海洋安全保障情報旬報 2019年8月1日-8月10日

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8月1日「米インド太平洋戦略の最大の脅威は何か?それはワシントン自身-米専門家論説」(The Diplomat, August 01, 2019)

 8月1日付のデジタル誌The Diplomatは、インド太平洋の安全保障に関わる専門家で米the Pacific Council on International Policy in Los AngelesメンバーであるDerek Grossmanの“The Biggest Threat to the US Indo-Pacific Strategy? Washington Itself.”と題する論説を掲載し、ここでGrossmanはインド太平洋戦略の「文言や精神」とTrump大統領の「発言」の間の齟齬、国防長官交代のたびに見られるブレを指摘し、インド太平洋諸国が米国を必要としているが、米国がこの地域でリーダーシップを発揮できなくなれば、インド太平洋諸国は米国内の齟齬やブレを看過できなくなるとして要旨以下のように述べている。
(1) 米国のインド太平洋戦略が揺らぎを見せているのは公然の秘密である。戦略の目的は確固たるものなのか、それで戦略を構成できるのか、なぜ同盟国やパートナー国はアメリカか中国かの2者選択をしなければならないのか、といった疑問が投げ掛けられている。それにも拘らず、米国の同盟国やパートナー国は、インド太平洋を中国の高圧的な姿勢から自由で開かれたものとすることにおいて米政府を支持していると言える。中国の経済力や軍事力による進出よりも法に基づく秩序を望んでいるからであろう。米政府にとって不幸なことは、インド太平洋戦略に関する「文言や精神」とDonald Trump大統領の「発言」の間の齟齬が戦略の成功を妨げていることである。そのような状況にあるものの、同盟国やパートナー国は両者の齟齬を無視するよう努めてきた。例えば、6月下旬のG20サミットの後、日本のある外交高官は「Trump大統領のツイッターにいちいち反応する必要はない。それが米国の公式見解であれば我々は尊重すべきだが、大統領の発言は定まったものではない」と述べている。また、同盟国やパートナー国は今までのところ、貿易戦争が米国との安全保障協力に悪影響を及ぼすことを防いできた。2017年に米国が環太平洋パートナーシップ(TPP)から離脱した際にも、同盟国やパートナー国は米国との安全保障に支障を及ぼさないよう振舞った。
(2) インド太平洋戦略は、TPPメンバー国である日本、オーストラリア、ベトナム、マレーシア、シンガポールとの貿易圏を構成する意味においてもまた有意義なものであった。しかしワシントンは、同盟国としての日本や韓国に貿易圧力を強め、オーストラリアにも関税を検討していると伝えられている。これらは、明らかに地域の安全保障協力に悪影響を与えている。Trump大統領がインド太平洋戦略の構築に非建設的な発言を繰り返してきたことは確かである。例えば、2018年に北朝鮮を抑止するための大規模な米韓軍事演習を一方的に中止すると述べ、また、東京で開催されたG20に向かう途中、日米同盟は不均衡だと主張するなどしている。これらの発言は地域的な混乱をもたらしている。しかし、Trump大統領の政策がすべて非建設的というわけではない。幾つかの分野では重要な政策を打ち出している。米台防衛関係の強化、フィリピンに対する相互防衛条約に基づくコミットメント強化、南シナ海における航行の自由作戦の果敢な実施などは特筆すべき事例である。米国のインド太平洋戦略は、国防長官が交代するたびに不確実性と不安定性を露呈している。James Mattis長官はアジア諸国と緊密に連携しインド太平洋戦略の基礎となる国防戦略を策定した。後継者であるPatrick Shanahan国防長官代行は当初こそ対中姿勢を示したが、それはしばらくの間だけであった。現在のMark Esper長官は、国防戦略は依然として最優先事項であると証言しつつもインド太平洋戦略についての言及は少ない。さらに、東アジア太平洋担当国務次官補についても同じことが言える。実際のところ、米政府はインド太平洋を優先事項と考えていないのではないかとの疑問が生じる。そのような中でも、米国の同盟国やパートナー国が中国の増大する軍事力と経済力に対抗して有効な政策を取り得ていないことから、米国はインド太平洋で何とかやってきていはいる。2010年、ウイキリークスで米国の情報網が流されたとき、当時のBob Gates国防長官の発言を再検討することは有意義であろう。Gates長官は、「各国政府は米国が好きだからではなく、信頼しているからではなく、秘密を守れると信じているからではなく、米国と関係を持とうとしている。多くの国の政府は米国を恐れており、一部の国の政府は米国を尊重しており、最も多くの国の政府が米国を必要としている。我々は、本質的に不可欠な国家なのである」と述べている。インド太平洋諸国は米国を必要としている。しかし、もし米国が中国にとって代わられ、この地域をリードすることができないことを示せば、パートナー国が米国の振る舞いを無視できない日が来るだろう。
記事参照:The Biggest Threat to the US Indo-Pacific Strategy? Washington Itself.

8月2日「独立した中級国としてのオーストラリア―豪専門家論説」(East Asia Forum, 2 August 2019)

