海洋安全保障情報旬報 2020年2月1日-2月10日

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1月29日「豪州の防衛政策の再検討―豪専門家論評」(The Strategist, 29 Jan 2020)

 1月29日付、1月31日付および2月6日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Australian National UniversityのStrategic and Defence Studies Centre教授Stephan Frühlingの“Reassessing Australia’s defence policy (part 1): What is the ADF for?”、“Reassessing Australia’s defence policy (part 2): What are our strategic priorities?”及び“Reassessing Australia’s defence policy (part 3): Preparing for major war in the 2020s”と題する3部からなる論説を連載し、ここでFrühlingは豪州の防衛政策と軍の編成装備全般を2016年の国防白書のものから全面的に見直し、戦略的優先順位を定め、2020年代に想定される大規模紛争に備えるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
なお、本論説は前述のとおり1月下旬から掲載されているが、一連のものとして紹介する方が望ましいことから本旬にまとめたものである。
 
第1部:豪国防軍は何のためにあるのか?
(1) 2016年版の豪国防白書はオーストラリアの防衛政策と防衛力に関する最新の包括的な報告であるが公表からすでに4年が経過している。同白書のアウトラインは2014年に設定されたものであるが、それ以降、北半球のオーストラリアの同盟国の国防政策は劇的に変化しており、現在ではロシアや中国との大国間の紛争が焦点となっており、オーストラリアは国防白書ないし防衛政策を再検討すべきであるという要求も次第に大きくなっている。豪政府はなぜ2016年防衛白書の戦略的基盤の再検討を発表するのに3年もかかっているのか。スカンジナビア諸国、NATO諸国、日本と比較して、オーストラリアは中国やロシアの軍事的冒険にすぐにさらされる危険は少ないからであろうか。2016年の白書の以下の3つの要素は比較的安定した防衛政策に資するものとなっているが同時に将来の課題も示している。
a. さまざまな防衛政策支持者が白書に自分の考えを読み取れるほど幅広く定義された戦略  的方針の設定
b. 十分予測可能な政府予算のおかげで、豪国防省が忠実に実現している防衛力整備計画では あるが、2020年代後半以降になってやっと重要な能力に大きな成長をもたらすこと
c. 効率性と機敏性の見返りとなった防衛予算のかなりの部分を永久に消費し続ける継続的な建艦計画の設定
(2) 2016年白書では、インド太平洋における航空作戦及び海上作戦の要求を反映した軍の構造改革に優先順位を設定はしているが、オーストラリアの防衛、近隣地域の安全保障、安定したインド太平洋地域及びルールに則った世界秩序、これらのすべてに同程度の優先順位を与えてしまっている。2016年白書はオーストラリア防衛を最優先としない初めての白書であった。防衛目標を地理的に制限しないことで、オーストラリアが国際的な連合作戦を世界的な規模で支援することが明らかになった。「インド太平洋」概念に中心的な場所を与えることで、中国の台頭への挑戦を認めた。政治的に問題となるかもしれない「自立」という用語を避け、この白書は豪軍が「独立して」活動することの必要性を強調した。このように、この白書はそれまでの主要な政策論議すべてを首尾よく回避し、おそらく一般的に好意が持たれるような内容を説明した。その反面、この白書は戦略的な危機をなんとか処理する上で近隣の国々、遠隔の国々と協調して行動するという考え以上には現在のオーストラリアの戦略的方針に含まれるべき戦略が著しく少ないという欠点がある。南西太平洋及びより広いインド太平洋における豪国防軍全般、特に海軍の展開が2016年以降大幅に増加している。しかし、これらの軍の展開が、戦略的方針の枠組みにどのような意味を持っているのかを全く示していない。豪国防軍の存在がどのように国の安全保障に影響し、オーストラリアが同盟国との協力強化を通じて何を達成しようとしているかを説明していない。事実、2022年の海軍の戦略には「我々の地域、友人、脅威を知り理解する」ためのパートナーシップを維持するとしか書かれていない。
(3) 豪陸軍も「強固でネットワーク化された陸軍」という2000年代半ばのビジョンに取って代わる新しい未来の概念を作ろうとしてきた。オーストラリアの地理的条件を考えると、陸軍は南西太平洋での安定化作戦という必要以上の役割と任務を定義することは困難であると考えられてきた。現在の豪国防軍最高司令官であるRick Burr陸軍中将の下で、反省と分析の期間を経て、2018年の「前進する陸軍(army in motion)」という概念をもたらした。司令官の声明は、豪陸軍は協力、対立、紛争の間の曖昧な境界線よりも広い範囲で、他の領域(海上を含む)においても戦う必要性を強調している。同時に、地域関与の頻度は低下していない。2014年以降のさまざまな出来事により、米国と米国のNATOの同盟国は大規模戦争の可能性に再び焦点を合わせるようになったが、オーストラリアでは「太平洋のステップアップ」は逆の効果をもたらした。その結果、現在の豪国防軍は「過去に似ているだけ」の戦略的要求に焦点を当てたままである。これがますます主張を強める中国とますます信頼性が低くなる米国からのリスクに対処するために適切であり続けることは難しい。したがって、豪国防軍の目的を再検討することは、現在の豪州の防衛政策が直面している最も緊急の問題である。これは、中国、米国、イランの動向を単に述べるだけで答えられる問題ではないのである。
 
