海洋安全保障情報旬報 2022年12月21日-12月31日

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12月21日「東南アジアの海洋安全保障におけるNGOの役割―米海洋問題専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, December 21, 2022)

 12月21日付のシンガポールシンクタンクS. Rajaratnam School of International Studiesが発行するIDSS Paperは、海洋問題専門家で米シンクタンクStable Seas研究部長Jay Bensonの “The Roles of Non-Governmental Organisations (NGOs) in Southeast Asian Maritime Security”と題する論説を掲載し、Jay Bensonは東南アジアの海洋安全保障における非政府組織の役割について、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋安全保障分野におけるNGOの関心分野は多岐に及ぶ。たとえば、一部の組織は単一の共同体における漁業管理と、その特定の業界の利益に関わる地元の政策立案者への提言を役割としている。また、他の組織は海洋安全保障とガバナンスの幅広い問題を取り上げている。こうした組織には、たとえば、世界中の船舶と漁業のデータを収集するGlobal Fishing Watchや海洋安全保障とガバナンスの幅広い問題を取り上げる様々な研究と政策指向の成果報告書を提供するStable Seasなどがある。多くの関係者は自国の機関や政府の視点から海洋安全保障を見ているが、NGOは一般的に、人々や共同体の利益を促進するという共通の目標を持っている。
(2) NGOは、その方向性が共同体指向であるため、非伝統的安全保障と海洋ガバナンスの問題に重点を置くことが多い。国家、地域機構そして海洋法執行機関は地政学的な視点から危険性を認識するが、NGOはしばしばより根源的なレベルで危険性を認識する。彼らの主な関心事は、港湾部門の汚職、地元の漁業管理の改善、海上で命を落とす移民や難民、そして沿岸共同体の経済的機会と持続可能性の強化などといった問題になり易い。海事指向のNGOは、しばしば個人や共同体への影響といった観点から危険性を捉え、その結果、軍事的、政治的そして経済的動向というより、むしろ日常生活に影響を与える海事領域の「ソフトセキュリティ」問題に関心と資源を向けることが多い。
(3) 海洋安全保障とガバナンスへのNGOの影響は、政策を策定する国家、それを執行する政府機関、そして海洋分野における国際秩序の枠組みを支援する多国間機構よりも直接的ではないことが多い。しかし、NGOは、海洋分野における安全保障と良好なガバナンスに向けた具体的な進展を形作る上で、より微妙で間接的であるが依然として非常に重要な役割を果たすことができる。たとえば、シンクタンクは当該分野の従来の常識や、重要な政治的配慮のために多国間機構そして国家や機関が提唱できる範囲外になるかもしれない、政策提言を調査し、提言することができる。海事分野の全てのNGOは、海事部門当局の考慮による政策上の選択肢が沿岸共同体の経済的、社会的及び安全保障上の利益にどのような影響を及ぼすかを伝え、海事分野の透明性と説明責任を促進する上で重要な役割を果たす。最後に、NGOは、世論を喚起する重要な手段として機能する。海事政策立案者が直面する主たる課題の1つは、「海洋問題に関する認識の欠如(以下、‘sea blindness’と言う)」である。不幸なことに、国家やその管理機関、そして地域機関や国際機関は、しばしば海事領域で直面する課題について認知していない。海洋安全保障を重視するNGOは、ほとんどの政策立案者や市民の陸上偏重と、海洋問題が我々の日常生活において果たすしばしば目に見えないが中心的な役割との間の溝を埋める上で重要な役割を果たすことができる。更に、これらのNGOは、海洋安全保障とガバナンスへの取り組みに政策的関心と資源を駆り立てるとともに、‘sea blindness’というなかなか直らない習慣を克服するのに役立つ、海洋問題に関する世論を喚起する上で極めて重要な役割を果たすことができる。NGOの活動がなければ、世論は、IUU漁業や海洋汚染など、日常的に目に見えない問題について理解できる機会は少なくなり、その結果、これらの問題に対処するためのリソースと政治的意志が弱まりかねない。
(4) 海事指向のNGOを非常に弱体化する様々な要因がある。最大の要因は、前出の‘sea blindness’である。海事領域を重点とするNGOは、他の社会的、経済的及び安全保障上の問題と比較して、しばしば迂遠で抽象的な概念を説かなければならない。海事NGOは、大多数の聴衆にとって目に見えない問題に対して行動を促し、資源を動員するという難題を抱えている。海洋安全保障とガバナンスの分野では、他の分野で活動するNGOが利用できるような持続的な公的あるいは慈善的資源を獲得できるような問題はほとんどない。しかし、海事NGOの強みはその柔軟性にあり、海洋安全保障問題のスペクトル全体で必要な役割を果たすことができる。彼らは、海事政策立案の革新を推進するという政治的要請に縛られることなく、共同体と政策立案者の間の意思疎通の重要な節点として機能することができる。
(5) 海事指向のNGOは近年、その数、規模及び影響力を急速に拡大している。加えて、これらの海自指向のNGOは、海洋安全保障とガバナンスに関する政策立案への影響を拡大するための創造的な方法を多様化している。幾つかの事例では、NGOは政策立案者に戦略的分析と海洋状況認識(MDA)を提供する役割を果たしてきた。影響力を強めるためには、海洋安全保障NGOは、市場調査など、民間部門における起業と同じように行動する必要がある。海洋安全保障分野のNGOは、多くの課題に直面しているが、必要なものを提供し、その目標を賢明に追求することで、海洋領域をより安全で適切に管理された空間にするために活動する関係する行為者のエコシステム全体に信じられないほどの価値を提供することができる。
記事参照:The Roles of Non-Governmental Organisations (NGOs) in Southeast Asian Maritime Security

12月21日「南沙諸島での中国による新たな埋め立てに対してフィリピンが懸念を表明―香港紙報道」(South China Morning Post, December 21, 2022)

