海洋安全保障情報旬報 2022年5月11日-5月20日
Contents
5月11日「武漢を中心とした中国軍の後方支援システム―香港紙報道」(South China Morning Post, May 11, 2022)
5月11日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese media unveils details of US-inspired military logistics system”と題する記事を掲載し、U.S. Transportation Command(米輸送軍)から着想を得たという、武漢を中心とした5つの後方支援センターからなる兵站システムについて、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の国営メディアは、同国の兵站ネットワークの詳細と、そのネットワークがシステム内で共同作戦の構想の下、如何に運用されるかを公表した。ソーシャルメディアWeChatにある国営の中国中央電視台のアカウントは5月9日、中部、西部、東部、南部、北部の各戦区の5つの後方支援センターの運営に関する報告書を発表した。この報告書によると、これら全ての後方支援センターは、デジタルによる補給品保管システムを確立している。デジタル計算と専門的な梱包により、「戦闘に起因しない損耗」を回避することができるという。
(2) 北京軍事科学シンクタンク遠望智庫研究員である周晨明は、中国軍の専門的な兵站管理システムは、1991年の湾岸戦争で初めて用いられたU.S. Transportation Command(米輸送軍)に触発されたものだと述べている。U.S. Department of Defenseは1987年、直轄の統合軍の1つとしてU.S. Transportation Commandを設立した。その4年後、米空軍が率いる後方支援部隊が、民間の航空会社から4千人のパイロットを動員してイラク侵攻を支援した際、中国軍はこのシステムがいかに効果的であるかを知ったと周は語っている。
(3) 中国軍は2016年、習近平国家主席の軍事大改革で他の3つの司令部とともに廃止された旧中国軍総後勤部の後継として、中国共産党中央軍事委員会後勤保障部を設置した。国内の交通と産業の中心地である武漢に拠点を置き、各戦区には高速道路や鉄道でつながる独自の補給センターがある。
(4) 香港在住の軍事評論家である梁国亮は、中国軍は朝鮮戦争と1979年のベトナムとの紛争で、後方支援網の不備から深刻な犠牲を出したことから学んでいるとし、「中国政府は兵站システムを完璧にするために莫大な投資を行い、一方で現在進行中のウクライナ戦争も中国軍に多くの評価基準を提供した」と梁は述べている。
(5) 上海政法大学の倪楽雄教授は、中国軍は依然として軍隊を使って兵器の運搬に専念し、衣類や医療品などの品目は民間企業に任せていると語っており、「中国軍の後方支援部隊は主に国内輸送に重点を置いており、世界の航空覇権を握る米軍に追いつくにはまだ大きな隔たりがあることを示している」と述べている。
記事参照:Chinese media unveils details of US-inspired military logistics system
(1) 中国の国営メディアは、同国の兵站ネットワークの詳細と、そのネットワークがシステム内で共同作戦の構想の下、如何に運用されるかを公表した。ソーシャルメディアWeChatにある国営の中国中央電視台のアカウントは5月9日、中部、西部、東部、南部、北部の各戦区の5つの後方支援センターの運営に関する報告書を発表した。この報告書によると、これら全ての後方支援センターは、デジタルによる補給品保管システムを確立している。デジタル計算と専門的な梱包により、「戦闘に起因しない損耗」を回避することができるという。
(2) 北京軍事科学シンクタンク遠望智庫研究員である周晨明は、中国軍の専門的な兵站管理システムは、1991年の湾岸戦争で初めて用いられたU.S. Transportation Command(米輸送軍)に触発されたものだと述べている。U.S. Department of Defenseは1987年、直轄の統合軍の1つとしてU.S. Transportation Commandを設立した。その4年後、米空軍が率いる後方支援部隊が、民間の航空会社から4千人のパイロットを動員してイラク侵攻を支援した際、中国軍はこのシステムがいかに効果的であるかを知ったと周は語っている。
(3) 中国軍は2016年、習近平国家主席の軍事大改革で他の3つの司令部とともに廃止された旧中国軍総後勤部の後継として、中国共産党中央軍事委員会後勤保障部を設置した。国内の交通と産業の中心地である武漢に拠点を置き、各戦区には高速道路や鉄道でつながる独自の補給センターがある。
(4) 香港在住の軍事評論家である梁国亮は、中国軍は朝鮮戦争と1979年のベトナムとの紛争で、後方支援網の不備から深刻な犠牲を出したことから学んでいるとし、「中国政府は兵站システムを完璧にするために莫大な投資を行い、一方で現在進行中のウクライナ戦争も中国軍に多くの評価基準を提供した」と梁は述べている。
(5) 上海政法大学の倪楽雄教授は、中国軍は依然として軍隊を使って兵器の運搬に専念し、衣類や医療品などの品目は民間企業に任せていると語っており、「中国軍の後方支援部隊は主に国内輸送に重点を置いており、世界の航空覇権を握る米軍に追いつくにはまだ大きな隔たりがあることを示している」と述べている。
記事参照:Chinese media unveils details of US-inspired military logistics system
5月12日「ウクライナ戦争からの教訓-オーストラリア専門家論説」(The Strategist, May 12, 2022)
5月12日付のAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)のウエブサイトThe Strategistは、同Institute上席分析官Malcolm Davisの” Lessons from Ukraine war for Indo-Pacific navies”と題する論説を掲載し、ここでDavisはウクライナ戦争の教訓としてンド太平洋地域の海軍が学ぶことは、ミサイルとドローンの大群から大型で高価な少数の水上艦で構成される機動部隊を防護しようとするのではなく、多数の小型ミサイル搭載艦艇の開発を重視することであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ戦争は、ロシアが期待した早期の勝利は実現せず、紛争は現在、ドンバスでの第2段階の作戦に入りつつあり、長期化しそうである。この紛争で最も劇的だったのは、ロシアBlack Sea Fleet旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦「モスクワ」が、ウクライナの地対艦ミサイル「ネプチューン」2発により沈没したことである。TB-2ドローンを使って「モスクワ」の防空システムを撹乱したことが功を奏したようだが、「モスクワ」の防空システムは低空飛行で高速移動する対艦ミサイルに対抗するには適していなかった可能性もある。その後、ロシア海軍の部隊が、ネプチューンの射程外に再配置されたのは当然の処置である。
(2) 「モスクワ」の沈没は、高度な対艦ミサイルシステムの前に海軍の水上艦艇が時代遅れになったと解釈すべきでない。しかし、インド太平洋地域の海軍にとっては、対艦ミサイルによる大規模攻撃は、洋上の機動部隊にとって防御が困難になるところまで進化しているという問題が提起されている。
(3) 脅威の増大により、海上戦力の開発傾向は長距離ミサイル等の攻撃から空母のような重要目標を防護することを主目的とする高価な大型艦艇に向かっている。その艦艇の垂直発射装置は海上での再装填ができないので、ミサイルを打ち尽くせば、港に入らなければならない。一方で殺傷力の高い自律型兵器や滞空兵器は、水上部隊が直面する難題に拍車をかけている。
(4) (第1の教訓として)高度な無人偵察機は、対艦ミサイルに匹敵する射程距離を持ち、目標の特定、弾薬の運搬、目標への直接攻撃、あるいは対艦ミサイルとの攻撃調整(ターゲットデータを発射管制システムに送ること:訳者注)も可能である。無人偵察機と対艦ミサイルの組み合わせは、中国に接近して行動する海軍部隊が、紛争環境下において生き残るための課題を大きくしている。対艦ミサイルと滞空兵器からなる対水上戦用の武器と、そこに敵情報をセンサーから送り込むという高度な組み合わせ(センサー・トゥ・シューター)による「キルチェーン」は、西太平洋での海軍が危険な状況に陥ること意味する。
(5) インド太平洋地域の海軍にとって適切な解決策は、ミサイルとドローンの大群から限られた火力しか持たない、大型で高価な少数の戦闘艦からなる機動部隊を防護しようとするのではなく、多数の小型のミサイル搭載艦艇の開発を重視することである。これらの艦艇は、独立または小艦隊で、分散運用され、この地域の群島性という特徴を最大限に活用し、残存性のあるセンサー・トゥ・シューターにより、敵を探知し攻撃する。そして、対艦弾道ミサイルなどの長射程システムを含む、敵の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の有効性を低下させるために、敵のセンサーからシューターへのキルチェーンを迅速に切断しなければならない。敵の能力を崩壊させることで、大型の水上艦艇を含む伝統的な海軍戦力をより近くに配備し、発射母体喪失の危険性を負うことなく、対地・対艦ミサイルを活用することができる。これが第2の教訓である。
(6) ロシアはウクライナに対してカリブルなどの長射程対地ミサイルを発射できることを実証しており、これは第3の教訓として、海軍の対地攻撃任務が長距離、特に極超音速兵器を利用することを示唆している。しかし、海上で相手の海軍部隊を探知、追跡、標的化する能力を奪うことは、極めて重要な対抗手段である。この方法は、ウクライナ軍が陸上で採用している、少人数の戦闘員チーム、低コストの情報能力、奇襲、適切なタイミング・場所での戦力の集中による効果、そして報復を避けるための迅速な分散を利用した攻撃を、海上で再現するものである。インド太平洋地域における海軍の非対称的な運用は、敵の領域に突撃して主要な水上戦闘艦を失うよりも理にかなっている。
記事参照:Lessons from Ukraine war for Indo-Pacific navies
(1) ウクライナ戦争は、ロシアが期待した早期の勝利は実現せず、紛争は現在、ドンバスでの第2段階の作戦に入りつつあり、長期化しそうである。この紛争で最も劇的だったのは、ロシアBlack Sea Fleet旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦「モスクワ」が、ウクライナの地対艦ミサイル「ネプチューン」2発により沈没したことである。TB-2ドローンを使って「モスクワ」の防空システムを撹乱したことが功を奏したようだが、「モスクワ」の防空システムは低空飛行で高速移動する対艦ミサイルに対抗するには適していなかった可能性もある。その後、ロシア海軍の部隊が、ネプチューンの射程外に再配置されたのは当然の処置である。
(2) 「モスクワ」の沈没は、高度な対艦ミサイルシステムの前に海軍の水上艦艇が時代遅れになったと解釈すべきでない。しかし、インド太平洋地域の海軍にとっては、対艦ミサイルによる大規模攻撃は、洋上の機動部隊にとって防御が困難になるところまで進化しているという問題が提起されている。
(3) 脅威の増大により、海上戦力の開発傾向は長距離ミサイル等の攻撃から空母のような重要目標を防護することを主目的とする高価な大型艦艇に向かっている。その艦艇の垂直発射装置は海上での再装填ができないので、ミサイルを打ち尽くせば、港に入らなければならない。一方で殺傷力の高い自律型兵器や滞空兵器は、水上部隊が直面する難題に拍車をかけている。
(4) (第1の教訓として)高度な無人偵察機は、対艦ミサイルに匹敵する射程距離を持ち、目標の特定、弾薬の運搬、目標への直接攻撃、あるいは対艦ミサイルとの攻撃調整(ターゲットデータを発射管制システムに送ること:訳者注)も可能である。無人偵察機と対艦ミサイルの組み合わせは、中国に接近して行動する海軍部隊が、紛争環境下において生き残るための課題を大きくしている。対艦ミサイルと滞空兵器からなる対水上戦用の武器と、そこに敵情報をセンサーから送り込むという高度な組み合わせ(センサー・トゥ・シューター)による「キルチェーン」は、西太平洋での海軍が危険な状況に陥ること意味する。
(5) インド太平洋地域の海軍にとって適切な解決策は、ミサイルとドローンの大群から限られた火力しか持たない、大型で高価な少数の戦闘艦からなる機動部隊を防護しようとするのではなく、多数の小型のミサイル搭載艦艇の開発を重視することである。これらの艦艇は、独立または小艦隊で、分散運用され、この地域の群島性という特徴を最大限に活用し、残存性のあるセンサー・トゥ・シューターにより、敵を探知し攻撃する。そして、対艦弾道ミサイルなどの長射程システムを含む、敵の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の有効性を低下させるために、敵のセンサーからシューターへのキルチェーンを迅速に切断しなければならない。敵の能力を崩壊させることで、大型の水上艦艇を含む伝統的な海軍戦力をより近くに配備し、発射母体喪失の危険性を負うことなく、対地・対艦ミサイルを活用することができる。これが第2の教訓である。