第2部:戦略的優先順位は何なのか?
(4) 2016年国防白書の戦略方針の章では、軍の編成、態勢、配備の優先順位を決定するための枠組みが示されていない。「自立」などの古い概念には以前のような戦略的根拠はなくなり、「パートナーシップ」を有効にするためには何が役立つかに焦点が当てられている。しかし、これらのすべてがさまざまな脅威の影響を受ける可能性がある。大国間の紛争が防衛政策の主な関心事であると断言するだけでは不十分である。豪政府がそのリスクをどのように削減したいかについて何も述べていないからである。より実り多いアプローチとしては、1950年代と1960年代の「戦略的基盤」に関する論文に見られるような「冷戦」、「限定戦争」、「全面戦争」という概念の区別からヒントを得るべきである。戦略、つまり軍の編成、態勢、配備の決定は、これらの概念によって大きく異なる。したがって、戦略的方針の重要な要件は、今日「小規模紛争」、「限定戦争」、「大規模戦争」と呼ばれるものの優先順位を確立することである。これら3つはすべて中国との紛争から生じる可能性がある。
(5) 「小規模紛争」において、オーストラリアの目的は安全保障パートナーとしてのより広範な政治的地位を確立する能力と意欲を示すことにより、第三国に影響を与えることである。中国よりも魅力的な経済的、政治的条件で、より多くのものを提供できるようにするということである。対照的に、豪国防軍の編成は伝統的に特定の限定的な目標を達成するための限定戦争にあわせて作られてきた。2000年代以降、インド太平洋地域または限定戦争での米国の作戦における共同任務部隊に豪国防軍が意味のある貢献をする能力が高まった。2016年白書の防衛整備計画により、軍の態勢はさらに強化された。中国との対立においては、「限定された」目的は南シナ海などの特定の地域の管制に関すること、もしくは、単に教訓を与えることである。
(6) 「限定戦争」のリスクをコントロールするためには、紛争から中国に生じるマイナスが中国の直接のプラスを上回ることを期待しつつ、米軍及び同盟軍を配置し、武力の使用があるかもしれないという脅威を作ることによって危機において即時の抑止を達成することが必要となる。これには中国軍との激しい紛争において作戦行動する能力を必要とするが、紛争激化を避けたいという政治的欲求を反映し、インド太平洋の地域の引火点に近い限られた地域で行動することとなるだろう。抑止(及び第三国の防護)のために、豪国防軍は、おそらく長期にわたって前方展開する必要がある。
(7) 「大規模戦争」では、米中はインド太平洋地域での自国の活動に反対する互いの能力を破壊しようとする。大規模戦争は「限定戦争」のエスカレーションの結果として、または台湾への中国の侵攻から生じる可能性が最も高いであろう。大規模戦争における豪国防軍の主な任務は、欧州と北米への輸送を含む、米国の長距離航空作戦及び海軍作戦の拠点地域としてのオーストラリアを防衛することと我々のすぐ近くで戦後の和解を形成する独立した作戦を行うことである。戦後の和解は米国よりもオーストラリアにとって重要である。したがって、北部での前進作戦は、政治的関与を実証するための物理的なプレゼンスではなく、潜水艦作戦、接近阻止/領域拒否作戦、独立した攻撃作戦に焦点を当て、特定の目的を達成する。オーストラリアの作戦目標とリスク回避は、紛争の潜在的な性質を反映する必要があり、これらの3つの要素はすべて、中国との紛争の脅威に対応しうるが、非常に異なる各軍の編成と態勢の優先順位、さまざまな種類の前方展開、地域パートナーシップのさまざまなタイプの目標に関係する。それらはまた、インド太平洋地域における異なる地理的優先順位を示しているが、それらは「小規模紛争」、「限定戦争」、「大規模戦争」の優先付けの結果にすぎない。これら3つの状況のうち、豪政府は、中国の目的の評価と豪州が米国に期待できる支援に基づいて、最終的に戦略的リスクに関する政治的判断をすべきである。しかし、豪政府が優先事項を明確にしていない場合、オーストラリアは明確で一貫性のある戦略的な方針を持っていない状態であり続けることになるであろう。
 
第3部:2020年代の「大規模戦争」への備え
(8) オーストラリアの戦略的方針に関する現在の懸念は多いが、多くの不安の背後にある基本的な課題は、米国による援助の範囲と内容が明確となっていない場合であっても、自国領域で「大規模戦争」があったときに要求されることにオーストラリアが十分に準備していないことである。防衛産業は、供給の混乱に対処するように構成されていない。オーストラリアが90日分の燃料消費量を保持するという国際エネルギー機関への義務を履行できていないことは、依然として戦略的な懸念事項である。また、戦時に徴用すべき商船隊に石油タンカーと貨物船がほとんど含まれていない。オーストラリアが過去よりも「大規模戦争」の準備に重点を置くべきだと考える正当な理由がある。「小規模紛争」は、少なくとも軍事的と同じくらい政治的、経済的、外交的である。豪国防軍はすでに「限定戦争」に関心を向けているが、その結果は引き続き米国の決意にかかっている。 2014年以降のロシア、中国、米国の動向はすべて、最悪のシナリオに向かう可能性を秘めている。
(9) オーストラリアには時間的な余裕はない。戦略的な警告を発する時間があったのは、2019年ではなく2009年であった。2020年代の豪国防軍に向けて、新しい艦艇、航空機等に関し残されている手段は、すでに計画されている既存兵器の購入促進である。F-35、MQ-4C、MQ-9ドローン、MC-55A電子戦支援航空機、新しい有人/無人ハイブリッド機、海軍の新型警備艦艇(以下、OPVと言う)などの購入である。しかし、2016年白書で示された軍の編成の概要の内であっても、オーストラリアは2020年代の「大規模戦争」の可能性に焦点を当て、大幅な改善を図ることができる。特に、政府はKC-30A空中給油機を追加取得することにより、オーストラリアの空戦能力をより継続力のあるものにすることを検討すべきである。F-35に関しては、Kongsberg社の海軍攻撃ミサイルに統一するべきである。また、民間からのパイロット、基地支援要員、戦闘損傷修理能力の支援を検討するべきである。豪州北部の空軍基地での燃料貯蔵と補給インフラを改善すべきである。P-8Aポセイドンを追加取得し、曳航式ソナーをAnzac級フリゲートに装備することにより、広範囲の潜水艦作戦に依存している太平洋及びインド洋のシーレーンを保護する能力を強化する必要がある。大規模な長期使用のソノブイの可用性を確保する必要がある。曳航式ソナー、RAM、Phalanxシステムなどの基本的な自己防御機能が装備されたならば、新しいOPVは、対空脅威の少ない地域での対潜水艦作戦に有意義な貢献をすることができる。 また、OPVがMH-60Rのlilypad operations(編集注:米軍が常駐していないアフリカやラテンアメリカ諸国における安全保障、危機管理のための行動)を支援できた場合、対潜水艦ヘリコプターの追加取得も検討に値する。
(10) さらにオーストラリアの防衛には、陸上の対艦巡航ミサイル、追加の短距離防空システム、中距離防空能力の取得を加速することを検討する必要がある。また、これらの能力を使用しココス諸島に恒久的な軍の守備隊を配備することを検討する必要があるほか、以下のような点も考慮する必要がある。
a. Hobart級駆逐艦とAnzac級フリゲートのための新しい長距離対艦ミサイルの取得
b. 5年から​​10年の期間内に既存の主要艦艇、航空機を補完する可能性のある自律型無人装   備による海空軍能力の開発への投資
c. 近隣での長距離ターゲティングのための情報収集、監視、偵察及び戦闘管理システムの 能力の改善。潜水艦から発射される巡航ミサイルの危険にさらされている重要な基地防御能力の強化
d. オーストラリアが南西太平洋の中国基地を制圧することを可能にする範囲での大規模爆撃を行う唯一の実行可能な解決策であるB-21Raider爆撃機の取得の追求
e. 自然災害に対処するためだけでなく、豪本土からの動員と分散作戦に必要な後方支援を提供し、燃料配給または広範囲にわたるサイバー停止時の民間防衛を支援する予備地域の組織の再構築
f. 豪国防軍及び同盟軍のための、戦闘被害を受けた艦艇航空機の修理能力の強化
これらすべてが安価で手に入るわけではない。多くの予算は、将来の軍用装甲車両の削減から得られる可能性がある。おそらく、空軍及び沿岸防衛能力のために軍隊を追加的に拡大するのではなく、既存の部隊を再配置すべき時が来る。しかし、オーストラリアの防衛力を強化するには、GDPの2.5%以上を防衛支出に費やす追加予算が必要である。豪州政府が2016年に意図したよりも多くの予算を使う気がないならば、2016年以降世界がより危険な場所になっていないと証明しなければならない。
(11) この種の予算追加が行われたとしても、オーストラリアが中国に対する最後の砦となることはできないであろうし、「大規模戦争」の結果は米国の在来軍の兵力と核兵力に依存するであろう。しかし、それによってオーストラリアがより長く戦闘を継続し、同国の近隣地域が中国の作戦にとって魅力のない地域となり、オーストラリアを米国の長距離空軍及び海軍の作戦拠点としての価値があり、有効であるものとするのに役立つであろう。したがって、中国が2020年代にオーストラリアが関与する限定戦争または大規模戦争を開始するようなことがあれば、豪国防軍に注意を払わなくてはならなくなる。オーストラリアが国防軍を持っているのは悪いことではないのである。
記事参照:Reassessing Australia’s defence policy (part 1): What is the ADF for ?
     Reassessing Australia’s defence policy (part 2): What are our strategic priorities?
     Reassessing Australia’s defence policy (part 3): Preparing for major war in the 2020s

