海洋安全保障情報旬報 2023年1月21日-1月31日
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1月23日「太平洋の戦いで米国が直面するタンカー不足の危機―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, January 23, 2023)
1月23日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、デンマーク海運会社Maersk Line Limited上席副社長Steve Carmelの“TANKERS FOR THE PACIFIC FIGHT: A CRISIS IN CAPABILITY”と題する論説を掲載し、Steve Carmelは太平洋戦域で米中の軍事的衝突が生起した場合、太平洋に展開する米軍に適時適切に石油、特に燃料を輸送するために不可欠のタンカーを確保する方策が欠落していると指摘した上で、紛争に備えてタンカーへのCONSOLの装備、Tanker Security Programの改訂、事前集積計画の復活等当面に対策を提起するとともに、米国には海洋戦略と呼ばれるものがあるが、実際には海軍戦略にすぎず、海洋力のより広い側面に対処できておらず、これを変える必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Department of Defenseは、太平洋で深刻な紛争が発生した場合に、さまざまな大きさのタンカーが100隻単位で必要になると見積もっている。U.S. Department of Defenseが現時点で確実に利用可能なタンカーは10隻未満である。米国は、太平洋での大規模な紛争を支えるために必要なトン数を欠いているだけでなく、それを取得するための道程表すら持っていない。十分な燃料がなければ、最先端の能力と艦艇はほとんど使用できなくなる。これは、緊急かつ効果的な行動を必要とする能力の危機である。中国との紛争がこの10年で起こり得るという憶測が真実であることが証明された場合、解決策を講じる時間はほとんどない。しかし、ありがたいことにこれは時宜にかなった手頃な解決策によって解決できる問題である。しかし、米国は我々をこの現状に導いた従来の考え方や長年の政策を乗り越える必要がある。
(2) 中国との広範な紛争が発生した場合、米国は戦域内で現在依存している石油源の確実な利用ができなくなる可能性があり、米国は作戦の展開速度によって大幅に増加する石油の所要を確実に部隊に届けるために長大な補給路を維持しなければならない。しかし、非常に混乱した石油市場で、同量の石油をめぐって競合する他の多くの石油消費者がいることを覚えておく必要がある。生産からすべての消費者に至る石油の流通システム全体に対する連鎖的な影響について危険回避の策を講じる必要がある。海外石油企業からの石油購入は、特に中国の拡がる影響力の範囲と国際石油市場、発展途上国、および関連するエネルギー基幹施設に対する影響力の高まりを考えると、当然のことと考えるべきではない。
(3) 中国と戦争になった場合、石油を北米の供給源から太平洋の作戦域に供給するためには長大な補給路に、多数のタンカーが必要になる。タンカーの要件を考える際には、特に賢明な敵が米国の戦力投射を可能にするタンカー群を攻撃することを優先すれば、タンカーとその乗組員の戦闘によるある程度の損耗も考慮に入れる必要がある。損耗と護衛の所要は、計画で考慮されなければならない。消耗に直面した作戦上の物流需要と拡大するタンカーの所要の均衡を取ることは、精力的に取り組むべき計画上の課題である。それは、急速に変化する石油の補給点と石油を輸送する船舶が利用できるかによって特徴付けられる紛争の期間をとおして、着実な努力を必要としている。
(4) 米国は、これらの困難な事態に対処するため、いくつかの異なる種類のタンカーが必要である。輸送距離が長い場合には、より大型のタンカーが必要である。これらは主に「中距離」(以下、MRと言う)タンカーと呼ばれる船種で、約330,000バレルの石油製品を輸送可能で、U.S. Department of Defenseにとって理想的な船種である。MRタンカーは給油艦に洋上給油するための混載貨物補給(consolidated cargo replenishment:以下、CONSOLと言う)装置を装備することができ、給油艦が艦隊に対して洋上給油を行うことになる。この機能は現在、Military Sealift Command(軍事海上輸送司令部)が借り上げた何隻かのMRタンカーで利用が可能である。しかし、現在のCONSOLの運用は、短期間の演習においてであり、長期にわたる不測の事態下では実施されていない。必要なその他の種類のタンカーとしては、戦域間の石油送油に充当する戦域内の輸送に当たる40,000バレル程度の石油を輸送する小型で喫水の浅いタンカーである。この種の小型タンカーは、太平洋全域に分散した展開する部隊に燃料を供給するために運用される。
(5) 現在のタンカー能力の危機は、作戦の推移速度の高さとも相まって、米軍が燃料の枯渇に直面する可能性がある。十分なタンカーの保有数は戦時中の成功に不可欠であり、計画の中心的な考慮事項である必要がある。現在のU.S. Department of Defenseの計画は、燃料の補給、利用が保証されているという前提の下に具体化されたものである。軍事兵站計画立案者は、タンカーが外国籍船から入手できるとの考えに傾いている。この考え方は、国際タンカー市場と旗国と会社が同じではないという実際の所有権の問題を含め、中国が持つ現在の大きな影響力に対する理解が欠如している。ヨーロッパのタンカーのかなりの部分を、中国の金融会社が所有している。想定されている利用は、タンカー市場の激しい動きを示す側面や現在の事象がタンカーをどの程度利用できるかに与える劇的な影響にも対応できていない。中国との紛争は市場にさらに劇的な結果をもたらす可能性がある。石油市場、タンカー市場、貿易の流れには、タンカーが入手できるか否か関する仮定の基礎となる重大ではあるが、予測不可能な影響がある。想定されるタンカーの利用は、タンカーを保有する船会社とその株主が商業的利益よりも、関係がない可能性のある米軍を評価すると仮定することも意味する。最終的に船を所有しているのは国ではなく、タンカー会社であり、商業的利益を取るか米軍を取るかを選択しなければならないのは営利企業である。紛争が終わったときに、主にアジアに向けられた商業関係を維持したいと考えている国際企業の目には、米国を選ぶことは現在のところ安全な賭けとはほど遠いものである。
(6) 確証のある評価とは、米海軍または米国企業が船を完全に所有および管理していることを意味する。利用できるか否かの評価は、外部の行為者とその資産に関する仮定や期待を前提としてはいない。確証のある評価にも、タンカーの利用に対する課題が依然として伴っている。タンカー問題は、組織的な破壊を伴う紛争の中で、労働規定と経済を維持するための要求を考慮して制度として解決しておかなければならない。タンカーは乾貨物船とは異なる資格を必要とし、コンテナ船の乗り組み士官は、タンカーでの乗船経歴から得られる資格を有する場合にのみタンカーを運航に従事できる。さらに、米国経済を牽引する国内の石油市場は機能し続ける必要がある。また、エネルギーの流れの歪みの影響を受ける同盟国への石油輸送に必要なタンカーの大きな需要もある。
(7) この問題に対処する現在の立法努力は、提案されたタンカー・セキュリティ・プログラム(Tanker Security Program:以下、TSPと言う)である。これは、国際貿易のために米国籍船を利用する企業に補助金を交付するもので、この計画では、承認され、補助金として充当される資金の額によって対象タンカーの隻数は10隻に制限されている。ただし、この計画では、登録されたタンカーが通常の市場で取引され、商業的に運行可能な状態を維持するためには補助金は少なすぎるという欠陥がある。代わりに、この計画ではタンカーは補助金を受け取りながら、優先される貨物を輸送するために米政府の短期傭船を行う、いわゆるダブル・ディッピングが認められている。政府の短期傭船で既に米国旗を掲げているタンカーがあるため、TSP船は単にこれらタンカーを既存のタンカーと置き換えるだけで、棚ぼた的にタンカーを集めることができるが、隻数を増加することにはならない。この計画も運用可能なタンカーの規模を拡張するものではなく、他のすべての要素が意図したとおりに機能したとしても、戦時中の不測の事態に必要なタンカーの隻数を生み出すものではない。この計画はまた、タンカーが必要な能力を持ち、通常の運用状態から紛争時に米軍が意図した運用法への転換を確保するなど、他の問題にもまだ対応できていない。大規模にタンカーの船隊を成長させることができる包括的な解決策は、いくつかの異なる取り組みの組み合わせで構成されなければならない。第1に、TSPを改正して、米軍用あるいは米軍優先貨物に依存しない国際市場での米国籍タンカーの商業取引を可能にするのに十分な補助金を提供する必要がある。
(8) 第2に、米国から輸出される精製石油製品に貨物優先権を要求する法律を制定すべきである。米国籍船が該当貨物のかなりの部分を輸送することが条件である貨物優先権が実施された場合、商業目的での運用が可能なタンカーも軍事上の所要からかなりの隻数を「保証された利用」として利用可能になる。この計画の大きな利点は、そのかなりの隻数のタンカーを戦時中の使用に利用できるようにするための経費が、実際に軍が運用するようになるまで米国の納税者が負担しないことで、その経費は石油会社と石油の外国人バイヤーによって負担されることになる。
(9) U.S. Department of Defenseが消費する燃料の米国国内調達も実施されるべきである。「バイアメリカン(Buy American)」の要件は燃料には適用されず、Defense Logistics Agency Energy(国防兵站局エネルギー:以下DLA-Eと言う)は現在、最も購入価格の安い場所、通常は使用される場所に最も近い供給源で燃料を購入している。もちろん、これは「バイアメリカン」が適用されるU.S. Department of Defenseが使用または調達する他の多くの調達品とは大きく異なる。しかし、太平洋で運用されるタンカーがこれらの燃料を購入できる「使用ポイント」は、中国企業が所有または管理していないと仮定すると、中国との紛争が発生した場合に危険にさらされる可能性がある。前述のように、米国は現在、大量の石油精製製品を輸出している。これらの輸出の一部は、国内の石油市場に大きな歪みを生じることなく、顧客としてU.S. Department of Defenseに容易に転用が可能である。紛争時には、ある程度の国内調達を行う必要がある。その結果、大きな破壊、混乱を伴う危機時に実施される緊急の計画とは対照的に、市場に歪みを生じさせない段階的な取り組みで、いずれにせよ必要とされる石油サプライチェーンを整備することができる。現在、U.S. Department of Defenseの石油を国内で調達すると、トンマイルの需要が増加し、タンカーがそれを運ぶ必要性がすぐに高まることになる。
(10) 最後に、Military Sealift Command(軍事海上輸送司令部:以下MSCと言う)が実施するCONSOLに適合したタンカーによる精製石油製品の事前集積計画を復活させる必要がある。かつて、MSCは紛争で必要となる種類の燃料を搭載した傭船を多数確保していた。これらのタンカーは、軍事任務に必要なすべての装備を搭載し、定員どおりの訓練された乗組員が乗船しており、即応態勢にあった。この計画が復活した場合、迅速に実行でき、必要な種類の機能を即事に提供できる。
(11) この可能性のある解決策を見直すに当たっていくつかの考慮すべき点がある。第1に、TSPの調整など、時間がかかる議会の行動を必要とするものもあれば、U.S. Department of Defenseが迅速に実行できるものもある。事前集積計画、またはDLA-Eの調達は、議会の議決を必要とせず、より短い時間枠で達成することができる。輸出に対する貨物の優先権は、短期的には大統領令によって行われる可能性があるが、長期的には議会の議決が必要になることは間違いない。しかし、どのような解決策であれ、その中心に据えられるべき事項は、政府の補助金ではなく石油精製品、特に燃料でなければならない。上述の解決策は労働市場とタンカー市場に調整する時間を与えるため、段階的に取り組んでいく必要がある。すぐに実行できる解決策とより多くの時間を必要とする解決策が混在していることは、必ずしも悪いことではない。重要な点は、これは体系的な問題に対する段階的な解決策として実施する必要があるということである。しっかりと連携し合っていない縦割りの計画は機能しない。中国との深刻な国家安全保障上の懸念のために解決策の実行に利用できる時間が非常に短いことを考えると、今から行動を始めなければならない。空母からミサイルまで、すべての能力には対価が必要であり、これらの能力を可能にする燃料も同様である。燃料、および必要なときに必要な場所で燃料を輸送する能力は、他の重要な戦闘能力と同様の優先順位に置かれなければならない。これら対策は、潜在的な中国との紛争で近々の脅威に限られた時間内で対応するための暫定的なものであると考えるべきである。このような計画を検討する必要があるという事実そのものが、米国の海洋戦略における何十年にもわたる怠慢を示している。長期的な解決策は、海軍力だけでなく、海洋力のすべての要素に対処し、海洋という領域をその要素が相互に密接に関連しあう総合的なものとして扱う、首尾一貫した国家海洋戦略から導き出されなければならない。米国は海洋戦略と呼ばれるものを持っているが、実際には海軍戦略にすぎず、海洋力のより広い側面に対処できていない。これを変える必要があり、そうでなければ、米国は中国が慎重に育成してきた海洋力の重要な要素を無視するという深刻な危険を冒す可能性がある。
記事参照:TANKERS FOR THE PACIFIC FIGHT: A CRISIS IN CAPABILITY
(1) U.S. Department of Defenseは、太平洋で深刻な紛争が発生した場合に、さまざまな大きさのタンカーが100隻単位で必要になると見積もっている。U.S. Department of Defenseが現時点で確実に利用可能なタンカーは10隻未満である。米国は、太平洋での大規模な紛争を支えるために必要なトン数を欠いているだけでなく、それを取得するための道程表すら持っていない。十分な燃料がなければ、最先端の能力と艦艇はほとんど使用できなくなる。これは、緊急かつ効果的な行動を必要とする能力の危機である。中国との紛争がこの10年で起こり得るという憶測が真実であることが証明された場合、解決策を講じる時間はほとんどない。しかし、ありがたいことにこれは時宜にかなった手頃な解決策によって解決できる問題である。しかし、米国は我々をこの現状に導いた従来の考え方や長年の政策を乗り越える必要がある。
(2) 中国との広範な紛争が発生した場合、米国は戦域内で現在依存している石油源の確実な利用ができなくなる可能性があり、米国は作戦の展開速度によって大幅に増加する石油の所要を確実に部隊に届けるために長大な補給路を維持しなければならない。しかし、非常に混乱した石油市場で、同量の石油をめぐって競合する他の多くの石油消費者がいることを覚えておく必要がある。生産からすべての消費者に至る石油の流通システム全体に対する連鎖的な影響について危険回避の策を講じる必要がある。海外石油企業からの石油購入は、特に中国の拡がる影響力の範囲と国際石油市場、発展途上国、および関連するエネルギー基幹施設に対する影響力の高まりを考えると、当然のことと考えるべきではない。
(3) 中国と戦争になった場合、石油を北米の供給源から太平洋の作戦域に供給するためには長大な補給路に、多数のタンカーが必要になる。タンカーの要件を考える際には、特に賢明な敵が米国の戦力投射を可能にするタンカー群を攻撃することを優先すれば、タンカーとその乗組員の戦闘によるある程度の損耗も考慮に入れる必要がある。損耗と護衛の所要は、計画で考慮されなければならない。消耗に直面した作戦上の物流需要と拡大するタンカーの所要の均衡を取ることは、精力的に取り組むべき計画上の課題である。それは、急速に変化する石油の補給点と石油を輸送する船舶が利用できるかによって特徴付けられる紛争の期間をとおして、着実な努力を必要としている。
(4) 米国は、これらの困難な事態に対処するため、いくつかの異なる種類のタンカーが必要である。輸送距離が長い場合には、より大型のタンカーが必要である。これらは主に「中距離」(以下、MRと言う)タンカーと呼ばれる船種で、約330,000バレルの石油製品を輸送可能で、U.S. Department of Defenseにとって理想的な船種である。MRタンカーは給油艦に洋上給油するための混載貨物補給(consolidated cargo replenishment:以下、CONSOLと言う)装置を装備することができ、給油艦が艦隊に対して洋上給油を行うことになる。この機能は現在、Military Sealift Command(軍事海上輸送司令部)が借り上げた何隻かのMRタンカーで利用が可能である。しかし、現在のCONSOLの運用は、短期間の演習においてであり、長期にわたる不測の事態下では実施されていない。必要なその他の種類のタンカーとしては、戦域間の石油送油に充当する戦域内の輸送に当たる40,000バレル程度の石油を輸送する小型で喫水の浅いタンカーである。この種の小型タンカーは、太平洋全域に分散した展開する部隊に燃料を供給するために運用される。
