海洋安全保障情報旬報 2022年10月11日-10月20日

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10月11日「8月以降台湾周辺での軍事行動を強化する中国―香港紙報道」(South China Morning Post, October 11, 2022)

 10月11日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“‘If this is not provocation, what is it?’: Taiwan says mainland China sends 4-6 warships every day”と題する記事を掲載し、8月以降中国が軍事行動を強めていることについて、具体的な数字を提示した台湾国防部長邱国正の発表に言及しつつ、要旨以下のように報じている。
(1) 台湾国防部長の邱国正は、中国人民解放軍が8月以降、台湾周辺海域に毎日4から6隻もの艦艇を展開し、さらに毎日台湾の防空識別圏、ないし台湾海峡の中間線を越えた空域に軍用機を侵入させてきたと述べ、邱はこれが中国による明らかな挑発行為だと断じた。
(2) 台湾軍関係者が、中国による挑発行動の「数」に言及したのは、これが初めてのことである。邱の発言は、蔡英文総統が中国による脅威を誇張したとして、中国政府がそれを非難したことを受けてのことであった。
(3) 10月10日の中華民国国慶節に、蔡総統は中国に対し相互に合意可能な手続きを進めるべきだと呼びかけ、軍事衝突は両者にとって選択肢であってはならないとした。中国政府はそれを、台湾の独立や「二国理論」を推し進めるものだとして退けた。邱によれば、国慶節の日でさえ、中国軍は20機の軍用機を出撃させ、うち8機が台湾の防空識別圏に侵入したという。
(4) 中国が軍事行動の頻度と強度を高めたのは、8月に米下院議長Nancy Pelosiの訪台を受けてのことであった。中国から見ればPelosi訪台は、米国による中国の主権の侵害であり、「一国二制度」の否定であった。中国は台湾を自国の一部とみなし、必要であれば軍事力をもってその再統一を明言している。米国政府は公式に台湾を国家として承認してはいないが、軍事力による再統一には反対している。
(5) 台湾の専門家によれば、中国による台湾周辺での軍事活動の強化により、台湾軍が疲弊するだけでなく、台湾の反応の対価を拡大させることになるという。中国の行動に対し、台湾はすべて対応しなければならず、それが戦闘に拡大する可能性が高まることを意味する。
(6) 同じ専門家は、国防部長が来年度予算で補給と兵站に関する予算の増額を要求したのは、それが理由だという。8月末に台湾政府は史上最高額となる5,863億台湾ドル(185億米ドル)の軍事予算を承認した。邱は、現時点での台湾海峡の状況は彼の経験上最も厳しいものだとしたが、それでも、中国と台湾の戦争などあってはならないと主張している。
記事参照:‘If this is not provocation, what is it?’: Taiwan says mainland China sends 4-6 warships every day

10月12日「空母はなお代替不可能な戦略兵器である―米防衛問題専門家論説」(19FortyFive, October 12, 2022)

 10月12日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクLexington Institute上席研究研究者Sarah Whiteの“Why U.S. Navy Aircraft Carriers Are Irreplaceable”と題する論説を掲載し、そこでWhiteは空母が時代遅れになるという主張があることに反論し、要旨以下のように述べている。
(1) 研究者たちの間では、空母は早晩時代遅れになると言われている。その理由は、中国による遠距離偵察システムやミサイルの開発により、空母の脆弱性が高まるためである。もし1隻だけでも空母が行動不能になれば、太平洋における米軍の防衛態勢は甚大な影響を受けるであろう。
(2) しかしこうした主張は、空母の代替案を検討するときに説得力を失う。まず、海軍はその航空戦力を陸上の基地に依存していないため、それに依存する空軍が持つような弱みを持たない。また空母は、より小型の艦艇が決して果たすことのできない役割を果たしている。それゆえに、少なくともしばらくの間、空母は代替不可能な存在であり続けるだろう。
(3) 空母は、海軍の抑止戦略を維持し、現実の戦争となった場合に米国は敵を撃破する装備を保有しているというメッセージを潜在的な敵に発信している。空母の破壊力は搭載する武器体系に由来する。ニミッツ級原子力空母およ及び及びフォード級原子力空母はF/A-18E/F戦闘機を中心に数十機の打撃航空機を搭載し、一方対航空機、対ミサイル防御システムを装備している。巨大な甲板と長い航続力を持つ原子力空母は、海軍による抑止力の中核である。それは、何十という打撃戦闘機を運搬でき、対空攻撃やミサイル防衛システムを備えている。空母の破壊力の他の一面は攻撃の持続力である。
(4) 大型原子力空母は一般的に用途が広い。空母は、戦力投射、シー・コントロール、防空など多くの作戦を同時に実行できる。また、原子力空母は原子力というほぼ無限のエネルギー源を持っていることから洋上での燃料補給を必要としない。海上の基地としての空母の機能に代わるものは存在しない。海軍が紛争に備えるために必要な全てが1ヵ所にある場合、同盟国の基地と組み合わせて、小型で、分散した艦艇群に切り替えることは余り意味が無い。その状況は、太平洋、特に中国との紛争が発生した場合には、すぐに海軍にとって不利となる後方支援上の混乱を招くだろう。
(5) 空母が高価なのは事実である。フォード級空母の新造には、連邦予算1日分(160億ドル)ほどが必要である。また、空母打撃群1個の運用には1年間で10億ドルかかる。しかしその寿命は50年ほどであり、空母の建造、維持費は戦争が勃発した際、海軍が目的達成のために持続的に行動できるためのきわめて長期的な投資なのである。空母が実施可能な強度の作戦を小型艦艇が毎週遂行できる可能性は低い。大規模な紛争で水上戦闘艦艇がミサイルを使用する可能性の頻度を考えれば、代替選択肢をどのくらい維持する必要があるのか。
(6) 空母はまた高い防御力を有する。核兵器以外で、空母1隻を撃沈、ないし行動不能にするのはほぼ不可能だと考えられている。さらに、航空戦力が進化していることを考慮すれば、空母が時代遅れだという主張は説得力をなくすだろう。今後40年で、米海軍はニミッツ級からフォード級空母への転換を終えるだろう。そしてF-35Cステルス戦闘機や、早期警戒機E-2Dを搭載することになるであろう。将来的に無人機を運用することにもなるはずである。
(7) 以上の理由から、空母はなお抑止力として、また戦争の際に相手を打ち倒す戦力として、今後数十年にわたってその役割を果たすことだろう。
記事参照:Why U.S. Navy Aircraft Carriers Are Irreplaceable

10月14日「戦略の再構築 :台湾と南シナ海をめぐって接近するMarcos Jr.と米国―フィリピン専門家論説」(China US Focus, October 14, 2022)

