海洋安全保障情報旬報 2020年6月21日-6月30日

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6月9日、6月24日「ロシアは南極の現状を変更する準備をしている―ロシア専門家論評」(Eurasia Dairy Monitor, June 9, 2020 and June 24, 2020)

 6月9日付及び6月24日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは、同シンクタンクフェローであり、米コンサルタント企業Gulf State AnalyticsアドバイザーSergy Sukhankin博士の“ Is Russia Preparing to Challenge the Status Quo in Antarctica?”と題する論説を2回に分けて掲載し、ここでSukhankinは現在の南極条約システム(ATS)が2048年に期限切れになるという事実を前に、南極をめぐる各国の競争が激しくなっておりロシアは南極探査のパイオニアとして影響力を取り戻そうと尽力しているとして要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのVladimir Putin大統領は2019年1月、ロシアの南極探検200周年を記念する声明の中で「南極研究に命を捧げてきたロシア人の世代」に称賛を表明した。彼は、南極大陸を探検するロシアの科学の「偉大な貢献」を認め、「全人類の利益に奉仕する」というロシアの救世主的な役割を強調した。その後、ロシア安全保障会議副議長であるDmitry Medvedev元首相は、ロシアは南極探査の第一人者であり、南極に自国の戦略的利益を持つ国であり、「(南極で)関係者全員と対等なパートナーシップを構築する準備ができている」と宣言した。この発言は、南極の現状を変更する準備ができていることを意味し、より積極的な南極戦略に向けた第一歩となるかもしれない。2010年に採択されたロシアの南極政策を概観する文書とは異なり、新戦略はまだ初期の概要の段階ではあるが、より包括的で南極大陸に関する急激な変化を考慮に入れたものになる可能性がある。
(2) ロシアの南極への関心の高まりは、1959年の南極条約システム(以下、ATSと言う)が2048年に期限切れになるという事実を前提としている。国際法コンサルタントのJill Barrettが指摘するように、ATSが有効である限り「領土権を主張する国あるいは他国の主張を否認する国はその主張を箱に入れて蓋をしておく」ことになり、その中で中国とロシアは特に熱意を持って2048年を待っている。南極はいくつかの理由から世界で野心的な国々を引き付けている。
a. 鉱物資源:石炭を含む, 鉄, 銅, 亜鉛, ニッケル, クロム, ウラン、金
b. 炭化水素:ロス海で実績のある埋蔵量だけでも500億バレルの石油と100兆立方メートル以上の天然ガスがある。
c. 海洋及び生物資源:南極は、世界のきれいな飲料水の埋蔵量の80%以上を持っている
d. 気候変動の調査研究のためのデータを提供する自然 と宇宙関連の科学研究
(3) 旧ソ連およびロシアはロシアが南極大陸の主要なパイオニアであると考えているが、地理的発見をうまく活用することができず、その後、より精通した参画者によって疎外された。ロシア、ソ連は歴史的に自国の特別な利益の領域を考慮しつつ、南極における西側の参画者の主要な地位に憤慨してきた。このような言葉が依然としてロシアの主流の言説を支配している。例えば、ロシアで最も著名な海軍史家の一人であるKonstantin Strelbitskyは「南極はロシアが指導的立場であるべき大陸である。ロ海軍によって発見され、20世紀半ばからロシアの科学者によって積極的に探査されてきた」と述べている。同じ論理は、2020年初めに南極がロシア外交にとって不可欠な役割を果たしていると述べたSergei Lavrov外相の考えの中でも見られる。言い換えれば、ロシアの指導者は、南極大陸を現在と将来の両方におけるロシアの「ソフトパワー」の不可欠な部分と見なしている。しかし、ロシアは南極に関する2つの最も重要かつ長期的な問題に直面している。第一の問題は、何十年もの間にわたる資金不足である。そのため,一般的な研究と探査に関して徐々にそのリーダーシップを失ってきた。北極地域の主要な探検家の一人、ロシアの英雄Artur Chilingarovが述べたように、ロシアの極地研究施設は危機に瀕しており「即時かつ大幅な改革」を必要とする。彼は、何度も他国の南極施設を訪問し、技術的な洗練やその他の面で「我々は劣っている」と指摘した。彼は、ロシアが南極大陸の主要プレーヤーに残ることを望むなら、多額の資金を投入する努力が必要であると警告した。第二の問題は、中国とインドなど他国との競争の激化に直面していることである。ロシアの情報筋は、中国は1989年に南極のラースマンヒルズに中国南極中山站が建設されたばかりにもかかわらず、すでに南極の研究と探査において大きな進歩を遂げていると主張している。そして、中国は最終的には南極の主要な関係国になる決意であると結論付けている。The Russian Geographic Society名誉会長でThe Russian Academy of Science教授のVladimir Kotliakovは「資源の減少と国際競争の拡大という2つの要因が南極におけるロシアの利益にとって深刻な課題と見なされるべきである」と主張した。
(4) ATSが今後30年以内に終わりに近づく中、南極大陸の国際的な競争は激化するに違いない。そして、この間に、ロシアは南極大陸に対する自国の主張の明確に述べることができる。ATSは1961年に発効して以来、南極の現状維持を規定してきた。しかし、ATS体制は2048年に期限が切れる予定であり、ロシアを含む一部関係国は南極大陸での活動を強化している。南極大陸に関するアプローチには、次の5つの主要な要素が含まれる。
a.第一の要素は科学研究であり、2017年以降に急速に進展した地質探査と地上基地からの宇宙研究を中心に行われている。この政策の初期段階は2017年から2018年の間にロシア国営地質調査企業Rosgeologiaの支部であるPolar Marine Geosurvey Expedition(極地海洋地球調査:以下、PMGEと言う)が主にウェッデル海とその大陸棚の地球物理学探査を目的とした一連の研究探検を行った。公式声明の中で研究は「南極の地下土壌とその境界海の鉱物ポテンシャルの地質学的および地球物理学的研究と評価」という目標を持っていたことも明らかになった。2019-2020年の第2段階では、研究の焦点は最も研究されていない地域であるリーサル・ラーセン海に移った。2020年2月12日、PMGEは「第65回南極探検の範囲内で海洋地球物理学探査作業」が異状なく完了したことを報告した。宇宙関連の能力開発に関して、ロシアの主な目標は2022年に極地の自国領土に地上のGLONASS(衛星航法)複合施設を配備することである。国営企業Roscosmosの匿名の情報源によると、南極では宇宙空間での宇宙船あるいは物体の追跡ができるので、宇宙研究に役立つ。GLONASSの施設は、赤道近傍と極地に設置する必要がある。赤道近傍の施設に関しては現在はブラジル、キューバ、ニカラグアで稼働している。ロシアは純粋に科学的なものとして提示しているが、これらの行動は専門家やオブザーバーの間で疑問が提起されている。豪州政府は、南極における中国の同種の「科学的活動」は実際には軍事目的にも役立つ「二重使用」の科学研究であると述べている。同じことがロシアの行動に適用することができる。すなわち、ブラジルの専門家は、情報収集目的で使用できるGLONASSに加えてロシアは「衛星無力化装置(sputnik neutralizer)」とも呼ばれる対衛星兵器トライアダ-2の電子戦複合施設を密かに配備しようとしているのかもしれないと主張している。この電子戦複合施設は、ドンバス地域で既に観測されている。トライアダ-2の配備は、それがあった場合、南極の軍事化に向けた第一歩でありATSの明らかな違反となるであろう。
b. 第2の側面は、地球を周回する航海の「ソフトパワー」の遺産である。ロシアによる最初の南極への航海は1803年から1806年の間に行われた。これは世界的な野心を持つ大国としての地位を維持するためにロシアが行ったことであった。実際、ロシア海軍の現在の総司令官Nikolai Yevmenovは、国防相の許可を得て「南極発見200周年」を記念した新たな航海を行うことを命じた。
c. 第三の要素はロシア正教会と「宗教的要因」である。2020年3月、聖ニコライに捧げられた教会がクイーンモードランド近くのノヴォラゼフスカヤ基地に建設されることになった。この教会は南極大陸で2番目のロシアの聖地になる。最初は2004年にキングジョージ島、ベリングスラウゼン基地の近くに完成した。
d. 第四の要素は「ラテンアメリカの要因」である。2020年、アルゼンチンの元駐英大使Alicia Castroはロシアとアルゼンチンは南大西洋、ティエラ・デル・フエゴ、アルゼンチン海、そして将来、南極での協力を強化することによって二国間関係を深める必要があると述べ、さらに「我々はこの地域に港湾を作るべきである」と指摘した。この声明に続いて、駐アルゼンチンロシア大使Dmitry Feoktistovは「植民地主義の時は終わった。英国はフォークランド諸島をアルゼンチンに戻さなければならない」と述べた。
e. 第五の要素は様々な挑発行為を生み出すロシアである。2019年11月16日、親クレムリングループと愛国運動グループが南極で1,400平方メートルのロシア国旗を掲げた。同様の儀式は、以前に北極、エルブルス、カムチャツカ、バイカル湖、モスクワ、クリミアでも行われた。さらにArktika-2007での水中探査の際、ロシア国旗が天然資源に恵まれた北極地域の一部に対するロシア政府の主権を主張する手段として、北極の海底に設置された。この象徴的な行為が、ロシアが国連にさらに北極での領有権主張を拡大することを奨励する里程標となったことは重要である。
(5) ロシアが南極での役割を増大させるために、50年前も維持されてきたATS条項を改正する立場にあることが明らかになってきている。ロシア政府の現在の動きの多くは象徴的に見えるかもしれないが過小評価されるべきではない。それらの動きは、南極でロシアが現在よりも大きな影響力を発揮するための新たな修正主義的な戦略の一部である。
記事参照:Is Russia Preparing to Challenge the Status Quo in Antarctica? (Part One)
     Is Russia Preparing to Challenge the Status Quo in Antarctica? (Part Two)