(6) ロシアはウクライナに対してカリブルなどの長射程対地ミサイルを発射できることを実証しており、これは第3の教訓として、海軍の対地攻撃任務が長距離、特に極超音速兵器を利用することを示唆している。しかし、海上で相手の海軍部隊を探知、追跡、標的化する能力を奪うことは、極めて重要な対抗手段である。この方法は、ウクライナ軍が陸上で採用している、少人数の戦闘員チーム、低コストの情報能力、奇襲、適切なタイミング・場所での戦力の集中による効果、そして報復を避けるための迅速な分散を利用した攻撃を、海上で再現するものである。インド太平洋地域における海軍の非対称的な運用は、敵の領域に突撃して主要な水上戦闘艦を失うよりも理にかなっている。
記事参照:Lessons from Ukraine war for Indo-Pacific navies
5月12日「日米台の軍事協力に向けて即座に行動を開始せよ―米評論家・米安全保障専門家論説」(Real Clear Defense, May 12, 2022)
5月12日付の米国防関連ウエブサイトReal Clear Defenseは、インド太平洋問題評論家Ben Noonと米シンクタンクStrategic and Budgetary Assessments研究助手Joseph Rossの“The U.S. and Japan Need Training with Taiwan to Deter China”と題する論説を掲載し、そこで両名は台湾における脅威が差し迫っているなかで、日米台の軍事連携に向けた協力を即刻開始すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアによるウクライナ侵攻は、世界規模の秩序の再構築を目指した戦争が単なる可能性を超えたものであることをわれわれに教えた。次、同じようなことが起こる場所として、台湾以上に可能性があるところはない。中国の習近平国家主席は、必要であれば軍事力を行使して、その民主主義国を併合しようという野心を明確に持っている。
(2) 日米両国は、台湾の安全が双方の国益であることを理解している。その独立と地理は、東アジアにおける中国海軍の行動を制約することで、日本の防衛をやりやすいものにしている。しかし、もし明日にでも戦争が始まったら、日米台の3ヵ国は、その行動をうまく連携させることはできず、ばらばらに活動した結果、十分な戦闘力を発揮することはできないだろう。したがって日米台が模索すべきは、各軍の連携を強化して中国の侵略を抑止するという明確な目標を持った軍事的な集団を創設することである。
(3) この目標達成は困難であるが、本当に戦争を抑止したいのであれば避けては通れない。短期的に見て現実的な、3つの段階を示したい。第1に、日米台は即刻沿岸警備に関する協力を開始すべきである。米台は2021年に沿岸警備に関する作業部会を設立している。2022年の国防権限法は、米州兵と台湾の協力に関する報告を要求したが、議会はこれについて、海での訓練にも射程を広げるべきであろう。
(4) 第2に、日米台は将校の交流行事を開始すべきである。日米台3ヵ国の軍のつながりを構築することは、危機に際して共同で活動するのに必要な基盤を提供するだろう。第3に、海洋状況把握に関する標準化された過程を構築すべきである。その際、公開情報以上の情報を収集、分析し、中国海警船や海軍艦船の動きを追跡、予測するシステムがあるとよい。それは将来的に、自動的な目標共有システムへと発展する可能性がある。
(5) 以上の政策は、日米台の軍事関係の制度化に向けた長い道のりの出発点にすぎない。日米台の協力の基盤を構築することで、今後、他国の軍隊の参加もありえるだろう。この3ヵ国の協力だけでは中国の台湾侵攻を完全に抑止することはできないだろうが、危機に際してこの3ヵ国が効果的に連携するために必要な最初の一歩である。すぐに行動を開始しなければならない。
記事参照:The U.S. and Japan Need Training with Taiwan to Deter China
(1) ロシアによるウクライナ侵攻は、世界規模の秩序の再構築を目指した戦争が単なる可能性を超えたものであることをわれわれに教えた。次、同じようなことが起こる場所として、台湾以上に可能性があるところはない。中国の習近平国家主席は、必要であれば軍事力を行使して、その民主主義国を併合しようという野心を明確に持っている。
(2) 日米両国は、台湾の安全が双方の国益であることを理解している。その独立と地理は、東アジアにおける中国海軍の行動を制約することで、日本の防衛をやりやすいものにしている。しかし、もし明日にでも戦争が始まったら、日米台の3ヵ国は、その行動をうまく連携させることはできず、ばらばらに活動した結果、十分な戦闘力を発揮することはできないだろう。したがって日米台が模索すべきは、各軍の連携を強化して中国の侵略を抑止するという明確な目標を持った軍事的な集団を創設することである。
(3) この目標達成は困難であるが、本当に戦争を抑止したいのであれば避けては通れない。短期的に見て現実的な、3つの段階を示したい。第1に、日米台は即刻沿岸警備に関する協力を開始すべきである。米台は2021年に沿岸警備に関する作業部会を設立している。2022年の国防権限法は、米州兵と台湾の協力に関する報告を要求したが、議会はこれについて、海での訓練にも射程を広げるべきであろう。
(4) 第2に、日米台は将校の交流行事を開始すべきである。日米台3ヵ国の軍のつながりを構築することは、危機に際して共同で活動するのに必要な基盤を提供するだろう。第3に、海洋状況把握に関する標準化された過程を構築すべきである。その際、公開情報以上の情報を収集、分析し、中国海警船や海軍艦船の動きを追跡、予測するシステムがあるとよい。それは将来的に、自動的な目標共有システムへと発展する可能性がある。
(5) 以上の政策は、日米台の軍事関係の制度化に向けた長い道のりの出発点にすぎない。日米台の協力の基盤を構築することで、今後、他国の軍隊の参加もありえるだろう。この3ヵ国の協力だけでは中国の台湾侵攻を完全に抑止することはできないだろうが、危機に際してこの3ヵ国が効果的に連携するために必要な最初の一歩である。すぐに行動を開始しなければならない。
記事参照:The U.S. and Japan Need Training with Taiwan to Deter China
5月13日「台湾、自らの将来を守るために:ウクライナ戦争が動機―米専門家論説」(NIKKEI Asia, May 13, 2022)
5月13日付の日経英文メディNIKKEI Asia電子版は、米シンクタンクRAND Corporation上席防衛問題研究員Derek Grossmanの“Ukraine war is motivating Taiwan to better secure its own future”と題する論説を掲載し、Derek Grossmanは台湾では米国の来援に対する信頼は低下しており、ウクライナの事例に照らし、台湾の戦略は混乱し、志願兵制を採って以来最も予備役の重要性が増しているにもかかわらず、その能力は不十分であるとした上で、台湾はウクライナのロシアに対する抵抗の含意を観察し、考察し続けると指摘し、これが中国 の最も心配すべきこととして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのウクライナ侵攻は、起こるかもしれない中国の台湾侵攻と明らかに類似している。ウクライナ戦争に対する台湾の関心とその進化を見落とすことは誤りである。強固なウクライナの抵抗が示すように、より小規模で能力が劣る市民によって支援された部隊は真の重大な結果をもたらすことができる。台湾外交部長呉釗燮は「自らを守るためにウクライナから何を学ぶことができるかを見ようとしている」とCNNに述べている。
(2) 呉釗燮はウクライナが台湾の戦略計画に影響を与えた2つの領域を強調し、第1として、ウクライナは重装備の敵の大軍に向かうのに個人用兵器を使用していると指摘している。第2にウクライナの全ての男性は祖国を守るとの決意を持っており、彼らは従軍を志願し、ロシアと戦うために前線出でることを望んでいると呉釗燮は見ている。
(3) 呉釗燮の第1の点について、台湾は国民に自らを守る準備をさせ、将来の抵抗の一助とする意味でその表面をなぞっただけである。全民防衛動員署は市民による抵抗の組織化せず、そのための指針を示したガイドブックを発出していない。ウクライナの事例が台湾をさらなら軍民統合と追随させるかを見ておくことが重要である。
(4) 呉釗燮の第1の指摘によると、台湾は対艦巡航ミサイル、機雷、地対空ミサイルなど非対称防衛に長年にわたって投資してきた。しかし、台湾はより安価で、効果的な防衛を損なうF-16V戦闘機のような高額の装備を優先している。2019年に策定された整體防衛構想(Overall Defense Concept)は、新戦略は台湾海峡の真ん中で戦うのではなく、台湾の海岸近く、さらには海岸で人民解放軍と戦うことを目指し、人民解放軍の増強に直面して台湾軍により大きな戦略的、戦術的優位を与えるものである。
(5) 呉釗燮の第2の問題は、非常に難しい問題である。何年もの間、部外者、特に米国は台湾の戦うという決意や意思について、懐疑的で懸念を持っている。徴兵制から完全な志願兵制へ移行後、台湾軍は若者を募集するのに懸命の努力をしてきた。2,300万人の人口で入隊適齢期の人口はわずかである。台湾の予備役はますます困難な任務を引き受けなければならず、彼らの訓練は中国が全面侵攻した場合には不十分である。同じことは今日でもほぼ同じであろう。国防部長邱國生は予備役招集訓練期間を4ヵ月から1年に延長することを提案している。
(6) 台湾民意基金会が4月17日から19日にかけて20才以上の国民1,000名に対して電話により調査したところ、米国は台湾防衛に来援することについて53.8%が全く、あるいはある程度信じていないと回答している。2021年10月の調査では28.5%であった。言い換えれば、米国がウクライナに代わってロシアに直接介入することに消極的であったことが、台湾では米国を信用できないという考えを増長している。
(7) 最期に、ロシア政府はほとんど懲罰を受けることなくウクライナに侵攻した。ウクライナは、ロシア本土に対する報復を実施できる核兵器あるいは戦略的兵器を保有していないからである。台湾もまた、核兵器計画を持っていない。しかし、近年、台湾は中国本土を攻撃できる弾道ミサイルあるいは巡航ミサイルの取得を追求し始めている。米政府は両岸関係の悪化に照らして台湾に対する深い関与を明確にし、適用したいと考えるかもしれない。
(8) ロシアのウクライナ侵攻は、おそらく台湾が中国に対し自らのより良い将来を担保しようと動機付けるかもしれない。しかし、ウクライナの事例からの類推は間違いなく不完全である。予備役の訓練の欠陥、戦略に関する長引く混乱など台湾が直面する問題の多くは、修復可能としても、修復は困難である。とに角、呉釗燮外交部長が述べているように台湾はウクライナのロシアに対して成功裡に進む抵抗の含意を観察し、考慮し続けるだろう。中国政府が心配しなければならないのはそのことだけである。
記事参照:Ukraine war is motivating Taiwan to better secure its own future
(1) ロシアのウクライナ侵攻は、起こるかもしれない中国の台湾侵攻と明らかに類似している。ウクライナ戦争に対する台湾の関心とその進化を見落とすことは誤りである。強固なウクライナの抵抗が示すように、より小規模で能力が劣る市民によって支援された部隊は真の重大な結果をもたらすことができる。台湾外交部長呉釗燮は「自らを守るためにウクライナから何を学ぶことができるかを見ようとしている」とCNNに述べている。
(2) 呉釗燮はウクライナが台湾の戦略計画に影響を与えた2つの領域を強調し、第1として、ウクライナは重装備の敵の大軍に向かうのに個人用兵器を使用していると指摘している。第2にウクライナの全ての男性は祖国を守るとの決意を持っており、彼らは従軍を志願し、ロシアと戦うために前線出でることを望んでいると呉釗燮は見ている。
(3) 呉釗燮の第1の点について、台湾は国民に自らを守る準備をさせ、将来の抵抗の一助とする意味でその表面をなぞっただけである。全民防衛動員署は市民による抵抗の組織化せず、そのための指針を示したガイドブックを発出していない。ウクライナの事例が台湾をさらなら軍民統合と追随させるかを見ておくことが重要である。
(4) 呉釗燮の第1の指摘によると、台湾は対艦巡航ミサイル、機雷、地対空ミサイルなど非対称防衛に長年にわたって投資してきた。しかし、台湾はより安価で、効果的な防衛を損なうF-16V戦闘機のような高額の装備を優先している。2019年に策定された整體防衛構想(Overall Defense Concept)は、新戦略は台湾海峡の真ん中で戦うのではなく、台湾の海岸近く、さらには海岸で人民解放軍と戦うことを目指し、人民解放軍の増強に直面して台湾軍により大きな戦略的、戦術的優位を与えるものである。
(5) 呉釗燮の第2の問題は、非常に難しい問題である。何年もの間、部外者、特に米国は台湾の戦うという決意や意思について、懐疑的で懸念を持っている。徴兵制から完全な志願兵制へ移行後、台湾軍は若者を募集するのに懸命の努力をしてきた。2,300万人の人口で入隊適齢期の人口はわずかである。台湾の予備役はますます困難な任務を引き受けなければならず、彼らの訓練は中国が全面侵攻した場合には不十分である。同じことは今日でもほぼ同じであろう。国防部長邱國生は予備役招集訓練期間を4ヵ月から1年に延長することを提案している。
(6) 台湾民意基金会が4月17日から19日にかけて20才以上の国民1,000名に対して電話により調査したところ、米国は台湾防衛に来援することについて53.8%が全く、あるいはある程度信じていないと回答している。2021年10月の調査では28.5%であった。言い換えれば、米国がウクライナに代わってロシアに直接介入することに消極的であったことが、台湾では米国を信用できないという考えを増長している。
