海洋安全保障情報旬報 2022年6月21日-6月30日

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6月21日「NATOは大西洋とインド太平洋のつながりを認識せよ―米安全保障専門家論説」(Defense News, June 21, 2022)

 6月21日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、米シンクタンクAtlantic Council特別研究員Hans Binnendijkと米シンクタンクBrookings Institution上席在外研究員Daniel S. Hamiltonの“Face it, NATO: The North Atlantic and Indo-Pacific are linked”と題する論説を掲載し、そこで両名は、ヨーロッパとインド太平洋が密接に連関していることを十分に意識して、NATOは新たな戦略を構想しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) NATO加盟国の一部は、新たな「戦略概念」において中国とインド太平洋問題に関してより強い表現を用いることに反対している。ヨーロッパの国々にとって、より喫緊の問題であるウクライナ・ロシア問題に焦点を絞るべきだという考えは理解できる。しかしながら、近年北大西洋とインド太平洋の安全保障が緊密に連関していることもまた、彼らは理解しなければならず、そのために新「戦略概念」を活用すべきである。
(2) ヨーロッパ諸国は、NATOがグローバルな同盟になることを望んでおらず、また、中国を敵対国として名指しすることも望んでいない。あくまでNATOは地域的な同盟であり、またヨーロッパ諸国は中国との貿易に依存しているためである。そうした状況において、新「戦略概念」は、対中国政策に関して競争、対立、協力の間で均衡の取れたものにすべきであろう。
(3) 新「戦略概念」の構想にあたって、第1に、ヨーロッパ諸国は、中国による技術的進歩と基幹施設投資への依存が、NATOの安全保障にも直接つながっていることも理解すべきである。ヨーロッパ諸国へのHuaweiの進出はサイバーに関する対中国依存を生み、また中国による戦略的港湾の購入は、NATO同盟の軍事的な機動性を損ねかねない。NATOは、北大西洋条約第2条のもとで協力を深め、この問題に対処できるだろう。同条項は、同盟国が「安定と安寧の状況」の促進と「経済協力の促進」に付託すべきだと規定するものである。
(4) 第2に、中国が自由で開かれた国際公共財に対するNATOの関与に挑戦していることを理解すべきである。ヨーロッパとアジアの間の貿易の大部分が、中国が領有権を争う海域を通過している。中国はいまや世界最大規模の海軍力を持ち、アフリカ大西洋岸の港湾設立に向けて活動するなど、その行動範囲を大西洋にまで広げようとしている。さらに中国は、外宇宙の軍事化を進め、また調査活動を通じて北極圏への影響力拡大を模索している。
(5) 第3に、中国の権威主義的な行動は中国国外にまで拡大しており、法に基づく国際秩序に対して全面的に挑戦している。第4に、NATOに対する中国の挑戦は彼らとロシアとの間の「際限のない」提携の構築によって勢いを増している。ウクライナ侵攻に対して中国はロシア寄りの中立を維持しつつ、両国は共同演習の規模と頻度を拡大させている。それはNATOの防衛計画の立案を困難にするものである。そして、戦域超音速兵器や潜水艦技術などに関する中ロ協力の進展は、言うまでもなくNATOにとって重大な挑戦をつきつけることになる。
(6) 最後に、インド太平洋における紛争が起きれば、それは北大西洋にも重大な影響を及ぼすという事実を新「戦略概念」は反映すべきである。米国の防衛能力の開発の推進要因となっているのは中国である。南シナ海、東シナ海、台湾に関する中国の攻撃的姿勢は紛争が生起する危険性を高めている。そうなればヨーロッパとアジアの通商は甚大な被害を受け、インド太平洋におけるヨーロッパの同盟国の利益も損なわれる。そうした状況でもしロシアが軍事的な挑戦を突き付けた時、米国は十分に対処できないかもしれない。NATOはその溝を埋める必要があり、今それを計画しなければならない。
(7) したがって、NATOの新「戦略概念」では、アジアの同盟国との間にいくつかの制度的な向上が構想されるのがよい。たとえば日本や韓国をNATOの高官級の提携国として招聘し、東京やソウルにNATOの連絡事務所を設置するなどの措置が考えられる。またインド太平洋・NATOフォーラムを創設し、さまざまな安全保障上の課題に関する評価を共有し、さらにインドとの対話を模索するなどの方法もあろう。
(8) 以上のようなことは、中国を敵対国として名指しすることなく進められるべきである。したがって、一方では中国との対話を継続し、「NATO・中国評議会」のような仕組みを構築することも必要であろう。
記事参照:Face it, NATO: The North Atlantic and Indo-Pacific are linked

6月22日「フランス軍はインド太平洋における念願をかなえることができるのか?―フランス修士課程院生論説」(The Diplomat, June 22, 2022)

