海洋安全保障情報旬報 2022年9月11日-9月20日

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9月12日「オーストラリアは均衡に希望を見出す―オーストラリアジャーナリスト論説」(The Strategist, September 12, 2022)

 9月12日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同Instituteのジャーナリスト研究員Graeme Dobellの“Australia’s Indo-Pacific hope: equilibrium”と題する論説を掲載し、そこでDobellは10年前にアジアの活力を称えたオーストラリアであったが、いまや同国が求めているのは戦略的均衡であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ちょうど10年前、オーストラリアのJulia Gillard労働党政権は、「アジアの世紀におけるオーストラリア」と題する白書を発表し、驚くべき速度でアジアの活力とその重要性が増してきたことを高らかに宣言した。その白書には、「中国政府と米政府はともに建設的関係の発展を望み、対決を回避したいと考えている」のであり、米中はうまく「地域における戦略的変化を調整」できるはずだという楽観論を提示していた。そして、中国とインドは確かに既存の戦略的秩序を変えつつあるが、米国が「今後しばらくの間、アジアにおける最も強力な戦略的行為者であり続けるだろう」と述べていた。しかし今のオーストラリアが模索するのは、変化ではなく戦略的な均衡である。
(2) この白書に示された自由主義的な国際主義に対する楽観は、翌年同政権によって発表された防衛白書においてすでに影を潜めた。この白書では、戦略的・地政学的枠組みとして「インド太平洋」が採用されたのである。2016年にも防衛白書が発表されたが、その時までにオーストラリアは目的達成のための手段の国際的な規範の行く末を案じるようになっていた。2017円の外交白書は、輝かしい希望だけでなく暗い見通しも提示した。すなわち、「今日、中国が米国の地位に挑戦している」というのである。その上でそれは、「米国の長期的利益はインド太平洋におけるその経済的、戦略的関与に定着している」として、米国との同盟の重要性を確認したのであった。
(3) 筆者が「アジアの世紀」という言葉を最後に聞いたのは、2017年、影の外務大臣Penny Wongからだった。もし2019年の選挙で労働党政権が当選していたら、政権は「アジアの世紀におけるオーストラリア」の方針の大部分を引き継いだであろう。しかし、今や情勢が大きく変わってしまった。現外務大臣のWongは、シンガポールとマレーシアでの演説において、「戦略的均衡」を強調することになったのである。
(4) シンガポールでは、Wongは東アジアサミットやASEAN地域フォーラムなどについて、地域的関与のための機構として言及した。それらは、「問題全てを解決するものではなく、戦略的均衡に貢献することに正当な利益を有する地域の国々に選択の余地を与える」ものだとWongは述べた。マレーシアでの演説も主題は同じであった。WongはASEANをインド太平洋の中心、すなわち均衡のための試みの中心に位置づけたのである。他方、中国に関してはその強大な力の行使を抑制すべきだと指摘していた。
(5) ここ10年、オーストラリアは法や秩序について述べる時、その行く末を案じることが多くなっている。現在、オーストラリアが求めるのは活力ではなく均衡なのである。
記事参照:Australia’s Indo-Pacific hope: equilibrium

9月12日「太平洋諸島首脳会議において試される米国の地域への関心―オーストラリア太平洋問題専門家論説」(9Dashline, September 12, 2022)

 9月12日付のインド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineは、Australian National University博士課程院生Henrietta McNeillの“US INTEREST IN THE PACIFIC ISLANDS TESTED AT PACIFIC ISLANDS CONFERENCE OF LEADERS”と題する論説を掲載し、そこでMcNeillは9月12日から14日にかけて開催される太平洋諸島首脳会議に言及し、米国による太平洋への関心が強まっている中、そうした対話フォーラムの重要性が増しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月12日からハワイで太平洋諸島首脳会議(以下、PICLと言う)が開催され、そこで太平洋地域に対する米国の新たな関心が示されるであろう。これに、太平洋諸国の首脳陣がどれほど参加するかが、米国の関心をどの程度受け入れるつもりがあるかの指標になるだろう。
(2) 7月にはフィジーで、太平洋フォーラムの首脳会議が開催されていた。そこで首脳陣は、「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略」の採択による地域の団結を求めた。2021年にミクロネシア5ヵ国の脱退によってその団結には緊張が走っていたのである。7月の会議は概ね成功に終わった。
(3) 太平洋フォーラム首脳会議が開催されたのは、ソロモン諸島が中国と安全保障協定を締結し、地域の緊張が高まっている最中のことであった。そうした緊張に気を取られ過ぎることを懸念し、7月以降の会議では従来のように中国や米国を対話パートナーとして招かないことを決めていた。しかしホスト国のフィジー大統領は、突然、Harris副大統領にオンラインでの演説の機会を提供した。
(4) 9月12日から開催されるPICLは、上記首脳会議に比べてあまり注目されていない。この会議は1980年、当時のハワイ州知事とフィジーの政治家によって開催されたのが起源である。もともと5年に1度の開催であったが、3年に1会の開催を経て、2020年には2016年以来初めて毎年の開催となった。2021年のオンライン会議では11の国と地域(たとえばハワイとグアムは別々に代表を派遣する)の代表が集まったが、今回の参加者はそれより多くなると期待されている。太平洋諸国の人びとにとって、対面で議論するということはきわめて重要な意味を持つためである。また、今回はオーストラリアとニュージーランドの代表が初めて派遣されることも注目に値する。
(5) PICLを主催するのは太平洋開発計画(Pacific Island Development Program)であり、その推進母体は米議会によって設立され、ほぼ米政府予算によって運営されている。したがって米国はPICL会議の公式メンバーではないにもかかわらず、それは米政府関係者との対話の場として活用されている。今年初めに米国がソロモン諸島に29年ぶりに外交官を駐在させると発表したように、米国は太平洋諸国への関心を強めてきた。9月末にはワシントンDCで、Biden大統領は太平洋諸国の首脳らと会談を行う予定である。
(6) PICLの会合の議題の1つは、米中を中心とした地政学的対立になるだろう。その会議に誰が出席するかが重要であるが、とりわけソロモン諸島のManasseh Sogabare首相の出席は注目の的である。同国は最近、米国を含む外国艦艇の寄港停止を設定した。他の議題としては気候変動や、米国、オーストラリア、ニュージーランドにおける太平洋諸国の人びとの移住が挙げられるだろう。
記事参照:US INTEREST IN THE PACIFIC ISLANDS TESTED AT PACIFIC ISLANDS CONFERENCE OF LEADERS

9月12日「中国漁船による北朝鮮海域での違法操業の取り締まりについて-米専門家論説」(CSIS, September 12, 2022)

