海洋安全保障情報旬報 2020年1月21日-1月31日

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1月22日「中国が狙うArc7 LNG輸送船の受注と北極圏での影響力強化―ノルウェー紙報道」(High North News, January 22, 2020)

 1月22日付のノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News電子版は、“China looks to further its Arctic role by constructing Arc7 LNG carriers”と題する記事を掲載し、中国の造船会社がロシアの北極圏の天然資源輸送プロジェクトで使用される運搬船の受注を狙っているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の滬東中華造船集団有限公司は、NovatekのArctic LNG 2プロジェクト用の耐氷LNG船の建造を目指している。これは、ロシアのZvezda shipyardと韓国の大宇造船海洋と競合する高度に特化された船舶建造というビジネスへの中国初の進出となる。
(2) 2019年12月、ロシアの天然ガス大手会社Novatekとその船舶輸送パートナーは、15隻の砕氷船Arc7 LNG運搬船(抄訳者注:Arc7は、ロシア船級協会が定める船舶の耐氷能力の区分であり、9等級に区分され、Arc7は多年氷が一部混在する厚い1年氷が存在する海域で1年を通して航行可能な船舶を指す)のうちの最後の1隻を受け取った。これらの高度に特殊化された船舶は、液化天然ガスをロシアの北極沖のヤマルの施設からヨーロッパ及びアジアの市場へと輸送する。
(3) Novatekの次のプロジェクトであるArctic LNG 2がわずか3年後に始まるため、同社はさらに15隻のArc7 LNG運搬船の時宜を得た建造を模索している。先の15隻の砕氷LNG船は韓国の大宇造船海洋によって建造されたが、中国はこの次のグループの建造契約を獲得することを目指している。中国最大の造船企業である、中国船舶重工集団公司の子会社である滬東中華は、10隻までの船舶の入札を行った。Zvezda shipyardはサムスン重工業とパートナーシップを結んだが、予定通りに船舶を引き渡すZvezda shipyardの能力については懸念があり、Novatekは新しいArc7船を建造するために海外に目を向けている。Novatekは現在、国内造船企業との契約締結が必要なことからの免除を要求し、中国または韓国の造船企業によって、15隻のうち10隻を建造する許可を求めている。Putin大統領宛ての2020年12月の手紙の中で、NovatekのLeonid Mikhleson会長はこの問題について緊急性を表明した。予想されるように、近い将来における米国とカタールによるLNG運搬船の注文が、韓国と中国の造船会社で未処理案件を起こすかもしれないからである。
(4) 中国の滬東中華は急ピッチでこのビジネスに参入してきた。この造船企業は、わずか10年前に中国初のLNG船を建造した。滬東中華は現在、中国の一帯一路構想の支援とロシアとの緊密なエネルギー協力を推進する上で、重要な役割を果たしている。事実、この造船会社はすでにヤマルLNGプロジェクト用に4隻の従来型LNG船建造の契約を結んでいる。
(5) フィンランドのAker Arcticの助けを借りてArc7 運搬船の設計を開発した韓国の大宇造船はこれまでのところ、これらのタイプの船舶の建造経験をもつ唯一の企業である。しかし、多数の造船会社が現在、Novatekが免除を要求している10隻のArc7 LNG運搬船の建造を争っている。1隻あたり3億ドルの費用がかかると推定される10隻の船舶に対し、中国の滬東中華と韓国の大宇造船海洋に加えて、韓国の現代重工業とサムスン重工業からも入札が行われた。
(6) 滬東中華はArc7運搬船の設計を改良するために、Aker Arcticと協力し、複数の機会をもってAkerの施設において試作船をテストする。滬東中華にとって、海氷に対応可能なLNG輸送船の建造は初めてかもしれないが、同社は価格面で競争し、非常に競争力のある融資調達の選択肢を提供するだろう。ロシアと中国のエネルギーに関する緊密な協力だけでなく、類似の要因が2017年において滬東中華がヤマルLNGの4隻の従来型LNG船の受注を獲得した一因となったと言われている。
記事参照:China looks to further its Arctic role by constructing Arc7 LNG carriers

1月24日「南シナ海における中国とインドネシア緊張激化、ASEANの反中国姿勢に繋がらない―海洋問題専門家論説」(ASEAN Today.com, January 24, 2020)