(5) 現在のタンカー能力の危機は、作戦の推移速度の高さとも相まって、米軍が燃料の枯渇に直面する可能性がある。十分なタンカーの保有数は戦時中の成功に不可欠であり、計画の中心的な考慮事項である必要がある。現在のU.S. Department of Defenseの計画は、燃料の補給、利用が保証されているという前提の下に具体化されたものである。軍事兵站計画立案者は、タンカーが外国籍船から入手できるとの考えに傾いている。この考え方は、国際タンカー市場と旗国と会社が同じではないという実際の所有権の問題を含め、中国が持つ現在の大きな影響力に対する理解が欠如している。ヨーロッパのタンカーのかなりの部分を、中国の金融会社が所有している。想定されている利用は、タンカー市場の激しい動きを示す側面や現在の事象がタンカーをどの程度利用できるかに与える劇的な影響にも対応できていない。中国との紛争は市場にさらに劇的な結果をもたらす可能性がある。石油市場、タンカー市場、貿易の流れには、タンカーが入手できるか否か関する仮定の基礎となる重大ではあるが、予測不可能な影響がある。想定されるタンカーの利用は、タンカーを保有する船会社とその株主が商業的利益よりも、関係がない可能性のある米軍を評価すると仮定することも意味する。最終的に船を所有しているのは国ではなく、タンカー会社であり、商業的利益を取るか米軍を取るかを選択しなければならないのは営利企業である。紛争が終わったときに、主にアジアに向けられた商業関係を維持したいと考えている国際企業の目には、米国を選ぶことは現在のところ安全な賭けとはほど遠いものである。
(6) 確証のある評価とは、米海軍または米国企業が船を完全に所有および管理していることを意味する。利用できるか否かの評価は、外部の行為者とその資産に関する仮定や期待を前提としてはいない。確証のある評価にも、タンカーの利用に対する課題が依然として伴っている。タンカー問題は、組織的な破壊を伴う紛争の中で、労働規定と経済を維持するための要求を考慮して制度として解決しておかなければならない。タンカーは乾貨物船とは異なる資格を必要とし、コンテナ船の乗り組み士官は、タンカーでの乗船経歴から得られる資格を有する場合にのみタンカーを運航に従事できる。さらに、米国経済を牽引する国内の石油市場は機能し続ける必要がある。また、エネルギーの流れの歪みの影響を受ける同盟国への石油輸送に必要なタンカーの大きな需要もある。
(7) この問題に対処する現在の立法努力は、提案されたタンカー・セキュリティ・プログラム(Tanker Security Program:以下、TSPと言う)である。これは、国際貿易のために米国籍船を利用する企業に補助金を交付するもので、この計画では、承認され、補助金として充当される資金の額によって対象タンカーの隻数は10隻に制限されている。ただし、この計画では、登録されたタンカーが通常の市場で取引され、商業的に運行可能な状態を維持するためには補助金は少なすぎるという欠陥がある。代わりに、この計画ではタンカーは補助金を受け取りながら、優先される貨物を輸送するために米政府の短期傭船を行う、いわゆるダブル・ディッピングが認められている。政府の短期傭船で既に米国旗を掲げているタンカーがあるため、TSP船は単にこれらタンカーを既存のタンカーと置き換えるだけで、棚ぼた的にタンカーを集めることができるが、隻数を増加することにはならない。この計画も運用可能なタンカーの規模を拡張するものではなく、他のすべての要素が意図したとおりに機能したとしても、戦時中の不測の事態に必要なタンカーの隻数を生み出すものではない。この計画はまた、タンカーが必要な能力を持ち、通常の運用状態から紛争時に米軍が意図した運用法への転換を確保するなど、他の問題にもまだ対応できていない。大規模にタンカーの船隊を成長させることができる包括的な解決策は、いくつかの異なる取り組みの組み合わせで構成されなければならない。第1に、TSPを改正して、米軍用あるいは米軍優先貨物に依存しない国際市場での米国籍タンカーの商業取引を可能にするのに十分な補助金を提供する必要がある。
(8) 第2に、米国から輸出される精製石油製品に貨物優先権を要求する法律を制定すべきである。米国籍船が該当貨物のかなりの部分を輸送することが条件である貨物優先権が実施された場合、商業目的での運用が可能なタンカーも軍事上の所要からかなりの隻数を「保証された利用」として利用可能になる。この計画の大きな利点は、そのかなりの隻数のタンカーを戦時中の使用に利用できるようにするための経費が、実際に軍が運用するようになるまで米国の納税者が負担しないことで、その経費は石油会社と石油の外国人バイヤーによって負担されることになる。
(9) U.S. Department of Defenseが消費する燃料の米国国内調達も実施されるべきである。「バイアメリカン(Buy American)」の要件は燃料には適用されず、Defense Logistics Agency Energy(国防兵站局エネルギー:以下DLA-Eと言う)は現在、最も購入価格の安い場所、通常は使用される場所に最も近い供給源で燃料を購入している。もちろん、これは「バイアメリカン」が適用されるU.S. Department of Defenseが使用または調達する他の多くの調達品とは大きく異なる。しかし、太平洋で運用されるタンカーがこれらの燃料を購入できる「使用ポイント」は、中国企業が所有または管理していないと仮定すると、中国との紛争が発生した場合に危険にさらされる可能性がある。前述のように、米国は現在、大量の石油精製製品を輸出している。これらの輸出の一部は、国内の石油市場に大きな歪みを生じることなく、顧客としてU.S. Department of Defenseに容易に転用が可能である。紛争時には、ある程度の国内調達を行う必要がある。その結果、大きな破壊、混乱を伴う危機時に実施される緊急の計画とは対照的に、市場に歪みを生じさせない段階的な取り組みで、いずれにせよ必要とされる石油サプライチェーンを整備することができる。現在、U.S. Department of Defenseの石油を国内で調達すると、トンマイルの需要が増加し、タンカーがそれを運ぶ必要性がすぐに高まることになる。
(10) 最後に、Military Sealift Command(軍事海上輸送司令部:以下MSCと言う)が実施するCONSOLに適合したタンカーによる精製石油製品の事前集積計画を復活させる必要がある。かつて、MSCは紛争で必要となる種類の燃料を搭載した傭船を多数確保していた。これらのタンカーは、軍事任務に必要なすべての装備を搭載し、定員どおりの訓練された乗組員が乗船しており、即応態勢にあった。この計画が復活した場合、迅速に実行でき、必要な種類の機能を即事に提供できる。
(11) この可能性のある解決策を見直すに当たっていくつかの考慮すべき点がある。第1に、TSPの調整など、時間がかかる議会の行動を必要とするものもあれば、U.S. Department of Defenseが迅速に実行できるものもある。事前集積計画、またはDLA-Eの調達は、議会の議決を必要とせず、より短い時間枠で達成することができる。輸出に対する貨物の優先権は、短期的には大統領令によって行われる可能性があるが、長期的には議会の議決が必要になることは間違いない。しかし、どのような解決策であれ、その中心に据えられるべき事項は、政府の補助金ではなく石油精製品、特に燃料でなければならない。上述の解決策は労働市場とタンカー市場に調整する時間を与えるため、段階的に取り組んでいく必要がある。すぐに実行できる解決策とより多くの時間を必要とする解決策が混在していることは、必ずしも悪いことではない。重要な点は、これは体系的な問題に対する段階的な解決策として実施する必要があるということである。しっかりと連携し合っていない縦割りの計画は機能しない。中国との深刻な国家安全保障上の懸念のために解決策の実行に利用できる時間が非常に短いことを考えると、今から行動を始めなければならない。空母からミサイルまで、すべての能力には対価が必要であり、これらの能力を可能にする燃料も同様である。燃料、および必要なときに必要な場所で燃料を輸送する能力は、他の重要な戦闘能力と同様の優先順位に置かれなければならない。これら対策は、潜在的な中国との紛争で近々の脅威に限られた時間内で対応するための暫定的なものであると考えるべきである。このような計画を検討する必要があるという事実そのものが、米国の海洋戦略における何十年にもわたる怠慢を示している。長期的な解決策は、海軍力だけでなく、海洋力のすべての要素に対処し、海洋という領域をその要素が相互に密接に関連しあう総合的なものとして扱う、首尾一貫した国家海洋戦略から導き出されなければならない。米国は海洋戦略と呼ばれるものを持っているが、実際には海軍戦略にすぎず、海洋力のより広い側面に対処できていない。これを変える必要があり、そうでなければ、米国は中国が慎重に育成してきた海洋力の重要な要素を無視するという深刻な危険を冒す可能性がある。
記事参照:TANKERS FOR THE PACIFIC FIGHT: A CRISIS IN CAPABILITY
1月23日「台湾をめぐる米中戦争はどれくらい悪化する可能性があるか?―米海軍専門家論説」(19FortyFive, January 23, 2023)
1月23日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College海洋戦略教授James Holmes博士による “A U.S.-China War Over Taiwan: How Bad Could It Get?”と題する論説を掲載し、ここでJames HolmesはCenter for Strategic and International Studies(以下、CSISと言う)のチームが実施した「次の戦争の最初の戦い」という中台戦争の机上演習についての報告が発表されたことを受け、要旨以下のように述べている。
(1) CSISのチームは「次の戦争の最初の戦い(The First Battle of the Next War):中国の台湾侵攻の机上演習を行う」という表題の分厚い報告書を発表した。中国、台湾、アジア、米国は注目すべきである。ここには深い洞察が多く含まれている。制服組、政治指導者、そして議会の間でこの報告書が熱心に読まれることを希望する。
(2) この報告書には、2026年に台湾海峡を舞台にした秘密区分のない机上演習の内容と結果が詳述されており、2027年までに台湾に対する中国の攻撃を想定している話題の「デビッドソン・ウィンドウ」の終わりまでの時期を想定している。演習統裁官は政治的、戦略的決定、同盟との政治的問題、戦略と作戦、戦闘員が利用できる武器とセンサーといった様々な変数を変更して、演習を24回実施し、分野を横断して共通する課題を特定し、考えられるさまざまな状況に適用できる発見(findings)と推奨事項(recommendations)をまとめている。全体として、CSISのゲームは、苦い敗北を予言する傾向がある軍自身が実施した机上演習よりも明るい展望を持つものとなっている。「次の戦争の最初の戦い」は、中国軍がほとんどの状況想定の下で、敗北するか、もしくは膠着状態に陥ると報告している。
(3) 定量的ではない尺度を持ち込むことは賢明である。戦略家Carl von Clausewitzは、戦争のような厄介で複雑な事件を規則や公式に当てはめようとすることに対して警告している。ペンタゴンの机上演習がよく行うように、特定の武器やセンサーを使用して交戦中に、(交戦の結果を判定するに際して)目標撃破の蓋然性にあまりにも依存することは、Carl von Clausewitzの助言を無視しているように思われる。
(4) おそらく、報告書から浮かび上がる3つの最大の課題は次のとおりである。第1は、台湾は生き残るために外部からの介入に依存するのではなく、自国で防衛する権利を堅持しなければならないことである。第2は、米軍が中国の侵攻後に作戦を行うためには、日本政府から在日米軍基地から行動する許可を得なければならないことである。第3は、米軍が台湾海峡を航行している中国海軍の水陸両用戦部隊を撃退するために、空中発射の対艦ミサイルを可能な限り大量に準備する必要があることである。そうしなければ、台湾は崩壊し、台湾とその関係国は戦闘の起こっている時間と場所に十分な火力を集中させて勝つことはできないであろう。
(5) 共著者は、報告書の中程で、机上演習の結果とその机上演習によって判明した事項と推奨事項に注目している。戦略の作成者、実行者、資金提供者は、そこに注意を集中する必要がある。たとえば、共著者は米政府に、現実に大国間の戦争が起こっていることを軍隊と米国社会にはっきりと意識させるように促すことが重要であり、それを戦争前に行うことが重要であるとしている。中台戦争は、血まみれで、費用がかかり、損失は深刻であるものである。U.S. Navyは、各回の机上演習で繰り返し空母2隻、10〜20隻の主要水上戦闘艦艇を喪失している。米軍の航空機の損失は、搭乗員、艦艇乗組員、兵士の死傷者と同様に、巨大であった。おそらく、実際の戦争は、机上演習が示すようなものになるであろう。
(6) 言い換えれば、米国、同盟国、台湾が台湾海峡で迅速かつ決定的な勝利を収めることができるという考えを、米国の軍人と米市民が捨て去ることに意味がある。歴史が戻ってきた。米国の政治家と軍の上層部は、軍隊、米国政府、大衆に戦争の基本的な事実を理解させる必要がある。
(7) 報告書からいくつかの重要な点に焦点を当ててみる。驚くべきことに、1つの兵器システム、すなわちAGM-158B射程延伸型統合空対地スタンドオフミサイル(以下、JASSM-ERと言う)が報告書の中で何度も登場する。主に空対地用に設計されたJASSM-ERは、公式には約575海里の射程を誇る精密攻撃兵器であり、中国海軍の艦艇の防御兵器の射程外から発射することができる。この強力なミサイルは、U.S. Air Forceも豊富な在庫を持っている。U.S. Air Forceはこのミサイルを2026年までに推定3,650基を持つ予定である。対照的に、艦艇攻撃用に改良されたJASSM-ERの派生である新しいAGM-158C長射程対艦ミサイル(以下、LRASMと言う)は、U.S. Air ForceもU.S. Navyも在庫が不足している。
(8) 数字は正直である。米空軍は2026年に約450発のLRASMを配備する予定である。それは競争相手の中国と戦うための弾薬である。報告書の共著者らは、U.S. Navyの指導部が2022会計年度の予算要求でJASSM-ERへの資金提供を要求し、攻撃的な対水上戦任務に対する海軍の能力を強化するための要求を部分的に正当化したと述べている。ミサイルの在庫が大きくなればなるほど、戦闘部隊はより多くの交戦を行うことができ、より長く作戦を継続することができる。そして、交戦が多ければ多いほど、台湾に向かう中国艦隊などの敵対勢力を撃破できる可能性が高くなる。
(9) CSISの机上演習は秘区分なしとされていため、共著者はJASSM-ERが海上作戦にどの程度適しているか、そして適している場合、2026年までに何発のJASSM-ERを改良して利用すべきかについてはわからないとしている。JASSM-ER-からLRASMへの変換を取り巻く曖昧さの一部は意図的なものである。軍上層部は、武器やセンサーの詳細について口を閉ざす傾向がある。彼らは、潜在的な敵を混乱させ、抑止するためには十分に情報を開示するが、戦争が起こった場合に敵が米国の兵器を正確に理解することを妨げるため兵器、センサーの技術的特性については曖昧にする。霧の中を覗き込むために、共著者は、JASSM-ERは2026年までに少なくとも適度な対艦能力を持ち、一部は海上作戦用に改造されると仮定している。しかし、机上演習では、この新しい武器が十分に備蓄されていない状況下でいくつかの演習を実行し、冷静な結果をもたらした。これらの状況想定では同盟国はすぐにスタンドオフのLRASMの供給された分を使い果たし、より短距離の武器に頼らなければならなかった。つまり、発射母体は中国海軍艦艇の対空ミサイルの射程内に近接しなければならなかった。中国海軍が防衛力を発揮するにつれて、同盟国の戦闘機に大きな損失が生じた。
(10) 最後に、奇妙に見えるタイトルである「最初の戦い」について一言述べておく必要があるであろう。共著者らは、この机上演習は中台戦争の断続的で変わりやすい最初の段階を研究しただけかもしれないと主張している。学識のある評論家でさえ、戦争がどのように終わるかについてのCarl von Clausewitzの考察を単純化しすぎて、「結果は決して最終的なものではない」と主張する。そうではない。Carl von Clausewitzが言っているのは、「戦争の最終的な結果でさえ必ずしも最終的なものと見なされるとは限らない」ということである。それは、「敗北した国家は、結果を単なる一時的な不運な出来事と見なし、後日、政治的状況に解決策を見いだす可能性がある」ためである。敗北した人々は武力による敗北という結果を覆そうとすることがある。しかし、彼らが挑戦するかは不確実である。したがって、台湾海峡での永続的な勝利は可能であり、中国が海峡を越えて水陸両用戦を仕掛けてきた場合に備えて、台湾と同盟国は努力する価値がある。しかし、戦略的及び地理的な事実は存続する。戦争は、中国を含むすべての戦闘員は引き離すかもしれない。しかし、台湾も中国もどこにも行かない。中国はより適切な時期に再戦を試みる可能性があり、それは台湾にとって重圧となるであろう。中国は台湾攻略という目標のために大きな代償を払うことをいとわない。米国と台湾の他の同盟国が定期的な再戦に関与するかどうかはあまり確実ではない。CSISのゲームが示唆しているように、中国はこの最初の戦いに負ける可能性がある。しかし、それで話は終わりではないかもしれない。引き続き事態に応じて計画していくこと、事態の全体像を考えていくことが重要である。
記事参照:A U.S.-China War Over Taiwan: How Bad Could It Get?
