海洋安全保障情報旬報 2020年4月1日-4月10日

Contents

4月1日「2020年第1四半期の台湾海峡における米中の軍事活動と政治的シグナル―米専門家論説」(China Brief, The Jamestown Foundation, April 1, 2020)

 4月1日付の米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefは、同編集者John Dotsonの“Military Activity and Political Signaling in the Taiwan Strait in Early 2020”と題する論説を掲載し、ここで Dotsonは2020年第1四半期(1月〜3月)に台湾周辺で起きた米中の軍事訓練によるつばぜり合いは両国の強い意志の表れであり2020年終わりまで続くことが予想されるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年3月16日、人民解放軍空軍機が台湾南西の海上で通常では見られなかった夜間の一連の出撃訓練を行った。少なくとも1機のKJ-500早期警戒機と機数不明のJ-11戦闘機が訓練に参加し、ある時点で台湾海峡の中間線を越えた。台湾空軍はF-16戦闘機を緊急発進させて対応した。それは人民解放軍空軍機による台湾周辺での初めての夜間飛行であった。このような戦術訓練は2020年1月11日の台湾総統蔡英文の地滑り的な再選以降、中国のメディアや報道官のより攻撃的な発言にともなって高まってきた。これらの訓練は、中国の武漢で2019年12月に出現したCOVID-19感染拡大の社会的経済的政治的影響に対処するために中国当局と市民が奮闘している中で行われた。これは、中国共産党幹部がCOVID-19による国内の危機が台湾の「分離主義」を打倒するための中国軍の能力を阻害していないというメッセージを発したかったことを示唆している。
(2) 台湾周辺の人民解放軍空軍の活動は新たな現象ではない。人民解放軍空軍機は台湾を周回するために頻繁に出撃しておりバシー海峡をH-6K爆撃機とそれを支援する航空機が飛行している。その種の訓練飛行は2016年11月から実施されており、2017年夏などの特定の期間に訓練はピークに達した。これらの訓練飛行は、2つの目的を果たしている。1つは台湾を巡る潜在的な将来の紛争に備え、可能性のある作戦地域への長距離出撃を行う訓練となることである。第2の目的は台湾住民を脅かすことを目的とした心理戦の一環となり、宣伝の役割を果たすことである。2019年3月31日、人民解放軍空軍のJ-11戦闘機2機が台湾海峡の中間線を越えた。人民解放軍機が中間線を越えたのは2011年以来、初めて報告された事象である。人民解放軍空軍機が中間線を越えたことは、台湾による緊急発進や、このような行動を将来的にも繰り返すかもしれない人民解放軍機を「強制的に排除する」ことを誓うという台湾総統蔡英文からの激しい反応も引き起こした。
(3) 2019年の終わりには、この地域における海軍航空部隊の別の意味の重要な進展が見られた。2019年12月中旬に人民解放軍海軍が初めて独自に設計した空母「山東」(CV-17)が三亜海軍基地で就役した。空母「山東」は2019年12月26日、沿岸海域での訓練と海上公試を実施する過程で台湾海峡を航行した。空母「山東」の台湾海峡の航行は、運用能力の実証という点では限定的であったが、中国が海軍力増強と台湾に対する強い意志を主張したことを象徴するものであった。
(4) 2020年の最初の3か月、米軍と人民解放軍が関与する軍事活動の発生ペースは増加していた。これらの活動には少なくとも3つの重要な政治事象も関係していた。第1は、2020年1月11日の台湾総統選で、蔡英文が勝利し再選されたことである。第2は2020年2月初旬の台湾副総統の頼清徳による米国訪問である。頼清徳は当時まだ副総統に就任しておらず、非公式な立場での訪問であったが、彼の訪問は中国国営新聞上で激しい非難をもたらした。第3は2020年3月26日に“Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative(台湾では「台灣友邦國際保護及加強倡議法案」と訳される)”、いわゆる「TAIPEI法」が成立したことである。
(5)  2020年1月から3月の間に行われた台湾周辺での注目すべき米中の軍事活動として、(上述の人民解放軍の訓練や米海軍の航行の自由作戦のほかに)2月9日から10日には人民解放軍海、空軍による台湾南方海域での協同訓練、2月17日のグアムの西380マイルの国際海域におけるType051D駆逐艦によるP-8A哨戒機に対するレーザー照射、3月5日から9日にかけて行われた空母USS Theodore Rooseveltのダナン訪問などが含まれる。2月9日から10日にかけての人民解放軍海空軍の訓練は明らかに頼清徳副総統訪米に対応したものであり、中国国営新聞は、中国軍は「台湾の分離主義者」の活動を断固として破壊し国家主権、領土保全、台湾海峡の平和と安定を堅持すると主張した。2月17日のレーザー照射では米太平洋艦隊は中国の行為を「危険で、海軍らしからぬ行為」と非難し、これに対し中国はP-8Aの飛行を米国による一連の「挑発的行動」の1つであると反論している。
(6) 台湾周辺における人民解放軍海空軍の訓練は一つの兆候であり、今後も中国の軍事力増強に応じて、さらなる訓練の増加が見込まれるであろう。これらの活動は定期的に増加したり減少したりするが、特定の時期にあまりにも多くの活動が見られた場合は、より深い意味を見出すことができるであろう。そのような軍事活動は民主的な政治プロセスをたどっている台湾を中国の軌道から遠ざけ、中国政府の好む条件での平和的統一の見通しはかつてないほど遠いものとなっている。中国の軍事活動は、台湾近海と南シナ海において米海軍と米空軍によって行われた海上でのプレゼンスと航海の自由作戦の増加と並行して実施された。中国報道官は、「米国は自国のコロナウイルス感染拡大に対する失敗から注意をそらすために中国への軍事的挑発を行った」と米国を非難している。一方、中国政府は自国の軍事力増強の誇示とCOVID-19の感染拡大によって引き起こされた国内の社会的政治的危機の中で力のイメージを作り出す必要性という両方の理由があいまって、台湾と米国の両国に政治的メッセージを送ることを目的として挑発的な軍事活動を強化した。中国国内で深刻な景気後退などの問題が2020年中も続くのであれば、中国による台湾海峡での軍事的な挑発行動は2020年の終わりまで続くと予想される。
記事参照:Military Activity and Political Signaling in the Taiwan Strait in Early 2020

4月1日「米中対立期における豪・東南アジア海洋国戦略の多様化―シンガポール国際関係専門家論説」(ISEAS-Yusof Ishak Institute, April 1, 2020)