 6月22日付のデジタル誌The Diplomatは、シンガポールの南洋理工大学のThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)戦略研究科の修士課程院生Sophie Perrot の“Can France’s Military Live Up to Its Ambitions in the Indo-Pacific?”と題する論説を掲載し、そこでPerrotはインド太平洋地域におけるフランス軍は規模も縮小され、装備も老朽化しており、現在の中国の脅威に対抗できるものではなくなっているので、早急に装備を更新し、部隊規模も増強しなくてはならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) ヨーロッパの東の国境における現在の混乱と最近のフランスの国民議会選挙を見ると、フランスの防衛能力の問題が数十年にもわたる予算削減と過少投資の後で、政治課題の中心として戻ってきている。ヨーロッパの玄関口に再び迫り来る戦争の亡霊は、フランスの政策立案者がその戦略的野心と現在の能力の状態の観点から国に必要なものを再評価するための目覚ましとなるべきである。
(2) フランス軍事相のSebastien Lecornuが2022年にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議における演説で最近「ウクライナの危機が、我々を盲目にして、フランスがインド太平洋地域への関与に戻ることにつながることを恐れる人もいるが、それは事実ではない。しかし、インド太平洋地域はフランスの戦略の根幹ではあるにも関わらず、フランス軍、特にフランス海軍がこれらの念願を満たすための兵力を持っていないことは今日明らかであり、それが問題である」と再確認した。
(3) まず、この地域にフランスが出資しているものを思い出そう。インド太平洋のフランス領に165万人のフランス人が住んでおり、EEZは900万平方kmで、インド太平洋はフランスの戦略的関心がある地域であるだけではなく、フランスの主権が直接危険にさらされる地域である。さらに、これらの地域は気候変動や台風、海面上昇などの極端な気象の増加、違法漁業、麻薬取引、不法移民などいくつかの課題に直面している。これらの課題に対応するために、軍人7,000人と艦船20隻と航空機40機が5つの司令部の下で組織され、この地域に恒久的に拠点を置いている。彼らの使命は、フランスの主権を守ること、危機発生時にフランス人保護のために介入すること、そしてこの地域におけるフランスの展開を確認すること、特に海洋という国際公共財において自律的に行動し、インド太平洋の自由な利用を保証するフランスの能力を維持することの3つである。米中の対立の高まりは、この地域の緊張を高め、この地域の国家間の軍備増強に拍車をかけている。
(4) フランスは、この観点から、2018年に「インド太平洋に対する戦略」を採択し、翌年には軍事省が「インド太平洋に対するフランス国防戦略」でさらにその詳細を記述した。この文書に示された目的は、フランスの領土保全の確保、主権の自由な行使、国民保護という3つのカテゴリーに要約できる。具体的には、航行の自由と国際公共財の利用を保障し、近隣地域の安定と発展を支援するというフランスの戦略的利益を確保し、安全保障理事会の常任理事国として核拡散との闘い、国際条約の尊重の確保、戦略的安定の維持について責任を果たし、これらから生じる世界大国としての利益を守ることである。
(5) インド太平洋におけるフランスの念願の達成に対する主な障害は、フランス軍自身である。1990年代以降、インド太平洋における軍隊の規模は、フランスの国防の存在意義に貢献し、その抑止態勢を支えるために不可欠であるにもかかわらず、絶えず縮小している。実際、2021年7月には、ニューカレドニアに拠点を置く4隻のフランス海軍艦艇のいずれも運用されなくなった。2022年2月に発表されたフランス国防軍議会委員会の報告書は、暗い将来を描いている。現在の兵力は、2000年代初頭のインド太平洋の状況には合致していたが、この地域の緊張が高まっている現状では、小さすぎると思われる。過去数年間で空軍要員が約30%減少したように、配備された部隊の規模は小さくなっており、利用可能な機材は老朽化しており、特に中国海軍と中国海警によってもたらされるかもしれない脅威には適応できない。さらに、フランス海軍の本国中心の編成と、北大西洋、地中海、ペルシャ湾、ギニア湾における新しい作戦海域の出現によって、フランス海軍の展開規模は現状以上に増強されることは不可能である。
(6) 現在、ファルコン200ジェット機の更新、2022年以降の新しい「沿岸哨戒艇(offshore patrol vessels)」(POM)6隻の引き渡し、2030年以降のフリゲートの更新など、インド太平洋に配備された兵力を近代化するための努力が進行中である。しかし、これらの近代化では不十分であり、中国の兵力増強と能力向上には敵わないと考えられる。フランス軍のこの脆弱さのため、中国の既成事実を積み上げていく政策によって、特にフランスのEEZでの漁業に関して、フランス漁船員が武力事件に巻き込まれる可能性がある。2021年7月のラ・トリビューンとのインタビューにおいてフランス海軍参謀総長Pierre Vandier大将もほぼ同じ結論に達していた。Vandier大将は「フランス海軍は、現在は2013年の国防白書で定められた目的をはるかに超えて活動しており、インド太平洋での新たな任務を完全に果たすには小さすぎるものとなっている。フランス海軍は、この地域における兵力を増やすだけでなく、より重要なことであるが、能力を高めなければならない。たとえば、フリゲートは時代遅れの兵器システムを持っており、もっと能力の高い艦艇に置き換えなければならない」と述べている。
(7) インド太平洋における緊張と紛争の危険性が高まることが予想されている現在、この地域におけるフランス軍の規模と能力の両方の向上の必要性は明らかである。2022年2月の議会報告書の中のいくつかの提案は、フランスの新政権下での「軍事計画法(Loi de Programmation Militaire)」の改正も視野に入れながら、検討されるべきである。まず第1に、インド太平洋司令部隷下に配置される兵力を増加し、改善するべきである。2022年の議会報告書は、ニューカレドニアとポリネシアの巡視艇の数を倍増させフリゲートをより有力な軍事力展開を提供するコルベット艦に置き換えること、そして現地で最小限の戦力投射を行うための水陸両用艦の取得を推奨している。第2に、配備された艦艇の運用上の可用性と回復力は、現地の海軍基地の修理能力を向上させることによって強化されるべきである。第3に、広大なEEZの状況を適切に評価するため、フランスの海洋状況把握能力は、より野心的な宇宙監視プログラムと海上監視航空部隊の増強により改善されるべきである。そして最後にフランス軍は、この地域におけるフランスの存在を主張するため、目に見える活動を行い、より可視化されるべきである。2022年5月のオーストラリアでのAnthony Albanese首相の選出後の豪仏関係の緊密化は、豪仏の軍事協力の強化につながり、豪印仏同盟への念願を復活させる契機にもなり得るであろう。
(8) 全体として、インド太平洋におけるフランスの念願は、この地域に配備されるフランス軍の強化に結びつかなければならない。現在の政策と能力の溝を埋めることは、この地域の軍への投資の増加を意味する。それは現在と将来の軍事計画の両方において行う必要があり、それが今世紀前半のフランスの行動の限界を決定するであろう。
記事参照:Can France’s Military Live Up to Its Ambitions in the Indo-Pacific?

6月22日「台湾海峡の通過通航を妨げる権利をもたない中国―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, June 22, 2022)

 6月22日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetは、米国際弁護士で著述家Tran Đinh Hoanhの“China cannot hinder international navigation through Taiwan Strait”と題する論説を掲載し、国連海洋法条約(UNCLOS)に準じれば、中国は台湾海峡を通過通航する船舶を妨げる権利はないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国外交部新聞司副司長汪文斌は、6月13日の定例記者会見で、台湾海峡は「国際水域」に当たらないという中国軍当局の主張について問われ、台湾は「中国の領土の不可分の一部である・・・中国は台湾海峡の主権、主権的権利及び管轄権を有している」と述べた。さらに、この海峡を国際水域と呼ぶのは、「中国の主権と安全を脅かす」口実を探している「特定の国」による「誤った主張」であると述べている。
(2) しかし、UNCLOSには「国際水域」という言葉はないが、領海や排他的経済水域(以下、EEZと言う)であっても、ほとんどの水域は国際航行のために使用することが可能である。その代わり、台湾海峡を通ることに関連するUNCLOSの用語は、「国際航行」のために使用される海峡の「通過通航」である。
(3) 台湾海峡の幅は最大で約220海里あり、中国と台湾にとっては、全ての国のEEZに与えられる200海里の範囲以内に含まれる。この海峡は、国連海洋法条約第37条で定義されているように、「公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡について適用する」ため、「すべての船舶及び航空機は、前条に規定する海峡において、通過通航権を有するものとし、この通過通航権は、害されない」(第38条)のである。
(4) 通過通航とは、UNCLOS第38条によれば、「・・・海峡において、航行及び上空飛行の自由が継続的かつ迅速な通過のためのみに行使される」ことをいう。この通過通航の権利とは、(第58条に明記されているように)いかなる国のEEZ内でも、(第87条に準じて)公海でも、全ての国が単に航行と上空飛行の自由を繰り返すに過ぎないということに気付くだろう。したがって、この場合、全ての国が台湾海峡を通過するために航行及び上空飛行する権利が、国際法において非常に明確に定義されており、中国やその他の国によって妨げられてはならないのである。
(5) また、UNCLOSは「特にある海峡について定める国際条約であって長い間存在し現に効力を有しているものがその海峡の通航を全面的又は部分的に規制している法制度」を認めている(第35条)。台湾海峡には、1954年の米華相互防衛条約を起源とするデイビス・ラインと呼ばれる中心線が存在する。中国は事実上の中間線の存在を公式に認めていないが、海峡の両側では非公式な境界線を尊重する暗黙の了解がある。1954年に設定されたこの中間線は、2020年8月まで、この中間線を越えての中国軍による侵犯は4件しか報告されていない。しかし、2020年9月以降、中国は台湾防空識別圏に多くの航空機を送り込んでおり、デイビス・ラインを何度も越えていると推測される。中国はデイビス・ラインを無視しようとしているのかもしれない。しかし、半世紀以上にわたって台湾海峡の平和を維持してきたその歴史的価値は、いずれUNCLOSの法廷の前で争われた場合、実行されるべき「効力のある長年にわたる国際条約」として、その裁判で考慮されるべきである。
(6) EEZや公海における航行及び上空飛行の自由による台湾海峡の通過通行の権利に加え、第45条は、全ての国の船舶が、台湾海峡内の中国(及び台湾)の領海を無害通航する(言い換えれば、禁止行為に従事せずに航行する)権利も享受すると述べている。言い換えるならば、中国は、国際航行を妨げるためだけに、たとえ領海であれEEZであれ、台湾海峡を自国の海域であると主張することはできない。
記事参照:China cannot hinder international navigation through Taiwan Strait