(1) CSISのチームは「次の戦争の最初の戦い(The First Battle of the Next War):中国の台湾侵攻の机上演習を行う」という表題の分厚い報告書を発表した。中国、台湾、アジア、米国は注目すべきである。ここには深い洞察が多く含まれている。制服組、政治指導者、そして議会の間でこの報告書が熱心に読まれることを希望する。
(2) この報告書には、2026年に台湾海峡を舞台にした秘密区分のない机上演習の内容と結果が詳述されており、2027年までに台湾に対する中国の攻撃を想定している話題の「デビッドソン・ウィンドウ」の終わりまでの時期を想定している。演習統裁官は政治的、戦略的決定、同盟との政治的問題、戦略と作戦、戦闘員が利用できる武器とセンサーといった様々な変数を変更して、演習を24回実施し、分野を横断して共通する課題を特定し、考えられるさまざまな状況に適用できる発見(findings)と推奨事項(recommendations)をまとめている。全体として、CSISのゲームは、苦い敗北を予言する傾向がある軍自身が実施した机上演習よりも明るい展望を持つものとなっている。「次の戦争の最初の戦い」は、中国軍がほとんどの状況想定の下で、敗北するか、もしくは膠着状態に陥ると報告している。
(3) 定量的ではない尺度を持ち込むことは賢明である。戦略家Carl von Clausewitzは、戦争のような厄介で複雑な事件を規則や公式に当てはめようとすることに対して警告している。ペンタゴンの机上演習がよく行うように、特定の武器やセンサーを使用して交戦中に、(交戦の結果を判定するに際して)目標撃破の蓋然性にあまりにも依存することは、Carl von Clausewitzの助言を無視しているように思われる。
(4) おそらく、報告書から浮かび上がる3つの最大の課題は次のとおりである。第1は、台湾は生き残るために外部からの介入に依存するのではなく、自国で防衛する権利を堅持しなければならないことである。第2は、米軍が中国の侵攻後に作戦を行うためには、日本政府から在日米軍基地から行動する許可を得なければならないことである。第3は、米軍が台湾海峡を航行している中国海軍の水陸両用戦部隊を撃退するために、空中発射の対艦ミサイルを可能な限り大量に準備する必要があることである。そうしなければ、台湾は崩壊し、台湾とその関係国は戦闘の起こっている時間と場所に十分な火力を集中させて勝つことはできないであろう。
(5) 共著者は、報告書の中程で、机上演習の結果とその机上演習によって判明した事項と推奨事項に注目している。戦略の作成者、実行者、資金提供者は、そこに注意を集中する必要がある。たとえば、共著者は米政府に、現実に大国間の戦争が起こっていることを軍隊と米国社会にはっきりと意識させるように促すことが重要であり、それを戦争前に行うことが重要であるとしている。中台戦争は、血まみれで、費用がかかり、損失は深刻であるものである。U.S. Navyは、各回の机上演習で繰り返し空母2隻、10〜20隻の主要水上戦闘艦艇を喪失している。米軍の航空機の損失は、搭乗員、艦艇乗組員、兵士の死傷者と同様に、巨大であった。おそらく、実際の戦争は、机上演習が示すようなものになるであろう。
(6) 言い換えれば、米国、同盟国、台湾が台湾海峡で迅速かつ決定的な勝利を収めることができるという考えを、米国の軍人と米市民が捨て去ることに意味がある。歴史が戻ってきた。米国の政治家と軍の上層部は、軍隊、米国政府、大衆に戦争の基本的な事実を理解させる必要がある。
(7) 報告書からいくつかの重要な点に焦点を当ててみる。驚くべきことに、1つの兵器システム、すなわちAGM-158B射程延伸型統合空対地スタンドオフミサイル(以下、JASSM-ERと言う)が報告書の中で何度も登場する。主に空対地用に設計されたJASSM-ERは、公式には約575海里の射程を誇る精密攻撃兵器であり、中国海軍の艦艇の防御兵器の射程外から発射することができる。この強力なミサイルは、U.S. Air Forceも豊富な在庫を持っている。U.S. Air Forceはこのミサイルを2026年までに推定3,650基を持つ予定である。対照的に、艦艇攻撃用に改良されたJASSM-ERの派生である新しいAGM-158C長射程対艦ミサイル(以下、LRASMと言う)は、U.S. Air ForceもU.S. Navyも在庫が不足している。
(8) 数字は正直である。米空軍は2026年に約450発のLRASMを配備する予定である。それは競争相手の中国と戦うための弾薬である。報告書の共著者らは、U.S. Navyの指導部が2022会計年度の予算要求でJASSM-ERへの資金提供を要求し、攻撃的な対水上戦任務に対する海軍の能力を強化するための要求を部分的に正当化したと述べている。ミサイルの在庫が大きくなればなるほど、戦闘部隊はより多くの交戦を行うことができ、より長く作戦を継続することができる。そして、交戦が多ければ多いほど、台湾に向かう中国艦隊などの敵対勢力を撃破できる可能性が高くなる。
(9) CSISの机上演習は秘区分なしとされていため、共著者はJASSM-ERが海上作戦にどの程度適しているか、そして適している場合、2026年までに何発のJASSM-ERを改良して利用すべきかについてはわからないとしている。JASSM-ER-からLRASMへの変換を取り巻く曖昧さの一部は意図的なものである。軍上層部は、武器やセンサーの詳細について口を閉ざす傾向がある。彼らは、潜在的な敵を混乱させ、抑止するためには十分に情報を開示するが、戦争が起こった場合に敵が米国の兵器を正確に理解することを妨げるため兵器、センサーの技術的特性については曖昧にする。霧の中を覗き込むために、共著者は、JASSM-ERは2026年までに少なくとも適度な対艦能力を持ち、一部は海上作戦用に改造されると仮定している。しかし、机上演習では、この新しい武器が十分に備蓄されていない状況下でいくつかの演習を実行し、冷静な結果をもたらした。これらの状況想定では同盟国はすぐにスタンドオフのLRASMの供給された分を使い果たし、より短距離の武器に頼らなければならなかった。つまり、発射母体は中国海軍艦艇の対空ミサイルの射程内に近接しなければならなかった。中国海軍が防衛力を発揮するにつれて、同盟国の戦闘機に大きな損失が生じた。
(10) 最後に、奇妙に見えるタイトルである「最初の戦い」について一言述べておく必要があるであろう。共著者らは、この机上演習は中台戦争の断続的で変わりやすい最初の段階を研究しただけかもしれないと主張している。学識のある評論家でさえ、戦争がどのように終わるかについてのCarl von Clausewitzの考察を単純化しすぎて、「結果は決して最終的なものではない」と主張する。そうではない。Carl von Clausewitzが言っているのは、「戦争の最終的な結果でさえ必ずしも最終的なものと見なされるとは限らない」ということである。それは、「敗北した国家は、結果を単なる一時的な不運な出来事と見なし、後日、政治的状況に解決策を見いだす可能性がある」ためである。敗北した人々は武力による敗北という結果を覆そうとすることがある。しかし、彼らが挑戦するかは不確実である。したがって、台湾海峡での永続的な勝利は可能であり、中国が海峡を越えて水陸両用戦を仕掛けてきた場合に備えて、台湾と同盟国は努力する価値がある。しかし、戦略的及び地理的な事実は存続する。戦争は、中国を含むすべての戦闘員は引き離すかもしれない。しかし、台湾も中国もどこにも行かない。中国はより適切な時期に再戦を試みる可能性があり、それは台湾にとって重圧となるであろう。中国は台湾攻略という目標のために大きな代償を払うことをいとわない。米国と台湾の他の同盟国が定期的な再戦に関与するかどうかはあまり確実ではない。CSISのゲームが示唆しているように、中国はこの最初の戦いに負ける可能性がある。しかし、それで話は終わりではないかもしれない。引き続き事態に応じて計画していくこと、事態の全体像を考えていくことが重要である。
記事参照:A U.S.-China War Over Taiwan: How Bad Could It Get?
1月23日「南シナ海で土台を固めつつある東南アジア諸国―米東南アジア専門家論説」(East Asia Forum, January 23, 2023)
1月23日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies上席研究員Gregory B. Polingの“Southeast Asia stands firm in the South China Sea”と題する論説を掲載し、そこでGregory B. Polingは2022年の南シナ海の状況を概観し、それまでと大きな変化がないものの、中国の優位性の獲得が遅れていることを指摘し、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海の状況は安定からかけ離れている。2022年、中国海警総隊(以下、CCGと言う)や海上民兵の船団は、他国の船団との間に危険な事件を起こし続けている。しかし、この10年で初めて、係争海域における中国の支配が、目に見えた進展を見せなかったのもこの年である。
(2) CCGと海上民兵が配備される頻度やその数は、2021年とほぼ同じで、東南アジア諸国の船舶への妨害を続けてきた。しかし東南アジア諸国は踏ん張った。2022年の前半、CCGと海上民兵はフィリピンとの間に多くの事件を起こし、それはフィリピンと契約した台湾やノルウェーなど外国籍船の行動にも及んだ。最も危険であったのが、4月と6月、セカンド・トーマス礁に駐留するフィリピン軍への補給活動を妨害した事例である。
(3) 6月30日にMarcos, Jr.大統領が就任すると、一応は補給活動の妨害作戦が停止された。しかし、フィリピンの船団に対する嫌がらせがすべて停止したわけではない。11月には、フィリピンが支配するパグアサ島に曳航されたロケットの残骸を、中国海警船が「力ずくで回収」するという事件が起き、Philippine Coast Guardが非難した。一連の事件は、米比関係強化に勢いを与えた。この点についてはすでに2021年11月に道程表が示されていたが、2022年10月にはフィリピンに1億ドルの軍事援助が発表されるなど、具体化していった。
(4) ベトナムと中国の間に緊張関係はそこまで公然とはしていないが、消えたわけではない。ベトナムが2022年に南沙諸島の4つの地物を浚渫、埋め立てすることで420エーカー広げたことが、中国に対する懸念を示している。これは注目に値する行動である。それら地物には港も建設され、その島々に海軍や沿岸警備隊の船舶が寄港することを示唆している。これは南沙諸島周辺で海警船などが活動を続けていることに対する自然の対応である。
(5) 外交的に、ベトナムは米国と一定の距離を保っている。7月には予定されていた米空母「ロナルド・レーガン」の寄港を取り止め、米軍が2年に一度実施する環太平洋海軍演習への不参加も決めた。しかし、政治的にはそうした態度を採りつつ、米国とベトナムの防衛面での関係は深まり続けている。たとえばベトナムが12月に初めて実施した国際防衛産業展示会に米企業を招待するなどしている。ベトナムは南シナ海における勢力の均衡の崩壊を懸念しており、それに対処するために米国との協調を歓迎している。
(6) 2022年の南シナ海での各国の行動様式は、それまでと大きく変わっておらず、2023年もそうであろう。しかし、中国が大きく前進することもないだろうし、東南アジア諸国はその土台を着実に固めている。
記事参照:Southeast Asia stands firm in the South China Sea
(1) 南シナ海の状況は安定からかけ離れている。2022年、中国海警総隊(以下、CCGと言う)や海上民兵の船団は、他国の船団との間に危険な事件を起こし続けている。しかし、この10年で初めて、係争海域における中国の支配が、目に見えた進展を見せなかったのもこの年である。
(2) CCGと海上民兵が配備される頻度やその数は、2021年とほぼ同じで、東南アジア諸国の船舶への妨害を続けてきた。しかし東南アジア諸国は踏ん張った。2022年の前半、CCGと海上民兵はフィリピンとの間に多くの事件を起こし、それはフィリピンと契約した台湾やノルウェーなど外国籍船の行動にも及んだ。最も危険であったのが、4月と6月、セカンド・トーマス礁に駐留するフィリピン軍への補給活動を妨害した事例である。
(3) 6月30日にMarcos, Jr.大統領が就任すると、一応は補給活動の妨害作戦が停止された。しかし、フィリピンの船団に対する嫌がらせがすべて停止したわけではない。11月には、フィリピンが支配するパグアサ島に曳航されたロケットの残骸を、中国海警船が「力ずくで回収」するという事件が起き、Philippine Coast Guardが非難した。一連の事件は、米比関係強化に勢いを与えた。この点についてはすでに2021年11月に道程表が示されていたが、2022年10月にはフィリピンに1億ドルの軍事援助が発表されるなど、具体化していった。
(4) ベトナムと中国の間に緊張関係はそこまで公然とはしていないが、消えたわけではない。ベトナムが2022年に南沙諸島の4つの地物を浚渫、埋め立てすることで420エーカー広げたことが、中国に対する懸念を示している。これは注目に値する行動である。それら地物には港も建設され、その島々に海軍や沿岸警備隊の船舶が寄港することを示唆している。これは南沙諸島周辺で海警船などが活動を続けていることに対する自然の対応である。
(5) 外交的に、ベトナムは米国と一定の距離を保っている。7月には予定されていた米空母「ロナルド・レーガン」の寄港を取り止め、米軍が2年に一度実施する環太平洋海軍演習への不参加も決めた。しかし、政治的にはそうした態度を採りつつ、米国とベトナムの防衛面での関係は深まり続けている。たとえばベトナムが12月に初めて実施した国際防衛産業展示会に米企業を招待するなどしている。ベトナムは南シナ海における勢力の均衡の崩壊を懸念しており、それに対処するために米国との協調を歓迎している。
(6) 2022年の南シナ海での各国の行動様式は、それまでと大きく変わっておらず、2023年もそうであろう。しかし、中国が大きく前進することもないだろうし、東南アジア諸国はその土台を着実に固めている。
記事参照:Southeast Asia stands firm in the South China Sea
1月23日「米中の軍事衝突を避けるためには―米専門家論説」(The Diplomat, January 23, 2023)
1月23日付のデジタル誌The Diplomatは、米Quincy Institute for Responsible Statecraft東アジア・プログラム上席研究員Michael D. Swaineの” What the US Gets Wrong About Taiwan and Deterrence”と題する論説を掲載し、ここでMichael D. Swaineは米中が戦争を避けるためには、米国が行動によって「一つの中国」政策の信頼性を復活させ、その見返りとして、平和的統一への信頼できる中国の行動によってのみ可能となるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾をめぐる米国と中国の緊張が著しく高まり、多くの戦略家は中国が台湾を侵略する準備をしており、米国は利益を守るために軍事的抑止力に頼らざるを得ないと警鐘を鳴らしているが、軍事的抑止力を中心とした政策は戦争を誘発する可能性がある。
(2) 米国にとって台湾は重要な戦略拠点であり、中国と一体化してはならないとの考えは、台湾の戦略的価値と中国の地域的意図の両方に対する非常に疑わしい分析に基づいている。歴史的に、米政府も中国政府も台湾をこの地域における重要な戦略的要衝と見なしたことはない。中国にとって台湾は、領土の保全と民族の誇りの問題であり、国民から見た共産党政権の正統性にとって重要になっている。米国にとっては、民主的な友好国の忠実な支援者、日本や韓国などの同盟国の米政府に対する信頼につながるものである。地域全体としては、世界的感染拡大からの回復、不況の克服、米国および中国との緊密な経済関係の継続による持続的成長の促進といった経済問題の方が懸念されている。
(3) 米国にとって、戦略的な理由から台湾を中国から切り離すことを前提とした抑止政策は、「一つの中国」政策と全く相容れないものである。この立場は、1972年の米中国交正常化の基礎となった、米国が台湾を中国の一部とする中国の立場を認め、北京が平和的統一を両岸政策の最優先事項とする理解の核心であることに変わりはない。もし米国がこの重要な合意を破棄し、たとえば台湾を外交的に承認したり、本格的な安全保障上の同盟国にしたりすれば、中国は間違いなく、軍事力を含むあらゆる手段で米国のこうした行動を阻止することになるだろう。
(4) たとえ米国が優れた軍事的抑止力を有していたとしても、中国の指導者はほぼ間違いなく武力に訴える。政治的な利害が極めて大きいため、何もしなければ、国内危機が深刻化し、指導者個人の地位だけでなく、中国全体の体制が危うくなるのである。たとえ大きな損失になろうとも、何もしないよりはましと見なされるのである。しかし、核戦争へと事態が拡大する危険があるため、必然的に限定的なものに留まり、紛争は長引くことになる。