6月21日「中国、海警総隊の軍事的力量強化へ-日英字紙報道」(Nikkei Asian Review.com, June 21, 2020)

 6月21日付のNikkei Asian Review電子版は“China adds military might to coast guard in maritime push”と題する記事を掲載し、中国が武装警察法を改正し、軍とのより緊密な協同を可能にすることで海警総隊の軍事力量も強化しており、日本にとってより深刻な脅威となっているとして要旨以下のように報じている
(1) 中国は協同訓練の実施や戦時の統合作戦を許可することで海警総隊の軍への統合をさらに進め、東シナ海、南シナ海における侵略的行動を強化している。全人代常務委員会は6月20日、人民武装警察法を見直した。これは11年間で初めての見直しである。統合によって習近平は海上での哨戒から軍事作戦まで全ての事態に継ぎ目なく対応できる防衛組織網の構築を追い求めている。
(2) 見直された人民武装警察法によって、人民武装警察は中央軍事委員会の、戦時には5つの戦域司令部の指揮下に置かれることになった。同様の規定は、海警総隊にも適用される。
この見直しは、習近平が東シナ海あるいは南シナ海において状況が戦時と見なせば陸軍と海警総隊の協同行動を可能にしている。海警総隊は軍事作戦に参加することが可能になるであろう。通常の状況であっても海警総隊は軍とともに訓練、演習、緊急救助を実施可能である。システムおよび作戦について法に明記されたのはこれが初めてである。
(3) 法はまた「海洋における権益の防護と法の執行」を人民武装警察の任務として記述している。中国は海洋安全保障にかかわる要員を増員するかもしれない。法改正は昨年12月に発表された全人代での立法計画に含まれていなかった。蔡英文総統再選に照らして台湾に圧力をかける必要から議題の見直しが至急行われた。改正はまた、海警船が尖閣諸島周辺海域に侵入を繰り返している時に行われた。海上保安庁は特定の条件下で武器を携行し、捜索を実施する権限を与えられている。しかし、重武装の海警船による海域の侵入はより深刻な脅威となっている。
記事参照:China adds military might to coast guard in maritime push

6月23日「水中状況把握能力の構築、インドにとって喫緊の最優先課題―インド前外務次官論説」(The Indian Express.com, June 23, 2020)

