海洋安全保障情報旬報 2019年6月1日-6月10日
Contents
6月2日「中国防部長、南シナ海、台湾問題で強硬発言―マレーシアジャーナリスト報道」(USNI News, June 2, 2019)
6月2日付のU.S.Naval InstituteのウェブサイトUSNI Newsは、マレーシアのフリージャーナリストDzirhan Mahadzirの“Shangri-La: Chinese Defense Minister Talks Tough on South China Sea, Taiwan”と題する記事を掲載し、ここでMahadzirは中国防部長・魏鳳和が南シナ海、台湾問題について一歩の引かない発言をしたとして要旨以下のように報じている。
(1)中国の国防部長・魏鳳和は、6月2日のアジア安全保障会議の講演で台湾、南シナ海問題に関し一歩も引かない強い口調で語った。「何人であれ台湾を中国からあえて分離しようとすれば、中国軍は国家の統一を守るため如何なる犠牲を払ってでも戦うほか選択肢はない」とし、魏鳳和はA.Lincolnを引き合いに出し、中国は不可分のものであり、「中国は統一されていなければならず、統一されるだろう」と言い、台湾問題に米国が国内法である台湾関係法をもって介入する理由はないと中国は見ていると発言した。そして、この問題に対する人民解放軍の決意と意思を過小評価することは危険であると述べた。「我々は最大限の誠意と最大の努力をもって平和的統一の可能性を目指す。しかし、軍事力の行使を放棄する約束はしない」と魏鳳和は言う。
(2)南シナ海における係争中の領域における中国の軍事化について、魏鳳和は「自国の領域で建設を行うことは主権国家の正統な権利である」、「南シナ海の安定の問題は他の国々からの建設的な提案も歓迎して、域内国によって決定されるべきである」と主張し、米艦艇等の南シナ海の航行、米軍機等の上空飛行にそれとなく言及しつつ、「十分に兵装された艦艇、あるいは軍用機に直面して、どうすれば我々は無頓着でいられるのか、防衛設備を建設せずにいられるのか」と述べた。
(3)魏鳳和は朝鮮半島の非核化、平和、安定について中国のコミットメントを繰り返した。魏鳳和は北朝鮮の正統性のある懸念に国際社会が積極的に対応することを中国は望んでいると付け加えた。
(4)魏鳳和は協調的な口調で演説の最後にPatrick Shanahan米国防長官代行と率直で実際的な話し合いを持って、短い話し合いの中で両者は対話の意志と軍同士の建設的な関係の構築の重要性を再確認したと述べた。魏鳳和は米中関係を正しい方向に進めるよう米国が中国と行動することを望むと結論づけた。中国国防部長は、中国軍はアジア太平洋の平和と安定を守るために同地域の他の国々の軍と共同する用意があるとして演説を締めくくった。
記事参照:Shangri-La: Chinese Defense Minister Talks Tough on South China Sea, Taiwan
(1)中国の国防部長・魏鳳和は、6月2日のアジア安全保障会議の講演で台湾、南シナ海問題に関し一歩も引かない強い口調で語った。「何人であれ台湾を中国からあえて分離しようとすれば、中国軍は国家の統一を守るため如何なる犠牲を払ってでも戦うほか選択肢はない」とし、魏鳳和はA.Lincolnを引き合いに出し、中国は不可分のものであり、「中国は統一されていなければならず、統一されるだろう」と言い、台湾問題に米国が国内法である台湾関係法をもって介入する理由はないと中国は見ていると発言した。そして、この問題に対する人民解放軍の決意と意思を過小評価することは危険であると述べた。「我々は最大限の誠意と最大の努力をもって平和的統一の可能性を目指す。しかし、軍事力の行使を放棄する約束はしない」と魏鳳和は言う。
(2)南シナ海における係争中の領域における中国の軍事化について、魏鳳和は「自国の領域で建設を行うことは主権国家の正統な権利である」、「南シナ海の安定の問題は他の国々からの建設的な提案も歓迎して、域内国によって決定されるべきである」と主張し、米艦艇等の南シナ海の航行、米軍機等の上空飛行にそれとなく言及しつつ、「十分に兵装された艦艇、あるいは軍用機に直面して、どうすれば我々は無頓着でいられるのか、防衛設備を建設せずにいられるのか」と述べた。
(3)魏鳳和は朝鮮半島の非核化、平和、安定について中国のコミットメントを繰り返した。魏鳳和は北朝鮮の正統性のある懸念に国際社会が積極的に対応することを中国は望んでいると付け加えた。
(4)魏鳳和は協調的な口調で演説の最後にPatrick Shanahan米国防長官代行と率直で実際的な話し合いを持って、短い話し合いの中で両者は対話の意志と軍同士の建設的な関係の構築の重要性を再確認したと述べた。魏鳳和は米中関係を正しい方向に進めるよう米国が中国と行動することを望むと結論づけた。中国国防部長は、中国軍はアジア太平洋の平和と安定を守るために同地域の他の国々の軍と共同する用意があるとして演説を締めくくった。
記事参照:Shangri-La: Chinese Defense Minister Talks Tough on South China Sea, Taiwan
6月3日「米国のインド太平洋戦略報告を読む。明るい兆しと将来の不安――The Diplomat編集委員論評」(The Diplomat.com, June 3, 2019)
6月3日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集委員Prashanth Parameswaranの“Assessing the US Indo-Pacific Strategy Report: Current Opportunities and Future Uncertainties”と題する論評を掲載し、そこでParameswaranは、米国防総省が発表したインド太平洋戦略報告の内容を論評、そこで表明された現状認識や今後の計画について高く評価する一方で、それら計画をより具体化していくためにはなお課題が多いとして、要旨以下のとおり述べている。
(1)6月1日、米国防総省(DOD)はインド太平洋戦略報告(以下、IPSRと言う)を発表した。それは国防長官代理のPatrick Shanahanが2019年アジア安全保障会議(以下、SLDと言う)で演説を行ったタイミングと軌を一にしたものであった。この報告書は、米国における「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)戦略の展開にとって重要なもので、注目に値するものである一方、しかしここで論じられたレトリックがいかに現実に落とし込まれるかについては、なお不安を残すものでもあった。
(2)2018年のSLDにおいてJames Mattis国防長官がFOIP概念について詳しく論じて以降、Donald Trump政権は、安全保障・経済・ガバナンスという3つの要素について、FOIPの具体化を進めていった。このたびのIPSRの発表は、安全保障に関する展開の最も新しいものと位置づけられる。
(3)IPSRは、今日のFOIPの立ち位置、今後のFOIPの推進に関する計画に関する文書としてきわめて注目に値する。FOIPの現状について、同報告書は「自由」で「開かれた」という一般的な概念を、主権と独立の尊重、紛争の平和的解決、自由で公正かつ互恵的な貿易、国際的規則や規範の遵守、という4つの具体的な原則として定義した。そして、その原則を現実に落とし込むための行動として「3つのP」を打ち出した。すなわち、準備(preparedness)、協調(partnerships)、そしてネットワーク化された地域の促進(promoting a networked region)である。
(4)IPSRは全体として、FOIPが表明されて以来の米政府内外のさまざまな意見を統合し反映している。それはインド太平洋地域における米国の歴史的役割を整理し、インド太平洋地域を「優先的戦域」(priority theater)と位置づけた。DODはインド太平洋地域における同盟国やパートナー国家を自身の戦略にとっての核心であるとしつつ、その包括的戦略、計画の欠如について懸念を表明している。
(5)IPSRにおいて表明された「3つのP」という具体的な行動はまだ始まったばかりであるため、実際にどのようにそれを進めていくかはなお不透明だ。準備という点について、IPSRは能力向上のための投資や、米国の姿勢の転換を表明し、地域防衛戦略に肉付けをしている点において評価すべきものである。しかし、世界全体でさまざまな問題が起きていることを考慮すれば、今後もインド太平洋地域が「優先的現場」として維持されるかどうかはわからない。G. W. Bush政権における中東からの撤退やObama政権におけるリバランス政策の失敗などの前例もある。
(6)協調に関して、英国やフランス、カナダなど域外の国々との協調、太平洋島嶼国に焦点を当てていることなどを考慮すれば、かなり前向きなものと言えるだろう。しかしそれでも、IPSRは実際に既存のパートナー国家の協力をとりつけるに際して困難に直面していることについて正直に述べるものではない。その原因は、それら諸国が防衛投資を向上させるほどの余力がないことや、あるいは、保護貿易を志向し、国際的合意に対する懐疑的姿勢を見せ続けるTrump政権に対する不満などである。これらの問題が修正されない限り、FOIPにおける協調の要素は制約され続けるであろう。
(7)ネットワーク化の推進について確認しよう。歴史的な米国の国防政策は、米国を介して日米安保、米韓同盟、NATOなどのように米国と日本、米国と韓国との同盟を構築、日韓には同盟関係がないという厳密なハブ・アンド・スポーク的アプローチから、今日の複雑な安全保障環境を一層反映したより広範で柔軟なネットワーク化された概念へと徐々に移行している。しかし現実にそうしたネットワークの構築には困難が伴う。QUAD(日米豪印4ケ国枠組み)がASEANの中心性を損なわせているのではないかという懸念があるように、包括的・全体的関係の強化は簡単なことではない。中国が地域的パートナーシップの構築を進めていることも、米国の努力の阻害要因となろう。
(8)以上論じてきたように、IPSRにおいて表明された概念や計画を、より具体的に現実へと落とし込むことは簡単なことではない。とはいえ、FOIPの推進にとってIPSRが重要な意味を持つことは変わらない。我々は今後、IPSRで表明された諸々のプランがどう実行に移されていくのかを見ていくことになろう。そもそもFOIPは長続きする戦略なのか、2020年大統領選挙後に、米国の方針がより明確になるであろう。もしそれが長期的にコミットされるようであれば、これまで挙げてきた種々の困難は時間とともに克服されるかもしれない。ただし現時点において、レトリックを現実へと落とし込むことがうまくいくかどうかは不透明であるということを改めて強調しておきたい。
