海洋安全保障情報旬報 2022年11月1日-11月10日

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11月1日「ウクライナ戦争をひな型に台湾侵攻を考察する―韓国専門家論説」(19FortyFive, November 1, 2022)

 11月1日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、韓国Pusan National University国際関係論教授Robert E. Kellyの“Can China Invade And Conquer Taiwan? Study Ukraine”と題する論説を掲載し、そこでKellyは、ウクライナ戦争をモデルに中国による台湾侵攻のシナリオを考察すると、中国による攻撃がうまくいく可能性はあまり高くないとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアによるウクライナ侵攻と、最近の中国による台湾への圧力強化を背景に、中国による台湾侵攻の懸念が高まっている。中国はちょうど共産党大会を終え、習近平が国家主席として第3期目に突入した。もはや彼は終身国家主席のごとくである。しかし毛沢東より後の中国は歴史的に個人の独裁をあまり好まず、近年中国の経済成長は鈍化している。それを背景として噴出する可能性のある習体制への不満を抑え込むために、台湾侵攻が必要なのかもしれない。しかし、台湾が統一に同意することはないだろう。
(2) 中国と台湾の力の均衡が中国側に大きく傾いていることが、懸念の核心である。そしてウクライナ戦争は、中台関係の分析のためのひな型として利用されている。すなわち、ウクライナも台湾も小国であり、最近民主化を経つつ、巨大で独裁的な隣国に脅かされている。他方でウクライナは、台湾の抵抗のひな型でもある。もし中国が台湾に侵攻すれば、ウクライナがそうであるように、台湾は国を挙げて対抗するだろう。ウクライナ戦争前、ロシアの軍事力は恐るべきものだと思われていたが、それほどではないことが明らかになった。中国もそうかもしれない。中国軍は1979年のベトナムとの紛争以降大規模な軍事行動を起こしていないのである。
(3) 地理的に比較をしてみよう。ウクライナはロシアと1,000マイル(約1,600km)にわたって国境を接しており、地理的に脆弱である。しかし台湾は、防衛に関しては地理的に有利である。台湾と本土は110海里離れており、それはイギリス海峡の5倍である。したがって、中国が台湾上陸作戦を行おうとすると、1944年のノルマンディー上陸作戦よりもはるかに越える膨大な労力が必要になる。そのための準備にもかなり時間がかかり、逆に台湾側には準備の時間があるということになる。制空権を獲ることも簡単ではなく、上陸が成功したとしても、その地形ゆえに簡単に進軍することはできないだろう。
(4) 以上のように、台湾の占領は習近平やメディアが言うほど簡単なものではない。中国は軍隊を増強しているが、上陸作戦に必要な軍備強化をしている兆候はない。結局のところ、起こりそうなのは台湾の占領ではなく、ロケット砲による攻撃であろう。
記事参照:Can China Invade And Conquer Taiwan? Study Ukraine

11月2日「オーストラリアには戦略的商船隊以上のものが必要―オーストラリア専門家論説」(The Strategist , November 1, 2022)

 11月2日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Instituteの Northern Australia Strategic Policy Centre上席研究員Gill Savageの“Australia needs more than a strategic merchant shipping fleet”と題する論説を掲載し、Gill Savageはオーストラリア商船隊が国の抗堪性に貢献するだろうが、オーストラリア政府が沿岸貿易法の一部改正を行ったにもかかわらず、オーストラリア商船隊の成長は依然阻害されており、戦略的商船隊の編成、海運チャーター市場の活用などが提唱されているが、オーストラリアは国内の戦略的商船隊以上のものを必要としており、沿岸貿易船と国際貿易船の混合を奨励する枠組みが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 危機や紛争の時に国土の抗堪性について考えることがよくある。しかし、抗堪性の基盤は、危機が展開し始める前に我々が下すすべての決定によって構築される。抗堪性とは、予想される混乱に耐えるだけでなく、未知の混乱に対してより良い立場を採る国の能力である。
(2) 内航あるいは外航航路で日々運航され、危機や紛争の際に利用できるオーストラリアの商船隊は、国の抗堪性に貢献をするだろう。しかし、政策と法律は、オーストラリアの船が経験する不利な点に対処することができず、オーストラリア商船隊の成長を阻害してきた。経済、気候、安全保障の混乱の時代には、オーストラリア国内で商品移動の方法を多様化することはこれまで以上に重要である。国家が主導する沿岸貿易(sovereign coastal trading)の強化は大規模な洪水の影響を定期的に受ける道路および鉄道への依存を減らすだろう。
(3) オーストラリア政府は、2017年に2012年沿岸貿易(オーストラリア海運の活性化)法の一連の改正を制定した。これらの改正は、「沿岸貿易を利用する企業への誘因を生み出す」ことにより、「国内の海事部門で運航するオーストラリア船舶の数の減少を食い止めることを目的」としている。しかし、5年後、これらの修正はオーストラリア商船隊の減少を食い止めることができなかった。
(4) 勝利した5月の連邦選挙に向けて、労働党は「オーストラリアの海上貿易の1%未満がオーストラリアの船によって運ばれており、私たちの国は私たちの重要な輸入品を外国の政府や企業に頼らざるを得ない」ことを認め、「できるだけ早く『戦略的』商船隊の設立するための作業部会を任命する」と約束した。戦略的商船隊には、タンカー、貨物、コンテナ、RoRo船を含む最大12隻の船舶が含まれる可能性がある。労働党は、これらの船舶は「自然災害であろうと紛争であろうと、国家危機の際に国防軍が使用できるようにする」と述べている。
(5) しかし、9月に発表されたオーストラリアProductivity Commission(生産性委員会)のコンテナ港に関する報告書草案は、別の見方を示している。報告書は、戦略的商船隊の提案は「国内輸送力と訓練に関する懸念に対する最善の対策ではないため、さらなる評価が必要である」と指摘し、「個人所有のオーストラリア籍船の戦略的商船隊は、最近オーストラリアの国際貨物業務に影響を与えたような問題を軽減する能力が限られている」とも述べ、
代替案として、戦略的商船隊の支援に伴う対価をかけずに、その時々の所要に対応するために使用できるさまざまな船舶の利用を提供するチャーター市場を含む国際的な供給源をオーストラリア政府は自然災害や緊急時に利用できると提唱している。
(6) オーストラリアには海運用船チャーター市場を利用する上で必要な専門知識がなく、危機や紛争の際に、オーストラリアが自国を支援できる国際船を見つける可能性は低い。これは、チャーター船市場で提供される船舶を所有、あるいは登録している国は独自の利害を持つ可能性があり、オーストラリアを支援することがその国の利益にならない可能性があるからである。
(7) 潜在的な解決策を評価する際に国家として考慮すべき重要ないくつかの問題がある。国家主導の沿岸貿易部門を育成することは、緊急事態に利用できるという利益を超えた利得をもたらす可能性がある。持続可能なオーストラリアの商船隊を確立する上で立ちはだかる障壁に対処する必要性については合意があるようであるが、それがどのように行われるべきかについては、業界と組合の見解が分かれている。
(8) 今1つの問題は、国家の災害や紛争への対応準備と動員を支援するために国防省が徴用する「戦略的商船隊」を重視することに関連している。動員が行われたときも、市民社会も何らかの形で、ある程度機能し続け、国家の動員要件に貢献しなければならないことが認識されていない。これは、災害や紛争の形態に関係なく当てはまることである。市民社会が防衛目的で動員される可能性があるという仮定は、民主主義社会ではうまく機能しないことを認識することも重要である。オーストラリアの経済とその物理的および社会的基幹施設を維持するために、国防だけでなくオーストラリアが動員を発動した時にでもオーストラリアが必要とする最低限の支援について、より良く理解しておく必要がある。今日、紛争や極端な自然災害が発生した場合、市民社会は即時かつ深刻な混乱に見舞われ、外国の海運への依存によって悪化するだろう。紛争の場合、オーストラリアの海上輸送を担う船舶の多くは、その紛争を回避したいという直接的または間接的な誘因を持つ国からのものである。混乱への対応には、オーストラリアの利益に対する差し迫った危機の影響を緩和するために、政府がオーストラリア籍船を徴用することが含まれる。徴用時に、これらの船が従事していた他の活動は、二次的なものであるか、我々の所要とは無関係なものである。
(9) また、国家安全保障と防衛の目的で、外国人が乗り組む外国籍船とオーストラリア籍船の両方の船舶を動員することには、本来、主権の問題が存在する。これまでの事例は、1967年、船員組合はベトナム戦争へのオーストラリアの関与に反対して、船員の乗り組みをボイコットしたようにオーストラリア人が乗り組む船の問題であった。しかし、それは外国人乗組員の場合に問題は今日どのように展開するかについての疑問を提起している。
(10) 2019年にオーストラリアで発生した大規模山林火災で、12月31日、ビクトリア州の町マラクータは炎に包囲された。この時、Esso社はノルウェーの船とヘリコプターをこの地域に派遣した。当該船はオーストラリア人が乗り組み、運航されており、1月1日に到着している。当該船は他の国を維持するための行動から急遽任務を転換してマラクータ救援に向かったことを理解することが重要である。我々が決して知ることのできない事項は、Esso社の当該船が他の部門に重大な経済的影響を与える前に、マラクータ救援に充当し続けることができた期間である。Esso社が他の方法で対応すべきだったという指摘はない。同時かつ連鎖的な危機に見舞われる時代に、戦略的商船隊が持続可能な選択肢であるためには、オーストラリアの国際貿易船を支援する措置を伴う必要がある。そのためには、自国籍船よりも外国籍船が有利になるような不均衡に対処する必要がある。
(11) おそらく、この問題を考える別の方法は、「沿岸貿易ハイウェイ」の観点からである。「沿岸貿易ハイウェイ」は、太平洋島嶼国にとって目新しい発想ではない。島国にとって、「沿岸貿易ハイウェイ」は国道と鉄道貨物部門を補完するものとなるだろう。そのような取り組みは、いくつかの船を戦略的商船隊へより良く転用にするための幅広い持続可能な基盤を作り出すだろう。
(12) 一部の利得は定量化する必要があるが、利得には大型トラックの運行によって影響を受けた道路補修の費用削減や、国道の道路通行料の削減などが含まれる。しかし、特に温室効果ガス排出量を2005年のレベルより43%削減し、2030年までにネットゼロにするという政府の誓約を達成するという点で、既知の利点もあります。道路貨物は、海上または鉄道貨物の3倍の排出量をもたらす。海運部門は急速にクリーン燃料に移行しており、現在、ネットゼロへの競争において他の部門よりも進んでいるようである。
(13) オーストラリアは国内の戦略的商船隊以上のものを必要としている。沿岸貿易船と国際貿易船の混合を奨励する枠組みが必要である。小規模な沿岸航行の戦略的商船隊艦隊のみの解決策は、オーストラリアがこの分野で自ら生み出した実際の戦略的問題に対処していない。国家主導の沿岸貿易が直面している問題に取り組む多くの試みは、これが複雑で困難な問題であることを浮き彫りにしている。ただし、戦略的商船隊を確立するための推進は、中心的問題を解決するというより、症状に焦点を当てる1つの見本である。
記事参照:Australia needs more than a strategic merchant shipping fleet