 8月2日付の豪 Crawford School of Public Policy at the Australian National Universityのデジタル出版物East Asia Forumは、 豪University of Melbourne、School of Social and Political Sciences主席研究員Allan Patienceの“Australia’s middle power role in the Asia Pacific”と題する論説を掲載し、ここでPatienceはオーストラリアが真に独立した中級国となるためには米国との同盟に対して慎重になる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国は、アジア太平洋地域で真剣に受け止められるべき大国としての地位を確立した。一方、この地域で支配的な大国であり続けようとする米国の意欲と能力について、深刻な疑念が高まっている。これらは、オーストラリアの安全保障・外交政策立案者たちにとって深刻な懸念事項である。
(2)ANZUS条約は、米豪の緊密な軍事関係だけでなく、基本的な文化的価値にも基づいて両国のユニークな友情の証拠であると広く信じられている。オーストラリアほど米国の安全保障ネットワークにイデオロギー的に統合されている米国の同盟国はほとんど存在しない。このイデオロギー的側面が、地域及び世界情勢におけるオーストラリアの中流国としての地位を支えているが、透明性は限られており、ANZUSを現実的に再評価する必要がある。
(3)米国とのオーストラリアの戦略的な親密さと文化的親和性は、この国が安全保障のための「偉大で強力な友人」に頼ることができる証拠として日常的に引用されている。しかし、ANZUSの支持者たちは、同盟を取り巻く不誠実なレトリックにいとも簡単に欺かれる可能性がある。大国が同盟の有効性を制限することを決定した場合又は完全に放棄した場合、小さな同盟国はそれについて何もできない。ANZUSへの強いコミットメントは、安全保障を確保するために米国に対する忠誠を確約することを永遠に必要とするように思われる危険にさらされている。同盟のこの側面は、Trump政権が1つの外交政策危機から別のものへと突然傾くにつれて、より問題になる可能性が高い。もしオーストラリアがルールに基づく秩序の中で真に独立した中級国として効果的に取り組むつもりならば、米国との同盟についてはもっと慎重になるべきである。
(4)オーストラリアが、この地域及び世界で頑強で尊敬される中級国の役割を発展させるためには以下のようなことが考えられる。
a. 最初のステップは、米国の軍事力への過度の依存を捨てるために、国防予算を増すことである。
b. オーストラリアが学ぶべきモデルがある。たとえば、ノルウェーとスウェーデンは、どちらも東アジアに外交的な影響力をもつ国家である。ミャンマーの軍事政権に対して、民主化に向けた早期の措置を講じるよう圧力をかけることに関するノルウェーの役割は印象的だった。そしてオーストラリアは、今年の北朝鮮での拘束から若いオーストラリア人の解放を促すために、スウェーデン特使の支援を求めなければならなかった。
c. オーストラリアの外交を改善するには、外交部局の大幅な拡大が必要である。それは、21世紀の外交部局に必要な人員数と専門知識の向上の両方である。あまりにも長い間、外務貿易省は深刻な資源不足に陥っている。彼らの主な任務は、平和な世界の形成に貢献できる真の独立した中流国としてのオーストラリアの国際的地位を高めるニッチ外交の機会を特定することである。
d. また、冷戦の初期段階に現れた非同盟運動からオーストラリアが学ぶべき教訓もある。その運動は、植民地主義の束縛を打ち破った国家を団結させようと努め、同時に当時の新興の超大国である米国とソ連が行ったゲームに参加することへの罠に陥ることを避けた。オーストラリアと志を同じくする国は、大国の破壊的な陰謀、核兵器の拡散、気候変動、テロリズム、難民及び人権侵害など、幅広い問題にわたって共通の利益を促進するために協力すれば、多くを得ることができる。オーストラリアは、大国がプレイしている危険なゲームを改善することができる協力的な取り組みにより、地域的及び世界的なグループである中級諸国の協調の一部になるべきである。
記事参照:Australia’s middle power role in the Asia Pacific

8月2日「米国は中国に軍事的に対抗しようとしているのか?-UAE研究者論説」(The Diplomat.com, August 2, 2019)

 8月2日付のデジタル誌The DiplomatはSecurity Studies at the National Defense College of the United Arab Emirates准教授Christopher K. Colleyの“Is America Now Directly Arming Against China?”と題する論説を掲載し、ここでColleyはVirginia級SSN、Arleigh Burke級DDG、長射程距離対艦ミサイル(LRASM)の3つの武器システムが、対中国を念頭に米国の優位を確保すべく調達を進められているが、これは中国との関係において「安全保障のジレンマ」を増大させるかもしれないとして要旨以下のように述べている。
 (1)国家が他の国家、特に潜在的に敵対する国家の意図を判断できない場合に生じる「安全保障のジレンマ」の問題は米中関係を論じる場合にもしばしば持ち出されるが、これは相互の軍拡競争にも繋がりかねない。「安全保障のジレンマ」の重大な問題はライバル国の兵器システムが自国に対し使用されるよう計画されたものではないことを証明するのが困難ということである。米国の兵器システムは北朝鮮、イラン及びその他の非国家主体を含む様々な相手に対して展開可能であるが、同時にその汎用性は米中間に「安全保障のジレンマ」を生じさせかねない。「安全保障のジレンマ」が顕在化するのは相手国を意識した兵力整備の意図が明らかになった場合であるが、米国は最近、特定の武器体系が中国との潜在的な対立、不測事態発生に備える上で有益であるということを示唆し始めた。それはVirginia級SSN、Arleigh Burke級DDG、長射程距離対艦ミサイル(LRASM)の3つの武器システムである。
 (2)米中対立に際しての米国の戦術的な優位性は攻撃型原子力潜水艦(SSN)を主軸とする潜水艦戦にある。少なくとも1990年代後半以降、中国の軍事的台頭は米国の戦略立案者の念頭にあったが、それにも関わらず、米海軍のSSN保有隻数は1987年当時の98隻から2018年末には51隻まで減少することとなった。SSNは潜在的な紛争における重要な戦略的兵器であり、年間調達隻数は米国国防計画における重要な尺度である。世界屈指の中国海軍専門家である米海軍大学のAndrew Ericksonも、議会証言で少なくとも年2隻の調達レベルを維持するよう求めている。海軍は2020年度予算で新たに3隻の調達を要求しているが、それでもSSNの隻数は今後減少し続ける。それは2018年度末で31隻在籍していたLos Angles級SSNが今後5〜10年で逐次退役していくからからである。そして、米海軍大学のLyle Goldsteinによれば、中国も今後減少していく米海軍SSNの状況をよく承知しているという。
 (3)Arleigh Burke級誘導ミサイル駆逐艦(DDG)プログラムは1985年に開始され、当初は2005年の発注が最終となる予定であり最新のZumwalt級DDGで代替されるはずであった。 しかし2010年、海軍はZumwalt級の建造を中止し、Arleigh Burke級の建造を再開するよう命じており、2018年から2022年にかけて13隻のArleigh Burke級が調達される予定である。 海軍はこの決定に際し中国に直接言及してはいないものの、「急速に増大する脅威」として対艦巡航ミサイル、弾道ミサイルを挙げ、これに対応しつつ対潜戦(ASW)などの作戦行動を的確に遂行できるDDGの必要性を強調した。そして、Arleigh Burke級はそのような任務遂行に際してZumwalt級より費用効果が高いと主張したのである。2019年6月の議会調査報告書は、この2008年のArleigh Burke 級調達再開決定は、従来の沿岸海域におけるイランや北朝鮮などに対するオペレーション重視から、「中国やロシアなどとの大国間競争という新たな国際安全保障環境のシフト」を示すものであると記載している。
(4)中国を凌駕する最終的な兵器システムとしては長射程対艦ミサイル(LRASM)がある。1,000ポンド弾頭を搭載したこれらの先進的ミサイルは580マイルの射程距離を有しており、2018年12月にB1-B Lancer長距離戦略爆撃機に搭載され、完全に運用可能になっている。また、F-18 Super Hornet戦闘攻撃機も今年、LRASMを装備する予定である。このミサイル開発は、主に中国海軍の急速な近代化を契機として推進されており、数百マイル離れた中国軍艦を標的にして破壊する能力を持つという点で「ゲームチェンジャー」と言われている。 LRASMの装備は従来の対艦ミサイル、ハープーン(488ポンド弾頭を搭載、射程70〜150マイル)からの大幅な能力向上を意味している。
 (5)米海軍は上記のような水上戦闘艦、潜水艦、ミサイルシステムの調達を推進しているが、これらはイランや北朝鮮などの国家との対決で有用である一方、対中国も念頭に置きつつ整備されているようだ。「安全保障のジレンマ」は潜在的敵国の真の意図を知り得ないことに起因する不確実性のため一方が他方に対し軍備増強を行う連鎖反応を惹起する。米海軍の上記のような兵力整備の推進は中国との関係において「安全保障のジレンマ」への一歩となっているようにも見受けられる。
記事参照:Is America Now Directly Arming Against China?