 6月23日付の印日刊英字紙The Indian Express電子版は、 インド前外務次官で駐中国大使を務めたVijay Gokhale の“There is a pressing need for India to develop a comprehensive Underwater Domain Awareness strategy”と題する論説を掲載し、ここでGokhaleはインドにとって包括的な水中状況把握(Underwater Domain Awareness)戦略の必要性が高まっているとして要旨以下のように述べている。
(1) インドの北部国境地帯での中国の計画的な軍事行動に関心が集まっているが、我々はインドを取り巻く周辺の海洋への目配りを忘れるべきではない。印海軍は、2018年と2019年に中国の海洋調査船が事前の同意なしにインドのEEZと大陸棚に入域することを阻止した。インドは、外国の海洋科学調査船に対して活動開始に先立って事前許可を要求する法律を1976年に制定している。中国は世界的な海洋科学調査を行っていると主張している。それも1つの目的かもしれないが、中国が軍事目的のために非軍事調査船を使ってインド周辺の海洋と海底などの重要な海洋のデータを収集していることは、よく知られた事実である。南シナ海でも領有権主張国の抗議と国際法を無視して同様の調査を実施してきた。
(2) 米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのWebサイトThe Asia Maritime Transparency Initiativeの最近の調査によれば、2019年4月から2020年3月の1年間に中国はインド太平洋海域で25回の海洋調査を実施したが、この数字は、同期間の他の6カ国の海洋調査回数の合計―米国(10)、日本(6)、インド(4)、オーストラリア(3)、フランス(3)及びフィリピン(1)―よりわずかに少ないだけである。2020年初め、オーストラリアはオーストラリア大陸とクリスマス島の間の公海における中国の海洋調査船「向陽紅1号」の活動について懸念を表明したが、これは、海洋科学調査とは別に、オーストラリアから南シナ海に入る潜水艦ルートを調査しているのではないかとの疑念を抱いたからである。これ以前に、同船は2019年4月15日から5月21日までの間、インド領アンダマン・ニコバル諸島の南端海域の公海で同様の活動を実施していた。中国は2019年から2020年にかけて、インドネシアとスリランカの間、ベンガル湾及びアラビア海北部海域で、少なくとも6回の海洋調査活動を実施している。
(3) カンボジアの野党党首Sam Rainsyは、最近の米誌Foreign Affairsへの寄稿論稿で、中国は海外への軍事進出について、「初めに否定し、その後うやむやにする遣り口」(a “pattern of denial and obfuscation”)を常用していると指摘した*。実際、北京は、南沙諸島の人工島の軍事化について、最初その意図を否定していたが、最終的には軍事目的のために実施したことを認めた。「アフリカの角」地域における中国の軍事基地でも、同じ遣り口が見られた。今やジブチの基地が単なる兵站補給根拠地に過ぎないとの中国の主張を受入れる者は誰もいまい。Rainsyは前記論稿で、カンボジアのリアム海軍基地への排他的アクセスを中国に与える秘密取引について懸念を表明している。もしこれが事実ならインド洋沿岸域に1歩近づいたことになろう。懸念すべきはこれだけではない。かつて中国海軍の情報収集艦がインドの海軍施設と艦船に関する情報収集活動のためにインド沿岸域を航行したと見られるからである。こうしたことが再び行われることはほぼ確実であろう。
(4) 中国はこうした活動は国際法上合法であるとの立場であろう。国連海洋法条約(UNCLOS)は、沿岸国の平和、秩序または安全を害しない限り、軍用艦艇が当該沿岸国の内水に入ることなく、その領海を通航する「無害通航権」を有する、と規定している。一方、当該沿岸国の EEZ内における科学調査活動に関するUNCLOSの規定については、解釈が分かれる。例えば、米国は何世紀にも及ぶ国家慣行や慣習国際法、更にはUNCLOS第58、86及び87条の規定に従って、事前通告なしの海洋科学調査は合法との立場である。しかしながら、中国は全ての外国の海洋調査船と軍用艦船に対して、1958年の「領海に関する声明」で規定された中国の領海に入る前に事前許可を要求している。したがって問題は、中国がインドなどの他の沿岸諸国の法律を遵守するかどうかである。この点については南シナ海における最近の中国の行動を見れば決して楽観視はできない。
(5) グワダル港の完成と(前記のアクセス権の付与が事実なら)カンボジアのリアム基地の利用によって、中国はインド洋における潜水艦を含む海軍力の持続的な展開が一層容易になるであろうことは十分想定可能である。中国にとって、印海軍の潜水艦の動向を追尾するとともに、中国の視点から見ればチョークポイントになる、特にアンダマン諸島周辺の海洋環境を理解する上で、重要な海洋科学データの収集は不可欠である。したがって中国が今後1~2年の内にマラッカ海峡とジブチの間の海洋、特にベンガル湾とアラビア海において、以下のいずれかの方法で、あるいはその全てを駆使して、大きく精度を向上させた海洋科学データの収集努力を強化するであろうことは想定しておかなければならない。
a. 第1に、中国は、おそらく海軍の護衛の下でインドのEEZ内に事前許可なく新たな海洋調査船を派遣する可能性がある。このような行動はインドの法律に違反するが中国が法によって行動を阻止されたことは一度もない。
b. 第2に、より可能性の高い方法として、中国は母船をインドのEEZ外縁に配置する形で無人水中航行体を EEZ内に展開させるかもしれない。最近の米メディア、Forbesの報道によれば、2019年12月半ばに中国の海洋調査船、向陽紅6号から無人水中航行体が発進し、2020年2月に回収に成功したという。この間、向陽紅6号が2020年1月27日から2月24日までベンガル湾に展開していたという事実から、インドにとって正に喫緊の懸念というべきである。
C. 第3に、中国は、UNCLOSで認められた軍用艦船の「無害通航」であるとして、言い換えれば中国版「航行の自由」作戦として、インドの沿岸域あるいはインドの外洋島嶼の12カイリの領海外縁に海軍の情報収集艦を航行させるかもしれない。
(6) インドは、これら海洋調査艦船が自国の EEZ に侵入する前から追尾し、阻止するために必要な能力を保有している。包括的な水中状況把握(Underwater Domain Awareness:以下、UDAと言う)戦略の必要性が高まっている。このためには、国家安全保障諸機関、海軍、及び海洋環境と災害対策を担当する省庁との協調だけでなく、有志諸国との協調も必要となろう。一方、護衛の海軍戦闘艦を伴った中国海軍情報収集艦のインド沿岸域への展開に対しては、新たな対応が必要になるかもしれない。我々は中国の戦術を学ばなければならない。米シンクタンクRANDの報告書によれば、中国は、相手側の艦船蝟集(編集注:群がり集まること)戦術を圧倒するために、海警船と海軍艦艇に後方から援護された漁船、実際は海上民兵を活用する。この方法に対しては軍事的に対応するには敷居が高い。我々は、このような目的のために能力を持ち、訓練を積んだ、多様な漁船団を有している。海洋状況把握(Maritime Domain Awareness: MDA)、特にUDA能力と技術の構築は、国内的に、そして有志諸国とともに、最優先課題とされるべきであり、待ったなしの状況にあると言えるかもしれない。
記事参照:There is a pressing need for India to develop a comprehensive Underwater Domain Awareness strategy
備考*:China Has Designs on Democracy in Southeast Asia
https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2020-06-10/china-has-designs-democracy-southeast-asia
Foreign Affairs.com, June 10, 2020
Sam Rainsy, the interim leader of the Cambodia National Rescue Party

6月24日「安全保障上の脅威に対して『非伝統的』という表現は止めよう-豪専門家論説」(The Strategist, 24 Jun 2020)

 6月24日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、豪The University of New South Wales、The ANU Strategic and Defence Studies Centreなどに籍を置くJames Goldrick元豪海軍少将の“Let’s stop using the term ‘non-traditional’ about security threats”と題する論説を掲載し、ここでGoldrickは安全保障上の脅威を表現するのに「非伝統」という用語を使用するのは、問題を考察するに当たり、歴史的な記録に問いかけられなくなり、経験が無視され、過去の過ちが繰り返されることになると警告して要旨以下のように述べている。
(1) かつての海軍士官であり、現在海洋問題の学徒として、私は国民国家の利益を争うことによって直接的に発生する脅威以外の安全保障上の脅威を表現するのに「非伝統的」という表現が無差別に使用されることに激怒してきた。海洋領域において、海賊、密輸、奴隷貿易、違法漁業は「非伝統的」のレッテルを貼られた脅威のほんの一部である。歴史を少しでも振り返れば学者先生はもっとよく分かるだろう。人類の海の使用において、どのような行動が船乗りの「2番目に古い職業」に数えられ得るのか決定するのは難しい。しかし、おそらく海賊と密輸が1、2を争い、違法漁業がそれほど離されずに続くだろう。英海軍において最初に編制された戦隊が漁業保護戦隊であったこと、あるいは漁業保護任務に当たる船舶を示す国際信号旗が140年近くも遡ることは偶然の一致ではない。
(2) 自然災害とそれに対処するための仕組みは今ひとつの事例である。人道支援が対立する大国とその海軍の間でどのように調整できるかを理解したい人はメッシーナ地震後の介入について研究するのが良いだろう。地震は112年前に発生した。最近のパンデミックという用語の誤用はおそらく最も悪質な事例であろう。事実、パンデミックは時たま起こるものであり稀でさえある。しかし、パンデミックが「非伝統的」という考えは滑稽である。6世紀のユスティニアヌスのペストや2世紀や7世紀にはペストが重大な甚大な社会的、経済的、政治的、戦略的効果をもたらしていた。14世紀の黒死病、17世紀のロンドンの大疫病はさらなる事例である。
(3) 専門用語の軽率な使用を停止しなければならない理由がある。第1に、「非伝統的」は何か新しいものというニュアンスを与えている。「非伝統的」というレッテルをかなりしばしば適用することは歴史的な記録に問いかけられなくなり、経験が無視され、過去の過ちがしばしば繰り返されることを意味する。感染爆発の場合、「非伝統的」という用語の軽率な使用は、稀ではあるが再発する脅威を無視する一因となる。我々はこれまでに研究したことのない壊滅的な影響にあまりにも注意を払ってこなかったため、備えをする必要性を軽視している。遅ればせながらスペイン風邪の研究が慌てて行われていることは好例である。
(4) 次に、「非伝統的」という用語は国家と地域社会、特に最も小さな国民国家にとって脅威の重要性を暗黙のうちに最小化してしまっていることである。最も小さな国民国家は常に安全保障上の懸念の最前線に置かれてきている。この力学は太平洋の島嶼国家において特に明らかである。島嶼国家が現実の脅威と認識しているものを犠牲にして国民国家の対立に気を取られているのには理由がある。
(5) 「非伝統的」というレッテルは、何が現実に新たに発生した脅威なのか、これまでの脅威の形が新しくなったのかを識別することを難しくしている。国境を越えた犯罪はほとんど革新的なものではなく、犯罪の手法が進化しただけである。今ひとつの事例として、自然災害に対する気候変動の効果は懸念の主な原因である。気象がもたらすより深刻で頻繁な事象は我々にとってどのような意味があるのか?我々の備えと人道上の対応の手法で何を変える必要があるのか?これらは異なる疑問ではあるが、全く新しいものとしてこのような問題を取り扱うと、せいぜい車輪の再発明という無駄な労力になるだろう。そして、最も効果的と思われる変化と適用を達成することに失敗することになるだろう。
(6) 私は、さまざまな所で軍隊にもっとも必要なものは伝統ではなく、歴史であると提言している。今回の件では、現代の問題の分析に取り組む多くの人達が必要なものは「非伝統」ではなく、歴史である。歴史は分析に当たる人々にめがねを通して見ることを助けるだろう。それも、ぼんやりとではなく見ることの助けとなる。
記事参照:Let’s stop using the term ‘non-traditional’ about security threats