 1月24日付のシンガポールのWebサイトASEAN Todayは、中国National Institute for South China Sea Studies非常勤教授で海洋問題専門家Mark J. Valenciaの“China-Indonesia South China Sea incident likely a blip in a long-term trend of mutual adjustment”と題する論説を掲載し、ここでValenciaは2019年12月のインドネシアのEEZ内での中国の不法操業を巡る両国の緊張事案はASEAN中国関係の転換点とはならないとして、中国寄りの視点から要旨以下のように述べている。
(1) 2019年12月下旬、63隻の中国漁船は3隻の中国海警船舶に護衛されて、南シナ海でインドネシアが主張するEEZに入った。インドネシアは、これに激しく抗議するとともに、ナツナ諸島に艦艇と戦闘機を派遣し、両国間の緊張が激化した。楽観的な見方をする専門家は、この事案をASEAN中国関係の重要な転換点と見、南シナ海における中国の領有権主張に対抗するインドネシア、マレーシア及びベトナムに加えて、恐らくフィリピンさえも加わった共同戦線の出現を予測する。しかし、こうした予測は過剰期待である。実際、1月中旬のASEAN外相会議では、ASEANが一致して中国の侵略に対抗するという姿勢は見られなかった。外相会議の議長を務めたベトナムの Pham Binh Minh 外相の声明は、中国を名指しさえしなかった。ASEAN内に対中国戦線が形成できないのには、明らかな理由がある。ASEAN諸国は全て中国からの継続的な経済的支援を望んでおり、いずれの国も自国内の政治的、軍事的理由から北京の好意を失うことを望んでいないのである。中国は、こうした事情を梃子にASEANの意志統一を妨げてきた。
(2) インドネシアの主たる安全保障上の懸念は、国内の安定である。国内の安定を維持するために、インドネシアは急速な経済成長を必要としており、そのために相当規模の中国の経済援助と投資に依存している。Jokowi政権は、反中国のナショナリスト勢力を宥めながら、一方で一時的にしろ、中国を自国の EEZから撤去させることとの間で慎重にバランスを維持してきた。こうした対応によって、中国の投資を危険に晒すことなく、また国内の反中国のナショナリスト勢力を十分満足させながら、インドネシアの国益を維持することに成功した。インドネシアは、自国の主権に対する中国の現実の深刻な脅威がなくならない限り、この「慎重な均衡」政策を断念しそうにない。フィリピンは、ASEANの統一戦線に加わらないであろう。フィリピンは、北京と独自の取引を行ってきた。フィリピンは、中国からのより多くの投資の約束と引き換えに、石油資源の共同の開発を検討しており、また海上における事案と緊張を回避するために、両国の海上警備当局の責任者間の協議が行われている。
(3) 例えインドネシアが主張する EEZ内での操業する正当な権利を持っていると中国が考えているとしても、今回の事案に対するインドネシアの抗議に対しては、中国は自制を示した。北京は、自国漁船がインドネシアの主張する海域で操業していたことを認めるとともに、彼らの操業を政府が承認していたことを暗に認めた。中国は、漁船団に対して、少なくとも一時的にインドネシアの主張する EEZ から退去することを命じた。一方、インドネシアも、この事案がエスカレートすることを望んでいない。インドネシア艦艇が中国の海警を砲撃した2016年の事案と比較して、今回の対応は穏やかであった。今回の事案でも、艦艇と航空機が現場海域に派遣されたが、それらの行動は抑制されたものであった。Faharインドネシア海軍司令官は、「我々は、的確かつスマートな方法で行動をしなければならない。我々は、事態を悪化させることなく、法を執行することを望んでいる」と語っている。インドネシアの Prabowo国防相は「中国が友好国である」ことを強調しており、また、Luhut海洋問題・投資調整相も「インドネシアと中国は争うべきではない」と述べた。
(4) 自国のEEZ内での操業に対して限定的なアクセスを認めることに関しては、先例がある。例えば、中国は、マレーシアの EEZ内で操業し、その海域内で操業する漁師などを怯えさせてきた。マレーシアのMahathir首相は、マレーシアは「中国に面と向かって対決するには弱すぎる」との懸念を表明し、「我々は、中国人がしていることを監視し、報告しているが、彼らを追い出したり、攻撃したりしようとはしていない」と語った。中国とマレーシアは、南シナ海に関する合同の対話メカニズムに合意した。フィリピンと中国の間でも、フィリピンが主張するEEZ内での不法操業、フィリピン漁民に対する脅迫、そしてフィリピンが認可した石油開発を巡って、同様の諍いがあった。中国は、南シナ海を巡るフィリピンとの関係が他の領有権主張国から注視されていることを認識している。北京は、フィリピンとの関係を、「平和的な紛争解決手法と善隣有効政策の見本」にしようとしているように思われる。他方、ベトナムは、自国の海洋管轄海域における中国の不法操業と見られる行為に対しては、最近では中国船に対抗するために艦艇や空軍機を動員こそしていないが、極めて強固な態度をとってきた。ベトナムは、自国の正当な権利を守るために相応の対応措置を採るであろうが、中国に対して行き過ぎた対応を採ることには当然ながら慎重である。もし紛争を「国際化する」なら、ベトナムは、長期に亘って共存せざるを得ない巨大な近隣国であり、経済的パートナーである中国とは疎遠になるであろう。
(5) こうした文脈から判断すれば、最近の中国とインドネシアとの事案は、中国の台頭を受け入れるための中国と東南アジア諸国との関係における全般的な長期的相互調整過程での一時的な事件に過ぎない。この事案が東南アジア諸国を南シナ海における反中国に糾合するための転換点になることを期待しているアンチ中国論者は失望することになろう。
記事参照:China-Indonesia South China Sea incident likely a blip in a long-term trend of mutual adjustment

1月27日「兵器産業において世界第二位に躍り出た中国―香港紙報道」(South China Morning Post, January 27, 2020)