8月2日「北極における変化―米議会調査局報告」(Congressional Research Service, August 2, 2019)

 米議会調査局は8月2日付で“Changes in the Arctic: Background and Issues for Congress ”と題する報告書を議会に提出し、温暖化の影響、北極沿岸国の主権主張、海運・漁業・資源開発の問題、安全保障上の問題等北極を巡る変化について要旨以下のように述べている。
(1)北極の海氷の減少は、北極における人類の活動を増加させ、そこでの利益を強調し、地域の将来について懸念が起こっている。アラスカのおかげで米国は北極圏国であり、北極で重要な利益を有している。過去数十年にわたる北極の海氷の記録的な後退は、世界規模の気候変動と関連して科学的、政治的関心を呼び、数十年のうちに北極が海氷に閉ざされない季節をもたらした。これらの変化は米国における気象に対する潜在的結果があり、北極の鉱物および生物資源、地域の人々の経済や文化、そして国家安全保障への接近をもたらす。
(2)北極沿岸5カ国は延長大陸棚の外側限界について大陸棚限界委員会へ意見書を提出したか、提出を準備中である。ロシアの意見書にはロモノソフ海嶺が含まれている。
(3)北極の海氷の減少は今後数年の間、北極海航路と北西航路における商業海運の増加をもたらすだろう。北極海で行動する船舶に対する国際的指針は最近更新されたところである。
(4)気温上昇によって北極にもたらされた変化は、石油、天然ガス、鉱物資源のより多くの開発を可能にするかもしれない。永久凍土層の融解を招く温暖化は陸上における開発活動の問題を提起する。北極における石油、天然ガス開発や観光船の増加は地域の汚染のリスクを増大させる。氷に覆われた海域で漏れ出た石油を除去する作業は他の地域で行うよりはるかに困難であろう。氷で覆われた海域での石油除去の効果的な戦略が未だ開発されていないのが主な理由である。
(5)北極では大規模な商業漁業が行われている。北極における変化は魚種に脅威を及ぼし、危険にさらしており、漁業資源の移動は新たな水域に入るだろう。北極における気候変動はまた、北極原住民の経済、健康、文化に影響を及ぼすと思われる。
(6)米沿岸警備隊の砕氷船3隻のうち2隻は計画された船齢30年を超えており、1隻は稼働状態にない。米沿岸警備隊は新しい大型砕氷船3隻の建造計画を立ち上げていた。北極評議会のメンバー国の代表は2011年5月12日に北極における捜索救難に対する協力についての合意文書に署名している。
(7)北極問題に関して重要な国際的協調はあるが、北極は一部の研究者から安全保障上の問題が出現する可能性があるとますます見られている。北極沿岸国の一部、特にロシアは極北における軍事的プレゼンスの強化を声明するか、強化のための行動を起こしている。米軍、特に海軍と沿岸警備隊はその計画と運用において北極地域に対するより一層の関心を払い始めている。
記事参照:Changes in the Arctic: Background and Issues for Congress

8月5日「国務長官のミクロネシア訪問が示す太平洋における中国の影響力拡大への懸念―米専門家論説」(South China Morning Post, 5 Aug. 2019)