6月23日「中国の視点から見たウクライナ戦争―米専門家論評」(The Diplomat, June 23, 2022)

 6月23日付のデジタル誌The Diplomatは、米シンクタンクThe Cato Institute上席研究員Brandon ValerianoとスペインThe Union for the Mediterranean研修員Juan Garcia-Nietoは、 “What ‘Zhong Sheng’ Says About China’s Perceptions of the Ukraine Conflict”と題する論評を掲載し、ここで両名は人民日報に掲載された論評記事の分析を通じて、中国のウクライナ戦争に対する見解について、要旨以下のように述べている。なお、中国政府あるいは中国共産党の解釈を人民日報が記事にする場合、現実の筆者が誰であれ、鐘声(Zhong Sheng)というペンネームが使用されている。
(1)注目すべきことに、人民日報の「鐘声」は最初の3週間、ロシアのウクライナ侵攻について沈黙していた。3月中旬までにロシア軍の当初作戦の失敗が明らかになって初めて、「鐘声」は、和平交渉を推し進めることを主眼にコメントをし始めたと思われる。彼の論評によると、米国は、ウクライナ戦争をけしかける一方で、平和の守護者になるというビジョンを思い描いている。建設的な解決の道筋を示そうとした、中国は、紛争の両当事国が交渉のテーブルに着き、「双方の対立を解消する」必要があると頻繁に主張している。残念なことに、ウクライナ戦争は、「鐘声」の他の論評に共通して使用するテーマ、双方がウィンウィンの状況を醸成できる時期はとっくに過ぎ去った。紛争、その起源、そしてその可能な解決策について、より現実的であろうとすれば、状況を安定させ、中国を調停者として位置づけるのに役立つであろう。残念なことに、そのような見方は、 ロシアと中国の歴史的な連携関係を考えれば、非現実的である。
(2) ウクライナに言及するとき、「鐘声」の論調は関係当事国というよりは、懸念する傍観者である。ウクライナに関する「鐘声」のメッセージは、台湾について言及するときの論調とは明らかに異なり、より曖昧でベールに包まれている。ウクライナ戦争に関する論評で国家主権と領土保全の概念への言及がほぼ完全に欠落していることは、紛争に対する中国の立場を明らかにしている。ロシアによるウクライナ主権に対する露骨な侵害を考えれば、中国の外交政策にかかわる幹部は、米国とNATOの侵略と見なされるものに対する防波堤として、ロシアを暗黙のうちに支援することが戦略的利益に叶うならば、国家主権と領土保全といった主要原則と引き換えても良いと考えている、と見なすことができよう。
(3) 浮かび上がってくる、そして確かに論評を通して最も反響を呼んだ重要なテーマは、戦争の誘因としてのNATOの拡大である。「鐘声」はロシアの言説を支持し、1990年以来のNATOの漸進的な拡大が現在の紛争の根源であると述べている。実際、「鐘声」は、4月から5月にかけて人民日報電子版に寄稿した10本の記事で、NATOの拡大に34回も言及している。この見解の根源にあるのは、西側がウクライナのNATO加盟を約束したということではなく、むしろNATOがロシアとウクライナの国境にまで拡大しモスクワを脅かしているということである。「鐘声」の論点は、ウクライナのNATO加盟の動きがなかったにもかかわらず、NATOこそ紛争の原因だということにある。さらに、中国から見れば、NATOは紛争解決に向けた措置を何ら講じる気はなく、むしろ武器援助を通じてキーウに明白に味方することによって「火に油」を注いだと非難している。
(4) NATOの拡大と密接に関連したもう1つの重要なテーマは、「冷戦心理」を高める、米国の覇権主義的野心である。「鐘声」の論考は、「侵略」という用語に言及さえしておらず、ロシアの露骨な侵略を非難することを避けている。その代わりに、「鐘声」の論考は、「覇権」に27回、「冷戦心理」に25回も言及している。中国がウクライナ戦争を米国による世界的優位性を確保するための手段に過ぎないと認識しているが故に、「鐘声」は論考の結論として、米国はその冷戦心理と覇権主義的野心を慎むべきである、と言う。「鐘声」は、ヨーロッパのNATO加盟国についても、米国の覇権主義的野望に煽られた紛争の「結果責任を負っている」と指摘している。
(5) ロシアに対する経済制裁について、「鐘声」は中国から見て、米国が経済を兵器化することは、「ウクライナに対する大規模な軍事援助を提供するとともに、ロシアに経済制裁を課す」ことによって開始された、新たな形の「ハイブリッド戦争」であるとしている。「鐘声」の論考は、挑発的でなかったウクライナをロシアが侵略した事実に言及することを怠っている。
(6) 「鐘声」の論考は、中国の「責任ある」役割を強調し、将来の調停努力を示唆している。論考では、紛争における中国の役割は、建設的で、全ての関係当事者を包摂することと定義され、ウクライナとロシアの「正当な懸念」にともに対処する必要性を強調している。「鐘声」は、この姿勢の目標は冷戦後秩序とNATO拡大のようにロシアを疎外したり、屈辱を与えたりしない、共通のヨーロッパの安全保障枠組みを構築することである、と主張している。このことは、NATOの冷戦心理とされるものに対する「鐘声」の頻繁な批判と一致している。米国務省の見解によれば、中国はロシアの偽情報を増幅しているだけだと言うことになる。
(7) ウクライナ戦争に関する中国の見解は驚くべきものではない。興味深いのは、中国がロシアに対して直接的な物質的支援を提供しておらず、中国の利益に沿った典型的な論点を強調しているだけ、と言うことである。「鐘声」の論考は、ロシアを支援する方法には言及せず、むしろ、世界の金融システムに損害を与える米国の野心を封じ込めようと主張している。地政学的に分裂した双方の側が、NATO、テロリズムあるいはハイブリッド戦争といったお決まりの非難に言及することなしに、不和の根源についてある程度の合理的な理解に達することができるまで、紛争は壊滅的な状況のまま継続し、世界的な分裂を拡大し続けるであろう。
記事参照:What ‘Zhong Sheng’ Says About China’s Perceptions of the Ukraine Conflict

6月23日「中国の太平洋進出に対する島嶼諸国の期待と不安―フィリピン中国問題研究者論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 23, 2022)

