海洋安全保障情報旬報 2020年3月1日-3月10日

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3月1日「比海軍が発展するための法律の必要性―比専門家論説」(Analyzing War, March 1st, 2020)

 3月1日付の米シンクタンクStrategic & War Studies InitiativeのウェブサイトAnalyzing Warは、比沿岸警備隊Jay Tristan Tarriela 中佐の“Recalibrate the Philippine Navy’s Compass Before It Even Sets Sail”と題する論説を掲載し、ここでTarriela 中佐は比海軍にはその制度の構造と役割を定義する法律が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 新しい比海軍司令官Giovanni Carlo Bacordo中将は、その演説で在任中に優先する3つのプログラムを強調した。それは海軍海洋システム司令部の能力を高めること、人員の技能の専門化の履行、そして、すべての水兵及び海兵隊員の「考え方を近代化する」ことである。
(2) しかし、比海軍には根本的な制度上の問題があることを強調しておくことは極めて重要である。
a. 未完成な仕事の最も興味深い部分は、その組織の監督下で比海兵隊を分離する試みである。Juan Edgardo Angara上院議員の上院法案1731とRodolfo Fariñas下院議員の下院法案7304の両方が、フィリピンのような群島国家のための迅速に配備可能な水陸両用機動部隊の重要性を強調した。
b. 第2に、比海軍が信頼できるものになるには時代遅れの装備を交換するだけでは不十分である。比海軍は依然として、フィリピン軍による国内における安全保障に関わる行動の支援を含む、海洋法執行機関の役割を担うことやその他の警察的な任務に没頭している。
c. 最後に、比海軍の警察的な役割は、他の法執行機関や規制機関との連携を妨げている。海軍はその法執行活動を法的に認めるための具体的な権限を欠いているため、比沿岸警備隊や比国家警察海洋グループなどの他の海洋法執行機関との調整が不可能である。
(3) 組織的なジレンマ、不明瞭な権限及び「縄張り争い」という3つの問題はすべて、成立した法律によって適切に対処される可能性がある。この国の現在の海軍士官のほとんどは、1987年のフィリピン憲法と1935年の国防法(コモンウェルス法第1号)が比海軍の存在を明確に定義していると考えている。ただし、これらの法的文書を吟味すると、比海軍の創設やその権限についてさえ言及している規定がないことは明らかである。フィリピンの法律で海軍が初めて言及されたのは1947年の大統領令94であり、比海軍パトロールは、沖合パトロールの後継として創設され、比正規軍の管轄下の主な部隊の1つと見なされていた。その後、1950年に出された大統領令389が、比海軍の正式な肩書の典拠となった。海軍の役割が明確に定義されたのもこれが初めてだった。それ以来、1986年のマルコスの没落まで、フィリピン海軍は存在し続け、この大統領令に引用するだけでこれらの義務を果たしていた。しかし、1987年に新しい憲法が制定され、大統領令292又はフィリピンの行政法が公布された時、比海軍の権限は後者によって説明される規定に移行した。したがって、大統領令 292で規定されている比海軍の法執行任務は、航行及び海上における生命の安全、移民、税関業務、薬物対策、検疫、さらには漁業に関係する警察の役割を実行する正当な理由となった。それにもかかわらず、大統領令292が30年以上前に施行されて以来、これらの役割を明らかに退ける新しい法律が議会によって制定された。これは特に、国内海運法、フィリピン沿岸警備隊法、検疫法、包括的危険ドラッグ法、税関近代化及び関税法、そして、フィリピン漁業法である。
(4) 振り返ってみると、比海軍が、その制度の構造と役割を定義し、権限を付与される法律をもつ時がきている。海軍の権限を明確にした文書がないことが、法執行機関と軍事作戦の間で明確な線引きができない曖昧な領域に海軍を踏み込ませている。海軍の権限を明確にした公式な文書によって、海軍は実質的に陸軍が支配する比軍指導部の承認を待たず、年間予算の割合とその近代化プログラムさえも設定することができる。陸軍の兵士が引き続き優先されるため、比海軍が大規模な人員を採用することが困難になっている。海軍のための専用の法律がなければ、海軍は組織として絶えず葛藤しなければならず、強力な軍として独立して成長することは決してできないだろう。比海軍が取り組む必要があるのは、比陸軍との「資源競争」だけではなく、最も重要なのは、警察的な役割を実行するための議会の権限に裏打ちされた他の機関との戦略的な関係のために戦わなければならないことである。
記事参照:Recalibrate the Philippine Navy’s Compass Before It Even Sets Sail

3月3日「米海軍は海外で艦艇の修理を行えない-米国防・安全保障専門家論説」(The National Interest, March 3, 2020)

 3月3日付の米隔月誌The National Interest電子版は、米国防・安全保障専門家Michael Peckの“The U.S. Navy Can’t Repair Its Ships Overseas”と題する論説を掲載し、ここでPeckは米海軍艦艇の修理、整備を行う国内、海外の造船所のいずれもが受注残を抱え、修理、整備期間に遅れを生じ、訓練、作戦に支障を来しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 米国の造船所、補給所の受注残は、米海軍艦艇が必要な整備・修理を受けられないまま置かれているという計り知れない未処理案件を生み出している。しかし、日本のような海外に前方展開する米艦艇も同じ問題に直面している。
(2) 「海外に前方展開する水上艦艇が2014会計年度から2018会計年度に開始した修理71件中50件が計画された修理期間よりも長引いている。この修理期間の遅れの半数以上が1ヶ月かそれ以上であり、艦艇を訓練あるいは作戦に従事させる期間の減少を招いている」と最新のGovernment Accountability Office(以下、GAOと言う)の報告書は警告している。米海軍は日本、スペイン、バーレーンから38隻の艦艇を運用しており、米海軍施設とその地方の契約業者で修理を実施している。バーレーンでの修理の遅れが最も長く、スペインが最も短い。
(3) 興味深いことに、同報告書は外国からの支援の不足よりむしろ米国の問題を非難しているようである。大きな問題の1つは予期しない修理である。「バーレーンおよび日本における修理部門の当局者によれば、整備期間内の予定作業の後で追加整備あるいは修理の必要が発見されることが整備期間の遅れの重要な要因になっている。追加作業は計画された作業量の拡大、あるいは以前には計画されていなかった新たな作業の確認という形かもしれない。海外の施設は高い転職率に見舞われており、結果、経験を積んだ工員の不足を招いている。その他の問題として計画の欠落がある。例えば、造修担当幹部は修理を必要とする事象を特定するために洋上において艦艇を調査し、造船所に作業準備をさせることができない。また、十分な造修に携わる人員が不足している
(4) 皮肉なことに同じ問題は米国内の造船所でも起こっている。GAO報告2019年版によれば、不十分な造船所能力と技量の高い工員の不足は米海軍のほとんどの原子力潜水艦が直面している修理の遅れという受注残を生み出している。米海軍は造船所を改善するのには20年が必要であると言っている。整備/修理は、最も注目を引く話題ではない。しかし、整備や修理の欠落はその影響が痛感される。適切な整備、修理が実施されていない艦艇は戦闘できないか限られた能力で戦うことになるだろう。米海軍は、2047年までに水上艦部隊を280隻体制から355隻体制へ増強したいと考えている。しかし、新しい艦艇もそれを支援する整備・修理の体制がなければあまり価値を発揮しないだろう。
記事参照:The U.S. Navy Can’t Repair Its Ships Overseas

