海洋安全保障情報旬報 2023年1月11日-1月20日

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1月11日「NATOにおけるスウェーデン海軍:機会と問題点―ドイツ専門家論説」(Center for International Maritime Security, January 11, 2023)

 1月11日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、ドイツKiel UniversityのInstitute for Security Policy上席研究員Dr. Sebastian Brunsの“THE SWEDISH NAVY IN NATO: OPPORTUNITIES AND CHALLENGES”と題する論説を掲載し、Sebastian BrunsはスウェーデンのNATO加盟はまだ正式に決定していないが、スウェーデン海軍のNATO海軍への加入はバルト海、NATOの北翼側における戦力の強化だけでなく、500年に及びスウェーデン海軍の歴史に裏付けられたプロフェッショナリズムと海洋戦略の文化をNATOに移植し、NATO全体を強化するよう努める一方、NATOに蔓延する大陸国家的思考にはまり、海軍力を萎縮させないよう、NATO既加盟国が陥っている弊害に染まらないよう留意すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのウクライナとの戦争に起因するその重要な地政学的、戦略的、軍事的変化により、2022年は真の分水嶺の年として歴史に残る可能性がある。NATO加盟を申請するというスウェーデンの決定は、非同盟諸国としての長い伝統からの新たな出発を意味する。専門家は特に、スウェーデンとフィンランドがNATOにもたらす軍事能力に注目している。この記事では、スウェーデン海軍がもたらすもの、NATOがスウェーデン海軍から何を必要としているか、そしていくつかの重複と機会が存在する事項について考察を提示する。
(2) スウェーデン海軍は今年500周年を迎えた。したがって、1522年に設立され、海洋国家として非常に長い伝統を全面に押し出していった。シーパワーの地位は、海軍の規模だけでなく、その国の人々の海洋意識にも依存している。スウェーデン海軍は、EU、NATO、あるいは国連の元で国際的に活動するドイツ海軍の例に目を向けるかもしれない。
(3) スウェーデンの豊かな海軍の伝統は、NATOを再び海軍からの視点を中心に据えるのに役立つ可能性がある。NATOは、アフガニスタンでの20年間の陸軍を中心とした対反乱軍、テロ対策、国家建設作戦から始まり、陸軍の目線から考える将校団と政治戦略集団を生み出してきた。ロシアの2014年のクリミア併合とウクライナ東部への侵攻は、NATOの考え方を劇的に変え始めた。ロシアの海中における活動、北極海、バルト海、黒海、地中海への焦点、インド太平洋の裏庭やそれ以降での中国海軍のますます対立的な姿勢など、新時代の課題が持つ海洋的要素を考えると、NATOは加盟国の安全保障の海軍という側面に焦点を当てる時が来た。
(4) スウェーデン海軍は、海上における国防と領土防衛、および海上輸送路の保護という2つの中核的な海軍任務について幅広い経験を有している。さらに、スウェーデン海軍は、2010年のEUの海賊対策ミッションATALANTAや2006年から2007年にかけてのUnited Nations Interim Force in Lebanon (国連暫定レバノン駐留軍:UNIFIL)海上任務部隊などの多国間海上作戦の経験もある。NATO加盟国には、海軍の専門知識をほとんど、あるいはまったく有しない旧ワルシャワ条約機構加盟国が含まれている。海軍の観点から見ると、NATOは現在、米国、英国、フランスの大海軍によって支配されている。米英海軍は、NATOのバルト諸国よりもバルト海での海軍の活性化を推進してきた。これは驚くことではなく、可能であれば、沿岸国がこれに追随できるよう力を与えるべきである。さらに、イタリア、スペイン、フランス、オランダ、デンマークなど米英海軍に比べると小規模とはいえ有力な海軍国が同盟の一部であり、NATOの海上という側面と前線に再び焦点を合わせるのに役立つ。シーパワーの専門家Geoffrey Tillによると、スウェーデン海軍は、地域における戦力投射を任務とする外洋海軍と地域の沿岸防衛を担任する有力な海軍の中間に位置すると考えられている。海軍を格付けするような試みは慎重に行われるべきだが、格付けのような概念的な取り組みは海軍に対する意欲の程度と、共同作戦においてNATOの作戦能力に加わりうる可能性を示すものである。同時に、オーストリア海軍のJeremy Stöhsが指摘したように、西側の海軍は、加速するハイエンド技術の探求とこのために中小規模の海軍が負担する政治的、運用的、財政的対価において真のジレンマに直面している。
(5) 海軍を評価するための別の取り組みは、1995年に海軍史家のJon SumidaとDavid Rosenberによって提供され、Men (and Women)、Machinery、Management、Money、Manufacturingの頭文字から「Five M」として適切にグループ化されている。2000年、ドイツ海軍史家のWilfried Stallmannは6番目の「M」としてMentality、つまり海軍の戦略的文化を追加した。より現代的で、おそらくより定量化が可能な取り組みは、艦隊の規模と特性、その地理的範囲、その機能と能力、高品位技術の利用、その評価、そしてそれらが提供する技術的卓越性を評価することになるだろう。これらの側面の詳細な議論はこの記事の範囲を超えるが、スウェーデンがNATOとその海軍にもたらす可能性のある技術的卓越性は、詳しく調べる価値がある。
(6) スウェーデンの海軍力による貢献は、小型戦闘艦艇、水陸両用艇、今後の潜水艦および情報収集艦艇を含む4つの注目すべき艦艇、航空機に及んでいる。ヴィスビュー級コルベットは、スウェーデンの険しい海岸線に面する海域に最適化された有能な艦である。ヴィスビュー級コルベットのレーダー反射面積は小さく、敵に探知され難い。彼らは、バルト海とNATOの北側の脇腹に当たる海域に常時展開し、行動するNATO海軍部隊に新たな兵力を提供し、NATOの沿海域で必要とされてきた信頼性を与えることになる。NATO北の翼側ではフリゲートやコルベットが不足しており、ヴィスビュー級コルベットはそのような中型艦艇の運用経験のない他のバルト海沿岸諸国にとって興味深いものになる可能性がある。将来の後継艦にも継承されることが期待されているヴィスビュー級コルベットの非常に現代的な設計は、NATO加盟国の造船所が大量生産できる技術的優位性を示すのに役立つことになる。海軍は、しばしば「国民の目に触れない海域で行動しており、このため国民に意識されない」が、艦艇建造といった長期の投資に対する重要な支援を生み出していることを国民に印象付ける必要がある。
(7) スウェーデンの水陸両用戦艦艇、特にドイツなどのバルト海沿岸諸国で関心を集めているCB-90高速ボートは、NATOとその北の翼側へのもう一つの価値のある貢献である。2022年以前のロシア海軍の訓練であれ、Joint Expeditionary Force(統合遠征軍:JEF)の一部として行動する連合軍の水陸両用部隊、あるいは2022年の夏に米海軍の「キアサージ」水陸両用戦即応群による繰り返しの訪問を通じてであれ、水陸両用戦がバルト海方面では大きな注目を集めている。揚陸強襲艦は水陸両用戦のハイエンドを象徴しているが、バルト海沿岸国とNATOは小型艇の操法を訓練し、海からの攻撃的および防御的に小型艇を運用すべきである。
(8) 最後にスウェーデン海軍の戦列に加わっていない2つの艦艇に付いて触れておきたい。第1に、次世代の野心的な潜水艦計画であるスウェーデンのA-26潜水艦は、NATOが好む通常型潜水艦の候補になる可能性がある。ドイツのThyssenKrupp MarineSystemの空気非依存型潜水艦Type212A / CDは依然として挑戦者であり、オランダなどは海軍力の再生のための適切な潜水艦を探している。Kockums社は25年以上にわたって国産の潜水艦を建造していません。スウェーデンの潜水艦は、2005年から2007年までスウェーデン潜水艦「ゴットランド」を貸与したこともあり、米国で高い地位を維持し続けています。まだその実行可能性を証明しなければならないもう一つの資産は、パンデミックの残響とこのスウェーデンとポーランドの合弁事業の主要な問題の中で現在2年遅れている情報収集艦「アルテミス」である。
(9) NATO海軍との豊富な提携により、スウェーデンがNATO海軍の一部として行動し始めるのに適した立ち位置にある。NATO海軍は、個別の部隊あるいは個艦として展開するのか、国家として配備するのか、輪番制を採るStanding NATO Maritime Groups(常設北大西洋条約機構海洋群:以下、SNMGと言う)の一部として行動するのかにかかわらずバルト海で重要な存在である。NATOは、北ヨーロッパの作戦地域でSNMGのうちの2群、より大型艦艇からなる第1常設北大西洋条約機構海洋群と常設北大西洋条約機構対機雷戦群により小型の艦艇と母艦を配置している
(10) スウェーデン海軍は、卓越して作戦能力を獲得し、正式にNATOに加盟すれば、統合の正式な正当性を獲得することになり、1隻以上の艦艇を常設の海洋群に派遣することができる。同時に、年1回実施されるバルチック・オペレーションズ(Baltic Operations)やノーザン・コースト(Northern Coasts )などの演習では、統合作戦、共同作戦について他のNATO海軍と演練する十分な機会を得ることができる。NATOは、スウェーデン海軍にも定期的に、海軍の展開に関する説明を求めることになる。バルト海が最前線であることを考えれば、スウェーデンにとって驚くべきことではなく、他のNATO海軍と協力するためにあらゆる機会を利用する必要がある。海軍によって海洋が軍事的、警察的、外交的に利用されることを念頭に置いて、上述したこれまでの経緯のいくつかに対処するための海軍または海洋戦略を生み出す必要がある。
(11) 2011年に発表された「NATO海洋戦略」が書き直されるかどうかは依然として不明であり、その必要性は公開の会議で繰り返し取り上げられてきた。トップダウンの努力不在のため、ボトムアップの戦略的努力はNATO加盟国の大海軍主義者から非常に歓迎されるだろう。これには、しばしば指摘される「シー・ブラインドネス」、海洋に対する認識の欠如に対抗するために海軍の問題を研究、研究、助言、批評、説明する必要があることを考えると、軍学複合体への献身的な投資も含まれるべきである。
(12) NATOは、少なくともバルト海と北の翼側に沿って、必ずしも指揮関係ではなく、協力協定と意見が一致する考え方を模索している。バルト海では後者の分野で多くの活動があり、スウェーデン軍は、ヨーロッパと北米周辺におけるNATOの任務を遂行するよう求められている可能性が高く、配員と作戦所要の両方に対応するため拡大されている。近年のスウェーデンとフィンランドは、高度に海軍を統合し、NATOの2つの小規模の軍隊の真の責任分担のための独自の機会を提供し、有意義な方法で2014年以前の同盟国の共同施設利用と施設の共有構想を復活させる機会を提供するかもしれない。スウェーデンとフィンランドがノルウェーに加盟したことで、バルト海が「NATOの湖」であるかどうかという議論が再浮上する可能性がある。バルト海の専門家Julian Pawlakは「バルト海を『NATOの湖』とすることは、多くの点で致命的である。この表現の使用は、バルト海が多かれ少なかれ内海としてNATOによってほとんど政治的にではあるが、排他的に扱われる可能性があることを示唆している。さらに、完全な制海権の確保という誤謬につながる。完全な制海権というものは存在しない」。と的確に述べている。海の戦略家は、領土を軍が支配するように領海を決して支配できないことを知っている。バルト海沿岸国の海軍が海を閉鎖したり、封鎖したりしないことを提言する。そしてドイツのような国々は、バルト海がより激しい係争中の海域、あるいは世界中の他の海域と密接に連接しているという考えを持つに至る長い道のりを歩んできた。法的および語源的な懸念はさておき、バルト海沿岸諸国の海軍は依然としてシー・コントロールと紛争のあらゆる領域において海軍作戦を遂行しなければならない。
(13) スウェーデン海軍は同盟において重要な役割を果たすことができ、また果たさなければならず、そのプロフェッショナリズムと海洋戦略の文化をNATOに注入し、NATO全体を強化できるように2国間および多国間の計画を積極的に追求できる提携者であることを証明できるよう奮い立たなければならない。最後に、スウェーデンはまた、拡散した大陸国家の議論を支持して、海軍力を萎縮させることがないよう、間もなく同盟国となる仲間が行ったのと同じ過ちを犯すことがないよう、十分に忠告させるべきである。国防および同盟の防衛と国際危機管理の釣り合いを取ることは、スウェーデン海軍の制服を着ている人々にとって、今日の重要な課題であり続けている。
記事参照:THE SWEDISH NAVY IN NATO: OPPORTUNITIES AND CHALLENGES

