9月1日、US Taiwan Watchの楊光舜は、米隔月刊誌The National Interest電子版に、“The Roots of Taiwanese Skepticism of American Commitment”と題する論説を寄稿した。その中で、①信頼関係の欠如が米台関係を苦しめている。②多くの台湾人は他者に対する不信感に悩まされ、米国による台湾の安全保障への強い関与を切望している。③台湾防衛への関与に対する懐疑的な見方は、米国と中国の勢力均衡、米国の関与のレベル、そして大国としての米国のイメージという3つの要素に対する認識が中心となっている。④中国政府は、台湾は防御することが不可能であり、米国は信頼できず、統一は避けられないと、台湾の民衆の認識を操作しようとしている。⑤台湾の多くの懐疑論者にとって、米国の覇権主義の衰退はアフガニスタンからの無様な撤退やロシア・ウクライナ戦争への決定的な介入を渋ったことで明らかである。⑥別の不信の原因は、米国の台湾防衛を約束も排除もしないという「戦略的曖昧性」である。⑦米国のイメージに関する反帝国主義的な物語は、米国が軍事的、政治的、経済的利益のために台湾を利用していることを示唆している。⑧2022年のロシア・ウクライナ戦争勃発後、台湾の世論調査によれば、台湾海峡戦争に米国が介入すると考える回答者の割合は、2021年10月の65%から2022年3月には34.5%まで低下した。⑨米台双方が懐疑論の存在を認め、それを管理するための前向きな手段を講じることが肝要である。⑩台湾政府と米政府の間で常に開かれた高官級の対話を行うことは、相互の信頼を築く上で不可欠である。⑪ウクライナの教訓は、強力な同盟国の後ろ盾と同様に、抵抗し戦い続けるという国家の決意が重要であることを示しているといった主張を述べている。

(2) NATO’S FUTURE IN THE INDO-PACIFIC: TILT OR JILT?
https://www.9dashline.com/article/natos-future-in-the-indo-pacific-tilt-or-jilt
9dashline, September 8, 2023
By Mathieu Droin is a visiting fellow in the Europe, Russia, and Eurasia Program at the Center for Strategic and International Studies.
2023年9月8日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの客員研究員Mathieu Droinは、インド太平洋関連インターネットメディア9dashlineに" NATO’S FUTURE IN THE INDO-PACIFIC: TILT OR JILT? "と題する論説を寄稿した。その中でMathieu Droinは、2023年7月にリトアニアで開催されたNATO首脳会議にオーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国のアジア太平洋4カ国(いわゆるAP4)の首脳も2年連続で出席したことを取り上げ、NATOとAP4との提携は今や確固たるものとなったと指摘した上で、他方、EUがインド太平洋地域の提携国の安全保障と防衛力を大幅に強化する能力を欠いているのは事実であると指摘している。そしてMathieu Droinは、対中国戦略として、QUAD、AUKUS、日英伊間のGlobal Combat Air Programme 、フランス・インド・UAE構想など、インド太平洋全域にわたる多国間協定網を今後も構築・拡大し続けることが重要だと主張している。

(3) PLA Social Media Warfare and the Cognitive Domain
https://jamestown.org/program/pla-social-media-warfare-and-the-cognitive-domain/
China Brief, The Jamestown Foundation, September 8, 2023
By Jackson Smith is a research assistant at the RAND Corporation
Nathan Beauchamp-Mustafaga is a Project Associate–China Specialist at the RAND Corporation and a former editor of China Brief.
2023年9月8日、米シンクタンクRAND Corporation の研究助手Jackson Smithと同Corporationの特任助手で、China Brief 編集員であったNathan Beauchamp-Mustafagaは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに" PLA Social Media Warfare and the Cognitive Domain "と題する論説を寄稿した。その中でJackson SmithとNathan Beauchamp-Mustafagaは、人民解放軍は現代の紛争や平時の作戦におけるソーシャルメディアの重要な役割を認識するようになり、軍の研究者たちは「ソーシャルメディア戦(社交媒体戦)」という概念を使い始め、ソーシャルメディアがプロパガンダを配信するための単なる窓口としてだけでなく、紛争のためのもう一つの空間と見なすようになっていると指摘している。その上でJackson SmithとNathan Beauchamp-Mustafagaは、結局のところ、「ソーシャルメディア戦」という概念は、理論的なものに留まる可能性が高いが、人民解放軍が今後ソーシャルメディアについてどのように考えるかについては、今後の「軍事戦略科学(The Science of Military Strategy)」の改訂作業における議論に注目する必要があるだろうと主張している。