海洋安全保障情報旬報 2019年9月1日-9月10日

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9月1日「中国、フィリピンそしてアジアの岐路を示す比大統領の北京訪問―比専門家論説」(South China Morning Post, 1 Sep, 2019)

 9月1日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、フィリピンを拠点とする研究者で台湾National Chengchi University研究員Richard Heydarianの“How Rodrigo Duterte’s latest Beijing visit marks a crossroads for China, the Philippines and Asia”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianはRodrigo Duterte大統領が黄昏期を迎え、中比関係を彼の政権後も運命的に結びつけようと動いているとして要旨以下のとおり述べている。
(1) フィリピンのDuterte大統領の北京との戦略的ロマンスは、19世紀のフランスの思想家Jean-Baptiste Alphonse Karrの有名な言葉、「物事が変れば変わるほど、彼らは益々変わらずに同じである」を想起させる。2国間の状況の変化にも関わらず、この指導者は巨大な破壊者との関係が親密であるとの妄想にしがみついてきた。今週、Duterte大統領は就任後5回目となる訪中を果たし、習主席と8回目の会談に臨んだ。Duterte大統領は就任以来米国等の主要西側諸国を1度も訪問していない。フィリピンは現在、ASEANと中国との関係調整国であり、それは南シナ海の行動規範に関する交渉窓口を意味する。このことから見れば、中国側が南シナ海で緊張状態が続くこの時期におけるDuterte大統領の訪中を歓迎した理由が判る。南シナ海では、中国がフィリピンの領海内に艦艇や海上民兵の乗船した船が頻繁に侵入しており、国内では中国に対する厳しい態度が要求されているが、Duterte大統領は習主席との会談では包括的な戦略的協力へのコミットメントを表明している。
(2) 今回の首脳会談で、習主席は「戦略的で長期的な視点にたって両国の発展のために協力する」と述べ、両首脳は教育、科学技術、税関と国境警備、インフラ開発等に関わる6つの協定を結んでいる。しかし、今回の議題で何と言っても最も重大であったことは、南シナ海での共同開発計画であろう。駐中比大使は、両国が石油・天然ガスの共同探査に関する共通の基準条件を得たと述べている。首脳会談の後、両国は「共同運営委員会」と「共同起業委員会」を設置し、エネルギー資源分担に関する協定計画を進めることになった。最終的な協定策定は早くても11月までは完了しないだろうが、中身はかなり大きな問題を含んでいる。フィリピンの特使が認めているように、協定は国際法のみならず両国の憲法に合致していなければならないはずであるが、そもそも両国の南シナ海に関する主張には違いがある。この問題を解決するには、2つの方法が考えられる。1つは、九段線の外側にある海域での共同開発であり、もう1つは、双方の主張の相違をうまく盛り込んだ文章を創り上げてのリード礁の共同開発であろう。いずれにせよ、南シナ海でのASEANと中国との行動規範と抱き合わせた形で進めることができるか否かが焦点であろう。Duterte大統領が資源共同開発と行動規範とを包括的に交渉することができれば、南シナ海紛争と地域秩序への取組みの道筋を示すものとなるだろう。
記事参照:How Rodrigo Duterte’s latest Beijing visit marks a crossroads for China, the Philippines and Asia

9月3日「ロシアが懸念する北極海航路に対する中国の野望―米専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, September3, 2019)

 9月3日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは米国のアナリストPaul Gobleの“Moscow Worried About Chinese Dominance of Northern“Sea Route””と題する論説を掲載し、ここで Gobleは北極海航路への中国の野望に対するロシアの懸念と、その中国に対抗する米国の動向へのロシアの期待について要旨以下のように述べている。
(1)気候変動、ロシア国内の造船業の崩壊及び他の大国(最も顕著には中国)による関心の高まりは、モスクワの北極圏支配の想定に疑問を投げかけ、モスクワで北京がやっていることに対する懸念を引き起こした。これらの進展により、ロシアのアナリストたちは、北極圏での中国の活動への米国の懸念が、多くのロシア人がロシアの裏庭であると信じているものへの中国の浸透に対する抑制又は封じ込めをモスクワが行うことに役立つかもしれないという期待を表明するようになった。
(2)ロシアの北海岸に続く北極海航路がほぼ1年中氷で覆われており、北極海航路を通過する船舶に同行する砕氷船が必要である限り、モスクワはこの状況を賢明に制御することが期待できる。さらに、北極圏で需要の高い資源のほとんどが氷冠の下にある限り、ロシアの地位は再び揺るがないように思えた。しかし今年、記録上最高の気温を示した北極海では、航路上に近代史上においてかつてないほど長期間氷がなく、ロシアの重要性を低下させることとなった。
(3)同時に、ロシアの地位は他の2つの理由で衰退している。1つは主に国内の、もう1つは外国からである。
a. 国内では、特に影響の大きい経済制裁の時期に、今後10年間に北極海航路を拡大するというVladimir Putinの野心的な計画を達成する機会がモスクワにはないことが明らかになった。まず、必要な投資を生み出したり引き付けたりすることができない。また、この航路に沿ったインフラが不足しており、必要なすべてを構築するという見込みはほとんどない。そして、過去5年間で造船能力が大幅に低下した。
b. 最大の課題は、海外からのものであり、北極圏、特に北極海航路における他国の関心の高まりからである。北極圏とは国境を接していないという事実にもかかわらず、中国はここしばらくの間、そこでプレイヤーになるつもりであることを示唆している。そして、これを実現するために、自国の砕氷船の建造や国内外の極地研究センターの設立など、現在十分な措置を講じている。中国は、ロシア北部を越えてヨーロッパに船舶を送ることだけでなく、ロシアの穀物を輸出するため、北極圏に流れ込むロシアの川まで船舶を派遣することも検討している。
(4)この中国のすべての活動はモスクワを神経質にしているため、少なくとも一部の人々は、北極圏での北京の拡大に対する米国の懸念が、中国が行っていることに対するロシア連邦の抵抗を助けることを期待している。
(5)Putinは、中国の一帯一路構想の輸送計画をロシアの北極海航路と統合することについて繰り返し語ってきた。しかし北京は、2018年1月の北極政策文書と高官による最近の声明の両方で、北極圏はどの国によっても支配されるものではなく、その海洋ルートはすべてに開放され、既存の国際協定によって管理されるべきであると強調している。ロシアの観点から見ると、それはモスクワの、北極圏での主張と野心に対する直接的な挑戦であり、北極海の海底の大部分に広がる排他的経済水域の要求を含める。
(6)現在、モスクワはこの点において中国に挑戦するのに適した立場にない。なぜなら、他の問題については北京が西側に対抗する必要があるからである。しかし、ロシア紙Nezavisimoye Voyennoye Obozreniyeは、ワシントンは、独自の経済的及び安全保障上の理由ではあるが、北極圏での中国の動きを懸念していると報じている。米国が極北での中国の野望に反対する場合、そのような取り組みは、北極海航路と、北極の海底の鉱物へのアクセスに対する支配的なプレイヤーになるというモスクワの願望に、北京が既に与えている損害を制限する可能性がある。
記事参照:Moscow Worried About Chinese Dominance of Northern Sea Route