1月14日「QUADを超えて:インド太平洋における安全保障協力の取り組みの急成長―インド海洋問題専門家論説」(The Diplomat, January 14, 2023)

 1月14日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのシンクタンクObserver Research FoundationのRajeswari Pillai Rajagopalan博士の “Beyond the Quad: Booming Security Cooperation Efforts in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでRajeswari Pillai Rajagopalanは、QUADの各国はインド太平洋における安全保障協力について2国間協定やその他の協定を策定しているだけでなく、この地域に関心を持っているフランスや英国などヨーロッパから他の国々も参加させようとしており、これらの他の協定が安全保障協力について広範かつ深くなるにつれて、グループとしてのQUADが取り残される危険性があるとして要旨以下のように述べている。
(1) QUADの各国は、インド太平洋における安全保障協力についてより真剣になっている。彼らは2国間協定やその他の協定を策定しているだけでなく、この地域に関心を持っているフランスや英国など、ヨーロッパから他の国々も参加させようとしている。それは、QUAD自体に取って代わるようには考えられてはいないが、QUADを補完するように考えられている。それにもかかわらず、これらの他の協定が安全保障協力に焦点を当てる上でより広範かつ深くなるにつれて、グループとしてのQUADが取り残される危険性がある。
(2) 1月11日、日本と英国は、互いの国への部隊の展開を容易にする日英部隊間協力円滑化協定に署名した。この協定は「日英両国が艦船の寄港や共同演習といった協力活動を実施する際の手続きが簡素化され、日英両国の安全保障と防衛協力をいっそう活発化する」ことを目的としていると外務省は発表しており、英国政府はこの合意は「インド太平洋の安全保障に対する英国の関与を強固にし、両軍がより大規模で複雑な軍事演習と展開を計画および実施することを可能にする」と述べている。日本の声明には、ロシアのウクライナ侵略と(中国の)「東シナ海と南シナ海で力によって一方的に現状を変更しようとする試み」によって国際秩序が挑戦されている現在の国際安全保障状況に言及している。外務省によると、こうした動きの中で日本と英国は「自由で開かれたインド太平洋」の実現というより広い目標を掲げ、安全保障・防衛協力を「新たな高み」へと強化している。Rishi Sunak英首相は、「競争が激化する世界では、民主主義社会が肩を並べて立ち続け、現代の前例のない世界的な課題を乗り越えることがこれまで以上に重要になっている」と述べている。
(3) 日英部隊間協力円滑化協定は、2022年12月に日英伊間で署名されたGlobal Combat Air Programme(グローバル戦闘航空プログラム:GCAP)を背景にしている。日本と英国はまた、サイバー抗堪性、オンラインの安全性、半導体における2国間協力を強化するために、新たな2国間のデジタルパートナーシップを開始した。中国からの脅威に直面していることを考えると、日本は安全保障の強化に特に積極的に取り組んできた。日英に関する質問に対して、中国外交部の汪文斌報道官は、「中国はすべての国の協力パートナーであり、誰にも挑戦しない」と述べたうえで、日英防衛協定は「架空の敵を標的にすべきではなく、アジア太平洋地域において陣営対立という時代遅れの考え方を再現するべきではない」と付け加えている。 
(4) 1月12日に開催された日米安全保障諮問委員会、いわゆる2+2会合は、日本の安全保障への取り組みの変化を示すもう1つの重要な指標である。日米双方は、強引な中国、ロシアの国連加盟国への侵攻、北朝鮮の核兵器および運搬手段の追求の観点から、両国関係の重要性を改めて表明している。日米の共同声明は日米が「抑止力を強化し、拡大する地域的及び世界的な安全保障上の課題に対処するより有能で統合的で機敏な同盟を構築するために2国間近代化構想を推進する」ことに合意したと述べている。
(5) 統合された防空およびミサイル防衛、水陸両用戦、情報・監視・偵察・ターゲッティング(ISRT)、兵站および輸送等多く分野における能力構築にも焦点が当てられている。また、日米は「米国と緊密に連携しつつ、日本の反撃能力を効果的に運用する」ための協力を強化する。宇宙、サイバー、情報安全を含む新たな重要な技術は「宇宙領域把握における協力の強化などを通じて、機能保証、相互運用性および運用協力を強化する」ことを目標にすることが、共同声明で言及されている。また、日米両国の外相および国防相は、「日米同盟は国際的な法に基づく秩序を支える共通の価値と規範に対する確固とした支持である。世界の場所に関係なく、力による一方的な現状変更に反対するという誓約を新たにした」と繰り返し述べている。
(6) 2022年1月6日にQUAD参加国である日本とオーストラリアは、「日豪円滑化協定」を促進する英国と同様の協定に署名した。オーストラリアのMorrison首相(当時)は、協定に署名する際に「日本はアジアで最も緊密な提携国である」と述べたと報道されている。さらに、日本とオーストラリアは、軍事、情報、宇宙およびサイバーセキュリティに関する協力を包摂する新しい2国間安全保障協定に署名した。その新しい協定は、2007年に署名された安全保障協力に関する共同宣言の更新版である。オーストラリア、英国、米国の間のAUKUS条約は、QUADの2ヵ国が関与するインド太平洋地域におけるもう一つの重要な新たな安全保障協定である。AUKUSは、もちろん、原子力潜水艦を取得するためのオーストラリアの計画に関連しているため、他の協定よりもはるかに重要であった。
(7) インドは他国との防衛・安全保障体制も強化している。たとえば、QUAD参加国の日米豪、フランス、シンガポール、韓国など、多くの国と軍事兵站および相互協定に署名している。しかし、これらは言及された他のものほど深い安全保障協力協定を表していないようである。インドは提携国との安全保障協力を深めるために努力しているが、インド政府は、QUADや他の2国間安全保障協定が、インド太平洋で生まれたこれらの新しい協定によって急速に追い越されていることに気付くかもしれない。
記事参照:Beyond the Quad: Booming Security Cooperation Efforts in the Indo-Pacific

