海洋安全保障情報旬報 2022年12月11日-12月20日

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12月12日「台湾が新型コルベットの火力を強化―香港紙報道」(South China Morning Post, December 12, 2022)

 12月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Taiwan to boost corvette firepower amid ‘ever-growing threats’ from PLA”と題する記事を掲載し、台湾はその海軍を強化するために「空母キラー」と呼ばれる5隻の新型コルベットの火力を強化しているとして、要旨以下のように報じている。
(1)    台湾は、台湾海峡の緊張が高まる中、北京に対する非対称防衛戦略の一環として、その
最新のステルスコルベットの火力を強化する予定である。「空母キラー」と呼ばれる5隻の新型コルベットは、2023年から台湾海軍のために建造される予定で、総計11隻建造予定のコルベットの後期型として2026年までに引き渡される予定である。台湾の国防部によれば、これらの後期型コルベットは2021年から就役が始まった前期型よりも多くの「雄風III型」超音速ミサイルを装備し、より速く、より遠くから目標を攻撃することが可能な兵器となる。台湾国防部は、数日前に議会に提出された調査のための報告書の中で、台湾海軍はコルベット後期型のこれらのミサイルの数を4基から8基に倍増させる、と述べている。一方、「雄風II型」として知られる旧型のミサイルは8基ではなく、4基搭載することになる。
(2)    台湾の造船会社である龍德造船は現在、前期型6隻のコルベットを建造中で、1隻目は
「塔江」と命名、就役し、2022年9月に海軍に引き渡された。2023年の年末までにさらに5隻のコルベットを引き渡す予定である。これらのコルベットには、雄風II型ミサイル8基、雄風III型 4基、「海剣II型」対空ミサイル16基が搭載される予定である。これらの兵器はすべて、政府によって設立された国家中山科学研究院が開発したものである。このコルベットには、76mm砲、「ファランクス」近接防空システム、T74機関銃も装備される。台湾国防部によると、コルベットの建造と兵器システムの総費用は387億台湾ドル(12億6千万米ドル)で、地上目標あるいは空母を含む海上目標を破壊することができるという。
(3)    台湾海軍は2023年、後期型5隻のコルベットの船体構造の入札プロセスを開始すると
国防部は発表しており、それによると、より高価な「雄風III」ミサイルを搭載するため、建造費は高騰し、総費用は378億台湾ドルとなるという。これらのコルベットは、プロトタイプである「沱江」の性能を向上したもので、より大規模な中国軍に攻撃された場合に対抗するための台湾の非対称戦戦略において重要な役割を果たすように設計されている。
記事参照:Taiwan to boost corvette firepower amid ‘ever-growing threats’ from PLA

12月12日「北極圏における安全保障力強化のため、利用されていない米国の資産を活用すべし―米専門家論説」(Modern War Institute, U.S. Military Academy, December 12, 2022)

