海洋安全保障情報旬報 2023年8月21日-8月31日
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8月22日「インド太平洋と欧州における同時抑止力の強化―米専門家論説」(Centre for a New American Security, August 22, 2023)
8月22日付の米シンクタンクCenter for a New American Securityのウエブサイトは、同Centerの防衛問題研究班の上席研究員Becca Wasserの” Campaign of Denial: Strengthening Simultaneous Deterrence in the Indo-Pacific and Europe“と題する論説を掲載し、ここでBecca Wasserは、米国が中国とロシアという2つの核保有国による大規模な通常兵器による侵略を同時に抑止するという、前例のない課題に直面していながら、軍の準備ができていないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は、中国、ロシアという2つの核保有国による大規模な通常兵器による侵略を同時に抑止するという、前例のない課題に直面している。効果的な同時抑止を実現するためには、米国が抑止の基本原則を再認識し、米国の軍事力が戦争遂行上の優位性を損ないつつある傾向を逆転させる必要がある。同盟国や提携国に対する米国の拡大抑止の約束を守るためには、中国やロシアが争っている遠く離れた地域に米軍が力を投射する必要がある。そのためには、U.S. Department of Defenseは日和見的な取り組みから転換しなければならないが、それを阻む戦略実施上の障壁に直面してきた。その一因は、戦略と資源の不整合にある。U.S. armed forcesは、インド太平洋の中国と欧州のロシアを同時に通常紛争から抑止するのに必要な種類と数の戦力を保有していない。さらに、近代化された能力、必要な態勢、適切な即応性、現在の課題に対応する戦闘任務の遂行に関する習熟度が欠けている。そして、戦略的優先事項に集中するためには、他の地域での危険を受け入れる必要がある。
(2) 米国には同時抑止に対する新たな取り組みが必要である。Biden政権は、平時の抑止の重要な要素として、会戦(campaign)という概念を打ち出した。これは、敵国による強制に意図的に対抗するよう、軍事活動を順序立てて連動させようとするものである。それは、U.S. Department of Defenseが中国やロシアによる挑戦に対応しつつ、世界的な需要にも応えられるようにすることにある。しかし、この概念は現在のところ定義が曖昧で、拡大解釈され、抑止に寄与しないばかりか、逆効果となる活動にU.S. armed forcesを従事させる危険性がある。こうした活動を抑制できなければ、戦力規模の拡大が必要になり、近代化の努力が妨げられることになる。
(3) 米国は、核武装したほぼ同等の力を持つ対立相手2ヵ国と同時に衝突する可能性があるという課題に直面したことはない。U.S. Department of Defenseがその目的を効果的に達成するためには、会戦を改善し、戦争遂行と連接させるべきである。平時の競争において、米国がインド太平洋と欧州の舞台をどのように設定し、拒否による抑止能力を強化し、抑止が失敗した場合の戦闘能力を向上させるかに焦点を絞るべきである。
(4) 会戦への取り組みを見直すことは、米軍の兵力と能力、態勢、活動を意図的に戦争遂行の構想と結びつけ、変えていくことになる。そのためには、戦域部隊を変革し、米軍の戦争遂行構想を改善する必要がある。そのような部隊は、高性能化された通常戦に関連する能力を備えるべきである。また、これらの戦闘構想を可能にし、部隊の生存性を向上させ、敵の攻撃計画を変えるため戦域内で部隊が移動するのを容易にする態勢を整える必要がある。訓練や演習などの活動は、侵略の可能性が高いと考えられる重要な時期に戦力を戦域に投入すると同時に、U.S. armed forcesが遂行することが期待される戦闘任務を実践するという、二重の目的を果たすものである。
(5) U.S. Department of Defenseの上級指導者は、このような方式を採用することで、2つの戦域で独自の選択肢を提供することができる。平時の対立では、紛争時にどのように、どこで、どの規模で戦うかを正確に示すことはできない。しかし、戦力や能力、態勢、活動などを示すことはできる。これらは、時と場合によってさまざまに組み合わせることができる。これにより、U.S. Department of Defenseの上級指導者は、想定されるシナリオを幅広く把握し、潜在的な対応策を提供することで、意思決定の余地を確保することができる。
(6) 会戦は次のような形で抑止に貢献できる。
a. 米国がインド太平洋と欧州において、脅威にさらされている地域の近くで、拡張性、即応性があり、戦闘の信頼性が高い平時の態勢を構築できるようになる。
b. U.S. Department of Defenseは、敵の意思決定を変えることを目的とした適切な戦争遂行能力を実証することができる。
c. 米軍は、即応を可能にし、平時の態勢から、分散した危機時や戦時の態勢に移行し、生存能力を高め、戦闘の信頼性を強化することができる。
(7) 焦点を絞った作戦行動により、U.S. Department of Defenseは中国やロシアを抑止するための中心的な活動ではないことに時間と資源を費やすことを避けることができる。さらに、U.S. armed forcesが自由に使える既存の戦力と資源を最大限に活用することができる。U.S. Department of Defenseは現有戦力でやりくりする必要があり、態勢や活動に一層の創意工夫が必要となる。会戦は、戦力や資源にこれ以上の負担をかけることなく、即応性を維持しながら資源を最大限に活用する方法を提供する。しかし、そのためには、抑止の名の下に、目的意識を持ち、優先順位をつけ、的を絞った行動を採るために、態勢、安全保障協力、展開に対する継続的な要求のいくつかを断ち切る必要がある。中国とロシアを抑止するために現存する資源で短期的な変更を行うことで、U.S. Department of Defenseは将来の抑止力を強化するための長期的な戦力近代化の努力に引き続き注力することができる。
(8) 会戦への新たな取り組みは、短期的にはインド太平洋と欧州における同時抑止を強化することができる。それは、予算や長期的な近代化計画、即応性を損なうことなく、2022年国家防衛戦略で強調された優先事項と米国の継続的で世界的な関与との溝を埋めることができる。
記事参照:Campaign of Denial: Strengthening Simultaneous Deterrence in the Indo-Pacific and Europe
(1) 米国は、中国、ロシアという2つの核保有国による大規模な通常兵器による侵略を同時に抑止するという、前例のない課題に直面している。効果的な同時抑止を実現するためには、米国が抑止の基本原則を再認識し、米国の軍事力が戦争遂行上の優位性を損ないつつある傾向を逆転させる必要がある。同盟国や提携国に対する米国の拡大抑止の約束を守るためには、中国やロシアが争っている遠く離れた地域に米軍が力を投射する必要がある。そのためには、U.S. Department of Defenseは日和見的な取り組みから転換しなければならないが、それを阻む戦略実施上の障壁に直面してきた。その一因は、戦略と資源の不整合にある。U.S. armed forcesは、インド太平洋の中国と欧州のロシアを同時に通常紛争から抑止するのに必要な種類と数の戦力を保有していない。さらに、近代化された能力、必要な態勢、適切な即応性、現在の課題に対応する戦闘任務の遂行に関する習熟度が欠けている。そして、戦略的優先事項に集中するためには、他の地域での危険を受け入れる必要がある。
(2) 米国には同時抑止に対する新たな取り組みが必要である。Biden政権は、平時の抑止の重要な要素として、会戦(campaign)という概念を打ち出した。これは、敵国による強制に意図的に対抗するよう、軍事活動を順序立てて連動させようとするものである。それは、U.S. Department of Defenseが中国やロシアによる挑戦に対応しつつ、世界的な需要にも応えられるようにすることにある。しかし、この概念は現在のところ定義が曖昧で、拡大解釈され、抑止に寄与しないばかりか、逆効果となる活動にU.S. armed forcesを従事させる危険性がある。こうした活動を抑制できなければ、戦力規模の拡大が必要になり、近代化の努力が妨げられることになる。
(3) 米国は、核武装したほぼ同等の力を持つ対立相手2ヵ国と同時に衝突する可能性があるという課題に直面したことはない。U.S. Department of Defenseがその目的を効果的に達成するためには、会戦を改善し、戦争遂行と連接させるべきである。平時の競争において、米国がインド太平洋と欧州の舞台をどのように設定し、拒否による抑止能力を強化し、抑止が失敗した場合の戦闘能力を向上させるかに焦点を絞るべきである。
(4) 会戦への取り組みを見直すことは、米軍の兵力と能力、態勢、活動を意図的に戦争遂行の構想と結びつけ、変えていくことになる。そのためには、戦域部隊を変革し、米軍の戦争遂行構想を改善する必要がある。そのような部隊は、高性能化された通常戦に関連する能力を備えるべきである。また、これらの戦闘構想を可能にし、部隊の生存性を向上させ、敵の攻撃計画を変えるため戦域内で部隊が移動するのを容易にする態勢を整える必要がある。訓練や演習などの活動は、侵略の可能性が高いと考えられる重要な時期に戦力を戦域に投入すると同時に、U.S. armed forcesが遂行することが期待される戦闘任務を実践するという、二重の目的を果たすものである。
(5) U.S. Department of Defenseの上級指導者は、このような方式を採用することで、2つの戦域で独自の選択肢を提供することができる。平時の対立では、紛争時にどのように、どこで、どの規模で戦うかを正確に示すことはできない。しかし、戦力や能力、態勢、活動などを示すことはできる。これらは、時と場合によってさまざまに組み合わせることができる。これにより、U.S. Department of Defenseの上級指導者は、想定されるシナリオを幅広く把握し、潜在的な対応策を提供することで、意思決定の余地を確保することができる。
(6) 会戦は次のような形で抑止に貢献できる。
a. 米国がインド太平洋と欧州において、脅威にさらされている地域の近くで、拡張性、即応性があり、戦闘の信頼性が高い平時の態勢を構築できるようになる。
b. U.S. Department of Defenseは、敵の意思決定を変えることを目的とした適切な戦争遂行能力を実証することができる。
c. 米軍は、即応を可能にし、平時の態勢から、分散した危機時や戦時の態勢に移行し、生存能力を高め、戦闘の信頼性を強化することができる。
(7) 焦点を絞った作戦行動により、U.S. Department of Defenseは中国やロシアを抑止するための中心的な活動ではないことに時間と資源を費やすことを避けることができる。さらに、U.S. armed forcesが自由に使える既存の戦力と資源を最大限に活用することができる。U.S. Department of Defenseは現有戦力でやりくりする必要があり、態勢や活動に一層の創意工夫が必要となる。会戦は、戦力や資源にこれ以上の負担をかけることなく、即応性を維持しながら資源を最大限に活用する方法を提供する。しかし、そのためには、抑止の名の下に、目的意識を持ち、優先順位をつけ、的を絞った行動を採るために、態勢、安全保障協力、展開に対する継続的な要求のいくつかを断ち切る必要がある。中国とロシアを抑止するために現存する資源で短期的な変更を行うことで、U.S. Department of Defenseは将来の抑止力を強化するための長期的な戦力近代化の努力に引き続き注力することができる。
(8) 会戦への新たな取り組みは、短期的にはインド太平洋と欧州における同時抑止を強化することができる。それは、予算や長期的な近代化計画、即応性を損なうことなく、2022年国家防衛戦略で強調された優先事項と米国の継続的で世界的な関与との溝を埋めることができる。
記事参照:Campaign of Denial: Strengthening Simultaneous Deterrence in the Indo-Pacific and Europe
8月22日「中国によるパキスタンの港利用の脅威は誇張されている―米インド太平洋安全保障問題専門家論説」(South China Morning Post, August 22, 2023)
8月22日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは、米シンクタンクEast-West Center客員研究員Riaz Khokharの“Why fears of a Chinese naval base at Pakistan’s Gwadar port are overblown”と題する論説を掲載し、パキスタンのグワダル港を中国海軍が恒久的に利用する可能性がかなり誇張されて議論されているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 2013年、中国はパキスタンのグワダル港の建設と運営に対する同港の40年間のリースの提案を受け入れた。この周辺は内乱が激しい地域で、今年8月14日にも中国人労働者を狙った爆破事件が起きている。中国がこれを受け入れたということは、単なる経済的利益よりも戦略的利益を彼らが重視したことを意味している。
