海洋安全保障情報旬報 2023年8月11日-8月20日

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8月11日「フィリピンへの態度を硬化させる中国―香港紙報道」(South China Morning Post, August 11, 2023)

 8月11日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China’s tough stance in South China Sea ‘may be sign of its unhappiness over closer Philippine ties with US’”と題する記事を掲載し、中国政府はフィリピンと米国との関係強化に向けた最近の動きに不快感を示すため、南シナ海に関する事象に関して、より厳しい姿勢を示している可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 観測筋によると、中国は南シナ海の係争中の珊瑚礁についてより厳しい態度を採ることで、フィリピンとその米国との同盟強化に対する不満を示そうとしている。フィリピン政府が領有権を主張するためにセカンド・トーマス礁に意図的に座礁させた第2次世界大戦の揚陸艦に駐留するフィリピン軍に物資を届ける作戦を、中国の海警船が放水砲で妨害したことで、対立する領有権主張国間の緊張が高まっている。中国も南沙諸島にあるこの岩礁の領有権を主張しており、中国海警総隊は8月第1週の週末の対立以来、フィリピンが「中国側からの警告を繰り返し無視し、艦艇の修理と補強のための建設資材を届けようとした」と非難する声明を数回発表している。一方でフィリピンは、中国側の「危険な行動」を非難し、Ferdinand Marcos Jr.比大統領は、フィリピンが同国艦艇「シエラ・マドレ」の撤去を約束したという中国の主張を否定した。以前のフィリピンの補給任務でも対立が起きており、それには、2月に起きた、中国の海警船がフィリピンの巡視船の1隻に軍用レーザーを向けたとマニラが非難した事件もあった。
(2) シンガポールのシンクタンクISEAS-Yusof Ishak Institute上席研究員Ian Storeyは、今回の事件後の中国政府の強硬路線はMarcos Jr.政権下でフィリピンと米国の結びつきが強まったことへの怒りを反映しているのではないかとした上で、「中国は南シナ海で、Marcos Jr.政権が海洋紛争をめぐって強硬路線を採っていることや、今後予定されている海軍の共同哨戒を含む、米国との同盟関係を強化することに不快感を示すために、さらに厳しい態度に出た」と指摘する。中国政府は、フィリピン政府が4月に米国にさらに4つの軍事基地の利用を許可したことに気分を害している。その中には、南沙諸島のミスチーフ礁とファイアリー・クロス礁にある中国の人工島に近い基地があり、そして現在、潜在的な火種となっている台湾から約500km離れた2つの基地が含まれている。米国との同盟関係を再活性化させるもう1つの取り組みとして、フィリピンは2016年にRodrigo Duterte前大統領によって中止された南シナ海での米国との共同哨戒を再開すると発表している。
(3) 8月6日に事件が公表された直後、中国政府は米国がシエラ・マドレの修理と補強について「フィリピンを励まし、支援」しようとしたと述べている。中国外交部は、米国はフィリピンとの相互防衛条約を強調し、中国を脅そうとしたと語っている。
(4) 観測筋によれば、今回の対立は南シナ海での行動規範をめぐって中国とASEANの間で進行中の交渉に影を落とすだろうとのことである。「フィリピンは協議でより厳しい態度を採ったり、駆け引きを強めたりするかもしれない」と中国南海研究院助理研究員の丁鐸は語っている。Ian Storeyは、最近の出来事は「南シナ海の(行動規範の)必要性を浮き彫りにしただけだ」と述べている。しかし、この協定の地理的範囲や法的拘束力の有無に関する意見の相違があるため、紛争管理に役立つ最終文書ができるのは、依然として数年先になる可能性がある。
記事参照:China’s tough stance in South China Sea ‘may be sign of its unhappiness over closer Philippine ties with US’

8月15日「Philippine Coast Guardが中国海警総隊とのホットラインを停止―フィリピン専門家論説」(Asia times, August 15, 2023)

 8月15日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、University of the PhilippinesのAsian Center上席講師Richard Javad Heydarianの” Philippines cuts China hotline as sea tensions spike”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarianは南シナ海におけるフィリピンと中国の係争は米国による関与にかかわらず清算すべき時期が近づいているようだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海の紛争における緊張激化の最新の兆候として、Philippine Coast Guard(以下、PCGと言う)は中国海警総隊(以下、CCGと言う)とのホットラインを停止した。この動きは、係争中のセカンド・トーマス礁でPCGの分遣隊を中国が事実上封鎖していることを受けたもので、対立する2つの領有権主張国の火種となっている。 
(2) PCGのスポークスマンは、「我々はCCGとのホットラインを使わない。このホットラインから何も得るものはなかった。Duterte前政権でも、過去6年間に起きた中国とのすべての海難事故について、このホットラインが積極的な話し合いの機会を与えてくれることはなかった」と述べている。
(3) このホットラインは、2016年にRodrigo Duterte前大統領が北京を訪問した際に調印された覚書に基づいて設定された。現在のFerdinand Marcos Jr.政権は、中国との関係の新たな黄金時代を歓迎していたにもかかわらず、米国やその同盟国との防衛関係が温まる中、中国との海洋紛争に関して対立的立場を採ることで、Rodrigo Duterteの融和的な姿勢を翻した。このMarcos Jr.の強硬姿勢に後押しされ、フィリピン政府関係者や専門家たちは現在、東南アジア諸国の南シナ海領有権を強化するための過激な動きを考えている。同盟国、特に米国に対しては、この海域での活動を直接支援しないまでも、中国に嫌がらせをされている補給活動を護衛するよう求める声が高まっている。一方、フィリピン政府関係者の中には、Ferdinand Marcos Jr.が米比の防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の下で、この地域の主要基地、特にティトゥ島を米軍の駐留地として提供する可能性を示唆する者もいる。
(4) ここ数日の緊張の高まりの核心は、CCGがセカンド・トーマス礁でのフィリピンの補給任務を妨害するために放水銃を使用したことである。フィリピンDepartment of Foreign Affairsの報道官は、「事件が起きている間、数時間にわたって海上通信装置による相手国との連絡が取れなかったことに失望した」と述べた。
(5) フィリピンの親中派が最近マニラで開催したフォーラムで、在比中国大使館の周志勇次席公使は、Ferdinand Marcos Jr.政権に対し、座礁した船舶を浅瀬から引き揚げるという過去の約束を守るよう求め、「フィリピンとは対話を通じて相違点を解決する意思を繰り返し表明してきた。我々は、フィリピン側が既存の合意事項を遵守し、2国間関係を大切にすることを望んでいる。フィリピン側は、そうすることを明確に約束し、それは記録に残され、文書化もされているが、24年を過ぎても、フィリピン側は約束を守っていない」と主張した。しかし、そのような2国間合意の証拠を示すことなく、「中国は、フィリピンとの関係を維持し、地域の平和と安定を守るために、常に最大限の自制を働かせてきた」と付け加えた。
(6) 8月7日の週、Ferdinand Marcos Jr.はフィリピン政府が中国とそのような約束をしたことはないときっぱりと否定し、フィリピンの排他的経済水域内にある係争地に関するいかなる妥協にも反対する姿勢を繰り返した。中国は、1998~2001年のJoseph Estrada政権がこの海域におけるフィリピンの領有権を主張するため、この船舶の着底後に撤退を申し出たと主張している。しかし、フィリピン上院議員でもあるJoseph Estradaの2人の息子は、そのような合意の存在を力強く否定し、中国政府の主張を「伝聞」と断じた。
(7) Ferdinand Marcos Jr.政権には、同盟国と連携して、より積極的な行動を採るよう求める圧力が高まっている。Antonio Carpio元上席司法官は親中派の開催したフォーラムで「セカンド・トーマス礁への次の補給任務と同時に米国との共同哨戒を行うこともできる。米国は調査船と掘削船とともに海軍を派遣し、同時に米国とオーストラリアは同じ海域で洋上訓練を行った。」と述べ、マレーシアが中国の一方的な石油探査活動に異議を唱え始めた時の米豪合同哨戒についても言及した。さらに、中国に対する世界的な圧力を結集するため、フィリピン政府は現在進行中の紛争を国連総会に持ち込むことを提案した。フィリピンの代表的な政策アナリストDindo Manhitも同様に、フィリピンは共同哨戒を最大限に活用し、補給の際には同盟国や友好国の支援を受けるべきで、それは戦争を引き起こすためではなく、単に国際法に基づく自らの権利を行使するためと主張している。
(8) 南シナ海でフィリピンの支配下にある島々を米国の安全保障の傘下に置くことを提案する者もいる。2023年初め、カガヤン・デ・オロ市選出のRufus Rodriguez下院議員は、1970年代からフィリピンの支配下にある南沙諸島で2番目に大きなティツ島(フィリピン語:パグアサ島)を、米軍が交代で立ち入る権利を持つEDCAのリストに加えるよう要求した。Ferdinand Marcos Jr.政権はこのような急進的な提案を敬遠するだろうが、米国でさえ、フィリピンの領有権争いを直接支援することには二の足を踏むかもしれない。米国の関与にかかわらず、係争海域では清算の時が近づいているようである。
記事参照:Philippines cuts China hotline as sea tensions spike