11月2日「今後10年かけて強化されるグアムの米海軍―U.S. Naval Institute報道」(USNI News, November 2, 2022)

 11月2日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、“Navy Expanding Attack Submarine Presence on Guam as a Hedge Against Growing Chinese Fleet”と題する記事を掲載し、今後グアムで強化される米海軍の潜水艦能力について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国との戦略的対立の最中、米国はグアムでの潜水艦運用能力を強化する計画を立てていると、Submarine Force, U.S. 7th Fleet司令官が11月2日に発表した。2022年初めにロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦「スプリングフィールド」をグアムに派遣した後、米海軍は今後5年から10年かけて、この米国領土での保守整備能力と訓練能力の両方を強化する予定である。
(2) 米国領土であるこの島での潜水艦の能力と可能性を拡大するこのスケジュールは、台湾と本土の統一を目指す中国に関連し、Submarine Force, U.S. 7th Fleet司令官Jeffrey Jablon少将が「最大に危機的な10年」と表現した時期と一致する。「中国は世界最大の海軍を配備し、南シナ海と東シナ海での数的優位を保証している。(中国海軍の)水上艦部隊と潜水艦部隊が能力を向上させているため、我々は抑止のための潜水艦部隊、そして、必要であれば中国海軍を打倒するための準備を行うための取り組みを強化する」と述べている。
(3) 「スプリングフィールド」をグアムに前方展開し、米海軍は現在、5隻の攻撃型潜水艦をグアム島から運用している。また、米海軍潜水母艦の『フランク・ケーブル』と『エモリー・S・ランド』もグアムに配備されている。Jablon少将は、この地域における米海軍の潜水艦部隊の能力の一例として、「フランク・ケーブル」が2022年初めにオーストラリアで「スプリングフィールド」とオーストラリア海軍コリンズ級攻撃型潜水艦「ファーンコム」と共に行った再武装・再装填の演習を挙げた。提督は、これらの1970年代の潜水母艦を2020年代後半までに後継艦と換えるだろうと述べた。「『エモリー・S・ランド』と『フランク・ケーブル』の両艦が引継2020年代後半ぎまで運用されるので、潜水母艦の能力に空白が生じることはない」とJablon少将は語っている。
(4) Jablon少将は、オハイオ級弾道ミサイル原子力潜水艦『ネバダ』の2022年初めのグアム寄港についても指摘した。米海軍が、弾道ミサイル原子力潜水艦がどこで活動しているかを発表することはほとんどない。
記事参照:Navy Expanding Attack Submarine Presence on Guam as a Hedge Against Growing Chinese Fleet

11月2日「東南アジアの海洋安全保障利害関係者の役割における変化―シンガポール・英専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, November 2, 2022)