 12月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Philippines ‘seriously concerned’ at reports of more Chinese island-building”と題する記事を掲載し、南沙諸島での中国の新たな埋め立てに対してフィリピンが懸念を表明したことについて、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンは12月21日、中国が、紛争中の南シナ海の占領されていない地勢を埋め立て始めたとの報道を受け、「深刻な懸念」を表明した。衛星画像や西側政府関係者の発言を引用した12月20日の報道によると、油圧ショベルを積んだ中国船が数年にわたり操業しているのが目撃されていた。そして、南シナ海の係争中の南沙諸島周辺に新たな陸地が出現したという。フィリピンDepartment of Foreign Affairsはこの報道に対し、「このような活動は、南シナ海での自制を約束する行動宣言と2016年の仲裁判断に反するため、我々は深刻な懸念を抱いている」と述べている。同省は、Embassy of China in Philippineが「フェイクニュース」と呼んだこの報道について、他の機関にも調査を依頼したと付け加えている。機密情報を話すために匿名を求めた西側当局者達によると、中国政府当局の管理下で事実上の海上民兵として活動する漁船団が、過去10年間に南沙諸島の4つの未占領地で建造活動を行っている。この地域のいくつかの砂州や他の地形は、近年10倍以上の大きさに拡大したという。
(2) 当局者たちによると、南沙諸島北部のエルダド礁では、過去1年間に新たな地形が水上に現れ、満潮時には部分的にしか露出しなかった場所に大きな穴、瓦礫の山、掘削機の跡が写っているという。また彼らが言うには、フィリピンのパナタ島として知られるランキアム礁でも同様の活動が行われ、地勢が2021年の数カ月の間に新しい外壁で補強されているという。また、ウィットサン礁とサンド礁では、以前は水没していた場所が満潮線にも水面よりも上に常に露出しているという物理的な変化を示す画像も提示されている。中国外交部はこの主張への意見求められ、「関連する報道は、純粋にでっち上げである」と反論している。
(3) 中国の行動によって、この地域の他の国々は防衛費を増やし、埋め立て作業にも着手するようになった。Asia Maritime Transparency Initiativeの12月の報告書によると、ベトナムは2022年、南沙諸島のいくつかの前哨地で浚渫と埋め立て作業を拡大した。
(4) フィリピン政府の声明は、中国海警船が11月にフィリピン海軍の艦艇が回収した中国製ロケットの破片を「強引に」奪ったことに対して、フィリピン政府が中国政府に対して外交的抗議を行ったちょうど1週間後に発表されたものである。12月の第3週、フィリピンDepartment of Defenseも、マニラが自国領土と主張するイロコイ礁とサビナ砂州で中国船が大挙して現れたと報じられたことについて「大きな懸念」を表明している。
(5) フィリピン大統領のFerdinand Marcos Jr.は、中国にフィリピンの海洋権益を踏みにじらせないと主張している。超大国を批判することに消極的だった前任者のRodrigo Duterteとは対照的である。U.S. Department of Stateの報道官は12月第4週に、2つの事件についてフィリピンへの支持を表明し、中国に「国際法を尊重する」よう求めた。Embassy of China in Philippineは12月20日に反論し、ワシントンがこの紛争を利用して「問題を煽る」ことを非難した。
記事参照:South China Sea: Philippines ‘seriously concerned’ at reports of more Chinese island-building

12月22日「米国の地域別統合軍は前方展開基地から離れるべき―米専門家論説」(The National Interest, December 22, 2022)

 12月22日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、元ニューヨーク国際弁護士Ramon Marksの” Combatant Commands Must Jettison the Forward Operating Base”と題する論説を掲載し、ここでRamon Marksは米国の地域別統合軍は、危険にさらされる前方展開基地から離れ、安全なハワイ、アラスカ、北米本土に移動するべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 多極化が進む世界情勢において、米国の地域別統合軍と前方展開基地(Forward Operating Base:以下、FOBと言う)が国家安全保障の枠組みの中で果たす戦略的な役割は、再評価されなければならない。米国はもはや世界の軍事的覇権国家ではないが、地域別統合軍の仕組みは、インド太平洋、欧州、中東を中心とする各担当地域内で軍事的優位に立とうと努力している。これは、現世界情勢において米国があらゆる場所で軍事的優位を維持するために必要な資源と手段を欠くという現実と戦っている。米国は、南シナ海、欧州、中東の3地域で同時に通常戦を戦い、勝利することはできない。
(2) U.S. Pacific Fleet、Third Marine Expeditionary Force、U.S. Army in Korea及びU.S. Air Force Pacificは、主に日本、韓国、グアムにあるFOBに補給を依存している。しかし、それは米国本土から数千海里離れているので、あらゆる紛争にさらされる。欧州の米軍基地も、ロシアと紛争になった場合、同様の問題に直面する。これらの基地は、中国、北朝鮮、ロシアのミサイルなどの攻撃能力の射程圏内にある。このような基地が、防空能力の向上や兵力・物資の分散配置により、先制的な被攻撃を生き延びたとしても、継続的な戦闘行為を維持し、供給し続けるための補給能力には問題があり、絶えず妨害や破壊にさらされる。中国は現在、世界最大の海軍を有している。たとえ米軍がすべての艦艇をインド太平洋軍に再配備してU.S. Pacific Fleetを強化したとしても、中国の9,000マイルの海岸線に沿った陸上の移動ミサイル、ドローン、航空機、海上部隊、そして人民解放軍海軍に対しては劣勢となる。
(3) 米国にとって、ポスト冷戦時代の最も重要な戦略的成果の1つは、1986年に成立したゴールド・ウォーター・ニコルス法である。この法律により地域別統合軍が強化され、そのArea of Responsibility(責任範囲:以下、AORと言う)内のあらゆる任務に責任を持つ4つ星の将官の司令官1人が全軍を指揮できるようになった。統合参謀本部議長と同様、地域別統合軍司令官は国防長官に直属し、国防長官は大統領に直属する。この法律により、統合参謀本部は議長も含めて戦時作戦の責任から外され、世界各地にある統合軍指揮官が代わりを務めることになった。欧州、中東、インド太平洋、アフリカ、南米の各地域の統合軍は、実際の戦闘や計画準備の領域をはるかに超えて、担当する地域に対する米国の国家安全保障政策を遂行する強力な拠点に成長した。皮肉なことに、地理的に統合された統合軍は、実際の軍事作戦をめぐる軍種間の対立を鎮めるのに役立ったが、米国の国家安全保障政策の遂行をめぐってJoint Chiefs of StaffやU.S. Department of Stateの新たな対立を生んでしまった。
(4) 地域別統合軍の司令部はU.S. Department of Defenseやワシントンに対し、主にFOB戦略に基づいて構築されたそれぞれのAOR内の課題に対処するため、より多くの資産を求めることになる。法律では、Joint Chiefs of Staffの補佐を受けた統合参謀本部議長が、統一した計画に基づいて少なくとも 2 年ごとに地域別統合軍の役割と任務を見直すことになっている。アジア、欧州、中東で同時多発的に発生する可能性のある紛争に直面した場合、地域別統合軍ではなく、U.S. Department of Defenseが統一計画の下に前進しなければならない。グローバルな視点を持つJoint Chiefs of Staffは、長距離ミサイル、無人機、サイバー攻撃などの攻撃に対して脆弱な遠距離地域に、限られた資源を過剰に投入しないよう、米軍の資産をどのように結集するのが最善かを判断しなければならない。米国は、軍艦、航空機、歩兵を危険にさらされるFOBから離し、敵によるいかなる攻撃も米国の核攻撃の応酬という手段に頼ることができるハワイ、アラスカ、もしくは米国本土の安全な場所に移動させなければならない。
(5) 地域別統合軍、特にU.S. Indo-Pacific Command、U.S. Central Command、U.S. European Commandは、同盟国や提携国と協力し、第一線で独自の防空・対艦能力を開発することに重点を置かなければならない。たとえば、日本は2027年までに防衛予算をGDPの2%に増やし、長距離ミサイル攻撃能力を獲得すると発表した。日本は近い将来、実際の支出額で世界第3位の国防予算を持つことになる。敵の攻撃の第一波は、駐留する米軍ではなく、自国すなわち、同盟国や提携国が主に吸収して防護すべきである。重要な軍艦、航空機、歩兵を戦略的に米国本土に移転しておくことで、米国は初期の損失と混乱を回避し、それら無傷の戦力で同盟国支援として攻勢に転じる準備を整えることができる。
(6) 強化された海兵隊遠征部隊とニミッツ級空母戦闘群からなる遠征打撃群は、現在の役割を継続しなければならないが、安全な米軍基地から活動すべきで、海外の包括的な後方支援と待機場所への依存度は低くしなければならない。これらの打撃群は、世界のどの地域であっても軍事力を投射する海上部隊であり続けなければならない。また、より安全な米国の施設を拠点とし、平時には寄港地訪問や合同演習を通じて同盟国との関係を緊密にするという従来の任務も継続される。原子力潜水艦やB-21を含む米国の長距離攻撃能力の開発に引き続き重点を置くことは、潜在的敵国のミサイルや無人機の射程内にあるFOBへの依存から米国をさらに引き離すのに役立つだろう。
(7) ウクライナ戦争でロシアの通常兵力の脆弱性が明らかになった今、NATOはロシアの通常兵器の脅威に対処する能力を十二分に備えなければならないという理由から、ヨーロッパにおける米軍基地への展開は大幅に削減される可能性がある。NATO加盟国が自国の戦域でより多くの責任を負うことで、米軍は陸軍と空軍の資産を他の任務のために解放することができる。米軍は、あらゆる場所であらゆることを継続することはできない。U.S. Department of DefenseとU.S. Department of Stateは、この点をNATO加盟国に伝えるためにもっと努力しなければならない。このような戦略的変化は、米国の国家安全保障構造と官僚機構にとって革命的である。しかし実際には、このような米軍の現実的な再配置によって、米国は紛争時に同盟国や友好国をより適切に支援することができるようになる。
記事参照:Combatant Commands Must Jettison the Forward Operating Base

