海洋安全保障情報旬報 2020年4月11日-4月20日

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4月12日「中国空母、太平洋へ進出。台湾、艦艇を急派-香港紙報道」(South China Morning Post, 12 Apr, 2020)

 4月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Taiwan scrambles warships as PLA Navy aircraft carrier strike group heads for the Pacific”と題する記事を掲載し、現在、西太平洋で稼働する中国唯一の空母である「遼寧」が宮古水道を通峡したことに対し、台湾海軍は艦艇を緊急出港させたとして要旨以下のように報じている。
(1) 日本が西太平洋に向けて航行中の空母「遼寧」、旅洋Ⅲ級ミサイル駆逐艦、江凱Ⅱ級ミサイル・フリゲート、呼倫湖級補給艦から成る中国空母打撃群を発見した後、台湾は4月11日夜、中国艦艇の動きを監視するため艦艇を緊急出港させた。空母「遼寧」以下の部隊は宮古水道を航過後、南に進路を転じたと日本防衛省は述べている。空母群の正確な位置や針路は不明であったが、台湾海軍は状況把握のため蘇澳鎮から緊急出航したと台湾国防部は述べている。「我々は台湾周辺海空域において監視、偵察を実施してきており、どうか安心してほしい」と台湾国防部報道官史順文は市民に呼びかけた。
(2) 中台間の緊張は高まっており、人民解放軍は台湾周辺での活動を強化している。4月9日、人民解放軍空軍のH-6爆撃機、J-11戦闘機、KJ-500偵察機は台湾南西部を飛行し、西太平洋に進出した。
(3) コロナウイルスの感染が米海軍でも拡大し、西太平洋に力の真空が生じた後では「遼寧」が稼働する唯一の空母である。人民解放軍海軍は感染者についていかなる報告も出していないが、空母「山東」の士官達は2月に乗組員が感染したとのうわさを否定し、予定された演習を実施していたと述べている。
記事参照:Taiwan scrambles warships as PLA Navy aircraft carrier strike group heads for the Pacific

4月13日「今、南シナ海で緊張を高めるときではない-香港紙社説」(South China Morning Post, 13 Apr, 2020)

 4月13日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“This is not the time to add to tensions in South China Sea”と題する社説を掲載し、米国はCOVID-19の感染拡大を南シナ海における軍事力強化の隠れ蓑として利用し、同海域での緊張を高めているとして要旨以下のように主張している。
(1) コロナウイルスの世界的感染爆発は、米国が中国との敵対的関係を脇に置き、治療とワクチン開発に協力し、危機が終息したときには世界経済再建を支援する理由となるだろう。しかしながら、実際にはコロナウイルスの騒動を増大する中国のパワーに対抗するためにアジアにおける軍事力の展開を強化することを覆い隠すために利用している。逆説的に言えば、Trump政権は係争中の南シナ海における島嶼建設に関して北京に対して非難を浴びせてきた。米国の戦略は地域が望んでいることではない。安定が必要不可欠なときに世界を牽引する大国間の増大する紛争の危険は不確実性を激化させる。
(2) 米軍当局者は南シナ海方面における陸海空軍の行動を強化するための200億ドルの追加予算を議会に請求した。議会に提出された計画は新しいレーダー警戒システム、訓練・演習の強化、同盟国の軍事力強化の構想が含まれている。この取り組みは中国、ロシアをワシントンの地政学的な最大の脅威と見なすTrump政権のタカ派の立場から出ている。この政策は南シナ海と台湾に焦点を当てつつ米海空軍部隊の東アジアにおける軍事行動を徐々に増加させてきた。北京および様々な東南アジアの国が権利を主張し係争中の海域を米艦艇が行動するのは2019年には8回であり、2018年よりも3回多く、軍事的対立の危険を増加させている。4月はじめに中国海警船と越漁船が衝突し、越漁船が沈没した事件を米国務省は外交上の得点を稼ぐ好機と捉え、北京に対し「コロナウイルスの国際的感染爆発と戦っている国際的努力を支援することに注力する」よう要求している。また、国務省は感染拡大以降、北京は係争中の南シナ海の2つの礁の軍事基地に新しい研究施設(の建設)を発表していると述べている。
(3) 中国は緊張を緩和するため主権を主張している他の国々と行動規範について作業中である。そのような協調は問題をかき混ぜ、軍事力を強化するものではなく、米国を狙ったものでもない。
記事参照:This is not the time to add to tensions in South China Sea

4月14日「パンデミックに対処するためにANZUS条約を発動すべき―豪専門家論説」(The Strategist, 14 Apr 2020)

 4月14日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同シンクタンクのThe defence, strategy and national security program責任者であるMichael Shoebridgeの“It’s time for Australia to invoke ANZUS”と題する論説を掲載し、米豪両国が協力してCOVID-19によるパンデミックに対処するためオーストラリアはANZUS条約を発動すべきとして要旨以下のように述べている。
(1) 米国は、第2次世界大戦以来最悪の危機に陥っている。COVID-19の確認された症例は58万2千人以上で、これまでに2万3千人以上の米国人がこの新型コロナウイルスで死亡している。オーストラリアでもまた、6,359人ほどのオーストラリア人の感染が確認され、これまでに61人が命を落としている。COVID-19とその影響は我々の安全と経済を脅かし、日常生活を変えている。それはまた我々の軍隊の即応性と活動能力を脅かしている。米海軍の空母USS Theodore Rooseveltはウイルスのため出港できずグアムに縛りつけられている。
(2) 現在は、再びANZUS条約を発動させるという、我々の歴史上初めて、9・11後の数日間でJohn Howardが行ったことを現首相に求める、まさにそのような時と状況である。Scott Morrison首相がそれを行うことは連帯と豪国民から米国民への支援を象徴する大きな行為であり、それは両国の利益になるだろう。困難な時にこそ密接なパートナーの価値を我々は知っている。2019年夏の森林火災の際に、米国は消防士を派遣してくれた国の1つである。
(3) ANZUSの発動は単なる象徴とはならない。これにより、政府機関、大学、病院、健康機関及び民間企業で、我々の政府、そして医療専門家、科学者及び技師によるあらゆる手段を活用し、両国のパンデミックを克服するために、オーストラリアのシステム全体が、米国のカウンターパートと連携することにつながる。ANZUSは、我々の相互利益のために両国の協力を最大化するための目的達成手段となり得る。
(4) 米国はウイルスとの戦いにおいて膨大な手段をもっているが、オーストラリアにも重要な能力がある。
a. オーストラリアのワクチン研究者たちは、医療専門家や医療企業と同様に、すでに米国や他のグローバルなパートナーと緊密に協力している。
b. 我々の軍は、COVID-19 による感染リスクを考慮して、艦艇、航空機及び陸上システムを、作戦行動が可能な状態で維持するのに役立つ技能をもっている。また、豪国防軍は、自国の兵器輸送・配備用の航空機・潜水艦などを運用する高度な訓練を受けた人材を擁しており、必要に応じ、例えば空母などの重要な役割を担う米国の国防人員を増強することすら可能である。
c. 連邦政府と州政府は、非常に有効性のある範囲での措置を講じており、これまでのところ、ウイルスが我々の医療システムを圧倒しないことを保証するのに役立っている。また、我々が協力をもたらすことができる、パンデミック期間中及びンデミック後の経済の健全性を支えるためのアプローチもある。
d. ANZUSを発動した後のMorrisonの最初の行動は、Donald Trump大統領や彼の国家安全保障会議との仮想会議のために挙国一致内閣を招集することであるべきだ。そうすれば、米国とオーストラリアが抱える重要な要求を全ての関係者が明確に理解し、協力し、専門知識の交換、さらなる増強などを通じて、お互いに助け合える分野を特定し始める。
e. さらには、米国とオーストラリアの双方に利益をもたらす国家未満の地方間のつながりやパートナーシップもある。我々の州首相たちや特別地域の首相たちは、両国間で署名された2018年の覚書を通じて、また、個々の姉妹都市や州との関係の両方を通じて、米国の州知事との間で実用的なつながりをもっている。
f. 公共部門レベルでは、首相の国家COVID-19調整委員会があるが、これはパンデミックによる経済的負担に対処するために、オーストラリアと米国の企業力を引き込む手段の1つとなりうる。
(5) ANZUSの第3条には、「締約国は、いずれかの締約国が太平洋においていずれかの締約国の領土保全、政治的独立又は安全が脅かされたと認めたときはいつでも協議する」*と記されている。COVID-19は、米国とオーストラリアの人々の安全保障を明らかに脅かしている。また、国力を維持するための経済力や、我々の軍の能力に影響を与えている。Scott Morrisonは2019年、ANZUS条約を「自由党が政権にあった期間の中でも最も重要な1つの成果」と呼んだ。彼は今、その成果を両国の利益のために利用することができる。
* 政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所、近現代国際政治の基本文書データベース「世界と日本」日本政治・国際関係データベース、「ANZUS条約(オーストラリア,ニュー・ジーランド及びアメリカ合衆国の間の三国安全保障条約)」、
https://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19510901.T1J.html
記事参照:It’s time for Australia to invoke ANZUS