 11月2日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトIDSS Paperは、RSIS上席研究員John Bradfordと英University of Bristol研究員Scott Edwardsの“EVOLVING STAKEHOLDER ROLES IN SOUTHEAST ASIAN MARITIME SECURITY”と題する論説を掲載し、そこで両名は海洋安全保障環境が複雑化し、脅威が多様化している現在、海洋安全保障の利害関係者間の協力がますます重要になっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋安全保障の利害関係者は、しばしば概念的に提供者と後援者の2つに分けられてきた。それは20世紀の戦後自由主義的な秩序においては概ね当てはまっていたが、21世紀に入り、実態から遠ざかるようになった。海洋における危険性が複雑になっている現代において、その2つの領域はますますあいまいになり、利害関係者間の協力が進んでいる。そしてこれは東南アジアの海域で顕著である。
(2) 戦後の自由主義的な秩序において、海洋安全保障は国家に委ねられており、海軍や沿岸警備隊がその役割を担った。また、1950年代にInternational Maritime Organisationが設立され、1980年代のUNCLOSの締結など国家間の協力が進められた。東南アジアの旧植民地諸国が、このシステムにおいて鍵であった。冷戦の間、東南アジア諸国は海軍に海の安全や経済的発展における役割を担わせた。また彼らは積極的に国際機関に参加し、UNCLOS締結においては大きな役割を果たした。
(3) 冷戦後期になると、海洋安全保障の利害関係者は、テロや海賊など非伝統的脅威への対策を模索した。1988年には「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」が締結されたが、非伝統的脅威への対応には、より幅広い利害関係者間の協力が必要であることが明らかになった。
(4) 2001年9月11日の同時多発テロ事件は、東南アジアの海洋安全保障利害関係者の役割に関する次なる展開の分水嶺となった。こうした類の攻撃が全世界に広がり、また、さまざまな船舶ハイジャック事件が起きたことで、「テロとの戦い」は海上にまで展開しなければならないと考えられるようになった。東南アジアの国々は、マラッカ海峡の哨戒など、多国間の試みによって、海賊などの非伝統的脅威やテロへの抵抗を開始した。その一方、海運業者など経済的な利害関係者は、保険や自衛手段によって自分たちの利益を守ろうとした。しかし、もはや安全保障利害関係者の提供者と後援者の間の協力なしに、効率的ではないことが明らかになりつつあった。この状態に対処するために、たとえば2009年、シンガポールにInformation Fusion Centre(情報融合センター)が開設されるなど、利害関係者間の意思疎通改善のための努力が推進された。
(5) この10年余りの間、また別の脅威が浮上した。違法・無報告・無報告(以下、IUUと言う)漁業や不規則な人の移動、環境犯罪などである。新たな脅威の登場は、国家、民間団体、共同体段階の行為者間のさらなる調整を促進した。そうした調整の溝は、NGOなどの存在によって埋められるようになっている。また、国家による海洋安全保障は、近年海軍よりも沿岸警備隊によって担われるようになっている。なぜなら沿岸警備隊の活動の方が、その競合が紛争に拡大する可能性が低いからである。さらに諸国は海洋状況把握の改善のために、海上民兵などの育成にも力を入れるようになっている。
(6) 現在の東南アジアの海洋安全保障環境が複雑になっているため、海洋安全保障の利害関係者の2つの類型の間にかつて引かれていた線はなくなりつつあり、両者の間の協力が進んでいる。しかしその協力はまだ十分とは言えない。テロや海賊はなくなっていないし、IUU漁業や不規則な人の移動への対策は不十分である。また、大規模な国家間紛争の危険性が高まっており、そうしたことに備えるためにとられる方策によって、海洋領域にまで深刻な影響が及んでいる。
記事参照:EVOLVING STAKEHOLDER ROLES IN SOUTHEAST ASIAN MARITIME SECURITY

11月6日「南シナ海における中国の人工島の現況―香港紙報道記事」(South China Morning Post, November 6, 2022)

 11月6日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“Fortified South China Sea artificial islands project Beijing’s military reach and power, say observers”と題する記事を掲載し、フィリピンの写真家によって撮影された一連の写真を参照しつつ、中国が南シナ海で建設してきた人工島の状況について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国は、インド太平洋への軍事力投射能力を高めるために、南シナ海の人工島の軍事化を進めてきた。フィリピンの写真家Ezra AcayanがSNSに公開した写真によると、中国の7つの人工島に、ドックやレーダー、滑走路や大型ハンガーなどが建設されていることが明らかになった。
(2) KJ-500H早期警戒管制機が、フィアリー礁の誘導路にあるところも撮影されている。これは中国の第3世代早期警戒管制機として、南シナ海の監視に使われている。またミスチーフ礁の写真にはType022ミサイル搭載双胴艇が写っている。これはステルス性能を持ち、亜音速対艦ミサイルを8基搭載可能である。同じくミスチーフ礁のハンガーにはY-8輸送機が収容されていた。
(3) カルテロン礁には、元々艦載用であったH/PJ-26型76mm砲とH/PJ-13B近接防御火器が設置されている。またSLC-7三次元早期警戒レーダーなども設置されているようである。スビ礁の滑走路上にはトラックらしきものが写っており、これはおそらく外国の航空機が島に着陸するのを邪魔するためのものである。ミスチーフ礁とスビ礁には、医療ヘリ着陸場もあるようである。
(4) ある専門家はこれら写真を見て、あまり活動的でないこと、建造物のいくつかが老朽化していることに気づいた。しかしもし紛争が起きたとき、人民解放軍空軍がこれら人工島を利用して前線配備を行うことができるとも指摘している。それに加えて人工島の一群が、防空識別圏の設定や、海上封鎖のために戦略的に利用される可能性もあると述べている。
(5) 中国は2013年以降、7つもの人工島を建設し、その広さは1,000ヘクタールを超える。そうした動きは、南シナ海の権利を主張する国々の恐怖を高めている。しかし中国側は、その人工島の脆弱性を強調している。
記事参照:Fortified South China Sea artificial islands project Beijing’s military reach and power, say observers

11月7日「米国家安全保障戦略と中国共産党大会、ASEAN地域安全保障にとっての含意―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, November 7, 2022)