9月3日「水中監視能力がASEANの『インド太平洋概観』を補足―シンガポール研究者論説」(Center for international Maritime Security, September 3, 2019)

 9月3日付の米シンクタンクCenter for international Maritime Securityのウエブサイトは、シンガポールS. Rajaratnam School of International Studies (RSIS)研究員Shang-su Wuの“Undersea Surveillance: Supplementing the ASEAN Indo-Pacific Outlook”と題する論説を掲載し、ここでWuは外交的アプローチが失敗した場合、「インド太平洋概観」に示されたASEANの価値を守る補完策としては、ASEAN諸国の対潜能力向上が重要であるとして要旨以下のように述べている。
(1) 第34回ASEAN首脳会議において発表した「インド太平洋概観」は、進展する戦略地政学的環境に対するASEANの認識を示している。ASEANが協調、安定、平和、航行の自由、その他の価値を声明の中で強調したことは驚くことではない。しかし、この「概観」は外交が失敗したときにこれらの価値をどのようにして守るのかという疑問を残したままである。ASEANの手法では公式声明に軍事力の行使を表明するような強い表現を期待することは現実的ではない。しかし、極めて重要な海峡に面する加盟国は適切な防衛力を示すことにより間接的にメッセージを伝えるだろう。様々な防衛力の中で、水中の監視を強化し、外国潜水艦を追尾することは妥当な選択肢かもしれない。
(2) インド太平洋において東南アジアが戦略的に重要である主な要因は、いくつかの極めて重要なシーレーンが存在し、様々な大国の艦艇、軍用機が太平洋とインド洋を結ぶ海峡を通過することである。現代の技術は、沿岸国が容易に外国の軍用機、艦艇を追尾することが可能であり、その任務は安全保障と言うよりも安全のためである。しかし、潜航している潜水艦の追尾は、より高い壁が立ちはだかる別の問題である。隠密性が向上した潜水艦に加え、複雑な水測状況に直面して、ソナー能力、訓練、共同作戦、水中での監視に関するその他の要素の面で高い要求が存在する。したがって、成功裡に潜水艦を追尾するためには高い軍事的専門性と能力が求められる。しかし、一度追尾されれば、潜水艦は明確で、秘密の抑止のメッセージを受け取る。
(3) この種の隠密裡の抑止は東南アジアにおける地政学の文脈に合致する。第1に、一般的に沿岸国が水中目標を探知することは正当な行為とされている。しかし、沿岸国が潜航中の外国潜水艦を識別できたときだけ、国連海洋法を侵犯しているか、従っているかを決定することができる。言葉を換えれば、東南アジア諸国は水中の監視に向けて主権的権利と法的義務を有している。潜航中の潜水艦を追尾することは不確実性に対する信頼性のある備えである。公に行われる演習は共同作戦や他の戦術技量があるレベルにあることを証明するために特定のシナリオを設定することができる。演習では状況はすべて、あるいはその一部が計画されたものである。しかし、外国潜水艦の追尾は事前の調整のない刻々と状況が推移する実際の場面での遭遇である。潜航した潜水艦の追尾は、公の敵対関係や水上艦同士が接近した後にしばしば起こる公の抗議を回避することができる。探知している側は、追尾していることに関する情報を拒否することができ、公開する声明や行動よりも事象の公開を制御できる。追尾された潜水艦の属する国にとって、そのような遭遇は通常、国家の威信や軍の専門家としても意識に負の効果をもたらす。したがって、意思決定者は遭遇を明らかにするインセンティブをあまり持たないだろう。
(4) 冷戦の終結以来、東南アジア諸国、特にインドネシア、マレーシア、シンガポールは対潜能力を育成してきた。これら3カ国は個々の水測データベース構築のため調査船を取得してきた。3カ国は最先端対潜ヘリコプターを調達し、それぞれのフリゲートやコルベットに搭載した。それらフリゲート等は艦体に取り付けられたソナーや曳航式ソナーを装備している。さらに、これら3カ国は訓練時の目標となる潜水艦を保有している。しかし、ある特性が東南アジア諸国の潜水艦を追尾する能力に問題をもたらしている。マレーシアとインドネシアにとって領海の広さが天然の障害となっている。両国が保有する海洋調査船の隻数は水測データを蓄積し、更新していくためには少なすぎる。同様に、両国はその広大な領海をカバーし、目標を探知した場所に対潜部隊を投入するには対潜ヘリコプター、対潜艦艇を含むセンサー、艦艇航空機が数的に十分ではない。一方、その領域の狭さに感謝しなければならないシンガポールの兵力は地理的に分散させることはできない。しかし、固定翼対潜機の不足といった他の制約は近隣諸国と分かち合うことができる。最後にこれら3カ国にとって実戦経験はもう一つの共通する課題である。対潜戦を実行する機会が少なくなった冷戦後に主にこれら3カ国は対潜戦兵力を導入し始めたからである。マレーシアの新フリゲートへの曳航式ソナーの装備、インドネシアの水中監視システムの構築などを通じて、近年、これら3カ国はその対潜能力を向上させつつある。これらの努力は見通しうる将来、潜航中の外国潜水艦を探知することを徐々に可能にしていくだろう。
(5) 冷戦期と異なり、一部の東南アジア諸国、特にこれら極めて重要な海峡に面する3カ国には空隙がない。これらの国々の防衛能力は突出した地域の大国に対して依然、劣勢であるが、その軍事力を懸命に目的に合わせて運用すれば外交的、経済的手法を越えてASEANの課題を支援するだろう。外国潜水艦を成功裡に追尾することはインド太平洋の戦略地政学的情勢におけるASEANの「インド太平洋概観」をより強固なものとするだろう。
記事参照:Undersea Surveillance: Supplementing the ASEAN Indo-Pacific Outlook