1月14日「仕上げに入ったオーストラリアとパプアニューギニアの新安保条約の交渉―Diplomat誌報道」(The Diplomat, January 14, 2023)

 1月14日付のデジタル誌The Diplomatは、AP通信社配信の“Australia Is Finalizing a New Security Pact With Papua New Guinea”と題する記事を掲載し、オーストラリアとパプアニューギニアの新しい安全保障条約の交渉が仕上げの段階に入ったことについて、要旨以下のよう報じている。
(1) オーストラリアとその隣接国パプアニューギニアの首脳たちは、1月12日に新しい安全保障条約が仕上げの段階に入ったと発表した。これは、この地域での中国の高まる影響力に対する挑戦となる動きである。2022年、中国は近隣のソロモン諸島と独自の安全保障条約を締結し、これが南太平洋地域での軍備増強につながる可能性があるという注意を呼び掛けている。オーストラリアとパプアニューギニアは、計画された新条約の詳細を発表していないが、オーストラリアのAnthony Albanese首相は、4月に交渉が終了し、6月に条約が調印されるとの見通しを示した。
(2) Anthony Albanese首相は、この条約は、司法制度の強化や法秩序の課題の解決を含む、
パプアニューギニアの所要に対応するものであると述べており、これに対し、パプアニューギニアのJames Marape首相はAlbaneseを歓迎し、両首脳は1月12日以降、「警察、軍事交流を含む法・司法分野への支援」を含む関係の微調整のために会談する予定だと述べている。「パプアニューギニアは、インド・太平洋の合流地点のちょうど中心に位置しているため、パプアニューギニアの課題を進展させずにインド・太平洋を語ることはできない。パプアニューギニアが、より安全なインド太平洋地域に関与するためには、パプアニューギニア自身が経済的に強くなる必要がある」とJames Marape首相は語っている。Anthony Albanese首相は、「コーヒーやカカオから漁業や観光までの、あらゆる分野で」2国間の貿易を強化し、そして、港、道路、デジタル基幹施設の整備を含む、国造りの計画に関して、パプアニューギニアと協力したいと述べており、1月12日に両首脳が会談した後、Anthony Albanese首相は記者団に対し、条約に関する話し合いの中心は、防衛協力の強化と人員の共同訓練、そして共同作戦の可能性であったと語っている。
(3) James Marape首相によれば、話し合いの内容はすべてオーストラリアとの関係につい
であって、「中国や他の国については一切話し合っていない。」。2022年5月のAnthony Albanese首相の選挙勝利以来、豪中間の緊迫した関係は若干和らいでいる。2022年12月、長い間中断していた外交・戦略問題に関する中豪協議の新ラウンドのために、オーストラリアのPenny Wong外相は、北京で王毅外相と会談した。
記事参照:Australia Is Finalizing a New Security Pact With Papua New Guinea

1月16日「情報に関するQUADの意味ある協力に向けて―米東南アジア専門家論説」(The Interpreter, January 16, 2023)

 1月16日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、米Stanford UniversityのWalter H Shorenstein Asia-Pacific Research Center研究員Arzan Taraporeの“Towards meaningful Quad cooperation on intelligence”と題する論説を掲載し、そこでArzan TaraporeはQUADの協力関係をより強化するために、情報に関する、とりわけAI開発に関する協力が今後重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) QUADについて、定期的に首脳会談が実施されるようになるなど、近年その重要性が増している。インド太平洋の諸問題を効果的に解決する機関がないため、QUADがそうした役割を担い、協議事項を拡大させている。その上でもう1点、取り組むべき課題がある。それは情報に関する協力であり、とりわけAIに関する問題を解決する手法の開発と事業の管理に力を入れるべきであろう。
(2) 情報機関は秘密を維持するものであり、その共有には不安が伴う。その点、米豪はFive Eyesの加盟国として深い信頼関係があり、日米も同盟国として信頼関係を構築している。他方、インドはQUADの中では協力関係が浅い。
(3) AIという先端技術はまだ萌芽期のため、その進化は安全保障に重大な影響を与えるであろう。そのためAIに関する多国間協力はより困難だろうが、そうであるからこそ協力が必要でもある。AIにはあらゆる情報機能を変容させる可能性がある。そして、AIに関してはインドと日本に一日の長がある。両国の資源が共有されれば、米国とその同盟国の情報収集・処理能力に大きな貢献がなされるであろう。防諜の危険性は大きいが、調整可能と思われる。AIに関する連携では、手法やデータを共有する必要があるが、機密性の高いものを共有する必要はないだろう。
(4) AIの手法の大部分は民間部門によって開発される。たとえばCutting Edge AIという新興企業はテレビと同等以上のフレームレートで動画を録音、再生する対象検知システムの開発者で、米国政府とも契約を結んでいる。同様にインドの114aiという企業も米国政府・防衛産業と契約を締結している。AIの手法等に関する協力において、既存の機密化の規則を再考する必要はなく、必要なのは輸出管理であろう。
(5) 情報の評価の共有は容易であり、したがって、こうした形式の情報協力が魅力的に見えるが、その効果は限定的である。他方、QUADの参加国がAIの手法と事業管理を共有できれば、その効果はどんどん波及していくだろう。理想は、共通の標準と相互運用性の高いシステムを開発することである。これらにより、既存のQUADの政策構想が前進する。たとえば、QUADは人道支援・災害救難に力を入れているが、緊急対応グループをどう配備するかなどについて、AIはきわめて効果的であると思われる。
(6) AIに関する協力によって、QUADは軍事面での協調を深めることができる。QUADの参加国はすでに軍事協力を進めている。そのうえで、インド太平洋の海路に関する共通状況図の作成と共有は、そうした協力の度合いを深めるだろう。日米はすでに東シナ海でそうした計画を開始している。ただし、こうした試みは抑止力の向上につながるだろうが、AI協力がそうした軍事的役割を担うことは、QUADの指導者にとっては重大な政治的決断であろう。
記事参照:Towards meaningful Quad cooperation on intelligence