 11月7日付のシンガポールS. Rajaratnam School of International Studies (RSIS)のウエブサイトIDSS Paperは、シンガポールNanyang Technological University研究員Muhammad Faizal Abdul Rahmanの“U.S. NATIONAL SECURITY STRATEGY AND THE 20TH CCP CONGRESS: WHAT THEY MEAN FOR ASEAN REGIONAL SECURITY”と題する論説を掲載し、Muhammad Faizal Abdul Rahmanは米Biden政権の「国家安全保障戦略」の公表と中国共産党第20回党大会開催がASEAN地域安全保障にもたらす影響について、要旨以下のように述べている。
(1) 10月12日に公表された米Biden政権の「国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)」は、米国の重要な利益を促進するために国力の全ての手段を活用するとともに、中国を「最も重要な地政学的挑戦」と見て最優先している。その10日後に、中国共産党は、習近平国家主席の権力を固め、習近平側近で固めた新指導部を発表し、そして中国が核心的利益をどのように前進させるかを展望して、第20回党大会を閉会した。この2つの出来事は、米国が指導的な太平洋国家としての役割を全うしようとし、他方、中国が米国に代わる選択肢として自らを押し進めようとしていることから、世界に向けた両大国の競合する展望における溝の拡大を表徴している。
(2) 米国のNSSは、「世界は転換点にあり」「国際秩序の未来を形成するための戦略競争の真っ只中」にあると見て、中国は「自らの権威主義的モデルにとってより寛容な条件を作為するために、その技術的能力を活用するとともに、国際機関に対する影響力の増大を利用し」そして「修正主義的外交政策によって重層的な権威主義的統治」を目指していると述べている。この競争とその他の共通の挑戦を乗り越えるために、NSSは、「自由で、開かれた、繁栄する、そして安全な国際秩序」のための道程表を提供している。対照的に、習近平国家主席の党大会報告は、「中国に対する脅迫、封鎖そして最大限の圧力をかけることを狙った外部からの試み」について警告した上で、「中華民族の復興に戦略的支援を提供し」「世界の平和と発展に対してより大きな貢献をする」人民解放軍の能力を称賛している。両大国の競合する利害と国際秩序に対する展望とにおける調和の余地は小さいか、あるいは恐らくさらに小さくなってきている。米国は中国の新しい最高軍事指導部が武力紛争の準備をし、建設的な対話に対する熱意が弱まっていると認識していることから、米中軍事関係は一層緊張することになろう。外交関係についても、中国が「大国外交」の原則に基づいて自己主張を強めていることから、悪化する可能性がある。
(3) 党大会はASEANについては言及しなかったが、「一帯一路構想」を推進し、海洋権益を保護するという中国の意図を確認した。米国は、NSSが米国の「自由で開かれたインド太平洋」の概念を促進する上でのASEANの役割に言及したことを考えれば、ASEANに対してこれらの分野において中国に対してより強固な姿勢をとるよう求めていく可能性が高い。ASEANは、今後益々米中いずれかの選択を迫られることになろう。この環境は、米中双方が他方をこの地域で「新常態」を押し進めていると認識することで、安全保障のジレンマを高める。この環境は、ASEANに対して、ポスト冷戦の国際秩序が崩壊しつつあるという、不都合な事実を突き付ける。このことは、ASEAN主導の多国間の過程を一層制約することになりかねない。この環境は、紛争を不可避なものにするわけではないが、紛争の可能性を高める。
(4) 現在から2027年までのアジア太平洋地域における地政学的タイムラインは極めて重要である。米中関係に対するASEANの対応能力はますます試練に晒されるであろう。ASEANは、この地域における包括的で非敵対的な機構として、依然として大国間紛争の脅威を最小化する、外交的には最善の機構である。この点において、ASEAN加盟国は、現在の環境下で、機構としてのASEANの実効性を確保するために、集団として何ができるかを自問する必要がある。
a. 第1に、ASEANは、大国間政治を管理するために、より大胆かつ積極的になる必要がある。ASEANは、紛争緩和のための1つの手段であることを自ら喧伝することができるが、ASEANの結束と信頼性を損なっている域内問題を解決するための具体的な措置を講じない限り、これは難しい注文である。
b. 第2に、ASEANは、「平和を望むなら、戦争の準備をせよ」との古くからの格言に耳を傾けるべきかもしれない。このことは、東南アジアが軍備増強に走るべきと示唆するものではない。そうではなく、ASEANは平和でなく、勢力の均衡が不均衡の時代にあって、その機能を発揮するために新しい取り組みを必要としているということである。ASEANは、サプライチェーンやサイバーなどの面における大国紛争の余波に対抗して、(全てではないにしても、ほとんどの)加盟国とその防衛力が相互の抗堪性を支え合う、余り機微にわたらない分野における協力態勢を維持する必要がある。
(5) ASEANが外交と抗堪性を強化するための具体的な措置を講じない限り、域内の行為者は、ASEAN中心性に対してはリップサービスに終始するであろう。ASEANが頑なになり、無関心を続ければ、如何なる外交努力も失敗する可能性がある。そして外交努力が失敗した場合、ASEANは大国紛争の東南アジアへの影響を阻止し、それが生起した時に、その影響を軽減する用意がないであろう。
記事参照:U.S. NATIONAL SECURITY STRATEGY AND THE 20TH CCP CONGRESS: WHAT THEY MEAN FOR ASEAN REGIONAL SECURITY

11月8日「難題が山積している南シナ海行動規範の合意―中国南海研究院研究員論説」(South China Morning Post, November 8, 2022)

 11月8日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院の非常勤上席研究員Mark J. Valenciaの“South China Sea: between US-China tensions and Asean disputes, a code of conduct remains out of reach”と題する記事を掲載し、Mark J. Valenciaは南シナ海の行動規範を策定するための当事国間の交渉の難しさについて、要旨以下のように述べている。
(1) 米国務省の高官は最近、交渉中の行動規範の規定を通じて南シナ海から米国を排除しようとするいかなる取り組みにも反対すると警告した。包括的な難問は、地域の支配をめぐる米中間の争いである。米国とその支持者は、中国の歴史的な「九段線」の主張を否定する義務的な仲裁機構及び文言を伴う、強固で拘束力があり、法的強制力のある条約を望んでいる。中国とその支持者は、紛争は第三国ではなく、直接関係する国家間の友好的な交渉によって紛争を解決する締約国行動宣言の規定を重視した緩やかな取り決めを好んでいる。米国は締約国になることを望んでいるが、中国は締約国は域内国だけと主張している。
(2) 東南アジア諸国は、中国が歴史的な領有権の主張を放棄するか、少なくとも強要しないことを望んでいる。しかし、中国は恐らく、少なくとも東南アジアの権利主張国の排他的経済水域の資源を共有することで、何とかして自国の主張を認めさせたい。中国は、まず行動宣言の完全な実施を望んでいる。紛争は当事国間の直接交渉によって解決すべきという規定があるが、フィリピンなど他の国は、第三者機構の活用に意欲を示している。
(3) 行動宣言を履行することは、紛争を複雑にしたり、事態を拡大させたりするような活動を避けるという意味でもある。しかし、すべての締約国がこの規定に繰り返し違反し、そのことを互いに非難している。行動規範の障害は、ベトナムが西沙諸島を対象とすることを望んでいることだが、中国もこの諸島の領有権を主張しているため、これは無理な話である。そのため、行動規範の地理的範囲をめぐって交渉が難航している。また、サバ州への主権主張の対立を含む、排他的経済水域と大陸棚への権利主張が重複しているマレーシアとフィリピンのようなASEAN加盟国間の不一致も深刻である。
(4) まず、管轄権問題に焦点を当てるために、領土問題を切り離す合意が必要である。ベトナムと中国は、ASEANの助けを借りて、西沙諸島をめぐる本質的に2国間の紛争を、行動規範の範囲から除外することに合意しなければならない。米国やその他の域外勢力は、水面下で干渉することを控えなければならないし、ASEAN加盟国は、米国の利益に対する中国の影響力に抵抗することを約束しなければならない。その後、ASEANの権利主張国5ヵ国は、行動規範の文言について合意に達することができる。他のASEAN5ヵ国との交渉を通じて統一案が生まれ、その後ASEAN全体として中国と交渉することができる。これはおそらく実現しないが、ベトナムが、中国に対するASEANの影響力を放棄する可能性は低い。そして、中国はむしろASEAN全体と取引することを望むだろう。米国が自制する可能性は低く、仮に自制したとしても、シンガポールやベトナムのようなASEAN諸国も同じような立場を取る。さらに、一部のASEAN加盟国は、ASEAN内の分極化を激化させ、ASEANを弱体化させることを恐れて、過程の細分化に抵抗するだろう。
(5) ASEANとその地域は、強固な行動規範の合意の可能性が低いというという現実を直視しなければならない。しかし、緩やかな行動規範には、柔軟性、主権の保持、法律の基盤の提供となるといった利点がある。何が有効かを検証する場にもなり得る。しかし、緩やかな行動規範は、正当性、法的確実性、実施機構に欠ける。緩やかな行動規範はないよりましだと主張する人もいる。また、中国の東南アジアにおける外交と役割を正当化し、強化することになるため、緩やかな行動規範の方が悪いとする意見もある。
記事参照:South China Sea: between US-China tensions and Asean disputes, a code of conduct remains out of reach

11月9日「黒海ではロシア海軍が優位にある―ベルギー専門家論説」(War on the Rocks, November 9, 2022)