 10月14日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusは、Polytechnic University of the Philippinesの Richard J. Heydarianによる‶Strategic Reboot: Marcos Jr and U.S. Inch Closer over Taiwan and the South China Sea″と題する論説を掲載し 、Richard J. Heydarianはフィリピンの新大統領Marcos Jr.が、戦略を再構築して米国に接近しようとしているとして、以下の要旨で述べている。
(1)    2022年の大統領選挙に立候補を表明する直前、Ferdinand Marcos Jr.は退任するRodrigo
Duterte大統領の支持を得るために、政権を取った後も現職の重要政策を継続すると強調した。Marcos Jr.は、Duterte大統領の中国政府寄りの外交政策を支持し、「Duterte政権の中国に対する関与政策は、方向性は正しい。何をするにせよ、戦争は回避しなければならない」とDuterteの対中関与戦略が「唯一の選択肢」であるとした。
(2) Marcos Jr.は、Duterte王朝との連携が奏功して大統領に就任した後、黄溪连黄溪連駐フィリピン中国大使や王毅外交部部長ら中国高官と懇談し、フィリピンと中国の「新黄金時代」を維持することに尽力するとし、特に中国が世界的感染拡大後の経済回復のための「最強の提携国」であるとして、その姿勢を強調した。
(3) Marcos Jr.の発言は、Duterteの下で飛躍的に成長した中国との関係を継続することで、中国側の関係者を安心させた。しかし、ここ1ヵ月間のフィリピン新大統領は、米国との関係再構築を図っており、米国との安全保障協力に新時代を迎えようとしている。南シナ海問題や台湾をめぐる戦略的懸念を共有することが、米比同盟を再構築させたと言える。2023年、両国は、海洋安全保障に焦点を当て、100年来の関係の中でも、より多くの共同軍事演習や大規模な机上演習を実施すると予想される。
(4) 過去10年間の米比同盟は、南部のミンダナオ島でのテロ対策に焦点を当てた提携から、南シナ海紛争に焦点を当てた海洋安全保障の協力へと移行した。Duterte前大統領は、中国との関係をより強固にするために、米国との2国間安全保障協力を何度も頓挫させかけた。しかし、Duterteの後任者は米比同盟に対して根本的に異なる取り組みを採っている。
((5)) 就任からわずか3ヵ月で訪米したMarcos Jrは、フィリピン系アメリカ人コミュニティとの会合で、米国との安全保障協力の拡大を断固支持し、「米国との同盟関係は、フィリピンにとって最も重要な政策であり、今後も最も重要であろう」と述べている。国連総会の傍ら、マニラでの新政権の誕生で「不安定な時代」の終わりを歓迎しJoseph Biden米大統領と2国間首脳会談を行ない、米国によるアジア地域安定化への役割を「この地域のすべての国、特にフィリピンが高く評価している」と賞賛した。
(6) 台湾をめぐる緊張が高まる中、8月にマニラを訪れたAntony Blinken米国務長官との会談の際にもフィリピン大統領は同様の発言をしている。その後、中国に対する共通の懸念を持つフィリピンと米国の安全保障協力拡大を強固にするため、フィリピンの国防大臣Jose Faustino Jr. はホノルルでLloyd Austin米国防長官と会談した。フィリピンと米軍は、2022年の300回を大幅に上回る500回の共同軍事演習を2023年実施する予定である。毎年行われている大規模なバリカタン共同軍事演習は、南シナ海での紛争を想定しており、2023年は演習に参加するフィリピン軍と米軍の数が約9,000人から1万6,000人に増加する見込みである。
(7) 重要なのは、両国が防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の完全履行を進めていることである。この協定により、米軍は戦略的に重要なフィリピン基地の相互運用を拡大できる可能性がある。U.S. Department of Defenseの当局者は、「EDCAが適用される基地では、インフラ整備を継続し、さらなる発展を目指す。」と言っている。
(8) Marcos Jr.政権が米国との関係強化を決めたのは、南シナ海での紛争に対応するための米国との協力体制強化に向けたものである。しかし、台湾危機はこの米比同盟にさらなる緊急性を与えている。歴史的に見れば、フィリピンと台湾はともに米国との強固な防衛関係を築いてきた。20世紀半ばには、米国は両国とそれぞれ相互防衛条約を結んでいたが、最近のフィリピンと台湾の関係は、密とは言えない。1970年代半ばに中国と正式な外交関係を結んだフィリピンは、Ferdinand Marcos Sr.元大統領の下、米国の同盟国の中で最初に「一つの中国」政策を採用した国であった。その後半世紀にわたり、フィリピンと中国の関係はより多面的かつ戦略的になり、南シナ海での緊張が高まる中でも、2国間の貿易は好調に推移した。台湾は海外フィリピン人労働者の主要な渡航先であったが、中国がアジアで圧倒的な経済力を持つようになると、フィリピンと台湾の関係は次第に薄れていった。ここ数十年、フィリピンと台湾の関係は、南シナ海のそれぞれの領海での漁業権をめぐる争いや、台湾による海外フィリピン人労働者の強制送還等が障害になってきた。
(9)「第4次台湾海峡危機」は、フィリピンにも影響が大きい。フィリピンと台湾は、幅250kmの比較的狭いルソン海峡で隔てられている。フィリピン最北のマヴディス島は、台湾からわずか140kmしか離れていない。この島には、フィリピン海軍の航空部隊、灯台、海水淡水化プラントなどの軍事関連施設がある。フィリピン軍は近くのフガ島の軍事施設を強化しており、フィリピンがこの重要な海峡に複数の利用可能拠点を持つことになる。 
(10) 数年前、フィリピン海軍はこの地域に表向きは観光関連の投資を行おうとしていた中国企業数社の試みを拒否した。元国防相で現大統領法律顧問Juan Ponce Enrileは、この地域の出身でもあり、外国企業がこの地域に足場を築くのは「国の心臓に向けられた短剣のようなもの」と警告している。また、台湾危機が続く中で、これらの島々は米国にとっても極めて重要な存在となっている。2022年初め、ワシントンの有力なシンクタンクが行った机上演習では、台湾統一に向けた中国の大規模な軍事行動はフィリピン軍事施設に近い台湾の南海岸に集中する可能性が高いことが明らかにされた。
(11) 公式には、厳格な「一つの中国」政策を維持するフィリピンは台湾問題に対して中立を示そうとしてきた。他の東南アジア諸国と同様、この地域では「いかなる戦争や対立」も望んでいない。Marcos Jr.の近親者でもあるJose Romualdez駐ワシントン大使は、有事の際には米軍にフィリピンの基地使用を認めることに前向なことを表明している。一方、ワシントンのCenter for Strategic and International StudiesのGregory Poling上席研究員ら米国の専門家は、台湾をめぐる紛争が発生した場合、フィリピンは米国との100年来の同盟関係を失うことなく「中立」を保つことはできないだろうと警告している。
(12) フィリピンが米国との安全保障協力の深化を図ることは、中国との「新たな黄金時代」の下で、実りある関係を維持しようとするMarcos Jr.の努力を損なうことにもなりかねない。新大統領が今後、戦略的な優先順位の釣り合いどのようにとるかが注目される。
記事参照:Strategic Reboot: Marcos Jr and U.S. Inch Closer over Taiwan and the South China Sea

10月16日「NATOは警戒心をもってロシアと中国からの侵略について北極圏を監視している―環北極メディア協力組織報道」(Arctic Today, October 16, 2022)