4月14日「中国調査船、再び越EEZに侵入―英通信社報道」(Reuters, April 14, 2020)

 4月14日付の英通信社Reutersは、“Chinese survey ship returns to Vietnam's exclusive economic zone”と題する記事を掲載し、中国海警船と越漁船が衝突し、越漁船が沈没するという事故の後に中国の調査船「海洋地質8」が越排他的経済水域に侵入したとして要旨以下のように報じている。
(1) 2019年7月に係争中の南シナ海で越漁船とにらみ合った中国の調査船が越排他的経済水域(以下、EEZと言う)に戻ってきたことが4月14日に明らかになった。4月14日、船舶の位置情報を追跡するアプリMarine Trafficのデータによれば、沖合で地震探査を実施していた「海洋地質8」は、再び越海岸沖158Kmで確認されており、少なくとも1隻の海警船が随伴している。Marine Trafficのデータによれば、少なくとも3隻の越船が中国船とともに動いている。
(2) 「海洋地質8」の越EEZへの展開は、コロナウイルスへの対応が越全土で行われていた15日間の封鎖が解除される予定を狙っていた。また、「海洋地質8」の行動は、係争中の海域内の島嶼近傍で越漁船が沈没した事件に続いて起こっている。米国は、中国船が越漁船を沈没させたことに「深刻な憂慮」を表明し、コロナウイルスと戦う世界の努力に焦点を当てる代わりに沈没の事件を力説した。フィリピンも同様に懸念を表明している。
(3) 中越は、ベトナムが東海と呼ぶ潜在的にエネルギーが豊富な海域について何年にもわたって対立している。「『海洋地質8』の派遣は、南シナ海における根拠のない主権を再び主張するための北京動きである」とシンガポールのシンクタンクISEAS-Yusof Ishak InstituteのHa Hoang Hopは言う。2019年の対峙では、越EEZの広大な海域で「海洋地質8」が石油採掘調査と疑われる行動を行っている間、少なくとも1隻の中国海警船がベトナムの石油鉱区にある掘削リグの近くの海域に何週間も留まっていた。
記事参照:Chinese survey ship returns to Vietnam's exclusive economic zone

4月16日「イラン舟艇、米艦船に危険なまでに接近―英通信社報道」(Reuters, April 16, 2020)

 4月16日付の英通信社Reutersは、ペルシャ湾でイランの高速艇が米艦船に異常接近したとして要旨以下のように報じている。
(1) 4月15日、イラン革命防衛隊海軍(以下、IRGCNと言う)の11隻の舟艇がペルシャ湾で米海軍艦艇および沿岸警備隊巡視船に危険なまでに接近したと米軍は声明し、この行動は「危険で挑発的である」と述べている。過去数年間には時々このようなこのような事象は生起していたが、米-イラン両国間の緊張が高まったこの時に今回の事件は起こっている。声明によれば、国際海域で米陸軍のヘリコプターと協同作戦を実施中であった6隻の米艦艇および巡視船にイランの舟艇は近接してきた。一時、イラン舟艇は米沿岸警備隊巡視船Mauiの10ヤード以内に接近してきた。米巡視船は、船橋対船橋の無線通信、汽笛の吹鳴、長距離雑音発生装置を使用して警告を発した。イラン舟艇は約1時間後に去って行ったと声明は付け加えており、「IRGCNの危険で挑発的な行動は、誤算と衝突の危険を増し、国際的に承認された海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約に乗っ取っていない」と米軍は声明で述べている。
(2) イランのイスラム共和国通信は米軍の報道をイラン当局からの対応抜きでペルシャ語で短信した。イラン軍艦艇の異常接近は2016年、2017年には珍しいことではなかった。イラン艦艇が接近しすぎるときには米艦船は警告射撃を行っていた。2020年初頭、Qassem Soleimani司令官殺害でイランと米国の緊張は高まった。
(3) 海洋安全保障筋は、4月15日に香港籍のタンカーがオマーン湾の国際海域を航行中、高速艇に乗ったイラン革命防衛隊に停船させられてイラン領海に向かうよう指示され、短期間拘留されたと述べている。
記事参照:Iranian vessels come dangerously close to American military ships: U.S. military

4月17 日「2020年の南シナ海、何を注視すべきか―米専門家の見解」(The Diplomat.com, April 17, 2020)