 6月23日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、フィリピンシンクタンクAsia-Pacific Pathways to Progress Foundation研究員Lucio Blaco Pitlo IIIの“HOPES AND FEARS AS CHINA DEEP DIVES INTO THE PACIFIC”と題する論説を掲載し、そこでPitlo IIIは近年の中国による太平洋進出に太平洋の島嶼国が期待と不安を覚えつつも、それが彼らにとって大きな機会を提供しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、太平洋島嶼諸国との「共同発展ビジョン」を熱心に売り込んでいる。協力の分野は教育、気候変動、安全保障まで幅広い。その動きは集団としての太平洋島嶼諸国の重要性を高めている。それによって太平洋島嶼諸国は、外交方針を調整して集団としてまとまっていくか、あるいはすでに存在する亀裂を深めていく可能性がある。
(2) 中国が太平洋に進出した要因はさまざまである。たとえば、地域の豊富な海洋資源の利用、台湾の既存の外交関係を中国に切り替えさせること、米国と同盟国が中国をその近海に封じ込めようとしていると中国が見ているものからの脱却、可能性のある海外基地の模索などがある。中国が太平洋島嶼諸国とアクセス協定を結べれば、中国は外洋海軍を運用することができるようになるだろう。
(3) 中国の提案によって、太平洋島嶼諸国は大国からの注目を浴びることによる利益を得つつ、地政学的対立に巻き込まれまいとする路線を追求できるようになる。太平洋島嶼諸国は中国の王毅外交部部長とPenny Wongオーストラリア外相の訪問を歓迎した。たとえば両者ともフィジーを訪問したが、そこは2018年に一帯一路構想に署名をしつつ、他方で米国主導のインド太平洋経済枠組みに参加した最初の太平洋島嶼諸国の1つである。
(4) 太平洋島嶼諸国はオーストラリアやニュージーランドの裏庭として知られてきたが、近年、中国の躍進が著しい。中国と外交関係を結ぶ10ヵ国は、一帯一路構想に関する了解覚書を締結している。太平洋島嶼諸国の首脳らは2017年と2019年に北京で開催された一帯一路フォーラムに参加している。2021年10月にはオンラインによる、2022年5月30日にはオンラインと対面の併用により中国と太平洋諸国の外相会談が開かれた。5月の会談で、中国は太平洋島嶼諸国に「共同発展ビジョン」として幅広い協力を提案したのであった。しかしこの提案は、中国の圧倒的な影響力に関する懸念、それが太平洋の勢力の均衡を崩すことに関する懸念を太平洋島嶼諸国の間に抱かせた。
(5) 太平洋島嶼諸国にとって新たな開発提携国の登場は歓迎すべきであるが、他方、その時機は太平洋島嶼諸国の間の亀裂をより深めるかもしれない。ミクロネシア連邦大統領David Panueloがオセアニアの首脳に宛てた書簡はそうした懸念を明らかにしている。米国に近いミクロネシア連邦は中国との協力を経済や技術分野に留めたい一方で、大部分のメラネシアとポリネシア諸国は安全保障分野における中国との協力も視野に入れている。最近締結された中国とソロモン諸島の安全保障協定が典型である。中国問題はまた、ミクロネシア連邦におけるチューク諸島やパプアニューギニアにおけるブーゲンビル、ニューカレドニアの独立問題にも影響を及ぼしている。
(6) 中国は、太平洋全体に関わることによって、オセアニアに取り組みための機会を開けるかもしれない。また中国による関与は、集団としての太平洋島嶼諸国の立場を強化するかもしれない。もし別の大国が中国に倣って太平洋全体に関わろうとするならば、彼らは気候変動や海面上昇など切迫した問題に対する懸念を大国にはっきりと述べることができるだろう。
(7) 現在のところ、太平洋島嶼諸国はより多くの提携国との協働を視野に入れている。彼らがある大国の軌道に入り込んでしまわないかどうかはまだわからない。いずれにしても、中国の太平洋進出は、自分たちの声を聞いてほしいと願い、利益を拡大しようとする太平洋の小国にとって新たな機会を提供するものである。
記事参照:HOPES AND FEARS AS CHINA DEEP DIVES INTO THE PACIFIC

6月25日「QUADとASEANの協力を模索せよ―シンガポール安全保障問題専門家論説」(East Asia Forum, June 25, 2022)

 6月25日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は、シンガポールNanyang Technological University のS. Rajaratnam School of International Studies准教授Sarah Teoの“The Quad and ASEAN — where to next?”と題する論説を掲載し、そこでTeoは地域の安全と安定のためにQUADとASEANの緊密な協力が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年5月、QUADの首脳会談が東京で実施された。5年前に4ヵ国の高官がASEAN首脳会談の脇で集まってから長い道のりを経て、QUADはようやく、地域の永続的な安全保障機構としての立場を確立したようである。
(2) ASEANは、QUADが中国との緊張を高めるのではないかといった懸念を持ちつつも、ここ2年の間、概してQUADに対する支持を表明してきた。QUADが定期的にASEANの中心性に対する配慮を表明し、公衆衛生や気候変動など非伝統的な安全保障問題も議題に含めようとしてきたためである。またQUADは、米国がこの地域に関与し続けるための基盤としても機能している。米国の関与はASEANにとって歓迎すべきことである。
(3) QUADとASEANは、地域における米国の関与を確保し、非伝統的な安全保障問題に対処するための能力構築に共通の利益を見出している。他方で、この2つの集まりは、協力の形式において異なっている。ASEANは包括性を追求するが、QUADは排他的な協調を前提としている。提携国が増えたとしても、米国の同盟国や緊密な提携国しか認められないだろう。
(4) 地域の緊張と不安定に対する最良の対処法は、ASEANのような包括的多国間秩序の存在であり続けている。たしかに、ASEANやASEAN主導の基盤は、地域の課題に対処できていないとして批判されている。QUADが注目されているのはその現れの1つであろう。
(5) しかし、東南アジアのように、政治・経済的にもイデオロギー的にも多様な地域において、包括的で多国間協調主義的な秩序以外に、地域の安定を維持する方法は考えにくい。そうした秩序がなければ、その地域は主要大国が率いるどちらかの陣営につくことが余儀なくされ、各国が戦略的に採ることのできる選択肢は少なくなるだろう。地域は「志向を同じくする」国々のグループに分断され、相互の意思疎通はなくなるだろう。
(6) そうしたシナリオを回避するためには、QUADはASEANを中心として展開する地域の機構に融合していくことが大切である。またASEANとしては、QUADとの協調に対して門戸を開放する必要がある。異論がある国もあるかもしれないが、QUADとの協調の道を完全に閉ざすことで、ASEANは地域の機構における傍流に追いやられる可能性がある。
(7) ASEANとQUADの関係強化の方法はわずかではあるが存在する。たとえば、海洋での協力や気候変動、基幹施設開発など、双方の制度的問題における共通性を利用して、双方の実用的なやりとりを維持することである。また、QUADが作業部会レベルの活動にASEANの議長をオブザーバーとして招待するのも良い。それによって両者の対話が促進され、利益を共有し、QUADがASEANから地域の中心的役割を奪うつもりがないことが保証される。
地域の国々が緊急に対処しなければならない地域の不安定化の可能性の増大、国境を越えた脅威の存在を考えれば、QUADとASEANは協力し、地域の多国間秩序が開かれた包括的な協力に寄与し続けることを確実なものとしなければならない。
記事参照:The Quad and ASEAN — where to next?