 10月16日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウエブサイトは、“A wary NATO watches the Arctic for Russian — and Chinese — aggression”と題する記事を掲載し、NATO軍事委員長のRob Bauer海軍大将が、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について世界およ及び北極圏の安全保障にとって極めて重要であるとともに、NATOはウクライナ侵攻だけではなく北極圏でますます攻撃的で不穏な行動を見せているロシアと、エネルギー、基幹施設、研究の分野に莫大な投資を行うことにより北極圏での存在感を高めている中国に大きな警戒心をもって注視していると述べたとして、要旨以下のように報じている。
(1) NATO軍事委員長は、NATO加盟国は「世界の安全保障にとって極めて重要な瞬間」に事態が拡大する可能性がある場合に備えて、北極圏への注目を強化していると述べている。NATO軍事委員長Rob Bauerオランダ海軍大将は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟後、ロシアがこの地域で攻撃的な動きをしない限り、NATOは北極圏での活動を強化することはないと10月15日にArctic Todayに 語っっている。Bauer委員長は「我々は、まず第1にフィンランドとスウェーデンがNATOに適切に統合されることに注目している。彼らが加わったからといって、北極圏でより多くのことを行うことに焦点が当てられているとは思わない。しかし、ロシアが先制攻撃の動きをすれば、NATOはこの地域で対応するであろう。また、NATO加盟国は北朝鮮で事態が拡大する可能性がある場合にも備えて注目し、能力を高めている」と言った。Bauer委員長はアイスランドのレイキャビクで開催された北極圏議会での2022年10月15日の講演で「ロシアの行動が基本的に我々現在行っているのとは異なる方法で我々自身を守ることを強いるならば、それは我々が北極圏での軍事力の配備をもっと示さねばならない理由となるであろう。NATOは防衛的な同盟であり、先制攻撃は決してない」と述べている。Bauer委員長は議会への演説で、それでもNATOはロシアを「我々の安全保障に対する最も重大で、直接的な脅威」と見なしており、「我々はロシアのますます攻撃的な行動の不穏な様式を見ている」と述べている。
(2) ロシアは、通常兵器、サイバー、その2つなどをあわせたハイブリッド戦略を用いて、
多くの国を不安定化させようとしている。それには最近のウクライナ侵攻が含まれる。
Bauer委員長は、ウクライナ侵攻は「力の支配が法の支配を凌駕した前世紀のヨーロッパの
最も暗い時代を彷彿とさせる、前例のないような破壊、暴力、強制退去」を引き起こしている」と述べている。北極圏での中国の活動をNATOも注意深く見守っており、ロシアと中国からの潜在的な脅威に照らして、Bauer委員長はNATOが「北極圏での存在感を高めなければならない」と主張する。スウェーデンとノルウェーという加盟申請中の国々とともにバージニア州ノーフォークの統合軍司令部は大西洋を監視している。NATOは、新しい戦闘機、海上哨戒機、北極圏に対応できる艦船にも投資している。Bauer委員長は「NATOと同盟国は、我々の軍隊があらゆる状況で活動する準備ができていることを確実にするために、ますます多く北極圏での演習、対潜訓練を実施している」と述べている。NATOは2022年9月、ノルウェー、アメリカ、トルコの戦闘機によりノルウェーで航空作戦の演習を実施した。北極圏では、ロシアはNATOが公海(open waters)と見なしている北極海航路に制限を課している。Bauer委員長は演説後のツイートで「航行の自由と自由な出入りを確保することは不可欠である」と述べた。
(3) Bauer委員長はまた、ロシアは現在NATOの最大の脅威であるが、エネルギー、基幹施設、研究への莫大な投資など、この地域での中国の存在感の高まりを指摘した。氷の少ない北極圏は海軍部隊が太平洋から大西洋へより迅速に移動できることを意味しており、潜水艦は「北極圏のどこにでも避難できる」と彼は言う。しかし、レイキャビクの北極圏議会では、ある中国当局者がこの特徴付けに異議を申し立てた。Bauer委員長の演説後の質疑応答で、2022年2月26日に着任した駐アイスランド中国大使何儒龍は、Bauer委員長の発言は「傲慢さとパラノイアに満ちている」と述べ、北極圏における中国の活動を疑惑の目で見たり、悪意をもって切り貼りしたりするべきではないと主張した。Bauer委員長は「中国の意図が我々の価値観と利益、そして法に基づく国際秩序に反しているのであれば、NATOは何らかのことをしなければならない。NATOは、その方向から来る脅威を抑止し、防御できるようにするための措置を講じる必要がある」と述べた。Bauer委員長は何儒龍大使に、なぜ中国がロシアのウクライナに対する侵略をまだ非難していないのかと尋ね、何儒龍大使は中国はが紛争を「国際的、歴史的、そして長期的な視点で現在の文脈」から見ていると答えている。北極圏における中国とロシアの関係はここ数ヶ月で強化されている。2022年2月、北京とモスクワは共同声明において、この地域の持続可能な開発に関する協力を強化することを約束し、中国とロシアの軍艦は2022年9月、ベーリング海で共同演習を実施した。
(4) Bauer委員長は発言の中で、NATO加盟国はGDPの2%、国防予算の20%を投資に充てるという国防費の誓約を満たすという約束を更新しており、フィンランドとスウェーデンの加盟申請により、NATOはEUの人口の96%をカバーすると述べた。Bauer委員長は「これは世界の安全保障にとって極めて重要な瞬間であり」北欧のこの2つの国はロシアに近接していること、特にフィンランドのロシアとの長い国境は、NATOに「何世紀にもわたる貴重な知識と情報」をもたらし、20年以上にわたるこの2つの国とNATOとの頻繁な共同軍事演習は、フィンランドとスウェーデンの軍隊がすでにNATO加盟国と「非常に互換性がある」ことを意味すると述べた。Bauer委員長は「間もなく、北極圏の8か国のうち7か国がこの偉大な同盟の一部となるため、北極圏が自由で開かれていることを確認するためにできる限りのことをする」と述べている。
(5) トルコとハンガリーを除くすべてのNATO既加盟国は、スウェーデンとフィンランドの加盟を批准している。スウェーデンとフィンランドは2022年6月にトルコの懸念について合意に達し、Bauer委員長は「両国がNATO加盟を批准すると確信している」と述べた。Bauer委員長は、NATOの30の加盟国およ及び同盟への加盟を要求しているフィンランドとスウェーデンの国防相が2022年10月14日に会合し、ウクライナへの支援を必要な限り継続することを決めたことを明らかにした。Bauer委員長は「しかし、これは、西側として他国に対抗して行うことではなく、法に基づく国際秩序に則って行うことである」と述べた。
記事参照:A wary NATO watches the Arctic for Russian — and Chinese — aggression

10月18日「Marcos Jr.新大統領とASEAN―台湾研究者論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 18, 2022)