12月23日「インドネシアとベトナムが南シナ海でのEEZ画定協定に署名―Diplomat誌報道」(The Diplomat, December 23, 2022)

 12月23日付のデジタル誌The Diplomatは、“After 12 Years, Indonesia and Vietnam Agree on EEZ Boundaries”と題する記事を掲載し、インドネシアとベトナムが南シナ海の排他的経済水域(EEZ)をめぐる境界画定協定に署名したことで、中国の「九段線」の主張に対して東南アジアが共同戦線を確立し易くなったとして、要旨以下のように報じている。
(1) インドネシアとベトナムは、EEZの境界を画定するための長年の協議を終了し、南シナ海における東南アジアの権利主張国間の紛争解決に向けた重要な一歩を踏み出した。インドネシアのJoko “Jokowi” Widodo大統領は12月22日、EEZ交渉が終了し、UNCLOSに従って、協定に署名したと発表した。BenarNewsによると、「12年間の集中的な交渉の後、インドネシアとベトナムは、1982年のUNCLOSに基づく両国のEEZ境界に関する交渉をついに妥結した」とJokowiは述べている。この発表は、ベトナムのNguyen Xuan Phuc大統領が3日間のインドネシア訪問中に、西ジャワのボゴール大統領官邸でJokowiと会談した後に行われた。
(2) ベトナムとインドネシアは長年にわたり、南シナ海のナツナ諸島周辺海域で重複するEEZの主張の解決に苦慮してきた。2003年に大陸棚の境界線に関する協定に調印したものの、EEZの境界線はどのように設定されるべきかという法的見解の違いから、両国の間で争点のままだった。このことは、違法・無規制漁業の問題をめぐる衝突に最もよく現れている。
(3) 詳細が公表されていない22日の合意以前は、双方のEEZは少なくとも部分的に、南シナ海の大部分を含む中国の「九段線」の主張の範囲内にある。したがって、この合意は、特にマレーシア、ベトナム、フィリピンをはじめとする東南アジアの権利主張国が、中国のより広大な権利の主張に対して、共同戦線を確立することを妨げてきた一連の未解決の問題の解決に向けた歓迎すべき一歩となる。シンガポールNanyang Technological UniversityのS. Rajaratnam School of International StudiesのXuan Dung Phanは2022年、「ベトナムとインドネシアの重複するEEZの領有権は中国の九段線内にあるため、境界画定協定は、北京の非合法な主張を拒否する両国の姿勢をさらに示すことになるだろう」と述べている。BenarNewsが引用したあるベトナムの専門家は、この協定はフィリピンとマレーシアとの間の同様の協定の仲介をこれからベトナムに促す可能性があると指摘している。
記事参照:After 12 Years, Indonesia and Vietnam Agree on EEZ Boundaries

12月24日「米中緊張緩和への紆余曲折―米専門家論説」(The Diplomat, December 24, 2022)

 12月24日付のデジタル誌The Diplomatは、米College of William and MaryのGlobal Research Institute博士研究員Giuseppe Paparellaの“Back to Diplomacy? The Bumpy Road to Sino-American Détente”と題する論説を掲載し、そこでGiuseppe Paparellaは米中間の緊張が高まるなかで重要なのは、1950年代から60年代初頭にかけて実施されていた大使級対話を用いた緊張緩和であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米中関係が悪化するなか、外交交渉の重要性が再び注目されている。2022年11月にBiden大統領と習近平による対面での首脳会談がバリ島で行われたことは、関係改善の兆しの1つとして捉えられるだろうが、米中間には、台湾海峡を含めて様々な緊張の種が存在する。首脳会談が一度行われただけでは、意見の不一致の調整には不十分であろう。そんな中、U.S. Department of StateにOffice of China Coordinationが創設されたことは、対中外交により力を入れようとする米国の意図の表れである。
(2) 現在のように、激しい対立後に米中間の直接的外交関与を再出発させようという動きは、新しいものではない。われわれは、1950年代から60年代初期の間、まだ米中国交正常化がなされていない時期から、大使級による舞台裏での外交交渉の価値についての教訓を得られる。
(3) この時期、米中対話のきっかけとなったのは、1954年の第1次台湾海峡危機である。その目的は危機から生じた緊張を和らげることであったが、米中の目的はそれぞれ異なり、米国としては中国が台湾を軍事攻撃する可能性をなくし、地域の同盟国に対する揺るぎない反共主義の姿勢を示すことにあった。中国の目的は2国間関係改善にあったが、米国の姿勢に態度を硬化させ、対話は行き詰まりを見せた。ただし、1958年の台湾海峡危機で中国人民解放軍が金門島を砲撃したときには、こうした大使級対話は事態の拡大抑制に寄与した。
(4) その後1962年まで、米中関係は冬眠状態に入り、対話システムは情報交換や非公式対話の促進によって、台湾を巻き込むような大事件を予防することになった。中国の外交官によれば、そうした対話のおかげで、「中国と米国はそれぞれの立場を表明し、見方を示すことができた、それによりお互いの態度や行動を理解することができた」とのことである。公式の会談なしでも、米中はお互いをよく理解していたのである。
(5) 当時と今の状況は異なるし、1960年前後の大使級対話が両国関係を根本的に変えたわけではないが、この歴史的前例が示すのは、米中間の重大な危機下であっても、接触の維持に成功することができるということである。Steven Goldsteinが言うには、その対話は中国の対外政策の進め方に関する米国の理解を深め、中国との交渉における取り組みを再考させた点において重要であったという。
(6) 今日の状況のほうがはるかに複雑なのは確かで、その意味では前述したOffice of China Coordinationの創設は朗報である。他方で、過去の教訓が示すように、2国間関係の窓口機関を維持することも大事である。それによって、台湾をめぐる問題に関して対立を回避する青写真が提供されるかもしれない。
記事参照:Back to Diplomacy? The Bumpy Road to Sino-American Détente