2月1日「海上公試に入ったインドネシア潜水艦の能力―デジタル誌編集委員論説」(The Diplomat, February 1, 2020)

 2月1日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集員Prashanth Parameswaranの“Indonesia’s Submarine Capabilities in the Headlines with New Sea Trials”と題する論説を掲載し、ここで Parameswaranはインドネシア国内で初めて組み立てられたAluguroが計画潜航深度までの試験に成功したことは単に潜水艦部隊増強への大切な一歩を記しただけでなく、インドネシア・韓国の関係の今後にとっても重要であり、注目する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 1月初め(抄訳者注:2月1日の配信であるが、該当するインドネシア潜水艦の海上公試は1月3日から実施されていた。)、インドネシアは国内で初めて組み立てられた潜水艦にの海上公試を実施した。この点に関し、ジャカルタの能力開発の重要な側面に再び焦点が当てられている。 
(2) 本誌で先に触れたように、インドネシアはアジアでより能力の高い潜水艦部隊の1つを運用してきたが、今日、相対的にいえばインドネシアの潜水艦部隊は装備が貧弱であり、その能力を向上させると見られており、以前には最大限の所要は潜水艦12隻と言われていた。現在進められている軍近代化とそこにおける問題点の中、Joko “Jokowi” Widodo大統領の下でこの要求は追求されている。韓国は、インドネシアがその能力向上のために頼みにしつつあった協力国の1つで、ジャカルタは2011年に妥結した協定により当初、3隻の潜水艦を発注した。そして、東南アジア諸国が徐々に技能と技術的ノウハウの面でその能力を伸ばしてきていることから4隻目以降の予想される計画も熟考されつつある。
(3) 1月初頭、初めて組み立てられた潜水艦の公試でインドネシアにおける潜水艦能力開発が国内で再び脚光を浴びた。インドネシアは、韓国に発注した潜水艦の3番艦Aluguroの公試を実施した。インドネシア国営造船所PT PALの声明によれば、公試での計画潜航深度への潜航試験は成功裡に実施された。Aluguroは深さ約250メートルまで潜航可能と言われている。PT PALは、契約は約90パーセント完了しているとだけ述べており、次の段階の詳細については言及していない。
(4) 今回のような国内の能力、開発の達成の追求やインドネシアの潜水艦能力に関わるより広範な問題にかかわる今回の公試の成功が持つ重要性を考えれば、ジャカルタ、ソウル間のさらなる協力と同様今回のような開発はここ数ヶ月の間、注視することが重要であり続けるだろう。
記事参照:Indonesia’s Submarine Capabilities in the Headlines with New Sea Trials

2月2日「湾岸地域での海洋連合の活動―英メディア報道」(Sky News, February 2, 2020)

 2月2日付の英国のニュース専門局Sky Newsのウエブサイトは、“Maritime coalition to protect ships in the Gulf from Iran may ‘be needed for years’”と題する記事を掲載し、湾岸地域で英国主導の海洋連合に参加しているバーレーン海軍の様子について、要旨以下のように報じている。
(1) ホルムズ海峡の商船が使用する重要な輸送ルートを守るために、英国主導の海洋連合が結成された。バーレーン海軍の将校によると、湾岸での海運に対するイランによる攻撃を抑止するために組織された国際海洋連合が数ヶ月、場合によっては数年必要になるだろう。英国主導の任務部隊の一部であるバーレーン海軍のコルベットAl Muharraqの艦長Arif al Rouwaie中佐に、この連合が数ヶ月、さらには数年必要であると考えているかどうか尋ねると、「そのとおりである。なぜなら、この任務は海軍にとってそれほど重要ではないが、海運会社にとって非常に重要だからである。商船が湾岸に到達したときに、安全と感じるからである」と答えた。また、「我々は航路帯を監視し、国際海域を通過する商船を守り、航行の安全を守っている」と彼は述べた。
(2) これはバーレーン海軍が常に行ってきた業務だが、彼らは現在、米国、英国、オーストラリア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦及びアルバニアからの艦艇や航空機を含む連合各国と情報および哨戒任務を分担している。バーレーン海軍のAl Muharraqは、いわゆる「見張り役」としての任務を負った多数の小型艦の1つである。これは湾岸国家のより広い経済海域だけでなく、その海岸から12マイルまで広がるバーレーンの領海を哨戒している。この艦は、この地帯に入ったタンカーを護衛し、他国の同類の見張り役に引き渡すとそこから去る。「我々は彼らと話をし、彼らの目的地、彼らがどこから来たか、乗船している乗組員の数について彼らに尋ねる。これにより、艦艇と商船の間の海上での関係が非常に友好的で非常に安全になる」と艦長は言う。これらの哨戒艦艇によって収集された情報は、常時2、3隻が「番兵役」として任務に就いているフリゲート艦や駆逐艦のようなより大型の艦艇と共有される。それらは、ホルムズ海峡のような湾岸の主要なチョークポイントに配置されている。その目的は、イランの革命防衛隊が用いたと米国が非難した、タンカーに忍び寄り、リムペットマインをタンカーに取り付けるという戦術を抑止するため、航路帯により綿密な監視層を設けることである。Rouwaie中佐は、バーレーンがこの任務の一部を担うために海洋連合の創設を非難しているイランからバーレーンが標的とされることになるとは考えていないと述べた。
(3) Donald Trump大統領がイランとの核合意から離脱した後、ワシントンとテヘランの間で緊張が高まり、International Maritime Security Constructが昨年の夏に米国のリーダーシップの下に結成された。当時、湾岸のタンカーに対するリムペットマインによる攻撃と疑われた相次ぐ事案に対する責任を問われたが、テヘランは関与を否定した。イラン軍はまた、英国籍船Stena Imperoを拿捕し、米国の無人偵察機を撃墜した。船舶を安心させることに努めようと、バーレーンの米海軍基地での司令部開設により、11月にこの連合がより公式的なものになった。
(4) 米国がイランの最高司令官であるQassem Soleimani少将を殺害した後、ワシントンとテヘランの間の対立は、1月にほとんど地域的な戦争に発展した。イランは、イラクにある米軍を標的にしてミサイルを発射して反撃した。航路も標的にされるかもしれないという懸念があった。それは起こらなかったが、誰もがいまだ厳戒態勢である。1月30日、英国海軍の将校が7カ国連合の指揮権を引き継いだ。この指揮官交代で、イランの政策に関するTrump大統領との意見の不一致のために米国主導の任務に署名することをためらっていたより多くの国家が海洋連合に参加すること促すかもしれないという期待がある。
(5) Al Muharraq副長Ahmed Abdul-Gaffar中佐は、「我々は常に準備ができているが・・・ここで我々が行っている作戦の本質は抑止である。我々は、より高いレベルの関係当局が我々に要求するあらゆる軍事活動を行う準備ができている。しかし、我々は平和な環境を維持することを好む」と述べた。
記事参照:Maritime coalition to protect ships in the Gulf from Iran may ‘be needed for years’