6月25日「アフリカの角に対する中国の野望―米専門家論説」(19FortyFive, June 25, 2022)

 6月25日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクAmerican Enterprise Institute上席研究員Michael Rubinの“China Makes A Move On The Horn Of Africa”と題する論説を掲載し、Michael Rubinは、米国は伝統的にアフリカを軽視する傾向にあるが、その間に中国はアフリカの角を自国の望む形にするため、安全保障上の行動、あるいは提携を口実に軍事力を運用する段階に入りつつあり、もし、中国がバブ・エル・マンデブ海峡を扼するアフリカの角を支配すれば、海上交易を支配することになると警告し、米国は、これに対抗するためケニアとの関係を強化し、中国がソマリアを搾取することを拒否するHassan Sheikh Mohamudが大統領に就任したことを好機として提携を深めるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ほとんどの米政権下でアフリカは低い優先順位に置かれている。大統領がアフリカ大陸を訪問するのは任期中、おそらく1回くらいであろう。国務長官はサハラ以南のアフリカへはほとんど訪問していない。このようなアフリカを無視し続けることは戦略的自殺行為である。
(2) 中国政府はアフリカの角における野望を広げつつあることを示している。中国政府の過去10年間の主たる目標が南シナ海における軍事力の展開を強化することであり、パキスタン、スリランカにおいて経済と基幹軍事施設での影響力の拡大が第2であるとすれば、アフリカの角に対する野望はほぼ第3位に位置付けられる。この野望は中国の計算から順位が上がっているかもしれない。中国はジブチに対する影響力を強化するために長い間、債務外交を行ってきており、5年前に最初の海外海軍基地を開設した。ソマリランドは台湾との関係を正式に樹立したとき、中国の野望を確認していた。当時、米国家安全保障会議はこの動きを高く評価していたが、Biden政権はより慎重であった。
(3) アフリカの角への中国特使薛冰は、アディスアベバで開催された「第1回アフリカの角和平・治理・発展会議」で、中国政府は「貿易や投資だけでなく、地域の平和と発展」に与路大きな役割を果たしたいと述べ、「中国が安全保障分野で役割を果たすのは初めてである」と付け加えている。中国は部隊の展開をジブチの基地だけに限らず、「平和維持」に参加していくだろう。薛冰の発言は、公海とインド洋沿岸のスーダンからケニアの間の国々を中国の利益に適合させるため安全保障上の行動あるいは提携という口実で軍を運用するという新しい段階に間もなく移行することを示唆している。アフリカの角は、世界で最も重要な戦略的チョークポイント、バブ・エル・マンデブ海峡を扼している。中国がこの地域の支配の強化に成功すれば、エネルギー、穀物、肥料の交易を効果的に支配することができる。
(4) Biden政権が歴代政権と同じようにアフリカを無視することは怠慢である。ベルベラ港と改装されたベルベラ空港の調査後、U.S. Africa Commandは同地により恒久的な軍の展開を提言している。U.S. Department of Defenseと情報部門はこれに同意している。議会でますます勢力を増す超党派議員団も同様である。
(5) 主因は何なのか。U.S. Department of Stateの惰性である。国家安全保障補佐官Jake Sullivanは、行き詰まりを打開するために、各省庁のトップ及び安全保障担当補佐官で構成される国家安全保障会議Principal’s Committeeの会合を招集すべき時である。米国はソマリランドの港湾都市ベルベラの復興に貢献しなければならないだけで無く、今こそアフリカの角で唯一の真の民主主義国ソマリランドのハルゲイサに領事館を開設すべき時である。U.S. Department of Stateと大統領府は、地域で極めて重要なケニアとの関係を強化すべきである。 
(6) ソマリアでは、Hassan Sheikh Mohamudが2度目の大統領に就任しており、新たな期待がある。Hassan Sheikh Mohamudは愛国者であるだけでなく、中国がソマリアを搾取することを拒否しており、ソマリアが最良の将来を達成することを支援するために提携を深めるべき相手である。中国の影響力の下では少数の権力者が国民や国家の金を横領し、私腹を肥やす硬直化した政治体制がもたらされるだけである。薛冰は傲慢である。彼は中国が勝利し、アフリカの角が中国の野望に対し白紙の状態にあると信じている。薛冰が誤っていることを知らしめるときである。
記事参照:China Makes A Move On The Horn Of Africa

6月27日「ロシアは海での戦争を望んでいるのか-英専門家論説」(Asia Times, June 27, 2022)