記事参照:Assessing the US Indo-Pacific Strategy Report: Current Opportunities and Future Uncertainties
(1)6月1日、米国防総省(DOD)はインド太平洋戦略報告(以下、IPSRと言う)を発表した。それは国防長官代理のPatrick Shanahanが2019年アジア安全保障会議(以下、SLDと言う)で演説を行ったタイミングと軌を一にしたものであった。この報告書は、米国における「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)戦略の展開にとって重要なもので、注目に値するものである一方、しかしここで論じられたレトリックがいかに現実に落とし込まれるかについては、なお不安を残すものでもあった。
(2)2018年のSLDにおいてJames Mattis国防長官がFOIP概念について詳しく論じて以降、Donald Trump政権は、安全保障・経済・ガバナンスという3つの要素について、FOIPの具体化を進めていった。このたびのIPSRの発表は、安全保障に関する展開の最も新しいものと位置づけられる。
(3)IPSRは、今日のFOIPの立ち位置、今後のFOIPの推進に関する計画に関する文書としてきわめて注目に値する。FOIPの現状について、同報告書は「自由」で「開かれた」という一般的な概念を、主権と独立の尊重、紛争の平和的解決、自由で公正かつ互恵的な貿易、国際的規則や規範の遵守、という4つの具体的な原則として定義した。そして、その原則を現実に落とし込むための行動として「3つのP」を打ち出した。すなわち、準備(preparedness)、協調(partnerships)、そしてネットワーク化された地域の促進(promoting a networked region)である。
(4)IPSRは全体として、FOIPが表明されて以来の米政府内外のさまざまな意見を統合し反映している。それはインド太平洋地域における米国の歴史的役割を整理し、インド太平洋地域を「優先的戦域」(priority theater)と位置づけた。DODはインド太平洋地域における同盟国やパートナー国家を自身の戦略にとっての核心であるとしつつ、その包括的戦略、計画の欠如について懸念を表明している。
(5)IPSRにおいて表明された「3つのP」という具体的な行動はまだ始まったばかりであるため、実際にどのようにそれを進めていくかはなお不透明だ。準備という点について、IPSRは能力向上のための投資や、米国の姿勢の転換を表明し、地域防衛戦略に肉付けをしている点において評価すべきものである。しかし、世界全体でさまざまな問題が起きていることを考慮すれば、今後もインド太平洋地域が「優先的現場」として維持されるかどうかはわからない。G. W. Bush政権における中東からの撤退やObama政権におけるリバランス政策の失敗などの前例もある。
(6)協調に関して、英国やフランス、カナダなど域外の国々との協調、太平洋島嶼国に焦点を当てていることなどを考慮すれば、かなり前向きなものと言えるだろう。しかしそれでも、IPSRは実際に既存のパートナー国家の協力をとりつけるに際して困難に直面していることについて正直に述べるものではない。その原因は、それら諸国が防衛投資を向上させるほどの余力がないことや、あるいは、保護貿易を志向し、国際的合意に対する懐疑的姿勢を見せ続けるTrump政権に対する不満などである。これらの問題が修正されない限り、FOIPにおける協調の要素は制約され続けるであろう。
(7)ネットワーク化の推進について確認しよう。歴史的な米国の国防政策は、米国を介して日米安保、米韓同盟、NATOなどのように米国と日本、米国と韓国との同盟を構築、日韓には同盟関係がないという厳密なハブ・アンド・スポーク的アプローチから、今日の複雑な安全保障環境を一層反映したより広範で柔軟なネットワーク化された概念へと徐々に移行している。しかし現実にそうしたネットワークの構築には困難が伴う。QUAD(日米豪印4ケ国枠組み)がASEANの中心性を損なわせているのではないかという懸念があるように、包括的・全体的関係の強化は簡単なことではない。中国が地域的パートナーシップの構築を進めていることも、米国の努力の阻害要因となろう。
(8)以上論じてきたように、IPSRにおいて表明された概念や計画を、より具体的に現実へと落とし込むことは簡単なことではない。とはいえ、FOIPの推進にとってIPSRが重要な意味を持つことは変わらない。我々は今後、IPSRで表明された諸々のプランがどう実行に移されていくのかを見ていくことになろう。そもそもFOIPは長続きする戦略なのか、2020年大統領選挙後に、米国の方針がより明確になるであろう。もしそれが長期的にコミットされるようであれば、これまで挙げてきた種々の困難は時間とともに克服されるかもしれない。ただし現時点において、レトリックを現実へと落とし込むことがうまくいくかどうかは不透明であるということを改めて強調しておきたい。
記事参照:Assessing the US Indo-Pacific Strategy Report: Current Opportunities and Future Uncertainties
6月4日「台湾が中国海軍を阻止する唯一の方策-米研究員論説」(The National Interest, June 4, 2019)
6月4日付の米隔月誌The National Interest電子版は、American University博士課程学生でthe Center for the National Interestの研究助手Mark Episkoposの“Taiwan Has Only 1 Way To Stop China’s Navy In a War”と題する論説を掲載し、ここでEpiskoposは台湾の軍事力整備の停滞と人民解放軍の急速な近代化によって、台湾にシーコントロールを実施するような力はなく、潜水艦部隊による接近阻止・領域拒否戦略が唯一の現実的な選択肢であり、台湾自身その方向に動きつつあるとして要旨以下のように述べている。
(1)6月2日、魏鳳和国防部長はアジア安全保障会議で「中国は再統一されなければならないし、再統一される」と発言した。一方、台湾当局は中国に天安門事件30周年を前に反省すべきであると述べた。現在の中台対立に関してメディアの取り上げ方の多くは、今1つの台湾危機の国際的影響、特に中国軍が台湾に侵攻した場合米国はどのように対応するのかに焦点を当てている。しかし、台湾軍の能力は?将来予測される中国の侵攻を排除する可能性はあるのか?The National Interestは台湾海軍に目を向けてみる。
(2)より大きな隣国との深刻な軍事的対立に巻き込まれた海洋国家として、台湾海軍には潜水艦部隊がほとんどないという点でユニークである。台湾の潜水艦の不足は、台北が自らを地域の主要国と見なし、人民解放軍の数的優位を優れた訓練と装備で補ってきた戦後の戦略文化の副産物である。中国軍の急速な近代化と台湾軍の停滞の数十年の結果、台湾の水上部隊は南シナ海において人民解放軍海軍とどのような海戦であっても対抗できる位置にはない。
(3)台湾の政治指導部は、シーコントロールはもはや実行可能な軍事戦略ではないという現実を最近になって把握し始めた。代わって、質量ともに強大な中国海軍に対して台湾が頼みとするものは唯一接近阻止・領域拒否戦術である。相当程度の近代化された台湾潜水艦部隊は待ち伏せ、至近距離からの魚雷攻撃あるいは対艦ミサイルの飽和攻撃によって台湾海峡で行動する中国艦船に深刻な対価を支払わせることになるだろう。ゆっくりとしかし着実に台北は、非対称の潜水艦戦という賢明な行動に近づきつつあるようである。ワシントンの台北に対する軍事援助を新たに獲得し、台湾は潜水艦建造専用施設の建設に重要な段階を踏み出した。建造施設は2020年に稼働状態となる。大きな遅れがなければ、施設建設は台湾の長く厳しい海軍近代化への道のりの第一歩となる。この計画の長期的見通しは、歴史的に米政権の間で消長があった米国の軍事支援が継続されるか否かにかかっている。にもかかわらず、領域拒否作戦に向けた潜水艦部隊は中国の海洋力に対抗する台湾の最良の採るべき方策であり、そうあり続けるだろう。
記事参照:Taiwan Has Only 1 Way To Stop China’s Navy In a War
(1)6月2日、魏鳳和国防部長はアジア安全保障会議で「中国は再統一されなければならないし、再統一される」と発言した。一方、台湾当局は中国に天安門事件30周年を前に反省すべきであると述べた。現在の中台対立に関してメディアの取り上げ方の多くは、今1つの台湾危機の国際的影響、特に中国軍が台湾に侵攻した場合米国はどのように対応するのかに焦点を当てている。しかし、台湾軍の能力は?将来予測される中国の侵攻を排除する可能性はあるのか?The National Interestは台湾海軍に目を向けてみる。
(2)より大きな隣国との深刻な軍事的対立に巻き込まれた海洋国家として、台湾海軍には潜水艦部隊がほとんどないという点でユニークである。台湾の潜水艦の不足は、台北が自らを地域の主要国と見なし、人民解放軍の数的優位を優れた訓練と装備で補ってきた戦後の戦略文化の副産物である。中国軍の急速な近代化と台湾軍の停滞の数十年の結果、台湾の水上部隊は南シナ海において人民解放軍海軍とどのような海戦であっても対抗できる位置にはない。
(3)台湾の政治指導部は、シーコントロールはもはや実行可能な軍事戦略ではないという現実を最近になって把握し始めた。代わって、質量ともに強大な中国海軍に対して台湾が頼みとするものは唯一接近阻止・領域拒否戦術である。相当程度の近代化された台湾潜水艦部隊は待ち伏せ、至近距離からの魚雷攻撃あるいは対艦ミサイルの飽和攻撃によって台湾海峡で行動する中国艦船に深刻な対価を支払わせることになるだろう。ゆっくりとしかし着実に台北は、非対称の潜水艦戦という賢明な行動に近づきつつあるようである。ワシントンの台北に対する軍事援助を新たに獲得し、台湾は潜水艦建造専用施設の建設に重要な段階を踏み出した。建造施設は2020年に稼働状態となる。大きな遅れがなければ、施設建設は台湾の長く厳しい海軍近代化への道のりの第一歩となる。この計画の長期的見通しは、歴史的に米政権の間で消長があった米国の軍事支援が継続されるか否かにかかっている。にもかかわらず、領域拒否作戦に向けた潜水艦部隊は中国の海洋力に対抗する台湾の最良の採るべき方策であり、そうあり続けるだろう。