9月4日「中国は軍事目的で北極における衛星覆域を拡大していると専門家は警告-ノルウェー紙報道」(High North News.com, September 4, 2019)

 9月4日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、“China Looking to Expand Satellite Coverage in Arctic, Experts Warn Of Military Purpose”と題する記事を掲載し、中国は軍事目的で北極における衛星覆域を拡大しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国は、北極圏で地上通信と衛星通信の能力を向上させるための通信試験を行っている。この試験は軍事目的に使用される可能性があると専門家は警告している。中国運輸省は、北極海における通信能力を測定し最適化する通信試験チームを各地に派遣している。新華社通信によると、このチームは超高周波(VHF)無線接続、中周波Navtexシステム、グローバル海事遭難安全システムの一部であるDSC(デジタル選択呼出)システムなどの多くの技術を評価する。さらに、このチームは、北極海航路に沿った北斗航法衛星システムの覆域を調べ、将来の衛星の位置の最適化を目指している。中国当局は、技術向上の目的として、北極圏で増加している商船との通信の改善を挙げているものの、中国のこの取り組みは、スウェーデン国防省の最近のレポートが強調しているように、軍事用途にも活用できるものである。
(2) 通信試験チームは、天津、ハルビン、満洲里、昌吉から北極海航路の東端および西端への無線通信の質を調査する。その結果に基づいて、中国は、途切れることのない無線通信を確保するために北極圏に無線局を建設するべきかを判断したいと考えている。これは、2016年と2017年に続いて、中国が北極圏で実施する3回目の通信試験であり、今までで最も包括的なものである。
(3) 中国は、自国開発の北斗衛星航法システムの覆域と強度を向上させている。2019年夏の初めには北斗衛星から潜水艦への水中通信に成功した。専門家は、中国は水中ドローンを開発し、潜水艦とより秘匿度の高い通信をできるようにする動きがあると述べている。北斗衛星の覆域は世界全体では限られている。覆域を拡大するために、中国は2020年末までにさらに9個衛星を打ち上げる予定である。
(4) 2016年、中国測量局はデータ局を改築し能力向上を行った。これにより、北斗衛星の正確性と信頼性及び中国へのリアルタイムデータ送信能力が向上した。北極圏に関連する技術が将来的に中国の軍事力を向上させるのは初めてではない。 2016年、中国はスウェーデンのキルナにある最初の中国リモートセンシング衛星北極地上局を利用して、中国軍による衛星監視能力を向上させるであろうと専門家は警告した。2017年には、グリーンランドに衛星地上局を追加すると中国当局が発表した。2019年初め、中国は中国にとって最初の原子力砕氷船を建造すると発表した。専門家は、原子力砕氷船の建造は原子力空母の将来の設計、建造、運用にも役立つと述べた。
記事参照: China Looking to Expand Satellite Coverage in Arctic, Experts Warn Of Military Purpose

9月5日「ロシアとインドによる海洋シルクロードと一帯一路―香港紙報道」(Asia Times, September 5, 2019)

