海洋安全保障情報旬報 2023年2月11日-2月20日

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2月13日「中国、ロシアを抑止するため、米国とその同盟国は北極圏でもっと行動すべし―U.S. Naval Institute報道」(USNI News, February 13, 2023)

 2月13日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、“U.S., Allies Need to Operate in the High North More to Deter China, Russia, Experts Say”と題する記事を掲載し、ここでロシアと中国が北極圏での軍事的展開を強化している現状において、米国とその同盟国の海軍と沿岸警備隊の展開がますます重要になっていることについて米国、英国、ノルウェーの3ヵ国の海洋に係わる組織の高級幹部および米国家安全保障会議の当局者で合意したとして要旨以下のように報じている。
(1) ロシアが軍事的展開を強化し、中国が北極圏の海域での商取引を超えてその意図を拡大するにつれて、米国の同盟国の海軍と沿岸警備隊の展開がますます重要になっていると、米国、英国、ノルウェー3ヵ国の海洋に係わる組織の高級幹部および米国家安全保障会議の当局者が2月6日の週に同意した。
(2) U.S. Coast GuardのAtlantic Area司令官Kevin Lunday中将は、巡視船「キンボール」が2022年にベーリング海での定期哨戒中、キスカ島北方86海里を行動中の中国ミサイル巡洋艦を発見したことを思い出した。Kevin Lunday中将は、フォーラム出席者に巡視船は米国の排他的経済水域を一緒に行動している2隻の中国艦艇2隻とロシア艦艇4隻の発見報告を行ったと語っている。それ以上の事件はなく中ロの艦艇群は航過したが、「米国の巡視船が実際にそこにいたことは重要であった」とKevin Lunday中将は述べている。
(3) ソビエト連邦崩壊後、北大西洋と北極圏の安定性はロシアが再び弾道ミサイル搭載原子力潜水艦をこれらの海域に配備した2012年から変化し始めたとU.S. 2nd Fleet司令官Daniel Dwyer中将は述べている。大国の地位と近隣諸国に対する支配を取り戻そうとすることについてのロシア政府の主張は、黒海艦隊司令部のあるクリミアを不法にも併合し、ウクライナ東部の軍事援助で分離主義者を支援したときに明らかになった。
(4) 北極圏に対するロシアの優先順位は、Northern Fleetを統合戦略コマンドに指定した時に非常に明確になったとDaniel Dwyer中将は述べている。それ以来、ロシアは弾道ミサイル搭載原子力潜水艦、攻撃型原子力潜水艦および水上艦艇の海軍施設、長距離爆撃機と戦闘機用飛行場14ヵ所、兵員と海軍歩兵用陸上施設をコラ半島とその周辺地域に急速に建設し、また北極海航路に沿って新しい飛行場、港、兵舎を改良し、建設した。
(5) 中国は、氷上シルクロードの確立に関心があり、北極海航路に沿ったロシアの基幹施設、エネルギー生産、鉱物採掘への投資を倍増させ、ますます氷のない航路に沿って1,000万トンの中国の海上輸送が実施されたとU.S. Fleet Forces Commandを率いるDaryl Caudle大将は述べている。Daryl Caudle大将は、2022年の北極圏における中国の6回の科学調査活動と、海洋データ収拾のための南極での中国の行動について述べており、中国はこれら科学調査のために、独自の砕氷船2隻を運用した。
(6) 習近平主席は、中国を2030年までに「極地の大国(a polar great power)」にするという野心を表明した。フォーラムの討論者は、中ロ両国が北極圏における航行の自由に脅威をもたらすことに同意した。北極海航路の重要性を認識し、U.S. National Security Councilロシア部長Chris Kofronは、米国は北極海を国際公共財の一部と見なしていると述べている。その海底には大陸間で財務、商業、セキュリティデータを送信する非常に重要なケーブルが敷設されている。北ヨーロッパ全体のエネルギーパイプラインは、これらの同じ海域にある。
(7) Royal Norwegian NavyのEgil Vasstrand大佐は、ノードストリーム2パイプラインの爆発事件についてデンマーク、スウェーデン、ドイツが原因調査を継続しており、パイプラインの安全を常に監視していると述べている。Chris Kofronはパイプライン爆発事件のようなグレーゾーンでの事件では「我々にできることは、ロシアの行動が悪いことを示すことである」と述べている。
(8) 地域の懸念について議論し、作業するために使用されたフォーラムの1つである8ヵ国の北極フォーラムは、捜索救助、法執行、特に漁業、高速ブロードバンド通信の構築、環境研究に関するより良い協力に関するすべての作業に対して、過去10年間でますます前面に出てきた安全保障の問題を避けていた。北極と北大西洋の安全保障が重視されるようになって、英政府はその必要性と役割を再検討したと英海軍の参謀長補佐Anthony Rimington少将は述べている。最新の「Look North: The U.K. and the Arctic」と題した報告書が2月13日の週に発表された。協力によって特徴づけられる平和で安定した地域を維持するという方向書の内容を引用して、Anthony Rimington少将はロシアの艦艇、潜水艦が大西洋に進出するために通過するグリーンランド~アイスランド~英国間の海峡における英国の戦略的位置とその下に敷設されたケーブルに言及し、英海軍の「最優先事項は、北大西洋での運用上の優位性を維持することである」と彼は言う。英海軍の新たな兵力の展開は、北米へデータ伝送のためのケーブルを保護するための海底監視船である。2隻目は現在建造中である。
(9) 北極圏における米国の展開は進んでいるが、速度は遅い。U.S. Coast GuardのKevin Lunday中将は、北極圏の安全保障用の新しい巡視船の納入は、「2026年もしくは2027年にずれ込む可能性がある」と述べている。情報、監視、偵察、通信のための無人船やセンサーなどのシステムがどのように機能し、同盟国や提携国と協力して運用するかをよりよく理解するために、U.S. 2nd Fleet司令官Daniel Dwyer中将は演習の規模と範囲を拡大するべきであると指摘し、演習のほとんどはNATOではなく各国ごとに計画されているが、その範囲はより大きな相互運用性と互換性を確立する機会を提供するべきであると付け加えている。
記事参照:U.S., Allies Need to Operate in the High North More to Deter China, Russia, Experts Say

2月13日「南ア・中国・ロシア3ヵ国共同海軍演習実施の現在的意味―米戦略研究専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, February 13, 2023)