 9月12日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(CSIS)のウエブサイトは 、CSISのAsia Maritime Transparency Initiative 研究生Margaux Garcia の“Cracking Down on Illegal Chinese Fishing in North Korean Waters”と題する記事を掲載し、ここでMargaux Garciaは北朝鮮海域での中国漁船による違法操業の取り締まりについて関係各国の多層的、継続的な取り組みが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北朝鮮海域ほど、漁業の無法地帯は他にない。水産物の輸出を禁じた国連の制裁を逃れるため、北朝鮮は中国企業にイカ釣り許可証を売っており、中国から大量の漁船が出漁している。中国の遠洋漁業船団の約3分の1が北朝鮮の排他的経済水域(EEZ)での操業に関与しているが、そのほとんどは捕獲されることはない。
(2) 違法操業の船舶は、船舶自動識別装置(以下、AISと言う)の発信器を切っていることが多く、追跡が不可能なことから、専門家は、「ダーク・シップ」と呼ぶ。国際海事機関(IMO)は、300トン以上の船舶にAISの搭載を義務付けているが、中国はAISデータの共有を制限する措置を採っている。また、中国政府は2021年に「中華人民共和国個人情報保護法」を制定し、AISなどを介して中国国外に共有できるデータを制限している。
(3) 中国の違法漁船団は金正恩政権と彼の核兵器による野望を支援している。2017年に実施された国連制裁は、核拡散を阻止する措置の一環として、北朝鮮の水産物の輸出を禁じている。漁業許可証を購入する中国企業は、この制裁を台無しにし、北朝鮮政府とその6億4,200万ドルもの核開発計画に資金を提供している。制裁遵守に関する国連委員会は、北朝鮮が漁業権の販売により2018年に1億2000万ドルを稼ぎ、世界的感染拡大の最中にも利益を上げ続けたと主張している。 
(4) 制裁違反に加え、「ダーク・シップ」群は、貧しい北朝鮮の人々が食料として頼る漁獲物を奪うことで、北朝鮮の悲惨な人道的状況を悪化させている。1,000万人が食糧難に苦しむ北朝鮮では、魚介類は重要な栄養源であるが、北朝鮮の漁船は、北朝鮮海域で漁を行う中国の近代的なトロール船に対抗できないため、ロシアや日本の海域で漁をするように強いられている。北朝鮮漁船の多くは、長期航海に耐えられる装備を持たず、ロシア当局に逮捕されるか、難破して 「幽霊船」と化してしまう。日本の当局の報告によると、2016年から2020年の間に600隻近くの幽霊船が発見された。ボロボロの木造船に餓死した死体が積まれているのは、見るに堪えない。北朝鮮の沿岸の村々は危険な航海か栄養失調のどちらかを選ばざるを得ない。 
(5) 北朝鮮沖の中国の「ダーク・シップ」漁船団は、海洋の持続可能性に課題を突き付けている。科学者たちは、長期にわたる乱獲と気候変動によって地域の漁業が崩壊する可能性があると警告しており、アジアの漁業資源は危機に瀕している。特に、漁獲制限を無視した「ダーク・シップ」の漁船団は、近隣の資源をも枯渇させる懸念がある。日本と韓国が、厳しい漁業規制を実施したにもかかわらず、2003年以降イカ資源は80〜82%減少した。北朝鮮海域の中国船は、韓国と日本の合計よりも多くの魚を捕獲している。NGOの Oceanaによると、中国は世界最大のイカの漁獲量を誇っている。北朝鮮海域での違法漁業を減らすだけでは、アジアの漁業資源不足を解決することはできないが、望ましい方向への一歩となるだろう。
(6) 国際社会はこの問題への取り組みを行いつつある。6月17日、世界貿易機関(以下、WTOと言う)は、乱獲や違法・無報告・無規制(IUU)漁業を助長する政府補助金を禁止する歴史的な協定を締結した。遠洋漁業には、燃料費など政府補助がなければ採算が取れない場合が多い。中国は漁業補助金で最も悪名高い国で、全世界の補助金総額の21%を占めている。中国が唯一の加害者というわけではないが、中国はWTOの審議に全面的に参加し、補助金を制限することを約束した。WTOのような国際機関からの圧力が、中国に持続可能性の原則を国内法に明記するよう促す働きをしている。
(7)一方、QUADは、「ダーク・シップ」の漁船団の問題に別の角度から、中国の協力なしに取り組もうとしている。2022年、東京で行われたQUAD首脳会談で、オーストラリア、日本、インド、米国の首脳は、海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(以下、IPMDAと言う)を設立した。米国によれば、IPMDAは漁船団の監視を強化し、「闇の船の追跡やその他の戦術的レベルの活動を可能にする」。同様の内容で、バイデン大統領は、国際的な漁業違反に対抗するための覚書に署名している。IPMDAは、無線放送やその他の信号から船舶の位置を三角測量できる無線周波数(以下、RFと言う)検出を利用している。中国の「ダーク・シップ」船団、および北朝鮮船はAISを無効にすることが多いが、無線機やレーダーは搭載しており、この技術は中国の「ダーク・シップ」船団に対抗する不可欠な手段となり得る。まず、船舶の動きと数に関する詳細な情報を提供し、研究者が問題の全容を計算できるようにする。次に、IPMDAは韓国の取締り当局にデータを提供し、違反船舶を捕まえる機会を与えることができる。韓国は2021年8月、北朝鮮海域での違法操業の疑いがある中国漁船「Yodaneo26013」を韓国海域通過中に逮捕した。商用RFデータがあれば、この種の取締りがより日常的に行われるようになる。
(8) 中国政府もこの問題に取り組み始め、2021年後半に遠洋イカ釣り漁船の免許数に上限を設けると公約している。2020/2021年、北朝鮮海域の中国船は減少した。とはいえ、この傾向が長期的に続くかどうかの判断は難しい。多くの人は、中国の規制というよりも、北朝鮮の厳しいCovid-19規制が原因で低下したと考えている。しかし、免許証発行数の上限設定は、少なくとも中国当局がかつての漁法では資源の持続不可能と認識していることを示唆しているように思われる。
(9) 北朝鮮周辺での「ダーク・シップ」による漁業は、インド太平洋の安定にとって依然として難題である。「ダーク・シップ」による漁業は、制裁の効力を弱め、漁業資源の持続可能性を損ない、政府の決定に口を出せない一般の北朝鮮人の生活を脅かすものである。WTOとQUADが、補助金による負の誘因を排除し、アジアにおけるIUU漁業監視を改善することによって、この問題に取り組んでいることは心強い。一方、中国政府もこの問題をより真剣に受け止めているようで、AISデータの共有には難色を示しているものの、少なくとも遠洋漁業の問題には取り組み始めている。全体として、これらは有望な進展である。しかし、アジアの漁業問題や北朝鮮の問題に対処するためには、多国間、小国間、そして国ごとの継続的な取り組みが必要である。
記事参照:Cracking Down on Illegal Chinese Fishing in North Korean Waters

9月12日「変化しつつある中国の対台湾偽情報・プロパガンダ工作―英専門家論説」(The Diplomat, September 19, 2022)