12月27日「東南アジア海洋安全保障における国際機関の役割―国連職員論説」(IDSS Paper, RSIS, December 27, 2022)

 12月27日付の、シンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)の機関であるInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、United Nations Office on Drugs and Crime職員Ahyura Sallehの “The Maritime Security Roles of International Organisations in Southeast Asia”と題する論説を掲載し、そこでAhyura Sallehは東南アジアの海洋安全保障強化のために国際機関が果たすべき役割の重要性について、要旨以下のように述べている。
(1) 国際機関は概して特定の多国間条約か、特定の目的を達成するための諸国家間の会合に基づいて創設される。国際機関はその本質において多様で、その目的に関してはもっとそうだ。海洋安全保障の分野では、国際機関の関心は幅広く、海洋生物の保護、港や航行の規制、海上交通路保護による海洋安全保障部門の支援などがある。そして国際機関は究極的に普遍的な価値と原則を支えるために努力するものである。そうした価値はUnited Nations 2030 Agenda Sustainable Development Goals (SDGs)などに反映されたものだ。
(2) 国際機関はグローバルガバナンスの柱であり、普遍的原則と規範を積極的に支持する。したがって海洋安全保障に関する国際機関の最大の脅威は、海に関する国際法の違反、海の安全な通行を妨害するような行為である。具体的には、水中の過剰な開発、過剰な海の軍事化、海賊行為、そして最も重要なこととして、国連海洋法条約などの無視、違反である。こうした行為を行う加害者としては、大規模な商業漁船団、国家が運営する民兵、反政府集団、違法漁業従事者などがある。
(3) 諸国家の会合が国際機関の目標を設定し、また国際機関の試みに資金提供を行う。こうした構造は国連に反映されている。たとえば、International Maritime Organisation(国際海事機関)は国際船舶及び港湾施設保安コードによって、航行の規制や海洋汚染・大気汚染の予防を目指す。こうした関与のあり方は東南アジアでも見られる。海洋法執行対話など、地域に焦点を当てた構想などがその一例である。それは、各国の海洋法執行機関を集め、海上での事件を協力して解決することを目指す活動である。
(4) 国際機関の活動は、抑制と均衡の手続きによって調整され、目的に対する活動の進捗状況などに関して常に説明可能な状態にある。また、国際機関はその活動が海洋安全保障に資する国際法に従っていることを保証する。あらゆる試みが国際法を守るという目標に沿うようにすることで、国際機関は海洋における普遍的原則と行動を強化する。
(5) 東南アジアなどの地域では海洋安全保障の特質がこの20年で劇的に変化した。かつては海賊やテロが主要な脅威であったが、薬物密売やグレーゾーン戦術など、いわゆる非伝統的な脅威が目立つようになった。その結果、地域の海洋安全保障部門は、地域の共同体との密接な関与や、より強力な情報共有システムの構築などの必要性を認識するようになった。国際機関はこうした変化に適応するため、能力構築支援などに乗り出すべきである。
(6) 東南アジアにおける海洋安全保障の担い手が急速に増えている。自由の航行作戦など域外行為者の存在の増加に加え、地域全体の情報の流動性に対処する多国間情報融合センターが増えているのであるそれに加えて、海軍や沿岸警備隊の役割が再評価されている。こうした行為者の登場は海洋安全保障基幹施設をさらに強化するだろう。他方、活動の重複や混乱などの危険性もある。国際機関は諸国に基幹施設強化への参加を促す時、そうした危険性に注意しつつも、地域の政治的文化などにも配慮し、それを尊重する必要がある。
記事参照:The Maritime Security Roles of International Organisations in Southeast Asia

12月27日「日本の新国家安全保障戦略はパラダイム・シフトなのか―日専門家論説」(Situation Reports, Geopolitics Monitor, December 27, 2022)

 12月27日付のカナダ情報誌Geopolitics MonitorのウエブサイトSituation Reportは、国際基督教大学准教授Dr Stephen Nagyの“Is Japan’s New National Security Strategy a Paradigm Shift?”と題する論説を掲載し、Stephen Nagyは12月16日に制定された国家安全保障戦略(NSS)、国家防衛戦略及び防衛力整備計画に関して、日本国内では憲法からの逸脱として、非難の声が上がっており、中国は「中国の脅威を扇動し、地域の緊張と対立を煽っている」と厳重に抗議したが、NSSは反撃能力に焦点を当てて、防衛費増額を目指している点は変革的ではあるが、非核三原則を堅持し、日米同盟を安全保障の要石として維持し、中国の軍事力増強と軍事的行動の拡大、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮の大量破壊兵器とミサイルの開発、製造の継続といった安全保障状況を考慮すれば現実的であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 日本の新国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)が発表されると、NSSは日本の平和憲法から逸脱しているとの視点からNSSを議論する評論家の大合唱が起こっている。環球時報は、在日中国大使館の報道官による声明を取り上げ、特に中国を「これまでで最大の戦略的挑戦(中文:迄今最大战略挑战)」との文言に応えて、「この主張は、基本的な事実から大きく逸脱し、中国と日本の4つの政治文書の原則の精神に反し、中国の脅威を扇動し、地域の緊張と対立を煽っている(中文:有关说法严重偏离基本事实,违背中日四个政治文件原则精神,肆意煽动中国威胁,挑动地区紧张对立)」として厳重に抗議している。米国、カナダ、オーストラリアを含む日本の同盟国は、より積極的に21世紀のNSSを歓迎している。
(2) 実際には、新しいNSSは反撃能力に焦点を当て、防衛費を増やすという点で変革的である一方、日本が専守防衛政策という基本方針を維持してきた数十年の実績があることを強調している。これには、他国に脅威を与える軍事大国にならないことが含まれている。重要なことは、核三原則を遵守することを引き続き誓約していることである。この立場は、2022年6月のアジア安全保障会議でも、日本は決して核兵器を取得せず、非核三原則を維持すると強調している。
(3) 2000年から2010年にかけての年々10%以上の増加を示し、2022会計年度では7.1%増加して約2,290億ドルに達する中国の国防予算と併せて見ると、日本の防衛費の5年間でGDPの2%へのわずかな増加は、中国の急速な軍事化に関連する増大する課題に対処するには不十分であるように思われる。実際、2021年4月のStockholm International Peace Research Instituteによると、「中国の軍事費は近隣諸国の軍事費をますます小さく見せている。たとえば、中国は現在、日本、韓国、フィリピン、インドを合わせたよりも多くの軍事費を支出している」。
(4) 日本の平和主義憲法第9条が、中国の相次ぐ軍事予算の増加、ロシアのウクライナ侵攻、および北朝鮮が大量破壊兵器を製造する数十年にわたる過程を止めたり、事態を改善する方向に影響を与えたりできなかったことを考えると、新しいNSSは地域内でますます深刻化する安全保障上の課題を緩和するための現実的な取り組みである。この結論は、北朝鮮が日本海や日本上空で多数の異なるミサイルシステムの試験を実施したこと、および台湾に対する軍事的脅威を考えれば、明らかである。
(5) 批評家は、この新しいNSSによって自由民主党が日本国憲法第9条に関連する制限にうまく対処するための抜け穴を見出したと主張するだろう。他の人は、「今日、日本で平和主義者であることは難しい」と示唆し、日本は中道よりも右派に傾いてきており、平和主義が日本では消えつつあると仄めかしている。実際のところ、この戦略は、インド太平洋における日本の安全保障の要石としての日米同盟への支持に基づいている。これには、地域内の日本の課題に対処するための自衛的な取り組みに沿って、志を同じくする国々との協力を優先することが含まれている。
(6) 新しいNSSにおける戦略的課題として中国を非難することは、多くの国の結論と一致している。カナダが最近発表したインド太平洋戦略、米国のインド太平洋戦略、あるいはEUやASEANのインド太平洋に対する姿勢に明示的に、あるいは暗黙のうちに述べられている共通点は、法に基づく秩序が挑戦されており、各国、国家連合、または共同体はインド太平洋が依存するようになった安定した平和的発展と繁栄の基盤であった第2次世界大戦後の秩序を維持するために努力しなければならないということである。
(7) 経済的関与、外交、海外開発援助(以下、ODAと言う)、インド太平洋地域への海外直接投資(以下、FDIと言う)など、地域内の安全保障上の課題に対処するための第2次世界大戦後の日本の取り組みは、すべての地域の行為者に同じ利益をもたらしていない。中国は1970年代、80年代、90年代の改革開放の立場から、急速に軍事化する国へと移行し、日本だけでなく、他の国々にとっても重要な海上交通路を脅かしている。2022年夏、中国は台湾とその周辺で軍事演習を行い、日本のEEZに5発の弾道ミサイルを発射し、重武装の海警船を尖閣諸島周辺海域に送り続けている。北朝鮮と韓国、ロシア、中国、米国、日本を含む地域の利害関係者との間の違いの解決策を見つけるための外交的取り組みへの多くの努力にもかかわらず、北朝鮮はまた大量破壊兵器とミサイルの製造を継続している。
(8) 最後に、ロシアのウクライナ侵攻は第2次世界大戦後の日本の安全保障への取り組みを根本的な再考が必要であることを示した。NSSは、法の支配、人権、民主主義、安定に焦点を当てた志を同じくする国々と協力することの重要性を認識することを根本的に考え直すことである。日本の安全保障は、法に基づく安定した国際秩序、すなわち日本のみならず、インド太平洋地域及びその外に繁栄と平和と安定をもたらしてきた秩序と密接に結びついている。
(9) 新しいNSSは、現在の法を基盤とした秩序から逸脱するのではなく、それに注力している。この戦略を通じて、日本は中国覇権が域内に出現するのを防ごうとしている。それにもかかわらず、日本は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの中国を含む貿易政策を通じて一貫して関与を促進してきたが、包括的進歩的環太平洋パートナーシップ(CPTPP)などでは中国を排除することもある。日本は、地域全体で重層的かつ多国間の連係を構築し続けている。これには、日・EU経済連携協定や米国との貿易協定が含まれている。日本は、地域内のデジタル協定を提唱し続けており、東南アジアと南アジアの基幹施設と接続性の構築を支援するためにODAとFDIの観点から莫大な資源を投資し続けており、これらの地域を戦略的により自律させ、南シナ海の行動規範や外交全般に関して中国とは異なる決定を下せるようにしている。
記事参照:Is Japan’s New National Security Strategy a Paradigm Shift