 2月13日付の米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトEurasia Daily Monitor は、米シンクタンクForeign Policy Research Institute 上席研究員Stephen Blankの“Russia, China and South Africa to Conduct Joint Naval Exercises”と題する論説を掲載し、そこでStephen Blankは、2月後半に実施されるロシア、中国、南アフリカの共同海軍演習に言及し、それがロシアや中国によるインド洋やアフリカでの影響力を強める努力として大きな意味を持つとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月17日から27日にかけて、ロシア、中国、南アフリカの3ヵ国が、南アフリカ最大の港湾であるダーバン沖で海軍演習を実施する。この3ヵ国による共同演習は2019年以来2度目のことであり、当時は注目されたがそれからしばらく行われなかった。しかし、ウクライナ侵攻後の地政学的環境において、今回実施される演習の意味はかなり大きい。
(2) BRICSの1つである南アフリカにとって、この共同演習の実施はウクライナ戦争に関する中立の立場を示す1つの方法である。すなわち、南アフリカとしてはただ友好国と演習を行うという、他の国がやっていることをやっているだけだということである。実際、南アフリカは米国とも2011年以降4回も共同演習を実施している。
(3) 他方中国とロシアにとって、この演習の反響は大きい。中ロ両国はインド洋でしばしば、南アフリカやイランなどを含めた共同演習を実施している。2022年にはイランと2度の海軍演習を実施した。その演習はロシアとイランの関係強化だけでなく、中ロの関係強化をも意味していよう。インド洋での共同海軍演習によってインド洋の安全保障に影響が及び、それがさらにアジアにおける安全保障の変化につながっていく可能性がある。
(4) さらにその影響は、アフリカへと拡大する可能性がある。中国とロシアはアフリカへの存在感を拡大させているためである。ある専門家によると、「ロシアの動きは中国の構想……を補完する可能性がある」。ただし今までのところ、アフリカでのはっきりした2国間協力は見られない。
(5) しかし、西側は中ロのアフリカ政策を軽視してはならない。この問題は、ロシアがアフリカとインド洋での展開と影響力を強化しているという文脈において理解されるべきである。ソ連時代からロシアはアフリカに影響力を保持し、2015年のロシアの海洋ドクトリンにおいてインド洋は優先事項と位置付けられている。それ以降、ロシアはスーダンやアフリカの角沿いでの海軍基地確保に努め、さらにはアフリカの専制主義的政府のために情報戦を実施し、武器売却、将校、文官をロシアにおいて教育・訓練を行っている。2022年のロシアの海洋ドクトリンにおいても再び、インド洋の重要性が強調された。
(6) ウクライナの動向を念頭に置きつつ、先に南アフリカとの演習を実施した2019年と比べると、ロシアの利害は当時よりも大きくなっている。ヨーロッパから孤立したロシアは限られた資源で対外政策、特にインド洋・アフリカ政策を展開しなければならないからである。中国もこの2つの地域での活動を活発化させており、協力の可能性は大きい。そうなれば、欧米やアジア、アフリカに深刻な課題が突きつけられることになろう。
記事参照:Russia, China and South Africa to Conduct Joint Naval Exercises

2月14日「フィリピン、中国海警船によるレーザー照射を非難―The Diplomat誌報道」(The Diplomat, February 14, 2023)

 2月14日付のデジタル誌The Diplomatは、“Philippines Accuses Chinese Vessel of Using Laser Against Coast Guard”と題する記事を掲載し、Philippine Coast Guardの人員が中国の海警船から軍事用レーザーを照射されるという攻撃を受けた事件について、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンは2月13日、南シナ海の係争地であるセカンド・トーマス礁の近くで遭遇した比沿岸警備隊の船に対して、中国の海警の船が軍事用レーザーを照射したと非難した。Philippine Coast Guardは声明で、レーザーがフィリピン巡視船の一部の乗組員の視野を一時的に奪い、フィリピンの排他的経済水域(以下、EEZと言う)内のセカンド・トーマス礁への接近を阻んだと発表している。このフィリピン巡視船は、座礁させて拠点としている旧揚陸艦「シエラ・マドレ」に駐留する少数の部隊に補給する途中であった。
(2) この事件は2月6日に起こったが、13日に初めて公に報告され、「フィリピンの主権的権利の明確な侵害」であるとPhilippine Coast Guardは述べている。海警船は、レーザーを2回照射したほか、フィリピン巡視船の右舷から約137m離れた場所で「危険な行動」を採ったという。
(3) このレーザー事件は、1月中旬にPhilippine Coast Guardが海警船によってフィリピン漁船がセカンド・トーマス礁から強制的に退去させられたと報告した後に起こったものである。これは、フィリピンのEEZに中国が侵入した最近の数百件のうちの1つに過ぎない。中国政府は、論争中の「九段線」の主張を基にして、フィリピンの海域の大部分の権利を主張している。AP通信によると、フィリピン政府は2022年だけでも、係争海域での中国の行動に対して200件近い外交的な抗議を行ったという。しかし、レーザーを使用し、そして、フィリピン人の人員に肉体的苦痛を与えたのは今回が初めてだとPhilippine Coast Guardの報道官はAP通信に語ったと伝えられている。
(4) Armed Forces of the Philippineは、中国が「人命を危険にさらすような挑発的な行為」をしないよう自制する時に来ていると述べており、Armed Forces of the Philippine報道官は、フィリピン国防長官が中国海警の行動を「攻撃的で安全でない」と判断したと記者団に語っている。このレーザー攻撃は、ロイターがPhilippine Coast Guard長官Artemio Abu大将のインタビューを公表した翌日に行われ、彼は、Philippine Coast Guardは国の海洋領土を守るために、追加の船艇を配備し、これらの地域の出撃と上空飛行をより多く行う予定であると述べている。
(5)北京の中国外交部報道官は、Philippine Coast Guardの船艇が許可なく中国領海に不法侵入し、中国海警船が「中国の法律と国際法に従って、現場で専門的かつ自制的に対応した」と述べている。
記事参照:Philippines Accuses Chinese Vessel of Using Laser Against Coast Guard

2月14日「台湾野党・国民党副主席訪中と両岸関係の行方―中国専門家論説」(The Diplomat, February 14, 2023)

