海洋安全保障情報旬報 2020年4月21日-4月30日

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3月31日「トルコの新運河建設計画に対するロシアの懸念―米シンクタンク研究員論説」(Eurasia Daily Monitor, Jamestown Foundation, March 31, 2020)

 3月31日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily Monitorのウェブサイトは、同シンクタンク研究員でユーラシアの民族・宗教学専門家Paul Gobleの“Moscow Worried about Ankara’s Plans for Canal Bypassing Bosporus Strait”と題する論説を掲載し、そこでPaul Gobleは、ボスポラス・ダーダネルス海峡を迂回する新運河の建設をトルコが計画していることについて言及し、それに対するロシアの懸念とその運河が持つ戦略的役割について要旨以下のとおり述べた。
なお、本記事は3月31日に掲載されたものであるが、戦略的に重要なボスポラス・ダーダネルス海峡における運河建設問題はタイのクラ地峡における運河建設問題とも関連して有意と考えられることから今旬取り上げるものである。
(1) 2020年3月初め、トルコのErdoğan大統領は黒海とマルマラ海をつなぐイスタンブール運河建設に向け早晩入札を実施するとの声明を発表した。総事業費250億ドルのこの大事業をErdoğan大統領首相は2023年までに終わらせたいと述べた。これが完成すれば黒海と地中海の行き来に、これまで唯一の水路であったボスポラス・ダーダネルス海峡以外の経路ができることになる。
(2) このトルコの動向はロシアの警戒心を高めた。その背景には1936年のモントルー条約がある。これは両海峡の通過に関して、大型の軍艦の通行の禁止や通行量の制限を黒海沿岸国以外に課したものであり、ロシアの安全保障にとって重要であり、その遵守が必要だとの立場をとってきた。ロシアは、トルコがかねてからこの条約が適用されない運河を建設することを警戒していた。もしそのような運河が建設されたら、NATOや反ロシア的態度を持つ国が黒海にいつでも軍艦を派遣できるということである。こうした懸念が、ロシアの評論家Aleksey BaliyevとAndrey Areshevの論稿にも示されている。
(3) 二人が指摘するように両海峡を迂回する運河のアイデアは16世紀半ばから議論されてきた。少し前では1990年代に当時のトルコ首相Mustafa Bülent Ecevitによってそれは構想されたが、彼の念頭にあったのは、冷戦の終結とソ連崩壊にあたって、そうした運河が重要な「地政学的」役割を果たすことであった。彼は2004年に亡くなったが、Erdoğan大統領がこれを引き継いだのである。
(4) 現行の計画によると、新運河はイスタンブールの25~30キロ西側に位置し、年間8万5,000隻の船舶を通行させることができる。幅150メートル、深さ25メートルなので大型の船舶の通行も可能であろう。2018年1月以降、トルコ政府は新運河にモントルー条約は適用されないと主張してきたため、それが完成すればスエズ運河やパナマ運河のような地政学上の影響力を持つだろうとBaliyevとAreshevは主張する。
(5) しかし、現在の原油価格下落と国際貿易の停滞はこの大事業の実現可能性に影を落としており、そのためNATO諸国がこれに投資するかどうかがこの事業を前進させる鍵となるだろう。そうなると、トルコ政府は否定しているが、その地域におけるNATOの同盟国の役割が拡張することになる。それをロ政府は警戒している。
(6) ロ政府は新運河の通行に関してもモントルー条約が適用されねばならないという強硬な態度を示している。そのうえで、トルコ国内の運河建設反対派(環境的観点、ないしコストの観点からの反対意見がある)らを好意的に評価し、あるいは秘密裏に彼らを支援したりしている。しかしBaliyevとAreshevらロシアの評論家は、こうしたロシアの非妥協的態度を批判する。彼らにしてみれば、トルコは結局のところ西側諸国の支援を受けて計画を前進させ、モントルー条約の制約下から逃れようとするだろう。このときロ政府が目指すべきは、海軍通行に関してはモントルー条約が適用されることの合意であり、それまで交渉を遅らせることなのだ。いずれにせよ、運河建設をめぐって、近い将来トルコとロシアの、あるいは東西間の緊張は高まっていくかもしれない。
記事参照:Moscow Worried about Ankara’s Plans for Canal Bypassing Bosporus Strait

4月21日「パンデミックの時代の海洋安全保障:海軍の側面―印専門家論説」(Financial Express, April 21, 2020)

 4月21日付の印日刊英字ビジネス紙Financial Express電子版は、印シンクタンクIndian Maritime Foundation副会長Anil Jai Singh退役海軍准将の“Maritime Security in the age of the pandemic: The Naval Dimension“と題する論説を掲載し、ここでSinghはパンデミックに対応する海洋安全保障のための施策が必要であるとして要旨以下のように述べている。
(1) 米空母USS Theodore Roosevelt乗員のCOVID-19感染は、艦長の更迭や海軍長官代理の辞職問題まで引き起こした。このことは、パンデミックが海軍の運用、海洋安全保障、延いては国家安全保障に重大な影響を及ぼすことを示唆している。空母Theodore Rooseveltは3月4日から9日までベトナムのダナンに寄港した。この折に上陸した乗組員3人が感染した疑いが持たれ、その後、艦内で感染が増え始めた。Theodore Rooseveltはグアムに停泊を余儀なくされ、5000人の乗組員中、600人以上が感染し、その内の1人が死亡した。米海軍での感染はこれだけではない。他の何隻かの米海軍艦艇でも感染が発生している。感染は米海軍だけではない。ロ海軍でも原子力潜水艦で乗組員の陽性が判明したとの報道がある。仏海軍では空母Charles de Gaulleで感染の疑いが生じて帰港、1700人の乗組員のうち700人以上に陽性反応が出た。軍艦の乗員は窮屈な生活空間の中で長期間に亘り任務についている。ソーシャル・ディスタンスのとれない空間において、コロナウイルスのような感染症が急速に広がっても不思議ではない。希望的な見方ではあるが、空母Theodore Rooseveltでの教訓を活かせば、世界中に展開する他の艦艇での感染を防ぐことができるかもしれない。最優先事項は、感染のあった艦艇の乗員を上陸させない措置であろう。12隻以上の艦艇をインド・太平洋海域に前方展開させている印海軍では、外国の港に寄港させないなどCOVID-19の感染者がでないよう様々な措置を講じている。しかし駆逐艦やフリゲート艦は3〜4日ごとに給油する必要があり、長期間の洋上展開では補給艦の確保が必須となることから、運用に制約を生じる事態が危惧されている。各国海軍も同様である。
(2) そのような中で、数少ない例外があるとすれば、それは中国海軍であろう。ウイルスの発生を隠ぺいしてパンデミックを招いた中国は、既に南シナ海で活動を強めている。中国は感染の影響を受ける他国の対応能力を試している。ベトナムの漁船を沈め、台湾に対しては高圧的な姿勢を示し始めている。中国は、1995-96年の台湾海峡危機の折に米空母のプレゼンスによって台湾への牽制を鈍らせざるを得なかった教訓から、A2 /AD戦略や空母キラーミサイルDF-21の開発に取り組んできた。その結果、中国海軍は質量共に優れた兵力を整え、今では西太平洋で積極的な姿勢を取り得るとの自信を持つに至っている。米海軍艦艇での感染の隙を見つつ、中国はさらに大胆な行動を取るかもしれない。
(3) パンデミックの影響は今後数年間、地域と世界の海洋安全保障に影響を与え続けるだろう。経済に打撃を受ける中、各国は直面する社会経済的課題への取組みを優先し、防衛予算を削減する可能性がある。それによる安全保障上の不利益は長期に亘って国防に負の影響を及ぼすだろう。要員訓練は制約され、海軍の多国間演習も減少する可能性がある。各国海軍は役割・任務、戦略を再設計する必要がある。海洋安全保障は海軍だけの役割によって果たされるものではない。海上交易の維持、エネルギーフローの確保、食料安全保障、海洋産業の維持育成、持続可能な海洋開発、沿岸域生活圏の治安、等々、国家の総合的な力の発揮が必要である。先見性と調和のとれた政府のアプローチが求められる。
(4) COVID-19パンデミック後の世界秩序はかなり異なったものとなるとの見解がある。経済的課題を抱える国は外圧に対して脆弱になる可能性があり、強国に財政的支援を求めるかもしれない。インドは優れた海洋大国であり、インド洋の安全保障プロバイダーとして戦略的且つ包括的な経済能力構築のためのイニシアチブを発揮し、地域の脆弱性に付け込む捕食者を追い払う能力を備えることが求められる。
記事参照:Maritime Security in the age of the pandemic: The Naval Dimension

