海洋安全保障情報旬報 2019年8月21日-8月31日

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8月21日「中ロはアジアにおける米の首座に挑戦しているのか―印専門家論評」(IPP Review.com, August 8, 2019)

 8月21日付のシンガポール企業Public Policy Pte. Ltdが提供するウェブサイトIPP Reviewは、印シンクタンク、The Centre for Peace and Conflict Resolutionの創設者Anita Inder Singhの“Is China and Russia Challenging US Primacy in Asia?”と題する論説を掲載し、ここでSinghは中ロが「アジアにおける米国の首座」(US Primacy in Asia)に挑戦しつつあるのかと問い、要旨以下のように述べている。
(1)ロシアの軍用機(抄訳者注:A50早期警戒管制機)が7月23日に韓国(竹島)の領空を侵犯した。これに対して韓国軍は警告射撃を行った。これに先立って、ロシアと中国の爆撃機各2機が日本海上空で集合し、韓国と日本の防空識別圏に入り、東シナ海に南下した。この出来事が問いかける重大な問題は、中ロ両国は「アジアにおける米国の首座」(US Primacy in Asia)に挑戦しつつあるのか、そして両国の同盟が実現するのかどうか、ということである。  
(2)この出来事は、東アジアにおける中ロ両国の戦略的絆に対する国際的な注目を高めた。両国は、戦略的絆を強めることによって、競合する米国主導の国際秩序に対抗しようとしてきた。更に、アジアにおける米国の2つの重要な同盟国(日本と韓国)は、初めて中ロの戦略的パートナーシップの焦点となった。この地域に台湾、南シナ海、香港そして米中貿易戦争といったフラッシュポイントが散在している時期に、この出来事は、マラッカ海峡以東におけるロシアの野心という問題を提起した。こうした多様で一触即発的な火薬庫とつながっているのがアジアにおける米国の首座に対する中ロの挑戦である。Trump大統領のアジア太平洋に対する軍事的コミットメントが疑問視され、そしてこの地域の同盟国とワシントンとの絆が弱体化している時期にあって、今回の中ロの演習は、ワシントンにとって両国の政治的影響力を一層拡大しようとするモスクワと北京の野心を露わにしたものであった。
(3)今回の出来事は中ロ両国の米国への挑戦意志を示したものであったが、両国は、同盟に至る緊密な軍事協力を目指しているわけではない。中ロ両国は中距離核戦力(INF)条約を廃棄するというワシントンの最近の決定に、共に反対した。中国は最近、アジアへの中距離ミサイル配備に対して米国に警告するとともに、アジア諸国に対して米国のミサイルを受け入れないように警告した。核兵器の問題は、中ロ両国の空軍機が韓国領域を哨戒飛行した理由を物語っている。中ロ両国は、長距離哨戒レーダーを含む米国の終末高高度防衛(THAAD)システムの韓国への配備に対して繰り返し反対を表明してきた。核搭載可能な中ロ両国の4機の爆撃機による朝鮮半島沖合の飛行はたぶん、この地域の米国のミサイル防衛システムの配備に対する怒りを表徴するものであった。米ロ両国だけでなく、中国をも含む核兵器を規制する、Trump大統領の新たな条約提案は、北京の怒りを高めた。北京は、核軍縮問題に関しては交渉を拒否してきた。
(4)中ロの戦略的絆の深化は、如何なる意味を持つか。両国の軍事協力は約30年前に始まり、15年程前から対テロ訓練を狙いとした合同軍事演習を開始した。最近数年間、合同海軍演習が、黄海と南シナ海で、更には黒海や地中海そして北極海でも行われてきた。両国間の軍事協力も強化されてきており、2015年には、中国はロシアのS-400防空ミサイルを購入した最初の国となった。2018年には、中ロ両国は、東シベリアで最大の軍事演習、Vostokを実施した。ロシアが中国軍とともに太平洋における活動に関与することは、それ自体、この地域において米国との対立を誘発する前兆とはならない。ロシアにとって、中国とともに力を誇示することは、アジア太平洋地域における自国の軍事的役割の強化につながるとみられる。ロシアは、長い間、この地域における軍事的に弱いプレーヤーであった。ロシアがそうしたイメージを改善することに熱心であるのは頷けることである。アジアで最強の軍事力と経済力を持つ国との合同航空作戦は、こうした狙いを実現する上で有益であった。
(5)しかしながら、軍事協力の強化は、中ロ同盟に向かっているわけではない。両国の戦略的な優先順位は異なっている。モスクワの戦略的アジェンダの第1番目には、欧州とロシアの「近接する外国」(Russia’s “near abroad”、 抄訳者注:旧ソ連邦構成諸国)がある。他方、アジア太平洋地域は中国の主たる関心領域である。ロシアは、南シナ海の領有権紛争には中立を維持してきた。米国のこの地域における卓越に対する懸念を除いて、中ロ両国を正式な同盟関係に昇華させる要因はほとんどない。
(6)米中間においても、あるいは米ロ間においても冷戦状態にない時代にあって、中ロをより緊密化させるものは何か。これらの3国はいずれも、他の2国にとってイデオロギー上の脅威ではない。中国は、米国の世界的な優越に対する最も強力な挑戦者だが、その力の根源は、冷戦スタイルの同盟関係と核戦力を合わせたものではなく、むしろその経済発展に根ざしている。また、中ロ同盟は、中国に比して、ロシアの多くの弱点をさらけ出すことになろう。ロシアと中国は、対等のパートナーではない。両国の軍事力を見れば、ロシアの方が明らかにジュニア・プレーヤーである。北京とモスクワは、米国に対する両国の対応を調整しているわけではない。更に、中国は、シリアにおいてロシアに多くの実質的な支援を提供することはできないし、またそうすることもないであろう。他方、ロシアは、南シナ海において中国を強力に支援しているわけでもない。また、ロシアは、米中貿易戦争に対する調停者でもない。中国は、かつて優位を占めていたロシアを差し置いて、中央アジアと北極圏においてその経済的立場を強化している。両国が協力関係を強化すればする程、益々、双方の利害の対立が一層明確になり、両国の絆に悪影響を与えるという状況にある。中ロ両国は米国の世界的な優越に反対しているが、アジアにおいては、ロシアは中国の下にあるセカンド・プレーヤーであろう。
(7)近い将来のアジア太平洋においては、米中間の抗争関係が支配的であろう、というのが本稿の結論である。一方で、中国に対する韓国と日本を含む同盟諸国の対応の相違を解消し、この地域の対中戦線を強化するために、米国はこれら同盟諸国に対する圧力を一層強化してくることが予想される。
記事参照:Is China and Russia Challenging US Primacy in Asia?