1月17日「フィリピン、台湾有事における中立は困難―フィリピン専門家論説」(FULCRUM, January 17, 2023)

 1月17日付のシンガポールISEAS – Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUMは、フィリピンシンクタンクThe Asia-Pacific Pathways to Progress研究員Aaron Jed Rabenaの“Bound to Comply: the Philippines’ One-China Policy and Mutual Defense Treaty with the U.S.”と題する論説を掲載し、Aaron Jed Rabenaは台湾海峡で敵対行為が発生した場合、フィリピンは米国との同盟条約に縛られて選択の余地がないとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンMarcos Jr.大統領の1月3日~5日にかけての訪中は、中国と建設的な関係構築と、釣り合いの取れた多様なフィリピン外交政策の展開という大統領の意図を示したものである。しかしながら、米中関係が悪化し、台湾海峡の緊張が高まる中、Biden米大統領が台湾防衛に対する戦略的明確さを鮮明にするにつれ、台湾を巡る米中紛争に巻き込まれる危険性がフィリピン政府にとっての重要な政策課題になってきた。Marcos Jr.現大統領を含む歴代のフィリピン大統領は、1975年の中比関係の正常化に関する共同声明に明記された1つの中国政策を厳守してきた。
(2) 台湾を巡って米中紛争が生起した場合、1つの中国政策に対するフィリピン政府の誓約の法的立場は、1951年の米比相互防衛条約(以下、MDTと言う)に基づく義務に照らして試練に晒されるであろう。MDTは、「外部からの武力攻撃」と「潜在的な侵略者」に対する「一体感」、「共通の決意」そして「集団防衛」を強調しているが、太平洋におけるその適用の具体的な地理的範囲については曖昧である。フィリピンは主に南シナ海紛争におけるMDTの適用を考えているが、米国は台湾有事においてMDT第4条を発動することができる。第4条は、各締約国が「太平洋地域におけるいずれか一方の締約国に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定している。「憲法上の手続き」に関しては、1987年のフィリピン憲法は、議会に「戦争状態の存在」を宣言する権限を付与しているが、かかる状況下、あるいは別の国家緊急事態の下でのみ、大統領は「宣言された国家政策を実行する」ために必要な権限を行使することを法律によって許可される。そのため、議会の動向は、重要な要素になる。
(3) フィリピン政府はまた、米軍がその施設を利用し、使用できる場所と方法に対して主権的権限を行使することで、巻き込まれの危険性を軽減することができる。「防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)」の前文は、「施設と地域への米国のアクセスとその使用は、フィリピンの招請によるもので、フィリピン憲法とフィリピンの法律を完全に尊重する」と規定している。それでも、これまでの歴史は、米国がMDTを正式に発動しなくても、フィリピンが台湾を巡る戦争に関与する可能性があることを示唆している。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタンとイラクでの米国の戦争に見られたように、フィリピン政府は、地上部隊を派遣したり、米軍作戦のための後方支援を提供したりすることができる。
(4) 別の言い方をすれば、フィリピン政府は相反する要請に束縛されている。即ち、一方では、南シナ海で中国と紛争が生起した場合、米政府から見放されることを恐れている。フィリピン政府は、米国の同盟に対する誓約の明確さと即時性を繰り返し要求してきた。このために、フィリピン政府は、域内における米軍の展開の安定を確保するため、米政府との間で1998年に「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」を、2014年にはEDCAを締結した。他方で、フィリピンの安全保障機関は、国軍が台湾を巡る中米紛争に巻き込まれることを益々恐れている。このことは、2022年8月に当時のPelosi米下院議長の訪台で現実となった。
(5) 現時点では、少なくとも運用上の観点から、巻き込まれ危険性が高まっている。Marcos Jr.大統領は就任以来、米政府との安全保障関係を強化するための措置を取ってきた。米比両国は、南シナ海における共同哨戒活動を検討し、フィリピン国内各地での基地の基幹施設強化を通じてEDCAの実施を加速させることに合意した。両国はまた、危機的状況への迅速な対応を強化するために、台湾に近い北部のカガヤン省を含む、米軍の利用が可能な基地施設の追加を検討している。さらに、両国は合同演習に参加する部隊の数を倍増することに合意するとともに、2023年には2国間防衛活動の数を大幅に増やすことも計画している。こうした措置がとられた時宜を考えれば、中国政府はこれらのフィリピンの動きを1つの中国原則を蔑ろにし、有事に備えた米軍の事前配備を可能にするために、米国に肩入れしていると見なす可能性がある。
(6) フィリピンが台湾海峡紛争で米軍に基地利用を提供すれば、フィリピン政府は確実に中国の制裁に直面するであろう。中国はまた、南シナ海で強硬な対応に出ることもできるし、その弾道ミサイルは米国の戦闘作戦遂行を可能にする国々を標的にすることもあり得る。しかし、南シナ海の緊張が拡大するのと同時に、台湾海峡での緊張も高まれば、フィリピン政府にとって、米政府と戦略的に連携し、米軍に便宜を供与する誘因が高まろう。フィリピンが台湾有事に如何に対応するかは、単なる法的な問題ではなく、重大な国家安全保障上の課題である。台湾には約20万人のフィリピン人労働者がおり、台湾有事の最中に在台自国民を本国に送還することは、台湾国民の大規模な避難とも相まって大変な事態となろう。
(7) フィリピン政府が台湾海峡紛争への巻き込まれの危険性を回避できたとしても、その重大な地政学的な影響から逃れることはできない。中国が台湾の武力統一に成功すれば、中国は、フィリピン北部に近接し、第1列島線を突破し易くなるであろう。中国による台湾占拠は、南シナ海に対する中国の戦力投射能力も強化することになろう。このことは、結果的にフィリピンの海洋と安全保障利益に大きな影響を与えるであろう。フィリピンが台湾に地理的に近いこと、米国の条約同盟国としての地位、そして南シナ海での利害関係を考えれば、台湾有事において中立でありたいというフィリピン政府の願望には、困難なものがあろう。
記事参照:Bound to Comply: the Philippines’ One-China Policy and Mutual Defense Treaty with the U.S.