 9月19日付のデジタル誌The Diplomatは、英The London School of Economicsの外交政策シンクタンクLSE IDEAS のThe Digital International Relations Project副主任Kenddrick Chanは、LSE IDEAS調査員Mariah Thorntonの“China’s Changing Disinformation and Propaganda Targeting Taiwan”と題する論説を寄稿し、両名は台湾を標的とした中国の偽情報とプロパガンダ工作が変化しつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 8月上旬のPelosi米下院議長訪台を巡る激動の中で、ほとんど注目されなかった事象は、中国の台湾に対する偽情報とプロパガンダ工作に見られた微妙な変化であった。長年にわたって、台湾では中国共産党(以下、CCPと言う)による統一支持論調とフェイク・ニュースが溢れかえっている。こうした活動は、台湾の人々に中国との統一支持を説得するCCPの継続的な工作の一環であり、「統一戦線活動」の重要な側面である。ここ数週間、CCPが台湾に対する統一戦線活動における新たな活動を積極的に進めつつあるという兆候がある。8月上旬以来、①従来のメッセージ発信方法から大きく逸脱し、②単一手段による失敗に備えた抗堪性を維持し、③米掲示板型メディアサイトRedditのようなニュースの集約やディスカッションプラットフォームなど、新しいタイプのデジタルプラットフォームを活用する、新しいタイプのCCP影響力拡大工作の兆候が見られる。これは現在も進行中の工作で、したがって本稿で概説する調査結果は暫定的なものである。とは言え、こうした動向は、CCPの偽情報とプロパガンダ工作の有効性と実行可能性に疑問を抱かせるものとなっている。
(2) Pelosi訪台の直後、「敦促蔡英文及其军政首脑投降书(蔡英文と彼女の軍事、政治指導者達に降伏を促す)」と題する解放軍報元副編集長署名の評論がインターネット上で公表された。これは、一見台湾の蔡英文総統と政治、軍事指導者達宛に見せかけた両岸関係における「新たな段階」の到来を強調している。この評論の書き出しは、「耳を劈く砲撃音が四方八方からあなた方を取り囲んでいる。・・・人民解放軍の新鋭戦闘機が台湾全土を鉄の樽のように包囲している」という戦時シナリオの生々しい描写で始まる。さらに、台湾海峡の中間線はもはや存在しないと宣言するとともに、CCPと中国人民の望む期間、封鎖を強要すると脅している。「中国人同士は戦わない」といった中国当局による以前の統一支持論調と比べると、こうした表現はCCPの台湾住民に対するメッセージの論調の劇的な変化を示している。
(3) 論調の急激な変化は、これまでの確立された方式から逸脱した配布手段を伴う、新しいデジタル偽情報工作の登場という恐らくより憂慮すべき進展を伴っている。前出の評論は、伝統的な中国語字幕付きのビデオに変わり、台湾で話されているが北京語ほどには広く話されていない方言、閩南語で語れている。このビデオには、人民解放軍の軍事映像も挿入されていた。CCPの過去のプロパガンダと偽情報工作に従って、このコンテンツも、中国の著名な戦狼型外交官によるTwitterなどのプラットフォーム上で共有され、流布、宣伝されることになろう。この工作スタイルの主たる目標は、世論の管理である。しかし、Pelosi訪台後、CCPはこの戦略を進化させつつある。新しい工作スタイルは、2段階の過程を採用しているようである。第1段階は、一般的な名前や訳の分からない名前の偽アカウントで、YouTubeなどのGoogle所有のプラットフォームに動画コンテンツをアップロードすることである。そして第 2 段階では、これらの YouTube 動画へのリンクを、 前出Redditなどの Google 所有以外のプラットフォームで流布することである。偽のRedditアカウントは、偽のYouTubeチャンネルに投稿された動画を(ハイパーリンクを介して)参照することによって、配布メカニズムとして機能するように作成されている。これらの別々のGoogle所有のデジタルプラットフォームとGoogleが所有しないデジタルプラットフォームを組み合わせて使用するのは、デジタル偽情報フレームワークの抗堪性と寿命を強化したいとするCCPの願望を反映しているようである。対照的に、以前の偽情報やプロパガンダ工作は、コンテンツのホスティングと配信の両方にTwitterなどの単一プラットフォームに依存する傾向があった。
(4)この新しいスタイルの偽情報とプロパガンダの配信では、コンテンツのホスティングにYouTubeのようなサイトを使用し、配信にRedditのようなプラットフォームを使用することで、リンク間の破損を避けることである程度の回復力が保証される。異なるアカウントによる大量の相互交流を特徴とした、以前の中国の偽情報やプロパガンダ工作とは異なり、これらのYouTubeチャンネルは、如何なる形でもプラットフォームの相互作用(たとえば、他の動画にコメントするなど)に関与せず、できるだけ目立たないようにすることを意図している。これらのアカウントが「インタラクションの沈黙(“interaction silence”)」を維持している限り、ホストするコンテンツが発見されない可能性がある。これらのチャンネルの存在は、コンテンツ配信サイト(この場合はReddit)によって参照されている場合にのみ検出できるため、これらのチャンネルが発見される可能性は最小限に抑えられる。これらのプラットフォームの相互作用を回避することで、アカウントは、より広範な偽情報ネットワークの一部として簡単に識別できるデジタルアクティビティの足跡を生成することを回避し、したがってプラットフォーム管理者によって識別され、削除される可能性を大幅に減らしている。これもまた、デジタル偽情報とプロパガンダの流通に対する中国政府の取り組みにおける重要な変化を意味しており、台湾以外の他のケースにも適用され得る可能性がある。
(5) 偽情報工作におけるデジタル抗堪性を強化しようとするCCPの試みは、さらに検討する価値がある、これらの最近の活動は、この戦略の一貫性と実行可能性についても疑問を抱かせる。第1の疑問はこれらの工作の目的に関するもので、もしその目標が台湾住民に中国の侵攻に対する恐怖を植え付けることであるとすれば、前出のエッセイのビデオが、閩南語ではなく、台湾の共通語である北京語で語られていれば、もっと効果的であったであろう。第2に、この最新の偽情報工作の対象視聴者が本当に台湾住民なら、配布メカニズムとしてRedditを使用しても、恐らく最小限の効果しか持たないであろう。何故なら、ほとんどのRedditユーザーは北京語を読まず、閩南語も理解せず、またRedditは台湾の人々の間では他のディスカッションフォーラムほど人気がないからである。
(6) 以上の全ての動向は、一貫性のないデジタル偽情報戦略か、あるいはYouTubeとRedditを実験台として利用し、将来のCCP主導のデジタル偽情報工作をさらに改善し、洗練しようとする試みか、そのいずれかを示している。政策立案者、研究者そして台湾の人々にとって、このことは、今後数週間から数カ月にわたって注意深く観察するに値する動向であることは確かである。台湾に対する偽情報とプロパガンダ戦術を革新しようとするCCPの試みを調査することによって、我々は、他の国や地域で展開されている同様の活動をより良く理解し、確認することができる。
記事参照:China’s Changing Disinformation and Propaganda Targeting Taiwan

9月13日「中国周辺海域における中米軍事衝突の危険性-中国専門家論説」(SCSPI, September 13, 2022)