記事参照:Taiwan Has Only 1 Way To Stop China’s Navy In a War
6月5日「アジア諸国の海軍の将来-英専門家論説」(Military Balance Blog, IISS, June 5, 2019)
6月5日付の英シンクタンクIISSのウエブサイトMilitary Balance Blogは、同所Naval Forces and Maritime Securityの上級研究員Nick Childsの“Asia’s naval future: task-group thinking”と題する記事を掲載し、ここでChildsは仏空母Charles de Gaulle任務群のインド太平洋方面への展開をきっかけに、同方面における主要海軍の任務群展開への動きとその意義、問題点について要旨以下のように述べている。
(1)第18回アジア安全保障会議の期間中、仏空母Charles de Gaulleはシンガポールのチャンギ軍港に停泊していた。仏空母部隊は、地域における海軍部隊の展開の増大、潜在的な海洋における緊張の増大を反映しているだけでなく、増大する海軍間の協力、欧州各国の海軍のこの地域への関与の機会を提供している。仏空母は、フランスがアジア太平洋地域に関与し、実際に同地域におけるプレゼンスの増大を示す象徴である。アジア太平洋地域の主要海軍部隊は成熟し、他の主要海軍は同地域への部隊の展開に再び焦点を当ててきており、任務部隊は海洋において影響力を発揮するための有力で柔軟性のある手段として再び注目されている。
(2)海という領域では、いわゆる「グレーゾーン」や海上における軍事と非軍事の混成型の対立と言った事例がある。しかし、インド太平洋の戦略的に混沌としている海域では海軍力という面で多くの関心は個々の艦艇の展開や遭遇、小規模部隊の任務に集まっている。利害関係と地域の能力が高まる中、中軸艦と支援艦で構成された任務部隊はより高次の戦略的野望と作戦上の潜在能力を「関与と提携」のより大きな機会として示す可能性を提供する。しかし、任務部隊は増大する緊張の潜在的な淵源でもある。
(3)米海軍は空母を中核とするものであれ、大型水陸両用戦艦艇を中核とするものであれ、任務群の展開に関して新顔ではない。しかし、米海軍は任務群の展開をどのように行うか、そのパターンを変えつつある。任務群はインド太平洋地域を越えて復活しているが、海軍は潜在的な国家間の問題に再び焦点を当ててきており、特にインド太平洋地域において最も影響を受けているようである。
(4)人民解放軍海軍健軍70周年記念観艦式において、より興味深く重要なことは空母任務群を展開する上で必要な他の艦艇がいかに長足の進歩を遂げているかを誇示したことである。特にType-055巡洋艦(抄訳者注:Type055は中国では駆逐艦あるいは大型駆逐艦とされているが、基準排水量が1万トンを超えることから西側では巡洋艦とされることもある。)とType901大型補給艦である。米海軍は、任務群の最高の能力を有する水上戦闘艦艇では依然、大きく水をあけている。しかし、中国もこれに追いつくべく最善の努力を行っている。2018年5月、人民解放軍海軍は「遼寧」任務群が訓練し、開発してきた技量をもって最初の作戦能力を獲得したと宣言した。中国がその勢力圏と作戦上の選択肢を拡大するという野望は明らかである。中国はロシアのSu-33 DをコピーしJ-15艦載戦闘機設計の基礎としたことでロシアの怒りを買ったが、中国はJ-15戦闘機は最初から多目的戦闘機として計画されていると主張し、中国のテレビ局はJ-15戦闘機がYJ-83対艦ミサイルを発射した状況を報じている。空対艦攻撃の訓練が行われている範囲とは関係なく、人民解放軍海軍が対艦攻撃能力獲得の道程にあることを示している。
(5)同時に地域の海軍は変革されつつあり、その運用が可能になりつつある。
a.豪海軍はキャンベラ級大型水陸両用戦艦2隻を中核とする任務群を運用する海軍へ再建されつつある。
b.海上自衛隊もインド洋を含め注目を浴びる部隊派遣に最大の護衛艦の大部分を充当してきた。日本はこれら護衛艦をF-35Bを搭載できるよう改装するという決定の重要性を軽視しているが、最終的には将来の任務群の展開を牽引する能力を強化するだろう。
c.そして韓国も任務群の展開能力を含む外洋作戦能力の創出に強い意欲を示している。
(6)シンガポールへの回航の途次、仏空母Charles de Gaulleは「いずも」その他の日米艦艇と訓練を行っている。この訓練は来たるべきものの形のようである。任務群の展開は、重要な訓練への参加によって能力と協力を実際に示すことを可能にする。新英空母Queen Elizabethとその随伴艦は2021年に仏空母Charles de Gaulleに続いてシンガポールあるいは地域内のどこかに寄港する可能性があり、将来の英仏任務群そしておそらく他の欧州諸国の海軍もこれに貢献してインド太平洋へのますます欧州が関わっていくひな形となるかもしれない。任務群の展開は、英仏がインド太平洋地域の各海軍と共同する際の重要な編成を提供する両国の方策なのかもしれない。
(7)問題はこのような任務群の展開には相当数の兵力が必要とされることである。どの程度の頻度でこれらの任務を繰り返すことができるのかが問題であり、特に他の作戦上の要求がある場合にそうである。インド太平洋地域の海軍にとって、任務群の展開への移行は一層の協力と戦略的安定の改善を促進する働きをするのか、あるいは新たな段階の海軍の対立を招く摩擦の原因となるのだろうか?
記事参照:Asia’s naval future: task-group thinking
(1)第18回アジア安全保障会議の期間中、仏空母Charles de Gaulleはシンガポールのチャンギ軍港に停泊していた。仏空母部隊は、地域における海軍部隊の展開の増大、潜在的な海洋における緊張の増大を反映しているだけでなく、増大する海軍間の協力、欧州各国の海軍のこの地域への関与の機会を提供している。仏空母は、フランスがアジア太平洋地域に関与し、実際に同地域におけるプレゼンスの増大を示す象徴である。アジア太平洋地域の主要海軍部隊は成熟し、他の主要海軍は同地域への部隊の展開に再び焦点を当ててきており、任務部隊は海洋において影響力を発揮するための有力で柔軟性のある手段として再び注目されている。
(2)海という領域では、いわゆる「グレーゾーン」や海上における軍事と非軍事の混成型の対立と言った事例がある。しかし、インド太平洋の戦略的に混沌としている海域では海軍力という面で多くの関心は個々の艦艇の展開や遭遇、小規模部隊の任務に集まっている。利害関係と地域の能力が高まる中、中軸艦と支援艦で構成された任務部隊はより高次の戦略的野望と作戦上の潜在能力を「関与と提携」のより大きな機会として示す可能性を提供する。しかし、任務部隊は増大する緊張の潜在的な淵源でもある。
(3)米海軍は空母を中核とするものであれ、大型水陸両用戦艦艇を中核とするものであれ、任務群の展開に関して新顔ではない。しかし、米海軍は任務群の展開をどのように行うか、そのパターンを変えつつある。任務群はインド太平洋地域を越えて復活しているが、海軍は潜在的な国家間の問題に再び焦点を当ててきており、特にインド太平洋地域において最も影響を受けているようである。
(4)人民解放軍海軍健軍70周年記念観艦式において、より興味深く重要なことは空母任務群を展開する上で必要な他の艦艇がいかに長足の進歩を遂げているかを誇示したことである。特にType-055巡洋艦(抄訳者注:Type055は中国では駆逐艦あるいは大型駆逐艦とされているが、基準排水量が1万トンを超えることから西側では巡洋艦とされることもある。)とType901大型補給艦である。米海軍は、任務群の最高の能力を有する水上戦闘艦艇では依然、大きく水をあけている。しかし、中国もこれに追いつくべく最善の努力を行っている。2018年5月、人民解放軍海軍は「遼寧」任務群が訓練し、開発してきた技量をもって最初の作戦能力を獲得したと宣言した。中国がその勢力圏と作戦上の選択肢を拡大するという野望は明らかである。中国はロシアのSu-33 DをコピーしJ-15艦載戦闘機設計の基礎としたことでロシアの怒りを買ったが、中国はJ-15戦闘機は最初から多目的戦闘機として計画されていると主張し、中国のテレビ局はJ-15戦闘機がYJ-83対艦ミサイルを発射した状況を報じている。空対艦攻撃の訓練が行われている範囲とは関係なく、人民解放軍海軍が対艦攻撃能力獲得の道程にあることを示している。
(5)同時に地域の海軍は変革されつつあり、その運用が可能になりつつある。
a.豪海軍はキャンベラ級大型水陸両用戦艦2隻を中核とする任務群を運用する海軍へ再建されつつある。
b.海上自衛隊もインド洋を含め注目を浴びる部隊派遣に最大の護衛艦の大部分を充当してきた。日本はこれら護衛艦をF-35Bを搭載できるよう改装するという決定の重要性を軽視しているが、最終的には将来の任務群の展開を牽引する能力を強化するだろう。
c.そして韓国も任務群の展開能力を含む外洋作戦能力の創出に強い意欲を示している。
(6)シンガポールへの回航の途次、仏空母Charles de Gaulleは「いずも」その他の日米艦艇と訓練を行っている。この訓練は来たるべきものの形のようである。任務群の展開は、重要な訓練への参加によって能力と協力を実際に示すことを可能にする。新英空母Queen Elizabethとその随伴艦は2021年に仏空母Charles de Gaulleに続いてシンガポールあるいは地域内のどこかに寄港する可能性があり、将来の英仏任務群そしておそらく他の欧州諸国の海軍もこれに貢献してインド太平洋へのますます欧州が関わっていくひな形となるかもしれない。任務群の展開は、英仏がインド太平洋地域の各海軍と共同する際の重要な編成を提供する両国の方策なのかもしれない。
(7)問題はこのような任務群の展開には相当数の兵力が必要とされることである。どの程度の頻度でこれらの任務を繰り返すことができるのかが問題であり、特に他の作戦上の要求がある場合にそうである。インド太平洋地域の海軍にとって、任務群の展開への移行は一層の協力と戦略的安定の改善を促進する働きをするのか、あるいは新たな段階の海軍の対立を招く摩擦の原因となるのだろうか?
