海洋安全保障情報旬報 2020年2月21日-2月29日

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2月23日「海南島付近に出没するベトナムのスパイ船―香港紙報道」(South China Morning Post, 23 Feb, 2020)

 2月23日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“How Vietnam is using fishing trawlers to keep an eye on China’s military”と題する記事を掲載し、南シナ海においてベトナムのトロール漁船は中国の多くの重要な軍事基地のある海南島近くの中国の領海に頻繁に侵入しているが、その一部は純粋なスパイ船であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の外交専門家によれば、一部には民兵が乗船しているベトナムのトロール漁船が、海南島近くの中国の海域、領海内に繰り返し侵入している。1月19日から30日にかけて、30隻の船が島の南東側、特に三亜と陵水の海岸近くに集まったと、北京大学シンクタンク南海戦略態勢感知計画は、海洋監視に使用される自動船舶識別装置(AIS)のデータを引用して指摘している。三亜は、中国海軍南海艦隊の主要な基地で、空母「山東」の母港であり、空軍は南シナ海へ戦力投射を行うための基地として陵水を使用している。
(2) 中国とベトナムは、資源の豊富な南シナ海で広範囲にわたって権利の主張が重複しているが、海南島に対する中国の主権は争われておらず、このシンクタンクによると、この区域でのベトナムの漁業活動は違法である。中国南海研究院助理研究員である陳相秒は、ベトナムの船舶がこのような違法侵入を年間1万件以上行い、この侵入が少なくとも10年にわたって継続していたと語っている。「私の見解では、それらは漁業資源のためにやって来る。しかし同時に、ベトナムは国際的に多くの注目を集めてはいないが、トロール漁船に海上民兵を乗せていることを認識する必要がある」と陳は指摘している。これらの軍事基地には独自の立入禁止区域があったが、兵站業務、装備の詳細、そして軍艦や航空機の動きなど中国軍に関する情報は依然として遠くから収集できたと彼は述べている。「事実、そこに行くベトナムの船舶の一部は、おそらく単に純粋なスパイ船である。それらはしばしば小さすぎて分散しているため、中国の法執行機関は捕捉して、排除することができない」と陳は述べた。
(3) 北京大学の海洋戦略研究センター主任の胡波は、中国は南シナ海におけるライバルである権利主張国との関係を不安定にしないために武力の行使を控えていると述べた。「しかし、侵入がエスカレートした場合、将来(何が起こるか)を伝えることは難しいだろう」と胡は述べている。
(4) 中国は南シナ海にその海上民兵を展開し、それは注目を集めている多くの事件で米艦艇との対立に関わっている。米海軍作戦部長John Richardsonは、2019年に中国のカウンターパートである海軍司令員沈金龍に、ワシントンは中国の海上民兵を中国海軍と同じように扱うだろうと伝えている。
記事参照:How Vietnam is using fishing trawlers to keep an eye on China’s military

2月24 日「新彊問題と南シナ海、マレーシア中国関係の複雑化要因―マレーシア専門家論説」(East Asia Forum, February 24, 2020)

 2月24日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、マレーシアのUniversity of MalayaのInstitute of China Studies所長Ngeow Chow Bingの“Xinjiang and the South China Sea complicate Malaysia–China relations”と題する論説を掲載し、ここでBingは特に新疆問題がマレーシアと中国との関係を複雑化しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 2018年のマレーシア総選挙における歴史的な勝利を受けて、Mahathirが首相に就任し、前任者の下で進められてきた、大部分が中国融資によるEast Coast Rail Link(以下、ECRLと言う)プロジェクトやその他の幾つかの中国の「一帯一路構想」(以下、BRIと言う)関連プロジェクトを停止した。しかし、2019年になって風向きが変わった。マレーシアは4月に、ECRL プロジェクトは再開されたと発表し、その後も幾つかのプロジェクトが復活した。5月には、Mahathir首相が北京での第2回BRIフォーラムに出席した。2019年には、マレーシアの大臣と副大臣の訪中はおよそ30回に達し、他方次官級レベルの中国代表団のマレーシア訪問は50回を超えた。しかしながら、両国間には関係悪化を招きかねない要因が2つある。
(2) 1つは南シナ海問題である。2019年9月のSaifuddin 外相の訪中で、フィリピンと中国の間の類似のフォーマットをモデルに、2国間協議メカニズムを構築することに合意したと報じられた。中国は以前からマレーシアにこの種のメカニズムに合意するよう強く押してきており、この合意は中国外交の成果とされた。しかしながら、マレーシアのEEZ内において益々増大する中国漁船の活動に触発されて、マレーシアがより強固な姿勢をとることになりかねない兆候もある。マレーシアは2019年12月、国連大陸棚限界委員会に南シナ海係争海域の大陸棚の限界延伸を申請した。中国はこれに直ちに反対した。そしてマレーシア国防省が初めて公表した国防白書は、南シナ海における中国の行動を「侵略的である」と非難した。
(3) もう1つの要因は、新彊における中国政府の政策である。マレーシアにおける中国のイメージは、2019年における両国関係の改善にもかかわらず、特にイスラム教徒が大部分を占めるマレー人の間で悪化してきている。これは、1つには伝えられる新疆におけるウイグル人イスラム教徒に対する人権侵害に対する彼らの怒りによる。中国に「ウイグル人の迫害中止」を求めるイスラム教徒のNGOが組織したデモが在マレーシア中国大使館周辺でしばしば行われている。この問題はマレーシア政府にとって慎重を要する問題である。Mahathir首相は、自ら世界中の虐げられたイスラム教徒の擁護者を任じているが、新彊問題については、中国のあまりに強大なパワーの故に、マレーシアによる如何なる行動も多分徒労に終わるであろうことを認めていた。マレーシア政府は、新彊における動向に関心を持っているが、公然と中国を非難するより、むしろ分別ある行動と「穏健な」アプローチを選択している。政府は、ウイグル人の中国への送還を中止し、公然たる反中運動をしないことを条件に、マレーシア在住ウイグル人の在留を許可した。
(4) 今後数年間、南シナ海問題と新彊問題は、強い経済関係と人的交流を基盤とする、強固なマレーシア中国関係を複雑化すると見られる。このうち、南シナ海問題はそれほど大きな論議を呼ぶことはないであろうが、主権と海洋資源に対する管轄権が絡む複雑な問題であるが故に長引くであろう。他方、新彊問題は、マレーシアの与野党間に感情的な論議を引き起こす可能性がある。それは、現在の野党の指導者がこの問題をどの程度政治問題化することを望むかにかかっている。Mahathir首相の辞任とその前途の政治的不安さの故に、マレーシアと中国との関係の今後の動向については、依然多くの不透明さがある。
記事参照:Xinjiang and the South China Sea complicate Malaysia–China relations

