海洋安全保障情報旬報 2022年10月21日-10月31日

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10月21日「習近平演説に見られる中国共産党のイデオロギー的歴史観と台湾認識―オーストラリア中国専門家論説」(The Strategist, October 21, 2022)

 10月21日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、University of Tasmania上席講師Mark Harrisonの“Any conflict over Taiwan will be one that Xi and the CCP have chosen”と題する論説を掲載し、そこでHarrisonは第20回中国共産党大会における習近平の演説に言及し、中国共産党による歴史観や台湾認識がきわめてイデオロギー的に固定されており、現実に即したものではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月16日から22日にかけ、第20回中国共産党大会が開催された。そこで習近平国家主席は2時間に及ぶ演説を行い、これまでの共産党による成果と「新しい中国」の構築における課題を並べたてた。
(2) 習近平の演説は、中国の一党独裁システムにおける、本質的な力が何であるかを示すものであった。彼は、我々には理解の難しい言い回しで、共産党による世界、歴史の見方を説明する。それはきわめて閉じられた、決定論的なものであり、すなわち、歴史は共産党の理論と実践に導かれてその矛盾を解決していき、それを通じて前進していくというのである。
(3) 台湾に関して習近平は、2019年の演説や最近公表された新たな台湾白書に見られた考え方を土台にしていた。彼によれば「台湾問題の解決と台湾の完全な再統一は、共産党にとって歴史的な使命」であり、「歴史の車輪」はそれに向かって突き進んでいるのである。中国は一国二制度の考え方のもとで台湾の平和的再統一を決意しているが、歴史の車輪を逆回ししようとする分離主義者や外部勢力と、必要であれば軍事力をもって戦う意思がある。
(4) 台湾に関する共産党のイデオロギー的説明は、台湾に対する威嚇とその拡大を正当化する。しかし軍事侵攻や占領に関しては、台湾に事実上の主権があることが中国の革命的事業にとっての存立の危機であると主張する必要があるだろう。そして実際のところ、台湾は中国共産党にとってそうした存在なのである。台湾は経済的にも急成長を遂げ、いまや一人当たりGDPは日本を追い抜いた。こうした台湾の成功は、中国共産党の理論と実践の失敗の象徴なのである。
(5) 共産党によるイデオロギー的な台湾理解は、台湾の客観的現実に対応するものではない。中国政府は共産党的な歴史以外の歴史観を持たず、台湾軍の将来や、台湾が世界的な技術的サプライチェーンの中心にいるという客観的現実に対処するための道程表を持たない。習近平が提示したのは、中国共産党の将来における台湾の位置づけのみである。
(6) 習近平の演説の分析方法として、言葉遣いや用語の数を数えるなどのものがある。特に焦点が当てられているのが、台湾併合に関する予定表や最終期日に関する合図である。しかし、習近平の演説をそのように解析することは、中国共産党による閉じられた、決定論的な台湾の理解を受け入れることでもある。それもまた、台湾の客観的現実に直接向き合うようなやり方ではないだろう。
(7) 対外政策の専門家らが試みているのは、中国共産党の国家システムやイデオロギーを体系的に批判できるかどうかである。こうした分析は力の批判に対して慎重な傾向がある。国際システムにおける力を批判する時、そうした分析は中国が米国的なシステムに挑戦しているのだという中国政府の見解に一致しがちである。こうした見解にも意味はあるが、しかしそれは中国的システムの独特さを薄めることにつながりかねない。そして中国の台湾政策に対する批判は、単なる親米主義的な主張に堕する可能性がある。とはいえ、中国による台湾政策への批判は必要な段階である。それがイデオロギー的に固定されたものだと理解することで、難しいことかもしれないが、中国が破局の道を進むのを思いとどまらせることができるかもしれない。
記事参照:Any conflict over Taiwan will be one that Xi and the CCP have chosen

10月21日「台湾にとっての太平洋諸島の戦略的重要性―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, October 21, 2022)

 10月21日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(CSIS)のウエブサイトPacNet, Pacific Forum, CSISは、米シンクタンクCSIS上席非常勤研究員Michael Walsh とCSISインド太平洋地域の専門家John Hemmingsの‶The strategic importance of the Pacific Islands to Taiwan″と題する論説を掲載し、ここで両名は台湾の安全保障上、太平洋諸島の安定が極めて重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、中華人民共和国が関与する台湾有事がそう遠くない将来に発生するのではないかとの懸念が高まっている。2022年のU.S. Department of Defenseの米議会向け年次報告書では、中国指導部は台湾統一を「中華民族の復興」政策の要と位置付け、台湾に対して少しずつ圧力をかける戦術を採っているとし、Joe Biden米大統領は「台湾が侵略された場合、米国は台湾を防衛する」と発言している。
(2) 中国の野望は、台湾の自治、さらにはインド太平洋地域の平和を脅かしているように思われる。2つの大国間の勢力の均衡の変化の結果、米国が中国による台湾侵攻を抑止・防衛する能力が危機に瀕していると考える人もいる。米シンクタンクHudson InstituteのBryan Clark上席研究員が最近の報告書『グアム防衛』で主張しているように、米軍は「もはや台湾をめぐる軍事力の対決で人民解放軍(以下、PLAと言う)を倒すことはできない」のである。その代わりに、米国は「PLAの自信」を挫き、「優位に立つための意思決定の優位性」を使える創造的な方法を見つける必要があるとBryan Clarkは述べている。
(3) とりわけ、メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアに広く分布する民間および軍用基幹施設の多層的なネットワークを確立することが必要である。米国は、中国による台湾存亡の危機を抑止するために努力しているが、万一、抑止できなかった場合、米軍と情報機関は、ミサイル攻撃やサイバー攻撃によって台湾の重要な基幹施設が破壊されることを、長期間にわたって阻止しなければならない。中国によるこうした攻撃を阻止するために、米国はパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシアの自由連合協定(以下、COFAと言う)加盟国とその周辺にある民生用および軍用基幹施設に頼る必要があるかもしれない。
(4) 現在、軍用基幹施設で重要な役割を担っているのは、マーシャル諸島にあるRonald Reagan Ballistic Missile Defense Test Site(ロナルド・レーガン弾道ミサイル防衛試験場:以下、RTSと言う)である。そのレーダー、光学、テレメトリーセンサーは、ミサイル実験や宇宙探査に役立つだけでなく、ミサイル発射の支援、宇宙偵察、台湾防衛の際の監視活動に重要な役割を果たすと期待されている。RTS がなければ、米軍と米情報機関は、台湾防衛時に同盟国や提携国の前方展開部隊や宇宙に有する資産を極超音速ミサイルや弾道ミサイル攻撃から守ることが極めて困難となる。だからこそ、U.S. Army Cyber Command(米陸軍サイバー司令部)、U.S. Army Space and Missile Defense Command(陸軍宇宙・ミサイル防衛司令部)、Joint Region Marianas(マリアナ地域統合司令部)など、世界中の同盟国・提携国の軍事・情報施設とRTSを結ぶ海底ケーブルと人工衛星システムを守ることが不可欠である。
(5) 米国は何十年もの間、COFAによって、COFA加盟国と特別な関係を維持してきた。これらの国際協定は、COFA加盟国を独自外交の権限を持つ主権国家として認めるだけでなく、同時にその防衛と安全保障の権能を米国に付与している。この協定により、米国は台湾防衛を含む幅広い事態において、安全保障上の利益を守るために必要な民生用および軍用基幹施設を自由に利用することができるようになった。COFAは近々更新されなければならないが、COFA加盟国政府は米国側が提示した条件案に満足していない。このことは、マーシャル諸島政府が予定されたCOFA交渉会議を中止したことで公になった。続いてCOFA加盟国の全大使が書簡を発表し、Biden政権が提示した内容では成功に導くことができないとの懸念を表明した。このような動きは、米国太平洋島嶼国首脳会議の期間中も、大きな波紋を投げかけた。背景に何があるにせよ、この交渉は、軌道に乗らないようである。一方、米国の太平洋地域主義への軸足の転換は、交渉に新たな局面をもたらした。もし交渉が決裂すれば、米台間の安全保障パートナーシップの抑止力が弱まることになるからである。
(6) このような外交的駆け引きが展開される中、台湾政府はこれらの国際協定交渉の重要性を国内外に十分に伝えていないように思われる。第1に、台湾は米国や他の提携国と協力し、COFA加盟国の開発ニーズや気候変動に関する懸念に対処する必要がある。第2に、台湾の外交官や政策立案者は、COFA加盟国の領土が台湾の防衛に重要な役割を果たすという認識を共有し、米国のカウンターパートと緊密に連携する必要がある。第3に、台湾の外交官や政策立案者は、COFA加盟国のカウンターパートに、COFAの終了が地域の安定、ひいては台湾の国益に及ぼす負の影響を理解させる必要がある。同時に、台湾政府は自国の安全保障について、より体系的に考える必要がある。米国はすでに「国家安全保障戦略」と「太平洋パートナーシップ戦略」を策定しており、台湾も同様の戦略的計画への投資を行う必要がある。米国は、太平洋国家としてのアイデンティティを持ちつつあり、台湾は、これに追随する利得を模索するのが賢明であろう。
(7) いずれにせよ、台湾はなぜCOFA加盟国が台湾にとって重要なのか、じっくりと考える必要がある。台湾政府はあまりにも長い間、外交的承認に重点を置いてきた。それは今でも重要だが、他に、もっと重要な問題もある。私たちは、大国間競争が再燃する時代に突入している。このような世界では、防衛と安全保障に重点をシフトすることが必要である。
記事参照:The strategic importance of the Pacific Islands to Taiwan