3月4日「中国と地中海: 地理戦略的な競争―米専門家との対談」(The Diplomat, Mar 4, 2020)

 3月4日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌執筆者で各界専門家との対談記事を担当している米Pamir Consulting戦略サービス担当副社長Mercy Kuoと米Cornell University人文学教授で歴史学部学部長Barry Straussとの“China and the Mediterranean: Geostrategic Context and Contest”と題する対談記事を掲載し、ここでKuoらは地中海で進行中の米中の競争について「トゥキュディデスの罠」の理論に言及しつつ、同地域がさまざまな競争の場とならざるを得ないと論じている(以下、-はKuoの質問)。
(1) ―現在の大国政治における地中海の地理戦略的な特徴は何か?
 地中海はアフリカ、アジア、ヨーロッパの3つの大陸の交差点であり、スエズ運河とジブラルタル海峡は東西の主要な海の玄関口である。地中海を支配する者は誰でもペルシャ湾の石油資源、急速に成長するアフリカ経済、NATOの軍事力、EUの経済力にアクセスできる。地中海東部、最近ではキプロス島沖の石油と天然ガス資源は、論争の的となっており、潜在的には紛争の対象となっている。
(2) ―地中海地域の資源と影響力について中国、ロシア、イラン、トルコの競合する利益は如何?
 中国とロシアはそれぞれ地中海で「柔らかな弱点戦略(soft underbelly strategy)」を採用している。中国にとって、ギリシャやイタリアなどの経済力の比較的弱い国への投資は、EUへの参入を意味する。ロシアにとってシリアへの介入は威信を示し、潜在的な政治的影響力を提供し、ロシアが他の地域紛争に影響を及ぼし、それによって他の大国(例えば、米国)から譲歩を得ることができるようにする。イスラム共和制のイランは、その地理的範囲をアラビア半島からシリアまで拡大し、それによってペルシャの力をおそらく古代以来頂点に押し上げた。リビアやパレスチナなどの紛争に介入することで、トルコはオスマン時代の力と影響力の一部を再構築しようとしている。その間、米国とロシアの間の微妙なバランスを維持することを試みている間、トルコは軍隊をシリアに派遣し潜在的な敵とみなしているクルド人を弱体化させた。トルコはまた、キプロス沖の天然ガスにも強い関心を持っている。
(3) ―米中対立の歴史的経緯について「トゥキュディデスの罠」の概念からの評価は如何?
 「トゥキュディデスの罠」は、紀元前431〜404年のペロポネソス戦争の起源に基づいた理論でありThucydidesによって見事に分析されている。Graham Allison教授によると、挑戦国である新興勢力のアテネが覇権国であるスパルタに大きな恐怖を与え、戦争が避けられなくなったためペロポネソス戦争が勃発した。Allisonの分析によれば、こうしたパターンは歴史上何度も繰り返されている。残念ながら、そのような場合はほとんど、挑戦国と覇権国の対決が戦争のお決まりのパターンである。したがって、米国と中国の間の戦争の危険はかなり高い。しかし、実際には、これはThucydidesの誤解である。戦争は覇権国であったスパルタ側の恐怖によるものではなく、挑戦国であったアテネが、迅速かつ容易な勝利を勝ち取ることができると信じられていた時期に戦争を実行したことによって引き起こされた。結局のところ、戦争はアテネにとって災難であった。誤解と相互の疑惑と敵意も戦争の到来の要因であった。Thucydidesは戦争が避けられないとは考えもしなかった。彼はスパルタの感情主義は、単に恐れるだけでなく、恐怖によって、それを強制的に戦わせずに戦争に押しやったと主張した。米国と中国への教訓は、2つの勢力間の武力紛争は懸念事項ではあるが、それは避けられないことではない。米中双方は紛争の平和的解決を最優先事項とする必要がある。同様に、中国が簡単に勝利を収めることができると考えないように、米国は防衛力強化に目を向ける必要がある。同時に米国は中国とのオープンで明確なコミュニケーションを確保する必要がある。誤解によって両国が紛争に巻き込まれることは決してあってはならない。
(4) ―ローマの皇帝たちは、中国の習近平やロシアのPutinなどの今日の権威主義的指導者たちとどのように比較できるか?
 ローマ皇帝たちの中で最も成功した者は、軍、元老院、すなわち富と政治エリート、そして特に首都の一般市民の3つの主要グループからの支持を得ていた。しかし、危機に際し皇帝たちは軍隊の支援を受け入れたが、それは長期的には不安定要因となることが判明した。同様に、Putin大統領と習近平は、彼らの権力が軍隊、指導的立場の民間エリート、そして大衆という3つの柱にかかっていることを知っている。中国でさえ、政治権力は銃口から生まれるという毛沢東の言葉に依存するだけでは十分ではない。
(5) ―地中海は、今後10年間でアジア、中東、ヨーロッパの主要な地政学的な発展にどのような影響を与えるだろうか?また、政府や企業のリーダーはその影響をどのように理解すべきか?
 文化と経済力の交差点として、地中海は当然に競争の場となる。たとえば、キプロスの天然ガス資源はトルコと他の地中海東部諸国を衝突させ、同時に中国、ロシアも引き込む可能性がある。また、移民、紛争、開発というより広範な問題がある。 EUと他の西ヨーロッパ諸国は平和に暮らしているが、紛争は地中海東部と南部だけでなくロシアとの国境でも非常に重要な要素となっている。欧州の長期的な安定と繁栄、つまりアジアとの関係は、アフリカと中東が近代的で平和で繁栄する政治経済体制に円滑かつ着実に統合されていることにかかっている。成功には3つのことが必要である。まずアメである。投資、教育、貿易取引、欧州への少なくとも限られた数の移民受け入れ、そしてこれらを前進させるための政治的および軍事的指針。それからムチが来る。欧州とNATOの軍隊は同盟国を助け、敵対者側の恐喝とテロリズムを防ぐために十分強くなくてはならない。同様に、アメとムチの組み合わせはロシアをして他国に侵略しない国に変える最良の方法になるであろう。これらが完了するまで数十年はかかるので忍耐力が必要である。結局のところ、文化を変えることなく社会を変えることはできない。そのような変化には、通常少なくとも1世代、30年は必要である。
記事参照: China and the Mediterranean: Geostrategic Context and Contest

3月4日「中東・アジアの紐帯強化傾向とその意義―ベルギー専門家論説」(The Diplomat, March 4, 2020)