1月17日「中国と東南アジア諸国の海洋保護への協力が、如何にして地域の緊張を緩和するか―米、ベトナム専門家論説)」(South China Morning Post, January 17, 2023)

 1月17日付の香港英字紙South China Morning Post電子版は、米Johns Hopkins Universityの Foreign Policy Institute上席研究員James BortonとDiplomatic Academy of Vietnam研究員 Vu Hai Dang の‶How cooperation on marine protection between China and Southeast Asian nations can reduce regional tensions″と題する論説を掲載し、両名は海洋保護のための中国と東南アジア諸国との協力が、地域の平和構築にもつながるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋保護区MPA(Marine Protected Area、以下MPAと言う)は、違法漁業や海洋生物の生息地の破壊など、この地域の海が直面している多くの脅威に対する解決策を与えてくれる。南シナ海で領有権を主張する国々が相互利益のために協力できる脅迫的でない方法でもある。東南アジア諸国と中国は、海の健全性を守るMPAを受け入れている。科学的にも明らかなように、海洋生物が生息できる避難場所を作ることで、より多くの魚が得られるようになる。深刻な環境問題に直面する中、2030年までに海洋領域の30%を保護することを約束する政府が増えている。これは、地球上で最も生物学的に多様なサンゴ礁がある東南アジアで、特に重要なことである。
(2) 海洋生態系は複雑でダイナミックであるが、ハワイ最大のMPAが、メバチマグロとキハダマグロという2つの回遊性種の増加を支えていることが、学術誌『サイエンス』で最近の研究として確認されている。これまで、MPAが回遊魚の避難場所となる可能性は疑問視されていたので、これは重要なことである。南シナ海の漁業が破綻している今、MPAは領海等を主張する国々にとって脅威を与えない安全策となる。
(3) 中国は、開発から海を守るための対策の緊急性を示す「生態系保護のレッドライン」を割った現状が危険なことを認識している。中国は過去20年間に広大な面積のマングローブと、サンゴ礁の80%以上を失った。急激な環境変化と未曾有の経済発展の中、中国は東南アジア諸国と手を組んでMPA の整備を進めている。開発禁止区域内では、沿岸の生態系の保護と回復が優先される。
(4) Marine Conservation Instituteによると、世界の海のわずか3.6%しか、MPAで保護されていない。その内2.4%は厳しい禁漁区となっている。東南アジアでは、資源不足によりMPAの規模や数、管理能力が制限されるなど多くの課題がある。SDG Plusによると、MPA 設置の課題として、保護すべき海域の優先順位の低さ、保護措置の不適切さ、先進国によるMPA設置の偏り、禁漁区設定による地域社会の収入損失などが挙げられている。
(5) MPAの重要な役割として、生物多様性の保護に貢献するだけでなく平和と協力の促進が挙げられる。特に国境を越えたMPAや平和公園は、国境紛争の解決、武力紛争時やその後の平和の確保・維持、近隣諸国間の安定的・協力的な関係の促進にもつながるものである。南シナ海のような複雑な海洋紛争を抱える海域では、海洋平和公園を構成要素とするMPAの地域ネットワークを構築することで、緊張を緩和し、領有権主張者間の協力を促進する可能性がある。政治的な観点からも、紛争地域のMPAにおける協力は、他の問題よりも受け入れられ易いかもしれない。南シナ海に新たなMPAを設置することで、海洋科学協力計画から派生する政策の進歩があり、その恩恵を受けられる。
(6) 第2段階では、中国や東南アジアの沿岸国も参加し、南シナ海を拠点としたMPA網により多くのデータを取得することが期待されている。これらの計画は、国連海洋法条約第242条(平和目的の海洋科学調査における国際協力の促進)に準拠する好例と言える。地域的な海洋科学研究協力にはまだ多くの障害があるが、ネットワーク化されたMPAは、平和構築と将来の世代のための国際親善、そして漁業を救済する可能性がある。
記事参照:https://www.scmp.com/comment/opinion/asia/article/3206885/how-cooperation-marine-protection-between-china-and-southeast-asian-nations-can-reduce-regional

1月18日「ロシアの北極海航路の輸送量の状況―ノルウェー紙報道」(High North News, January 18, 2023)

 1月18日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWS電子版は、“Russia’s Northern Sea Route Sees More Traffic Despite War and Sanctions”と題する記事を掲載し、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、国際海運会社がロシアの北極海航路を敬遠したものの、ロシア企業によって輸送量は増加し、今後もさらに増加する見込みであるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 北極海航路の石油・ガス輸送は衰えることなく続いている。ロシアの北極海航路の貨物量は、2022年に公式目標の3,200万トンを200万トン上回った。これは2021年と比較して96万6千トンという小幅な増加を示している。ロシアの北極圏からヨーロッパやアジアへの石油やガスの配送を中心とした目的地輸送は過去最高レベルに達したが、制裁やウクライナ戦争の影響で国際海運会社がこの航路を敬遠したため、運送は廃れた。過去10年間この航路の常連で、多い年には10数隻の船を送っていた中国の海運会社である中国遠洋海運集団有限公司(China COSCO Shipping Corporation Limited)でさえ、2023年は北極海への船舶派遣を見送った。「外部からの影響にもかかわらず、昨年を通じて北極海航路でのロシアの貨物輸送量が増加したのは・・・ロシア企業のおかげである」とロシアの原子力企業RosatomのVyacheslav Ruksha副会長は説明している。Rosatomはロシアの原子力砕氷船団を運営し、この航路の管理も担当している。
(2) 2022年、ロシアの天然ガス生産会社NovatekのYamal LNGプラントが過去最高の生産量を記録し、この航路のLNG(液化天然ガス)輸送は新たな高みに到達した。LNGとガス・コンデンセートが貨物の2,050万トンを占め、次いで石油と石油製品が722万トンとなった。石炭が29万5千トン、鉄鉱石が4万3500トンを占め、一般貨物は425万トンを占めた。
(3) 2024年は、ロシアの国営石油会社RosneftのVostok Oil計画の建設により、さらに貨物量が増えることになる。Rosatomによると、この計画の建設段階において、タイミル半島の現場に50万トン以上の建設資材が搬入される予定である。ロシア政府は、1月16日に開催された閣議で、北極海航路沿いの新規開発のために約40億ルーブル(約6,000万ドル)の資金を割り当てた。この資金の一部は、北極海航路を航行する船舶が航路上の氷の状況について即事に情報を得ることができる新しい氷の監視システムに充てられる予定である。追加の資金は、最近発表されたVostok Oil計画を支援するために建設される新しいセヴェル湾港の準備として、エニセイ川河口の輸送航路の深化にも充てられる予定である。Rosneftは、2030年までに最大1億トンの石油製品を出荷する世界最大級の石油積み下ろしターミナルを湾頭に建設することを目標としている。
(4) 極東ロシアのズヴェズダ造船所では、Arc7という上級の耐氷能力(ice-class)のタンカーを10隻受注しており、計画の合計では、タイミル半島との石油のピストン輸送に、耐氷能力の異なる船舶が最大50隻必要となる予定である。2017年に韓国の現代重工業と締結した技術支援契約は、ロシアのウクライナ侵攻と制裁体制を受けて2022年5月に現代重工業が終了しており、ズヴェズダが100隻以上の船舶を含む、大量の注文控え元帳に沿ってどれだけ迅速に引き渡しができるかが疑問視されている。ズヴェズダ造船所は未だ建設中で、一部しか稼働していない。最初の7年間で、同造船所はわずか6隻しか引き渡していない。
記事参照:Russia’s Northern Sea Route Sees More Traffic Despite War and Sanctions

1月18日「米国は台湾への戦略を明確にするべき―米専門家論説」(Foreign Policy, January 18, 2023)