 10月18日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、台湾のNational Chengchi University研究員Richard J. Heydarianの“MARCOS JR. AND ASEAN: MINILATERALISM IN THE SOUTH CHINA SEA”と題する論説を掲載し、そこでHeydarianはフィリピン新大統領の対外政策の方向性を要約し、そのうえでフィリピンに必要なのはASEANの枠組みにおいて、より少数国間協調の取り組みを採用し、実効性ある政策を推進することだとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピン新大統領にMarcos Jr.が就任した後、前大統領の親中国的な対外政策が持続するだろうという見方が大勢であった。選挙中の彼は、南シナ海論争に関してDuterte前大統領の姿勢を支持し、中国をフィリピンの「最強の提携国」と呼んだほどであった。
(2) それに対し、新大統領がこれまでとは異なる対外政策の方針を採用することになるという観測もあった。彼は、実際には南シナ海論争に関して非妥協的な姿勢をとり、中国政府に対し投資に関する約束が履行されていないと圧力をかけている。もっと重要な点として、Marcos Jr.は、前政権期に悪化した米国との関係回復を追求しようとしている。
(3) しかしそれは、親米的でリベラルであったDuterteより前の大統領らの方針に回帰したことを意味するのでもない。彼はむしろ、20年以上フィリピンを統治した父のように、伝統的な同盟を犠牲にせず、幅広い提携を構築する、多面的な外交を追求しようとしている。このとき重要になるのはASEAN加盟国との関係である。特に、南シナ海論争に関してフィリピンは、志向を同じくする地域の行為者との少数国間協調の拡大を進めるべきだろう。
(4) フィリピンの新たな戦略的志向を理解するためには、冷戦期における彼の父のそれを見るのが良い。Marcos Sr.は、ベトナム戦争の間、米国との同盟を維持し続けた。しかし、それは従属的なものではなく、より対等な同盟を追求するものであった。それと同時に、南沙諸島の管理を強め、パグアサ島にはその周辺で最初の近代的な滑走路を建設した。また、米国との同盟を維持しつつ、中国やソ連、東欧諸国にも接近し、多様な勢力との安定的なつながりを維持したのである。
(5) そうした外交を展開したMarcos Sr.の主要な目的は、フィリピンを東南アジアにおける大国の地位に押し上げることであった。フィリピンはASEANの原加盟国の1つである。そして、同じくASEANの中心的加盟国であるシンガポールのLee Kuan Yewや、インドネシアのSuhartoとの間に密接な関係を築き、自身をASEANの偉大な政治家の1人として打ち出していった。そうして彼は、フィリピンを地域の主要行為者とすることで、米国の操り人形であるという批判をはね除けたのである。
(6) その父親が大統領に就任してから約半世紀、息子が同じような戦略を採用しているのである。しかしフィリピンを取り巻く環境は、当時とはだいぶ異なる。フィリピン大統領は就任後の最初外遊先を東南アジアのどこかにすることがお定まりであったが、Marcos Jr.は意識してシンガポールとインドネシアに設定した。これまでこの外遊は象徴的なものになりがちであったが、Marcos Jr.は、140億ドルにのぼる投資や貿易に関する取り引きを成立させている。とりわけ重要であるのは、中国の攻勢を背景とした海の安全保障に関する懸念を両国と共有したことであろう。
(7) 両国首脳との会合で、Marcos Jr.が強調したのは、インド太平洋における法に基づく秩序の維持と、地域の安全保障機構構築においてASEANの中心性を維持することの必要性であった。インドネシアとの間では、排他的経済水域や大陸棚が重なる海域における境界の設定に関する交渉の促進について話し合われ、シンガポールとの間では、南シナ海における平和と安全の維持、論争の平和的解決の重要性について合意がなされた。重要であったのは、インドネシアとシンガポールとの間で、「実効性があり、現実的な」南シナ海に関する行動規範(以下、COCと言う)の完成について意見が共有されたことである。
(8) Marcos Jr.の外遊が明らかにしたのは、ASEANがその戦略的裏庭を形成する能力を有するのかどうかという懸念の高まりである。南シナ海における関係国の行動宣言の署名から20年経つが、なおCOCの完成には至っていない。この事実が示唆するのは、必要なのはより少数国間協調的なアプローチではないかということであり、地域の主要国との間でより決然とした対応を推し進めることである。南シナ海論争に関する関係各国の間でCOCの交渉を進めることも手だが、よりよいのは、中国との交渉の前にASEANの関係各国の間だけで国連海洋法条約に準拠したCOCを完成させることであろう。
(9) また、 Indonesian Maritime Security Agency(インドネシア海洋安全保障局、通称Bakamla)が今年はじめに示唆したように、利益を共有する国々との間で海上警備に関する協力を強化することも重要である。それによって中国の攻撃的な行動を抑制できよう。最後に、米国やEU、日本、オーストラリアとの外部勢力との戦略的協力関係の強化も必要である。以上の方策によって、Marcos Jr.は、持続的な海洋安全保障協力を推進すべきである。
記事参照:MARCOS JR. AND ASEAN: MINILATERALISM IN THE SOUTH CHINA SEA

10月18日「ロシア、自ら招いた最悪の年―カナダ専門家論説」(9dashline, October 18, 2022)

 10月18付のインド太平洋関連インターネットメディア9dashlineは、U.S. Military Academy 
のModern War Institute非常勤研究者で元カナダMinister of Defence政策部長Joe Varnerの“RUSSIA’S SELF-INFLICTED ANNUS HORRIBILIS”と題する論説を掲載し、Joe Varnerは2022年がロシア、ロシア軍にとって最悪の年であると言っても過言ではないとし、それはロシア海軍にとっても同様であるが、例外はロシア潜水艦部隊とPacific Fleetである。Pacific Fleetは他の4個艦隊と異なり、地理的に妨げられず、強力な潜水艦戦力と新しいフリゲート艦を保有し、戦略的パートナーとして中国を得ており、Pacific Fleetの戦略的重要性は、ロシア政府にとって、インド太平洋地域内外で中国の外交政策目標に関与し、支援するための主要な手段として、現在ほど大きくなったことはないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年がロシア軍、その指導部、そして最高司令官Vladimir Putinにとって最悪の1年
であると言うのは控えめな表現だろう。ロシア連邦の栄光を征服するという夢は、2022年2月のウクライナ軍事侵攻で蒸発したように見える。キーウに対するロシアの電撃戦として始まったものは、消耗戦に変わった。この戦争は、ロシアの地上軍と空軍にとって大惨事以外の何物でもないが、海軍と黒海艦隊も栄光に包まれていない。この地上・空中戦で、ロシア海軍は巡洋艦「モスクワ」を対艦ミサイルで失い、大型戦車揚陸艦、その他少なくとも13隻の艦艇を失っている。ロシア海軍は蛇島の支配権を失い、計画された強襲上陸作戦に失敗し、ウクライナの対艦ミサイルの射程のすぐ外にある通常はクルーズ船の本拠地として使用されている港湾に避難している。
(2) Putinとロシア連邦の未来は、ロシアの戦争機構を下支えしている核兵器を使用すると
いう脅しだけにかかっている。ロシア軍の状態を考えると、ロシア軍が自らを再建するには何年もかかり、制裁が続けばさらに長い年月が必要だろう。ロシア海軍は、もはや、Gorshkovソ連邦元帥が艦隊を指導し、建造した時のような、ロシア軍のお気に入れではない。ロシア海軍は近代化工事中の火災などにより損傷したソビエト時代の空母と巡洋艦、駆逐艦を保有しているが、他の艦艇と同じように年代物であることを分かち合っている。さらに、潜水艦部隊以外のロシア海軍にとって唯一の明るい点は、地理に基づくPacific Fleetと、ロシアがますます依存する従属的な提携国である中国との戦略的パートナーシップの絶え間ない成長であるように思われる。ハバロフスクの東部軍管区司令部であるロシアの太平洋司令部は、強力な軍事力を維持している。ロシアのPacific Fleetの作戦任務は、核抑止、ロシア領海と沖合基幹施設の保護、インド太平洋地域と地中海での寄港による海軍外交からなる。実質的には、太平洋におけるロシアの核抑止力は、完全に運用可能なボレイ級SSBN4隻と、戦略的予備のデルタIII級SSBN1隻に頼らざるを得ない。巡洋艦と駆逐艦はすべてソビエト時代の艦艇で艦齢30年を越えている。例外は、5隻のステレグシチー級フリゲートは最近の設計による新鋭艦である。ウクライナ戦争は、ロシアの水陸両用戦艦の脆弱性と有用性の欠如を実証した。彼らの地上部隊の同胞たちと同様に、東部軍管区の海軍歩兵隊はウクライナでひどく傷ついており、その有用性にも疑問の余地がある。
(3) 地理面では、ロシア海軍はおそらく第2次世界大戦の開始以来、これに匹敵するよう
な課題に直面したことはない。戦略地政学的な立場からすれば、Pacific Fleetを除いて、状況はロシアに有利ではない。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟により、戦時中と危機時にロシアのBaltic Fleetは閉じ込められており、全面的な戦いを生き延びる可能性はほとんどない。ウクライナ戦争は、ロシアのBlack Sea Fleetが鍵のない檻の中に閉じ込められた囚人のように、いかに脆弱であるかを示している。もしトルコが、NATO加盟国として、NATOとの連帯を重んじるなら、我々はコルクを瓶にかざすことができる。もしロシア政府が、ノルウェーの地政学的位置とロシアのNorthern Fleetとコラ半島の貴重な軍事基地とが近すぎることに悩まされていたのなら、今や、隣国フィンランドとスウェーデンのさらなる監視下に置かれているのに気づくはずである。今やPacific Fleetだけが 太平洋を自由に行動し、オホーツク海はロシアのSSBNの聖域であり続けている。
(4) 過去に指摘されたように、ロシアは第2次世界大戦の終結以来、忘れ去られた太平洋の
大国であった。国共内戦であろうと朝鮮戦争であろうと、中国と北朝鮮は1949年頃から太平洋であらゆる注目を集めているようで、攻撃的な中国が当たり前になり、北朝鮮が再び核実験を行おうとしている今日でも注目の的となっています。ロシアは大部分の行動を人目に付かないようには行ってきたが、ロシアがインド太平洋全体に力を投射する能力を持っているので、もしそうすることを選択した場合、それは変わろうとしているかもしれない。ある意味で、インド太平洋は、中国の脅威と西側が攻撃的な北京と対峙し、管理することに関するものだった。
(5) ロシアは、バルト海地域と中央ヨーロッパにおけるNATOの権益を脅かすヨーロッパの
大国と見なされてきた。しかし、2022年のインド太平洋におけるロシアの動きをざっと見てみると、ロシア政府が中国政府との関係において従属的な戦略パートナーとして行動しているという別の構図が浮かび上がってくる。中国の習近平国家主席は、Putinが失うわけにはいかない唯一の戦略的パートナーであり、中国はウクライナにおけるロシアの装備喪失の再建を助けることができる唯一の国家かもしれない。中国政府が太平洋でロシア政府に望んでいるのは海軍力である。中国とロシアは共に、アメリカとその同盟国、特に太平洋におけるアメリカの利益にとって欠かすことのできない日本に対する直接の挑戦である。台湾が中国の最前線に立っており、戦争の脅威がマスコミに常に存在するこの地域における戦略的利益の焦点となっている今、ロシアは中国の戦争計画における重要な戦略的行為者である。2022年6月には、少なくとも9隻のロシアと中国の艦艇が対馬海峡を航行し、日本を周回しているのが確認された。2022年8月、ロシア海軍の14隻の艦艇が、ロシアの演習に先立ち、西太平洋から日本海に宗谷海峡を通峡した。 
(6) ロシアMinistry of Defenseは9月上旬、ロシア極東と日本海でボストーク2022演習を主
催し、中国、インド、ラオス、モンゴル、ニカラグア、シリアから5万人以上の兵士、140機の航空機が参加した。2022年9月下旬、U.S. Coast Guardの巡視船が、米国排他的経済水域のアリューシャン列島付近のベーリング海で、中国の導ミサイル巡洋艦1隻、他の中国艦艇2隻、ロシアの艦艇4隻に遭遇した。そして2022年10月、北海道宗谷岬の北東40kmでロシアの駆逐艦、潜水艦、潜水艦救助船が発見され、ロシア艦船は宗谷海峡を通って日本海に向けて西航していった。これは海上自衛隊が監視していたものである。
(7) Putinのウクライナ戦争と、人、装備、資金の多大な損失は、海軍に手厳しい批判を
もたらしている。再建は戦略的優先事項であり、資源が防衛体制のより深刻な打撃を受けた部門に向けられているため、重大な課題を提示するでしょう。その代わりに、長期的ではないにしても、近い将来、ロシア陸軍、特殊作戦部隊、空軍とエリート部隊の後塵を拝さなければならないだろう。潜水艦部隊以外では、ロシア海軍は、錆び付き、怠慢、資源不足によって、沿海海軍に変わりつつある。ロシア海軍が明るい未来を持っているのは太平洋だけである。ロシア海軍は地理的に妨げられず、強力な潜水艦戦力と新しいフリゲート艦を保有し、戦略的パートナーとして中国を得ている。ロシアPacific Fleetの戦略的重要性は、ロシア政府にとって、インド太平洋地域内外で中国の外交政策目標に関与し、支援するための主要な手段として、現在ほど大きくなったことはない。
記事参照:RUSSIA’S SELF-INFLICTED ANNUS HORRIBILIS