 6月27日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、英Lancaster University人文社会科学部上席講師・研究訓練部長Basil Germondの” Does Russia really want a war at sea?”と題する論説を掲載し、そこでGermondは伝統的な大陸国家であるロシアには、長期的かつ世界的なレベルで海洋国家連合に対抗する能力はないので、シーパワーはいずれロシア政府の戦略的失敗の一因となりかねないとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ戦争は戦略的転換点を迎えている。ドンバス地方でロシアの攻勢が強まり、実質的な成果が得られない中、欧米の指導者たちは、戦争は長期化し、ウクライナ支援も長期的に持続しなければならないと警告している。同時に海上での戦闘が激化している。黒海での海上封鎖、バルト海での緊張の高まり、ロシアの海軍艦船を破壊するウクライナの行動、ロシアへの制裁で民間の海運部門が果たす役割など、戦争の海洋的側面が顕在化し、大陸の大国であるロシアが戦略的に敗北する可能性が高まった。戦争が長期化するほど、シーパワーは、Putinに致命的な打撃を与えることになるだろう。
(2) ロシアは、その前身であるソビエト連邦と同様、海洋に対する展望を欠いている。そのため、ロシア政府は、黒海における短期的な海軍の優位性を超えるシーパワーの戦略的重要性を把握することができていない。Putinは、航行の自由を唱え、優れた海軍能力を持ち、世界の海洋問題に強い影響力を持つ海洋国家の連合体に直面している。海洋国家は主として西側諸国であり、西側諸国は戦略的なシーパワーを行使することによって、Putin政権を徐々に窒息させる能力を持っている。
(3) ロシアによる海上からのウクライナ封鎖は、南方への穀物や農産物の輸送を妨げ、世界的な食糧危機の原因になっている。そのため、航行の自由の重要性が注目されている。これは、ロシアが優位な立場にあるように見える。それは、海上封鎖の結果生じる食糧危機を交渉の材料、あるいは脅迫の道具にして、西側の制裁解除を交渉できるからである。しかし、このことは、欧米諸国が比較優位にある部分、すなわち海の自由を守り、人道主義の旗印のもとに協調する国々を結集させる機会を提供することにもなる。
(4) ウクライナは、黒海のロシア軍を積極的に狙っている。4月のミサイル巡洋艦「モスクワ」の沈没以来、ロシア海軍にとって沿岸付近は危険な海域となっている。ウクライナによる黒海での圧力は、6月に入りさらに強まっている。西側から提供された対艦ミサイルを使い、ロシアにとって不可欠な蛇島に物資を補給しているロシアのタグボートへの攻撃に成功した。さらにウクライナは、クリミア海域にある石油掘削施設を標的にし、蛇島のロシア施設に対して空爆を開始した。これらの戦術的な勝利は、ウクライナの黒海北西部への出入りを拒否するロシアの能力に挑戦するものであり、長期的な戦略的影響をもたらす。
(5) 外交レベルでは、航行の自由は、特にその途絶が食糧不足を引き起こす場合、西側諸国を中心とする海洋国家が守るべき世界海洋秩序の対象となる。EUのJosep Borrell外務・安全保障政策上級代表は、穀物輸送を妨害する海上封鎖は 「本当の戦争犯罪」と述べている。この封鎖は、これまでロシアの侵略を非難することに消極的だった南半球の諸国が、その姿勢を改め、西側に立ってロシアの非を指摘することで、ロシアの外交的孤立をさらに助長するかもしれない。ただし、その道のりはまだ長い。
(6) この戦争には、民間の海洋的側面もある。中国を除く主要な海運会社は、ロシアとの間の運航を停止している。ロシアが所有または運航する船舶、あるいはロシアの旗を掲げて航行する船舶は、EU、英国、米国、その他ほとんどの港で入港禁止になっている。このため、ロシア経済や戦争遂行に大きな圧力がかかりつつある。バルト海も、ロシアと西側諸国との緊張の舞台となりつつある。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟の可能性は、バルト海をEUとNATOが支配する「湖」へとさらに変貌させるだろうが、バルト海は常にロシアにとって重要な海上交通路である。NATOとロシアは最近、バルト海でそれぞれ海軍の演習を行っている。さらに、EUの制裁を適用するために、リトアニアは現在、ロシアからBaltic Fleetの司令部があるカリーニングラードへの禁止品(特に金属鉱石)の陸路での通過を遮断している。その結果、ロシアにとってバルト海の航行の自由は、飛び地への補給を確保するために、より重要なものとなっている。最近、ロシア艦艇がデンマーク領海に侵入したことは、ロシアがバルト海の大国としての地位を主張する一方で、海洋国家の意向に神経を尖らせていることを示している。
(7) シーパワーの研究者の間では、強力な海軍力を持つだけでは戦争に勝てないという説がある。しかし、海を支配することは、世界のサプライチェーンを支配する能力から、空爆や水陸両用戦などの作戦の実行に至るまで、戦略的優位をもたらす。シーパワーが大陸の敵に影響力を及ぼすには、時間と忍耐が必要である。したがって、戦争が長期化すればするほど、海洋国家連合が勝利する可能性が高くなる。
(8) 西側諸国は、海軍の優位性を超えて海洋国家の集合体として、International Maritime Organization(国際海事機関)の手続きから国連海洋法条約(UNCLOS)、そして海軍の戦争法まで、海上の国際秩序を形成する立場にある。同様に、民間の主要な利害関係者、特に海事保険会社は、西側の利益と密接に関連している。戦時、平時、そして現在のロシアと欧米の対立などのような混在した状況におけるシーパワーの優位性は、海洋国家が享受し、世界のサプライチェーンを支配し、大陸国家にその支配を否定する能力を通じて戦略的効果を生み出している。これは、長期にならなければ実効的なものにはならない。
(9) ロシアは、中期的にはエネルギー供給の支配を通じてヨーロッパに一定の圧力をかけることができる。また、ロシアは黒海で海軍部隊を運用し、ウクライナからの物資の自由な流通を妨げている。しかし、伝統的な大陸国家であるロシアには、長期的かつ世界的なレベルで海洋国家連合に対抗する能力はない。シーパワーは、いずれモスクワの戦略的失敗の一因となりかねない。
記事参照:Does Russia really want a war at sea?

6月28日「中心的な役割を果たすことができないASEANとADMMの苦悩―シンガポール専門家論説」(FULCRUM, June 28, 2022)

 6月28日付のシンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUMは、同シンクタンクの主任研究員Joanne Linnの“ASEAN and ADMM: Climbing Out of a Deep Hole”と題する論説を掲載し、Joanne LinnはASEANやASEAN国防相会議(ADMM)が、地域の防衛問題に関して中心的な役割を演じるには依然として課題が多いとして、要旨以下のように述べている。
(1)    第16回となるASEAN Defence Ministers’ Meeting (ASEAN国防相会議:ADMMと言
う)は、2年間のオンライン会議を経て、2022年6月22日、カンボジアのプノンペンで再び対面による会議を果たした。今回は、ロシア・ウクライナ戦争、南シナ海での緊張の高まり、長引くミャンマー危機を受け、より不透明で重苦しい地域の安全保障状況の下で、最高レベルの防衛対話が行われることになった。地政学的及び地政戦略的な課題の増大は、ASEANの主要な防衛外交の舞台であるADMMが、共通の課題に取り組むために一層重要になることを意味している。しかし、今回の会議の共同宣言では、ロシア・ウクライナ戦争やインド太平洋の動向など、差し迫った戦略的問題には一切言及されなかった。その代わり、サイバー領域における脅威への対処、将来のパンデミックへの備え、ASEAN女性PKO要員の育成、防衛教育における協力の強化など、拡大する協力構想に焦点を当てた宣言となった。
(2) 2006年の設立から16年、ADMMはその加盟国や対話を行う提携国との間で行われる数多くの実践的な機能的協力を通じて、相互の信頼と信用を促進することに成功してきた。しかし、こうした活動を越えて、ASEANの防衛協力は本当に地域の安全を守ることができるのだろうか?
(3) 元々ADMMは軍事同盟ではなく、EUのように共通の安全保障・防衛政策があるわけでもない。ADMMの設立は、「ASEAN 政治・安全保障共同体(APSC)ブループリント 2025」に先立つ「ASEAN安全保障共同体実行計画」が軸足になっている。この実行計画は、ASEANが多国間の防衛対話に向けて取り組むことを求めたものであった。この安全保障共同体は「防衛共同体」とは区別され、相互防衛条項をもたず、規範の設定、信頼醸成、紛争予防、紛争解決に焦点を置いたものである。1994年、2003年、2015年にASEANがその境界線を押し上げて、ASEAN平和維持軍を設立しようとしたとき、主権や不干渉といった問題への各国の先入観から、加盟国の間で支持を得ることができなかった。また、加盟国の間には領土問題による不信感もある。
(4) QUADやAUKUSのように、主要国のこの地域での地政学的関与が強まり、ASEANは増々困難な課題への対応が迫られている。「東南アジアの現状2022年調査報告書」では、この地域の回答者の中には、AUKUSが地域の軍拡競争を加速させ(22.5%)、ASEANの中心性を弱める(18%)と感じる人々がいた。このようなASEAN域外の「小数国間枠組み」(minilateral)がASEANの中心性を損なうとの懸念を生んでいるのが実情である。したがって、マレーシアのSaifuddin Abdullah外相が最近のインタビューで、ASEANが「他国の行動に反応し続けるのではなくむしろ、インド太平洋の問題でリーダーシップを発揮する」必要性を強調したのは、驚くには当たらない。
(5) しかし、ASEAN以外の安全保障グループ、対話、そして、QUAD主導の「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness:IPMDA)」のような構想が増えているのは、ADMMなどのASEAN主導のメカニズムがこの地域における安全保障上の所要に応えるには不十分であることを明確に示している。これを念頭において、ADMMは2020年以降、「インド太平洋に関するASEANの展望(ASEAN Outlook on the Indo-Pacific:AOIP)」によって導かれるインド太平洋での協力を強化することを検討していた。しかしそれは、ADMM-Plusの内部で意見が異なっており、ほとんど進んでいない。東アジア首脳会議のようなASEAN主導のメカニズムを再構成し、再度強調しようとする取り組みはある。しかし、それは一時しのぎの措置に過ぎない。
(6) おそらく、差し当たってはQUADを含む他の大国の構想と共存する道を探ることが、最良の選択肢かもしれない。
記事参照:ASEAN and ADMM: Climbing Out of a Deep Hole