 8月5日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、米Meridian Instituteプロジェクトアシスタント兼研究員Meaghan Tobinの“Mike Pompeo’s visit to Micronesia highlights US anxiety rising Chinese influence in Pacific”と題する論説を掲載し、ここでTobinは米国務長官がミクロネシアを初めて訪問、太平洋における中国の影響力の増大に対抗するため合意を見直すこととしたとして要旨以下のように述べている。
(1)Mike Pompeoは、ミクロネシア連邦を訪問した最初の米国務長官になった。この訪問において、Pompeo長官は米国が排他的な防衛アクセスを維持している太平洋諸島諸国における中国の影響力の高まりに対する懸念を明らかにした。
(2)Pompeo長官は2019年8月5日、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオの指導者と会った。米国は、これらの国々と自由連合盟約として知られる防衛協定を維持している。現在の協定では、米軍はミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国の領空と領海への排他的なアクセス権を持っている。それと引き換えに、自由連合国は経済的支援を受けている。「今日、私はあなたがたが主権、安全、自由で平和に生きる権利を守ることを米国が支援することを確認するためにここに来た。米国が合意の拡大に​​関する交渉を開始したことを嬉しく思う。太平洋を再編する中国の動きに対して、この合意は民主主義を維持する」と米国務長官はポンペイ州の記者団に語った。米シンクタンクRand Corporationの上級防衛アナリストであるDerek Grossmanは、米国が自由連合盟約の下で排他的にアクセスできる海域は、米国本土よりも大きいと述べている。「自由連合国は、本質的に米インド太平洋戦略の『太平洋』部分の中核である」と語り、この水域へのアクセスにより、米国は南シナ海などにプレゼンスを展開できると付け加えた。これらの国々に対する米国の経済援助を正式に定めた合意は2023年に期限が切れる予定であり、専門家は中国がアクセスを獲得するためにミクロネシア連邦に支援を訴えているかもしれないと警告している。Grossmanは7月29日の週に北京がミクロネシア連邦の信託基金に200万米ドルを寄付し、地域における影響力の競争で自己資金の投資を示し、Pompeo長官訪問の影響を小さくさせようとしていると述べた。
(3)習近平の特使・楊伝堂は7月29日のミクロネシア連邦のDavid Panuelo大統領の就任式に出席した。2018年、ミクロネシア連邦の中央政府を構成する4つの島の1つであるミクロネシアのチューク島は、2020年までに連邦離脱に関する投票を延期した。チューク島が離脱した場合、米国がミクロネシア連邦と維持している合意から離脱し、中国と一対一で自由に対処できるとDerek Grossmanは述べている。Trump大統領は2019年5月にホワイトハウスでミクロネシア連邦の指導者と会談し、「オセアニア問題」を専門とする新しいポストが国家安全保障会議に設置された。
(4) 米国の同盟国であるオーストラリアと日本は、中国がこれらの国々への経済及び外交を通じて足場を作るのを防ぐことに熱心である。米Georgetown大学のCentre for Australia, New Zealand and the Pacific所長のAlan Tidwellは「米国と中国の間の戦略的競争が激化するにつれて、Trump政権は太平洋での取り組みを強化している。前政権が太平洋を無視したわけではないが、ワシントンは以前よりもさらに注意を払っている」と語った。2019年8月2日、
Pompeo長官はバンコクで、「中国の投資は搾取的であるが、米国の投資は相互に有益である」と述べた。
記事参照:Mike Pompeo’s visit to Micronesia highlights US anxiety rising Chinese influence in Pacific

8月6日「インド太平洋の発展のためにASEANがとるべき道―シンガポール研究者論説」(RSIS Commentaries, August 6, 2019)

 8月6日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウェブサイトRSIS Commentariesは、同研究所のCentre for Multilateralism Studies客員研究員Frederick Kliemの“ASEAN’s Indo-Pacific Dilemma: Where To From Here?”と題する論説を掲載し、ここで Kliemは6月末にASEANが発表した「インド太平洋概観」に言及しつつ、インド太平洋という枠組みにおいてASEANがとりうる、あるいはとるべき今後の進路について要旨以下のように述べている。
(1)第34回ASEAN首脳会議が幕を閉じるとき、ASEANは「インド太平洋概観」(以下、「概観」と言う)という文書を発表した。ASEANはこれまで、インド太平洋という地理的・戦略的概念について統一した見解を示してこなかったが、「概観」の発表はその空白を埋める意味を持ったし、その意義が疑問視されていたASEANの「中心性」をある程度示すという点で時宜を得たものであった。
(2)「概観」は、インド太平洋に関するASEAN独自の見方というよりは、既存のさまざまな観点をASEANの利害と調整して解釈したものと言える。インド太平洋地域における主要大国、とりわけ米国と中国の戦略的競合について、「概観」は直接言及していないところに、そこから距離を取ろうとするASEANの立場が示されていると言えよう。そのうえで、インド太平洋における秩序構築に積極的な役割を果たす、すなわちASEANの「中心性」をインド太平洋地域においても維持すべきだという考えが表れている。
(3)「概観」の目的は大きく3つある。第1に、インド太平洋地域の多極構造におけるASEANの「中心性」の維持、第2に、ASEANの利益を最大限促進するようなインド太平洋概念の提示、第3に、とりわけ米国の「自由で開かれたインド太平洋」概念における反中国的要素を和らげ、中国にインド太平洋への入り口を確保しておくことである。
(4)「概観」はこれらの目的を、ASEANの中核的原則、すなわち国際法や多極主義(マルチラテラリズム)、平和的協調に基づく主権、包括性、地域的秩序の維持を強化することによって達成することを求めている。具体的には、ASEANをインド太平洋地域における協調の推進のプラットフォームとして利用することによって、インド太平洋における多極構造を維持し、また、さまざまな分野におけるASEANとそのパートナー国の協働によって、その包括性の維持を目指そうというのである。
(5)「概観」の目的や意義が上記のように整理されるとして、では「概観」の発表によって今後どうなっていくのだろうか。まず短期的な成果としては、以下の3点が見込める。
a. インド太平洋における協調促進のために、ASEANを基盤とするメカニズムを提案。
b. インド太平洋をめぐる論争に関する共通の指針をASEAN諸国に提供し、そのことで、この論争への対処においてある程度の猶予が与えられた。
c. 包括的協調、資源の平和的・持続的管理をASEANのパートナー諸国に呼びかけることで、インド太平洋を対立よりも協調の舞台とする。
(6)ASEANは「概観」の発表や、これらの短期的成果を終点としないために、今後もこのような平和的な呼びかけを行いつづけるべきであろう。具体的な場としては拡大ASEAN国防相会議(ADMM+)や東アジアサミットなどがあるし、それらと既存の地域的・準地域的メカニズム(メコン・サブリージョンや環インド洋連合(IORA)など)を組み合わせることを検討してもよい。「概観」の発表がそれだけで終わらないよう、この機をうまく活かすことが、ASEANの「中心性」の将来を決定づけることとなろう。
記事参照:ASEAN’s Indo-Pacific Dilemma: Where To From Here?