 9月13日付の北京大学南海戦略態勢感知計画(SCSPI)のウエブサイトは、同大学海洋戦略研究中心執行主任胡波の” The Real Risks of Military Encounters Between China and the U.S. in China’s Surrounding Waters”と題する論説を掲載し、ここで胡は中国周辺海域において米国と中国は戦略的、法的な不一致はあるが、中国の視点に立つと合理的に3つの懸念があると、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海や東シナ海を含む中国周辺海域では、米軍と中国軍の競争が激化し、海空での遭遇も増えているが、毎年数千回に及ぶ遭遇のほとんどは安全で熟練された行動によるものと認めるべきだろう。たとえば、U.S. 7th Fleetの広報官は、最近の米海軍の台湾海峡通過について、「通過中の外国軍とのやりとりはすべて国際基準と慣行に沿っており、作戦に支障はなかった」と電子メールで声明を発表した。8月、米Carrier Strike Group 3司令官J.T. Anderson少将は「我々は時に中国軍艦の近くで活動し、ほとんど我々は見られていた」と述べ、「彼らと接触している間は安全で海軍としてよく訓練された行動が採られた」と言及している。それは航空機についても同様であることが述べられた。直接的な軍事衝突を避けたいという思いは、両国・両軍の指導層によって表明されている。両軍間の公式な意思疎通手段は停止しているものの、前線指揮官間の通信や「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」やその他の機構を通じての連絡手段は存在する。一般に、メディアや一部の学者が言うほど状況は厳しくはない。
(2) しかし、場所や状況によっては危険性が高くなる。中国と米国が軍事衝突について話し、お互いを批判するとき、まず、その衝突がどこで起こりうるかを考えるべきである。地域が違えば、双方にとって法的・政治的な意味合いも異なる。中米軍間の対立的な遭遇のほとんどは、次の4つの状況で起こる。
a.米軍が中国大陸や海南島の中国領海・領空に接近し、中国人民解放軍(以下、PLAという)が緊急発進、双方の軍艦や航空機が非常に接近している。
b.米軍が西沙諸島の領海・領空に侵入して、航行の自由作戦を行い、PLAが警告して退去させる。
c.米軍が航行の自由作戦のために南沙諸島とスカボロー礁の中国占領地から12海里以内に進入し、PLAが退去するよう警告する。
d.双方が、相手側の実弾演習を含む軍事作戦に対して、間近で偵察を行う。
(3) 中国には、南シナ海を含む西太平洋から米軍を追い出す能力も本気度もない。中国は中国周辺海域での米軍の作戦に不満を持っているが、共存は合理的な選択である。ほとんどの地域や事態で、PLAは国際的な慣行に基づいて監視しているだけである。ただ、上記4つに分類される遭遇については、中国は厳しく、集中的に対応する。戦略的には、米国が中国の地理的主権と国家安全保障に挑戦することに反対する。そして、米国の作戦が陸上または洋上にある人員の安全を脅かすことにも反対する。
(4) 中国の視点に立つと、次の3つの合理的な懸念がある。
a.米国の一部の偵察は、近すぎて攻撃的である。2021年9月4日、RC-135Sが中国の領海基線から20海里未満まで接近し、同年11 月 29 日にはP-8Aが、台湾海峡を通過し、中国の領海線から 15.91 海里付近まで接近した。
b.米軍の事故が頻発することへの懸念がある。過剰配備状態で、西太平洋の米軍の練度は低下し、米軍の重大衝突事故が多発している。この傾向が続けば、中国側との危険な遭遇も増える。
c. 軍事作戦には、政治的な意味合いがあるが、米国は軍事作戦に政治的・外交的な意味を持たせ過ぎている。中国占領地の12海里内での航行の自由作戦や台湾海峡通過は、その代表的なものである。米海軍は作戦の前後に必ず発表したり、関係者を通じてマスコミに匿名で話すなど、意図的に世論を作り出している。
記事参照:The Real Risks of Military Encounters Between China and the U.S. in China’s Surrounding Waters.

9月14日「ボストーク2022演習:ロシアはウクライナでの失敗から学んでいるのか?―ウクライナ専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, September 14, 2022)

 9月14日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは、キーウのDoctrine Center for Political Studiesで安全保障政策を指導しているHlib Parfonov の“Vostok 2022: Has Russia Learned From Setbacks in Ukraine?”と題する論説を掲載し、ここでParfonovはロシア軍がウクライナ侵攻という本当の戦争で無能さを示しているのにもかかわらず、ボストーク2022演習でもソ連時代の戦術をそのまま踏襲し、ウクライナで学んだはずの教訓を何も修正できていないことを明らかにしたので、中国や他の演習参加国のロシア軍事体制に対する信頼は大きく損なわれたとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年9月1日、ロシア極東でボストーク2022軍事演習が始まった。演習にはロシアの部隊以外にも中国、インド、ベラルーシ、アゼルバイジャン、カザフスタンなどの軍隊が参加した。
(2) 演習は3つの主要な段階に分かれていた。第1段階は我に有利な戦線の確保であった。演習中、諸兵種は協同して火力によって防御する敵に損害を与え、敵の組織的な退却を阻止する一方、攻勢移転において部隊を確実に投入できる条件を作り出した。防空部隊は敵からの空襲を撃退し、現代の武力紛争で活動した経験に基づいて、83個の別々の空襲旅団から抽出された攻撃部隊は、仮想敵部隊によって占領された集落を奪還した。第2段階では、敵の指揮統制システムを混乱させ、火力における優位を得るために、大規模な攻撃が行われ、ミサイル部隊と砲兵部隊、そして長距離航空機と作戦戦術航空機が参加することが計画された。同じ期間に、戦線に達した戦闘中の小部隊は、新たに識別された目標に火力を集中して損害を与え続け、地雷除去部隊はまた、敵の地雷原を啓開し始めた。さらに、攻撃中の部隊は攻撃発起位置まで進出した。第3段階は攻勢への移行であった。仮想敵の主力集団の敗北は、砲兵、陸軍航空戦力、割り当てられた直接射撃手段の支援を受けて、攻撃部隊の第一梯隊による攻撃への同時移行から始まった。前進する部隊を敵の攻撃から守るために、複合武装小部隊の空対地兵器は、防空部隊を通じて提供された。攻撃部隊によって当面の任務が完了した後、アゼルバイジャンとタジキスタンからの軍事派遣団は仮想敵によって占領された地域を掃討し始め、動員された人的予備のなかから到着した非正規軍人から成る部隊はロシア連邦国家親衛隊とともに地域の支配を強固にし始め、主に兵站と技術支援を担当する第2梯隊の防護を確実なものとした。
(3) 演習は2022年9月7日に終了した。演習を観察する中で、ロシアの軍事専門家たちは、ウクライナでの6ヶ月以上にわたる攻撃的な敵対行為の後、ロシア軍の戦術の大幅な変化を目撃することを期待していた。しかし、実際には、ボストーク2022はロシアの軍事戦略が驚くほど過去のものと変わっていないことを暴露した。
(4) 実際、ロシア軍は未だにソ連の教科書に従って戦術を構築している。装甲車は、塹壕や防空システムと同じ通常の地域で、戦場の真ん中に美しく密集した列で並び続けている。砲兵の砲も同様の密集した列に並んでおり、システムが自走式か牽引型かは関係ないようである。さらに、現在でもロシアの爆撃機は、依然として無誘導自由落下爆弾のみを使用し、ヘリコプターは無誘導ミサイルのみを使用している。このような航空訓練の終わりには、装甲車の隊列でさえ、歩兵の支援なしに草原を横切って「攻撃中」の位置から移動した。彼らは遠隔地雷設置システム(ISDM)を正面から使用した。実際、これらはウクライナではすべて失敗し痛ましい損失と敗北をもたらしたのである。
(5) ロシアの戦争特派員の間で、演習のためにロシア海兵隊部隊が前線から引き抜かれたという意見が共有されていることは注目に値する。そして、ロシア連邦国家親衛隊の部隊が軍事作戦の実施に関与していることは、前線での彼らの失敗がクレムリンの軍事指導者によって研究も修正もされていないという事実を補強するだけである。実際、ウクライナのロシア連邦国家親衛隊の部隊は、必要な装備と兵士に必要な訓練が不足しており、最低レベルの部隊であることが明らかになった。もちろん、訓練中の爆撃が中国空軍によって直接行われ、中国軍が初めてロシアの地上部隊と戦略的調整を行ったという事実を指摘することができる。
(6) 実弾射撃訓練の結果を考えると、ロシア軍はウクライナでの6ヶ月以上の戦闘の間にほとんど学んでいないと全般的に結論づけることができる。そして、これらの演習は、その一般公開という性格上、ザーパド2021演習からの教訓のあとは少ししか示されなかった。実際、ロシア軍は、時折、戦術改良、練度向上のための取り組みを学んだり、適応したりすることをしたがらないように見える。しかし、現実には、戦闘経験を研究・応用する上でこのような効果のない取り組みを採っていては、ロシア軍は同じ過ちを繰り返す運命にある。ロシア軍は、ウクライナにおいて彼らを悩ませているのと同じ問題を克服しなければならない。
(7) しかし、この演習シナリオは主に地上戦に関係したもので、海軍の構成要素について
は中国軍とロシア海軍の共同の努力を通じて、多くの機動訓練と仮想空母部隊に対する発射訓練が行われた。これは、米中間で発生の可能性のある世界規模の軍事紛争との関連で解釈されるべきである。この点で、中国はせいぜい、自国の海軍作戦の付属及び補佐としてロシア海軍の参加を期待しているに過ぎない。
(8) ロシア軍が、ウクライナ侵攻という本当の戦争において無能さを示し、ボストーク2022演習においてもウクライナで学んだ教訓を全く修正できていないことを示したことにより、中国と他の参加国がロシアの軍事体制に対する信頼を大きく失ったことは確かである。
記事参照:Vostok 2022: Has Russia Learned From Setbacks in Ukraine?