 1月18日付の米政策・外交関連オンライン紙Foreign Policyは、米シンクタンクRAND Corporationの政治学者Raymond Kuoの” 'Strategic Ambiguity' May Have U.S. and Taiwan Trapped in a Prisoner's Dilemma”と題する論説を掲載し、ここでRaymond Kuoは米国が戦略的あいまいさを止めて、明確にすることで、台湾の防衛力は向上し、戦争の危険性を下げ、中国を封じ込めることになり、米国の利益は向上するとして、要旨以下のように述べている。
(1) 戦略的あいまいさとは、一般に米国が戦争に介入するかどうかについて、中国政府と台湾政府に意図的に不確実さを作り出すことと理解されている。これによって二重の抑止力が生まれる。米国の介入という脅威が中国の侵略を防ぎ、米国に放棄される恐怖が独立を宣言することで台湾が戦争を引き起こすのを防ぐのである。このような取り組みにより、何十年にもわたって平和が保たれ、米国は戦争に巻き込まれることを防いできた。しかし、戦略的あいまいさは、誤った概念と体系的な証拠の少なさに基づいている可能性がある。米国は、戦略的あいまいさとは何かを公式に表明したことはなく、政策として採用したこともない。現時点では、戦略的あいまいさは有益というより害を与えているかもしれない。米国は、NATOのように台湾への安全保障を戦略的に明確化した政策に転換するべきである。
(2) 戦略的あいまいさは極めて重要な抑止力の一形態であり、ある国家が他の2つの国家同士による戦争を防ぐことで、3つの条件下でのみ有効となる。第1に要となる中心国、中台問題では米国が中国と台湾という敵対国同士に対して決定的な軍事力を有していること。第2に敵対国同士が、要となる中心国よりも相対的に戦争を望んでいること。第3に、敵対国同士は非合理的な戦争を進んで起こそうとはしないこと。この3つの条件が揃えば、要となる中心国は現状を打破しようとする国に対して決定的な抑止力を行使することができる。敵対国同士はいずれも米国の反応が分からないことから、紛争の激化を避けることができる。
(3) 今日の台湾海峡は、これらの条件のうち最初の2つは成立していない。中国の軍事予算は2001年以降5倍に増え、現在では世界最大のミサイル部隊、第2位の海軍、第3位の空軍を擁し、すでに米軍と同等、あるいは米軍より優位に立っている。つまり米国はもはや要となる中心国ではない。また、台湾政府は戦争を望んでいない。なぜなら、中国の報復を最初に受けることが分かっているからである。事実、2005年以降台湾の主要な政治家は、誰も中国からの独立を主張していない。
(4) 北京の軍事力増強に伴い、要となる中心国たる米国の抑止力は確実に低下している。1996年、米国で開かれた大学の同窓会で台湾総統が講演したことに抗議して、北京は台湾上空にミサイルを発射したが、米国が空母2隻を台湾海峡に派遣することで鎮静化した。2022年、米国下院議長Pelosiの台湾訪問の後、中国は軍事演習とミサイルの上空通過で抗議に出た。ワシントンは言葉による非難にとどめ、中国人民解放軍が威圧を続けているにもかかわらず、軍事的な示威活動は避けた。それでも、戦略的あいまいさに固執するのは、無条件の安全保障によって台湾が米国を陥れ、米国が中国との戦争に突入することを懸念してのことである。
(5) 米国と中国の戦争が起こることはない。米国は、危機管理協議の義務付けや、台湾が独立を宣言した場合の無効化など、防衛に関するあらゆる約束に安全策を設けることができる。NATOの鉄壁の相互安全保障でさえ、(各国の)憲法上の手続きに沿って実施される。さらに、戦略的なあいまいさは、中国が台湾を攻撃するかどうかにはほとんど関係ない。Chris Murphy上院議員は「中国はすでに米国の完全な防衛を織り込み済みだ」とツイートしている。その作戦計画は、ワシントンが介入することを想定している。中国を抑止するのは、あいまいさではなく、米国と同盟国の力である。つまり、中国の侵略を抑止するのは、台湾の安全保障を向上させることである。戦略的なあいまいさは、この点において有益となるよりも害となる可能性がある。
(6) 中国の台湾侵攻を阻止するためには、米国の介入が不可欠である。武器売却は米国の支援の最も明確で強力な手段である。台湾政府は高性能の兵器システムを必要とし、米国がこれを売却することで、台湾を守るために介入する可能性が高くなると考えている。しかし、台湾の最良の戦略は、「総合防衛構想」と呼ばれる台湾の軍事計画で、それは非対称にヤマアラシ的に武装する防衛である。島には機雷や対艦・対空・対車両ミサイルが林立し、米軍が到着するまでの時間を稼ぐことができる。しかし、戦闘機、重戦車、潜水艦などの装備はこの任務には無意味で、侵攻の口火を切って破壊される可能性が高い。台湾政府が非対称防衛に完全に移行できないのは、戦略的あいまいさによって、米国が介入してくるかどうかが不透明だからである。
(7) 軍事同盟は小国が圧倒的な脅威に対抗するためのものである。同盟がなければ、絶望的な戦争を回避するために、小国は脅威となる国に同調する傾向がある。もし台湾がそうなれば、米国は中国との戦略的競争において重要な提携国を失うことになる。中国政府は台湾を不沈空母として太平洋に戦力を投射し、日本と韓国への米国の支援を停止させ、フィリピンを支配し、南シナ海の支配をさらに強固にできる。しかし、戦略的なあいまいさは、米国と台湾を囚人のジレンマに陥れている。米国は、まだ規定されていない、さらなる関与を約束する前に台湾政府が国防費を増やし、ヤマアラシ戦略を実施することを望んでいる。台湾は、防衛構想のさらなる実行の前に、その前提となる米国の関与を受けたいと考えている。米国が介入すれば、台湾の戦意は大きく向上する。それぞれの戦略は相手の行動にかかっており、双方が行き詰まって、中国が軍備の近代化を進めている間は、それを見守るしかない。
(8) 戦略の明確化は、米国の防衛戦略に沿った台湾の戦力態勢を実現する最良の機会を提供する。さらに、台湾政府が非対称防衛を強化すれば、米国介入の必要性は低下する。ロシアの侵攻に対して成功したウクライナは、適切な武器と効果的な戦略によって、一見圧倒的に見える敵軍隊を、比較的わずかなコストで撃退できることを実証した。戦略の明確化は、台湾の防衛力を向上させ、より広範な戦争の危険性を下げ、中国を封じ込めることによって、米国の利益を向上させる。戦略的あいまいさという考え方は、その支持者にとって、それ自体が目的になってしまっているようで、中国政府の軍事力の破壊的な増大には対応できていないし、論理的にも対応できていない。この政策が機能していた条件は、中国の台頭とともに消滅したのである。
参照記事:'Strategic Ambiguity' May Have U.S. and Taiwan Trapped in a Prisoner's Dilemma

1月19日「ウクライナ戦争は中国による今後の行動の前兆か―チェコ・アジア太平洋専門家論説」(The Diplomat, January 19, 2023)

 1月19日付のデジタル誌The Diplomatは、チェコのシンクタンクInstitute of International Relations Prague研究員Jan Švecの “Russia’s Irrational War in Ukraine Should Be a Warning for Predicting China’s Behavior ”と題する論説を掲載し、そこでJan Švecはロシアをウクライナ侵攻に導いた要因の多くが、中国にも内在しているため、今後中国が同様に非合理的な行動に出るかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国はウクライナ戦争に関して、ロシアの利益の尊重を主張する一方で物的支援を拒むなど、戦略的かつ合理的な行動を採っているように見える。しかし、今後、中国指導部が非合理的行動を取る可能性はある。Putin大統領を破滅的決定に導いた要因の多くが、中国の専制主義的システムにも内在しているためである。
(2) Putin大統領がウクライナ侵攻を決定したのは、ロシアを「正しい」立場へと戻すという、きわめて主観的な動機によるものである。歴史が示すように、ある国が他国から尊重されていないと感じていることが、近代以降の紛争の主要因であることが多く、そのことは政治学者Richard Ned Lebowによっても提示されている。
(3) 中国はまさに自国の国際的立場が正当ではないと主張し続けている。現在の国際秩序は、米国によって決定付けられているというのが中国の不満である。そして習近平は権力掌握後「中華民族の復興」を掲げ、台湾の再統一を目標の1つとしてきたのである。台湾への武力行使は米国とって越えてはならない一線であり、それゆえ、習近平は「外部勢力」が中国に指図する立場ではないことを証明するために、その一線を越える決定を下す可能性がある。自国が不公正に扱われていると考える指導者は、その危険性と対価がいかに大きくとも、そうした決定を下しかねない。中国の急進的な評論家は習近平を弱腰であると批判すらしている。
(4) 国際的立場の強化を模索することは、国内における正当性の確立と強く関連している。Putinの場合、長い支配体制において経済的改革をうまく遂行できなかったため、自身の支配体制を正当化する別の口実が必要になった。中国の場合、この数十年の経済成長が共産党支配の正当性の根拠であったが、その経済成長が陰りを見せている。それは、長期にわたる、いわゆるゼロコロナ政策が原因の1つである。ゼロコロナへの不満が高まり、中国政府はそれを突然放棄したが、中国国民は感染者数や死亡者数の激増、ワクチンの低接種率、医療体制の逼迫、そして信頼できる情報の欠如という問題に直面している。
(5) 中国政府はビジネス支援のために民間部門の活動の余地を広げ、外国からの投資も促進させようとしている。しかし最終的に、習近平は中央集権的体制に回帰し、自由なビジネスが抑圧されるかもしれない。効果的解決策がなければ、指導部は統治の正当性について別の口実を模索する可能性がある。
(6) 個人の手に権力が集中することで、意思決定の質は劣化する。Stalinと毛沢東がその好例である。毛沢東に比べれば、習近平は高い教育を受け、穏健な声に耳を傾けているとはいえ、彼は党員の粛正を進めて恐怖をあおり、またゼロコロナ政策に見られるように衝動的に対応する傾向があるようである。彼が正しい情報を得ているかもはっきりしていない。たとえそうだとしても、彼の手に権力が集中し続けることで、合理的な決定を下すことは難しくなるのではないだろうか。さらに、台湾再統一という「歴史的」偉業を達成したいという野心が、年とともに強まる可能性もある。
記事参照:Russia’s Irrational War in Ukraine Should Be a Warning for Predicting China’s Behavior 