8月8日「南シナ海におけるベトナムの対中国政策の限界――シンガポール政治経済学者論説」(South China Morning Post.com, August 8, 2019)

 8月8日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、シンガポールYusof Ishak Institute のInstitute of South East Asian Studies研究員Le Hong Hiepの“South China Sea stand-off shows Vietnam has few options in dealing with Beijing’s bullying”と題する論説を掲載し、ここでHiepは、ベトナムと中国の間で最近起こった南シナ海における問題についてベトナムが外交的手続きを優先し、強硬姿勢をとらないことについて要旨以下のとおり述べている。
(1)中国の調査船がベトナムの排他的経済水域内にあるバンガード堆近郊で活動したことをめぐり、両国の対応が行き詰まりを見せてから1ヵ月以上が経過しようとしている。調査船自体は当該の海域から離れたが、なお中国海警局の船舶がそこにとどまっている。
(2)この事件に対するベトナムの対応は強硬なものではない。とりわけ、2014年に中国がベトナムの排他的経済水域内に石油リグを配備したときに比べるとそうである。このときは両国の海洋法執行機関の船舶が衝突したり、ベトナム国内で激しい反中国抗議運動が起きたりするほどであった。しかし今回、ベトナム政府が公式に抗議を行ったのは、問題が起きてから2週間も経過してからのことであったし、その最初の声明では中国の名前を出さないほどであった。その後もベトナム政府の対応は、大部分が外交的チャネルを通して行われたものであった。結局のところ、この事件をめぐる行き詰まりの解消は中国がどう出るかにかかっている。
(3)なぜベトナムは強硬姿勢に出ないのだろうか。ベトナム政府はいくつかの考慮から、外交的アプローチが最善だと考えているように思われる。たとえば2014年のときのように中国船舶の妨害やそれへの意図的な衝突は、両国の武力衝突につながるおそれがある。そもそも今回の出来事は2014年の石油リグ設置ほどに深刻な問題だと捉えられていないのかもしれない。また、多方面からの声にもかかわらず、この問題を仲裁裁判書に提訴しようとしないのは、もしベトナムが勝訴したとしても中国が行動を止める可能性が小さいこと、それが中国・ベトナム関係を悪化させることでベトナム経済へダメージが及ぶことを懸念しているのかもしれない。あくまでベトナムは短期的な勝利よりも、長期的な利益を優先し、「戦略的忍耐」を実践しているのではないだろうか。
(4)この分析が正しいのだとしたら、この事例が示唆するのは、中国の攻撃的な行動への対処について、関係各国が選択しうる方法に限界があるということである。今回のケースでは、外交的手段がベトナムの採り得る最初で最後の合理的な手段なのであろう。しかし現在のところ、この問題をめぐる行き詰まりは完全には解決していない。そして、ベトナムが今後、同じ海域で、さらなる中国の浸透に直面することを疑う余地はない。
記事参照:South China Sea stand-off shows Vietnam has few options in dealing with Beijing’s bullying

8月8日「米印関係、自然なパートナーか、偶然の同盟か―印専門家論説」(IPP Review, August 8, 2019)