記事参照:Asia’s naval future: task-group thinking
6月5日「シャングリラダイアローグにおける南太平洋の安全保障について―豪専門家論説」(The Strategist, June 5, 2019)
6月5日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは、ASPIのジャーナリストフェローGraeme Dobellの“South Pacific security at Shangri-La ”と題する論説を掲載し、ここでDobellはアジア安全保障会議における南太平洋の安全保障に関する議論を紹介し、要旨以下のように述べている。
(1)南太平洋では、今は地球温暖化が安全保障上の脅威のトップを占めている。中国の台頭も島嶼の安全保障に関する議論を呼んでいる。この2つのトレンドのため、18年間のアジア安全保障会議の歴史で初めて「南太平洋における戦略的関心と競争」という島嶼に関するセッションが設けられた。太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局長のMeg Taylorは、第2次世界大戦と冷戦以降、島嶼が今ほど重要となったことはなかったと述べた。2018年の太平洋諸島フォーラムの共同宣言の文言と精神を振り返って、Taylorは、この地域は「複雑かつ競合的」であり「協力と競争」という力が働いていると述べた。また、フィジー軍司令官海軍少将Viliame Naupotoは、米国、中国、気候温暖化という3つの大きな力が影響力を持っていると述べた。「この3つの力の中で気候温暖化が一番重要となってきており、この地域に一番大きな影響力を持っている。もし戦いがあるとすれば、それは気候温暖化との戦いだ。島嶼は、安全保障の概念を広げて気候の非常事態から自分を守ることを決意した」と述べた。会議のすべての発表者と同じく、Taylorはボエ宣言の第一項目(「気候変動が最大の脅威であり、パリ宣言を進める」)に言及した。
(2)我々は、気候変動が太平洋の人々の生活、安全、幸福にとっての最大の脅威であり、パリ協定で定められたことを実行していくことを再確認した。米インド太平洋軍司令官Philip Davidson海軍大将は、島嶼を訪問するといつも気候変動が既存の脅威と同じく活発で実態のあるものだという発言を受けたと述べた。フランス軍事省国際関係・戦略局長Alice Guittonも、フランス、オーストラリア、ニュージーランドと米国が安全保障上の必要性を調整しなくてはならないと述べた。4つの国は、海洋監視、人為的な災害や自然災害のための準備、危険にさらされているインフラの測量を改善しなければならないと述べた。Guittonと並んで座っていた豪外交貿易省次官Frances Adamsonは、今はオーストラリアとフランスが島嶼に関して緊密に連携すべき時だと述べた。5番目の有力な国であるオーストラリアは、フランスを現状の秩序を守る要であると考えている。フランスはもはや局外者でいることはできない。
(3) Adamson次官は「オーストラリアは南太平洋の主権と安全保障にいつまでも変わらない関心を持っている。しかし戦略的競争者の狭いレンズでこの地域を見てはいない。我々のアプローチでは、南太平洋の人々の幸福が原動力とならなくてはいけない。南太平洋は、安全、安定、主権が侵されないものであってほしい」と述べた。質問の時間に、中国が安全保障の議論における気候変動の問題について発言した。PIF事務局長Taylorの回答は、彼女が2月のスピーチにおいて説明したすべての人が友人であるという方針(「中国という選択:太平洋諸島の秩序を変えることについて」)の短い要約だった。PIFは、「この地域の他の国に対し役割を拡大したいと考えている。そして、中国はフォーラムの多くのメンバーとの非常に強くて重要な関係を持っている。」と述べた。Davidson米インド太平洋軍司令官は「北京は、台湾の外交的承認をやめるようソロモン諸島のManasseh Sogavare政権に圧力を与えている」という最近の批判を繰り返した。「問題はソロモン諸島に台湾承認を変更することを強いる強制的なアプローチだ」と彼は述べた。「それは、我々の自由で開かれた太平洋というヴィジョンの目的ではないし関係もない」というDavidson司令官の中国の行動に関する説明は、彼が2月に米上院に提供した論評によっている。
(4)パプアニューギニアのマヌス島におけるロンブラン海軍基地の再開発に関する質問に対し、Adamson次官はパプアニューギニアがオーストラリアと米国に援助を「要請した」と述べた。「これは、明らかにオーストラリアの海軍基地でも米国の海軍基地でもない」これには、中国の海軍基地でもないという考えが続くのであろう。
(5)オーストラリア政府は2018年、ウェワクやキコリ、ヴァニモなどの島の港だけでなく、マヌス島に中国の開発による港ができるという見通しを聞いて衝撃を受けた。ASPIが論評したように、マヌス島の本当の戦略的な価値は、前線基地としての位置にある。そこからは、ミクロネシアからキリバスやナウルまで、ソロモン諸島までの太平洋と、オーストラリアに至る列島線上の航空活動と海上活動を監視し管制できるのである。戦略的な関心と競争に関するアジア安全保障会議のセッションにおいて、Adamson次官は、どんな海軍大将でも支持するような言葉でオーストラリアの関心を表明した。「オーストラリア政府はいかなる外国の基地も歓迎されないことを明言する。我々は、それを強く非難して反対する。それは、オーストラリアの戦略的な状況と地域の戦略的な状況に明らかな悪影響がある」と。筆者もこれについては強く抗議し、反対する。そこに外国が基地を作ってよいという規則は何処にもない。
記事参照:South Pacific security at Shangri-La
(1)南太平洋では、今は地球温暖化が安全保障上の脅威のトップを占めている。中国の台頭も島嶼の安全保障に関する議論を呼んでいる。この2つのトレンドのため、18年間のアジア安全保障会議の歴史で初めて「南太平洋における戦略的関心と競争」という島嶼に関するセッションが設けられた。太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局長のMeg Taylorは、第2次世界大戦と冷戦以降、島嶼が今ほど重要となったことはなかったと述べた。2018年の太平洋諸島フォーラムの共同宣言の文言と精神を振り返って、Taylorは、この地域は「複雑かつ競合的」であり「協力と競争」という力が働いていると述べた。また、フィジー軍司令官海軍少将Viliame Naupotoは、米国、中国、気候温暖化という3つの大きな力が影響力を持っていると述べた。「この3つの力の中で気候温暖化が一番重要となってきており、この地域に一番大きな影響力を持っている。もし戦いがあるとすれば、それは気候温暖化との戦いだ。島嶼は、安全保障の概念を広げて気候の非常事態から自分を守ることを決意した」と述べた。会議のすべての発表者と同じく、Taylorはボエ宣言の第一項目(「気候変動が最大の脅威であり、パリ宣言を進める」)に言及した。
(2)我々は、気候変動が太平洋の人々の生活、安全、幸福にとっての最大の脅威であり、パリ協定で定められたことを実行していくことを再確認した。米インド太平洋軍司令官Philip Davidson海軍大将は、島嶼を訪問するといつも気候変動が既存の脅威と同じく活発で実態のあるものだという発言を受けたと述べた。フランス軍事省国際関係・戦略局長Alice Guittonも、フランス、オーストラリア、ニュージーランドと米国が安全保障上の必要性を調整しなくてはならないと述べた。4つの国は、海洋監視、人為的な災害や自然災害のための準備、危険にさらされているインフラの測量を改善しなければならないと述べた。Guittonと並んで座っていた豪外交貿易省次官Frances Adamsonは、今はオーストラリアとフランスが島嶼に関して緊密に連携すべき時だと述べた。5番目の有力な国であるオーストラリアは、フランスを現状の秩序を守る要であると考えている。フランスはもはや局外者でいることはできない。
(3) Adamson次官は「オーストラリアは南太平洋の主権と安全保障にいつまでも変わらない関心を持っている。しかし戦略的競争者の狭いレンズでこの地域を見てはいない。我々のアプローチでは、南太平洋の人々の幸福が原動力とならなくてはいけない。南太平洋は、安全、安定、主権が侵されないものであってほしい」と述べた。質問の時間に、中国が安全保障の議論における気候変動の問題について発言した。PIF事務局長Taylorの回答は、彼女が2月のスピーチにおいて説明したすべての人が友人であるという方針(「中国という選択:太平洋諸島の秩序を変えることについて」)の短い要約だった。PIFは、「この地域の他の国に対し役割を拡大したいと考えている。そして、中国はフォーラムの多くのメンバーとの非常に強くて重要な関係を持っている。」と述べた。Davidson米インド太平洋軍司令官は「北京は、台湾の外交的承認をやめるようソロモン諸島のManasseh Sogavare政権に圧力を与えている」という最近の批判を繰り返した。「問題はソロモン諸島に台湾承認を変更することを強いる強制的なアプローチだ」と彼は述べた。「それは、我々の自由で開かれた太平洋というヴィジョンの目的ではないし関係もない」というDavidson司令官の中国の行動に関する説明は、彼が2月に米上院に提供した論評によっている。
(4)パプアニューギニアのマヌス島におけるロンブラン海軍基地の再開発に関する質問に対し、Adamson次官はパプアニューギニアがオーストラリアと米国に援助を「要請した」と述べた。「これは、明らかにオーストラリアの海軍基地でも米国の海軍基地でもない」これには、中国の海軍基地でもないという考えが続くのであろう。
(5)オーストラリア政府は2018年、ウェワクやキコリ、ヴァニモなどの島の港だけでなく、マヌス島に中国の開発による港ができるという見通しを聞いて衝撃を受けた。ASPIが論評したように、マヌス島の本当の戦略的な価値は、前線基地としての位置にある。そこからは、ミクロネシアからキリバスやナウルまで、ソロモン諸島までの太平洋と、オーストラリアに至る列島線上の航空活動と海上活動を監視し管制できるのである。戦略的な関心と競争に関するアジア安全保障会議のセッションにおいて、Adamson次官は、どんな海軍大将でも支持するような言葉でオーストラリアの関心を表明した。「オーストラリア政府はいかなる外国の基地も歓迎されないことを明言する。我々は、それを強く非難して反対する。それは、オーストラリアの戦略的な状況と地域の戦略的な状況に明らかな悪影響がある」と。筆者もこれについては強く抗議し、反対する。そこに外国が基地を作ってよいという規則は何処にもない。
記事参照:South Pacific security at Shangri-La
6月6日「フランスのインド太平洋に対する新しいコミットメント―米専門家論説」(The Diplomat, June06, 2019)
6月6日付のデジタル誌The Diplomatは、ニューヨークを拠点として執筆活動をするSteven Stashwickの“France Trumpets Renewed Commitment to Stability in Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでStashwickは最近のフランスのインド太平洋に対するコミットメントが、言葉だけでなく行動として更新されているとして要旨以下のように述べている。
