海洋安全保障情報旬報 2022年11月11日-11月20日

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11月11日「ウクライナにおける海上戦からの教訓-英専門家論説」(Military Balance Blog, IISS, November 11, 2022)

 英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studies(IISS)の年報Military BalanceのウエブサイトMilitary Balance Blogは、IISS 海軍・海上安全保障担当上席研究員Nick Childsの” Ukraine: unconventional impact at sea?”と題する論説を掲載し、ここでNick Childsはウクライナ紛争では小規模な技術が海軍部隊に大きな脅威を与え得ることが明確になり、脅威を軽減するような準備と運用をすることが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ紛争では、海軍が長い間その実現を懸念してきた新たな従来とは異なる様相の脅威が特徴付けられた。そして、海軍がそのような脅威に対応する準備ができているかどうかという問題を提起している。2022年10月29日未明、セヴァストーポリ海軍基地とその周辺での事象は、未確認ではあるが、無人水上艇(以下、USVと言う)と無人航空機(以下、UAVと言う)を使った組織的攻撃であったという映像が広まっている。これによると、ロシア海軍のグリゴロヴィッチ級フリゲート及び黒海艦隊旗艦「アドミラル・マカロフ」、そして少なくとももう1隻掃海艇が被害を受けた可能性がある。
(2) 背景には、ウクライナとロシアとの間の海軍戦力の不均衡があるが、多くの海軍が懸念を抱いていた脅威が顕在化したことは確かである。同様の攻撃は、将来の海戦において、特徴的になる可能性がある。この事実は、多くの報道で新奇かつ驚くべきものとされているが、そのいずれでもない。爆発物を搭載したUAVの脅威は、ペルシャ湾岸やホルムズ海峡周辺の船舶に対して、イランによるとされる攻撃が行われている。一方、イエメンの反政府勢力フーシ派は、紅海の海運、特にサウジアラビアの港湾施設を攻撃するために、爆発物を搭載した遠隔操作のボートを使用している。黒海との違いは、それらが連係して使用されたことである。
(3) 欧米諸国を含む多くの海軍は、このような脅威に対する防御訓練を行い、その能力を高めている。小型UAVや高速で移動し、探知されにくいUSVの技術は比較的単純であるが、数が多くなると難しい目標となり、これらに対抗するためには、多大な警戒心と技術、そして適切な装備が必要となる。それは、妨害装置、速射砲、指向性エネルギー兵器、搭載ヘリコプターからの発射されるものを含む短距離ミサイルなどが考えられる。しかし、新たな戦術と港湾保護の強化も重要な鍵となる可能性がある。これには、伝統的な艦船の作戦から無人の艦船まで、あらゆるものが関与する。
(4) 米海軍は、危険度の高い地域の艦船に、電子的妨害を含む対UAV及び対USV能力を装備している。また、艦載レーザーシステムを開発し、光学的な欺瞞システムも搭載している。ドイツ海軍は最近、バルト海で開発中の艦載レーザー兵器の試験を複数のUAVに対して行っている。ロシア海軍がどの程度の態勢を整えているかは不明であるが、9月にセヴァストーポリ近郊にUSVと思われるものが漂着し、その危険性を認識する可能性はあった。
(5) ウクライナ紛争に関連する非通常型海戦は、ノルドストリーム・ガスパイプラインへの攻撃と見られる事件によって広がった可能性もあり、ロシア政府はこの事件を強く非難している。この事件でも、以前から警告と懸念が高まっていた海底の重要基幹施設への脅威が大きく取り上げられた。その結果、各国の海軍は海中での能力向上に目を向けている。今年10月にパリで開催されたEuronaval 2022(世界海事防衛展示会)では、海中や海底での作戦や支援を行うための新しいシステムが紹介された。最終的には、こうした基幹施設の防護には、監視システムが必要であり、多国籍機関だけでなく、軍と産業界との連携も必要になる。民間企業は基幹施設の多くを運用し、遠隔地や深海で活動するための技術の多くも、企業によって開発され、運用されている。しかし、各国の海軍は自らそのような能力に投資しようとしている。
(6) セヴァストーポリ周辺での出来事に関するメディアの報道が正しいとすれば、ロシア巡洋艦「モスクワ」の沈没と同様、小規模な技術が主要な海軍部隊に大きな脅威を与え得るということを改めて認識させられたことになる。このことは世界的にますます困難な課題を投げかけているが、それは驚くべきことではない。弱い海軍は強力な敵に対抗する方法を常に模索しており、一般に、港湾内など相手が最も予期せず、最も脆弱なときに攻撃するという長い伝統に合致している。魚雷の発明、機雷の普及、さらには港や防護された場所にいる軍艦を攻撃する手段を見つけるために、過去の紛争でより独創的な方法が試みられたのはこのためである。それに対する対抗策は、通常、発明と技術の新たな応用、さらに危険性を最小化するための戦術と作戦手順の適応を伴うものであった。軍艦には、他の兵器システムと同様に脆弱性があり、重要なのは、それを軽減するような準備と運用をすることである。
記事参照:Ukraine: unconventional impact at sea?

11月11日「バイデンは中国との大国間競争を容認―フィリピン専門家論説」(China US Focus, November 11, 2022)