 11月9日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rock は、ベルギーVrije Universiteit Brussel 助教授兼Centre for Security, Diplomacy and Strategy at the Brussels School of Governanceで防衛・国家戦略プログラムを率いるDaniel Fiottの” RELATIVE DOMINANCE: RUSSIAN NAVAL POWER IN THE BLACK SEA”と題する論説を掲載し、ここでFiottは、西側諸国はウクライナ軍に提供する兵器を検討する際に海軍の次元で考える必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアはウクライナとの戦争で苦戦している。ウクライナを支援するために武器を提供した西側の努力は報われ、ウクライナはロシアの侵出を食い止め、奪われた領土を奪還しつつある。これに対しロシアは動員態勢に入り、正式に4つの領土を併合し、Putin大統領はどんな手段を使ってでもそれを守ると宣言した。
(2) クリミアにあるロシアBlack Sea Fleetは、空中ドローンと海上ドローンによる攻撃を受けたが、依然として黒海での軍事的優位を保持しており、フリゲートや潜水艦からウクライナ軍や民間人を標的として巡航ミサイル攻撃を行うことができる。一方、ウクライナにはロシアの海軍力に対抗できる海上戦力はなく、偵察や護衛任務に使う4、5隻の小型哨戒艇程度しかない。このため、ウクライナ海軍がクリミアのロシア海軍を攻撃する能力は限られている。
(3) 戦争が激化する中、西側諸国はウクライナの海軍戦略をどのように支援するかを再考する必要がある。そのためには、対艦ミサイルの供給とウクライナ軍への水陸両用戦の訓練充実が必要である。長期的には、フリゲートや潜水艦などの通常型海軍戦力の増強も支援する必要がある。最終的な目標は、現在のロシアの海上優位を逆転させることである。
(4) ウクライナはロシア艦艇の撃沈に成功したとはいえ、ロシア海軍に対して比較にならないほど不利な立場にある。Biden政権はウクライナに河川警備船を供与すると公約しているが、これは海よりも河川を守ることが主目的の船である。トルコが2022年2月にボスポラス海峡とダーダネルス海峡をすべての軍艦に対して閉鎖したことを考えると、こうした艦船がいつウクライナに到着するのかも不明である。ロシアが黒海で大きな損失を被っていることは明らかで、2022年4月に黒海艦隊旗艦「モスクワ」が沈没し、その他少なくとも4隻が破壊され、2022年10月末には最新の旗艦「アドミラル・マカロフ」が攻撃されている。しかしロシアは依然として黒海とアゾフ海で優位を保っている。
(5) ロシアは黒海を対ウクライナ戦争の主要な領域と見なしており、モスクワは以前から上陸を計画・実施し、ウクライナの都市や軍事目標に打撃を与えている。ウクライナはオデーサなど沿岸の主要都市付近への海からの上陸を阻止するために機雷を使用してきた。一方で、ロシアは、ウクライナからの穀物や肥料の輸出を遅らせたり、停止させたりして、ウクライナ経済を圧迫してきた。また、ロシアBlack Sea Fleetは、内陸部の占領地の防衛支援にも利用できる。たとえば、ケルソンは艦載ミサイルの射程圏内にある。さらにロシアは、民間人への攻撃も辞さない姿勢を見せている。
(6) ウクライナ指導部は、ロシアの海軍支配に対抗するには、海軍資産への投資が必須であることを理解している。2014年、ロシアによるクリミアとセヴァストーポリ海軍基地の不法占拠により、ウクライナは海軍艦隊の75%を失った。2024年までに、ウクライナはトルコで建造中のコルベットを引き渡される予定で、このコルベットにはハープーン対艦ミサイル、速射砲、魚雷が搭載されるとの情報もあるが、具体的にどのような装備になるかは不明である。
(7) ロシアBlack Sea Fleetは、ウクライナからの被攻撃への警戒を強めているとの指摘がある。ウクライナは、ロシアBlack Sea Fleet司令部やロシア占領下のクリミアに駐留するロシア海軍航空隊をミサイルで攻撃し、停泊中のロシア艦船を何度も標的にしている。これらの攻撃を受けて、ロシアはキロ級潜水艦をクリミアからロシア南部に移動させた。カリブ巡航ミサイルはウクライナにとって脅威となるので、ロシアの潜水艦をセヴァストーポリからノヴォロシスクに押し出したことは、対潜能力をほとんど持たないウクライナにとって快挙であった。ロシアの巡航ミサイルの在庫は、戦前から不安定な備蓄が伝えられ侵攻時に大量に使用されたが、まだ戦前50%以上を保有している可能性があり、黒海からの攻撃継続は可能であろう。
 (8) 現在のロシアの狙いは、潜水艦やミサイルのサイロ、海底機雷などからなるmaritime bastion(海上堡塁)を維持することである。海上堡塁とは、ロシア海軍が比較的安全に活動できる厳重に保護された水域のことで、これを利用して制海権を維持し、外国海軍の干渉を抑止し、ウクライナに有利な政治的解決や戦争の終結を困難にすることができる。黒海がクレムリンにとって海洋の砦であり続ければ、ロシア軍はいつでも水上艦や潜水艦を使って巡航ミサイル攻撃を行うことができる。
(9) ロシアは黒海で政治的・経済的に大きな問題を引き起こす可能性がある。例えば、2022年10月にセヴァストーポリの艦隊が攻撃されたことを受けて、クレムリンはウクライナからの穀物・穀類輸出を認める輸出協定を停止した。結局、クレムリンは譲歩して穀物取引を再開したが、ロシアは、海軍力を利用してウクライナを経済的に威圧することができ、敵対行為が終了してもキエフを強制的に支配できる手段と装備を備えている。西側諸国は、ウクライナ軍に提供する兵器の種類を検討する際に、ロシア海軍をどのように危険にさらすかを考えるべきである。ウクライナがロシア軍をどこまで撃退できるかによって、欧米はキエフへの海軍関連兵器の供与を再考する必要がある。ハープーンなどの対艦ミサイルの増産に始まり、今後増加するであろう巡視船から魚雷を発射できるようウクライナ軍を訓練することも考えられる。現在、無人機や戦闘機、戦車の増強が繰り返し叫ばれているが、巡視船だけではロシアとの海上バランスを崩すことはできないので、海軍の次元で考える必要がある。
(10) ロシアの黒海における海軍戦略は、その幅広い軍事的目標と切り離すことはできない。ウクライナ領内でロシア軍が大敗すれば、クレムリンは黒海の砦に押し込められるが、そこから海軍力を利用して軍事的現状を維持し、紛争を凍結させ、将来のウクライナ攻撃のための再武装に十分な時間を確保しようとする可能性がある。
記事参照:RELATIVE DOMINANCE: RUSSIAN NAVAL POWER IN THE BLACK SEA

11月9日「中国の南シナ海武装勢力の潮流―米研究所分析」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 9, 2022)