(2) グワダル港は2008年から創業しているが、経済活動はほとんどない。経済的利益がごくわずかであること、テロのリスクが有るにもかかわらず、中国が経済的投資を続けていることから、グワダル港に大規模な海軍施設を建設し、中国海軍が利用するためだという観測がある。
(3) 2000年代初頭にパキスタンは中国に接近し、グワダルでの海軍基地建設の支援を求めた。ホルムズ海峡に近く、大型軍艦を寄港させられるというその戦略的位置ゆえに、中国海軍が同港を利用する可能性が指摘されてきた。実際、中国艦船はパキスタンのカラチ港に艦船の保守整備などのために寄港している。これによって、インド洋における中国の艦隊維持能力が高まるかもしれない。
(4) しかし、これが実現する可能性はどれほどあるのだろうか。検討すべきは、米海軍のU.S. Navyの活動に関する中国の情報収集活動の性質、そしてパキスタンは中国に恒久的な利用権を認めるのかという2点である。
(5) 中国による情報収集活動は新しいものではない。パキスタンのカラチやジンナー基地で中国は情報収集活動を行ってきたのであり、今後もカラチ等の基地での活動が優先されると見られている。大勢の中国人技士がカラチには駐在していて、ジンナーもそうなる可能性がある。そうした施設や人員を利用して、中国はペルシャ湾における米海軍の活動に関する情報を集めてきた。このような情報収集活動を、中国はほかの国々でも実施している。
(6) パキスタン政府は、中国からの海軍資産移転の見返りに、中国による港利用を認める可能性がある。パキスタンの目的は、諜報や偵察能力(ISR)の向上である。最近パキスタンが米国との間で、通信の相互運用性に関する合意を結んだが、それは、ISR能力に対するパキスタンの関心を示している。したがって、中国が同様の技術を供与すれば、パキスタンはそれを欲するだろう。
(7) しかしこのことは、パキスタンの沿岸に中国が情報収集船を展開することとは、意味が大きく異なる。パキスタンはすでにこれまで、潜水艦を含む中国艦船の寄港を認めており、今後は空母に対しても港を開く意図があるようである。そうであっても、中国海軍のパキスタン港の利用の主要な目的は、Pākistān Bahrí'a(パキスタン海軍)への訓練提供や相互運用性の向上であり、中国海軍の配備確立ではない。パキスタンとしても、有事対応のためのアクセスを中国には認めていない。むしろパキスタンは、港への中国海軍の利用を米国からの支援を引き出す交渉材料とするかもしれない。
(8) パキスタンが中国海軍の恒久的配備を認めるシナリオが2つある。第1に、米国の支援が減ることと、そして米国のインドに対する支援が強化されることでパキスタンの脅威が高まることである。第2に、中国が米国の経済力、軍事力、外交的優位を圧倒し、パキスタンが中国からの保証を確保することである。
記事参照:Why fears of a Chinese naval base at Pakistan’s Gwadar port are overblown
(1) 2013年、中国はパキスタンのグワダル港の建設と運営に対する同港の40年間のリースの提案を受け入れた。この周辺は内乱が激しい地域で、今年8月14日にも中国人労働者を狙った爆破事件が起きている。中国がこれを受け入れたということは、単なる経済的利益よりも戦略的利益を彼らが重視したことを意味している。
(2) グワダル港は2008年から創業しているが、経済活動はほとんどない。経済的利益がごくわずかであること、テロのリスクが有るにもかかわらず、中国が経済的投資を続けていることから、グワダル港に大規模な海軍施設を建設し、中国海軍が利用するためだという観測がある。
(3) 2000年代初頭にパキスタンは中国に接近し、グワダルでの海軍基地建設の支援を求めた。ホルムズ海峡に近く、大型軍艦を寄港させられるというその戦略的位置ゆえに、中国海軍が同港を利用する可能性が指摘されてきた。実際、中国艦船はパキスタンのカラチ港に艦船の保守整備などのために寄港している。これによって、インド洋における中国の艦隊維持能力が高まるかもしれない。
(4) しかし、これが実現する可能性はどれほどあるのだろうか。検討すべきは、米海軍のU.S. Navyの活動に関する中国の情報収集活動の性質、そしてパキスタンは中国に恒久的な利用権を認めるのかという2点である。
(5) 中国による情報収集活動は新しいものではない。パキスタンのカラチやジンナー基地で中国は情報収集活動を行ってきたのであり、今後もカラチ等の基地での活動が優先されると見られている。大勢の中国人技士がカラチには駐在していて、ジンナーもそうなる可能性がある。そうした施設や人員を利用して、中国はペルシャ湾における米海軍の活動に関する情報を集めてきた。このような情報収集活動を、中国はほかの国々でも実施している。
(6) パキスタン政府は、中国からの海軍資産移転の見返りに、中国による港利用を認める可能性がある。パキスタンの目的は、諜報や偵察能力(ISR)の向上である。最近パキスタンが米国との間で、通信の相互運用性に関する合意を結んだが、それは、ISR能力に対するパキスタンの関心を示している。したがって、中国が同様の技術を供与すれば、パキスタンはそれを欲するだろう。
(7) しかしこのことは、パキスタンの沿岸に中国が情報収集船を展開することとは、意味が大きく異なる。パキスタンはすでにこれまで、潜水艦を含む中国艦船の寄港を認めており、今後は空母に対しても港を開く意図があるようである。そうであっても、中国海軍のパキスタン港の利用の主要な目的は、Pākistān Bahrí'a(パキスタン海軍)への訓練提供や相互運用性の向上であり、中国海軍の配備確立ではない。パキスタンとしても、有事対応のためのアクセスを中国には認めていない。むしろパキスタンは、港への中国海軍の利用を米国からの支援を引き出す交渉材料とするかもしれない。
(8) パキスタンが中国海軍の恒久的配備を認めるシナリオが2つある。第1に、米国の支援が減ることと、そして米国のインドに対する支援が強化されることでパキスタンの脅威が高まることである。第2に、中国が米国の経済力、軍事力、外交的優位を圧倒し、パキスタンが中国からの保証を確保することである。
記事参照:Why fears of a Chinese naval base at Pakistan’s Gwadar port are overblown
8月23日「フィリピンに対する中国の抑制的態度は今後も継続するか?―香港英字紙報道」(South China Morning Post, August 23, 2023)
8月23日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは、“South China Sea: is arrival of Philippines’ resupply mission a sign of Beijing backing off or China’s long game?”と題する記事を掲載し、セカンド・トーマス礁におけるフィリピンの再補給行動に対して中国が批判を控えめなものにしたことについて、その背景と、今後の中国の対応の方向性について、専門家の意見を参照しつつ、要旨以下のように報じている。
(1) 8月22日火曜日、フィリピンがセカンド・トーマス礁で座礁した軍艦に対する再補給活動を実施した。それに対し中国海警総隊は、同環礁が位置する南沙諸島が中国の主権下にあり、違法な建築物資の搬入は認められないと批判した。
(2) しかし今回の中国の反応は控えめなものだとオブザーバーは見ている。以前、中国はフィリピンの同種の活動に対し、放水銃を利用して警告したが、それが国際的な批判を惹起したため、それを回避する狙いだという。これは、中国政府が地域の緊張を煽りたいわけではないことを示しているが、その慎重な姿勢がいつまで続くかはわからないと、専門家らは言う。
(3) シンガポールのシンクタンクS. Rajaratnam School of International Studies上席研究員Collin Kohは、中国が東南アジア諸国の機嫌を損ねてまで緊張を高める必要性を感じていないと述べている。特に現在、中国と東南アジア諸国は、南シナ海に関する行動規範(COC)の交渉を進めているところである。そして中国は、フィリピンの現Marcos Jr.政権が、前Duterte政権と違い、この問題がこじれれば即座に国際舞台に持ち出す可能性があると考えているという。そうなれば中国は国際的な非難にさらされるであろう。
(4) フィリピンのDe La Salle UniversityのDon McLain Gillは、中国の過去10年間の行動様式を見ると、南シナ海で挑発的行為を連続することについてはかなり慎重だという。これは、重大な計算違いが起きることを恐れてのことである。
(5) 中国は、米国や西側同盟国が地域の安定を損ねてきたと繰り返してきた。王毅外交部長は、東南アジア諸国への歴訪で同様の趣旨を伝えている。しかし、Collin Kohによれば、中国が放水銃の使用問題をゴリ押しするのであれば、皮肉にも、外部勢力の介入が必要であることを示すようなものである。だからこそ、中国は今回控えめな態度を採っている。
(6) ただし、Don McLain Gillによれば、この態度がいつまで続くかは不透明だとし、今回中国の対応がフィリピンに補給の「許可を与えている」ことを示唆しており、将来の封鎖を正当化するために利用されるかもしれないと言う。Collin Kohは、中国は「長いゲーム」を戦い、いつ攻勢に出るかを決定できるという。なぜなら中国は、それができるだけの軍事力を有しているからである。また、米国が東南アジア諸国を支援するために常に軍事力の展開を維持できるわけではないとも考えている。Collin Kohは言う、中国が「ボタンを押したいかどうかが問題なのだ」と。
記事参照:South China Sea: is arrival of Philippines’ resupply mission a sign of Beijing backing off or China’s long game?
(1) 8月22日火曜日、フィリピンがセカンド・トーマス礁で座礁した軍艦に対する再補給活動を実施した。それに対し中国海警総隊は、同環礁が位置する南沙諸島が中国の主権下にあり、違法な建築物資の搬入は認められないと批判した。
(2) しかし今回の中国の反応は控えめなものだとオブザーバーは見ている。以前、中国はフィリピンの同種の活動に対し、放水銃を利用して警告したが、それが国際的な批判を惹起したため、それを回避する狙いだという。これは、中国政府が地域の緊張を煽りたいわけではないことを示しているが、その慎重な姿勢がいつまで続くかはわからないと、専門家らは言う。
(3) シンガポールのシンクタンクS. Rajaratnam School of International Studies上席研究員Collin Kohは、中国が東南アジア諸国の機嫌を損ねてまで緊張を高める必要性を感じていないと述べている。特に現在、中国と東南アジア諸国は、南シナ海に関する行動規範(COC)の交渉を進めているところである。そして中国は、フィリピンの現Marcos Jr.政権が、前Duterte政権と違い、この問題がこじれれば即座に国際舞台に持ち出す可能性があると考えているという。そうなれば中国は国際的な非難にさらされるであろう。
(4) フィリピンのDe La Salle UniversityのDon McLain Gillは、中国の過去10年間の行動様式を見ると、南シナ海で挑発的行為を連続することについてはかなり慎重だという。これは、重大な計算違いが起きることを恐れてのことである。
(5) 中国は、米国や西側同盟国が地域の安定を損ねてきたと繰り返してきた。王毅外交部長は、東南アジア諸国への歴訪で同様の趣旨を伝えている。しかし、Collin Kohによれば、中国が放水銃の使用問題をゴリ押しするのであれば、皮肉にも、外部勢力の介入が必要であることを示すようなものである。だからこそ、中国は今回控えめな態度を採っている。
(6) ただし、Don McLain Gillによれば、この態度がいつまで続くかは不透明だとし、今回中国の対応がフィリピンに補給の「許可を与えている」ことを示唆しており、将来の封鎖を正当化するために利用されるかもしれないと言う。Collin Kohは、中国は「長いゲーム」を戦い、いつ攻勢に出るかを決定できるという。なぜなら中国は、それができるだけの軍事力を有しているからである。また、米国が東南アジア諸国を支援するために常に軍事力の展開を維持できるわけではないとも考えている。Collin Kohは言う、中国が「ボタンを押したいかどうかが問題なのだ」と。
記事参照:South China Sea: is arrival of Philippines’ resupply mission a sign of Beijing backing off or China’s long game?