 2月14日付のデジタル誌The Diplomatは、上海外国語大学博士課程院生包暁の“Andrew Hsia’s China Visit and the Future of Cross-Strait Relations”と題する論説を掲載し、包暁は台湾最大野党の国民党副主席の訪中と今後の両岸関係の行方について、中国本土の視点から2024年の台湾総統選挙における国民党の勝利を期待して、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾の最大野党国民党夏立言副主席は2月初め、中国本土を訪れ、中国共産党から大歓迎を受けた。夏立言副主席に対する歓迎ぶりは、2024年の台湾総統選挙で国民党候補が民進党候補を破り、両岸関係の緊張緩和をもたらす可能性に、中国政府がある程度の期待感を抱いていることを示唆している。2016年に発足した民進党政権が「1992年コンセンサス」を認めなかったことから、中国政府は両岸交流を断ち切った。それ以来、両岸関係の緊張が高まっている。国民党が2022年秋の台湾地方選挙で勝利し、2024年の総統選挙でも勝利する可能性が高まった時期における、夏立言副主席の本土訪問は多くの注目を集めることになった。
(2) 中国共産党は台湾での政権交代の可能性を見て、北京では、党中央委員会政治局常務委員で序列4位の王滬寧が夏立言副主席と会談した。王滬寧は、中国人民政治協商会議全国委員会委員長に就任予定で、台湾問題担当の共産党トップの地位に就く。王滬寧は、習近平国家主席の要求に応じて、両岸統一の理論に大きな変更を加える可能性が高いと見られている。夏立言副主席は、党中央の台湾政策を直接遂行する、国務院台湾事務弁公室の宋濤主任と会談し、さらに、北京市党委員会の尹力書記とも会談している。尹力は以前、台湾海峡に面した福建省党委員会書記を務めており、台湾事情に精通している。夏立言副主席との会談で、王滬寧は新時代における台湾問題の解決に向けた習主席主導の総合戦略に従って、両岸関係の平和と発展を促進し、祖国統一を共に創造することを提案した。これに対して、夏立言副主席は、中国共産党と国民党は台湾海峡の平和と安定を促進するために、「1992年コンセンサス」を堅持し、「台湾独立」に反対するという共通の政治的基盤を強化すべきと主張したが、統一問題には言及しなかった。
(3) 中国共産党は、海峡両岸が同じ中国に属することを認めた「1992年コンセンサス」を、中国と台湾政権与党との対話の前提条件としてきたが、民進党は政府間協議ではなく、中国共産党と国民党との会談の結果であるこのコンセンサスに同意したことはない。「1992年コンセンサス」を提唱した党として、「台湾独立」に対する国民党の反対は中国共産党によって歓迎されている。国民党の両岸政策は、「1992年コンセンサス」に同調し、中国との接触の可能性を維持することと、2024年の総統選挙に勝つために台湾世論に迎合して「泛藍連合」*の拡大を目指すことの間で、揺れ動いている。このことは、夏立言副主席が本土滞在中に国民党の両岸政策の一環として「非独立」を強調したことにも反映されている。夏立言副主席は統一について言及することは決してなかったが、現在の台湾海峡の緊迫した状況下では、国民党の両岸政策は依然、状況を安定させる上で現実的な価値がある。中国政府は、国民党も民進党も統一を最終目標とする両岸対話を積極的に始めようとはせず、また台湾住民もそうした政治過程を支持しないことを了知している。したがって、現段階では、中国政府の対台湾政策に完全な解決策はなく、安定を維持するという二次的解決策でしかない。
(4) 中国が台湾問題の全体的解決策として「一国二制度」を放棄する可能性は低いが、北中国政府は台湾問題の国際化を図る米政府に対抗して、「一国二制度」に基づく台湾に関する新たな説明を構築する可能性がある。米政府は2016年以来、台湾問題を民主主義と経済的繁栄の物語として再構成してきた。米国とその同盟国が台湾の保護を民主主義の防護と見なしていることで、台湾と中国の対立は、自由民主主義と権威主義との対立に変わりつつある。台湾に対する中国の取り組みに関する新たな説明は、統一が何をもたらすかを明確にする必要がある。海峡両岸の制度上の相違や、双方の安全保障上の懸念に対応できる、国家を超越する枠組みがあるか。この問題は、理想的には両岸の政治対話を通じて対処されることになるが、現在そのような対話はない。2024年に国民党が政権を握れば、これらの答えが得られることになるかもしれない。
(5) 台湾問題の遅延は、中国指導部の忍耐力を試してきた。この間、中国は台湾に自立を許さない安全保障環境を作為しつつある。長期的には、台湾の独立に反対する中国からの明確な軍事的合図は、台湾住民の考え方に影響を与え、戦争回避を前面に掲げるようになれば、民進党政権に逆効果をもたらすであろう。国民党は、2024年における政権交代の前提条件として、このような環境を利用している。同時に、米国は東アジアにおいて、中国の台湾への武力行使を困難にする安全保障態勢を構築している。武力行使に踏み切れば、それへの政治的決定を左右する程、中国にとってその政治的、軍事的そして経済的対価は大きなものとなろう。米国の戦略には、①台湾の非対称的攻撃能力の強化を支援する、②幾つかの集団安全保障メカニズムを糾合し、米国の安全保障戦略の重点を東アジアに移す、③同盟国との地域安全保障義務の共有を準備する、④そして就中、台湾海峡における高いレベルの即応態勢を維持するといった複数の要素が含まれる。
(6) 台湾海峡の「一方的な現状変更」に反対するという米政府の長年の立場は、現在の態勢から判断して、米国が台湾に対する中国の武力行使の可能性に対応することを意味している。同盟国と連携した最近の米国の行動は、米国が台湾防衛に関して「戦略的曖昧性」を維持することを望んでいるが、同時に一方では、台湾海峡における多様な形態の軍事紛争に対する将来の米国の関与がこれまで以上に可能性が高いという明確な意図を中国政府に送ることも狙っていることを、示唆している。中国と米国は真剣に潜在的な紛争に備えていることは確かだが、こうした準備の最終的な目標は依然、中米関係が効果的に管理されている限り、紛争の現実化の回避と台湾海峡における冷たい平和の維持にある。2024年の台湾総統選挙で国民党が勝利すれば、台湾海峡の両岸は、両岸関係の将来的な輪郭を形作るための時間的余地が得られるであろう。
記事参照:Andrew Hsia’s China Visit and the Future of Cross-Strait Relations
備考*:「泛藍連合」とは国民党とその他幾つかの政党による政治連合で、中華民国が中国の合法的政府との立場で、中国と台湾の二重アイデンティティを支持し、中国本土との友好的な交流を期待。これに対して「汎緑連合」は民進党とその他幾つかの小政党との政治連合で、統一よりも台湾化と台湾独立を支持。

2月16日「米国、中国を視野に対艦ドローン導入を検討:U.S. Marine Corps司令官談―日英字経済紙報道」(NIKKEI Asia, February 16, 2023)