8月15日「インド太平洋におけるインドの戦略的足跡の拡大―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, August 15, 2023)

 8月15日付、インドのシンクタンクObserver Research Foundation(ORF)のウエブサイトは、ORFのStrategic Studies Programme研究員Premesha Sahaの‶India’s growing strategic footprint in the Indo-Pacific″と題する論説を掲載し、ここでPremesha Sahaはインド太平洋地域におけるインドの役割が極めて大きくなっており、インド自身も力を入れているとして要旨次のように述べている。
(1) インド太平洋地域は、米中の大国間対立が最も顕著で、米国、オーストラリア、日本、EU、ASEAN加盟国等、ほとんどの国がインド太平洋を外交政策の主要な側面としている。その中でインドは、それぞれの政策の中心的な役割を担っている。
(2) インドのインド太平洋政策は、志を同じくする国々との提携を強化し、新たな戦略・安全保障環境に対処するために課題を基礎とした連合を形成することであった。これは、インドが米国、日本、オーストラリアなどとの関係を深めていることに表れている。インドは、たとえばQUADのような少数国間協力でこれらの国々と関わってきたが、各国との2国間関係もここ数年間で飛躍的に増えている。
(3) インドは、この地域と文化的・文明的つながりを維持しつつも、信頼できる安全保障および戦略上の提携相手としての位置付けを担いつつある。インドは、1,450トンのミサイルコルベット1隻をベトナムに引き渡したほか、7月にベトナムのPhan Van Giang国防相がインドを訪問した際には、潜水艦や戦闘機を運用するベトナム軍人の訓練強化や、サイバーセキュリティや電子戦に関する協力について議論された。 2022年1月にフィリピン・インド間で締結されたブラモス協定のような協定が、インドとベトナムとの間に結ばれるのではないかと憶測されている。両国間で貿易協定が署名されるという話もある。
(4) フィリピンに関しては、前述のとおり2022年1月にBrahMos Aerospace Private Limitedとの3億7,496万米ドルの契約が完了して以来、インド・フィリピン2国間関係は上向きの軌道に乗っている。2023年6月、フィリピンとインドの外務大臣の会談後に発表されたインド・フィリピン2国間協力合同委員会に関する共同声明で、インドは南シナ海におけるフィリピンの中国に対する主権主張を支持した2016年のハーグ常設仲裁裁判所判決の正当性を初めて認めた。また、インドの防衛装備品購入のためのフィリピンへの融資枠が提供され、インドの国防武官をマニラに派遣する見通しと両国の国防機関相互の関係強化が示された。
(5) インドは2023年5月に南シナ海で初のASEAN・インド海上演習を共催し、インドが自国で設計・建造した駆逐艦「デリー」とステルスフリゲート艦「サトプラ」、海上哨戒機P8Iなどが演習に参加しており、同演習にはブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン等の海軍艦艇も参加している。さらに、インドとインドネシアの防衛パートナーシップも拡大しており、2023年2月にインドのキロ級通常型潜水艦が、初めてインドネシアに寄港した。
(6) インドの「インド太平洋」の定義は、アフリカ東海岸から南太平洋の島々にまで及ぶ。南太平洋・太平洋諸島は、ソロモン諸島と安全保障協定を調印する等、この地域での影響力を増しつつある中国とこうした動きを阻止しようとする米国との大国間の対立の舞台になりつつある。米国は最近 、パプアニューギニア(以下、PNGと言う)と防衛協定を締結した。インドは、フィジーのインド人共同体やインド太平洋諸島協力フォーラム(以下、FIPICと言う)などを通じて太平洋に焦点を当ててきた。Modi首相が5月にFIPIC首脳会談に合わせてフィジーを訪問した際、フィジー大統領代理としてRabuka首相から、フィジー共和国最高の栄誉(フィジー勲章コンパニオン)を授与された。同じく5月、Modi首相はPNGを訪問、8月には2隻のインド海軍艦艇がPNGのポートモレスビーに寄港した。7月、Modi首相のパリ訪問では、インドとフランスの太平洋における協力強化のための協定を締結している。
(7) これまでインドは、西インド洋と南アジアを外交・安全保障政策の焦点としていたことから、東インド洋と太平洋に重点を移すことができるかどうか疑問があった。しかし、今やインドは東側により大きな注意を払うようになり、インド太平洋地域で注目すべき戦略的行為者として浮上している。
記事参照:India’s growing strategic footprint in the Indo-Pacific

8月15日「石油輸出航路に関する黒海の代案としての北極海航路の重要性―ノルウェー紙報道」(High North News, August 15, 2023)