2月3日「中国の領土的主張に対して抵抗を強める東南アジア諸国―台湾政治学者論説」(Nikkei Asian Review, February 3, 2020)

 2月3日付のNikkei Asian Review電子版は、台湾のNational Chengchi University研究員Richard Heydarianの“ASEAN members start standing up to China's maritime aggression”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは、近年東南アジア諸国、特にインドネシア、マレーシア、ベトナムが、南シナ海等において拡張を目指し続ける中国に対し強硬な姿勢に出つつあることについて、要旨以下のとおり述べている。
(1) ここしばらくの間、中国は南シナ海に象徴されるように海洋における領土的主権の拡大を目指してきた。そのなかで、軍事的な威嚇だけではなく経済的インセンティブなども用いつつ、権利をめぐって論争する東南アジア諸国をうまく引き込もうと試みてきた。しかしここ最近、とりわけベトナム、マレーシア、インドネシアなどの国々が、そうした中国の動きに挑戦を始めている。
(2) 昨年後半、南沙諸島の西、ベトナムの排他的経済水域に位置するバンガード堆をめぐり、中国とベトナムは数ヵ月におよぶ行き詰まりを経験した。その後ベトナムは、この問題について国際仲裁裁判所に訴訟を行い、中国の主張の法的基盤への挑戦を検討しているとして、中国を牽制した。これは明らかに、2016年にフィリピンが同様に国際仲裁裁判所で自国に有利な判決を勝ち取ったことを意識したものであろう。
(3) またベトナムは現在ASEANの議長国であり、中国に対してASEANとしてどう臨むかを決定するにあたり、独特の立場にいる。さらに最近は米国と事実上の同盟状態にあり、中国の行動を抑止するために米国という外部のパワーに頼ることもできる。実際にベトナムは10年前、Obama政権を動かし、南シナ海における「航行の自由」に対する中国の脅威に対抗させた。
(4) マレーシアと中国との関係は歴史的に深いものであり、したがって前者が南沙諸島や南シナ海における中国の主張に挑戦するような仲裁付託書を国連に提出した(2019年12月)のは、青天の霹靂であった。この仲裁付託書は、上述した2016年の南シナ海裁定の翌年に準備されたものだが、提出が先送りされていた。これは同国のインフラ計画について、経済的に中国に大きく依存していたからである。しかしひとたび中国との交渉において計画のコスト削減などを勝ち取り、経済的依存度を軽くすると、2018年に首相として復活したMahathir Mohamadは、南シナ海をめぐって中国への明確な挑戦を開始したのである。
(5) インドネシアもまた、同様に中国との経済的関係は深い。しかし同国は、中国との公然とした対決は避けつつも、たとえば南シナ海の南西に位置するナツナ諸島沖合で劇的に増大した中国漁船の違法操業に対し、その撃沈を含む断固とした態度で望んできたのである。インドネシアもまた、中国の領土的主張に疑問を呈し、軍事的能力の拡大によって中国の膨張的活動を抑止しようとしている。
(6) こうした東南アジア諸国の強硬なスタンスが持つ意味は、概して3つある。まず、主として経済的手段を用いた中国による懐柔政策が万能ではないことを示した。東南アジアの政治指導者たちは、中国に友好的であったとしても、軍事的圧力を強め、またムスリムの迫害を行う中国に対する国民の強い反中国感情の圧力に晒されている。次に、ASEANが今後ますます中国に抵抗を強めていく可能性があるということだ。これは、2021年にまとまめあげられる予定の「南シナ海における行動規範」の議論にも影響を及ぼすだろう。最後に、日本や米国、インドなどの外部の重要なパワーとの間で防衛協力を強める可能性があるということである。
記事参照:ASEAN members start standing up to China's maritime aggression

2月5日「大国のパワーと安全保障に関するASEANの認識-マレーシア国防省政策顧問論説」(The Interpreter, February 5, 2020)