 1月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China is estimated to be the world’s second largest arms maker after US”と題する記事を掲載し、近年中国が兵器産業において世界第二位に躍り出たことについて、要旨以下のとおり報じている。
(1) スウェーデンのシンクタンクStockholm International Peace Research Institute(以下、SIPRIと言う)が発表した報告書によると、2017年に中国が世界第二位の兵器製造国になった。同年の中国の兵器産業における総売上額は700-800億米ドルにのぼり、それに対して第1位の米国は2266億米ドル、第3位のロシアは377億米ドルだという。ただしこの年に第2位に躍り出たわけではなく、それまで中国企業は、透明性の欠如などのために計算の対象となっていなかった。
(2) 習近平国家主席のもと、中国は近年軍需産業を拡大し、軍の近代化と増強を進めてきた。SIPRIの試算によれば、2017年の中国の軍事支出は2280億米ドルに達した。これは、アメリカが公式に発表している国防費1510億ドルよりもはるかに高い。ただしSIPRIの試算は、軍の管轄下にある中国人民武装警察(300億米ドル)、軍事に関する研究開発(230億米ドル)なども含んだ数字ではある。
(3) SIPRIによると、世界の兵器・軍需産業トップ20のなかに、中国の兵器会社4社が名を連ねたという。それは中国最大の航空機会社である中国航空工業集団をはじめとして、中国電子科技集団、中国兵器工業集団、中国南方工業集団である。この4社を合わせた売上額は541億米ドルであった。
(4) 中国は自国の兵器産業の拡大とともに、兵器や軍事技術の海外への依存度を弱めるだけでなく、海外への輸出も増加させてきた。1999~2003年の5年間と2014~2018年の5年間を比較すると、主要兵器の輸入額は50%減少し、輸出は208%増え、中国はいまや世界第5位の主要な通常兵器供給国となった。
(5) ただし、中国の兵器産業の規模についてはなお不透明な部分が多いとSIPRIは言う。これまでよりも兵器会社に関するデータは多く利用可能になっているが、それでもなお透明性が欠如しているケースが多いという。したがって、この報告書で挙げられた数字はあくまで試算に過ぎず、不確定要素はなお多い。
記事参照:China is estimated to be the world’s second largest arms maker after US

1月28日「海軍整備計画の壮大にして公然たる頓挫-米専門家論説」(Breaking Defense, January 28, 2020)

 1月28日付の米国防関連デジタル誌Breaking DefenseのウエブサイトはThe Office of Management and Budget幹部で米海兵隊大佐Mark CancianとThe International Security Program at CSIS客員研究員の Adam Saxtonの“The Spectacular & Public Collapse of Navy Force Planning”と題する論説を掲載し、ここでCancianとSaxtonは海軍の将来の部隊編成を考える基準となる兵力組成評価策定が頓挫し、その発表を今春まで延期したことは2021年度予算の策定に向けて海軍がコミットする機会を失うことを意味しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 米海軍の21世紀における無人戦闘艦艇の導入や分散型海上作戦の実施によって大国間競争に対応する計画は頓挫した。艦艇355隻体制という目標と予算削減という現実の狭間で固定化された集計システムに縛られた海軍は、将来の編成がどのように構成されるべきかという問題に対する実行可能な解決策を見出せずにいる。その結果、海軍は今春まで新しい兵力組成評価(以下、FSAと言う)の発表を延期した。すなわち、海軍は2021年度予算に影響を与えることができず、艦隊を再編成し「国家防衛戦略」に一致させる重要な機会を失うことになる。
(2) FSAは「客観的な艦船隻数の編成」を決定する海軍のメカニズムであり直接間接に海軍のほぼすべての調達活動を促進する。前回のFSAは2016年度後半に急遽策定されたものであり、それまで308隻とされていた艦船整備目標を、大統領選で提示された350隻と一致させるよう設定されたものである。海軍は次期FSAにおいて中国とロシアを明示的な対象としたシーコントロールを念頭に、将来の海上戦闘様相を変革することを計画していた。 冷戦後、米海軍に挑戦し得る海軍が存在しなかった間、海軍は海上からのパワープロジェクションに焦点を合わせていた。しかし今日、中ロ海軍は海上において米海軍に挑戦することができるようになりつつある。したがって、このFSAは長射程兵器の装備とあらゆる領域における海上戦闘に応じ得る艦隊の構築に焦点を合わせている。
(3) 海軍はまた、分散型海上作戦(DMO)の運用コンセプトを実現するための新たな編成も計画している。この概念が目指す小規模で脆弱な、しかし多数のプラットフォームは、少数精鋭で非常に有益であるが高価な空母戦闘グループに機能を集中させてきた海軍の従来の運用コンセプトに対するブレークスルーである。昨秋発表されたとおり、この構想には海兵隊も含まれ、統合海軍力FSAとして評価されているところである。昨年9月、海軍は2021年度予算、2021年度長期建艦計画及びその後の議会での予算審議に資するべく2019年12月には新たなFSAを示すと発表していた。しかし昨年 12月、リリースは1月に延期され、
(4) この計画はなぜ頓挫したのであろうか?大統領は2016年の選挙戦で海軍350隻体制を発表し、その後もいくつかの声明でそのことを強調している。議会は2018年、355隻体制という目標を法律として規定した。しかし、艦隊のこのような大規模な拡大は予算の制約から達成は不可能と見なされている。 海軍作戦副部長のRobert Burke大将も予算が現在の予測に留まり大幅に増加しない場合、海軍は305〜310隻の艦船しか維持できないと述べている。多くの専門家は、90,000トンの航空母艦1隻と5,000トンの小型戦闘艦1隻が等価と言えるのかとして艦船隻数は必ずしも重要な指標ではないと主張する。そうではなく、機能が最も重要な指標であるが、実際に機能、能力を評価するのは困難であり、したがって艦船隻数は海軍の規模と能力を比較する尺度として広く使用されているのである。
(5) 米政府は、2021年度予算で国家安全保障のために7,750億ドルの支出を予定しているが、これは国防総省が想定しているものとは約160億ドルのギャップがある。このギャップは毎年次年度へと続くことになり、全軍種が予算計画を大幅に削減する必要に迫られている。海軍長官と海軍作戦部長は予算の一部のみを要求することで対応したが、それも必ずしも不当なこととは言えないだろう。しかし陸軍と空軍の反撃は強力かつ即時であった。これらの軍種にも満たされていないニーズがあり、日々の運用に追われているという主張である。しかし、軍歴のあるEsper国防長官やMilley統合参謀本部議長が予算の配分を変更するとは考えにくい。
(6) このジレンマから抜け出す1つの方法は「戦闘艦艇」のカウント方法を変更することであり、The Office of Management and Budgetは海軍に対し、有人、無人の艦船を含む355隻の複合艦隊を編成するための解釈の余裕を与えたようである。海軍は過去にもこの方法論を変更しようとしたが議会の反対に直面し成功しなかった。 国防族の強硬派は、そのような変化は海軍力を削減する隠蔽策と見なしているのである。このため現在の尺度には、「戦闘任務、特定の戦闘支援任務、その他の支援任務に従事する戦闘能力を有する艦艇」のみが含まれ、 無人システムは戦力として考慮するには小規模過ぎるため、これには含まれていなかった。一方で海軍艦艇の恒常的展開に対するニーズの急激な増加により、艦隊の縮小という方策も制約されている。このため、海軍作戦部長Gilday大将は、このカウント方法は変更せず、代わりに無人艦艇用に別のカテゴリーを追加することを示唆している。
(7) こうした制約の中で、海軍は実現可能な解決策を見つけることができなかった。 予算が削減されている中で、新しいテクノロジーに投資しながら艦隊を拡充しなければならず、355隻体制達成のため艦隊の規模を削減することはできない。また、 カウント方法が固定されているため、以前はカウントされていなかったビークルを含めることで355隻体制の目標を達成したと主張することもできない。この目標達成の遅延を回避するにはカウント方法の小さな変更、小型で手頃な価格の艦船の調達、その他、多くの調達予算の組み合わせが解決策となるかもしれないが、これがすべての関係者の同意を得ることは難しいだろう。
(8) 新FSAの発表を今春まで延期することで、海軍はこれに基づく事業を2021年度予算に反映させる機会を逸している。現在のFSAは2018年の「国家防衛戦略」の前に策定されたものであり、したがって今、海軍がどこに向かっているのか、そして海軍の2021年度予算要求が正しい方向への一歩となっているか否か、今後1年間、疑問を呈することともなる。 さらに、2022年度予算は、大統領選挙の結果、異なる戦略の下、異なる種類の海軍を必要とする可能性もある新政権によって提示されることとなるかもしれない。そうなれば、海軍は更にコンパスなしで乱流の海に向かうことになるだろう。
記事参照:The Spectacular & Public Collapse of Navy Force Planning