 9月5日付の香港デジタル紙Asia Timesは、“Welcome to the Indo-Russia maritime Silk Road”と題する記事を掲載し、ロシア、インド及び中国が推進するユーラシア統合プロセスの現状について、要旨以下のように報じている。
(1)ウラジオストクの東方経済フォーラムで毎年何が行われているのかを考慮することなく、ユーラシアの統合プロセスの複雑な内部の動きを把握することは考えられない。Jair Bolsonaro大統領によってもたらされているブラジルの状況を考慮すると、BRICSは死んでいるかもしれないが、RIC、つまりRussia-India-Chinaは生きており、元気で力強い。それは、ウラジオストクでのPutin、Modi首脳会談の後に明らかだった。その内容には、「インドで旅客機を設計及び製造する共同事業を準備する可能性」、「特に特権的な戦略的パートナーシップ」の基盤となる防衛技術と軍事協力、そして、おそらく北極海航路及びパイプラインシステムを使用することになる重要なロシア原油輸入に関する長期取り決めが含まれていた。そして、これらすべては、ロシア-インド海洋シルクロードの新たな動きと描写されるかもしれないものによって補完されるだろう。チェンナイ(ベンガル湾に面する都市、旧名マドラス)-ウラジオストク海洋回廊の復活である。
(2)チェンナイ-ウラジオストクは、南シナ海からインド洋及びその先から中国主導の海洋シルクロードと容易に連動する可能性がある。同時に、ロシアの「アジアへの回帰」に新たな層が追加される可能性がある。「アジアへの回帰」は、ウラジオストクで必然的に詳細に議論された。エネルギーや貿易の回廊として、チェンナイ-ウラジオストクと一帯一路の両方が、ユーラシアの統合を詳細に説明していることは事実である。この具体的事例として、インドは、北極圏とロシア極東からはるばる渡ってくるロシアの資源から利益を得る一方、ロシアはロシア極東に投資するより多くのインドのエネルギー企業から利益を得るだろう。
(3)ロシアと中国の「包括的な戦略的パートナーシップ」の詳細や、ロシアによる大ユーラシア(Greater Eurasia)への動きについても、ウラジオストクで長時間議論された。重要な要素は、中国と同様にロシア及びインドは進行中の複雑なユーラシア統合プロジェクトの重要な結節点であるイランと彼らの貿易及び経済関係の維持を確実にすることである。ロシアとインドは「両国は、地域及び国際的な平和、安全保障及び安定を確保するためのイラン核計画に関する包括的共同行動計画の完全かつ効率的な実施の重要性を認識している。彼らは国連安全保障理事会の決議2311への全面的な支持を確認する」と強調した。彼らは、米ドルを迂回して、「各国通貨で相互取引のシステムを促進」し続ける。事実上、中国の封じ込めメカニズムであるトランプ政権のインド太平洋戦略に、インドを誘い込もうとしているワシントンのセクター間で、これがどのように受け入れられるかは容易に想像できる。
(4)ユーラシアの統合に関しては、ロシア極東で起こっていることは、9月第1週にモスクワで発表されたユーラシアのハートランドでの中国の大戦略に関する特別レポートと全体的に連動している。ロシア自身の「アジアへの回帰」については、ロシア極東の統合が不可欠な政策であるが、ヴァルダイクラブによる抑制された報告書は、その落とし穴を綿密に詳述している。
a. 過疎化現象:多くの高学歴で野心的な若者は、キャリアの向上と個人的な充実の機会を見つけることを望んで、モスクワ、サンクトペテルブルクまたは上海に行く。
b. 誰が恩恵を受けているのか?:東シベリア・太平洋石油パイプライン、Power of Siberiaガスパイプライン又はボストーチヌイ宇宙基地のような連邦制国家の巨大プロジェクトは、地域の総生産の増加をもたらしているが、極東の大半の生活水準にはほとんど影響を与えない。
c. 他に何か新しいことは?:サハリンでの石油やガスのプロジェクトは、海外直接投資の最も大きな割合を占めている。そして、これらは新しい投資ではない。
d. 中国資本の役割:極東にはまだ殺到していない。1つは、中国企業が自らの労働力を連れて行き、環境規制に過度に気を使わないアンゴラやラオスのような第三世界の国と同様の大雑把な条件で天然資源を採掘したいというのが理由である。
e. 原材料の落とし穴:ロシア極東の資源は、おそらくヤクーチアンダイヤモンドを除いて、決して特有のものではない。ロシア極東の資源は多くの他国から輸入することができる。海運のコストが今日比較的安価なためなおさらである。
f. 制裁:多くの潜在的投資家たちは、ロシアに対する米国の制裁によって遠ざけられている。
(5)結論としては、「包括的な戦略的パートナーシップ」におけるすべての公約について、ロシア極東は、まだ中国との協力のための効果的なモデルを構築していないということである。北京は、「ロシア極東を含むその国境に沿ったユーラシア諸国からの資源の本土輸出を強化する」ために、「マラッカ海峡通航を避ける」戦略を加速させなければならないので、中期的にこれは確実に変化する。最近建設されたアムール川に架かる2つの橋は、明らかにこの点で役立つ。これが意味することは、多分ウラジオストクが、結局ロシアとインドの主要なハブになるかもしれないということである。
記事参照:Welcome to the Indo-Russia maritime Silk Road