6月24日「中国による南シナ海上空の防空識別圏設定をめぐる動向を注視する米国―米メディア報道」(Benar News, June 24, 2020)

 6月24日付の米オンライン5カ国語ニュースサイトBenarNewsは、“US Watching if Beijing Declares Air Defense Zone in South China Sea”と題する記事を掲載し、中国による南シナ海上空における防空識別圏設定への米国の対応と関連する南シナ海周辺をめぐる動向について要旨以下のとおり報じている。
(1) 米太平洋空軍司令官Charles Brown, Jr.大将は6月24日、中国による南シナ海上空に防空識別圏(以下、ADIZと言う)の設定について、それが「ルールに基づく国際秩序に対抗する」ものであり、周辺諸国がインド太平洋で国際法の範囲内で自由に飛行し、航行し、活動することを阻害するものだとして、その危機感を表明した。
(2) Brown司令官は、世界中がCOVID-19のパンデミックの対処に忙殺されているなかで、中国が「隣国を威圧し、海洋に関する不法な主張を押しつける」など、機会主義的な行動を展開していることにも懸念を表明した。米国は、ルールに基づく国際秩序を支持し、自由で開かれたインド太平洋の維持にコミットしていると彼は言う。そこではあらゆる国々の主権が尊重され、論争が平和的に解決され、自由で互恵的な貿易が促進される。
(3) 中国側は、中国が南シナ海上空にADIZを設定するという報道が事実かどうかを尋ねられたとき、明言を避けつつ、あらゆる国が空の安全保障を考慮しつつそれを設定する権利を持っていると答えている。
(4) ADIZにおいて、あらゆる民間機はその通行をアナウンスせねばならず、航路を追跡され、識別され続ける。ただしその空間への出入りが禁止されるというものではなく、軍用機について同じように適用されるわけでもない。南シナ海でもし中国がADIZを設定したら、民間機はその通行を報告することが求められ、それを怠れば通行が妨害される可能性があるということだ。ただし、中国は2013年に東シナ海上空にADIZ設定を宣言したが、そこでこうした行動をとったことはない。
(5) 南シナ海上空は広大な空間であり、したがってそこにADIZを設定し、必要な行動を実施することにはきわめて膨大な労力が必要になるし、当然外交的な批判を招く。中国は南シナ海における領土的主張を拡大させ、その軍事的なプレゼンスも強化したが、その海域をめぐる権利は周辺諸国によっても主張されており、まだ解決に至っていない。
(6) インドネシアは中国のこうした方針に対して、ASEAN諸国が断固とした態度をもって臨むべきだと主張した。インドネシア外相のRetno Marsudiは、南シナ海における中国による九段線の主張についてASEANは連帯して対峙しなければならないと述べた。インドネシアは2016年および2020年にナトゥナ諸島周辺での中国漁船団の行動をめぐって中国との間に緊張を高めている。中国は最近インドネシアに、南シナ海において両国の権利と利益の重複について交渉を呼びかけたが、インドネシアはそれに対し、その海域で中国と主張が重なるところはないというスタンスを示している。
記事参照:US Watching if Beijing Declares Air Defense Zone in South China Sea

6月26日「インド洋における中国潜水艦の展開―防衛アナリスト論説」(Forbes.com, June 26, 2020)

 6月26日付の米経済誌Forbesのウエブサイトは、防衛アナリストであるH. I. Suttonによる “Chinese Navy Submarines Could Become A Reality In Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでSuttonはインドの視点からインド洋において増大する中国の潜水艦による脅威について要旨以下のように述べている。
(1) 中国海軍は、急速にグローバルな能力を追求している。将来の軍事行動の重要な地域はインド洋かもしれない。特に中国の潜水艦がそれらの海域を徘徊していれば、戦略的な影響を与える可能性がある。しかし、注目の的となっているのは、北京が広範囲に及ぶ領有権を主張している南シナ海である。インド洋の舞台は、少なくとも世間の目にはあまり注目されていないようだ。しかし、インドにとってこの脅威は、非常に現実的であるようだ。中国の潜水艦は近年、パキスタンとスリランカに寄港している。
(2) 中国の潜水艦は平時にはマラッカ海峡を通ってインド洋に入ると予想される。これは、中国潜水艦の展開を明らかにするため水上で行われるべきである。戦時においては、中国の潜水艦はスンダ海峡又はロンボク海峡をすり抜けるかもしれない。これらは、太平洋とインド洋を分けるインドネシア列島の間を通過する。シンガポールを通り過ぎるマラッカ海峡と比較した場合の1つの優位性は、それが東インド洋の深海に潜水艦を送るということである。そこから中国潜水艦は目標へより目立たないルートを取る可能性がある。スンダ海峡が最短ルートだが、その東端は非常に浅いので、より深いロンボク海峡が好まれるかもしれない。そこの水面下の航路は中国海軍にとって実行可能だと考えられる可能性が高い。
(3) 一度インド洋に入れば、その潜水艦は、中国に戻ることなく再武装や補給を行う可能性がある。中国海軍は、すでにアフリカの角にあるジブチにその基地を建設している。たとえ潜水艦そのものが、注意深く監視されて、その港に寄港しなかったとしても、水上艦艇がジブチから洋上補給を行う可能性がある。
(4) パキスタンのグワダルにも中国の港が建造中である。この港の拡張工事は、中国海軍の基地が含まれる可能性があり、差し迫っているように見える。グワダルは中国と陸路でつながっているという利点があるので、物資は海路を行く必要がない。
(5) 中国がインド洋に恒久的な戦隊を創設するとしたら、その必然的な拠点は、グワダルとジブチであろう。モルディブには、中国がリゾート地として開発しているフェイドゥフィノールという小さな島もある。計画立案者たちは、いくつかのシナリオで、この島が支援基地や監視所としての役割を果たす可能性があることを懸念するだろう。
(6) 印海軍もまた、その脅威に対抗するためにその能力を高め、その軍事行動のパターンを修正しており、印潜水艦をアンダマン・ニコバル諸島に前方展開する能力を試験しているという形跡がある。これは、マラッカ海峡における潜水艦の活動を監視するための鍵を握っている可能性がある。同時に、米軍から提供された印海軍の P-8I哨戒機は、インド洋、そしてアラビア海にまで達するインドの対潜能力の範囲を更新している。
(7) しかし、この広大な海においては、これは困難となる可能性がある。中国の潜水艦は西側諸国のものほど静かではないかもしれないが、彼らは自然な隠密性という優位性をもつことになる。かなり旧式の潜水艦でさえも、戦時中には無視できない深刻な脅威をもたらす。
記事参照:Chinese Navy Submarines Could Become A Reality In Indian Ocean

6月26日「中印国境紛争は海上での衝突に発展するか―印海洋政策専門家論説」(The Strategist, June 26, 2020)