 8月15日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、“Dangerous Waters: Ukraine War Could Divert Oil Shipments from Black Sea to Arctic Ocean”と題する論説を掲載し、ウクライナ戦争のなかで黒海を経由した船舶の移動が困難になるなか、ロシアにとって中国への石油輸出のための北極海航路の重要性が増しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 黒海はロシアが石油を世界中に輸出するための主要な通り道で、黒海経由の石油輸出はロシア全体の3分の1を占める。その黒海沿岸のノヴォロシースク周辺海域を、ウクライナは「戦争危険海域」と定め、「黒海とアゾフ海において、ロシアにとって安全な海域と平和な港は存在しない」と述べている。そして、6,619重量トンのタンカー「シグ」への攻撃により、黒海を通航する船舶への保険料ははねあがった。その結果、多くの海運企業は黒海を利用しなくなると見る専門家もいる。
(2) 黒海における事態の展開によって、北極海航路を活用しようというロシアの動きが加速する可能性がある。実際この1ヵ月だけでロシアは北極圏を経由して中国に6隻のタンカーを送り出したが、それは2022年全体の6倍である。ロシアによる原油輸出の方法はパイプラインもあるが、東に向かって伸びるパイプラインは現時点でほぼフル稼働である。
(3) しかし、パイプラインがつながっているバルト海沿岸の港湾であるプリモルスクやウストルガへの原油輸送を増やすことはできると専門家は言う。そしてバルト海から、夏と秋の間、北極海を経由してアジアへの原油輸出を増やすことが可能になると説明している。ロシアはすでにバルト海の港から積み出す原油の量を増やし、またロシアのパイプライン運営企業であるTransneftもパイプライン増設に着手しているという。
(4) 黒海経由の石油輸出の分をすべて北極海経由で輸出できるわけではないが、それでも代替としての北極海航路の存在感は大きい。北極海航路を経由した石油輸出は今後も増え続けるだろうと専門家は見る。
(5) さらにロシアは、耐氷性タンカーを多く保有している。ロシア最大の海運企業Sovcomflotだけで、載貨重量7万トンを超える耐氷性タンカーを35隻保有している。北極海航路を通航する船舶数は9月から10月にピークを迎えるのがこれまでの傾向である。したがって、後さらに中国への原油輸出は増えるだろう。
(6) 北極海航路を黒海経由航路の代案として活用しようというロシアの試みは、エネルギーを通じてますます深まる中国との関係性と結びついている。2023年6月、中国はロシアから1,050万トンの原油を輸入したが、これは対前年度比44%増である。中国の主要な関心はなおマラッカ海峡にあるが、ロシアにとっての関心は相対的に小さい。また中国も北極海を政治的に安定した代案となる航路とみなしている。
(7) 北極海航路を経由した原油は中国にエネルギー源を供給し、ロシア経済のさらなる悪化を押し止めることに貢献する。中国は航路としての北極海に対する関心を強めており、そこの通航の可能性がさらに広がる時のために準備をしている。その時は、予測よりも早く訪れるかもしれない。ロシアは、1年のうち4~5ヵ月の間は北極海を活用できると考えている。また、耐氷性のないタンカーがこの航路を通るようになるのも時間の問題かもしれない。ロシア政府関係者はこうした類の航海を今年中に実施すると発表し、環境活動家の懸念が高まっている。
記事参照:Dangerous Waters: Ukraine War Could Divert Oil Shipments from Black Sea to Arctic Ocean

8月15日「中国はベトナムに最も近い島に滑走路を建設し前哨基地にしようとしている―米ウエブサイト報道」(The Drive, August 15, 2023)

 8月15日付の米乗り物関連ウエブサイトThe Driveは、“China is building a runway its closest island outpost to Vietnam”と題する記事を掲載し、中国は領有権が厳しく争われている南シナ海の西沙諸島の中のベトナムに最も近いトリトン島において新しい滑走路の建設を急速に進めており、ここを前哨基地として航空機やドローンを運用する可能性があり、同島の開発状況を注意深く見守る必要があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) ここ数週間で、中国は、領有権が厳しく争われている南シナ海で支配している島の1つに新しい滑走路のように見えるものを建設し始めた。その大きさからは、どのような使用目的を意図しているのかを正確に知ることは難しい。しかし、紛争中の西沙諸島でベトナムに最も近いトリトン島(中文:中建島)でのこの種の建設は、それ自体が重要である。
(2) 中国が支配するトリトン島での突然の工事は、衛星画像で明らかにされている。作業はまだ初期段階にあるが、これまでの進捗は驚くほど速い。建設は、せいぜい数週間前に始まったばかりである。2023年7月中旬からの衛星画像によると、港湾部分にはそのような工事は見られなかった。衛星画像は滑走路だけでなく、セメント工場を含む巨大な新しい作業エリアを明らかにしている。以前は、この中国の前哨基地には2つのレーダードームといくつかの大きな中国国旗を掲げた観測所しかなく、以前は小さな港とヘリポートによって補給がなされていた。
(3) 新しい滑走路の長さは2,000フィート強のように見えるが、滑走路としては特に短い部類である。現在の幅も、約45フィートと狭い。ターボプロップ機や軽飛行機などの短距離離着陸固定翼機の使用が可能である。しかし、この滑走路により、人が住む西沙諸島の最西端の兵站が大幅に改善される可能性がある。この滑走路はヘリコプターにも対応できる。おそらく、最も可能性の高い用途は、中高度の滞空時間が中から長時間のドローンを配備することである。島の物理的な制限により、中国の領土を拡張せずに滑走路が約3,100フィートを超えることはできないが、中国はそれを行うこともできる。
(4) トリトン島の位置を念頭に置けば、同島での基幹施設のさらなる開発は大きな戦略的重要性を持つ。約30の島々と100以上のサンゴ礁、岩礁、その他の海洋の地物からなる西沙諸島の列島線は、近年、中国の主要な軍事開発の舞台となっている。今日、南シナ海には、要塞のような、大部分が人工の前哨基地が点在しており、そのほとんどは、以前は居住不可能であった。これ対し、国際社会の大多数が異議を唱えている。それはまた、当然、近隣諸国との緊張につながっている。現状では、西沙諸島は中国の実効支配化下にあるが、ベトナムと台湾も領有権を主張している。西沙諸島の島の1つ、特にベトナムに最も近い島に新しい滑走路を設立することは、中国軍の戦略による。最もよく知られている事例は、トリトン島の北西に約100海里に位置するウッディ島(中文:永興島)である。ウッディ島の滑走路の長さは約9,000フィートで、 中国軍の航空機の前方作戦基地として機能しており、長距離爆撃機を含む海、空軍の航空機による大規模な作戦が繰り返されてきた。西沙諸島周辺でも注目を集めるミサイル実験が行なわれており、2020年8月には長距離対艦弾道ミサイル(ASBM)能力を実証実験が初めて実施された。
(6) トリトン島の滑走路の建設は明らかに初期の段階にあるが、建設工事の規模により、重要な前哨基地になる可能性がある。大幅に増強される航空能力に加えて、南シナ海の他の中国の島々の前哨基地で観察されたように、防空および沿岸防衛システムなどの装備の追加が続く可能性がある。特に、地対空および地対地ミサイルシステムを設置すれば、中国は新たな接近阻止/領域拒否(以下、A2 / ADと言う)能力を持つようになる。ベトナム本土からわずか150海里の距離にある中国軍は、長距離Su-30戦闘機などによりベトナムの軍事活動を永続的に監視できるだけでなく、A2 / AD能力をトリトン島からベトナム領土にも拡張することもできる。この場所からのドローンを操作できるだけでも有益である。特にトリトン島と西と南のベトナムの海岸線の間を滞空時間が比較的短いドローンから中程度までのドローンを運用することは中国にとって有益となる可能性がある。
(7) 西沙諸島は、南シナ海北部の中央にある。その北にある海南島にはType094弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を含む原子力潜水艦部隊、空母群を含む水上艦隊、さらに大規模な軍事施設が配備されている。中国の空母艦隊は増強されており、中国海軍は南シナ海を含む長距離展開に、空母打撃群を参加させる頻度が増加している。南シナ海の北にあるバシー海峡は、中国海軍艦艇にとってのチョークポイントである。それは中国にとって非常に重要なものであり、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦はここから外洋に展開する。敵にとっても同様である。トリトン島は、西沙諸島の中でベトナムに最も近いため、ベトナムからの反応が予想される。中国はベトナムの最大の貿易相手国であり、両国の軍隊は長年にわたって緊密な関係を築いてきたが、南シナ海の領有権問題は深刻であり、双方は過去に衝突も起こしている。
(8) 中国の海軍艦艇や海警所属の船舶は、南シナ海における中国政府の広大でほとんど認められていない主権を執行するために日常的に使用されている。中国政府はまた、紛争海域で外国船に嫌がらせや威嚇を行うために、漁船で構成される海上民兵を使用している。ベトナム政府は、中国の侵略に直面して、南シナ海で支配する島々を長距離誘導ロケット砲で武装させるなど、要塞化をすすめている。この地域で新たに拡大している中国の軍事力は、他の国々の間でも警戒感につながることは確実である。中国が南シナ海で支配する島の1つでの再開発、トリトン島における次の展開を注意深く見守る必要がある。
記事参照:China is building a runway its closest island outpost to Vietnam