2月24日「ロシアは北極圏を支配するための取組みを強化している―米専門家論評」(The Jamestown Foundation, February 24, 2020)

 2月24日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationのウェブサイトは、同財団のフェローであり、米シンクタンクInternational Center for Policy Studiesの専門家Sergey Sukhankin博士の“Russia Steps up Efforts to Dominate Arctic Region”と題する論説を掲載し、ここでSukhankinはロシアは北極圏を支配するための取組みを強化しており、特に原子力砕氷船の建造計画を進めているとして要旨以下のように報じている。
(1) ロ政府は2020年1月30日に、2035年までに北極圏戦略を導入するための基礎を確立する多くの政策を承認した。北極海地域に対するロシアの大きな期待の中心は北極海航路(以下、NSRと言う)であり、その戦略的重要性は2つの大きな柱を前提としている。その第1はロシアの北海岸沿いの輸送能力を高めることであり、それは中国の一帯一路構想と統合された形で考えられている。現在のNSRの年間輸送量2,600万トンは、2024年までに年間8,000万トン、2035年までには1億6,000万トンを輸送できるようになると予想されている。この野心的な目標を達成するために、ロシアはすでにネネツとチュコトカ自治管区の領土とサハ共和国(ヤクーチア)で84の中規模プロジェクトを計画している。その第2は、炭化水素の大規模な鉱床を含む地域の広大な天然資源の開発である。これは、「すべての石油の80%及びほぼすべてのロシアの天然ガス」である。これらの計算は、国営原子力エネルギー会社であるRosatomが2019年末近くに作成した「2035年までの北極海航路の開発計画」という文書に書かれている。この文書は、ロシア経済と国家安全保障にとってのNSRの戦略的重要性を認めている。計画の重要な要素は、次の措置を通じてロシアの能力を向上させることを前提としている。
a. 北極圏に29隻の新しい小型から中型の船舶を建設して導入
b. 新しい砕氷船4隻の建設
c. 砕氷船に着陸して駐機できる新しいヘリコプターの開発
d. 10,000トンの貨物を輸送し、最大4,000キロメートルのノンストップで移動できる「北極用貨物航空機」の提案
e. 「NSRに沿った途切れることのない衛星接続」の確保
このため、ロシア当局は2024年までに4台のArktika-Mリモートセンシング及び緊急通信衛星を、2025年に3台のResurs-PM衛星と3台のKondor-FKS衛星を配備することを計画している。
(2) これらの計画は、ロシアの主な専門家によって支持されているにもかかわらず、いくつかの批判も集めている。すなわち、Russian Presidential Academy of National Economy and Public Administration教授Vera Smorchkovaは、人的資本の誘致という計画の「社会的」側面における多くの弱点を指摘した。さらに、Accounts Chamber of the Russian Federationは提案された期間内に年間8千万トンの貨物を輸送するためにNSRを拡張できることには疑念を持っている。これらの計画の経済的イニシアチブは、ロ政府によって推進されているが、実際にはロシアの砕氷船建設計画の後塵を拝している。具体的には、ロシアはRosatom社との契約の下、2027年に完成予定の原子力砕氷船を推進することを決意している。ロシアの情報源によると、この型の砕氷船は「(北極圏の)輸送能力を質的に新しいレベルに引き上げる」。さらに、主に炭化水素の輸送を目的とするこの砕氷船は、民間船としても軍艦としても航行できる。これは、次の技術的特性により可能になる。
a. 年中無休の運用能力(130人の男性を乗せて8か月以上連続して運航する能力)。
b. 厚さ2メートルまでのさまざまな形の氷を克服する能力。
c. ヘリコプターと「特殊な軍需品と武器」のためのスペースを持つなど新しい技術的解決
d. 最も困難な気候条件でも安定した航海を確保する最新の無線電子機器の装備。
特に砕氷船に搭載兵器を装備する能力は注目に値する。北極圏におけるロシアの戦略的支配を確保するために「軍事砕氷船」を使用するというアイデアは、ロ政府の軍事戦略において以前にも見られた。ロシアの情報筋によると、この砕氷船には新しいミサイル防衛システム、無線電子防御システム、艦載対空兵器システムが装備される。同時に、この砕氷船には3M22 Tsirkon対空超音速巡航ミサイルを装備できるが、見通しはかなり遠い。ロシアは、民間船と軍艦の機能を組み合わせた船舶を生産する能力を持っている。それは現在、西側海軍が持っていない能力である。
(3) ロシアは、北極圏の将来はこの「軍事砕氷船」に依存しているという強い決意を繰り返し表明している。Krylov State Research CenterのCEOであるValery Poliakovは、どのような武器や装備を「軍事砕氷船」に装備するかという決定は、主にこの船が行動する北極圏の地域での氷の厚さの変化によると述べている。北極圏開発の最新の段階について、ロシアは現在、現実よりも仮想的な戦略を作っている。ロシアは北極圏戦略が単なるレトリックや水増しされた脅威評価以上のものであると主張する前に、安全保障、経済、社会開発、外交の面で統合された北極圏に関する政策の全体像を提示し、それを実施しなければならない。
記事参照:Russia Steps up Efforts to Dominate Arctic Region