 3月4日付のデジタル誌The Diplomatは、ベルギーVesalius College国際問題担当非常勤教授Guy Burtonの“The Growing Connectivity Between the Gulf and East Asia”と題する論説を掲載し、ここでBurtonは、近年、中東湾岸地域とアジアのつながりが緊密化しつつあることの含意について要旨以下のとおり述べている。
(1) ここ20年の間、Gulf Cooperation Council(以下、GCCと言う)の加盟国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール。イエメンが一部委員会に参加)とアジアとのつながり、とりわけ経済的つながりが強まってきた。それに加えて、近年では安全保障における連携の重要性も指摘されている。この傾向において先を行くのがサウジアラビアとUAEであり、次いでカタールである。アジアへの輸出の大部分はこれらの国々、そして石油および天然ガスで占められている。
(2) これまでGCCにとって最大のマーケットであったのは北米や欧州であった。絶対額で見た場合、なおそれは変わっていないが、相対的には減少傾向にありGCCから北米、欧州への輸出は2000年の60%から2018年には41%に低下している。対してアジア向けの輸出は同じ年で19%から28%に増加し、特に対中国、対インド向け輸出量が伸びている(それぞれ2000年から2018年にかけて5倍および4倍)。それに次ぐのが日本である。
(3) ただし、こうした貿易についてはあくまで国家間の関係である。GCCは1981年に創設され、EUのような形での地域統合を模索してきたが、域内の敵対関係がそれを妨げている。とりわけサウジアラビアおよびUAEと、他方でカタールの対立が顕著であり、2017年には前2者が後者を非合法なイスラム主義者たちを支援していると非難した。前2者はカタールの経済的・外交的封じ込めを推進している。こうしたことを背景に、GCC全体として、アジア諸国との間で自由貿易協定はシンガポール以外には進んでいない。
(4) GCCとアジアの間での投資も増大している。中東の湾岸地域には歴史ある巨大投資ファンドがあり、その主要投資先は貿易と同様、北米やヨーロッパであったが、近年はアジアにもその視線を向けている。そのなかには例えば、ソフトバンク(日本)が経営する先端技術投資に対する、パブリック・インベストメント・ファンド(サウジアラビア)による450億ドルの投資や、アブダビ投資庁によるシンガポールや上海の不動産購入等および印農薬会社UPL Corp.への投資も含まれている。
(5) GCCからアジアに対してだけではない。中国が一帯一路政策を打ち出して以降、サウジアラビアとUAEは中国の最大規模の投資先である。その投資の大部分はエネルギーやインフラ関係の事業に向けられている。また日本や韓国の湾岸地域への投資も増えてきた。たとえば韓国の輸出入銀行は2014年までにGCCに16億ドルを投資したが、それは全体の5%に当たり、大部分はサウジアラビア向けである。日本国際協調銀行の場合、今日までにGCCにおける事業向け投資は全体で30億ドルにのぼり、全体の25%にのぼる。
(6) 安全保障についてはどうだろうか。中東・湾岸地域における米国のプレゼンスはなお重要であるが、その地域の不安定さが増大するにつれ、GCC諸国は米国以外の国々との安全保障面での重要性が増大している。たとえばサウジアラビアとUAEは中国と包括的戦略的パートナーシップを樹立し、2019年初めにはインドとも戦略的パートナーシップ評議会を開催した。こうして湾岸諸国は米国のプレゼンス低下ないし喪失に備えている。
(7) 湾岸地域における米国の安全保障に関する動向は、アジアにとっても無関係ではない。湾岸地域の不安定化はエネルギー価格に影響を及ぼし、翻って世界全体の経済に影響を及ぼす。そのなかで、もしDonald Trump政権の自国中心主義が継続し、万が一、中東・湾岸地域からの撤退という事態になれば、同地域の安定化のために、アジア諸国もまた安全保障面での負担を余儀なくされるだろう。また、このまま中東や湾岸地域の覇権を米国が握り続けることへの不安もあろう。たとえば米国が2018年、イランとの核合意から離脱しイランへの経済制裁を再開したことに満足する国はほとんどないのである。
(8) 今後、GCC諸国とアジア諸国の経済的関係はより強化され、多様化していくであろう。他方、安全保障面においてGCC諸国は米国頼りのあり方から脱却し、より積極的にアジア諸国との関係強化を模索する必要があるだろうし、アジア諸国の側としても渋々ではあるかもしれないが、湾岸地域の安定化のためにより多くの資源を投じなければならなくなるかもしれない。
記事参照:The Growing Connectivity Between the Gulf and East Asia

3月4日「米空母Theodore Rooseveltが南シナ海の緊張が煮えたぎる中、ベトナムに寄港―香港紙報道」(South China Morning Post, Mar 4, 2020)

 3月4日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US navy aircraft carrier Theodore Roosevelt visit Vietnam as South China Sea tensions simmer”と題する記事を掲載し、米空母Theodore Rooseveltのベトナム寄港は米国とベトナムの接近を示し、一方、中国はこれに対抗して何らかの示威的な軍事訓練を実施するかもしれないとして要旨以下のように報じている。
(1) 米空母Theodore Rooseveltは、2020年3月5日にベトナムの沿岸都市ダナンに寄港する予定である。資源豊富な南シナ海で緊張が高まる中、米国とベトナムの友好の一種の象徴的なショーとして計画されたこの空母寄港は、中国への意志表明としての役割を果たすであろう。ベトナム駐在米国大使、米太平洋艦隊司令官、米国総領事は、歓迎式典にアメリカ代表団として出席し、ベトナム側の要人も出席する。英シンクタンクChatham HouseのAsia-Pacific Program研究員Bill Haytonは、この寄港が長い間計画されてきたものであると信じている。「米空母の寄港は計画に長い時間がかかるので、これは数ヶ月前にすでに計画されていたものと考える。米空母のベトナム寄港というメッセージは、両国間の軍事関係のさらなる発展を証明するものである。このメッセージが中国を対象としていることはほとんど疑いの余地はない。この寄港が南シナ海で緊張が高まっているときに行われていることは重要である。2019年、中国は海警船によって護衛された石油調査船によりベトナムとマレーシアの排他的経済水域(以下、EEZと言う)に侵入した。2020年の初めに、同じく海警船によって護衛された漁船の小隊をマレーシア、インドネシア、ベトナムのEEZ に派遣した。ベトナムは中国から海洋資源を保護することができないため、その立場に対する国際的な支援を求めている」と彼は述べている。
(2) 1975年のベトナム戦争終結以来、米国海軍艦艇がベトナムに寄港するのは2回目である。1回目は2018年3月の米空母Carl Vinsonの訪問である。これが、南ベトナムから米軍が撤退してから初めての米空母の寄港であった。米空母Carl Vinsonが接岸した直後に、米軍の海軍将校が枯葉剤の被害を受けたベトナムの子供たちのためにちょっとしたロックコンサートを行った。このコンサートはかつて敵であった両国間の友情と新しい関係を構築するための象徴として機能した。今回、2018年と同様に中国が南シナ海に影響力を行使しようとするのと同じ方法で中国の影が迫りそうである。中国による南シナ海での天然ガスと石油の探査は深刻な問題である。2019年、ベトナムと中国の間で再び緊張が高まった。中国の調査船「海洋地質8号」が天然ガス田と石油の埋蔵量を探査しながらベトナムのEEZに繰り返し侵入した。2014年、中国の掘削船が係争中の海域に進出した後、ベトナムで一連の抗議行動が発生した。2019年11月に米国国防長官Mark Esperがベトナムを訪問、米国がこの地域の警戒を強化するために米沿岸警備隊の警備艇をベトナムに贈ると発表した。
(3) 2018年の米空母Carl Vinson訪問以後、中国は米空母のベトナム入港に対する不満を表明し状況を注意深く監視していた。ハノイの外交官の1人は匿名を条件に、2020年のの訪問は米国とベトナムの外交関係25周年の祝賀行事の一部であると考えており、ベトナムでの米空母の存在は中国を牽制するものではなく、単に空母が次の寄港地に向かうために寄港するだけであると述べた。東南アジアの地域専門家で豪University of New South Wales教授Carl Thayerは、「米空母Theodore Rooseveltの寄港は米国が西太平洋と南シナ海で卓越した海軍力を維持するという意向を強調している。米国は、さまざまな戦略的政策文書の中で中国をライバルと特定している。これらの文書はベトナムを優先的な戦略的パートナーとして特定し、南シナ海での脅迫行為について中国を批判している。米空母Theodore Rooseveltのダナン寄港は米国の軍事戦略における3つの柱、①継続的な海軍艦艇のプレゼンスとパトロール、②継続的な戦略爆撃機のプレゼンスとパトロール、③「航行の自由」作戦とパトロール、の一環である。米空母Theodore Rooseveltの寄港は、同地域に対する米国の取り組みを実証するものであり、南シナ海でのその存在はベトナムに歓迎されている。」と述べている。海南海事局によると、中国はエネルギー探査船「海洋石油719」を2月27日から4月30日まで西沙諸島付近に派遣した。これは米空母Theodore Roosevelt訪問の時期と重複している。「一見すると、『海洋石油719』の展開は商業的要請により、中国が主権を行使したように見えるであろう。しかし、中国が本当に米空母のダナン訪問の機会をとらえて訓練するつもりならば、中国の空軍と海軍の部隊によるいくつかの示威的な訓練を実施するかもしれない。中国とベトナムは、西沙諸島をめぐり対立している。中国の学者たちは現在、自動船舶識別システムデータを使用してベトナムの民兵と漁船群に関する情報を発表しているAsia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)をモニターしている。最近の中国の報告によると、西沙諸島でベトナムの漁船の存在が増加している。『海洋石油719』の配備は、中国の軍事的な対応である可能性が高い」とも東南アジア専門家のCarl Thayerは述べている。
(4) 台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピンも中国が自国に属していると主張する紛争地域の主権を主張している。ちょうど2週間前、AMTIは、中国、マレーシア、ベトナムが関与する南シナ海でのエネルギー探査をめぐり新たな膠着状態が起きたと主張した。AMTIは、中国の主張に反対するのではなく、なぜマレーシアとベトナムが対立したのかという疑問を提起した。この事象は、2019年12月にナツナ諸島の近くでインドネシアと中国の船舶が対立したことに続く事態の展開である。
記事参照:US navy aircraft carrier Theodore Roosevelt visit Vietnam as South China Sea tensions simmer