 2月5日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは、マレーシア国防副大臣政策顧問Ivy Kwekの“ASEAN: Perceptions of power and security”と題する論説を掲載し、ここでKwekはISEAS-Yusof Ishak Institute of Singaporeによるアンケート調査結果の分析から、ASEAN諸国は米中対立の狭間で他のパートナー諸国との関係強化など、多様な選択枝を追求しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 最近の調査によれば、東南アジア全体で米中両国に対する不信感と実利的なパートナーシップの追求という感覚が明らかになっている。ISEAS-Yusof Ishak Institute of Singaporeが作成した「東南アジアの状況調査2020」※は、米中対立が東南アジア諸国の主要関心事であることを確認した。政府関係者、市民団体、メディアなどの専門家を対象とした調査では、回答者のほぼ半数が東南アジアの安全保障上の3つの課題を「南シナ海及び台湾海峡などにおける軍事的緊張の高まりと朝鮮半島問題」と回答している。
(2) 東南アジア全域で大国の存在に対する不均衡感がある。回答者の52.2%が東南アジアで最も影響力のある政治的、戦略的大国として中国を挙げており、その大部分である85.4%が中国の政治的、戦略的な影響力の高まりについて懸念を表明している。この根強い不信感は現在進行中の海上領域を巡る問題に鑑みれば頷けるところであるが、カンボジアやラオスなど親中国とみなされている国でも、従来の理解に反して同様のパターンが見られることは興味深い。
(3) 米国をこの地域で最も影響力のある国とした回答の割合は、前年の30.5%から26.7%に下落した。これは、米国の関与のレベルがTrump政権下で低下したと考える回答が77%であることと相関している。「インド太平洋」概念に対する受容度は改善されたものの、その本質については地域の多くの人々にとって依然曖昧なままであり(54%)、東南アジア諸国は日米豪印4カ国枠組(Quad)についても懐疑的である(54.2%)。
(4) 一般論として東南アジア諸国の人々は米中両国の不安定な行動を懸念している。中国は「世界の平和、安全、繁栄、統治のために正しいことをする」との回答は16.1%のみであり、米国はわずかに改善して30.3%であった。しかし、この調査結果は東南アジア諸国が二人の巨人のいずれかに与することも望んではいないということも示している。この2国間でのヘッジ戦略とは別にASEANは他の外部パートナーの関与による代替案を模索しているのである。日本は優先的な「第三者」(38.2%)として急浮上し、欧州連合(31.7%)とオーストラリア(8.8%)がそれに続いている。この調査はまた、ブレグジット後の英国との関係に関心を示しており、97.2%が「対話パートナー」など何らかの形での英国の関与を支持している。このほかインド及びロシアとの関係の重要性もよく認識されているようである。
(5) また、ASEANの「中心性」(抄訳者注:東アジアサミット(EAS)などこの地域の多国間枠組みASEANを中心に形成されて来たことを指す概念)に対する主張は、外部からの過度の影響に対する保護策の必要性を示しているようである。ほとんどの回答がASEANの組織としての脆弱性を認める一方で、より強く、回復力のあるASEANが好ましい選択枝として示されている(48%)。ASEANのオピニオンリーダーたちにこうした前向きな姿勢が見られるのは心強い。受動的であることは東南アジアの利益にとって決して有益ではない。
(6) このような感覚は実際にマレーシアの政策立案者の間でも共有されている。マレーシア政府が最近発表した初の国防白書では、大国間競争の不確実性、東南アジア地域の複雑性、そして非伝統的脅威という三点が安全保障上の課題として挙げられている。そしてこれらを克服するため、マレーシアは「大陸にルーツを持つ海洋国家」という地理的優位性を活用し、アジア太平洋とインド洋を結ぶ「架け橋、結束」の役割を果たすとしているのである。マレーシアはこのように外交とパートナーシップに依存する防御的姿勢を維持する一方、軍備強化や国内的な強靭性確保も目指しているが、これは地政学的条件も考慮しつつ、この地域でより積極的かつ建設的な役割を果たそうとする決意を示すものでもある。
(7) ASEANの統合の強化は確かに前進への道であるが、これは挑戦なしには実現できない。 この調査ではASEAN内のダイナミクスは完全には調査されておらず、南シナ海の領土紛争やIUU漁業などの国境を越えた問題がその統合の障害となっている。例えば、ミャンマーのラカイン危機(抄訳者注:同国ラカイン州におけるロヒンギャ問題を指す)にASEANが適切に対応したかどうかについても意見は分かれている。東南アジア諸国はこれまで海賊やテロなどの非伝統的脅威に対処すべく実用的な解決策(マラッカ海峡の共同パトロールなど)を選択してきた。具体的な結果を提供することはASEANのメリットが感じられないという批判に対応する最良の方法であろう(74.9%)。南シナ海の紛争やラカイン危機などの政治的に微妙な問題についてコンセンサスを構築するのは容易ではないかもしれないが、ASEANはこれらへの対応により機敏でなければならないということを学ぶべきである。
(8) いずれにしても米中両大国は東南アジア諸国の信頼を得るためより多くのことを実施しなければならない。この調査結果が示すとおり、ASEANはQuadに対する警戒心の一方で、一帯一路(BRI)への関与の強化、EU-ASEAN自由貿易協定への署名など多くの協力を受け入れてもいる。ASEANに関係する各大国は、この調査結果から大国が何をすべきかという点について教訓を得る必要があるだろう。
※(文中引用記事)“The State of Southeast Asia: 2020 Survey Report”
https://www.iseas.edu.sg/images/pdf/TheStateofSEASurveyReport_2020.pdf
記事参照:ASEAN: Perceptions of power and security

2月6日「4カ国安全保障対話の今後の3つのシナリオとASEANの対応―RSIS専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, February 6, 2020)