(7) 最期に、ロシア政府はほとんど懲罰を受けることなくウクライナに侵攻した。ウクライナは、ロシア本土に対する報復を実施できる核兵器あるいは戦略的兵器を保有していないからである。台湾もまた、核兵器計画を持っていない。しかし、近年、台湾は中国本土を攻撃できる弾道ミサイルあるいは巡航ミサイルの取得を追求し始めている。米政府は両岸関係の悪化に照らして台湾に対する深い関与を明確にし、適用したいと考えるかもしれない。
(8) ロシアのウクライナ侵攻は、おそらく台湾が中国に対し自らのより良い将来を担保しようと動機付けるかもしれない。しかし、ウクライナの事例からの類推は間違いなく不完全である。予備役の訓練の欠陥、戦略に関する長引く混乱など台湾が直面する問題の多くは、修復可能としても、修復は困難である。とに角、呉釗燮外交部長が述べているように台湾はウクライナのロシアに対して成功裡に進む抵抗の含意を観察し、考慮し続けるだろう。中国政府が心配しなければならないのはそのことだけである。
記事参照:Ukraine war is motivating Taiwan to better secure its own future
5月13日「台湾防空識別圏への中国軍機侵入におけるパターンの変化が意味すること―UAE国防専門家・シンガポール政治学者論説」(The Diplomat, May 13, 2022)
5月13日付のデジタル誌The Diplomatは、UAEのRabdan Academy 助教授Olli Pekka SuorsaとシンガポールNanyang Technological University のS. Rajaratnam School of International Studies研究員Adrian Ang U-Jinの“The Changing Pattern of China’s Aircraft Incursions Into Taiwan’s ADIZ”と題する論説を掲載し、そこで両名は3月初めから5月初めにかけて中国が台湾の防空識別圏への侵入に際して対潜哨戒機KQ-200を出撃させなかったことについて言及し、その原因と中国が対潜戦訓練を重要視していることについて、要旨以下のように述べている。
(1) この2ヵ月の間、中国戦闘機による台湾の防空識別圏(以下、台湾ADIZと言う)への侵入のパターンに変化が見られた。昨年末にも指摘したように、対潜戦哨戒機KQ-200の侵入が頻繁に見られていたのに対し、ここ2ヵ月はKQ-200の活動がなかったのである。台湾Ministry of National Defenseのデータによれば、5月以前でKQ-200の最後の侵入が記録されたのは3月1日のことであり、再び姿を現したのは5月3日のことであった。それ以降、KQ-200は再び台湾南西部の台湾ADIZにほぼ毎日侵入している。
(2) 2021年にKQ-200が台湾ADIZに侵入した回数は合計で165回、月平均14回である。そして2022年1月と2月にもそれぞれ16回、12回を数えており、概ね1日おきに侵入を繰り返してきた。数は少ないが、高い稼働率を誇っている。それにもかかわらず、3月から5月初めにかけて侵入が中断されていた。その理由として、3月1日にKQ-200が墜落した可能性があるという。ベトナムの海洋問題専門家Duan Dangは、3月4日から15日にかけて中国がトンキン湾で急遽行った軍事訓練の本当の目的は、墜落したKQ-200の捜索と救助にあったと指摘する。中国はこれを公式には認めていないが、この墜落事故で死亡したと思われるパイロットと乗組員7人の葬儀が行われたと、台湾National Security Bureauが報告している。
(3) この事故を受け、中国はKW-200を全機地上待機させたに違いない。中国はこうした墜落事故に際して思い切った措置をとることがよくある。しかし、中国による台湾ADIZへの侵入自体が停止したわけではなく、輸送機Y-8やY-9などによる侵入は続いている。このとき、KQ-200の地上待機を補うために、水上艦艇から発艦する対潜ASWヘリコプターを活用している。たとえば3月15日にはZ-9、15日には旧式のKa-28が侵入している。4月にも前者が2度、後者が1度侵入したのが記録されている。
(4) 対潜ヘリコプターの活動は海岸から遠く離れた場所であり、それは、上述したようにこれらの機体が艦載機であることを意味している。ヘリコプターを搭載できるフリゲート艦や駆逐艦などを中国は急速に増やしている。また、対潜ヘリコプターの行動海域は、KQ-200と同じ南シナ海の大陸斜面(大陸棚の外縁から傾斜する斜面が、大洋底に最も近いところで急に緩くなるところまでの斜面:訳者注)の上空であり、このことは、これらの活動が対潜戦に重点を置いたものであることを示唆している。
(5) 対潜ヘリコプターが、より大規模な人民解放軍の航空部隊の一部として運用されたことは、習近平が構想する空軍と海軍の高度な連携が目指されていることを示唆している。ただし、KQ-200の墜落前の月平均侵入回数が14回であったのに対し、ヘリコプターの侵入回数は2ヵ月でわずか5回であったので、それらがKQ-200に代替可能であるとはとても言えないだろう。KQ-200の稼働時間はヘリコプターより長く、活動範囲も広い。
(6) 公開情報を分析すると、中国人民解放軍はソナーを装備した水上艦艇、KQ-200、対潜ヘリコプターが参加する連携訓練を実施している。敵潜水艦の捜索と追尾のために対潜航空戦力を活用するのは、米国のやり方を参考にしているようである。5月3日以降、KQ-200はいつもの「狩り場」での活動に戻っている。中国は対潜戦訓練を活発化させており、われわれは今後もこの動向を注視する必要がある。
記事参照:The Changing Pattern of China’s Aircraft Incursions Into Taiwan’s ADIZ
(1) この2ヵ月の間、中国戦闘機による台湾の防空識別圏(以下、台湾ADIZと言う)への侵入のパターンに変化が見られた。昨年末にも指摘したように、対潜戦哨戒機KQ-200の侵入が頻繁に見られていたのに対し、ここ2ヵ月はKQ-200の活動がなかったのである。台湾Ministry of National Defenseのデータによれば、5月以前でKQ-200の最後の侵入が記録されたのは3月1日のことであり、再び姿を現したのは5月3日のことであった。それ以降、KQ-200は再び台湾南西部の台湾ADIZにほぼ毎日侵入している。
(2) 2021年にKQ-200が台湾ADIZに侵入した回数は合計で165回、月平均14回である。そして2022年1月と2月にもそれぞれ16回、12回を数えており、概ね1日おきに侵入を繰り返してきた。数は少ないが、高い稼働率を誇っている。それにもかかわらず、3月から5月初めにかけて侵入が中断されていた。その理由として、3月1日にKQ-200が墜落した可能性があるという。ベトナムの海洋問題専門家Duan Dangは、3月4日から15日にかけて中国がトンキン湾で急遽行った軍事訓練の本当の目的は、墜落したKQ-200の捜索と救助にあったと指摘する。中国はこれを公式には認めていないが、この墜落事故で死亡したと思われるパイロットと乗組員7人の葬儀が行われたと、台湾National Security Bureauが報告している。
(3) この事故を受け、中国はKW-200を全機地上待機させたに違いない。中国はこうした墜落事故に際して思い切った措置をとることがよくある。しかし、中国による台湾ADIZへの侵入自体が停止したわけではなく、輸送機Y-8やY-9などによる侵入は続いている。このとき、KQ-200の地上待機を補うために、水上艦艇から発艦する対潜ASWヘリコプターを活用している。たとえば3月15日にはZ-9、15日には旧式のKa-28が侵入している。4月にも前者が2度、後者が1度侵入したのが記録されている。
(4) 対潜ヘリコプターの活動は海岸から遠く離れた場所であり、それは、上述したようにこれらの機体が艦載機であることを意味している。ヘリコプターを搭載できるフリゲート艦や駆逐艦などを中国は急速に増やしている。また、対潜ヘリコプターの行動海域は、KQ-200と同じ南シナ海の大陸斜面(大陸棚の外縁から傾斜する斜面が、大洋底に最も近いところで急に緩くなるところまでの斜面:訳者注)の上空であり、このことは、これらの活動が対潜戦に重点を置いたものであることを示唆している。
(5) 対潜ヘリコプターが、より大規模な人民解放軍の航空部隊の一部として運用されたことは、習近平が構想する空軍と海軍の高度な連携が目指されていることを示唆している。ただし、KQ-200の墜落前の月平均侵入回数が14回であったのに対し、ヘリコプターの侵入回数は2ヵ月でわずか5回であったので、それらがKQ-200に代替可能であるとはとても言えないだろう。KQ-200の稼働時間はヘリコプターより長く、活動範囲も広い。
(6) 公開情報を分析すると、中国人民解放軍はソナーを装備した水上艦艇、KQ-200、対潜ヘリコプターが参加する連携訓練を実施している。敵潜水艦の捜索と追尾のために対潜航空戦力を活用するのは、米国のやり方を参考にしているようである。5月3日以降、KQ-200はいつもの「狩り場」での活動に戻っている。中国は対潜戦訓練を活発化させており、われわれは今後もこの動向を注視する必要がある。
記事参照:The Changing Pattern of China’s Aircraft Incursions Into Taiwan’s ADIZ
5月17日「インド太平洋におけるヨーロッパの役割は拡大し続けるのか―ノルウェー安全保障問題専門家論説」(East Asia Forum, May 17, 2022)
5月17日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、Norwegian Institute of Defence Studies教授Liselotte Odgaardの“Will Europe’s emerging Indo-Pacific presence last?”と題する論説を掲載し、そこでOdgaardはインド太平洋地域におけるヨーロッパ諸国の防衛力の展開に近年注目が集まっていることを指摘し、それを拡大させるのは容易なことではないがそれでも努力を拡大させるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアによるウクライナ侵攻は、ヨーロッパと米国の努力の分断をもたらすかもしれない。ヨーロッパはNATOの東方・北方への拡大に対する挑戦を抑止することに焦点を当てる一方、米国はインド太平洋が中国の勢力圏にならないような試みに焦点を当てるであろう。
(2) 近年、ヨーロッパ諸国によるインド太平洋の戦略的役割が増大しており、米国もそれをよく理解している。日本などインド太平洋の国々も、ヨーロッパの防衛力の展開に関心を持っている。しかし、ヨーロッパはこのままインド太平洋への関与をさらに深めていくことができるだろうか。
(3) NATO外相会談後のJens Stoltenberg事務総長の声明は、中国の影響力増大と威圧的な方針がNATOに与える影響に注意を向けつつ、中国を脅威であると明言することは避けた。特に、中国をロシアと同等の脅威と定義づけることに対してドイツやフランスが抵抗しているが、このことは、中国に関してはあくまでサイバースペースや宇宙空間において注意するというNATOの方針を示している。
(4) EUは、世界的な経済大国として幅広い影響力を有しており、インド太平洋諸国とも戦略的パートナーシップを樹立している。しかし、EUはそうした地域的地盤を意味のある防衛力の展開へと転換できるだろうか。フランスは、インド太平洋におけるヨーロッパの防衛力の展開の拡大において英国同様に主要な役割を担ってきた。2016年以降にインド太平洋地域への輪番方式で配備を実施しているが、これは、中国を抑止するというよりは、法に基づく地域的安全保障機構の保護を意図するものである。
(5) ドイツも、自由の航行作戦の支援のために、フリゲート「バイエルン」を2021年8月から22年2月にかけてインド太平洋に配備した。英国もまた、2021年に空母打撃群を派遣し、また2022年には哨戒艦2隻を恒久配備するなど、その貢献は大きい。
(6) しかし英国の貢献については、EUの意図に沿ったものというよりは、米国の意図に沿って中国との対決的な防衛戦略の一部であるとみなす方が適切であろう。そして英国にとって最大の脅威はロシアであり、北極圏における軍事的展開の増強に務めている。また、フランスは国内の経済格差の拡大と中央と地方の分断ゆえに、インド太平洋における軍事力の展開を拡大させ続けるのは困難であろう。さらに、防衛支出をGDP比2%まで増大させるドイツの決意は、ヨーロッパにおけるドイツの軍事的役割の大変動をみなされている。これらのことは、ヨーロッパ諸国がインド太平洋における防衛力の展開を効果的なものへと拡大できるかどうかが疑問視される理由になっている。
(7) とはいえ、インド太平洋においてヨーロッパが役割を拡大させるべきではない、ということではない。実際にEUは、インド太平洋諸国との海軍および沿岸警備隊における能力構築における協力を進めるなど、インド太平洋における安全保障への貢献を拡大させている。もし、海における中国の挑戦にNATOが向き合うことになれば、こうした既存の動きが今後の活動の基盤となる可能性がある。EUのインド太平洋における防衛力の展開が張り子の虎ではなく、長期的視野に基づくものであることを示すためには、より幅広い努力が必要である。
記事参照:Will Europe’s emerging Indo-Pacific presence last?