3月5日「ベトナムは中国沿岸に海上民兵を送っているのか?―中国専門家論説」(The Diplomat, March 05, 2020)

 3月5日付のデジタル誌The Diplomatは、中国南海研究院海洋法律与政策研究所所長閻岩の“Is Vietnam Sending Its Maritime Militia to China’s Coast?”と題する論説を掲載し、ここで岩は海南島東海岸沖にベトナムの漁船が終結し、違法操業するとともに中国軍の情報収集に当たっているとした上で、ベトナムは自国漁民および漁船を取り締まるべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) 北京大学海洋研究院の南海戦略態勢感知計画(以下、SCSPIと言う)は、中国がコロナウイルスへの対応で忙殺されている最中、広東、広西、海南各省の近海に300隻以上の越漁船が2月に集まってきていることを示す自動船舶識別装置(以下、AISと言う)のデータを最近発表した。ベトナムによる違法操業は長きにわたる問題である。3,500Km近い海岸線にもかかわらず、ベトナムの漁業資源は減少し続けており、越漁民は過去何年間も魚を獲るためにより遠方に進出してきている。European Commission(以下、ECと言う)は違法・無許可・無規制操業を阻止できていないとして2017年にベトナムからの海産物にイエローカードを発出した。越副首相Trinh Dinh Dungが関係国は他国海域における違法操業を阻止すべきと要求したにもかかわらず状況は変わっていない。過去に越当局者は洋上で操業中の違法底引船を捕捉することは困難であると述べている。最近、マレーシアは同国東海岸沖の排他的経済水域(以下、EEZと言う)に侵入する越漁船の数が増加していると報じている。マレーシアはベトナムに抗議し、問題解決のための2国間合意を模索している。
(2) 中華人民共和国領海及毗連区法に基づき、中国は1996年5月に領海基線を宣言した。海南島を取り巻く12海里の領海には広東、広西両省の領海と同じく2国間の係争は存在しない。中越は2000年12月に「トンキン湾(北部湾)の領海・EEZ・大陸棚の画定に関する協定」 と「トンキン湾(北部湾)漁業協力協定」に署名している。しかし、SCSPIが提供するAIS画像はベトナム漁船の三分の二が境界の中国側にいることを示している。一部の漁船は共同漁区における操業許可を得ているようであるが、半数以上は共同漁区外にある。
(3) AIS情報は、200隻の越漁船が海南島東海岸を取り巻いており、その多くが三亜および瓊海両市の12海里以内で操業している。多くの研究者は中国EEZ内での違法操業に加え、中国の軍事基地および海軍並びに空軍の軍事活動に関する情報を収集していると考えている。
海南島東海岸に越漁船が集まっている事案に、より深く関係することは人民解放軍海軍の楡林海軍基地が三亜の最南端にあるということである。楡林海軍基地はしばしば南シナ海で戦略的に最も重要な基地と言われる。また、陵水空軍基地も三亜の近くに存在する
(4) SCSPIは漁船の一部は奇妙なことにAIS上で自船の種類を「漁船」から「商船」に変更しており、自らの身分を隠そうとしている。ベトナムが強力な海上民兵部隊を建設中ということを考えれば、200隻の漁船の多くは海上民兵と考えるのが妥当である。越国防副大臣Phan Van Giang上級大将は2019年12月にベトナムは海上民兵を建設中であると述べている。越海上民兵の大半は、地方の漁民で構成されているため、隣国が漁民か海上民兵かを区別することは極めて困難である。報告によれば越銀行は約400隻の漁船の性能向上に1億7,600万米ドルを融資しており、10,000以上の漁民が赤外線暗視装置と小火器を受け取っている
(5) 2018年のベトナム共産党中央執行委員会決議の中で、同国は2030年までに強力な海洋国家になるという目標を設定している。そうすることによって、ベトナムはその海洋での経済を加速し、海洋権益を守るために国防力を強化することを望んでいる。2019年11月に公表された国防白書ではベトナムは自らを海洋国家と表現しており、周辺海域の安全と防衛は極めて重要であると述べている。海洋への夢を追い求める中で、ベトナムは自国漁船の違法操業や隣国の領海内での情報収集に目をつむるべきではない。2019年7月、ベトナム海上警察法が施行された。年間を通じ、越海上警察の役割と運用の柔軟性を拡大するため国内的には多くの手段が行使される。越海上警察は他国の海域で違法操業を行う自国漁船を取り締まるべき時である。2020年のASEAN議長国として、ベトナムの海洋における行動は地域の全ての国、特に南シナ海に面する国から注視されるだろう。議長国としてのベトナムの役割に対する信頼は新たな発展に向けてASEANをどのように牽引していくかだけでなく、国内的に自国漁民と漁船をどのように取り扱うかにかかっている。
記事参照:Is Vietnam Sending Its Maritime Militia to China’s Coast?