 2月6日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISのウェブサイトPacNetは、シンガポールのNanyang Technological University のS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)上席アナリストAmanda Trea PhuaとRSIS研究員Sarah Teoの “Three Scenarios for the Quad and for ASEAN”と題する論説を掲載し、4カ国安全保障対話の今後について3つのシナリオを提起し、それにASEANが如何に対応すべきかについて要旨以下のように述べている。
(1)  2017年に復活した4カ国安全保障対話(The Quad)が主として高官レベルの対話を通じて継続しているという事実は、この枠組みが地域安全保障アーキテクチャにおける重要な一面を構成していることを示唆している。従って、ASEANがインド太平洋における主たる多国間機構であることから見て、4カ国安全保障対話が今後ASEANとどのように関わり合っていくかは、十分検討に値する。以下、4カ国安全保障対話の今後に予想される3つのシナリオを設想し、それにASEANが如何に対応すべきかを検討する。
(2) シナリオ1―軍事協力の進展
a. このシナリオは、4カ国の国防相や高官による定期協議の開始、あるいは4カ国による軍事演習の開始を意味する。米国、インド及び日本が参加するMalabar年次合同海軍演習は既に実施されており、これにオーストラリアが常時参加するようになれば、より協力が強化された4カ国安全保障体制への前進を画すものとなろう。しかし実際のところ、これは実現しそうにもない。例えば、インドは、2017年と2018年にMalabar演習へのオーストラリアの参加を拒否した。しかしながら国防省高官の定期協議は実現可能かもしれない。
b. ASEANがこのシナリオに対応する1つの方法は、全加盟国と、オーストラリア、中国、インド、日本、ロシア及び米国の対話パートナーが参加する拡大ASEAN国防相会議(以下、ADMM プラスと言う)を通じた、地域防衛協力構想を強化していくことであろう。ADMM プラスは、開かれた包括的な地域安全保障アーキテクチャの重要性を印象づけるには有益であろう。
(3) シナリオ2―4カ国安全保障対話の分裂
a.最初の4カ国安全保障対話(以下、Quad 1.0と言う)は、中国の思惑に配慮したオーストラリアの離脱によってすぐに分裂した。復活した4カ国安全保障対話の持続能力も、受容可能な確たる理念とアジェンダがないことから、不確実である。より重要なことは、4カ国安全保障対話」持続能力は当該各国の対中関係に大きく左右されるということである。最近数カ月、日中関係の改善が見られるが、非同盟政策の伝統に立つインドは、米国の同盟国である日本やオーストラリアとは異なった対中政策を維持している。他方、ワシントンは少し露骨に、中国の膨張を抑えるために4カ国安全保障対話を利用し得ることを示唆している。こうした相違を考えれば、特に米国が4カ国安全保障対話を北京に対してある種の協調行動をとるグループと見なしているならば、4カ国安全保障対話はQuad 1.0と同じ理由で分裂しないとは言い難い。
b. ASEANの中心性に対する4カ国安全保障対話の挑戦に関する論議にも関わらず、4カ国安全保障対話の分裂は、必ずしもASEANに益するとは限らない。何故ならそれは地域の現状変更を試みる修正主義者を勇気づけることになりかねないからである。もし4カ国安全保障対話が再び分裂するならば、ASEANにとって最良の選択肢は、この機会を捉えて、地域安全保障アーキテクチャにおけるその中核的位置をより確実にすることであろう。このことは、自立的なアクターとしてのASEANの能力を強化するとともに、域内諸国に対するASEANの中核的プラットフォームとしての妥当性を強めることを意味しよう。
(4) シナリオ3―現状維持
a. このシナリオは予測し得る将来における最も蓋然性の高いものである。ともかく、「4カ国枠組み」の復活は、域内において共通の価値観と利害関係の上に立った有益な対話メカニズムを生み出した。同時に、4カ国は当然ながら、それぞれ独自の優先課題と地域情勢に対する認識を持っている。4カ国安全保障対話が現在までのところ1本の共同声明さえ発出していないという事実は、4カ国間に重要問題に対する見解の相違があることを示している。従って、4カ国安全保障対話が当面、現状維持で推移するであろうと見るのが現実的である。
b. それ故に、たとえ4カ国安全保障対話が協調的対話を継続するとしても、ASEANは、より包括的な多国間対話機構の「ハブ」として維持されるよう努力するべきである。例えば、このことは、4カ国がASEANを中心性プラットフォームとして認める理由付けとなる。このためにも、ASEANは、如何にすれば対話パートナー諸国の利益に適うかを考慮し続けなければならない。一部の専門家が提唱するように、これには、東アジア首脳会議を、戦略的諸問題についての意見交換のための域内の至高のフォーラムにすることが当然含まれよう。非ASEAN加盟国がASEANとの継続的な関わりを持つ根拠が担保されるならば、ASEANの中心性とその妥当性という文脈の中で、4カ国安全保障対話の目的にも寄与するであろう。今後とも、4カ国安全保障対話は、その存在を誇示するよりも、それが存続していく可能性の中にその価値があると見られる。従って、ASEANにとって、それに相応するアプローチをとっていくことが重要である。 
記事参照:Three Scenarios for the Quad and for ASEAN

2月7日「再び中国について議論しよう:米国の同盟国と米中離反について」(Brookings, February 7, 2020)

 2月7日付の米シンクタンクBrookings Instituteのウエブサイトは、Brookings InstituteのCenter for East Asia Policy Studies研究員Lindsey Fordと David M. Rubensteinの“Refocusing the China debate: American allies and the question of US-China “decoupling””と題する論説を掲載し、ここでFordらは米国は同盟国・友好国に対して対中離反か同調かの2分論を迫るのではなく、中国が及ぼす影響についての素直な評価と利益調整メカニズムを話し合うべきであるとして要旨以下の通り述べている。
(1) 今、米国では政策立案者と専門家が中国に関する新たなコンセンサスを得ているとの共通認識が生まれている。それは、「エンゲージメントは終わった、長期にわたる戦略的対峙だ」ということである。しかし、現在進行中の政策論争は、議論され始めた頃に比べると理論の構築が整然としていないように見受けられる。新たな対中政策を希求する中で、ではどのような未来を描けばよいのかという点においてコンセンサスが見られないのである。米国の政策立案者は、どのようにして“競争”という曖昧な概念を一貫性のある政策理念として組み立てるべきか?米国の戦略を推し進めるうえにおける目標と前提は何なのか?それを政策にどのように取り入れれば良いのか?そのような新しいアプローチに、米国の同盟や友好国はどのような役割分担を果たすべきか?そのような問い掛けに対して、これまでのところ残念ながら回答が見いだせていない。一方、米中の間では歴史、イデオロギー、戦略、地経学といった様々な分野で意見の相違が増幅している。対中戦略についての議論の多くは重点とすべきことから外れている。“競争”は、必ずしも中国の行動の源泉についての共通の視点を必要としないが、米国がインド太平洋で果たすべき役割を決め、同盟国と友好国に米国の政策と経済戦略に如何にして同調させるかにおいて必要なものとなる。2020年において中国に関する議論を進展させるためには、一旦、中国政府にフォーカスすることを避ける必要がある。それよりも、議論の中心を米国とその同盟がより統一された政策を如何にして決めるかに戻すべきである。
(2) 2019年、米国が米国とその同盟国の5GからHuaweiを締め出そうとするTrump政権の幅広い外交攻勢がマスコミをにぎわした。米中関係の後退の中で、各国は米中いずれにつくかの判断を迫られた。「それを求めるなら、我々は最大の貿易相手国との関係を絶たねばならない」とシンガポールのLee首相が述べたように、小国は判断困難な立場に立たされた。しかし、今のところ、米国の同盟国や友好国は中国との貿易、政治対話を維持し、軍事協力さえ続けている。米中選択を望まない背景には、戦略的な同調よりも日々の国内政策がある。2020年における政策論争を意味あるものとするには、議論を米中二分論ではなく、中国の影響力が同盟管理にどのような影響を及ぼすかといったことに焦点を当てるべきである。同盟関係や友好国との連携の強化のためには、中国の対外政策が重要な要素となることは確かだ。しかし、同盟や友好国との意見の相違をいかにして調整するかの方がより重要ではないか。同盟関係や友好国との意見の相違こそ、中国政府が最も歓迎するものではないだろうか。
(3) 同盟関係や友好国との間で政策に相違のある分野における調整には、利益の相違に関する適切な評価が必要である。各国は、貿易や技術などの分野での中国との競争的あるいは協力的な関係をどのように評価しているのか、政策判断においてどのような原則をしているのか、それがどのようなリスクをもたらすのか、等について適切に理解する必要がある。例えば、オーストラリアやドイツの大学がハイテク研究プロジェクトで中国企業と提携する場合、それが同盟国の研究開発にどのような影響を与えるかを判断すべきである。 米国としては、同盟国や友好国が米国の利益と対立する政策を取らざるを得ない場合、直面する可能性の高いリスクを相殺する方法を考案する必要がある。オーストラリア、韓国、カナダなどが経験しているように、中国は米国の同盟国に報復する可能性が高い。米国とその同盟国や友好国は、長期的に経済の脆弱性を減らす方法に加えて、中国の攻勢に対する統一的対応を推進できる新しい調整メカニズムを検討し始めるべきである。
記事参照:Refocusing the China debate: American allies and the question of US-China “decoupling”