(1) ロシアによるウクライナ侵攻は、ヨーロッパと米国の努力の分断をもたらすかもしれない。ヨーロッパはNATOの東方・北方への拡大に対する挑戦を抑止することに焦点を当てる一方、米国はインド太平洋が中国の勢力圏にならないような試みに焦点を当てるであろう。
(2) 近年、ヨーロッパ諸国によるインド太平洋の戦略的役割が増大しており、米国もそれをよく理解している。日本などインド太平洋の国々も、ヨーロッパの防衛力の展開に関心を持っている。しかし、ヨーロッパはこのままインド太平洋への関与をさらに深めていくことができるだろうか。
(3) NATO外相会談後のJens Stoltenberg事務総長の声明は、中国の影響力増大と威圧的な方針がNATOに与える影響に注意を向けつつ、中国を脅威であると明言することは避けた。特に、中国をロシアと同等の脅威と定義づけることに対してドイツやフランスが抵抗しているが、このことは、中国に関してはあくまでサイバースペースや宇宙空間において注意するというNATOの方針を示している。
(4) EUは、世界的な経済大国として幅広い影響力を有しており、インド太平洋諸国とも戦略的パートナーシップを樹立している。しかし、EUはそうした地域的地盤を意味のある防衛力の展開へと転換できるだろうか。フランスは、インド太平洋におけるヨーロッパの防衛力の展開の拡大において英国同様に主要な役割を担ってきた。2016年以降にインド太平洋地域への輪番方式で配備を実施しているが、これは、中国を抑止するというよりは、法に基づく地域的安全保障機構の保護を意図するものである。
(5) ドイツも、自由の航行作戦の支援のために、フリゲート「バイエルン」を2021年8月から22年2月にかけてインド太平洋に配備した。英国もまた、2021年に空母打撃群を派遣し、また2022年には哨戒艦2隻を恒久配備するなど、その貢献は大きい。
(6) しかし英国の貢献については、EUの意図に沿ったものというよりは、米国の意図に沿って中国との対決的な防衛戦略の一部であるとみなす方が適切であろう。そして英国にとって最大の脅威はロシアであり、北極圏における軍事的展開の増強に務めている。また、フランスは国内の経済格差の拡大と中央と地方の分断ゆえに、インド太平洋における軍事力の展開を拡大させ続けるのは困難であろう。さらに、防衛支出をGDP比2%まで増大させるドイツの決意は、ヨーロッパにおけるドイツの軍事的役割の大変動をみなされている。これらのことは、ヨーロッパ諸国がインド太平洋における防衛力の展開を効果的なものへと拡大できるかどうかが疑問視される理由になっている。
(7) とはいえ、インド太平洋においてヨーロッパが役割を拡大させるべきではない、ということではない。実際にEUは、インド太平洋諸国との海軍および沿岸警備隊における能力構築における協力を進めるなど、インド太平洋における安全保障への貢献を拡大させている。もし、海における中国の挑戦にNATOが向き合うことになれば、こうした既存の動きが今後の活動の基盤となる可能性がある。EUのインド太平洋における防衛力の展開が張り子の虎ではなく、長期的視野に基づくものであることを示すためには、より幅広い努力が必要である。
記事参照:Will Europe’s emerging Indo-Pacific presence last?
5月17日「チッタゴン港、バングラデシュの対印、対中外交の均衡の切り札―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, May 17, 2022)
5月17日付のインドシンクタンクObserver Research Foundationウエブサイトは、同Foundation研究員Sohini Boseの“The Chittagong Port: Bangladesh’s trump card in its diplomacy of Balance”と題する論説を掲載し、バングラデシュのチッタゴン港がバングラデシュにとって対インド、対中国外交の均衡を図る切り札になっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) バングラデシュのHasina首相とインドのJaishankar外相は4月末にダッカで会談し、首
相はインドにチッタゴン港の使用を申し出た。首相は、相互利益のために2つの隣接国家間の連結性強化の必要性を指摘し、インド北東部の陸封州、アッサムとトリプラの両州がチッタゴン港を利用することで連結性が一層強化されるであろうと強調した。これに先立って、2019年には中国に対して南西諸省によるチッタゴン港とモングラ港の使用を認めている。実際、チッタゴン港はしばしば、隣接諸国、特にアジアの2大国、インドと中国に対するバングラデシュの戦略的パートナーシップにおける切り札となっている。
(2) チッタゴン港は、カルナフリ川の河口から16km上流にあるバングラデシュの主要港で、Lloyd’s listによれば、世界的感染拡大などのために、2020年の世界コンテナ港トップ100中58位から2021年には第67位に順位を下げている。同港の荷役量はコンテナが主体で、旅客やばら積み貨物量は限られている。2024年までには、ベイコンテナ・ターミナルの建設が完了する。同港は、このターミナルの完成によって、その戦略的位置に加えて、印中両国の利用によって大きく発展することが見込まれる。バングラデシュは、三角形のベンガル湾の頂点に位置し、この海域の重要な海上交通路への不可欠の出入りを提供しており、地政学的に羨望される位置にある。そしてチッタゴン港は、その位置によって戦略的重要性を高めている。
(3) インドにとってのチッタゴン港の重要性はどうか。1947年にパキスタンが東西に分裂して独立後も、インド北東部の陸封州は1965年の印パ戦争勃発までは、東パキスタンの港を利用できた。それ以来今日まで、インドは、陸封州からは自国領のコルカタ港よりはるかに近いチッタゴン港の利用を取り戻そうと試みてきた。インド北東部とチッタゴン港を連結することは、この地域を発展させ、インドの他の地域との連結性を強化するだけでなく、国境を接する隣国、バングラデシュとの連結性をも強化する手っ取り早い選択肢である。 しかも、これは、インドの「アクト・イースト政策」と「隣国ファースト政策」を喧伝する上でも役立つであろう。バングラデシュもまた、2番目に大きな輸出相手国(1位は中国)、インドとの連結性の強化に熱心である。両国は2015年に、インド東部沿岸域の諸港と、バングラデシュの港、特にチッタゴン港との間での直接的な通常荷役を認める、「沿岸域荷役協定」と「標準運用規定」に調印している。
(4) 中国にとっての重要性はどうか。今日、中国にとって、チッタゴン港はインド洋への入り口の1つとして重要である。一部の国際的メディアの報道は、「インド洋地域における海洋エネルギー・ルートを支配し、南アジア諸国の港湾開発を通じてその影響力を拡大する」計画の一環として、中国によるチッタゴン港への投資に言及している。 他の報道では、インド洋における軍民両用の根拠地建設を目指すという米の見方、即ち中国の「真珠数珠つなぎ」戦略に同港が組み込まれていると分析している。 しかしながら、中国の専門家はこうした見方を否定してきた。彼らによれば、両国は合同経済開発のために互恵協定に調印しており、チッタゴン港の開発は両国間の平等な条件に基づくもので、「それ故、この計画への中国の資金投資には軍事的目的はない」。他方、バングラデシュも同港への中国の投資促進に熱心であった。中国からの投資によって、同港の荷役量を2055年までに3倍増にすることを目指している。現在、中国はチッタゴン港の利用を享受しており、ダッカ・チッタゴン高速鉄道プロジェクトの建設と運営、220kmのパイプラインとチッタゴン製油所に輸入原油を直接荷揚げするためのタンカーの係留施設の建設に関心を持っている。
(5) チッタゴン港に対するアジアの2大国、印中両国の関心は明白である。したがって、バングラデシュにとっては、自国の経済成長を促進するとともに、印中両国との好ましい関係を促進する上で、同港は切り札となっている。しがって、中立的立場を維持しながら、両国の協力を通じて同港を発展させていくことは、バングラデシュの均衡の取れた外交の勝利である。インドへのチッタゴン港使用の申出は、そうした外交的な構想である。それはまた、両国が既に2021年3月に「地域全体にとっての2国間の結び付きのモデル」と誇った両国の提携において高まる友好的雰囲気を反映するものでもある。
記事参照:The Chittagong Port: Bangladesh’s trump card in its diplomacy of Balance
(1) バングラデシュのHasina首相とインドのJaishankar外相は4月末にダッカで会談し、首
相はインドにチッタゴン港の使用を申し出た。首相は、相互利益のために2つの隣接国家間の連結性強化の必要性を指摘し、インド北東部の陸封州、アッサムとトリプラの両州がチッタゴン港を利用することで連結性が一層強化されるであろうと強調した。これに先立って、2019年には中国に対して南西諸省によるチッタゴン港とモングラ港の使用を認めている。実際、チッタゴン港はしばしば、隣接諸国、特にアジアの2大国、インドと中国に対するバングラデシュの戦略的パートナーシップにおける切り札となっている。
(2) チッタゴン港は、カルナフリ川の河口から16km上流にあるバングラデシュの主要港で、Lloyd’s listによれば、世界的感染拡大などのために、2020年の世界コンテナ港トップ100中58位から2021年には第67位に順位を下げている。同港の荷役量はコンテナが主体で、旅客やばら積み貨物量は限られている。2024年までには、ベイコンテナ・ターミナルの建設が完了する。同港は、このターミナルの完成によって、その戦略的位置に加えて、印中両国の利用によって大きく発展することが見込まれる。バングラデシュは、三角形のベンガル湾の頂点に位置し、この海域の重要な海上交通路への不可欠の出入りを提供しており、地政学的に羨望される位置にある。そしてチッタゴン港は、その位置によって戦略的重要性を高めている。
(3) インドにとってのチッタゴン港の重要性はどうか。1947年にパキスタンが東西に分裂して独立後も、インド北東部の陸封州は1965年の印パ戦争勃発までは、東パキスタンの港を利用できた。それ以来今日まで、インドは、陸封州からは自国領のコルカタ港よりはるかに近いチッタゴン港の利用を取り戻そうと試みてきた。インド北東部とチッタゴン港を連結することは、この地域を発展させ、インドの他の地域との連結性を強化するだけでなく、国境を接する隣国、バングラデシュとの連結性をも強化する手っ取り早い選択肢である。 しかも、これは、インドの「アクト・イースト政策」と「隣国ファースト政策」を喧伝する上でも役立つであろう。バングラデシュもまた、2番目に大きな輸出相手国(1位は中国)、インドとの連結性の強化に熱心である。両国は2015年に、インド東部沿岸域の諸港と、バングラデシュの港、特にチッタゴン港との間での直接的な通常荷役を認める、「沿岸域荷役協定」と「標準運用規定」に調印している。
(4) 中国にとっての重要性はどうか。今日、中国にとって、チッタゴン港はインド洋への入り口の1つとして重要である。一部の国際的メディアの報道は、「インド洋地域における海洋エネルギー・ルートを支配し、南アジア諸国の港湾開発を通じてその影響力を拡大する」計画の一環として、中国によるチッタゴン港への投資に言及している。 他の報道では、インド洋における軍民両用の根拠地建設を目指すという米の見方、即ち中国の「真珠数珠つなぎ」戦略に同港が組み込まれていると分析している。 しかしながら、中国の専門家はこうした見方を否定してきた。彼らによれば、両国は合同経済開発のために互恵協定に調印しており、チッタゴン港の開発は両国間の平等な条件に基づくもので、「それ故、この計画への中国の資金投資には軍事的目的はない」。他方、バングラデシュも同港への中国の投資促進に熱心であった。中国からの投資によって、同港の荷役量を2055年までに3倍増にすることを目指している。現在、中国はチッタゴン港の利用を享受しており、ダッカ・チッタゴン高速鉄道プロジェクトの建設と運営、220kmのパイプラインとチッタゴン製油所に輸入原油を直接荷揚げするためのタンカーの係留施設の建設に関心を持っている。
(5) チッタゴン港に対するアジアの2大国、印中両国の関心は明白である。したがって、バングラデシュにとっては、自国の経済成長を促進するとともに、印中両国との好ましい関係を促進する上で、同港は切り札となっている。しがって、中立的立場を維持しながら、両国の協力を通じて同港を発展させていくことは、バングラデシュの均衡の取れた外交の勝利である。インドへのチッタゴン港使用の申出は、そうした外交的な構想である。それはまた、両国が既に2021年3月に「地域全体にとっての2国間の結び付きのモデル」と誇った両国の提携において高まる友好的雰囲気を反映するものでもある。
記事参照:The Chittagong Port: Bangladesh’s trump card in its diplomacy of Balance
5月18日「民間船舶を戦争に使用するロシアはモントルー精神に反している―トルコ専門家論説」(Middle East Institute, May 18, 2022)
5月18日付の米シンクタンクMiddle East Institute(MEI)のウエブサイトは、イスタンブールを拠点に、トルコ海峡の海洋活動を分析するコンサルタント会社Bosphorus Observerを経営する地政学アナリストで、MEIのトルコプログラム非常勤研究員Yörük Işıkの” Russia is violating the spirit of Montreux by using civilian ships for war”と題する論説を掲載し、ここでYörük Işıkはトルコ海峡をロシアの戦争に従事する民間船に対して閉鎖して、軍事貨物がロシアの戦争に供給されることを阻止すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月28日、トルコは第2次世界大戦以来使われていないモントルー条約を発動し、トルコ海峡における軍艦の航行を禁止した。この処置は、ロシアのシリアへの海上物流供給ラインを遮断させ、地中海の海軍艦艇の交代運用能力を妨害し、モスクワが黒海に軍艦を追加投入することを妨げた。ロシアはもはや、シリアへの補給も、海軍の艦船を使った防衛装備品の輸出もできない。しかし、トルコ海峡の交通を詳細に観察すると、ロシアが地中海と黒海で海軍の活動を続けていることがわかる。