4月21日「南シナ海で主張を強める中国―台湾専門家論説」(Asia Times.com, April 21, 2020)

 4月21日、香港のデジタル紙Asia Timesは、台湾のNational Chengchi University研究員Richard J. Heydarianの“China lays ever larger claim to South China Sea”と題する論説を掲載し、Richard J. Heydarianは中国がCOVID-19のパンデミックによって引き起こされた前例のない安全保障上の空白を利用するために、紛争中の南シナ海においてその主張を強化しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の最高行政機関である国務院は最近、南シナ海に2つの新しい行政区を設置することを発表した。中国の国営メディアは、このほとんど知られていない区別を「重大な行政上の動き」と称している。これはこの海域において、北京を競合する権利主張国との新たな衝突への軌道に置く可能性がある。
(2) この地域において長期にわたる安全保障の保証人である米国の動きは、米海軍の重要な空母USS Theodore Rooseveltでコロナウイルスの感染が発生したため、同空母が接岸している間に海軍の海外展開を一時中断するというものである。このパンデミックはまた、米空軍がグアムでの15年に及ぶ「爆撃機の持続配備ミッション」(Continuous Bomber Presence Mission)を唐突に終了する原因となった可能性がある。これは隣接海域での中国の主張を強める道を開く可能性があると戦略アナリストたちが示唆している、事前予告なしの劇的な動きである。この撤退は、米国の爆撃機が中国に向けた米国の決意を表明するためのものと思われる、いわゆる「象の行進」(elephant walk)の即応訓練に参加した数日後に起こった。米国防総省は、太平洋艦隊の増強のために中東からインド太平洋に米空母USS Harry S. Trumanを再展開すると発表しているが、米国の戦略的状況が急に不明確になってきたことは、中国の海洋進出に、ほぼ間違いなくまたとない機会を与えている。
(3) 4月18日、北京は三沙市の庇護の下に西沙区と南沙区を導入した。三沙市自体が、中国がベトナムと争うこの海域の西沙諸島のウッディ島(中国名:永興島)に2012年に初めて設立された新しい「地級」(中国の行政区画の一種)の統一体である。そして、中国が、この海域の他の場所で行ったように、この区域で影響力を拡大し、新たな人工島を造り出すことを計画している可能性があることを一部のアナリストたちに示している。南沙地区は南沙諸島を管轄し、フィリピンとベトナムによっても権利が主張されている、ファイアリー・クロス礁に位置することになる。この岩礁は、争われている南沙諸島での中国の軍事活動の指揮統制センターとして広く考えられている。一方西沙区は、西沙諸島とマックルズフィールド堆を管理する。
(4) 中国のメディアや専門家は、最新の発表をこの区域の民間及び軍事施設の広がるネットワークの論理的な前進として大々的に表現している。これらの施設は、これまで以上に多くの人員を受け入れており、そしてこれまで以上に永住者を受け入れると思われる。4月の初め、中国はまた、南沙諸島に部隊と人員のための精神衛生施設を設置していると発表した。南沙諸島では、3kmの長さの滑走路と大規模な軍民複合施設が、隣国によって権利が主張されている人工的に埋め立てられた島々に建設された。人民解放軍海軍医科大学の心理学教授である蒋春雷が4月7日にファイアリー・クロス礁を訪問した後、このアジアの大国は高度な精神健康管理施設の建設を現在検討していると述べている。北京が中国本土の海岸からさらに遠くへと海洋におけるその影響力が及ぶ範囲を拡張するための事業計画に取り組んでいるため、それは戦略的な強さよりもむしろ弱さの兆候である可能性がある。4 月17 日の中国軍網は、中国の最南端の海岸から最大1200kmまで離れて活動している軍隊の物理的かつ精神的な負担を強調した。「人工の島々で駐留させられることは投獄されるようなものである。体裁を繕った監獄はそれでもなお監獄のままである」と海洋専門家のJay Batongbacalはフィリピンの英字紙Philippine Daily Inquirerに語っており、中国が人里離れた人工島に大規模人員を駐留し続けることの困難さとコストがかかる可能性を強調している。
(5) 同時に、中国は争点となっているエネルギー資源を含む、ライバル国の主張に挑むために、さらに外側に向かって突き進んでいるように見える。中国の調査船「海洋地質8」は数ヶ月間マレーシアのPetronas社が運営する掘削船West Caperaをしつこく追いかけていたが、この掘削船はマレーシアの大陸棚内のエネルギー資源を調査していた、と海洋追跡ウエブサイトMarine Trafficは伝えている。マレーシアのThe Star Onlineによると、状況に詳しい現地の安全保障専門家は、中国の 「『海洋地質8』は4月17日に、海上民兵や中国海警総隊に所属する船を含む、10隻以上の中国船によって一時守られていた」と主張した。マレーシアの西の大陸棚がベトナムのものと重なっているため、ベトナムの海上民兵部隊もこの区域で活動していると報告されている。
(6) 2019年12月以来、ライバルである3つの権利主張国がこの区域でにらみ合っているが、COVID-19はその感染拡大を封じ込めるために大規模な封鎖に取り組んでいるこの地域の小国に深刻な打撃を与えている。マレーシア当局は状況を控えめに扱い、戦略的状況が極めて不確実なときに緊張がさらに拡大すること、そして中国がこの争われている海域における立場を強固にするために歴史的な健康上の危機を利用するかもしれないという懸念を阻止しようとしているようである。マレーシアの海洋法執行機関のトップであるZubil Mat Somは、地元の報道機関Harian Metroとのインタビューで、マレーシアの200カイリの排他的経済水域内で操業している中国の測量船に言及し、「その目的は分からないが、法律に違反する活動を行っているわけではない」と語った。
記事参照:China lays ever larger claim to South China Sea

4月22日「空母9隻体制?2020年から?―米専門家論説」(The Diplomat, April 22, 2020)