 2月16日付の日本英字経済紙NIKKEI Asia電子版は、“U.S. to consider Indo-Pacific anti-ship drones, with eye on China”と題するU.S. Marine Corps司令官David Berger海兵隊大将へのインタビュー記事を掲載し、現在注目される自爆型ドローンの運用構想、新編予定の沿海域連隊のあり方、日米同盟に対する考えなどに関するDavid Berger大将の回答を要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Marine Corps司令官David Berger海兵隊大将は、NIKKEI Asiaのインタビューにおいて、U.S. Marine Corpsはインド太平洋地域での徘徊型爆弾あるいは自爆型ドローンの使用拡大を検討しており、台湾危機に際しては中国艦艇に対しの軍艦に対してこれらの兵器を配備する可能性があると示唆した。
(2) David Berger大将は、監視気球の疑いのあるものを米国上空に飛ばすという中国の「容認できない行動」を非難し、「ある国が主権空域や領海を侵害し、それを一貫して行う場合、それは安定をもたらす種類の行動ではない」と述べている。気球の事件が起こる前には、中国政府は米政府との関係を安定させようとしていると考えられてきたが、David Berger大将は、この事件によって米国が中国の意図に注意すべきであることを思い出させることになったと見ている。
(3) 中国の脅威に直面して、U.S. Marine Corpsは自衛隊との協力を深め、中国に対する統合抑止力を強化している。日米両国は2025年までに沖縄に駐留するU.S. Marine Corpsを再編し、島嶼防衛を任務とする新たな沿海域連隊を編成することに合意した。沿海域連隊は軽快な機動力を発揮し、迅速に事態に対応できる部隊で、中国のミサイル攻撃を回避しつつ、島から島へと迅速に移動し、最前線で任務を遂行することができる。遠海域連隊が遂行する作戦は、敵の位置に関する情報収集、敵艦艇に対するミサイル攻撃、防空、兵站活動など幅広い分野に及んでいる。
(4) 「我々が沖縄から向かう所は常に、不安定化しつつある重要なものに対する危険性あるいは米国や同盟国の国益に対する危険性のある所だと考えている。」とDavid Berger大将は言う。これは、任務の範囲が日本を守るだけでなく、北東アジアあるいは東南アジアを含むことを意味している。台湾海峡をめぐる紛争が発生した場合、沿海域連隊が最前線で活動するかどうか尋ねられたDavid Berger大将は、「おそらくそうなるだろう」と答えている。部隊が何をするかについての決定は、U.S. Indo-Pacific Commandが行うと彼は付け加えている。
(5) 攻撃ドローンはインド太平洋の船舶に効果的である可能性があるとDavid Berger大将と述べている。典型的な用途には、地上の装甲車両や人員の攻撃が含まれます。「今後数年間で、米国と自衛隊の双方が、これまでにない運用方法でその能力を発揮させる方策を模索することになるだろう」David Berger大将は述べている。たとえば、David Berger大将は徘徊型爆弾が海上における戦略的チョークポイントへ敵が接近することを拒否することができるとして、「将来的には、徘徊型爆弾が戦略的チョークポイントで役割を果たすことになるだろう」と述べている。台湾海峡における危機では、中国軍が台湾の東側海域の航路利用を阻止したり、沖縄、台湾、フィリピンを含む「第1列島線」を横切って太平洋に進出しようとしたりするかもしれない。攻撃ドローンは、対艦ミサイルと組み合わせて、そのようなシナリオにおける中国海軍の任務遂行を阻止するのに効果的であると期待されている。U.S. Marine Corpsは、戦術トマホークなどの地上発射型の長射程ミサイルを開発しており、長射程ミサイルが沖縄に計画されている新しい沿海域連隊に配備されるかどうかとの質問に対しては、David Berger大将はまだ開発中のため「それがどこに配備されるかを発言するのは時期尚早である」と述べている。開発は2020年代半ばには完了すると考えられており、日本や中国近隣諸国との議論は開発の完了に向けて裏で進められるかもしれない。
(6) David Berger大将は、日本の防衛費の大幅な増加と反撃能力の開発を求める日本の新しい安全保障戦略を「日米同盟にとって非常に良い」と称賛している。「私のように30年から40年、日本と一緒に仕事をしてきた者にとって、これは非常に大きな問題である。これは日本にとって大きな前進である」とDavid Berger大将と述べ、「そして、その理由は中華人民共和国からの脅威と中国共産党の目標に対する共通の認識である」と日米政府が付け加えている。
(7) David Berger大将は、日米両国は後方支援に関して「是非とも」より緊密に協力すべきだと述べている。後方支援の協力について、米軍が機器を修理するために現地で部品を調達すること、軍需品、燃料、輸送を共有することなどを例としてDavid Berger大将は挙げている。U.S. Marine Corpsの部隊はさまざまな離島に分散しており、作戦の兵站面をより困難にしているため、緊急時には日米の円滑な協力が不可欠である。
(8) David Berger大将はまた、脅威を早期に検出するために情報を共有することの重要性を強調している。U.S. Marine Corpsがこの地域で行うことはすべて、「自衛隊と非常に緊密に織り込まれている」とDavid Berger大将は述べている。想定される状況としては、最前線にある海兵隊員が敵の目標を発見し、さらに後ろに配備された部隊に情報を伝達することが含まれる。このような情報は、自衛隊が反撃能力を持つと、共同作戦において日本が果たす役割がより効果的になる可能性もある。
記事参照:U.S. to consider Indo-Pacific anti-ship drones, with eye on China

2月16日「米中対立とオセアニア―カナダ専門家論説」(Geopolitical Monitor, February 16, 2023)

 2月16日付のカナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトは、Eli Jacksonの” Great Power Geopolitics and the Scramble for Oceania”と題する論説を掲載し、ここでEli Jackson はインド太平洋地域には強力で協調的なANZUS条約が必要で、台湾侵攻の際に前線から十分に離れたオセアニアに対して米国は本格的な軍事外交を展開すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2000年、中国の対ラテンアメリカ貿易額は120億ドルであったのに対し、2021年には4,300億ドル以上に増加した。中国は資源獲得に力を入れ、ラテンアメリカの資源豊富な国々を主要な標的としてきた。一帯一路構想に伴う海外投資や基幹施設支出を通じて、中国はラテンアメリカ全体にとって、米国に次ぐ第2位の貿易相手国であり、南米にとっては最大の貿易相手国となっている。中国のラテンアメリカにおける存在感に対して、Biden政権は、沿海域での事業や軍事によらない政策を通じて、追いつこうとしている。一方で、過去10年間、アフリカの豊富な資源に投資するための新たな植民地主義的競争が、中国、米国、そして最近ではロシアなどの間で繰り広げられてきた。 しかし、ラテンアメリカと異なり、アフリカにおける中国の経済的存在は薄れつつあり、融資額は2016年の284億ドルをピークに20億ドル以下にまで減少している。
(2) オセアニアは、米国が長い間軽視してきた地域である。中国は、オーストラリアとニュージーランドに次いで、この島嶼地域に対する第3位の開発援助供与国になっている。ラテンアメリカやアフリカと同様、中国が基幹施設整備と援助を進めようとする背景には、一帯一路を推進し、インド太平洋に軍事基地を建設するという願望がある。すでに2019年、キリバスやソロモン諸島は、台湾から受ける支援を止め、北京の銀行から1,100万ドル以上を開発基金として集めた。11年間で約15億ドルの補助金と融資が複数の太平洋島嶼国によって集まった。
(3) オセアニアで中国へ追いつこうとする米国の努力は、南米・北米やアフリカに対する努力よりも大きい。2019年にU.S. Department of Stateは、インド太平洋戦略の下で、この地域に対する1億ドルを超える新たな支援を発表している。この支援は、太平洋諸国に対する米国の関与を表すものである。2022年9月、ホワイトハウスは初めて「太平洋パートナーシップ戦略」を発表し、今後の米国の同地域への関与の枠組みを打ち出した。同戦略は、これまでの怠慢を認め、オセアニアを米国のインド太平洋戦略につなげ、従来の北太平洋重視から脱却させる意図を示している。
(4) 2021年9月、Biden大統領 は「米国にとってオーストラリアほど緊密で信頼できる同盟国はない」と述べた。オーストラリアは長い間、米国の主要な同盟国であり、最近1年間の協力関係は、オーストラリア・ニュージーランド・米国3ヵ国の安全保障枠組みであるANZUS条約が発効した1951年以来、もっとも強化さている。過去10年ほどの間、オーストラリアは米国を優先的な戦略的提携国とし、中国を優先的な経済的提携国としていた。世界有数の鉄鉱石生産国であるオーストラリアは、その輸出先は、4分の1が中国で最も多く、続いて日本、韓国、インドとなっている。低温殺菌乳製品の世界有数の生産国ニュージーランドも、中国への輸出が最も多い。Trump前大統領およびBiden大統領は、いずれもオーストラリアを米国の対中戦略において不可欠な関係国にすることに取り組んできた。
(5) 2021年、オーストラリア、英国、米国は、防衛、技術、産業基盤、サプライチェーンの統合と協力の深化に焦点を当てたAUKUSという3カ国安全保障枠組みを発表した。AUKUS 最初の取り組みとして、オーストラリア海軍の攻撃型原子力潜水艦の取得を支援することが約束された。そして、米国と太平洋地域の同盟国が求めるグローバルな安全保障の観点からは、QUADがある。民主主義の4ヵ国がインド太平洋地域で力と結束を示し、マラバール演習のような海軍訓練を共に行うことは、まさに抑止力の本質を示すものである。さらに、オーストラリアは自らの努力として、数年来乏しかった国防費を増額して、今後10年間で5750億ドルという予算案を発表した。また、それは長距離精密誘導弾、無人機、情報技術などに充当されることがScott Morrison前首相により表明されている。
(6) インド太平洋地域には強力で協調的なANZUSが必要である。台湾侵攻の際に最前線となる可能性のある海峡から十分に離れたこれらの島国は、後方の海・空軍基地に最適であり、同盟は直ちに改善に取りかかるべきである。オセアニアを構成する太平洋諸国も、今や地政学的重要性を示している。米国は中国に追いつこうとするだけでなく、中国が中南米やアフリカで果たそうとしている役割を米国が担い、本格的な軍事外交を展開すべきである。
記事参照:Great Power Geopolitics and the Scramble for Oceania