(2) 現在、トルコ海峡の閉鎖は海軍の船舶にのみ適用されているので、商業目的でのトルコ海峡の自由な通過は継続される。ロシアはこれを悪用して、民間船を海軍の補助船として使い、シリアやウクライナでの軍事作戦に補給品を供給している。このような行為は今回が初めてではない。シリアでの作戦の最盛期には、ロシア海軍が運べる以上の物資が必要なため、ロシアはトルコから古い貨物船を購入し、船籍を変更して戦争に使い始めた。そして今、ロシアは再び民間船を、シリアやリビアでの軍事作戦への物資供給、エジプトでの原子力発電所建設、アルジェリアへの防衛装備品の輸出など、既存の契約を履行するために使用している。ロシアはまた、ウクライナの占領地、特にセヴァストポリ港の穀物ターミナルから物資を略奪している。オデーサ港やチョルノモルスク港を不法に封鎖して、その一方で占領下のウクライナの港から輸出された盗品の穀物を売って利益を得るという不法なことを行っている。
(3) 現在、ロシアは以下のような5種類の民間船を戦争に使用している。
a. ロシアMinistry of Defense傘下の物流会社Oboronlogistikaが所有する貨物船は、ノヴォロシースクからシリアへ、そして、ウストルガとカリーニングラードなどのバルト海の港から ノヴォロシースクへ定期的に軍事貨物を輸送している。
b. モスクワに拠点を置く M Leasing などのロシア企業のロシア船籍の貨物船は、ロシア政府が所有または代行し、防衛輸出品や武器を輸送している。
c. 以前はこの地域で見かけなかったが、再就役し、パナマなど便宜的に船籍を置く国の旗を掲げた旧式のロシア船は、ノヴォロシースク港に頻繁に現れ、ロシア政府の請負業者として働いているようである。軍事貨物を運んだこれらの船は、ロシアが使用する武器を輸送することによって、ウクライナの戦争を長引かせている。
d. ロシア船籍のタンカーは、シリアのヘミーム空軍基地にジェット燃料を定期的に運んでいる。特に「シグ」と「ヤズ」は、何年も前からシリアのバニヤスへ航空用ジェット燃料を輸送している。これらは明らかに民間船ではなく、ロシア海軍の補助艦艇として扱われるべきである。これらの船のトルコ海峡通過を阻止すれば、シリア戦域にあるロシア空軍の航空機は即座に飛べなくなる。ヘミームは、中央アフリカ共和国、マリ、ベネズエラのロシア軍事作戦へ飛行するための給油地でもあるので、この2隻を阻止すれば、ロシアの軍事作戦は直ちに混乱する。
e. 小麦、大麦、トウモロコシなどの商品を輸送するロシア船籍、またはシリア船籍のばら積み貨物船も使用されている。
(4) ロシアは、シリアやウクライナでの軍事作戦に、民間船を使うことで、トルコ海峡の閉鎖を回避する方法を見いだしている。これは、モントルー条約の精神に反する。たとえ合法であっても、許してはならない。
(5) ウクライナが戦争に勝てば、黒海地域の力の均衡は根本的に変わる。ロシアは自国の作戦上の重大な問題を露呈し、もはや優位性を享受することはできなくなる。特に黒海沿岸諸国からの圧力が予想される。ウクライナは、経験豊富な軍隊と、西側の新型対艦兵器によって強化された沿岸防衛により、ロシアの沿岸海域の哨戒能力をさらに低下させ、戦争から立ち直るだろう。ルーマニアとジョージアの両国は、黒海における米国とNATOの兵力の展開向上に関心を寄せている。
(6) トルコのロシアに対する態度も変わるだろう。トルコ海軍はすでに黒海において最強で、新型フリゲート艦と潜水艦の建造により、ロシアの黒海艦隊をすでに3対1で上回るほどに増強されている。また、黒海の新たなガス田を守る必要もある。このような変化は、モントルー条約の実施に影響を与える可能性が高い。モントルー条約が書かれた当時、黒海はソ連とトルコの支配下にあり、ソ連が優位に立つと理解されていたが、今はすべてが変わってしまった。ウクライナ、ルーマニア、ジョージアは、現在モントルー条約が自国海域で黒海以外の国の船舶に課している制限を見直したいと思っているだろう。
(7) トルコは、ロシアの違法行為を締め出すことで、戦争を早期に終結させるためにあらゆる手段を講じる必要がある。そして、トルコ海峡を通過する船舶に対しては、より厳格な検査が必要である。NATOは、武器を積んでいる可能性のある船舶の検査にもっと警戒を強めてほしい。黒海に向かう貨物船で、疑わしい貨物を積んでいる可能性の高い船に対しては、地中海の国際水域で乗り込み、検査する必要がある。トルコは、トルコ海峡をロシアの戦争に従事する民間船に対して閉鎖し、軍事貨物がロシアの戦争に供給されることを阻止すべきである。
(8) 世界の食糧安全保障を再確立するための行動も必要である。ロシアはウクライナの物資を工場規模で盗んで販売しており、この違法な販売による利益が戦争を拡大させている。大量の盗品がトルコに流れ込み、中にはシリア政府の海運会社によって不可解な形で運ばれているものもある。トルコの企業を含むバイヤーが、この違法な取引に関わるのは間違っている。ロシアがウクライナの最も重要な港であるオデーサとチョルノモルスクを封鎖し続けている間、そのような盗品を運ぶ船はトルコ海峡へのアクセスを拒否されるべきである。
記事参照:Russia is violating the spirit of Montreux by using civilian ships for war
(1) 2月28日、トルコは第2次世界大戦以来使われていないモントルー条約を発動し、トルコ海峡における軍艦の航行を禁止した。この処置は、ロシアのシリアへの海上物流供給ラインを遮断させ、地中海の海軍艦艇の交代運用能力を妨害し、モスクワが黒海に軍艦を追加投入することを妨げた。ロシアはもはや、シリアへの補給も、海軍の艦船を使った防衛装備品の輸出もできない。しかし、トルコ海峡の交通を詳細に観察すると、ロシアが地中海と黒海で海軍の活動を続けていることがわかる。
(2) 現在、トルコ海峡の閉鎖は海軍の船舶にのみ適用されているので、商業目的でのトルコ海峡の自由な通過は継続される。ロシアはこれを悪用して、民間船を海軍の補助船として使い、シリアやウクライナでの軍事作戦に補給品を供給している。このような行為は今回が初めてではない。シリアでの作戦の最盛期には、ロシア海軍が運べる以上の物資が必要なため、ロシアはトルコから古い貨物船を購入し、船籍を変更して戦争に使い始めた。そして今、ロシアは再び民間船を、シリアやリビアでの軍事作戦への物資供給、エジプトでの原子力発電所建設、アルジェリアへの防衛装備品の輸出など、既存の契約を履行するために使用している。ロシアはまた、ウクライナの占領地、特にセヴァストポリ港の穀物ターミナルから物資を略奪している。オデーサ港やチョルノモルスク港を不法に封鎖して、その一方で占領下のウクライナの港から輸出された盗品の穀物を売って利益を得るという不法なことを行っている。
(3) 現在、ロシアは以下のような5種類の民間船を戦争に使用している。
a. ロシアMinistry of Defense傘下の物流会社Oboronlogistikaが所有する貨物船は、ノヴォロシースクからシリアへ、そして、ウストルガとカリーニングラードなどのバルト海の港から ノヴォロシースクへ定期的に軍事貨物を輸送している。
b. モスクワに拠点を置く M Leasing などのロシア企業のロシア船籍の貨物船は、ロシア政府が所有または代行し、防衛輸出品や武器を輸送している。
c. 以前はこの地域で見かけなかったが、再就役し、パナマなど便宜的に船籍を置く国の旗を掲げた旧式のロシア船は、ノヴォロシースク港に頻繁に現れ、ロシア政府の請負業者として働いているようである。軍事貨物を運んだこれらの船は、ロシアが使用する武器を輸送することによって、ウクライナの戦争を長引かせている。
d. ロシア船籍のタンカーは、シリアのヘミーム空軍基地にジェット燃料を定期的に運んでいる。特に「シグ」と「ヤズ」は、何年も前からシリアのバニヤスへ航空用ジェット燃料を輸送している。これらは明らかに民間船ではなく、ロシア海軍の補助艦艇として扱われるべきである。これらの船のトルコ海峡通過を阻止すれば、シリア戦域にあるロシア空軍の航空機は即座に飛べなくなる。ヘミームは、中央アフリカ共和国、マリ、ベネズエラのロシア軍事作戦へ飛行するための給油地でもあるので、この2隻を阻止すれば、ロシアの軍事作戦は直ちに混乱する。
e. 小麦、大麦、トウモロコシなどの商品を輸送するロシア船籍、またはシリア船籍のばら積み貨物船も使用されている。
(4) ロシアは、シリアやウクライナでの軍事作戦に、民間船を使うことで、トルコ海峡の閉鎖を回避する方法を見いだしている。これは、モントルー条約の精神に反する。たとえ合法であっても、許してはならない。
(5) ウクライナが戦争に勝てば、黒海地域の力の均衡は根本的に変わる。ロシアは自国の作戦上の重大な問題を露呈し、もはや優位性を享受することはできなくなる。特に黒海沿岸諸国からの圧力が予想される。ウクライナは、経験豊富な軍隊と、西側の新型対艦兵器によって強化された沿岸防衛により、ロシアの沿岸海域の哨戒能力をさらに低下させ、戦争から立ち直るだろう。ルーマニアとジョージアの両国は、黒海における米国とNATOの兵力の展開向上に関心を寄せている。
(6) トルコのロシアに対する態度も変わるだろう。トルコ海軍はすでに黒海において最強で、新型フリゲート艦と潜水艦の建造により、ロシアの黒海艦隊をすでに3対1で上回るほどに増強されている。また、黒海の新たなガス田を守る必要もある。このような変化は、モントルー条約の実施に影響を与える可能性が高い。モントルー条約が書かれた当時、黒海はソ連とトルコの支配下にあり、ソ連が優位に立つと理解されていたが、今はすべてが変わってしまった。ウクライナ、ルーマニア、ジョージアは、現在モントルー条約が自国海域で黒海以外の国の船舶に課している制限を見直したいと思っているだろう。
(7) トルコは、ロシアの違法行為を締め出すことで、戦争を早期に終結させるためにあらゆる手段を講じる必要がある。そして、トルコ海峡を通過する船舶に対しては、より厳格な検査が必要である。NATOは、武器を積んでいる可能性のある船舶の検査にもっと警戒を強めてほしい。黒海に向かう貨物船で、疑わしい貨物を積んでいる可能性の高い船に対しては、地中海の国際水域で乗り込み、検査する必要がある。トルコは、トルコ海峡をロシアの戦争に従事する民間船に対して閉鎖し、軍事貨物がロシアの戦争に供給されることを阻止すべきである。
(8) 世界の食糧安全保障を再確立するための行動も必要である。ロシアはウクライナの物資を工場規模で盗んで販売しており、この違法な販売による利益が戦争を拡大させている。大量の盗品がトルコに流れ込み、中にはシリア政府の海運会社によって不可解な形で運ばれているものもある。トルコの企業を含むバイヤーが、この違法な取引に関わるのは間違っている。ロシアがウクライナの最も重要な港であるオデーサとチョルノモルスクを封鎖し続けている間、そのような盗品を運ぶ船はトルコ海峡へのアクセスを拒否されるべきである。
記事参照:Russia is violating the spirit of Montreux by using civilian ships for war
5月19日「沿海域戦闘艦を退役させ、海上安全保障能力の構築を目指す海軍―米海事専門家・米防衛問題専門家論説」(Center for International Maritime Security, May 19, 2022)
5月19日付の米シンクタンクThe Center for International Maritime Securityのウエブサイトは、米シンクタンクHudson Institute上級研究員Bryan Clarkと防衛問題専門家Craig Hooperの“LET THE NAVY RETIRE LCS AND BUILD A U.S. MARITIME CONSTABULARY INSTEAD”と題する論説を掲載し、そこで両名は海軍が小型艦艇を退役させつつある傾向に言及し、これまで海軍が担ってきた小型艦艇に適した任務を沿岸警備隊などに移管し、その能力構築を目指すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 最近のニュースによれば、海軍のインディペンデンス級沿海域戦闘艦(以下、LCSと言う)の一部に船体に亀裂が入ったという。フリーダム級LCSは、全艦が減速機の修復が必要で、それには高額の費用がかかる。こうした事実が示唆するのは、2023年度に9隻のLCSを廃棄するという決定が、32隻にのぼるLCSすべてを最終的に退役させようという海軍の試みの最初の一撃にすぎないということであろう。
(2) 議会は徐々に海軍の意見を受け入れつつある。LCSは、運用と整備などのために1隻あたり1年で6,000万ドルもかかっているが、これは、大型でより高性能な駆逐艦の維持費8,000万ドルをやや下回る程度である。またLCSは紛争ではあまり役に立たないだろう。
(3) LCSの欠陥が惹起した深刻な問題に対し、議会やDepartment of Defenseは速やかに対処する必要がある。いまや海軍は、LCSのような小型水上戦闘艦艇の役割を重要視していない。海軍はLCSだけでなく、LCSによって代替しようとした掃海艦や哨戒艦などの退役も模索している。他方、LCSのカウンターパートとなる小型戦闘艦艇として構想されたコンステレーション級フリゲートは、冷戦期には4,000トン級であったのが、いまや駆逐艦をわずかに下回る8,000トン級に大型化している。
(4) 伝統的に小型水上戦闘艦艇の任務は、海賊や密売組織対応のための哨戒や、商船隊の護衛などであった。しかし今日、商船防護任務は無人システムに任せるのが妥当である。海洋安全保障や訓練、監視などの任務は、特に東シナ海や南シナ海での中国の「グレーゾーン作戦」に対処するために重要であるが、それもまた行うのにふさわしい部門がある。
(5) 海軍はそうした任務を、U.S. Coast GuardやU.S. Navy’s Military Sealift Command(軍事海上輸送司令部)に移管させ、自身はより本格的な戦闘に焦点を当てようとしている。そして議会はそうした考え方を受け入れるべきである。海軍がLCSを退役させ、そのための費用が浮けば、その資金をU.S. Coast GuardやU.S. Navy’s Military Sealift Commandのために使うことができるであろう。