10月18日「台湾国防部が中国からの『第一撃』を再定義―香港紙報道」(South China Morning Post, October 18, 2022)

 10月18日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Taiwan’s military will issue warnings before destroying PLA planes or ships, defence minister says”と題する記事を掲載し、台湾の国防部長邱國正が、台湾の軍隊は警告を発することなく、「越えてはならない一線」を越える中国大陸の軍隊を攻撃することはないと明言したことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 台湾軍は、中国軍の航空機を撃墜する、または艦艇を撃破する前に警告を発すると、台
湾の国防部長邱國正が10月17日に述べている。「もし、中国軍が第一撃を仕掛けてきたら、台湾軍は我々の決められた手続きに従って、まず警告や警報を出すだろう。中国軍の航空機や艦船が台湾の『越えてはならない一線』を超えたら、直ちに撃墜、または撃破する」との見解を明らかにした。
(2) 10月初め、邱は、中国軍による第一撃とは、中国軍の艦艇、航空機が台湾の12海里の
領海の境界線を侵犯することと指すと再定義した。10月初めに、邱は立法府の議員に対して、軍は以前、中国軍の第一撃を大砲やミサイルを含む攻撃と定義していたと語った。しかし、ここ数カ月、中国軍が無人機を使って、台湾の軍部が「越えてはならない一線」と考える領海の境界線を超えたため、国防部は先制攻撃を再定義し、台湾の領海に入る航空機や艦船を含めるようにした。
(3) 当時、邱國生は台湾軍がどのような対抗措置を取るかについて詳しく説明しなかった
ため、台湾は航空機や艦船が「越えてはならない一線」を超えた時点で撃墜、あるいは撃破するのではないかとの憶測を呼んでいた。しかし27日、記者団から説明を求められた邱は、台湾軍が行動を取る前に警告を発し、侵入者の性質を判断するのが標準的な手順であるとして、「このような対応は、自衛的な反撃として知られている」と述べ、台湾軍は非常に慎重であり続け、両岸戦争の引き金を引くことは望んでいないと付け加えた。
記事参照:Taiwan’s military will issue warnings before destroying PLA planes or ships, defence minister says

10月19日「ASEAN、米中対立激化に警戒感―台湾専門家論説」(Asia Times.com, October 19, 2022)