12月29日「ASEAN議長国インドネシアの南シナ海行動規範への貢献に期待―インドネシア専門家論説」(IIDS Paper, RSIS, December 29, 2022)

 12月29日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)が発行するIIDS Paper,は、Universitas Indonesia国際法講師でRSISインドネシア研究プログラム客員研究員Aristo Darmawanの” Managing Expectations: South China Sea Code of Conduct Under Indonesia’s ASEAN Chairmanship”と題する論説を掲載し、ここでAristo Darmawanは南シナ海行動規範締結交渉の推進には、調整役としてのインドネシアが鍵となるが、その道のりは長く困難であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海行動規範(以下、COCという)の構想は、ASEANと中国の地域協定を作るために発案されたが、2018年に双方がさらなる交渉の基礎となる単一の文書草案に合意して以降は低迷している。2023年のASEAN議長国として、この地域の第一人者であるインドネシアがCOC交渉に新たな弾みをつけることが期待されている。しかし、ASEANの歴史上、重要な局面で調停役を果たしてきたインドネシアであっても、COCをめぐる難問を前にして成功の可能性は低い。
(2) COC交渉には長い歴史がある。1992年のASEAN南シナ海宣言から4年後の1996年に、初めて協定策定の提案がなされた。その後は、中国の南シナ海における埋め立て活動に対するASEAN諸国の懸念の高まりを受けて停滞し、COC交渉につながる好ましい政治的条件が現れたのは2016年になってからであった。そして、COCに関する一連の協議が結実し、2018年に単一の交渉文書案が出された。しかし、2020年にCOVID-19感染拡大により交渉が停止され、そのままになっている。COCは、南シナ海に関する領有権主張や紛争を解決するための地域協定ではなく、紛争地域における軍事的な事故を防止し、紛争を管理するための行動指針としての役割を目指している。さらに、紛争地域の資源管理、海洋科学研究、環境保護に関する地域協力の構想を打ち出すことが想定されている。
(3) インドネシアは、COCを紛争地域の平和と安全を維持するための重要な手段と位置づけている。Retno Marsudi外相と中国の王毅外交部部長との2者会談で両者は、COC交渉を加速させる必要性を強調した。インドネシアは自らの立場を明確にしており、紛争を管理するのに有効でない象徴的、規範的なCOCには乗り気でない。その代わりに、紛争地域で実施可能で、既存の国際法、特にUNCLOSと整合性のある、有意義で実質的なCOCの締結を望んでいる。COCは、紛争管理のための機構として、紛争海域における権利主張国間の衝突を減少させ、最小化することができるはずである。
(4) インドネシアがCOCの実現に強い意欲を示しているとはいえ、COCが締結される可能性は極めて低い。COCの交渉で大きな問題となっているのは、その地理的範囲がすべての加盟国にとって合意形成できないことである。インドネシアと中国は、COCの地理的範囲に関して相互に否定的な立場を採っている。インドネシアは係争中の島の領有権を主張していないにもかかわらず、北ナツナ海の排他的経済水域(EEZ)は中国のいわゆる九段線の内側に重なっている。COCの地理的範囲に関するインドネシアの立場は、九段線の非承認に基づいており、COCに合意することはできない。一方、中国の立場も明確で、九段線が地理的範囲に含まれないCOCに合意する可能性は低い。
(5) こうした相違を克服し、COCを実現する1つの方法は、地理的範囲について目をつぶることである。そうすれば、各国は自らが定義した地理的範囲においてCOCの規定を遵守する意思を一方的に宣言することができる。残念ながら、COCの解釈をめぐる意見の相違は、この協定が効果的な紛争を予防する機構にはならず、むしろ主張国間の新たな緊張を引き起こす可能性があることを意味している。また、ASEAN各国がCOCの地理的範囲に目をつぶる可能性は低い。なぜなら、そうすることが紛争管理に役立つとは思えないからである。
(6) COCが締結される可能性は低いが、インドネシアは議長国としてCOCを前進させ、舵を切ることができる。現在、COCの交渉は2つの系統に分かれて行われている。1つは、COC交渉に前向きな閣僚や高官達である。彼らは紛争管理の枠組みとして、またASEANと中国の強い結びつきを目に見える形で示すものとして、COCの締結に意欲的である。もう1つは、それぞれの外務省の法律顧問が関与するものであるが、実質的に11ヵ国全てが納得するような合意には至らなかった。利害が対立するため、COCの締結は楽観視できない。
(7) このような争点がある中、2023年のCOC交渉の推進には、これまで様々な問題でASEANの同意を形成し、橋渡しを務めてきたインドネシアの過去の実績が鍵となるであろう。しかし、COCの締結を成功させるための最終的な外交的突破口への道のりは長く困難なものである。
記事参照:Managing Expectations: South China Sea Code of Conduct Under Indonesia’s ASEAN Chairmanship