10月21日「米国が採るべき今後の地中海戦略―米専門家論説」(War on the Rocks, October 21, 2022)

 10月21日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、米International Republican Instituteの Thibault Muzerguesによる” THE NEXT MEDITERRANEAN FRONT LINE”と題する論説を掲載し、ここでMuzerguesは米国が地中海で強力な力を持ち続けるためには、海洋の自由な利用を優先させる首尾一貫した戦略を構築する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 移民からエネルギー、食糧安全保障に至るまで、地中海はロシアと西側諸国との戦争において、最前線として浮上してきた。地中海はヨーロッパ、アフリカ、中東を結び、燃料、穀物、難民を岸から岸へと運んでいるため、ヨーロッパの安定の源となることもあれば、破壊の場となることもある。地中海の安全保障秩序に挑戦しようとするのは、ロシアだけではなく、中国やイランも、この地域で足場を固めようとしている。また、米国は19世紀初頭から地中海に進出している。
(2) 今日、地中海はロシアが仕組んだ複数の危機の最中にある。たとえば、エネルギー危機である。ヨーロッパは新たなエネルギー源を早急に見つけなければならないが、その多くは地中海沿岸地域か、そのすぐ近くにある。アルジェリアやリビアの炭化水素は明らかな解決策であり、カタールから地中海を経由して、輸入できる液化天然ガスもそうである。長期的には、エジプト、イスラエルおよびキプロス沖で最近発見されたガス開発を加速させ、ロシア産ガスの空白を埋めようとする動きがある。キプロス沖のガス開発は、過去にNATOの同盟国であるギリシャとトルコの緊張の原因となっており、石油・ガスの価格が高騰し、所有権や輸送の問題も解決されていない現在、この緊張関係はさらに悪化し、同盟内の分裂を助長することが予想される。
(3)食糧危機に関して言えば、ウクライナでの穀物の生産と輸出量の減少は、ヨーロッパからアフリカおよび中東へ食糧を届けることに問題を発生させた。黒海の穀物およびフランスやスペインなどからの輸出は、地中海を避けて通ることはできない。北地中海が、南岸や東岸の穀物需要を賄えなくなれば、食料不足とインフレを招き、政情不安や新たな移民危機を招く恐れがある。ロシアによるこの戦略は、同盟国の決意を弱める可能性が十分にある。地中海はかつて、中央ヨーロッパの繁栄と民主主義が根付き、拡大する場所と見なされていたが、現在、その沿岸は貧困と混乱に直面している。地中海の面積は、地球上の海表面の1%にも満たないにもかかわらず、世界の海上交通の20%を担い、その戦略的重要性を認識する国々が新しく関与し、非常に混雑した地域となりつつある。
(4) 中国の指導者は、地中海がヨーロッパ、中東、北アフリカを結ぶ重要な航路であることを理解している。中国政府は、国有企業であるCOSCOが2016年にギリシャのピレウス港を購入した際、すでに北岸に民間の港を見つけていた。さらに最近では、中国はアルジェリアと、アフリカで2番目に大きな深海港となるエルハムダニア港の建設と開発に関する覚書に調印した。中国政府は地中海北西部でも同様の買収を企図し、イタリアのジェノバやトリエステの港などを目標にしている。商業的な重要性は低いが、地中海の西と東の交差点に位置し、NATOの重要な海軍基地を抱える南イタリアのタラントなどでも、中国は資産を獲得しつつある。中国の地中海構想は主に民間のものであるが、中国は海上交通の要衝を支配する重要性を理解している。最終的には、軍事的な海軍基地とまではいかなくても、欧州地中海地域のどこかで軍民兼用の港を開発する方法を模索することになるかもしれない。中国は最近、ジブチに史上初の海外軍事基地を開設した。これは紅海の入り口に位置し、スエズ運河を経由して地中海への重要な入り口となる。
(5) 少し前まで、地中海は米国あるいは少なくとも西洋にとって「我らが海(Mare Nostrum)」と考えられていた。しかし、今日、地中海はその地位を失っているように見える。航行の自由を保証することで指導力を発揮する海洋国家としての米国は、地中海を失うわけにはいかないし、領土化され、公然と争われる海域になることも甘受できない。また、U.S. 6th Fleetの継続的な駐留は、軍事的優位の継続を保証するものであるが、米国はすべての地政学的問題を純粋な軍事的方法では処理できないことをイラク戦争とアフガニスタン戦争から学んだ。中国は、軍事力よりも経済力を利用して重要な港湾に足場を築き、影響力を高めている。トルコはNATO加盟国であるにもかかわらず、海洋における既存の秩序に挑戦している。トルコと資源豊富な北アフリカ沿岸を結ぶ「青い祖国(Blue Homeland)」を建設しようとするトルコ政府は、キプロス、ギリシャ、フランスと対立している。さらに、モロッコとスペインが移民問題だけでなく、セウタとメリリャというスペイン領でも対立しており、米国の他の同盟国との間でも緊張が高まってきている。
(6) これらの地中海沿岸の同盟国の主張の対立を理解し、必要であれば調停することは、米国外交にとって難しい課題である。緊張が高まるにつれ、米国はどちらの側につくかを求められ、実際にそうするかもしれない。この場合、特にギリシャとトルコの間ではNATOの役割が不可欠である。しかし、それ以外の選択肢もある。2020年にアブラハム合意(アラブ首長国連邦とイスラエル国間における平和条約と国交正常化)にモロッコが加わったことで、協力の新たな可能性が開けるし、エジプトやヨルダンといった国々との強い2国間関係も平和と安定を促進する上で頼りにできる。米国は、明確な原則を設定し、必要に応じて不正行為者に報復するための多様な選択肢を構築すべきである。情勢が急速に変化する地域において米国は、その変化に適応できること、そして同盟関係が破棄された場合でも、米国は単独で行動できることを示す必要がある。そのためには、海洋の自由を強調する明確で首尾一貫した戦略が必要である。
(7) 地中海の安全保障を確保するためには、米国はこの地域における軍事力の展開を継続し、さらには強化する必要がある。しかし、その外交努力は長期的な脅威を見据えたものでなければならない。もっとも大きな挑戦をしている中国に対して、米国外交は中国の投資、特に無条件で行われるように見える投資の真の対価を暴くことができるようになる必要がある。米国は、AUKUSやQUADなど、インド太平洋戦略の策定に多大な資源を費やしてきたが、インド太平洋の未来像を補完、さらには拡張できる地中海での同様の戦略を構築するには至っていない。