1月28日「韓国がホルムズ海峡への海軍部隊派遣を決定したことにはどのような影響があるか?―UAE専門家論説」(The Diplomat, January 28, 2020)

 1月28日付のデジタル誌The Diplomatは、アラブ首長国連邦(UAE)Abu Dhabi UniversityInternational Relations in the Academic Programs for Military Colleges准教授Hae Won Jeongの “What Are the Implications of South Korea’s Decision to Send a Naval Unit to the Strait of Hormuz?”と題する論説を掲載し、ここでJeongは、韓国はホルムズ海峡への海軍部隊派遣を決定したが韓国の経済的、戦略的、外交的な利益は危険にさらされているとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年1月21日のホルムズ海峡に海軍部隊を独自に配備するという韓国国防部の発表には、米国、湾岸諸国、すなわちサウジアラビア、アラブ首長国連邦、イラン及び韓国国民から様々な反応が返ってきた。2019年5月19日のタンカー攻撃、2019年9月14日のサウジアラビア石油基地へのイランの攻撃からイランのソレイマニ軍司令官の米軍による暗殺へと緊張が高まった後に、ホルムズ海峡で米国主導の有志連合の海軍作戦に参加するように韓国が圧力をかけられていた中でこの決定は下された。米大統領Donald Trumpは、主要な石油輸入国に、「彼ら自身の船」と航路を守るために彼ら自身の軍隊を関与させることによって負担分担を増やすよう呼びかけていた。韓国が中東の輸送レーンを守る負担を共有するようにという圧力は、異なる形の負担分担に関する交渉の行き詰まりの中で生じていた。韓国は朝鮮戦争以来米国の同盟国であったが、Trump政権は韓国が米軍駐留経費を大幅に増やすことを要求していた。
(2) 中東に対する韓国の軍事貢献は過去に、第2次湾岸戦争中のC-130輸送機の派遣と米国主導の連合に対する医療支援の提供、2001年12月の9.11以後の軍隊のアフガニスタンへの派遣、平和維持活動への参加がある。韓国海軍駆逐艦KDX-IIと乗員300人を派遣するという最近の決定は、中東の韓国人25,000人を保護し、韓国の商船の安全な航行を確保することを目的とした戦略的決定である。 2019年4月、世界のエネルギー供給の重要な地点であるホルムズ海峡を封鎖するかもしれないというイランの新たな脅威は、米国の極めて大きな圧力、特にイランの石油輸出を許可する免除を更新しない決定の結果として生じた。韓国は世界第5位の原油輸入国であり、韓国の原油出荷量の70%が通過するホルムズ海峡への通路を確保するため十分な利害関係を持っている。韓国国防部はまた、韓国の海軍部隊がバーレーンに本部を置く米国主導の有志連合International Maritime Security Construct(以下、IMSCと言う)の一部としては活動しないことを強調した。 IMSCから独立して運営するという決定は、米国とイランの間で綱渡りをするという政治的計算に基づいている。韓国はホルムズ海峡での作戦は、新しい部隊を派遣するのではなく、海賊対処部隊の作戦を拡大することによって行われることを強調した。韓国政府から見れば、これは自国を米国の有志連合から切り離すとともに戦略的及び経済的利益を確保し、イランをなだめようとするものである。韓国国防部によると、米国とイランの双方に、プレスリリースの前の週末にこの決定について通知したとのことである。イラン外務省報道官のAbbas Mousaviは韓国の決定は受け入れられないと述べた。イランはこの地域における外国軍隊の存在を脅威と考えているからである。
(3) 対照的に、米国と湾岸諸国、特にサウジアラビアとアラブ首長国連邦は、イランに対する国際的な圧力を高めるための措置として韓国の決定を歓迎した。米国防総省の報道官Dave Eastburn中佐は、ホルムズ海峡の通過を安全なものとすることは「国際的な解決策を必要とする問題」であるとコメントした。2019年12月27日に護衛艦1隻と哨戒機2機を派遣するという日本の決定を注意深く見守りつつ、韓国は米国主導の有志連合に参加するための代替案を検討していた。「海軍部隊の運用範囲を一時的に拡大する」という理屈にもかかわらず、韓国国防部の決定は、リベラル派と保守派の間で反応が急激に対立したため、国内で議論を巻き起こした。与党の「共に民主党」と右派野党の「自由韓国党」はどちらも決定を承認したが、進歩的な左派の「正義党」と「正しい未来党」は反対し、政府に議会の承認を求めるよう要求した。韓国国防部は、2011年、2014年、2015年に韓国市民をリビアとイエメンから救出するために軍隊を展開する際に議会の承認が不要であった過去の事例を引用して、海軍部隊派遣に対する議会の承認は不要であると主張している。米国の同盟国であり主要な石油輸入国である韓国は、海軍部隊を派遣することで国益を最優先にしている。それにもかかわらず、韓国は米国とイランの間の綱引きに巻き込まれている。韓国の経済的、戦略的、外交的な利益が危険にさらされている。韓国の国内政治における議論は、イランとの経済関係を危険にさらすことを避けながら国益を確保するというジレンマを反映している。
記事参照: What Are the Implications of South Korea’s Decision to Send a Naval Unit to the Strait of Hormuz?