 12月12日付のU.S. Military AcademyのシンクタンクModern War Instituteのウエブサイトは、U.S. Air Force Academyの研究員兼教官Kristen M. Heiserman米空軍少佐と同Academy教授Dr. Ryan Burkeの“WHITE HULLS IN THE NORTH: THE CASE FOR TAPPING UNUSED FEDERAL RESOURCES IN THE ARCTIC”と題する論説を掲載し、両名は米国が過去20年間、安全保障政策、安全保障戦略で米本土防衛を最優先事項としてきたが、北極圏については脆弱なままであり、この状況を改革する第1歩は北極の状況把握であるが、もっとも状況把握が必要な北極で状況把握が最も少ないと指摘し、そのために様々な提案が提起されているが、いずれも現在の問題を解決するには時間も予算もかかり過ぎるため、今、十分に活用されていない米国の資産、特にNational Oceanic and Atmospheric Administrationの船隊を活用すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は、認識できないものを抑止することはできない。21世紀の20年間の国家安全保障政策と戦略は、米本土防衛を最優先としてきた。祖国を守るという公約にもかかわらず、少なくとも政策の説明上、米政府は北極の脆弱性を受け入れ続けている。中国とロシアの北極圏における活動は地域の力学を複雑にし、統合抑止を強調する米本土防衛態勢の改訂を必要としている。これには、米政府全体のすべての機能を利用する重層的取り組みが必要であり、現在、米国は一部の機能に過度に依存し、他の機能を十分に活用できていない。今日の北極圏の安全保障にかかわる支配的な主張は、米国の北極圏の能力を強化するために、より多くの、たとえば砕氷船を取得することを提唱しているが、新しい機能の取得に焦点を当てると、既存の機能や利用可能な機能を見落とすことになる。米本土への脅威を効果的に発見、抑止、防御するために、米国は技術投資を継続し、U.S. NavyとU.S. Coast Guard の装備を改善する必要があるが、それが唯一の取り組みではない。後日、より多くの能力を待つことができるようになるまでの間、今ある溝を埋めるために、U.S. Department of Defenseは状況把握能力を高めるために、北極圏に配備するために十分に活用されていない連邦資産をより良く、より意図的に活用する必要がある。
(2) 米本国に対する脅威として列挙されるものを抑止する我々の能力は、現在および将来の戦略的対立者の能力を速やかに探り出す能力にかかっている。米本国を確実に防衛するには、北極圏とその周辺で活動している潜在的な敵に関する情報を迅速に収集、処理、分析、評価、および活用する必要がある。どのような状況でも、有能な防御は確固とした状況把握から始まるが、北極圏は状況把握が最も必要であるにもかかわらず、状況把握が最も少ない場所である。
(3) 海氷の融解に伴い、北極圏における海洋活動が増加し、米国の状況把握能力の重要性が高まっている。不活発な状況把握システムの老朽化の危険性が高まるにつれて、発見、抑止、防御する能力が低下する。米政府は北極圏の安全保障への取り組みの方向を変え、現在利用可能な機能を活用しながら、新機能の開発を待って配備する必要がある。そして、北極圏の状況把握を向上させるための第1歩は、北極圏の永続的な米国の力を配備することである。
(4) 米国の政策立案者と防衛計画立案者は極北に目を向け直している。8月、Lisa Murkowski上院議員は北極関与法(Arctic Commitment Act)を導入し、U.S. NavyとU.S. Coast Guardに米国北極圏での永続的な展開を維持することを義務づけた。同様に、国家安全保障戦略と国防戦略で最近、北極が繰り返し取り上げられていることは、北極圏を主要な国家安全保障上の懸念事項の1つであることを示している。
(5) 国防戦略の最優先事項である米本土防衛を担任するNorth American Aerospace Defense Command (以下、NORADと言う)司令官兼U.S. Northern Command(以下、USNORTHCOMと言う)司令官 Glen VanHerck米空軍大将が述べたように、米国は「北極圏で日々競い合っていく」ために必要な永続的な配備をできていない。VanHerck司令官また、北極圏の永続性を可能にするための状況把握、意思疎通、およびデータ収集の優先順位を概説している。歴代USNORTHCOM司令官は、より多くの北極圏の港を求めてきた。提案された解決策の1つは、アラスカのノーム港を中心にしているが、その案は十分な速さで進展していない。
ノーム港を改修するには、完了するまでに推定4億9,100万ドルが必要である。ただし、完了日は報告されていないため、この港を北極圏の作戦の拠点として使用する意図は、せいぜい数年先であり、基幹施設構築の進度が遅れているように、技術を急速に獲得する我々の能力も遅れている。
(6) 1940年代、政府は利用可能な英智を採用して、活用することにより、最先端の技術を急速に開発してきた。技術の進歩は戦争の要求に照準を合わせきた。国全体の取り組みによって、当時の既存の製品が国防に再利用できることが明らかになった。しかし、今日の状況把握技術の取得と更新の速度が遅いということは、脅威に追いついていないことを意味する。既存のシステムの多くは現代の攻撃的な脅威に比べてほとんど時代遅れである。
(7) ラブラドールからアラスカ国境まで3,000マイル(約4,800km)にわたって極北に配備されているNorth Warning System(北方警報システム:以下、NWSと言う)は、旧式で現在廃止されている。NORADの元副部長Jamie Clarkeカナダ海軍准将がNWSではロシアの爆撃機を追跡できないことを警告した後、カナダ政府はNWSの更新に50億ドル拠出を約束した。米政府は、長期的には現代の攻撃的な脅威から極北を守るというカナダ政府の誓約と一致する必要がある。しかし、短期的には、U.S. Department of Defenseは遅々として進まない国防装備取得取得計画が追いついてくるのを待つことはできない。米国が今日の脅威環境に対応するためにNWSを更新するまでに、敵は新しい能力を開発しているだろう。
(8) 見極める必要がある。そうでなければ、U.S. Department of Defenseは明日の問題に対する解決策を追求するのではなく、今日の問題の解決策を追いかけ続けることになる。この課題に対処するため、U.S. Department of Defenseは既存の、しかし十分に活用されていない資産をより意図的に統合することにより、コスト曲線を反転させ、責任ある予算支出を促進し、能力の配置を加速することができる。米国は北極圏の国ではあるが、U.S. Department of Defenseは、通信、状況把握、および極北での永続的な配備を提供するための適切な資産を持っていない。元U.S. 2nd Fleet司令官Andrew “Woody” Lewis U.S. Navy中将は、米国が継続的な展開を欠いている場合、北極圏で競い合わなければならなくなると警告している。この問題解決のため、U.S. NavyとU.S. Coast Guardは北極戦略における部隊の展開の向上を求めた。特に、U.S. Navyの2021年の「ブルーアークティック」戦略は、ロシアと中国が「持続的にU.S. Navyが存在しない」北極圏の安定に挑戦すると述べている。海軍と同様に、U.S. Coast Guardの北極戦略は、他の要件の中でもとりわけ、「主権を維持するために、自由に物理的に部隊を展開する」必要性を明らかにしている。U.S. NavyとU.S. Coast Guardはともに、北極シールド作戦、北極圏エッジ演習、ICEXなどの毎年恒例の北極圏での演習に参加している。しかし、これらは一時的な予定された事象であり、米北極圏での持続的な海上部隊の展開には不十分である。
(9) 北極コミットメント法がU.S. NavyとU.S. Coast Guardに北極圏での永続的な配備を義務付けいているのには理由がある。北極海航路は現在、1年を通じて通航が可能であり、低温、不安定な海、予測不可能な氷の流れにより、通常、北極圏の大部分が通航不能になるが、環境は変化してきている。
(10)  U.S. NavyとU.S. Coast Guard は季節ごとの演習に参加し、1年を通じてみた場合、時折北極圏で行動しているが、永続的な部隊の展開、ひいては状況把握に関しては、我々は的外れな行動をしている。U.S. NavyとU.S. Coast Guardの新しい北極圏戦略は理論的には優れているが、意図を達成するために適切な資産がなければ役に立たない。U.S. NavyとU.S. Coast Guardも、北米北極圏で一年中作戦を行う能力も資源も備えていないため、どちらも実施する意思がない。幸いなことに、北極圏への米国の力の展開には、砕氷船に依存しない実行可能な解決策がある。
(11)  National Oceanic and Atmospheric Administration(米国海洋大気庁:以下、NOAAと言う)の船舶は、連邦海洋部隊の一部である。NOAA実動隊の船は、NOAA実動隊の将校団によって指揮され、NOAA実動隊のOffice of Marine and Aviation Operations(海洋航空作戦局:以下、OMAOと言う)の指揮系統の下で運用されている。NOAA実動隊は、300人強の将校の小さな組織である。NOAA実動隊船舶部隊は、U.S. NavyとU.S. Coast Guardよりも米国が定義した北極圏でより活発に活動している。NOAA実動隊の15隻の研究および調査船は、海図、高潮モデリング、気候研究、および漁業割当のデータを収集し、米国の排他的経済水域の400万平方海里以上を航行する。船体を白く塗装した6隻のNOAA実動隊の船舶は1年氷(板状の軟氷がさらに氷結し厚さ30cm以上、2m未満に成長し、1年を経過していない氷を指す:訳者注)を砕氷できるよう耐氷構造になっている。海軍艦艇は耐氷船体を有しておらず、U.S. Coast Guardには2隻の砕氷船がある。
(12) 米国の統合抑止力、海上への部隊の展開、配備、状況把握を強化するために、USNORTHCOMとNORADは、北極圏で運航されているNOAA実動隊の船舶を利用して、海上警戒を支援する必要がある。情報共有はこの任務の基盤であり、NOAA実動隊は貢献することができる。USNORTHCOMは、情報を共有するために、Federal Bureau of Investigations(連邦捜査局)、U.S. Customs and Border Protection(米国税関・国境警備局)、U.S. Maritime Administration(米国海事局)、Canadian Marine Security Operations Centresなどの省庁間提携との関係を宣伝しているが、この省庁間提携は間違いなく北極圏にとって重要な環境情報の最も強力な提供者であるNOAA実動隊についての言及がない。
(13)  2023会計年度に要求された69億ドルの予算によると、NOAA実動隊は年間さらに460平方海里のアラスカ北極海域を調査する予定である。U.S. Department of Defenseは北極圏の状況把握を強化するためにその拡大を活用する必要がある。排他的経済水域など、国の管轄権を超えた海域から情報を収集するためにパッシブシステムを使用することは合法である。NOAA実動隊の船舶は、低周波アクティブソナーなどの機能を利用して、海底の脅威を見出し、追跡し、水中監視のためにソナーデータをNORADに送信することができる。
(14) 軍からの連絡将校は、戦闘任務に当たる軍司令部内の情報共有を容易にする。NOAA実動隊は現在、U.S. Indo-Pacific Command(以下、USINDOPACOMと言う)に常駐する連絡将校が1人のみである。USNORTHCOMとNORADは、NOAA実動隊と他の貴重な国防および安全保障能力を発揮するために、常駐のNOAA実動隊からの連絡将校を必要としている。NOAA実動隊のデータ収集の取り組みは、NORADとUSNORTHCOMの状況把握の追求に直接的な利益をもたらす可能性がある。同様に、NOAA実動隊の運用は、情報共有の改善を通じてU.S. NavyとU.S. Coast Guard の北極圏での準備を高め、情報の支配に貢献する。情報の優位性は上位の指導者の意思決定の優位性を可能にする。これらは単なる学術的な提案ではなく、法律や部門間の規制に根ざしており、将来の北極圏の安全保障のために今従わなければならない。
(15) 米国憲法の前文は、政府が国の「共通の防衛を提供する」ことを命じている。連邦法とNOAA実動隊の使命声明は、「戦争時または国家緊急事態時の軍隊」に将校を提供することを命じている。戦争または国家緊急事態以外では、連邦法はまた、NOAA実動隊–U.S. Department of Defenseの規則を「戦争時の任務に備えて、平和時にNOAA実動隊と軍事部門との協力を規定する」ことを義務付けている。大統領はまた、国家非常事態宣言に従ってNOAA実動隊の船を武装することができる。連邦法および義務付けられた省庁間の規則に準拠して、NOAA実動隊が発出した指示はNOAA実動隊の将校は「平時または国家緊急事態中にU.S. Department of Defenseに勤務することができる」と述べている。NOAA実動隊は次のように規定されています。
a.「U.S. Department of Defenseの計画と・・・調整し、・・・国防に関連する問題で支援を提供する」。
b.「U.S. Department of Defenseが望ましいと考えるような訓練計画を実施する」。そして
c.「必要に応じてU.S. Department of Defenseとの連絡を維持し、国防を支援するためにその施設と人員を迅速かつ秩序正しく利用することを確保する」。
(16) 連邦法とNOAA実動隊の任務は、平時、国家緊急事態および戦時においてU.S. Department of Defenseとの協力を必要とする。連邦法は、NOAA実動隊とU.S. Department of Defenseの省庁間規則がこれらの協力の義務と機能を規定することを義務付けており、NOAA実動隊は必要に応じて軍隊との連係を維持することが義務付けられている。北極圏は米国にとって脆弱な正面であり、この連係の取り決めは、危険を軽減し、状況把握の強化を通じて国防と安全保障を改善するために必要である。このため、NOAAの連絡将校をNORADとUSNORTHCOMにも常駐させ、連係していかなければならない。NORADとUSNORTHCOMの使命の性質上、強力な省庁間提携と60を超える連邦機関の現場に配置された連絡将校との日常的な調整を備えた政府全体の取り組みが必要である。USNORTHCOMへのNOAA実動隊隊の連絡官の地位は、非常勤の補助的な役割である。客観的な法的、規制的、および任務の要求にもかかわらず、米本土防衛と状況把握を改善する機会を逃すような機能的ではない連絡調整がそこにはある。
(17) NOAA実動隊は、300人を超える正規将校を擁する小さな組織である。新しい機会を追求するには、展望と組織の危険を受け入れる意欲が必要である。強化されたU.S. Department of Defenseとの提携の潜在的な国防と安全保障の貢献により、OMAO指導部は、現在の将校の配置先を評価し直し、再利用して、そのような提携を必要とするNOAA実動隊の使命と指示を再調整することになるはずである。さらに、NOAA実動隊とOMAOの国家安全保障への貢献を強化する正式なU.S. Department of Defenseとの提携は、組織の可視化を拡大し、米国の国防態勢を具体的に前進させる予算獲得の機会を増加させることになる。政策の分析担当者、戦略家、行動計画立案者にとって、必要性は明らかであり、貢献は否定できないため、決定は明確である。それは全ての点で勝利への提案である。USNORTHCOMの指導部はそれを望んでいる。では、なぜそれが起こらないのか?
(18) 港が完成し、砕氷船が建設され、政策が策定されるのを待つ間、現在と将来の課題の間の溝を埋めるために、利用可能な米国の資産を今すぐに活用する必要がある。北極圏で完全な状況把握を獲得し、脅威を発見、抑止、防御する能力は、重要で、戦力を増強してくれる連邦内の提携組織との間に連絡将校を配置し、NORADおよびUSNORTHCOMの運用状況に統合することにより、海洋領域において連邦海洋学船団(Federal Oceanographic Fleet)の資産を計画的に利用することに集中すべきである。これらは、連邦法、省庁間の規則および使命にも根ざした論理的で効率的な提案である。我々が行う必要があることは、法律に従い、規則を適用し、定められた使命を追求することだけである。これ以外のものは、米本土防衛を不必要に危険にさらすことになる。
記事参照:WHITE HULLS IN THE NORTH: THE CASE FOR TAPPING UNUSED FEDERAL RESOURCES IN THE ARCTIC