 4月17日付のデジタル誌The Diplomatは、“The South China Sea in 2020: What to Watch”と題するインタビュー記事を掲載し、ここで米シンクタンクThe Center for Strategic and International Studies(CSIS)のWebサイトThe Asia Maritime Transparency Initiative担当部長でアジア安全保障問題専門家Greg Polingは同誌上席コラムニストPrashanth Parameswaranの問いに答える形で2020年における南シナ海の注目点について要旨以下のように述べている。
Q:コロナ禍の世界的拡散を含め、2020年における現時点までの出来事は、継続性と変化の視点から、2020年の南シナ海情勢の展望にどのような影響を及ぼしてきたか。
A:最近数週間、南シナ海における自己主張を強化するために、中国はコロナ禍の感染爆発による世界的な混迷を利用しているとする見方が大勢を占めるようになってきた。こうした見方は、最近の一連の事案、特に中国海警船による西沙諸島でのベトナム漁船の沈没を見れば頷けるものである。しかし、私(Poling)は当を得た見方とは思わない。中国は、コロナ禍に乗じてその行動を変えてきたわけではない。中国がベトナムの漁業やマレーシアの石油・天然ガス開発などに対してとってきた侵略的行動は6カ月前にも見られたし、今後6カ月間も恐らく変わることはないであろう。もし何か変わったものがあったとしたら、それは、中国が感染爆発の最中に東南アジア諸国の首根っこを押さえ続けていることが、多くの観察者を普段以上に憤慨させているということである。
Q:中国が現在直面している全般的な国内及び外交政策上の環境から見て、南シナ海における中国のやり口をどう評価しているか。
A:北京は、南シナ海における9段線内全域において、さらには可能ならそれを越えた一部地域においても、あらゆる平時活動に対する管制権を確立しようと明らかに決心している。南沙諸島の人工島の軍事基地化が完了したことによって、中国はこの数年、9段線内全域においてほぼ恒常的な海警総隊と海上民兵による活動が可能になってきた。こうした日常的活動は、西沙諸島でも南海艦隊、海南省政府あるいは「中国海洋石油集団公司」(CNOOC)などの「国有企業」といった地方機関によって行われている。この場合、北京の果たす役割は2つ、すなわち1つは習近平指導部の下、こうした下級の執行機関に対して、近隣諸国を執拗に悩ませ、あらゆる方法で中国の権益を追求することを慫慂できるような政策環境を作為することであり、もう1つは海警船による4月初めの西沙諸島や2019年12月/2020年1月のインドネシア水域での事案のようにこれら執行機関の一部が誤算を犯したり、危機的事態を惹起させたりした場合に北京が事態収束に動くことである。我々が感染爆発の最中でも中国の政策変更を北京に期待すべきでないのは、こうした海洋権益主張の非中央集権化の故である。
Q:南シナ海問題の対処に影響を及ぼし得ると見なす、2020年の南シナ海領有権主張国における重要な動きとしてはどのようなものがあるか。
A:まず第1に、これは感染爆発になる前だがベトナムがASEAN議長国と国連安保理非常任理事国になったことであろう。しかしながら、感染爆発によってベトナムのリーダーシップ発揮は大幅に制約された。それでもハノイは今日、南シナ海問題で政治的勇気を発揮している東南アジアで唯一の国であり注目に値する。次に重要な動きは、フィリピンの防衛官僚と軍部がDuterte大統領による最悪の衝動的行為を押しとどめることに失敗しつつあることである。8月中旬に「訪問米軍に関する地位協定」が失効すれば、対テロ協力と災害救助努力は言うまでもなく、フィリピンの国家安全保障と南シナ海における米国の抑止力に深刻な影響を及ぼすことになろう。今やそれを阻止するチャンスはほとんどないが、今のところ、Duterte大統領の任期が切れ、そして効果的な同盟関係の管理と現実的な南シナ海戦略が再び可能になるかもしれない2022年までの間、できる限り特別な取極めによって凌いでいくことである。
Q:エネルギー開発を巡る中比2国間交渉や、ASEANと中国との間の「行動規範」(以下、COCと言う)を巡る交渉など、幾つかの南シナ海問題に関する外交交渉について、2020年にはどのような進展が見込まれるか、そして特に注目すべきものは何か。
A:特に注目すべき外交交渉は、恐らく以下の3つであろう。
a. 第1に、如何なる実質的な進展もないが、ゾンビの如く繰り返し蘇る、ASEANと中国間のCOC交渉である。中国はこれまで20年前の最初のCOC実現を阻んだ諸問題について、そのいずれの解決にも取り組んでこなかった。北京にとってCOC は依然として近隣諸国を威圧しながらの時間稼ぎの手段に過ぎない。
b. 第2に、2国間の協議メカニズム、特にマニラと北京間の協議である。2018年10月に習近平主席とDuterte大統領によって署名された石油・天然ガスの共同開発に関する了解覚書は1年後の最終協定実現を目標に定めた。しかしながら、これは実現しなかった。COC交渉と同様に、「進展」を装って本格的な論議を先送りすることは結局は交渉の行き詰まりをもたらす。今や、Duterte大統領は撤退するにはあまりに深入りしすぎているが、かといって、フィリピンにとって法的に、そして政治的に受け入れ難い中国の要求に応じることなく、マニラがこの交渉を如何にして復活させることができるか予測することは困難である。
c. そして第3が予想外の動向である。すなわち、ベトナムは増大する中国の威圧的行為の最中にあってCOCが何時までも進展しないことに不満を募らせ、他の領有権主張国とともに、あるいは国連海洋法条約による調停や仲裁手続などの外部メカニズムを通じて、平行的な外交的選択肢を追求するであろうか、ということである。それとも、ありそうもないが、2019年の石油・天然ガス開発を巡る対峙の再発、あるいは新たな紛争による人命の損失が政策決定者の考えを変えることになるかもしれない。
Q:2020年の残りの期間そしてそれ以降、南シナ海情勢の動向を評価していく上で重要視している指標は何か。
A:私は、衝撃的事案の生起と、東南アジア諸国がこれらにどう対応するかを注視している。今現在、中国の多くの機関が現場で活動しており、しかもこれらの機関が、4月2日のベトナム漁船の沈没事案や2019年6月に発生したフィリピンが占拠するリード堆(中国名;礼楽礁)での比漁船の沈没事案といった攻撃的な行動に対する自由裁量権を付与されていることを考えれば、こうした事案の生起は不可避である。早晩、こうした事案は人命の損失を伴うことになり、東南アジアの当該国政府によるより強い対応を促すことになろう。もう1つの注目すべき動向は、南シナ海におけるマレーシアとベトナムによる石油・天然ガス開発の停滞である。 中国による継続的な妨害行為は、ハノイとクアラルンプールにとって開発継続を極めて危険で高価なものにしている。もしマレーシアのドル箱、国営石油天然ガス会社Petronas がサラワク州沖の重要な開発プロジェクトから突然撤退しなければならないとすれば、何が起きるか。もし(というより、むしろ何時)ExxonがBlue Whale プロジェクトから撤退することになれば、あるいはロシアのRosneftがNam Con Sonプロジェクトから手を引こうとすれば、ハノイはどう対応するか。こうした事態は、少なくともベトナムの以外の政治エリートが真剣に考慮していないと思われる、具体的かつ重要な犠牲なのである。
記事参照:The South China Sea in 2020: What to Watch

4月17日「ミャンマー沿岸警備隊は海岸線の安全をいかに向上させるか―米紛争研究者論説」(The Diplomat, April 17, 2020)