2月17日「ロシアにとって重要性が増すNorthern Fleet―米国防関連誌報道」(Defense News, February 17, 2023)

 2月17日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、“Russia to lengthen submarine patrols, says Norwegian intel report”と題する記事を掲載し、ロシア海軍のNorthern Fleetの最近の動向について、要旨以下のように報じている。
(1) ノルウェーの新しい情報報告書によると、ロシアは2023年、バレンツ海や大西洋でのプレゼンスを高め、潜水艦の配備を長くする可能性が高いという。ノルウェー情報部は2月13日、年次報告書を発表し、ロシアが地域の抑止力のために、そのNorthern Fleetに依存する傾向が強まっていることを指摘した。「Northern Fleetの海軍部隊は、通常の艦隊演習、潜水艦によるバレンツ海でのより長期の哨戒行動、そして、潜水艦の大西洋での行動を継続して行うだろう。新型の静粛型の多目的潜水艦の供給により、ノルウェー海や大西洋でのこの艦隊の能力は向上する」と報告書は述べている。
(2) Tufts UniversityのRussia and Eurasia Program客員研究員Pavel Luzinは、「Baltic Fleetは全般的な意義を失うが、一方でロシア政府はNorthern Fleetの強化を試み、NATOに非対称的に対応する方法を模索するだろう」とDefense Newsに語っている。
(3) Northern Fleetの航空機の配備については、おそらくその数を維持し、通常どおりの活動を行うだろうとこのノルウェーの報告書は述べている。一方、ロシアの戦略爆撃機はウクライナ侵攻に集中しているため、おそらくノルウェーの領空付近で戦略爆撃機を目にすることは少なくなると報告書は述べている。「核兵器と戦略的抑止力の重要性が増しているため、コラ半島の軍事基地のNorthern Fleetによる防衛、北方の聖域とバレンツ海もより重要になるだろう」とも報告書は述べている。
(4) Luzin は、ロシアがNorthern Fleetの追加の艦艇に核兵器を装備する取り組みを始めるとすれば、ボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦と新型のヤーセン級巡航ミサイル搭載攻撃型原子力潜水艦と修理から戻った後の重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒーモフ」に行われるだろうと指摘している。
記事参照:Russia to lengthen submarine patrols, says Norwegian intel report

2月17日「米国のオーストラリア北部への関心が生む利益-豪専門家論説」(The Strategist, February 17, 2023)

 2月17日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Institute
Northern Australia Strategic Policy Centre長John Coyneの“Realising the benefits of Washington’s renewed interest in northern Australia”と題する論説を掲載し、ここでJohn Coyneは    米国がインド太平洋に重点を置き、オーストラリア北部への長期的な関与をすることで、オーストラリアの産業は長期的な投資が可能となり、戦略的優位性を達成しながら地域社会を発展させることができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) この一世紀足らずの間に、米国はオーストラリアの戦略的重要性を2回実感した。そして3回目となる今回は、オーストラリア北部の戦略的地形の重要性に着目している。これまで、オーストラリアは主権と引き換えに保護を受けてきたが、今回はより積極的な役割を果たす必要がある。オーストラリア北部は、インド太平洋地域における将来の紛争を予防し、抑止するため、また、オーストラリアの経済的、社会的繁栄を確保するためにも不可欠な存在である。
(2) 第2次世界大戦で日本軍による真珠湾攻撃を受け、1942 年初め、米国の戦略家たちは、アジアと太平洋における日本の進出を食い止めるには、オーストラリアの地理的条件が不可欠と気付いた。また、冷戦時代にアリス・スプリングス近くのパイン・ギャップに共同防衛施設が開設されたときにも、オーストラリアの戦略的地理的優位が米国にとって決定的となった。そして今、オーストラリアの歴史上3度目となるこの戦略的な地勢は、米国にとって再び重要なものとなっている。
(3) 2012年12月、米海兵隊員200 名がオーストラリア北部に派遣され、Marine Rotational Force—Darwin(輪番でダーウィンに展開する海兵隊部隊)が編成された。そして7年後の2019年、この派遣は海兵隊航空部隊と地上部隊から成る2,500人規模のMarine Air–Ground Taskforce(海兵隊空地任務部隊)にまで拡大した。もちろん、オーストラリアでは他にも米軍の配備や演習が行われている。オーストラリアの基地には、U.S. Air ForceとU.S. Navyが定期的に配備されている。ピッチ・ブラックとタリスマン・セイバーと称する大規模な合同演習が、2年に1度、オーストラリア北部で行われている。
(4) オーストラリア北部の防衛基幹施設がまだ目的に適っていない分野で、U.S. Department of Defenseが投資を企図している。ダーウィンの燃料貯蔵施設やキャサリン近郊のティンダル空軍基地の整備は、その好例である。このような投資は、オーストラリア北部に経済的利益をもたらす。その他に戦略レベルにおいて、AUKUS 協定は先進潜水艦と先進能力という 2つの取り組みを提供している。前者はオーストラリアを歴史的に従属的な同盟国として位置づけるものであるが、後者は、対等な関係になる可能性を提供する。
(5) 米国の戦力構想や AUKUS を、オーストラリアの主権に対する危険性と見る向きもあるが、それは馬鹿げている。どちらも、オーストラリアの防衛態勢を強化しつつ、主権を維持・行使する能力を提供する。それでも政府は、特に戦略的な地理的位置付けと統合抑止力への貢献について交渉し、2国間関係にもたらすものを強化する意志を持たなければならない。
(6) 米軍とオーストラリア軍の相互運用性の向上と実証に向けた米国の行動は、戦略的抑止力に貢献する。オーストラリア政府はオーストラリアの対米関与の焦点を、オーストラリアの主権を維持し、オーストラリアに直接的かつ具体的な利益をもたらすことに絞るよう努力しなければならない。そのような可能性を秘めた分野の1つが統合兵站である。ウクライナ戦争で明らかになったことは、兵站が依然として重要という教訓であり、これは米国ではよく知られている。
(7) 1981 年以来、U.S. Marine Corpsの事前集積計画は、Marine Air–Ground Taskforceを全世界に迅速に展開するための重要な基盤となっている。米陸軍の事前集積計画は、「迅速に戦力を投射し、米国の関与を明確に示す陸軍の能力の基礎」と説明されている。世界中に、装甲旅団戦闘団に必要なすべての戦車や装輪装甲車などの装備一式を温度、湿度が管理された施設に事前配置している。あとは兵士を必要な装備がすでに整っている戦場に空輸するだけであり、有事のみならず大規模演習や人道任務にも対応可能である。
(8) 米国がインド太平洋に重点を置き、オーストラリア北部に継続的な関心を持ち、物流、持続性、保守の複合的な所要があることを考えれば、U.S. Department of Defenseはオーストラリア北部に準備備蓄を設けることを検討する時期に来ている。このような計画は、オーストラリアの戦略的地理条件を最大限に活用するものであり、ダーウィンとタウンズビル周辺の地域が焦点となる。このような投資は、オーストラリア北部に建設計画と継続的な雇用をもたらし、米国がオーストラリア北部を訪問するだけでなく、その一部となることを正式に約束することになる。また、米軍とオーストラリアの防衛組織が、兵站、保守整備、基幹施設について協力する機会を提供することになる。このような長期的な米国の関与により、オーストラリアの産業は長期的な投資を行うことができ、戦略的優位性を達成しながら地域社会を発展させることができるのである。
記事参照:Realising the benefits of Washington’s renewed interest in northern Australia