(8) 米国外交は、中国の経済的関与の結果を明確化するために、この地域の国家の主権を高めるべきである。この点で、2012年と2021年にイタリアが採択し、その後拡大した主要部門への外国直接投資の強制審査を義務付けたゴールデンパワー制度は、この地域のひな型となり得る。民主主義の擁護もまた、米国の地中海政策の重要な要素である。南岸では、「アラブの春」によって一時的に希望が見えたものの、数ヵ国で民主主義がかろうじて持ちこたえている状態である。北岸では、確立された民主主義が、15年にわたる経済・社会危機によって弱体化している。その結果、左派・右派にかかわらず、ポピュリズムの台頭を助長している。米国にとって民主主義は重要である。トルコは、権威主義が国家をより不安定にし、西側諸国の敵対勢力と積極的に協力するように仕向けることができるのかを示す良い例を提供している。
(9) 米国は民主主義が繁栄するために、この地域をより安全にする必要がある。第1の優先課題は、地中海沿岸の経済衰退に伴う民主主義の後退を食い止めることである。そのためには、民主主義が存在しながらも弱体化している国々に焦点を当て、地域の民主主義諸国間の建設的な対話を促進することが必要である。地中海を民主主義にとって安全な場所にすることは、この地域の民主主義に大きく及ばない地域の国々と協力することを排除するものではない。北アフリカおよび中近東の現実は、独裁者を敬遠することが、時としてマイナスとなることも証明されている。もし、地元や地域の指導者たちが、欧米とともにこの新しい地中海秩序を構築する方法を見つけなければ、他の協力国を探すことになるだろう。それでも、権威主義的な政権に不承不承関与することと、民主主義的な協力国を受け入れることとは、明確に区別することが可能である。地中海沿岸のフォーラムや枠組みには、その区別を可能にする十分な多様性がある。政府間レベルでは Union for the Mediterranean(地中海連合)やNATO Mediterranean dialogue(NATO地中海対話)があり、市民社会レベルでは毎年開催されるRome Med conferences(ローマ地中海会議)やMed-Atlantic Forum(地中海・大西洋フォーラム)がある。これらは米国の目標に沿って復活または推進することができる。
(10) 地中海は常に複雑な地域であり、一つの箱の中に入れることは困難である。米国の地中海戦略は、政治的、経済的な部分を欧州、中東、北アフリカに分割した上で行われ、軍事的な側面が強すぎるものであった。このような分割は維持できなくなっている。地中海がより激動的になるにつれ、米国は、航行の自由と安定を維持するために、軍事力、経済力、政治力を結集した地中海戦略を採用する必要がある。それは、米国がインド太平洋のために構築した戦略を補完するものでなければならない。その一貫した戦略によって、米国はその将来において決定的な役割を果たすことができるのである。
記事参照:THE NEXT MEDITERRANEAN FRONT LINE

10月25日「中国の台湾への計画は、米国に急かされるものではない―香港紙報道」(South China Morning Post, October 25, 2022)

 10月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、”Beijing’s Taiwan timetable will not be rushed by US: China analysts”と題する記事を掲載し、米国政府内には早ければ今年中に中国が台湾を攻撃するとの予測もあるが、中国の観測筋はこの主張を退けているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 10月16日から22日まで開催された第20回共産党大会において習近平国家主席は、北京は台湾の平和的統一を達成するために最大限の努力をするが、武力行使を排除するつもりはないと繰り返した。しかし、これは外部勢力による干渉と、台湾独立を求める少数の分離主義者の活動のみに向けたもので、台湾の同胞を標的にしているわけではないと習近平は述べている。
(2) 習近平の演説を受け、米海軍作戦部長Michael Gildayは、中国の台湾侵攻は早ければ年内にも起こりうるという新たな警告を発し、「過去20年間、彼らが約束したことはすべて、約束した時期よりも早く実現されてきた」と述べている。Gildayの発言は、Antony Blinken米国務長官が同様の予測をしたわずか2日後のことで、同長官は、中国はこれまで考えられていたよりもはるかに速い時間軸で台湾奪取の決断をしたと述べている。
(3) 清華大学国際安全保障戦略センター上席研究員の周波は、「北京は台湾に対する戦略について独自の判断を持っており、米軍関係者の見解によってそれが変わることはない。」と言う。
(4) 2021年、U.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidson大将(当時)は、「北京の軍隊は6年以内に台湾を統一しようとするかもしれない。」と述べていた。
(5) 台湾は、中国と米国の間で潜在的な火種となっている。米国は、台湾を独立国家として認めていないが、武力による台湾統一には反対している。中国政府は、台湾の本土復帰を核心的な国益とみなしている。この問題は、近年、中国政府と米政府によって、さらに複雑になっている。2022年5月にJoe Biden米大統領は、米国が台湾を防衛するために武力を行使することを示唆し、中国政府の怒りを買った。しかし、ホワイトハウスと国防総省はその後、Bidenの発言を撤回した。
(6) 元人民解放軍教官の宋忠平は、米国が台湾問題を重視するのは目新しいことではないとしながらも、その目的は、自国の軍事能力をさらに高め、より多くの防衛資金を獲得し、米国の競争相手として中国を抑制することにあると述べている。中国がすべきことは、冷静さを保ち、自国の戦略的焦点を維持し、自国のことをしっかり行い、「中国の脅威」という批判を気にしないこと、そして中米間の敵対関係は技術に焦点を当てているので、自国の科学技術力を強化するべきと述べている。
(7) U.S. Department of StateのNed Price報道官は10月24日、中国の党大会がワシントンの中国政府に対する姿勢を変えるものではないと述べ、「おそらく最も重要な2国間関係」としたが、台湾問題には触れなかった。そして、「第20回党大会の終了に注目しており、我々と利益が一致するところでは中国の協力を歓迎する。それは気候変動やグローバルヘルス、麻薬対策、不拡散に関する協力も含まれる」と述べている。
記事参照:Beijing’s Taiwan timetable will not be rushed by US: China analysts