 4月22日付のデジタル誌The Diplomatは、Patterson School of Diplomacy and International Commerceの准教授Robert Farleyの“A Nine Carrier US Navy? In 2020?”と題する論説を掲載し、ここでFarleyは米国防長官室が空母2隻の削減を提言しているが、これは削減後に高烈度の紛争に対応する米海軍をどのように再構築するのか、その中で空母はどのような役割を果たすのかという議論とCovid-19後の経済状況の中で国防予算の削減にどのように対応していくかの議論とが交錯するだろうとして要旨以下のように述べている。
(1) 米国防長官室が発出した新しい報告書は、米海軍は空母2隻を削減し、節約した資金をより小型で軽快な水上艦艇に使用すべきであると提言している。ジャーナリストのDavid Larterが報じたように、米海軍はフリゲートやコルベットを含む小型艦艇や無人船を選択し、巡洋艦、駆逐艦といった大型水上艦艇部隊の規模を凍結するだろう。
(2) 米国が2個空母打撃軍を削減するという提言は2つの広範な議論の交点となるだろう。その第1は、高烈度の紛争に対する米海軍をどのように再構築し、その中で空母はどのような役割を果たすかである。現代の空母の脆弱性は大きな問題として残っているが、空母が消費する巨額の費用は問題とされていない。現在の兵力組成は莫大な戦闘力をわずかな隻数の艦艇に投入しており、それら艦艇は同時に数カ所に展開できるだけである。兵力組成変革の主張は、新しい調達戦略を要求している。新しい調達戦略は、1艦当たりの能力を犠牲にしても戦闘力のある艦艇数を増加させるだろう。中国の対艦ミサイルの増強がこの議論を大きく加速した。
(3) 第2の、そしてごく最近の議論は、COVID-19による経済的荒廃への対応で長期の緊縮予算を米軍はどう対応するかを検討するものである。もちろん、国防長官室の報告書はウイルスの世界的感染爆発の破壊的な影響を考慮に入れていない。しかし、戦略的理由に基づく空母2隻の除籍は間違いなく議会と国防総省が迫り来る国防予算削減にどう対応するかに影響を及ぼすであろう。2隻の空母削減は艦隊全体の編成と展開予定の再考を迫るだろう。ある部分は、ますます航空兵力中心になる水陸両用戦部隊に吸収されるだろう。しかし、米海兵隊内部で提言されている改変を考慮すると水陸両用戦部隊の将来もまた不確かである。どのような場合であれ、削減された空母は海軍の任務の中で抑止や世界中での「ショー・ザ・フラッグ」といった「政治的」な部分で利用されることになろう。
(4) 計画では就役が保留されているUSS John F. KennedyなどFord級空母2隻に加えてNimitz級空母7隻が残ることになろう。3隻のFord級空母の計画が残っているが、海軍がこれらを中止することに伴う人的およびインフラ資本の莫大な損失の危険を冒すとは考えられない。しかし、想定される敵の連合が編成する艦隊よりも米空母部隊は相当に有力であることは記憶しておく価値がある。
記事参照:A Nine Carrier US Navy? In 2020?

4月23日「Type075強襲揚陸艦1番艦の火災2週間後に2番艦進水―香港紙報道」(South China Morning Post, 23 Apr, 2020)

 4月23日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、Type075強襲揚陸艦の2番艦が進水し、人民解放軍海軍建軍71周年に花を添えるはずであったが、その2週間前に発生した1番艦の火災が水を差したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国のType075強襲揚陸艦の2番艦が4月22日に進水した。1番艦進水から7ヶ月後のことである。2番艦の進水は人民解放軍海軍建軍71周年に花を添えるものとして祝賀された。しかし、2番艦の進水は同じ造船所で2019年9月に進水し、艤装中である1番艦で火災が発生した2週間後であった。
(2) 火災は4月11日に発生し、速やかに消火されたと報道は述べているが、火災の原因や被害の範囲について何らの情報も示していない。ソーシャルメディアで拡散した画像は大量の黒煙が艦の上部構造物を覆っており、艦尾ゲートから吹き出している。火災が計画されている海上公試や海軍への引き渡しにどのような影響を及ぼすのか明らかではない。損傷艦は4月22日に公開された2番艦が1番艦横に係留するため曳航されているビデオで見ることができる。1番艦は再塗装されているように思われる。
(3) おそらく3隻になると思われるType075強襲揚陸艦初期型は、人民解放軍海軍の上陸作戦能力を向上させると同時に小規模の海外任務における水陸両用戦部隊の中核と位置づけられている。悪化する中台関係、南シナ海の島礁に関わる長引く係争から人民解放軍海軍は近年、何隻かのヘリコプター搭載ドック型揚陸艦を発注している。排水量25,000トンのType071ドック型揚陸艦2016年以来進水しており、3隻が既に就役し、2隻が海上公試中である。
記事参照:China launches second Type 075 amphibious helicopter assault ship

4月23日「コロナウイルスによる経済危機は71周年を迎えた人民解放軍海軍の拡張を圧迫-印専門家論説」(South China Morning Post, 23 Apr 2020)

 4月23日付の香港日刊英字紙 South China Morning Post電子版は、印シンクタンクTakshashila InstitutionのChina Studies Programme責任者Manoj Kewalramaniと同研究員Suyash Desaiの“Coronavirus economic crisis squeezes China’s plans to expand its navy as it marks 71st anniversary”と題する論説を掲載し、ここでKewalramaniらは人民解放軍海軍は習近平に軍改革の構想を背景に経済成長に後押しされて急速に拡大してきたが、皮肉なことにCovid-19後の世界では経済の減速に加え、現有兵力維持のため巨額の経費を必要とすることから新装備開発の経費を圧迫することになるとして要旨以下のように述べている。
(1) 4月23日、人民解放軍海軍は建軍71周年を迎えた。同海軍は習近平国家主席が進める軍改革の最大の受益者である。大国の野望に突き動かされ、中国海軍艦艇建造所は過去数年間、記録的なペースで艦艇を建造してきた。その結果、人民解放軍海軍は今日、世界最大の展開できる艦艇軍を保有している。しかし、皮肉なことにCovid-19後の世界で、この拡張が同海軍のアキレス腱になるかもしれない。
(2) 習近平は、中国共産党総書記に就任直後に中国の海洋力拡張の構想を表明するために政治局会議を開催した。この構想は新型艦艇の就役、南シナ海の軍事化、新たな遠海作戦への焦点の中で明らかにされている。この戦略指示により、中国は過去数年の間に指揮統制通信コンピューター情報監視偵察に支えられた多くの水上艦艇、潜水艦、水陸両用艦艇、先端技術に基づく対艦弾道ミサイルや対艦巡航ミサイル、無人水中機からなる地域で有力な海軍を保有している。人民解放軍海軍は今日、300隻以上の艦艇を指揮していると推測される。これらの能力の向上は、中国の接近阻止・領域拒否能力を米インド太平洋軍司令官Philip Davidson大将が北京は南シナ海を効果的に支配していると考えるところまで強化してきている。一方、人民解放軍海軍は2017年にはジブチに初の海外基地を設立し、作戦範囲を世界にまで拡大する威望を示した。
(3) 拡張は安いものではなかった。中国の国防予算は2012年の1,060万ドルから2019年の1,770万ドルに増加している。国防予算は3つの異なる分野で使用される。人件費、訓練費および保守整備費と設備投資費である。これら3分野の中で、設備投資費は2012年以来着実に増加しており、2015年には国防予算全体の40%以上を占めており、その大半は空軍と海軍近代化に使用されている。これらのこと全てはもち論、中国経済の驚異的拡大によって可能であり、中国経済の拡大がより大きな国防支出を可能にしてきた。GDPは過去数年以上6から7%という新常態に後退したにもかかわらず、国防生産への資本投下を妨げることはなかった。
(4) この方程式は世界的感染爆発後の世界において予想される経済的衝撃によって変化するだろう。例えば、2020年の第1四半期のGDPは、対前年比6.8%という歴史的な下落と中国は報じている。データは、コロナウイルス根絶のために実施された中国のほぼ3ヶ月に及ぶ封鎖の影響を示している。封鎖は能力が問われるものであったが、14兆ドルの経済の再開は記念碑的仕事である。さらに、感染爆発の世界的拡散を考えれば、北京は長期にわたる痛みを予期しなければならない。これは需要側の打撃の形で現れる。世界中の国々は保護貿易主義の脅威に加えて経済活動の再開に対してもがいており、Covid-19の発生に対する中国の初期対応とその後の外交に怒っているからである。IMFは2020年の中国のGDP成長を1.2%と見積もっている。そして、2021年の成長見積は楽観的であるが、この時点では多くの「もし」と「しかし」が付いている。高い失業率を伴う険しく、長い経済の減速は必ず中国の軍近代化に影響を及ぼす。
(5) 中国がGDPの約2%の国防予算を維持し続けようとしても、新装備開発の面では再評価と合理化を行うことになるだろう。資本集約型の軍種であり、技術的に先端兵器を取得するために大きな投資を必要としている海軍は、他の軍種と比較して悪くなるかもしれない。近い将来、海軍は既就役の艦艇の保守整備に資金を回す必要があり、装備取得計画は深刻な破綻に直面するだろう。Dr Sarah Kirchberger(抄訳者注:Kiel University のInstitute for Security PolicyのCenter for Asia-Pacific Strategy and Security センター長)は、海軍艦艇の平均艦齢は約40年であり、その生涯経費の約23%が取得経費だと述べている。運用、保守整備、改装の経費が71%を占め、残りは燃料費や開発費である。人民解放軍海軍の現有勢力の規模、現在開発中の艦艇、長引く経済の減速の恐れを考えると、新装備の開発に遅れが生じ、将来の国防予算に占める訓練維持費の一部としての保守整備費が拡大すると考えられる。中国の海軍指導層、戦略家は71周年を祝うよりも狼狽していることだろう。これらのこと全てはCovid-19後の世界で見ることになるインド太平洋の安全保障をどのように変えるのだろうか。
記事参照:Coronavirus economic crisis squeezes China’s plans to expand its navy as it marks 71st anniversary