8月15日「米比沿岸警備隊の共同哨戒:挑発者を悩ませるとき―米専門家論説」(19FortyFive, August 15, 2023)

 8月15日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College教授James Holmesの“U.S.-Philippine Coast Guard Patrols: Time To Provoke The Provocateur”と題する論説を掲載し、James Holmesは中国が南シナ海で行う挑発的行動に対し、中国が自ら行動方針を転換し、国際法を遵守するようになるとは考えられないことから、米比の沿岸警備隊の共同哨戒のように中国の挑発行動の現場海域にあって、中国が採るグレーゾーン戦術と同様の手法をもって対抗すべきであるとして、要旨以下のように述べている
(1) フィリピン英字紙Philippine Starは、米国とフィリピンの沿岸警備隊が2023年末までに共同哨戒を開始すると報じているフィリピンの指導者たちは、自国の領土保全と国際 法に基づく主権の権利と特権を保証するために同盟国の支援が必要であることを認めている。(2) 米国の指導者たちは、ついに2つの基本的な戦略的現実を受け入れている。第1に、同盟は、すべての同盟国が共通の防衛に投資している場合に最も効果的である。米国が責任を請け負っていることを示すには、息子や娘を危険な場所に送ること以上に良い方法があるだろうか? U.S. Coast Guardの隊員を配備して、フィリピンの領海、接続水域、排他的経済水域を遊弋することによって、フィリピンの同志が米国とフィリピンの同盟が不可分で断固としたものであること示すことになる。それは一世紀以上にさかのぼる関係への誠意の証である。同盟国の意思は明確である。中国の海上民兵、海警総隊、正規軍による略奪に対してフィリピンの主権を支持するというものである。
(3) 2番目に重要な戦略的現実は、侵略者と対峙して成功するためには、あなたがその場にいなければならないということである。—つまり、侵略者に対抗し、勝利するために侵略のある現場にあなたはいなければならない。あなたがそこにあることを示さなければ、あなたは勝利することはできない。
(4) 国際的な対立で成功する方法は戦争だけでない。対立は、グレーゾーンで激しさを増し、中国は「砲火を交えない戦争」と呼ばれるものを行い、近隣諸国から領土と資源を奪うために毎日行動している。中国共産党は平和を流血のない戦争と見なしている。中国が行っていることはすべて戦闘的である。中国は、敵対勢力が戦域に侵入することを拒否し、戦いの期間中戦域に所在することを拒否した場合、グレーゾーンにおいて不戦勝となる。多国籍の沿岸警備隊による共同哨戒は、フィリピンが不戦敗となる状況から抜け出すのに役立つことになる。現場に姿を見せることが成功への第一歩であり、現場に常駐することは次の段階である。
(5) グレーゾーンにおける戦いの論理は、フィリピン政府や米政府、そしてフィリピン海域での法執行支援のために海上保安庁の巡視船の貸与を検討している日本政府などの地域の各国政府で定着している。砲火を交えることなく自らの目標を達成するために自由になる手段を使用できるのだろうか?
(6) 同盟国はまず、条約の誓約を明確にする必要がある。同盟国は、米比相互防衛条約の下での「武力攻撃」を構成するものについて率直な議論をする必要がある。条約第5条は、「いずれかの当事国に対する武力攻撃は、いずれかの当事国の大都市圏、太平洋の管轄下にある島礁領土、または太平洋に所在する軍隊、公船、航空機に対する武力攻撃を含むと見なされる」と宣言している。
(7) これまで中国の艦船や航空機は、銃砲もミサイルも、グレーゾーンの遭遇で発射していない。議論の余地はあるが、彼らが戦略的および政治的利益のために暴力的な力を行使していないというのは公正である。しかし、彼らは日常的な問題として地域の隣人に対して、そして時には部外者に対しても力を行使している。彼らが武力攻撃を寸前で止めたかどうかは明らかではない。
(8) 私は個人的に、ある艦船や航空機がその巨体を使用して別の船舶や航空機の針路を塞ぎ、それによって運用者に針路を変更させ、あるいは衝突させたりすることを力の使用として定義する。Philippine Coast Guardの巡視船に高圧放水砲を発射したり、別の巡視船にレーザーを向けたり、オーストラリアのジェット機の対しチャフ弾を発射し、チャフのアルミ箔がオーストラリア機のジェットエンジンに吸い込まれたことも、 同様に力の行使と見なされる。そして、これは中国の犯罪のほんの一部である。中国は間違いなくその目標に対して強力な力を保有しているように見える。
(9) 上述のような低次の武力行使が開戦事由の要件を満たすかどうかは別の問題である。グレーゾーンの攻撃を武力攻撃として再定義することは、侵略に対する相互自衛の閾値を意図的に引き下げることになるだろう。そうすることは、中国の指揮官や政治的支配者に彼らが勝てないかもしれない戦いを始めるのか、海または空で新たな自制をするのかの選択を迫ることになるだろう。
(10) もし米比両政府が、武力攻撃を上述のような形で再解釈することを選択した場合、両政府は暗黙の脅威を貫かなければならない。中国政府は間違いなく、軍事行動を正当化する境界が現在どこにあるのか、あるいは境界が本当に動いたのかを知るために、新政権を試すだろう。脅威を発したら、それにしたがって行動しなければ、将来の対立で同盟国の信頼性を損なうだろう。したがって、南シナ海で何が深刻な動きになるかについて真剣な議論が必要である。
(11) 同盟国はまた、防衛協定が領海を超えた海域と空域にまで及ぶかどうかを明確にすべきである。EEZは主権領土ではないが、EEZの海域と海底には、UNCLOSによってフィリピンは同国のEEZ内の天然資源に対して主権的権利を有する。米比両政府は、防衛協定が沖合資源とそれらを収穫するフィリピン国民、主に漁師を守ることを要求するかどうかを決定するべきである。
(12) 国内法の執行は沿岸警備隊の権限であり、天然資源の保護を怠る国はない。フィリピンの法執行機関を支援することは、U.S. Coast Guardを東南アジアに派遣する核心となるだろう。条約は外部からの軍事侵略を防ぐために存在し、フィリピンの排他的経済水域から天然資源を密猟する中国のトロール船は、条約の規定では武力攻撃を行っていない。しかし、それは窃盗の罪を犯している これらの侵入者が中国海警総隊と人民解放軍海軍の保護の下でフィリピンの資源を略奪していることが事態を複雑にしている要因である。彼らは単なる法律違反者ではない。フィリピンの天然資源を略奪している者達は、世界最大の沿岸警備隊と海軍による国家からの支援を受けている。米比の特使は、米比の沿岸警備隊による共同哨戒が中国の犯罪者とその準軍事的および軍事的保護者をどのように扱うか、そしてArmed Forces of the PhilippineとU.S. Armed Forcesが沿岸警備隊をどのように支援するかを正確に決定する必要がある。危機を待つのではなく、今から始めるのが最善である。
(13) 米比両国は、中国政府のように沿岸警備隊を軍事力で支援し、中国の海上民兵と海警総隊が処罰されずに行動する機会を奪うべきである。中国がグレーゾーンで展開したすべての手法と手段を俎上に載せるべきである。相互主義は公正な行動である
(14) 中国のEEZ内で不法占拠するのと同様に、米国あるいはその同盟国の艦船が中国船舶の航路を遮断することは合法である一方、あらゆる種類の殺傷を伴わない兵器は、同盟国軍の兵装に導入されなければならない。同盟国の沿岸警備隊は監視すべき海域が広大であるため、全ての海域に船舶、航空機を充当することは、おそらく多くの船舶、航空機が無人となることを意味する。無人水上艇(以下、USVと言う)は、多くの任務でその価値を証明してきている。ウクライナでの事例と同様の大惨事に遭遇するという不安が、中国の乗組員がグレーゾーンで中国海警総隊と人民解放軍海軍の保護の下でフィリピンの資源を略奪することを思いとどまらせる可能性がある。USVは最近ホルムズ海峡で護衛任務を遂行しており、USVが南シナ海の漁師や沿岸警備隊員に同様の支援を提供することができる。 これは、同盟国が無人潜水艇や無人航空機から引き出すことのできる戦術的、運用的、戦略的価値については言うまでもない。連合軍はこれら全てを拡大しなければならない。
(15) 上述の中国への対応策すべてが挑発的なのか。挑発者からの繰り返しの挑発に対応するために抜本的な措置を講じることは挑発的である。誰も中国に中国が持つ海洋力および軍事力を建設させたわけではない。誰も中国共産党の指導層にそれらの力を使って中国の隣人をいじめ、隣人から領土と資源を奪わせたわけでもない。中国自らが行ってきたことである。また、中国政府に略奪的な政策と戦略を継続するよう強制する人もいない。中国はいつでも横暴な行動を止め、中国自らが策定に協力し、ずっと以前に同意した国際規則の遵守を再開することができる。残念なことにそれは起こらないだろう。
(16) 習近平は中華民族の偉大な復興という中国の夢に南シナ海を結びつけ、中国国民に大声でそして頻繁に、南シナ海を中国の主権に取り戻すことを誓っている。厳粛な約束は一度なされると取り返しのつかないものである。国際法に従うことは、中国の偉大な復興と壮大な夢が実現しないことを認めることを意味し、習近平が中国を再び偉大にしないことを認めることを意味する。そして、それは党の最高指導者がしないことである。これが不愉快な現実です。海洋における相互防衛は、米国とフィリピンが利用できる最良の選択肢である。
記事参照:U.S.-Philippine Coast Guard Patrols: Time To Provoke The Provocateur