2月24日「北極圏重油利用禁止に向けた新たな動きとその問題点――米北極圏問題専門家論説」(High North News, February 24, 2020)

 2月24日付のノルウェー国立Nord UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News電子版は、米シンクタンクArctic Instituteの上級研究員Malte Humpertの“IMO Moves Forward with Ban of Arctic HFO But Exempts Some Vessels Until 2029”と題する論説を掲載し、ここでMalte Humpertは国際海事機関による北極圏での重油利用禁止に向けた新たな動きに言及し、その内容および問題点について要旨以下のとおり述べている。
(1) 2月半ば、国際海事機関(以下、IMOと言う)の汚染防止・対応に関する小委員会は、2024年半ばまでに、北極圏内での航行における重油(以下、HFOと言う)の利用および運搬を禁止することを提案した素案文書を採択した。HFOは海洋燃料としては最も環境にとってリスクのある燃料であり、ここ10年、南極周辺海域においてはその利用は禁止されてきた。
(2) これまで北極圏における重油利用禁止に反対してきたカナダは、2月18日にその反対を撤回すると発表した。これで反対する北極圏国家はロシアだけになった。上述した規制案には、規制に対するロシアの支持をとりつけるための決定的な譲歩が含まれていた。それは、ある国の船籍の船舶はその国の海域であれば、2029年7月1日まで重油利用・運搬船舶であっても航行可能というものである。これは実質的に、今後約10年の間、ロシアがロシア北岸の北極海航路で重油を利用・運搬し続けることができることを意味する。
(3) 近年北極海航路の通行量は急激に増大しており、したがってこの留保案が意味するところは大きい。たとえば環境保護団体の連合組織であるClean Arctic Allianceは、このたびのIMOの決定が環境保護にとって幾分の前進であることを認めるものの、その「抜け穴」の大きさを非難し、「もっての外」だと訴えた。北極海航路の通行量はここ10年で約10倍に増えており、また、そのほとんどが、北極海航路をその領海とするロシアの船籍である。
(4) この規制草案にはもうひとつの抜け穴があり、それは、ダブルハル(抄訳者注:船体の外殻が二重となっている構造であり流出油防止を考慮したもの)構造の船舶に関しても、2029年7月1日までHFOの利用および運搬を認めているということである。ダブルハル構造の船舶は今後も増えていく(1996年以降建造のタンカーはダブルハルとすることが定められている)ため、今後10年間はなお北極圏の環境リスクは高まっていくことになる。
(5) こうした抜け穴に加え、2024年までは北極圏環境保護のための追加措置がとられていないことも、環境保護団体にとっては問題である。2015年の段階で北極圏を通行した全船舶は83万トン以上のHFOを運搬したが、それは2012年の倍であり、今後もその数字は増えていくだろう。
(6) もうひとつの問題がある。それは、ブラックカーボン排出の問題である。IMOの規制草案は重油の代わりに低硫黄燃料油の利用を推奨しているが、近年の調査は、それが多くのブラックカーボン排出につながることを明らかにしている。ブラックカーボンは気候変動に大きな影響を与える物質と考えられており、HFOとは別の環境リスクをもたらす可能性がある。
記事参照:IMO Moves Forward with Ban of Arctic HFO But Exempts Some Vessels Until 2029

2月25日「中国の北極での活動を理解する-英専門家論説」(IISS, Blog, February 25, 2020)