12月14日「QUADにラドフォード・コリンズ協定が必要な時が来たのか?―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, December 14, 2022)

 12月14日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、ASPIの研究インターンBen Stevensの “Time for a ‘Radford–Collins’ agreement for the Quad?”と題する論説を掲載し、ここでStevensはQUAD4ヵ国の海軍が参加しているマラバール演習の重要性が増している現在、有事の際に米豪海軍の間に海上責任の明確な領域を確立するために1951年に調印されたラドフォード・コリンズ協定を現在のQUADの体制に適合するように改定することが、中国海軍の増強に対抗するために有効であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1992年に見切り発車的に始まった毎年恒例のマラバール海軍演習は、QUAD参加の日米豪印にとって重要な戦略的発展の基礎となっている。4ヵ国の艦艇は、第26回マラバール演習を終了したばかりである。当初の目的は、米海軍とインド海軍の間の相互運用性を向上させることであり、長年にわたって演習には少数の艦艇が参加していた。2007年には、日米豪印の艦艇が参加したが、それは中国の怒りを引き起こし、4ヵ国のそれぞれにマラバール演習は安全保障の関係を構築するものとして非難する外交文書または抗議文書を送りつけた。オーストラリアは、2020年までマラバール演習に再び参加することはなかった。
(2) マラバール演習の拡大は、QUAD参加国海軍間の関係強化を反映している。日米豪印が「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ( Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness:IPMDA)」を発表したことも歓迎すべき一歩だが、日米豪印の海洋安全保障協定を正式に締結するには、さらに多くのことが必要である。新しいパートナーシップは、地域諸国が衛星追跡データを利用し、船舶を監視して共通の運用状況を可能にするという理由で有用である。しかし、台湾海峡などで紛争が発生した場合の海洋責任の領域を明確に決定する構想によって補完される必要がある。インドと日本を提携国とするようなラドフォード・コリンズ協定の改定は、潜在的な解決策を提供するであろう。
(3) 協定締結に当たったU.S. Pacific Fleet司令長官(当時)Arthur Radford大将とオーストラリア海軍参謀総長John Collins少将にちなんで名付けられたラドフォード・コリンズ協定は、有事の際に米海軍とオーストラリア海軍の間に海上責任の明確な領域を確立するために1951年に調印されたものである。協定はまた、海上貿易の自由な流れを確保するための責任を分割している。担当海域は、南西太平洋とANZAMと呼ばれるアングロ・ニュージーランド・オーストラリア・マラヤの海域であり、海域はインド洋東部からニュージーランドまで、そして南極海を越えてニューギニア海域に南から北に広がる海域である。ラドフォード・コリンズ協定は、今でも海洋の影響の領域を調整するための有用な手段であるが、新しい課題と提携国はこの協定の改定を必要とする。ラドフォード・コリンズ協定は、現在といくつかの類似点を共有する時代に署名されたが、大規模な海上部隊を保有するようになった中国の出現と拡大する中ロの軍事的結合は、この地域の勢力の均衡を変えた。中国海軍の水上艦艇及び潜水艦部隊と長距離極超音速ミサイルの継続的な増強は、戦争中の海上貿易の防衛をより困難にするであろう。中国政府が、南シナ海で攻撃的な海上グレーゾーン戦術を継続的に使用していることは、地政学的目標を達成するために海軍力を使用する意欲を示している。
(4) 中国海軍には現在、空母、水上戦闘艦、長距離ミサイルを装備した潜水艦を含む355
隻の艦艇を保有しており、海上交通路の艦船を攻撃することができるだろう。オーストラリアのサプライチェーンと輸出に重大な中断があれば壊滅的な結果を招くであろう。海上封鎖の潜在的な影響は、ロシアによるウクライナの港湾封鎖の悲惨な経済的影響を見れば明らかである。インド太平洋の海上交通路が脅かされた場合にその防衛を支援するために、米軍とだけではなく、インド軍と自衛隊との海上における作戦調整が必要となる。インド太平洋における英仏海軍の展開の最近の増加は、南シナ海での中国のグレーゾーン活動の増加に直面して、地域の航路を保護することを主な目的としている。その結果、オーストラリア、英国、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールによる5ヵ国防衛協定(Five Power Defence Arrangements、以下FPDAと言う)は、ラドフォード・コリンズ協定に新たな重要性と関連性をもたらす可能性がある。FPDAは、QUADと同様に、多国間海軍演習の促進にも引き続き役立っている。QUADの発展は、世界的な法に基づく秩序の保護における歓迎すべき一歩である。QUADの4ヵ国はすべて、公海を航行する航海の自由を確保し、商取引の流れが強制力から解放されることに関与している。QUADは依然として戦略的なフォーラムであるが、マラバール演習で強調されているように、提携国の協力拡大を促進するのにも役立っている。
(5) 協力関係の改善にもかかわらず、日米豪印はインド洋、太平洋という2つの大洋に跨がっており、いくつかの安全保障問題について意見が分かれている。これには、AUKUSの長期的な影響に関するいくつかのインドの分裂が含まれる。しかし、インドの主要な防衛シンクタンクは、日本のシンクタンクと同様に、AUKUSに関してはほとんど好意的な記事を作成している。国によって多少の違いはあるものの、QUAD内には法に基づく世界的な秩序を守るという共同の誓約があり、多国間のラドフォード・コリンズ協定はその使命を支援することができる。最終的に、QUADは定期的で共同の「海軍協力と海上輸送指導(naval cooperation and guidance for for shipping’ operations)」作戦の機会を提供し、商船を保護するための協力を促進するのに役立つ。オーストラリアと米国の海軍は、ベルブイ演習のような多国間商船保護演習にすでに定期的に参加している。Pacific Indian Ocean Shipping Working Group(太平洋インド洋海上輸送作業部会)のような有用な国際フォーラムもある。 日本とインドは、ベルブイ演習や作業部会には参加していない。
(6) マラバール演習の重要性が増し、日米豪印が「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ」を設立したことは、中国の侵略の可能性に対する地域の海上交通路の防衛に協力したいという明確な願望を示している。ラドフォード・コリンズ協定は、共通の脅威に直面して、海洋責任、協力、意思疎通の道筋を確立するために作成された。協定を改定し、協定のQUAD版を策定することにより、提携国は海洋責任の領域を明確に規定し、戦争が発生した場合の共通の海軍通信と手順を形式化することができる。最終的には、改定されたラドフォード・コリンズ協定は、オーストラリアとその同盟国がインド太平洋における共同の行政、能力、運用計画を改善するのに役立ち、このような不確実な時期にある程度の確実性をもたらすであろう。
記事参照:Time for a ‘Radford–Collins’ agreement for the Quad?