 4月17日付のデジタル誌The Diplomatは、紛争研究者で米平和団体One Earth Futureで研究助手を務めるMichael van Ginkelの“How a Myanmar Coast Guard Will Contribute to Coastal Stability”と題する論説を掲載し、ここでGinkelは、ミャンマーで組織化が進む沿岸警備隊が今後いかにミャンマー沿岸部の安全保障を向上させていくかについて要旨以下のとおり述べている。
(1) ミャンマーでは現在、強力な沿岸警備隊の整備を進めている。ミャンマー内陸部では武装グループなどが活動し、そのことは多くの難民を生み、合成麻薬取引が横行している。そして、たとえば2019年10月26日、ラカイン州で活動するアラカン軍がフェリーを襲撃して警察官や兵士を人質にとったように、そうした武装グループが水上での行動能力を拡大させつつあるのだ。
(2) ミャンマーは2,000キロメートル以上の長大な海岸線を持つにもかかわらず、沿岸警備隊を持たなかったが、2019年3月にその創設が提案された。その存在は、ミャンマー沿岸および海上の安全保障能力を向上させるだろう。具体的には、①熟練した技術一式、②文民機関との連携、③地上軍との相互運用能力の向上などの3点について、沿岸警備隊の貢献が期待されている。
(3) 沿岸警備に関する技術に関して、たとえば犯罪現場の調査や違法漁業の証拠収集、行方不明船舶の捜索に関する技術に関する詳細な知識が必要とされている。それを得ることによって沿岸警備隊に適切な訓練を施すことができ、さらに専門化された訓練は種々の資源配分を最適化することになろう。また港湾当局や海上警察など文民部門との連携を強化すれば情報共有や信頼醸成の度合いが高まるであろう。それによって海洋状況把握が向上し、沿岸部における違法な活動を阻害するだろう。地上軍との協力もまた喫緊の課題であるが、それは、上述のように内陸における武装グループや犯罪グループの活動が盛んになり、それが海上へと波及する可能性があるからである。ラカイン州やタニンダーリ地方域、イラワディ・デルタなどにおける合同対テロ作戦などが効果的だろう。また、ミャンマーの軍隊のバランスは著しく陸軍に偏っており、沿岸警備隊の強化はこの是正に寄与するだろう。
(4) 沿岸警備隊の創設に加えて、ミャンマーは、海上警察、移民局、通関局、海事局、ミャンマー港湾当局の専門家から組織される統合指揮センターの開設を計画している。内陸と海上の双方で違法に活動するグループがいる昨今、その指揮センターの会合に陸軍関係者を招くことによって、その効率性はより向上するだろう。
(5) ミャンマーにおける沿岸警備隊の組織と運用は、スリランカにおける経験に学ぶものである。スリランカはその内戦において、タミル・シータイガー(「タミル・イーラム解放の虎」という反政府組織の海上部隊)という、いわば非伝統的な海洋安全保障上の脅威に集中的に対処したことで、その内戦の流れを変えることとなった。ミャンマーもまた、沿岸警備隊の組織によって、複雑化する安全保障環境に対処する必要があるだろう。
記事参照:How a Myanmar Coast Guard Will Contribute to Coastal Stability

4月17日「新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響:4か国枠組みQUADの課題―印研究員論説」(Vivekananda International Foundation, April 17, 2020)

 4月17日付の印シンクタンクVivekananda International Foundation (VIF)のウエブサイトイは、同シンクタンク研究員Amruta Karambelkar の“COVID-19 aftermath: An agenda for QUAD”と題する論説を掲載し、ここでKarambelkarは日米豪印4か国がパンデミック対応とその後の世界秩序の構築のために更に協力を促進すべきとして要旨以下の通り述べている。
(1) 新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックが世界を混乱に陥れている。このパンデミックが収まれば、世界政治は多くの再考を迫られそうだ。この危機は相互依存と国際協調の意義を問い掛けている。国際協調の必要性とルールに基づく国際秩序を守ることの必要性から、4か国安全保障対話(以下、QUADと言う)は影響力を示すことができるはずである。どの国も、ウイルスがこれほど世界中に拡散するとは想像していなかっただろう。多くの西側諸国は状況を適切に把握していなかった。米国のような超大国でも感染が広まったが、それは、国家の能力と言うよりもリーダーシップに問題があるように思われる。COVID-19のパンデミックは、すべての卵を1つのバスケットに入れることの危険性を示している。医薬品のほとんどが中国で生産されているなど、サプライチェーンの中国への過度の依存が世界を危機に陥れている面がある。2020年2月、中国は医療機器の生産と流通に関する管理を国有化した。中国はファーウエイ(Huawei)による5Gインフラの構築を働き掛け、一帯一路構想と中国製造を結びつけようとしているとの報告もある。インドは常に一方的な依存関係に警告を発してきた。日本は、日本企業の国内回帰や他の国への生産拠点の移転を働き掛けている。同様の考えがオーストラリアでも見られ、米国も声高に主張している。
(2) 問題は、中国の隠蔽体質である。中国が迅速に発生を世界に知らせていたら、パンデミックは防げただろう。ウイルスがどこでどのように広がったかを調査する必要がある。たとえそれが事故であったとしても(それは有り得ることだが)、中国が世界全体に、そして最貧の人々に代価を支払わせていることは事実である。民主主義は透明性があり、欠陥も包み隠さず明らかにする。中国の権威主義的モデルは国内的に必要かもしれないが世界に普遍するものではない。中国のような権威主義的な共産主義体制では、国家にとって不都合なことには蓋をする傾向がある。同じような政治システムの下でチェルノブイリ事故は起きた。ソ連は災害を隠し続け、放射性粒子がヨーロッパに到達して初めて世界はそれについて知った。秘密は災害を増幅する。中国に責任を問うことは重要である。QUADは中国が情報操作によって政府に対する国民感情を良い方向に向かわせ、民主主義への批判を市民に植え付けようとするような場合には世界的な対応を働き掛けるべきである。
(3) しかし、とりあえずはパンデミックがもたらしている事態への対処が急務であろう。最大の問題は経済である。ロックダウンは、サービス業、観光業、運搬業など多くの産業に深刻な影響を与えている。QUADメンバーは協調して対応すべきである。簡単なことではない。ビジネスの方針や経済戦略の相違から意見が一致しない場合が多いだろう。製造地域のシフトは容易なことではなく、大きな努力が必要であろう。パンデミックとロックダウンがもたらす失業も深刻である。多くの新興企業が倒産し、大きな公共投資と資本注入を必要としている。自由貿易協定や債務処理など、既存の国際的なコミットメントを遵守するのが難しい時期かもしれないが、QUADはこの面でも協力する必要がある。衛生面や医療での協力も重要である。インドとオーストラリアはワクチン開発の研究を共有することに合意した。QUADは科学・技術、ビジネスモデル、製品開発の研究開発でも協力すべきであり、生物・化学兵器に対する防衛にも認識を共有すべきであろう。
(4)  QUADは自由と透明性に基づく規範的な国際秩序を推し進める必要がある。中国と世界保健機関(WHO)への疑惑が状況を悪化させている面がある。Trump大統領はWHO への資金援助を削減することを示唆している。QUADは、制度的な代替案やWHOの改革を促す案を提示できるはずである。また、国際ルールに基づく秩序の遵守を改めて示すこともできるだろう。更には、一帯一路構想がもたらしている“債務の罠”についても、中国の影響力を減らすための現実的政策協調によって対処できるのではないか。そのような行為はパンデミック終息後の世界の新たな潮流を創りだすことに繋がる。
記事参照:COVID-19 aftermath: An agenda for QUAD