2月17日「北欧地域にとって米国との防衛協力強化は両刃の剣―ノルウェー紙報道」(High North News, February 17, 2023)

 2月17日付ノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHigh North News電子版は、ノルウェーのジャーナリストAstri Edvardsenの〝The Nordic Region Strengthens Double-Edged Defense Cooperation With the US″と題する記事を掲載し、ここでAstri Edvardsenは北欧諸国が米国との防衛協力を強化していることに関する各国専門家の分析を要旨以下のように報じている。
(1) フィンランドとデンマークが、2021年に締結した防衛協力に関する米国との2二国間協定に続き、スウェーデンが1月に米国との交渉を開始したと発表した。交渉の対象は、その国の領土における米国の軍事活動の条件である。これら3ヵ国は、2021年春に米国との協定に署名し、2022年夏に議会承認を得たノルウェーの足跡を辿っている。この協定により、北極圏に位置する2ヵ所を含むノルウェーの4ヵ所の軍事基地を米国が自由に利用できる権利を持つ「合意」地域となった。
(2) 大局的に見れば、この種の協定は米国の展開を促進するものだが、課題もある。それは、米国のアジアへの傾斜とこれに伴う作戦の柔軟性の重視、米国政治の2極化に関連している。Swedish Defence Research Agency(スウェーデン国防研究所:以下、FOIと言う)の分析では、後者が問題視されている。これは、スウェーデンの防衛政策の転換の基となり、Försvarsberedningen(安全保障諮問会議)にも影響している。「米国が中国への関心を強めるにつれ北欧地域での米国の展開が難しくなっている」とFOI分析官Jakob GustafssonはHigh North Newsへのメールで述べている。
(3) 米国は、自国の国際的地位を脅かす存在として中国への注視を強め、アジアへの関与を拡大している。米国は、ヨーロッパ、アジアおよびその他の地域で同時進行的に事態に対応するという問題に直面し、敵対者を抑止するために、意表を突く軍事作戦を採用している。そしてこれは、安定性と予測可能性を重視することが多い小国の利益にはならないかもしれないとFOIは分析している。「米国は中国を優先し、同時にロシアを抑止したいと考え、より少ない部隊をより効果的に活用するために、機動性に重点を置いてきた。これは、防衛協定の深化によって可能になり、多くの国から歓迎されている」とJakob Gustafssonは指摘する。ノルウェーと米国の協定の前に、米国はバルト3国、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーと同様の協定を結んでいる。
(4) Jakob Gustafssonによれば、米国側から見たこれらの防衛協定は、軍事的自由度を高める法的枠組みの標準化と、ヨーロッパと北欧の安全保障への継続的な関与を意味するという。米国が北欧諸国を支援し、危機や戦争の際に迅速かつ効率的な支援を可能にする協定を結ぶというこの合図は、北欧諸国にとって安全保障を考える上で重要性を占めているとJakob Gustafssonは指摘している。
(5) ロシアのウクライナ侵攻後、北欧諸国は強い抑止力を好むようになった。米国の政党の2極化を考えると、スウェーデンは「1国主義、短期主義、取引志向が顕著になる可能性がある不安定で予測不可能なアメリカの外交・安全保障政策に備えるべき」とFOIの分析で指摘している。
(6) 北欧諸国の類似性から、ノルウェーと米国の防衛協定が、スウェーデン、フィンランド、デンマークのそれぞれと米国政府の交渉の基礎となることが考えられる。さらに、この交渉によって、いくつかの北方の軍事基地が米国との「合意地域」となる可能性もある。デンマークに関して言えば、米国は何十年も前からグリーンランドにトゥーレ空軍基地を置いている。「合意」に分類されたノルウェーの基地では、米国は訓練や演習を行い、部隊を配備し、設備、物資、資材を集積することができる。フィンランドでは、米国はロバニエミ空港への出入りや使用、海軍基地や港湾近くの基地に関心を持つかもしれないとFinnish Institute of International Affairs(フィンランド国際問題研究所:以下、FIIAと言う)の主席研究員Charly Salonius-Pasternakは考えている。その場合、北ノルウェーのエヴェネス空軍基地とラムスンド海軍基地が「合意」に分類されているのと同じになる。これらの基地では、航空海上監視や洋上後方支援に関する米国との協力関係の構築が目前に迫っている。
(7) 米国の基幹施設投資も視野に入れたこのような協力の機会に加え、事前集積も重要な問題だとSalonius-Pasternakは指摘する。「ノルウェーとアメリカの協定に盛り込まれた装備品や資材の事前集積の機会は、米国の関与を明確に示している。米軍がたとえば、対戦車ミサイル500発と対空ミサイル500発をフィンランドに保管し、米国の支援が到着する前にフィンランド軍が緊急事態にこれらを使用できるような仕組みとすることに両国が合意すれば有益であるとCharly Salonius-Pasternakは言う。米国の防衛物資の事前集積をめぐる問題は、フィンランドとスウェーデンの将来のNATO加盟がどのように設計されるかということとも関連している。2022年秋、両国の首相、同盟への加盟が実現するまでは、核兵器の保管について議論しないと表明した。同時に、スウェーデンMinistry of Foreign Affairsは最近、北欧の近隣諸国と同様に、平時に自国の領土に核兵器を保有することはあり得ないと考えていると述べている。
(8) 米軍の駐留に関する法的枠組みの標準化は、各国間の人員や物資の移動手続きを簡素化し、米国との新しい交流の機会を可能にするとFIIAの研究者は述べている。「北欧諸国がすべてNATOに加盟したとき、NATO、北欧防衛協力(NORDEFCO)、そしてノルウェー、フィンランド、スウェーデン、米国との4者構成の可能性のもと、どの程度の協力が行われるのか興味深い」とCharly Salonius-Pasternakは言う。また、NATOの文脈では、訪問軍の駐留を規制する加盟国間の2国間防衛協定が、集団防衛を促進する手段としても機能していることが、Norwegian Institute of International Affairs(ノルウェー国際問題研究所)の政策報告書で指摘されている。
(9) 米国がアジアに向かい、作戦の柔軟性を重視していることに関して、フィンランドや他の北欧諸国が、自国の領土で一方的に、しかも彼らにとっては予測不可能な米国の軍事活動を許すとは考えていない。米国の東方への関与に関しても、北欧諸国が同意すれば、米国の行動の自由度を高めることができるとCharly Salonius-Pasternakは見ている。「アジアで戦争が起こり、北欧諸国が米国を支援することを選択した場合、このような防衛協定は確実に貢献することができる。たとえば、ドイツは、イラクからドイツへ、そしてアメリカへ、重傷を負ったアメリカ兵の輸送を支援している。この種の協定は、さまざまな形で貢献を促進することができる。」同時に、新しい防衛協定によって、アメリカの要求を断ることが難しくなるのではないかとの推測もできる。
(10) 全体として、Salonius-Pasternakは、北欧諸国と米国との二国間防衛協定締結にデメリットを見出すことは難しいと考えているが、米軍のプレゼンスが副次的な問題を伴う可能性があることも指摘している。「北欧では、冷戦時代に日本やドイツに建設されたような大規模な米軍基地は見られず、大きな経済的価値もあったが、米軍の飲酒や地元女性との関係に関わる問題もあった。北欧の国々でそのようなことが生起すれば、おそらくメディアでも大きく取り上げられるであろう。しかし、NATOの地位協定だけでなく、2国間の防衛協定があることの利点の1つは、そうした場合に何が起こるかが非常に明確になることである。」
記事参照:The Nordic Region Strengthens Double-Edged Defense Cooperation With the US