 2月25日付の英シンクタンクInternational Institute for Strategic Studiesのウエブサイト(Blog)は同所Defence and Military Analysis Programmeの准研究員Marisa R. Linoの“Understanding China’s Arctic activities”と題する論説を掲載し、ここでLinoは「米国と欧州諸国は中国の北極進出の意味を理解し、長期に亘る対応に入った」として要旨以下のように述べている。
(1) 中国は気候変動によってもたらされる経済的機会を期して極北での活動を強めている。それがどのような戦略的意味合いを持ち、中国はどのような軍事的な力を得るのであろうか?中国は2018年1月に「北極戦略」を発表した。その中で、中国は自国を「北極近傍国家」と表現し、「氷上シルクロード」経済構想を示した。これに対し、米国当局者は中国は北極圏から1,844マイル(3,000km)も離れており「ばかげている」と述べて一蹴した。それでも中国による長期戦略的な北極における活動は経済と軍事の両面で懸念を呼ぶものとなっている。最近、上海で開催された貿易見本市において氷海仕様のLNGタンカーが展示されていた。軍事的には、2016年から極地対応艦艇の建造が政策目標として挙げられている。中国にとって北極海航路の定期的利用は経済的利益をもたらす。北極海を通れば上海からドイツの港までの距離はスエズ運河を経由するよりも4,600km以上短縮される。
(2) 中国は2013年に北極評議会のオブザーバー国となった。2019年5月、ニューヨーク・タイムズ紙が「中国はほぼ全ての北極プロジェクトに多額の投資を行っている」と報じた。ロシア・ヤマル半島の永久凍土の下からエネルギー源を採掘するために数十億ドルを投資し、氷海対応LNGタンカー建造のための中国とロシアによる合弁会社の立ち上げを主宰するなどしている。北極の温暖化と北極海航路の開通は、漁業、鉱業、石油、海運などの新しい分野において中国の関心を刺激している。US Geological Survey (米国地質調査局)は、北極には世界の推定値の約13%に相当する約900億バレルの未発見石油と未発見天然ガスの30%を埋蔵すると推定している。中国は、砕氷調査船2隻とアイスランドとノルウェーでの研究ステーション建設を北極戦略の大きな事業として取り上げている。中国が北極への関心を深め活動能力を拡大しつつあることに対し、米国を含む北極圏諸国は注意を払ってきた。デンマークは中国によるグリーンランドへ関心に公然と懸念を表明している。中国はグリーンランドに対し、研究ステーションと衛星地上局を設置することや、空港の改装、鉱物資源探査の拡大を提案するなどアプローチを続けてきた。中国はまた、スウェーデンやフィンランドに「氷上シルクロード」構想の一環としての投資を促進している。
(3) デンマークは2016年、中国によるグリーンランドの旧軍事基地購入を阻止した。その背景には米国の支援もあった。米国はデンマークに対して、米国が中国に代わって旧軍事基地における軍民共用の国際空港建設を支援すると申し出、デンマークはこれを受け入れた。中国による港湾や施設への投資事業がもたらすリスク観は全欧に浸透しつつある。2019年3月、欧州連合は中国を「戦略的ライバル」であると正式に表明した。北極での中国の活動に対する米国の反応は奥ゆかしいものであったが、2019年5月の北極評議会会議でMike Pompeo国務長官が中国を名指しで批判した。NATO は、2018年の首脳会議でバージニア州ノーフォークに北大西洋を担当する新しい統合軍司令部を置くことに合意した。同時に、米国は第2艦隊を復活させた。米第2艦隊の目的は、北大西洋と北極海における米国の利益を守ることにある。米海軍の「北極戦略概観」(2019年1月)は「北極における米国の戦略的影響力を維持する」ことを示しており、数十年ぶりに北極海でいくつかの演習が実施された。Nimitz級空母USS Harry S. Trumanを含む米空母打撃群は1991年以来となる北極圏での活動に従事し、引き続きNATO演習にも参加した。北極で中国とのバランスを図るための米国と欧州との努力は、これからが正念場となる。
記事参照:Understanding China’s Arctic activities

2月25日「比海軍の対潜戦能力に再び注目―デジタル誌報道」(The Diplomat, February 25, 2020)

 2月25日付のデジタル誌The Diplomatは、“Philippines Anti-Submarine Warfare Capabilities in the Headlines With Training”と題する記事を掲載し、比軍が対潜ヘリコプターを導入したことに伴い、同海軍の対潜能力が再び注目されているとして要旨以下のように報じている。
(1) 実施中の対潜訓練に関し、2月17日の週に行われた比海軍司令官のコメントによって対潜戦を比軍事力全体へと統合していくとともに最近調達した能力の開発に向けての東南アジア諸国の努力に再び注目を集めることとなった。Duterte大統領の下における比軍近代化は変革の中で継続しており、特筆すべき進展の1つがAW-159対潜ヘリコプターの導入である。これにより、フィリピンはこれまで欠落していた航空対潜戦能力を得ることになった。AW-159の導入によって、焦点はフィリピンが同機を独自にどのように運用するか、軍事力の全体との関係の中でどのように運用するかに移ってきている。
(2) 対潜訓練はまる1年に亘って実施され、AW-159対潜ヘリコプターの配置および潜水艦の探知、追尾の細部について適切な知識を持った人員を配員するよう計画されている。AW-159のパイロットの飛行訓練は英国のヨーヴィルで2019年に実施され、対潜ヘリコプターの主要装備品である吊下式ソナーを含む各種捜索システムの操作法に関する訓練も含まれていた。
(3) 比海軍司令官は。対潜訓練が比軍のより広範な能力にどのように統合されて行くのかの詳細は明らかにしなかった。しかし、司令官は2隻のフリゲートが到着すれば、AW-159対潜ヘリコプターと対潜チームを構成し、対潜戦における運動と潜水艦の探知訓練を円滑にすると述べている。確かに、これら全てがどのように現実となるのかは明らかでない部分が多い。しかし、対潜ヘリコプターがフィリピンにとって重要であることおよびその潜在的な意味合いを考えれば、これからの何ヶ月あるいは何年かの間、注視し続けるべき1つの要素であり続けるだろう。
記事参照:Philippines Anti-Submarine Warfare Capabilities in the Headlines With Training

2月26日「海を取り戻す:米海軍水上部隊の攻撃力強化―豪専門家論説」(The Strategist, 26 Feb 2020)