12月15日「世界規模の海戦に備える―米専門家論説」(Real Clear Defense, December 15, 2022)

 12月15日付の米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseは、Yorktown Instituteの創設者Seth Cropseyの” Global Naval War”と題する論説を掲載し、ここでCropseyは、ユーラシアでの紛争の主要な戦力となる米海軍は、戦備を拡大して、より良い資源を提供しなければならないと、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は、ユーラシア大陸を中心とした世界に跨がる海上での戦争の可能性に直面している。これはウクライナ戦争の結果に関係なく言えることで、米国に敵対する国家にとって、米国の弱点や能力の限界を認識することは、より広範な紛争を引き起こす大きな動機となり得る。現在の地政学的状況の利害関係はユーラシアにあり、米国の2大競争相手である中国とロシアに起因している。中国は依然として共産党支配の独裁国家で、プーチンのロシアはネオ・ファシズムの独裁国家であることを露呈している。
(2) 今のロシアと中国は、旧ソビエト連邦(以下、「旧ソ連」という)の延長上にある。ロシアは旧ソ連の中核的領土を占め、旧ソ連の法的・思想的後継者であり、さらに旧ソ連で訓練された諜報・保安要員が活動している。習近平の中国は、部分的には最後の中華帝国と中華民国の延長であるが、中国共産党は旧ソ連共産党の直接的な援助を受けて設立され、その組織的構造は旧ソ連共産党とほぼ同じである。
(3) これまでは国際貿易において大国が世界の一角を独占することが可能であった。しかし、国際化された経済システム、つまり自由貿易と自由商業の原則に立つシステムでは、国際的な相互作用の影響は非常に大きい。ロシアや中国のような巨大な国家が、その国内政治システムを存続させるには、ユーラシア大陸全域で国際システムを再編成しなければならない。そして、そのためには、米国が主導する国際システムの破壊が必要となる。
(4) ユーラシアの紛争は、海戦に関わるものでもある。黒海、東地中海、ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、南シナ海、東シナ海はいずれも世界貿易の要衝であり、ユーラシア沿岸の閉鎖的な海域、商業・戦略の結節点が最大の火種になる。覇権争いは陸上での要素もあるが、基本的には海戦に関わる性格を持つ。中国人民解放軍が、台湾への攻撃と米国およびその同盟国との海戦を同時に行うという明確な目的のためにその能力を拡大しているのは明らかである。
(5) ヨーロッパでは、ロシアがウクライナで地上戦を展開しているため、それほど顕著ではない。しかし、ウクライナでさえも、ロシアの目的は性格的には海上にある。ロシアは、その生産力に加え、世界の小麦、トウモロコシ、大麦、肥料の供給をロシア政府に握らせることになる国を征服しようとしている。地中海を支配し、中東で決定的な役割を果たし、スエズ運河の水門を管理するためにウクライナは理想的な拠点となる。このように、ロシアのような大陸的な大国であっても、海洋戦略を採っているのである。
(6) 米国は、それぞれの脅威に個別に対処できるが、次の2つの問題がある。
a.これらの脅威は次々と現れる可能性が高い。ユーラシア大陸を横断した作戦が協調して行われる可能性がある。その場合の戦力の調整という問題が過大評価されている。ロシアが潜水艦を配備して西太平洋で中国を支援する場合は別として、中国とロシアが同じ戦域で一緒に戦う必要はない。したがって、問題は作戦上の調整でも、戦域戦略上の調整でもなく、政治的なレベルでのごく一般的な調整、または場当たり的なものになるであろう。大国同士の戦争は作戦上予見可能である。それは、大量の人員と資材を発見されずに準備態勢に移行させることが困難だからである。
b.これらの脅威を抑止できるのは、大規模な戦争に備えた包括的な軍事力だけであるが、米軍にはその備えがない。大規模な対立を維持するための備蓄、人員、産業基盤がないのである。ウクライナは、米国の155ミリ砲弾の年間生産量を2週間で、対戦車誘導弾の年間生産量を2カ月で使い果たすだろう。ウクライナの無人航空機システムは3回程度の任務で、90%破壊される。戦争には膨大な費用がかかり、大量の装備が必要となる。これは陸上でも海上でも同じである。
(7) 米国の同盟国は、一見軍事的優位性をもつが、長期的な大国間戦争を戦い、勝利するための備蓄を欠いていることを認識するであろう。多面的な戦争は、米国の能力にとって重圧となる。米国と敵対国の間に能力格差があっても、欧州、アジア、中東で同時に起きる作戦が米国を破滅させると予想するのは妥当かもしれない。しかし、これは防ぐことができる。米国は紛争抑止力を取り戻さなければならない。
(8) 将来のユーラシア紛争の主要な戦力となる米海軍は、戦備を拡大して、より良い資源を提供しなければならない。 今年の米国の国防授権法(NDAA)は、Biden政権最初の提案よりも450億ドル多く予算を提供して始まった。 しかし、これは初期の最小限の動きである。 U.S. Department of Defenseは、中国の戦闘艦艇が現在の340隻から2025年までに400隻、つまり毎年20隻ずつ増加すると予想している。米国が毎年20隻ずつ建造すれば、2025年には中国の現在の艦隊の規模をわずかに上回ることになるが、Biden政権はその半分すら建造する計画はない。
(9) 米国は、海軍の新型コンステレーション級フリゲートの建造と就役を加速し、新型フォード級空母の就役を迅速に行うべきである。 また、退役していく潜水艦が優れた戦闘力を持つものであれば、建造数を上回る速度で退役させてはならない。これらすべてを支えるために、海軍に限らず軍隊は、シーマンシップと能力の水準を犠牲にすることなく、はるかに効果的な人的採用を行わなければならないのである。
記事参照:Global Naval War

12月16日「米国によるフィリピンへの軍事支援に頼りすぎてはならない―中国南海研究院研究員論説」(South China Morning Post, December 16, 2022)