8月17日「インド太平洋におけるAUKUSと日韓の枠組み-米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, Center for Strategic and International Studies, August 17, 2023)

 8月17日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studiesの Pacific Forumが発行するPacNet Commentaryのウエブサイトは、U.S. Navyの将校で次世代指導者を育成目指すYoung Professional in Foreign Policyの2023年YPFP安全保障・防衛問題新進専門家(Security and Defense Rising Expert)Jasmin Alsaiedの” An AUKUS-Japan-ROK framework for the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでJasmin  Alsaiedは中国が法に基づく規範を海上で脅かし続ける中、AUKUSと日韓の関係はますます重要となり、これを発展させるためにAUKUS-日本-韓国のような同盟の防衛的、外交的、能力的な懸念を認識することが成功の鍵になるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年9月にオーストラリア、米国、英国の間で締結されたAUKUSは、技術共有、サプライチェーンの強化、オーストラリアの攻撃型原子力潜水艦の取得を促進することにより、インド太平洋における地域間協力を強化するものである。この枠組みはまた、オーストラリア、韓国、日本の軍事協力の更新、強化、拡大に焦点を当てた関与を確立する道筋を作る。この地域の安全、安定、保護のために、米国の実務者は、中国の主張が常に存在する環境において、相互運用性と信頼を構築する統合防衛の枠組みにより、日本、韓国、AUKUSの関係拡大を目指すべきである。AUKUS、日本、韓国の関与は、インド太平洋の安全保障の状況を変える統合的な抑止態勢を開発する機会を生み出すだろう。そうすることで、この枠組みはインド太平洋随一の先端技術を発展させることもできる。
(2) この地域における先端技術の利用を拡大することに、すべての関係者が関心を寄せている。AUKUSには自立型海中航走体、人工知能システム、商業技術の迅速な統合に関する構想が含まれている。さらに、韓国と日本はともにAIと自律型航走体構想に関心を示しており、戦いの所要を解決するためにこれらの新技術の検証と開発をAUKUSは支援することができる。こうした取り組みは、日米韓3ヵ国パートナーシップに関するプノンペン声明で説明された目標に直接結びついている。
(3) この枠組みの下での地域防衛の努力は、海洋状況把握を向上させ、調和されたインド太平洋戦略の最前線に立つ指導者としての日本と韓国の姿勢を促進することができる。それは、韓国、日本、AUKUSのための新たな防衛能力を開発すると同時に、迅速なデータ転送と情報共有に依存する技術を試験的に導入することでもある。それらは、この地域の攻撃的行為者を抑止するという共通の目標に向けたものであり、志を同じくする国々が悪意ある拡散を懸念することなく技術を開発することを可能にする。
(4) AUKUS加盟国は、その安全保障協定が地域の安全保障に対する認識に与える影響を認識し続けるべきである。AUKUSは、自由で開かれたインド太平洋を支援し、支持するための新たな機会を築こうとする3ヵ国を結びつけたものである。今、この協定は、韓国や日本といったアジアの重要な同盟国が抱いているかもしれない感情を認めなければならない。報復の可能性とともに否定的な感情を抱くことで、どちらの国もAUKUSとの技術偏重の戦力配備に興味を示さなくなる可能性がある。また、日本と韓国が参加すると、米国主導の防衛態勢は、すべてのアジア諸国を包括してはいないという議論を呼ぶことになる。
(5) 両国が同盟関係や防衛態勢に真に求めているものは次のように説明できる。
a. 韓国は変化する安全保障環境の中で自国の利益と主権を守りたいと願っている。過去に、このような感情は多くの西側の政策立案者には理解されなかったが、2月22日に行われた韓米日の弾道ミサイル防衛演習は、韓国の安全保障上の懸念の多くを軽減するために機能している。
b. 最近発表された日本の国家防衛戦略において、日本は敵基地攻撃能力を開発し、キルチェーンの初期段階に参加することを目指している。日本は明らかに防衛態勢の変革に真剣に取り組んでいる。
c. 日米両国は米国の拡大抑止力に対する関与について、より大きな保証や情報を求めている。2023年6月に日米韓3ヵ国による拡大抑止対話が設置されたことからも明らかなように、日米両国は統合抑止と米国の「核の傘」の下での自国の位置づけに関する対話を優先事項と考えている。
(6) 米国の防衛戦略は、日本と韓国が地域の同盟国や提携国とともに、より高度な戦闘技術を追求し、防衛支出を増やし、地域における態勢を改善したいという願望を強めていることを利用すべきである。日韓両国間には、GSOMIAのような多くの提携や情報共有協定がすでに存在しているが、防衛と安全保障をめぐる既存の取り組みの多くを統合し、合理化したものは今のところない。AUKUS-日本-韓国のつながりは、こうした関係の自然な延長となりうる。
(7) AUKUS-日本-韓国は、核技術共有に依存しない日韓の関与の枠組みである。先に述べたような先進的な新興技術を利用することで、地域の脅威を抑止するために広範で結束力のある関与を構築することができる。中国が法に基づく規範を海上で脅かし続ける中、AUKUSと日韓の関係はますます重要になるだろう。AUKUSがこのような発展を遂げるにはまだ何年もかかるが、この地域の将来に関する早期の対話が何よりも重要である。他の地域の同盟国や提携国は、インド太平洋地域の緊張が高まる中、米国とアジアの同盟国が今後どのように協力していくかを注視していくだろう。多国間の指導力に対する地域の要求が高まる中、このような同盟の防衛的、外交的、能力的な懸念を認識することが、AUKUS+2関係の成功の鍵となる。
記事参照:An AUKUS-Japan-ROK framework for the Indo-Pacific