3月5日「米海軍、ICEX2020開始―米太平洋艦隊潜水艦部隊発表」(US Navy, 3/5/2020)

 3月5日付で米太平洋艦隊潜水艦部隊は、“U.S. Navy Kicks Off ICEX 2020”と題する発表を行い、ICEX2020について要旨以下のように述べている。
(1) 米潜水艦部隊は、氷上の臨時基地キャンプ・シードラゴンの設営と2隻の原潜の到着をもって正式にICEX2020演習を開始した。ICEX2020は2年ごとに実施される3週間の演習で、北極における即応体制の評価、北極における経験を積むための他軍種、同盟国、友好国との訓練機会を海軍に提供するものである。参加潜水艦は、北極圏に滞在する間、様々な北極での航行、極点浮上、その他の訓練を実施する。
(2) 北極は、拡大する対立のため、インド太平洋と欧州および米本土を結ぶ潜在的戦略的回廊である。潜水艦部隊はもし求められた場合、インド太平洋および欧州で米国の国益を防護し、望ましい勢力均衡を維持するため北極の環境下での訓練を通じ即応性を維持しなければならない。ICEX2020は、特有の困難な環境下で北極での作戦を維持する即応性を示す機会を潜水艦部隊に与えている。米海軍は米国の主権を守ることを求められており、米潜水艦部隊は何十年にもわたって北極で潜水艦を運用し、北極の防衛に大きな役割を果たすことが期待されている。ICEX2020は訓練機会と同時に海中領域を北極防衛に統合する機会を我々に与えてくれる」と米潜水艦部隊司令官Daryl Caudle中将は言う。
(3) 氷床上に設営された仮設キャンプ・シードラゴンは潜水艦戦と氷下航行訓練実施のための仮設指揮所となる。Navy's Arctic Submarine Laboratory (以下、ASLと言う)は、5カ国、2隻の原潜、100人以上の人員が参加する3週間の演習を組織し、調整し、実施してきている。「ASLは、計画、経験豊富な北極での行動の専門家の配置、海軍における北極での潜水艦に関わる知識の維持、潜水艦の北極での行動の安全と効率を強化するために使用される特別な機材の開発と装備を通じ、潜水艦の北極での行動の中心的施設である」とASL施設長Howard Reeseは言う。
(4) 70年以上にわたり、潜水艦は艦隊間の部隊移動、訓練、同盟の取極、定期的な作戦行動を支援してUnder-Ice OPSを実施してきた。米潜水艦部隊は約100回の北極での演習を実施してきた。
記事参照:U.S. Navy Kicks Off ICEX 2020
関連記事:6月11日「カナダ潜水艦、ICEX18に参加せず」(CBC, Jun 11, 2018)の解説
     Canadian submarines not part of international Arctic under-ice exercise

3月6日「コブラ・ゴールド2020、米国の東南アジア戦略のシフト-米専門家論説」(The Diplomat, March 06, 2020)

 3月6日付のデジタル誌The Diplomatは、多国間演習「コブラ・ゴールド2020」に参加した米海兵隊将校でUniversity of Maryland Global Campus経営学修士課程学生のZachary Williamsの “Cobra Gold 2020: America’s Strategic Shift in Southeast Asia”と題する論説を掲載し、ここでWilliams今年のコブラ・ゴールド演習はこれまでと違って対中関係を想定したものとなっており、今後は冷戦時代の様相を設定としたものとなる可能性が高いとして要旨以下のように述べている。
(1) 多国間演習コブラ・ゴールドが2月25日にタイで始まった。コブラ・ゴールドは米国、タイ両国が主催する共同安全保障協力演習として毎年実施されている。米軍の2隻の水陸両用戦艦艇が第31海兵遠征部隊(以下、MEUと言う)とF-35Bを搭載してタイ湾に入港した。タイに滞在中、米軍の派遣部隊はタイ軍との指揮統制、人道支援、水陸両用、歩兵などの相互運用性を試す訓練に従事した。米国は何十年も東南アジアでプレゼンスを保っており、過去20年間で大きな変化はなかった。しかし、過去の演習とは異なり2020年は米国が第5世代航空機である海兵隊F-35Bを初めて参加させた。タイとの関係の強化や大規模自然災害への備えが演習の主目的ではあるが、米国の今回の演習への取組みにおいては、中国への戦略的メッセージが最も重要な考慮要因となったと考えることができる。中国は2019年、「一帯一路フォーラム」において東南アジア諸国と200の協定について協議している。特にタイではタイ湾とアンダマン海とを結ぶクラ地峡運河計画がある。中国人民解放軍海軍や中国商船にとっては、マラッカ海峡迂回ルートが確保でき、インド洋により速くアクセスできることになる。約1,200キロメートルのショートカットは、中国に低コストでの影響力拡大をもたらすだろう。
(2) 米軍は、米海兵隊第38代司令官 David H. Berger大将による2019年7月17日付の計画指針を受けて任務編成を変更している。大まかに言えば、当該指針は海兵隊における作戦重点地域を、中東を担当する中央軍からインド太平洋軍にシフトするものである。今年のコブラ・ゴールド演習の狙いもこのガイダンスに沿ったものであり、そこには東南アジアにおける戦略的転換の始まりを示す3点の重要な要素がある。第1に、Berger大将が25年前の海兵隊司令官が「MEUは“王冠の宝石”であり、機能し続けなければならない」と述べていることを引用し、中国が“真珠数珠つなぎ”に沿って拡張する現代において米海兵隊の輝きが最早続いていないとの認識を示したことが挙げられる。Berger大将は、今日のMEUが対中軍事危機に十分に対処することができないことを示唆している。タイ湾では、F-35Bを搭載した強襲揚陸艦が必要なのである。第2に、計画指針が焦点を中東から太平洋に移していることが挙げられる。Berger大将は「海兵隊は世界での敵対勢力に対応しつつ、中国の「一帯一路構想」と南シナ海・東シナ海での悪意ある行動への対処に重点を置く」と述べている。短期的な措置として揚陸艦とF-35Bそして高機動ロケット砲システムの能力を最大限に発揮することが必要となっている。そして第3の要素は、海兵隊のドクトリンの中核としての遠征前進基地作戦(以下、EABOと言う)がある。EABOにより、海軍が敵の長射程精密兵器の範囲内に前進することを可能にするとともに、太平洋の島嶼や半島に海兵隊を集中あるいは分散して作戦する弾力性を維持できる。このことは、中国の「接近阻止・領域拒否」への対抗において必須である。今年のコブラ・ゴールド演習は、タイと米国との2国間安全保障協力を方向付ける意味合いを持っている。今後数年間、コブラ・ゴールドの舞台は冷戦時代の様相を想定したものに変わるだろう。
記事参照:Cobra Gold 2020: America’s Strategic Shift in Southeast Asia

3月8日「南シナ海問題におけるASEANの結束を弱める可能性―台湾政治学者論説」(Asia Times, March 8, 2020)