 2月26日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategist は、The Australia National University, Strategic and Defence Studies Centre 兼任教授でRAN’s Sea Power Centre 研究員James Goldrick の“‘Taking back the seas’: boosting the lethality of naval surface forces”と題する論説を掲載し、ここでGoldrick はワシントンのシンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Analysis(CSBA)の報告書について論評しつつ、同報告書が指摘するように無人艦艇の運用構想については、平時に有人運用し、戦時には無人運用も可能というオプションが基本であるべきとして要旨以下のように述べている。
(1) ワシントンのシンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Analysisは最近、米海軍水上部隊の整備計画に関する評価を発表した。「海を取り戻す」という水上部隊のネットワークセントリックウォーフェアー(NCW)(抄訳者注:「ネットワーク中心の戦い」と呼ばれるコンピューターネットワーク化の推進により指揮官の意思決定の迅速化を図るコンセプト。原文及び元記事であるCSBAの報告書においてはDecision-centric warfareと表記されているが、ほぼ同旨の内容と思われることから本抄訳ではより一般化しているNCWを訳語として充てる)化は海軍における議論の進展に重要な貢献をしている。この報告書は米海軍の整備計画の大きな方向性を是認しているが、いくつかの修正も提案している。その一部は急激に変化する技術環境において同盟国海軍にも影響する可能性がある。
(2) CSBAの報告書中、同盟国海軍に特に関連するのは海上における長距離攻撃能力と対艦兵器の増加という問題である。水上部隊は攻撃力強化と同時に自身の防御に過集中しないようにする必要があり、このため米海軍は水上プラットフォームの数と攻撃力強化の双方を追求する計画を立てている。それはプラットフォーム周辺に十分な数の長距離攻撃武器を配置することによって敵の対応を複雑にさせるということであるが、問題は巡洋艦、駆逐艦またはフリゲート艦では十分な数のミサイルを海上に配備できないということである。これらの艦艇は高価で十分な量を生産できないため、安価な代替武器キャリアを提供する必要がある。
(3) 米海軍は大型無人水上艦船(LUSV)を提案している。これは比較的簡単な構造で建造されるバッテリー駆動の浮上ユニットで、センサー、通信、戦闘指揮機能を備え、 必要な場合には所要の海域に武器システムを展開可能である。比較的安価なこうした攻撃力強化は米海軍の「分散型海上戦闘」概念の中でも特に興味深いアイディアの1つである。しかし、これらは必要に応じて無人化できる艦艇ではなく無人ユニットとして計画されているため、その使用は高強度の紛争に限定される。弱小海軍にはそのようなシステムを導入する余裕はないが、そのことは米海軍にとっても同様である。
(4) CSBA報告書における最も重要な提案は、無人運用を基本としたLUSVへのオプションとしての乗員配置ではなく、無人運用のオプションを備えた艦艇の運用ということである。 報告書が提示するコルベット(DDC)には2つの重要な利点がある。 第一に、高強度紛争では人間の適応性と柔軟性が依然として重要であり、 第二に、同報告書が指摘するとおり、実際には戦闘以外の任務対応の方が多いという点である。2,000トン級のLUSVとDDCはいずれも豪海軍の新型外洋哨戒艇より大型であるが、2,000トンというサイズは戦争以外の状況下で多くのタスクを効果的に遂行可能である。DDCはプレゼンス任務ないしは海上法執行活動において主要水上戦闘艦艇より、はるかに費用効果が高く適合性がある。例えば、Arleigh Burke級ミサイル駆逐艦は、米海軍水上部隊が中部及び南部太平洋の漁業保護活動を実施するオセアニア海上安全保障イニシアチブなどの活動に適したものではなかった。
(5) もっとも、この報告書では米海軍の主要水上戦闘艦艇を削減し、多くのDDCとさらに多くの小型無人艦艇部隊を整備すべきと主張されているが、この点は必ずしも豪英海軍に適合する訳ではない。現在装備されている高機能な艦艇はやはり必要である。ただし、このアイディアは水上艦艇部隊が攻撃力を高める一つの方法も提供している。すなわち、新たなプラットフォームに充当する資金をミサイルの調達に利用できるということで、次世代の外洋型哨戒艇は、これまでとは非常に異なったタイプとなるのかもしれない。
(6) なお、核搭載プラットフォームは無人であるよりも有人ユニットであることが望ましいというこの報告書の指摘は妥当である。例えば、当該核搭載無人ユニットが敵に奪取されるのをどのように防ぐことができるであろうか? 特殊部隊搭乗の潜水艦が無人ユニットの奪取のために行動することなども想像に難くないであろう。
(7) いずれにせよ重要なのは、人工知能やリモートコントロールの技術が進展し、それらがますます重要になっていったとしても、これらは人間を代替するものではなく、人間の意思決定を補完するものに過ぎないということである。
記事参照:‘Taking back the seas’: boosting the lethality of naval surface forces
関連記事:Taking Back the Seas: Transforming the U.S. Surface Fleet for Decision-Centric Warfare
https://csbaonline.org/research/publications/taking-back-the-seas-transforming-the-u.s-surface-fleet-for-decision-centric-warfare
(CSBA: December 31, 2019)

2月27日「中国は南シナ海における「航行の自由」のルールを守るべき―米専門家論説」(South China Morning Post, February 27, 2020)