 12月16日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院の上席非常勤研究員Mark J. Valenciaの“US military support for Philippines in the South China Sea is no sure thing”と題する論説を掲載し、そこでValenciaは南シナ海での論争に関して、米比相互防衛条約に基づく米国によるフィリピンへの軍事支援は、米国の政治家らが言うほどには確実なものではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Kamara Harris米副大統領は、南シナ海におけるフィリピンの軍および公用の船舶・航空機に対する攻撃は、米比相互防衛条約に基づく米軍による防衛義務を発動させると述べ、フィリピンへの軍事支援の誓約を強調した。しかし、南シナ海における米国による軍事支援は確実なものではない。
(2) 同条約の第1条には、「米比は双方とも、その国際関係において武力の使用を控える」と書かれている。また第4条には、「太平洋地域におけるいずれかの締約国に対する武力攻撃は、自国の平和及び安全に対して危険であり、その憲法上の手続に従って共通の危険に対処するために行動する」とある。第5条は「武力攻撃」について、締約国の「都市部」に対する攻撃、太平洋の主権下にある島嶼領域への攻撃、太平洋における軍および公用の船舶や航空機への攻撃と定義している。そして、「太平洋」には南シナ海も含まれるとHarrisは明言した。
(3) 中国とフィリピンの間に武力衝突が起きた場合、相互防衛条約が発動されると理解されている。しかし第1条を読めば、フィリピンから先に攻撃をしかけてはならず、その場合は条約が発動しない可能性がある。また中国は「グレーゾーン」戦術を採用することで米国の軍事的反応を避けようとしているので、中国が先にフィリピンに攻撃をしかけるということはありえなさそうである。実際に、2011年3月のリード堆、2012年4月のスカボロー礁、2021年11月のセカンド・トマス礁などの事件でそうであったように、中国によるフィリピンの海洋調査や漁船、民間船の妨害などに対し、米国が支援に駆けつけることはなかった。
(4) もし中国軍によるフィリピン軍に対する明確な攻撃が起きたとしても、米国の介入は確実というわけではない。実際に米国が介入するためには、裏で多くの交渉がなされるであろう。また、上述したように第4条には締約国の「憲法上の手続きに従って」行動するという文言があり、それは手続きの遅れや、制裁など非軍事的対応に帰結する可能性をもたらす。大統領はこの文言を、軍事力行使を回避する口実として利用できるのである。
(5) 確認しておくべき論点は、南シナ海におけるフィリピン防衛に関する米国の政治家達による約束は、一部のフィリピン人が考えるほど固いものではないということである。また、フィリピンに対する米軍支援の強度は、防衛協力強化協定に基づき軍事施設をどの程度利用できるかに依存している。要するに米国によるフィリピン支援の決定にはいくつもの要因が影響するのである。もし米国が条約を発動させなければ、米国の信頼は損なわれるであろうが、中国との衝突を避けることにより多くの利益を見出す可能性がある。フィリピンの指導者はこれらの点について現実的であるべきであり、誤った前提を抱くべきではない。 
記事参照:US military support for Philippines in the South China Sea is no sure thing

12月17日「アジア太平洋について―中国軍事研究者論説」(China US Focus, December 17, 2022)

 12月17日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusは、中国人民解放軍の軍事科学院戦争研究院の研究員曹延中の“Reflections on the Asia-Pacific”と題する論説を掲載し、そこで曹延中はアジア太平洋の平和と安定を乱そうとしているのは中国ではなく米国であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) アジア太平洋は今日、世界全体の経済成長にとって重要な地域である。今後アジア太平洋諸国の経済・貿易協力は拡大を続け、地域の国々の成長と繁栄をもたらすであろう。アジア太平洋の成長と繁栄の基盤にあるのは、この地域が40年以上、平和と安定を維持してきたという事実である。
(2) しかしアジア太平洋では領土や海洋の領有権および主権をめぐる論争が日に日に強まっている。そして、特定の大国が地域の安全保障に深く関わり、操作しさえしている状況である。そのため地域の平和と安定を維持することが困難になっている。地域の国々はこれまで、ある危機や衝突が戦争へと拡大することを避けてきた。とりわけ中国は論争解決の手段としての対話と協議を重要視することで、高いレベルの戦略的自制心を維持してきた。しかしそれでも、アジア太平洋が今後も平和を維持できるかは疑問視されている。
(3) アジア太平洋の国々は紛争や戦争が起きることを望んでいない。地域の平和は地域の発展の礎である。そして中国は地域の平和と安全のために活動してきた。他方で確かに、アジア太平洋の平和に影響を及ぼす不安定要因が増加しつつあることを我々は目撃している。しかしそれでも、南シナ海を例にとってみると、ほとんどの関係各国が平和的手法でそれを解決することを望み、紛争へと事態を拡大させないことに合意している。
(4) そうであるならば、一体誰が、なぜその地域の平和にとっての危険をもたらそうとしているのかが問われるべきであろう。米国はアジア太平洋における重要な行為者である。しかし、アジア太平洋における平和の欠如が米国にもたらす影響は、地域の国々にもたらすそれほど大きなものではない。Biden政権が公表した国家安全保障戦略は、米国の競合国の封じ込めに焦点を当て、中国との対決志向に変容している。周知のとおり、米国はQUADやAUKUSなどを推進し、軍事同盟を強化し、アジア太平洋諸国に対し、どちらの側につくかをはっきりするよう求めている。
(5) 習近平国家主席は、「グローバル安全保障構想」を打ち出し、協調的で持続的な安全保障の構築を強調した。その鍵となるのは、すべての国の主権と領土的保全を尊重する決意である。基本的な規約は、国連憲章の目的と原則の遵守であり、特定の国家が定義した規則や秩序に従うことではない。そして、平和的方法や対話によって論争を解決することが基本的なやり方となる。
(6) アジア太平洋における今後の平和の維持は、次の3つの点にかかっている。第1に、米国がアジア太平洋の安全保障における自国の役割と機能をどう定義するか。第2に、アジア太平洋諸国、特に米国の同盟国が自国の役割をどう定義するかである。第3に、紛争や意見の対立を抑制し、危機を管理し、地域の安全保障をともに守るという構造を構築するために、平和、協力、対話、協議の精神を堅持することである。
記事参照:Reflections on the Asia-Pacific

12月17日「ベトナム、戦略的に徐々にロシア離れ―フィリピン専門家論説」(Asia Times, December 17, 2022)