(5) Biden政権は、「一つの中国」政策の崩壊と、台湾に対する抑止力のみの取り組みへの依存を強めることで、このような中国の必死の計算を招いているように思われる。Biden大統領は、中国が台湾を攻撃した場合、米国は軍事介入すると繰り返し発言し、台湾を安全保障上の同盟国として扱っている。また、独立の是非は台湾が単独で決定すべきであると主張し、一方的な台湾独立に反対する米国の長年の姿勢を否定している。さらに、台湾を「非NATO同盟国」に指定し、安全保障上の正式な関係を持つ主権国家と同様の地位を与えている。また、1979年にも同様の措置をとっているにもかかわらず、米国高官を準公式な立場で台湾に派遣し、各国に台湾から中国への外交権移譲を阻止するように働きかけている。あるU.S. Department of Defense高官は、米国はいかなる状況下でも台湾が中国と一体化することに反対であることを示唆している。
(6) 中国の指導者たちは、こうした行動などから、「一つの中国」政策を支持する米国の発言は信用できないとの結論に達した。そして中国政府は、台湾への軍事的圧力を強める一方、米国の軍事介入を抑止する能力を身につけた。米国は、中国の台湾海峡での軍事演習を中国政府の悪意と平和的な統一を拒否する証拠と解釈している。米中両国は、それぞれが責任を否定し、相手を非難しながら、ますます事態を拡大する相互作用の過程に陥っている。
(7) 米中両国が台湾をめぐる戦争を避けたいと願うのであれば、現在の悪循環を終わらせるために意味のある行動を採らなければならない。両国は、軍事中心で最悪の事態を想定した評価を否定すべきである。これは、ワシントンが言葉だけでなく、行動によって「一つの中国」政策の信頼性を復活させ、その見返りとして、北京の平和的統一への明確で継続的な希望を伝える信頼できる中国の行動によってのみ可能となる。
a.ワシントンは、米台間の交流に明確な制限を設け、交流は非公式なものであり、高官間の接触を伴わないことを強調すべきである。また、台湾を中国から切り離す戦略的根拠を明確に否定し、台湾問題の平和的かつ強制力のない解決策を受け入れることを改めて表明すべきである。また、台湾政府が自衛のためにはるかに多くのことを行うことを期待し、主権的な独立国家としての地位を一方的に確立しようとするいかなる努力にも積極的に反対することを明らかにする必要がある。
b.中国政府は、統一に向けた計画を持たないことを明確に断言するとともに、台湾付近での軍事演習や駐留を縮小する必要がある。そして、米政府と中国政府は台湾周辺での監視・偵察活動、中国の大規模な水陸両用戦力の開発、米国による台湾への武器の売却など、台湾に関連する軍事計画や活動の相互削減で合意する必要がある。
(8) いずれも、激しい対立と抑止力強化の下で米中対立が激化しつつある状況下では起こり得ないことである。米中両国が問題の解決と、真の協力のための意志を持っていることを期待したい。
記事参照:What the US Gets Wrong About Taiwan and Deterrence
(1) 台湾をめぐる米国と中国の緊張が著しく高まり、多くの戦略家は中国が台湾を侵略する準備をしており、米国は利益を守るために軍事的抑止力に頼らざるを得ないと警鐘を鳴らしているが、軍事的抑止力を中心とした政策は戦争を誘発する可能性がある。
(2) 米国にとって台湾は重要な戦略拠点であり、中国と一体化してはならないとの考えは、台湾の戦略的価値と中国の地域的意図の両方に対する非常に疑わしい分析に基づいている。歴史的に、米政府も中国政府も台湾をこの地域における重要な戦略的要衝と見なしたことはない。中国にとって台湾は、領土の保全と民族の誇りの問題であり、国民から見た共産党政権の正統性にとって重要になっている。米国にとっては、民主的な友好国の忠実な支援者、日本や韓国などの同盟国の米政府に対する信頼につながるものである。地域全体としては、世界的感染拡大からの回復、不況の克服、米国および中国との緊密な経済関係の継続による持続的成長の促進といった経済問題の方が懸念されている。
(3) 米国にとって、戦略的な理由から台湾を中国から切り離すことを前提とした抑止政策は、「一つの中国」政策と全く相容れないものである。この立場は、1972年の米中国交正常化の基礎となった、米国が台湾を中国の一部とする中国の立場を認め、北京が平和的統一を両岸政策の最優先事項とする理解の核心であることに変わりはない。もし米国がこの重要な合意を破棄し、たとえば台湾を外交的に承認したり、本格的な安全保障上の同盟国にしたりすれば、中国は間違いなく、軍事力を含むあらゆる手段で米国のこうした行動を阻止することになるだろう。
(4) たとえ米国が優れた軍事的抑止力を有していたとしても、中国の指導者はほぼ間違いなく武力に訴える。政治的な利害が極めて大きいため、何もしなければ、国内危機が深刻化し、指導者個人の地位だけでなく、中国全体の体制が危うくなるのである。たとえ大きな損失になろうとも、何もしないよりはましと見なされるのである。しかし、核戦争へと事態が拡大する危険があるため、必然的に限定的なものに留まり、紛争は長引くことになる。
(5) Biden政権は、「一つの中国」政策の崩壊と、台湾に対する抑止力のみの取り組みへの依存を強めることで、このような中国の必死の計算を招いているように思われる。Biden大統領は、中国が台湾を攻撃した場合、米国は軍事介入すると繰り返し発言し、台湾を安全保障上の同盟国として扱っている。また、独立の是非は台湾が単独で決定すべきであると主張し、一方的な台湾独立に反対する米国の長年の姿勢を否定している。さらに、台湾を「非NATO同盟国」に指定し、安全保障上の正式な関係を持つ主権国家と同様の地位を与えている。また、1979年にも同様の措置をとっているにもかかわらず、米国高官を準公式な立場で台湾に派遣し、各国に台湾から中国への外交権移譲を阻止するように働きかけている。あるU.S. Department of Defense高官は、米国はいかなる状況下でも台湾が中国と一体化することに反対であることを示唆している。
(6) 中国の指導者たちは、こうした行動などから、「一つの中国」政策を支持する米国の発言は信用できないとの結論に達した。そして中国政府は、台湾への軍事的圧力を強める一方、米国の軍事介入を抑止する能力を身につけた。米国は、中国の台湾海峡での軍事演習を中国政府の悪意と平和的な統一を拒否する証拠と解釈している。米中両国は、それぞれが責任を否定し、相手を非難しながら、ますます事態を拡大する相互作用の過程に陥っている。
(7) 米中両国が台湾をめぐる戦争を避けたいと願うのであれば、現在の悪循環を終わらせるために意味のある行動を採らなければならない。両国は、軍事中心で最悪の事態を想定した評価を否定すべきである。これは、ワシントンが言葉だけでなく、行動によって「一つの中国」政策の信頼性を復活させ、その見返りとして、北京の平和的統一への明確で継続的な希望を伝える信頼できる中国の行動によってのみ可能となる。
a.ワシントンは、米台間の交流に明確な制限を設け、交流は非公式なものであり、高官間の接触を伴わないことを強調すべきである。また、台湾を中国から切り離す戦略的根拠を明確に否定し、台湾問題の平和的かつ強制力のない解決策を受け入れることを改めて表明すべきである。また、台湾政府が自衛のためにはるかに多くのことを行うことを期待し、主権的な独立国家としての地位を一方的に確立しようとするいかなる努力にも積極的に反対することを明らかにする必要がある。
b.中国政府は、統一に向けた計画を持たないことを明確に断言するとともに、台湾付近での軍事演習や駐留を縮小する必要がある。そして、米政府と中国政府は台湾周辺での監視・偵察活動、中国の大規模な水陸両用戦力の開発、米国による台湾への武器の売却など、台湾に関連する軍事計画や活動の相互削減で合意する必要がある。
(8) いずれも、激しい対立と抑止力強化の下で米中対立が激化しつつある状況下では起こり得ないことである。米中両国が問題の解決と、真の協力のための意志を持っていることを期待したい。
記事参照:What the US Gets Wrong About Taiwan and Deterrence
1月24日「フィリピンが南シナ海の紛争に関する高官級協議を中国に要求―香港紙報道」(South China Morning Post, AP.com, January 24, 2023)
1月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Philippines blames Chinese coastguard for tensions, calls for ‘higher level’ talks”と題する記事を掲載し、フィリピン大統領Ferdinand Marcos Jr.は、南シナ海の緊張を解くには「中国側からの」行動が必要だと語り、両国間のより高官級の外交官による協議を中国に求めたとして、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、南シナ海での新たな紛争を迅速に解決するために、両国が外相会談を行うことを中国に提案したと述べ、中国の行動が不協和の原因であると非難した。Marcosは、1月23日のフィリピンのテレビ局とのインタビューで、中国の習近平国家主席が、1月初めに北京で行った会談で彼の提案に同意し、双方はそうした取り決めの詳細を調整していると語った。
(2) 2017年、北京とマニラは「2国間協議機構」と呼ばれる定期的な外交協議を開始し、係争海域での事件を話し合い、事態の拡大を防ぐ一方で、両国の関係の他の側面について協議している。この協議にもかかわらず、紛争は続いており、最近では、フィリピンの漁師が、1月9日に、北京も権利を主張するフィリピンが占拠しているセカンド・トーマス礁から中国の海警に追い払われ、紛争区域を離れる際に彼らの船の後をつけたと訴えた事件が報告されている。この事件は、Marcosが中国を訪問し、習近平と会談した数日後に発生した。Philippine Coast Guardは事件後、フィリピン人漁師を守るために巡視船を増派したと発表している。Marcos Jr.は、北京での会談で習近平に、係争海域での将来の紛争により迅速に対応するため、現在は中級の外交官が担当している2国間協議機構を、両国のトップ外交官が主導することを提案したと述べている。
(3) Marcos Jr.は、習近平が彼の提案に同意し、中国の外交部部長にフィリピンの当局者と新しい取り決めについて話し合うよう指示したと述べている。「もし習主席が『これ以上やらない、別のことをやる』と命令を出せば、そうなると思う。指揮系統はかなりしっかりしていると思う。どんな合意であれ、違反があれば報告できるだろう 」とフィリピン大統領は述べている。Marcos Jr.は、将来の紛争を防ぐために、中国が行動を変える必要があるとして、「我々は彼らの海域や国際水域と思われる海域に沿岸警備隊の船艇を送らないため、必要な行動は実際には中国側からのものだと思う。彼らはフィリピンの海域内に留まっている」と述べている。
記事参照:South China Sea: Philippines blames Chinese coastguard for tensions, calls for ‘higher level’ talks
(1) フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、南シナ海での新たな紛争を迅速に解決するために、両国が外相会談を行うことを中国に提案したと述べ、中国の行動が不協和の原因であると非難した。Marcosは、1月23日のフィリピンのテレビ局とのインタビューで、中国の習近平国家主席が、1月初めに北京で行った会談で彼の提案に同意し、双方はそうした取り決めの詳細を調整していると語った。
(2) 2017年、北京とマニラは「2国間協議機構」と呼ばれる定期的な外交協議を開始し、係争海域での事件を話し合い、事態の拡大を防ぐ一方で、両国の関係の他の側面について協議している。この協議にもかかわらず、紛争は続いており、最近では、フィリピンの漁師が、1月9日に、北京も権利を主張するフィリピンが占拠しているセカンド・トーマス礁から中国の海警に追い払われ、紛争区域を離れる際に彼らの船の後をつけたと訴えた事件が報告されている。この事件は、Marcosが中国を訪問し、習近平と会談した数日後に発生した。Philippine Coast Guardは事件後、フィリピン人漁師を守るために巡視船を増派したと発表している。Marcos Jr.は、北京での会談で習近平に、係争海域での将来の紛争により迅速に対応するため、現在は中級の外交官が担当している2国間協議機構を、両国のトップ外交官が主導することを提案したと述べている。
(3) Marcos Jr.は、習近平が彼の提案に同意し、中国の外交部部長にフィリピンの当局者と新しい取り決めについて話し合うよう指示したと述べている。「もし習主席が『これ以上やらない、別のことをやる』と命令を出せば、そうなると思う。指揮系統はかなりしっかりしていると思う。どんな合意であれ、違反があれば報告できるだろう 」とフィリピン大統領は述べている。Marcos Jr.は、将来の紛争を防ぐために、中国が行動を変える必要があるとして、「我々は彼らの海域や国際水域と思われる海域に沿岸警備隊の船艇を送らないため、必要な行動は実際には中国側からのものだと思う。彼らはフィリピンの海域内に留まっている」と述べている。
記事参照:South China Sea: Philippines blames Chinese coastguard for tensions, calls for ‘higher level’ talks
1月24日「米海軍の分散海洋作戦に欠陥はないのだろうか―米軍事専門家論説」(Defense News, January 24, 2023)
1月24日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、米シンクタンクAtlantic Council上席顧問Harlan Ullmanの“Are there flaws in the US Navy’s distributed maritime operations?”と題する論説を掲載し、そこでHarlan Ullmanは現在米海軍の戦術の主流となっている分散海洋作戦について、その妥当性や効果が十分に検証されてきたかが疑問であり、さらなる精査が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 分散海洋作戦(Distributed maritime operations:以下、DMOと言う)は、米海軍の組織と戦闘における教義である。しかし、多くの演習が行われてはいるが、DMOは精密誘導兵器が使用され、広範囲の偵察が可能な時代において、本当に効果的であるかは疑問である。
(2) DMOの狙いは、敵を混乱させ、探知を難しくするために広大な地域に艦隊を分散させることで戦闘の効率性を向上することにある。
(3) 過去の理論がDMOの妥当性を測る方法を提供してくれる。1950年代から60年代にかけて、米海軍の空母は戦争が起きた場合にソ連に報復核攻撃を行うため、地中海に「潜伏」と称して、ソ連軍機からの被探知、位置局限、攻撃を回避するために空母の所在位置を欺瞞する作戦の実効性を検証している。こうした作戦の基盤になったのは当時の「海洋戦略」であったが、それは、「シーストライク」という計画の一部を借用していた。その計画は、4個空母戦闘群をもってペトロパブロフスク海軍基地を攻撃するというものであった。
(3) それは、海軍施設への通常兵器による攻撃の脅威が抑止力を向上させるという想定に基づく理論であった。しかしこの考え方は2つの重大な欠点があった。第1に、ソ連が核兵器を使用する準備をしていたことを見過ごしていた。第2に、当時のソ連の戦略は、第2次世界大戦時の潜水艦戦を再現するものではなく、核攻撃によって米海軍のポラリス核弾頭ミサイルを搭載する潜水艦部隊を撃滅することを目的としていた。
(4) DMOについては、また別の問いが提示されるべきである。兵力における量の経済の原則がどう適用されるのか、兵力の分散は攻撃力と防御力を低下させるのではないか。核兵器についてはどう考えるのか、などである。
(5) ロシアがドクトリンを変えたという証拠はなく、その演習のいくつかでは核のシナリオが想定されていた。中国人民解放軍のドクトリンについてははっきりしていないが、核戦力を増強し続けているという事実がある。
(6) U.S. Marine Corpsの「戦力設計2030」はDMOに基づいている。しかし、地理の問題が解決されていない。U.S. Marine Corpsが初動を起こす、中国に最も近い島は沖縄とグアムである。しかしU.S. Marine Corpsのスタンドオフ兵器の射程は、中国人民解放軍のICBMをはるかに下回る。機密の観点から公の議論は困難であるが、台湾危機に関して、米国がどうした方針を採るにせよ、中国に優位性があるのは明らかだ。
(7) DMOは国家防衛戦略や、地域戦の計画にどう統合されるのだろうか。さまざまな段階での演習が行われ、分析されてきたが、あらゆる仮説が冷徹に検証されたと言えるのだろうか。また、分析結果が艦隊に提供されているのだろうか。また、DMOは統合部隊や軍の別部門の戦略にどう統合されうるのだろうか。
(8) こうした疑問への解答が、DMOの妥当性を結論付けるわけではない。いずれにしてもさらなる精査が必要である。官僚主義的な対応として、現状維持をするという選択肢があるかもしれない。しかし戦場で最後の試験が課され、われわれが必要な宿題をやっていなかったならば、それは大変な事態を招くかもしれない。
記事参照:Are there flaws in the US Navy’s distributed maritime operations?