 6月26日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは、印シンクタンクObserver Research Foundation上席研究員Abhijit Singhの “Will the India–China border conflict lead to a naval war?”と題する論説を掲載し、ここでSinghは、6月半ばに起こった中印国境地帯における軍事衝突が海上での対立に拡大する可能性があるとして、その際にインドがどのような行動を取りうるかについて要旨以下のとおり述べている。
(1) 6月15日、インド北部ラダック地方における中国との「実効支配線」周辺で軍事衝突が起きた。危機を収めるための政治的努力は行われているものの、インド軍は部隊の動員を進め、また中国も軍の増強を進めており、全面戦争へとエスカレートしかねないほど緊張感が高まっている。現在のところ対立は地域的に限定されているが、それがインド洋にまで拡大する可能性はある。そこは地上とは異なりインドの方に分があると言える。
(2) 近年、インド海軍は種々の作戦活動を通じてインド近海での行動能力の強化を進めてきた。2017年以降インド海軍はマラッカ海峡への接近路を含めてインド洋のシーレーンとチョークポイントの哨戒を行い、中国の潜水艦の行動を追跡するためにアンダマン諸島でP-81哨戒機も運用している。インド沿岸部のレーダー網も情報収集に役立っている。
(3) 他方、中国もインド周辺のプレゼンスを高めている。2013年に人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)は初めてスリランカに潜水艦を派遣した。ここ数ヵ月で中国はアンダマン海に調査船などを送り込み、インドの海上での活動の追跡を行っている。直接インド海軍に挑戦するということはないが、これらの行動はインドと利益が重なる海域に持続的なプレゼンスを構築する野心を中国が持っていることを示唆している。
(4) 海上における中印衝突の可能性について考えるとき、以下の3つについて考えてみるべきだろう。第一に、インドが中国近海で中国の活動を積極的に封鎖するということは不可能であるように思われる。より現実的なのは、アンダマン諸島とニコバル諸島の間にあるテンディグリー海峡などのチョークポイントを通る中国籍船の輸送船やコンテナ船などを封鎖する阻止戦略であろう。とはいえこれも慎重に行う必要がある。中国籍船による海洋貿易に依存している国々は、そうしたインドの行動を敵対的と見なす恐れがあるのだ。
(5) 第二に、印海軍はあくまでインド近海におけるPLANの活動の阻止に焦点を当てるべきである。そのためにたとえばインド東海岸やアンダマン島の基地に海軍部隊を配備し、周辺海域ではハイペースな作戦行動を行えるようにしておくとよいだろう。世界第二位の海軍力を持つPLANの活動を阻止するのは容易なことではないが兵站の欠如などの弱点もあり、そこをインドは突くことができる。
(6) 第三に、中国が一帯一路政策を通じてそうした弱点を補おうとしていることを理解すべきであろう。すでに中国はスリランカのハンバントタ、バングラデシュのチッタゴン、ミャンマーのシットウェに海洋インフラを建造し、さらにその動向を推し進める可能性がある。
(7) インドにとっての最重要課題はベンガル湾周辺における中国の活動の追跡である。そのためにインドはアンダマン諸島に潜水艦や対潜哨戒機配備のための基地拡張を模索している。さらに中国の海上活動に直接的な脅威を与えるために地対地長距離ミサイルの配備も目指しているだろう。ただし、インドが海上で中国にチャレンジすることは非常に労力のいることだということも理解しなければならない。
記事参照:Will the India–China border conflict lead to a naval war?

6月28日「米海軍大将、北極圏における中国の『いんちき』に警鐘――香港紙報道」(South China Morning Post, June 28, 2020)

 6月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US admiral warns of risk of ‘bogue’ Chinese claims in Arctic”と題する記事を掲載し、北極圏における中国の活動に米在欧州・在アフリカ海軍部隊司令官が警鐘を鳴らしたとして、その主張と意味について要旨以下のように報じている。
(1) 6月25日木曜日、英シンクタンクInternational Institute for Strategic Studiesが主催したオンライン・セミナーで、米在欧州・在アフリカ海軍部隊司令官James Foggo海軍大将は、北極圏に対して中国が関心を強めていることは、米国およびNATOの同盟国に安全保障上の懸念を引き起こしているとして警鐘を鳴らした。
(2) 中国は北極圏における天然資源開発や航路開拓に関心を向けており、習近平の一帯一路政策を北極圏にまで拡大しようとしている。中国自身は北極圏に対する主だった関心は通商および環境保護に関するものだと言うが、Foggo司令官によればそれは「いんちきの主張」に過ぎない。南シナ海での展開がその前例であり、「中国は北極圏においても自分たちの望ましいようにルールを曲げていく可能性がある」と彼は述べた。
(3) またFoggo司令官は、中国による5G通信技術と港湾インフラのコントロールが欧州にとって懸念材料になっていると強調した。中国は一帯一路の旗印のもとに一兆ドルにおよぶ投資を行っており、それは125ヵ国に及ぶ。しかしそれに対する批判や懸念は尽きない。中国はその投資を利用して、重要な港や空港への他国のアクセスを制限し、他方で政府や軍の機密情報にアクセスできるとFoggo司令官は言う。
(4) さらに中国は新たに放送局や娯楽企業の購入を進めているが、それは中国のプロパガンダを広め、自国への批判を抑制するためのものだとFoggo司令官は主張した。中国はコロナウイルスに関する情報を制限しつつ、ヨーロッパに対してさえ対策のために装備や人員を派遣した。それは自分たちが世界のリーダーだと示すための行動であった。
(5) これら中国の攻勢がもたらすリスクを考慮したうえでNATOはその海洋戦略を練りあげるべきだとする一方で、「計算違い」による衝突を回避するための対話も必要だとFoggo司令官は言う。米海軍が空母3隻を南シナ海に派遣するなど、同海域をめぐって米中間の緊張が高まっている昨今、この指摘は確かに重要であろう。彼は、海上での偶発的遭遇に関する規則についての中国と交渉する一団を率いてもいる。
(6) 香港で活動する軍事評論家の宋忠平はFoggo司令官の一連のコメントを、中国に対抗するためにNATOの協力を引き出そうとするものだと解釈する。NATOの中国に対する関心は近年高まりつつあるが、ロシアに比べて相対的に低い。そして北極圏をめぐって、その地域のオブザーバー国家にすぎない中国とNATOが衝突するリスクも低い。米国は中国への危機感を煽ることで、NATO諸国の目を中国に向けさせようとしているのだろう。
記事参照:US admiral warns of risk of ‘bogue’ Chinese claims in Arctic

6月29日「対中国で深まる海洋領域での日印関係―印専門家論説」(South China Morning Post, 29 Jun, 2020)