8月23日「アンダマン・ニコバル諸島の全体論的開発を目指して―印公共政策専門家論説」(IPP Review.com, August 23, 2019)

 8月23日付のシンガポール企業Public Policy Pte. Ltdが提供するウェブサイトIPP Reviewは、Centre for Strategic and Foreign Relations of the Vision India Foundationの研究員Rakshit Mohanの“Holistic Development of the Andaman and Nicobar Islands”と題する論説を掲載し、ここでMohanは、アンダマン・ニコバル諸島の経済的・戦略的重要性を指摘し、その適切な開発および利用について何が必要か、要旨以下のとおり述べている。
(1)ベンガル湾の東部に位置するアンダマン・ニコバル諸島(以下、ANIと言う)は、インドにとって戦略的に重要な場所である。そこは国際的に重要な航路の中途に位置し、インドの排他的経済水域を大きく拡大させている。インドのModi政権が2019年1月、そのANIに新しい航空基地を完成させたことでANIの戦略的重要性はさらに高まった。
(2)ANIの戦略的重要性は、それがインド洋における中国の軍事的プレゼンスの高まりを監視、牽制する作戦行動を展開する基地になりうる点にもある。中国に対する抑止力を高め、インドの安全保障をさらに強化するために、インド唯一の三軍合同司令部であるアンダマン・ニコバル司令部(ANC)をさらに整備、増強する必要があるが、上述の新たな航空基地建設はそのための一歩であろう。
(3)ANIの軍事化の拡大に対して疑念を持つ者もいる。しかし彼らは、インドが人道支援・災害救援活動において大きく貢献していることを忘れがちである。ANIおよびANCの強化は、そうした活動の拡大にも役立つであろう。また、ANIの近くに位置するASEAN諸国は、インドの非侵略的性格をよく理解しており、したがって、ANIの軍事化が、ASEANに害をもたらすのではなく、インド太平洋における安定的なバランス・オブ・パワーの維持のためのものであることを理解するであろう。もちろん、インドは外交を通じてASEANとの親善に格別の配慮を続けなければならない。
(4)ANIは経済的な潜在能力も秘めている。インドは、重要な国際航路の中途に位置するANIを積み替えターミナルとすることで、インド洋における輸送ハブへとすることもできる。またANIは魅力的な観光地となる可能性もある。ANIの港湾開発や観光のための開発への投資はインド経済を刺激するであろう。ANIの経済的重要性の高まりは、その安全保障のためのインフラ整備のインセンティブを提供することにもなる。しかし、ANIの経済開発のためには環境問題に対する影響を考慮する必要があり、全体論的な開発を進めていかねばならない。ステークホルダー志向の開発、すなわちあらゆる投資者・関係者に利益をもたらすような開発を目指すべきであろう。
(5)このような開発を目指すためには、若者たちの参加が不可欠である。したがってインド政府がするべきことはインドの若者を育成し、さらにANIに対する彼らの関心を高めることである。インドの学校教育は、ANIの戦略的重要性についてほとんど関心を払っておらず、それをカリキュラムに加える努力が必要である。また、大学や中等教育の現場などでフォーラムや講演会を開催することで、若者たちのANIに対する関心を高めることができるであろう。ANIの戦略的重要性を理解した若者たちが、将来、その適切な開発や運用を進めていくであろう。
記事参照:Holistic Development of the Andaman and Nicobar Islands

8月25日「米軍高官、基地利用に関する中国とカンボジアの取引を認める―米メディア報道」(VOA News.com, August 25, 2019)