10月25日「変容する北東アジアの安全保障環境―米専門家論説」(The Diplomat, October 25, 2022)

 10月25日付のデジタル誌The Diplomatは、University of San Franciscoでモンゴル、中国、東アジアを専門とする研究者Bolor Lkhaajavの“Northeast Asia’s Changing Security Environment”と題する論説を掲載し、Bolor Lkhaajavは北東アジアの安全保障環境は悪化してきており、転換点にあるのかもしれない。すなわち、地域の国々は公式の安全保障枠組みを結成し、意思疎通と対話を強化すべき時が来ているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在、北東アジアの安全保障環境が悪化している。それは、ロシアのウクライナ侵攻および北朝鮮による最近の挑発的行動に起因するものである。その環境悪化ゆえに、たとえばモンゴルのような国々が、事態の拡大に至らないようにできることまでもが制約されている。
(2) ロシアによるウクライナ侵攻は、直接は北東アジアには関係がないが、それはさまざまな領域で各方面に影響を及ぼしている。またロシアの行動が、北朝鮮による挑発強化の決意を固めさせる可能性がある。北朝鮮による最近の挑発行為の連続は、日本や韓国にほとんどなんの希望ももたらさない。韓国では核保有に対する賛成意見が増えるほどである。
(3)これら北朝鮮の挑発行為とその増大が示すのは、これまでのさまざまな外交・対話が何十年にもわたって失敗を続けたということである。これまでさまざまな少数国間ないし2国間の対話が行われてきた。そのなかでモンゴルは、北朝鮮とも韓国とも安定的関係を築いている北東アジア唯一の国で、地域の緊張緩和の試みにおいて一定の役割を担ってきた。しかし、その努力が結局のところ北朝鮮の姿勢を変えさせるには至っていない。
(4) また北東アジアの安全保障にとって、別の重要な地政学的要因がある。ロシア、中国、日本、北朝鮮、韓国などの国は地域だけでなく世界の平和と安全の維持において役割を担っている。中国とロシアは国連安保理の常任理事国で、かつ核保有国である。北朝鮮も核実験を続けており、それが本当の意味で核保有国になるかどうか、いつなるのかを、今後各国の指導者たちは検討せざるをえなくなるかもしれない。こうした複雑な環境ゆえに、北東アジアには、NATOや、最近で言えばAUKUSのような安全保障枠組みを持たないのである。
(5) これまで、北東アジアにおける地域の安全保障は、2国間による外交や、お互いの理解という不文律な構造によって維持が目指されてきた。しかし、専門家らが見るように、いま北東アジアの安全保障環境は転換点にあるのかもしれない。すなわち、地域の国々は公式の安全保障枠組みを構築し、意思疎通と対話を強化すべき時が来ていることである。
(6) しかし、そうした枠組み構築にとって障害がある。それは、そのために必要な相互の信頼関係が関係各国の間に存在しないことである。北朝鮮による挑発行為は拡大するばかりである。そうした事実は、われわれがこれまで行ってきた取り組みでは、物事が良い方向に変わることがなかったと認識せざるを得なくしてきている。また現在の安全保障環境の不安定さは、地域のさまざまな国々と安定的関係を保ってきたモンゴルのような国の立場を難しいものにするであろう。モンゴルが北朝鮮とも良好な関係を築けているのは、結局のところ彼らがモンゴルに対して脅威を突きつけていないからだ。
(7) 短中期的に、北東アジア各国の軍事費は増加し、それによって地域の緊張はさらに高まるであろう。またメディアにおける核兵器に関する挑発的言辞が増えることは、北東アジアの平和と安定の維持につながることはないだろう。
記事参照:Northeast Asia’s Changing Security Environment

10月26日「インド洋の安全においてオーストラリアが果たすべき役割―オーストラリア元上院議員・オーストラリア研究者論説」(The Interpreter, October 26, 2022)

 10月26日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、インド系女性として初めてオーストラリア上院議員を務めたLisa Singhと、Australia India Institute研究員Lewis Bakerの“Australia’s shared security in the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、そこで両名はインド洋の安全維持においてオーストラリアはインドに対する支援を重視すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド洋地域は歴史的な重要性を持つ地域ではあるが、近年それにふさわしい地域の安全保障機構は存在しない。中国の影響力拡大にかかわらず、オーストラリアと地域の安全保障のつながりはまだ発展途上である。しかし2020年防衛戦略アップデートに見られるように、オーストラリアはインド洋へ重点を置くようになっている。
(2) インド洋に対するオーストラリアの利益の増進は、既存のグループを補助するような努力において進められるべきだろう。それはこれまで、環インド洋地域協力連合(以下、IORAと言う)やインド洋海軍シンポジウム(以下、IONSと言う)などに関して採用された手法だ。また、インドが提唱する「Security and Growth for all in the Region(地域全体のための安全保障と成長:以下、SAGARと言う)」を後押しするのもよいだろう。それによってインド主導のインド洋地域に対し、オーストラリアが関与しているという合図を送ることになる。
(3) インドのModi首相はSAGARのもと、モルディブやセーシェルスリランカ、モーリシャスや東アフリカ沿岸諸国への海洋安全保障に関連する支援や、COVID-19世界的感染拡大の初期には医療物資やワクチン支援、東アフリカを襲ったサイクロンの後の人道支援・災害救援を行った。SAGARは、QUADと同様、地域に地球公共財やサービスを提供することを目的の1つとしているが、中国の影響力拡大に対する対抗措置としての意義も持つ。
(4) Richard Marlesオーストラリア国防相は、中国をオーストラリアにとって「最大の安全保障上の不安要素」だとした。それに対抗するために、オーストラリアはインドがインド洋で優越的地位を維持するのを支援するべきであろう。このための実践的方法としては、インド海軍の寄港を増やすなど、インド洋に焦点を当てた戦略対話の増進がある。また、AUKUSは排他的な性格を持たないので、それを通じたインドとの協力の推進も有り得る。
(5) インドとオーストラリアは、重要な沿岸国として、地域の機構を結びつける媒介役として機能しうる。気候変動、その他共有された懸念に対処するため、QUADはIORAやIONSなどの海洋ネットワークともっと密接に活動すべきであろう。オーストラリアの安全保障政策において、インド洋は大きな位置を占めていなければならない。南半球の国々が情報を共有し、より広範な安全保障問題に共同で取り組むことは、インドが全体的な安全保障提供者として確立し、平和で安定したインド太平洋の創出につながるだろう。
記事参照:Australia’s shared security in the Indian Ocean

10月26日「ロシア海軍、クリミア半島の軍港強化―フランスメディア報道」(Naval News, October 26, 2022)