 10月19日付の香港のデジタル誌Asia Timesは、台湾National Chengchi University研究員でフィリピンのアジア問題専門家Richard J. Heydarian の“ASEAN bracing for US-China rivalry to explode”と題する論説を掲載し、Richard J. HeydarianはASEANが米中の対立激化に警戒感を高めているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 東南アジアでは、米国の外交政策が建設的な経済戦略を欠き、ますますイデオロギー的転換が進んでいることに対して、懸念が高まっている。Biden政権が新たに発表した「国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)」文書も、それ以前の「暫定国家安全保障戦略指針」も、インド太平洋問題に限れば、現在の民主党政権がObama政権時よりもTrump前共和党政権寄りであることを示している。あらゆる兆候から見て、米政府は、中国とロシアとのイデオロギー主導の地政学的競争を全面的に受け入れている。NSSは、中国について55回言及しているが、ベトナムなどの東南アジアの主要国については全く言及していない。この地域最大の国であるインドネシアについては、フィリピンやタイの米国の条約同盟国と同様に、1度だけ言及されている。またASEANについても、言及されたのは3回だけであった。
(2) 確かに、Biden政権の戦略的姿勢は、その多くがロシアと中国の外交政策が侵略的性格に転換していくことへの反応である。ロシアはウクライナ侵攻を推し進める一方で、中国は台湾海峡での軍事活動を強化している。この侵略的姿勢は、ロシア政府と中国政府との軍事的、戦略的協力の深化と軌を一にしている。多くの点で、Biden政権はTrump前政権の地政学的主張と貿易戦争を継承してきた。それにもかかわらず、米政府は、その戦略的見通しと取り組みにおいて、建設的というよりは反応的に見える。これは特に、インド太平洋の重要な戦略的戦域である東南アジアに当てはまる。
(3) Bidenが2020年に大統領に当選した時には、ワシントンがObama政権時代の多国間主義的で貿易指向の取り組みを再び受け入れるのではとの希望的観測が多かった。権威ある調査によれば、東南アジアの政策立案者や思想的指導者の多くは、中国よりもBiden率いる米国との関係構築を望んでいた。これに応えて、Biden民主党新政権の国務、国防両長官や副大統領などの高官は、2021年下半期を通じて東南アジア主要国の首都を訪問した。特にシンガポールとベトナムは、わずか数週間の間に2度も米政権高官の訪問を受け入れた。Biden政権はまた、「ワクチン外交」を強化し、東南アジア諸国に2,300万回以上の接種量のワクチンと1億5,800万ドル以上の緊急医療、人道支援を供与した。これに対して、フィリピンの当時のDuterte大統領などは、公然と米国に感謝の意を表明し、しかも重要なのは、縺れた米比防衛関係を復活させ始めたことである。米新政権はまた、域内の同盟国と提携国、特に台湾とフィリピンに対して、中国との紛争が生起した場合の防衛の関与を再確認した。その結果、Biden政権2年目の間に、フィリピン政府と台湾政府の両方との防衛関係がますます強固になった。2021年末までは、Biden政権は地域の指導的立場を再確認する強い立場にあるように思われた。
(4) しかし、前途には真の課題が立ちはだかっている。まず、ロシアのウクライナ侵攻と中台間の緊張の高まりは、「大国間競争」を重視したTrump政権時代への回帰を促した。これはBiden政権のNSSに明確にされており、NSSは中国が「国際秩序を作り替える意図と、それを実行するための経済的、外交的、軍事的およ及び技術的能力とを合わせ持つ唯一の競争相手」であることを強調している。NSSは、「世界の主導的な大国になる」という長期目標の一環として、中国の「インド太平洋地域における強化された勢力圏を構築する野心」に対して警告している。これに対して、米政府はインド太平洋地域の「同盟国と提携国諸国からなる我々のネットワーク」を通じて「我々の利益を守り」「責任を持って競争する」と言明している。
(5) インドの専門家が指摘するように、NSSは「米国が経済と安全保障の分野で、中国に対する優位性を守る決意」を明確に示している。Biden政権は、中国(そしてロシア)との競争が激化する新時代を受け入れながらも、この地域における建設的な経済戦略を未だ提示していない。これまでのところ、米政府の経済戦略の多くは、NSSの公表直前に実施された中国に対する新たな半導体制裁を含め、懲罰的なものであった。中国が域内生産網の中心的存在であることを考えれば、このような懲罰的措置は、特に近隣諸国にとって大きな打撃となる危険性がある。シンガポールのLee Hsien Loong首相は、「Biden政権の最近の動きは非常に深刻なものであり」、「それは非常に広い影響を及ぼす可能性がある」と警告している。一方、中国は「一帯一路構想(BRI)」の下、ラオスからインドネシアまで数十億ドル規模の基幹施設整備構想を推し進めてきた。
(6) 東南アジア諸国は、中国の経済構想に対する米国の具体的な代替案がないことに加えて、貿易戦争や投資制限が武力紛争の事態を誘発することを懸念している。シンガポールのLee 首相は、既にNSSの公表前に「われわれの周辺には、嵐が吹き荒れている。米中関係は、対処困難な問題、深刻な相互不信、そして限定的な関与によって悪化している」「これはすぐには改善されそうにない。しかも、誤算や事故は簡単に事態を悪化させる可能性がある」と警告していた。
記事参照:ASEAN bracing for US-China rivalry to explode

10月19日「オーストラリアにとって米国家安全保障戦略とは――米専門家論説」(The Strategist, October 19, 2022)

 10月19日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、米Center for Strategic and International Studies(戦略国際問題研究所:CSIS)のオーストラリア議長兼上席顧問Charles Edelの” The US national security strategy and what it means for Australia”と題する論説を掲載し、そこでEdelは米国は対中戦略がより激しい段階に入ったことで、オーストラリアとより緊密な協力への移行を企図しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月12日、Joe Biden米大統領は「国家安全保障戦略」(以下、「戦略文書」と言う)」を発表した。その冒頭で、これからの10年間は「米国と世界にとって決定的な10年」であり、世界の競争相手を押さえ、気候変動、世界的感染拡大、食糧安全保障、テロといった共通の脅威に対処していかなければならないと宣言している。さらに国際関係を支配する基本的な規範が攻撃され、世界の主要国間の戦争の危険性が高まり、民主主義体制と独裁的な体制の対立が広がり、基盤技術の開発競争が加速している。そしてこれらすべてが世界的な協力関係が損なわれる中で起きていると述べている。
(2) この戦略文書は、米国の中核的な強みに投資して国家の回復力を高めること、米国の努力を他の志を同じくする国々と連携させて、自由で開かれた世界を支えるために可能な限り幅広い連合を構築すること、中国やロシアなど、主張の強い諸国に対抗するために米軍を近代化することを明確にしている。また、気候変動という世界共通の問題に取り組むために他国と協力することや、新興技術、サイバー空間、貿易規範を形成することへの米国の意欲も強調されている。特に中国との競争は、この戦略文書の中心的主題である。ロシアのウクライナ侵攻と世界的な反撃が大きく取り上げられてはいるが、中国への対処とそのための永続的な優位性の維持が優先されている。
(3) この戦略文書は、米国政府の関係機関からの様々な要求を調整した努力の成果であるが、秘密版ではないので、包括的な戦略文書とは呼べない。しかし、Biden政権の世界に対する理解、米国の利益の定義、外交政策の優先順位などを示す重要な文書である。この戦略文書にはオーストラリアが受け取るべき重要な意図があり、いくつかは明記されているが、大半は文書外の要因に基づく暗黙の了解である。
(4) この戦略文書は重要ではあるが、単独で読むべきものではない。「Indo-Pacific strategy(インド太平洋戦略)」、「Pacific partnership strategy(太平洋パートナーシップ戦略)」、「Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity(繁栄のためのインド太平洋経済枠組み)」、「Global Posture Review(米軍配備態勢の見直し)」、「National Defence Strategy(国防戦略)」など、他の国家安全保障関係の文書と並行して読むべきである。これらの文書を総合すると、米政府がこの地域とオーストラリアに何を目指しているのが包括的に理解できる。これらの文書は戦略的意図を示すものであるが、その意図を支えるために議会が採る行動も重要である。米国議会は、次の法案を可決または審議中である。それは米国半導体産業への資金提供、重要技術および新興技術への 2,800 億米ドルの投資、クリーンエネルギーへの投資、台湾への大幅な軍事売却の推進、対外投資の審査強化である。これらの法案がすべて可決され、実施されれば、戦略文書は願望ではなく、現実のものとなる。
(5) この戦略文書では、米国の優位性として、同盟国や提携国の役割が重視されている。AUKUS は、実行段階にはなっていないが、これは米国の最も近い同盟国の能力を高め、力を与え、防衛協力を強化し、その統合を加速させる大きな試みである。この戦略文書では、「共同能力の開発・生産を含む、より深い協力のための障壁を取り除く」ことの重要性を強調することで、その努力を具体的にしている。これは、「言うは易く行うは難し」で、米国が極めて機密性の高い技術に関する防衛協力についての考え方を変えるには、持続的な政治的・立法的圧力が必要である。
(6) Bidenの国家安全保障戦略は、前任のDonald Trumpの戦略と競争というテーマを共有しているが、決して米国第一主義ではない。同盟国、そして連合体構築を米国の戦略の中心に据えることは、Trump政権が採った一方的な取り組みを否定するものである。11月に米国の中間選挙が迫り、2024年の大統領選挙を目前に控えた今、このような感覚が米政府でいつまで続くかは不明である。しかし、米政府の戦略的計算において、オーストラリアがこれまでよりもかなり重要な役割を担っていることは明らかである。米政府の考え方の変化を示す指標は、オーストラリアが主導的な役割を果たすAUKUS やQUADなどの取り組みが、米国の国家安全保障努力にとってより重要な位置を占めるようになったことである。このような状況は、ホワイトハウスがどのような政権であろうとも続くであろう。
(7) 中国による重要技術の獲得阻止を企図する米国の努力の増大、台湾防衛が米国の計画の優先課題となりつつあること、AUKUS をいかに最善かつ迅速に進めるかを決定する 1 年半の努力が終了に近づいていることなどは、米国の対中戦略がより激しい段階に入ったことを明らかにしている。戦略とは、構想力と実行力が同居するものだとすれば、米国の焦点が、これらの目的を追求するためにオーストラリアとより緊密に協力することに移ろうとしていることは明らかである。
記事参照:The US national security strategy and what it means for Australia