 11月9日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative(AMTI)は、” THE EBB AND FLOW OF BEIJING’S SOUTH CHINA SEA MILITIA”と題する記事を掲載し、ここで2021年11月の報告書「中国の海上民兵の内幕を暴露する(Pulling Back the Curtain on China’s Maritime Militia)」から過去1年間の海上民兵船の動きを、要旨以下のように抜粋している。
(1) 過去 1 年間の衛星画像の分析から、数百隻の中国海上民兵船が南沙諸島で日常的に活動を続けていることが分かった。このデータは、南沙諸島における民兵部隊の大規模な行動を確認するものである。民兵船はユニオンバンクのウィットサン礁やヒューズ礁周辺に集結し、フィリピン領のパグアサ島(Thitu Island)などでも存在感を示し続けている。これらは海上民兵の歴史、組織構造、活動、政府の資金提供、行動パターンの包括的な概要を掲載した2021年11月の報告書「中国の海上民兵の内幕を暴露する(Pulling Back the Curtain on China’s Maritime Militia)」により公表された。
(2) AMTIは、2021年9月から2022年9月にかけて、南沙諸島にある民兵船のホットスポットと呼ばれる9ヵ所と、海南および広東の母港6ヵ所の衛星画像を調査し、年間を通じて各場所で中国の海上民兵という表現に当てはまる船舶を数えた。南シナ海の2つの民兵船団(専門の海上民兵漁船と南沙基幹漁船)の一員として活動する中国漁船は、ほぼすべてが全長45~65mである。これらが南沙諸島に配備された場合、解像度3mの衛星画像では、他の小型漁船や大型の法執行船・軍艦と容易に区別することができる。一方、中国の港にいる民兵船を見分けるには、別の高解像度画像を使用する必要がある。
(3) データから、南シナ海における中国の民兵船の総数は数百隻に上ることが確認された。南沙諸島に配備され、交代で港にいる民兵船は、7月上旬に400隻でピークに達した。また、民兵の季節的な行動には少なくとも1つの明確なパターンがあり、休暇にはほとんどが帰国する。南沙諸島に展開する民兵船数は12月下旬に128隻からわずか12隻に激減し、2月中旬には再び170隻まで急増した。この傾向は逆に民兵船の港でも見られ、12月上旬の100隻から1月中旬には200隻を超えた。南沙基幹漁船は、中国の商業漁船から採用された民兵組織であり、補助金を得るために1年のうち280日を係争海域で過ごせばよいので、長期休暇を取るのは当然と言えば当然である。しかし、画像とデータによると、海南で活動する専門の民兵船も同様に長期にわたって港に滞在していることがわかる。
(4) 個々の地点での傾向を調べると、この1年間の中国の民兵船の行動は、概して2年前に出現したパターンと一致していることが確認される。最も多くの民兵船がユニオンバンクに配備され、100~150隻の民兵船が非占領のウィッツン礁と中国が占拠するヒューズ礁の周辺に分散して配備されている。フィリピンの南沙諸島最大の前哨基地であるパグアサ島(Thitu Island)の西側では、小規模ながら平均約20隻の船が年間を通じて展開されている。南沙諸島にある中国の3つの大きな前哨基地すなわち、フィアリー・クロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁でも相当数の民兵船が見られる。スカボロー礁と第2トーマス礁に出没する民兵船数ははるかに少なく、南沙基幹漁船ではなく、訓練され装備された専門の海上民兵漁船が中国沿岸警備隊のパトロールを支援するために操業している。これら専門の民兵漁船は信頼性が高いので、フィリピンの軍や民間の船舶との緊迫したやりとりがあっても、意図しない事故を引き起こす可能性は低い。また、各海域の平均船舶数は年間を通じて比較的一定であったが、わずかな例外として、ユニオンバンク内の船舶が秋のウィットサン礁から春のヒューズ礁に移動していることが注目される。これは、フィリピンの民兵船がウィットサン礁に集結したことに抗議するためで、前年の状況すなわち、ほとんどの民兵船が春にユニオンバンクを完全に退去し、夏の終わりに戻ってきたこととは異なる。
(5) データ収集は、場所によって鮮明な衛星画像の有無に左右される。画像のない日の船舶数は、最も近い2つのデータポイントの間を補間して算出した推定値であるので完全ではない。しかし、これらの推定値は、南シナ海にいる中国民兵船の大部分を捉えている。この分析の観測期間は9月に終了したが、ウィットサン礁に80隻以上の民兵船がいる最近の画像は、観測されたパターンが当分続くことを示唆しており、100隻以上の中国民兵船がユニオンバンク内で活動していることが新たに常態化していることを示唆している。
記事参照:THE EBB AND FLOW OF BEIJING’S SOUTH CHINA SEA MILITIA

11月10日「2022年の国防戦略:U.S. NavyとU.S. Marine Corpsに関する要点―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, November 10, 2022)

 11月10日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)が発行するIDSS Paperは、RSIS客員教授兼安全保障問題顧問Geoffrey Tillの“THE 2022 NATIONAL DEFENSE STRATEGY: TAKEAWAYS FOR THE US NAVY AND MARINES”と題する論説を掲載し、ここでTillは米国では待望の国防戦略が発表され、そこではU.S. NavyとU.S. Marine Corpsには、あらゆる分野の脅威に対応するため、より小さな、場合によっては、無人の兵力などの「防衛エコシステム」の重要であるとされ、「統合軍」が今まで以上に緊密に統合される必要があると述べられており、新しい戦略が実現するまで同盟国と提携国との協力が重要であるとして要旨以下のように述べている。
(1) NDSの秘密に指定される前のNDSが2022年10月27日に発出された。これは、今から2週間前に出された米国の国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)の発表に続くものである。NDSにはウクライナ戦争の新たな教訓のいくつかが取り入れている。NDSの目的は、NSSの中で特定された相互に関連する安全保障の要求を満たすという任務に、軍がどのように取り組むかを示すことである。その任務とは、次の3点である。米国国民の安全を守ること、経済的繁栄と機会を拡大すること、米国の生活様式の中心にある価値を実現し防護することである。
(2) NDSは3つの任務のうち、第1項目に焦点を当てているが、他の2項目についてもその重要性を認識している。NDSは中国を「米国の国家安全保障に対する最も包括的で深刻な問題」と特定している。中国はU.S. Department of Defenseにとって「安全保障政策を規定する第1の脅威(pacing challenge)」である。一方、ロシアは、特に「ウクライナに対する挑発によってではなく、自分から起こした戦争」のため、より差し迫った「深刻な」脅威である。中国とロシアの協力は、「利害の相違と歴史的不信」によって限界がある可能性があるものの、拡大し続けている。北朝鮮、イラン、残存するテロの脅威、気候変動も大きな懸念事項である。NDSは、U.S. Department of Defenseがその目的を達成するための特定の方法と手段に焦点を当てた「戦略」というよりも、U.S. Department of Defenseが、一般的に、その任務にどのように取り組もうとしているかについての幅広い意図の声明である。文書全体に一つの数字もなく、兵力の大きさや構成への参照もない。しかし、それらは、米国の核とミサイルの防衛態勢の見直しをするNDSに付随する2つの非常に長い文書の中にごく短く記載されている。
(3) NDSは、あらゆる種類の中国とロシアの攻撃を阻止するために必要な「統合軍(the Joint Foerce)」と「防衛エコシステム(defence ecosystem)」の質を探っている。次の3つの主な要件が、常に繰り返され、強調されている。NDSの主要なテーマの1番目の要件は、核攻撃からサイバー攻撃に至るまでの分野にわたる抑止の努力の全体的な統合に重点を置くことである。従来型の能力と核能力は互いに同調し、「米国政府の省庁、同盟国や提携国と緊密に協力」し、サイバー及び情報の分野で連携する必要がある。2番目は、同盟国や提携国と協力する必要性を常に強調することである。3番目は、新しい取り組みが求められ、したがって、米軍は、今日の厳しい状況における抑止の要件を検討して、効果的な「軍事行動」を通じて必要な能力を提供する必要がある。NDSでは拒否による抑止力が強調されているため、米軍のあらゆる面で「抗堪性(resilience)」の重要性が非常に強調されている。ますます危険になる世界で効果的に活動するためには、米国はあらゆる種類の脅威に対処する能力に自信を持っている必要がある。
(4) ウクライナ戦争が潜在的に最も危険な段階に達しているにもかかわらず、中国を第1の脅威基本的な脅威と規定することは、中国がインド太平洋全体、特に西太平洋に対する米国の安全保障に関わる思考における最優先の重要性を持っていることを強調している。NATO同盟国の軍事的努力を「補完する」という言及は、ヨーロッパの軍事能力がロシアの軍事能力と比較して明らかに増強されるように設定されていることを表している。世界中のいずれの地域であっても、U.S. NavyとU.S. Marine Corpsの展開は、「監視と対応(monitor-and respond)」を基準として行われている。今後も、U.S. NavyとU.S. Marine Corpsの主要な取り組みが行われていくであろう。米国の海上兵力の展開と態勢が、インド太平洋地域で持続可能な前方展開を発展させることを可能にするであろう。そのような展開は、同盟国や提携国との広範な関与と中国の攻撃に耐え、抑止するために必要な能力の開発を可能にする必要がある。米国とその同盟国が、抑止に失敗をした紛争にも勝つことが最終的な目標である。抗堪性の維持は、添付された「核態勢見直し」でも明らかにされており、2030年に就役予定のコロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦という形で不安のない戦略的打撃部隊の存続に重点が置かれている。 
(5) あらゆる形のミサイル攻撃に対する防御が最優先される。その目的は低出力核兵器の相互使用に頼ることなく、その脅威に対処し、抑止する能力にまで抗堪性を拡大することであろう。中国の能力向上、そしていくつかの点でロシアの能力向上は、戦域とより広い「防衛エコシステム」の両方の脆弱性を減らすための特別な努力を求めている。したがって、安全なサプライチェーンの必要性とサイバー分野での抗堪性の確保は「最新の暗号化とゼロトラストアーキテクチャ」(サイバー・セキュリティの1つの取り組み。機構から信頼という考え方を排除し、常に検証し続けることでデータへの侵害を阻止する:訳者注)によって強化される。それは部分的には、「すべての領域の作戦」の要求に対処するために、「統合軍」が過去よりもはるかに緊密に統合される必要があるという考え方を反映している。統合する能力を守ることが重要である。
(6) 西太平洋では、U.S. Navyの作戦に関する抗堪性は、他の軍種と同盟国及び提携国の支援の努力と自己の脆弱性を修正するための断固とした努力によって、維持されるであろう。海軍はあらゆる形態の攻撃に対して強化され、現在の溝は埋められるであろう。大規模な通常戦力の艦艇、航空機は、重大な対立の環境では中心的戦力ではない。代わりに、NDSの議論に沿って、致命的な損害の分散及びネットワーク化された運用のために、より小規模な兵力、場合によっては無人機部隊への依存が高まるであろう。これが実際に事実であることが証明されたときには、艦隊の構成に関する将来の議論は、その能力よりも、中国やその他の潜在的な敵の艦隊と比較して、その艦隊の艦艇の隻数などの数に夢中になることははるかに少なくなるであろう。
(7) このような考え方は、U.S. Marine Corpsをより小規模にし、より機敏であるが強力なMarine Littoral Regimentsに大幅に改編し、高い烈度の戦闘では生き残ることのできない大型の揚陸艦を廃棄しようとしているU.S. Marine Corps総司令官David Berger大将の意図と一致している。すべての軍種は、現在無効になっている伝統的な仮定に挑戦する必要がある。U.S. NavyとU.S. Marine Corpsは、現在よりもさらに「学習する組織」になる必要がある。現在の研究開発予算は1,300億米ドルでありU.S. Department of Defense史上最高の額であることは、重要なことである。
(8) 最後の課題は、この急進的な新しい未来が展開しているときに、非常に重要な同盟国と提携国とどのように協力していくかである。さらに、これらの進歩の多くは2030年代までは実現しないため、その間、米国の抑止をどのように機能させていくかである。
記事参照:THE 2022 NATIONAL DEFENSE STRATEGY: TAKEAWAYS FOR THE US NAVY AND MARINES