 10月26日付の仏海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、潜水艦の専門家であるH I Suttonの“Russian Navy Moving Back Into Cold War Fortress In Crimea”と題する記事を掲載し、ロシアがクリミア半島の海軍基地を強化していることについて、要旨以下のように報じている。
(1) ウクライナでの戦争でロシア海軍は劣勢だと見られている。当初は優勢だったロシア海
軍も、一連の挫折を経て、現在、その行動はかなり限定的である。特に、4月の巡洋艦「モスクワ」の沈没と、その後のウクライナへのハープーンミサイルの引き渡しがそのことを示している。
(2) しかし、ロシアがクリミアの海軍基地を拡張し、強化しようとしている兆候がある。撮
影された画像は、ロシア海軍がバラクラヴァの海軍基地を再建していることを示している。クリミア南岸にある孤立した入江は理想的で、冷戦時代の歴史的な基地がある場所である。それに加え、セヴァストーポリにあるこの海軍の主要な基地に現在進行中の作業がある。
(3) バラクラヴァは、セヴァストーポリの南5マイル(約8km)にある小さな入り江であ
る。背後にある険しい丘は、嵐から艦隊を守り、ある程度まで偵察に対する自然の防壁となっている。そのため、冷戦時代には、狭い領域ではあるが主要な海軍基地となっていた。地元メディアでは、港のヨット施設を拡張する計画が報道されている。しかし、時期的にも状況的にも、明らかに海軍の新しい施設であることがわかる。新しい施設に何隻の艦艇を、そして、どの艦級の艦艇を収容できるかはまだ不明である。しかし、完成すればセヴァストーポリの衛星基地となることが予想される。すでにセヴァストーポリの使用頻度が下がっているキロ級潜水艦が優先されるだろう。
(4) セヴァストーポリの区域は、以前FSB(ロシア連邦保安庁、旧ソ連時代のKGBに相当:
訳者注)の巡視船の本拠地だった。FSBの巡視船は侵攻以来、クリミア北部とケルチ橋周辺を集中的に哨戒してきた。改修後もFSBがここに停泊するかどうかは不明である。セヴァストーポリの新しい埠頭は、以前から計画されていたのかもしれない。しかし、侵攻の2週間前の2月10日の時点では、FSBの巡視船は通常通りそこに停泊していた。侵攻後はほぼ更地となり、建設の準備が整った。
(5) 2014年にロシアに併合されたクリミアを、ウクライナが奪還する可能性もある。今は
まだこれらの施設の建設が進んでいるが、準備ができるまでは数カ月はかかるかもしれない。その間に様々なことが起こる可能性がある、そのため、意図した目的を果たすことができるかどうかは不明である。
記事参照:Russian Navy Moving Back Into Cold War Fortress In Crimea

10月26日「時計は本当に台湾戦争に向かって刻々と進んでいるか?―香港専門家論説」(Asia Times, October 26, 2022)

 10月26日付の香港のデジタル紙Asia Timesのウエブサイトは、Asia Times編集者Jeff Paoの“Is clock really ticking down toward a Taiwan war?”と題する論説を掲載し、ここでPaoは中国にとって台湾問題を解決することは歴史的な使命であり、その問題解決のためには、習近平が第20回党大会での演説で言及したように、必要に応じて武力を用いてでも達成されるであろう、そのために中央軍事委員会主席でもある習近平は旧知の張又侠を副主席に留任させたとして要旨以下のように述べている。
(1) 習近平は台湾に関する議会報告の文言を簡単にしたが、専門家達は新たに任命された中央軍事委員会のメンバーの人選に習近平の真意を探る手がかりを求めている。中国共産党は、2022年10月23日新しく中国共産党中央軍事委員会が結成された後、台湾との「国家統一」を達成するために、中国人民解放軍の戦闘能力を高めるよう求めた。中央軍事委員会の張又侠副主席は10月25日の会議で、人民解放軍は改革と革新を深め、訓練の方法を変え、新しい才能を採用し、第20回党大会の精神から学び続けると述べている。10月25日に発表された党大会の全報告は、習近平総書記が台湾との「平和的統一」に関する2段落の内容を1つの文章に簡略化したが、2022年10月16日の広く報道された演説では、力による統一を強調し、集まった幹部から大きな拍手を浴びた。
(2) 台湾のメディアやその他の評論家は、この党大会後に短期的な人民解放軍による台湾侵略の危険性が高まったと述べ、台湾海峡戦争は2025年から2027年の間に起きるかもしれないが、2024年までは勃発しないであろうと多くの人が述べている。2022年10月24日、香港のハンセン指数は、前日に結成された中国の新しいリーダーシップに対する市場の反応と差し迫った台湾紛争への懸念から、1,000ポイント以上下落して15,180で取引を終えた。指数は10月26日に1%回復したが、それでも前週の金曜日(10月21日)から5.5%下落した。
(3) 2022年10月23日、1週間にわたる第20回中国共産党中央委員会全国代表大会が閉幕し、新たに205人の中央委員会が結成された。10月24日の最初の会議では、24人の政治局、7人の政治局常任委員会、7人の中央軍事委員会が選出された。習近平と張又侠は、それぞれ中央軍事委員会主席と副主席に留任した。張副主席(72歳)は、1979年の中越戦争と1984年の中越国境紛争で戦った経歴を持つ。もう一人の中央軍事委員会副主席には、何衛東(65歳)が選ばれた。彼は陸軍指揮学院を卒業し、2019年から2022年初めまで東部戦区の司令員であった。66歳の福建人である苗華は、中央軍事委員の任期を更新した。
(4) 習近平が2022年10月16日の党大会開会式で、中国は台湾を武力で統一するという選択肢を放棄しないと述べた後、Blinken米国務長官は翌日、人民解放軍は以前考えられていたよりも「はるかに速い行動計画」で台湾を占領しようとする可能性があると述べており、米海軍作戦部長Mike Gilday大将は2022年 10月19日、Atlantic Council(大西洋評議会)で、中国は早ければ2022年後半または2023年に台湾への侵攻を行う可能性があると語っている。 Taiwan’s National Security Bureauの陳明通局長は、ほとんどの人が人民解放軍は少なくとも2025年までは台湾を攻撃しないと信じていたが、中国が2023年に侵略を開始する可能性はあると述べている。
(5) 台湾の淡江大学中国本土研究所の趙春山名誉教授はメディアに対し、2024年初頭の台湾総統選挙の前に中国が台湾を攻撃する可能性は低いが、2027年の第21回党大会の時期に近づくとリスクは徐々に高まるだろうと語っている。台湾国立大学政治学部の明居正教授は、人民解放軍が台湾を攻撃するかどうかは台湾と中国の軍事的均衡よりも国際情勢によると述べている。明教授は、習主席が台湾との戦争を開始するのは、国際情勢を誤って判断した場合のみであり、中国にとって不利であると述べた。明教授は、何偉東と苗華の中央軍事委員会への任命は、この二人が習の意見をチェックするのではなく反芻する傾向があるため、そのような誤った判断の可能性を高めるだろうと述べた。
(6) 中央軍事委員会は2022年10月25日に名目上最初の作業会議を開催し、習近平と第20回党大会の精神を検討した。会議は何偉東が議長を務め、張副主席が出席した。張副主席は、中央軍事委員会は中国の特色ある社会主義に関する習近平の考えを新時代に実施する方法を学び、軍を強化する計画を推進すると述べた。張は、中央軍事委員会が軍の発展の質を高めるだろうと述べており、何偉東は中央軍事委員会がその政治組織と設立を強化するだろうと同意して口をはさんだ。
(7) 第20回党大会の報告によると、中国は大陸との統一の概念を支持する台湾人と連絡を取りつつ、統一を平和的に達成するためにあらゆる手段を講じるであろうとしている。報告は、中国にとって台湾問題を解決することは歴史的な使命であり、その問題の解決は、習主席が2022年10月16日の歴史的な演説で言及したように、必要に応じて武力を用いて達成されるであろうと述べている。
記事参照:Is clock really ticking down toward a Taiwan war?