4月18日「係争中の南シナ海支配強化に向けた北京の動き-香港紙報道」(South China Morning Post, 18 Apr, 2020)

 4月18日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は、“Beijing moves to strengthen grip over disputed South China Sea”と題する記事を掲載し、専門家の分析を引用しつつ最近の南シナ海に対する中国の強行姿勢は同海域の支配強化を目指すものであるとして要旨以下のように報じている。
(1) 北京は係争海域である南シナ海の西沙(パラセル)諸島及び南沙(スプラトリー)諸島への新たな行政区設定など、南シナ海に対する支配を強化する方向に動いている。2つの新たな行政区は海南省三沙市の管轄下に置かれており、西沙、南沙行政区ともそれぞれ関係国と係争中の海域を含んでいる。中国はこの6年余り、軍事目的に使用可能な人工島と関連施設を建設することにより南シナ海の支配を拡大しようとしてきた。三沙市の発表によれば、西沙行政区の西沙管理局は永興島としても知られるウッディ島に、また、南沙行政区の南沙管理局)は永州礁と呼ばれるファイアリークロス礁に配置される。この発表は、南シナ海問題を巡って米国及びベトナムとの緊張が高まった中で行われた。
(2) 北京はこの海域のほぼ全ての主権を主張し、ベトナム、フィリピン、台湾、マレーシア、ブルネイと対立している。紛争は既に何十年も未解決のままであり、現在、米国との間でも引火点となっている。西沙諸島はベトナムが領有権を主張しているが、1974年、中国は南ベトナム軍を駆逐してここを占領した。今月、ベトナムは同島付近で中国海警船との衝突により漁船が沈没したことに公式に抗議したが、中国は越漁船が違法操業中に海警船に衝突し、沈んだと主張している。この事件はワシントンの怒りを買い、他国がCovid-19対応に追われている機に乗じた行動と非難した。また、4月13日の週にはマレーシアとベトナムが権利主張する海域に調査船「海洋地質8号」を派出し、ワシントンをさらに怒らせた。中国外交部は、これは通常の活動であるとして米国の非難は言い掛かりであると反論している。
(3) 中国南海研究院海洋法律政策研究所副所長の康霖は、同地域における人工島の造成と重要インフラが概ね整った今、行政管理をより効果的にする適切な時期にきており、これは予定されていた措置であると述べている。康霖はまた「この海域では米海軍をはじめとする外国勢力の展開行動が続いており、中国はその領土に対する主権主張を強化する必要がある」とし、「軍事的プレゼンスに対する活動は地方自治体の行政の所掌ではないが、行政は地域のあらゆる種類の問題に対処するためのバッファーとして機能することが期待できる」として、新たな行政区設定により島の管理により多くの人材と資源が投入されることとなり財政や天然資源管理を担当する部署の設立も期待されると述べている。一方、シンガポールNanyang Technological University, the S Rajaratnam School of International Studies(RSIS)研究員のCollin Kohはこうした動きは北京が同地域に北京がより多くのインフラを構築し、軍事的プレゼンスを強化する可能性が高いことを示唆しているとして、交渉中の「南シナ海行動規範(COC)」にも関連し、北京はCOCが合意される前までに南シナ海の権益確保をさらに確実なものにしようとしているものであると述べている。Kohは仮にCOCが合意に至らない場合でも、北京は南シナ海で非常に強力な立場を確保することになるだろうと述べている。
(4) COCは中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との協議が進行中であり両者は2021年までにこれに合意することを約束している。しかし、2018年8月に合意草案が発表されて以来、その進展は遅い。北京はCOCを法的に拘束力のあるものにすることを拒否しているが、ASEAN諸国はそれが地域の紛争を解決するのに役立つものとなることを期待している。
記事参照:Beijing moves to strengthen grip over disputed South China Sea

4月18日「対北朝鮮経済制裁は厳格に履行されているか? 国連報告書より―英通信社報道」(Reuters, April 18, 2020)

 4月18日付の英通信社Reutersは、 “Photos capture North Korea ships' sanctions busting in Chinese waters: U.N. report”と題する記事を掲載し、対北朝鮮経済制裁の履行状況に関する報告書に言及し、中国がそれを十分に履行していない可能性について要旨以下のとおり指摘している。
(1) 4月17日、経済制裁監視に関する年次報告書が国連安全保障理事会に提出された。それに添付された写真によると、石炭等を輸送する北朝鮮籍の船が中国の領海内で停泊し、また海上での積み替え、いわゆる瀬取りを実施していた。このことは、北朝鮮による石炭輸出を禁じるなどを定めた経済制裁を、中国が履行していないことを示している。同報告書は、北朝鮮は理事会の制裁決議を無視し、石炭輸出などを通じて何億ドルもの外貨を得ていると述べている。
(2) 北朝鮮への経済制裁の厳格な履行には、中国が決定的に重要な役割を持つ。しかしある安保理関係者によれば、中国は北朝鮮への制裁をやめさせようと思えばできるが、そうはせずただ安保理決議の不履行を選んでいるという。その人物によれば、中国は当該北朝鮮船団が領海内に侵入することについて事前通知を受けていたという。
(3) こうした疑惑を中国は否定し、国際的義務を果たしていると主張した。中国はその報告書の信憑性に疑問を呈している。国連の北朝鮮代表団はコメントを拒否している。
(4) 北朝鮮への経済制裁は、北朝鮮国民の国外での出稼ぎ禁止も定めている。しかし米国は今年1月、北朝鮮国民10万人が国外での出稼ぎで5億ドルもの外貨を獲得したとし、そのうち5万人が中国で活動しているとして中国が北朝鮮人労働者の送還を怠ったとして非難した。
(5) 中国はそれに対し、2019年12月22日までに本国送還を終えたと反論し、中国は今後も安保理決議を履行し、国際的義務を果たし続けると主張した。
記事参照:Photos capture North Korea ships' sanctions busting in Chinese waters: U.N. report

4月20日「ロシアの新しい北極圏政策文書は変化ではなく継続性を示す―SIPRI研究員論説」(Eurasia Review, April 20, 2020)