4月23日「ベトナム漁船が中国海警船に衝突し沈没―スウェーデン・中国専門家論説」(China US Focus, Apr 23, 2020)

 4月23日付の香港China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、スウェーデンのシンクタンクInstitute for Security & Development PolicyのAssociated Fellow であるRamses Amerと中国南海研究院海洋経済研究所所長で研究員である李建偉の“Another Fishing Incident. Now What?”と題する論説を掲載し、ここでAmerらは南シナ海の西沙諸島付近でベトナム漁船が中国の海警船に衝突して沈没した事件とその含意について要旨以下のように述べている。
(1) 4 月 2 日の早朝、中国とベトナムの両国が領有権を主張する西沙諸島付近で、中国海警総隊の船がベトナム籍の漁船を発見した。この中国船による阻止行動の過程で、漁船は沈没した。その乗組員8人は救出された。
(2) 中国は、西沙諸島と呼んでいる群島を発見、開発、利用し、管轄権を行使したのは中国が最初だと述べている。中越両国が主権の主張には豊富な歴史的及び法的な裏付けがあると宣言しているが、ベトナムの主張は1958年にベトナムのPham Van Dong首相が中国の周恩来首相に宛てた外交文書によって弱まっている。これは、その年の初めにベトナムが、中国がその領海に関する宣言を支持したことを記したものである。その宣言では、西沙諸島を中国の領土と認定していた。
(3) 4 月 3 日、中国とベトナムはこの漁船事件に関する公式声明を発表した。中国の海警総隊報道官の声明によると、発見時に越船と乗組員が中国領海内で違法に漁業を行っていた。海警船はこの越漁船に中国領海内から去るように警告したが、警告は無視された。それどころか、この漁船は、海警船に衝突して転覆した。その乗組員8人はすぐに救助された。中国の海警総隊は声明で、最近、この海域でベトナム人の違法漁業が増加していることを問題視し、ベトナム側に責任ある再発防止策を講じるよう要請した。一方、越外務省は、中国海警総隊が西沙諸島に対するベトナムの主権を侵害し、資産の損失をもたらし、漁民の「生命、安全及び正当な利益」を危険にさらしていると非難した。同省は公式に抗議を申し入れ、中国側に対し、「事件の調査」、職員たちの「厳正な規律」、漁民に対する「適切な補償」の提供を求めた。また、米国防総省の声明は中国の行動を非難し、米国の上院議員たちの声明は、この事件をCOVID-19パンデミックとまさに関連付け、中国が「法の支配を蝕むためにパンデミックを悪用した」と非難している。
(4) この事件からは、いくつかの意味合いを引き出すことができる。
a. 第1に、今回の漁業事件の重要な問題は中越間にある西沙諸島の領有権問題である。この紛争の最終的な解決が成されなければ、漁業権をめぐる事件は再発する可能性が高く、下手をすれば緊張が高まる可能性がある。しかし、中越の長年の二国間交流の中で、相違点が生じた場合も含めて管理する仕組みを構築してきた。今回の漁業事件の管理は、これまでの事件・抗議・意思疎通・制御(incident-protest-communication-control)の軌跡を辿ることになるだろう。同時に、両国は意思疎通を増やす必要があり、COVID-19パンデミックと戦っているこの時期には特にそうである。同じ脅威に対して共同で取り組むことで、相互の信頼が高まる。
b. 第2に、IUUとして知られる違法で(illegal)、規制されておらず(unregulated)、報告されていない(unreported)漁業は、この地域の共通の脅威である。重なり合う領有権の主張は、権利主張国が主権を示すために、紛争区域での漁業に動機を与えることで、漁師たちを容認する、又は奨励さえもする可能性がある。この地域の国々は、紛争のバランスをとるために協力し、枯渇の傾向が不可逆的になる前に、漁業の保全と持続可能な利用を奨励することで、相互利益を追求する必要がある。
c. 第3 に、米国側の声明は南シナ海に関する介入主義的な傾向を改めて示している。今回の米国の声明は、主権争いにおいて暗黙のうちに一方に加担することによって、さらに踏み込んだものだと思われる。当事者ではない米国がベトナム側に立ち、中国の行為を違法として非難することは、平和的解決にはつながらない。中国の海警総隊は、国内法と国際的慣行に沿った一般的な法執行の手順を踏んでおり、米国の一部の上院議員が 「軍事的強要 」と呼んでいるようなものではない。
d. 最後に、地域レベルでは、この事件はこの地域におけるIUU漁業を抑制するために、国家レベルを超えた何らかの取り決めが重要であることを示している。海洋紛争のため、統治権や主権の問題が絡むと、個々の権利主張国は自国の利益を重視する傾向があるが、南シナ海で現在行われている行動規範の協議では、このような取り決めを提案することができるのではないだろうか。
記事参照:Another Fishing Incident. Now What?

4月24日「タイ、中国からの潜水艦調達を保留、コロナ対策のため-香港紙報道」(South China Morning Post, 24 Apr, 2020)

 4月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Thailand puts Chinese submarine order on hold to fund coronavirus fight”と題する記事を掲載し、タイはコロナウイルス対策のため軍事予算を削減し、その一環として潜水艦2隻の中国からの調達を保留するとして要旨以下のように報じている。
(1) タイは、コロナウイルスの世界的感染爆発に対応するため軍予算を削減し、中国からの潜水艦2隻を含むいくつかの装備調達を延期するようである。削減に直面している他の調達装備は韓国からのジェット練習機や中国あるいは米国からの装備品である。「潜水艦の2番艦、3番艦の調達を保留する」とタイ海軍報道官Prachachart Sirisawat中将は4月22日に米ニュースサイトBenarNewsに対して述べ、潜水艦用岸壁および整備施設の建設も予算削減で遅れていると付け加えている。タイはS-26T潜水艦3隻を360億バーツ(11億米ドル)を11年賦で2017年に発注している。1番艦は2018年に武漢で起工され、2023年就役の予定で、2番艦、3番艦は2027年完工の予定であった。タイの日刊英字紙は、タイ海軍は2020年予算を三分の一を削減し、中国からの潜水艦の2番艦、3番艦の支出は2021年に延期されるとのPrachachart中将の発言を報じている。
(2) 香港の軍事評論家宋忠平は、S-26Tはタイ海軍用に改良されており、中国は契約がキャンセルされるより延期される方が好ましいと考えるのは間違いないとしている。バンコクは2020会計年度の国防予算2,330億バーツを承認していたが、国防相は4月22日に7.7%削減したと発表した。180億バーツのうち41億バーツが海軍予算の削減分である。政府は削減された国防予算はコロナウイルス対策費に振り向けられると述べている。
(3) シンガポールNanyang Technological UniversityのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)研究員Collin Kohは、社会・政治の不安定と経済の減速が組み合わさるとタイの長期の安全保障が脅かされる恐れがあり、2014年のクーデターによって権力の座に就いた軍事政権は装備品の発注を再検討せざるを得なかったとし、「軍部は装備品購入に対する世論に常に敏感であり、大衆は政府を運営している軍人を信用していないことは注目に値する」と述べている。しかし、米国からのAH-6i攻撃ヘリコプターおよび関連装備品やストライカー歩兵戦闘車の購入は進められた。
(4) 「米国とタイは条約に基づく緊密な同盟関係にあり、タイにおける米国の影響力は無視できない。米中関係が悪化しており、米国の同盟国への中国の武器輸出は将来、極めて不確実になるだろう」と宋忠平は述べている。近年、タイは中国製兵器の主要な購入国となってきている。2019年9月には潜水艦に加え、タイ海軍はType071ドック型揚陸艦を中国国営中国船舶重工業集団に発注した。これは、中国船舶重工業集団にとって初めての技術輸出である。
記事参照:Thailand puts Chinese submarine order on hold to fund coronavirus fight