(1) 分散海洋作戦(Distributed maritime operations:以下、DMOと言う)は、米海軍の組織と戦闘における教義である。しかし、多くの演習が行われてはいるが、DMOは精密誘導兵器が使用され、広範囲の偵察が可能な時代において、本当に効果的であるかは疑問である。
(2) DMOの狙いは、敵を混乱させ、探知を難しくするために広大な地域に艦隊を分散させることで戦闘の効率性を向上することにある。
(3) 過去の理論がDMOの妥当性を測る方法を提供してくれる。1950年代から60年代にかけて、米海軍の空母は戦争が起きた場合にソ連に報復核攻撃を行うため、地中海に「潜伏」と称して、ソ連軍機からの被探知、位置局限、攻撃を回避するために空母の所在位置を欺瞞する作戦の実効性を検証している。こうした作戦の基盤になったのは当時の「海洋戦略」であったが、それは、「シーストライク」という計画の一部を借用していた。その計画は、4個空母戦闘群をもってペトロパブロフスク海軍基地を攻撃するというものであった。
(3) それは、海軍施設への通常兵器による攻撃の脅威が抑止力を向上させるという想定に基づく理論であった。しかしこの考え方は2つの重大な欠点があった。第1に、ソ連が核兵器を使用する準備をしていたことを見過ごしていた。第2に、当時のソ連の戦略は、第2次世界大戦時の潜水艦戦を再現するものではなく、核攻撃によって米海軍のポラリス核弾頭ミサイルを搭載する潜水艦部隊を撃滅することを目的としていた。
(4) DMOについては、また別の問いが提示されるべきである。兵力における量の経済の原則がどう適用されるのか、兵力の分散は攻撃力と防御力を低下させるのではないか。核兵器についてはどう考えるのか、などである。
(5) ロシアがドクトリンを変えたという証拠はなく、その演習のいくつかでは核のシナリオが想定されていた。中国人民解放軍のドクトリンについてははっきりしていないが、核戦力を増強し続けているという事実がある。
(6) U.S. Marine Corpsの「戦力設計2030」はDMOに基づいている。しかし、地理の問題が解決されていない。U.S. Marine Corpsが初動を起こす、中国に最も近い島は沖縄とグアムである。しかしU.S. Marine Corpsのスタンドオフ兵器の射程は、中国人民解放軍のICBMをはるかに下回る。機密の観点から公の議論は困難であるが、台湾危機に関して、米国がどうした方針を採るにせよ、中国に優位性があるのは明らかだ。
(7) DMOは国家防衛戦略や、地域戦の計画にどう統合されるのだろうか。さまざまな段階での演習が行われ、分析されてきたが、あらゆる仮説が冷徹に検証されたと言えるのだろうか。また、分析結果が艦隊に提供されているのだろうか。また、DMOは統合部隊や軍の別部門の戦略にどう統合されうるのだろうか。
(8) こうした疑問への解答が、DMOの妥当性を結論付けるわけではない。いずれにしてもさらなる精査が必要である。官僚主義的な対応として、現状維持をするという選択肢があるかもしれない。しかし戦場で最後の試験が課され、われわれが必要な宿題をやっていなかったならば、それは大変な事態を招くかもしれない。
記事参照:Are there flaws in the US Navy’s distributed maritime operations?
1月28日「南シナ海における紛争当事国のエネルギー開発協力と中国の対応―香港紙報道」(South China Morning post.com, January 28, 2023)
1月28日付の香港英字日刊紙South China Morning Post電子版は、 “South China Sea: how Beijing might respond as Southeast Asia bands together on rival claims”と題する記事を掲載し、南シナ海における紛争当事国のエネルギー開発協力と中国の対応について、要旨以下のように報じている。
(1) ベトナムとインドネシア両国間のEEZ境界画定については、2022年12月22日の両国首脳会談で合意が確認された。この合意は両国関係の画期的成果であり、東南アジア諸国が海洋紛争を平和的に解決し得ることを示す実例でもある。しかしながら、中国政府にとっては、この合意はいわゆる9段線に取り囲まれた南シナ海での広大な海域における、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ及び台湾との間での領有権主張に対する新たな挑戦となっている。中国南海研究院の呉士存院長は、「中国が合意を受け入れるとは思わない」と言明した上で、両国の重複するEEZは中国政府が領有権主張の概要を説明するために使用してきた9段線内にあり、したがって「係争海域を巡る境界画定交渉には全ての領有権主張国が含まれるべきであり、両国が合意した海域には中国も管轄権と歴史的権利を主張している係争海域が含まれ、またこれらの海域の一部は中国の漁民の伝統的な漁場でもある」ことから、「境界画定に実用的な価値があるとは思わない」と指摘している。
(2) 合意の詳細は不明だが、中国外交部はSouth China Morning Postの問い合わせに対して、「関係当事国間の南シナ海における海洋境界画定交渉は、中国の正当な利益を損なうものであってはならない」と答えたが、特にベトナムとインドネシアを名指しすることはなかった。中国、米国およびその他の領有権主張国の利害が相反する域内の不穏な海域となっている南シナ海において、何年にもわたって戦略的海域である南シナ海の支配の強化を図ってきた中国政府に対する反発が高まりつつある状況下で、しかも、中国と他の領有権紛争当事国4ヵ国を含むASEAN10ヵ国との間で「行動規範(a code of conduct)」に関する合意が実現する前に、他の領有権主張国も係争海域に対する管理を強化する動きを強めている状況下で、この合意が実現した。インドネシアは南シナ海における領有権主張国ではないが、そのEEZはマレーシアとベトナムのEEZと重複しており、さらにナツナ諸島海域周辺の漁業権を巡って中国と衝突することが多い。前出の呉士存は、「行動規範は法的拘束力を持つものになろう。したがって、各国は違反の代償を払わなければならない。それ故、今は領有権主張国にとって、一方的な行動を通じて自国の既得権益を強化し、拡大するための絶好の機会となっている」と指摘している。
(3) 「行動規範」に関する中国とASEANとの交渉は2013年に始まったが、現在に至るも遅々として進展していない。前出の呉士存は、「共通の規範がなければ、規範を破ることで最も恩恵を受けることができる者は、そうすることを厭わない。そして、状況はより複雑になる」と語っている。米国との対立に加えて、中国と東南アジアの近隣諸国との緊張も高まっている。1月初めのMarcos Jrフィリピン大統領の訪中直後、フィリピン最高裁判所は、2005年に調印された中越比3ヵ国間の期限3ヵ年の南シナ海における石油探査協定は無効であるとの判決を下した。専門家は、この動きが資源豊富な南シナ海海域における共同開発に関する将来の議論の妨げになると見ている。また、インドネシアは、ベトナムに近いインドネシアのEEZ内に位置するが、中国の9段線内でもある、Tunaガス田のために200億米ドルの開発計画を承認した。その後、中国の世界最大の海警船「CCG 5901」が、特にインドネシアが管理するツナ鉱区と、ベトナムとの海洋境界を跨ぐChim Sao石油・ガス田とに近い、北ナツナ海域を哨戒しているのが観察された。インドネシア海軍は、これに対応して中国海警船を監視するために艦艇、海上哨戒機およびドローンを配備した。呉士存は、インドネシアは係争海域で「既得権益を拡大」しようとしており、他の領有権主張国もそれに続く可能性があると見、「インドネシアに続いて、ベトナムも係争海域で石油・ガス探査を開始する可能性があり、また連鎖反応的に、今のところ中国との共同開発の見込みがないために、フィリピンもそうする可能性がある」と語っている。
(4) 中国政府は2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定を無視し続けているが、一方で他の東南アジアの領有権主張国はいずれも中国政府の9段線主張を認めていない。2017年のインドネシアとの2国間協定によって、ベトナムは早ければ2023年中にもツナ鉱区から天然ガスの供給を受ける可能性がある。シンガポールのInstitute of Defence and Strategic Studies研究員、Collin Kohは、インドネシアとベトナム両国の観点からすれば、中国政府の反応に対する懸念があるかもしれないが、より広い視点からベトナムとインドネシアが最終的に合意解決に至ることは「不可避」と見ている。Collin Kohは、「私はまた、このようなASEAN内の紛争解決が、行動規範交渉過程を含む、南シナ海問題に対する当事国それぞれの立場について、より緊密に調整する効果をもたらす可能性を否定しない」と述べている。
(5) 呉士存は、中国は域内の反発の高まりに対抗して海軍艦艇や海警船を含む「海洋抑止力」を強化する可能性が高いが、「それは、中国がこれら近隣諸国を虐めるわけでも、また南シナ海でのいわゆる航行の自由作戦で米国に挑戦するわけでもないが、関係当事国が中国に権益に対抗することを躊躇させるために、中国は正当な主張を擁護する能力を強化する必要がある」と強調している。これに対して、Collin Kohは中国政府の抑止力強化がベトナムとインドネシアを思い止まらせるのに効果的であるかどうかは疑問であり、東南アジア諸国にとってエネルギー権益は交渉の余地がないとして、「エネルギー開発海域での中国の海洋への抑止力の展開は、中国政府の不快感を示す目に見える象徴として役立つかもしれないが、中国が深刻な反撃を招きかねないより過激な行動に訴えるという決断をしない限り、(エネルギー開発阻止のために)利用可能な選択肢は極めて限られている」と見ている。
記事参照:South China Sea: how Beijing might respond as Southeast Asia bands together on rival claims
(1) ベトナムとインドネシア両国間のEEZ境界画定については、2022年12月22日の両国首脳会談で合意が確認された。この合意は両国関係の画期的成果であり、東南アジア諸国が海洋紛争を平和的に解決し得ることを示す実例でもある。しかしながら、中国政府にとっては、この合意はいわゆる9段線に取り囲まれた南シナ海での広大な海域における、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ及び台湾との間での領有権主張に対する新たな挑戦となっている。中国南海研究院の呉士存院長は、「中国が合意を受け入れるとは思わない」と言明した上で、両国の重複するEEZは中国政府が領有権主張の概要を説明するために使用してきた9段線内にあり、したがって「係争海域を巡る境界画定交渉には全ての領有権主張国が含まれるべきであり、両国が合意した海域には中国も管轄権と歴史的権利を主張している係争海域が含まれ、またこれらの海域の一部は中国の漁民の伝統的な漁場でもある」ことから、「境界画定に実用的な価値があるとは思わない」と指摘している。
(2) 合意の詳細は不明だが、中国外交部はSouth China Morning Postの問い合わせに対して、「関係当事国間の南シナ海における海洋境界画定交渉は、中国の正当な利益を損なうものであってはならない」と答えたが、特にベトナムとインドネシアを名指しすることはなかった。中国、米国およびその他の領有権主張国の利害が相反する域内の不穏な海域となっている南シナ海において、何年にもわたって戦略的海域である南シナ海の支配の強化を図ってきた中国政府に対する反発が高まりつつある状況下で、しかも、中国と他の領有権紛争当事国4ヵ国を含むASEAN10ヵ国との間で「行動規範(a code of conduct)」に関する合意が実現する前に、他の領有権主張国も係争海域に対する管理を強化する動きを強めている状況下で、この合意が実現した。インドネシアは南シナ海における領有権主張国ではないが、そのEEZはマレーシアとベトナムのEEZと重複しており、さらにナツナ諸島海域周辺の漁業権を巡って中国と衝突することが多い。前出の呉士存は、「行動規範は法的拘束力を持つものになろう。したがって、各国は違反の代償を払わなければならない。それ故、今は領有権主張国にとって、一方的な行動を通じて自国の既得権益を強化し、拡大するための絶好の機会となっている」と指摘している。
(3) 「行動規範」に関する中国とASEANとの交渉は2013年に始まったが、現在に至るも遅々として進展していない。前出の呉士存は、「共通の規範がなければ、規範を破ることで最も恩恵を受けることができる者は、そうすることを厭わない。そして、状況はより複雑になる」と語っている。米国との対立に加えて、中国と東南アジアの近隣諸国との緊張も高まっている。1月初めのMarcos Jrフィリピン大統領の訪中直後、フィリピン最高裁判所は、2005年に調印された中越比3ヵ国間の期限3ヵ年の南シナ海における石油探査協定は無効であるとの判決を下した。専門家は、この動きが資源豊富な南シナ海海域における共同開発に関する将来の議論の妨げになると見ている。また、インドネシアは、ベトナムに近いインドネシアのEEZ内に位置するが、中国の9段線内でもある、Tunaガス田のために200億米ドルの開発計画を承認した。その後、中国の世界最大の海警船「CCG 5901」が、特にインドネシアが管理するツナ鉱区と、ベトナムとの海洋境界を跨ぐChim Sao石油・ガス田とに近い、北ナツナ海域を哨戒しているのが観察された。インドネシア海軍は、これに対応して中国海警船を監視するために艦艇、海上哨戒機およびドローンを配備した。呉士存は、インドネシアは係争海域で「既得権益を拡大」しようとしており、他の領有権主張国もそれに続く可能性があると見、「インドネシアに続いて、ベトナムも係争海域で石油・ガス探査を開始する可能性があり、また連鎖反応的に、今のところ中国との共同開発の見込みがないために、フィリピンもそうする可能性がある」と語っている。
(4) 中国政府は2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定を無視し続けているが、一方で他の東南アジアの領有権主張国はいずれも中国政府の9段線主張を認めていない。2017年のインドネシアとの2国間協定によって、ベトナムは早ければ2023年中にもツナ鉱区から天然ガスの供給を受ける可能性がある。シンガポールのInstitute of Defence and Strategic Studies研究員、Collin Kohは、インドネシアとベトナム両国の観点からすれば、中国政府の反応に対する懸念があるかもしれないが、より広い視点からベトナムとインドネシアが最終的に合意解決に至ることは「不可避」と見ている。Collin Kohは、「私はまた、このようなASEAN内の紛争解決が、行動規範交渉過程を含む、南シナ海問題に対する当事国それぞれの立場について、より緊密に調整する効果をもたらす可能性を否定しない」と述べている。
(5) 呉士存は、中国は域内の反発の高まりに対抗して海軍艦艇や海警船を含む「海洋抑止力」を強化する可能性が高いが、「それは、中国がこれら近隣諸国を虐めるわけでも、また南シナ海でのいわゆる航行の自由作戦で米国に挑戦するわけでもないが、関係当事国が中国に権益に対抗することを躊躇させるために、中国は正当な主張を擁護する能力を強化する必要がある」と強調している。これに対して、Collin Kohは中国政府の抑止力強化がベトナムとインドネシアを思い止まらせるのに効果的であるかどうかは疑問であり、東南アジア諸国にとってエネルギー権益は交渉の余地がないとして、「エネルギー開発海域での中国の海洋への抑止力の展開は、中国政府の不快感を示す目に見える象徴として役立つかもしれないが、中国が深刻な反撃を招きかねないより過激な行動に訴えるという決断をしない限り、(エネルギー開発阻止のために)利用可能な選択肢は極めて限られている」と見ている。
記事参照:South China Sea: how Beijing might respond as Southeast Asia bands together on rival claims
1月30日「フランス、インドへ潜水艦技術を供与―ロシア専門家論説」(Asia Times, January 30, 2023)
1月30日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、People's Friendship University of Russia助教兼博士課程院生 Gabriel Honradaの〝France gives India’s subs a stealthy tech boost″と題する論説を掲載し、ここでGabriel Honradaはフランスがインドに潜水艦技術等を供与することを例に挙げ、フランスとインドが相互の防衛協力を通じて米国の影響を受けない戦略的自立性の強化を図っているとして、要旨以下のように述べている。