9月15日「AUKUSがオーストラリアにもたらしたもの―オーストラリア専門家論説」(The Diplomat, September 15, 2022)

 9月15日付のデジタル誌The Diplomatは、メルボルン在住の政治アナリストGrant Wyethの“A Year After AUKUS, What Challenges Loom Largest?”と題する論説を掲載し、そこでWyethはAUKUSの締結から1年、それがオーストラリアにもたらした利点と懸念をまとめ、要旨以下のように述べている。
(1) AUKUSが締結されてから1年経った。その合意の眼目は、オーストラリアが新たに原子力潜水艦部隊を保有することにあった。それはオーストラリア海軍の行動能力を飛躍的に高めるだろうが、現時点でAUKUSはオーストラリアにとって頭痛の種となっているようである。
(2) 原子力潜水艦取得の最初の問題は、それによって国際原子力機関(以下、IAEAと言う)の査察から原子力潜水艦用核物質を除外することになる最初の非核兵器保有国にオーストラリアがなることである。オーストラリアは、核物質を軍事目的で移転することは爆発装置に使用しない限り可能であるという核不拡散条約(以下、NPTと言う)の抜け穴を利用することになることである。
(3) 中国は予想どおり核拡散を懸念して、オーストラリアを孤立させる好機と捉えている。オーストラリアにとって悩みの種であるのは、インドネシアによる懸念である。8月の核不拡散に関する国連の会議に先立ち、インドネシアが、NPTの抜け穴を利用することは認められないと主張した文書が漏らされている。名指しこそしなかったものの、これがAUKUSについて言及していることは疑いない。インドネシアとの2国間関係はオーストラリアにとって最も重要なものである。この関係が親密であることこそが、なによりもオーストラリアに安全保障を提供している。AUKUSはこの関係を棄損している可能性がある。
(4) もう1つ悪化したのが、フランスとの関係である。AUKUSによってフランスのNaval Groupとの契約が破棄されたが、そのとき、フランスに対してもっと配慮がなされるべきであった。フランスは2018年にシドニーでそのインド太平洋戦略を打ち出したが、それは、同国の地域ビジョンにおけるオーストラリアの重要性を示したのである。その点において、AUKUSによってフランスの感情を逆撫でしたのは重大な過ちであった。
(5) 別の観点から、オーストラリアが原子力潜水艦を調達することに伴う重大な問題がある。Malcolm Turnbull元首相によれば、オーストラリアは自国の原子力産業を持たないため、おそらく米国から調達する原子力潜水艦の運用は米海軍の監督下でなければ行えないだろうということである。すなわち、これは「オーストラリアの主権の喪失」を意味するとTurnbullは述べている。この問題は、米国の不確実性によってさらに悪化する。米国共和党は、もはやオーストラリアと価値観を共有していない。しかし、その政党が今後議会選挙ないし大統領選挙で勝利する可能性がある。共和党支配の米国に自国の安全保障を委ねることは危険であろう。
(7) IAEA報告が示唆したように、AUKUSの履行に関しては前進している。しかし、このままでは2035年から40年の間、運用可能な潜水艦を持てないという時期が来る可能性があり、原子力潜水艦調達線表を早める必要性が出てくるだろう。現時点の対価は、最終的には払う価値のあるものだと認識されることになるかもしれない。しかしAUKUS合意に関してオーストラリアは失敗を繰り返しており、まだまだ安心はできない。
記事参照:A Year After AUKUS, What Challenges Loom Largest?

9月15日「インドネシアによる太平洋関与の重要性―インドネシア国際法専門家論説」(The Interpreter, September 15, 2022)

 9月15日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、Universitas Indonesia講師Aristyo Rizka Darmawanの“Why Indonesia’s engagement with Pacific countries matters”と題する論説を掲載し、そこでDarmawanはインド太平洋の枠組みが重要視される状況において、インドネシアは太平洋諸国との協力関係を深めるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月初旬、インドネシアのRetno Marsudi外相がフィジーとソロモン諸島を公式訪問し、インドネシアと太平洋地域の協力強化について議論を行った。太平洋諸国はインドネシアから近いにもかかわらず、その対外政策において見過ごされがちであり、むしろ太平洋のいくつかの国々との間には緊張関係がある。たとえばバヌアツは、西パプアにおけるインドネシアの人権侵害を特に問題視している。
(2) そうした問題があるものの、インドネシアにとって太平洋諸国は重要な存在である。2019年に同国は「太平洋の高揚(Pacific Elevation)」を打ち出し、経済面や観光面などでの太平洋諸国との関係の強化を目指した。
(3) インドネシアによる太平洋への関与の増大は、3つの理由から戦略的に重要である。第1に、インドネシアは人権問題について彼らの信頼を得る必要がある。前述したバヌアツはこの問題を国連にまで提起した。国連の場や、太平洋諸国への関与を通じてこの問題に対処する必要がある。
(4) 第2に、地政学的観点からインド太平洋地域が新たな中心性を帯びつつあることと関係している。これまでインドネシアはASEANを通じて指導力を発揮しようとしてきた。しかし太平洋地域の存在も重要で、特にそこは近年、米中対立の舞台になりつつある。最近ではソロモン諸島が中国と安全保障協定を結び、それによって中国の軍事的展開が増加するのではないかという懸念が高まった。インドネシアはこうした状況を気にかけており、ASEANをして「インド太平洋アウトルック」を打ち出させたのである。そこでインドネシアは自国を太平洋における協力および開発の提携国として位置づけた。
(5) 第3に、インドネシアと太平洋諸国は同じ沿岸国として、気候変動とそれによる海面上昇などの脅威に直面している。したがって、マングローブ保護などの事業について協働することはインドネシアにとっての優先課題である。また、太平洋諸国は持続可能なツーリズムの促進と実践において先行しており、インドネシアがそこにどう関与できるかを知るのは重要であろう。
(6) インドネシアにとっての最大の課題は、その資源に限界があることである。太平洋諸国に対するインドネシアの支援計画に対しては、もっと国内問題に対処すべきだという批判にさらされている。インドネシアが今後の方針をどうするにせよ、この両者の関係は、関係する全ての国々の相互の信頼と利益に基づく必要がある。インドネシアが指導者となっているASEANと太平洋諸島フォーラムとの間の関与を深めることが、インド太平洋と繁栄と安全にとって必要不可欠である。
記事参照:Why Indonesia’s engagement with Pacific countries matters

9月15日「フランスとAUKUSの和解-フランス専門家論説」(The Diplomat, September 15, 2022)