4月24日「北極最大規模のオゾンホールの消失 ― 仏ジャーナリスト論説」(Euronews, April 24, 2020)

 4月24日付の欧州のニュース専門放送局Euronewsのウエブサイトは、同局編集者兼ジャーナリストRafa Cerecedaの“Largest-ever hole in the ozone layer above Arctic finally closes”と題する論説を掲載し、そこでRafa Cerecedaは、3月に観測された北極上空の史上最大規模のオゾンホールが消失したこと、その背景や影響について要旨以下のように報じている。
(1) 地球を取り巻くオゾン層は、皮膚がんの原因となる太陽の紫外線放射から地球を守っている。今年3月末、北極上空のオゾン層の穴、オゾンホールが過去最大級の大きさで開いていることが確認された。しかし4月23日、そのオゾンホールの消失が確認されたとCopernicus' Atmospheric Monitoring Serviceが発表した。
(2) オゾン層が薄くなる原因のひとつは北極ないし南極上空に発生する大きな大気の流れである極渦の活動である。極渦は気温を極端に低下させ、それが極域成層圏雲を発生させ、1987年にモントリオール議定書で使用が禁止されているクロロフルオロカーボンがその雲を漂って化学反応を起こすことでオゾン層が破壊される。
(3) 今年は北極上空における極渦の活動が前例のないほど活発だったため、オゾンホールの拡大が進んだ。しかしその極渦が活動を低下させ、北極上空の温度が急激に上昇したため、オゾンホールも閉じられたのである。なお、COVID-19のパンデミックに関わる全世界的な都市封鎖によって汚染物質の排出が削減されたが、このことと北極圏のオゾン層復活には関連がないとされている。
(4) 基本的にオゾンホールの拡大は、特に7-10月にかけて南極上空で起こっている。オゾン層を破壊するほどの極渦の活性化が北極上空で起こることがほとんどないためである。オゾンホールが北極ではじめて観察されたのは2011年のことで、それはごく小さいものであった。Copernicus' Atmospheric Monitoring Serviceによれば、今後北極圏で再びオゾンホールが開く可能性はあるが、今回ほど大規模なものになることは考えにくいという。
(5) 今回の現象が気候変動の影響によるものなのかということについては、まだはっきりとわかっていない。また、一次的なオゾンホール拡大がもたらした影響についても、はっきりしたことは言えないという。もちろんこの時期にアラスカやカナダ、グリーンランドやロシアの一部に降り注いだ紫外線量が増大したのは確かであるが。
(6) なお、南極のオゾンホールは近年縮小傾向にあり、2019年には、1985年以来最小を記録した。クロロフルオロカーボンガスの使用禁止がそれに寄与していると考えられる。2019年に関しては成層圏の気温上昇もその原因だとされている。
記事参照:Largest-ever hole in the ozone layer above Arctic finally closes

4月26日「米国、中国を『北極近傍国家』とは認めない―日英字紙報道」(Nikkei Asian Review, April 26, 2020)

 4月26日付のNIKKEI ASIAN REVIEW電子版は、“US rejects China's 'near-Arctic state' claim in new cold war”と題する記事を掲載し、グリーンランドをはじめとする北極圏での影響力の拡大をめぐって米中の対立が強まりつつある現状について要旨以下のように報じている。
(1) 米国はデンマーク領グリーンランドへの経済支援を1210億ドル追加し、さらにそこに領事館を設置することを決定した。これは、近年北極圏へとプレゼンスを高めてきたロシアや、北極圏の天然資源開発や航路開発への投資を増加させる中国の動きに対応したものである。
(2) 北極圏を伝統的に管理してきた北極評議会は、8ヵ国で構成されている(抄訳者注:カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国の8カ国)。北極評議会が北極圏の管理の方針に関して権限を有する唯一の組織である。
(3) そこに関わろうと、中国が近年動きを強めている。2018年1月、中国は初めての北極白書「中国の北極政策」を発表した。その文書は、北極圏の問題はもはや北極圏国家だけのものではないと主張し、氷雪の溶解が航路の拡大と天然資源への新たなアクセスをもたらしているとした。そして自らを「北極近傍国家」と位置づけ、「北極圏問題における重要な利害関係国」だと強調した。
(4) 米政府はこうした中国の姿勢を認めておらず、「あるのは北極圏国家か非北極圏国家だけだ」としている。国務省関係者は北極管理に中国が関わろうとする動きを、南シナ海における膨張主義的行動になぞらえた。中国は、米国やNATO諸国およびデンマークにとって決定的に重要なインフラ獲得によりグリーンランドへと入り込もうとしている。
(5) 米国とデンマークの関係が全面的に友好というわけでもない。米国のTrump大統領が昨年グリーンランド購入に関心があると表明したとき、デンマークのMette Frederiksen首相は「馬鹿げている」とはねつけた。また冒頭のグリーンランドへの支援に対する批判的な声も議会ではあがっている。国務省関係者は「なぜ彼らが動揺するのかわからない」と反応した。
(6) 米国は同じくデンマーク領のファロー諸島に対し、5Gネットワーク構築に際して中国のファーウェイを関わらせないよう訴えた。それはアイスランドに対しても同様である。米国のMike Pence副大統領は、「中国が経済的にも戦略的にもますます積極的になっていくことに疑いない」として、その同盟強化を強く主張している。
(7) グリーンランドとアイスランドは「北極圏における米中対立の中心地である」と、アイスランドの評論家Damien Degeorgesは述べた。南シナ海に比べればまだその緊張の度合いは低いものの、しかし、地理的には米国により近接しており、「きわめて深刻な安全保障問題」だという。「国内での反発は起きたが、デンマークは、米国と緊密な同盟国であり、米国がグリーンランドで中国より大きな影響力をもつように対処しようとするであろう」とDegeorgesは述べている。
記事参照:US rejects China's 'near-Arctic state' claim in new cold war

4月27日「フィリピン、マレーシア、ベトナムとの共同哨戒を要請、3カ国の対中結束誇示が狙い-比メディア報道」(INQUIRER.NET, April 27, 2020)

 4月27日付の比ニュースサイトINQUIRER.NETは、“PH urged to go on joint patrols with Malaysia, Vietnam to show united front vs China”と題する記事を掲載し、フィリピン、ベトナム、マレーシアの結束を中国に示すため、3国は共同哨戒を実施すべきとして要旨以下のように報じている。
(1) 元最高裁陪席判事Antonio Carpioによれば、フィリピンは中国を押し戻すためにマレーシアおよびベトナムと南シナ海において共同哨戒を実施しなければならない。中国は、係争海域において侵略を継続するためCOVID-19の感染爆発を煙幕に使用しているようである。Carpioは「私は、フィリピンがベトナムとマレーシアとの共同哨戒に参加することを提案する。これが、中国が我々の結束を理解する唯一の方法である」と4月27日のForeign Correspondents Association of the Philippinesオンラインフォーラムで述べている
(2) 西フィリピン海のコモードアー礁近傍のフィリピン領海にあるフィリピン海軍艦艇に中国の艦船は射撃の準備をしたとして比政府は4月20日の週に中国に対し外交的抗議を行った。
(3) Carpioは、フィリピン、ベトナム、マレーシアはアジアの巨獣に対し結束していることを示すため、それぞれの排他的経済水域において共同哨戒を実施すべきであり、我々は中国に対し、個々に引き離すことはできないというメッセージを送り続けている。我々は提携している」と述べている。もし、中国が侵入をつつけるならば、フィリピンは南シナ海において米国と海軍による共同哨戒を考慮すべきであるとも言う。
記事参照:PH urged to go on joint patrols with Malaysia, Vietnam to show united front vs China