 8月25日付の米国営放送Voice of Americaのウェブサイトは、カンボジアのリアム海軍基地をめぐる中国との協定が前進した可能性について米軍高官の証言を引用しつつ要旨以下のとおり報じている。
(1)米インド太平洋軍司令部のJoel B. Vowell陸軍准将は、カンボジアと中国との間の軍事協定の前進について証言をした。すなわち、中国がカンボジアのリアム海軍基地を利用でき、かつ基地敷地内に軍事施設等を建設可能とする協定である。
(2)リアム基地の利用によって、タイランド湾の深水部へのアクセスが可能となり、さらにそれは、さまざまな国々との間で中国が領有権を争っている南シナ海への速やかなアクセスを可能とするのである。Vowellは、カンボジアにおける中国の軍事拡張計画を、アメリカその他同盟国にとって「巨大な懸念」であるとした。
(3)中国とカンボジアの協定について初めて報じたのはThe Wall Street Journal誌であり、今年の7月のことであった。中国とカンボジアはその報道を否定したが、Vowellはさらにそれに反論した。彼は、来年リアム基地に翻っているのは、アメリカの旗でもカンボジアの旗でもなく、中国の旗であろうと述べた。
(4)2019年6月24日、米国防総省の南・東南アジア担当次官補であるJoseph Felterがカンボジアに対し、リアム基地の訓練施設修復などに関するアメリカの支援を拒絶したことに対する懸念を表明する書簡を送った。カンボジアのHun Sen首相らはそれに対し回答をしていない。ただし、カンボジア国防省の広報官は、カンボジア憲法がリアム基地における中国の軍事的プレゼンスを認めることはないと述べた。
記事参照:US Military Official Confirms China Deal to Use Cambodian Naval Base

8月26日「南シナ海における法と現実政治のバランス-比専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, August 26, 2019)

 8月26日付の米CSISのウェブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、同所研究員でSchool of Social Sciences at Ateneo de Manila University講師でThe Asia-Pacific Pathways to Progress Foundationの編集員であるLucio Blanco Pitlo III の“Balancing Law and Realpolitik in the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでBlancoは外交交渉では数十年にわたる領土と海洋紛争の現実と感情のバランスを図るべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 「そこに“仮に”や“しかしながら”は存在しない。我々は法的真理に沿って行動してきた。しかし、我々が今日直面している時代と現実に柔軟であるべきだ」、これは7月のフィリピンのRodrigo Duterte大統領の一般教書演説での南シナ海に関わる発言である。就任以来、Duterte大統領の考えはかなり一貫性がある。紛争回避と海洋資源の保護は、Duterte大統領の南シナ海における基本的な優先事項であり、平和的な対話こそ最善の方法と考えている。Duterte大統領は「公衆の場で争うよりも、会議の中での話し合いの方が良い結果を得ることができる」と主張している。しかし、中国に対するフィリピン国民の不信感は大きく、政府間対話の実施における透明性を要求している。しかしながら、外交交渉においては数十年にわたる領土と海洋紛争の現実と感情のバランスを図るべきであろう。Duterte大統領は、2016年の仲裁裁定の価値を認識しつつ、制約、現実、そして地政学的な背景を考察して政策を進めているように見える。 Duterte大統領は、仲裁裁定を国の海洋権益を促進するための法的ツールと見なしてはいるが、2国間協議の場においてより多くの価値を持つカードを切ろうとしている。 Duterte大統領は、「中国との関係改善は西フィリピン海における利益を守るという我々のコミットメントを放棄することを意味してはいない」と発言しているが、ティトゥ島周辺への中国漁船団の進入、リード碓でのフィリピン漁船沈没、フィリピン海域への中国軍艦の未通報通過等が比国内での中国への不信感を高め、その対中外交の有効性に疑問を生じさせている。
(2) 中国によるフィリピンの領海・群島海域へのアクセスは、米軍艦艇の動きを追跡することを目的としている可能性がある。また、フィリピンの排他的経済水域への中国調査船の活動は、商業的または科学的というより軍事的な目的である可能性が高い。軍事的弱者は、米国の“航行の自由作戦”のような大国の行動に期待する面があるが、それは大国間の勢力争いの場を提供することにもつながる危険性がある。南シナ海紛争の歴史を見れば、そこには事実の歪曲や対立そして欺瞞が渦巻いている。領域は、一旦占用されれば回復は困難である。フィリピンの長年にわたる南沙諸島防衛への過小投資は、戦略的に重要な海洋空間への自国のプレゼンスを希薄なものにしてしまった。対照的に中国とベトナムは、海域を守り海洋資源をより多く利用し得る権利を確保している。 Duterte大統領は全ての卵をそのかごに入れてはいない。フィリピンには、パートナー国からの海上能力構築支援の継続、海軍と沿岸警備隊による外交の拡大、地域の信頼構築措置への参加、中国との対話、等々、多様なツールがあるはずだ。Duterte大統領は、一方、戦争の危険性を誇張し「行動規範」の早期締結のモメンタム加速に少なからず貢献はしているものの、彼の南シナ海での外交は降伏に近いものである。
記事参照:Balancing Law and Realpolitik in the South China Sea

8月27日「米国と東南アジア諸国の沿岸警備隊同士の協力―外交専門誌編集者論説」(The Diplomat.com, August 27, 2019)