6月28日「日豪は海洋法執行機関の訓練を率先して進めるべし―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, June 28, 2022)

 6月28日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同Institute上席研究員Anthony Berginとオーストラリア海軍退役少将のLee Goddardの“Australia and Japan should lead the way in maritime law enforcement training”と題する論説を掲載し、そこで両名はインド太平洋地域における海洋法執行機関の重要性が増しつつあるなか、日豪が協力してその能力構築を進めていくべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) アジア安全保障会議の直後、オーストラリアのRichard Marles国防大臣が日本を訪問し、中国の攻勢に対する懸念が共有される中、自衛隊とオーストラリア軍の相互運用性の強化について確認した。アジア安全保障会議では、岸田首相がインド太平洋の海洋安全保障強化のために20億米ドルを拠出することを表明したばかりである。海洋法執行機関の役割が重要性を増すなか、日本のこうした提案は大きな意義を持つ。
(2) 地域の海洋法執行機関や沿岸警備隊の役割はここ10年で急速に大きくなっている。しかし、とりわけ海洋状況把握に関してそれらが持つ能力は大幅に制約されている。こうした状況に対処するための試みもいくつか進められている。たとえば、海上保安大学校は地域の学生を招聘し、海上保安庁はASEANの沿岸警備隊要員の訓練を支援している。U.S. Coast Guardも東南アジアの沿岸警備隊の訓練を支援している。International Criminal Police Organization(国際刑事警察機構)もまた、種々の海上犯罪の予防や対処に関する講習を東南アジアで実施している。しかし、インド太平洋地域には、地域の沿岸警備隊や海洋法執行機関の要員に専門的な訓練や教育を施すことに特化した機関が存在しない。
(3) その問題を解決する手段のひとつが、海洋法執行専門家養成センターを開設することであろう。それは海洋法執行機関の専門性を高め、地域の協力を促進し、海の環境保護問題にも対処できるであろう。またそれが開設されれば、インド太平洋地域の外部の海洋法執行機関との間の協力も期待できる。米国やフランス、日本など提携諸国による海洋法執行機関の訓練への協力が促進されるであろう。こうしたセンターの興味深いモデルとして、ボツワナにある米International Law Enforcement Academyなどがある。それは特にアフリカにおける、海上法執行を含む国際法執行機関の訓練を主催し、推進している。
(4) インド太平洋の海洋法執行専門家養成センターを開設するとしたら、場所はダーウィンが良いだろう。ダーウィンは東南アジアへの玄関口である。そこに開設することで、オーストラリアとインド太平洋地域の強いつながりを内外に示すことができる。またダーウィンは近年急速に海洋活動の中心地として発展しているのである。そして、シドニーにあるAustralian Border Force Collegeで実施されている訓練のいくつかは、今後ダーウィンで実施されることになるかもしれない。ダーウィン湾の広さなどの条件ゆえに、ダーウィンはそうした訓練を実施するのにふさわしい場所である。
(5) オーストラリアのAlbanese首相と岸田首相は、マドリードのNATOサミットで再び顔を合わせることになる。そこでAlbaneseは、上述したセンター開設計画を日本との協働事業にしようと提案するかもしれない。それは、Australian Border Forceと海上保安庁で運営されるだろう。そしてそれは、海洋法執行機関の活動に多国間協調主義的な取り組みを促進するものになるであろう。
記事参照:Australia and Japan should lead the way in maritime law enforcement training

6月30日「台湾海峡の法的地位-中国専門家論説」(China US Focus, June 30, 2022)

 6月30日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusは、中国現代国際関係研究院助理研究員李環の” Legal Status of the Taiwan Strait”と題する論説を掲載し、ここで李環は中国が条約と国内法に従い台湾海峡の主権と管轄権を享受しているのに対し、条約に加盟していない米国の台湾海峡に対する主張は挑発の境界線になりうるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 「国際水域」という言葉は、国際海洋法上の正式な法律用語ではない。一部の国では 「公海」を指す言葉として非公式に使用されているが、1982年の国連海洋法条約(以下、「UNCLOS」と言う)の「公海」についての条文にも定義はないので、UNCLOSの対象に「国際水域」は存在しない。
(2) 台湾海峡は、東シナ海と南シナ海をつなぐ海峡で、多くの国の船舶が行き来している。U.S. Department of StateのNed Price報道官は「台湾海峡は国際水路」と述べているが、これも正確な法律用語ではない。UNCLOS第3部「国際航行に使用されている海峡」の第37条で「この節は、公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡について適用する」と規定されている。条文はこの種の海峡について記述しているだけで、明確な定義を与えていないので、台湾海峡はその地理的特性と機能性だけを根拠に、この種の海峡に分類される可能性がある。しかし、第35条によれば、「この部のいかなる規定も、海峡沿岸国の領海を越える水域の排他的経済水域又は公海としての法的地位に影響を及ぼすものではない」とあることから、通航制度には全く適用されない。
(3) UNCLOS第36条に「この部は、国際航行に使用されている海峡であって、その海峡内に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するものについては、適用しない。これらの航路については、この条約の他の関連する部の規定(航行及び上空飛行の自由に関する規定を含む。)を適用する」とあり、台湾海峡に対するUNCLOS第3部の適用は除外され、通航制度は、台湾海峡の異なる水域の法的地位に従って決定される。中国は、台湾の特殊事情から、これまで大陸、西沙諸島、釣魚島の領海の境界線のみを発表し、台湾島や澎湖諸島など残りの場所の領海の境界線は発表していない。
(4) 「内水」とは、領海の基線より陸地側の水域を意味する。「領海」は沿岸国の基線から12海里まで広がっている。この領海内では、領海の上空並びに領海の海底及びその下が国家の領土の一部となる。沿岸国は、その内水および領海に対して完全な主権すなわち、関税、財政、出入国、衛生に関する事項を規制することができる。「接続水域」は、領海の幅を測るための基線から24海里を超えることはできない。「排他的経済水域」は、領海を越えて隣接し、領海の幅を測定するための基線から200海里を超えない距離まで海側に広がる水域である。排他的経済水域において沿岸国は、天然資源の探査・開発、保全、管理を目的とした主権的権利、そして水域の経済的開発・探査、および人工島・施設・構造物の設置・使用、海洋科学調査、海洋環境の保護・保全を含む管轄権を有している。
(5) 台湾海峡は、最も狭いところで約70海里、最も広いところで約220海里である。条約と中国の法律のもと、台湾海峡の海域は中国の内水、領海、接続水域、排他的経済水域から構成されている。国家は、異なる水域に対して異なる権利と義務を有し、異なる水域には異なる航行形態が適用される。例えば、すべての国の船舶は領海を無害で通過する権利を有し(17条、18条、19条)、「軍艦が領海の通過に関する沿岸国の法律及び規則を遵守せず、また、遵守を求める要請を無視した場合、沿岸国は直ちに領海を離れるよう要求することができる」(30条)とある。また、排他的経済水域では、すべての国が航行と上空の飛行の自由を享受する(第58条)。これは中国の法律においても同様に定めている。
(6) 1982年にUNCLOSに関する最終条約が提示されたとき、中国は最初の署名国の一つであった。現在までに、米国を除く160以上の国が締約している。米国が条約に加盟しないのは、国内的な理由もあるが、基本的には世界の海洋権益を求める覇権主義的な考え方による。条約に加盟しないことで、米国は条約が定める権利を享受できないわけではない。一方、その義務を回避することにはつながる。したがって、「公海は平和目的のために確保する」(第88条)と規定し、排他的経済水域では「いずれの国も、沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この部の規定に反しない限り、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を遵守する」(第58条)という条文を米国は無視することもできる。
(7) 米国軍艦は、今年平均して月に1回程度、台湾海峡を航行している。海峡の大部分は中国の排他的経済水域に入るため、米国は航行の自由を有する。米国はUNCLOS締約国ではないので、沿岸国の権利と義務に関係なく、これが米国の「自由で開かれたインド太平洋地域へのコミットメント」であると主張することができる。このような航行の自由は、台湾の分離主義者を支援し、「一つの中国」政策を継続的に空洞化させ、萎縮させることによって、挑発の境界線となりうる。もし米国が台湾独立論者を70年以上にわたって支援していなければ、台湾海峡を挟んだ平和的統一への道はこれほどまでに険しいものではなかっただろう。
(8) 条約と中国の法律に従い、中国政府は台湾海峡の海域で他国の正当な権利を尊重しつつ、主権と管轄権を享受している。もしこの問題が、中国が国際海洋法の規則に違反しているという誤った主張を用いて意図的に操作されたものであるならば、中国はどちらが正しいのかを明らかにする必要がある。
記事参照:Legal Status of the Taiwan Strait