4月28 日「『MDA(海洋状況把握)』に人的資源を活用すべし―米海洋問題専門家論説」(Center for International Maritime Security, April 28, 2020)

 4月28日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Security(SIMSEC)のWebサイトは、米財団One Earth Future Foundation推進Programの1つ、Stable Seasでインド太平洋担当プロジェクトマネジャーを務めるJay Bensonの“Human Intelligence: The Missing Piece to Comprehensive Maritime Domain Awareness”と題する論説を掲載し、Jay Bensonは包括的な「海洋状況把握」(MDA)には人間による情報収集が不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋スペースを効果的に管理するためには、国家は海洋における正常な活動体系を確立するために何処で何が起きているかについて、正確な全体像を知る必要がある。海洋の情報を収集し、解析し、共有し、そして対処する能力は、しばしば「海洋状況把握」(maritime domain awareness:以下、MDAと言う)と称される。MDAは、海洋に関わりのある如何なる国家にとっても、困難な課題である。領海とEEZを合わせた海域は監視するには大きな空間であり、多くの国家にとって「海洋領域」は当該国家の領土面積よりも相当に大きい。しかも、この海洋領域には、日々数万隻の船舶、数百万隻の漁船やその他の船舶が航行する。国家は、自国の海洋領域におけるMDAを確立するために、例えば、沿岸域レーダーシステムや船舶自動識別装置による船舶追尾などの高価なハイテク装置に加えて、多額の費用を要する航空機や艦船による哨戒活動を実施してきた。これらは確実なMDAを実現するために重要ではあるが、こうしたツールを全て駆使し得る資源を有する国は多くない。
(2) それ故、海洋安全保障政策の立案者にとって、海洋領域に関する情報収集手段としてはこれまであまり活用されていないツール―即ち、人間による情報収集(human intelligence:以下、「ヒューミント」と言う)の効果的な活用が有益かもしれない。海洋、特に沿岸海域は、航行船舶、各種漁船、フェリー、沖合の鉱物資源開発設備、そして港湾などが昼夜活動する海域であり、従って、これらの活動に従事する人々は、海洋における通常の活動体系についての詳細な知識を蓄積している。これらの人々は、MDAのための利用資源が限られた国にとって、より強力なMDA実現に必要な耳目となり得る可能性を有している。これらの人々は、間欠的な海洋哨戒活動や大型船舶の追尾を目的とした技術的な情報収集手段を擦り抜ける可能性のある、 IUU(違法、無報告、無規制)漁業、人身売買、海賊行為及びその他の海洋犯罪の兆候を発見することができる。海洋で活動するこれらの民間人は、海洋安全保障に固有の利害関係を持っている。これらの海洋活動に従事する人々との強力な関係を確立することによって、海洋法執行機関は限られた資源をより効果的に活用でき、海洋安全保障を強化することができる。
(3) 国家は、海事関係組織や沿岸域自治体との積極的な相互関係を強化するとともに、迅速かつ効果的な通報メカニズムを構築することによって、MDAに対する「ヒューミント」の有用性を理解できる。この一例は、マレーシアによって最近進められている措置に見ることができる。マレーシア海軍と海洋法執行機関は2017年に、海洋事案に対する通報時間の短縮を目指して、事案の即時通報を可能にすることを狙いとした、K3M アプリを導入した。事案が生起すれば、このアプリは、ユーザーの正確な位置情報を提供し、マレーシアの海洋安全保障オペレーションセンターを通じて、海洋のユーザーと沿岸域自治体との間を直接リンクすることができる。また、このアプリは、海事関係者に対して、ニュースや安全警報を通報するためにも利用できる。現在、ユーザー数は約4,000で、衛星通信を利用することで通報エリアの拡大を目指す計画が進行中である。もう1つのユニークな措置は、「現行犯逮捕」プロジェクトである。この「国連薬物犯罪事務所」(UNODC)と民間組織の合同イニシアティブは、西インド洋に面した諸国が不法操業に関する「ヒューミント」を収集し、解析するのを支援することを目的としたプロジェクトである。このプロジェクトは、不法操業に関する「ヒューミント」を組織的に収集し、この情報を、当該海域を管轄する海洋法執行機関に通報し、法執行の証拠として活用できるようにすることを狙いとしている。このプロジェクトは不法操業摘発を主眼としているが、こうしたプロジェクトは、密輸、不法移民や人身売買、海賊や船舶強盗、及び環境汚染を含む、海軍や海洋法執行機関が直面する広範な海洋犯罪に対処するために、「ヒューミント」の効率的かつ責任ある活用という面でも役に立つ。こうした創造的な努力は、海洋法執行機関と海洋活動に従事している民間人との関係を強化し、MDAに対して積極的に貢献する海事関係組織を徴募することによって、海洋法執行機関が確実に海事関係組織のニーズに応えるための費用効果の高い手段となり得る。
(4) MDAが内包する広範な安全保障上の課題は、海洋情報収集のためのあらゆる可能な選択肢の活用を必要とする。これまで、MDAを強化するための関心と資源の大部分は、高価な技術的情報収集手段に投入されてきた。これらの手段は、貴重な情報を収集するが、MDA強化に資する、あらゆる海洋情報源や包括的アプローチの一部に過ぎない。情報収集のために海洋活動に従事する多数の民間人を活用することは、海洋情報の全体像を把握する上で役に立つ。特に高価な技術的情報収集手段のための資金と運用能力を欠く多くに国にとって、海事関係組織からの情報の収集は、MDA強化のための重要かつ費用効果の高い方法と言える。特にこれらの国家にとって、海事関係組織や沿岸域自治体との強力な関係を構築し、これら組織や自治体に明確な通報チャンネルを提供することは、海洋事案に対するより効果的な対応や、予防的措置の優先順位付けを可能にする、MDA能力増強手段となり得る。
記事参照:Human Intelligence: The Missing Piece to Comprehensive Maritime Domain Awareness

4月29日「パキスタンの小型潜水艇、アラビア海でのインドの脅威―印専門家論説」(The Diplomat, April 29, 2020)