10月27日「米国の北極戦力を上回る中ロ―米上院議員論説」(Defense News, October 27, 2022)

 10月27日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、米上院議員Roger Wickerの“To deter Arctic aggression, build the polar fleet we need”と題する論説を掲載し、Roger Wicker議員は中ロに対して劣勢な北極圏における米国の戦力の現状について、要旨以下のように述べている。
(1) 9月、中国とロシアの共同水上艦部隊がアラスカのキスカ島から75海里以内に接近した。
これを受けて、U.S. Coast Guardはパトロール隊を動員し、米国本国の海域に接近する船を監視した。その1年前にも、中国の軍艦数隻がアラスカ沖の排他的経済水域(EEZ)に侵入したことがあった。
(2) 中国とロシアという2大敵対国が公海上で協力し、この地域における我々の存在に挑戦
しているのである。過去と異なり現在は、極地における対立者の戦力投射が、我々のものを上回っている。
(3) 中国とロシアが彼らの目標を達成すれば、北極圏はそれぞれとの対立において中心的な
舞台となる。アラスカは、中国とロシアのミサイル部隊を監視するために極めて重要な場所である。北極圏の自然特性は、宇宙船の打ち上げ、偵察、エネルギー資源の獲得に適している。北極圏で優位を失えば、軍事的にも経済的にもこの地域から排除される可能性があり、米国とロシアおよび中国との関係の軌跡を考慮するとこれは不吉な予感がする。
(4) 米国は北極圏の戦力にほとんど投資してこなかったため、すでに足元をすくわれた格好
になっている。たとえば、敵対国の共同の砕氷船団を合わせると、25対1以上の差をつけられている。
(5) ここ数カ月、Biden政権はU.S. Department of DefenseとU.S. Department of Stateに北極圏
の安全保障を担当する新しいポストを設置した。つい最近、ホワイトハウスは北極圏のための包括的な政治・軍事戦略を発表し、その中でこの地域におけるより大きな軍事的展開プレゼンスを求めている。
(6) しかし、我々にとっての主要な問題は、米国の防衛産業基盤がこれらの能力を発揮する
ために、基本的にゼロから出発しなければならないことである。数十年にわたる連邦政府による砕氷船への低投資により、米国の造船所は、たとえ最高の防衛戦略があっても、役に立つ準備ができないままとなっている。現在、米国で極地用砕氷船を建造している造船所は1つだけであり、2030年までにこの重要な船を3隻増やすだけとなっている。議会は2022年の国防法案で12隻目の国家安全保障用巡視船の予算を承認するよう努めたが、もっと多くのことを行う必要がある。我々は、砕氷船計画を拡大し、U.S. Northern Commandへの予算を大幅に増やす必要がある。
(7) ロシアと中国が最近狙っているキスカ島は、第2次世界大戦中、外国に占領された数少
ない米国領土の一つとして知られるようになった。1943年、Chester W. Nimitz提督とその巡洋艦が日本軍を追い出し、日本軍の支配は終わりを告げた。それ以来、米軍は1954年に原子力潜水艦を初めて配備したことを含め、北極圏での活動を誇り高き伝統として続けている。今、キスカと米国は、再び太平洋の大国からの脅威にさらされているようである。
記事参照:To deter Arctic aggression, build the polar fleet we need

10月31日「日豪関係は正式な同盟関係より、準同盟に価値がある―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, October 31, 2022)

 10月31日付のオーストラリアシンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Instituteジャーナリスト研究員 Graeme Dobellの“The ANZUS rhymes of Australia’s quasi-alliance with Japan”と題する論説を掲載し、Graeme Dobellは10月22日に署名された安全保障に関する日豪共同宣言の第6項に着目し、日本は安全保障に関しこれまでの対米依存一辺倒から一歩踏み出したと指摘する一方、日本国憲法の「戦争禁止」条項は地雷原のように残っており、「正式な軍事同盟または条約を発表した結果」を負うことなく、日本の安全保障上の新たな地平を開いた今回の共同宣言の「準同盟」としての価値を強調し、要旨以下のように述べている。
(1) 日豪関係は、準同盟というより同盟関係の性格が強まってきている。10月22日、岸田
文雄首相とオーストラリアのAnthony Albanese首相が安全保障協力に関する日豪共同宣言(以下、JDSCと言う)に署名した。Anthony Albanese首相は、「画期的な宣言は、我々の戦略的連携について地域に強い警告を送るものである」と述べ、岸田総理は日豪の提携は「ますます厳しくなる戦略的環境」に対応して、「新しく、より高みに上昇した」と述べている。今日、準同盟はキャンベラの戦略的合意の一部である。
(2) JDSCの起草に当たって、オーストラリアはANZUS条約で用いられた表現を盛り込む
ことを求めた。その理由は、2つの文書の重要な文を比較すると明らかである。JDSCの第6項は、「我々は、日豪の主権および地域の 安全保障上の利益に影響を及ぼし得る緊急事態に関して、相互に協議し、対応措置を検討する。」と規定している。これに対し、ANZUS第3条は「締約国は、太平洋においていずれかの締約国の領土保全、政治的独立または安全が脅かされていると判断するときはいつでも、一緒に協議する」と謳われている。
(3) これは米国以外のどの国ともそのような安全保障協定を結んでいない日本にとって「未
知の分野」である。「共同宣言起草過程に近い日本の情報筋は、ANZUSスタイルの条項を最初に提案したのはMorrisonン前政権であり、中国に立ち向かうという戦略的意図に向けたより大きな提携を示すものだろう」とAustralian Financial Reviewは報じている。
(4) ANZUS条約では、「協議」条項の後に、いずれかの当事者が攻撃された場合、それぞれ
が「憲法上の手続きに従って、共通の危険に対処するために行動する」と宣言する条項が続いている。日本国憲法の「戦争禁止」条項は政治的な地雷原であるため、新しい宣言はその文言に近づいてはいない。準同盟は、日本が「自衛」の意味を広げ、再解釈するにつれて進化しなければならない。
(5) 新しいJDSCの軍事的基盤は、1月6日に岸田首相とScott Morrison首相が署名した、日
豪円滑化協定であり、同協定は日本の自衛隊とオーストラリア国防軍の相互アクセスと協力を網羅したものである。2014年に始まった円滑化協定に向けての協議で、日本は対米一辺倒からの脱却を図り、ASPI上席研究員Thomas Wilkinsが円滑化協定は「日豪双方にとって2番目に重要な安全保障関係」と呼ぶジグソーパズルのピースである。日本の軍事面での姿勢の変化は、戦争と平和の問題に関する協議ついて備えたJDSCにより力を伴う版を生み出しました。
(6) JDSCの第7項は、日米豪3国間および日豪それぞれの米国との同盟関係において共有
される危険への取り組みを根拠としている。また、日豪両国の2国間の提携は、両国の安全保障とインド太平洋の平和と安定にとって重要な柱となる米国との同盟関係を強化するものである。米国との3国間協力を深化させることは、我々の戦略的連携、政策調整、相互運用性および共同能力を強化するために極めて重要である。
(7) JDSCは、2007年3月に東京で安倍晋三とJohn Howardが署名した共同宣言を更新し、
「戦略的パートナーシップ」を確認したものである。当時、労働党のKevin Rudd党首は、2007年版共同宣言を超えて日本との完全な防衛協定に向けて動くべきではなく、「そうすることは、北東アジアにおける未知の安全保障政策の未来の変遷に私たちの安全保障上の利益を不必要に結びつける可能性がある」と警告していた。これは、労働党が中国に大きな期待を寄せており、日本やインドへの戦略的賭けに疑問を抱いていたからである。
(8) 日本との準同盟は、2017年にQUAUが生まれ変わったのと同じ理由で成長してきた。
QUAD2.0が到着したとRuddは後に所見を述べている、なぜなら中国の習近平国家主席は中国の力を投影しようとした方法で情勢を「根本的に変えた」からで、戦略的状況は「大きく変わった」とRuddは言う。岸田首相の「厳しい戦略的環境」への言及は、5月に労働党が政権を獲得して以来、彼とAlbaneseが4回会った理由について多くを語っている。
(9) 過去10年間、私は同盟としての日本との戦略的パートナーシップの考え方を中心に、
「準同盟」、「小さな同盟国」、「軽微な同盟(alliance lite)」というさまざまな修飾語を付けてきた。「準同盟」の使用法は、2007年の共同宣言以来、日本においてある程度普及した。「準同盟」と「半同盟」は公式の政策よりも特徴的であり、「正式な軍事同盟または条約を発表した結果」を負うのではなく、「戦略的パートナーシップ」というフレーズが効果的な代理として機能するとThomas Wilkinは指摘している。
(10) 次の同盟へ向けて一歩を踏み出すにあたり、日本とオーストラリアは興味深い時間軸を
設定した、すなわち、次の10年。JDSCは「これからの10年にわたって、日本およびオーストラリアは共有された目標に 向けてより緊密に共に取り組む」と述べている。時間軸は危険な10年を説明しているが、JDSCのさらなる進化の時期でもある。
準同盟は、日本とオーストラリアが必要とする戦略的質と量を増やすことができる。
記事参照:The ANZUS rhymes of Australia’s quasi-alliance with Japan