12月29日「米中冷戦が前回の冷戦と異なる5つの点―ノルウェー専門家論説」(Foreign Policy, December 29, 2022)

 12月29日付の米政策・外交誌Foreign Policy電子版は、元ノルウェー外交官で現ノルウェーInstitute for Defence Studies中国担当上席研究員Jo Inge Bekkevoldの”5 Ways the U.S.-China Cold War Will Be Different From the Last One″と題する論説を掲載し、ここでJo Inge Bekkevoldは現在の米中冷戦をかつての米ソ冷戦と比較し、安定性に欠けるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2022年は、間違いなく1989年の歴史的大転換以来、国際政治において最も激動の年であった。その理由はロシアのウクライナ侵攻と台湾をめぐる危機であるが、米国が中国を超大国のライバルとして認めたという点で変革をもたらした。Biden政権は、10月に発表した「米国国家安全保障戦略」において、中国を最も重要な安全保障上の課題と位置付けただけでなく、「ポスト冷戦の時代は終わった」と明確に宣言している。米国の一極集中がポスト冷戦の特徴であったとすれば、米中二極体制への移行は新たな世界秩序を形成することになる。
(2) 米中の対立は、勢力の均衡という点では冷戦に似て2つの超大国の対立である。Obama政権のアジア太平洋地域顧問であったEvan Medeiros が、11月にインドネシアのバリ島で行われたBiden米大統領と習近平中国国家主席の会談を "冷戦バージョン2.0の最初の超大国首脳会談 "と呼んだのはこのためである。
(3) 一般に多極化よりも2極化の方が安定的とされており、米ソの対立関係は軍備拡張競争や緊迫した場面があったにもかかわらず、2つの超大国の間に直接的な武力衝突がなく、高い安定性を持っていたことが特徴である。歴史家のJohn Lewis Gaddisが冷戦時代を "長い平和 "と呼んだのはこのためである。
(4) すべての2極体制が同じように安定しているわけではなく、米中2極対立の新時代が冷戦時代よりも不安定だと考えられる理由がある。構造的な安定性が弱くなれば、システムを管理するための政治手腕と保護装置の必要性が増す。新2極時代が冷戦時代よりも不安定になる要因として、次の5つが挙げられる。
(5) 第1に、米中対立は権力移行の力学が不安定なことが特徴である。歴史的に見ても、台頭する勢力が衰退する覇権国を追い越そうとする時、大規模な戦争につながる真の危険性がある。第1次世界大戦に至るまでの数年間、台頭するドイツ帝国が「陽の当たる場所」を目指して努力していたことを考えてもらいたい。冷戦中はこの力学はなかった。米国とソビエト連邦が第2次世界大戦の灰の中から超大国として浮上し、両国は最初から軍事面で同等の競争相手だった。現在は、中国が米国を徐々に追い上げている。しかも、その経済力によって、中国の超大国としての潜在力はソ連を凌駕している。現時点では中国の軍事力はまだ劣勢であるため、軍備管理協定について交渉する余地は少ない。中国は劣勢を固定化するような軍事開発の上限を設けたくないであろう。最近の声明では、中国は大陸間弾道ミサイルに搭載する核弾頭の数ですでに米国を上回っている可能性を示唆している。しかし、非稼働状態の核弾頭を含めた核の総備蓄量では、中国は米国に及ばない。
(6) 第2に、冷戦時代とは異なり、米中の軍事的対立の主戦場は海軍であるため、本質的に安定性に欠け、限定戦争に陥る危険性がより高いということである。冷戦ではヨーロッパの陸上戦域が主戦場であったので、大規模な報復戦略が生まれ、ヨーロッパを分断する固定線を越えようとする試みを強く抑止することができた。アジア海域での2つの超大国の軍事力行使は、いずれの国家にとっても存亡の危機をもたらす可能性は低く、核戦争の危険性もない。大規模な事態の拡大が起こる可能性はヨーロッパに比べて低いが、アジア海域での限定戦争の危険性は高まる。
(7)  第3に、台湾もまた、新たな2極秩序における不安定要因の1つである。冷戦時代、これに最も近いのは分断されたベルリンであり、そこでは超大国間の緊張した膠着状態が何度かあった。台湾は、米中対立の時代における大国間戦争の最大の危険性であり、事態拡大の可能性がある。
(8) 第4に、宇宙とサイバー領域における新たな戦闘領域は米国と中国に新たな手段を提供する。サイバー攻撃は、破壊工作、窃盗、スパイ活動から、いわゆるデジタル・パールハーバーまで、幅広く行われる可能性がある。軍事衝突に先立ち、大規模かつ巧妙な奇襲サイバー攻撃を行うと考えられ、危機に際して不用意に事態が拡大する危険性がある。また、宇宙空間においても、衛星への先制攻撃や衛星による攻撃によって、事態拡大が引き起こされる可能性がある。
(9) 第5に、相互依存は戦争の危険を減らすという理論に反して、米中間の高次の経済的・技術的相互依存は、冷戦時代の両ブロックの相対的自給自足の場合よりも紛争を起こし易いとも言える。Gaddisは、冷戦期の2つの超大国の相互依存の欠如が安定性を高めた重要な要因であると指摘している。米中2極体制では、2つの超大国は相互依存を脆弱性と見なし、それを低減させようとする。現在、進行する米国経済を中国経済あるいは世界経済から切り離すデカップリングは、2大国間、米国とその同盟国間、国際経済秩序の中で摩擦を生むであろう。
(10) 30年以上にわたるグローバリゼーションの進展と、中国と米国の高い相互依存関係は、21世紀の大国間競争は比較的安定し、容易に管理できると我々に思い込ませている。しかし、上記の5つの側面は、米中対立の構造が実際には米ソ対立よりも脆弱であることを示唆している。これら5つの弱点に留意しガードレールを構築することによって、ある程度は不安定性を補うことができる。新しい2極ゲームのルールを開発し、継続的に調整を行うには、双方に賢明で健全な政治的手腕が必要とされる。冷戦時代のように、米中両大国の戦略は、時間とともに進化していくであろう。
記事参照:5 Ways the U.S.-China Cold War Will Be Different From the Last One

12月29日「北極圏における中国の存在は米国にとって何を意味するのか?―米専門家論説」(RAND, December 29, 2022)