 8月27日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集主任Dr. Prashanth Parameswaranの“What’s Behind the Rising US-Southeast Asia Coast Guard Cooperation?”と題する論説を掲載し、ここでParameswaranは近年増大傾向にある米国と東南アジアの沿岸警備隊同士の協力は過小評価されているが意義は大きく、今後も注目すべきであるとして、要旨以下のように論じている。
(1)過去数週間にわたり、米国と東南アジアの沿岸警備隊との間で多くの関与が見られた。これらの交流自体はワシントンのインド太平洋の安全保障に対するより広範なアプローチの一環として、米国沿岸警備隊と東南アジア諸国の海上法執行機関との間の協力を増加させる、より広範な傾向の一部として言及に値する。
(2)東南アジアの沿岸警備隊と米国の協力自体は新しいものではない。注目は東南アジア海洋安全保障構想やタイ湾海上法執行構想のような一部の構想に向けられている傾向があるが、実際、ワシントンは教育、訓練又は能力構築を含む様々な手段を通じて、長年にわたって海軍及び新しい海上法執行機関(以下、MLEAと言う)の発展を支援する上で、重要であるがあまり評価されていない役割を果たしてきた。
(3)それにも関わらず、この傾向は過去数年にわたってかなり増大している。この一部は、MLEAが東南アジア諸国自身の海洋安全保障において果たしている役割の高まりを反映している。また、この一部は、戦争の境界値を超えて北京の目的を前進させるための非軍用の船艇の使用に依存する南シナ海とそこでの関与が含まれているインド太平洋地域におけるグレーゾーンという安全保障の課題を米国が上手く解決出来るよう支援する上で、これらのアクターに関与することが重要というワシントンの認識を反映している。6月には米沿岸警備隊太平洋地区司令官Linda Faganが電話会議において、この地域で沿岸警備隊の関与が拡大することで、様々な海洋安全保障の課題に対処するための法執行と能力構築に役立つことができると語った。
(4)そのような関与自体は、新しい発展というよりも東南アジアのMLEAと米国との既存の協力を作り直すことと見なされるべきである。そして、それらは教育や装備の移転などの分野で進行中の取り組み、また、日本を含む海洋安全保障領域における活発な他の同盟国やパートナーとの協力とともにワシントンの取り組みの1つの側面に過ぎない。にもかかわらず米沿岸警備隊の関与は東南アジアの沿岸警備隊を含む個々のMLEAとより広範なその地域の安全保障上の取り組みの一環として、より直接的かつ広範に協力を行う米国の拡大する取り組みを強調している。
(5)確かに、東南アジアの沿岸警備隊との米国の協力が拡大する傾向は、まだ初期段階であり米国の当局者たちはさらに多くのことが進行中であることを示している。考慮すべき制限もまた存在する。Fagan自身を含む当局者たちが米沿岸警備隊の能力を制限する制約について以前証言しており、米国側であろうと、沿岸警備隊に深刻な能力不足が存在する東南アジア側であろうと、それらの多くは組織されたばかりで海洋安全保障政策の調整不足や激しい官僚的なライバル関係を含む多くの課題のため未だに進展は妨げられている。にもかかわらず、米国と東南アジア諸国の間の沿岸警備隊の協力の高まりという一般的な傾向は引き続き注目すべき重要な傾向である。これは米国及び特定の東南アジア諸国だけではなく、より一般的な地域の安全保障秩序に対するより広範な意味合いを期待し得る発展である。
記事参照:What’s Behind the Rising US-Southeast Asia Coast Guard Cooperation?

8月28日「新浦南造船所、新弾道ミサイル搭載潜水艦建造か?」(Beyond Parallel, CSIS, August 28, 2019)