 4月1日付のシンガポールYUSOF ISHAK INSTITUTE(旧ISEAS)のウェブサイトISEAS/YUSOF ISHAK INSTITUTE は、同研究所上級客員研究員Malcolm Cookの“Strategic Divergences: Australia and Maritime Southeast Asia”と題する論説を掲載し、ここで Cookは、米中対立という新たに定着しつつある戦略的環境へのオーストラリアや東南アジアの海洋国による対応について、その歴史的文脈と内容、意義について要旨以下のとおり述べている。
(1) この10年、オーストラリアや南シナ海に利害を有する東南アジア諸国(以下、東南アジア海洋国と言う)は数多くの防衛白書や外交政策文書を発表してきた。たとえばオーストラリアは2009、2013、2016年に防衛白書を発表した。特に2019年は東南アジア海洋国が数多くの文書を発表し、たとえばASEANは初めて「ASEANインド太平洋概観」を発した。この動向はこの地域への中国の影響力の拡大と米中対立という戦略的環境の変化を背景にしており、これら国々がその環境の変化に適応すべきだと認識していることの表れである。
(2) これら種々の文書を概観してみると以下の点が浮かび上がってくる。すなわち、現在の戦略的環境に対するオーストラリアや東南アジア海洋国の対応が米ソ冷戦に対するそれや、その後の米国一極状況に対するそれとは異なっているということである。その意味で、これらの国々の政策目標や実際の行動は多様性を増していると言えよう。以下、冷戦、米国一極自体、そして現在の米中対立の時代におけるこれらの国々の対応を見ていく。
(3) 米ソ冷戦時代は、概してオーストラリアと東南アジア海洋国が戦略的に協調する環境を創出した。これらの国々は、ベトナムを除けば共産主義拡大を脅威と見なし、その封じ込めを模索したのであり、オーストラリアはその方針に沿ってベトナムで米国とともに戦ったのであった。イギリスが東南アジアにおけるプレゼンスを減少させたとき、オーストラリアが東南アジアの安全保障確立のための負担を増やした。1974年、オーストラリアはASEANにとって初めての公式の対話パートナーとなった(その後ニュージーランドや日本、米国などが続いている)。
(4) 米国一極時代においても、オーストラリアと東南アジア海洋国の利害は重なるところがあり、相互の協調が進められた。オーストラリアは日本とともにアジア太平洋という概念を推進し、そこに東南アジアや米国を包含しようとした。オーストラリアは1989年にアジア太平洋経済協力(APEC)第1回閣僚級会議を開催し、後に事務局がシンガポールに置かれた。中国の経済的影響力の増大に対しては、同国を地域的体系に取り込み、経済的な関係を強化することで対処しようとした。中国は1991年にAPECに加盟し、1996年にはASEANの対話パートナーになった。またシンガポールは2009年に、オーストラリアは2014年に中国との間に2国間特恵貿易協定を締結した。
(5) 米中対立の時代に入っても、地域諸国の種々の政策文書において強調されたのは既存の大戦略方針の継続であった。たとえばオーストラリアにとっては米国との同盟継続、強化が重要であり、ベトナムやマレーシア、インドネシアは中立主義や非同盟主義の継続を訴えた。このようにオーストラリアと東南アジア海洋国の大戦略にはそもそも大きな違いがあるが、冷戦とその後の米国一極時代にはそれが両者の政策目標や利益の重複を妨げることはなかった。しかし米中対立時代においてそれは当てはまらないように思われる。それはとりわけ、①インド太平洋とアジア太平洋の概念、②対米関係、③対中関係の3つの領域における取り組みにおいて違いが見られる。
(6) オーストラリアは以前日本とともにアジア太平洋概念を推進してきたが、近年、米中対立という戦略的環境に対応するために、インド太平洋という概念をそれに置き換えた。オーストラリアの2009年の防衛白書の表題が「アジア太平洋の世紀におけるオーストラリアの防衛」であったにもかかわらず、2013年にはすでにインド太平洋概念を打ち出した。それに対して東南アジア海洋国はなおアジア太平洋という概念に重点を置いており、たとえば上述した2019年の「ASEANインド太平洋概観」は、その表題にもかかわらずそうである。東南アジア海洋国がインド太平洋概念から距離をとるのは、その新しい概念が米中対立の文脈で米国や日本が打ち出し始めたものであり、それに中国が反発しているからである。これは後述する対中関係とも関連する。
(7) 対米関係について、オーストラリアおよび東南アジア海洋国の取り組みは一致しない。米国はオーストラリアにとって重要な安全保障上のパートナーであり、オーストラリアは、米国による南シナ海における「航行の自由」作戦の実施を超党派的に支持してきた。しかし東南アジア海洋国が提示する、同作戦を実施する米国の権利に関する解釈は曖昧であり、米国による同作戦の実施がむしろ周辺地域の緊張関係を強めていると理解されている。またオーストラリアは米国のミサイル防衛システムの構築に貢献するなど米国のプレゼンス強化を後押ししてきたが、それとは対照的にフィリピンは最近米国との訪問軍協定の破棄を通告した。東南アジア海洋国の中でも一枚岩であるわけではない。マレーシアの防衛白書は米国との協調の強化の重要性を指摘し、シンガポールもまた2019年の米・シンガポール軍事施設協定の更新など米軍のプレゼンス強化を推進している。
(8) 対中関係について、オーストラリアは同国との経済的関係の深さにもかかわらず、オーストラリアの諸政権は南シナ海における中国の攻撃的行動に批判的態度を示し続けてきた。たとえば2013年に中国が東シナ海における防空識別圏を設定したとき、オーストラリアは日本や韓国、台湾、米国とともにそれを非難した。東南アジアの中国に対するアプローチは、南シナ海において直接主権を争っているにもかかわらず、より慎重である。たとえば2019年、国連の場で、中国によるウイグル人弾圧を非難する宣言が発表され、オーストラリアはそれに署名したが、東南アジアの国々に署名国はない。中国による国内のセキュリティへの影響力拡大、オーストラリアは慎重かつ対抗的であるのに対し、東南アジアは相対的に寛容である。たとえば2019年、オーストラリアは5Gネットワーク構築事業への入札からHuaweiやZTE(中興通訊)の参加を禁止した。それに対してベトナム以外の東南アジア海洋国は中国企業の参入を歓迎している。
(9) 種々の領域に関するオーストラリアおよび東南アジア海洋国のアプローチや目標に、これまで述べたような相違や分岐が見られるにしても、それは必ずしも両者の対立や、両者の利害が一切重ならないことを意味しない。こうした相違にもかかわらず、この状況が穏当に維持されるのであれば、それは東南アジア諸国やASEANに利益をもたらす。第1に、オーストラリアは先に述べた中国に対する安全保障上の懸念にもかかわらず、経済的関係の深化を追求し続けており、地域全体としての経済的連携は深まっていくだろう。第2に、オーストラリアと米国が安全保障面で協力を深めることは、東南アジアの安全保障にも寄与するものである。第3に、南シナ海における中国の行動に対するオーストラリアの批判的態度の維持は、中国にとって抑止力になる可能性がある。
(10) 米中対立の激化という新たな戦略的環境において、オーストラリアと東南アジア海洋国との関係は、それ以前ほどにわかりやすく協調的なものではなくなった。しかしそれは新たな環境に柔軟に対応するための多様化であり、東南アジア海洋国にとって利益を与えるものであろう。
記事参照:Strategic Divergences: Australia and Maritime Southeast Asia