(1)フランスは、その国益を保護するとともに重要な国際規範と権利を保護しながらこの地域の安定を維持することに貢献するため、太平洋に軍事プレゼンスを維持するというコミットメントを示している。アジア安全保障会議では、フランスのFlorence Parly軍事大臣が東アジアにおいて醸成される安全保障上の緊張とその地域の重要性について「アジアに展開する安全保障秩序とその課題を考えると、これまで以上に協力が必要である」と彼女は率直に述べた。
(2)フランスはかつて東アジアに大規模な植民地を持っていたが、その時代が終わってからも依然として広範な領土的及び国家的利益を持っている。Parly軍事大臣はまた、インド太平洋におけるフランスの5つの優先事項の要点を説明した。それは、①主権利益、フランス国民、領土及び排他的経済水域の保護、②軍事及び安全保障的協力を通じて地域の安定を促進する、③海上交通路への自由で開かれたアクセスを維持する、④特に北朝鮮に対する戦略的安定を促進するために多国間の手段を活用する、⑤地域の壊滅的な気候や天候の災害への対処及び緩和を支援する。Parly大臣は、地域へのアクセスと航行の自由を維持するというフランスのコミットメントの一環として、少なくとも年2回、南シナ海をフランス軍艦が航海することを明言した。彼女は、懸念の主体として中国を名指しはせずに、フランスが「怪しげな策略」によって怯えたり、国際法に反する既成事実を受け入れたりすることはないと警告した。そして、最近南シナ海を哨戒すると同時に、その軍艦への英軍ヘリコプターの着艦のような協力の形を強調した。フランスはまた、ベトナムをはじめとした、この地域との防衛関係の改善にも取り組んでいる。
(3)アジア安全保障会議へのフランスの参加で重要なものとして選び出されたのは、シンガポールにおける同海軍空母Charles de Gaulleとその護衛部隊のプレゼンスだった。同空母打撃群はインド太平洋への展開を拡大しているが、そこで、インド、オーストラリア、英国、日本、シンガポール及び米国の海軍を含む協力関係にある国々といくつかの多国籍演習に参加する予定である。
記事参照:France Trumpets Renewed Commitment to Stability in Indo-Pacific
(1)フランスは、その国益を保護するとともに重要な国際規範と権利を保護しながらこの地域の安定を維持することに貢献するため、太平洋に軍事プレゼンスを維持するというコミットメントを示している。アジア安全保障会議では、フランスのFlorence Parly軍事大臣が東アジアにおいて醸成される安全保障上の緊張とその地域の重要性について「アジアに展開する安全保障秩序とその課題を考えると、これまで以上に協力が必要である」と彼女は率直に述べた。
(2)フランスはかつて東アジアに大規模な植民地を持っていたが、その時代が終わってからも依然として広範な領土的及び国家的利益を持っている。Parly軍事大臣はまた、インド太平洋におけるフランスの5つの優先事項の要点を説明した。それは、①主権利益、フランス国民、領土及び排他的経済水域の保護、②軍事及び安全保障的協力を通じて地域の安定を促進する、③海上交通路への自由で開かれたアクセスを維持する、④特に北朝鮮に対する戦略的安定を促進するために多国間の手段を活用する、⑤地域の壊滅的な気候や天候の災害への対処及び緩和を支援する。Parly大臣は、地域へのアクセスと航行の自由を維持するというフランスのコミットメントの一環として、少なくとも年2回、南シナ海をフランス軍艦が航海することを明言した。彼女は、懸念の主体として中国を名指しはせずに、フランスが「怪しげな策略」によって怯えたり、国際法に反する既成事実を受け入れたりすることはないと警告した。そして、最近南シナ海を哨戒すると同時に、その軍艦への英軍ヘリコプターの着艦のような協力の形を強調した。フランスはまた、ベトナムをはじめとした、この地域との防衛関係の改善にも取り組んでいる。
(3)アジア安全保障会議へのフランスの参加で重要なものとして選び出されたのは、シンガポールにおける同海軍空母Charles de Gaulleとその護衛部隊のプレゼンスだった。同空母打撃群はインド太平洋への展開を拡大しているが、そこで、インド、オーストラリア、英国、日本、シンガポール及び米国の海軍を含む協力関係にある国々といくつかの多国籍演習に参加する予定である。
記事参照:France Trumpets Renewed Commitment to Stability in Indo-Pacific
6月7日「英国のインド太平洋戦略はどこのあるのか―シンガポール研究者論説」(The Diplomat.com, June 7, 2019)
6月7日付のデジタル誌The Diplomatは、シンガポールのフリーランス研究者Li Jie Sheng の “Where Is Britain’s Indo-Pacific Strategy?” と題する論説を掲載し、ここでShengは英国が文書による明確なインド太平洋戦略を持っていないことは問題として、要旨以下のように述べている。
(1) 英国が文書による明確なインド太平洋戦略を持っていないことがこの海域での英国の関与に悪い影響を与えている。米国防総省は、2019年5月31日にアジア安全保障会議開始にあわせて、インド太平洋戦略報告を発表した。仏国務省は、数日前に「フランスとインド太平洋の安全保障」というタイトルの独自の報告書を発表した。しかし、この地域に関する英国の政策文書は明らかに存在しなかった。アジア安全保障会議で、米国務長官Patrick Shanahanは、地域のパートナーとすべてのレベルで協力すること、相互運用可能な軍事力を確保すること、そしてそれに関連してこの地域の全ての同盟国とのネットワークを改善することを強調した。より広範な米国全体の国防戦略と米国のインド太平洋戦略には齟齬がある。しかしShanahan国防長官代行が述べたとおり「(米国は)計画を持っている」のであり、仏軍事大臣Florence Parlyも同じく「フランスの排他的経済水域(EEZ)を保護し、明確な軍事的プレゼンスをもって地域の安全保障の課題に対処し、自由な貿易と通商路を確保し、多国間の世界秩序を維持する」と強調した。
(2)英国防長官Penny Mordauntは、スピーチ中で米国とフランスのカウンターパートの声明を繰り返した。しかし、政策文書と軍の配備はなかった。Parly仏軍事大臣は、Mordaunt英国防長官に、英艦艇が不在の間は仏空母Charles de Gaulle戦闘群はシンガポールに入港すると知らせた。ジャーナリストやアナリストから質問に対する彼女の回答は、米国やフランスのものよりも少なかった。これは、インド太平洋に英国のプレゼンスがないということではない。Mordaunt長官が述べたように、4隻の英艦艇が2018年にこの地域に配備され、航行の自由と多くの地域パートナーとの演習が行われた。これらの艦艇はこの地域での戦略的パートナーとしての英国の地位を示している。特に5カ国防衛協定(FPDA)演習のために、この地域への定期的な訪問と配備を行ってきた。英国は、この地域での防衛活動を強化するために、アジア太平洋担当防衛スタッフというポストを新設した。これはアジア各国の首都での駐在武官の増加とともに、インド太平洋への英国のアプローチを維持するのに役立つであろう。国防省以外にも、外務省、国際貿易省(DIT)及びその他の省庁が、この地域の英国のプレゼンス維持に役立っている。
(3)これらは英国の政策のよい例であるが、それでも統一されたアプローチがあるようには思われない。金融及び経済面では、英国は同地域の安全保障の破壊者である中国と同調しているようだ。Theresa May首相は中国の一帯一路構想への参加を計画した。元国防長官Gavin Williamsonが空母Queen Elizabethが南シナ海に派遣されると発表したとき、財務大臣Philip Hammondは北京での重要な会議をキャンセルしなければならなかった。さらに最近、May首相は、英国の諜報報告に反し、英国の5Gネットワークのコアコンポーネントを構築するに当たって中国のHuaweiを支持した。こうしたアプローチは、英国の防衛への関与と航行の自由に関わる哨戒行動に反しているように思われ、ばらばらな英国の政策を生み出している。政策文書や白書があれば、地域に対する英国政府のビジョンを明確にできるのにそれをしていない。
(4)明確な文書による方針がないために、戦略的な広報も行われていない。たとえ常続的なレベルではないとしても、英国は、この地域で軍事的プレゼンスを展開している。もう1つの重要なことは、正式にはNaval Party 1022またはBritish Defense Singapore Support Unit(BDSSU)と呼ばれるシンガポールの後方部隊である。この小さな部隊は英海軍と同盟国の艦艇に燃料を補給しており、英国のFPDA(5ヵ国防衛取極)への貢献を示す重要な部隊である。その極めて重要な役割にも関わらず英国政府のニュースサイトや英国のメディアではほとんど言及されていない。大部分は英海軍のニュース月刊誌にあるだけである。英国防衛当局者はFullerton Lecture のような会議で彼らの数とプレゼンスを増やしたりもしている。しかし、国防省と内閣府は政策文書や用意された政策を持って会議に参加する機会が増加しているにもかかわらず、それを利用していない。La Trobe Asiaエグゼクティブ・ディレクターEuan GrahamがMordaunt国防長官に述べたとおり、Queen Elizabeth級空母のような軍艦の派遣は、中国のインド太平洋地域での活動に対応する一連の国の政策に連動していなければならない。英国がインド太平洋戦略を文書で発表したならば、「グローバルイギリス」の政府の定義を強化できるであろう。この用語は英政府の関係者からさかんに言われているが、「英国は欧州連合(EU)を離れた後もすべての国と関わり合い影響を与える」ということを示そうとしているらしい。East-West Center、Henry Jackson Society及び戦略国際問題研究所がインド太平洋地域の「グローバルイギリス」がどのようにあるべきかについてのアイデアを発表してくれたことに感謝すべきである。しかし、これらは全て個別の主張であり、文書による方針や声明がない限り「グローバルイギリス」の外に見える具体的な形は見えて来ない。
(5)現時点では、英国の政策文書発出はあり得ないだろう。第一に、今まで述べたようにこの地域に対する英政府全体としてのアプローチは存在せず、財務省と外務省は貿易と金融の関係で中国との友好関係を支持している。これは、南シナ海における中国の拡大主義政策、人権侵害に対処したいと考えている国防総省とは正反対である。第二に、英国による「グローバルイギリス」のアプローチの明確な示唆もなく、地域に関する政策文書もない。第三に、英国はまず克服すべき政治的課題を抱えている。公式にEUを離脱しておらず、May首相の後任の新しい首相もまだ選ばれていない。新しい首相は、もちろん、新内閣を作るだろう。そして地域の政策文書を作成するかもしれない。第四に、まもなく次期の戦略防衛及び安全保障レビューが発表される予定であるが、これは地域に対する新政府の政策を文書で示す可能性が高いであろう。
(6)貿易及び金融協定だけでなく、軍事的配備・関与から外交的関与にわたる英国のインド太平洋地域におけるプレゼンスは、今もそしてこれからも存在し続けるであろう。このアプローチは全体的には整合していないかもしれないが、しかし、少なくとも何らかの形のアプローチは必要である。英国は、近い将来もこのアプローチを続けることができる。しかし、すべての政府部門を連携させてインド太平洋に対処させるような具体的な文書によるアプローチがなければ、英国は、この困難な地域で下位のプレーヤーになる危険があるだろう。
記事参照:Where Is Britain’s Indo-Pacific Strategy?