8月23日「軍事支出の増額に走るASEAN諸国―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, August 23, 2023)
8月23日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundation のウエブサイトは、駐ドイツインド大使等を歴任したインド元外交官Gurjit Singhの “Military expansion among ASEAN members”と題する論説を掲載し、ここでGurjit Singhは変動する世界秩序と中国の南シナ海への拡大する侵出はASEAN諸国をして軍事支出の増額に走らせているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Stockholm International Peace Research Institute(以下、SIPRIと言う)の2023年世界の軍事支出によれば、ASEAN諸国の2012年の軍事支出は、2000年の203億ドルから432億ドルに増加した。2000年~2007年までは、ASEAN諸国の年間軍事支出は300億ドルを下回っていたが、2015年以来、支出額が410億ドル以上となり、2020年には最高額である443億ドルに達した。中国の南シナ海への侵略的行為は、ASEAN諸国を分断し、中国船舶がASEAN5ヵ国のEEZ、沿岸そして環礁などに侵入するなど、2012年から激しくなってきた。注目すべきはASEAN諸国の軍事支出の増加が2013年に始まったことで、この年の軍事支出は前年の340億ドルから380億ドルに増え、以来、増額が継続している。
(2) SIPRIの2002年~2021年のデータによれば、この間のシンガポールの軍事支出はASEAN諸国で最大の110億ドルに達した。次はインドネシアの82億ドルで、2013年の65億ドルから徐々に増額してきている。タイは多額の兵器輸入国で、その軍事支出は66億ドルである。マレーシアとフィリピンはこの10年間、共に年間30億ドルを越えており、今後も増えていくと見られる。ベトナムについては、2018年国防予算(推定GDP2.36%)以降、数値を公表しておらず、SIPRIに信頼できるデータはないが、年間軍事支出は55億ドル前後と見られる。ベトナムは装備兵器の70%をロシアに依存しており、大型装備のほとんどはロシア製であった。しかし、2021年にはロシアへの依存度が60%に低下し、米国が2016年に対ベトナム武器禁輸措置を撤廃したことから、2017年以降、米国と韓国が主な供給元になった。因みに、韓国は、ASEAN諸国への武器輸出を強化しており、SIPRI によれば、2017年~2021年の間、20億ドル以上の防衛装備をフィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマーおよびマレーシアに輸出している。
(3) ASEAN諸国の脅威認識と各国の脅威対処の方法は様々である。たとえば、ベトナムとフィリピンは中国の南シナ海への侵出による最大の被害者で、中国は、伝統的に両国の支配下にあるが防御されていない海洋自然地形を占拠したり、その支配に挑戦したりしてきた。フィリピン支配のミスチーフ環礁(1995年以降、中国実効支配、現在は3,000メートル級の滑走路を持つ人工島に変貌、中国名:美済礁:訳者注)やセカンド・トーマス礁(依然、フィリピンの実効支配下にあるが、補給活動に対する中国の妨害事案多発:訳者注)、そしてベトナムのジョンソン礁(1988年中越両国海軍衝突後、中国占拠、中国名:赤瓜礁:訳者注)などがそうである。こうした中国の行為がベトナムやフィリピンの軍備拡張の主たる要因となっている。さらに、ASEAN諸国の軍事力増強で注目されるのは、シンガポール、インドネシア、ベトナムおよびマレーシアの潜水艦取得である。
(4) ASEANの一部の国々では、領域防衛の思想的背景が変わってきた。国内抑圧や反乱対処を狙いとした大規模な陸軍に代わって、海洋における挑戦を踏まえて、海洋安全保障能力を強化するための海、空軍力の強化が主体となってきている。とは言え、民主主義社会では、新たな装備購入に当たっては、しばしば予算上の制約が生じる。たとえば、フィリピンはインドから BrahMosミサイルをインドから購入することになったが、インドネシアは政府と議会間の内部調整に失敗して、購入できなかった。また、インドネシアは、42機のラファール戦闘機をフランスに発注したが、一方で予算上の制約から、カタールから7億9,200万ドルで12機の中古のミラージュ2000-5戦闘機を取得した。
(5) SIPRI によれば、ASEAN諸国の2021年の軍事支出は430億ドルで、世界シェアはわずか2%であった。他と比較すれば、米国は8,270億ドル(世界書シェア39%)、ヨーロッパ4,180億ドル(同20%)で、また中国は2,920億ドル(同13%)、そして日本と韓国は共に460億ドル(同2.1%)であった。2010年頃からASEAN諸国に対する武器輸出攻勢が始まっており、ロシアはマレーシア、インドネシアおよびベトナムに対して、主としてスホーイ戦闘機を迅速に供与して人気があった。ロシア製の潜水艦も人気が高かった。ウクライナ侵攻とASEANに対する米国の売り込み攻勢が、ロシア製装備を忌避させることになっている。2000年~2020年の間、ロシアはASEAN諸国に対する最大の武器供給国で、その供給額は米国の84億ドルに対して110億ドルであった。装備価格、ASEAN諸国の内政に対する不干渉、さらには装備代金の支払いに時にバーター協定を容認することなどが、ロシアに有利に働いた。インドネシアがスホーイ35戦闘機の購入をキャンセルしたことや、フィリピンが軍用ヘリコプターの購入意欲を失ったのは、ウクライナ侵攻に伴う米国の対ロシア制裁が理由と言われる。ウクライナ戦争のために、ロシアの兵器供給能力は制約されている。その間隙を縫って、米国、欧州諸国そして他のアジア諸国は、ASEAN諸国に対する売り込みを強化している。そこで、最も有利に立っているのは韓国で、韓国はASEAN諸国の国内政治に対してほとんど関心を示さず、安価で良質の軍事技術を提供している。ASEAN諸国の軍事力近代化への現在の勢いを考えれば、特にインドにとっても市場拡大の大きなチャンスと言える。
記事参照:Military expansion among ASEAN members
(1) Stockholm International Peace Research Institute(以下、SIPRIと言う)の2023年世界の軍事支出によれば、ASEAN諸国の2012年の軍事支出は、2000年の203億ドルから432億ドルに増加した。2000年~2007年までは、ASEAN諸国の年間軍事支出は300億ドルを下回っていたが、2015年以来、支出額が410億ドル以上となり、2020年には最高額である443億ドルに達した。中国の南シナ海への侵略的行為は、ASEAN諸国を分断し、中国船舶がASEAN5ヵ国のEEZ、沿岸そして環礁などに侵入するなど、2012年から激しくなってきた。注目すべきはASEAN諸国の軍事支出の増加が2013年に始まったことで、この年の軍事支出は前年の340億ドルから380億ドルに増え、以来、増額が継続している。
(2) SIPRIの2002年~2021年のデータによれば、この間のシンガポールの軍事支出はASEAN諸国で最大の110億ドルに達した。次はインドネシアの82億ドルで、2013年の65億ドルから徐々に増額してきている。タイは多額の兵器輸入国で、その軍事支出は66億ドルである。マレーシアとフィリピンはこの10年間、共に年間30億ドルを越えており、今後も増えていくと見られる。ベトナムについては、2018年国防予算(推定GDP2.36%)以降、数値を公表しておらず、SIPRIに信頼できるデータはないが、年間軍事支出は55億ドル前後と見られる。ベトナムは装備兵器の70%をロシアに依存しており、大型装備のほとんどはロシア製であった。しかし、2021年にはロシアへの依存度が60%に低下し、米国が2016年に対ベトナム武器禁輸措置を撤廃したことから、2017年以降、米国と韓国が主な供給元になった。因みに、韓国は、ASEAN諸国への武器輸出を強化しており、SIPRI によれば、2017年~2021年の間、20億ドル以上の防衛装備をフィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマーおよびマレーシアに輸出している。
(3) ASEAN諸国の脅威認識と各国の脅威対処の方法は様々である。たとえば、ベトナムとフィリピンは中国の南シナ海への侵出による最大の被害者で、中国は、伝統的に両国の支配下にあるが防御されていない海洋自然地形を占拠したり、その支配に挑戦したりしてきた。フィリピン支配のミスチーフ環礁(1995年以降、中国実効支配、現在は3,000メートル級の滑走路を持つ人工島に変貌、中国名:美済礁:訳者注)やセカンド・トーマス礁(依然、フィリピンの実効支配下にあるが、補給活動に対する中国の妨害事案多発:訳者注)、そしてベトナムのジョンソン礁(1988年中越両国海軍衝突後、中国占拠、中国名:赤瓜礁:訳者注)などがそうである。こうした中国の行為がベトナムやフィリピンの軍備拡張の主たる要因となっている。さらに、ASEAN諸国の軍事力増強で注目されるのは、シンガポール、インドネシア、ベトナムおよびマレーシアの潜水艦取得である。
(4) ASEANの一部の国々では、領域防衛の思想的背景が変わってきた。国内抑圧や反乱対処を狙いとした大規模な陸軍に代わって、海洋における挑戦を踏まえて、海洋安全保障能力を強化するための海、空軍力の強化が主体となってきている。とは言え、民主主義社会では、新たな装備購入に当たっては、しばしば予算上の制約が生じる。たとえば、フィリピンはインドから BrahMosミサイルをインドから購入することになったが、インドネシアは政府と議会間の内部調整に失敗して、購入できなかった。また、インドネシアは、42機のラファール戦闘機をフランスに発注したが、一方で予算上の制約から、カタールから7億9,200万ドルで12機の中古のミラージュ2000-5戦闘機を取得した。
(5) SIPRI によれば、ASEAN諸国の2021年の軍事支出は430億ドルで、世界シェアはわずか2%であった。他と比較すれば、米国は8,270億ドル(世界書シェア39%)、ヨーロッパ4,180億ドル(同20%)で、また中国は2,920億ドル(同13%)、そして日本と韓国は共に460億ドル(同2.1%)であった。2010年頃からASEAN諸国に対する武器輸出攻勢が始まっており、ロシアはマレーシア、インドネシアおよびベトナムに対して、主としてスホーイ戦闘機を迅速に供与して人気があった。ロシア製の潜水艦も人気が高かった。ウクライナ侵攻とASEANに対する米国の売り込み攻勢が、ロシア製装備を忌避させることになっている。2000年~2020年の間、ロシアはASEAN諸国に対する最大の武器供給国で、その供給額は米国の84億ドルに対して110億ドルであった。装備価格、ASEAN諸国の内政に対する不干渉、さらには装備代金の支払いに時にバーター協定を容認することなどが、ロシアに有利に働いた。インドネシアがスホーイ35戦闘機の購入をキャンセルしたことや、フィリピンが軍用ヘリコプターの購入意欲を失ったのは、ウクライナ侵攻に伴う米国の対ロシア制裁が理由と言われる。ウクライナ戦争のために、ロシアの兵器供給能力は制約されている。その間隙を縫って、米国、欧州諸国そして他のアジア諸国は、ASEAN諸国に対する売り込みを強化している。そこで、最も有利に立っているのは韓国で、韓国はASEAN諸国の国内政治に対してほとんど関心を示さず、安価で良質の軍事技術を提供している。ASEAN諸国の軍事力近代化への現在の勢いを考えれば、特にインドにとっても市場拡大の大きなチャンスと言える。
記事参照:Military expansion among ASEAN members
8月23日「中国の『海上民兵』が南シナ海で活動する米艦艇の最大の脅威に浮上―インドメディア報道」(EurAsian Times, August 23, 2023)
8月23日付、インドのニュースサイトEurAsian Timesは、インドのジャーナリストParth Satam の‶Chinese ‘Fishing Militias’ Emerge As Biggest Threat To US Navy Warships Operating In South China Sea ″と題する記事を掲載し、中国の海上民兵がU.S. Navyや同盟国の艦艇にとって極めて大きな脅威となっているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 8月5日に生起した中国海警船6隻と海上民兵が、Philippine Navyのセカンド・トーマス礁に駐留する部隊への物資輸送に借り上げた民間船2隻を放水砲で妨害した事件を受けて、米国、オーストラリア、日本の3ヵ国は、南シナ海で演習を行うと発表した。8月16日にX(旧ツイッター)に投稿された画像には、南シナ海で数百隻に及ぶ中国漁船の大群が小さな島々の周りを航行している様子が写っていた。これは、中国とフィリピンや米国主導の連合軍との間に紛争が勃発した場合、中国の海上民兵が大きな役割を果たす可能性を示唆している。中国専門家等によると、中国の海上民兵はベトナムやフィリピンとの領土をめぐる過去の紛争でも利用されてきたことが確認されている。一方、米豪日の合同演習には、米空母、日本のヘリコプター空母、オ-ストラリアの強襲揚陸艦や航空機が参加する予定である。