 9月15日付のデジタル誌The Diplomatは、フランスシンクタンクFrench Institute of International Relations (Institut français des relations internationales:フランス国際関係研究所)のCenter for Security Studies軍事研究員Jérémy Bachelier及び同InstituteのCenter for Asian Studies研究員Céline Pajonの” France and AUKUS: A Necessary Reconciliation”と題する論説を掲載し、ここで両名はインド太平洋地域で高烈度紛争が発生した場合のフランスの役割を明らかにすることが求められているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年9月、AUKUSの発表は、フランス政府に衝撃を与えた。それは、フランスが2016年にオーストラリアと締結した潜水艦建造契約の打ち切りを意味するだけでなく、フランスの主要提携国との信頼関係に危機をもたらし、中国の挑戦への対応の乖離を明らかにし、さらに、インド太平洋におけるフランスの戦略的位置付けに疑問を投げかけた。しかし、1年後、AUKUSの存在はフランスのインド太平洋戦略にとって大きな転機とはなってはいない。最初の衝撃の後、米国、オーストラリア、そして英国との2国間関係は徐々に回復していった。
(2) 仏米関係は、Biden政権の積極的な取り組みにより、極めて短期間で回復した。2021年10月29日にローマで行われたEmmanuel Macron仏大統領とJoe Biden米大統領の話し合いでは、米国が体系的で綿密な協議と調整を約束し、インド太平洋におけるフランスとEUの戦略を歓迎したことから、2国間関係は再び軌道に乗ることができた。さらに、両国は2021年12月に戦略的相互運用性枠組みに署名し、海上で共に戦うための能力を深化させた。それ以来、フランス政府関係者は、米担当者との前例のないレベルの協議を繰り返し賞賛している。インド太平洋地域での仏米関係は以前と同じ路線で進んでいる。
(3) 仏豪関係の外交的な仕切り直しは、オーストラリアの潜水艦問題で裏切られたフランスの海軍関係者に5億5,500万ユーロの補償金が支払われたことに続いて進められた。7月1日には、オーストラリアのAnthony Albanese新首相がパリを訪問し、そこでの共同声明は、戦略的提携関係を復活させ、防衛・安全保障協力を中心とした道筋を新たに策定する政治的推進力となった。このことは、9月初めにオーストラリア国防相Richard Marlesが、フランスの原子力潜水艦が配備されているブレスト海軍基地を訪問したことでも強調された。
(4) 南太平洋におけるフランスとオーストラリアの利害は不可分で、この1年間、作戦協力が途絶えることはなかった。オーストラリア政府はニュージーランド政府と共にFRANZ機構を作動させ、2022年1月にトンガを襲った激しい火山噴火の後、フランス軍と連携して緊急人道支援を行った。さらにオーストラリアは、2022年5月のマララ演習(米軍と仏領ポリネシアに駐屯する仏軍による共同演習:訳者注)や2021年10月のフランス主催の第1回沿岸警備隊セミナーなどに積極的に参加した。両国はまた、太平洋におけるQUADの枠組みで、太平洋の島々を支援するための協調的な海上哨戒に参加した。
(5) フランスと英国は依然として強力な同盟国であるが、フランスとイギリスの関係は政治レベルでは浮き沈みに慣れており、インド太平洋では競争の要素が残っている。数カ月前にポリネシアに立ち寄った後方支援を除けば、インド太平洋に展開する英国の哨戒艦2隻と仏軍艦との交流の少なさは気になる。今後は、海上協調の機運を高めていかなければならない。仏英の競争的関係は、地域的影響力、産業・防衛上の提携、海洋安全保障の指導的地位など多次元で続いているが、仏英は今、この地域で協力する方法を見出すべきである。
(6) AUKUS発表から1年、フランスにとっての目標は、関係国、特にオーストラリアとインド太平洋での戦略的な動きを再構築することである。フランスとオーストラリアは太平洋の隣国であり、長い協力の歴史を共有しているが、太平洋諸島における緩やかな戦略転換を考えると、その再構築が今や不可欠である。
(7) AUKUSは、インド太平洋地域における「第三の道」の推進と「バランシング・パワー」としての行動というフランスの戦略的野心と、その野心を支えるためにフランスが動員できる限られた軍事資産との間の不一致を指摘した。海軍や航空部隊を何度も派遣し、有事の際にこの地域に迅速に展開する決意と能力を示してきたにもかかわらず、現場までの距離が、紛争発生の際にフランス政府ができることを制限している。ラ・レユニオン、仏領ポリネシア、ニューカレドニアに配備されている小規模な部隊は、法執行や能力構築活動、防衛外交、作戦協力など、複数の任務ですでに手いっぱいである。インド太平洋における海・空軍力の新たな強化は、今後数年間、フランスの存在感を高めるだろうが、気候変動による影響や南シナ海の漁業資源の枯渇と違法漁業の増加など、南太平洋が直面する課題の増大に対応するには十分ではない。
(8) フランスは、デジタル接続、海底および環境保護、海洋安全保障、国際公共材の管理の面で、この地域における欧州戦略の一環を含め、米国を補完する有用な役割を果たすことができる。しかし、フランス政府がその軍事的野心に応えることは困難であろう。米国の構想では、フランスはこの地域の二次的存在であり、その協力は歓迎されるが、ほとんど期待されない。真剣で一貫した存在と関与を示すためには、追加的な軍隊、人材、海・空の能力の配備が必須である。それは、持続的なロジスティクスを提供するためにアジアに1つ以上の足場を追加することで補完される。フランスの「バランシング・パワー」としての役割は、比較的平和で豊かな時代には意味を持つが、この地域で激しい紛争が発生した場合、維持することは困難である。できるだけ早く有事シナリオに取り組む必要がある。
(9) これは、作戦行動、後方支援、管理の面で、この地域におけるフランスの関与の方向性を根本的に見直すことを意味する。ウクライナ戦争は、正式な同盟関係、拠点、情報、戦略的先見の明の価値を浮き彫りにした。インド太平洋で準備不足に陥らないよう、先を読まなくてはならない。中米対立の激化と台湾海峡の危機に対する懸念の高まりは、インド太平洋におけるフランスの位置づけをAUKUSよりはるかに重くする要因である。この地域で烈度の高い紛争が発生した場合のパリの役割について、政治的に明らかにすることが今求められている。
記事参照:France and AUKUS: A Necessary Reconciliation

9月15日「中国軍の活動がもたらした与那国島の軍事基地―香港紙報道」(South China Morning Post, September 15, 2022)