1月28日「南シナ海合意を練り上げる-豪研究者論説」(The Interpreter, 28 JAN 2020)

 1月28日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、Lowy Institute インターンであったMichael Nguyenによる“Forging consensus in the South China Sea”と題する掲載し、ここでNguyenは、ベトナムにとって最善の方策は南シナ海での中国の主張に対抗するため協調姿勢を示す諸国と連携することであるとして要旨以下のように述べている。
(1) 越政府による南シナ海問題の解決方法については、多くの識者が中国政府との課題の解決がすべてであると分析している。しかし、南シナ海を舞台とするベトナムと中国の間の紛争解決はほとんど進展をみていない。ベトナム政府にとっては、他の南シナ海沿岸諸国との紛争は中國との紛争に比べれば難題が少なく、むしろ対中戦略として共通の利益を有している。そのため中国としては東南アジア諸国を分断させることは難しい面がある。しかし一方、中国の攻撃的な姿勢に対するベトナムの強硬な対応に他の南シナ海諸国が同調することもまた難しい面がある。台湾では1993年の南シナ海政策指針を2005年に停止して以降、U字線(抄訳者注:九段線とも呼ばれる)について沈黙姿勢をとり、ブルネイは経済成長のために中国に大きく依存しており、フィリピンは中国の拡張に対して国内での不満を和らげる一方で一帯一路への投資を誘致するなど、バランスを図っている。
(2) ベトナム政府の唯一、現実的な選択肢としてマレーシアとの協力がある。マレーシアは以前に比べ域内で率直な立ち位置を取り始めている。マレーシアは2019年に初の『国防白書』を公表、その中でマレーシアにおける関心事は海洋問題であることを示し、域内の協調に焦点を当てた政策を進めることを表明している。この姿勢を確認するものとして、2019年12月に国連に提出した南シナ海における大陸棚外縁限界延長申請がある。マレーシアは南シナ海北部の大陸棚外縁延長を主張しており、これはあきらかに中国を刺激するものであるが、ベトナムとの協調路線に道を開くものでもある。ベトナムとしては自国が2009年に提出した申請と重複する個所があるが、マレーシアの申請を歓迎すれば、マレーシアとベトナムの間で南シナ海の大陸棚の管轄権を交渉して決めることが可能となる。ベトナムとマレーシアの両国は、互いの主張を外交の場で認識しあうことによって、法的根拠を欠く中国の主張に対抗する力を増幅させることができる。ベトナムにとって選択肢を決定するために残された時間は無期限ではない。南シナ海諸国の間で協調を討議する期間は少なくなってきている。「行動規範」策定のデッドラインが近づいているからである。中国政府は、2020年までの合意を強く求め、東南アジア諸国の協力機会を制限し、中国に対抗する機会を減らそうとしている。ベトナム政府は今、有利な立場に立っている。マレーシア以外でも、インドネシアが対中政策転換を図っている。Joko Widodo大統領はナツナ諸島での自国の主権を強く主張しており、ベトナムにとっては有利な状況を呈している。ベトナムにとって最善の方策は、南シナ海に共通の主張を持つ諸国と連携することである。
記事参照:Forging consensus in the South China Sea

1月28日「米艦艇の南沙諸島海域航過を北京、激しく非難―香港紙報道」(South China Morning Post, 28 Jan, 2020)