 8月28日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies (CSIS)のブログBeyond Parallelは、CSIS上級画像分析者Joseph BermudezとCSIS上級顧問兼朝鮮半島問題統括者Victor Chaの“Sinpo South Shipyard: Construction of a New Ballistic Missile Submarine?”と題する論説を掲載し、ここでBermudezとChaは衛星画像分析から新浦南造船所において新型SSBが建造されつつあり、かつSLBMの発射実験の準備も進められていることを示す状況証拠が認められる一方、決定的な証拠も認められないとして要旨以下のように述べている。
 (1)8月26日付のBeyond Parallelの新浦南造船所の新画像は、新しい弾道ミサイル搭載潜水艦(以下、SSBと言う)が建造中であることを示す状況証拠を示しており、それ以前の証拠は試験の準備が行われている可能性を示している。これらの画像は、金正恩が新しく建造している潜水艦を視察したという8月の北朝鮮の報道を確認するものである。この建造中の潜水艦は朝鮮人民海軍(以下、KPNと言う)の現有のSINPO級弾道ミサイル実験潜水艦(以下、SSBAと言う)に続く長い間心待ちにされたSSBであると我々は考えている。画像に支援船とクレーンが写っていることは、潜水艦発射弾道ミサイル(以下、SLBMと言う)の発射実験のためにミサイル発射実験用台船を海に引き出す準備の可能性があることを示している。
(2)北朝鮮の報道は「近々に実戦配備」されるとしており、多くのメディアがSLBMの脅威を差し迫ったもの報じているが、新たに発生したというのがより正確である。たとえ、今日進水したとしても、潜水艦は完全な作戦可能状態になる前に艤装、造船所の完成検査、KPNの受領検査、就役、最後のKPNの慣熟訓練が実施されなければならない。KPNが新潜水艦の進水直後の同潜水艦からのSLBMの試験を早期実施したとしても、しばらくの間、真の作戦可能状態にならないだろう。しかしながら、これら画像は北朝鮮が核の3本柱のうち第2の柱の開発を本格的に進展させ、残存性のある核戦力へより近づきつつあり、完全な非核化への期待を減退させつつあることを示している。SSBを追尾し、先に照準することが困難であるため、真のSSBの建造と就役は北朝鮮の弾道ミサイルの重要の進展、核の脅威、地域における複雑な防衛計画を提起することになるだろう。
(3)2015年以来の新浦-馬養島地域の衛星画像は、新SSB建造について決定的な証拠を提供していないが、以下のような状況証拠が含まれている。
a.SSBの運用支援用の新基幹設備の開発
b.造船所の建造能力の更新
c.新浦地域における付帯的な行動
(4)8月26日に収集された衛星画像は新SSBの存在を示していないが、造船所内およびその周辺での活動状況を更新している。新浦南造船所の安全な泊渠には、SINPO級SSBA、ミサイル水中発射実験用台船が2019年1月以来同じ位置に係留されたままである。しかし、SINPO級SSBAの舷側には16メートル級の小型潜水艇と思われるものが、発射実験用台船横には支援船が係留されている。SINPO級 SSBAが係留されている泊渠上にはクレーとたの大型船が認められる。台船横のドック上では人間の一群が認められる。16メートル級の小型潜水艇はSSBにとって重要ではない。しかし、台船横の支援船は過去にSLBMの発射実験のため台船を外洋に曳航するのに使用されており、興味が引かれる。支援船の係留、ドック上のクレーン、発射実験用台船上の人の動きが近々行われるかもしれない実験の準備を示唆しているとしても、近い将来に実験が行われる決定的な証拠はない。しかし、注視し続けなければならない。最後に、過去、約15基のダビッド・クレーンがドックに装備された。KPNの他の潜水艦基地あるいは施設では、上空からの監視を阻止するためダビット・クレーンはネット、時には偽装網を展張するのに使用された。
(5)新浦南造船所の南側にある建造建屋近傍の部品庫にはそれほど重要度の高くない部品や建造ブロックの出入りが続いている。部品や建造ブロックの総数は2019年初めに比べると少ないようである。過去8ヶ月のうちに主建造建屋の西100mのところの通信施設は撤去されている
(6)過去8ヶ月以上、発射実験台では小規模の動きがあったが、最近の画像では重要なものは確認されておらず、実験用台船上には最近、支持構造物が設置されている。近々の新たな発射実験の準備の兆候は見られない。この実験用台船は2012年から2014年の間に製造され、この実験用台船と支持構造物はともに北極星1号SLBMおよびSINPO級SSBAのミサイル発射システムの開発支援に使用されている。
(7)造船所の北側に位置する約25エーカーのエリアには3本の引き込み線があり、種々の造船所支援施設がある。8月26日の画像は同エリアで確認された火力発電所近傍の様々なりょうの石炭、少数のトラック、部品庫における部品、建造ブロックの動きといった代表的な動きが見られる。しかし、列車は確認されていない。新造および修理建屋や新浦半島先端のL字型桟橋の建設は2012年間に開始され、断続的にゆっくりとしてペースで続いている。完成すれば、約120mの主建屋は攻撃からある程度の抗堪性を持たせるため土で覆われることとなろう。現在、主建屋の建設は中断している。しかし、L字型桟橋は現在、約245mまで延長されている。
記事参照:Sinpo South Shipyard: Construction of a New Ballistic Missile Submarine?

8月28日「中国がグリーンランドに関心を持つ理由―米専門家論説」(The Hill.com, August 28, 2019)