4月7日「インド洋におけるオーストラリアの役割へのフランスの見方―米アジア専門家論説」(The Interpreter, April 7, 2020)

 4月7日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、米その他各国に拠点を置くシンクタンクCarnegie Endowment for International Peaceの東南アジア・プログラム非常勤上級研究員Frédéric Grareの“A French perspective on Australia’s role in the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、そこでGrareはインド洋におけるオーストラリアの役割をフランスがどう認識しているか、インド洋安全保障強化のための仏豪の協力の必要性とその見通しについて要旨以下のとおり述べている。
(1) 近年のフランスにとって、太平洋だけでなくインド洋におけるオーストラリアの役割と位置づけはますます重要性を高めている。そのことは2018年5月、Emmanuel Macron仏大統領が訪豪したときに両国首脳が発表した共同声明にもはっきりと表れていた。すなわちそこでは、諸々の地域における海上安全保障の確立が謳われ、その目的のためにインド洋地域の体系の強化が主張されたのである。
(2) インド洋におけるオーストラリアの積極的関与はまだ途上である。フランスにとってのオーストラリアの戦略的重要性は太平洋におけるそれが大きく、同国のインド洋における軍事的プレゼンスはインド洋北東部に限定されており、本質的に防衛的なものである。そのことは、環インド洋連合(IORA)が効果的な地域的体系として確立されていない、あるいはオーストラリアがそこにおいて重要な役割を果たせない要因のひとつであった。また、オーストラリアがインド洋周辺地域、とりわけインドと良好な関係を築けていなかったこともその原因のひとつであった。
(3) だが中国の脱抑制的政策ゆえに、インド洋における地域的体系の強化はますます必要性を強めている。とりわけ中国によるインド洋沿岸諸国の国内問題への介入は中国に対する疑念を強め、たとえばオーストラリアに関しては、安全保障問題と経済問題を天秤にかけた従来の方針に疑義が呈され始めている。中国の脅威はインド洋周辺諸国の利害を一致させており、地域的体系強化の誘因となっている。
(4) インド洋地域への安全保障に米国がコミットするのかどうか、その不確かさも、同地域周辺諸国が積極的に、自らの選択肢を多様化させる必要性を強めるものである。米中対立の激化はそうした選択肢を狭める要因ではあるが、それがゆえに地域の中級国家の自律的行動を可能にする組織や制度が必要なのである。
(5) こうした文脈において、2019年1月にMarise Payne豪外相がインド洋地域にオーストラリアが幅広く関与すると表明したのは、フランスにとっても非常に大きな意味を持った。またオーストラリアはインドを含むインド洋周辺諸国との関係を改善させてもいる。オーストラリアを含むインド洋周辺諸国が協力するためのネットワーク構築の土台は築かれつつある。
(6) フランスはオーストラリアがインド洋への関与を深め、地域間協力が強化されている状況を好意的に見ている。そのなかで、仏印豪3ヵ国の協力を推進し、インド洋の安全保障体系の枢軸を形成するという、かねてよりのフランスの構想の実現可能性が高まっている。現在のコロナウィルス感染拡大による危機は、こうした地域間協力の必要性をさらに高めるものである。世界的感染爆発それ自体が米中対立の争点となっていることに加え、医療や環境問題における協力を強化することの重要性のためである。
記事参照:A French perspective on Australia’s role in the Indian Ocean

4月7日「ニューヨーク市での米軍のCOVID-19への対応―U.S.Naval Institute報道」(USNI News, April 7, 2020)