 3月8日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、台湾のNational Chengchi University研究員Richard Heydarianの“Three-way fray spells toil and trouble in South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは南シナ海における最近のマレーシア、ベトナム、中国の3ヵ国による対立が深まっていることに言及し、その含意について要旨以下のとおり論じている。
(1) ここ最近、南シナ海における領有権や資源の利用をめぐって、マレーシア、ベトナム、中国の対立が、あまり公にはなっていないものの熱を帯びている。対立の引き金を引いたのはマレーシアであった。
(2) 米シンクタンクCSISのプログラムのひとつAsia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)によれば、マレーシアは昨年12月、同国の国有エネルギー企業Petronasと契約したイギリスの掘削船West Capellaを、マレーシア(ボルネオ島)とベトナムの中間に位置する「共同特定地域(Joint Defined Area)」付近に派遣した。この海域は、両国がそこで単独の行動を起こしてはならないことで合意された海域である。またそこは、中国が自国の主権を主張する九段線の内側に位置する。
(3) これは当時の首相Mahathir Mohamadによって実施されたものであり、南シナ海問題に関するその強硬な姿勢を示した政策のひとつであった。2009年に両国は共同で大陸棚拡張に関する提案書を国連に提出したが、今回の行動はそのときの「共同特定地域」に関する合意に反しているように思われる。マレーシアは2019年にさらに大陸棚拡張を国連に申し出ており、中国やベトナムが権利を主張する海域へとその大陸棚拡張を目指していた。
(4) マレーシアによるWest Capella派遣に対して、中国とベトナムは、海警船や民兵の船団を派遣することで応じた。たとえば中国海警総隊は「モンスター」と呼ばれる4000トンの海警5305を配備している。それに対してマレーシアも、West Capellaの活動保護のために、海軍や海上法執行機関の艦船・船舶を配備することで、緊張を強めている。
(5) 中国はマレーシアへの圧力を強めるために、ボルネオ島のマレーシア領サラワク州沖合のルコニア礁において海警船の活動を強化し、さらにマレーシアの石油・ガス開発区画SK408におけるエネルギー開発計画に対して威嚇を行うようになった。2月末の段階で、この3ヵ国の対立が軟化する、ないし解決される兆候は何もない。AMTIによれば中国の船舶などは危険なほどに「ウエストカペラ」の活動区域に接近しており、昨年生じたような船舶同士の衝突の可能性もあるという。
(6) マレーシアの行動の大きな問題は、ASEANの結束を弱めたことである。南シナ海をめぐってはマレーシアやベトナムだけでなくフィリピンやブルネイ、インドネシアなどが中国との対立を深めてきた。ASEANはこの問題に対して結束して中国にあたるべきであったが、今回の対立は、外交的非難の応酬などを伴わないにしても、構築すべき結束を弱めてしまったのである。
(7) 2020年のASEAN議長国はベトナムであるが、今回の問題はASEANにおける議題として提起されていない。ベトナムが前回議長国であった2010年は、南シナ海問題に米国が参入することで、中国の膨張主義を抑制する方向に向かっていた。しかし今回の問題は、ASEAN全体としての利害よりも個々の国々の利害が重要であることを示唆するものであり、その点において今後の南シナ海の動向にとって決定的な重要性を持つように思われる。
記事参照:Three-way fray spells toil and trouble in South China Sea

3月9 日「インド太平洋の将来動向、共存か戦争か―豪専門家論説」(The Strategist, March 9, 2020)

 3月9日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy Institute のウエブサイトThe Strategist は、同シンクタンクのジャーナリストフェローGraeme Dobellの “Coexistence or war in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでDobellはAustralian National UniversityのRory Medcalf教授の新刊書を取り上げ、インド太平洋の将来動向について、要旨以下のように述べている。
(1) Australian National UniversityのRory Medcalf教授は、新刊の自書、Contest for the Indo-Pacific: why China won’t map the future (March 2020) の末尾で、以下のように述べている。「将来の方向は、紛争と降伏の間に図示することができる。未来は、単に権威主義的な中国の、あるいは予測不能で自己中心的な米国の手中にあるわけではない。結局、『インド太平洋』は、地域概念―共同の行動の象徴―であり、理念―相互扶助を伴った自助―でもある。もしあらゆる物事が悪い方向に動くなら、『インド太平洋』は、1945年以来初めて全面的で悲惨な戦争の場となるかもしれない。しかし、もし未来が安全であり得るならば、『インド太平洋』は、かつての航海者が想像もできなかったような形で、再び連結された世界の中心における共有の場として繁栄することができる。」Medcalf はインド太平洋はどの国にとっても一国支配にはあまりにも広大で複雑な地域であるが故に「インド太平洋の単独支配を試みるあらゆる帝国には、『傲慢、反動そして再均衡化』といった現象が付きまとうように思われる」とし、「多極化、団結そして戦略的忍耐への覚悟といったものに基づいて構築されるインド太平洋が戦争の悲惨を回避することができよう」と指摘している。他方、豪シンクタンクThe Australian Institute of International AffairsのAllan Gyngell会長の近著、Fear of abandonment: Australia in the world since 1942 (April 2017) は、オーストラリア外交の用心深い心情を論じている。The Strategic and Defence Studies Centre of the Australian National UniversityのHugh White名誉教授の近著、How to defend Australia (July 2019) は、豪国防軍の大規模な再編とともに、オーストラリア外交の劇的な再考を求めている。
(2) この3年間におけるこうした重要な著作は、それぞれに明確な差異があるが、インド太平洋における、米国の決意、中国の狙い、そしてその予測し得る将来方向を熟考する時代の要請に応えたものである。Medcalf は、新たに概念化された地域が直面する危険要素を記述することによって、この地域が何を達成すべきかを検討している。Medcalf は、インド太平洋が未だ総力戦の可能性が高い地域とは言えないが、軍事的均衡状態も平常には働いていないと見て、インド太平洋は「核抑止と危険の巨大な爆心地であり、『第2次核時代』の震源地となってきた」と指摘している。この地域の安全保障の妥当な将来見通しは「恒常的な威嚇状態」―そこでは、核戦争の影が紛争を抑制させるが、より低い次元の、だが危険なレベルにまで紛争を悪化させる―である。Medcalf が指摘するように、「平和とハルマゲドンの間にある先行き不透明な海洋において、核兵器が中国を抑止する唯一の柱になるとすれば、この抗争は負けである。」
(3) Medcalfによれば、米中の抗争において、時間は自動的に北京有利にはならない。Medcalfは、中国のパワーが「既にピークに達した」と見て、(インド太平洋の)将来を左右し、あるいは構築する中国の能力を制約する要因として、以下の4点を挙げている。
a. 第1に、「一帯一路構想」に具現される中国のインド太平洋とユーラシア大陸における野心は、北京にとって危険な趨勢を示していることである。Medcalfは、「巻き戻しが生じており、その多くは不可避である」と指摘している。
b. 第2に、インド太平洋の多くの国はより豊かに、そして強力になりつつあることである。Medcalfは、「域内における相対的な中国のパワーが、再び強大になることは決してないかもしれない」と指摘している。
c. 第3に、米国のパワーは低下しているかもしれないが、没落にはほど遠い状況にあるということである。米国は、域内の支配を目指すというよりも、中国パワーとの均衡を維持するために他国と協同できる。
d. 第4に、債務問題、人口趨勢、環境ストレス、不平感そして最近のコロナウイルス危機といった、中国国内の諸問題は、中国の「帝国の過剰な拡大」(‘imperial over-stretch’)に対する外部からの重圧を悪化させ、複雑化させることにかねないことである。
(4) 予測し得る将来において、中国との全面的な協力が非現実的であるとすれば、Medcalfは、我々は対決を回避し、「抗争的共存」に向かって方向転換していく必要がある、と言う。Medcalf が挙げる、中国との均衡を維持したインド太平洋を構築するためのツールは開発、抑止そして外交であり、そしてこれらのツールを下支えするのは団結力と強靱姓である。例え米国が主導的役割を果たすことができない、あるいは果たす意志がないとしても、この地域における米国の役割―投資、貿易、同盟体制、技術力、そして安全保障の提供者―は不可欠である。同様に、「中級国家」の活力と行動も不可欠である。Medcalf は、日本、インド、インドネシア、ベトナム、韓国及びオーストラリアに、より大きな役割を期待している。2040年代までに、日本、インド及びインドネシアのGDP、軍事費そして人口の総計が、中国を上回ると予想される。これに1国か2国を加えるだけでも、これら諸国が特にインド太平洋の戦略的な海域の大部分に跨がるという地政学的な利点を考えれば、これは強力な国家連合となろう。中国は、例えリスクと伴うとしても、新たな地域秩序を追求して行くであろう。故に、(我々の)任務は、中国による支配、あるいは中国秩序の構築を阻止することである。Medcalf が思い描く、新しいインド太平洋は、中国に対する巻き戻し、台頭する域内の他の諸国の力、そして米国の忍耐力によって構築されることになろう。多くの国が共に並び立つ、多極化されたインド太平洋がMedcalf の思い描くビジョンである。
記事参照:Coexistence or war in the Indo-Pacific