10月20日「危険水域に突入した米中関係克服のために『アンチ海軍』の導入を-―米専門家論説」(19FortyFive, October 20, 2022)

 10月20日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、U.S. Naval War 
College教授James Holmesの” The United States Has Entered The ‘Danger Zone’ With China”と題する論説を掲載し、ここでHolmesは米中の危険な状態から脱するため米軍は「アンチ海軍(anti-navy)」という考え方により陸上で活動する米海兵隊、陸軍、空軍の部隊を適切な場所に配備すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月17日の週、ウィスコンシン州選出の下院議員Mike Gallagherは、ワシントン DC に拠点を置くThe Heritage Foundationで、米軍の現状に警鐘を鳴らす演説を行った。その演説の背景には、The Heritage Foundationが毎年発表している「 Index of U.S. Military Strength(米軍の戦力に関する指標)」がある。今年初めて、西太平洋のような激戦地での任務に対して米軍は「弱い」と判定された。Gallagherは、米国の軍事的苦境を、戦略的環境の悪化、米政府における政策の迷走、冷戦後の戦略的空白と長年にわたる対反乱戦の後に統合軍を再活性化しようとする米国防総省の努力に関連するとしている。
(2) Gallagherは米国が中国との戦略的競争において「危険水域」に入ったと見ている。それは、競争国が自国に有利な戦略的苦境を、武力によって解決する機会を見出す有限の(論理的な;訳者注)区域である。このような競争国は、軍事力、経済成長、人口動態など、あらゆる指標がまもなく自国に不利になると見積もっている。危険水域にある競争国は、自分には期限があり、すぐ行動を起こさなければならないと考えている。
(3)ドイツ海軍大臣であったAlfred von Tirpitz提督は、急成長するドイツ海軍がドイツの宿敵英国と英海軍に対して危険水域を横断しなければならないとKaiser Wilhelm 2世に告げた。今日の西太平洋における状況は、1世紀以上前のドイツ帝国の状況と重なるところがある。当時、海洋国家であった英国は、新興のドイツ帝国を阻止するために武力を行使する誘惑に駆られた。今日、新興の海洋国家である中国は、衰退しつつある海洋国家である米国が海洋覇権国家としての地位を回復する前に、武力を行使したいという誘惑に駆られている。いずれの場合も、一方の競争相手が焦ったのは、その指導者が地政学的な状況をどう判断したかによる。英国はドイツ帝国との軍拡競争を成功させることによって危険区域を克服した。英国は、ドレッドノート級戦艦の隻数を含む、海上戦闘力のほとんどの指標で、その優位性を失うことはなかった。もし、GallagherとThe Heritage Foundationの考えが正しいならば、米国は海上での優位性を無視している間に中国に取って代わられたことになる。米国が中国人民解放軍に対する優位を取り戻すには、政治的な覚悟と同時に時間が必要である。
(4) Gallagherは、米海軍は中国の挑戦に対応するために数や火力を増強するどころか、老朽化した艦船や使い勝手の悪い艦船を廃棄して、現在の戦闘艦292隻を今後数年間で280隻まで減少させると見ている。米国議会は355隻の艦船保有を義務付けており、海軍の要人たちが、世界での目標を達成するためには無人の艦船も含めて500隻以上が必要だと言っているのに、この状況である。中国が、戦略的環境が不利になると見て、特に台湾海峡での長年の遺恨を共産党指導者が満足するように解決する必要に迫られている時に、米国は艦船の数を減少させているのである。Gallagherは昨年、元U.S. Indo-Pacific Command司令官Phil Davidson大将による、中国が2027年までに台湾を攻撃するかもしれないという予想を重要視している。もしこの予想が正しければ、北京は、その軍事力が頂点に達し、米国が自国の海軍と軍事組織の再建に苦心している時に、5年という期限を自らに課したことになる。この時期がまさに危険水域である。
(5) Gallagherは、米海軍と関連する統合部隊が戦力を補う一方で、U.S. Department of Defenseに「アンチ海軍(anti-navy)」を構築するよう促している。この言葉は斬新な造語だが、その根底にあるコンセプトは決して新しいものではない。第1次世界大戦前、英国の海洋史・理論家Julian Corbett卿は、「積極的防衛」と呼ばれる戦略的選択肢を示した。これは、一時的に不利な状況に陥った海運国が、優れた戦闘力を蓄積して敵に対抗できるようになるまで時間をかけて戦うというものである。Corbettの時代の英海軍や現在の米海軍のように、海戦で完全に勝つことができない場合、相手の海洋使用を拒否できる部隊を編成して、制海権を妨害すればよいとGallagherは暫定策を示した。Gallagherの言う「アンチ海軍」とは、Corbettの時代における小型船の群れであり、敵対勢力による重要な海路の支配を阻止する。しかし、長距離精密射撃の時代に「アンチ海軍」が船である必要はない。陸上で活動する米海兵隊、陸軍、空軍の部隊は、はるか沖合まで威力を発揮し、台湾や中国の海上にある他の地域に対する侵略を混乱させるのに役立つ。
(6) 太平洋全域に配備された精密誘導ミサイルは、中国海軍を威嚇し、台湾を侵略しようとする海上覇権を否定することができる。Gallagherは、アジア大陸を中心とした3つのエリアにミサイルを搭載した部隊を配置することを想定している。それは、第1列島線、第2列島線、そしてアラスカやハワイといった遠隔地である。米国(および同盟国)の非海軍が、中国の上陸部隊による台湾上陸を阻止できれば、中国の戦略を頓挫させることができる。そして、敵対国の戦略を頓挫させることは、戦略的有効性の象徴となる。米海軍がその数を回復し、最新技術を活用するようになれば、おそらく2030年代には、再び海の支配権を主張することができるようになる。
(7) Gallagherの戦略に対する唯一の疑問は、米国とその同盟国は、陸上ミサイルや戦闘機に加えて、海上での支援についての言及がない点である。低コストでミサイルを搭載した水上戦闘艦艇と通常型潜水艦からなる部隊は、敵対する軍艦や航空機を探知・追尾・攻撃して、太平洋上に配置された陸上防衛部隊を支援しながら、被害を与えることができるだろう。日本のような同盟国は、すでにそのような部隊を適度な数で運用している。米国は、彼らに倣うべきである。
(8) 「アンチ海軍」は、海軍の部隊に部分的に依存することが可能であり、またそうすべきである。このような複合的な統合部隊は、米国、同盟国、そして友好国が戦争をせずに危険区域を通過できるように、強力な積極的防衛を支えることになる。国防総省は、CorbettやGallagherの助言に耳を傾けるのが賢明であろう。
記事参照:The United States Has Entered The ‘Danger Zone’ With China

10月20日「米海軍作戦部長『今夜戦う』姿勢の必要性を主張―香港紙報道」(South China Morning Post.com, October 20, 2022)