 4月7日付のU.S.Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、サンディエゴを拠点とするフリーライターのGidget Fuentesによる“USNS Comfort Prepared for 500 COVID-19 Patients; Crewmember Diagnosed With Virus”と題する記事を掲載し、ここでFuentesはニューヨーク市での米軍によるCOVID-19への対応について要旨以下のように報じている。
(1) 最初の患者を引き受けてほぼ1週間後に、米海軍病院船USNS Comfortは、COVID-19ウイルスに感染した500人までの患者を治療するために準備されていると当局者たちは4月7日に述べた。ニューヨーク市のハドソン川に沿ったピア90に停泊したComfortには、「現在十分にスタッフが配置され、設備が充実した500床がある」とAndrew Lewis中将(抄訳者注:米第2艦隊司令官兼Joint Forces Command Norfolk司令官)は、米国防総省での記者会見の中で述べた。更に「集中治療室には100床があり、同数の人工呼吸器を備えている。これ以上の集中治療室のベッドへの転換はできないが、さらに多くのベッドを提供しようとしており、人工呼吸器の所要数にさらに近づけることを依然として目指している。外傷患者、救急及び急病診療患者などより緊急性の高い患者はCOVID-19の症状に関係なく、Comfortで治療を受けることができる」とも述べている。
(2) 7日の正午の時点で、Comfortにはウイルスの陽性反応が出た5人の患者が乗っていた。「彼らは、全ての症例でCOVID-19陰性で乗船してきた。彼らはCOVID-19とは異なる何かの理由で入院していたが、臨床的にCOVID-19と評価される他の症状があったために再検査を受けた。彼らは適切な治療を受けることが可能であり、現在は病室の1つ隔離され、艦内にとどまっている」とLewis中将は述べており、彼によるとスタッフのうちの1人がウイルス検査に陽性反応を示している。5人のCOVID-19陽性患者は、7日の正午の時点で44人の民間人患者の中に含まれていた。彼らは軍のCOVID-19支援任務の一環として、ニューヨーク市で病院船での治療を受けていた。その連邦政府が主導する軍の活動には、COVID-19と非COVID-19患者を治療するための同市のジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターに設置された大規模な野戦病院が含まれている。国防総省のJonathan Hoffman首席報道官によると、7日の正午現在、ジャビッツセンターでは66人の患者が治療を受けているという。
(3) Hoffmanは「ここ数日のうちに患者数は急速の増加し、Comfortでは患者数が収容可能な500人に達することになる」とし、連邦医療ステーションに917人の軍人が配属されているジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターでは、「緊急ではないCOVID-19の患者収容人数が2500人に達することになる」と述べた。軍と連邦政府当局者は4月3日、症状が重症化すると多くの場合に人工呼吸器が必要になる感染患者であふれるニューヨーク市の病院から感染していない外傷患者と緊急を要する患者を引き受け、治療するというComfortの当初の任務を変更した。4月4日、当局者はCOVID-19の患者の治療を可能にするためにジャビッツセンターの治療レベルを変更した。しかし、現地の病院からの報告ではウイルスに感染していないと認められる患者数はより少く、「救援が必要とされている場所を実際に理解し、私たちがそこに派遣された任務を達成することができていない」とLewis中将は述べている。ほとんどの病院には元々は何か別の理由で入院していた患者が多いが、COVID-19陽性の患者がいるとLewisは付け加えた。
(4) 軍の医療連絡チームが現地の病院と連携し、検査でCOVID-19陽性となった人々を含む患者たちの移送と受け入れの調整を続けていると当局者たちは述べた。「ジャビッツセンターとComfortをCOVID-19の状態に関係なく、救急、外傷及び急病診療の患者を扱う1つの協調体制、1つの医療供給業者として考えている」とし、ジャビッツセンターはCOVID-19の回復期に焦点を当てることになるとLewis中将は述べている。COVID-19対応には、隔離所と集中治療室拡張のためのより大きな空間の供給のために1000床を確保するべく病院船内区画の再構成を必要とした。また、Comfortに乗船している1,200人ほどの人々に対するさらなる感染防護策が必要であり、医師、看護師、麻酔専門医、外科医、呼吸療法士、同船に割り当てられた医療訓練施設を構成するその他の人々を守るための予防対策が求められている。そのため、Comfortは2つの区域に分けられている。「レッドゾーン」は患者との接触がある区域であり、「グリーンゾーン」は補助空間、警備及び発電所のような船内活動を含む。「彼らが行き来することはない」とLewis中将は述べている。医療訓練施設の人員のための宿泊施設は、Comfortから現地のホテルに移動し、彼らは12時間の交代勤務のために輸送される。今は約500人がそこにいるが、病院船が完全に体制移行すれば、約800人が一人部屋を提供され、給食を受けることになると彼は述べている。
(5) 国防総省の医療支援には、2つの陸軍野戦病院、400人の人員を擁する海軍の遠征医療施設、ニューヨークに向かう4個の陸軍地域医療任務部隊の340人、そして、ニュージャージー州とコネチカット州に向かう3個の陸軍医療任務部隊が含まれる。8日から、325人の国防総省の医療専門家がニューヨーク市の11の公立病院を支援し、各病院に20から30人の医療スタッフを派遣する。そして、さらに775人の海軍、陸軍、空軍及び空軍予備役の医療専門家たちが、今後数日のうちにニューヨーク市に到着し、取り組みをさらに支援するとHoffman中将は述べている。
記事参照:USNS Comfort Prepared for 500 COVID-19-19 Patients; Crewmember Diagnosed With Virus

4月8日「海南島周辺、南シナ海で越漁船急増―中国研究グループ発表」(South China Sea Strategic Situation Probing Initiative (SCSPI), April 8, 2020)

 4月8日付の北京大学海洋研究院の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトは、“Vietnamese Fishing Vessels Skyrocket in March, with 569 near Hainan Island and 9152 in the SCS”と題する記事を掲載し、海南島周辺さらには南シナ海全域で越漁船が急増しており、これは何らかの目的を持って組織されたものであるとして要旨以下のように報じている。
(1) 2020年3月、海南島周辺での越漁船の違法な行動がますますはびこってきている。中越北部湾共同漁業権区域から除外されている北部湾の中国側の水域、広東省や海南島の中国領海および内水並びに海南島の南東30海里の海域では少なくとも569隻の越漁船が発見されている。約40隻は中国領海および内水を侵犯している。2月の311隻と比較すると、漁船群の広がりは大きく変わってきているが、総数は継続的に急増している。
(2) 北部湾湾口の内側および外側に約480隻以上の漁船が集まっていた。他方、広東省の海域および海南島東南海域では2月には212隻であったのに対し150隻が確認されている。中国領海および内水での越漁船は2月には73隻であったが、3月には40隻と減少している。これは中国のより厳しい法の執行によるものか、ベトナムの漁船に対する規制強化によるのか不明であるが、間違いなく良い兆候である。
(3) 漁期が到来し、気象が良くなってきたので、越漁船の活動は3月には南シナ海で急増した。タイランド湾を含む南シナ海では合計9,152隻の越漁船が確認されており、これは確認された越漁船4,872隻であった2月のほぼ2倍である。3月の状況を考慮すると、南シナ海における越漁船の違法行動は単に海南島海域での問題ではなく、地域の問題である。事実、越漁船はカンボジア、マレーシア、台湾の海域にも異常に集まってきており、係争になっていない海域においてもそうである。
(4) 越法執行船が前述海域で記録されていることを述べておくことは価値がある。越法執行船は違法、無報告、無規制の漁業(編集注:IUU漁業)に関して越漁船を取り締まっているのか、いわゆる「漁業保護」に当たっているのか?このような状況はある越専門家が主張するような何らかの民間の行動というより、ある目的を持って組織された越漁船の違法行動ではないかという外部からの疑念を強めている。
記事参照:Vietnamese Fishing Vessels Skyrocket in March, with 569 near Hainan Island and 9152 in the SCS

4月9 日「中国、コロナ禍を梃子に南シナ海支配を強化へ―比専門家論説」(Asia Times.com, April 9, 2020)