 2月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies上級顧問Bonnie S. Glaserと同シンクタンク軍事問題研究者Jeff W. Benson中佐の“Conflict prevention in the South China Sea depends on China abiding by the existing rules of navigation”と題する論説を掲載し、ここでGlaserらは南シナ海で紛争を防止するためには、すでに存在するルールを中国が順守しなくてはならないとして要旨以下のように述べている。
(1) もし中国が本当にインド太平洋で平和的に共存し、競争したいのであれば、国際条約や協定を順守しなければならない。これには、事故のリスクが高まっている南シナ海の紛争海域に適用されている米中間だけでなく、中国とその近隣諸国の国際協定が含まれる。中国の南シナ海での国際ルールの無視は、将来海洋での事件を引き起こす可能性がある。
(2) 米国が、中国が支配する岩や人工島近くで海軍艦艇を航行させることによって、危険な遭遇の可能性を高めていると一部の中国人は非難している。この議論は、最近のニューヨークタイムズ紙のコラムで、中国国防部の高官である周波上校によって行われた。このような米国の活動は、国防総省による世界的な「航行の自由」プログラムの一部であり、それは、国家が過度な海洋の権利の主張を行い、「航行の自由」について違法な制限を課している区域を航行することにより、「航行の自由」を守ることを目的としている。中国は、2018年に異議を申し立てられた26カ国の権利主張国の中の1国であり、そのうち3カ国は米国の同盟国だった。米海軍の「航行の自由」作戦が、事故のリスクを高めるというのは事実ではない。むしろ、衝突の可能性を高めているのは、国際法に違反する中国の行動である。たとえば、2018年9月に米駆逐艦Decaturが南シナ海で航行の自由作戦を実行した際、中国駆逐艦「蘭州」はこの米駆逐艦に接近したが、海上交通法規を無視した。
(3) 2014年、中国と米国は、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」(以下、CUESと言う)の運用に合意した。これは、航行の安全のために海軍が意思の疎通を行う基本的な形式である。その年のうちに、米国と中国は、「海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約」に従い、その他の規定に加えて、誠実にCUESを実行することを両国に要求する「空中および海上で遭遇した場合における安全行動の準則(英文:Rules of Behaviour for the Safety of Air and Maritime Encounters、中文:中美关于海空相遇安全行為準則)」に関する二国間協定に署名した。しかし、中国海軍は南シナ海においてCUESを運用していない。これには2つの理由が考えられる。1つは中国艦艇がCUESを運用しないよう命じられている、もう1つは中国艦艇の乗組員が適切にCUESを運用するための訓練を受けていないことである。とにかく、中国は海洋での安全を最大化することを目的とした多国間及び二国間協定を順守していない。中国海軍だけがルールを放棄したわけではない。中国の海警船、海上民兵及び漁船は最近でもインドネシアやベトナムといった他の権利主張国の排他的経済水域内で違法、かつ頻繁に活動している。
(4) 周波は、米中は海洋領域だけでなく、宇宙空間、サイバースペース及び人工知能にもより多くのルールを導入する必要があると主張している。我々は、将来の海洋事故を回避するために、さらなる信頼醸成措置が有用であるという彼に同意するが、中国はすでに存在する二国間協定や国際ルールを守っていない。もし中国が将来の海洋の事故を回避することに真剣に取り組んでいるならば、中国海軍はすでに確立されたルールを守ることから始めるべきである。
記事参照:Conflict prevention in the South China Sea depends on China abiding by the existing rules of navigation

2月27日「日米豪印戦略対話の再活性化の可能性―デジタル誌The Diplomat編集委員論説」(The Diplomat, February 27, 2020)

 2月27日付のデジタル誌The Diplomatは同誌主任編集員Ankit Pandaの“Trump, in India, Hints at Revitalized ‘Quad’ Initiative”と題する論説を掲載し、ここでPandaは日米豪印4ヵ国戦略対話の再活性化の可能性について、アメリカのDonald Trump大統領が訪印した際の言葉に言及しつつ要旨以下のとおり述べている。
(1) 日米豪印の4ヵ国安全保障対話(以下、Quadと言う)の重要性が近年増大している。2017年には局長級会合が10年ぶりに再開され、2019年9月にはニューヨークで国連総会が行われる傍らで閣僚級会合が実施された。さらに2月末、Donald Trump大統領がインド訪問の二日目、Narendra Modi印首相との共同記者会見において、Quadの再活性化に言及した。指導者クラスがQuadの重要性を明言するのはきわめて稀なことである。
(2) Quadは2007年、日本が第1次安倍晋三内閣のときに構想された。それはアジア太平洋地域に大きな利害を持つ4ヵ国による地域的体系であったが、2007年以降事実上ほとんど活動はなかった。中国がそれを自国に敵対する同盟とみなし、中国との関係悪化を恐れたオーストラリアとインドがQuadに対する姿勢を明確にすることについて消極的であったためである。
(3) しかし2017年、地政学的環境の変容を背景にQuadは再開された。対テロ戦争や法の支配、航行の自由、核不拡散やコネクティビティなどについての連携が話し合われてきた。そして、米国と正式に同盟を結んでいないインドへの訪問においてTrump大統領がQuadの再活性化に言及したのは、重要なことだったように思われる。
(4) 日米豪印4ヵ国の協力が、どのような形で具体化していくかはまだ不透明である。可能性があることとしては、日米印3ヵ国が実施しているマラバール海軍演習にオーストラリアを参加させるというものである。いずれにせよ、今後Quadはインド太平洋という枠組みにおいて重要な意味を持ち続けていくだろう。
記事参照:Trump, in India, Hints at Revitalized ‘Quad’ Initiative

2月27日「米哨戒機にレーザー照射で中国を非難-米紙報道」(The Hill, February 27, 2020)