(6) U.S. Coast Guardは、海賊や中国の海上民兵からシーレーンを防護する任務に適した新型巡視船の建造・配備実績を積み重ねてきた。4,500トン級巡視船(National Security Cutter)は生産終了の時期を迎えているが、さらに数隻を建造し、南シナ海での展開向上に役立てるべきだろう。これに加えて議会は4,000トン級の海洋巡視船の建造を増やすべきである。
(7) U.S. Navy’s Military Sealift Commandは、冷戦後に海軍の輸送・事前配置任務を引き継ぎ、現在は海軍の遠征用中継基地と支援ドックを運用し、世界中の海上警備やテロ対策任務を支えている。同司令部はまた、アフリカ、アジア、南米において、海軍や共同訓練を支援する遠征用高速輸送船(以下、EPFと言う)も運用している。議会はEPFの建造を増やすべきである。海軍に比べ、船を動かすのに必要な船員の数は同司令部のほうが少ないため、運用経費も低い。船員の需要が増えれば、近年低迷する米国の商船隊の強化にもつながるだろう。海軍の小型艦艇の任務をEPFに引き継がせることにはもう1つ利点がある。海軍は大型無人水上艦(LUSV)計画をたてているが、それは、独立した運用が可能かどうかとミサイルの搭載能力に関して議会に懸念を抱かれている。そこで、暫定的な措置として、垂直発射システムのミサイル弾倉を搭載したEPFで代替が可能であろう。
(8) 海軍やU.S. Department of Defenseは、治安維持に関する任務を放棄することに満足しているようだ。しかし、ロシアのウクライナ侵攻が思い起こさせるように、グレーゾーン作戦はより大きな紛争の出発点になり得る。したがって米国は、そうした作戦に対処するのにより適した部隊を整備する必要がある。
記事参照:LET THE NAVY RETIRE LCS AND BUILD A U.S. MARITIME CONSTABULARY INSTEAD
(1) 最近のニュースによれば、海軍のインディペンデンス級沿海域戦闘艦(以下、LCSと言う)の一部に船体に亀裂が入ったという。フリーダム級LCSは、全艦が減速機の修復が必要で、それには高額の費用がかかる。こうした事実が示唆するのは、2023年度に9隻のLCSを廃棄するという決定が、32隻にのぼるLCSすべてを最終的に退役させようという海軍の試みの最初の一撃にすぎないということであろう。
(2) 議会は徐々に海軍の意見を受け入れつつある。LCSは、運用と整備などのために1隻あたり1年で6,000万ドルもかかっているが、これは、大型でより高性能な駆逐艦の維持費8,000万ドルをやや下回る程度である。またLCSは紛争ではあまり役に立たないだろう。
(3) LCSの欠陥が惹起した深刻な問題に対し、議会やDepartment of Defenseは速やかに対処する必要がある。いまや海軍は、LCSのような小型水上戦闘艦艇の役割を重要視していない。海軍はLCSだけでなく、LCSによって代替しようとした掃海艦や哨戒艦などの退役も模索している。他方、LCSのカウンターパートとなる小型戦闘艦艇として構想されたコンステレーション級フリゲートは、冷戦期には4,000トン級であったのが、いまや駆逐艦をわずかに下回る8,000トン級に大型化している。
(4) 伝統的に小型水上戦闘艦艇の任務は、海賊や密売組織対応のための哨戒や、商船隊の護衛などであった。しかし今日、商船防護任務は無人システムに任せるのが妥当である。海洋安全保障や訓練、監視などの任務は、特に東シナ海や南シナ海での中国の「グレーゾーン作戦」に対処するために重要であるが、それもまた行うのにふさわしい部門がある。
(5) 海軍はそうした任務を、U.S. Coast GuardやU.S. Navy’s Military Sealift Command(軍事海上輸送司令部)に移管させ、自身はより本格的な戦闘に焦点を当てようとしている。そして議会はそうした考え方を受け入れるべきである。海軍がLCSを退役させ、そのための費用が浮けば、その資金をU.S. Coast GuardやU.S. Navy’s Military Sealift Commandのために使うことができるであろう。
(6) U.S. Coast Guardは、海賊や中国の海上民兵からシーレーンを防護する任務に適した新型巡視船の建造・配備実績を積み重ねてきた。4,500トン級巡視船(National Security Cutter)は生産終了の時期を迎えているが、さらに数隻を建造し、南シナ海での展開向上に役立てるべきだろう。これに加えて議会は4,000トン級の海洋巡視船の建造を増やすべきである。
(7) U.S. Navy’s Military Sealift Commandは、冷戦後に海軍の輸送・事前配置任務を引き継ぎ、現在は海軍の遠征用中継基地と支援ドックを運用し、世界中の海上警備やテロ対策任務を支えている。同司令部はまた、アフリカ、アジア、南米において、海軍や共同訓練を支援する遠征用高速輸送船(以下、EPFと言う)も運用している。議会はEPFの建造を増やすべきである。海軍に比べ、船を動かすのに必要な船員の数は同司令部のほうが少ないため、運用経費も低い。船員の需要が増えれば、近年低迷する米国の商船隊の強化にもつながるだろう。海軍の小型艦艇の任務をEPFに引き継がせることにはもう1つ利点がある。海軍は大型無人水上艦(LUSV)計画をたてているが、それは、独立した運用が可能かどうかとミサイルの搭載能力に関して議会に懸念を抱かれている。そこで、暫定的な措置として、垂直発射システムのミサイル弾倉を搭載したEPFで代替が可能であろう。
(8) 海軍やU.S. Department of Defenseは、治安維持に関する任務を放棄することに満足しているようだ。しかし、ロシアのウクライナ侵攻が思い起こさせるように、グレーゾーン作戦はより大きな紛争の出発点になり得る。したがって米国は、そうした作戦に対処するのにより適した部隊を整備する必要がある。
記事参照:LET THE NAVY RETIRE LCS AND BUILD A U.S. MARITIME CONSTABULARY INSTEAD
5月19日「今でも西欧の戦略的優先事項はPutinを打ち負かすことではなく、ロシアを中国から分離させることでなければならない―カナダ専門家論説」(Real Clear Defense, May 19, 2022)
5月19日付の米国防関連ウエブサイトReal Clear Defenseは、カナダConcordia University准教授Julian Spencer-Churchillの“Even Now, the Strategic Priority Must be to Split Russia from China, Not to Defeat Putin”と題する論説を掲載し、Julian Spencer-Churchillはロシアのウクライナとの戦争は移行期にある権威主義国家ロシアの絶望的な敗北主義に過ぎないが、台湾をめぐる中国との戦争は、現在の世界覇権国から次の世界覇権国への権力移行争いであるため、民主主義諸国家は強力な軍事的同盟を形成して中国を孤立させ、ウクライナとの紛争の終結後にはロシアを欧州の一員に組み入れ、ロシアと中国の分離を計画しなければならないとして要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナが、ロシアを決定的に打ち負かし、ロシア軍をドンバスやクリミアから追い出すのに十分な軍事力を持つことは決してないであろう。我々がせいぜい期待できるのは、ウクライナとの戦争が続きロシア国内の大統領への政治的支持が低下し、そのため停戦に同意することを余儀なくされ、シロヴィキ(ロシアの治安・国防関係省庁の職員またはその出身者を指す:訳者注)の側近もしくは不満を抱いているロシア軍によってクーデターが起きて、Vladimir Putin大統領が追放されることである。ロシアの民衆蜂起が、1905年、1917年、1991年の規模になるには数年ではないにしても、数ヶ月はかかるだろう。もしロシア軍が、1939年のフィンランドとの戦争で行ったように戦争中に奇跡的に軍の立て直しに成功したならば、戦争の期間は8ヶ月となる。これはロシアが開始し、勝利した戦争の平均期間である。しかし、もしこの戦争が敗北の運命にあるとすれば、ロシアが開始し、勝利を収めなかった戦争の平均期間である1年半続くと予想できる。しかし、シロヴィキの支配する機構の全面的な打倒という点だけが、この費用のかかった戦争が勝利と評価できるであろう。なぜなら、他のすべての結果は、ロシアを中国とのより緊密な安全保障関係に追いやるという非常に現実的な危険があるからである。ロシアと中国、そして彼らの中央アジアの属国が、人口統計学、経済、エネルギー、農業、核兵器、軍事技術の同盟という点で統合されることは、世界の民主主義にとって壊滅的な結果となる。20世紀を代表する地政学者のHalford Mackinderは、諸国家の独立に対する最大の脅威はユーラシアの統一、あるいは少なくともその実質的な統一であると警告していた。
(2) 西欧の自由主義が世界中に徐々に広まっているのは止めることができないと思われるが、それでもなお、その広がりは大国の論理に左右され、外交を成功させるには、それに基づいて計画を作る必要がある。中国は台湾に対し10倍の人口、経済力、信用を持っており、いかなる通常兵器による中台紛争でも、現在のウクライナ紛争の10倍の規模になる。ロシアのウクライナとの戦争は、移行期にある権威主義国家の無鉄砲な失地回復主義に過ぎないが、台湾をめぐる中国との戦争は、ある世界覇権国から次の世界覇権国への権力移行争いであり、地球規模の諸問題解決へ向けての政治相互作用、国際機関、国際法に影響を及ぼす。さらに、世界規模での民主主義と権威主義的ナショナリズムの間のあらゆる争いは、重なり合う勢力圏の下で、核の傘によって影を落としつつ、世界を偶然の核戦争の惨事に近づける。民主主義諸国家が戦争において持っている最大の歴史的な利点は圧倒的に強力な軍事的な同盟を形成することである。したがって、それらの最適な戦略は、常にナショナリストの権威主義国家を孤立させ、それらの非民主主義の国に数で勝つようにすることである。
(3) ロシア、中国、パキスタンのような大国に対して、いかなる戦争においても決定的に勝利することはできない。なぜなら、核の報復によって引き起こされる損害は、数十年にもわたって対価が蓄積されていても、単に封じ込め政策を継続するよりも常に破壊的だからである。したがって、現代の同盟の重要な側面は、それらが永続的であることであり、それは脅威が生起し、負担を再配分するときに再交渉するうえで十分な柔軟性を持つことを意味する。民主主義諸国家の同盟の目的の1つは、封じ込めと抑止は別として、経済的自由化と経済的な依存という手段、社会活動家を通じた自由主義的な思想の積極的な普及を通じ、特に互いに不信感を抱き合うナショナリストの権威主義国家が当然持つ意図と衝突することなく敵の修正主義的な連合の亀裂を広げていくことである。
(4) 第2次世界大戦までの期間にスペインはエネルギーを他国に依存していたため、ファシスト・スペインの指導者Francisco Francoはイギリスの補助金を受け入れた。その補助金のため、スペインは枢軸国との同盟関係に入ることが禁じられた。もしスペインが枢軸国と同盟関係に入っていたならば、第2次世界大戦をさらに数ヶ月延長させたと推測することができる。1936年のエチオピア侵攻をめぐってファシスト・イタリアに譲歩し、1938年のドイツによるオーストリア占領に反対して、ファシスト・イタリアを支援しようとする英仏の試みは、イタリアの指導者Benito Mussoliniのローマ地中海ビジョンに合致しなかった。
(5) 第2次世界大戦中、ドイツと日本の偏狭なナショナリズムは、特に対ソ連攻撃における協力で重大な失敗につながった。実際、ドイツと日本は、ソ連と戦わなければならないという重荷を名目上の同盟国に転嫁し、ソ連がこれらの国々を順番に打ち負かすことを可能にした。米国が太平洋戦争に参戦した後、日本はシンガポールに駐留するドイツとイタリアの潜水艦が英米に対する通商破壊戦を許さず、ソ連のウラジオストク港に到達する米軍物資を封鎖しなかった。ドイツ軍は戦争の最後の月まで、核分裂物質を運搬するドイツのUボートが米海軍によって捕獲されるまで、日本の核兵器計画への支援を避けた。
(6) したがって、ウクライナを支援するという道徳的誓約に対する公然たる背信行為とはならずに、ロシアとの戦争を終結させ、欧州におけるロシアの威厳ある地位の回復することに関して、一体どのような道が残っているのだろうか?1つの選択肢は、この戦争がウクライナ国民とロシア国民が彼らの指導者たちを交渉に追いやる時まで、両国民の生命と財産を泥沼に引きずりこむことを許すことである。しかし、それでは核戦争を含む事態の拡大の危険が戦争の期間とともに増加する。さらに、第1次世界大戦を長引かせた国内政治プロセスでは、家族が戦闘と飢餓のために家族の一員を失うにつれて、彼らは彼らの要求を増やしていく。国民は戦争開始時に停戦に同意することに従順であるが、損害が蓄積され始めると、和平を求める指導者は、相手の無条件降伏を要求するような戦争目的を増大させ復讐を約束する指導者に取って代わられる。どちらか一方の側が国民の信頼の壊滅的に失うまで、戦争している国々を、長期間戦争に閉じ込めてしまう。控えめに見積もっても、ロシアでは毎月7,000人の戦死者が出ており、ロシアが各地に分散した現代の戦場に適応するにつれて損失が減少し、ロシアが開始した戦争にロシアが敗北した場合の平均戦争継続期間18ヶ月を考えると、ロシアは126,000人の戦死者に達したならば停戦を受け入れると推定できる。この結果は、その後の民主主義諸国家との戦いにおいて、ロシアを支援してくれる中国の側にロシアを決定的に押しやるだろう。
(7) 別の選択肢は、ウクライナへの援助の中止という暗黙の脅威によって、あるいはウクライナへの武器供与の調整された削減によって、ウクライナに外交的に圧力をかけて、ロシアに意図的な譲歩をするよう圧力をかけることである。領土再分配の決定的な基盤である自決の原則を尊重することは、ドネツク共和国とルハンスク共和国、クリミア共和国における一連の国際的に監視された国民投票、エネルギー転換の再開、ロシアへの制裁の撤廃ではないにしても削減を意味する。凶悪な戦争犯罪の調査と押収されたオリガルヒ口座の没収は、ロシア国民が最終的にこれらの措置を支持するかもしれないので、行うべきである。Vladimir Putin大統領は、健康状態が許せば、権力の座にとどまり、政治的に活動していく可能性は十分にある。停戦の条件として、ロシアがVladimir Putin大統領を追放することや民主的改革を実施することなどの要求が入ってはならない。欧州がNATOの抑止力に守られていようとも、ロシアが完全な提携国として欧州に再び統合されるのが早ければ早いほど、ロシアが中国と同盟を結ぶ可能性は低くなるであろう。