 8月8日付のシンガポール企業Public Policy Pte. Ltdが提供するウェブサイトIPP Reviewは、印シンクタンクThe Centre for Strategic and Foreign Affairs at The Vision India Foundation 准研究員Paras Ratnaの “India-US Relations: Natural Partners or Contingent Allies?”と題する論説を掲載し、ここで Ratnaは米印関係の本質について要旨以下のように述べている。
(1)2期目に入ったインドのModi政権は、むら気な米国が引き起こす国際的な乱気流に巻き込まれている。インドに対する米国の一貫しない政策は前例がないわけではないが、Modi 政権が米国との「自然なパートナーシップ」(“natural partnership”)から遠ざかるような一連の政治的、経済的措置に直面してきたという事実は、(米国に対する)疑念さえ引き起こすものである。例えば、2019年7月に、Trump政権は、「インドは依然として、米国に対して国内市場への平等かつ正当なアクセスを認めることを確約していない」との理由で、インドに対する「一般特恵関税制度」(GSP)の廃止を発表した。(先進国が開発途上国から輸入に当たって関税率を引き下げる)GSPによって、インドは、最大56億ドルまで米国に無税で輸出できた。こうした特典の撤回は、インドの対米貿易関係に重大な影響を与えることが予想される。
(2)米印間には経済的な摩擦があるが、戦略的側面では、別の物語を紡いできた。インドは現在、米国の戦略思考の中で核心的位置を占めている。インドはアフガニスタンにおける米国主導の和平プロセスに参加していないが、「インド太平洋」における諸問題では、米印関係は重要である。実際、6月に公表された米国防省の「インド太平洋戦略報告書」は、「米国とインドは、世界の通商貿易におけるインド太平洋の重要性を認識している。両国は、広範なパートナーシップ、民主主義的価値、そして法に基づく国際秩序の追求を共有している」と述べている。極めて興味深いことに、米印両国における最も協力的な側面は、戦略と防衛の問題においてである。戦略的利益に基づく連携は、防衛協力とともに、外交面でもより一層の協力をもたらした。例えば、インドが「戦略貿易認可-1」(Strategic Trade Authorization-1(STA-1))リストに昇格したことによって、インドは、武装ドローンのようなハイエンドで機密性の高い技術を輸入することが可能になった。米国は、2016年にインドを、米国の同盟国並のハイエンド技術の売却が可能な「主要防衛パートナー」として認知しており、STA-1ステータスへの昇格は当然と見られる。また、2018年に開始された米印2+2外交・防衛閣僚会議では、米インド太平洋軍(USIPACOM)とのリアルタイムの情報交換を可能にする、Communications Compatibility and Security Agreement(COMCASA)が調印された。これらは、インド太平洋地域における安全保障協力を促進していこうとする、米印両国の意志を象徴している。一方、貿易面でも、米国の対印貿易赤字は、2017年の270億ドルから2018年には210億ドルに減少した。
(3)しかしながら、防衛面でも、全てが上手くいっているわけではない。ロシアに対するワシントンの経済制裁は、インドの兵器システムの輸入決定に大きな影響を及ぼしている。 インドの防衛プラットフォームと人員の大部分は、ロシア製の防衛システムとプラットフォームで構成され、訓練されているからである。米国と同様に、インドにも譲れない一線がある。自由裁量の外交政策と国益の優先という面では、特にそうである。外交政策が益々国内政治における論議の的になっている時期にあって、選挙で圧勝したModi政権は、国益に関して妥協的と見なされるわけにはいかない。インドのJaishankar 外相は、「我々は、我々の国益に適ったことをする。戦略的パートナーシップにおいては、相手国の国益を理解し、正当に評価する、双方の能力が不可欠である」と指摘している。
(4)米議会上院はインドを非NATO主要同盟国の地位に引き上げるという決議案を可決したが、このことは、インド太平洋地域における米印関係の高まる重要性を示している。この決議案が法令化されれば、特に海洋安全保障とテロ対処といった領域で、防衛協力が強化されることになろう。その上、インドは、米国との間で180億ドル相当の防衛取引を見込んでいる。安全保障問題とは異なり、貿易通商問題は交渉の余地が大きい。2つの民主主義国、インドと米国を自然なパートナーにするのは、相違を論じるという両国の意志である。
記事参照:India-US Relations: Natural Partners or Contingent Allies?

8月9日「中国の台頭に対抗してEUは東南アジアで海軍活動を拡大すべき―比専門家論説」(NIKKEI Asian Review, August 9, 2019)

 8月9日付のNIKKEI Asian Review電子版は、比De La Salle Universityの准教授Richard Heydarianの“EU should expand maritime activity in Southeast Asia as China looms”と題する論説を掲載し、ここでHeydarian はEUは東南アジアにおける海軍活動を中国の台頭に対抗し拡大すべきとして要旨以下のように述べている。
(1) EU外務・安全保障政策上級代表Federica Mogheriniは、2019年8月5日にハノイでベトナム首相のNguyen Xuan Phucと防衛協定に調印した。これは東南アジアで初めてのことである。この協定は、ベトナムが欧州の軍事任務、平和維持活動及び防衛協力に参加するための道を開くものである。中国が既存の秩序に挑戦しているまさにこの時、欧州が戦略的野心を東アジアに拡大するために生まれたものでもある。欧州の大国は、中国との強固で実りある関係を維持することに熱心であるが、この地域で「規則に基づく秩序」を維持する意志を示している。近年、英国とフランスは中国の沿岸海域での海軍のプレゼンスを強化し、EU とその主要メンバーは、中国以外のより小さな東南アジア諸国との経済的および戦略的関係を強化している。EUが東アジアに関与する理由はいくつかある。第一に、EUの原則と戦略的ドクトリンと一致しているからである。EUは南シナ海の領土及び海洋紛争については中立を保っているが、2016年のグローバル戦略では、加盟国に「航海の自由の維持」、「海洋法の尊重」、「海事紛争の平和的解決の促進」を求めている。さらに、2014年の海洋安全保障戦略は、海洋における責任の全分野を引き受ける海洋における、そして海洋からの戦略的役割を果たすことを求めている。
(2)この防衛協定締結のタイミングは重要である。過去1か月にわたって、ベトナムと中国は、ベトナムの大陸棚内にあるエネルギー資源が豊富なヴァンガード堆について対立している。過去10年間、ベトナムは、中国の侵入と南シナ海での漁業及びエネルギー探査活動に対するハラスメントを食い止めるための外交的および軍事的努力を強化してきた。EUは、オーストラリアなど主要な米国の同盟国と同様の防衛協定を既に締結しており、近隣諸国における中国の主張に対する懸念も提起している。この防衛協定は、東南アジアにおける拡大されたEU の行動の始まりである。米国と日本は10年間、東南アジアの小国の間で強力な沿岸警備隊の開発を熱心に促進してきたが、EUも同様の方向に進むべきである。また、英国、フランス、ドイツと並んで、フィリピン、マレーシア、インドネシア、シンガポールを含む中国の近隣諸国との戦略的関係を改善し続ける必要がある。欧州は、これらの国々の海上監視と安全能力を改善するために、防衛交付金、共同軍事演習、訓練、または技術移転を通じて、支援を提供することができるし、しなければならない。個々の欧州諸国はすでに、東南アジアにおける中国の海上膨張主義に反対している。インド洋と太平洋の植民地後の領土を依然として所有している英国とフランスは、中国の近海に海軍艦艇を定期的に展開している。両国は、中国の周辺海域での「航海と上空飛行の自由」を維持するという深い関与を示している。実際、英国は空母Queen Elizabethを南シナ海に配備する意向を発表した。またフランスと共同で海上演習を行い、インド、日本、インド、オーストラリアとはインド太平洋海域で軍事上の事態において共同作戦能力を強化している。紛争海域への海軍の配備と、より小さなアジア諸国との防衛協定により、欧州は米国の「航海の自由」作戦を支持している。事実上、欧州、米国は日本、インド、オーストラリアの海軍とともに、海洋の自由を共同で支持している。
(3) EUはまた防衛と貿易がより大きな戦略的利益の一部として連携できることを認識している。ベトナムとの防衛協定締結は、EUが「これまでのEUと新興経済国間の最も野心的な自由貿易協定」と評した2019年6月のEUベトナム自由貿易協定の調印の直後であった。2018年10月、EUはシンガポールと自由貿易協定(FTA)に署名した。同FTAは、EUとASEANのメンバー国との間の戦略的関係の隆盛を強調している。EUは、フィリピンやタイを含む他の主要なASEAN諸国とのFTA締結を模索しているが、これらは各国の政治的状況のため保留されている。この地域の平和と安定に対する欧州のより大きな貢献は、東アジアでの高まっている緊張状態が米中という超大国間の敵対関係だけに委ねられていないことを明らかにしている。代わりに、国際公共財を保護し、中国の海上野心を抑制するために、志を同じくする大国間の多国間努力を見ることができる。欧州は、アジアにおける「規則に基づく秩序」を維持するため、この活動のより大きな部分になるべきである。
記事参照: EU should expand maritime activity in Southeast Asia as China looms