9月7日「米・ASEAN初の合同軍事演習:米中の間でバランスをとるASEANの試み――香港紙報道」(South China Morning Post, September 7, 2019)

 9月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Asean steers between two powers with joint US military exercise in South China Sea”と題する記事を掲載し、9月上旬に行われた米・ASEAN合同軍事演習について、そこにASEANが米中二大勢力の間でうまくバランスをとろうとする試みを見出すことができるとして要旨以下のとおり報じている。
(1)9月2日から6日にかけて、ASEANとアメリカが初めて合同軍事演習を実施した。これはASEANにとって、南シナ海において主権を争っている中国を牽制する試みであり、アメリカにとっても、同地域への軍事的関与のコミットメントを示す機会でもある。この演習には軍艦8隻、航空機4機、1000人以上の人員が参加した。
(2)しかしASEANは必ずしも中国に対抗するためにアメリカとの関係を深めたわけではない。ASEANは昨年10月に中国との間で合同演習を実施している(中国の参加者は1200人を超えた)。この2つの合同演習を合わせて考えれば、それは、ASEANが米中双方との関わりをバランスさせようとする試みであると考えるのが妥当である。
(3)ただし、ある専門家が述べるには、昨年10月の合同演習と今回の合同演習の内容とそれが持つ意味は異なるという。中国との演習の範囲は捜索救難や災害復旧に限られていたが、こちらは海洋状況把握やアメリカとの相互運用性を強化することを目的とするものである。それによって、ASEAN諸国は南シナ海における作戦行動能力を高めることになるであろう。また別の専門家によれば、この2つの合同演習は、軍事情報の交換の程度においても大きな差があったという。
(4)ASEAN加盟国の多くは、「九段線」を主張する中国と南シナ海において主権論争を抱えている。そして、中国はASEANに公式の同盟国を持たない。他方アメリカは、南シナ海におけるクレイマント国ではないが、同地域をインド太平洋戦略にとって重要なものと位置づけており、タイとフィリピンという重要な同盟国を有している。そして、ASEAN諸国は、アメリカが中国のように南シナ海を軍事化する意図を持たないことを理解している。中国の膨張を懸念するアメリカとしては、ASEANとの関係強化はとりわけ重要な意味を持つ。
(5)しかし、上述したように、ASEANは両勢力のバランスをとることを目指している。ASEAN諸国にとって中国は最大の経済的パートナーであるし、アメリカは重要な安全保障の提供者である。こうした状況はASEANに限らず、世界中のあらゆる国々が直面している課題である。
(6)近年、ASEAN加盟国の間でも、それぞれの利害を調整することはきわめて困難になってきており、そのなかでアメリカとの関係と中国との関係をバランスさせることも同様に難しくなっている。ASEANは今後、世界が2つに分かれていく傾向のなかで、よりプラグマティックな行動を模索していくことであろう。
記事参照:Asean steers between two powers with joint US military exercise in South China Sea

(関連記事1)

 上記記事と関連し、9月2日付のSouth China Morning Post電子版は、シンガポールのNanyang Technological UniversityにあるS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS) 研究員Collin Kohによる“Should China be worried about the US-Asean sea drills?”と題する論説を掲載した。ここでKohは、米・ASEAN合同演習の実施は、ASEANがアメリカと提携して中国を封じ込める方針に舵を切ったわけではないこと、そのうえでこの演習が、ASEAN全体とアメリカの協力関係強化については象徴的な意味を持つとし、南シナ海の主権をめぐって論争を続ける中国に対する政治的シグナルの側面があると主張した。
記事参照:Should China be worried about the US-Asean sea drills?

(関連記事2)

 また、9月7日付のSouth China Morning Post電子版は、マニラを拠点として活動するジャーナリストRichard Heydarianによる、“Heavy traffic in South China Sea: US vies with China in joint naval drill with Asean members”と題する論説記事を掲載した。そこでHeydarianは、上記2つの記事と同様に、この合同訓練の実施をアメリカとASEANの関係強化という点だけで見るべきではないとする。アメリカから見ればそれは、東南アジア、ひいてはインド太平洋地域に拡大する中国を牽制する意図は明白であった。しかしASEANにしてみれば、それは中国に対抗するためにアメリカを選択したというよりは、自分たちの多くの大国に接近することで自分たちの自律性を強める試みなのである。 
記事参照:Heavy traffic in South China Sea: US vies with China in joint naval drill with Asean members

9月9日「フィリピンに最初に派遣されたスペインの軍艦―デジタル誌編集委員論説」(The Diplomat, September 09, 2019)