(1) フランスとインドは、インドのKalvari級潜水艦の性能を向上するための非大気依存推進(以下、AIPと言う)技術に関する協定に調印し、戦略的関係を深めている。AIP技術は、通常型潜水艦が数週間、全没潜航することを可能にし、これは原子力潜水艦の水中持続力に迫るものである。
(2) 1月、インドのウエブサイトIndian Expressは、フランスのNaval Group FranceとインドのDefense Research and Development Organization(国防研究開発機構:以下、DRDOと言う)が、フランスのスコルペヌ級潜水艦の派生型であるインドの潜水艦「カルバリ」に後日装備する燃料電池AIPの開発契約を締結したと報じた。報告書では、AIPの性能について、水素を液体の形で艦内に貯蔵するのではなく、艦内で水素を生成することを特徴としている。
(3) カルバリ級潜水艦は、2005年のフランスとの技術移転計画に基づいて建造されている。それでも、2030年までに通常型潜水艦18隻と原子力潜水艦6隻を含む24隻の潜水艦を取得する計画に対し、現在インドは、16隻の潜水艦しか運用しておらず、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は1隻であり、AIP搭載潜水艦は1隻もない。
(4) インド洋への中国の進出とパキスタンによる急速な潜水艦の近代化が、インドの潜水艦近代化計画を後押ししている。ベンガルールにあるNational Institute of Advanced Studies(国立高等研究所)のPrakash Panneerselvamは、インド洋は米海軍と海上自衛隊が哨戒する西太平洋と異なり、中国人民解放軍海軍潜水艦にとって比較的安全に活動できる海域であると指摘している。インド洋における中国の勢力拡大は、インドの勢力圏に対する挑戦であり、インドの排他的経済水域(EEZ)の安全保障上の危険でもあると論じている。
(5) パキスタンは、インドとの軍事的不均衡を相殺するために、潜水艦部隊の大幅な近代化を進めている。Samran Aliは、パキスタンのシンクタンクCenter for International Strategic Studiesの 2021 年 8 月の記事で、パキスタンはインド海軍と格差があるため、パキスタンは接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略を実施する必要があると述べている。この戦略に沿って、パキスタンは中国にハンゴール級通常型潜水艦8隻を発注した。これらは、スターリングエンジンを搭載した中国の039A(NATOコード:元級)AIP搭載潜水艦の輸出型である。報道によると、現在、中国の武昌造船工業集団において4隻の潜水艦が建造中であり、パキスタンのKarachi Shipyard & Engineering Worksで中国の技術供与を受け、残り4隻の建造が2022年12月から開始されている。1番艦から4番艦までは2022~23年に、5番艦以降は2028年にパキスタン海軍に引き渡される。
(6) 一方、インドが保有する老朽化したロシア製キロ級潜水艦4隻に応急的な改修が進められているが、欧米主導の対ロシア制裁により、1隻のインド回航に支障が出る等いくつかの問題に直面している。Asia Timesは、ロシア製装備への依存度を減らそうとするインドの動きについても報じており、ウクライナでの大きな損失によるロシア製兵器の有効性に対する懸念、戦闘による損失の影響、ロシアの武器産業に対する制裁などが要因となって、インドはロシアを主要な兵器供給国とし続けるかどうかについて再考している。
(7) インドは米国の従属国になることへの懸念から、QUADに全面的には参加していない。同様に、フランスはフランスが主導して米国に従属しない欧州共同体を作るというCharles De Gaule元大統領の考えを反映して、戦略的自律を追求している。インドとフランスは、こうした航空宇宙や海軍技術における防衛協力を通じて米国の影響を受けない安全保障上の提携を構築し、互いの戦略的自立性を強化しようとしている。
記事参照:https://asiatimes.com/2023/01/france-gives-indias-subs-a-stealthy-tech-boost/
(1) フランスとインドは、インドのKalvari級潜水艦の性能を向上するための非大気依存推進(以下、AIPと言う)技術に関する協定に調印し、戦略的関係を深めている。AIP技術は、通常型潜水艦が数週間、全没潜航することを可能にし、これは原子力潜水艦の水中持続力に迫るものである。
(2) 1月、インドのウエブサイトIndian Expressは、フランスのNaval Group FranceとインドのDefense Research and Development Organization(国防研究開発機構:以下、DRDOと言う)が、フランスのスコルペヌ級潜水艦の派生型であるインドの潜水艦「カルバリ」に後日装備する燃料電池AIPの開発契約を締結したと報じた。報告書では、AIPの性能について、水素を液体の形で艦内に貯蔵するのではなく、艦内で水素を生成することを特徴としている。
(3) カルバリ級潜水艦は、2005年のフランスとの技術移転計画に基づいて建造されている。それでも、2030年までに通常型潜水艦18隻と原子力潜水艦6隻を含む24隻の潜水艦を取得する計画に対し、現在インドは、16隻の潜水艦しか運用しておらず、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は1隻であり、AIP搭載潜水艦は1隻もない。
(4) インド洋への中国の進出とパキスタンによる急速な潜水艦の近代化が、インドの潜水艦近代化計画を後押ししている。ベンガルールにあるNational Institute of Advanced Studies(国立高等研究所)のPrakash Panneerselvamは、インド洋は米海軍と海上自衛隊が哨戒する西太平洋と異なり、中国人民解放軍海軍潜水艦にとって比較的安全に活動できる海域であると指摘している。インド洋における中国の勢力拡大は、インドの勢力圏に対する挑戦であり、インドの排他的経済水域(EEZ)の安全保障上の危険でもあると論じている。
(5) パキスタンは、インドとの軍事的不均衡を相殺するために、潜水艦部隊の大幅な近代化を進めている。Samran Aliは、パキスタンのシンクタンクCenter for International Strategic Studiesの 2021 年 8 月の記事で、パキスタンはインド海軍と格差があるため、パキスタンは接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略を実施する必要があると述べている。この戦略に沿って、パキスタンは中国にハンゴール級通常型潜水艦8隻を発注した。これらは、スターリングエンジンを搭載した中国の039A(NATOコード:元級)AIP搭載潜水艦の輸出型である。報道によると、現在、中国の武昌造船工業集団において4隻の潜水艦が建造中であり、パキスタンのKarachi Shipyard & Engineering Worksで中国の技術供与を受け、残り4隻の建造が2022年12月から開始されている。1番艦から4番艦までは2022~23年に、5番艦以降は2028年にパキスタン海軍に引き渡される。
(6) 一方、インドが保有する老朽化したロシア製キロ級潜水艦4隻に応急的な改修が進められているが、欧米主導の対ロシア制裁により、1隻のインド回航に支障が出る等いくつかの問題に直面している。Asia Timesは、ロシア製装備への依存度を減らそうとするインドの動きについても報じており、ウクライナでの大きな損失によるロシア製兵器の有効性に対する懸念、戦闘による損失の影響、ロシアの武器産業に対する制裁などが要因となって、インドはロシアを主要な兵器供給国とし続けるかどうかについて再考している。
(7) インドは米国の従属国になることへの懸念から、QUADに全面的には参加していない。同様に、フランスはフランスが主導して米国に従属しない欧州共同体を作るというCharles De Gaule元大統領の考えを反映して、戦略的自律を追求している。インドとフランスは、こうした航空宇宙や海軍技術における防衛協力を通じて米国の影響を受けない安全保障上の提携を構築し、互いの戦略的自立性を強化しようとしている。
記事参照:https://asiatimes.com/2023/01/france-gives-indias-subs-a-stealthy-tech-boost/
1月30日「米Air Mobility Command司令官『早ければ2025年に米中衝突が起こる』―香港紙報道」(South China Morning Post, January 30, 2023)
1月30日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Taiwan warnings show US military is preparing for war, Chinese analysts say”と題する記事を掲載し、米国と中国の軍事衝突は近い将来起こりうると米Air Mobility Command司令官が予測しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 専門家達は、米Air Mobility Command司令官による中国本土との軍事衝突が早ければ2025年に起こる可能性があるという警告は、米軍が台湾をめぐって戦闘即応態勢を準備していることを示唆しており、中国軍も抑止力を高めるだろうと述べている。1月27日に最初にソーシャルメディアで明らかになった内部文書において、米Air Mobility CommandのトップであるMike Minihan空軍大将は、麾下の指揮官達にそれぞれが指揮する部隊の戦闘即応態勢を最高の段階にまで高めるよう要求した。Mike Minihan大将は「習近平の(政治、軍事の)チーム、(台湾侵攻の)理由、そして機会が2025年に向けて全面的に調整されている」と述べ、2024年の台湾総統選挙は、中国の習近平国家主席に軍事侵略の口実を与えることになると付け加えている。
(2) Mike Minihan大将の警告は、米海軍作戦部長Michael Gilday米海軍大将が10月に、中国政府が2022年末までに台湾を攻撃する可能性があると発言してからわずか数カ月後に出されている。Michael Gilday作戦部長の時間枠は、当時U.S Indo-Pacific Command司令官であったPhilip Davidson退役海軍大将が寄せた以前の評価に基づいている。2022年初め、Philip Davidsonは、台湾海峡の新たな危機は2027年に起こる可能性があると述べ、中国政府が「今後6年以内に」台湾を中国本土に統一しようとするかもしれないと付け加えていた。
(3) 中国の軍事専門家達と米中関係の専門家達は、あらゆる兆候が台湾のために介入する米政府の決意が強くなっていることを示していると述べている。元中国軍教官である宋忠平は、双方が戦闘即応訓練を強化しているため、米中両軍の衝突の危険性が高まっており、敵対心も増加しているということに同意している。「米国の将軍たちは、議会からより大きな軍事予算を要求するため、武力行使に重点を置いて、中国政府の『台湾統一』計画を大きく扱いたい」と宋忠平は述べ、米軍には中国のような強い敵が必要だと付け加えている。北京を拠点として活動する海軍専門家李杰は、中国軍は空と海の能力を強化し、ミサイルの射程距離を伸ばすことに重点を置くだろうと述べ、「米軍の予測は正しく、台湾海峡は軍事衝突が最も起こりやすい地域である。米政府が、決して妥協が許されない中国政府の最重要な一線を越えて台湾独立を促しているからである。中国共産党が抑止力を強化することのみが、米軍の台湾問題への介入を阻止することができる」と李杰は述べている。2月、米国のAntony Blinken国務長官が訪中する際、台湾をめぐる緊張が最も重要な議題になることが予想される。
記事参照:Taiwan warnings show US military is preparing for war, Chinese analysts say
(1) 専門家達は、米Air Mobility Command司令官による中国本土との軍事衝突が早ければ2025年に起こる可能性があるという警告は、米軍が台湾をめぐって戦闘即応態勢を準備していることを示唆しており、中国軍も抑止力を高めるだろうと述べている。1月27日に最初にソーシャルメディアで明らかになった内部文書において、米Air Mobility CommandのトップであるMike Minihan空軍大将は、麾下の指揮官達にそれぞれが指揮する部隊の戦闘即応態勢を最高の段階にまで高めるよう要求した。Mike Minihan大将は「習近平の(政治、軍事の)チーム、(台湾侵攻の)理由、そして機会が2025年に向けて全面的に調整されている」と述べ、2024年の台湾総統選挙は、中国の習近平国家主席に軍事侵略の口実を与えることになると付け加えている。
(2) Mike Minihan大将の警告は、米海軍作戦部長Michael Gilday米海軍大将が10月に、中国政府が2022年末までに台湾を攻撃する可能性があると発言してからわずか数カ月後に出されている。Michael Gilday作戦部長の時間枠は、当時U.S Indo-Pacific Command司令官であったPhilip Davidson退役海軍大将が寄せた以前の評価に基づいている。2022年初め、Philip Davidsonは、台湾海峡の新たな危機は2027年に起こる可能性があると述べ、中国政府が「今後6年以内に」台湾を中国本土に統一しようとするかもしれないと付け加えていた。
(3) 中国の軍事専門家達と米中関係の専門家達は、あらゆる兆候が台湾のために介入する米政府の決意が強くなっていることを示していると述べている。元中国軍教官である宋忠平は、双方が戦闘即応訓練を強化しているため、米中両軍の衝突の危険性が高まっており、敵対心も増加しているということに同意している。「米国の将軍たちは、議会からより大きな軍事予算を要求するため、武力行使に重点を置いて、中国政府の『台湾統一』計画を大きく扱いたい」と宋忠平は述べ、米軍には中国のような強い敵が必要だと付け加えている。北京を拠点として活動する海軍専門家李杰は、中国軍は空と海の能力を強化し、ミサイルの射程距離を伸ばすことに重点を置くだろうと述べ、「米軍の予測は正しく、台湾海峡は軍事衝突が最も起こりやすい地域である。米政府が、決して妥協が許されない中国政府の最重要な一線を越えて台湾独立を促しているからである。中国共産党が抑止力を強化することのみが、米軍の台湾問題への介入を阻止することができる」と李杰は述べている。2月、米国のAntony Blinken国務長官が訪中する際、台湾をめぐる緊張が最も重要な議題になることが予想される。
記事参照:Taiwan warnings show US military is preparing for war, Chinese analysts say
1月31日「米国をはじめとするQUAD4ヵ国の沿岸警備隊は、自由で開かれたインド太平洋のための公共財を提供すべき―日専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, January 31, 2023)
1月31日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISが発行するPacNetのウエブサイトは、日本に本部を置く特定非営利活動法人 Worldwide Support for Development(世界開発協力機構:WSD-Handa)の非常勤上席研究員James R. Sullivanの” The US Coast Guard: Provide public goods for a free and open Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでJames R. Sullivanはガバナンスの公平な執行を含む公共財の提供は、法の支配に基づく世界を支えるものであり、米国とQUAD4ヵ国の沿岸警備隊が、公共財の共同提供を任務の中核に据えることから始めるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 一般的に各国の沿岸警備隊は、排他的経済水域(EEZ)内の限定された任務から、大洋における業務まで多くの任務を遂行している。沿岸警備隊の中心的な任務は、法の支配を維持するための公共財(Public Goods)を協力的に提供することである。これによって、沿岸警備隊の多様な任務の人道的性格が生かされ、国家安全保障戦略における役割が明らかになり、各国の沿岸警備隊間の協力が促進される。