 4月9日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、フィリピンの南シナ海問題専門家で台湾National Chengchi University研究員Richard J. Heydarian の“China leverages Covid-19 crisis in South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは中国がコロナ禍を奇貨として南シナ海支配を強化しつつあるとし要旨以下のように述べている。
(1) コロナ禍に無傷の中国海軍は、南シナ海での大規模な軍事演習を通じてその力を誇示し、係争海洋自然地形に対する支配を強化し、そして他の領有権主張国を威嚇している。4月初め、中国は、領有権主張が重複する西沙諸島周辺海域で、ベトナム漁船を8名の乗組員とともに沈没させた。中国海警船は、同漁船を沈没させた後、乗組員を近くの島に拘留したが、その後解放した。この事案は、この12カ月で中国が他の領有権主張国の漁船を挑発的に沈没させた2回目の事案となった。
(2) 今回の事案に対して、この係争海域でしばしば「航行の自由」作戦を実施してきた米国は明確にベトナムを支持した。米国務省報道官は、今回の沈没事案を「憂慮している」とし、「今回の事案は、南シナ海において不法な海洋権益を主張し、周辺隣国に不利益を強いてきた、一連の中国の行為の最新の事例である」と指摘した。更に、同報道官は、北京は「コロナ禍と戦う国際的努力を支援することに務めるべきであり、南シナ海における不法な海洋権益主張を押し通すために、周辺諸国の混乱や脆弱性に付け込むべきではない」と主張した。米国が軍事的にどう対応するかは、今後に待たなければならない。最近数週間、米国防省は、海外への戦力展開を停止しており、また空母USS Theodore Rooseveltはベトナムのダナン寄港後、乗組員のコロナ感染のためにグアムに留まっている。現在、米国防省は国内のコロナ対策に忙殺されている。
(3) こうした米国の事情から、東南アジア諸国は中国の高まる脅威に直面し、珍しく団結の兆しを見せ始めている。例えば、フィリピンはDuterte大統領の下で中国に傾斜してきたが、最近のベトナム漁船沈没事案では驚くべきことにベトナム支持を表明した。比外務省は声明で、こうした事案が北京とその東南アジア隣国間の「真に信頼できる域内関係構築の可能性を損なう」が故に、こうした事案の回避が「極めて重要である」と言明した。更に外務省声明は、係争中のリード堆(中文:礼楽礁)で2019年6月に比漁船が中国の海上民兵船舶によって衝突され、沈没させられた際、越漁民によって比漁民が救助されたことに対して、ベトナムに改めて感謝の意を表明し、「我々はベトナムに感謝するのを止めることはない。我々が団結の意を表明するのはこのことが念頭にあるからである」と強調した。
(4) フィリピンが中国発のコロナ禍によって経済的苦境の最中にある時、南シナ海でフィリピンが領有を主張する海域と海洋自然地形に対して、北京がこの危機に付け込んで地歩を固めようとしていることに、比官民は怒りと不満を高めている。フィリピンがコロナ対策に忙殺されている間に、中国は、フィリピンのEEZ内に位置し、マニラが領有を主張するミスチーフ礁(中文:美済礁、人工島に造成)における軍事化を促進してきた。また中国は、フィリピンの戦略拠点、スービック基地とクラーク基地から100海里余の位置にある、フィリピンが領有を主張しているスカボロー礁(中文:高岩島)周辺におけるプレゼンスを強化しており、最近、30ミリ・カノン砲を装備し、ヘリコプター1機を搭載した大型の海警5302を展開させた。こうした北京の動きはフィリピンの警戒心を高めている。多くのフィリピン人は、Duterte大統領による米国との間の「訪問米軍に関する地位協定」の廃棄通告や、コロナ禍による米軍との合同演習が予測し得る将来に亘って中断されることが予想される状況下にあって、北京がスカボロー礁の軍事化に乗り出す可能性について懸念している。
(5) コロナ禍は、ASEAN議長国として加盟10カ国を取り纏めて統一した南シナ海政策を目指そうとしたベトナムの歴史的機会を潰してしまった。世界的感染爆発になる前には、多くの人々は北京の拡張主義的野心を牽制するために、ハノイが首脳外交を通じて南シナ海紛争に対して集団的に対応するために近隣諸国を糾合し得ることを期待していた。とは言え、コロナ禍に付け込む中国の動きは、他の領有権主張国間のより一層の団結を誘引するとともに、外交的には米中両大国に対して中立的であったこれら諸国を、明確に米国の影響圏に押しやることになるかもしれない。そうした動きが出てくるまでは、中国は、係争海域におけるポスト・コロナ禍の戦略的秩序を形成するために、危機におけるこの好機を活用しつつある。
記事参照:China leverages Covid-19 crisis in South China Sea

4月9日「フィリピンによる訪問軍地位協定破棄通告と小国の外交―比安全保障専門家論説」(East Asia Forum, April 9, 2020)

 4月9日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、National Defense College of the Philippines研究員Mico A. Galangの“The Philippines–US Visiting Forces Agreement and small power foreign policy”と題する論説を掲載し、ここでGalangは2ヵ月前にフィリピンが米軍との訪問軍基地協定破棄通告を行ったことに言及し、その決定の背景と是非について要旨以下のとおり述べている。
(1) 2020年2月11日、フィリピンのDuterte政権は1998年に米国との間で締結された訪問米軍に関する地位協定(以下、VFAと言う)の破棄通告を行った。それは180日後に失効することになる。これは米国との同盟の規模を縮小する決定であり、フィリピンのような小国の安全保障政策や外交政策にとって重大な意味を持つ。
(2) フィリピンのような小国は、自国の安全保障の追求において戦略的制約に直面しており、その脆弱性緩和のために他国との安全保障関係を確立することが重要である。フィリピンにとって米国との相互防衛条約はその柱である。さらにフィリピンにおける米軍の駐留の法的枠組みを提供し、同条約の実効性を向上させたVFAはその安全保障にとって重大な意味を持ってきた。VFAは両国合同の軍事演習などの実施の法的基盤でもあり、したがって比軍それ自体の近代化にとっても意味が大きかった。
(3) フィリピンにとって近年の米中対立の悪化は大きな懸念事項である。中国の台頭とその積極的な政策の推進は必然的なものかもしれないが、いずれにせよそのことと、それに対する米国の反発は既存の安全保障環境を変容させてきた。小国は従来、国際秩序の維持を求めるものであるが、こうした現実のなかで新たな環境に適合しつつ、自国の本質的利益を追求していかなければならない。これは容易なことではない。
(4) 大国同士の対立の狭間にいる小国は自らの脆弱性に対する意識を強める。したがって、ある見方によれば中国の「封じ込め」に寄与している在比米軍の存在こそが、むしろ中国の行動を刺激し、よりフィリピンの安全保障リスクを高めているということになる。しかしながら、フィリピンが米中の戦略的対立から無関係になりたいと思っても、地理的位置はそれを許さない。
(5) 1991年以降、フィリピンにおける米軍のプレゼンスは著しく減少したが、そのなかで1995年に中国はミスチーフ礁を占領した。このことは、そうした動きに対抗する軍事力、抑止力の必要性を示している。他方、VFA締結後、2012年には中国はスカボロー礁を占領し、また種々の人工島建設を進めてきた。このことはフィリピンにおける米国の軍事的プレゼンスが中国を抑止できていないことを示唆する。ただし中国が南シナ海をコントロールするための「戦略的トライアングル」の最後のピースであるスカボロー礁における人工島建設はこれまでのところ抑止できている。いずれにせよフィリピンにおける米軍のプレゼンスの継続は東アジア・東南アジアの力の均衡の維持にとって重要であろう。
(6) そうした状況を望まぬ声があるのも確かだが、地域の安全保障の確立と自国の利益の追求において小国の選択肢は限られている。フィリピンのような小国は地政学的現実を無視した理想主義ではなく、慎重さと実利主義に基づいて行動せねばならない。この点において、VFAは重要な役割を果たしてきたのである。もしそれを本当に破棄し、米国のプレゼンスを無にするのであれば中国の膨張主義がさらに促進されるであろう。
(7) 新しい大国間の競合によって変容しつつある戦略的環境において、小国ができることは確かに限られているが、何もできないわけでもない。フィリピンのような小国にとっての危険は、その政策決定において二項対立的な選択肢しか考慮しないことである。
記事参照:The Philippines–US Visiting Forces Agreement and small power foreign policy