3月9日「シー・ディナイアルへと転換する印海軍―印専門家論説」(The Diplomat.com, March 9, 2020)

 3月9日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのシンクタンクTakshashila Institutionのresearch analystであるSuyash Desaiの“India’s Approach to the Indian Ocean Region: From Sea Control to Sea Denial”と題する論説を掲載し、ここでDesaiは予算の制約を考慮すると、印海軍のアプローチはシー・コントロールからシー・ディナイアルに変更すべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) インドのBipin Rawat統合参謀総長は2月、インドは3隻目の空母よりも潜水艦を優先すると発表した。「そこに空母が2隻あることが分かっており、潜水艦部隊が縮小しているのであれば潜水艦を優先すべきである」とRatwarは述べた。それは、おそらくインド洋地域に対するシー・コントロールからシー・ディナイアルへのアプローチという本当に必要な転換を示唆している。
(2) 印海軍は、「合理的に安全な環境の中で海を利用する能力」を意味するシー・コントロール戦略を信頼している。印海軍のドクトリンでは、シー・コントロールは限定された海域を、限定された期間、限定された目的のために使用し、そして、同時に敵が海を使用することを拒否する能力であると定義されている。この公文書自体は、部隊ごとのどのようなコントロールも空間と時間に限定され、敵の攻撃からの保護を保証するものではないとしている。シー・コントロールは大きな資本を必要とする艦船、固定翼機、ヘリコプター及び水陸両用能力を組み合わせて行使される。これには費用がかかり、継続的な近代化が必要である。
(3) 対照的にシー・ディナイアル戦略とは一定期間、ある海域の敵の使用を拒否することである。それはシー・コントロールの一部であり、敵の航行のための自由を制限することで敵の戦争遂行能力を低下させるために攻撃的に使用される可能性がある。潜水艦は、水上艦、ヘリコプター及び地対艦ミサイルと組み合わせて、シー・ディナイアルを行使するための最適な手段である。
(4) 中国の2015年の国防白書は、近海防衛から遠海護衛へとアプローチの転換を求めた。中国はそのエネルギー輸入とインド洋地域を通過する貿易の流れを海上交通路に依存している。したがって、インド洋地域の確保はその中心的な目標の中で突出して重要である。海外での利益を守るために、中国はすでにより多くの航続距離の長い艦艇や戦略的な航空機を就役させており、2017 年にはジブチに海外軍事前哨基地を設置した。将来、さらにこのような前哨基地がパキスタン、カンボジア及びミャンマーに出現する可能性がある。インドの利益は中国の海軍近代化とインド洋地域への進出の増加によって直接影響を受けている。
(5) インドの海軍近代化は、国防予算の縮小により後回しにされている。予算に占める海軍の割合は、2012 年の 18%から、2019-20 年には 13%に減少した。資金不足のため200隻の要求は175隻に引き下げられている。そのため、海軍がこの地域のリスク評価に基づいて優先順位をつけて調達を行うことが極めて重要である。潜水艦は、シー・ディナイアルのために最も必要不可欠な手段の1つであり、敵を苦しめ、疲弊させるための手段である。現在、インドにはわずか17 隻の潜水艦しかない。今後の展望としては、より多くのシー・ディナイアルのためのツールや水中ステルス艦を開発するため、この機会を利用する必要がある。統合参謀総長の声明は、インドの潜水艦近代化計画を軌道に再び戻すための良い出発点とすべきである。
記事参照:India’s Approach to the Indian Ocean Region: From Sea Control to Sea Denial

3月10日「米比関係悪化と中国のフィリピン浸透ミッションの実態・解明は進むが、実質的措置は?―香港デジタル紙コラムニスト論説」(Asia Times.com, March 10, 2020)

 3月10日付の香港のデジタル紙Asia Timesは同紙コラムニストJason Castanedaの ”China quietly filling US vacuum in the Philippines”と題する論説を掲載し、ここでCastanedaは比大統領Rodrigo Duterte が米比関係の重要な戦略協定を取り消したことで中国の比国内への浸透の道を拡げ、その実態についてフィリピン国内の批判が出ていく過程の解明が進んでいるがDuterute政権が強固な措置を施行するかは懐疑的であるとして要旨以下のように述べている。
(1) 比大統領Dutereteは、2020年2月11日、米比訪問軍地位協定の廃棄を決定した。同協定は比国内の軍事基地への米軍の定期的利用やそのための施設整備を根拠づけるものだった。しかし、Duterete大統領が、失効期限を迎えた同協定を延長しない決定をしたことにより中国人民解放軍(以下、PLAと言う)は、米国の力の空白を埋めるように比国内での戦略的立場を強化している。
(2) 比上院議員Richard Gordonによると、まだ初期段階の捜査結果に過ぎないが、在比中
国籍住民によるこれまで確認された不法行為はスパイ活動や監視行為からマネー・ロンダリングにまで及んでいる。その証拠に、捜査は首都に所在する比海空軍司令部等の軍の駐屯地や戦略基地近辺をクラスターとしたPhilippine Offshore Gaming Operations(抄訳者注:Philippines Entertainment and Gaming Operationが発行するライセンスによりオンラインゲーム、オンラインカジノを運営する比企業。以下、POGOsと言う) として知られる急成長中のオンラインカジノ企業で働く数十万以上の中国人労働者が調査対象となっている。さらに、Gordon上院議員の主張ではPOGOsはPOGOs 雇用ライセンスカードを携帯したPLA要員の諜報活動やその他の活動の浸透を助長している。この主張を正当化するように、2020年2月、マニラ市内の銃撃事件でPOGOs 雇用ライセンスカードを携帯したPLA要員2名が逮捕された。上院調査はフィリピン国内に不法ないし秘密裡に居住する2,000-3,000人のPLA兵士らが市井の中国市民として加担する汚職や陰謀の実体網を発見していると言う。
(3) PLAのフィリピン国内への浸透を助長する方法として、通称”Pastillas” scheme (パスティージャの箱)の存在がある。この方法は、Philippine Bureau of Immigrationの内報者によって明らかにされたもので、中国国籍者は補助費の名目で10,000ペソ(200米ドル)を支払い、特殊待遇でフィリピン国内に入国しているという。上院調査はこれをPLA要員による中国の「潜入ミッション」の方法と断定している。
(4) フィリピン市民は、2020年1月から地球規模で死者を出し続けているコロナウイルスの勃発の端緒となった中国籍の人々の渡航禁止措置を遅れさせたDuterte政府がPOGOsの存在を急激に拡大させていると怒りを抱いている。多数のフィリピン市民は、北京政府が湖北省を隔離した後でさえ、フィリピンの強欲な高官らは、POGOsと目下のコロナウィルスの震源地となった武漢を含む数千の中国人の不法移民労働者の受け入れで富を得ていると確信している。
(5) Committee on National Defense and Security委員長で元警察署長であった上院議員Panfilo Lacsonは、比国家安全保障機関からPOGOs労働者と偽った中国人スパイとともに、数千にも及ぶ隠密のPLA要員らが「潜入ミッション」に従事しているとの情報を最近受け取ったと語り、「比情報部門は、この件に関する情報収集にさらなる努力を向けるべきだ」と述べている。Lacson上院議員を含む著名な比上院議員らは、Duterute政権による米比訪問軍事協定破棄は米比両国間の1951年相互防衛協定の法的根拠を低下させる動きであり、その動きで生じる新たな、かつ成長中の安全保障の空白を中国が狙っていると警告を発している。同防衛協定に基づき、例年、米比両国は南シナ海の中国の活動への強力なシグナルを狙って模擬の島嶼侵攻を含む演習など数千の2国間軍事活動や演習を実施してきた。Lacson上院議員は、まだ未確証の報告としながらも、その理由は判然となっていないが、PLAメンバーの多くがフィリピン国内各地で「浸透ミッション」に加わっていることは中国の南シナ海活動との関係を裏付けるかもしれないと語り、比警察と情報部門は、PLAが中国政府から独立した組織を利用した活動をしている実態の解明に一刻の猶予もないと警笛を鳴らす。
(6) また、Lacson上院議員によると、2020年2月までの最近5カ月間で、既に47人の中国人個人らが446百億米ドルの不正持ち込み、そこでは、フィリピン政府高官らと取引した中国系マネー・ロンダーたちの関与があると主張する。さらに、Duterute大統領の長年の盟友であるGordon 上院議員は、中国の安全保障力の潜在的な“第5列”侵攻の手段として大規模なマネー・ロンダリングに警戒を促し、メディアによる北京に友好的な政府がそうした脅威の拡大に部分的に貢献しているとの報告に対し「我慢の時だ。その『脅威』がどこから来るか私は知らない」と語った。他方で上院少数派リーダーであるFranklin Drilonは、これらの元凶のすべては、我が国のOffshore Gaming Operations を認める政策決定をしたDuterute政権にあると直截な批判を強め「POGOsがなければ、(PLAによる)こうした不埒な活動のすべてになんの目的もないだろう」と述べた。実際、組織的な中国のスパイ活動の恐怖は、2019年に発覚したネット市民が中国系POGOsへ疑わしい接近をしたことでマニラの安保や法執行当局へイメージが伝わった。
(7) フィリピン国防・インテリジェンス関係の有力な上院議員らや国防・警察関係の担当者らは、PLA要員のフィリピン国内での諜報やスパイ活動を問題視し、その恐怖を繰り返し主張しているが、中国に友好的なDuterte政権がなんらかの強固な措置を施行するかは不明だ。大統領報道官Salvador Paneloは、いかなる出所であれ中国関連マネーは我が国政府にとってなんにでも使える資金源であるとのDuterte大統領の見解を語った。
記事参照:China quietly filling US vacuum in the Philippines