 11月11日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンPolytechnic UniversityのRichard J. Heydarianの” Strategic Shift: Biden Embraces “Great Power Competition” with China”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは、現在の米中間の対立は、ふらつきながらも新冷戦に向かっている状態にあり、インド太平洋の数十年にわたる平和と繁栄を脅かしているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Joseph Biden米大統領は2021年、米国務省において、「我々は、国際的に米国の関与を回復し、指導的地位を取り戻し、共通の課題に対する世界的な行動を推進するために動き出した」と宣言した。さらに、「我々の利益になる場合には、敵対国や競争相手と外交的に関わり、米国民の安全を進める」と付け加え、同盟国との関係を強化すると同時に、ライバル超大国との緊張緩和を模索する外交を強調した。さらに「米国の利益になる時には北京と協力する用意がある」とも述べ、多国間主義外交の究極の目標として、「国内をより良くし、同盟国や提携国と協力し、国際機関における役割を刷新し、失われた信用と道徳的権威を取り戻すことによって、強者の立場で競争する」と主張した。
(2) この数ヵ月後、Biden大統領は国連総会での初の演説で、その外交方針を改めて強調し、国連や世界各地で米中間の緊張が高まる中、中国との「新たな冷戦」を求めているわけではないことを明らかにし、戦略的敵対者と協力することは、世界の平和と安全にとって不可欠と主張した。しかし、就任3年目を迎えた今、米政府ワシントンが中国との「大国間競争」という新時代を受け入れたとの見方が強まっている。新たに発表された国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)や秘密部分を除いて公表された国家防衛戦略(以下、NDSと言う)には、多くの点でObamaよりもTrumpの響きがあり、中国の位置づけを米国の優位性に対する挑戦としている。
(3) 中国共産党の最高指導者である習近平は、中国共産党第20回大会において、中国が「強風、波立つ海、危険な嵐に直面する」と警告した。また、2年前の2020年には、国際環境がますます厳しくなる中で、激動の変革期が訪れるとも警告している。
(4) Biden政権は一時期、前任者の一国主義的傾向を見直し、包括的な多国間主義を支持すると約束していた。そして今の問題は、戦略的再調整というより戦術的変更であることが明らかになっている。Bidenは就任後数ヶ月の間にNATOのみならず、QUADの強化に注力するなど、対中国重視の戦略を鮮明にしている。このため、Biden政権では初のQUAD参加4ヵ国の日米豪印首脳会談を行い、さらに韓国及び日本との2国間首脳会談を行った。また、Antony Blinken国務長官とLloyd Austin国防長官を北東アジア、南アジア、西ヨーロッパの主要都市に派遣し、中国の台頭に対抗するための統一戦線を構築した。2021年3月にBiden政権は「国家安全保障戦略暫定指針」を発表したが、これは中国とロシアに大きく焦点を当て、条約上の同盟国であるタイやフィリピンは、ほとんど言及されなかった。
(5) Bidenは就任後1年間、東南アジア諸国との2国間会談を一度も行っていない。しかし、その同じ時期にワシントンは、インド太平洋における新しい軍事同盟、すなわちAUKUSの基礎を固めた。この動きは、フランスとの関係を大きく揺るがし、フランスはオーストラリアとの高額な潜水艦契約を失い、米国に対して、信頼の危機を警告した。しかし、中国に対抗する新たな軍事同盟を構築するために、ワシントンはAUKUSに関してヨーロッパの同盟国が戦略的裏切りを感じていることをあまり気にしていないように見えた。そして、ロシアのウクライナ侵攻は、ヨーロッパの戦略的展望を一変させ、特に米国がNATOの危機への対応に極めて重要な役割を果たすようになった。それでも、Biden政権は、依然中国が主要な戦略的対象と強調している。
(6) ウクライナ危機は、西側諸国がロシアを安全保障上の脅威とみなすきっかけとなったと同時に、中国が台湾との統一に向けて行う可能性のある武力行使への懸念を米政府に抱かせることとなった。Biden政権は、米国の世界的覇権に対する最大の挑戦者はロシアではなく中国であると頑強に主張している。この考え方は、前述のNSSとNDSの両文書にはっきりと表れている。NSSでは、中国を「国際秩序を再構築する意図を持ち、ますますそのための経済、外交、軍事、技術力を持つ唯一の競争相手」と表現し、米国の世界的な指導的立場に対する直接的な挑戦と特徴づけている。このNSSの発表と同時に、2つの超大国間の技術戦争が激化する中、中国政府に対して前例のない半導体に関する制裁が行われたことは、非常に示唆的である。中国の挑戦に対し、Biden政権は、同盟国・提携国ネットワークにより連携していくと表明している。
(7) NDS も、ほぼ同じ指摘をしており、中国は「今後数十年間、最も重要な戦略的競合相手」とされ、通常兵器と非対称兵器の能力を高めており、「衝突の様相を変えるだけでなく、米国のサプライチェーンと物流業務を混乱させる可能性もある」と指摘している。さらに中国の挑戦に対抗するため、米国の軍事力を強化するだけでなく、統合抑止戦略のもと、同じ考えを持つ国々と協力し、インド太平洋に存在する同盟国や戦略的な提携国のネットワークを最適化する重要性を強調した。米中間の外交上の大きな出来事がない限り、現在の傾向は、超大国がふらつきながら新冷戦に向かっていくような状態にあり、インド太平洋の数十年にわたる平和と繁栄を脅かしていることを示唆している。
記事参照:Strategic Shift: Biden Embraces “Great Power Competition” with China.

11月12日「接近阻止領域:中国によるアジアの軍事的支配を阻止するには?―米専門家論説」(19FortyFive, November 12, 2022)

 11月12日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College教授James Holmesの“Anti-Access Bubbles: How To Stop China From Militarily Dominating Asia?”と題する論説を掲載し、この中でJames Holmesは英シンクタンクRoyal United Services Institute(英国王立防衛安全保障研究所)の接近阻止領域(Anti-Access Bubbles)という報告書に耳を傾けるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 接近阻止領域(Anti-Access Bubbles)の時が来たのか、他国支援は自らを救う。これは、英国のRoyal United Services Institute(以下、RUSIと言う)が発表した報告書の骨子である。共著者のSidharth Kaushal、John Louth、Andrew Youngは、中国のような略奪者から海洋主権を守ろうと苦しんでいるアジア諸国を助けたいなら、英国は対艦・対空兵器、センサー、指揮統制システムによる「接近阻止領域」を提供すべきだと言う。
(2) 武装することで、地域の国々は、海洋法に定められた周辺海域と空域を守ることができ、グレーゾーンでのより効果的な対応が可能になる。弱者が、自国の領海や資源を奪おうとする強者に対して、厳しい措置をとることができるようになる。RUSIチームは、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)が米海軍やその友好国の軍に対して行ってきたことを真似ようとしている。PLAは、ミサイル搭載潜水艦や哨戒艦艇を中心とする接近阻止艦隊を構築しつつ、低コストの対艦兵器の群れを中国要塞の周囲にばら撒いている。PLAのロケット砲は、米軍が対空兵器の射程内に入るのを阻止することも、脅威を無視して射程内に侵入した米軍に大きな代償を払わせることもできる。
(3) 接近阻止領域の概念は、地図や海図に描かれる円弧で示される、中心点を武器システムの設置位置とし、射程距離が円弧の半径となる円を描けば、それが領域を示す。敵対する船舶や航空機は、その地理的空間に侵入すると危険である。しかし、接近拒否の論理は、中国だけのものではなく、沿岸の弱小国は、中国の海警総隊や海上民兵などの準軍事組織はもちろんのこと、中国海軍や空軍に対しても接近阻止を行うことができる。さらに言えば、東南アジアの国々は、主権を取り戻し、戦略的自律性を維持することができる。フィリピン、ベトナム、インドネシアなどの沿岸諸国の政府首脳は、中国と永遠に共存しなければならないことを痛感している。また、米中の大国間競争の中で米国に味方すれば、中国を怒らせることも知っている。
(4) RUSIの共同執筆者は、アジアの小国は主要な競争国のどちらにも属さず、自国の主権を維持するため、ある種の武装中立を維持することを好むと観察している。同盟関係のもつれを警戒するためである。フィリピンやタイのような米国の長年の同盟国を除き、このような距離を置いた姿勢をとることを非難することはできない。
(5) 地域の友好国ばかりではなく、RUSI の共著者たちは英国政府と英国海軍が安価に2番目の戦域を管理できるよう支援しようとしている。戦争理論の権威であるCarl von Clausewitzの論は、戦略家が最も重要なことに視線を向けながら、最優先事項ではない関与政策をどう処理するかを評価するのに役立つ。結局のところ、戦略とは優先順位を設定し、それを実行することであり、もし、すべてが最優先されるのであれば、何もする必要はない。競争者は主要な戦域で資源の「決定的な優位」を保持する必要がある。そして過度のリスクを負うことなく資源を第2の戦域に転用する余裕ができる。Clausewitz が2番目の戦域の「3R」と呼ぶものは、報酬(Reward)、資源(Resources)、リスク(Risk)であり、これがClausewitzの評価要領である。
(6) ヨーロッパとNATOは英国にとって最も重要な戦域だが、インド太平洋も非常に重要である。これは Clausewitzの最初の基準に合致し、報酬を約束するものである。しかし、英国は中位の国であり、NATO・ヨーロッパを守るための決定的な資源もない。したがって、インド太平洋戦域は資源とリスクに関する Clausewitzの基準に合致しない。英国海軍は、東アジアに哨戒艦艇を2隻配備し、時折、強力な部隊をこの地域に派遣している。しかし、英国にはU.S. 7th Fleetに匹敵するような遠征機動部隊を保有する余裕はない。英国海軍に2つしかない空母打撃群のうち1つをスエズ以東の遠征任務に投入すれば、欧州の安全保障が損なわれる危険性がある。Clausewitzなら、このような無謀な企てには顔をしかめる。英国の政治・軍事の指導者も同様である。
(7) 英国海軍の資源をヨーロッパ海域に保持するために、RUSIの共著者は英海軍と英国の産業界が協力して、アジアの軍隊に低コストの装備を提供することを提案する。共著者たちは、小国は完成した兵器、センサー、指揮統制システムを購入する余裕はあっても、それらを開発する余裕はほとんどないと述べている。そこで、英国が研究開発費を負担し、地域の友好国が安い価格で装備を購入すればよいと結論付けている。これは、非常に賢明な提案である。資源とリスクに関する戦略的な規律を強化しながら、報酬も得ることができる。自国の防衛を担える完全な主権国家が存在する地域であれば、英国や米国のような部外者が出て行って力の均衡を図る必要はなくなる。それは、全体として歓迎すべきことである。
記事参照:Anti-Access Bubbles: How To Stop China From Militarily Dominating Asia?