1月19日「商船隊と米国の戦略―米専門家論説」(Real Clear Defense, January 19, 2023)

 1月19日付の米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseは、Yorktown Instituteの創設者で所長Seth Cropseyの” The Merchant Marine and U.S. Strategy”と題する論説を掲載し、ここでSeth Cropseyは、ウクライナ紛争に限らず米国が今後の紛争に勝つ能力を維持するには船の建造と乗組員養成を含めた商船隊の育成が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ戦争は、米国主導の連合軍とロシア、イラン、中国による権威主義的国家間のユーラシア武力紛争の始まりを意味している。2022年2月24日以前、米国の敵対勢力は、ユーラシア大陸の軍事的均衡に直接挑戦することは控えていた。中東でロシアとイランが米国を追い出しても、米国、ロシア、イランの間で直接の衝突が起こることはほとんどなかった。 
(2) 1990年から1991年にかけて、米国はイラクの隣国であるサウジアラビアに約3,000機の航空機を含む100万人の連合軍を構築し、米国の絶対的な航空優勢を得て、長期にわたる航空作戦の後にイラクに侵攻した。2003年にサダム政権を倒したのは、はるかに小規模の部隊であったが、空爆作戦と再び隣国サウジアラビアでの軍備増強が行われた後であった。その教訓は明らかであり、米軍は従来のような圧倒的な兵数を集中しなくても、極めて高い物理的な破壊力を発揮したのである。しかし、米軍は戦闘地域で時間をかけて増強する必要があり、米軍の攻撃にはかなりの準備が必要だった。もし本国から当該地域の中継地点を利用できなかったならば、米軍は敗北する可能性もあった。そこで米国に敵対する国は、長距離兵器と政治的混乱に目を向け、米国の地域的アクセスを阻むようにした。その結果、それはA2AD(接近阻止・領域拒否)またはハイブリッド戦争と呼ばれるようになった。
(3) ウクライナ戦争は、イラク戦争が1990年代から2010年代にかけて、米国に敵対する国にとっての戦略を決定づけたように、2020年代から2030年代にかけての敵対国の戦略を決定づけるだろう。敵対国にとって、ウクライナ戦争の大きな教訓は、西側諸国が戦闘地域へ決定的な戦力を無制限には輸送しないことである。ロシアは、ウクライナの空域に侵入して標的を定めることや、リヴィウに向かって攻勢をかけることが容易であれば、西ウクライナにおける米国による武器の輸送を妨害できる。しかし、地理的・物資的制約から実施は難しく、たとえロシアがこれを実行したとしても、ウクライナ軍への物資輸送を対象とした飛行禁止区域の設定など、より積極的な対応を西側が採用するという危険性がある。そのため、事態が拡大する危険性がこの行動を阻み、米国と欧州はウクライナ軍の後方地域となり、ロシアの攻撃から事実上免れることができる。これは、ロシアにとって戦略的には容認できる状況ではない。
(4) 中国は、インド太平洋地域の目標に対する米国からの長期的な支援がもたらす危険性を認識している。どの大国も長期戦を戦い、勝とうとは考えない。持久力は弱者、民族主義者、反乱者の武器である。台湾をめぐる戦争では、中国が港湾や軍艦を攻撃し、台湾封鎖のためにフィリピン海の西部に空軍と海軍の戦力を投入することで、米国と台湾の海上連絡線と補給線を遮断する試みが行われる。
(5) ここで、米国商船が重要な一面を担うことになるが、それは過小評価されている。冷戦時代、米国のユーラシア大陸への派遣を支えたのは商船隊であった。朝鮮戦争では、250隻以上の米国商船が軍事物資を補給するために使用された。ベトナム戦争では、連邦海事局の下で予備商船隊の輸送船175隻と米国籍の商船を組み合わせ、ベトナムの米軍にほぼすべての物資を輸送した。湾岸戦争前の1990年から1991年にかけて米国がサウジアラビアに増強した軍備を維持するには230隻の船舶を必要とした。イラク戦争とアフガニスタン戦争では、U.S. Maritime Administration(連邦海事局)の予備商船隊が、やはり商業船舶の乗組員によって、全装備の4分の1を戦地に輸送した。インド太平洋地域で紛争が発生すれば、その地理的条件から、米国と同盟国の戦闘活動を支えるためには、商船隊が必須であり、この物流システムを守るために海軍と空軍もまた必要となる。
(6) 問題は、第2次世界大戦以来、米国の商船隊が国力の重要な要素として認識されていないことである。米Military Sealift Commandは、平時の作戦と短期間の急な所要に必要な船舶を、現役と予備役の両方から十分に備えている。しかし、それ以降の余力は、議会が支援する海上安全保障プログラムの60隻だけである。米国内には、もはや商船の造船業は存在しない。商船隊員は、競争力のある給与の欠如と、公立の商船大学への資金不足から、昇進の道が限られているため、高齢化と縮小が進んでいる。長期的な対立の中で、消耗は米国商船隊を劣化させ、船員は著しく不足する。中国はその国際海運の支配的地位を活用できるが、米国は米国籍の船舶に依存せざるを得ない。
(7) 商船を米国の戦略的能力として再生させるためには、3つのステップが必要である。
a.第1に、米国はU.S. Maritime Commission(米国海事委員会:以下、MARCOMと言う)を再建すべきである。U.S. Maritime Administrationの前身であるMARCOMは1936年に発足し、ユーラシア大陸の大国間戦争で米軍を維持できる商船隊の設計とその乗組員の訓練を任務とした。このMARCOMが復活すれば、米商船の拡張に責任を負う中央行政機関として機能できる。
b.第2に、造船所に対する大規模な補助金制度を検討することである。これは、100隻以上の新造船を目標とし、MARCOMを通じて5年間かけて段階的に実行する。その目的は、米国の産業界に、生産能力を急速に拡大して商船を大規模に生産するきっかけを与えることである。これらの船は、米国籍の商船となり、米国乗組員が乗船し、米国の戦略的目的のために使用することができる。
c.第3に、最も重要なことは、議会は商船隊の訓練システムの拡張を承認し、各州に商船隊の養成を奨励することである。米国商船学校は、現在は年間250人程度の卒業生しか出さず、法定入学定員数にも達していない。米国商船学校が新造する船の乗組員を確実に輩出できるよう、大規模な資金投入が必要で、クラスの規模を拡大し、可能であれば商船隊の定員を増やすよう奨励する必要がある。
記事参照:The Merchant Marine and U.S. Strategy

1月19日「真の試験:気候変動への対処の前進に向けた国際法廷闘争―オーストラリア国際法専門家論説」(The Interpreter, January 19, 2023)