 12月29日付の米シンクタンクRAND Corporationのウエブサイトは、RAND Corporation分析員Doug Irving の “What Does China's Arctic Presence Mean to the United States?”と題する論説を掲載し、ここでDoug Irving は中国が北極圏での発言権を大きくしようと相変わらず努力をし続けているが、その努力は世界の他の地域で見られたような悪質なものではなく、米国は中国との関係を勝ち負けの問題と認識せずに、気候変動や汚染防止など協力できる分野では協力していくべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Coast Guardの巡視艇船は、ベーリング海のアラスカ北方海域を定期哨戒中に複数の艦艇を発見した。中国海軍のミサイル巡洋艦と2隻の小型艦艇が、ロシア海軍の4隻の艦艇と編隊で航行していた。米巡視船は、それらの艦艇群が分離するまで追尾した。艦艇群は規則を破らず、境界を犯さなかった。しかし、2022年の秋、北極圏に非常に近い海域でのこの艦艇群の出現は、規則を破っていないにもかかわらず、米政府において懸念を引き起こした。何年もの間、中国はこの地域に足場を確立し、豊富な鉱床と通商路の利用を確保し、北極問題でより大きな発言権、つまり米国と他のいくつかのNATO諸国に囲まれた地域での戦略的存在感を得るために努力してきた。
(2) RAND CorporationとスウェーデンDefence Research Agencyの研究者は、中国が北極圏のどこで活動しているのか、何を望んでいるのか、そしてそれが地域の安全保障にとって何を意味するのかを検討した。彼らは、中国の北極圏への進出は限定的であるが、それは意欲が欠如しているためではないと結論付けている。北極圏の安全保障を専門とするRAND Corporationの上席政治学者Stephanie Pezardは「脅威を膨らませるべきではない」と述べている。「しかし同時に、彼らはこの地域がより利用し易くなるにつれて、北極圏の開発から除外されたくないという明確な意図を持っている。本当の問題は、彼らが北極圏に関してどれだけの役割を望んでいるか、そしてそれが米国のような北極圏の関係国にとって何を意味するのかということである」とも述べている。
(3) 北極圏の状況は常に非常に厳しく、範囲は非常に広大であるため、米国やロシアのような対立者でさえ、そこでは協力することを余儀なくされている。しかし、北極圏は地球上の他のどこよりも速く温暖化している。船乗りや探検家が何世紀にもわたって夢見てきた航路が開かれ始めている。石油、鉱物、交易路、さらには魚類といった北極圏の富の可能性は、北半球の緯度のはるか外から関心を集め始めている。中国は自らを「近北極国家」と宣言している。中国は、調査遠征隊を派遣し、鉱業と天然ガス事業の確立を目指し、北極圏を横断する「氷上シルクロード」を構想した。中国は自らを「北極問題への積極的な参加者、建設者、貢献者」であるとし「北極圏の発展に知恵を提供するための努力を惜しまなかった」と述べている。
(4) しかし北極圏では他の地域と同様、米国は中国を既存の秩序を自国の好みに合わせて歪曲しようとする経済上及び軍事上の力を持つ、潜在的に情勢を不安定化させる強国と見なしている。U.S. Department of Defenseは、中国を予見可能な将来の「米国の安全保障政策を規定する第1の脅威(pacing challenge)」と見なしている。2022年10月に発表された米国の北極戦略では、中国が軍事的利益のために北極圏を商業的、科学的に利用する危険性に特に注意を払っている。RAND Corporation の研究者達は、アラスカ、カナダ、グリーンランドに接する北米北極圏での既知の中国の活動を文書化することに着手している。スウェーデンDefence Research Agencyは、アイスランドから北欧諸国を経てロシアまで、ヨーロッパ側に焦点を合わせていた文書を作成している。
(5) そして判明したこととして、Pezardは特に北米の北極圏では「それほど多くのことは起こっていない」と述べている。中国は少数の採掘事業に投資しており、主に貴重なレアメタルを追いかけている。中国は、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々で自らの扉を開くために、融資とインフラ取引を使用してきた。しかし、北米の北極圏の国々は、一般的に、提案された中国の投資を厳しく検討しており、多くの場合、それらの提案が承認されることは厳しい。カナダは中国の利益を軍事施設に近づけすぎる1億5,000万ドルの金鉱取引を阻止した。グリーンランドは、汚染に関する懸念から、中国の鉱山の計画を延期した。RAND Corporation 非常勤上席研究員であり、U.S. National Security Council元防衛政策及び戦略担当上席部長Stephen Flanaganは「略奪的な貸付けや地域の決定に対する影響力など、国際規範に損害を与えるような、世界の他の地域で見られたような悪質な活動は見られなかった。すべての政府は中国への対応に慎重である。これは『買い手の方が気をつけろ』という取り組みである」と述べている。
(6) RAND Corporation の研究には、北極圏のロシア側の地域は含まれていなかった。それが北極圏の影響力を高めるための中国の最良の方策かもしれない。北極圏諸国と先住民族の統治機関であるArctic Councilは、ロシアがウクライナを攻撃した後、ロシアとの関与を拒否し、2021年会議を中断した。RAND Corporation が調査のために招集した専門家会議は、ロシアは同盟国である中国にとってより中心的な役割を果たす独自の北極圏統治評議会の設立を目指す可能性があると指摘した。専門家はそれが可能であると考えたが、可能性は低い。2022年の秋のベーリング海における中ロ艦艇の共同行動とロシア北極圏での天然ガスプロジェクトの共同開発にもかかわらず、ロシア政府はまた、中国が自国の海岸に非常に近い場所で野心を追求することを懸念している。そして、ロシアは既存の理事会から離れるのではなく、ロシアがテーブルに戻ることで会議を再開するよう求めている。
(7) 現在のところ、米国は北極圏を外交的、経済的、戦略的優先事項とすることを続けるべきであり、地域とそこに住む人々への関与を示すべきであると研究者たちは結論付けた。北極圏の同盟国間の連帯を強化し、捜索救助の準備などロシアとの関与を再開できる条件を模索する必要がある。しかし、米国は、北極圏での中国との関与が勝ち負けの問題(win-or-lose proposition)ではないことも認識する必要がある。たとえば、気候変動や汚染防止について協力する機会がある。中国はすでに、北極圏の漁業を保護し、海上輸送規制を策定するための国際協定で重要な役割を果たしている。少なくとも紙の上では、米中双方は、北極圏が平和と安定の地域であり続けることを保証することを約束している。
(8) 今後数年間は重要な時期になるであろう。現在の予測が維持されれば、北極圏は2030年までに最初の氷のない夏を迎える可能性がある。
記事参照:What Does China's Arctic Presence Mean to the United States?