 6月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、インドのムンバイを拠点とするジャーナリストKunal Purohitの“India-Japan naval exercises: a message for China”と題する論説を掲載し、ここでPurohitは中国に対する懸念を共有するインドと日本の関係が深まっていることについて、要旨以下のように述べている。
(1) 6月27日にインド洋で行われた印海軍と海上自衛隊による共同演習は、両国が中国からの共通の脅威と認識しているものと対峙するために緊密になっていることを示唆している、とアナリストたちは述べている。中印両軍は、最近の衝突で20人の印軍兵士が殺され、紛争中のヒマラヤ国境に沿って対峙しており、日中は、尖閣諸島(中国が主権を主張し、釣魚台列島と呼んでいる)の行政的状況を変更しようとする日本の動きを巡って言論戦に陥っている。
(2) この演習は、インド洋と太平洋で地政学的な対立が加熱していることを示す最新の兆候である。6月だけで米国はフィリピン海と南シナ海で3回の演習を行った。3回目の演習は、海上自衛隊と共同で実施された。また、中国船2隻がベトナムの漁船に衝突して沈没させたことで、中国とベトナムの間で緊張が高まっている。ASEANが6月27日に発表したものは、多くの専門家が南シナ海に対する中国の権利の主張に対する強い表明として見なし、ASEANが1982年の国連海洋法条約がその海域での領有権主張を決定するための基礎を形成すべきであるというものだった。尖閣諸島をめぐる新たな論争の中で、日本の防衛省はまた米国、インド、オーストラリア及び東南アジア諸国とのより良い海洋関係を推進するための新チームを設立した。
(3) 南シナ海と東シナ海での中国の主張は、インドと日本を結びつけるよう促したとアナリストたちは述べている。2007年にインドを訪問した際に安倍晋三首相は、インド洋と太平洋の「二つの海の交わり」で「拡大アジア」を掲げ、両国間のより強い海洋関係を求め、その後、軍事協力を深めてきた。安倍首相とインドのNarendra Modi首相は頻繁に会っており、2019年だけでも3回会っている。しかし、インドと日本は中国の自己主張に対する懸念を共有している一方で、両国は、「強固な安全保障戦略上の関係の構築には慎重」であると印海軍退役准将C Uday Bhaskarは述べた。元インド大使のRajiv Bhatiaは、この海軍演習はまた、侵略ではなく外交の必要性を中国に示すものでもあると述べた。
(4) 一部のアナリストたちは、インド洋と太平洋での活動の高まりは、日米印豪間の非公式な戦略的軍事グループである4カ国安全保障対話(以下、Quadと言う)の新たなつながりを示したと述べている。6月、インドとオーストラリアは、オンライン首脳会談(virtual summit)で相互兵站支援協定に署名した。Bhatia大使は、中国の攻撃性が急増すればQuadの勢いが増す可能性があると述べた。Bhatiaは、4つの軍の間の軍事協力を強化することは、その兆候であると述べ、共同演習の実施へとASEAN諸国を誘い込むなど、Quadはもっと多くのことをする必要があると付け加えた。「インド太平洋は、今後10年以上にわたって、米国、日本、インド及び中国にとって最も戦略的に重要な場所となるだろう。現在、中国はこの地域の他の国々よりもこのことを意識しているように見える」と彼は述べた。
(5) ニューデリーでは、中国の主張の高まりに対抗するためには、海洋領域が鍵を握っているという認識が高まっている。多くの退役海軍将校が印政府に対し、この地域でのその海洋プレゼンスを強化するよう促している。「海洋領域は、拡大するインド太平洋地域において、インドやどの国に関しても、中国の忍び寄る侵略戦術を和らげるためのいくつかの選択肢を提供している」とBhaskarは述べた。彼は、中国共産党は長い間、中国の利益にとって極めて重要な世界で最も交通量の多い水路の1つであるマラッカ海峡をコントロールする海洋国家に不安を抱いていたとして、「この不安は調整された方法でかき立てることが可能であり、専門家たちはこの意図をどのように示すかを知っている」と述べている。
記事参照:India-Japan naval exercises: a message for China

6月29日「中国の“Blue Sea 2020”プロジェクトに注目すべし-シンガポール専門家論説」(The Diplomat, June 29, 2020)

 6月29日付のデジタル誌The DiplomatはシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS), the Maritime Security Programme客員研究員YingHui Leeの“Pay Attention to China’s ‘Blue Sea 2020’ Project”と題する論説を掲載し、ここでYingHuiは中国の関係各部が共同で推進しているBlue Sea 2020と称する海洋環境保護構想は南シナ海における主権主張に利用される可能性もあり要注意であるとして要旨以下のように述べている。
(1) 4月1日、中国自然資源部、環境保護部、交通運輸部、中国海警総隊は共同声明を発表し碧海2020(Blue Sea 2020)と称する8カ月間の海洋環境保護構想の実施を明らかにした。碧海 2020は海洋環境保護を目的とした海洋法執行プログラムであるが、共同声明によれば次の8つの主要分野での違法行為防止に焦点を当てている。
a. 海上構造物建設
b. 海底石油探査
c. 廃棄物の海洋投棄
d. 海上輸送及び関連業務
e. 海砂の採掘及び輸送
f. 海洋保護区
g. 陸上由来の汚染
h. 海洋生態環境
(2) 共同声明は中国語でのみ発表され、新華社が概要を英語で配信したのみであるためか、この取り組みはまだそれほど東南アジア諸国の注目を集めてはいない。ここ数カ月間の南シナ海の緊張の高まりのため、一見これと無関係な碧海 2020が注目されていないという可能性もあるが、これまでASEAN加盟10か国は少なくとも公の場では本件には言及しておらず、また、学術的な議論も特に行われてはいないようである。
(3) しかし碧海 2020は本当に見た目ほど無害なものであろうか?確かに本件は海洋環境保護のみを目的としているようであるが、しかし共同声明にも示されているとおり、本件で実施される法執行活動には沿岸および海上の哨戒、遠隔監視機能が含まれており、このことは係争中の南シナ海における中国の法執行機関の存在正当化に利用される可能性も否定できないということである。
(4) ASEANにおいては、海洋環境保護は中国との海洋協力の議論における「成果」の1つとみなされている。海洋環境保護、より広くは非伝統的分野における海洋安全保障の問題は政治的にそれほど敏感ではなく、紛争につながる可能性は低いと考えられているからである。しかしながら、海洋においては伝統的安全保障と非伝統的安全保障の問題を明確に区別することは困難な場合もある。例えば IUU漁業の問題はその典型的な事例であると言えるだろう。IUU漁業は一般には非伝統的安全保障の問題として分類されるが、排他的経済水域(EEZ)内における漁業管理は伝統的安全保障の問題である主権とも密接に関連しているのである。
(5) もちろん現時点では碧海 2020の正確な地理的な対象海域は不明確なままであり、共同声明でも当該法執行活動が中国領海内でのみ実施されるのか、それとも係争中の南シナ海を含むより広い範囲に適用されるのかは明らかにされていない。にもかかわらず、南シナ海における中国の漁業活動のように碧海 2020が係争中の海域における北京の一方的な構想に変わる可能性も無視はできない。中国のより大きな戦略の一部としてのこのような一方的な行動が係争海域における権利主張の正当化を企図したものである可能性について、東南アジア諸国はもっと注意を払っておく必要がある。
記事参照:Pay Attention to China’s ‘Blue Sea 2020’ Project

6月29日「南シナ海の覇権を巡る米国の夢は中国との武力紛争を招くだけー中国南海研究院研究員論説」(South China Morning Post, 29 Jun, 2020)