8月10日「機密情報収集と偵察活動を行う中国海洋調査船―香港紙報道」(South China Morning Post, 10 Aug.2019)

 8月10付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、 “The Chinese survey ships that cause ripple in Vietnam and across the South China Sea”と題する記事を掲載し、54隻からなる中国の海洋調査船が、表向きの理由とは異なる機密情報の収集と偵察活動を行っているために非難の的になっているとして要旨以下のように報じている。
(1)7月上旬、中国の調査船、海洋地質8号は表面的には地震調査を実施するためにスプラトリー諸島のベトナムが管理するバンガード堆付近の海域に入ったが、中国とベトナムの間の緊張した1ヵ月間の膠着状態の末、8月7日にベトナムの排他的経済水域を去った。
(2)海洋地質8号はベトナムの200海里以内にある2つの石油とガスの区画を航行して、地域のベトナムによる石油探査プロジェクトを妨害した。この中国船は厳重に防護されており、ヘリコプター搭載の1万2千トン級海警船3901と2200トン級海警船37111が護衛した。ベトナムは中国の行動に対応して、沿岸警備隊巡視船を派遣して中国の調査船を尾行し、この2国間の緊張はここ何年も見られないレベルにまで高まった。最終的には、何隻かの重装備の船舶、2隻の中国船と4隻のベトナム船が岩礁周辺のパトロールで相互に監視をする状況となっていた。
(3)この事件は、中国の54隻の海洋調査船が北京の海洋紛争対処にどのように関与するのかという点で注目を集めた。彼らの海洋地質学及び海流研究の任務は、中国の拡大する海洋活動の一部だが、これらの船舶は機密情報の収集と偵察活動を行っているとして非難されている。
(4)紛争海域で注目を集める中国の調査船は6隻ある。
a. 海洋地質8号及び9号
これらの地質調査船は、2017年に同時に就航した、中国で最も先進的な研究船に該当する。海洋地質 8号の総トン数は6786トンで、速度は15ノットに達し、高精度三次元地震調査装置が装備されている。海洋地質9号の総トン数は4350トンで、深海掘削装置が装備されている。
b. 海洋地質10号
これは最も新しく導入された調査船で2017年後半に配備された。排水量は3400トンで、深海掘削装置が装備されている。この調査船は、パキスタンの科学者たちとの最初の共同海洋調査遠征に参加し、2月に終了したインド洋での調査を行った。
c. 大洋1号
この船は、1995年に就航し、排水量は5600トンある。1984年に作られたソ連の研究船から転用され、何度かアップグレードされた。大洋1号には、地震活動から海洋生物学まで、多岐にわたる題材を研究するための10の研究室がある。
d. 海洋6号
2009年に配備された海洋6号は、232日間の遠征で太平洋及び大西洋、そして南極大陸周辺の地域を横断した。4600トンの排水量で、17ノットの速度に達することができる。海洋6号の研究は、天然ガスハイドレートに焦点を当てている。
e. 張謇
報道によれば、張謇は中国で最初に1万メートル以上の深さで深海調査を実施できる調査船であった。張謇は2016年に配備され、4800トンの排水量がある。今月初めフィリピン東海岸の80海里以内に姿を現し、フィリピンのメディアの注目を集めた。
記事参照:The Chinese survey ships that cause ripple in Vietnam and across the South China Sea

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) What’s Next for the South China Sea?
https://thediplomat.com/2019/08/whats-next-for-the-south-china-sea/
The Diplomat.com, August 1, 2019
Wu Shicun, a Ph.D. in history, president and senior research fellow of China’s National Institute for South China Sea Studies as well as chairman of the board of directors of the China-Southeast Asia Research Center on the South China Sea
8月1日付のデジタル誌The Diplomatは、中国南海研究院・呉士存院長の“What’s Next for the South China Sea?”と題する論説記事を掲載した。ここで呉院長は、現在の南シナ海情勢を、以前に比して平和的かつ安定的になり、緊張が緩和される有望な兆候が見られると肯定的に評価する一方で、域外大国(抄訳者注:米国を示す)の軍事的影響力の増大や、2016年7月12日のフィリピンが提起した南シナ海問題に関する仲裁裁判所の裁定の根強い影響など、依然として様々な課題と不確実性が残されていると指摘している。その上で彼は、全体として、中国とASEAN諸国は意見の相違の管理、相互信頼の向上、COC(Code of Conduct:南シナ海行動規範)交渉の推進、そして海洋協力の推進などに共同で取り組むことで南シナ海の平和と安定に引き続きコミットしているといえるが、地域諸国や国際社会は南シナ海地域が直面する課題や不安要因を認識し、将来の事件や不測の事態に備えなければならないと主張している。
 