 9月9日付のデジタル誌The Diplomat は、同誌上級編集員のPrashanth Parameswaranの “What’s in the First Spain Warship Voyage to the Philippines?”と題する記事を掲載し、ここで Parameswaranはフィリピンとスペインの防衛協力が継続されているとして要旨以下のように述べている。
(1) 2019年9月、スペインの軍艦が第二次大戦後の東南アジア各国独立以来、フィリピンへの初の航海を行った。これは何世紀にもわたる両国間の多くの相互交流の1つに過ぎない。それにもかかわらず、現在の二国間関係における防衛面を前進させる両国の努力を示すものである。両国は、過去数年間防衛協力を継続し、後方支援における協力、軍事訓練などを行い、比軍近代化の最中、スペインはその開発のための能力を提供してきた。それは2019年にも続いた。2019年6月にフィリピンとスペイン両国の17回目の友好の日を記念して、両国が後方、防衛資材、武器、防衛産業協力などのさまざまな分野を含む新たな防衛覚書の完成を計画していると発表した。
(2) スペイン海軍の防空フリゲート艦Méndez Núñezが、米西戦争におけるマニラ湾の戦いでスペインの支配の終了以来、相互交流を代表するものとして、フィリピンを親善訪問した。 これは1519年8月に始まったマゼランによる世界一周の500周年を記念する8か月の航海の一部であった。親善訪問の慣例の活動とは別に、フィリピンとスペインの関係における歴史的に重要な相互交流もあった。たとえば、スペイン艦は、フィリピンのスペイン軍の最後の戦いであるバレルの戦いで亡くなったスペイン人とフィリピン人の兵士を称えるために、オーロラ州バレル湾を航行した。フリゲート艦Méndez Núñezの艦長が記者団に語ったように、これは歴史的な出来事を記念するために企画されたユニークな行事であった。
(3) 確かにこれは長い歴史を持つ両国間の一連の相互交流の1つにすぎない。そして、イベントの象徴性に多くの焦点があったかもしれない。このような交流が実際にどのように両国関係において実質的な利益となるかはまだ判らない。それでも、注目すべきことは、広い意味での両国関係の一部として、防衛面での努力が継続されていることである。
記事参照:What’s in the First Spain Warship Voyage to the Philippines?

9月9日「中越両国、南シナ海における対峙を解消できるか―東南アジア専門家論説」(South China Morning Post, September 9, 2019)

 9月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、シンガポールのThe ISEAS-Yusof Ishak Institute上席研究員でベトナム専門家Lye Liang Fookと同訪問上席研究員Ha Hoang Hop の “Can Beijing and Hanoi overcome their latest South China Sea flashpoint at Vanguard Bank?”と題する論説を掲載し、両氏は南シナ海西沙諸島のベトナム占拠海洋自然地形、Vanguard Bank(抄訳者注:越名:Bãi Tư Chính、中国名:萬安灘、以下本稿では英語名で表記)を巡る対峙について、要旨以下のように述べている。
(1)中越両国は、2014年の南シナ海西沙諸島沖合での紛争以来、この海域での対峙を続けている。北京は、中越両国が領有権を主張する海域にあるベトナム占拠海洋自然地形、Vanguard Bank沖合での石油・天然ガス資源調査のために、7月に海洋調査船「海洋地質八号」を派遣した。この海域は、ベトナムがロシアとの合弁事業で掘削中の石油・天然ガス開発鉱区、06-01に近接している。「海洋地質八号」には海警局巡視船と海上民兵が随伴しており、ベトナムの船舶は衝突され、双方の船舶は放水銃で応酬したと伝えられる。「海洋地質八号」は、ベトナムのEEZと大陸棚に位置するVanguard Bankの海底北東部、3万5,000平方キロの海域を調査していた。中国は、ベトナムがロシアの石油・天然ガス大手、RosneftとのNam Con Sonプロジェクト鉱区で掘削することに不同意のシグナルを送ったとみられる。約80隻の海警局巡視船と海上民兵船舶が「海洋地質八号」を護衛していたと伝えられる。米シンクタンクCSISのWebサイト、the Asia Maritime Transparency Initiative によれば、76ミリ多用途海軍砲を装備した「海警35111」は、ベトナム南部沖合190カイリの海域を哨戒していた。
(2)これに対して、ベトナムは8月半ば、「海洋地質八号」の活動を阻止するために、海軍の最新鋭フリゲート、Quang Trung を派遣し、対決意志を示した。一方、ベトナム外務省は、権益防衛の決意を主張しながらも、紛争の平和的解決に含みを残した。外務省はまた、あらゆる機会と対話チャンネルを通じて、中国に対して「非合法活動」を中止し、ベトナムの水域から「撤退」するよう要求してきた、と述べた。ハノイは、他の諸国にも支援を求めた。米国務省は、中国の「石油・天然ガス開発活動に対する干渉」と「度重なる挑発的行動」に対して懸念を表明した。オーストラリアとEUも、同様の懸念を表明した。米国は8月に、フィリピンのマニラ湾への寄港に先立って、USS Ronald Reagan空母打撃群に南シナ海を巡航させた。
(3)南シナ海における中越両国の紛争は、今回が初めてではない。中国は2014年に、南沙諸島の係争海域に深海用油井掘削リグ、「海洋石油981」を展開させた。この半潜水式リグを護衛していた海警局「海警35111」は、これ以前に、マレーシアのサラワク州沖合の Luconia(抄訳者注:中国名:南北康暗沙)近辺での石油・天然ガス掘削活動を妨害した。この2つの事案は、北京が主権を主張する「9段線」内におけるASEAN諸国の新たな一方的な石油・天然ガス開発活動と見なすものに対して、中国が広範な妨害活動を行うという意図を示唆するものであった。2014年の紛争は急速にエスカレートし、中国は、海軍戦闘艦など137隻の艦船を掘削リグ周辺に展開させ、一方、ベトナムでは反中抗議行動が高まった。
(4)しかしながら、今回の場合、状況が手に負えなくなる事態を避けようとする、両国の意識的な努力が窺われる。ベトナムでは、8月6日にハノイの中国大使館前に集まった少数の抗議グループを、警察が速やかに解散させた。また、この間、両国の政府と党の高官レベルの意見交換も行われた。2014年とのもう1つの重要な相違点は、ベトナムはこれまでのところ、この紛争について中国を提訴することを思い止まっているということである。ベトナムの指導者が5年前に、ベトナムにとって次の論理的な措置は国連海洋法条約付属VIIに従って仲裁裁判所に中国を提訴することであると仄めかしたことがあったが、提訴していれば、2013年のフィリピンの提訴と同様のケースとなったであろう。
(5)Vanguard Bank沖合で今回の対峙は、紛争海域での新たな石油・天然ガス開発活動に対する、中国の対応における新たな手口を示しているとみられる。それは、他の領有権主張国による開発活動を妨害するとともに、自らも資源調査のために調査船を派遣したことである。とはいえ、中国の新たな手口が成果を上げるかどうかを判断するには、時期尚早である。ベトナムは、後退する兆しを全く見せておらず、自国のEEZと大陸棚における石油・天然ガス開発を継続する意図を示している。ハノイは7月下旬に、Nam Con Sonプロジェクト鉱区開発のために日本(抄訳者注:日本海洋掘削株式会社)と契約した、半潜水式Hakuryu-5油井掘削リグの運用が当初予定の7月30日から9月15日まで延長される、と発表した。 最新鋭のフリゲートを含むベトナムの艦船がVanguard Bank沖合に展開し、引き続き「海洋地質八号」の活動を妨害するであろう。ハノイはまた、この問題を「国際化する」努力を続けるとともに、2014年の紛争時と同様に、国連に持ち込むかもしれない。
(6)いずれにせよ、中越両国は、これまでのところ自制しているように思われる。その1つ理由は、中国が香港での反政府抗議運動と米中国貿易戦争という喫緊の課題に専念せざるを得ないためとみられる。もう1つの理由として、ベトナムが2020年のASEAN議長国であり、したがって北京もハノイも、ベトナムの議長国としての役割を難しくするような関係悪化を望んでいないということが想定され得る。また、2020年が中越両国の国交樹立70周年でもある。しかしながら、こうした理由は、Vanguard Bank沖合での対峙が手に負えない事態に発展しないということを意味するわけではない。多くの艦船が展開していることから、関係悪化をもたらし、紛争にエスカレートしかねない、無計画な、あるいは予期しない偶発事態の可能性を排除できない。ベトナム国内の一部には、もしベトナムが追い詰められれば、ハノイは思い切った行動をとるであろうとの見方さえある。
記事参照:Can Beijing and Hanoi overcome their latest South China Sea flashpoint at Vanguard Bank?