(2) 文献によれば、海上民兵は海上国境管理および法執行を担当する部門で、中国の海洋における権利を主張している。それは、直接敵対行為には参加しないが、監視、偵察、後方支援等を担う。RAND Corporation、Center for Strategic and International Studies等に発表された論文によると、これらの船はミサイルや武器で武装しているようには見えないが、専門家たちは、必要があれば、武装するかもしれないと考えている。2人の研究者が、U.S. Army War Collegeのウエブサイトに中国漁船団の変遷と、軍事戦略全体における位置付けについて追跡した結果を掲載している。2000年の中国国防白皮書以来、中国は海上民兵を「軍が指揮し、軍と文民当局が責任を分担する軍民共同の陸海国境管理システム」と説明し、中国は海軍偏重から「複数の法執行主体(multi agent)、分業方式」へと徐々に移行していった。2005年以降、中国は人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)を事態の背後における役割に使い、代わりに海上法執行機関と海上民兵を「不測の事態に最前線で対応」する組織としている。中国は、民兵を「定職に就いている民間人からなる武装集団組織」とし、中国軍の一部であり、PLAの「補助および予備部隊」としている。民兵は公海上で前線のPLA艦艇への弾薬・食糧の供給や任務遂行に必要な物資運搬等に任ずる。海上民兵は「PLANと中国海警総隊(以下、CCGと言う)の両方から訓練を受けて、国境警備、監視・偵察、戦時における海軍の支援及びこれらに限定されない任務を遂行する」と見られる。
(3) 米国の国防問題専門家Derek J. GrossmanのRAND Corporationへの2020年4月の投稿記事では、人民軍海上民兵(以下、PAFMMと言う)の起源が、1950年代の農業集団化にあり、漁業の集団化も含まれるとする。中国は、当時のソ連の社会経済思想と軍事ドクトリンの影響も受け、グレーゾーンでの戦術として、「係争地域における中国の存在を確立し、地上または海上での現状を変更すること」により相手側の領有権主張に挑戦すると考えられる。このような古典的なグレーゾーン作戦は、漁船の大群で敵を圧倒し、CCGやPLANの艦船が後方から補強することで、「戦わずして勝つ」ことを目的としている。アジア太平洋防衛問題専門家Grant Newsham元米海兵隊大佐によれば、漁船はグレーゾーンでの目標に「群がり」、相手国の沿岸警備隊や海軍の活動を「非常に困難に」するという。
(4) Derek J. Grossmanによると、中国のPAFMM部隊は、1974年1月、南ベトナムとの西沙諸島紛争の際、島嶼占領作戦に大きく寄与した。「西沙諸島周辺に中国漁船が存在したことで、南ベトナムはPAFMMに対する武力行使の意思決定およびPLANの作戦に対抗するための反応時間を遅らせた。それによって中国はより効果的な調整を行うことができ、2隻の漁船で500人のPLA部隊を西西沙諸島に派遣したところ、南ベトナム兵は即座に降伏した。中国政府は、漁業民兵を活用すれば、相手が米国の同盟国であっても、米国による介入の可能性がはるかに低くなることを学んだ。その結果、PAFMMは、PLANとCCGのほぼすべての主要な作戦で、中国の海洋主権拡大に反対する国への嫌がらせや、係争地の奪取に任ずるようになった。1978年に日本との尖閣諸島をめぐる対立では魚釣島に群がり、また2016年の活動もその例である。1995年と2012年に中国がフィリピンからミスチーフ礁とスカボロー礁を奪取した際にも関与している。中国政府はまた、2014年にセカンド・トーマス礁へのフィリピンによる補給を封鎖しようとし、2017年からは南沙諸島でフィリピンの漁民に嫌がらせをしている。Grant Newshamによれば、2016年の日本との尖閣事件では、漁船団や海上民兵が「明らかに中国の広範な軍事力の一部」であることを示しており、「中国はいつでもこの海域の支配を主張できるのに対し、日本にはどうすることもできない」というメッセージを送った」とされる。
(5) 上記の例は「グレーゾーン」での作戦であるが、海上民兵には欠点と利点がある。安価な漁船で大群戦術を駆使すれば、Islamic Revolutionary Guard Corps Navy(以下、IRGCNと言う)がペルシャ湾で米海軍を悩ませたように、軍艦に非対称の脅威を与えることができる。海上民兵は、通常の漁船やCCG、PLANの補強として活動する「筋肉」で、これらの漁船は、他の漁船を攻撃、沈没させたり、相手国の沿岸警備隊の船を攻撃したりすることさえできる。ミサイルで武装し、機雷敷設や情報収集、電子戦に使用することもできる。海軍の艦艇は、「通常の」漁船を見過ごす傾向があるが、中国が関与している場合、これは危険な政策だとNewshamは言う。ただ、漁船はIRGCの高速強襲艇より運動能力が劣るため、操船が遅く、銃撃を受ける時間が長くなるという欠点もある。
(6) Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security StudiesのAlex Vuving教授は、漁民組織に対艦ミサイルや攻撃兵器搭載の可能性は低いと考えている。しかし、「彼らは単独あるいは中国軍の指揮下でCCGやPLANと連携して、監視、偵察、封鎖、外国調査船の地震ケーブル切断等を実施する。彼らは2011年と2013年にもベトナムのEEZ内でこの種の活動をした」とEurAsian Timesの取材に答えた。Alex Vuvingは、漁船が監視、偵察、ELINT機器を搭載している可能性があり、将来的には民間ドローンを使用する可能性もあるとしている。
(7) 漁船のもう一つの利点は、軍艦の指揮官には、公海上で軍事的な役割を担っていると確認できない民間人を攻撃するのに制約を受けることである。中国はこの「もっともらしい否認可能性」を悪用し、海上民兵がいかに無害な漁船であるかを主張してきた場合、米国や他の国々には非常に効果的で、これまでの彼らの対応を抑制してきたとGrant Newshamは付け加えている。その結果、漁船が攻撃されない可能性が高まるので、「配備された中国漁船は、限られた数でも軍艦の曳航アレーや飛行作戦を阻害する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
(8) 中国指導部は、このような海上民兵の行動を完全に軍事化すれば、すべての漁船が敵軍にとって合法的な標的と認定され、漁船への無差別攻撃を招き、中国国内で政治的反発を引き起こす可能性があることを考慮しているかもしれない。国民からの怒りがないとしても、報復を求める矛先が中国政府に向く可能性があり、中国共産党が国内情勢を制御できない場合、全く異なる国内政治の変動や新しい勢力を作る恐れがある。
記事参照:https://www.eurasiantimes.com/chinese-fishing-militias-emerge-as-biggest-threat-to-us/
(1) 8月5日に生起した中国海警船6隻と海上民兵が、Philippine Navyのセカンド・トーマス礁に駐留する部隊への物資輸送に借り上げた民間船2隻を放水砲で妨害した事件を受けて、米国、オーストラリア、日本の3ヵ国は、南シナ海で演習を行うと発表した。8月16日にX(旧ツイッター)に投稿された画像には、南シナ海で数百隻に及ぶ中国漁船の大群が小さな島々の周りを航行している様子が写っていた。これは、中国とフィリピンや米国主導の連合軍との間に紛争が勃発した場合、中国の海上民兵が大きな役割を果たす可能性を示唆している。中国専門家等によると、中国の海上民兵はベトナムやフィリピンとの領土をめぐる過去の紛争でも利用されてきたことが確認されている。一方、米豪日の合同演習には、米空母、日本のヘリコプター空母、オ-ストラリアの強襲揚陸艦や航空機が参加する予定である。
(2) 文献によれば、海上民兵は海上国境管理および法執行を担当する部門で、中国の海洋における権利を主張している。それは、直接敵対行為には参加しないが、監視、偵察、後方支援等を担う。RAND Corporation、Center for Strategic and International Studies等に発表された論文によると、これらの船はミサイルや武器で武装しているようには見えないが、専門家たちは、必要があれば、武装するかもしれないと考えている。2人の研究者が、U.S. Army War Collegeのウエブサイトに中国漁船団の変遷と、軍事戦略全体における位置付けについて追跡した結果を掲載している。2000年の中国国防白皮書以来、中国は海上民兵を「軍が指揮し、軍と文民当局が責任を分担する軍民共同の陸海国境管理システム」と説明し、中国は海軍偏重から「複数の法執行主体(multi agent)、分業方式」へと徐々に移行していった。2005年以降、中国は人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)を事態の背後における役割に使い、代わりに海上法執行機関と海上民兵を「不測の事態に最前線で対応」する組織としている。中国は、民兵を「定職に就いている民間人からなる武装集団組織」とし、中国軍の一部であり、PLAの「補助および予備部隊」としている。民兵は公海上で前線のPLA艦艇への弾薬・食糧の供給や任務遂行に必要な物資運搬等に任ずる。海上民兵は「PLANと中国海警総隊(以下、CCGと言う)の両方から訓練を受けて、国境警備、監視・偵察、戦時における海軍の支援及びこれらに限定されない任務を遂行する」と見られる。
(3) 米国の国防問題専門家Derek J. GrossmanのRAND Corporationへの2020年4月の投稿記事では、人民軍海上民兵(以下、PAFMMと言う)の起源が、1950年代の農業集団化にあり、漁業の集団化も含まれるとする。中国は、当時のソ連の社会経済思想と軍事ドクトリンの影響も受け、グレーゾーンでの戦術として、「係争地域における中国の存在を確立し、地上または海上での現状を変更すること」により相手側の領有権主張に挑戦すると考えられる。このような古典的なグレーゾーン作戦は、漁船の大群で敵を圧倒し、CCGやPLANの艦船が後方から補強することで、「戦わずして勝つ」ことを目的としている。アジア太平洋防衛問題専門家Grant Newsham元米海兵隊大佐によれば、漁船はグレーゾーンでの目標に「群がり」、相手国の沿岸警備隊や海軍の活動を「非常に困難に」するという。
(4) Derek J. Grossmanによると、中国のPAFMM部隊は、1974年1月、南ベトナムとの西沙諸島紛争の際、島嶼占領作戦に大きく寄与した。「西沙諸島周辺に中国漁船が存在したことで、南ベトナムはPAFMMに対する武力行使の意思決定およびPLANの作戦に対抗するための反応時間を遅らせた。それによって中国はより効果的な調整を行うことができ、2隻の漁船で500人のPLA部隊を西西沙諸島に派遣したところ、南ベトナム兵は即座に降伏した。中国政府は、漁業民兵を活用すれば、相手が米国の同盟国であっても、米国による介入の可能性がはるかに低くなることを学んだ。その結果、PAFMMは、PLANとCCGのほぼすべての主要な作戦で、中国の海洋主権拡大に反対する国への嫌がらせや、係争地の奪取に任ずるようになった。1978年に日本との尖閣諸島をめぐる対立では魚釣島に群がり、また2016年の活動もその例である。1995年と2012年に中国がフィリピンからミスチーフ礁とスカボロー礁を奪取した際にも関与している。中国政府はまた、2014年にセカンド・トーマス礁へのフィリピンによる補給を封鎖しようとし、2017年からは南沙諸島でフィリピンの漁民に嫌がらせをしている。Grant Newshamによれば、2016年の日本との尖閣事件では、漁船団や海上民兵が「明らかに中国の広範な軍事力の一部」であることを示しており、「中国はいつでもこの海域の支配を主張できるのに対し、日本にはどうすることもできない」というメッセージを送った」とされる。
(5) 上記の例は「グレーゾーン」での作戦であるが、海上民兵には欠点と利点がある。安価な漁船で大群戦術を駆使すれば、Islamic Revolutionary Guard Corps Navy(以下、IRGCNと言う)がペルシャ湾で米海軍を悩ませたように、軍艦に非対称の脅威を与えることができる。海上民兵は、通常の漁船やCCG、PLANの補強として活動する「筋肉」で、これらの漁船は、他の漁船を攻撃、沈没させたり、相手国の沿岸警備隊の船を攻撃したりすることさえできる。ミサイルで武装し、機雷敷設や情報収集、電子戦に使用することもできる。海軍の艦艇は、「通常の」漁船を見過ごす傾向があるが、中国が関与している場合、これは危険な政策だとNewshamは言う。ただ、漁船はIRGCの高速強襲艇より運動能力が劣るため、操船が遅く、銃撃を受ける時間が長くなるという欠点もある。
(6) Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security StudiesのAlex Vuving教授は、漁民組織に対艦ミサイルや攻撃兵器搭載の可能性は低いと考えている。しかし、「彼らは単独あるいは中国軍の指揮下でCCGやPLANと連携して、監視、偵察、封鎖、外国調査船の地震ケーブル切断等を実施する。彼らは2011年と2013年にもベトナムのEEZ内でこの種の活動をした」とEurAsian Timesの取材に答えた。Alex Vuvingは、漁船が監視、偵察、ELINT機器を搭載している可能性があり、将来的には民間ドローンを使用する可能性もあるとしている。
(7) 漁船のもう一つの利点は、軍艦の指揮官には、公海上で軍事的な役割を担っていると確認できない民間人を攻撃するのに制約を受けることである。中国はこの「もっともらしい否認可能性」を悪用し、海上民兵がいかに無害な漁船であるかを主張してきた場合、米国や他の国々には非常に効果的で、これまでの彼らの対応を抑制してきたとGrant Newshamは付け加えている。その結果、漁船が攻撃されない可能性が高まるので、「配備された中国漁船は、限られた数でも軍艦の曳航アレーや飛行作戦を阻害する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
(8) 中国指導部は、このような海上民兵の行動を完全に軍事化すれば、すべての漁船が敵軍にとって合法的な標的と認定され、漁船への無差別攻撃を招き、中国国内で政治的反発を引き起こす可能性があることを考慮しているかもしれない。国民からの怒りがないとしても、報復を求める矛先が中国政府に向く可能性があり、中国共産党が国内情勢を制御できない場合、全く異なる国内政治の変動や新しい勢力を作る恐れがある。