4月10日「海上における新型コロナウイルス感染症(Covid-19 at Sea):ブルーエコノミー、海洋公衆衛生、海洋安全保障への影響-米専門家論説」(CSIS, ON THE HORIZON ,April 10, 2020)

 4月10日付の米シンクタンクThe Center for Strategic and International Studies (CSIS)のウェブサイトON THE HORIZONは、同所the Stephenson Ocean Security Project責任者Whitley Saumweber、同研究助手Ty Loft、同インターンSabrina Kim、同所Human Rights Initiative責任者Amy K. Lehrの“Covid-19 at Sea: Impacts on the Blue Economy, Ocean Health, and Ocean Security”と題する論説を掲載し、ここでSaumweberらは、海軍や海上法執行機関がCOVID-19対応に注力する結果として海上における不法行為が増加する可能性など、これが海洋安全保障やブルーエコノミーなどの海洋を巡る諸問題に与える影響について論じている。
(1) 海で働く人々とその生活に依存する人々の双方に関連するブルーエコノミーは、Covid-19のパンデミック対応に関して独特の課題がある。港湾はパンデミック対策とは正反対の商品や人々の移動に依存しており、また、世界の450万隻の漁船の多くは一回に数週間から数カ月間海上に留まる一方、世界中の港で感染の可能性があり、Covid-19に対し非常に脆弱である。それでも世界の貨物の90%以上は海上輸送に依存しており、また、魚は10億人以上にとっての必須蛋白源である以上、港湾は開放しておかなければならず、漁船は漁を続けなければならない。
(2) 元より海上における法執行活動は必ずしも十分なものではないが、Covid-19パンデミックは沿岸警備隊や海軍が国内危機対応で内向きとなるため、こうしたギャップをさらに悪化させるだろう。実際、米海軍は世界で最も海賊行為が発生し易い海域であるギニア湾における今年の共同海軍演習をキャンセルした。一方で海賊、密猟者、密輸業者は、引き続き活動が可能であり、世界的な不況の中で彼らが違法行為に走るインセンティブがさらに高まる可能性がある。不法漁業も増加する可能性がある。今後、海上法執行機関の活動の低下が見込まれる中、船舶自動識別システム(以下、AISと言う)や衛星からの監視データを活用し、海洋保護区内の操業やAISのなりすましなど違法漁業の兆候を監視するのは有効であろう。これらの管理が不十分な海域は長期的に漁業資源を持続可能な形で提供することができなくなる。一方、合法的水産業はパンデミック下での操業リスクと市場閉鎖によるサプライチェーンへの影響での短期的には衰退する可能性がある。
(3) 世界的な危機がこれほどの規模で漁業に影響を与えたのは第二次世界大戦以来である。戦争中、北海の閉鎖により地域のタラやコダラの資源が回復し1950年代を通じて安定した漁獲をもたらした。今回、同様の海洋生態系回復の例が見られるかもしれないが、それには以下のような点についての注意が必要である。
a.海上法執行活動の低下により悪意ある違法漁業者が割当漁獲量を無視し操業する可能性
b.港湾の閉鎖やアクセス制限により洋上での漁獲物の積み替えが増加する可能性。このよう行為は規制が難しく、違法漁業や人権侵害に関連する可能性が高くなる。
c.海洋科学調査の減少(調査航海は既に中止)が持続可能な漁業における資源評価と管理体制を損なう可能性。特に最新の海洋科学データの欠落は開発途上国の情報の乏しい地域で問題となる。気候変動で魚類の移動が見られるため、持続可能な漁業管理には正確でタイムリーな調査が不可欠であるが、Covid-19のパンデミックはこうしたデータの取得を困難にしている。
(4) 魚類は世界で最も広く取引されている食品であるが、パンデミックの結果、市場の混乱がそれを変え始めており、消費者は鮮魚を避ける一方で冷凍品、加工品魚介類の需要が劇的に増加している。これは隔離期間に維持可能な食品需要の増加と、米国などの多くの先進国市場では多くの消費者がレストランなどで鮮魚を食して来たが、これらが閉鎖されていることによるものである。また、欧州の市場閉鎖は漁獲量の70%を輸出に頼っている英国の漁業者に危機をもたらした。米国では海産物の90%が海外で消費または加工されており、一部の事業者は中国の工場でこうした加工を実施している。Covid-19が引き起こす貿易の混乱を回避するため、これらの企業は事業の再編に駆り立てられるかもしれない。
(5) Covid-19は間違いなく水産業界に影響を与えるであろうが、アウトブレイクの長期的な影響を予測するために有益なアプローチの1つは、漁獲行動の態様、期間別にカテゴリーを分類することである。
a.沿岸漁業は発展途上国の零細漁業で一般的である。これに従事する漁船は遠洋で操業するリスクを冒していない。一方で地元の市場、取引先、加工業者、漁獲に依存する家族やコミュニティを通じて密接にリンクされた陸側のネットワークに依存しており、これら全ての環境で社会的距離を確保することは非現実的である。それでも、これらの零細漁業者は遠洋漁業における感染への懸念から操業に制限を受けている大規模船団との競争減少から利益を得るかもしれない。
b.一度に数か月から数年の間、洋上にある遠洋漁船は比較的少数であるが、企業活動として大量の魚類を捕獲している。これらは太平洋、インド洋における台湾、中国、日本の遠洋漁船団、ロシア極東の漁船団が知られており、マグロ、イカ、スケソウダラその他の多種多様な魚類を捕獲している。そして洋上での漁獲物の積み替えなどによって洋上にある漁業者のCovid-19感染リスクを低減しつつ操業を続けることは可能であるものの、ひとたび海上で感染が発生した場合の影響は破滅的である。遠洋漁業では感染の可能性のある者が乗船した場合、医療援助から離れた窮屈で混雑した状態で数か月間安全に過ごすことは不可能である。さらに、水揚げ時の海岸における人の往来も頻繁であり、漁業従事者は港にいる間に感染するリスクもあり、長期航海は必ずしも防疫対策としては機能しない可能性が高い。これらのことから遠洋漁業には航海期間の変更や漁獲物を市場に出す別の方法の追求など新たなダイナミズムが働く可能性もある。また、多くの遠洋漁船は荷揚げを外国港湾に依存しており、これは特にアフリカ、南米、太平洋島嶼国で一般的であるが、これらの港湾閉鎖の影響も甚大である。
(6) なお、漁業以外のブルーエコノミーについて言えば、海洋観光への影響も無視できない例えば、サンゴ礁観光は年間360億ドルの利益を生んでおり、これが海洋環境保護の主要な推進力ともなっているが、こうした収益の損失は、短期的な搾取への圧力を高める可能性がある。モルディブのような小さな島国では海洋観光がGDPの4分の1以上を占めており、特に脆弱である。
(7) 漁船におけるCovid-19の発生は公衆衛生上の重大な脅威である。世界中で約5千万人が漁業に従事しているが、その多くは開発途上国で安全、健康、人権に関する悲惨な状況下にある。遠洋漁船内は窮屈で混雑しており非常に非衛生的である。乗員はしばしば栄養失調になり毎日最大20時間労働を強いられる。また、医薬品の不足から切り傷が何週間も感染の危険に晒されることになる。Covid-19の潜伏期間の平均値が5.1日であるとすると、30人が乗船している漁船では1か月以内に全員が感染することになる。発症した乗組員で船を運航することは不可能であり、こうした場合、船は強制的に帰港させられるが、所要時間によっては帰港までの間に感染が拡大する可能性もある。また、遠洋漁船の多くは、公衆衛生が不十分な発展途上国の港湾を利用しており、ここで新たなCovid-19の感染を引き起こす可能性もある。もちろん海軍や沿岸警備隊の艦船、海運業界の他の船舶も同じ影響を受けるが、これらは一般に居住スペースの混雑が少なく規制も強化されているため、それほど懸念されることはない。
(8) Covid-19によって引き起こされる水産業の運営方法の変化は、漁業従事者の人権と労働条件にさまざまな形で影響を与える可能性がある。毎日陸岸に戻る沿岸漁業従事者は、他の多くの人々と同様、貧しさから働き続け、他人と接触し続ける必要があり、結果的に感染のリスクを高めている。また、遠洋漁業従事者も漁獲物の積み替えが行われるか否かに係りなく種々のリスクに直面している。移民労働者の遠洋漁業従事に関する信頼できる過去の報告によれば、強制労働や暴行、物理的に監禁、島で隔離、あるいは殺害などの事案も実際に存在しており、Covid-19対応のために沿岸警備隊と海軍の監視能力が低下すれば、こうした移民労働者の境遇はさらに脆弱になる可能性もある。定期的に寄港する船舶乗員は常にCovid-19の感染リスクに直面しており、適切なヘルスケアにアクセスできず困難な条件で疾病に耐えなければならない。漁業従事者はきれいな水や十分な食糧にアクセスできない場合があり相対的に罹患の可能性が高くなっている。さらに、乗員が感染した場合、船舶は入港を拒否される可能性もある。このため医療、食料、水を利用できず、疾病に脆弱な漁業従事者が取り残される場合もあり得るだろう。
(9) Covid-19の懸念により漁獲物の洋上積み替えの割合が増加すると、これらの漁業従事者の多くが数か月から数年間、陸上にアクセスできなくなり、結果的に虐待の被害を受け易くなる。それらの者は脱走を図るかもしれず、それが新たな感染を生む可能性もある。要するに、漁師と公衆衛生の双方の保護のため、管轄区域全体で調整され、漁師に健康サービスを提供し、脆弱な状況で彼らが海で孤立しないようにするための積極的な戦略が必要である。
記事参照:Covid-19 at Sea: Impacts on the Blue Economy, Ocean Health, and Ocean Security