2月7日「中国による海洋での抑圧とインドへの影響―印専門家論説」(The Strategist, February 7, 2020)

 2月7日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、インドのシンクタンクObserver Research Foundation上級研究員Abhijit Singhによる“What China’s coercion at sea means for India”と題する論説を掲載し、ここでSinghは中国の南シナ海での積極的な活動の影響は東インド洋にも波及するとして要旨以下のように述べている。
(1) ここ数週間の2つのイベントは、南シナ海へ再び注目を集めた。
a. 第1に、マレーシアは、Commission on the Limits of the Continental Shelfに申し立てを行い、南シナ海北部の排他的経済水域200kmの制限を超える海域の権利を主張したため、中国の主権の侵害であるという中国の非難を引き起こした。クアラルンプールをこの国際機関に追いやったのは、マレーシアのEEZにあるルコニア礁とその周辺での中国のプレゼンスの拡大である。
b. 第2に、インドネシアは中国の漁船と海警による侵犯の後、ナツナ諸島沖の海域に艦艇と潜水艦を派遣した。ジャカルタはその主権への異議申し立てを容認しないと北京に警告するために、インドネシアのJoko Widodo大統領が、海軍艦艇でこの諸島を哨戒させた。インドネシアはこの地域の領土紛争において中立の立場であるという主張にもかかわらず、中国から離れる方向に傾いていることは明らかである。
(2) 中国の侵害に抵抗している国は、インドネシアだけではない。フィリピンは2019年、中国の船舶がフィリピンの漁船に衝突して沈没させたことに腹を立て、ベトナムは中国のプレゼンスに対抗するために14の省に民兵組織を設立する意向を発表した。この宣言は、ハノイが認可した沖合での掘削活動を中断させた、2019年10月のベトナム海域における北京による石油調査船の展開の後になされたものである。
(3) 中国の積極的な活動は、ASEANとの間で進められている南シナ海行動規範に関する交渉を牛耳ることを意図していると考えられる。北京が望むリストには、全ての域内国の事前の同意なしに域外の国々と共同軍事演習を行うことの制約や、域外の企業体と実施する資源開発の一時停止のような、実行不可能な要求が含まれている。
(4) 活動の観点からすれば、中国の南シナ海における展開により関連している側面は「グレーゾーン」戦術である。北京は、係争海域に正規海軍艦艇を送り出していない。代わりに中国の漁船、海警総隊の公船及び調査船からなる準軍事組織をこの紛争海域で用いているが、その乗組員たちは、明確な指示によって本格的な紛争には決して至らない方法の要点を十分に把握している。
(5) 沿海域の東南アジアでの進展は、中国の海洋保安組織、特に海洋調査船のプレゼンスが顕著に増加している東インド洋での進展と関連しているとインドの評論家たちが指摘している。2019年9月、アンダマン海のインド海域で活動している中国の調査船が、インドの軍艦に挑まれた際に迅速に撤退した。中国が支援するタイの地峡に運河を建設する計画とカンボジアの海岸地域に中国の海軍基地を建設する秘密協定のうわさが同時に起こったとき、インド洋東部での中国の調査船の増加が、インドの安全保障にかかわる官庁、軍に不安を引き起こした。
(6) 北京が敵対者と妥協しない南シナ海とは異なり、アンダマン海での中国の活動はインドの利益により配慮しているように見え、最近の調査船の展開にもかかわらず、南アジアにおける中国の行動はインドの「一線」を越えていない。しかし、中国の南アジア及び東南アジアでの海洋戦略は、インドの先の見えない未来の前兆である。スリランカとパキスタンでの中国の港湾建設活動、潜水艦と水上艦艇の売却に関する北京とタイ及びバングラデシュとの取引、アラビア海とベンガル湾での中国海軍と海洋保安組織の展開の増加、そして、習近平国家主席によるミャンマーでの新しい経済回廊の発表といった全てが、ニューデリーが包囲されるという感覚の一因となっている。アナリストが考えているように、南シナ海の島嶼を北京が確実に掌握することは、東インド洋でより大規模な軍事力を投射することを可能にし、インドの政治的及び軍事活動空間が小さくなる。それは必ずしもインド近海で挑発的な海軍演習の形をとるとは限らないが、協力的な能力構築、人道支援の訓練、データ収集を含む、複雑な任務の実行に関わる可能性がある。ニューデリーの本当の懸念は、隣接する海域での中国の展開が高まれば、その認識されている勢力圏においてインドの権威や影響力が弱まるということである。
記事参照:What China’s coercion at sea means for India

2月7日「北極圏での活動に新しい氷海用船舶は必要か?―米ニュースサイト報道」(Business Insider, February 7, 2020)