記事参照:https://www.eurasiantimes.com/chinese-fishing-militias-emerge-as-biggest-threat-to-us/
8月23日「米潜水艦部隊は沈黙すべきではない―米専門家論説」(Defense news, August 23, 2023)
8月23日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、米シンクタンクHudson Institute上席研究員 Bryan Clarkの“The US submarine force should be silent no more”と題する論説を掲載し、ここでBryan Clarkは米潜水艦が雑音を発生させ、その結果生じる混乱の中に身を隠し、単独ではなく、無人艇等とチームを組んで作戦を遂行する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国が最近発表した潜水艦を狩る新技術は、誇大広告であろうが、米戦闘艦艇の脅威に対抗する中国の目標を浮き彫りにしている。米潜水艦部隊は、世界最強であり続けることはできないだろう。中国とロシアが自国領海とみなす海域で活動し、潜在的に戦うためには、新しい取り組みと能力が必要になる。
(2) 中国はこの10年以上、対潜水艦戦を強化してきた。今日、中国のソナー・アレイはグアムやハワイから米潜水艦が通過する必要のある海域だけでなく、東シナ海や南シナ海でも耳を澄ましている。このシステムは、Type056コルベットの高性能低周波アクティブソナーによって補完され、米潜水艦の優れた雑音低減能力を無効にしている。さらに台湾海峡のような最も保護された地域の周辺では、中国軍は機雷を配備する可能性が高い。
(3) 冷戦時代以来、米潜水艦部隊は隠密性を頼りに相手を監視し、拒否や報復の威嚇を行ってきた。米潜水艦の主な標的が極北のソ連潜水艦や外洋のソ連艦隊だった頃は、それで十分だった。米潜水艦が攻撃を実施し、所在を暴露して発見される可能性が出てきた時に、米潜水艦が攻撃目標とした敵は対潜水艦戦よりも防御に夢中になっているかもしれない。中国、そしておそらくロシアに対しては、この力学は成り立たない。米潜水艦はおそらく、敵の海岸近くでミサイルや魚雷を発射する必要性が出てくるであろう。そして、最初の一撃の後、逃げ惑うことになり、それ以上戦闘に貢献できなくなる可能性がある。
(4) そうならないために米潜水艦は、中国やロシアが海中探知や照準のために頼りにしているセンサーを抑制するか混乱させる必要がある。米潜水艦部隊は紛争地域の海中に侵入するために、妨害、おとり、欺瞞、破壊を駆使する必要がある。中国やロシアの海底センサーや機雷を抑止、撃破するための音響妨害装置、レーダーやソナーに対する囮、爆発性弾頭を配備するには、無人潜水艇が最適だろう。しかし、潜水艦の兵装能力を維持し、探知される可能性を減らすためには、無人潜水艇は他の艦船等から発進させるべきである。
(5) 敵のセンサーを混乱させたり攻撃したりするには、正確に照準を合わせる必要があるが、海中での感知と通信の難しさによって、即時にはほぼ不可能となる。その代わり、米潜水艦部隊は敵のセンサーやネットワークを事前に調査する必要がある。陸上や航空機、あるいは船舶から発進する中小型のUUVは、妨害や欺瞞の任務に適している。開発中の中型UUVや小型UUVのような無人艇は、米国の海中作戦から注意をそらすために潜水艦の音を模した囮を搭載できる。また、実際の潜水艦の海中活動と模擬潜水艦の海中活動の両方を不明瞭にするために、小型または中型のUUVは、既存の魚雷対策に搭載されているようなノイズメーカーを搭載できる。
(6) デコイ、ジャミング、そして実際の米潜水艦の活動によって敵の海中映像に混乱が生じれば、ロシアや中国の対潜水艦戦能力を圧倒する可能性が高い。しかし、米潜水艦には、回避して隠密性を回復するではなく、攻撃に立ち向かって戦う能力が必要になる。そのためには、新しい対魚雷兵器を誘導できる戦闘システムが必要になる。敵地深くにミサイル攻撃を仕掛けたり、同盟国に侵入する艦船を阻止したりする場合、最も紛争が多い地域に到達した後も、海底機雷の脅威に直面する可能性が高い。この任務では、機雷の迂回路を見つけたり、必要に応じて機雷を破壊したりするために、潜水・回収型の中型UUVが不可欠となる。
(7) 米潜水艦は隠密性を維持する代わりに、雑音を発生させ、その結果生じる混乱の中に身を隠す必要がある。また、米潜水艦は、単独ではなく無人艇等とチームを組んで作戦を遂行する必要がある。そうでなければ、世界を牽引する米国の潜水艦部隊は、傍観者となってしまうかもしれない。
記事参照:The US submarine force should be silent no more
(1) 中国が最近発表した潜水艦を狩る新技術は、誇大広告であろうが、米戦闘艦艇の脅威に対抗する中国の目標を浮き彫りにしている。米潜水艦部隊は、世界最強であり続けることはできないだろう。中国とロシアが自国領海とみなす海域で活動し、潜在的に戦うためには、新しい取り組みと能力が必要になる。
(2) 中国はこの10年以上、対潜水艦戦を強化してきた。今日、中国のソナー・アレイはグアムやハワイから米潜水艦が通過する必要のある海域だけでなく、東シナ海や南シナ海でも耳を澄ましている。このシステムは、Type056コルベットの高性能低周波アクティブソナーによって補完され、米潜水艦の優れた雑音低減能力を無効にしている。さらに台湾海峡のような最も保護された地域の周辺では、中国軍は機雷を配備する可能性が高い。
(3) 冷戦時代以来、米潜水艦部隊は隠密性を頼りに相手を監視し、拒否や報復の威嚇を行ってきた。米潜水艦の主な標的が極北のソ連潜水艦や外洋のソ連艦隊だった頃は、それで十分だった。米潜水艦が攻撃を実施し、所在を暴露して発見される可能性が出てきた時に、米潜水艦が攻撃目標とした敵は対潜水艦戦よりも防御に夢中になっているかもしれない。中国、そしておそらくロシアに対しては、この力学は成り立たない。米潜水艦はおそらく、敵の海岸近くでミサイルや魚雷を発射する必要性が出てくるであろう。そして、最初の一撃の後、逃げ惑うことになり、それ以上戦闘に貢献できなくなる可能性がある。
(4) そうならないために米潜水艦は、中国やロシアが海中探知や照準のために頼りにしているセンサーを抑制するか混乱させる必要がある。米潜水艦部隊は紛争地域の海中に侵入するために、妨害、おとり、欺瞞、破壊を駆使する必要がある。中国やロシアの海底センサーや機雷を抑止、撃破するための音響妨害装置、レーダーやソナーに対する囮、爆発性弾頭を配備するには、無人潜水艇が最適だろう。しかし、潜水艦の兵装能力を維持し、探知される可能性を減らすためには、無人潜水艇は他の艦船等から発進させるべきである。
(5) 敵のセンサーを混乱させたり攻撃したりするには、正確に照準を合わせる必要があるが、海中での感知と通信の難しさによって、即時にはほぼ不可能となる。その代わり、米潜水艦部隊は敵のセンサーやネットワークを事前に調査する必要がある。陸上や航空機、あるいは船舶から発進する中小型のUUVは、妨害や欺瞞の任務に適している。開発中の中型UUVや小型UUVのような無人艇は、米国の海中作戦から注意をそらすために潜水艦の音を模した囮を搭載できる。また、実際の潜水艦の海中活動と模擬潜水艦の海中活動の両方を不明瞭にするために、小型または中型のUUVは、既存の魚雷対策に搭載されているようなノイズメーカーを搭載できる。
(6) デコイ、ジャミング、そして実際の米潜水艦の活動によって敵の海中映像に混乱が生じれば、ロシアや中国の対潜水艦戦能力を圧倒する可能性が高い。しかし、米潜水艦には、回避して隠密性を回復するではなく、攻撃に立ち向かって戦う能力が必要になる。そのためには、新しい対魚雷兵器を誘導できる戦闘システムが必要になる。敵地深くにミサイル攻撃を仕掛けたり、同盟国に侵入する艦船を阻止したりする場合、最も紛争が多い地域に到達した後も、海底機雷の脅威に直面する可能性が高い。この任務では、機雷の迂回路を見つけたり、必要に応じて機雷を破壊したりするために、潜水・回収型の中型UUVが不可欠となる。
(7) 米潜水艦は隠密性を維持する代わりに、雑音を発生させ、その結果生じる混乱の中に身を隠す必要がある。また、米潜水艦は、単独ではなく無人艇等とチームを組んで作戦を遂行する必要がある。そうでなければ、世界を牽引する米国の潜水艦部隊は、傍観者となってしまうかもしれない。
記事参照:The US submarine force should be silent no more
8月28日「全ての部分領域に適応したインド太平洋戦略の必要性―米専門家論説」(The Interpreter, August 28, 2023)
8月28日付けのオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、米国のインド太平洋地域の専門家Saba Sattarによる、“Indo-Pacific strategy: Uniting all the players on the board”と題する論説を掲載し、米国には、中国との争いにおいて、インド太平洋地域の全ての部分領域にまたがる調和の取れた戦略が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 太平洋における問題は、中国との争いにおいて、部分領域(sub-region)全体で足並みを揃えた取り組みが不可欠であることを示している。インド太平洋の極めて重要な4つの部分領域には、北東アジア、東南アジア、南アジアおよび太平洋を包含する多様性を受け入れる考え抜かれた取り組みが必要である。
(2) しばしば過小評価されがちな太平洋こそ、ますます注目を集めている。戦略文書でもインド太平洋全体に言及されているにもかかわらず、米国の取り組みはしばしばバラバラに見える。
(3) 最近の中国外交部長王毅によるポートモレスビー訪問は、中国政府の先を見越した地域関与を示している。しかし、米国は今回の場合でも不意をつかれることはなく、パプアニューギニアと15年間の防衛協力協定を結び、より明確な軍民両用の基幹施設の利用拡大を確固たるものにしている。しかし、現地の反発を抑えることが次の段階である。この2国間協定は、パプアニューギニア国内の研究者や熱心な学生活動家によるデモを引き起こした。大学で行われた調印式では、学生たちが透明性の向上を求めて結集し、その声は「主権」と「中立性」に関する懸念、そして米国の「パプアニューギニアへの帝国的な進出」の撤回を叫ぶ声によって増幅された。この反応は、この地域が地政学的競争と「選択すべき提携国」について独自の見解を持っていることを物語っていた。提携国自身にとっても、様々な構想の衝突を回避しなければならない。米国がパプアニューギニアとの協定締結に迅速に動いたのは、オーストラリアもまた、そのすぐ隣の国との取り決めを模索している最中であった。オーストラリア政府は、中国の影響力増大に対処するための新たな一歩として米国の合意を歓迎している。しかし、それはパプアニューギニアとの協定を強固なものにしようとするオーストラリアの取り組みを無意識に損なうことになりかねず、オーストラリア政府の政策立案者を苛つかせている。パプアニューギニアとの協定を締結する前に、米国がオーストラリア側の担当者ともっと綿密に調整を行っていれば、好意的なシナリオが描けたかもしれない。
(4) 米国が東南アジアに視線を向け直す中、フィリピンにおける最近の進展は、Marcos Jr.大統領のより深いつながりを求める傾向によって、有望な可能性を示している。しかし、間近に迫ったBidenのベトナム訪問は、防衛中心のレンズを超える必要がある。QUADのような、多国間フォーラムを通じた協力的な取り組みは、全体的な包括的取り組みを強化する可能性がある。ベトナムと米国の双方と実りある協力を達成したインドの目覚ましい躍進は、中国が地域全体の影響力を大きく拡大したとはいえ、米越関係を強化するための生産的な手段をもたらす。パプアニューギニアから学んだ教訓は、バランスの取れた、地域に配慮した、包括的な政治的取り組みを求めている。
(5) 太平洋が重要な舞台として浮上したことは、調和のとれた同盟戦略が必要であることを示している。最近の教訓から学び、同盟国間だけでなく同盟国を超えた外交を強化することで、米国はその境界を遥かに超えて響く持続的な協力の時代を切り開くことができる。
記事参照:Indo-Pacific strategy: Uniting all the players on the board
(1) 太平洋における問題は、中国との争いにおいて、部分領域(sub-region)全体で足並みを揃えた取り組みが不可欠であることを示している。インド太平洋の極めて重要な4つの部分領域には、北東アジア、東南アジア、南アジアおよび太平洋を包含する多様性を受け入れる考え抜かれた取り組みが必要である。
(2) しばしば過小評価されがちな太平洋こそ、ますます注目を集めている。戦略文書でもインド太平洋全体に言及されているにもかかわらず、米国の取り組みはしばしばバラバラに見える。
(3) 最近の中国外交部長王毅によるポートモレスビー訪問は、中国政府の先を見越した地域関与を示している。しかし、米国は今回の場合でも不意をつかれることはなく、パプアニューギニアと15年間の防衛協力協定を結び、より明確な軍民両用の基幹施設の利用拡大を確固たるものにしている。しかし、現地の反発を抑えることが次の段階である。この2国間協定は、パプアニューギニア国内の研究者や熱心な学生活動家によるデモを引き起こした。大学で行われた調印式では、学生たちが透明性の向上を求めて結集し、その声は「主権」と「中立性」に関する懸念、そして米国の「パプアニューギニアへの帝国的な進出」の撤回を叫ぶ声によって増幅された。この反応は、この地域が地政学的競争と「選択すべき提携国」について独自の見解を持っていることを物語っていた。提携国自身にとっても、様々な構想の衝突を回避しなければならない。米国がパプアニューギニアとの協定締結に迅速に動いたのは、オーストラリアもまた、そのすぐ隣の国との取り決めを模索している最中であった。オーストラリア政府は、中国の影響力増大に対処するための新たな一歩として米国の合意を歓迎している。しかし、それはパプアニューギニアとの協定を強固なものにしようとするオーストラリアの取り組みを無意識に損なうことになりかねず、オーストラリア政府の政策立案者を苛つかせている。パプアニューギニアとの協定を締結する前に、米国がオーストラリア側の担当者ともっと綿密に調整を行っていれば、好意的なシナリオが描けたかもしれない。