(1) 英国が文書による明確なインド太平洋戦略を持っていないことがこの海域での英国の関与に悪い影響を与えている。米国防総省は、2019年5月31日にアジア安全保障会議開始にあわせて、インド太平洋戦略報告を発表した。仏国務省は、数日前に「フランスとインド太平洋の安全保障」というタイトルの独自の報告書を発表した。しかし、この地域に関する英国の政策文書は明らかに存在しなかった。アジア安全保障会議で、米国務長官Patrick Shanahanは、地域のパートナーとすべてのレベルで協力すること、相互運用可能な軍事力を確保すること、そしてそれに関連してこの地域の全ての同盟国とのネットワークを改善することを強調した。より広範な米国全体の国防戦略と米国のインド太平洋戦略には齟齬がある。しかしShanahan国防長官代行が述べたとおり「(米国は)計画を持っている」のであり、仏軍事大臣Florence Parlyも同じく「フランスの排他的経済水域(EEZ)を保護し、明確な軍事的プレゼンスをもって地域の安全保障の課題に対処し、自由な貿易と通商路を確保し、多国間の世界秩序を維持する」と強調した。
(2)英国防長官Penny Mordauntは、スピーチ中で米国とフランスのカウンターパートの声明を繰り返した。しかし、政策文書と軍の配備はなかった。Parly仏軍事大臣は、Mordaunt英国防長官に、英艦艇が不在の間は仏空母Charles de Gaulle戦闘群はシンガポールに入港すると知らせた。ジャーナリストやアナリストから質問に対する彼女の回答は、米国やフランスのものよりも少なかった。これは、インド太平洋に英国のプレゼンスがないということではない。Mordaunt長官が述べたように、4隻の英艦艇が2018年にこの地域に配備され、航行の自由と多くの地域パートナーとの演習が行われた。これらの艦艇はこの地域での戦略的パートナーとしての英国の地位を示している。特に5カ国防衛協定(FPDA)演習のために、この地域への定期的な訪問と配備を行ってきた。英国は、この地域での防衛活動を強化するために、アジア太平洋担当防衛スタッフというポストを新設した。これはアジア各国の首都での駐在武官の増加とともに、インド太平洋への英国のアプローチを維持するのに役立つであろう。国防省以外にも、外務省、国際貿易省(DIT)及びその他の省庁が、この地域の英国のプレゼンス維持に役立っている。
(3)これらは英国の政策のよい例であるが、それでも統一されたアプローチがあるようには思われない。金融及び経済面では、英国は同地域の安全保障の破壊者である中国と同調しているようだ。Theresa May首相は中国の一帯一路構想への参加を計画した。元国防長官Gavin Williamsonが空母Queen Elizabethが南シナ海に派遣されると発表したとき、財務大臣Philip Hammondは北京での重要な会議をキャンセルしなければならなかった。さらに最近、May首相は、英国の諜報報告に反し、英国の5Gネットワークのコアコンポーネントを構築するに当たって中国のHuaweiを支持した。こうしたアプローチは、英国の防衛への関与と航行の自由に関わる哨戒行動に反しているように思われ、ばらばらな英国の政策を生み出している。政策文書や白書があれば、地域に対する英国政府のビジョンを明確にできるのにそれをしていない。
(4)明確な文書による方針がないために、戦略的な広報も行われていない。たとえ常続的なレベルではないとしても、英国は、この地域で軍事的プレゼンスを展開している。もう1つの重要なことは、正式にはNaval Party 1022またはBritish Defense Singapore Support Unit(BDSSU)と呼ばれるシンガポールの後方部隊である。この小さな部隊は英海軍と同盟国の艦艇に燃料を補給しており、英国のFPDA(5ヵ国防衛取極)への貢献を示す重要な部隊である。その極めて重要な役割にも関わらず英国政府のニュースサイトや英国のメディアではほとんど言及されていない。大部分は英海軍のニュース月刊誌にあるだけである。英国防衛当局者はFullerton Lecture のような会議で彼らの数とプレゼンスを増やしたりもしている。しかし、国防省と内閣府は政策文書や用意された政策を持って会議に参加する機会が増加しているにもかかわらず、それを利用していない。La Trobe Asiaエグゼクティブ・ディレクターEuan GrahamがMordaunt国防長官に述べたとおり、Queen Elizabeth級空母のような軍艦の派遣は、中国のインド太平洋地域での活動に対応する一連の国の政策に連動していなければならない。英国がインド太平洋戦略を文書で発表したならば、「グローバルイギリス」の政府の定義を強化できるであろう。この用語は英政府の関係者からさかんに言われているが、「英国は欧州連合(EU)を離れた後もすべての国と関わり合い影響を与える」ということを示そうとしているらしい。East-West Center、Henry Jackson Society及び戦略国際問題研究所がインド太平洋地域の「グローバルイギリス」がどのようにあるべきかについてのアイデアを発表してくれたことに感謝すべきである。しかし、これらは全て個別の主張であり、文書による方針や声明がない限り「グローバルイギリス」の外に見える具体的な形は見えて来ない。
(5)現時点では、英国の政策文書発出はあり得ないだろう。第一に、今まで述べたようにこの地域に対する英政府全体としてのアプローチは存在せず、財務省と外務省は貿易と金融の関係で中国との友好関係を支持している。これは、南シナ海における中国の拡大主義政策、人権侵害に対処したいと考えている国防総省とは正反対である。第二に、英国による「グローバルイギリス」のアプローチの明確な示唆もなく、地域に関する政策文書もない。第三に、英国はまず克服すべき政治的課題を抱えている。公式にEUを離脱しておらず、May首相の後任の新しい首相もまだ選ばれていない。新しい首相は、もちろん、新内閣を作るだろう。そして地域の政策文書を作成するかもしれない。第四に、まもなく次期の戦略防衛及び安全保障レビューが発表される予定であるが、これは地域に対する新政府の政策を文書で示す可能性が高いであろう。
(6)貿易及び金融協定だけでなく、軍事的配備・関与から外交的関与にわたる英国のインド太平洋地域におけるプレゼンスは、今もそしてこれからも存在し続けるであろう。このアプローチは全体的には整合していないかもしれないが、しかし、少なくとも何らかの形のアプローチは必要である。英国は、近い将来もこのアプローチを続けることができる。しかし、すべての政府部門を連携させてインド太平洋に対処させるような具体的な文書によるアプローチがなければ、英国は、この困難な地域で下位のプレーヤーになる危険があるだろう。
記事参照:Where Is Britain’s Indo-Pacific Strategy?
6月7日「ロ駆逐艦と米巡洋艦の異常接近事件―米海軍協会報道」(USNI News, June 7, 2019)
6月7日付のU.S.Naval InstituteのウェブサイトUSNI Newsは、“Russia Says US Cruiser Nearly Caused Collision in East China Sea”と題する記事を掲載し、ロ海軍の駆逐艦が米海軍の巡洋艦に危険な接近をしたことについて、要旨以下のように報道している。
(1)米海軍が「危険で、船乗りらしくない」(unsafe and unprofessional)と呼んでいる事件で、ロシアの駆逐艦が、西太平洋で活動していた米国の巡洋艦から100フィート以内の距離に接近した。第7艦隊の6月7日の声明によると、米海軍ミサイル巡洋艦Chancellorsvilleは、ヘリコプターの着艦作業中にロシア海軍のUdaloy級駆逐艦に異常接近された。第7艦隊の声明によれば「この危険な行動によって、Chancellorsvilleは後進一杯で衝突を回避するための行動を余儀なくされた。我々は、この事案におけるロシアの行動は、危険で船乗りにあるまじき行動であり、海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(Convention on the International Regulations for Preventing Collision at Sea:COLREGS)及び国際的に認められた海事慣習に従っていないと考えている」と述べている。
(2)第7艦隊の声明は、露国営メディアが「米国の巡洋艦Chancellorsvilleは急に進路を変え、この艦から約50メートル離れた駆逐艦Admiral Vinogradovの進路を横切った。衝突を回避するために、Admiral Vinogradovの乗員は緊急行動を強いられた」というロシア軍の声明を報じた後に出された。
(3)米海軍から提供された情報によると、この事故は、台湾から東に約350マイル、日本の沖縄から南西約200マイルのフィリピン海で発生した。ロシアのソーシャルメディア・チャンネルの当局者たちは、この事件は南シナ海で起きたと述べている。このように海上で生起した事件についてワシントンとモスクワの意見が割れるのも初めてのことではない。2016年には、露海軍のフリゲートが米空母の至近距離まで接近すると同時に、米ミサイル巡洋艦に対して不規則な行動をした。また、米ミサイル駆逐艦が同フリゲートの鼻先を横切ったと見えるように編集されたビデオが公開されている。2019年6月には地中海で米海軍P-8A哨戒機にロシアのSu-35戦闘機が異常接近するなど米ロの主張は対立している。
記事参照:Russia Says US Cruiser Nearly Caused Collision in East China Sea
(1)米海軍が「危険で、船乗りらしくない」(unsafe and unprofessional)と呼んでいる事件で、ロシアの駆逐艦が、西太平洋で活動していた米国の巡洋艦から100フィート以内の距離に接近した。第7艦隊の6月7日の声明によると、米海軍ミサイル巡洋艦Chancellorsvilleは、ヘリコプターの着艦作業中にロシア海軍のUdaloy級駆逐艦に異常接近された。第7艦隊の声明によれば「この危険な行動によって、Chancellorsvilleは後進一杯で衝突を回避するための行動を余儀なくされた。我々は、この事案におけるロシアの行動は、危険で船乗りにあるまじき行動であり、海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(Convention on the International Regulations for Preventing Collision at Sea:COLREGS)及び国際的に認められた海事慣習に従っていないと考えている」と述べている。
(2)第7艦隊の声明は、露国営メディアが「米国の巡洋艦Chancellorsvilleは急に進路を変え、この艦から約50メートル離れた駆逐艦Admiral Vinogradovの進路を横切った。衝突を回避するために、Admiral Vinogradovの乗員は緊急行動を強いられた」というロシア軍の声明を報じた後に出された。
(3)米海軍から提供された情報によると、この事故は、台湾から東に約350マイル、日本の沖縄から南西約200マイルのフィリピン海で発生した。ロシアのソーシャルメディア・チャンネルの当局者たちは、この事件は南シナ海で起きたと述べている。このように海上で生起した事件についてワシントンとモスクワの意見が割れるのも初めてのことではない。2016年には、露海軍のフリゲートが米空母の至近距離まで接近すると同時に、米ミサイル巡洋艦に対して不規則な行動をした。また、米ミサイル駆逐艦が同フリゲートの鼻先を横切ったと見えるように編集されたビデオが公開されている。2019年6月には地中海で米海軍P-8A哨戒機にロシアのSu-35戦闘機が異常接近するなど米ロの主張は対立している。
記事参照:Russia Says US Cruiser Nearly Caused Collision in East China Sea
6月7日「米国防総省の新北極戦略、同地域不安定化への懸念を表明――米専門家論評」(High North News, June 7, 2019)
6月7日付の、ノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWS電子版は、米シンクタンクThe Arctic Instituteの創設者で上席研究員のMalte Humpertの“New U.S. Department of Defense Arctic Strategy Sees Growing Uncertainty and Tension in Region”と題する論評を掲載し、そこでMalte Humpertは、米国の新たな北極戦略について、要旨以下のとおり述べた。
(1)米国防総省(DOD)は新しい北極戦略を発表した。それは北極の安全保障環境が複雑で、その地域が「戦略的競合」の時代にあることを強調する。なかでも、Obama政権時代における極地戦略との大きな違いは、中国およびロシアに対する警戒心の強まりである。また新戦略は、北極の戦略的重要性の高まりと気候変動の問題についてあいまいに論じるという特徴もある。以下それぞれ検討する。
(2)まず中国に対する関心の高まりである。新たな北極戦略文書は、中国の民間における研究開発が軍事転用される可能性(たとえば原子力砕氷船の開発が原子力空母の開発につながる可能性)を警戒する。また中国は、一帯一路構想の一部に極地地域を含めようとしており、自国を“near-arctic state”と定義し、北極へのガバナンスに影響を及ぼそうとしている。しかしアメリカは中国のそうした地位を認めないと同文書は断言した。
(3)続いてロシアについてである。新北極戦略文書は北極圏においてロシアが最大の軍事的プレゼンスを有していることを認識している。そのうえで、ロシアが、各国の北極海航路の利用に統制を加えていることを批判し、米国が北極における航行の自由および上空飛行の自由の権利を留保していると主張する。
(4)北極圏の重要性の増大をもたらした気候変動それ自体について、この新戦略は明確に論じていないが、間接的には、気候変動のインパクトは認めている。たとえば沿岸の侵食や永久凍土の溶解が極地の諸設備に脅威を与えていること、環境の変動について理解し、それを予測することが、作戦遂行のために「決定的」に重要であることをこの文書は指摘するのである。
(5)DODの新北極戦略は、中国やロシアに対する具体的な批判は提示しているが、米国がいかに北極地域におけるプレゼンスを増大させていくかについて詳細な見通しはほとんど提示していない。代わりに、米国の目標と米国が北極において抑止するために北極へ柔軟に兵力を投射し、運用できる機動力があり、能力が高い遠征部隊をどれほど必要としているかを述べるのに「抗堪性のあるインフラ支援」、「北極の情勢の改善」といった2番煎じの表現が使用されている。
記事参照:New U.S. Department of Defense Arctic Strategy Sees Growing Uncertainty and Tension in Region