 4月20日付の米シンクタンクEurasia Reviewのウエブサイトは、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)紛争平和安全プログラム研究員Ekaterina Klimenkoの“Russia’s New Arctic Policy Document Signals Continuity Rather Than Change—Analysis”と題する論説を掲載し、ここでKlimenkoは2020年3月にロシアが出した北極圏に関する新しい政策文書は今までのロシアの北極圏政策を引き継ぐものであり大きな政策変更はないとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年3月6日、ロシアのPutin大統領は「2035年までの北極圏におけるロシア連邦国家政策の基本原則」(以下、基本原則2035と言う)を承認した。この新しい政策文書にはロシアの北極圏に関する国益、目標及び今後15年間の政策実施要領が定められている。この文書はロシアと北極圏の近隣諸国との間の緊張が高まっている時期に、2021年にロシアが北極評議会の議長を務める直前に発簡された。基本原則2035を理解する1つの方法は、これを直近の政策文書である2008年に採択された基本原則2020と比較することである。2020年の基本原則と2035年の基本原則の間には多くの類似点がある。どちらの政策文書も北極圏をロシアの経済成長のための主要な資源基盤としている。ロシアの国内総生産(GDP)の10%とロシアの輸出の20%が現在北極圏で生産されていることを考えると、それは当然である。2035年の基本原則で北極海航路(NSR)を「世界的に競争力のある輸送回廊」として紹介したことは、基本原則2020を出発点と見ることができる。驚くことではない。ロシアにとって北極海航路(NSR)の開発が引き続き重要であることを示す兆候はすでに2008年に見られる。2018年にはPutin大統領は、2024年までに北極海航路の交通量を8000万トンに増やすという目標を発表した。現在の交通量は3,000万トン未満である。交通量の増加は、北極圏の炭化水素及びその他の資源プロジェクトがその潜在的能力を満たしている場合にのみ、期待できる。ただし、これらの野心的な新しい計画に関しては、現在は石油と液化天然ガス(LNG)の歴史的な低価格の時代に来ているということに注意すべきである。さらに、ロシアの北極圏事業の主要市場と見なされているアジア経済は減速している。このように、これまでロシアは北極圏資源計画の実施を民間企業と国営企業の両方に継続的に求めてきたが、それらの実現可能性は今までになく問題となっている。国際的な輸送に関しては、輸送のための交通量が年間50万トンを超えない程度であり、北極海航路は他の国際海路との競争相手にはなっていない。
(2) 北極圏に住む人々の生活向上と福祉を促進することは、ロシアの北極圏開発戦略と社会経済開発プログラムの焦点となってきた。以前のロシア北極圏の政策文書でも、ロシア北極圏の先住民族の福祉の向上についても触れられていた。しかし、新しい政策文書におけては、それらの目標がロシアの国益として格上げされたことが注目されている。問題は、ロシアがその公約をどの程度果たすかということである。ヤマロ・ネネツ自治州を除いて、ロシア北極圏のすべての地域で人口の減少が見られ、健康、医療、住宅に関して困難が生じている。さらに、ロシア政府は先住民族を弾圧した歴史がある。
(3) 基本原則2035では、「主権と領土の統合の確保」という概念を、国家の最大の関心事として紹介している。これは、実際には政策の大幅な変更を示すものではない。たとえば、2019年、ロシアは、北極海航路(NSR)を通過する外国軍艦の航行の規制を強化する意図を示した。さらに、北極圏での軍事力増強と空軍海軍の哨戒と軍事訓練によるこれらの部隊の誇示は、ロシアの北極圏における主権の明確化を確実なものにし続けている。基本原則2035に記載されている軍事及び安全保障の面の目標は、特に北極圏におけるロシアに対する侵略を阻止し国境警備隊と沿岸警備隊をさらに強化させ、軍の作戦能力と作戦準備を維持するという政策の継続性を示している。したがって、北極圏での軍民の能力近代化という野心的な計画のさらなる発展が予想される。
(4) 基本原則2035は、北極圏におけるロシアの国家安全保障を確立する上での主な課題の概要を示している。このような概要は以前の政策文書では取り上げられていなかったが、同様の懸念は以前にロシア当局によって表明されていた。たとえば、2035年の基本原則では、北極圏の経済活動やその他の活動を規制する国際条約の規定を改定し、地域的及び国際的な協力を考慮せずに国内規制システムを確立しようとする「一部の国」の試みに言及して、これを安全保障に対する脅威として概説している。さらに、政策文書は「北極圏のロシア連邦による経済活動及びその他の活動への一部の国による妨害」についても言及している。どちらの発言も、1920年のSvalbard条約の解釈に関するロシアとノルウェーとの不一致をほのめかしている可能性が高い。特に、ロシアはノルウェーに対して漁業保護区と自然保護区を人為的に拡大して群島の経済活動を制限することを反対している。 2020年2月、Svalbard条約の100周年にあたり、ロシアはノルウェー外務省に送付した厳しい手紙でこれらの問題を再度提起した。ノルウェーは、現在推し進められているロシアの軍事力増強を懸念している。基本原則2035は、外国の軍事的プレゼンスの増加とそれに関連する北極圏における紛争の可能性に対するロシア自身の懸念を、国家安全保障の課題として描いている。ロシアは、北大西洋条約機構加盟国の北極圏での活動の増加が重大な脅威をもたらすと繰り返し主張している。北極圏と北大西洋における米国の活動も、ロシアの軍事活動と海洋行動の両方への挑戦として指摘されている。
(5) 2035年の基本原則によると、北極圏を「平和の地域」として維持することは、ロシアの主要な国益の1つである。新しい政策文書では、ロシアが北極の大陸棚の境界設定、捜索救難、事故防止を含む多くの問題に関する国際的協力を引き続き支援することを示している。ロシアは、二国間及び多国間協力のさまざまな形式で関係を強化することを目指しているが、特にArctic Five(抄訳者注:北極圏の発展と持続可能な北極のために知見、教育、革新を発展させ、共有するためにUiT The Arctic University of Norway, Luleå University of Technology, Umeå University, The University of Lapland and The University of Ouluの5大学が立ち上げた組織)、Barents Euro-Arctic CooperationとArctic Councilを区別している。新しい政策文書におけるロシアの目的の1つは、「北極圏における国際協力を調整する主要な地域機関としてArctic Councilを定着させる」ことである。ロシアが2021年半ばにArctic Councilの議長を引き継ぐことを考えるとArctic Councilの強化が優先事項であることは当然である。ロシアはまた「北極圏と非北極圏諸国との相互に有益な経済的パートナーシップ」の促進を北極圏の協力の目的と見​​なしている。これはロシアが北極圏経済への外部からの投資を模索し続け、地域外の国々との協力を発展させることを示唆している。
(6) 新しい政策文書に驚くべきことはない。これにはいくつかの新しい要素が含まれているが、基本原則2035は以前の戦略と比較してもロシアの北極圏政策の大幅な変化を示していない。ロシアは、北極圏のリーダーシップと経済問題を前進させるため相互に関心のある事項について国際的に協力することに引き続き関心を持っている。同時に、ロシアは北極圏の安全保障問題に関するマスコミ等における厳しい言論キャンペーンを継続する一方で、これらの問題に対処する方法として軍事力を強化することを計画している。
記事参照:Russia’s New Arctic Policy Document Signals Continuity Rather Than Change—Analysis

4月20日「中国が三沙市に新たに2つの市轄区を設置―比ニュースサイト報道」(Inquirer.net, April 20, 2020)