 12月17日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、フィリピンのアジア問題専門家でThe Polytechnic University of the PhilippineのRichard J. Heydarianの“Russia, Vietnam slowly but surely parting strategic ways”と題する論説を掲載し、Richard J. Heydarianはベトナムがウクライナでの戦況を睨んで、兵器調達先の多様化を目指すなど、徐々にロシア離れしているとして、要旨以下のように述べている。
(1) ベトナムは12月にハノイで史上初のInternational Defense Expoを開催したが、これは、ハノイの防衛政策における静かな、しかし着実な変化を表象するものであった。このExpoには、30ヵ国から170もの企業が参加した。Expo開会式でロシア製Su-30MK2戦闘機とMiヘリの飛行隊が観衆を歓迎したが、これはベトナムの現有兵器の中でロシア製が圧倒的に多くを占めている証左である。Stockholm International Peace Research Institute(ストックホルム国際平和研究所:SIPRI)によれば、ベトナムの過去10年間の輸入兵器の70%以上がロシア製だが、その割合は2010年代初頭のほぼ100%から低下している。Expoには、ロシアの主要武器輸出会社、JSC Rosoboronexportの他に、米国のLockheed Martin、欧州の Airbus、日本の三菱電機、インドのBrahMos Aerospace などが出展した。
(2) ロシアの武器輸出企業を対象とした西側の制裁措置により、ハノイでのExpoは防衛装備の調達先をロシアから多様化するためのベトナム共産党政権の取り組みの強化を示唆するものとなった。Pham Minh Chinh首相はExpoでの演説で、「兵器貿易経路を多様化し、外国から技術移転を受け入れる」という目標を明言した。多様化戦略の一環として、ベトナムと韓国は最近、「包括的、戦略的パートナーシップ」に署名している。一方、G7の西側諸国も、伝統的なエネルギー源の依存先、ロシアへの依存を減らすためのベトナムの取り組みを支援するための数十億ドルの一括売却を公表しており、このことはロ越関係のもう1つの主要な絆を弱める可能性がある。ロシアはベトナムのエネルギー部門発展の主要な提携国で、ロシア企業はベトナムの原油開発事業の約30%、天然ガス開発プロジェクトの25%に関与している。
(3) このように、ベトナムの戦略的優先事項におけるロシアの位置付けは、過大評価できない。注目すべきは、南シナ海における緊張に伴って防衛能力を急速に増強してきたベトナム政府にとって、ロシア政府が最新兵器の主要な供給源でもあったことである。過去20年間にわたって、ロシアはベトナムに最新の潜水艦と戦闘機を提供し、その売却総額は100億ドルを超えている。しかしながら、ベトナムは現在、ロシアへの依存を減らすために兵器調達先を多様化しようしていることは明らかで、2021年には韓国などの新たな調達先との防衛協力を拡大している。そのため、ベトナムのロシア製兵器への依存度は近年初めて60%を下回っている。ロシアのウクライナ侵攻は、こうした傾向を強めるであろう。ベトナムは外交的には、モスクワを怒らせたり、西側諸国を疎外したりすることを避けるために、可能な限り危機を回避しようと務めてきた。他のASEAN諸国と違って、たとえば、ベトナムはロシアのウクライナ侵略を非難する3月の国連総会決議を棄権し、4月にはロシアの国連人権理事会の資格停止決議に反対票を投じた。ベトナムは、外交的中立を慎重に維持してきたにもかかわらず、ロシアに対する西側の制裁の影響から身を守るのに苦労してきた。米国が「対敵対者制裁措置法(以下、CAATSAと言う)」の厳格な実施を通じてロシアの防衛産業に対する制裁を強化していることから、ベトナムは、戦略的優先事項の再考を余儀なくされてきた。既に隣国のフィリピンとインドネシアは、CAATSAに抵触することを避けるために、ロシアからの高額の兵器購入をキャンセルしている。
(4) ウクライナに対するロシア製兵器の貧弱な実績が世界の防衛産業市場におけるロシアのこれまでの名声と販売力を著しく損なったことから、ベトナムの主たる関心事はロシアからの武器購入の長期的な持続可能性である。Chinh首相がExpo期間中に、この行事が「世界中の防衛・安全保障産業の最新の発展動向に関する協力、研究及び調査の機会」を開くものであると強調することで、ベトナムの新たな戦略的思考を明らかにした。同首相は「兵器貿易経路の多様化」と「外国からの技術移転の受け入れ」の必要性を指摘し、国内の防衛生産能力を強化するために複数の供給国と協力することに関心をあることを明らかにした。
(5) ロンドンのデータ分析会社Global Dataによれば、ベトナムの兵器調達費は今後5年間で年率0.5%増加し、85億ドルに達するとされる。ベトナムはまた、ドローンや哨戒機の国内生産を含め、自国の国内産業を急速に発展させつつある。ロシアは予測し得る将来、主要なパートナーであり続けると見られるが、ベトナムは明らかに、近隣の新しい提携国、世界の兵器産業において、特に保守整備が簡単で費用対効果の高い武器を求めている発展途上国の間で新しい主要な行為者として浮上しつつある韓国とインドとの関係を求めている。ベトナムが西側諸国や域内の同盟国との関係を深めていることは他の重要な戦略的面でも明らかで、LGやSamsungなどの韓国の大手コングロマリットは、世界的なサプライチェーンにおける中国への依存を減らすためのより広範な取り組みの一環として、ベトナムの半導体産業に数十億ドルの投資を行っている。一方、G7諸国は最近、ベトナムとの再生可能エネルギー開発を促進するための155億ドルの計画を発表した。G7諸国とベトナムの間のThe Just Energy Transition Partnershipは、ベトナムが2030年までにエネルギー需要の半分近くを再生可能資源から調達するのを支援することを目的としている。
記事参照:Russia, Vietnam slowly but surely parting strategic ways

12月19日「中国軍の戦略支援部隊とは何か―香港紙報道」(South China Morning Post, December 19, 2022)

 12月19日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Explainer | China’s Strategic Support Force: what do we know about the hi-tech military branch?”と題する記事を掲載し、中国軍の近代化計画の中核となり、中国軍をあらゆる面で支援するという戦略支援部隊について、要旨以下のように報じている。
(1) 習近平国家主席は、中国軍に今世紀半ばまでに世界一流の戦闘力を持つ軍隊に変わるという野心的な任務を課している。中国軍を統括する中央軍事委員会を率いる習近平は、そのために、最先端の軍事技術を用いた方法を挙げている。戦略支援部隊は、中国軍の2つの最新軍種の1つで、軍の統合及び近代化計画の中核となるべく2015年に創設された。
(2) 中国国営メディアによると、戦略支援部隊は情報を用いて全ての中国軍を支援する。「戦略支援部隊は、作戦の最初から最後まで、陸軍、海軍、空軍、ロケット軍を統合する」と共産党の代弁者である人民日報は、部隊の創設からほぼ1カ月後の2016年に述べている。戦略支援部隊は、正確な全地球測位を提供し、人工衛星で状況を監視し、そして、通信の安全な送受信を確保することを可能にする。また、軍のサイバー戦、電子戦及び心理戦の力量を拡大し、情報、データ、新技術を如何に戦闘に利用できるかを研究する。これらの技術には、習近平が人工知能、クラウド・コンピューティング、量子コンピューティング、Internet of Thingsを利用した戦争に備えるよう軍隊に求めたことに従って、軍隊の人員への依存を減らすことができる自己制御型の自動設備が含まれている。中国国営メディアは、戦略支援部隊は情報収集も行っていると報じている。
(3) 戦略支援部隊は、中国軍の作戦指揮を一元化する計画の一環として、2015年の大晦日に設立された。全面的な見直しの前は、陸軍、海軍、空軍の各軍種がそれぞれの支援部隊を保有していた。この再編成の一環として、中央軍事委員会が中国軍の総参謀部及び総政治部の役割を引き継いでいる。また、これらの部局が担当していたサイバー戦、宇宙戦、電子戦、心理作戦は戦略支援部隊に移管され、戦略支援部隊は航空宇宙工学と情報工学の2つの軍事学校を運営している。
(4) 戦略支援部隊には主に2つの機能的な部局がある。航天系統部(Space Systems Department)は、情報通信衛星を運用し、リモートセンシングを行う。また、酒泉、太原、文昌といった中国国内にいくつかある衛星打ち上げセンターと訓練基地の運営を行っている。また、軍事作戦に役立てるため、中国の衛星ナビゲーションシステム「北斗」を利用する。「網絡系統部(Network Systems Department)」は、コンピュータネットワークの防御と攻撃、電磁波による攻防、情報収集のための信号傍受を担当する「サイバー部隊」である。また、戦略支援部隊は、福建省に本部を置く心理戦の拠点「311基地」の傘下にある。これらの2つの機能的な部局は、その参謀部と同レベルであり、中将が率いる。他の軍種では、機能的な部局は下位の少将が率い、参謀部に報告する。このことは、網絡系統部と部航天系統部が活動に関して、陸軍、海軍、空軍、ロケット軍の同種の部局よりも、大きな自律性をもっていることを示している。
記事参照:Explainer | China’s Strategic Support Force: what do we know about the hi-tech military branch?

12月20日「カナダはインド太平洋海域にしっかりと足を踏み入れている―カナダ専門家論説」(Asia Times, December 20, 2022)