2月19日「日本・オーストラリア・インドネシア3ヵ国協調枠組みを形成せよ―オーストラリア日本史専門家論説」(East Asia Forum, February 19, 2023)

 2月19日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は、Australian National University日本史学講師Andrew Levidisの“Cold War Archives: Return to the Jakarta-Tokyo-Canberra Trilateral”と題する論説を掲載し、そこでAndrew Levidisは、冷戦の最中に構想されたものの結局頓挫した日本・オーストラリア・インドネシア3ヵ国の協調枠組みを形成することにより、オーストラリアは積極的にアジアに関与していくべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) アジア地域主義におけるオーストラリアの役割は、そのアイデンティティに関する言説における盲点であった。長い間、それは必要性や利害といった観点からのみ語られてきた。しかし、それはオーストラリアがアジアにおける秩序形成国家として重要な存在であった帝国主義から冷戦に至る長い歴史の一面にしかすぎない。オーストラリアのアジアへの関与をよくよく見れば、冷戦期がアジア地域主義の失敗の時代であったとする通説には疑問が生まれる。
(2) 世界的な冷戦によって断念された地域の連合を回復しようとするのであれば、過去をより良く理解する必要がある。それに関する過去の最も重要な提案は、1972年の日本・オーストラリア・インドネシアの3ヵ国枠組みであろう。それはインドネシア新政府から見ると2つの大きな狙いがあった。1つは、インドネシアとオーストラリアが連携して、日本が中国に接近しすぎないようにすることである。もう1つが、3ヵ国が連携して東南アジアにおける中国の影響力を抑制しようというものである。しかし結局この提案は、日本やオーストラリアに中国との国交回復の妨げになるとして退けられた。
(3) 現在、この3ヵ国の協調枠組みが持つ意味は当時と大きく異なる。しかし、大きな障害もある。日豪は米国との同盟に縛られており、インドネシアはASEANの主要な加盟国であり、非同盟主義を標榜している。また、中国とインドネシアの外交的・経済的つながりは拡大し、それが新たな枠組み形成に向けた勢いを鈍らせている。しかし、過去あるいは現在の誓約が、諸国家が活動する政治的空間を制約するわけでは、必ずしもない。
(4) 3つの国のさまざまな違いにもかかわらず、その連携は明確な前例があり、また魅力的である。人口は合わせて4億人を越え、G20などグローバル・ガバナンスの主要機構における影響力も大きい。また、この3ヵ国の連携は、東アジア、東南アジア、太平洋島嶼の戦略的環境をまたがっている。
(5) 3ヵ国枠組みは、アジアの多国間組織においてオーストラリアが疎外されていることに対する新たな答えを提示する可能性がある。これはASEANとオーストラリアの協力を強化し、東南アジアにおけるインドネシアの指導的立場を再活性化するだろう。さらに、グローバルサウスにおける新たないくつもの中心地のなかで、オーストラリアが独立した行為者として認められることになるだろう。
(6) 3ヵ国が連携することで生まれる経済的な重みにより、経済的相互依存を武器にしたり、グローバリゼーションの流れを断ち切る米国主導の技術制限に対する強力な反対意見を形成したりすることができる。国家間や経済的な競合をゼロサム的に見るのを止めるのは、3ヵ国すべてにとって利益になるはずである。また3ヵ国の枠組みは、多極的な地域秩序の台頭をうまく調整するための新たなフォーラムを提示するであろう。これまでもこの3ヵ国はAPECの主要な提唱者として、冷戦などによって残された分断を乗り越える仕組みづくりに尽力してきた。
(7) しかし、協調的なアジア主義は対立する政治・経済圏へと分断していく地域や、取引を特徴とする現実政治に基づく非同盟主義に取って代わられつつある。オーストラリアにとって、日本とインドネシアとの連携はアジア地域主義に関する過去の夢を回復することを必要とする。と同時に、これが米国との軍事同盟への誓約と矛盾しないことが重要であろう。オーストラリアが米国の優位性を支持することで得られることと、アジア地域主義においてオーストラリアが歴史的役割を回復する必要性を今一度、比較検討する必要がある。
記事参照:Cold War Archives: Return to the Jakarta-Tokyo-Canberra Trilateral

2月20日「中国抑止に向けた日米比安全保障協力強化の重要性―日東アジア専門家論説」(Think China, February 20, 2023)