 4月29日付のデジタル誌The Diplomatは、印シンクタンクNational Institute of Advanced Studies准教授Prakash Panneerselvamの“Pakistan’s New Midget Submarine: Emerging Challenge to India in the Arabian Sea”と題する論説を掲載し、ここでPanneerselvamはパキスタン海軍が潜水艦部隊の近代化を進める中、新小型潜水艇を国内で開発、建造を進めており、これらはインド西海岸で脅威を高めると警告し、要旨以下のように述べている。
(1) パキスタン潜水艦部隊は大規模な近代化の最中にある。同国は中国およびトルコと2件の潜水艦の大きな取引に署名した。2015年にパキスタンは中国の元級潜水艦をHangor級潜水艦として8隻を中国から購入することを承認している。この承認には4隻を中国から可能な技術移転を含めKarachi Shipyardで建造する条項が付帯されている。その後、2016年に3,500億ドルのAgosta 90B潜水艦近代化計画をトルコの兵器製造企業STM社で実施することを承認している。潜水艦に関わる事業でパキスタンが、トルコ企業を主契約者に選択するのは初めてである。
(2) この計画と並行して、パキスタンは新しい小型潜水艇建造に焦点を当てている。パキスタン海軍の特殊戦部隊は公然たる作戦であれ、隠密裡の作戦であれCosmos MG110級小型潜水艇を使用してきた。これら潜水艇は1990年代初期から運用されており、艦齢がまもなく終わろうとしている。老朽化した潜水艇を更新するため、パキスタンは新しい小型潜水艇の建造を提案している。Ministry of Defence Production(以下、MoDPと言う)の2015-2016年版年報には2017-2018年を目標に小型潜水艇の開発、建造が記載されている。MoDP文書にはまた、小型潜水艇の計画は国内での設計、建造が記載されている。
(3) 最近の衛星画像では、MoDP 2015–2016で提案されているように小型潜水艇が国内開発されていることが確認できる。2016年には潜水艇の一部は天幕に覆われていたが、2019年からは潜水艇の全容が確認できる。これは建造完了が間近で、海上公試が開始されたかもしれないことを示している。新小型潜水艇の大きさは、アラビア海および戦闘における役割を推測させる。小型潜水艇は衛星画像から判断すると全長約16.7m、全幅2.43mであり、排水量は現在のところ不明である。画像に写る小型潜水艇の陰影から突き出た垂直の舵、推進器、丸い形状の艦首が見て取れる。スノーケルマストは見られない。しかし、画像から潜水艇は、潜水員輸送潜水艇よりも大きく、MG110潜水艇よりも若干小さいことは明らかである。潜水艇の大きさ、単純な船体構造は潜水艇の運用および保守整備が容易であることを示している。潜水艇はその大きさから陸上を輸送することができそうである。
(4) 防衛問題の専門家H.I.SuttonはForbes誌に潜水艇の設計は新しいものであり輸入されたものではないようだと述べている。現在のパキスタンとトルコの協力の状況を考えると小型潜水艇の開発にトルコ企業が関わった可能性を除外することはできない。しかし、小型潜水艇がトルコとの共同開発であることを確認する公式の情報源はない。
(5) 新小型潜水艇の開発は国内建造能力を誇示するだけでなく、パキスタンが水中での戦闘能力を準備しつつあることを示している。パキスタンはシー・ディナイアル戦略に重点を起き続けているので、パキスタンは今後何ヶ月、あるいは何年かの間、小型潜水艦をインドとの紛争において攻勢的任務に使用する可能性がある。1971年の印パ戦争以来、カラチの海上正面の防衛はパキスタン海軍の主要問題の1つであった。小型潜水艇は海上からの攻撃からカラチを防衛するに当たって生じているギャップを埋めるだろう。最も重要なことは潜水員の作戦、機雷敷設等の海軍特選部隊の作戦に当たってきた現有のMG110が更新されることである。
(6) Agosta 90B級潜水艦が艦齢半ばで性能向上、近代化を実施しており、2020年に海軍に復帰する予定であり、Hangor級潜水艦1番艦が2023年に就役してくることで、パキスタン海軍はインド洋において接近阻止・領域拒否の遂行能力を著しく向上させるだろう。これらと併せて、新小型潜水艇はパキスタンの水中における戦闘量を著しく向上させるだろう。要約すれば、パキスタンの潜水艦部隊の転換は、アラビア海においてインドの現実の安全保障上の脅威となる。インドの信頼するに足る対潜能力の準備状況を考えると、パキスタンの小型潜水艇はアラビア海におけるインドの海上作戦に挑戦することができる。インドの西海岸、特にグジャラートのサー・クリーク地域(編集注:グジャラート州に所在する湿地帯であり印パ間で領有権の争いがある)やムンバイ周辺での隠密作戦を拡大するためにパキスタンは小型潜水艇を運用するかもしれない。したがって、インドはアラビア海におけるパキスタンのいかなる接近阻止能力も阻止し、同海域におけるインドの海洋安全保障上の利益を守るため水中目標を探知し、追尾する能力を強化することが緊要である。
記事参照:Pakistan’s New Midget Submarine: Emerging Challenge to India in the Arabian Sea

4月29日「北極圏は地政学からもはや逃れることができない―ノルウェー専門家論説」(High North News, April 29, 2020)

 4月29日付のノルウェー国立Nord UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News電子版は、Arctic Instituteの創設者で上級研究員でもあるMalte Humpertの“U.S. Says Arctic No Longer Immune from Geopolitics As It Invests $12m in Greenland”と題する論説を掲載し、ここでHumpertは北極圏は地政学からもはや逃れることができず、米国、ロシア、中国の争いの場とならざるを得ないとして要旨以下のように述べている。
(1) 米国務省担当者は、北極圏の専門家やジャーナリストとの電話会談で、現政権の北極圏戦略の詳細な最新情報を提供した。国務省高官は匿名で、特にロシアと中国に対する北極圏での米国の優先事項を説明し、グリーンランドに121万ドルの援助を提供するとした最近の発表の詳細を説明した。Trump政権下の北極に関する以前の政策文書やスピーチに同じく、担当者は北極圏への気候変動の影響とその重要性には言及しなかった。米国務省担当者は、地政学が世界中に広まり、北極圏にも地政学が戻ってきているという新しい戦略的現実を見通していた。米国務省によれば、ロシアと中国の両方がこの変更を推進しており、中ロ両国がこの地域で米国に挑戦し衝突する勢いが高まっている。米国は北極圏におけるロシアの正当な利益を認め、北極評議会での協力について評価してはいる。中国は衝突事故における油流出への拙い対応とその汚染問題により「北極近傍国家」としての地位を損ねていると述べた。
(2) 米国はロシアの北極圏における軍事力増強について懸念を高めている。これは、HNNによる報道で広く取り上げられている。北極圏でのロシアの軍事的プレゼンスは、新しく整備された空軍基地、ミサイルシステム、レーダー設備、喫水の深い艦船でも入港できる港湾、新たな北極軍司令部と旅団の設置により、近年劇的に増加している。最近、ロシアは北極圏で初の高高度落下傘兵訓練も実施した。米国務省担当者は、「北極圏でのロシア軍の行動について、米国とその同盟国及び友好国はいくつかの正当な懸念を有している」と述べている。
(3) 中国の北極圏への関与に関する米国務省の懸念は、北極圏での活動からではなく、南シナ海など地域外での国際規範や法律の無視や違反から生じている。「南シナ海であろうとスリランカであろうとジブチであろうと、世界の他の地域で彼らがどのように振舞ったかを見ることができる。中国のソフトパワーのツールは、中国によって展開されたときには鋭いエッジを持っていることがよくある。港湾や通信ネットワークなどの重要なインフラの統制を確保するために、国家資本主義を武器にしている。中国は、強制力を用いて作戦やその他の方法に影響を与え、望むものを得ようとする意欲を示した」と米国務省担当者は述べている。彼は、フェロー諸島の最近の事件を指摘した。中国は、フェロー諸島が中国のHuaweiによる5Gネットワーク基地局の建設に関する契約に署名しなかった際に、中国との貿易協定を取り下げると脅迫した。
(4) これらの状況に照らして、米国は、北極圏全体における関与を高め、「北極諸国にとって最適なパートナーになる」ことを目指している。デンマーク及びグリーンランドと協議して決定された 121万ドルの援助により「この新たな始まりを早急に開始させる」ことを期待している。Trump大統領が2019年に提案したように、資金調達計画はグリーンランドを「購入する」試みの始まりとして決して解釈されるべきではないことを担当者は強調した。資金は、エネルギー資源開発、教育能力開発、農村部の持続可能な開発の3つの分野で使用される。エネルギー資源開発に関して、米国は、企業による競争力のある透明性の高い投資を奨励し、健全な鉱業とエネルギー部門を促進し、再生可能エネルギー技術を促進することを望んでいる。教育能力開発は、特に観光ならびに持続可能な土地と漁業の管理に焦点を当てている。農村地域における持続可能な開発を通じて経済的機会の創出を考えている。資金は米国国務省だけでなく、国際開発庁、商務省、内務省と協力して管理される。
(5) 米国務省担当者は、グリーンランドの歴史的な戦略的役割とそれがいかに再び重要になっているかを強調した。グリーンランドは、グリーンランド、アイスランド、英国のギャップを埋める重要な役割を果たしている。ロシアが北極圏に軍事力を増強した結果、その戦略的重要性が再浮上しているのである。米国務省担当者は、「危機が発生したときに大西洋を横断できるようにする必要がある」と指摘した。この点に関して、グリーンランドの北西にあるチューレ空軍基地での協力の長い歴史を指摘した。グリーンランドの重要性はまた、その重要なインフラを取得する外国の力、すなわち中国にまで及ぶ。「中国は過去に、米国とNATO同盟国、そしてもちろんデンマークにとって問題となる重要なインフラを取得することによって、グリーンランドへの道を揺さぶろうとした。具体例として、2016年に中国は米国が使用していた古いグロッネダール海軍基地を購入しようとした。またグリーンランドの空港建設に関与しようと努力していた」と指摘した。米国務省担当者は「中国は国家資本主義を武器にして、重要なインフラと軍民両用インフラを確保しようとしている。中国は、強制力を使用し、他国の作戦などに影響を与えて、欲しいものを手に入れる意欲を示している。」と述べている。
記事参照:U.S. Says Arctic No Longer Immune from Geopolitics As It Invests $12m in Greenland