8月17日「なぜ日米韓首脳会談が重要か?―米国家安全保障問題専門家論説」(The Messenger, August 17, 2023)

 8月17日付の米誌The Messengerのウエブサイトは、米シンクタンクHudson Institute上席研究員Riley Waltersの“Why This Week’s Camp David Summit Is So Important”と題する論説を掲載し、そこでRiley Waltersは、18日に実施される日米韓首脳会談が現代だけでなく今後の長期的な3ヵ国の関係にとってもきわめて重要な意味を持つとして、要旨以下のように述べている。
(1) Biden大統領は18日に韓国大統領および日本首相と首脳会談を行う予定である。韓国と日本はインド太平洋における米国の最も重要な同盟国で、両国合わせて7万5,000人もの米軍兵を受け入れ、また貿易や投資の重要な提携国でもある。
(2) 経済安全保障などの分野も首脳会談での議題になるだろうが、伝統的な安全保障問題は、今後もずっと日米韓の重要争点であり続けるだろう。日韓がそれぞれ米国と防衛条約を締結していることは、米国とアジアの安全保障利害がからまりあっていることを示している。
(3) インド太平洋における懸念のいくつかは、これまでと同様である。北朝鮮は日本海や太平洋にミサイルを発射し続けており、その一部は日本上空を通過している。ミサイル実験の積み重ねによって、北朝鮮は核運搬システムの実現に一歩一歩近づいている。実際、Kim Jong Un(金正恩)は核兵器製造を拡大すると脅しをかけてきた。それに対しBidenとYoon Suk Yeol(尹錫悦)大統領は、今年はじめの首脳会談で、韓国への核攻撃は米国に対する攻撃を意味するということ、北朝鮮を抑止するために米国の核備蓄を活用することを確認した。
(4) 日本の最新の国家安全保障戦略が言うように、インド太平洋における安全保障環境はさらに複雑になっている。北朝鮮に加え、中国が新たな脅威として台頭しているからである。米国は、中国が国際秩序を変容させる意図と能力を持つ対立相手だと認識し、世界各国も同様の認識を持ちつつある。6月に公開された韓国の国家安全保障戦略も、中国の軍事力拡大について懸念を示している。
(5) 中国の軍備増強や敵対的行為の増加が、日米韓の協調関係に新たな息吹を吹き込む一助となっている。他方、インド太平洋における大規模な経済的な存在感や非伝統的な軍事的手段の活用を含む中国による脅威は、日米韓の協調努力を複雑にもする。米国と同盟国や提携国にとって重要なのは、中国による悪意ある影響力拡大に対し、個々に、かつ協働して対処することである。中国を含む世界各国は、数十年間われわれが共有してきた国際的な法や規範のもとで発展してきたのだが、中国は現在、それらによって縛られることをあまり望んでいない。
(6) この首脳会談が重要なのは、日韓関係がそれまで相当程度不安定であったためである。しかし、現在のYoon Suk Yeol大統領はその正常化を目指し、また岸田首相もその意思を共有している。数年後の日韓関係の状態は不透明であるが、それゆえに、政権が変わったあとでもそれが重みを持ち続けるように、日米韓の首脳会談を定期的に実施することが重要になってくる。現時点で、その決意や情報共有や共同演習の実施などの構想をはっきりさせるのが、今回の首脳会談の長期的成果を確保するために必要である。各国の政治指導者はいずれ変わるが、北朝鮮と中国が突きつける課題はすぐに解決されそうにないからである。
記事参照:Why This Week’s Camp David Summit Is So Important

8月17日「日米韓3ヵ国協力の重要性―米専門家論説」(The Interpreter, August 17, 2023)

 8月17日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、米対外政策関連シンクタンクDefense Priorities研究員Daniel R. DePetrisの“Bridging the divide: the significance of the US-South Korea-Japan trilateral”と題する論説を掲載し、そこでDaniel R. DePetrisは、18日に実施される日米韓首脳会談に言及し、日米韓の関係強化が期待される一方で、それが中国や北朝鮮を刺激し、ロシアを含めたさらなる関係強化につながるだろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 韓国と日本は米国にとって最も親密な同盟国である。米韓相互防衛条約は、2023年10月で締結から70年となる。2023年4月には、北朝鮮による核兵器とミサイルの脅威に対し、米国は抑止力を拡大することを韓国に対し改めて確約した。他方、日本は防衛費を増額して防衛能力を強化し、フィリピンやオーストラリアなどとの相互運用性を高める計画を立てている。
(2) しかし、日韓関係はこれまで不安定であり続けた。両国はそれぞれ米国との協働には満足してきたが、日韓を協働させるのは米国にとってはかなり厄介な仕事であった。現在も日韓関係は楽観視できる状況ではないが、それでも4-5年前よりはずっとましになっている。その1例が、18日にキャンプ・デービッドで開催される日米韓首脳会談である。Antony Blinken国務長官がこれを「歴史的な」会談と報道陣に述べたように、Biden政権は首脳会談に大きく期待を寄せている。この結果、3ヵ国のホットラインの設置や、共同軍事演習の定期化、安全保障顧問による年に2度の会合が定期化されるなどの結果が期待されている。もし、実現すればそれは革命的とさえ言えることである。
(3) キャンプ・デービッド会談は、日韓を接近させようという米国による努力の帰結である。2022年11月のG20首脳会談の間、日米韓は北朝鮮のミサイル発射に対する情報共有に合意し、2023年3月に日韓は、2019年に破棄されていた軍事情報共有協定を再締結した。3月にはYoon Suk-yeol(尹錫悦)大統領が日本を、5月に岸田首相が韓国を訪問した。日本の首相が韓国の土を踏むのはじつに12年ぶりのことである。
(4) 米国にとってこうした動きは望ましいことだが、中国と北朝鮮にとってはそうではない。中国はこの首脳会談で台湾に関する言及がないか注意深く見守るだろう。台湾は当然話題になるだろうが、どの程度掘り下げられるかが問題であり、いずれにしても中国はそれに憤慨するだろう。米国が日米韓の軍事関係を緊密化させているのは、それが中国を抑止するために必要だと考えていると中国は確信している。
(5) 北朝鮮をめぐる緊張が緩和することもないだろう。Kim Jong-un(金正恩)の論法を戯言と軽視するのは簡単であるが、この3ヵ国の関係強化を彼が懸念するのは、彼の不安定な立場を考慮すれば理解可能である。Kim Jong-unにとって、日米韓の首脳会談の実施は、自分たちの兵器開発計画を加速させなければならない証明である。米国には北朝鮮を侵略する意図などないと言っても、北朝鮮がそれを信じることはありえない。
(6) 中国と北朝鮮は、3ヵ国首脳会談に日米韓の軍事協力強化と、関係の制度化を見ている。彼らがそれを傍観することは考えられず、中国、北朝鮮、ロシアの協力強化に繋がる可能性がある。実際、7月にロシアと中国の爆撃機が日本海上空を飛行し、また中ロ海軍の共同演習も実施している。その意図は明白で、陣営間の対立を米国が望むなら、それは望むところだということである。
記事参照:Bridging the divide: the significance of the US-South Korea-Japan trilateral