 1月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Beijing accuses US of ‘deliberate provocations’ in South China Sea as warship passes Spratly Islands”と題する記事を掲載し、1月26日、米沿海域戦闘艦が南沙諸島海域を航過したことに中国が激しく非難したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 1月26日、米艦艇が係争中の南沙諸島を航過したことを受け、春節中にもかかわらず中国軍は「意図的徴発」と激しく非難した。1月28日の人民解放軍南部戦区スポークスマン李華民によれば、中国は米沿海域戦闘艦Montgomeryが南沙諸島を航過した際、同艦を「追尾、監視、確認、識別」のために航空機、艦艇を派遣した。李華民は「米艦は中国の伝統的な春節の最中、航海上の覇権という露骨な行動で悪意を秘めて意図的な徴発を行った」と述べている。李華民と中国は南シナ海とその島々に対する(中国の)「争う余地のない」主権を主張しており、米国が行うどのような「たくらみや徴発」もその努力は無駄になると述べている。Montgomeryの展開に対応して中国の主権を守るため、南部戦区は「高度の警戒態勢を維持し、全ての必要な措置」を講じると李華民は言う。
(2) 米海軍は「航行の自由」作戦を通じ国際法に基づく南沙諸島(海域)での航行の権利と自由を主張し、航行は中国、ベトナム、台湾による無害通航権の制限に対する挑戦であるとして1月28日に第7艦隊スポークスマンJoe Keiley大尉は述べている
(3) 中国の隣国、特にベトナムは南シナ海における中国の主張に挑戦しており、人工島の建設、島礁の軍事化を含む中国に行動に対抗するため米国と行動を共にしている。「我々は法律を遵守する国を犠牲にして違法な海洋における権利を主張する試みは受け入れない」と米国防長官は言う。
(4) 1月、ナツナ諸島周辺で中国の海警が確認されたことを受け、インドネシアは対立している同諸島周辺の哨戒のため戦闘機と艦艇を派出した。同時に、北京は関係構築と係争中の海域における主張を強調するために東南アジア諸国への艦船の寄港を増加させると考えられている。1月には海警がマニラに「親善訪問」している。
記事参照:Beijing accuses US of ‘deliberate provocations’ in South China Sea as warship passes Spratly Islands

1月30日「シンガポール海軍の新型艦の用途―シンガポール専門家論説」(East Asia Forum, 30 January, 2020)

 1月30日付のオーストラリアの Crawford School of Public Policy at the Australian National Universityのデジタル出版物であるEast Asia Forumは、S Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のMilitary Studies Programme研究員Ben Hoの“Whither Singapore’s Joint Multi Mission Ship?”と題する論説を掲載し、ここでHoは、シンガポール海軍が取得する新型艦統合多任務艦どのように運用するかについて要旨以下のように述べている。
(1) シンガポール国防軍が今後数年間で取得する最も興味深い武器システムの1つが、統合多任務艦(以下、JMMSと言う)である。これは、シンガポール国防軍の人道支援及び災害救援任務をより良く実行可能にするとされている。
(2) この艦は、準空母として機能することが可能なヘリコプター搭載揚陸艦になるという一部の推測とともに、この問題についてはすでにかなり論じられている。さらに、JMMSは、シンガポールが米国から購入しているF-35B戦闘機を搭載している全通甲板艦である可能性が高いと強く主張されている。この組み合わせは、従来型の戦争において、移動する航空基地としての役割を果たす可能性があると主張されている。
(3) しかし、この議論はさまざまな論点で問題がある。JMMSが「航空母艦として機能する」という考えが生じたのは、一部の評論家たちが、JMMSの購入とSingapore Technologies Marineによって製造された全通甲板を持つEndurance160(抄訳者注:シンガポール海軍現有のするEndurance級ドック型輸送揚陸艦の後継構想)モデルを表面的に混同したからである。2018年にシンガポールの国営メディアである放送局であるCNAによって伝えられた情報画像によって、JMMSは全通甲板の兵器輸送艦艇では決してないことが示されている。これは、同年にシンガポール海軍自身が発表した情報画像と同じである。この写真では、その上部構造物はその艦首付近に設置され、F-35Bのような短距離離陸及び垂直着陸の戦術用航空機を配備するために不可欠な全通飛行甲板が準備されていない。
(4) 2019年、国防省は、JMMSの情報画像を抹消したにもかかわらず、別のものを公表した。そのシルエットはEndurance160をある程度示唆しているが、シンガポール海軍が同艦を本当に獲得したとしても、運用上の制限が準空母としての展開を妨げる。Collin KohとBernard Looは、2015年3月にこれらの考察のいくつかについて議論した。戦力投射におけるJMMSの役割を制限する主な要因の1つは、1ダースの戦闘機すら搭載できない程に艦艇のサイズが比較的小さいことである。簡単にいえば、この難問は、このような艦の比較的少ない戦闘機の定数を防御と攻撃にどのように割り当てるかを中心に展開する。JMMSの主力艦としての立場を考えると、この航空団の優先事項は、戦力投射ではなく、母艦を脅威から守ることである。要するに、JMMSは固定翼航空機の運用基地としては効果的ではない。しかし、KohとLooは、この艦が軍事作戦全体の指揮統制艦艇として役割を果たす可能性があることを正しく指摘した。それに加えて、その航空能力は、「熱い戦争」(hot war)においてある程度の有用性を持つ可能性がある。その最終的構成に関係なく、JMMSの考え得る戦闘での役割は、その搭載ヘリコプターが許容される運用状態の下で、敵の重心を攻撃する軽歩兵又は特殊作戦部隊を展開する可能性があるということである。JMMSの機動性を考えると、これらの任務は予想外の所から実行される可能性があり、それは敵の計算を複雑にする。JMMSは適切な改修が行われた場合、陸上から長距離の出撃をするF-35Bのために、海上において前程で武装したり、燃料補給を行ったりするポイントとしての役割を果たす可能性がある。
(5) JMMSに関する議論は、オーストラリアにおける同様の検討と同時に進行しており、そのメディアはF-35Bを配備するためにCanberra級強襲揚陸艦を改造するべきかどうかを議論している。これは、いずも級ヘリコプター搭載護衛艦がF-35Bに対応可能になることを日本が明らかにした後のことである。
(6) より明確なのは、シンガポールが武器調達に対する長年の漸進主義的アプローチを継続する可能性が高いということである。この点でJMMSも何も変わらない。この艦の進水が見込まれる2030年以降、Endurance2.0よりもむしろEndurance1.5として就役することが予想される。
記事参照:Whither Singapore’s Joint Multi Mission Ship?