10月31日「米台湾政策、戦略的曖昧さの危険な幻想―台湾専門家論説」(Taipei Times, October 31, 2022)

 10月31日付の台湾英字紙Taipei Times電子版は、米シンクタンクHudson Institute中国センター長余茂春の “America’s strategic clarity in defense of Taiwan: The dangerous illusion of strategic ambiguity”と題する論説を掲載し、米国の台湾政策における戦略的曖昧さを危険な幻想として、戦略的明快さへの転換を求め、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の対台湾政策に関する論議の主たる焦点は戦略的曖昧さの是非である。この概念を
押し進めることは、非現実的で、挑発的かつ危険である。戦略的曖昧さは米国の公式の立場ではなく、過去70年間、台湾海峡を平和で安定させてきたのは、戦略的曖昧さではなく、正反対の概念、即ち、台湾防衛のために武力行使が必要になった場合の米国の立場は一貫して明確で、戦略的明快さとも言えるものである。戦略的曖昧さの概念は、中国が台湾に侵攻した場合、台湾を守るために武力行使をするかどうかについて言及しないという米国の想定される立場を指す。この政策の目的とされるのは、台湾による一方的な独立宣言などの台湾侵攻の口実なる事態とともに、台湾侵攻そのものを思い止まらせることにある。
(2) しかし、戦略的曖昧さは、しばしば米国の対中政策における痛みを伴わない便利な言い訳になってきている。戦略的曖昧さの概念は、知的には一貫性がなく、戦略的意図と戦術的作戦を混同している。米国は、戦略的意図に関しては、常に戦略的に明快な政策とその実践を維持してきた。暗黙的または明示的に、Truman以来、歴代米大統領は、中国が台湾に侵攻すれば介入するという米国の意図を支持してきた。全ての軍事計画と同様に、唯一の曖昧さは、戦術と運用上の問題、即ち、どのように介入するかの問題である。
(3) 中国政府は人民解放軍(以下、PLAと言う)が台湾に侵攻した場合における軍事介入の意図についての米国の曖昧さを決して信じておらず、したがって、戦略的曖昧さは現実的な意味を持たない。中国政府部内で、米国の戦略的曖昧さを信じる影響力のある人物を見つけることは難しい。毛沢東から習近平までの歴代の中国共産党(以下、CCPと言う)指導者は、PLAが台湾に侵攻した場合に米国が武力介入すると固く信じている。CCPは、米国の戦略的明快さに対する自らの信念に基づいて、台湾侵攻シナリオにおける圧倒的な脅威として米軍を標的として大規模な軍事力増強を進めてきた。PLAの勝利の理論は、台湾占領の前提条件として米軍を打ち負かすことを想定している。この点で、CCPは明快である。
(4) 戦略的曖昧さは成文化された米国の戦略的ドクトリンではなく、むしろ、米国の戦略的明快さは、中国が引き起こした台湾に対する全ての危機と挑発を通じて見られてきた。その顕著な事例は、1995年と1996年の第3次台湾海峡危機の際に、当時のClinton大統領が、PLAが台湾の有権者を威嚇する狙いで発射したミサイルに対抗して、台湾海峡近くの海域に2個空母戦闘群を派遣したことである。歴代の米大統領は、声明やその他の行動を通じて戦略的明快さを繰り返し示してきた。2001年には、当時のBush大統領は、「台湾を守るために必要なことは何でもする」と明快に発言している。その後、Trump政権時代に、米国は、米中関係の枠組みから完全に外れた非常に強固な米台関係を発展させてきた。この緊密な関係には、台湾への重要な武器の武器売却の大幅な増加、そして民主的な台湾への多くの高官レベルの公式訪問が含まれていた。
(5) 今日、我々は米国の戦略的明快さが強化された時代に生きている。これは、過去6年間、共和党と民主党の政権を通じて発展してきた。たとえば、台湾海峡を航行する「航行の自由作戦」を実施することで、米艦は中国のいわゆる「越えてはならない一線」に繰り返し逆らってきた。「航行の自由作戦」の頻度は以前の10倍以上に劇的に増加し、それによって台湾防衛にとって死活的に重要な水路が国際化されている。また、米国議会は、台湾を守ることの重要性について歴史的な超党派の合意を実現した。このことは全会一致あるいはほぼ全会一致の支持を得て可決された幾つかの画期的な法律を成立させ、台湾防衛における米国の戦略的明快さが改めて成文化されることになった。
(6) 米軍高官達は、戦略的明快さに対する米国の立場を繰り返し確認してきた。たとえば、U.S. Pacific Fleet司令官Samuel Paparo海軍大将は2022年10月19日、米国は「台湾への侵略と武力で問題を解決しようとするあらゆる努力を阻止する準備ができており、この点で曖昧さはない」と言明した。ホワイトハウスも同様に明快で、Biden大統領は2021年10月以降、中国が台湾に侵攻した場合、米国が軍事的に介入すると、4度も明言した。それでも、ワシントンには、戦略的曖昧さへの信念を放棄することを拒否する人々もいる。また、ホワイトハウスは米国の「1つの中国政策」に変化がないことを繰り返しているが、このことは台湾防衛に関する米大統領の戦略的明快さと矛盾するものではない。それどころか、台湾海峡のいずれの側に対しても台湾問題解決のための武力行使に反対するという米国の長年の立場は、1つの中国政策における不可欠の要素である。したがって、米国が1つの中国政策を繰り返すことは、戦略的明快さに対する米国の立場を強化する。この立場について、曖昧なことは何もない。
(7) 台湾に対する戦略的明快さは、全体として中国の挑戦に対する戦略的明快さを示すのに役立つはずである。CCPは修正主義体制であり、インド太平洋で侵略の連鎖を仕掛ける態勢を整えており、台湾はその連鎖の最初のリンクである。我々は、ナチスドイツによるズデーテン地方に対する、そして大日本帝国による満洲国に対する侵略の歴史を見てきた。台湾は、中国のズデーテン地方である。CCPはこの点に関して曖昧ではない。我々もまた、曖昧であってはならない。1938年にミュンヘンで見られたような、危険で悲劇的な戦略的曖昧さは避けなければならない。
記事参照:America’s strategic clarity in defense of Taiwan: The dangerous illusion of strategic ambiguity