11月15日「無人水上艇(USV)の時代へ―米技術専門家論説」(The RAND Blog, RAND, November 15, 2022)

 11月15日付の米シンクタンクRAND CorporationのウエブサイトThe RAND Blogは、同シンクタンクの上席技術者Scott Savitzの“The Age of Uncrewed Surface Vessels”と題する論説を掲載し、そこでSavitzはウクライナ戦争においてウクライナが使用しはじめた無人水上艇(USV)が、今後の海戦において決定的な重要性を持つとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ戦争において、ウクライナがロシア艦隊および基幹施設への攻撃に炸薬を搭載した無人水上艇(以下、USVと言う)を採用した。これによって、海上での戦闘の新たな時代が到来したと言える。USVは今後の海上戦術や艦隊設計に大きな影響を与えるだろう。こうした考え方は新しいものではないが、技術の成熟によって効果的に活用される段階に達した。
(2) 船舶にとって、航空兵器よりもUSVのほうが危険な理由は2つある。それは、USVが、船舶のどこを攻撃するか、搭載する炸薬量が不明であることである。一般的に考えられるよりも、軍艦や大型商船はミサイルや爆弾、無人航空機(UAV)の攻撃に耐え得るものである。しかしUSVは水線付近への攻撃であり、搭載する炸薬量も大きく、エンジンや弾庫などを直接破壊できる。水線付近での爆発によって浸水が発生することもある。USVはまた、相対的に安価であり、多数を使用できる。小型漁船などにセンサーをいくつかと爆発物、ITシステムをとりつけるだけである。多用途であり、埠頭からも大型船舶からも発信させることができる。目立たない場所に留まり、標的にこっそり近づくことも可能である。
(3) USVは先行兵器の特徴のいくつかを共有している。木造船舶の時代には、火船という手法が用いられた。最近では、船舶を突入せる自殺攻撃もある。またUSVは、敵艦船の水線付近を攻撃できるステルス兵器という点で、魚雷などに類似している。逆にUSVが独特であるのは、自動追尾機能を持ち、長距離攻撃能力を有し、爆弾や魚雷よりも爆発力が大きいという点である。
(4) なぜウクライナは無人水中航走体(以下、UUVと言う)ではなくUSVを使ったのか。ステルス性と破壊力という点においてUUVのほうが勝っているのは事実である。しかし、水面下には電磁波が透過しにくく、通信や正確な航行が困難であること、航続距離や速度の面で劣るという欠点がある。
(5) USVの時代は始まったばかりであり、現時点ではこれを有効に使える国が相手国を圧倒できるだろう。今後、これまでもそうであったように、USVに対抗する措置が生まれ、それを克服するUSVが設計されるなどのサイクルが生まれるかもしれない。しかし今後数十年間、USVは海戦の中心的存在となる可能性がある。
記事参照:The Age of Uncrewed Surface Vessels

11月16日「『戦略的共感』の運用化、第1列島線の内側から考える―United States Army Japan司令官論説」(The Strategy Bridge, November 16, 2022)

 11月16日付の米戦略安全保障関連組織The Strategy Bridgeのウエブサイトは、United States Army Japan司令官J.B. Vowell少将とUnited States Army Japan上席情報将校Craig L. Evans大佐の “Operationalizing Strategic Empathy: Best Practices from Inside the First Island Chain”と題する論説を掲載し、両名は米国が自己中心的アプローチではなく、同盟諸国との「戦略的共感」を強めることの重要性を強調し、要旨以下のように述べている。
(1) 現在の世界的な課題に対する自由世界の指導者としての米国の取り組みが自己中心的であるならば、米国は、効果的に競争し、また紛争に勝つことは不可能である。国際政治学者H. Morgenthauは、自己中心的な主導を戦略的自己陶酔と表現した。Trump前政権の国家安全保障問題担当補佐官で退役中将のH.R. McMasterは2018年の著書で、戦略的自己陶酔が他国に対して誤った想定を抱き、特に対中政策に顕著に見られる冷戦後の米国の政策を誤らせた幾つかの事例を説明している。その上で、McMasterは、戦略的指導者と実務家に対して、「敵を駆り立てるとともに、(敵の行動を)制約するものを理解する技能」と定義される、「戦略的共感(strategic empathy)」を受け入れるよう求めている。彼の「戦略的共感」の概念は、他者、特に敵の視点から問題を見ることを規定している。しかしながら、この概念は、彼らの行動を動機付ける感情、イデオロギーそして願望をより良く理解するための窓として、同盟国とパートナー諸国にも同様に適用できる。この理論は、戦略的共感が強まるにつれて、戦略的ナルシシズムが減少し、結果的に競争し、紛争に勝つためのより良い政策と戦略をもたらすと予測する。しかしながら、McMasterの理論は、戦略的指導者は戦略的共感を以てどのように行動するかという問題を投げかけている。
(2) 本稿は、戦略的共感の概念を運用可能にするためには、戦略的指導者は地理、歴史及び国内政治という3つの重要な要素を理解しなければならないと論じている。これら3つの要素は、インド太平洋戦域の戦域戦略司令部であるUnited States Army Japanが採用している枠組みの柱である。第1に、United States Army Japanは米国の敵と、我々を受け入れている同盟国日本がこの地域をどのように認識しているかを理解するために、地図を見る視点を変える(大陸側を下にした視点から日本列島、即ち第1列島線を見ること:抄訳者)ことにより、戦略的共感を受け入れた。第2に、専門敵能力開発部門を通じて、United States Army Japanの指導者たちは、現代の行動や政策を理解するために、地域内諸国の歴史的視点を調べることにも力を入れてきた。我々は、選挙や戦略的文書の策定など、日本の国内政治の出来事を十分に理解するために、その枠組みを適用している。United States Army Japan司令部は、これらの活動により、地域の課題に対処するためにより高い能力と工夫を必要とする作戦環境において、異なる方法で考え、行動しそして運用するための一種の戦略的共感を持って運用することができる。
(3) ジャーナリストのR. Kaplanは「永続的な唯一のものは地理的位置」と言っているが、United States Army Japanは、北東アジアにおける多くの地域的安全保障課題を明らかにするために、域内諸国、特に有益である日本、ロシア及び中国の3ヵ国の視点から地理的環境が理解できるように地図を見る方向を(大陸側を下に)変えた。日米の軍事指導者はしばしば、国際秩序の断層線が日本を貫いていることに言及する。日本は、最北端から最南端の島に沿って、日本の安全保障上の利益と衝突する異なる地域的野心を持つ3つの権威主義的な核保有国と領土紛争を抱えている。地図を見る方向を変えることは、中国の地域的、そして地球規模の野心を牽制する、韓国、日本及びフィリピンなどの米国の提携国である民主主義諸国に囲まれているという中国の地理的認識に対して、米国の指導者たちの関心を集中させることで、戦略的共感を強める上で役に立つ。米国の指導者たちは、中国が米国主導の地域的封じ込め戦略の対象になっているという中国の明確な信念を、より良く理解することができる。United States Army Japanは、域内諸国の歴史的視点と、19世紀から20世紀にかけてのこれら諸国の相互作用が今日の国家安全保障政策と行動を直接形作ってきた方法について理解を深めるために、指導者の専門能力開発計画、専門家の円卓会議など、様々な方法を活用してきた。
(4) 国内的な力学関係を検討せずに当該国家の行動を理解しようとすることは、戦略的共感を高めるための十分な取り組みではない。United States Army Japanは、3つの権威主義的で敵対的な政権が持つ攻撃兵器の覆域内にあり、域内諸国の国内政治とその国際的行動との繋がりを理解することを優先している。こうした理解は、紛争を抑止するための政策と戦略を実行または提唱するために必要な戦略的共感を強めるために重要である。United States Army Japanは、中国、ロシア及び北朝鮮などの国の指導者の性格と野心という2つの変数が特に重要と見ている。地域や世界の他の地域への関与は、指導者の人格と悪意のある野心によって決定されるからである。権威主義体制では、体制の存続が最優先の安全保障利益である。したがって、United States Army Japan情報局は、地域の軍事活動の評価に指導者に関する分析を組み込んでいる。もちろん、同盟国についても同様で、当該国家の国内的考慮事項を理解することは、当該国家の行動の分析に情報を提供し、戦略的リーダーと実務家が戦略的共感を高めて活動するのに役立つ。
(5) 本稿の前提は、地理、歴史及び国内政治に対する認識を高めることで、戦略的共感が強化される一方で、戦略的自己陶酔が減少し、最終的にはより良い決定に繋がることである。戦略的共感を強めることで、情報部は、地域の集約された脅威に関する均整の取れた時宜を得た予測分析を作成できるようになり、これらの要因の微妙な考慮事項を訓練教材に組み込むことにより、運用部局はより現実的な2国間訓練を計画できる。2022年でも、United States Army Japanの2つの重要な2国間演習、「オリエントシールド」と「ヤマサクラ」は、より現実的な味方と敵の目的、能力及び行動に関する模擬に基づいて多くの成果を挙げた。戦略部局は、地理的、歴史的及び国内政治的考慮事項を含めることで、実行可能な運用計画を作成し、緊急時対応計画立案に情報を提供することができる。戦略的共感を持って活動する全部局に跨がる努力は、United States Army Japan司令官が決定を下し、文民指導者に軍事的助言を提供するとともに、米国の国益に資し、これらの利益にとって不必要な対価を回避できるような軍事的勧告を、高等司令部に提出することを可能にする。実際、戦略的共感は不可欠であり、率直に言って、現代の運用環境における直面する課題に対する自己中心的な取り組みに固執することは、あまりに危険性が高すぎる。United States Army Japanが地理、歴史及び国内政治の影響を評価するために採用している手法は、インド太平洋における下位統合司令部の陸上部門に止まらない。これらの手法は、戦術的な組織から2国間及び多国間司令部を含む国家的な戦略的組織にまで、あらゆる階層に適用できる。そうすることで、戦略的自己陶酔とそれに関連する認知の罠のパラダイムを逃れることができる。
記事参照:Operationalizing Strategic Empathy: Best Practices from Inside the First Island Chain