1月31日「インド北東部の開発によるインド太平洋地域への関わりの深化に向けて―印国際関係専門家論説」(East Asia Forum, January 31, 2020)

 1月31日付の豪Crawford School of Public Policyのデジタル出版物であるEast Asia Forumは、印シンクタンクEast Asia Centre at the Institute for Defence Studies and Analyses研究員Titli Basuの“India’s Northeast is the gateway to greater Indo-Pacific engagement”と題する論説を掲載し、ここでBasuはインド北東部のインフラ開発について、そのインドにとっての重要性と日本の関与について要旨以下のとおり述べている。
(1) インド北東部諸州は、北は中国とブータン、西はバングラデシュ、東はミャンマーに接する、インド中心部からは遠く離れた地域であり、従来「距離の過酷さ(tyranny of distance)」を創出していた。しかしそこは、インドのアクト・イースト政策および日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」政策が交わるところに位置し、きわめて大きな戦略的価値を有している。
(2) インドにとってインド北東部は、インドと東南アジア市場を結ぶ地域として大きな重要性を持つ。しかし、インドと東南アジアの連結性を強化するために北東部を開発することには大規模なインフラ投資が必要となる。この点においてインドは日本と協力を進めることが重要である。2017年に日印アクト・イースト・フォーラムが設立されたことは、その重要な一歩であった。
(3) 日本にとってもインド北東部開発への投資は意味のあることで、2つの目的がある。ひとつはグローバルなインフラ市場を確保することによる日本経済の成長エンジンの創出であり、もうひとつはインド太平洋地域において中国に対抗するための戦略的パートナーシップの強化である。とりわけ前者のインフラ投資は、日本の「再興戦略」と「開発協力大綱」にとって重要な内容であり、「質の高いインフラ輸出拡大(EPQI)」構想によって、日本は高品質のインフラ輸出・投資を支援しているのである。
(4) 日本によるインド北東部へのインフラ投資は、たとえば北東州道路網連結性改善事業などを通じてこれまでにないほどに拡大している。日本からの投資は、さまざまな交通網の整備に利用されている。それにはたとえば、ミゾラム州のアイザウルからトゥイパンを結ぶ国道54号線や、メガラヤ州のトゥラとダルを結ぶ国道51号線などがある。前者はインド北東部とインド他地域をミャンマー及びベンガル湾経由で結ぶ国際回廊であるKaladan Multi Modal Transport Corridorの連結性を向上し、後者はバングラデシュとの国境周辺の連結性を向上するだろう。
(5) これらのインフラ開発計画は、アジア開発銀行(以下、ADBと言う)などによる事業との相乗効果が期待できる。それにはたとえば、ADBが主導する「ベンガル湾多分野技術・経済協力イニシアチブ」の取り組みのひとつであるインド・ミャンマー・タイ三国高速道路などがある。もしその高速道路がカンボジアやラオス、ベトナムまで延伸されれば、それはインドが東南アジアへの経済的なコミットメントを強化することに貢献するであろう。
(6) インド北東部の連結性を強化することはインドにとって決定的に重要であり、そこにおいて日本との協力は、公開性と透明性、経済的実現可能性や財政的持続性をもたらすものである。また日本にとって、経済的に強靭なインドは自国の利益にもつながるのであり、日本はODAやADBなど多国籍開発銀行における影響力を通じて、インドの開発に有利な立場にあると言える。だが、こうした国境を越えた事業の成功の可否は、それぞれ異なるさまざまなアプローチや文化がいかに相乗効果をもたらすかにかかっているだろう。
記事参照:India’s Northeast is the gateway to greater Indo-Pacific engagement

1月31日「ロシアFederal Security Service、北極警備のためさらなる砕氷艦を取得―ノルウェーオンライン紙報道」(The Barents Observer, January 31, 2020)

 1月31日付のノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、“FSB gets more icebreaking vessels for Arctic patrol”と題する記事を掲載し、ロシアのBorder Guard ServiceはアイスクラスArc5の新砕氷警備艦の3番艦をサンクトペテルブルグ以外で建造することを計画しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 北方海域用の3隻目の砕氷警備艦はサンクトペテルブルグ以外のVyborg Yardで建造されることになろう。ロシアFederal Security Service指揮下の部局であるBorder Guard Serviceは北極の氷海でのプレゼンスを強化しつつある。砕氷警備艦の1番艦は2017年4月に、2番艦は2019年11月に進水している。両艦は2023年および2024年に就役させるため、サンクトペテルブルグのAdmiralty Yardで建造中である。
(2) 3番艦は現在、計画中である。しかし、同艦の建造契約は3月に署名されており、建造価格は180億ルーブリ(2億5,500万ユーロ)とコメルサント紙は報じている。同艦はアイスクラスArc5(抄訳者注:7月から10月期にロ気象庁の氷況が厳しいあるいは中程度の場合に、カラ海、ラフテフ海、東シベリア海、チュクチ海を単独航行できる砕氷能力を有する)に認定され、1.7m強の氷を砕氷できるだろう。Vyborg Yardは民間船建造に特化されており、報告ではこれまでに海軍艦艇を建造したことはない。ロBorder Guard Serviceは新しい全長114mの警備艦を船舶の誘導や曳航と同様、海洋資源や国境防護にも運用可能である。警備艦はカリブル巡航ミサイル(NATOコード:SS-N-27)やウラン対艦巡航ミサイル(NATOコード:SS-N-25)を搭載可能である。
記事参照:FSB gets more icebreaking vessels for Arctic patrol