(2) East Asia First, Europe Second: Picking Regions in U.S. Grand Strategy
https://warontherocks.com/2019/08/east-asia-first-europe-second-picking-regions-in-u-s-grand-strategy/
War on Rocks.com, August 7, 2019
Luis Simón, Research Professor at the Institute for European Studies (Vrije Universiteit Brussel) and Director of the Brussels office of the Royal Elcano Institute
Linde Desmaele, a doctoral fellow at the Institute for European Studies (Vrije Universiteit Brussel) and a researcher at the KF-VUB Korea Chair
8月7日、米University of Texasのデジタル出版物であるWar on the Rockは、ベルギーVrije Universiteit Brussel、The Institute for European StudiesのLuis Simón教授とLinde Desmaele博士研究員の連名で“East Asia First, Europe Second: Picking Regions in U.S. Grand Strategy”と題する論説記事を発表した。ここで彼らは、多くの米国の安全保障問題専門家は、米軍がテロやその他の国境を越えた脅威を格下げし、最も重要なこと、すなわち中露といったライバル大国に対するハイエンドの戦争に焦点を当てるべき時期に来ていることに同意していると指摘した上で、米国防総省は、1つではなく2つの大国(ロシアと中国を引き合いに出しているが)、これらの競争相手のうちどちらが優先され、どのような状況下で優先されるかについては依然として重大な疑問が残る、と米国の戦略的優先度の順位付けに関して問題提起を行っている。そして彼らは、米国が東アジアにおいて引き続き軍事的、経済的、外交的に強い地位を占めていることは事実であると同時に、中国が上述の3つの重要な要素すべてにおいて決定的な前進を遂げたことは、既存のパワーバランスが脆弱化したことを示しているが、他方、欧州地域では現在そのような兆候は見られないと指摘することで、暗に、米国は東アジアの対中戦略を優先すべきと主張している。
 
(3) Is sea denial without sea control a viable strategy for Australia?
https://www.aspistrategist.org.au/is-sea-denial-without-sea-control-a-viable-strategy-for-australia/
The Strategist, 10 Aug 2019
By Richard Dunley, a lecturer in history at UNSW Canberra
8月10日、Australian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは豪USNW Canberraの軍事史講師Richard Dunleyの“Is sea denial without sea control a viable strategy for Australia?”と題する論説記事を掲載し、ここでDunleyは、①The Australian National University教授Hugh Whiteは、オーストラリアの防衛のための戦略として「シーコントロール(抄訳者注:特定の場所において,特定の期間,自己の目的を達成するために自由に海洋を利用し、必要な場所において敵が海洋を使用することを拒否するという考え方)」を求めずに「シーディナイアル(抄訳者注:我が方がある海域を利用する意志または能力を有しないものの、敵が当該海域をコントロールすることを拒否するという考え方)」を採用できると主張しているが、これはシーディナイアルが中級国にとって、比較的安上がりであることを意味する、②しかし、シーディナイアルには2つの異なるタイプが存在し、その中の1つである「限定的なシーディナイアル」は、敵が海を利用することによって得られる利益を制限するために海の利用コストを増加させる戦略であり、より弱小な海洋国家にも可能である、③一方で、「防御的シーディナイアル」は海洋国家にとって一般的な戦略であり、攻撃に対する障壁として海を使用するが、高いレベルのシーコントロールが必要なため、いつでもどこでも(作戦地域内の)敵よりも強い拒否力が必要となる、④海洋国家の立場に類似しているためシーディナイアルがオーストラリアにとっての最高の自衛戦略である場合、それを使用可能にする必要があり、迅速に行う必要がある、⑤Whiteは比較的少ないコストでシーディナイアル戦略を達成できると主張するが、これを行うには、2つの方法があり、1つは通常は何らかの形態の小艦隊による非対称な軍事力の使用、そしてもう1つは、1つの領域での優位性によるシーディナイアルである、⑥2つの異なるタイプの海洋拒否に関するWhiteの混同は、戦略の容易さ及びコストの分析に関する疑問を提起し、また1つの領域のみを支配することによりシーディナイアルをもたらすという構想の目新しさは強調する価値があるものの、その妥当性については疑問がある、⑦最終的には、これに対する答えは、主に現代技術の能力の評価にかかっている、などの主張を展開した。
 
(4)Naval Mines Could Be Iran’s Secret Weapon in a War Against the U.S. Navy
https://nationalinterest.org/blog/buzz/naval-mines-could-be-irans-secret-weapon-war-against-us-navy-72506
The National Interest, August 10, 2019
By Charlie Gao, Contributing Writer at The National Interest
8月10日付の米隔月誌The National Interestは同誌契約執筆者Charlie Gaoの“Naval Mines Could Be Iran’s Secret Weapon in a War Against the U.S. Navy”と題する解説を掲載し、ここでGaoは現代の米国海軍にとっても機雷は主要な脅威であるとしつつ、現在の湾岸情勢におけるイランの機雷に対抗する米海軍の対機雷戦艦艇は十分な態勢にはないと指摘している。そしてこれを補うものとして米海軍沿海域戦闘艦(LCS)に搭載される対機雷戦(MCM)ミッションパッケージ(抄訳者注:艦載ヘリコプターとその各種搭載センサー、水中、水上無人機(UUV、USV)で構成)の整備が推進されており、特に共通型USVの開発が完了していることから、今後はMCM用USV開発の進展も期待できると指摘している。一方、機雷技術もまた日進月歩であり、例えば、米海軍が使用するMk 60 CAPTOR(Captured Torpedo)機雷(抄訳者注:カプセル内蔵の魚雷を発射する方式の機雷)のように機動性と自律性が高まる可能性もあり、そうした機雷への対応は困難になるだろうと指摘している。