(4) 米国が東南アジアに視線を向け直す中、フィリピンにおける最近の進展は、Marcos Jr.大統領のより深いつながりを求める傾向によって、有望な可能性を示している。しかし、間近に迫ったBidenのベトナム訪問は、防衛中心のレンズを超える必要がある。QUADのような、多国間フォーラムを通じた協力的な取り組みは、全体的な包括的取り組みを強化する可能性がある。ベトナムと米国の双方と実りある協力を達成したインドの目覚ましい躍進は、中国が地域全体の影響力を大きく拡大したとはいえ、米越関係を強化するための生産的な手段をもたらす。パプアニューギニアから学んだ教訓は、バランスの取れた、地域に配慮した、包括的な政治的取り組みを求めている。
(5) 太平洋が重要な舞台として浮上したことは、調和のとれた同盟戦略が必要であることを示している。最近の教訓から学び、同盟国間だけでなく同盟国を超えた外交を強化することで、米国はその境界を遥かに超えて響く持続的な協力の時代を切り開くことができる。
記事参照:Indo-Pacific strategy: Uniting all the players on the board
8月28日「中国海軍の新型フリゲートType 054B―香港紙報道」(South China Morning Post, August 28, 2023)
8月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China has launched bigger, faster version of 054A guided missile frigate, online photos suggest”と題する記事を掲載し、中国海軍の新型フリゲート艦の仕様や用途について、以下のように報じている。
(1) 中国の新しいType 054Bミサイルフリゲートを進水させたようだ。現在就役している054A型をさらに大型化し、進化させたものである。中国のソーシャルメディアに出回った上海の国有海軍造船所の写真によると、この次世代艦には、Type 054Aフリゲートの最新レーダーシステムであるフェーズド・アレイ・レーダーだけでなく、同種の艦艇の中でも最も強力なType 055駆逐艦のステルスマストも採用されている。この新型艦は8月26日に、滬東中華造船有限公司の船溜まりに入ったという。広州の中船黄埔文沖船舶でも、Type 054Bフリゲートが完工間近とみられている。元米潜水艦乗りのTom ShugartによるとType 054Bは全長約147m、幅約18m、推定排水量は約6,000トンである。
(2) Type 054Aに比べ、排水量は2,000トン増加しており、中国海軍の艦艇動力・電気工学の第一人者馬偉明少将率いるチームが開発した統合電気推進(integrated electric propulsion:以下、IEPと言う)システム*を搭載する可能性があると元台湾海軍軍官学校教官の呂禮詩は述べている。このシステムにより、艦艇は新しく先進的な艦艇搭載兵器システムを試験する余地が増える。「IEPシステムを使用する最終的な目標は、コイルガンのような高出力兵器システムを軍艦に装備することだ」と呂禮詩は語っており、「新型フリゲートはまた、対潜能力のために055型が使用している先進的なアクティブ曳航ソナー技術を採用しているようで、中国軍のType 075強襲揚陸艦の護衛艦である可能性を示唆している」と付け加えている。北京を拠点とする海軍専門家である李杰は、この新型の軍艦は、中国海軍の運用コストを下げる可能性があるとして、「より大きな推進力は、Type 054Bフリゲートの航続距離が伸びることを意味し、より優れた対潜能力は、(運用コストが高い)Type 055駆逐艦に代わって、Type 075強襲揚陸艦を護衛する小型駆逐艦として、公海での任務のために小規模の打撃群を形成することができることを意味する」と述べている。Tom Shugartの推定では、新型艦はType 054Aフィリゲートより10m以上長い。「より長い甲板は、Z-20対潜ヘリコプターやドローンを搭載するために設計されている」と呂禮詩は述べている。
(3) この改良型が「特にIEPシステムに関連する」望ましい結果を達成できるかどうかは、海上試験でしか証明できないが、これには時間がかかると北京軍事科学シンクタンク遠望智庫研究員の周晨明は述べている。一方で、彼はネット上でささやかれている最大18隻のType 054Bフリゲートの建造計画について否定し、「中国軍がType 054Bフリゲートを追加発注するのは、(試験運用が)すべて順調に進んだ後だ」と指摘している。
記事参照:China has launched bigger, faster version of 054A guided missile frigate, online photos suggest
*integrated electric propulsion:推進用電力(全電力の約80%)と艦船内の消費電力(全電力の約20%)を統合することにより、それぞれの使用電力の変動を吸収し、電力の統合管理を行う。
(1) 中国の新しいType 054Bミサイルフリゲートを進水させたようだ。現在就役している054A型をさらに大型化し、進化させたものである。中国のソーシャルメディアに出回った上海の国有海軍造船所の写真によると、この次世代艦には、Type 054Aフリゲートの最新レーダーシステムであるフェーズド・アレイ・レーダーだけでなく、同種の艦艇の中でも最も強力なType 055駆逐艦のステルスマストも採用されている。この新型艦は8月26日に、滬東中華造船有限公司の船溜まりに入ったという。広州の中船黄埔文沖船舶でも、Type 054Bフリゲートが完工間近とみられている。元米潜水艦乗りのTom ShugartによるとType 054Bは全長約147m、幅約18m、推定排水量は約6,000トンである。
(2) Type 054Aに比べ、排水量は2,000トン増加しており、中国海軍の艦艇動力・電気工学の第一人者馬偉明少将率いるチームが開発した統合電気推進(integrated electric propulsion:以下、IEPと言う)システム*を搭載する可能性があると元台湾海軍軍官学校教官の呂禮詩は述べている。このシステムにより、艦艇は新しく先進的な艦艇搭載兵器システムを試験する余地が増える。「IEPシステムを使用する最終的な目標は、コイルガンのような高出力兵器システムを軍艦に装備することだ」と呂禮詩は語っており、「新型フリゲートはまた、対潜能力のために055型が使用している先進的なアクティブ曳航ソナー技術を採用しているようで、中国軍のType 075強襲揚陸艦の護衛艦である可能性を示唆している」と付け加えている。北京を拠点とする海軍専門家である李杰は、この新型の軍艦は、中国海軍の運用コストを下げる可能性があるとして、「より大きな推進力は、Type 054Bフリゲートの航続距離が伸びることを意味し、より優れた対潜能力は、(運用コストが高い)Type 055駆逐艦に代わって、Type 075強襲揚陸艦を護衛する小型駆逐艦として、公海での任務のために小規模の打撃群を形成することができることを意味する」と述べている。Tom Shugartの推定では、新型艦はType 054Aフィリゲートより10m以上長い。「より長い甲板は、Z-20対潜ヘリコプターやドローンを搭載するために設計されている」と呂禮詩は述べている。
(3) この改良型が「特にIEPシステムに関連する」望ましい結果を達成できるかどうかは、海上試験でしか証明できないが、これには時間がかかると北京軍事科学シンクタンク遠望智庫研究員の周晨明は述べている。一方で、彼はネット上でささやかれている最大18隻のType 054Bフリゲートの建造計画について否定し、「中国軍がType 054Bフリゲートを追加発注するのは、(試験運用が)すべて順調に進んだ後だ」と指摘している。
記事参照:China has launched bigger, faster version of 054A guided missile frigate, online photos suggest
*integrated electric propulsion:推進用電力(全電力の約80%)と艦船内の消費電力(全電力の約20%)を統合することにより、それぞれの使用電力の変動を吸収し、電力の統合管理を行う。
8月30日「ベンガル湾地域での潜水艦をめぐる中国の動き―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, August 30, 2023)
8月30日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation研究員Sohini Boseの“China’s submarine activities in the Bay of Bengal: Considerations for India”と題する論説を掲載し、Sohini Boseは中国がベンガル湾の海洋資源の獲得と中東から中国にいたるエネルギー海上輸送路の安全確保のためにベンガル湾における影響力拡大を目論んであり、その一環として沿岸諸国へ潜水艦輸出を推進していると指摘し、インドはその対策として、潜水艦戦能力・対潜水艦戦能力の構築、沿岸諸国との防衛協力関係の強化、海洋状況把握能力の強化が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 過去数年間、中国は多くのベンガル湾沿岸国海軍の潜水艦部隊建設に尽力してきた。最近では、2023年3月にチッタゴンに、潜水艦6隻、水上艦艇8隻が同時に係留可能なBNSシェイクハシナ潜水艦基地建設を支援し、バングラデシュが保有する2隻の潜水艦は2017年に中国から取得したものである。2021年には、中国はType035通常型潜水艦をミャンマーに引き渡している。タイはまた、2017年に中国から3隻の潜水艦を導入する予定であったが、COVID-19の世界的感染拡大によるタイ経済への悪影響、スリランカにおけるハンバントタ事件による対中依存への不安感によって導入隻数は1隻に削減され、野党は取引の破棄を提言している。確かに、中国とベンガル湾沿岸諸国との潜水艦の取引はベンガル湾に対する中国の意図はなにかを熟考させてものである。特に、インドはベンガル湾がインドの権益にとって主要な海域の1つと考え、Eastern Naval Commandの潜水艦能力を開発しようとしている。
(2) 中印対立は、近年のベンガル湾の戦略的復活を決定付ける特徴の1つである。ベンガル湾地域における中国の勢力拡大に直面し、同地域に勢威を張ってきたインドはその優位性を維持しようとしている。エネルギー事情が不確実な将来に向けて、海洋は豊富な石油、天然ガスの貯蔵庫であり、中東と東アジアを結ぶエネルギー輸送の海上交通路が通過するベンガル湾は中国にとって魅力的である。中でもアンダマン・ニコバル諸島の南8海里を通る東西航路は最も重要である。ベンガル湾が世界的チョークポイントであるマラッカ海峡に近いことは、「マラッカのジレンマ」に苦しむ中国の関心の主要な理由の1つである。エネルギー供給を遮断されることなく、足かせを取り払って成長を維持したい中国は、湾沿岸諸国との関係強化に熱心であり、その現れが潜水艦取引である。
(3) ベンガル湾地域のほとんどの国は防衛力強化に熱心であり、したがって、価格的に中国製海軍装備は魅力的である。バングラデシュが海軍力を強化し、協調的なパトロールを行い、インド主催の多国間海軍演習MILANにも参加することは、ベンガル湾の安全と安定を維持するためのインドの努力を補完するものである。しかし、中国人乗組員によって運用されるバングラデシュの潜水艦は、ベンガル湾のインドのEEZ近くを行動することになり、中国にベンガル湾における中国潜水艦の作戦行動に必要な多くの情報を収集する機会を提供するため、インドにとって懸念材料である。
(4) ここで触れておかなければならない重要なことは、2017年にスリランカに潜水艦を入港させたいという中国の要求をスリランカが拒否したことである。2014年、スリランカは中国の潜水艦の入港を認める決定を下したことにインドが激しく反対しており、2017年の入港拒否は、インドとスリランカの結束の示すものと考えられている。しかし、スリランカの港への中国潜水母艦の寄港回数の増加は、特に地球上における水の循環を研究対象とする水文科学および測深データの収集と潜水艦乗組員の訓練のために、スリランカの近海で人民解放軍海軍潜水艦が行動していることを示唆している。2019年以来、「向陽紅03」などの中国調査船は、ベンガル湾の深海を調査してきた。最近の進展では、中国がミャンマー領ココ諸島に監視施設を建設しており、インドのバラソール発射実験場からのミサイル発射やランビリ海軍基地に展開する原子力潜水艦の動きを追跡できるとインドのメディアは報じている。ミャンマー軍事政権は、ココ諸島への中国の関与について否定し、インドの懸念を却下している。
(5) 南アジアにおける中国の積極的な影響力の拡大は、インドの潜水艦部隊がもっとも有利な形に形成されていないことからインドの状況を複雑にしている。中印両国の予算と艦艇建造能力は非対称的であり、中国海軍潜水艦戦力に対してインド海軍の潜水艦部隊の勢力の不足は特に顕著であると専門家は主張している。24隻のスコルペヌ級潜水艦の導入にもかかわらず、不足分は埋まらず、旧式化した潜水艦の除籍を保留している。