 6月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院Mark J. Valencia非常勤上級研究員の“The US dream of South China Sea hegemony will only lead to conflict with Beijing”と題する論説を掲載し、ここでValenciaは南シナ海の平和を維持するために米中両国は東南アジア諸国と共に利益を共有する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 単に戦争がないことからすれば南シナ海は平和である。しかし、それは不安定で予測不可能な平和であり危険である。その状態は近い将来まで続くだろう。多くの長期的あるいは短期的な安定化策が提案されているが、米中ともに軍事的プレゼンスを拡大し、それによって緊張を高め合い、状況はどんどん悪化している。米中共に最悪のシナリオは回避したいはずだが南シナ海における両者の対立は明らかに衝突の方向に向かっている。米中両国は世界秩序を巡りインド太平洋地域において自由と抑圧の地政学的競争をしている。
(2) それにもかかわらず、短期的には米中間の直接的軍事衝突はないだろう。米Council on Foreign Relations(外交問題評議会)が出したレポートは「米軍はオーストラリア、日本、フィリピン、台湾の防衛を含む多くの不測の事態に備えるため、南シナ海での作戦を継続する必要がある」と記している。ここから読み取れるのは、米国は地域の覇権を維持するために米軍のプレゼンスを維持しているということである。一方、中国は米国の介入を抑えて地域で覇権を継続したいと考えている。中国にとって南シナ海は戦略的競争のための核心的地域であるが脆弱であり、「国家安全保障のための自然の盾」に変えたいと考えている。中国にとってもう1つ重要なこととして、南シナ海が核戦争における第2撃能力としての原子力潜水艦の配備海域となっていることが上げられる。これに対して米国は、南シナ海において中国原子力潜水艦に関する情報、監視、偵察活動を最重要作戦として実行している。
(3) 米国は上記のような軍事戦略的な視点は隠し、中国の島嶼施設を侵略の象徴であるかのように述べて「航行の自由」作戦に正当性を与えようとしている。この状況は不安定であり武力紛争に向けての負のスパイラルに陥る危険性がある。習近平国家主席もDonald Trump大統領も共に軍事現場の安定の重要性を認識しており、ホットラインや協議などのチャンネルを維持すると共に軍事活動計画を通知し合い、海上における不測の事態を回避するための覚書(Maritime Military Consultative Agreement)も策定している。しかし、これらのチャンネルは2018年以降はほとんど使われておらず、覚書も曖昧で拘束力はなく、さらに解釈が異なる箇所もある。
(4) このような南シナ海の現状に、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールなどの東南アジア諸国は懸念を表明している。それでも米中両国は地域諸国の懸念を他所に対立を続けており、ゆっくりとではあるが確実に紛争をエスカレーションさせている。東南アジア諸国連合(ASEAN)は地域における平和維持の主要な行為者ではない。むしろ、大国の圧力の下にある。結局のところ、米国は直接的あるいは間接的に中国と権力を共有する必要があり、一方中国は資源とその管理を南シナ海諸国と共有しなければならないだろう。それが、南シナ海に安定した永続的な平和をもたらすための唯一の方法である。
記事参照:“The US dream of South China Sea hegemony will only lead to conflict with Beijing”

6月30日「空母2隻体制の演習による米海軍の中国及び同盟国に対するメッッセージ-米ジャーナリスト論説」(The Diplomat, June 30, 2020)

 6月30日付のデジタル誌The Diplomatは、米ニューヨーク市を拠点に活動する東アジアの安全保障、海洋問題専門のフリージャーナリストSteven Stashwickの“U.S. Navy ‘Dual Carrier Operations’ Send Message to China, Allies”と題する論説を掲載し、ここでStashwickは6月にフィリピン海で実施された米海軍による空母2隻体制の演習は中国及び南シナ海問題に係る全ての同盟国に対するメッゼージであるとして要旨以下のように述べている。
(1) 米海軍は6月中に2回、フィリピン海で米空母ロナルド・レーガンと空母ニミッツの2個空母打撃群による演習を実施したと発表した。ニミッツ空母打撃群はこれに先立ち、新型コロナ感染症対応のため2ケ月間に及んだグアムでの待機から洋上に復帰した空母セオドア・ルーズベルト空母打撃群との演習も実施している。そのフィリピン海は台湾海峡と南シナ海の双方にアクセス可能な戦略的重要海域であり、そして中国はここ数ヶ月、台湾海峡の中間線付近に軍事力を展開しての海上訓練の実施や問題のある空域の飛行など、台湾に対する軍事的な圧力を高めている。
(2) ニミッツ空母打撃群指揮官は空母2隻体制の作戦について、「これは地域の同盟国に対する米国のコミットメント、インド太平洋における現状変更勢力に立ち向かう意志を示すものであり、その準備ができていることを示すものである」と述べている。米海軍の空母は5,000人を超える乗員を擁して60機を超える艦載戦闘機、ヘリコプターを運用しており、強力な航空作戦を24時間実施可能である。米海軍は空母2隻体制の作戦を「航空作戦、洋上監視、洋上補給、対空防御、長距離遠征、同盟国との共同その他の演習」を担保するものと説明している。この空母2隻を護衛するのは2隻の巡洋艦と3隻の駆逐艦である
(3) セオドア・ルーズベルトがグアムで待機している間、日本に展開しているロナルド・レーガンは集中的な定期メンテナンスの期間にあり、今春、西太平洋海域に展開する米空母は存在しなかった。中国は、この米空母の不在というギャップを利用し、コロナウイルスの蔓延とも連動して南シナ海及び東シナ海の関係諸国に対する牽制と脅迫のキャンペーンを展開しているようであったが、米海軍はそれに呼応し、前方展開中の潜水艦4隻すべてを出港させ駆逐艦や巡洋艦その他の小型艦艇(抄訳者注:LCS(沿岸域戦闘艦))も多数動員して「航行の自由」作戦を遂行した。
(4) 米国が西太平洋に複数の空母を同時に展開させるのは決して珍しいことではないが、それらの空母は通常は独立的に運用されており、連携して運用されるのは余り一般的ではない。6月初旬、米海軍が太平洋海域に3隻の空母セオドア・ルーズベルト、ロナルド・レーガン、ニミッツを展開していたことが広く報じられたが、これもまた異例のことである。米海軍によれば、空母2隻体制による空母打撃群の運用は、これまで2018年、2014年、2009年、2001年にフィリピン海ないしは南シナ海での運用実績があるという。これらの取り組みが不規則に実施されてきたのは、依然として太平洋海域で最も強力な艦隊を有している米海軍が中国の海洋進出を思いとどまらせるとともに、同盟国海軍を安心させるべく協調努力をしてきたということを示唆している。
記事参照:U.S. Navy ‘Dual Carrier Operations’ Send Message to China, Allies

6月30日「長射程対艦ミサイルの時代に古典的海洋戦略はいかに有効か-豪歴史研究者論説」(The Strategist, 30 Jun 2020)