 10月20日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US Navy should prepare for an invasion of Taiwan as soon as this year, fleet chief says”と題する記事を掲載し、米海軍作戦部長Michael Gilday大将が、中国とロシアによる脅威に対して、米国が即座に戦える姿勢が必要であると述べたとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米海軍の高官は10月19日、中国本土の台湾への侵攻は早ければ2022年中にも起こり
得ると述べている。これは、10月第4週に北京で開かれた主要な政治会議(第20回中国共産党大会を指す:訳者注)での習近平国家主席の発言の一部に基づいている。習近平の台湾分離主義への警告に、米海軍はどのように対応すべきかと問われ、米海軍作戦部長Michael Gilday大将は、「習主席の発言だけでなく、中国人がどのように振る舞い、何をするかが重要である」と述べ、「過去20年間で我々が見てきたことは、彼らが約束したことは、彼らが実現すると言ったよりもことごとく早く実現してきたということである」と、Atlantic Council主催の議論で彼は語っている。「2027年の時期について話す場合、私の考えでは、それは2022年の時期でなければならないし、2023年の時期である可能性もある。それを排除することはできない」。Gildayの時間枠は、2021年、当時U.S. Indo-Pacific CommandのトップだったPhilip Davidson退役海軍大将が、中国軍は「今後6年以内に」台湾と中国本土を統一しようとするかもしれないと判断したことに基づくものである。10月16日に行われた第20回党大会で、習近平は、北京は台湾を支配下に置くために武力を行使することを排除しないと繰り返した。
(2) Gildayは、「中国とロシアが増々攻撃的になっている」ことに対応して、海軍の規模を
拡大する取り組みよりも、米海軍の「今夜戦う」姿勢を優先していると述べている。このような状況から、米軍はオーストラリアに原子力潜水艦を提供することを目的とした英国とオーストラリアとの軍事協力協定AUKUSのような同盟を加速させることを推し進めていたという。Gildayはまた、10月にイタリア海軍が主催した第13回rans-Regional Seapower Symposium(地域シーパワー・シンポジウム)で、海上自衛隊の酒井良海上幕僚長と会談したことを、協力関係をさらに深めている証拠として挙げた。このシンポジウムは2年毎に開催され、50ヵ国以上から参加者が集まり、海洋の課題に立ち向かうための最新動向を議論するが、今回初めて、酒井海上幕僚長のような階級の日本人が主要な参加者となった。「我々が日々行っていることで、同盟国や提携国と協力していないことはほとんどない・・・これらの関係は絶対的に重要である」とGildayは述べ、「中国やロシアは、我々ほどにはこの関係を享受していない・・・我々は、これを非対称的な優位性として捉えている」と彼は付け加えている。
記事参照:US Navy should prepare for an invasion of Taiwan as soon as this year, fleet chief says

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)How to Make the Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness Work
https://thediplomat.com/2022/10/how-to-make-the-indo-pacific-partnership-for-maritime-domain-awareness-work/
The Diplomat, October 11, 2022
By Lt. Jasmin Alsaied, currently a U.S. Navy Surface Warfare Officer and a Dulles Fellow with the Institute for the Study of Diplomacy at Georgetown University
 2022年10月11日、米海軍のJasmin Alsaied大尉は、デジタル誌The Diplomatに" How to Make the Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness Work "と題する論説を寄稿した。その中でAlsaied大尉は、2021年、中国政府は、世界で最も混雑し、争いが絶えない海域のいくつかで、自国の船舶がAIS(自動船舶識別装置)情報をオフにすることを認める2つの法律を可決したことで、密輸業者、違法漁業者、あるいは各種制裁や国際法を回避する者たちを保護することになっているが、こうした脅威はインド太平洋において常態化しつつあり、この地域の海洋安全保障を脅かしていると指摘している。その上でAlsaied大尉は、こうした状況に対して、2022年5月、Biden米大統領は、自由で開かれた太平洋を推進するため、地域の提携国や同盟国との取り組みである、海洋状況把握(MDA)に関する情報共有を促進するための「MDAのためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」を発表したが、効果的な海洋監視のためには、新しい取組みや単一の国家にのみ依存するものではなく、米国も他国も、既存の技術や目標を共有する既存の組織と協力して、MDAをめぐる課題を解決する必要があると主張している。

(2)Who will control the Black Sea?
https://www.gisreportsonline.com/r/black-sea-russia-turkey/
Geopolitical Intelligence Service, October 11, 2022
By Colleen Graffy, a law professor at Pepperdine Caruso Law School in Malibu, California
 10月11日、米国Pepperdine Universityの Caruso School of Law教授Colleen Graffyは、リヒテンシュタインのシンクタンクGeopolitical Intelligence Serviceのウエブサイトに、“Who will control the Black Sea?”と題する論説を寄稿した。その中で、①モスクワの戦時におけるウクライナ封鎖をきっかけに、航行保護の強化や船舶航行に関する協定の改定が求められている。②黒海沿岸諸国以外の軍艦は、黒海での滞在期間に制限があり、黒海において保有できる艦艇の総トン数に制限があるが、沿岸国は権利と特権を有している。③交戦国の軍艦は、「海峡を通過してはならない」が、a) 交戦国の一国が、トルコも関わっている合法的な集団防衛権の義務に従って行動する場合、b) 交戦国の軍艦が基地に戻るために海峡を通過する必要がある場合は例外である。④ロシアによるウクライナ侵攻後、国際法に反して、ロシアはアゾフ海での航行の自由と、クリミア沖のウクライナ領海での無害通航権を妨げた。⑤モントルー条約の目的は、黒海における軍艦の出入りと規模を管理することで、大国間の競争と武力紛争を防ぐことだったが、現在は、ロシアに黒海を支配し、沿岸諸国を脅し、攻撃し、占領する能力を与えており、この条約を終了または更新する時期に来ているとの見方もある。⑥黒海沿岸諸国の「特別な権利」は、現在、ロシアとトルコにのみ及んでいる。⑦今後のシナリオとして考えられることは、第1にNATO諸国とEU内に亀裂が生じ、対ロシア制裁とウクライナへの武器供給が弱まる。このシナリオの下では、1936年のモントルー条約に変化はない。第2にロシアがウクライナに対する侵略行為で敗北するが、モントルー条約を修正する政治的意思や指導者が存在しないというもので、このシナリオを可能性は中程度である。第3は、ロシアが敗北し、米国、EU、NATO、黒海諸国が地域の長期的な安定と安全を回復し、維持するために、モントルー条約を再起草する力を与えられたと感じる場合で、このシナリオを可能性は中程度である。第4はトルコ海峡がモントルー条約の下で独立した法的体制として扱われず、国連海洋法条約に規定された国際海峡に関する規範の下に置かれるというものだが、このシナリオの可能性はトルコの反対を考えれば低いといった主張を述べている。

(3)New U.S. National Security Strategy: Key China Content
https://www.andrewerickson.com/2022/10/new-us-national-security-strategy-key-china-content/
Andrew Erickson, October 12, 2022
 2022年10月12日、中国専門家である米海軍大学のAndrew Erickson教授は、自身の運営するウエブサイトに" New U.S. National Security Strategy: Key China Content "と題する論説を寄稿した。その中でErickson教授は、中国は国際秩序を自国に有利な方向に転換させる意図を持ち、かつ、その能力はますます高まっているが、我々は今、米国と世界にとって決定的な10年間の初期段階におり、私たちが今採る行動が、この時代が紛争と不和の時代と呼ばれるのか、それともより安定した豊かな未来の始まりと呼ばれるのかを決定すると指摘している。その上でErickson教授は、ロシアは、ウクライナに対する残忍な侵略戦争が示したように、今日の国際秩序の基本法を無謀にも無視し、自由で開かれた国際システムに対する直接的な脅威となっているが、対照的に、中国は国際秩序を再構築する意図を持ち、その目的を推進するための経済、外交、軍事、技術的な力をますます高めている唯一の競争相手であると述べた上で、我々は、自国の国力を活用し、そして同盟国やパートナーとの幅広い連携を結集することによって、自由で開かれ、繁栄した、安全な世界という展望を推進し、気候変動や世界の健康、そして食糧安全保障などの問題で有意義な進展をもたらし、米国人だけでなく世界中の人々の生活を向上させることができるだろうと主張している。