9月10日「海上では安全は安全保障と同じくらい重要である―豪専門家論評」(The Interpreter, 10 Sep 2019)

 9月10日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、豪海軍退役准将で豪University of Wollongong のAustralian National Centre for Ocean Resources and Security研究員Sam Bateman博士の“At sea, safety is just as important as security”と題する論説を掲載し、ここでBatemanは海上安全は海洋安全保障と同じくらい重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2019年9月、米国沿岸で転覆した韓国貨物船からの乗組員の救助は、海での生命の安全は世界中どの海域でも極めて困難であることを思い出させた。環インド洋地域協力連合(以下、IORA)は、「海上での安全と安全保障」を重点分野にしているが、ほとんどすべての注意が安全保障の事項に集中している。海上協力のための安全措置は手つかずのままである。海上での安全と安全保障に関するこれまでの数回のIORA専門家会議は、ほぼ完全に安全保障の問題で占められてきた。 2017年に合意されたIORAの海上安全の草案は、捜索救難に関する覚書の必要性を特定する以外、安全の問題についてほとんど言及していない。
(2) 海洋安全保障と海上安全の両方は、ブルーエコノミー(海に関する経済)と呼ばれるものを達成するための不可欠な前提条件である。観光、海運、港、沿岸の石油とガスなどの産業は、ブルーエコノミーの重要な分野であるが、これらのすべて産業が、重大だが予防できるような事故を起こす可能性がある。海上での捜索救助は厳しい危険な作業である。沿岸の石油施設の事故や巡航定期船の大事故は、標準的な捜索救助任務よりもはるかに広範囲の地域協力を要求している。インド洋地域の多くの国は比較的貧しく、自然災害や隣接海域での大事故に対処するための体制が整っていない。
(3) 最近の最悪のコンテナ船災害7件のうち、4件はインド洋海域で発生した。インドネシア海域でのインターカーゴ海運協会の大型ばら積み貨物船Nur Allyaの最近の沈没は、流動化し、不安定化する可能性のあるニッケル鉱石運搬の状況から引き起こされたと考えられている。2009年から2018年の間に101人の命が失われた9隻のばら積み貨物船の事故は同様に流動化する可能性のある貨物の運搬の結果と思わるが、こうした貨物船の事故は、インド洋海域、特にバングラデシュ、インドネシア、東アフリカでも一般的である。
(4) 船舶の技術的条件と安全性を管理する国際システムは、ポート・ステート・コントロール(自国港湾に入港する外国船舶に対する立ち入り検査:以下、PSCと言う)が知られているが、インド洋地域では依然として脆弱である。規格外の船は事故、海賊行為、海上での違法な活動に関与しやすい。この地域全体に適用可能な2つのPSCレジームがある。インド洋MOU(以下、IOMOUと言う)と湾岸地域のリヤドMOUである。 IOMOUはこの地域の主な体制であるが、問題がある。この地域の2つの重要な出荷国(パキスタンとソマリア)はメンバーではなく、20ヵ国のメンバーのうち5ヵ国(エリトリア、マダガスカル、モザンビーク、タンザニア、イエメン)は2018年に検査活動を報告しなかった。外国船の10%は港を訪れているが、検査率は低くなっている。 2018年にIOMOUによって報告された検査の総数の半分(5697件のうち2922件)は、オーストラリアによって実施された。インド洋地域における海上安全のための協力を発展させる必要がある。PSC、貨物船の安全性、貨物の積み込み手順及び海難防止に対処するための協力措置に対して、より大きな注意を払う必要である。この地域での海上安全に注意が払われていないのは、海軍がIORAの海上安全と安全保障の議題で主導権を握っているためである。インド洋海軍シンポジウムは、海上安全と海洋安全保障に取り組む主要な地域フォーラムであるが、捜索救助の問題を除き、安全の問題には取り組まない。そして、海軍はほとんどの地域で捜索救助の責任を負っていないのである。
(5) 海上安全に焦点を合わせるための最初のステップとしては、テーマとして海軍のみではないことと安全保障以外のことを念頭に置くことが有効であろう。インド洋地域での海上安全のための協力は、海軍ではなく、沿岸警備隊や他の民間機関によって最も進められる。これには、アジア太平洋地域での安全な海運とクリーンな海洋環境を促進するために1996年に設立されたアジア太平洋海事安全機関長会議と同様の新しい地域フォーラムが必要である。インド洋海域の海事関係の幹部を集めることで、意見交換が可能になり、協力分野の特定に役立つであろう。
記事参照:At sea, safety is just as important as security