 9月15日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China’s military moves on Taiwan rattle remote Japanese island of Yonaguni”と題するAFP配信の記事を掲載し、中国軍の行動がもたらしている沖縄県の与那国島への影響として、自衛隊の基地が建設されたことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の最近の大規模な軍事演習は、日本の離島、与那国島の住民を動揺させた。この西方の島は台湾から110kmしか離れておらず、8月の演習で発射された中国のミサイルは、与那国島の海岸からそう遠くない場所に弾着した。この事件は、中国の主張の高まりが与那国にどのような影響を及ぼし、この島における継続的な防衛力(与那国島に展開するのは自衛隊であることから、軍事力ではなく防衛力と訳出した:筆者注)展開に関する議論を変化させたことを思い出させる最新の出来事だった。
(2) 2016年以降、当初の住民の反対にもかかわらず、この島には自衛隊の基地が設置された。海上・航空監視のための基地には170人の自衛官がおり、その家族と合わせて与那国の人口1,700人の15%を占めている。また、2024年3月までに「電子戦」部隊も配置される予定である。糸数健一与那国町長は「現在の中国軍の動きを見ると、ギリギリの時機に基地を手に入れたと思う」と語っている。
(3) 与那国町は沖縄県の一部であり、沖縄県は伝統的に軍隊、あるいは自衛隊の配備に対する反感が強い。この地域の人口の4分の1は、1945年の沖縄戦で死亡し、1972年まで米国の占領下にあった。現在、沖縄は日本にある米軍基地のほとんどを受け入れている。与那国は、日本の首都東京よりも台湾、ソウル、さらには北京に近い。その脆弱性を意識して、当局は日本の本州から与那国まで1,200kmに及ぶ南西諸島に防衛力の展開を構築してきた。安全保障上の利点に加え、政府は、基地が30平方kmの島に経済的な棚ぼた式の利益をもたらすと主張した。現地の当局者たちは、与那国の経済的な将来は、台湾や近隣の商業拠点にあると考え、「地域間交流特区」にするというキャンペーンすら行ったこともあった。しかし、政府はそれを却下し、それどころか、2007年から基地建設への準備を始めた。2010年の北京との外交危機が基地建設支持の後押しとなり、2015年には住民投票で与那国町民の約6割が基地建設を支持した。その後、中国の軍事的威嚇や相次ぐ海洋の事故もあり、支持は固まった。しかし、特に、中国が台湾を強制的に支配下に置こうとした場合、基地がかえって与那国を標的にするのではないかという抵抗感をもつ人々がいる。
(4) 基地が与那国を変えたことは賛成派、反対派ともに認めるところである。e年に稼動した待望の焼却炉は、ほぼ全額を防衛省が負担し、基地の賃料は島の学校の無料給食費に充てられている。与那国には高校がなく、雇用も限られている。第2次世界大戦後、台湾との繁栄していた商業的なつながりが絶たれた後、何十年にもわたって衰退してきた。現在では、与那国町の歳入の5分の1は基地住民の税金である。しかし、誰もがこの変化を肯定的にとらえているわけではない。たとえば、ある市議会議員は自衛隊の家族が地方選挙の投票によって政策に影響を与えることができるという事実に腹を立て、基地の経済的影響によって住民がこの問題について自由に話すことが難しくなっていると主張している。しかし、糸数町長にとっては、基地がもたらす経済効果に異論の余地はない。そして、安全保障の状況から、その存在は明らかに必要なものだと述べている。
記事参照:China’s military moves on Taiwan rattle remote Japanese island of Yonaguni

9月17日「中国科学者、南シナ海で遠距離水中通信を開発-香港紙報道」(South China Morning Post, September 17, 2022)

 9月17日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、「Chinese scientists develop long-distance underwater communication in South China Sea」と題する記事を掲載し、哈爾浜工程大学水声工程学院教授劉淞佐とその研究チームは南シナ海で行われた実験で送信率200bpsの信号を105km離れた水深200mに設置された受信機が受信に成功し、30,000平方km以上で潜水艦や水中無人機が接触を維持することを可能にするとして、要旨以下のように報じている。
中国の研究者達は、海中技術を開発し、南シナ海の深みにおいて実験したと述べている。この技術は30,000平方km以上で潜水艦や水中無人機が触接を維持することを可能にする。
(1) 研究チームによれば、東沙諸島と西沙諸島の間の水深3,800mを越える深海底で実験を行った。ある軍事専門家は、実験海域は中国近海に潜水艦が出入りする重要な航路筋であると言う。南シナ海の潜水艦にとって重要な航路筋における実地実験で、受信機は水深200mで105km離れた位置からの信号を受信した。世界最大の地上アンテナを使用した原子力潜水艦向けの低周波送信に匹敵するデータ送信率は200bpsに達しており、背景雑音が大きかったにもかかわらず、暗号化された通信文には通信エラーは含まれていなかったと研究者は言う。この技術は、30,000平方km以上で潜水艦や水中無人機が触接を維持することを可能にする。
(2) 利用可能な商業用技術を使用し、200bpsの通信速度で通信品質の音響通信の到達距離は10km未満である。2021年に韓国の研究者が英国製の水中聴音機を使用して実施した実験では、128bpsの送信速度で20km以上の遠達を記録している。
(3) 荒れた海上模様で、潮の流れの強いという悪条件下で行われた実験では、70%以上のセンサーが何も探知できず、いくつかのセンサーが拾ったものの信号強度はわずか数dBであったと科学者達は述べており、これらの信号は、様々な背景雑音によってかき消されていると言う。
(4) 劉淞佐の研究チームは、これらの問題を克服する新しい通信規約を開発した。この技術は、信号を多くの関連しあう最小単位に分割して格納し、全方向に音波として発信する。受信機は、異なる方向から、異なる回数送られるこれらの音波の一部を受信する。アルゴリズムは、受信機がそれぞれの音波を識別することを助け、収集した情報のバラバラのビットを用いて完全な通信文に再構成する。この研究で使用された数学モデルは、南シナ海で収集された実データのより開発され、評価されてきた。
(5) 南シナ海での実験結果は、新技術の「有効性と良好は動作性」を証明したと計画の統括科学者劉淞佐哈爾浜工程大学水声工程学院教授は国内査読済ジャーナルで述べている。劉淞佐とその共同研究者達は、東沙諸島と西沙諸島の間の水深3,800mの深海底で実験を行っており、一部軍事専門家によれば、当該海域は中国近傍に接近する潜水艦にとって重要な海域である。
(6) 公開情報によれば、中国は紹介と情報収集のために無人船と無人水中機を運用してきた。中国政府の計画では、南シナ海におけるロボットドローンの深海底の係留及び充電施設は今後数年のうちに完成、運用される予定である。
(7) 中国の研究者達はまた、海底に植え込み、戦時に活性化する頭のいい兵器と使い捨て可能な原子炉を搭載し、大群を組んで遠距離を行動できるドローンを開発中である。これらAIによって駆動する機器は、情報、計画航路を共有し、攻撃を調整するために相互に絶え間なく接触を維持しなければならない。
(8) 受信時の信号雑音比が低いことが求められる多くの技術は、広く深海遠距離通信に使用されてきており、良好な結果を達成してきているとした上で、「これら技術の効率は低く、長距離水中音響通信に利用できる周波数帯域は限られ、その結果、達成可能な通信側道は低いものである」と劉淞佐は報告書の中で述べている。
(9) 2022年初めに行われた会議の発表で、劉淞佐の研究チームは、軍用通信を欺瞞するためにクジラの鳴き声に音響信号を紛れ込ませる新たな技術を開発中であると言う。画像、ビデオ等の大容量データの送信は依然、音響通信にとって課題である。世界中の研究者が、少なくとも100mの距離での高速送信ができるレーザー通信機の開発にしのぎを削っている。復旦大学研究者チームが2017年に打ち立てた63m以上で、1ギガバイト/秒の通信記録を中国は保持している。ある中国人研究者は、次世代通信技術、6Gは水中レーザー通信機の通信速度と通信距離を飛躍的に増大させるだろうと述べている。
記事参照:Chinese scientists develop long-distance underwater communication in South China Sea

9月20日「『米国は北太平洋における自由連合国への関与を強化すべき』:米報告書―英通信社報道」(Reuters, September 20, 2022)