8月18日「イラン抑止のために海兵隊員を商船に乗船させる米軍―UAE専門家論説」(Breaking Defense, August 18, 2023)

 8月18日付きの米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、ドバイを拠点とする防衛問題専門家Riad Kahwajiの“Would US Marines on merchant ships be enough to deter Iran in the Gulf?”と題する論説を掲載し、Riad KahwajiはU.S. Central Commandが湾岸地域を航行する商船に警備のための海兵隊員を乗船させることについて、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は湾岸海域における軍事力の展開を強化しており、U.S. Central Commandは7月20日、約3,000人の水兵・海兵隊員とともに水陸両用戦即応群をこの海域に配備すると発表した。しかし、もっと大きな政策変更が行われる可能性もある。専門家によれば、ホルムズ海峡を通過する船舶に対するイランの攻撃を抑制する可能性があるという。
(2) USNIが8月11日に発表した報告によれば、26th Marines Expeditionary Unit(第26海兵遠征部隊)の海兵隊員約100人が訓練を受け、バーレーンでホルムズ海峡を通過する商船に乗船して武装警備を提供する準備が整っているという。これは、イランの攻撃を阻止するために、武装した米軍の小集団を外国籍船に乗せるものと伝えられている。
(3) 表面的には、これらの船舶に米軍を配置し、事実上トリップワイヤー(比較的小規模な前線に展開する部隊で、その後の大規模な作戦を引き起こす機会をもたらす陽動部隊として扱われるもの:訳者注)として機能させるという構想は、イランを米軍と砲火を交える事態に繋がりかねない行動、ひいてはイラン政府が好のむグレーゾーンよりも広範な国際的事件を引き起こす可能性がある行動からイランを引き下がらせることに成功する可能性があると専門家は語っている。米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies のAnthony Cordesmanは、この措置は、「湾岸を移動する船舶に対するイランの嫌がらせや拿捕を思いとどまらせるための米国の最小限の行動であり、イランがそのような船舶を停止させた場合、米国は直ちにその行動を通告し、事態を拡大させる可能性があることを示すものだ」とBreaking Defenseに語っている。「米海兵隊の分遣隊は、殺傷力の高い武器で拿捕等のため乗り込んできたイラン船員を撃退する権限を与えられており、これはイランにとって大きな事態拡大の危険性となるだろう。・・・このような分遣隊は、米国が世界のどこかでイランの石油貨物を押収した数日後など、リスクが高い時に、すべてのタンカーではないが、米国の貨物を積んだタンカーに配置されると予想される」と中東防衛問題専門家で、The Washington Institute for Near East Policy研究員Michael Knightsは述べている。
(4) しかし、Middle East Institute上席研究員で防衛・安全保障課程の責任者Bilal Saabは、「理論的には、この配置は米国の抑止力を強化するはずだが、現実には、そうなるかどうかは誰にもわからない。特にイランのような不透明な体制で、米国が有効な意思疎通経路を持たない場合の抑止力は、複雑な問題である」と警告する。
(5) 対イラン制裁に違反したとして米海軍が拿捕したタンカーに積まれたイラン産原油を差し押さえする決定を、米国が4月に下したことへの報復として、Islamic Revolutionary Guard Corps(イスラム革命防衛隊:以下、IRGCと言う)は、湾岸海域での船舶拿捕の試みを拡大させているとの憶測がある。7月上旬、米海軍はIRGCによる2隻の商船の拿捕を阻止するために行動を起こさなければならなかったが、そのわずか2日後、IRGCはタンカーの拿捕に成功した。
(6) イランの脅威は、USS Bataan Amphibious readiness Group(米強襲揚陸艦「バターン」水陸両用戦即応群)と26th Marines Expeditionary Unitをこの地域に派遣する決定を後押しした。米国はまた、最近F-35とA-10を輪番制追加し、航空力を強化している。
(7) U.S. 5th FleetおよびU.S. Naval Forces Central Commandの報道官Tim Hawkins中佐は、「追加された部隊は重要な作戦上の柔軟性と能力を提供する」と述べている。しかし、その柔軟性は諸刃の剣である。Michael KnightsとAnthony Cordesmanは、イラン政府は挑戦的な行動を採り続けるだろうが、米軍との直接対決を避ける創造的な方法を見つけるだろうと予想している。
記事参照:Would US Marines on merchant ships be enough to deter Iran in the Gulf?

8月18日「フランスのインド太平洋進出、インドの視点―インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, August 18, 2023)

 8月18日付のインドのシンクタンクVivekananda International Foundation のウエブサイトは、インドのシンクタンクThe Nehru Memorial Museum and Library前上席研究員Prof. Rajaram Pandaの “France’s Foray into the Indo-Pacific and its Relevance for India”と題する論説を掲載し、ここでRajaram Pandaはインドの視点から、フランスのインド太平洋地域への最近に進出について、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋地域は、主要利害関係国による大国間対立の戦域として突然浮上してきた。この戦域における経済的および安全保障上の利益確保のため、利害関係諸国は国益に関わる諸問題の協議と管理を目的として、志を同じくする利害関係国を構成国とする制度的機構を模索するようになってきた。米国、日本、インド、中国、オーストラリアおよび英国などの主要な利害関係諸国による、QUADやAUKUSに加えて地域レベルや2国間レベルの多くの制度的構造が急増している。そして、こうした利害関係諸国の中でこの地域に最も新しく参画しきたのがフランスである。
(2) フランスが再びこの地域への関心を高めているのは、1つには、この地域にニューカレドニアや仏領ポリネシアなどの海外領土を有しており、重要な経済的、軍事的および戦略的利益を持っているためである。しかもフランスが有するEEZの60%強が太平洋にあり、フランスが太平洋への関与を強める所以となっている。フランスは、2020年10月に初代のインド太平洋地域大使を任命し、2022年2月にはインド太平洋戦略の最新版を公表し、太平洋島嶼諸国との関係強化を謳った。さらに、太平洋島嶼諸国がその戦略的な位置から中国の影響圏拡大の標的となってきていることがフランスや他の伝統的大国を懸念させているが、フランスは、未だ中国を脅威とは見ず、管理の必要な挑戦に過ぎないと見ている。
(3) フランスは、インド太平洋地域に包括的な独自の利益を持っており、米中間の対立に巻き込まれることを望んでおらず、したがって多国間主義をより実行可能な選択肢と見ている。同時に、米国と、特に海洋分野での強力な協力関係を促進することで、自国の利益を確保したいと望んでいる。このため、Marine nationale(フランス海軍)は2020年から2021年にかけて、U.S. Indo-Pacific Commandに連絡将校を派遣したり、U.S. Navy主催の演習に参加したりしているが、QUADの構成国ではないことが制約となっている。もっとも、対中封じ込めを意図する戦線に参加することで中国を苛立たせることはフランスにとって選択肢ではなく、フランスの太平洋管区統合司令官は中国の対応する指揮官との協力関係を維持している。一方、フランスが中国の太平洋進出を警戒しているにも関わらず、中国は米国、オーストラリアおよび日本などの他の伝統的な大国ほどフランスを重視していないようである。中国の学者でさえフランスの太平洋における利益にはほとんど注意を払っていない。
(4) Macronフランス大統領は、仏領ポリネシアがフランスにとって大きな戦略的価値性を有していることを認識している。900万km2に及ぶ広大なEEZは、フランスのインド太平洋政策において重要な役割を果たしている。Macron大統領は2021年7月に初めて仏領ポリネシアを訪問したが、この訪問を通じて、外交的、文化的、経済的および軍事的側面を含むフランスのインド太平洋戦略を明確に示し、この広大な地域におけるフランスの展開を正当化した。南太平洋は世界人口のわずか0.1%を占めているに過ぎないが、国連での投票数の6.7%、そして世界の国際海域の40%を占めている。このような太平洋島嶼諸国の重要性は、必然的に多くの利害関係諸国の利益を喚起し、それぞれの国益に合致した関係を構築するための独自の枠組みを促進し、中国、日本、韓国、台湾、タイ、シンガポールさらにはインドなどの諸国は、太平洋島嶼諸国への関与のための独自の戦略を追求している。中国、オーストラリア、日本、インドおよび米国などの主要国首脳による最近の太平洋島嶼諸島への訪問は、太平洋島嶼諸国問題への主要諸国の関心を示している。Macron大統領も再び2023年7月27日~28日にバヌアツとパプアニューギニアを訪問し、この地域に対するフランスの戦略的展望具体化した。とは言え、太平洋問題に対するフランスの関心は、他の利害関係諸国と比較して依然として低いし、仏領太平洋島嶼国に対するMacron大統領の突然の関心の高まりに対しては仏国内にも批判がある。
(5) フランスのインド太平洋政策は、太平洋島嶼諸国に対するインドの進出にどのような影響を及ぼすのか。印仏両国の政策は、共に主要海洋国家として、海洋における平和と法に基づく秩序が世界経済の将来にとって必須の要件であるため、相互に補完し合う関係にある。海洋を通じた通商の安全確保は、海洋国家にとって最重要課題である。フランスの13の海外領土の内、7つがインド太平洋地域にある。これら海外領土の160万の住民が中国による脅威を感じている状況下で、Macronフランス大統領は、米国や中国などの大国間対立に与する状況を作為するよりも、むしろ均衡を保つ役割を果たすことを選択してきた。印仏領国は、太平洋島嶼諸国に対する政策に関しても同様の認識を共有しているために、中国の略奪的行為とは違った代替開発様式を提供することができる。その重点分野としては、基幹施設開発、医療とITの改善などがある。インドはまた、フィジーやバヌアツなどの島嶼国に相当数のインド系移民がいることから、これら移民を活用することもできる。印仏両国が2国間レベルで緊密な防衛関係を維持していることから、この地域における安全保障協力に拡大することも可能である。したがって、印仏双方のいずれにも益する状況にある。
記事参照:France’s Foray into the Indo-Pacific and its Relevance for India