12月31日「外交によって南シナ海は落ち着きを取り戻すだろうか―シンガポール・インド太平洋専門家論説」(East Asia Forum, December 31, 2022)

 12月31日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、シンガポールのS Rajaratnam School of International Studies研究員Collin Kohの“Will diplomacy bring restraint back to the South China Sea?”と題する論説を掲載し、そこでCollin Kohは南シナ海に対する国際的関心は低下しており、またそこをめぐる状況が劇的に改善する可能性は小さいものの、関係各国の外交努力を続けることで地域の安定を維持すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年の2月と8月に、世界の関心は南シナ海からウクライナと台湾海峡に移った。中国国内でも、国内の経済的・政治的問題が関心の中心を占めている。それでも、2022年は、南シナ海における中国による東南アジアと域外の敵対国に対する威嚇行為は続けられていた。またフィリピンやベトナムなどの領有権を主張する諸国による施設建造や浚渫工事なども続いている。
(2) しかし、楽観的な見方もできる。2022年末には地域諸国の首脳会談が立て続けに行われ、バリ島では米中首脳会談が実施された。それは米中対立に関する地域諸国の意見対立を解決する起点となるかもしれない。米中首脳会談に引き続き、高官級の米国代表団の訪中が行われ、またその後Anthony Blinken国務長官の訪中も予定されている。2023年には米中間の緊張は和らぐかもしれない。実際に、南シナ海における米国の自由の航行作戦は、2020年の10回を頂点に2021年と2022年にそれぞれ5回とその実施回数を減らし続けた。
(3) ASEAN諸国の戦略的優先順位は、国内のインフレや世界的な景気後退局面の可能性など経済問題への対処に傾いている。そのため、今の楽観的な雰囲気のままに、地域を安定させるための外交に、新たな関心が向けられるべきであろう。人の移動に関する規制緩和が進めば対面での外交交渉が活発化し、それにより、南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)に関する交渉も勢いを取り戻すかもしれない。ただし議論がまとまるのは簡単ではなさそうである。COC交渉を進めることへの、中国とASEAN諸国の動機は異なる。中国はそれにより自分たちが平和と安定を望んでいるのだとアピールしたいのであり、他方ASEANは、ミャンマー危機への対処が遅れていることで失われつつあるASEANの信頼性を回復したいのである。
(4) 2023年にCOC交渉が劇的に進展する可能性は低い。地域の国々の焦点が自国の社会的・経済的問題にあるからである。また、南シナ海では、競合と協調という二重の力学が起きる可能性がある。米国は自由の航行作戦を続け、フィリピンが日本との訪問軍協定締結を模索していることに見られるように同盟網を拡張しつつ軍事力の展開を維持するだろう。他方、ASEAN諸国は中国との経済的関係を維持しながら、域外の提携国との集団的取り組みによる戦略的保証を模索するだろう。これは、南シナ海において威圧的でありつつも、最近自制の兆候を見せている中国を警戒させるかもしれない。
(5) 南シナ海における中国の行動は不確実性をはらんでいる。しかし、地域内外の関係者が南シナ海に関して続けている外交努力は、地域諸国が国内の差し迫った社会的・経済的課題に対処するうえで、より大きな協力の余地を与えてくれるだろう。
記事参照:Will diplomacy bring restraint back to the South China Sea?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) FEAR, HONOR, AND INTEREST IN THE ARCTIC: THE CASE FOR REALISM
AND TRANSACTIONAL BALANCING
https://mwi.usma.edu/fear-honor-and-interest-in-the-arctic-the-case-for-realism-and-transactional-balancing/
Moderna War Institute, U.S. Military Academy, December 21, 2022
By Dr. Ryan Burke, a professor of military and strategic studies at the US Air Force Academy
Commander (Sel) Adrienne Hopper, a NOAA Corps offic
 2022年12月21日、U.S. Air Force AcademyのRyan Burke教授と米National Oceanic and Atmospheric Administration Commissioned Corps(NOAA Corps)のAdrienne Hopper中佐は、U.S. Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに" FEAR, HONOR, AND INTEREST IN THE ARCTIC: THE CASE FOR REALISM AND TRANSACTIONAL BALANCING "と題する論説を寄稿した。その中でBurkeとHopperは、今日の北極政策に関する議論は、情報や事実に基づく実質的な内容ではなく、誇張表現が多く見受けられ、さらに悪いことには、理論的な根拠を欠いた意見と戯言が幅を利かせていると話題を切り出し、北極政策におけるリアリズムの考え方の有益性を論じている。特に、BurkeとHopperはバランシングに着目しており、この考え方の核心は、イデオロギー的な姿勢ではなく、存在、関与、そして紛争回避を軸にした自国の安全保障の確立を通じて米国の北極圏の利益を満たすものであり、将来の北極圏政策の基礎となるべきものであると主張している。

(2) The Taiwan Long Game: Why the Best Solution Is No Solution
https://www.foreignaffairs.com/china/taiwan-long-game-best-solution-jude-blanchette-ryan-hass?utm
Foreign Affairs, December 30, 2022 (January/February 2023)
By Jude Blanchette, Freeman Chair in China Studies at the Center for Strategic and International Studies
Ryan Hass, a Senior Fellow, Chen-Fu and Cecilia Yen Koo Chair in Taiwan Studies, and Michael H. Armacost Chair in the Foreign Policy Program at the Brookings Institution
 2022年12月30日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies の中国専門家Jude Blanchetteと米シンクタンクBrookings Institutionの台湾専門家Ryan Hassは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Taiwan Long Game: Why the Best Solution Is No Solution "と題する論説を寄稿した。その中でBlanchetteとHassは、中国と米国は70年もの間、台湾をめぐって悲劇に見舞われることを避けてきたが、この平和が長くは続かないかもしれないというコンセンサスが、米国の政策界に形成されつつあり、現在、多くの専門家や政策立案者が、米国は台湾海峡での中国との戦争に備え、あらゆる軍事力を行使する必要があると主張していると指摘している。その上でBlanchetteとHassは、台湾関係法の存在をはじめとした様々な理由から、台湾の安全保障は米国にとって基本的な関心事であるが、最終的に米国が直面するのは、本来、国防という戦略的な問題であって単なる軍事的な問題ではないと指摘し、米国が軍事的な問題解決に焦点を絞れば絞るほど、自国の利益だけでなく、同盟国や台湾自身のリスクも大きくなると警鐘を鳴らしている。

(3) 2022: The Year Japan and Germany Became ‘Normal’ Countries
https://thediplomat.com/2022/12/2022-the-year-japan-and-germany-became-normal-countries/
The Diplomat, December 30, 2022
By Dr. Chietigj Bajpaee has worked with several public policy think-tanks and risk consultancies in Asia, Europe and the United States. 
 12月30日、安全保障問題研究者Chietigj Bajpaeeは、デジタル誌The Diplomatに“2022: The Year Japan and Germany Became ‘Normal’ Countries”と題する論説を寄稿した。その中で、①日本とドイツは2022年に地政学的な発言力を再発見し、より主張の強い国家安全保障態勢を展開するための取り組みを並行して行っている。②ウクライナ紛争は、第2次世界大戦の遺産からの日本とドイツの解放を助けるという歴史的瞬間としても重要である。③その最も顕著な例は、両国が国防予算をGDPの少なくとも2%に引き上げると公約したことである。④日本にとって脅威とは、まず中国、次いで北朝鮮、ロシアであり、一方、ドイツは、ロシアを第1優先とし、次いで中国である。⑤ドイツは米国や他の欧州諸国に比べ、中国に対してより慎重かつ融和的である。⑥北方領土の領有権問題を解決するための日本の取り組みは、ウクライナ紛争の開始後に停止し、日本はアジアでモスクワに対して最も批判的な国家となった⑦ドイツは、2020年にインド太平洋に関する政策指針を発表し、2021年には南シナ海にフリゲートを展開し、そして、2023年に同国初の中国戦略を発表する予定である。⑧ドイツは初の国家安全保障戦略を起草している最中であり、日本は集団的自衛権を容認したものの、憲法九条はそのままである。⑨日本とドイツの戦略的能力と影響力の強化は、同盟の負担の分担に寄与するため、米国が歓迎し、また、世界の舞台で行動するための自律性を高めているといった主張を述べている。