4月10日「仏空母で50名の感染者―英通信社報道」(Reuters, April 10, 2020)

 4月10日付の英通信社Reutersは、“France reports 50 COVID-19 cases aboard aircraft carrier”と題する記事を掲載し、仏空母で50名のコロナウイルス感染者が出たとして、要旨以下のように報じている。
(1) 仏軍事省は4月10日に空母Charles de Gaulleで50名の乗組員がコロナウイルスの検査で陽性であったことが確認され、同艦の一部が封鎖されたと発表した。感染者のうち3名はツーロンの軍病院へ空輸された。
(2) 仏空母の乗組員40名にコロナウイルスの症状が見られると軍事省が発表した直後の4月8日に感染を検査するためチームが乗艦した。「66件の検査の結果、50名が感染していた。この段階では乗組員の衛生環境の悪化は認められなかった」と軍事省は言う。Charles de Gaulleには独自の集中治療設備が装備されている。「空母のツーロンへの早期の帰投を待つと同時に、乗組員を防護し、ウイルスの拡散を封じ込める追加の措置が導入された。全乗組員はマスク着用が義務づけられた」と軍事省は付け加えた。
記事参照:France reports 50 COVID-19 cases aboard aircraft carrier

4月10日「米専門家が中国に対する私掠船の使用を主張―香港紙報道」(South China Morning Post, 10 Apr, 2020)