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Japan-Pacific Islands Countries Cooperation on Maritime Law Enforcement
https://cil.nus.edu.sg/blogs/japan-pacific-islands-countries-cooperation-on-maritime-law-enforcement/
National University of Singapore, August 14, 2023
By Yurika Ishii, Associate Professor at the National Defense Academy of Japan
2023年8月14日、防衛大学校の石井由梨佳准教授は、National University of Singaporeのウエブサイトに、“Japan-Pacific Islands Countries Cooperation on Maritime Law Enforcement”と題する論説を寄稿した。その中で、①2023年5月16日、日本は太平洋島嶼国との間で、「太平洋島嶼国における効果的な海上犯罪対策のための海上法執行機関能力強化計画」に関する覚書を署名・交換し、同時に、日本はUnited Nations Office on Drugs and Crime(国連薬物犯罪事務所)との資金提供協定を締結した。②「自由で開かれたインド太平洋」の展望を共有する国々との協力の一環として、このような協力は、「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness:IPMDA)」と調整される予定である。③米国は、シップライダー協定を含む海上法執行協定をいくつかの太平洋島嶼国と締結している。④フランスは太平洋に軍事基地を維持し、この地域の提携国と定期的に合同演習を行っている。⑤オーストラリアとニュージーランドは、Pacific Islands Forumや地域の平和維持活動、災害対応、開発援助計画を主導している。⑥近年、中国は次のように太平洋島嶼地域への関与を増やしている。a. 一帯一路や太平洋援助プログラムを通じてインフラ投資や融資を行っている。b. ソロモン諸島やキリバスが台湾との関係を断絶し、中国との正式な関係を確立した。c. 警察や安全保障、データ通信の協力を強化しようとしている。d. 2022年3月、中国がソロモン諸島に法執行資産と軍事要員を提供する安全保障協力で合意した。e. 中国の海洋調査船が軍事資産の調査やスパイ活動を行っていることが報じられている。⑦日本は、教育、健康管理、災害耐性、能力構築計画を支援することで、地域への重要な開発援助を提供している。⑧パワーゲームを超え、海洋法執行における国家間の協力は、地域の治安、安全保障、安定を確保するために不可欠であるなどと述べている。

(2) A Framework For Lethal Autonomous Weapons Systems Deterrence – Analysis
https://www.eurasiareview.com/17082023-a-framework-for-lethal-autonomous-weapons-systems-deterrence-analysis/
EurAsia Review, August 17, 2023
By Captain Steven D. Sacks, USMCR, is a Private-Sector Security and Risk Advisor based out of Washington, DC. 
2023年8月17日、U.S. Marine Corps予備役大尉Steven D. Sacksは、米シンクタンクEurasia Reviewに" A Framework For Lethal Autonomous Weapons Systems Deterrence – Analysis "と題する論説を寄稿した。その中でSteven D. Sacksは、米国と中国とが対立を深める中、両国は軍事的な競争優位性を求めて、新興技術や破壊的技術に多額の投資を行っているが、特に人工知能(AI)はこの競争の主要な要素となっていると指摘した上で、両国はAIを兵器システムやプラットフォームに組み込んで、Lethal Autonomous Weapons System(殺傷能力のある自律型兵器システム:以下、LAWSと言う)を形成しようとしているが、LAWSとは、敵対者を自律的に選択し、標的を定め、交戦する能力を持つ兵器体系であり、その殺傷にいたる過程への人間の入力は最小限に抑えられていると述べている。そしてSacksは、世界各国が戦場で使用するためにLAWSを追求し続ける中、その使用に関する一般的に理解された枠組みがないため、競争や危機における抑止力の誤伝達や誤った解釈によって、不注意または偶発的に国家間の危機が拡大する危険性が高まる可能性を指摘している。

(3) Maritime Chessboard: The Geopolitical Dynamics of the South China Sea
https://www.geopoliticalmonitor.com/maritime-chessboard-the-geopolitical-dynamics-of-the-south-china-sea/
Situation Report, Geopolitical Monitor, August 18, 2023
By Dr. Hasim TURKER, the academic coordinator and senior researcher at Bosphorus Center for Asian Studies
2023年8月18日、トルコBosphorus Center for Asian Studiesの上席研究員であるHasim Turkerは、カナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトに" Maritime Chessboard: The Geopolitical Dynamics of the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中でHasim Turkerは、南シナ海は地政学的に複雑で、対立が激化している地域であるが、漁業資源や地下資源が豊富なだけでなく、世界の海上交通の3分の1以上を受け入れる重要な海域として機能していると指摘した上で、南シナ海を巡る対立は歴史的解釈、国家の自尊心、戦術的優位性などが複雑に絡み合った状況を作り上げてきたが、米国のような世界的に重要な大国の参加は、この多面的な問題にさらなる次元を加えていると述べている。そしてTurkerは、南シナ海の力学は自己完結的なものではなく、むしろ国際的な力と支配のより広範な変動と絡み合っているが、南シナ海は争いの場であることにとどまらず、相互協力の可能性をも体現しているとし、南シナ海の将来には、賢明な航行、賢明な予測、そして平穏と安定への揺るぎない関与が必要であると主張している。