 12月20日付香港のデジタル紙Asia Timesは、カナダのUniversity of British Columbia公共政策・グローバル問題学部教授 Paul Evansの〝Canada firmly dips its toe in Indo-Pacific waters″と題する論説を掲載し、ここでPaul Evansはカナダのインド太平洋戦略を支持しつつも、米国寄りであることについて疑問を投げかけ、要旨以下のように述べている。
(1) カナダ政府は待望の「インド太平洋戦略」を発表した。この戦略は、この地域に注目し、資源を集中させるという、ここ一世代で最も野心的な取り組みである。「インド太平洋」というラベルは、新しいボトルに入った古いワイン以上のものである。先のアジア太平洋構想は、多国間主義や中国への関与拡大、協力的かつ包括的な安全保障という夢があった冷戦終焉の時代に生まれたものである。インド太平洋の時代は、大国間の対立、技術と貿易の安全保障、グローバリゼーションの断片化、法に基づく国際秩序等が注目される米中冷戦初期の所産である。
(2) この戦略では、5年間で23億カナダドル(17億米ドル)を拠出し、27の計画を進める。高額な経費が計上されている事業は、米国主導の新しいG7協定を通じたインフラプロジェクトに7億5,000万カナダドル(5億4,900万米ドル)、地域軍事演習への参加拡大を含む軍事力の展開強化に5億5,000万カナダドル(4億300万米ドル)、国内と東南アジアでの治安維持とサイバーセキュリティの強化に2億2,500万カナダドル(1億6,500万米ドル)等である。その他、フェミニスト国際支援一括支出、海洋資源管理関連事業、チーム・カナダ・トレード・ミッションなど、いくつかの項目にはカナダらしさが表れている。
(3) 控えめな予算、5年間という期間、支援活動の数を考慮すると、この地域への影響は変革にはほど遠いものと思われる。しかし、同地域ですでに活用されている外交・防衛資産と合わせると、この戦略はカナダの存在感を示すための知識とネットワークへの長期的投資と真摯な取り組みの証と言える。この戦略は、曖昧さと矛盾に満ちてはいるが、カナダが新たな地域でのゲーム参加を望んでいることを示唆している。
(4) 中国に関する厳しい表現は、過去50年間とは大きく異なっている。今日の中国は、自己主張が強く抑圧的で、既存の法に基づく国際秩序を侵し、カナダの利益と価値を脅かす「ますます破壊的になるグローバル・パワー」というレッテルを貼られている。中国の一方的な行動、外国に対する干渉、強圧的な経済手段、恣意的な拘留、危険な国有企業などが強調されている。この戦略では、サイバーセキュリティを強化し、知的財産を保護するための国内対策を求めている。国際的には、Five Eyes、NATO、国際機関とより緊密に連携して、中国の主張を監視し、それに対抗するよう求めている。新戦略は、従来の4C(共存、協力、競争、挑戦)の取り組みから脱却し、カナダ政府は「中国と競争すべきときは競争し、協力すべきときは協力する」と主張している。また、ファーウェイ5Gの禁止、戦略的鉱物資源への中国による投資の拒否、ウイグル人虐殺に対する下院での抗議決議、香港の国家安全保障法への公的批判、外国エージェント登録に関する協議の発表など、すでに取られた具体的行動を基にしている。
(5) この戦略の背景には、中国に否定的な国内の潮流、メディアの容赦ない批判、米国や他の志を同じくする国々の強硬な政策等があり、これらはカナダではほとんど反対されずに新たな合意を生み出している。friendshoring(友好国に限定したサプライチェーンの構築)、decoupling(分離)、genocide(大量虐殺)などの言葉は使っていない。科学技術ナショナリズムや中国の台頭に対抗するための産業政策の必要性についても言及していない。QUADやAUKUSへの加盟を目指すという約束もない。中国でのビジネスにおける新たな危険性を強調しながらも、中国の「国外」「国内」での貿易の多様化を賞賛している。それは、気候変動、生物多様性の喪失、地球規模の健康問題、核拡散など実在する問題についての協力と対話のケースを提示している。また、カナダの外相は、中国と協力し、対話の道筋を確立し、中国が既存の制度に入ることの利点を強調し続けている。
(6) これまでのところ、主要メディアの支持、この戦略をさらに厳しくするべきという対中タカ派の主張、日本からの拍手、インド太平洋に関するカナダと米国の戦略的対話の提案、カナダの独立性喪失に関する中国の嘲笑などの反応がある。特に東南アジアの反応は重要である。同戦略はASEAN中心であることを強調し、27のプロジェクトのほぼ半分が東南アジアに関係している。ASEANの「インド太平洋に関する展望」は、さまざまな形の非同盟、大国間の紛争における中立、世界経済の分断への反対など、アジア太平洋の課題を提示している。一方、カナダ政府の内部には、対立があると思われる。
(7) カナダはこの地域でアメリカの副保安官ではないが、いまや警官隊の重要な一員になっているのではないか、というささやきが大きくなるかもしれない。ASEANを中心とする包括的な機関・AUKUS、QUAD 、APEC等の有志連合・米国の新しいインド太平洋経済フォーラムへの支持の釣り合いはどうなるだろうか。friendshoring(友好国限定のサプライチェ―ン構築)とサプライチェーンの抗堪性という問題に比較して自由貿易と技術システムの釣り合いはどうなるだろうか。この地域の国々は、これらに注意を払うだろうか。こうした地殻変動の中で、カナダはアメリカの同盟国に接近しており、地域の中流国家としての役割から遠ざかっていることに疑問の余地はない。
記事参照:Canada firmly dips its toe in Indo-Pacific waters

12月20日「モーリシャスにチャゴス諸島の主権を返還せよ―米政治学者論説」(The Diplomat, December 20, 2022)

 12月20日付のデジタル誌The Diplomatは、Colorado State University政治学准教授Peter Harrisの“No, Mauritius Will Not Give China a Military Base on the Chagos Islands”と題する論説を掲載し、そこでPeter Harrisはチャゴス諸島の主権をめぐる論争が英国とモーリシャスの間に存在することについて、英国は主権の返還によって速やかに問題解決を目指すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド洋に、60ほどの島々からなるチャゴス諸島という場所がある。そこは現在英領インド洋地域の一部として、英国によって支配されている。しかし国際共同体の大部分は、その主権はモーリシャスにあると考えている。
(2) 現在同諸島の主権をめぐり、英国とモーリシャスが交渉中である。論点のひとつは、1960年代から70年代にかけて、同諸島最大の島であるディエゴ・ガルシア島に米国の軍事基地が建設される前に追放された地元の人びとが、故郷に帰れるかどうかである。あるべき選択は、英国がそこから出ていくことである。チャゴス諸島の主権がモーリシャスにあることは国際法廷でも認められたものであり、いうなれば英国によるチャゴス諸島の支配は違法なのである。
(3) チャゴス諸島の返還に関する交渉を複雑にするのが、以下の考え方である。つまり、チャゴス諸島がモーリシャスに返還されるならば、中国がそこに軍事基地を建設する可能性があるという主張である。最も強硬な論者が、英国保守党のDaniel Kawczynskiである。彼は議会における議論でもこの種の主張を繰り返し、モーリシャスと交渉するという政府の決定を批判している。多くのメディア、特にインドや米国のメディアによって彼の主張が取り上げられるようになっている。
(4) 果たして彼の主張に妥当性はあるのかと言うと、それはノーである。彼が初めてその種の主張を打ち出したのは18ヵ月前であるが、そのときから今に至るまで、中国がチャゴス諸島の軍事化を計画しているという証拠を提示できていない。むしろモーリシャス政府は、米国に対し、ディエゴ・ガルシア島の99年間の貸与を提案しているのである。モーリシャスは海洋安全保障に関して米国や英国とこれまでの関係を維持するつもりなのであろう。また、ディエゴ・ガルシア島以外の島は小さすぎて軍事施設を設置するのに向いていないことを付言しておく。
(5) Kawczynskiは、モーリシャスが最近中国との間に自由貿易協定を結んだことを、モーリシャスが中国の勢力圏内に入ったことの証拠だと主張する。しかし同じように、米国と安全保障での関係を維持しつつ、中国と貿易協定を結ぶ国はオーストラリア、アイスランド、ニュージーランド、シンガポールなど他にいくつもある。
(6) Kawczynskiは、英米政府に対し国際法を無視せよと提案しているに等しい。しかしそれはむしろ、モーリシャスを中国に接近させることにつながるだろう。大英帝国に憧憬を持つ人びとにとって、彼の主張は魅力的に映るかもしれない。しかし国際政治について真面目に考える人びとの考え方からは逸脱しているものである。英米の指導者はKawczynskiの提案を無視し、チャゴス問題の解決を追求し、チャゴス人を故郷に返し、それによって法に基づく国際秩序の維持を目指すべきだ。
記事参照:No, Mauritius Will Not Give China a Military Base on the Chagos Islands

12月20日「日本は軍事力を倍増させる―米専門家論説」(Council on Foreign Relations, December 20, 2022)