 4月20日、比ニュースウェブサイトINQUIRER.NETは、“PH told to protest 2 new Chinese districts in South China Sea”と題する報道記事を掲載し、南シナ海において中国が2つの地区を新たに設置したことに対して、フィリピンは抗議すべきであると専門家が語っているとして要旨以下のように報じている。
(1) 南シナ海での中国の支配力をさらに強化するという明白な動きの中で、北京は最近、西沙諸島と南沙諸島に2つの市轄(行政単位)を設置したと発表した。中国軍は4 月 17 日にそのニュースサイトで、この 2 つの行政単位は三沙市の管理下にあると述べた。「南沙区」は、西フィリピン海にある、フィリピンが領有権を主張する南沙諸島及びその周辺区域を管理することになる。「西沙区」は、西沙諸島、マックルズフィールド堆及びそれに近い他の区域を管理することになる。ベトナムは中国の最近の動きに激怒し、強く抗議している。「いわゆる三沙市の設置とそれに関連する活動は、ベトナムの主権を著しく侵害した」とベトナム外務省報道官Le Thi Thu Hangは声明で述べている。
(2) フィリピンの専門家たちは、この中国の動きについて以下のように語っている。
a. 海洋の専門家であるJay Batongbacal教授は、中国が新たな区を設けたのは中国が紛争海域を絶対的にコントロールしていることを示すための試みであると述べた。他国が異議を唱えなければ、承諾したと解釈される可能性がある。それは、明らかに過剰で、違法で、法律や事実による裏付けがないにもかかわらず、この区域における中国の主権やその主張の妥当性を承認することになるだろうと彼は語った。
b. 常設仲裁裁判所において、フィリピンが中国に対する歴史的勝利を手に入れる上で重要な役割を果たしたAntonio Carpio元最高裁判事は、フィリピン政府に対し、中国による新たな市轄区の創設に異議を唱えるよう促した。「ファイアリー・クロス礁は我々のカラヤン諸島の一部なので、外務省は抗議すべきだ。ベトナムはすでに抗議している。もし我々が抗議しなければ、中国は後で我々が黙認したと主張するだろう」と彼は語った。
c. Albert del Rosario元外務大臣は、この動きは「中国が、フィリピン人、ASEAN諸国及び国際社会全体に不利益となる、南シナ海での違法で拡大した領有権を追求し続けながら、COVID-19によるパンデミックを容赦なく悪用している」ことを示すことになるだけだと述べた。彼もまた、フィリピン政府に対し、中国の最近の行動に抗議するよう呼びかけた。
(3) コロナウイルスのパンデミックが世界中で猛威を振るう中、中国は南シナ海での拡張的な活動を続けている。中国政府は3月に、西フィリピン海の南沙諸島にある中国の7つの人工軍事基地のうちの2つである、ファイアリー・クロス礁とスビ礁に2つの研究基地を開設した。3月にはまた、ファイアリー・クロス礁で軍用輸送機が発見されており、世界的なパンデミックにもかかわらず、中国の活動が絶え間なく行われていることのさらなる証拠となっている。
記事参照:PH told to protest 2 new Chinese districts in South China Sea

4月20日「中国の新行政区設置の決定に強まる非難―越国営メディア報道」(The Voice of Vietnam, April 20, 2020)

 4月20日付のベトナム国営ラジオテレビ放送局The Voice of Vietnamのウエブサイトは、“China's East Sea action condemned as "provocative", "illegal"”と題する記事を掲載し、中国が南シナ海に新行政区域を設置する決定を下したことについて触れ、それに対する周辺諸国の反応について要旨以下のとおり報じている。
(1) 中国は、中国と東南アジア諸国の間で領有権が争われている南シナ海に新しい行政区を2つ設置すると発表した。それは海南島南部の三沙市の管轄下に置かれ、西沙諸島および南沙諸島周辺を管理することになる。COVID-19のパンデミックに乗じて同海域のコントロールを強化するかのような動きで、各方面から反発が強まっている。
(2) Australia’s University of New South Wales名誉教授のCarl Thayerは、中国の決定を「挑発的」かつ「違法」なものと断じ、今後さらに中国が「ベトナムとフィリピンの主権や司法に深く影響を及ぼす」行動に出ると警戒した。また、フィリピンの前外相Albert Del Rosarioは、中国による新行政区設置について強く抗議するよう比政府に訴えた。Del Rosarioは中国のこの決定が「フィリピンやASEAN諸国、ひいては国際共同体全体を侮辱する」ものだと強く非難し、COVID-19の蔓延という深刻な危機下においてもなおフィリピンの防衛については警戒を緩めてはならないとした。
(3) 越政府も中国政府の決定がベトナムの主権侵害であると抗議した。越外務省広報官Le Thi Thu Hangは、ベトナムは南沙諸島および西沙諸島に関してベトナムが主権を有しており、その歴史的証拠もあると述べた。そして中国の決定は有効性がなく、諸国間の友好関係の強化になんら資するところがないとし、「その誤った決定を撤回する」ことを要求した。
記事参照:China's East Sea action condemned as “provocative”, “illegal"

4月20日「洋上での命の安全:コロナウイルスと海軍作戦―豪専門家論説」(The Interpreter, 20 Apr 2020)