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) China’s Bid for Maritime Primacy in an Era of Total Competition
http://cimsec.org/chinas-bid-for-maritime-primacy-in-an-era-of-total-competition/43146
Center for International Maritime Security, March 2, 2020
By Dr. Patrick M. Cronin, Senior Fellow and Chair for Asia-Pacific Security at Hudson Institute
3月2日、米保守系シンクタンクHudson Institute のPatrick M. Cronin主任研究員は、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウェブサイトに、" CHINA’S BID FOR MARITIME PRIMACY IN AN ERA OF TOTAL COMPETITION "と題する論説を発表した。ここでCroninは、この10年間で米海軍は太平洋における最も強力な海上プレゼンスとしての地位を失うかもしれないとし、中国は、西太平洋に対する米国の兵力投射能力に挑戦することを決意しており、中国は米国の能力を弱めることで自国の軍事力を使って小国に主権と拘束力のある条約上の約束の履行を譲歩させようとしていると指摘した上で、この地域の陸と海の支配者になろうとする北京の野望を拒絶するには、米国にはこれまでの海軍力以上のものが要求されるとし、特に中国の海洋覇権獲得を否定するためには第四次産業革命の展開に加え、中国政府の問題ある行動の本質を理解した包括的な戦略が必要となるだろうと論じている。
 
(2) Southeast Asia’s Hopes and Fears about China
https://www.iseas.edu.sg//wp-content/uploads/2020/02/ISEAS_Perspective_2020_12.pdf
Yusof Ishak Institute (ISEAS), March 2, 2020
Choi Shing Kwok, Director of ISEAS – Yusof Ishak Institute
3月2日、シンガポールYUSOF ISHAK INSTITUTE(旧ISEAS)のディレクターであるChoi Shing Kwokは、同シンクタンクのウェブサイトに、" Southeast Asia’s Hopes and Fears about China "と題する論説を発表した。その中でKwokは、今年1月に公表されたISEASによる最新の『東南アジア情勢調査』 の結果によると、中国は圧倒的に東南アジアのエリート層から同地域で最大の経済的影響力を持つと見られていると指摘する一方、中国の経済的重要性を認識している回答者の多くは、中国の経済的重要性に不安を感じており、この地域で中国が署名した一帯一路関連の経済協力案件の受益国でさえ、それが彼らにとって公正な取引になるかどうか確信が持てないでいると主張している。さらに、Choiはこのような警戒心の背景には、中国が取引相手国との共通利益のために行動しようとする姿勢をとるかどうか確信を持てないからであり、その代わり、この地域の国々は、他の国々、すなわちEU、日本、そしてより限定的な範囲ではあるが米国にこの分野でのリーダーシップを期待していると指摘する。他方、中国にはこうした地域の懸念に対処する時間と余裕があるため、多くの人々は、結局は中国との関係が強化されると信じており、今次調査結果は、地域の国々にとって中国との関係は引き続き開放的で現実的であることを示唆していると主張している。
 
(3) Ignorance of China is Not Bliss
http://cimsec.org/ignorance-of-china-is-not-bliss/43070
Center for International Maritime Security, March 4, 2020
By Captain Brent Ramsey (ret.) served 30 years in the Navy and currently serves as Senior Advisor, Center for International Maritime Security
米シンクタンクCenter for International Maritime Securityの上級顧問である米海軍退役大佐Brent Ramseyは、3月4日付の同シンクタンクのサイトに“Ignorance of China is not bliss”と題する論説を寄稿した。ここでRamseyは、①中国は全ての軍事力を近代化しているが、中国海軍は現在、中国海警を直接指揮しており、現在その艦艇数はインド太平洋における米国の艦艇数を約10対1で上回っている、②中国は現在、米国との戦争以外のあらゆるシナリオにおいて南シナ海をコントロールできるようになっている、③中国に対抗するためには、より多くの艦艇をこの地域に配備することが米海軍には急務である、④しかし米海軍は「航行の自由」を確保し、中国の攻撃的振る舞いを制限するのに十分な規模ではなくなっていることを認めている、⑤現政権と議会は355隻の必要性を認識しているが、海軍は現在295隻しか就役しておらず、Heritage Foundationは400隻の艦艇が必要だと立証している、⑥現代の軍艦は建造に長い時間を要するが、ソ連崩壊後、米国の造船業は恐ろしく衰退しており、労働力の増加や大規模な設備投資が必要となる、⑦一般の米国市民は、中国がもたらす直接的な脅威を認識していないため、関係者は海軍を支援するための目標を設定し、リスクと潜在的な重要性を市民に知らせる努力をしなければならない、といった主張を行っている。