記事参照:Even Now, the Strategic Priority Must be to Split Russia from China, Not to Defeat Putin
(1) ウクライナが、ロシアを決定的に打ち負かし、ロシア軍をドンバスやクリミアから追い出すのに十分な軍事力を持つことは決してないであろう。我々がせいぜい期待できるのは、ウクライナとの戦争が続きロシア国内の大統領への政治的支持が低下し、そのため停戦に同意することを余儀なくされ、シロヴィキ(ロシアの治安・国防関係省庁の職員またはその出身者を指す:訳者注)の側近もしくは不満を抱いているロシア軍によってクーデターが起きて、Vladimir Putin大統領が追放されることである。ロシアの民衆蜂起が、1905年、1917年、1991年の規模になるには数年ではないにしても、数ヶ月はかかるだろう。もしロシア軍が、1939年のフィンランドとの戦争で行ったように戦争中に奇跡的に軍の立て直しに成功したならば、戦争の期間は8ヶ月となる。これはロシアが開始し、勝利した戦争の平均期間である。しかし、もしこの戦争が敗北の運命にあるとすれば、ロシアが開始し、勝利を収めなかった戦争の平均期間である1年半続くと予想できる。しかし、シロヴィキの支配する機構の全面的な打倒という点だけが、この費用のかかった戦争が勝利と評価できるであろう。なぜなら、他のすべての結果は、ロシアを中国とのより緊密な安全保障関係に追いやるという非常に現実的な危険があるからである。ロシアと中国、そして彼らの中央アジアの属国が、人口統計学、経済、エネルギー、農業、核兵器、軍事技術の同盟という点で統合されることは、世界の民主主義にとって壊滅的な結果となる。20世紀を代表する地政学者のHalford Mackinderは、諸国家の独立に対する最大の脅威はユーラシアの統一、あるいは少なくともその実質的な統一であると警告していた。
(2) 西欧の自由主義が世界中に徐々に広まっているのは止めることができないと思われるが、それでもなお、その広がりは大国の論理に左右され、外交を成功させるには、それに基づいて計画を作る必要がある。中国は台湾に対し10倍の人口、経済力、信用を持っており、いかなる通常兵器による中台紛争でも、現在のウクライナ紛争の10倍の規模になる。ロシアのウクライナとの戦争は、移行期にある権威主義国家の無鉄砲な失地回復主義に過ぎないが、台湾をめぐる中国との戦争は、ある世界覇権国から次の世界覇権国への権力移行争いであり、地球規模の諸問題解決へ向けての政治相互作用、国際機関、国際法に影響を及ぼす。さらに、世界規模での民主主義と権威主義的ナショナリズムの間のあらゆる争いは、重なり合う勢力圏の下で、核の傘によって影を落としつつ、世界を偶然の核戦争の惨事に近づける。民主主義諸国家が戦争において持っている最大の歴史的な利点は圧倒的に強力な軍事的な同盟を形成することである。したがって、それらの最適な戦略は、常にナショナリストの権威主義国家を孤立させ、それらの非民主主義の国に数で勝つようにすることである。
(3) ロシア、中国、パキスタンのような大国に対して、いかなる戦争においても決定的に勝利することはできない。なぜなら、核の報復によって引き起こされる損害は、数十年にもわたって対価が蓄積されていても、単に封じ込め政策を継続するよりも常に破壊的だからである。したがって、現代の同盟の重要な側面は、それらが永続的であることであり、それは脅威が生起し、負担を再配分するときに再交渉するうえで十分な柔軟性を持つことを意味する。民主主義諸国家の同盟の目的の1つは、封じ込めと抑止は別として、経済的自由化と経済的な依存という手段、社会活動家を通じた自由主義的な思想の積極的な普及を通じ、特に互いに不信感を抱き合うナショナリストの権威主義国家が当然持つ意図と衝突することなく敵の修正主義的な連合の亀裂を広げていくことである。
(4) 第2次世界大戦までの期間にスペインはエネルギーを他国に依存していたため、ファシスト・スペインの指導者Francisco Francoはイギリスの補助金を受け入れた。その補助金のため、スペインは枢軸国との同盟関係に入ることが禁じられた。もしスペインが枢軸国と同盟関係に入っていたならば、第2次世界大戦をさらに数ヶ月延長させたと推測することができる。1936年のエチオピア侵攻をめぐってファシスト・イタリアに譲歩し、1938年のドイツによるオーストリア占領に反対して、ファシスト・イタリアを支援しようとする英仏の試みは、イタリアの指導者Benito Mussoliniのローマ地中海ビジョンに合致しなかった。
(5) 第2次世界大戦中、ドイツと日本の偏狭なナショナリズムは、特に対ソ連攻撃における協力で重大な失敗につながった。実際、ドイツと日本は、ソ連と戦わなければならないという重荷を名目上の同盟国に転嫁し、ソ連がこれらの国々を順番に打ち負かすことを可能にした。米国が太平洋戦争に参戦した後、日本はシンガポールに駐留するドイツとイタリアの潜水艦が英米に対する通商破壊戦を許さず、ソ連のウラジオストク港に到達する米軍物資を封鎖しなかった。ドイツ軍は戦争の最後の月まで、核分裂物質を運搬するドイツのUボートが米海軍によって捕獲されるまで、日本の核兵器計画への支援を避けた。
(6) したがって、ウクライナを支援するという道徳的誓約に対する公然たる背信行為とはならずに、ロシアとの戦争を終結させ、欧州におけるロシアの威厳ある地位の回復することに関して、一体どのような道が残っているのだろうか?1つの選択肢は、この戦争がウクライナ国民とロシア国民が彼らの指導者たちを交渉に追いやる時まで、両国民の生命と財産を泥沼に引きずりこむことを許すことである。しかし、それでは核戦争を含む事態の拡大の危険が戦争の期間とともに増加する。さらに、第1次世界大戦を長引かせた国内政治プロセスでは、家族が戦闘と飢餓のために家族の一員を失うにつれて、彼らは彼らの要求を増やしていく。国民は戦争開始時に停戦に同意することに従順であるが、損害が蓄積され始めると、和平を求める指導者は、相手の無条件降伏を要求するような戦争目的を増大させ復讐を約束する指導者に取って代わられる。どちらか一方の側が国民の信頼の壊滅的に失うまで、戦争している国々を、長期間戦争に閉じ込めてしまう。控えめに見積もっても、ロシアでは毎月7,000人の戦死者が出ており、ロシアが各地に分散した現代の戦場に適応するにつれて損失が減少し、ロシアが開始した戦争にロシアが敗北した場合の平均戦争継続期間18ヶ月を考えると、ロシアは126,000人の戦死者に達したならば停戦を受け入れると推定できる。この結果は、その後の民主主義諸国家との戦いにおいて、ロシアを支援してくれる中国の側にロシアを決定的に押しやるだろう。
(7) 別の選択肢は、ウクライナへの援助の中止という暗黙の脅威によって、あるいはウクライナへの武器供与の調整された削減によって、ウクライナに外交的に圧力をかけて、ロシアに意図的な譲歩をするよう圧力をかけることである。領土再分配の決定的な基盤である自決の原則を尊重することは、ドネツク共和国とルハンスク共和国、クリミア共和国における一連の国際的に監視された国民投票、エネルギー転換の再開、ロシアへの制裁の撤廃ではないにしても削減を意味する。凶悪な戦争犯罪の調査と押収されたオリガルヒ口座の没収は、ロシア国民が最終的にこれらの措置を支持するかもしれないので、行うべきである。Vladimir Putin大統領は、健康状態が許せば、権力の座にとどまり、政治的に活動していく可能性は十分にある。停戦の条件として、ロシアがVladimir Putin大統領を追放することや民主的改革を実施することなどの要求が入ってはならない。欧州がNATOの抑止力に守られていようとも、ロシアが完全な提携国として欧州に再び統合されるのが早ければ早いほど、ロシアが中国と同盟を結ぶ可能性は低くなるであろう。
記事参照:Even Now, the Strategic Priority Must be to Split Russia from China, Not to Defeat Putin
5月20日「フィリピンが南沙諸島に沿岸警備隊の前哨基地を設置―香港紙報道」(South China Morning Post, May 20, 2022)
5月20日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、米通信社AP配信の“Philippines establishes coast guard outposts in disputed sea”と題する記事を掲載し、フィリンピンが南沙諸島の3つの島に沿岸警備隊の新たな前哨基地を設置したことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 海洋をめぐる中国との関係において緊張が高まる最中、フィリピンは船舶の動きを監視し、海洋での安全確保の向上に努めるために、係争中の南シナ海の3つの島に沿岸警備隊の前哨基地を設置したと沿岸警備隊当局が5月20日に発表した。この動きは、激しい紛争中の最中にある南沙諸島でのフィリピンの部隊の存在感を強化するもので、この係争中の水路のほぼ全域の権利を主張する中国政府が不快感を示す可能性は高い。
(2) フィリピン沿岸警備隊長官Artemio Abuは、5月の第3週に設置されたこれらの島々の前哨基地には沿岸警備隊員が配置され、マニラの沿岸警備隊本部にどのような出来事も報告することができる無線通信が備え付けられるだろうと述べている。彼は、新しい前哨基地に配置される人員の数は明らかにしなかったが、この紛争地域における沿岸警備隊員の配置としてはこれまでで最大であると語り、「これらの管轄地域の観測所を通じて、我々は海上の安全、海上捜索救助、海洋環境保護を促進する能力を向上させる」とAbuは声明で述べている。
(3) 3つの島は長年にわたりフフィリピン軍に占領されており、国際的には西月島、ナンシャン島、ノースイースト島として知られている。5月の第2週、沿岸警備隊は、フィリピン軍が南沙諸島で占領している9つの島と小島の中で最大の島であるパグアサ島の近くで、これら3島の沖に、フィリピンの旗を掲げた5つの航行用の浮標を設置した。フィリピンは南沙諸島の大部分を西部のパラワン州の一部とみなしている。これらの「主権の目印(sovereign marker)」は、夜間に漁師や船を誘導するために点滅し、「当該近海が特別保護区域とみなされていることを伝える」もので、豊かな天然資源を保護するために採掘や石油調査が禁止されていると、Abuは詳しく説明せずに述べている。
記事参照:Philippines establishes outposts in disputed South China Sea
(1) 海洋をめぐる中国との関係において緊張が高まる最中、フィリピンは船舶の動きを監視し、海洋での安全確保の向上に努めるために、係争中の南シナ海の3つの島に沿岸警備隊の前哨基地を設置したと沿岸警備隊当局が5月20日に発表した。この動きは、激しい紛争中の最中にある南沙諸島でのフィリピンの部隊の存在感を強化するもので、この係争中の水路のほぼ全域の権利を主張する中国政府が不快感を示す可能性は高い。
(2) フィリピン沿岸警備隊長官Artemio Abuは、5月の第3週に設置されたこれらの島々の前哨基地には沿岸警備隊員が配置され、マニラの沿岸警備隊本部にどのような出来事も報告することができる無線通信が備え付けられるだろうと述べている。彼は、新しい前哨基地に配置される人員の数は明らかにしなかったが、この紛争地域における沿岸警備隊員の配置としてはこれまでで最大であると語り、「これらの管轄地域の観測所を通じて、我々は海上の安全、海上捜索救助、海洋環境保護を促進する能力を向上させる」とAbuは声明で述べている。
(3) 3つの島は長年にわたりフフィリピン軍に占領されており、国際的には西月島、ナンシャン島、ノースイースト島として知られている。5月の第2週、沿岸警備隊は、フィリピン軍が南沙諸島で占領している9つの島と小島の中で最大の島であるパグアサ島の近くで、これら3島の沖に、フィリピンの旗を掲げた5つの航行用の浮標を設置した。フィリピンは南沙諸島の大部分を西部のパラワン州の一部とみなしている。これらの「主権の目印(sovereign marker)」は、夜間に漁師や船を誘導するために点滅し、「当該近海が特別保護区域とみなされていることを伝える」もので、豊かな天然資源を保護するために採掘や石油調査が禁止されていると、Abuは詳しく説明せずに述べている。
記事参照:Philippines establishes outposts in disputed South China Sea
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Philippine Policy on the South China Sea under A Second Marcos Presidency
http://www.scspi.org/en/dtfx/philippine-policy-south-china-sea-under-second-marcos-presidency
South China Sea Strategic Situation Probing Initiative (SCSPI), May 11, 2022
By Lucio Blanco Pitlo III, a Research Fellow with the Asia-Pacific Pathways to Progress Foundation and a member of the Board of Directors of the Philippine Association for Chinese Studies