 4月20日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、豪University of WollongongのAustralian National Centre for Ocean Resources and Security研究員Dr Sam Bateman豪海軍退役准将の“Safety of life at sea: Covid‑19 and naval operations”と題する論説を掲載し、ここでBatemanは各国海軍でのCovid‑19の感染拡大の現状、その背景、および影響を指摘した上で、海軍は軍事組織として求められる能力の維持と将兵の健康と命の安全の保持の兼ね合いを取らなければならないとして要旨以下のように述べている。
(1) 海軍作戦に対して起こりうるCovid-19の影響は仏空母Charles de Gaulleに関する報告に顕著に示されている。Charles de Gaulleでは2,000名の乗組員の半数以上が検査の結果陽性であり、同艦はNATOの演習から10日早く離脱し、ツーロン港に帰投して感染者を退艦させ、艦内の消毒を実施した。米海軍も同様の問題を経験している。横須賀に停泊する空母USS Ronald Reagan、ブレマートンの空母USS Nimitz、USS Carl Vinson、グアムの空母USS Theodore Rooseveltで様々な規模の集団発生が起こっている。
(2) 米海軍は、Covid-19が作戦を実施する米海軍の能力に大きな影響を及ぼしている点について否定しているが、その能力は乗組員の自由とそれに関連する士気の問題を犠牲にして得られている。空母、護衛艦艇、艦載航空部隊の乗組員、隊員の健康の維持と軍事作戦を必要とする事態が生起した場合の即応態勢の維持のため、USS Harry S. Truman空母打撃群は予定されたニューポートへの帰投に代わりに大西洋に留まるという非常措置が採られている。太平洋では、空母Nimitz、護衛艦艇、艦載航空部隊の乗組員、隊員は前方展開事前訓練のため洋上に出る前の14日間の隔離を終えようとしている。ウイルスの拡散を抑えるため、計画されている前方展開に出航する前の帰港は実施されないだろう。
(3) クルーズ船は船内で感染症が急速に拡大する傾向があることで最近注目されている。しかし、艦艇の乗組員はクルーズ船内の人々よりもより脆弱である。艦艇乗組員は狭い居住区で生活し、作戦室、艦橋、その他艦艇の限られた空間で密接して勤務している。潜水艦は特に脆弱である。オランダ海軍の潜水艦は最近、数名の乗組員がコロナウイルスと診断されたため北海での任務を中断し、基地に帰投した。
(4) 海軍の演習はCovid-19の世界的感染爆発の影響を大きく受けつつある。印軍は、危機のため外国の部隊とともに実施予定であった2020年の全ての共同演習を延期した。印海軍はミラン演習(抄訳者注:印海軍が主催し、アンダマン・ニコバル司令部が支援する多国間海軍演習)を中止した。ミラン演習は中国、パキスタンを除く地域のほとんどの国から艦艇、代表が参加し、3月下旬に実施の予定であった。同様にオーストラリアは2年に1回実施される陸軍最大のハメル演習を中止し、RIMPACに部隊を派遣しないだろう
(5) 海軍演習はどの海軍においても年間計画の中で不可欠な部分である。しかし、その利益は安易に誇張されている。特にミラン演習やRIMPACのような大規模な国際的演習ではそうである。RIMPACのような演習が中止になったからといって外交的に仲違いが起こりそうにもなく、全ての参加予定国も中止による共通の利益を有することから、これら演習はある意味で必須なものではない。ミラン演習やRIMPACのような演習の主たる利益は、洋上における信頼醸成や先端の戦術を駆使した作戦と言うより洋上給油といった海軍の基礎的行動における協力に対する貢献に力点を置いて説明である。先端の戦術を駆使した演習は、安全保障上の制約によって豪海軍と米海軍のような緊密な同盟関係の中で実施される演習以外での演習で実施されることはない。
(6) 議論の余地はあるが、Covid-19の世界的感染爆発に直面する中で、今実施しなければならない海軍の作戦は限られた数のものしかない。これらには国境警備の支援、最近中東で実施されている作戦、即応体制を維持するために主として国ごとに実施される死活的な演習が含まれるだろう。しかし究極的には、即応体制と乗組員の疾病と死の兼ね合い、緊要な行動と緊要でない行動の兼ね合いを採らなければならない。解任されたTheodore Roosevelt艦長が述べたように「我々は今、戦時にはいない。乗組員は死ぬ必要はない」ということなのである
記事参照:Safety of life at sea: Covid‑19 and naval operations

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Is China Getting Ready for an East China Sea Showdown?
https://nationalinterest.org/blog/buzz/china-getting-ready-east-china-sea-showdown-143437
The National Interest, April 11, 2020
By James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College
4月11日付で米Naval War CollegeのJames Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に" Is China Getting Ready for an East China Sea Showdown? "と題する論説を発表した。ここでHolmesは、3月30日に東シナ海の公海上で海上自衛隊の護衛艦が中国漁船と衝突したことに触れ、この事案の詳細は不明だが、衝突は台湾沿岸警備隊の船と中国本土の漁船との同様の衝突の直後に起こり、また、事件が起きたわずか数日後には、中国の海警船が西沙諸島でベトナム漁船に衝突して沈没したと指摘し、一連の動向を取り上げている。そして彼は、①日本政府は、中国漁船が民兵組織の一員だったかどうかをまだ確認していないのであればそのように努力しなければならないし、確認していたのであれば中国は東シナ海での意図を明らかにしたかもしれない、②中国政府は、日本の同盟国である米国がコロナウイルスと戦い、船や航空機を引き揚げていることから一時的ではあるが日本が軍事的に弱体化したと判断する可能性があり、もしそうなると中国政府はチャンスを逃すことはしないだろう、などと指摘した上で、最後に「日本、気をつけて」と警鐘を鳴らしている。
 
(2) A Survey of Marine Research Vessels in the Indo-Pacific
https://amti.csis.org/a-survey-of-marine-research-vessels-in-the-indo-pacific/
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, April 16, 2020
4月16日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、" A Survey of Marine Research Vessels in the Indo-Pacific "と題する論説を掲載した。その中では「海洋調査船が最近、インド太平洋で波風を立てている」と話題が切り出され、海洋調査船の活動は、民間と軍事の両方の目的に役立つことができ、特に水中や海底の状況は潜水艦の探知能力に影響を与えるため、海洋データは海中での活動には不可欠であること、また、科学研究に従事しているとされる調査船も海外の軍事施設や船舶に関する情報を収集するため、自国の機器を海軍の偵察活動に応用することができると指摘している。そして、中国の海洋調査船の活動に関し、中国はEEZにおける海洋科学調査を実施するために必要な沿岸国の許可を得ていなかったが、この調査は軍事的なものであってUNCLOSの管轄ではないとの見方が有力だが、そうであれば中国は他国にはEEZでの軍事調査の許可を求める一方、他国の船舶には許可を求めないという二重の基準を示していることになるとし、中国の海洋調査船の活動は一般的な海洋調査活動とは異なることを強調している。
 
(3) South China Sea Questions: Could Speed-of-Light Weaponry Transform Gray Zone Competition?
https://nationalinterest.org/blog/buzz/south-china-sea-questions-could-speed-light-weaponry-transform-gray-zone-competition
The National Interest, April 18, 2020
By Dr. David Stoudt, a Senior Executive Advisor and Engineering Fellow for Directed Energy at Booz Allen Hamilton and also currently serving as the President of the Directed Energy Professional Society
4月18日、Senior Executive Advisor and Engineering Fellow for Directed Energy at Booz Allen Hamilton でPresident of the Directed Energy Professional SocietyであるDavid Stoudtは、米隔月誌The National Interest電子版に“South China Sea Questions: Could Speed-of-Light Weaponry Transform Gray Zone Competition?”と題する論説を寄稿した。ここでStoudtは、①今日の世界は「競争の連続体」(competition continuum)として知られる永続的な競争によって特徴づけられる、②「グレーゾーン」は、通常の武力紛争の閾値以下に留まるように計画された、経済的強制や拡大政策などの強引で攻撃的な活動を指す、③グレーゾーンでは、精密性、ステルス性、非致死能力を備えた武器が必要だが、高エネルギーレーザー(HEL)と高出力マイクロ波(HPM)システムがその答えとなり得る、④指向性エネルギーの可能性を理解するためには、南シナ海での中国の拡張主義のような例を考えることが有用である、⑤米国防総省は、第1に指向性エネルギーをハイレベルの軍事演習やウォー・ゲームに組み込むこと、第2に指向性エネルギーの致死率データの理解の向上、第3にグレーゾーンでの指向性エネルギー兵器の戦術意思決定支援 (TDA)の発展、第4に国防総省、政策立案者、産業界の間でのより多くの協力、そして、これらの兵器が競争相手のグレーゾーン戦術に釣り合う能力であるという宣言的な政策が必要である、⑥米国の戦闘能力を強化するためのグレーゾーンは存在しない、といった主張を述べている。