11月16日「ベトナムは海洋国家を目指せ―オーストラリア専門家論評」(The Strategist, November 16, 2022)

 11月16日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、UNSW Canberra at the Australian Defence Force Academyの博士課程院生Nguyen The Phuongの “Vietnam’s maritime imperative”と題する論評を掲載し、そこでNguyenは10月6日付のThe Strategistに掲載されたEuan GrahamとBich T. Tranのベトナムは海に向かうべしとの主張と10月24日付の記事でKhang Vuがベトナムの安全保障にとって最優先すべきは陸上であると反論していることを受け、ベトナムは海を目指すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 少し前のThe Strategistにおいて、今後ベトナムが地政学的に海か大陸のどちらに向かっていくべきかに関する議論が行われた。私自身は、海に関心を向けるべきだというEuan GrahamとBich T. Tranの意見に賛同する。
(2) ベトナムの戦略文化は歴史的に大陸志向であった。それは儒教的で反商業主義的な王朝時代の指導層によるものである。また第2次世界大戦後のHo Chi Minhの時代には、ベトナムは主として地上での戦争を戦ってきた。そのなかで、16~17世紀の海の時代は意図的に無視されてきた。脱植民地後のマルクス主義的な歴史的語りが、その時代が西側との海を通じた関与によって植民地時代の土台を築いたと考えたためである。
(3) 21世紀に入り、ベトナムは経済的な相互作用が起き、貿易網が広がる世界にいること、そして海洋領域の課題が大きくなっていることを理解するようになった。しかし、ベトナムはこれまでも、海洋国家としてのアイデンティティを再発見する過程にあったのである。1970~80年代の中国とカンボジアとの国境紛争によって、ベトナムの政治指導者らは、海に目を向けること、具体的に言えば南シナ海を安全保障の緩衝帯に転換する必要性を認識するようになった。そのなかで、小国たるベトナムが、国連海洋法条約などに基づく国際秩序に頼ろうとしたのは不思議なことではない。
(4) 2010年代以降、海洋国家としての過去への意図的な回帰は少しずつ実現されていった。2020年の経済戦略ではベトナムを「強力な海洋経済を有する国」へと転換することが目的と定められた。2016年の第12回共産党大会では海空軍の近代化の推進が強調され、2021年の党大会ではその迅速化が主張された。その背景には、南シナ海における中国の攻勢だけではなく、海洋国家としての展望をはっきりと有するようになったことがある。
(5) それでは陸からの脅威を考える必要はないのか。論点は2つある。1つは軍事力の行使、もう1つが脅威の高さである。海空軍の投資はたしかに高価であり、それゆえにベトナムは大陸志向であるべきだという意見がある。しかしGrahamとTranが指摘するように、今の時代、「大陸か海か」という二元的な峻別がふさわしくないだろう。地上を侵攻していくる敵に対抗する防衛作戦の継続のためには、軍種間の相互運用性が必要であるし、海洋での防衛作戦には陸空軍の支援が必要不可欠である。
(6) 脅威についても、実現可能性の観点から区分けすべきである。もっとも可能性のあるものは、南シナ海における軍事衝突やそれに先立つサイバー攻撃、あるいは南沙諸島周辺の海上封鎖である。1970~80年代におけるような大規模な国境紛争の可能性は、高くないであろう。冷戦期の当時とは、周辺諸国との関係、原則や優先順位が大きく異なるのだ。
(7) ベトナムの資源の限界を考慮すれば、経済的にも軍事的にも海洋分野への投資を優先するというのが合理的である。海洋への傾斜はすでに始まっており、そこからの転換は戦略的誤りである。
記事参照:Vietnam’s maritime imperative
関連記事:
Why a maritime focus is vital for Vietnam’s security
https://www.aspistrategist.org.au/why-a-maritime-focus-is-vital-for-vietnams-security/#:~:text=The%20majority%20of%20Vietnam's%20population,claims%20in%20the%20Spratly%20Islands.
The Strategist, October 6, 2022
By Euan Graham, a senior fellow at the International Institute for Strategic Studies
Bich T. Tran, a visiting fellow at the International Institute for Strategic Studies and a PhD candidate at the University of Antwerp
Why Vietnam needs to pivot landward for its security
https://www.aspistrategist.org.au/why-vietnam-needs-to-pivot-landward-for-its-security/
The Strategist, October 24, 2022
By Khang Vu, a doctoral candidate in the political science department at Boston College

11月16日「進化する東南アジアの海洋安全保障に対する脅威の形態―シンガポール、英国専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 16, 2022)