(2) 現在は、法による秩序と公共財の提供が重要な課題となっている。公共財の提供がうまくいくかどうかで国家の選択肢が決まる。また、公共財の提供は、利害関係者が支配的な覇権国に依存するのではなく、共有された活動に焦点を当てることを可能にする。そして、法の支配を受け入れるか、そうでない覇権的支配を受け入れるかの違いを決定することになる。
(3) QUADが自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)を支援するために展開している戦略は、世界の沿岸警備隊の任務を検討する機会を提供している。FOIPは、法の支配を守るための協力的な取り組みで、QUAD参加国の沿岸警備隊はこの目標を推進する可能性を秘めているが、包括的な任務の優先順位について合意がない限り、目標を達成することはできない。FOIP戦略の協力的な基盤は、当初からの特徴であった。 日本のFOIP戦略は、2016年に安倍晋三首相(当時)によって、「海洋における法に基づく秩序への挑戦に協力的に対応するための手段 」として導入された。米国も同様に、「志を同じくする国々を経済、安全保障、政治的ガバナンスの提携に参加させる」と捉えた。2022年5月に発表されたQUADの各国首脳による声明でも、ガバナンスを中心的な公共財と表現し、この考えを代弁している。
(4) 中国は、伝統的な課題に付随して、海洋環境保護、水路安全、海洋における捜索救難、漁業資源の保護などの地域海洋ガバナンス公共財の供給が長期的に不十分と述べ、中国政府は自らを、特に海洋分野における主要な国際秩序の擁護者、グローバル・ガバナンスへの貢献者、国際公共財の提供者であると主張している。
(5) 法に基づく秩序は、単に法の存在だけでなく、平等で適切な執行を必要とする。この執行が秩序維持のために重要であると同時に、体制自体の正当性の重要な淵源と言える。インド太平洋地域の多くの国は、法に基づく海洋秩序を執行する国家能力を欠いている。したがって、これらの国は、1国の支配的な地域覇権国による執行財の提供、あるいは、同じような考えを持つ国との提携のいずれかを選択することが考えられる。
(6) 公共財の提供者として、QUAD参加国は大きな優位性を有している。権威主義体制における政策のキーワードは「中央集権」と「統制」であり、「責任の分散」と「能力開発」ではない。U.S. Coast Guard(以下、USCGと言う)と日本の海上保安庁は、共同の強い歴史があり、麻薬取締りや違法・無報告・無規制(以下、IUUと言う)漁業の合同パトロールなどの活動や、フィリピンやベトナムを含む他の地域大国との多国間活動にも及んでいる。
(7) USCGは、米国のどの部局よりも多くの種類の任務において、幅広く外国との提携関係を結んでいる。International Port Security Program(国際港湾警備プログラム:IPSP)は、世界のサプライチェーンの健全性を高めるための最も適切な実行を奨励・促進し、シップライダー協定(Ship rider agreements)は、USCGが調印相手国に代わって、法令違反の疑いのある船舶を監視し、さらに調印相手国の法執行船に乗り込むことを認めるもので、米国とのより深い提携関係を求める国からますます需要が高まっている。
(8) USCGの戦略は、公共財の提供を主導する能力を阻害している。2003年以来、米国の戦略には2つの問題がある。1つは、北極圏、IUU漁業、サイバーセキュリティ戦略など、USCGの課題別戦略の多くは、目下の問題を詳細に分析しているが、これらの問題をUSCGの全体的な任務の文脈に位置づけることができない。第2に、最近発表された「2022-2026年沿岸警備隊戦略計画」のような広範な戦略の3つの柱(労働力、競争力、卓越した任務)は、戦略目標(たとえば、法の支配を維持するための公共財の提供など)とは連関していない。このように、業務計画や任務に固執し、戦略的目標の包括的な定義から切り離されているため、近視眼的な業務観に陥り、広い効果を達成するのを妨げている。
(9) ガバナンスの公平な執行を含む公共財の提供は、法の支配に基づく世界を支えるものである。公共財の提供を追求するグローバルな社会は、ネットワークの力を活用し、それぞれのつながりが次のつながりを強化する。中央集権的な権威主義体制では、互恵的な責任を共有することができないため、これができない。沿岸警備隊は、人道的な任務が複数あるため、この分野をリードする理想的な候補者といえる。これは、米国とそのQUAD4ヵ国の沿岸警備隊が、多極化した世界におけるルールに基づく秩序を守るための第一歩として、公共財の提供を任務の中核に据えることから始めるべきである。
記事参照:The US Coast Guard: Provide public goods for a free and open Indo-Pacific
(1) 一般的に各国の沿岸警備隊は、排他的経済水域(EEZ)内の限定された任務から、大洋における業務まで多くの任務を遂行している。沿岸警備隊の中心的な任務は、法の支配を維持するための公共財(Public Goods)を協力的に提供することである。これによって、沿岸警備隊の多様な任務の人道的性格が生かされ、国家安全保障戦略における役割が明らかになり、各国の沿岸警備隊間の協力が促進される。
(2) 現在は、法による秩序と公共財の提供が重要な課題となっている。公共財の提供がうまくいくかどうかで国家の選択肢が決まる。また、公共財の提供は、利害関係者が支配的な覇権国に依存するのではなく、共有された活動に焦点を当てることを可能にする。そして、法の支配を受け入れるか、そうでない覇権的支配を受け入れるかの違いを決定することになる。
(3) QUADが自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)を支援するために展開している戦略は、世界の沿岸警備隊の任務を検討する機会を提供している。FOIPは、法の支配を守るための協力的な取り組みで、QUAD参加国の沿岸警備隊はこの目標を推進する可能性を秘めているが、包括的な任務の優先順位について合意がない限り、目標を達成することはできない。FOIP戦略の協力的な基盤は、当初からの特徴であった。 日本のFOIP戦略は、2016年に安倍晋三首相(当時)によって、「海洋における法に基づく秩序への挑戦に協力的に対応するための手段 」として導入された。米国も同様に、「志を同じくする国々を経済、安全保障、政治的ガバナンスの提携に参加させる」と捉えた。2022年5月に発表されたQUADの各国首脳による声明でも、ガバナンスを中心的な公共財と表現し、この考えを代弁している。
(4) 中国は、伝統的な課題に付随して、海洋環境保護、水路安全、海洋における捜索救難、漁業資源の保護などの地域海洋ガバナンス公共財の供給が長期的に不十分と述べ、中国政府は自らを、特に海洋分野における主要な国際秩序の擁護者、グローバル・ガバナンスへの貢献者、国際公共財の提供者であると主張している。
(5) 法に基づく秩序は、単に法の存在だけでなく、平等で適切な執行を必要とする。この執行が秩序維持のために重要であると同時に、体制自体の正当性の重要な淵源と言える。インド太平洋地域の多くの国は、法に基づく海洋秩序を執行する国家能力を欠いている。したがって、これらの国は、1国の支配的な地域覇権国による執行財の提供、あるいは、同じような考えを持つ国との提携のいずれかを選択することが考えられる。
(6) 公共財の提供者として、QUAD参加国は大きな優位性を有している。権威主義体制における政策のキーワードは「中央集権」と「統制」であり、「責任の分散」と「能力開発」ではない。U.S. Coast Guard(以下、USCGと言う)と日本の海上保安庁は、共同の強い歴史があり、麻薬取締りや違法・無報告・無規制(以下、IUUと言う)漁業の合同パトロールなどの活動や、フィリピンやベトナムを含む他の地域大国との多国間活動にも及んでいる。
(7) USCGは、米国のどの部局よりも多くの種類の任務において、幅広く外国との提携関係を結んでいる。International Port Security Program(国際港湾警備プログラム:IPSP)は、世界のサプライチェーンの健全性を高めるための最も適切な実行を奨励・促進し、シップライダー協定(Ship rider agreements)は、USCGが調印相手国に代わって、法令違反の疑いのある船舶を監視し、さらに調印相手国の法執行船に乗り込むことを認めるもので、米国とのより深い提携関係を求める国からますます需要が高まっている。
(8) USCGの戦略は、公共財の提供を主導する能力を阻害している。2003年以来、米国の戦略には2つの問題がある。1つは、北極圏、IUU漁業、サイバーセキュリティ戦略など、USCGの課題別戦略の多くは、目下の問題を詳細に分析しているが、これらの問題をUSCGの全体的な任務の文脈に位置づけることができない。第2に、最近発表された「2022-2026年沿岸警備隊戦略計画」のような広範な戦略の3つの柱(労働力、競争力、卓越した任務)は、戦略目標(たとえば、法の支配を維持するための公共財の提供など)とは連関していない。このように、業務計画や任務に固執し、戦略的目標の包括的な定義から切り離されているため、近視眼的な業務観に陥り、広い効果を達成するのを妨げている。
(9) ガバナンスの公平な執行を含む公共財の提供は、法の支配に基づく世界を支えるものである。公共財の提供を追求するグローバルな社会は、ネットワークの力を活用し、それぞれのつながりが次のつながりを強化する。中央集権的な権威主義体制では、互恵的な責任を共有することができないため、これができない。沿岸警備隊は、人道的な任務が複数あるため、この分野をリードする理想的な候補者といえる。これは、米国とそのQUAD4ヵ国の沿岸警備隊が、多極化した世界におけるルールに基づく秩序を守るための第一歩として、公共財の提供を任務の中核に据えることから始めるべきである。
記事参照:The US Coast Guard: Provide public goods for a free and open Indo-Pacific
1月31日「理想的なインド太平洋地域の提携国としてのオーストラリアとカナダ―オーストラリア法学専門家・カナダ政治学者論説」(The Strategist, January 31, 2023)
1月31日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、オーストラリアCharles Darwin University 研究員John GarrickとカナダUniversity of Ottawa 上席研究員Margaret McCuaig-Johnston による“Australia and Canada are ideal Indo-Pacific partners”と題する論説を掲載し、そこで両名はオーストラリアとカナダがインド太平洋への関与を深めるために、より具体的で明確なインド太平洋戦略を立案し、実行に移すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) カナダのインド太平洋戦略によれば、同地域はカナダの今後50年において決定的に重要な役割を担うことになる。同戦略はインド太平洋諸国とカナダの協力の拡大を模索するもので、とりわけオーストラリアが最重要の同盟国になる可能性を示した。
(2) Global Affairs Canada(カナダ国際関係省)によれば、カナダとオーストラリアは強力かつ多面的な2国間関係を享受してきた。それは防衛分野から経済分野、さらには先住民問題などを含む社会分野にまで及ぶ。また両国は、中国から貿易による威圧を受けているという意識を共有し、その略奪的なビジネスのやり方による悪影響を受けてきた。カナダの戦略は、インド太平洋地域における友好国の対中国依存を和らげようとする、多様化の促進を目指すものである。
(3) QUADやAUKUSなどを通じて、オーストラリアはインド太平洋に密接に関与しながらも、諸外国やEUでさえ策定している包括的なインド太平洋戦略を欠いている。Anthony Albanese首相は就任直後に防衛戦略の見直しによって、資源の優先的配分やオーストラリア軍の配備などを再検討すると発表し、2023年最初にそれは発表された。しかしそれは、包括的なものでもなく、政府全体としての戦略でもなかった。
(4) われわれはかつて、諸外国や地域の多国間協調フォーラムなどと、オーストラリアおよびカナダとの関係のあり方を導く具体的な戦略を立案せよと提案したことがある。たとえば2020年に当時のカナダ外相は中国との関係を描写するのに「チャレンジ、競争、協調、共存」という言葉を使ったが、そうした標語は戦略的決定を下す際の役に立たない。
(5) この点において、カナダの戦略は5つの中核となる目標を掲げ、諸外国とどうすれば建設的に関われるかをはっきりさせようと試みてきた。その5つの目標とは、平和の促進、貿易や投資などの拡大、人間への投資と人間同士の繋がりの促進、持続可能で環境に良い未来の構築、インド太平洋における積極的な提携国になることである。こうした目標を掲げることで、カナダとオーストラリアがうまく協働できるようになるかもしれない。
(6) カナダとオーストラリアは防衛において密接に協力してきたが、だからと言ってカナダがあらゆる防衛協力に深く関わらなければならないわけではない。カナダは、AUKUSやQUADの参加国ではない。それでもカナダは、自国の利益を反映させるような持続的な努力をより効果あるものにするために資源を投じることができる。情報や防衛、対外政策プログラムなどでの協調の度合いを強化することで、こうした重要分野においてカナダは前進できる。
(7) うまく調整された取り組みでインド太平洋に関わることで、カナダは米英など伝統的同盟国に、もっと親密になりたいのだという意思表示を送ることになる。それに加え、カナダとオーストラリアは、インドや日本など志向を同じくする中流国家の連合としてだけでなく、東南アジア諸国や太平洋島嶼諸国などとも多くの利益を共有している。さらに、気候変動や生物多様性の保護などの問題では中国とも利害を共有しており、より積極的な関与にチャンスがある。
(8) カナダとオーストラリアは近年の地政学から、中国と向き合うための教訓を得てきた。カナダの戦略は、情報と専門知識の共有を促進し、地域の経済的つながりを深め、経済の多様化を促進することに貢献するものである。両国にとっての課題は、具体的なインド太平洋戦略を実施し、きわめて困難な関係性におけるバランスをとるように、さまざまな取り組みをチャンスへとつなげることである。しかし両国は、専制主義的な国家が自国に都合のよいように秩序を変えたり、アメリカが「アメリカ・ファースト」に回帰したりすることを想定していない。この可能性を考慮すれば、今後の課題を楽観視してはならない。カナダとオーストラリアの戦略は、目標が達成可能になるように明確なものでなければならず、それには十分な資源が投じられるべきである。
記事参照:Australia and Canada are ideal Indo-Pacific partners
(1) カナダのインド太平洋戦略によれば、同地域はカナダの今後50年において決定的に重要な役割を担うことになる。同戦略はインド太平洋諸国とカナダの協力の拡大を模索するもので、とりわけオーストラリアが最重要の同盟国になる可能性を示した。
(2) Global Affairs Canada(カナダ国際関係省)によれば、カナダとオーストラリアは強力かつ多面的な2国間関係を享受してきた。それは防衛分野から経済分野、さらには先住民問題などを含む社会分野にまで及ぶ。また両国は、中国から貿易による威圧を受けているという意識を共有し、その略奪的なビジネスのやり方による悪影響を受けてきた。カナダの戦略は、インド太平洋地域における友好国の対中国依存を和らげようとする、多様化の促進を目指すものである。
(3) QUADやAUKUSなどを通じて、オーストラリアはインド太平洋に密接に関与しながらも、諸外国やEUでさえ策定している包括的なインド太平洋戦略を欠いている。Anthony Albanese首相は就任直後に防衛戦略の見直しによって、資源の優先的配分やオーストラリア軍の配備などを再検討すると発表し、2023年最初にそれは発表された。しかしそれは、包括的なものでもなく、政府全体としての戦略でもなかった。
(4) われわれはかつて、諸外国や地域の多国間協調フォーラムなどと、オーストラリアおよびカナダとの関係のあり方を導く具体的な戦略を立案せよと提案したことがある。たとえば2020年に当時のカナダ外相は中国との関係を描写するのに「チャレンジ、競争、協調、共存」という言葉を使ったが、そうした標語は戦略的決定を下す際の役に立たない。
(5) この点において、カナダの戦略は5つの中核となる目標を掲げ、諸外国とどうすれば建設的に関われるかをはっきりさせようと試みてきた。その5つの目標とは、平和の促進、貿易や投資などの拡大、人間への投資と人間同士の繋がりの促進、持続可能で環境に良い未来の構築、インド太平洋における積極的な提携国になることである。こうした目標を掲げることで、カナダとオーストラリアがうまく協働できるようになるかもしれない。