 12月20日付の米Council on Foreign Relations(外交問題評議会)のウエブサイトは、同Councilのアジア太平洋研究上席研究員Sheila A. Smithの” How Japan Is Doubling Down on Its Military Power”と題する論説を掲載し、ここでSmithは日本の新しい国家安全保障戦略と関連する防衛計画から発信されるメッセージは、日本が自衛のための準備をし、必要な場合には躊躇することなく行動することであると、要旨以下のように述べている。
(1) 日本の新しい国家安全保障戦略、及び関連する防衛計画は、北東アジア、特に中国の脅威を認識し、大規模な軍事的近代化の取り組みを示している。12月中旬、岸田文雄首相は急速な軍事力の拡張を閣議決定した。その目的は2つあり、日本への侵略に対する抑止力を強化すること、及び紛争が起きたときに自衛隊が戦えるようにすることである。岸田首相は、国内総生産(GDP)のうち国家安全保障に充てる割合を、従来の1%から2%に引き上げると約束した。
(2) 軍備拡張の指針となる次の3つの文書が発表された。
a.国家安全保障戦略:日本が直面する脅威に対する評価と、それに対処するための外交、経済、技術、軍事手段を示すもので、戦後2回目となるこの戦略では、中国、北朝鮮、ロシアを特に重要な脅威と位置づけている。
b.国家防衛戦略:今後10年間の自衛隊が任務を遂行するために必要な軍事的強化の概要を示しており、陸海空自衛隊を統合運用する司令部の新設、宇宙・サイバー能力の拡大、長距離攻撃能力の取得などを求めている。
c.防衛力整備計画:防衛計画を実施するための優先事項の概要を示しており、来年度から2027年までの5年間に推定3,200億ドルが費やされる予定である。
(3) 日本の新しい安全保障戦略で最も注目すべき点は、長距離攻撃の選択肢の導入である。これにより、日本はアジア大陸の奥深くにある目標を攻撃できるようになり、それは抑止力として働く。加えて新戦略は、日本の固有技術の開発にも重点を置いている。
(4) 防衛計画の立案者は、自衛隊が結束力のある部隊として戦い、危機や紛争の間、活動を維持する能力を真剣に考慮した。優先課題は、新たな統合司令部を含む統合作戦計画の策定と、部隊の抗堪性への投資である。F-35戦闘機や護衛艦のような最新の艦艇航空機も含め、民間の飛行場や港を自衛隊が利用できるようにすることは、即応性を確保する上で大きな意味を持つ。また、ウクライナ戦争は、燃料や弾薬などの基本的な物流の確保に日本が危機感を持つきっかけとなった。
(5) 自衛隊の武装化が進んだ背景には、いくつかの要因があるが、最も明白なのは、日本の周辺に外国軍隊が存在するようになったことである。北朝鮮のミサイルは、日本の排他的経済水域と領土の上空を頻繁に、警告なしに通過する。中国軍は日本の海域と空域の近くで定期的に活動している。東シナ海の尖閣諸島をめぐる日中間の領土問題は、海上保安庁と自衛隊の大きな関心を集めている。一方、この地域の軍隊の技術革新のスピードは加速しており、日本は遅れを取っている。北東アジアで急増するミサイルは、より速く、より正確で、探知が難しくなり、日本の脆弱性を深めている。これに対処するため、東京はしばらくの間、弾道ミサイル防衛を重視してきたが、この地域のミサイル数が膨大になり、防衛だけに頼るのは非現実的となった。さらに、極超音速の滑空技術により、余裕をもってミサイルの飛来を発見することができなくなり、状況はさらに悪化している。中国が開発した新たな非対称能力も、米国が日本を支援する能力を低下させる恐れがある。中国の衛星兵器、サイバー攻撃、地対艦ミサイルはいずれも、日本防衛における日米両軍の伝統的な役割分担を複雑にしている。
(6) 岸田内閣の戦略的大改革は、日本国内、特に中国に対する国民の不安の高まりを反映している。読売新聞社が最近行った世論調査では、日本の回答者の90%が中国を信頼しておらず、61%が中国政府は台湾を侵略すると考えていることがわかった。実際、この2022年の戦略的見直しの最も顕著な点の1つは、政府の計画がほとんど反対を受けていないことである。唯一、未解決の問題は、日本がその軍事的野心を達成するために、どのように予算を確保するかということである。東京から発信されるメッセージは、日本は自衛のための準備をし、必要な場合には躊躇することなく行動するということなのである。
記事参照:How Japan Is Doubling Down on Its Military Power.

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)Amid Ukraine War, Russia’s Northern Sea Route Turns East 
https://thediplomat.com/2022/12/amid-ukraine-war-russias-northern-sea-route-turns-east/
The Diplomat, December 13, 2022
By Trym Eiterjord is a Ph.D. student at the University of British Columbia and a research associate at the Arctic Institute.
 2022年12月13日、カナダUniversity of British Columbia の大学院生で米NPO The Arctic Institute 研究助手Trym Eiterjordは、デジタル誌The Diplomatに" Amid Ukraine War, Russia’s Northern Sea Route Turns East "と題する論説を寄稿した。その中でEiterjordは、ロシアのウクライナ戦争は世界のエネルギー市場を揺るがしており、欧州諸国はロシアの石油・ガスへの依存度を下げようとし、他方、中国やインドはそれらを割安で得ようとする動きが活発化しているが、このようなエネルギー関係の再編は、Putin大統領が国際航路として整備を進めている北極海航路にも影響を及ぼしていると指摘している。そしてEiterjordは、北極圏の氷に覆われた海域を航行しアジアへ向かう船舶は、すでにロシアに対する制裁措置や禁輸措置の影響で増えているが、今後数年間は、氷に覆われたこの航路の利用増加がさらに続くことになるだろうと主張している。

(2)Will the Pentagon Ever Get Serious About the Size of China’s Nuclear Force?
https://www.realcleardefense.com/articles/2022/12/15/will_the_pentagon_ever_get_serious_about_the_size_of_chinas_nuclear_force_870335.html
Real Clear Defense, December 15, 2022
By Dr. Mark B. Schneider, a Senior Analyst with the National Institute for Public Policy
 2022年12月15日、米シンクタンクThe National Institute for Public Policyの上席研究者Mark B. Schneiderは、米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseに" Will the Pentagon Ever Get Serious About the Size of China’s Nuclear Force? "と題する論説を寄稿した。その中でSchneiderは、中国の核弾頭搭載可能な潜水艦発射弾道ミサイルの開発に関し、2021年までの米国防総省の報告書は最新のJL-3についてType096弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が配備されるまでは実戦配備されることはないことを仄めかしていたが、実際には計画は前倒しされていることを指摘し、米国防当局による過小評価を問題視している。そしてSchneiderは、中国のDF-41大陸間弾道ミサイル(東風41)やJL-3の配備計画はより大規模な中国の核近代化・拡張計画の一部に過ぎず、U.S. Department of Defenseの2022年の評価ですら過小評価であることを指摘している。

(3)Climate change fueling climate migration
https://www.orfonline.org/expert-speak/climate-change-fueling-climate-migration/
Observer Research Foundation, December 16, 2022
By Anasua Basu Ray Chaudhury is Senior Fellow with ORF’s Neighbourhood Initiative.
Prarthana Sen was Research Assistant with ORF Kolkata
 12月16日、インドのシンクタンクObserver Research Foundation上席研究員Anasua Basu Ray Chaudhuryは、同シンクタンクのウエブサイトに、“Climate change fueling climate migration”と題する論説を寄稿した。その中で、①気候に起因する避難民は世界的に増加しており、ある予測では2050年までに2,500万人から10億人が移住を余儀なくされると言われ、別の予測では2050年までにインドだけで約4,500万人に達すると言われている。②しかし、気候変動による移住にどのように対処するかについては、合意が得られていない。③The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees(国連難民高等弁務官事務所)が、このような人々を「環境移民」と認識し、難民としての地位を与えることを拒否している。④気候に起因する災害が、今や世界中で国内避難民の最大の原動力となっている。⑤2016年のニューヨーク宣言は、各国が国際移民の様々な側面について交渉を開始するための出発点となり、2018年の「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration:以下、GCMと言う)」の採択を義務付けた。⑥GCMは厳密に解釈すると拘束力のない文書であり、締約国によって侵害される可能性がある。⑦2022年のCOP27では、全体の所要と解決策を特定するための「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation:GGA)」を定める作業計画に見通しがついたが、移民の保護・支援に向けた進捗は手つかずの状態である。⑧G20諸国は気候変動による移民の原因を取り上げていないが、インドが議長国を務めることで、この懸念に対処するために協力する基盤を提供できるかもしれないといった主張を述べている。