 11月16日付のCenter for Strategic and International InstituteのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、シンガポールS. Rajaratnam School of International Studiesの上席研究員John Bradfordと英国University of Bristol研究助手Dr. Scott Edwardsの“THE EVOLVING NATURE OF SOUTHEAST ASIA’S MARITIME SECURITY THREATS”と題する論説を掲載し、両名は東南アジアにおける海洋安全の状況は動いており、脅威の性質を改善、激化、出現に分類することによって評価することができるとし、改善に該当するものとして海賊行為や武装強盗、さらにはテロを挙げており、激化してきているものとして国家間紛争、海上難民の問題、違法薬物の密売、環境にかかわる犯罪、気候に起因する災害などを挙げ、新たな脅威としてIUU漁業、強制労働、サイバー攻撃、船員の労働安全衛生などを指摘し、要旨以下のように述べている。
(1) 東南アジアの海洋安全保障環境は着実に進化している。2022年の初め、RSISが実施した調査によると、この地域の海事関係者は安全の利用者と提供者の間に明確な区分がなくなった。このため、海事関係者は相互接続性をますます認識し、新しい役割を担っている。2022年8月の作業部会でも同様に、この地域の海洋安全保障上の脅威が織り交ぜられた性質に関する認識が高まっていることが判明した。利害関係者の行動はいくつかの脅威に関連する危険性と被害を減らしたが、問題は排除されておらず、地域の海域で無秩序な活動がある限り脅威を完全に排除することはできないことが徐々に明らかになってきた。残念ながら、そのような無秩序な活動は依然として多い。地域の海洋安全保障に対する脅威が急速に増大しているものもあれば、東南アジアの政府やその他の重要な海洋利害関係者が取り組むべき新たな優先事項として浮上しているものもある。東南アジアの海洋安全保障上の脅威の進化する性質は、特定の脅威を改善、激化、出現に分類することによって評価することができる。
(2) 脅威の改善とは、利害関係者の行動が海洋にかかわる人々の社会にもたらされる被害と危険を減らした脅威です。たとえば、東南アジアでは、海賊行為や武装強盗(以下、PARと言う)の問題は15年前よりも少なくなっている。海上テロは、脅威の改善のもう1つの例である。2001年9月11日の同時多発テロ以来の数十年で、東南アジア諸国はテロ対策において顕著な成果を上げてきた。しかし、海洋領域には複数の海域に拡がり、複雑で多面的なテロの脅威が残っている
(3) 基幹施設と船上システムの改善により、東南アジアの航行の危険がもたらす脅威も軽減されたが、課題は解消されていない。最も船舶交通量の多いマラッカ海峡とシンガポールでは、過去25年間で1,000件以上の事例が発生したが、これらの発生率と事象の酷烈さは低下している。20世紀後半では対照的に、大規模な石油流出、あるいは有害物質の流出は比較的稀になった。しかし、Maritime Institute of Malaysiaの研究者の見積では2024年にはマラッカ海峡、シンガポール海峡は安全に航行できる通航量を超えるかもしれない。海洋環境の動的領域において、1つまたは2つの変数の変化が事態の進行を急速に逆転させる可能性があることを示している。
(4) 増大する脅威は、東南アジアで長年続いてきた脅威であるが、海上における良好な秩序にとってより有害になり、地域の安全保障に大きな危険性をもたらす脅威である。これらには、国家間紛争、海上難民の問題、違法薬物の密売、環境にかかわる犯罪、気候に起因する災害が含まれる。
(5) 東南アジアのほとんどの海洋をめぐる国家間紛争は解決または管理されているが、南シナ海での対立は明らかに激化している。国家は紛争海域における安全保障上の展開を高めており、漁師と沿岸警備隊が関与する暴力がより頻繁になり、事故や誤算がより大きな紛争を引き起こす可能性が高まっている。
(6) 国家の行動は、最近のミャンマーにおいて統治権力による迫害から逃れてきた人々急増は海上難民に対して行われる問題の中心でもある。難民の立場から言えば、国家が主要な脅威である。難民が海上で武装強盗に襲われていないという事実は、地域の海上安全保障の改善の兆候ではある。しかし、大規模な非正規な人口移動は、難民受け入れ国の資源を圧迫し、犯罪分子によるさらなる搾取に対して難民を脆弱なままにしている。
(7) 栄えているのは、違法な麻薬密売人である。東南アジアは、違法薬物の生産地、消費者、運搬者として活況を呈しており、状況は急速に進展している。国が国境を閉鎖し、海外旅行を制限することでCOVID-19の世界的感染拡大に対応した時、麻薬密売人達は陸上国境を越えることから海上輸送路に変更することで適応した。これは、海上安全保障の脅威が進む中、状況にどのように迅速に対応するかを示している。
(8) 環境犯罪は、長年にわたる地域の海洋安全保障上の脅威であった。生態学的被害は回復を上回る速度で続いている。その結果、累積的な影響は雪だるま式に増え、海洋生態系の多くの側面が崩壊の危機に瀕している。環境犯罪を取り巻く動態は、おそらく東南アジアの海上安全保障上の脅威の相互に関連する性質を最も明確に示している。国家間紛争は法執行活動を妨げ、南シナ海での人工島の建設や紛争水域での漁業の保護の場合のように、一部の国に環境破壊への助成を奨励している。次に、破壊は犯罪活動を助長し、海にかかわる社会に及ぼした損害を悪化させる経済状況を生み出しる。この相乗的な被害は、気候に起因する災害の脅威にはっきりと見ることができる。東南アジアでは異常気象が普通のこととなってきており、かつ激しくなり、指導層はこれらをこの地域の最大の課題の1つと見なすようになってきた。さらに、環境破壊は自然災害の影響を倍加させている。2018年にインドネシアのスラウェシ島中部で発生した地震災害は環境破壊が被害を拡大したことをはっきりと示している。
(9) 新たな海洋安全保障上の脅威として、脅威がもたらす差し迫った危険性という観点から見れば決定的に拡大していないにもかかわらず、東南アジアの利害関係者がますます注意と資源を集中させているものがある。これらには、IUU漁業、強制労働、サイバー攻撃、船員の労働安全衛生が含まれている。
(10) IUU漁業はこの地域では目新しいものではなく、各国は権益を保護し、漁業が自国にもたらす経済的利益を改善し、魚資源の持続可能性を可能にするため、対応をより優先している。データは、これらの国家の行動がIUU漁業に関連する経済的損失を減らしていることを示唆しているが、利害関係者はIUU漁業活動が麻薬や人身売買、強制労働、環境犯罪、国家間紛争など他の脅威とどのように補い合っているかについてますます気付くようになってきている。実際、漁業資源が減少している中で漁業規制の施行が改善され続ける場合、船員と船は利益を確保するためにより厄介な活動に目を向ける可能性が出てくる。すでに経済的圧力により、漁師は強制労働に頼ったり、密輸などの違法行為に移行したりして、経費を削減するよう求められている。
(11) 経済的圧力と利益の追求も、海上労働安全衛生問題の根本的な原因である。船舶は本質的に危険な勤務環境であるが、安全装置への投資不足と乗組員の過労が問題を悪化させている。東南アジアが世界の海上交差点であり、船員の主要な供給国としての役割を考えると、乗組員の安全と衝突や油流出などの不適切な労働条件の波及効果は、地域の幸福に即座に影響を及ぼすことになる。意識の高まりは、旗国による乗り組み勤務条件の施行と乗組員を供給する国における訓練および規制基準の引き上げを促進する可能性がある。
(12) 海事の利害関係者の間では、サイバー攻撃が新たな脅威として最も話題になっている可能性がある。サイバー攻撃は、輸送業務を混乱させ、海上の安全を危険にさらすという点で急速に拡大する危険性を孕んでいる。東南アジアではこれまで大きな攻撃は発生していないが、国家レベルのハッカー、サイバー犯罪者、犯罪組織が重大な危害を加える可能性があることは明白である。東南アジア以外では、サイバー攻撃はすでに港湾セキュリティシステムで発生しており、違法薬物密売を可能にしている。海事業界や規制当局のデジタル化に伴い、サイバー攻撃に対する脆弱性はすべての利害関係者を含むようになってきている。サイバー攻撃は、海上安全保障上のあらゆる脅威をもたらそうとする個人や組織にとって有効な手段となるだろう。海洋安全保障の脅威がより複雑になり、より多くのことが取り込まれてきており、多様な要素を包含する海事システムということを考慮せずに特定の脅威だけを検討することがますます問題になってきている。すべての海事にかかわる利害関係者がさまざまな脅威を同じような懸念として見ているわけではないため、前述のことは特に当てはまる。実際、従来のセキュリティ分析は脅威が国家にもたらす危険性と損害に焦点を当てているが、一部の地域の利害関係者は国家の行動を逆効果または根本原因とさえ見ている。これは、国家が主権への懸念や自国民に対する行動の一環として持続を不可能にする漁業や環境被害を促進したり、難民の移動を引き起こしたりしていると見ることができる。したがって、海洋の脅威を検討する際には、「誰に対する脅威か、または何に対する脅威か」という警告の質問をすぐに行うことが重要である。
記事参照:THE EVOLVING NATURE OF SOUTHEAST ASIA’S MARITIME SECURITY THREATS