(6) カナダとオーストラリアは防衛において密接に協力してきたが、だからと言ってカナダがあらゆる防衛協力に深く関わらなければならないわけではない。カナダは、AUKUSやQUADの参加国ではない。それでもカナダは、自国の利益を反映させるような持続的な努力をより効果あるものにするために資源を投じることができる。情報や防衛、対外政策プログラムなどでの協調の度合いを強化することで、こうした重要分野においてカナダは前進できる。
(7) うまく調整された取り組みでインド太平洋に関わることで、カナダは米英など伝統的同盟国に、もっと親密になりたいのだという意思表示を送ることになる。それに加え、カナダとオーストラリアは、インドや日本など志向を同じくする中流国家の連合としてだけでなく、東南アジア諸国や太平洋島嶼諸国などとも多くの利益を共有している。さらに、気候変動や生物多様性の保護などの問題では中国とも利害を共有しており、より積極的な関与にチャンスがある。
(8) カナダとオーストラリアは近年の地政学から、中国と向き合うための教訓を得てきた。カナダの戦略は、情報と専門知識の共有を促進し、地域の経済的つながりを深め、経済の多様化を促進することに貢献するものである。両国にとっての課題は、具体的なインド太平洋戦略を実施し、きわめて困難な関係性におけるバランスをとるように、さまざまな取り組みをチャンスへとつなげることである。しかし両国は、専制主義的な国家が自国に都合のよいように秩序を変えたり、アメリカが「アメリカ・ファースト」に回帰したりすることを想定していない。この可能性を考慮すれば、今後の課題を楽観視してはならない。カナダとオーストラリアの戦略は、目標が達成可能になるように明確なものでなければならず、それには十分な資源が投じられるべきである。
記事参照:Australia and Canada are ideal Indo-Pacific partners
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) THE PLA’S WEAK BACKBONE: IS CHINA STRUGGLING TO PROFESSIONALIZE ITS NONCOMMISSIONED OFFICER CORPS?
https://mwi.usma.edu/the-plas-weak-backbone-is-china-struggling-to-professionalize-its-noncommissioned-officer-corps/
Modern War Institute, U.S. Military Academy, January 23, 2023
By Major Matt Tetreau is an active duty United States Army strategist and student at Georgetown University’s Walsh School of Foreign Service.
2023年1月23日、米陸軍の現役少将で戦略家であるMatt Tetreauは、U.S. Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに" THE PLA’S WEAK BACKBONE: IS CHINA STRUGGLING TO PROFESSIONALIZE ITS NONCOMMISSIONED OFFICER CORPS? "と題する論説を寄稿した。その中でTetreauは、Steven Biddleが2004年に著したMilitary Powerでは、強大な敵の部隊に直面した際の生存率を向上させるために「近代的な兵力運用システム」が出現したものの、それを効果的に実行している国はほとんどなく、その要因の一つが下士官のレベルの問題にあることが指摘されていると紹介した上で、人民解放軍が、習近平の掲げる2049年までに人民解放軍を「世界クラスの軍隊」に変身させるという目標を達成できるかどうかは、Biddleが指摘するように下士官の能力に少なからず左右されるだろうと主張している。
(2) The Russian Arctic Threat: Consequences of the Ukraine War
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/2023-01/230125_Wall_RussianArcticThreat_0.pdf?VersionId=e8h73TdoOUjdJO3Y4nOTc4v5YRmpoZad
CSIS Brief, CSIS, January 25, 2023
By Colin Wall, an associate fellow with the Europe, Russia, and Eurasia Program at the Center for Strategic and International Studies (CSIS) in Washington, D.C.
Njord Wegge, a professor at the Norwegian Defence University College/Norwegian Military Academy
2023年1月25日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(CSIS)の準研究員Colin WallとノルウェーのNorwegian Defence University CollegeおよびNorwegian Military Academy の教授Njord Weggeは、CSISのウエブサイトに" The Russian Arctic Threat: Consequences of the Ukraine War "と題する論説を寄稿した。その中でWallとWeggeは、ロシアのウクライナ侵攻の影響は、北極に関する主要な外交の場が休止し、また、軍事的な緊張が高まるなど、北極圏に多大な影響を及ぼしているが、スウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟すれば、ロシアを除くすべての北極圏諸国が米国主導の同盟に加盟することになると説明した上で、この戦争によって、ロシアの北極圏における経済および安全保障における中核的な地位が低下したわけではないが、短期的には海や空はともかく、特に陸上戦闘能力という点で、北極圏におけるロシアの軍事態勢に少なくない影響が生じていると指摘している。その上でWallとWeggeは、ロシアに対する制裁措置や輸出規制により、今後、ロシアの北極圏に精密兵器を配備する能力が一定程度低下する可能性があるとの指摘もあることから、米国とNATOは、それぞれの新戦略を実行に移すにあたり、これまで優先的に取り組んでこなかった北極圏におけるこうした様々な変化を把握する必要があると主張している。
(3) The Maritime Fulcrum of the Indo-Pacific: Indonesia & Malaysia Respond to China’s Creeping Expansion in the South China Sea
https://www.andrewerickson.com/2023/01/cmsi-china-maritime-study-red-book-17-the-maritime-fulcrum-of-the-indo-pacific-indonesia-malaysia-respond-to-chinas-creeping-expansion-in-the-south-china/
China Maritime Study 17, China Maritime Studies Institute (CMSI), U.S. Naval War College, January 27, 2023
By Dr. Scott Bentley, a civilian analyst for the U.S. Department of the Navy
1月27日、U.S. Naval War College の教授Andrew S. Ericksonのサイトに、U.S. Department of the Navyの民間人専門家Scott Bentleyによる、“The Maritime Fulcrum of the Indo-Pacific: Indonesia & Malaysia Respond to China’s Creeping Expansion in the South China Sea”と題する研究論文の序論の一部が掲載された。その中で、①中国は現在、南シナ海の「9段線」の最南端、インドネシアとマレーシアの海岸に近い海域まで支配を拡大しようとしているが、両国は、中国からの圧力が強まっているにもかかわらず、通常どおりの活動を続けている。②インドネシアとマレーシアは2016年以降、南シナ海における東南アジアの領有権主張国の中で最も一貫して自己主張が強く、中国の支配力は南シナ海南部で最も脆弱である。③インドネシアは、同国が主張するEEZと中国の「9段線」とが重複する海域で操業する中国漁船を守ろうとする中国の海警船と直接対峙した後でさえも、積極的に中国漁船の操業を阻止し続けている。④マレーシアも中国の動きに対応し、紛争海域で石油・天然ガス開発事業を頑強に継続している。⑤米国はインドネシアとマレーシアの両国と強固で持続的な関係を築いており、この海域における拡張主義的な意図をもつ中国と対立する上で優位を保持しているといった内容が紹介されている。
(1) THE PLA’S WEAK BACKBONE: IS CHINA STRUGGLING TO PROFESSIONALIZE ITS NONCOMMISSIONED OFFICER CORPS?
https://mwi.usma.edu/the-plas-weak-backbone-is-china-struggling-to-professionalize-its-noncommissioned-officer-corps/
Modern War Institute, U.S. Military Academy, January 23, 2023
By Major Matt Tetreau is an active duty United States Army strategist and student at Georgetown University’s Walsh School of Foreign Service.
2023年1月23日、米陸軍の現役少将で戦略家であるMatt Tetreauは、U.S. Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに" THE PLA’S WEAK BACKBONE: IS CHINA STRUGGLING TO PROFESSIONALIZE ITS NONCOMMISSIONED OFFICER CORPS? "と題する論説を寄稿した。その中でTetreauは、Steven Biddleが2004年に著したMilitary Powerでは、強大な敵の部隊に直面した際の生存率を向上させるために「近代的な兵力運用システム」が出現したものの、それを効果的に実行している国はほとんどなく、その要因の一つが下士官のレベルの問題にあることが指摘されていると紹介した上で、人民解放軍が、習近平の掲げる2049年までに人民解放軍を「世界クラスの軍隊」に変身させるという目標を達成できるかどうかは、Biddleが指摘するように下士官の能力に少なからず左右されるだろうと主張している。
(2) The Russian Arctic Threat: Consequences of the Ukraine War
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/2023-01/230125_Wall_RussianArcticThreat_0.pdf?VersionId=e8h73TdoOUjdJO3Y4nOTc4v5YRmpoZad
CSIS Brief, CSIS, January 25, 2023
By Colin Wall, an associate fellow with the Europe, Russia, and Eurasia Program at the Center for Strategic and International Studies (CSIS) in Washington, D.C.
Njord Wegge, a professor at the Norwegian Defence University College/Norwegian Military Academy
2023年1月25日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(CSIS)の準研究員Colin WallとノルウェーのNorwegian Defence University CollegeおよびNorwegian Military Academy の教授Njord Weggeは、CSISのウエブサイトに" The Russian Arctic Threat: Consequences of the Ukraine War "と題する論説を寄稿した。その中でWallとWeggeは、ロシアのウクライナ侵攻の影響は、北極に関する主要な外交の場が休止し、また、軍事的な緊張が高まるなど、北極圏に多大な影響を及ぼしているが、スウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟すれば、ロシアを除くすべての北極圏諸国が米国主導の同盟に加盟することになると説明した上で、この戦争によって、ロシアの北極圏における経済および安全保障における中核的な地位が低下したわけではないが、短期的には海や空はともかく、特に陸上戦闘能力という点で、北極圏におけるロシアの軍事態勢に少なくない影響が生じていると指摘している。その上でWallとWeggeは、ロシアに対する制裁措置や輸出規制により、今後、ロシアの北極圏に精密兵器を配備する能力が一定程度低下する可能性があるとの指摘もあることから、米国とNATOは、それぞれの新戦略を実行に移すにあたり、これまで優先的に取り組んでこなかった北極圏におけるこうした様々な変化を把握する必要があると主張している。
(3) The Maritime Fulcrum of the Indo-Pacific: Indonesia & Malaysia Respond to China’s Creeping Expansion in the South China Sea
https://www.andrewerickson.com/2023/01/cmsi-china-maritime-study-red-book-17-the-maritime-fulcrum-of-the-indo-pacific-indonesia-malaysia-respond-to-chinas-creeping-expansion-in-the-south-china/
China Maritime Study 17, China Maritime Studies Institute (CMSI), U.S. Naval War College, January 27, 2023
By Dr. Scott Bentley, a civilian analyst for the U.S. Department of the Navy
1月27日、U.S. Naval War College の教授Andrew S. Ericksonのサイトに、U.S. Department of the Navyの民間人専門家Scott Bentleyによる、“The Maritime Fulcrum of the Indo-Pacific: Indonesia & Malaysia Respond to China’s Creeping Expansion in the South China Sea”と題する研究論文の序論の一部が掲載された。その中で、①中国は現在、南シナ海の「9段線」の最南端、インドネシアとマレーシアの海岸に近い海域まで支配を拡大しようとしているが、両国は、中国からの圧力が強まっているにもかかわらず、通常どおりの活動を続けている。②インドネシアとマレーシアは2016年以降、南シナ海における東南アジアの領有権主張国の中で最も一貫して自己主張が強く、中国の支配力は南シナ海南部で最も脆弱である。③インドネシアは、同国が主張するEEZと中国の「9段線」とが重複する海域で操業する中国漁船を守ろうとする中国の海警船と直接対峙した後でさえも、積極的に中国漁船の操業を阻止し続けている。④マレーシアも中国の動きに対応し、紛争海域で石油・天然ガス開発事業を頑強に継続している。⑤米国はインドネシアとマレーシアの両国と強固で持続的な関係を築いており、この海域における拡張主義的な意図をもつ中国と対立する上で優位を保持しているといった内容が紹介されている。
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