11月10日「米軍が対応すべき次の問題:サラミ・スライシング―米国専門家論説」(19FortyFive, November 10, 2022)

 11月10日付の米国のウエブサイト19FortyFiveは、米シンクタンクAmerican Enterprise Institute上席研究員Dr. Michael Rubinの‶The US Military’s Next Problem: “Salami-Slicing” Is Going Global″と題する論説を掲載し、ここでMichael Rubinは世界の独裁国家が進めつつある「サラミ・スライシング」に対し、米国が明確な対応を採るべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米軍が対応するべき次の問題としての「サラミ・スライシング」が世界的に進行中である。U.S. Department of Defenseは無人島問題に取り組むべきであるが、国際慣習に基づく秩序に対する軍事的挑戦としては、ロシアのウクライナ侵攻は、むしろ慣習を無視した例外かもしれない。ロシアのVladimir Putin大統領のウクライナ侵略は、西側諸国が対応せざるを得ない無遠慮なものであった。Putinは、米国が第1次世界大戦に参戦して以来、いずれかの国が他国を侵略する度に、米国が関与するようになったことを忘れている。
(2) サラミ・スライシングが世界へ広がりつつある。すべての修正主義の指導者が、周辺国に即座に対応を強いるほど無謀なことをするわけではない。これは、南シナ海における中国の「サラミ・スライス」の論理であった。中国は、フィリピン、ベトナム、マレーシアの島礁を占拠している。特にフィリピンとの紛争は、1898年にフィリピンの統治権がスペインから米国に移譲された時及び1946年のマニラ条約によりフィリピン第3共和国が独立した際に、フィリピンの領土とされた「島礁」を中国が占拠したことから、問題は極めて深刻である。
(3)もし中国が台湾問題で米国の意図を試そうとするならば、南シナ海で行ったのと同じ戦略を試みる可能性が高い。米国の台湾関係法は、台湾を台湾本島と澎湖諸島のみからなる狭義の台湾と定義している。これは、1950年1月にDean Acheson米国務長官が、米国が履行を約束した防衛境界線の外に韓国を放置したことで生じた力学を再現するものであり、この欠陥が朝鮮戦争を引き起こした。
(4) 米政権は台湾の防衛に関して戦略的曖昧性という姿勢を採っているが、金門島、馬祖列島、その他の島を除外することは、米国が台湾の領土に関して妥協することを示唆することになる。中国がアメリカの意図を試そうとする場合、台湾当局は東沙諸島に特に神経を尖らせることになる。もし、中国の習近平国家主席が台湾と西側諸国をさらに揺さぶろうとするならば、金門島と馬祖列島を奪取する行動に出るかもしれない。これらの島の多くは、中国本土の海岸からわずか5〜10海里しか離れておらず、人民解放軍にとっては遠く、地形的にも難しい他の台湾の島よりもはるかに接近し易い。
(5) こうした問題は、南シナ海だけではなく、エーゲ海でも、米国は同じような状況に直面している。トルコは中国と同様、修正主義国家であり、その独裁者は支配力を強化し、汚職や経済的失敗から目をそらすために外部への攻撃を利用しようとしている。中国の当局者がゼロから「九段線」を作り出したように、Recep Tayyip Erdogan大統領とその側近たちは、現在エーゲ海の半分を領有していると主張している。ジャーナリストや西側外交官の多くは、トルコによるギリシャ侵攻の脅威を誇張だと否定しているが、その否定は論点をすり替えた議論を根拠にしていることが多い。トルコの戦闘機や軍隊がアテネやギリシャで最も人口の多いエーゲ海の島々を爆撃したり、占領しようとしたりするとは誰も言っていない。むしろ危険なのは、トルコの特殊部隊がアガトニシ島、ファルマコニシ島など比較的人口の少ない小さな島を攻撃するかもしれないことである。
(6) ギリシャ軍の参謀総長Konstantinos Floros大将は、ギリシャは限定的な危機と大規模な戦争を区別しないと公言しているが、そのような論法は現実的ではないかもしれない。危険なことは、エーゲ海問題で西側諸国やNATOが、NATO加盟国同士の戦争よりも紛争の凍結や妥協案さえも好ましいと考えるとErdogan大統領が信じることである。実際、トルコはキプロスで入植者を使って人口動態を変えるという長期戦を追求し、外交官を説き伏せ、エーゲ海問題で賭けに出る価値があるとErdoganを納得させることができるかもしれない。
(7) また、問題は島嶼部だけではない。Anthony Blinken米国務長官は、けんか両成敗と対立するアゼルバイジャンとアルメニアの主張があたかも拮抗しているかのように見なし、公正にではなく、平等に扱うかのように行動することで、南コーカサスでの紛争を繰り返し悪化させている。Anthony Blinken氏の論法をアゼルバイジャンの革命家たちはBlinkenを弱者と見て、彼の発言はさらなる侵略への青信号とみなしている。おそらくIlham Aliyev大統領は、山頂、谷、村のいずれかを占拠するよう軍に命じるだろう。ターゲットは不明だが、そのような軍事行動で米国の意図が試されることが、もはや不可避である。米国の希望的観測は戦略ではなく、両論併記では抑止力にならない。修正主義者は、ドクトリンの弱点を探り、それを利用する。人口の少ない島や山頂でのサラミ・スライスは、台湾、ギリシャ、アルメニアなどの民主主義国家に対する軍事的侵略という次のステップを彷彿させる。ひいては国際ルールに基づく自由主義秩序に対する侵略でもある。
(8) 米国の中間選挙が終わった今、修正主義体制がもたらす課題について真剣に考え、戦略の穴を埋めるために動くべきときが来ている。米国は、台湾海峡だけでなく、エーゲ海やコーカサスにおける戦略のあいまいさに終止符を打つべきである。Blinkenは、米国が島や山頂への攻撃と首都攻撃に違いはないと考えていると述べるべきである。つまり、米国はハワイに関して妥協しないということである。ただ、台湾やギリシャに同じことを期待すべきではない。今こそ、民主主義国家に明確な傘を差し伸べるか、近隣の独裁国家からの脅威を緩和することができる質的な軍事的優位をそれぞれが確保する時である。
記事参照:The US Military’s Next Problem: “Salami-Slicing” Is Going Global