11月16日「東南アジアの海洋安全保障に対する進化する脅威としてのIUU漁業―シンガポール専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 16, 2022)

 11月16日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、インドネシアUniversitas Bakrie国際政治経済学准教授Asmiati Malikの“IUU FISHING AS AN EVOLVING THREAT TO SOUTHEAST ASIA’S MARITIME SECURITY”と題する論説を掲載し、ここでMalik はASEAN諸国ではIUU漁業による経済的損失は減少しているものの、大規模な漁船によって排他的経済水域や公海で行われるなどその脅威は進化しており、各国間の情報共有などの協力と国によるIUU漁業は魚資源保護のためにも行ってはならないという漁師への教育訓練が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 違反・無報告・無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)の脅威は過去20年間で進化してきている。IUU漁業による経済的損失は、過去10年間で減少の兆候はあるが、脅威は進化している。
(2) ASEAN諸国では2019年にIUU漁業によって60億ドル以上の経済的損失を被り、インドネシアとベトナムが最大の損害を受けた。この地域で最大の領海とEEZを保有するインドネシアは、2015年に約68億ドル、2013年から2018年の間に2,010億ドルの損失を被った。損害額は2021年に7,400万ドルに減少した。この損失は、IUU漁業に従事する推定漁船の数とトン数に基づく違法魚の潜在的な漁獲量の測定値である。インドネシア政府による違法漁船の捕獲数も、2016年の163隻から2019年にはわずか38隻に大幅に減少した。それは2021年に167隻に増加した。これらの数はインドネシアの海域で930隻の違法漁船が捕獲された2014年よりもはるかに少ないままに留まっている。
(3) この損害推定額の減少は、部分的には、IUU漁業の減少ではなく、IUU漁業がより発見しにくくなったことに起因している可能性がある。IUU漁業は、領海で操業している場合、発見し易い。しかし、ASEAN諸国の懸念の高まりによりIUU漁業は現在、排他的経済水域や公海に移行している。その実施の発見は、IUU漁業を追跡するために国際協力とより大きな予算を必要とするため、より困難となっている。
(4) 過去10年間で、IUU漁業は国境を越えた組織犯罪の一形態となった。それは、他の犯罪との関連性、組織の増加、強制労働などの他の犯罪行為と繋がることによっている。Pusaka Benjina Resources社の事件では、タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスから1,128人の奴隷的な漁船員がいたことが判明した。2019年のIUU漁業に関するGreenpeaceの報告書では非人道的な労働慣行、劣悪な労働条件、現代における奴隷制度が強調されている。報告書はまた、漁船員の賃金の不払い、長時間労働、身体的虐待、性的虐待などの違法行為に関与した13隻の外国漁船を明らかにしている。彼らはまた、契約に基づいた賃金を支払われず、賃金がまったく支払われなかった事例もあった。Taiwan Fishery Agency(台湾行政院農業委員会漁業署)のデータによると、インドネシアからの21,994人、フィリピンからの7,330人の出稼ぎ漁師が台湾の遠洋漁船で働いている。それに加えて、Ministry of Foreign Affairs, Indonesiaのデータによると、奴隷制度、虐待、死亡、賃金不払い、不公正で違法な漁業の実施について苦情を申し立てたインドネシアの移民漁船員の事案は1,451件ある。毎年拿捕されるIUU漁業関連の漁船の数は大幅に減少しているが、これらの課題は残っている。中小規模の違法漁船(総トン数30〜100トン)は、長く航海できず、最終的には燃料を補給するために港に戻る必要があるため、見つけて拿捕するのが簡単である。対照的に、大型船は数ヶ月間航行することができ、拿捕するためにより多くの資金と船舶を必要とするため、発見して拿捕するためには課題と障害がある。
(5) 漁業部門の強化とIUU漁業との闘いを対象とするより広範な枠組みには、IUU漁業活動から得た魚介類のサプライチェーンへの侵入を防止するためのASEANガイドライン(2015年)、IUU漁業との闘いとASEAN漁業の競争力強化のための地域協力に関するASEAN-SEAFDEC合同宣言(2016年)、IUU漁業対策のためのASEANネットワークに関する協力枠組み(2020年)などがある。
(6) ASEAN諸国は、船舶監視システム(VMS)、電子報告システム、電子監視システムの情報共有や電子監視など、IUU漁業対策のための情報の透明性を高めるための漁業外交を積極的に行っている。これらのシステムを使用することによって、ASEAN加盟国は、他国からの報告を遅れることなく入手でき、自国の海域でのIUU漁業や未報告漁業を発見して検挙することができる。ASEAN各国は、共同の監視、査察、情報交換などを通じて、IUU漁業と闘うために、国際的、地域的、国内的な均衡のとれた協力を必要としている。ASEAN諸国とアジア太平洋地域の国々は、漁船に乗る出稼ぎ漁師を保護するために集中的な協力を行うとともに、出稼ぎ漁師を送り出す国と漁船に乗せる国との2国間協力を行うべきである。多くの漁業者はIUU漁業によるより広範な結果を理解していないため、漁師の能力と知識を高めるための国際機関との協力をさらに実施する必要がある。将来有望な活動が、たとえば、持続可能な漁業の実施を促進するために地域社会と関わっているコーラルトライアングルイニシアチブ(珊瑚礁保全の地域的取り組みの1つ。インドネシアが主導し、フィリピン、マレーシア、東チモール、パプアニューギニア、ソロモン諸島の5ヵ国が参加する多国間提携。米国、オーストラリア、NGOなども参加:訳者注)によって行われている。労働の面では、漁師や出稼ぎ漁師を配置する企業に明確な指導と監督を行うことは、IUU漁業を促進する違法な募集の実施に対処することになる。
(7) IUU漁業が現在、地域の利害関係者にもたらしている脅威には、2種類がある。破壊的な漁業の実施と現代の奴隷制である。これらの脅威は、漁業が中小規模と大規模の業者に分類されていることと切り離すことはできない。シアン化物による漁業や電気を使った漁業などの破壊的な漁業は、増大する燃料などの経費と戦うための資金の限られている小規模な漁師によって、幅広く行われている。魚の枯渇を経験している地域では、漁師はさらに沖合で航海することを余儀なくされ、燃料経費が増加する。したがって、これらの経費と操業時間の増加を相殺するために破壊的な漁業を行うのは、多くの場合、小規模な漁師である。小規模な漁業者の数は、通常、トロール船を使用する中規模漁業者よりも多い。破壊的な漁業は通常、サンゴ礁の間に住む魚を捕まえるために浅瀬で行われる。したがって、引き起こされた被害は、魚が繁殖や子育てに使用するサンゴを破壊することにより、海の生態系にさらに大きな悪影響を及ぼす。サンゴの破壊は、海の食物連鎖にも大きな影響を与える。
(8) 漁業の運用経費の上昇と魚資源の枯渇も、2番目の大きな脅威である現代の奴隷制の一因となっている。魚資源の枯渇が漁業部門の経済的魅力を低下させるにつれて、現代の奴隷制度と労働虐待は経費を削減する方法となり、IUU漁業の促進条件となる。ASEANの漁師の大多数は高齢者であり、世代交代が必要である。若い世代は、大きな収入がもらえると信じているので、大型漁船で働くことを好む。この分野における監視の欠如と高い需要は、国からの適切な保護、監督、監視がないため、若い漁師を外国船で働くように誘惑するのは容易である。漁師の派遣元、国、沿岸、港湾、貿易、市場国家を含むコンプライアンスと抑止を通じて法執行を強化することにより、現代の奴隷制度と戦うことが重要である。また、国と国際機関の間の協力を強化する必要がある。
(9) ASEAN諸国の指導層は、多くの声明やスピーチを通じてIUU漁業の潜在的な脅威についての認識を高めようと努めてきた。それに加えて、2014年以来、IUU漁業の実施を扱うメディアやNGOの関与は大きくなっている。 2014年以来、Ministry of Marine Affairs and Fisheries of Indonesia(インドネシア海洋水産省)の下で抑止効果のために違法漁船を沈めるプログラムは、この問題を国内、地域、国際的な聴衆に提起した。また、AP通信がインドネシアのプサカ・ベンジナ・リソーシズ社による人身売買に関する取材を行って以来、ASEAN諸国は漁業部門における人身売買の実施を認識している。それでも、漁業者は、漁業部門の最大の利害関係者であり、IUU漁業とその促進条件の両方からの脅威を減らすために最も重要であるため、漁業者自身の知識を増やすことによって意識を高める必要がある。
(10) 海洋安全保障は、国内、地域、国際レベルでの複数の利害関係者の問題である。したがって、公正かつ透明な権限の分配を必要とする問題を中心に、利益相反が生じる可能性が大きい。国が、捜査、逮捕、治安に関する明確な指示を出す明確なガイドラインと担当部局を確立する必要がある。同時に、中小規模の漁業者でも、さらに多くの小規模な個人の漁師がIUU漁業の実施を止めるように教育を受け、そのような訓練を受ける必要がある。
記事参照:IUU FISHING AS AN EVOLVING THREAT TO SOUTHEAST ASIA’S MARITIME SECURITY