(6) インドがベンガル湾での中国の活動を真に認識するために、海洋状況把握の必要性もこれまで以上に高まっている。2019年、インド英語週刊誌India Todayは中国の海洋調査船が、アンダマン・ニコバル諸島のインドのEEZで、同意なしに調査活動を行っているのが発見されたと報告している。同船はインドの法律だけでなく、UNCLOSにも違反している。当時のIndian Navyは、「我々のEEZで何かを実施する場合は、我々に通知し、許可を得る必要がある」と非難している。中国は反論して、同船はUNCLOSが認めているインドのEEZを無害航行しているだけであると主張した。中国政府は、海洋調査船の調査が世界の科学研究に役立つと主張しているが、その目的は潜水艦の運用環境の調査や対潜艦艇の探知ある可能性がある。
(7) インドにとっての今必要なことは3つある。第1に、潜水艦戦能力、対潜水艦戦能力の開発を促進しなければならない。第2に、他の湾岸諸国との防衛協力を強化し、その資源と領土がインドの安全に有害な目的に使用されていないことを確認する必要がある。第3に、マラッカ海峡を見下ろすアンダマン・ニコバル諸島での監視能力の開発など、海洋状況把握を改善するための対策を考案する必要がある。チョークポイントの水深が浅いため、安全のため潜水艦は浮上せざるを得ず、ベンガル湾を通過する中国の潜水艦を特定するのに有用である。インドMinistry of Defenceは、通常型潜水艦の計画的な調達のためのProject 75-Iをすでに策定しており、「攻撃型原子力潜水艦国内建造計画」も作成していることは有望である。これらの努力が迅速に実現され、実施される必要がある。
記事参照:China’s submarine activities in the Bay of Bengal: Considerations for India
(1) 過去数年間、中国は多くのベンガル湾沿岸国海軍の潜水艦部隊建設に尽力してきた。最近では、2023年3月にチッタゴンに、潜水艦6隻、水上艦艇8隻が同時に係留可能なBNSシェイクハシナ潜水艦基地建設を支援し、バングラデシュが保有する2隻の潜水艦は2017年に中国から取得したものである。2021年には、中国はType035通常型潜水艦をミャンマーに引き渡している。タイはまた、2017年に中国から3隻の潜水艦を導入する予定であったが、COVID-19の世界的感染拡大によるタイ経済への悪影響、スリランカにおけるハンバントタ事件による対中依存への不安感によって導入隻数は1隻に削減され、野党は取引の破棄を提言している。確かに、中国とベンガル湾沿岸諸国との潜水艦の取引はベンガル湾に対する中国の意図はなにかを熟考させてものである。特に、インドはベンガル湾がインドの権益にとって主要な海域の1つと考え、Eastern Naval Commandの潜水艦能力を開発しようとしている。
(2) 中印対立は、近年のベンガル湾の戦略的復活を決定付ける特徴の1つである。ベンガル湾地域における中国の勢力拡大に直面し、同地域に勢威を張ってきたインドはその優位性を維持しようとしている。エネルギー事情が不確実な将来に向けて、海洋は豊富な石油、天然ガスの貯蔵庫であり、中東と東アジアを結ぶエネルギー輸送の海上交通路が通過するベンガル湾は中国にとって魅力的である。中でもアンダマン・ニコバル諸島の南8海里を通る東西航路は最も重要である。ベンガル湾が世界的チョークポイントであるマラッカ海峡に近いことは、「マラッカのジレンマ」に苦しむ中国の関心の主要な理由の1つである。エネルギー供給を遮断されることなく、足かせを取り払って成長を維持したい中国は、湾沿岸諸国との関係強化に熱心であり、その現れが潜水艦取引である。
(3) ベンガル湾地域のほとんどの国は防衛力強化に熱心であり、したがって、価格的に中国製海軍装備は魅力的である。バングラデシュが海軍力を強化し、協調的なパトロールを行い、インド主催の多国間海軍演習MILANにも参加することは、ベンガル湾の安全と安定を維持するためのインドの努力を補完するものである。しかし、中国人乗組員によって運用されるバングラデシュの潜水艦は、ベンガル湾のインドのEEZ近くを行動することになり、中国にベンガル湾における中国潜水艦の作戦行動に必要な多くの情報を収集する機会を提供するため、インドにとって懸念材料である。
(4) ここで触れておかなければならない重要なことは、2017年にスリランカに潜水艦を入港させたいという中国の要求をスリランカが拒否したことである。2014年、スリランカは中国の潜水艦の入港を認める決定を下したことにインドが激しく反対しており、2017年の入港拒否は、インドとスリランカの結束の示すものと考えられている。しかし、スリランカの港への中国潜水母艦の寄港回数の増加は、特に地球上における水の循環を研究対象とする水文科学および測深データの収集と潜水艦乗組員の訓練のために、スリランカの近海で人民解放軍海軍潜水艦が行動していることを示唆している。2019年以来、「向陽紅03」などの中国調査船は、ベンガル湾の深海を調査してきた。最近の進展では、中国がミャンマー領ココ諸島に監視施設を建設しており、インドのバラソール発射実験場からのミサイル発射やランビリ海軍基地に展開する原子力潜水艦の動きを追跡できるとインドのメディアは報じている。ミャンマー軍事政権は、ココ諸島への中国の関与について否定し、インドの懸念を却下している。
(5) 南アジアにおける中国の積極的な影響力の拡大は、インドの潜水艦部隊がもっとも有利な形に形成されていないことからインドの状況を複雑にしている。中印両国の予算と艦艇建造能力は非対称的であり、中国海軍潜水艦戦力に対してインド海軍の潜水艦部隊の勢力の不足は特に顕著であると専門家は主張している。24隻のスコルペヌ級潜水艦の導入にもかかわらず、不足分は埋まらず、旧式化した潜水艦の除籍を保留している。
(6) インドがベンガル湾での中国の活動を真に認識するために、海洋状況把握の必要性もこれまで以上に高まっている。2019年、インド英語週刊誌India Todayは中国の海洋調査船が、アンダマン・ニコバル諸島のインドのEEZで、同意なしに調査活動を行っているのが発見されたと報告している。同船はインドの法律だけでなく、UNCLOSにも違反している。当時のIndian Navyは、「我々のEEZで何かを実施する場合は、我々に通知し、許可を得る必要がある」と非難している。中国は反論して、同船はUNCLOSが認めているインドのEEZを無害航行しているだけであると主張した。中国政府は、海洋調査船の調査が世界の科学研究に役立つと主張しているが、その目的は潜水艦の運用環境の調査や対潜艦艇の探知ある可能性がある。
(7) インドにとっての今必要なことは3つある。第1に、潜水艦戦能力、対潜水艦戦能力の開発を促進しなければならない。第2に、他の湾岸諸国との防衛協力を強化し、その資源と領土がインドの安全に有害な目的に使用されていないことを確認する必要がある。第3に、マラッカ海峡を見下ろすアンダマン・ニコバル諸島での監視能力の開発など、海洋状況把握を改善するための対策を考案する必要がある。チョークポイントの水深が浅いため、安全のため潜水艦は浮上せざるを得ず、ベンガル湾を通過する中国の潜水艦を特定するのに有用である。インドMinistry of Defenceは、通常型潜水艦の計画的な調達のためのProject 75-Iをすでに策定しており、「攻撃型原子力潜水艦国内建造計画」も作成していることは有望である。これらの努力が迅速に実現され、実施される必要がある。
記事参照:China’s submarine activities in the Bay of Bengal: Considerations for India
8月31日「ニューカレドニア:フランスのインド太平洋戦略の不安要素―シンガポール国際関係論専門家論説」(RSIS Commentary, August 31, 2023)
8月31日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentaryは、RSIS客員研究員Paco Milhietの“New Caledonia: An Uncertain Geopolitical Future Amid France’s Indo-Pacific Strategy”と題する論説を掲載し、そこでPaco Milhietは、Macronフランス大統領の太平洋島嶼国歴訪に言及し、フランス領ニューカレドニアの独立運動問題がフランスのインド太平洋戦略の実施に大きな影響を及ぼし得るため、その調停が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Macronフランス大統領が、7月24日から26日にかけてニューカレドニアを訪問した。これはMacronが大統領就任してから2度目のことである。フランスは2018年にインド太平洋戦略を発表したが、そこでニューカレドニアを含めた太平洋におけるフランスの海外領土の役割が明確にされた。Macronのインド太平洋戦略は、同地域におけるフランスの海外領土・資産の正当性を確保することであった。しかしこれは、ニューカレドニアの国内政治要因によって阻害される可能性がある。
(2) ニューカレドニアは太平洋南西部、オーストラリアの東1,200km、ニュージーランドの北1,500kmという戦略的な位置にあり、世界で4番目のニッケルの生産地でもある。そこには3,000年以上前からメラネシアの人々が居住してきた。フランスが領有を宣言したのは1853年のことである。
(3) オーストラリアと同様、ニューカレドニアは当初流刑植民地であった。そこからアジアからの入植者が増えたことで、先住民族カナックは自分たちが周縁に追いやられていると認識するようになった。第2次世界大戦後に市民権を得るようになったが、経済発展の恩恵には与れなかった。その後、サモアやナウル、フィジーその他太平洋島嶼部が独立していったことで、ニューカレドニアでも、Jean-Marie Tjibaou主導のもとで独立の機運が高まった。
(4) 1980年代半ば、ニューカレドニアは内戦に突入し、1988年には4人のフランス人警察官が独立派の活動家によって暗殺されるという事件が起きた。この年、内戦の沈静化のために10年間の暫定法であるマティニョン合意が結ばれたが、1989年にJean-Marie Tjibaouが暗殺されるという事件が起きてしまった。1998年のヌメア協定によって、マティニョン合意は20年延長され、さらに2018年に住民投票を行うことが決定された。現在、ニューカレドニアは国連によって非自治領とみなされており、これは脱植民地化が終わっていないことを示している。
(5) マティニョン合意に基づき、2018年に独立に関する住民投票が実施された。住民投票は3度まで実施できることが定められており、2018年と2020年の投票では、独立反対の投票が過半数を超えた。2021年12月12日の国民投票に関して、独立支持派はCOVID-19を理由にボイコットを呼びかけた。その結果、独立反対票が投票全体の96.5%を占めた。しかし投票率は約42%にすぎなかった。独立派は投票に異議申し立てをし、国連やPacific Islands Forumなどにこの問題を提起している。3度の国民投票の結果は、概ね次のことを示している。つまり、カナックは独立に賛成し、ヨーロッパ、アジアに起源を持つ人々やポリネシア人はフランスにとどまることを望んでいるということである。
(6) ニューカレドニアの暫定法は失効し、ニューカレドニアはなおフランス領のままである。カナックはそれに反対を続けている。分断の克服にとっての障害は、1994年以降に移住してきた人びとに対して投票権を与えるべきではないというカナックの独立派の主張である。そうした集団は有権者の17%にものぼる。しかし、マティニョン合意が失効した今、同じフランス市民に対するそうした差別は認められない。内戦が差し迫っているとみる専門家もおり、その意味で、Macron大統領の訪問と調停はかなり重要な意味を持つ。
(7) フランス領インド太平洋において、同国の主権はしばしば疑問視されており、それはフランスの同地域への野心を弱めるだろう。ニューカレドニアの問題はフランスにとって新しいものではなく、ポリネシアでも独立をめぐる難問が差し迫っている。Macron政権はこれらの問題を積極的に調停し、インド太平洋戦略を遂行しなければならない。
記事参照:New Caledonia: An Uncertain Geopolitical Future Amid France’s Indo-Pacific Strategy
(1) Macronフランス大統領が、7月24日から26日にかけてニューカレドニアを訪問した。これはMacronが大統領就任してから2度目のことである。フランスは2018年にインド太平洋戦略を発表したが、そこでニューカレドニアを含めた太平洋におけるフランスの海外領土の役割が明確にされた。Macronのインド太平洋戦略は、同地域におけるフランスの海外領土・資産の正当性を確保することであった。しかしこれは、ニューカレドニアの国内政治要因によって阻害される可能性がある。
(2) ニューカレドニアは太平洋南西部、オーストラリアの東1,200km、ニュージーランドの北1,500kmという戦略的な位置にあり、世界で4番目のニッケルの生産地でもある。そこには3,000年以上前からメラネシアの人々が居住してきた。フランスが領有を宣言したのは1853年のことである。
(3) オーストラリアと同様、ニューカレドニアは当初流刑植民地であった。そこからアジアからの入植者が増えたことで、先住民族カナックは自分たちが周縁に追いやられていると認識するようになった。第2次世界大戦後に市民権を得るようになったが、経済発展の恩恵には与れなかった。その後、サモアやナウル、フィジーその他太平洋島嶼部が独立していったことで、ニューカレドニアでも、Jean-Marie Tjibaou主導のもとで独立の機運が高まった。
(4) 1980年代半ば、ニューカレドニアは内戦に突入し、1988年には4人のフランス人警察官が独立派の活動家によって暗殺されるという事件が起きた。この年、内戦の沈静化のために10年間の暫定法であるマティニョン合意が結ばれたが、1989年にJean-Marie Tjibaouが暗殺されるという事件が起きてしまった。1998年のヌメア協定によって、マティニョン合意は20年延長され、さらに2018年に住民投票を行うことが決定された。現在、ニューカレドニアは国連によって非自治領とみなされており、これは脱植民地化が終わっていないことを示している。