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)After Djibouti and (suspected) Military Base in Solomon Islands, China now Eyes
Ream Naval Base in Cambodia
https://www.vifindia.org/article/2022/june/22/after-djibouti-and-suspected-military-base-in-solomon-islands
Vivekananda International Foundation, June 22, 2022 
By Prof Rajaram Panda, Senior Fellow at the Nehru Memorial Museum and Library, New Delhi
 2022年6月22日、インドNehru Memorial Museum and LibraryのRajaram Panda主任研究員は、インドシンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトに" After Djibouti and (suspected) Military Base in Solomon Islands, China now Eyes Ream Naval Base in Cambodia "と題する論説を寄稿した。その中でPandaは、一帯一路構想の実現に向けた中国の衰えない対外進出問題を取り上げ、その中でも最近、特に顕著な中国とソロモン諸島をはじめとする南太平洋の国々との外交、安全保障の交流の背後には、米国を駆逐して世界唯一の超大国となり、世界の法を自らの言葉で書き換えるという中国の長期目標が隠されており、人口の少ない南太平洋の島々が、今や次の米中対決の場となっていると指摘している。その上でPandaは、こうした中国との外交、安全保障問題はASEANでも同様であり、特に中国は1985年から首相を務めるカンボジアの強権者Hun Senを仲間とし、カンボジアとは長期間の戦略的パートナーシップを結んでいて、カンボジアは中国に対して非常に従順であると指摘し、カンボジアがこのまま北京と仲良くしていると、ASEANの不統一を招きかねないが、これを防ぐことは、米国だけでなく、他のASEANメンバー国にとっても大きな課題であり、中国の勢いは止まりそうにないと主張している。

(2)BRIDGING THE GAP: HOW THE UNITED STATES CAN IMMEDIATELY
ADDRESS ITS ARCTIC CAPABILITY LIMITATIONS
https://mwi.usma.edu/bridging-the-gap-how-the-united-states-can-immediately-address-its-arctic-capability-limitations/
Modern War Institute, June 22, 2022
By Commander (Sel) Adrienne Hopper, a NOAA Corps officer
Dr. Ryan Burke, a professor of Military and Strategic Studies at the US Air Force Academy
 2022年6月22日、米NOAA Corps(National Oceanic and Atmospheric Administration Commissioned Corps) のAdrienne Hopper中佐と米US Air Force Academy のRyan Burke教授は、U.S. Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに" BRIDGING THE GAP: HOW THE UNITED STATES CAN IMMEDIATELY ADDRESS ITS ARCTIC CAPABILITY LIMITATIONS "と題する論説を寄稿した。その中でHopperとBurkeは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、プーチンの好戦的な政治姿勢を示す最も象徴的な出来事であるが、米国の戦略家や政策立案者は、ロシアの傲慢さが北米の将来の国家安全保障に何を意味するのかを見過ごすわけにはいかないと指摘した上で、ロシアが近々、アラスカを侵略のターゲットに加えるというわけではないが、しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、地球上のすべての主権国家にとって自国を守ることが最優先事項であるという基本的な事実を浮き彫りにしたと述べている。その上でHopperとBurkeは、ここで明らかになった問題は、脆弱な手段では米国は侵略の抑止や国土の防衛を確実に行うことができないということであり、抑止と防衛のために、米国は、北極圏への関与を明確に示し、目に見える形で存在感を示す必要があるした上で、北極圏に存在感を示すには、Federal Oceanographic Fleet(連邦海洋学船団)の活用など、これまでとは異なる取り組みが必要であると主張している。

(3)CHAGOS ISLANDS AND THE STRUGGLE FOR GLOBAL BRITAIN
https://www.9dashline.com/article/chagos-islands-and-the-struggle-for-global-britain
9dashline, June 29, 2022
By Catherine Craven, a Postdoctoral Research Fellow at the Institute for Research into International Migration and Superdiversity at the University of Birmingham
 6月29日、英国のUniversity of BirminghamのInstitute for Research into International Migration and Superdiversity博士研究員Catherine Cravenは、“CHAGOS ISLANDS AND THE STRUGGLE FOR GLOBAL BRITAIN”と題する論説を寄稿した。その中で、①インド洋にあるチャゴス諸島最大の島、ディエゴガルシアの英軍基地に、船でカナダに行こうとして阻止された推定119人のタミル人が拘留されている。②最近では、チャゴス島民が英国政府に対して訴訟を起こし、独立を求める運動が起きている。③カナダに向かうタミル人難民を英国が阻止・拘束したことは、英政府が大西洋を跨ぐ協力の全般を強化する姿勢を示している。④実際、英国は「グローバル・ブリテン」戦略を通じて、英語圏諸国内の「関係への再投資」を強調してきた。⑤チャゴス諸島は、グローバル・ブリテンの移民外交の中心的存在でもある。⑥4月28日、国籍・国境法案(以下、NABBと言う)が制定され、チャゴス諸島で生まれた人々の子孫は、英国の市民権を獲得することができるようになった。⑦チャゴス諸島のチャゴス人とタミル人難民の物語を合わせると、グローバル・ブリテンが本当は何なのかという、そこに内在する受け入れと排除の政治の実態が見えてくる。⑧そもそもタミル人がスリランカを逃れ、亡命を求める必要性を生み出したことに関して、英国には歴史的にも、現代にも責任がある。⑨英国にとって、インド洋領土の支配を維持することは、その外交、貿易、移民政策の利益にとっても、そして同盟国にとっても基本的なことであり続ける。⑩NABBを通じてチャゴス島民をなだめることは、この区域における西側の軍事的展開を確保する1つの方法であるが、その結果、難民の非人道的な扱いを助長することになるといった主張を述べている。