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)China May Never Become A Superpower
https://www.19fortyfive.com/2022/10/china-may-never-become-a-superpower/
19FortyFive, October 21, 2022
By Doug Bandow, a Senior Fellow at the Cato Institute
 2022年10月21日、米シンクタンクCato InstituteのDoug Bandow上席研究員は、米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトに" China May Never Become A Superpower "と題する論説を寄稿した。その中でBandowは、冒頭、今月開催された中国共産党大会において自身の成果を誇示し、確固たる地位を維持することに成功し、毛沢東に次ぐ中国最強の指導者となった習近平は、中国が必ず国際競争に勝利すると信じているに違いないが、習近平の勝利への期待は時期尚早であると指摘し、中国は経済的にも脆弱であり、まだ大国ではないと主張している。その上でBandowは、今後中国では、経済の停滞、不動産価値の暴落、COVIDに関連する継続的な制限は、おそらくさらに広範な国民の怒りを煽り、予測不可能な結果をもたらすだろうと述べ、中国が有利になる機会は限定的であり、いずれにせよ米国は、今後数年間、中国との競争において、恐怖ではなく、確信を持って進むべきであると主張している。

(2)How Cold War II Could Turn Into World War III
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2022-10-23/cold-war-2-with-china-and-russia-is-becoming-ww3-niall-ferguson?sref=ojq9DljU
Bloomberg, October 23, 2022
By Niall Ferguson, a Senior Fellow at the Hoover Institution at Stanford University
 2022年10月23日、米Hoover Institution at Stanford UniversityのNiall Ferguson上席研究員は、米経済・金融関連メディアBloombergのウエブサイトに" How Cold War II Could Turn Into World War III "と題する論説を寄稿した。その中でFergusonは、帝国の時代は終わったという幻想を抱いている人がいるが、すべての歴史は帝国の歴史であり、実際、英国の北米植民地化を起源とする米国と、漢民族が支配する中国という2つの帝国が、現在も国際社会を支配していると指摘し、帝国間の戦争という観点の重要性を説明している。そしてFergusonは、未だ世界は帝国が支配しており、私たちが第2次冷戦から事態が拡大し、安易に第3次世界大戦に突入してしまうなら、ホワイトハウスは将来、イタリアのPalazzo Ducale(ドゥカーレ宮殿:7世紀末から18世紀末までヴェネツィア共和国元首ドージェの邸宅兼政庁として使用された宮殿。1797年、ヴェネツィア滅亡後、ドゥカーレ宮殿は1923年からヴェネツィア市民美術館財団が管理する美術館の1つ。訳者注)のような存在になると警鐘を鳴らしている。

(3)Force Structure in the National Defense Strategy: Highly Capable but Smaller and Less Global
https://www.csis.org/analysis/force-structure-national-defense-strategy-highly-capable-smaller-and-less-global
CSIS, October 31, 2022
By Mark F. Cancian, a retired Marine colonel and senior adviser with the International Security Program at the Center for Strategic and International Studies in Washington, D.C.
 10月31日、米海兵隊退役大佐Mark F. Cancianは、米シンクタンクCenter for Strategic and  International Studiesのウエブサイトに、“Force Structure in the National Defense Strategy: Highly Capable but Smaller and Less Global”と題する論説を寄稿し、10月に発表された米国の『国家防衛戦略』(以下、NDSと言う)について論じた。その中で、①2022年のNDSには、戦力や戦力計画に関する詳細はほとんど含まれていないが、将来の大きな変化を示唆している。②軍はもっとも脅威度の高い中国とロシアに集中し、その代わりに採られる方針には、部隊の小型化、一部の地域や脅威からの撤退、前方展開の縮小、NATOにおける米軍の再編、即応性に対する新たな取り組みが含まれている。③将来の軍隊の属性として、物理的破壊力、持続性、抗堪性、残存性、そして俊敏性および対応性を挙げている。④陸軍の目標は現役兵力48万5000人だが、実員の規模は46万人、またはそれ以下に落ち込んでいる。⑤海軍については、Biden政権は321~372隻を目標としているが、2023年度予算では24隻を退役させ、280隻まで減らし、5年間の計画期間中もその状態を維持する。⑥海兵隊は、現役兵力を17万4,500人にまで縮小し、中国に焦点を当てる。⑦空軍は今後5年間で全体の18%に当たる1,001機の航空機を純粋に削減させる。⑧宇宙軍は現在も組織中であるため、より大きくなる。⑨提携国との安全保障協力と能力構築を活用し、中東から多くの軍隊が撤退し、より少ない戦力が北朝鮮やテロを担当するかもしれない。⑩U.S. Department of Defenseには、展開に優先順位をつけて、戦力規模の縮小を可能にしようという動きが常に存在するが、世界的な指導力の発揮や他国との関わりは、このような削減を困難なものにする。⑪NATOにおける米軍再編の可能性を論じており、戦闘旅団を減らし、機動性、兵站、情報、火力支援などの支援能力に焦点を当てる。⑫U.S. Department of Defenseが即応性についての考え方を変えることを検討しているが、政権と軍部はしばしば、戦略との整合性を保ちつつ、経費を削減したいと考える。⑬多くのことは不明であり、戦力をどのような規模にするのかは明らかではないといった主張を述べている。