(1)米国防総省(DOD)は新しい北極戦略を発表した。それは北極の安全保障環境が複雑で、その地域が「戦略的競合」の時代にあることを強調する。なかでも、Obama政権時代における極地戦略との大きな違いは、中国およびロシアに対する警戒心の強まりである。また新戦略は、北極の戦略的重要性の高まりと気候変動の問題についてあいまいに論じるという特徴もある。以下それぞれ検討する。
(2)まず中国に対する関心の高まりである。新たな北極戦略文書は、中国の民間における研究開発が軍事転用される可能性(たとえば原子力砕氷船の開発が原子力空母の開発につながる可能性)を警戒する。また中国は、一帯一路構想の一部に極地地域を含めようとしており、自国を“near-arctic state”と定義し、北極へのガバナンスに影響を及ぼそうとしている。しかしアメリカは中国のそうした地位を認めないと同文書は断言した。
(3)続いてロシアについてである。新北極戦略文書は北極圏においてロシアが最大の軍事的プレゼンスを有していることを認識している。そのうえで、ロシアが、各国の北極海航路の利用に統制を加えていることを批判し、米国が北極における航行の自由および上空飛行の自由の権利を留保していると主張する。
(4)北極圏の重要性の増大をもたらした気候変動それ自体について、この新戦略は明確に論じていないが、間接的には、気候変動のインパクトは認めている。たとえば沿岸の侵食や永久凍土の溶解が極地の諸設備に脅威を与えていること、環境の変動について理解し、それを予測することが、作戦遂行のために「決定的」に重要であることをこの文書は指摘するのである。
(5)DODの新北極戦略は、中国やロシアに対する具体的な批判は提示しているが、米国がいかに北極地域におけるプレゼンスを増大させていくかについて詳細な見通しはほとんど提示していない。代わりに、米国の目標と米国が北極において抑止するために北極へ柔軟に兵力を投射し、運用できる機動力があり、能力が高い遠征部隊をどれほど必要としているかを述べるのに「抗堪性のあるインフラ支援」、「北極の情勢の改善」といった2番煎じの表現が使用されている。
記事参照:New U.S. Department of Defense Arctic Strategy Sees Growing Uncertainty and Tension in Region
6月10日「中国の港湾外交、その実態と課題―印専門家論説」(IPP Review.com, June 10, 2019)
6月10日付のシンガポール企業Public Policy Pte. Ltdが提供するウエブサイトIPP Reviewは、印シンクタンク、The Centre for Peace and Conflict Resolution 創設者兼教授Anita Inder Singh の“China’s Port Diplomacy Has Not Been Plain Sailing”と題する論説を掲載し、ここで Singhは世界最大の貿易国として中国が世界の港湾へのアクセスに重大な関心を抱いているが、必ずしも上手くいっていないとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国は、世界最大の貿易国で、輸出の大部分を海運に依存しており、海外における港湾ターミナルと補給センターの建設を通じて、自国の海上輸送路に対するコントロールを強めようとしている。「海洋シルクロード」(MSR)の推進は、かかる中国の経済的、戦略的理由を象徴している。しかも、中国は世界最大の石油輸入国であり、石油輸入の40%以上が中東からの海上輸送である。これが中国による海外の港湾へのアクセスと運営権の取得の狙いであり、安全保障上の理由でもある。
(2)シーパワーは、21世紀の世界的大国にとって必須の要件である。当然ながら、中国も、自国の戦略的利益を守り、推進するために、外洋海軍を建設しつつある。中国は、「一帯一路」構想(BRI)の沿線34カ国において42カ所の港湾を運営していると主張している。歴史的に見て、あらゆるインフラと連結プロジェクトは、従来の地経学的、地政学的バランスを変えてきた。例えば、19世紀最大の連結事業には、スエズ運河とシベリア横断鉄道がある。スエズ運河は、地中海を紅海に連結し、仏英両帝国の死活的な海上輸送路を守った。シベリア横断鉄道は、ロシア帝国のヨーロッパ地域とアジア地域を連結した。20世紀に入って、これら3つの帝国は歴史的存在となったが、スエズ運河とシベリア横断鉄道は、それぞれ異なった方法で、21世紀における地域的、世界的貿易の拡大に貢献し続けている。現在、BRI沿線各国で進められている中国の連結プロジェクトが、如何に、そして何故、国際的な力の均衡を変えるかもしれないかについて、大いなる国際的論議がある。現在、中国の企業は、単独であるいは一部外国企業と共同で、遠くは米ロサンゼルスから、近くは台湾まで、海外において港湾とコンテナターミナルを建設している。港湾は、商業的にはもちろん、そして(あるいは)軍事目的のためにも使用される可能性がある。
(3)北京は2015年に、アフリカの小国、ジブチに最初の海外軍事基地を開設した。ジブチは、「アフリカの角」の東端とインド洋西岸に位置する要衝である。ジブチは、香港のような国際金融センターやアフリカのシンガポールになることを熱望して、港湾と地域開発プロジェクトへの中国の融資と投資を歓迎した。しかしながら、中国の多額の融資と投資の累積によって、「国際通貨基金」(IMF)は、ジブチが中国に対する過大累積負債国、8カ国の1つになりかねない、と警告した。他方、スリランカのハンバントタ港の株式の過半数を売却した同国政府の決定は、ギリシアのピレウス港の民営化とある程度の類似性がある。両国とも多額の負債に苦しんでいた。中国による ハンバントタ港の開発は結果的にスリランカを中国の「債務の罠」に陥れ、スリランカの大統領は2019年4月の北京で開催された、第2回BRIフォーラムには出席しなかった。更に、中国は、ミャンマー西端のチャウピューで大水深港を建設するために、多額の投資を行っている。当初投資額は73億ドルであったが、ミャンマーの要請で13億ドルに引き下げられた。戦略上重要な位置にあるチャウピューは、中国雲南省の昆明に至る石油・天然ガスパイプラインの起点であり、中東から石油輸入に依存する中国にとって、混雑した戦略的チョークポイント、マラッカ海峡を迂回するルートとなる。
(4)ヨーロッパについては、最近、2019年春にBRIに参加したイタリアとギリシアが注目を集めたが、それ以前に中国は、 BRI に参加していないフランス、スペイン及びドイツを含む、EU諸国で港湾開発を進めてきた。中国は現在、十数カ所のヨーロッパの港湾の株式を取得しているが、その大部分がヨーロッパやその他の国との合弁事業で、中国の投資家は少数株主に過ぎない。例外的存在は、ギリシアのピレウスコンテナターミナル、ベルギーのゼーブルージュターミナル、そしてスペイン・バルセロナのNOATUMターミナルである。中国の投資によって、ドイツの内陸港、デュイスブルグは、ヨーロッパの主な物流拠点に、そしてドイツ国内の「チャイナシティー」になった。デュイスブルグは中国からヨーロッパ向けに運航される列車の約80%が停車する最初のヨーロッパの停留所となっている。中国は、ヨーロッパの港湾を開発し、株式を取得することによって、戦略的足かがりを確保してきた。ドイツのGünther Oettinger 欧州委員会予算・人的資源担当は、EUが全ての電力と鉄道プロジェクトに対する中国のインフラ投資に対して拒否権を持つべきと主張している。彼は、ヨーロッパの港湾はもはやヨーロッパものではなく、中国の手中にあると指摘している。EUは2019年4月、海外から直接投資を再検討する新たな枠組に関して合意したが、加盟各国政府は、自国における海外からの投資については自国で判断する。一方、米国の同盟国であるイスラエルは、米国からの圧力で、地中海に面したHaifa港に対する中国の投資の影響について、安全保障の観点から再検討した。
(5)明らかに、中国は、その港湾外交を通じて、経済的、軍事的影響力を獲得してきた。しかしながら、中国に対する戦略的脅威と「債務の罠」についての懸念は、払拭されているわけではない。ここで2つの疑問が生じる。即ち、第1に、関係各国は、中国の港湾建設活動から生じる脅威認識に如何に対処していくのか。そして第2に、中国は、こうした脅威を沈静化し、中国の港湾外交が平和目的で世界的な連結を推進することを意図したものであるとこれら諸国に保証するために、何ができるかということである。
記事参照:China’s Port Diplomacy Has Not Been Plain Sailing
(1)中国は、世界最大の貿易国で、輸出の大部分を海運に依存しており、海外における港湾ターミナルと補給センターの建設を通じて、自国の海上輸送路に対するコントロールを強めようとしている。「海洋シルクロード」(MSR)の推進は、かかる中国の経済的、戦略的理由を象徴している。しかも、中国は世界最大の石油輸入国であり、石油輸入の40%以上が中東からの海上輸送である。これが中国による海外の港湾へのアクセスと運営権の取得の狙いであり、安全保障上の理由でもある。
(2)シーパワーは、21世紀の世界的大国にとって必須の要件である。当然ながら、中国も、自国の戦略的利益を守り、推進するために、外洋海軍を建設しつつある。中国は、「一帯一路」構想(BRI)の沿線34カ国において42カ所の港湾を運営していると主張している。歴史的に見て、あらゆるインフラと連結プロジェクトは、従来の地経学的、地政学的バランスを変えてきた。例えば、19世紀最大の連結事業には、スエズ運河とシベリア横断鉄道がある。スエズ運河は、地中海を紅海に連結し、仏英両帝国の死活的な海上輸送路を守った。シベリア横断鉄道は、ロシア帝国のヨーロッパ地域とアジア地域を連結した。20世紀に入って、これら3つの帝国は歴史的存在となったが、スエズ運河とシベリア横断鉄道は、それぞれ異なった方法で、21世紀における地域的、世界的貿易の拡大に貢献し続けている。現在、BRI沿線各国で進められている中国の連結プロジェクトが、如何に、そして何故、国際的な力の均衡を変えるかもしれないかについて、大いなる国際的論議がある。現在、中国の企業は、単独であるいは一部外国企業と共同で、遠くは米ロサンゼルスから、近くは台湾まで、海外において港湾とコンテナターミナルを建設している。港湾は、商業的にはもちろん、そして(あるいは)軍事目的のためにも使用される可能性がある。
(3)北京は2015年に、アフリカの小国、ジブチに最初の海外軍事基地を開設した。ジブチは、「アフリカの角」の東端とインド洋西岸に位置する要衝である。ジブチは、香港のような国際金融センターやアフリカのシンガポールになることを熱望して、港湾と地域開発プロジェクトへの中国の融資と投資を歓迎した。しかしながら、中国の多額の融資と投資の累積によって、「国際通貨基金」(IMF)は、ジブチが中国に対する過大累積負債国、8カ国の1つになりかねない、と警告した。他方、スリランカのハンバントタ港の株式の過半数を売却した同国政府の決定は、ギリシアのピレウス港の民営化とある程度の類似性がある。両国とも多額の負債に苦しんでいた。中国による ハンバントタ港の開発は結果的にスリランカを中国の「債務の罠」に陥れ、スリランカの大統領は2019年4月の北京で開催された、第2回BRIフォーラムには出席しなかった。更に、中国は、ミャンマー西端のチャウピューで大水深港を建設するために、多額の投資を行っている。当初投資額は73億ドルであったが、ミャンマーの要請で13億ドルに引き下げられた。戦略上重要な位置にあるチャウピューは、中国雲南省の昆明に至る石油・天然ガスパイプラインの起点であり、中東から石油輸入に依存する中国にとって、混雑した戦略的チョークポイント、マラッカ海峡を迂回するルートとなる。
(4)ヨーロッパについては、最近、2019年春にBRIに参加したイタリアとギリシアが注目を集めたが、それ以前に中国は、 BRI に参加していないフランス、スペイン及びドイツを含む、EU諸国で港湾開発を進めてきた。中国は現在、十数カ所のヨーロッパの港湾の株式を取得しているが、その大部分がヨーロッパやその他の国との合弁事業で、中国の投資家は少数株主に過ぎない。例外的存在は、ギリシアのピレウスコンテナターミナル、ベルギーのゼーブルージュターミナル、そしてスペイン・バルセロナのNOATUMターミナルである。中国の投資によって、ドイツの内陸港、デュイスブルグは、ヨーロッパの主な物流拠点に、そしてドイツ国内の「チャイナシティー」になった。デュイスブルグは中国からヨーロッパ向けに運航される列車の約80%が停車する最初のヨーロッパの停留所となっている。中国は、ヨーロッパの港湾を開発し、株式を取得することによって、戦略的足かがりを確保してきた。ドイツのGünther Oettinger 欧州委員会予算・人的資源担当は、EUが全ての電力と鉄道プロジェクトに対する中国のインフラ投資に対して拒否権を持つべきと主張している。彼は、ヨーロッパの港湾はもはやヨーロッパものではなく、中国の手中にあると指摘している。EUは2019年4月、海外から直接投資を再検討する新たな枠組に関して合意したが、加盟各国政府は、自国における海外からの投資については自国で判断する。一方、米国の同盟国であるイスラエルは、米国からの圧力で、地中海に面したHaifa港に対する中国の投資の影響について、安全保障の観点から再検討した。
(5)明らかに、中国は、その港湾外交を通じて、経済的、軍事的影響力を獲得してきた。しかしながら、中国に対する戦略的脅威と「債務の罠」についての懸念は、払拭されているわけではない。ここで2つの疑問が生じる。即ち、第1に、関係各国は、中国の港湾建設活動から生じる脅威認識に如何に対処していくのか。そして第2に、中国は、こうした脅威を沈静化し、中国の港湾外交が平和目的で世界的な連結を推進することを意図したものであるとこれら諸国に保証するために、何ができるかということである。
記事参照:China’s Port Diplomacy Has Not Been Plain Sailing
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The 2019 Shangri La Dialogue: Not Quite the Land of Peace and Harmony
https://www.fpri.org/article/2019/06/the-2019-shangri-la-dialogue-not-quite-the-land-of-peace-and-harmony/
Foreign Policy Research Institute, June 4, 2019
June Teufel Dreyer, a Senior Fellow in the Asia Program at the Foreign Policy Research Institute, is Professor of Political Science at the University of Miami, Coral Gables, Florida.