 9月20日付の英ロイター通信は、“Pacific islands a key U.S. military buffer to China's ambitions, report says”と題する記事を掲載し、地政戦略的に重要な太平洋島嶼国が中国に取り込まれないように、米国は自由連合国への関与を強めるべきと提言する米報告書の内容について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国は太平洋島嶼国を戦略的利益として重要な区域とみなしており、米国は、北太平洋の島嶼国に対する関与を強化すべきであり、重要な軍事的緩衝地帯を維持するため、現在防衛協定の更新のために協議中であると、米議会が出資するシンクタンクが20日に発表した報告書に述べられている。
(2) マーシャル諸島、ミクロネシア連邦及びパラオは、自由連合国(Freely Associated States:以下、FASと言う)として知られる主権国家で、1980年代後半に米国に防衛責任と軍事基地の権利を与える協定に調印したことにちなんでいる。2023年と2024年に期限が切れるこの協定は、現在再交渉中であり、この報告書は、もし交渉が失敗した場合、これらの国家は中国に資金援助を求める可能性があると警告している。「北太平洋の大部分に及ぶ広大なFASの領海は、グアムやハワイの米国防衛資産と東アジアの沿岸海域との間に位置する重要な戦略的緩衝地帯である」と報告書は述べている。
(3) もし北京がこれらの国の一国を自分たちの領域内に取り込むことに成功すれば、「それは戦略的に重要な地理的統括区域における米国の軍事能力を危険にさらし、太平洋地域を遥かに超えた意味をもつ、地域構造のより広い再編成への扉を開くだろう」と同報告書は述べている。太平洋地域全体で、中国は港や排他的経済水域への出入りを強化し、米国による軍事力の投射の取り組みを妨げ、情報収集と監視能力を高め、台湾の外交の提携国を減らし、中国の政治・経済発展モデルを推進しようとしていると報告書は述べている。
(4) 米政府は、中国の経済援助に代わるものを提供し、「無視と放棄という地域の認識を十分に利用しようとする中国政府の取り組みに対抗する」必要がある。「軍事的な有用性」をもつ中国の調査船が許可なく目撃されるなど、FASで活発化する中国の活動を監視するために、より多くの資源が必要である。ミクロネシア連邦は最近、新たな米軍施設の開発に合意し、パラオは米国に滑走路、港湾、基地の建設を要請しており、「米政府は、防衛上の必要性に合致する範囲で真剣に検討すべきである」と報告書は述べている。
記事参照:Pacific islands a key U.S. military buffer to China's ambitions, report says

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)How Taiwan Views the China Problem
https://nationalinterest.org/feature/how-taiwan-views-china-problem-204762
The National Interest, September 15, 2022
By Kuan-Ting Chen(陳冠廷), the CEO of the Taiwan NextGen Foundation (台灣世代智庫執行長)and adjunct Lecturer at Tamkang University’s Department of Diplomacy and International Relations
Wei Azim Hung(洪偉), a Research Assistant at the Taiwan NextGen Foundation
 9月15日、台湾シンクタンク台灣世代智庫の執行長である陳冠廷と台湾の淡江大学の非常勤講師である洪偉は、米隔月刊誌The National Interest電子版に“How Taiwan Views the China Problem”と題する記事を寄稿した。その中で、①中台間の理解を促進するためには、中国政府は台湾の人々が何を考え、何を感じているのかを理解する必要がある。②重要なのは、台湾は一日たりとも中国の管轄下に置かれたことがないことである。③また、台湾と中国は分断された国家に似ているため、「統一」が必要だという考え方は、紛争の本質と台湾の国民感情を捉えていない。④さらに、中国と台湾は異なる歴史的経緯があり、異なる経験をしてきた。⑤台湾のアイデンティティの概念は多様であり、単一化することはできない。⑥中華民族出身の全ての人々を北京の政府が代表するということを本質化する傾向は拒否しなければならない。⑦両岸関係の行き詰まりの原因は、中国が台湾の国民感情を理解しようとしていないこと、そして、台湾の政治体制に対する考え方の違いである。⑧台湾は、中国語圏で最初の民主主義国家になるという偉業を達成したが、中国政府はこれを無視し、台湾人の行為主体性と意思を損なってきた。⑨歴史は、国家がその力の大きさに決して満足できないことを世界に教えており、中国の拡張と侵略は台湾や日本で終わることはない。⑩中国が対話のための前提条件にこだわることは、両岸関係を阻害するだけである。⑪緊張緩和のための対話が実現しない場合、台湾が取るべき唯一の判断は、防衛力を強化することであるといった主張を述べている。

(2)Weakness on China
https://americanmind.org/memo/weakness-on-china/
The American Mind, September 15, 2022
By James E. Fanell, a retired U.S. naval intelligence officer
Bradley A. Thayer, a retired U.S. naval intelligence officer, Director of China Policy, Center for Security Policy
Tommy Waller, a retired U.S. naval intelligence officer, Executive Vice President, Center for Security Policy
 2022年9月15日、元米海軍情報将校James E. Fanell、そして同じく元米海軍情報将校で米シンクタンクCenter for Security Policy対中政策部長Bradley A. Thayerと副会長Tommy Wallerは、同シンクタンクのウエブサイトに" Weakness on China "と題する論説を寄稿した。その中でFanellらは、米Biden政権発足から2年が経過したことで、これまでの政権との中国に対する取り組みの違いが明確になってきたと指摘した上で、Biden政権はそれまで強硬姿勢を取っていたTrump前政権とは異なり、Nixon政権以降の関与と融和という姿勢に戻ろうとしているが、こうした誤った姿勢への回帰は、中国の侵略を加速させ、米国が中国の脅威を打ち破るために保有する機会を狭めるだけだとBiden政権の対中政策を批判的に評している。そして、こうした誤りを是正しない限り、中国の影響力と軍事力は着実に増大し、抑止力が機能しなくなり、米国は中国との争いの中で、自国と同盟国や提携国を守ることを余儀なくされることになると主張している。

(3)ESCALATION MANAGEMENT AND NUCLEAR EMPLOYMENT IN RUSSIAN
MILITARY STRATEGY
https://warontherocks.com/2022/09/escalation-management-and-nuclear-employment-in-russian-military-strategy-2/
War on the Rocks, September 19, 2022
By Michael Kofman serves as director and senior research scientist at CNA Corporation and a fellow at the Wilson Center’s Kennan Institute
Anya Loukianova Fink, a research analyst at CNA and a research associate at the Center for International and Security Studies at Maryland
 2022年9月15日、米シンクタンクWilson Center’s Kennan Instituteの研究員などを務めるMichael Kofmanと米シンクタンクCenter for International and Security Studies調査分析専門家Anya Loukianova Finkは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" ESCALATION MANAGEMENT AND NUCLEAR EMPLOYMENT IN RUSSIAN MILITARY STRATEGY "と題する論説を寄稿した。その中でKofmanとFinkは、6月2日、ロシア政府はPrinciples of State Policy of the Russian Federation in the Sphere of Nuclear Deterrenceを発表したが、その内容はロシアの核戦略に関する議論をすぐに解決するものではないだろうと評した上で、ロシアの核戦略には、侵略された場合に核兵器を使用することで早期に戦争を終結させる計画、すなわち事態拡大から事態の段階的縮小(escalate to de-escalate)への移行が隠されているという見方もあれば、主に緊急事態に使用する防衛的抑止力であるとする見方もあるが、いずれも満足ないし、説得力のある見解ではないと指摘している。そして、KofmanとFinkは、ロシアの事態拡大管理の目的は、自国への直接的な侵略を抑止し、紛争の拡大を防ぎ、国家や政権を脅かすようなロシア本土への被害をもたらす強力な武力の使用を防止または先制し、モスクワが受け入れる条件で敵対行為を終了させることであると主張している。