5月11日、フィリピンのシンクタンクAsia-Pacific Pathways to Progress Foundationの研究員Lucio Blanco Pitlo IIIは、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに“Philippine Policy on the South China Sea under A Second Marcos Presidency”と題する記事を寄稿した。その中で、①2022年5月11日、フィリピンの選挙でFerdinand “Bongbong” Marcos Jr.大統領候補が地滑り的な勝利を収めた。②彼は父であり元比大統領だった故Ferdinand Edralin Marcosが取り組んだ紛争海域での国の立場を守ることと中国政府との対話を行うことが見込まれている。③Marcos Jr.は前任者であるDuterteの政策を維持する可能性が高く、南シナ海における哨戒と戦力の強化に取り組むと同時に、対中関係については関係の難しい側面に対処するための信頼関係を構築するために、経済分野を中心とした全般的な関係を拡大することが見込まれる。④南シナ海が大国間対立の舞台となったという認識に基づきMarcos Jr.はフィリピンの主体性をより強く主張せざるを得ず、米国による中国との紛争に巻き込まないようにするだろう。⑤Marcos Jr.は、47年間の公式関係の礎を築いた父親の役割と、過去6年間のDuterteの友好的な政策を活用して、中国との関係を良好な状態にすることができるなどの主張を展開している。
(2) Powering the PLA Abroad: How the Chinese Military Might Fuel Its Overseas Presence
https://jamestown.org/program/powering-the-pla-abroad-how-the-chinese-military-might-fuel-its-overseas-presence/
China Brief, the Jamestown Foundation, May 13, 2022
By Nathan Beauchamp-Mustafaga, an Associate Policy Researcher at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation
2022年5月13日、米シンクタンクRAND Corporation研究員Nathan Beauchamp-Mustafagaは、米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Brief に" Powering the PLA Abroad: How the Chinese Military Might Fuel Its Overseas Presence "と題する論説を寄稿した。その中でBeauchamp-Mustafagaは、2017年にジブチに中国初の公式海外軍事基地が設置され、人民解放軍の部隊が海外に恒久的に駐留する前例となったことを受け、多くの専門家達は中国が海外における軍事力の展開を拡大し続けるだろうと想定しているが、2021年のU.S. Department of Defenseの人民解放軍に関する報告書では、中国政府が「陸海空、サイバー、そして宇宙における兵力投射を支援するための軍事施設の追加を追求している」場所として「カンボジア、ミャンマー、タイ、シンガポール、インドネシア、パキスタン、スリランカ、アラブ首長国連邦、ケニヤ、セイシェル、タンザニア、アンゴラ、タジキスタン」を挙げていると指摘した上で、中国はより世界規模の軍事力の展開を確立し、維持する上で多くの課題に直面しているが、その検証の際に見落とされている基本的な検討事項の1つが、国際的な軍事力の展開と軍事作戦に必要なエネルギー資源であると述べている。そしてBeauchamp-Mustafagaは、海外に基地を展開する際に必要なエネルギー供給に関する潜在的な課題と再生可能エネルギーに関する研究を行っている人民解放軍の鄭崇偉の研究成果を紹介し、我々海外の専門家は彼の再生可能エネルギー投資に関する研究などを注視すべきだと主張している。
(3) The QUAD Needs a Harder Edge
https://www.foreignaffairs.com/articles/world/2022-05-19/QUAD-needs-harder-edge
Foreign Affairs, May 19, 2022
By Dhruva Jaishankar, Executive Director of the Observer Research Foundation America in Washington, D.C.
Tanvi Madan, a Senior Fellow in the Foreign Policy program at the Brookings Institution
2022年5月19日、米シンクタンクObserver Research Foundation America役員Dhruva Jaishankarと米シンクタンクThe Brookings Institute上席研究員Tanvi Madanは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The QUAD Needs a Harder Edge "と題する論説を寄稿した。その中でJaishankarとMadanは、2017年、オーストラリア、インド、日本、米国の4ヵ国がQUADと呼ばれる非公式な対話枠組みを再開した時多くの人が懐疑的だったが、それは過去にオーストラリアが2008年に自国の中国との関係を守るために枠組みからの撤退を決めたことが原因であり、今回も4者がまとまるとは到底思えなかったが、再開から5年近くが経ち、QUADは明らかな進展を遂げ、重要な新技術、COVID-19ワクチン、人道支援など、その範囲を広げてきたと指摘し、実際、ホワイトハウスはQUADを「インド太平洋にとって重要な問題を扱う第1の地域グループ」と表現していると述べている。その上でJaishankarとMadanは、確かにQUADは技術、健康、サイバーセキュリティ、気候変動などの問題で大きな進展を遂げたが、安全保障の中核的目標を達成するためには、さらに多くのことを行わなければならないとした上で、地域的な軍事紛争や自然災害など動きの速い危機に対応できるようにすべきだと指摘し、今回のロシアによるウクライナへのいわれのない攻撃は、アジアにおいても短中期的にそのような侵略の可能性とそれを抑止する、あるいは対抗する必要性を強く印象づけており、中国が台湾やインド、東シナ海や南シナ海で同様の行動を企てる可能性について新たな懸念が生まれていることから、5月に日本で開催されるQUAD首脳会合は安全保障に関する協力を加速させる重要な機会になると主張している。
(1) Philippine Policy on the South China Sea under A Second Marcos Presidency
http://www.scspi.org/en/dtfx/philippine-policy-south-china-sea-under-second-marcos-presidency
South China Sea Strategic Situation Probing Initiative (SCSPI), May 11, 2022
By Lucio Blanco Pitlo III, a Research Fellow with the Asia-Pacific Pathways to Progress Foundation and a member of the Board of Directors of the Philippine Association for Chinese Studies
5月11日、フィリピンのシンクタンクAsia-Pacific Pathways to Progress Foundationの研究員Lucio Blanco Pitlo IIIは、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに“Philippine Policy on the South China Sea under A Second Marcos Presidency”と題する記事を寄稿した。その中で、①2022年5月11日、フィリピンの選挙でFerdinand “Bongbong” Marcos Jr.大統領候補が地滑り的な勝利を収めた。②彼は父であり元比大統領だった故Ferdinand Edralin Marcosが取り組んだ紛争海域での国の立場を守ることと中国政府との対話を行うことが見込まれている。③Marcos Jr.は前任者であるDuterteの政策を維持する可能性が高く、南シナ海における哨戒と戦力の強化に取り組むと同時に、対中関係については関係の難しい側面に対処するための信頼関係を構築するために、経済分野を中心とした全般的な関係を拡大することが見込まれる。④南シナ海が大国間対立の舞台となったという認識に基づきMarcos Jr.はフィリピンの主体性をより強く主張せざるを得ず、米国による中国との紛争に巻き込まないようにするだろう。⑤Marcos Jr.は、47年間の公式関係の礎を築いた父親の役割と、過去6年間のDuterteの友好的な政策を活用して、中国との関係を良好な状態にすることができるなどの主張を展開している。
(2) Powering the PLA Abroad: How the Chinese Military Might Fuel Its Overseas Presence
https://jamestown.org/program/powering-the-pla-abroad-how-the-chinese-military-might-fuel-its-overseas-presence/
China Brief, the Jamestown Foundation, May 13, 2022
By Nathan Beauchamp-Mustafaga, an Associate Policy Researcher at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation
2022年5月13日、米シンクタンクRAND Corporation研究員Nathan Beauchamp-Mustafagaは、米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Brief に" Powering the PLA Abroad: How the Chinese Military Might Fuel Its Overseas Presence "と題する論説を寄稿した。その中でBeauchamp-Mustafagaは、2017年にジブチに中国初の公式海外軍事基地が設置され、人民解放軍の部隊が海外に恒久的に駐留する前例となったことを受け、多くの専門家達は中国が海外における軍事力の展開を拡大し続けるだろうと想定しているが、2021年のU.S. Department of Defenseの人民解放軍に関する報告書では、中国政府が「陸海空、サイバー、そして宇宙における兵力投射を支援するための軍事施設の追加を追求している」場所として「カンボジア、ミャンマー、タイ、シンガポール、インドネシア、パキスタン、スリランカ、アラブ首長国連邦、ケニヤ、セイシェル、タンザニア、アンゴラ、タジキスタン」を挙げていると指摘した上で、中国はより世界規模の軍事力の展開を確立し、維持する上で多くの課題に直面しているが、その検証の際に見落とされている基本的な検討事項の1つが、国際的な軍事力の展開と軍事作戦に必要なエネルギー資源であると述べている。そしてBeauchamp-Mustafagaは、海外に基地を展開する際に必要なエネルギー供給に関する潜在的な課題と再生可能エネルギーに関する研究を行っている人民解放軍の鄭崇偉の研究成果を紹介し、我々海外の専門家は彼の再生可能エネルギー投資に関する研究などを注視すべきだと主張している。
(3) The QUAD Needs a Harder Edge
https://www.foreignaffairs.com/articles/world/2022-05-19/QUAD-needs-harder-edge
Foreign Affairs, May 19, 2022
By Dhruva Jaishankar, Executive Director of the Observer Research Foundation America in Washington, D.C.
Tanvi Madan, a Senior Fellow in the Foreign Policy program at the Brookings Institution
2022年5月19日、米シンクタンクObserver Research Foundation America役員Dhruva Jaishankarと米シンクタンクThe Brookings Institute上席研究員Tanvi Madanは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The QUAD Needs a Harder Edge "と題する論説を寄稿した。その中でJaishankarとMadanは、2017年、オーストラリア、インド、日本、米国の4ヵ国がQUADと呼ばれる非公式な対話枠組みを再開した時多くの人が懐疑的だったが、それは過去にオーストラリアが2008年に自国の中国との関係を守るために枠組みからの撤退を決めたことが原因であり、今回も4者がまとまるとは到底思えなかったが、再開から5年近くが経ち、QUADは明らかな進展を遂げ、重要な新技術、COVID-19ワクチン、人道支援など、その範囲を広げてきたと指摘し、実際、ホワイトハウスはQUADを「インド太平洋にとって重要な問題を扱う第1の地域グループ」と表現していると述べている。その上でJaishankarとMadanは、確かにQUADは技術、健康、サイバーセキュリティ、気候変動などの問題で大きな進展を遂げたが、安全保障の中核的目標を達成するためには、さらに多くのことを行わなければならないとした上で、地域的な軍事紛争や自然災害など動きの速い危機に対応できるようにすべきだと指摘し、今回のロシアによるウクライナへのいわれのない攻撃は、アジアにおいても短中期的にそのような侵略の可能性とそれを抑止する、あるいは対抗する必要性を強く印象づけており、中国が台湾やインド、東シナ海や南シナ海で同様の行動を企てる可能性について新たな懸念が生まれていることから、5月に日本で開催されるQUAD首脳会合は安全保障に関する協力を加速させる重要な機会になると主張している。
関連記事