6月4日、米シンクタンク、Foreign Policy Research Institute シニアフェローであるUniversity of Miami教授June Teufel Dreyerは、同所ウェブサイトに、" The 2019 Shangri La Dialogue: Not Quite the Land of Peace and Harmony "と題する論説記事を発表した。その中で彼女は、例年この時期にシンガポールで開催されるシャングリラ会合をテーマに取り上げ、アジア太平洋地域の安全保障問題を議論している。特に彼女が強調しているのは、日中関係は表面的には改善されたものの、両国とも相手の軍事態勢に引き続き懸念を表明しそれに応じて防衛を強化している一方、中国と米国は現在、激しい貿易紛争を続けており、両国間では依然として領有権問題、貿易不均衡、漁業権をめぐる緊張が続いている状況を踏まえる重要性であり、日米中3カ国が自己の主張を貫いている現状に鑑みれば、今後の課題は実際に各国がどのような態度を取るかという点であると指摘している。
(2) Alessio Patalano on Japan’s Growing Naval Power
https://thediplomat.com/2019/06/alessio-patalano-on-japans-growing-naval-power/
The Diplomat.com, June 4, 2019
Franz-Stefan Gady, a Senior Editor with The Diplomat
6月4日、デジタル誌The Diplomatは、" Alessio Patalano on Japan’s Growing Naval Power "と題する論説記事を発表した。これは同誌のシニアエディターであるFranz-Stefan Gady氏が、日本の海洋安全保障問題に詳しいロンドン大学キングス・カレッジのAlessio Patalano博士へのインタビューを記事化したものである。その中で、同博士は質問に答える形で、海上自衛隊は大日本帝国海軍の歴史と経験を引き継いだ伝統ある組織であると同時に、日米同盟によって米海軍との効果的な共同訓練を実施してきていること、「いずも」型護衛艦の改修は確かに特徴的な変化であるが日本の防衛戦略には大きな転換は見られないこと、そして、水陸機動団発足などに象徴される海上自衛隊と陸上自衛隊との関係性の向上は、縦割り行政・官僚性といった課題はあるかもしれないが、日本の防衛態勢の強化に寄与していると評している。
(3) Philippines on the horns of a superpower dilemma
https://www.asiatimes.com/2019/06/article/philippines-on-the-horns-of-a-superpower-dilemma/
Asia Times.com, June 10, 2019
Richard J. Heydarian, an assistant professor at De La Salle University
6月10日、フィリピンのDe La Salle University准教授Richard J. Heydarianは、香港のデジタル紙Asia Timesに“Philippines on the horns of a superpower dilemma”と題する論説を寄稿した。その中で彼は、①南シナ海で米中の対立が激しくなるにつれて、フィリピン大統領Rodrigo Duterteは米中間の信頼できる妥協線を維持するための戦略的ジレンマに陥っている、②米比はイスラム教によるテロリズムについて懸念を共有しているが、現在ワシントンはテロのリスクを利用して戦略的関係を活性化しようとしている、③米国はここ数週間で、東南アジアで高まる中国の影響力を相殺することを目的とした政策の中で、同地域の同盟国に兵器を売却する計画を発表した、④Duterte大統領は、協力する用意はあるが、誰とも戦うつもりはないとし、中国又はその他の地域のライバルと対峙する米国の側につくことへの彼の消極性を繰り返して述べた、⑤米ロ関係も緊張が高まっており、中ロはロシアの極東で大規模な軍事演習を行うなど、対米国に関して連携を強めている、⑥Duterte大統領は、フィリピンに武器を供与してくれる中国とロシアは敵ではないと述べている、⑦Duterte大統領は、フィリピンの最善の行動方針は、他の国と敵対している国と提携することを避けながら、すべての大国から最大の利益を引き出すことであると信じているが、彼がバランスを維持することは増々困難になるだろうと主張している。
(1) The 2019 Shangri La Dialogue: Not Quite the Land of Peace and Harmony
https://www.fpri.org/article/2019/06/the-2019-shangri-la-dialogue-not-quite-the-land-of-peace-and-harmony/
Foreign Policy Research Institute, June 4, 2019
June Teufel Dreyer, a Senior Fellow in the Asia Program at the Foreign Policy Research Institute, is Professor of Political Science at the University of Miami, Coral Gables, Florida.
6月4日、米シンクタンク、Foreign Policy Research Institute シニアフェローであるUniversity of Miami教授June Teufel Dreyerは、同所ウェブサイトに、" The 2019 Shangri La Dialogue: Not Quite the Land of Peace and Harmony "と題する論説記事を発表した。その中で彼女は、例年この時期にシンガポールで開催されるシャングリラ会合をテーマに取り上げ、アジア太平洋地域の安全保障問題を議論している。特に彼女が強調しているのは、日中関係は表面的には改善されたものの、両国とも相手の軍事態勢に引き続き懸念を表明しそれに応じて防衛を強化している一方、中国と米国は現在、激しい貿易紛争を続けており、両国間では依然として領有権問題、貿易不均衡、漁業権をめぐる緊張が続いている状況を踏まえる重要性であり、日米中3カ国が自己の主張を貫いている現状に鑑みれば、今後の課題は実際に各国がどのような態度を取るかという点であると指摘している。
(2) Alessio Patalano on Japan’s Growing Naval Power
https://thediplomat.com/2019/06/alessio-patalano-on-japans-growing-naval-power/
The Diplomat.com, June 4, 2019
Franz-Stefan Gady, a Senior Editor with The Diplomat
6月4日、デジタル誌The Diplomatは、" Alessio Patalano on Japan’s Growing Naval Power "と題する論説記事を発表した。これは同誌のシニアエディターであるFranz-Stefan Gady氏が、日本の海洋安全保障問題に詳しいロンドン大学キングス・カレッジのAlessio Patalano博士へのインタビューを記事化したものである。その中で、同博士は質問に答える形で、海上自衛隊は大日本帝国海軍の歴史と経験を引き継いだ伝統ある組織であると同時に、日米同盟によって米海軍との効果的な共同訓練を実施してきていること、「いずも」型護衛艦の改修は確かに特徴的な変化であるが日本の防衛戦略には大きな転換は見られないこと、そして、水陸機動団発足などに象徴される海上自衛隊と陸上自衛隊との関係性の向上は、縦割り行政・官僚性といった課題はあるかもしれないが、日本の防衛態勢の強化に寄与していると評している。
(3) Philippines on the horns of a superpower dilemma
https://www.asiatimes.com/2019/06/article/philippines-on-the-horns-of-a-superpower-dilemma/
Asia Times.com, June 10, 2019
Richard J. Heydarian, an assistant professor at De La Salle University
6月10日、フィリピンのDe La Salle University准教授Richard J. Heydarianは、香港のデジタル紙Asia Timesに“Philippines on the horns of a superpower dilemma”と題する論説を寄稿した。その中で彼は、①南シナ海で米中の対立が激しくなるにつれて、フィリピン大統領Rodrigo Duterteは米中間の信頼できる妥協線を維持するための戦略的ジレンマに陥っている、②米比はイスラム教によるテロリズムについて懸念を共有しているが、現在ワシントンはテロのリスクを利用して戦略的関係を活性化しようとしている、③米国はここ数週間で、東南アジアで高まる中国の影響力を相殺することを目的とした政策の中で、同地域の同盟国に兵器を売却する計画を発表した、④Duterte大統領は、協力する用意はあるが、誰とも戦うつもりはないとし、中国又はその他の地域のライバルと対峙する米国の側につくことへの彼の消極性を繰り返して述べた、⑤米ロ関係も緊張が高まっており、中ロはロシアの極東で大規模な軍事演習を行うなど、対米国に関して連携を強めている、⑥Duterte大統領は、フィリピンに武器を供与してくれる中国とロシアは敵ではないと述べている、⑦Duterte大統領は、フィリピンの最善の行動方針は、他の国と敵対している国と提携することを避けながら、すべての大国から最大の利益を引き出すことであると信じているが、彼がバランスを維持することは増々困難になるだろうと主張している。
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