 8月28日付の米政治専門紙The Hill電子版は、米シンクタンクHudson Institute主任研究員Nadia Schadlowの" Why Greenland is Really About China "と題する論説を掲載し、ここで SchadlowはTrump大統領がデンマーク領グリーンランドの買収に関心を示したことを受け、同島を中国と米国の戦略的要所と位置づけた上、米国が取るべき今後の戦略について要旨以下のように述べている。
(1) Trump大統領は、最近、グリーンランドの買収に関心を示すと同時にいくつかの警告を発した。この関心の根底にあるのは、中国が商業インフラプロジェクトと世界のパワーバランスとの関係を理解した上で、商業関係の多くを兵器化(抄訳者注:軍事的圧力として活用)してきたという現実である。米国はまだ中国に対抗する戦略を立てていない。Trump大統領は北大西洋の重要な分岐点にあり、レアアースが埋蔵され、米国本土防衛の中心となる米空軍基地がある、この戦略的な島への中国の投資の規模を知って懸念を示したとされる。
(2) 中国は、少なくとも国有企業が鉱山会社に投資し始めた2015年以降、グリーンランドの重要性を認識している。中国は、グリーンランドで少なくとも4つの主要な採鉱事業に投資しており、レアアース市場における支配的な地位を強化している。レアアースは、ハイテク製品に欠かせない特性を持っている。戦闘機のエンジン、ミサイル誘導システム、衛星通信システムなど国防には欠かせない存在である。米国は現在、中国を中心にほぼ完全に輸入に依存している。中国のこの数兆ドルの投資は鉄道、港湾、鉱山など物理的な開発プロジェクトを活用し、中国のビジネスや軍事的利益を拡大することを目的とした高度な陸海空戦略である。これらの物理的な施設は、次に政治的な利点を生み出すだろう。融資、資本、設備、技術的専門知識の提供は地域の政治を形作り、依存関係を生み出す。これらのプロジェクトから生成されたデータは中国の人工知能(AI)に「燃料」を加えることになる。
(3) 大規模なインフラプロジェクトに資金を提供し、建設し、運営することで中国は他のグローバル企業が従うべき基準を設定することができる。中国による商業港の買収は、世界のサプライチェーンの発展を、中国企業が運営する巨大船への依存へとシフトさせた。グリーンランドおよび世界中の国々に対する中国のインフラ投資は、中国の技術投資戦略に相当する。中国は、過去数十年にわたり、人工知能やロボット工学など、軍事応用の鍵となる分野に取り組む米国企業を対象とする技術移転戦略を実施してきた。中国は、この「ベンチャー投資」を攻撃的な産業スパイ組織と組み合わせている。これらは、中国政府が採用しているグローバルな商業的アプローチの中心となる業務概念のいくつかの例であり、21世紀の戦略的深度の一形態である。
(4) 米国は、このような競争的な地政学的展望の中で成功するために、自国のあらゆる力を統合するという、より良い仕事をしなければならない。我々は、国家資源を国営企業の利益のために利用する権威主義国家(抄訳者注:中国を指す)に対抗するために、我々自身の戦略的運営概念と新たなモデルを開発しなければならない。そのためにも、ホワイトハウスは、インフラからエネルギー、港湾に至る世界中の主要な戦略的な機会を特定することに加え、その機会が失われる前にそうした情報が政府機関間で共有されることを確保し、万が一の損失を迅速に回収するためにも、ビジネス界と政府のリーダーで構成されるconnect the dots(抄訳者注:点と点を結ぶ官民協働のための)タスクフォースの形成を検討すべきである。まず、レアアースの支配権を回復し、海港へのアクセスを米国やその他の西側諸国の利益に開かれたままにし、5G通信回線のような基盤技術における優位性を守るための運用コンセプトに焦点を当てるべきである。こうした米国の新たな事業コンセプトに貢献できるような、いくつかの初期段階の取り組みがすでに存在する。その中には、開発金融を近代化する新しい開発金融機関や、信頼できる資金源を使って重要な新技術に投資する国防総省などが含まれる。しかし、戦略的効果を得るためには、これらの特定のイニシアチブが統合された事業コンセプトが形成されなければならない。
(5) そのようなタスクフォースは、立ち上げまでに何ヶ月もかける必要はない。実際には、その知識はさまざまな政府機関や業界全体に埋め込まれているからだ。今現在は、それらが調整されていない状態にある。その結果、米国は経済力、政治力を最大限に発揮できていない。今こそ、スタートするべきだ。
記事参照:Why Greenland is Really About China

8月27日「オーストラリアがホルムズ海峡における米国主導有志連合に参加する理由-豪専門家論説」(The Strategist, August 27, 2019)

 8月27日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe StrategistはThe Australian Institute of International Affairsのpresidential associate、Ian Dudgeonの“Why Australia joined the US-led coalition in the Strait of Hormuz”と題する論説を掲載し、ここでDudgeonは、オーストラリアが米国主導のペルシャ湾における有志連合への参加を決定したのは、中東の紛争に巻き込まれるリスクを懸念しつつも自国商船保護の必要性と米国との同盟関係を重視したものであるとして、欧州諸国の本件対応とも対比しつつ要旨以下のように述べている。
 (1)ホルムズ海峡における航行の自由の維持のため、米国主導の有志連合(International Maritime Security Construct :IMSC。抄訳者注:後にこの枠組みはThe Maritime Security Initiativeという名称に変更)に加わるという8月21日のMorrison豪政権の決定には2つの理由がある。第一には貿易及び経済上の所要であり、島国であるオーストラリアは国際的な海運の自由に完全に依存しているということである。第二には米国との同盟関係の重要性であり、米国としては同構想には他に2カ国(英国、バーレーン)からしか賛同が得られておらず、オーストラリアに早期のコミットメントを強く求めていたという事情がある。IMSCの構成や関与のルールなどが明確でないにもかかわらず、オーストラリアにはこれを拒否する選択肢はなかった。
 (2)欧州諸国のIMSC参加に対する躊躇は、Donald Trump大統領が制裁の一環として合法的なイラン商船の航行阻止にこれを悪用するのではないかといった懸念によるものである。そうした可能性から距離を置くべく、EUは欧州諸国が主導という条件でのIMSCへの参加、ないしは別個のタスクフォースの設立などのオプションを検討している。こうした欧州の懸念とIMSC構想の最終的な決定を意識しつつ、Scott Morrison首相はオーストラリア独自のROE(行動規定)を策定している。Morrison首相はこれが国益のための決定であることを強調するとともに、海上における国際法へのコミットメントを再確認した。彼はまた、IMSCへの参加とTrump大統領のイランに「最大の圧力」をかけるとするキャンペーンとは「完全に別個の問題」と強調した。したがって実際のオーストラリアによる同地域への部隊派遣はどれほど急いでいるわけでもない。Morrison首相は、湾岸地域における海賊及びテロ対策支援のため従来から実施されて来たManitou作戦の下、豪空軍のP-8哨戒機が今年後半に配備され、また、豪海軍のフリゲート艦が来年初頭に展開されると発表した。
 (3)IMSCへの参加は、ある意味では国際政治上の地雷原に突入することになるということをオーストラリア政府は十分認識している。ペルシャ湾は国際紛争の舞台となり得る主要な海域であり、海上における挑発行為阻止などのために、オーストラリアのROEの限界をテストするような緊張のエスカレーションが生起する可能性もあり得る。ちなみにイランの主要外貨獲得源である石油輸出はTrump大統領が考えている制裁のメインターゲットであり、実際、この制裁はイランに大きな打撃を与えている。欧州各国は制裁を回避すべく、INSTEX(貿易取引支援機関)を設立したが、ほとんど効果は出ていない。
 (4)一方、こうした米国の制裁に対抗して、湾岸地域での外国船に対する選択的なイランのハラスメント活動が6月に開始されている。テヘランの目的はイランの石油輸出の拒否に対し、湾岸経由の石油輸送の潜在的脆弱性を示し、効果的なINSTEXを実施するよう欧州その他の関係国に対し圧力をかけることである。7月にはそうした状況がエスカレートした。英国がイランのタンカーAdrian Darya 1をジブラルタル沖で拘束し、一方、イランは英国籍タンカーStena Imperoを湾岸海域で拘束した。その後、Adrian Darya 1は解放されたが、同船が目的地に到達するまで、Stena Imperoはイランの監視下に置かれていた。こうした事例に加え、そうした船舶から原油を購入する国に対する懲罰という明示的な米国の脅しもある。
Stena Impero拘束事案は、英国がIMSCへの参加を決定する重要な要因であり、湾岸地域の海運に依存している島国として行動を余儀なくされたということであるが、一方で英国はこうした利益相反の可能性も十分認識しており、Trumpの制裁キャンペーンとは別途、独自の関与の下で活動しているのである。
 (5)欧州諸国が予想したとおり、イランは27日終了したフランスでのG7サミットに向けて、商業輸送に対するさらなる阻止は延期した。また、INSTEXとイランの核合意に対する欧州のコミットメント(共同包括行動計画:JCPOA)は、同サミットのサイドセッションにおける主要議題となった。Emmanuel Macron仏大統領の招待でイランのJavad Zarif外相がJCPOA署名各国の関係者と会談すべく訪仏したのはその象徴である。Zarif外相はサミットへの出席やTrumpに会うことは望まなかったものの、Macron大統領はTrumpとAli Khameneiイラン大統領との会合を仲介し、危機の解決に向けて努力することを申し出た。イランの次の動きは、INSTEXとJCPOAに関する議論とTrump-Khamenei会談の結果に依存するものとなるであろう。
記事参照:Why Australia joined the US-led coalition in the Strait of Hormuz
(関連記事1)