4月30日「低出力核兵器の使用には核による全面報復、ロシア警告―香港紙報道」(South China Morning Post, 30 Apr, 2020)

 4月30日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、米通信社Associated Press配信の“Russia warns US against using low-yield nuclear weapons, threatening all-out retaliation”と題する記事を掲載し、ロ外務省は米国の低出力核弾頭の潜水艦発射弾道ミサイルへの装着に関し、ロシアに向けて潜水艦から発射されたいかなるミサイルもロシアに対する核攻撃と見なし全面的な核報復を行うと述べたしたとして要旨以下のように報じている。
(1) 米国務省は、核軍縮や核不拡散に関する年次報告書で潜水艦発射弾道ミサイルに低出力核弾頭を装着することは中国やロシアからの新たな潜在的脅威に対応する一助となると主張していた。この文書は、特にモスクワが限定的紛争において相手を強制する手段として非戦略核兵器の使用を熟考してきたと非難しているが、ロシアはこれを繰り返し否定している。国務省は、新しい弾頭は「拡大抑止と確証を強化することによって核戦争のリスクを低減する」と述べている。
(2) ロ外務省は違った見方をしている。ロ外務省報道官Maria Zakharovaは米国務省の文書に関し4月29日の記者会見で、米国は低出力核弾頭をロシアとの全面核紛争を回避する柔軟な道具と見るべきではないと強調し、「米国の潜水艦発射弾道ミサイルによるいかなる攻撃もその兵器の性能にかかわらず核攻撃に認識されるだろう。米国の核能力の柔軟性を理論化したい者は、そのような行動はロシアの軍事ドクトリンに従って、ロシアが報復のために核兵器を使用する正当な理由と見なされることを理解すべきである」と述べている。Zakharova報道官は、米国の低出力核弾頭の配備を(安全保障環境)を不安定化し、結果として「核の閾値を下げる」ものとして切り捨てた。
(3) 米ロの核兵器問題に対する意見の相違は、ウクライナ危機や2016年の米大統領選におけるロシアの干渉に対する非難で米ロ関係が冷却したことに由来する。2019年、米ロは中距離核戦力全廃条約から脱退した。依然有効な米ロ核軍備管理協定はObama大統領とMedvedev大統領が2010年に署名した新START条約である。ロシアは2021年2月に期限が切れる新STARTの延長を提案しており、Trump政権は中国を含む新たな軍備管理協定を押している。モスクワは、北京ははるかに少量の核保有量を削減する交渉も拒否するだろうとし、米国案で合意する可能性はないと主張している。新START署名10周年に触れた4月29日の声明で、ロ外務省は各領域における予測可能性を助ける道具として現新STARTを賞賛し、前提条件なしで延長するというモスクワの提案を再確認した。
記事参照:Russia warns US against using low-yield nuclear weapons, threatening all-out retaliation

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Is China Getting Ready for an East China Sea Showdown?
https://nationalinterest.org/blog/buzz/china-getting-ready-east-china-sea-showdown-143437
The National Interest, April 11, 2020
By James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College
4月11日付で米Naval War CollegeのJames Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に" Is China Getting Ready for an East China Sea Showdown? "と題する論説を発表した。ここでHolmesは、3月30日に東シナ海の公海上で海上自衛隊の護衛艦が中国漁船と衝突したことに触れ、この事案の詳細は不明だが、衝突は台湾沿岸警備隊の船と中国本土の漁船との同様の衝突の直後に起こり、また、事件が起きたわずか数日後には、中国の海警船が西沙諸島でベトナム漁船に衝突して沈没したと指摘し、一連の動向を取り上げている。そして彼は、①日本政府は、中国漁船が民兵組織の一員だったかどうかをまだ確認していないのであればそのように努力しなければならないし、確認していたのであれば中国は東シナ海での意図を明らかにしたかもしれない、②中国政府は、日本の同盟国である米国がコロナウイルスと戦い、船や航空機を引き揚げていることから一時的ではあるが日本が軍事的に弱体化したと判断する可能性があり、もしそうなると中国政府はチャンスを逃すことはしないだろう、などと指摘した上で、最後に「日本、気をつけて」と警鐘を鳴らしている。
 
(2) A Survey of Marine Research Vessels in the Indo-Pacific
https://amti.csis.org/a-survey-of-marine-research-vessels-in-the-indo-pacific/
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, April 16, 2020
4月16日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、" A Survey of Marine Research Vessels in the Indo-Pacific "と題する論説を掲載した。その中では「海洋調査船が最近、インド太平洋で波風を立てている」と話題が切り出され、海洋調査船の活動は、民間と軍事の両方の目的に役立つことができ、特に水中や海底の状況は潜水艦の探知能力に影響を与えるため、海洋データは海中での活動には不可欠であること、また、科学研究に従事しているとされる調査船も海外の軍事施設や船舶に関する情報を収集するため、自国の機器を海軍の偵察活動に応用することができると指摘している。そして、中国の海洋調査船の活動に関し、中国はEEZにおける海洋科学調査を実施するために必要な沿岸国の許可を得ていなかったが、この調査は軍事的なものであってUNCLOSの管轄ではないとの見方が有力だが、そうであれば中国は他国にはEEZでの軍事調査の許可を求める一方、他国の船舶には許可を求めないという二重の基準を示していることになるとし、中国の海洋調査船の活動は一般的な海洋調査活動とは異なることを強調している。
 
(3) South China Sea Questions: Could Speed-of-Light Weaponry Transform Gray Zone Competition?
https://nationalinterest.org/blog/buzz/south-china-sea-questions-could-speed-light-weaponry-transform-gray-zone-competition
The National Interest, April 18, 2020
By Dr. David Stoudt, a Senior Executive Advisor and Engineering Fellow for Directed Energy at Booz Allen Hamilton and also currently serving as the President of the Directed Energy Professional Society
4月18日、Senior Executive Advisor and Engineering Fellow for Directed Energy at Booz Allen Hamilton でPresident of the Directed Energy Professional SocietyであるDavid Stoudtは、米隔月誌The National Interest電子版に“South China Sea Questions: Could Speed-of-Light Weaponry Transform Gray Zone Competition?”と題する論説を寄稿した。ここでStoudtは、①今日の世界は「競争の連続体」(competition continuum)として知られる永続的な競争によって特徴づけられる、②「グレーゾーン」は、通常の武力紛争の閾値以下に留まるように計画された、経済的強制や拡大政策などの強引で攻撃的な活動を指す、③グレーゾーンでは、精密性、ステルス性、非致死能力を備えた武器が必要だが、高エネルギーレーザー(HEL)と高出力マイクロ波(HPM)システムがその答えとなり得る、④指向性エネルギーの可能性を理解するためには、南シナ海での中国の拡張主義のような例を考えることが有用である、⑤米国防総省は、第1に指向性エネルギーをハイレベルの軍事演習やウォー・ゲームに組み込むこと、第2に指向性エネルギーの致死率データの理解の向上、第3にグレーゾーンでの指向性エネルギー兵器の戦術意思決定支援 (TDA)の発展、第4に国防総省、政策立案者、産業界の間でのより多くの協力、そして、これらの兵器が競争相手のグレーゾーン戦術に釣り合う能力であるという宣言的な政策が必要である、⑥米国の戦闘能力を強化するためのグレーゾーンは存在しない、といった主張を述べている。