 6月30日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、豪The University of New South Walesの歴史学講師Richard Dunleyの“How useful is classical maritime strategy in an age of long-range anti-ship missiles?”と題する論説を掲載し、ここでDunleyは長射程対艦ミサイルはMahanが主張したような制海には適さないが、Corbettが主張したかつての戦艦部隊のように安全の傘を差し掛ける役割を担うだろうとし、シーディナイアルや接近阻止/領域拒否といった今日注目される役割よりも重要な役割を果たすかもしれないとして要旨以下のように述べている。
(1) 国防問題の評論家は近年、対艦弾道ミサイルであるか極超音速巡航ミサイルであるかにかかわらず長射程対艦ミサイルの開発に関心を向けている。これらの議論は常に接近阻止/領域拒否(以下、A2/ADと言う)という構想で、米海軍に対する中国、場合によりロシアやイランによる運用に焦点を当てている。一部の研究者はこのような技術が高価値の水上艦艇が機能しなくなるようにするのか疑問を呈している。これらの議論は重要で興味深い。しかし、新しい技術が陸上と海洋の相対的な力の均衡をどのように変え、一般的に海洋戦略にどのような影響を及ぼすのかというより大きな疑問を見落とす傾向にある。
(2) 特筆すべき例外はJames Holmesによる人民解放軍海軍と中国の新対艦ミサイルとの関係を規定した要塞艦隊の考え方の復権である。要塞艦隊はAlfred Thayer Mahanが日露戦争時のロシア旅順艦隊の動きを規定して作り出した用語である。しかし、時代は変化した。James Holmesは「射程の延伸、精度、ミサイル誘導技術によって要塞艦隊の時が来た。ある意味ではこれに反対するのは難しい。射程と火力の開発は(ミサイルを装備した)今日の要塞の『砲』の下で艦隊を運用することは重大な優位を持つことを意味する」と主張している。
(3) Mahanの要塞艦隊に対する攻撃はものの考え方に対してであり、ロシア海軍の装備に対するものではない。要塞艦隊の考えは艦隊の目的に対する「不適切な着想」から出た「防御的な概念」である。要塞艦隊は、潜在的な敵からその領土を守るということに関してのみシーパワーを見る大陸国家が適用した政策である。しかし、海洋を支配するために陸上を使用するというのは中国、ロシア、イランの専有物ではない。米国での最近の動き、特に海兵隊の焦点の変化はシー・ディナイアルト同様にシー・コントロールの領域においても地上配備の武器体系が重要なものであることを明らかにしている。要塞艦隊の考えは、確かにロシア、そしておそらく中国で適用できるだろう。しかし、制海権の行使に目を向けている国の文脈ではあまり意味を持たない。
(4) この長射程対艦ミサイルという新種は海洋戦略のどこにはめ込むことになるのかという疑問に戻ってくる。ここでJulian Corbettに目を向けてみる価値がある。Mahanは戦艦部隊の役割を常に強調してきた。一方、Corbettは民間用の通商路であれ、軍用の海上交通路であれ、これらを現実に、直接的に支配するためには、戦艦部隊は必要ではなく、適当でもないと主張する。事実、Corbettは戦艦部隊の役割は巡洋艦や小型艦艇による制海権の行使を阻害する敵を阻止することで安全の傘を提供することと考えている。Corbettの死から100年以上、安全の傘の提供という任務は戦艦部隊から航空母艦、状況によっては基地航空隊へと手渡されていった。長射程対艦ミサイルは、海軍の戦いにおけるこの伝統的な役割を行うのに使用される一連の道具に加えられそうである。これら兵器は、Corbettが指摘した戦艦部隊と同様、制海権を行使する役割には不向きなようである。しかし、必ずしもシー・コントロールよりもシー・ディナイアルを強化する、あるいは水上艦艇を不必要なものとすることを意味するものではない。
(5) 長射程対艦ミサイルは近代海軍の海洋使用をいかに円滑にするかと言うより広い視野に適合することができる多くの点で、対艦ミサイルはこの海軍の戦いに対するCorbett流の見方に容易に適合する。しかし、海洋戦略に重要な影響を与えると思われる大きな違いがある。第1に、安全の傘を提供するために使用される伝統的な装備は常に海に浮かんでいるものであり、したがって海洋は相互に連接されているという原則の利益を得ている。第2の違いは費用である。最高仕様の対艦ミサイルはそれ自身極めて高価であり、必要となるターゲッティング・システムやその他の支援施設はおそらく、さらに経費がかかるだろう。しかし、それらの経費も伝統的なシー・コントロールの決定者の価格に比べれば、はるかに安価である。これにより制海権に挑戦する余裕のなかった国が手に届く可能性が出てくる。
(6) Corbettが言う安全の傘の提供者として対艦ミサイルの発達は、単にシーディアナイルやA2/ADを拡大させるだけでなく、国境が接する海洋の広大な範囲において有意な制海を行使できる地域の国を増加させるという見通しを提示している。少なくとも対艦ミサイルの命中を可能にする支援施設と命中までの各段階は相当程度脆弱であることを付け加えておかなければならない。また、空母の終わりという議論は続いているのにもかかわらず、対艦ミサイルが既存の艦艇よりもより大きな能力を有し、残存性が高いと言うにはほど遠い。その代わり対艦ミサイルは異なる機能を提供することになろう。1つは、より多くの国で利用が可能となり、今1つは、伝統的な艦艇航空機では危険が多い環境下に展開が可能である。
(7) これら新技術の進展は、我々が評価困難なやり方で海軍の戦い方に影響を及ぼすことは間違いない。CorbettもMahanも、この疑問に答えを示すことはできない。しかし、一過性のものから海軍の戦いにおいて一貫したものを引き出すことを手助けしてくれる。この認識から、地上配備の長射程対艦ミサイルの影響は最近強調されているシー・ディナイアルやA2/ADより巧妙で、より重大かもしれない。
記事参照:How useful is classical maritime strategy in an age of long-range anti-ship missiles?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) CLIMATE RISKS TO INDIA’S HOLISTIC MARITIME SECURITY PART 1: RISING SEA LEVEL 
https://maritimeindia.org/climate-risks-to-indias-holistic-maritime-security-part-1-rising-sea-level/
National Maritime Foundation, 22 June 2020
By Dr Pushp Bajaj, an Associate Fellow at the NMF
6月22日、印海洋問題シンクタンクNational Maritime FoundationのAssociate FellowであるPushp Bajajは、同シンクタンクのウェブサイト上に、" CLIMATE RISKS TO INDIA’S HOLISTIC MARITIME SECURITY PART 1: RISING SEA LEVEL "と題する論説を発表した。その中でBajajは、ここ数十年の間に、気候変動は将来世代の遠い問題であると考えられていたものから、世界中のすべての国にとっての重大な差し迫った安全保障上の脅威へと進化したと話題を切り出し、National Maritime Foundationは気候変動がインドの総合的な海洋安全保障問題に及ぼす影響を研究するための新たな研究活動に着手したと述べ、インドは沿海地域の安全を確保するために、インド太平洋地域の海洋パートナーとの関係を強化し、将来的な気候変動に起因する大規模な移住に対処する政策を採用しなければならないと指摘している。
 
(2) The U.S. Military Presence in the Asia-Pacific 2020 Press Release
http://en.nanhai.org.cn/index/info/content/cid/20/id/8273.html#div_content
National Institute for South China Sea Studies, June 23, 2020
6月23日、中国南海研究院は北京において“The U.S. Military Presence in the Asia-Pacific 2020”の報道発表を行った。その中で、①この報告書では、Trump政権下での米軍のアジア太平洋地域における活動を総合的に吟味している、②アジア太平洋地域における米国の安全保障戦略が「インド太平洋」という新しい概念に改称され、冷戦を彷彿とさせる「大国間競争」が米国の国家安全保障に関する戦略文書の中で初めて明確に確認されるなど、Trump政権は大きな変化をもたらした、③米国のインド太平洋戦略は、世界及び地域問題における米国の優位を守ることを目的とし、「自由と開放」の原則に基づく「ルールに基づく秩序」を提唱し、この地域の同盟国やパートナーとの関係を強化しようとしている、④中国は対米軍事関係について、非紛争、非対立、相互尊重及び共に利益となる協力の原則に従い、積極的かつ適切に対米軍事関係を扱う、⑤米国は大量の戦力を前方展開し、軍事同盟を強化して挑発活動を行っており、中国はかつてないほどの不安感と脅迫感に包まれている、⑥この地域のほとんどの国が中国と米国の二者択一を望んでいないが、このジレンマから抜け出すためには、中国は軍事予算を増やし適切に軍事力を構築するしかない、⑦危機に瀕しているのは米中関係だけでなく、アジア太平洋地域の国々と人々の平和や幸福である、といった主張を述べている。
 
(3) Water Wars: The Pandemic’s Great Power Competition at Sea
https://www.lawfareblog.com/water-wars-pandemics-great-power-competition-sea
Lawfare Blog.com, June 24, 2020
Sean Quirk, a JD/MPP joint-degree student at Harvard Law School and Harvard Kennedy School
6月24日、米Harvard Law SchoolおよびHarvard Kennedy Schoolの院生であるSean Quirkは、豪Lawfare Instituteのブログ上に" Water Wars: The Pandemic’s Great Power Competition at Sea "と題する論説を発表した。ここでQuirkは世界が新型コロナウイルスとの闘いを続ける中で、米国と中国はインド太平洋地域で互いの限界を試しており、中国政府は近隣諸国に怒りをあらわにし、ほとんどの国が新型コロナウイルス感染症対策に気を取られている中で攻撃的な行動を採っている一方、これを受けて米国防総省は米軍が太平洋の南北を問わず態勢を整えていることを中国政府に示そうと躍起になっていると指摘した上で、米中関係が悪化する中、米国は中国の圧力に屈するのではなく、台湾との政治・軍事関係を再構築すべきとの他の研究者らの主張を紹介して賛意を示している。