 2月27日付の米政治専門紙The Hill電子版は、中国の駆逐艦が米哨戒機に対しレーザーを照射したとして、要旨以下のように報じている。
(1)  2月17日の週に中国駆逐艦が軍用レーザーをグアム西方380海里の太平洋上を飛行中の米哨戒機に対して照射したと米海軍は2月27日に発表し、中国駆逐艦の動きは「危険で、海軍軍人らしからぬ」行動と呼んだ。このような行動は「海上における事故機会を減少させるために2014年の西太平洋海軍シンポジウムで合意した『洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)』に違反している」と米海軍は言う。中国駆逐艦の行動は、米国防総省と中国国防部の間で交わされた航空および海上で遭遇した場合の安全のための行動基準に関する合意にも違反する。
(2) 軍用レーザーは肉眼では見ることができず、米航空機に搭載されたセンサーで捕捉された。太平洋、アフリカで中国の艦船、部隊等からと思われる米軍機を目標としたレーザー照射は2017年以降20件以上が国防総省に記録されている。「米海軍の艦艇、航空機は航行あるいは飛行し続け、国際法が許す海空域での行動を継続する。」
記事参照:US accuses China of using laser against Navy patrol plane

2月28日「米空母Eisenhower、大西洋におけるSLOC防衛の演習に参加―米誌報道」(Breaking Defense, February 28, 2020)

 2月28日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseのウエブサイトは“USS Eisenhower Leads Exercise To Clear Atlantic Shipping Lanes”と題する記事を掲載し、米空母USS Eisenhowerが1986年以来の大西洋でシーレーンを防衛する演習を行ったとして要旨以下のように報じている。
(1) 米空母USS Eisenhowerは大西洋において欧州での大規模な地上演習に向けられた陸軍の装備を積載した輸送船のシーレーンを防護した。空母が潜水艦の脅威のある大西洋を船舶護衛しつつ欧州まで航行するという訓練は冷戦時代の1986年以来のことである。空母は大西洋を横断するというスト​​レステストしつつ、正体不明の潜水艦が船団に模擬攻撃を仕掛けてくるという訓練を実施した。DEFENDER 20演習に兵器を輸送するため、米海軍のRoRo型輸送艦1隻、米国籍商船2隻が2020年2月24日にテキサス州ボーモントを出港した。DEFENDER演習は、NATOの同盟国との数か月にわたる演習であり、2万人の米兵とその装備が欧州に送られた。米第2艦隊作戦主任幕僚のTroy Denison中佐は「過去20年間で大西洋は劇的に変化した。かつての大西洋ではない。我々は今では、大西洋を戦いのある海と考えている。」と記者団に語った。大西洋の変化は、米海軍の指導者が過去2年間繰り返し述べてきた北大西洋におけるロ潜水艦の活動増加によるものである。2019年10月、さながら冷戦時代のように、ロ北洋艦隊が北大西洋に10隻の潜水艦を展開し、そこで一連の実射の試験を行った。その際、米国、NATOの対潜哨戒機とロ潜水艦との間で追尾と回避のゲームが行われた。ロ潜水艦の行動に対抗して、米B-52爆撃機3機がノルウェーのF-16を伴って、ノルウェー沿岸を飛行し、米攻撃型原潜がノルウェー西部のハーコンスヴァーン海軍基地でMK-48魚雷を搭載した。数日後、米第6艦隊はノルウェーのトロムソにミサイル駆逐艦を寄港させた。米駆逐艦の寄港前に、ノルウェーはトロムソ近傍で多国籍間の演習に参加している。
(2) 今後数日間の米空母USS Eisenhower及びその乗員に対する攻撃のシミュレーションは電子攻撃から空爆や潜水艦攻撃まで全範囲で行われると米海軍当局者は語った。軍事海上輸送司令部・大西洋の指揮官Hans Lynch大佐は、演習の複雑化の要因は通信であると述べた。民間船舶は通信のために商用サービスに依存しており、衛星電話と商用アンテナを使用している。「我々にとってすぐ隣にいる商船と通信することは非常に困難である」とLynch大佐は言う。米軍事海上輸送司令部は、その指揮統制の改善に焦点を当てていると大佐は述べている。商船は同航する海軍艦艇と通信する機器をほとんど共有していないため、重大なギャップがある。2021年の予算要求における海軍の予算削減と、今後数年間は横ばいと予想される予算を考えるとこれらのギャップをどのように、いつ埋めるかは明確ではない。
(3) 米海軍当局者は、輸送船は今後数週間で欧州の港に向かい搭載して車両等を陸揚げすると述べたが、Eisenhowerが次に向かう場所についてはコメントしなかった。同艦は、2020年2月初めに展開の準備をするための一連の演習の後、港に戻ることなく展開した。空母打撃群は、今後数週間でより直接的な方法でDEFENDER演習に参加するか、ノルウェーで行われるCold Response演習に参加するために北方に離脱することが予想される。中東情勢を考慮し、空母打撃群がCold Response演習に参加するための予備計画は保留となり、海兵隊を満載した水陸両用戦即応群はCold Response演習からイランを阻止する任務に転用された。米第2艦隊司令官Andrew Lewis海軍中将は「大西洋は無視できない戦場である。同盟国や関係国と高い練度で行動する準備をしておく必要がある。」と述べている。老朽化した米国商船隊はここ数カ月間懸念材料となっており、米海軍は寿命に近づいている船を更新するための資金を絞りだそうとしている。2019年9月に米輸送軍は抜き打ちの訓練を実施し、緊急命令を受けて、即応予備船隊の船舶のうち何隻が出港できるかを点検した。2019年12月の米輸送軍司令部の報告によると、米政府保有の66隻の船のうち半数の33隻しか運用状態とならず、そのうち22隻しか出港する準備ができなかった。
記事参照: USS Eisenhower Leads Exercise To Clear Atlantic Shipping Lanes
関連記事:10月22日「中ロとの戦争に備え、第2次大戦型の船団が再び注目―専門家論説」(The National Interest, October 22, 2019)
For War with Russia or China, World War II-Style Convoy Are Back in Style