8月27日「オーストラリアの湾岸への部隊派遣は米国との違いを示せるか?-豪専門家論説」(The Interpreter, August 27, 2019)

 8月27日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは豪The University of Wollongong, Australian National Centre for Ocean Resources and Security (ANCORS) 専門研究員Sam Bateman博士(元豪海軍大佐)の“Australia in the Gulf: Will we make a difference?”と題する論説を掲載し、ここでBatemanは、湾岸に派遣される豪部隊の行動について、ホルムズ海峡の一部にはイランの領海も存在しており、国連海洋法条約(UNCLOS)上の通過通航制度が適用されることから、ここで常続的な警戒監視を実施することは困難であることなどを指摘しつつ、一方的に米国に追随するのではなく、欧州諸国などとも連携しての独自の対応を模索すべきであると述べている。
記事参照:Australia in the Gulf: Will we make a difference?
(関連記事2)

8月29日「オーストラリアは湾岸の泥水に向かっている-豪専門家論説」(The Interpreter, August 29, 2019)

 8月29日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは同所研究員で米The Center for Strategic and International Studies客員研究員Brigid O'Farrellの“Australia sails into muddy waters in the Gulf”と題する論説を掲載し、ここでO'FarrellはMorrison政権によるIMSCへの参加は米国の対イラン制裁と一線を画するべく慎重な姿勢を取っているものの、過去の事例からして実際に米国と異なる行動を取ることは難しく、オーストラリアは湾岸地域における国際政治の泥水にまみれる可能性があると指摘している。

8月30日「アジア太平洋における一時的な米軍基地の意味―香港紙論説」(South China Mourning Post.com, August 30, 2019)