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Asia’s Coming Era of Unpredictability
https://foreignpolicy.com/2019/09/01/asias-coming-era-of-unpredictability/
Foreign Policy.com, September 1, 2019
Robert D. Kaplan, a managing director of global macro at Eurasia Group
9月1日、米global macro at Eurasia GroupのRobert D. Kaplanは、米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイト上に、" Asia’s Coming Era of Unpredictability"と題する論説記事を発表した。その中でKaplanは、昨今の香港情勢の緊迫化と日韓関係の悪化が、なぜアジアにおける大きな変動期の始まりにすぎないのかという問いをテーマに、地政学者Nicholas J. Spykmanが主張した対中戦略としての日米同盟の構築の必要性を考察のポイントとして取り上げ、第2次世界大戦後の同盟に対する米国民の感情的なコミットメントが衰え続ける一方で、中国がインド・太平洋とユーラシアに軍事力と国内市場を拡大し続けていることが問題であり、このままでは中国の支配領域が拡大すると危機感を示している。
 
(2) China’s Engagement in Djibouti
https://fas.org/sgp/crs/row/IF11304.pdf
Congressional Research Service, September 3, 2019
9月3日、米Congressional Research Serviceのウェブサイトは“China’s Engagement in Djibouti”と題する論説を掲載し、中国によるジブチに対する関与の現状を報じた。この記事では、①ジブチは自国を「アフリカの角」地域の商業貿易ハブに変える野心的な指針を追求しているが、それは主に中国によって資金提供を受けている。②ジブチは多くの外国の軍隊のハブになっており、その経済は国際港湾施設を通じた貿易に依存し、それらが重要な収入源である。③中国はジブチに積極的なインフラ投資を行い、米軍基地に近い場所に広い軍事基地をもつなど、その関与は多岐にわたる。④中国企業Huaweiの子会社Huawei Marineは海底光ファイバーケーブルを介して、ジブチとパキスタンをつなげている。この光ファイバーケーブルは中国建設銀行から資金提供を受けたアジア-アフリカ-ヨーロッパを結ぶ海底ケーブルの一部である。⑤ジブチの中国に対する債務が増加しており、中国からの影響力の高まりが米国によって懸念されている。⑥ジブチのドラレ港の停泊地の1つは中国海軍による使用が予定されていると伝えられている一方で、ジブチの当局者たちは中国に港湾の管理する権限を譲渡する意図はないと主張しているが、この取引は中国及び関連国営企業に対する債務の現物支給である可能性がある。⑦Trump政権は、アフリカにおける中国の影響力に、より広範に対抗することに高い優先度を与えているが、ジブチ当局者たちは自国への中国の関与に対する批判に不満を表明しているといった内容が述べられている。
 
(3) Asia Has Three Possible Futures
https://foreignpolicy.com/2019/09/05/asia-has-three-possible-futures/?utm
Foreign Policy.com, September 5, 2019
Stephen M. Walt, the Robert and Renée Belfer professor of international relations at Harvard University.
9月5日、米Harvard UniversityのStephen M. Walt教授は、米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイト上に、" Asia Has Three Possible Futures "と題する論説記事を発表した。その中でWaltは、自分のような現実主義者にとって、現在のアジアの安全保障を考察する際に考慮すべき最も重要な要素は、第一に、米国と中国の間の力のバランスであり、第二に、そのバランスの大きな変化に対する他のアジア諸国の反応であるとの見解を示した上で、米Trump政権のこれまでの安全保障政策の実績には不満が残るとし、今後は、大局を見通し、優先順位を設定する方法を熟知し、同盟国の支持を集める外交政策が求められると主張している。