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Malaysia Picks a Three-Way Fight in the South China Sea
https://amti.csis.org/malaysia-picks-a-three-way-fight-in-the-south-china-sea/
Asia Maritime Transparency Initiative, February 21, 2020
2月21日、CSISのウェブサイトAsia Maritime Transparencyは、“Malaysia Picks a Three-Way Fight in the South China Sea”と題する記事を掲載した。同記事では、①南シナ海での数カ月間に及ぶ石油と天然ガスの操業に関する対立はマレーシア、中国及びベトナムの船の間で展開されている、②問題となっているのはマレーシアの国有企業Petronasがクアラルンプールとハノイの双方が権利を主張する拡張された大陸棚で調査している2つの油田とガス田であり、これらはマレーシアの石油及び天然ガスブロックND1及びND2内にある、③2019年10月、ロンドンが管理するSeadrill社によって運用され、Petronasと契約した掘削船West Capellaは、マレーシアのサバ州沿岸沖で操業を開始し、その後ND2やND1に移動した、④12月6日以降、中国は、その海警総隊や海上民兵の船がWest Capellaに対して周辺の巡回や嫌がらせを行い、マレーシアはそれに対抗して駆逐艦や哨戒艦を派遣するようになった、④2020年2月、越海上民兵の2隻のボートが、中国海警船とWest Capellaの間で活動した、⑤この対立は現在も進行中であり、West Capellaとその補給船は引き続きブロックND1で操業を行い、越民兵船は依然として任務中であり、中国の民兵及び法執行機関の船舶は掘削装置に危険なほど接近している、⑥最大の疑問は、マレーシア政府が2009年のベトナムとのUN Commission on the Limits of the Continental Shelfへの共同提案の精神を無視した理由であり、そうすることで、東南アジアの関係国が北京との紛争で組み入れることを望む可能性があるどのような連帯をも弱体化させる、などと述べている。
 
(2) If U.S. Forces Have To Leave The Philippines, Then What?
https://www.fpri.org/article/2020/02/if-u-s-forces-have-to-leave-the-philippines-then-what/
Foreign Policy Research Institute, February 27, 2020
Caroline Baxter, a senior policy analyst at the RAND Corporation
2月27日、米シンクタンクRAND CooporationのCaroline Baxter主任研究員は、米シンクタンクForeign Policy Research Instituteのウェブサイトに、" If U.S. Forces Have To Leave The Philippines, Then What? "と題する論説を発表した。ここでBaxteは、フィリピンが2月中旬から同国と米国との間で1998年に締結された「訪問米軍の地位に関する米比協定(以下、VFAと言う)」の破棄手続きに入ったことを取り上げ、米国とフィリピンには新たなVFAについて交渉するための180日間の猶予が与えられており、181日目に新たなVFAが締結されなかったとしても、それによって自動的に1951 年の米比相互防衛条約が失効するわけではないものの、米軍は比軍との共同訓練や人道上の緊急事態対応派遣に際し、要員のビザの確保や、基地や港湾への装備品のアクセスを確保したりするために複雑で時間のかかるプロセスに直面することになるため、米国が危機に迅速に対応することをはるかに困難にすることになると評している。その上でBaxterは考察のまとめとして、VFAの喪失は東アジア地域における米国の平時の活動を低下させることはないが、米軍の同地域への兵力投入という対応を遅らせることになり、万が一の際の結果には影響を及ぼしかねず、だからこそ、米軍兵士がマニラでビザなしで相手を訓練できるようにすることは、フィリピンのような米国の同盟国を守ることにもつながるし、インド太平洋における同盟関係をあらゆる形で維持することも極めて重要であると主張している。
 
(3) Global China: Great powers
https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2020/02/FP_202002_great_powers_chapeau.pdf
Brookings, February 2020
Tarun Chhabra, Fellow - Foreign Policy, Project on International Order and Strategy
Rush Doshi, Director, China Strategy Initiative
Ryan Hass, The Michael H. Armacost Chair
Emilie Kimball, Executive Assistant to the Vice President - Foreign Policy, The Brookings Institution
2月、Foeign PolicyのTarun Chhabra、China Strategy Initiative のRush Doshi、The Michael H. Armacost Chair のRyan Hass、Brookings InstitutionのEmilie Kimballらの専門家は連名で、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウェブサイトに、" Global China: Great powers "と題する報告書を発表した。その中で彼らは、米国、欧州、日本、インド、ロシアといった大国と中国との関係、そしてこれらの関係が米国や国際秩序に及ぼす影響について検討しており、その中では、例えば中ロ関係に関しては、中国とロシアは、米国が支配する世界秩序に挑戦するという共通の利益を有しているが、ロシアは中国に兵器、エネルギー、北極へのアクセスなどを提供している一方、中国はロシアの最大の貿易相手国であり、ロシアに資本、技術的専門知識を提供しているなど、両国は相互に支援を行っており、このような中ロ両国関係強化の流れの深さと長さは今後の注目点であろうと評している。また、日中両国関係に関しては、地経学(geoeconomics)がアジアのリーダーシップをめぐる二国間競争を分析する重要な概念になっているとし、この両国間の競争が東アジア地域にとどまることなく、それを越えて展開しているにもかかわらず、日中両国は、米国の予測不可能性と保護主義に対処するために二国間関係を改善し、首脳レベルの交流が増加し、経済問題に関する協力が増加していると評している。そして最後に、同報告書は、変化する大国間関係のネットワークが、より広範な国際システムにどのような影響を与えるかに注目し、米国や他の大国がその発展を形作るための一連の政策提言を行っている。