 2月7日付の米ビジネス専門ウエブサイトBusiness Insiderは、“The US Navy is learning how to operate in the Arctic, and more ships may not be the answer”と題する記事を掲載し、米国が北極圏での活動を活発化させていることについて触れ、米国が学ぶべき教訓とは何かについて要旨以下のとおり報じている。
(1) 近年米軍は、大国間競合の舞台としての北極圏に対する関心を強めている。この場合競合相手と想定されているのはロシアである。米海軍や海兵隊は北極圏でのプレゼンスを高め、またその活動能力の向上を模索してきた。
(2) 2018年、NATOの合同軍事演習トライデント・ジャンクチャーに空母Harry S. Trumanが参加した。これは、冷戦が終結した後の1996年以降で、北極圏内に米空母が派遣された最初の機会であった。また海兵隊は2017年初めから、ノルウェーに部隊を輪番で派遣し、寒冷気候での活動のための訓練をノルウェー軍と行ってきた。
(3) しかし厳しい環境での活動のためには、それにより適応する必要がある。空母Harry S. Trumanの乗組員は、艦上の氷の塊を野球のバットで叩き割らなければならなかったし、また、トライデント・ジャンクチャーに向けて派遣された海軍艦艇2隻は損傷が激しく、アイスランドに戻らねばならないほどであった。そのうち一隻は帰国し、演習には参加しなかった。それについては2019年10月、当時の海軍長官Richard Spencerも認めている。
(4) 米軍が学ぶべきことはなお多く、それはこうした他国との共同訓練を通じて得られている。たとえば2019年末には駆逐艦Gravelyが、カナダ主導のグリーランド西方沖で実施された演習に参加した。それについて、近年再編成された米海軍第2艦隊司令官のAndrew Lewisは、たとえば氷塊が浮く海でどのように操艦するか、あるいは駆逐艦の長距離航行のための補給拠点の必要性など、さまざまなことを学んだと述べた。カナダの側も、北極圏での活動に関する知恵を米国と共有することに積極的である。またカナダは、氷海で行動可能な哨戒艦や砕氷艦の新造への投資を行っているという。
(5) 米沿岸警備隊も、1970年代以降で初めてとなる砕氷艦の新造に取り組んでいる。だが、米海軍は北極圏内での行動に特化した艦船の新造を計画していない。それは、米国が新たに氷海での活動に特化した船舶の建造を必要とするような、活動能力におけるギャップは存在しないという、米Government Accountability Officeの評価に基づくものである。
(6) 国外にもそうした声がある。ノルウェー国防省安全保障政策担当副局長のKeith Eikenesは、北大西洋に関する限り「そこで活動するために砕氷艦が必要というわけではない」と述べた。彼によれば、「われわれには新しい魔法のような道具は必要ない」のである。
(7) それでは、北極圏での活動のために米国には何が必要なのか。少なくともノルウェーの人々の目から見たら、それはもっと身近なことのようである。たとえば駐米ノルウェー大使Kåre R. Aasは、やや冗談交じりに、「あなたがノルウェーのような北極圏の国に行くときに必要なのは、質の良い下着だ」と述べている。彼はまた、そうした教訓は現在、輪番で配備されている海兵隊などが現地で直接厳しい環境を経験することでしっかりと学ばれていると付け加えた。
記事参照:The US Navy is learning how to operate in the Arctic, and more ships may not be the answer

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Competitive coexistence: A new blueprint for Russia-West relations
https://www.lowyinstitute.org/the-interpreter/competitive-coexistence-towards-new-blueprint-russia-west-relat
The Interpreter, February 3, 2020
Dr Elizabeth Buchanan, a Lecturer of Strategic Studies with Deakin University at the Australian War College, Canberra
2月3日、Australian War Collegeと提携する豪Deakin University講師であるElizabeth Buchananは、オーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterに、“Competitive coexistence: A new blueprint for Russia-West relations”と題する論説を寄稿した。ここでBuchananは、①今日、西側政府は、「我々対彼ら」という二分法でロシアとの関係を組み立て、米国もロシアを中国の脅威と同類とみなしている、②オーストラリアは、ロシアをウクライナ情勢に関連して国際社会の迷惑なアクターと指定した一方で、東アジアサミット(EAS)を通じて重要なプレーヤーであると見なしている、③1つのシナリオとしてのロシアの国家的失敗を考慮した場合、国際社会への短期的な問題は疑いもなくモスクワが核兵器を貯蔵していることである。人道的災害も行動を必要としている。長期的には誰がロシアに取って代わるのかである。中国が空白を埋め、資源に恵まれたロシア極東部を支配することになる、④21世紀の大国の戦略の限界を理解し、おそらくその戦略は本質的に反西欧ではないと考えているロシアの意図を真剣に掘り下げて見るときであり、イデオロギーと利益について再考する必要がある、⑤多極的世界秩序において、Putinのロシアは、発展可能で正当な大国の極としての影響力を求めている、⑥ロシアと西側は、中国に対処することの相互利益に基づき、「競争的共存」を適用することができる、⑦西側が競争的共存によってロシアの課題に対処するための輪郭は未定だが、双方が妥協するために、時代遅れの理論的構造を放棄する必要がある、と論じている。
 
(2) China’s Modernizing Military
https://www.cfr.org/backgrounder/chinas-modernizing-military
Foreign Affairs.com, February 5, 2020
Lindsay Maizland writes about Asia for Council Foreign Relations
2月5日、シンクタンクを含む米超党派組織Council on Foreign Relations(外交問題評議会)の執筆者であるLindsay Maizlandは、米外交専門誌Foreign Affairsに" China’s Modernizing Military "と題する論説を発表した。ここでMaizlandは、冒頭で中国の人民解放軍は台湾に対する中国の圧力と南シナ海の国際紛争における強度を増し、さらには、アジア太平洋地域の主導権を握ろうとしているとし、近年豊富な国防予算を背景に能力向上と積極性を見せる人民解放軍が近代化に進んだきっかけは何だったのかと問題提起している。転機が訪れたのは1990年の湾岸戦争と台湾海峡危機であり、さらに2012年に就任した習近平国家主席が提唱した「中国の夢」が後押しになったと指摘する。最後に、Maizlandは他方、周辺国は人民解放軍の強大化に警戒しつつも中国との良好な経済関係の維持という難しい課題に直面しているとし、他の研究者の「米国の同盟国は、米国か中国かという二者選択をすることはないだろうが、太平洋における米国のプレゼンスを疑問視するようになれば、視線は中国に向かうかもしれない」との言質を引用し、米国のアジア地域でのプレゼンス維持の重要性を主張している。
 
(3) The Conventional Wisdom Still Stands: America Can Deal with China’s Artificial Island Bases
https://warontherocks.com/2020/02/the-conventional-wisdom-still-stands-america-can-deal-with-chinas-artificial-island-bases/
War on the Rocks.com, February 6, 2020
Olli Pekka Suorsa, Ph.D., a research fellow at the Institute of Defense and Strategic Studies, S. Rajaratnam School of International Studies, Singapore
2月6日、シンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のOlli Pekka Suorsa研究員は米University of Texasのデジタル出版物であるWar on the Rockに" The Conventional Wisdom Still Stands: America Can Deal with China’s Artificial Island Bases "と題する論説を発表した。ここでSuorsaは、冒頭、「南シナ海における中国の南沙諸島の軍事基地の戦略的価値は何か。それは北京にとって軍事的資産なのか、それとも負債なのか?」と述べ、CSISのGregory Polingが「紛争の初期段階で南沙諸島に存在する中国の前哨基地を無力化することは米国にとって法外な費用がかかる」ため、南沙諸島の前哨基地の戦略的価値を無視するのは誤りであるとワシントンに警告していることを紹介した上で、この主張はもっともらしいが同意できないと否定的に評している。その理由としてSuorsaは兵力投射能力の違いなどから、中国は南シナ海に展開している軍事基地への米国による集中的なミサイル攻撃や空爆に直面した場合、戦闘能力の維持がままならないことなどを挙げている。しかし、中国の活動に抑制的な面が見られないことから、Suorsaは、米中の緊張が高まる中、米国政府はインド太平洋の広大な地域で現在生じている複数の事態を見失ってはならず、中国との競争に関しては自己満足の余地はないと断じている。