 1月19日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、オーストラリア国際法学者Donald R. Rothwellの“The acid test: legal moves to force action on climate change”と題する論説を掲載し、そこでDonald R. Rothewllは海面上昇への世界的な対応を求めて島嶼諸国が法的な運動を展開することで、各国の行動を促しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 気候変動の影響、とりわけ海面上昇への対処の要求は、島嶼諸国からこれまでも定期的に出されてきたが、2021年以降特に顕著になっている。2021年8月、Pacific Islands Forum(太平洋諸島フォーラム:以下、PIFと言う)が「気候変動に伴う海面上昇に対応した海域維持に関する宣言」を採択した。翌9月、Association of Small Island States(小島嶼国連合:以下、AOSISと言う)もまた同様の宣言を発した。これらは、島嶼諸国が海面上昇の影響やUNCLOSをどう解釈しているかを表している。
(2) PIFの宣言によれば、UNCLOSは海面上昇による変化にもかかわらず、すでに確定された基線などを見直し続ける義務を課していない。つまりPIFは気候変動の時代においても海洋法にはある程度の安定性が必要だという立場を採る。しかし、これはAOSISによってのみ支持されているだけで、世界的に共有されたものではない。2021年の構想は、海面上昇によって生じる法的課題を完璧に解決するものではなかった。
(3) 2022年末に、もっと重要な法的展開が起きた。上記とは別の島嶼国の国際機関であるCommission of Small Island States(小島嶼国委員会)が、International Tribunal for the Law of the Sea(国際海洋法裁判所:以下、ITLOSと言う)に勧告的意見を要求したのである。海面上昇など特定の問題に関してこうした要求がなされたのは初めてのことある。こうした意見に法的拘束力はないが、国際法にかかわる問題を明確化するうえで大きな影響力を持つ。2019年、International Court of Justice(国際司法裁判所)がチャゴス諸島の法的地位に関して提出した勧告的意見がその好例である。
(4) ITLOSへの勧告的意見の要請は、気候変動に伴う海洋環境汚染の可能性に対する保護という、UNCLOS締約国が課されている義務に基づくものである。こうした手続はまだ予備段階に留まったもので、ITLOSは2023年5月16日を、UNCLOS締約国が書面提出をする期日に定めた。その後、小島嶼国委員会とUNCLOS締約国による公聴会が開催されるであろう。
(5) この委員会は、アンティグア・バーブーダ、ニウエ、パラオ、セントビンセント、ツバル、バヌアツで構成され、2021年に、ITLOSに勧告的意見を求めることだけを目的として創設されている。これは、何らかの国際機関が勧告的意見を要請した場合に、国際法廷がそれに応えることができるとするITLOSの規定を利用している。委員会はある種の法廷闘争をしかけていると言える。それにより、海面上昇への対応を前進させようとしているのである。
(6) 勧告的意見は象徴的なものに過ぎないと見られることがある。とはいえ、小島嶼国委員会の動きは、世界的に大きな関心を集め、ITLOSの勧告的意見は、以後、海洋法にとっての永続的な遺産となるであろう。
記事参照:The acid test: legal moves to force action on climate change

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)PARTNERSHIP, NOT THREATS: HOW TO DEEPEN U.S.-INDIAN NAVAL COOPERATION
https://warontherocks.com/2023/01/partnership-not-threats-how-to-deepen-u-s-indian-naval-cooperation/
War on the Rocks, January 12, 2023
By Adm. Karambir Singh (Ret. ) was the Republic of India’s 24th chief of the naval staff and is chairman of the National Maritime Foundation.
Blake Herzinger is a nonresident fellow at the American Enterprise Institute. 
 2023年1月12日、インド海洋問題シンクタンクNational Maritime Foundation会長Karambir Singh退役インド海軍大将と米シンクタンクAmerican Enterprise InstituteのBlake Herzinger客員研究員は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rock に" PARTNERSHIP, NOT THREATS: HOW TO DEEPEN U.S.-INDIAN NAVAL COOPERATION "と題する論説を寄稿した。その中でSinghとHerzingerは、ここ最近、米海軍とインド海軍とは高度な共同訓練を実施し、提携の涵養に努めているが、米印両国の海軍指導者が定期的に協力関係を強化する意向を表明しているにもかかわらず、インドと米国の海軍協力関係には掘り起こされていないかなりの潜在力が依然として秘めていると指摘し、米印両国の提携向上の課題と可能性を論じている。特にSinghとHerzingerは、地域の脅威や国際規範の維持方法について、依然として米印両国には見解の相違があるが、このような相違があっても、インドと米国の海軍は、海洋状況把握やチョークポイントの安全保障など、共通の海洋安全保障上の優先課題に取り組むために、海上で共に活動することが必要であり、そのためにも両国海軍は、海洋状況把握に関する協力を拡大し、訓練・演習や整備・給油を利用するための協定を拡大すべく、地域安全保障支援計画の策定を検討するべきであると主張している。

(2)The Japan Coast Guard’s role in realizing a Free and Open Indo-Pacific
https://asiatimes.com/2023/01/japan-coast-guards-rising-role-in-a-rules-based-indo-pacific/
PacNet, Pacific Forum, CSIS, January 12, 2023
By Japan Coast Guard Captain(二等海上保安監)Kentaro Furuya(古谷健太郎)is an adjunct professor at the National Graduate Institute for Policy Studies(政策研究大学院大学(GRIPS))and a professor at the Japan Coast Guard Academy(海上保安大学校).
 1月12日、海上保安大学校教授兼政策研究大学院大学連携教授である古谷健太郎は、米シンクタンクPacific Forum, CSISが発行するPacNetのウエブサイトに、“The Japan Coast Guard’s role in realizing a Free and Open Indo-Pacific”と題する論説を寄稿した。この中で、①海上保安庁は、国際業務にも力を入れ、近隣諸国との関係構築や能力向上に努めている。②海上保安庁は、法の支配と航行の自由を推進するため、インド太平洋地域とそれ以外の地域の海上法執行機関間の関係強化に多大な努力を払っている。③平和と安定への関与のために、海上保安庁の支援は、多くの場合、日本の資産を海外に派遣して直接介入するよりむしろ、相手国が自国の海洋空間を守ることができるよう慎重に構築されている。④日本政府は巡視船を寄贈することで、インド太平洋地域の海上法執行機関の能力を高めている。⑤海上保安庁とU.S. Coast Guardは「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現と推進の試みをさらに強化するために、2010年に重要な協力覚書、2022年にその覚書の付属文書SAPPHIREに署名した。⑥海上保安庁が「自由で開かれたインド太平洋」を推進する上で成功したことは、この地域全体に適用できるひな型であり、協力と支援が新しいパートナーを引き寄せ、前向きな関係を生み出すといった主張を行っている

(3)To Make Japan Stronger, America Must Pull It Closer
https://www.foreignaffairs.com/japan/make-japan-stronger-america-must-pull-it-closer
Foreign Affairs, January 12, 2023
By Christopher Johnstone, Japan Chair and a Senior Adviser at the Center for Strategic and International Studies
 2023年1月12日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies の上席顧問で日本問題専門家のChristopher Johnstoneは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" To Make Japan Stronger, America Must Pull It Closer "と題する論説を寄稿した。その中でJohnstoneは、翌1月13日に行われる岸田文雄首相とBiden米大統領との会談は、日本と米国の安全保障関係の数十年にわたる歴史のページをめくる重要な機会となると話題を切り出し、岸田首相が前年12月に表明した日本の新たな国家安全保障上の戦略である、防衛費の倍増や反撃能力獲得、そしてサーバー戦対応のための投資といった諸政策を取り上げ、この一連の戦略が実施されれば、国際安全保障秩序における日本の位置づけは一変すると評価している。そしてJohnstoneは、こうした日本の新しい安全保障戦略が最大限に効果を発揮するためには、日米同盟をさらに進化させなければならず、そのためにも日米両国は、①新しい指揮統制体制の整備、②はるかに深いレベルの情報共有、③両国の防衛産業間の協力の拡大、などを図る必要があり、さらには、在日米軍を長年支えてきた費用負担の仕組みも見直す時期に来ていると指摘している。