11月17日「英がロシアの破壊工作を念頭に海底監視を強化―米国防誌報道」(Defense News, November 17, 2022)

 11月17日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、“UK military ups investments in undersea surveillance”と題する記事を掲載し、英国がロシアの破壊工作に対応するために海底の監視能力を強化しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 英国はロシアの脅威にさらされる中、英Ministry of Defenceが深海用遠隔操作潜水機の購入を目的とした入札書類の公開を今後数週間のうちに準備し、海中での能力を高める計画を立てている。
(2) 英Ministry of DefenceのDefence Equipment and Support arm(防衛装備・支援部門)は、現在、2,000万ポンド(2,400万ドル)の費用を要すると見られる計画で、この遠隔操作潜水機の獲得を進めているところである。競争入札で購入されるこの商業用で容易に入手可能な潜水機は、水深6,000メートルにある潜水機を操作でき、高解像度の画像を生成する能力を英国に提供する。
(3) 英国が水中での軍事能力を強化するというニュースは、Ben Wallace国防相が、英国の輸出を世界に推進するために2億5,000万ポンド(2億9,700万ドル)のスーパーヨットを建造するという議論を呼んだ計画を破棄した資金の一部を使って、多用途海洋監視艦計画を加速させることを発表してからちょうど数日後のことであった。
(4) それどころか、Wallaceは、英Ministry of Defenceは、ロシアによる可能性のある破壊工作から海中のパイプラインやケーブルを守るために取得予定の専門的な多用途海洋監視艦の導入を加速させるだろうと語っている。9月下旬に起きた、ロシアから西ヨーロッパに天然ガスを運ぶバルト海のノルドストリームのパイプライン2本が破壊された事件では、ロシアが背後にいると考えられている。
(5) 最初の海洋監視艦は商船を改修すると考えられているが、英海軍の支援部門である英海軍補助艦隊に、当初の計画より数カ月早く、2023年に引き渡されるはずである。海底インフラを可能性のある攻撃から守るために、現地で建造されるであろう2隻目の艦も、現在、英国の計画の一部となっている。
(6) 深海無人潜水機が監視艦能力の一部となるかどうかは、現時点では明らかではない。英海軍は以前から、同艦に高度なセンサーと遠隔操作が可能で自律型の海中小型無人機を多数搭載すると述べている。
記事参照:UK military ups investments in undersea surveillance

11月19日「超大国米国の維持のためには海上輸送能力が不可欠―米安全保障専門家論説」(19FortyFive, November 17, 2022)

 11月19日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクLexington Institute上席副所長Daniel Goureの“Without A Robust Sealift Capability, The U.S. Is No Superpower”と題する論説を掲載し、そこでGoureは米軍がその軍事力を有効活用し、戦争を抑止、ないしそれに勝利するためには海上輸送能力を強化・維持する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 超大国とはどのような国を指すか。その尺度には、核兵器やその運搬手段の数や多様性、陸海軍の規模などがあげられるが、それは必要条件であり十分条件ではない。米国が有する独特の戦略的優位の1つに、大規模な部隊や物資を海上輸送し、戦闘を年単位で継続できる能力がある。この能力は抑止力、人道救援作戦の実施、同盟国などへの保障の提供にとって、そして実際に戦争が起きたときには戦闘の継続にとって決定的である。この海上輸送力が米国の国力の決定的な一部を構成する。
(2) 米軍が海外に配備されるとき、一部は空路によって可能だろうが、大部分、特に陸軍や海兵隊の戦力や物資は海路によってのみ可能である。空軍もまた海路を通じた支援を必要とする。そして配備後の展開の維持にとって、海上輸送はより決定的である。
(3) 冷戦中もそうであったが、むしろ冷戦終結後に海外部隊の大部分が本国に戻ったことによって、海上輸送による部隊の配備と維持は大きな意味を持つようになっており、今日Biden政権にとっての課題である。ロシアと中国という脅威が同時に存在する現在、戦略的兵力投射能力は重要である。今後米国は、世界全体に膨大な量の物資を移動するための確固たる能力なしに、国家安全保障政策の目標を達成できないだろう。問題は、米軍が依存する海上輸送力が縮小かつ老朽化してきているということである。それは、官民どちらにも同じことが言える。
(4) 軍事海上輸送は、事前集積船隊、緊急輸送船隊。即応予備船隊、米国商船隊の一部の4つの構成要素から成るが、一言で言えば今後、海上輸送能力は急激に悪化していくであろう。海軍は数年前、即刻海上輸送能力の再近代化が進められるべきだと警告した。解決策について、U.S. Navyや議会、U.S. Department of Defeseは基本的に意見が一致しているが、実際の動きは鈍いと議会は不満を示している。
(5) 政府が保有する輸送船団が近代化したとしても、今後米国は、大規模な紛争が起きた場合には商船隊に依存せざるをえなくなる。海上安全保障計画(MSP)は、こうした場合に加盟する民間商船に報酬を払って、必要なときに利用させてもらう計画である。しかし米国商船隊は、より安価な外国の競争圧力にもさらされている。いざというときのために、米国商船隊を維持しておくことは国家安全保障にとって重要であるので、そのために、Jones法などが制定された。同法は、米国の内海で、あるいは米国の港間で積荷を運ぶ船が米国船籍でなければならないと規定するものである。
(6) 米国は世界最強の陸海空軍および海兵隊を有し、世界全体に同盟網や友好国網を広げている。しかしそうした米国の軍事力は、紛争の抑止および勝利のために、配備・支援されなければならない。結局のところ、確固たる海上輸送能力がなければ、米国は超大国という立場を維持できなくなるだろう。
記事参照:Without A Robust Sealift Capability, The U.S. Is No Superpower

11月20日「米中の海軍戦力の変化がもたらす台湾危機―香港紙報道」(South China Morning Post, November 20, 2022)