【補遺】

(1) Understanding, analysing and countering Chinese non-military efforts to increase support for, and decrease resistance to, Beijing’s strategic and defence objectives in Southeast Asia
https://www.hudson.org/research/15668-understanding-analysing-and-countering-chinese-non-military-efforts-to-increase-support-for-and-decrease-resistance-to-beijing-s-strategic-and-defence-objectives-in-southeast-asia
Hudson Institute, January 24, 2020
John Lee, a senior fellow at Hudson Institute
 1月24日、米保守系シンクタンクHudson InstituteのJohn Lee主任研究員は、同研究所のウェブサイトに、" Understanding, analysing and countering Chinese non-military efforts to increase support for, and decrease resistance to, Beijing’s strategic and defence objectives in Southeast Asia "と題する論説を発表した。ここでLeeは、日本の外務省が2017年4月に公表した「自由で開かれたインド太平洋戦略」、同年11月にオーストリア政府が発表した「開かれ、包括的、かつ、繁栄したインド太平洋地域」との表現が含まれた外交白書、そして2017年12月に米トランプ政権が発表した、「世界中で直面する政治的、経済的、軍事的競争の高まりに対応する」との決意が含まれた「国家安全戦略(NSS)」という3つの重要文書の内容は、非常に似通っており、その中心にあるのは、自由で開かれたインド太平洋(以下、FOIPと言う)の概念であると指摘し、この概念は第二次世界大戦以来存在してきた安全保障と経済のルールに基づく秩序を再確認するものであり、特に、海洋、航空、サイバー空間などの地域的、国際的なコモンズの自由や、各国の経済活動の方法に関するものであると解説している。その上で、Lee主任研究員は、FOIPは、中国の影響力増大に直面する東アジア諸国で強く受け入れられると考えていたが、実際には、予想に反して東アジア諸国による中国に対する個別の批判は稀であり、この現象は、米国ではなく中国の政策が、これらの東アジア諸国の望ましい秩序と現状に大きな課題と混乱をもたらしているにもかかわらず生じていると分析している。
 
(2) Arctic Ambition
https://ipdefenseforum.com/arctic-ambition/
Indo-Pacific Defense Forum.com, January 27, 2020
COL. JOSEPH A. MUSACCHIA Jr./U.S. AIR FORCE
 1月27日、米空軍のJOSEPH A. MUSACCHIA Jr.大佐は、米インド太平洋軍が後援するIndo-Pacific Defense Forum誌電子版に、" Arctic Ambition "と題する論説記事を発表した。その中でMUSACCHIA大佐は北極の氷が溶けることで、主要な貿易圏間の数千キロメートルの距離と数日間の航行日数を節約できる可能性が高まっているが、後退する氷はこの地域の海上交通量を増加させ、北極を横断する二つの航路、すなわち北極海航路(NSR)と北西航路(NWP)の出現をもたらす一方、国家間の紛争の可能性をも生み出すだろうと述べ、北極の軍事的戦略性の増大を指摘している。その上で、北極における中国の野心に対抗するために検討されている解決策は、北極における深海港の建設であり、これは、米国の北極におけるプレゼンスを確立するだけでなく、インド太平洋の同盟国、パートナー国と協力することで、この重要な世界的海洋難所にそれらの国も参加できる重要なインフラを提供することにつながるとし、こうした方策で中国の野心に対抗することによって、米国と同盟国、パートナー国は「戦わずして勝つ」ことが可能になると主張している。
 
(3) With Its New Aircraft Carrier, Is China Now a Blue Water Navy?
https://thediplomat.com/2020/01/with-its-new-aircraft-carrier-is-china-now-a-blue-water-navy/
The Diplomat.com, January 25, 2020
James Maclaren, a London-based freelance writer who spends time in the Far East and specializes in defense and security affairs
 1月25日、ロンドンを拠点にして主に東アジアで活動している、防衛・安全保障問題を専門とするフリーライターJames Maclarenは、デジタル誌The Diplomatに“With Its New Aircraft Carrier, Is China Now a Blue Water Navy?”と題する論説を寄稿した。その中では、①2019年12月に就役した中国初の国産空母である「山東」は、短距離離陸拘束着艦システムを使用し、離陸を支援する大きなスキージャンプ台があり、J-15の運用を予定している、②J-15は不安定な飛行制御システムを装備し、推力が不足している。そして最大離陸重量が大きいため、燃料又は武器の最大積載量を減らす必要がある、③「山東」は石油を燃焼させるエンジンによって動いており、米空母と比較して耐久性が制限され、将来における電磁式カタパルトを稼働させるために必要な電力量を生み出すことが難しい、④「山東」に搭載されるJ-15は36機に制限されるが、その飛行甲板の設計は航空機の運用を制約し、それは達成可能な1日あたりの出撃率に影響を与えるため、おそらく米英空母が可能なものより低い、⑤J-15に代わって使用される可能性のある J-20は重量があり、STOBAR空母からの作戦は難しく、大幅に改造する必要がある、⑥「山東」は、まだ欧米のものとは競えないが、中国の空母能力の発展における重要なステップであり、真の外洋海軍への進化の旅程の一部であると述べている。