(5) マティニョン合意に基づき、2018年に独立に関する住民投票が実施された。住民投票は3度まで実施できることが定められており、2018年と2020年の投票では、独立反対の投票が過半数を超えた。2021年12月12日の国民投票に関して、独立支持派はCOVID-19を理由にボイコットを呼びかけた。その結果、独立反対票が投票全体の96.5%を占めた。しかし投票率は約42%にすぎなかった。独立派は投票に異議申し立てをし、国連やPacific Islands Forumなどにこの問題を提起している。3度の国民投票の結果は、概ね次のことを示している。つまり、カナックは独立に賛成し、ヨーロッパ、アジアに起源を持つ人々やポリネシア人はフランスにとどまることを望んでいるということである。
(6) ニューカレドニアの暫定法は失効し、ニューカレドニアはなおフランス領のままである。カナックはそれに反対を続けている。分断の克服にとっての障害は、1994年以降に移住してきた人びとに対して投票権を与えるべきではないというカナックの独立派の主張である。そうした集団は有権者の17%にものぼる。しかし、マティニョン合意が失効した今、同じフランス市民に対するそうした差別は認められない。内戦が差し迫っているとみる専門家もおり、その意味で、Macron大統領の訪問と調停はかなり重要な意味を持つ。
(7) フランス領インド太平洋において、同国の主権はしばしば疑問視されており、それはフランスの同地域への野心を弱めるだろう。ニューカレドニアの問題はフランスにとって新しいものではなく、ポリネシアでも独立をめぐる難問が差し迫っている。Macron政権はこれらの問題を積極的に調停し、インド太平洋戦略を遂行しなければならない。
記事参照:New Caledonia: An Uncertain Geopolitical Future Amid France’s Indo-Pacific Strategy
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Evaluating US-Japan-South Korea Camp David Summit
https://www.vifindia.org/article/2023/august/22/evaluating-us-japan-south-korea-camp-david-summit
Vivekananda International Foundation (VIF), August 22, 2023
By Prof Rajaram Panda, former Senior Fellow at the Nehru Memorial Museum and Library, New Delhi
8月22日、インドにおける東アジアと日本の著名な専門家であるRajaram Pandaは、インドのシンクタンクVivekananda International Foundationに、“Evaluating US-Japan-South Korea Camp David Summit”と題する論説を寄稿した。その中で、①2023年8月18日にキャンプ・デービッドにある米大統領専用山荘で、日韓米首脳による初の単独の首脳会議が開催された。②その共同声明では、地政学的競争、気候危機、ロシアのウクライナ侵略戦争、北朝鮮による核挑発、ASEAN主導の地域機構の支持、太平洋島嶼国地域への関与、台湾海峡問題について強調された。③日本の懸念は、ロシアの中国への接近と、中ロの北朝鮮への接近である。④日韓米協力の新時代は幕を開け、外交、教育、安全保障など幅広い分野で制度化された。⑤Biden大統領は、長年の冷え切った関係の後、岸田文夫首相とYoon Suk-yeol(尹錫悦)が日韓関係を新たな高みへと導いたことに感銘を受けた。⑥中国と北朝鮮は、キャンプ・デービッド首脳会談を、アジアに「ミニNATO」を創設しようとする米政府の策略だと見なしている。⑦大きな疑問として、同じ志を持つ指導者がYoon Suk-yeol大統領や岸田首相、Biden大統領の後を継がない場合、この関与を制度化する構想は持続可能であり、覆されないかということである。⑧この3ヵ国とインドの利害は一致しており、日韓関係の雪解けはインドにとって歓迎すべきニュースである。⑨インドとこの3ヵ国を結びつける外交政策の共通テーマは中国であるといった主張を述べている。
(2) China’s Advent in the Arctic – Rise of Chinarctic?
https://www.vifindia.org/article/2023/august/23/china-s-advent-in-the-arctic-rise-of-chinarctic
Vivekananda International Foundation (VIF), August 23, 2023
By Pranjal Kunden, currently pursuing her Master's in International Relations from Symbiosis School of International Studies, Pune
2023年8月23日、インドPune大学International Relations from Symbiosis School of International Studiesの修士課程に在籍するPranjal Kundenは、インドのシンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトに" China’s Advent in the Arctic – Rise of Chinarctic? "と題する論説を寄稿した。その中でPranjal Kundenは、2022年2月24日、ロシアはウクライナに侵攻し、ロシア連邦の将来的な崩壊の可能性を示したが、この戦争は北極圏におけるロシアの立場にも影響を及ぼしており、Arctic Councilの活動の一時停止に伴い、北極圏は長年の利害関係者である米国と膨張主義国である中国の支配下にあると指摘している。その上でPranjal Kundenは、注意深く観察してみると、北極圏への中国の過剰ともいえる進出は、単なる地域の大国ではなく、世界的な影響力を持つ大国になるための新たな一歩に過ぎないと主張している。
(3) Welcome to the New Era of Nuclear Brinkmanship
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2023-08-27/how-nuclear-threats-not-weapons-have-shaped-the-war-in-ukraine#xj4y7vzkg
Bloomberg, August 27, 2023
2023年8月27日、米経済・金融関連メディアBloombergは、自社ウエブサイトに" Welcome to the New Era of Nuclear Brinkmanship "と題する社説を掲載した。その中では、ウクライナ戦争は21世紀最初の大国間の核危機であるとした上で、核兵器による危険の負担は冷戦時代の超大国の危機への回帰であると同時に、この先に何が待ち受けているかを予見させるものでもあるとし、米国はロシアや中国との厳しい安全保障対立にさらされているが、中ロ両国にとって、核兵器は地域拡大計画の中心であり、米国との潜在的な対決への準備でもあると指摘されている。そして、この戦争が提起した最も重要な問題の1つは、中国の習近平国家主席がこの戦争をどう見るかであるとし、もしかしたら習近平は、西側諸国の結束力とロシアという独裁的な軍隊の劣悪な実績に衝撃を受けたのかもしれないし、あるいは、核武装した敵対者に対して、米国は通常戦争すら戦わないということを学んだかもしれないと指摘した上で、西太平洋における将来の戦争を抑止するには、現在のウクライナ戦争から多くの結論を引き出さないよう中国を説得する必要があるかもしれないと主張している。
(1) Evaluating US-Japan-South Korea Camp David Summit
https://www.vifindia.org/article/2023/august/22/evaluating-us-japan-south-korea-camp-david-summit
Vivekananda International Foundation (VIF), August 22, 2023
By Prof Rajaram Panda, former Senior Fellow at the Nehru Memorial Museum and Library, New Delhi
8月22日、インドにおける東アジアと日本の著名な専門家であるRajaram Pandaは、インドのシンクタンクVivekananda International Foundationに、“Evaluating US-Japan-South Korea Camp David Summit”と題する論説を寄稿した。その中で、①2023年8月18日にキャンプ・デービッドにある米大統領専用山荘で、日韓米首脳による初の単独の首脳会議が開催された。②その共同声明では、地政学的競争、気候危機、ロシアのウクライナ侵略戦争、北朝鮮による核挑発、ASEAN主導の地域機構の支持、太平洋島嶼国地域への関与、台湾海峡問題について強調された。③日本の懸念は、ロシアの中国への接近と、中ロの北朝鮮への接近である。④日韓米協力の新時代は幕を開け、外交、教育、安全保障など幅広い分野で制度化された。⑤Biden大統領は、長年の冷え切った関係の後、岸田文夫首相とYoon Suk-yeol(尹錫悦)が日韓関係を新たな高みへと導いたことに感銘を受けた。⑥中国と北朝鮮は、キャンプ・デービッド首脳会談を、アジアに「ミニNATO」を創設しようとする米政府の策略だと見なしている。⑦大きな疑問として、同じ志を持つ指導者がYoon Suk-yeol大統領や岸田首相、Biden大統領の後を継がない場合、この関与を制度化する構想は持続可能であり、覆されないかということである。⑧この3ヵ国とインドの利害は一致しており、日韓関係の雪解けはインドにとって歓迎すべきニュースである。⑨インドとこの3ヵ国を結びつける外交政策の共通テーマは中国であるといった主張を述べている。
(2) China’s Advent in the Arctic – Rise of Chinarctic?
https://www.vifindia.org/article/2023/august/23/china-s-advent-in-the-arctic-rise-of-chinarctic
Vivekananda International Foundation (VIF), August 23, 2023
By Pranjal Kunden, currently pursuing her Master's in International Relations from Symbiosis School of International Studies, Pune
2023年8月23日、インドPune大学International Relations from Symbiosis School of International Studiesの修士課程に在籍するPranjal Kundenは、インドのシンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトに" China’s Advent in the Arctic – Rise of Chinarctic? "と題する論説を寄稿した。その中でPranjal Kundenは、2022年2月24日、ロシアはウクライナに侵攻し、ロシア連邦の将来的な崩壊の可能性を示したが、この戦争は北極圏におけるロシアの立場にも影響を及ぼしており、Arctic Councilの活動の一時停止に伴い、北極圏は長年の利害関係者である米国と膨張主義国である中国の支配下にあると指摘している。その上でPranjal Kundenは、注意深く観察してみると、北極圏への中国の過剰ともいえる進出は、単なる地域の大国ではなく、世界的な影響力を持つ大国になるための新たな一歩に過ぎないと主張している。
(3) Welcome to the New Era of Nuclear Brinkmanship
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2023-08-27/how-nuclear-threats-not-weapons-have-shaped-the-war-in-ukraine#xj4y7vzkg
Bloomberg, August 27, 2023
2023年8月27日、米経済・金融関連メディアBloombergは、自社ウエブサイトに" Welcome to the New Era of Nuclear Brinkmanship "と題する社説を掲載した。その中では、ウクライナ戦争は21世紀最初の大国間の核危機であるとした上で、核兵器による危険の負担は冷戦時代の超大国の危機への回帰であると同時に、この先に何が待ち受けているかを予見させるものでもあるとし、米国はロシアや中国との厳しい安全保障対立にさらされているが、中ロ両国にとって、核兵器は地域拡大計画の中心であり、米国との潜在的な対決への準備でもあると指摘されている。そして、この戦争が提起した最も重要な問題の1つは、中国の習近平国家主席がこの戦争をどう見るかであるとし、もしかしたら習近平は、西側諸国の結束力とロシアという独裁的な軍隊の劣悪な実績に衝撃を受けたのかもしれないし、あるいは、核武装した敵対者に対して、米国は通常戦争すら戦わないということを学んだかもしれないと指摘した上で、西太平洋における将来の戦争を抑止するには、現在のウクライナ戦争から多くの結論を引き出さないよう中国を説得する必要があるかもしれないと主張している。
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