 11月20日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Is the US Navy’s ageing fleet opening the Davidson window for a PLA attack on Taiwan?”と題する記事を掲載し、米海軍に関しては、艦齢の古い艦艇が退役し、新しい艦船が就役するのに時間がかかる一方、中国海軍はその能力を拡大させているため、その間に中国による台湾への武力行使が起こる可能性が懸念されるとして、要旨以下のように報じている。
(1)米国議会の2つの報告書によると、米海軍は今後数年間で、艦隊の規模も能力も縮小す
る。その一方で、中国海軍は急速に拡大し、近代化する。この変化は、中国軍が「デビッドソンの時間帯(Davidson window)」として知られる今後数年の間に台湾への攻撃を準備している可能性があり、米国がそれを阻止するためには手遅れになる可能性があるという懸念の中で起こった。
(2)米Congressional Budget Office(議会予算局)は、2023年度の米海軍の造船計画について
分析し、艦齢の古い艦船が段階的に除籍され、新しい艦船が徐々に就役していくため、米海軍は「戦闘任務に充当できる艦艇(battle force)」が2022年の292隻から、2027年には280隻まで縮小すると発表した。
(3)しかし、米海軍は今後30年間に艦隊の拡張を計画しており、米国防省は、投資額にも
よるが、最大340隻の新造艦艇を購入し、総数を367隻にすることを提案している。その数はともかく、購入には多大な費用がかかる。建艦費用は過去5年間の平均より23%から35%高く、海軍の見積もりより少なくとも14%高い。
(4)一方、Congressional Research Service(米議会調査局)による別の報告書によれば、米国
が海軍を縮小させる時期は、中国海軍の規模と力が急速に増大する時期と重なるため、この時期に中国政府が台湾に武力を行使する可能性があるとの懸念が生じる。「米海軍の主要な艦艇の建造に必要な時間(通常数年)を考えると、海軍のための新造艦艇調達に関する現在の決定は、「デビッドソンの時間帯」または「懸念される10年(decade of concern)」に海軍が使用する艦艇の数にわずかな影響しか与えないだろう」と、中国の海軍近代化に関する報告書は述べている。
(5)「デビッドソンの時間帯」とは、元U.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidsonが、
台湾海峡での紛争の可能性を2021年から2027年の間でいつか起こると述べたことにちなんで名付けられたものである。また、「懸念される10年」と呼ばれる、2020年から2030年にかけて、そのような紛争が起こると予測する説も有力である。
(6)355隻を超える中国海軍は、すでにその規模において米国のそれを上回っており、2025
年までに420隻、2030年までに460隻の戦闘力のある艦艇を保有するまでに拡大すると予想されている。中国艦隊は総排水量ではまだ米海軍より小さく、能力の劣る旧式艦も多いが、近海で優位に立ち、母港を離れても活動できるよう、完全な近代化を進めている。
記事参照:Is the US Navy’s ageing fleet opening the Davidson window for a PLA attack on Taiwan?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)HOW DEFENSE DEPARTMENT PLANNING HORIZONS CAN BETTER AVOID
STRATEGIC SURPRISE
https://cimsec.org/how-defense-department-planning-horizons-can-better-avoid-strategic-surprise/
Center for International Maritime Security, November 15, 2022
By Travis Reese retired from the Marine Corps as Lieutenant Colonel after nearly 21 years of service. Mr. Reese is now the Director of Wargaming and Net Assessment for Troika Solutions in Reston, VA.
 2022年11月15日、米コンサルタント企業Troika Solutions のディレクターであり米海兵隊退役中佐のTravis Reeseは、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに" HOW DEFENSE DEPARTMENT PLANNING HORIZONS CAN BETTER AVOID STRATEGIC SURPRISE "と題する論説を寄稿した。その中でReeseは、国家の防衛は、今日の脅威と明日の課題に対する準備の釣り合いを取りながら、連続的かつ継続的に達成される終わりのない仕事であるが、現在あるいは将来の課題に対処する際に必要な、所要の特定と適切な解決の提供の間に、過度のズレが生じていると米U.S. Department of Defenseの抱える課題を指摘している。その上でReeseは、U.S. Department of Defenseは課題を改善するための構想を率先して行っているものの旧態依然とした状況に大きな変化見られず、今こそ、従来の慣行を見直し、短期的目標と長期的目標とを比較考察しながら複眼的な思考で戦略設計を図るべきだと指摘している。

(2)Time for the West to think about how to engage with defeated Russia
https://www.brookings.edu/articles/time-for-the-west-to-think-about-how-to-engage-with-defeated-russia/?utm
Brookings, November 15, 2022
By Pavel K. Baev, Nonresident Senior Fellow at the Brookings Institution 
 2022年11月15日、米シンクタンクThe Brookings Instituteの非常勤上席研究員Pavel K. Baevは、同シンクタンクのウエブサイトに" Time for the West to think about how to engage with defeated Russia "と題する論説を寄稿した。その中でBaevは、ウクライナ戦争はPutin大統領やロ軍幹部の思惑どおりには進んでいないが、ロの敗北の範囲、時機、影響などは依然として不明瞭であると指摘した上で、ここで検討すべき論点は、ロの敗北は突然訪れ、かつ急速に展開する可能性があるが、この過程は、長期にわたる本質的に勝ち目のない戦争でゆっくりと敗北していく過程とは異なり、より強烈な課題と危険性が伴うだろうということだと述べている。そしてBaevは、ロ政府や政権寄りの専門家は、ロは長期戦でも勝てるという主張を続けているが、あくまでこの主張はプロパガンダに属するものであって、それはロ軍の戦闘能力の低下や軍産複合体の劣化を示す洞察的な評価により否定されるとし、戦争の潮目が変わった現在、私たちは、運命的な「特別作戦」の失敗という現実をロシア政府が痛感することの機会と危険性を、遅滞なく検討しなければならないと主張している。

(3)The Changing Paradigms of Taiwan’s Grand Strategy
https://jamestown.org/program/the-changing-paradigms-of-taiwans-grand-strategy/
China Brief, The Jamestown Foundation, November 18, 2022
By Philip Hsu, a freelance consultant and writer 
 11月18日、フリーの著述家Philip Hsuは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに、“The Changing Paradigms of Taiwan’s Grand Strategy”と題する論説を寄稿した。その中で、①台湾の世論調査では、国民党が地方選挙で優位に立つ可能性が指摘されているが、国民党の選挙での影響力が低下してきた理由として、両岸経済関係の変化と、民進党が台湾の大戦略を作り直したことがある。②「親中派」から「親独立派」へと交互に変わる台湾の「ポスト蒋」大戦略が失われた。③ひまわり運動は、中国との関係緊密化に対する台湾世論の転換点となった。④2016年蔡英文政権は、中国中心の経済発展モデルに代わる「新南向政策(NSP)」を提案した。⑤純粋に投資の観点から、台湾企業は中国から撤退したが、これはCOVID-19の世界的大流行の影響と、中国自身の国策によるところが大きい。⑥台湾の大戦略に欠けているのは、中国との対立の際に米国や同盟国が介入することを想定する段階を超えた軍事的取り組みである。⑦台湾の軍事思想は冷戦時代のものを反映してきたが、2021年の国防部の防衛見直しは、非対称戦とグレーゾーンの脅威に関する項目を含んでいる。⑧しかし、台湾では軍事的なアイデンティティが形成されていない。⑨もし台湾の姿勢が自衛的で社会の「保存」だけであるなら、米国主導の同盟連合から時代遅れになる危険性がある。⑩米国は、台湾関係法以外の政策手段として、積極的な地域・世界戦略措置を台湾政府に委ねる可能性があり、これは独立を望む台湾世論にとっては不愉快なことかもしれない。⑪その場合、安全保障のために台湾の中立または曖昧な姿勢を維持すべき、あるいは同じ理由やビジネスなどを理由に大陸との関係を再活性化すべきという意見が出るといった主張を述べている。