 8月30日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“New US military bases in Asia-Pacific ‘likely to be temporary’ for troop flexibility”と題する論事を掲載し、米国防総省はアジア太平洋地域における米軍基地について、恒久的ではなく一時的なものを望んでおり、それは必要に応じて部隊を交代させることができるが、北京による「強制外交」を思いとどまらせるものではないとして要旨以下のように述べている。
(1)米太平洋軍司令官の元特別補佐官によると、アジア太平洋地域のいかなる新しい米軍基地は、軍隊の柔軟性を最大化するための「一時的」なものであり、マニラとの米国防総省の合意に沿っている可能性が高い。しかし、アナリストたちは、米国の基地が一時的なものか恒久的なものかは問題ではないと述べた。北京は、彼らが必要だと感じたときに、依然としてこの地域で「強制措置」を講じるだろう。
(2)Center for the New American Securityの防衛プログラムの非常勤上級研究員Eric Sayersは、米軍基地は恒久的である必要はなく、最も重要なことは軍隊の動員と戦略的能力の向上であると述べた。 「たとえば、我々は、同盟を強化し、中国による海洋における強制に対処するための新しいツールを提供するため、2014年にフィリピンとの防衛協力強化協定を交渉した」と彼は述べた。この協定は、米国がフィリピンに恒久的な軍事基地を設立することを許可していないが、長期滞在のためにこの国で部隊を交代させることを可能にし、米国はフィリピンの基地に施設を建設して運営することができる。ここでの中心的な問題は、これらの新しいアクセス場所は恒久的ではないが、米軍と米国の同盟国及びパートナーが適切だと思うように、戦域内で部隊を交代させるための柔軟性を米国に与えることである」とSayersは述べた。米国防長官Mark Esperは、米国がそこに中距離ミサイルの配備を望んでいると今月述べた後、8月23日に米国はアジア太平洋地域におけるその中国封じ込め活動に加えて、この地域でより多くの基地に投資したいと述べた。Sayersは、「中国の偵察・打撃軍事施設への投資が成熟した」として、この地域に米国の戦力を投射する新しい方法を見つけることが急務であると述べた。「我々は、北オーストラリアの2つの空軍基地にアクセスするための空軍協定をまとめた。同盟国とパートナーは、特に米国と共に活動し補完するやり方で、自国の軍隊の近代化に投資することに最善を尽くすだろう」と述べた。
(3)香港中文大学の比較政治学の講師James Floyd Downesは、米国が一時的な基地を設立するという計画は、東南アジア諸国にとってより好ましいと述べた。「これにより、一部の東南アジア諸国が米国の基地を受け入れできるようになる可能性が高い」と彼は述べたが、2001年に米空軍がキリギスタンのマナス国際空港に空軍基地と言うより「乗り継ぎ中継地」を設営したが、2014年にキリギスタン軍に返還し、米軍が去ったように、これらの基地は本質的に「儀式的」であり得ることを指摘した。
(4)米シンクタンク、Hudson研究所のPatrick Croninは先日、米国が東南アジアの一部で軍事的プレゼンスを拡大できるとメディアに語った。ベトナムでは、ハノイの防衛政策は軍事同盟やベトナムの国土に駐留する外国の軍隊を含まないと考えられているが、最近それは、南シナ海をめぐる北京との激化する論争の中で米国との軍事協力を増加させた。
(5)しかし、アナリストたちは、この地域の一時的な米軍基地は、北京がホスト国に「強制外交」を使用することを思いとどまらせないと述べた。「北京には、様々な状況で適用される強制措置の独自の方法がある。ある国が北京の核心的利益に関する中国の公式の立場とは異なる見解をもつ場合、強制外交が動き始める」とシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のRajeev Ranjan Chaturvedy客員研究員は述べた。
記事参照:New US military bases in Asia-Pacific ‘likely to be temporary’ for troop flexibility

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Troubled waters: piracy and maritime security in Southeast Asia
https://kontinentalist.com/stories/troubled-waters-piracy-and-maritime-security-in-southeast-asia
Kontinentalist.com, August 22, 2019 (シンガポールWebサイト)
2019年8月22日、シンガポールのウェブサイトKontinentalist.comは、“Troubled waters: piracy and maritime security in Southeast Asia”と題する論説を掲載した。この記事においては、①アジアの沿岸社会では、船員業、商業及び海賊行為は常に密接に関連している一方、ホルムズ海峡を通過する石油の80%以上はアジア市場に供給されている、②歴史的にマラッカ海峡とシンガポールでは海上で武装強盗の重大な事件が発生しているが、この一部は世界の原油価格の変動と鈍い経済成長によって引き起こされる、③石油市場の年間生産額1.7兆米ドル中、約1,330億米ドル相当の燃料が盗まれ、その盗難の多くは海で発生する、④東南アジアにおける石油の密売が大きな問題だが、消費者がアクセスする石油の少なくとも3%が闇市場からのものである、⑥アジアでは海賊行為と海上武装強盗が減少しているが、身代金目当ての誘拐やハイジャックの脅威は依然として存在し、東南アジアでは暴力的な非国家主体による海上テロリズムがスールー海とセレベス海に集中しており、アブサヤフグループが主な犯人である、⑦世界で漁業と養殖業に従事している人口の85%近くがアジアに存在するが、アジアの海域はひどく乱獲されており、南シナ海などの紛争地域で現在行われているIUU漁業(違法、無報告、無規制の漁業)は、これらの海域に生活が依存している人々に害を及ぼす、⑧フィリピンの貧困層の30%はミンダナオ島に住んでおり、経済からこの地域が取り残されると、ここの海賊がアジアの海洋安全保障と繁栄にとって最大の脅威となる、などの見解が述べられている。
 
(2) The U.S. wants Japan's help to close its 'missile gap' with China. Is Tokyo up for it?
https://www.japantimes.co.jp/news/2019/08/25/national/politics-diplomacy/u-s-wants-japans-help-close-missile-gap-china-tokyo/#.XWxoCuR7mHm
The Japan Times, August 25, 2019
8月25日付のThe Japan Times電子版は、" The U.S. wants Japan's help to close its 'missile gap' with China. Is Tokyo up for it? "と題する論説記事を掲載した。同記事では、8月上旬に米国がINF条約から脱退したことを取り上げ、米国はこれにより理論的には陸上配備の中距離ミサイルをアジア地域に配備することが可能になったと指摘した上で、これは米国が1980年代に旧ソ連の核兵器から防衛するために核ミサイルを西欧全域に配備したのと同じやり方だと述べている。そして同記事は、しかし今回のケースでは、米国はアジアにミサイルが配備されたとしてもそれは核ミサイルではないとか、新開発のミサイルの実戦配備には時間がかかるなどと主張しているため、米国は最も強固な同盟国の1つである日本に、何らかの形での軍事力の展開を求める可能性があるとの見通しを示している。