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)China’s Global Security Initiative: Xi's wedge in the U.S.-led order
https://asia.nikkei.com/Spotlight/Asia-Insight/China-s-Global-Security-Initiative-Xi-s-wedge-in-the-U.S.-led-order
NIKKEI Asia, November 1, 2022
 11月1日付のNIKKEI Asia電子版は、“China’s Global Security Initiative: Xi’s wedge in the U.S.-led order”と題する記事を掲載した。その中で、①北京の次の大きな計画は、他国に中国側につくよう圧力をかけ、ウクライナ戦争を正当化することである。②習近平は、作業報告に「グローバル・セキュリティ・イニシアティブ(以下、GSIと言う)」を初めて書き込み、前例のない3期目に入るに当たって重要なテーマを示唆したが、具体的な内容には乏しい。③これは、アジアにとって、歴史的体制または戦後の米国の同盟と提携のシステムから離れるものである。④中国政府は追求してきた安全保障関連の取り組みや関係の多くを、一つの傘の下で正式なものにすることを目指しているという。⑤中国政府は、グローバル・ガバナンス体制に対する不満が爆発寸前であることを利用し、広い支持を求めている。⑥中国の公式声明によると、ウルグアイの外相がGSIは自国の外交政策理念と「非常に一致している」と述べ、ニカラグアの外相も「参加したい」と述べている。⑦GSIの下で起こると見ている一つの傾向は、中国式の法執行とセキュリティ慣行の普及である。⑧中国は、経済、文化、社会、科学技術、サイバー・セキュリティ、環境、資源、核技術、海外権益など、あらゆるものを「包括的国家安全保障」の概念に含めている。⑨多くの国々は米中どちらかの味方をしなければならないと思っており、GSIは中国政府が自国の世界観に賛成するよう他国に求めることで、その圧力に拍車をかける可能性があるといった主張を展開している。

(2)PREVENTING WARS IS AS IMPORTANT AS WINNING THEM: LESSONS FROM PAST NAVAL STRATEGIES
https://warontherocks.com/2022/11/preventing-wars-is-as-important-as-winning-them-the-cooperative-strategy-for-21st-century-sea-power-fifteen-years-later/
War on the Rocks, November 2, 2022
By BJ Armstrong the principal associate of the Forum on Integrated Naval History and Seapower Studies
 2022年11月2日、米The Forum on Integrated Naval History and Seapower Studies研究主幹BJ Armstrong米海軍中佐は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" PREVENTING WARS IS AS IMPORTANT AS WINNING THEM: LESSONS FROM PAST NAVAL STRATEGIES "と題する論説を寄稿した。その中でArmstrong中佐は、米国の海洋戦略家の中には、米国は1980年代の海洋戦略の取組みをより明確に現代の海洋戦略に反映させる必要があると主張する者もいれば、今日の戦略はすでにそれを反映したものだと主張する者もいるとし、ソ連の支配的で潜在的な脅威が当時の海軍戦略構想の焦点であったことを考えれば、台頭する中国の存在が過去のソ連と同様に焦点を絞った取組みを米国に求めるのは論理的であるように思われるが、かつての敵対国の類似性に固執することは不十分だと指摘している。その理由としてArmstrong中佐は、2020年代の世界や今日の広義の "大国間の地政学的競争"と米ソ冷戦時代の世界は大きく異なっており、①今日では、中国をはじめとする米国の潜在的な敵は国際的な経済・外交システムに深く組み込まれていること、②戦争の準備だけに焦点を当てた戦略では不十分であること、③平時の秩序維持にのみ焦点を当てた戦略も賢明ではないこと、そして、④戦争に勝つことと同じくらい戦争を防ぐことが重要であることなどを主張している。

(3)A Tale of Two Strategies: Comparing the Biden and Trump National Security Strategies
https://www.lawfareblog.com/tale-two-strategies-comparing-biden-and-trump-national-security-strategies
Lawfare, November 4, 2022
By Saraphin Dhanani, the Legal Fellow at the Lawfare Institute
Tyler McBrien, the managing editor of Lawfare
 2022年11月4日、豪Lawfare Instituteの法学研究員Saraphin DhananiとLawfare編集者Tyler McBrienは、オーストラリアLawfare Instituteのブログに" A Tale of Two Strategies: Comparing the Biden and Trump National Security Strategies "と題する論説を寄稿した。その中でDhananiとMcBrienは、現在米国を取り巻く安全保障環境は慌ただしい状況となっており、ウクライナ問題のみならず、欧州のエネルギー危機、習近平の中国共産党総書記3期目就任、米国とサウジアラビアの関係悪化など、地政学的な危機は至るところでくすぶっていると指摘した上で、米Biden政権の新たな国家安全保障戦略(National Security Strategy:以下、NSSと言う)に関して、NSSを単独で読めば、時の政権の価値観や外交安全保障の優先順位がわかるが、過去のNSSと比較することで、より大きな知見が得られると述べている。そしてDhananiとMcBrienは、Biden政権のNSSとTrump政権のNSSを比較し、Trump政権のNSSは中国とロシアを同一視し、混同した取り扱いをしているが、Biden政権のNSSは中国とロシアが「異なる課題をもたらす」ことを明確にしており、米国の対応もそれに応じて変化させる必要があることを主張しているとして好意的に評する一方で、論説の最後では、ワシントンの古い格言には「政府関係者は誰もNSSを読んでいない」というものがあり、そして、どんなに綿密に練られた戦略も、文書作成者の責任とは無関係に、出来事によって覆されることがあると皮肉的に述べている。