 2月20日付のシンガポールの中国問題英字オンライン誌Think Chinaは、防衛省防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長の飯田将史の “Closer trilateral US-Japan-Philippines ties to protect security interests against China”と題する論説を掲載し、そこで飯田将史は日本・フィリピン首脳会談が実施されたことに言及しつつ、日本とフィリピンの安全保障協力の強化に加え、日米比の3ヵ国の協力推進が中国抑止のために重要だとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピン大統領Ferdinand Marcos, Jr.が2月9日に訪日し、岸田首相との首脳会談を実施した。議論の焦点は、東アジアの現状を武力で変えようとしている中国にどう対処するかである。中国は2016年の仲裁裁判所の裁定を無視し、フィリピンの安全保障を侵害し続けている。また東シナ海でも尖閣諸島の領有権を主張し、日本の領海に侵入するなど、日本の主権を脅かしている。
(2) 両者は共同声明を発し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の重要性について合意した。また日本が促進した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」や、「ASEANのインド太平洋構想(AOIP)」の根本的原則を重視することでも合意した。両者は東シナ海と南シナ海の状況に対して深刻な懸念を表明し、海洋秩序強化のための具体的な安全保障協力を進めることで合意した。
(3) たとえば、人道支援・災害救援のための自衛隊のフィリピン訪問に関する手続きが簡素化されるだろう。また、両国はフィリピンにおける対空レーダーシステム訓練のための人員の派出やフィリピンへの装備および技術移転を検討することになろう。海洋安全保障協力に関して、両者は日本の哨戒艇の提供、Philippine Coast Guardの教育および訓練の成果などについて確認した。また、中国人民解放軍海軍の活動が活発化しているスールー海やセレベス海に関して、両者は、海洋状況把握の能力開発のための協力が重要であることを確認した。
(4) この度の首脳会談によって、日米比3ヵ国の協力を強化が進展する可能性がある。日本とフィリピンは双方とも米国の同盟国で、中国の軍事力を跳ね返すために米国の軍事的協力を必要としている。実際、日本は2022年末に国家安全保障戦略を改定し、米国との協力の幅を広げる方針を打ち出した。フィリピンもまた、Lloyd Austin国防長官が2月にフィリピンを訪問した時、防衛協力強化協定のもとで米軍が利用可能なフィリピンの基地を5ヵ所から9ヵ所に増やした。首脳会談では米比が実施する演習に海上自衛隊が参加することも検討された。
(5) 台湾海峡の平和と安定のために、日米比の防衛協力はますます重要になっている。中国共産党は台湾への軍事的圧力を深め、2022年8月には台湾周辺で大規模な軍事演習を実施した。中国を抑止するために、日米比の協力強化が必要である。Marcos, Jr.政権は中国との関係安定も模索しているが、中国との対話を効果的に進めるためにも、米国や日本との安全保障協力が重要だと認識している。
記事参照:Closer trilateral US-Japan-Philippines ties to protect security interests against China

【補遺】

【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Understanding America’s Enduring Interest in the Indo-Pacific
https://www.orfonline.org/research/understanding-americas-enduring-interest-in-the-indo-pacific/
Observer Research Foundation, February 14, 2023
By Professor Harsh V. Pant is Vice President – Studies and Foreign Policy at Observer Research Foundation, New Delhi. 
Anant Singh Mann holds a Master of Science in International Political Economy from the London School of Economics and Political Science, and a Master of Arts (Honours) in International Relations and Modern History from the University of St. Andrews, Scotland. 
2023年2月14日、インドのシンクタンクObserver Research FoundationのHarsh V. Pantと国際関係論などの修士号を持つAnant Singh Mannは、同シンクタンクのウエブサイトに" Understanding America’s Enduring Interest in the Indo-Pacific "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、米Biden政権がウクライナに対してM1エイブラムス戦車を提供するという画期的な決定を下したことは、米国の地政学的な態勢に変化をもたらしているとした上で、こうした情勢変化においても米国のインド太平洋戦略の重要性には変化はないとし、米国のこの地域への関与は、単に台頭する中国を封じ込めるためのマキャベリズム的な必要性から導かれた決定論的なものではないと指摘している。そして両名は、むしろ、米国にとってインド太平洋は、様々な重要な利害関係者を擁する、より極めて重要な多極化した地域となっており、米国はそれをしっかりと認識し続けているため、今後も米国のインド太平洋への関与は変わらないだろうと主張している。

(2) What China Has Learned From the Ukraine War
https://www.foreignaffairs.com/china/what-china-has-learned-ukraine-war
Foreign Policy, February 14, 2023
By EVAN A. FEIGENBAUM is Vice President for Studies at the Carnegie Endowment for International Peace.
ADAM SZUBIN is a Distinguished Practitioner in Residence at Johns Hopkins University’s School of Advanced International Studies. 
2023年2月14日、米シンクタンクCarnegie Endowment for International PeaceのEVAN A. FEIGENBAUMと米Johns Hopkins University’s School of Advanced International StudiesのADAM SZUBINは、米政策・外交関連オンライン紙Foreign Policyのウエブサイトに" What China Has Learned From the Ukraine War "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した際、中国の指導者たちは、基本的に相容れない2つの利益の釣り合いを取ろうとしたが、その1つは、中国とロシアとの同盟関係を強化することで、米国の軍事力に対抗し、西側からの戦略的圧力の高まりを緩和することを目指したことであり、もう1つは、モスクワを支持しつつも、中国の政府、企業、金融機関を対象とした一方的かつ協調的な制裁を避けようとしたことであると指摘している。そして両名は、今回のウクライナ侵攻における西側諸国の経済制裁措置から得られる教訓は、近年オーストラリアやリトアニアが中国の経済制裁措置に耐えたように、制裁を実施する側だけでなく実施される側にとっても、単独ではなく他国と協調して対処することが重要であり、中国と対立する可能性が生じた際に、米国の経済的武器として最も価値があるのは、国際的な提携の強さになるだろうと指摘している。

(3) Three misconceptions about Taiwan’s defense
https://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2023/02/20/2003794672
Taipei Times, February 20, 2023
By Miles Yu (余茂春)served as the senior China policy and planning advisor to Secretary of State Mike Pompeo during the Trump Administration.
2月20日、米Trump政権時の国務長官Mike Pompeoの補佐官であった余茂春は、「台湾時報」の英語版Taipei Times電子版に、“Three misconceptions about Taiwan’s defense”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国共産党は、台湾に対して認知戦を仕掛け、台湾の自由なメディア環境を利用し、仕掛けた世論の罠に多くの人々を嵌めることが可能である。②中国政府の認識戦は、台湾の一部の人々の間に3つの大きな誤解を強めており、第1の誤解は、中国共産党が台湾を侵略した場合、米国が軍事介入する戦略的意図、決意、能力について疑念を抱いていること、第2は中国共産党が台湾を武力侵攻しなければ、台湾は独立を宣言するという物語、第3は米国が台湾を利用して中国を抑制し均衡を保つ一方で、侵略された場合には、中国を弱体化させるために台湾人を「大砲の餌(cannon fodder)」として利用するだけというという物語である。③台湾の闘争の核心は単なる主権の問題ではなく、より重要なのは、一方は民主と自由、他方は専制と抑圧という両者の間で、壮大な闘争が続いているということである。④台湾海峡に存在するいかなる緊張も、中国による挑発行為の結果である。⑤もし台湾が中国共産党の野心と認知操作に屈したら、中華民国が享受している独立と自由と主権は消滅するといった主張を行っている。