 4月10日、香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US military researchers call for use of privateers against China”と題する記事を掲載し、米専門家による中国の商船に対する私掠船の使用に関する主張と、それに対する他の専門家の見解について、要旨以下のように報じている。
(1) US Naval Instituteが発行するProceedings誌4月号に掲載された“Unleash the Privateers!(私掠船を解き放て!)”と“US Privateering Is Legal(米国の私掠船が航行することは合法である)”という記事では、米国が海洋で中国の侵略と戦うために、米国政府が私有船(私掠船)に敵の商船を捕らえるための権限を許可する私掠免許(Letter of Marque)を発行することを提案している。著者のCSISの上級顧問で退役米海兵隊大佐であるMark Cancianと、元CSISメディア広報マネージャーであるBrandon Schwartzは、中国の大型商船団は米国との非対称的な脆弱性を表しており、中国の世界貿易への攻撃は中国経済全体を弱体化させ、その安定性を脅かすことになると述べている。このような組織的活動は、中国の海での力の増大を封じ込めるための合法的かつ低コストな方法であり、戦争を引き起こすのではなく、むしろ防ぐことができるだろうと彼らは付け加えた。
(2) シンガポールのNanyang Technological UniversityのS Rajaratnam School of International Studies(RSIS)研究員Collin Kohは、このアイデアは「政治的に健全ではなく、中国からの報復を招くような露骨な挑発とみなされるだろう。国連憲章によれば、武力行使と解釈される可能性もあり、そして国際的な非難も招くだろう」と述べている。私掠免許を使った私掠船の航海は、19世紀から20世紀にかけて様々な条約が導入されたことで非合法化された。しかし、Proceedings誌掲載記事の著者たちは米政府が正式に協定を結んだことはなかったと述べ、米憲法は議会にLetter of Marque and Reprisal(私掠免許状および復仇免許状)を付与する権限を与えていると主張した。
(3) 香港を拠点とする軍事評論家の宋忠平は、「米国人がいわゆる敵対者や敵に対して厳しい行動を取ると決めた場合、彼らは努力を惜しまず、手段を制限しない。中国の商船に対して私掠船が航行することは可能かもしれない」と述べた。
(4) 共和党のRon Paul下院議員は2007 年と 2009 年にOsama bin Ladenとソマリアの海賊に対して私掠免許を使用する問題を提起したが成功しなかった。
(5) Shanghai Jiao Tong Universityの国際法首席教授薛桂芳は、この研究者たちの主張は法的に有効ではないとして、「(私掠船の使用が禁じられていることは)慣習的な国際法であり、米国はまた、それによって拘束される。(私掠船の使用が合法であるという彼らの考えは)国際法の誤った解釈である」と述べている。
(6) 現在の政策エリートたちがこのような勧告を真剣に考える可能性は低いが、このような記事は、対中政策のより厳しい姿勢を主張するシンクタンクの人々を代表するものだとKohは述べた。「どちらかといえば、戦略的信頼性の欠如という暗雲が立ち込める中で、米中関係が下降線をたどっているのを両国が見たため、米中間の分裂が深まっていることを反映している」と彼は述べている。
記事参照:US military researchers call for use of privateers against China

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) A Short History of China's Fishing Militia and What It May Tell Us
https://www.rand.org/blog/2020/04/a-short-history-of-chinas-fishing-militia-and-what.html
RAND, Blog, April 6, 2020
Derek Grossman, a senior defense analyst at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation, adjunct professor at the University of Southern California
Logan Ma, an adjunct research assistant at RAND
4月6日、米シンクタンクRANDのDerek GrossmanとLogan Maは、同シンクタンクのウェブサイトに、" A Short History of China's Fishing Militia and What It May Tell Us "と題する論説を発表した。ここで両名は、中国の武装海上民兵組織(PAFMM:People's Armed Forces Maritime Militia)が南シナ海と東シナ海における中国の領有権主張を強化する戦略において重要な役割を果たしているとし、こうした中国の海上民兵組織の台頭には、第一に、中国のマルクス・レーニン主義の採用の一環として、毛沢東が中国社会全体に集団化を強制しようとした点、第二に中国が初期の海軍戦略を策定した際のソ連の海軍ドクトリンの影響という少なくとも2つの理由があると指摘している。
 
(2) Water Wars: Coronavirus Spreads Risk of Conflict Around the South China Sea
https://www.lawfareblog.com/water-wars-coronavirus-spreads-risk-conflict-around-south-china-sea
Lawfare, Blog, April 7, 2020
Sean Quirk, a JD/MPP joint-degree student at Harvard Law School and Harvard Kennedy School
4月7日、Harvard Law School およびHarvard Kennedy Schoolで学ぶSean Quirkは、豪Lawfare Instituteのブログに、" Water Wars: Coronavirus Spreads Risk of Conflict Around the South China Sea "と題する論説を発表した。ここでQuirkは米中両国はコロナウイルスの大流行の間、台湾と南シナ海への警戒を緩めていないことを示すために軍を利用していると指摘した上で、しかし一部には、南シナ海での中国海軍の動きは現在停滞気味であり、中国経済の減速とCOVID-19流行によって活動が不活性化を余儀なくされている軍事力を背景に、中国は南シナ海における海洋進出の野望を縮小せざるを得なくなるのではないかと推測する報道もあると述べている。
 
(3) SIGNIFICANCE OF THE MALDIVES TO INDIA
https://maritimeindia.org/significance-of-the-maldives-to-india/
National Maritime Foundation, April 9, 2020
Ritika V Kapoor, a Research Associate at the National Maritime Foundation
4月9日、印シンクタンクNational Maritime Foundation の研究員Ritika V Kapoorは、同シンクタンクのサイトに“SIGNIFICANCE OF THE MALDIVES TO INDIA”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国は、モルディブが小さな国であるにもかかわらず、一帯一路構想の重要な構成要素の1つと考えている、②モルディブはインド洋西部と東部のチョークポイントにあるため、この地域に中国が進出するとインドの貿易を阻害する可能性がある、③2018年のモルディブのGDPは530万米ドルほどだったが、 現在この島国は中国に対して340万米ドルの債務がある、④2017年8月27日、中国の軍艦3隻がマーレで停泊していることが目撃されたのは新たな展開である、⑤インドのManmohan Singh前首相は、海洋安全保障の総合的な提供者(net provider)となることを表明し、Narendra Modi首相はインドのSecurity and Growth for All in the Region(SAGAR)の構想を宣言した、⑥インドとモルディブは、親密で多面的な関係を築き、2016年12月の時点で、モルディブには約2万5,000人のインド人が住んでいるが、中国からの観光客がモルディブの観光人口の14.7%を占めている、⑦ムンバイとマーレ間およびコーチとマーレ間の航空路線に加えて、コーチ港とマーレを結ぶフェリー業務が開始される、⑧両国が気候変動による海洋への悪影響に対して協力して取り組むことの潜在的な能力は大きい、⑨2019年6月にModi首相が2期目で最初のモルディブへの公式訪問を行い、マーレでは2018年11月にIbrahim Mohamed Solih大統領の新政権が誕生したことで、2国間関係は軌道に乗るといった主張を述べている。